住まいを高く売るには有利な時期?約6割がそう感じた、不動産売却市場。価格と売却時期はどちらを重視?

リクルートが『住まいの売却検討者&実施者』調査(2023年/首都圏)を実施した。過去1年以内に売却を検討した人に、その物件や売却理由、売る時期をどう見ているかなどを聞いている。今どきの売却実態を見ていくことにしよう。

【今週の住活トピック】
2023年『住まいの売却検討者&実施者』調査(首都圏)公表/リクルート

売却を検討した物件の所在地、千葉県と埼玉県で前年より増加

リクルートの調査は、首都圏に住む20歳~69歳の男女に、2023年12月~2024年1月に実施したもの。まず、過去1年以内に土地や居住用不動産の売却を主体的に検討したかを聞き、該当した18%を売却検討者として、本調査を行っている。なお、そのうち38.5%が売却を完了している。

売却を検討したのは「買い替え」か「相続・贈与」か「不要な不動産を処分するため、その他」かを聞いたところ、「買い替え」が58.5%、「相続・贈与」が25.1%になった。ただし、50代・60代では「相続・贈与」の割合が3割前後と増える傾向が見られた。

では、「売却しようと思った理由」は何だろう?1位は「売れるときに売るため」(28.0%)、2位は「住む場所を変えるため」(26.9%)となったが、年々減少にある。3位は「高いうちに売るため」(26.0%)だった。近年の不動産の価格上昇を受けてのことだろう。

不動産を売却しようと思った理由(複数回答)(出典:リクルート「2023年『住まいの売却検討者&実施者』調査(首都圏)」)

不動産を売却しようと思った理由(複数回答)(出典:リクルート「2023年『住まいの売却検討者&実施者』調査(首都圏)」)

売却を検討した物件は、「土地」が25.4%、「一戸建て」が40.0%、「マンション・アパート」が34.6%だった。興味深いのは、売却検討物件の所在地だ。「東京都」が減少トレンドにある一方で、「千葉県」と「埼玉県」がこれまでより増加する形となった。早い時期から価格上昇が感じられた東京23区から遅れて、千葉県や埼玉県でも買い替えがしやすい市場になったということだろうか。

売却検討物件の属性(単一回答)(出典:リクルート「2023年『住まいの売却検討者&実施者』調査(首都圏)」)

売却検討物件の属性(単一回答)(出典:リクルート「2023年『住まいの売却検討者&実施者』調査(首都圏)」)

「高く売るのに有利な時期」か?有利57.5%、不利9.7%

さて、不動産の価格が上昇トレンドにあることで、売却に有利な時期と感じている人が多いのだろうか? 調査結果を見ると、「高く売るのに有利な時期だと感じていた」のは57.5%(とても19.8%+やや37.7%)となり、半数を超えた。一方、「不利な時期だと感じていた」のは9.7%(とても2.5%+やや7.2%)だった。過去の調査と比べると、有利という回答が増え、不利という回答が減る傾向が見られる。

売却検討物件の属性(単一回答)(出典:リクルート「2023年『住まいの売却検討者&実施者』調査(首都圏)」)

※有利・計(「とても有利な時期だと感じていた」+「やや有利な時期だと感じていた」)
※不利・計(「やや不利な時期だと感じていた」+「とても不利な時期だと感じていた」)
売却検討物件の属性(単一回答)(出典:リクルート「2023年『住まいの売却検討者&実施者』調査(首都圏)」)

注目したいのは、有利の割合が、売却タイプ別では「相続・贈与」が51.8%であるのに対し、「買い替え」が64.2%とかなり高くなっている。さらに、物件タイプ別では、「一戸建て」が51.0%で横ばいの傾向であるのに対し、「マンション・アパート」が62.0%、「土地」が61.6%と前年より増えている。高く売るのに有利と感じている人が多いものの、不動産によってその感じ方に微妙な差があるようだ。

売却で時期と価格のどちらを重視する?

さて、「売れるときに売る」「高く売れるときに売る」と思う人が多く、「売却に有利な時期と感じる」人が多いなか、重視するのは、「時期」と「価格」のどちらなのだろう?

「時期(いつ売れるか)を重視する(した)」か、「価格(いくらで売れるか)を重視する(した)」かを聞くと、「どちらかといえば」を含む「時期重視」派は47.2%、「価格重視」派は34.2%、「どちらともいえない」は18.6%という結果となった。

時期と価格のどちらを重視するか(単一回答)(出典:リクルート「2023年『住まいの売却検討者&実施者』調査(首都圏)」)

※時期 重視(「時期(いつ売れるか)を重視する(した)」+「どちらかといえば時期(いつ売れるか)を重視する(した)」)
※価格 重視(「どちらかといえば価格(いくらで売れるか)を重視する(した)」+「価格(いくらで売れるか)を重視する(した)」)
時期と価格のどちらを重視するか(単一回答)(出典:リクルート「2023年『住まいの売却検討者&実施者』調査(首都圏)」)

ただし、年代別で見ると、「時期重視」派は、20代で67.4%、30代で55.0%と、全体平均の47.2%よりもかなり高くなっている。若い世代の方が、子どもの入学前になど、売るタイミングが決まっていて、早く売ることに重きがあるからなのだろうか?

高く売るには、不動産価格が上昇あるいは高止まりしている時期であること、一定規模の需要(不動産を買う人が多い)があること、などの条件が必要だ。後者は、売れるときに売るための条件でもある。住宅ローンの金利上昇がいよいよ現実的になっている今は、売るにはよいタイミングといえるだろう。とはいえ、売る物件と買う人がうまくマッチングするには、個別の事情もある。自分の物件が今の市場でどういったポジショニングにあるのか、見極める必要もあるだろう。

●関連サイト
リクルート「2023年『住まいの売却検討者&実施者』調査(首都圏)」

増加する空き家、政府が不動産売買の仲介手数料上限の一部改正に向けてパブリックコメントの募集をスタート

5年ごとに日本の住宅とそこに居住する世帯の居住状況などを調べる、「住宅・土地統計調査」の令和5年版が公表された。日本の住宅数は増える一方で、空き家の数も過去最多を更新するという結果だった。空き家の実態とその対策について、考えていこう。

【今週の住活トピック】
「令和5年住宅・土地統計調査」結果を公表/総務省

放置されている可能性の高い空き家は全国に385万戸

調査結果によると、日本の総住宅数は6502万戸で過去最多となった。常に居住していない「空き家」の数は、全国で900万戸に達し、空き家率は13.8%にまで上昇した。日本の総人口が減少する一方で、住宅の数は増え、空き家も増えているのが実態だ。

ただし、空き家の中には、売却予定で住んでいない住宅や賃借人の入れ替わりで空いている賃貸住宅など、いずれ居住される予定の住宅も含まれている。さらには、別荘や二次的住宅として、常に居住はしていないが必要な時に利用しているものも含まれる。

空き家すべてが問題なのではなく、居住予定や利用予定のない、“放置された空き家”がさまざまなトラブルの元になる。放置されている可能性の高い「賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家」に限定すると、385万戸、空き家率は5.9%になる。むしろ、この部分が増えていることが問題だろう。

出典:「令和5年住宅・土地統計調査結果」(総務省統計局)

出典:「令和5年住宅・土地統計調査結果」(総務省統計局)

ちなみに、「賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家率」(全国平均5.9%)が10%を超えるのは、北から順に秋田県(10.0%)、和歌山県(12.0%)、島根県(11.4%)、山口県(11.1%)、徳島県(12.2%)、愛媛県(12.2%)、高知県(12.9%)、鹿児島県(13.6%)だった。

放置された空き家はなぜ問題になるのか?

適切な管理をしないで空き家が放置されると、建物は急速に老朽化し、庭木も伸び放題となる。そうなると、建物が倒壊する危険性が高まるだけでなく、周囲の景観を乱したり、害獣や害虫による衛生面の問題が生じたり、犯罪の温床になったりといったトラブルを引き起こす原因になりかねない。

ただし空き家といえど、住宅は個人の財産なので、国や自治体が勝手に立ち入ったり、取り壊したりすることはできない。だからと言って、政府も手をこまねいているわけではない。

「空家等対策の推進に関する特別措置法(空き家対策特措法)」によって、自治体が空き家に立ち入って実態を調べたり、空き家の所有者に適切な管理をするよう指導したり、空き家の跡地の活用を促進できるようにした。放置されて問題となる空き家を「特定空家」に指定したり、その危険性のある空き家を「管理不全空家」に指定することで、自治体が強く関与できるようにもしている。

空き家が放置される原因ひとつひとつに手を打っているが……

空き家を放置する原因のひとつが、売っても値が大してつかないといったことや、住宅が建っていた方が更地にするよりも減税になるといったことがあった。そこで、政府は「特定空家」や「管理不全空家」に対しては、固定資産税の減額措置を解除したり、逆に空き家を売却した場合には、譲渡所得から最大3000万円を差し引ける特別控除の適用を認めたりする措置を取っている。

また、さらに問題を大きくしているのは、所有者が分からない場合だ。相続を繰り返す際に登記をしないことで、所有者が判明しないという事例も多い。そのため、相続登記の申請を義務づける改正を行い、2024年4月から施行されている。

住宅価格の高い都市部では、譲渡所得の特別控除などの対策が効果的に働くものの、過疎地域、郊外型団地、木造住宅密集地などによって、空き家が発生する経緯や解決すべき課題、対応方法などが異なる。空き家に対する相談窓口を強化するなどの対策も講じているが、空き家の課題解決は一筋縄ではいかない。

新たな解決策につながるか?仲介手数料の上限規制を緩和?

2024年5月2日に、「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額」の一部改正案に関して意見募集がされた。いわゆるパブリックコメントだ。

背景にあるのは、不動産会社が不動産の売買などを仲介した際の手数料に規制があることだ。売買では、価額が400万円を超える場合に「売買価格×3%+6万円+消費税」といった速算式がある。なお、200万円以下の場合は売買価格の5%が上限なので、200万円の取引なら仲介手数料は最大で10万円+消費税しか受け取れない。

放置された空き家はこうした低価格な取引にしかならないことが多いため、地方の空き家を仲介しても経費を差し引くと手元に残らないといったことが起こる。同じ時間を都市部の高額な住宅の売買に向けたほうが効率的なので、不動産会社が仲介に積極的に取り組みづらいということになる。

こうした背景を受けて改正案では、低価格な取引となる空き家の売買などの仲介をした場合、価額が800万円以下であれば仲介手数料を従来の規定より多く受け取ることができるようにするという趣旨になっている。ただし、「30万円の1.1倍に相当する金額を超えてはならない」などの制限を設けている。また、長期間空き家の賃貸借の仲介についても、仲介手数料の上限を緩和する案となっている。

これによって、空き家が仲介市場に出回るようになることを期待しているわけだ。

資産である住宅が空き家として放置されるのには、さまざまな理由がある。政府もかなり踏み込んだ対策を打ってはいるが、急速に増加する空き家に追いつかない状況だ。負動産を後世に残さないために、今後も空き家に対する対策をさらに検討する必要があるだろう。

私たちにできることは、空き家にならないように早めに対処したり、しっかり予防することだ。住まないことが想定される親の住まいや別荘などをどうするか、きちんと話し合って準備をしておきたいものだ。

●関連サイト
総務省「令和5年住宅・土地統計調査 調査の結果」
パブリックコメント「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額」の一部改正案に関する意見募集について

「0円空家バンク」等で転入者170人増! 家を手放したい人にもメリットあり、移住者フォローも手厚すぎる富山県上市町の取り組みが話題

「地方に空家があるなら、移住希望者に住んでもらえばいいんじゃない?」そんな誰もが空想する取り組みを実行に移し、大成功している自治体があります。富山県上市町です。では、どのようにして成功させたのでしょうか。現場を見学してきました。

0円空家バンクに希望者殺到。能登半島地震の被災者も受け入れ

富山県上市町は、富山駅から電車で約25分の約2万人の町(令和6年1月31日時点)です。町内の多くは山岳地で、名峰・剱岳があるほか、映画『おおかみこどもの雨と雪』(細田 守監督)の舞台になった町でもあります。以前、SUUMOジャーナルでは、「古民家をイメージした公営住宅が誕生!」という記事でもご紹介しました。

この上市町で2022年にはじまったのが「上市町0円空家バンク」(空家解消特別推進事業)です。仕組みとしてはとてもシンプルで、空家所有者の依頼・要望を受けて、行政が建物や土地の現地調査を行い、0円空家バンクに登録します。0円空家バンクを見て取得を希望する人を募集し、内覧会を実施したうえで、空家所有者が取得希望者を選定し、契約を締結、譲渡という流れになります。

上市町0円空家バンクの仕組み(資料提供:上市町役場)

上市町0円空家バンクの仕組み(資料提供:上市町役場)

空家所有者は無償で建物や土地を譲渡できるほか、相続手続き・不用品の処分費用として最大10万円の補助が受けられます。また、取得希望者は住宅が0円で手に入るだけでなく、定額50万円(所有権移転登記費用が発生する場合には贈与税など)の補助があり、さらに該当すれば移住定住の助成金を受け取れます。一方で上市町は空家の指導や特定などに人手を割く必要がなくなり、人口減少どころか定住者の増加、税収増も見込めます。

まさに三方良しの取り組みとあって、2022年度の制度スタートからすぐに人口増へとつながり、その年度のうちで転入者数が前年度より77人、2023年度にはさらに170人まで伸びています。なかでも県外転入者数は、2022年度に前年度の4.4倍となり、2023年度には2021年度の5.9倍まで増加しています。

また、今年1月に発生した能登半島地震の被災者も、2月にこの「0円空家バンク」を利用して移住につながりました。建物の所有者が「被災者の力になりたい」ということで、譲渡が決まったといいます。空き家が住まいという資源として活用できている、好事例といってよいでしょう。

空家を持つと“詰む”!? 所有者にも補助金を出す理由とは

「空家バンク」そのものは全国各地にありますが、ここまで成果が出ている自治体はなかなかありません。上市町の取り組みにはどういった特徴があるのでしょうか? 上市町建設課の金盛敬司主幹に話を聞きました。

上市町建設課の金盛敬司主幹(左)と企画課の盛一紗弥子係長(撮影/SUUMO編集部)

上市町建設課の金盛敬司主幹(左)と企画課の盛一紗弥子係長(撮影/SUUMO編集部)

「以前は、私は固定資産税を担当する部署にいたのですが、空家の所有者から、実家が空家になっているので手放したいという相談を受けていました。その後、現在の建設課に異動になったところ、できるだけ安く住まいを手に入れたい、空家を紹介してもらいたいというニーズがあることに気づきました。副町長からも大胆な取り組みを、という後押しもあり、不動産業者が取り扱わない『無料』の物件に絞って、町が紹介すればいいんじゃないか、という仕組みを思いつきました」と解説します。

0円空家バンク誕生の経緯(資料提供/上市町建設課)

0円空家バンク誕生の経緯(資料提供/上市町建設課)

不動産は売却額が200万円以下の場合、不動産会社が受け取れる仲介手数料の上限は「成約価格× 5%」+消費税と決められています。ただこの手数料では事業として利益を出すことができず、事実上、扱うことはほとんどありません。そのため、「0円でもいいから引き取ってほしい」という要望があっても流通することはなく、空き家として放置されてしまうのです。国は対策として、2023年より「相続土地国庫帰属制度※」をはじめましたが、手放すにも20万円もしくはそれ以上の「負担金」や各種手続きが発生するので、「手放すのにもお金がかかる……」と二の足を踏む人がいるといいます。

※相続土地国庫帰属制度/相続または遺贈(遺言によって特定の相続人に財産の一部または全部を譲ること)によって土地を相続した人が、土地を手放し、国庫に帰属させることを可能にした制度

空家・農地に十分な市場価値がない、売却に必要な図面や書類がない、国庫に帰属させようにもお金がかかる、建物を解体したくても解体費用が出せない、家庭や健康状態によっては家財や荷物の片付けができない。さらに思い入れのある家だからこそ、譲渡する相手は誰でもいいわけではない。経済面はもちろん、感情面も入り交じり、より問題を複雑にしています。「上市町0円空家バンク」では、こうした所有者の事情を考慮して空家所有者にも費用を助成し、譲渡先の決定権も所有者が決める制度です。

「空家所有者には、食器や仏壇、寝具、壊れた家電などは処分していただくことと、権利や担保は整理・抹消と相続してから登録していただくことを説明しています。一方で、タンスなどの大型家具に関しては利活用できることもありますので、そのままでよいですよとお伝えしています。間取図は法務局と固定資産税担当の部署で閲覧し、私が図面を作成します。写真も撮影して、0円空家バンクに登録。複数の応募者のなかから、基本的には直接会っていただき、この人なら、という方に譲渡を決めていただきます」(金盛さん)

空き家に残された立派な家財箪笥。まだまだ使用可能(撮影/SUUMO編集部)

空家に残された立派な家財たんす。まだまだ使用可能(撮影/SUUMO編集部)

これは、金盛さんが一級建築士でもあるからこその機動力です。ちなみに前述の映画監督の細田守さんとは中学の同級生で高校進学時に先生がこの2人を呼んで、美術の道を目指すように勧めたとか。出てくるエピソードにまたまたびっくりします。

<「上市町0円空家バンク」の空家所有者のメリット>
・家財の処分費用助成がある
・譲渡相手を見つけてもらえるが、最終決定は自分たちで行う
・譲渡に必要な物件写真撮影や間取図作成、応募者募集は行政が行う

移住希望者にも助成。不動産会社だけでなく、周囲の企業にも好影響

一方で、取得希望者にも安全な住まいを用意するよう、配慮しています。

「どんな建物でも0円空家バンクに登録できるのか、というとそうではありません。われわれが現地調査を行い、損傷度や危険性に応じて1から4ランクまで判定します。居住するには危険がないと判断でき、なおかつ不動産会社が取り扱わないものを0円空家バンクに登録し、希望者を募るのです。一方で100万円~500万円など価格がつきそうなものは、不動産会社を紹介し、扱ってもらっています。逆に不動産会社から行政に相談して、といわれることもあり、お互いに補い合っている関係です」(金盛さん)

また、0円空家バンクで上市町を知り、内見に来て土地を気に入り、中古住宅を購入して引越してくることもあるよう。

「上市町は、富山駅まで富山地方鉄道も利用できますし、行政や病院、学校、商業施設などもまとまっています。建物が0円というのでどんな山奥・へき地かと思ったら、コンパクトで便利そう、気に入ったとのお声を聞きます。0円空家バンクの住宅取得者には50万円が助成されますが、ほかにも若者・子育て世帯定住促進事業などの他の助成制度を使えば、住宅取得補助費用として最大360万円までもらえます」(金盛さん)

上市町移住・定住ポータル「かみスイッチ」(写真提供/上市町建設課)

上市町移住・定住ポータル「かみスイッチ」(写真提供/上市町建設課)

「上市町0円空家バンク」は、充実した移住定住ポータルサイトをもっているほか、YouTubeでも情報発信をしており、首都圏はもちろん、関西、沖縄、海外からはアメリカやオーストラリア・ドバイなどからも申し込み・反響があったとか。基本は現地で内見しますが、難しい場合はオンラインで建物のルームツアーを行い、紹介しています。こうした「かゆいところに手が届く」あたりも成功の秘訣といえそうです。

こうした情報発信がうまくいき、一時期、不動産会社からは「上市町から売る土地・不動産がなくなった」とまでいわれたほど。もちろん、移住者が来てくれれば、家具や家電、リフォーム、カーテンなどの家財を購入する必要があり、地元企業にも還元されていきます。民間の不動産会社で利益が出せるものは民間で行い、行政にしかできないことに絞って行うというのも大きなポイントのようです。

移住者が近隣コミュニティと打ち解けるため、LINEを活用

上市町のこの0円空家バンクでは、今まで17号まで登録され、うち16物件が契約済みとなっています。(令和6年3月18日時点)そのなかには、建物の雑草対策としてヤギの飼育をはじめ、それをきっかけに子どもたちや近所の人とのつながりもでき、地域コミュニティにもすっかりと打ち解けたという移住者もいるそう。

赤ちゃんや動物ってそれだけで打ち解けますよね(写真提供/上市町建設課)

赤ちゃんや動物ってそれだけで打ち解けますよね(写真提供/上市町建設課)

ヤギと飼い主さん。これは人の輪がひろがります(写真提供/上市町建設課)

ヤギと飼い主さん。これは人の輪が広がります(写真提供/上市町建設課)

「この制度を利用して移住してきた方からは、可処分所得と時間が増えたということをよく聞きます。通勤時間が短くなったり、テレワークをしたりすることで、家族といっしょに過ごす時間が増えた、また、住宅ローンや家賃に縛られずに使えるお金が増えたという声もありますね。水、お米、魚、野菜がおいしい、山が美しいと、改めて上市町の良さを教えてもらえることも多いですね」(金盛さん)

また、移住者がスムーズに地域コミュニティに打ち解けられるよう、LINEオープンチャット「ウェルカミ」を開設し、地域の情報を発信していて、住民情報交換、交流の場をつくっているとか。年1回にオフ会も行い、リアルとSNSの両方で移住支援を行っています。

上市町オンライン交流コミュニティ「WELKAMI」(写真提供/上市町企画課)

上市町オンライン交流コミュニティ「WELKAMI」(写真提供/上市町企画課)

<「上市町0円空家バンク」の移住者側のメリット>
・0円で土地、建物などが入手できる
・国内外の遠方、オンライン内見も可能
・移住後は地域コミュニティに打ち解ける仕組みも

「これが0円!?」 取材陣も驚愕(きょうがく)の0円空家の状態とは?

では、0円空家とはどのような物件なのでしょうか。実際に2物件を見学させてもらいました。まず、向かったのは上市駅近くの121平米、1962年(一部1972年)築の建物です。こちらは能登半島地震で被災された方が住むことが決定しています。店舗付き住宅だったようで、道路に面して建物がひらかれているのが特徴で、2階は和室となっています。建物全体に古さは感じるものの、キッチン、バス、トイレといった水回りをリフォームし、窓は二重窓にすれば、ぐっと住みやすくなるのが素人目にもわかります。

上市町駅近くの0円空家(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

上市町駅近くの0円空家(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

玄関をあけるとたたき、その奥に浴室。窓ガラスもレトロかわいい(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

玄関を開けるとたたき、その奥に浴室。窓ガラスもレトロかわいい(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

一階の和室は、畳もキレイ状態です。大きな姿見がありかつては美容室だったのかな、と推測できます(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

一階の和室は、畳もキレイな状態です。大きな姿見がありかつては美容室だったのかな、と推測できます(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

そして、もう一軒の0円空家を見学させていただきました。こちらは建物内部ではなく、外側から。土地と私道をあわせて約800平米、住宅220平米で間取り10DK、車庫と物置で50平米超になります。建物はいちばん古いもので1971年築、増改築を重ねていますが、まだまだ住めるというか、こんな立派な家が0円!?と驚きを隠せません。これが0円で住めるのであれば、私はなんのために都会で生きているのか、人生の価値基準が揺らぐ音がします。

こちらが220平米・10DKの住まい。晴れていると美しい山々の景色を望めます(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

こちらが220平米・10DKの住まい。晴れていると美しい山々の景色を望めます(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

こちらは離れ。もちろん0円。ここをリノベしてサウナにしたい。目の前の土地はととのいスペースなどにしたいと、妄想が止まりません(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

こちらは離れ。もちろん0円。ここをリノベしてサウナにしたい。眼の前の土地はととのいスペースなどにしたいと、妄想が止まりません(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

電動シャッター付きの車庫。2階は倉庫になっています。っていうかここに住めるのでは?(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

電動シャッター付きの車庫。2階は倉庫になっています。っていうかここに住めるのでは?(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

現在も取得希望者・空家登録者を募集中!制度はよりブラッシュアップして継続へ

この取り組み、以前から上市町に暮らす住民たちからも好評だとか。
「やはり隣家が空家だと、火事や、動物が住み着く、台風や雪などの自然災害での倒壊の危険など、不安が募るようです。若い世代に住んでもらえてうれしい、ほっとしたという声を聞きます」(金盛さん)

家は人が住んでいないとあっという間に劣化していきます。新しい人が入居し、手入れをしながら住んでもらえたら、これほどに幸せな出会いはありません。また、今回のような震災があった場合、被災者支援にも有効であることがわかりました。

上市町には、誰も居住していない、売買市場にも取引されていない空家が、現在、336戸ほどあるといいます(令和6年1月取材時点)。これを単なる「空家」だと思うと負債になりますが、この仕組みでマッチングが成立していけば、立派な「資源」であり、「伸びしろ」ということになります。金盛さんは、「まずは空家の所有者の方に登録してもらいたい」といい、今ある制度をよりブラッシュアップし、次世代につなげていくと意気込んでいます。

取材をしたあとには、制度そのものもすばらしいですが、「空家を所有する人」「移住を考えている人」のお困りごとを一つずつ解決していく、「ていねいさ」「人柄のよさ」が心に残りました。制度をつくるのも人ですが、運用するのも人。良い町を次世代に残していきたい、そんな思いが「上市町0円空家バンク」成功の秘訣だと思いました。

●取材協力
上市町移住・定住ポータルサイト
富山県上市町公式ホームページ

「0円空家バンク」で転入者170人増! 家を手放したい人にもメリットあり、移住者フォローも手厚すぎる富山県上市町の取り組みが話題

「地方に空家があるなら、移住希望者に住んでもらえばいいんじゃない?」そんな誰もが空想する取り組みを実行に移し、大成功している自治体があります。富山県上市町です。では、どのようにして成功させたのでしょうか。現場を見学してきました。

0円空家バンクに希望者殺到。能登半島地震の被災者も受け入れ

富山県上市町は、富山駅から電車で約25分の約2万人の町(令和6年1月31日時点)です。町内の多くは山岳地で、名峰・剱岳があるほか、映画『おおかみこどもの雨と雪』(細田 守監督)の舞台になった町でもあります。以前、SUUMOジャーナルでは、「古民家をイメージした公営住宅が誕生!」という記事でもご紹介しました。

この上市町で2022年にはじまったのが「上市町0円空家バンク」(空家解消特別推進事業)です。仕組みとしてはとてもシンプルで、空家所有者の依頼・要望を受けて、行政が建物や土地の現地調査を行い、0円空家バンクに登録します。0円空家バンクを見て取得を希望する人を募集し、内覧会を実施したうえで、空家所有者が取得希望者を選定し、契約を締結、譲渡という流れになります。

上市町0円空家バンクの仕組み(資料提供:上市町役場)

上市町0円空家バンクの仕組み(資料提供:上市町役場)

空家所有者は無償で建物や土地を譲渡できるほか、相続手続き・不用品の処分費用として最大10万円の補助が受けられます。また、取得希望者は住宅が0円で手に入るだけでなく、定額50万円(所有権移転登記費用が発生する場合には贈与税など)の補助があり、さらに該当すれば移住定住の助成金を受け取れます。一方で上市町は空家の指導や特定などに人手を割く必要がなくなり、人口減少どころか定住者の増加、税収増も見込めます。

まさに三方良しの取り組みとあって、2022年度の制度スタートからすぐに人口増へとつながり、その年度のうちで転入者数が前年度より77人、2023年度にはさらに170人まで伸びています。なかでも県外転入者数は、2022年度に前年度の4.4倍となり、2023年度には2021年度の5.9倍まで増加しています。

また、今年1月に発生した能登半島地震の被災者も、2月にこの「0円空家バンク」を利用して移住につながりました。建物の所有者が「被災者の力になりたい」ということで、譲渡が決まったといいます。空き家が住まいという資源として活用できている、好事例といってよいでしょう。

空家を持つと“詰む”!? 所有者にも補助金を出す理由とは

「空家バンク」そのものは全国各地にありますが、ここまで成果が出ている自治体はなかなかありません。上市町の取り組みにはどういった特徴があるのでしょうか? 上市町建設課の金盛敬司主幹に話を聞きました。

上市町建設課の金盛敬司主幹(左)と企画課の盛一紗弥子係長(撮影/SUUMO編集部)

上市町建設課の金盛敬司主幹(左)と企画課の盛一紗弥子係長(撮影/SUUMO編集部)

「以前は、私は固定資産税を担当する部署にいたのですが、空家の所有者から、実家が空家になっているので手放したいという相談を受けていました。その後、現在の建設課に異動になったところ、できるだけ安く住まいを手に入れたい、空家を紹介してもらいたいというニーズがあることに気づきました。副町長からも大胆な取り組みを、という後押しもあり、不動産業者が取り扱わない『無料』の物件に絞って、町が紹介すればいいんじゃないか、という仕組みを思いつきました」と解説します。

0円空家バンク誕生の経緯(資料提供/上市町建設課)

0円空家バンク誕生の経緯(資料提供/上市町建設課)

不動産は売却額が200万円以下の場合、不動産会社が受け取れる仲介手数料の上限は「成約価格× 5%」+消費税と決められています。ただこの手数料では事業として利益を出すことができず、事実上、扱うことはほとんどありません。そのため、「0円でもいいから引き取ってほしい」という要望があっても流通することはなく、空き家として放置されてしまうのです。国は対策として、2023年より「相続土地国庫帰属制度※」をはじめましたが、手放すにも20万円もしくはそれ以上の「負担金」や各種手続きが発生するので、「手放すのにもお金がかかる……」と二の足を踏む人がいるといいます。

※相続土地国庫帰属制度/相続または遺贈(遺言によって特定の相続人に財産の一部または全部を譲ること)によって土地を相続した人が、土地を手放し、国庫に帰属させることを可能にした制度

空家・農地に十分な市場価値がない、売却に必要な図面や書類がない、国庫に帰属させようにもお金がかかる、建物を解体したくても解体費用が出せない、家庭や健康状態によっては家財や荷物の片付けができない。さらに思い入れのある家だからこそ、譲渡する相手は誰でもいいわけではない。経済面はもちろん、感情面も入り交じり、より問題を複雑にしています。「上市町0円空家バンク」では、こうした所有者の事情を考慮して空家所有者にも費用を助成し、譲渡先の決定権も所有者が決める制度です。

「空家所有者には、食器や仏壇、寝具、壊れた家電などは処分していただくことと、権利や担保は整理・抹消と相続してから登録していただくことを説明しています。一方で、タンスなどの大型家具に関しては利活用できることもありますので、そのままでよいですよとお伝えしています。間取図は法務局と固定資産税担当の部署で閲覧し、私が図面を作成します。写真も撮影して、0円空家バンクに登録。複数の応募者のなかから、基本的には直接会っていただき、この人なら、という方に譲渡を決めていただきます」(金盛さん)

空き家に残された立派な家財箪笥。まだまだ使用可能(撮影/SUUMO編集部)

空家に残された立派な家財たんす。まだまだ使用可能(撮影/SUUMO編集部)

これは、金盛さんが一級建築士でもあるからこその機動力です。ちなみに前述の映画監督の細田守さんとは中学の同級生で高校進学時に先生がこの2人を呼んで、美術の道を目指すように勧めたとか。出てくるエピソードにまたまたびっくりします。

<「上市町0円空家バンク」の空家所有者のメリット>
・家財の処分費用助成がある
・譲渡相手を見つけてもらえるが、最終決定は自分たちで行う
・譲渡に必要な物件写真撮影や間取図作成、応募者募集は行政が行う

移住希望者にも助成。不動産会社だけでなく、周囲の企業にも好影響

一方で、取得希望者にも安全な住まいを用意するよう、配慮しています。

「どんな建物でも0円空家バンクに登録できるのか、というとそうではありません。われわれが現地調査を行い、損傷度や危険性に応じて1から4ランクまで判定します。居住するには危険がないと判断でき、なおかつ不動産会社が取り扱わないものを0円空家バンクに登録し、希望者を募るのです。一方で100万円~500万円など価格がつきそうなものは、不動産会社を紹介し、扱ってもらっています。逆に不動産会社から行政に相談して、といわれることもあり、お互いに補い合っている関係です」(金盛さん)

また、0円空家バンクで上市町を知り、内見に来て土地を気に入り、中古住宅を購入して引越してくることもあるよう。

「上市町は、富山駅まで富山地方鉄道も利用できますし、行政や病院、学校、商業施設などもまとまっています。建物が0円というのでどんな山奥・へき地かと思ったら、コンパクトで便利そう、気に入ったとのお声を聞きます。0円空家バンクの住宅取得者には50万円が助成されますが、ほかにも若者・子育て世帯定住促進事業などの他の助成制度を使えば、住宅取得補助費用として最大360万円までもらえます」(金盛さん)

上市町移住・定住ポータル「かみスイッチ」(写真提供/上市町建設課)

上市町移住・定住ポータル「かみスイッチ」(写真提供/上市町建設課)

「上市町0円空家バンク」は、充実した移住定住ポータルサイトをもっているほか、YouTubeでも情報発信をしており、首都圏はもちろん、関西、沖縄、海外からはアメリカやオーストラリア・ドバイなどからも申し込み・反響があったとか。基本は現地で内見しますが、難しい場合はオンラインで建物のルームツアーを行い、紹介しています。こうした「かゆいところに手が届く」あたりも成功の秘訣といえそうです。

こうした情報発信がうまくいき、一時期、不動産会社からは「上市町から売る土地・不動産がなくなった」とまでいわれたほど。もちろん、移住者が来てくれれば、家具や家電、リフォーム、カーテンなどの家財を購入する必要があり、地元企業にも還元されていきます。民間の不動産会社で利益が出せるものは民間で行い、行政にしかできないことに絞って行うというのも大きなポイントのようです。

移住者が近隣コミュニティと打ち解けるため、LINEを活用

上市町のこの0円空家バンクでは、今まで17号まで登録され、うち16物件が契約済みとなっています。(令和6年3月18日時点)そのなかには、建物の雑草対策としてヤギの飼育をはじめ、それをきっかけに子どもたちや近所の人とのつながりもでき、地域コミュニティにもすっかりと打ち解けたという移住者もいるそう。

赤ちゃんや動物ってそれだけで打ち解けますよね(写真提供/上市町建設課)

赤ちゃんや動物ってそれだけで打ち解けますよね(写真提供/上市町建設課)

ヤギと飼い主さん。これは人の輪がひろがります(写真提供/上市町建設課)

ヤギと飼い主さん。これは人の輪が広がります(写真提供/上市町建設課)

「この制度を利用して移住してきた方からは、可処分所得と時間が増えたということをよく聞きます。通勤時間が短くなったり、テレワークをしたりすることで、家族といっしょに過ごす時間が増えた、また、住宅ローンや家賃に縛られずに使えるお金が増えたという声もありますね。水、お米、魚、野菜がおいしい、山が美しいと、改めて上市町の良さを教えてもらえることも多いですね」(金盛さん)

また、移住者がスムーズに地域コミュニティに打ち解けられるよう、LINEオープンチャット「ウェルカミ」を開設し、地域の情報を発信していて、住民情報交換、交流の場をつくっているとか。年1回にオフ会も行い、リアルとSNSの両方で移住支援を行っています。

上市町オンライン交流コミュニティ「WELKAMI」(写真提供/上市町企画課)

上市町オンライン交流コミュニティ「WELKAMI」(写真提供/上市町企画課)

<「上市町0円空家バンク」の移住者側のメリット>
・0円で土地、建物などが入手できる
・国内外の遠方、オンライン内見も可能
・移住後は地域コミュニティに打ち解ける仕組みも

「これが0円!?」 取材陣も驚愕(きょうがく)の0円空家の状態とは?

では、0円空家とはどのような物件なのでしょうか。実際に2物件を見学させてもらいました。まず、向かったのは上市駅近くの121平米、1962年(一部1972年)築の建物です。こちらは能登半島地震で被災された方が住むことが決定しています。店舗付き住宅だったようで、道路に面して建物がひらかれているのが特徴で、2階は和室となっています。建物全体に古さは感じるものの、キッチン、バス、トイレといった水回りをリフォームし、窓は二重窓にすれば、ぐっと住みやすくなるのが素人目にもわかります。

上市町駅近くの0円空家(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

上市町駅近くの0円空家(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

玄関をあけるとたたき、その奥に浴室。窓ガラスもレトロかわいい(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

玄関を開けるとたたき、その奥に浴室。窓ガラスもレトロかわいい(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

一階の和室は、畳もキレイ状態です。大きな姿見がありかつては美容室だったのかな、と推測できます(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

一階の和室は、畳もキレイな状態です。大きな姿見がありかつては美容室だったのかな、と推測できます(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

そして、もう一軒の0円空家を見学させていただきました。こちらは建物内部ではなく、外側から。土地と私道をあわせて約800平米、住宅220平米で間取り10DK、車庫と物置で50平米超になります。建物はいちばん古いもので1971年築、増改築を重ねていますが、まだまだ住めるというか、こんな立派な家が0円!?と驚きを隠せません。これが0円で住めるのであれば、私はなんのために都会で生きているのか、人生の価値基準が揺らぐ音がします。

こちらが220平米・10DKの住まい。晴れていると美しい山々の景色を望めます(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

こちらが220平米・10DKの住まい。晴れていると美しい山々の景色を望めます(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

こちらは離れ。もちろん0円。ここをリノベしてサウナにしたい。目の前の土地はととのいスペースなどにしたいと、妄想が止まりません(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

こちらは離れ。もちろん0円。ここをリノベしてサウナにしたい。眼の前の土地はととのいスペースなどにしたいと、妄想が止まりません(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

電動シャッター付きの車庫。2階は倉庫になっています。っていうかここに住めるのでは?(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

電動シャッター付きの車庫。2階は倉庫になっています。っていうかここに住めるのでは?(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

現在も取得希望者・空家登録者を募集中!制度はよりブラッシュアップして継続へ

この取り組み、以前から上市町に暮らす住民たちからも好評だとか。
「やはり隣家が空家だと、火事や、動物が住み着く、台風や雪などの自然災害での倒壊の危険など、不安が募るようです。若い世代に住んでもらえてうれしい、ほっとしたという声を聞きます」(金盛さん)

家は人が住んでいないとあっという間に劣化していきます。新しい人が入居し、手入れをしながら住んでもらえたら、これほどに幸せな出会いはありません。また、今回のような震災があった場合、被災者支援にも有効であることがわかりました。

上市町には、誰も居住していない、売買市場にも取引されていない空家が、現在、336戸ほどあるといいます(令和6年1月取材時点)。これを単なる「空家」だと思うと負債になりますが、この仕組みでマッチングが成立していけば、立派な「資源」であり、「伸びしろ」ということになります。金盛さんは、「まずは空家の所有者の方に登録してもらいたい」といい、今ある制度をよりブラッシュアップし、次世代につなげていくと意気込んでいます。

取材をしたあとには、制度そのものもすばらしいですが、「空家を所有する人」「移住を考えている人」のお困りごとを一つずつ解決していく、「ていねいさ」「人柄のよさ」が心に残りました。制度をつくるのも人ですが、運用するのも人。良い町を次世代に残していきたい、そんな思いが「上市町0円空家バンク」成功の秘訣だと思いました。

●取材協力
上市町移住・定住ポータルサイト
富山県上市町公式ホームページ

省エネ先進県・鳥取、中古住宅の省エネ性能を資産価値として評価! 「築22年以上の住宅も価値がゼロにならない」評価法を来年4月スタート

住宅は築22年以上になると価値がゼロになる――。そんな古い慣習を日本からなくしてしまうかも知れない委員会が今、鳥取県で開かれています。その名は「鳥取県版住宅性能等評価指針策定検討委員会」。高気密・高断熱の住宅価値が高まる評価プログラムづくりを目的にしたもので、別に古い慣習を打ち破ってやろうという、血気盛んな人々の集まりではありません。鳥取県が、県民の豊かで健康な暮らしのために、設置した委員会です。

始まりは国の基準より高い高断熱・高気密の住宅促進から

同委員会を紹介する前に、まずは鳥取県がこれまでに取り組んできた住宅に関する施策について説明しておく必要があります。

令和2年(2020年)から、鳥取県は「とっとり健康省エネ住宅普及促進事業」をスタートさせました。独自に国の基準より高い、家の「断熱」と「気密」の性能基準「NE-ST」を設け、NE-STを満たす家づくりを推奨・助成するという事業です。

■関連記事:
「日本の省エネ基準では健康的に過ごせない」!? 山形と鳥取が断熱性能に力を入れる理由

ちなみに「寒い北海道や東北地方でもない鳥取県がなぜそこまで?」と思う人もいるかもしれませんが、同県のシンボルである大山(だいせん)にスキー場があるように、冬になれば雪が積もる地域です。そして2014年時点(※)では、冬季の死亡増加率割合が全国の都道府県でワースト16位だったのです。

※慶応大学の伊香賀教授が、厚生労働省の2014年人口動態統計に基づいて月平均死亡者数を比較し、冬季(12月~3月)死亡増加率を算出(出典/慶應義塾大学 伊香賀研究室提供資料)

だいせんホワイトリゾート(写真/PIXTA)

だいせんホワイトリゾート(写真/PIXTA)

死因のすべてが、冬に多いヒートショックによって引き起こされる心疾患や脳血管疾患等とはいいませんが、少なくとも家の断熱・気密性能を高めれば、こうした疾患を防ぎやすくなります。

こうして始まった新築住宅へのNE-STの認定制度。「国の基準より高い」と述べましたが、ではどれくらい高いのかというと、下記表のとおりです。

(出典/鳥取県庁公式ホームページ「とりネット」)

(出典/鳥取県庁公式ホームページ「とりネット」)

※断熱性能(UA値):建物内の熱が外部に逃げる割合を示す指標。値が小さいほど熱が逃げにくく、省エネ性能が高い
※気密性能(C値):建物の床面積当たりの隙間面積を示す指標。値が小さいほど気密性が高い
※ZEHは、ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの略。断熱化による省エネと太陽光発電などの創エネにより、年間の一次消費エネルギー量の収支をプラスマイナス「ゼロ」にする住宅をいう

令和2年7月からNE-ST認定住宅の助成が始まりましたが、鳥取県住宅政策課企画担当の槇原章二さんによれば「初年度である令和2年(2020年)度は、新築の木造一戸建てにおけるNE-ST認定住宅の割合は約14%でした。それが令和4年度(2022年4月~2023年3月)には約31%まで伸びています」。つまり、施主の3人に1人はNE-STを建てたことになります。

またNE-STを建てるには県に登録された工務店等に依頼しなければなりませんが、「現在は県内の住宅供給者の約8割がNE-STの登録事業者です」(槇原さん)。要するに、認定されていない事業者を探すほうが難しいほどになっています。

新築だけでなく既存住宅に対しても認定&補助金制度を拡充

もちろん、住宅は新築ばかりではありません。既存住宅に対してもNE-ST同様の高断熱・高気密化のリフォームを促す「とっとり健康省エネ住宅改修支援事業補助金」制度が令和4年(2022年)7月から始まりました。

こちらは、上記「NE-ST」の「T-G1」基準同等の断熱リフォームを行った既存住宅を「Re NE-ST」認定住宅として助成するだけでなく、住宅の一部のみ「T-G1」基準同等の断熱リフォーム(ゾーン改修)を施したり、国の省エネ基準をクリアする断熱リフォーム(国省エネ基準改修)を行った場合のみでも、県が助成してくれる制度です。

工事費および補助金額の高い順に“「Re NE-ST」>ゾーン改修>国省エネ基準改修”となる(出典/鳥取県庁住宅政策課)

工事費および補助金額の高い順に“「Re NE-ST」>ゾーン改修>国省エネ基準改修”となる(出典/鳥取県庁住宅政策課)

「住宅全体をRe NE-ST基準まで引き上げるには、やはり家全体を改修すると費用がそれなりにかかります。そこで、予算やライフスタイルに応じた省エネ改修がしやすいようにしました」(槇原さん)

例えば「子育てを終えて今は夫婦2人で暮らしているので、2階はあまり使っていない」といった場合などは、老後の快適な暮らしを考えて、普段生活をする1階だけRe NE-ST基準まで改修して費用を抑える「ゾーン改修」を選ぶことができます。

さらに賃貸住宅についても、NE-STの基準を満たせば、新築・改修を問わず賃貸住宅のオーナーに対して助成が施されます。

「健康的な暮らし」の好サイクルを「古い慣習」が阻んでいた!?

確かに、こうやっていけば鳥取県民が豊かで健康的に暮らせそうです。とはいっても、新築でもリフォームでも、性能の高い家を建てようとするとそれなりに費用はかさみます。施主にとっては、この先の暮らしに“投資”することになります。

ところが現状の建物の評価方法では、木造住宅の場合、築22年で価値がゼロになってしまいます。税法上の木造住宅の減価償却年数が22年なのですが、この数字が建物の評価にも慣習的に使われるようになったためだといわれています。

つまり、せっかくお金をかけて快適な自宅を建てた(あるいはリフォームした)としても、22年たてば何もしていない住宅と価値が同じだと評価されてしまうのです。これでは費用のかかるNE-STを建てたり、Re NE-ST改修を行おうという意欲を削ぎかねません。

「従来の建物の評価方法は、築年数と床面積で評価され、性能や改修が評価されにくかったのですが、例えばアメリカでは、改修などの投資が資産価値に反映されます。」(槇原さん)

国土交通省「中古住宅市場活性化ラウンドテーブル平成25年度報告書」より。アメリカでは住宅投資額の累計(グラフの赤い折れ線グラフ)と住宅資産額(青い棒グラフ)が比例しているのに対し、日本では比例していないことが一目瞭然。アメリカと日本の差額を国土交通省は「失われた500兆円」と表現している(出典/国土交通省「中古住宅市場活性化ラウンドテーブル 平成25年度報告書(案)」)

国土交通省「中古住宅市場活性化ラウンドテーブル平成25年度報告書」より。アメリカでは住宅投資額の累計(グラフの赤い折れ線グラフ)と住宅資産額(青い棒グラフ)が比例しているのに対し、日本では比例していないことが一目瞭然。アメリカと日本の差額を国土交通省は「失われた500兆円」と表現している(出典/国土交通省「中古住宅市場活性化ラウンドテーブル 平成25年度報告書(案)」)

上記の国土交通省がまとめた報告書「中古住宅市場活性化ラウンドテーブル平成25年度報告書」の資料では、アメリカでは「大規模なリフォーム投資も住宅投資・資産額に反映」されているのに対し、日本はリフォームしてもそれが「住宅投資・資産額に織り込まれ難い」と指摘しています。

「これでは、何をやっても築22年で価値がゼロになる住宅を建てるために、多くの人が35年ローンを組んでいることになってしまいます」(槇原さん)

費用をかけただけ住宅の価値を高める「鳥取県版評価法」

NE-ST/Re NE-STを推進したい鳥取県としては、こうした現状の評価方法を何とか変えられないかと考えるのは当然の流れ。そこで集められたのが冒頭の、「鳥取県版住宅性能等評価指針策定検討委員会」というわけです。

(写真提供/鳥取県)

(写真提供/鳥取県)

委員長には、NE-ST基準の設定以来携わっている慶応義塾大学の伊香賀俊治教授が就任。また優良住宅部品(BL部品)認定事業や、住宅の部品・部材等の評価・試験などを行っているベターリビング住宅・建築評価センターの斉藤卓三氏といった面々が加わっています。

なかでも注目したいのは、鳥取県宅地建物取引業協会長の長谷川義明氏と全日本不動産協会鳥取県本部長の細砂修二氏というように、実際に住宅の売買を担う不動産業界の大手2団体からも参画を得ていることです。せっかく評価プログラムを作成しても、それを使ってもらわなければ意味がありません。その点、大手2団体が委員会として推進していく立場であることは、大きな意味を持っているといえます。

同委員会が鳥取県とともに目指すのは、下記のような独自の「鳥取県版評価法」です。

従来評価法と鳥取県版評価法の比較

鳥取県版では、従来は評価されにくかったリフォームや住宅の性能についても評価できるようにしようと考えている

上記表内にある「目標使用年数」とは、従来の減価償却年数に変わるものと捉えるとわかりやすいでしょう。例えば木造(木造軸組工法)の場合、旧耐震基準で建てられた住宅の躯体の目標使用年数を40年とし、新耐震基準なら50年、2000年耐震基準(※)なら60年、という具合に、耐震性の高い住宅は資産価値が高いことを示す「目標使用年数」を定めていくのです。

※2000年耐震基準とは、阪神・淡路大震災で多くの木造住宅が倒壊したことから、特に木造軸組工法に関して厳しい基準を設けた耐震基準のこと。現行の耐震基準とよく呼ばれている。

従来評価法と鳥取県版評価法の経年による評価の違いのイメージ

上記は、従来の評価法なら22年で価値がゼロになるが、新築時に性能の高い住宅を建てれば60年で価値がゼロになることを示す。またリフォームやインスペクション(建築士や住宅診断士などの専門家が、住宅の劣化レベルなどを診断すること)によってはさらに価値が長く残る(出典/鳥取県版住宅性能等評価指針策定検討委員会(第1回)資料)

上記は、従来の評価法なら22年で価値がゼロになるが、新築時に性能の高い住宅を建てれば60年で価値がゼロになることを示す。またリフォームやインスペクション(建築士や住宅診断士などの専門家が、住宅の劣化レベルなどを診断すること)によってはさらに価値が長く残る(出典/鳥取県版住宅性能等評価指針策定検討委員会(第1回)資料)

また上記を見れば、住宅の性能を高める投資(初期投資費用やリフォーム費用)を行うほど、資産の“延命”が図られることがわかると思います。

下記を見れば「お金をかけて性能・品質のよい家を建てると、資産価値が高まる」ことがよりイメージしやすいでしょう。

評価のイメージ(築12年の木造住宅(木造軸組工法)の場合)

上記表のように、水まわり設備や電気設備なども評価の対象だ。また台所設備に表の普及品より性能の高い高級品を備えていると、住宅の価値に反映される仕組みになっている(出典/鳥取県版住宅性能等評価指針策定検討委員会(第1回)資料)

上記表のように、水まわり設備や電気設備なども評価の対象だ。また台所設備に表の普及品より性能の高い高級品を備えていると、住宅の価値に反映される仕組みになっている(出典/鳥取県版住宅性能等評価指針策定検討委員会(第1回)資料)

上記表内の「残存年数」とは、「目標年数(目標使用年数)」から築年数を引いた数字になります。例に取り上げられているのは、2000年耐震基準で建てられた築12年の木造住宅ですから、目標使用年数60年-築年数12年=48年が「残存年数」となります。

また「グレード補正率」とは、グレードの高い装備の場合は価値が高いと評価されるようにした指標で、例えば表内では壁に普及品のビニルクロスが使用されているので、グレード補正率は100%ですが、高級な壁クロスの場合は割増しするなどして、その価値の高さが評価額に反映されるようになります。

ちなみに、実際にある住宅を鳥取県でシミュレーションしてみたところ、下記のように実勢価格と大きなズレはないものの、微妙な差がありました。

実勢価格との差額

いずれも仕様は中級品とし、リフォーム履歴はなしとしてシミュレーションした場合

この差額について槇原さんはこう話します。「実際に取引される価格は建物だけでなく、周囲環境など立地の条件や、これまでの販売実績などから建物価格が算出されるでしょから、鳥取県版評価法よりも高かったり、低かったりしているのだと思います」

別の見方をすれば、現状は築22年以上の建物の価値はゼロ、あとは立地と、ここならこれくらいで売れるだろうという、買い手と売り手の間に立つ不動産会社の“長年の経験値”から価値が決まっているということ。ですから売り手も買い手も、本当にこの金額が適正なのか、判断しようがありません。

しかし鳥取県版評価法を使うと、しっかりと建物の価値を売り手/買い手が理解した上で、立地条件を考慮して、両者も納得の、少なくとも売り手としてはわが家の価値を把握した上で売りに出すことができます。

今後の鳥取県版評価法を定める流れとしては、建築や不動産などの関係団体と鳥取県でコンソーシアムを組織し、実務者によるワーキングを開催して、そこで評価の指針や評価プログラムなどを詰めていきます。それを元に今度は先の委員会に諮り、最終的にコンソーシアムが定めていくというイメージです。

また、こうした鳥取県版評価法を実際に不動産会社に使ってもらえるよう、なるべく簡単に操作できる評価システムを用意しなければなりませんが、それは一般社団法人建物評価研究機構の「THK住宅査定システム」をベースに同機構と県及び関係団体の協働により製作します。

県民が健康に暮らすようになれば鳥取県は実入りが増える!?

こうして見てくると、鳥取県の取り組みは、国が行っても不思議ではない内容です。確かに県民のために性能の高い住宅を普及させたい、そのためには性能の高い住宅をきちんと評価できる仕組みが必要だ、というのはわかりますが、だからといって、なぜ鳥取県がここまで行うのでしょうか。

「まず1つは、NE-ST/Re NE-STが普及することで地場産業が活性化するため、県としては税収の増加につながります。リフォームでいうと、従来は100万~200万円のリフォーム費用が多いイメージでしたが、Re NE-ST認定住宅の平均工事費はだいたい2000万円くらいです。昨年から始まったばかりなので、まだ事例件数は10件ほどですが、こういった大規模なリフォームにより市場が拡大してきていることは大きいと思います」(槇原さん)

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

しかも、新築と比べてリフォームに携わる事業者は県内企業が多いので、より地場産業の活性化につながりやすいそうです。それに、高断熱・高気密の住宅で多くの県民が暮らせるようになれば、長い目でみると医療費の削減にも繋がるのではないでしょうか。

「また、空き家問題の解消にもなるのではないかと期待しています。現在は、子どもが成長して家を離れても、たいていは夫婦2人であまり使わない2階を抱えたまま、最後まで暮らします。なぜなら従来の評価方法では、たとえNE-ST認定住宅だったとしても思うような金額にならないので、移り住むことは難しいからです」(槇原さん)

しかし、鳥取県版評価法によって資産価値が高まれば、自宅の売却益を元手に老後の2人の生活に合った住宅に移り住むことができるかもしれません。

「一方の買い手としては、新築住宅はハードルが高いといった若い世代が考えられます。これから子育てなどでお金がかかるため、なるべく出費を抑えたい彼らが、NE-STの中古住宅の購入や、中古住宅を買ってRe NE-STするなら、と考えてくれるかもしれません」(槇原さん)

そんな風に、ライフステージに応じた住み替えが進んで行くのでは、と槇原さんは期待しています。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

「さらに、こうして住宅の寿命が延びることで、解体による廃棄物の抑制につながれば、SDGsでもあると思います」(槇原さん)

こうした鳥取県の取り組みに対し、既に全国の工務店などから問い合わせが多数あるそうです。「やはり性能の高い住宅をつくっている事業者は、自分たちの仕事をしっかりと評価してほしいと思っているのではないでしょうか」(槇原さん)

なかには「指針にはこんなことを盛り込んでほしい」など、メッセージを寄せる工務店もあるのだとか。これを機に各地で工務店レベルからのボトムアップが起これば、他県でも鳥取県同様の施策が行われるかもしれません。「他県で鳥取県版評価法を使いたい場合は、建物評価研究機構のシステムが使用できます」(槇原さん)。そうなれば、全国から「築22年以上だから価値はゼロになる」という古い慣習が消える日も近いのではないでしょうか。

鳥取県では来年の4月から鳥取県版評価法の運用を開始する予定。果たして古い慣習の消滅が始まるのでしょうか? 期待を込めて注目しましょう。

●取材協力
鳥取県
●関連サイト
鳥取県建築物環境総合性能評価システム「CASBEEとっとり」