二地域居住、約6割が「興味ある」

(公社)全国宅地建物取引業協会連合会(全宅連)と、(公社)全国宅地建物取引業保証協会(全宅保証)は、このたび「住まい方の意識トレンド調査」の結果を公表した。
この調査は、いまの社会環境を含めた住まいに関して、生活者の思考とニーズを把握することを目的に行ったもの。調査は2019年1月24日~1月28日、インターネットで実施。20歳以上の男女2,400名から回答を得た。

あなたの住まいの環境で、最も重視するものは何ですか?では、「買い物施設や病院など利便施設の充実」が38.5%と最も多く、次いで回答の多かった「通勤のしやすさ」(18.8%)と「治安」(17.1%)に比べて倍以上のスコアであることから、生活のしやすさが最も求められていることがわかった。

将来、都市部と地方のどちらに住みたいですか?では、「都市部」が59.0%、「地方」が41.0%とやや都市部が地方を上回った。性別による差異は見られなかったが、年代別では20代、居住区分別では3世帯以上の2つの属性で「地方」が「都市部」を上回った。

また、平日は都市部、週末は地方で暮らすスタイルの二地域居住(週末移住)については関心が高いようで、約6割が「やりたい」あるいは「興味はある」と回答している。特に20代の関心が高く、「可能ならやりたい」「是非やりたい」の割合が他の年代と比べて高い。

住居を選ぶ際にリノベーション済みの戸建てやマンション、アパートへの抵抗はありますか?では、「全く抵抗ない」が27.6%、「少し抵抗はあるが、検討できる」が35.7%と、あわせて半数以上がリノベーション済みの物件に対して前向きであることがわかった。年代別では特に20代が抵抗が少ない一方で、30代は「絶対に検討したくない」割合が16.6%と全年代で最も高かった。

ニュース情報元:全宅連

地主、居住者、行政の“三方良し”を実現する、これからの農園付き住宅

都市近郊の農業生産者が抱える大きな悩みは後継者不足。農地が耕作放棄地になることに加え、これまで「生産緑地」として税が優遇されてきた土地の多くが、2022年にその期限が切れ、宅地並みに課税されます。

その一方、自然、健康、食などに高い関心を持つ人たちは増え続け、市民農園が根強い人気を集めています。こうした動向をとらえて増木工業(埼玉県新座市)が送り出した農園付き分譲住宅が今、注目を集めています。現場を訪ね、その発想や魅力をレポートします。

農地という資産を守りつつ、住宅の魅力を創造する

JR新座駅から歩いて10分ほど、広い農地が残るエリアに、農園付き住宅「新農住コミュニティ野火止台」はあります。

ここを開発・販売する増木工業は、創業140年を越える長い歴史を持ち、地元の新座市を中心とする地域に密着して信頼を築いてきました。地元の地主から土地に関する相談を受けることも珍しくありません。

農園付き住宅の発想もそうした相談がきっかけで生まれました。同社の住宅事業部の大塚嘉孝(おおつか・よしたか)さんはこう振り返ります。
 
「先祖伝来の農地を持ち、お母さんが農業を続けているものの自分は公務員、後継者はいないという地主様から、農地を残す方法はないかと相談を受けました。社長(増田敏政氏)と私が対応する中で、定期借地権付きの一戸建ての賃貸住宅を建てる案が出てきました」。

定期借地権付き賃貸住宅なら、地主は土地の所有権を持ったまま、家賃に加えて地代も得ることができ、しかも固定資産税を大幅に減らすことができます(例えば東京都であれば課税標準は更地の6分の1)。この案は、土地売却より利益が少ないこと、定期借地権の期間が50年と長いことから、最終的には実現できませんでした。しかしこれを機に増田社長と大塚さんは構想を膨らませていきました。

「後継者がいなくても、先祖伝来の土地を失いたくないという農家さんは多いのです。そこで、定期借地権利用に限らず、住宅に農地を組み合わせることを考えました。これなら部分的に農地も残すことができます」。

増田社長はドイツのクラインガルテンを意識していたようです。 また大塚さん自身も、「単に不動産を細切れにして販売するだけではなく、地域に合った価値を付加した、わくわくするような街を作りたいという思いをずっと持っていました」。

埼玉県新座市は調整区域が多く、駅周辺には住宅と広い農地が混在した風景が広がっている(写真撮影/織田孝一)

埼玉県新座市は調整区域が多く、駅周辺には住宅と広い農地が混在した風景が広がっている(写真撮影/織田孝一)

そんなとき、800坪の農地を売却したいという農家からの依頼がありました。そこで、かねてから考えてきた農・住近接のアイデアを取り入れて開発したのが、「新農住コミュニティ野火止台」です。ここでは定期借地権ではなく、分譲住宅としました。

「地主様である農家さんが先祖伝来の土地を失うことを嫌うのは、土地と共に、手塩にかけて作ってきた肥沃な“土”を失うことも大きいと思います。農地付きの住宅なら、この土を活かせるのが、農家さんにとって大きな魅力なのだと思います」。

また、多くの都市近郊の農地が、「生産緑地」として受けてきた優遇税制が2022年には期限が切れることも、懸念材料となっているようです。「当社の農地付き住宅についての説明会には、多くの地主様が参加されています。土地を守り、活かす方法を模索されている背景には、この“2022年問題”もあるようです」。

敷地中央を通る散歩道が美しさと人間関係を生み出す

実際に「新農住コミュニティ野火止台」を歩いてみました。

志木街道に面した、細長い敷地に立つ住宅は15棟。敷地面積は一棟平均約35坪で、各棟に1坪サイズの家庭菜園が設置されています。

敷地の中央を、縁道(えんどう)と呼ばれるゆるやかに蛇行する散歩道が貫いているのが大きな特徴です。これは分譲地の景観を美しく演出するとともに、住まいと住まいの人間関係をつなぐ道でもあります。

「通常だと、中央に車の通れる広い道を通し、両側に住宅を配置するやりかたになりますが、それをせず、もっと自然と親しむ住宅地にしたいと思いました」。

中央部には共用畑を設けました。これは各棟の家庭菜園とは別に、入居者全員が共同利用できる畑です。畑の所有は増木工業。「もう一棟建てられるくらいの敷地(30坪強)をあえて共有の畑にしました。元地主の農家が農業アドバイザーとして農業のサポートをし、相談に乗ってくれるのも新しい試みです」。共用畑の向かいにある防災広場は、災害に備え煮炊きのできるカマドを設置する予定です。また、イベントスペースとして居住者同士のコミュニケーションを図る場として活用していきます。

地主にとってもただ土地を売っておしまいというのではなく、農を通じた土地との関係が続き、そこに住む人たちとの人間関係もできるという点が従来とは異なる魅力になっています。

植栽や畑と一体となったランドスケープデザインは、東京・世田谷区にある建築事務所ボスケデザインによるものです。約80種類もの植栽が、暮らしを彩ります。

整備中の共有畑の前で、住宅事業部の大塚嘉孝さん(営業)と、このプロジェクトの現場監督を務めた福田千尋さん(工事) (写真撮影/織田孝一)

整備中の共有畑の前で、住宅事業部の大塚嘉孝さん(営業)と、このプロジェクトの現場監督を務めた福田千尋さん(工事) (写真撮影/織田孝一)

もう一つ、「新農住コミュニティ野火止台」の大きな特徴は、果樹が数多く植えられていることです。

「果樹を植えた理由には、この『新農住プロジェクト』が、映画『人生フルーツ』に大きな影響を受けたためです。映画に出てきた津端御夫妻のような、“実りある暮らし”を実現する舞台にしたいと考えました」。

『人生フルーツ』(伏原健之監督)は、愛知県春日井市に住む建築家の津端修一・英子夫妻の日常を追ったドキュメンタリー。その自給自足的な生活や思想が多くの人の共感を呼び、隠れたヒット作となりました。「一般に広く上映していない映画なので、当社では何度も自主上映会を開催しました。この映画に共感されるお客様は、農住接近した生活に親和性が高いと考えたからです」。

果樹が数多く植えられていることを語る、住宅事業部営業リーダーの山口愛莉沙さん。そばにあるのはザクロがなっている木(写真撮影/織田孝一)

果樹が数多く植えられていることを語る、住宅事業部営業リーダーの山口愛莉沙さん。そばにあるのはザクロがなっている木(写真撮影/織田孝一)

雨水を利用した給水システムも用意されている(写真撮影/織田孝一)

雨水を利用した給水システムも用意されている(写真撮影/織田孝一)

15棟の内、10棟にはウッドデッキを設置した(写真撮影/織田孝一)

15棟の内、10棟にはウッドデッキを設置した(写真撮影/織田孝一)

住宅には無垢材を多用するなど、自然との調和を図っています。室内の温度ムラが少ない全館空調パッシブエアコンを採用したほか、家庭用燃料電池を使った給湯システム、太陽光発電システム、電気自動車用コンセントなど、環境保全型のしくみが数多く取り入れられています。

屋内は無垢の木を多用。年月が経過し、使い込むほどに美しくなる(写真撮影/織田孝一)

屋内は無垢の木を多用。年月が経過し、使い込むほどに美しくなる(写真撮影/織田孝一)

全棟に屋根裏収納スペースがあり、可動式梯子で上がれるようになっている(写真撮影/織田孝一)

全棟に屋根裏収納スペースがあり、可動式梯子で上がれるようになっている(写真撮影/織田孝一)

「新座でも貸し農園は人気がありますし、食育や自給自足への関心も今まで以上に高まっていると感じます。「新農住コミュニティ野火止台」はそんな時代にも合った分譲住宅でもあると思います」と大塚さんは自信を見せます。この11月3日、4日に開催された町開きでは、大勢の見学者を集め、盛況となりました。

農地を維持したい地主、健康的な生活を求める住民、人口流出をくい止め、景観を守りたい行政、三者いずれもが利益を得る、新しい住宅地の可能性が見えてくるようです。

●取材協力
増木工業株式会社

「人間は自然の一部」。八ヶ岳で体験型教育を推進する古川和女史のデュアルライフ あの人のお宅拝見[11]

私が知り合ったころの古川和(カズ)さんは、主婦から起業して体験型科学教育『リアルサイエンス』を、科学者の秋山仁氏らと子ども向けに行っていました。最近は「大人向けに、企業のチームビルディングなんかもやってるのよ!」と、相変わらずアクティブな姉御の行動力に驚くばかり。東京とのデュアルライフを楽しむ、八ヶ岳麓のお宅へ伺って話を聞くことにしました。連載【あの人のお宅拝見】
「月刊 HOUSING」編集⻑など長年住宅業界にかかわってきたジャーナリストのVivien藤井が、暮らしを楽しむ達人のお住まいを訪問。住生活にまつわるお話を伺いながら、住まいを、そして人生を豊かにするヒントを探ります。「アメリカで衝動買いした家具を置くために建てたような家」!?

和(カズ)さんの本宅は東京で、八ヶ岳の麓・大泉町に別荘を建てられたのは約20年前。子ども2人の子育て時代から山登りが好きで、野外活動教育の仲間もいるこの辺りが気に入っていたそうです。
今回も東京で午前中の仕事を終えてから車を走らせ、15時過ぎにこの取材。日常的に行ったり来たりとデュアルライフ(二地域居住)を楽しむアクティブな61歳は、私の憧れです。

クリームイエローに赤のトリムが映える大屋根の外観。取材日は曇りで冴えなかったので、青空の写真を送ってもらいました!(写真撮影/古川和さん)

クリームイエローに赤のトリムが映える大屋根の外観。取材日は曇りで冴えなかったので、青空の写真を送ってもらいました!(写真撮影/古川和さん)

八ヶ岳の家はフィンランドメーカー『ホンカ・ジャパン』のログハウス。山小屋のような丸太組みのログと違って、角型ログで、モダンな雰囲気。断熱性は北欧仕様なので秋冬は冷え込む八ヶ岳でも問題なし。

大きな家の小さな玄関、個性的なデザインは童話の世界のよう(写真撮影/片山貴博)

大きな家の小さな玄関、個性的なデザインは童話の世界のよう(写真撮影/片山貴博)

玄関を入った先に広がる、吹抜けの大空間リビングでお話を伺うことにしました。

ログの構造壁にタイルの床、赤い薪ストーブのある吹抜けのリビング(写真撮影/片山貴博)

ログの構造壁にタイルの床、赤い薪ストーブのある吹抜けのリビング(写真撮影/片山貴博)

私の隣にはアインシュタインの人形が鎮座。アメリカの友人からプレゼントされたそう(写真撮影/片山貴博)

私の隣にはアインシュタインの人形が鎮座。アメリカの友人からプレゼントされたそう(写真撮影/片山貴博)

「やっぱりログだから、内装の木肌が柔らかいし香りも良いのよね。20年たったけど」

お子様も独立され、ますます活動的な和さん。私はテニスでもご一緒し、パワフルなプレーに圧倒されています!(写真撮影/片山貴博)

お子様も独立され、ますます活動的な和さん。私はテニスでもご一緒し、パワフルなプレーに圧倒されています!(写真撮影/片山貴博)

20年前と言えば2人のお子様もまだ10代のころ、40歳そこそこで別荘を持つ余裕に驚き……。
「そういうことでも無いのよ!子どもにも良い場所とは思っていたけれど。実はアメリカの友達が家を売るときに、家具を処分するって言うから『私が買う!』って言っちゃって(笑)。しばらく、置く場所もなくアメリカの倉庫で保管してて、やっとここに置ける家が建てられたの」

イエローがアクセントカラー。壁には絵画より、窓の景色

旦那さまの赴任地だった米国バークレーの友人から買った、お気に入りの家具が10点以上。
「特にこのイタリア製テーブルのデザインが斬新で気に入ったの。このイエローが、インテリアのテーマカラーになりました」

イタリアンモダンのテーブルに合わせたイエローの椅子、右奥にはイエローの冷蔵庫をあえてキッチンの外、斜めに置いてフォーカルポイントに(写真撮影/片山貴博)

イタリアンモダンのテーブルに合わせたイエローの椅子、右奥にはイエローの冷蔵庫をあえてキッチンの外、斜めに置いてフォーカルポイントに(写真撮影/片山貴博)

ほかには、アメリカンBIGサイズのベッドが2階の寝室にありました。窓もベッドに合わせたデザインです。

私もここに泊めていただきましたが、おばさんでもお姫様気分(写真撮影/片山貴博)

私もここに泊めていただきましたが、おばさんでもお姫様気分(写真撮影/片山貴博)

「絵画も好きだけど、この家は壁に絵を掛けていないの。窓にカーテンをせず、窓枠を額縁にした外の景色が絵の代わり」
朝から夜、春夏秋冬。刻々と変化する景色を眺め、過ごす豊かさがここにはあるようです。

和さんが撮った、窓からの富士山や紅葉。一時として同じ景色は無い、自然の醍醐味(だいごみ)(写真撮影/古川和さん)

和さんが撮った、窓からの富士山や紅葉。一時として同じ景色は無い、自然の醍醐味(だいごみ)(写真撮影/古川和さん)

八ヶ岳界隈に住まう、クラフト&アクティブな人々も魅力

子育て主婦だった和さんは、35歳のときにNPO法人『Teaching Kids to Love the Earth』を立ち上げ、体験型学習を実践してこられました。
「アメリカ在住のころはヨセミテへキャンプに行ったり、東京では多摩川で網を投げて魚を獲ったり。子どもと遊ぶのも本格的、自然の中で育つと人への優しさが備わるものよ」
人間も自然の一部だと理解できるようになると、子どもも大人も物の見方が変わるということです。

赤い薪ストーブがリビングのアイコン。床暖房もあるが、薪を焚くと朝までホンワカと暖かい(写真撮影/片山貴博)

赤い薪ストーブがリビングのアイコン。床暖房もあるが、薪を焚くと朝までホンワカと暖かい(写真撮影/片山貴博)

「八ヶ岳界隈はすてきなお店や、面白い人が多くてね。とてもすてきなご夫婦が営まれているインテリアのお店があるの!」と、和さんお気に入りの北欧ヴィンテージ家具ショップが『SKOGEN』。
そのワークショップに参加してつくったペーパーコード編みの椅子が、暖炉の前に2脚(旦那さまと1脚ずつ作製)。

「薪をくべるときに座るとちょうどいい高さなの」。トレーを置くと、サイドテーブルとしても使える優れもの!(写真撮影/片山貴博)

「薪をくべるときに座るとちょうどいい高さなの」。トレーを置くと、サイドテーブルとしても使える優れもの!(写真撮影/片山貴博)

インテリアや手づくりが大好きな和さん。この家を建てるときも、自分で建材・設備を選びにショールームへかなり足を運んだそう。

2階のトイレには、和さんが探して来たパステル色のタイルが貼られていた(写真撮影/片山貴博)

2階のトイレには、和さんが探して来たパステル色のタイルが貼られていた(写真撮影/片山貴博)

「ほかにも東京から移住されたご夫婦で、きれいな畑をやっているお友達がいてね。今日も来る前に寄ったら、いろいろと採れたての野菜を下さったの」

早速、頂いた野菜をダイニングテーブルで並べ始め……(写真撮影/片山貴博)

早速、頂いた野菜をダイニングテーブルで並べ始め……(写真撮影/片山貴博)

八ヶ岳らしいグリーン・アレンジメント完成! 器は人気のプリンセス社(オランダ)ホットプレート(写真撮影/片山貴博)

八ヶ岳らしいグリーン・アレンジメント完成! 器は人気のプリンセス社(オランダ)ホットプレート(写真撮影/片山貴博)

ダイニングルームには、大人数が座れる大きなテーブル。「ここで企業研修をすることもあるの。自炊もチームビルディングの一環」

10人くらいはゆったり座れるテーブル。ここからも、外の緑が目に入る開放的なダイニング(写真撮影/片山貴博)

10人くらいはゆったり座れるテーブル。ここからも、外の緑が目に入る開放的なダイニング(写真撮影/片山貴博)

そしてダイニングの奥には、コンサバトリー(サンルーム)もあります。

「ここは朝、気持ちいいのよー」。朝日が入る、東側にあるコンサバトリー(写真撮影/片山貴博)

「ここは朝、気持ちいいのよー」。朝日が入る、東側にあるコンサバトリー(写真撮影/片山貴博)

食器も好きな和さんコレクションで、朝食風にセットしてもらった(写真撮影/片山貴博)

食器も好きな和さんコレクションで、朝食風にセットしてもらった(写真撮影/片山貴博)

和さん自身がそうであるように、八ヶ岳界隈にはアクティブに何かをするために住まう人が多いよう。そんな活力のあるコミュニティーが、この避暑地ならではだなぁ……と感じました。

老若男女、グローバルな出会いの場になればという想い

海外の子どもたちが環境体験学習を行うのに、ここを拠点にすることもあるようで、こんな色紙を発見。

このお宅のデッキにあふれる子どもたち。つづられた感謝の言葉が並ぶ(写真撮影/片山貴博)

このお宅のデッキにあふれる子どもたち。つづられた感謝の言葉が並ぶ(写真撮影/片山貴博)

色紙の写真は、このデッキ。ハンモックも気持ち良さそう(写真撮影/片山貴博)

色紙の写真は、このデッキ。ハンモックも気持ち良さそう(写真撮影/片山貴博)

「外国人をお招きすることもあるので、一応和室もね」、2階の和室には野点(のだて)の茶道具も収められています。

琉球畳に和紙のランプでモダンな和室。洋風窓も意外と調和(写真撮影/片山貴博)

琉球畳に和紙のランプでモダンな和室。洋風窓も意外と調和(写真撮影/片山貴博)

今回敷地内に、以前来たときには無かった物体や小屋が増築されていました(!?)。

高さ3mの壁、これを道具無しにチームで協力して全員登り切るという課題用

高さ3mの壁、これを道具無しにチームで協力して全員登り切るという課題用

シーソー、複数人が乗ってバランスを取るもの(写真撮影/片山貴博)

シーソー、複数人が乗ってバランスを取るもの(写真撮影/片山貴博)

「これも体験学習のひとつ。大人も子どもも自然のなかで身も心も鎧を脱ぎ捨てて、ひとりではできないことを助け合いながら達成する。人それぞれ得意不得意があって当然、お互いの理解が深まっていくのがチームビルディング」
子どもたちも、そんな体験から“多様性”を肌で実感することになるのだそう。

「今日は曇っていて残念ね」と空を眺めながら、「今度はここでテニス合宿するから、いらっしゃいよ!」と誘ってくれた(写真撮影/片山貴博)

「今日は曇っていて残念ね」と空を眺めながら、「今度はここでテニス合宿するから、いらっしゃいよ!」と誘ってくれた(写真撮影/片山貴博)

八ヶ岳のお住まいも拡張するなか、「今度は東京の家を建て替える計画をしたいの! いつか娘が子育てするのなら二世帯住宅にしたいと思って。子どもも大人も一緒に勉強できるような書斎をつくりたい、天井まで書棚があってハシゴに登って本を取るような……」と、目を輝かせる和さん。その夢は、いくつになっても尽きることが無さそうです。

古川 和
八ヶ岳エナジェティック倶楽部代表
1957年大阪府生まれ。東京都在住、結婚・子育てを経て1992年子どもの環境教育、科学教育の会Teaching Kids to Love the Earthを起業。2000年一橋大学大学院國際企業戦略研究科(非常勤講師)。後に、アクションラーニング研究所を立ち上げ、企業のチームビルディング研修を実施。カリフォルニア大学バークレー校の体験型の科学教育の手法を日本に普及し、NPO法人体験型科学教育研修所を立ち上げ2016年まで活動。2017年より株式会社EHRのエグゼクティブコンサルタント。(文部科学省政策評価有識者会議メンバー、東京学芸大学監事(非常勤)など)。
趣味はテニス、俳句、茶道、美術鑑賞と幅広く、多彩な人脈を持つ。座右の銘:格物致知
株式会社EHR
北欧家具「SKOGEN」

アメリカ発の「小さな家」 タイニーハウスで実現する“シンプルで豊かな暮らし”

ここ数年で注目を集めつつある「小さな家」、タイニーハウス。移動ができるタイプであれば、トレーラーハウスのように“移動する暮らし”を実現できる利点もあります。アメリカでは、サブプライム住宅ローンの破綻やハリケーンによる被害などをきっかけに、「大きな家が豊かさの象徴」という価値観は揺らぎ、「シンプルに豊かに暮らしたい」というタイニーハウス・ムーブメントが起こっています。こうした動きは今後、日本で広まっていくのでしょうか。YADOKARI株式会社が運営するタイニーハウスの宿泊施設で、同社プロデューサーの相馬由季(そうま・ゆき)さんにお話を聞きました。
低コスト、居住空間の移動を可能にする“小さな家”の魅力とは

YADOKARI株式会社はタイニーハウスに関するメディア運営やイベント企画を行い、相馬さんはプロデューサーとして携わっています。

YADOKARI株式会社のプロデューサーの相馬由季さん(写真撮影 ツマミ具依)

YADOKARI株式会社のプロデューサーの相馬由季さん(写真撮影 ツマミ具依)

――まずはタイニーハウスの定義を教えていただけますか。

明確な定義はありませんが、弊社では基本的に「約20平米前後の大きさで、1000万円以内で購入できる家」と設定しています。ホイールの上に設置された、自動車で牽引する移動式のタイプもあります。

1000万円以内を目安にしているのは、人によってはローンを組まずに支払える金額ですし、組む場合でも数年間の短いローンで返済可能な場合が多いからです。つまり、長年ローンを返すためだけに働く必要がなくなります。そうすると、働く時間を減らしたり、収入にこだわらず本当にやりたい仕事をしたりと、充実した人生を送ることができるというわけです。

――タイニーハウスは日本でどのようにして注目されるようになってきたのでしょうか。

大きなきっかけとなったのが東日本大震災です。未曽有の大災害がきっかけで、徐々に暮らしの価値観に変化がもたらされてきたように感じます。所有するモノを減らしてシンプルに生きよう、働き方や、大事な人との暮らし方を見直してみようといった価値観を持つ人が増え、その結果、タイニーハウスにも目が向けられるようになってきたのではないでしょうか。

タイニーハウスをつくり始めたり、タイニーハウスと本宅との二拠点居住の生活をしたりするなど、行動を起こす人も少しずつ現れてきました。最近は住宅関連のメディアなどでも、この用語が取り上げられるようになったと感じています。

「近いうちにタイニーハウスに住む予定でいま準備を進めています。自分の体験を役立てていきたいです」と相馬由季さん(写真撮影 ツマミ具依)

「近いうちにタイニーハウスに住む予定でいま準備を進めています。自分の体験を役立てていきたいです」と相馬由季さん(写真撮影 ツマミ具依)

――タイニーハウスの課題はどんなところでしょうか。

一番は土地の問題ですね。小さな家なので大きい土地は必要ないものの、土地を購入してそこに電気やガス、水道を引く必要がある場合は結局費用がかさんでしまいます。

次に、いざ購入しようと思っても手間がかかるという点です。まだ日本では扱っているハウスメーカーが少ないですし、セルフビルドしようとしても設計の依頼や建築材料の調達など、問題が山積みです。

YADOKARI株式会社が運営する「タイニーズ 横浜日ノ出町」では、3種類のタイニーハウスに宿泊できるので、暮らしを体験するにはもってこいだ (画像提供 YADOKARI株式会社)

YADOKARI株式会社が運営する「タイニーズ 横浜日ノ出町」では、3種類のタイニーハウスに宿泊できるので、暮らしを体験するにはもってこいだ(画像提供 YADOKARI株式会社)

――タイニーハウスに興味を持つのはどのような人が多いですか?

1年ほど前、2017年秋に実施した初回の参加者は50~60代の男性がメインでした。定年後のセカンドライフで、別荘のように使うことを検討している人が多かった印象です。

それが徐々に変化し、最近では男女問わず30~40代の方がメインになりました。みなさんバリバリ働かれている方ばかりです。これはアメリカでも同じような傾向があったのですが、「モノを持つだけ持って、大きな家に住んでみたけど、その先に自分の幸せはなかった」「お金はあるけども、仕事が忙しく家族との時間がとれない生活は望んでいない」といった、今までの自分の生き方や暮らし方に疑問を感じたときに、タイニーハウスに興味を持つ傾向があるようです。

「タイニーズ 横浜日ノ出町」のハウス内。小さな家に、ベッド、トイレ、風呂などが完備されている(画像提供 YADOKARI株式会社)

「タイニーズ 横浜日ノ出町」のハウス内。小さな家に、ベッド、トイレ、風呂などが完備されている(画像提供 YADOKARI株式会社)

また、最近地方自治体からは移住を前提とした多くの相談を受けています。遊休地の活用や人口減の対策としても、タイニーハウスは期待できると考えています。

ただし、小さな家で暮らすことそのものを目的としてしまうと、結果的に不幸になってしまうケースもあるんです。アメリカでブームになったときは、タイニーハウスに住めば幸せになれると期待して住みはじめたものの、「狭すぎる」と売ってしまう人もいたそうです。日本でも単にブームだというだけで購入してしまうと、後悔しかねませんので注意が必要です。

タイニーハウスが働き方、生き方を見直すきっかけに

タイニーハウスの全体像が見えてきたところで、実際に住んでいる方にもお話を聞いてみました。タイニーハウスに住んで4年になるNPO法人グリーンズ代表の鈴木菜央(すずき・なお)さんです。

NPO法人グリーンズ代表の鈴木菜央さん(画像提供 鈴木菜央さん)

NPO法人グリーンズ代表の鈴木菜央さん(画像提供 鈴木菜央さん)

――なぜタイニーハウスに住むようになったのでしょうか。

以前は、賃料12万円の150平米の2階建て賃貸住宅に住んでいましたが、一時期体調を悪くして仕事も行き詰まり、夫婦関係も良好ではないなど心身ともにボロボロの状態になりました。そこで生活を見つめ直し、「自分はどんな家でどんな暮らしをしたいんだろう」と考えていたときに、タイニーハウスに出合ったことがきっかけで住むことになったのです。
必要最低限のエコな暮らしに興味があったし、月々の賃料の支出を減らすことで少ない稼ぎでも生活は維持できる。そうすれば夜中まで仕事をしなくていいし、家族の時間も増える―――。このように総合的に判断して、とても合理的な生活ができると思いました。

千葉県いすみ市にある鈴木菜央さんのタイニーハウス。家族4人で暮らしている(画像提供 鈴木菜央さん)

千葉県いすみ市にある鈴木菜央さんのタイニーハウス。家族4人で暮らしている(画像提供 鈴木菜央さん)

――住んでみて分かったタイニーハウスのメリットとデメリットを教えてください。

狭いので片づけが楽、同じ部屋にいることが多くなり家族の距離が縮まるなどメリットはいろいろあります。しかし一番は、月々の賃料を支払う金銭的な不安から解放され精神的に自由になれたことです。このタイニーハウス自体は中古物件で4年ローンの480万円で購入し、最近支払いが終わりました。たった4年で住宅ローンが完済するなんて通常では考えられませんよね。また、光熱費も以前の半分ほどになり、賃料の負担が減った分とあわせて、家族で海外旅行をする費用などに回して楽しんでいます。

広さは、ロフト部分を含め約50平米。1階はリビング兼ダイニング、廊下兼キッチン、寝室、トイレです。ロフト部分は、天井が低い高さ140cmの子ども部屋と高さ110cmの荷物置きスペースという間取りになっています。

デメリットは、強いてあげれば、トレーラーでけん引して移動するので、家が多少傷んでしまう点が挙げられます。10トンの中古物件を購入したこともあって、トレーラーで運んだときの揺れで壁に亀裂が入ったり、水まわりが少し弱くなったりと一部損傷が発生しました。

また、正直「部屋が狭い」と感じることがあります。2人の子どもが大きくなってきていることも理由の一つです。その反面、家具をコンパクトにしたり、その他にも物を厳選して増やさないようにしたりと、生活を工夫できる楽しさがあります。それはそれで良い暮らしだと思っています。

室内の様子。ときには家具を一から製作し、空間を有効活用している(画像提供 鈴木菜央さん)

室内の様子。ときには家具を一から製作し、空間を有効活用している(画像提供 鈴木菜央さん)

――どんな人がタイニーハウスの暮らしに向いていると思いますか?

暮らすためにはいろんな工夫が必要になるので、日々冒険する感覚でデメリットも楽しめる人ですね。パッケージで、完成したものが欲しいという人には不向きといえるでしょう。

例えば、私の場合は部屋が狭いので、部屋と同じくらいのサイズのウッドデッキを造りました。ちょっとしたことなら外のデッキで作業ができたり、天気のいい日には食事をしたり、洗濯物を干したりできるようになりました。

このウッドデッキの増設により居住空間の移動は難しくなったものの、当面は移動せず、広くなった生活スペースで快適に過ごしたいそう。
働き方や生き方の多様化が進む昨今。シンプルで、状況に応じて移動も可能なタイニーハウスは、これからの住まい選びの選択肢の一つになっていくかもしれませんね。

●取材協力
・YADOKARI株式会社
・NPO法人グリーンズ

別府温泉&NY、別府温泉&東京、二地域で暮らし働く魅力とは? 2人のフリーランスに聞いてみた

別府駅を降り立つと、そこにたなびくのはいく筋の湯けむり。
観光名所として知られるこの場所を、第二の生活の拠点として選ぶ人がいるという。今回、別府&NY、別府&東京に暮らす2人に話を伺うことができた。彼女たちはなぜ二地域居住の拠点として、あえて温泉地・別府を選んだのだろうか? 二拠点生活は、定住よりどんなメリットを公私ともにもたらすのだろうか? その魅力などを伺った。

別府&NY。移動距離1万1130Kmのデュアルライフ

ヤノユウコさんは現在、NYと大分県・別府を行き来して仕事を回している。パタンナーという仕事で独立して10年。昨年からNYと行き来を始め、その移動距離は片道約1万1130Kmにも及ぶ。「日本の精密なパターンが海外の方では需要があるみたい」と肌で実感したヤノさんは今後も海外に目を向けて仕事の幅を広げていこうと目論み中だ。

別府とNYを行き来するヤノさん。別府では主にパタンナーとしてCADデータでデザインを描き起こしている(写真撮影/フルカワカイ)

別府とNYを行き来するヤノさん。別府では主にパタンナーとしてCADデータでデザインを描き起こしている(写真撮影/フルカワカイ)

服づくりを学びたいと宮崎から上京して、都内のファッション専門学校に通学したのち、大手のアパレルブランドにパタンナーとして就職。当時、ファストファッションの先駆けブランドとして人気を集めていたときに唯一新卒枠で配属され、他の人から見ても羨むような、まさに時代の先端の部署で働くチャンスを得たのだった。

しかし、ファストファッションは通常よりも販売サイクルが早かった。「大量生産、大量廃棄」という方向性と自分の洋服づくりに対しての考えに違いを感じ、良好な職場環境よりも自分の服づくりと生き方を見直そうと2年半で退職。その後、パタンナーとして複数の国内ブランドで修行を積んだのちフリーランスとして独立する。フリーランスは場所や時間にとらわれず、自分のイメージした生活ができる。そう思って選んだ道だったが、いざ独立してみると全然違った現実がヤノさんを待ち受けていた。

仕事を失う怖さよりも、自分を消費されるほうが怖かった

独立当初は都内に通える辻堂(神奈川県)に生活拠点をおき、プライベートでは趣味のサーフィンなどに時間を費やしていた。しかし公私ともにバランスが取れていた時期は短く、あっという間に仕事が増え、自宅作業で一日中引きこもるような生活が続いた。

「パタンナーの単価が低いものも多く、量をこなさないといけなかったんですね。また都内に気軽にいけるので頻繁に打ち合わせに行ってましたが、それでも往復で3時間はかかってしまい、いつの間にか仕事だけの生活になってしまいました」

辻堂の後は、鎌倉の古民家で海から徒歩1分の立地に住んでいたヤノさん。一見、充実した暮らしを過ごしているような気もヤノさん自身していたが、当初イメージしていたフリーランスとしての働き方と目の前の現実は全く違っていた。「ファストファッションのように自分や自分がつくった洋服が消費されていくのは違う」。その原点の思いや東日本大震災をきっかけに、九州移住を考え始めたヤノさん。友人の紹介をつてに、1年ほど九州各地を見回った結果、思い切って別府を拠点にすることを選んだという。

「窓から見える湯けむりが毎日の気温や湿度によって違うので見ていて飽きないんです」と語るヤノさん(写真撮影/フルカワカイ)

「窓から見える湯けむりが毎日の気温や湿度によって違うので見ていて飽きないんです」と語るヤノさん(写真撮影/フルカワカイ)

温泉=早めの体力回復に。また観光地はクリエイターにとっては刺激の場に

「もともと多拠点をするつもりで移住先を選んだのですが、別府は友人の勧めもあり、温泉地のなかでもずば抜けて景観もよく人もオープンでいながら個性的で面白く優しい人が多いのが最大の魅力でした。多忙であっても温泉があれば心身の回復が早い。また源泉も豊富なので、さまざまなお湯を日替わりで楽しめるのがいいですね。別府は国際観光地なので、人が多国籍かつ流動的なんですよね。平日と週末でも歩いている人の年齢層も家族構成も全く違う。多くは県外から訪問してくるので、外部からの情報も入ってきやすいです。わりと一定の場所にいるようで、日々違った風景や人間関係が別府にはあるので新鮮な気持ちで日常を過ごしています」とヤノさん。当初心配していた仕事の量は、減らした分、自分の好きなやりかたで作業ができているという。

「別府に拠点を変えた分、都会で過ごす時間も貴重になりました。都会ではインプット、別府ではアウトプットと自然にスイッチが切り替わるようになり作業の質も効率も格段に上がりました。また拠点が離れていることで周囲のクライアントがスケジュールを調整してくれるようになったんですね。スケジュールに余裕がある仕事だけを相談してくれるようになった分、自分のやりたいことに時間を割けるようになれたので、オーダー服のデザインや製作、裁縫ワークショップの開催が定期的にできるようになったんです」

ワークショップのときの様子(写真提供/ヤノユウコ)

ワークショップのときの様子(写真提供/ヤノユウコ)

多拠点生活は「失敗はつきもの」と思えば怖くない

「今は別府を拠点としてNYには2カ月、そのほか不定期で東南アジアや東京へとあちこち行ってますが、別府以外の滞在は友人宅やAirbnb、ゲストハウスなど。移動はLCCを使えば生活コストは私の場合はそこまで甚大ではないです。別府は共同浴場が月1000円前後で利用でき、湧き水を汲む場所もあるので光熱費が安い。また飲食も観光地価格ではなく住民価格で利用できるお店がたくさんあるので他の温泉地よりも単価が安く済むんじゃないでしょうか。私は、人生において“後悔しないほう”と“どうなるか分からないほう”を選択する、ということだけは心がけてきました。30代後半での移住はもちろん不安になることもありましたが、もともと場所によってルールは違うもの、失敗はつきものと思えば、意外とあとから楽しめることが自然とついてきます」

そう語るヤノさんは今後、裁縫ワークショップを通じて知り合った地元の人たちとチームとなり、国内外で依頼された仕事を回していき、大分の雇用創出をしていくことが目標とのこと。消費されないものづくりの楽しさを大分に根付かせていきたい。そんな思いで今後はNYだけにとどまらずタイや発展途上国にも目を向け活動をスタートさせている。

二拠点居住者を中心とした交流会。別府では定期的に移住者交流会が開催されお互いの情報交換の場になっている(写真撮影/フルカワカイ)

二拠点居住者を中心とした交流会。別府では定期的に移住者交流会が開催されお互いの情報交換の場になっている(写真撮影/フルカワカイ)

東京&別府。自分の仕事の価値を見直す生活スタイル

別府駅前にある老舗映画館「別府ブルーバード劇場」で働く森田真帆(もりた・まほ)さん(37歳)は、東京では映画ライター、別府では映画の番組編成を担当している。居住場所により職業も変えている、珍しいパターンでの勤務だ。また私生活ではシングルマザーとして17歳の子とともに実家で暮らしつつ、別府との二拠点居住を実現させている。

森田さんは映画ライターのかたわら、映画館の上映番組の企画編成、およびイベント企画立案で映画監督や俳優陣のキャスティング、当日の司会進行、アテンドまで行っている(写真撮影/フルカワカイ)

森田さんは映画ライターのかたわら、映画館の上映番組の企画編成、およびイベント企画立案で映画監督や俳優陣のキャスティング、当日の司会進行、アテンドまで行っている(写真撮影/フルカワカイ)

もともと東京の杉並区出身の森田さん。現在は自分で企画した映画イベントごとに別府を行き来。大体1カ月に1週間位の滞在だが、多いときは月の半分は別府で過ごしている。別府はもとより九州にも地縁がないなかでこの生活を選んだのは、何より映画館の「ブルーバード」に心底惚れ込んだからだ。

大学時代から映画業界に興味をもち、大学を中退してハリウッドへ留学。現地で出会ったアメリカ人との間に子どもを授かり帰国。アメリカ在住時その当時から映画コラムを担当していた会社の編集部に就職。シングルマザーとして、子育てに毎日追われながら、海外の映画祭取材や、俳優、監督のインタビュー記事を書く日々が続いた。あまりに忙しい生活が続き、世界がだんだんとモノクロと化していくことを感じた森田さん。体調を崩し、失意の中にいたときに別府在住の親友に会いに行ったのが居住のきっかけとなった。

もともと移住希望ゼロだった森田さん。この映画館の外観に魅せられて人生が一変した(写真提供/森田真帆)

もともと移住希望ゼロだった森田さん。この映画館の外観に魅せられて人生が一変した(写真提供/森田真帆)

映画の専門家だったのに、初めての体験をしたのがこの映画館だった

「滞在中にふらりと寄ったのがこのブルーバード劇場でした。まず外観に惹かれてふらふらと中に入りました。階段を昇るとまるで昭和の時代の映画館にタイムスリップしたような劇場が目の前に広がっていて、すごく懐かしい匂いがしました。当時の私は、狭い試写室で映画を観ることが日常になっていたけれど、そのとき、母親と一緒にワクワクしながら観た映画体験を思い出したんです。その日は、お客さんが誰もいなくて、映画館でたった一人、自分ひとりだけ席につき、映画を鑑賞しました。映画が始まると、あの空間の中で映画の世界に没頭できて、ただただ胸を打たれて涙が止まらなかった。もう一度、心から映画が面白いと思えたんです」と森田さん。そして、映画館の館長である岡村照さんに会ったのが二拠点居住のきっかけとなった。「そもそも映画が始まる前、照館長がお煎餅をくれて(笑)。今の映画館は音を出さない!とか、喋らないとか、いろんな決まりごとの映像が予告編の前に流れる場所まであるのに、お煎餅って(笑)。おかしくてクスクス笑っちゃってましたね」

「この映画館に出会うまで、いつの間にか映画は『個』で観るものになっていました。試写室でも、都会の映画館でも『一人』で観て『一人』で帰る。それが当然だと思ってたんですが、帰りに照館長に「この映画面白かったやろ」って話しかけられて、おしゃべりしているうちにいつの間にか『一人ぼっち』という感覚が消えていた。その感覚が忘れられなくて、多くの人と一つの映画を見ることで生まれる映画体験の素晴らしさ、この映画館の良さをなんとか広めたいと、知り合いの映画監督や俳優にお願いしてイベントを定期的に開催しています」

映画館で俳優・青柳尊哉さんとのトークショーの様子。お互いにスニーカーでラフなスタイルでやるのが別府ブルーバード劇場流(写真提供/森田真帆)

映画館で俳優・青柳尊哉さんとのトークショーの様子。お互いにスニーカーでラフなスタイルでやるのが別府ブルーバード劇場流(写真提供/森田真帆)

別府で学んだのは、自分の仕事の価値と人との向き合い方

二拠点居住で仕事内容も異なるとなると一見とても忙しいように見えるが、森田さんにとってはむしろライターの仕事に良い変化があったという。「映画館で働くと、映画を観た直後のお客様の素直な感想が聞けるようになったので、観客の顔を想像しながら、どう作品の魅力を伝えるかをより具体的に文章に落とし込めるようになったんですね。どんな情報をお客様は求めているか、想像するよりははるかにクリアになりました」

また、別府は公衆浴場で24時間温泉に入れるところもあるので、どんなに遅い時間に仕事を終えても疲れを癒やすことができる。またまちが狭いのでみんなが「ひとつのまち」にいる感覚がある。都会は匿名性が高いですが、別府はその逆。だからこそ皆が腹を割って付き合える感覚が心地いいし、移動も都内よりはすぐできるので便利です。監督や役者の方々も、イベントが終わった後に美味しいご飯を食べて温泉に入ると取材だけでは見えなかった、その方自身の魅力をもっと知ることができるようになる。

公私を場所によって分けられ、自分にしかできない仕事ができる

都会との二拠点で一番ネックになるのが移動時間と生活コストだが、森田さんはそれ以上のメリットがあると強く語ってくれた。「別府は大分空港から1時間くらいですが実際移動するとそこまで大変な距離ではないです。むしろスイッチの切り替えをするにはフライトの時間を含めてちょうどいい感じ。それがないと都会とのスピード調整ができないですね。生活コストはLCCを使ったり、リサイクルショップで家具を購入したりするとそこまでかからなかった。食費も。別府にいるとおばちゃんたちがどんどん美味しいものを持ってきてくれるんで、毎回お金を使わず太って帰るくらいです(笑)。

それよりも、自分だけにしかできない仕事を実現していくことが何より人生を豊かにすると確実に言えます。なので、年々忙しくなりますがブルーバードに関わりたい気持ちは3年前よりも増しています」

温泉地という場所を選ぶことにより多拠点生活をする上でデメリットとなる移動疲れがクリアになり、湯けむりというどこにでもない風景を目の前にすることによって仕事の切り替えができる。また観光地の割に生活コストが高くないことが別府の魅力なのだと感じる。

「副業・複業」が注目されるなか、今回取材したお二人のようなフリーランス生活に興味をもつ方もいるかもしれません。1つの地域に限らず、二拠点、三拠点と複数の地域で暮らしたり、仕事したりする生き方も以前よりは増えてきているようです。自分は仕事に、生活のなかで最も大事にしたいものは何か。もし現状抱えている問題があれば生活スタイルの変化で打破できる可能性はないか。あらためて自分の働き方と生活スタイルについて見直しをしても良い時期がきているのかもしれません。

「移動できる家」のレンタルプランで、夢の暮らしもかなっちゃう?

エコロジー建築にこだわる北海道の住宅メーカー・アーキビジョン21が2016年に発表した「スマートモデューロ」。木造建築の“ 粋 ”をコンテナサイズにぎゅっと詰め込み、従来のトレーラーハウスとはひと味違った新しい住まいの形として注目を集めています。このほど、購入という方法以外に、レンタルプランが本格化。この今までにない「移動できる家」×「レンタル」というスタイルには、一体どんな可能性があるのでしょうか。
夏は北海道、冬は沖縄……なんてことも可能に!?

簡単に移動可能なトレーラーハウスがレンタルできるとなれば、暮らし方の可能性は無限に広がりそうです。でもトレーラーハウスのレンタルなんて、なかなか想像がつきませんよね。「スマートモデューロ」がどんな住まいで、どんな使い方ができるのか、最初にちょっとシミュレーションをしてみましょう。アーキビジョン21の担当者に、詳しいお話を伺いました。

――まずはスマートモデューロとはなにか、基本的な説明をお願いします。

「長さ12m、幅2.5mのコンテナサイズにあわせた、世界中どこにでも移動可能なミニマムムービングハウスです。設置、撤去、移動が容易にできるのが特徴です。移動可能といってもプレハブのような簡易的な住宅ではありません。外断熱工法による、断熱性、気密性の高い木造建築で、フレーム部分は100年の耐久年数を誇ります」

【画像1】北海道の寒さが鍛えた、温かさと温もりある木造建築(写真提供/アーキビジョン21)

【画像1】北海道の寒さが鍛えた、温かさと温もりある木造建築(写真提供/アーキビジョン21)

【画像2】キッチンやトイレ、洗面化粧台、シャワー室も完備。写真右は寝室(写真提供/アーキビジョン21)

【画像2】キッチンやトイレ、洗面化粧台、シャワー室も完備。写真右は寝室(写真提供/アーキビジョン21)

【画像3】1~2人での生活を想定した間取図の例。延べ床面積は28.80m2(8.88坪)(写真提供/アーキビジョン21)

【画像3】1~2人での生活を想定した間取図の例。延べ床面積は28.80m2(8.88坪)(写真提供/アーキビジョン21)

【画像4】室内のレイアウトは自由自在。写真のようにオフィスとしての使用も可能(写真提供/アーキビジョン21)

【画像4】室内のレイアウトは自由自在。写真のようにオフィスとしての使用も可能(写真提供/アーキビジョン21)

――早速ですが、スマートモデューロのレンタルプランを利用して、転勤の多い会社員が、土地だけ引越しながら暮らすというのは可能ですか?

【画像5】イラスト/伊藤美樹

【画像5】イラスト/伊藤美樹

「はい。可能です。家ごと引越しをするため、新しい家に荷物を移しかえる手間が不要で、転居作業もスムーズだと思いますよ。レンタルなので、もし家族が増えて家をかえる必要が出た場合は、返却いただければ大丈夫です」

「土地を移ることになりますので、スマートモデューロが搬入・設置できる土地を探す必要はあります。ちなみに、引越す先での土地探しもお手伝いしています」

――ということは、北海道と沖縄に土地を持ち、春夏は北海道、秋冬は沖縄という二拠点生活もできちゃったりします?

【画像6】イラスト/伊藤美樹

【画像6】イラスト/伊藤美樹

「笑。おもしろいですね。世界統一規格のコンテナサイズなので、原理的には可能です。一応、離島にも輸送対応はできます。ただ、もし実際に北海道・沖縄生活をやろうとすると、陸送に加えて船便での輸送となり、船の輸送費がかかります。あと、輸送中はスマートモデューロの中に住むことはできないので、ほかの住まいを確保する必要がありますね」

間取り変更や棚の取りつけなど、自由にDIYしてOK!

アーキビジョン21さんと話していて、建物の内部を自由に変更できるスマートモデューロは、DIY好きの人にとっても魅力的な物件であるということが分かりました。

「建物の中に柱や壁はなく、ビスで止めるタイプのボードで仕切っているので、DIYで間取りの変更も可能です。腕に覚えがあれば、フレームだけの状態でレンタルいただき、ご自身で内装を全部やるというのも楽しいでしょうね。間取り変更ほどの大掛かりなDIYではなくとも、どんどんいじって暮らしを楽しんでほしいですね。レンタルの場合でも、退去時にこちらで戻すことが容易なので、どんどんやっていただいて大丈夫です」

【画像7】スマートモデューロを利用したDIY教室も開催しているそう(写真提供/アーキビジョン21)

【画像7】スマートモデューロを利用したDIY教室も開催しているそう(写真提供/アーキビジョン21)

――自宅の横に子ども部屋としてレンタルし、子どもと一緒にDIYをするのも楽しそうですね。子どもが成長したらスマートモデューロを返却するというのはアリですか?

「アリです、アリです! お子さまが独立して不要になれば返却できますし、間取りを変えて別の用途で利用いただいたり、別の場所に移動させてご利用いただいたりすることも可能です」

レンタルなら月額7.5万円~設置可能!

家ごと住む土地を移動するという暮らし方や、好きなだけDIYも楽しめるスマートモデューロ。購入より気軽なレンタルの仕組みを活用すれば、アイデア次第で実験的な暮らし方も楽しめそうです。ところで気になるお値段は?

――標準的な価格を教えてください。

「購入される場合は、本体価格750万円(税別)に加えて、運搬費、設置工事等の付帯工事が約150万円になります。同じものをレンタルする場合、月々の支払いは本体価格の100分の1で7.5万円。レンタル期間は3年~10年で、10年後に買い取ることも可能です。レンタルの場合は、最初に保証金として本体価格の2割の150万円が必要となります」

――スマートモデューロを運ぶ場合のコストと時間はどれくらいですか?

「スマートモデューロを専用の移送車に乗せて移動させるのですが、例えば北海道内で、札幌からニセコまでの約100kmなど、インフラの整った場所への引越しであれば、費用は50万~100万円程度です。期間は1週間もかかりません。海を渡ると運賃がプラスされますが、本州はもちろん、離島への移動もできます。国際的なコンテナサイズなので、船で海外へと運ぶことも可能です。さすがにまだ実績はありませんが(笑)」

――スマートモデューロはコンテナ1個分の広さとのことですが、長期間住むには狭くないですか?

「縦長という寝台列車のようなスペースなので、住むにはどうなのかなという不安がある方も多いですね。でも実際に暮らしてみたら、意外と使い勝手がいいと評判です。もちろん広さに制約があるので、トイレやシャワールームが狭かったり、収納スペースが限られたりというのはありますが、暮らし方に合わせ約40種類以上もの間取りプランを用意しています」

「また2つ、3つと連結して使用することも可能なので、ご家族で住んだり、職場として利用したりすることもできます。ただし、山奥で道が狭かったり、逆に住宅密集地だったり、トレーラーが入れない場所には設置ができません。その場合は、長さを自由に短くできる “ モデューロ ” というユニットをご紹介させていただいています。長さを短くできるので移動の制約が少なく、設置可能なエリアが広がります」

最初は利用シーンがイメージできなかったスマートモデューロですが、アーキビジョン21さんの話を聞いているうちに、もし自分の生活スタイルに合うのであれば、こんなにドキドキできる物件はなかなかないのではという気がしてきました。縦長の、独特の狭さは、物をなるべくもたないミニマリストにとっても、堪らない物件かもしれません。

●取材協力
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