北海道移住は上士幌が最熱! 人口約5000人にV字回復。新しい人生見つけた3組のストーリー

北海道にある人口約5000人の町、上士幌町。2016年以降人口V字回復に成功し、半世紀ぶりの奇跡と話題になった十勝エリア北部に位置する小さな町です。
注目なのは「道外」からの転入者が多いこと。縁もゆかりもない地域で、仕事や住まいのあてはどうしたのか、決断の背景に何があるのか? 東京都、岡山県、静岡県と各地から同町へ移住した3組にインタビューしました。

道内移動が多いエリアで“道外”移住者が続々と集まる北海道・上士幌町(画像提供/渥美俊介さん)

北海道・上士幌町(画像提供/渥美俊介さん)

2023年の十勝全体の転入は、道内からが5294人に対し、道外からは2702人。道内の人口移動が倍近く多いことがわかります。(北海道人口ビジョン改訂版のオープンデータより)
一方、その十勝エリアにあって、上士幌町は道外からの移住者が道内からを上回る年があります。町勢要覧2022年版(取材時点で最新)では、道内転入者が138人に対し、道外転入者は148人でした。

上士幌では、これまでふるさと納税で確保した財源を「子育て」に集中して充てることで、子育て世帯に魅力あるまちづくりを推進しており、その施策が奏功したことは間違いありません。

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一方、今回インタビューした移住者のうち、子育て中の方は1組のみ。ほかの2組は移住した時点で子育て施策の恩恵を受けられるというわけではありません。なぜ、上士幌町に惹かれたのでしょうか。

妻子と移住した金澤さん。きっかけは、東京で偶然出会った「上士幌の人」だった

インタビュー1人目は、東京23区内から家族3人で移住した金澤一行(かなざわ・かずゆき)さん(43歳)。金澤さんは大学院を卒業後にシンクタンク、大手情報サービス企業を経て起業しています。

東京から移住した金澤さん(写真撮影/米田友紀)

東京から移住した金澤さん(写真撮影/米田友紀)

都内でシェアオフィスに入居していた際、2つ隣のブースを借りていて「ご近所さん」だったのが、上士幌町役場でした。都内で役場の職員と出会ったことが、上士幌へ足を運ぶきっかけになりました。

上士幌では地方創生プランの中で「人の都市・地方循環による地域活性化」を柱の一つに掲げ、都市と地元の人的交流による新しいつながりをつくることに積極的に取り組んでいます。金澤さんと役場職員の出会いは、上士幌が戦略的に設けた施策でもあったわけです。

町はNPO法人上士幌コンシェルジュと連携し移住総合案内窓口を開設。コンシェルジュが常駐し、いつでも相談ができる環境を整えるなど移住施策に10年以上取り組んできました。
さらに多くの地域で活用される地域おこし協力隊制度のほか、若者層には1カ月滞在型プログラム「MY MICHIプロジェクト」、都市部人材が働きながら宿泊し周辺地域と関わる「にっぽうの家」、地元企業と都市部人材をマッチングする「かみしほろ縁ハンスPROJECT」、ワーケーションで町に訪問した人の子どもも活用できる「保育園留学」など、幅広い世代が町との接点を持ち、人との出会いを生む仕組みをつくっています。

実際に町に訪れた金澤さんは、眼前に広がる十勝平野に魅了されます。

牛2000頭が放牧されるナイタイ高原牧場では大パノラマで十勝平野を見渡すことができます(画像提供/金澤一行さん)

牛2000頭が放牧されるナイタイ高原牧場では大パノラマで十勝平野を見渡すことができます(画像提供/金澤一行さん)

「十勝の風景は多くの人がイメージする北海道のイメージそのものです。それでいうと、移住先が絶対に上士幌でないとダメだったわけではなく、北海道のどの町でもよかったわけです。北海道で偶然に最初に足を踏み入れたのが上士幌だった。そこで農業や酪農をしている友達ができて、ここに住めたら最高だなと思うようになりました」(金澤さん)

金澤さんが移住したのは2022年。前述したようにその6年前ほどから町の地方創生戦略により移住者が増えていた上士幌では、新しい人を受け入れる風土が培われていました。過度に干渉されることはなく、和やかな人間関係が築けているといいます。

「北海道への憧れ」という道内全体のブランド力を上手に活用し、子育て世帯、若者、シニアなど北海道に関心があるさまざまな層と「北海道の上士幌」として接点をつくる。そして地域の自然の豊かさで心をわしづかみにし、交流や関係構築のチャレンジを続けることで地道に人を地域に呼び寄せています。

オフィスワークを中心とする仕事に従事する人が利用する、かみしほろシェアオフィス。畑に面した眺望は設備投資なくオフィス緑化効果が得られるようなもので、ストレスとは無縁に働けそうです(画像提供/金澤一行さん)

オフィスワークを中心とする仕事に従事する人が利用する、かみしほろシェアオフィス。畑に面した眺望は設備投資なくオフィス緑化効果が得られるようなもので、ストレスとは無縁に働けそうです(画像提供/金澤一行さん)

(画像提供/金澤一行さん)

(画像提供/金澤一行さん)

多様性は田舎にある

金澤さんが移住してきた当時、お子さんは小学5年生。都内で暮らしていれば中学受験の選択肢が挙がってくる年齢です。
「育児」に焦点をあてると、田舎のアドバンテージは幼少期にあると感じる人が多いです。7都府県・指定都市・中核市に比べて待機児童数が少なく保育園等が利用しやすい点、また自然豊かな地域でのびのびと子育てすることに魅力を感じるためです。

馬や牛と至近距離で暮らせる地域でもあります(画像提供/金澤一行さん)

馬や牛と至近距離で暮らせる地域でもあります(画像提供/金澤一行さん)

一方、育児から教育に保護者の関心事が移行してくるのが、小学校高学年を迎えるころ。進路を検討しはじめる時期になると、都市部での進路選択肢の多さが魅力に感じるようになってきます。
お子さんの教育環境が気になる時期にあえて地方へ向かった金澤さん。そこにはどのような理由があったのか聞きました。

「僕は田舎の環境の方が、多様性が育まれると感じているんです。都市部の学校では人数が多いクラスの中で仲が良い子ども同士で小さなグループができて、クラス替えがあればまた同じように気の合った者同士だけのグループができていくでしょう。さらに一定数は小、中学受験で別のグループに所属していく。保護者の所得などで格差が発生した結果であり、僕の経験上ではどうしても同質になりがちなのではないかと感じていました」(金澤さん)

地方では受験は高校からが一般的であり、小・中学受験で地元の公立学校を離れる人はごく少数です。しかも限られた児童数のため、さまざまな個性がチームとなる濃い人間関係が築かれやすいといえます。

「田舎は家庭環境や価値観が似てる似てない関係なく、まぜこぜで過ごさざるを得ない。やんちゃな子もいるし、大人しい子もいる。陰キャも陽キャも、学校に集まれば一緒に活動する。自分と個性が違う相手を尊重することが経験として積めるのではないでしょうか」(金澤さん)

上士幌では町に小学校が1校で1学年が40人前後。1学年2クラス編成が多くクラスメンバーが入れ替わりながら、教員や保護者の目が行き届く規模感で数十人の子どもたちが一緒に学んでいきます。

金澤さんのお子さんはやってみたかった乗馬など新しいチャレンジもしているそうです(画像提供/金澤一行さん)

金澤さんのお子さんはやってみたかった乗馬など新しいチャレンジもしているそうです(画像提供/金澤一行さん)

すみかの決め手はコスパじゃない

現在、上士幌は人口増加に伴い、住居が供給不足気味で賃貸物件の家賃が高めだといいます。金澤さんは移住を決めてからの物件探しが大変だったそう。SUUMOで毎日更新情報をチェックし、条件に合う空室が出たところで、ネットで即申し込んだといいます。どうやら田舎は住居費が安いというイメージは必ずしも当てはまらないようです。

「仕事上の合理性で考えたら新幹線で都内へアクセスしやすく、家賃も安い本州の地方エリアも選択肢でしょう。でも、暮らす場所とはコスパやスペックで解決するものではない気がしています。関わるうちに町が好きになり、自分にとって唯一無二の大切な町になっていきました」(金澤さん)

金澤さんは現在、小中学生向けの無料学習会を開催しています。偶然の縁から暮らすことになった上士幌で自分が役立てることは何かを考え、教育面で貢献したいと行動しています。
2年前に引越してきた金澤さんですが、上士幌を「わが町」と言い、町民としての意識が芽生えている姿が印象的です。

じゅうたんを敷きつめたような牧草地の風景。たしかに理屈ぬきに見惚れてしまいます(画像提供/金澤一行さん)

じゅうたんを敷きつめたような牧草地の風景。たしかに理屈ぬきに見惚れてしまいます(画像提供/金澤一行さん)

中野さんは「まず行ってみよう」と単身、岡山からやってきた

インタビュー2人目は岡山県倉敷市から移住してきた中野可南子(なかの・かなこ)さん(28歳)。
中野さんは岡山県で保育士をしていた25歳の時に転職を検討し、上士幌町の地域おこし協力隊としてやってきました。転職=移住と、住む場所を変えてみたいと考えていた中野さん。望んでいたのは自然豊かな場所だったそうで、瀬戸内地方の離島なども候補に挙げ、実際に訪れていました。
上士幌は姉が地域おこし協力隊として先に移住をしていたことで、何度か遊びに来ていて縁ができたそうです。

岡山から移住した中野さん(写真撮影/米田友紀)

岡山から移住した中野さん(写真撮影/米田友紀)

「北海道への憧れが強く、住んでみたい気持ちがありました。小学生のころにサマーキャンプで道内を訪れた原体験があり、ペンション、馬、景色とどれも印象に残っていたからです。転職するなら北海道がいいなというなんとなくの希望はありましたが、絶対に上士幌がいいと思っていたわけではなくて。でも地域おこし協力隊として移住すれば、住居面はサポートしてもらえるという点は大きかったです」(中野さん)

インタビュー1人目で金澤さんが住まい確保の難しさを語っていましたが、中野さんの場合は地域おこし協力隊として着任することで住居を紹介され、家賃補助があったそう。仕事が決まる=住まいが決まるという点で、スムーズに進んだようです。
中野さんは金澤さんと同じように、町に住む人との出会いが魅力だと話します。
「移住した人、元から住んでいた人にかかわらず、すぐに仲良くなってくれます。地域の飲み屋さんでも祭りでも、どんどん話しかけてくれて、打ち解けることができました」(中野さん)

移住者、ワーケーション中の人たちとの焼肉。北海道で「焼肉」というとバーベキューを指します(画像提供/中野可南子さん)

移住者、ワーケーション中の人たちとの焼肉。北海道で「焼肉」というとバーベキューを指します(画像提供/中野可南子さん)

20代の中野さんは仕事や住まいを変えるという面では身軽であるともいえます。それでも知り合いがほとんどいない北海道の田舎町に単身やってくることに不安はなかったのか。質問すると、こんなことを教えてくれました。
「海外へ飛び立つような感覚だったのかもしれません。国内ですが、北海道はまったくの異世界に来られる感覚がありました。温泉もサウナも、美味しい食べ物も。盛りだくさんに楽しめる新しい世界に、ワクワクしてやってきました。やってみたいと思う仕事がある、住まいもある。まずは行ってみようと、勢いで決めましたね」(中野さん)

マイナス20度にとまどう

岡山から上士幌へ引越して驚いたのは、「寒さ」。北海道の中でも雪が少ないエリアであり暮らしやすそうだと感じていたものの、冬にはマイナス20度まで気温が下がることがあります。

マイナス20度という数字だけを聞くと恐れおののきますが、足を踏み入れたら案外何とかなるもの。想像より体験してみると自分の世界が広がりそうです(画像提供/中野可南子さん)

マイナス20度という数字だけを聞くと恐れおののきますが、足を踏み入れたら案外何とかなるもの。想像より体験してみると自分の世界が広がりそうです(画像提供/中野可南子さん)

想像以上の極寒に初めの冬はとまどったものの、町で暮らして3年が経ち、中野さんは今年3月に地域おこし協力隊の任用期間を満了。4月から子どもや親子向けアクティビティ、キッチンカー営業など町内に住みながら起業する計画です。

異国へ足を踏み入れるような強い好奇心と勢いで町にやってきて3年。助けてくれる人が町の中に多くいるのでなんとかなっている、といいます。中野さんはこの町で次なる挑戦に踏み出しています。

気球に乗っているのは中野さん。冬に乗せてもらった貴重な体験だったそう(画像提供/中野可南子さん)

気球に乗っているのは中野さん。冬に乗せてもらった貴重な体験だったそう(画像提供/中野可南子さん)

県庁勤務だった渥美さん妻。夫は会社を辞めてやってきた

最後に話を聞いたのは2年前に静岡県浜松市から移住した渥美俊介(あつみ・しゅんすけ)さん(35歳)、緑(みどり)さん(35歳)夫妻です。夫の俊介さんは現在配送業に従事し、妻の緑さんは地域おこし協力隊としてまちづくり業務に携わっています。

静岡から移住した渥美さん夫妻(写真撮影/米田友紀)

静岡から移住した渥美さん夫妻(写真撮影/米田友紀)

静岡在住時、俊介さんは建築関連の仕事に従事し、緑さんは県庁に勤める公務員でした。二人にとって地元であった静岡での安定した仕事を辞め上士幌にやってきました。
もともと「移住してみたい」と話していたという二人。希望していた移住先は、似たような街並みが続く地方都市ではなく、自然豊かな土地でした。
金澤さん、中野さんと同様に、北海道に良いイメージを持っていたという渥美さん夫妻。転機となったのは2021年8月に初めて十勝エリアに旅行にいった時のことでした。

「宿泊した帯広のホテルのダイニングバーで地元の人が向こうから話しかけてくれて、心地よかったんです。当時はまだコロナ禍による制限を気にする時期だったので、“よそ者”であることに遠慮しながら旅していたのに、すごく気さくに話してくれて。十勝、いいな!と思っていたところで、オンラインで上士幌への移住セミナーがあり、参加したことが上士幌への入り口になりました」(緑さん)

(画像提供/渥美俊介さん)

(画像提供/渥美俊介さん)

県庁に勤めていたことからまちづくりに関心があったという緑さん。移住セミナーで紹介された地域おこし協力隊としてのミッションに強く惹かれました。しかも、協力隊ならば住む家もサポートされます。「いいじゃん、やってみよう」と、俊介さんも賛成し、2人で移住を決めました。

妻の緑さんは協力隊としての仕事が決まっていましたが、俊介さんは会社を辞めて次の仕事は決めずに上士幌へ。当時勤めていた建築会社からリモートワークで継続して業務にあたる提案もあったといいます。
「生計を立てる面で勤め先からの提案は大変ありがたかったのですが、一度リセットして自分のやりたいことを見つめ直したいと思いました。この町で自由に考えて、行動するなかで、これからの仕事で自分は何を軸にしたいのか、考えたかったんです」(俊介さん)

10年勤めた県庁を先に退職した緑さんを俊介さんが家計面で支えたこともある。二人で生きるからこそお互いやってみたいことに挑戦しながら、協力できる体制だといえます(画像提供/渥美俊介さん)

10年勤めた県庁を先に退職した緑さんを俊介さんが家計面で支えたこともある。二人で生きるからこそお互いやってみたいことに挑戦しながら、協力できる体制だといえます(画像提供/渥美俊介さん)

地元の友人たちは、今生の別れモード

俊介さんは上士幌でキャリアを見つめ直し、現在は惣菜店の開業を目指し今年度中に起業する準備を進めています。もともと好きだった料理やお菓子といった食分野の仕事をしたいと考えたことと、町には自分たちのように働く若い世代が増えているけれど、仕事帰りに気軽にお弁当や総菜が買える店があまりないことから地域の課題を解消したいという思いがありました。

「自然豊かな土地でもうちょっとゆったりとした生活になるのかとイメージしていましたけど、やりたいことをゼロから仕事にしていこうとすると、本当に毎日忙しいです。でも、大変でも苦痛ではないです。
仕事って合理性を考えて最短に突き進む方法が優先されがちですが、この町にはさまざまな可能性があるので合理性優先で最速で進めることは不向きです。自分たちが役立てることで試行錯誤しながら働いています」(緑さん)

配送業と掛け持ちで惣菜店開業に向けたイベント出店や限定カフェも営んでいる(画像提供/渥美俊介さん)

配送業と掛け持ちで惣菜店開業に向けたイベント出店や限定カフェも営んでいる(画像提供/渥美俊介さん)

2人は上士幌にきて2年。脂がのるように地域での仕事に力を注いでいる真っ最中です。
とはいえ、立ち上げようとしている事業に失敗したら……など不安がないのか聞いてみました。
「仕事は2足、3足とわらじを履くパラレルキャリアで進めています。また夫婦でそれぞれ仕事をしていれば、どちらか上手くいかなくても、どちらかが支えればいいという後ろ盾があります。あと、静岡を離れるときは友人たちが、もう会えなくなるけど……と今生の別れモードでしたが、自分たちは重い覚悟で移住を決めたわけではなくて。ちょっと住みにいってみます、というくらいな感覚でした。浜松も好きで、自分たちにとっては帰れる場所があると思っています」(俊介さん)

将来的には浜松との二拠点暮らしも視野に入れたいという二人。2足、3足のわらじでパラレルキャリアを積み、二人で暮らしを支え合い、帰れる場所もある。多くの後ろ盾、お守りのようなものが挑戦を後押ししています。

50年続くバルーンフェスティバル。気球が飛ぶ町というのもワクワクします(画像提供/渥美俊介さん)

50年続くバルーンフェスティバル。気球が飛ぶ町というのもワクワクします(画像提供/渥美俊介さん)

頭の中で勘定しすぎるより、心から願うことを

渥美さんたちに移住を検討している人に伝えたいことを聞きました。
「移住したとしても、しなかったとしても、自分で選択したならそれでいいのではないでしょうか。人に決めてもらうとだれかのせいにしてしまうでしょう」と緑さん。

何か困ったことがあっても十勝の景色を見れば、心満がたされるという(画像提供/渥美俊介さん)

何か困ったことがあっても十勝の景色を見れば、心が満たされるという(画像提供/渥美俊介さん)

「今がタイミングでないなら、整理できてからでもいい。人生は自分のものなのだから、何歳からでも何回だってやってみればいいと思うんです。心から願っていることというのは行動する上でとても大切なことです。頭でそろばん勘定して損得で考え過ぎなくても、案外どうとでもできるものではないでしょうか。直感でもいい、なんとでもなる。だってここは国内で日本語が通じるんで。働きながら、いかようにも暮らしはつくれます」(俊介さん)

ワクワク総数が増え続ける地域

インタビューした3組はさまざまなきっかけを経て上士幌へやってきました。
「きっかけ」は三者三様ですが漠然とした「北海道が好き」な人々を地域に呼び寄せるために、移住策に本腰を入れ、多様なチャレンジを続けてきた地域の必然ともいえる成果なのかもしれません。

上士幌では移住策で投じた取り組みから、ZEH型住宅建設支援や太陽光発電設備導入支援など再生可能エネルギーの普及促進、自動運転バス・ドローンなど次世代高度技術の活用など次なるチャレンジへとコマを進めています。
十勝平野を一望できる牧場「ナイタイテラス」に加え、「道の駅 かみしほろ」が北海道じゃらんの道の駅満足度ランキング2024で1位になるなど、観光分野でも魅力を増やしています。

先端技術や観光に直接関わりを持つ住民ばかりでなくても、ワクワクする取り組みの総数が多いことは、小さな町の誇れる魅力だと住む人たちが感じることができます。
北海道の中でも上士幌に移住者が続々と集まる背景には、こういう地域ぐるみでワクワクの総数を増やし続ける試みがされていることがあるのでしょう。

●参考サイト
北海道 上士幌町

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育休中の夫婦、0歳双子と北海道プチ移住! 手厚い子育て施策、自動運転バスなどデジタル活用も最先端。上士幌町の実力とは?

長期の育児休業中に、移住体験の制度を活用して北海道へのプチ移住を果たした私たち夫婦&0歳双子男子。
約半年間の北海道暮らしでお世話になったのは、十勝エリアにある豊頃町(とよころちょう)、上士幌町(かみしほろちょう)という2つのまち。
実際に暮らしてみると、都会とは全然違うあんなことやこんなこと。田舎暮らしを検討されている方には必見⁉な、実際暮らした目線で、地方の豊かさとリアルな暮らしを実践レポートします! 今回は上士幌町&プチ移住してみてのまとめ編です。

上士幌町は北海道のちょうど真ん中。ふるさと納税と子育て支援が有名

9月上旬から1月末まで滞在した上士幌町は、十勝エリアの北部に位置する人口5,000人ほどの酪農・農業が盛んなまち。面積は東京23区より少し広い696平方km。なんと牛の数は4万頭と人口の8倍も飼育されています。そして、十勝エリアのなかでも何と言っても有名なのが、「ふるさと納税」。ふるさと納税の金額が北海道内でも上位ランクなんです。そのふるさと納税の寄付を子育て施策に充て、0歳~18歳までの子どもの教育・医療に関する費用は基本無料、ということをいち早く導入したまち。子育て層の移住がかなり増えたことで注目を集めています。
町の北側はほとんどが大雪山国立公園内にあり、携帯の電波も届かない国道273号線(通称ぬかびら国道)を北に走ると、三国峠があり、そこからさらに北上すると、有名な層雲峡(上川町)の方に抜けていきます。

上士幌町の北の端、三国峠付近の冬のとある日。凛とした空気が気持ちよく、手つかずの国立公園が広がります(写真撮影/小正茂樹)

上士幌町の北の端、三国峠付近の冬のとある日。凛とした空気が気持ちよく、手つかずの国立公園が広がります(写真撮影/小正茂樹)

上士幌町にある糠平湖では、この冬から、完全に凍った湖面でサイクリングを楽しめるようになりました(上士幌観光協会にて受付・許可が必要)。タウシュベツ川橋梁のすぐ近くまで自転車で行くことができ、厳寒期しか楽しめないアクティビティ&風景が体感できます(写真提供/鈴木宏)

上士幌町にある糠平湖では、この冬から、完全に凍った湖面でサイクリングを楽しめるようになりました(上士幌観光協会にて受付・許可が必要)。タウシュベツ川橋梁のすぐ近くまで自転車で行くことができ、厳寒期しか楽しめないアクティビティ&風景が体感できます(写真提供/鈴木宏)

糠平湖上に期間限定でオープンするアイスバブルカフェ「Sift Coffee」さん。国道から数百メートル歩いた湖のほとりにて営業。歩き疲れた体に美味しいコーヒーが沁みわたります(写真撮影/小正茂樹)

糠平湖上に期間限定でオープンするアイスバブルカフェ「Sift Coffee」さん。国道から数百メートル歩いた湖のほとりにて営業。歩き疲れた体に美味しいコーヒーが沁みわたります(写真撮影/小正茂樹)

上士幌町の暮らし。徒歩圏でなんでもそろうちょうどいい環境

上士幌町は人口5,000人のまちで、中心となる市街地は一つ。この中心地に人口の約8割、4,000人ほどが住んでいるそう。ここにはスーパーがコンビニサイズながら2つ、喫茶店や飲食店もたくさんあります。そして、コインランドリーに温泉に、バスターミナルに……と生活利便施設がきっちりそろっています。中心地から少し離れると、ナイタイテラス、十勝しんむら牧場のカフェ、小学校跡地を活用したハンバーグが絶品のトバチ、ほっこり空間がすっごくステキな豊岡ヴィレッジなどがあり、暮らすには不自由はほぼないと言ってもいいと思います。

そして、なんと、2022年12月から、自動運転の循環バスが本格稼働しているんです! ほかにも、ドローン配送の実験など、先進的な取組みがたくさんなされているまちでもあります。実は上士幌町さんには、デジタル推進課という課があります。ここが中心となって、高齢者にもタブレットを配布・スマホ相談窓口が設置されています。デジタル化に取り残されがちな高齢者へのサポート体制をしっかり取りながら、インターネット技術を十分活用し、まちのインフラ維持、サービス提供を進めていこうという町としての取組みは素直にすごいなと感じました。

カラフルな自動運転バスがまちの中心地をループする形で運行。雪道でも危なげなく動いていてすごかったです(写真撮影/小正茂樹)

カラフルな自動運転バスがまちの中心地をループする形で運行。雪道でも危なげなく動いていてすごかったです(写真撮影/小正茂樹)

十勝しんむら牧場さんにはミルクサウナが併設。広大な放牧地を望める立地のため、牛を眺めたり、少し遅い時間なら、満点の星空を望みながら整うことができます(写真撮影/荒井駆)

十勝しんむら牧場さんにはミルクサウナが併設。広大な放牧地を望める立地のため、牛を眺めたり、少し遅い時間なら、満点の星空を望みながら整うことができます(写真撮影/荒井駆)

ナイタイテラスからの眺めは壮観! ここで食べられるソフトクリームが美味しい。のんびり風景を楽しみながら、ゆっくり休憩がおすすめです(写真撮影/小正茂樹)

ナイタイテラスからの眺めは壮観! ここで食べられるソフトクリームが美味しい。のんびり風景を楽しみながら、ゆっくり休憩がおすすめです(写真撮影/小正茂樹)

我が家イチ押しの豊岡ヴィレッジは木のぬくもりが感じられる元小学校。子ども用品のおさがりが無料でいただけるコーナーがあり、双子育児中の我が家にとっては本当にありがたかったです(写真撮影/小正茂樹)

我が家イチ押しの豊岡ヴィレッジは木のぬくもりが感じられる元小学校。子ども用品のおさがりが無料でいただけるコーナーがあり、双子育児中の我が家にとっては本当にありがたかったです(写真撮影/小正茂樹)

誕生会やママのHOTステーションなどさまざまな出会いの場が

上士幌町では、移住された方、体験移住中の方などが集まる「誕生会」と呼ばれる持ち寄りのお食事会が月1回開催されています。毎回さまざまな方が来られるので、移住されている方がすごく多い、というのがよく分かります。移住して25年という方もいらして、移住者・まちの人、両方の視点を持っていらっしゃる先輩からの上士幌暮らしのお話は、すごく参考になることが多かったです。

毎月行われている移住者の集い、誕生会。12月はクリスマス会で、サンタさんから双子へもプレゼントが!(写真撮影/小正茂樹)

毎月行われている移住者の集い、誕生会。12月はクリスマス会で、サンタさんから双子へもプレゼントが!(写真撮影/小正茂樹)

また、上士幌町といえば、我々子育て世代にとって、すごくありがたい取組みが「ママのHOTステーション」。育児の集まりの場合、子どもたちが主役になり、「子育てサロン」として開催されることが多いのですが、この取組みの主役は“ママ”。ママが子どもたちを連れて、ゆっくりしたひと時を過ごすことができる場を元保育士の倉嶋さんを中心に企画・運営されていて、今や全国的にも注目される取組みになっています。

実は、上士幌町で移住体験がしたかった一番の目的は、この「ママのHOTステーション」を妻に体験してもらいたかったこと、倉嶋さんの取組みをしっかり体感したかったことにありました。ほぼ毎週のように参加させていただいた妻は本当に大満足で、ママ同士の交流も楽しんだようです。ここでは、〇〇くんのママではなく、きちんと名前でママたちも呼び合い、リラックスムード満点の雰囲気づくりも素晴らしいなと感じました。妻は、「ママのしんどい気持ちや育児悩みを共有してくれて、アドバイスをくれたりするのがすごくありがたいし、同じような立場のママが集ってゆっくり話せるのは嬉しい。子どもの面倒も見てくれるし、ここには毎週通いたい!」と言っていました。こういった同じ境遇のお友達ができるかどうかは、移住するときの大きなポイントだと感じました。もっといろいろな同世代、子育てファミリーに特化したような集まりがあってくれると、更に安心感が増すんだろうなと思います。

ママのHOTステーションの取組みとして面白いところは、「ベビチア」という制度。高齢者の方が登録されていて、子どもたちの世話のお手伝いをしてくださいます。コロナ禍になり、遠方にいるお孫さん・ひ孫さんと会えず寂しい思いをしている高齢の方々などが登録してくださっていて、週1回の触れ合いを楽しみにしてくださっている方も。「子育て」「小さな子ども」というのをキーワードに、多世代の方がのんびり時間を共有しているのはすごくいいなと感じました。

ママのHOTステーションが開催される建物は温浴施設などと入り口が一緒になるので、自然発生的に多世代のあいさつやたわいもない会話が生まれていて、ほっこりします(写真撮影/小正茂樹)

ママのHOTステーションが開催される建物は温浴施設などと入り口が一緒になるので、自然発生的に多世代のあいさつやたわいもない会話が生まれていて、ほっこりします(写真撮影/小正茂樹)

乳幼児救急救命講習会にも参加できました。ベビチアさんたちの大活躍のもと、子どもたちの面倒をみていただき、じっくりと救急救命講習に参加できたことはすごくありがたかったです(写真撮影/小正茂樹)

乳幼児救急救命講習会にも参加できました。ベビチアさんたちの大活躍のもと、子どもたちの面倒をみていただき、じっくりと救急救命講習に参加できたことはすごくありがたかったです(写真撮影/小正茂樹)

上士幌町の移住相談窓口は、NPO法人「上士幌コンシェルジュ」さんが担われています。こちらの名物スタッフの川村さん、井田さんを中心に移住体験者のサポートを行ってくださいました。私たちも入居する前から、いろいろと根掘り葉掘りお伺いして、妻の不安を取り除きつつ、入居後もご相談事項は迅速に対応いただきました。

移住体験住宅もたくさん!テレワークなどの働く環境も

私たち家族が暮らした移住体験住宅は、75平米の2LDKで、納屋・駐車スペース4台分付きという広さ。豊頃町の体験住宅に比べるとやや狭いものの、やはり都会では考えられない広さでゆったり暮らせました。住宅の種類としては、現役の教職員住宅(異動の多い学校の先生向けの公務員宿舎)でした。平成築の建物で、冬の寒さも全く問題なく、この住宅の家賃は月額3万6000円で水道・電気代込み。移住体験をさせていただくと考えると破格の条件かもしれません(暖房・給湯などの灯油代は実費負担)。今回お借りできた住宅以外にも、短期~中・長期用まで上士幌町では10戸程度の移住体験住宅が用意されています。ただ、本当に人気のため、夏季などの気候がいい時期については、かなりの倍率になるようです。ただし、豊頃町と同じく、上士幌町でもエアコンがないことは要注意。スポットクーラーはあるものの、夏の暑さはかなりのものなので、小さなお子さんがいらっしゃる場合は、ご注意ください。エアコンはもう北海道でも必須になりつつあるようなので、少し家賃が上がっても、ご準備いただけるといいなぁと思いました。また、ぜいたくな希望になりますが、食器類や家具などの調度品も比較的古くなってきていると思うので、一度全体コーディネートされると、移住体験の印象が大きく変わるのでは、と感じました。

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必要最低限の家具・家電付き。広めのお家やったので、めっちゃ助かりました(写真撮影/小正茂樹)

必要最低限の家具・家電付き。広めのお家やったので、めっちゃ助かりました(写真撮影/小正茂樹)

私たちの住まいになった住宅は、まちの中心からは徒歩10~15分ほど。ベビーカーを押して動ける季節には、何度も散歩がてら出かけましたが、ちょうどいい距離感でした。南側は開けた空き地になっていて、日当たりもすごくよくて、冬の寒い日も、晴天率が高いため、日光で室内はいつもぽかぽかになっていました。

一戸建てかつ納屋まで付いて、月額3万6000円とは思えない広々とした体験住宅。子育てファミリーにとっては、一戸建ては音の心配も少なく、すごく過ごしやすかったです(写真撮影/小正茂樹)

一戸建てかつ納屋まで付いて、月額3万6000円とは思えない広々とした体験住宅。子育てファミリーにとっては、一戸建ては音の心配も少なく、すごく過ごしやすかったです(写真撮影/小正茂樹)

体験住宅の南側は空き地が広がっていて、本当に日当たり・風通しも良く、都会では到底体感できないすがすがしい毎日を過ごせました(写真撮影/小正茂樹)

体験住宅の南側は空き地が広がっていて、本当に日当たり・風通しも良く、都会では到底体感できないすがすがしい毎日を過ごせました(写真撮影/小正茂樹)

また、私たちは育児休業中だったため使うことはなかったのですが、上士幌町さんはテレワークやワーケーションなどの取組みについてもすごく前向きに取り組まれています。
まず、テレワーク施設として「かみしほろシェアオフィス」があります。建設に当たっては、ここで働く都市部からのワーカーの方に向けて眺望がいいところ、ということで場所を選定されたそう。個室などもあり、2階建ての使い勝手の良いオフィスとなっています。

個人的に2階がお気に入り。作業で煮詰まったときに正面を見ると気持ち良い風景が広がり、リラックスできる環境(写真撮影/小正茂樹)

個人的に2階がお気に入り。作業で煮詰まったときに正面を見ると気持ち良い風景が広がり、リラックスできる環境(写真撮影/小正茂樹)

さらに2022年にオープンしたのが「にっぽうの家 かみしほろ」。この施設はまちの南側、道の駅のすぐ近くに位置しています。こちらは宿泊施設になりますが、1棟貸しを基本としていて、広々したリビングで交流や打ち合わせ、個室ではプライバシーをしっかり守りつつお仕事に没頭することなどが可能に。また、ワーケーション滞在の方のために、交通費・宿泊費などの助成制度も創設されたとのことで、これからさまざまな企業・団体の活用が期待されます。

にっぽうの家は2棟が廊下で繋がった形状。仕事・生活環境が整っていて、余暇活動もたくさん楽しめる場所で、スタートアップなどの合宿をしてみるのは面白いなと感じました(写真撮影/小正茂樹)

にっぽうの家は2棟が廊下で繋がった形状。仕事・生活環境が整っていて、余暇活動もたくさん楽しめる場所で、スタートアップなどの合宿をしてみるのは面白いなと感じました(写真撮影/小正茂樹)

子育て層にとって、子どもの教育環境というのが移住検討するに当たってはかなり重要な事項となります。上士幌町では、「上士幌Two-way留学プロジェクト」として、都市部で生活する児童・生徒が住民票を移動することなく、上士幌町の小・中学校に通うことができる制度が2022年度から始まりました。この制度を使えば、移住体験中や季節限定移住などの場合も、お子さんの教育環境が担保されることとなり、これまでなかなか移住検討までできなかった就学児がいるファミリーも懸念材料の一つがなくなったこととなります。

十勝には質の高いイベントがたくさん! 起業支援なども盛ん

半年ほど暮らしてみてわかったことはたくさんあったのですが、子育てファミリーとしてすごくいいなと思ったのが、「イベントの質が高く、数も多い」にもかかわらず、「どこに行ってもそこまで混まない」こと。子育てファミリーにとって、子どもを遊ばせる場所がそこここにあるというのはものすごく大きいなと感じました。

とよころ産業まつりでの鮭のつかみ取り競争のひとコマ(写真撮影/小正茂樹)

とよころ産業まつりでの鮭のつかみ取り競争のひとコマ(写真撮影/小正茂樹)

個人的にかなり気に入ったのが芽室公園で行われたかちフェス。広大な芝生広場を会場に、さまざまな飲食・物販ブースや、サウナ体験、ライブが行われていました。すごく心地よく長時間過ごしてしまいました(写真撮影/小正茂樹)

個人的にかなり気に入ったのが芽室公園で行われたかちフェス。広大な芝生広場を会場に、さまざまな飲食・物販ブースや、サウナ体験、ライブが行われていました。すごく心地よく長時間過ごしてしまいました(写真撮影/小正茂樹)

ママたちが企画・運営した「理想のみらいフェス」には3,000人を超える来場が。様々な飲食店やワークショップが並ぶなか、革小物のハンドメイド作家の妻も双子を引き連れて、ワークショップで出店していました(写真撮影/小正茂樹)

ママたちが企画・運営した「理想のみらいフェス」には3,000人を超える来場が。様々な飲食店やワークショップが並ぶなか、革小物のハンドメイド作家の妻も双子を引き連れて、ワークショップで出店していました(写真撮影/小正茂樹)

また、実際に移住して暮らすとなるとお金をどうやって稼ぐかというのもポイントになってくると思います。上士幌町では、「起業支援塾」が年1回開催され、グランプリには支援金も出されるなど、起業サポートも充実しています。また、帯広信用金庫さんが主催され、十勝19市町村が協賛している「TIP(とかち・イノベーション・プログラム)」というものも帯広市内で年1回開催されています。2022年は7月から11月まで。私も育児の隙間を縫って参加させていただきましたが、かなり本気度が高い。野村総研さんがコーディネートをされているのですが、実際5カ月でアイディア出しからチームビルディング、事業計画までを組み上げていきます。ここで起業を実際にするもよし、このTIPには多方面の面白い方々が参加されるため、横の繋がりが生まれたりし、仕事に繋がることもあると思います。

TIPでは、カーリングと美食倶楽部のビジネス化チームに参加しました。チームで体験会を実施して、カーリングの面白さを体感しました(写真撮影/小正茂樹)

TIPでは、カーリングと美食倶楽部のビジネス化チームに参加しました。チームで体験会を実施して、カーリングの面白さを体感しました(写真撮影/小正茂樹)

また、こちらは直接起業とは関連がありませんが、「とかち熱中小学校」というものもあります。これは、山形県発祥の社会人スクールのようなもので、「もういちど7歳の目で世界を……」というコンセプト。ゴリゴリの社会人スクールというよりは、本当に小学校に近い仲間づくりができるアットホームな雰囲気。とはいえ、テーマは先進的な事例に取り組むトップランナーさんの講義や、地元の産業など。こちらも講師はもちろん、開催地が十勝エリア全般にわたるため、参加者の方もさまざまで、人間関係づくりにはもってこい。こちらには家族全員で参加させていただいていました。

2023年1月は豊頃町での開催。当日の講師は金融のプロとお笑い芸人というすごく面白い取り合わせの2コマの授業。毎回、双子を連れ立って授業を聴講でき、育児のよい気分転換にもなりました(写真撮影/小正茂樹)

2023年1月は豊頃町での開催。当日の講師は金融のプロとお笑い芸人というすごく面白い取り合わせの2コマの授業。毎回、双子を連れ立って授業を聴講でき、育児のよい気分転換にもなりました(写真撮影/小正茂樹)

農業に興味がある方は、ひとまず農家でアルバイト、というのもあります。どこの農家さんも収穫の時期などは人手が足りないケースが多く、農業の体験を通じて、地元のことを知れるチャンスが生まれると思います。私も1日だけですが、友人が勤める農業法人さんにお願いして、お手伝いさせていただきました。作物によって時給単価が違うそうなのですが、夏前から秋まで色々な野菜などの収穫がずっと続くため、いろんな農家さんに出向いて、農業とのマッチングを考えてみる、というのもありだと思います。

かぼちゃの収穫はなかなかの重労働でした。農作物によって、アルバイトの時給も違うそうで、なかには都会で働くより時給がよい場合もあるそう(写真撮影/小正茂樹)

かぼちゃの収穫はなかなかの重労働でした。農作物によって、アルバイトの時給も違うそうで、なかには都会で働くより時給がよい場合もあるそう(写真撮影/小正茂樹)

今回、長期の育休を取得し、子育てを実践するとともに、自分のこれからの暮らし方を見つめなおせるいい機会が移住体験で得られました。2拠点居住は子どもができると難しいのではとか、地方で仕事はあるのかなどの漠然とした不安を抱えていましたが、「どこに行っても暮らしのバランスはとれる」ということも分かりました。
大阪の暮らしとは明らかに異なりますが、既に暮らされている方々に教えてもらえれば、その土地土地の暮らしのツボが分かってきます。個人的には、地方に行くほど、システムエンジニアやクリエイターさんたちの活躍の場が実はたくさんある気がしています。こういう方々が積極的に暮らせるような仕組みづくりが出来ると、自然発生的に面白いモノコトが生まれてきて、まちがどんどん便利に面白くなっていくのではないかなと感じました。

我々家族としては、今後2拠点居住を考えていくにあたって、我々1歳児双子を育てている立場として重視したいポイントもいくつか判明しました。それは、「近くにあるほっこり喫茶店」「歩いていける利便施設」があることです。双子育児をするに当たって、双子用のベビーカーって重たくて、小柄な妻は車に乗せたり降ろしたりすることはかなり大変。さらに双子もどんどん重たくなっていきます。そう考えると、私たち家族の現状では、ある程度歩いて行ける範囲に最低限の利便施設があったり、近所の人とおしゃべりができる喫茶店があったりするのはポイントが高いなと妻と話していました。

我々夫婦の趣味がもともと純喫茶巡りだったこともあり、気軽に歩いて行ける範囲に1軒は喫茶店が欲しいなぁと思いました(写真撮影/小正茂樹)

我々夫婦の趣味がもともと純喫茶巡りだったこともあり、気軽に歩いて行ける範囲に1軒は喫茶店が欲しいなぁと思いました(写真撮影/小正茂樹)

今回、長期育休×地方への移住体験という新しい暮らし方にトライしてみて、憧れの北海道に実際暮らすことができました。これまで漠然とした憧れだった北海道暮らしでしたが、憧れから、より具体的なものになりました。また、たくさんの友人・知人や役場の方との繋がりもでき、仕事関係についても可能性を感じられました。
子どもが生まれると、住むまちや家について考えるご家族は多いのではないでしょうか。育休を機会に、子育てしやすく、親たちにとっても心地よいまち・暮らしを探すべく、移住体験をしてみるのは、より楽しく豊かな人生を送るきっかけになると思います。10年後には男性の育休が今より当たり前になり、子育て期間に移住体験、という暮らし方をされる方がどんどん登場すると、地方はより面白くなっていくのではないかなと感じました。
家族みんなの、より心地よい場所、暮らしを移住体験を通じて探してみませんか? いろいろな検討をして、移住体験をすることで、暮らしの可能性は大きく広がると思います。

移住して1カ月ほど経過した時の写真。これからもこの子たちにとっても、楽しく、のびのび暮らせる環境で育ててあげたいなと思います(写真撮影/小正茂樹)

移住して1カ月ほど経過した時の写真。これからもこの子たちにとっても、楽しく、のびのび暮らせる環境で育ててあげたいなと思います(写真撮影/小正茂樹)

●関連サイト
上士幌町移住促進サイト
上士幌観光協会(糠平湖氷上サイクリング)
上士幌町Two-way留学プロジェクト 
十勝しんむら牧場ミルクサウナ
ママのHOTステーション
かみしほろシェアオフィス
にっぽうの家 かみしほろ
理想のみらいフェス
十勝イノベーションプログラム(TIP)
とかち熱中小学校
かちフェス

育休中の双子パパ、家族で北海道プチ移住してみた! 半年暮らして見えてきた魅力と課題

「地方への移住」=田舎暮らしは憧れだけど、仕事環境などなどハードルが高い。
「男性の育児休業」=まだまだ認知されていなくて、取得できる気がしない……。
一見ハードルが高そうで互いに関係がなさそうな、こんな二つのキーワードを組み合わせた暮らしを体験してみると、実はすごく豊かな暮らし方&働き方改革、そして新たな地方創生が実現できるかも?! 1歳双子男子の関西人新米パパが実践レポートします!

男性の長期育休取得→移住体験にいたるまで

2021年の春のこと。「双子やったわ~」妻からの報告に、嬉しかったり、ビックリしたり。以前から抱いていた「育児休業」という言葉が頭の中を飛び回りました。現実問題として、双子の子育てって、一人じゃ到底難しいよなぁ……育休取れるんやろか。でも、0歳の子どもって、日々成長して変わっていくと言いますし、何にも代えがたい経験が出来る気がする。よくあるワンオペ育児もホンマに大変そうやし、妻に頼りっきりで、妻が倒れてしまったら双子育児なんてどうにも立ち行かなくなるし、二人で育児をするために、なんとか育休取らねば。

とはいえ、男の育休が話題になっている今ですが、現実問題としては、突然いなくなるのも周りへの迷惑も気になるのも事実。社外のバリバリ働いている友人たちからは、その後の会社での処遇なども含めて心配もされました。まだまだ世の中の雰囲気は男性育休に対して意見がいろいろあるんやなぁと実感しました。

ただ幸いなことに、先輩女性職員さんをはじめ、社内のほとんどの同僚たちは大賛成してくれ、上長も「双子やしね~」と前向きな反応。その後、3カ月程にわたり会社との相談を重ね、長期育休を取る方向で話を進めていき、2021年10月、無事、双子男子の父となることができました。

無事産まれて、家に来てくれたばかりの双子。今改めて見ると、本当にちっちゃくてカワイイ!(写真撮影/小正茂樹)

無事産まれて、家に来てくれたばかりの双子。今改めて見ると、本当にちっちゃくてカワイイ!(写真撮影/小正茂樹)

単に“イクメン”として子育てするのも良かったものの、ふと、「育休中って会社に通勤せんでもいいし、育児を大好きな北海道で出来るんじゃ?!」と頭によぎりました。子どもたちの育児環境も、都会より、緑が多くて、空気が澄んでいて、のんびりした空間で出来たほうがいいんじゃなかろうか。記憶には残らないまだまだ小さい頃ですが、のんびりした温和な性格に育ってくれないかなぁ。周囲の先輩パパ・ママに聞いてみると、都会で泣き声とかで周囲への迷惑などにビクビクしながら育てるより、のんびりした空間で育てるほうが親にも子どもにもいいと思うなぁとのこと。

会社に確認すると、育休中の居住地は特に問わず、連絡さえつけばどこにいても問題ないとのこと。そこまで確認し、2021年度中はリモートワーク主体になりながらも、仕事をこなしつつ、2022年度には、長期の育休を取得させていただくことで、上司・人事にも仁義を切り、社内調整も完了しました。あとは、北海道で暮らす算段を立てるのみ!!

せっかく行くなら、できるだけ長く、半年くらいは北海道で暮らしてみたい。暮らす手段を考えてみると、やはりコストの問題が出てきます。ウィークリー/マンスリーマンション的なもの。エアビー(Airbnb)的なもの。長期で借りると安くなる可能性はあるとはいえ、やはり結構高額になってしまう。また、本州から北海道までの引越し代って、海を確実に渡るので、すっごい高いと友人からも聞いています……。うーん、難しい。

でも、すごくいい解決方法が見つかりました!「移住体験」という制度です。
地方都市のいろんなところで実施しているこの制度、これなら、「家具・家電付き」で、「家賃」もお値ごろの住宅が多い。そして、市町村が運営しているだけに、町のあれこれも教えていただけたりしそうで一石二鳥。「ちょっと暮らし」という北海道の体験移住WEBサイトも発見! このサイトなどを穴が開くほど見つめて、友人・知人の多く住んでいる北海道十勝エリア、日高エリアを中心に検討することにしました。また、私が住む大阪には、「大阪ふるさと暮らし情報センター」というところもあり、こちらでは、パンフレットをいただいて、より詳細に検討を行いました。

WEBでいろいろと調べるのもいいですが、調べ物はまずは紙派。いただいたパンフやこれまでストックしてあったさまざまな資料をチェックしながら、詳細をWEBで確認して、検討していきました(写真撮影/小正茂樹)

WEBでいろいろと調べるのもいいですが、調べ物はまずは紙派。いただいたパンフやこれまでストックしてあったさまざまな資料をチェックしながら、詳細をWEBで確認して、検討していきました(写真撮影/小正茂樹)

問い合わせてみると、申込条件としては、基本的に、「二拠点居住」「移住」などを検討していることになっています。私としては、以前から北海道が大好きで、仕事の調整が付けば、将来的に「二拠点居住」が出来ると嬉しいなぁと思っていたため、条件はクリア。

妻の説得、幼い子どもを連れて移住体験するために考えておくこととは

北海道に行く。この気持ちはもう揺るがないものになってきてはいるものの、当時の最重要タスクは、0歳児双子の育児&出産間もない妻の心身のケア。コロナ禍まっただ中ということもあり、都会の子育てサロン的なものはほぼすべて中止になり、なかなかママ友などもできない状況でした。「都会にいると息苦しいから、育児は田舎の方でやったほうがいいかなぁ」なんてことを小出しにしながら、妻の意向確認をするべく、18ページにわたる企画提案書を出してみました。この企画提案書では、暮らすことになる移住体験住宅のイメージはもちろん、大阪での育児と比べて、のんびりした育児環境となること、グルメや遊び情報などと合わせて、プチ移住するにあたっての子どもたちの予防接種などの課題などにも触れ、まずは妻の意見をしっかり聞けるように工夫しました。

妻にプレゼンした18ページの育休期間暮らし方提案書(写真撮影/小正茂樹)

妻にプレゼンした18ページの育休期間暮らし方提案書(写真撮影/小正茂樹)

妻からは楽しそう、美味しいものが食べられそう、などというポジティブな意見もあったものの、「医療機関など子育てに不安がない都会から、突然地方へ乳飲み子を抱えて移動するリスク」や、「最寄りの医療機関の情報」「日常の買い物施設の情報」「子連れウェルカムな施設」などの宿題をたくさんもらいました。プレゼン終了後、別資料で「最寄りの医療機関」「日常の買い物施設」については、地図にプロットし、どこに何があるか、口コミ情報なども調べて、しっかり共有しました。また、小さな子連れで過ごせる施設や、子育てサロン的な集まりなども事前に自治体さんに問い合わせするなどして、情報を集めていき、思ったよりいろいろなものがあることも分かり、無事課題クリア。

しかしながら、「乳飲み子を抱えて移動するリスク」については、難しい点がありました。子育てをご経験された方はご存じかと思いますが、産まれて満1歳ころまでは、数多くのワクチン接種などがあり、健診もたくさん。これらをどこで受診するのか、あれこれ考えることが結構ありました。実は、移住体験はあくまで扱いとしては、「体験」であるため、住民票の異動は認められていません。そのため、ワクチン接種や健診の主体はもともと暮らしている自治体で受診するのが原則になっています。ワクチン接種もできるだけもともと通っていた医院で受けたいという妻の意見をくみ取りつつ、健診がいったん落ち着く9カ月健診の終了後、2022年7月、移住体験をスタートできることになりました。

双子にとって初めての飛行機に乗り、帯広空港に到着。友人たちが荷物運びなどのために出迎えてくれました(写真撮影/小正茂樹)

双子にとって初めての飛行機に乗り、帯広空港に到着。友人たちが荷物運びなどのために出迎えてくれました(写真撮影/小正茂樹)

移住体験先の賢い選び方!

移住体験でお借りできる住宅は、家賃・築年・広さ・住宅内の設備や付属している家具・家電などなど、本当に千差万別。教員住宅だったものを利活用している(小中高校の教員さん向けの公務員住宅だが、地方では統廃合などで、教員住宅自体が余ってきている)ケースが多いですが、民間物件や、地元木材を使って新築で建てられた移住体験用住宅をお借りするケースもあります。個人的なおすすめとしては、移住体験用に建てられた住宅。家賃が他のものより高いことが多いですが、設備も新しく、妻を説得する私としては、「せっかく移住体験するなら、きれいなところ」というのは結構重要な点でした(笑)。

豊頃町(とよころちょう)でお世話になった移住体験住宅は、妻へのプレゼン資料で決め手に。築10年ほど経っていますが、地元木材がふんだんに使われ、お庭も広く、吹き抜けの気持ちいい空間が広がります(写真撮影/小正茂樹)

豊頃町(とよころちょう)でお世話になった移住体験住宅は、妻へのプレゼン資料で決め手に。築10年ほど経っていますが、地元木材がふんだんに使われ、お庭も広く、吹き抜けの気持ちいい空間が広がります(写真撮影/小正茂樹)

また、寝具は別途レンタルとなっていたり、水道光熱費は、灯油代(暖房代)は別途となっていることは多いものの、水道・電気代は込みになっていることが多いです。

■検討する際に忘れてはならない大事なポイント
・借りられる期間(これは市町村さんごとに2週間~1年程度まで、全く異なるので要注意!)
・申し込み締切り日(年に1回、まとめて募集があります。その締切りは概ね年末から2月中旬までが多いです。それ以降も、空きがある場合は、追加募集を行う市町村もあるため、要チェック)
・北海道の場合は、夏場の暑さ!北海道といえど、夏場は30度以上になったりして、暑く感じることもありますが、移住体験住宅はエアコン設備がないところがほとんど。逆に冬はストーブが付けていれば、本州の家とは比べ物にならないくらい暖かいです。移住体験する時期に注意!!

我が家としては、「半年間継続して暮らせる」ことが何より重要でした。乳飲み子を抱えて、ウロウロするのは結構大変。なので、基本的に、半年間を一つの町で暮らせるように考えました。ただ、半年間という長期で申し込める市町村はそこまで多くはなく、申込締切りに間に合い、かつ、楽しい暮らしが実現できそうな「豊頃町」「上士幌町(かみしほろちょう)」の2町に申込することにしました。そして、無事選定いただき、豊頃町で2カ月、上士幌町で4カ月、移住体験をさせていただくこととなりました。

【豊頃町の決め手】
・とにかく移住体験住宅がかっこいい!
・お庭があって、希望者は農作業ができる家庭菜園も。子どもたちに収穫した野菜を食べさせてあげられるかも(今回は2カ月の短期居住で収穫体験が出来るよう、特別に先に植え付けをしてくださっていました)
・農地に隣接していて、のんびり空間を満喫できそう。
・問い合わせした際の町の担当の方がすごく親切だった。
・十勝エリアのなかでも、あまり情報がない町なので、どういう町か暮らしてみたかった。

豊頃町の移住体験住宅からの眺め。都会では到底味わえない抜け感で心身ともにリフレッシュができました(写真撮影/小正茂樹)

豊頃町の移住体験住宅からの眺め。都会では到底味わえない抜け感で心身ともにリフレッシュができました(写真撮影/小正茂樹)

【上士幌町の決め手】
・「ママのHOTステーション」という子育てママが集える空間があった。
・糠平温泉郷や小学校をリノベしたカフェなど、楽しめそうな場所がたくさんあった。
・町がさまざまな斬新な取組みをされているので、肌でそれを感じたかった。
・移住者がすごく多い町という噂なので、移住されている方と仲良くなれるかも。
・移住対応窓口がNPO法人で、いろんな暮らしの情報をもらえそうだった。

「ママのHOTステーション」。実は、一昨年、仕事で上士幌町を視察をしたとき「これや!!」と直感して、上士幌町に移住体験して、妻に通ってほしい!と思ったのです。実際、すごく居心地よく素晴らしいものだったそうです(写真撮影/小正茂樹)

「ママのHOTステーション」。実は、一昨年、仕事で上士幌町を視察をしたとき「これや!!」と直感して、上士幌町に移住体験して、妻に通ってほしい!と思ったのです。実際、すごく居心地よく素晴らしいものだったそうです(写真撮影/小正茂樹)

まだまだ他の町にも! チェックすべき移住体験のオトク情報

移住体験住宅のセレクトで、つい目が行きがちなのが、「家賃」や「築年数」「広さ」など。もちろん、暮らすにあたって、すごく重要なポイントではありますが、実は、個性的な特徴を持っている移住体験住宅もたくさんあります。そんなおすすめポイントを、私が検討した日高・十勝エリアに絞り込んでご紹介します。

1、農園付き住宅!
私が暮らさせていただいた豊頃町の移住体験住宅は、2戸で800平米の敷地。えらい広いなぁと思っていたら、実は、農園付きの住宅でした。自由に植え付けることもできますが、私たちは短期滞在ということもあり、役場のOBのおじいちゃまが育ててくださって、収穫体験させていただく、というようなありがたいサプライズもありました!

また、士幌町には、その名も「もっと暮らし体験『農園付き住宅』」という農園をがっつり楽しみたい方のための1年以上の長期滞在向け体験住宅も用意されていて、本気度が高い方にはこちらもおすすめです。

豊頃町の移住体験住宅のお庭でジャガイモの収穫! 町役場OBのおじいちゃまが手伝ってくださいました。我が家はほとんど収穫体験のみ……。できたて野菜をたくさん双子に食べさせてあげられました(写真撮影/小正美奈)

豊頃町の移住体験住宅のお庭でジャガイモの収穫! 町役場OBのおじいちゃまが手伝ってくださいました。我が家はほとんど収穫体験のみ……。できたて野菜をたくさん双子に食べさせてあげられました(写真撮影/小正美奈)

2、ワーキングステイできる!
ロケット開発や宇宙港開発で有名になりつつある大樹町(たいきちょう)では、移住体験住宅の一つが、専門的な知識やスキルを持つ「クリエイティブ人材」のワーキングステイの場として提供されています。デザインやWEB等の知識がある方、ICTを活用し、都市部の仕事をテレワークで受注する企業や個人事業主の方向けということになっています。実は、このワーキングステイで大樹町にまちづくり提案をした場合、1カ月分の家賃相当の謝礼を受け取ることができます。まちづくりに興味がある方はもちろん、これから宇宙関係で盛り上がっていく大樹町に関われるチャンスが生まれるかもしれません。

大樹町と言えば、実業家の堀江貴文さんが創業し、ロケット開発をベースに宇宙の総合インフラ会社を目指しているインターステラテクノロジズ株式会社。大樹町の宇宙産業開発はこれからも大注目!(写真撮影/小正茂樹)

大樹町と言えば、実業家の堀江貴文さんが創業し、ロケット開発をベースに宇宙の総合インフラ会社を目指しているインターステラテクノロジズ株式会社。大樹町の宇宙産業開発はこれからも大注目!(写真撮影/小正茂樹)

3、オシャレ空間で暮らしたい!
私が暮らしていた豊頃町の移住体験住宅は2棟ともに木材がふんだんに使われていて、土間があったり吹き抜け空間があったりと、妻もオシャレとすごく喜んでいました。また、上士幌町でも、私が滞在した移住体験住宅とは別に、1カ月以内の短期居住向け住宅があり、ややお家賃の割高感はあるものの、新築のオシャレな住宅も用意されています。また、足寄町(あしょろちょう)の移住体験住宅も新築になりますので、快適な暮らしができるのではないでしょうか。

さらに、十勝清水町では、令和5年1月に無印良品さんとコラボし、リノベーション&家具・家電をコーディネートしたすっごいオシャレな住宅が完成しました。一般的な移住体験住宅でちょっと残念なのが、家具・家電のコーディネート力がやや弱いこと。しかしこちらの住宅は、内装に合わせて家具・家電もコーディネートされていました。

豊頃町の体験住宅は、土間・薪ストーブ付き。革小物のハンドメイド作家の妻は、土間で制作作業をしたり、デザインを考えたり。冬ならぜひ、都会の人の憧れ、薪ストーブも使ってみたかったです(写真撮影/小正茂樹)

豊頃町の体験住宅は、土間・薪ストーブ付き。革小物のハンドメイド作家の妻は、土間で制作作業をしたり、デザインを考えたり。冬ならぜひ、都会の人の憧れ、薪ストーブも使ってみたかったです(写真撮影/小正茂樹)

4、馬に囲まれて暮らせる!
また、日高エリアの浦河町では、民間の戸建て物件やホテルなどが移住体験住宅として提供されていますが、そのなかで、「うらかわ優駿ビレッジAERU」の和洋室のお部屋がミニキッチン付きで家族でも十分な広さがあります。ホテル内には大浴場もあり、敷地内にはお馬さんたちがたくさん繫養(けいよう)されていて、のんびりした空間が広がります。北海道発祥のスポーツ「パークゴルフ」や、乗馬も初心者から楽しめるコースも。私も今回の北海道プチ移住では1週間ほど滞在しましたが、ホテルライクにいろいろ体験しながら、のんびり暮らしたい方にはおすすめです。

うらかわ優駿ビレッジAERUの敷地内でのんびり草を食むお馬さん。浦河町は古くからサラブレッドの生産・育成が主な産業。のんびりした牧場空間でサラブレッドが過ごす光景は本当に癒やされます(写真撮影/小正茂樹)

うらかわ優駿ビレッジAERUの敷地内でのんびり草を食むお馬さん。浦河町は古くからサラブレッドの生産・育成が主な産業。のんびりした牧場空間でサラブレッドが過ごす光景は本当に癒やされます(写真撮影/小正茂樹)

長期育児休業×移住体験で新たな暮らし・生き方・住まいを探そう!

現在、日本では、異次元の少子化対策として、さまざまな検討がなされています。私は一足先に、男性ではまだまだ珍しい長期育児休業を取得し、さらに移住体験を通じて、地方で子育てをすることで、すごくポジティブに育児に取り組めました。

■長期育児休業×移住体験のいいところ
・移住先では、子どもをすごく大事にしてくださいました。子どもを抱っこしてくださった地域のおばあちゃまたちの笑顔にすごく癒やされます。
・会社員としての属性は残したまま、自分が気になっているエリアに中・長期で移住体験ができる。
・例えば、祖父母の近くの町などに移住体験できれば、祖父母孝行をしながら、育児ができる。
・中・長期で暮らすことによって、地域の住宅やお仕事情報などが手に入ったり、地元のお祭りに参加出来たり、新しい友人・知人が増え、人生が豊かになる。
・20・30代の方々が長期育休を取り、地方へ移住体験することで、地方の活力がアップしたり、二拠点・多拠点居住など新たな暮らし方を模索するきっかけに。地方の空き家対策などにもつながる可能性。関係人口という地域とのつながり方も注目されています。
・自分の暮らす町で育児をすると、どうしてもマンネリ感と、ストレスを感じがち。移住体験で子育てすることで、日々に変化が生まれ、リフレッシュできる環境で子育てができる。

喫茶店で私たちがランチを食べている間、お店の方とお客さんが双子と遊んでくれているようす。いろんなお店でいろんな方にすごくお世話になりました。おばあちゃまたちの子どもあやすスキルがすごい!(写真撮影/小正茂樹)

喫茶店で私たちがランチを食べている間、お店の方とお客さんが双子と遊んでくれているようす。いろんなお店でいろんな方にすごくお世話になりました。おばあちゃまたちの子どもあやすスキルがすごい!(写真撮影/小正茂樹)

数多くのローカルイベントにも参加でき、町の雰囲気などをいろいろな角度から体感できたのは大きな収穫でした(写真撮影/小正茂樹)

数多くのローカルイベントにも参加でき、町の雰囲気などをいろいろな角度から体感できたのは大きな収穫でした(写真撮影/小正茂樹)

私たちの子どもが双子だということもあるかもしれませんが、どこに出掛けても、いろんな方に声を掛けていただいて、子どもたちをあやしたり、抱っこしてくださったりしました。子どもたちをかまってくださるのは本当に助かりました。町の喫茶店や食堂では、お店の方とお客さんが双子の世話をしてくださり、その間に我々夫婦は食事をとったり、コーヒーを飲んだりも。おかげで、子どもたちは人見知りも、場所見知りもしなくなり、我々夫婦はゆっくり食事ができたりと、良いことずくめでした。そして、すごい副産物やな、と感じたのは、抱っこしてくださったおばあちゃまたちが笑顔で「ありがとう!小さい子に会うのもなかなかないからほんまに癒やされたわ~、また抱っこしたいから遊びに来てね!」と言ってくださったこと。こちらが助けていただいているのに、本当にありがたかったですし、多世代の交流が勝手に生まれていて、すごくほんわか空間ができていました。

また、旅行ではなかなか得られない地域の細かな住宅やお仕事事情、行政サービスのことなどなど、いろんなことを知ることができ、将来的な移住検討もより具体的に考えられるなと感じました。

お孫さんが使っていたというおもちゃを使って、双子とずっと遊んでくださった喫茶店のマスター(写真撮影/小正茂樹)

お孫さんが使っていたというおもちゃを使って、双子とずっと遊んでくださった喫茶店のマスター(写真撮影/小正茂樹)

一方、この新しい暮らし方にも課題があります。

■長期育児休業×移住体験のここに注意! 改善できればいいなというところ
・住民票が動かせないので、行政サービスが受けられないものが多い。
・育児休業中の収入は育児休業給付金のみ(雇用保険料を一定期間納めている方のみいただける制度)になるため、ある程度貯金を取り崩したりするなどしないとダメ。
・保育・幼稚園留学や小・中学校のデュアルスクールなど、教育環境が柔軟なエリアはまだまだ少ないので、兄弟がいる世帯は難しいケースも。

育児休業給付金の制度は、取得から当初180日間は直近6カ月の給料相当額の67%、その後、50%にまで減額されます。社会保険料などは免除されるため、当初180日間を概ね80%まで引き上げることができれば、働いているときとほぼ変わらない収入を確保でき、心配なく育児に専念できます。こうなれば、男性の半年間程度の長期育休は確実に増えると思います。また、私たちのように、地方への移住体験をしながら育児、といった新しい子育てのあり方もどんどん生まれてくるのではないでしょうか。

保育・幼稚園留学や小・中学校のデュアルスクールなどは、まだまだ数は少ないものの、私たちがお世話になった上士幌町では、「上士幌Two-way留学プロジェクト」という地方と都市の2つの学校の行き来を容易にし、双方で教育を受けることができる留学制度は既に始まっており、浦河町でもすごくステキなこども園が一時保育などを積極的に受け入れられています。子どもたちの教育環境としても、実は地方のほうが手厚く、都会では経験できないようなさまざまな体験ができるのではないかなと思います。

ぜひ、国や自治体さんには子育ての多様化、ポジティブな子育て環境をつくりだしていただいて、子どもを育てやすい、と思えるような環境整備や制度拡充ができてくればいいな、と思います。

浦河町滞在時に利用した「浦河フレンド森のようちえん」の子育て支援フレンドクラブ。絵本の読み聞かせなどをしてくださり、園舎内も自由に遊ばせてOK。ワーケーションなどで浦河町滞在時の一時預かりなどにも対応されています(写真撮影/小正茂樹)

浦河町滞在時に利用した「浦河フレンド森のようちえん」の子育て支援フレンドクラブ。絵本の読み聞かせなどをしてくださり、園舎内も自由に遊ばせてOK。ワーケーションなどで浦河町滞在時の一時預かりなどにも対応されています(写真撮影/小正茂樹)

妻の双子の妊娠が発覚してから、ぼんやり考えていた育児休業と真剣に向き合い、男性ではまだまだ珍しい長期の育児休業取得へ。さらに、単に育児休業を取って育児をするより、親のリフレッシュも兼ね、いつもと違った環境に移住体験しながら育児ができたことは、すごくいい刺激を受け、よい経験となりました。

今回、お伺いした2町以外にも移住体験住宅はたくさんありますし、都市部では絶対に経験できないような魅力的なコンテンツも盛りだくさん。旅行では味わえない、田舎暮らしを満喫して、育児も!暮らしも!しっかり人生を楽しみながら、育児に取り組む。こんな新しい育児休業はすごく可能性があるなと感じました。 

また、今回の長期育児休業×移住体験を行ったことにより、新しい友人・知人ができ、新しい地方の魅力を体感できました。もちろん、これからも今回伺った地域との関わりは続けていきたいなと思っています。地方創生の新たな仕組みにもなり得るのではないか、そんなことを感じる体験となりました。

2023年1月中旬、中札内村の道の駅内にある無料で遊べるキッズスペースにて。生後9カ月で北海道に来た双子も、1歳3カ月になり、しっかり歩き回り、自己主張も出てきて、のびのび成長してくれています(写真撮影/小正茂樹)

2023年1月中旬、中札内村の道の駅内にある無料で遊べるキッズスペースにて。生後9カ月で北海道に来た双子も、1歳3カ月になり、しっかり歩き回り、自己主張も出てきて、のびのび成長してくれています(写真撮影/小正茂樹)

移住体験ラストは、さよならパーティーを企画。総勢40名を超える方々にお越しいただけて、半年で本当にさまざまな友人・知人が新たに出来て、これからの人生がより豊かになると確信したひとときとなりました(写真提供/森山直人)

移住体験ラストは、さよならパーティーを企画。総勢40名を超える方々にお越しいただけて、半年で本当にさまざまな友人・知人が新たに出来て、これからの人生がより豊かになると確信したひとときとなりました(写真提供/森山直人)

●関連サイト
大阪ふるさと暮らし情報センター
豊頃町移住計画ガイド
上士幌町移住促進サイト
上士幌町Two-way留学プロジェクト