世界基準の超省エネ住宅「パッシブハウス」を30軒以上手掛けた建築家の自邸がスゴすぎる! ZEH超え・太陽光や熱エネルギー活用も技アリ

夏涼しく冬暖かい快適さと、世界基準の超省エネを両立した、ドイツ発祥の「パッシブハウス」。これまで30軒以上のパッシブハウス計画に携わってきたパッシブハウス・ジャパン代表理事の森みわさんが、長野県軽井沢町に自ら設計したセカンドハウスをつくったと聞き、お邪魔してきました。
高次元な断熱性能と、斬新な熱供給システム、自然素材や自然のエネルギーを取り入れたデザイン……パッシブハウスの最新の取り組みを見ていきましょう。

似ているようで異なる、パッシブハウスと省エネ住宅軽井沢町追分に完成した「信濃追分の家」。資料が整い次第、パッシブハウス認定の申請を行う予定(写真撮影/新井友樹)

軽井沢町追分に完成した「信濃追分の家」。資料が整い次第、パッシブハウス認定の申請を行う予定(写真撮影/新井友樹)

ルームツアーの前に、パッシブハウスは日本でいう省エネ住宅と何が違うのか、改めて整理してみましょう。
まず、省エネ住宅とは、高断熱・高気密につくられ、エネルギー消費量を抑える高効率設備を備えた住宅のこと。対してパッシブハウスは、太陽や風など自然の持つ力を建物に取り入れて、必要とするエネルギーを最小化。さらに高断熱・高機密、熱ロスの少ない換気システムなどを駆使してエネルギー消費量を抑える、というアプローチの違いがあります。

「ヨーロッパでは、ゼロエネルギーハウス(エネルギー収支をゼロ以下にする家)・プラスエネルギーハウス(プラスにする家)への足掛かりとして、パッシブハウスがあります。少ないエネルギーで快適に暮らせるパッシブハウスの普及がまずあって、その先に創エネハウス(※)があるという位置付けです」と森さん。

※創エネハウス…太陽光パネルなどでエネルギーをつくり出すことができる住宅

省エネルギーを実現するために、高い断熱性能が必要ということは、共通事項です。
国が定める省エネ基準は、2025年以降すべての新築住宅に「平成28(2016)年基準」の適合が義務づけられます。2030年頃までには、さらにZEH(ゼッチ/エネルギー収支をゼロ以下にする家)基準(断熱等級5、一次エネルギー消費量等級6)まで引き上げるとしていますが、それだけでは不十分だと森さんは言います。

パッシブハウス・ジャパン代表の森みわさん。セカンドハウスの場所は、外気温が低くても日射量が豊富で、移住者が多くコミュニティが形成しやすい軽井沢町を選んだ(写真撮影/新井友樹)

パッシブハウス・ジャパン代表の森みわさん。セカンドハウスの場所は、外気温が低くても日射量が豊富で、移住者が多くコミュニティが形成しやすい軽井沢町を選んだ(写真撮影/新井友樹)

「ZEHで地域ごとにUA値(外皮平均熱貫流率)を定めて断熱性能を高めようというのは、家を魔法瓶化するという意味で良い方向に向かっています。ただ、例えば同じ地域にあっても家を180度回してみれば全然条件が違うはずなのに、家の向き、近隣に住宅や樹木があるか、樹木は落葉樹か常緑樹か、夏と冬で日射量がどれだけ違うかは考慮されません。

『太陽と風に素直に設計する』ということを大切にするパッシブハウスでは、PHPP(Passive House Planning Package)というシミュレーションソフトを使って、建設する場所の標高、気象条件、月ごとの日射量、周辺環境、家族構成に給湯需要まで、あらゆる個別の条件を入力して温熱計算をしています。それはもうシビアに。そうやって建物のエネルギー収支を厳密に予測しながら設計して、入居後の実測値とのギャップをなくしているのです」

日本の省エネ基準の数倍もの温熱性能・省エネ性能が求められるパッシブハウスは、その土地の条件に合わせてオーダーメイドで設計され、冷暖房に頼らずとも年中快適に過ごすことができる“究極のエコハウス”というわけです。

階段まわりのアースカラーが木のぬくもりのアクセントに(写真撮影/新井友樹)

階段まわりのアースカラーが木のぬくもりのアクセントに(写真撮影/新井友樹)

今回訪問した森さんの別邸「信濃追分の家」は、これまで森さんが設計を手掛けてきた中での発見を踏まえ、パッシブハウスの進化形をめざしたといいます。コンセプトである「パッシブハウス+α」を実現するための、具体的なメソッドを6つ教えてもらいました。

メソッド1 南から45度振れた敷地で、太陽光を最大限に味方につけるコーナーガラス真南に向いた大きなコーナーガラス。この家の象徴的存在でもある(写真撮影/新井友樹)

真南に向いた大きなコーナーガラス。この家の象徴的存在でもある(写真撮影/新井友樹)

まずリビングに入ると、斜めに向いた階段が目に飛び込みます。実はこの敷地、南から45度振れたロケーション。そこで、階段室を真南に向けて、2階のコーナーガラスの大開口から各方向に光が差し込むようにレイアウトしています。建物角からの日射によって、冬の暖房エネルギーを積極的に取得する工夫です。

階段室の吹き抜けには、照明作家・鎌田泰二さん制作の大きなペンダント照明を。ブラインドがなくても、ほどよい目隠しになった(写真撮影/新井友樹)

階段室の吹き抜けには、照明作家・鎌田泰二さん制作の大きなペンダント照明を。ブラインドがなくても、ほどよい目隠しになった(写真撮影/新井友樹)

蜜蝋仕上げの鉄の手すりがシンプルでかっこいい(写真撮影/新井友樹)

蜜蝋仕上げの鉄の手すりがシンプルでかっこいい(写真撮影/新井友樹)

2階の間取りはこの階段室を中心に、東西にシンメトリーになるよう居室を配しています。1階には間仕切りの壁はなく、軸がずれたようなこの階段室が、玄関、和室、キッチン、リビングといった領域をやんわりと区画し、視線を切る役割を担っています。おかげで、開放的でありながら落ち着いた、居心地のいい空間になっているのですね。

「軽井沢の冬の厳しい外気温にも関わらず、この向きの敷地を選んだのは、“エコハウスの意匠は自由である”というメッセージを放つための挑戦だったかもしれません」と森さん。真南向きじゃなくてもパッシブハウスはつくれるし、自由で堅苦しくないデザインも叶う。そんな証となった実例です。

リビングの大きな開口部は敷地の向きに素直につくり、階段室を真南にレイアウト(写真撮影/新井友樹)

リビングの大きな開口部は敷地の向きに素直につくり、階段室を真南にレイアウト(写真撮影/新井友樹)

メソッド2 バイオマス燃料と太陽熱、太陽光とEV車でエネルギーを地産地消森さんによるスケッチ「信濃追分の家リニューアブル(再生可能エネルギー)・マックスな設備計画」。冷暖房は熱交換換気装置に内蔵され、1台のヒートポンプで全館空調が完結しているため、ペレットストーブは給湯器として位置付けられている(画像提供/KEY ARCHITECTS)

森さんによるスケッチ「信濃追分の家リニューアブル(再生可能エネルギー)・マックスな設備計画」。冷暖房は熱交換換気装置に内蔵され、1台のヒートポンプで全館空調が完結しているため、ペレットストーブは給湯器として位置付けられている(画像提供/KEY ARCHITECTS)

この家の最大の特徴といえるのが、ペレットストーブと太陽熱集熱器による熱供給を取り入れて、給湯と補助暖房に充てていること。ガス給湯器は設置していません。太陽光発電パネルは搭載しているものの、電気を熱に変える割合は大幅に減らしています。

イタリア製のペレットストーブは、玄関スペースにビルトイン(写真撮影/新井友樹)

イタリア製のペレットストーブは、玄関スペースにビルトイン(写真撮影/新井友樹)

Wi-Fi経由で着火操作が可能。冬、太陽熱が足りない場合は夕方着火するようタイマーを入れると、2~3時間でお風呂のお湯が沸き、余力で壁暖房としても放熱(写真撮影/新井友樹)

Wi-Fi経由で着火操作が可能。冬、太陽熱が足りない場合は夕方着火するようタイマーを入れると、2~3時間でお風呂のお湯が沸き、余力で壁暖房としても放熱(写真撮影/新井友樹)

信州らしい熱源を、と選んだペレットストーブ。炎の揺らぎは見ているだけでほっとする。燃料は地域で購入することで、地域内でのエネルギー自活が可能に(写真撮影/新井友樹)

信州らしい熱源を、と選んだペレットストーブ。炎の揺らぎは見ているだけでほっとする。燃料は地域で購入することで、地域内でのエネルギー自活が可能に(写真撮影/新井友樹)

外気温の影響を受けにくい太陽熱集熱器。集熱管の外側が真空になっていて断熱効果に優れている。なかなかインパクトのある佇まい(写真撮影/新井友樹)

外気温の影響を受けにくい太陽熱集熱器。集熱管の外側が真空になっていて断熱効果に優れている。なかなかインパクトのある佇まい(写真撮影/新井友樹)

玄関にビルトインされたペレットストーブは、16畳用エアコン並みのパワーがあり、温水出力に対応。燃焼エネルギーの8割を温水に、残り2割が輻射暖房として放熱されます。庭に設置した太陽熱集熱器は、真空ガラス管内のヒートパイプが太陽光により加熱され、不凍液を温め循環させるもの。
木質バイオマスと太陽光という再生可能エネルギーを温水という熱エネルギーに変えて、キッチンにある300Lのタンクに熱を貯湯していく仕組みです。

ペレットストーブと太陽熱集熱器からの温水を集める貯湯タンク。この家ではあえて見えやすいよう、キッチンに設置(写真撮影/新井友樹)

ペレットストーブと太陽熱集熱器からの温水を集める貯湯タンク。この家ではあえて見えやすいよう、キッチンに設置(写真撮影/新井友樹)

左奥のドアの先が貯湯タンクのスペース。シンクには95℃まで対応の熱湯栓も付いていて、煮炊きに必要なお湯は一瞬で沸いてしまう(写真撮影/新井友樹)

左奥のドアの先が貯湯タンクのスペース。シンクには95℃まで対応の熱湯栓も付いていて、煮炊きに必要なお湯は一瞬で沸いてしまう(写真撮影/新井友樹)

田舎暮らしに欠かせない車は、電気自動車を導入。V2H(Vehicle to Home)を実現している(写真撮影/新井友樹)

田舎暮らしに欠かせない車は、電気自動車を導入。V2H(Vehicle to Home)を実現している(写真撮影/新井友樹)

もうひとつ注目したいのが、電気自動車を蓄電池に見立てていること。屋根の東西に載せた3.8kWの太陽光パネルで発電した電気は、主に照明と冷蔵庫、換気システムに使用します。「それらの消費電力はだいたい400Wとして、15時間で6kWh。EV車のバッテリー40kWhのうち6kWhをまわせばいいのですから、夜間に車から家に送る量としては大した量ではありません」と森さん。冬の夜間に仮に暖房を切っても、翌朝の室温は1~2℃も下がらないパッシブハウスだからこそ実現できるライフスタイル。
「ただし、オフグリッド仕様にはしていません。数日間曇りの日が続けば、発電量は低下します。そういうときは電力会社に頼る。逆に発電して余った分は渡すこともできる」

太陽光・熱エネルギーを最大限活用し、電力系統ともつながりながら、無理のない範囲でエネルギー自立している家なのです。

メソッド3 高性能の家は床暖不要!土壁暖房パネルを日本初導入無垢のフローリングが素足に心地いい(写真撮影/新井友樹)

無垢のフローリングが素足に心地いい(写真撮影/新井友樹)

建物自体の性能が高いパッシブハウスは、床暖房がなくても、窓辺も頭上も室温がほぼ同じ、温度ムラがないのが特徴です。「もう床から温める必要がそもそも無いですし、実は木の床は、床下から温めようとしても断熱してしまうのです。ここはヨーロピアンオークの無垢フローリングを使っていて、木は熱伝導率が低い。だから床暖房にすると放熱の効率が悪いんです」と森さん。
かわりに導入したのが、ドイツ製の土壁暖房パネルによる輻射式暖房です。給湯がメインのペレットストーブですが、余ったお湯はこの土壁暖房の熱源として使われます。パネルは厚みのある自然素材のため、調湿性、蓄熱性も期待できそうです。

立てかけてあるオブジェのようなものは、土を高圧でプレスして製造されたドイツ製の土壁暖房パネル。温水配管を効率よく巡らせるよう掘り込みがついているのが特徴で、これを補助暖房として壁面に埋め込んでいる(写真撮影/新井友樹)

立てかけてあるオブジェのようなものは、土を高圧でプレスして製造されたドイツ製の土壁暖房パネル。温水配管を効率よく巡らせるよう掘り込みがついているのが特徴で、これを補助暖房として壁面に埋め込んでいる(写真撮影/新井友樹)

暖房パネルは1階の北側にある和室と2階の洗面脱衣所の漆喰塗り壁内部に設置。ゲストが宿泊する部屋と、服を脱ぐ脱衣室の室温を、冬場にほんの少し上げられるようにと配慮した設計(写真撮影/新井友樹)

暖房パネルは1階の北側にある和室と2階の洗面脱衣所の漆喰塗り壁内部に設置。ゲストが宿泊する部屋と、服を脱ぐ脱衣室の室温を、冬場にほんの少し上げられるようにと配慮した設計(写真撮影/新井友樹)

メソッド4 信州カラマツのサッシ+仏・サンゴバン社製のガラスで美しく窓断熱トリプルガラスに、信州カラマツの木製サッシ。かなりの厚みがあるのがわかる(写真撮影/新井友樹)

トリプルガラスに、信州カラマツの木製サッシ。かなりの厚みがあるのがわかる(写真撮影/新井友樹)

リビングの大きな窓の先はウッドデッキ。軒の長さも日射に合わせて緻密に計算されている(写真撮影/新井友樹)

リビングの大きな窓の先はウッドデッキ。軒の長さも日射に合わせて緻密に計算されている(写真撮影/新井友樹)

断熱性に優れた木製サッシは、長野県千曲市の山崎屋木工製作所によるもの。長野県産材のカラマツの美しい木目がぬくもりを感じさせます。ガラスは、仏・サンゴバン社製のトリプルガラスECLAZを採用。一般的なトリプルガラスより熱貫流率が低く高断熱、さらにペアガラス並みに日射熱取得率が高い、高性能ガラスです。
「しかも高透過なミュージアムガラスのため、非常に景色が良く見えるという特徴もあります」(森さん)。映り込みの少ないクリアな窓からは、軽井沢のみずみずしい緑が鮮やかに眺められます。

コーナーガラスの左右はサンゴバン社製のトリプルガラス、中央は安曇野市の丸山硝子の技術で実現したガラスコーナーだが、諸事情により日本板硝子のトリプルガラスとなった。中央のガラスだけ少し室内の映り込みがあるのがわかる(写真撮影/新井友樹)

コーナーガラスの左右はサンゴバン社製のトリプルガラス、中央は安曇野市の丸山硝子の技術で実現したガラスコーナーだが、諸事情により日本板硝子のトリプルガラスとなった。中央のガラスだけ少し室内の映り込みがあるのがわかる(写真撮影/新井友樹)

木製サッシが絵画のフレームのよう(写真撮影/新井友樹)

木製サッシが絵画のフレームのよう(写真撮影/新井友樹)

ドイツのヘーベ・シーベ金物の技術により隙間なくぴったり閉まるエアタイトサッシ。空気や熱、音をシャットアウト(動画撮影/塚田真理子)メソッド5 田舎暮らしをより豊かにする“パッシブセラー”ワインや食料の保管庫として活用できるセラーは、待望のスペース(写真撮影/新井友樹)

ワインや食料の保管庫として活用できるセラーは、待望のスペース(写真撮影/新井友樹)

高い断熱性と気密性により、夏季は25℃、冬季は20℃前後と、家中の温度ムラがないのがパッシブハウスのメリットですが、実は保存食の保管が難しいところでした。漬物や味噌などの食品を保管したくても、室温だと傷みが早いので冷蔵庫に入れないといけないと以前クライアントに言われてしまったのです。

でも、田舎暮らしをするとなれば、自分で仕込んだ発酵食品を置きたいとか、たくさん採れた野菜を保管したいという声は多い、と森さんは言います。そこで、基礎の断熱材をあえて取って、自然の温度変化にまかせた“パッシブセラー”を階段下に設けたのが、今回の新たなチャレンジ。

「軽井沢は凍結深度が80cmでこの家は基礎も深いので、建物直下の土中の温度変化が少ないという特徴があります。昔ながらの床下空間のような感覚ですね」。エアコンで温度管理せずとも、室内よりも7℃ほど低い空間が完成しました。ワインセラーとしても活用できそうです。

メソッド6 防音して空気は逃す。プライバシーと換気を叶える、革新的な室内ドアドア下に隙間はなく、かわりに縦のスリットから一定方向に空気を逃す(写真撮影/新井友樹)

ドア下に隙間はなく、かわりに縦のスリットから一定方向に空気を逃す(写真撮影/新井友樹)

2階の寝室と洗面室のドアには、通気機能を持つ革新的なドア「VanAir」を導入しました。従来の室内ドアは、閉めた状態でも換気ができるよう、ドアの下部に1cmほどの隙間を設けているのが一般的。このドアは、表と裏で互い違いに縦のスリット(通気口)があり、空気はドアの芯を経由して反対側へと流れる仕組み。24時間、空気は一定の方向に流れ、においや淀みもしっかり排気してくれるのです。かつ、防音性能を備えており、音漏れの心配もありません。

ドア下に隙間はなく、かわりに縦のスリットから一定方向に空気を逃す(写真撮影/新井友樹)

ドア下に隙間はなく、かわりに縦のスリットから一定方向に空気を逃す(写真撮影/新井友樹)

洗面脱衣室、バスルームの空気もスムーズに排気され、一年中結露やカビとも無縁(写真撮影/新井友樹)

洗面脱衣室、バスルームの空気もスムーズに排気され、一年中結露やカビとも無縁(写真撮影/新井友樹)

クローゼット上の木ルーバーのうしろは、熱交換換気から新鮮空気を各部屋に供給する給気グリル。ここから供給された空気は脱衣室等のウェットエリアの排気口へと流れる(写真撮影/新井友樹)

クローゼット上の木ルーバーのうしろは、熱交換換気から新鮮空気を各部屋に供給する給気グリル。ここから供給された空気は脱衣室等のウェットエリアの排気口へと流れる(写真撮影/新井友樹)

なお、換気システムには、室内の熱をリサイクルしながら室内と室外の空気を入れ替える「Zehnder CHM200」を使用。換気ユニットにヒートポンプを組み込んだもので、熱交換換気、冷暖房、除湿、空気清浄が1台で行えます。
基本的には自動制御ですが、タッチ式パネルで操作も可能です。

取材時(6月下旬)の室温は24.5℃、湿度53%。真価が問われる冬が楽しみ(写真撮影/新井友樹)

取材時(6月下旬)の室温は24.5℃、湿度53%。真価が問われる冬が楽しみ(写真撮影/新井友樹)

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家族が集う家、ずっといたくなる家新しい挑戦がたくさん詰め込まれた家(写真撮影/新井友樹)

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大きな窓がもたらす開放感、気持ちのよさは、何ものにも変え難い(写真撮影/新井友樹)

大きな窓がもたらす開放感、気持ちのよさは、何ものにも変え難い(写真撮影/新井友樹)

信濃追分の家の設計期間は約1年、施工工事は10ヵ月ほど。初挑戦の取り組みも多く、建築費はおよそ5,500万円。一般的には、パッシブハウスの建築費は新築住宅+1.5~2割というのが目安だそうです。毎月の光熱費は月1万円以内と、ランニングコストはかなり抑えられる見込み。ただ、目に見える数字以上に一年中過ごしやすく、その快適さはプライスレスなもの、と森さんは言います。

「パッシブハウスに住んでいる方のお話を聞くと、朝スッと布団から出られるようになった、冷え性が治ったという声が多いですね。あとは、家があまりにも快適だから家にずっといたくて、会社を辞めて自宅でできる仕事を始めたとか、孫がしょっちゅう遊びに来るようになった、という声も。家族が集う家、といえるかもしれません」
パッシブハウスが心身にいい影響を与えてくれたり、大袈裟ではなく人生が変わったりすることもあるのですね。

信濃追分の家は、今後体験宿泊も受け入れていく予定だそうです。パッシブハウスを検討したい方は、一度この心地よさを体感してみてはいかがでしょうか。

明るいリビングで仕事をすることも多い森さん(写真撮影/新井友樹)

明るいリビングで仕事をすることも多い森さん(写真撮影/新井友樹)

さらに近い将来、太陽光でつくる余剰電力を分解してメタンガスをつくる、Power to Gasにも着目しているという森さん。こちらはまずパッシブタウン(富山県黒部市の集合住宅)での挑戦を見守りたいとのことですが、次々と新たな可能性を追求する森さんの取り組みに注目したいと思います。

●建物概要
在来木造2階建て
【フラット35】S適合(耐震等級3)
建築面積:88.04平米
延床面積:129.58平米
敷地面積:519.61平米

現在、2012年竣工の福岡パッシブハウスでは新オーナーを募集中。価値のわかる方にぜひ引き継いでほしい、と森さんは言う(画像提供/KEY ARCHITECTS)

現在、2012年竣工の福岡パッシブハウスでは新オーナーを募集中。価値のわかる方にぜひ引き継いでほしい、と森さんは言う(画像提供/KEY ARCHITECTS)

(画像提供/KEY ARCHITECTS)

(画像提供/KEY ARCHITECTS)

●取材協力
パッシブハウス・ジャパン
KEY ARCHITECTS

家庭用蓄電池はもはや必須!? 防災や節電でニーズ増、選び方は?

災害時に役立つなど話題になっている家庭用蓄電池。少し前までは蓄電池のある家は珍しかったが、防災目的だけでどれだけ増えているのか?どんな蓄電池が売れているのか?……それらを探るうちに、家庭用蓄電池がこの先、必須になる可能性がわかってきた。家庭用蓄電池の現在を見てみよう。

9年で約60倍に! 災害による停電時ニーズが高まっている

電気をためて必要なときに使える蓄電池。2011年度には約2000台だった蓄電池の出荷台数は、2020年度には約12.7万台に増えた(日本電機工業会「JEMA蓄電システム自主統計2020年度出荷実績」)。この数字には家庭用と商業・産業用も含まれているが、その約90%は10kWh未満だから、多くは家庭用と考えられる。とはいえ2019年度の新築住宅の着工数に占める蓄電池の導入割合はまだ約9%(経済産業省「定置用蓄電システム普及拡大検討会 第4回」)。それでも今後の私たちの暮らしに、蓄電池は欠かせなくなるようだ。

家庭・商業・産業用「定置用リチウムイオン蓄電システム」の出荷台数の推移 (出典:一般社団法人日本電機工業会※2021年11月4日時点)

家庭・商業・産業用「定置用リチウムイオン蓄電システム」の出荷台数の推移(出典:一般社団法人日本電機工業会※2021年11月4日時点)

幅広いメーカーの家庭用蓄電池を販売しているゴウダの合田純博さんは「特に2019年の台風15号による千葉県内での大規模な停電以降、お問い合わせが増えました」という。残暑の厳しい時期に約1週間もエアコンが使えなくなる様子がニュースで流れたことで、検討する家庭が増えたのだろう。

その少し前から、いわゆる「卒FIT需要」により蓄電池は注目を集めるようになってきたという。卒FITとは太陽光発電など再生可能エネルギーの余剰電力を、一定期間固定価格で国が買い取る制度(FIT制度)の買取期間が満了したことを指す。太陽光発電の買取期間は10年間で、この制度が2009年11月に始まったことから、最初に満了者が発生する2019年の直前くらいから「売れる単位が約6分の1に下がるならためて使おう」と蓄電池が注目されるようになったというわけだ。

このように家庭用蓄電池のメリットとしてはまず災害による停電の際に、家の中で電気を使うことができる、つまり停電してもしばらくは普通に生活ができるということ。また太陽光発電システムと蓄電池があれば、停電時に便利なだけでなく、天気のよい昼間の間に太陽光発電で得た電力を夜中や雨の日に使うことで節電=光熱費を削減できる。さらに、電気料金の安い深夜電力を蓄電池にためておき、料金の高くなる日中に使うことで電気代を節約することも可能だ。特に昨今は原油価格の高騰などもあり、電気料金が高くなっているので、蓄電池のメリットは大きい。

(画像提供/ゴウダ株式会社)

(画像提供/ゴウダ株式会社)

メリットをまとめると次のようになる。
■太陽光発電との併用で効果をアップできる(余った電気をためたり、売ったりできる)
■高騰が懸念される電気代の大幅削減ができる
■災害時の安心を確保できる(停電時にも電気製品を使うことができる)

「蓄電池には家中の電気製品をまとめて使える全負荷型と、リビングなど特定の場所のみ使える特定負荷型がありますが、最近よく売れているのは全負荷型で10kWh前後の大容量タイプです」と合田さん。また卒FIT組を含め、従来はリフォームの際に合わせて蓄電池と太陽光発電システムをセットで設置したいという消費者からの問い合わせが多かったが、最近は新築を手掛ける工務店等からも増えているという。

「2020年に、菅元首相が2050年までに脱炭素社会を実現すると宣言してから、工務店等への消費者からのお問い合わせが増えたようです」(合田さん)。大手ハウスメーカーでは太陽光発電や蓄電池の標準化が進んでいるものの、中小工務店ではまだまだ。それでもオプションで用意するようになってきているなど、蓄電池に対する世の中の関心は増しているようだ。

ゴウダでの太陽光発電システム設置の施工事例(写真提供/ゴウダ株式会社)

ゴウダでの太陽光発電システム設置の施工事例(写真提供/ゴウダ株式会社)

施主は停電に備え、シャープの太陽光パネル3.39kWと6.5kWhの蓄電池を同時設置(写真提供/ゴウダ株式会社)

施主は停電に備え、シャープの太陽光パネル3.39kWと6.5kWhの蓄電池を同時設置(写真提供/ゴウダ株式会社)

さらに「今後は太陽光発電システム+蓄電池が各家庭に必須アイテムになる」というのはプライム ライフ テクノロジーズの小島昌幸さん。同社はテクノロジーを駆使し、未来志向の「まちづくり事業」の展開を目指すパナソニックとトヨタなどが設立した会社だ。

「2050年カーボンニュートラル達成とこれからの脱炭素化社会に向けて、国はEV(電気自動車やハイブリッドカーなどの電動車)の普及を促進していますが、街中にEVがあふれるようになれば、当然今より電力需要が高まります。住宅でEV充電すると消費電力が2~4割も増えるという試算があるほどです。だからといって石炭や石油を燃やして電力を増やすのでは本末転倒。やはり太陽光発電など再生可能エネルギーでEVを走らせるのが望ましいシナリオです」

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

太陽光で発電した電気を受け止められるよう、自宅にEVを置いて充電できればよいが、太陽光発電が発電する日中にずっとEVに乗らないなんて非現実的だ。ここは蓄電池に電気をためて、後でEVに充電するほかないだろう。

そもそも脱炭素化社会には太陽光発電などの再生可能エネルギーは欠かせないが、自然は人間の思った通りに発電したり、止めたりしてくれない。つまり再生可能エネルギーの普及には、そのエネルギーをためておき、自由に使えるようにする蓄電池が欠かせないのだ。

海外と比べても日本は意外と蓄電池の普及が進んでいる

一方、海外と比べると日本は意外と家庭用蓄電池の普及が進んでいる。環境対策が進んでいるイメージのあるドイツや、蓄電池工場の多い中国よりも実は累計導入量は多いのだ。

経済産業省「定置用蓄電システム普及拡大検討会 第4回」資料より、SUUMOで作成

経済産業省「定置用蓄電システム普及拡大検討会 第4回」資料より、SUUMOで作成

また再生可能エネルギー(太陽光発電システム+風力発電)の導入量はドイツの約56%でしかないが、別の見方をすればこの先再生可能エネルギーの導入が増えれば、その受け皿となる家庭用蓄電池も増える余白が大きいといえるだろう。

こうした家庭用蓄電池の普及は、先ほど述べたメリット以外にも、新しい社会インフラの構築面でも役に立つ。その一例がコミュニティZEH(ゼッチ)だ。これは太陽光発電や蓄電池、電気自動車や住宅設備などを、特定の地域でまとめて管理することで、災害時にその地域の安定的な電力供給を図るというもの。そうしたまちづくりが既にいくつも始まっている。

プライム ライフ テクノロジーズグループが手掛ける愛知県みよし市の分譲地「MIYOSHI MIRAITO」もコミュニティZEHVの一例。経済産業省の「コミュニティZEHによるレジリエンス強化事業」に採択された。(写真提供/プライム ライフ テクノロジーズ)

プライム ライフ テクノロジーズグループが手掛ける愛知県みよし市の分譲地「MIYOSHI MIRAITO」もコミュニティZEHVの一例。経済産業省の「コミュニティZEHによるレジリエンス強化事業」に採択された(写真提供/プライム ライフ テクノロジーズ)

コミュニティZEHは蓄電池・EV×戸数という大容量の電気をエリア内で融通し合えるので、外部からの電気の供給が断たれても(停電しても)そのエリアの各住戸はより長い間電気を自給自足しやすくなる。ほかにも、頻発する自然災害に対して住民同士で助け合う地域社会の醸成に役立つ。

家庭用蓄電池の選び方や、選ぶ際の注意点とは?

では家庭用蓄電池はどうやって選べば良いのだろう。合田さんに教えてもらった。

(写真/ゴウダ株式会社)

(写真/ゴウダ株式会社)

「まずは先ほど述べた全負荷型か特定負荷型のどちらにするか」。災害による停電時を想定した上で、家中の家電をまかなえる全負荷型を、一部屋だけでも使えるようになればいいなら特定負荷型となる。

次に「200Vに対応するかどうか」。テレビやドライヤーなど、コンセントの口が2口の家電だけなら100Vで対応できる。しかし一部のエアコンやIHクッキングヒーター、エコキュートなどは200V仕様であることが多い。200Vの家電を使いたいなら、やはり200Vに対応した蓄電池を選ぶべきだろう。

ためられる容量も肝心だ。容量が多いほど使える電気の量も増える。停電時を想定すると「一家庭(4人家族を想定)の平均で1日13.1kW程度です。例えば容量13kWhだと1日はいつもどおりに電気を使うことができます」。あとは予算に応じて、どれくらいの容量にするか検討するといい。

「さらに忘れてならないのが『出力』です。容量を大きなバケツだとすると、出力はそこについている蛇口です。蛇口の口が小さければ、一気に取り出せる電気が少なくなります」。いくら200Vに対応しているとしても、出力が小さければエアコンとIHクッキングヒーターを同時には使えない。これも予算に応じてだが、どれくらいの出力(カタログには3kVA(キロボルトアンペア)などと書かれている)にするか考えておきたい。

まとめると、選ぶ際のポイントは以下のようになる。
・全負荷型か特定負荷型か
・200Vに対応するか
・容量をどれくらいにするか
・出力をどれくらいにするか

用途や予算に応じ、上記のポイントに注意しながら家庭用蓄電池を選ぶようにしたい。なお製品の保証期間については、現在主流になっているリチウムイオン電池を使うタイプであれば10年間が標準で、メーカーによってはプラス5年間の延長保証を用意しているところもあるという。

脱炭素化に向けて太陽光発電+蓄電池は各住戸1セットが必須になるかも

では現在の家庭用蓄電池の価格はどれくらいなのだろう。もちろんメーカーや容量等によってさまざまだが、経済産業省が公表している資料(経済産業省「定置用蓄電システム普及拡大検討会 第4回」)によれば2019年度の家庭用蓄電池は1kWh当たり14.0万円(工事費を除く)だという。

経済産業省「定置用蓄電システム普及拡大検討会 第4回」資料より。流通コストなども含むが、工事費は除いた価格

経済産業省「定置用蓄電システム普及拡大検討会 第4回」資料より。流通コストなども含むが、工事費は除いた価格

これは2015年度の22.1万円と比べて約36%安い価格だ。家庭用蓄電池やEVの普及などにより、確実に価格は下がってきているようだ。国としてはさらに価格を下げようとしている。「工事費も含めた価格で2030年時点に7万円/kWh以下を目指しているようです」とプライム ライフ テクノロジーズの小島さん。

「7万円という数字は、家庭用蓄電池を導入した自家消費型住宅のほうが経済的に有利になる、簡単にいえば『元が取れる』と想定している価格です」。2019年度の約半分というかなり戦略的な価格に見えるが、小島さんは「不可能ではない数字です」と言う。

「太陽光発電システムもほんの10年前まで、4kWで200万円以上したが、今では100万円程度になっています」と小島さんはいう。確かに1kW当たりの太陽光発電システムの価格は、2012年に46.5万円/kWだったのが、2020年には29.6万円にまで下がっている(経済産業省「令和3年度以降の調達価格帯に関する意見」)。4kWだとすれば118.4万円ということだ。

一方で合田さんによれば、需要の高まりによって「リチウムイオン電池に使うレアメタルなど、材料の価格が高くなり、それが販売価格に反映されて最近は価格が高くなってきました」と言う。

そうした懸念材料もあるが、EVの急速な普及に対してレアメタルを使わないリチウムイオン電池や、従来と同じサイズでも容量が増えて劣化しにくい全固体電池の開発も進むなど、いつの時代も技術革新が私たちの生活を豊かにしてくれるはず。

そういうと、あまりにも楽観的過ぎるかも知れないが、2050年の脱炭素化社会に向けて国は2030年代に販売する全ての車を電動化(ハイブリッドも含む)を目指しアクセルを踏んでいるのは事実。東京都では太陽光発電システムを義務化するなんて話も聞こえてきた。

ともかく、地球温暖化防止に向けて脱炭素化はこれからも進んでいく。そのなかで、太陽光発電+蓄電池は1住戸1セットが必須といえるだろう。まずは今の自宅で停電が起こった際に、どんな家庭用蓄電池があればいいのか、それはいくらするのか。あるいは太陽光発電システムも搭載したら容量は多少少なくて済むかも!?など、検討してみることから始めてみてはどうだろうか。

●取材協力
プライム ライフ テクノロジーズ
ゴウダ
●関連資料
一般社団法人日本電機工業会「JEMA 蓄電システム自主統計 2020 年度出荷実績」
経済産業省「定置用蓄電システム普及拡大検討会 第4回」