世界の名建築を訪ねて。国際的建築家集団MADによる彫刻のようなパビリオン「The Cloudscape of Haikou(海口クラウドスケープ )」/中国・海口市

世界中の建築を訪問してきた建築ジャーナリスト淵上正幸が、世界最先端の建築を紹介する連載12回目。今回は、中国・海口市(はいこうし)、約7,500平米という広大な敷地に立つ2021年に誕生した住宅街の交流施設「海口クラウドスケープ (The Cloudscape of Haikou)」(設計:MAD)を紹介する。

彫刻的表情をもつオーガニック・アーキテクチャー

中国最南端の海南島の北端にある海口市は、中国本土に対面した都市で、近年社会的重要性が指摘され、同市のパブリック・スペースの質を高め、都市・建築・住民間の連係を強める計画がスタートした。「海口クラウドスケープ」は、そのような計画の端緒となったプロジェクトである。

(C)ArchExist

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「海口クラウドスケープ」は、16棟の海浜パビリオンのトップを飾るもので、海沿いに展開されるパブリック・スペースを改良する目的がある。海口シーサイド・パビリオンと呼ばれる新規構想では、国際的に著名な建築家、アーティストおよび学際的なプロフェッショナルに、16件のランドマーク的公共建築の設計を依頼した。

中国で先進的な国際的建築家集団MADが手がけたパビリオン

パビリオンをデザインしたMADといえば、今や中国建築界ではもっとも先進的な国際的建築家集団で、マ・ヤンソン、ダン・チュン、早野洋介の3名が率いる建築家チームは、中国のみならず今やヨーロッパにも活動領域を広げている。

パビリオンには、ブック・ストアと市民アメニティを含んでいる。海口湾岸沿いのセンチュリー・パークに位置する建物は、4,397m2の敷地に1,380m2の延床面積を擁している。建物内部の南側には10,000冊の蔵書スペースがある図書館とその閲覧室がある。また無料で一般に開放された多機能視聴覚エリアが収容されている。他方北側には、シャワー室をはじめ休息室、保育室、トイレ、ルーフ・ガーデンがある。

陸と海の中間で静穏に座すパビリオンは、高度に彫刻的な表情を見せている。自由でオーガニックなフォルムは、ユニークなインテリア・スペースを生み出している。そこでは壁、床、天井は一体となった融合的なデザインとなっている。さらに内外空間の境界が曖昧となっている。

パビリオンの円形開口部は、野生動物や海の生物によってつくられた穴を想起させ、建築と自然の境界を曖昧にしている。大小さまざまな開口部は、インテリアに自然光を導入し、海口の一年中暖かい気候にある建物を冷やす自然換気を生み出している。これらの穴越しに、ビジターは時間や空間の推移を通して、あたかも慣れ親しんだ世界を見るかのように、空を仰ぎ見たり海を眺めたりする。

(C)CreatAR

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1階と2階をつなぐカスケード状となった海に面する閲覧室は、図書空間だけでなく文化的な交流の場所にもなっている。子ども用の閲覧エリアは、メインの閲覧室から離れたところにあり、そこではトップライト、穴、ニッチなどが子どもの探究心を刺激するようデザインされている。

読書や眺望を楽しめる半外部空間やテラスがあちこちに

建物の構造的な形態から、いくつかの半外部空間やテラスが生まれ、それらが読書をしたり海を眺めたりする格好のスペースとなっている。ローカルな暑い気候に対応して、建物の外部廊下のグレー空間はキャンティレバー(※)となり、居心地のよい気温を生み出し、サステイナブルな省エネ建築となっている。

※片持ち梁。通常、梁は柱や壁などに両端が固定されているが、一端のみ固定されているもの。バルコニーなどで用いられる

(C)ArchExist

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MADはこの建物により、アンチ・マテリアルなアプローチを掲げ、構造や工事の意図的な表現を避け、材料についての日常的な認識を解消し、空間認識そのものがメインの目的となるようにしている。この建物ではコンクリートは、その流れるようなソフトで自在な構造形態で特徴づけられる液状材料と考えられている。

建物の内外はコンクリート打放しとし、ひとつの凝集的フォルムとなっている。屋根と床は2層のワッフル・スラブ(高気密・高断熱・高遮音の快適住空間を生み出す床材)で、建物のスケールや大きなキャンティレバーを支持している。デザインはデジタル・モデルを使用して進められた。その結果、機械系、電気系、配管系のエレメントは、見かけを最小にしてコンクリートの隙間に配置し、視覚的な統一性を表現することが可能になった。パビリオンのスムースかつ有機的なオーラは、建築、構造、機械&電気デザインを巧みにインテグレートすることで創造された。

世界の名建築を訪ねて。建物の30%がリサイクル素材! スティーヴン・ホールによる「Cofco Cultural and Health Center(コフコ文化&健康センター)」/中国・上海市

世界中の建築を訪問してきた建築ジャーナリスト淵上正幸が、世界最先端の建築を紹介する連載11回目。今回は、中国・上海市、約7,500平米という広大な敷地に立つ2021年に誕生した住宅街の交流施設「Cofco Cultural and Health Center(コフコ文化&健康センター)」(設計:スティーヴン・ホール・アーキテクツ(Steven Holl Architects))を紹介する。

地域コミュニティに貢献するサステナブル建築

中国の上海にある「コフコ文化&健康センター」は、健康的な生活と文化交流を促進させるために、近隣の大きな住宅コミュニティにグリーンのパブリック・スペースを提供するという社会的使命をもっている。

(c)Aogvision

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敷地面積約7,500平米の公園のような大きな敷地に位置する建物は、社会的な“コンデンサー“(建築には社会的行動に影響を与える能力があるというソビエト構成主義理論の考え方)となることを目指しており、上海の浦南運河沿いの周辺住宅地域に対し、近隣コミュニティが待ち焦がれているパブリック・スペースやランドスケープ・エリアとなるよう、近隣住民の期待に応えるべくデザインされた。

浦南運河は、上海の南側にある杭州湾から北側の内陸に10kmほど入ったところを、東西に長く延びる運河である。この運河沿いに位置する「コフコ文化&健康センター」の近隣には、大きなハウジング・ブロックが広範囲にわたって展開している。

“Clocks and Clouds”(時計と雲)に着想を得たデザイン

これらのハウジング・ブロックの建築デザインは、同じような繰り返しのデザインとなっているが、建物の空間はエネルギーに満ち、開放性に富み、全コミュニティの住人をレクリエーションや文化的プログラムへと誘っている。健康願望の達成に励む人たちは、全体の中核施設であるヘルス・センターに足しげく通っている。

スティーヴン・ホール・アーキテクツのポスト・コロナ建築戦略に沿って、建物はグリーン・スペースを取り込み、新鮮な空気と自然光を最大に導入し、オープンなサーキュレーションと広いパブリック・スペースを特徴にしている。

ランドスケープと二つの新しい建物は、哲学者カール・ポパー(オーストリア出身のイギリスの哲学者)の有名な1965年のレクチャー、“Clocks and Clouds”(時計と雲)のコンセプトにより導入された。ランドスケープは時計のような大きな円形となり、中心となるパブリック・スペースを構成し、建物は雲のようなユニークな形態をした開口部と開放性を有している。

薄いグレー色のコンクリートでできた延べ床面積約6,000平米の「文化センター」は、1階のガラス張り透明空間にカフェ、ゲーム&レクリエーション・ルームを擁している。2階へ向けて徐々に上昇していくカーブしたスロープを歩いていくと、見下ろし風景の連続的な変化が楽しめる。これはフランスの著名20世紀建築家、ル・コルビュジエが言った有名な”建築散歩”の好例である。

(c)Aogvision

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同じような薄いグレーのコンクリートをまとっている延床面積約1,500平米の「健康センター」は、中心部にあるランドスケープ・スペースによって建物形態が形成されており、雲のような部分とランドスケープ全体との緊密な関係を助長している。「文化センター」と「健康センター」という二つの建物は共にグリーン・ルーフをもち、上部から見下ろしたり、近隣のアパートメント・ビルから眺めると、緑のランドスケープ・スペースに溶け込んで一体になったように見えて素晴らしい。

建物全体の30%がリサイクル材料!のサステナブル建築

2021年に完成した「コフコ文化&健康センター」は、主なサステイナブル・デザインとして、最大限のグリーンやオープン・スペースを擁し、リサイクル材料を建物全体の30%に使用している。またセントラル冷暖房システムを採用し、CO2モニタリング・システム、蓄熱システム、生活排水&雨水のリサイクルなど、広範囲にわたってサステイナブル・デザインを実現している。ヘルシーな生活と文化交流を促進する二つの建物は、大きな近隣住宅コミュニティに対し、グリーン・パブリック・スペースを提供するなど、多くの地域貢献に役立っている。 

(c)Aogvision

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●関連サイト
Cofco Cultural and Health Center

世界の名建築を訪ねて。建築家ザハ・ハディドによる約19万平米の巨大企業「Infinitus Plaza(インフィニタス・プラザ)」/中国・広州市

世界中の建築を訪問してきた建築ジャーナリスト淵上正幸が、世界最先端の建築を紹介する連載10回目。今回は、世界的な建築家ザハ・ハディド氏が手掛けた中国・広東省広州市にある約19万平米の広さを誇る巨大企業「Infinitus Plaza(インフィニタス・プラザ)」(設計:ザハ・ハディド・アーキテクツ(Zaha Hadid Architects))を紹介する。

無限マーク(∞)形のデザインの巨大建築

中国にある巨大企業「インフィ二タス・プラザ」は、インフィニタス・チャイナの新しい世界本社である。創造性や協調性などの企業家精神を育む仕事環境を有する新しい本社は、ハーブ薬研究施設やセイフティ・アセスメント・ラボ、会議や展示会用のラーニング・センターなども併設している。

((C) Liang Xue)

((C) Liang Xue)

約19万平米の広さをもつ「インフィニタス・プラザ」は、中国・広州市の白雲中央ビジネス地区の中心部へのゲートウェイの一角に位置している。廃止された白雲空港の跡地に建設された新しいビジネス・センターであり、広州市中心部に繋がっている。「インフィニタス・プラザ」は半地下となった地下鉄線をまたいでいるため二分されているが、多層にわたるブリッジで連結されているのが外観上の特徴となっている。

無限のシンボルである“∞“マークを反映した中央アトリウムと中庭の周囲に配置したデザインは、インフィニタスの企業文化を構成する強いコミュニティ意識を、種々の内外空間に反映させることで創造されたものである。

従業員のためのエクササイズ・ルームやレクリエーション&リラクゼーション・ゾーンなども!

2棟間を接続するブリッジは、従業員のためのフレキシブルなコミュニティ・スペースがあり、その他にも彼らの健康促進のためのエクササイズ・ルーム、レクリエーション&リラクゼーション・ゾーンをはじめ、レストランやカフェがある。ブリッジ群はオフィスを、ショッピングやダイニング・エリアに接続させている。

((C) Liang Xue)

((C) Liang Xue)

広州市の高湿度な亜熱帯モンスーン気候に位置する「インフィニタス・プラザ」はダイヤモンド・パターンのアルミ・パネルをまとった高度なサステイナブル・デザインで、それは中国のグリーン・ビル・プログラム(中国のサステイナブル・デザインの評価基準)の三つ星に匹敵する。

建物の最適化をすることで、所定のコンクリート使用量を軽減することができ、逆にリサイクル建材が増加した。約25,000トンのリサイクル建材が「インフィニタス・プラザ」の建設に採用され、その内訳は、鉄、銅、ガラス、アルミ合金、石膏プロダクツ、木などとなっている。

この地域の年間太陽照射分析によって、建物の日影をつくるアウトドア・テラスの幅が決定された。この分析はまた、ソーラー・ヒート・ゲイン(低太陽熱利得係数)を最適化するために、外壁の穴空きアルミ日影パネルの数をも限定している。この方法はロー・アイアン複層ガラス(複層ガラスの内側に金属の膜を入れ断熱性や日射遮蔽性能を高めたもの)と相まって、効率的に太陽熱を遮断し、それにより建物全域に良質な自然光を導入し、他方でソーラー・ヒート・ゲインとエネルギー消費を減じている。

太陽光発電によって稼働するスマート・マネージメント・システムにより、雨水利用のスプリンクラーのスプレーを個々のアトリウム上部のETFE(フッ素樹脂プラスティック)膜に吹き付け、気化熱により冷却している。半透明ETFE膜の屋根は複層のため、60cm幅の中間部に圧縮空気を流している。

太陽熱で膜面が35度を超えると30分毎に3~4分間のスプレーが吹き付けられ、膜面が14度下がると内部温度は5度ほど下がる。また屋上の太陽熱温水暖房により、省エネが推進されている。

雨水を再利用して近隣のランドスケープに活用((C) Liang Xue)

((C) Liang Xue)

また貯水された雨水をフィルターにかけ、再利用して近隣のランドスケープに灌漑(かんがい)している。3階、7階、8階のガーデンには同地の薬草や植物が植栽されているが、これらは雨による自然灌漑によっている。これらのアウトドア・コミュニティ・エリアは、共に屋上にあるジョギング・コースや散歩道に通じている。グリーン・ルーフは、トータルな屋上面積の約半分に及んでいる。

中国の健康福祉産業の国立センターとして、広州市の白雲中央ビジネス地区に根を下ろしたインフィニタス・チャイナの新しい本社は、イノヴェイティブなデザインと施工技術を擁し、持ち前のサステイナブル戦略で全ての部門を統合し、グループ全体のコミュニケーションを高める斬新なワーク・エンバイロメント(働く環境)を創造している。