高齢者、障がい者、外国人など、住まいの配慮が必要な人たちへの支援の最新事情をレポート。居住支援の輪広げるイベント「100mo!(ひゃくも)」開催

2023年11月30日、SUUMO(リクルート)では“百人百通りの住まい探し”をキャッチコピーとした居住支援の輪を広げるプロジェクト「100mo! (ひゃくも)」のイベントを開催しました。これまでもSUUMOでは当プロジェクトの一環として高齢者、外国人、障がい者、ひとり親、LGBTQなど、住まいの確保に配慮が必要な人たちへ向けた取り組みを行う団体や企業を特集記事で紹介してきました。

記念すべきその第1回目のイベントとなった今回は、賃貸住宅業界で居住支援をリードする4社の表彰を行い、各社の取り組みの共有や、パネルディスカッションを通じて「これからの居住支援」について考える会になりました。日々、取り組みを続ける人たちのアツい想いが渦巻いた当日の様子を、詳しく紹介します!

百人百通りのお部屋探しを。賃貸住宅業界が一丸となって目指すためのイベント

「100mo!」というプロジェクト名には、「あなたも。私も。みんなも。」、つまり部屋探しをする人も、部屋を提供する不動産会社も、賃貸オーナーさんも、住まいにかかわる全ての人が、満足のできる住まい探しを応援し、実現する社会を目指す、という想いが込められています。

「100mo!」のカラフルなロゴの上には、「あなたも。私も。みんなも。百人百通りの住まいとの出会いを♪」のキャッチコピー(画像/SUUMO「100mo!」プロジェクト)

「100mo!」のカラフルなロゴの上には、「あなたも。私も。みんなも。百人百通りの住まいとの出会いを♪」のキャッチコピー(画像/SUUMO「100mo!」プロジェクト)

いまの日本の社会には「住宅確保要配慮者」といわれる、高齢者、外国人、障がい者、ひとり親世帯、LGBTQ、生活保護受給者など、住まい探しや入居中・入居後に配慮が必要な人たちがいます。家賃滞納や入居中・入居後のトラブルを懸念するオーナーさんや管理会社の判断によっては入居を断られたり、入居審査に通らないことがあります。また、入居してからもこれらの配慮が必要な人たちが安心して暮らせるように、管理会社やオーナーさんが安心して貸せるように、見守りや日々の生活におけるサポート、コミュニケーションが欠かせません。これらを避けずに、むしろ積極的に取り組んでいくことが「居住支援」です。

この「居住支援」を行う企業や団体のメンバーを中心として、当日のイベントの会場には約80名が出席。さらにオンラインでの参加も含め、多くの人がスピーカーの話に耳を傾け、言葉を交わしました!

当日の会場の様子。約80名の出席者以外にも多くの人がオンラインで参加した(撮影/唐松奈津子)

当日の会場の様子。約80名の出席者以外にも多くの人がオンラインで参加した(撮影/唐松奈津子)

住まいの確保に配慮が必要な人たちへの取り組みで業界をリードする、4社を紹介!

会の冒頭でイベント開催に込めた想いを共有した後は、「居住支援」をリードする4社の表彰と取り組み内容の紹介から始まりました。4社に共通するのは住まいを貸す側(オーナー)の偏見や不安を取り除き、借りる側(入居者)の暮らしに伴走し続けていること。仲介業や賃貸管理業という仕事において、私たちが見ている「貸す」「建物を管理する」という部分はほんの一部であることに気づかされます。

愛知県名古屋市で賃貸住宅の仲介と9万1000戸の管理を行うニッショーは、高齢者が安心できる見守りサービス「シニアライフサポート」を提供しています。2013年にサービス付き高齢者向け住宅が社会的な話題となり、建築ラッシュとなった際に、賃貸住宅を探す高齢者に紹介できる物件が少ないことに気づき、社内で起案。電話での安否確認やセンサーなどの機器も活用した見守りで、高齢者とその家族が安心して暮らせるサービスを提供しています。(関連記事)

ニッショーの佐々木靖也さん(画像/SUUMO「100mo!」プロジェクト)

ニッショーの佐々木靖也さん(画像/SUUMO「100mo!」プロジェクト)

「シニアライフサポート」の紹介(画像/SUUMO「100mo!」プロジェクト)

「シニアライフサポート」の紹介(画像/SUUMO「100mo!」プロジェクト)

「入居者ファースト」で、あらゆる人の「入居を拒まない」取り組みを続ける京都府京都市の長栄。国内外から多くの観光客が訪れる京都市では提供できる賃貸住宅が限られ、身寄りのない高齢者や外国人は入居を断られるケースが多くありました。そこで、コールセンターやセキュリティー会社、家賃保証会社などとの連携により見守りや生活サポートサービスを提供。また、外国人スタッフを採用するなどして、外国人の入居や生活をサポートしています。(関連記事)

長栄の奥野雅裕さん(画像/SUUMO「100mo!」プロジェクト)

長栄の奥野雅裕さん(画像/SUUMO「100mo!」プロジェクト)

外国人向けの取り組みを紹介するスライド(画像/SUUMO「100mo!」プロジェクト)

外国人向けの取り組みを紹介するスライド(画像/SUUMO「100mo!」プロジェクト)

福岡県を中心に15店舗、4万4000戸を管理する三好不動産は、高齢者、外国人、LGBTQなど、あらゆる人の住まい探しに寄り添っています。それぞれの人たちが抱える問題や事情に違いはあっても「すべての人に快適な住環境の提供をしたい」という基本姿勢のもと、店舗を訪れる人たちのさまざまなニーズにいち早く応えてきました。NPO法人の設立や外国人スタッフの採用、LGBTQの専任担当者の設置など、その取り組みは賃貸住宅全体をリードしているといっても過言ではありません。(関連記事)

三好不動産の原麻衣さん(画像/SUUMO「100mo!」プロジェクト)

三好不動産の原麻衣さん(画像/SUUMO「100mo!」プロジェクト)

三好不動産では「すべての人に快適な住環境の提供をしたい」という想いで日々の業務に取り組んでいる(画像/SUUMO「100mo!」プロジェクト)

三好不動産では「すべての人に快適な住環境の提供をしたい」という想いで日々の業務に取り組んでいる(画像/SUUMO「100mo!」プロジェクト)

東京都足立区にあるメイクホームは、障がいのある従業員の部屋探しが難しかった原体験から、高齢者や低所得者、精神障がいのある人や車椅子の人などのお部屋探しに取り組むように。自身も視覚障がいのある社長や、障がいのある家族をもつスタッフが中心となって伴走しています。特徴的なのは、築古で空室になっているアパートなどを投資家から預かった資金でリフォームして提供する「完全管理システム」。日頃のサポートや万一のときの対応も、ノウハウのある同社が全て対応することでオーナーの不安とリスクを軽減しています。(関連記事)

メイクホームの石原幸一さん(画像/SUUMO「100mo!」プロジェクト)

メイクホームの石原幸一さん(画像/SUUMO「100mo!」プロジェクト)

「完全管理システム」の仕組み(画像/SUUMO「100mo!」プロジェクト)

「完全管理システム」の仕組み(画像/SUUMO「100mo!」プロジェクト)

居住支援の取り組みの裏側、収益化の方策も惜しみなく。真剣に本音を語るセッション

4社の代表者がそろって登壇したパネルディスカッションは、登壇者もその話を聞く参加者も、全員が真剣な面持ちで臨んだ時間になりました。サービス提供の裏側のリアルな話や、ビジネスとして成立、継続し続けるためにどのようにしているのかなど、ここでしか聞けない、率直な疑問への答えも。

当日のパネルディスカッションの様子。ゲストたちが真剣な面持ちで取り組みの裏側を語った(画像/SUUMO「100mo!」プロジェクト)

当日のパネルディスカッションの様子。ゲストたちが真剣な面持ちで取り組みの裏側を語った(画像/SUUMO「100mo!」プロジェクト)

「ソーシャルビジネスとしての位置づけで収益を追いかけていない。グループ会社10社の中で、儲かる会社で儲けて、儲からない会社はそのままでいい」(メイクホーム・石原さん)

「高齢化社会で入居する人が減る中で9万1000戸の管理物件をどう収益化するか、活用するかを考えた結果。高齢者の方にとって有益なサービスを追求したところ、仲介手数料に加え、空室率が上がれば管理収入も上がり、付帯サービスの手数料が加わった。さらには会社のブランド力や知名度も上がった」(ニッショー・佐々木さん)

さらに質問者からの「アイデアを具体的な一歩にするためのきっかけは?」という質問には、「チームのスタッフのマインドが一つの方向に向いていると、スタッフが自主的に動くようになり、お客さまからも感謝の声をもらったりすることで一層推進された」(長栄・奥野さん)、「最近ようやく、LGBTQのイベントなどで感謝の声をいただけるように。取り組みの効果を実感するまでには長い時間がかかる」(三好不動産・原さん)、「最初の説明会で『これはいいね』と良い反応をもらえたことで改めて社会に必要とされていることを認識し、プロジェクトを推進する後押しになった」(ニッショー・佐々木さん)など、温かいエピソードとともに笑顔がこぼれる場面もありました。

真剣な話の中でも、心が温まるエピソードに笑顔がこぼれる場面も(撮影/唐松奈津子)

真剣な話の中でも、心が温まるエピソードに笑顔がこぼれる場面も(撮影/唐松奈津子)

今日のイベントを起点に「大きなムーブメント」へ。これからに期待が高まる

国土交通省 住宅局 安心居住推進課の津曲共和さんは「民間の賃貸住宅ストックを活用する上で大家さんの不安はしっかりとらえた上で、どういう対応をすれば住まいを求める人とのニーズをマッチさせることができるのか、各地域でいわばwin-winの関係をつくっていくにはどうしたらいいか、国でも考え続けながら制度や予算を検討していきたい」と言います。

国土交通省 住宅局 安心居住推進課の津曲共和さんは「まだ具体的な話ができる段階ではないが、複数の省をまたいで検討を重ねているので、これからの国の動きも注視してもらえれば」と語った(撮影/唐松奈津子)

国土交通省 住宅局 安心居住推進課の津曲共和さんは「まだ具体的な話ができる段階ではないが、複数の省をまたいで検討を重ねているので、これからの国の動きも注視してもらえれば」と語った(撮影/唐松奈津子)

ゲストスピーカーとして登壇したNPO法人抱樸 代表、全国居住支援法人協議会 共同代表の奥田知志さんは「親子や親族が助け合って暮らす古い家族のモデルを前提とした現在の制度」と「単身世帯が38%を占める現状」との隙間やギャップを埋める仕組みとして、居住支援の必要性を訴え続けます。

奥田知志さんは、当日のゲストスピーチの中でも多くの課題の提起と解決策の提言をしていた(画像/SUUMO「100mo!」プロジェクト)

奥田知志さんは、当日のゲストスピーチの中でも多くの課題の提起と解決策の提言をしていた(画像/SUUMO「100mo!」プロジェクト)

参加者からは「マイノリティにしっかり目を向けていこうとする、住宅・不動産業界の姿勢みたいなものを感じた」「住まいは生活のスタートライン。一番大事な土台なので、このようなイベント・取り組み共有の場があることで、よりたくさんの人が生活しやすく、生きやすくなるといい」という社会や業界へ向けたエールの声が。会場参加者に一言を求めたメッセージボードにも、「今日のイベントから大きなムーブメントを」「より優しい業界の初めの一歩に」といった“これから”を感じさせる言葉が並んでいました。

会場に掲示された「100mo!」メッセージボードには、未来への期待を感じさせる言葉が並んだ(画像/SUUMO「100mo!」プロジェクト)

会場に掲示された「100mo!」メッセージボードには、未来への期待を感じさせる言葉が並んだ(画像/SUUMO「100mo!」プロジェクト)

ゲストスピーチの中で奥田さんは多くの提言をしていました。住宅確保要配慮者と呼ばれる、住まいの確保が困難な人たちへ向けた住宅の確保には、「セーフティネット住宅の基準の見直しによる拡大」「民間賃貸住宅だけではない、公営住宅など公的賃貸住宅の積極的な活用」「地域における居場所(サードプレイス)の確保」。大家さんがより貸しやすくするための「家賃債務保証制度の充実」や「住宅扶助の代理納付の原則化」や「残置物処理等の負担を軽減できる仕組み」の必要性などです。

登壇した4社も社会の抱える課題に一つひとつ向き合い、解決策を模索し続けた結果、ビジネスに結びつけています。日々、居住支援に取り組む人たちが集まった会、この場に集まる人たちの想いとアイデアを束ねて大きなムーブメントにしていくことで、国や自治体を巻き込んでより多くの人が安心して暮らせる住みやすい社会になる、そんな可能性を感じさせる時間でした。

●取材協力
・株式会社ニッショー
・株式会社長栄
・株式会社三好不動産
・メイクホーム株式会社
・全国居住支援法人協議会
・認定NPO法人抱樸
・国土交通省

「外国人入居可」物件が2割→7割に! 外国人スタッフの採用、専門店の設置まで、社会課題に挑む不動産会社 神奈川・エヌアセット

神奈川県・溝の口エリアを拠点とする不動産会社、エヌアセットは、外国人対応専門店を設置するなど、外国人の賃貸探しに力を入れている不動産会社です。まだまだ全国的には外国人入居可の物件が少ない中、オーナーへの啓蒙や提案によって、エヌアセットの管理物件では5年前の2割から7割へと飛躍的に増えました。この成果は外国人スタッフの能動的な活躍によるところが大きいようです。

そこでエヌアセット 営業部部長の上野謙さん、そして国際営業チーム チーム長の林同財(りん どうざい)さんに外国人スタッフの採用や育成のポイントについて話を聞きました。

外国人スタッフ第1号を採用、外国人専門店舗ができるまで

エヌアセットが初めて外国人スタッフを採用したのは、2017年のこと。通常のポータルサイトへの広告掲載による賃貸の集客に限界を感じて、新たな集客ターゲットを探していた時でした。そのタイミングで同社に入社してきた外国人スタッフ第1号が林さんです。

日本の大学の国際学部で学んだ林さんは、来日当初は日本語がうまく話せなかったり、住まい探しで外国人だからと断られたりしたことも。いろいろな国から来た同級生も同じような経験をしていたため、自分が同じような人たちの頼りになれないかという思いがあったそうです。

「大学4年生の秋ごろに、ほかの日本人大学生と同じように就職活動をしました。エヌアセットにたどり着いたのは、募集する文章に『国際的』『外国人』というキーワードがあり、多言語を話す能力を活かせると思ったからです。面接で社長から直接、『一緒に外国人事業をやっていきましょう』と言っていただいたのが決め手となり、この会社に入社しました」(林さん)

林さんが入社したことで、新たに外国人をターゲットとした事業が本格的に動き出した(画像/PIXTA)

林さんが入社したことで、新たに外国人をターゲットとした事業が本格的に動き出した(画像/PIXTA)

林さんは、入社して1年目はほかの日本人スタッフと同様に日本人のお客さまからの電話を取ったり、来店者の対応をしたりしていました。2年目になり、ついに外国人事業に本格的に着手することに。2022年9月に外国人専用店舗ができたことで、外国人のお客さまに特化した対応ができるようになりました。外国語での物件紹介や資料作成、日本の商慣習や生活に必要なルールの説明など、外国人スタッフのもつスキルを活かせる業務に時間を割けるようなったと林さんは感じているそうです。

アメリカの大学の日本校でのハウジングフェアの様子。この大学がエヌアセットの営業エリア内に移転してから、職員や学生の住まい探しも増えている(画像提供/エヌアセット)

アメリカの大学の日本校でのハウジングフェアの様子。この大学がエヌアセットの営業エリア内に移転してから、職員や学生の住まい探しも増えている(画像提供/エヌアセット)

「外国人入居可」の物件を、5年で2割から7割に引き上げた取り組み

不動産賃貸の市場全体においては、日本に住む外国人の数に対して、入居が可能な物件の数はまだまだ少ないのが現実です。しかし、エヌアセットでは、5年前には管理物件の2割程度に過ぎなかった「外国人入居可」物件が、今は約7割程度にまで増えたとのこと。それに伴い、外国籍の顧客を仲介する件数も飛躍的に伸びています。

多言語のホームページ作成、SNSやGoogleの口コミ活用など、積極的な施策で外国人入居者の仲介件数は5年間で10倍以上に(画像提供/エヌアセット)

多言語のホームページ作成、SNSやGoogleの口コミ活用など、積極的な施策で外国人入居者の仲介件数は5年間で10倍以上に(画像提供/エヌアセット)

外国人の受け入れが可能な物件を増やすために、林さんたちはオーナーに対するセミナーを開催したり、外国人スタッフ自らオーナーの説得を行ったりしてきました。時には実際に入居希望者をオーナーや物件の管理会社に引き合わせ、その人自身を見て納得してもらうことも。

さらに、入居者に対してのサポートも欠かせないといいます。日本で暮らしていくには、例えば電気・ガス・水道といったライフラインの開通は、日本の電話番号がなければできません。このような行政手続きをサポートし、水漏れなど緊急を要するときは、林さんたちスタッフが連絡を受けて対応することもあるそうです。

「入居希望者の中には、日本語がうまく話せない人もいます。海外では馴染みのない敷金・礼金など日本独特のルールについても、事前に母国語で理解できるまで説明をすることで、これまでに大きなトラブルはほとんど起きていません」(林さん)

「賃料面・入居後のサポートについて、自社だけでなくアウトソースでも対応ができるよう、外国人専用の家賃保証会社とパートナー関係を結びました。家賃滞納の不安を解消すると同時に、入居者も困ったことやトラブルがあったときに24時間コールセンターを利用できるようになったのです」(上野さん)

エヌアセットでは、定期的に外国人入居者同士の交流会も企画している。日本で新しい友人や知人ができることで、相談もしやすくなる。結果的にトラブルが起きにくくなる一面も(画像提供/エヌアセット)

エヌアセットでは、定期的に外国人入居者同士の交流会も企画している。日本で新しい友人や知人ができることで、相談もしやすくなる。結果的にトラブルが起きにくくなる一面も(画像提供/エヌアセット)

入居中のサポートを充実させることで入居者も安心でき、オーナーの理解を得られるようになったことが外国人可の物件の増加につながったのでしょう。

変化をもたらしたのは、オーナーや管理会社だけではありません。自社内においても変化が見られたといいます。かつてエヌアセットの管理部門の中には、オーナーの気持ちに寄り添うがゆえに、外国人の入居をポジティブに捉えられない空気も少なからずあったのだとか。

「一番変化を実感しているのは、自社の管理部門に所属するスタッフの対応です。私が入社する以前は、日本語が話せないお客さまは基本的にお断りしていたそうです。それが今では外国人の入居促進に向け、管理部門の責任者が積極的に賃貸物件のオーナーへの説明に同行してくれます」(林さん)

「営業部門において、外国人の入居は普通のことになってきています。取引数においても外国籍のお客さまは、全体の約2割を占める重要な顧客層です。このことを社内外へ絶えず発信し続けることが必要と考えています」(上野さん)

外国人スタッフに聞く、日本企業で働く苦労は?

今では敬語の使い方も上手で、流暢な日本語を話す林さんですが、最初のころは、やはり言語の壁があったと言います。

「日本で日本語を勉強して、基礎的な日本語はある程度理解できましたが、職場や接客での敬語の使い方は難しかったです。ネイティブの日本語ではないため、お客さまから、日本人スタッフに担当を変えてほしいと言われたこともありました」(林さん)

しかし、そんな林さんの助けとなったのは同期入社の仲間たちでした。同期は林さんを含め5人。ほかの4名は日本人でしたが、休みの日には一緒にスキーを楽しむほど、みんな仲が良いそうです。

「周りの中国人の知り合いからは、なかなか職場に馴染めないという話を聞いていましたが、良い人に囲まれて私はラッキーでした。外国人だからと言って特別扱いもされず、だからこそ早く慣れることができたのだと思います」(林さん)

外国人スタッフ採用と育成のポイントは?

林さんの入社後、外国籍のスタッフの採用は続いており、現在は4名の中国人スタッフが、日本語、英語、北京語、広東語、韓国語にも対応していて2024年度は新たにベトナム人スタッフも加わる予定。

現在、日本語のほか、英語、中国語、韓国語に対応する外国人スタッフ4名が在籍している(画像提供/エヌアセット)

現在、日本語のほか、英語、中国語、韓国語に対応する外国人スタッフ4名が在籍している(画像提供/エヌアセット)

外国籍の顧客対応に注力するためには、外国人スタッフは必要不可欠な存在です。外国人スタッフは顧客がコミュニケーションをとりやすい母国語で話せるだけでなく、日本に来て入居希望者と同じような経験をしているので、顧客が何に困っていて何を欲しているのかを的確に掴むことができます。

林さんは、外国人スタッフの採用に際し、一次面接も行っているそう。そこで、どのような点を重視しているのかを聞いてみました。

「まずは言語力です。日本語と英語は最低限必要で、さらに他言語も話せればなお良いですね。ほかに見るのはこの仕事に合うかどうか。いろいろな文化や国の人と話す仕事なので、人と話すことが好きであることもポイントです」(林さん)

そして今後ますます増えると見込まれる外国人スタッフの育成や定着については、外国人スタッフ用の接客マニュアルを作成しようと検討している最中とのこと。また普段から定期的にスタッフ同士で飲食の機会を持つなど、アットホームな雰囲気づくりを心掛けているそうです。

「私が新たに入社する外国人スタッフに対していつも心がけていることは、『会社にとってあなたがいかに大事な存在か』を伝えるということです。外国人スタッフはみんな最低でも3言語は話せて優秀ですし、その分プライドも高い。それぞれの意見を尊重し合うよう、私もチームリーダーとして勉強中です」(林さん)

より多くの外国籍の入居希望者を受け入れていくために

これからは賃貸市場において、外国籍の顧客層は今以上に増加していくと考えられます。エヌアセットのように外国人の住まい探しを推進しようとしている不動産会社も多いはず。先駆者としてのアドバイスはあるのでしょうか。

「外国人のほとんどは、慣れない土地での暮らしで、ある種の孤独感を抱えています。周囲の人たちは普段からの声がけや表情の変化に気づけるように様子をうかがう必要があるでしょう。それと忘れてはならないのは、日本で働く多くの外国人は自国でもトップクラスのエリート層だということです。よく言えば芯があり、ネガティブに捉えると頑固な一面があるので、そのようなことを理解して接すると良いと思います」(上野さん)

しかしその一方で、林さんは現場のスタッフが入居中のトラブルに対応したり、相談に乗ったりと日本人のお客さまへの入居後対応と比べて手間がかかるため、負担が大きくなっていることも指摘します。事業として継続していくためには、外国人スタッフが長く働ける環境を整えることも考えなくてはなりません。外国人専用の家賃保証会社とのパートナーシップは、オーナーや入居者だけでなく、外国人スタッフの負担を減らし、長く働いていくための一つの解決策となっているようです。

そして、最後に林さんから全国のオーナーさんへのメッセージです。

「『外国人を受け入れたことがない』『日本語が得意な人でないとうまくコミュニケーションが取れないのではないか』といった不安はあると思いますが、やってみなければわからないことがあります。外国人専用の家賃保証会社の活用で365日対応を任せることができるサービスもありますし、当社のように仲介会社がサポートできることもありますので、まずは最初の一歩を踏み出していただきたいです」(林さん)

日本賃貸物件管理協会でのプレゼン。これからの日本の賃貸市場で、外国人は無視することができない。オーナーの理解を得るための活動も積極的に行っている(画像提供/エヌアセット)

日本賃貸物件管理協会でのプレゼン。これからの日本の賃貸市場で、外国人は無視することができない。オーナーの理解を得るための活動も積極的に行っている(画像提供/エヌアセット)

賃貸物件の空室問題がクローズアップされる中、これからは外国籍の入居希望者も重要な顧客層と捉えていくことが、問題解決の鍵となるでしょう。そのために、日本で同じような経験をし、入居希望者の気持ちを汲み取れる外国人スタッフは、なくてはならない存在です。

林さんは3年以内の目標として、賃貸だけでなく外国人を対象にした不動産売買、投資売買などへの進出も考えているそう。外国人市場は今後ますます拡大していくかもしれません。会社として本腰を入れた外国籍のスタッフの雇用・育成、そして一部のスタッフだけに負担をかけすぎない、組織としてのバックアップ体制を整えていくことが必要になってきていると感じました。

●取材協力
株式会社エヌアセット

「外国人の入居受け入れに壁を感じる」広島県ならではの賃貸事情。外国人専門店舗つくり不動産会社が奮闘 良和ハウス

2020年に外国人専門店舗を構え、広島県で居住支援を行っている良和ハウス。外国人専門店舗では、それまで複数の店舗に配属されていた外国人スタッフが集まり、母国語で外国人の住まい探しや入居のサポートをしています。専門店舗として新しい体制になったことで、外国人の住まい探しにどのような変化がもたらされたのか、また新たに見えてきた課題とは? 広島ならではの事情や、その中での奮闘について良和ハウス 広島賃貸営業部の熱田健輔さんに話を聞きました。

人口減が止まらない広島県、賃貸市場にも影響が

広島県は厳島神社、平和公園など海外からも人気の高い観光名所があり、2023年5月に開催された先進国首脳会議「G7広島サミット」でも注目された地です。外国人居住者の数もコロナ禍で一時は減ったものの、ここ最近は増えているそう。しかし、日本人も含めた広島県の人口は、ここ数年、転出者の数が転入者を上回る年が続き、このままではどんどん人口が減り続ける懸念があります。

広島県の総人口は、令和5年(2023年)5月現在、274万人。平成10年(1998年)以降減少を続けているが、外国人の数だけを見ると、令和2年(2020年)以降コロナの影響で一時減少したものの、再び増加している(出典/2023年広島県人口移動統計調査)

広島県の総人口は、令和5年(2023年)5月現在、274万人。平成10年(1998年)以降減少を続けているが、外国人の数だけを見ると、令和2年(2020年)以降コロナの影響で一時減少したものの、再び増加している(出典/2023年広島県人口移動統計調査)

熱田さんは「人口の減少は、賃貸市場にも少なからず影響を与えている」と言います。
人口減少にともない、バブルのころに建てられた築30年以上の物件、特に当時流行したワンルームにバス・トイレが一緒の3点ユニットバスの部屋などは、日本人の単身者にはあまり人気がなくなり、空室が増えているそうです。

1980年代に流行ったバス・トイレが一緒のワンルームは時代の流れと共に空室が目立つそう(画像提供/PIXTA)

1980年代に流行ったバス・トイレが一緒のワンルームは時代の流れと共に空室が目立つそう(画像/PIXTA)

一方、広島には介護・福祉関係の専門学校が複数存在し、外国人留学生が多い一面も。「外国人留学生を積極的に受け入れることは、広島の人口減少を食い止め、街に活性化をもたらすことにもなる」と、熱田さんは期待をしています。

「私たちだからこそできること。例えば、住まいをスムーズに確保する体制を整えたり、住まいを探す人たちが住みやすい環境をつくったりすることを、広島に本社を置く不動産会社の社会的使命として捉えています」(熱田さん、以下同)

外国人居住支援に立ちはだかる困難。広島ならではの事情も……

しかし、空室に悩まされる状況があるにもかかわらず、言葉や文化の違いからトラブルになることを懸念するオーナーや管理会社の意向で、外国人の入居を拒むケースが広島ではまだまだ多いそうです。このことは、外国人の住まい探しを難しくする要因の一つとなっています。

熱田さんによると、広島県民は他県の人から「よそ者に冷たいと言われてしまうことがある」のだとか。また、賃貸物件のオーナーも高齢の人が増えている中、今なお欧米人に対して抵抗のある人もいるそうです。そのような事情を十分理解したうえで、良和ハウスはそのような高齢者の気持ちにも寄り添いながら、外国人受け入れの必要性を根気強く伝え続けています。

「転出超過が続き、少子高齢化が進む中、このままでは経済が回らなくなり、生活基盤自体が危うくなるでしょう。生まれ育った街で過疎化が進むのは、やるせない気持ちになります。

広島を元気にするには、外国人の受け入れが一つのポイントになる、というのが私たちの考えです。人口減少に立ち向かうためにも、私たちは特に外国人の入居に特化していきたいと思います」

さらに、良和ハウスは、広島市や廿日市市などの行政とも協力して、オーナーさんや不動産会社向けにセミナーを開催して講演するなど、外国人を受け入れるための啓蒙活動を積極的に行っているそうです。

外国人入居者の受け入れを促進するため、セミナー講演などの活動にも力を注いている(画像提供/良和ハウス)

外国人入居者の受け入れを促進するため、セミナー講演などの活動にも力を注いている(画像提供/良和ハウス)

(画像/PIXTA)

(画像/PIXTA)

外国人専門の楠木店設立の背景は

現在、良和ハウスでは、楠木店を外国人専用店舗として、英語、中国語、ネパール語、ベトナム語、スペイン語、ヒンズー語のできる外国人スタッフ5名が住まい探しのサポートにあたっています。

きっかけは、2016年のこと。広島市内に中国からの留学生が増え、その問い合わせに対応するために中国人スタッフ1人を雇用したことが始まりでした。

「そもそも、私たちは、外国人だからといって特別扱いをするのではなく、どのお客さまにも同じように、ご希望の暮らしを叶えるために精いっぱいお手伝いをするのがモットーです。しかし、日本人スタッフだけの対応では、言葉や日本の習慣がうまく伝わらないことによるトラブルが起こりやすくなります。

そのために中国人スタッフが新たに加わったのですが、母国語でコニュニケーションを取れることや母国と日本の生活習慣の違いを理解したうえで説明できることで、トラブルが格段に減りました。結果、口コミで来店する中国人のお客さまの数が飛躍的に伸びたのです」

その後もベトナム人、ネパール人、アメリカ人と外国人スタッフを雇用するたび、同じ国の人からの相談が2倍以上に増えました。同郷の人同士のコミュニティやネットワークの力を実感した熱田さんたちは、外国人専門店を開店することになったというわけです。

外国人スタッフが働く楠木店では、7カ国語に対応している。日本語が流暢でない外国人にとっては頼もしい住まい探しのパートナーだ(画像提供/良和ハウス)

外国人スタッフが働く楠木店では、7カ国語に対応している。日本語が流暢でない外国人にとっては頼もしい住まい探しのパートナーだ(画像提供/良和ハウス)

外国人専門店だからできるようになったこと

熱田さんは「外国人専門店に外国人スタッフを集約したことで得られるメリットも大きかった」と言います。

「それまでは外国人スタッフは別々の支店に勤務していたのですが、日本人のお客さまが多かったため、外国人スタッフは日本人スタッフのサポートに回ることが多く、能力をフルに活かせていませんでした。外国人専門店をつくってそこに勤務してもらうようにしたことで、外国人のお客さまからの相談に集中して、効率よく業務に当たれるようになったのです。日本語がよくわからないお客さまも、安心してご相談いただける場所になったと思います」

さらに2021年には、外国人が入居できる日本の物件情報を検索できるサイトを立ち上げ、海外からでもアクセスしやすいよう、英語・中国語・ベトナム語で展開しています。このサイトを利用して来日前からメールやビデオチャットでコンタクトを取り、物件案内や電子契約の締結などを行えるようになりました。日本に来てすぐ、入居当日に全ての手続きを終えることも可能だそうです。

YouTube動画でも、ゴミ出しなどの日本のルールをわかりやすく説明している。契約時などには外国人スタッフが母国語で説明するが、言い忘れや、担当によって話す内容が異なるなどのミスを避けられる(画像提供/良和ハウス)

また、外国人からの問い合わせを受ける窓口を一つの店舗に集約したことで、新たなビジネスチャンスにつながったとか。

「専門学校や技能実習生を受け入れている会社などは、大勢の外国人留学生や外国籍の従業員を受け入れる前にあらかじめ住まいを確保しなければなりません。担当者が一つひとつ物件を見に行って探すのは大変です。良和ハウスがその業務を代行することによって、学校や企業の担当者が抱える業務の負担を大きく減らせます。

さらに、物件の紹介や入居手続きといった仲介会社としての業務だけではなく、入居後のトラブルまで対応できるのが弊社の強みです」

居住支援法人としてのあり方と今後の課題

外国人を含む住まいの確保に困難を感じている人たちの居住支援に、より注力していくために、良和ハウスは、現在、住まい探しに困っている人に賃貸住宅に関する情報の提供や相談を受ける団体として、都道府県が指定する居住支援法人に登録申請中です。

また、熱田さんは社内の組織体制について「物件を紹介して契約する仲介部門と、入居後の物件や入居者の管理を行う管理部門との連携は不可欠」だと言います。

「外国人入居者には、入居後も習慣の違いによる困りごとやトラブルに対応するため、外国語でのサポートが必要です。外国人入居者の数が増えれば、おのずと管理部門の負担も増えるわけですが、当社では外国人スタッフのいる仲介部門と管理部門が文書の作成や通訳などの業務を連携しています。そうすることで入居後のトラブルに対応する管理業務でも母国語で対応でき、オーナーさんを悩ます問題を減らせると考えています」

会社以外の組織との連携だけでなく、社内の横の連携も大事。各方面との理解と体制を整えていくことが重要ということですね。

行政や民間、また同じ企業内でも、組織を超えた理解と連携が必要(画像提供/良和ハウス)

行政や民間、また同じ企業内でも、組織を超えた理解と連携が必要(画像提供/良和ハウス)

さらに、熱田さんは「手厚いサポートを行うには、マンパワーの問題もある」とも指摘します。
日本で暮らしたことのない外国人にとって、家具の手配や電気・ガス・水道といったインフラ周りの手続きや銀行の振込などは、簡単なことではありません。良和ハウスの外国人スタッフは代わりに手続きをしたり、一緒にATMまでついて行ってサポートしたりもするそう。

楠木店で取り扱う物件紹介数は年間で400~500件ほど。それを5人の外国人スタッフで行い、さらにさまざまな相談や困りごとにも、頼まれれば支援の手を惜しみません。

「母国の事情がわかる外国人スタッフは、日本人スタッフよりは効率的に説明等行える一面はあるものの、相談や疑問に対応していると、スタッフ一人ひとりにかかる負担はどうしても多くなってしまいます。外国人スタッフの頑張りに頼るだけでなく、会社全体でうまく分担させながら改善していくことが今後の課題です」

母国語を話す外国人スタッフは、外国人利用者にとって頼れる存在であることは間違いない。日本の暮らしへの不安が理解できるので、業務以外でも頼まれると手を差し伸べるという(画像提供/良和ハウス)

母国語を話す外国人スタッフは、外国人利用者にとって頼れる存在であることは間違いない。日本の暮らしへの不安が理解できるので、業務以外でも頼まれると手を差し伸べるという(画像提供/良和ハウス)

外国人が日本で住まい探しをするときは、言葉や文化を理解する外国人スタッフがいることで、うまくコミュニケーションができ、トラブルを防げることが多くあります。

良和ハウスの外国人専門店や外国語サイトは、外国籍の入居検討者にとってわかりやすく、安心して住まい探しができる場所になっています。さらに、外国人スタッフにとっても効率的に仕事ができるようになり、外国人の居住支援策を考えるうえで、一つのモデルケースになるのではないでしょうか。

そして、居住支援を継続していくには、そこに携わる人たちへの負担をかけすぎない努力や仕組みも必要だと感じました。

●取材協力
良和ハウス
・English
・中文
・Tiếng Việt

特定技能外国人の受入れ増えるも住まいの提供進まず。11言語・24時間対応で部屋探しと暮らしを支援する不動産会社に理由を聞いてみた 日本エイジェント

外国人居住者も徐々に日本国内に戻りつつあります。一方で、外国人の賃貸住宅への入居はまだまだ困難な状況にあるようです。そのような中、不動産会社として初めて特定技能外国人(特定産業分野に関する専門性・技能を有する外国人)の住宅確保などをサポートする登録支援機関に認定された日本エイジェントは、外国人専用のポータルサイトを立ち上げるなど、外国人の居住問題に取り組んでいます。これまでの取り組みについて、国際事業部ゼネラルマネージャーの草薙匡寛さんに話を聞きました。

コロナ後の日本、外国人居住者の動向は変わった?

高齢化が進み、人口が減少している日本では、労働市場における外国人の受け入れニーズは拡大しています。新型コロナの流行によって、在留外国人数の増加は一時停滞しましたが、ここ数カ月の動向について、草薙さんは「まだ完全回復とまではいきませんが、コロナで帰国したり、日本への来訪を控えていた外国人がかなり戻ってきている」と話します。

在留資格別外国人労働者数の推移

日本における外国人労働者は、ここ10年余りで大幅に増え、今後も増加の見込み(資料引用元/厚生労働白書2022年度(令和4年度))

一方、外国人の入居を受け入れている賃貸住宅は限られているのが現状で、2016年から外国人の入居や生活サポートを行っている日本エイジェントの国際事業部には、ほかの会社で外国人だからという理由で入居を断られて相談に訪れる人も少なくないそうです。

そもそもなぜ、賃貸住宅への外国人の受け入れが進まないのでしょうか。

日本エイジェントが独自でヒアリングを重ねた結果、オーナーと不動産管理会社において外国人入居を敬遠する向きが大きいと分析しています。さらに突き詰めると、実際に無断帰国や原状回復トラブルなどの被害に遭ったことで入居を敬遠するケースと、被害に遭ったことはないけれどもトラブルの話を聞いて外国人の入居に不安を感じているケースの2つに分かれます。

「実際にトラブルは一定数起こりますが、その割合は日本人入居者のそれと大差ありません。外国人入居者のトラブルを未然に防ぐために重要なことは『母国語による事前説明』です。賃貸契約を結ぶときに、日本人が日本語で説明すると、外国人のお客さまは聞いているように見えても、きちんと理解していないことが多いのです。例えば、ゴミの分別問題など、本人に悪気はなくても、理解できていないから母国と違う日本のルールから外れてしまいます」(日本エイジェント 草薙さん、以下同)

生活オリエンテーションの受講歴の有無

調査対象となった在留外国人の約6割が日本で暮らす際の説明を受けていない(資料引用元/在留外国人に対する基礎調査2021年度(令和3年度)調査結果報告書)

対策として日本エイジェントでは多言語の資料をつくり、外国人のスタッフから外国人入居者が理解しやすい言語で母国との生活習慣やルールの違いを説明するそうです。現在6名の外国人スタッフが在籍しており、実店舗では英語・中国語・ベトナム語・ヒンズー語・ロシア語・ウクライナ語に対応しています。

関連記事:
・外国人は家賃滞納ナシでも入居NGが賃貸の実態。積極受け入れで入居率100%のスーパー大家・田丸さんの正攻法
・今も残る「外国人に部屋を貸したくない」。偏見と闘う不動産会社や外国人スタッフに現場のリアルを聞いた
・外国人の賃貸トラブルTOP3「ゴミ出し・騒音・又貸し」、制度や慣習がまるで違う驚きの海外賃貸実情が原因だった!

不動産会社として初めて「登録支援機関」に

国は労働市場の担い手不足を補うため、2019年から「特定技能制度」を新設し、とくに深刻な人手不足が生じている14の業種に新たな在留資格を認めています。日本エイジェントは、不動産会社として初めて特定技能外国人の住宅確保をサポートする「登録支援機関」になりました。

登録支援機関とは、特定の産業分野で経験や知識を有していると認められた特定技能外国人が日本で就労する際に、安定した暮らしを送れるよう支援する機関。就労の受け入れ先である雇い主から依頼を受けて特定技能外国人のサポートを行います。

国の政策で来日する特定技能外国人であっても、その住む場所のサポートまでは施策が十分に追いついておらず、他の外国人同様に言葉や文化の違いから、まだまだ受け入れる賃貸住宅は少ないのが現実。このような登録支援機関の存在は頼りになるはずです。

特定技能1号について

特定技能の在留資格には特定技能1号と2号の2種類がある。登録支援機関は受け入れ先企業の委託を受けて、外国人支援が必須とされる特定技能1号資格(在留期間は通算5年まで)を有する外国人をサポートする(資料提供/日本エイジェント)

「ほかの登録支援機関から、当社の国際事業部に家探しを手伝ってほしいと問い合わせがあったことがきっかけで、登録支援機関の存在を知りました。そこで外国人の居住支援に力を入れていた当社も出入国在留管理庁に申請を行い、登録支援機関に認定されました」

登録支援機関になるには、いくつかの要件がありますが、2016年の国際事業部立ち上げ当初から外国人スタッフが外国人の住まい探しサポートしている日本エイジェントにとって、登録はそれほどハードルの高いものではなかったといいます。

「不動産会社として日本で最初の登録支援機関となったことで、他の登録機関から住まい探しで困っている外国人を直接ご紹介いただき、住まい探しのお手伝いができるようになりました。職探しや職務上の支援をメインに行っている登録支援機関も多く、それまで特定技能制度の中で弱かった『住』の部分で、私たちがお力になれると感じています」

日本で働く外国人を、住まいと暮らしの両面でサポートする

登録支援機関としての日本エイジェントの仕事は、他の登録支援機関からの相談を受け、住まい探しやライフラインの手続きをサポートすることです。

「手続きを円滑に進め、安心して住み続けていただくためには外国人向けのサービスを提供する他社との連携も欠かせません。『外国人専用の家賃保証会社』を活用することで申し込みや契約の手続きを、『引越し』や『家具や家電のレンタル』の事業を行っている会社と連携して入居をスムーズにできるようサービスを整えています。また、入居後に困ったことがあったときには『母国語による24時間コールセンター』で相談を受け付けています」

外国人専門の不動産コールセンター「wagaya call 24」。現在11言語、24時間365日体制で対応している(画像提供/日本エイジェント)

外国人専門の不動産コールセンター「wagaya call 24」。現在11言語、24時間365日体制で対応している(画像提供/日本エイジェント)

また、外国人を受け入れる賃貸物件を増やすためには、オーナーや管理会社に外国人を受け入れることのメリットを伝え、理解を得るための取り組みも欠かせません。オーナーや管理会社向けのセミナーを開催したり、個別に「既存の建物を外国人向け賃貸に改修したい」という相談に乗ったりすることもあるそうです。

「入居者を日本人のみに絞っている場合、繁忙期は新年度が始まる前の1~3月が中心ですが、外国人が入居を検討するのは、日本人の入社・転勤シーズンに近い2~3月と8~9月。さらに留学生が来日する1月、4月、7月、10月と、1年に何回も入居案内の繁忙期があります。オーナーにとってはそれだけ空室を埋めるチャンスが増えるということです」

外国人繁忙期

外国人にも入居の対象を広げることで、日本人の入居繁忙期を逃しても、年間を通して空室を埋めるチャンスができる(画像提供/日本エイジェント)

外国ではバス・トイレが一緒の住まいが多かったり、平屋が多い国があるなど、日本人とは異なったライフスタイルを持っている人が多くいます。そのため、日本人にはあまり人気のないユニットバスの物件や、1階の部屋に抵抗感のない外国人も結構いるそうです。

「利便性より家賃の低さを重視する人も多いので、駅から遠い部屋や築古の物件も外国人を受け入れれば、日本人には敬遠されて空室になっていた物件の入居率が上がる可能性は十分あり得ます」

大規模なリノベーションをせずに家具・家電付きの物件とすることで賃料アップを見込めることも。オーナーにとっても、外国人の受け入れには魅力がたくさんあるのです。

Before 家賃6万円/月(周辺相場並)。最寄駅から徒歩13分、築37年、15平米のワンルームタイプ。バス・トイレ同室の3点ユニットバスタイプ

Before 家賃6万円/月(周辺相場並)。最寄駅から徒歩13分、築37年、15平米のワンルームタイプ。バス・トイレ同室の3点ユニットバスタイプ

After 家賃10万円/月 二段ベッドおよび、家具家電を備え付けにし2人入居可能にしたことで入居者にとっては割安な部屋となりオーナーにとっては賃料アップが見込めるようになった。短期・中期・長期と契約期間に応じたプランを設け、外国人がより入居しやすいような仕組みにしている(画像提供/日本エイジェント)

After 家賃10万円/月 二段ベッドおよび、家具家電を備え付けにし2人入居可能にしたことで入居者にとっては割安な部屋となりオーナーにとっては賃料アップが見込めるようになった。短期・中期・長期と契約期間に応じたプランを設け、外国人がより入居しやすいような仕組みにしている(画像提供/日本エイジェント)

外国人専用の不動産ポータルサイト「wagaya Japan」発足の裏側

ネット上では日本で賃貸物件を借りることの手続きの煩雑さや審査の厳しさなど、いろいろな情報が出回っているので「日本で賃貸物件を借りて住むのはかなり大変そうだ」と尻込みしている外国人も多くいるといいます。

そこで、日本エイジェントでは、日本語を含む5カ国語に翻訳して物件探しができる外国人向けポータルサイト「wagaya Japan」を開設。2018年の立ち上げ当初は、同業他社との差別化を目的としたものでしたが、社内外のいろいろな意見を取り入れてホームページをブラッシュアップしていくうちに、少しずつ社会的な使命感に駆られていったそうです。

外国人向けポータルサイトwagaya japan。日本語のほか、英語・中国語(簡体字・繁体字)・ベトナム語に対応している(画像提供/日本エイジェント)

外国人向けポータルサイトwagaya japan。日本語のほか、英語・中国語(簡体字・繁体字)・ベトナム語に対応している(画像提供/日本エイジェント)

wagaya Japanの読み物「wagaya ジャーナル」では、外国人の入居希望者ができる限りスムーズに日本の暮らしに馴染めるよう、日本で暮らしていく上でのお役立ち情報を、wagaya Japanと同様に5カ国語で提供しています。
日本エイジェントに相談に訪れる外国人からは、「日本での住まい探しはもっと難しく時間がかかるかと思っていたが、情報を得ることもでき、想像以上に早く入居することができた」という声もよく聞かれるそうです。

そしてサイト運営の裏側には、外国人が入居可能な不動産を扱う複数の管理会社との協業があります。

「最初のうちは方向性も定まっておらず、とにかくたくさんの物件情報を載せようと必死でした。しかし、当社が掲げている『日本の住まいをもっとグローバルに』を実践するには、自社の物件だけを掲載していても規模が知れています。私たちの取り組みに興味を持った会社から物件を載せたいとお声がけいただいて、そこから全国の管理会社と協力するようになりました」

サイトの運営にかかる費用は、物件を掲載する管理会社からの掲載料を充てていて、ユーザーは無料で利用できます。最初は掲載する物件数も少なかったのですが、求められるものをつくっていれば利益は後からついてくると信じて走り出したそうです。

あらゆるお客様のニーズに応えていった結果、最初は賃貸物件のみでしたが、売買物件やシェアハウスも扱うよう変化していき、東京都だけでも9000件以上の物件情報が掲載されるようになりました。年間対応実績は約6000件、wagaya japanを訪れる外国人ユーザーは、月15万人以上に上ります。

国籍も文化も異なる外国人が、暮らしたいと思える国にするために

協業の一方で、草薙さんは日本のオーナーや管理会社と接するときに、外国人に対する正しい知識がまだ足りていないと感じていることも指摘します。

「そもそも『外国人』と一括りにすること自体、ちょっと乱暴ではないでしょうか。アジア人といっても日本と中国、ベトナムでは習慣も文化も全然違います。相手の習慣や文化を知りながらお互いを理解すること、そのためには、多言語対応ができる不動産管理会社の数ももっと必要です」

お互いの理解が進めば、外国人の日本での住まい探しはもっとずっと楽でスムーズになるでしょう。そして、外国人の入居を受け入れることは人口減による日本全国の空室・空き家の増加を食い止める鍵となり、オーナーともWIN-WINの関係を築けるはずです。

国際事業部の国際色豊かなメンバーが母国語で対応する(画像提供/日本エイジェント)

国際事業部の国際色豊かなメンバーが母国語で対応する(画像提供/日本エイジェント)

国が特定技能制度で外国人の来日を促すのであれば、その数に見合うだけの住まいがなくてはなりません。そして、ただ家を提供するだけでなく、日本語のわからない人たちが、いかに相談しやすい環境や仕組みを整えるかが大事だと感じました。

日本に住んで働くことを希望する外国人のニーズを真剣に捉え、解決してこうとする日本エイジェントのような考えを持つ不動産会社や、理解を示すオーナーがもっと必要です。不動産会社が登録支援機関に認定を受けることもまた、外国人を積極的に受け入れていく姿勢を示す、一つの方法になるのではないでしょうか。

●取材協力
・wagaya japan
・株式会社日本エイジェント国際事業部専用ページ

外国人の賃貸トラブルTOP3「ゴミ出し・騒音・又貸し」、制度や慣習がまるで違う驚きの海外賃貸実情が原因だった!

日本に暮らす外国人は多くいるにもかかわらず、外国人が入居できる賃貸物件が少ないことが問題になっています。文化や生活習慣の違いから、トラブルになることを危惧して、外国人に部屋を貸したがらないオーナーや管理会社の担当者もいるようです。

今回は、外国人への入居サポートを行っている不動産会社イチイ 代表取締役の荻野政男さんと、グローバルトラストネットワークスの外国人住まい事業部 グローバル賃貸部 部長・尾崎幸男(崎は旧字体、以下同)さんに、外国人入居者との間に起こりやすいトラブルとその解決方法ついて話を聞きました。

日本に住む外国人の賃貸住宅事情は?

外国人が日本で家を借りようとするとき、さまざまな困難が存在します。
まずは、物件情報の取得が困難であること。

「ネットで物件を探せるサイトは複数ありますが、多言語で情報提供されているものはほとんどありません。日本語で物件を探そうとすると、日本語が得意でない外国人は得られる情報が限られてしまいます」と家賃保証をはじめとして、15年以上外国人に特化したさまざまな生活支援事業を展開しているグローバルトラストネットワークスの尾崎幸男さんは話します。

また、海外では通常、保証金として家賃1~2カ月分を支払えば契約できることがほとんどですが、日本では入居に際して家賃保証会社との契約が必要で、そのための審査があります。オーナーや管理会社によっては日本の現住所や電話番号がなければ借りられなかったり、緊急連絡先は日本人でなければダメだったり、留学生など仕事を持たない人は断られてしまうケースもあるようです。

「そもそも、海外では入居希望者がオーナーと直接やりとりすることが多く、不動産会社を介して契約を結ぶということ自体が不慣れです」と、韓国・中国・アメリカなどの外国人スタッフとともに外国人の入居サポートを行っていて、日本賃貸住宅管理協会 あんしん居住研究会 会長も勤める荻野政男さんは説明します。

何ページにも及ぶ契約書の内容を理解するのは、たとえ説明を受けたとしても、外国人が母国語以外の言葉で理解するのは困難でしょう。

さらに日本では敷金・礼金・仲介手数料・保証料などの費用が通常、家賃の5~6カ月分ほどかかります。初期費用があまりに高すぎて、家を借りること諦めざるを得ない人もいるのだとか。海外では電気・ガス・水道やインターネットなどのインフラ使用料は家賃に含まれていることが多いため、それらの契約を自分でやるのは初めてという人も多く、日本の慣れないルールや慣習に戸惑うことが多いのです。

日本での家探しでは、物件情報や日本独特のルールについて、日本語以外の情報が少ない。日本語が得意でない外国人には情報格差が生まれる可能性も(画像/PIXTA)

日本での家探しでは、物件情報や日本独特のルールについて、日本語以外の情報が少ない。日本語が得意でない外国人には情報格差が生まれる可能性も(画像/PIXTA)

外国人入居者に起こりやすいトラブルTOP3

イチイの荻野さんによると、入居後の外国人のトラブルトップ3は、「ゴミ出し」「騒音」「又貸し」だといいます。

「“ゴミ出し”は、日本のように細かくゴミの分別をしている国は意外と少なく、ゴミの分別に慣れていない人が多いです。日本より細かく分別する習慣があるのは、ドイツくらいではないでしょうか」(イチイ荻野さん)

「中国では、2019年から上海市を手始めにゴミを分別するようになりましたが、主にリサイクルゴミ、有害ゴミ、生ゴミ、乾燥ゴミの4種類のみ。ベトナムでも昨年ゴミを分別するルールができたそうですが、まだ馴染みがないようです」(グローバルトラストネットワークス尾崎さん)

さらに、分別の仕方や回収日など、ルールが地域によって違う点もわかりづらく、ゴミ出しトラブルになる要素をはらんでいます。

ゴミ出しの仕分けやルールは複雑。自治体では日本語だけでなく、母国語で説明できるような資料の作成や、配布する仕組みが必要かもしれない(写真/PIXTA)

ゴミ出しの仕分けやルールは複雑。自治体では日本語だけでなく、母国語で説明できるような資料の作成や、配布する仕組みが必要かもしれない(写真/PIXTA)

“騒音”については、文化の違いや家のつくりが関係しているようです。日本人は自宅を「ゆっくり静かに過ごす場所」と考えている人が多いようですが、海外では自宅を社交場の一つとして「友人や知人を招いて楽しくおしゃべりする場所」だとする考え方が一般的である国も少なくありません。

「日本の家は外国の家に比べて壁が薄く音が漏れやすいんです。しかし、彼らはそんなことは知りません。これまでと同じようにしゃべっているだけでもトラブルになってしまうのです。また、母国にいる家族と電話で話そうとすると時差があるため、夜遅い時間に電話をして『声がうるさい』とトラブルになったケースがありました」(イチイ荻野さん)

日本の家の壁は薄くて音が漏れやすい。自宅に友人・知人を招いて楽しくおしゃべりのはずが、騒音トラブルになってしまうことも(写真/PIXTA)

日本の家の壁は薄くて音が漏れやすい。自宅に友人・知人を招いて楽しくおしゃべりのはずが、騒音トラブルになってしまうことも(写真/PIXTA)

日本では賃貸する期間を限定する定期借家契約よりも更新や中途解約が可能な普通借家契約が多く、「又貸し(転貸)」は契約で禁止される場合がほとんど。一方、外国では定期借家契約が多いために、移転などの理由で契約期間が残ってしまう場合、知り合いに又貸しすることが当たり前の国や地域もあるので、やってはいけないことだと知らない人も多いそうです。イチイの荻野さんによれば、かつては契約者以外の人がたくさん同居してしまうことなどもありましたが、今は少なくなってきているといいます。

「昔は日本の初期費用や家賃が外国人には高くて部屋を借りにくいという金銭的な問題が大きな背景としてありました。近年は母国の国力が上がってきたため、前ほどお金に困る人が少なくなっていることが理由として考えられます」(イチイ荻野さん)

さらに入居審査があることや、何ページにも及ぶ契約書の締結、日本人の連帯保証人が必要な場合や緊急連絡先の確保など、日本独特の習慣もあり、国内に知り合いのいない外国人にはハードルの高いものなのです。

他にもこんなトラブルが……

トップ3以外にもよくあるトラブルとしてグローバルトラストネットワークスの尾崎さんが挙げるのが「無断解約」です。
日本では、退去のときの「解約予告」や「原状回復」は当たり前のことですが、海外では、借家に家具や家電が備わっていることが多く、処分しなければならないことを知らずに置いたままにして帰ってしまう人もいるのだそう。

また、「家賃の入金確認ができない」トラブルも多いといいます。
尾崎さんによると、外国人が日本の銀行口座を開設しようとすると、入国後、半年間待たなければいけないことが多いそうです。銀行口座を持っていないと、振り込み手続きや送金手続きができず、家族や知り合いの口座から振り込んだりするケースが多いのだとか。

「家賃引き落としの場合でも口座がなければ、都度振り込んでもらうしかありません。その場合でも、他人の口座を借りて振り込みをして、振込名義人の名前が入居者と一致しないなどといったトラブルはよくあることです」(グローバルトラストネットワークス尾崎さん)

いずれも金融機関の口座開設の審査が外国人に対して厳しすぎることが大きな原因の一つとなっているようです。

外国人が日本で銀行口座を開こうとすると、日本人よりも時間がかかる。本人名義で口座引き落としや振り込みができず、トラブルになることも(写真/PIXTA)

外国人が日本で銀行口座を開こうとすると、日本人よりも時間がかかる。本人名義で口座引き落としや振り込みができず、トラブルになることも(写真/PIXTA)

外国人の入居トラブルを回避する事前の策は?

このようなトラブルに対して、どのような解決策が検討できるのでしょうか。

「日本と母国の習慣の違いやルールを、事前にしっかりと説明して理解してもらうことに尽きます。日本語では伝わらないこともあるので、母国語の資料を用意しておく必要があるでしょう。加えて、文化や意識の違いを理解している外国人スタッフによる母国語の説明やサポートも大事です」(イチイ荻野さん)

尾崎さんは、家賃滞納や、無断解約などに対してリスクヘッジをするために、母国の家族と連絡を取るようにしているといいます。

「私たちは、審査段階で母国の家族の連絡先を取得し『保証人の代行をする、万が一何かあったときは弊社を頼ってください』と電話連絡をしています。こうすることで何かあってもお客様と連絡を取る手段を残すことができ、さらにご家族にも安心していただけます」(グローバルトラストネットワークス尾崎さん)

グローバルトラストネットワークスが運営している外国人向けの不動産情報サイト。日本語や英語だけでなく、外国人が母国語で読める情報や母国語によるサポートを提供することで理解を深めてもらい、トラブルを回避することができる(画像提供/グローバルトラストネットワークス)

グローバルトラストネットワークスが運営している外国人向けの不動産情報サイト。日本語や英語だけでなく、外国人が母国語で読める情報や母国語によるサポートを提供することで理解を深めてもらい、トラブルを回避することができる(画像提供/グローバルトラストネットワークス)

また、公益財団法人日本賃貸住宅管理協会でも、14カ国にわたる「部屋探しのガイドブック」(国土交通省/公益財団法人日本住宅管理協会 あんしん居住研究会 ほか)を作成して住まい探しをする外国人向けに配布しています。オーナー向けにも外国人受け入れのためのガイドブック作成し、利用促進を図っているそうです。

さらに、オーナーや管理会社にとっては、グローバルトラストネットワークスのように外国人専門の家賃保証会社を活用することも有効でしょう。同社では、多言語によるホームページやSNSで物件情報や初期費用などの情報提供や24時間ダイヤルサポート設置など、情報を得られる環境を用意することにも力を入れているそうです。

グローバルトラストネットワークスが提供する外国人に特化した家賃保証サービス。外国人の対応に不慣れな管理会社を多言語でサポートし、入居者、オーナー、管理会社、全てにとって安心できるサービスとなっている(画像提供/グローバルトラストネットワークス)

グローバルトラストネットワークスが提供する外国人に特化した家賃保証サービス。外国人の対応に不慣れな管理会社を多言語でサポートし、入居者、オーナー、管理会社、全てにとって安心できるサービスとなっている(画像提供/グローバルトラストネットワークス)

誤解と偏見をなくすために必要なことは?

これからの日本社会では、経済においても労働者問題に関しても、外国人の存在なくしては成り立ちません。生活習慣や言葉の違いを解決できれば、外国人に部屋を貸すことはリスキーではないとイチイの荻野さんはいいます。トラブルをなくすために、事前の説明や情報を届けること、生活面のサポートなどが重要です。

「外国人に丁寧に説明しようとすると当然時間がかかります。重要事項説明においても、適当に日本語で済ませてしまう不動産会社も多いのではないでしょうか。しっかり説明をしていないから、入居する外国人が理解できずにトラブルが起こるのです」(イチイ荻野さん)

公益財団法人 日本賃貸住宅管理協会が実施した「外国人入居受入れに係る実態調査(2021年)」では、「契約内容について説明してもらっており、かつ内容を理解できた」人は67.3%だったという結果が出ています。

外国人入居者への賃貸借契約内容の説明状況

不動産会社から契約内容を説明してもらったか

契約内容はどのように説明されたか

外国人のうち約1割は、賃貸借契約の内容の説明を受けていないか覚えておらず、説明を受けた人でも1割は契約内容を理解できていない(資料/公益財団法人日本賃貸住宅管理協会「外国人入居受入れに係る実態調査報告書(2021年)」)

しかし、その問題の根本には、日本人のなかには外国人への差別意識がある人が少なくないことも否めません。例えば、仲介会社が管理会社に問い合わせをしても、入居者が外国人というだけで断られてしまうこともあるそうです。「そもそも外国籍であることを理由に入居を拒否するのは差別であり、人権に関わる問題だ」と荻野さんはいいます。

「外国人の入居は、空室対策のマーケットとして注力すること以上に、グローバル化に向けて外国人に対しての接し方や受け入れ方をもっと真剣に考えていく必要があると思います」(イチイ荻野さん)

「SDGsが注目されていますが、環境に関することだけでなく『不平等が発生しない』『誰一人取り残さない』という目標も意識して、多様性を理解する環境づくりがあっても良いのではないでしょうか」(グローバルトラストネットワークス尾崎さん)

制度の構築とともに、ルールだけでなく、外国人を理解しようとする環境づくりも大事でしょう。

外国人入居者のトラブルは、情報が届かないことによる「知らない」「わからない」が原因となっているケースが多いということでした。また、管理会社をはじめ、私たちのなかにある、古い時代からアップデートされていない外国人に対するイメージが、根拠のない偏見や誤解を生んでいるようです。

日本の習慣やルールを外国から来た人にわかりやすく伝えるための工夫や、外国人を受け入れやすくするための仕組みや制度を整えることで、トラブルは回避可能です。そして、私たちにはトラブルを外国人のせいにするのではなく、自ら文化や習慣の違いを知って理解しようとする努力が必要とされています。そうすることが、オーナーや管理会社はもちろん、国際社会のなかで私たちが外国人と共存していくことにつながるのではないでしょうか。

●取材協力
・株式会社イチイ
・株式会社グローバルトラストネットワークス

今も残る「外国人に部屋を貸したくない」。偏見と闘う不動産会社や外国人スタッフに現場のリアルを聞いた

外国人が日本で暮らすには、住居を確保する必要があります。しかし、言葉の問題や文化の違い、偏見などもあり、必ずしも入居までの道のりは容易ではありません。
一方で、そのような外国人の入居希望者に対し、外国人スタッフが自らの体験も含めて賃貸オーナーとの間を取り持つ不動産会社もあります。取り組みや課題について、外国人を雇用する不動産会社2社、イチイ代表取締役の荻野政男さん、ランドハウジングのタイ事業部(海外事業)責任者である橋本大吾さん、そしてランドハウジングで働くタイ人スタッフのカナさんに聞きました。

外国人が日本で入居先を探すときに困っていることは?

外国人が日本で住まいを探すとき、最初にぶつかる壁は、言葉や文化の違いでしょう。日本語がわからなければ、契約書の内容や行政の情報、例えば細かいところでは燃えるゴミを何曜日に出せばいいのかなど、さまざまな情報が得づらく、掲示されていたとしても読んで理解をすることが困難になります。

母国ではここまでゴミを細かく分別する習慣のない場合もある。地域によってもゴミを出す日は異なるので、日本語を読めない外国人は、きちんとした説明がないと、どのゴミをいつ出したら良いか理解するのは難しい(画像/PIXTA)

母国ではここまでゴミを細かく分別する習慣のない場合もある。地域によってもゴミを出す日は異なるので、日本語を読めない外国人は、きちんとした説明がないと、どのゴミをいつ出したら良いか理解するのは難しい(画像/PIXTA)

公益財団法人 日本賃貸住宅管理協会が2021年に実施した「外国人入居受入れに係る実態調査」では、「契約内容について説明してもらっており、かつ内容を理解できた」人は67.3%だったという結果が出ています。契約内容は日本語で説明されたと回答した人が半数以上なので、内容を理解できずに契約している外国人が3割以上いることも当然かもしれません。また、契約内容を説明されていないのであれば、それは宅建業法違反になります。

大前提として、賃貸物件を借りようとする外国人は、初めて日本に住む人がほとんどでしょう。

「トラブルが起こるのは『外国人だから』ではなく、『初めて経験することだから』ではないでしょうか。『初めての人か、経験者か』による違いと見る必要があると思います」と、1978年から外国人向けの賃貸住宅事業を始め、現在は韓国・中国・アメリカなどの外国人スタッフとともに外国人の入居サポートを行うイチイ代表取締役の荻野政男さんは話します。

さらにオーナーはじめ、近隣住民や他の入居者など、日本人の接し方にも、問題があるようです。

「『日本人は接してくれない』という話を留学生からよく聞きます。海外では近隣の住人同士、挨拶したり、話しかけたりして相手を知ることが不審者対策になるという考えがありますが、日本では知らない人に声をかけることは稀です」(荻野さん)

どうしても最初に心を開くまでに時間がかかってしまう日本人は少なくありません。せっかく日本に来ても、日本人との交流をなかなかもてず、情報を得にくいのも外国人にとっては戸惑う要因になっているようです。

日本が好きで来日しても、日本人とコミュニケーションを取れず、戸惑ったり、孤独を感じたりする外国人も多い(画像/PIXTA)

日本が好きで来日しても、日本人とコミュニケーションを取れず、戸惑ったり、孤独を感じたりする外国人も多い(画像/PIXTA)

外国人の入居者希望者に対する賃貸オーナーの印象は?

外国人が入居すると、言葉や文化、生活習慣の違いからトラブルになるのでは、と考えるオーナーや管理会社が一定数いるようです。

例えば、「家に上がる際には靴を脱ぐ」「ゴミの分別」などがきちんとできるのか、友人や知人を呼んで大騒ぎをして周辺への「騒音」が問題になるのでは、と考える人もいるとのこと。しかしそれらのほとんどは「先入観にすぎない」とランドハウジングのタイ事業部(海外事業)責任者である橋本大吾さんは言います。ランドハウジングでは外国(タイ)に支社を設置し、現地採用のタイ人スタッフと日本の本社で勤務する日本人・タイ人スタッフが連携して、日本への留学や転勤で移住することになるタイの人たちの住まい探しから入居後の生活をサポートしています。

「これまで接した外国のお客さまは、ルールを知っていれば、きちんと守りたいという人がほとんどです。もちろん、ルールや日本の慣習を知らずにトラブルになることはゼロではありませんが、日本人でもきちんとゴミを分別する人もいれば、そうでない人もいます。『外国人だから』という括りは当てはまりません」(橋本さん)

ランドハウジング では、年間300~400人の外国人に賃貸物件を仲介していますが、そのうち実際にトラブルが起こる割合は1~2%程度。日本人の賃貸トラブルとそう変わらない肌感覚だそうです。

公益財団法人 日本賃貸住宅管理協会が2021年に実施した「外国人入居受入れに係る実態調査」では、実際に「外国人入居者が問題を起こしたことがある」と答えた家主は1.5%でした。実際はトラブルが多いわけではない外国人を受け入れない理由として最も多いのが「コミュニケーションや文化の違いに不安がある」という不安や偏見からなのです。

実際に「入居者が問題を起こしたことがあるため」と回答した家主はわずか1.5%に過ぎない(資料/公益財団法人 日本賃貸住宅管理協会「外国人入居受入れに係る実態調査報告書(2021年)」)

実際に「入居者が問題を起こしたことがあるため」と回答した家主はわずか1.5%に過ぎない(資料/公益財団法人 日本賃貸住宅管理協会「外国人入居受入れに係る実態調査報告書(2021年)」)

外国人がスムーズに入居するための鍵となるのは「外国人スタッフ」

外国人がスムーズに入居できるようにするために今回取材した2社が取り組んでいる対策は、いずれも「しっかりとした事前説明」と「母国語の通じる外国人スタッフ」の存在でした。

「トラブルを起こさないようにするためには、事前に説明することにつきます。トラブルが起こったときも、外国人の立場や考え方を理解しつつ、母国と日本の習慣の違いを説明できる外国人スタッフの存在は大きいですね」(荻野さん)

外国人の入居検討者にとって外国人スタッフは、初めて日本に来た時に同じような苦労をしている「先輩」です。母国語の通じる人がサポートしてくれるのは心強いに違いありません。

外国人スタッフが母国語で日本の生活習慣や文化の違い、煩雑な手続きの方法などをサポートすることが異国での生活の不安を払拭し、トラブル回避につながる(画像提供/ランドハウジング)

外国人スタッフが母国語で日本の生活習慣や文化の違い、煩雑な手続きの方法などをサポートすることが異国での生活の不安を払拭し、トラブル回避につながる(画像提供/ランドハウジング)

ランドハウジングで働いているタイ人スタッフのカナさんは、こう話します。
「日本語が話せない人や日本のことを知らないお客さまへの物件紹介や、日本での暮らしについて説明・アドバイスできることが私のやりがいです。『ありがとう』という言葉をいただくと、私が日本とタイの架け橋になりたいという気持ちが強くなります」

話を聞かせてくれたタイ人スタッフのカナさん(写真1番左)。留学生として日本の大学で学ぶために来日し、帰国・卒業後にランドハウジングのタイ支社に入社。現在は日本の本社で働く(画像提供/ランドハウジング)

話を聞かせてくれたタイ人スタッフのカナさん(写真1番左)。留学生として日本の大学で学ぶために来日し、帰国・卒業後にランドハウジングのタイ支社に入社。現在は日本の本社で働く(画像提供/ランドハウジング)

一方で荻野さんによると、管理会社やオーナーに物件について問い合わせをする際、入居希望者が外国人だと伝えるだけで10件のうち9件は断られてしまい、中には、問い合わせをした外国人スタッフの日本語アクセントが少し違うだけで、詳しい話を聞いてもらえないこともあるそうです。

「このような日本の不動産会社の対応の中で、これまで志のある外国人スタッフが、心折れて辞めていくこともありました」(荻野さん)

私たち日本人が、外国人スタッフの尽力によるチャンスを、差別や偏見で潰してしまっているのかもしれません。さらに、外国人入居者への差別的考え方は日本の賃貸業にとってマイナスになる可能性も。

「日本では今後ますます空室が増えると考えられる中で、空室対策としても外国人入居者の受け入れは重要です。しかし、そのためには不動産会社自体が外国人に対する差別的な考えを改める必要があります」(荻野さん)

母国語の資料作成や、外国人の多岐にわたる要望に応える

外国人にとって、日本の賃貸借契約書や複雑な手続きは、とても難しいものです。役所で説明書などを用意していても、日本語や英語・中国語などの限られた言語のものしかありません。説明には時間も手間もかかりますが、正しく理解してもらうために母国語に翻訳した資料を作成したりもしているそうです。

「入居前に日本の住まい探しの流れについて説明する書面を見せて案内したり、契約する際に母国語のしおりを作成して、入居後のゴミの分別や解約の仕方・解約ルール・違約金などについて説明したりします。さらに契約後も困ったことがあれば、いつでも連絡できるよう連絡先を伝えるようにしています」(カナさん)

タイ人スタッフがつくったタイ語の日本の住まい探しの説明書。タイではオーナーが自ら賃借人を探すのが一般的で、日本のような入居審査や詳細な契約書はない。日本とタイの違いを理解してもらうことも大事(資料提供/ランドハウジング)

タイ人スタッフがつくったタイ語の日本の住まい探しの説明書。タイではオーナーが自ら賃借人を探すのが一般的で、日本のような入居審査や詳細な契約書はない。日本とタイの違いを理解してもらうことも大事(資料提供/ランドハウジング)

公益財団法人日本賃貸住宅管理協会でも、居住支援のガイドラインについてハンドブックをつくって渡す、トラブル回避のために多言語で入居や生活のルールに関する動画をつくり公開する、などの取り組みをしています。ホームページではさまざまな参考資料や多言語に対応したガイドブックのダウンロードが可能です。

また、「3カ月間だけ借りたい」「家具・家電を新たに購入すると大変なので家具・家電付きがいい」という外国人の多様なニーズに応えるため、不動産会社はそれに応じたサービスを提供する必要があります。今回取材した2社も、一般賃貸物件の紹介だけではなく、シェアハウスやマンスリータイプ、留学生寮や留学生会館などを自社で管理したり、所有・運営したりするなどして対応しているそう。

以前は日本人の連帯保証人が必須でしたが、最近は外国人入居者を対象とする家賃保証会社などもあり、連帯保証人を付けなくても家賃保証会社を利用することで契約ができるようになってきています。

外国人の入居問題は改善している?現場の「リアル」を聞いた

外国人の住居問題に携わるようになって20年以上という荻野さんに、問題は改善しているかを率直に聞いてみました。

「私が取り組みを始めた当時と比べると、日本人が外国人と接する機会も増え、オーナーも代が変わって、かなり理解を得られるようになってきていると感じます。とはいえ、外国人を取り巻く現在の環境は、理想とする状態を10とすると半分くらい、まだ道半ばです」(荻野さん)

イチイの荻野さんは、1978年から外国人向けの賃貸住宅事業を開始。近年は日本賃貸住宅管理協会 あんしん居住研究会 会長として関係する制度の普及や外国人入居者に関する研究などを行ってきた。日本における外国人居住支援のパイオニア的存在(画像提供/イチイ)

イチイの荻野さんは、1978年から外国人向けの賃貸住宅事業を開始。近年は日本賃貸住宅管理協会 あんしん居住研究会 会長として関係する制度の普及や外国人入居者に関する研究などを行ってきた。日本における外国人居住支援のパイオニア的存在(画像提供/イチイ)

それでもここ10年ほどで、外国人スタッフの雇用によって、トラブルは事前の対応で十分回避が可能であることが、オーナーにも理解されるようになってきたそう。賃貸物件の空室が増えるなどの外的要因も相まって、外国人の入居に前向きなオーナーや管理会社も増えてきました。

例えばランドハウジングの橋本さんは「ランドハウジングでは、管理部門と連携して、取引のある大家さんに対して外国人入居の啓蒙活動を積極的に行った結果、自社の管理物件約1万戸のうち、8割は外国人の入居に理解を得られるようにまでなった」と言います。先ほどの、10件に9件断られる賃貸業界全体の実情と比べるとその差は歴然です。

しかし新たな課題も見えてきました。海外の“当たり前”と、日本の賃貸物件の設備のスタンダードが大きく異なっていることもその一つ。海外では賃貸住宅には家具や家電、インターネット環境が付いていているのが一般的になっています。外国人の入居を増やし、空室を少なくしていくためには、このような設備面を検討していくことも必要でしょう。

外国人の居住支援では、以下の2点が非常に重要なようです。オーナーや管理会社の、外国人への偏見や誤解を解くこと。そして、外国人の入居希望者に対して、母国と日本の違いを理解できるよう説明し、入居後もわからないことや困ったことを相談できる場所をつくること。

外国人入居者の中には、日本人から注意されると、差別されていると感じてしまう人もいるそうです。そのような場合も、同じ国出身のスタッフが話せば、心を開き、よく理解してくれるといいます。外国人スタッフのきめ細かいサポートがオーナーさんや管理会社、そして、外国人の入居者を結びつける鍵となっているようです。

コロナが少しずつ落ち着きを見せる中、外国人の訪日が回復し、住む人も増えることが想像されます。日本に魅力を感じて「住んでみたい」と思ってくれた外国人が入居しやすい環境づくり、もっと言えばカナさんのような橋渡し役を担ってくれている、想いのある外国人スタッフが働きやすい社会にすることが大事です。そのためには、私たち自身の意識改革も必要ではないでしょうか。

●取材協力
・株式会社イチイ
・株式会社ランドハウジング

高齢者・外国人・LGBTQなどへの根強い入居差別に挑む三好不動産(福岡)、全国から注目される理由とは

日々の生活を送る上で、安心して暮らせる場所があることは重要です。しかし、高齢者や低所得者層、外国人など、住まいを探してもさまざまな事情により入居先を確保することが困難な人たちの問題が今も存在します。
福岡県を中心に活動している三好不動産は、持続可能な社会の実現に向けて、「すべての人に快適な住環境の提供を」のマインドを常に持ち続けています。三好不動産の川口恵子さんと原麻衣さんに取り組みや、その思いについて、話を聞きました。

「お客様が希望する住環境を提供できない」不動産賃貸業界における問題

福岡のまちには、企業や大学が多く存在します。また、地の利も良いことから、海外からの留学生や移住者、日本で仕事をする人も増え、投資の対象としても注目されてきました。

下図は福岡市が民間賃貸住宅事業者に対して行ったアンケート結果(「福岡市住宅確保要配慮者賃貸住宅供給促進計画(2019年3月)」より抜粋)です。2016年時点で実に67.5%の民間の不動産会社が「入居を断ることがある」と答えており、その対象として「外国人」「ホームレス」「高齢者世帯」では3割以上の会社で入居を制限しているという実態がありました。

家を探そうとしても、断られてしまう人たちがいる(画像提供/福岡市)

家を探そうとしても、断られてしまう人たちがいる(画像提供/福岡市)

「当社は『すべての人に快適な住環境の提供をしたい』という基本姿勢のもと、かねてより高齢者や外国人、DV被害者、災害時の住宅提供など、さまざまなニーズにいち早くお応えしてきました。住まい探しに困っている方がいるのであれば、なんとか力になりたいといった社風があります。どのような方がお部屋探しにいらっしゃっても、基本的にお断りすることはありません」(原さん)

すべての人に快適な住環境の提供を!三好不動産が舵を切った分岐点

三好不動産はもともと多様性には理解のある社風でしたが、中でも社員の意識が大きく変わったきっかけがあったといいます。それは、2008年にプロジェクトを立ち上げ、外国人の入居希望者を積極的に受け入れるようになったこと。原さんは、当時のことを「“ありとあらゆる人たちに住環境を提供するのだ”と、社員全員がはっきりと意識する分岐点になった」と感じているそうです。

外国人の従業員も採用するようになり、現在は中国、ベトナム、ネパール、韓国出身の13名が三好不動産で働いており、このうち9名が宅地建物取引士の資格を取得しています。

「2008年当時、福岡で外国人に物件を紹介していた不動産会社は、三好不動産だけだったような気がします。他社よりも外国人への理解はそれなりにあると思っていたのですが、新たに外国人スタッフが加わったことで、今まで当たり前と思っていたことに対して『私の国ではこうです』と指摘され、文化の違いを知ることもあり、お互いの凝り固まった見方とはまた違った考え方や“世界から見た日本”の視点に気付かされることが、たくさんありました」(原さん)

現在、三好不動産が支援する住宅確保に配慮が必要な人たちは、多岐にわたります。外国人や高齢者、LGBTQ、DV被害者、被災者など、抱える問題や事情に違いはあれど、対応していこうとする姿勢に変わりはありません。

「身寄りがないなどの理由で賃貸住宅を借りることが困難な高齢者など、通常の契約が難しいケースでは、自社で設立したNPO法人が、オーナーと借主の間に入って住宅を提供しています。身寄りのない方とも面談をして、一人で生活するのに支障がないことを確認した上でお部屋を紹介することが可能です」(川口さん)

三好不動産が設立した介護賃貸住宅NPOセンターを介したサービス。「身寄りがない」「高齢だから」などの理由で一般の住宅に入居しづらい人と、空室に悩むオーナーをつなぐ(画像提供/三好不動産)

三好不動産が設立した介護賃貸住宅NPOセンターを介したサービス。「身寄りがない」「高齢だから」などの理由で一般の住宅に入居しづらい人と、空室に悩むオーナーをつなぐ(画像提供/三好不動産)

「問題の根本は何なのか」「足りない点は何なのか」を勉強することから始めたLGBTQの居住支援

LGBTQの人たちも、不動産会社側の偏見や理解不足、知識不足から、部屋探しにはさまざまな壁があるようです。LGBTQの居住支援の担当者となった原さんと広報の川口さんは、まずLGBTQの人たちが抱える悩みごとや問題点は何なのか、勉強するところからスタートしました。

「LGBTQ専用のサービスの必要性や所得が低いために生じる問題はほとんどなく、多くは理解のないことや知識不足に起因します。知識と相互理解によって、齟齬のないようにしていくことが大事です」と話す原さん。よくある事例としては、パートナーと一緒に入居を希望した場合に、カミングアウトしていないため、親族に保証人を頼めないケースや、同性パートナーとの同居を、その関係性を打ち明けられず一人入居と偽って契約してしまうといったケースなどが挙げられます。

原さんたちは、まずは店舗にレインボーマークを掲げるなどLGBTQの方が相談しに来やすい環境づくりからはじめ、最近ではYouTubeチャンネルで情報を発信するなど、活動を広げていきました。そして、今では、どの店舗でもLGBTQの人の部屋探しに対応できるまでに。2016年10月~2022年10月の間の賃貸契約数は約120組、相談件数においては常時100件以上にのぼります。

社内勉強会の様子。「何が問題なのか」「何が足りないのか」、まずは知るところから取り組みが始まる(画像提供/三好不動産)

社内勉強会の様子。「何が問題なのか」「何が足りないのか」、まずは知るところから取り組みが始まる(画像提供/三好不動産)

店舗のドアに貼られたレインボーステッカーが、LGBTQフレンドリーである姿勢を示している(画像提供/三好不動産)

店舗のドアに貼られたレインボーステッカーが、LGBTQフレンドリーである姿勢を示している(画像提供/三好不動産)

行政や異業種とのタッグも!取り組みがもたらした変化

三好不動産では、住まいの確保に困難を感じている人たちと、オーナーさんが貸し出すことを承諾した管理物件とをつないで、契約を結んでいます。行政から相談を受けたり、調査や講演などへの協力を要請されたりすることも少なくないそう。

「LGBTQ支援をはじめ、さまざまな活動を通して、不動産業界以外の企業や団体から『三好不動産のLGBTQの取り組みを話してほしい』などの依頼をいただくこともあります。福岡市パートナーシップ宣誓制度の導入を受け、福岡市に後援いただいて当社が主催したセミナーも4回にわたりました」(原さん)

活動を通じて、同じ方向を見ている企業や行政とは、業種を超えて新たな取り組みにつながっていく、良い循環ができているようです。

福岡市高島市長より、LGBTQをはじめとする性的マイノリティ支援に取り組む企業として、ふくおかLGBTQフレンドリー企業登録証が直接手渡されたときの様子。行政から相談を受けることも多い(画像提供/三好不動産)

福岡市高島市長より、LGBTQをはじめとする性的マイノリティ支援に取り組む企業として、ふくおかLGBTQフレンドリー企業登録証が直接手渡されたときの様子。行政から相談を受けることも多い(画像提供/三好不動産)

他社でできないことが三好不動産ならできる、その理由は?

三好不動産で行っている、住まい探しに配慮が必要な人たちに寄り添う取り組みについては「取り組みを始めたけどなかなかうまくいかない」と話す会社も多いそうです。それはどうしてなのか、という疑問を原さんにぶつけてみました。

「何のためにやるのか、そもそもの方向性が違うのだと思います。住まいを求めるお客さまの目線から入っていくことに従業員一人ひとりの発見があるのです。世の中から評価されるために、例えば『SDGsが世の中で評価されているからやる』という視点で見てしまうと、見えるべきものも見えなくなるのではないかと感じます」(原さん)

原さんたちは「いつかは取り組まなくてはならないことだから」と、見切り発車でも、まずは動いてきたと言います。まだ先を完全に読みきれない不安もある中、「失敗を恐れて何もしないよりは」と行動することで取り組みを推し進めてきました。

また、三好不動産の各部署では、自主的に研修会や勉強会を企画・開催し、社内だけでなく社外向けに発信する機会も多くもあるそうです。一人ひとりが受け身ではなく、能動的に動くことこそが、他社ではできないことを可能にしているのではないでしょうか。

九州レインボープライドのブースにて(画像提供/三好不動産)

九州レインボープライドのブースにて(画像提供/三好不動産)

原さんは会社全体のプロジェクトとしてLGBTQやDV被害者のお部屋探しの推進を担当していますが、三好不動産ではそれぞれの店舗でも、高齢者や災害被害者、LGBTQといった住宅確保に困難を抱える人の、住まい探しを支援しています。

「お客さまの身になって」「一人ひとりに寄り添って」。言葉で言うのは簡単です。しかし、本当に困っている人たちと向き合うには、知識も必要ですし、多くの人に理解をしてもらうための手間暇を惜しんではいけないのだと改めて感じました。それは、ボトムアップで意見のできる風通しの良い社風、そして、会社の利益だけでなく“お客さまのために何ができるか”で行動できる環境がそろっているからこそできることなのかもしれません。

そして活動の効果を実感するまでには長い年月がかかるといいます。原さんたちが明らかな変化を感じたのが、2016年から参加している、性的少数者をはじめとするすべての人が自分らしく生きていける社会の実現を目指す啓発イベント「九州レインボープライド」にブースを出店したときの来場者の反応だそう。最初はLGBTQなどの当事者、行政、NPOなど、LGBTQの問題に直接的に関わる人や団体の参加が多く、「どうして不動産会社がここにいるの?」と不思議そうな顔をされたそうですが、2022年の開催では、来場者から「応援しています」「三好不動産の活動、知っていますよ」など、激励の言葉をたくさんもらったのだとか。地道な活動が、少しずつ形になり、実を結びつつあるということでしょう。

●取材協力
株式会社三好不動産

高齢者や外国人が賃貸を借りにくい京都市。不動産会社・長栄の「入居を拒まない」取り組みとは

国内外から多くの観光客を呼び込む京都のまちに、市内の賃貸管理物件数で多くのシェアを誇る株式会社長栄(以下、長栄)という不動産管理会社があります。長栄は長年にわたり、高齢者や外国人など、賃貸物件への入居が難しい人たちへのサポートを実施してきました。賃貸物件の入居や日々の生活に困難を感じる人を支援するためには、どのような体制や仕組みが必要なのでしょうか。長栄の奥野雅裕さんに話を聞きました。

観光地として国内外から注目を浴びる京都市ならではの住まい事情

奥野さんによれば、さまざまな理由で入居に困難を感じる人がいるなかで、特に京都のまちがもつ特徴から支援が必要だと感じられるのは、高齢者・子育て世帯・外国人の人たちだと言います。

「背景の一つとして、京都市の物件価格の高さが挙げられます。もともと盆地で人が住みやすい条件を満たす土地が限られる中、古くからの建造物や歴史的価値の高い建物も多く、新しい住宅を建てられる場所が、ごくわずかしかありません。提供できる住宅の数が少なければ価格が上がり、それに紐づいて市場が高騰するという悪循環が生じてきました」(奥野さん、以下同)

京都府内の賃料は高止まり状態が続いていて、住宅弱者の住まい探しをより困難にしている(画像提供/長栄)

京都府内の賃料は高止まり状態が続いていて、住宅弱者の住まい探しをより困難にしている(画像提供/長栄)

数が限られた住宅、特に賃貸物件においては、高齢による孤独死などのリスクを不安に思う大家さんが、高齢者の入居を断ることが多々ありました。

また、京都というまちのブランド力により、不動産投資の対象として外国人投資家などからの注目度が高いことも住宅価格を押し上げる要因です。それゆえ、一般の子育て世帯が住宅を購入しづらい点が指摘されています。

そして、京都には大学が多く存在し、留学生の積極的な受け入れに舵を切ったことから、海外からの学生が急激に増えました。ただでさえ賃貸物件数が限られる中、外国人が身寄りのない日本で住居を確保するのは、なかなか難しい状況になっているのです。

「コロナ禍で情勢が変わったのは間違いありませんが、京都市内の住まいの需要は減っていません。売買価格や賃料は高止まりしている状況です」

長栄が主催する外国人留学生に向けた、日本の慣習やルールの説明会。慣れない国での暮らしをスムーズに送るためのサポートを行なっている(画像提供/長栄)

長栄が主催する外国人留学生に向けた、日本の慣習やルールの説明会。慣れない国での暮らしをスムーズに送るためのサポートを行なっている(画像提供/長栄)

市内の不動産会社との連携で住宅弱者の問題に取り組む

このような背景をもとに、「京都の不動産会社には、協力して住宅確保の問題に取り組んで行こうとする会社が多い」と奥野さんは言います。

今回お話を伺った、奥野雅裕さん。賃貸管理部門で12年間経験を積んだ後、顧客サービス部門で日本人、外国人を問わない、入居者に喜ばれるサービスを構築。長期入居者の増加や入居者のニーズに沿ったスキーム、物件の改善に取り組んでいる(画像提供/長栄)

今回お話を伺った、奥野雅裕さん。賃貸管理部門で12年間経験を積んだ後、顧客サービス部門で日本人、外国人を問わない、入居者に喜ばれるサービスを構築。長期入居者の増加や入居者のニーズに沿ったスキーム、物件の改善に取り組んでいる(画像提供/長栄)

京都市は2012年に「すこやか住宅ネット」の愛称で居住支援協議会を立ち上げました。これは、住宅セーフティネット法(住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律)に基づき、住宅確保に配慮が必要な人が円満に民間の賃貸住宅へ入居できる環境を整えるため、行政と民間企業が一体となって取り組んでいく組織です。

京都市は、不動産会社や家主に対して高齢であったり障がいがあったりすることだけを理由に入居を拒否しないよう指導するなど、入居に困難を抱える人を受け入れていくよう説明する機会を積極的に設けています。

「協議会メンバーである不動産会社が中心となって、セキュリティー会社と連携したり、IoT機器を使ったりして、家主が安心して高齢者を受け入れられる環境を作り、高齢者の入居を受け入れてもらうことにも取り組んでいます。当社は協議会立ち上げ当初から関わり、ほかの不動産会社への情報共有や勉強会・セミナーなども行ってきました」

京都市の居住支援協議会、「すこやか住宅ネット」では行政と不動産会社が共に、高齢者や障がい者といった住宅弱者の住まい探しや、暮らしに寄り添う取り組みを行なっている(画像提供/京都市住宅支援協議会)

京都市の居住支援協議会、「すこやか住宅ネット」では行政と不動産会社が共に、高齢者や障がい者といった住宅弱者の住まい探しや、暮らしに寄り添う取り組みを行なっている(画像提供/京都市住宅支援協議会)

「入居を断らない」ことが、大家さんの収益最大化につながる

住宅確保に配慮が必要な人への支援を継続していくには、一時的なものではなく、事業として成り立たなくてはなりません。

「私たちが目指しているのは、家主さんの収益の最大化との両立です。当然のことながら、高齢者、外国人、低所得者だからと言って入居をお断りしていては、家主さんの収益の機会損失になります。入居のハードルが下がれば、入居者さんが増え、家主さんの収益にもつながるというのが、私たちの考えです」

基本的に「入居を希望する人を断らない」のが、長栄のスタンスだそう。だからと言って、やみくもに入居を推し進める訳でありません。

「家賃保証とそのための審査は、不動産の管理・運営をしていく上での肝となる業務です。当社の管理物件に入居される際はほとんどの場合、グループ内の保証会社が対応しています」

必要があれば、入居者と契約前に個別に面談を行って自分たちで審査することも。高齢者の孤独死をはじめ、大家さんにとってリスクの高い人には、「特約」を設けるなど個別対応し、リスクヘッジを図りながら入居を促進するのが長栄のやり方です。

また、高齢者には、セキュリティー会社と連携した見守りサービスの提供、外国人には、各種手続きのサポートやトラブルを避けるための説明会を開催するなどしています。万が一、家賃の滞納が続く場合は、入居者の母国語を話せる外国人スタッフが、事前に取得している母国の連絡先に連絡して対応するなどの解決策を講じています。

高齢者の見守りサービス「ベルヴィシルバーあんしんサポート」。70歳以上の人が単身で入居する際に加入することで、スムーズに入居ができる(画像提供/長栄)

高齢者の見守りサービス「ベルヴィシルバーあんしんサポート」。70歳以上の人が単身で入居する際に加入することで、スムーズに入居ができる(画像提供/長栄)

「入居者ファースト」のサービス会社であることが会社の“幹”

「今後の課題は、住宅確保に配慮が必要な方たちが安心して、長く住んでいただける状況をつくっていくことです」

入居者に長く住んでもらえば収益も安定するので、長栄は入居率を重視しています。現在管理している物件の入居率は、実に96.31%(2022年11月30日時点)と業界平均を大きく上回る状態です。しかし奥野さんは、目先の利益を上げるために、手数料収入さえもらえれば良いと考えている、“不動産屋さん”的な考え方の不動産管理会社が、まだまだ多いと感じているそうです。

「私たちの収益の源泉は入居者さんがお支払いいただく家賃です。入居者さんのために何ができるか、私たちの仕事はサービス業であるという考えが事業の『幹』にあります」

この考えは、長栄の全社員が入社した頃から叩き込まれているといいます。マニュアル通りにはいかないこともたくさんあり、それらにどう対応していくかは日々トレーニングだとも。

「入居者お一人おひとりが本当に困っていることが何なのかを丁寧にうかがって、私たちが解決のためにできることを、しっかりと構築していきたいと考えています」

京都は観光地としての知名度や学校が多いことから外国人も多く、土地や住宅の高騰で、高齢者やひとり親世帯の住宅弱者が多い土地柄。今後も居住支援を長く継続していくには、家主をはじめ周囲の理解と同時に不安を取り除くことが必要です。

そのためには、リスクヘッジをしっかりと行い、万が一のトラブルが起こっても対応できる、仕組みや体制を整えることが大事で、その幹となる心構えがあって初めて居住支援の輪が広がっていくのだと感じました。

●取材協力
株式会社長栄

外国人は家賃滞納ナシでも入居NGが賃貸の実態。積極受け入れで入居率100%のスーパー大家・田丸さんの正攻法

高齢者や障がい者、シングルでの子育て世帯など、さまざまな事情で住まいが借りにくい人のことを「住宅弱者」「要配慮者」といいますが、「外国人」もそんな不動産が借りにくい「住宅弱者」にあたります。一般に「大家が敬遠する」と言われますが、積極的に外国人を受け入れている大家・不動産管理会社もいます。その内の一人、東京都杉並区で不動産管理業を営む田丸賢一さんにリアルな事情を伺いました。

増え続ける在留外国人。部屋探しでは門前払いされることも

コンビニや建設現場、100円ショップ、飲食店などで、外国出身と思しき人を見かけることが増えました。筆者は横浜市在住ですが、子どもの通う小学校や習いごとの風景を見ても、多国籍だなと痛感します。実際、統計データでは外国人居留者はコロナ前の令和2年度は約288万人(※2020年6月時点。出入国在留管理庁より)、令和3年末でも276万635人と、日本の人口が減り続けるなか、「もはや外国人の手がなければ日本社会は成り立たないのでは」と感じている人もいることでしょう。

ただ、SUUMOジャーナルでもたびたびご紹介してきましたが、外国人は生活の基盤である住まいが借りにくいことで知られています。そんな中、10数年以上前から外国人を積極的に受け入れ、自社の物件は切れ目なく満室を維持し、入居率100%を続けているのが、東京都杉並区にある株式会社田丸ビルの田丸賢一さんです。2021年11月、外国人との不動産契約やそのノウハウを一冊にまとめた『「入居率100%」を実現する「外国人大歓迎」の賃貸経営』(現代書林)を上梓しました。まずは外国人に部屋を貸し出すようになった経緯から伺いましょう。

「弊社は不動産賃貸業と不動産管理業を行っており、私はその3代目です。創業者がもともと困っている人に家を貸そうという人で、昔の書類を見ても日系外国人を受け入れてきた経緯がありました。そのため、私が会社を引き継いだときにも、外国人に部屋を貸すのは自然な流れでした」(田丸さん、以下同)
ただ、田丸さんによると、部屋を借りたいと不動産会社を訪れても、外国人というだけでおよそ2人に1人は拒否されてしまうといい、令和の今でも門前払いは珍しいことではないそう。

田丸賢一さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

田丸賢一さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「以前、外国人に部屋を貸し出した際に汚されたり、部屋の扱いが悪かったといったトラブルがあり、もうコリゴリというケースが多いように思います。個人が悪いのか、契約に問題があったのか、原因はさまざまなんですが、入居前や入居後のコミュニケーションや説明をていねいに行うことで回避できるケースが多いんです」

ではどのようなトラブルがあり、田丸さんはどのような方法で回避しているのか、その内容を聞いていきましょう。

生活音とゴミの仕分け、入居者が増えた!が3大問題

まず、大前提として、外国人の多くがトラブルを起こしたくないと考えているといいます。

「外国人といっても出身国や年齢、収入、背景もさまざまですが、多くが就労目的で日本に来るわけで、日本社会に溶け込み、日本の常識にあわせて暮らしたいと願っています。なぜなら、彼らが一番恐れているのが国外退去処分だから。日本で得た収入から母国に仕送りをしたいので、トラブルを起こして強制送還されるのは避けたいんですよ。だから家賃の滞納のような問題行動はまずありません」

田丸さんの会社で契約した外国人には、真面目で礼儀正しく、お中元やお歳暮、帰国時のお土産などを欠かさないという人も少なくないそう。一方で、文化や風習の違い、コミュニケーション不足から、今までトラブルにも多数、直面してきました。

「”生活音がうるさい、ゴミの仕分けができていない、入居者が増えた”が3大問題でしょうか。まず、生活音がうるさいというのも、よくよく調査すると、外国人が住んでいる部屋が原因ではなく、実は他の部屋が発生源だったというケースも多いんです。これは外国人に限りませんが、生活音の問題はとてもデリケート。だからこそ管理会社がすぐに動いて、ていねいに聞き取りをして、コミュニケーションをとることが大切なんです」

外国人に限らず、集合住宅で生活音の問題は避けて通れません。外国人の入居者がいればなおのこと目立つため、先入観で「あの部屋に違いない」と決めつけた苦情がくるのだそうです。入居者の間にたつ管理会社がすばやくていねいに対応して誤解を解くことで、外国人への偏見が少なくなり、お互い快適に暮らせるのだといいます。

また、ゴミの仕分けは、自治体から配布される「母国語」のパンフレットを必ず渡し、ていねいに説明しているといいます。

杉並区のゴミの仕分けのページは多言語で対応している(杉並区ホームページより)

杉並区のゴミの仕分けのページは多言語で対応している(杉並区ホームページより)

こちらは横浜市のゴミの仕分けのページ。ベトナム語、フィリピン語、ネパール語などの言語もカバーしている(横浜市ホームページより)

こちらは横浜市のゴミの仕分けのページ。ベトナム語、フィリピン語、ネパール語などの言語もカバーしている(横浜市ホームページより)

「ポイントは母国語です。日本人は外国人というと英語で対応しがちですが、それだと通じない。大切なのはその人の出身国の言葉で話し、理解をしてもらうこと。場合によっては通訳をいれたりして、お互いの不安や不信感がないように説明、納得、理解、契約、書類にサインしてもらうことなんです」

田丸さんはゴミの分別だけでなく、基本的に入居希望者の母国語を用いて「説明、納得、理解、契約」という段階を踏んでいるのだそう。ゴミを分別すること自体が母国の習慣になく、戸惑う人も多いそうですが、きちんと説明することで協力してくれる人が大半だといいます。

ここまでは想像できそうなトラブルですが、最後の「入居者が増える」というのは、どういうことなのでしょうか。

「外国人は異国で働いているということもあり、横のつながりが非常に強い。家賃を節約したいということで、先に日本に住んでいた人の部屋に勝手に出入りして、共同生活を始めてしまうんです。不動産大家・管理会社は、当たり前のように1人で住むと思い、説明はしません。そこであつれきが生じるんですね。
過去には16平米のワンルームに8人が暮らしていたことも(苦笑)。退去後の部屋の傷みぐあいはひどかったですよ。その時以降、契約書類には入居者は1人までと明記し、契約時に説明、納得、理解を得るようにしています」

よく「ワラビスタン」「リトル・インディア」「リトル・ブラジル」など、特定の外国人が多い地域がありますが、異国で奮闘しているとその人を頼って仲間が1人また1人と増えて、自然発生的にコミュニティが生まれるのかもしれません。

外国人専門の賃貸保証会社、多言語の契約書類などツールは揃っている

こうして聞いてみると、田丸さんもいきなり外国人に部屋を貸し出して「成功」しているわけではなく、多数の経験を繰り返すことで、外国人に歩み寄った母国語でのコミュニケーション、当たり前に思える慣習や契約内容もていねいに説明、理解・納得したうえで「契約」し、明文化して残すという現在のかたちに行き着いたようです。

「外国人は基本的にはあまり経済的余裕がありません。そのため非常に防衛や自衛の意識が高く、契約内容・書類についても一つずつ知りたがります。賃貸保証会社の利用料、火災保険料、礼金、敷金、鍵交換、ハウスクリーニング代など、逐一、このお金は何?なんで?と聞いてきます。日本人ではここまで突っ込んで聞く人は少ないですし、僕も鍛えられました」

「鍵交換はしなくていいから、費用をまけて」「退去時のハウスクリーニングは、自分でやるから安くして」などと、交渉を持ちかけられることもしばしば。その都度、相手が納得できるまでていねいに説明して歩み寄っているそう。こうしてお話を伺っていると、外国人を受け入れて問題が起きたときに、「やっぱり失敗した…」ではなく、どうやって改善すればいいかを考えているからこそ、うまくいっているのだなあと痛感します。

田丸さんによると、現在では、外国人専門の賃貸保証会社があるほか、国土交通省では、「外国人の民間賃貸住宅入居円滑化ガイドライン」も整備され、不動産契約に必要な制度や多言語に対応した書類は揃っているといいます。

「ただ、問題なのは、行政は書類を作っておしまいになっていることです。国交省から不動産業界の団体に告知はありますがあまり知られていないし、活用方法は不動産業界や大家におまかせの状態です。当然、トラブルになったときの受け皿もない。生活音の問題でも紹介したとおり、既に入居している人が嫌がる場合もあります。日本社会のなかに、まだまだ偏見があるなあと痛感しています」

国土交通省の「外国人の民間賃貸住宅入居円滑化ガイドライン。申込書や重要事項説明書、定期賃貸住宅標準契約書が多言語でずらりと揃う(国土交通省のホームページより)

国土交通省の「外国人の民間賃貸住宅入居円滑化ガイドライン。申込書や重要事項説明書、定期賃貸住宅標準契約書が多言語でずらりと揃う(国土交通省のホームページより)

大家は家賃滞納、騒音、他の入居者とのトラブルを避けたい、不動産仲介会社は外国語での説明に対応できるスキル、時間がない、管理会社は面倒事やトラブルを避けたいなどなど、「外国人を受け入れづらい」条件は揃ってしまっています。これまで日本の歴史を振り返ると「外国にルーツのある人が社会全体で少数だった」「たいていの場合、日本語が通じた」のが現実です。いきなり「多様性だ」「外国人の受け入れだ」と正論を突きつけられても、「受け入れがたい」「話が通じずに怖い」と戸惑う気持ちがあることでしょう。

ただ、これから先、日本で働く外国人は増えていくことが考えられます。外国人は家賃滞納をしにくいこと、きちんと母国語で説明して理解してから入居してもらえばトラブルは起きづらいことがもっと知られるようになれば、外国人を受け入れる大家が増えるかもしれません。人口が減少している日本を支えてくれる外国人が増えてくれる今、共生社会の模索は、まだはじまったばかりです。

●取材協力
田丸ビル

賃貸が借りにくい外国人に入居を支援。賃貸入居をサポートする取り組みの輪

法務省の調べによると、2019年の在留外国人は約283万人となり、過去最大となった。約283万人の外国人が居住する一方で、未だ外国人であるという理由で賃貸契約が結べないというケースが多いといわれる。そんな不を解消するためにどのような取り組みがあるのか、外国人の入居をサポートしている不動産会社とNPO法人に話を聞いた。
トラブルや心配ごとを一挙に引き受ける窓口不在の問題

神奈川県川崎市で40年以上不動産業を営む石川商事の会長・石川弘行さんは、「日本人が外国人に対して賃貸契約を結ぶことに難色を示す理由は、コミュニケーションが取れないことへの不安からだ」と話す。石川商事は、外国人の入居を積極的に仲介する不動産会社として、神奈川県・横浜市にあるNPO法人「かながわ 外国人すまいサポートセンター」に登録している不動産会社のうちの一社で、石川さん自身、同NPOの理事を務めたことがある。20年以上こうした支援に関わる中で、石川さんが痛感してきたのは「民間(企業)と行政が一体となって、外国人の住宅を支援するスキームが必要だ」ということだと言う。

「外国人が日本で生活するために、言語や教育、医療についての情報提供や相談を一括して行える窓口を整備する必要がある」と断言する石川さんは、本来であれば、日本が国として外国人労働者の受け入れを進める以上、外国政府を絡め、国と国の取り決めとして進めていくべきことだと実感しているそう。そうすれば、悪徳な受け入れ企業の問題も減る上に、送りだす国側のブローカー問題などを回避できるに違いないからだ。

外国人は長期滞納が少ないケースが多い

これまでにも石川さんは一部の大家から、「外国人が入居することに不安がある」という声を聞いてきたという。理由は、言葉が通じない、家賃の滞納、賃貸契約をした人以外に、複数の人が同居してしまうのではないかという心配、又貸しの問題などが挙げられる。しかし、現在外国人向けの家賃保証を行う「全保連」や「カーサ」といった保証会社を通すことで、大家にとって一番の懸念事項である「家賃未払い」は防ぐことができるという。また職場を保証人にすることでも、問題を回避することはできる。

石川商事の会長・石川弘行さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

石川商事の会長・石川弘行さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

石川さんは経験から、「外国人は大家とのトラブルを避ける傾向が強い」と話す。実際、長期滞納をする人は少なく、また滞納や問題が発覚した場合、弁護士を通じて話し合いを申し出ると、もめることなく自ら退去するケースがほとんだという。「外国人だから、日本人だから、ではなく、トラブルを起こすかどうかは人によるんですよ」

また、外国人は短期間で借家を探している人も多いため、日本人には敬遠されがちな「一定の時期に取り壊しや改装を予定している物件」や、「少し古くても、低価格な物件」といった条件付きの物件でも、借りたいという人がいるのだという。これは、なかなか借り手がつかない物件を貸したい、空き物件を減らしたいという大家にとっては、好都合の条件だ。

「法整備さえしっかりすれば、日本人、外国人に限らず、不動産賃貸はもっとスムーズに行えるだろう」と話す石川さん。セーフガードとしての法律や条例の制定が、こうした外国人への不動産賃貸問題をなくす一番の早道になりそうだ。

外国人の賃貸契約の実情(神奈川県の場合)

神奈川県は、全国の中でも市民運動やNGO活動が盛んな地域で、特に当事者に寄り添った活動が活発なことで知られている。そうした背景から、日本で唯一の外国人の「居住支援」を目的とした「NPO法人 かながわ外国人すまいサポートセンター(以下すまセン)」が存在する。2001年に設立されて以来、住居探しだけでなく、住まいにまつわる通訳や翻訳を含め、年間約1600件に上る支援を行う。現在では、外国人だけでなく、日本人の住宅支援も行っているという同NPOの理事長を務める、裵安(ぺい あん)さんに、日本における外国人の賃貸契約の実態について話を聞いた。

NPO法人 かながわ外国人すまいサポートセンターの理事長を務める、裵安(ぺい あん)さん(画像提供/NPO法人 かながわ外国人すまいサポートセンター)

NPO法人 かながわ外国人すまいサポートセンターの理事長を務める、裵安(ぺい あん)さん (画像提供/NPO法人 かながわ外国人すまいサポートセンター)

当事者に寄り添った文化がつくりあげた支援センター

裵さんは、同センターが設立される以前から、在日コリアンをはじめ外国籍の県民が住民として当たり前に生活するための支援活動に携わってきたという。1998年に「外国籍県民かながわ会議」や「NGOかながわ国際協力会議」といった会議の中で、住宅問題が重要課題とされた背景から、このセンターは設立された。

なぜここ神奈川県で、こうした支援センターが設立されることになったかという背景について、裵さんは「神奈川県には、障がい者や海外協力を行う団体をはじめ、昔から問題に直面した当事者が声を上げ、さまざまなリサーチを行った上で、適切な支援の方法を熟考し、関わり方を探りながら、当事者の声を非常に大事にする文化が育ってきたからだ」と語る。

「当時すでに外国語で話せるスタッフや資料を用意するといった支援はあったものの、外国人の求める本当の生活支援になっていないという問題が起きていた。こうしたなかで、当時の神奈川県知事たちが、住民同士の助け合いを促進する精神のもとに、『外国籍県民かながわ会議』をはじめとした外国人会議やNGO会議など、さまざまな会議を立ち上げてきた背景がある」と続ける。

住まいに関する情報を提供しているすまいサポートセンターでは、随時多言語の資料が掲示されている(資料提供/NPO法人 かながわ外国人すまいサポートセンター)

住まいに関する情報を提供しているすまいサポートセンターでは、随時多言語の資料が掲示されている(資料提供/NPO法人 かながわ外国人すまいサポートセンター)

親しい「住まいサポート店」との連携がニーズにあった家探し成功のカギ

現在、神奈川県の国際課では、来県外国人や外国籍県民に対して「多言語支援センターかながわ」を設置すると同時に、住宅支援システムについてはこのすまセンが全面的に責務を担っている。また、「外国人すまいサポート店」として登録した不動産会社のリストを公開。現在、184件(2020年4月現在)の不動産会社が登録している。

こうしたサポート店登録に至るまでの道のりは、平坦ではなかったという。「神奈川県の多文化共生施策を実践することの一環として、外国籍県民(当事者)、不動産業業界団体、外国人支援団体や個人などが一堂に会し、議論し合いながら3年ほどの時間をかけた」と裵さん。話し合いの中で見えてきたことは、不動産会社側は外国人への漠然とした不安を抱えているが、「空き家が埋まること」を望んでいる上、問題となっていた又貸しや、ゴミ出しなどのルールを守ってくれさえすれば、貸す気持ちがあるということだった。結局、外国人が借りられる住宅が不足しているのは、外国籍県民側への住宅ルールの説明不足や、そもそもの貸し渋りが原因にあることが、お互いに分かったという。

こうして「何が必要で、何が足りていないか」が見えてきた中で、県がマニュアルの多言語化や外国人すまいサポート店の登録の仕組みを不動産の業界団体と協力して設置することと並行し、このすまセンが発足され活動を開始した。

しかし、裵さんによると実際にすまセンが住まい探しで頼りにできる不動産会社は、登録店、全てを利用できるわけではない。その代わり、地域やケースに合わせて、強い協力関係のある不動産会社と、しっかりした連携を取っているという。すまセン不動産会社として登録され、実際に協力を仰げる不動産会社について、「こちらのニーズをきちんと理解し、対応してくれる不動産会社を通じて、外国人を入居させられていることが、とても重要だ」と話す。

神奈川県がつくった、「賃貸住宅への入居・退居にまつわるマニュアル」はすまセンでは重要な資料 (画像提供/NPO法人 かながわ外国人すまいサポートセンター)

神奈川県がつくった、「賃貸住宅への入居・退居にまつわるマニュアル」はすまセンでは重要な資料(画像提供/NPO法人 かながわ外国人すまいサポートセンター)

同じ住民としての目線で問題解決を目指して

すまセンに相談される案件の中には、生活面で経済的困窮を抱えつつ住居を探しているといったケースもあるという。生活保護をはじめとする役所などでの手続きが必要なケースも出てくるのが現実だ。そういう場合は、通訳やコーディネーターとしてスタッフが寄り添い、市役所などで必要な手続きを事前に行った上で、不動産会社に話を進めるというステップを踏んでいるという。「私たちの仕事は、単純に手続きを行うのではなく、手続きなどをするために<誰>に協力を求め、どこで手続きを踏むかといったコーディネートを行い、きっちりと連携した上で、寄り添って入居につなげること」と裵さんは語る。

「多くの来日外国人は、マイノリティゆえの悩みを抱えている。彼らとしても、帰国したい思いを持ちながら、日本に出稼ぎに来ざるを得ない事情を抱えていることを理解してもらえたら。現実的に外国人の労働なしには、コンビニも回らないし、物流センターが回らなければ宅配便さえ使えない。彼らの労働力なしに、日本という国はすでに回らなくなっていることを改めて考えて欲しい。同じ住民として、さまざまな問題の解決にともに交わり、一緒に考えていくべきなのではないか」と続ける。

また騒音問題など、外国人がトラブルを起こすケースは、大方「知らないでやってしまった」ということが多いと裵さんは話す。そういうときは、彼らに日本の生活習慣における状況を説明した上で注意をすれば、問題は解決することがほとんどだという。「外国人労働者が、多くの高度人材の外国人たちと違うのは、日本の文化を学んでから日本にやってきたりする余裕がないということ。彼らは働いて稼ぐことを第一に移り住んできているため、日本でどのような生活を送らなくてはいけないか、ということに対する情報と知識が不足している場合が多い」と話す。

今後も日本に住む外国人は増えていくことが予想される。賃貸オーナーや不動産会社は、外国人は騒音問題などのトラブルを起こすから、言葉が通じないから……と敬遠するのではなく、歩み寄ることが大切になるだろう。

裵さんは外国人だけでなく生活困窮者自立支援にも携わっている。もともと困窮状態に置かれてきた人たちが新型コロナ発生を機に、更に生活に困窮することも多い。暮らしに困るのは外国人も日本人も同じ。窮地に追いやられている人たちの支援に手を貸しているという。コミュニケーションを大切に、一人ひとりの支援を大切に行うすまセンの活動が、漠然とした不安や無知、先入観により起きている「貸せない」という外国人賃貸問題の解決の糸口になることを切に願う。

(画像提供/PIXTA)

(画像/PIXTA)

●取材協力
・株式会社石川商事
・NPO法人 かながわ外国人すまいサポートセンター

日本に居ながら留学生活? 多国籍シェアハウスのリアルな住み心地を聞いてみた

外国人と日本人が一つ屋根の下で暮らす、多国籍シェアハウス「ボーダレスハウス」。日本に居ながら、留学生活のように異文化に触れ合え、語学力が向上するとあって近年注目を集めている。国内では東京、大阪、京都に77棟(2020年1月時点)を運営しており、世界各国から集まった入居者は累計で10000名を超えるそうだ。その魅力や実態について、実際に住んでいる日本人、外国人の双方にお話を伺った。
住まいで語学を学びたい今回取材させていただいた杉並区のボーダレスハウス(写真提供/ボーダレスハウス)

今回取材させていただいた杉並区のボーダレスハウス(写真提供/ボーダレスハウス)

今回、訪れたのは東京都杉並区にある「ボーダレスハウス」。誕生は2017年。中庭テラスを挟んだ2棟にはそれぞれ12人ずつが暮らしている。

ボーダレスハウスに住むユイさん(左)とアリさん(右)(写真撮影/小野洋平)

ボーダレスハウスに住むユイさん(左)とアリさん(右)(写真撮影/小野洋平)

お話を伺ったのは、日本の大学に通うユイさん(左)とフィリピン出身のアリさん(右)。はじめにボーダレスハウスに入居することにした理由を聞いてみよう。

アリさん:私は来日時、日本に知り合いがいなくて不安だったからです。それと、フィリピンに住んでいたころになんとなく、自分のシェアハウスをつくりたいという夢があったからですね。実際に住むことで、いろんな国の人と友達になれますし、自分の夢を実現するためには良い勉強になると思って、ここを選びました。

―ユイさんはどういったきっかけでしょうか?

ユイさん:昨年、フィリピンで語学留学をしたのがきっかけです。英語が全く話せない私に対して、現地の方々はものすごく優しくしてくれました。そのときに“いつか英語が話せるようになったら恩返しする!”と約束してきたんです。帰国後、とにかく英語を早く話せるようになりたい。だけど、今の大学をやめて留学するのは難しい。そんな中で見つけたのがこのボーダレスハウスでした。

―実際に英語は上達しているのでしょうか?

ユイさん:昔は道を聞かれても拙い英語でしか伝えられなかったですが、今ではちゃんと説明できるようになりました。バイト先でも海外のお客さんが来られたときは、私から積極的に話しかけるようにもなりましたよ。

―すごい成長ですね。毎晩、レッスンをされているんですか?

ユイさん:レッスンまではいかないですが「この1時間は英語だけね」ってルールを設けたりして、とにかく毎日必ず誰かと英語で会話していました。

アリさん:逆に日本国外からやってきた私たちも日本語を学びたいときは「1時間は日本語だけね」ってルールも提案していたのでWin-Winな関係だと思います。人によっては、来日したばかりで日本語が喋れない方もいます。だから、普段は日本語に英語を混じえながら教え合っています。

(写真撮影/小野洋平)

(写真撮影/小野洋平)

―日本人の入居者は、やはり「英語を学びたい」と思って入居される方が多いのでしょうか?

ユイさん:ボーダレスハウスには、「入居者の半分は外国の方」という決まりがあります。そのため、私のように“前に留学していました”とか“仕事で使えるようになりたい”など理由はさまざまですが、外国語を使いたい意欲的な日本人が集まっていますよ。

アリさん:日本語が話せない外国人にとっても、ボーダレスハウスは良い環境だと思います。というのも、英語が通じる入居者がいるため、日本語で表現するのが難しいことでも誰かしらに伝えられます。私もはじめは日本の方に言いたいことが伝えられず、ここで英語を使ってストレスを発散していました(笑)。

―日本人にとっては英会話スクールよりも上達が早そうですね。

ユイさん:本当にそう思います。英会話スクールほどお金はかからないですし、自分の好きなタイミングで練習ができますから。しかも、教科書の言葉ではなく、実際に使われている「活きた言葉」を自然に身につけられるのは、ここならではのメリットです。

アリさん:良くも悪くも留学とは少し違う環境です。無理して言葉を覚える必要はないですし、絶対に喋らないと生きていけない状況でもありません。だからこそ、自分に喝を入れられる人でないと、なかなか喋れるようにはならないのがボーダレスハウスの特徴だと思います。

国籍を超えたハウスメイトとの出会いハウスメイトで行ったスノーボード旅行(写真提供/アリさん)

ハウスメイトで行ったスノーボード旅行(写真提供/アリさん)

―ハウスメイト(同じ物件に暮らす人)同士の仲は良いですか?

ユイさん:ここは良いと思います。よくハウスメイト同士で旅行に行っていますし、最近ではクリスマスパーティーを開催しましたから。とにかくパーティーがみんな好きなんですよね(笑)。あと、パーティーに限らず、お互いがつくったいろんな料理を食べることができたり、教わることができるのも魅力だと思いますよ

―確かに、さまざまな国の食文化が学べそうですね。

ユイさん:普通に日本で暮らしていたら、きっと知らなかった調理法やつくらなかった料理に出会えるんですよ。前にいろんな形のパスタをつくってもらったときは驚きましたね。

アリさん:世界各国から人が集まっているだけあって、餃子パーティーやピザパーティーも本格的です。ここを退去する際に、自分の故郷の料理をふるまうのは恒例行事になりつつありますよ。

―楽しそう! 話を聞いていると、住みたくなってきます。

ユイさん:本当に住んで良かったと思います。私自身は、知らない人と住むことにストレスは感じないですし、「ただいま」と「おかえり」のコミュ二ケーションが取れるだけで幸せですね。前にバイト後、落ち込んで帰ったとき、みんなが心配して話しかけてくれました。私にとっては、もう一つの家族だと思っています。

アリさん:私も日本語以外に、お祭りにみんなで行けたり、日本料理を教わったりと、文化を多く学べてうれしいですね。

ハウスメイトで行ったクリスマスパーティー(写真提供/アリさん)

ハウスメイトで行ったクリスマスパーティー(写真提供/アリさん)

―逆に仲が良すぎて、騒ぎすぎてしまうといったことはないですか?

アリさん:盛り上がりすぎてしまうことは、たまにありますね(笑)。他の入居者に迷惑がかからないよう、ドアを閉める、などの配慮はしています。ただ、「少しうるさいよ」とか「テーブルの上を片付けてね」など、どうしても言いたいときは共通のライングループを使ったりしています。こまめにコミュ二ケーションを取ることは共同生活において大事なことですから。

―家事は当番制なのでしょうか?

ユイさん:前にゴミ捨てや、浴室掃除を当番制にするか話し合ったことがあります。結果、当番制にはならなかったですが、代わりに気付いた人は率先して行うこと、そして「ありがとう」と「ごめんね」はちゃんと伝えること、などのルールが決まりました。とても当たり前のことですが。共同生活では特に重要なことだと思います。

アリさん:時に怒ることもありますが、伝え方は気をつけるポイントです。「〇〇の件なんだけど、どういうこと?」って頭ごなしに言っても良い方向にはいかないですからね。怒ったときに限らず、うれしいときや悲しいときなど自分の想いを伝えるために語学を勉強するようになれば、結果的に良い循環が生まれると思います。

―たしかに。では、文化の違いで困ったりすることはないですか?

ユイさん:基本的に良い人ばかりですけど、やはり価値観は違いますよね。でも、私は国の差というより個人の差だと思っています。どこの国だからとかではなく、結局は個人の性格。どこの国でも大雑把な人も几帳面な人はいますから。ただ、ここの住人は受け入れる心や協調性を持っている方が比較的多いですね。

―多様性を知る機会にもなりそう。語学以外の面でも成長できそうな環境ですね。

アリさん:ただシェアハウスに住みたいだけなら、わざわざボーダレスハウスは選ばないと思います。家賃がめちゃくちゃ安いわけでもないですから。それでも、あえてここを選んで来ているということは、お金以外になにか価値・魅力を感じた人が集まっているんだと思います。

新しい価値観に触れ、広がる未来(写真撮影/小野洋平)

(写真撮影/小野洋平)

―入居する前と後で考え方が変わったことはありますか?

アリさん:1人で日本に来たときは言葉が喋れない、知り合いがいない、料理もできないなど本当に自分は暮らしていけるのか、自信がありませんでした。でも、今はいろんな人に出会い、たくさんの経験をしたことで自分に自信が持てるようになりましたよ。

ユイさん:私も人との出会いから価値観に少し変化がありました。人生はもっと肩の力を抜いて楽しむべきって思うようになりましたね。私が引越して間も無いころ、みんなでお酒を飲んでいたときのことです。私は次の日が1限目から授業だったので寝ようとしたところ「ユイ、それでいいのか? どっちが価値あると思う?」ってハウスメイトに聞かれたんですよね。もちろん、学校の授業をサボることはいけないことですが、そのときはみんなで話している時間の方が価値があるかもしれないって思えたんですよ。

―価値観が変わったり、視野を広く持てるようになったと。1人暮らしではなかなか経験できないと思います。

ユイさん:私は実家を出るタイミングでボーダレスハウスに入居しています。多分、こんなに楽しい経験をしてしまったら、1人暮らしが寂しすぎて辛いと思います(笑)。どっちの経験もしたい方は先に1人暮らしを経験した方がいいかも……。

―ボーダレスハウスのような多国籍の方が暮らすシェアハウスは、どういった方にオススメですか?

アリさん:やっぱり、コミュ二ケーションを取るのが好きな人ですかね。外国の人だけでなく、いろんな人に出会いたい、話したい人。あとは、フットワークが軽くて旅行が好きな人もいいかもしれません。

ユイさん:はじめ、両親は反対していたんですよ。外国の人という以前に、男女ですし、なにかあったら心配だって。でも、今では私が楽しんでいるのが伝わっているようで、なにかあったときは逆にみんなが守ってくれる環境なので安心したみたいです。

(写真撮影/小野洋平)

(写真撮影/小野洋平)

―大学生のユイさんは、この経験が就職活動でも役立ちそうですね。

ユイさん:就活って正解が分からないじゃないですか? でも、いろんな価値観を持っている人に出会えて、しかもグローバルな目線で教えてくれるので、アドバイスに偏りがないんですよ。それに、年齢や職業もバラバラなので、幅広い目線でさまざまな業界のリアルが聞けるのでものすごく役立っています。

―ここの生活を通して、夢や目標が新たに生まれたりはしましたか?

アリさん:やはり、自分のシェアハウスをつくりたい気持ちは一層強くなりました。以前までは漠然とした夢でしたが、少しずつイメージできるようになったのはここに住んだおかげです。今は日本だけではなく、他の国でもシェアハウスをつくり、ハウスメイト同士で行き来できるようになればいいなって考えています。

―素晴らしい夢だと思います。

アリさん:英語を話せない日本人も日本語が話せない外国人も、直ぐに馴染めるのがここの魅力です。私にとっては本当にセカンドファミリーのような、帰りたくなる居心地の良い雰囲気があります。だから、私もこのようなシェアハウスをつくりたいんです。余談ですが、前にテラスハウスのオープニングムービーを真似てつくった映像があります。こういう映像を私のシェアハウスでは展開してもいいかな(笑)。

アリさんが製作した映像(動画作成/アリさん)

アリさんが製作した映像(動画作成/アリさん)

―個人の成長としても、ビジネスの面でもアリさんにとっては大きな糧になっていますね。ユイさんはいかがですか?

ユイさん:私も英語圏に行きたい気持ちが強くなりましたね。もちろん、海外での仕事は夢ですが、現段階ではまだ選択肢の1つで決めきれてはいません。ここに住み続けることで知識はきっと、どんどんと増えていくじゃないですか? だから、住んでいる間に自分の選択肢をできるだけ増やして、やりたいことを模索していこうと思います。選択肢が多いことは幸せな悩みですもんね。……むしろ決められるかな(笑)?

ボーダレスハウスのような、多国籍の住民が暮らすシェアハウスは、お互いに交流する意欲を持って一緒に暮らすことで、語学力の向上のほか、多様な文化や価値観を学ぶことができるようだ。グローバル化が叫ばれて久しいが、スキルとしての語学だけでなく深いレベルでさまざまな国のことを知るには、またとない環境なのかもしれない。

●取材協力
ボーダレスハウス