ママさんリモートワーカー3人に聞く、“生産性を高める自宅環境”のコツ

ここ数年、「リモートワーク」が世間で注目を集めている。働く側にとってはネット環境があれば始められる手軽さと、ライフスタイルにあわせて働きやすい環境を作れる点が魅力。また企業にとっては、新たな人材採用の選択肢が広がるだけでなく、結婚や出産などを機に失いがちだった優秀な人材の流出阻止にも繋がるなど、社内リソースの有効な活用手段としても期待されている。今後も増加傾向にあるといわれているこのリモートワーク、上手に活用するにはコツが必要なようだ。特に、お子さんがいるママさんリモートワーカーは、どのような工夫をしているのだろうか。実際のリモートワーカーのお宅を訪ね、そのコツを聞いてみることにした。
9割がリモートワーカー、そもそもどんな会社?

今回取材したのは大阪のとある広告制作会社。リモートワークを標準的な働き方にしてからは既に3年目に突入したという。主にデザイナーやライターなど、クリエイティブな職種の人たちが数多く在籍。そのほとんどが自宅をリモートワークの拠点としているので、社内のビデオチャット会議ではリビングを背にしたスタッフたちの顔が、PCモニターにずらりと並ぶのだそうだ。

これだけ自宅で働く人が多い企業の従業員なら、きっと「リモート環境を整えるコツ」なり、ヒントなりを持っているはず。いったいどんな自宅環境で仕事をしているのか、そもそもリモートワークをしようと思ったきっかけは何なのか? 3人のリモートワークの“リアル”をご紹介しよう。

快適な自宅リモートの共通点は?

家族と一緒に過ごせるリビングで働いています
(ディレクター:ふじもと えり 大阪府在住、一軒家)

【画像1】広告制作ディレクターのふじもとさん(写真撮影/株式会社JAM STORE)

【画像1】広告制作ディレクターのふじもとさん(写真撮影/株式会社JAM STORE)

―――リモートワークを始めたきっかけは?
夫が自営業で、自宅でそのお手伝いをしていて。そこにプラスで何か、前職の広告営業経験を活かしながら仕事ができたらいいなと考えるようになったんです。そうするとリモートワークがピッタリかなと思って。今行っている広告制作のディレクター業務は、自宅にいながらできるので、とても助かっています。

【画像2】リビングのダイニングテーブルが仕事場(写真撮影/株式会社JAM STORE)

【画像2】リビングのダイニングテーブルが仕事場(写真撮影/株式会社JAM STORE)

―――自宅のどこで仕事をされているんですか?
リビングのダイニングテーブルで仕事をしています。子どもたちが園や小学校から帰ってきた後に、同じ空間にいる状態にしたかったので、必然的にこの場所に落ち着きました。9:30~17:00で仕事をしていて、午前中は一人で集中して取り組み、午後からは子どもの宿題を見ながら横で仕事をするというスタイル。場所を変えずに仕事ができるので、途中で中断することもなく、スムーズに仕事ができています。

【画像3】必要な資料や書類はすぐに分かるようにラベリング(写真撮影/株式会社JAM STORE)

【画像3】必要な資料や書類はすぐに分かるようにラベリング(写真撮影/株式会社JAM STORE)

―――自宅で仕事を効率的に行う秘けつは何ですか?
リビングでの仕事なので、普段の生活スペースにまであふれないよう、モノを増やさないようにすることですね。必要な資料や書類はまとめて、どこにあるかすぐ分かるようにラベリングしています。

それから「30分単位で仕事をする」という、独自の時間管理術も心がけています。同時にいくつかのことがこなせる環境だと、色んなことが気になって、バラバラと手を付けてしまいがちになるんです。後々「タスクが全然進まなかった……」なんて愕然とすることも。

そんな事態を防ぐために、私はキッチンタイマーを活用しています。一つのことに集中できるし、何をどれくらいの時間で処理できるかも分かります。結果的に自分のスキル把握にも役に立ちます。

PCを置ける場所はどこでも仕事スペースです
(デザイナー:やまうち かずみ 大阪府在住、一軒家)

【画像4】リモートワークデザイナーのやまうちさん(写真撮影/株式会社JAM STORE)

【画像4】リモートワークデザイナーのやまうちさん(写真撮影/株式会社JAM STORE)

―――リモートワークを始めたきっかけは?
デザインの仕事をずっと続けたくて、出産後もデザインの仕事を探していたんです。ただ、小さな子どもがいると、残業の多い制作事務所で働くことはどうしても難しかった…。そんな厳しい現実を目の当たりにして一度は「外で働く」こと、つまりデザインの仕事をあきらめかけていたんです。

でもたまたま、家にパソコンやインターネットなどの制作環境が整っていたこともあり、「リモートワークできる会社なら、デザインを続けられるかもしれない」と、在宅ワークで職を探したのがいまから3年前のこと。いまの仕事に出合って以来、ずっとリモートワークデザイナーとして働いています。

【画像5】家のどこでも仕事場(写真撮影/株式会社JAM STORE)

【画像5】家のどこでも仕事場(写真撮影/株式会社JAM STORE)

―――仕事は自宅のどこでされているんですか?
ノートパソコンを持ち歩けるので、家のどこでも仕事場として使っています。基本はリビングテーブルで行っていますが、ソファの上、仕事用デスクなど、気分を変えたいときにはいつもと別の場所で仕事をするという感じですね。

―――家で仕事を効率的に行う秘けつは何ですか?
仕事スペースの周りや部屋をキレイにしておくことですね。部屋がちらかっていると、気になって集中できないので。仕事の効率を上げるためにも整理整頓は欠かせません。仕事が終わった後は、音楽を聞いてリフレッシュしながら、不要になったプリントや資料を処分したり、後片付けしたりしています。

子どもがいる時間といない時間で、働く場所を変えています
(ライター:わたなべ みやこ 愛知県在住、マンション)

【画像6】ライターのわたなべさん(写真撮影/株式会社JAM STORE)

【画像6】ライターのわたなべさん(写真撮影/株式会社JAM STORE)

―――リモートワークを始めたきっかけは?
昔からデータ入力などのいわゆる「内職」をやっていて、自宅で働く、という働き方にはなじみがありました。本格的にリモートワークをしようと決めたのは、結婚して出産した後ですね。当時、子連れで出社できるところはほとんどなかったし、0歳の子を預けてまで外に働きにでようとは思わなくて。ライター業なのでパソコンさえあれば仕事ができるので、リモートワークするにはピッタリでした。

【画像7】子どもが寝付いた後など、落ち着いて仕事ができるときには、別室にある自分の作業机で(写真撮影/株式会社JAM STORE)

【画像7】子どもが寝付いた後など、落ち着いて仕事ができるときには、別室にある自分の作業机で(写真撮影/株式会社JAM STORE)

――仕事は自宅のどこでされているんですか?
日中は、常に1歳の子どもと一緒にリビングで仕事をしています。仕事机はダイニングテーブルではなく、ローテーブルをチョイス。ダイニングテーブルだと、足にまとわりついてくるんですがローテーブルだと、私との距離が近くて安心なのか、あまり邪魔をされないんです。

子どもが寝付いた後など、落ち着いて仕事ができるときには、別室にある自分の作業机で。やっぱりリビングより、必要なモノが全部近くにある自分の机で仕事するのが楽ですね。

―――家で仕事を効率的に行う秘けつは何ですか?
誘惑に負けないこと……でしょうか。自宅で仕事をしていると、テレビや食べ物、本など、目移りするものが多くて、つい「ながら仕事」になりがちに。集中して仕事を終わらせるためにも、作業机には仕事のモノ以外は置かないようにしています。

家族との”共有空間”であることを忘れずに

3人に伺った話の共通点、それは「集中できる環境を整えること」だ。注意散漫にならないよう、不必要なモノは増やさない。業務効率UPのためにも、常に整理整頓をする。この2点を徹底して実行されているように感じられた。

もうひとつひしひしと感じたのは、「自宅」という家族との共有空間を仕事場にしている、その事実を忘れていないということ。いうなれば家庭と仕事、この2つをうまく共存させようとしていたことだ。自宅は大切な家族も集い、やすらげる場所。そんな大切な場所を仕事場にしているのだから、家のどこで仕事をするにしても、余計なものを置かない・増やさないのは家族の一員として、1人の大人としてのマナーである。

自分が集中できる環境を整えるだけでなく、家族との空間もきちんと大切にできること。それこそが自宅で、上手にリモートワークを続けていく上での「コツ」なのかもしれない。

●取材協力
株式会社JAM STORE
9割の従業員がリモートワーカー。東京・大阪・兵庫・京都・奈良・愛知・広島・島根在住のスタッフが在籍。

在宅ワーカーの悩みと理想のホームオフィスとは~自宅で働く【後編】

オフィスに通勤せずに自宅で働ける在宅勤務制度は、すでに15%以上の企業が採用※しています。しかし、もともと自宅が仕事場を兼ねているフリーランスや個人経営者などと違い、毎日オフィスに通勤していた人がある日突然自宅でも仕事ができるようになれば困ることもあるはず。後編では、筆者の切実な悩みとなっている腰痛と椅子の関係についてご紹介します。
※ザイマックス不動産総合研究所『働き方改革と多様化するオフィス』2017年

パソコン作業は腰にくる

リビングのソファにくつろいで大作映画の鑑賞はできますが、ソファは長時間のパソコン作業には向いていません。在宅ワークは自分の好きな場所で自由に仕事ができるメリットがありますが、パソコンを使うのなら正しい姿勢を保てるしっかりとした机と椅子が必要でしょう。

私が会社勤めのときには、4、5時間連続してパソコン作業をすることがよくありましたが、腰痛に悩まされることはほとんどありませんでした。最近のオフィスチェアは、長時間の集中作業でも疲れにくいよう機能を進化させているからです。例えば、座る人が自分の好みに応じて座面の奥行や高さ、背もたれの角度などを調整できるタイプ、座る人の体格に合わせて自動調整してくれるタイプなどがあり、種類やデザインも豊富です(画像1)。

なかには、女性の骨盤形状に合わせた座面や素肌にやさしい張地、後方からの視線を遮る背もたれを備えた、女性向けに開発された椅子もあります。

【画像1】オフィスチェアは選ぶのに困るほど種類が豊富(写真撮影/松村徹)

【画像1】オフィスチェアは選ぶのに困るほど種類が豊富(写真撮影/松村徹)

ところが在宅ワーカーとなった今は、1時間ほど座って仕事をしただけで腰が痛くなるようになりました。もちろん使用している椅子による差や、個人差はあるでしょう。しかしオフィス家具メーカーの方と話すと、異口同音に「住宅用の椅子はオフィスチェアのように事務作業を長時間するようにはつくられていないので、在宅ワークで使っているといずれ腰を悪くする」と言います。

そもそも人間は二足歩行の動物なので、立っている姿勢が一番自然だといいます。立ち姿勢で腰椎の椎間板にかかる負担を1とすると、座った姿勢では1.4倍、前のめりで座ると1.85倍も大きくなるそうです※。長時間座っていても腰への負担が少なく疲れない椅子は在宅ワークでも必須のはずですが、住宅向けの椅子はテーブルとセットでインテリアになじむようデザインされたものばかりで、在宅ワークを意識した機能のものはほとんど見かけません。
※A.Nachemson  “LUMBAR DISC PRESSURE AND MYOELECTRIC BACK MUSCLE ACTIVITY DURING SITTING : I. Studies on an Experimental chair”(1970)

在宅ワークに理想の椅子はオフィスチェア

それなら、オフィスチェアを自宅用に使えばよいのですが、いくつか問題があります。まず、通常のオフィスチェアは住宅用としてはサイズが大き過ぎるうえ、ハイテクで未来的なデザインや素材、色がどうしても室内で浮いてしまいます。特に、脚に付いているキャスターはマンションで使用すると階下への騒音元になりやすく、フローリングやクッションフロアを傷つける原因にもなります。オフィスに敷くタイルカーペットを前提にしているのでフローリング床では滑り過ぎ、子どもたちの格好のおもちゃになるのは確実です。

また、腰痛防止に意義を見出すとしても、ニトリやIKEAになじんだ消費者には値段も少し高すぎる場合があります。仮に自宅のダイニングに合うオフィスチェアが見つかったとしても、テーブル用に4脚そろえようとしたら大変な出費になってしまいかねません。

とはいえ、在宅ワーク用チェアの理想形はやはり(住宅向けに改良された)オフィスチェアだと思います。長時間座って仕事をしても疲れない機能性が何より大事だからです。サイズはオフィスチェアよりコンパクトで、背もたれや座面はメッシュではなく落ち着いた色の布や革張り、フレームはアルミではなく樹脂、キャスターなしの4本脚。パソコン作業用のひじ掛けも欲しいところです。値段は普通の住宅用より少し高くなってもオフィスチェアより安価であれば最高です。

腰痛防止は高年齢在宅ワーカーとして特に切実なテーマなので、このような椅子が一刻も早く開発されることを望みます。

そもそも仕事は座ってするものなのか

“座りすぎ“は腰痛に限らず、血行や呼吸機能など健康面にいろいろな悪影響があることが最近分かってきました。オーストラリアの調査研究”A 20-country comparison using the International Physical Activity Questionnaire(IPAQ)”(2011年)によれば、1日の座位時間が4時間未満の人と比べて、8時間以上の人の死亡率は1.15倍、11時間以上の人は1.4倍高まり、習慣的に運動をする人でも座位時間が長ければ死亡リスクは高まるそうです。

すでに、一部の先進的な企業や大学では、座りすぎを防ぐためにオフィスワークに立ち仕事を取り入れる動きがあります。健康面のメリットだけでなく、立ち仕事で眠気を抑えられるので作業効率が増したりリフレッシュできたりするうえ、他人から話しかけられやすいのでコミュニケーションも活発になるからです。

今回、在宅ワークに合う理想の椅子は見つかりませんでしたが、オフィス家具のショールームで、天板の高さが手動で自由に変えられるコンパクトなテーブルを発見しました。これなら立ち仕事にぴったりで、どんな住宅でも場所をとらず室内にとけ込み、仕事にも家事にも使えて一石二鳥です。あとは、立ち仕事を受け入れるかどうかが思案のしどころです。

テレワークの実態調査から、意外にも「集中して仕事ができる」「仕事の成果が向上する」「いいアイデアが出せる」など仕事の質の向上につながる効果のあることが分かりました。仕事のON/OFFが切り替えづらく、長時間労働になりやすいというデメリットが克服されれば、ワークライフバランスのとれた新しい働き方として社会に定着していく可能性を感じます。また、在宅勤務が普及すれば、住宅家具のデザインや機能も大きく変わるかもしれません。住宅建設やリフォームの場面においても、在宅ワークを意識した設計や工夫が登場してくるはずです。

働き方改革で増加するテレワーク。その実態は~自宅で働く【前編】

通勤せずに自宅で働ける在宅勤務制度はうれしいけれど、毎日オフィスに通勤していた人が突然自宅でも仕事が出来るようになれば、困ることもあるはず。定年後、親と同居するため郷里で在宅ワーカーになった筆者が、働き方改革に関するアンケート調査結果を読み解きながら、自らの経験も踏まえて在宅ワークの実態と悩みをまとめてみました。
テレワークのほうが集中できてアイデアが出る

自宅やカフェなど、本来勤務する職場から離れた場所で仕事をすることをテレワークといいます。アンケート調査※からは、顧客のオフィスやサテライトオフィスなどすでにいろいろな場所でテレワークが実践されていることが分かります(図表1)。テレワークは、スマートフォンやノートパソコンなどの持ち運び可能な情報通信端末が普及したことに加えて、子育て支援や介護支援の観点から、また最近では災害対策や働き方改革の試みとして採用する企業が増えています。
※ザイマックス不動産総合研究所『大都市圏オフィス需要調査2017』『働き方改革と多様化するオフィス』2017年

【画像1】図表1:テレワークで利用するのは自宅が一番多い(資料:ザイマックス不動産総合研究所『大都市圏オフィス需要調査2017』をもとに筆者が作成)

【画像1】図表1:テレワークで利用するのは自宅が一番多い(資料:ザイマックス不動産総合研究所『大都市圏オフィス需要調査2017』をもとに筆者が作成)

多くの会社員は日中オフィスで働いており、自宅は休息やリフレッシュ、家族と過ごす私的な場所なので、そこでオフィスと同じように仕事をすることは想定していません。しかし、実際にテレワークを経験した人は「集中して仕事ができる」「仕事の成果が向上する」「いいアイデアが出せる」など仕事の質の向上につながる効果や、「ストレスが減る」というメンタルヘルス面の効果を感じています(図表2)。テレワーカーにとって、本来の働く場であるオフィスのほうが、集中しづらくアイデアが出にくく、かつストレスフルな環境だとすればなんとも皮肉です。

【画像2】図表2:テレワークは職場より集中できてストレスも減る(資料:ザイマックス不動産総合研究所)

【画像2】図表2:テレワークは職場より集中できてストレスも減る(資料:ザイマックス不動産総合研究所『働き方と多様化するオフィス』より)

また同調査から、テレワーク経験者は、「仕事のコミュニケーション量が減る」「ホウレンソウ(報連相)がしづらい」などのコミュニケーションロスへの不安をそれほど感じなかったことも分かります。ビデオ会議やチャットなどコミュニケーションツールの発達に加えて、オフィス出勤時にはフェーストゥフェースでコミュニケーションを取る働き方がうまくできているのかもしれません。

自宅はON/OFFの切り替えが難しく、長時間労働にもなりやすい

一方、テレワークのデメリットとして、ON/OFFの切り替えがしづらいことを挙げた経験者が3~4割もいます。特に自宅の仕事では、サテライトオフィスやカフェなどと比べてその傾向がより強くなります。自宅外の施設は私的な空間ではなく、営業時間も限られているうえ、自宅を離れるので仕事モードに切り替えやすいはず。それに対し、完全にプライベートな自宅は自由過ぎてメリハリをつけにくいからだと思われます。
また、テレワークのもうひとつのデメリットとして、長時間労働になったことを挙げた経験者も1~3割います。これも自宅のほうが多くなっていますが、自宅はON/OFFの切り替えが難しく、いったん仕事に集中してしまえば時間の制約がありません。適当なタイミングで仕事を切り上げにくいから、ということでしょう(図表3)。

【画像3】図表3:自宅はサテライトオフィスなどよりON/OFFの切り替えが難しく長時間労働にもなりやすい(資料:ザイマックス不動産総合研究所)

【画像3】図表3:自宅はサテライトオフィスなどよりON/OFFの切り替えが難しく長時間労働にもなりやすい(資料:ザイマックス不動産総合研究所『働き方と多様化するオフィス』をもとに筆者が作成)

ところで、定年退職して自宅やカフェだけで仕事をする筆者は、通勤するオフィス自体がないので厳密にはテレワーカーとはいえません。両親の世話もあって自宅を長時間離れられず、二世帯分の家事を妻とこなしながら仕事をしています。そのためまとまった時間がとりにくいうえ、パソコンに向かおうとするとなぜか飼い猫たちが入れ代わり立ち代わり寄ってきて邪魔をします。
そんな中で出来上がったワークスタイルは、これまでみてきたテレワークの実態とは違い、こまめにON/OFFを切り替えて短時間集中で仕事をするというものです。生産性の高さは現役のテレワーカーには及ばないと思いますが、上司に勤怠管理や勤務評定されない気楽さと、仕事がそれほどないので余裕をもって取り組める点は現役テレワーカーより恵まれています。

後編では、筆者が自宅を職場としたときに直面した、腰痛問題についてオフィスとの対比を踏まえて考えてみます。

部屋の間取りや家具にも変化が起こる!? 専門家に聞いた“テレワーク”の可能性

情報通信技術(ICT)を活用し、場所や時間を有効活用できる柔軟な働き方「テレワーク」への関心が高まっています。2020年の東京オリンピック開会式の日にちなみ、今年7月24日には在宅勤務やモバイルワークなどの「テレワーク」を推奨する「テレワーク・デイ」が実施され、全国の922の企業や自治体がテレワークに取り組みました。なぜ今改めてテレワークが注目されているのか、今回はテレワークの専門家として、講演や講義も数多く行う株式会社テレワークマネジメント代表取締役の田澤由利さんにお話を伺いました。
もはや“特例”ではない! テレワークが広がる理由とは……

経済産業省や総務省、厚生労働省、国土交通省、内閣官房、内閣府が主体となり、今年から始まった「テレワーク・デイ」。IT・情報通信業だけでなく、サービス、製造などさまざまな企業や団体が参加しました。労働力人口の減少でどの企業も慢性的な人手不足に悩むなか、在宅でも仕事ができるテレワークへの関心が高まっているようです。

「今後さらに高齢化が加速し、親の介護で出社が難しくなる人もますます増えていくでしょう。テレワークというと、育児中のママやパパのための制度と考える人もいるかと思いますが、“期間限定”である育児に対して介護はいつまで続くか分かりません。誰にとってもひとごとではないと思います。
また、育児や介護に関係なく、テレワークによって出社にかかる時間のロスがなくなれば、できた時間を有効に活用することもできます。昨今終身雇用制度が揺らぐなか、個人のスキルアップのために勉強したり、副業をしたりするための時間を確保したいと考える人にとってもメリットは大きいのではないでしょうか。テレワークは何か特別な事情がある人のためのものではなく、みんなが自分の働き方を考える上で大切な制度なのではないかと思います」(田澤さん、以下同)

住まいから家の間取りまで!? テレワークで変わるのは働き方だけではない

また、テレワークが多くの人に浸透すれば “働き方”だけではなく、“住まい”にも大きな変化をもたらす可能性があるといいます。

「これまでの家探しは、通勤の利便性が重要な条件の一つでしたが、毎日会社に通う必要がなくなれば、住む場所の選択肢も広がります。『地方に住む』という発想も出てくると、都心に集中している人口も分散し、地方創生や待機児童解消にもつながります。パートナーの転勤によってどちらかが仕事を辞めざるを得ない状況になったり、単身赴任で家族がバラバラになったり……という状況も変わってくるかもしれません」

さらに、細かいところでは「部屋の間取り」や「家具の選び方」などにも影響があるのでは、と田澤さん。

「例えば、家族がいると自分だけの書斎を持つことはなかなか難しいと思いますが、テレワークが普及すれば狭くても仕事部屋として簡易的な書斎を家に設ける人が増えてくるかもしれません。また、リビングで作業する人に向けて、リビングに置いても違和感のないオフィスチェアなど、新しい家具が生まれる可能性だってある。椅子一つから住む場所まで、テレワークによってさまざまな変化が起きることが考えられます」

ICT技術の活用によって、テレワークならではの課題も解決

自身も20年近くテレワークをしてきたという田澤さん。代表を務める株式会社テレワークマネジメントでは、社員がオンラインチャットやテレビ会議などのICTツールを活用し、自分のライフスタイルに合わせたテレワークを実践しています。

【画像1】東京のオフィスにあるテレビ会議で、北海道のオフィスや奈良のテレワークセンターの様子を確認する田澤さん(左) (撮影/周東淑子)

【画像1】東京のオフィスにあるテレビ会議で、北海道のオフィスや奈良のテレワークセンターの様子を確認する田澤さん(左) (撮影/周東淑子)

今回のテレワーク・デイ参加者からは「職場とのコミュニケーションが難しい」「自宅での業務効率が落ちた」などの声も一部寄せられましたが、これらの課題に対して同社ではICTツールを活用し、解決を図っているそうです。

【画像2】色が付いた〇は“着席中”の社員を表し、実際は別の場所にいても、すぐにチャットや音声で連絡がとれる(テレワークマネジメント提供)

【画像2】色が付いた〇は“着席中”の社員を表し、実際は別の場所にいても、すぐにチャットや音声で連絡がとれる(テレワークマネジメント提供)

「例えば、うちでは職場でのコミュニケーションを円滑にするため、ウェブ上に“バーチャルなオフィス”を設けています。これで在宅勤務している人、各地のオフィスで働いている人の状況が一目で分かる。出勤している人をクリックすればチャットや音声で話しかけられるので、実際の職場にいるのと変わらず、コミュニケーションを取ることができます」

【画像3】タイムカードは「出勤/退勤」ではなく、「着席/退席」で管理。着席中はPCの作業画面が記録されるため「『着席』を押すと気持ちがピシッとします」との声も(テレワークマネジメント提供)

【画像3】タイムカードは「出勤/退勤」ではなく、「着席/退席」で管理。着席中はPCの作業画面が記録されるため「『着席』を押すと気持ちがピシッとします」との声も(テレワークマネジメント提供)

また、勤務状況はタイムカードで管理。席について作業を始める際に『着席』ボタン、仕事を中断するときや終業時に『退席』ボタンを押すことで、実質労働時間が分かるといいます。ちなみに、『着席』中は、PCの画面のキャプチャがランダムに記録されるため、作業の内容を把握することもできるといいます。

「われわれは『働いた時間はきちんと計りましょう』というスタンスで、所定労働時間はしっかり働いてもらうことを目標としています。『出社/退社』ではなく、『出席/退席』にすれば、少しお昼寝をしたいときや、子どものお迎えがあるときは『退席』を押すことで時間を管理できる。もし定時になって時間が足りなければ『子どもが寝てから1時間やります』ということも可能です。きちんと時間を管理すれば、みんな時間を意識した働き方ができるようになり、生産性も上がります」

今後ICTツールがさらに進化することにより、導入があまり進んでいない業界などにもテレワークが普及する可能性は十分にある、と田澤さん。

「人材不足は全ての業界に通じる問題ですので、企業には『今できない』ではなくて、『将来できるようにしよう』というビジョンが求められていくのだと思います」

働く人の暮らし方や生き方だけではなく、企業の人材不足や効率化などの課題を解決することにもなりうるテレワーク。東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開催される2020年には、テレワークによって住まいや職場の様相はがらりと変わっているのかもしれません。

●取材協力
テレワークマネジメント