JR「北長瀬」駅前に複合商業施設、6/27グランドオープン

大和リース(株)(大阪市)は、複合商業施設「ブランチ岡山北長瀬」(岡山市北区)を、6月27日(木)にグランドオープンする。施設はJR「北長瀬」駅前に立地する2階建。敷地面積28,409.61m2、延床面積19,234.78m2。1984年に休業した旧国鉄の操車場跡地を活用するもの。

2013年に岡山市が「岡山操車場跡地整備基本計画」を策定、2016月5月に跡地内(民間提案用地)への定期借地方式による事業提案を公募型プロポーザルで募集し、同社が事業者に選定された。

施設には、駅前の立地を生かし、生活・利便エリアに食品スーパー・ドラッグストア・フィットネス・医療モール、体験・滞在エリアに書店・飲食店・カフェ・専門店・保育園など、45店舗を配置する。

また、芝生広場など緑豊かな空間を整備、地域のコミュニティを育む拠点として体験型施設や交流スペースを設ける。

ニュース情報元:大和ハウス工業(株)

「新さっぽろ駅」周辺地区で大規模複合開発プロジェクト

大和ハウス工業(株)、大和リース(株)、新さっぽろ脳神経外科病院、札幌学院大学などからなるコンソーシアムは、「市営住宅下野幌団地」跡地(札幌市厚別区)などにおけるG街区及びI街区(合計約49,000m2)を取得。「(仮称)新さっぽろ駅周辺地区G・I街区開発プロジェクト」として共同開発に着手する。

「新さっぽろ駅」周辺地区は、札幌市の一点集中型の都市構造から、多核心的都市構造へ誘導するための「副都心」として位置付けられており、JR・地下鉄・バスターミナルなどによる一大交通結節点として、公共施設や商業・業務機能が集積している。

同プロジェクトでは、G街区に大学と専門学校、I街区に分譲マンションやホテル、商業施設のほか医療施設4棟を計画。開発総敷地面積は約55,700m2(札幌ドーム約1個分)の大規模複合開発プロジェクトとなる。

分譲マンションは地上30階建て・総戸数約210戸、工期は2020年3月~2022年11月の予定。ホテルは地下1階・地上12階建て・約220室、開業は2023年4月以降。商業施設(地上5階建て)の開業も2023年4月以降を予定している。

またI街区では、各施設を「アクティブリンク(空中歩廊)」で接続し、JR「新札幌駅」北側とも空中歩廊でつなげることにより、歩行者の利便性を向上させる計画だ。

ニュース情報元:大和ハウス工業(株)

千葉・浦安市に医療と介護の複合施設、ミサワホーム

ミサワホーム(株)は、千葉県浦安市において、まちづくり事業ブランド「ASMACI」の第二弾となる複合施設「(仮称)ASMACI浦安富岡」を着工した。同社は超高齢社会・少子化などの社会的課題の解決を目指し、コンパクトシティ型不動産開発などのまちづくり事業に取り組んでいる。今年4月には、複合施設「ASMACI」ブランドの第一弾として、医療・介護・保育・商業の機能を備えた「ASMACI浦安」をオープンした。同施設の東隣には市内より移転してきた浦安中央病院も開院。地域住民が安心して生活できる拠点施設となっている。

そのまちづくり事業第二弾となる「(仮称)ASMACI浦安富岡」は、浦安中央病院の跡地に建つ医療と介護の複合施設。浦安市が掲げる総合的な健康づくり計画「健康浦安21」の方針に基づき、居宅介護支援・訪問看護事業所や自立支援特化型のデイサービス、介護付き有料老人ホームなど、複数の介護機能を提供する。

また、医療との連携も視野にいれ、浦安中央病院によるサテライトクリニックも開院。「ASMACI浦安」との相互連携により、健康で安心して住み続けられるまちづくりを行っていく。

施設の設計・施工・監理は、大末建設(株)が担当し、誘致するデイサービスは(株)ポラリスが運営する。竣工は2020年2月、事業開始は同年4月を予定している。

ニュース情報元:ミサワホーム(株)

「Maggie’s東京」がん支援の新しい形、秋山正子センター長に聞く[後編]

前編「英国発『マギーズ・センター』に世界が注目」で紹介したように、マギーズは一人の英国人がん患者女性の思いから生まれました。その日本第一号が2016年に東京で誕生したのも、一人の日本人女性の積年の思いが実現したものでした。

筆者も両親をがんで亡くした当事者として「マギーズ東京」を訪問し、その役割を体験。後編では、その内容を紹介します。

予約無しに立ち寄れ、無料で時間を気にせず相談

東京・豊洲、築地市場の移転先と目と鼻の先に、がん支援センター「マギーズ東京」が2016年10月にオープン。高いビルも無い埋め立て地の一角、海を背景に緑の植栽に囲まれた平屋の建物がたたずんでいました。

【画像1】ナチュラルなガーデン・アプローチと開放感のあるデッキが、人を招き入れる(写真提供/マギーズ東京)

【画像1】ナチュラルなガーデン・アプローチと開放感のあるデッキが、人を招き入れる(写真提供/マギーズ東京)

ドアを開けてくれたボランティアの男性が、「よくカフェと間違って、入って来られるんですよ」。実際、近所のイベント会場から女性たちがふらっと入って来ては、がん支援センターと知り帰っていくのが何度か見えました。庭と建物のランドスケープが醸し出すWelcomeな雰囲気が人を惹きつける、前編で紹介した”空間の力“がここにもあるようです。

【画像2】木製デッキ沿いから入口まで大きなガラスドアが続き、歩きながら中の雰囲気を感じることができた(写真撮影/藤井繁子)

【画像2】木製デッキ沿いから入口まで大きなガラスドアが続き、歩きながら中の雰囲気を感じることができた(写真撮影/藤井繁子)

ドアを開け一歩入ると、むくの床から建具、天井まで木がふんだんに使われた明るく柔らかな空間になっています。

【画像3】日当たりの良いオープンなダイニングとキッチン(右手の奥)。折り上げ天井で空間に変化と豊かさを創り出し、アフリカンチェリーの大きな一枚板のテーブルや柳宗理デザインの和紙の照明などが空間のクオリティを高めている(写真提供/藤井浩司(ナカサアンドパートナーズ))

【画像3】日当たりの良いオープンなダイニングとキッチン(右手の奥)。折り上げ天井で空間に変化と豊かさを創り出し、アフリカンチェリーの大きな一枚板のテーブルや柳宗理デザインの和紙の照明などが空間のクオリティを高めている(写真提供/藤井浩司(ナカサアンドパートナーズ))

丁度お昼時で、お弁当を広げている方やお茶を飲んでくつろぐ方、利用者は看護師などの専門家・ボランティアの方と思い思いに過ごされている様子。

【画像4】木製の建具や家具が利用者の体と心を優しく包む。病院や施設とは違う、柔らかな空気感(写真撮影/藤井繁子)

【画像4】木製の建具や家具が利用者の体と心を優しく包む。病院や施設とは違う、柔らかな空気感(写真撮影/藤井繁子)

「マギーズ東京」センター長の秋山正子さんに、お話を伺うことができました。「医療の発達とともに今、がんは何年も付き合っていくような病気に変わっています」と、訪問看護で長年、がん患者にも接してきた秋山さん。

「病院と自宅、それぞれでできることがあり、またできないこともあります。通院中の患者さんが、日常の中で何か頼れる人や場が自宅以外にあればと考えていたところ、2008年に英国マギーズ・センターの活動を知り日本でも実現したいと思ったのです」

【画像5】長年、医療現場や看護教育などに携ってきた秋山さんも、40代の姉をがんで亡くされた経験者。訪問看護を最前線で推進しながら、がん患者支援のあり方を模索されてきた(“市谷のマザーテレサ”の異名を持つ、秋田生まれの67歳)(写真撮影/藤井繁子)

【画像5】長年、医療現場や看護教育などに携ってきた秋山さんも、40代の姉をがんで亡くされた経験者。訪問看護を最前線で推進しながら、がん患者支援のあり方を模索されてきた(“市谷のマザーテレサ”の異名を持つ、秋田生まれの67歳)(写真撮影/藤井繁子)

「マギーズ・センターをモデルに、無料で気軽に医療や生活相談をできる『暮らしの保健室』を立ち上げて活動をしてきました。5年がたったころに出会った、鈴木美穂さん(24歳でがんを経験したテレビ局報道記者)たちの若い力を得て『マギーズ東京』実現に向けて大きく動き出しました」

英国のようなセンターをつくるには、まず用地や建築資金が必要。利用者は無料なので運営資金も継続的に必要です。

「英国のようにチャリティー文化が根付いていない日本で、資金集めのハードルは高く、皆様の知恵とご支援によって何とか船出をしたところです」

設立に向けては、クラウドファンディングも活用して資金を集めるなど、さまざまなチャレンジによって夢を実現されたようです。

ここ豊洲の建築地は2020年までの借地ということでパイロット・プロジェクトの形になりますが、2016年10月オープン後1年間の利用者6000人超は「英国本部からも初年度としては多いとの感想でした」(秋山さん)。現在も日に25人前後、多い日には40人くらいが利用。マギーズの支援活動を必要とする人々が、まだまだいるようです。

英国のコンセプトを実現しながら、低予算でも日本らしい住空間に

秋山さんにお話を伺ったのは、中庭に面したリビングルーム。マギーの提案した10の建築要件(前編で紹介)どおりの空間。でも、必須アイテムの「暖炉」と「水槽」が無い?

「暖炉は英国人がHome(家)を感じるものなので英国には必要ですが、日本人としては障子なんかが日本の家を感じるものとして、ここでは使いました。それと水槽は無いのですが、この豊洲の埋め立て地は静かな海の水辺なので、天然の水槽?ということで(笑)」

【画像6】障子ドアの向こうは、仕切れば個室になる。この日も看護師さんと利用者が対話中(写真撮影/藤井繁子)

【画像6】障子ドアの向こうは、仕切れば個室になる。この日も看護師さんと利用者が対話中(写真撮影/藤井繁子)

英国のマギーズとは違って低予算の事業、このように快適な空間はどうやって実現したのでしょう?

総合プロデュースを佐藤由巳子さん(建築・アートコーディネーター)、総合監修を阿部勤さん(建築家)が担当。平屋2棟を中庭で廊下を渡してつなぐ配置の工夫や、その1つのアネックス棟(設計:日建設計)は建築関連のイベントで活用したものを移築し再利用するなど、関係者の涙ぐましい努力によってローコストでハイクオリティな空間が実現しています。

【画像7】本館は予算の関係で軽量鉄骨プレハブ構造だが、内外装に木製建具を活用し木造建築のよう(設計施工:コスモスモア)(写真撮影/藤井繁子)

【画像7】本館は予算の関係で軽量鉄骨プレハブ構造だが、内外装に木製建具を活用し木造建築のよう(設計施工:コスモスモア)(写真撮影/藤井繁子)

【画像8】木製サッシにする予算が足りず、追加でファンドを立ち上げたというこだわり!断熱性だけでなく、空間の質感も高まった(写真撮影/藤井繁子)

【画像8】木製サッシにする予算が足りず、追加でファンドを立ち上げたというこだわり!断熱性だけでなく、空間の質感も高まった(写真撮影/藤井繁子)

「すてきな場所で迎え入れられると、人は”認められた”という気持ちになるでしょ。受け入れられ心が落ち着くと、自分から話をしたくなるもの」(秋山さん)

“空間の力”によって対話が生まれることを教えてくれました。

患者も家族も「自分の力を取り戻せるよう」支援

利用者の気持ちを受け止めてくれるケアリングのプロたち。看護師や心理士、ソーシャルワーカーなど専門家が、個々の悩みや問題を解決するために一緒に考えてくれます。個別相談以外に、1時間程度で参加できるセッションも企画されています。「食事のお話」や「体・脳のリラクセーション」など、日常的に役立つテーマ。訪問当日は、【心のリラクセーション】が企画されていたので筆者も参加してみました。

【画像9】アネックス棟は三角屋根のオープン空間に合わせてデザインしてつくられたソファでもつくろげる。リラクセーションのセッション時には家具を移動させ、椅子を並べマットが敷かれてあった(写真撮影/藤井繁子)

【画像9】アネックス棟は三角屋根のオープン空間に合わせてデザインしてつくられたソファでもくつろげる。リラクセーションのセッション時には家具を移動させ、椅子を並べマットが敷かれてあった(写真撮影/藤井繁子)

【画像10】心理療法士の方が、心を体で調整する方法をレクチャー。「深く息を吐くことから」と呼吸の大切さを教えてくれた(写真撮影/藤井繁子)

【画像10】心理療法士の方が、心を体で調整する方法をレクチャー。「深く息を吐くことから」と呼吸の大切さを教えてくれた(写真撮影/藤井繁子)

マギーの遺志を継いだイギリス本国のローラ・リー(故マギーの担当看護師)マギーズ・センターCEOからは
「『マギーズ東京』の運営を継続していくために、資金集めを行っていく必要があります。私たちは必要としているすべての人が、マギーズの支援を受けられるようにしたいと強く願っています。一度ぜひ『マギーズ東京』にお立ち寄りいただき、私たちのやっていることを皆さんの目で見てください」と、運営の後押しを願うメッセージ。

秋山センター長も「直接的ではなくても、さまざまな方向から大きな渦のように支援の輪が広がり、マギーズの活動が世の中に役立てばと願っています」

同じような境遇の人たちと出会うだけでも、患者の心は和み勇気が湧いてくるかも知れません。ここへ来れば、自分の置かれた状況にどう向き合って行けば良いのかを考える、手助けをしてもらえるのです。患者を抱える家族や友人も、患者に対してどう接するべきなのか……。悩む気持ちを打ち明ければ、何か解消するきっかけが見つかりそうです。

今回マギーズという場があることを知り、私にも次にやって来るその時のあり方が、両親の時とは違ってくるだろうと感じることができた取材でした。

●取材協力
・マギーズ東京(特定非営利活動法人maggie’s tokyo)
 【ご寄付について(認定NPO法人の控除有り)】

がん患者を“空間の力”で癒やす、英国発「マギーズ・センター」に世界が注目[前編]

日本人の死因トップである“がん”。2016年の調査によると、全死因に占める割合は28.5%と2位の心疾患15.1%を大きく上回ります(※1)。がん患者の家族・友人を含めると、がんに関係の無い人を見つけるほうが難しいくらい身近な病気。そんながんに関係する人々を無償で支援する場が、英国で1996年に誕生した「マギーズ・キャンサーケアリング・センター」。以来20年余り、英国内外で20カ所以上の『マギーズ・センター』が開設し運営されています。
(※1)「性別にみた死因順位(第10位まで)別 死亡数・死亡率(人口10万対)・構成割合」(厚生労働省)

前編ではその成り立ちを、後編では一昨年日本にオープンした『マギーズ東京』での体験をレポートします。
一人の英国人女性Maggieの思いが形に、「自分を取り戻す」ための場所

1988年47歳の時に乳がんを患った、マギー・K・ジェンクス(Maggie Keswick Jencks)。5年後に再発したがんによって死を覚悟せざるを得なかった時、治療の方向性や家族のことなどさまざまな悩みと不安を抱えて病と戦っている最中に「自分を取り戻せる空間とサポートが必要」と実感。入院中の病院敷地内に、後の「マギーズ・センター」のモデルとなる“誰でもがいつでも立ち寄れる”「第二の我が家」をつくったことが始まりです。

【画像1】センターの庭に立つマギーの像。1941年スコットランド生まれ、1995年「マギーズ・センター」オープンの前年に54歳で旅立った。センターの前身である病院内の小屋の前で、春の日を浴び「私たち、ラッキーよね?」と言葉を残して(写真提供/藤井浩司(ナカサアンドパートナーズ))

【画像1】センターの庭に立つマギーの像。1941年スコットランド生まれ、1995年「マギーズ・センター」オープンの前年に54歳で旅立った。センターの前身である病院内の小屋の前で、春の日を浴び「私たち、ラッキーよね?」と言葉を残して(写真提供/藤井浩司(ナカサアンドパートナーズ))

マギーが医者からがんの再発で余命数ヶ月と告げられた時「心は打ちのめされているのに、次の患者のために診察室にとどまることはできませんでした」(マギー・K・ジェンクス著)という言葉をのこしています。

病院の診察時間に制限があるのは、日本でも同じ。待ち時間の長さに対して、自分の診察時間の短さに困惑した人は少なくないでしょう。それが、がん告知の現場であることを想像すると……。

医療現場で多くの患者と接してきた、担当のがん専門看護師ローラ・リー(現マギーズ・キャンサーケアリングセンターCEO)を話し相手に、マギーは立ち上がりました。「がん患者や家族、医療者などがんにかかわる人たちが、がんの種類やステージ、治療に関係なく、予約も必要なくいつでも、無料で利用することができる癒やしの『空間』をつくりたい」と。

設立者マギーは造園家、その夫は建築評論家。“空間の力”を知る人によるプロジェクト

マギーズ・センターでは、カウンセリングや栄養指導、医療制度などさまざまな専門的支援を無料で受けることができます。のんびりお茶を飲んだり、本を読んだりするなど自分の好きなように過ごしていて良いのです。訪れるだけで癒やされる、“第二の我が家”のような場所にしたいとマギーは考えました。

「美術館のように魅力的であり、教会のようにじっくり考えることができ、病院のように安心でき、家のように帰ってきたいと思える場所」

それを実現するために、マギーは「建築概要」の中に以下のような建築要件を提案しています。

・自然光が入って明るい     ・安全な(中)庭がある
・空間はオープンである     ・執務場所からすべて見える
・オープンキッチンがある    ・セラピー用の個室がある
・暖炉がある、水槽がある    ・ゆったりとしたトイレがある
・建築面積280m2程度      ・建築デザインは自由

そして、1996年英国エジンバラにオープンしたマギーズ・センター第一号[Maggie’s Edinburgh]。

【画像2】[Maggie’s Edinburgh](Richard Murphy設計)。赤いスチール、ガラスブロック、石、木とさまざまな素材の調和を試みた個性的な建築(写真提供/藤井浩司(ナカサアンドパートナーズ))

【画像2】[Maggie’s Edinburgh](Richard Murphy設計)。赤いスチール、ガラスブロック、石、木とさまざまな素材の調和を試みた個性的な建築(写真提供/藤井浩司(ナカサアンドパートナーズ))

【画像3】窓を大きくとった明るい室内、インテリアは暖色系のカラフルなファブリックが、宝石のように散りばめられている(写真提供/藤井浩司(ナカサアンドパートナーズ))

【画像3】窓を大きくとった明るい室内、インテリアは暖色系のカラフルなファブリックが、宝石のように散りばめられている(写真提供/藤井浩司(ナカサアンドパートナーズ))

マギーの夫チャールズ(建築評論家)は「マギーズ・センターには二つの要素を求めました。リラックスできる癒やしの要素と、患者が病と闘えるような要素を支援すること。それを病院とは違う雰囲気の環境の中で提供したいのです」と、語っています。

マギーズでは“対話”が最も大切な支援の方法。病を抱える人にとって、心の悩みや不安を口に出して伝えるのは簡単ではありません。まずは、すてきな建物や庭という空間が訪問者を優しく迎えることで、その心を和ませ、おのずと“対話”が生まれる環境をつくるのです。それが“空間の力”であり、ジェンクス夫妻はそのことを熟知した空間づくりの専門家であったことが、マギーズ成功の一つの理由と言えます。

マギーの闘病を支え、話し相手になってきた看護師のローラ・リーCEOは「長年、薄暗いモノクロ色の病院で働いてきた私にとっても新鮮でした。環境や空間の力が人の心を動かし、自分の中にある力を引き出すことをマギーは教えてくれたのです」

著名な建築家が設計、建物の求心力と発信力がマギーズを世界に広げる

建築界のノーベル賞と言われるプリツカー賞を受賞している、フランク・ゲーリーやザハ・ハディドなどがマギーズ・センターの設計に参加しています。マギーの建築要件を尊重しながらも建築家の英知によって「見てみたい、入ってみたい」気持ちにさせるパワースポットのような建物になっています。

【画像4】Zaha Hadid設計の[Maggie’s Fife] 2006年開設(写真提供/藤井浩司(ナカサアンドパートナーズ))

【画像4】Zaha Hadid設計の[Maggie’s Fife] 2006年開設(写真提供/藤井浩司(ナカサアンドパートナーズ))

炭鉱の町だったことからひらめいたという、ザハらしい彫刻のように真っ黒な外観に対して、室内は曲線を使った真っ白で明るいインテリア。「環境が個人の幸福を高めるのに、どれほど有意義に役立つかをマギーズによって理解しました」と、生前のザハは語っています。

【画像5】三角窓からの光が印象的な室内。違ったタイプの椅子や家具、その日の気分や健康状態でくつろぎ方も変えることができる(写真提供/藤井浩司(ナカサアンドパートナーズ))

【画像5】三角窓からの光が印象的な室内。違ったタイプの椅子や家具、その日の気分や健康状態でくつろぎ方も変えることができる(写真提供/藤井浩司(ナカサアンドパートナーズ))

マギーズ・センターの建築は英国内外の建築賞を数々受賞していて、マギーズの活動を世界が知る機会にもなっています。

日本からも建築家・黒川紀章がプロジェクトに参加しているのを知り驚きました。黒川氏が若かりしころ、夫チャールズの本を翻訳した経緯もあったようです。黒川氏は完成前の2007年に亡くなりましたが、その志が形になった素晴らしい建築を見ることができ、日本人として誇らしく感じました。

【画像6】黒川紀章設計の[Maggie’s Swansea] 2011年開設(写真提供/藤井浩司(ナカサアンドパートナーズ))

【画像6】黒川紀章設計の[Maggie’s Swansea] 2011年開設(写真提供/藤井浩司(ナカサアンドパートナーズ))

【画像7】オープンキッチンはマギーズの中核。大きな窓から庭が望める開放的な空間(写真提供/藤井浩司(ナカサアンドパートナーズ))

【画像7】オープンキッチンはマギーズの中核。大きな窓から庭が望める開放的な空間(写真提供/藤井浩司(ナカサアンドパートナーズ))

マギーズの利用者が「病院とは違って、温かくて緑や自然が近くにあって“サンクチュアリ”のようよ」と、サンクチュアリ=鳥獣の保護区に例えるように、マギーズは安心して羽を下ろして過ごせる場になっているのです。「いつでも泣きたくなれば、泣くことができる個室もあるしね」とも。

英国に留まらず、海外でのマギーズ第一号が2013年香港に誕生。香港はマギーが幼少期に過ごしたゆかりの地です。

【画像8】Frank Gehry設計の[Maggie’s Hong Kong] 2013年開設(写真提供/藤井浩司(ナカサアンドパートナーズ))

【画像8】Frank Gehry設計の[Maggie’s Hong Kong] 2013年開設(写真提供/藤井浩司(ナカサアンドパートナーズ))

【画像9】広いリビング&ダイニングスペースからは、中国様式の庭と池が眺められる(写真提供/藤井浩司(ナカサアンドパートナーズ))

【画像9】広いリビング&ダイニングスペースからは、中国様式の庭と池が眺められる(写真提供/藤井浩司(ナカサアンドパートナーズ))

「死への恐怖で、生きる喜びを失うべきでない」と、強い意志で活動したマギー。利用者が快適な空間で過ごしながら、対話によって、自分の中にある力を見いだし、自分を取り戻すことがマギーズの目指す支援。

その活動が、東京でも一昨年からスタートしました。後編では『マギーズ東京』を訪問し、その支援を体験させていただいた内容を紹介します。

●取材協力
・マギーズ東京(特定非営利活動法人maggie’s tokyo)
【ご寄付について(認定NPO法人の控除有り)】