「SUUMO住みたい街ランキング 関西版」明石3位で人気揺るがず。充実した子育てサービス、恵まれた風土で支持集める

「SUUMO住みたい街ランキング 関西版」で、昨年から総合順位3位をキープし、高い支持を得ている自治体が兵庫県「明石市」だ。子育てサービスが充実していることは全国的にも有名だろう。瀬戸内海のおだやかな気候と、自然環境に恵まれた明石での生活に注目だ。

所得制限なし! 子育て支援施策が充実した明石市

兵庫県明石市は「住みたい自治体ランキング」で昨年に続き3位となるとともに、「住みたい街(駅)ランキング」でも明石駅(JR山陽本線)が過去最高の16位にランクイン。こうした人気を集める大きな要因が子育てに関する自治体サービスの充実だ。所得制限のない無償化施策だけでも①子ども医療費の無償化、②第2子以降の保育料の完全無料化③0歳児の見守り訪問「おむつ定期便」、④中学校の給食費無料化、⑤公共施設の入場料無料化の5つの政策が実施されている。他にも、市内の公立幼稚園での給食、高校生世帯への児童手当など、将来を担う子どもたちのための支援が豊富だ。さらに、保育士へ向けての「保育士定着支援金」を実施、採用後7年間で最大160万円の支援金を直接支給することで、毎月の家賃負担をサポートし、保育士が明石に定着するような補助を行っている。
その結果、明石市の人口は2023年地点で30万人を超えており、11年連続で増加している。子育て世代の転入が増えていることからも、施策の効果がうかがえる。
ただ、人気の背景は行政の施策だけではなく、明石市がそもそも持っていた魅力にも大きな要因があるように思える。次章で紹介していこう。

明石市松江の海岸線。子どもたちと遊ぶことができる海がすぐそばにあることも明石市の魅力(写真撮影:井村幸治)

明石市松江の海岸線。子どもたちと遊ぶことができる海がすぐそばにあることも明石市の魅力(写真撮影:井村幸治)

おだやかで過ごしやすい街、明石

兵庫県の南部に立地する明石は、おだやかな気候に恵まれている地域である。関西の人口5万人以上の都市部では降水量は最も少なく、日照時間も長い。さらに、県内で2番目に晴れの日が多く、年間降水量も1000ミリ程度だ。おおよその最高気温が33度から35度、最低気温がマイナス6度から4度で、年間の平均気温は14度から15度、と、一年を通して快適に住むことが可能な気候だ。地形的には平坦な場所が多く、古くから疏水やため池を利用した治水事業も行われている。
また、瀬戸内海の自然環境にも恵まれている。林崎・松江海水浴場、藤江海岸海水浴場、江井ヶ島漁港や住吉公園といったスポットが海岸沿いにならび、子どもたちと一緒に海水浴や水遊びを楽しめる。明石海峡大橋や淡路島を望む景色は何時間でも眺めていられそうだ。
これほど綺麗な海岸に、徒歩や自転車でも遊びにいくことができる街は関西でも少ない。釣りやキャンプ、マリンスポーツを家族で楽しめる街であることも人気の秘密なのだと思う。

明石市松江の松江公園

明石市松江の松江公園

明石市松江の松江公園。海の透明度がとても高い海岸。周辺にはカフェや駐車場、トイレも整備されている(写真撮影:井村幸治)

一方で、瀬戸内海を使った交通の要衝として万葉集の時代からの歴史を持ち、江戸期以降は明石城を中心に城下町として栄えた明石には寺社仏閣や古墳も点在している。日本酒造りの蔵元も多く、見学や直売を楽しむことができる。JR明石駅前の魚の棚商店街(うおんたな)には地魚を安く提供してくれる飲食店もたくさん並んでいる。大人も楽しめる街でもある。

明石市魚住の魚住住吉神社

明石市魚住の魚住住吉神社

明石市魚住の魚住住吉神社。目の前の海岸に向いて社殿が立ち、能舞台もある。公園も併設され子どもたちが遊んでいた(写真撮影:井村幸治)

JR明石駅前の魚の棚商店街(うおんたな)。昼飲みを楽しめる飲食店も多く、週末は行列も(写真撮影:井村幸治)

JR明石駅前の魚の棚商店街(うおんたな)。昼飲みを楽しめる飲食店も多く、週末は行列も(写真撮影:井村幸治)

住んでみてわかる居心地の良さ

明石市は、住んでみることではじめてわかる魅力も多い街だ。JR東海道線と山陽電鉄本線が並行して東西を結び大阪や神戸へのアクセスも良好、JR明石駅から三ノ宮駅までは新快速で約15分、大阪までは新快速で37分だ。西明石駅から山陽新幹線を利用すればビジネスや旅行にも便利だ。
日本の桜100選の明石公園や、大型遊具のある石ケ谷公園など大小合わせて400カ所の以上の公園があり、ふらりと遊ぶことのできる公園が身近にあるのも魅力のひとつ。近年ではため池の跡地を再利用し、「みんなにやさしい」をコンセプトにした「17号池魚住みんな公園」が令和5年4月29日にオープン。子どもから高齢者までのびのび体を動かせる運動公園で、たくさんの親子連れで賑わっている。
明石市では今後、防災拠点ともなる市役所新庁舎の建設や市民病院の再整備、道路整備などのインフラ再構築も検討されている。まだまだ伸びしろのある街といえそうだ。

17号池魚住みんな公園

17号池魚住みんな公園

2023年にオープンした「17号池魚住みんな公園」。遊具や球技場もあり、たくさんの親子連れで賑わっている(写真撮影:井村幸治)

明石公園。さくら名所100選に選ばれており、春先は桜が綺麗だ(画像:PIXTA)

明石公園。さくら名所100選に選ばれており、春先は桜が綺麗だ(画像:PIXTA)

明石市立天文科学館。日本標準時子午線上に立つ、「時と宇宙」をテーマとした博物館で、遠足などで訪れる人も多い(写真撮影:井村幸治)

明石市立天文科学館。日本標準時子午線上に立つ、「時と宇宙」をテーマとした博物館で、遠足などで訪れる人も多い(写真撮影:井村幸治)

子育て施策の充実で知られている明石は、恵まれた風土と地理的要因で、古代から連綿と人々の暮らしが営まれてきた街でもある。瀬戸内海の美しい自然に身近に触れあえる暮らしと、快適な生活利便性も得られることもその人気の背景にある。もともとのポテンシャルを考えると、今後も人気を集めることは間違いなさそうだ。

「SUUMO住みたい街ランキング2024関西版」尼崎が穴場な街から人気の街に!再開発から10年余り子育て世帯の流入、支援も豊富に

兵庫県の南東部に位置し、大阪府と接している尼崎市。「SUUMO住みたい街ランキング2024関西版」では自治体ランキングの総合順位で過去最高の19位にランクイン。特にシングル男性では8位、夫婦のみ世帯では16位と若い世代からの人気が高まっている。その要因を探ってみよう。

大阪駅まで最短で6分、非常に便利な交通アクセスが魅力

通称「あま」、電話番号の市外局番は「06」と大阪市と同じで、他地域の人からは「大阪じゃないの?」といわれる尼崎市であるが、れっきとした兵庫県の街。市内は東西に、北から阪急神戸線、JR東海道線、阪神本線の3線が並行して通っている。JR尼崎駅から大阪駅までは一駅6分(新快速)、阪神尼崎駅から大阪梅田駅も一駅7分(直通特急)と大阪とは至近。JR尼崎駅からは東西線を利用すれば北新地や京橋へも直通、阪神尼崎駅から阪神なんば線を利用すれば大阪難波や奈良方面までも直通と、非常に便利な交通アクセスをもつ街でもある。
2023年のプロ野球日本シリーズでは阪神とオリックスが対決し、それぞれの本拠地「阪神甲子園球場」と「京セラドーム大阪」を阪神なんば線が結ぶことから「なんば線シリーズ」とも呼ばれた。尼崎市はその中間に位置しており、市内各地でも非常に盛り上がった。「2024住みたい自治体ランキング」でも尼崎の魅力として「いろいろな場所に電車・バスで移動しやすい」という項目が2位に挙げられているが、通勤・通学やショッピングはもちろん、エンターテインメントや余暇を楽しむためも便利な街であることが評価されているのかもしれない。
また、尼崎は市内全体が平坦で道路網も整備されたコンパクトシティという特徴をもち、自転車の利用にも適している。市も事故防止のルール指導、駐輪場整備、自転車道の整備、盗難防止対策などを実施。積極的に自転車を安全・安心・快適に利用できるまちづくりを進めている。さらに、3路線をタテに結ぶように路線バスが尼崎全体をカバーしているため、南北の交通アクセスも良好だ。

JR尼崎駅は東西線と宝塚線が分岐する交通の要所(写真/PIXTA)

JR尼崎駅は東西線と宝塚線が分岐する交通の要所(写真/PIXTA)

駅周辺の再開発が起爆剤となり、住宅供給も活発に

「2024住みたい街ランキング」では、尼崎市の一番の魅力として挙げられているのが「コストパフォーマンスがよく便利なお店や飲食店がある」というポイント。また同ランキングで発表している、交通利便性や生活利便性が高いのに家賃や物件価格が割安なイメージがある駅を選ぶ「穴場だと思う街(駅)ランキング」でも、上位10位までの中に尼崎市にある駅が3駅(4位/阪神本線尼崎駅、7位/JR東海道本線尼崎駅、10位/阪急神戸線塚口駅)もランクインしている。古くからの商店街が残り、人情味溢れるやりとりが楽しめる街である一方、再開発により尼崎市内の主要駅の周辺エリアが整備されていることがこれらの評価に寄与しているといえるだろう。
たとえば、キリンビール尼崎工場の跡地があったJR尼崎駅周辺には、百貨店やあまがさきキューズモールが入る複合施設が整備されており、駅とはペデストリアンデッキで直接繋がっていることもあり非常に便利だ。駅の周辺では高層マンションを中心とした住宅が立ち並び若い子育て世帯の流入につながっている。

JR尼崎駅前、再開発により誕生した複合商業施設。周辺には医療施設なども整備されている(写真撮影:井村幸治)

JR尼崎駅前、再開発により誕生した複合商業施設。周辺には医療施設なども整備されている(写真撮影:井村幸治)

JR尼崎駅の周辺では分譲マンションも立ち並んでいる(写真撮影:井村幸治)

JR尼崎駅の周辺では分譲マンションも立ち並んでいる(写真撮影:井村幸治)

また市内ではJR塚口駅の駅前で工場敷地の再開発により、都市型のコンパクトシティ「ZUTTOCITY」が整備され、マンションと一戸建てあわせて1200戸以上の住宅と商業施設のほか、道路や公園が誕生している。今後の予定では、阪急神戸線の武庫之荘駅と西宮北口駅間に新駅(武庫川新駅(仮称))設置の計画もある。
こうした駅を核とした再開発が進むことで、市内だけでなく広域からの注目を集めるようになっている。その結果、尼崎市内での住宅は一戸建て・マンションとも安定した供給が続いている。既存ストックを地域の資源として活かし、守り、育てることで都市空間の質の向上を図り、持続可能な都市をめざすという市の都市計画が反映されたまちづくりが行われているといえるだろう。

尼崎市の新築一戸建ての着工数および新築分譲マンションの供給戸数の推移

ファミリー世帯も注目、安全で過ごしやすい街へ

「尼崎は便利だけど、治安はどうなの?」と思う方もいるだろう。尼崎市では治安の悪いイメージを払拭するための取り組みも積極的に行っている。たとえば、街頭犯罪防止の取り組みとして、ひったくり現場表示板の掲示、「青パト」を使った防犯パトロールの強化、警報器付きロック装置を付けたダミー自転車を活用する盗難対策「Alar-mmy.(アラーミー)」などの施策だ。結果、刑法犯認知件数は、取り組み前の平成24年(2012年)と比べ、9年間で約63%減少している。令和5年度(2023年度)には市内にあった暴力団事務所もゼロになり、安心して暮らすことができる街へと生まれ変わっている。
子ども向けの施設の開発も進んでおり、2022年には関西初のキッズパーク「モーヴィあまがさき」がオープンした。ボートレース尼崎の一部を活用した親子の遊び場で、発達段階に応じて分けられたゾーンで思い切り身体を動かすことができる場所だ。ボーネルンド社や行政が協働し子ども向けのスペースやイベントを開催しており、なかなか予約が取れないほどの人気となっている。

ボートレース尼崎に隣接する水明公園では思い思いに遊ぶ親子連れの姿も(写真撮影:井村幸治)

ボートレース尼崎に隣接する水明公園では思い思いに遊ぶ親子連れの姿も(写真撮影:井村幸治)

また、2025年3月には阪神大物駅に近接する小田南公園の整備によって、阪神タイガースのファーム施設を中心とした「ゼロカーボンベースボールパーク」が誕生する予定。ベースボールファンだけでなく、家族で楽しめる憩いの場としても注目を浴びそうだ。

豊富な種類の子育て支援、安心して暮らすことのできる環境

その他にも、尼崎市では子育てを世代に向けたさまざまな施策も実施している。たとえば乳幼児等医療費助成制度により、就学前の児童は通院費の自己負担が不要となる。さらに、高校生までは入院費の自己負担も不要だ。また妊娠、出産、育児に関する不安や困りごとなど、すべての妊婦や子育て世帯に寄り添い必要な支援につなぐ「伴走型相談支援」と、出産育児関連用品の購入や子育てサービス等の負担軽減を図る「経済的支援(出産・子育て応援給付金)」を一体的に実施している。他にも市内には「すこやかプラザ」「つどいの広場」が設置されており、子育て中の親子が気軽に集まって仲良く遊んだり、お母さんやお父さんが情報交換や交流を行うことのできる場を提供。アドバイザーによる子育て相談や、子育てに関する講習・イベントも開催されている。

街全体としては高齢化が進んでいるものの、駅周辺の再開発が進みマンション供給も増加したことから若い世代も増えている尼崎。高い利便性とコストパフォーマンスの良さは今後も評価されていくだろう。治安や子育てに対する取り組みも充実してきており、さらに注目度はアップしていく可能性が高い。

「神戸モダン建築祭」港湾都市の名建築を一斉に公開! 建築ライターが歩いて触れる街のアイデンティティ

明治の開港以来、港湾都市としてさまざまな文化の発信地となってきた神戸市(兵庫県)。そうした街の記憶は、都市に立つさまざまな建築物にも刻み込まれ、街を訪れる人に歴史を伝えています。神戸の伝承者ともいえる名建築の数々が一斉に公開される建築公開イベント、神戸モダン建築祭が2023年11月に開催されました。
専門家による確かな審美眼で選ばれた、見どころの多い名建築を一度に楽しむことのできる建築公開イベントは、ビギナーから上級者まで、建築好きがこぞって集まるイベントです。日本では2014年からスタートした大阪の生きた建築ミュージアムフェスティバル(通称:イケフェス大阪)に始まり、2022年からは京都モダン建築祭が開催され、2023年に待望の神戸での開催となりました。
本記事では、これまで国内外の建築を見歩いてきた筆者が、建築祭の魅力や神戸ならではの建築の楽しみ方をレポートします。

港町神戸の象徴、神戸税関。レンガの茶とコンクリートの白の対比や、角に対し円形の塔がたつ配置など、神戸市内のあちこちで開港都市に由来したデザインを見つけることができる(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)

港町神戸の象徴、神戸税関。レンガの茶とコンクリートの白の対比や、角に対し円形の塔がたつ配置など、神戸市内のあちこちで開港都市に由来したデザインを見つけることができる(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)

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建築祭を盛り上げた専門家の語り

大阪、京都でのさまざまな取り組みを継承し、神戸モダン建築祭でも初回とは思えない充実のプログラムが提供されました。京都モダン建築祭に引き続き建築史家の笠原一人さん、倉方俊輔さんによる音声ガイドが配信されたほか、事前申し込み制の特別ツアーも開催され、参加者のニーズに応じた楽しみ方ができるよう企画が用意されました。

事前申し込み制の特別ツアー、「長尾さんと北野モダン建築めぐり、シュウエケ邸からバプテスト教会へ」の様子。震災後、シュウエケ邸の改修に携わった建築家の長尾健さんが、自身の経験も踏まえた解説を行った(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)

事前申し込み制の特別ツアー、「長尾さんと北野モダン建築めぐり、シュウエケ邸からバプテスト教会へ」の様子。震災後、シュウエケ邸の改修に携わった建築家の長尾健さんが、自身の経験も踏まえた解説を行った(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)

そのような至れり尽くせりのイベントに参加してさらに驚いたのが、各公開建物に駐在するガイドの存在でした。彼らが話してくれるのは、事実としての建物の歴史だけでなく、実際にその建築物と関わりのあるガイドさん自身の生身の経験です。改修工事に携わり、歴史的な工法でつくられた意匠を現代の技術でどのように再現したか、など現場の視点での工夫や、阪神淡路大震災時の被災状況など、その人にしか語ることのできないエピソードを交えた解説は建築に対する愛着をぐっと深める貴重なコンテンツとして機能していました。
そのような体制を取った理由について、神戸モダン建築祭の実行委員長でNPO法人神戸まちづくり研究所副理事長を務める松原永季さんはこう語ります。

「神戸では建築に関わる人たち皆で盛り上げる建築祭にしたいと思ったんです。今回の公開建物と実務を通して関係のある方々を中心にお声がけし、ガイドとして参加していただきました」

阪神淡路大震災以降、復興のまちづくりに長年携わってきた松原さんが実行委員長を務めたからこそ実現できた施策といえるでしょう。
事実を解説しようとすると語りも堅くなりがちですが、自分自身の個人史と絡めて建築を語ることで、ガイドさん自身も解説を楽しんでいたように感じられました。

港湾都市神戸の屋台骨を担った建築の数々

行政の施設など貿易に関わる規模の大きな建築が集まる港湾エリアと旧居留地、そして北野・山手エリアの2つのエリアに公開建物が集中した今回のイベント。

「建築は街のアイデンティティの根拠となるものです。大震災以降、神戸の街は一段と洗練された都市に変わってきましたが、その来歴は明治の開港以来、直接的・間接的に海外からの影響を受けてつくられてきた建築がベースにあります。今回の建築祭ではそうした開港都市としての建築を見ていただくことで、神戸の街の歴史を知ってほしいという思いがありました」と松原さん。

「特に港湾機能の重要性はもっと知られるべきものだと考えています。倉庫群や埠頭機能、また今回は公開に至りませんでしたが、貿易の重要な機能を担ってきた土木構造物にも見るべきものが多くあり、今後公開する機会をつくっていけたらと思っています」

貿易と関わりの深い開港都市としての建築が多く公開されたことは、見学者にとっても神戸という街にある建築を見る上での指針になりました。

たとえば1927年に建てられた生糸の検査所をリノベーションしたKIITOは、高い天井高を有効利用しデザイン関連のさまざまな催事に使われるデザイン・クリエイティブの拠点となっています。神戸市立の検査所が完成した5年後には国立の生糸検査所が隣接して建てられ、2つの建物が一体となっています。また対面には神戸税関が並び、神戸市が物流を担っていた往時の発展ぶりがうかがえます。

KIITO外観。整然とした左右対称の立面とは裏腹に、中に入ると複雑で多様な空間が広がっている(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)

KIITO外観。整然とした左右対称の立面とは裏腹に、中に入ると複雑で多様な空間が広がっている(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)

内部にはデザイン関連のさまざまな機能が。自由に使えるワークスペースでは、学生や社会人らが思い思いの作業に取り組んでいた(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)

内部にはデザイン関連のさまざまな機能が。自由に使えるワークスペースでは、学生や社会人らが思い思いの作業に取り組んでいた(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)

新港貿易会館。左手奥にKIITOが見える。1930年に事務所ビルとして建てられ、現在もデザイン事務所や貿易関係の会社が入居している(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)

新港貿易会館。左手奥にKIITOが見える。1930年に事務所ビルとして建てられ、現在もデザイン事務所や貿易関係の会社が入居している(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)

新港貿易会館、エントランス部のタイル。まだら模様のスクラッチタイルに、建物のアクセントカラーであるグリーンの目地がよく映える(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)

新港貿易会館、エントランス部のタイル。まだら模様のスクラッチタイルに、建物のアクセントカラーであるグリーンの目地がよく映える(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)

新港貿易会館、階段室のステンドグラス。モダン建築祭でも屈指の人気撮影スポットとなっていた(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)

新港貿易会館、階段室のステンドグラス。モダン建築祭でも屈指の人気撮影スポットとなっていた(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)

神戸ならではの特徴をよく体現している建築のひとつ、高砂ビルは、元は港の倉庫として建てられた鉄筋コンクリート造のビルです。貨物の保管や搬出入のために造られた、高い天井高やゆとりのある空間は、時代の移り変わりに応じて使われ方が変遷し、現在では音楽ホールやスタジオとして活用されています。

高砂ビル外観。なにも知らなければ素通りしてしまいそうなシンプルな外観に、歴史が詰まっている(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)

高砂ビル外観。なにも知らなければ素通りしてしまいそうなシンプルな外観に、歴史が詰まっている(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)

高砂ビル1階ホール。1949年竣工の高い天井高をもった空間に、雑多に物が置かれさまざまなチラシやポスターが随所に貼り付けられている。日々新しい取り組みが行われているであろう活気が伝わってくる(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)

高砂ビル1階ホール。1949年竣工の高い天井高をもった空間に、雑多に物が置かれさまざまなチラシやポスターが随所に貼り付けられている。日々新しい取り組みが行われているであろう活気が伝わってくる(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)

ヨーロッパの街角を思わせる美しい石張りの外観をまとったアール・デコの傑作、新港ビルヂングは1939年の竣工。保存状態の良さは、行き届いた管理はもちろんのこと、妥協なく選ばれた高品質な材料によるものでしょうか。
連続する街並みも近い意匠が意識されており、この建物の隣に下手な建築は建てられないぞという意気込みが伝わってきます。良い街並みというものは、往々にしてそのように形成されていくのかもしれません。

神港ビルヂングエントランス。石畳の歩道とアール・デコ建築の取り合わせが美しい(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)

神港ビルヂングエントランス。石畳の歩道とアール・デコ建築の取り合わせが美しい(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)

様式は違えど、左右の建物でデザインの統一性が感じられる(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)

様式は違えど、左右の建物でデザインの統一性が感じられる(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)

これらの建築からは少し時代を下って1969年に建てられた神戸商工貿易センタービルは、霞が関ビルディングに次ぐ国内2番目の超高層ビルとして建てられたオフィスビルです。
外観からは四角形平面のごく一般的なオフィスビルに見えますが、中に入ると建物の中央を縦横に通路が交差する特徴的な空間が現れます。今回はかつて展望室だったという26階の会議室が公開され、これから見学する、あるいは見学してきた神戸の街を一望することができるスポットとなりました。

神戸商工貿易センタービル外観(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)

神戸商工貿易センタービル外観(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)

開放的なエントランスホールの中心に、エレベーターコアが位置する。45度で交わる通路が特徴的だ(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)

開放的なエントランスホールの中心に、エレベーターコアが位置する。45度で交わる通路が特徴的だ(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)

展望室からは、船の発着するポートアイランド、神戸空港へ至るモノレールも見え、陸海空の交通が交差する様子を一望できる(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)

展望室からは、船の発着するポートアイランド、神戸空港へ至るモノレールも見え、陸海空の交通が交差する様子を一望できる(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)

神戸観光の目玉。異人館とショッピングエリア

神戸異人館街と呼ばれる、かつて貿易で財を成した外国人商人たちが居を構えた北野エリアでは、豪奢な邸宅の数々やいまや世界的建築家となった安藤忠雄氏が活動初期に手掛けた商業施設が公開されました。

ヨーロッパの本格的なデザインを輸入しながらも日本の風土に合わせて細かな工夫が凝らされた異人館は、近い時代のものであってもさまざまなバリエーションを楽しむことができます。またなかでも建築家、ハンセルの自邸として建てられたシュウエケ邸には、年代物のシャンデリアやフランス製の家具、明治時代の浮世絵のコレクションなどが展示され、往時の生活が再現されています。長らく非公開だったものが公開され、神戸の文化の源泉に触れる貴重な機会となりました。

シュウエケ邸、庭からの外観。多くの異人館が当初の敷地を分割し売却していくなか、オリジナルの敷地がそのまま残っている希少な例(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)

シュウエケ邸、庭からの外観。多くの異人館が当初の敷地を分割し売却していくなか、オリジナルの敷地がそのまま残っている希少な例(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)

1階食堂。浮世絵のコレクション、象牙の置物、シャンデリアや食器類など、貿易商の豪勢な生活がうかがえる(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)

1階食堂。浮世絵のコレクション、象牙の置物、シャンデリアや食器類など、貿易商の豪勢な生活がうかがえる(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)

北野のハイセンスなショッピングストリートを象徴するのが安藤忠雄氏の初期作品群です。いずれも周囲の住宅と変わらぬ規模感でありながら、それぞれ個性的なデザインを楽しむことができます。今回のイベントでは通常非公開の部屋が公開されるなど、隅々まで空間を堪能することができました。
ローズガーデンや北野アレーで見られる高低差のある敷地条件を最大限に活かした迷路のような空間構成は、目的のお店にたどり着くまでの道中で思わぬ出会いを生んでくれそうな、ショッピングの楽しみを広げてくれる設計になっています。40年以上が経ってもテナントが入れ替わり使われ続けているさまからは、安藤建築の根強い人気が感じられます。

ローズガーデン外観。2面の道路はいずれも傾斜がある複雑な地形。コンクリートやレンガ、ガラス、鉄骨など複数の素材が統合されている(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)

ローズガーデン外観。2面の道路はいずれも傾斜がある複雑な地形。コンクリートやレンガ、ガラス、鉄骨など複数の素材が統合されている(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)

ローズガーデン中庭。立体迷路のような複雑な通路を巡りながら目的の店舗を行き来する。モダン建築祭で公開されたローズガーデン、北野アレーのほかにも、近隣に安藤建築が多数点在している(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)

ローズガーデン中庭。立体迷路のような複雑な通路を巡りながら目的の店舗を行き来する。モダン建築祭で公開されたローズガーデン、北野アレーのほかにも、近隣に安藤建築が多数点在している(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)

また神戸税関にほど近い位置には2022年3月、安藤氏の寄附により「こども本の森 神戸」がオープンしました。子どもたちに豊かな感性を育んでほしいという安藤氏の想いにより建てられたこども本の森。名前の通り、施設内を歩き回りながらお気に入りの本を探す文化施設です。

平坦な敷地に立つ湾曲した平面の内部は、安藤氏の空間演出によって歩くだけで楽しい、巨大な本棚のような空間が広がっています。貸出はせず、館内で本との出合いを楽しんでほしいという館のコンセプトがダイレクトに表現された建築でしょう。時代も規模も異なれど、起伏のある空間での散策を誘発する安藤建築のエッセンスを一度に味わい、世界的建築家の芯となる部分に触れることができたような気がします。

こども本の森 神戸の外観。階段状の前庭にも学校帰りの学生たちが遊ぶ姿が(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)

こども本の森 神戸の外観。階段状の前庭にも学校帰りの学生たちが遊ぶ姿が(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)

巨大な本棚が絡み合うような内部空間。本棚の一部が切り取られ、子ども用の机が配置されるなど、遊び心満載の読書空間に安藤ファンの大人たちも大興奮だった(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)

巨大な本棚が絡み合うような内部空間。本棚の一部が切り取られ、子ども用の机が配置されるなど、遊び心満載の読書空間に安藤ファンの大人たちも大興奮だった(写真撮影/ロンロ・ボナペティ)

今後の継続についてはまだ確定できていない状況ではあるそうですが、確かな手応えを感じているという松原さん。

「私も現地で見学されている方の様子を見ていましたが、参加者の方々の反応は予想以上のものでした。こんなにすごい建築を見せてくれてありがとう、と受付のスタッフに声をかけていた方がいらっしゃり、建物への敬意やスタッフへの感謝を通して新たな交流が生まれる機会になったのだなと感じました。スタッフも楽しんで対応している様子が伝わり、開催してよかったなと強く思いましたね」

建物を媒介とした交流は、名建築の文化的な価値を広め、次世代につないでいくエネルギーにもなることでしょう。大阪、京都、神戸の建築祭の継続はもちろんのこと、日本各地でこうしたイベントが広まっていく期待を胸に、まずはお近くの名建築巡りを楽しんでみてはいかがでしょうか。

●取材協力
神戸モダン建築祭 実行委員会

「土壁」美術館”見て・触れ・食べ”土を楽しむ。目指すは”日曜左官”を日常に、癒やし効果など新たな発見も 土のミュージアム SHIDO 兵庫・淡路島

大手企業の本社機能移転やリゾート開発など、関西では何かと話題になる淡路島(兵庫県)。なかでも「西海岸」と呼ばれる島の西部は、海沿いにしゃれたカフェやグランピング施設等が次々に誕生し、オーシャンリゾートとしてにぎわいつつある。そんなエリアに2023年1月「土壁」がテーマの一風変わったミュージアム「土のミュージアム SHIDO」がオープンした。土壁を使った住宅が希少な存在となった現在において、この施設を開設した狙いを伺った。

老舗壁材業者が挑戦する土の魅力の発信地

土のミュージアム SHIDOを運営する近畿壁材工業は、1912(大正元)年に初代濵岡重吉が始めた建築資材の土の販売をルーツとする老舗壁材業者。もともと淡路島では、古くから瓦製造など土を使った産業が盛んで、同社も原料が同じ土の壁材製造や漆喰の卸販売などの事業を手掛けてきた。

しかし時代と共に伝統的な日本家屋が減るにつれ、土壁も激減する。苦戦を強いられてきた同社の事業に追い打ちをかけたのがコロナ禍。仕入先から取引をストップされるなど危機的状況に陥る。その打開を図るために、卸業だけでなく自社製品の製造販売の強化へと舵を切った。

営業努力の甲斐あり、2022年にはコロナ禍以前の売上に近づいたものの、土壁を取り巻く環境が厳しいことに変わりはない。そこで土壁に付加価値を付け、ブランド力を高めることに主軸をおいたショールームの開設を思い立つ。さらに移住者や観光客が急増する状況を受け、誰もが立ち寄りやすいミュージアムとしてオープンすることになった。施設名「SHIDO」は主力商品である漆喰の「し」と土の「ど」から取った。

フラットにすることが鉄則の土間の常識を覆し、波打つ床にした「豊沃の土間」(撮影/藤川満)

フラットにすることが鉄則の土間の常識を覆し、波打つ床にした「豊沃の土間」(撮影/藤川満)

触れることで感じる土の新たな魅力

漢字の「土」に見える外観が印象的な同館。入館する際には靴を脱ぐ。入ってすぐに広がるのは緩やかに床が隆起した「豊沃(ほうよく)の土間」。床に起伏をつけることで、足の裏に伝わる土の粒子の感触が際立つ。土の上を素足(靴下)で歩くことに抵抗を感じるかもしれないが、フローリングや畳では感じられない非日常の感覚が新鮮だ。

伝統的な土間のたたきは、土と石灰とにがりを混ぜ合わせ叩きしめたものだが、ここの土間には少しセメントを加え、その上で乾燥前にスポンジで表面の細かい土などを拭き取ることで、粉っぽさを除去し、通常の歩行程度では、足の裏も汚れないようになっている。

「はじめは皆さん驚かれますが、そのうち土に囲まれた空間にやすらぎを感じるようです」と来館者の反応に手応えを感じているのは同館館長であり、近畿壁材工業の4代目・濵岡淳二さん。オープン以来、土壁に親しんできた比較的年齢層の高い客層よりも若い観光客やカップルが数多く足を運ぶ。

構造材である土壁は、一般的に目に触れることはない。しかしここではあえてむき出しにしている。使用されるのは、「淡路土(あわじつち)」と呼ばれる島内各地で採取された土。色の豊富さが特徴で、「粘り気があり扱いやすい」と評価する職人も多いという。

土壁の原料となる「淡路土」は色合いのバリエーションが豊か(撮影/藤川満)

土壁の原料となる「淡路土」は色合いのバリエーションが豊か(撮影/藤川満)

そんな淡路土を使った壁や床そのものが、同館の常設展の作品としての役割を担う。つまり構造材ではなく、「仕上げ材」としての土壁の魅力をPRしているのだ。「建築資材としてだけでなく、暮らしを豊かにするアートとして土を感じてもらいたい」と濵岡さんは語る。

館長の濵岡淳二さんはもともと神戸市(兵庫県)のアパレルメーカー勤務のサラリーマン。2022年に結婚を機に島に移住し、妻の実家である近畿壁材工業で働くことになった(撮影/藤川満)

館長の濵岡淳二さんはもともと神戸市(兵庫県)のアパレルメーカー勤務のサラリーマン。2022年に結婚を機に島に移住し、妻の実家である近畿壁材工業で働くことになった(撮影/藤川満)

しかしながら土壁というと、どうしてもボロボロと崩れるイメージがあるのも事実。それを濵岡さんに伝えると「土壁は確かに硬いものが当たったり、常に人間がもたれかかったりするとボロボロしますが、基本的に土が固まっているので、外的な要因がないとそんなにボロボロするものではありません」と否定する。

古い日本家屋の壁がボロボロしていたイメージは、戦後の新建材「砂壁」や「ジュラク壁」と言われるもの。それらは、砂を海藻糊やボンドで固めたもので、特に昔は合成樹脂でなく海藻糊などで固めていたので、その糊成分が弱くなりボロボロ落ちてくることがあるという。

受付カウンターを兼ねた「一刀版築塀(いっとうはんちくべい)」。土を型にはめて積み重ね固めた日本の伝統的な土壁・版築壁に直線の亀裂を入れたデザインの作品だ(撮影/藤川満)

受付カウンターを兼ねた「一刀版築塀(いっとうはんちくべい)」。土を型にはめて積み重ね固めた日本の伝統的な土壁・版築壁に直線の亀裂を入れたデザインの作品だ(撮影/藤川満)

カウンターの後ろにある壁は、採掘場の断崖絶壁を重機で掘削したテクスチャーを施した作品「土崩壮麗(どかいそうれい)」。土壁は最も厚い部分で20cmもあり、通常の工法では採用しない贅沢な塗り厚になっている(撮影/藤川満)

カウンターの後ろにある壁は、採掘場の断崖絶壁を重機で掘削したテクスチャーを施した作品「土崩壮麗(どかいそうれい)」。土壁は最も厚い部分で20cmもあり、通常の工法では採用しない贅沢な塗り厚になっている(撮影/藤川満)

さまざまな文様に土壁の可能性を垣間見る

館内の北側中央に位置するのが、同館の象徴でもある淡路土の割れを表現した作品「大地の素肌」。土壁は基本的に土に水、藁、凝固剤のにがりを入れてつくられるが、この壁は淡路土のみを水で練って塗っている。そのため乾燥することでひび割れ、崩れやすい。そのひびが逆に文様として独特の世界観を生み出している。

ひび割れた文様が印象的な「大地の素肌」。手前に並ぶのは企画展の作品(撮影/藤川満)

ひび割れた文様が印象的な「大地の素肌」。手前に並ぶのは企画展の作品(撮影/藤川満)

さらにその奥へと進めば、天井まで続く巨大な土の階段「土階八等(どかいはっとう)」。「簡素な宮殿」を意味する四字熟語「土階三等」にあやかり名付けられ、質素ながら宮殿のごとく圧倒的な存在感を放つ。この階段は自由に登ることができ、イベントの客席として、また展示台として活用される。

仕上げだけでも8日間かけたという作品「土階八等」。側面には「鎧壁」と呼ばれる左官工法を採用している(撮影/藤川満)

仕上げだけでも8日間かけたという作品「土階八等」。側面には「鎧壁」と呼ばれる左官工法を採用している(撮影/藤川満)

実際にこの階段上や壁には、「地文(じもん)」と呼ぶ文様が施された土壁がフレームに入られて、作品として展示されている。これらは壁材会社としての商品展示だけでなく、「土壁にしかできない新たなデザインに挑戦中です」と濵岡さんが語る、職人の高い技術の発信にもひと役買っている。

淡路島の焼き物「珉平焼(みんぺいやき)」に使用される白い土で縄を染めた作品。土がアートにもなることを教えてくれる(撮影/藤川満)

淡路島の焼き物「珉平焼(みんぺいやき)」に使用される白い土で縄を染めた作品。土がアートにもなることを教えてくれる(撮影/藤川満)

土にもっと触れることで幸せな生活を

ビジネス的な狙いとしては、来館者に直接土壁の可能性を訴えることで、将来的なマーケットの拡大を目指していることも事実。「これだけDIYが普及し、日曜大工という言葉が定着したなら、もっと気軽に土と触れ合える機会を設け、”日曜左官”という言葉が使われるようになってもいい。いわば“国民総左官計画”です(笑)」と濵岡さんは夢を語る。

そのために現在、塗り壁体験をはじめ、大学と連携した地質と観光を組み合わせたツアーなど、さまざまなプランを構想中だ。さらに土を使った新たな商品開発も進めている。食用の珪藻土を使ったスムージーや土のクレヨンなど、意表を突く商品開発で話題を提供し、その裾野を広げている。

ミネラル豊富な食用の珪藻土をスムージーの上にトッピングした土のスムージー(700円)。珪藻土自体に味はなくバナナ風味のスムージーに仕上がっている(写真提供/土のミュージアムSHIDO)

ミネラル豊富な食用の珪藻土をスムージーの上にトッピングした土のスムージー(700円)。珪藻土自体に味はなくバナナ風味のスムージーに仕上がっている(写真提供/土のミュージアムSHIDO)

同館オリジナルの淡路島 土のクレヨン(5色セット2500円)。淡路島の土と蜜蝋由来の原料でつくられ、柔らかな書き心地とナチュラルな色合いが楽しめる(撮影/藤川満)

同館オリジナルの淡路島 土のクレヨン(5色セット2500円)。淡路島の土と蜜蝋由来の原料でつくられ、柔らかな書き心地とナチュラルな色合いが楽しめる(撮影/藤川満)

もう一つ掲げる大きなビジョンは「土で人を幸せにして豊かな生活を提案すること」。「例えば子どもたちが塗り壁をすることで、新たな才能に気付くかもしれません。ここは自分を変えていく場所にもなり得るのです」と濱岡さんはこのミュージアムの存在意義を示す。

土壁を仕上げ材として使用し、あえて表面にむき出しにした施工例。独特の風合いが落ち着いた雰囲気を醸し出す(写真提供/土のミュージアムSHIDO)

土壁を仕上げ材として使用し、あえて表面にむき出しにした施工例。独特の風合いが落ち着いた雰囲気を醸し出す(写真提供/土のミュージアムSHIDO)

土壁の機能的メリットとしては、自然素材で多孔質からの調湿性能が挙げられる。しかし断熱性や強度などは、現在の新建材のほうが優れているが、断熱効果については、現代の建材と合わせたハイブリットにすれば、解決できるという。例えば、内部は土壁で、外壁にスタイロフォームなどの断熱材を合わせ、その外にサイディングを貼るなど。そうすることで、外壁の外断熱と内部の土壁の調湿性能の両方が活かせる。もちろん近年の珪藻土壁同様に、石膏ボード上に土壁を塗るだけでも調湿性能を付加することもできる。「古いものだけでは現代建築には限界があるので、ハイブリットにすることでより良い効果がでると考えます」と濵岡さんは語る。
さらに濵岡さんは続ける。「個人の感覚ですが、茶室や古民家に入ると何か落ち着くみたいな感覚があります。人類の最初の住居は洞穴、そこから数千年土壁の家が続きました。だからこそ、土の中に入ると安心するのかもしれませんね」

敷地内に建設中のイタリアンレストラン&カフェ。他にも体験施設なども併設されている(撮影/藤川満)

敷地内に建設中のイタリアンレストラン&カフェ。他にも体験施設なども併設されている(撮影/藤川満)

2023年中に敷地内には、イタリアンレストラン&カフェもオープン予定。土壁に全く関心のない観光客が足を運ぶきっかけづくりの牽引役として期待が高まる。土や土壁という地味なテーマながら、実際に触れてみると、新たな発見や驚きを提供してくれる同館の今後の展開に注目していきたい。

●取材協力
土のミュージアムSHIDO

子育て支援の“東西横綱”千葉県流山市と兵庫県明石市、「住みたい街ランキング」大躍進の裏にスゴい取り組み

2022年3月に発表された「SUUMO住みたい街ランキング2022」において、首都版で得点が最も伸びた街(自治体)に選ばれた千葉県流山市と、関西版で子育て世代の投票を特に集めた兵庫県明石市。共に子育てサービスが充実し、子育て環境が充実している点が支持につながりました。全国初の支援を次々と打ち出している流山市と明石市では、どのように子育てができるのでしょうか。子育て支援の最新事情を取材しました。

“「母になるなら、流山市。」「父になるなら、流山市。」”から12年、定着した駅前送迎ステーション、保育園数は5倍に

「住みたい街ランキング2022首都圏版」の、昨年より得点がジャンプアップした自治体ランキングで1位を獲得した流山は、自然豊かな住宅都市。つくばエクスプレス快速で秋葉原駅まで約20分。そのほか市内には、JR武蔵野線、常磐線、東武野田線、流鉄流山線など5線11駅があり、バス網も整備されています。流山おおたかの森駅前には、大型ショッピングモールや子育て支援施設、公園が充実。駅前に多くを集結させ、時間効率性をアップしたことで子育て世代や共働きカップルの得点が高い結果になりました。

流山おおたかの森駅前。2022年春開業したCOTOE(コトエ)は、約40店舗が入居する複合商業施設。保育所や学習塾が入ったこもれびテラスも近くにある(画像提供/流山市役所)

流山おおたかの森駅前。2022年春開業したCOTOE(コトエ)は、約40店舗が入居する複合商業施設。保育所や学習塾が入ったこもれびテラスも近くにある(画像提供/流山市役所)

流山グリーンフェスティバルの様子。春には住宅街で個人邸のオープンガーデンが催される(画像提供/流山市役所)

流山グリーンフェスティバルの様子。春には住宅街で個人邸のオープンガーデンが催される(画像提供/流山市役所)

流山が子育て家族の街として注目されたのは、「母になるなら、流山市。」「父になるなら、流山市。」のキャッチフレーズで2010年から展開された市のプロモーション活動です。2007年から開始されていた駅前保育送迎ステーション(保護者それぞれで保育園に子どもを送らなくても、駅前のステーションにまで送っていけば、そこから市内各所の保育園に送迎してくれる仕組み)も注目を集めました。流山市の子育て支援のサービスや支援を続けるなかでの課題、新しい子育て支援について、流山市マーケティング課河尻和佳子さんに伺いました。

「当時全国に先駆け開設した駅前保育送迎ステーションは、現在も稼働しています。2022年3月の利用児童は131名。『通勤前後に子どもを送り出せて時短になる』と保護者に好評ですが、実は徐々に利用者は減っています。理由は保育園の定員が入園を希望する児童数に追いついてきたためです。駅前保育送迎ステーションはもともと家の近くの保育園に預けられず、離れた園に空きはあっても待機児童になってしまうのを解消する目的ではじめた施策なので、保育園数が増えて利用者が減ることは目標に近づいていると言えます」(河尻さん)

駅前保育送迎ステーション。おおたかの森駅前、南流山駅前で児童を預けられる。通勤に使う駅で送り迎えができるので、通勤している共働き世帯に好評のサービスだ(画像提供/流山市役所)

駅前保育送迎ステーション。おおたかの森駅前、南流山駅前で児童を預けられる。通勤に使う駅で送り迎えができるので、通勤している共働き世帯に好評のサービスだ(画像提供/流山市役所)

保育園数は、10年余で5倍になり、定員も4倍強に増加。大規模な共同住宅等を建設する場合、事業者に保育所の設置を要請しています。今後、子どもたちが通うための小学校の新設も予定されているそうです。

流山市がさまざまな子育て支援策を打ち出し始めたのは、井崎義治市長が就任した2003年以降。流山市では今後住民の高齢化が進行し、将来、市の財政が厳しくなるリスクがありました。そこで、共働きが多い若い世代への子育て環境の整備を行い、移住者を呼び込み、少子高齢社会を支えようと考えたのです。全国初のマーケティング課を市役所に創設し、首都圏の子育て世代をターゲットにインターネット等でプロモーション活動をしたところ、「自分に語り掛けてくるようだ」と30代~40代の子育て世代から予想以上の反響がありました。

「流山市の人口は、10年間で約3.8万人増えています。年齢別人口でみると35~39歳代の人口が伸びており、その多くが首都圏からの移住者です。4歳以下の子どもの数も増え、合計特殊出生率は1.55。人口増加はつくばエクスプレス開業の効果もありますが、子育て施策が注目され、メディアでの露出が増え、知名度やイメージが向上したことも大きいと感じています」(河尻さん)

オンラインコミュニティNの研究室や女性創業支援で、自己実現をバックアップ

移住してきた子育て世代が街に定着している流山市では、今後、どのような支援が求められていくのでしょうか。

「日本の人口が減り続けるなかで、流山市の人口増加は2027年がピークと推計しています。今後も魅力ある街として共働きの子育て世代に選ばれるには、子育て環境の整備だけでは足りません。『子育てしながら、なりたい自分になれるまち』を目指し、そのきっかけの場づくりなどをしていきます」(河尻さん)

商工振興課では、女性の創業・起業支援として創業スクールを開講。100人以上に及ぶ卒業生の中には、創業のほか、NPO団体や街のコミュニティを立ち上げる人もいます。民間のシェアサテライトオフィスTrist(トリスト)は、都内に通勤していた子育て女性によって「地元でスキルを活かした仕事をしたい女性を応援する」ために設立されました。現在は、市内2拠点でリモートワークの場として、企業と一緒に復職プログラムを開発したり、利用者同士のコミュニティもつくられています。

講師を迎えて開講される創業スクールの授業風景(画像提供/流山市役所)

講師を迎えて開講される創業スクールの授業風景(画像提供/流山市役所)

2022年度の募集パンフレット。募集を開始すると2日で定員が埋まる盛況ぶり(画像提供/流山市役所)

2022年度の募集パンフレット。募集を開始すると2日で定員が埋まる盛況ぶり(画像提供/流山市役所)

さらに市民の「やってみたい」を形にするため、2022年1月末から、市民のためのオンラインコミュニティ「Nの研究室」が開設されました。

「アイデアの提案や仲間探しの場になればと企画しました。コメント欄では、2カ月で80人強の市民が参加し活発な意見交換が行われています。『虫が苦手なママのための昆虫教室』や『市内の名所で家族写真を撮るサービス』などの発案がプロジェクト化に向け進行しています」(河尻さん)

当初否定的なコメントが増える可能性を案じていたが、熱い議論が交わされ「面白そう」と市外から参加する人も(画像提供/流山市役所)

当初否定的なコメントが増える可能性を案じていたが、熱い議論が交わされ「面白そう」と市外から参加する人も(画像提供/流山市役所)

実際に、流山市に移住し、子育てをしている田中さん(専業主婦・30代)に、流山市の住み心地を取材しました。田中さんが夫と共に約3年間暮らしたアメリカ・ニューヨークから、里帰り出産のため愛知県の実家に戻ったのが2020年の1月ごろ。出産を経て6月に流山市へ引越し、1か月後に帰国した夫と家族3人で暮らしています。流山市へ移住した理由は、都心に出やすく、夫の通勤に便利なこと、徒歩圏内に商業施設や公園がたくさんあることが決め手でした。

「児童センターや支援センターを積極的に活用しています。月ごとにさまざまなイベントがあり、子どもは喜んで通っています。最新の子育て情報を知ることができるLINE配信も便利です」(田中さん)

コミュニティのイベントで娘を遊ばせる田中さん。「まわりのお母さんたちが子どもの成長を一緒に見届けてくれることがうれしい」と話す(画像提供/田中さん)

コミュニティのイベントで娘を遊ばせる田中さん。「まわりのお母さんたちが子どもの成長を一緒に見届けてくれることがうれしい」と話す(画像提供/田中さん)

田中さんは、NY mom’sナガレヤママムズという3歳以下の子どもをもつ母が参加できるコミュニティの3期目の運営に携わりました。昨年度の流山マムズ参加人数は、約90名。活動内容は、Facebookでの情報交換、月に一度の交流会、季節のイベント、月に数回少人数で集まる会、部活動(英語部、絵本部、ダンス部、ホームパーティー部などです。流山市に移住して間もない母親の加入が多く、情報交換の場になっているそうです。

田中さんの流山市の子育て支援についての満足度は、10点満点中8点。

「流山市は新しい保育園がたくさんでき、駅前保育送迎ステーションなど働くお母さんのための選択肢がたくさんあるのが良いですね。私は専業主婦なので、幼稚園ももっと充実させていただけたらうれしいなと思います」(田中さん)

自己実現の満足度を訪ねると、「料理が苦手なので8点くらいですが、10点を目指しています!」と明るく答えてくれました。

所得制限なく5つの無料化を続ける明石市。すべての子育て世代に支援を明石城跡につくられた明石公園では、週末にマルシェが催されることも(画像提供/明石市役所)

明石城跡につくられた明石公園では、週末にマルシェが催されることも(画像提供/明石市役所)

面積約50平方kmの兵庫県明石市は、目の前に明石海峡や淡路島を望む、海に面した街です。明石市では、2011年の泉房穂市長就任以降、「子どもを核としたまちづくり」を掲げてきました。「住みたい街ランキング2022関西版」では、夫婦+子育て世帯を対象にしたランキングで明石市として10位、明石駅は過去最高の7位。兵庫県民ランキングにおいては、初のベスト5入りと支持を集めました。明石市の子育て支援について、明石市役所に取材しました。

明石市の無料化施策の特徴は、現金を配るのではなく、サービスを提供すること。しっかり子どもに支援を届けていくために、今すでに発生している公共サービスを無料にしています。例えば、『おむつ定期便』では、経済的負担の軽減に加え、毎月支援員が家庭を訪問することで必要な支援につなげています。さらに、親の所得に関わらず、すべての子どもたちにサービスを届けるため、5つの無料化はすべて所得制限なしで提供されています。

【明石市独自である子育て支援の5つの無料化】※すべて所得制限、自己負担なし

1. こども医療費
2013 年より、中学3年生までの医療費を無料化。さらに 2021年に対象を高校 3 年生まで拡大
2. 中学校給食費
すべての市立中学校で提供している給食を、2020 年から無償化
3. 保育料
2016年から、第2子以降の保育料の完全無料化
4. 公共施設の入場料
天文科学館(市内外問わず高校生以下)、明石海浜プール(市内在住・在学の小学生以下)など
5. おむつ定期便
2020年より、子育て経験がある見守り支援員(配達員)が、0 歳児の赤ちゃんがいる家庭に紙おむつなどを直接お届け

おむつ定期便では、おむつを渡すだけでなく、子育て経験のある支援員が相談にのってくれる(画像提供/明石市役所)

おむつ定期便では、おむつを渡すだけでなく、子育て経験のある支援員が相談にのってくれる(画像提供/明石市役所)

市内に5カ所あるあかし子育て支援センターでは、就学前の子どもが入り混じって遊ぶ(画像提供/明石市役所)

市内に5カ所あるあかし子育て支援センターでは、就学前の子どもが入り混じって遊ぶ(画像提供/明石市役所)

ボールプールや滑り台、読み聞かせのできる図書コーナーもある(画像提供/明石市役所)

ボールプールや滑り台、読み聞かせのできる図書コーナーもある(画像提供/明石市役所)

長年子育て支援を継続した結果、定住人口は9年連続で増加し、2020年の国勢調査で30万人を超え過去最高に。25~39歳の子育て層が増加しており、0~4歳人口も増えています。合計特殊出生率は、2020年統計時に1.7に上昇しました。人口が増えるとともに、明石駅の公共施設がさらに充実し、商業施設、商店街ににぎわいが生まれ、市外からも人が集まるように。交流人口が増加し、商業地地価も毎年上昇しています。

明石駅前。大規模商業施設だけでなく、近くに公共施設や商店街がある(画像提供/明石市役所)

明石駅前。大規模商業施設だけでなく、近くに公共施設や商店街がある(画像提供/明石市役所)

明石駅前。大規模商業施設だけでなく、近くに公共施設や商店街がある(画像提供/明石市役所)

明石駅前。大規模商業施設だけでなく、近くに公共施設や商店街がある(画像提供/明石市役所)

人口が増加してからも、次々と新しい子育てサービスを実施。2020年9月に市内全公立幼稚園で給食をスタート(副食費は無料)したり、離婚前後の子どもを支援したり、さまざまな施策を行っています。離婚前後の養育支援では、面会交流のコーディネートのほか、2020年7月~2021年3月に、養育費の不払いがあった際、市が支払い義務者に働きかけを行い、不払いが続く場合に1か月分(上限5万円)の立て替えを行いました。「子どもに会えて成長を確認できてうれしい」「養育費がちゃんと支払われるようになった」と利用者から感謝の声が寄せられたそうです。

すべての子どもをまちのみんなで応援することが、まちの未来をつくる

明石市では、全小学校区に子ども食堂を配置していますが、運営団体は、まちづくり協議会や民生児童委員協議会、地区社会福祉協議会、ボランティア団体など住民主体の活動です。2020年度の子どもの利用者は、3916名でした。

食材は、地産地消にこだわり、管理栄養士によるバランスのとれた食事を提供したり、団体によって様々な工夫をしている(画像提供/明石市役所)

食材は、地産地消にこだわり、管理栄養士によるバランスのとれた食事を提供したり、団体によって様々な工夫をしている(画像提供/明石市役所)

小学校内や公民館、民間施設などで実施され、ボランティアによって運営されている(画像提供/明石市役所)

小学校内や公民館、民間施設などで実施され、ボランティアによって運営されている(画像提供/明石市役所)

また、街づくりの一環としてはじまった「本のまちづくり」は、子どもたちのこころの豊かさを育むことにつながっています。2017年に、子育て施設などが入る明石駅前ビルに移設オープンした、あかし市民図書館を中心に、「いつでも、どこでも、だれでも手を伸ばせば本に届くまち」を掲げ、さまざまな取り組みを行っています。

2017年からは、4か月児健診時に絵本2冊と読み聞かせ体験をプレゼントする『ブックスタート』、2018年から、3歳6か月児健診時に絵本1冊のプレゼントと読み聞かせのアドバイスを行う『ブックセカンド』を開始しました。2020 年の 4 月~5 月に未就学児を対象に実施した『絵本の宅配便』では、コロナ禍で外出自粛を余儀なくされた子どもと保護者がいつもと変わらず楽しい時間を過ごせるよう、絵本を各家庭まで配送。利用者には大変喜ばれ、多くのお礼のお手紙が図書館に寄せられたそうです。こうした取り組みが評価され、「Library of the Year2021」において、あかし市民図書館が優秀賞とオーディエンス賞をダブル受賞しました。

移動図書館車の「めぐりん」で本を選ぶ子どもたち。大小2台の移動図書館車が市内を巡回して本を届け、子どもが本に接する機会を市がたくさん提供している(画像提供/明石市役所)

移動図書館車の「めぐりん」で本を選ぶ子どもたち。大小2台の移動図書館車が市内を巡回して本を届け、子どもが本に接する機会を市がたくさん提供している(画像提供/明石市役所)

すべての子どもを街のみんなで支えるという、明石市が進める子どもを核とした街づくり。無償化するだけでなく、子ども食堂での見守りや面会交流支援など、寄り添う支援を行うことで、安心して子育てができる環境をつくっていると感じました。

それぞれ独自のサービスで支持を集めている流山市と明石市。ふたつの街づくりで共通するのは、子育て世代のニーズに応えられるように、常に変わり続けていること、子どもと一緒に自分の未来が描けることでした。

●取材協力
・流山市役所
・明石市役所

神戸の洋館「旧グッゲンハイム邸」裏の長屋の暮らしが映画に! 塩屋をおもしろくする住人が集う理由

兵庫県神戸市の海辺に美しい姿を見せる古い洋館。その裏の長屋で共同生活を送る若者たちの日常を描いた映画『旧グッゲンハイム邸裏長屋』が神戸市内の映画館で公開され、話題を呼んでいる。主要な登場人物は当時の住人。たわいない会話のやりとりと古びた長屋、海と山が間近にせまる小さな街・塩屋の風景。いま、コンセプチュアルでおしゃれなシェアハウスが人気を呼ぶなか、このノスタルジックな共同生活に多くの人が心惹かれるのは何故なのか。リアルな姿を知りたいと、長屋を訪ねてみた。
共同リビングルームで何気ない会話を日々つむぐ

神戸の中心地、JR三ノ宮駅から普通電車で約20分。穏やかな瀬戸内海が車窓から見えてきたら塩屋駅に到着する。小さな改札口を抜け、細い路地を通り、踏切を越えて石段を上がると白壁の洋館「旧グッゲンハイム邸」が現れる。

線路のすぐそばまで山が迫る塩屋。明治の名建築・旧グッゲンハイム邸はこの街のランドマークだ(写真撮影/水野浩志)

線路のすぐそばまで山が迫る塩屋。明治の名建築・旧グッゲンハイム邸はこの街のランドマークだ(写真撮影/水野浩志)

明治41年に建てられたとされる「旧グッゲンハイム邸」は現在、イベントスペースとして使われており、黒沢清監督の映画『スパイの妻』のロケ地にもなったところ。そんな瀟洒(しょうしゃ)な洋館と対比するような質素な外観で裏庭に建っているのが、今回訪ねる長屋だ。

住人が集うリビングにはソファやテーブル、冷蔵庫、本、楽器などが所狭しと置かれる。映画の中で、日々の生活を記録するのが日課の“せぞちゃん”、裏山に登ることが好きな“としちゃん”、料理上手な“あきちゃん”、仕事に恋に忙しい“づっきー”たちが、食卓を囲み、時には恋愛のことや将来の悩みを打ち明け、セッションを楽しんだ場所だ。
「旧グッゲンハイム邸」の管理人、森本アリさんと、住人で映画の主人公の清造理英子(せぞちゃん)さん(※清は旧字体)、元住人で森本さんと共に塩屋の魅力を発信する「シオヤプロジェクト」を手掛ける小山直基さんの3人に、リビングでお話をうかがった。

取材は映画に登場する長屋のリビング、通称“グビング”で(写真撮影/水野浩志)

取材は映画に登場する長屋のリビング、通称“グビング”で(写真撮影/水野浩志)

ヨーロッパで見た「空き家リノベ×共同生活」スタイルを神戸に実現

そもそも森本さんが旧グッゲンハイム邸の管理人になったのは2007年のこと。老朽化し、解体の危機に立たされていた旧グッゲンハイム邸をなんとか存続させようと、森本さんの両親が同館を購入したことがきっかけだ。

旧グッゲンハイム邸の管理人、森本アリさん(写真撮影/水野浩志)

旧グッゲンハイム邸の管理人、森本アリさん(写真撮影/水野浩志)

洋館の裏に立つ長屋は、もとの所有者が寮として使っていた場所。洋館を多目的スペースとして使用することになり、裏の長屋を共同生活の場とした。
「僕が留学していたベルギーをはじめヨーロッパでは空き家を再利用して友だちと一緒に住むのはよくあること。共同で住むスタイルに違和感はありませんでした。ヨーロッパで見てきたことを、日本でも実現できないかと思ったんです。本音を言えば、『イベントスペース+長屋』として運営しながら、僕の音楽仲間が集まって活動ができる場にしたかった。自分自身が楽しみたかったんですね」

白壁に緑色のアクセントが美しい旧グッゲンハイム邸。その左奥に見える建物が、映画が撮影された長屋だ(写真撮影/水野浩志)

白壁に緑色のアクセントが美しい旧グッゲンハイム邸。その左奥に見える建物が、映画が撮影された長屋だ(写真撮影/水野浩志)

現在は同館の運営に携わっている小山さんは、2007年に長屋が始まった時から8年間住んでいた。まだシェアハウスという言葉もあまり浸透していなかったころだ。
「たまり場が欲しかったんです。高校時代から友だちの家に集まっては夜中までゲームしたり、音楽を聞いたり。ただただ仲間と同じ空間にいて時間を浪費しているだけ(笑)。でも私にとっては居心地がよかった。大人になっても、そんな場所が欲しかったし、自分でつくりたかった。でも、当時はワンルームのマンションやアパートが主流で、不動産屋を回っても全く分かってもらえなかったんです」

シオヤプロジェクトのメンバーで元住人の小山直基さん(写真撮影/水野浩志)

シオヤプロジェクトのメンバーで元住人の小山直基さん(写真撮影/水野浩志)

そんなときに塩屋が地元の高校時代の友人からこの長屋を紹介された。「たまり場にできる十分なスペースがあって、大音量で音楽を聞いても怒られない(大家のアリさんが一番音量を上げる)し、DIYもOK! 僕の希望を全部叶えてくれる場所でした」
入居後、小山さんはグビングに毎夜のように住人や友人を誘って一緒に食事をし、映画鑑賞会を開いたり、管理人の森本さんらと楽器演奏をして盛り上がったり。同じく住人だった女性と結婚した後も長屋を離れがたくて、しばらく2部屋で住んでいた。子どもが産まれる直前になってやっと引越したが、現在住んでいる家も長屋の近くだ。
映画の主人公を務めた清造さんは入居5年目。現在10人いる住人のうち最も古くからの入居者だ。音楽活動を通して森本さんと知り合い、長屋の存在を知った。

映画の主人公になった清造理英子さん(写真撮影/水野浩志)

映画の主人公になった清造理英子さん(写真撮影/水野浩志)

「(長屋に住まないかと聞かれたとき、)ここに住んだら楽しいだろうな、とは思っていましたが、既に同居している人たちの中に飛び込むことも、知らない人たちと共同生活を送ることにも多少の不安はありました。でも、シェアハウスに住む機会って人生で1回あるかないかだろうし、と思って。その結果、もう5年も住んでいますが(笑)」

清造さんが今も引越さない理由は「今のところはまだ、ここ以上の場所が見つからないから」
「夜中に誰かが突然テーブルに網を張って卓球大会を始めたり、プロジェクターを出して大画面でゲームをしたり、突発的に何かが起こるのも面白いです。気分が乗らないときは参加しないこともありますが、それで気まずくなったりはしないし、住人同士の付き合いは気楽です。他の人が料理をするのを見て知らなかったスパイスの使い方を覚え、キャンプにも一緒に行き、知らない世界を知ることができる。一人暮らしだったら経験していなかったであろうことがたくさんあります」

リビングの前のテラスで朝ご飯を食べたり、七輪で肉を焼いたり(写真撮影/水野浩志)

リビングの前のテラスで朝ご飯を食べたり、七輪で肉を焼いたり(写真撮影/水野浩志)

住人同士のクラブ活動も盛ん。トランペットバンドや手芸部、山登りクラブなども。「もちろん自由参加なので、大勢集まることもあれば、蓋を開けてみれば一人だけ、なんていうこともあります(笑)」(清造さん)(写真撮影/水野浩志)

住人同士のクラブ活動も盛ん。トランペットバンドや手芸部、山登りクラブなども。「もちろん自由参加なので、大勢集まることもあれば、蓋を開けてみれば一人だけ、なんていうこともあります(笑)」(清造さん)(写真撮影/水野浩志)

リビングの奧が共同キッチン。お皿や調理器具はシェアして使い、食事は各自でつくって食べている(写真撮影/水野浩志)

リビングの奧が共同キッチン。お皿や調理器具はシェアして使い、食事は各自でつくって食べている(写真撮影/水野浩志)

代々の住人たちが日々の思いや出来事、連絡事項などを書き綴ったノート(写真撮影/水野浩志)

代々の住人たちが日々の思いや出来事、連絡事項などを書き綴ったノート(写真撮影/水野浩志)

奧に個室が並ぶ。2階建てで現在10人が入居している(写真撮影/水野浩志)

奧に個室が並ぶ。2階建てで現在10人が入居している(写真撮影/水野浩志)

住人たちが塩屋に住み続ける理由

音楽を核とする居場所、仲間が集まる居場所。今から15年ほどまえに、森本さんらが自分の理想の暮らしを求め、“居場所”をつくった。
当初、森本さんは荒れた長屋を自分で改修しながらシェアハウス化しようと決め、居室を入居者が自らDIYすることを条件に募集。退去時も「原状回復」の必要なし。手のかかる改築作業を楽しみ、前の住人がつくった個性的な部屋に面白みを感じるクリエイティブな人が次々と住人になっていった。イラストレーターやレゲエ好きの料理人、街づくり担当の行政マン、地元の漁師までと、仕事はさまざまだが、クリエイティブな感覚を持ち合わせている人たちが口コミで集まる。
今回の映画『旧グッゲンハイム邸裏長屋』の監督・前田実香さんもこの長屋出身だ。
イベントスペースとして活用している旧グッゲンハイム邸本館の存在も大きい。

例えばシンガーソングライターの曽我部恵一氏の音楽会や、神戸関連の本を出版しているライター・平民金子氏らのトークショーなど、話題の人たちのイベントが開かれており、住人は身近に新しいアートや文化を感じることができる。
ほかにも、塩屋のリノベーションに特化したイベントや、無声コメディ映画の弁士と楽士付きの上映会(子どもの食いつきがすごい)や神戸ロケの映画を深く掘り下げるイベントなどもあり、実にバラエティー豊か。また、住人が自然発生的に始めた“グビング”でのクリスマス会や餅つき大会などの行事が発展して、本館でのイベントになったケースもある。

流しそうめんの様子(写真撮影/片岡杏子)

流しそうめんの様子(写真撮影/片岡杏子)

それにしても驚くのは、卒業した人の多くが塩屋にとどまり、クリエイティブな感覚を活かして、街の活性化の一端を担っていることだ。
それだけ、塩屋の街自体に大きな魅力があるのだと感じる。

海と山が間近に迫る塩屋は、街中に狭い道幅の坂道が走る。細い急な坂を登ると、眼下には塩屋の街の家々が広がる。建ち並ぶ住宅の中に古い洋館が点在する様子も、かつて多くの外国人がこの景色に惹かれて住んだ街らしい華やぎを添える。
「長屋の窓を開けると目の前に海が見えて、裏にすぐ登れる山があって。でも三宮まで電車で20分で行ける。私もそろそろ別の場所に引越そうかなと思うのですが、ここ以上に魅力的なロケーションはなかなかないんですよね」(清造さん)

目の前に海が広がり、時折船の汽笛が聞こえてくる。旧グッゲンハイム邸の2階から(写真撮影/森本アリ)

目の前に海が広がり、時折船の汽笛が聞こえてくる。旧グッゲンハイム邸の2階から(写真撮影/森本アリ)

大切なのは街のサイズ感。人との距離が近く街ごと自分の“居場所”に

阪神・淡路大震災以降、神戸の多くの街で復興事業と再開発が進んだ。そのなかで、比較的被害が少なく、昔ながらの街の姿が残ったことが塩屋の価値につながっていると森本さん。
「僕が留学先のベルギーから帰国したのは大震災の翌年でしたが、塩屋は区画整理がなされていなかった。他の街の駅前にロータリーができ、大きな商業施設や高いマンションが次々建つ様子に、薄っぺらさを感じました。塩屋は山にへばりつくように家が建つ狭い谷間の街。坂道がある、道が狭くて車が通れないなど、住むのにはややこしい。ややこしくても住みたいと思う人が住めばいいと思う」

駅前の商店街に昔ながらの豆腐店や魚屋が並ぶ。小さな個人商店が愛され続けているのも塩屋の魅力だ(写真撮影/水野浩志)

駅前の商店街に昔ながらの豆腐店や魚屋が並ぶ。小さな個人商店が愛され続けているのも塩屋の魅力だ(写真撮影/水野浩志)

では、「ややこしい街」にあえて住む理由は何か。
その答えとなる象徴的なエピソードを小山さんが教えてくれた。
小山さんの妻はニュータウンで育ち、20代で長屋の住人となった。塩屋の開発について住民の意見交換の場で、塩屋についての思いを伝えた。「私、思うんです。毎日魚屋さんで魚を買い、豆腐屋さんで豆腐を買う。そのたびに会話があります。道が狭いからいつの間にか知らない人と顔見知りになり、会話をするようにもなる。スーパーしか知らない私にとって、そういった日々の生活は新鮮で楽しい」と。
森本さんは「そのとき、再開発を進めるよう声を上げていた地元のお年寄りたちが、水を打ったようにシーンとなった。この言葉で話し合いの潮目が変わりました」と振り返る。
清造さんも同じ印象を持つ。「住み始めて1週間も経たないのに、商店街の人が『おかえり』と声をかけてくれたり、今日はみんなでごはんを食べることを伝えたら『これも持っていき!』とおまけをつけてくれたり。なんだか嬉しいですよね」
「清造が豆腐屋の作業場で昼飯食べているのを見たときは、笑った」と森本さん。

塩屋商店会と「シオヤプロジェクト」が協力して制作した塩屋のイラストマップ。「塩屋中を歩き回ったなぁ」と森本さんと小山さん(写真撮影/水野浩志)

塩屋商店会と「シオヤプロジェクト」が協力して制作した塩屋のイラストマップ。「塩屋中を歩き回ったなぁ」と森本さんと小山さん(写真撮影/水野浩志)

小さな街だから、同じ人と出会う回数も多く、出会えば声を掛け合うし仲良くもなる。人と人が繋がるハードルが都心部よりずっと低く、知り合いがいることで街に愛着が生まれる。街が丸ごとその人の“居場所”になる。それが「ややこしさ」ゆえの魅力であり、長屋の元住人が卒業しても塩屋に住み続ける理由ではないだろうか。

森本さんは、旧グッゲンハイム邸の管理人をしながら塩屋をテーマにした本『塩屋百年百景』等の出版や塩屋のイラストマップを制作するなど多彩な活動を継続的に行ってきた。2014年には「シオヤプロジェクト」を立ち上げ、アーティストたちとともに展覧会や街歩き、新しい地図を制作するワークショップを行うなどして、塩屋の魅力を発信している。

旧グッゲンハイム邸裏長屋の住人がキッチンでつくる個性あふれる料理をレシピ本に。映画のパンフレット代わりとしても販売され、好評。こういった共同作業が絆を深める(写真撮影/水野浩志)

旧グッゲンハイム邸裏長屋の住人がキッチンでつくる個性あふれる料理をレシピ本に。映画のパンフレット代わりとしても販売され、好評。こういった共同作業が絆を深める(写真撮影/水野浩志)

長屋の元住人が駅前の商店街にオープンしたカレーショップが「行列ができる店」になり、次第に古民家カフェやピザ店ができるなど、旧グッゲンハイム邸の復活をはじめとする森本さんたちの取り組みによって、塩屋は休日に人が散策を楽しみに訪れる街に生まれ変わっていった。
街に“新しい風”が吹き込まれたことで、次第に若い世代の流入が進み、車が入らない細い道は「ベビーカーを安心して押せる道」と考える、子育て世代のファミリーたちの姿も目に付くようになった。

コロナ禍で注目度高まり、移住者が増加

今、コロナ禍の塩屋で新たな動きが起こっていると森本さん。
「昨年から塩屋商店会の加盟店舗に10店舗が増えています。古着屋、台湾カフェ、おしゃれな花屋。人が少なく商売が難しい街なのに、そのリスクを覚悟してオープンしているのだから、気骨を感じる店ばかり」
遠方への外出が難しい中、生活が徒歩圏で日常も休日の楽しみも完結できる塩屋への注目度は高まり、移住者が増えているそうだ。
「とはいえ、あんまり人が多くならん方がええかな」と森本さんは本音もぽろり。

海と山の距離が神戸市内で最も近いと言われる塩屋。駅の北側はどこを歩いても坂道ばかり(写真撮影/水野浩志)

海と山の距離が神戸市内で最も近いと言われる塩屋。駅の北側はどこを歩いても坂道ばかり(写真撮影/水野浩志)

森本さんが「塩屋の尾道」と呼ぶ、洋館に導く細い階段(写真撮影/森本アリ)

森本さんが「塩屋の尾道」と呼ぶ、洋館に導く細い階段(写真撮影/森本アリ)

六甲山全山縦走の西側の起点でもある旗振山を望む(写真撮影/森本アリ)

六甲山全山縦走の西側の起点でもある旗振山を望む(写真撮影/森本アリ)

昔ながらの商店街は活気があり、おしゃれなカフェや個性的な専門店などで今の時代のクリエイティブな空気感にも浸れる。通勤も便利だし、在宅ワークに疲れたときにはふらりと外に出て山や海を眺めれば気分爽快だ。
「塩屋のようなポテンシャルの高い街は神戸にたくさんあります。例えば長田区や兵庫区など、神戸はどこも街が山に溶け込むその境目付近に、とても魅力的な住宅地があるんです。塩屋的な街の見つけ方ですか? 街が狭いこと、開発されていないこと、家賃が安いこと!」(森本さん)
実際、森本さんも若い世代や、フリーランスのクリエーターたちが誰でも住めるよう、長屋の家賃を3万円代から上げるつもりはない。
清造さんは、いずれは地元に戻る予定だという。「でも塩屋を離れても、長屋みたいに人と人とが関われる場をつくっていけたら」と話す。
「旧グッゲンハイム邸裏長屋」のように、住人たちが自分の住む街を気にかけて、街のためにできることを語り合って模索していく。ポストコロナの時代には、そんな動きが広がっていくかもしれない。

●取材協力
旧グッゲンハイム邸 
シオヤプロジェクト

●映画の公開情報
『旧グッゲンハイム邸裏長屋』

「阪急西宮ガーデンズ」、開業以来2度目の大規模リニューアル

阪神阪急ホールディングス(株)は、昨年11月に開業10周年を迎えたショッピング施設「阪急西宮ガーデンズ」(兵庫県西宮市)の大規模リニューアルを実施すると発表した。大規模リニューアルは開業以来2度目となる。
10周年事業として昨年10月1日には、本館南側に立体駐車場とクリニック店舗等を併設した「別館」を開業。次いで11月21日には、阪急西宮北口駅、今津行きホームの東側に、飲食店舗や教育・文化・保育サービスを提供する「ゲート館」を開業し、西宮北口エリアの更なる魅力向上を図ってきた。

同事業の締めくくりとして、店舗の大規模リニューアルを実施し、全259店の約3割にあたる73店舗(新規出店26店、移転・改装47店)がリニューアルオープンする。このうち、1店舗は日本初上陸、20店舗は兵庫県・西宮エリア初出店となる予定だ。

また、散歩や憩いの場として利用できる屋上庭園「スカイガーデン」には、新たに噴水周りに人工芝を敷設。夜には照明演出により新たなナイトシーンを創出することで、空間の魅力を高めていく。

リニューアルオープン第1弾は本年3月8日(金)、第2弾は3月20日(水)の予定。また、改装店舗は3月1日(金)に一部先行オープンする。

ニュース情報元:阪神阪急ホールディングス(株)

国土交通省、神戸・新港町の再開発事業を認定

国土交通省は10月23日、都市再生特別措置法の規定に基づき、民間都市再生事業計画「新港突堤西地区(第1突堤基部)再開発事業」について認定した。同計画は、本年9月20日付けで住友不動産(株)、関電不動産開発(株)、(株)SMBC信託銀行、合同会社AQUART 神戸、合同会社AQUAR PARK 神戸、合同会社デカンショライオン、(株)フェリシモから申請があったもの。事業区域は兵庫県神戸市中央区新港町71他。事業面積は34,877.95m2。

計画では、共同住宅や商業など、全6棟の建物を建設する予定。文化、商業、ビジネス、居住など様々な機能を複合的に導入していく。また、歩道の拡幅や広場、デッキの整備を行うことで、回遊性の向上を図るとともに、神戸港の雰囲気を満喫できる新たな景観スポットの創造を目指す。

事業施行期間は、2019年4月15日~2024年5月31日を予定している。

ニュース情報元:国土交通省

住みたい沿線1位の「阪急神戸線」を調査! 全15駅の家賃相場や特徴は?【沿線調査 関西版】

リクルート住まいカンパニーでは、関西(大阪府・京都府・兵庫県・滋賀県・奈良県・和歌山県)に居住している20歳~49歳の4600人を対象に実施した「みんなが選んだ住みたい街ランキング2018 関西版」を発表した。住みたい沿線ランキングで1位になったのは、阪急神戸線。その特徴や、駅周辺情報を調査してみた。
都市部へのアクセスも良い! 緑豊かで閑静な住宅街が多い阪急神戸線

大阪の中心地である北区・梅田駅から兵庫県神戸市の神戸三宮駅までを結ぶ、阪急神戸線。同じく梅田から神戸の中心地へ向かう阪神電鉄・阪神本線やJR神戸線(東海道本線)とは、西宮駅から西へはほぼ並走するものの、より内陸部を通っているため、沿線は緑豊かで閑静な住宅街が多い。

都市部へのアクセスの良さも人気の大きな理由だが、阪急電鉄は住宅開発とともに発展してきたという背景から、阪急各線の沿線は住環境の整備が進んでいる。なかでも阪急神戸線はブランドイメージが強く、著名人や富裕層の住民が多いことで知られる芦屋も同線の芦屋川駅付近を指すことが一般的だ。

子育てをする環境としての安心感があるためか、住みたいと回答した人を年代別にみると40代の支持が約4割と最も高かった。20代~40代までの年代別に住みたい街ランキングをみると、各年代で1位、2位に西宮北口と梅田がランクインしているほか、40代ではトップ10に神戸三宮、岡本、夙川(しゅくがわ)、御影(みかげ)がランクイン。阪急神戸線の駅がトップ10の過半数を占めている。また、関西在住者だけでなく、転勤などで他地域から引越してきた土地勘のないひとが、前任者からお墨付きがあったから住んでみる、というケースもある。

●阪急神戸線・家賃相場が安い駅ランキング

順位/駅名/家賃相場(中央値 賃料_管理費込)/所在地
1位 武庫之荘 4.8万円(兵庫県尼崎市)
2位 塚口 5.0万円(兵庫県尼崎市)
3位 岡本 5.2万円(兵庫県神戸市東灘区)
4位 園田 5.3万円(兵庫県尼崎市)
4位 王子公園 5.3万円(兵庫県神戸市灘区)
4位 御影 5.3万円(兵庫県神戸市東灘区)
7位 夙川 5.5万円(兵庫県西宮市)
8位 神崎川 5.8万円(大阪府大阪市淀川区)
8位 六甲 5.8万円(兵庫県神戸市灘区)
10位 西宮北口 5.9万円(兵庫県西宮市)
11位 芦屋川 6.2万円(兵庫県芦屋市)
12位 十三 6.3万円(大阪府大阪市淀川区)
12位 春日野道 6.3万円(兵庫県神戸市中央区)
14位 中津 6.6万円(大阪府大阪市北区)
15位 神戸三宮 7.0万円(兵庫県神戸市中央区)
15位 梅田 7.0万円(大阪府大阪市北区)

西宮北口駅は年齢問わず住みたい街の1位 駅前は商業施設が充実西宮北口駅(写真/PIXTA)

西宮北口駅(写真/PIXTA)

住みたい街ランキングは今年から調査方法の一部を変更したとのことだが、調査方法を変更する前の5年間も、今年も関西版の1位は西宮北口駅となっている。阪神大震災の被災後の再開発や、阪急西宮スタジアム跡地の活用などで、駅前には大規模商業施設が充実している。赤ちゃん用品店や図書館がある「ACTA西宮」は低年齢の子どものいる家庭にも人気があり、「阪急西宮ガーデンズ」は映画館のほか、阪急沿線ならではの阪急百貨店や、高級志向のセレクトショップもそろっているため、わざわざ梅田まで出なくても買い物には困らないだろう。

デザイン性の高い大規模マンションも多数増えているため、こだわりを持った家探しに応えてくれることも人気の理由だ。

また、阪急ならではといえば、宝塚歌劇団。西宮北口駅は阪急今津線も利用することができるが、今津線は宝塚大劇場の最寄駅である宝塚駅や宝塚南口駅まで約15分。ヅカファンにとって大変便利な街であるが、実はタカラジェンヌにとっても買い物やお茶によく利用する人気の駅。美を売り物にする彼女たちに愛されているという点でも、街の魅力がうかがえるだろう。

3位の岡本駅は、阪急神戸線のブランドを代表するともいえる駅。駅から少し離れると大きな邸宅が目立つが、駅周辺には若者や女性向けのおしゃれなお店や有名なカフェなども多い。甲南大学や甲南女子大学などの最寄駅でもあり、住むだけでなくデートなどで遊びにきても楽しい街だ。

特急が止まるため、梅田まで30分以内、神戸三宮までは10分以内という交通の良さも特徴。駅から約300mの位置にJR神戸線(東海道本線)の摂津本山駅があるため、2路線利用できるのも利便性が高い。

閑静だけじゃない 十三駅は飲食店や映画館など大阪らしい魅力も十三駅(写真/PIXTA)

十三駅(写真/PIXTA)

交通アクセスが一番良いのは、12位の十三(じゅうそう)駅だろう。阪急宝塚線や京都線とのハブ駅で、特急や快速などすべての電車が止まる。

駅周辺は、立ち飲み居酒屋がつらなるような少し猥雑な雰囲気もあり、いわゆる神戸線のイメージとは少し異なるかもしれない。しかし、小規模でも良質な映画や珍しい海外作品の上映で知られる映画館、第七藝術劇場や、大阪府で屈指の進学校として知られる大阪府立北野高校の最寄駅でもある。多少クセはあるが大阪らしい魅力があり、ハマるひとはどっぷりハマってしまう街だ。

2位の塚口駅は、住みたい街ランキングの穴場だと思うランキングでトップを獲得している。特急は止まらないが、ラッシュ時には通勤特急などが停車している。駅前の大型スーパー「塚口さんさんタウン」は、日常の買い物だけでなく公共サービスセンターや映画館も入っているため、子育てに忙しい家庭には強い味方だろう。また、庶民的な飲食店も多い点も魅力だ。

せっかく住むのなら、ブランド力のある路線に住みたいというのは当然の心理だろう。ハイソなイメージのある阪急神戸線だが、同じ沿線とはいえ、さまざまな特徴や魅力がある。イメージに先行されず、家族構成やそれぞれの趣味など、本当に自分たちにあう街を見つけるのも、家を探す楽しみのひとつだろう。

●調査概要
【調査対象駅】阪急神戸線沿線の駅
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、広さ10~40平米以内、築年数40年以内、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ算出期間】2017年11⽉1⽇~2018年1⽉31⽇
【家賃の算出⽅法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む⽉額賃料から中央値を算出
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している