LGBTQと住まい[1] 東京レインボープライド代表に聞く“住まい探しの壁”。最新事情は?

LGBTQ(セクシュアル・マイノリティの総称)の人々にとって “住まい探しはハードルが高いもの”という認識が持たれている。
LGBTQをめぐる動きに大きな影響を与えた渋谷区の「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」制定から5年が過ぎ、状況はどのように変化しているのか。

毎年この時期に、LGBTQの人々やその支援者によって東京で開かれるイベントで、LGBTQの認知拡大に影響を与えてきた「東京レインボープライド」の共同代表を務める杉山文野さんと、山田なつみさんに話を聞いた。
「ゼロからは脱した」LGBTQコミュニティに対する認知

LGBTQとは、L(レズビアン)、G(ゲイ)、B(バイセクシャル)、T(トランスジェンダー)、Q(クエッション)に代表される、セクシャル・マイノリティな人たちの総称。そして、東京レインボープライドはそうした性的少数派の人たちが、差別や偏見にさらされず、前向きに生活できる社会になるようにと始められた、団体であり、イベントだ。この「プライド」と名付けられたパレードイベントは、米国のニューヨークで1970年に始まり、市民運動の一つとして認知されていくと同時に、世界中で同様のパレードイベントが開催されるようになった。

2013年から立ち上げに関わり、2019年に東京レインボープライドの共同代表理事に就任した山田なつみさんは、6年前を振り返り「イベントの協賛を企業さんへお願いしに行ったら、“LGBTって何?”って。ゼロから全てを説明しないといけない状況でした。それが2015年ごろから状況が変わり、企業の方から協賛したいという声をいただくようになりました」と話す。

東京レインボープライド共同代表理事のトランスジェンダーの杉山文野(右)さん、レズビアンの山田なつみさん(左)(画像提供/東京レインボープライド)

東京レインボープライド共同代表理事のトランスジェンダーの杉山文野(右)さん、レズビアンの山田なつみさん(左)(画像提供/東京レインボープライド)

イベントの立ち上げ当初は、商品やサービスを利用してほしいという視点からの協賛が多かったというが、最近では「(LGBTQの)人材を採用したい」といった視点や、「(企業ブランディングを考慮して)セクシャル・マイノリティやその人たちを支援する“コミュニティ”への理解や協力を示したい」という観点での参加を決める企業が増えてきたという。

「5年ほど前から、LGBTQへの理解は深まっているのではないか」と山田さんは話す。

(画像提供/東京レインボープライド)

(画像提供/東京レインボープライド)

少しずつ増えつつある“カミングアウトしない”住まい探し

東京レインボープライドの共同代表理事である杉山文野さんが賃貸物件探しをしていた8年前、当時はまだ、LGBTQへの理解が浸透しておらず、LGBTQであることに対して好奇の眼差しを向けられたり、陰で噂話をされたりすることも少なくなかった。住まい探しにおいても不動産会社や大家の無理解からトラブルが起きていたことも耳にしていたという。そのため、コミュニティ内では住まい探しに関して「どこの不動産会社の対応が良かった」といった情報を共有することも多いのだそうだ。

杉山さんは、カミングアウト(LGBTQであることを表明すること)することでスムーズに借りることができるならば、と不動産会社に自分がトランスジェンダーであることを“恐る恐る”カミングアウトした。すると、予想外にすんなりと受け入れられ「逆にびっくりした」という。

不動産会社の担当者は、「杉山さんの担当になってから、男性の外見に対し、女性のお名前だったことから、自分なりに(杉山さんのことやLGBTQについて)調べてみたんですよ。記事も読ませていただきました。何も問題ありません」と話してくれた若い担当者の言葉に、心が暖かくなるのを感じたという。

(画像/PIXTA)

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一方、山田さんは「7、8年前にパートナーと住まい探しをしていた時は、お互いの関係を説明せずにいると、女性2人で家を探しているというだけで、寝室が2つあるお部屋ばかり紹介されてしまったことがありました。パートナーと一緒に住むので、寝室は1部屋でよかったんですけれどね。また入居審査の過程で必ず聞かれることが、二人の関係性です。仲介する不動産会社の審査は通っても、大家(貸主)の審査で差別的な扱いを受けるといったハードルを感じた経験がありました」と話す。

しかし、つい最近家を探した時には、不動産会社のカウンターでも大家の審査でも、パートナーの関係性を話す必要性もなく、また審査で止められることもなく借りられたのだとか。「だいぶLGBTQの存在が認知され、そういうパートナーや家族の形がある、ということが浸透されてきたのではないかと感じます」と山田さん。

現在、妻、我が子と一緒に暮らす杉山さん(画像提供/杉山さん)

現在、妻、我が子と一緒に暮らす杉山さん(画像提供/杉山さん)

“安心材料”としてのパートナーシップ証明書

このようなLGBTQの認識の広がりは、2015年に渋谷区が定めた「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例(通称パートナーシップ条例)」による影響が大きいという。同区が発行するようになった「渋谷区パートナーシップ証明書」を皮切りに、続々と他の自治体も同様の証明書を発行するようになった。杉山さんは「証明書を発行したこと以上に、行政が前提条件として、セクシャル・マイノリティの存在を認めたことが重要」と話す。それ以来、特に企業でカスタマービジネスにおいて、「LGBTQコミュニティ」の存在を意識するケースが増え始めたという。

そしてこの証明書は、住まい探しにおいても効力を発揮する。「(証明書は)住まい探しにおける“安心材料”として機能している」と山田さん。実際、証明書によって、2人の関係を公式に証明することができ、住まい探しの際に不動産会社に一枚提出をするだけで担当者に多くを語らずにこちらの状況を説明することができる。“カミングアウト”や、精神的苦痛を伴う探り合いをしなくてもすむようになったことは大きい。

(画像/PIXTA)

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また冠婚葬祭のシーンでは、かつてはパートナーの家族の不幸に対して休みの申請さえしづらいこともあったが、忌引きの申請が可能になったなど、家族同様の配慮が証明書の存在で可能になった企業もある。

「異性のカップルが得られる保障と同じものを得られるのはありがたいこと」と山田さんは続ける。そして今後はこうした保障や経済的支援が手厚い企業を、LGBTQの人たちは積極的に働く先として選んでいくようになるだろうと話す。

求められる地方自治体への広がり

一方で、こうした証明書の発行はまだ一部の自治体のサービスに留まっている。この4月から、さらに13の自治体が同性パートナーシップ証明制度を導入しており、現在は都内7区1市を含む47の自治体が導入していることになる。しかし地方へ行くほどLGBTQの人たちが置かれている環境は厳しい。

地方では、地域コミュニティの関係性の深さから“世間体”という壁が立ちはだかる。カミングアウトしにくいといった基本的なことから、たとえ家族にカミングアウトして受け入れられても、世間体を気にする親を察して都会に出ていかざるを得ない人がいるというのだ。また、今後は親の介護の問題が発生しても、都会からパートナーを連れてUターンすることに抵抗を感じるLGBTQのカップルもいるといった話もある。

パートナーシップ証明書を発行する自治体が増えれば、場所に関係なく生活しやすい条件が増える。「こうした動きが進み、自治体の動きと民間企業の行動に変化が伴うことで、現在は戸籍上の男女間にしか認められていない婚姻制度など、最終的に法律の改正に進んでいけるのではないか」と杉山さんは話す。

こうした状況を鑑みると、地方における認識の広がりには、LGBTQという言葉の認知が広まるとともに、LGBTQの当事者ではないが、その人たちを支援すると意思を表明している、「アライ」が増えることが不可欠だ。

現在では、東京レインボープライドの趣旨に賛同した多くのLGBTQ当事者やアライ、企業が参加している(画像提供/東京レインボープライド)

現在では、東京レインボープライドの趣旨に賛同した多くのLGBTQ当事者やアライ、企業が参加している(画像提供/東京レインボープライド)

「アライ」とは、「LGBTQへの理解者・支援者」を指す。社会的にその存在は増えつつある昨今だが、LGBTQの当事者たちにとって、どのような付き合い方が求められているのだろうか。「みなさんがアライであるなら、
(自分がアライであるという)声は、どんどんあげてほしいと思います」と杉山さん。

「当事者に限らず、アライであるかどうかというのも、社会においては目に見えない。だからここにいる、という存在感を見せてほしいんです。(セクシャル・マイノリティを受け入れるのは)当たり前だと思っていても、あえてそのことを口にしない人が多いのですが、実際には、そう感じていることを伝えない限り、周りには見えないもの。まだまだ社会において当たり前になっていない今、ぜひ声をあげてほしいんです」

今年のパレードはオンラインで

新型コロナウイルスの影響で、大規模なイベントの中止が続く。ゴールデンウィーク直前の4月25日、26日に予定されていた「東京レインボープライド2020」も中止になった。だが、その代わりに、同日程で「オンラインパレード」が開催された。

パレード開催予定日だった4月26日の13~16時に、ハッシュタグ「#TRP2020」「#おうちでプライド」をつけて、SNSへ写真投稿を行うだけでパレードに参加できるという企画だ。さらに、25日と26日には代々木公園で行われる予定だったフェスに出演予定だったアーティストやゲストを招いて、オンライントークライブをTwitterで実施。視聴者は約44万人にものぼった。

26日には渋谷区の長谷部健区長のほか、菅大介(チェリオコーポレーション)、MISIA、水原希子、RYUCHELLもゲストで登場(敬称略、画像提供/東京レインボープライド)

26日には渋谷区の長谷部健区長のほか、菅大介(チェリオコーポレーション)、MISIA、水原希子、RYUCHELLもゲストで登場(敬称略、画像提供/東京レインボープライド)

26日には渋谷区の長谷部健区長のほか、菅大介(チェリオコーポレーション)、MISIA、水原希子、RYUCHELLもゲストで登場(敬称略、画像提供/東京レインボープライド)

26日には渋谷区の長谷部健区長のほか、菅大介(チェリオコーポレーション)、MISIA、水原希子、RYUCHELLもゲストで登場(敬称略、画像提供/東京レインボープライド)

LGBTQを取り巻く住居探しの環境は、少しずつ改善が見られる。次の課題は「住みやすさ」のようだ。東京レインボープライドのように、地域を巻き込んだ活動によって認知が広がりつつあるが、また限られたエリアだけのものだ。今後、その活動がさらなる広がりを見せ、LGBTQを含む「どんな人にとっても住みやすい社会」になることを願う。

●取材協力
東京レインボープライド

これからの気候変動リスクに備えた、災害に強い住まいの選び方

近年、気候変動リスクが高まる中で、想定外の「激甚災害」が相次いでいます。2019年に発生した台風15号や台風19号が猛威を振るったのは記憶に新しいところ。また2018年には「西日本豪雨」「北海道胆振東部地震」、2017年「九州北部豪雨」、2015年「関東・東北豪雨」、2014年「広島土砂災害」など、自然災害が頻発してきました。
標高の高い内陸部にも浸水の可能性がある?!

「浸水」や「洪水」というと、「江東5区大規模水害対策協議会」を協力して設置している墨田区・江東区・足立区・葛飾区・江戸川区や、海沿いの低地などがイメージされますが、浸水可能性のある地域は標高の高い内陸部にも存在します。そして、そうした地域にも一戸建てやマンション、アパートなどが当たり前に建設されています。

例えば、東京内陸部にある世田谷区の標高は25~50m程度と高いのですが、起伏が非常に激しく、ハザードマップを見ると、浸水可能性のある地域が多数存在します。

東京など都市部の場合、雨水の排水処理能力は1時間あたり50~60mm程度を想定していますが、それを超えて処理しきれない分は路上にあふれ出します。昨今のいわゆる「ゲリラ豪雨」と呼ばれる大雨は、時間当たりの雨量が100mmを超えることが少なくありません。こうした排水能力を超えた大雨に見舞われた際、排水路から雨水・下水があふれ出します。その結果、たとえ標高は高くても周辺の土地に比べて相対的に低い所に水が集中します。

東京・港区といえば、芸能人も多く住む、セレブに人気の街です。しかし、北西一帯の高台地と呼ばれるエリアにも、古川(金杉川)があり起伏に富んだ地形となっており、「後背低地」となっているところでは、地下水位が高く、周辺地より標高も低いため、排水性が悪く洪水などの水害を被りやすい地域もあります。地盤分類上も「谷底低地2、3」とされる地盤の軟弱層が3m以上の、比較的軟弱で地盤沈下の恐れがあり、地震動に弱いところもあります。有名な住宅地と呼ばれる地域でも、ハザードマップで2mの浸水が想定されているところは少なくありません。

不動産価格に反映されていない浸水リスク

不思議なことに、浸水可能性のある地域は、そうでないところと比べて、地価(不動産価格)に大きな違いが出ていません。その理由は、「多くの人がハザードマップなどの災害関連情報に無頓着だから」です。
宅地建物取引業法において、現状、不動産の売買・賃貸時に浸水想定区域などについて説明する義務はありません。情報開示の姿勢は取引現場によってまちまちです。浸水リスクが不動産価格に反映されたり、金融機関の担保評価に影響を与えていることはほとんどありません。

(写真/PIXTA)

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浸水リスクと同じく、「活断層の所在」や「地盤」「土地高低差」「液状化の可能性」「建物の耐震性能」なども物件価格に反映されていません。「自治体の防災意識」や「コミュニティの成熟度」も同様です。
不動産広告にもこうした項目は入っていませんし、売買契約書や重要事項説明書にも記載はありません。私たちは、日本の不動産市場はこの程度の成熟度で、発展途上の段階であることを、知っておく必要があります。

楽天損害保険は2020年から、住宅火災や水害、風災に備える火災保険で、国内損保で初めて、水害リスクに応じた保険料率の見直しを行うと発表しました。ハザードマップで洪水可能性などを考慮し、高台等にある契約者の保険料は基準より1割近く下げる一方、床上浸水のリスクが高い川沿いや埋め立て地等に住む契約者の保険料は3~4割高くします。こうした動きは今後広がっていくでしょう。
私たちは自ら水害をはじめとする土地のリスクを調べ、それに応じた対策を行う必要があります。今のところは浸水可能性のあるエリアとそうでないエリアの間で、価格差は見られませんが、やがては安全性に応じて天地ほどの差が開く可能性が高いでしょう。

地名で分かる?かつての土地状況

「土地の履歴書」ともいえる「地名」には、しばしば地域の歴史が刻まれています。例えば「池」や「川」「河」「滝」「堤」「谷」「沼」「深」「沢」「江」「浦」「津」「浮」「湊」「沖」「潮」「洗」「渋」「清」「渡」「沼」など、漢字に「サンズイ」が入っており、水をイメージさせるものは低地で、かつては文字どおり川や沼・池・湿地帯だった可能性があります。例えば渋谷駅周辺は、舗装された道路の下に川が流れており低地です。

内陸部でも「崎」の地名がつくところには、縄文時代など海面が高かった時代に、海と陸地の境目だった地域もあり、地盤が強いところと弱いところが入り組んでいる可能性があります。東日本大震災の津波被害で一躍注目を浴びた宮城県仙台市の「浪分(なみわけ)神社」は、1611年の三陸地震による大津波が引いた場所という言い伝えが残っています。

ほかにも「クボ」のつく地名は文字どおり窪地です。周辺に流れる川に過去、氾濫で水害に見舞われていないか注意が必要です。

目黒区には現在暗渠になっている蛇崩川(じゃくずれがわ)という河川がありますが、ここには大水で崖が崩れ、そこから大蛇が出てきたという伝説が残されています。大阪市梅田は「埋田」から転じたとされ、「梅」は「埋める」に通ずるようです。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

地名は「音」(読み方)で意味が分かる場合もあります。椿はツバケル(崩れる)で崩壊した土地を意味し、「桜」が「裂ける」を意味することもあります。

注意したいのは、近年になって地名が変更されたところです。戦後の高度経済成長期以降に開発された大規模宅地などでは、旧地名から「〇〇野」「〇〇が丘」「〇〇台」「〇〇ニュータウン」といった地名に変更されている場合があります。

東日本大震災に伴う津波に関し「津波は神社の前で止まる」とテレビで話題になったことがあります。福島県相馬市の津(つのみつ)神社には「津波が来たら神社に逃げれば助かる」という言い伝えがあり、近隣の人たちは、小さいころからその伝承を聞いて育ったそうです。実際3・11の東日本大震災の津波の際にはその教えに従い、神社に避難した50人ほどが助かりました。

地域にある法務局に行くと、該当地の「登記事項証明書」を一通600円で、土地所有者でなくても取得できます。そこには「田」「畑」「宅地」といった土地の用途区分が書かれています。現在は宅地に見える土地でも、過去をさかのぼれば田んぼだったかもしれず、そうなると地盤は軟らかい可能性が高くなります。

地元の図書館に赴けば、地域の歴史が刻まれた書籍が置いてあることが多く、それらを参照するのも有用かもしれません。また多くの自治体が地名の由来などについて、ホームページで紹介しています。

IPCC (気候変動に関する政府間パネル)第5次報告書によれば、地球の温暖化傾向は明白であり、陸域と海上を合わせた世界の平均気温は、1880年から2012年の期間に0・85度上昇したそうです。
世界気象機関は、80年代以降の世界の気温を10年単位で見ると、常に気温上昇の傾向が見られ、「この傾向は続くと予想される」と警告しています。
気象庁によれば、温暖化が最悪のシナリオで進行した場合、21世紀末に世界での台風発生総数は30%程度減少するものの、日本の南海上からハワイ付近およびメキシコの西海上にかけて猛烈な熱帯低気圧の出現頻度が増加する可能性が高いと予測しています。文字どおり「想定外」の、さらなる頻度や規模の風水害が来るとみたほうがいいでしょう。

2020年の不動産市場を読み解く3つのキーワードを発表!

1月の恒例企画、2020年の不動産市場について、さくら事務所会長の長嶋氏に予測いただきました。2020年の不動産市場はどうなるでしょうか。
キーワード1「さらなる災害リスク」

まずは「さらなる災害リスク」。2019年の台風15号や19号が国内各地に甚大な水害・災害をもたらしたのは記憶に新しいところですが、気候変動のトレンドは今後もさらにその趨勢を増し、海面温度上昇による大規模な台風の発生する可能性はますます高まっています。国連IPCC第5次評価報告書によれば、気候変動システムの温暖化には疑う余地はなく、気温、海水温、海水面水位、雪氷減少などが再確認されています。

浸水可能性のある地域ではその備えを。また不動産選びではリスクのあるところはなるべく避けるといった動きが顕著になるのではないでしょうか。現時点では義務化されてはいない「不動産売買・賃貸契約時にハザードマップの説明を義務付け」「災害リスクを金融機関の担保評価に織り込み」といった動きが出てくるかもしれません。

「災害可能性に応じた火災保険料率の設定」は必至で、例えば楽天損害保険は4月から「住宅が高台などにある契約者の保険料は基準より1割近く下げる。一方、床上浸水のリスクが高い川沿いや埋め立て地などに住む契約者の保険料を3~4割高くする」としています。

また「屋根工事」のやり方にも注目が集まりそうです。昨年9月の台風15号では、神奈川県の一部や千葉県の多くの地域で屋根が飛ぶなどの被害が続出。私は被災後の千葉県館山市の現地を見て回りましたが、被災の有無の分かれ目は「屋根工事が2001年8月以降か」だったようです。1995年の阪神・淡路大震災の被害を受け、6年後の2001年に、各業界団体合同で示された「瓦屋根標準設計・施工ガイドライン」に沿ったやり方で工事が行われていたかどうか、ということなのです。

巨大地震( 震度7 )に耐える目的で創られたこのガイドラインより前の屋根工事は、極端にいうと、ただ載っているだけのようなケースも多く、一定以上の風量には全く対応できません。ひとたび屋根が飛ぶと、それが周辺の建物の壁を貫通するなどの二次的被害も発生し、地域全体が悲惨な状況となっていました。自身が保有する建物の屋根は、いつごろの工事なのか、どのような基準に基づいて工事されたのか、確認しておきたいところ。さらには、周辺の建物の屋根工事の状況についても、現状把握をしておく必要があるでしょう。もちろん、2001年以降の工事であってもガイドラインを無視した工事もあるかと思いますので、どのようなやり方で工事を行ったのか、工事会社に確認してみましょう。

(画像/PIXTA)

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キーワード2「不動産価格のピーク感」

「不動産価格のピーク感」も鮮明です。2012年の民主党から自民党への政権交代以降、「都心」「駅近・駅前・駅直結」「大規模」「タワー」といったキーワードに象徴される物件中心に価格上昇を続けてきた新築マンション市場も、発売戸数は年々減少し、好不調を占う契約率も恒常的に70%を割り込むなど息切れ感。19年の首都圏新築マンション供給は3.2万戸の見込み(不動産経済研究所)も、2020年は3万戸を割り込む可能性が高いでしょう。供給は都区部や駅近・大規模・タワーマンションなどが中心となり、平均価格は横ばいかやや下落といったところではないでしょうか。新築マンションはもはや「高嶺の花」となり、こうした流れから中古マンション市場は過去数年のトレンド同様、好調が継続しそうです。

キーワード3「政治の動き」

政治にも動きがありそう。森友・加計問題でも揺らがなかった現政権も「桜を見る会」騒動や「IR=統合型リゾート」関連を巡る汚職事件では国民の関心も高く、内閣府支持率を大きく低下させています。国会の野党追及次第では、憲政史上最長の現政権も衆議院の解散・総選挙を決断する場面が出てくる可能性があるかもしれません。そうなると、長期政権だからこそ安定してきた株式市場や不動産市場にも悪影響は必至で、さらに「実質的な日銀による国債引き受け」といった現在のスタイルに懸念が示される展開となると、金利上昇など景気に悪影響を及ぼしかねない状況が生まれるかもしれません。金利上昇すれば当然不動産価格は下落に向かいます。

世界を見渡せば「ブレグジット」「香港デモ」「中東情勢」など世界には火種がいくらでも転がっており、世界の政治経済情勢はかつてなく不安定。有事となれば日本円やスイスフランのように通貨の強い国はデフレ、それ以外の国はインフレに向かう可能性が高く、これも国内不動産価格にはもちろん下落圧力です。「円高」「株安」「原油高」「金高」「仮想通貨高」「不動産安」といった展開です。

10月に実施された8%から10%の消費増税後、12月の日銀短観では企業の景況感を示す業況判断指数(DI)が、大企業製造業でゼロとなり、前回9月調査から5ポイント低下するなどありとあらゆる経済指標が悪化する中「台風の影響もあった。趨勢を慎重に見極める」としている政府ですが、そろそろ災害の影響を差し引いた情勢も分かるはず。本格的な景気悪化が鮮明となった場合、株価や不動産価格に影響が出るのは避けられません。

そんなわけで、今年の不動産市場は「大きなトピックがなければ横ばいまたはややマイナス」「世界の政治・経済情勢に大きな変化があれば大きくマイナス」になるものと予想します。

「災害対策」「マンション管理の重要性」「住まい選びの多様化」…2019年不動産市場を5つのキーワードで振り返る

2019年も残りあと数日となりました。今年の不動産界隈ではどのような出来事がおこったのでしょうか。さくら事務所会長の長嶋氏に、5つのキーワードで2019年の不動産市場を振り返っていただきました。今年は以下の5つのキーワードをピックアップしました。

【今年の注目5大キーワード】
キーワード1:災害とその対策
キーワード2:マンション管理の「質」に焦点
キーワード3:省エネ義務化 見送り
キーワード4:住まい選びはますます多様に
キーワード5:不動産価格は今がピーク?

詳しくみていきましょう。

●キーワード1:災害とその対策

台風15号や19号は国内各地に甚大な被害をもたらしましたが、浸水が発生したのはおおむね被害が想定されていた地域も多く、あらためて「ハザードマップ」の有効性がクローズアップされました。現在は不動産を売買・賃貸する際にハザードマップの説明をすることは必ずしも義務化されておらず、浸水可能性の有無を知らずに買ったり借りたりしているケースも。しかし今後の気候変動の趨勢(すうせい)を考えれば、法改正でハザードマップの説明が義務化される可能性は高く、また金融機関の担保評価項目に織り込まれることとなれば、資産価格への影響も必至だとみておいたほうが良いでしょう。

災害大国ニッポン。自身や家族の安全・安心のためにも、また不動産の資産性を守るためにも、ハザードマップの確認は必須。万一の際の避難場所の確認や防災グッズの準備も欠かせません。また、各地で大型地震の予測がされているほか、昨今は想定していなかった地域でも大型の地震が発生しています。「地理院地図」(国土地理院)などで、地盤の性質について確認しておくこともマストといえます。

●キーワード2:マンション管理の「質」に焦点(画像/PIXTA)

(画像/PIXTA)

主に1990年代後半から建設されてきたタワーマンションが続々と大規模修繕の時期に差しかかったこともあり、マンションの「持続可能性」に注目が集まりました。マンションの大規模修繕はおおむね15年ごとに行われますが、その原資となる修繕積立金の設定は、新築時に低めに設定されていたり、段階的な値上げを予定しているケースが多く、長期的な視野に立った修繕計画が大切です。一般的なマンションでは専有面積平米あたり200円程度の積立金が必要です。例えば60平米なら1万2000円程度の積み立てができているかということ。豪華な共用施設があるマンションやタワーマンションなどではもっとかかります。マンションへの永住意識が年々高まる中、購入者もマンションの持続可能性を見極め、所有者は管理組合運営に積極的にかかわるといった風潮が強まり始めています。

●キーワード3:省エネ義務化 見送り

2020年に一定の省エネ基準が義務化される予定であったところ、住宅などついては2015年に続いて見送りが決定されました。義務化された省エネ基準のない国は先進国では日本だけであり、世界的に見ればかなり後れを取っているといっていいでしょう。

しかし長期的に見れば、気候変動対策として、または「ヒートショック」などを防ぎ健康寿命を延ばすことを目的とした住宅省エネの追求は、やがて前進することになるはず。現行耐震基準にくらべて耐震性が低いいわゆる「旧耐震」の建物が、不動産取引や金融機関の融資、税制などで待遇に差があるように、やがて省エネ性の行程で、住んでいての快適性はもちろん、資産価格にも差がつく時代が来るでしょう。

●キーワード4:住まい選びはますます多様に

これまで住まいといえば「賃貸か持ち家か」といった2択でしたが昨今では、特定の住居を持たず定期的に居住地を移動する「アドレスホッパー」や、都心や地方といった複数の拠点を居住地とする「複数拠点居住」といった、新しいライフスタイルが台頭し始めています。

また「新築か中古か」といった2択も、ガス・電気・水道などのライフラインや構造躯体の性能を必要に応じて更新・改修したり、ライフスタイルに合わせ間取りや内外装を刷新する「リノベーション」の普及によってその境目もあいまいになってきました。

従来の常識や価値観にとらわれない多様な暮らし方は、今後もますます広がっていくでしょう。

●キーワード5:不動産価格は今がピーク?(画像/PIXTA)

(画像/PIXTA)

国内最高価格を誇る銀座4丁目の交差点周辺の地価上昇率は2017年にピークを迎え2018年、2019年とその上昇率が鈍化。このペースでいくと2020年のその上昇率はほぼゼロないしはマイナスに転じそうです。2012年12月の民主党から自民党への政権交代以降、株価が上昇するのと同様に、都心部・都市部を中心に上昇を続けてきた国内不動産価格も潮目が変わる可能性が高いでしょう。

「不動産投資家調査」(日本不動産研究所)においても、2020年が不動産価格のピークとみる向きが多いようです。

また東京より不動産価格の高いロンドンや香港・上海・ニューヨークなどの米主要都市も、米中貿易戦争やブレグジット、香港デモといった世情を受けピークから下落が鮮明。東京都心部から始まった不動産価格の上昇は転換期を迎えそうです。

【最後に】

歴史を振り返れば、元号の変わり目には大きな社会変化が起きてきました。大正から昭和に変わった翌年には最大商社(鈴木商店)が破綻、2年後に世界大恐慌へ。昭和から平成となった年末に株価は4万円近くのピーク、翌年の大発会で大崩れし、その後戻ることはありませんでした。数年たち「あれがバブル崩壊だった」と気づきます。

「歴史は繰り返さないが、韻を踏む」というマーク・トウェインの言葉がありますが、1990年バブル崩壊から衰退の30年を経過した今、社会には30年サイクルがあるように思えます。1960~1990年はいわゆる戦後を脱し「モーレツ」な高度経済成長。1930~1960年は恐慌から戦争へと突入し敗戦とその処理。1900~1930年は日清・日露戦争に勝利し先進国の仲間入り。さらに30年前は明治維新です。

いま、世界の債務は2京円を超え過去最大。ブレグジットで揺れるEU、多額のデリバティブ商品を抱えるドイツ銀行、米中貿易戦争、香港デモなど、世界の金融システム、ひいては政治経済を大きく揺るがす可能性のある火種はいくらでも転がっています。

思えば1990年のバブル崩壊、2000年初頭のITバブル崩壊、2008年のリーマン・ショックと、金融ショックはおよそ10年ごとに起きてきました。前回リーマン・ショックの際には、米国政府がファニーメイやフレディーマックといった住宅系金融機関に公的資金を投入したところ批判が相次ぎ、民間金融機関であるリーマンブラザースを放置したところあのような事態となりました。リーマン・ショックから10年あまり、2020年以降の金融システムに変調があるか、着目しておきたいところですね。

台風被害からみえてきた、災害に備えた家づくり

台風15号や19号は、全国各地に大きな被害をもたらしました。神奈川県の一部や千葉県では、建物の屋根が飛び浸水するなどの事例が多数確認されています。
屋根が飛んでも一部損壊? 困難を極める罹災証明の発行作業

筆者は台風15号の後、被害の大きかった千葉県館山市に赴き、家屋の被害状況を調査し被害状況に応じて「全壊」「大規模半壊」「半壊」「一部損壊」等を認定・証明する「罹災証明」を発行する自治体職員に同行しましたが、その作業は困難を極めるものでした。現地に赴く役所の職員は必ずしも建物の専門家ではない中、各部位について5段階で評価を行うのですが、評価は担当者によってばらつきがありそうです。また、ただ屋根が飛んだだけでは「一部損壊」ですが、現実には屋根がなければ生活はできないため、政府が要件を緩和し、屋根が吹き飛んだといったケースでも「半壊」とみなすこととしたのは幸いでした。

1995年の阪神・淡路大震災を受け、2001年に業界団体連合会が発行した「瓦屋根標準設計・施工ガイドライン」に準拠した建物であったかどうかが今回、屋根が吹き飛ぶといった被害の分かれ目だったことが、全日本瓦工事業連盟・全国陶器瓦工業組合連合会 合同調査チームの被害視察で分かっています。

そしていくつかの被災現地では、高額な、あるいは不要な修繕費用を請求されたり、建物が十分に乾かないまま修繕を行うことでカビが発生するなどの2次的被害も起きているようです。

タワーマンションでも発生した思わぬ被害

河川が決壊する、処理しきれない雨水で浸水するといった被害は全国各地で発生。タワーマンションの建設などで発展著しかった武蔵小杉のタワーマンション10数棟のうち2棟は、排水管からの逆流などで地下階にある電気関係設備が浸水し、各戸の電気はもちろん、エレベーターが使えない、水道ポンプが被災したことから水やトイレも利用できないといった状況が続きました。

武蔵小杉駅周辺や、多摩川周辺はハザードマップで浸水の可能性が指摘されていました。多摩川はもともと大きく蛇行しており、それを直線に付け替えつつ堤防を整備してきた経緯があります。そうしてできた土地に工場がたち、企業の廃業などで土地が売却されそこにタワーマンションが建ち並ぶといった、土地利用履歴の変遷がありました。

被害を受けやすい建物の特徴とは?

これからの不動産選びでは、ハザードマップの確認はもちろん、現状に応じた対策が必須となりましたが、ここでは、台風などで被害を受けやすい建物の特徴をあげてみます。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

●1階が「半地下」

低層の住宅が建ち並ぶ地域では、より大きな建物を建てる、階数を稼ぐといった目的で、あえて土地を掘削し、地盤面より低い半地下の部屋が設けられていることがあります。高台にあり自然に排水できればいいのですが、通常は生活排水を問題なく排水できていても、台風などの豪雨時には下水道管からの逆流や道路側からの雨水の流れ込みによる浸水被害が発生するおそれがあります。排水ポンプが設置されていたとしても、ポンプの処理能力を超える水には対応できず、万一停電になれば稼働もしません。半地下部分にトイレがあれば、排水が逆流を起こす可能性も高まります。半地下の居室であれば水圧でドアが開かなくなるといった事態も考えられます。

●屋根に「軒」がない

軒(のき)とは「外壁より外に突出している屋根部分」のことです。昨今は、デザイン上の理由から、あるいは敷地が狭いなどの理由で軒が少ない、あるいはまったくないといった「軒ゼロ建物」が散見されますが、軒がないとどうしても、横殴りの暴風雨などの場合には雨漏りしやすくなります。これといった対処方法はありませんが、屋根裏の点検口をのぞくなどして、雨漏りがないかの定期的な点検をお勧めします。

●サッシに「雨戸」がない

最近では外観上の理由から、またはコストダウンの観点から、雨戸を設置していない建物も多いのです。暴風で飛来物に遭遇した場合、雨戸があれば一定程度被害を防ぐことができますが、ガラスだけでは被害を防ぐにも限界があります。前述した工事ガイドラインに基づかない屋根瓦が周辺から飛んでくるとひとたまりもありません。シャッターや雨どいを後付けしたり、ガラスの破片が散らばりにくいフィルムを張るなどの対処方法が考えられます。

●バルコニーに「オーバーフロー管」がない

「オーバーフロー管」とは、万が一排水口が詰まったり、想定以上の雨で排水しきれないときのための2次的な排水口のこと。雨水が室内側に溢れてくるのを防ぐために、サッシより下部に設置されている必要があります。後からオーバーフロー管を取り付ける場合には、工事方法や取付位置に十分な注意が必要です。

●メンテナンス不足でバルコニーや屋上の防水機能が著しく劣化している。

バルコニーや屋上は「FRP防水」「ウレタン防水」「シート防水」「アスファルト防水」といったさまざまな手法で、雨水の浸透を防ぐ工事が行われていますが、劣化が進行したり、暴風雨などで棄損していると、そこから雨水が流れ込み建物内部を傷めます。防水の耐久年数はその工法によって10~20年とまちまちですが、定期的な点検と必要に応じた補修が欠かせないのです。

いかがでしたでしょうか。年々高まる気候変動リスクに備え、これから家を建てる方も、すでに買って住んでいる方も、万が一の備えはできる限りしておきたいところですね。

地震の備えは建物だけじゃダメ! 地盤対策で安心な暮らしを

家を購入・建てるときに耐震性を重視するのは当たり前になりつつありますが、それと同じくらい大切な地盤についてもご存じでしょうか? そこで今回は、地盤を調べる簡単な方法や最新の調査方法などについて、さくら事務所会長の長嶋氏に解説いただきました。
大地震の経験を経て見直されてきた耐震基準

建物の耐震性には、戦前から大都市のみを対象に規定があり、全国一律の基準が設けられたのは1950年にできた建築基準法によって。それ以降、大地震の経験などをふまえて順次、耐震基準は見直されてきました。

なかでも最も大きな見直しとなったのが、1981年の「新耐震設計基準」導入。1995年の阪神・淡路大震災でも、ビルやマンションなどRC(鉄筋コンクリート)造については、建築時期がこの「新耐震設計基準」の前か後かで、建物被害に差が出ました。「新耐震設計基準」を満たしていれば、人命を損なうような倒壊は基本的に防げるとされています。

中古住宅の耐震性は、マンション・一戸建てとも、まずはこの「新耐震設計基準」を満たしているかどうかが重要。建築確認申請の日付が、1981年6月1日以降かどうかを確認してみましょう。ポイントは、建物が竣工した日付ではなく、あくまでも建築確認申請の日付を見ることです。

ところで、建物の耐震性と同様に、あるいはそれ以上に大事になるのが、建物が建つ「地盤」。どんなに頑丈な建物でも、そもそも地盤が弱く揺れやすい土地に建っていては、建物の耐震性もその効果は十分に発揮できないのです。実証的なデータはありませんが「地盤の弱い土地に建つ新耐震建物」と「地盤の強固な土地に建つ旧耐震建物」では、後者のほうが地震に強いものと思われます。

そこで、自分が住んでいるところ、これから買おうと思っているところの地盤を調べる簡単な方法をいくつかお教えします。

水をイメージさせる地名は地盤が柔らかい可能性が!

まずは「地名」。「池」や「沼」「沢」「津」など漢字に「サンズイ」が入っており、水をイメージさせるものは、低地でかつては文字どおり沼や池だった可能性があります。「川」「堤」「谷」といった、水辺や低地をイメージするものも同様。例えば渋谷駅周辺は、舗装された道路の下に川が流れており低地で、地盤も弱いのです。

(画像/PIXTA)

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内陸部でも「崎」の地名がつくところには、縄文時代など海面が高かった時代に、海と陸地の境目だった地域もあり、地盤が強いところと弱いところが入り組んでいる可能性があります。注意したいのは、近年になって地名が変更されたところ。例えば戦後の高度経済成長期以降に開発された大規模宅地などでは、旧地名から「〇〇〇野」といった地名に変更されていることがあります。
所轄の法務局に行くと、該当地の「登記事項証明書」を、一通600円で土地所有者でなくても取得でき、そこには「田」「畑」「宅地」といった土地の用途区分が書かれています。現在は宅地のように見える土地でも、過去をさかのぼれば田んぼだったかもしれず、そうなると地盤は柔らかい可能性が高くなります。

インターネットで「国土地理院地図」を見れば、戦前までさかのぼって空中写真・衛星画像が確認できますので、時代ごとにどのような土地の使われ方をしてきたのか分かるうえ、地盤の固い「台地」なのか、それとも軟弱地盤の「低地」なのかが地図上で確認できます(ベクトルタイル提供実験―自然地形)。ただしこの地図は250メートルメッシュの大雑把なものであることに注意してください。
個別具体の地盤の状態を知るには「地盤調査」が必要になります。「ボーリング調査」「SS」(スウェーデン式サウンディング)試験といった方法で地盤の固さを調べます。中古住宅購入を検討するならこうした地盤調査データがあるか尋ねてみるとよいでしょう。また、新築一戸建てを建てる際には、建築基準法によって、地盤調査が事実上義務付けられているため調査結果は必ず参照することができます。

地盤の「揺れやすさ」を測定する新技術が登場

ただしこうした地盤調査にも一定の限界があるのです。従来型のこうした手法はあくまで地盤の「固さ」を測定するものであり「揺れやすさ」は分からないのです。そこで近年登場したのが「微動探査」というもの。

2016年の熊本地震では震度7の大地震が2回発生。住宅の全壊が8637棟、半壊は3万4726棟など、甚大な被害が発生しました。この地震では、わずか数十m離れたエリアで住宅の被害が大きく異なる現象がみられました。全壊している建物が多いエリアと、被害の小さい建物が多いエリアが隣り合っていたのです。原因は各々の地盤の「揺れやすさの違い」によるものでした。

これから新築一戸建てを建てる方や、自宅土地の地盤の揺れやすさを知った上で耐震改修を行いたい方にはおすすめの技術です。どんな地盤か分かっていれば、どんな改良策を取れば被害を小さくできるかが事前に検討できます。

地盤の「固さ」を測定する地盤調査と、地盤の「揺れやすさ」を測定する微動探査(図表/地域微動探査協会HP)地域微動探査協会HPより。

地盤の「固さ」を測定する地盤調査と、地盤の「揺れやすさ」を測定する微動探査(図表/地域微動探査協会HP)地域微動探査協会HPより

政府の専門家委員会によれば、今後30年以内にM8~M9クラスの南海トラフ地震が70~80%、首都直下型地震はM6.7~M7.3クラスが70%の確率で起こると予想していますが、近年ではこうした予想の範囲外でも大規模地震が起きています。いざというときのための備えをしておくことはとても大切ですね。

空き家になった実家、どう管理したらいい?

日本では年々空き家が増え、大きな問題になっています。空き家になった実家を相続したものの、どのように管理したらいいのか悩んでいる方も多いのでは?
空き家が身近になった今だからこそ、実際に空き家を管理する立場になった場合に気を付けること、そして売ったり貸したりしたいと思ったときの注意点などについて、さくら事務所会長の長嶋氏に解説いただきました。

空き家対策法の全面施行で何が変わる?

これから本格的な人口・世帯数減に突入する日本で、空き家が大幅に増加するのは既定路線。総務省の「住宅・土地統計調査」によると、全国の空き家は2018年時点で846万戸、空き家率は13.6%と過去最高を更新しました。さらにおよそ15年後の33年には空き家数が2000万戸を超えるといった民間シンクタンクの予測も。

こうした見通しを受け、2015年5月には「空き家対策法」(空家等対策の推進に関する特別措置法)が全面施行されました。倒壊等著しく保安上危険となるおそれがある、などいくつかの項目に該当するとみなされ、「特定空き家」に認定されたら大変。普通の住まいの場合6分の1に減額されている固定資産税がその特例を受けられなくなります。また、屋根や外壁が落ちる、害虫や犯罪の温床になるなどして周囲に迷惑をかけるどころか、歩行者にケガをさせるなどの懸念も。建物というものは、放置しておけばおくほど傷みます。6カ月も放置された建物は、主に換気が不十分であることなどから、そのままでは住むことができないほど劣化します。あまりに劣化が激しくなると、「売る」「貸す」といった処分もできなくなります。

すでに空き家を抱えている方、あるいはこれから空き家を所有することになる方はどう考え、どう行動したらよいのでしょうか。

空き家を売却したり賃貸する場合に気を付けたいこと

一番のおすすめはズバリ「売却」。都心や都市部の一等立地以外、大半の地域は住宅価格の下落が予想されています。特に都市郊外のベッドタウンなどは、住宅価格が年3~4%下落してもおかしくはありません。特段利用する予定がなければ、できるだけ早期に売却するのが良いでしょう。売値は「今」がいちばん高いはずです。

まずは不動産仲介業者に査定を依頼します。査定だけなら基本は無料です。相場観をつかむためにも2、3社に依頼するのがよいでしょう。

(写真/PIXTA) 

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その中で、ことさら査定価格が高いものは省きます。これは、査定価格を上げることで売却の依頼を受けようとする意図が見えるためです。不動産市場には相場というものがあり、その相場価格より飛び抜けて高い価格で売れるということは基本的にないと思ってください。残った業者のうち「査定価格の根拠が明確に示されているか」「購入者のターゲット、販売の戦略は示されているか」などを参考に売却依頼先を決定します。

売却依頼の契約にはおおまかに言って、1社だけに依頼する「専任媒介」と、複数社に依頼する「一般媒介」があります。原則としては専任媒介がよいでしょう。売主からの仲介手数料を事実上約束してもらえることで、不動産仲介会社も積極的に動きやすくなります。専任媒介であっても、他社も物件を紹介することができるので、購入者を見つけてくれることもあります。

「駅から近い」「建物が比較的新しい」「価格競争力がある」などいわゆる売れ筋物件の場合にはあえて一般媒介として、健全な競争を促すといったやり方もいいでしょう。

もちろん、いろんな理由で空き家を処分するのが難しいケースがあるのも分かります。「荷物が残っている」「思い出が残っている」「相続でもめている」などなど。しかし、そうした問題も含めて早めに解決してしまったほうが経済的には得策ですし、のちのち苦労することもありません。

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次に「貸す」といった方法がありますが、これは駅近マンションや、一戸建てで需給が逼迫(ひっぱく)している地域などで検討できる選択肢。貸すとなると多くのケースで一定の修繕・リフォームが必要になります。必要なリフォーム費用の見積もりを取り、コストの投資回収期間を計算してみましょう。例えば200万円のリフォームをした場合、家賃8万円なら年間家賃収入96万円と、2年強で投資額を回収できる計算(賃貸管理料〈家賃の5%程度〉、マンションなら管理費や修繕積立金、固定資産税の支払いなどは含まず)になります。そのうえで、賃貸に回すことがはたして割に合うか、冷静に見極めたいところ。空室率や経年による家賃の下落、修繕費用の負担も織り込む必要もあるでしょう。周辺の賃料相場などを調べつつ、シミュレーションしてみましょう。

管理が難しい場合は、空き家管理サービスを利用するという選択肢も

いまのところ予定はないものの、将来は自分や親族が住むかもしれない、といった場合の選択肢として「空き家のまま管理する」といった方法も考えられます。空き家の管理には 建物や敷地内の見回り、ポスト周りの清掃、室内空気の入れ替えなどが定期的に必要です、自分でできない場合は「空き家管理サービス」を利用する方法もあります。月に1回の頻度で5000円から1万円程度が相場です。該当地域でこうしたサービスの提供事業者がいるか調べてみましょう。

最後に、自身や親族が「空き家に住む」といった場合。耐震診断や耐震改修、バリアフリーや省エネリフォームについて、多くの自治体が補助金や助成金を用意していますので確認しましょう。こうした助成金制度や減税制度などに詳しいリフォーム会社を選ぶと、なお安心。複数社から見積もりを取り、その中身をよく見比べてみたいところです。その際のコツは「同条件で見積もりを取ること」「記載内容が大雑把でないこと」など。記載内容については、住宅リフォーム推進協議会の「標準契約書式」と同レベルのものが望ましいでしょう。

いずれにしても大事なのは、空き家をどうするか、早めに意思決定すること。時間が経過するほど周囲にライバルの空き家は増える一方だからです。なんとなく意思決定を先延ばしにしたまま放置する、あるいは相続でもめて動けないというのが最も悪いパターンです。自身や家族・親族にとっての最適解を見つけてください。

s-長嶋修_正方形.jpg長嶋 修  さくら事務所創業者・会長
業界初の個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクション(住宅診断)を行う「さくら事務所」を創業、現会長。不動産購入ノウハウの他、業界・政策提言や社会問題全般にも言及。著書・マスコミ掲載やテレビ出演、セミナー・講演等実績多数。【株式会社さくら事務所】

あなたの家は大丈夫? 台風やゲリラ豪雨災害に備えよう

近年、大型台風やゲリラ豪雨が原因で浸水被害に遭う家が増えています。被害に遭わないためには、浸水の恐れがある立地や建物の形などについて正しい情報を知ることが大切。危険な建物の見分け方や、どんなことに気を付けたらいいのか、さくら事務所会長の長嶋氏に聞きました。
標高が高いところでも浸水の可能性はある

2019年6~7月にかけて、南九州では総雨量800mmを超える豪雨に見舞われました。2018年7月の豪雨では、広島県、岡山県、愛媛県など西日本を中心に大規模な土砂災害や浸水が発生し、12府県で死者数が130人。防災白書(内閣府)によると、2004年10月の台風23号、2011年8~9月の台風12号による豪雨で、それぞれ98人の死者・行方不明者が出ています。

「浸水」といえば、海沿いや低地などをイメージしますが、実は内陸部の比較的標高が高いところでも起こりえます。例えば東京都世田谷区の標高は30~35mですが、ハザードマップを見ると、2m以上浸水する可能性のある地域がたくさんあります。

その原因は「ゲリラ豪雨」や「長時間にわたる降雨」。都市の雨水排水能力は一般的に50~60mm/ 時間を目安として設定されていますが、ゲリラ豪雨などは100mm/ 時間を超えることもあります。いくら一定の標高があっても、排水能力が追いつかなくなれば、水は低いところに流れますから、周辺地に比べて相対的に低い地区に水は集中してしまうわけです。

にもかかわらず実際に現地に行ってみると、こうした地域に普通に建物が建っていたりします。洪水を予測して基礎を高くするなどの工夫が施されていればまだマシですが、100mm以上のゲリラ豪雨的な大雨に見舞われたら浸水確実と思われるものがたくさんあります。
さらに、いわゆる「半地下物件」の一戸建てやマンションすら散見されます。半地下物件とは、土地を掘削し地盤面より低いところに1階部分があるような建物のこと。住宅地は建物の高さが制限されていることが多く、そうした地域で建設される一戸建てや、販売戸数を稼ぐ意図で建設されたマンションなどが典型的です。

このような半地下物件では一般的に、数万円のポンプで排水処理を行うため、浸水リスクはこのポンプの処理能力に依存します。そもそもポンプが壊れたり、停電で止まってしまったら排水不可能になるでしょう。

不思議なことに、こうした浸水可能性地域は、そうでないところと比べて、地価にさほど違いがないことが多いのです。というのも、浸水や土砂災害など防災等の情報や過去の取引履歴をはじめとする各種不動産情報は、国、都道府県、市区町村、法務局、上下水道局など多様な情報保有主体に分散しており、個別の物件に関する情報を幅広く調べることが困難なためです。ハザードマップなどのネガティブ情報は、親切な不動産業者であれば説明するものの、法律上は説明義務がありません。

ハザードマップで浸水可能性を探ることや、自治体に直接赴いて浸水履歴を確認することは必須と言えるでしょう。

災害に対する保険や防災対策の検討も

水害に、金銭的に備えるためには火災保険の「水災補償」があります。水害はもちろんのこと、竜巻、台風の強風、雷、雹(ひょう)などが対象。雪の重みで屋根がつぶれるなどの被害も補償実績があります。ただしオプション契約なので、これから保険に入る場合、すでに保険に入っている場合もよく確認しましょう。

(画像/PIXTA)

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台風や水害で慌てない防災対策としては例えば「風雨で飛ばされそうなものを固定するか、室内にしまう」「雨戸やサッシのコンディションを確認する」「敷地内の排水溝や雨水ます、周辺の側溝などにつまりがないか確認し必要な場合は掃除をする」「避難用の備品として懐中電灯、ラジオ、救急用品、飲食物、衣類等、現金、通帳、身分証明書、印鑑、貴重品などを確認しておく」などが考えられるでしょう。いざというときにどこに非難するかの想定をしておくことも大切です。

マンションの場合、電源やボイラー、インターネット設備などが浸水すると使用不能になる恐れがありますし、防災用品や車庫が地下にある場合も同様です。床上浸水の可能性のある地域では、管理人室の書類や備品を避難させる必要もあるでしょう。

泥かきのためのスコップや長靴、浸水を防ぐ土嚢(どのう)などの準備も検討したいところ。こうした備品をリスト化したうえで、いざというときにどのような行動をとるのかマニュアルを整備しておくと安心です。
土嚢といえば、土を入れるのではなく、水に浸して数分で膨らむタイプのものがあります。他にも止水板などを検討してもよいでしょう。

水害などの災害は、いつ巻き込まれるか分かりません。いつ襲われても大丈夫なように災害の可能性に見合った準備をし、いざというときに慌てないように備えておきたいところですね。

「賃貸で家賃交渉ができるって本当ですか?」 住まいのホンネQ&A(9)

一生賃貸、というライフスタイルも増えつつある昨今。しかし「ただ家賃を払い続けるより、購入するほうがいいのでは」――。長年、賃貸暮らしが続くと、こんな考えが頭をよぎることがあるのではないでしょうか。今回は少しでもお得に賃貸住宅に住むための裏技「家賃交渉」について、さくら事務所会長の長嶋修氏に聞きました。
あなたの「家賃」、本当に適正?

「家賃を払い続けるのはもったいない」といった言説に出くわしたとき、確かに家賃は毎月家計から消えてなるものであり「ならばマイホームを買った方がいいのではないか」と考えるのは分からなくもありません。そんな時目にした「月々、家賃並みの支払いでマイホームが買えます」といったキャッチコピーに惹かれるといったパターンが多いのではないでしょうか。2年に一度の更新料を支払う時期が迫ればなおさらです。

「賃貸」か「持ち家」か。この永遠のテーマをいざ真剣に検討し始めると「歳をとったら賃貸を借りられなくなる」とか「低金利の今が買い時」「2020年以降不動産価格は下がる」「人口減少で空き家が増える」といった様々な情報が巷に飛び交い、何を基準に意思決定をすればわからなくなっている方もいるはずです。

しかしちょっと待ってほしいのです。そもそも、今あなたが借りている賃貸住宅の家賃は「適正」なのでしょうか。実は、相場より高い家賃を払っていることが多いものです。

家賃というものは一般に、新築時に最も高く、経年によって減価していきます。減価率は立地や物件種別によってさまざまですが、一般に月に1パーセント程度、年10パーセント程度とみておけばよいでしょう。例えば新築時に家賃20万円だったところに住んでいれば、毎年2,000円ずつ減価していき、10年後の家賃は18万円、20年後は16万ということになります。もちろん期間中に景気が悪化したり、周辺物件に空室が増加したりすれば、もっと下がるケースも出てきます。

筆者は職業柄「レントロール」を見ることがあります。レントロールとは「家賃表」のことで、そのアパートに入居している人たちが、いつ、いくらの家賃で入居したかがわかるものですが、これを見ると、同じアパートでも各戸の賃料は異なり、それは見事に「入居時期」に比例するのです。例えば新築時からずっと入居している人はずっと10万円を払い続けているものの、12年目に入居した人は8万5000円であるという具合です。つまり長く入居しているほど、相場より高い家賃を払っているということになります。

賃貸でも、更新時期の家賃交渉は「アリ」

そこで筆者がおすすめしたいのが「家賃がもったいないからマイホームを」と考える前に「家賃交渉」をしてみることです。これは、2年に一度の更新時期に行うのがよいでしょう。更新が近づいたらその数か月前に大家さんから、あるいは賃貸管理会社を通じて「更新の通知」が来ます。この時に、周辺の賃料相場を調べてみましょう。自分が借りているアパートと同程度の駅や間取り、築年数の物件が、いくらくらいで貸し出されているか、SUUMOなどで検索してみるとよいでしょう。サンプルが少なければ周辺駅も探してみます。平米数にばらつきがある場合は「平米あたりの賃料」で比較してみるとよいと思います。

そこで、自分が今払っている賃料が、現行相場に比べて高いと感じたら、率直に交渉するとよいです。その際には、事前に調べた家賃相場などの根拠も提出するといいですし、あくまで誠意をもって交渉を進めることが大切です。

家賃交渉は大家にもメリットが?

大家さんの立場に立って考えてみましょう。もし今あなたに退去された場合、建物を修繕して入居者を募集し入居者が決まり、実際に家賃が発生するまでは少なくとも数か月はかかります。しかも次の入居者からもらえる賃料は現行相場に合わせる必要があり、いまあなたが払っているより安くなるケースがほとんどでしょう。ならば、多少家賃を下げてでも、あなたにそのまま住んでもらった方が、入居付けの手間や不安もなく、むしろそちらの方がいいと考えるはずです。

むろん、こうした根拠がなかったり、法外な、あるいは強引な賃料交渉ではいくら値下げを希望しても、通りにくいと思います。大家さんだって賃料相場は理解しているし、何より人の子です。入居させていただいている日頃の感謝を書面などで示しつつ、調べたデータを基にして賃料交渉するのがよいでしょう。

こうした賃料交渉に関して、大家さんの対応は千差万別。前述した理屈で交渉通りの家賃減額を勝ち取れることもあれば、要望より少し高いところでどうかと再交渉となる場合もあるし、中には全く交渉に応じないというケースもありえます。そうした回答を得たうえで、再度こちらが判断すればよいということです。

筆者の知人で、築浅物件を好景気の時に37万円で借りていたものを、景気低迷時に2年ごとの家賃交渉を行い、15年経過後の現在は22万円程度にまで賃料値下げに成功しているケースもあります。まずは現在住んでいるエリアの家賃相場を調べることから始めてみましょう。

「変調」の1年? 2019年の不動産市場を読み解く4つのキーワード

2019年が始まってはや1か月が過ぎようとしています。1月の恒例企画として、2019年の不動産市場を予測してみたいと思います。高止まりしていた中古マンション価格の下落や消費増税など、今年は一言でいえば「変調」の1年といえそうです。
キーワード1「株価動向」:都心部の中古マンション価格と連動、今後は下落傾向に?

まずは誰もが気になる不動産価格。この価格の変動の波は、まず東京都心部から始まります。それがやがて23区に広がると同時に、神奈川・埼玉・千葉県へと波及していきつつ、札幌・名古屋・大阪・福岡圏などへ影響を与えるといった流れです。

そしてとりわけ都心部の中古マンション価格は、株価に敏感に反応します。昨年末から変調をきたしている株価は現在、2万円前後(1月7日時点)で推移していますが、この水準だと、都心3区(千代田・中央・港区)の中古マンション成約平米単価は、15~20パーセント程度割高であるといえます。

新宿・渋谷・品川・港区あたりも同様です。新築マンションは、デベロッパー(売主)が価格をコントロールしているためすぐには反応しません。したがって2019年の不動産市場動向を占うのは、株価動向を予測するのとほぼ同義です。

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先進各国の不動産市場を見ると、明らかに減速感が漂っています。要因は各国様々ですが、共通するのは「株式市場の変動性」「金利上昇」「金融引き締め」「マネーロンダリングへの取り締まり強化」「政府の規制強化」「新興国からの資金流出」「米中貿易戦争などで出金制限から中国人投資の減少」など。マンション価格が東京より高かった、バンクーバー・ロンドン・香港・シンガポール・シドニー・米主要都市・北京・上海など軒並み頭打ちから下落傾向が鮮明となっています。

2012年の民主党から自民党への政権交代以降、右肩上がりで上昇を続けてきた都心部のマンション価格ですが、どうやらこのあたりが天井かもしれません。むしろ株式市場の局面が大きく変わらない限り、下落傾向が見えてくるのではないでしょうか。とはいえ、先進各国の主要都市に比して出遅れ感のあった東京都心部の不動産価格は、その下落幅も限定的であるとはいえるでしょう。

キーワード2「3極化」:不動産価値の3極化は続く

以前にお話しした通り、不動産市場の「3極化」はますます鮮明なものとなります。「価値が落ちない・落ちにくい不動産」「ダラダラと下落を続ける不動産」「無価値・マイナス価値の不動産」といった具合です。

今年7月には統計局の空家調査(住宅・土地統計調査)の結果が公表されますが、この時おそらく全国の空き家数は1000万戸を超え、空家率は17パーセント程度になっているはずです。「都心」「駅近・駅前・駅直結」「大規模・タワー」といったワードに象徴されるマンションは強い一方、「駅から遠い」など利便性が相対的に劣る不動産ほど極端に弱くなり、都市郊外でも一部では「いくらで売り出しても売れない」といったものも出てきそうです。

空き家問題といえば、これまでは一部地方の問題と受けとられてきた節もあります。しかし今後は、高度経済成長期に、団塊世代を中心として人口ボリュームゾーンが一挙に高まった、かつてのいわゆる「ベッドタウン」と呼ばれるところで、人口減少に見合う流入のないところは、かなり厳しそうです。

なぜこれほどまでに、駅からの距離など「利便性」が重要視されるのか。ひとつは30代以下の若い世代の自動車保有率が低下している点です。基本的に彼らは、徒歩圏内で生活ができる環境を求める傾向があるようです。

さらには、共働き世帯の割合が年々増加傾向にあり、彼らのライフスタイルにおいても利便性が重視されています。共働きで小さなお子さんがいる家庭、かつ通勤に使う駅と保育園が離れている場合などでも、クルマで保育園まで送り届けて、家にクルマを戻し、そこからまた徒歩で駅に向かうのは時間的に難しいものがあります。駅前にクルマを停めようにも、首都圏近郊では駅前に駐車場がないケースや、あっても高額であるケースも少なくありません。そうなると、クルマ自体を持たない前提でライフスタイルを設計するケースが多くなるようです。

単身の若い方であっても、駅からの距離が短い物件を求める傾向が強くなっています。「空間」や「快適性」よりも「時間」を重要視する傾向が若い世代を中心に強まっているのです。

キーワード3「金利動向」:低金利のうちに固定金利に借り換えを

住宅購入に大きく関わる金利。2019年はさしあたって金利が大きく上昇する環境にはなさそうです。

ただし、住宅ローンは最大35年という長期にわたって支払いを続けるもの。住宅金融支援機構の「2018年度 民間住宅ローンの貸出動向調査結果」によれば、2017年度の民間住宅ローン平均完済期間は15.2年とのことですが、そうだとしても15年先の金利動向を見通せる人などいないはずですが、現在より上がっていると考えるのが自然でしょう。

「住宅ローンを組んでマイホーム購入を」とお考えの方、すでに住宅ローンを組んでいる方には、低金利の今のうちに固定金利への借り換えをお勧めします。とはいえ相対的に金利が低い変動金利は、毎月の支払額が少ないことや、残金の減りが早いなどの魅力もあります。

この魅力を享受するには、住宅ローンの金利を、いざ金利が上昇を始めたらすぐに固定金利に切り替えることができればよいはず。しかし金利決定の仕組み上、固定金利が上昇を始めた時にはすでに変動金利は上昇しているものです。よほど株価や金利などの経済動向に敏感か、いざというときにはまとまったお金を繰り上げ返済して支払額を抑制できるなどの準備があるケース以外は難しいといえるでしょう。

キーワード4「消費増税」:住宅購入に大きなインパクトなし

2019年10月には8パーセントから10パーセントへの消費増税が予定されています。

政府は、その実行の判断は予算成立後の春先に判断するとしていますが、かつてのような駆け込み購入やその後の市場の落ち込みがないよう、住宅に関しては「住宅ローン減税期間を10年から13年へ延長」「すまい給付金や住宅エコポイントの給付」などが検討されています。想定通りに実行されるようであれば、増税前後で大きな変化は起きなさそうです。

消費増税の前に買うのがいいか、それとも後がいいかと悩むより、より価値の落ちない、落ちにくい不動産選びを心がけるほうが、よほど家計には優しそうです。

そもそもマイホーム選びを「価格動向」「金利」といった外部要因で判断するケースはそんなに多くはなく、「子供の学校」「親と同居」「賃貸契約の期限」といったそれぞれの家庭の内部要因が優先されるべきものです。ご自身やご家族が気に入って、支払いに無理がないのであれば、早く買うほど住宅ローンも早く終わります。慌てず、じっくり、自分に合う不動産選びを心がけてください。

s-長嶋修_正方形.jpg長嶋 修  さくら事務所創業者・会長
業界初の個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクション(住宅診断)を行う「さくら事務所」を創業、現会長。不動産購入ノウハウの他、業界・政策提言や社会問題全般にも言及。著書・マスコミ掲載やテレビ出演、セミナー・講演等実績多数。【株式会社さくら事務所】

2018年不動産市場を5つのキーワードで総括 注目は「消費増税」「不動産放棄制度」検討始まる

2018年もあと数日で終わりを迎えます。今年、不動産界隈では、どんな出来事が起こったのか。毎年恒例、5つのキーワードを元に2018年の不動産市場を振り返ってみましょう。今年は以下の5つのキーワードをピックアップしました。

【今年の注目5大キーワード】
キーワード1:免震・制振データ偽装
キーワード2:不動産放棄制度の検討
キーワード3:北海道胆振東部地震
キーワード4:消費増税
キーワード5:不動産テック協会設立

詳しくみていきましょう。

キーワード1:免震・制振データ偽装

タワーマンションなどに多く採用される免震・制振装置のデータが偽装・改ざんされ、市場に衝撃が走りました。仮に物件名が公表されていたら、風評被害によってこうした装置を採用する中古マンションが売れなくなるのではないかといった懸念もありましたが、数年前の免震ゴムデータ偽装事件と同様、マンション名の公表はなく、市場に影響は見られませんでした。データが改ざんされた装置に関しては、2年程度をめどに交換することが約束されていますが、折からの人手不足などから工期が長引いたり、個別物件名が出回ったりすると、その限りではないでしょう。マンション購入時にこうした詳細なデータを確認することは一般的ではありませんし、仮に確認できたとしても偽装を見抜くのは困難です。今後こうした不祥事のないことを祈るばかりです。

キーワード2:不動産放棄制度の検討

「都心」「駅前・駅近」「大規模」「タワー」といったキーワードで想起されるマンションなどは、2012年の民主党から自民党への政権交代以降、価格は上昇の一途をたどってきました。その一方で、空き家や所有者不明の土地などは増大し続けています。

こうした中、不要な土地のみを放棄できる制度(不動産放棄制度)を政府が検討し始め、「骨太の方針」にも盛り込まれました。現在はもし不要な不動産の相続放棄をしたくても、不動産だけを単独で放棄はできません。民法の規定では「所有者のない不動産は国庫に帰属する」といった規定はあるものの、具体的な手続きを定めたルールもありませんでした。これが具体的に法制化されると、その制度の利用者はかなりの数に上ることが予想されます。具体的な制度の詳細は不明ですが、来夏に公表される「空き家調査」(住宅・土地統計調査/総務省)では、全国の空家は1000万戸を超え、空家率は17パーセント程度にのぼると見込まれる中、不要な不動産の処理がある程度進む可能性があります。

キーワード3:北海道胆振東部地震

2018年9月には「北海道胆振東部地震」が発生。最大震度7、規模はマグニチュード6.7と大規模なものでした。ここ数年、大規模な地震や土砂崩れ、水害などが続き、日本はまさに災害列島であると思い起こされると同時に、その対策が模索される1年でした。個人が注意すべきこととしては、まず「建物の耐震性」と、さらには「地盤のゆれやすさ」、そして「土砂災害や浸水可能性」などの検討です。建物の耐震については診断や改修によって対応できますが、そもそもその建物がどのような土地にあるのかということを、強く意識する必要があるでしょう。同時に、こうした災害が起きた際に被害を最小限に食い止めることができるような都市計画の検討と実行が望まれます。

キーワード4:消費増税

2019年10月には8パーセントから10パーセントへの消費増税が予定されています。かつての増税時のように駆け込み需要やその後の大きな落ち込みがないよう、住宅には「住宅ローン減税期間の延長」や「住宅エコポイント」「すまい給付金」の付与などが検討されており、制度詳細いかんでは、増税前後に大きな影響はなさそうです。ただし建築費は高止まりを続けており、建設業などの人手不足は今後さらに加速することから、建築コストが下がる余地は今のところなさそうです。

キーワード5:不動産テック協会設立

IoTやブロックチェーン、AI・VRなどの新技術が注目される中、こうした技術を活用して不動産業界や市場に変革をもたらすべく「不動産テック協会」が11月に設立されました。同協会にはテックベンチャーのほか、大手不動産会社も加わり期待が集まっています。不動産とこうした技術との相性は非常に良く、不動産の未来は明るく楽しいものになるといいですね。

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18年はこの他にも「金融機関による融資データ改ざん」「地面師事件」「欠陥アパート問題」「都心部での児童相談所建設反対運動」など不動産関連の話題に事欠かない1年でした。さらには「EUの金融緩和縮小」「米の利上げ継続」といった方針が打ち出される中、基本的には国際的な協調が望まれる金融政策の中で、日本の金融緩和や低金利政策をいつまで継続できるのかといった大きな課題や、株価の変調も見られます。こうした中で19年の不動産市場がどうなるのか。次回のコラムでお届けします。

s-長嶋修_正方形.jpg長嶋 修  さくら事務所創業者・会長
業界初の個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクション(住宅診断)を行う「さくら事務所」を創業、現会長。不動産購入ノウハウの他、業界・政策提言や社会問題全般にも言及。著書・マスコミ掲載やテレビ出演、セミナー・講演等実績多数。【株式会社さくら事務所】

「旧耐震」のマンション、買ったらだめですか? 住まいのホンネQ&A(9)

新築マンションの価格が高騰している昨今、注目を集めているのが中古マンション。しかし、いくら価格が安くても「耐震性」は気になる人が多いのではないでしょうか。
1981年以前に建てられた「旧耐震」のマンションも市場に多く出回っています。果たしてその安全性は? 選び方は? さくら事務所の長嶋修会長に解説いただきました。
地震大国日本「安全なマンション」の見分け方

2013年以降、新築マンションの価格は大幅上昇。17年の東京都区部における新築マンション平均発売価格は7000万円を超え、庶民には手の届きにくい水準に。一方で中古マンションは4000万円台と、相対的にリーズナブルであることから「中古マンションを買ってリフォーム・リノベーション」を検討する人が増えています。

一般には、価格下落が緩やかになる築15~20年の物件にお買い得感があり、また最近は築30年以上の取引のウエイトも高まっています。というのも、マンションが数多く造られた70年代の物件が市場に出始めているからです。

そうはいっても気になるのは、中古マンションの「耐震性」。いつどこで大きな地震が起きても不思議ではない地震大国日本で、マンションの耐震性についてどう考えたらいいでしょうか。

大きな目安となるのはいわゆる「新耐震基準」を満たしているかどうか。新耐震基準の建物は阪神淡路大震災の際に全壊が少なかったのに対し、旧耐震建物の中には大破・倒壊した建物も多数見られました(国土交通省「住宅・建築物の耐震化に関する現状と課題」より)。

現行のいわゆる「新耐震基準」は、78年の宮城県沖地震における被害を受け、81年に建築基準法が改正されたもの。この基準をかんたんにいうと「震度5強程度の中規模地震では軽微な損傷、震度6強から7程度の大規模地震でも倒壊は免れる」というものです。地震被害が心配な人は81年以降のマンションを選ぶのが基本ですが、いくつか注意点があります。

ここでいう81年とは正確に言えば「81年6月1日以降に建築確認申請が受理されているかどうか」。ところが中古マンションの物件広告には築確認申請受理日の記載はなく、建物の完成(竣工)年月が分かるだけです。なので新耐震基準を満たしているかどうか見極めるには、建築工事期間を考慮に入れる必要があります。マンションは工期が長く、規模にもよるものの、着工から完成までに1~2年近くかかるのが一般的。もし、物件の完成年月が83年もしくは84年以降であれば、新耐震基準で建てられていると考えてよいでしょう。具体的に建築確認申請受理日を知りたければ、不動産仲介会社に調べてもらうか、自治体の担当部署に赴いて尋ねてみましょう。

「旧耐震」でも安全な建物はある

もちろん、新耐震基準以前に建築されたいわゆる「旧耐震」のマンションでも、新耐震基準と同等の耐震設計をしているものは数多くあり、構造面、管理面などを含めて個別にチェックすることが大切。心配ならホームインスペクター(住宅診断士)や建築士など建物の専門家に相談してみましょう。

81年以前の旧耐震の建物なら、耐震診断を受けて、その結果に応じ必要な耐震改修をしているかどうかが評価の一つの目安。

ただし現実には「建物の竣工図面がない」「耐震改修費用がない」「所有者間の合意が得られない」など多くの課題があり、国や自治体も耐震診断や改修に助成措置を講じているものの、耐震診断を受けているマンションはそれほど多くなく、中には耐震診断を受けても改修までは行っていないマンションも多いものです。

地盤のチェックも欠かさずに

もう一つ大事な視点があります。それは「地盤」です。マンションは一般的に地盤の支持層まで、地盤改良を施すため、大きな地震が来てもその影響は限定的であるように設計されていますが、それでも軟らかい地盤の上では建物はより揺れやすくなります。逆に、固い地盤の上に建っていれば、地震の影響は相対的に軽微です。

地盤を調べるのは、国土地理院の「土地条件図」が便利です。住所を入力し「情報」-「ベクトルタイル提供実験」-「地形分類」(自然地形・人口地形)で地盤の傾向を見ることができます。建物の揺れや液状化被害などが心配なら「台地」など相対的に土地が高い位置にあり、浸水や液状化の懸念がなく、地盤の固いところを選びましょう。

国土地理院の「土地条件図」

国土地理院の「土地条件図」

地盤の固いところでも、地面をかさ上げする「盛土」をしていればその限りではありませんので注意が必要です。また、この地盤情報は250メートル基準で作成されており、厳密には個別に地盤調査を行わないとわからないところがありますので、あくまで地盤の傾向がわかるものだということを理解しておきましょう。

よりお得に、安全な中古マンションを購入したい場合、こうした「目利き」のポイントを外さないことが大切です。実際に購入を検討している方は、参考にしてみて下さい。

s-長嶋修_正方形.jpg長嶋 修  さくら事務所創業者・会長
業界初の個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクション(住宅診断)を行う「さくら事務所」を創業、現会長。不動産購入ノウハウの他、業界・政策提言や社会問題全般にも言及。著書・マスコミ掲載やテレビ出演、セミナー・講演等実績多数。【株式会社さくら事務所】

「良い中古マンションの見分け方を教えてください」 住まいのホンネQ&A(7)

新築マンションの価格が高騰する昨今、中古マンションも住宅購入の選択肢に入れたいもの。少しでも条件のよい中古マンションを手に入れるためには――?
目利きのポイントを、さくら事務所会長の長嶋修氏に聞いてみました。
室内に入る前に、まずチェックすべきはあの場所

中古マンションを見学する際には、いきなり室内(専有部)には入らず、まずは外壁やエントランスまわり、廊下や階段などの「共用部」をじっと見つめてください。

まず外壁。昨今、マンションの外壁はタイル張りが主流ですが、ざっと見渡してみたときに、タイルがはがれおちているところ、もしくは浮いているようなところはありませんか? 

タイルがはがれたり浮いたりする原因は「経年劣化」「不良工事」「地震の影響」などさまざまですが、万一落下すればたちまち凶器となり危険です。その上、タイルはコンクリートを劣化から守る役割もありますので、そのままにしておくとコンクリートの躯体(くたい)、そのものが長持ちしません。

もしタイル落下、浮きなどの症状が見つかったら、次はマンション管理組合がその状況を把握しているか、またそれについてなんらかの対処を行う予定があるかを確認しましょう。これは、不動産仲介担当を通じてマンション住民で構成する管理組合に確認してもらってもいいですし、管理員さんがいらっしゃれば尋ねてみてもいいでしょう。

次に廊下や階段などの共用部。築年数の経過で少しずつ劣化していくのは建物の宿命ですが、一定の幅や深さがある「ひび割れ」や、一定量以上の白い粉状カルシウム成分が浮き出てくる「エフロレッセンス」(白華現象)、「雨漏りや水漏れ」など、コンクリート内部の鉄筋から茶色い錆び汁がしみだしている現象などを放置しておくと、着実に建物の寿命を縮めていくことになります。また、時間が経過するほど、その修繕コストは膨大に。このコストは住民で構成する管理組合の負担です。早く発見するに越したことはないのです。

ちなみに、今年4月からホームインスペクションの説明が義務化されましたが、この診断で分かるのはあくまで個別の室内、つまりは「専有部」についてですので注意が必要です。

外壁タイルが浮いているマンション(さくら事務所提供)

外壁タイルが浮いているマンション(さくら事務所提供)

廊下・階段などに大きなひび割れはないか(さくら事務所提供)

廊下・階段などに大きなひび割れはないか(さくら事務所提供)

清掃状態に透ける管理組合の運営姿勢

エントランスや集合ポスト、ゴミ置き場や駐車場・駐輪場などの清掃状態・整理整頓具合はどうでしょうか。こうしたところが雑然としているのは、管理員の仕事が行き届いていないからに他なりませんが、背後にはそういった状態を容認している管理組合の存在があるわけで、マンション管理についてその程度の関心しかないということです。

掲示板に数カ月も前の古い情報が貼られたまま、貼ったものが破れているなどの事象も組合運営の姿勢を推し量れます。

購入の検討に入る前には「総会や管理組合の議事録」「長期修繕計画」などの閲覧を求めましょう。こうした議事録には、そのマンションで繰り広げられているさまざまな課題が満載。例えばどの程度の管理費・修繕積立金滞納があり、それに対してどのような対応をしているか、駐車場や駐輪場、ごみ置き場、廊下、そして先述の外壁など共用部の使い方やコンディションに何か課題があるか、今後の修繕計画はどのようになっているかなど、マンションのさまざまな事情が記載されているはずです。

修繕積立金滞納のないマンションはむしろ少数派ですし、多くの人が住んでいる以上、共用部の使い方に課題が全くないマンションも少数です。要はこうした、マンションの宿命ともいえる各種の課題について、所有者で構成するマンション管理組合がどのような姿勢で、具体的にどんな取り組みをしているのか、それを知ることが大事なのです。

また「長期修繕計画」を見れば、今後の建物修繕予定が分かるのはもちろんのこと、今後の積立金負担の趨勢も分かります。多くのマンションでは、新築時に売主が策定した長期修繕計画をそのまま変更せずに使用しているケースが多く、たいていの場合、新築当初から当面の間は修繕積立金を低額に設定、5年目・10年目・15年目などに一気に数倍になったり、多額の一時金を徴収する計画となっています。規模などにもよりますが、適正な修繕積立金額は平米あたり200円程度で、70平米のマンションなら月額1万4000円程度。これより少ない場合はその分、あとで積立金の値上げか、一時金の徴収があると思ってください。

分からないことがあれば不動産仲介会社を通じて管理組合に尋ねるか、判断に迷うことがあれば第三者の専門家に見解を聞くのもいいでしょう。ただしこのような内部書類については、マンション購入者などの第三者に閲覧させることは義務ではないため、あくまで任意で閲覧をお願いすることになります。言い換えると、閲覧に応じるマンションはその情報開示姿勢だけで好感が持てるということです。自らのマンション管理運営に自信があるとか、情報開示の重要性を理解しているといった組合員が多いからこその情報開示です。

居室はつい遠慮しがち インスペクターを活用しよう

室内(専有部)については、キッチンやユニットバス・洗面化粧台などの水まわりに水漏れがないか、換気扇が正常に稼働するか、建具に傾きがないか、正常に稼働するかなど、くまなくチェックしたいもの。

しかし現実には、多くのケースで売主さんが居住中であることから、どうしても遠慮がちになり、きちんとチェックするのをためらってしまうケースが多いはずです。そんな時はホームインスペクター(住宅診断士)に依頼して、室内を一通りチェックしてもらうのがおすすめ。インスペクターによりますが、50~100項目に及ぶ調査で入居後に発生するトラブルを防ぐことができますし、リフォームや修繕に「いつごろ」「どこに」「いくらくらいのお金がかかるのか」が分かります。この際には、中古マンションに詳しいホームインスペクターを選ぶようにしてください。

瑕疵保険はあくまで「保険」にすぎない

最後に、「瑕疵保険」の考え方についても説明しておきます。

中古マンションの中には期間1年・2年・5年などの「瑕疵(かし)保険」がついているものがありますが、だからといって建物に問題がなく安心だというわけではありません。例えば築30年以上のマンションなら、そのコンディションや材質によってはそろそろ上下水道の配管や電気配線などの交換時期ですが、瑕疵保険は、たった今水漏れさえしていなければ加入できるもの。「入ってさえいれば安心」という訳ではありません。あくまでも念のため、万が一の時のためのものであると理解しておきましょう。

s-長嶋修_正方形.jpg長嶋 修  さくら事務所創業者・会長
業界初の個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクション(住宅診断)を行う「さくら事務所」を創業、現会長。不動産購入ノウハウの他、業界・政策提言や社会問題全般にも言及。著書・マスコミ掲載やテレビ出演、セミナー・講演等実績多数。【株式会社さくら事務所】

「結局、住宅ローンは年収の何倍まで組めますか?」 住まいのホンネQ&A(6)

住宅購入には必ずついてまわる住宅ローン。住宅ローンはいったい年収の何倍まで組めるのか? 頭金は? 住宅は生涯で最も大きな買い物、といっても過言ではありませんから、悩みは尽きませんよね。

いったい、どんな考え方をしたらよいのでしょうか。さっそく、今回も回答を見ていくことにしましょう。
ノウハウ本の基準はアテにならない

住宅購入をするときには、ほとんどの人が住宅ローンを利用しますが、多くの方に共通するお悩みは「どれくらいのローン借入額が適切なのか?」ということ。これにはいくつかの説があり、そのほとんどは「住宅ローンは物件価格の何倍まで」とか「返済比率は○○%が目安」といったもの。住宅購入ノウハウ本を読むとかならずこうした目安が書かれていますが、こうした基準は、一言でいうとあまりにも大ざっぱすぎて、まったくあてにも参考にもなりません。

例えば「物件価格は年収の何倍まで」といった話。一般的にこの「年収倍率」は、7倍程度が目安とされることが多いのですが、住宅金融支援機構の「2016年度フラット35利用者調査」によれば、建売住宅融資利用者(平均年齢38.9歳)の年収倍率は6.5倍、マンション融資利用者(平均年齢42.0歳)で6.8倍。しかしこれらはあくまで平均値であり、実際にはかなりのばらつきがあるのです。3倍程度の人もいれば、10倍近い人もいます。

さらにこの話には「金利水準がどの程度か」といった視点が欠けています。例えば年収500万円の人が年収倍率7倍のマンションを買うとき、頭金が500万円(諸費用別途)あれば住宅ローンの額は3000万円ですが、金利1%と4%とでは、両者の支払額には天地の差が出ます。3000万円のローンを期間35年で組むとき、金利1パーセントなら月々の支払いは8万4686円ですが、4%だと13万2832円と、4万8146円も増加。総返済額に至ってはなんと約2022万もの差がつきます。

次に「返済比率」について。返済比率とは「年収に対する年間ローン支払い額」を指し「年間支払額÷税込み年収×100」で計算します。例えば年収500万円の人で返済比率25%なら年間ローン支払い額は125万円。ボーナスなしで毎月均等にならせば10万417円です。一般的な金融機関における返済比率の審査基準は、住宅ローンの種類や借入者の年収によって異なるものの、おおむね30~35%程度が目安となっています。住宅購入ノウハウ本を見ると「返済比率は25%が目安」などと書かれていることが多いのではないでしょうか。

しかし、こうした目安を各家計にあてはめるのはいかにも乱暴です。やはり住宅金融支援機構の「2016年度フラット35利用者調査」によれば、建売住宅融資利用者(平均年齢38.9歳)の世帯収入に対する返済比率は21.4%、マンション融資利用者(平均年齢42.0歳)で21.1%。

総返済負担率(世帯月収に占める1カ月当たりの予定返済額割合)の内訳をより詳しくみてみると、住宅ローンの返済額が家計に占める割合の15%未満の人が19.4%、30%以上の人が7.6%いるなど、やはりかなりのばらつきがあります。

マンションの場合は「管理費」や「修繕積立金」も

また例えばマンションの場合、ローン返済のほかに「管理費」や「修繕積立金」を毎月の支出として勘案する必要があります。しかも修繕積立金は多くのケースで、実際にかかる修繕費より低めに見積もられていることがあります。なぜなら新築時の積立金は、極力低めにして、買いやすくしていることがほとんどだからです。「長期修繕計画」を見れば、10年目・20年目などに積立金がアップする計画になっていることも少なくありません。そうであればもちろんそのことも踏まえておく必要がありますよね。

一般的なマンションの場合、目安として、専有面積平米当たり月200円程度は必要で、70平米のマンションなら1万4000円です。50戸以下の小規模マンションや、機械式駐車場などの設備があるマンションはもっと必要です。さらにこの修繕積立金は、屋根や外壁、廊下、エレベータといった共用部分のためのもの。室内(共用部)の修繕費用は別途でねん出する必要があります。

一戸建ての場合には管理費や修繕積立金の徴収はありませんが、屋根や外壁、内装や設備など、建物が経年劣化すればやはり修繕費はかかり、目安として年に建物代金の1%程度は確保しておく必要があります。1500万円の建物なら年間15万円、毎月にならせば1万2500円です。

さらに見逃せないのが固定資産税。新築の際は固定資産税が据え置かれやすくなっていますが、一戸建てなら3年、マンションは5年たつと優遇措置がなくなり、固定資産税額は2倍近くに跳ね上がることも踏まえておく必要があるでしょう。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

「貸してくれる額」と返せる額は別物

こうしたコストも踏まえたうえで、住宅ローンの「返済可能額」を割り出しましょう。そのためには「家計の棚卸し」が必要です。

まずは税込み年収から、所得税・住民税、さらに社会保険料等を引いた手取り額を見てください。さらにそこから食費・光熱費・教育費・衣服費・遊行費などを引いていきます。一定の貯蓄も必要でしょう。こうして最後に残ったお金が、あなたがローン返済に充てられる金額です。変動金利なら金利上昇、転勤や転職といった将来可能性も踏まえておく必要があります。お子さんがいるなら教育費も。大学まで行かせるのか、私立か公立かによって費用も大きく変わります。こうした機会に、家族で、将来にわたってどんな暮らしをしたいのかといったことをお互いに話し合うのも有用ですね。

ところでこうした「家計の棚卸し」をすると、多くの家計で、何に使ったか分からない「使途不明金」が出てくるものです。これはたいていの場合、持ち歩いていた現金を使い、領収証やレシートがないときに発生します。

金融機関が「貸してくれる額」と、実際に「返せる額」は別物です。自身に合った無理のないマネープランを立てましょう。

最後に。住宅探しをしていると、どうしても予算をアップしたくなるもの。予算よりちょっと高い住宅は当然条件もいいのですが、物件情報を見ているうちに、当初決めていた予算を超えて背伸びしたくなる衝動に駆られるものです。これも無理のない範囲ならいいのですが、度を越すと当初のマネープランが無意味になってしまいますので注意してください。

s-長嶋修_正方形.jpg長嶋 修  さくら事務所創業者・会長
業界初の個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクション(住宅診断)を行う「さくら事務所」を創業、現会長。不動産購入ノウハウの他、業界・政策提言や社会問題全般にも言及。著書・マスコミ掲載やテレビ出演、セミナー・講演等実績多数。【株式会社さくら事務所】

「結局、住宅ローンは年収の何倍まで組めますか?」 住まいのホンネQ&A(6)

住宅購入には必ずついてまわる住宅ローン。住宅ローンはいったい年収の何倍まで組めるのか? 頭金は? 住宅は生涯で最も大きな買い物、といっても過言ではありませんから、悩みは尽きませんよね。

いったい、どんな考え方をしたらよいのでしょうか。さっそく、今回も回答を見ていくことにしましょう。
ノウハウ本の基準はアテにならない

住宅購入をするときには、ほとんどの人が住宅ローンを利用しますが、多くの方に共通するお悩みは「どれくらいのローン借入額が適切なのか?」ということ。これにはいくつかの説があり、そのほとんどは「住宅ローンは物件価格の何倍まで」とか「返済比率は○○%が目安」といったもの。住宅購入ノウハウ本を読むとかならずこうした目安が書かれていますが、こうした基準は、一言でいうとあまりにも大ざっぱすぎて、まったくあてにも参考にもなりません。

例えば「物件価格は年収の何倍まで」といった話。一般的にこの「年収倍率」は、7倍程度が目安とされることが多いのですが、住宅金融支援機構の「2016年度フラット35利用者調査」によれば、建売住宅融資利用者(平均年齢38.9歳)の年収倍率は6.5倍、マンション融資利用者(平均年齢42.0歳)で6.8倍。しかしこれらはあくまで平均値であり、実際にはかなりのばらつきがあるのです。3倍程度の人もいれば、10倍近い人もいます。

さらにこの話には「金利水準がどの程度か」といった視点が欠けています。例えば年収500万円の人が年収倍率7倍のマンションを買うとき、頭金が500万円(諸費用別途)あれば住宅ローンの額は3000万円ですが、金利1%と4%とでは、両者の支払額には天地の差が出ます。3000万円のローンを期間35年で組むとき、金利1パーセントなら月々の支払いは8万4686円ですが、4%だと13万2832円と、4万8146円も増加。総返済額に至ってはなんと約2022万もの差がつきます。

次に「返済比率」について。返済比率とは「年収に対する年間ローン支払い額」を指し「年間支払額÷税込み年収×100」で計算します。例えば年収500万円の人で返済比率25%なら年間ローン支払い額は125万円。ボーナスなしで毎月均等にならせば10万417円です。一般的な金融機関における返済比率の審査基準は、住宅ローンの種類や借入者の年収によって異なるものの、おおむね30~35%程度が目安となっています。住宅購入ノウハウ本を見ると「返済比率は25%が目安」などと書かれていることが多いのではないでしょうか。

しかし、こうした目安を各家計にあてはめるのはいかにも乱暴です。やはり住宅金融支援機構の「2016年度フラット35利用者調査」によれば、建売住宅融資利用者(平均年齢38.9歳)の世帯収入に対する返済比率は21.4%、マンション融資利用者(平均年齢42.0歳)で21.1%。

総返済負担率(世帯月収に占める1カ月当たりの予定返済額割合)の内訳をより詳しくみてみると、住宅ローンの返済額が家計に占める割合の15%未満の人が19.4%、30%以上の人が7.6%いるなど、やはりかなりのばらつきがあります。

マンションの場合は「管理費」や「修繕積立金」も

また例えばマンションの場合、ローン返済のほかに「管理費」や「修繕積立金」を毎月の支出として勘案する必要があります。しかも修繕積立金は多くのケースで、実際にかかる修繕費より低めに見積もられていることがあります。なぜなら新築時の積立金は、極力低めにして、買いやすくしていることがほとんどだからです。「長期修繕計画」を見れば、10年目・20年目などに積立金がアップする計画になっていることも少なくありません。そうであればもちろんそのことも踏まえておく必要がありますよね。

一般的なマンションの場合、目安として、専有面積平米当たり月200円程度は必要で、70平米のマンションなら1万4000円です。50戸以下の小規模マンションや、機械式駐車場などの設備があるマンションはもっと必要です。さらにこの修繕積立金は、屋根や外壁、廊下、エレベータといった共用部分のためのもの。室内(共用部)の修繕費用は別途でねん出する必要があります。

一戸建ての場合には管理費や修繕積立金の徴収はありませんが、屋根や外壁、内装や設備など、建物が経年劣化すればやはり修繕費はかかり、目安として年に建物代金の1%程度は確保しておく必要があります。1500万円の建物なら年間15万円、毎月にならせば1万2500円です。

さらに見逃せないのが固定資産税。新築の際は固定資産税が据え置かれやすくなっていますが、一戸建てなら3年、マンションは5年たつと優遇措置がなくなり、固定資産税額は2倍近くに跳ね上がることも踏まえておく必要があるでしょう。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

「貸してくれる額」と返せる額は別物

こうしたコストも踏まえたうえで、住宅ローンの「返済可能額」を割り出しましょう。そのためには「家計の棚卸し」が必要です。

まずは税込み年収から、所得税・住民税、さらに社会保険料等を引いた手取り額を見てください。さらにそこから食費・光熱費・教育費・衣服費・遊行費などを引いていきます。一定の貯蓄も必要でしょう。こうして最後に残ったお金が、あなたがローン返済に充てられる金額です。変動金利なら金利上昇、転勤や転職といった将来可能性も踏まえておく必要があります。お子さんがいるなら教育費も。大学まで行かせるのか、私立か公立かによって費用も大きく変わります。こうした機会に、家族で、将来にわたってどんな暮らしをしたいのかといったことをお互いに話し合うのも有用ですね。

ところでこうした「家計の棚卸し」をすると、多くの家計で、何に使ったか分からない「使途不明金」が出てくるものです。これはたいていの場合、持ち歩いていた現金を使い、領収証やレシートがないときに発生します。

金融機関が「貸してくれる額」と、実際に「返せる額」は別物です。自身に合った無理のないマネープランを立てましょう。

最後に。住宅探しをしていると、どうしても予算をアップしたくなるもの。予算よりちょっと高い住宅は当然条件もいいのですが、物件情報を見ているうちに、当初決めていた予算を超えて背伸びしたくなる衝動に駆られるものです。これも無理のない範囲ならいいのですが、度を越すと当初のマネープランが無意味になってしまいますので注意してください。

s-長嶋修_正方形.jpg長嶋 修  さくら事務所創業者・会長
業界初の個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクション(住宅診断)を行う「さくら事務所」を創業、現会長。不動産購入ノウハウの他、業界・政策提言や社会問題全般にも言及。著書・マスコミ掲載やテレビ出演、セミナー・講演等実績多数。【株式会社さくら事務所】

「一生賃貸?35年ローンで住宅購入?どちらも不安です…」 住まいのホンネQ&A(5)

家族を持ったら家を買う。住宅は一生で一番高い買い物。昨今はそんな常識が変わりつつあり、一生賃貸で過ごす人も増えているといいます。しかし、どちらを選ぶにしても不安はつきもの。高齢になっても賃貸を借りられるのか。はたまた、35年ローンを組んで購入しても、70歳近くまで返済しきれるものなのか……。
住まいに関するさまざまな質問について、ホンネでお答えする本連載。第5回の質問は「一生賃貸?35年ローンで住宅購入?どちらも不安です…」です。誰もが知りたいこの悩み、果たして専門家の回答は如何に。

賃貸でも、購入でも、心配は杞憂に終わるかもしれない

確かに、日本社会の不確実性は高まる一方です。「年功序列」「終身雇用」といった旧来の働き方が崩壊しつつあり、さらに政府主導の「働き方改革」が進むなかで、人間の仕事の多くがAIやロボットに代替される可能性がある――。長期の住宅ローンを組んでマイホームを購入するのは「リスク」だと考えるのは、当然とも言えるでしょう。最長35年もの期間、ずっとローンを払っていけるのか、保証はどこにもありませんからね。

では一生賃貸でいいのかといえば、それはそれで心配になるでしょう。住宅ローンはいつか終わりますが、高齢になっても生きている限り、家賃の支払いはずっと続くわけですから。さくら事務所には「歳をとったら賃貸住宅を借りられなくなるから」といった購入動機をお持ちの方が多く来訪されます。ここで、「だからこそ低金利の今のうちに、終の棲家を確保しておこう」という流れがおこるわけです。

では、はたして現在の住宅購入層である30代が高齢者になったときにも、「歳をとったら賃貸住宅を借りられなくなる」という現在の常識が、はたして本当に成立するのでしょうか。結論を言えば、このような心配は杞憂に終わるでしょう。

高齢者に好まれなければ、賃貸経営者として失格に!?

かつては確かに、「高齢者は賃貸を借りにくい」いう風潮がありましたし、今後も完全になくなることはないかもしれません。しかし遠くない将来、状況が一変することになるはずです。なぜなら、日本はこれから、「少子化」「高齢化」を伴った本格的な「人口・世帯数減少時代」を迎えます。国立社会保障・人口問題研究所の平成29年版の推計によれば、2036年には3人に1人が高齢者になるとされています。

こういった世の中で、もし高齢者に対して積極的に賃貸住宅を貸そうとしなければ、賃貸住宅経営などとうてい成り立たなくなるでしょう。むしろ、高齢者に対して積極的にアプローチする物件、高齢者に好まれる物件でなければ、賃貸経営者として失格という世の中がやってくるはずです。

賃貸住宅だけではありません。日本の資本主義経済における高齢者とは、非常に大きなマーケット。街も高齢者向けにアレンジされ、市場で提供される商品やサービスも高齢者向けのものが現在より格段に多くなるのではないでしょうか。

3人に1人が高齢者の世の中では、電車やバスの優先席などは、全席の33%確保しなければならない計算です。もっとも、平均寿命は年々伸びていることや医療の発達などから、そのころの高齢者はおそらくとても元気で、趣味志向もおそらくかつての高齢者層とは大きく異なった「新世代高齢者」とでもいえるような状況になっていることが、想像に難くありません。“高齢者”という言葉からイメージする像は、現在をベースには考えられなくなることでしょう。

数十年先の住宅事情は大きく様変わりしている

未来の住宅事情も大きく様変わりするはず。新築は土地などの関係からもうあまりつくられず、中古住宅と賃貸住宅が、現在では想像もできないほど充実しているはずです。そうなると一生賃貸暮らしという選択も全く珍しくなくなっているでしょう。また賃貸であれ購入であれ、ライフスタイルやライフサイクルの変化に合わせて、住宅をリズミカルに住み替えることができる市場が出来上がっていることでしょう。すでに日本以外の先進国ではこうした市場が出来上がっており、住み替え頻度も日本よりかなり頻繁です。

つまり将来の日本の住宅事情は、より多様化し、どの世代にとっても楽しく面白く、より安全で安心感のあるものになっているはずです。すでに国は、中古住宅市場やリフォーム市場の活性化策や空き家活用による賃貸住宅増加策など住宅市場の多様化へ政策の舵を方向転換しているのです。未来に対して漠然とした不安を根拠に何かを決断するのではなく、その数十年先には日本の住宅事情が大きく様変わりしているということを踏まえておく必要があります。

まずは、住まいに関する現在の常識ははずしてしまいましょう。そしてそのうえで、自身や家族のライフスタイルやライフサイクルを考え、自由な住まい選びを楽しみましょう。賃貸でも購入でも、新築でも中古でも、世の中の常識や既成概念に自分をあてはめず、自由に発想して決めることができれば、それがあなたにとってのベストな選択になるのです。

買いたいときが“買い時”

ではそのうえで、マイホーム購入が肯定できるのはどんなときでしょうか。

「マイホーム、いつが買い時?」みたいな話は、私も不動産コンサルタントとして、聞かれればアレコレと理屈をこねくり回して答えるものの、現実には多くの人が「金利」や「価格水準」などの市場動向、つまり「外部要因」に合わせて生活しているわけではありません。子どもの学校とか家族のライフイベント、つまりは「内部要因」に合わせて動くケースがほとんどなのです。

つまりは、購入可否判断のための物差しを持つために、市場や金利の動向、税金などについて一定の知識を習得した上で
・売ったり貸したりと、将来の流動性が確保できそう
・支払いに無理がなさそう
かつ
・その物件を気に入っている
ならば、思い切って購入してしまえばよいのではないでしょうか。

ちなみに将来の流動性を確保しやすい物件については、第4回の「資産価値が落ちない家ってどんな家?」の内容を参考にしてください。資産価値が落ちにくい物件=流動性を確保しやすい物件です。無理のない支払い条件については、次回のコラムで触れますのでお楽しみに。

そうはいっても、マイホームを購入したあとに、例えば転勤やリストラ、長期にわたる疾病などに備えるにはどうしたらよいだろうかといった懸念は残ります。これを担保するにも、なるべく「価値が落ちない、落ちにくい住宅」を選べばいいでしょう。

仮に3000万円で買ったマンションが10年後に2000万になってしまった場合を考えてみましょう。よほど頭金を入れていないと、売却価格をローン残債が上回り、その分を現金で補填しないと売ることもできません。一方、10年後も3000万円で売れるなら、これはもう家賃はドブに捨てるようなものだといい切っていいでしょう。低金利の今なら10年間の支払い金利よりも賃料のほうがはるかに大きいはずです。

いつか住宅ローンを組むなら、それは一日でも早いほうがいいのです。理由はかんたんで「その分、支払いも早く終わるから」。35年の住宅ローンを組む場合、30歳なら65歳でローンが終わりますが、40歳だと75歳まで支払いは続きます。

株式売買とは異なり、不動産は一対一の相対取引で、契約条件もそれぞれ異なります。2012年の民主党から自民党への政権交代以降、不動産価格はほぼ一貫して上昇を続け、当時から見ればずいぶんと高くなりました。しかしこの期間中の価格上昇の多くの部分は「金利低下」で説明できる事が多いですし、そもそも安い時に買っている人もその多くは「たまたま」買えたというだけだったりするのです。

市場動向や金利やらの「外部要因」は「思い立ったときにたまたま条件良かったらうれしいよね」という程度に捉えておけば、後悔しないのではないでしょうか。

「資産価値が落ちない家ってどんな家?」 住まいのホンネQ&A(4)

“人生最大の買い物”とも言われる住宅。せっかく買うなら、資産価値が落ちない物件を購入し、その価値を維持したい、と誰もが思うのではないでしょうか。
住宅に関するさまざまな疑問について、さくら事務所創業者・会長の長嶋修氏にホンネで回答いただく本連載。第4回の質問は「資産価値が落ちない家ってどんな家?」です。物件選びからその価値を維持する秘訣までをお答えいただきました。2018年4月に始まったホームインスペクションの意義や、ホームインスペクターの選び方についても詳しく解説します。

資産価値が落ちない家その1:なんといっても駅近!

まずは、物件の条件からお話ししましょう。昨今顕著なのは「駅距離格差」です。購入であれ賃貸であれ、求められる「駅からの距離」がどんどん短くなっているのです。

REINS(東日本不動産流通機構)のデータによれば、東京都心7区(中央区・千代田区・港区・新宿区・渋谷区・品川区・目黒区)において2013年は、駅から1分離れるごとに、中古マンション成約単価が平米あたり8000円程度の下落を示していました。しかし2017年には、1万6000円ずつ下落しています。

この傾向は都市郊外のベッドタウンでも同様で、千葉県柏市の場合は柏駅から1分離れると、2008年の中古マンションの成約単価は平米8000円ずつの下落でしたが、2017年では1分ごとに平米1万6000円以上の下落を示しています。

都心でも郊外でも駅前や駅近はめっぽう強く、駅から離れるほどどんどん弱くなっているのです。このような現象が起きている最も大きな理由は言うまでもなく「住宅余り」が影響しているものと思われます。

世帯数に対して住宅数は圧倒的に上回っており、18年の現時点ではすでに1000万戸を超える空き家が存在しているといわれていますが、要はよりどりみどりの「買い手・借り手市場」なわけです。また、若年層が自動車を保有しなくなったこととも関係があるでしょうし、部屋の広さや間取り、日当たりなどを多少我慢してでも、通勤や買い物などの生活利便性を優先するといった嗜好もうかがい知れます。

資産価値が落ちない家その2:選べるなら“立地適正化区域内”を

またこれから本格的な人口減少、少子化・高齢化社会を迎えるにあたり、全国1740あまりの自治体のうち384自治体において、街を縮める「コンパクト&ネットワーク政策」が進められています。これはかんたんに言えば、人口密度を一定程度に維持することで、行政効率の悪化を防ごう、市民の生活利便性を維持しようというものです。埼玉県毛呂山町はこの「立地適正化区域内」については、地価上昇10%を目指すとしています。言いかえると、区域外は地価について約束もできないということです。

岐阜県岐阜市は現市街地のうち、立地適正化区域を55%程度にする方針です。この政策は5年ごとに見直しが行われる予定ですが、その中で徐々に規制を厳しくしながら街のコンパクト化はじわりじわりと進み、やがて10年、20年と経過するうちに、人が集まる区域とそうでない区域が徐々に色分けされていく可能性が高いでしょう。

そうなると不動産の資産価値にも大きな影響が出そうです。決定的なのは、金融機関の評価。金融機関が、立地適正化区域内であれば一定の担保評価ができるが、区域外は評価できない、といったことになれば、両者の資産性に差が出るのは必至です。自分が選ぶ自治体において、こうした計画があるかどうか、あればその中身はどういったものか、調べてみてください。

宅地建物取引業法が改正され、18年4月から「インスペクション説明義務化」がスタートしました。これは簡単に言えば「媒介契約」「重要事項説明」「売買契約」といった不動産取引の節目に、建物のコンディションを見極めるインスペクションについて説明を行うということです。2025年までに中古住宅市場・リフォーム市場を2倍(15年比)にする、といった国の方針の一環で、建物の劣化具合などを見極めるホームインスペクション(住宅診断)を普及させようというもの。

資産価値が落ちない家その3:ホームインスペクションで良コンディションの物件を

これまで日本の住宅は、一戸建ては25年、マンションなら30年程度で価値ゼロになるとされてきましたが、こうした慣行を改め、コンディションの良い建物は積極的に評価、中古住宅でも一定の品質を保っているものは積極的に評価しようという試みです。

住宅購入時には、新築でも中古でも、専門家に依頼してホームインスペクション(住宅診断)を入れ、建物のコンディションを見極める。住み始めたら適度な点検とメンテナンスを行い建物価値を維持するといったことが、今後非常に重要になってきます。

なおホームインスペクション(住宅診断)を行うホームインスペクター(住宅診断士)を探す際にはまず「実績」を確認してください。候補をいくつか選んだら、まずは率直にこれまでのインスペクション実績を尋ねましょう。どの構造に詳しいのかも必ず確認を。建物の工法にはさまざまな種別がありますが、木造に詳しいホームインスペクターが、RC(鉄筋コンクリート)造に詳しいとは限らないためです。自分がホームインスペクションを依頼する建物の構造に詳しいかどうかを必ず確認するようにしてください。

またその際には「専門用語を多用せず、分かりやすく説明してくれるか」に注目を。建築の専門用語を極力使わず、なるべく平易な言葉で、分かりやすく判断材料を提供してくれるかどうかというのは重要なポイントです。

ホームインスペクターは客観性・第三者性が大切

そして最も重要なのは、ホームインスペクターの「客観性・第三者性」。現時点ですら早速、業界では大きく問題となる動きが起きています。それは「ホームインスペクターと不動産業者との癒着」です。この癒着は、売主や買主が、不動産業者からホームインスペクターを紹介されたとき、つまり、買主や売主が自らインスペクターを選べない場合に起こります。なぜなら、不動産業者とインスペクターは、仕事を発注する側ともらう側の関係になってしまっているからです。

不動産業者は常に「契約したい」といったモチベーションをもっているもの。しかし建物の不具合など不都合な真実が出てきたとき、不動産業者がそうした不都合を隠そうと、インスペクターに問題写真や文言の削除を依頼するケースが報告されています。このとき、インスペクターがこの依頼を断ったら、この不動産業者からはもう仕事が来ることはありません。

ホームインスペクションを手掛けるさくら事務所にはしばしばこうした依頼があり、すべて断っていますが、次から依頼がくることはありません。ということは他のインスペクターが、その業者のインスペクションを引き受けて業者の主張を受け入れている可能性があるのです。

米国ではかつて、ホームインスペクターと不動産業者との癒着が問題となり、州によっては「不動産業者によるインスペクターの紹介は禁止」です。オーストラリアでもやはり「売主のインスペクションは虚偽が多い」と問題になり、買主がインスペクションする仕組みが創設されてきました。英国でも同様に買い手がホームインスペクションを依頼しています。インスペクションはあくまでも、買い手が選んだインスペクターが行うのが望ましいのです。

また「無料インスペクション」にも注意しましょう。なぜ無料なのか、その理由を考えるとよいでしょう。そこにはほぼ100%の確率でリフォームや耐震工事のプレゼンが付いているはずです。
「格安ホームインスペクション」にも留意してください。あまりに安すぎるホームインスペクションは、やはりリフォームなどの仕事が目的か、能力に自信がないかのどちらかという可能性があります。ホームインスペクション単体で営業できるだけの妥当な料金設定であることが、その健全さを判断する指標になると言っていいでしょう。相場としては、目視による診断で5万円~7万円程度。床下や天井裏にまで進入する場合は11~12万円程度です。

ホームインスペクションで大事なのは、あくまで第三者を立て、買主あるいは売主が自ら選んだインスペクターに依頼をすること。この原則を忘れないようにしてください。

最後に「”瑕疵(かし)保険”と”ホームインスペクション”は別物」ということを知っておきましょう。建物の保証をしてくれる「瑕疵(かし)保険」は、ホームインスペクションではありません。これは文字通り、念の為の建物保証をするもので、建物の劣化具合について判断材料を提供したり、直し方などについてアドバイスをくれたりするものではありません。くれぐれも、混同してしまわないようにしましょう。

s-長嶋修_正方形.jpg長嶋 修  さくら事務所創業者・会長
業界初の個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクション(住宅診断)を行う「さくら事務所」を創業、現会長。不動産購入ノウハウの他、業界・政策提言や社会問題全般にも言及。著書・マスコミ掲載やテレビ出演、セミナー・講演等実績多数。【株式会社さくら事務所】