地方でのデザイナーのプレゼンス、存在価値を高めたい。「場」をもって示す、佐賀発のデザインユニット「対対/tuii」の挑戦

佐賀で活動する、建築デザインユニット「対対/tuii」(以下、tuii)。田中淳さんと伊藤友紀さんの二人が2020年に結成し、パッケージから空間のデザイン、建築設計までを行う実力派チームだ。彼らの本業はデザインや建築だけれど、とあるビル一棟を、オーナーに代わり運営している。

誰とどんなふうに関わって、仕事をしていきたいか。それはどんな仕事でも、大事な要素に違いない。とくに地方では、仕事の関係性が他者からも見えやすい。だから「場」をもつことが大事なのだとtuiiの二人は教えてくれた。

tuiiが関わるようになって、20年以上空いていた2〜3階を含め、このビルの全テナントが埋まった。1階には本屋、カフェ、おにぎり屋、2階には洋服店、3階には彼ら自身の建築・デザイン事務所。

夜遅くまで明かりが灯るようになり、新たな文化スポットとして、感度の高い人びとが集う場所になっている。

本業の傍ら、ビルを運営するのはどんな理由からなのか。ここをどんな場所にしていきたいのか。tuiiの二人に話を聞いた。

徳久ビル、外観。1階のカフェは23時まで営業(写真撮影/藤本幸一郎)

徳久ビル、外観。1階のカフェは23時まで営業(写真撮影/藤本幸一郎)

建物から感じたエネルギーと、そのポテンシャル

tuiiの入る徳久ビルは、お堀に囲まれた佐賀城跡地から徒歩5分ほど。佐賀市内でも文教感あふれる落ち着いたエリアの一角にある。
角のビルで、カフェは県庁前通りに向かってあり、もう一方のおにぎり屋は、水路沿いに遊歩道のある松原川通りに対して、大きなガラス窓が面している。

1階に「nowhere・tuii books」という本屋兼カフェ、おにぎり屋「shiroishimori」がオープンしたのは、昨年、2022年の夏のことだ。

朝から午後にかけては、おにぎり屋がにぎわう。白石という地区で半農半漁を営む、森卓也さんが経営する店。森さん一家が育てた米と、有明海で育てた海苔をおにぎりにして販売している。美味しいと評判で、人気がある。

午後から深夜にかけては、本屋兼カフェ「nowhere・tuii books」がオープン。カフェオーナーの平井開太(かいた)さんが居心地のいい空間をつくり出していて、常連も多い。奥にはtuiiが運営する本屋。2階には、服飾雑貨の店「ある晴れた日に」がほぼ毎日営業している。

洞窟のような空間をイメージしたというカフェと本屋。お客さんの視線がカフェオーナーと自然と合うように設計されている(写真撮影/藤本幸一郎)

洞窟のような空間をイメージしたというカフェと本屋。お客さんの視線がカフェオーナーと自然と合うように設計されている(写真撮影/藤本幸一郎)

おにぎり屋の外観。一面ガラス窓で店内は明るい。カフェ、本屋とは対極のつくり(写真撮影/藤本幸一郎)

おにぎり屋の外観。一面ガラス窓で店内は明るい。カフェ、本屋とは対極のつくり(写真撮影/藤本幸一郎)

tuiiの田中さんは建築畑の出身で、伊藤さんはグラフィックデザイナーとして仕事をしてきた。それぞれ東京、大阪と、都会で働いた経験がある。数年前に二人とも出身地である佐賀に戻り、別々にフリーランスでデザインの仕事をしていた。

出会ったこの徳久ビルを、先に見つけたのは、田中さんの方だった。

tuiiの二人。右が田中淳さん、左が伊藤友紀さん。ビルの3階、tuii事務所にて(写真撮影/藤本幸一郎)

tuiiの二人。右が田中淳さん、左が伊藤友紀さん。ビルの3階、tuii事務所にて(写真撮影/藤本幸一郎)

「一目見て、この場のポテンシャルを感じたんです。建築家さんがつくられた建物なので存続しようとするエネルギーが宿っているのか、そこにデザインを加えれば、建物がもつ気配を取り戻せると思いました。ここで何か始めれば、自然と人が集まってくるんじゃないかなと」(田中さん)

ところが、このビルを借りたいと申し出たとき、オーナーからは「すでに支払いも終わっているし、人に貸すつもりはない」と断られる。

それでも諦めきれず、3~4度もオーナーの元へ通ったというのだから、田中さんが感じたポテンシャルは大きかったのだろう。二度目に訪れた時はさすがに嫌な顔をされたと田中さんは振り返って笑うが、その熱意は、オーナーの気持ちを少しずつ溶かしていった。

ビルが生き返る。「対対/tuii」の結成

オーナーの徳久正弘さんはビルの1階で、文房具屋兼印刷所を営んできた人だった。
創設時の大正時代は写真館で、その後、建築用のブループリントと呼ばれる青焼きを、佐賀ではかなり早く始めた印刷会社だったらしい。

「このビルは私の亡き親友が設計した建物なんです。それを気に入ってもらえたら、やはり嬉しいですよ。何とか貸す方向で、と考えるようになりました。トイレが壊れていたので、そのままじゃ貸せない。でも直せば空いていた部屋も、また貸し出せるかもしれないと思い、改修費は負担するので後はお任せしますと」

徳久ビルオーナーの徳久正弘さん。今も2階の一室に事務所をもち印刷の仕事を続けている(写真撮影/藤本幸一郎)

徳久ビルオーナーの徳久正弘さん。今も2階の一室に事務所をもち印刷の仕事を続けている(写真撮影/藤本幸一郎)

そうして田中さんはさっそく、2階のトイレを友人の建築家とリノベーションし、3階を借りてデザイン事務所を構えた。

剥き出しのコンクリートを生かした内装。tuiiの事務所。2階の洋服店にも同じテイストの内装が踏襲されている(写真撮影/藤本幸一郎)

剥き出しのコンクリートを生かした内装。tuiiの事務所。2階の洋服店にも同じテイストの内装が踏襲されている(写真撮影/藤本幸一郎)

トイレ掃除はオーナーも入れて4軒のテナントで平等に分担し、当番制にしているというのが面白い(写真撮影/藤本幸一郎)

トイレ掃除はオーナーも入れて4軒のテナントで平等に分担し、当番制にしているというのが面白い(写真撮影/藤本幸一郎)

翌年、新たに2階に入ったのは服飾雑貨屋。この時、一緒にビルを見に訪れたのが、伊藤友紀さんだった。佐賀に戻りフリーでデザインの仕事を始めて6年目。そろそろ違った形で仕事したいと考え始めていた頃だった。

洋服屋のリノベーションを一緒に手がけたのがきっかけで、伊藤さんと田中さんはtuiiを結成することになる。このビルがなければ、二人は出会わなかっただろうし、tuiiも存在しなかっただろう。そう考えると運命的だ。

洋服店「ある晴れた日に」(火曜日のみ定休)(写真撮影/藤本幸一郎)

洋服店「ある晴れた日に」(火曜日のみ定休)(写真撮影/藤本幸一郎)

トイレがきれいになり、3階にはデザイン事務所、2階には洋服屋が新たに入った。オーナーにとってビルが生き返るような感覚があったに違いない。

徳久さんが引退を考え始めたとき、「1階も田中さんにお任せしたい」という気持ちになったのも、ごく自然な流れだっただろうと思う。

おにぎり屋の面する通り。水路沿いに遊歩道が続く、雰囲気のいいエリア(写真撮影/藤本幸一郎)

おにぎり屋の面する通り。水路沿いに遊歩道が続く、雰囲気のいいエリア(写真撮影/藤本幸一郎)

1階に入る3店のユニークな関係性としくみ

どんな店を入れるにしても、1階は開かれた場にしたい、という思いが強くあった。そう田中さんは話す。これには伊藤さんも同意だった。二人がたどり着いたのは本屋だ。

「仕事にまつわるアートやデザイン系の本を中心に、まちに開かれた資料室のような本屋ができたらいいねと。それなら本と相性のいいコーヒーも欲しい。近くでカフェを営んでいた平井開太さんに話をしたら、移転してきてくれる上に、本屋の店番も兼ねて引き受けてくれることになったんです」

今の場所から数百メートルの場所でカフェを営んでいた平井開太さん(写真撮影/藤本幸一郎)

今の場所から数百メートルの場所でカフェを営んでいた平井開太さん(写真撮影/藤本幸一郎)

農家であり、海苔の養殖も行う森卓也さん。農業や海苔の生産と同時に、おにぎり屋「shiroishimori」も営む(写真撮影/藤本幸一郎)

農家であり、海苔の養殖も行う森卓也さん。農業や海苔の生産と同時に、おにぎり屋「shiroishimori」も営む(写真撮影/藤本幸一郎)

面白いのは1階に入る3店、カフェ、本屋、おにぎり屋とtuiiの関係性だ。カフェ「Nowhere」を運営する平井さんは、カフェの仕事をしながら、同時に田中さんたちと共にtuii booksの運営に参加し、店番を受け持っている。そのためカフェの家賃をtuiiに支払ってはいるものの、本屋の管理をしているぶん、同額の業務委託費をtuiiから受け取っている。金銭だけみるとプラマイゼロ、ということだ。

一方で、おにぎり屋の森さんも、家賃を支払ってはいるが、同額に相当するデザインディレクションをtuiiは行っている。

つまり、tuiiはサブリースの形でカフェとおにぎり屋に1階のスペースを貸しながらも、家賃を店番代と相殺したり、家賃をデザインディレクション費も兼ねて受け取っているということだ。

それでは圧倒的に、tuiiが損なのでは?と問うと、「金額の面だけ見ると、たしかに損です」と田中さんは笑って言った。

「でも、例えばどこかに場所を借りて誰かに店番を頼んで本屋をやると、今よりずっと高くつく。平井さんは元編集者で、本に関わっていたいという思いがあって一緒にやってくれています。だから本のセレクトなど一緒に話し合うこともできるし、店番も任せられる。そうした諸々と家賃がトントンで、お互いOK。

森さんとの関係も同じです。もともとデザインディレクションを僕らに頼んでくれていたのですが、森さんがここでおにぎり屋を始めて、僕らが一緒に商品開発したものを売ったり、情報発信したりしてくれれば、最終的に僕たちの仕事にもかえってくると考えました」(田中さん)

関わる人たちそれぞれがやりたいことを実現するために、出せるものを出し合う。その、ちょうどいいバランスの取れる点で均衡をとったという。

「すべて計画通りではないですが、自然とこういう店があったらいいねって話をしているうちに、場を求めている人たちが集まって、お互いにウィンウィンの形を探していった結果なんです。tuiiにはあまりお金が残りませんけど(笑)、デザインの本業があるので何とかなっています」(伊藤さん)

tuiiが手がけた、「しろいしもり」のお米パッケージのデザイン(写真撮影/藤本幸一郎)

tuiiが手がけた、「しろいしもり」のお米パッケージのデザイン(写真撮影/藤本幸一郎)

「誰とどんな仕事をしていきたいのか?」を見せる場所

さらに1階では、3店の営業のほか、型染め、イラスト、写真などあらゆる展示会や、「Good Knowledge」の名でイベントを企画し、開催している。

「Good Knowledge Vol.4」では、若林恵さん(黒鳥社コンテンツディレクター)と山田遊さん(method代表 バイヤー)を招いてのトークイベントを開催。発売と同時に全席完売し、福岡をはじめ、県外から多くの人が訪れた。(写真撮影/藤本幸一郎)

「Good Knowledge Vol.4」では、若林恵さん(黒鳥社コンテンツディレクター)と山田遊さん(method代表 バイヤー)を招いてのトークイベントを開催。発売と同時に全席完売し、福岡をはじめ、県外から多くの人が訪れた。(写真撮影/藤本幸一郎)

つまり、このビルの運営にかけている労力やお金は、tuiiの二人にとって「投資」なのだ。建物、一次産業などあらゆるものにデザインをかけ合わせると魅力的に変化する。そのことを世の中に見せる、場なのである。

「実際、ここに来て見ていただいた方からお仕事をいただくことも少なくないんです」(伊藤さん)

ただし、tuiiが思う「場」の価値は、制作物を見てもらうためだけの場ではない。
どういうことか。

「デザイナーにとって、どこで誰とどんな仕事をしているか?を見せることがとても重要だと思っているんです。だから場所が大事。僕たちの場合、ここに場を構えたことでそのスタンスが明確になりました。作品のPRの場としてだけではなくて、誰とどんな仕事をしていきたいのか、というメッセージを発する場所です」(田中さん)

地方では、どれほどデザインが優れていても、商品が並ぶ先に選択肢が少ない。

「地方ではデザインの出来に加えて、どこに並べられるのか?がとても重要です。極端に言えば、どれほどデザインが優れていても、商品が並ぶのは普通のお店。それが都市部へいくと、いいお店がたくさんあるので、どんなものも商品として育ててくれる環境があります。

僕たちはデザインの種をつくることはできるけれど、それがどう世の中に浸透していくか?の面で、地方ではまだ陽の当たる環境が整っていない。だから自分たちでその環境をつくるしかないと思いました」

場づくりが、地方のデザイナーのプレゼンス、存在感を高めることにつながる、ということだ。

shiroishimoriのおにぎり(写真撮影/藤本幸一郎)

shiroishimoriのおにぎり(写真撮影/藤本幸一郎)

「デザイナーの社会的地位」を上げたい

「かねてから、地方のデザイナーの社会的地位を上げる、という課題意識はかなり強くもっていました。その地域に居るってことはすごく重要。でも同時に、地方のデザイナーでもクオリティ高いものをつくるってことを示せないといけない。

デザインの質やクオリティを上げることも大事ですが、どのような人たちと関わり、ともに行動したり議論しているかが大切だと考えています。日本や世界に対して影響力がある方々に、徳久ビルで行うトークイベントや展示に参加いただくことで、運営している私たちの見え方も変わり、プレゼンスが変わる。それが結果的に、地域やまちにも還元されていくのだと思うんです。
そのために、デザイナーはデザインにもっと投資すべきだと感じています」(田中さん)

地域のためや、まちのため、ではなく、デザイナーの社会的地位、プレゼンスを上げるための投資。そう聞いて驚くと同時に感心した。これまでに、幾人もの地方のデザイナーを取材してきたけれど、そんな話をする人は一人もいなかったからだ。

一方で、パートナーの伊藤さんは、tuiiにそうした考え方があるゆえに、仕事の現場では、葛藤も生じると話した。

「私はどちらかといえば、クライアントに寄り添う形で仕事をしてきました。一方、tuiiとしてはデザインの世界でいうだいぶ先、エッジの効いた提案をすることも多いので、クライアントに理解されないこともあるんです。パッケージの見た目をただ素敵にデザインして売れれば喜ばれる。でもそれで課題の本質が解決しない場合、違ったアプローチを提案することになります。

初めは相手を不安にさせることもあって。でも形になった瞬間に、相手の態度ががらりと変わることも多いんです。こういうことだったんですね!と喜ばれる」(伊藤さん)

(写真撮影/藤本幸一郎)

(写真撮影/藤本幸一郎)

たとえば、「佐賀えびすもなか」のパッケージデザインを依頼された際には、少しいい素材をつかった箱のパッケージをデザインすると同時に、商品の価格帯を上げることまでを提案した。結果、ヒット商品になったという。

田中さんと伊藤さんのバランスがいいのだろう。ユニット名の「対対」には「優劣がつけられないこと」という意味がある。

一方で、「場」を大事にして育てていこうという感覚は二人とも同じようにもっていた。
場所は変わらずここにあり、時間が積み重なっていく。

「ここで生きているってことが大事だなと。人や場とちゃんと向き合って、育てていきたいって感覚は一緒だから、多少ぶつかっても一緒にやっていけています」

(写真撮影/藤本幸一郎)

(写真撮影/藤本幸一郎)

ローカルデザインのステージは、ここ数年で明らかに変わりつつある。10年ほど前までは「地方でデザイン」といっても、物々交換でしか対価を支払ってもらえないという話をよく聞いた。デザインの価値をわかる人や企業が少なかったからだ。だが今や、地方でもデザインはあらゆる分野に不可欠という認識が広まっている。

これまでは東京の大手代理店に流れていたような仕事を、tuiiがコンペに勝ち、手がけるようになった。目に見えて、ここ数年で佐賀のデザインシーンには変化が起きている。

魅力的なデザインを発するチームが各地に存在する、百花繚乱の時代になれば、文化の発信拠点も増えるのかもしれない。
そうなれば、地方はもっと面白くなるに違いない。

(写真撮影/藤本幸一郎)

(写真撮影/藤本幸一郎)

●取材協力
tuii

佐賀県庁の食堂は県民集まるおしゃれカフェ! 住民向けイベントも。デザインはOpenA

セルフサービス方式のカフェの受付、木材の貼られたカウンターの脇にはランチやスイーツの品書きの黒板が。スチールパイプと木のシンプルなテーブルや椅子が並ぶラウンジ。ランチの混み合う時間を終えると、一角ではセミナーのためにプロジェクターを設置して、それに合わせてテーブルを並べ替えしている人々の姿が見える。洒落た大学キャンパスのカフェラウンジのようにも見えるが、ここは「県庁の地下食堂」(佐賀県佐賀市)だという。

県庁の職員食堂を、市民に開かれたカフェラウンジに

「放課後の時間になると、ライトコートに面したテーブルで近所の県立高校の生徒が自習している姿が見られます。役所の暗い地下食堂……から明るく開放的に一新され、職員だけでなく市民が訪れてくれる空間に生まれ変わりました」と話してくれたのは、佐賀県庁・総務部人事課の佐藤優成さんだ。

きっかけは、テナントとして入居し、県庁職員向けの食堂を経営していた事業者の経営不振からの撤退だった。県庁職員の昼食の受け皿である大切な食堂だが、佐藤さんによると「中小企業診断士に調査してもらったところ、職員の昼食需要だけでは採算が取れず経営が成り立たないという結果でした」という。そこで「県庁に訪れる市民や周辺住民にもランチ需要だけでなくホテルラウンジ的なカフェとして利用していただく方針とし、プロポーザル方式で事業者を募りました」(佐藤さん)と説明してくれた。

カフェのメニューやイベントなどの提案内容から、運営事業者としてサードプレイスが選定された。2018年3月に客席部分のみ整備してプレオープン、その後、厨房スペースの改修を行い、同年9月に佐賀県庁地下ラウンジ「SAGA CHIKA」がフルオープンした。
カフェはセルフサービス方式で、ラウンジは誰もが自由に出入りできる。職員や市民にとって、持ち込んだ飲み物やお弁当を食べることもできる、パブリックな空間という位置づけだ。

「SAGA CHIKA」の一角、セルフサービス方式のカフェ「CAFE BASE」。カウンター脇の黒板に、日替わりのランチ、スイーツのメニューが並ぶ(写真撮影/村島正彦)

「SAGA CHIKA」の一角、セルフサービス方式のカフェ「CAFE BASE」。カウンター脇の黒板に、日替わりのランチ、スイーツのメニューが並ぶ(写真撮影/村島正彦)

ラウンジには、誰もが自由に出入りでき、飲み物やお弁当を持ち込むことも可能だ。地下だがライトコートからの視線を遮らないことで、外光を感じられる空間となっている(写真撮影/村島正彦)

ラウンジには、誰もが自由に出入りでき、飲み物やお弁当を持ち込むことも可能だ。地下だがライトコートからの視線を遮らないことで、外光を感じられる空間となっている(写真撮影/村島正彦)

会議やセミナーにも使える柔軟な利用、県産食材の売り場スペースも

「SAGA CHIKA」の改修・インテリアなどを担当したのは、OpenA(オープン・エー)だ。
OpenAは、建築設計を中心にリノベーション、公共空間の再生、地方都市の再生、本やメディアの編集・制作などまで、幅広く行っている。
企画・デザインを担当したOpenAの加藤優一さんは、「既存の空間をスケルトン状態にして、間仕切りフレームと移動可能なテーブル・椅子などを設けることで、様々な活用ができる緩やかな空間にしました」と話す。間仕切りやカウンター、ロングベンチなどには、佐賀県産のスギ材を用いた。

「SAGA CHIKA」の一角のカフェ「CAFE BASE」を運営するのは、サードプレイスの清田祥一朗さんだ。県庁も立地する佐賀城内地区にある県立博物館のカフェの運営も行っている。
清田さんは、隣県の福岡県出身で、オーストラリアで経験したカフェ文化に触れたことで、カフェ経営に夢を描いたのだという。その後、学生時代を過ごした佐賀に住まいを移し、現在は佐賀市内で3店舗を経営している。
県内の農家との繋がりを大切にして、県産の食品を使った料理を提供するとともに、ラウンジ内では佐賀県産の小麦粉や野菜、醤油・味噌など加工食品の販売も行っている。

既存の空間をスケルトン状態にして、間仕切りフレームと移動可能なテーブル・椅子で構成した(写真撮影/村島正彦)

既存の空間をスケルトン状態にして、間仕切りフレームと移動可能なテーブル・椅子で構成した(写真撮影/村島正彦)

間仕切りフレームやテーブル・椅子には県産材のスギ材を活用した(写真撮影/村島正彦)

間仕切りフレームやテーブル・椅子には県産材のスギ材を活用した(写真撮影/村島正彦)

カフェカウンターの脇では、佐賀県産の小麦粉がレシピカード付きで販売されている(写真撮影/村島正彦)

カフェカウンターの脇では、佐賀県産の小麦粉がレシピカード付きで販売されている(写真撮影/村島正彦)

羊羹、醤油、味噌など、佐賀県の名産品が販売されている。会計は、カフェカウンターで(写真撮影/村島正彦)

羊羹、醤油、味噌など、佐賀県の名産品が販売されている。会計は、カフェカウンターで(写真撮影/村島正彦)

ワークショップ、イベント開催で市民が足を運び親しまれる県庁に

2022年3月現在、「SAGA CHIKA」フルオープンから約3年半が経つ。
清田さんは「2020年春からの新型コロナウイルスの蔓延で、当初考えていたイベントなど満足に行えない状況ではあります。これまで、コーヒーセミナーや味噌づくりワークショップ、お酢のメーカーのトークイベントなど、地域の食関連の会社と連携しながら、市民の方にSAGA CHIKAに足を運んでもらうきっかけづくりを行っています」と話す。

また、カフェラウンジは、職員で混み合う昼休み以外は県庁内や外部の会議やセミナーにも場所貸しをしている。ラウンジのスペースを4つのブロックとして、事業者が県と協力してイベントなどを開催することは予約制で利用できる。取材で訪れた日には、ラウンジの一角で県の流通貿易課の民間事業者向けのセミナーが開催されていた。

人事課の佐藤さんは「旧来の職員食堂は、主に昼休みに職員だけが利用する場所になっていました。刷新されてオープンなスタイルになったSAGA CHIKAには、市民の方が足を運んでくれるようになり、施設の利用価値も高まり、県の発信する情報に触れていただく機会も増えたと思います」と話す。

エレベーターホールから「SAGA CHIKA」の入り口部分に当たる空間は、2021年4月に「SAGA TRACK」というスポーツ情報発信スペースとしてオープンした。2024年開催の「SAGA2024(佐賀国民スポーツ大会)」を市民にアピールする施設だ。佐賀県出身の柔道家、故・古賀稔彦氏のバルセロナ五輪のメダルや、「SAGA2024」のために整備が進められている「SAGAサンライズパーク」の模型展示など、「SAGA CHIKA」へ訪れる市民への広報にも一役買っている。

カフェを運営するサードプレイスでは、地元の食材関連の会社と連携してワークショップなど企画・開催している。写真は、お酢メーカーのトークイベントの様子(写真撮影/清田祥一朗)

カフェを運営するサードプレイスでは、地元の食材関連の会社と連携してワークショップなど企画・開催している。写真は、お酢メーカーのトークイベントの様子(写真撮影/清田祥一朗)

この日は、ラウンジの一角で県の流通貿易課の民間事業者向けのセミナーが開催されていた(写真撮影/村島正彦)

この日は、ラウンジの一角で県の流通貿易課の民間事業者向けのセミナーが開催されていた(写真撮影/村島正彦)

「SAGA CHIKA」のエントランス脇には、2021年4月に「SAGA TRACK」が整備、オープンした。これは、2024年開催の「SAGA2024」のPR施設という位置づけだ。空間デザイン監修をOpenAが行った(写真撮影/村島正彦)

「SAGA CHIKA」のエントランス脇には、2021年4月に「SAGA TRACK」が整備、オープンした。これは、2024年開催の「SAGA2024」のPR施設という位置づけだ。空間デザイン監修をOpenAが行った(写真撮影/村島正彦)

用事がないと訪れない、市民には馴染みの薄い県庁。「SAGA CHIKA」は、リノベーションによって、職員の昼食利用のニーズに応えると共に、地域に開かれ、ランチやコーヒーを楽しむ市民の憩いの場に。「お堅い印象、入りづらい」をデザインの力と、カフェ事業者の企画・運営力による、市民に親しみやすい公共空間づくりの成功例と言えるだろう。

●取材協力
・佐賀県総務部人事課
・OpenA
・サードプレイス

「鳥栖プレミアム・アウトレット」第4期増設、2019年秋開業

三菱地所・サイモン(株)は、「鳥栖プレミアム・アウトレット」(佐賀県鳥栖市)の第4期増設を決定した。増設エリアは本年11月に着工し、開業は2019年秋を目指す。「鳥栖プレミアム・アウトレット」は、同社の国内4か所目のプレミアム・アウトレットとして2004年3月に開業した施設。2007年12月、2011年7月の増設を経て、現在144店舗が出店する九州エリア最大級のアウトレットセンターとなる。佐賀県鳥栖市弥生が丘8-1、九州エリアにおける交通結節点である鳥栖インターチェンジから約3kmに位置している。

今回の増設では、約20店舗、店舗面積約3,600m2規模を拡大。施設の魅力を更に高めていく。

ニュース情報元:三菱地所・サイモン(株)