相撲部屋付き賃貸を押尾川親方がプロデュース。朝稽古を見学、ちゃんこを力士と一緒に楽しめる生活って? 墨田区「クリエイティブハウス文花」

“1階が相撲部屋のシェアハウス”というユニークな形態の賃貸マンションが昨年2022年4月、墨田区に誕生しました。朝稽古の見学会やちゃんこ会など住民を招いてのイベントもあるというこのユニークな物件について、親方の思いのほか、管理会社、入居者に話を聞きました。

1階に相撲部屋がある賃貸マンションとは?

1階にコンビニなどの商業施設やクリニックが入っているマンションはよく目にします。「1階に自分の好きな店や、よく使う施設が入っていること」は、物件探しの際にも意外と重要な要素ともいえるでしょう。他にはなかなかない「1階に相撲部屋がある」物件に住んでいるというのは、ちょっと得難い体験ができるのでは?と、思うのですが、実際はどうなのでしょうか?

大都会のなかのローカル線、といった趣のある東武亀戸線小村井駅から歩いて5~10分ほどの住宅街のなかに、モダンなマンションがあります。よく見ると1階の入口に「押尾川部屋」の立派な看板が見えます。これが、相撲部屋のある賃貸マンション「クリエイティブハウス文花」です。

遠目には普通の現代的なマンションに見えるが……(写真撮影/片山貴博)

遠目には普通の現代的なマンションに見えるが……(写真撮影/片山貴博)

相撲部屋の看板が目を引く(写真撮影/片山貴博)

相撲部屋の看板が目を引く(写真撮影/片山貴博)

緊張感漂う相撲の朝稽古を見学

朝8時、朝稽古の様子を見学できるということなので、実際にお伺いしてみました。

この日の見学者は20名ほどいましたが、そのほとんどが外国人です。外国人に交じって稽古場がオープンするのを待ちます。

稽古場は、土俵がすっぽり入るのはもちろん、土俵の横にはすこし広めの板間もあります。力士は、稽古が終わると板間でちゃんこを食べるわけです。

土俵だけでなく、テッポウをするためのテッポウ柱(鏡の前の柱)なども備え付けされている(写真撮影/片山貴博)

土俵だけでなく、テッポウをするためのテッポウ柱(鏡の前の柱)なども備え付けされている(写真撮影/片山貴博)

稽古が始まると、力士はすり足、四股といった基礎練習を黙々とこなします……ふだんテレビで見るような取り組みとは違った迫力があり、力士の真剣さがダイレクトに伝わってきます。

四股を踏む力士たち(写真撮影/片山貴博)

四股を踏む力士たち(写真撮影/片山貴博)

驚嘆したのは、力士たちの股割りの角度です。股割りは、ケガを防止するための、いわゆるストレッチですが、どの力士もほぼ180度の信じられない角度で足を広げて床に突っ伏します。椅子から立ち上がるだけでも体がガクガクするほど運動不足の僕にとってはまさに異次元の世界です。さすが力士です。

基礎練習が終わると、ぶつかり稽古が始まります。真剣に稽古を行う力士の掛け声が真新しい稽古場に響きます。親方や先輩力士が後輩力士に対し、丁寧かつ真剣にアドバイスする様子など、見学者は身動きせず、固唾をのんでその様子を見守っています。

稽古と言えども、迫力はすごい(写真撮影/片山貴博)

稽古と言えども、迫力はすごい(写真撮影/片山貴博)

おそらく、外国人観光客の方には、どんなことがやりとりされているのかは、わからないかもしれません。しかし、その真剣な雰囲気は、十分に感じ取ることができたでしょう。

朝稽古の見学は、8時からスタートし、1時間半ほど見学することになります。誰でも無料で見学することは可能ですが、ふらりと行って見られるわけではなく、開催日と定員が決まっており、事前に申し込みが必要です。時間厳守の上で途中での入退場ができませんので、見る方も本気で見に行かなければいけません。

力士への真剣で丁寧なアドバイス(写真撮影/片山貴博)

力士への真剣で丁寧なアドバイス(写真撮影/片山貴博)

張り詰めた雰囲気の稽古が終わると、一挙に緊張がほぐれます。親方が海外からの見学者に「ウェアーアーユーフロム?」とフランクに声を掛けると、にこやかに「Hong Kong」だとか「France」という答えが。
そうこうするうちに、見学者たちと記念撮影の時間が和やかに始まります。本物の力士さんと写真が撮れるという機会、日本人でもなかなかありません。

ちなみに、昔から「お相撲さんに赤ちゃんをだっこしてもらうと健康で丈夫になる」という言い伝えがありますが、押尾川部屋では、力士に赤ちゃんをだっこしてもらって写真を撮影できる『赤ちゃんだっこ体験会』も開催しています。

戦災を受けずに残った町に相撲部屋が来た

押尾川部屋は、元関脇の豪風だった押尾川親方が2022年に独立し、17年ぶりに再興した相撲部屋です。そのため、稽古場を新しくつくることになり、墨田区の文花に、賃貸マンション付きの相撲部屋を新築しました。

押尾川親方がこの墨田区文花に相撲部屋をつくることを決断したのは、両国国技館からの近さもあるそうですが、地域との交流、地域に愛される相撲部屋を目指すためという目的もあったとのこと。
地域住民ファーストのため、朝稽古の見学は、近隣の方が最優先となっています。実際、取材の日も近隣からの見学者も何名かいらっしゃったようです。

クリエイティブハウス文花と道を挟んだ向かい側は、墨田区京島三丁目の趣のある町並みが広がります。京島二丁目と三丁目は、戦災での空襲を受けなかったため、大正時代の古い町並みが今でも残り、築100年を超えるような長屋もいくつかあります。

大正時代から続く古い住宅が残る趣ある町並み(写真撮影/片山貴博)

大正時代から続く古い住宅が残る趣ある町並み(写真撮影/片山貴博)

珍しい「1階に相撲部屋があるシェアハウス」

クリエイティブハウス文花を管理する不動産会社「エイゼン」は、墨田区のこの地域に物件をいくつか所有していますが、築年数の古い住宅や長屋をシェアハウスとして再生したり、創作活動を行うアーティストや美大生のための住居兼アトリエにリノベーションするなどの物件を、展開しています。

今、押尾川部屋のあるマンションも、数年前までは築90年以上の古い長屋建築でしたが、容積率の関係で、すこし大きめの建物が建てられることから、今回建て替えし、下層階に相撲部屋、上層階にワンルームとシェアハウスというちょっと珍しい形態のマンションとなりました。

元々、墨田区のこの地域に「相撲部屋をつくりたい」と考える親方は多かったようですが、今回はたまたま押尾川親方と、古い建物の建て替えを検討していたエイゼンを地元の銀行が仲介し、この「相撲部屋のある賃貸マンション」が誕生しました。
建物自体はエイゼンが管理し、そこに押尾川部屋が力士の住居も含めて家賃を払って入居する、という形ですが、相撲部屋部分の内装は特別仕様となっており、風呂場やトイレなどのサイズは力士仕様の大きいサイズのものが設置されているそうです。

なお、入居者はエイゼンが運営する近所のトレーニングジムが使い放題になります。もちろん、このジムは力士も使うため、力士用のサイズの大きなトレーニング装置を設置したとのこと。力士と一緒にジムで体を鍛えられるというのも、他にはない魅力のひとつでしょう。

シェアハウスの部屋は、ベッド、机、冷蔵庫などの家具はすでに備え付けされている(シェアハウス平米数:9.56~11.78平米 写真の部屋は9.72平米)(写真撮影/片山貴博)

シェアハウスの部屋は、ベッド、机、冷蔵庫などの家具はすでに備え付けされている(シェアハウス平米数:9.56~11.78平米 写真の部屋は9.72平米)(写真撮影/片山貴博)

シェアハウス部分の共用スペース。キッチン、ダイニングテーブルなど入居者は自由に使える(写真撮影/片山貴博)

シェアハウス部分の共用スペース。キッチン、ダイニングテーブルなど入居者は自由に使える(写真撮影/片山貴博)

窓も大きく、部屋が明るい(ワンルーム)(1K平米数:25.27~25.74平米 写真の部屋は25.27平米)(写真撮影/片山貴博)

窓も大きく、部屋が明るい(ワンルーム)(1K平米数:25.27~25.74平米 写真の部屋は25.27平米)(写真撮影/片山貴博)

賃貸部分の部屋が、普通のファミリータイプの部屋ではなく、ワンルームとシェアハウスという形になっているのは、このマンションのすぐ近くに、大学が2つもあるためです。ただし、実際に入居者を募集したところ、学生よりも相撲が好きな社会人からの問い合わせが多く、なかには、いわゆる“スー女”と呼ばれる相撲好きの女子や、かつて学生相撲などをやっていた会社員など、相撲に関心のある人が入居するなどし、これに関しては、「嬉しい誤算だった」とエイゼンの片桐社長はいいます。

学生だけでなく、相撲好きの人にも人気の物件となったのは結果としてはよかった(写真撮影/片山貴博)

学生だけでなく、相撲好きの人にも人気の物件となったのは結果としてはよかった(写真撮影/片山貴博)

実際に、入居されている島田(仮名)さんは、SNSで「1階が相撲部屋のマンションがある」という情報を知り「なんだか面白そう」ということで、入居しました。入居して間もないため、朝稽古の見学にはまだ行ったことがないそうですが、それよりも先に、押尾川部屋の後援会が主催するちゃんこ鍋食事会には参加されたそうです。

ちゃんこ鍋食事会の様子(写真提供/エイゼン)

ちゃんこ鍋食事会の様子(写真提供/エイゼン)

片桐社長は、「押尾川部屋の力士たちは、人数は少ないものの、健闘している力士たちばかりで、場所が始まると、エイゼンの事務所では相撲中継で押尾川部屋の力士を応援している」といいます。
大相撲の力士は、同じ県出身の力士というだけでも、なんだか気になったり、応援したくなる存在です。ましてや、自分の住んでいるマンションの1階で、いつも稽古をしている力士が、相撲をとっている、しかもその姿がテレビで中継されると思うと、マンション住人の応援の熱の入り方は、ただ事じゃないでしょう。
クリエイティブハウス文花は、住むだけで大相撲中継に対する見方がエキサイティングになるという。なかなかに面白い物件といえます。

マンション住人や地域との交流を促進人の人の繋がりは、力士にとっても力になると語る押尾川親方(写真撮影/片山貴博)

人の人の繋がりは、力士にとっても力になると語る押尾川親方(写真撮影/片山貴博)

押尾川親方によると、感染症対策のため、人の集まるようなイベントは控えていたということですが、今年より、マンション入居者同士や、近隣の住民などを招いた交流会はいくつか計画しているといいます。

マンションからは東京スカイツリーが目の前に大きく見えます。文花周辺は、あまり高い建物がないため、非常に見通しがよく、夜景などは実にきれいだそうです。「でもまあ、見慣れちゃうけどね」と、親方は謙遜しますが、夏には隅田川の花火が大変よく見える位置にあるそうです。
交流会の一環として、7月29日(土)には、押尾川部屋特製のちゃんこを食べたあと、4年ぶりに復活開催される隅田川花火大会をマンション屋上から観覧するイベントが開催されるそうです。

見晴らしが素晴らしいマンション屋上(写真撮影/片山貴博)

見晴らしが素晴らしいマンション屋上(写真撮影/片山貴博)

押尾川親方によると、できれば地域のお祭などへの参加も考えており、地域との交流に関しては可能な範囲で積極的に行っていきたい……とのこと。

当初、親方としては、クリエイティブハウス文花のすぐ近くにある2つの大学に通う学生が、シェアハウスに入居し、若い力士との交流を持ってくれればという思いもあったようです。
親元を離れ、相撲部屋に住み込み、相撲の世界で研鑽を積む若い力士は、どうしても人とのつながりが狭くなってしまいがちだといいます。同じマンションの住人として、境遇の全く異なる同年代の人たちと交流することができると、力士にとっても大変心強いことであり、また、マンションに住む人にとっても得難いものになる……というわけです。
ところが、コロナ禍による行動制限があったためそういった交流もままなりませんでした。
行動制限が解除された今年からは、入居している学生だけでなく、所属力士と住民との交流を積極的に行うことによって、地域に根差した相撲部屋を目指したいとしています。

近所に掲示されていた押尾川部屋のチラシ(写真撮影/片山貴博)

近所に掲示されていた押尾川部屋のチラシ(写真撮影/片山貴博)

ゆくゆくは、押尾川部屋の力士が活躍し、いつかは大関、そして横綱となる日が来ると、マンション住人はもちろん、地域住民も含めて歓喜することになるのは確実です。
マンション住人だけでなく、地域の人々も巻き込んだ相撲部屋の交流が活発になれば、地域全体の盛り上がりにも繋がるでしょう。

●取材協力
クリエイティブハウス文花
押尾川部屋

災害時に雨水タンクが活躍!? 家庭設置には補助金、スカイツリーや国技館にも設置 東京都墨田区

実は貴重な水資源である「雨」を活用する方法として、じわりと広がりつつあるのが雨水タンクです。話を聞いた墨田区だけでなく、さまざまな自治体で購入補助などの助成制度を設けています。今回は雨水活用の方法と水資源、住まいでの導入方法について取材しました。

30年以上前から雨水活用に取り組む東京都墨田区。その理由は?

乾燥して寒~い冬が終わり、空気がゆるみはじめると雨の日が増えます。「春の長雨」といわれるように春、そして梅雨になれば雨の日が続くことも少なくありません。近年では、「ゲリラ豪雨」のように短時間に激しく降ることも珍しくなくなりました。そんな身近な雨を、官民挙げて「水資源」として活用をしているのが墨田区です。でも、なぜ墨田区なのでしょうか。特定非営利活動法人「雨水市民の会」の笹川みちる理事に聞きました。

「雨水市民の会」の笹川みちる理事

「雨水市民の会」の笹川みちる理事。墨田区の取り組みは世界中から視察が来るそう(写真撮影/片山貴博)

雨水市民の会が運営する雨水カフェ

事務所では淹れたてのコーヒーを楽しめる「雨カフェ」も営業中。※現在は不定期営業のため営業日については雨水市民の会にお問い合わせください(画像提供/雨水市民の会)

「墨田区は海抜ゼロメートル以下の場所が区内のあちこちにある地帯なんです。また、40年以上前から豪雨と水被害に悩まされてきました。錦糸町駅前なども一面、水びたしになったこともあったとか。都市で起きる浸水には、降った雨が河川に排水できずに発生する『内水氾濫』、河川から水が堤防をこえて発生する『外水氾濫』があります。下水道は都市に降った『内水の排除』という役割を果たしていますが、近年では、この下水道の排水能力を超えてしまうゲリラ豪雨が頻発しています。浸水被害を防ぐために、貯留浸透施設、つまり小さなダムを街なかに造る必要がある。その小さなダムこそ、『雨水タンク』なんです」とその背景を教えてくれました。

墨田区の公園にある海抜マイナス表記の案内板

墨田区の公園では海抜のマイナス表記が。ひとたび河川が氾濫すれば被害は甚大(写真撮影/片山貴博)

東京の下水道は、高度経済成長期の急速な都市化に伴って整備されたもの。現在のような人口密度や豪雨、コンクリート化が想定されておらず、昨今のゲリラ豪雨に見舞われると下水道では処理しきれないといいます。そのため、ダムのように一時的に雨水を貯め、ゆるやかに流す取り組みが必要なのです。雨水処理のバッファを大規模なダムだけでなく、地上のあちこちにつくると思うとイメージがつかみやすいかもしれません。

「現在、墨田区では条例を制定し、大規模な建造物やマンションなどには雨水タンクの設置を義務付けています。例えば、両国国技館、墨田区役所、東京スカイツリータウン®、オリナス錦糸町などにも大規模な雨水タンクが設置されていますし、大規模な分譲マンションにも地下に雨水タンクが設置されているはず。現在、区内には大小あわせて731カ所のタンクがあるんですよ」

こうしてタンクで雨の流出抑制を行うことで、下水道への負荷を軽減し、内水氾濫を防いでいるのです。また、墨田区では、一般家庭が雨水タンクを設置する際にも助成金(価格の半分まで、最大5万円)を出しているそう。言われてみないと気がつきませんが、街を守るための地道な取り組みがなされてきたんですね。

墨田区の路地にある路地尊(ろじそん)

墨田区の路地にある路地尊(ろじそん)は、建築家の隈研吾氏が「新・東京八景」として選んだ、風景のひとつ。隣接する建物の屋根に降った雨を地下タンクに貯め、災害時の水資源として手押しのポンプと組み合わせている。地域のシンボル(写真撮影/片山貴博)

貯めた雨水は散水、洗車や掃除、打ち水、非常時のトイレ用水に

では、貯めた雨水はどのようにして活用できるのでしょうか。

「貯めた雨水は、木々に散水したり、洗車などに使ったり、トイレ用水として活用する人が多いですね。規模の大きい建物ほど水も貯まりますので、マンションでは緑地の散水に使ったり、スーパーではトイレ用水として活用しているところもあります。また災害発生時には初期消火に役立ちますし、生活用水、手を加えれば飲水としても活用できるんですよ」

なるほど、日常、災害時と雨水が利用できる幅は思ったより広いようです。一般家庭で設置しやすいサイズは140~200L程度、金額にして5万~6万円程度で、さらに自治体によっては助成金を設けていることもあるとか。ただ、日本の水道代は非常に安いだけに、コスト面だけでメリットがあるかというと悩ましいところだそう。一方で、近年、災害が頻発していることや、普段の掃除に使えるとあれば、導入を考える人も多いことでしょう。

「洗車に使うのであれば、車庫やカーポートの屋根の雨を集められる場所、ガーデニングに使うのであれば庭に近い竪樋にタンクを接続すると使いやすいでしょう。ただ、タンクで貯めた水をトイレ用水にする場合は、屋外からだと配管やポンプの設置が必要だったり、雨水が足りなくなったときには水道水を補給する設備が必要なので、かなり大掛かりなリフォームになります」

市販されている外付けの雨水タンクはドラム缶程度の大きさです。トイレ用水に使用する場合はさらに容量の大きなものがオススメです。雨水タンクを置きたい場合は、新築時やリフォーム時にあらかじめ設置場所を考えておくのがよさそうです。

一般的なサイズ(200L)の雨水タンク。通常の色は紺色ですが、外壁にあわせて色を塗れば目立ちません(写真撮影/片山貴博)

一般的なサイズ(200L)の雨水タンク。通常の色は紺色ですが、外壁にあわせて色を塗れば目立ちません(写真撮影/片山貴博)

雨樋と鉢を組み合わせた雨水活用のイメージ

とある軒先の雨水活用の例。雨樋と鉢を組み合わせることで、貯水機能を果たしています。雨水タンクの貯水量は80L~500Lと幅がありますが、一戸建てでは120~200Lがひとつの目安に(写真撮影/片山貴博)

気になるのは雨水タンクを設置すると虫、特にボウフラなどが湧きそうなことです。注意点などはあるのでしょうか。
「虫対策としては、(1)フタをすること、(2)竪樋から直接雨水を取水すること、(3)雨水を日常的に使って回転させること、を徹底すれば問題ありません。雨水は純水に近いため栄養分が少なく、もともと虫が湧きづらいですしね」。どうやら虫は十分に対策できそうです。

公園に設置された雨水タンク

公園に設置された雨水タンク(左)。上部にあるフタをはずしたところ(右)。竪樋から直接雨を貯めているため不純物が入りにくく、虫が湧くことはありません(写真撮影/片山貴博)

成熟した都市に必要なのは雨水タンクのようなグリーンインフラ

一つ、気になるのが雨のきれいさです。飲料として活用することはできるのでしょうか。
「雲から降る雨って、天然の蒸留水ですごくきれいな状態なんです。ただ、混じり気の少ない超軟水なので大気中の窒素化合物などの汚れを吸収して大地に降りてきます。よく雨水は汚いといわれますが、汚れているのは都市の空気なんです。ただそうやって汚れを吸収して降ってくるため、残念なことにそのままでは飲み水には適さないといわれています」

雨上がりの空がきれいなのは、雨が大気中の汚れを拭ってくれるからだそう。また、もともと空気がきれいなエリアでは、雨を飲水としている地域は少なくないそうで、オーストラリアでは「ピュアレインウォーター」として発売しているところもあるといいます。都市だからこそ、雨が飲水にならないというのは少し寂しい気もしますが、仕方がないことなのかもしれません。

雨水タンクに貯まったきれいな水

雨水タンクの水は見た目は驚くほどきれいで生活用水には十分。汚れているのは都市の大気……(写真撮影/片山貴博)

ここまでの話を整理すると、雨水タンク普及のカギとなりそうなのは、費用というより認知拡大や設置場所といえそうです。では、なぜ今、雨水活用なのでしょうか。

「日本は水道料金も安いですし、降雨量も多いので、水資源が豊かな国という印象の人は多いと思いますが、1人あたりの水資源は、世界平均よりも少ないんです。都市部に人口が密集している、川の勾配が急で滝のように流れていく、というのがその理由です。また、高度成長期に整備された上下水道のインフラは老朽化しつつあり、かつてのように大規模なダムや、貯水池をつくるということも難しくなっています。自然の持つ機能を活用して、地域の魅力・居住環境の向上や防災・減災につなげる取り組みを『グリーンインフラ』といいますが、雨水活用はその一つ。災害が頻発する今こそ大切な取り組みだと思っています」

確かに高齢化が進み、人口が減り始めている現在の日本では、今までの上下水道や貯水ダム、貯水池のような巨大なインフラを新たにつくるどころか、維持するのが精一杯でしょう。ただ、ゲリラ豪雨が頻発していることを考えると、既存にある住まいの一部に工夫を加えて対応するのがいちばんリアルで、有効な対策なのかもしれません。

「いきなり大きな雨水タンクを導入する必要はないので、少しずつ、できることからやってみよう、の精神で始めてみるのがいいと思います。雨水タンクがあると、雨が降るのも楽しみになりますし、台風がくるからタンクを空にしておこう、など意識するようになります。何より雨が貯まるのは楽しいですよ」と話します。

白鬚神社に設置された雨水タンク

白鬚神社にも雨水タンクがありました(写真撮影/片山貴博)

そういえば、神社仏閣など、昔ながらの日本建物には、鎖樋(くさりとい)と水鉢といった工夫があります。雨水を排水しつつ、水の流れを風景として楽しみ、貯まった水は打ち水として使う。日本の暮らしになじみ、受け継がれてきた智慧、それが雨水活用。今こそ、取り入れてみてはいかがでしょうか。

●取材協力
雨水市民の会

浅草・とうきょうスカイツリー駅間に高架下複合施設、2020年春開業

東武鉄道(株)は、東武スカイツリーライン浅草駅・とうきょうスカイツリー駅間の鉄道高架下において、商業施設と宿泊施設が一体となった高架下複合施設を、2020年春に開業すると発表した。墨田区向島1丁目に立地。延床面積約3,554m2(約1,075坪)の平屋建て(一部、2階建て)。隅田公園と北十間川の親水テラスに囲まれた東武鉄道の高架下にあり、新設される隅田川橋梁歩道橋と合わせ、浅草と東京スカイツリータウン間を楽しみながら歩いて回遊できる施設となる。

コンセプトは「Live to Trip」。近隣の方が旅するように過ごし、観光客には暮らすように滞在して欲しいという思いを込め、下町の魅力が感じられる店舗(飲食・物販・サービス)を誘致する。

また、宿泊施設にはワイズアウル(東京都渋谷区)の運営するホステルが開業。国内外の宿泊需要に対応するほか、カフェラウンジやイベントスペースも併設。にぎわいを創出するコミュニティ型ホステルとなっている。

ニュース情報元:東武鉄道(株)