子どもたちのサードプレイスに 民間の学童保育「キッズベースキャンプ」の取り組み【育住近接(4)】

共働きの夫婦にとって、小学校入学後に放課後どう過ごさせるかは悩みのタネだ。公立の学童保育だけでなく、最近では民間の学童保育施設も多くみられるようになった。東急グループの「キッズベースキャンプ」はそのひとつ。多種多様なプログラムを通じて、子どもたちに学びを提供している。「キッズベースキャンプ豊洲・東雲」を例に、その活動内容を紹介しよう。育住近接
近年、保育園や学童保育施設などをマンションや団地内に設置する「育住近接」というトレンドが生まれています。「育住近接」を実現させた物件や団体の取り組み事例を紹介する企画です。民間ならでは 22時まで預けられる学童保育

「ウォーター・フロント」として開発が始まった湾岸エリアの豊洲や東雲は、タワーマンションが林立していることで知られている。

豊洲駅と東雲駅の真ん中あたりに位置する「東雲キャナルコートCODAN」の敷地内には、塾や医療関係の施設など、生活に便利なショップなどが立ち並んでいる。今回訪ねたのは、その中にある「キッズベースキャンプ豊洲・東雲」。東急グループの株式会社キッズベースキャンプが運営する、民間の学童保育施設だ。同社の三沢敦子(みさわ・あつこ)さんに、施設の概要や学童保育のあり方について伺った。

「田植え」イベントの様子(画像提供/キッズベースキャンプ)

「田植え」イベントの様子(画像提供/キッズベースキャンプ)

「キッズベースキャンプ」の始まりは2008年。公設の学童保育施設では預かり時間が遅くても19時までというところがほとんどだが、ここでは、22時まで預けられるようになっている。残業が発生しても、子どもを安全に預かってもらえるのはうれしい点だ。また、スタッフが指定の小学校から施設までの送迎を行ってくれるのもありがたい。子どもだけで移動しなくてよいのは、保護者としてとても安心だろう。

キッズコーチは、7~10人に1人の割合で配置される。子どもに対してキッズコーチがこれだけいれば、それぞれの子どもの特徴を理解してコミュニケーションをとることもできるし、なにより子どもたちに目が届きやすいだろう。ちなみに、キッズコーチは20代が多い。正社員の採用倍率約30倍の難関を突破し、しっかりと研修を受けたプロフェッショナルがそろっている。

施設内には、木製のテーブルが並んでいる。「学校から帰ってきたらまず宿題の時間を設けています。勉強を習慣づけさせるのがねらいです。その後、おやつタイム、イベントもしくは自由時間というのがだいたいの流れです。おやつや食事はもちろん子どものアレルギーに対応することができます」と三沢さん。

その言葉どおり、部屋の隅っこでは、市販のお菓子の成分表示を見ながら仕訳をしているスタッフがいた。これだけでも頭が下がるが、念には念を入れ、ダブルチェック、あるいはトリプルチェックを行っているという。

また、施設が用意する夕食「キッズミール」をオプションで利用することもできるので、忙しいときには安心だ。

キッズベースキャンプといえば、「豊富なイベント」が特徴!

施設の特徴は何と言ってもイベントが充実していること。

「イベントは子どもへの投資になると思っており、遠足やお泊まりなどにもでかけます。スキーなど、保護者だけでは連れて行くのが難しい場所も訪れています」(三沢さん)

イベントは、週1回くらいの頻度で開催している。参加するかどうかは、子どもと保護者が話し合って決めることができる。イベントは実にさまざまで、料理や工作、スポーツや社会科見学など、子どもたちの知的好奇心をくすぐるものばかり。

「普段は入れないところに行ける、動物園や劇場のバックヤードツアーは特に人気です」(三沢さん)

また、夏休みや冬休み、春休みなど、長期休みだけ施設を利用することも可能。日曜日に登校した次の日の「代休」などは、朝から対応しているそうだ。

「利用者は1、2年生が多いですね。それ以上になると塾などに通い始め、だんだん通う日数が減ってきます。ですから、通う日数に応じた料金プランを設定しています」(三沢さん)

このように、キッズベースキャンプは、保護者や子どもの役に立ちたいという一心で活動をしてきたそうだ。

「10年続けてきたことで、理解を得られるようになったと感じています。時代の流れもありますし、続けてきたことで信頼度が高まったのだと思います」(三沢さん)

 全員でゲーム(画像提供/キッズベースキャンプ)

全員でゲーム(画像提供/キッズベースキャンプ)

「ただいま!」 サードプレイスでの体験が子どもを成長させる

取材をはじめて数十分、お話を聞いていると、子どもたちがスタッフに連れられて帰ってきた。「こんにちは」ではなく「ただいま!」と元気な声で、施設に次々とやってくる。そのまま思い思いの席につき、ランドセルから取り出した宿題を始めた。

その日勤務していたキッズコーチに、保護者たちの反応を聞いてみた。

「保護者のみなさんからは、日々感謝の言葉をいただきます。特に印象的だったのは、子どものトラブルを仲介して、仲直りさせたとき。子ども同士のトラブルは、親が介入しにくいこともあるので、とても喜んでいただけました。そのほかにも、乱暴な言葉づかいなどをしている子どもには注意するのですが、親以外の大人から指摘されたほうが効果的な場合もあるようで、感謝されたことがあります」(キッズコーチ)

「キッズベースキャンプは、保護者が働き続けるための役割はもちろんですが、子どもの居場所にもなることもあるのです。事情があって学校に行けなくなってしまってもキッズベースキャンプには来てくれるなど、子どもたちの受け皿になってあげられると考えています」(三沢さん)

アート工作イベント(画像提供/キッズベースキャンプ)

アート工作イベント(画像提供/キッズベースキャンプ)

ただ、施設の需要は増えつづけ、現在はキャンセル待ちが多くなってきたようだ。そのため、「プレキッズクラブ」という未就学児登録制度をはじめたという。この制度は、子どもが小学校に入学する前から学童保育へ入会できる権利を確保できるというもの。この制度は有料だが、「どこの学童も満員で入れない」という事態を防げるため、将来の安心材料として保護者たちは申し込みをするのだという。

この施設に限ったことではないが、「小1の壁」の問題は、なんとかならないものかと考えさせられた。

子どもたちの「やりたい!」を取り入れ、保護者たちの「体験させてほしい!」をかなえるキッズベースキャンプ。今後も独自のプログラムを通じて子どもたちを成長させ、保護者に安心を提供しつづけていくだろう。

●取材協力
・キッズベースキャンプ

「時短」で子育てをサポート コンパクトシティがかなえる育児環境とは【育住近接(3)】

共働きの夫婦が増えた今、子育てと仕事の両立の難しさに直面している人は多いだろう。野村不動産は、そんな子育て世帯向けにマンションを建設、昨年の3月から入居が始まった。その物件「プラウドシティ大田六郷」は、どのように育児をサポートするのだろうか。入居者の声を交えながら紹介したい。育住近接
近年、保育園や学童保育施設などをマンションや団地内に設置する「育住近接」というトレンドが生まれています。「育住近接」を実現させた物件や団体の取り組み事例を紹介する企画です。子育てに必要な施設がそろう「コンパクトシティ」

政府が取り組む「少子化対策」と「女性活躍」。産休、育休を取得しやすくする企業が増えてきたが、保育園不足による「待機児童」問題など、子育て環境はまだまだ整ってはいないのが現状だろう。そんななか供給されたのが、野村不動産が手がける「プラウドシティ大田六郷」。一体どんな特徴があるのだろうか。

物件は、京急本線・雑色駅から徒歩約10分の場所に位置する。多摩川緑地にほど近く、品川や川崎方面にも通勤が便利な場所で、昔から町工場が多いエリアだ。

【画像1】スカイデッキからは多摩川が望め、自然環境もよい(画像提供/野村不動産)

【画像1】スカイデッキからは多摩川が望め、自然環境もよい(画像提供/野村不動産)

マンションの敷地内には、保育施設、学童、医療、ショップなどの子育て世帯にうれしい施設を内包している。また、大型コインランドリーやカーシェア、宅配レンタカーなど、便利な設備は実に豊富だ。

物件の周辺は、徒歩7分圏内に幼稚園、小学校、中学校、児童館がそろい、家の近くで子どもが成長することができる。公園や自然、病院もあるのも魅力的で、「コンパクトシティ」という呼び名にふさわしい場所であることがうかがえる。

野村不動産の高橋和也(たかはし・かずや ※「高」は正式には「はしごだか」)さんによると、このマンションの開発の背景には「時短を図り、子育て世帯をサポートしたい」という思いがあったという。というのも、働きながら子育てをする際に問題になるのは、「とにかく時間が足りない」ということだからだ。遠くの保育園に連れて行ってからの出勤、遠くの保育園に寄ってからの帰宅。あるいは日々の買い物をするためのスーパーが遠いこと……。

そうしたことが原因で発生する時間のロスを解決するのが、マンション内に設置された施設と街の利便性だと考えたそう。

この記事の作成にあたって行った居住者アンケートで寄せられた、「すべての生活動線が1つにつながっている」(Hさん)という意見に、このマンションの特徴「時短」が集約されているように感じられる。

「昨年3月より入居を開始したばかり。入居者には子育て世代が多く、6歳未満の未就学児のいる家庭が多いですね」と高橋さん。購入者層も20代~30代と比較的若い。また、共働き世帯が多く、「通勤しやすいので選んだ」という声が多く見受けられた。同じように多かった意見が「子どもが生まれ、子育てをしやすい環境を求めていました」(Kさん)といった声。

つくり手の思いは、たしかに入居者に届いているようだ。

キッズラウンジで育つのは、子どもだけでなく、大人たちのコミュニティ【画像2】敷地内にはひろびろとした場所があり、外遊びもできる(画像提供/野村不動産株式会社)

【画像2】敷地内にはひろびろとした場所があり、外遊びもできる(画像提供/野村不動産株式会社)

これまで生活の利便性について述べてきたが、敷地内の共用施設にも注目したい。

子ども向けの共用施設として、よく利用されているのが「キッズラウンジ」。キッズラウンジは、絵本や遊具が豊富にそろった子ども向けの遊び場で、世界の優れたあそび道具を販売する玩具メーカー、ボーネルンドがプロデュース。その存在感はラウンジというよりもむしろ屋内型の公園のようだ。雨が降っても家の外に出て遊ぶことができるのは大きな魅力といえるだろう。

【画像3】カラフルで色彩豊かなキッズラウンジ(画像提供/野村不動産株式会社)

【画像3】カラフルで色彩豊かなキッズラウンジ(画像提供/野村不動産株式会社)

高橋さんによれば、だいたいいつも6~7組の親子が遊んでいる姿を目にするという。アンケートでも「キッズラウンジや中庭など、マンション敷地内で遊ぶスペースがあることはよいと思う」(Tさん)など、キッズラウンジに好感をもつ声が目立った。一人っ子だとしても、同じマンション内に同世代の子どもがいることで、「きょうだい感覚」を得ることができるかもしれない。

また、キッズラウンジには父親の姿も見かけるそう。「父親がスムーズに入り込める感じで、休日の育児が楽しくなりました」(Iさん)や、「子育て世帯が多くいて、話がしやすい」(Hさん)といった声があがった。こういう交流の積み重ねが、マンションコミュニティを形成していくのだろう。

施設内の子育て施設 利用状況はいかほど?

敷地内にある学童施設「ポピンズアフタースクール西六郷」は、放課後や長期休暇に小学生を預けることができる。小学校入学後、保護者が勤務から帰宅する夜間の時間に起こる「小一の壁」問題に対応することが目的のようだ。未就学児童が多いこともあり、まだマンション住人の利用は少ないそうだが、機能を発揮する日も遠くないだろう。

また、開設準備中の医療施設も、子どもたちの「かかりつけ医」として活躍しそう。そして、4月にはいよいよ認可保育園が開園予定。マンションを購入したからといって優先的に入れるわけではないのだが、実際に入居者の多くが入園を希望している。

どの施設もまだまだマンション入居者の利用は少ないが、今後の発展に期待したい。

コンパクトシティに建てられた「プラウドシティ大田六郷」。共働き夫婦が、育児と子育てを両立するための環境が十分に整っていることが分かった。入居が始まったばかりだが、今後「育住近接」のお手本となってくれそうだ。

●取材協力
・プラウドシティ大田六郷(野村不動産株式会社)