不動産広告、駅からの徒歩分数表示など9月1日に改正!住まい探しや不動産売却時に注意

不動産公正取引協議会連合会は、改正された「不動産の表示に関する公正競争規約(以下、表示規約)」及び「表示規約施行規則」を、2022年9月1日に施行するという。これによって、10年ぶりに不動産広告に関するルールが変わることになる。具体的に説明していこう。

【今週の住活トピック】
9月1日施行の「新 表示規約・同施行規則」について/不動産公正取引協議会連合会

不動産広告に掲載する情報には細かいルールがあり、実情に応じて変更している

まず、「表示規約」について説明しよう。不動産広告には、物件のどんな情報を掲載するか、掲載する情報はどんな基準で表示するかといった、統一したルールが必要だ。全国9地区の不動産公正取引協議会では、会員の不動産業界団体に所属する不動産事業者が守るべき自主規制ルールを運用し、そのルールを公正取引委員会と消費者庁から認定を受けている。このルールが表示規約だ。

表示規約では、土地や新築分譲住宅、中古マンションなどの物件種別ごとに表示すべき事項を定めているほか、「新築」といえるのは完成後1年未満で、かつ、未入居のものと規定したり、「徒歩1分=道路距離80メートル(端数切り上げ)」、「1畳=1.62平方メートル以上」といったさまざまな表示の基準を設けている。

今回の改正の経緯について、改正案を取りまとめた同連合会の会員である首都圏不動産公正取引協議会の理事・事務局長の佐藤友宏さんに聞いた。表示規約の大きな改正は、前回2012年5月31日に施行された。それから10年が過ぎ、その間に協議会には、不動産広告を扱うSUUMOのようなポータルサイトや不動産事業者から、さまざまな問い合わせや要望が寄せられていた。実情に合わない部分なども出てきたため、改正作業に着手したという。

消費者に不利益にならないかを改正の線引きに

例えば、不動産広告に掲載する建物の写真については、実際に取引するものを掲載するルールだが、新築住宅で建物が未完成の場合、「取引しようとする建物と規模、形質及び外観が同一の他の建物の外観写真」であれば掲載することができる、としている。ところが実際には、同一の他の建物の写真であるのはまれなことで、広告上では「施工例」などと称して規定に適合しない他の建物の外観写真を掲載している事例も多かった。

不動産ポータルサイトの任意団体である「不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)」で調査したところ、「施工例として他の建物の写真を掲載すること」について、ほぼ8割の消費者が許容するという結果もあり、「同一の建物でなくとも、規模、形質、外観が類似する建物であれば掲載できる」と変更した。

ルールを決める線引きのラインは、業界の実情に合っているか、消費者に利益がある、または不利益がないかということ。表示規約の改正には、公正取引委員会と消費者庁からの認定が必要であり、消費者に不利益となるような変更はなされないのが原則だ。

要注意!徒歩所要時間などに大きな変更あり

佐藤さんに、特に消費者に知っておいてほしい改正点を聞いた。今回の改正では「徒歩所要時間や道路距離を算出する場合の起点の考え方と分譲物件の所要時間表示」の影響が大きいという。どういうことだろうか?

徒歩1分=道路距離80メートルと定められているが、問題はどこから(起点)どこまで(着点)の距離かということ。改正前はその施設などから最も近い物件(敷地)の地点を起点または着点とするルールだった。一定規模の分譲地や大規模なマンションの場合は、多くの一戸建てやマンションが建っている場合があり、筆者も経験したことがあるが、広告に記載された徒歩分数では取材先のお宅に行きつけなかったということが起こる。

今回はこうした点でいくつか改正点がある。まず、【画像1】のような住宅の戸数が複数ある分譲物件の場合、従来の最も近い住戸からの所要時間に加え、最も遠い住戸からの所要時間も表示すると改正した。同様に、周辺情報として例えば市役所等がある場合の表示方法も「○○市役所まで200mから450m」や「○○市役所まで3分から6分」(今回の改正で公共施設や商業施設については、道路距離に代えて所要時間の表示も可能となった)と最近と最遠の幅で表示することになる。

【画像1】最も近い住戸からの徒歩所要時間に加え、最も遠い住戸からの時間も表示する

出典:「表示規約・同施行規則の主な改正点を解説したリーフレット」より転載

出典:「表示規約・同施行規則の主な改正点を解説したリーフレット」より転載

また、【画像2】のように物件から駅などの施設までの徒歩所要時間や道路距離を表示する際、マンションやアパートの場合は、その起点を「建物の出入り口」と明文化された。

ちなみに、駅の出入口は駅舎の出入口が起着点となり、改札口としなくてよい。地下鉄の場合は地上にある出入口となるので注意してほしい。

【画像2】所要時間や道路距離の起点は、マンションなどの場合は「建物の出入り口」とする

出典:「表示規約・同施行規則の主な改正点を解説したリーフレット」より転載

出典:「表示規約・同施行規則の主な改正点を解説したリーフレット」より転載

では「なぜ、消費者への影響が大きいのか」を佐藤さんに聞いた。最も遠い住戸までの所要時間も併記することは、消費者にはわかりやすいというメリットがあり、特にデメリットはない。一方、マンションの出入口を起点とすることも、消費者にわかりやすい改正点だ。ただし、従来のルールでは敷地内の最も近い地点から計測して構わなかったので、広告する際に【画像2】の敷地(緑色の部分)の最も駅に近い場所から計測してもルールに違反することはなかった。

改正前にマンションを購入し、これから売ろうとしている場合、購入当初の物件パンフレットには、例えばA駅から徒歩2分のマンションと記載されていても、売るときにはマンションの出入口が起点に変わるため、計測し直した結果、A駅から徒歩3分とか4分という表示になる可能性がある。

自分のマンションは駅から徒歩2分だと思っていたのに、広告では違う分数で表示されてビックリ!といったことのないように、ルールの変更点を正しく理解しておくことが大切なのだ。

まだまだある、広告表示の改正点

ほかにも、いろいろな改正点がある。所要時間を調べるには、ほとんどの人が交通ルート検索サイトやアプリなどを利用しているだろう。その場合、乗り換えや待ち時間を含んだ所要時間が計算される。従来のルールでは、「乗り換えが必要な場合はその旨を明示」とだけだったので、所要時間には乗り換え時間や待ち時間を含めると変更した。

【画像3】所要時間に乗り換え・待ち時間を含む(最寄りのA駅からC駅まで30分~33分)

出典:「表示規約・同施行規則の主な改正点を解説したリーフレット」より転載

出典:「表示規約・同施行規則の主な改正点を解説したリーフレット」より転載

また、電車などの所要時間について、改正前は「平常時の所要時間を著しく超えるときは通勤時の所要時間を明示すること」とされていたので、よほど差がない限り、最も短い所要時間を表記しており、通勤ラッシュ時の所要時間ではなかった。今回の改正では「朝の通勤ラッシュ時の所要時間を明示し、平常時の所要時間をその旨を明示して併記できる」に変更された。

ほかにもさまざまな改正点がある。詳しく知りたい場合は、不動産公正取引協議会連合会のホームページで確認できる。

不動産広告は、マイホームを選ぶ際に重要な情報となる。そのため、消費者が同じモノサシで比較できるよう、同じルールで広告しようと、不動産業界自らがルールを定めている。物件を選ぶ消費者側も、どんなルールで掲載しているのか、ルールをきちんと守っている会社かを、しっかりチェックすることが大切だ。

●関連サイト
不動産公正取引協議会連合会「公正競争規約の紹介」
「表示規約・同施行規則の主な改正点を解説したリーフレット」
「不動産の表示に関する公正競争規約・同施行規則の新旧対照表」

不動産広告の駅から徒歩●分はどこからどこまで? 実際に歩いてみた

住まい探しに大事な要素のひとつとなる「駅から徒歩●分」の表記。ルートや歩く速度によって左右されますが、住みはじめてから実際の徒歩分数との違いに気づいてモヤモヤしたことはありませんか? そもそもどこからどこまでが計るポイントになるのか。モヤモヤの正体を突き止めるべく、実際に歩いてみました。
開始地点は建物の入口? 着点は駅のホーム!?

今回は、SUUMOジャーナル編集部メンバーのSさんの自宅マンションの入口をスタート地点にして、最寄駅まで歩きます。不動産チラシには「徒歩9分」と記載されていますが、Sさんは「乗りたい電車の出発時刻の15分ぐらい前に家をでますね」とのこと。失われた6分間を探しましょう。

なお、徒歩1分が80mであることは過去の検証で分かっているため(参考記事/徒歩1分=80mって本当?実際に試してみた)、今回は計測をはじめる「起点」と、終了場所となる「着点」に絞って考察します。筆者は少し歩くのが遅い自覚があるので、意識して少し早めに歩きます。

【画像1】観測スタート地となる自宅マンションに向かうSさんの背中。駅までの道のりをこのあと何往復かすると思うと不思議な気持ちになります(写真撮影/柏木ゆか)

【画像1】観測スタート地となる自宅マンションに向かうSさんの背中。駅までの道のりをこのあと何往復かすると思うと不思議な気持ちになります(写真撮影/柏木ゆか)

「住んでいる階数や部屋の位置によって時間が異なるので、さすがに玄関ドアを開けたところが起点にはならないでしょう」とまず予想し、マンション1階の集合玄関からiPhoneのストップウォッチで計測を開始。検証時は平日の夕方だったため、どんどん日が暮れていきます。

いくつかの信号を渡り、ランニングをする運動部の学生群とすれ違い、「こんな時間に家の近くを歩いているなんて不思議ですね」とSさんと談笑していると、早くも駅前に到着。自分があまり知らない街で路面店などを観察していると、驚くほど時間がたつのが早い。そのまま駅に入り、改札を通ってホームに到着。ここまで「12:49」かかりました。

【画像2】着点がホームだとこれぐらい(写真撮影/柏木ゆか)

【画像2】着点がホームだとこれぐらい(写真撮影/柏木ゆか)

Sさんが家を出る時間が15分前なので「玄関からエレベーターを降りてマンションの入口に向かう時間が2分と考えると計15分でつじつまがあいますね」と確認。やはりスタート地点と終了地点が定まらないと正確な検証が難しい……。その後も別ルートで何度か試したのですが、12分台はなかなか切れませんでした。

起着点は物件のタイプや、駅の形状に左右される

検証の結果、不動産広告と4分近くズレがあることが分かりました。私の足が遅いことを考慮しても、モヤモヤは埋められない時間差です。素人がいくら考えても憶測の域を出ないので、不動産に関して高度な知識をもつ不動産鑑定士の中村喜久夫さんにお話を伺いました。

【画像3】不動産鑑定士の中村喜久夫さん(写真撮影/柏木ゆか)

【画像3】不動産鑑定士の中村喜久夫さん(写真撮影/柏木ゆか)

―― 不動産広告の「駅から●分」の起着点はいったいどこなのでしょうか。また、不動産会社がその表記を守る義務はあるのでしょうか?

まず駅から物件までの徒歩分数の計測箇所は改札ではなく、「駅舎の出入口」です。駅舎に複数出口がある場合は、自宅に一番近い出口から測ればいいんです。これは広告表示に関する業界ルールである「不動産の表示に関する公正競争規約」できちんと定められています。

【画像4】駅舎の入口が複数ある場合は一番近い出口が起点に(作成/SUUMOジャーナル編集部)

【画像4】駅舎の入口が複数ある場合は一番近い出口が起点に(作成/SUUMOジャーナル編集部)

―― 駅のホームが起着点にならないのは正直ちょっと予想していましたが、改札でもなく、駅舎の最寄出口でいいんですね! 今回計ったのは地上駅だったので駅舎の入口はすぐに分かりましたが、地下鉄では明確な入口が判断しにくいこともありそうです。その場合はどうしたらいいのでしょうか?

地下鉄では「A1番出口」のような出入口を起点にすればいいことになっています。都心の大きい駅だと使用する出口によって徒歩分数が大きく変わることもありますね。

―― さきほど歩いてみた際、念のため途中の時間も計測していたのですが、マンションから最寄りの駅舎出口までの到着時間は「10:11」でした。何度か信号に引っかかったことを考慮すると、不動産チラシにあった「徒歩9分」にかなり近い結果になりそうです。

【画像5】マンション入口から駅舎の出入口までは「10:11」。改札の到着時間は「11:38」でした。

【画像5】マンション入口から駅舎の出入口までは「10:11」。改札の到着時間は「11:38」でした。

今回計測したのは1棟単体のマンションだったので起点は1階の集合玄関からで問題ないですが、実は分譲宅地や大きな団地などは、着点が敷地内の「駅から最も近い場所」になることがあります。棟数が多く、敷地出口から離れた棟に住んでいる場合は、不動産広告の表記から思ったより時間がかかることも少なくありません。それが記載時間より時間がかかるモヤモヤの原因のひとつかもしれないですね。

【画像6】分譲マンションなどの起着点の例(作成/SUUMOジャーナル編集部)

【画像6】分譲マンションなどの起着点の例(作成/SUUMOジャーナル編集部)

【画像7】分譲宅地(第2期販売対象の起着点)などでの起着点の例(作成/SUUMOジャーナル編集部)

【画像7】分譲宅地(第2期販売対象の起着点)などでの起着点の例(作成/SUUMOジャーナル編集部)

―― 建物の利用方法ごとに異なる起着点の定義があるんですね。なお、地上駅の駅前広場と横断歩道として機能している「ペデストリアンデッキ」は、駅舎に含まれないため起着点にはならないそう。

【画像8】八王子駅のペデストリアンデッキ(写真/PIXTA)

【画像8】八王子駅のペデストリアンデッキ(写真/PIXTA)

引越しシーズンの到来 不動産広告を見るときに気をつけておくべきことは?

―― これから新生活などに向けた引越しシーズンがやってきます。徒歩での時間以外で不動産広告を見る際に気をつけておきたいポイントなどはありますか?

新生活で一人暮らしをはじめる場合、ロフト付き物件を選ばれるかたも多いですよね。住宅を選ぶ際に床面積も選ぶ基準になると思いますが、床面積を表す平米数にロフトの面積は含めないのがルールになっています。

―― なるほど、ロフトの面積が床面積に含まれていると思っている人も多そうなので知っておきたいルールですね。

そのほか、「和室6畳」のように広さを畳数で表示している場合もありますが、畳にはいろいろなサイズがあります。広告表示では「1畳と表示する場合には、1.62m2以上の広さがなければならない」というのがルールですが、間違った表示がないとは言い切れません。ご自身で広さを測ってみるのもいいかと思います。

昨年から不動産公正取引協議会と不動産ポータルサイトが協力しておとり広告の排除に取り組んでいますが(参考記事/おとり広告は改善された? 違反の143社、抜き打ち調査の結果は)、相場よりも明らかに安すぎる家賃の物件は要注意ですね。

徒歩分数の計測起点は駅舎の出入り口で、地下鉄駅の場合は地上出口。着点は物件の出入り口か、駅から最も近い敷地の地点になります。物件を見に行く際にホームから駅出口までの時間を計っておくと、生活のイメージがつきやすいかもしれませんね。

おとり広告は改善された? 違反の143社、抜き打ち調査の結果は

住まいさがしには物件情報の比較検討が不可欠だが、その際、じゃまになるのが「おとり広告」。条件のよい架空物件やすでに成約済の物件を広告し、問合せがあれば来店させ、別の物件を勧める、というものだ。
従来から不動産公正取引協議会(以下、公取協)と不動産ポータルサイトが協力しておとり広告の排除に取り組んでいる。その一環として今年4月から7月にかけて賃貸広告の一斉調査が実施された。先ごろその概要が公表されたのでご紹介したい。

不動産ポータルサイトに掲載の143社を抜き打ち調査

おとり広告は、住宅を探している一般消費者にとってだけでなく、不動産事業者にとっても迷惑な存在だ。他社がありもしない物件や、成約済の人気物件をいつまでも広告しては、消費者はそのおとり広告につられて問い合わせをしてしまう。不動産業界では、おとり広告をなくすべく、多くの取り組みがなされている。

例えば、今年1月より首都圏公取協から厳重警告・違約金の措置を受けた不動産事業者は、SUUMO、LIFUL HOME’S、at homeなど主要な不動産ポータルサイトへの広告掲載ができなくなった。公取協と不動産ポータルサイトが連携して「おとり広告」排除に取り組んでいるのだ(参照/「おとり広告の排除へ。借りられない物件はなぜ広告される? 3つのワケとその対策」)。

スタートからもうすぐ1年。参加するポータルサイトも10サイトまで広がり、違反事業者への制裁効果はより強力なものとなっている。また8月からは近畿地区公取協でも同様の取り組みが始まり、現在6サイトが参加している(参照/「おとり広告はなぜ生まれる? 首都圏に続き近畿でも対策強化へ」)。

これに加えて新たな施策として実施されたのが今回の調査だ。「おとり広告ではないのか」といった指摘が入る前に能動的に物件が成約済か否かを確認する、いわば抜き打ち調査だ。
調査対象となったのは、過去に公取協から厳重警告・違約金の措置などを受けた事業者。「おとり広告」など違反広告をしていた可能性が高い事業者を対象として行われ、143社、929物件が対象となった。

違反事業者の業態は改善されたのか

今回の調査の目的の一つに「過去に違反した事業者の是正状況の確認」がある。公取協から厳重警告・違約金の措置を受け、不動産ポータルサイトへの広告掲載をストップさせられた事業者も、掲載停止期間が過ぎれば、再び広告掲載が可能になる(もっとも、掲載再開にあたっては、業態の改善状況や経営状態など、各不動産ポータルサイトの審査基準をクリアする必要がある。掲載停止期間が満了すれば自動的に広告掲載が可能になるわけではない)。

となると、もうおとり広告は掲載していないのかが気になるところだ。抜き打ちの広告調査により、そのチェックをするのも今回の調査の目的である。

おとり広告をやる事業者など、ずーっと広告掲載を認めなければいいではないか、と考える人もいるかもしれないが、そうとも言い切れないだろう。故意におとり物件を掲載するような事業者は論外だが、中には従業員数が少ないのに多数の物件を掲載していたため、成約済物件の削除が追い付かなかったというケースもある。人員を増員するなどチェック体制が整えば広告掲載が再開されてもよいだろう。家を借りる側にとっても、なるべく多くの選択肢の中から物件を選べることが望ましいからだ。

違反物件の割合は8.3%【画像1】調査物件数及び違反物件数と、調査事業者数及び違反事業者数(出典/首都圏公取協)

【画像1】調査物件数及び違反物件数と、調査事業者数及び違反事業者数(出典/首都圏公取協)

さて、気になる調査結果は、上の表の通りだ。929物件の調査に対し、78物件に「おとり広告」の違反が認められた。ランダムに物件を選んだ抜き打ち調査であることを考えれば、違反が8.3%に留まったことは広告の適正化が進みつつあることの現れという見方ができるかもしれない。

一方、今回調査対象となったのが、過去に公取協から注意を受けたことがある事業者なのであれば、より適正な物件情報の掲載・更新を、と考える人もいるだろう。人によって評価がわかれるところだろうと思う。

不動産広告の適正化をより一層進めていく

今後、おとり広告の排除に向けて、どのような対策がとられていくのか。首都圏公取協の事務局長の佐藤友宏さんにお話しを伺った。

【画像2】首都圏公取協の事務局長、佐藤友宏さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

【画像2】首都圏公取協の事務局長、佐藤友宏さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

―― 公取協と不動産ポータルサイトが協力して物件調査を行うのは初めての試みですね。
そうです。私ども公取協でも従来から抜き打ち調査も含めた違反広告の調査を行っています。しかし、公取協の職員による調査だけでは、調査件数に限界もあります。今回、「ポータルサイト広告適正化部会」参加の5社の協力を得て、より多くの物件について一斉に調査できたことは、調査の網羅性を高めるという意味でも大きな意義があったと思っています。

―― 規約違反の可能性が高い事業者を調査対象としたとのことですが。
過去に表示規約違反による措置をうけたことがある事業者を中心に、調査を行いました。「ポータルサイト広告適正化部会」に参加する5社(※)が運営するサイトに広告掲載していた143社の物件から、ランダムに929物件を抽出して調査しました。

※アットホーム株式会社、株式会社CHINTAI、株式会社マイナビ、株式会社LIFULL、株式会社リクルート住まいカンパニー の5社

―― 32社、78件に違反が認められました。
おおむね改善に向けて努力して頂いていると考えていますが、残念ながら、まだ改善が不十分な事業者もあるようです。違反が認められた32社については、その内容に応じて一定の措置を講じていきます。特に悪質なものは事情聴取の対象とします。

―― 事情聴取の対象となった場合には行政にも報告されると聞いています。
都や県の宅建業法の所管課、景品表示法(※1)の所管課に加え、消費者庁、対象事業者が所属する会員団体へも、事業者名および違反内容を報告しています。極端に悪質なものがあれば、行政の方からも措置命令(※2)や監督処分がくだることも考えられます。

実際、8月には、おとり広告を理由に、県から景品表示法に基づく措置命令を受けた事業者もいます。

※1 「不当景品類及び不当表示防止法」。おとり広告など不当表示について規制している。

※2 不当表示の是正や再発防止等を命ずる行政処分のこと。消費者庁または都道府県からその企業名や違法行為の詳細が公表されるので、企業の信頼が大きく失われる要因になる。命令に従わない者には、罰則(2年以下の懲役又は300万円以下の罰金)もある。

―― 行政、公取協、不動産ポータルサイト、それぞれの立場から広告の適正化を図っていく、ということですね。今後もこういった調査を行っていくのでしょうか。
おとり広告の調査は、いろいろ難しい面も多々ありますが、管理会社などの協力も得ながら、今後も継続的に調査を行っていきたいと考えています。

おとり広告0の実現を目指して

不動産事業者、その従事者の方々の努力により、成約済物件などおとり広告が広告されることは以前と比べ減少しているのだと思う。大部分の事業者は日々、真面目に業務に取り組み、物件情報の更新にも力を入れている。今回の調査のような能動的な調査がある種の抑止力となり、おとり広告はさらに減っていくだろう。

とはいえ、まだ0となったわけではない。おとり広告が、多くの不動産広告の中から、自社の店舗に来てもらうために行われることを考えれば、相場よりも明らかに安すぎる家賃の物件については、一定の注意を払うことも必要だろう。

おとり広告を行う事業者の存在は、まっとうな事業者にとっても迷惑な存在だ。事業者間の公正な競争を害し、業界の信用を損なうからだ。おとり広告がなくなり、一般消費者も真面目な不動産事業者も安心できる日がくることを期待したい。

●取材協力
・首都圏不動産公正取引協議会