住宅購入検討者の4割近くが将来的な売却や賃貸を検討!柔軟に住み替えるスタイルが広がるか?

リクルートのSUUMOリサーチセンターが「『住宅購入・建築検討者』調査(2023年)」を公表した。この調査では、住宅の買い時感や住宅検討状況、住宅に関する意識などを聞いている。調査結果の推移を見ると、消費者の意識の変化がうかがえるので、詳しく見ていくとしよう。

【今週の住活トピック】
「住宅購入・建築検討者』調査(2023年)」公表/リクルート

検討している一戸建てとマンション、新築と中古が同率に

調査は、2023年12月に、首都圏、東海圏、関西圏と政令指定都市のうち札幌市、仙台市、広島市、福岡市に住む、20歳から69歳の男女で、過去1年以内に住宅の購入・建築、リフォームについて具体的に検討した人を対象に行われた。

検討している住宅の種別(複数回答)は、「注文住宅」が過半数の56%で、「新築一戸建て」31%、「中古一戸建て」31%、「新築マンション」30%、「中古マンション」30%、「リフォーム」16%となっている。一戸建てもマンションも、経年で見ると中古検討率がじわじわと上がっており、新築と中古が同率となっているのが、今回の特徴だ。

「一戸建てか、集合住宅(マンション)か」を聞く(単一回答)と、「ぜったい」と「どちらかといえば」の合計で、「一戸建て派」が58%、「集合住宅派」が22%と一戸建て派が優勢に。「どちらでもよい」は20%だった。

48%が「買い時と思っていた」と回答、その理由は?

さて、住宅購入環境にさまざまな変化が生じている。都心部のマンションを中心に価格が上昇していることに加え、長期固定型の住宅ローンの金利がじわじわと上昇している。集計対象数6007人のうち、住宅購入・検討者は4240人(賃貸検討者が1767人)。この人たちは、「買い時」と思っているのだろうか?

調査で「買い時だと思っていたかどうか」聞いたところ、48%が「思っていた」(とてもそう思っていた12%+ややそう思っていた36%)、20%が「思っていなかった」(まったくそう思っていなかった6%+あまりそうは思っていなかった14%)となり、買い時の割合が前年(2022年調査)の44%から48%に増加した。

出典:『住宅購入・建築検討者』調査(2023年)

出典:『住宅購入・建築検討者』調査(2023年)

ちなみに、「買い時だと思った理由」については、「これからは、住宅価格が上昇しそう」がTOPの45%だった。2位は「いまは、住宅ローン金利が安い」の33%、3位は「いまは、いい物件が出ていそう」の30%だった。

出典:『住宅購入・建築検討者』調査(2023年)

出典:『住宅購入・建築検討者』調査(2023年)

買い時と思う理由について、少し考えてみよう。2024年3月に日銀がマイナス金利を解除するなど、調査時点よりも金利のある時代が近づいている。金利について、いま調査をしたら、「金利が上がりそうだから」といった理由が上位に入るのかもしれない。また、住宅価格が高くなっているので、住宅の売り時と判断している人が多いと考えられる。中古の物件が市場に出回ることで、「いい物件が出ていそう」という環境になるかもしれない。

では、今後の住宅価格についてはどうだろうか?価格が上がり続けているのは都心部の住宅なので、それほど上がっていない地域と上がり続けている地域がある状況なのだが、残業時間を規制する2024年問題が拍車をかけて、建設業界の人手不足による建設費の上昇が続いている。流通業界も同様なので、建築資材を運送する費用も上がるなど、住宅の建設費用に下がる要因が見当たらない。したがって、「住宅価格が上昇しそう」な環境は、まだ続くといえるだろう。

住み続けるよりも柔軟に住み替える考え方に変化?

今回の調査の特徴といえるのが、「買い替え」層が増えていることだ。「初めての購入、建築」が63%と最も多いものの、持ち家を売却して新しい家を購入、建築する「買い替え」が年々増えて、2023年調査で29%に達した。もちろん、住宅価格が高くなっているため、売りやすい市場になっていることもあるが、どうやらそれだけではないようなのだ。

出典:『住宅購入・建築検討者』調査(2023年)

出典:『住宅購入・建築検討者』調査(2023年)

次に特徴的なのが、「将来的に売却を検討している」層が増えたことだ。「永住意向」が44%と半数近くを占めるものの、売却を検討したり、賃借を検討している層が合わせて38%になっている。購入、建築を検討しているときから、いずれキャッシュ化しようと考えている人が増えているわけだ。

出典:『住宅購入・建築検討者』調査(2023年)

出典:『住宅購入・建築検討者』調査(2023年)※2021年以前は調査なし

では、そう考えている人たちが、売却や賃貸に出すタイミングをどう考えているのだろう?
「土地や不動産の価格が上がったら」、「家が老朽化したと感じたら」、「他に欲しい物件が出たら」といったタイミングを想定している人が増えた一方、「定年退職」などは減っている。

出典:『住宅購入・建築検討者』調査(2023年)

出典:『住宅購入・建築検討者』調査(2023年)※2021年以前は調査なし

かつては、マイホームが老朽化したらリフォームして住み続け、家族構成の変化など状況が変わったときに売却するという流れだったが、近年は、価格が上がったり、欲しい物件が出たりしたタイミングや、老朽化でリフォームをする前のタイミングで、売却するという考え方に変わっているようだ。

住宅購入を取り巻く環境にも変化が生じているが、住宅を購入、建築する消費者側の意識にも変化が生じている。住み続けることにこだわらず「柔軟に住み替える」スタイルが広がりつつあるので、住宅の流通市場をより整備して、売り買いのしやすい環境をつくっていくことが求められるだろう。

●関連サイト
リクルート「『住宅購入・建築検討者』調査(2023年)」

ペアローンの団体信用生命保険でローンまるごと完済できる?そもそもペアローンと収入合算の違いとは

第一生命保険は、住宅購入時にペアローンを利用する世帯向けに、夫婦などのいずれかに万一のことがあった場合に両者のローン残高の合計を保障する連生団体信用生命保険の取り扱いを始めると公表した。取り扱い開始は、2024年7月から。そこで、今回はペアローンについて、深掘りしていこうと思う。

【今週の住活トピック】
ペアローン利用者の連生団体信用生命保険の取扱開始/第一生命保険

そもそもペアローンってどんなもの?

まず、ペアローンとは何かを説明しよう。

ペアローンとは、一つの物件を購入する際に、同居する夫婦などが、それぞれ契約者として住宅ローンを組む方法だ。それぞれの収入に応じて借り入れができるので、どちらかが単独でローンを組むよりも借入金額を増やすことができる。それぞれが住宅ローンの契約を結ぶことになるので、自分の住宅ローンについて団体信用生命保険に加入し、住宅ローン減税を利用できることになる。

ただし、同じ金融機関で同時に住宅ローンの借り入れをし、お互いが連帯保証人になる必要がある。また、2本の契約が発生するため、ローンに関する事務手数料や登記費用などの諸費用がそれぞれにかかってくる。

出典:第一生命保険のリリースより転載

出典:第一生命保険のリリースより転載

新築マンション購入者の3割がペアローンを利用

近年、ペアローンの利用者は多くなっている。

リクルートのSUUMOリサーチセンターが実施した「2022年首都圏新築マンション契約者動向調査」によると、世帯主と配偶者のペアローンは、全体で29.9%となっており、近年はおおむね3割で推移している。

リクルート「2022年首都圏新築マンション契約者動向調査」より抜粋して転載

出典:リクルート「2022年首都圏新築マンション契約者動向調査」より抜粋して転載

ペアローンの比率は、「既婚・共働き世帯」で見ると、48.2%と半数近くに達している。さらに、共働き世帯で世帯年収が1000万円以上に限ると72.6%にまで達する。フルタイムで働くなど、それぞれに一定の年収がある共働き世帯では、ペアローンが当たり前になっているようだ。

ペアローンと収入合算の違い

夫婦で協力して住宅を購入するには、ほかに収入合算という方法もある。

収入合算は、夫婦どちらかが単独で住宅ローンを組み、相手側の収入を合算する方法。合算した金額をもとに住宅ローンの審査を受けることができ、収入合算者は、連帯保証人になる必要がある。

収入合算で一般的な連帯保証の場合、収入合算者は団体信用生命保険の対象にはなれず、住宅ローン控除の利用もできない。例えば、夫が住宅ローンの契約者となった場合、夫が亡くなったときには、残りのローン全額が保険で清算されるが、妻が亡くなって収入が減少したときでも、ローンの返済はそのまま続くことになる。ただし、連帯債務の場合(【フラット35】など)は、収入合算者は住宅ローン控除が利用でき、デュエット(ペア連生団信)に加入すれば団体信用生命保険の対象になれる。

ペアローンの連生団体信用生命保険とは

ペアローンの場合、それぞれが住宅ローンの契約者として団体信用生命保険に加入するので、たとえば夫が亡くなった場合は夫のローンだけが保険で清算される。妻は従来通り、自分が借りたローンの返済を続けることになる。

今回の連生団体信用生命保険は、ペアローンの利用者それぞれを被保険者として、借入額の合計額をそれぞれの保険金額として団体信用生命保険に加入するもの。夫婦などのいずれかに万一のことがあったら、両者のローンをまるごと保険で完済できるようになる。

住宅ローンは長期間返済し続けるものなので、団体信用生命保険に加入するのが原則だ。疾病保障特約や所得補償特約などを付けることができるものもあり、連生団体信用生命保険が加わることで、保険の選択肢が増えることはよいことだろう。ただし、それに伴う保険料、保険が適用される条件などにも考慮したうえで、自分たちはどこまでの保障が必要かをしっかり検討する必要がある。

●関連サイト
第一生命保険「ペアローン利用者の連生団体信用生命保険の取扱開始」

住宅購入者の関心が高いワードはやはり【フラット35】、「住宅ローン減税」!購入時に知るべき制度も解説

リクルートが「『住宅購入・建築検討者』調査(2022年)」を公表した。この調査では、住宅の購入や建築を検討するうえで、知っておきたい制度などについての理解・関心度も聞いている。その結果、理解・関心度の高いワードの多くが、住宅ローンや減税に関するものだということが分かった。

【今週の住活トピック】
「住宅購入・建築検討者」調査(2022年度)公表/リクルート

住宅購入・建築検討者は一戸建て派が多数を占める

調査は、首都圏、東海圏、関西圏の三大都市圏と政令指定都市のうち札幌市、仙台市、広島市、福岡市に住む、20歳から69歳の男女で、過去1年以内に住宅の購入・建築、リフォームについて具体的に検討した人を対象に行われた。

検討している住宅の種別(複数回答)は、「注文住宅」が過半数の56%で、「新築一戸建て」32%、「中古一戸建て」29%、「新築マンション」32%、「中古マンション」26%、「(現在住む家の)リフォーム」15%となっている。「一戸建てか、マンションか」を聞く(単一回答)と、「ぜったい」と「どちらかといえば」の合計で、「一戸建て派」が63%、「マンション派」が22%と、一戸建て派が多数を占める結果となった。

また、検討している物件に、「永住する」と考えているのは45%、「将来的に売却を検討している」のは24%、「将来的に賃借を検討している」のは5%だった。

過半数が名前も内容も知っている、【フラット35】、「リノベーション」、「住宅ローン減税」

この調査では、「税制・優遇制度などへの理解・関心」について、詳しく聞いている。聞いた税制・優遇制度は、「今後創設予定の税制・優遇制度」、「住宅購入に関する税制・優遇制度」、「住宅購入に関する金利・補助金」、「物件の構造・仕様、取引、他に関するもの」に大別され、それぞれ複数項目を聞いている。

その項目の中で、「言葉も内容も知っている」と回答した割合(以降は、「認知度」と表記)の多いものを挙げてみよう。

■認知度の高い項目(上位10項目)

順位制度名等認知度1【フラット35】75%2リノベーション63%3住宅ローン減税※56%4【フラット35 S】46%4空き家バンク46%6固定資産税の減額措置45%6スマートハウス45%8贈与税の特例42%9認定長期優良住宅41%10住宅リフォームの減税制度40%※住宅ローン減税については、さらに細かく聞いているが、順位としては省略した。
リクルート『住宅購入・建築検討者』調査(2022年度)を基に筆者が作成

認知度の上位には、住宅ローンと減税に関するものが多く入っているのが目立つ。ローンと税金は多くの人に関係するだけに、認知度が高くなっているのだろう。ちなみに、認知度が低かったのは、「BELS」(23%)や「安心R住宅」(25%)だった。

【フラット35】と「住宅ローン減税」のどこまで知っている?

この調査では、回答者に対して言葉とその内容について説明文を提示し、そのうえで、知っているかどうか聞いている。その説明について、紹介しておこう。

まず、1位の【フラット35】と4位の【フラット35 S】。

【フラット35】全期間固定金利の住宅ローンである【フラット35】において、2023年4月よりすべての住宅について、省エネ基準への適合を求める制度の見直しが行われる。【フラット35 S】一定の基準を満たした住宅を取得する場合、一般の住宅より金利を引き下げる制度。

住宅金融支援機構と民間金融機関が提携して提供する【フラット35】だが、ポイントは、2023年4月以降は省エネ基準に適合していないと利用できないことだ。金利を引き下げる優遇制度である【フラット35 S】は、すでにZEHなど省エネ性の高い住宅ほど金利が優遇される仕組みに変わっている。

2位の「住宅ローン減税」については、「返済期間10年以上の住宅ローンを利用して住宅を購入した場合に、住宅ローン残高の0.7%を所得税等から控除」と概要を説明しており、認知度は56%になっている。実は、調査ではさらに細かく聞いている。

【住宅ローン減税×環境性能】環境性能の優れた住宅では、減税の対象となる借入限度額が上乗せになる。【住宅ローン減税×中古OK】新耐震基準適合住宅(1982年以降に建築された住宅と定義)であれば、住宅ローン減税が適用される。【住宅ローン減税×増改築OK】自宅の増改築でも基準を満たせば、住宅ローン減税が適用される。【住宅ローン減税×新築床面積】2023年末までに建築確認を受けた新築住宅であれば、床面積が40平米以上50平米未満でも適用される。(それより以前は床面積50平米以上で適用対象)【住宅ローン減税×耐震改修】新耐震基準を満たさない中古でも、取得後一定期間内に耐震改修して基準を満たせば、住宅ローンが適用される。

いずれについても、認知度は46%~51%と高く、住宅ローン減税については細かい適用条件まで理解している人が多いことがわかる。

リノベーションなど認知度の高いワードを再確認

以下、上位に挙がった項目について、説明していこう。

リノベーション既存の建物に大規模な改修工事を行い、用途や機能を変更して性能を向上させたり付加価値を与えること。空き家バンク地方自治体が、空き家の賃貸・売却を希望する所有者から提供された情報を集約し、空き家をこれから利用・活用したい方に紹介する制度。空き家対策の一つとして注目されている。固定資産税の減額措置2024年3月末までに新築住宅を取得した場合、固定資産税が3年間(マンション等の場合は5年間)、2分の1に減額される。スマートハウス太陽光発電システムや蓄電池などのエネルギー機器、家電、住宅機器などをコントロールし、エネルギーマネジメントを行うことで、家庭内におけるエネルギー消費を最適化する住宅。贈与税の特例住宅取得等資金として、子や孫が親や祖父母から贈与を受ける場合、通常の住宅で500万円、省エネ等住宅で1000万円まで贈与税が非課税になる。認定長期優良住宅耐震、省エネ、耐久性などに優れた住宅である長期優良住宅と認定されると、所得税、登録免許税、不動産取得税、固定資産税が軽減される。(住宅ローン減税では借入限度額が上乗せされる)住宅リフォームの減税制度耐震改修、バリアフリー対応、省エネ対応、三世代同居対応、長期優良住宅化対応の工事を行うと所得税等の控除がある。リクルート『住宅購入・建築検討者』調査(2022年度)を基に筆者が作成

少し補足説明をしておこう。
「リノベーション」については明確な定義がないのだが、住宅業界では一般的に、劣化した部分を建築当時の水準に改修するだけでなく、今の生活に合うように機能を引き上げる改修を行うことをいう。そのため、大規模な改修工事になることが多い。

「空き家バンク」は、かつては自治体ごとに公開しているホームページを見に行くしかなく、使いづらいものだったが、いまは民間の不動産ポータルサイトによって統一した内容で全国の空き家が探せるようになっている。

「スマートハウス」は、一般的にHEMS (home energy management system) と呼ばれる住宅のエネルギー管理システムで、家庭の電気などのエネルギーを一元的に管理する住宅のこと。IT技術を活用した住宅としてはほかに、IoT住宅(アイオーティー住宅。インターネットで住宅設備や家電などをつなげてコントロールできる住宅)などもある。IT技術によって、今後も多くのものがホームネットワークでつながり、安心安全や健康などの住生活の向上も期待されている。

ほかは、主に減税に関する項目が上位に挙がった。いずれも期限付きの減税制度となっている。期限がくると延長されるか、縮小されるか、終了するかになるので、注意が必要だ。

知っておきたい「新築住宅の省エネ基準適合義務化」と「インスペクション」

最後に、認知度が高くはなかったが、知っておきたい項目について紹介したい。それは「2025年新築住宅の省エネ基準適合義務化」(26%)と「インスペクション(建物状況調査)」(32%)だ。

新築住宅、特に一戸建てのような小規模な建築物にも、省エネ基準への適合が義務化されることになっている。適合義務化は、2030年までにZEH水準まで引き上げる予定となっている。こうした新築住宅への義務化によって、既存の住宅と省エネ性能に開きができる点も押さえておきたい。

「インスペクション」(32%)はもっと認知度が高いと思っていたので、少し意外に思った。中古住宅の売買において、宅地建物取引業者は、建物状況調査の事業者をあっせんするかどうかや、対象の住宅が建物状況調査を行っているかどうかなどを伝えることになっている。建物の状態はしっかり把握しておきたいものなので、認知度が上がることを期待したい。

さて、説明文が簡単に記載されていたとしても、「言葉も内容も知っている」というレベルは人それぞれだろう。何となく分かっているというレベルから、適用条件や期限まで正確に把握しているレベルまでさまざまある。実際に制度を利用しようとするときには、正確に理解していることが求められるので、この機会にぜひ各制度への理解を深めてほしい。

●関連サイト
リクルート「住宅購入・建築検討者」調査(2022年度)

2022年の新築マンション平均購入価格、首都圏・関西ともに2001年以来の過去最高金額に!一方、平均面積は過去最低

リクルートの調査研究機関『SUUMOリサーチセンター』は、「2022年首都圏新築マンション契約者動向調査」の結果を発表した。その結果を見ると、新築マンションの価格上昇の影響がさまざまな形で表れていた。同じWITHコロナの2021年と比較して、どんな変化があるかを見ていきたい。

【今週の住活トピック】
「2022年首都圏新築マンション契約者動向調査」を発表/リクルート

首都圏の購入価格は5890万円で、2001年以降最高額に

調査は、新築マンションの購入契約者を対象に、2022年1月~12月に集計した、首都圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県:5972件の結果をまとめたもの。

新築マンションの首都圏の平均購入価格は、5890万円だった。2021年より181万円増加し、2001年の調査開始以来最も高くなった。これは、「6000万円以上」が37.6%、「5000~6000万円未満」が21.8%など、5000万円以上の占める割合が全体の約6割に達しているからだ。特に「6000万円以上」は、10年前(5.5%)や5年前(30.5%)、前年(35.6%)に対して拡大し続けている。

購入価格(実数回答)(出典:リクルート「2022年首都圏新築マンション契約者動向調査」)

購入価格(実数回答)(出典:リクルート「2022年首都圏新築マンション契約者動向調査」)

自己資金比率は22.1%で前年(19.1%)より3ポイント増加している。にもかかわらず、購入価格が上昇した影響か、ローン借入額の平均は4963万円で前年(4941万円)より22万円増えている。特に借入額「5000万円以上」が45.3%と半数近くにまで拡大しているのが注目点だ。

世帯総年収も平均で1034万円となり、前年(1019万円)より増加。シングル世帯をのぞき、夫婦のみ世帯、子どもあり世帯、シニアカップル世帯のすべてで平均世帯総年収が1000万円を超えた。首都圏の新築マンションマーケットは、以前に比べ、より世帯年収の高い層を中心に動いていることが分かる。

なお、住宅ローンの契約形態は、「単独名義で契約」が69.0%、「世帯主と配偶者(パートナー)のペアローン」は29.9%で、ペアローンの割合は2018年以来、3割前後で推移している。

新築マンションの平均面積は、2001年調査開始以来で最も小さく

2022年の購入契約者のライフステージを見ると、最多は「子どもあり世帯」(第一子小学校入学前25.4%+小学校以上11.0%)の36.4%で、次いで「夫婦のみ世帯」の30.2%だった。一方、「シングル世帯」(男性7.3%+女性10.9%)は18.2%で、「シニアカップル世帯」(7.6%)とともに、2001年の調査開始以来最も高い割合になった。

購入した新築マンションの専有面積は、平均で65.9平米。前年の66.0平米とほぼ横ばいではあったが、2001年の調査開始以来最も小さいという結果になった。

専有面積(実数回答)(出典:リクルート「2022年首都圏新築マンション契約者動向調査」)

専有面積(実数回答)(出典:リクルート「2022年首都圏新築マンション契約者動向調査」)

また、「50平米未満」は「シングル男性世帯」で40.2%、「シングル女性世帯」で55.4%を占めるなど、全体に占めるシングル世帯の割合増加も、平均面積の縮小化に影響をしていると考えられる。

購入価格は、専有面積が狭くなるほど安くなる。面積の縮小化は、価格上昇によって手が届きやすい価格帯を求めた結果という見方もできるだろう。

東京23区の居住者の約37%が、購入時に他のエリアに流出

購入価格は都心部ほど高くなる。調査結果の平均購入価格を見ると、東京23区が7041万円、東京都下が5347万円、神奈川県が5553万円、埼玉県が5459万円、千葉県が4372万円だ。いずれのエリアも前年より上昇している。

一方、購入した物件の所在地は東京23区が最多の33.9%、次いで神奈川県の28.5%だった。注目点は、東京23区の割合が減少していることだ。5年前の2017年では東京23区は43.2%だったが、以降減少し続けている。

これを購入者の前住所とクロスして見よう。いずれのエリアも同じエリアで購入する割合が高いのだが、23区から23区への購入割合の減少が顕著だ。2017年では74.5%だったが、2022年では63.4%まで減っている。東京23区居住者の残りの4割弱が、購入の際に「他のエリアに流出した」ことになる。

契約前住所別 購入物件所在地(東京23区)※直近6年間の推移(出典:リクルート「2022年首都圏新築マンション契約者動向調査」)

契約前住所別 購入物件所在地(東京23区)※直近6年間の推移(出典:リクルート「2022年首都圏新築マンション契約者動向調査」)

この結果は、東京23区の新築マンションの価格が高くなりすぎたことから、手が届きにくいと思う人が他のエリアで購入したという流れに見える。専有面積の小さいものを探すのか、より低価格なエリアで探すのか、あるいは中古マンションや新築一戸建てなどの別の物件種を探すのか、といった選択を求められたのかもしれない。

関西圏も首都圏とほぼ同じ傾向が見られる

リクルートは首都圏の調査結果発表の翌日に、関西圏の結果も発表している。その結果を見ると、関西圏も首都圏と同様の傾向が見られる。ただし、価格などの数値は異なる。

関西圏の平均価格は5071万円で前年より上昇し、2001年の調査開始以来最も高くなった。自己資金比率は平均27.6%、ローンの借入総額は平均4304万円で、いずれも前年より上昇した。世帯総年収も平均が921万円に増加したが、ペアローンの割合は2割前後で推移している。

シングル世帯とシニアカップル世帯の割合が、2001年の調査開始以来最も多いのも首都圏と同じだ。平均専有面積は68.7平米で、こちらも2001年の調査開始以来最も小さい。

ただし、流出状況は首都圏とは異なる。関西圏で最も平均価格が高いエリアは、大阪市内の5528万円だ。次いで、京都エリア(5471万円)、北摂エリア(5140万円)、阪神間エリア(5052万円)の順となる。契約前住所別に購入物件所在地を見ると、大阪市内→大阪市内は75.5%で前年(68.7%)より増加している。むしろ、北摂エリア→北摂エリアが前年の84.8%から75.5%に減少し、北摂エリア→大阪市内への移動が前年の7.0%から13.1%へと増加している。エリア間の価格差が首都圏より小さいということもあるが、大阪市内に魅力的な物件が多かったという見方もできるだろう。
この点について、SUUMO副編集長の笠松美香さんに聞いた。大阪市内の新築マンションの供給が関西圏の中では堅調で、梅田エリアを筆頭に開発が続き、将来の発展期待性が高いことに加え、大阪市内の平均価格が5000万円台とまだ手が届きやすいことから、首都圏とは流出状態が異なるのだろう、ということだ。

さて、首都圏と関西圏の違いは「重視項目」でも見られる。物件を検討する上で重視した項目は「価格」が最も多く、首都圏で90.2%、関西圏で86.9%。次いで「最寄り駅からの時間」が首都圏で82.9%、関西圏で79.3%、「住戸の広さ」が首都圏で73.1%、関西圏で63.7%だった。

しかし、首都圏では「通勤アクセスの良いエリア」が59.7%で4位になるのに対して、関西圏では53.6%で6位だった。関西圏より通勤時間が長くなりがちな首都圏ならではのこだわりだろう。

マイホームを手に入れるには、価格、広さ、周辺環境、交通アクセスなどさまざまな重視項目から帰着点を見つける必要がある。どこを重視してどこを妥協するかは、人それぞれなのだろう。

●関連サイト
リクルート「2022年首都圏新築マンション契約者動向調査」
リクルート「2022年関西圏新築マンション契約者動向調査」

住宅ローン「変動型」利用者が減少傾向に。金利上昇リスクを抑えるには?

住宅金融支援機構が発表した「住宅ローン利用者の実態調査結果(2022年10月調査)」によると、増加していた「変動型」の利用者が減少に転じたという。それでもなお、約7割が変動型を利用している。金利が上昇した場合、変動型を利用していても問題はないのだろうか?

【今週の住活トピック】
「住宅ローン利用者の実態調査結果(2022年10月調査)」を発表/住宅金融支援機構

「変動型」が減少し、「固定期間選択型」と「全期間固定型」が増加

まず、住宅ローンの金利タイプについておさらいしておこう。35年などの返済期間を通して金利が固定される「全期間固定型」、当初の3年や5年、10年などの選択した一定期間だけ金利が固定される「固定期間選択型」、半年ごとに金利が見直される「変動型」の3タイプがある。今のような低金利の局面において、全期間固定型は変動型よりも金利が高く設定されている。

次に、調査対象者や時期を確認しよう。調査対象は、2022年4月~9月の間に住宅ローンを借りた1500件で、調査は2022年10月~11月に実施された。金融緩和策を維持してきた日本銀行が、長期金利の変動許容幅を従来の0.25%程度から0.5%程度に広げ、実質の利上げかといわれたのが、2022年の年末のこと。これにより、いよいよ金利上昇が現実的になってきたと指摘されたのだが、これよりも前に住宅ローンを借りた人に調査を実施したことになる。

では、調査結果を見ていこう。今回の調査で注目されたのは、「変動型」が減少したこと。代わって「固定期間選択型」や「全期間固定型」が増加した。それでも、69.9%が変動型を選んでいる。やはり、変動型の低金利に魅力を感じるということだろう。

利用した金利タイプ

利用した金利タイプ(出典:住宅金融支援機構「住宅ローン利用者の実態調査結果(2022年10月調査)」)

低金利のメリットを活かしたい人が多いなか、金利の上昇リスクを抑えたいと考えて、全期間固定型や固定期間選択型を選んだ人が以前より増えたのだろう。

実際に「今後1年間の住宅ローンの金利見通し」を聞いた結果は、「現状より上昇する」が41.7%になり、前回調査(2022年4月調査)の39.2%よりわずかに増えた。特に、全期間固定型を選んだ人では、上昇するという回答が、前回の45.1%から今回の52.7%に増加している。変動型より金利は高く設定されているものの、低金利のいまのうちに全期間の金利を固定してしまおうと考えた人もいたのだろう。

変動型を選んだ約7割のなかでも、金利上昇に強い人、弱い人がいる

調査時期よりも現時点のほうが、金利上昇が現実的になっている。実際に、全期間固定型の代表となる【フラット35】の最頻金利※は、2023年3月時点で、5カ月連続で上昇した。変動型はまだまだ金利が上昇する気配はないが、長期に金利を固定するものは少し上がっているのだ。
※※最頻金利とは、取扱金融機関が提供する最も多い金利のこと

つまり、これから考えるべきリスクは金利が上昇することで、利息が増え、毎月の返済額(ボーナス時加算も併用していればその返済額も)が増えてしまうことだ。返済額が増えても、家計に支障がない人もいれば、それによって返済が難しくなる人もいるだろう。

まず気になる点、その1は「融資率」だ。住宅価格(注文住宅なら建築費用)の何割を住宅ローンで充当するかで、頭金を1割入れていれば、9割が住宅ローンとなる。調査結果を見ると、変動型を選んだ人が最も多いのが「90%超100%以下」ということだ。さらに「100%超」つまり、住宅価格だけでなく諸費用分まで借りた人でも、変動型を選んだ人が多いのも気になる。

融資率

融資率(出典:住宅金融支援機構「住宅ローン利用者の実態調査結果(2022年10月調査)」)

融資率90%超で変動型を選んだ理由が、低金利の変動型でなければそこまで借りられなかったという人は、要注意だ。

例えば、毎月12万円の返済(年間返済額144万円)で住宅ローンを35年返済で借りるとする。変動型(金利0.45%で試算)なら、借入可能額は4662万円だが、全期間固定型(金利1.45%で試算)なら借入可能額は3950万円に下がる。毎月12万円の返済で4500万円を借りたい場合は、変動型などの低金利のものしか選択できないということになる。

もちろん、月々の家計に余力があれば、金利上昇に伴う返済額の増加の影響は少ない。その意味では、気になる点、その2は「返済負担率」となる。返済負担率とは、年収に対して年間の住宅ローンの返済額が何%になるかを表すものだ。

一般的に住宅ローンでは、年収が高くなるほど、高い返済負担率でも借りられるようになる。例えば、先ほどの事例(毎月返済額12万円)では、年収600万円の人なら、返済負担率は24%なので問題はない。これに対して、年収400万円の人だと返済負担率が36%まで上がるので、金融機関側から借入額を減らして毎月の返済額を抑えるように求められることになる。

返済負担率

返済負担率(出典:住宅金融支援機構「住宅ローン利用者の実態調査結果(2022年10月調査)」)

調査結果を見ると、多くの人が返済負担率10%超から25%以内の安全圏で借りている。が、年収400万円以下の人で返済負担率25%~30%だったり、高年収でも支出の多い家計で返済負担率が35%超だったりすると、支出の削減が難しい場合もあるので、金利上昇に伴う返済額の増加の影響が大きくなるだろう。

金利上昇リスクに対して具体策をもとう

そして最も気になる点、その3が「金利上昇リスクへの対応を考えていない」場合だ。調査結果を見ると、変動型を借りている人で、金利上昇で返済額が増加した場合の対応について「見当がつかない、わからない」という人が20.7%もいる。

金利上昇に伴う返済額増加への対応

金利上昇に伴う返済額増加への対応(出典:住宅金融支援機構「住宅ローン利用者の実態調査結果(2022年10月調査)」)

資金に余力があって、返済を継続できる(31.6%)、全額完済できる(13.6%)なら問題はない。また、「一部繰り上げ返済をする」(24.5%)という人も多いのだが、元金の一部を繰り上げて返済するので、そのための資金が必要になる。「借り換え」(9.0%)も同様で、相応の諸費用がかかる。貯金に余裕がなくて融資率9割超という人には、難しい対応策かもしれない。

また、金利上昇のために変動型から借り換える場合、借り換え先の金利も上昇しているはずだし、一般的に変動型よりも先に長期間金利を固定するタイプが上がっていくので、金利上昇に気づいたときには、すでに借り換え先の金利も上がっていてリスク回避の効果がないという場合もあるだろう。

変動型は金利が上昇しても急激に返済額は増えないけれど…

急激に金利が上昇したバブル期のときに導入されたのが、変動型の5年ルールだ。急激に返済額が増加するのを抑えるために、金利が上昇して利息が増えても、返済額の設定見直しは5年おきとし、返済額を増やす場合でも1.25倍までに制限するというもの。今でもこのルールを適用する金融機関は多い。

したがって変動型で金利が上昇した場合でも、このルールによって、急激に返済額が増える事態にはならない。しかし、返済額が増えないだけで、支払うべき未払い利息は残る。元金も減らないため、トータルの利息はどんどん積み上がることになる。

住宅ローンは35年間などの長期間にわたって返済するものだ。自分や共に住宅ローンを借りたパートナー、あるいは勤務先の事業などによって、収入が想定より減ってしまうリスクもあるので、目いっぱい借りてしまうことに注意したい。さらに、金利上昇リスクが高まる状況なので、これから借りる人はぜひ、金利が上昇したときにどう対応するかを考えて、住宅ローンを選ぶようにしてほしい。

●関連リンク
「住宅ローン利用者の実態調査結果(2022年10月調査)」(住宅金融支援機構)

【フラット35】同性パートナーの申込み、今年から可能に。必要書類、住宅ローンの返済方法は?

住宅ローンの商品内容は、その時々のニーズに応じて見直される。全期間固定金利型ローンの代表格【フラット35】も例外ではない。2023年1月から同性パートナー同士で、【フラット35】が借りられるようになった。どんな仕組みなのだろうか?詳しく見ていこう。

【今週の住活トピック】
【フラット35】2023年1月から同性パートナーと連帯債務で申し込み可能に/住宅金融支援機構

同性パートナーとでも住宅ローンを利用できるようにする動きに

同性パートナーでも、単独で住宅ローンを借りて住宅を購入する場合は、あまり問題にならない。しかし、協力してお金を出し合って購入しようとすると、親子や婚姻関係のある夫婦であれば、それぞれで住宅ローンを借りる「ペアローン」や2人の収入を合算して借りる「収入合算」などの仕組みが利用できるのに、婚姻関係が結べない同性カップルの場合は、こうした仕組みを利用できないことも多い。

また、どちらかが単独で住宅ローンを借りて購入し、実際には2人の収入から返済していく場合には、問題が生じてしまう。住宅ローンを借りていない人が出した返済分が、家賃として出されたものなら「不動産所得」として、資金援助として出されたものなら「贈与」として、いずれも借りた人の課税対象になる可能性があるからだ。

こうしたことから、同性パートナーでも住宅ローンを借りられるようにしようという動きになり、ペアローンや収入合算の対象となる「配偶者」の定義に同性パートナーを含めるという形で、同性カップル向けの住宅ローンを取り扱う金融機関が増えている。

【フラット35】で同性パートナーと借りる仕組みは?

では、【フラット35】の場合を見ていこう。

【フラット35】とは、住宅金融支援機構と民間金融機関が提携し、提供している住宅ローンで、35年などの長期間にわたって金利が変わらないのが特徴。提携先の民間金融機関によって、実際に借りるときに適用される金利や融資手数料は異なる。

同性パートナー同士で【フラット35】を利用するには、地方公共団体の「パートナーシップ証明書」や同性パートナーに関する合意契約に係る公正証書などの書類が必要だ。これは【フラット35】に限らず、多くの金融機関で共通する条件だ。

■主な必要書類(次の1または2いずれかの書類)
出典/住宅金融支援機構HPトピックスより転載)

出典/住宅金融支援機構HPトピックスより転載

【フラット35】を利用する場合は、同性パートナーで「収入合算」が利用でき、住宅ローンの申込者に収入を合算する人は「連帯債務者」となる。加えて、2人とも団体信用生命保険に加入できる「夫婦連生団信(デュエット)」を利用できるのが、大きな特徴だ。

2人で協力して住宅ローンを返済する方法はいくつかある

夫婦であれ、同性カップルであれ、2人で協力して住宅ローンを借りる方法はいくつかある。どういった場合に利用できるかは、金融機関によっても異なる。

近年増えている「ペアローン」は、同一物件に対して2人がそれぞれ住宅ローンを借りるものだが、【フラット35】では利用できない。

次に、民間金融機関の多くが収入合算で採っているのが「連帯保証」で、ローンを申し込んでお金を借りる人(債務者)の連帯保証人となる仕組みだ。この場合の連帯保証人は、万一のときには返済の義務を負うが、返済するのはあくまで債務者なので、住宅ローン控除や団体信用生命保険の対象にならない。

【フラット35】の場合は、収入合算で「連帯債務」とする借入方法としている。連帯債務者は、債務者と同等に返済する義務を負う。一般的に、住宅ローン控除の対象になるが、団体信用生命保険の対象にならない事例が多いのだが、同性パートナーが連帯債務者となる場合も「夫婦連生団信(デュエット)」を利用することができるようになった。どちらか一方が亡くなった場合に、残りの住宅ローンが保険金で返済されるので安心だ。ただし、デュエットを利用する場合は、金利上乗せの形で追加の保険料相当費用を支払うことになる。

このように、2人で協力してローンを借りるにはいくつか方法がある。一般的な方法を下表にまとめたので、借り方の違いを理解して、金融機関に詳しい条件を確認するのがよいだろう。

■2人で協力して住宅ローンを借りる方法

※金融機関が夫婦連生団体信用生命保険(【フラット35】では「デュエット」)を用意している場合は連帯債務者も加入できる。「2人で協力して住宅ローンを借りる方法」筆者作成

※金融機関が夫婦連生団体信用生命保険(【フラット35】では「デュエット」)を用意している場合は連帯債務者も加入できる。「2人で協力して住宅ローンを借りる方法」筆者作成

さて、共働きが当たり前になり、また、LGBTへの理解も深まっている時代だ。こうした時代の要請にこたえて、住宅ローンも変化している。選択肢は豊富にあるので、自分たちに合う住宅ローンを選んで、賢く住宅を購入してほしい。

●関連サイト
【フラット35】2023年1月から同性パートナーの方とも連帯債務でお申込みいただけます。

60歳からでも住宅ローンが組める「リ・バース60」! ダウンサイジングや住み替えも利息のみの返済でOK

最近、「リタイアしたらコンパクトな家に住み替えたい」とか「田舎で暮らしたい」とか、同世代の友人たちから住み替えの相談を受けることが多くなった。私自身も60歳を超えて、趣味の部屋をつくりたいという夢を持っている。その時、問題になるのが資金だ。今までは60歳以上の世代にとって、住宅ローンは大きな関門であり、住み替えやリフォームの希望があっても難しいと言われていた。そんななか、【リ・バース60】というシニア向けの住宅ローンが話題だという。どんな仕組みなのか住宅金融支援機構に取材した。
60歳からの住宅ローン【リ・バース60】とは?

60歳を過ぎると仕事をリタイアしている人も多く、定期的な収入が年金のみという場合が多い。また、新たに住宅ローンを組みたくてもローン完済までの期限が限られており、毎月の返済額が大きくなる場合もある。何より限られた生活費から毎月の返済をするのは難しい。

筆者は、少し前から、自宅を担保に金融機関から融資を受けるリバースモーゲージに興味を持っていた。毎月の支払いは、存命中は利息のみで、元金は債務者が亡くなった後、自宅を売却すること等で一括返済する仕組みだ。筆者は長いフリーランス生活で年金に期待できないという状況で、今後の生活設計に利用できるかと視野に入れていたのだ。しかし、筆者の知る金融機関が提供するリバースモーゲージ商品は、資金使途が「生活資金」「医療・介護用資金」という場合が多く、新しく家を買いたいといった場合には利用が難しい。

そこで新しく満60歳以上の人向けのリバースモーゲージ型の住宅ローン【リ・バース60】が生まれたと聞いた。通常の住宅ローンでは、毎月、元金と利息を返済しなければならないが、【リ・バース60】では、債務者の存命中は、毎月の支払いは利息のみ、元金は、債務者が亡くなったときに担保不動産を売却して返済するか、相続人が現金等で一括返済するかを選ぶことができる。

返済方法のイメージ図(画像提供/独立行政法人住宅金融支援機構)

返済方法のイメージ図(画像提供/独立行政法人住宅金融支援機構)

【リ・バース60】は、住宅金融支援機構の住宅融資保険で民間金融機関の住宅ローンを支援する仕組みだ。金利等の融資条件は金融機関によって異なるので、詳細は各金融機関に問い合わせる必要がある。

あくまでも住宅ローンの一種であるため、資金の使い道は住宅の建設・購入、リフォーム、住宅ローンの借換え、セカンドハウスの建設・購入、サービス付き高齢者向け住宅の入居一時金など住宅関連費用に限定されている。融資額の上限は、1.8000万円、2.住宅の建設・購入、リフォーム等の所要金額の100%、3.担保評価額の50%または60%のうち、最も低い金額になっている(※1)。

※1担保とする住宅(セカンドハウスを含む)が長期優良住宅の場合で、債務者の年齢が満60歳以上のときは「担保評価額の55%または65%」となる。また、債務者の年齢が満50歳以上満60歳未満の場合は、一律「担保評価額の30%」となる。

【リ・バース60】の仕組み図(画像提供/独立行政法人住宅金融支援機構)

【リ・バース60】の仕組み図(画像提供/独立行政法人住宅金融支援機構)

相続人が困ることのないようにノンリコース型が利用できる

債務者が亡くなり、契約が終了したときに、相続人が一括返済するか、自宅の売却代金で借入金を返済するというのが【リ・バース60】の特徴だ。そこで気になるのが地価の下落等により売却代金で借入金を全額返済できなかった場合。リコース型では残金を相続人の方が返済する必要がある。ところがノンリコース型では相続人の方は残金を返済する必要はない。(※2)

2017年からは【リ・バース60】にこのノンリコース型が加わり、さらに安心できるシステムになった。今では債務者の99%がノンリコース型を選択しているようだ。ただし、金融機関によって、ノンリコース型はリコース型に比べて金利が高くなることが多いので頭に入れておこう。

また、相続人が住宅ローンの債務を引き継がないとなった場合、ローンの負債だけでなく、資産もすべて相続しない「相続放棄」を連想してしまう。しかし、ノンリコース型であれば、自宅の売却代金では全額返済できなかった場合であっても、金融機関は相続人に不足分を請求しないといった契約なので、他の相続財産とは切り離して考えることができるのもメリットだ。(※3)

※2死亡以外の理由により延滞等となった場合、売却代金で全額返済できなかったときは契約者に支払請求を行う。
※3相続に関する税金については、税務署へ要確認。

【リ・バース60】の具体的な活用方法

【リ・バース60】にはさまざまな活用例がある。下記を参考にセカンドライフのプランを考えてみてほしい。

■新居への住み替え資金を用意したい
子どもが独立した後、夫妻2人で暮らしやすいコンパクトな家への転居を検討する場合、高齢になってから住宅ローンを借りるのは難しい。しかし今後の生活のために預貯金も一部残しておきたい。
→【リ・バース60】なら、一定の頭金は必要だが、高齢の夫婦でも住み替え資金を借りることができ、毎月の返済負担も小さく済む。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

■シニア向け分譲マンションを購入したい
これから歳を重ねるにあたって1人暮らしは不安だと感じる。あるいは今の住まいのメンテナンスに手がかかり、今後、自分が病気になったときの対処も考えておきたい。
→【リ・バース60】なら、看護師の常駐や健康管理のための施設が備え付けられているなど、快適な老後を想定したシニア向けの分譲マンションへの住み替えにも利用できる。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

■老朽化した自宅をリフォームしたい
年齢に合わせて住み心地を良くしたり、健康状態によってはバリアフリー対応のリフォーム工事が必要になったりする場合もある。預貯金からリフォームでまとまったお金を使うことに不安を感じる。
→【リ・バース60】なら、毎月の支払いは利息のみで済むので、月々の負担が少なく、預貯金を残しながらのリフォームが可能。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

■住宅ローンの借換えで毎月の支払を減らしたい
定年を迎えると収入が減り、住宅ローンの債務が残っていると毎月の返済が苦しくなってくる場合がある。返済が滞ると、最悪の場合は自宅を手放すことになりかねない。
→残債額によっては、【リ・バース60】で住宅ローンの借換えを行うことができる。借換えによって毎月の支払いが利息のみとなるので、月々の負担を軽減できる。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

【リ・バース60】の資金使途別(画像提供/独立行政法人住宅金融支援機構)

【リ・バース60】の資金使途別(画像提供/独立行政法人住宅金融支援機構)

【リ・バース60】で頭に入れておきたいこと

【リ・バース60】の活用するにあたって気を付けておきたいことがいくつかある。まず融資限度額は担保評価額の50~60%となっている。そのため、住宅の建設・購入資金の借り入れの場合は物件価格の50%程度の頭金が必要になる。

また、リフォーム資金や住宅ローンの借換えのために、現在の自宅を担保として【リ・バース60】を利用する際は、住宅ローンの残債額と担保不動産の評価額によっては、希望した金額で融資を受けられない可能性がある。

【リ・バース60】は毎月の支払いが利息のみなので、月々の負担は小さくなるが、繰上返済しない限り、利息の支払いはずっと続く。つまり、長生きすればするほど利息の総支払額は増えていくので、借入期間が長期化すれば、利息の総支払額が膨大な金額になってしまう可能性もある。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

変動金利の場合は、定期的に適用金利が見直される。適用金利が変更されると、毎月の支払額も変わる場合もあるので、今後金利が上昇すれば、月々の支払額が増加し支払いが困難になってしまう可能性もある。【リ・バース60】を変動金利で利用するなら、金利上昇に備えた計画にしておく必要があるのだ。

2020年度の申請戸数は対前年の118%増、さらに2021年の1月~3月の申請戸数は対前年同期比135.6%増という【リ・バース60】。取扱金融機関も70を超え、今後ますます注目される住宅ローンと言えるだろう。本格的な超高齢社会を迎えて、60歳以降のセカンドライフを十二分に楽しむためにも、選択肢の1つとして視野に入れておきたいと思った。

●取材協力
【リ・バース60】:住宅金融支援機構(旧住宅金融公庫)

雑貨店店主と建築家の夫婦がつくる「変わり続ける家」 その道のプロ、こだわりの住まい[4]

JR国立駅と谷保駅の間に位置する、国立ダイヤ街商店街。精肉店や鮮魚店、青果店が軒を連ね、昔から地元の人たちに愛され続けている場所だ。その一角にあるのが日用雑貨を扱う「musubi」。ここは、店主の坂本眞紀さんと夫で建築家の寺林省二さん、一人娘の吟ちゃん、愛猫のトトが暮らす自宅でもある。道具を扱うプロと、家づくりのプロの生活を見せてもらった。【連載】その道のプロ、こだわりの住まい
料理家、インテリアショップやコーヒーショップのスタッフ……何かの道を追求し、私たちに提案してくれるいわば「プロ」たちは、普段どんな暮らしを送っているのだろう。プロならではの住まいの工夫やこだわりを伺った。昔ながらの商店を彷彿とさせる仕事場兼自宅坂本さん(左)は元インテリアショップのバイヤーで、独立して自身の店を構えた。寺林さん(右)は「テラバヤシ・セッケイ・ジムショ」として、住宅を中心に設計をしている。坂本さんの膝の上にいるのが、看板猫のトト(写真撮影/嶋崎征弘)

坂本さん(左)は元インテリアショップのバイヤーで、独立して自身の店を構えた。寺林さん(右)は「テラバヤシ・セッケイ・ジムショ」として、住宅を中心に設計をしている。坂本さんの膝の上にいるのが、看板猫のトト(写真撮影/嶋崎征弘)

日用雑貨が並ぶ店内の奥に目を向けると、一段高くなった場所にダイニングキッチンが見える。昔ながらの商店を彷彿とさせるつくりの雑貨店「musubi」。約8年前、自分たちの仕事場と自宅を兼ねた場所として、夫の寺林さん自ら設計した。

間取り(画像提供/寺林省二さん)

間取り(画像提供/寺林省二さん)

器やクロス、掃除道具やかごなど、さまざまな日用雑貨が並ぶ店内。どれも坂本さん自ら選び、使って、確かめたものばかり。箒づくりや刺繍などのワークショップを行うこともある(写真撮影/嶋崎征弘)

器やクロス、掃除道具やかごなど、さまざまな日用雑貨が並ぶ店内。どれも坂本さん自ら選び、使って、確かめたものばかり。箒づくりや刺繍などのワークショップを行うこともある(写真撮影/嶋崎征弘)

「以前はここでお昼ご飯を食べているときにお客様がいらして、扉を開けっ放しにしていて丸見えだったっていうこともあります(笑)。でも、周りの商店街はどのお店も奥に暮らしの気配があるから、それはそれでいいかと思って」と坂本さんはこのつくりを気に入っている様子。「この場所には、もともとクリーニング店があったんです。リフォームして使いたいほど気に入っていたんですが、難しい状態だったので、結局、ほぼ同じ間取りで建て替えました。だから、昔ながらの商店の感じが残っているのかもしれません」

シンクとガス台だけ取り付けた状態で生活を始めたという。カゴやゴミ箱、ツールをかけたバーなどは、生活しながら必要なものを見極め、後から設置した(写真撮影/嶋崎征弘)

シンクとガス台だけ取り付けた状態で生活を始めたという。カゴやゴミ箱、ツールをかけたバーなどは、生活しながら必要なものを見極め、後から設置した(写真撮影/嶋崎征弘)

箱のような状態からスタートした家

「家具も収納もきちんと決めていなくて、ただの箱のような状態だったんです。住みながら少しずつつくってきた感じ」と坂本さんは振り返る。約14坪弱の敷地に建てた自宅は、家、事務所、店という3つの要素を一つの場所に共存させるために、見極めるべきことが多かった。だからこそ、最初に細部まで決めすぎず、住んでみてから自分たちに必要なことを見極めていったという。「暮らしているうちに、ここに棚板があったら便利だな、ここに収納をつくればいいな、と考えていきました」と寺林さんも続ける。

料理に使うバットを引き出し代わりに。カトラリーや箸置きなどの細かいものを収納している。子どもでも手の届く高さなので、吟ちゃんがお手伝いで並べることも(写真撮影/嶋崎征弘)

料理に使うバットを引き出し代わりに。カトラリーや箸置きなどの細かいものを収納している。子どもでも手の届く高さなので、吟ちゃんがお手伝いで並べることも(写真撮影/嶋崎征弘)

例えばキッチン。シンクやガス台の下には、食材を入れたカゴやカトラリーを入れたバット、ゴミ箱などがきちんと収まっている。「ここも最初は何もない空間だったんです。引越してきてからは、紙袋や空き箱をいろいろ使ってみて、どんな大きさの収納道具が必要か考えていきました」。食材はどんなものをどれくらいストックするか、必要なゴミ箱の大きさと数はどれくらいか、よく使う調理道具はどこに置けば便利か、全てを暮らしながら見極めていったのだ。そうして坂本さんが自らスケッチを描き、必要な棚やキャスター付きの箱などを寺林さんにお願いしたという。全てをしまい込まず、頻繁に手にする調理道具は、使う場所の壁面にバーを設置してつるすようにもしている。出し入れしやすいということは、つまりは片付けやすくすっきりした状態を保てるということにつながっているのだろう。

食器棚は大きめの鉢のサイズに合わせて奥行きを設定。店で扱う器や銅なべ、せいろなどもあり、使い込まれた様子を見せてもらうことができる(写真撮影/嶋崎征弘)

食器棚は大きめの鉢のサイズに合わせて奥行きを設定。店で扱う器や銅なべ、せいろなどもあり、使い込まれた様子を見せてもらうことができる(写真撮影/嶋崎征弘)

家具は最初にそろえず、暮らしながら必要なものだけをつくる

食器棚も本棚も、そこにしまう食器や雑誌、文庫本のサイズに合わせてあつらえている。決して広いとは言えない空間だからこそ、きちんとものが収まるように工夫されている。「最初は、クローゼットも布団を入れる場所もなくて。奥行きがどれくらい必要か、どの高さなら届きやすいか、どこにあったら便利か考えて、この形になったんです」と坂本さんは話す。自分たちの洋服の量をきちんと把握し、奥行きや幅を考えてクローゼットをつくった。布団も上げ下ろしがしやすい高さに棚板を設置して、使いやすい収納になっている。

夫婦のクローゼットは、この奥にある吟ちゃんの部屋との間仕切りの役目も担う。洋服と下のケースのサイズに合わせて奥行きを設定したそう。扉はつけず、カーテンで目隠し(写真撮影/嶋崎征弘)

夫婦のクローゼットは、この奥にある吟ちゃんの部屋との間仕切りの役目も担う。洋服と下のケースのサイズに合わせて奥行きを設定したそう。扉はつけず、カーテンで目隠し(写真撮影/嶋崎征弘)

また、随所に棚板を取り付けているのも、ものを収めるのにとても役立っている。キッチンでは食器棚の上、シンクの上にそれぞれ1枚あり、鍋やカゴなどの道具類が置かれている。シンク前の窓にはすのこ状の棚板があり、洗った器や道具などを置いて乾かすのに最適な場所になっている。さらに、トイレ兼洗面所にも奥行きの浅い棚板が1枚あり、洗面道具などの細かなものが並び、隣の洗濯機の上にはタオルがきちんと収まる棚板が2枚取り付けられている。「どれも、奥行きはそこに置くものにサイズを合わせて取り付けています」と寺林さん。使う場所の近くに収納場所を設置することで、出し入れがしやすいというメリットが生まれているのだ。

トイレ兼洗面所。奥行きの浅い棚が一枚あるだけで、歯ブラシやハンドクリームなどの洗面道具の定位置ができる。右にお風呂があるので、タオルは洗濯機の上に収納。手を伸ばせばすぐ使える状態(写真撮影/嶋崎征弘)

トイレ兼洗面所。奥行きの浅い棚が一枚あるだけで、歯ブラシやハンドクリームなどの洗面道具の定位置ができる。右にお風呂があるので、タオルは洗濯機の上に収納。手を伸ばせばすぐ使える状態(写真撮影/嶋崎征弘)

さらに、階段下も見逃さず、坂本さんの事務スペースとして活用している。「収納にするかどうしようか迷っていたんですが、ここに机を置いてみたらいいんじゃないかということでやってみたんです。最初はふさごうと思っていたので、階段の裏まできちんと仕上げができていないんですけど、これはこれでいいかなと思って」と寺林さんは教えてくれる。坂本さんにとっては、料理などの家事をしながら、事務仕事や店番もできて、とても便利なスペースになっている。

階段の下に天板を置き、坂本さんの事務スペースに。店からは目に入りにくい場所なので、多少ものが多くても気にならない。階段裏には吟ちゃんが描いた絵などを貼って楽しい雰囲気に(写真撮影/嶋崎征弘)

階段の下に天板を置き、坂本さんの事務スペースに。店からは目に入りにくい場所なので、多少ものが多くても気にならない。階段裏には吟ちゃんが描いた絵などを貼って楽しい雰囲気に(写真撮影/嶋崎征弘)

また、2階では、本棚やクローゼットが壁としての役割も果たしているのもこの家の特徴だ。もともとは、がらんとしたひとつながりの空間だった。そこに本棚とクローゼットを設置することで間仕切りになってスペースが生まれている。今は一人娘である吟ちゃんの部屋になっているが、ここはもと寺林さんの事務所だった場所だ。

2階の廊下。右の本棚が廊下と吟ちゃんの部屋の間仕切りとして機能している。そのほかはカーテンで仕切っているので、ほどよく気配が伝わる空間(写真撮影/嶋崎征弘)

2階の廊下。右の本棚が廊下と吟ちゃんの部屋の間仕切りとして機能している。そのほかはカーテンで仕切っているので、ほどよく気配が伝わる空間(写真撮影/嶋崎征弘)

リビングは夫婦の寝室も兼ねている。大きな家具は置かず、臨機応変に使えるスペースになっている(写真撮影/嶋崎征弘)

リビングは夫婦の寝室も兼ねている。大きな家具は置かず、臨機応変に使えるスペースになっている(写真撮影/嶋崎征弘)

さかのぼれば、建てた当初は、事務所は1階の雑貨店のスペースに併設していた。店で扱う品が増えてきたことから、2階の一角に事務所を移動。「1階で使っていた本棚を2階で間仕切りのように使うことで事務所スペースにしたんです」と寺林さん。吟ちゃんはというと、リビングの壁面に学習机と収納を設置して使っていた。成長とともに自分だけの空間が欲しいということになり、寺林さんは別の場所に事務所を借りて、吟ちゃんは無事に自分のお城を手に入れたというわけだ。

寺林さんの事務所スペースだった場所を吟ちゃんの部屋に。机とベッドを設置して、プライベートな空間をつくった。吟ちゃんは、好きな生地でカーテンをつくったり、壁に絵を貼ったりと、自分だけのスペースを楽しんでいる様子(写真撮影/嶋崎征弘)

寺林さんの事務所スペースだった場所を吟ちゃんの部屋に。机とベッドを設置して、プライベートな空間をつくった。吟ちゃんは、好きな生地でカーテンをつくったり、壁に絵を貼ったりと、自分だけのスペースを楽しんでいる様子(写真撮影/嶋崎征弘)

好きなものは我慢せず、でも、分量は決めて管理する

ものに合わせた収納だからこそ、きちんと収まってはいるものの、やはりどうしても好きな食器や本は増えてしまうという。「狭いからこそ、棚に収まる分だけと決めています。ここからあふれそうになったら、家族みんなで『ガサ入れ』して、不要なものがないか探すんです。使わないものは誰かに譲ったり、売ったりしています」と坂本さん。一人娘の吟ちゃんもその習慣がしっかり身についていて、読まなくなった絵本や使わなくなったおもちゃなどをダンボールにまとめて『ご自由にどうぞ』と自ら書き、お店がお休みの日に家の前に置いていることもあるのだという。

坂本さんの収納術を日常的に目にしているせいか、吟ちゃんが自分で管理する引き出しの中は見事にすっきり。引き出しごとに分類し、きれいに収めている様子はさすが。ここはマスキングテープなどの文具の段(写真撮影/嶋崎征弘)

坂本さんの収納術を日常的に目にしているせいか、吟ちゃんが自分で管理する引き出しの中は見事にすっきり。引き出しごとに分類し、きれいに収めている様子はさすが。ここはマスキングテープなどの文具の段(写真撮影/嶋崎征弘)

商品の使い心地を、自身のキッチンから伝える

「musubi」では、扱っている商品のほとんどを坂本さんが自身で使っている。「使い込んだらどんな状態に変化するか、知りたいお客様も多いんです。そういうときは、ダイニングキッチンから持ってくることもあるし、実際に使い心地を試してもらうこともあります」と坂本さん。また、寺林さん自身の作品として自宅をオープンハウスにすることもある。どこにどんな家具や収納が欲しいか、この家を見ながら打ち合わせることもできるというわけだ。

テーブルの下やクローゼットの中にトト専用のかごがあり、さりげなくしっかりと居場所をキープしている(写真撮影/嶋崎征弘)

テーブルの下やクローゼットの中にトト専用のかごがあり、さりげなくしっかりと居場所をキープしている(写真撮影/嶋崎征弘)

最初に決めず、生活とともに家をつくればいい

坂本さんも寺林さんも、自分たちの暮らしをよく観察し、それに合わせた家をつくり続けてきた。最初から家具を一式そろえたり、システムキッチンを組み込んだりという考えはなかったという。「小さい家だから、どこに何が必要かしっかり見極めたかったんです」と二人は話す。結果、店の形態の変化とともに、事務所が移動し、娘の成長に合わせて子ども部屋が生まれることになった。
最初から決めつけなくてもいいのだ。暮らし方も好みも変わっていくものだから、家も一緒に変化していけばいい。少しずつ、自由に、生活に合わせてしつらえていけばいい。
寺林家は、これからもきっとどこか変わっていくのだろう。「子ども部屋の棚も新しくしたいし、リビングに合うソファもつくろうかと思っているんです」。寺林さんはそう楽しそうに教えてくれた。

(写真撮影/嶋崎征弘)

(写真撮影/嶋崎征弘)

●店舗情報
musubi
東京都国立市富士見台1-8-37
12:00~18:00
日、月曜定休
>HP●設計事務所
>テラバヤシセッケイジムショ●取材協力
坂本眞紀
1974年岩手県生まれ。商社、インテリアショップのバイヤーとして勤務後、東京・国立市に自身の店をオープン。使い心地がよく、実用性の高い道具を選ぶ目に定評がある。建築家である夫の寺林省二さんと娘、猫の3人と1匹暮らし。

2018年度の税制改正、ポイントを解説 住宅購入に関わる減税措置や特例の延長など

自民・公明両党が2018年度の税制改正大綱を決定した。目玉となった所得税改革では、基礎控除の引き上げと給与所得控除の減額により、2020年から年収850万円を超える会社員が増税となる。そのほか、住宅購入などに関係する改正も含まれているので見ていこう。
新築住宅の固定資産税の減額措置を2年間延長

今回の大綱に盛り込まれた住宅関連の税制改正は、既存の特例などの期限延長がほとんどだ。

まず新築住宅向けの固定資産税の減額措置は2年間延長される。この措置は新築住宅の建物分の固定資産税を、一戸建ては3年間、マンションは5年間、2分の1に減額するというもの。国土交通省の試算によると、2000万円の一戸建てを新築した場合の固定資産税が、減額措置によって3年間で約26万円軽減されるという。措置の期限が2018年3月31日までとなっているが、これを2020年3月31日まで延長する。

長期優良住宅に対する特例措置も2年間延長される。長期優良住宅とは、良質な住宅を長期にわたって良好な状態で住み続けるために、耐久性や耐震性、維持管理のしやすさなどの基準を満たす住宅を認定する制度。認定された住宅は購入時の登録免許税や不動産取得税、新築時から一定期間(一戸建ては5年間、マンションは7年間)の固定資産税が軽減される。この特例措置の期限を2020年3月31日まで延長するという内容だ。

土地を購入する場合の不動産取得税については、税額を計算する際の評価額を2分の1にしたり、税率を本則の4%から3%に軽減する特例措置がとられている。この特例の期限を3年間延長し、2021年3月31日までとする。

不動産会社が中古住宅を買い取ってリフォームをした上で販売する「買取再販」について、耐震や省エネ、バリアフリーなど一定のリフォームを行った住宅を買うと建物分の登録免許税が通常の3分の1に軽減される特例措置がある。この特例の期限も、2020年3月31日まで2年間延長される。

マイホームの買い替えなどに関する特例を2年間延長

不動産を売って売却益(譲渡所得)が出た場合、所得税や住民税がかかるが、自宅を買い替えた場合は各種特例が受けられる。売却益がなかったものとして次に買い替えるまで課税を繰り延べられる「買換え特例」や、売却損が出た場合に最長4年間の所得から繰り越して相殺できる「譲渡損失の繰越控除」だ。これらの特例の期限を2019年12月31日まで2年間延長する。

一定の性能向上リフォームを行った場合の固定資産税の特例措置も2年間延長となる。この特例は耐震改修の場合は2分の1が、バリアフリー改修や省エネ改修の場合は3分の1が、長期優良住宅化改修の場合は3分の2が、それぞれ工事の翌年度の固定資産税から減額されるというもの。改正により特例の期限が2020年3月31日まで延長される。

不動産を買うときの売買契約書や、住宅を建てるときの工事請負契約書に貼る印紙税は、特例措置により軽減されている。例えば契約金額が1000万円超5000万円以下の場合の印紙税は本則では2万円だが、現行では1万円だ。この特例の期限を2年間延長し、2020年3月31日までとする。

税制改正大綱はあくまで与党による税制改正“案”だが、ほぼ大綱の内容どおりに改正されるのが通例となっている。今後は2018年1月からの通常国会に関連法案が提出され、3月末までに確定する見通しだ。

●参考
・平成30年度税制改正大綱