中古マンションの1平米当たり管理費は全年度比2.1%上昇、修繕積立金は3.1%も!その背景とチェックポイントを徹底解説

東日本不動産流通機構が、2023年度に成約した首都圏中古マンションの管理費や修繕積立金について、分析した結果を発表した。それによると、管理費も修繕積立金も前年度より上昇しているという。なぜ上昇しているか、その理由も含めて考えてみたい。

【今週の住活トピック】
「首都圏中古マンションの管理費・修繕積立金(2023年度)」を発表/東日本不動産流通機構

1平米当たり管理費は前年度比2.1%、修繕積立金は3.1%上昇

東日本不動産流通機構(東日本レインズ)は、不動産会社間で不動産情報を共有するシステムなどを運用する指定流通機構で、東日本を担当している。それを通じて成約に至った中古マンションについて、年度ごとの管理費や修繕積立金などのランニングコストを分析している。

2023年度の首都圏中古マンション月額平均額は、1戸当たりで管理費が平均1万2831円、修繕積立金が1万1907円だった。これを1平米当たりに換算すると、管理費は平均201円(前年度比2.1%上昇)、修繕積立金は187円 (同3.1%上昇)となった。いずれも、前年より上昇したことが分かる。

首都圏中古マンションの管理費・修繕積立金の月額(平均額と1平米当たり)(出典:東日本不動産流通機構「首都圏中古マンションの管理費・修繕積立金(2023年度)」より抜粋転載)

首都圏中古マンションの管理費・修繕積立金の月額(平均額と1平米当たり)(出典:東日本不動産流通機構「首都圏中古マンションの管理費・修繕積立金(2023年度)」より抜粋転載)

マンションの管理費は、日常の管理を円滑に進めるためのもので、管理会社への委託費、共用部の清掃費や水道光熱費、共用設備の点検などに使われる。また、修繕積立金は、計画的に行われる大規模修繕工事を実施するために積み立てられる。

まず管理費については、地域では東京都区部で高く、築年では築10年以内や築11~20年など、新しいものほど高くなっている。また、総戸数50戸未満、200戸以上でも高くなっている。

一般的に、高額なマンションほど、その設備仕様や管理サービスの水準が高くなり、維持管理の費用も高くなる傾向がある。また、大規模なマンションには、共用施設が多いため、その維持管理の費用もかかってくる。一方で、大規模なマンションは発生する固定費を多くの戸数で分担できるが、50戸未満の小規模なマンションでは分担できる戸数が少ないため割高になる場合もある。

こうした要因が管理費に影響するわけだが、近年新築マンションの価格高騰により高額なマンションが増えていること、なかでも東京都区部でその傾向が顕著であることから、管理費を引き上げる要因になっているといえるだろう。

次に修繕積立金を見ると、管理費ほどの金額差はないが、50戸未満の小規模なものは1戸当たりの平均額が高くなっており、規模感の影響が出ている。目立つのは、築10年以内で低くなっていることだが、これには別の理由もある。

築年数が新しいほど管理費が高く、修繕積立金が低い理由とは?

管理費と修繕積立金の1平米当たりの月額の推移を築年別に見ていこう。

建築年別の1平米当たり管理費・修繕積立金(月額)(出典:東日本不動産流通機構「首都圏中古マンションの管理費・修繕積立金(2023年度)」より転載)

建築年別の1平米当たり管理費・修繕積立金(月額)(出典:東日本不動産流通機構「首都圏中古マンションの管理費・修繕積立金(2023年度)」より転載)

管理費は、1967年~1977年など築年の古いものでは月額150円前後で推移しているが、以降は200円近くに上がり、バブル期で豪華なマンションが多かった1988年~1993年では200円を超えるものの、おおむね横ばいに推移していた。しかし、2013年以降は右肩上がりの上昇トレンドになり、2023年に建築されたマンションではついに300円を超える結果となった。

これには、管理員の人件費の高騰が大きく影響している。政府が2013年に施行した『高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年齢者雇用安定法)』による定年延長や再雇用などにより、定年後の仕事の選択肢が広がった。管理員の仕事は、かつては定年退職後の雇用の受け皿になっていたこともあり、採用が難しくなった結果、近年は人手不足に陥っているのだ。そのため、報酬を引き上げるなど人件費が上昇し、それが管理費にも影響しているというわけだ。

また、近年は共用部で使う水道光熱費などさまざまなものが値上がりしているので、管理費が上がる要因が多くなっている。築年の新しいマンションほど管理費が高くなるのには、こういった要因もあるのだ。

一方、修繕積立金はおおむね横ばいで推移してきたものが、ここ10年程度を境に下降トレンドになっている。これを見ると、修繕積立金の負担が軽減されてきたように見えるが、けっしてそういうわけではない。建設工事の費用が上昇しているなかで、大規模修繕工事の費用も上昇しないはずはない。

「均等積立方式」か「段階増額積立方式」か?

修繕積立金については、かつては規制がなかったため、マンション分譲時に長期修繕計画を作成しているものの、それを確実に行えるだけの修繕積立金の額を設定していない事例が多かった。それでは実際の大規模修繕工事を実施するのに支障があるということで、長期修繕計画通りに工事が行えるように修繕積立金の金額を設定するようになった。

とはいえ、マンションを販売する際には管理費・修繕積立金・駐輪駐車場代などの合計月額が低い方が売りやすいこともあって、それまで主流だった均等に積み立てる「均等積立方式」から、あらかじめ段階的に増額する「段階増額積立方式」を採用する事例が多くなった。

「段階増額積立方式」では、当初の修繕積立金の額は抑えられているが、5年ごとなどに一定割合で上がっていく形になる。修繕積立金の値上げは、管理組合の総会で承認される必要があり、否決されると値上げができなくなる。

修繕積立金で築年の新しいマンションの月額が低いのは、値上げされる前の金額の事例が多いという事情もあるのだ。修繕積立金については、さらに注意点がある。

長期修繕計画は適宜見直すことになっているが、近年、大規模修繕工事にかかる費用が上がっている。建築資材や水道光熱費などの上昇に加え、建設業界や物流業界では残業時間を規制する2024年問題が拍車をかけて人手不足が深刻化している。そして人件費の高騰は大規模修繕工事の費用に大きく影響する。となると、以前の長期修繕計画上の費用と現実の費用にズレが生じる可能性も高い。不足しない計画だったとしても、不足する可能性もあるのだ。

毎月払うランニングコストは安い方がよいのだが、管理費も修繕積立金も上がる可能性はある。特に、「段階増額積立方式」では、負担すべき費用を順繰りに送る形なので、上がることが前提となっている。

新築マンションを購入する場合は、ランニングコストが上がる可能性を考慮する必要があるし、中古マンションを購入する場合は、修繕積立金の積立方式がどうなっているか、長期修繕計画はいつ見直されたものかなども、しっかり確認する必要がある。事前に把握できることをスルーしてしまうと、将来家計に大きな影響が出るということもあるので、忘れずに確認してほしい。

●関連サイト
東日本不動産流通機構「首都圏中古マンションの管理費・修繕積立金(2023年度)」

あなたのマンションは大丈夫? 国交省が長期修繕計画、修繕積立金に関するガイドラインを改定

2021年9月28日、国土交通省がマンションの長期修繕計画作成や修繕積立金に関するガイドラインの改訂版を公表した。ガイドラインの内容は来年4月からスタートするマンション管理計画認定制度の認定基準となる予定でもあり、マンション所有者も購入予定者もその概要は知っておきたい。改訂のポイントを見ていこう。

長期修繕計画、修繕積立金は適切なのか

快適なマンション居住のためには、長期修繕計画や修繕積立金が重要であることはいまさら説明する必要もないだろう。しかし、自分の住む(購入しようとする)マンションの長期修繕計画が適切なものなのか、修繕積立金が十分なのかを判断することは難しい。
仮に判断できたとしても、計画の見直しや修繕積立金額の変更には他の所有者の合意を得る必要がある。所有者の多数が賛成しないと話が前に進まない。これがマンション管理の難しい点だ。
これらの問題解決の一助とすべく、長期修繕計画の考え方や作成方法を示したものが「長期修繕計画標準様式・作成ガイドライン・コメント(以下、長期修繕GL)」であり、修繕積立金額を判断するための参考資料が「マンションの修繕積立金に関するガイドライン(以下、修繕積立金GL)」だ。

長期修繕計画GLと、修繕積立金GL。国土交通省HPより

長期修繕計画GLと、修繕積立金GL。国土交通省HPより

改訂点3つのポイント

これらガイドラインの活用により、長期修繕計画や修繕積立金額の設定についてマンション所有者の間で合意形成を行いやすくなり、適切な修繕工事を行うことが期待される。長期修繕GLは平成20年(2008年)に、修繕積立金GLは平成23年(2011年)に策定されたが、築古のマンションの増加や社会情勢の変化を踏まえ、今回、改訂が行われた。
改訂点は多々あるが、ここでは3つのポイントを紹介したい。自分の居住するマンションの長期修繕計画が、これらの改訂点を踏まえたものになっているのか。チェックしてみる価値はあるはずだ。

1、計画期間は30年以上となっているか
今回の改訂では、長期修繕計画の期間を「30年以上で大規模修繕工事が2回以上含まれる」期間とした。従来は「中古マンションは25年以上・新築は30年以上」となっていたため、25年で長期修繕計画を立てているマンションも少なくないはずだ。
ところで、外壁の塗装や屋上防水などを行う大規模修繕工事の周期は一般的に12~15 年程度とされる。30年以上の計画であればこれらの工事が2回含まれることになる。エレベーターの改修も検討に入ってくるだろう。計画期間が30年以上であれば、これら多額の工事費を見込んだ計画となる。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

一方、2回の大規模修繕工事が含まれていない計画では、計画期間直後に大幅な資金不足になるという事態も起こりかねない。
また長期修繕計画は一度つくったら終わりではない。状況の変化に応じて見直していく必要がある。このことは従来から指摘されていたが、今回の改訂では「5年程度」という表現が各所に追記された。見直しをお題目にすることなく、実行していくことが望まれるのだ。
居住するマンションの長期修繕計画が、「30年以上で大規模修繕工事が2回以上」含まれているのか、「5年程度」で見直すことが考慮されているのかはまず確認したいポイントだ。

2、省エネ性能の向上
改訂では、マンションの省エネ性能向上の改修工事も考慮するよう追記された。古いマンションでは省エネ性能が低い水準にとどまっているものが多い。屋上の断熱改修は比較的実績も多いが、外壁の外断熱改修はまだまだ少ない状況だ。窓サッシの改修も断熱性を高める。大規模修繕を契機に、これらの改修工事を行うことは、所有者の光熱費負担を低下させるとともに脱炭素社会の実現にも貢献することになる。築年の古いマンションであれば、この点も考慮した修繕計画となっているかも気になるところだ。

3、エレベーターの点検は?
エレベーターの点検に際し、国土交通省が平成28 年2月に策定した「昇降機の適切な維持管理に関する指針」に沿った点検の重要性も述べられている。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

この指針では、エレベーター保守点検契約に盛り込むべき事項のチェックリストや業者の選定に当たって留意すべき事項など、エレベーターの適切な維持管理に必要な事項があげられている。法定点検をないがしろにしては、修繕計画も立てられない。指針に即した法定点検を行うことは長期修繕計画作成の前提条件だ。

それぞれのマンションにあった計画を立てる

マンションの維持管理を考える際、忘れてはならないことがある。マンションは個別性が強い、ということだ。規模、形状、仕様、立地、所有者の意向などさまざまな条件により維持管理の内容も異なってくる。
長期修繕計画も建物や設備の劣化状況の調査・診断に応じたオリジナルなものが作成されるべきなのだ(現実にはそこをいい加減にして、どのマンションに対しても同じような長期修繕計画を提案している「専門家」も少なくない)。
国土交通省が示している修繕工事項目や修繕周期は一つのモデルだ。これと違う部分があるからといってダメな計画と決めつけるのは早計だ。なぜ違いがあるのか、その確認が大切なのだ。マンションの個別性を踏まえた結果、異なるのであれば問題はない。むしろ良い長期修繕計画だ、ということになる。

修繕積立金の目安は

長期修繕計画が適切なものであっても、それを実施する修繕積立金が不足しては、必要な工事を実施できないし、実施しなければならなくなった場合は多額の一時金を徴収することになる。必要な修繕積立金を考える上で参考となるのが修繕積立金GLだ。
長期修繕計画GLの改訂とともに、修繕積立金GLが示す修繕積立金額の目安も見直されており、少し高くなった。
具体的には以下の金額だ。

(図表は修繕積立金GL)

(図表は修繕積立金GL)

上記の図表は、従来の長期修繕計画GLにおおむね沿って作成された長期修繕計画の事例(366事例)を収集・分析し、計画期間全体に必要な修繕工事費の総額を、計画期間で積み立てる場合の専有面積1平米あたりの月額単価を示している。長期修繕計画GLに沿った工事を行うために費用な積立金額の目安と考えてよいだろう(マンションの個別性があるため、必要な費用に幅が出る)。
例えば、20階建て以上の高層マンションでは、「平均値」は338円/平米、「事例の3分の2が包含される幅」が240円/平米~410円/平米となっている。自分のマンションの修繕積立金がこの「3分の2が包含される幅」に入っていないのであれば、その理由を確認しておきたい(この幅の下限より安いからといって、修繕積立金が不足すると決めつけることはできないし、上限より高いからといって、安心と言い切れるわけでもない)。なお、機械式駐車場がある場合は加算が必要となる(もう少し高くなる)。

「均等積立方式」と「段階増額積立方式」

また上記の金額は、「修繕積立金会計収入の平米単価」であることに注意が必要だ。「各住戸から集める修繕積立金の平米単価」ではない。1階住戸についている庭や駐車場など、使う世帯が負担する専用使用料等を修繕積立金に繰り入れ、含めた額となっている(専用使用料等の収入がある分だけ、各住戸の負担額は少なくなる)。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

つまり「各住戸から集める修繕積立金の平米単価」がGLで示されている金額より少ないからといって、直ちに不足が懸念されるわけではない。とはいえ、東日本不動産流通機構(東日本レインズ)の調査によれば、2020年度に同機構を通して成約した首都圏中古マンションの修繕積立金の平均平米単価は169円/平米だ。長期修繕計画GL沿った計画修繕には不足する管理組合も多いと思われる。
注意すべきは積立金額だけでない。積立方法が「均等積立方式」なのか「段階増額積立方式」なのかにも注意したい。「均等積立方式」とは計画作成時に長期修繕計画の期間中の積立金の額が均等となるように設定する方式だ。これに対し、当初の積立額を抑え、段階的に増額する方式が「段階増額積み立て方式」だ。後者であれば、将来の負担が増加することになる。

専門家は今回の改訂をどうみているのか

今回のGL改訂について、マンションの大規模修繕のコンサルタントとして豊富な実務経験がある明海大学不動産学部准教授の藤木亮介(ふじき・りょうすけ)先生にお話を伺った。……というと他人行儀だが、筆者の大学の同僚だ。研究室も真向いにある。マンション学会で今回のガイドラインについて報告されるなど実務と理論の双方に通じた専門家だ。

(写真提供/中村喜久夫)

(写真提供/中村喜久夫)

「今回の長期修繕GL改訂は、マンション管理適正化法改正に伴い来年4月より施行される『管理計画認定制度』とも関連しています。『管理計画認定制度』とは、良好に管理されているマンションを認定し、価値あるストックを増やしていこうとする制度です。中古マンションの売買価格には、管理の質が反映されているとは言い難い現状がありますが、この制度が浸透すれば、良好な管理が行われているマンションが、市場で評価される時代が来ると考えます。
この認定基準の一つに『計画期間が30年以上・大規模修繕2回以上』などといった長期修繕計画標準様式に準拠する内容が含まれます。したがって、マンションをお持ちの方には、是非、ご自分の資産を守るためにもこの長期修繕GLを読んでいただき、自分のマンションの長期修繕計画と見比べてもらいたいと思っています」(藤木先生)

確かに現状では管理の質が適切に評価されているとは言い難い。今後は、修繕積立金の多寡や計画修繕の実施状況も価格形成の要因となるのだろう。藤木先生は、『マンションの成長』という視点も提示される。

「一般的な理解として、長期修繕計画はマンションを『直す(修繕)ための計画』と捉えられていますが、これからのマンションには、『良くするための計画』という視点が必要になります。築浅のマンションであっても時代遅れにならないように、長期修繕GLを参考にして、省エネ化などマンションが成長していくような改良を見込んだ計画を立てておくことが重要になります」(藤木先生)

マンションを所有する以上、管理の問題は避けられない

マンションの良好な住環境を維持保全することは、資産価値の維持だけでなく地域の住環境の向上にもつながる。その実現には、日常の維持管理とともに計画的な修繕工事の実施が不可欠だ。マンション所有者の一人ひとりが、管理に関心を持ち、長期修繕計画やそれを支える修繕積立金についてもチェックしていくことが重要となる。
さらに今回の改訂では、マンション購入予定者に対する長期修繕計画等の管理運営状況の書面開示も望まれる、としている。マンション所有者はもちろん、購入予定者もしっかり学ぶべき問題であるといってよいだろう。

●関連資料
・「長期修繕計画標準様式、長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント」及び「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」の見直しについて
・長期修繕計画標準様式・作成ガイドライン・コメント
・マンションの修繕積立金に関するガイドライン
・昇降機の適切な維持管理に関する指針

中古マンションを買うときには修繕積立金にもご注目

マンションといえば十数年ごとに大規模修繕が必要となりますが、ご存じでしょうか。この大規模修繕ではまとまった金額がかかるため、それに備えて積み立てが必要となります。中古マンションを買うときの修繕積立金について確認すべきことを、さくら事務所会長の長嶋修氏に聞きました。
修繕積立金が不足する原因とは?

マンションの「修繕積立金」は、所有者全員の積立貯金のようなもの。これを原資として将来の大規模修繕に備えるわけですが、早ければ2回目、遅くとも3回目には多くのマンションで修繕積立金が足りないといった事態が生じています。

もし不足していた場合、所有者各々が数十~100万円単位の一時金を拠出して修繕できればいいのですが、常に全員が足並みをそろえて一時金を出せるケースというのは非常にまれ。したがって、管理組合でローンを組んで大規模修繕にかかる金額を支払い、修繕積立金をアップさせることでローン返済をしていく手があるのですが、これもうまくいかないことが多いのです。当初は毎月5000~1万円程度だった修繕積立金がいきなり3万円にアップするなどというのは、家計によっては簡単に受け入れることができない場合があり、管理組合総会で否決されてしまうことが多かったりします。

そうなるとせいぜい、今ある手元資金でできることだけをやるか、全く何もしないといった選択とならざるを得ず、建物はどんどん陳腐化。購入・賃貸予備軍にも魅力的な建物になりえず、資産価値を下げることにつながる上、適切な修繕をしておけば本来100年以上長持ちするところ、建物の寿命を一気に短くしてしまうのです。

(画像/PIXTA)

(画像/PIXTA)

なぜこのような負のスパイラルに陥るのかといえば、それは「新築マンション販売時の修繕積立金設定」にあります。新築マンション購入時には「販売価格や諸費用」のほか「住宅ローン利用の場合は毎月返済額」「管理費」「修繕積立金」などが提示されます。購入者からすると、毎月家計から出ていくこれらの総額は少ないに越したことはありません。そこで住宅ローンについては極力低金利の金融機関やローン商品を探します。一方で管理費や修繕積立金については購入者に選択の余地はなく、あらかじめ売主に提示された額を容認するかどうかといった選択しかありません。

売主の立場からみれば、管理費は極力高めに設定しておきたいのです。というのも、ほとんどの新築マンション販売のケースであらかじめセッティングされているのは、売主系列の管理会社。つまり管理費は、引き渡し後もグループ会社に毎月流れてくる売上でありその一部は利益です。一方で修繕積立金は、所有者で構成する管理組合がプールする貯金で、売主には直接関係のないものですから、どうしてもここを極力低額にして、ローン・管理費・修繕積立金の合計額を下げることで購入のハードルを下げる、つまり売りやすくするといった意図があります。

修繕積立金の適切な金額は?

国交省は「新築マンションの購入予定者に対し、修繕積立金に関する基本的な知識や修繕積立金の額の目安を示し、分譲事業者から提示された修繕積立金の額の水準等についての判断材料を提供する」として、「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」を公表しています。それによると、一般的なマンションなら、専有面積平米当たり200円程度の積立が適切です。例えば70平米のマンションなら適正な毎月修繕積立金額は1万4000円。この水準の積立金を入居直後から「毎月均等」に続けていればおおむね問題ないでしょうというわけです。タワーマンションなど、修繕によりお金のかかるものはもっと必要です。

「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」の概要より)

(「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」の概要より)

とはいえガイドラインはあくまで指針に過ぎず、強制力もありません。現在でも多くの新築マンション販売現場では、積立金方式は「毎月均等」としているところはほとんどないのは前述したとおりです。多くのマンションでは「段階増額積立方式」または「一時金徴収方式」であり、徐々に積立金が値上げされたり、一時金を徴収されたりします。

こうしたからくりに気付いて修繕積立金方式を変更したマンションと、そうでないマンションとが今、中古住宅市場において、同じ価格水準で売買されています。これは根本的に非常におかしなことで、先進国の中にあって日本だけが特有といえます。修繕積立金が潤沢で今後値上げや借金をする必要がなく、したがって建物の寿命が物理的にも経済的にも優れているマンションと、修繕積立金が枯渇し今後、値上げをするか借金をするか、あるいは何もできずに陳腐化し、寿命も短くなるであろうマンションとでは本来同等の資産価値をもち得るはずがないのですが、これらが同列に扱われているのです。

修繕計画やマンションの課題は、管理組合の議事録などで確認を(画像/PIXTA)

(画像/PIXTA)

まずは「総会や管理組合の議事録」「長期修繕計画」などの閲覧を求めましょう。こうした議事録には、そのマンションで繰り広げられているさまざまな課題が満載。例えばどの程度の管理費・修繕積立金滞納があり、それに対してどのような対応をしているか、駐車場や駐輪場、ごみ置き場、廊下、そして外壁など共用部の使い方やコンディションに何か課題があるか、今後の修繕計画はどのようになっているかなどの事情が記載されているはずです。

修繕積立金滞納の全くないマンションはむしろ少数派ですし、多くの人が住んでいる以上、共用部の使い方に課題が全くないマンションもむしろ珍しい部類。経年によって建物が劣化していくのも当然のことです。要はこうした、マンションの宿命ともいえる各種の課題について、所有者で構成するマンション管理組合がどのような姿勢で、具体的にどんな取り組みをしているのか、知ることが大事なのです。

また「長期修繕計画」を見れば、今後の建物修繕予定が分かるのはもちろんのこと、今後の積立金負担も分かります。多くのマンションでは、新築時に売主が策定した長期修繕計画をそのまま変更せずに使用していることが多いのですが、たいていの場合、新築当初から当面の間は修繕積立金を低額に設定、5年目・10年目・15年目などに一気に上がったり、多額の一時金を徴収する計画となっています。

その上で分からないことがあれば不動産仲介会社を通じて管理組合に尋ねるか、判断に迷うことがあれば第三者の専門家に見解を聞くのもいいでしょう。こうしたことを踏まえながら買うか買わないか、いくらで買うかなどの意思決定をするべきでしょう。

ただしこうした内部書類については、マンション購入者などの第三者に閲覧させることは義務ではないため、あくまで任意で閲覧をお願いすることになります。言い換えると、閲覧に応じるマンションはその情報開示姿勢だけで好感がもてるということです。自らのマンション管理運営に自信があるとか、情報開示の重要性を理解しているといった組合員が多いからこそです。

ではこうした書類を確認できない場合はどうすればよいか。

(画像/PIXTA)

(画像/PIXTA)

まずは「見た目」から。中古マンションを見学する際には、いきなり室内には入らず、まずは「共用部」をじっと見つめてください。例えば「外壁」。昨今のマンションはタイル張りが主流ですが、ざっと見渡してみて、タイルが剥がれているところ、あるいは浮いているようなところはないでしょうか。タイルは落下すればたちまち凶器となり得るうえ、このような状況を放置していれば躯体そのものが長持ちしません。もしタイル落下、浮きなどの症状が確認できたら次は、マンション管理組合がその状況を把握しているか、またそれについてなんらかの対処を行う予定があるかを確認しましょう。これは、不動産仲介担当を通じて管理組合に確認してもらってもいいですし、管理員がいれば尋ねてみてもいいでしょう。

このことは、廊下や階段などの共用部も同じです。経年によって徐々に劣化していくのは建物の宿命ですが、一定の幅や深さがあるひび割れや、一定量以上の白いカルシウム成分が浮き出てくる白華現象、コンクリート内部の鉄筋が水に触れたことで錆び汁がしみだしている現象などを長らく放置しておくと、それは建物内部を傷め、時間が経過するほど修繕コストは膨大になるうえ、着実に寿命を縮めていくことになります。

そしてエントランスまわりの清掃状態やポストまわりの整理整頓具合はどうでしょうか。こうしたところが雑然としているのは、管理員の仕事が行き届いていないからですが、背後にはそれを容認している管理組合の存在があります。マンション管理についてその程度の無関心さだというわけです。このことは、駐車場や駐輪場、ごみ置き場などの状態にも言えます。掲示板に数か月も前の古い情報が貼られている、雑然と貼られている、貼ったものが破れているなども組合運営の質を推し量れます。

新築マンションに比べるとさまざまな選択肢がある中古マンション。管理や修繕の状況も一つ一つ違います。選ぶ際には間取りや立地など分かりやすいものに目がいきがちですが、長く住むためには、修繕積立金についても注目してみましょう。

首都圏中古マンション、月額管理費は平均12,138円

(公財)東日本不動産流通機構(東日本レインズ)はこのたび、2018年度「首都圏中古マンションの管理費・修繕積立金」に関する調査結果を公表した。それによると、2018年度に同機構を通して成約した首都圏中古マンションの月額管理費は、1m2当たり平均で188円(1戸当たり12,138円)、修繕積立金は161円(同10,392円)、合計は349円(同22,529円)だった。

1m2当たりの年間管理費は、成約m2単価の0.43%、年間修繕積立金は0.37%で、両者の合計は0.81%。また、1戸当たり月額管理費は経年化するにつれて下落傾向。

都県別でみると、東京都の月額管理費は、1m2当たり平均で216円(1戸当たり13,055円)、修繕積立金は167円(同10,058円)。神奈川県の月額管理費は、1m2当たり平均175円(1戸当たり11,713円)、修繕積立金は162円(同10,854円)。

ニュース情報元:東日本レインズ

マンション修繕積立金、首都圏平均は1万13円

(公財)東日本不動産流通機構(東日本レインズ)は6月25日、2017年度「首都圏中古マンションの管理費・修繕積立金」についての調査結果を公表した。それによると、2017年度に東日本レインズを通して成約した首都圏中古マンションの月額管理費は、1m2当たりの平均で188円(1戸当たり12,086円)、修繕積立金は156円(同10,013円)、合計すると344円(同22,099円)だった。

都県別でみると、1m2当たりの月額管理費は、東京都217円(1戸当たり12,961円)、神奈川県174円(同11,661円)、千葉県146円(同10,744円)、埼玉県154円(同10,487円)。月額修繕積立金は、東京都160円(同9,570円)、神奈川県158円(同10,610円)、千葉県147円(同10,827円)、埼玉県145円(同9,872円)となっている。

ニュース情報元:東日本レインズ