住まいのトラブル調査【賃貸編】 敷金が戻ってこない… 退去時に起こるトラブル事例を公開!

賃貸契約が終了して次の住まいへ引越しが済むまでは、何事もなく気持ちよく終わりたいものです。今回は、退去時の具体的なトラブル内容や、その回避法などを紹介します。現在賃貸住宅に住んでいる人にも必見の内容です。
退去時のトラブルは「敷金の返金について」が多い

前回の調査で、賃貸物件で居住中に次いで多いことが分かった退去時のトラブル。いったいどんなことでトラブルになっているのでしょうか。

結果は「敷金の返金について」(70.3%)と「原状回復について」(56.8%)が多いと分かりました。この2つに関して回答した人数はそれほど多くはありませんでしたが、その中で、「敷金よりオーバーしてしまい、経済的な負担があった」(47.1%)と回答した人が「敷金でカバーできる範囲内だった」(35.3%)を上回る結果となりました。

賃貸物件を借りる際には、敷金や礼金を支払うことがほとんど。しかし、借主がその物件を退去する際に、貸主が原状回復するためのクリーニングや壁紙の張り替えなどを行った結果、敷金が返金されないといったトラブルになるようです。そもそも、借主が普通に部屋を使用していた場合に生じる経年劣化や損耗は貸主負担。借主の故意や過失、通常の使用方法に反するなどで生じた傷や損耗は借主が負担することと決められています。この消耗と故意や過失の境界線が曖昧(あいまい)なのがトラブルの元なのかもしれません。

退去時の敷金問題は7割もの人が経験している(出典/SUUMOジャーナル編集部)

退去時の敷金問題は7割もの人が経験している(出典/SUUMOジャーナル編集部)

「特に経済的な負担は生じなかった」のはわずか23.5%だった(出典/SUUMOジャーナル編集部)

「特に経済的な負担は生じなかった」のはわずか23.5%だった(出典/SUUMOジャーナル編集部)

また、「敷金よりオーバーしてしまい、経済的な負担があった」人は、「5万円以上」の負担が43.8%でトップ、「3万円以上~5万円未満」が25.0%で続きました。通常の使用で起こる消耗は借主の費用負担にはならないことを考えれば、5万円以上の負担はかなり大きいと言えます。

3万円以上負担した人は全体の約7割という結果に(出典/SUUMOジャーナル編集部)

3万円以上負担した人は全体の約7割という結果に(出典/SUUMOジャーナル編集部)

退去時のトラブルの具体的な内容は、以下のようなものがありました。

・入居前からの汚れなども原状回復と言われ、料金を請求された(42歳・女性)
・10年暮らしていた。タバコ禁止と契約書には記載なかったが、ヤニは居住者の過失と言われ敷金以上の金銭を求められた(47歳・女性)
・必要以上のハウスクリーニング代金を請求されたが、簡易裁判を起こすと言ったらお金が逆に返ってきた(45歳・男性)
・入居時に鍵の交換代を支払っているにも関わらず、退去時にも鍵の交換代金を請求された(43歳・男性)
・入居時から汚れがあった畳の入れ替え料金を請求された(48歳・男性)
・取り壊しが決まっていた物件なのに、原状回復を言われた(42歳・男性)
・設備品の処分費を負担させられた(41歳・女性)

トラブルを回避するために……「入居時に部屋をチェック」「内見は必須」など

次に、日ごろトラブルに巻き込まれないように気を付けていることがあるか聞いたところ、「気をつけていることがある」と回答した人が6割を超え、トラブル回避のための注意を払っている人が多いことが分かります。

トラブル防止のために、日ごろから気を付けていることがある人は6割を超え、意識の高さがうかがえる(出典/SUUMOジャーナル編集部)

トラブル防止のために、日ごろから気を付けていることがある人は6割を超え、意識の高さがうかがえる(出典/SUUMOジャーナル編集部)

気を付けていることとしては、「入居時に室内の状態をよくチェックしておく」(54.4%)、「必ず内見をしてから契約をする」(44.6%)、「契約書の内容をよく読む」(37.8%)、「インターネットなどで、よくあるトラブル事例を調べておく」(32.1%)などが並びました。

入居前に、室内に既にある傷や消耗などは写真に撮る、契約書にある内容を読み込むなど、トラブルを避けるために事前に出来ることはたくさんあります。インターネットでトラブル事例を調べておくのも、トラブル回避には有効だと言えるでしょう。

退去時の敷金問題を考えると、入居前の内見や室内の状態チェックは必須と言える(出典/SUUMOジャーナル編集部)

退去時の敷金問題を考えると、入居前の内見や室内の状態チェックは必須と言える(出典/SUUMOジャーナル編集部)

今回の調査で、居住中だけでなく、退去時にもトラブルが発生していることが分かりました。そして、「敷金よりオーバーしてしまい、経済的な負担があった」人は約5割にのぼります。

戻ってくるはずの敷金が戻ってこないばかりか、経済的負担があるのは避けたいもの。そのためには、居住中に部屋をきれいに使用することはもちろんですが、入居前に既に室内にある傷や汚れをチェックしておいたり、過去のトラブル事例を調べて回避法を知っておくなど、事前に出来ることはしておいたほうがよさそう。不当に経済的な負担を負うことがないよう、必要な知識は身に付けておきたいものですね。

●調査概要
・[住まいのトラブル調査 賃貸編]より
・調査期間:2018年3月8日~9日
・調査方法:インターネット調査(ネオマーケティング)
・対象:全国の賃貸住宅にお住まいの18歳~49歳の方
・有効回答数:男女300名

賃貸住宅でのDIY、どうやったらできる? 賃貸管理のプロに聞く[11]

かつては「お父さんの日曜大工」の意味合いが強かったDIY(Do It Yourselfの略)ですが、最近はかなりイメージが変わって来ました。テレビや雑誌でもDIYの特集が組まれるなど、空前のDIYブームと言われています。
また、100円ショップをのぞいて見ると、小さなボトルに入ったカラフルなペンキや、おしゃれな模様のインテリアシート、かわいい壁掛けフックやそれを取り付けるための工具類なども充実していて、若い女性でにぎわっています。この客層を見ても、DIY=お父さんの日曜大工という時代とは明らかに様相が変わっていることが分かりますね。
ただ、DIYが好きな人、やりたい人が増えている一方で、あきらめている人も多いのが今の賃貸住まいの方の状況だと思います。どうすれば賃貸住宅でもDIYができるのか、一緒に考えてみましょう。

【連載】賃貸管理のプロに聞く
賃貸仲介・管理の現場に20年以上携わっているプロが、賃貸物件に住む人から相談の多い事例と解決方法をご紹介する連載ですみんなはどんなDIYをしているの?

DIYを楽しんでいる人は一定数いるようですが、実際にみんながどんなDIYをしているのかが、気になりますよね。昔と違ってSNSが発達している今の時代は、気軽に写真を人に見せることができるため、DIY初心者から上級者まで、いろいろな人がSNS上に自慢の作品の写真をアップしています。

DIYですてきな作品ができたら、同じような趣味の人に見てもらい、共感してもらいたいと思うのかもしれません。Instagramやtwitterだけでなく、RoomClipなどのように自分のお部屋のインテリア写真をみんなと共有することに特化したサイトも出てきており、魅力的なDIYの実例写真がたくさん掲載されています。RoomClipの「DIYする」というカテゴリのページを見てみると、棚や収納を自作している人がかなり多いのが分かります。

また、写真にはコメントが付けられる機能があり、そこには賞賛の言葉だけでなく、「材料はどこで買ったんですか?」「どうやってつくったんですか?」などの質問や、それに対する回答も掲載されており、DIYが好きな人たちの間のコミュニケーションの場になっているようです。

好きなテイスト、サイズのものを思いどおりに、しかも安価につくれるのがDIYの魅力なのでしょう。本格的な家具をDIYする人もいれば、小物を飾るための小さな棚をつくる人もいますが、共通しているのは、100円ショップやホームセンターで購入した安価な材料を使ったDIYが人気という点です。

DIYしたくても、踏み出せないのはなぜ?

リクルート住まいカンパニーが2014年4月に実施した「賃貸住宅におけるDIY意向調査」では、現在居住している賃貸住宅でカスタマイズやリフォームを「したいと思ったがあきらめたことがある」と答えた人が18.8%となっており、潜在的ニーズがあることが分かります。

そして、その回答者にあきらめた理由を聞いた項目では、回答が多かった順に「許容範囲が分からない」(50.4%)、「契約上許されないから」(45.4%)「実施費用がもったいないから」(40.4%)「敷金が返ってこなくなるから」(33.3%)となっています。

DIYをやってみたくても、どこまでやって良いのか分からなかったり、退去時の原状回復にどのくらい費用がかかるのか不安だったり、そもそもやってはいけないと思っていたりという理由で、DIYを躊躇(ちゅうちょ)してしまう入居者さんが多いことが分かります。

同社が2014年9月に実施した「リノベーション・DIYに関する意識調査」で、流行に敏感な20代の人がやってみたいと答えたのは「壁にフックやコートハンガーを取り付ける」「壁紙を貼る・ペイントをする」「備え付けの照明器具を交換する」「壁にテープを貼るなどしてデコレーションをする」「壁に棚を取り付ける」といったDIYでした。

こうして見ると「壁に穴を開けたり何かを貼り付けたりするDIY」のニーズが高いことが分かります。確かに原状回復するにはそれなりのお金がかかるケースもありそうで、心配になる気持ちは理解できます。

(イラスト/藤井昌子)

(イラスト/藤井昌子)

原状回復ルールの歴史を知ろう

そもそも、賃貸住宅の原状回復というルールの根拠はどこにあるのでしょうか。

実は民法598条、616条の解釈により、賃借人は退去時にお部屋に附属させた物を取り除いて借りたときの状態に戻さなければならないとされて来たのです。これを「原状回復義務」と呼んでいますが、これに基づいて退去時の敷金精算を行う際に「どこまで原状回復義務があるのか、その金額はいくらが妥当なのか」についてのトラブルが増えたため、平成10年に当時の建設省(現、国土交通省)が「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を公表し、改定、再改定を経て一層具体的なルールができているというわけなのです。

「退去時にこういう状態になっていたら入居者負担」というルールが明確になったため、「退去時にお金がかからないようにするためには、室内に手を加えないほうが良い」という風潮へとつながるのは当然のこと。

例えば、壁に好きな絵を掛けたいと思っても、ネジ穴や釘穴は原状回復義務が発生するルールになっているので、「退去時にいくらかかるか不安だから、やらずに我慢しよう」となっているのが現状ではないかと思っています。

賃貸住宅に住んでいる人は、「壁に何もしないDIY」しかできないのでしょうか。

管理会社に長年勤務している私は、必ずしもそうとは思っていません。世の中の大家さんや管理会社のなかには、「物件も古くなっているし、いい人が長く住んでくれるのであれば多少部屋に手を入れてもかまわない」と考えている人も結構いると感じています。そして、「原状回復にさほど費用がかからない、もしくはそのまま残しても問題ないなら、退去時に入居者さんにお金の負担をしてもらわなくても良い」と考える人だっていそうです。しかしそれと同時に、「好き勝手に自由に手を入れられて、取り返しが付かない状態になるのでは」という不安も抱えています。

次の回では、そんな大家さんや管理会社に「どうやったら安心してDIYを許可してもらえるのか」について考えてみたいと思います。

谷 尚子谷 尚子 賃貸住宅での暮らし応援団
独立系の賃貸管理会社ハウスメイトパートナーズに勤務。仲介・管理の現場で働くこと20年超のキャリアで、賃貸住宅に住まう皆さんのお悩みを解決し、快適な暮らしをお手伝い。金融機関・業界団体・大家さんの会等での講演多数。大家さん・入居者さん・不動産会社の3方良しを目指して今日も現場で働いています。●「賃貸管理のプロに聞く」記事一覧
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