512戸の賃貸タワーマンション「プラザタワー勝どき」で防災イベント!消防署・警察署協力ならではの幅広いメニューに子どもも興味津々!

不動産業や海運業を行う乾汽船(いぬいきせん)が所有し、東急住宅リースが賃貸管理を行う、賃貸マンション「プラザタワー勝どき」で、大掛かりな防災イベントを開催すると聞いて、見学させてもらった。大掛かりに開催できるのは、東京消防庁臨港消防署と警視庁月島警察署が全面協力をしていることで、防災メニューが豊富になっているからだ。

防災イベントは512戸の「安否確認訓練」でスタート!

「プラザタワー勝どき」は、地上43階で総戸数512戸の大規模なタワーマンションだ。

賃貸タワーマンション「プラザタワー勝どき」外観(筆者撮影)

賃貸タワーマンション「プラザタワー勝どき」外観(筆者撮影)

今回の防災イベントは、「安否確認訓練」からスタートした。安否確認訓練とは、地震などの災害に見舞われたときに、居住者の被災状況を確認すること。このマンションでは事前に「無事」(黄色)「要救助」(赤色)などと記載したカードを配り、ドアノブに配布されたカードのいずれかをかける形を取っている。その状況をフロアごとに見て回り、各戸の「無事」「救助」「未貼付」を記録して、とりまとめて全戸の状況を把握するわけだ。

さて、防災対策本部(冒頭の写真参照)の準備ができると、館内放送で「訓練です」と伝えた後に、無事であれば黄色のカードを、救助が必要であれば赤色のカードをドアノブに掛けるようにとアナウンスが流れた。次に、事前に居住者から募集した“集計報告ボランティア”の方々に、担当するフロアの用紙をはさんだボードを渡し、担当フロアに行ってもらう。ボードは10個あり、43階までのフロアを10ブロックに分けて、担当フロアを振り分けている。

筆者もその様子を見ようと、一番にスタートした組に付いていった。もちろん、災害時を想定しているので、エレベータは使えない。階段を上がっていくことになると分かっていたものの、5階までの100段でかなり息が上がる。付いていこうとしている組は何階まで行くのか聞いてみたら、「43階です」と言われ、ギブアップ。一番低い階は9階からと聞いて、その組を待つことにした。

9階から5階を担当する組は、女性2人と子ども2人の4人組。応募した理由を聞くと、「前回は見ていただけだったが、子どもが大きくなって確認作業ができると思い、今回初めて集計報告ボランティアに応募した」という。1戸ごと玄関を見て、9階の1号室は無事の欄に✓、2号室は未貼付の欄に✓といったように記入していく。9階が終わると、また階段で降りて、8階を同じように回る。付いて見た限りは、半分以上がいずれかのカードをかけているという印象だ。

左:無事ですカードがドアノブのかかっている 右:1戸ずつ確認しながらシートに記入していく(筆者撮影)

左:無事ですカードがドアノブのかかっている 右:1戸ずつ確認しながらシートに記入していく(筆者撮影)

その集計作業を見ようと、一足先に1階の防災対策本部まで戻った。しばらくすると、最初にスタートした、43階~41階の組が確認を終えて戻ってきた。対策本部がその記入結果を見て、集計したり、ホワイトボードに書き込んだりしていく。

担当フロアの確認が終わって防災対策本部に結果を報告する(筆者撮影)

担当フロアの確認が終わって防災対策本部に結果を報告する(筆者撮影)

「早かったですね」と43階組の二人に筆者が声をかけると、一番乗りを目指してダッシュでやったのだという。ボランティアに応募したのは、その日が空いていたし運動になると思ったからという、エネルギッシュな若者らしい答えだった。

筆者が同行した9階~5階の組も含めて、続々と残りの組も報告にやってくる。同行した子どもに感想を聞くと、「ちょっと疲れちゃった」と。9階から5階まで同じ作業を繰り返すので、子どもには飽きてしまうことなのかもしれない。

きて、その集計結果がまとまって結果が公表される。集計に要した時間は36分、512戸の掲示率は51.7%だった。

集計結果。この右側には全住戸の状況が一覧になって掲示されている(筆者撮影)

集計結果。この右側には全住戸の状況が一覧になって掲示されている(筆者撮影)

スタンプラリーなど、多彩なメニューで楽しく参加できる工夫

実は、賃貸マンションであっても一定数以上の居住者がいる場合は、オフィスビルや分譲マンションと同様に、防火管理者を置いて、避難訓練などを行う必要がある。とはいえ、512戸となると訓練も大変なことだ。大勢が参加しないと訓練の意味がないが、賃貸居住者の防災意識は長く住み続ける分譲マンション住民よりは低くなりがち。そこで、参加しやすい工夫が必要となる。

「ぼうさいさい2023」と名付けられた防災イベントの内容を見ると、スタンプラリーや24キログラムの水を担いで屋上ヘリポートまで駆け上がる競争などが用意されている。ほかにも、消防署や警察署による訓練メニューもあり、なかなか充実している。

筆者が見た限りで最も参加者が多いように思ったのは、警察官の帽子や制服を着るコーナーだ。子どもに帽子や制服を着せて、親が写真を撮る姿が途切れることなく続いていた。ほかにも、消防車や白バイに乗る子どもの姿も多く見られた。小さな子どもでも気軽に参加できるからだろう。

「ぼうさいさい2023」のタイムテーブル(筆者撮影)

「ぼうさいさい2023」のタイムテーブル(筆者撮影)

スタンプラリーのメニューも多彩(筆者撮影)

スタンプラリーのメニューも多彩(筆者撮影)

筆者も体験!「蹴破り」「エレベータ閉じ込め」「煙」

さて、筆者が特に興味を持ったのは、「蹴破り」「エレベータ閉じ込め」「煙」の3つの体験だ。居住者でなくても参加できると聞いて、参加者に交じって体験してみた。

まずは「蹴破り体験」。火災のときの避難ルートは、一つは玄関からの避難。ただし、玄関に向かう方向で火災が発生しているときには、逆のベランダ側から避難することになる。ベランダが横に並ぶ形状のときには、隣戸の壁を蹴破って避難はしごのあるところまで行くことになる。この蹴破りが、意外に難しいと聞いたので、体験したかったのだ。

蹴破り体験。小さな子どもには蹴破りがなかなか難しい(筆者撮影)

蹴破り体験。小さな子どもには蹴破りがなかなか難しい(筆者撮影)

「蹴破り体験」の列に並んで、他の参加者のやり方を見ていると、小さな子どもでは力不足でなかなか蹴破れない。スニーカーではなくサンダル風の靴では特に難しそうだ。それでも、サッカーをしているという子どもは一度で穴を空けることができた。それを見て、筆者も思い切り蹴ったら、成功した。やはり避難時にはスニーカーだ。消防署の署員によると、壁に背を向けてかかとで蹴ると破れる場合もあるという。筆者の後の女性はかかとで成功していた。

蹴破り体験に筆者も挑戦(東急住宅リース撮影)

蹴破り体験に筆者も挑戦(東急住宅リース撮影)

次に、「エレベータ閉じ込め体験」へ。事前に衝撃があると言われたから冷静でいられたが、思いのほか衝撃が大きかった。その後は、連絡ボタンを押して外部と連絡を取る必要があるが、基本は中でドアが開くのを待つのだという。ほかの参加者に感想を聞いたところ、「衝撃が大きいのでびっくりしたが、災害時には冷静を心がけようと思う」「イメージトレーニングができた」といった声が返ってきた。

さらに、「煙体験」へ。消防署の署員から、煙は天井からたまっていくので低い姿勢で避難するのがよいと指導され、いよいよ煙が充満した通路に侵入。たしかに立ったまま見る景色としゃがんで見る景色では、見通しがかなり違う。避難を難しくする障害物として段ボールが置かれているが、立ったままではどこにあるかわかりづらい。段ボールを避けながら先に進むが、出口が見えないので距離感が分からない場所では相当な恐怖になるだろうと思った。

煙体験。左が立ったままの視線、右がしゃがんだ視線(筆者撮影)

煙体験。左が立ったままの視線、右がしゃがんだ視線(筆者撮影)

煙体験を終えた参加者に感想を聞いたところ、「見えにくかったけど、案外息はできた」「視界が悪いので段ボールが突然出てくるし、出口がどこにあるか分からないのが怖かった。白い煙だったが、黒い煙だともっと怖いと思う」。確かに白い煙で息はしやすかった。そこで再度、消防署員に煙について確認したら、体験なので無害の煙になっているが、実際の火災では煙もかなり熱く、燃え始めには有害な黒い煙が出るという。消火で水がかかると白い煙になるのだが、いずれも有害で息はしづらいのだという。こうした話を聞いたり、煙が充満する視界を体験したりして、心構えをしておくことが重要なのだと分かった。

ほかにも、AED(電気ショックを与えて正常なリズムに戻すための医療機器)訓練、消火器訓練などの防災に役立つメニューがあり、どれかひとつでも体験しておくと万一のときに役立つと思った。筆者も以前に、どちらも体験しているのだが、時間が経つと忘れてしまうので、繰り返し体験することが災害時に役立つと感じた。

AED訓練(筆者撮影)

AED訓練(筆者撮影)

消火器の使い方を体験する消火器訓練(筆者撮影)

消火器の使い方を体験する消火器訓練(筆者撮影)

自分が住む住戸を所有している分譲マンションでも、防災意識が高いとは限らない。自分たちで資産を守る役割の管理組合という組織のない、賃貸マンションであればなおさらだ。しかし、災害が発生した場合、近所の人たちと助け合って消火や救助に当たらないと、間に合わないということも多い。

タワーマンションであれば、エレベータが使えなくなる大変さを実感するだけでも、災害時の心構えが違うだろう。日頃の準備が災害時に大いに活きるものだ。

リニューアルしたハザードマップがかなり使いやすい!実際の使用感を解説

災害のリスクを知るには「ハザードマップ」を見る! このことは、かなり一般に浸透していると思う。実はこの国土交通省のハザードマップポータルサイトが、新しい機能を追加してバージョンアップした。最新のハザードマップは、スマホの位置情報からその場所の災害リスク等を探せたり、音声でリスクの程度を読み上げたりするようになった。

【今週の住活トピック】
ハザードマップポータルサイト のリニューアルについて/国土交通省

「わかる・伝わる」ハザードマップへとリニューアル

国土地理院は、「ハザードマップ」を「自然災害による被害の軽減や防災対策に使用する目的で、被災想定区域や避難場所・避難経路などの防災関係施設の位置などを表示した地図」と定義している。ハザードマップには、「地震」「火山」「土砂災害」「洪水」「内水※」「高潮」「津波」などの種類がある。この中でも、「洪水」「内水」「高潮」「津波」のハザードマップを総称して、水害ハザードマップと呼んでいる。
※大雨によって下水道などの排水能力を超えた場合の浸水被害

ハザートマップは、平常時に自宅などの場所の災害リスクについて把握し、災害に対する備えや避難場所などについて理解することが第一の目的だ。加えて第二の目的が、実際に災害リスクにさらされたときに対処できることにある。ところが、実際に災害リスクにさらされるのは、事前に情報を把握していた自宅などの場所に限らない。

「ハザードマップポータルサイト」の今回のリニューアルによって、TOP画面で「住所」や「現在地」を入力するとハザートマップがすぐに検索できるようになった。これなら、仕事や観光などで地縁のない場所に行っていた時に、洪水のリスクが高いとなったときでもすぐに情報を把握できるようになる。

実際に最新のポータルサイトで「わが家」のスマホの位置情報で試すと、すぐにハザードマップが表示された。次に、住所欄に「国土交通省」と入力して見ると、同様に国土交通省の所在地を示したハザードアップが検索できた。国土交通省の所在地では特にリスクはないようだ。災害のうち「洪水」を選んで調べると、周辺で浸水リスクのあるエリアが色別に表示された。近くの「日比谷公園」の場所をクリックすると「洪水によって想定される浸水深:0.5メートル未満」と文字が表示され、音声が流れた。

さらに、情報の中から「指定緊急避難場所」を選ぶと、その場所が地図上に表示された。洪水で避難するなら、浸水リスクエリアを超える避難場所(泰明小学校)よりも虎ノ門方面の避難場所(虎ノ門いきいきプラザ)のほうがよさそうだ。なお、避難場所は災害によって異なるので、災害種別を変えると表示される避難場所も増減する。

ハザードマップポータルサイト

住所欄に国土交通省と入力すると、ハザードマップが表示され、国土交通省の所在場所に危険性が想定されていない旨のテキストボックスが現れる。災害種別で「洪水」を選ぶと浸水が想定される色の帯と凡例が表示された(【1】)
「指定緊急避難場所」のうち「洪水」の避難場所を選ぶと緑色のピクトグラムが表示された(【2】)。それぞれをクリックすると具体的な建物名などが表示された。※丸印や直線は筆者が加えたもの

ハザードマップポータルサイト

【1】の画面で「千代田区のハザードマップを見る」をクリックすると千代田区のデータに遷移した(【3】)。【1】の画面で「災害種別で選択」や「すべての情報から選択」を開く(+をクリック)と欲しい情報を選ぶことができる(【4】)

ハザードマップポータルサイト

【5】ポップアップの背景色で示される詳細情報の例。災害リスクの程度に応じて、ポップアップの背景色が変化する。白、黄色、橙色、桃色、赤色の順に災害リスクが高くなる(出典:「ハザードマップサイト」の新機能の紹介より)

もちろんスマホやパソコンが利用できる通信環境にある場合に限られるが、これを使えば出先にいるときに万一のことがあっても、すぐ情報にたどりつけそうだ。

ハザートマップはリニューアルを繰り返して進化

国土交通省のハザードマップポータルサイトがオープンしたのは、2007年のこと。ハザードマップは本来、市町村が作成して住民に配布するものだが、いざというときに探せるようにと、市町村の情報を集約したことに始まる。以降もリニューアルを重ねてきた。

市町村ごとのマップだけでは、実は隣の市町村に逃げた方が適切という場合に分からない、河川の氾濫状況を広域で見られないといった課題があった。さらに、避難所の場所を探してそこを目指したら道路が冠水していたといったことも。こうした課題を解決するために提供した「重ねるハザードマップ」では、日本地図上で災害リスクを把握できるようにし、複数の災害リスク(「洪水浸水想定区域」と「道路冠水想定箇所」など)を重ねて表示できるようになった。

ほかにも、自治体によって凡例の区切り方や色分けが異なっていたものを統一したり、災害の種類を一目でわかる図記号 (ピクトグラム)から選択できるようにしたりと、さまざまなリニューアルを行ってきた。

今回は、あらゆる人が避難行動に必要なハザードマップ情報を活用できるように、「ユニバーサルデザイン」の観点からリニューアルを実施している。例えば、専門用語を読み込まないとリスクの程度が理解できないということのないように、「その場所の災害リスクや避難行動のポイント」について絞り込んだ解説がすぐに表示されるようになっている。複数の浸水リスクが該当する場合は、浸水深が最も大きくなる災害種別に絞って表示され、情報が多く出ることで見る人が混乱することを避ける形になっている。

また、目が不自由な人でも音声読み上げソフトを使うことで、ポイントが読み上げられるようになった。

なお、この情報がすべてではないので、自治体(国土交通省の例でいえば千代田区)のハザードマップを確認することを国土交通省では促している。

さて、災害リスクを感じてあわててスマホを取り出しても、使い方に慣れるまでに時間もかかるだろう。まずは、あらかじめハザードマップポータルサイトを使ってみて、どういった情報が得られるのかだけでも把握しておくべきだ。

ハザードマップには、ほかにも機能がいろいろあるが、自治体によってその内容は異なる。自宅や職場など自分の居場所として多い場所については、該当する自治体のハザードマップを事前に読み込んでおくことをお勧めする。自分の居場所の災害リスクを知ることに加え、避難施設や避難経路などの情報が掲載されているほか、防災に関する学習コーナーがあるなど、役立つ情報が多いからだ。災害への対応は、事前の備えがカギになることを肝に銘じておきたい。

●関連サイト
国土交通省/ハザードマップポータルサイト のリニューアルについて
国土交通省「ハザードマップポータルサイト」
「ハザードマップポータルサイト」の新機能の紹介

リニューアルしたハザードマップがかなり使いやすい!実際の使用感を解説

災害のリスクを知るには「ハザードマップ」を見る! このことは、かなり一般に浸透していると思う。実はこの国土交通省のハザードマップポータルサイトが、新しい機能を追加してバージョンアップした。最新のハザードマップは、スマホの位置情報からその場所の災害リスク等を探せたり、音声でリスクの程度を読み上げたりするようになった。

【今週の住活トピック】
ハザードマップポータルサイト のリニューアルについて/国土交通省

「わかる・伝わる」ハザードマップへとリニューアル

国土地理院は、「ハザードマップ」を「自然災害による被害の軽減や防災対策に使用する目的で、被災想定区域や避難場所・避難経路などの防災関係施設の位置などを表示した地図」と定義している。ハザードマップには、「地震」「火山」「土砂災害」「洪水」「内水※」「高潮」「津波」などの種類がある。この中でも、「洪水」「内水」「高潮」「津波」のハザードマップを総称して、水害ハザードマップと呼んでいる。
※大雨によって下水道などの排水能力を超えた場合の浸水被害

ハザートマップは、平常時に自宅などの場所の災害リスクについて把握し、災害に対する備えや避難場所などについて理解することが第一の目的だ。加えて第二の目的が、実際に災害リスクにさらされたときに対処できることにある。ところが、実際に災害リスクにさらされるのは、事前に情報を把握していた自宅などの場所に限らない。

「ハザードマップポータルサイト」の今回のリニューアルによって、TOP画面で「住所」や「現在地」を入力するとハザートマップがすぐに検索できるようになった。これなら、仕事や観光などで地縁のない場所に行っていた時に、洪水のリスクが高いとなったときでもすぐに情報を把握できるようになる。

実際に最新のポータルサイトで「わが家」のスマホの位置情報で試すと、すぐにハザードマップが表示された。次に、住所欄に「国土交通省」と入力して見ると、同様に国土交通省の所在地を示したハザードアップが検索できた。国土交通省の所在地では特にリスクはないようだ。災害のうち「洪水」を選んで調べると、周辺で浸水リスクのあるエリアが色別に表示された。近くの「日比谷公園」の場所をクリックすると「洪水によって想定される浸水深:0.5メートル未満」と文字が表示され、音声が流れた。

さらに、情報の中から「指定緊急避難場所」を選ぶと、その場所が地図上に表示された。洪水で避難するなら、浸水リスクエリアを超える避難場所(泰明小学校)よりも虎ノ門方面の避難場所(虎ノ門いきいきプラザ)のほうがよさそうだ。なお、避難場所は災害によって異なるので、災害種別を変えると表示される避難場所も増減する。

ハザードマップポータルサイト

住所欄に国土交通省と入力すると、ハザードマップが表示され、国土交通省の所在場所に危険性が想定されていない旨のテキストボックスが現れる。災害種別で「洪水」を選ぶと浸水が想定される色の帯と凡例が表示された(【1】)
「指定緊急避難場所」のうち「洪水」の避難場所を選ぶと緑色のピクトグラムが表示された(【2】)。それぞれをクリックすると具体的な建物名などが表示された。※丸印や直線は筆者が加えたもの

ハザードマップポータルサイト

【1】の画面で「千代田区のハザードマップを見る」をクリックすると千代田区のデータに遷移した(【3】)。【1】の画面で「災害種別で選択」や「すべての情報から選択」を開く(+をクリック)と欲しい情報を選ぶことができる(【4】)

ハザードマップポータルサイト

【5】ポップアップの背景色で示される詳細情報の例。災害リスクの程度に応じて、ポップアップの背景色が変化する。白、黄色、橙色、桃色、赤色の順に災害リスクが高くなる(出典:「ハザードマップサイト」の新機能の紹介より)

もちろんスマホやパソコンが利用できる通信環境にある場合に限られるが、これを使えば出先にいるときに万一のことがあっても、すぐ情報にたどりつけそうだ。

ハザートマップはリニューアルを繰り返して進化

国土交通省のハザードマップポータルサイトがオープンしたのは、2007年のこと。ハザードマップは本来、市町村が作成して住民に配布するものだが、いざというときに探せるようにと、市町村の情報を集約したことに始まる。以降もリニューアルを重ねてきた。

市町村ごとのマップだけでは、実は隣の市町村に逃げた方が適切という場合に分からない、河川の氾濫状況を広域で見られないといった課題があった。さらに、避難所の場所を探してそこを目指したら道路が冠水していたといったことも。こうした課題を解決するために提供した「重ねるハザードマップ」では、日本地図上で災害リスクを把握できるようにし、複数の災害リスク(「洪水浸水想定区域」と「道路冠水想定箇所」など)を重ねて表示できるようになった。

ほかにも、自治体によって凡例の区切り方や色分けが異なっていたものを統一したり、災害の種類を一目でわかる図記号 (ピクトグラム)から選択できるようにしたりと、さまざまなリニューアルを行ってきた。

今回は、あらゆる人が避難行動に必要なハザードマップ情報を活用できるように、「ユニバーサルデザイン」の観点からリニューアルを実施している。例えば、専門用語を読み込まないとリスクの程度が理解できないということのないように、「その場所の災害リスクや避難行動のポイント」について絞り込んだ解説がすぐに表示されるようになっている。複数の浸水リスクが該当する場合は、浸水深が最も大きくなる災害種別に絞って表示され、情報が多く出ることで見る人が混乱することを避ける形になっている。

また、目が不自由な人でも音声読み上げソフトを使うことで、ポイントが読み上げられるようになった。

なお、この情報がすべてではないので、自治体(国土交通省の例でいえば千代田区)のハザードマップを確認することを国土交通省では促している。

さて、災害リスクを感じてあわててスマホを取り出しても、使い方に慣れるまでに時間もかかるだろう。まずは、あらかじめハザードマップポータルサイトを使ってみて、どういった情報が得られるのかだけでも把握しておくべきだ。

ハザードマップには、ほかにも機能がいろいろあるが、自治体によってその内容は異なる。自宅や職場など自分の居場所として多い場所については、該当する自治体のハザードマップを事前に読み込んでおくことをお勧めする。自分の居場所の災害リスクを知ることに加え、避難施設や避難経路などの情報が掲載されているほか、防災に関する学習コーナーがあるなど、役立つ情報が多いからだ。災害への対応は、事前の備えがカギになることを肝に銘じておきたい。

●関連サイト
国土交通省/ハザードマップポータルサイト のリニューアルについて
国土交通省「ハザードマップポータルサイト」
「ハザードマップポータルサイト」の新機能の紹介

2023年住宅トレンドは「平屋回帰」。コンパクト・耐震性・低コスト、今こそ見直される5つのメリットとは?

一戸建てのマイホームといえば、2階建て、3LDK以上というのがこれまでの既定路線。いま、家族のあり方やライフスタイルの多様化にともない、70平米前後までのコンパクトな平屋が今需要を伸ばしています。ミニマムな広さと価格で自分らしい平屋暮らしを楽しむ人たちの声をもとに、マイホームの選択肢として注目が高まる「コンパクト平屋」の魅力を探ります。

なぜ今、コンパクト平屋が人気なのか

ここ数年、住宅資材や土地価格の高騰で、従来よりもコストダウンした住宅が関心を集めるようになりました。また、子育てファミリー世帯から、単身や高齢者夫婦、ひとり親世帯(シングルファーザー・シングルマザー)といった多様な世帯が増えたことにより、住宅ニーズも変化してきています。さらに、災害で資産を失うことや、終活、実家じまいなどでモノを多く持つことへの課題に直面し、“ミニマルな暮らし”が注目されています。
そうした背景から、年々需要を伸ばしているのが、コンパクトな平屋です。新しいマイホームの選択肢として、平屋住まいを選んだ方たちの事例取材を進めると、平屋が支持される5つのポイントが見えてきました。

平屋が支持される5つのポイント
1 上層階の重さがかからず、地震に強い構造がつくりやすい
2 施工コストが安く、購入できる人の幅が広がった
3 ランニングコストが安く、高性能な家が実現できる
4 アメリカンテイスト、ログハウスなど、デザインバリエーションの増加
5 ミニマリスト、終活など、モノを持たない暮らしへのシフト

それでは、具体的に見ていきましょう。

ポイント1 熊本地震以降、地震に強い平屋の需要が急増

熊本地震以降、全国と比較して熊本での平屋の需要が急増したことは、平屋の耐震性に着目する人が増えたことを物語っています。

2016年、震度6と震度7を立て続けに観測した熊本では、木造2階建て住宅の1階部分が上階に押し潰される形での倒壊が数多く見られました。こうした経験から、再建築や新築の際需要が増加したのが、シンプルで安定した構造の平屋の住まいでした。

全国と熊本の平屋棟数・着工割合

2016年以降、全国と比較して、熊本の平屋の割合が増加したことがわかります(データ/国土交通省より)

熊本県熊本市の工務店、グッドハート株式会社の営業・宮本紬麦さんにお話をうかがうと、「熊本地震から5年以上経っても、震災後の家づくりとしてやはり耐震性を気にかける方は多い印象です。当社で2022年度に完工した26棟のうち、10棟が平屋でした。セールスポイントであるローコストや自由設計という点にまず着目して来られる方からも、耐震性能の話は確実に出てきます」
地震に強い構造がつくりやすいということが、平屋を選ぶ大きな理由のひとつになっているようです。

外観と内観

(写真提供/グッドハート)

平屋が耐震性に優れているのは、バランスが取りやすい安定した構造であること、また建物の重心が低いため揺れにくいことが挙げられます。家にかかる重量という点でも、2階建て以上の建物と比べて軽いことから、倒壊のリスクは軽減されるといえます。
加えて、玄関や窓から屋外に逃げやすいという点も、平屋のメリットでしょう。

子どもが巣立ったのを機に、2階建ての家からリフォーム済み中古の平屋に移り住んだSさん夫妻(栃木県・夫60歳、妻52歳)。以前は福島県にお住まいで、東日本大震災で大きな地震も経験しています。「前の家では小さな地震でも2階にいると揺さぶられるように感じることがありましたが、平屋に住んでからはそこまでの揺れを感じたことがありません。いざ大きな地震や火災が起きても、足腰に負担をかけずすぐに外に逃げ出せると思うと、安心感があります」と言います。

中古の平屋をリフォーム

中古の平屋をリフォームし、夫妻と愛犬で第二の人生を楽しんでいるSさん宅(写真撮影/masaru tsurumi)

関連記事:50代から始めた終活でコンパクト平屋を選択。家事ラク・地震対策・老後の充実が決め手、築42年がリフォームで大変身

ポイント2 施工コストが低いから、多くの人の手に届きやすい

一般的に、階段や2階トイレの確保、建築中の足場代などがより必要な2階建て住宅と比べ、施工コストが抑えられる平屋。太陽光発電、高断熱といった機能性を追求しつつ、70平米前後で1500万円を切るローコスト新築住宅も登場しています。手元に老後資金を残したいシニア世帯や、住宅ローンの借入額に不安を感じていたシングル世帯、ひとり親世帯など、さまざまな人に手が届きやすい価格帯といえます。

夫と2人、マンションから住み替えたRinさん(千葉県・50代)の平屋は、約60平米で建築費は1600万円台。子どもが就職し、教育費がかからなくなったタイミングでの購入でした。「夫が住宅ローンを組める年齢だったので、10年で完済する予定で住宅ローンを組みました」と話します。

Rinさん宅

夫と二人暮らしをしているRinさん宅。面積は以前のマンションより2割ほど小さくなりました(写真提供/Rinさん)

関連記事:50代人気ブロガーRinさんがコンパクト平屋に住み替えた理由。暮らしのサイズダウンで夫婦円満に

前出のSさん夫妻(栃木県・夫60歳、妻52歳)は、老後を見据えた終活のひとつとして平屋での暮らしを選択。「平均寿命である80歳まで、住むのは20年。手元にもお金を残しておきたかったし、金銭面では無理をしないでおこうと思いました」と、元の家の売却金額をスライドして支払いに充て、住宅ローンを組まずに購入しました。

Sさん夫妻

平屋で、愛犬と一緒に二人暮らししているSさん夫妻(写真撮影/masaru tsurumi)

両親の介護を終え、実家で一人暮らしをしていたTさん(埼玉県・60代)は、実家の敷地の半分を売却し、その資金で65平米の平屋を新築しました。「必要最低限のほどよいサイズで、シンプルなつくりが気に入っています。女性単身で『家を建てるなんて無理』と思われるかもしれませんが、私にもできました」。庭では家庭菜園を楽しみ、広いウッドデッキは地域の憩いの場にもなっています。

自宅の敷地に平屋を新築したTさん。愛猫と一緒に一人暮らしを満喫しています(写真撮影/片山貴博)

関連記事:実家じまい跡に65平米コンパクト平屋を新築。家事ラク&ご近所づきあい増え60代ひとり暮らしを満喫

ポイント3 ランニングコストが安く、高性能な家に住める

この1年余りでエネルギー高に直面し、ランニングコストを下げたいという希望も高まってきました。コンパクトな平屋は冷暖房効率が高く、家中の温度を一定にしやすいのが特徴。高齢になるほど心配なヒートショック対策にもなります。また、同じ床面積の2階建てと比較して平屋は屋根面積が大きいため、より多くの太陽光パネルを設置することができます。発電効率がよく、メンテナンスがしやすいことも、注目したいポイントです。

80代の母と同居するため、2階建ての実家を約50平米の平屋に建て替えたHさん(千葉県)。「冬は朝起きる前に1時間ほどエアコンをつけておき、日中は灯油ストーブとリビングのホットカーペットだけ。廊下もないので、家中の温度差はほとんどありません」と、気密性の高いコンパクト平屋の快適さを実感しているそうです。

Hさん宅

モダンな土間キッチンのあるHさん宅。格子戸で仕切れる和室を母との2人の寝室に(写真提供/木のすまい工房)

関連記事:2階建て実家をコンパクト平屋に建て替え。高齢の母が過ごしやすい動線、高断熱に娘も満足

子どもが社会人になり独立、夫婦二人暮らしになるにあたり、67平米の平屋を新築したTさん(埼玉県・夫30代、妻40代)は、「小さい住まいは断熱性能がとてもよく、夏も冬もエアコン1台で快適に過ごせました」。電気料金が値上がりしても、使用電力が以前より少なく済んだため、電気代は抑えられたといいます。

Tさん宅

Tさん宅にはエアコンがリビングに1台のみ(写真撮影/片山貴博)

夫婦二人暮らしの久保田さん(群馬県・40代)の住まいは、約73平米、2LDKの平屋。「エアコンは3室に設置してありますが、この冬はリビングにある24畳用のエアコンだけ稼働させて、十分暖かかった。寝室に入ったときも寒さは感じませんでした」と言います。屋根には太陽光パネルを搭載。「今後メンテナンスが必要になったときも、足場が最小限で済むから費用は抑えられるはず」と話します。

久保田さん夫妻

開放的なリビングでストレスなくのびのび暮らす久保田さん夫妻(写真撮影/片山貴博)

関連記事:40代共働き夫婦、群馬県の約70平米コンパクト平屋を選択。メダカ池やBBQテラスも計画中で趣味が充実

ポイント4 アウトドア風などデザインのバリエーションも豊富に

カリフォルニアの風を感じるようなガレージ付きのアメリカンスタイルの家に、ぬくもりあふれるログハウスなど、コンパクトな平屋にも多彩なデザインが続々登場。好みや趣味によりフィットした、豊かな暮らしが叶います。テレワーク用の部屋やアウトドアなど趣味を楽しむ拠点として、敷地内に建てる“離れ”感覚のタイニーハウスも人気が高まっています。

前出のTさん夫妻(埼玉県・夫30代、妻40代)は、車をメンテナンスできる大きなガレージがほしいと、67平米のアメリカンハウスの平屋に住み替えました。「西海岸をイメージした、吹き抜けのある白いリビングが気に入っています。庭にはドライガーデンと、季節の花を植えた花壇を作りました。のんびり庭いじりしたり、デッキでお酒を飲んだりする時間が楽しいです」

Tさん夫妻

庭にガレージを建てるのが目標と話すTさん(夫)(写真撮影/片山貴博)

自宅の敷地内に約10平米のログハウスをセルフビルドした桑原さん(長野県・40代)は、10代のときから集めていたビンテージ雑貨や自転車、バイクなどを並べ、趣味の空間をつくり上げました。「6畳だけの空間は、湯船みたいな“おこもり感”もあり、サッシを開け放てばデッキの先につながる庭が見渡せて、視界が広がり開放感もあります」。ログのぬくもりも心地いい、秘密基地のようなサードプレイス平屋です。

桑原さんの小屋

ログ小屋のキットを購入してセルフビルドした桑原さんの小屋。薪ストーブもあります(撮影/窪田真一)

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ポイント5 ミニマリスト、終活など、ものを持たない暮らしが実現

終活や実家じまいなどを通じて、ものを多く持つことで見えてくる課題にふれ、この先はシンプルに暮らしたいと考える人が増えてきました。コンパクトな平屋の住まいは、余計なものを持たないミニマム志向の暮らしにマッチします。

約60平米の平屋に住む前出のRinさん(千葉県・50代)はこう言います。「収納は、扇風機のような季節家電が入るくらいの奥行きがあれば十分。洋服も若いときほど多くなくていい。クロゼットもパントリーも、何があるか一目でわかるように収納しています」。必要なものだけを厳選し、家事動線を整えた小さな平屋暮らしでは、家事ストレスが減って夫婦仲も円満になったそうです。

キッチンとパントリー

写真右はキッチン横のパントリー。奥行きが浅く、全部見渡せるので、何があるのか忘れません(写真提供/Rinさん)

母娘2人で暮らす前出のHさん(千葉県)は、実家を約50平米の平屋に建て替えるのを機に、ものをすっきりと処分。「実家は使っていないものであふれていました。今の家に持ってきたのは本当に必要なものだけ。収納場所も限られていますが、手の届く範囲に収納できて、どこに何があるかきちんと把握できています」

Hさん宅

2階建ての実家を平屋に建て替えたHさん宅。ものを減らしてすっきり暮らしています(写真提供/木のすまい工房)

ライフスタイルの変化に合わせて、ものを減らし、スムーズな動線で快適に心地よく暮らす。地震に強く、広さも価格もミニマム。そんなコンパクト平屋は、世代を問わず、これからの理想の住まいとして、ますます広がりを見せていきそうです。

●関連ページ
「SUUMOトレンド発表会 2023」プレスリリース
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●取材協力
・グッドハート株式会社/ペンギンホーム
・株式会社カチタス
・Rinさん ブログ「Rinのシンプルライフ」
・ヒロ建工
・木のすまい工房
・古川工務店
・ケイアイスター不動産株式会社
・BESS(株式会社アールシーコア)

50代から始めた終活でコンパクト平屋を選択。家事ラク・地震対策・老後の充実が決め手、築42年がリフォームで大変身

70平米前後までのコンパクトな平屋が、新しいマイホームの選択肢として、じわじわと需要を伸ばしている。子どもが巣立ったあとのシニア世帯の住まいとして、多彩な価値観をもつファミリー世帯の成長の場として、趣味や余暇をたのしむ一人暮らしの個性を表現する場として……。住人の属性や選択の理由もさまざまだ。ここでは、6LDKの戸建てを売却し、県外の平屋に移り住んだシニア世帯を取材した。

両親の介護を経験し、老後を見据えて転居を計画

夫が50代半ば、妻は40代のころに、「自分たちの老後を見据えて終活を始めた」と話すSさん夫妻(夫60歳、妻52歳)。約2年前からコンパクトな平屋を検討していたという。

もともとの住まいがあったのは福島県中部の市。結婚当初に新築した2階建て6LDKの日本家屋に36年間住み、夫の両親と同居しながら、子どもを2人育てた。現在は子ども達が独立し、親は高齢者向け施設へ入居したので、夫妻と愛犬との生活。
「両親を自宅で介護していたころは、金銭面も体力面も大変でした」と振り返る。

「これまで両親の世話した苦労があるからこそ、自分たちは、県外で暮らしている息子や娘に面倒をかけないようにしようと決めました」

そんななか、まず平屋を検討した理由は、「年齢的に2階へ上がるのが億劫になり、コンパクトに暮らしたいと思ったから」。もとの家の2階には3部屋とクローゼットがあったが、子どもが巣立ち、どの部屋も物置同様となって、荷物がホコリをかぶっていたのが気になった。

第二の人生を歩む引越し先には、娘夫婦が住む栃木県那須塩原市を選んだ。「息子は東京に住んでいますが、自分たちは都会に住みたいとは思わなくて……。栃木なら、東京からでも、車や新幹線で来やすい距離ですから、親族が集まりやすいなと思いました」

和室4室と勝手口付きの食堂があった平屋を中古で購入。開放的なLDKがある現代的な住まいへリフォームした(写真撮影/masaru tsurumi)

和室4室と勝手口付きの食堂があった平屋を中古で購入。開放的なLDKがある現代的な住まいへリフォームした(写真撮影/masaru tsurumi)

リフォーム後はリビングに(写真はリフォーム前)(写真提供/カチタス)

リフォーム後はリビングに(写真はリフォーム前)(写真提供/カチタス)

30軒紹介されても、条件に合う平屋が見つからない

Sさん夫妻は平屋の中古物件に候補を絞り、現地のメーカーや不動産業者に依頼した。

「金額面で無理はしないでおこうと、価格は土地込みで1000万円から1500万円くらいを考えていました。今60歳で、平均寿命である80歳まで20年しか住まないのですから、そこで無理をしていい家に住んでも仕方がない。手元にもお金を残したかったので」とにこやかに話す。
並行して、住んでいた一戸建ての売却を地元の不動産業者に依頼した。

しかし、平屋の物件は思った以上に見つからなかったという。立地や価格面で候補となる家は約30軒見学したが、どれも2階建てだった。

「現地の不動産会社さんから、『実際には平屋の空き家もあるけれど、家庭の事情などで売りに出されていない』と聞きました。途中で1軒だけ平屋を紹介されたのですが、敷地が狭く、駐車場が1台分だけ。夫婦ともに通勤するためすでに車を2台持っているし、娘が車で遊びに来るので、3台分は欲しいと思って、断りました」

平屋探しを始めてから1年が経過した。
「あまりに見つからないので、2階建てに住んで、1階部分だけを平屋のように使おうか?」と考え始めていた。

日当たりのいい南側は、LDKに隣接した和室に。ゴロンとくつろげるのがいいところ(写真撮影/masaru tsurumi)

日当たりのいい南側は、LDKに隣接した和室に。ゴロンとくつろげるのがいいところ(写真撮影/masaru tsurumi)

リフォーム内容と金額の打ち合わせを経て、契約へ

現在の物件を紹介したのは、群馬県に本社を置き、全国120店舗以上ある拠点で中古住宅を買取り、リフォームして販売する会社だった。

「やっと出てきた平屋で、『やった!』と思いました。それも、娘夫婦の家と車で10分たらずの立地で、駐車場が4台分に部屋が4部屋。ほどよいサイズ感だと思いました。ただ、リフォーム前の段階で見学したので、内装が古く庭が荒れていて、『うわっ、汚いな』とも思いましたが(笑)」

(画像提供/カチタス)

(画像提供/カチタス)

この平屋は築42年、71.21平米の3LDKだった。空き家状態で同社が買い取ったので、中の家具などはそのままで、仏壇まで残っていたという。会社が買い取って荷物を整理した後に連絡があり、Sさんが見学した。

「その後会社からリフォームについての打ち合わせがあり、『だいたいこのようなリフォームをしてこれくらいの金額になりますが買いますか?』と。それを聞いて、ここに決めますと話しました」と夫。一昨年の10月に平屋購入の契約をした。

「2022年の2月か3月ごろに引き渡しの予定でしたが、昨今の世界情勢から建材の搬入が先延ばしになり、引き渡しは昨年の5月の連休明けでした。銀行でお金のやり取りをして、荷物を積んで、鍵を持ってすぐに入居しました」

慌しくなったのは、時を同じくして、福島県にある自宅の購入希望者が現れたからだった。

「急だったけれど、これを逃すといつ売れるか分からないので、夫婦2人で引越しの作業をしました。平屋の手付金を払ってから1週間で前の家が売れるというタイミングだったので、引越し会社も呼べず、すべて自分たちで行い、バタバタでした。ただ、家が売れる前から、終活として荷物の整理を少しずつ始めていたので、引き渡し時には何も残っていない状態にできました」

金額面は、元の家を売却した金額が平屋の値段とほぼ同じだったことから、そのままスライドして支払うことができた。

コンパクトな住まいなのでコミュニケーションが取りやすく、和やかな雰囲気(写真撮影/masaru tsurumi)

コンパクトな住まいなのでコミュニケーションが取りやすく、和やかな雰囲気(写真撮影/masaru tsurumi)

和室2室を日当たりのいいLDKへ大幅リフォーム

とはいえ、6人家族時代からある36年分の荷物を、軽トラックで何往復もして運ぶのは大変だったという。

「まだ着られる洋服はリサイクルショップへ。鉄屑は鉄の業者さんに持っていき、できるものは千円くらいだとしても換金しました。物を捨てるのにもお金がかかりますから」と、Sさん夫妻は合理的かつ行動的。

「昔の家なので、湯呑みなどの食器類や座布団、布団なども多かったですね。処分した布団だけで2tトラック1台分ありました。タンスは全部処分して、軽くて中身が見やすいプラスチックケースに変えました。持ち物は半分以下に減らして引越しましたが、こっちに来てから、やっぱりいらないと思って捨てたものもあります」。処分した荷物は軽トラック2台分になった。

購入した平屋は、畳の和室4つに食堂付きという造りだったが、間取りを変更して大幅にリフォーム。会社から提案されたプランをベースに、Sさん夫妻も意見を出した。

「大きな変更は、キッチンの形をI型からL型に変更してもらったことです。これによりキッチンの作業スペースが広がり、リビングに開放感が生まれました。壁になる予定だったリビングと和室の間を取っ払って、和室と一体型のLDKにしてもらったんです。この間取り変更は大正解。もともと設置してもらう予定だったI型のシステムキッチンですと私たちの生活動線では作業スペースが足りないと感じ、さらに出入りがしにくくなりそうでしたから。また、会社がもともと予定していたリフォームは、元食堂の勝手口を防犯面の観点から塞ぎ、そこにトイレをつくるというものでした。リフォーム後の間取りは、キッチンだけでなく玄関やトイレの位置までパーフェクトです」

新設したトイレに窓をつけることは妻が、浴室の壁の一面と洗面所にモダンなブラウンのシートを使用することなどは二人で提案した。

L字型のシステムキッチンに、ダイニングとの間仕切りと収納を兼ねてカラーボックスを設置(写真撮影/masaru tsurumi)

L字型のシステムキッチンに、ダイニングとの間仕切りと収納を兼ねてカラーボックスを設置(写真撮影/masaru tsurumi)

リフォーム前のキッチン(写真提供/カチタス)

リフォーム前のキッチン(写真提供/カチタス)

コンパクトな暮らしに加え、日当たりと静けさを手に入れた

生活が変わった部分は、「最近、階段を上っていないこと」と話す夫。2階に上がらなくていいのは本当にラクですね」と、平屋の良さをしみじみと話す。

「住まいがコンパクトなので動きやすく、足の運びがいいですね。家の真ん中に押入れを造ったので、その周りをぐるりと1周すれば、LDKも水回りも玄関もあり、動くことや片付けが億劫ではなくなりました。また以前は、地震の際に2階にいると、揺れを大きく感じることがありましたが、こちらに引越してからは、まだ感じたことがありません。これも平屋の良さかもしれません」

廊下沿いに押入れと物入れがあり、クローゼットとして使用。周囲をぐるりと回遊できる(写真撮影/masaru tsurumi)

廊下沿いに押入れと物入れがあり、クローゼットとして使用。周囲をぐるりと回遊できる(写真撮影/masaru tsurumi)

また、「ここは静かで日当たりがいい」と口をそろえる二人。
「以前の住まいは、建てたころは静かな場所でしたが、新興住宅地になってしまい、集合住宅が300棟くらい建ちました。庭の前にも家があり、私たちの暮らしにとっては騒がしかったんです。また、最近建てられた住宅は背が高いので、私たちの2階建てには、南側からの日が当たらなくなってしまって。今は一日中、日が当たりっぱなしで嬉しいです」
愛犬も家の中を走り回っている。

娘夫婦以外、知り合いがいない県に移り住んだが、近所付き合いもうまくいっているという。
「ご近所さんが自家製の野菜を分けてくれるなど、仲良くしてもらっていますね。ここでは、自分たちは若い方なんです」と笑う。
また、Sさん夫妻は引越してから共に転職し、自宅から車で15分ほどの職場にそれぞれ通い、地域に馴染んでいる。

娘夫婦も頻繁に遊びにくるという。
「いくら準備をしたって、歳を取れば少なからず身内に迷惑をかけることになるけれど、遠くで迷惑をかけるよりは、近い距離で迷惑をかけた方が、精神的にも金銭的にも楽ですね」

周辺には行楽地があり、今後も楽しみが増えたという。
「ここまで忙しかったので、まだあまり出かけていないけれど、温泉なども近いので、夫婦でこれからの生活を満喫したいですね。住まいの計画としては、庭をいじって変えていきたいと思います。愛犬のためのドッグランと、幅2mくらいのウッドデッキを造りたいという計画があります」

「こちらに移り住んでから、白髪を染めるのをやめました」と自然体な夫と、共に夫の両親を介護した盟友でもある妻。平屋で愛犬との静かな暮らしを楽しむ(写真撮影/masaru tsurumi)

「こちらに移り住んでから、白髪を染めるのをやめました」と自然体な夫と、共に夫の両親を介護した盟友でもある妻。平屋で愛犬との静かな暮らしを楽しむ(写真撮影/masaru tsurumi)

シニアが平屋ライフを楽しむには……

Sさん夫妻に、シニアが充実した平屋ライフを送るコツを聞いてみた。
「やはり、早くから『何歳でこうする』というプランを立てておくといいと思います。私たちは、次は墓地を買って自分たちのお墓を建てる計画があり、お葬式のことも話し合っています。また、『どちらかが1人になったらホームに入ろう』とも決めています。歳をとると、一日一日が速いもの。予定を立てずにダラダラと過ごしてしまうと、周りの人に迷惑をかけることになりかねません。何より、計画を立てておくことで、自分たちが安心して暮らすことができます」

コンパクトな平屋暮らしは、年配者2人などのシニア世帯にはピッタリだと話す夫。
「平屋は、シニア世帯にすごくおすすめです。いざ、火災や地震があった時も、足腰に負担をかけず、すぐに外に逃げ出せますから。また、病気などで万が一という状態のときに、救急車が家の前まで付けられることもいいですね。例えば、一分一秒を争う脳梗塞のように、体が動かせないような状況の時に、2階から大人を担架に乗せて降ろすのは、大変だと思います。私たちにとってはあらゆる面で、安心して暮らすことができるのが、コンパクトな平屋です」

4台分ある駐車場。度々遊びに来る娘夫婦をはじめ、来客がある時も安心。お手製のドッグランを造る計画もある(写真撮影/masaru tsurumi)

4台分ある駐車場。度々遊びに来る娘夫婦をはじめ、来客がある時も安心。お手製のドッグランを造る計画もある(写真撮影/masaru tsurumi)

まだまだ現役の50代前後で「終活」に取り掛かり、荷物を処分して一戸建てを売り、県外の平屋に住み替え、転職もしているSさん夫妻の鮮やかな人生設計に脱帽。

71.21平米の3LDKなら、マンション住まいとあまり変わらない。その上、生活音をあまり気にしなくてもよく、ドアを開けたらすぐ庭や駐車場という一戸建ての良さが付いてくるのは魅力的だと思う。

誰でも歳をとるのだから、なるべく暮らしをコンパクトにして、毎日を楽しみたい。それにはやはり事前の計画が大事……! 2人の若々しくスッキリとした表情に、考えさせられることが多かった。

●取材協力
株式会社カチタス