住んでいない家のローンを払い続ける!? 離婚後の住居をどうするか問題

離婚にはさまざまな事情があると思われますが、二人でつくった思い出だけならまだしも、子どもや財産がかかわってくると一筋縄ではいきません。「結婚するより離婚する方が大変」という人もいるくらいです。そこで、メリットパートナーズ法律事務所の木村康紀(きむら・やすのり)弁護士に、離婚の際に住居関連で問題になりがちな論点や、事前の予防策、事後の対応方法などについて伺いました。
離婚で問題になるのはやっぱり住宅ローン

「芸能人の○○夫妻が離婚!」というニュースを目にすることはよくありますが、「自分の周りでも離婚している人が増えたような…」と思ったことはありませんか? 厚生労働省の平成 29 年(2017)年「人口動態統計の年間推計」によると、1年間の離婚件数は 21 万 2000 組、離婚率(人口千対)は 1.70 と推計されるとのこと。婚姻件数は 60 万 7000 組ですから、離婚するカップルの多さがうかがえます。

「離婚の際に発生するお金問題には大きく3つあります。一つ目が『慰謝料』、二つ目が『財産分与』、三つ目が『養育費』の問題です。このうち慰謝料は離婚の理由によって金額が変わってきます。財産分与は結婚した年数などに左右されますが、揉めやすいのは住宅ローンが残っているときです」と木村先生。なんとなくそんな気はしていましたが、やはり問題になると分かりました。住宅ローンは2人でつくった負債なので、まだ残っていると不動産を売るにしても問題が生じます。

ついに印鑑を押すときが来た(画像提供/PIXTA) 

ついに印鑑を押すときが来た(画像提供/PIXTA) 

「財産分与については、ふたりでつくった財産を半分にわけるのが基本ですので、一般的には婚姻期間が長い方が額が多くなる傾向にあります。しかし、短い婚姻期間でも大きい財産がつくられている場合もあります」(木村先生)

そして財産分与の際に気になるのが、やはり不動産。住宅ローンを組んでマンションを購入したりマイホームを建てたりしたら、その扱いはどのようになるのでしょうか。

自分の親の援助は「特有財産」になる

「財産分与では不動産の価値も半分にします。ただ、『特有財産』という概念があり、『夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産』(民法第762条)については財産分与の対象となりません。」と木村先生は言います。

例えば、不動産の購入に際して、頭金などを結婚前の自分の貯金から出していたら、不動産の評価額からそれを引いた額が財産分与の対象になります。また、どちらかの親が出した部分も、その金額分は「特有財産」となります。つまり、妻の親が出していれば「妻の財産」なので財産分与の対象にはならないのです。

住み続けることにこだわると大変?

離婚に際して、子どもがいる家庭などでは、出来る限り生活環境を変えたくないということで、夫婦の一方がそれまで住んでいた不動産に住み続けることを希望することもあります。

よくあるケースとしては、夫が不動産の所有権を持っており、住宅ローンを支払っているケースです。妻がそこに住み続けることになっても、すぐには不動産の所有権を渡せないのが実情です。原則として銀行はローンを完済しない限り、名義変更に応じてくれません。そのため、ローン完済するまでは当初のままの名義で、完済後に変更の手続きをすることになります。

「解決策として、ローンを支払い終えてから妻に登記を移すことが以前からよくあります。ただ、住宅購入時はだいたい35年ローンが多いですから、払い終わるまで離婚を待つわけにもいきません。まだ若いうちに離婚する人が増えた最近はこのことが揉めやすい理由にもなります」(木村先生)

住宅ローンがまだ30年も残っている…(画像提供/PIXTA) 

住宅ローンがまだ30年も残っている…(画像提供/PIXTA) 

基本的にその不動産に住み続ける必要があるかを考え、必要ないなら売って、住宅ローンを差し引いた額を分ければよいといえます。また、価値が下がった物件で負債だけが残るケースもありますが、そうなると財産分与で取得できる額が目減りしてしまいます。

「離婚後に焦らないためには離婚前に不動産の価格をしっかりと検討し、住み続けるのが良いのか、売ってしまった方が良いのかを見極めておいた方が良いと思います」と木村先生からはアドバイスが。

不動産のほかにも分けるものがたくさんあれば問題はさほどありません。しかし、分けるものがあまりない場合、あるいは負債がある場合もあるでしょう。ローンを借りていない妻の側に離婚の理由がある場合も、慰謝料を妻が払いますが、財産は基本的に均等に分与します。

「一般論として、離婚にあたっての合意事項は公正証書をつくっておくのが望ましいです。登記が後になってしまう場合は特につくっておいたほうがよいですね。一度合意したにもかかわらず、住宅ローンを支払い終える前に、払うのをやめてしまう人もいます。そういうことがあった場合には損害賠償等を請求できるようにしておく必要があります。」(木村先生)

妻が子どもを連れて家を出て行った(画像提供/PIXTA) 

妻が子どもを連れて家を出て行った(画像提供/PIXTA) 

「妻の収入も当てにして組むペアローンは、離婚時の論点が増えるのでもめがちですが、近年はよくありがちなケースですね。そのうえ、どちらかが住み続けることにしたら、別れてもローンを共同で支払うという関係を続けなくてはならなくなってしまいます。この場合、妻が住み続けることに決めたとしても夫が売ることを決めてローンを支払うのをやめてしまったら、差し押さえの対象になって追い出されることになります」(木村先生)

妻が残りのローンを払って、所有権も持てばよいと思うかもしれませんが、銀行は、支払い能力の低さなどから妻に信用がなければ、借り換えを認めてくれません。そうなると妻は所有権を得られなくなってしまいます。

一般的には、「支払いが終わるまでは所有権を移転しない」という契約条項が住宅ローンを組む際に交わされています。親がお金を持っていて保証人として入ってくれれば、妻への所有権の移転が認められることもありますが、親も年を取りますから、他の不動産等を担保に入れなければならないかもしれません。

「本当にそこに住み続ける必要があるのかということは、よく考えるべきでしょう」と木村先生はおっしゃいました。

円満な離婚はない それでも心づもりをしておくなら

住居を買う前に離婚の対策をすることはかなり難しいようです。そもそも、離婚時にもめるリスクを避けるためだけに、ランクを落とした物件を買うのは、結婚生活としてハッピーではありません。

「それでも、物件購入に際してどちらがどれくらいの金額を払ったかをはっきりさせておくべきです。明文化しておくのは難しいですが、援助してくれた親の通帳などはお金の軌跡として証拠になりますから、残しておくとよいです。これで特有財産がはっきりします」と木村先生。「住宅ローンを組む方が所有権を持つケースが多いですから、住宅ローンを組んだ物件の、お互いの特有財産の割合をわかるようにしておくとよいでしょう」

不動産評価額は財産分与の大きなポイント(画像提供/PIXTA)

不動産評価額は財産分与の大きなポイント(画像提供/PIXTA)

評価額はきっちりと算出しよう

不動産をもらう側は不動産の価値が低い方が、財産分与の対象の中の不動産の占める割合が少なくなります。そのため、他の財産からもらえる分が多くなり、有利になります。その一方で、あげる側は不動産の価値が高いほうが有利です。ですから、自分に有利な評価額であるかどうか、きちんと準備して離婚交渉にのぞまねばなりません。評価額は裁判にでもなれば、不動産鑑定士がきちんとした額を出しますが、そこまでいかない場合、つまり調停などではお互いがそれぞれ自分たちで仲介業者や買取業者などに依頼し、評価額を出しあうことになります。

幸せに結婚生活を続けたいと思ってもそうはいかないことも多い世の中、「しっかりと公正証書をつくっておく」「早めに自分の希望を弁護士に相談」などを心の片隅に置いておくとよいかもしれません。子どもが大きくなってからだと子どもへの影響も大きくなります。「円満」はありえないとしても、無事に住まいを確保して生活できるよう、勉強しておいて損はないのではないでしょうか。

●取材協力
・メリットパートナーズ法律事務所

不妊治療と住宅購入、同時に実現させるには? 賢い住まいのマネー術(5)

不妊治療と住宅購入、どちらも非常にお金がかかるライフイベントです。二つの大きなライフイベントを同時に実現させることは可能なのでしょうか。その場合どのようなマネープランが必要なのか、基本から一緒に考えていきましょう。【連載】賢い住まいのマネー術
住まいに関する支出は、家庭の大きな割合を占めるもの。保活から住宅ローン控除まで、住まいに関する家計管理や節約術に定評のあるファイナンシャルプランナー(FP)の花輪陽子さんが解説します。不妊治療にかかるお金と助成を知ろう 

      

不妊治療にはいくらかかるのでしょうか。タイミング指導で授かることができる場合、数万円で済むこともありますが、人工授精の場合は1回当たり数万円、体外受精の場合は1回当たり数十万円と、1人の子どもを授かるための費用は100万円以上かかることもよくあります。また、治療が長期に及ぶ場合も多いものです。

莫大なお金がかかるのに対して国や自治体からの補助はどれくらい受けることができるのでしょうか? 国の特定治療支援事業では、体外受精や顕微授精に対して、1回当たり最高15万円の給付があります。所得制限があり、夫婦合算の所得額が730万円未満(給与所得控除等を引いた額)に限られます。

独自の助成制度を設けている市区町村もあります。例えば、東京・港区の場合、所得制限なしで年30万円を限度に特定不妊治療費助成を受けることができ、東京都からの受給額では足りない部分をカバーすることができます。

品川区の場合は「一般不妊治療費助成事業」があり、国の助成制度では対象外となっているタイミング法・薬物療法・人工授精など一般不妊治療の医療費を最大で50万円助成します(年10万円まで、通算5年度、所得制限なし、年齢制限あり)。
※いずれも記事掲載時点。品川区の「一般不妊治療費助成事業」は制度変更を予定しており、上記は平成30年3月31日までの助成内容です。詳細については品川区のHPでご確認下さい。

すべての行政で独自の助成があるわけではありませんので、お住まいの市区町村のホームページや広報誌などで確認をしてみましょう。また、多くの場合、助成対象となる年齢に制限が設けられています。不妊治療は早期に始めるほうが、助成を受けるという面でも有利でしょう。

住宅選びで注意すべきは「予算」と「間取り」

では次に、不妊治療中にマイホームを購入する場合の注意点について考えてみましょう。まず一番大きなところは予算です。

住居費は手取り収入の3割以内に収めることが望ましいと言われていますが、不妊治療中もその原則は変わりません。

マイホームを購入し、不妊治療を続けた場合の家計簿はどうなるでしょうか。例えば、世帯の手取り月収40万円のA家庭の場合を見てみましょう。私の考える理想的な配分は以下のとおりです。

世帯の手取り 40万円
住居費 12万円(手取り月収の3割まで)
光熱・水道費 1万5000円
交通・通信費 2万円
保険・医療費 1万円
食費 6万円
生活用品費 5000円
被服・美容費 2万円
教養・娯楽費 2万円
交際費 1万円
夫婦小遣い 4万円
ライフイベント費(不妊治療にかかるお金) 6万円
※治療初期のケースを想定
貯金 2万円

不妊治療にかかるお金は医療費ではなくライフイベント費に含めています。治療の方法と受けられる助成額にもよって負担額は異なりますが、毎月の大きな支出になることは間違いありません。そのために、固定費となる住居費(住宅ローン返済額)は手取り月収の1/3以内に留められるように工夫をしましょう。

住宅購入の中でもマンションを購入する場合は、住宅ローンの返済以外に、管理費や修繕積立金、駐車場代など毎月住宅に固定費がかかります。すべて合わせて、現在の家賃と比べて無理がないかは必ずチェックをしておくとよいでしょう。

間取りに融通が利く物件にするなどの工夫も必要です。家族構成が決まらないうちに住宅を購入することになるからです。妊活に優しい自治体、子育てに優しい自治体もあるので、自治体情報も確認をしながら住むエリアを考えることも重要です。

夫婦共働きの期間は人生の貯め時であり、手取り月収の25%程度貯めたいところですが、ライフイベント費にお金もかかるので貯金が難しくなるかもしれません。治療が終了したら貯める、という意識を持つようにしましょう。

頭金は入れすぎない 少なくとも200万円の現預金を残そう

    
治療の方法によっては貯金を切り崩す必要が出てくる場合もあります。そのことも想定して、マイホーム購入の際に頭金を入れ過ぎない(手元にある程度の現金・預金を確保しておく)ほうがよいでしょう。

具体的には、少なくとも手元に200万円程度の現金・預金を残しておきたいものです。なぜならば不妊治療をしていない家計であっても、出産前は妊婦健診や出産費用、休職中の収入減に備えて、最低100万円は余裕が欲しいです。不妊治療をしている場合はそれに加えて、医療費やサプリメントの購入など様々なお金がかかるからです。

頭金と住宅ローンのバランスを考える必要があるので、場合によってはファイナンシャル・プランナーなど専門家にライフプランの相談をするのも一つです。

治療中は体調が不安定になることがあります。筆者の知る限り、妻側が休職するケースもあるようです。そのリスクに備えて、住宅ローンを夫一人でも返済可能な額に留めたり、勤め先に不妊治療休暇がないかを確認したりもしておきましょう。
                                                    
人生ではお金がかかるライフイベントがいくつもありますが、ライフイベントが二つ同時に重なるケースもあるものです。その場合、より慎重なプランニングが必要になります。

花輪 陽子花輪 陽子(ファイナンシャルプランナー)
CFP認定者、1級FP技能士。外資系投資銀行を経てFPに。「夫婦で貯める1億円!」「貯金ゼロ 借金200万円!ダメダメOLが資産1500万円を作るまで」などの著書やテレビ出演、雑誌監修など多数。

女性は特にご用心!? ”見栄っ張り”住宅ローンの落とし穴 賢い住まいのマネー術(4)

住宅ローンが低金利なので収入に対して多額の住宅ローンが組んでしまいがちな時代です。この際だからと、ワンランク上のエリアや物件などを選んでしまう人もいるかもしれませんね。しかし、返済のことをしっかりと考えた上で毎月の収入から無理なく返済できる金額を考えることが大切です。【連載】賢い住まいのマネー術
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「せっかくだし、ウッドデッキを付けたい」「おうちを買うなら港区か渋谷区がよい」など、“一生に一度だから”とマイホームにこだわりを持ち過ぎる人は予算をオーバーしがちです。女性は特にご用心。「壁紙は変えたい」「カーテンとソファーカバーは統一したい」など「友達が来た時に自慢をしたい」という見栄っ張り支出は、一つ一つは何とかなる金額でも積み重なると総額で大きな金額になるからです。このオプションを付けるといくら追加支出がかかるのかをメモをして総額を計算するようにしましょう。

 そもそもマイホーム探しの前に予算を決めるべきです。予算とは自己資金と無理なく返済できる住宅ローンの金額の合計額です。住宅ローンは毎月の収入のなかから無理なく返済でき、かつ定年退職までに返済できる金額に留めるようにしましょう。

借入額によって毎月返済額はこんなに変わる

例えば、借入金額3000万円、金利1.5%、35年返済(元利均等返済)の場合、毎月の返済額は約9万2000円です。他の条件は同じで借入額を4000万円にした場合の毎月返済額は約12万2000円になります。毎月の返済額が3万円も変わるのでその差は大きいですね。

 「ローン返済額は家賃相当額」とも言われますが、その他にもかかる固定資産税など維持費にも注目しましょう。また、マンションの場合、管理組合や、管理人常駐のための管理費、将来のメンテナンスのための修繕積立金が必要になります。どちらも5年毎に見直しがあるケースが多く、修繕積立金に関しては途中から上昇する場合も多いです。ローン返済額に維持費も加えて、以前に借りていた家賃と同等額であれば家計を無理なく回しやすいでしょう。

 また、変動金利で借りる場合は毎月の返済額が途中で変わる可能性もあるので注意しましょう。変動金利で借りる場合、市場金利の変化によって住宅ローン金利も変動します。半年ごとに金利の見直しがあるのが一般的です。10年以上の固定金利を組むとその期間は返済額が一定のために将来の返済額を見通しやすくなります。

ローンを返済しながら老後資金を作れますか?

住宅ローンを組めるだけ組んではいけないもう一つの理由にローンを返済しながら老後資金を貯めなければならないということが挙げられます。60歳以上の単身無職世帯の平均的な収入は約12万円ですが、支出は約15万6000と毎月約3万6000円の赤字になっています(総務省統計局「家計調査報告2016」より)。年間で約43万円の貯金を取り崩している計算になるのです。

 例えば、65歳までは働くというA子さんの場合。65歳から90歳までの25年間は年金と貯金の取り崩しでの生活になります。平均的な支出と同じように年43万円取り崩すのであれば、生活費だけでも25年間で1075万円になります。介護などの予備費も加えると約1500万円の老後資金を作る必要があることが分かるでしょう。老後資金は退職金、確定拠出年金、積立型の生命保険などで準備をしてももちろん大丈夫です。

老後とのバランスも考えて、マイホームの予算を再度調整しましょう

老後資金が恐ろしいと感じた人も多いかもしれません。ですが、ローンを完済済みのマイホームがあるということは一つの老後への備えになります。実は先ほどの家計調査の平均的な支出額のうち、住居費は月約1万3000円程度。ローン完済後の持ち家で維持費だけを支払っている金額を前提として計算されています。つまり一生賃貸の場合、あるいは退職後もローンを完済できていないという場合は更に多くの貯金を準備する必要があるのです。

 無理のない範囲のローンに留め、退職までに完済をして、その住宅に住み続けるということが原則にはなりますが、老後を迎えるにあたって持ち家ということは一つの安心材料にはなりそうです。

住宅購入は一生で一番というくらい大きなライフプランになります。金融広報中央委員会の「知るぽると」というサイトでも資金プランシミュレーションができます。借入額の条件を入れて毎月の返済額を試算する「借入返済額シミュレーション」を事前にすることもおすすめです。借入額によって毎月の返済額が、さらには老後のゆとりが大きく変わるために、じっくり考えて決断をすることをおすすめします。

花輪陽子phpto2花輪 陽子(ファイナンシャルプランナー)
CFP認定者、1級FP技能士。外資系投資銀行を経てFPに。「夫婦で貯める1億円!」「貯金ゼロ 借金200万円!ダメダメOLが資産1500万円を作るまで」などの著書やテレビ出演、雑誌監修など多数。