育休中の夫婦、0歳双子と北海道プチ移住! 手厚い子育て施策、自動運転バスなどデジタル活用も最先端。上士幌町の実力とは?

長期の育児休業中に、移住体験の制度を活用して北海道へのプチ移住を果たした私たち夫婦&0歳双子男子。
約半年間の北海道暮らしでお世話になったのは、十勝エリアにある豊頃町(とよころちょう)、上士幌町(かみしほろちょう)という2つのまち。
実際に暮らしてみると、都会とは全然違うあんなことやこんなこと。田舎暮らしを検討されている方には必見⁉な、実際暮らした目線で、地方の豊かさとリアルな暮らしを実践レポートします! 今回は上士幌町&プチ移住してみてのまとめ編です。

上士幌町は北海道のちょうど真ん中。ふるさと納税と子育て支援が有名

9月上旬から1月末まで滞在した上士幌町は、十勝エリアの北部に位置する人口5,000人ほどの酪農・農業が盛んなまち。面積は東京23区より少し広い696平方km。なんと牛の数は4万頭と人口の8倍も飼育されています。そして、十勝エリアのなかでも何と言っても有名なのが、「ふるさと納税」。ふるさと納税の金額が北海道内でも上位ランクなんです。そのふるさと納税の寄付を子育て施策に充て、0歳~18歳までの子どもの教育・医療に関する費用は基本無料、ということをいち早く導入したまち。子育て層の移住がかなり増えたことで注目を集めています。
町の北側はほとんどが大雪山国立公園内にあり、携帯の電波も届かない国道273号線(通称ぬかびら国道)を北に走ると、三国峠があり、そこからさらに北上すると、有名な層雲峡(上川町)の方に抜けていきます。

上士幌町の北の端、三国峠付近の冬のとある日。凛とした空気が気持ちよく、手つかずの国立公園が広がります(写真撮影/小正茂樹)

上士幌町の北の端、三国峠付近の冬のとある日。凛とした空気が気持ちよく、手つかずの国立公園が広がります(写真撮影/小正茂樹)

上士幌町にある糠平湖では、この冬から、完全に凍った湖面でサイクリングを楽しめるようになりました(上士幌観光協会にて受付・許可が必要)。タウシュベツ川橋梁のすぐ近くまで自転車で行くことができ、厳寒期しか楽しめないアクティビティ&風景が体感できます(写真提供/鈴木宏)

上士幌町にある糠平湖では、この冬から、完全に凍った湖面でサイクリングを楽しめるようになりました(上士幌観光協会にて受付・許可が必要)。タウシュベツ川橋梁のすぐ近くまで自転車で行くことができ、厳寒期しか楽しめないアクティビティ&風景が体感できます(写真提供/鈴木宏)

糠平湖上に期間限定でオープンするアイスバブルカフェ「Sift Coffee」さん。国道から数百メートル歩いた湖のほとりにて営業。歩き疲れた体に美味しいコーヒーが沁みわたります(写真撮影/小正茂樹)

糠平湖上に期間限定でオープンするアイスバブルカフェ「Sift Coffee」さん。国道から数百メートル歩いた湖のほとりにて営業。歩き疲れた体に美味しいコーヒーが沁みわたります(写真撮影/小正茂樹)

上士幌町の暮らし。徒歩圏でなんでもそろうちょうどいい環境

上士幌町は人口5,000人のまちで、中心となる市街地は一つ。この中心地に人口の約8割、4,000人ほどが住んでいるそう。ここにはスーパーがコンビニサイズながら2つ、喫茶店や飲食店もたくさんあります。そして、コインランドリーに温泉に、バスターミナルに……と生活利便施設がきっちりそろっています。中心地から少し離れると、ナイタイテラス、十勝しんむら牧場のカフェ、小学校跡地を活用したハンバーグが絶品のトバチ、ほっこり空間がすっごくステキな豊岡ヴィレッジなどがあり、暮らすには不自由はほぼないと言ってもいいと思います。

そして、なんと、2022年12月から、自動運転の循環バスが本格稼働しているんです! ほかにも、ドローン配送の実験など、先進的な取組みがたくさんなされているまちでもあります。実は上士幌町さんには、デジタル推進課という課があります。ここが中心となって、高齢者にもタブレットを配布・スマホ相談窓口が設置されています。デジタル化に取り残されがちな高齢者へのサポート体制をしっかり取りながら、インターネット技術を十分活用し、まちのインフラ維持、サービス提供を進めていこうという町としての取組みは素直にすごいなと感じました。

カラフルな自動運転バスがまちの中心地をループする形で運行。雪道でも危なげなく動いていてすごかったです(写真撮影/小正茂樹)

カラフルな自動運転バスがまちの中心地をループする形で運行。雪道でも危なげなく動いていてすごかったです(写真撮影/小正茂樹)

十勝しんむら牧場さんにはミルクサウナが併設。広大な放牧地を望める立地のため、牛を眺めたり、少し遅い時間なら、満点の星空を望みながら整うことができます(写真撮影/荒井駆)

十勝しんむら牧場さんにはミルクサウナが併設。広大な放牧地を望める立地のため、牛を眺めたり、少し遅い時間なら、満点の星空を望みながら整うことができます(写真撮影/荒井駆)

ナイタイテラスからの眺めは壮観! ここで食べられるソフトクリームが美味しい。のんびり風景を楽しみながら、ゆっくり休憩がおすすめです(写真撮影/小正茂樹)

ナイタイテラスからの眺めは壮観! ここで食べられるソフトクリームが美味しい。のんびり風景を楽しみながら、ゆっくり休憩がおすすめです(写真撮影/小正茂樹)

我が家イチ押しの豊岡ヴィレッジは木のぬくもりが感じられる元小学校。子ども用品のおさがりが無料でいただけるコーナーがあり、双子育児中の我が家にとっては本当にありがたかったです(写真撮影/小正茂樹)

我が家イチ押しの豊岡ヴィレッジは木のぬくもりが感じられる元小学校。子ども用品のおさがりが無料でいただけるコーナーがあり、双子育児中の我が家にとっては本当にありがたかったです(写真撮影/小正茂樹)

誕生会やママのHOTステーションなどさまざまな出会いの場が

上士幌町では、移住された方、体験移住中の方などが集まる「誕生会」と呼ばれる持ち寄りのお食事会が月1回開催されています。毎回さまざまな方が来られるので、移住されている方がすごく多い、というのがよく分かります。移住して25年という方もいらして、移住者・まちの人、両方の視点を持っていらっしゃる先輩からの上士幌暮らしのお話は、すごく参考になることが多かったです。

毎月行われている移住者の集い、誕生会。12月はクリスマス会で、サンタさんから双子へもプレゼントが!(写真撮影/小正茂樹)

毎月行われている移住者の集い、誕生会。12月はクリスマス会で、サンタさんから双子へもプレゼントが!(写真撮影/小正茂樹)

また、上士幌町といえば、我々子育て世代にとって、すごくありがたい取組みが「ママのHOTステーション」。育児の集まりの場合、子どもたちが主役になり、「子育てサロン」として開催されることが多いのですが、この取組みの主役は“ママ”。ママが子どもたちを連れて、ゆっくりしたひと時を過ごすことができる場を元保育士の倉嶋さんを中心に企画・運営されていて、今や全国的にも注目される取組みになっています。

実は、上士幌町で移住体験がしたかった一番の目的は、この「ママのHOTステーション」を妻に体験してもらいたかったこと、倉嶋さんの取組みをしっかり体感したかったことにありました。ほぼ毎週のように参加させていただいた妻は本当に大満足で、ママ同士の交流も楽しんだようです。ここでは、〇〇くんのママではなく、きちんと名前でママたちも呼び合い、リラックスムード満点の雰囲気づくりも素晴らしいなと感じました。妻は、「ママのしんどい気持ちや育児悩みを共有してくれて、アドバイスをくれたりするのがすごくありがたいし、同じような立場のママが集ってゆっくり話せるのは嬉しい。子どもの面倒も見てくれるし、ここには毎週通いたい!」と言っていました。こういった同じ境遇のお友達ができるかどうかは、移住するときの大きなポイントだと感じました。もっといろいろな同世代、子育てファミリーに特化したような集まりがあってくれると、更に安心感が増すんだろうなと思います。

ママのHOTステーションの取組みとして面白いところは、「ベビチア」という制度。高齢者の方が登録されていて、子どもたちの世話のお手伝いをしてくださいます。コロナ禍になり、遠方にいるお孫さん・ひ孫さんと会えず寂しい思いをしている高齢の方々などが登録してくださっていて、週1回の触れ合いを楽しみにしてくださっている方も。「子育て」「小さな子ども」というのをキーワードに、多世代の方がのんびり時間を共有しているのはすごくいいなと感じました。

ママのHOTステーションが開催される建物は温浴施設などと入り口が一緒になるので、自然発生的に多世代のあいさつやたわいもない会話が生まれていて、ほっこりします(写真撮影/小正茂樹)

ママのHOTステーションが開催される建物は温浴施設などと入り口が一緒になるので、自然発生的に多世代のあいさつやたわいもない会話が生まれていて、ほっこりします(写真撮影/小正茂樹)

乳幼児救急救命講習会にも参加できました。ベビチアさんたちの大活躍のもと、子どもたちの面倒をみていただき、じっくりと救急救命講習に参加できたことはすごくありがたかったです(写真撮影/小正茂樹)

乳幼児救急救命講習会にも参加できました。ベビチアさんたちの大活躍のもと、子どもたちの面倒をみていただき、じっくりと救急救命講習に参加できたことはすごくありがたかったです(写真撮影/小正茂樹)

上士幌町の移住相談窓口は、NPO法人「上士幌コンシェルジュ」さんが担われています。こちらの名物スタッフの川村さん、井田さんを中心に移住体験者のサポートを行ってくださいました。私たちも入居する前から、いろいろと根掘り葉掘りお伺いして、妻の不安を取り除きつつ、入居後もご相談事項は迅速に対応いただきました。

移住体験住宅もたくさん!テレワークなどの働く環境も

私たち家族が暮らした移住体験住宅は、75平米の2LDKで、納屋・駐車スペース4台分付きという広さ。豊頃町の体験住宅に比べるとやや狭いものの、やはり都会では考えられない広さでゆったり暮らせました。住宅の種類としては、現役の教職員住宅(異動の多い学校の先生向けの公務員宿舎)でした。平成築の建物で、冬の寒さも全く問題なく、この住宅の家賃は月額3万6000円で水道・電気代込み。移住体験をさせていただくと考えると破格の条件かもしれません(暖房・給湯などの灯油代は実費負担)。今回お借りできた住宅以外にも、短期~中・長期用まで上士幌町では10戸程度の移住体験住宅が用意されています。ただ、本当に人気のため、夏季などの気候がいい時期については、かなりの倍率になるようです。ただし、豊頃町と同じく、上士幌町でもエアコンがないことは要注意。スポットクーラーはあるものの、夏の暑さはかなりのものなので、小さなお子さんがいらっしゃる場合は、ご注意ください。エアコンはもう北海道でも必須になりつつあるようなので、少し家賃が上がっても、ご準備いただけるといいなぁと思いました。また、ぜいたくな希望になりますが、食器類や家具などの調度品も比較的古くなってきていると思うので、一度全体コーディネートされると、移住体験の印象が大きく変わるのでは、と感じました。

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必要最低限の家具・家電付き。広めのお家やったので、めっちゃ助かりました(写真撮影/小正茂樹)

必要最低限の家具・家電付き。広めのお家やったので、めっちゃ助かりました(写真撮影/小正茂樹)

私たちの住まいになった住宅は、まちの中心からは徒歩10~15分ほど。ベビーカーを押して動ける季節には、何度も散歩がてら出かけましたが、ちょうどいい距離感でした。南側は開けた空き地になっていて、日当たりもすごくよくて、冬の寒い日も、晴天率が高いため、日光で室内はいつもぽかぽかになっていました。

一戸建てかつ納屋まで付いて、月額3万6000円とは思えない広々とした体験住宅。子育てファミリーにとっては、一戸建ては音の心配も少なく、すごく過ごしやすかったです(写真撮影/小正茂樹)

一戸建てかつ納屋まで付いて、月額3万6000円とは思えない広々とした体験住宅。子育てファミリーにとっては、一戸建ては音の心配も少なく、すごく過ごしやすかったです(写真撮影/小正茂樹)

体験住宅の南側は空き地が広がっていて、本当に日当たり・風通しも良く、都会では到底体感できないすがすがしい毎日を過ごせました(写真撮影/小正茂樹)

体験住宅の南側は空き地が広がっていて、本当に日当たり・風通しも良く、都会では到底体感できないすがすがしい毎日を過ごせました(写真撮影/小正茂樹)

また、私たちは育児休業中だったため使うことはなかったのですが、上士幌町さんはテレワークやワーケーションなどの取組みについてもすごく前向きに取り組まれています。
まず、テレワーク施設として「かみしほろシェアオフィス」があります。建設に当たっては、ここで働く都市部からのワーカーの方に向けて眺望がいいところ、ということで場所を選定されたそう。個室などもあり、2階建ての使い勝手の良いオフィスとなっています。

個人的に2階がお気に入り。作業で煮詰まったときに正面を見ると気持ち良い風景が広がり、リラックスできる環境(写真撮影/小正茂樹)

個人的に2階がお気に入り。作業で煮詰まったときに正面を見ると気持ち良い風景が広がり、リラックスできる環境(写真撮影/小正茂樹)

さらに2022年にオープンしたのが「にっぽうの家 かみしほろ」。この施設はまちの南側、道の駅のすぐ近くに位置しています。こちらは宿泊施設になりますが、1棟貸しを基本としていて、広々したリビングで交流や打ち合わせ、個室ではプライバシーをしっかり守りつつお仕事に没頭することなどが可能に。また、ワーケーション滞在の方のために、交通費・宿泊費などの助成制度も創設されたとのことで、これからさまざまな企業・団体の活用が期待されます。

にっぽうの家は2棟が廊下で繋がった形状。仕事・生活環境が整っていて、余暇活動もたくさん楽しめる場所で、スタートアップなどの合宿をしてみるのは面白いなと感じました(写真撮影/小正茂樹)

にっぽうの家は2棟が廊下で繋がった形状。仕事・生活環境が整っていて、余暇活動もたくさん楽しめる場所で、スタートアップなどの合宿をしてみるのは面白いなと感じました(写真撮影/小正茂樹)

子育て層にとって、子どもの教育環境というのが移住検討するに当たってはかなり重要な事項となります。上士幌町では、「上士幌Two-way留学プロジェクト」として、都市部で生活する児童・生徒が住民票を移動することなく、上士幌町の小・中学校に通うことができる制度が2022年度から始まりました。この制度を使えば、移住体験中や季節限定移住などの場合も、お子さんの教育環境が担保されることとなり、これまでなかなか移住検討までできなかった就学児がいるファミリーも懸念材料の一つがなくなったこととなります。

十勝には質の高いイベントがたくさん! 起業支援なども盛ん

半年ほど暮らしてみてわかったことはたくさんあったのですが、子育てファミリーとしてすごくいいなと思ったのが、「イベントの質が高く、数も多い」にもかかわらず、「どこに行ってもそこまで混まない」こと。子育てファミリーにとって、子どもを遊ばせる場所がそこここにあるというのはものすごく大きいなと感じました。

とよころ産業まつりでの鮭のつかみ取り競争のひとコマ(写真撮影/小正茂樹)

とよころ産業まつりでの鮭のつかみ取り競争のひとコマ(写真撮影/小正茂樹)

個人的にかなり気に入ったのが芽室公園で行われたかちフェス。広大な芝生広場を会場に、さまざまな飲食・物販ブースや、サウナ体験、ライブが行われていました。すごく心地よく長時間過ごしてしまいました(写真撮影/小正茂樹)

個人的にかなり気に入ったのが芽室公園で行われたかちフェス。広大な芝生広場を会場に、さまざまな飲食・物販ブースや、サウナ体験、ライブが行われていました。すごく心地よく長時間過ごしてしまいました(写真撮影/小正茂樹)

ママたちが企画・運営した「理想のみらいフェス」には3,000人を超える来場が。様々な飲食店やワークショップが並ぶなか、革小物のハンドメイド作家の妻も双子を引き連れて、ワークショップで出店していました(写真撮影/小正茂樹)

ママたちが企画・運営した「理想のみらいフェス」には3,000人を超える来場が。様々な飲食店やワークショップが並ぶなか、革小物のハンドメイド作家の妻も双子を引き連れて、ワークショップで出店していました(写真撮影/小正茂樹)

また、実際に移住して暮らすとなるとお金をどうやって稼ぐかというのもポイントになってくると思います。上士幌町では、「起業支援塾」が年1回開催され、グランプリには支援金も出されるなど、起業サポートも充実しています。また、帯広信用金庫さんが主催され、十勝19市町村が協賛している「TIP(とかち・イノベーション・プログラム)」というものも帯広市内で年1回開催されています。2022年は7月から11月まで。私も育児の隙間を縫って参加させていただきましたが、かなり本気度が高い。野村総研さんがコーディネートをされているのですが、実際5カ月でアイディア出しからチームビルディング、事業計画までを組み上げていきます。ここで起業を実際にするもよし、このTIPには多方面の面白い方々が参加されるため、横の繋がりが生まれたりし、仕事に繋がることもあると思います。

TIPでは、カーリングと美食倶楽部のビジネス化チームに参加しました。チームで体験会を実施して、カーリングの面白さを体感しました(写真撮影/小正茂樹)

TIPでは、カーリングと美食倶楽部のビジネス化チームに参加しました。チームで体験会を実施して、カーリングの面白さを体感しました(写真撮影/小正茂樹)

また、こちらは直接起業とは関連がありませんが、「とかち熱中小学校」というものもあります。これは、山形県発祥の社会人スクールのようなもので、「もういちど7歳の目で世界を……」というコンセプト。ゴリゴリの社会人スクールというよりは、本当に小学校に近い仲間づくりができるアットホームな雰囲気。とはいえ、テーマは先進的な事例に取り組むトップランナーさんの講義や、地元の産業など。こちらも講師はもちろん、開催地が十勝エリア全般にわたるため、参加者の方もさまざまで、人間関係づくりにはもってこい。こちらには家族全員で参加させていただいていました。

2023年1月は豊頃町での開催。当日の講師は金融のプロとお笑い芸人というすごく面白い取り合わせの2コマの授業。毎回、双子を連れ立って授業を聴講でき、育児のよい気分転換にもなりました(写真撮影/小正茂樹)

2023年1月は豊頃町での開催。当日の講師は金融のプロとお笑い芸人というすごく面白い取り合わせの2コマの授業。毎回、双子を連れ立って授業を聴講でき、育児のよい気分転換にもなりました(写真撮影/小正茂樹)

農業に興味がある方は、ひとまず農家でアルバイト、というのもあります。どこの農家さんも収穫の時期などは人手が足りないケースが多く、農業の体験を通じて、地元のことを知れるチャンスが生まれると思います。私も1日だけですが、友人が勤める農業法人さんにお願いして、お手伝いさせていただきました。作物によって時給単価が違うそうなのですが、夏前から秋まで色々な野菜などの収穫がずっと続くため、いろんな農家さんに出向いて、農業とのマッチングを考えてみる、というのもありだと思います。

かぼちゃの収穫はなかなかの重労働でした。農作物によって、アルバイトの時給も違うそうで、なかには都会で働くより時給がよい場合もあるそう(写真撮影/小正茂樹)

かぼちゃの収穫はなかなかの重労働でした。農作物によって、アルバイトの時給も違うそうで、なかには都会で働くより時給がよい場合もあるそう(写真撮影/小正茂樹)

今回、長期の育休を取得し、子育てを実践するとともに、自分のこれからの暮らし方を見つめなおせるいい機会が移住体験で得られました。2拠点居住は子どもができると難しいのではとか、地方で仕事はあるのかなどの漠然とした不安を抱えていましたが、「どこに行っても暮らしのバランスはとれる」ということも分かりました。
大阪の暮らしとは明らかに異なりますが、既に暮らされている方々に教えてもらえれば、その土地土地の暮らしのツボが分かってきます。個人的には、地方に行くほど、システムエンジニアやクリエイターさんたちの活躍の場が実はたくさんある気がしています。こういう方々が積極的に暮らせるような仕組みづくりが出来ると、自然発生的に面白いモノコトが生まれてきて、まちがどんどん便利に面白くなっていくのではないかなと感じました。

我々家族としては、今後2拠点居住を考えていくにあたって、我々1歳児双子を育てている立場として重視したいポイントもいくつか判明しました。それは、「近くにあるほっこり喫茶店」「歩いていける利便施設」があることです。双子育児をするに当たって、双子用のベビーカーって重たくて、小柄な妻は車に乗せたり降ろしたりすることはかなり大変。さらに双子もどんどん重たくなっていきます。そう考えると、私たち家族の現状では、ある程度歩いて行ける範囲に最低限の利便施設があったり、近所の人とおしゃべりができる喫茶店があったりするのはポイントが高いなと妻と話していました。

我々夫婦の趣味がもともと純喫茶巡りだったこともあり、気軽に歩いて行ける範囲に1軒は喫茶店が欲しいなぁと思いました(写真撮影/小正茂樹)

我々夫婦の趣味がもともと純喫茶巡りだったこともあり、気軽に歩いて行ける範囲に1軒は喫茶店が欲しいなぁと思いました(写真撮影/小正茂樹)

今回、長期育休×地方への移住体験という新しい暮らし方にトライしてみて、憧れの北海道に実際暮らすことができました。これまで漠然とした憧れだった北海道暮らしでしたが、憧れから、より具体的なものになりました。また、たくさんの友人・知人や役場の方との繋がりもでき、仕事関係についても可能性を感じられました。
子どもが生まれると、住むまちや家について考えるご家族は多いのではないでしょうか。育休を機会に、子育てしやすく、親たちにとっても心地よいまち・暮らしを探すべく、移住体験をしてみるのは、より楽しく豊かな人生を送るきっかけになると思います。10年後には男性の育休が今より当たり前になり、子育て期間に移住体験、という暮らし方をされる方がどんどん登場すると、地方はより面白くなっていくのではないかなと感じました。
家族みんなの、より心地よい場所、暮らしを移住体験を通じて探してみませんか? いろいろな検討をして、移住体験をすることで、暮らしの可能性は大きく広がると思います。

移住して1カ月ほど経過した時の写真。これからもこの子たちにとっても、楽しく、のびのび暮らせる環境で育ててあげたいなと思います(写真撮影/小正茂樹)

移住して1カ月ほど経過した時の写真。これからもこの子たちにとっても、楽しく、のびのび暮らせる環境で育ててあげたいなと思います(写真撮影/小正茂樹)

●関連サイト
上士幌町移住促進サイト
上士幌観光協会(糠平湖氷上サイクリング)
上士幌町Two-way留学プロジェクト 
十勝しんむら牧場ミルクサウナ
ママのHOTステーション
かみしほろシェアオフィス
にっぽうの家 かみしほろ
理想のみらいフェス
十勝イノベーションプログラム(TIP)
とかち熱中小学校
かちフェス

育休中の夫婦、0歳双子と北海道プチ移住! 移住体験住宅は畑付き、スーパー代わりの産直が充実。豊頃町の暮らしをレポート

長期の育児休業中に、移住体験の制度を活用して北海道へのプチ移住を果たした私たち夫婦&0歳双子男子。
約半年間の北海道暮らしでお世話になったのは、十勝エリアにある豊頃町(とよころちょう)、上士幌町(かみしほろちょう)という2つのまち。
人口がそれぞれ約3000人、5000人という規模が小さなまちですが、実際に暮らしてみると、都会とは全然違うあんなことやこんなこと。田舎暮らしを検討されている方には必見⁉な、実際暮らした目線で、地方の豊かさとリアルな暮らしをレポートします! 今回は、豊頃町編です。

写真撮影/小正茂樹

(写真撮影/小正茂樹)

関連記事育休中の双子パパ、家族で北海道プチ移住してみた! 半年暮らして見えてきた魅力と課題

北海道・十勝は大きい!そして雪は案外降らない!

みなさん、北海道と言えばどのようなことを思い浮かべるでしょうか。「のんびりした大平原」「夏は涼しく、冬は雪にまみれて身動きが取れない」「とにかく自然が多くて、温泉やグルメ三昧」などなど、さまざまなイメージがわくと思います。今回私が移住体験を行った北海道・十勝エリアの面積は約11,000平方kmで、東京都の約5倍。この広大な敷地におよそ35万人が暮らしていて、驚くのは、食料自給率。日本全体で約38%(カロリーベース)のなか、十勝エリアでは約1100%と言われています。およそ29倍です。まさに日本の食糧基地と言えるエリアとなります。

大平原地帯

十勝と言えば大平原地帯。大きな平野部を生かした大規模農業が盛んなエリアが多いです(写真撮影/小正茂樹)

一方で、誤解しがちなのが、気候。近年は北海道でも夏は最高気温が30度を超える日も珍しくなくなり、内陸部などでは35度を超えたり、日本の観測地点で1位の気温だったという日があったりするくらい。一方、冬については、「寒い」ことは間違いなく、1日中氷点下の日も少なくないのですが、実は、私たち家族が降り立った「十勝エリア」は、ほとんど雪が降らないエリア。雪への耐性がない都会暮らしの人にとっては過ごしやすいともいえると思います。
十勝エリアの気候の特徴としては、「晴天率が高い(いわゆる十勝晴れ)」「雪が少ない(年に数回ドカ雪が積もりますが……)」「寒暖の差が激しい」ということが挙げられます。晴れの確率が高く、雪が少ないのは、移住者からするとすごく助かる特徴かなと思います。ただし、路面凍結は当然ありますし、天気によっては地吹雪などで前が全く見えないホワイトアウトになることもあります。私も冬の凍結した道路を運転するのはあまり経験がなく、安全第一で移動していましたが、車を運転される方は、とにかく安全運転を心がけましょう。

真冬の十勝の夕暮れ時

真冬の十勝の夕暮れ時。辺り一面が真っ白で、空気が澄んでいて、とにかく凛としています。気温はすごく低いですが、晴れた日が多いため、心地よい風景を楽しめる日が多かったです(写真撮影/小正茂樹)

雪かきの様子

滞在中、2回だけドカ雪が降り、雪かきも。移住体験中に2回雪かきをする朝を体験出来たのはすごくテンションが上がると共に、冬の暮らしの厳しさを体感することが出来ました(写真撮影/小正茂樹)

また、田舎暮らしをするときに特に気になるのが、人間関係。私の個人的な感想としては、北海道、特に十勝エリアの方々は、明るく朗らかな方が多く、ご近所づきあいも付かず離れず、くらいの気持ち良い関係性になるのかな、と感じました。ゴミ出しの時のご挨拶、散歩のときの世間話、特にプライバシーに踏み込まれたと感じるようなこともなく、よくテレビなどで言われるご近所づきあいが大変、というようなことを感じることはない移住体験でした。
これには、十勝エリア特有の理由があるのかなとも思います。北海道は「屯田兵制」を活用した国主導の開拓の歴史がほとんど。しかし、実は十勝エリアだけは、当初民間の開拓から始まったと言われています。それが、今回私たちがお世話になった豊頃町の大津港エリアというところが起点になったそうです。開拓の歴史としては140年。十勝には、この「開拓者精神」というものが宿っているということで、「チャレンジ精神」に満ちあふれていると十勝にお住まいの方はよくおっしゃいます。新しいモノコトヒトに対しても、受け入れてくれる土壌があるんではないかと感じました。私の出身の大阪では、「やってみなはれ」文化という、とりあえずやってみたら、という考え方がありますが、根底の考え方は似ている気がします。これが、私が十勝エリアにウマが合う人が多い理由なのかもしれません。

豊頃町は十勝エリアの東側にある十勝開拓の祖のまち!

北海道に来て最初に滞在したのは、豊頃町(7月上旬~9月上旬)。豊頃町は、十勝エリアの東側に位置する人口約3000人ほどの小さなまち。北海道民でも、ここ!と指させる人はそこまで多くないかもしれません。とはいえ、海があり、汽水湖があり、十勝エリアを代表する河川「十勝川」の河口部分を有していて、森林面積は約6割。平地部には大規模農家さんが多く、100haを超える耕作面積を持つ農家さんも複数いらっしゃいます。また、海沿いの漁港もあるため、十勝では珍しく、農林水産業すべてがそろっており、十勝開拓の祖となる「大津港エリア」がある歴史あるまちでもあります。

大津港エリアにある開拓の記念碑。ここから十勝エリアの開拓140年の歴史が始まりました(写真撮影/小正茂樹)

大津港エリアにある開拓の記念碑。ここから十勝エリアの開拓140年の歴史が始まりました(写真撮影/小正茂樹)

観光資源としては、「ジュエリーアイス」と「ハルニレの木」という自然系のものが2つ。あと、グルメでは、「アメリカンドーナツ」が有名な「朝日堂」さんや、国道沿いの常連さんに愛されている「赤胴ラーメン」さん。暮らしてみると、面白いものはちょこちょこあるのですが、分かりやすい観光資源というのはそこまで多くないのが、あまり知られていない要因なのかもしれません。

十勝川河口部付近で見られるジュエリーアイス。真冬の一定期間しか見られないのですが、早朝から多くの観光客のみなさんが見学に来られています(写真撮影/小正茂樹)

十勝川河口部付近で見られるジュエリーアイス。真冬の一定期間しか見られないのですが、早朝から多くの観光客のみなさんが見学に来られています(写真撮影/小正茂樹)

移住体験住宅から1kmちょっとのところにあるハルニレの木。川沿いの抜け感のある景色のなか、大きな木が河川敷に。レストハウスでは写真家さんの四季折々のハルニレの木が展示されています(写真撮影/小正茂樹)

移住体験住宅から1kmちょっとのところにあるハルニレの木。川沿いの抜け感のある景色のなか、大きな木が河川敷に。レストハウスでは写真家さんの四季折々のハルニレの木が展示されています(写真撮影/小正茂樹)

また、私が暮らした移住体験住宅は、国道38号線から近く、JR豊頃駅も徒歩10分。そして、徒歩3分で北海道の生活インフラコンビニ「セイコーマート」があり、日常の生活は特に支障ありませんでした。また、色々と買い物に出かけるときは、車が必要なものの、渋滞が起こることはなく、買い物施設は車で20~30分、帯広空港にも30分程度、帯広市内のショッピングモールなどの大きな買い物施設にも40分程度で行くことができます。景色が良いところをドライブがてら行くことができたため、正直、そこまで不便を感じることはありませんでした。車の運転が好きな人なら、おすすめできる立地です。また、帯広空港から車で30分圏内というのは、首都圏との2拠点居住などを考えるうえでも大きなメリットになるのではないかなと感じました。

国道38号線沿いも気持ちいい風景が広がり、気持ち良いドライブを楽しめます(写真撮影/小正茂樹)

国道38号線沿いも気持ちいい風景が広がり、気持ち良いドライブを楽しめます(写真撮影/小正茂樹)

豊頃町での暮らし。家の居心地はもちろん、人があったかい!

豊頃町の移住担当窓口は、企画課さん。移動当日は2022年7月10日(日)で、選挙(我々は期日前投票してからフライト!)と重なっていたのですが、役場で到着をお待ちいただいて、無事鍵を受け取ることが出来ました。当日は日曜日ということもあり、対応いただけないかなと当初は近くで宿を取ろうと思っていましたが、宿泊代ももったいないからと休日対応をいただけました。幼い子ども達を連れての移動は極力ないほうがありがたく、すごくポイントが高かったです。

私たちは空路で北海道入りしましたが、大阪で使っていた車を会社の後輩たちが旅行がてらフェリーで北海道まで乗ってきてくれました。移動当日の夜、十勝の友人と共に記念撮影!(写真撮影/小正茂樹)

私たちは空路で北海道入りしましたが、大阪で使っていた車を会社の後輩たちが旅行がてらフェリーで北海道まで乗ってきてくれました。移動当日の夜、十勝の友人と共に記念撮影!(写真撮影/小正茂樹)

豊頃町役場のみなさんは、意見交換も兼ねて、歓迎会BBQを企画してくださいました。企画課のみなさん、本当にフレンドリーで、課長さん始め、フランクにお話が出来たのはありがたかったです。嬉しかったのは職員の方で双子の方がいらしたこと。双子の成長のあれこれを伺うことも出来て、まちのことはもちろん、豊頃町さんのあたたかさを存分に感じることができました!

豊頃町の高台にある茂岩山自然公園の一角にあるBBQハウスにて。大きさも複数あり、敷地内には宿泊できるバンガローと、友人を集めてのパーティなどにも使い勝手がよさそうでした(写真撮影/小正茂樹)

豊頃町の高台にある茂岩山自然公園の一角にあるBBQハウスにて。大きさも複数あり、敷地内には宿泊できるバンガローと、友人を集めてのパーティなどにも使い勝手がよさそうでした(写真撮影/小正茂樹)

そういえば、豊頃町に来て、まだ右往左往している頃、家に来てくださった方もいらっしゃいました。農家のKさんご家族。ちょうど僕が不在にしているタイミングだったのですが、お母さま、息子さんご夫婦&0歳児娘ちゃんがピンポーン! 豊頃町で地域おこし協力隊をされていた友人が気を利かせてくれて、我々家族を紹介してくださったのです。その後、改めて、お家の方にお招きいただき、焼肉(北海道で焼肉、というと屋外BBQのことを指すことが多い)パーティをしていただきました!!そこには、Kさんご家族4世代、お向かいの農家さんにイケメンエゾシカハンターまで、たくさんの方が集まってくださいました。ハンターさんにはその後、エゾシカ狩りに同行させていただいて、本当に人の繋がりには感謝です。

Kさん宅のガレージで。ガレージというか、ものすごく大きく天井の広いスペースで、音楽をかけながら、みんなでBBQ! Kさんは4世代が勢ぞろいして、にぎやかな食事を楽しめました(写真撮影/小正茂樹)

Kさん宅のガレージで。ガレージというか、ものすごく大きく天井の広いスペースで、音楽をかけながら、みんなでBBQ! Kさんは4世代が勢ぞろいして、にぎやかな食事を楽しめました(写真撮影/小正茂樹)

また、豊頃町の移住体験住宅は、とにかくキレイ! 築10年以上は経過しているものの、木のぬくもりがしっかり感じられると共に、1LDK100平米以上というすごく贅沢な一戸建てだったため、妻はもちろん、我が家に遊びに来てくれた友人・知人もみんなびっくりしていました。土間があり、暖炉があり、憧れののんびり郊外生活のイメージそのままで素晴らしい環境。大阪の狭い住宅で暮らしていた私たちは持て余すほどの状況でしたが、非常に気持ちよく生活することができました。また、夕方から夜にかけてはぐっと気温も下がり、寝苦しい夜とは全く無縁の生活が送れました。

吹き抜け空間で天井が高く、気持ちいい日差しが入ってきてくれるステキな移住体験住宅(写真撮影/小正茂樹)

吹き抜け空間で天井が高く、気持ちいい日差しが入ってきてくれるステキな移住体験住宅(写真撮影/小正茂樹)

ただし、要注意なのが、真夏の昼間。北海道もここ数年で一気に気温が高い日が増えてきているものの、まだ移住体験住宅の多くではエアコン設置ができていないのです。豊頃町も最高気温が30度を超える日も年間数日はあり、自由に外に出回りにくい0歳児双子を連れている我々は、結構困ったこともありました。町役場の方には、涼める場所をいくつもご紹介いただいて事なきを得ましたが、夏場の日中はどこか涼しい場所にお出かけした方がいい日もあるかと思います。それを差し引いたとしても、おしゃれですし、何せゆったりした空間が屋内外に広がっているので、妻とも、「こういう場所で暮らせるのはいいよねぇ」とよく話していました。夜になると涼しく過ごせて、窓を開けて寝ると寒いくらいで、ホンマに星がきれいでよく星空を眺めていました。

移住体験住宅2階にある寝室からの景色。朝起きると本当に気持ち良い景色が広がっていて、心地よく過ごせました(写真撮影/小正茂樹)

移住体験住宅2階にある寝室からの景色。朝起きると本当に気持ち良い景色が広がっていて、心地よく過ごせました(写真撮影/小正茂樹)

そして、屋外がのんびりしているだけではなく、なんと、この豊頃町の移住体験住宅は畑付き。それも、きちんとサポートもしてくださいます。サポートしてくださるおじさまが、すごく親切で、我が家の場合は、ほとんどおんぶに抱っこ。ほとんど収穫しかしてないので、偉そうなことは言えませんが、ジャガイモ、トウモロコシ、ズッキーニ、カボチャなどなど。とれたて新鮮な野菜たちが食卓に並んでいくのは本当に贅沢なひとときでした。

植え付けまでしてくださっていて、私の方は水やりと収穫だけで、畑仕事を満喫した良い気分を味わえました(笑)(写真撮影/小正茂樹)

植え付けまでしてくださっていて、私の方は水やりと収穫だけで、畑仕事を満喫した良い気分を味わえました(笑)(写真撮影/小正茂樹)

さらに、この住宅での思い出といえば、ホームパーティです。合計30名ほどの方にお越しいただいて、持ち寄りパーティをしました。遠くは東京、札幌から。近くは十勝エリアのあちこちや豊頃に住まわれている方々。お昼から夜まで、のんびりした空間で様々な人の交流ができて、楽しいひとときを共有できたのはすごくよかったです。十勝エリアにお住まいの方でも、豊頃町にはなかなか来ることがないという方も多かったのですが、このパーティでは、参加者の皆さん全員に、豊頃町の名物の切り干し大根をお土産に、地元でも人気の朝日堂のアメリカンドーナツなども準備して、豊頃町をしっかり楽しんでいただけるように工夫しました。

ホームパーティは基本屋外の広いお庭をメインに。友人が持ってきてくれたキャンプ用品が大活躍し、大人たちは飲み食べ、子どもたちはプールで遊んだり。心地よい空間で過ごせました(写真撮影/小正茂樹)

ホームパーティは基本屋外の広いお庭をメインに。友人が持ってきてくれたキャンプ用品が大活躍し、大人たちは飲み食べ、子どもたちはプールで遊んだり。心地よい空間で過ごせました(写真撮影/小正茂樹)

まちにスーパーがない! リアルな生活はどんな感じに?!

豊頃町には、実はスーパーがありません。と言われても、都会暮らしをしている人には徒歩圏内にスーパーがないということ自体あまりないでしょう。どこで買い物するんだろう。でも、その不安は行ってみてすぐに解消されました。その大きな理由としては、町内(移住体験住宅からは車で5分ほど)には「とよころ物産直売所」なる都会に住んでいる身としてはあり得ないたくさんの新鮮なお野菜が並んでいる産直市場があったこと。

国道38号線すぐ近くにある「とよころ物産直売所」。金・土・日の営業ですが、朝からどんどん車で買い物に来られるお客さんが。並びには、蕎麦屋さんや、アイスクリーム屋さんなども(写真撮影/小正茂樹)

国道38号線すぐ近くにある「とよころ物産直売所」。金・土・日の営業ですが、朝からどんどん車で買い物に来られるお客さんが。並びには、蕎麦屋さんや、アイスクリーム屋さんなども(写真撮影/小正茂樹)

豊頃町は大規模農家さんが多く、4大品目と呼ばれる、「小麦」「ジャガイモ」「豆類」「ビート」を大量につくられている農家さんがほとんど。そういった農家さんが家庭菜園(と都会の人が思うレベルではない広さのようですが)的につくったお野菜がいろいろ並んでいるのです。これがめっちゃおいしくて安い。金・土曜の品ぞろえがいいよ、とうわさで聞いたため、毎週、オープンすぐにお野菜を買いに行っていました。また、直売所がお休みのときや、お野菜以外のものは車で15~20分程度の隣町のスーパーに買い出しに行きます。

いろんなお野菜を毎週まとめてゲット! 季節限定(おおむね4月末~11月中旬の営業)の営業になりますが、イキイキとした採れたて野菜が並んでいて、選ぶのも楽しい(写真撮影/小正茂樹)

いろんなお野菜を毎週まとめてゲット! 季節限定(おおむね4月末~11月中旬の営業)の営業になりますが、イキイキとした採れたて野菜が並んでいて、選ぶのも楽しい(写真撮影/小正茂樹)

また、まちの中心部には、社会福祉協議会さんが経営されるカフェ「喫茶ふわり」もあり、すごくお世話になりました。スタッフの方々には双子のお世話もしてくださって、ゆっくりご飯&お茶ができる貴重な時間を過ごすこともできました。
更に、2022年8月下旬には、すっごいおしゃれなカフェ「B&B丘」さんもオープンし、10月には、地元ジビエ料理が楽しめる宿泊機能付きレストラン「エレゾエスプリ」もオープンしたそうで、どんどんおしゃれなお店もまちに生まれています。

豊頃町の中心地にある喫茶ふわり。のんびりした雰囲気でリーズナブルにご飯が食べられます(写真撮影/小正茂樹)

豊頃町の中心地にある喫茶ふわり。のんびりした雰囲気でリーズナブルにご飯が食べられます(写真撮影/小正茂樹)

B&B丘のガパオライス。お店の人がタイに長らくお住まいだっただけに本格的で美味!(写真撮影/小正茂樹)

B&B丘のガパオライス。お店の人がタイに長らくお住まいだっただけに本格的で美味!(写真撮影/小正茂樹)

すごくアットホーム感あるほっこり&手つかずの可能性がたくさんのまち!

2カ月の滞在となった豊頃町。空港からもほど近く、買い物施設は車で20分圏内にいくつもあり、車の運転をする方にとっては、まさに郊外ののんびり暮らし!が満喫できると感じました。
また、まだまだ6次産業化なども進んでおらず、まちにも、産業にも手つかずの可能性というのをたくさん感じました。豊頃団志なる男性の若手グループを農家さん、酪農家さん、役場職員などが集まってつくられていて、実は色々地域の活動をされる横のつながりもあったりします。町役場も若手の方が多くて、アットホーム感ある暮らしを楽しみながら、新しいモノコトづくりなどに興味がある方にはすごくお勧めなまちだと思います。
豊頃町に名残惜しさを感じながら、9月上旬からは同じ十勝エリアの北部にある上士幌町へ。果たして次なるまちの暮らしはどんなものになるのか。乞うご期待!

関連記事育休中の双子パパ、家族で北海道プチ移住してみた! 半年暮らして見えてきた魅力と課題

●関連サイト
豊頃町移住計画ガイド
ジュエリーアイス
ハルニレの木
とよころ物産直売所
B&B丘

子どもの転落事故、自宅の窓やベランダに潜むリスクとその防止策は?

先日、痛ましい事故のニュースを目にしたところだが、以前から窓やベランダからの子どもの転落事故については、注意喚起がされていた。また、窓やドアの経年劣化なども事故の原因になるという。子どもの安全を守るためにも、窓やベランダなどのリスクについて考えていこう。

【今週の住活トピック】
「ご注意ください!窓やベランダからのこどもの転落事故」/政府広報オンライン
「放置しないで!窓・ドアの危険サイン」/製品評価技術基盤機構(NITE)

窓やベランダからの転落事故は1歳と3・4歳の子どもに多い

2023年3月10日に政府広報オンラインが「ご注意ください!窓やベランダからのこどもの転落事故」をリリースした。子どもは成長するにつれて活動範囲が広くなり、好奇心から大人の想定を超える行動をすることがある。東京消防庁管内の緊急搬送事例では、1歳と3・4歳で窓やベランダからの転落事故が多いという。

年齢別救急搬送人員

年齢別救急搬送人員(東京消防庁管内で発生した、2017年から2021年までの窓やベランダからの転落事故における年齢別の救急搬送件数(総数=62))(出典 東京消防庁「住宅等の窓・ベランダから子どもが墜落する事故に注意」より転載)

政府広報オンラインに紹介されていた事例としては、次のような行動から転落事故が生じている。
●こどもだけで部屋にいて、網戸に寄りかかる
●ソファなど足場になるものから窓枠まで登る
●ベランダの手すりにつかまっていて、前のめりになって転落
●ベランダの室外機に登り、手すりを越えて転落

事故事例から分かることは、「子どもだけで部屋にいるときに窓が開いている場合」や「窓やベランダの手すりまで足場を使って登れる場合」などでリスクが高くなることだ。

子どもの転落事故を防止するためのポイントは?

子どもの転落事故を防ぐには、窓やベランダの周辺でリスクの高い環境を作らないことが大切だ。具体的には、次のような対策が考えられる。

(1)補助錠を付ける
ポイントは、子どもの手が届かない位置に補助錠を付けること。

(2)ベランダには物を置かない
プランターやイス、段ボールなどが足場になるので、できるだけ物を置かないこと。エアコンの室外機は置かざるを得ないので、室外機を「手すりから60cm以上離す」か、子どもだけでベランダに出ないようにする。

(3)室内の窓の近くに物を置かない
ソファやベッドなどが足場になるので、窓に近い場所に家具を置かないように配置を工夫する。

(4)窓、網戸、ベランダの手すりなどに劣化がないかを定期的に点検する
網戸がはずれやすくなっていないかなど、定期的に点検する。

窓やドアの危険サインを見逃さない

窓などの点検については、事業者の製品安全の取り組みと消費者の安全のための検査や調査などを行っているNITE(ナイト)も注意喚起をしている。2023年3月23日に、「放置しないで!窓・ドアの危険サイン ~事故に遭わないための点検ポイント~」をリリースした。

思いがけない出来事に「ヒヤリ」としたり、事故が起こりそうになって「ハッ」としたりすることが、大きな事故につながることから、見た目に異常がなくても、不具合が起きていないか点検をすることが大切だという。例えば、部品が損傷したことで、窓が落下したりドアが倒れたり、はめ込んであるガラスが割れたりすると、怪我をしたり腕や指が挟まれたりといった事故につながる。

具体的な点検ポイントとしては、次のようなものが挙げられている。

■窓・ドアの点検ポイント
□ がたつきがないか。
□ スムーズに開閉せず、重たくなっていないか。
□ 開閉時に異音がしないか。
□ 破損や変形がないか、さびている箇所はないか。

特に子どもは、リスクを感知することが難しいので、大人がリスクを引き下げる環境を整えることが大切だ。春になると外出の頻度や換気の回数なども増えるので、窓やドア、ベランダの手すりなどに不具合はないか点検し、子どもの転落を防止する対策を取り、悲しい事故が起きないようにしてほしい。

●関連サイト
政府広報オンライン「ご注意ください!窓やベランダからのこどもの転落事故」
製品評価技術基盤機構(NITE)「放置しないで!窓・ドアの危険サイン」
東京消防庁「住宅等の窓・ベランダから子どもが墜落する事故に注意!」

育休中の双子パパ、家族で北海道プチ移住してみた! 半年暮らして見えてきた魅力と課題

「地方への移住」=田舎暮らしは憧れだけど、仕事環境などなどハードルが高い。
「男性の育児休業」=まだまだ認知されていなくて、取得できる気がしない……。
一見ハードルが高そうで互いに関係がなさそうな、こんな二つのキーワードを組み合わせた暮らしを体験してみると、実はすごく豊かな暮らし方&働き方改革、そして新たな地方創生が実現できるかも?! 1歳双子男子の関西人新米パパが実践レポートします!

男性の長期育休取得→移住体験にいたるまで

2021年の春のこと。「双子やったわ~」妻からの報告に、嬉しかったり、ビックリしたり。以前から抱いていた「育児休業」という言葉が頭の中を飛び回りました。現実問題として、双子の子育てって、一人じゃ到底難しいよなぁ……育休取れるんやろか。でも、0歳の子どもって、日々成長して変わっていくと言いますし、何にも代えがたい経験が出来る気がする。よくあるワンオペ育児もホンマに大変そうやし、妻に頼りっきりで、妻が倒れてしまったら双子育児なんてどうにも立ち行かなくなるし、二人で育児をするために、なんとか育休取らねば。

とはいえ、男の育休が話題になっている今ですが、現実問題としては、突然いなくなるのも周りへの迷惑も気になるのも事実。社外のバリバリ働いている友人たちからは、その後の会社での処遇なども含めて心配もされました。まだまだ世の中の雰囲気は男性育休に対して意見がいろいろあるんやなぁと実感しました。

ただ幸いなことに、先輩女性職員さんをはじめ、社内のほとんどの同僚たちは大賛成してくれ、上長も「双子やしね~」と前向きな反応。その後、3カ月程にわたり会社との相談を重ね、長期育休を取る方向で話を進めていき、2021年10月、無事、双子男子の父となることができました。

無事産まれて、家に来てくれたばかりの双子。今改めて見ると、本当にちっちゃくてカワイイ!(写真撮影/小正茂樹)

無事産まれて、家に来てくれたばかりの双子。今改めて見ると、本当にちっちゃくてカワイイ!(写真撮影/小正茂樹)

単に“イクメン”として子育てするのも良かったものの、ふと、「育休中って会社に通勤せんでもいいし、育児を大好きな北海道で出来るんじゃ?!」と頭によぎりました。子どもたちの育児環境も、都会より、緑が多くて、空気が澄んでいて、のんびりした空間で出来たほうがいいんじゃなかろうか。記憶には残らないまだまだ小さい頃ですが、のんびりした温和な性格に育ってくれないかなぁ。周囲の先輩パパ・ママに聞いてみると、都会で泣き声とかで周囲への迷惑などにビクビクしながら育てるより、のんびりした空間で育てるほうが親にも子どもにもいいと思うなぁとのこと。

会社に確認すると、育休中の居住地は特に問わず、連絡さえつけばどこにいても問題ないとのこと。そこまで確認し、2021年度中はリモートワーク主体になりながらも、仕事をこなしつつ、2022年度には、長期の育休を取得させていただくことで、上司・人事にも仁義を切り、社内調整も完了しました。あとは、北海道で暮らす算段を立てるのみ!!

せっかく行くなら、できるだけ長く、半年くらいは北海道で暮らしてみたい。暮らす手段を考えてみると、やはりコストの問題が出てきます。ウィークリー/マンスリーマンション的なもの。エアビー(Airbnb)的なもの。長期で借りると安くなる可能性はあるとはいえ、やはり結構高額になってしまう。また、本州から北海道までの引越し代って、海を確実に渡るので、すっごい高いと友人からも聞いています……。うーん、難しい。

でも、すごくいい解決方法が見つかりました!「移住体験」という制度です。
地方都市のいろんなところで実施しているこの制度、これなら、「家具・家電付き」で、「家賃」もお値ごろの住宅が多い。そして、市町村が運営しているだけに、町のあれこれも教えていただけたりしそうで一石二鳥。「ちょっと暮らし」という北海道の体験移住WEBサイトも発見! このサイトなどを穴が開くほど見つめて、友人・知人の多く住んでいる北海道十勝エリア、日高エリアを中心に検討することにしました。また、私が住む大阪には、「大阪ふるさと暮らし情報センター」というところもあり、こちらでは、パンフレットをいただいて、より詳細に検討を行いました。

WEBでいろいろと調べるのもいいですが、調べ物はまずは紙派。いただいたパンフやこれまでストックしてあったさまざまな資料をチェックしながら、詳細をWEBで確認して、検討していきました(写真撮影/小正茂樹)

WEBでいろいろと調べるのもいいですが、調べ物はまずは紙派。いただいたパンフやこれまでストックしてあったさまざまな資料をチェックしながら、詳細をWEBで確認して、検討していきました(写真撮影/小正茂樹)

問い合わせてみると、申込条件としては、基本的に、「二拠点居住」「移住」などを検討していることになっています。私としては、以前から北海道が大好きで、仕事の調整が付けば、将来的に「二拠点居住」が出来ると嬉しいなぁと思っていたため、条件はクリア。

妻の説得、幼い子どもを連れて移住体験するために考えておくこととは

北海道に行く。この気持ちはもう揺るがないものになってきてはいるものの、当時の最重要タスクは、0歳児双子の育児&出産間もない妻の心身のケア。コロナ禍まっただ中ということもあり、都会の子育てサロン的なものはほぼすべて中止になり、なかなかママ友などもできない状況でした。「都会にいると息苦しいから、育児は田舎の方でやったほうがいいかなぁ」なんてことを小出しにしながら、妻の意向確認をするべく、18ページにわたる企画提案書を出してみました。この企画提案書では、暮らすことになる移住体験住宅のイメージはもちろん、大阪での育児と比べて、のんびりした育児環境となること、グルメや遊び情報などと合わせて、プチ移住するにあたっての子どもたちの予防接種などの課題などにも触れ、まずは妻の意見をしっかり聞けるように工夫しました。

妻にプレゼンした18ページの育休期間暮らし方提案書(写真撮影/小正茂樹)

妻にプレゼンした18ページの育休期間暮らし方提案書(写真撮影/小正茂樹)

妻からは楽しそう、美味しいものが食べられそう、などというポジティブな意見もあったものの、「医療機関など子育てに不安がない都会から、突然地方へ乳飲み子を抱えて移動するリスク」や、「最寄りの医療機関の情報」「日常の買い物施設の情報」「子連れウェルカムな施設」などの宿題をたくさんもらいました。プレゼン終了後、別資料で「最寄りの医療機関」「日常の買い物施設」については、地図にプロットし、どこに何があるか、口コミ情報なども調べて、しっかり共有しました。また、小さな子連れで過ごせる施設や、子育てサロン的な集まりなども事前に自治体さんに問い合わせするなどして、情報を集めていき、思ったよりいろいろなものがあることも分かり、無事課題クリア。

しかしながら、「乳飲み子を抱えて移動するリスク」については、難しい点がありました。子育てをご経験された方はご存じかと思いますが、産まれて満1歳ころまでは、数多くのワクチン接種などがあり、健診もたくさん。これらをどこで受診するのか、あれこれ考えることが結構ありました。実は、移住体験はあくまで扱いとしては、「体験」であるため、住民票の異動は認められていません。そのため、ワクチン接種や健診の主体はもともと暮らしている自治体で受診するのが原則になっています。ワクチン接種もできるだけもともと通っていた医院で受けたいという妻の意見をくみ取りつつ、健診がいったん落ち着く9カ月健診の終了後、2022年7月、移住体験をスタートできることになりました。

双子にとって初めての飛行機に乗り、帯広空港に到着。友人たちが荷物運びなどのために出迎えてくれました(写真撮影/小正茂樹)

双子にとって初めての飛行機に乗り、帯広空港に到着。友人たちが荷物運びなどのために出迎えてくれました(写真撮影/小正茂樹)

移住体験先の賢い選び方!

移住体験でお借りできる住宅は、家賃・築年・広さ・住宅内の設備や付属している家具・家電などなど、本当に千差万別。教員住宅だったものを利活用している(小中高校の教員さん向けの公務員住宅だが、地方では統廃合などで、教員住宅自体が余ってきている)ケースが多いですが、民間物件や、地元木材を使って新築で建てられた移住体験用住宅をお借りするケースもあります。個人的なおすすめとしては、移住体験用に建てられた住宅。家賃が他のものより高いことが多いですが、設備も新しく、妻を説得する私としては、「せっかく移住体験するなら、きれいなところ」というのは結構重要な点でした(笑)。

豊頃町(とよころちょう)でお世話になった移住体験住宅は、妻へのプレゼン資料で決め手に。築10年ほど経っていますが、地元木材がふんだんに使われ、お庭も広く、吹き抜けの気持ちいい空間が広がります(写真撮影/小正茂樹)

豊頃町(とよころちょう)でお世話になった移住体験住宅は、妻へのプレゼン資料で決め手に。築10年ほど経っていますが、地元木材がふんだんに使われ、お庭も広く、吹き抜けの気持ちいい空間が広がります(写真撮影/小正茂樹)

また、寝具は別途レンタルとなっていたり、水道光熱費は、灯油代(暖房代)は別途となっていることは多いものの、水道・電気代は込みになっていることが多いです。

■検討する際に忘れてはならない大事なポイント
・借りられる期間(これは市町村さんごとに2週間~1年程度まで、全く異なるので要注意!)
・申し込み締切り日(年に1回、まとめて募集があります。その締切りは概ね年末から2月中旬までが多いです。それ以降も、空きがある場合は、追加募集を行う市町村もあるため、要チェック)
・北海道の場合は、夏場の暑さ!北海道といえど、夏場は30度以上になったりして、暑く感じることもありますが、移住体験住宅はエアコン設備がないところがほとんど。逆に冬はストーブが付けていれば、本州の家とは比べ物にならないくらい暖かいです。移住体験する時期に注意!!

我が家としては、「半年間継続して暮らせる」ことが何より重要でした。乳飲み子を抱えて、ウロウロするのは結構大変。なので、基本的に、半年間を一つの町で暮らせるように考えました。ただ、半年間という長期で申し込める市町村はそこまで多くはなく、申込締切りに間に合い、かつ、楽しい暮らしが実現できそうな「豊頃町」「上士幌町(かみしほろちょう)」の2町に申込することにしました。そして、無事選定いただき、豊頃町で2カ月、上士幌町で4カ月、移住体験をさせていただくこととなりました。

【豊頃町の決め手】
・とにかく移住体験住宅がかっこいい!
・お庭があって、希望者は農作業ができる家庭菜園も。子どもたちに収穫した野菜を食べさせてあげられるかも(今回は2カ月の短期居住で収穫体験が出来るよう、特別に先に植え付けをしてくださっていました)
・農地に隣接していて、のんびり空間を満喫できそう。
・問い合わせした際の町の担当の方がすごく親切だった。
・十勝エリアのなかでも、あまり情報がない町なので、どういう町か暮らしてみたかった。

豊頃町の移住体験住宅からの眺め。都会では到底味わえない抜け感で心身ともにリフレッシュができました(写真撮影/小正茂樹)

豊頃町の移住体験住宅からの眺め。都会では到底味わえない抜け感で心身ともにリフレッシュができました(写真撮影/小正茂樹)

【上士幌町の決め手】
・「ママのHOTステーション」という子育てママが集える空間があった。
・糠平温泉郷や小学校をリノベしたカフェなど、楽しめそうな場所がたくさんあった。
・町がさまざまな斬新な取組みをされているので、肌でそれを感じたかった。
・移住者がすごく多い町という噂なので、移住されている方と仲良くなれるかも。
・移住対応窓口がNPO法人で、いろんな暮らしの情報をもらえそうだった。

「ママのHOTステーション」。実は、一昨年、仕事で上士幌町を視察をしたとき「これや!!」と直感して、上士幌町に移住体験して、妻に通ってほしい!と思ったのです。実際、すごく居心地よく素晴らしいものだったそうです(写真撮影/小正茂樹)

「ママのHOTステーション」。実は、一昨年、仕事で上士幌町を視察をしたとき「これや!!」と直感して、上士幌町に移住体験して、妻に通ってほしい!と思ったのです。実際、すごく居心地よく素晴らしいものだったそうです(写真撮影/小正茂樹)

まだまだ他の町にも! チェックすべき移住体験のオトク情報

移住体験住宅のセレクトで、つい目が行きがちなのが、「家賃」や「築年数」「広さ」など。もちろん、暮らすにあたって、すごく重要なポイントではありますが、実は、個性的な特徴を持っている移住体験住宅もたくさんあります。そんなおすすめポイントを、私が検討した日高・十勝エリアに絞り込んでご紹介します。

1、農園付き住宅!
私が暮らさせていただいた豊頃町の移住体験住宅は、2戸で800平米の敷地。えらい広いなぁと思っていたら、実は、農園付きの住宅でした。自由に植え付けることもできますが、私たちは短期滞在ということもあり、役場のOBのおじいちゃまが育ててくださって、収穫体験させていただく、というようなありがたいサプライズもありました!

また、士幌町には、その名も「もっと暮らし体験『農園付き住宅』」という農園をがっつり楽しみたい方のための1年以上の長期滞在向け体験住宅も用意されていて、本気度が高い方にはこちらもおすすめです。

豊頃町の移住体験住宅のお庭でジャガイモの収穫! 町役場OBのおじいちゃまが手伝ってくださいました。我が家はほとんど収穫体験のみ……。できたて野菜をたくさん双子に食べさせてあげられました(写真撮影/小正美奈)

豊頃町の移住体験住宅のお庭でジャガイモの収穫! 町役場OBのおじいちゃまが手伝ってくださいました。我が家はほとんど収穫体験のみ……。できたて野菜をたくさん双子に食べさせてあげられました(写真撮影/小正美奈)

2、ワーキングステイできる!
ロケット開発や宇宙港開発で有名になりつつある大樹町(たいきちょう)では、移住体験住宅の一つが、専門的な知識やスキルを持つ「クリエイティブ人材」のワーキングステイの場として提供されています。デザインやWEB等の知識がある方、ICTを活用し、都市部の仕事をテレワークで受注する企業や個人事業主の方向けということになっています。実は、このワーキングステイで大樹町にまちづくり提案をした場合、1カ月分の家賃相当の謝礼を受け取ることができます。まちづくりに興味がある方はもちろん、これから宇宙関係で盛り上がっていく大樹町に関われるチャンスが生まれるかもしれません。

大樹町と言えば、実業家の堀江貴文さんが創業し、ロケット開発をベースに宇宙の総合インフラ会社を目指しているインターステラテクノロジズ株式会社。大樹町の宇宙産業開発はこれからも大注目!(写真撮影/小正茂樹)

大樹町と言えば、実業家の堀江貴文さんが創業し、ロケット開発をベースに宇宙の総合インフラ会社を目指しているインターステラテクノロジズ株式会社。大樹町の宇宙産業開発はこれからも大注目!(写真撮影/小正茂樹)

3、オシャレ空間で暮らしたい!
私が暮らしていた豊頃町の移住体験住宅は2棟ともに木材がふんだんに使われていて、土間があったり吹き抜け空間があったりと、妻もオシャレとすごく喜んでいました。また、上士幌町でも、私が滞在した移住体験住宅とは別に、1カ月以内の短期居住向け住宅があり、ややお家賃の割高感はあるものの、新築のオシャレな住宅も用意されています。また、足寄町(あしょろちょう)の移住体験住宅も新築になりますので、快適な暮らしができるのではないでしょうか。

さらに、十勝清水町では、令和5年1月に無印良品さんとコラボし、リノベーション&家具・家電をコーディネートしたすっごいオシャレな住宅が完成しました。一般的な移住体験住宅でちょっと残念なのが、家具・家電のコーディネート力がやや弱いこと。しかしこちらの住宅は、内装に合わせて家具・家電もコーディネートされていました。

豊頃町の体験住宅は、土間・薪ストーブ付き。革小物のハンドメイド作家の妻は、土間で制作作業をしたり、デザインを考えたり。冬ならぜひ、都会の人の憧れ、薪ストーブも使ってみたかったです(写真撮影/小正茂樹)

豊頃町の体験住宅は、土間・薪ストーブ付き。革小物のハンドメイド作家の妻は、土間で制作作業をしたり、デザインを考えたり。冬ならぜひ、都会の人の憧れ、薪ストーブも使ってみたかったです(写真撮影/小正茂樹)

4、馬に囲まれて暮らせる!
また、日高エリアの浦河町では、民間の戸建て物件やホテルなどが移住体験住宅として提供されていますが、そのなかで、「うらかわ優駿ビレッジAERU」の和洋室のお部屋がミニキッチン付きで家族でも十分な広さがあります。ホテル内には大浴場もあり、敷地内にはお馬さんたちがたくさん繫養(けいよう)されていて、のんびりした空間が広がります。北海道発祥のスポーツ「パークゴルフ」や、乗馬も初心者から楽しめるコースも。私も今回の北海道プチ移住では1週間ほど滞在しましたが、ホテルライクにいろいろ体験しながら、のんびり暮らしたい方にはおすすめです。

うらかわ優駿ビレッジAERUの敷地内でのんびり草を食むお馬さん。浦河町は古くからサラブレッドの生産・育成が主な産業。のんびりした牧場空間でサラブレッドが過ごす光景は本当に癒やされます(写真撮影/小正茂樹)

うらかわ優駿ビレッジAERUの敷地内でのんびり草を食むお馬さん。浦河町は古くからサラブレッドの生産・育成が主な産業。のんびりした牧場空間でサラブレッドが過ごす光景は本当に癒やされます(写真撮影/小正茂樹)

長期育児休業×移住体験で新たな暮らし・生き方・住まいを探そう!

現在、日本では、異次元の少子化対策として、さまざまな検討がなされています。私は一足先に、男性ではまだまだ珍しい長期育児休業を取得し、さらに移住体験を通じて、地方で子育てをすることで、すごくポジティブに育児に取り組めました。

■長期育児休業×移住体験のいいところ
・移住先では、子どもをすごく大事にしてくださいました。子どもを抱っこしてくださった地域のおばあちゃまたちの笑顔にすごく癒やされます。
・会社員としての属性は残したまま、自分が気になっているエリアに中・長期で移住体験ができる。
・例えば、祖父母の近くの町などに移住体験できれば、祖父母孝行をしながら、育児ができる。
・中・長期で暮らすことによって、地域の住宅やお仕事情報などが手に入ったり、地元のお祭りに参加出来たり、新しい友人・知人が増え、人生が豊かになる。
・20・30代の方々が長期育休を取り、地方へ移住体験することで、地方の活力がアップしたり、二拠点・多拠点居住など新たな暮らし方を模索するきっかけに。地方の空き家対策などにもつながる可能性。関係人口という地域とのつながり方も注目されています。
・自分の暮らす町で育児をすると、どうしてもマンネリ感と、ストレスを感じがち。移住体験で子育てすることで、日々に変化が生まれ、リフレッシュできる環境で子育てができる。

喫茶店で私たちがランチを食べている間、お店の方とお客さんが双子と遊んでくれているようす。いろんなお店でいろんな方にすごくお世話になりました。おばあちゃまたちの子どもあやすスキルがすごい!(写真撮影/小正茂樹)

喫茶店で私たちがランチを食べている間、お店の方とお客さんが双子と遊んでくれているようす。いろんなお店でいろんな方にすごくお世話になりました。おばあちゃまたちの子どもあやすスキルがすごい!(写真撮影/小正茂樹)

数多くのローカルイベントにも参加でき、町の雰囲気などをいろいろな角度から体感できたのは大きな収穫でした(写真撮影/小正茂樹)

数多くのローカルイベントにも参加でき、町の雰囲気などをいろいろな角度から体感できたのは大きな収穫でした(写真撮影/小正茂樹)

私たちの子どもが双子だということもあるかもしれませんが、どこに出掛けても、いろんな方に声を掛けていただいて、子どもたちをあやしたり、抱っこしてくださったりしました。子どもたちをかまってくださるのは本当に助かりました。町の喫茶店や食堂では、お店の方とお客さんが双子の世話をしてくださり、その間に我々夫婦は食事をとったり、コーヒーを飲んだりも。おかげで、子どもたちは人見知りも、場所見知りもしなくなり、我々夫婦はゆっくり食事ができたりと、良いことずくめでした。そして、すごい副産物やな、と感じたのは、抱っこしてくださったおばあちゃまたちが笑顔で「ありがとう!小さい子に会うのもなかなかないからほんまに癒やされたわ~、また抱っこしたいから遊びに来てね!」と言ってくださったこと。こちらが助けていただいているのに、本当にありがたかったですし、多世代の交流が勝手に生まれていて、すごくほんわか空間ができていました。

また、旅行ではなかなか得られない地域の細かな住宅やお仕事事情、行政サービスのことなどなど、いろんなことを知ることができ、将来的な移住検討もより具体的に考えられるなと感じました。

お孫さんが使っていたというおもちゃを使って、双子とずっと遊んでくださった喫茶店のマスター(写真撮影/小正茂樹)

お孫さんが使っていたというおもちゃを使って、双子とずっと遊んでくださった喫茶店のマスター(写真撮影/小正茂樹)

一方、この新しい暮らし方にも課題があります。

■長期育児休業×移住体験のここに注意! 改善できればいいなというところ
・住民票が動かせないので、行政サービスが受けられないものが多い。
・育児休業中の収入は育児休業給付金のみ(雇用保険料を一定期間納めている方のみいただける制度)になるため、ある程度貯金を取り崩したりするなどしないとダメ。
・保育・幼稚園留学や小・中学校のデュアルスクールなど、教育環境が柔軟なエリアはまだまだ少ないので、兄弟がいる世帯は難しいケースも。

育児休業給付金の制度は、取得から当初180日間は直近6カ月の給料相当額の67%、その後、50%にまで減額されます。社会保険料などは免除されるため、当初180日間を概ね80%まで引き上げることができれば、働いているときとほぼ変わらない収入を確保でき、心配なく育児に専念できます。こうなれば、男性の半年間程度の長期育休は確実に増えると思います。また、私たちのように、地方への移住体験をしながら育児、といった新しい子育てのあり方もどんどん生まれてくるのではないでしょうか。

保育・幼稚園留学や小・中学校のデュアルスクールなどは、まだまだ数は少ないものの、私たちがお世話になった上士幌町では、「上士幌Two-way留学プロジェクト」という地方と都市の2つの学校の行き来を容易にし、双方で教育を受けることができる留学制度は既に始まっており、浦河町でもすごくステキなこども園が一時保育などを積極的に受け入れられています。子どもたちの教育環境としても、実は地方のほうが手厚く、都会では経験できないようなさまざまな体験ができるのではないかなと思います。

ぜひ、国や自治体さんには子育ての多様化、ポジティブな子育て環境をつくりだしていただいて、子どもを育てやすい、と思えるような環境整備や制度拡充ができてくればいいな、と思います。

浦河町滞在時に利用した「浦河フレンド森のようちえん」の子育て支援フレンドクラブ。絵本の読み聞かせなどをしてくださり、園舎内も自由に遊ばせてOK。ワーケーションなどで浦河町滞在時の一時預かりなどにも対応されています(写真撮影/小正茂樹)

浦河町滞在時に利用した「浦河フレンド森のようちえん」の子育て支援フレンドクラブ。絵本の読み聞かせなどをしてくださり、園舎内も自由に遊ばせてOK。ワーケーションなどで浦河町滞在時の一時預かりなどにも対応されています(写真撮影/小正茂樹)

妻の双子の妊娠が発覚してから、ぼんやり考えていた育児休業と真剣に向き合い、男性ではまだまだ珍しい長期の育児休業取得へ。さらに、単に育児休業を取って育児をするより、親のリフレッシュも兼ね、いつもと違った環境に移住体験しながら育児ができたことは、すごくいい刺激を受け、よい経験となりました。

今回、お伺いした2町以外にも移住体験住宅はたくさんありますし、都市部では絶対に経験できないような魅力的なコンテンツも盛りだくさん。旅行では味わえない、田舎暮らしを満喫して、育児も!暮らしも!しっかり人生を楽しみながら、育児に取り組む。こんな新しい育児休業はすごく可能性があるなと感じました。 

また、今回の長期育児休業×移住体験を行ったことにより、新しい友人・知人ができ、新しい地方の魅力を体感できました。もちろん、これからも今回伺った地域との関わりは続けていきたいなと思っています。地方創生の新たな仕組みにもなり得るのではないか、そんなことを感じる体験となりました。

2023年1月中旬、中札内村の道の駅内にある無料で遊べるキッズスペースにて。生後9カ月で北海道に来た双子も、1歳3カ月になり、しっかり歩き回り、自己主張も出てきて、のびのび成長してくれています(写真撮影/小正茂樹)

2023年1月中旬、中札内村の道の駅内にある無料で遊べるキッズスペースにて。生後9カ月で北海道に来た双子も、1歳3カ月になり、しっかり歩き回り、自己主張も出てきて、のびのび成長してくれています(写真撮影/小正茂樹)

移住体験ラストは、さよならパーティーを企画。総勢40名を超える方々にお越しいただけて、半年で本当にさまざまな友人・知人が新たに出来て、これからの人生がより豊かになると確信したひとときとなりました(写真提供/森山直人)

移住体験ラストは、さよならパーティーを企画。総勢40名を超える方々にお越しいただけて、半年で本当にさまざまな友人・知人が新たに出来て、これからの人生がより豊かになると確信したひとときとなりました(写真提供/森山直人)

●関連サイト
大阪ふるさと暮らし情報センター
豊頃町移住計画ガイド
上士幌町移住促進サイト
上士幌町Two-way留学プロジェクト

シングルマザーの賃貸入居問題、根深く。母子のためのシェアハウスで「シングルズキッズ」が目指すもの

ひとり親世帯の住まい探しでは、オーナーや不動産会社から収入面に不安を持たれたり、子どもだけで過ごす時間が多く危ないのではないかなど、偏見から入居を断られるケースもあり、容易ではありません。中でも、母子世帯の住まい探しは父子世帯よりも困難だといいます。こうした問題を少しでも軽減して、親子が共に楽しく幸せに暮らすことをミッションにかかげる企業があります。

シングルマザーとその子どものためにシェアハウスを提供する「シングルズキッズ」の代表取締役である山中真奈さんに、母子シェアハウスの仕組みや、事業を立ち上げた背景、現在そしてこれからの取り組みについて話を聞きました。

都道府県を越える引越しも検討。ひとり親が求める住まい

日本でのひとり親世帯は、年々急増しています。内閣府発表の「男女共同参画白書 令和元年版」によると、ひとり親世帯は1993年から2003年までの10年間で、94.7万世帯から139.9万世帯と約1.5倍に増加し、それ以降、同水準で推移しています。
その中でも、母子世帯数は父子世帯と比較して増加傾向にあり1993年はひとり親世帯の約8割だったところ、2016年には8.5割まで増加しています。

(画像出典:内閣府「男女共同参画白書 令和3年版」)

(画像出典:内閣府「男女共同参画白書 令和3年版」)

また所得格差も課題です。厚生労働省が発表した「2021年度(令和3年度)ひとり親世帯等調査結果報告」によると、父子世帯は518万円であることに対し、母子世帯の平均年間収入は272万円と約2倍近く開きがあることから、収入格差もうかがえます。さらに母子世帯の4割以上は非正規雇用であるため、一般の賃貸住宅に入居したくても入居審査が通らないなど、住宅探しは困難を極めます。一方の公的賃貸住宅(公営住宅や地域優良賃貸住宅、URなど)に入りたくても、母子世帯の声として多く挙がるのは「希望の公営住宅に当選しない」というものです。

こうした母子世帯の住まいの問題を解決するために立ち上げられたのが東京都の世田谷区上用賀にある「MANAHOUSE(マナハウス)上用賀」。シングルズキッズが運営する母子シェアハウスの一つです。1軒家の中には、全部で9室あり、ここに入居する人たちはひとり親世帯の母子と単身女性。さまざまな事情を抱えた母子が一同に集まり暮らす賃貸型、地域開放型のシェアハウスです。ここで山中さんは、悩み苦しみながらも立ち上がろうとする母子たちを真摯にサポートしています。

なぜこのような取り組みをしているのでしょうか。そこには自身の苦しい体験がありました。

「複雑な家庭で育ち、親への愛情を求めて苦しみながら青年期を過ごしました。大人になり、友人の子どもたちが離婚によって両親の間でたらい回しになっているところを見て、“親の理不尽な都合で子どもたちが傷つく様子をなんとかしたい”と強く思ったんです」(山中さん、以下同)

シングルズキッズ代表取締役の山中真奈さん。提供したいのは、家というただの箱ではなく「人のつながり」だと話す(画像提供/シングルズキッズ)

シングルズキッズ代表取締役の山中真奈さん。提供したいのは、家というただの箱ではなく「人のつながり」だと話す(画像提供/シングルズキッズ)

さらに、不動産仲介会社に勤務しているとき、シングルマザーが家を借りることがあまりに難しいという場面に何度も直面したことが後押しし、山中さんは“私にできること”として、「シングルズキッズ」を立ち上げたのだそうです。

山中さんによれば、「入居したい、話を聞きたいと問い合わせをくれる人には、世田谷区外の人、地方から上京を検討している人も少なくない」と言います。子育て世帯の多くが子どもの保育園や小学校への通いやすさや友人関係などを考え、現居住地の周辺で住まいを探す傾向があることとは少しギャップがあるようです。

「例えばDV被害者であれば、現居住地の周辺で避難をしても相手や家族から追い続けられるリスクがあります。遠方に引っ越すなどして完全離別ができないと問題の解決に繋がりづらいんですね。こうした事情から、今暮らす場所から離れた拠点を探すひとり親世帯がいます」

全部で9室ある「MANAHOUSE上用賀」の間取図。2階建ての戸建をシェアハウスとして利用している(画像提供/シングルズキッズ)

全部で9室ある「MANAHOUSE上用賀」の間取図。2階建ての戸建をシェアハウスとして利用している(画像提供/シングルズキッズ)

また、仕事を求めて地方から上京を検討する人も少なくありません。母子だけで生活するには、まとまった生活費の確保が必要です。しかし、仕事を探しても、地方では母子で生活するのに十分な給与が得られる仕事の選択肢が少ないことも。そこで首都圏に移転して就職し、給与水準を上げることで母子だけでも暮らしていけるようにしたいと考え、首都圏にあるシングルズキッズのシェアハウスへ転居を希望するのです。

地域に合わせて育つ、シングルズキッズの母子シェアハウス

シングルズキッズが運営する母子シェアハウスは、現在5カ所。同じ賃貸型母子シェアハウスでも、それぞれ個性があります。

「MANAHOUSE上用賀」の共用リビング。入居者や近所に住む人、サポートする人たちが出入りすることもある(画像提供/シングルズキッズ)

「MANAHOUSE上用賀」の共用リビング。入居者や近所に住む人、サポートする人たちが出入りすることもある(画像提供/シングルズキッズ)

例えばMANAHOUSE上用賀は、家賃とセットで共益費4万5000円(入居する子どもの数に応じて追加)を支払うことで保育・家事サービスを受けられます。管理人として70代シニアや主婦の方が勤務しており、食事の提供、保育園のお迎えサポートの他、多様なサポートを行っています。他の4カ所は住まいの提供のみで、お母さんたち同士で共同生活を営んでいます。

シングルズキッズの代表取締役・山中真奈さん(左)と、保育士資格を持つMANAHOUSE上用賀の元管理人・関野紅子さん(右)(画像提供/シングルズキッズ)

シングルズキッズの代表取締役・山中真奈さん(左)と、保育士資格を持つMANAHOUSE上用賀の元管理人・関野紅子さん(右)(画像提供/シングルズキッズ)

山中さんは「困っている人のために提供している場所であるとはいえ、シェアハウスは、合う人・合わない人がいる」と話します。生活を続けるために、入居を希望する者にとって家賃負担が重すぎないかどうかも確認しているそう。

「私たちは母子の金銭面や生活面など、全面支援をするシェルター事業とは異なります。各々が自立して生活をする共同生活支援なのです。そのため、入居の際にメリット・デメリットをきちんと話したうえで、お互いに協力が必要なことなどについても確認をしています」

シェアハウスは共同生活。互いに気持ちよく暮らすために、心得とルールをしっかり守ることが求められます。そして「言った言わない」で揉めないためにも、ルールを目で見てわかる形で示し、相互に確認できるようにしているそうです。

「入居後に困ったときやトラブルが発生しそうなときには、メンタル面でのサポートに力を入れます。ここが一番力を入れたいところであり、難しいところ。オーナーシップが求められると感じています。

お母さんたちはこれまで心身に逃げ場がない状況で生きてきたのです。母子シェアハウスは共同で暮らすメリットがある一方、問題や揉めごとが起きると再び厳しい精神状態に追い詰められてしまうことも。そんなときは私が一家の主(あるじ)として父親のような役割を担います。方針を示しながらみんなの前に立って根気強く向き合って解決すること。住まいを提供する以上に、心の面で寄り添いながらしっかりサポートすることは、お母さんたちが自立して生活するために最も必要としているものです」

「デコ」と「ボコ」がハマる関係を家主と共につくる

シングルズキッズでは母子だけではなく、シニアや学生など多世代の人がシェアハウスの運営に関わる取り組みも進めています。

「世代やお互いの課題、ニーズが異なることによって、お互いにできること・できないこと、得意なこと・苦手なことがある。お互いの凸凹(デコボコ)がうまくハマると、感謝につながり、良いコミュニティになります。だからこそ、同じ課題の人を集めたハウスではなく、多世代型のシェアハウスが求められていると思います」

サポートするシニアの人が母子たちの夕食づくりをする(画像提供/シングルズキッズ)

サポートするシニアの人が母子たちの夕食づくりをする(画像提供/シングルズキッズ)

日々「やったほうがいいけれど、行き届かずにこぼれ落ちてしまう」家事や育児などを、リタイアしたシニア世代が「社会参画」の一つとしてサポートしたり、子どもとの触れ合いに興味がある大学生がボランティアとしてサポートしたり、と互いが支え合っていくのです。

シニアのサポーターは「甘えさせてくれるおじいちゃん・おばあちゃんのような存在」で、子どもたちに大人気。抱きつかれて大喜びする姿が印象的(画像提供/シングルズキッズ)

シニアのサポーターは「甘えさせてくれるおじいちゃん・おばあちゃんのような存在」で、子どもたちに大人気。抱きつかれて大喜びする姿が印象的(画像提供/シングルズキッズ)

ひとり親家庭、特に母子家庭が貧困や孤独に苦しみながら生活している事実は、十分には知られていません。

「日本の母子家庭における母親の就労率は、諸外国よりも高いのに、母子家庭貧困率が非常に高い。子どもの貧困が7人に1人といわれていて、その多くは母子家庭なのです」

こうした事実を知り「自分ごと」と捉え、何かできることはないか、と手を差しのべる人も多いそうです。2023年6月にシングルズキッズが管理・運営をサポートする形で新たに立ち上げる「みたか多世代のいえ」はシニア世代が“最期まで私らしく暮らす“をテーマにした多世代型シェアハウス。オーナーの村野氏はシニア世代の在宅医療(訪問診療)を行っている医師で「シニア世代に子どもや社会と関わり合いながらイキイキと暮らしてほしい。日常的な関わりができるようシングルマザーも住めるようにしたいのでサポートしてほしい」と山中さんに協力依頼をしてくれたのだそうです。

「みたか多世代のいえ」のイメージ。開かれた家で、地域の人たちやシニア、子どもたちとの交流にあふれる家を目指す(画像提供/シングルズキッズ)

「みたか多世代のいえ」のイメージ。開かれた家で、地域の人たちやシニア、子どもたちとの交流にあふれる家を目指す(画像提供/シングルズキッズ)

「みたか多世代のいえ」には、カフェライブラリや吹き抜けのある遊び場、シニアの部屋も備える(画像提供/シングルズキッズ)

「みたか多世代のいえ」には、カフェライブラリや吹き抜けのある遊び場、シニアの部屋も備える(画像提供/シングルズキッズ)

「お互いさま」の社会で、子どもたちをハッピーに

シングルズキッズが運営する母子シェアハウスでは、自然発生的に起きるコミュニケーションや関係性を大事にし、ルールでがんじがらめにするのではなくできるだけ居住者に運営を任せるようにしています。

「シェアハウス内で共同生活をしている際に“ルールは守りましょう”と話しますが、関わり方は実にそれぞれなんですよね。シェアハウス内で、“小さな子どもが好きだから”と、他の子どもたちのお世話をする中学生もいれば、“1人になりたい”と部屋にこもる子もいる。でも、それで良いのです。関わりたい人が関わり、お互いに助け合う。そういう関係が生まれる環境が、1人で頑張っているお母さんを救ってくれるし、子どもたちもイキイキと暮らすことできると思うのです」

子どもたちも一緒に食事づくり。まわりの大人や子どもと自然に協業していく(画像提供/シングルズキッズ)

子どもたちも一緒に食事づくり。まわりの大人や子どもと自然に協業していく(画像提供/シングルズキッズ)

さらに今後の展望について山中さんは続けます。

「日本の社会課題の一つとして母子家庭も高齢者も“孤立”してしまうことが挙げられると思います。ひとり親に限らず多世代・多コミュニティが互いを支え合う環境になれたら、孤立せずに大人も子どもも楽しくハッピーに過ごせますよね。そのために最も大切なことの一つが暮らす環境を整えること。そして幸せに暮らす多世代の姿をたくさん眺めることが私の夢です」

異なる年齢の子どもたちが、ボランティアの学生と共に遊ぶ(画像提供/シングルズキッズ)

異なる年齢の子どもたちが、ボランティアの学生と共に遊ぶ(画像提供/シングルズキッズ)

山中さんは「私が何か助けてあげている訳ではない。みんなが“お互い様”」「明日は我が身」だと言います。突然身寄りがなくなったり、心身が不自由になったりすることもあれば、離婚してひとり親家庭になったり、暴力やDVを受けたりすることもあるかもしれません。そのようなときに、シングルズキッズの営むシェアハウスのような支え合いの仕組みがあれば、きっと心強く、そして楽しく暮らしていけるのではないでしょうか。

●取材協力
シングルズキッズ株式会社

住宅街の路地奥、築35年アパートを子育て世帯の”村”に! カフェ・託児所など集う「シェアアトリエ・つなぐば」埼玉県草加市

埼玉県草加市の住宅街にある「シェアアトリエつなぐば」。築35年の鉄骨2階建てアパートをリノベーションした施設内には、子連れでも働けるシェアアトリエやコワーキングスペースとしても開放しているギャラリーワークスペースのほか、カフェ、託児所、美容室などが入居し、地域ににぎわいを生んでいる。運営を担うのは「つなぐば家守舎」代表で、建築家の小嶋直さん。立ち上げの経緯やこれまでの活動内容、そして今後のコミュニティづくりについて聞いてみた。

子育て世帯が集まる「村」のようなコミュニティ

――はじめに、「シェアアトリエつなぐば」を立ち上げるまでの経緯を教えてください。

小嶋直(以下、小嶋):もともとは「シェアアトリエ」というより、みんなが集まって一緒に過ごせる空間をつくりたかったんです。というのも、私が隣町の川口市で借りていた設計事務所がそういった場所だったんですよ。

「つなぐば家守舎」代表の小嶋直さん(写真撮影/松倉広治)

「つなぐば家守舎」代表の小嶋直さん(写真撮影/松倉広治)

小嶋:そこは駅から離れていたものの、カフェやギャラリー、革小物店、焼き菓子店など、さまざまお店が集まっており、1つの村みたいだったんですよね。そして、私も含めてまわりの結婚や出産のタイミングが重なり、いつしか同じ敷地内で家族やパートナーが集まって働いたり、一緒にご飯をつくって食べたり、みんなで子どもを見守ったり……そういった生活が当たり前になっていました。

――とても楽しそうです。

小嶋:そこに遊びに来た人たちからも「羨ましい」と言われることが多く、こういった生活が豊かな暮らしなんだと思いました。だから、この場所以外にも仕事や子育てをシェアできるコミュニティを広げたいなと考え始めたのがきっかけになります。

そしてある日、草加市が主催するリノベーションスクールに講師として参加することになりました。そこで「つなぐば家守舎」を一緒に運営することになる、松村美乃里さんと出会ったんです。

松村さんは結婚を機に草加市へ引越してきたのですが、縁もゆかりもない街になかなか愛着が持てなかったそうなんです。ただ、出産を機に「私が地元・静岡を愛しているように、子どもにも生まれた場所を大事にしてほしい」と思うようになったと。そこで、2015年に草加市のスタートアップ事業「わたしたちの月3万円ビジネス」を受講され“子連れで働ける場所をつくりたい”という思いを持っていたんです。

――そんな松村さんとリノベーションスクールで出会い、意気投合されたと。

小嶋:そうですね。地域コミュニティを運営したい私と、子育てをする人が集まれる場所をつくりたい松村さんの考えが合致し、リノベーションスクールで「シェアアトリエつなぐば」の原型となる提案をさせていただきました。

リノベーションスクールの様子(画像提供/つなぐば家守舎)

リノベーションスクールの様子(画像提供/つなぐば家守舎)

――この場所は、リノベーションスクールから提供された物件だったのでしょうか?

小嶋:いえ。僕らが本来リノベーションしようとしていた対象物件は別にありました。ただ、契約予定の前日に火事に遭ってしまったんです……。

――なんと。プロジェクトはどうなりましたか?

小嶋:工事業者への発注や会社設立の準備はしていましたが、肝心の物件が燃えてしまったので、全て白紙に戻りましたね。その後、1年近く新たな物件を探していたものの、納得する場所を見つけることはできませんでした。

――残念ですね。では、この場所はどのように見つけられたのでしょうか?

小嶋:当時、ここの大家さんが「この建物が空き家になってしまうので公園にしたい」という、処分の相談を市役所に持ちかけていたそうなんです。そこで、市役所の方を通じて大家さんとのご縁をいただき、この場所を見せていただくことになりました。

――第一印象はいかがでしたか?

小嶋:思い描いていたイメージに合う場所だなと思えました。まず、僕らのなかで決め手になったのは、公園内の3本の木です。私たちの会社「つなぐば家守舎」のロゴマークは3つの葉っぱをつなげたデザインなのですが、この物件の目の前にも似たような木が3本植えられていたんですよ。また、内装も一階に業務用厨房が入っていたことで、さまざまな構想が浮かびました。

「シェアアトリエ つなぐば」の前の八幡西公園に植えられた3本の木(写真撮影/松倉広治)

「シェアアトリエ つなぐば」の前の八幡西公園に植えられた3本の木(写真撮影/松倉広治)

――内見の時点で、どんどんイメージが膨らんできたわけですね。

小嶋:そうですね。もちろんメインである「子連れで働けるシェアアトリエ」としても、目の前に公園があることで子どもが安全に遊べますし、スペースも広かったので車で来られる方々の駐車場にも申し分ないなと。僕らにはうってつけの場所だと思い、借りることを決意しました。

「DIO(ほしい暮らしは私たちでつくる)」の精神を大切に

――契約後、「DIO(Do it ourselves)=欲しい暮らしは私たちでつくる」をテーマに掲げました。どのような意図があったのでしょうか?

小嶋:この場所の利用者を募集する説明会を行った際、みなさんから「シェアアトリエってどういう場所なんだろう」という不安の声が聞こえてきました。ただ、僕らとしてはこちらから「こういうことをやる場です」と示すのではなく、“興味を持ってくれた方々のやりたいことを、全て叶えられる場所”にしたかった。そこで、「やりたい場所が無いなら自分たちでつくっていこう」という思いを込めて「DIO」という言葉が生まれました。

――工事も自分たちで行ったとか。まさに、DIOの精神ですね。

小嶋:はい。「DIO」の合言葉に興味を持ってくれた方々や地域の方々と一緒に、アパートの工事をスタートさせました。未経験の方ばかりだったので、解体工事や断熱材の設置、左官工事などは職人さんを講師に招き、ワークショップ形式にして大人も子どもも楽しめるように進めましたね。

解体中に出てきた廃材は、内装や棚などの備品に再利用した(写真撮影/松倉広治)

解体中に出てきた廃材は、内装や棚などの備品に再利用した(写真撮影/松倉広治)

――その後、晴れて2018年6月にオープン。現在は、どのような形で運営しているのでしょうか?

小嶋:さまざまなライフスタイルに対応できるよう、複数の契約形態を用意しました。一本の木で例えると、根の部分が僕ら「つなぐば家守舎」になります。そして、月極で常時利用する「パートナー」が幹、月1回以上の定期利用をする「セミパートナー」が枝、そして単発で利用する「サポーター」が葉と捉えています。

利用者の多くは「自分の得意なことや趣味を仕事にしたい」という方々で、みなさん家事や子育てをしながら無理のない範囲で携わってくれていますね。また、「仕事につながる・母親とつながる・地域とつながる」のコンセプト通り、ここに来ることでいろんな“つながり”が生まれていると思います。

東武鉄道伊勢崎線・新田駅から徒歩15分の「シェアアトリエ つなぐば」。さまざまなスペースでワークショップやミーティングなどでの利用が可能(写真撮影/松倉広治)

東武鉄道伊勢崎線・新田駅から徒歩15分の「シェアアトリエ つなぐば」。さまざまなスペースでワークショップやミーティングなどでの利用が可能(写真撮影/松倉広治)

オープンから1年後に入居した美容室「コルジャヘアー spa&nail」。子どもがいる美容室のスタッフも「つなぐば」のコンセプトに共感してくれたそう(画像提供/つなぐば家守舎)

オープンから1年後に入居した美容室「コルジャヘアー spa&nail」。子どもがいる美容室のスタッフも「つなぐば」のコンセプトに共感してくれたそう(画像提供/つなぐば家守舎)

オープンから2年後に入居した託児所「ton ton's toy」。もともとはカフェスペースでお子さんの面倒を見ていたパートナーさんが独立し、開業(画像提供/つなぐば家守舎)

オープンから2年後に入居した託児所「ton ton’s toy」。もともとはカフェスペースでお子さんの面倒を見ていたパートナーさんが独立し、開業(画像提供/つなぐば家守舎)

「シェアアトリエ つなぐば」のマップ(画像提供/つなぐば家守舎)

「シェアアトリエ つなぐば」のマップ(画像提供/つなぐば家守舎)

――今では1階にカフェスペースをはじめ、アトリエテーブル、クラスルーム、ウッドデッキ、2階にギャラリーワークスペース、託児所「ton ton’s toy」、美容室「コルジャヘアー spa&nail」、建築事務所「co-designstudio」と、さまざまな機能を持っていますね。

小嶋:そうですね。カフェスペースには近隣に住むママさんやパパさんが飲食店を出店してくれたこともあって、地域の憩いの場となりました。また、アトリエテーブルやクラスルームではフラダンスや茶道、アロマなどのワークショップが開催され、ギャラリーワークスペースではクリエイターが仕事をしています。

時にはこの場所をきっかけに、自分が好きなこと、やりたいことに気づく人もいます。以前、普段はカフェのパートで働いてくれている人が月2回、曲げわっぱのお弁当屋を開いていたのですが、そのうち料理そのものより「曲げわっぱに具材を詰めていく」ことが好きなのだと気づき、「具材を詰めるワークショップ」を始めたなんてこともありましたよ。

カフェのキッチンをママさん達が日替わりで利用。毎日違う料理を楽しめる(写真撮影/松倉広治)

カフェのキッチンをママさん達が日替わりで利用。毎日違う料理を楽しめる(写真撮影/松倉広治)

小嶋:あとは、さまざまなスキルを持った人が集まっているからこそ、実現することも多いです。例えば以前、利用者から「娘の七五三の着付けをお願いしたい」という相談があった際も、パートナーのなかにカメラマン、着付けが出来る人が在籍していて、2階に美容室が入居していたため、すぐに対応することができました。その経験から、「つなぐば写真館」として公に募集したところ、多くの人に七五三の撮影の申し込みをしてもらえましたよ。

――まさに、DIO(欲しい暮らしは私たちでつくる)の精神が根付いているようですね。

小嶋:最近ではDIOの精神が子どもたちにも伝播し「子ども会」が立ち上がりました。月に1回、子どもたち主導でやりたいことを企画してもらい、それを形にできるようにパートナーや親がサポートしています。例えば、昨年は夏の思い出をつくれるように、水遊びとスイカ割りを開催しました。最近では、スライムの販売や、目の前の公園で昆虫探しを企画しましたね。

子どもが販売する、スライム屋さん(画像提供/つなぐば家守舎)

子どもが販売する、スライム屋さん(画像提供/つなぐば家守舎)

大人が見守っているため、安心して参加できるそう(画像提供/つなぐば家守舎)

大人が見守っているため、安心して参加できるそう(画像提供/つなぐば家守舎)

また、最近では僕がこの場にいなくても、パートナーが自主的にプロジェクトを立ち上げることが増えてきました。そこからさらに発展して、新しい仕事や職業が生まれていくこともあるんじゃないかと思います。そんな大人たちの姿を見た子どもたちが、将来やりたいことを見つけるきっかけになったら嬉しいですね。

オープン後、錆びて破れた金網のフェンスを撤去してもらい、生け垣の一部を排除。それにより、建物と公園の行き来がスムーズになり、公園でくつろぐ人も増えたそう。その後、公園管理制度を使い、「つなぐば家守舎」が遊具の安全性や芝生の状態などを含めた公園の管理も行うようになったとのこと(画像提供/つなぐば家守舎)

オープン後、錆びて破れた金網のフェンスを撤去してもらい、生け垣の一部を排除。それにより、建物と公園の行き来がスムーズになり、公園でくつろぐ人も増えたそう。その後、公園管理制度を使い、「つなぐば家守舎」が遊具の安全性や芝生の状態などを含めた公園の管理も行うようになったとのこと(画像提供/つなぐば家守舎)

多世代が豊かな暮らしを感じられるコミュニティに

――オープンから約2年後に「コロナ禍」になりました。影響はいかがでしたか?

小嶋:最初の数カ月はお店を閉め、全ての活動がストップしてしまいました。パートナーさんの収入が絶たれてしまった状況を歯がゆく思っていましたし、「人が集まる」という最大の価値が失われてしまい、関係者の多くがもどかしさを感じていました。

そんななか、あるパートナーさんから「目の前の公園に屋台を出し、お弁当やお菓子のテイクアウト販売をしませんか?」という提案がありました。早速、イベントで使用していた屋台を園内に常設することにしたんです。すると、学校が休校になった子どもたちや、行くところがなくストレスを抱えていた人たちが日中の公園に集まってくれるようになって。

その時に改めて「この地域って、こんなにもたくさんの人がいたんだ」と実感しました。同時にオープンから間もない「つなぐば」を、地域のみなさんに知ってもらうきっかけになったように思います。

――パートナーのアイデアが、ピンチをチャンスに変えたわけですね。

小嶋:そうですね。イベントは過去にも開催していましたが、わざわざ遠くのエリアから出店者を呼んだり、お客さんを郊外から集めるような大規模なものでした。でも、これからはもっと地域の人たちに貢献したいと思うようになり、近隣のお店をメインにした月2回のマルシェ「つなぐ八市」を開催することにしたんです。

毎月第2土曜日と第4水曜日に開催される「つなぐ八市」。豆腐屋や餃子屋のほか、焼菓子やビールなどが販売されている(画像提供/つなぐば家守舎)

毎月第2土曜日と第4水曜日に開催される「つなぐ八市」。豆腐屋や餃子屋のほか、焼菓子やビールなどが販売されている(画像提供/つなぐば家守舎)

――地域の方々の反応はいかがでしたか?

小嶋:近隣のお店をメインにしたものの、意外と地域の方々も地元にそうした店があることを知らなかったんですよ。マルシェで初めてお互いの存在を知った出店者とお客さんが楽しそうに会話している姿を見た時に、やっぱりこういうものが求められているんだなと実感できました。

「つなぐ八市」は“イベント”ではなく、“日常のシーン”にしたいと思っています。イベント化してしまうと、コロナのような有事の際は中止せざるを得なくなる。そうではなく、「つなぐ八市」は地域の人たちにとっての日常、いつでも当たり前にやっているマーケットを目指したいんです。

少子高齢化でも社会保障費に頼らないまち目指す民間企業 仙台市「OpenVillageノキシタ」の挑戦

宮城県仙台市の被災者が多く暮らす新興住宅地にある「Open Villageノキシタ」は、「コレクティブスペース」「保育園」「障がい者サポートセンター」「障がい者就労支援カフェ」 の4つの事業所が集まる小さなまち。高齢者、障がい者、子ども、子育て中の親たちが横断的に交流し、補助金や助成金に過度に頼らずに、「つながりと役割で社会課題を解決する」ことを目指した全国でも珍しい取り組みが行われている。その「Open Villageノキシタ」が生まれた経緯や、オープンから約3年間で見えてきたこと、今後の展望について、施設を統括する株式会社AiNest(アイネスト)代表取締役社長の加藤清也さん、取締役の阿部恵子さんに話を聞いた。

被災者のコミュニティづくりと社会保障費の削減を目指す小さなまち

もともと農地だった仙台市宮城野区田子西地区に「Open Villageノキシタ(以下、ノキシタ)」ができたきっかけは、1994年に遡る。当時、地権者らが土地区画整理事業を検討し始め、AiNest(以下、アイネスト)の親会社である国際航業が専門家の立場で携わることになった。

造成工事が始まって間もなく東日本大震災が発生。多くの被災者が家を失ったため、急きょ仙台市と協議をして集団移転用地に変更し、「災害に強く環境にやさしいまちづくり」をテーマにしたまちづくりが始まった。

仙台市は震災時の長期停電を教訓として、エネルギーの地産地消を目指した「エコモデルタウン推進事業」を実施した。複数の民間企業からなる運営事業法人の責任者となったのが、当時国際航業の技術士として、防災まちづくりに取り組んでいた加藤清也さんだ。

加藤さんは、事業を推進する過程でのさまざまな気づきから、新たな構想が芽生えたという。

アイネストの代表取締役社長、加藤清也さん(写真撮影/伊藤トオル)

アイネストの代表取締役社長、加藤清也さん(写真撮影/伊藤トオル)

「ノキシタがある田子西地区には、沿岸部の住み慣れた広い家で被災し、初めてアパートタイプの市営住宅に移住した方々などが住んでいます。話を聞くと新しい環境で知り合いがいない、集まる場所もない、おしゃべりの輪に入れない。まるでお母さんたちの公園デビューのよう問題があるとわかり、コミュニティづくりが必要だと思ったんです」

加藤さんはどんなコミュニティをつくるべきかと並行して、以前から疑問に思っていた福祉行政の問題もあわせて考えた。

「障がい者と子どもと高齢者を社会が支える社会の仕組みはすべて縦割りで、横のつながりがほとんどありません。横のつながりをつくろうと取り組んでいる所も、ベースになるのは補助金や助成金です。

今後ますます高齢化が進み、行政の税収入は減ります。福祉事業を補助金や助成金に頼るやり方が継続できるのか。財源がなくなったときに困るのは、福祉サービスを受けている高齢者や障がい者です。お金の流れを根本的に変えて、増税ではなく社会保障費を削減するような仕組みをつくらないといけない、試しにつくってみようと思いました」

多世代の交流の場「コレクティブスペース・エンガワ」と「カフェ」は風雪を避ける軒下でつながり、バリアフリーで歩きやすい道が巡る(写真撮影/伊藤トオル)

多世代の交流の場「コレクティブスペース・エンガワ」と「カフェ」は風雪を避ける軒下でつながり、バリアフリーで歩きやすい道が巡る(写真撮影/伊藤トオル)

こうして全国的にも珍しい、民間企業とNPO法人、社会福祉法人の3法人の共同運営による、高齢者、障がい者、子どもや親ら多世代がボーダーレスに集まる小さなまち「ノキシタ」が誕生した。

人とつながり、役割をもつことの健康効果&経済効果を検証する場に

「ノキシタ」設立は、加藤さんの経験に基づく気づきも大きい。

「プライベートでの経験ですが、軽度の認知症の父に重度知的障がい者の息子をお風呂に入れてほしいと頼んだら、父は孫をお風呂に入れることが楽しくて認知症が和らいだのです。一般的に高齢者や障がい者に対して周りは何でもやってあげようとして、その人自身でやることが失われてしまいますが、自らやってもらう効果の大きさを目の当たりにしたんです。

世代や障がいを超えて人と人がつながり、社会に支えられる立場と考えられがちな人が、人を支える役割を持つことで健康寿命がのびて、認知症や寝たきり、要介護の期間が減れば、社会保障費を削減できるのではないか、と思ったんです。

調べてみると、人と人がつながる大切さを裏付けるデータもありました。要介護認定を受けていない一人暮らしの男性の例で、一人で食事をする(独食)のは、誰かと食事をする(共食)より約2.7倍もうつ状態になりやすい(「日本老年学的評価研究(JAGES)」による研究プロジェクト ※1)。また運動も、一人で運動をしているより、スポーツグループに参加して誰かと一緒に行う方が抑うつにいたる率が低い(※2)といったデータもあります。

コロナ禍になって、配食サービスやオンラインフィットネスなど家にこもって一人で何かをすることが増えて、人と交流する大切さや効果が忘れられていく。人と人のつながりと役割が持つ効果を実証・検証する場がノキシタです」

「コレクティブスペース・エンガワ」の明るいスタッフ。後列左が加藤清也さん、前列右が施設を案内してくれた阿部恵子さん(写真撮影/伊藤トオル)

「コレクティブスペース・エンガワ」の明るいスタッフ。後列左が加藤清也さん、前列右が施設を案内してくれた阿部恵子さん(写真撮影/伊藤トオル)

高齢者、障がい者、子ども、親たちが丸ごとつながる開かれたまちづくり

敷地内には、“ふたご山”と呼ばれる緑に覆われた築山を囲むように4つの施設が配置されている。庭はボランティアの力も借り、季節ごとの花に彩られている。

社会福祉法人仙台はげみの会が運営する障がい者サポートセンター、グループホーム「Tagomaru」では、重度の障がいがある方の短期入所(ショートステイ)、日中一時支援事業(単独型)、共同生活援助(日中サービス支援型)などが行われている。

2つの建物から成る障がい者サポートセンター「Tagomaru」(写真撮影/伊藤トオル)

2つの建物から成る障がい者サポートセンター「Tagomaru」(写真撮影/伊藤トオル)

NPO法人シャロームの会が運営する「シャロームの杜ほいくえん」は0歳児~2歳児を対象に、地域、保育者、保護者、ノキシタに集う多様な方々とのコミュニケーションを大切にしたダイバーシティ保育園(地域全員参画型保育園)を目指している。

左手の建物が「シャロームの杜ほいくえん」(写真撮影/伊藤トオル)

左手の建物が「シャロームの杜ほいくえん」(写真撮影/伊藤トオル)

元気に遊ぶ保育園の園児たち(写真提供/Ainest)

元気に遊ぶ保育園の園児たち(写真提供/Ainest)

同じくNPO法人シャロームの会が運営している「ノキシタカフェ・オリーブの小路(こみち)」は、障がい者の就労支援も行うカフェで、畳のキッズスペースを含め定員は30名位。むく材がふんだんに使われた店内には明るい日差しが射し込む。

緑に囲まれたカフェ(写真撮影/伊藤トオル)

緑に囲まれたカフェ(写真撮影/伊藤トオル)

食事はオリジナルスープカレーやランチプレートなど野菜がたっぷりのメニュー。障がい者や高齢者、子ども連れ、誰でも周りに気兼ねなく利用でき、昼どきは人気のスープカレーを目あてに近所の会社員や遠くから足を運ぶ人も多い。

木のぬくもりに包まれる落ち着いた店内。一人でもグループでも利用しやすい造り(写真撮影/伊藤トオル)

木のぬくもりに包まれる落ち着いた店内。一人でもグループでも利用しやすい造り(写真撮影/伊藤トオル)

補助金や助成金に頼らない交流スペースは「実家のようにほっとする居場所」

そして、ノキシタの交流の要となるのが、アイネストが運営する「コレクティブスペース・エンガワ」という会員制の交流スペースだ。効果を検証する場であることから利用者の年齢や特性を把握する目的もあって会員制(会費は無料)で、現在の登録会員数は約900人。1回の利用料は400円と利用しやすい設定だ。

「コレクティブスペース・エンガワ」入口(写真撮影/伊藤トオル)

「コレクティブスペース・エンガワ」入口(写真撮影/伊藤トオル)

大きなテーブルがある談話スペース。奥の和室は子ども連れに好評だそう(写真撮影/伊藤トオル)

大きなテーブルがある談話スペース。奥の和室は子ども連れに好評だそう(写真撮影/伊藤トオル)

「ここでは、何をして過ごしてもいいし、何もしなくてもいいんです。カフェのメニューをテイクアウトして食べることもできます。お茶を飲んでスタッフと話をするだけの方、毎日ピアノを弾きに来てくださる方もいます。自然と利用者同士で話したり、誰かと楽器でセッションしたり。スタッフが何かをしましょうと声をかけるのではなく、それぞれの方が何に関心を持つか、どう過ごしたいかを距離を置いて見守っています」と取締役の阿部恵子さん。

施設内を案内してくれた、アイネスト取締役の阿部恵子さん(写真撮影/伊藤トオル)

施設内を案内してくれた、アイネスト取締役の阿部恵子さん(写真撮影/伊藤トオル)

「エンガワ」では、さをり織り機、楽器、キッチンなど、施設内の設備に自由にふれることができる。天井の梁に架かるきれいな布は、世界一簡単な手織りといわれる「さをり織り」でつくられたもの。スタッフが丁寧に教えてくれるので、初めての人や小さな子どもも好きな糸を選んで自分だけの作品を簡単につくれる(予約制、有料)。

パレットのような色とりどりの糸が並ぶ糸棚とさをり織りの手織り機(写真撮影/伊藤トオル)

パレットのような色とりどりの糸が並ぶ糸棚とさをり織りの手織り機(写真撮影/伊藤トオル)

施設内を明るく彩る、さをり織で作られた布(写真撮影/伊藤トオル)

施設内を明るく彩る、さをり織で作られた布(写真撮影/伊藤トオル)

シェアキッチンでは自由に料理ができるので、お昼ご飯をつくって食べる人もいる。子育て中のお母さんも隣接する和室で小さい子どもを遊ばせたり、交代で面倒を見ながら料理教室やパンづくり教室に参加できる。

ひととおりの調理家電や器具、食器がそろう家庭的でオープンなシェアキッチン(写真撮影/伊藤トオル)

ひととおりの調理家電や器具、食器がそろう家庭的でオープンなシェアキッチン(写真撮影/伊藤トオル)

昇って遊べるジャングルジムは南三陸の木材を組んでつくられ、簡単にばらすこともできる(写真撮影/伊藤トオル)

昇って遊べるジャングルジムは南三陸の木材を組んでつくられ、簡単にばらすこともできる(写真撮影/伊藤トオル)

中庭を望むライブラリーではゆっくり読書ができる。子ども用のドラムやギター、ウクレレなどの楽器も自由に演奏できる。ここでは「〇〇をしてはいけない」などとルールで縛るよりも、そのとき一緒にいる人と気持ち良く過ごすために、互いを尊重し合いながら時間と場所を共有することを重視しているという。

備え付けの本を自由に読めるライブラリースペース(写真撮影/伊藤トオル)

備え付けの本を自由に読めるライブラリースペース(写真撮影/伊藤トオル)

エンガワの別棟「ハナレ」もガラス張りの明るい空間で、ギャラリーやレンタルスペースとして活用できる。「ここで何をしようか」という想像がふくらむ。

三角屋根が目印のハナレの外観。幹線道路からもわかりやすいノキシタのランドマーク(写真撮影/伊藤トオル)

三角屋根が目印のハナレの外観幹線道路からも分かりやすいノキシタのランドマーク(写真撮影/伊藤トオル)

ハナレの1階にはさをり織りの作品が展示販売されている(写真撮影/伊藤トオル)

ハナレの1階にはさをり織りの作品が展示販売されている(写真撮影/伊藤トオル)

半円形の窓から緑を望むハナレの2階はドラムの練習やヨガ教室の場にも(写真撮影/伊藤トオル)

半円形の窓から緑を望むハナレの2階はドラムの練習やヨガ教室の場にも(写真撮影/伊藤トオル)

入口に掲示してある「ノキシタは実家のような場所」と利用者が書いたコメントが印象的だった。「年齢層が幅広く、実家に帰ってきたような感覚で来てくださる方もいます。人生の先輩に家族に話せないようなことも相談したり、素直に助言を聞くことができるようです。心に重いものを抱えていた方がどんどん健康になったり表情が明るくなり、演奏する音色まで変わっていく利用者さんを見るのが嬉しいです」と阿部さんは話す。

社会課題解決の新しい居場所をつくったことで見えてきた本当のニーズ

オープンして3年余りがたち、計画当初の想像と違うことや新たな課題がたくさん見えてきたと加藤さんは話す。「交通の便が良くないので、計画時は半径1、2km圏程度の近所の方の利用を想定していましたが、ふたを開けてみたら仙台市外など遠くからも、多くの方が会員登録をしていたんです。話を聞いてみると、近所の方にはあまり知られたくないような悩みや困りごともここだと本音で話せるそうです。

また、利用者は当初予想していた高齢者に限らず、幅広い年齢層となっています。特に子育て中のお母さんが孤立していたり、気軽に使える場所がないという声があり、子ども連れのイベントを増やしました。人は自分の経験からさまざまなことを想像しがちですが、自分とは違った経験を持つ人々と交流することで、想像を超えたニーズに気づけるのがノキシタの強みです」(加藤さん)

毎週金曜日に開催している子育て支援イベント「ちほさんのポッケ」風景(写真提供/Ainest)

毎週金曜日に開催している子育て支援イベント「ちほさんのポッケ」風景(写真提供/Ainest)

エンガワでは、月に10回程度のイベントを開催している。当初はさをり織りやパンづくり教室、高齢者のIT教室など、スタッフが企画したイベントが中心だったが、これを呼び水に、利用者が提案・企画するイベントが自然に増えたという。なかでも、プロにメイクをしてもらいプロのカメラマンが写真を撮る女性向けのおしゃれ企画や自ら発表するミニコンサートなどは高齢者に人気が高く、驚くほど表情がイキイキするそうだ。

「コロナ禍で人が集まるイベントは減っていますが、楽しみを持つことが大切。コロナ禍で最初に緊急事態宣言が出たときにエンガワを約1カ月間休業したんです。すると、障がい者のサポートするのが楽しくて毎日通ったことで、支援されずに再び一人で歩けるようになったおばあちゃんが、1カ月後に車椅子になってしまいました。そこで感染対策も必要だけど、大切なことを失う問題もあると気づいて、感染対策に留意しながらできるだけ多くの方に継続的にご利用いただけるように取り組んでいます」

クラフトビールをつくる「ノキシタホッププロジェクト」。「エンガワ」の前の軒下でホップを収穫しながら交流(写真撮影/伊藤トオル)

クラフトビールをつくる「ノキシタホッププロジェクト」。「エンガワ」の前の軒下でホップを収穫しながら交流(写真撮影/伊藤トオル)

2021年4月から「ノキシタ」を、多くの方に知ってもらいたいとアイネストの企画でクラフトビールづくりを始めた。近くの農家が所有する休耕田で、宮城県石巻市を拠点とするイシノマキ・ファームの指導を受けて地域の方と障がい者が一緒にホップを栽培している。そのホップと地域で採れたお米を原料に、岩手県の世嬉の一(せきのいち)酒造が醸造と販売を行う。ラベルの絵は知的障がいがあるノキシタ関係者が描いた。そして多くの方々の協力を得て、2022年3月に第一号の「Sendaiノキシタビール」が誕生した。

高齢化社会に向けた前例がないまちづくり「ノキシタ」は、まだ効果を検証している試行段階だ。「現在は、親会社の国際航業の支援を受けて運営していますが、いつまでもその支援に甘えてはいられません。近い将来に黒字化することを目標に、利用料収入などではないアウトカムビジネスでのサスティナブル経営(ESG経営)を目指しています」と収益の確保を前向きに考えている。

「こんな施設が自宅の近くにあったらうれしい」と思う人は多いだろう。「ノキシタの1カ所でいくら効果を上げても社会的インパクトは小さいと思っています。例えば、高度成長期にできて今は高齢者が増えて若者が減っているニュータウンといわれる団地や、子どもが減って廃校になった学校や空き家などを活用して、この仕組みを広く展開したいと考えています。

今はまだ試行して、効果を見せて、共感や賛同する方を増やす第一段階。次は、補助金に頼らずに持続するシステムを確立させて、行政や他の企業とも連携していきたい。3年たって、この取り組みへの関心も高まっていると感じますし、取材等を受けることで新たな広がりも期待します。その先は無謀な夢かもしれませんが、仙台市内、宮城県、日本全国、世界に展開して、社会を変えていきたい」と加藤さん。

「ノキシタ」をもっと良い施設にするために、4つの事業所の代表が集まり共有する機会も設けている(写真撮影/伊藤トオル)

「ノキシタ」をもっと良い施設にするために、4つの事業所の代表が集まり共有する機会も設けている(写真撮影/伊藤トオル)

社会課題を解決に導く地域共生型の事業モデルを全国、世界へ

障がい者も高齢者も、孤立しがちな子育て中の親も、すべての世代の人たちがお互いに支え合い、丸ごとつながり、地域の課題解決を試みる地域共生型まちづくり「ノキシタ」。少子高齢化が進むなかで生まれるさまざまな問題を、他人事ではなく我が事としてとらえ、本気で取り組んでいる。

まだ試行錯誤の段階だが、すでに世代や分野といった枠を超えた広がり、良い化学反応が生まれている。目の前の利益や前例にとらわれない新たな視点と柔軟な活動、ゴールを目指しできることから一歩ずつ積み上げていく事業モデルは、高齢者が健康寿命を延ばし、お母さんたちが楽しく子育てができて、災害弱者と呼ばれる方々を支える仕組みをつくるヒント、呼び水となるのではないか。

筆者も話を聞いて、見て、カフェで食事をしてみて「何かできることはないか」という思いが込み上げた。何もできないまでも、関心を持ち共感し利用し協力する人が増えれば、「地域が共生するまちづくり」事業化の後押しになるに違いない。

●取材協力
Open Villageノキシタ

子育てや家事もシェアする「シェアハウス日日」。孤育てや強制ない距離に共感、学生や会社員の入居者も

住まいを探すときの選択肢として、すっかり定着したシェアハウス。家賃をおさえるため、趣味を共有したい、異文化交流したい、など目的に合わせてさまざまなタイプがありますが、多いのは20代から30代のシングル向けの、大人がほどよい距離を保ちながら暮らすという物件です。ただ、今回はそんな物件とはちょっと趣が異なる、子育てやDIYなど、暮らしを分け合うシェアハウスをご紹介します。

築90年の古民家に子育て中の夫妻、入居者4人が暮らす階段から玄関を見たところ。建物全体に年を経た味わいがあります(写真撮影/相馬ミナ)

階段から玄関を見たところ。建物全体に年を経た味わいがあります(写真撮影/相馬ミナ)

DIYや食事、子育てといった日々の営みを“シェア”する「シェアハウス日日(にちにち)」は、北千住駅から少し歩いた住宅街の一角にあります。長年、空き家となっていましたが、所有者が活用方法を模索するため行政主催の空き家活用コンペにこの物件を提供。Tさんたちの企画が採用され、シェアハウスになることが決まったといいます。現在、暮らしているのは、管理人ご夫妻とそのお子さん、入居者4名の計7名です。管理人のTさん、Kさん夫妻はシェアハウスの運営をしつつ、古民家をリノベーションした日用品と喫茶の店「KiKi北千住」を営んでいます。

「シェアハウスの運営を通じて、暮らし方や建築、不動産のあり方を考えています」(管理人のTさん)といいます。

口コミや紹介などで自然と次の人が決まっているとのことで、「常に満室フル稼働」というよりは、住まいや暮らしの価値観の合う、理解のある人を求めているそう。
建物の築年数は古いものの、基本的な内装とバスやトイレなどの水回り、キッチンはプロの手によって改修されています。間取りは1階にキッチン、リビング、バストイレ、ご夫妻の居室、2階に寝室があり、家賃は5万円、共益費が1万4000円。1階のLDKのほか各部屋もDIY可能で、共有部分にはDIY道具も置いてあります。
基本的に入居者は自炊して暮らしていますが、時間が合う時には食材を持ち寄ってパーティをしたりします。

共有部に置かれたDIY用品。「私達にはDIYスキルがあるので、入居者に経験がない場合でも、教えることも可能だと思ったんです」と妻のKさん。KiKi北千住をセルフリノベーションした経験があるほか、「大工インレジデンス」(大工技術を提供する代わりに家賃や食費を提供してもらえる)という仕組みがある九州のシェアハウスで、住み込み大工をしていたこともあるそう(写真撮影/相馬ミナ)

共有部に置かれたDIY用品。「私達にはDIYスキルがあるので、入居者に経験がない場合でも、教えることも可能だと思ったんです」と妻のKさん。KiKi北千住をセルフリノベーションした経験があるほか、「大工インレジデンス」(大工技術を提供する代わりに家賃や食費を提供してもらえる)という仕組みがある九州のシェアハウスで、住み込み大工をしていたこともあるそう(写真撮影/相馬ミナ)

取材前、シェアハウスで子育て、食事を分け合っていると聞いて、あまりイメージがわかなかったのですが、実際に和やかにランチをともにしている様子を拝見していると、とても自然な様子です。まるで昔からの友人や親戚のようなあたたかさに驚きます。

娘ちゃんを囲んでランチの様子。みんなのアイドルです!(写真撮影/相馬ミナ)

娘ちゃんを囲んでランチの様子。みんなのアイドルです!(写真撮影/相馬ミナ)

“孤育て”やイライラとは無縁! シェアハウスでの子育て

ご夫妻で決めた上でシェアハウスで子育てをしているわけですが、まずはその成り立ちから聞いてみました。

妻のKさんはこう言います。「シェアハウスの運営を通じて、子育てを夫婦以外の第三者も巻き込んで、ゆるやかなコミュニティの中でする方が、親にとっても子どもにとってもよい環境なのではないかと思い、試してみたかったんです」

そのため、シェアハウスの企画が立ち上がり、夫のTさんからシェアハウスで子育てしようという話が持ちかけられたとき、ここで子育てをするというのは実に自然な流れだったといいます。

左が妻のKさん、右がTさん。(写真撮影/相馬ミナ)

左が妻のKさん、右がTさん。(写真撮影/相馬ミナ)

入居時、建物は未完成の状態でしたが、その後、入居者といっしょに壁を塗ったり、床を貼ったり、棚をつくったりと、DIYを続け、現在のかたちに落ち着いています。夫妻は共働きのため、現在、娘さんは保育園に通っていますが、まだまだ手がかかる年齢です。シェアハウスでの子育ては、まわりに気を使って大変ではないんでしょうか。

「子どもがいることに理解をして入居してもらっているので、寧ろ子ども好きな人が多いですね。ごはんづくりやお風呂、トイレといったちょっとした時間も、入居者のだれかが娘の面倒を見ていてくれることもあります。小さなことかもしれないけど、ストレスがなくて助かっています。親以外の大人が、子どものことを可愛がってくれると、子育ての喜びも増しますし、逆に大変なことも笑いあえる環境というのがとても有難いです」とKさん。

おそうじの当番表。ありがとうと書き込まれているので、はげみになります(写真撮影/相馬ミナ)

おそうじの当番表。ありがとうと書き込まれているので、はげみになります(写真撮影/相馬ミナ)

娘さんは入居者みんなのアイドル、かわるがわるに遊んでもらったり、抱っこしてもらったりと、可愛がられています。親戚のような、きょうだいのような、「ゆるい親戚」という言葉が実にしっくりきます。

「夫が料理好きで、食いしん坊なんです。ふるまうのが好きで、それで突然、パーティがはじまることも多いですね」とKさん。Tさんが自然と続けます。
「近所に足立市場があるんですが、お刺身にしたり、鍋にしたり。新鮮な魚が近くにあって、市場に行くだけでもイベント感があるので楽しめます」とにこやかです。ほかにも味噌をつくったり、たこ焼きパーティをしたり、誕生日を祝ったりしています。

キッチンのタイルは入居者みんなで貼ったもの(写真撮影/相馬ミナ)

キッチンのタイルは入居者みんなで貼ったもの(写真撮影/相馬ミナ)

料理をしているといい香りが漂います(写真撮影/相馬ミナ)

料理をしているといい香りが漂います(写真撮影/相馬ミナ)

この日はみんなが大好きなパスタをつくってくれました(写真撮影/相馬ミナ)

この日はみんなが大好きなパスタをつくってくれました(写真撮影/相馬ミナ)

配膳はみんなで分担。カウンターもDIYで造作しました(写真撮影/相馬ミナ)

配膳はみんなで分担。カウンターもDIYで造作しました(写真撮影/相馬ミナ)

完成した料理。サラダも盛り付けて、みんなでいただきます(写真撮影/相馬ミナ)

完成した料理。サラダも盛り付けて、みんなでいただきます(写真撮影/相馬ミナ)

「東京にあるもう一つの実家」。居心地の良さに出たくないほど

では、入居者はどのように感じているのでしょうか。大学生のAさんは、半年ほど前に別のシェアハウスからこのシェアハウスへ引っ越してきた住人です。通学にかかる時間は増えてしまいましたが、居心地のよさから「第二の実家」とまで言い切ります。

「前に暮らしていた知人のデザイナーさんから、お部屋を引き継いで暮らしているのですが、あまりにも居心地良すぎて、大人になってもずっとここに住んでいたいです(笑)」とおっとりと話します。前の住人が壁を白く塗ってくれていた部屋の雰囲気に合わせて、フローリングシートを張ったり、ロフトの壁を塗ったりお部屋をAさんらしくアレンジしています。

Aさんのお部屋の入り口にあるサイン。アートバーで制作したそう(写真撮影/相馬ミナ)

Aさんのお部屋の入り口にあるサイン。アートバーで制作したそう(写真撮影/相馬ミナ)

お気に入りのお部屋で。広さもインテリアも「すべてがいい感じ」だそう(写真撮影/相馬ミナ)

お気に入りのお部屋で。広さもインテリアも「すべてがいい感じ」だそう(写真撮影/相馬ミナ)

「室内の白い壁は前の入居者さんががんばってDIYして、白いまま残してくださりました。インテリアは私の好みのものを揃えたのですが、白い壁の雰囲気とよくマッチしていて、すべてがいい感じなんです」といいます。あまりにも暮らしが快適なため、「欲しい物もあまりないかな」と話すほどで、その満足度の高さが伺えます。Tさん夫妻の娘とも仲良しです。

「年の離れたお姉さんというよりも、純粋に友達という感じでしょうか。いっしょになって遊んでいます。めちゃくちゃかわいくて毎日癒やされてます。」といい、子どものいる暮らしがとても楽しいよう。

意地悪な質問ですが、シェアハウスにありがちな生活音やトラブル、暮らしでいやな経験をしたことはないのでしょうか。
「管理人夫妻がいっしょに住んでいらっしゃるので、何かあっても感情的になるのではなく、冷静に『指摘』してくれるので助かっています。通勤してくる管理人、清掃スタッフだとまた違うのではないでしょうか。トラブルや困りごとはないですね」といいます。このあたり、入居前に顔をあわせていたり、紹介を経由して人が集まったりすることで、「入居者同士の感覚が近い」のもあるのかもしれません。

Aさんの個室。シンプルですが個性が出ていてすてき(写真撮影/相馬ミナ)

Aさんの個室。シンプルですが個性が出ていてすてき(写真撮影/相馬ミナ)

もうひとり、1カ月ほど前からここで暮らしはじめたFさんにもお話を伺いました。

「出身は千葉ですが、以前は福岡で一人暮らしをしていました。この春に東京に戻ってくることが決まり、家具家電をそろえる費用がかからないシェアハウスを探していたんです。管理人Tさんが私の大学の先輩というご縁もありましたし、勤務先の近くにあるので、通勤にも便利ということで、入居を決めました」と立地や実用性も重視しての入居となったそう。入居して間もないものの、すでにシェアハウスに馴染んでおり、前出のAさんのことはまるで妹のようと話すなど、気持ちのよい関係が築けています。 

「入居前に心得をブログにまとめてくれていたので、共通理解ができているのは大きいと思います。共有部分の掃除や汚れが気になることもないし、分担も自然とできています」。なるほど、管理人夫妻の人柄やシェアハウスでつくりたい「暮らし」のイメージが明確だからこそ、大きくぶれないのかもしれません。

自分の好きな作品をディスプレイ(写真撮影/相馬ミナ)

自分の好きな作品をディスプレイ(写真撮影/相馬ミナ)

トイレには、元住人が作った作品の姿も(写真撮影/相馬ミナ)

トイレには、元住人が作った作品の姿も(写真撮影/相馬ミナ)

今後の展望についてTさんに聞いてみました。
「昨今、北千住の人気が出てきてしまったので、なかなかいい物件と出会いにくくなっているというか。ただ、空き家活用や建築のお悩みごとや街への想いは地元のみなさん、お持ちなんですね。物件との出会いは人との出会いでもあるので、不動産や建築を通して、この街にもっと根ざしていけたらいいなと思います」とTさん。

この建物ができた今から90年ほど前の日本では、長屋暮らしが一般的でしたし、家族や親類縁者、住み込みの従業員でいっしょに食事をしたり、建物の普請や手直しをすることが多かったはずです。シェアハウス日日の暮らしがなんとなく懐かしいのは、新しいようでいて、実は古くからある暮らしそのものだからなのかもしれません。

入居者ごとにマステが決められていて、貼っておけば誰のものかわかる仕組み。賢い!(写真撮影/相馬ミナ)

入居者ごとにマステが決められていて、貼っておけば誰のものかわかる仕組み。賢い!(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

●取材協力
シェアハウス日日

子育て支援の“東西横綱”千葉県流山市と兵庫県明石市、「住みたい街ランキング」大躍進の裏にスゴい取り組み

2022年3月に発表された「SUUMO住みたい街ランキング2022」において、首都版で得点が最も伸びた街(自治体)に選ばれた千葉県流山市と、関西版で子育て世代の投票を特に集めた兵庫県明石市。共に子育てサービスが充実し、子育て環境が充実している点が支持につながりました。全国初の支援を次々と打ち出している流山市と明石市では、どのように子育てができるのでしょうか。子育て支援の最新事情を取材しました。

“「母になるなら、流山市。」「父になるなら、流山市。」”から12年、定着した駅前送迎ステーション、保育園数は5倍に

「住みたい街ランキング2022首都圏版」の、昨年より得点がジャンプアップした自治体ランキングで1位を獲得した流山は、自然豊かな住宅都市。つくばエクスプレス快速で秋葉原駅まで約20分。そのほか市内には、JR武蔵野線、常磐線、東武野田線、流鉄流山線など5線11駅があり、バス網も整備されています。流山おおたかの森駅前には、大型ショッピングモールや子育て支援施設、公園が充実。駅前に多くを集結させ、時間効率性をアップしたことで子育て世代や共働きカップルの得点が高い結果になりました。

流山おおたかの森駅前。2022年春開業したCOTOE(コトエ)は、約40店舗が入居する複合商業施設。保育所や学習塾が入ったこもれびテラスも近くにある(画像提供/流山市役所)

流山おおたかの森駅前。2022年春開業したCOTOE(コトエ)は、約40店舗が入居する複合商業施設。保育所や学習塾が入ったこもれびテラスも近くにある(画像提供/流山市役所)

流山グリーンフェスティバルの様子。春には住宅街で個人邸のオープンガーデンが催される(画像提供/流山市役所)

流山グリーンフェスティバルの様子。春には住宅街で個人邸のオープンガーデンが催される(画像提供/流山市役所)

流山が子育て家族の街として注目されたのは、「母になるなら、流山市。」「父になるなら、流山市。」のキャッチフレーズで2010年から展開された市のプロモーション活動です。2007年から開始されていた駅前保育送迎ステーション(保護者それぞれで保育園に子どもを送らなくても、駅前のステーションにまで送っていけば、そこから市内各所の保育園に送迎してくれる仕組み)も注目を集めました。流山市の子育て支援のサービスや支援を続けるなかでの課題、新しい子育て支援について、流山市マーケティング課河尻和佳子さんに伺いました。

「当時全国に先駆け開設した駅前保育送迎ステーションは、現在も稼働しています。2022年3月の利用児童は131名。『通勤前後に子どもを送り出せて時短になる』と保護者に好評ですが、実は徐々に利用者は減っています。理由は保育園の定員が入園を希望する児童数に追いついてきたためです。駅前保育送迎ステーションはもともと家の近くの保育園に預けられず、離れた園に空きはあっても待機児童になってしまうのを解消する目的ではじめた施策なので、保育園数が増えて利用者が減ることは目標に近づいていると言えます」(河尻さん)

駅前保育送迎ステーション。おおたかの森駅前、南流山駅前で児童を預けられる。通勤に使う駅で送り迎えができるので、通勤している共働き世帯に好評のサービスだ(画像提供/流山市役所)

駅前保育送迎ステーション。おおたかの森駅前、南流山駅前で児童を預けられる。通勤に使う駅で送り迎えができるので、通勤している共働き世帯に好評のサービスだ(画像提供/流山市役所)

保育園数は、10年余で5倍になり、定員も4倍強に増加。大規模な共同住宅等を建設する場合、事業者に保育所の設置を要請しています。今後、子どもたちが通うための小学校の新設も予定されているそうです。

流山市がさまざまな子育て支援策を打ち出し始めたのは、井崎義治市長が就任した2003年以降。流山市では今後住民の高齢化が進行し、将来、市の財政が厳しくなるリスクがありました。そこで、共働きが多い若い世代への子育て環境の整備を行い、移住者を呼び込み、少子高齢社会を支えようと考えたのです。全国初のマーケティング課を市役所に創設し、首都圏の子育て世代をターゲットにインターネット等でプロモーション活動をしたところ、「自分に語り掛けてくるようだ」と30代~40代の子育て世代から予想以上の反響がありました。

「流山市の人口は、10年間で約3.8万人増えています。年齢別人口でみると35~39歳代の人口が伸びており、その多くが首都圏からの移住者です。4歳以下の子どもの数も増え、合計特殊出生率は1.55。人口増加はつくばエクスプレス開業の効果もありますが、子育て施策が注目され、メディアでの露出が増え、知名度やイメージが向上したことも大きいと感じています」(河尻さん)

オンラインコミュニティNの研究室や女性創業支援で、自己実現をバックアップ

移住してきた子育て世代が街に定着している流山市では、今後、どのような支援が求められていくのでしょうか。

「日本の人口が減り続けるなかで、流山市の人口増加は2027年がピークと推計しています。今後も魅力ある街として共働きの子育て世代に選ばれるには、子育て環境の整備だけでは足りません。『子育てしながら、なりたい自分になれるまち』を目指し、そのきっかけの場づくりなどをしていきます」(河尻さん)

商工振興課では、女性の創業・起業支援として創業スクールを開講。100人以上に及ぶ卒業生の中には、創業のほか、NPO団体や街のコミュニティを立ち上げる人もいます。民間のシェアサテライトオフィスTrist(トリスト)は、都内に通勤していた子育て女性によって「地元でスキルを活かした仕事をしたい女性を応援する」ために設立されました。現在は、市内2拠点でリモートワークの場として、企業と一緒に復職プログラムを開発したり、利用者同士のコミュニティもつくられています。

講師を迎えて開講される創業スクールの授業風景(画像提供/流山市役所)

講師を迎えて開講される創業スクールの授業風景(画像提供/流山市役所)

2022年度の募集パンフレット。募集を開始すると2日で定員が埋まる盛況ぶり(画像提供/流山市役所)

2022年度の募集パンフレット。募集を開始すると2日で定員が埋まる盛況ぶり(画像提供/流山市役所)

さらに市民の「やってみたい」を形にするため、2022年1月末から、市民のためのオンラインコミュニティ「Nの研究室」が開設されました。

「アイデアの提案や仲間探しの場になればと企画しました。コメント欄では、2カ月で80人強の市民が参加し活発な意見交換が行われています。『虫が苦手なママのための昆虫教室』や『市内の名所で家族写真を撮るサービス』などの発案がプロジェクト化に向け進行しています」(河尻さん)

当初否定的なコメントが増える可能性を案じていたが、熱い議論が交わされ「面白そう」と市外から参加する人も(画像提供/流山市役所)

当初否定的なコメントが増える可能性を案じていたが、熱い議論が交わされ「面白そう」と市外から参加する人も(画像提供/流山市役所)

実際に、流山市に移住し、子育てをしている田中さん(専業主婦・30代)に、流山市の住み心地を取材しました。田中さんが夫と共に約3年間暮らしたアメリカ・ニューヨークから、里帰り出産のため愛知県の実家に戻ったのが2020年の1月ごろ。出産を経て6月に流山市へ引越し、1か月後に帰国した夫と家族3人で暮らしています。流山市へ移住した理由は、都心に出やすく、夫の通勤に便利なこと、徒歩圏内に商業施設や公園がたくさんあることが決め手でした。

「児童センターや支援センターを積極的に活用しています。月ごとにさまざまなイベントがあり、子どもは喜んで通っています。最新の子育て情報を知ることができるLINE配信も便利です」(田中さん)

コミュニティのイベントで娘を遊ばせる田中さん。「まわりのお母さんたちが子どもの成長を一緒に見届けてくれることがうれしい」と話す(画像提供/田中さん)

コミュニティのイベントで娘を遊ばせる田中さん。「まわりのお母さんたちが子どもの成長を一緒に見届けてくれることがうれしい」と話す(画像提供/田中さん)

田中さんは、NY mom’sナガレヤママムズという3歳以下の子どもをもつ母が参加できるコミュニティの3期目の運営に携わりました。昨年度の流山マムズ参加人数は、約90名。活動内容は、Facebookでの情報交換、月に一度の交流会、季節のイベント、月に数回少人数で集まる会、部活動(英語部、絵本部、ダンス部、ホームパーティー部などです。流山市に移住して間もない母親の加入が多く、情報交換の場になっているそうです。

田中さんの流山市の子育て支援についての満足度は、10点満点中8点。

「流山市は新しい保育園がたくさんでき、駅前保育送迎ステーションなど働くお母さんのための選択肢がたくさんあるのが良いですね。私は専業主婦なので、幼稚園ももっと充実させていただけたらうれしいなと思います」(田中さん)

自己実現の満足度を訪ねると、「料理が苦手なので8点くらいですが、10点を目指しています!」と明るく答えてくれました。

所得制限なく5つの無料化を続ける明石市。すべての子育て世代に支援を明石城跡につくられた明石公園では、週末にマルシェが催されることも(画像提供/明石市役所)

明石城跡につくられた明石公園では、週末にマルシェが催されることも(画像提供/明石市役所)

面積約50平方kmの兵庫県明石市は、目の前に明石海峡や淡路島を望む、海に面した街です。明石市では、2011年の泉房穂市長就任以降、「子どもを核としたまちづくり」を掲げてきました。「住みたい街ランキング2022関西版」では、夫婦+子育て世帯を対象にしたランキングで明石市として10位、明石駅は過去最高の7位。兵庫県民ランキングにおいては、初のベスト5入りと支持を集めました。明石市の子育て支援について、明石市役所に取材しました。

明石市の無料化施策の特徴は、現金を配るのではなく、サービスを提供すること。しっかり子どもに支援を届けていくために、今すでに発生している公共サービスを無料にしています。例えば、『おむつ定期便』では、経済的負担の軽減に加え、毎月支援員が家庭を訪問することで必要な支援につなげています。さらに、親の所得に関わらず、すべての子どもたちにサービスを届けるため、5つの無料化はすべて所得制限なしで提供されています。

【明石市独自である子育て支援の5つの無料化】※すべて所得制限、自己負担なし

1. こども医療費
2013 年より、中学3年生までの医療費を無料化。さらに 2021年に対象を高校 3 年生まで拡大
2. 中学校給食費
すべての市立中学校で提供している給食を、2020 年から無償化
3. 保育料
2016年から、第2子以降の保育料の完全無料化
4. 公共施設の入場料
天文科学館(市内外問わず高校生以下)、明石海浜プール(市内在住・在学の小学生以下)など
5. おむつ定期便
2020年より、子育て経験がある見守り支援員(配達員)が、0 歳児の赤ちゃんがいる家庭に紙おむつなどを直接お届け

おむつ定期便では、おむつを渡すだけでなく、子育て経験のある支援員が相談にのってくれる(画像提供/明石市役所)

おむつ定期便では、おむつを渡すだけでなく、子育て経験のある支援員が相談にのってくれる(画像提供/明石市役所)

市内に5カ所あるあかし子育て支援センターでは、就学前の子どもが入り混じって遊ぶ(画像提供/明石市役所)

市内に5カ所あるあかし子育て支援センターでは、就学前の子どもが入り混じって遊ぶ(画像提供/明石市役所)

ボールプールや滑り台、読み聞かせのできる図書コーナーもある(画像提供/明石市役所)

ボールプールや滑り台、読み聞かせのできる図書コーナーもある(画像提供/明石市役所)

長年子育て支援を継続した結果、定住人口は9年連続で増加し、2020年の国勢調査で30万人を超え過去最高に。25~39歳の子育て層が増加しており、0~4歳人口も増えています。合計特殊出生率は、2020年統計時に1.7に上昇しました。人口が増えるとともに、明石駅の公共施設がさらに充実し、商業施設、商店街ににぎわいが生まれ、市外からも人が集まるように。交流人口が増加し、商業地地価も毎年上昇しています。

明石駅前。大規模商業施設だけでなく、近くに公共施設や商店街がある(画像提供/明石市役所)

明石駅前。大規模商業施設だけでなく、近くに公共施設や商店街がある(画像提供/明石市役所)

明石駅前。大規模商業施設だけでなく、近くに公共施設や商店街がある(画像提供/明石市役所)

明石駅前。大規模商業施設だけでなく、近くに公共施設や商店街がある(画像提供/明石市役所)

人口が増加してからも、次々と新しい子育てサービスを実施。2020年9月に市内全公立幼稚園で給食をスタート(副食費は無料)したり、離婚前後の子どもを支援したり、さまざまな施策を行っています。離婚前後の養育支援では、面会交流のコーディネートのほか、2020年7月~2021年3月に、養育費の不払いがあった際、市が支払い義務者に働きかけを行い、不払いが続く場合に1か月分(上限5万円)の立て替えを行いました。「子どもに会えて成長を確認できてうれしい」「養育費がちゃんと支払われるようになった」と利用者から感謝の声が寄せられたそうです。

すべての子どもをまちのみんなで応援することが、まちの未来をつくる

明石市では、全小学校区に子ども食堂を配置していますが、運営団体は、まちづくり協議会や民生児童委員協議会、地区社会福祉協議会、ボランティア団体など住民主体の活動です。2020年度の子どもの利用者は、3916名でした。

食材は、地産地消にこだわり、管理栄養士によるバランスのとれた食事を提供したり、団体によって様々な工夫をしている(画像提供/明石市役所)

食材は、地産地消にこだわり、管理栄養士によるバランスのとれた食事を提供したり、団体によって様々な工夫をしている(画像提供/明石市役所)

小学校内や公民館、民間施設などで実施され、ボランティアによって運営されている(画像提供/明石市役所)

小学校内や公民館、民間施設などで実施され、ボランティアによって運営されている(画像提供/明石市役所)

また、街づくりの一環としてはじまった「本のまちづくり」は、子どもたちのこころの豊かさを育むことにつながっています。2017年に、子育て施設などが入る明石駅前ビルに移設オープンした、あかし市民図書館を中心に、「いつでも、どこでも、だれでも手を伸ばせば本に届くまち」を掲げ、さまざまな取り組みを行っています。

2017年からは、4か月児健診時に絵本2冊と読み聞かせ体験をプレゼントする『ブックスタート』、2018年から、3歳6か月児健診時に絵本1冊のプレゼントと読み聞かせのアドバイスを行う『ブックセカンド』を開始しました。2020 年の 4 月~5 月に未就学児を対象に実施した『絵本の宅配便』では、コロナ禍で外出自粛を余儀なくされた子どもと保護者がいつもと変わらず楽しい時間を過ごせるよう、絵本を各家庭まで配送。利用者には大変喜ばれ、多くのお礼のお手紙が図書館に寄せられたそうです。こうした取り組みが評価され、「Library of the Year2021」において、あかし市民図書館が優秀賞とオーディエンス賞をダブル受賞しました。

移動図書館車の「めぐりん」で本を選ぶ子どもたち。大小2台の移動図書館車が市内を巡回して本を届け、子どもが本に接する機会を市がたくさん提供している(画像提供/明石市役所)

移動図書館車の「めぐりん」で本を選ぶ子どもたち。大小2台の移動図書館車が市内を巡回して本を届け、子どもが本に接する機会を市がたくさん提供している(画像提供/明石市役所)

すべての子どもを街のみんなで支えるという、明石市が進める子どもを核とした街づくり。無償化するだけでなく、子ども食堂での見守りや面会交流支援など、寄り添う支援を行うことで、安心して子育てができる環境をつくっていると感じました。

それぞれ独自のサービスで支持を集めている流山市と明石市。ふたつの街づくりで共通するのは、子育て世代のニーズに応えられるように、常に変わり続けていること、子どもと一緒に自分の未来が描けることでした。

●取材協力
・流山市役所
・明石市役所

「親以外から生き方学べる場所を」。稲村ヶ崎を地域で子育てするまちに

江ノ島電鉄の「稲村ヶ崎駅」目の前にある「IMAICHI」(神奈川県鎌倉市)は、60年近く続いた駅前のスーパーマーケット跡地に2019年にできたコミュニティスペースだ。憧れの移住地としても注目される鎌倉市だが、少子高齢化問題や商店街の衰退などの難しさを抱える地域もある。地元の老舗幼稚園の次期園長である河井めぐみさんと、夫で造園業を営む亜一郎さんは、「子どもを守ってくれる地域づくりをしたい」と、異業種の世界に飛び込んだ。
地元のスーパーが、生き残りではなく生まれ変わりを選んだ

鎌倉駅から江ノ電で11分の場所にある稲村ヶ崎は、緑に囲まれた海辺の閑静な住宅地だ。サザンオールスターズの桑田佳祐さんが監督した映画『稲村ジェーン』の舞台となった場所としても知られる。人口3000人ほどが住んでおり、数世代前からこの地で生活を続けている人も多い。

「スーパー今市」は、そんな地域で60年間商いをしてきた。戦前・戦後は魚商だったが、地域のニーズに合わせて生鮮食料品から生活雑貨まで幅広い商品を扱うようになり今に至る。しかし、近所に大きなチェーンスーパーができたり、ネットショッピングが台頭する中で、小売業の競争はますます厳しくなり、2018年に注文を受けた分だけ仕入れて販売するという「御用聞き」の仕事に専念することに。19代目となる現在の店主の今子博之さんは、駅前の店舗を閉め、事業規模を縮小することに決めた。

まさに、稲村ヶ崎駅の目の前(写真提供/IMAICHI)

まさに、稲村ヶ崎駅の目の前(写真提供/IMAICHI)

「スーパーという形でなくてもいいから、誰か店舗を引き継いでくれる人はいないだろうか」

今市さんが相談した相手が、この街で長年幼稚園を営んでいる聖路加幼稚園の次期園長である河井めぐみさんだった。今市さんのお子さんとめぐみさんの弟さんが幼稚園の同級生だったことから、同じ地域に長年住む者として、家族ぐるみの付き合いをしていた。

思い当たる人たちに声を掛けてみたものの、地域の人以外は集まりにくいこの場所を借り受けたいという人はなかなか現れなかった。そんな時、めぐみさんの夫・亜一郎さんの「それなら自分たちで何かやってみようじゃないか」というひと言で、この空間を引き継ぐことに決めたという。

河井さん夫妻は、めぐみさんの故郷である稲村ヶ崎で2人のお子さんの子育て真っ最中(写真提供/河井めぐみさん)

河井さん夫妻は、めぐみさんの故郷である稲村ヶ崎で2人のお子さんの子育て真っ最中(写真提供/河井めぐみさん)

多目的なスペースだから地域の実情やニーズが見えてくる

河井さん夫妻は、改めて「スーパー今市」の存在意義を考えたとき、“日用品の買い物をする場所”という以上に、地域の中での存在感の大きさに気づいたという。駅前の店ゆえに、駅を利用する際に買い物ついでに立ち寄って、接客のため店頭に出ている奥さんと長々とお喋りしている人や、海側にしかないコンビニの代わりに、駅前立地の便利さから、食料品から生活雑貨を買っていく若者までが訪れた。

「店番しているおばあちゃん(現店主のお母さん)の顔を見て、外出先から稲村に帰ってきたと感じていた」とめぐみさんは話す。

こうしたことから、利用客を制限しがちな専門的なお稽古ごとの教室やお店にせず、誰でも立ち寄りやすい場所という「スーパー今市」の存在意義を引き継げる、誰でも利用可能な環境にしたいと、多目的に活用できる「コミュニティスペース」にたどり着いた。利用目的の制限をしないことで、幼稚園との連携や、そこで学んできたことを相互に活かせるのではないかと考えたという。

例えば、「ねいばぁず」というプログラムもその一つ。もともとは、地域のお母さんたちが稲村ヶ崎自治会館で、鎌倉市から補助を受けて運営していたプログラムを、IMAICHIで開催することになった。プログラムの内容は、野菜ハンコ制作やクリスマスリースづくりなど。

参加対象を、親子連れに限らず「近隣の住民」なら誰でもOKとすることで、地元のシニアたちへも参加を呼びかけているという。地域の交流の場所になるように、という思いでつくられたこの場所だからこそ、多くの人に参加を促すことができる。また月2回開かれている古典ヨガ教室には、年齢も性別もさまざまな人が参加しているという。

月に2回、月曜に開かれている古典ヨガ教室の様子(写真提供/IMAICHI)

月に2回、月曜に開かれている古典ヨガ教室の様子(写真提供/IMAICHI)

また、稲村ヶ崎町内には遊具のある公園がないうえ、スポーツ系のお稽古先も選択肢が少ない。こうした背景から“身体を動かせる場所”をつくりたいと考えた河井さん夫妻は、店内にボルダリングウォールを設置した。設置費用にかかった300万円の一部は、クラウドファンディングを利用した。

ボルダリングウォールは子どもから大人までゲーム感覚で挑戦できる(写真提供/IMAICHI)

ボルダリングウォールは子どもから大人までゲーム感覚で挑戦できる(写真提供/IMAICHI)

とはいえ、まだまだ完成形ではない。多目的スペースだからこそ、地域のニーズが見えてくると考えている。そのなかで、少しずつ形を変え、より地域に寄り添えるようになればいい。「私自身、この地域で幼稚園をやっていく上でもこのIMAICHIを通じて地域の実情やニーズなどを知ることができることは役立っています。IMAICHIでの知見を生かして、地域の幼稚園として子育て環境を充実させていきたいですね」とめぐみさんは話す。

まちの人のニーズを受けて、体験学習教室を開催

IMAICHIを通じて、幼稚園という垣根を越えて地域と交流するようになっためぐみさんが始めた活動の一つに、「体験学習教室」がある。昨年9月に開始したこの活動は、地域の幼稚園児や小学生の「学童保育」に当たる活動で、年齢の違う子どもたちが一緒になり、先生と一緒に町に出てさまざまな体験をする。例えば、地域の商店を訪れ、店主などに話を聞いた情報をもとに子どもたちと一緒に稲村ヶ崎の地図やガチャガチャゲームづくりをするといった活動だ。

(写真提供/IMAICHI)

(写真提供/IMAICHI)

(写真提供/IMAICHI)

(写真提供/IMAICHI)

「今の子どもたちは、親以外の大人に何かを教えてもらうという経験値が乏しい子が多い。仕事などで忙しい親たちの代わりに、愛情を注いでくれる大人は地域にもたくさんいることを感じて欲しい」とめぐみさん。また、子どもとの遊び方が分からないと話す親が増えるなか、こうした体験学習を通じて、大人が子どものやりたいという気持ちを汲み取ることができれば、自宅でも子どもたちがリードする形で、親子の活動にも広がりができるに違いない。

子どもたちと海に行き、磯遊びをすることも体験教室の一環(写真提供/IMAICHI)

子どもたちと海に行き、磯遊びをすることも体験教室の一環(写真提供/IMAICHI)

この活動を通じて町内を出歩くようになったことで、「これまで直接話しをしたことがなかった大人である町の商店の人たちにも、子どもたちが積極的に話しかけるようになった」と話すめぐみさん。

「子どもたちの“やりたい!”をとにかく手助けすることが私の役目。先日は、稲村ヶ崎の情報番組をつくりたいと意気込み、iPad片手に商店街に飛び出して行く小学生を見守りました。私はこの教室を通じて、むしろ子どもたちから学ぶことも多い。大人としては一人の子どもの失敗に対して思わず責めてしまいそうになるシーンでも、子どもたちは誰も責めず、笑ってのける。そんな関係を、IMAICHIを通じて地域の中で築けていきたいですね」と続ける。

地域のハブとしてできること

町の商店が徐々になくなっていく中で、地域住民同士の交流も次第にか細くなっていく傾向は否めない。そんななか「IMAICHI」を通じて子どもが地域の大人と交わる機会をつくろうと奮闘している。こうした活動が広まれば、この地域がより「住みやすいエリア」になっていくだろうと河井さん夫妻は話す。

「夜に電車で帰宅して、稲村ヶ崎に降り立ったら、駅前のIMAICHIにこうこうと電気がついていてホッとした」と立ち寄ってくれた住民がいる、と話すめぐみさん。経営は楽ではないが、この場所からはまだ多くの何かもっとできることがあるように感じているそうだ。

 店内からは、到着する江ノ電が見える(写真提供/IMAICHI)

店内からは、到着する江ノ電が見える(写真提供/IMAICHI)

昨年11月には、地域住民からのリクエストもあり、コーワーキングスペースとしてデスクの設置やWi-Fiを完備させたという。子どもと一緒にリモートワークのために訪れた人は、「子どもも自分も充実した時間が過ごせた」と喜んでいたとのこと。こうしたサービスの導入で、「今後は町を訪れる観光客やリモートワークの滞在者などにも利用してもらいたい」とめぐみさん。過疎化や高齢化が進む稲村ヶ崎の住民として、この地を気に入り、移り住みたいと思う人がもっと増えてほしいという思いもあるという。

こうしたIMAICHIの現在の様子を、スーパー今市の店主だった今子さんは「駅前の立地で子どもが出入りする場所になるのは、地域にとってとても良いことだと思う。安心できる場所、頼れる場所にしてもらえてうれしい」と話す。

「地域が見守ることで、子どもたちが安心して暮らせる街になれば」と河井さん夫妻は思いを馳せる。商店街や地元のお店が元気を失うなかで、IMAICHIという場所が、地域上の役割はそのままに、時代にあわせた新しい価値を与えらえたことで、今後稲村ヶ崎の活気を生む原動力になっていけることを願う。

●取材協力
IMAICHI

保育園の中に総菜屋さん!? 商店街みんなで子育て「そらのまちほいくえん」

新生活が始まる人も多い春。なかでも、産休や育休が明け、職場復帰を控えた園児の保護者は、期待と不安で胸がいっぱいなのではないだろうか。今回は、鹿児島県鹿児島市の繁華街・天文館の商店街にある、総菜店を併設した保育園「そらのまちほいくえん」の取り組みを紹介。「あったらいいな」を実現した保育園の副園長・柳元正広さんにお話を聞いた。
変化の時代を生き抜くために。根本の力を身につける保育園

総菜店が併設されたユニークな企業主導型保育園「そらのまちほいくえん」。どのような背景で立ち上げられたのだろうか。

「そらのまちほいくえん」の外観。向かって左側が総菜店、右側が保育園の入り口で、真ん中は身長計(写真提供/そらのまちほいくえん)

「そらのまちほいくえん」の外観。向かって左側が総菜店、右側が保育園の入り口で、真ん中は身長計(写真提供/そらのまちほいくえん)

「『そらのまちほいくえん』は、今年3年目を迎えた保育園です。僕たちはその前に、霧島市で『ひより保育園』という保育園を立ち上げました。ここは郊外の自然豊かな地にあり、広い園庭でのびのびと園児たちが遊べる保育園です。食育などの取り組みでも注目され、首都圏からも視察に来る人がいました」

「ひより保育園」はいわゆる“のびのび系”の園。給食には地域の農家の野菜を使い、おやつも手づくり。広い園庭があるほか、高齢者施設も隣接しており、幼少期に親以外の多くの大人と関わることができる。園児は包丁を握って料理し、お客さんをもてなすこともある。

「視察をした人たちからは度々、『理想的だけれど、この場所だからできることだよね』という声が聞こえてきました。でも僕たちは、『この場所じゃなくてもその土地ならではのやりかたで人が育つ園がつくれるはずだ』と思っていました。だから都市部に『そらのまちほいくえん』をつくることは、自分たちにとってもチャレンジだったのです」

(写真提供/そらのまちほいくえん)

(写真提供/そらのまちほいくえん)

両保育園は、「保育業界の外にいた人が同じ考えに共鳴し合い、集まってつくった」という園だ。柳元さん自身も以前は関西で小売業をしていて、そらのまちほいくえんの立ち上げで鹿児島にUターンしてきた。

「仲間には、ビジネスの世界で活躍していた人もいれば、新卒者向けのコンサルタントをしていた人もいます。今は変化が求められている時代。生きにくさや閉塞感を感じる人が多く存在します。コンサルタントをしていた仲間は、『働くことの意味が分からない』という若者の声を耳にしました。現代社会が抱える問題を、自分たちでどう変えていくかを考えたときに、会社の前に大学があり、高校、中学校、小学校、そして幼児期がある。0歳から5歳までの時期に、人としてしっかり生きる力を身につけるという、根本が大事なんじゃないかという思いがあって、これに対する一つの方法が、保育園をつくるというものでした」

商店街にある「天文館まちの駅 ゆめりあ」前をお散歩で通過。産地直送の野菜や花が並ぶ(写真提供/そらのまちほいくえん)

商店街にある「天文館まちの駅 ゆめりあ」前をお散歩で通過。産地直送の野菜や花が並ぶ(写真提供/そらのまちほいくえん)

保育園の立ち上げで、人と街へ2つの問題解決

天文館という都市部の商店街に保育園をつくるにあたり、柳元さんたちは、大きく2つの目標を定めた。
「1つは、都市部でも郊外と同じように、現代の子どもたちがこれからの社会を生き抜いていく力を育むこと。もう1つは、今寂しい状況にある地方都市の商店街に、にぎわいを呼び戻すということです。保育園が起点となった街づくりができないかと考えました」

柳元さんたちは、「幼少期に、親以外の大人とどれほど多く、どれほど深く関われたかということは、その子の人生に大きな影響を与える。地域の人たちと日常的に交流することで、より充実した園生活を送ることができる」と考えている。

そんなそらのまちほいくえんの特色の一つが、総菜店が併設されているという点だ。

仕事帰りに保育園へ子どもを迎えに行き、それから夕飯の準備のために、空腹の子どもを連れてスーパーへ行くのは、日々のことながら辛い。

「僕も小学生と年長児の父親ですし、子育て中のスタッフも多いです。これまで、保育園へ迎えに行った帰り、その場でお総菜が買えたら便利だなと考えることがよくありました。時間がなく疲れているからといって、毎回スーパーやコンビニでお弁当を買うのは子どもに対して罪悪感がありました。保育園の食事と同じように、地元農家さんが育てた旬の野菜を使って、丁寧に調理したおかずやお弁当が買えたら安心なのではと考えました」

見て触れて「食べることを楽しむ」ため、小さな子も離乳食から陶器の食器を使っている(写真提供/そらのまちほいくえん)

見て触れて「食べることを楽しむ」ため、小さな子も離乳食から陶器の食器を使っている(写真提供/そらのまちほいくえん)

誰もが「罪悪感なく」買って帰ることができるお総菜を

3階建てのビルの1階から3階に入居している「そらのまちほいくえん」は、1階に入り口が2つあり、向かって右側が保育園、左側が「そらのまち総菜店」になっている。

ショーケースに並ぶのは、園の給食で出しているおかずもあれば、店頭オリジナルの総菜もある。近郊の農家による旬の野菜を豊富に使い、季節を感じられるラインアップだ。「見た目も楽しくなるように」と調理法もアイデアを凝らしているという。園児の親子にとっては、「これおいしいよ」という共通の話題もできるし、入園前の幼児を持つ近隣の保護者にとっては、園の給食の試食感覚で購入することもできる。

保育園の1階スペースに、総菜のショーケースと地元野菜の販売コーナーがある(写真提供/そらのまちほいくえん)

保育園の1階スペースに、総菜のショーケースと地元野菜の販売コーナーがある(写真提供/そらのまちほいくえん)

総菜は「春巻き」や「菜の花の入ったオムレツ」など、300円~600円の価格帯が常時12種類ほど。ほかに、650円~850円の価格帯のお弁当を4~5種類そろえている。園児に人気のメニューを聞いてみると、「今なら季節野菜の白和えですね」とのことだ。

「コロナ禍の影響もあって、お弁当を買う人は増えています。お昼は商店街にあるお店で店番をしている人が買いに来られることが多いです。『同じ釜の飯を食う』と言いますが、街の人と園児が同じものを食べているということには意味があると思います。また、園児の保護者の中にも、日常的にリピートしてくださる方がいて、やはり『園の帰りに子どもを別の場所に連れていかなくていいのが助かる』と喜ばれますね」という。保育士やスタッフも子育て世代なので、仕事が終わると総菜や野菜を購入して帰っていくそうだ。

「鹿児島の郷土料理である『がね』も好評です。これはサツマイモやニンジンなどのパリッとしたかき揚げで、昔はどの家でもつくられていた家庭料理ですが、今はつくる人が減っているようです」と柳元さん。
若い世代へ、地元に伝わる味や旬の豊かさを伝える役割も果たしている。

彩りも鮮やかなお弁当。姉妹園のひより保育園の食育から生まれたレシピ本も出版している(写真提供/そらのまちほいくえん)

彩りも鮮やかなお弁当。姉妹園のひより保育園の食育から生まれたレシピ本も出版している(写真提供/そらのまちほいくえん)

家族や地域の人も園児と同じおかずがたべられることで、地元に伝わる味や旬を知り、一体感が育まれる(写真提供/そらのまちほいくえん)

家族や地域の人も園児と同じおかずがたべられることで、地元に伝わる味や旬を知り、一体感が育まれる(写真提供/そらのまちほいくえん)

子育て世帯が行き来し、寂れかけた商店街に変化が

天文館商店街はどう変わったのだろうか。
「そらのまちほくえんは、元は本屋だった空きビルを使っていますが、柳元さんたちがこの場所に保育園をつくることを検討しはじめたころは、ここの前の通りは人通りがありませんでした。路面に10以上の空き店舗があって目立つような、寂しい通りだったんです。でもそこに、約50人の園児がいる保育園が入ることにより、朝夕、50組の子育て世帯が通ることになります。0から、少なくとも50×2往復の人通りが生まれたわけです。すると、そこをターゲットにしたお店もできてきます。今はほとんどのテナントが埋まっている状態になりました」

「周辺のお店の方から『人通りが増えて街に活気が出てきた』と喜ばれたり、『飲み屋が多く夜のイメージが強かったが、保育園ができてからは明るい昼のイメージに変わった』と言われたりすることも。地域の方に、『街が子どもを育てるとよく言うが、ここは子どもが街を育てているね』と言われたのはうれしかったですね」

商店街での買い物の様子(写真提供/そらのまちほいくえん)

商店街での買い物の様子(写真提供/そらのまちほいくえん)

(写真提供/そらのまちほいくえん)

(写真提供/そらのまちほいくえん)

クッキングの食材を園児が「くださいな」(写真提供/そらのまちほいくえん)

クッキングの食材を園児が「くださいな」(写真提供/そらのまちほいくえん)

街なかの保育園だから分かる「持たないことの豊かさ」

「豊かさってなんだろう」。保育園をつくるにあたり、柳元さんたちスタッフは改めて考えたという。

「郊外型の保育園であれば、自然の豊かさを感じることができる。でもそれだけじゃなくて、街には街の豊かさがあるはずです。さまざまな世代や立場の人と日常的に関わり、交流できることが、街の保育園で得られる豊かさなんじゃないかと考えました」

八百屋に花屋、団子屋、美容室……。園児たちが商店街を散歩すると、いろいろな店の人たちとのふれ合いが生まれる。かわいらしい園児たちの姿を見に、店先へ出てくる人も多い。

3年目を迎え、0歳で入園した子も3歳に。「みなさん、子どもたちに『大きくなったね。もう歩けるの?』などと声を掛けてくれます。核家族が増えた時代に、家族や同年代の子だけに関わるのと、日常的に商店街のいろんな世代の人たちと話すのとでは、関わる人の幅が全く違います」

食育の一環で子どもたちが料理をするために、子どもたち自身が保育士と買い物へ行き、店の人と話して、使用する野菜を選んで買うこともある。

「選んだジャガイモをマッシュポテトにするかコロッケにするかなど、どうやって食べるかも子どもたちが決めます」と柳元さん。ちなみに、こちらの園児たちは包丁で根菜を切り、火や油を使って玉子焼きを巻き、唐揚げも揚げる(!)。園児は年齢を問わず参加し、手掴みができる子なら、1歳前後からプチトマトを洗ったり、しめじをほぐしたりして役割をこなす。

練習してうまく巻けるようになった玉子焼き。食育スタッフが吟味した調味料を使う(写真提供/そらのまちほいくえん)

練習してうまく巻けるようになった玉子焼き。食育スタッフが吟味した調味料を使う(写真提供/そらのまちほいくえん)

商店街のビルの中にある「そらのまちほいくえん」には園庭がない。
「街なかでは子どもが遊ぶところがないのでは?と言われることがあります。でも、近くには公園がいくつもあるので、『今日は芝生がきれいな公園に行こうか、それともジャングルジムで遊べる公園にしようか』と、子どもたちが話し合って行き先を決めます」

1番大事なのは、子どもたちが生きていく力を身につけることだと柳元さんは強調する。
「子どもたち自身が『今日は走りたいから広い公園に行こう』などと自分で考えて、自分で行動することができています。園庭を持たないからこそ、目的に合わせて行き先を選ぶことができる。持たないことの豊かさもあるんじゃないでしょうか」

子どもたちは、近くにある水族館まで歩いて、イルカのトレーニングの様子を見るのも大好きだという。
「これらも、街なかにある保育園の特権ですね。郊外型保育園ではなくても、子どもたちが色々な経験をすることはできます」と柳元さん。

保育スタッフのほかに食育スタッフがクッキングに立ち会う(写真提供/そらのまちほいくえん)

保育スタッフのほかに食育スタッフがクッキングに立ち会う(写真提供/そらのまちほいくえん)

地域交流が防犯や防災の役割も担う

商店街での交流が、地域の防犯や防災の面でも機能していると感じるという。
「子どもたちは商店街のみなさんと顔なじみなので、連れ去りなどの犯罪も未然に防ぐことができると思います。その子の様子が何か違うということは、街の人が普段の様子を知っているからこそ分かるものですから。
以前、火災報知器が誤作動で鳴ってしまったことがあるのですが、近所の人たちがタオルを持って駆けつけてくれました。体格のいいお兄さんが、子どもたちを抱っこしてすぐに避難させてくれて……。何事もなくホッとしましたが、あの時は、街の皆さんに守られているなと感じました」

園でも、地域の備蓄品として常温で長期保存できる焼き芋をストックしているほか、非常時に給食室で炊き出しができるようにと考えている。

「たくさんの方にお力を借りているので、私たちも地域に貢献したいと思っています」

「食べ物を大切にする」「毎月、街のゴミ拾いをする」など普段の活動が評価され、2019年12月に第3回ジャパンSDGsアワード特別賞を受賞(写真提供/そらのまちほいくえん)

「食べ物を大切にする」「毎月、街のゴミ拾いをする」など普段の活動が評価され、2019年12月に第3回ジャパンSDGsアワード特別賞を受賞(写真提供/そらのまちほいくえん)

今後は、保育園と関わる人や店舗に地域全体で子どもが育つ場をつくっていることが可視化できるステッカーなどのツールを配布し、街との関わりを見える化することで、より関係性を深めていきたいという。

また、いずれは系列の小学校や中学校の設立も視野に入れているそう。「そらのまちほいくえん」と同じように、軸はもちろん、子どもが生きる力を育むことだ。

「学校設立となるとハードルはグッと上がりますが、注目していただいている以上、応えていきたい。さまざまな方の知恵やお力を借りながら、実現に向けて動いていきたいですね」というから楽しみだ。

保育園へ迎えに行き、給食と同じお総菜を買って帰ることができるなんて理想的!
筆者も保育園児の母を経験した。仕事帰りの疲れた体で迎えに行くと、我が子の園では「今日の給食」が展示されていて、「お昼においしそうな魚の竜田揚げを食べたなら、夕飯は簡単でも大丈夫」などと思ったもの……。
バタバタな日々の中、子どもの1日のうちの1食を保育園が担ってくれることで、どれだけ気持ちが救われたことか。総菜店がある「そらのまちほいくえん」なら、さらに親子で夕飯を素早く囲める幸せも付いてくる。

保育園に総菜店を併設する。小さくも思える日々の問題を解決することが、街を変えるほどの大きなパワーに繋がっていた。

●取材協力
・そらのまちほいくえん

子育てはふるさとで。二拠点生活でお試し移住スタート 私のクラシゴト改革7

生まれ故郷である静岡で地域おこし協力隊の活動をしながら、クリエイティブディレクターとしてフリーランスで活躍する小林大輝さん。「いつかはUターン」という漠然とした思いが現実化したきっかけは、1歳半になる長男の子育て環境を考えてのこと。ふるさと副業を経て、現在の東京と静岡に分かれての二拠点生活、そして将来の家族3人完全移住計画。そんなステップで着々と基盤固めを進める小林さんに、二拠点生活の実態、お仕事感、移住への率直な思いなどを伺った。連載名:私のクラシゴト改革
テレワークや副業の普及など働き方の変化により、「暮らし」や「働き方(仕事)」を柔軟に変え、より豊かな生き方を選ぶ人が増えています。職場へのアクセスの良さではなく趣味や社会活動など、自分のやりたいことにあわせて住む場所や仕事を選んだり、時間の使い方を変えたりなど、無理せず自分らしい選択。今私たちはそれを「クラシゴト改革」と名付けました。この連載では、クラシゴト改革の実践者をご紹介します。東京で働きながら、ボランティア、副業、地域おこし協力隊と段階的に静岡比重を高める

地域おこし協力隊として、2020年10月から「静岡市のテレワーク推進」をミッションに取り組んでいる小林大輝さんは、現在32歳。同時に、勤務していた東京の会社を退職してフリーランスのクリエイティブディレクターとなり、静岡と家族が住む東京を行き来する二拠点ライフを実践中だ。

静岡での仕事は、主にコワーキングスペースを利用。個人ワークするだけでなく、地元ネットワークづくりができるのも魅力。写真はお気に入りの静鉄のコワーキングスペース「=ODEN(イコールオデン)」で(画像提供/小林さん)

静岡での仕事は、主にコワーキングスペースを利用。個人ワークするだけでなく、地元ネットワークづくりができるのも魅力。写真はお気に入りの静鉄のコワーキングスペース「=ODEN(イコールオデン)」で(画像提供/小林さん)

静岡で生まれ育ち、東京の大学に進学してからも両親や大好きな祖父母に会うために頻繁に帰省していたという小林さん。一年間の海外留学後は東京の企業に就職し、クリエイティブディレクター・アートディレクターとして企業のブランディングやデザインなどを幅広く手がけ、寝る暇も惜しんで働いた。「競争も激しい世界で、スピート感やクオリティの高さが刺激的でした」

一方で漠然といつかは地元に戻って暮らしたいという思いもあり、静岡での基盤固めも少しずつステップを踏んで進めていた。帰省のタイミングを利用して、友人や知人からの紹介でプロモーションの相談に乗ったり、依頼されたデザインの仕事を「将来の種まき」と考えて請け負ったりして、静岡のネットワークを広げてきた。

静岡県内企業の生産性向上サービスに取り組む「いちぼし堂」も、代表である北川氏と中学・高校の先輩という縁。静岡での人脈づくりに少しずつ手ごたえや実績も現れ始め、静岡に関わる頻度が高くなってくると、時間的に本業との両立が厳しくなってきた。そこで、小林さんは2018年に勤務先企業と退職も視野に交渉し、給料・勤務時間・ノルマ全て7割という条件で副業認定第一号に。「いちぼし堂」が行うふるさと副業支援にも参加して、静岡Uターンへの一歩を踏み出した。

「いちぼし堂」の施設。1階は子どもを預けて働ける保育園、2階はコワーキングスペース、3階は県内外企業向けのレジデンス付きテレワーク拠点。レジデンスはワンルーム6室で、小林さんのほか東京の企業やインターン生が入居中(画像提供/いちぼし堂)

「いちぼし堂」の施設。1階は子どもを預けて働ける保育園、2階はコワーキングスペース、3階は県内外企業向けのレジデンス付きテレワーク拠点。レジデンスはワンルーム6室で、小林さんのほか東京の企業やインターン生が入居中(画像提供/いちぼし堂)

本業7割、副業3割ということで、静岡には週2~3回新幹線を利用して通う生活に。地元企業の抱えている課題をヒアリング、比較的年代の近い事業承継した若手経営者との仕事など、とにかく地元での実績づくりに励んだ。運よく関わった新規事業コンペの提案が通ると、そこから新たな顧客を紹介してもらえるなど具体的な成果や拡がりもあり、副業をメインにする実感がわいてきた。

地域おこし協力隊の話があったのは、ちょうどそんなタイミング。地域おこしというと、山間部に入って木を切ったりする地域貢献のイメージが強いが、「テレワーク推進」という得意分野のミッションだった。任期は一年単位で最長三年、これはとても副業の範囲では実現しないと判断し、ついに2020年10月末付けで本業であった東京の企業を退社。静岡の地域おこし協力隊を本業として活動しながら、副業でフリーランスのクリエイティブディレクターとして働く、という新たなステップを踏んだのだ。

子育てはのんびりした環境で。家族のいる東京のマンションとのお試し二拠点生活

プライベートでは、2017年に結婚し、2019年夏には長男も誕生して3人家族に。結婚当初は新宿から少し西の街、東中野に住んでいたが、フルタイムで働く妻の妊娠をきっかけに、品川駅から山手線で一駅の大崎のマンションに転居する。共働きの二人の職場に通勤しやすく、静岡にも行きやすい大崎は絶好の立地。立地がいい分家賃も高くつくため、思い切って2019年2月に中古マンションを購入した。内装のリノベーションは、建築学科卒業で空間デザインなども仕事にしている小林さんはお手のもの。小林さんがデザイン、設計し、建築学科時代の同期の大工に工事を手伝ってもらい、自分たちの手でセルフリノベーション。こうして愛着ある、明るく広々した東京の新居が完成し、長男を迎えて3人の暮らしがスタートした。

一般的な2LDKの間取りの中古マンションを購入(工事前)(画像提供/小林さん)

一般的な2LDKの間取りの中古マンションを購入(工事前)(画像提供/小林さん)

窓右手の隣の部屋との壁を取り払うという個人のDIYを超えた大胆な工事を自ら行えるのは建築学科卒業ならでは(工事中)(画像提供/小林さん)

窓右手の隣の部屋との壁を取り払うという個人のDIYを超えた大胆な工事を自ら行えるのは建築学科卒業ならでは(工事中)(画像提供/小林さん)

完成したLDKは、便利なキッチンのカウンターを新設、ガラスを通じて隣の部屋からも日差しと風が入る開放感ある個性的な空間に(工事後)(画像提供/小林さん)

完成したLDKは、便利なキッチンのカウンターを新設、ガラスを通じて隣の部屋からも日差しと風が入る開放感ある個性的な空間に(工事後)(画像提供/小林さん)

この時、すでに小林さんは副業で静岡に通う日々を送っていた。「子どもができると、子育ては自分が育ったような自然豊かでのんびりした環境でしたい、と思いました。満員電車に乗って学校に通わせるなんて、嫌で」。いつかは、と考えていた静岡へのUターンが、一気に現実味を帯びたのだ。

東京クオリティの仕事をゆったりとした環境で。完全移住で仕事と暮らしの理想を追求静岡の実家近くの海で長男と。「子育ては自分が育ったようなのんびりした環境でしたい」と小林さん(画像提供/小林さん)

静岡の実家近くの海で長男と。「子育ては自分が育ったようなのんびりした環境でしたい」と小林さん(画像提供/小林さん)

共働きの妻も、出産後の現在は職場復帰。仕事にもやりがいを感じていて今後も働き続ける予定だが、「住む場所にはこだわらない」と静岡移住にも前向き。コロナ禍で完全リモートワークのタイミングを利用して、3カ月間の親子3人静岡お試し移住も体験済みだ。

現在は子育てサポートもあるため、東京6割、静岡4割くらいの滞在比率で小林さんが週2回往復する二拠点生活中。静岡での小林さんの拠点は、副業支援で関わった「いちぼし堂」の施設のほか、実家も利用。「どうしても移動時間が多いので、いずれは家族で完全移住するつもりです。いまは東京での子どもの世話に時間をとられますが、徐々に静岡の比率を高めていきたいですね」

ふるさと副業を支援する「いちぼし堂」のコワーキングでのワークショップ風景。小林さんはここの3階にあるワンルームを借りて静岡での拠点にしている(画像提供/小林さん)

ふるさと副業を支援する「いちぼし堂」のコワーキングでのワークショップ風景。小林さんはここの3階にあるワンルームを借りて静岡での拠点にしている(画像提供/小林さん)

漠然と故郷に戻りたいと思っていながら、地元の企業に入って働くイメージがなかったという小林さん。小林さんの話を聞いていると、静岡の企業の課題を聞き、企業ブランディングやプロモーション戦略など「出来ること」を活かしながら「求められること」を増やし、新しい仕事を自ら創り出しているのが印象的だ。地域おこし協力隊として、静岡市のテレワークを推進するという本業にたどり着いたのも、まさにその象徴だ。

「東京は、案件や競争の多さからくる仕事のスピード感、質の高さで刺激になります。一方静岡の魅力は、高い建物も少なく自然豊かで、人も気分もゆったりしているところ。東京でできることは基本的に静岡でもできるので、東京の仕事もしているからこその第三者の目線を持って、東京クオリティの仕事を愛着あり競合少ない静岡で提供できたら最強ですからね」

段階的に静岡比率を高め、最終的には完全移住を考えているという小林さん。「地域おこし協力隊は1年契約、最長で3年。そのころには、完全移住していたいですね。アウトドアも好きなので、山間部にゲストハウスを建てるのも面白そうだな、と」

「いちぼし堂」近くのお気に入りの老舗おでん屋さん。メニューはおでんと大学いものみというシンプルさ(画像提供/小林さん)

「いちぼし堂」近くのお気に入りの老舗おでん屋さん。メニューはおでんと大学いものみというシンプルさ(画像提供/小林さん)

東京でのクリエイティブディレクターとしての仕事、妻の静岡での仕事、静岡での家族の住まい、東京のマンションを貸すか売るか、実家で子どもをみてもらえるか……完全移住に向けて沢山課題はあると話す小林さん。暮らしも仕事も無理なく着実にチャレンジとステップを重ね、いままでにない理想の形をつくり上げていっている小林さんの3年後が、実に楽しみだ。

●取材協力
・いちぼし堂

コミュニティで子育てする暮らし方とは?キッズデザイン受賞のコレクティブハウスを訪ねた

グッドデザイン賞を受賞した建築物は数多くあるが、今回はキッズデザイン賞とW受賞した建築物があると聞いて取材した。「コミュニティの中に子育てが当たり前にある新たな暮らし方」というが、どんな暮らしができる賃貸住宅なのだろうか?
キッズデザイン賞受賞の賃貸住宅「まちのもり本町田」

「まちのもり本町田」は、2020年のキッズデザイン賞を受賞。しかも、少子化対策担当大臣賞だ。「子どもたちを産み育てやすいデザイン」地域・社会部門の優秀賞として評価された。

まずは、賃貸住宅としての概要を紹介しておこう。
築27年の企業の社宅をリノベーションしたもので、総戸数73戸(25平米×61戸、50平米×12戸)と賃貸住宅としては戸数が多い。そのため、「コモン付き賃貸」と「コレクティブハウス」という2タイプの賃貸形態を用意している。といっても、どちらも馴染みの薄い賃貸形態かもしれない。賃貸住宅としての大きな特徴は、ラウンジや多目的ルーム、大型キッチンなどの共用スペースが豊富に設けられていることだ。

「コモン付き賃貸」は、こうした豊富な共用スペースをシェアして利用できる。一般的な賃貸住宅に比べ、コミュニティのきっかけが生まれやすいのが特徴だ。一方、「コレクティブハウス」は、コレクティブハウスの居住者全員が「居住者組合」に加入し、自分たちでこれらの豊富な共用スペースの運用方法などを決めていく。コミュニティの場があるだけでなく、話し合って決めていくことで多様性を受け入れられるしなやかなコミュニティが形成されるのが特徴だ。

ハード面では人目が届き、コミュニティが形成しやすいデザイン

さて、キッズデザイン賞の受賞理由を見ると、「コミュニティを醸成する生活者同士が子育てに参加する仕組みを、集合住宅のモデルからアプローチした斬新な試み」とある。生活者同士が子育てに参加する仕組みとはどういったものか?

まず、まちのもり本町田にどういった共用スペースがあるのか、企画・事業主であるコプラスの久保有美さんに案内してもらった。

まちのもり本町田の外観。森をイメージした装飾や緑・黄・茶のカラーがポイントとして使われている(撮影:片山貴博)

まちのもり本町田の外観。森をイメージした装飾や緑・黄・茶のカラーがポイントとして使われている(撮影:片山貴博)

まず、エントランスを抜けるとそこには「アトリウム」と名付けた、屋根付きの吹抜け空間が広がる。居住者への連絡事項などの掲示板もあるので、自然とそこで立ち止まることになる。アトリウムの奥には、「パティオ」と名付けた、人工芝を敷いた中庭がある(冒頭の写真参照)。アトリウムの奥、パティオの横に居住者全員が利用できる「ラウンジ」がある。ラウンジは全面ガラス張りなので、アトリウムを通る人やパティオで遊ぶ子どもたちの姿が自然と目に入ってくる。

「アトリウム」。屋根付きなので雨天でも利用できる。奥のパティオも含めて、オートロックの内側にあるので、子どもたちと遊ばせていても安心できる(撮影:片山貴博)

「アトリウム」。屋根付きなので雨天でも利用できる。奥のパティオも含めて、オートロックの内側にあるので、子どもたちと遊ばせていても安心できる(撮影:片山貴博)

「ラウンジ」。居住者が利用できるので、コモン付き賃貸とコレクティブハウスの居住者相互の交流の場にもなる。Wi-Fiも完備しているので、気分転換にここでテレワークをする人もいるという(撮影:片山貴博)

「ラウンジ」。居住者が利用できるので、コモン付き賃貸とコレクティブハウスの居住者相互の交流の場にもなる。Wi-Fiも完備しているので、気分転換にここでテレワークをする人もいるという(撮影:片山貴博)

ラウンジに隣接する「コレクティブコモン・キッチン」。ここはコレクティブハウス居住者専用。業務用の厨房機器が備え付けられているので、大人数の料理をつくったり本格的な料理をつくったりできる。プロパンガスを使っているので、災害時には炊き出しができ、地域住民への防災対策にも配慮している(撮影:片山貴博)

ラウンジに隣接する「コレクティブコモン・キッチン」。ここはコレクティブハウス居住者専用。業務用の厨房機器が備え付けられているので、大人数の料理をつくったり本格的な料理をつくったりできる。プロパンガスを使っているので、災害時には炊き出しができ、地域住民への防災対策にも配慮している(撮影:片山貴博)

実際にラウンジの椅子に座ってみると、かなり視界が広いので、アトリウムを通る人やパティオにいる人たちと目線が合う。コプラスでは、挨拶をすることを奨励しているというので、こうした空間があることで、あるいはそれまでに互いに居住者だと認識するようになるのだろう。

ほかの施設を見学していると、建物の外でなにやら作業をしている人がいた。現在、コレクティブハウスに居住している人たちで、今年の夏の日差しを遮るために、ヘチマやゴーヤを植えて緑のカーテンをつくったが、いまはスナップエンドウとルッコラ、大麦の種をまいているという。緑のカーテンがかかった場所は、1階がコモンバス、2階がコレクティブコモン、3階がコモンルームといずれも共用スペースに当たる。共用スペースを快適にしようという、居住者ならではの工夫だ。

来春の収穫に向けてスナップエンドウなどの種まきをするコレクティブハウスの居住者(撮影:片山貴博)

来春の収穫に向けてスナップエンドウなどの種まきをするコレクティブハウスの居住者(撮影:片山貴博)

1階のコモンバス(有料)とは、大型の浴室付きの部屋だ。水まわりが3点ユニットの部屋も多いので大きな浴槽につかりたいという人もいるだろうし、他のコレクティブハウスの事例では、仲良くなった子どもたちだけで風呂に入ることも多く、そうしたニーズに応えてのことだという。子どもたちは浴室まわりを水浸しにしてしまうので、どこかのお宅の浴室を使うというよりもこうした共用の場所があると使い勝手がよい。共用のリビングも隣接しているので、親たちがリビングで浴室の子どもたちを見守ることもできる。

2階のコレクティブコモンはコレクティブハウスの居住者用、3階のコモンルームはコモン付き賃貸の居住者用の共用スペース(無料)だ。それぞれWi-Fi完備で、ミニキッチン付き。

ほかにも、1階と3階にコイン式のランドリーがあり、1階にゲストルームと多目的ルームがある。1階の部屋はいずれも予約して貸し切る(有料)こともできる。

2階のコレクティブコモン。夏に収穫したヘチマを干すためか、テーブルの上に並べられていた(撮影:片山貴博)

2階のコレクティブコモン。夏に収穫したヘチマを干すためか、テーブルの上に並べられていた(撮影:片山貴博)

1階のオートロックの外側に扉がある「多目的ルーム」(有料)。入居者が応接や教室などに利用できるだけでなく、地域の住民にも貸し出しできるようにしている(撮影:片山貴博)

1階のオートロックの外側に扉がある「多目的ルーム」(有料)。入居者が応接や教室などに利用できるだけでなく、地域の住民にも貸し出しできるようにしている(撮影:片山貴博)

ソフト面では、共用スペースで共通の体験ができる仕組み

次に「生活者同士が子育てに参加する仕組み」の具体例を紹介したいのだが、まちのもり本町田では、募集時期が新型コロナウイルスの感染拡大期と重なったため、特にコレクティブハウスの入居者がまだ少なく、試験的なイベント程度しか実施できていない。というのも、コレクティブハウスでは居住者組合をつくって自主運営するため、募集の際にオリエンテーションを行い、居住者組合の定例会を体験してもらうなど、一連の手続きを経ている。いまはこうしたことが難しい時期だからだ。

そこで、まちのもり本町田の運営を共同で手掛けているNPOコレクティブハウジング社が運営支援する別の物件、コレクティブハウスとして10年を経た「コレクティブハウス聖蹟」を取材することにした。コレクティブハウス全20戸のコレクティブハウス聖蹟には、赤ちゃんから高齢者まで大人23人、子ども11人が居住している。「居住者組合」では月1回の定例会を開き、暮らし方に関するさまざまなことを決めている。もっともコロナ禍のいま、定例会はオンライン会議で行っているという。

さて、案内や説明をしてくれたのは、NPOコレクティブハウジング社の狩野三枝さん。取材当日は、午前中にオンラインによる定例会があり、午後からは居住者による「みどりの活動」(月1回の庭の手入れ)が行われていた。専門家の指導の下、枯れたトチノキを切る人、擁壁を圧迫している芙蓉を切る人、落ち葉を集めたり雑草を取ったりする人など、それぞれに分かれて作業をしていた。

建物東側の庭には、食べられる実がなる木を植えている。右奥のトチノキは枯れたので伐採するが、ユスラウメやイチジクなどの実は、みんなで収穫して食べているという(撮影:片山貴博)

建物東側の庭には、食べられる実がなる木を植えている。右奥のトチノキは枯れたので伐採するが、ユスラウメやイチジクなどの実は、みんなで収穫して食べているという(撮影:片山貴博)

子どもたちは大人たちの周りで遊んでばかりだが、たまにお手伝いをしてくれる(撮影:片山貴博)

子どもたちは大人たちの周りで遊んでばかりだが、たまにお手伝いをしてくれる(撮影:片山貴博)

そして、この日は夕食のコモンミールをする日でもあった。コモンミールとは、居住者が月それぞれ1回程度の頻度で交代して食事をつくり、つくってもらった食事を食べたい人は事前に予約をするという取り組みだ。食べたい人は大人400円、子ども200円を払う。なかには腕をふるってグルジア料理やハンガリー料理に挑戦する人もいるのだとか。筆者は料理が得意ではないのでちょっと引いてしまったが、毎回牛丼ばかりつくる人もいるので、得意料理が一品あれば大丈夫なのだとか。

本日のコモンミールの担当は矢田智美さん。庭仕事の後なので、特別に鰻(鰻の場合は大人800円、子ども400円)にした。鹿児島に住む矢田さんの知り合いから直接鰻を買って、コストを抑える工夫もしている。16時半ごろから準備を始めていたが、時間が経つにつれ、一人、また一人と料理を手伝う居住者が増えていった。つくる数は多くても手伝ってくれる人がいるので、18時半ごろには人数分が出来上がった。

食べる時間はそれぞれでいいので、後から食べる人もいればすぐに食べる人もいる。コロナ禍で部屋に持ち帰って食べる人が多いというが、感染対策をしながらその場で食べる人も多かった。

コレクティブハウス聖蹟では月に10~14日のコモンミールがある。子どもがコモンミールをつくりたいと言って、食事づくりに参加することもあるのだとか(撮影:片山貴博)

コレクティブハウス聖蹟では月に10~14日のコモンミールがある。子どもがコモンミールをつくりたいと言って、食事づくりに参加することもあるのだとか(撮影:片山貴博)

コモンキッチンにつながるコモンスペースでソーシャルディスタンスを保って食べたり、部屋に持ち帰って食べたりする(撮影:片山貴博)

コモンキッチンにつながるコモンスペースでソーシャルディスタンスを保って食べたり、部屋に持ち帰って食べたりする(撮影:片山貴博)

さて、居住者組合の活動は実に多岐にわたる。居住者が快適に暮らしをシェアするためには、共用スペースの管理運営方法を決めたりする必要があるからだ。そのため、全員が何らかの担当を受け持っている。

まず、居住者組合の運営にかかわる役員や運営委員。運営委員は、地域や大家、見学者などへの対応も担当する。ほかにも、日常のコモンミールやみどりの活動、ハウスの清掃活動などのマネジメントを担当する各グループ、コモンスペースの快適な使い方やイベントの企画運営を担当する各グループなどがある。イベントはコロナ禍では開催しづらいが、例年は餅つきや花見、夏の流しソーメン、クリスマスパーティーなどが行われてきた。有志を中心に、地域の住民に参加を呼び掛けるイベントも定期的に開催してきた。

また、ハウスそれぞれで定めたルールに従って、共用部の清掃当番や庭の水やり当番、共用スペースの鍵が閉まっていることを確認する当番などが交代で回ってくる。掲示板で誰が当番かを分かるようにしているうえ、当番の名札を担当のお宅の扉にかけるなどの工夫がなされている。

このお宅が金曜日の鍵当番(撮影:片山貴博)

このお宅が金曜日の鍵当番(撮影:片山貴博)

子育て世帯も単身世帯も、それぞれの形で子どものいる生活を体験できる

みどりの活動の後に、居住者にインタビューさせてもらった。まず子育て中の方に話を聞いた。コモンミールをつくった矢田さんも子育て中の母親だ。お子さんが小学校低学年のころ、遊びに来た友達は矢田家が豪邸だと思ったという。お子さんが自宅内だけでなく、建物全体を遊び場として使うので、遊びに来た友達が、コレクティブハウス全体が矢田さんの家だと勘違いしたからだそうだ。面白いエピソードだと思う。

子育て中の父親の三浦健さんは、子どものいる世帯が多いので、子ども向けのイベントがあるのがうれしいという。子どもが、同じ年の子どもばかりではなく、違う年齢の子どもとも遊ぶようになるのが、ここならではだという。

同じく子育て中の父親であるJ・Yさんは、コレクティブハウスなら安心安全に子育てできるという。例えば、下の子が入院したときに、実家に頼れず困っていたが、上の子の送り迎えを助けてもらったりして、親がいなくても何とかなるという安心感があるのだと。

また、災害時にもコミュニティに助けられるという。東日本大震災のときには、帰宅できた大人がいくつも保育園を回って子どもたちを連れて帰ってきたり、昨年の大きな台風の時などには同じ部屋に子どもたちを集めてゲームをしたりして怖い思いをさせずに済んだし、親もパニックにならずに済んだ。

たしかに子育て中の家庭は、子育てを助け合えるので住みやすいかもしれない。しかし、単身者などはどう感じているのだろう?
俵山知子さんは2020年2月に入居した単身者だ。ここで開催されたイベントに参加して、この人たちと一緒に暮らしてみたいと思って決めたという。江藤由貴子さんも2020年7月に入居したばかりの単身者だ。東日本大震災がトラウマとなって、誰かと一緒に住みたいと思うようになり、ここにたどり着いた。

この二人には同じ体験がある。みどりの活動中にワンパクぶりを発揮していた男の子二人が、「お手紙でーす」などと言って、突然部屋を訪れるのだ。部屋の中で遊んでから帰っていくのだが、どうやら子どもたちはこの二人を“大人のお友達”と思っているようなのだ。

J・Yさんは、子どもは大人たちをちゃんと見ているという。親と仲の良い大人には、子どもも近づいていくのだと。また、矢田さんは、多様な世代と一緒に暮らしていると、子どもは子どもなりに、家庭ではここまで、知り合いとはここまで、知らない人とはここまでと、やっていいことをちゃんと見極めるようになるのだという。

チビッ子たちの急襲を受ける二人はどう思っているのだろう?俵山さんは「体験を共有できる暮らし」に満足しているといい、江藤さんは「想定外のギフト」だと思うという。子育て中ではない居住者も、子どもと暮らす生活を体験できることを高く評価しているわけだ。

もちろん、人とつながりたいと思う人がコレクティブハウスという形態を選ぶので、こうした生活に向かないという人もいるだろう。しかし、つながりを持ちたい人には、交流する空間としての場があり、交流する機会が数多くあり、多様な世帯と出会えるので、好ましいと思う交流を深めることができる。

こういうことが、「居住者同士が子育てに参加する仕組み」であり、「コミュニティの中に子育てが当たり前にある新たな暮らし方」であるのだろう。

リモート副業×東京で秘書!長野ではまちづくりに参加 私のクラシゴト改革1

新型コロナウイルスで社会の在り様が大きく変化した現在、新たな働き方が注目されている。都市部で働く人材が、地方企業の仕事にも関わる新しい働き方「ふるさと副業」もそのひとつ。
今回は東京で会社員として働きつつ、長野県塩尻市で外部ブレーンを務める千葉憲子さんにインタビュー。経緯や仕事内容、さらに二児のママとして実感など、あれこれお話を伺った。

連載名:私のクラシゴト改革
テレワークや副業の普及など働き方の変化により、「暮らし」や「働き方(仕事)」を柔軟に変え、より豊かな生き方を選ぶ人が増えています。職場へのアクセスの良さではなく趣味や社会活動など、自分のやりたいことにあわせて住む場所や仕事を選んだり、時間の使い方を変えたりなど、無理せず自分らしい選択。今私たちはそれを「クラシゴト改革」と名付けました。この連載では、クラシゴト改革の実践者をご紹介します。ふるさと副業を考えたのは、働き方自由な会社だったから新卒で入社したのは大手メーカーのグループ商社。国内海外転勤、出張が当たり前の世界で、出産、育休を経て復帰したものの、時間=会社への貢献度になってしまうことに疑問を抱き、転職。「前職とガイアックスとではカルチャーがまったく違うので最初は驚きました」。現在は社長秘書の業務とともに、オンラインコミュニティの運営など、社内でも兼業している(写真撮影/スーモジャーナル編集部)

新卒で入社したのは大手メーカーのグループ商社。国内海外転勤、出張が当たり前の世界で、出産、育休を経て復帰したものの、時間=会社への貢献度になってしまうことに疑問を抱き、転職。「前職とガイアックスとではカルチャーがまったく違うので最初は驚きました」。現在は社長秘書の業務とともに、オンラインコミュニティの運営など、社内でも兼業している(写真撮影/スーモジャーナル編集部)

千葉さんは、東京都のIT企業「ガイアックス」の社長室で働きつつ、今年の5月より長野県塩尻市と業務委託を結び、地域課題の解決に取り組んでいる。それは、塩尻市が推進する「MEGURUプロジェクト」の一環で、副業限定の地域外のプロフェッショナル人材が地方と協働で地域の課題に取り組んでいくというもの。その中で、千葉さんはCCO(Chief Communication Officer)に就任。地域外の人と塩尻をつなぎ、関係人口を拡大していくミッションのもと、さまざまな企画立案やイベントを仕掛けている。
本業、副業ともに、「〇時~〇時まで働く」という取り決めはなく、基本成果主義。主に塩尻の業務は週末や夜などにすることが多いが、その境界線はあいまいだ。それができるのも、本業も副業も、業務はほぼリモートだから。東京で塩尻の仕事、塩尻で東京の仕事をすることもある。

「もともと、ガイアックス自体がとにかく働き方が自由な会社で、休日も自分で決めていいし、どこで働いてもいい。もちろん副業もウェルカム。リモートワークが大前提で、会社に出勤するのも週に1度程度。だから、副業を始める前も、実家のある長野県松本市に子ども2人と帰り、1カ月間実家で仕事をしていたこともあります。実際、副業、二拠点、完全リモートをしている社員も多く、私が今の働き方を選ぶのも自然な流れでした」
さらにガイアックスではライフバランスを考えて、仕事半分、報酬も半分といった交渉も可能。千葉さんの場合も、副業ありきで業務量も報酬も上司に交渉している。「トータルで考えると収入は上がりました。夫は会社員をしており、首都圏から離れることは難しく、転職や移住はハードルも高い。しかし、リモート副業なら、私の判断で挑戦できるし、自分のキャリアアップのためにも良かったと思います。夫もこの働き方を応援してくれています」

「息子たちに田舎暮らしを体験させたい」。最初はあくまでも個人的な話から

このプロジェクトに応募した理由のひとつに、子育てで抱いた疑問が大きいという千葉さん。
「私自身は長野の大自然で育ちました。それなのに、息子たち2人を、親が都会で働いているからという理由だけで、都会でしか育てられないなんて変だなと考えていました。移住はさすがに無理だけれど、リモートで副業をすることは現実的な選択だと思いました」

そこで、当初は地元、長野県松本市で地域に貢献できるような仕事はないか考えていたところ、高校時代の友人から、塩尻で外部の人材を募集している話を聞く。
「塩尻は、観光都市の松本や諏訪に挟まれた、人口6万人超のコンパクトなまち。“このままでは人口減。関係人口を増やしたい”という危機感がある分、モチベーションも高かった。規模の大きいコワーキングスペースがそろっていたり、一人の生徒が複数の学校に就学できる”デュアルスクール制度”があったり、ソフト面でもハード面でも受け入れ態勢が整っていました」

塩尻のシビックイノベーション拠点「スナバ」にて。「プロジェクトが始まってみると、市役所の人も、商工会議所の人も、いわゆる”お役所”っぽくなくて驚きでした」(画像提供/スナバ)

塩尻のシビックイノベーション拠点「スナバ」にて。「プロジェクトが始まってみると、市役所の人も、商工会議所の人も、いわゆる”お役所”っぽくなくて驚きでした」(画像提供/スナバ)

今年の夏休み、長野で過ごした子どもたち(画像提供/千葉さん)

今年の夏休み、長野で過ごした子どもたち(画像提供/千葉さん)

自分のなかの「普通」の経験が、想定以上に地域で役立つ場面も

ちなみに、外部のプロフェッショナル人材は、千葉さんのほか6人。その顔触れは国内の大企業の一線で働くビジネスパーソンばかりで、起業家として著名なインフルエンサーもいる。しかも、驚くべきは、千葉さんはお隣の松本市出身だが、他の6人は、長野県にはまったく地縁のない人なのだ。
「地方だからこそできることがあり、その地域の課題に自分の経験やスキルで貢献できたらと考える人材はたくさんいるんだなと改めて思いました。例えば観光促進のために、コンサルタントを外部の企業に依頼すれば、多額のコストがかかる上、多くの企業は契約期間が終了したらいなくなってしまう。そういう痛い体験をしている自治体は多いと思います。でも、移住ではなくリモートで副業という形なら、こうした人的財産をフル活用できるのではないでしょうか」

しかし、多くの人は「そんなに華々しいキャリアもスキルも自分は持っていないから無理」と尻込みしてしまうのでは? という質問に、千葉さんは「そんなことはありません」と即答。
「私だって普通の会社員です。でも自分が通常の業務と思っていたことも、案外、地方や役所では有難がられることも多いです。例えば、私は限られた時間で最大限の効果を出すために、自分の業務を分散し、アウトソーシングすることも多いんです。それは、私には当たり前だと思っていたのですが、地方では個人に業務が集中し、「〇〇さんにしか分からない」「〇〇さんが動けないのでそれはストップしている」という事態になることも多いんです。そんなとき、「この業務のこの部分は別にこの人でなくてもいいのでは?」と整理し、スピードを上げていくのも私の役目。本業での、なに気ない仕事のアレコレが思いのほか役立つことが多いと実感しています。もちろん、逆に塩尻での気づきが本業に役立つことも多々あります」

(写真提供/千葉さん)

(写真提供/千葉さん)

コロナ禍の不自由も逆手にとる。オンラインでのコミュニティづくりが進んだ

募集自体はコロナ禍の前で、現在は、当初の予定とは変更を余儀なくされた部分も大きい。
「今はオンライン上でのコミュニティが主です。もともと塩尻にはなんの縁もなかった人が、トークイベントのゲスト目的で参加し、興味を持ってもらうなど広がりを見せ、今では塩尻市の「関係人口創出・拡大事業」でのオンラインコミュニティ『塩尻CxO Lab』という形に。さらに、実際に地元の中小企業で複業するなどのもっとコアに地域課題に参加していただく有料会員も定員以上の応募が集まりました。この状況下で制約は多いけれど、リモートやオンラインの動きが一気に加速し、距離を感じなくなったことはプラスですね」

千葉さん本人にも副産物はあった。「オンラインイベントでのファシリテーションを何度も務めるうち、スキルが上がったと思います。参加してくださる方には、こうしたオンライン上に慣れていない方もいます。本業とは違うデジタル環境のなか、場数を踏んだことで突発的なトラブルに対応できるようになりました」。その結果、現在は、本業、副業とは別に、こうしたファシリテーションを仕事として引き受けることもあるそう。

オンラインイベントの様子。「いつかはみんなで塩尻ツアーをしたいですね」。今はオンラインだけど、いつかリアルで会えたらどんなに楽しいか、今からワクワクしています」(写真提供/千葉さん)

オンラインイベントの様子。「いつかはみんなで塩尻ツアーをしたいですね」。今はオンラインだけど、いつかリアルで会えたらどんなに楽しいか、今からワクワクしています」(写真提供/千葉さん)

毎年秋に行われる「木曽漆器祭」は、今年はオンラインで。リアルなワークショップが実施できないからこそ、普段は入ることができない各工房の中の様子を配信。千葉さんはレポーター役として活躍(写真提供/千葉さん)

毎年秋に行われる「木曽漆器祭」は、今年はオンラインで。リアルなワークショップが実施できないからこそ、普段は入ることができない各工房の中の様子を配信。千葉さんはレポーター役として活躍(写真提供/千葉さん)

ワーケーションがもっと進めば、暮らしはもっと豊かになる

もちろん課題もある。「私が長野で仕事をする間、子どもたちは松本の実家の両親たちが預かってくれましたが、それができない人も多いはず。子どもがいる人でも二拠点生活が可能なように、預け先の確保は課題です。また小学校に入ると子どもたちも長野に行けるのは長期の休みだけ。親も二拠点で働き、子どもも二拠点で学ぶことができれば、二拠点や副業がもっとスムーズになるのではと思います」
特に、首都圏からのアクセスのしやすさから、山梨、長野は二拠点目としてのポテンシャルが高い。「例えば甲府から松本までのエリアが“ワーケーションベルト”として、コワーキングスペースを充実させて、旅をしながら仕事をしてもらえるなど、相乗効果で盛り上がったらいいですね」
今後は、地域外の人材を地域に活用するこの塩尻の試みを、他の自治体へ広げていきたいと考えているそう。
「同じような課題を持つ地方は多いはず。何かしら地域に貢献したいと考えている人は多いので、受け入れ側の意識が変われば、塩尻のフォーマットが他の地方自治体にも応用可能だと思います。それが今のところの野望です」

●取材協力
株式会社ガイアックス
MEGURUプロジェクト

探究力をはぐくむ「研究者を育てた家」

2022年の高等学校学習指導要領改訂に向けて、全国の中学・高校で導入され始めた「探究学習」。
未来子どもたちには、自身で課題を発見し、解決する力が求められるようになるだろう。
今回は、自身の探究力を開花させた研究者たちへ、幼少期の住まいについてインタビューした。
子どもたちの問いをはぐくみ、探究力を伸ばす家の秘密をひもといていこう。

探究力とは、自ら課題を設定し、その課題を自ら解決へ導くループを回す力のこと。日々の暮らしの些細な出来事から生まれるふとした疑問「問い」をきっかけに、地域や社会に目を向けて自ら課題を設定し、課題解決のための情報収集を行い、手に入れた情報の取捨選択や分析を行いながら、自分なりの答えを探していく。インタビュー1:“21世紀のドリトル先生” 長谷川眞理子さん●プロフィール:長谷川眞理子さん
総合研究大学院大学学長。1952年、東京都生まれ。83年に東京大学大学院理学系研究科人類学専攻博士課程修了。2006年より総合研究大学院大学教授。17年より同校学長に就任。専門は、行動生態学、進化生物学

●研究テーマ:ヒトはなぜ大人になるのか?
みなさんも経験している思春期。実は、ヒトの思春期は他の動物に比べるととても長いことが分かっています。私はヒトの思春期がいつ始まり、いつ終わりを迎えるか、つまりヒトがいつ大人になるのかを研究しています。子どものころに読んで憧れたドリトル先生のように前人未到の地に足を踏み入れたいと考え、チンパンジーをはじめ、世界中の動物たちの研究をしてきました。そこでヒトの思春期の不思議にたどり着き、現在に至っています。

長谷川さんに聞いてみました!
Q. 幼少期、どんな家・街で暮らしていましたか?
A. 豊かな自然がいつも身近にある環境でした

3歳から5歳ぐらいまで、和歌山県田辺市にある古い町家に住んでいました。近くには海があったので、よく遊びに行っていました。今のようにテトラポッドで遮られておらず、海に棲息するイソギンチャクや貝殻を手にすることができて、生物に関心をもつようになりました。これが私の原風景です。
その後、8歳の時に小金井市の一軒家に引越します。当時の小金井市には自然がたくさんあって、家から少し離れると畑も多く、牛がのんびりと歩いていたほどです。この家には、広い庭を見渡すことのできるリビングがあり、家のなかにいても緑を間近に感じられる環境でした。庭では父の芝刈りを手伝って、雑草取りをするのが私の役割。抜いた雑草を眺めては、「これは何という植物なのだろう」と、自分の部屋に持ち帰り、図鑑で調べて名前を覚えたりしていました。毎日が生き物に対する発見の連続でしたね。

広い庭を見渡すことのできるリビングで、家の中でも緑を間近に感じることができる(イラスト/3rdeye)

広い庭を見渡すことのできるリビングで、家の中でも緑を間近に感じることができる(イラスト/3rdeye)

Q. 家がご自身にどんな影響を与えましたか?
A. 書斎からまだ見ぬ風景に思いを馳せていました

北側にある父の書斎が涼しかったので、夏休みによく忍び込んで、目についた本を読んでいました。並んでいたのは志賀直哉や芥川龍之介など。訳も分からず目を通していましたね。大人の本ばかり読んでいたのを父が見かねて、『少年少女世界文学全集』を買ってくれました。毎月1巻ずつ家へ届けられるお話の数々に、私はワクワクしていました。そこで出合ったのが、『ドリトル先生航海記』です。あの本を読んで、私もドリトル先生みたいに前人未到の地を旅してみたい、と思うようになったのです。

Q. 子どもにどんな家を与えたいですか?
A. 自分だけの世界観がはぐくめる場所を設けたい

私は一人っ子でしたので部屋をもらうことができましたが、今の住環境ではなかなか難しいかもしれないので、この部屋の一角はあなただけの場所、というところを設けたいですね。そのような場所があると、自分だけの世界観と責任感をはぐくむことができます。あまり汚くしていたら、時には叱ることも必要だとは思いますが、親の許容度が何よりも大切です。こうした住環境のもと、公園でも何でもいいので、自然を見られたり、触れられたりする場所がお住まいの近くにあってほしいと思います。

長谷川さんのFavorite time~当時のお気に入りの過ごし方
(左)『ドリトル先生航海記』はじめ、読書は冒険への入口。物語を通じて、田辺で見た海の向こうに広がる世界を想像していたという(右)家の近くの小川に棲息する生物を捕まえ観察するなかで、どこまで足を踏み入れると川が深くなるかなどを体感的に学んでいったそう(イラスト/3rdeye)

(左)『ドリトル先生航海記』はじめ、読書は冒険への入口。物語を通じて、田辺で見た海の向こうに広がる世界を想像していたという(右)家の近くの小川に棲息する生物を捕まえ観察するなかで、どこまで足を踏み入れると川が深くなるかなどを体感的に学んでいったそう(イラスト/3rdeye)

長谷川さんのHINT FOR KIDS~子どもたちへのヒント
好奇心の種は公園や学校など、大抵外に転がっています。興味をもったものを持ち帰って調べたり、深めたりするのが「家」の役割。ぜひ外で「本物」を見てみてください。そして、ご両親にお願いして家でじっくり外での発見を味わってみましょう。そうすることであなたの世界が広がります。

インタビュー2:“プラモデルからメディアを考える社会学者”松井広志さん●プロフィール:松井広志さん
愛知淑徳大学創造表現学部講師。1983年、大阪府生まれ。ポピュラー文化の歴史やモノのメディア論の理論枠組を研究している。著書に『模型のメディア論:時空間を媒介する「モノ」』(青弓社)など

●研究テーマ:モノがなぜメディアになるのか?
私は社会のなかでメディアがどう形づくられ、どんな役割をもつのかを研究しています。新聞、雑誌、テレビといった従来のメディアはもちろん、現代はスマホや通信アプリ、SNSなど、インターネットを活用するメディアが増えました。一方で、例えばテーマパークやフェスなどの場、人、展示物やガンプラなどのキャラクターグッズといったモノも、メディアと捉える見方が登場しました。ポップカルチャーと親和性の高いこの分野を探究しています。

松井さんに聞いてみました!
Q. 幼少期、どんな家・街で暮らしていましたか?
A. 駅や商店街に近い下町の、古い家に住んでいました

都会でも田舎でもない下町で暮らしていました。家のすぐ横を近鉄とJRが走っていたので、常に電車の音が聞こえ、隣家はカラオケ店、その横は酒屋さん、さらに隣は駄菓子屋さんという、電車や人の往来が多い場所でした。妙に古い木造の一軒家に両親と妹と住んでいて、庭には物置になっていた離れがあり、よく探検しました。いつ誰が使っていたのか分からない昔の物や本が出てくるので、埃まみれなんですが、宝探しのようで本当に面白かったです。
家のなかで特徴的なのは、滑り台。なぜだかリビングに、小学生でも滑れるくらいしっかりした滑り台があったんです。これがあるので幼稚園や学校帰りに友達が立ち寄り、滑りながらビデオデッキでアニメを観たり、連れ立って駄菓子屋さんに行ったりしました。リビングの滑り台が我が家の象徴となり、人と人をつなぐメディアになっていたわけですね。

リビングの滑り台が象徴となっていた松井さんのご自宅の間取り(イラスト/3rdeye)

リビングの滑り台が象徴となっていた松井さんのご自宅の間取り(イラスト/3rdeye)

Q. 家がご自身にどんな影響を与えましたか?
A. 予期せぬ出合いで興味の幅を広げてくれました

離れの物置空間は、「世の中には自分の知らないものが存在している」と実感できる場所でした。この空間が歴史に興味をもつきっかけとなり、今の研究にも役立っています。また当時、家にビデオの宅配業者が毎週7本ほど映画やアニメを持ってきていたので、よく観ました。開封して、観た分の料金を後日支払う仕組みでした。レンタルショップと違って観たいものが選べず、好みではない作品もセレクトされているのですが、あるとつい観てしまう。選り好みしないで幅広く興味をもつようになりました。

Q. 子どもにどんな家を与えたいですか?
A. パブリックとプライベートが両方備わった家

私の経験則から、子どもにはある程度の刺激が欲しいと思います。問いやアイデアは人とのコミュニケーションから生まれやすいので、滑り台じゃなくても庭にビニールプールを置くとか、リビングが広くて人を招きやすいとか、人とのつながりをはぐくむきっかけや開放性があるといいですね。ただし、物事を探究するときは、自分自身と向き合うことが必要です。他との交わりを断って内にこもるような、秘密をもてることは大事です。開放性と閉鎖性、どちらが欠けてもいけないと思います。

松井さんのFavorite time~当時のお気に入りの過ごし方
(左)タイムカプセルのような離れの物置を探検。江戸川乱歩の小説や、ブリキのおもちゃなどを発掘しては、自室に持ち帰り楽しんだ(右)考えた物語を妹に伝え、リカちゃんや怪獣のおもちゃで小さな劇団ごっこをして遊んだ。妹にはお兄ちゃん風を吹かせていたそう(イラスト/3rdeye)

(左)タイムカプセルのような離れの物置を探検。江戸川乱歩の小説や、ブリキのおもちゃなどを発掘しては、自室に持ち帰り楽しんだ(右)考えた物語を妹に伝え、リカちゃんや怪獣のおもちゃで小さな劇団ごっこをして遊んだ。妹にはお兄ちゃん風を吹かせていたそう(イラスト/3rdeye)

松井さんのHINT FOR KIDS~子どもたちへのヒント
好奇心を養い、問いを見つけるには、人と交流したり刺激を受けたりするような、遊び心のある空間は大事です。しかしそれだけでは、人の顔を見て右往左往する、世の中の関心事に引っ張られるような人になってしまう恐れが。時には外からの刺激を遮断してみると、安心できますよ。

インタビュー3:“ロボットで「生き物」をつくる研究者”梅舘拓也さん●プロフィール:梅舘拓也さん
信州大学学術研究院繊維学系准教授。2005年、名古屋大学工学研究科計算理工学専攻修士課程修了後、一般企業への就職を経て、2009年に東北大学大学院工学研究科学位を取得。2019年より現職

●研究テーマ:日常生活に溶け込む、やわらかいロボットとは?
日常生活や自然環境で活躍する「ソフトロボット」の開発に取り組んでいます。ロボットというと硬い金属製のイメージがあると思いますが、“やわらかい材料”を用いることで、安全かつ自然に生活環境に溶け込めるのではないかと考えています。筋肉や皮膚をどんな素材でつくるか、ロボットをどう自律的に動かすか、ハードウェア、ソフトウェアの両面から研究を重ねています。私が開発した「イモムシ型ロボット」は学習塾で教育用キットとしても活用されています。

梅舘さんに聞いてみました!
Q. 幼少期、どんな家・街で暮らしていましたか?
A. 母屋の向かいに工場があり、そこが遊び場でした

子どものころに暮らしていたのは、田舎の古い一軒家でした。1階で曽祖父母が、2階で僕ら家族が生活していましたね。2階には4つ部屋がありましたが、ふすまを開けると全部つながるんです。だから、プラレールの線路で全部屋を結ぶなど、空間をフルに使って遊んでいましたよ。また、母屋から道路を挟んだ向かい側には、祖父母が営む製材工場がありました。空き地と隣り合っていて、そこでもよく友達と遊びましたが、工場自体もよい遊び場でしたね。
流行りのおもちゃをほとんど買ってもらえない家だったので、欲しいものは工場で手づくりするんです。転がっている端材を使って、磁石で走る車とか、天体観測用のキットなんかをつくったのを覚えています。今思えば、おもちゃを買ってくれなかったのは、母の教育方針だったのかもしれませんね。自分で創意工夫する力を育てようとしてくれていたのだと思います。

ふすまで全室をつなげて、プラレールなどを楽しむことができる間取り(イラスト/3rdeye)

ふすまで全室をつなげて、プラレールなどを楽しむことができる間取り(イラスト/3rdeye)

Q. 家がご自身にどんな影響を与えましたか?
A. 学んで成功に近づく面白さに気付きました

欲しいものを自作したといっても、実際は失敗だらけ。頭にある完成形の4~6割くらいのものしかつくれませんでした。でも、そこで満足できなかったからこそ、新たに知識を得て完成度を引き上げていく楽しさに気付けたんじゃないでしょうか。思い出深いのは、小学生の時に母に連れて行かれた近所の電機メーカーのワークショップ。イチからスピーカーを組みました。自分がつくったものから音が出ることに感動し、将来は「もっとすごい何かをつくりたい」と思えた、大きな出来事でしたね。

Q. 子どもにどんな家を与えたいですか?
A. 試行錯誤してモノづくりができる空間を

僕でいう資材工場にあたる場所は与えてあげたい。それも、家族で何かをつくるスペースがいいですね。ガレージに作業場を設け、みんなで囲む机を置きたいです。そして、そこで子どもたちと遊びたい。僕には3人の子どもがいて、今の家でも色々とつくっていますよ。小2の息子はCADソフトで図面を引いて、3Dプリンターでおもちゃをつくっています。何でも簡単に手に入れるのではなく、まずは自分で試行錯誤する人になってほしい。そんな願いどおりに育ってくれているのかなと思います。

梅舘さんのFavorite time~当時のお気に入りの過ごし方
(左)小学校低学年からは資材工場に入りびたり、ものづくりに没頭。不要になった電気製品などを分解するのも好きだった(右)土間の上に釜が置かれた昔ながらの台所では、曽祖父母たちと餅をつくなど、多世代に渡る交流を楽しんでいた(イラスト/3rdeye)

(左)小学校低学年からは資材工場に入りびたり、ものづくりに没頭。不要になった電気製品などを分解するのも好きだった(右)土間の上に釜が置かれた昔ながらの台所では、曽祖父母たちと餅をつくなど、多世代に渡る交流を楽しんでいた(イラスト/3rdeye)

梅舘さんのHINT FOR KIDS~子どもたちへのヒント
大事なのは、何でもまず自分でやってみることです。例えば自転車がパンクしたら、すぐ修理に出さず自分で直してみる。うまくいかなくても、そこで構造や仕組みを覚えることで好奇心が刺激されますし、得意なこと、好きなことが見つかるきっかけになるんじゃないでしょうか。

インタビュー4:“「作品をつくること」を問い直す哲学者”千葉雅也さん●プロフィール:千葉雅也さん
哲学者、作家。立命館大学大学院先端総合学術研究科教授。著書に『動きすぎてはいけない:ジル・ドゥルーズと生成変化の哲学』、『勉強の哲学』、『意味がない無意味』、『アメリカ紀行』、『デッドライン』などがある

●研究テーマ:作品をつくるとはどういうことか?
作品と聞いて何を思い浮かべますか?一般的に作品とは広く「work」を指しますが、芸術作品ばかりでなく、研究、仕事、手仕事など、区切りのある仕事や作品の一切を「work≒仕事≒作品」として、“作品をつくるとはどういうことか”を根本的に問い直しています。広い意味で「work」の哲学を考えているのです。そして、「作品をつくる」「仕事を完了させる」「形にする」ための哲学、方法を探究し、シェアすることで、「つくり方を哲学する方法論」を民主化したいと考えています。

千葉さんに聞いてみました!
Q. 幼少期、どんな家・街で暮らしていましたか?
A. 離れにあった「パパのアトリエ」がお気に入りでした

8歳まで住んでいたのは、2階建ての古い家。そこに祖父母と両親、僕と妹が生活していました。遊び場だったリビングには図鑑がたくさんありましたね。親戚のおじさんがお年玉代わりに、生物の図鑑などをプレゼントしてくれたのを覚えています。
当時、自分の部屋はありませんでしたが、「離れ」があって、そこでよく遊んでいました。多趣味な父親の隠れ家、遊び場のようなところで、母屋2階のベランダから階段で入れるようになっていたんです。オーディオマニアの父は壁にJBLのスピーカーを埋め込んで、部屋の音響にもこだわっていました。ほかにも、ラジコンや電子工作など色々な遊びを教えてもらいましたよ。「パパのアトリエ」と呼んでいたその空間で父親と同じ趣味を共有する。「アンプの真空管を変えたら音がどう変わるか」みたいなことを教わるのがとにかく楽しくて。素敵な時間でしたね。

お気に入りの「パパのアトリエ」でよく遊んでいた幼少期の千葉さん宅(イラスト/3rdeye)

お気に入りの「パパのアトリエ」でよく遊んでいた幼少期の千葉さん宅(イラスト/3rdeye)

Q. 家がご自身にどんな影響を与えましたか?
A. 両親を見て「本気で遊ぶ」楽しさを知りました

そんなふうに親が趣味に没頭する姿を間近で見て育ちました。母親も絵が好きで、自作の絵を部屋に飾ったりしていましたからね。僕の両親は子どもと「遊んであげる」のではなく、子どもを自分の遊びのプロジェクトに巻き込んでいるところがあった。
改めて振り返ると、僕もそんな両親に感化されましたね。父の姿を見て、僕も本気で遊ぶ大人になろうと思ったし、母の影響で僕も描いた絵を飾るようになった。大人の本気に圧倒されるなかで、自分の価値観や創造性が育っていった気がします。

Q. 子どもにどんな家を与えたいですか?
A. 親子で一緒に没頭できる空間がある家

遊びが大事とはいえ、個室で一人黙々と趣味に勤しむだけでは、クリエイティブな展開につながりづらいのではないかと思います。ですから僕にとっての「パパのアトリエ」や母親と絵を描いたリビングなど、誰かと一緒に何かをやる空間があるといいですよね。
そして、親はそこで子どもが興味をもったこと、何かを集めたり、うんちくを語ったりしているのを受け止めてあげることが大事。そんなコミュニケーションが、子どもの探究力をさらに伸ばすカギになるのではないでしょうか。

千葉さんのFavorite time~当時のお気に入りの過ごし方
(左)男の子が憧れそうなものは何でもあったという離れのアトリエ。帰りの遅い父親を待って、ここで一緒に遊ぶのが何よりの楽しみだった(右)中学からはMacが一番のおもちゃに。プログラミングなどをして遊んだ。創造性を育む道具は惜しみなく与えてくれる両親だったそう(イラスト/3rdeye)

(左)男の子が憧れそうなものは何でもあったという離れのアトリエ。帰りの遅い父親を待って、ここで一緒に遊ぶのが何よりの楽しみだった(右)中学からはMacが一番のおもちゃに。プログラミングなどをして遊んだ。創造性を育む道具は惜しみなく与えてくれる両親だったそう(イラスト/3rdeye)

千葉さんのHINT FOR KIDS~子どもたちへのヒント
よく遊んでほしいです。家に自分の部屋がないなら「空間を遊び場化」させればいい。家にあるものを障害物に見立て「シューティングゲームごっこ」をしたりね。遊び場がない、ゲームを買ってもらえない。そんな状況でこそ、想像力を働かせてほしいです。

子どもの探究力をはぐくむ家のアイデア7

第一線で活躍する研究者のインタビューを通じて「身近に想像力を刺激するものがある」「多くの人と接する」
「自分だけの空間をもつ」など、子どもの探究力を伸ばす家の共通点が浮かんできた。家探しの参考にしてほしい。

本棚ならぬ“本壁”がある
壁一面の本棚で、絵本や図鑑、文学、写真集など、さまざまな本を家族で共有しよう。本を通じた意外な出合いが子どもの好奇心や想像力につながる。難しければ、図書館の近くに住むのもひとつの手(画像提供/@morningsun3480)

壁一面の本棚で、絵本や図鑑、文学、写真集など、さまざまな本を家族で共有しよう。本を通じた意外な出合いが子どもの好奇心や想像力につながる。難しければ、図書館の近くに住むのもひとつの手(画像提供/@morningsun3480)

秘密基地がある
好奇心のタネを、子どもがひとり熟成できる場所を用意したい。一部屋でなくても、ロフトや屋根裏、屋内テントを設置するのもいいだろう(画像提供/@lokki__talo)

好奇心のタネを、子どもがひとり熟成できる場所を用意したい。一部屋でなくても、ロフトや屋根裏、屋内テントを設置するのもいいだろう(画像提供/@lokki__talo)

おうち美術館を開く
子どもの描いた絵や工作を部屋に飾ってみよう。できれば専用の場所を設けるといい。子どもの創作意欲を刺激し、自己肯定感をはぐくむ(画像提供/@uk__502)

子どもの描いた絵や工作を部屋に飾ってみよう。できれば専用の場所を設けるといい。子どもの創作意欲を刺激し、自己肯定感をはぐくむ(画像提供/@uk__502)

自然と身近に触れ合う
山や海に近い環境は理想的だが、利便性との両立が難しい場合も。庭付きの家や、自然公園の近くに住めば、日常生活のなかで自然と触れ合いやすい(画像提供/@589littlegarden)

山や海に近い環境は理想的だが、利便性との両立が難しい場合も。庭付きの家や、自然公園の近くに住めば、日常生活のなかで自然と触れ合いやすい(画像提供/@589littlegarden)

おうちオフィスを構える
大人が本気で取り組む姿を子どもに見せるのに、自宅ワークスペースは最適。最近は共用施設にスタディールームを持つマンションもある(画像提供/Unsplash)

大人が本気で取り組む姿を子どもに見せるのに、自宅ワークスペースは最適。最近は共用施設にスタディールームを持つマンションもある(画像提供/Unsplash)

庭を開いてみる
色々な人とかかわりをもつのに、庭を交流空間として開放するのも一案。マンションなら敷地内公園やキッズルームがある物件もあるので活用して(画像提供/PIXTA)

色々な人とかかわりをもつのに、庭を交流空間として開放するのも一案。マンションなら敷地内公園やキッズルームがある物件もあるので活用して(画像提供/PIXTA)

相棒と暮らす
ペットと一緒に暮らすことで、動物たちの豊かな感情表現が感受性をはぐくみ、子どもに命の尊さを教えてくれる。マンションの場合、ペットの飼育が可能か事前に確認しよう(画像提供/@mattam_interio(r ICHIMIRI))

ペットと一緒に暮らすことで、動物たちの豊かな感情表現が感受性をはぐくみ、子どもに命の尊さを教えてくれる。マンションの場合、ペットの飼育が可能か事前に確認しよう(画像提供/@mattam_interior(ICHIMIRI))

研究者たちの幼少期の住まいや暮らしぶりから、育った環境がその後の成長に大きな影響を与えていることがわかります。人とのつながりをはぐくむリビングや、両親と一緒にものづくりができるアトリエなど子どもの好奇心をかきたてるような住環境に加えて、その好奇心を受け止める家族の存在がより“子どもの探究力”を伸ばすのかもしれません。

●スタディサプリ
スタディサプリよりお知らせ

・スタディサプリ三賢人の学問探究ノート(1)人間を究める
・スタディサプリ三賢人の学問探究ノート(2)社会を究める
・スタディサプリ三賢人の学問探究ノート(3)生命を究める

取材・文/小野雅彦(長谷川眞理子さん)、寺井真理(松井広志さん)、やじろべえ榎並紀行(梅舘拓也さん、千葉雅也さん)
※この記事はSUUMOマガジン2020年5月27日発売号からの提供記事です

子育てのIT活用はどこまで進んだ? 保育園専用や育児用アプリの現状と課題

スマートフォンの普及に伴い、便利さや効率の良さを求めて、パパ・ママたちの「子育てのIT活用」が進みつつあります。保育園では私立を中心に「保育園アプリ」を導入するところも増えてきました。

そこで今回はITジャーナリストの高橋暁子さんにお話を伺い、保育園専用や育児用のアプリを紹介しながら、そのメリットを探っていきたいと思います。
パパ・ママと保育園が時短で情報共有。注目の保育園専用アプリ

保育園アプリの主なサービスとしては、連絡帳としての機能や写真の共有などがあります。

「保育園アプリを使えば、保護者は仕事の隙間時間で子どもの様子が確認できる。園側も、朝の個別の電話対応や育児日誌に手書きで書き込む手間がなくなるので、仕事に忙殺されなくて済む。メリットは双方にとって本当に多いですね」(高橋さん)

高橋さんのママ友の体験談では、「仕事中に、保育園アプリで園から、『本日、〇〇ちゃんはちょっと咳こんでいました』と連絡があったのを確認。社内ですぐ小児科に予約をして、その日のうちに病院に受診できた」とのこと。

お迎えのときに知らされた場合は、間に合わなかったかもしれません。保育園アプリが活躍する、いい例ではないでしょうか。

ITジャーナリストの高橋暁子さん(写真撮影/斉藤カオリ)

ITジャーナリストの高橋暁子さん(写真撮影/斉藤カオリ)

高橋さんがおすすめする保育園専用アプリは「コドモン」と「キッズリー」です。

株式会社コドモンが提供するアプリ「コドモン」は、ICカードとタブレット端末を使い、入退室の時間を正確に記録して、保護者に通知。ファミリーサポートなど、パパ・ママ以外の人に子どもの送迎をお願いしたときには特に安心感があります。

2019年4月に利用施設3000園を突破した、子育て施設業務支援システム「コドモン」。つまり、日本全国の保育所など34763施設(※厚生労働省発表)の約10%で導入が実現していることになる

2019年4月に利用施設3000園を突破した、子育て施設業務支援システム「コドモン」。つまり、日本全国の保育所など34763施設(※厚生労働省発表)の約10%で導入が実現していることになる

また、緊急の連絡にも対応し、「言った、言わない」などの伝達ミスも避けられます。さらに、毎回のお便りや写真の配布などがペーパーレスになり、保護者はアプリ上で各自確認することができます。

園内での様子を先生が撮影して共有された写真は各自で好きなものを注文してもらい、郵送されます。パパ・ママは子どもの様子を写真で確認でき、欲しいものを選べてとても便利です。

保育園側にとっても、保育士さんたちの仕事の効率を格段にアップさせるのに役立っているようです。例えば、指導案・要録作成や保育料の計算、子どもの給食管理など、多数の機能がついていて充実しています。

2016年度グッドデザイン賞を受賞した、ユニファ株式会社の保育園専用アプリ「キッズリー」はかわいい見た目で使いやすい設計。保育園からの連絡が保護者のほか、登録すれば祖父母にも届くしくみです。

「キッズリー」は園児の登園から遅刻、欠席状況をママも保育園も共有。朝の慌ただしい時間でもスマートに報告、連絡できる。その日あったことはアプリの連絡帳でお迎えまでに届けられるから、パパ・ママと保育者の会話も弾む

「キッズリー」は園児の登園から遅刻、欠席状況をママも保育園も共有。朝の慌ただしい時間でもスマートに報告、連絡できる。その日あったことはアプリの連絡帳でお迎えまでに届けられるから、パパ・ママと保育者の会話も弾む

登園・欠席・遅刻などの連絡から、緊急連絡の場合などはアラートで知らせる機能もついています。
「園からのお知らせ」ではスピーディーに連絡が届き、「カレンダー」機能では、運動会やクリスマス会などのイベント情報が入るため、前もってイベントの日を知ることができます。「保育園とママのコミュニケーション」に特化した、連絡帳を中心とした機能が充実。必要な機能が分かりやすく、保護者が使いやすいのが特徴です。

保育園専用アプリだけじゃない。話題の子育て×IT活用

保育園専用アプリ以外でも「快適な子育てを支援するIT活用」として、ぜひ注目したいアプリとして高橋さんが2つ教えてくれました。

まずは、株式会社ファーストアセントが提供する「パパっと育児@赤ちゃん手帳」というアプリです。これは、0歳~6歳くらいまでの子どもの成長記録がグラフによって見える化でき、無料でバックアップ機能が付いていたり、記録が電子書籍にできたりと、便利で優秀なアプリです。

「パパっと育児@赤ちゃん手帳」の「泣き声診断」機能。これを使えば、初めて育児をするパパやママも、泣いている赤ちゃんの気持ちが分かって一安心

「パパっと育児@赤ちゃん手帳」の「泣き声診断」機能。これを使えば、初めて育児をするパパやママも、泣いている赤ちゃんの気持ちが分かって一安心

注目すべきは「泣き声診断」という機能。赤ちゃんの泣き声を聞くだけで、どんな気持ちなのかが分かる機能です。約2万人のモニターから集めた泣き声データを元に、赤ちゃんの泣き声から「お腹がすいたよ」などの感情が分かるというもの。モニター評価では正答率は80%との結果が出ています。初めてママになる人なら、赤ちゃんの気持ちが分かると育児もしやすくなるでしょう。

2つ目は、株式会社AsMamaの「子育てシェア」です。これは、知人間共助のアプリで、知っている人だからこそ、親も子どもも安心できる「送迎や託児のシェア」が依頼できるというもの。基本無料で登録でき、万が一のときは保険加入もできます。

さらに、相互の人間関係を深めるために、おさがりの洋服の受け渡し、教科書やおもちゃなどの貸し借りなどのシェアもこのアプリ内で可能です。

また、ごはんやお出かけなどに誘い合う「予定のシェア」もでき、家族ぐるみの楽しい時間の共有もできます。このアプリを使えば、近隣に頼れるママ友がいなくても、サポートし合える関係を無理なくつくることができます。

「託児送迎をシェアできる関係がアプリでできれば、こんなに心強いことはありません。政府が推進する『シェアリング・エコノミー』(個人が保有する遊休資産〔無形のものも含む〕の貸出しを仲介するサービス。総務省より)の活用とも言えます」(高橋さん)

近くに頼れるママ友がいないという人も多いと思います。しかし、今では人間関係の構築もITによって可能なのです。子育てママにとっては、かなり利用価値の高いアプリではないでしょうか。

高橋さんによると「2011年の3月11日に起こった、東日本大震災のとき、安否の確認は電話では繋がりにくくなり、到底無理な状況でした。でも、ITの情報技術なら連絡が取れ、子どもの安否も確認できたんです」とのこと。

また、成人の95%がスマホを持っていると言われ、保育園アプリも普及してきている現在も、課題はあります。

「『保護者のスマホの保持率が100%ではないこと』によって、実は妨げになっている部分もあります。スマホを持っていないパパ・ママには、出欠や連絡などの個別の対応をしなくてはなりません。それも手間にはなりますし、対応として、スマホを持つか持たないかの部分で差別になるのもいけないので、完全普及までは難しいのが現状です。
保護者でも、“スマホを使いこなせない”人もいれば“スマホが好きではないので、昔ながらの携帯電話しか持たない”人もいます。その部分はどうしても個人の感覚によるものなので、統一は不可能でしょう」(高橋さん)

便利なだけでなく、いざというときの子どもの状況も確認しやすい「子育てのIT活用」。スマートフォンを持っていない人への対応などの課題を解決しながら、今後は便利&快適に拡大していってほしいと思います。

●取材協力
・ITジャーナリスト 高橋暁子さん

「子どもをもつ、もたない」人生、どっちが幸せと言えるの? 窪美澄の新刊『いるいないみらい』インタビュー

子どもをもつ、もたないという選択は、多くの人が人生のなかで直面することです。そして、2011年ころから使われ始めた「妊活」という言葉は、それをより突きつけるものかもしれません。でも果たして、「子どもをもつ、もたない」が幸せの尺度だと言えるのでしょうか。第161回直木賞候補作である『トリニティ』や『じっと手を見る』などで知られる作家・窪美澄(くぼみすみ)さんの新刊『いるいないみらい』では、「子どもをもつ、もたない」の選択に直面し、家族のカタチを考える人たちが描かれています。
窪さん自身は離婚を経験し、シングルマザーになってからライター活動をはじめ、子育てを経験されています。自身が経験したことと、作品に出てくる登場人物の人生、それぞれを聞いてみました。
家族のカタチを模索しながら、懸命に生きる人々を描く作品

――著書『いるいないみらい』は、どのような背景があって書かれたのでしょうか。

もともと私は女性の妊娠や出産などをテーマに書くことが多かったのですが、今回は「妊娠や出産以前、子どもをもつかもたないか、迷っている人たちの物語を書いてみませんか」と編集者に提案されたんですね。そのことで悩んだり、考えているうちに時期が過ぎてしまったり、子どもをもつことはできたけど亡くしてしまったりという人たちを書きました。それぞれ悩みながらも一生懸命生きる人々の姿を書こうと思いました。

『いるいないみらい』(窪美澄 著、KADOKAWA刊)

『いるいないみらい』(窪美澄 著、KADOKAWA刊)

――1話の「1DKとメロンパン」のように、子どもに関する考え方の違いで悩む夫婦は実際にも少なくないと思います。「子どもをもつ、もたない」ということについて、窪さんはどのようにとらえているのでしょうか。

私が考えるのは、「子どもがいる人生だけが絶対的な幸せではない」ということです。子どもがいなくても不幸せではないし、何かが欠けているわけでもないと思います。世間では子どもをもつ家庭が完璧な丸のようなイメージがあるかもしれませんが、実際はそうとも限らない。
「1DKとメロンパン」の夫婦もそうですが、たとえ子どもというパーツがなかったとしても、カップルや夫婦二人だけでも、もちろん一人であっても、十分丸く満たされていますよ、ということを思いますね。

――「子どもをもつ自信がない」「子どもが嫌い」という女性のお話や、男性の不妊治療についてのお話もありますね。

そうですね。「私は子どもが大嫌い」のお話の主人公のように、「子どもが嫌い」という価値観も全然アリだと思うんです。でもなかなか言いにくいことじゃないですか。子どもが嫌いっていうとヒトデナシ、のような目で見られがちですよね。でも、子どもに興味がない女性だって実際はいるわけです。みんながみんな子どもが好き、と思うほうが間違っていると思います。

少子化などの問題があって国は「子どもは二人以上産むべき」みたいな風潮がありますが、私は少し反発があって。押し付けのように感じることがありますね。だって産みたかったけれどタイミングが合わなかったり、産めたけどあえて産まなかった選択をすることもあるわけでしょう。子どもをつくる、つくらないの選択の自由はあっていいはずだと思うんですね。

私は今回の作品を書くにあたってほとんど取材はしていないんですが、第2話「無花果のレジデンス」だけ、不妊治療の男性のお話を聞きに行きました。不妊治療は女性ばかりがクローズアップされるけれど、子どもをつくろうとなったときに、実際は男性不妊の治療も女性と同様に大変。だけどなかなか知られていない部分がありますよね。性別で分けるのは間違っているかもしれないけれど、もしかしたら男性不妊のほうが、告げられる側としてのショックは大きいのかもしれないと思いました。

当事者の気持ちを大事に。世間の価値観で生きる必要はない

――窪さんがこうしたさまざまな価値観を世の中に広く伝えたいと思うようになったバックグラウンドをお聞きしてもよいでしょうか。また、窪さんは自身の人生で世間の価値観を押し付けられたり、「これは違うでしょ」と感じたりした経験はありますか。

私の両親は、離婚して12歳のときに母親が出ていってしまって。その年齢で今の自分の状況を周りに説明するのが難しかったという経験があります。だからかもしれませんが、片親だから何だ、のような反骨精神が昔からありました。「世間の風潮や意見はこうだけど」と周りから言われても、当事者が感じていることがすべてだと気づいてからはスルーできるようになりました。子どものころからスルースキルを身に付けた感じです。

結婚して出産したあと、私は離婚を経験し、シングルマザーになりました。息子が中三くらいから書く仕事を始めたのですが、仕事が忙しいときも、朝早くから起きて、朦朧とした頭で息子のためにトンカツを揚げて。思わず指まで揚げそうになりました。毎日のお弁当に加えて、部活後にお腹が減るのでおにぎりを持たせるんですが、10kgのお米があっという間になくなって、それも大変でしたね。

いくらスルースキルを身に付けたと言っても、息子を片親にしてしまったことの責任は感じてはいます。でも、息子の学費も払ったし、卒業できたし、とりあえずは大丈夫だったと思っています。

また、子育て中の記憶では、街の八百屋のおじちゃんとかが息子に「おう、歩けるようになったか坊主!」なんて声をかけてくれることがよくあって。それはうれしかったですね。血縁は関係なく「街に家族がいるような感覚」で育てていけたのも良かったと思います。

今私は一人暮らしですが、とても楽しく過ごしています。でも周りから「一人で大丈夫?」「寂しくないの?」などの世間の多数派の見方で心配されることには違和感があります。今回の小説の登場人物たちもそうですが、人それぞれ見方は違うし、感じることも違います。どんな人生を生きても、当事者である自分の気持ちを大切にするべきだと思います。

(写真撮影/片山貴博)

(写真撮影/片山貴博)

――息子さんを育て上げた窪さんですが、息子さんの妊娠中などに「子どもをもつことに不安を感じる」ことはなかったのでしょうか。

実は私、最初の子を産んで18日で亡くしているんですね。今いる息子は二人目なんです。一度、子どもの死を経験してしまったので、子どもが大きくなるまではとても怖かったです。実際に何かあったらどうしよう、病気になったらどうしよう、など不安がつきまといましたね。

最初の子は今生きていたら28歳なんですけど、仕事で出会う若い編集者さんを見ると「あ、うちの息子は今生きていたらこのくらいなんだ」と思ってビックリすることがあります。

第4話「ほおずきを鳴らす」のなかで、子どもを亡くした男性の主人公が出てくるのですが、今回の作品のなかで一番実体験の心情を投影したストーリーだったかもしれませんね。

家は、その人の暮らしぶりのベース、気持ちも変えるツール

――第1話「1DKとメロンパン」というタイトルや、エピソードの中に必ず家の特徴や間取り、街の描写があるなど、窪さん自身も家がお好きなのでしょうか。

そうですね。家を見るのは結構好きです。家の間取りもよく見たりしますね。ちなみに私はつい2カ月前に引越したばかりなんです。場所は直前に住んでいた家から20m先の隣のマンション。それまでは8階建ての3階だったんですけど、そばに建物が建ってしまって。日当たりが悪くなって穴蔵みたいになってしまったので、仕事するには落ち着くのですが、やっぱり普段は日当たりがある部屋がいいですよね。今は13階建ての10階です。日当たりはいいし、眺めもいいんですけど、眺めはしばらくすると飽きますね(笑)。

――家の特徴や間取りを描写されることには、どのような意図がありますか?

私は登場人物のバックボーンをしっかり考える作家でありたいと思っているのですが、今回の登場人物を考えるときに、「その人たちがどんな家に住んでいるのかを書こう」という裏テーマがありました。このぐらいの年収だったらこのくらいの部屋かなとか、この人たちだったらこういう間取りの家だろうな、などを考えてストーリーに入れていきました。細かな部屋の間取りが分からないと主人公たちの行動をなかなか追えないんですよね。家がその人の暮らしのベースになるわけですから。

「無花果のレジデンス」の参考にした稲城市(画像/PIXTA)

「無花果のレジデンス」の参考にした稲城市(画像/PIXTA)

――各ストーリー内の舞台として想定している地域はありましたか。

そうですね、きっちり決まってはいないんですけど、「無花果のレジデンス」のお話ではファミリータイプのマンションが並ぶ地域であり、自分が生まれ育った稲城市を参考にしました。あのあたりはどのマンションも子ども二人くらい生まれるとちょうどよい3LDKの間取りなので、「育児を想定して買った場合、子どもがいなかったらツライかもなあ」とは思いましたね。
あとはメロンパンを売るパン屋さんのある街は、何となく東京の東側のイメージがあります。自分の知っている街を思い浮かべることが多いのでどうしても東京のイメージになって書くことが多いですね。

これからの未来を見据えて、自分の希望とする「家族の形」を模索している人はたくさんいると思います。ただ、今回の窪さんのインタビューを通して感じたことは「幸せって未来にくるものではなく、すでにこの場にあるもの」ということでした。今、そばにいてくれるパートナーや親兄弟、友人、自分を丸ごと受け入れてくれる人たち。その人たちが、今の自分のほっこりとした丸い幸せをつくってくれているということ。未来は「子どもをもつ、もたない」の選択肢があるかもしれないけれど、それはタイミングやパートナーの意見、いろんな条件が合わさって決まるということ。そして、どんな未来を選んだとしても、それは「今の幸せの延長」なのだということ。

「子ども」というパーツがあってもなくても、今の幸せは欠けることなく続いていくのでしょう。どんな未来があってもいい。いろんな家族があっていい。そう、窪さんに教えていただいたような気がしました。

●プロフィール
窪 美澄
1965年、東京都生まれ。フリーの編集ライターを経て、2009年「ミクマリ」で第8回女による女のためのR-18文学賞大賞を受賞しデビュー。11年、受賞作を収録した『ふがいない僕は空を見た』で第24回山本周五郎賞を受賞、本屋大賞第2位に選ばれた。12年、『晴天の迷いクジラ』で第3回山田風太郎賞を受賞。その他の著書に『クラウドクラスターを愛する方法』『アニバーサリー』『雨のなまえ』『よるのふくらみ』『水やりはいつも深夜だけど』『さよなら、ニルヴァーナ』『アカガミ』『すみなれたからだで』『やめるときも、すこやかなるときも』『じっと手を見る』『トリニティ』などがある。

「つながりシェア保育園・よよぎうえはら」とは? 地域やシェアハウス住人と一緒に行う新しい子育ての形

共働きで小さな子どもがいれば、引越しの際のポイントのひとつとして「保育園」を挙げる家庭も多いのではないだろうか。待機児童などの問題はあれど、子どもにとっての “もうひとつの家”の環境には、できるだけこだわりたいもの。保育園ごとにさまざまな特色があるが、東京都渋谷区にある「つながりシェア保育園・よよぎうえはら」は、“シェア”がテーマとなっているユニークな保育園だ。
「つながりシェア保育園・よよぎうえはら」とは?「つながりシェア保育園・よよぎうえはら」学校法人正和学園 理事長・齋藤祐善さん(中央)、施設長・佐藤喜美子さん(左)、まち暮らし不動産 代表取締役・齊藤志野歩さん(右)(写真撮影/片山貴博)

「つながりシェア保育園・よよぎうえはら」学校法人正和学園 理事長・齋藤祐善さん(中央)、施設長・佐藤喜美子さん(左)、まち暮らし不動産 代表取締役・齊藤志野歩さん(右)(写真撮影/片山貴博)

2017年に不動産に特化した投資型クラウドファンディングのプラットフォーム「クラウドリアルティ」上で資金を募り、申込金額は1億7400万円を達成。準備期間を経て2019年2月に開園した「つながりシェア保育園・よよぎうえはら」は、“日本初のクラウドファンディング保育園”として話題になった。

代々木上原から徒歩約10分。閑静な住宅街の中にあるレンガ造りの建物の1階が「つながりシェア保育園・よよぎうえはら」だ。園内は、仕切りが少なく、異年齢の子どもたちがのびのびと遊ぶことができ、明るく開放的だ。都心部でありながら周辺環境にも恵まれ、近隣の東京大学や駒場公園などにお散歩に行くのだとか。月極での契約のほか一時保育も利用可能で、海外在住の親子が日本滞在中に利用者することもあるとのこと。
地下1階は、通常は事務所として使われているが、イベントスペースとしても活用できる設計になっている。
2・3階はシェアハウスで、現在2家族が入居中。子どもを1階の保育園に預けることができれば通園時間も大幅に短縮できる。複数の家族がともに子育てをする“大きな家族”を育むことができるのは、共働きの家庭にはメリットも大きいだろう。将来的には一部を民泊としても貸し出す予定で、希望があれば民泊宿泊者と保育園の交流も行っていきたいという。

「つながりシェア保育園・よよぎうえはら」外観(写真撮影/片山貴博)

「つながりシェア保育園・よよぎうえはら」外観(写真撮影/片山貴博)

この保育園の大きな特徴は、施設名のように“子育てをシェアする”というメッセージだ。行事は保育園関係者だけで行うのではなく、近隣住民・親子、クラウドファンディングの出資者、この保育園のメッセージに共感してくれる人たちなどに開かれたものにしていく計画だという。多くの人と触れ合うことによって子どもには大きな刺激となるだろうし、孤独になりがちで悩むことの多い子育て世代や地域の交流の場ともなるだろう。

「ほかの保育園との一番大きな違いが、その名称のとおり、人とのつながり、生活そのものをシェアしていくという発想で運営しているところです。渋谷区はシェアリングエコノミーに対して積極的に取り組んでいる自治体のひとつ。そして、そのような事柄に感度の高い人がたくさん住んでいます。そのため、保育園にシェアハウスを併設して、保育園自体も社会に開いていくという形が取れないかと考えました。ただ地域や社会とつながりをもつだけではなく、さらに生活そのものをシェアしていくことで、子どもたちの成長の共有はもちろん、お母さん同士のコミュニティづくりもさらに一歩踏み出していければと思っています」(理事長・齋藤さん)

つながりをイメージしたサインもかわいい(写真撮影/片山貴博)

つながりをイメージしたサインもかわいい(写真撮影/片山貴博)

日本初のクラウドファンディング保育園

クラウドファンディングではわずか10日で目標金額を達成したことからも、“子育てをシェアする”というメッセージは、多くの人に共感・支持されていることが分かる。
「保育園を開園する際、銀行から資金を借りるのが通常のルートだと思うのですが、あえてクラウドファンディングという手法を使ったのは、仲間を増やしたかったからなんです。今回の大きなチャレンジのひとつが、保育園というハードウェアの所有をシェアすること。クラウドファンディングを使って出資者から集めた資金でファンドを組成し、クラウドリアルティさんの子会社がその資金をもとに土地を購入して、我々の学校法人がその土地をお借りするという形になるので、ここは実質的には出資していただいた数百名の方々がみんなで持っている保育園なんです。保育園で何かするときにも、出資者に声がけができるユーザーグループを持ったことが大きなポイントだと思っています。開園直前にはみんなで棚をつくったり、シェアハウスに置く本を持ち寄ったりしました。
通常の保育園だと、サービス提供者=保育園とサービス受給者=保護者・児童という関係性ができてしまうことも多いですが、ここの出資者はお金のみならず気持ちもコミットしている。そういう関係性が一番欲しかったんです。今後は、出資者の方々が時折遊びにきて一緒におやつを食べたり、一緒に遊んだりする機会を積極的につくっていきたいと思います。もちろん、まだ開園したばかりで課題もたくさんあるのですが、そのきっかけづくりはできたかなと思っています」(理事長・齋藤さん)

子どもがいることで、社会は素敵に、より安全になる保護者にその日の様子が分かるように、保育園入口横には給食のメニューやその日撮影された園児の写真などが掲示されている(写真撮影/片山貴博)

保護者にその日の様子が分かるように、保育園入口横には給食のメニューやその日撮影された園児の写真などが掲示されている(写真撮影/片山貴博)

子育てを社会や地域とシェアする。そのテーマは、保育園の内装にも表れている。光がたくさん入る大きな窓や床の一部に屋外に使うことが多いテラコッタ素材を使用して外部とのつながり感を演出した内部は、子どもはもちろん、大人も長居してしまいそうな居心地のいい空間。保育室も仕切りがなく広々としていて、子どもたちにも自然と兄弟のような関係性が生まれている。
「例えば、低年齢の子がバウンサーで泣いていると、上の子が近寄ってきてバウンサーを揺らしてあげたり、おもちゃを持ってきてあやしてあげたりしています。食事も、給食の先生含めて保育士・子どもみんなで食べていますので、『おいしいね』『もう少したべたら?』など自然と声をかけあいます。幼稚園の後に一時保育でくる子もいるのですが、保育園に入ってくるとみんなで『おかえり!』と声をかけたりして、本当に大きな家の家族のような感じです」(施設長・佐藤さん)

シェアハウス入口前のテラスには、保育園の園芸部の鉢植えが。「私と2歳の子のふたりの園芸部です(笑)。シェアハウス入口のテラスでトマトやきゅうりを育てています。毎日時間になると、『先生、園芸部の活動の時間だよ』と声をかけてくれて、毎日一緒にお水をあげています」(施設長・佐藤さん)(写真撮影/片山貴博)

シェアハウス入口前のテラスには、保育園の園芸部の鉢植えが。「私と2歳の子のふたりの園芸部です(笑)。シェアハウス入口のテラスでトマトやきゅうりを育てています。毎日時間になると、『先生、園芸部の活動の時間だよ』と声をかけてくれて、毎日一緒にお水をあげています」(施設長・佐藤さん)(写真撮影/片山貴博)

「“自分はここにいていいんだ”という安心感や所属感は、今の時代に欠けていると思うんです。特に、最近は痛ましい事故が相次いでいますよね。1990年代に学校での事件が相次いだときは、国から180cm以上のフェンスで学校のまわりを囲めという通達が出て、全国の学校・幼稚園・保育園はそのようになった。ただ、それによって地域と隔絶してしまったので、その断絶をどのように埋めるかがこの数十年のテーマだったんです。行政は、フェンスの件やお散歩などのルート改善など事件・事故を未然に防ぐための通達を出します。
もちろんそれも大切ですが、私たちは施設だけが子どもを守るということではなく、社会全体で子どもが大切だと認識して守っていくことが重要だと考えています。『つながりシェア保育園』はその最前線にいる砦。事件・事故が起こることで子どもたちを守ろうとするが故に施設に縮こまっていくのではなく、『みなさん、子どもたちと一緒に安全な地域をつくっていきましょう』と呼びかけていきたいんです。
だから、保育士には施設に閉じないようにとよく言っています。社会の中に子どもがいて、子どもがいることで社会はより素敵なものになるということをこの施設からも発信していく必要があるからです。それを徹底してやることで、地域の目も浸透してきて、子どもの安全も確保されていくと思います。このような考えの味方としてクラウドファンディングの出資者がいるということは、私たちの大きな力になっています」(理事長・齋藤さん)

子育てのハブとなる保育園を目指してシェアハウスのリビング(写真提供/まち暮らし不動産)

シェアハウスのリビング(写真提供/まち暮らし不動産)

シェア保育園が提唱する“拡張家族”の概念は、海外に住む保護者からも支持されているようだ。
「先日、お母さんが日本人、お父さんがアメリカ人で、アメリカ在住のお子さんを一時保育でお預かりしたんです。そうしたら非常に喜んでいただいて、『アメリカに帰ったらみんなに宣伝する!』と言ってくださったんです(笑)。『つながりシェア保育園』には英語を話せる保育士もいますし、親御さんが海外の方のお子さんをお預かりすることもあります。日本だけではなくて世界ともつながっていく。これからは、もっとグローバルな関係性もつくれるといいなと思っています」(施設長・佐藤さん)

シェアハウス内観。天窓から注ぐたくさんの光と木の匂いに癒やされる明るい室内。シェアハウスに住むAさんは、1階にある保育園で働き、子どもも預けている。「通勤時間は30秒。“職住近接”ならぬ“職住直接”です(笑)。1階で保育士として働いていますから、なおさら日常の暮らしと仕事、子育てなどのすべてが、つながっているのだと実感しています」(撮影/片山貴博)

シェアハウス内観。天窓から注ぐたくさんの光と木の匂いに癒やされる明るい室内。シェアハウスに住むAさんは、1階にある保育園で働き、子どもも預けている。「通勤時間は30秒。“職住近接”ならぬ“職住直接”です(笑)。1階で保育士として働いていますから、なおさら日常の暮らしと仕事、子育てなどのすべてが、つながっているのだと実感しています」(撮影/片山貴博)

(写真提供/まち暮らし不動産)

(写真提供/まち暮らし不動産)

子ども用トイレがシェアハウスの脱衣所にあるのも特徴的(撮影/片山貴博)

子ども用トイレがシェアハウスの脱衣所にあるのも特徴的(撮影/片山貴博)

「今後は併設のシェアハウスの一部を民泊として貸し出し、関わる人をもっと増やしたいと思っています。海外の人でも子どもたちと関わっていただいて、子どもに刺激を与えてもらったり、そこでつながった仲間が“子育てをシェアする”という発想を各国で発信するようなきっかけづくりは、この施設の大きなミッションのひとつです。この施設がシェア、保育、子どもの未来などについて考えたいという人たちがつながるハブになりたいと思っています」(理事長・齋藤さん)

シェアハウスの間取り(画像提供/まち暮らし不動産)

シェアハウスの間取り(画像提供/まち暮らし不動産)

民泊として貸し出す予定の部屋(撮影/片山貴博)

民泊として貸し出す予定の部屋(撮影/片山貴博)

子育てをシェアする。「つながりシェア保育園・よよぎうえはら」のテーマが浸透すれば、もっと子育てしやすく、老若男女の笑顔があふれる社会・地域になるだろう。保育園の今後の取り組みに注目し、機会があればぜひイベントに参加して“子育てのシェア”を体感してほしい。そして、この考えが社会全体に浸透していくよう、ひとりひとりがそれぞれの地域で心がけていくのが理想だ。

●取材協力
>学校法人 正和学園「つながりシェア保育園・代々木上原」
>クラウドファンディングプラットフォーム「クラウドリアルティ」
>まち暮らし不動産

入浴後の家事・育児、0歳児を持つ親は平均6.5つ

パナソニック(株)は(株)オールアバウトが協同で、「子育て世帯における冬場の生活実態調査」を行った。調査は2018年10月1日(月)~10月4日(木)、0歳~8歳までの子どもを持つ25歳~40歳の男女を対象にインターネットで実施。426名より回答を得た。
それによると、入浴後に行う家事・育児については、ほぼすべて(97.9%)の親が何らかの家事・育児に従事していることが分かった。内容は「子どもの寝かしつけ」が最も多く63.1%。「子どもの歯磨きをする」62.9%、「夕飯の食器のあと片づけ」46.5%が続く。ほかには、「子供と遊ぶ」46.2%、「子供の髪の毛をとかす」39.0%、「部屋の片付け・掃除」35.9%などがあり、0歳児を持つ親は平均で6.5つの家事・育児を行っていることも分かった。

入浴後から就寝までの所要時間については、「約2時間」が最多で21.4%。次いで「約4時間」20.0%、「約3時間」19.7%と、2時間以上が合わせて8割以上。1時間ほどで就寝ができている割合は母親で19.2%、父親で27.7%にとどまった。また、寝るときに体が「冷え切っていると思う」13.1%、「どちらかというと冷え切っていると思う」43.2%となり、合わせて約半数以上が就寝時までに体が冷え切っていることが明らかになった。特に女性では60.7%が「冷え切っている」「どちらかというと冷え切っていると思う」と回答、多くの女性が「湯冷め」状態に陥っているようだ。

お風呂上りに体を冷やさないよう、リビングの暖房をつけるようにしていますか?という質問では、「つけている」は57.9%と約6割。「つけていない」方も約2割ほどいる結果となった。リビングの室温をどのくらいに調整したらよいと思いますか?では、「20~25度未満」が約半数の49.6%と最も多い。一方で「20度未満」13.3%や、「25~30度以上」30.6%と低めまたは高めの室温を希望する人もいた。

睡眠の状態については、「どちらかというと快眠できていない」30.5%、「快眠できていない」22.5%と感じており、そのうち母親の結果を子どもの年齢別にみると、0~5歳の乳幼児を持つ母親の快眠度が低い。子どもの年齢が低いほど家事・育児の負担や、睡眠中の乳幼児のケアなどに労力がかかっているようだ。

ニュース情報元:パナソニック(株)

子育て世帯の大掃除、2017年末の実施率は63.3%

(株)ダスキン(大阪府吹田市)は、全国の20歳以上の男女計4,160人(うち高校生以下の子どもがいる1,154人)を対象に、2017年末の大掃除の実態を調査した。調査期間は2018年1月26日(金)~1月28日(日)。調査方法はインターネット。
それによると、2017年末の大掃除実施率は全体では55.7%。子育て世帯では63.3%となっており、全体の実施率よりも約8ポイント高かった。特に子育て世帯の女性は65.6%と高く、結婚や出産を機に衛生意識が高まり掃除に積極的に取り組むようになるようだ。

子育て世帯の女性が大掃除にかけたトータル時間は「4時間以上6時間未満」(23.7%)と、全体(23.9%)と同水準だったが、1日あたりの平均掃除時間では全体よりも短い「1時間以上2時間未満」(25.4%)が最も多かった。また、大掃除に費やした日数は、全体では「2日」(26.8%)が最多だったが、子育て世帯の女性では全体よりも多い「3日」(26.3%)となっている。子育て世帯の女性は大掃除時間の確保のため、1日の掃除時間は短縮し、その分複数日に分散して行っていることが分かった。

配偶者の大掃除の取り組みに対する満足度では、「夫の妻への満足度」が87.5%だったのに対し、「妻の夫への満足度」は59.0%と、夫婦間で約29ポイントの開きがある。また、満足した理由の1位は夫婦ともに「積極的に取り組んでくれたので」だったが、夫の2位が「きちんと汚れが落ちたので」(36.8%)である一方、妻の2位は「自分や他の家族では掃除が難しい箇所を担当してくれたので」(37.9%)と、評価のポイントが異なる。夫は積極的な姿勢で「レンジフード・換気扇」や「窓・網戸」など妻や子供では掃除が難しい高所を、妻は目が留まりやすい「リビング・ダイニング」や「玄関」などを分担することが、夫婦円満の秘訣と言えそうだ。

ニュース情報元:(株)ダスキン

子育て層の防災意識、「安否連絡方法の確認を事前にしている」は4割程度

アクトインディ(株)(東京都品川区)は、このたび12歳以下の子どもを持つ全国の保護者750名を対象に、「防災に関するアンケート」を実施した。調査は同社運営のお出かけ情報サイト「いこーよ」で実施。調査期間は2018年7月2日~2018年8月6日。地震発生時・事後で不安なことは何ですか?では、「家族の安否」が79%と圧倒的に多く、「建物の崩壊」が59%で続く。「家族との連絡手段」も58%が不安と回答した。しかし、地震への対策として家族で準備していることは、水や食料、懐中電等などのストックが中心で、「家族との安否連絡方法の確認」を事前にしている人は4割程度(42%)に留まった。

地震が起きたらどうするかを家族で話し合う頻度は、「地震ニュースがある度にする」というのが44%で最多。「ほとんどしたことがない(29%)」「まったくしたことがない(8%)」を合わせると37%もおり、日頃から防災について話し合っていない家族が多くいることが分かった。

子どもの安否確認は「学校や園への問い合わせ(34%)」や「学校や園からの連絡待ち(29%)」がメインとなるが、学校・幼稚園・保育園からの緊急時の連絡手段では「電話連絡網(32%)」がまだまだ多く、震災下で電話通信網が麻痺したり、連絡先の人が電話に出ないような状況になることも想定すると、この連絡手段が正常に機能するか大きな不安が残る。

災害時の家族の大人同士の連絡手段としては、「LINEなどのチャット(52%)」、「携帯電話(50%)」などスマホが主で、連絡手段はスマホに依存しているようだ。

ニュース情報元:アクトインディ(株)

建物内保育園の入園を保証! 子育て施設が大充実の、賃貸マンションに行ってみた

つくばエクスプレスの柏の葉キャンパス駅近くに、建物内保育園の入園保証(※)がついた賃貸マンションが誕生した。近年は職場と住まいが近い“職住近接”の重要性が認知されてきたが、共働き家庭の住まい選びにおいては、保育園などの育児施設が近い“育住近接”の視点も注目を集めつつある。マンション建物内保育園という、究極の育住近接を実現できる物件は、賃貸ではめずらしい。詳しく取材した。
※入園には条件があり、保育園の運営事業者・株式会社マザープラネットの入園審査により入園できない場合もあり。別途株式会社マザープラネットとの入園手続きが必要
保育園の距離が10分を超えると、送迎負担が深刻に

共働き家庭にとって、子どもがどの保育園に入れるかは死活問題。家から遠い保育園だと送迎の負担が大きいので、なるべくなら近場の保育園に入れたいのが本音というものだ。筆者が周囲の父母10人ほどに聞いてみたところ、特に保育園までの距離が10分を超える親は、送迎に大きな負担を感じているようだった。

子どもは大人のようには歩けないので、一緒に歩くとなれば徒歩10分の道のりが15分や20分以上になる覚悟が必要。特に雨の日は自転車も使えず、道路の危険も増すので神経がすり減るという声も。また保育園の広さや保育の内容は少し劣ると感じるものの、送迎時間短縮のために、家の近くの保育園に転園した家庭もあった。ただでさえ疲れる通勤に送迎の負担が重なると、仕事や家事を始める以前に疲れ切ってしまうことにもなりかねない。近隣保育園への転園は、現実的な選択だろう。

そんな背景もあって、近年敷地内に保育園を擁するマンションが注目されている。昨年2017年には保育園付き分譲マンションが1都3県で約20棟販売されるなど、供給数も増加している(リクルート住まい領域「2018年トレンド予想」より)。

賃貸マンションに入居すると、建物内保育園の入園保証がついてくる!

しかし保育園を併設している点に惹かれて分譲マンションを購入しても、必ずしも敷地内保育園に入園できるとは限らない。その保育園が国から補助金が出る“認可保育園”であれば、入園の可否の決定権は自治体にある。自治体の基準に照らし合わせた結果、同じ敷地内のマンションに暮らしながらも入園できないことがあるのだ。また認可園でない場合でも、同じ敷地のマンションに住む子どもの数が保育園のキャパシティーを超えた場合、入園できない可能性がある。

この点、2018年2月に新たに誕生した「パークシティ柏の葉キャンパス ザ・ゲートタワー ウエスト」では、そのような懸念が払拭されている。というのも、このマンションでは、入居者の入園を保証する認可外保育園が建物内に併設されているからだ。また、このマンションは全戸賃貸住宅となっているため、子育て期間中のみここで暮らすといった、柔軟な住まい方が可能となっている。

柏の葉キャンパス駅から徒歩3分の491戸の大型マンションだ(写真撮影/蜂谷智子)

柏の葉キャンパス駅から徒歩3分の491戸の大型マンションだ(写真撮影/蜂谷智子)

ホテルのような雰囲気がただようエントランス(写真撮影/蜂谷智子)

ホテルのような雰囲気がただようエントランス(写真撮影/蜂谷智子)

保育施設・温泉・ジム等の充実した共用部

『パークシティ柏の葉キャンパス ザ・ゲートタワー ウエスト』を訪れてみると、保育園などの子育て施設のみならず、温泉やジムも併設するなど、その共用施設の充実ぶりに驚く。このマンションに入居したら、どんな暮らしが待っているのか? 三井不動産柏の葉まちづくり推進部事業グループ担当者に案内してもらった。

子育て施設「チコル」があるのが、マンションの3階。隣接するショッピングセンター「ららぽーと柏の葉」直結の出入り口と居住者専用ゾーンからの出入り口がある。「チコル」は保育園・学童・シェアキッチン・総菜屋・遊具を備えた屋内遊び場・屋内遊び場を見ながら仕事ができる保護者用のワークスペース等。保育園はマンション入居者専用だが、その他の施設は入居者以外も利用が可能だ。

入居者と入居者以外が混在するフロアがマンション内にあることに、不安を感じる人もいるかもしれないが、その点は心配無用だと担当者は言う。「マンションのセキュリティはカードキーの有無だけでなく、フラッパーゲートも採用しているため、居住者がマンションに入る際に第三者がすり抜けて入ってしまう心配もありません」。

保育園は駅前の「ららぽーと柏の葉」から直結している(写真撮影/蜂谷智子)

保育園は駅前の「ららぽーと柏の葉」から直結している(写真撮影/蜂谷智子)

保育園・学童・屋内遊び場――ワンフロアがまるごと、子育て施設に

大きな特徴である、入居者専用保育園は0歳児から入園でき、延長保育は22時まで。子どもが病気になったときは、同マンション1階にある365日対応の小児科医院や、保育園と同じ企業が運営する病児・病後児保育を利用できる。学童保育は保育園とひとつながりの部屋の一角にあり、小学校の1年生から6年生までをあずかる。

シェアキッチンと惣菜店は、昼夜の給食時には保育園や学童に通う子どもたちに食事を提供する場に。惣菜を予約すればテイクアウトが可能。夕食をつくる時間がないときには、ここで食事を購入すればよい。さらに大きな滑り台が特徴的な屋内遊び場は、中2階のワークスペースから見守りができて、子どもを遊ばせながら仕事をしたいという、働く親のニーズにも対応している。

保育園は横長のワンフロアで、保育者の目が届きやすい(写真撮影/蜂谷智子)

保育園は横長のワンフロアで、保育者の目が届きやすい(写真撮影/蜂谷智子)

1階には小児科と病児・病後児保育施設も(写真撮影/蜂谷智子)

1階には小児科と病児・病後児保育施設も(写真撮影/蜂谷智子)

柏の葉スマートシティにフィットする、課題解決型の住まいを目指す

なぜこういったマンションがつくられたのか? 担当者に話しを聞いた。

「柏の葉キャンパスは“環境共生・健康長寿・新産業創造”という3つのまちづくりテーマを設定し、現代社会の課題解決型の街づくりを進めるスマートシティです。三井不動産は民間企業として、2001年7月から街のプラットフォームづくりに携わってきました。柏の葉キャンパスには、すでにいくつもの分譲マンションを開発・運営していますが、今回『パークシティ柏の葉キャンパス ザ・ゲートタワー ウエスト』を子育て施設の充実した賃貸物件にした理由は、この街にふさわしい“課題解決型のマンション”を目指したからです」(担当者)

『パークシティ柏の葉キャンパス ザ・ゲートタワー ウエスト』は、共働き家庭がぶつかる4つの課題を解決することを目指したそうだ。4つの課題とは“待機児童・37.5度の壁(子どもが熱を出すと保育園に預けられないこと)・小1小4の壁(小学生の放課後の預かり先がないこと)・女性の産後復帰”。

建物内保育園の入園保証、敷地内の病児・病後児保育、そして働きながら子どもを遊ばせられる屋内遊び場など、充実した子育て施設は、働く親の困りごとを解決するためのもの。マンションの側からここまで積極的な課題解決を提案している物件は稀ではなかろうか。

子どもの給食がつくられる惣菜店では、家庭用にテイクアウトもできる(写真撮影/蜂谷智子)

子どもの給食がつくられる惣菜店では、家庭用にテイクアウトもできる(写真撮影/蜂谷智子)

保育園の子どもたちは、シェアキッチンで並んで給食を食べる(写真撮影/蜂谷智子)

保育園の子どもたちは、シェアキッチンで並んで給食を食べる(写真撮影/蜂谷智子)

屋内遊び場は、大きな滑り台が特徴的、保護者は中二階から見守りながら仕事もできる(写真撮影/蜂谷智子)

屋内遊び場は、大きな滑り台が特徴的、保護者は中二階から見守りながら仕事もできる(写真撮影/蜂谷智子)

柏の葉キャンパスは、公・民・学が一体的に開発に取り組む将来性のある街

「柏の葉キャンパスを住まいに選んだお客さまが、度々おっしゃるのが『この街には将来性がある』ということ。すでに公・民・学が一体となったさまざまな試みが動いていますし。三井不動産は今後もこの街の開発に積極的に取り組む予定です。そういった地域を選ぶ方は、住まいにもより具体的なコンセプトを求めていらっしゃるのではないかと考えて、ターゲットに合ったソリューションを打ち出しています」(担当者)

柏の葉キャンパスは、東京大学や千葉大学がキャンパスを置く学園都市の一面を持つ。公・民・学によって構成される「柏の葉アーバンデザインセンター」を中心に子ども向けのイベントを開催するなど、先進的な試みが多くなされている。

教育意識の高い家庭にピッタリの土地柄が背景にあり、マンションのターゲットの志向性にも一致する。

地域の子ども向けイベントの様子(写真提供/三井不動産)

地域の子ども向けイベントの様子(写真提供/三井不動産)

地域の子ども向けイベントの様子(写真提供/三井不動産)

地域の子ども向けイベントの様子(写真提供/三井不動産)

先進的な周辺環境と充実した共用施設を賃貸で得るなら、そのお値段は?

柏の葉キャンパスは、教育施設だけでなくショッピングやレジャーの施設も充実。駅前に大型ショッピングモールの「ららぽーと」があり、また駅から徒歩7分の場所に蔦屋書店を中心とした「柏の葉 T-SITE 」がある。東京大学に隣接した広大な柏の葉公園をはじめ、自然も豊か。マンションの共用施設も子育て向けにとどまらず、大人向けのスタディルームやパーティールーム、ジムや天然温泉まで併設されているのだ。

帰り道に買い物を済ませ、マンションの敷地内の保育園で子どもをピックアップ、夜は大浴場の温泉に浸かる。休日は公園で遊んだり、子どもを地域のアクティビティに連れ出したり……。快適な暮らしをイメージできる恵まれた環境だ。柏の葉キャンパス駅は東京駅まで34分、銀座駅まで36分と、東京方面に通勤するのに便利な点も見逃せない。

このマンションのおおよその月々の賃料は、1Kが9万円代から、2LDKが17万円代から3LDKが21万円代からだという。

夫婦と小さな子どものいる家庭を想定した2LDK(写真撮影/蜂谷朋子)

夫婦と小さな子どものいる家庭を想定した2LDK(写真撮影/蜂谷朋子)

近年は待機児童の問題のみならず、病児保育施設の不足や、片親が育児を一身に担う“ワンオペ育児”の大変さなどが問題視されている。夫婦共働きが一般化したことで育児の課題があらわになり、解決方法を社会全体で模索している時代だといえるだろう。そんななか、育児の課題解決のためのソリューションを備えた賃貸マンションができたというのは新しい選択肢として心強い。

賃貸ならではの強みという点では、豪華な共用施設の将来的な維持管理費を考えなくて済むということがあげられる。「購入した住まいに生涯住み、不都合があっても我慢する」のではなく、「自分が今抱えている課題を解決する物件を住み替えていく」というライフスタイルは、先々の見通しが立ちにくい現代にフィットしているのかもしれない。

●取材協力
・三井不動産株式会社

共働きママに聞いた!家を買うとき、子育て面で重視したことは? マイホーム購入調査[3]

子育て世代にとって、マイホームの購入の際に悩むポイントはたくさんあります。今回は、共働き子育てママに購入のタイミングをはじめ、購入の際に重視したこと、住んでから分かった意外とよかったことなどをヒアリングしました。これからマイホーム購入を考えている子育て世代には要チェックな内容です。
子育て世代がチェックするポイントは、「教育施設までの距離」や「周辺の治安」が上位

子育て世代が土地や購入物件を探すときに「子育て」に関することで重視したことはどんなことでしょうか。
1位は「保育園、幼稚園、小学校までの距離」(38.0%)、2位は「周辺の治安が良いかどうか」(30.5%)、3位が「実家との距離」(30.0%)でした。教育施設はもちろんですが、保育園や幼稚園を卒園後に小学校に上がると、子ども一人での行動も増えるため、周辺の治安は気になるポイント。また、特に共働きの場合には、普段の生活に加えて、子どもが熱を出したけれど会社は休めない、急な残業でお迎えに行けないなど、親に協力を頼みたい場面がどうしても出てきます。そんなときに、近くに親がいると助かるという人は多いようです。
4位以降は「公園など、周辺に子どもを遊ばせる施設があるか」(28.5%)、「部屋数や広さが十分かどうか」(28.0%)と続きます。

また、「子育て補助、医療補助などの支援が充実している自治体かどうか」(15.5%)などは、事前に調べておくと生活する上で助かるので、チェックしておきたいポイントです。

周辺環境、教育機関、医療機関など、さまざまな視点で選んでいることが分かる(出典/SUUMOジャーナル編集部)

周辺環境、教育機関、医療機関など、さまざまな視点で選んでいることが分かる(出典/SUUMOジャーナル編集部)

それぞれを重視した理由は以下のとおり。
【保育園、幼稚園、小学校までの距離】
・登下校の距離が長いと、心配事が増えるから(38歳・秋田市)
・私自身、小さいころに小学校が遠くて嫌だったので、ある程度小学校に近い家を選びたかった(36歳・茨城県守谷市)
・子どもはまだいなかったけれど、将来的に環境の良い幼稚園に入れたいと思ったので(34歳・北海道苫小牧市)

【実家との距離】
・共働きなので、子育てする上で実家の援助は不可欠だから(43歳・岡山県早島町)
・1人目を妊娠していて家族がこれから増える。義理の母が1人暮らしで、できるだけ近くに住みたかった(41歳・仙台市青葉区)
・両方の実家からほどほどに近い所(40歳・川崎市高津区)

【周辺の治安が良いかどうか】
・安心して子どもを遊ばせたいから(37歳・岐阜県各務原市)
・小学校までの距離や道が危なくないか、地元ではないので詳しく分からず、治安の良さが心配で友人にいろいろと聞いた(31歳・名古屋市)

【公園など、周辺に子どもを遊ばせる施設があるか】
・男の子二人だったため、外でしっかり遊べる場所が欲しかった(41歳・横浜市神奈川区)
・田舎育ちなので自然がある場所で育てたかった。公園が近くにある場所を検討した(39歳・大阪府富田林市)

【子育て補助、医療補助などの支援が充実している自治体かどうか】
・子育て支援にも力を入れている自治体なので、経済的にも助かると感じた(36歳・福岡県那珂川町)
・医療助成が充実していると助かるので(43歳・秋田県大仙市)

購入タイミングは、「第一子が0歳~2歳のとき」がトップ

次に、先輩たちが実際に物件を購入したタイミングを教えてもらいました。
1位は「第一子が0歳~2歳のとき」(27.5%)。これは保育園に通い出すタイミングで購入を決意したのではと予想できます。2位は「第一子が3歳~5歳のとき」(19.0%)。こちらは小学校に上がる前に引越しを済ませてしまおうという計画なのかもしれません。
このように、第一子が生まれてから購入に至る人が多いですが、第一子妊娠前、第一子妊娠中という人も合わせると28.0%いました。

第一子妊娠前、妊娠中という人は3割弱(出典/SUUMOジャーナル編集部)

第一子妊娠前、妊娠中という人は3割弱(出典/SUUMOジャーナル編集部)

購入後に後悔した点は、「通学路の交通量」や「保育園激戦区かどうか」など

また、住んでから気が付いた、子育ての面で「もっと重視しておけばよかった」ということを聞いたところ、以下のようなコメントがありました。

・家の前の道が意外と交通量が多かった(43歳・神奈川県大和市)
・こんなにも保育園に空きがないとは思わず、安易に考えていたので後悔した(42歳・千葉県市川市)
・小学校は近いけど中学校が遠いので、中間位の位置にしておけばよかった(41歳・大田区)
・歩道が狭く、ガードレールもないため、もう少し考慮すれば良かった(34歳・北九州市)
・最寄りの小学校は学区外で、実際に通う小学校のほうが遠く、交通量の多い道の近くだった(39歳・埼玉県越谷市)
・部屋の広さが不十分。子どもの洋服や勉強道具などが増えるので、もっと部屋数があればよかった(40歳・新潟県新発田市)

家の間取りや設備のことはもちろんですが、立地や近隣の道路の安全性、教育・医療施設の問題などは住んでみないと分からないことも多く、「もっと調べておけばよかった」と後悔することもあるようです。
また、近い将来の生活を視野に入れておくことも大事です。例えば、今はまだ子どもが小さいからと幼稚園や保育園のことだけを調べるのではなく、将来通うかもしれない小学校、中学校もチェックしておくと、後悔がない生活を送れそうです。

意外とよかった点は、「同世代の子どもが多い」「児童館、図書館などが近い」など

逆に、住んでから気が付いた、子育ての面で「意外とよかった」点はどうでしょうか。
コメントは以下のようになりました。

・町の子育てに関しての取り組みが盛ん。子どもも増えてきたので周りの人たちと交流ができること(47歳・香川県三木町)
・小学校の預かり保育が無料である。隣の県は学童でお金が1万円ほどかかると聞いた(35歳・川崎市宮前区)
・児童館、図書館など子どもが使える施設が市内に多く、イベントも多数だった(39歳・埼玉県越谷市)
・近所は高齢者が多く、同世代の友達は少ないが、おばあちゃんたちが子どもたちを孫のように可愛がって接してくれる(36歳・福岡県那珂川町)
・同じ学年や近い世代の子が多く、子ども同士が仲良くなった。それで親も仲良くなったりする(41歳・大田区)
・近くに地区センターがあり、絵本も借りやすいし未就学児が遊べる広場もある。子育てサロンも近い。地区センターは子どものイベントがたくさん催されている。自然がたくさんあり、自然公園がふたつも近くにあり散歩コースがたくさんある(30歳・横浜市)
・子どもが見える範囲にいつもいるような間取りになっているので、安心して家事ができる(36歳・富山県入善町)

間取りなど家のこともありましたが、同世代の子どもが多かった、教育施設のイベントが多い、町内の人たちとの触れ合いがあるなど、周辺の環境のことを挙げる人が多数いました。

子育て中のママにとって、住まいの暮らしやすさはもちろんですが、周辺環境が整っているかどうかは重要です。家を買うということは、終の棲家(ついのすみか)とはいかずとも、長い期間その場所に住むということ。気になることを事前に調べたり、実際に見たりして、不安はなくしておきたいもの。今回の調査で挙がっていた点で気になることがあれば、物件購入を決める前にチェックしてみてくださいね。

●調査概要
・[マイホーム購入調査]より
・調査期間:2018年3月27日~29日
・調査方法:インターネット調査(ネオマーケティング)
・対象:10年以内に購入した持ち家にお住まいの20歳~49歳の既婚共働き女性
・有効回答数:200名(子どもありの世帯のみ)

子どもたちのサードプレイスに 民間の学童保育「キッズベースキャンプ」の取り組み【育住近接(4)】

共働きの夫婦にとって、小学校入学後に放課後どう過ごさせるかは悩みのタネだ。公立の学童保育だけでなく、最近では民間の学童保育施設も多くみられるようになった。東急グループの「キッズベースキャンプ」はそのひとつ。多種多様なプログラムを通じて、子どもたちに学びを提供している。「キッズベースキャンプ豊洲・東雲」を例に、その活動内容を紹介しよう。育住近接
近年、保育園や学童保育施設などをマンションや団地内に設置する「育住近接」というトレンドが生まれています。「育住近接」を実現させた物件や団体の取り組み事例を紹介する企画です。民間ならでは 22時まで預けられる学童保育

「ウォーター・フロント」として開発が始まった湾岸エリアの豊洲や東雲は、タワーマンションが林立していることで知られている。

豊洲駅と東雲駅の真ん中あたりに位置する「東雲キャナルコートCODAN」の敷地内には、塾や医療関係の施設など、生活に便利なショップなどが立ち並んでいる。今回訪ねたのは、その中にある「キッズベースキャンプ豊洲・東雲」。東急グループの株式会社キッズベースキャンプが運営する、民間の学童保育施設だ。同社の三沢敦子(みさわ・あつこ)さんに、施設の概要や学童保育のあり方について伺った。

「田植え」イベントの様子(画像提供/キッズベースキャンプ)

「田植え」イベントの様子(画像提供/キッズベースキャンプ)

「キッズベースキャンプ」の始まりは2008年。公設の学童保育施設では預かり時間が遅くても19時までというところがほとんどだが、ここでは、22時まで預けられるようになっている。残業が発生しても、子どもを安全に預かってもらえるのはうれしい点だ。また、スタッフが指定の小学校から施設までの送迎を行ってくれるのもありがたい。子どもだけで移動しなくてよいのは、保護者としてとても安心だろう。

キッズコーチは、7~10人に1人の割合で配置される。子どもに対してキッズコーチがこれだけいれば、それぞれの子どもの特徴を理解してコミュニケーションをとることもできるし、なにより子どもたちに目が届きやすいだろう。ちなみに、キッズコーチは20代が多い。正社員の採用倍率約30倍の難関を突破し、しっかりと研修を受けたプロフェッショナルがそろっている。

施設内には、木製のテーブルが並んでいる。「学校から帰ってきたらまず宿題の時間を設けています。勉強を習慣づけさせるのがねらいです。その後、おやつタイム、イベントもしくは自由時間というのがだいたいの流れです。おやつや食事はもちろん子どものアレルギーに対応することができます」と三沢さん。

その言葉どおり、部屋の隅っこでは、市販のお菓子の成分表示を見ながら仕訳をしているスタッフがいた。これだけでも頭が下がるが、念には念を入れ、ダブルチェック、あるいはトリプルチェックを行っているという。

また、施設が用意する夕食「キッズミール」をオプションで利用することもできるので、忙しいときには安心だ。

キッズベースキャンプといえば、「豊富なイベント」が特徴!

施設の特徴は何と言ってもイベントが充実していること。

「イベントは子どもへの投資になると思っており、遠足やお泊まりなどにもでかけます。スキーなど、保護者だけでは連れて行くのが難しい場所も訪れています」(三沢さん)

イベントは、週1回くらいの頻度で開催している。参加するかどうかは、子どもと保護者が話し合って決めることができる。イベントは実にさまざまで、料理や工作、スポーツや社会科見学など、子どもたちの知的好奇心をくすぐるものばかり。

「普段は入れないところに行ける、動物園や劇場のバックヤードツアーは特に人気です」(三沢さん)

また、夏休みや冬休み、春休みなど、長期休みだけ施設を利用することも可能。日曜日に登校した次の日の「代休」などは、朝から対応しているそうだ。

「利用者は1、2年生が多いですね。それ以上になると塾などに通い始め、だんだん通う日数が減ってきます。ですから、通う日数に応じた料金プランを設定しています」(三沢さん)

このように、キッズベースキャンプは、保護者や子どもの役に立ちたいという一心で活動をしてきたそうだ。

「10年続けてきたことで、理解を得られるようになったと感じています。時代の流れもありますし、続けてきたことで信頼度が高まったのだと思います」(三沢さん)

 全員でゲーム(画像提供/キッズベースキャンプ)

全員でゲーム(画像提供/キッズベースキャンプ)

「ただいま!」 サードプレイスでの体験が子どもを成長させる

取材をはじめて数十分、お話を聞いていると、子どもたちがスタッフに連れられて帰ってきた。「こんにちは」ではなく「ただいま!」と元気な声で、施設に次々とやってくる。そのまま思い思いの席につき、ランドセルから取り出した宿題を始めた。

その日勤務していたキッズコーチに、保護者たちの反応を聞いてみた。

「保護者のみなさんからは、日々感謝の言葉をいただきます。特に印象的だったのは、子どものトラブルを仲介して、仲直りさせたとき。子ども同士のトラブルは、親が介入しにくいこともあるので、とても喜んでいただけました。そのほかにも、乱暴な言葉づかいなどをしている子どもには注意するのですが、親以外の大人から指摘されたほうが効果的な場合もあるようで、感謝されたことがあります」(キッズコーチ)

「キッズベースキャンプは、保護者が働き続けるための役割はもちろんですが、子どもの居場所にもなることもあるのです。事情があって学校に行けなくなってしまってもキッズベースキャンプには来てくれるなど、子どもたちの受け皿になってあげられると考えています」(三沢さん)

アート工作イベント(画像提供/キッズベースキャンプ)

アート工作イベント(画像提供/キッズベースキャンプ)

ただ、施設の需要は増えつづけ、現在はキャンセル待ちが多くなってきたようだ。そのため、「プレキッズクラブ」という未就学児登録制度をはじめたという。この制度は、子どもが小学校に入学する前から学童保育へ入会できる権利を確保できるというもの。この制度は有料だが、「どこの学童も満員で入れない」という事態を防げるため、将来の安心材料として保護者たちは申し込みをするのだという。

この施設に限ったことではないが、「小1の壁」の問題は、なんとかならないものかと考えさせられた。

子どもたちの「やりたい!」を取り入れ、保護者たちの「体験させてほしい!」をかなえるキッズベースキャンプ。今後も独自のプログラムを通じて子どもたちを成長させ、保護者に安心を提供しつづけていくだろう。

●取材協力
・キッズベースキャンプ

「時短」で子育てをサポート コンパクトシティがかなえる育児環境とは【育住近接(3)】

共働きの夫婦が増えた今、子育てと仕事の両立の難しさに直面している人は多いだろう。野村不動産は、そんな子育て世帯向けにマンションを建設、昨年の3月から入居が始まった。その物件「プラウドシティ大田六郷」は、どのように育児をサポートするのだろうか。入居者の声を交えながら紹介したい。育住近接
近年、保育園や学童保育施設などをマンションや団地内に設置する「育住近接」というトレンドが生まれています。「育住近接」を実現させた物件や団体の取り組み事例を紹介する企画です。子育てに必要な施設がそろう「コンパクトシティ」

政府が取り組む「少子化対策」と「女性活躍」。産休、育休を取得しやすくする企業が増えてきたが、保育園不足による「待機児童」問題など、子育て環境はまだまだ整ってはいないのが現状だろう。そんななか供給されたのが、野村不動産が手がける「プラウドシティ大田六郷」。一体どんな特徴があるのだろうか。

物件は、京急本線・雑色駅から徒歩約10分の場所に位置する。多摩川緑地にほど近く、品川や川崎方面にも通勤が便利な場所で、昔から町工場が多いエリアだ。

【画像1】スカイデッキからは多摩川が望め、自然環境もよい(画像提供/野村不動産)

【画像1】スカイデッキからは多摩川が望め、自然環境もよい(画像提供/野村不動産)

マンションの敷地内には、保育施設、学童、医療、ショップなどの子育て世帯にうれしい施設を内包している。また、大型コインランドリーやカーシェア、宅配レンタカーなど、便利な設備は実に豊富だ。

物件の周辺は、徒歩7分圏内に幼稚園、小学校、中学校、児童館がそろい、家の近くで子どもが成長することができる。公園や自然、病院もあるのも魅力的で、「コンパクトシティ」という呼び名にふさわしい場所であることがうかがえる。

野村不動産の高橋和也(たかはし・かずや ※「高」は正式には「はしごだか」)さんによると、このマンションの開発の背景には「時短を図り、子育て世帯をサポートしたい」という思いがあったという。というのも、働きながら子育てをする際に問題になるのは、「とにかく時間が足りない」ということだからだ。遠くの保育園に連れて行ってからの出勤、遠くの保育園に寄ってからの帰宅。あるいは日々の買い物をするためのスーパーが遠いこと……。

そうしたことが原因で発生する時間のロスを解決するのが、マンション内に設置された施設と街の利便性だと考えたそう。

この記事の作成にあたって行った居住者アンケートで寄せられた、「すべての生活動線が1つにつながっている」(Hさん)という意見に、このマンションの特徴「時短」が集約されているように感じられる。

「昨年3月より入居を開始したばかり。入居者には子育て世代が多く、6歳未満の未就学児のいる家庭が多いですね」と高橋さん。購入者層も20代~30代と比較的若い。また、共働き世帯が多く、「通勤しやすいので選んだ」という声が多く見受けられた。同じように多かった意見が「子どもが生まれ、子育てをしやすい環境を求めていました」(Kさん)といった声。

つくり手の思いは、たしかに入居者に届いているようだ。

キッズラウンジで育つのは、子どもだけでなく、大人たちのコミュニティ【画像2】敷地内にはひろびろとした場所があり、外遊びもできる(画像提供/野村不動産株式会社)

【画像2】敷地内にはひろびろとした場所があり、外遊びもできる(画像提供/野村不動産株式会社)

これまで生活の利便性について述べてきたが、敷地内の共用施設にも注目したい。

子ども向けの共用施設として、よく利用されているのが「キッズラウンジ」。キッズラウンジは、絵本や遊具が豊富にそろった子ども向けの遊び場で、世界の優れたあそび道具を販売する玩具メーカー、ボーネルンドがプロデュース。その存在感はラウンジというよりもむしろ屋内型の公園のようだ。雨が降っても家の外に出て遊ぶことができるのは大きな魅力といえるだろう。

【画像3】カラフルで色彩豊かなキッズラウンジ(画像提供/野村不動産株式会社)

【画像3】カラフルで色彩豊かなキッズラウンジ(画像提供/野村不動産株式会社)

高橋さんによれば、だいたいいつも6~7組の親子が遊んでいる姿を目にするという。アンケートでも「キッズラウンジや中庭など、マンション敷地内で遊ぶスペースがあることはよいと思う」(Tさん)など、キッズラウンジに好感をもつ声が目立った。一人っ子だとしても、同じマンション内に同世代の子どもがいることで、「きょうだい感覚」を得ることができるかもしれない。

また、キッズラウンジには父親の姿も見かけるそう。「父親がスムーズに入り込める感じで、休日の育児が楽しくなりました」(Iさん)や、「子育て世帯が多くいて、話がしやすい」(Hさん)といった声があがった。こういう交流の積み重ねが、マンションコミュニティを形成していくのだろう。

施設内の子育て施設 利用状況はいかほど?

敷地内にある学童施設「ポピンズアフタースクール西六郷」は、放課後や長期休暇に小学生を預けることができる。小学校入学後、保護者が勤務から帰宅する夜間の時間に起こる「小一の壁」問題に対応することが目的のようだ。未就学児童が多いこともあり、まだマンション住人の利用は少ないそうだが、機能を発揮する日も遠くないだろう。

また、開設準備中の医療施設も、子どもたちの「かかりつけ医」として活躍しそう。そして、4月にはいよいよ認可保育園が開園予定。マンションを購入したからといって優先的に入れるわけではないのだが、実際に入居者の多くが入園を希望している。

どの施設もまだまだマンション入居者の利用は少ないが、今後の発展に期待したい。

コンパクトシティに建てられた「プラウドシティ大田六郷」。共働き夫婦が、育児と子育てを両立するための環境が十分に整っていることが分かった。入居が始まったばかりだが、今後「育住近接」のお手本となってくれそうだ。

●取材協力
・プラウドシティ大田六郷(野村不動産株式会社)

敷地内に認可保育園 子育てしやすい住まいをつくる【育住近接(2)】

昨今の保育所探しの大変さに、自治体もさまざまな取り組みを始めている。板橋区大山で建設中のマンション“Brillia大山 Park Front”でも敷地内に認可保育園が計画されている。しかもこのマンションには、働く女性が提案する住まいの共創プロジェクト “Bloomoi(ブルーモワ)”が参画していると聞いた。今回は自身が働くママでもあるメンバーに話を聞いて、仕事と子育てを両立する住まいについて考えてみた。育住近接
近年、保育園や学童保育施設などをマンションや団地内に設置する「育住近接」というトレンドが生まれています。「育住近接」を実現させた物件や団体の取り組み事例を紹介する企画です。駅からの距離より、自宅~保育所~駅への動線が大事

夫婦共働きはとにかく忙しい。特に小さな子どもがいると保育園探しが大変だ。できればマンション内に保育園があればベストだろう。最近では自治体の取り組みも積極的で、大規模なマンションが建設される場合は保育園をつくってほしいと要請することも多いようだ。

“Brillia大山 Park Front”は、敷地内に小規模認可保育園が開園予定されている。もちろん住人がそのまま入園できるわけではないが、もし入園できたら「育住近接」として、ほぼ理想的。保育園を併設するマンションということで、より子育て世代が集まりやすいようだ。

自分自身が1歳と2歳の子どもを育てている鈴木さんはBloomoiメンバーの1人。「駅の近くに保育園があるよりも自宅の近くにあるほうがずっと便利です。大人と違って子どもは歩くのに時間がかかるので、とにかく自宅の近くにあってほしい。雨の日は特にそう思います」

また6歳と7歳の2人の子育て中の稲富さんは「子どもにはいくつかの習い事をさせていますが、送り迎えや一人で通えることなどを考慮して家の近くに通わせています。何を習わせるかを考えると同時に家からの通いやすさもかなり重視しますね」

話を聞いてみると、自宅から保育園(習い事)、そして駅への動線が大切なようだ。自宅が駅から多少遠くなっても、この動線がスムーズであれば毎朝の負担が少なくなる。自分たち自身が産休を取った後に仕事復帰しただけに、説得力のある意見だ。

【画像1】Brillia大山 Park Front外観完成予想図(写真提供/東京建物株式会社)

【画像1】Brillia大山 Park Front外観完成予想図(写真提供/東京建物株式会社)

共創をテーマに2012年から活動しているプロジェクト

Bloomoiは、働く女性が提案する住まいの共創プロジェクトがテーマだ。2012年から東京建物株式会社の中で、女性社員による住まいづくりを提案していこうと始動した。「Bloomoi」は、「Bloom(咲く)」と「moi(私)」からなる造語で、働く女性の笑顔や才能が咲き誇るという意味が込められている。それぞれが暮らしの“幸せ密度を高めること”を目指している。

「『つくり手側の思い込みで住まいを提供しているのではないか?』という疑問に立ち戻って考えることからスタートしました。そのためにアンケートなどのデータはもちろん、働く女性一人ひとりのホンネを知ることから始めました」とスタート時からプロジェクトのプロモーション担当として参加している岩谷さん。

まず自分たちの1週間の行動をさらけ出して実際のリアルな生活を探ってみたり、グループワークやSNSなどで対話を積み重ねたりしてきた。加え他の企業で働くさまざまな女性たちとのミーティングも続けている。

「ライフスタイルが多様になり、女性の価値観が決してワンパターンではなくなっている今だからこそ、 常にホンネに耳をかたむけることが大切だと実感しています」と岩谷さん。そこで出会った意見から、次々に商品化を続けている。

Bloomoiスペースと名付けた空間は、『季節家電や水などのストック品をたっぷり収納する』という目的や『海外のテレビドラマのような服や靴を飾りながら収納できるクロゼット』という目的が選べるようになっている。またキッチンも対面式が人気だと思っていたが、働く女性のなかには片付けに手が抜ける・料理に集中できる独立型を好む人も多いことに気付いた。

さらに朝は洗面室が家族の順番待ちで困っているという声に、洗面ボウルを片寄せにして2人並んで使えるよう工夫したプランも用意。2015年には一般公募により選ばれた女性10人と一緒に、“理想のリビングダイニング”をつくり上げるプロジェクトを実施。Bloomoiライブラリーと名付けた空間は、家事の合間にちょっとした作業をしたいという声から、キッチンのそばにワークスペースを開発している。

【画像2】Brillia大山ザ・レジデンス Bloomoiスペース(スタイルクロゼット) (写真提供/東京建物株式会社)

【画像2】Brillia大山ザ・レジデンス Bloomoiスペース(スタイルクロゼット) (写真提供/東京建物株式会社)

【画像3】Brillia文京江戸川橋 コダワリキッチン(写真提供/東京建物株式会社)

【画像3】Brillia文京江戸川橋 コダワリキッチン(写真提供/東京建物株式会社)

プロジェクトに参加することで仕事へのスタンスが変わった

このプロジェクトは部署横断でメンバーが集まっており、自分の担当業務とは別のプロジェクトチームとして活動している。活動を続けて6年、メンバー自身もさまざまなライフステージの変化を体験しているそうだ。

「私は去年の10月から参加しています。実は子どもを産んで仕事を続けるのは周りに迷惑をかける存在になるのではないかと悩んだこともあります。復職してBloomoiに参加し、同じような立場のメンバーのなかで、迷惑をかけることを気にするのではなく、どう成果を出して貢献するかを大事にしようと自分の目線が変わりました」と鈴木さん。

「私は約10年間、販売現場で働いていました。出産を経て今は別の部署に所属していますが、自分自身のライフスタイルの変化に応じた視点と共に販売現場で培った販売センターに来訪されるお客様の声を商品企画で活かせることなどもやりがいになっています」と稲富さん。

「実際は試行錯誤を続けながら6年続けてきました。まず東京建物の中でも、Bloomoiの活動を理解してもらうのに時間がかかりました。最近では実績に納得してもらい、参画できることが多くなりました」と岩谷さん。着々と新たなメンバーが加わり、プロジェクトの活動はさらに広がっている。

建物というハード面に加えてソフトについても考えていきたい

マンションという建物を整えても、住む人たちがどんな暮らしを続けていけるかというソフト面での目配りも大切なことだ。

「私たち親がどうしても無理なときに、近所のおじいちゃんが子どもの送迎してくれたり、遊ばせながら私の帰りを待っていてくれることがあります。保育園でお知り合いになった方なのですが、その方も子どもたちとかかわることを生きがいに感じてくださっているようです。そんな見守りのシステムがマンション内でできたらいいなと思うことがあります」と稲富さん。

「働いているとマンション内のコミュニティに参加しづらい面もあります。入居前の交流会など、自然に参加できるシステムを考えていきたいと思っています」と鈴木さん。

自分たちが悩んだこと、立ち止まったことを、等身大で解決していくという姿勢は、働く女性たちの共感を呼ぶだろう。

世界144カ国を対象にした男女の差を数値化した「ジェンダーギャップ指数」ランキング(世界経済フォーラム2017年)で、日本は114位という状態だ。働く女性たちの置かれている状況はまだまだ厳しい。こういった民間企業の活動と行政の積極的な取組に、今後も期待したいところだ。

●取材協力 
・東京建物株式会社 Brillia Bloomoiプロジェクト 

大切なのはハート 集合住宅「母力」が仕掛ける”つながる育児”【育住近接(1)】

育児中は体力も神経も使うもの。核家族化が進んだ現代、全てをお母さんが抱え込み、つらくなってしまうケースもあるようです。そこで最近注目されているのが、育児を支える仕組みを備えた住まい。今回は子育て世代の”つながり”をつくることをコンセプトにしたへーベルメゾン「母力」をご紹介します。育住近接
近年、保育園や学童保育施設などをマンションや団地内に設置する「育住近接」というトレンドが生まれています。「育住近接」を実現させた物件や団体の取り組み事例を紹介する企画です。お母さんが本当に求めているのは、ハートで育児ができる住まい

核家族化や共働き世代の増加を背景に、育児環境の孤立が問題になっています。両親が忙しく、子どもと過ごす時間が少ないうえに、祖父母が遠方に住んでいたり仕事をしていたりして、頼れない。そんな問題を解決する育児環境を備えたマンションが注目されているのです。

今回は子育て世代の”つながり”をつくることをコンセプトにし、2012年10月に1棟目が完成したへーベルメゾン「母力」。現在は各地に10棟の規模に拡大している同ブランドのマンションを、企画開発する旭化成ホームズの玉光祥子(たまみつ しょうこ)さんにお話を伺いました。

「ファミリー賃貸というコンセプトの住宅を企画する際に、私たちは子育て中のお母さんたちから、しっかりとヒアリングをしました。ハウスメーカー主導で企画すると、一般的には子育てに適した間取りや設備など、スペックを整えることを先に考えてしまいがちです。でも生の声に耳を傾けると、実は皆さんが一様に求めていらしたのはハートの部分、つまり人と人との関係性だということが分かったのです」(玉光さん)

例えば子どもの足音や夜泣きを気にしたり、また知っている人が誰もいない環境で子育てすることに不安を感じたり。そんなストレスや孤立感を解消するには、スペックを整えるだけでは不十分と考え、旭化成はお母さんが自ら発信し、学び合うコミュニティ「お母さん大学」とコラボレーションすることになりました。

「『お母さん大学』とのコラボレーションから生まれた企画として、母力には母力サポーターという気軽に相談できる先輩お母さん的な立ち位置のスタッフがいます。入居しているお母さん方のお話を伺ったりアドバイスを伝えたりして、不安を軽減してもらうサポートを行っています」(玉光さん)

その他にも、入居の際に近所付き合いがある前提を承諾してもらう、先に入居している住人への紹介を行うなどの、コミュニケーションのきっかけづくりをしているそう。

【画像1】お母さんたちとのディスカッション風景(写真提供/旭化成ホームズ)

【画像1】お母さんたちとのディスカッション風景(写真提供/旭化成ホームズ)

始動から5年たち、入居者主導の暮らしづくりが進行中

1棟目の物件である「母力むさしの」が完成してから5年、入居者同士のコミュニティはどのように育ってきているのでしょうか。

「思った以上に入居者さんが住まいの管理やコミュニティづくりに自主的にかかわってくれています。実は当初は私たち主導で年に何回かイベントを開催するなどの働きかけをすることを考えていたのですが、フタを開けてみると入居者のコミュニティは顔合わせのきっかけがあれば、自然にできあがってくることが分かりました。ですから私たちは入居者さん同士の自立したコミュニティを見守りサポートするスタンスに変わってきています」(玉光さん)

実際に入居者の方に話を聞いてみると、5歳と3歳のお子さんがいるKさんは「庭で子どもたちが遊んでいるときに『ちょっと夕食の準備をしたいので』といって、他のママに子どもたちを見てもらい、その間に夕食の準備をすることがあります」とのこと。

また、4歳と2歳のお子さんをもつHさんは、夫の転勤で大阪から東京に引越してきたそう。母力に入居する前は、知り合いがいなくて孤独を感じることがあり、仕事で疲れて帰ってきた夫に当たったり、話を聞いてほしくてしゃべり倒したりすることもあったそうです。「今は日中、いろんなママさんと話ができているので夫に当たることも、しゃべりかけ攻撃もしなくなりました」と話してくれました。

さらに、住宅内のイベントや、建物の管理なども入居者からの提案が増えてきたそうです。「母力」の場合、共有部分のちょっとした掃除をしたり、また近所づきあいをすることが前提であったりと、一般の賃貸住宅に比べて手間や気遣いが必要なシーンがあるといいます。それにもかかわらず入居希望者が引きも切らず、場所ではなく「母力」を指名で問い合わせをする人もいるそうです。

「入居者にはいろいろな方がいらっしゃいますが、共働きのご家庭や、転勤で遠方から転居されてきたご家庭などが典型的ですね。つながりをつくりやすいコミュニティが醸成されていることが評価されています。また『母力』という名前から、お母さん主体と思われがちですが、お父さん方も子育てへの意識が高いですよ」(玉光さん)

「母力」のような住宅を選ぶ家族は、父母ともにそのコンセプトに共感しているわけですから、お父さんも子育てに協力的な場合が多いのです。入居者が皆子育てに関心があるという点で、共感が得られやすく、協力して育児がしやすい環境をつくる自治が生まれるのかもしれません。

「『母力』ブランドは物件オーナーさんの満足度も高いのです。社会に貢献している実感があり、やりがいがもてるとの声をいただいております。私どものこれからの課題は、永続的なコミュニティづくり。賃貸は入居者が入れ替わるのが特徴なので、いまの『母力』コミュニティが時を経てトーンダウンすることがないように、サポートをしていきたいと思っています」(玉光さん)

【画像2】母力のイベント風景(写真提供/旭化成ホームズ)

【画像2】母力のイベント風景(写真提供/旭化成ホームズ)

現代は相手のプライバシーを尊重する気持ちが働き、なかなか人と人との距離を詰められないこともしばしば。その点、入居者が皆つながりをつくることに肯定的だとすれば、声がかけやすいメリットがありそうです。「子育ては孤独に行うよりも、助け合いながら行うほうが楽しい」。そう考える方には、子育てを通じてつながる「母力」のような住まいがフィットするかもしれません。

●取材協力
・ヘーベルメゾン母力(BORIKI)

駅より保育園・学童保育を重視!? リクルート2018年の住まいトレンドは「育住近接」

リクルートホールディングスが、恒例の「2018年のトレンド予測」を発表した。これは、「住まい・美容・人材派遣・飲食など8領域の新たな兆し」として、2018年のトレンド予測をキーワードで発表するもの。筆者専門の住まい領域のトレンド予測は、『職住』ならぬ「『育住』近接」。うーん、それほど新味がないかなと思ったのだが、どうやら単なる距離の問題ではないようだ。【今週の住活トピック】
「2018年のトレンド予測」を発表/リクルートホールディングス駅からの距離より、保育園や学童を重視する傾向が増えていく

マンションを購入する層で共働き世帯が増えているので、「駅からの距離」を重視する傾向はますます強まっている。リクルート住まいカンパニーの2016年の調査結果では、「駅からの距離」を重視する割合が過去最高だったという(画像1)。

一方で、「教育環境」を重視する傾向も強まっていて、こちらの割合も2016年で過去最高に達した。
以前取材した子育て世帯は、子どもが私立の小学校に合格したので、その小学校の近くで家を探したと言っていた。小学校への道のりの安全性も気になるようで、できるだけ短くしたいと考えたという。子育て世帯ならではの発想だ。

また、最近の待機児童問題は、保育園から学童保育へと広がっている。働くママにとって、子どもを預けることができる場所の確保は大きな問題だ。リクルート住まいカンパニーが子育て世帯に調査したところ、「保育園や学童保育が設置されているマンション」なら、駅からの距離は許容できるという回答は約35%あったという。

「通勤より子どもを預けられる場所のほうを優先」という子育て世帯が増えて、「育住近接」重視へということは、当然の流れだろう。ここまでの話なら、特に新しい兆しということでもないように思えたのだが、面白い事例が増えているというのだ。

【画像1】「2018年トレンド予測 住まい領域」資料より転載

【画像1】「2018年トレンド予測 住まい領域」資料より転載

近くにあるだけではなく、ハード+ソフトの両輪で子育て支援

そこで、新しい兆しが感じられるとして紹介された、いくつかの事例を見ていこう。

まず、「子育てママの助け合い」を促す賃貸の共同住宅の事例(へーベルメゾン母力)。中庭に子どもが遊べる場とそれを見守るママが集える「お母さんステーション」を設置し、各住戸から中庭に出入りしやすいように設計されている。入居には、住民憲章「子育てクレド」への賛同が前提で、先輩ママが定期訪問して相談にも応じてくれる仕組みを整えた。互いに助け合いができるハードとソフトを備えた、江戸時代の長屋のような住宅だ。

次に、分譲マンション内に施設として民間学童を誘致する事例(ザ・パークハウス国分寺四季の森)。預かるだけでなく、英語や音楽、芸術など豊富なプログラムで充実した学び・体験ができるようにしたもの。同じような事例として、UR賃貸の団地の敷地内に、多彩な学び・体験ができる民間学童を誘致したもの(東雲キャナルコートCODAN)もある。

顔見知り同士で子どもの送迎や託児の頼り合いができるネットの仕組み「子育てシェア」(有料、謝礼1時間当たり500円~700円)を導入した事例(イニシア大井町)もある。交流イベントなども開催し、顔見知りを増やす工夫もしている。こうした手法なら、既存の規模の小さいマンションでも実現可能だ。

いずれも、単に居住空間に子育て施設があるという利便性だけでなく、ママたちの精神的・時間的な負担も軽減し、豊かな子育てができるソフトを提供することが大きな特徴だ。

【画像2】「子育てママの助け合い」を促す賃貸の共同住宅の事例(写真提供/旭化成ホームズ株式会社)

【画像2】「子育てママの助け合い」を促す賃貸の共同住宅の事例(写真提供/旭化成ホームズ株式会社)

保育園不足が指摘されるなか、国土交通省と厚生労働省は、保育園不足が見込まれるエリアに大規模マンションを新築する場合は、保育施設などの設置をするように要請する通達を出した。今後は、マンションや団地内に子育て施設が併設される事例が増えると見込まれている。

ただし、子育て施設をつくるというだけでなく、子育て支援でどういった付加価値を備えていくか、ソフトの工夫も同時に求められる。

在宅勤務やテレワークの推進、高齢者の子育て参加など、社会は大きく変わりつつある。居住する人たちのライフスタイルやニーズに応じた、それぞれ独自の「育住近接」が実現されることに期待したい。

その他の領域については、次の通り。いずれも、「人生100年時代」「働き方改革」「役割と価値観の多面化」といった社会のメガトレンドを受けているといえるようだ。

【2018年のトレンド予測キーワード】
 ●「来るスマ美容師」(美容領域)
 ●「年功助力」(アルバイト・パート領域)
 ●「熟戦力」(人材派遣領域)
 ●「まなミドル」(社会人学習領域)
 ●「ボス充」(人材マネジメント領域)
 ●「ピット飲食」(飲食領域)
 ●「お見せ合い婚」(婚活領域)