キャンピングカーをリノベで「動く別荘」に! 週末バンライフで暮らしながら家族と九州の絶景めぐり

キャンピングカー、バンライフなど、車と住まいが一体化したライフスタイルが注目を集めています。そんなトレンドの影響もあってか、リノベーションオブ・ザ・イヤー2023で特別賞を受賞したのがキャンピングカーをリノベした「動く家」です。キャンピングカーをリノベしたら、一体どのような住まいになったのでしょうか。施主と設計を担当した建築士に話を聞いてみました。

中古のキャンピングカーをリノベしてできた「動く家」

今回の「動く家」プロジェクトの施主・川原一弘さんは、サーフィンやキャンプを趣味としていて、もともとハイエースを所有していました。ただ、コロナ禍もあって自由に移動できず不便さを感じていたため、別荘またはハイエースへの買い替えを検討していましたが、偶然、中古のキャンピングカーを発見しました。

もともと、熊本を中心にリノベーションや店舗デザインなどを幅広く手掛けていた会社ASTERの社名を知っていた川原さんは、すぐに会社宛にメールを送り、相談したといいます。

「状態のいいキャンピングカーがあるのですが、これをリノベできますか」。すると、わずか10分後にメールで「できますよ!」と即答が。このレスポンスに後押しされ、キャンピングカーを購入したのです。2022年3月3日のことでした。

30年前に製造されたキャンピングカー。横顔がりりしい!(写真提供/ASTER中川さん)

30年前に製造されたキャンピングカー。横顔がりりしい!(写真提供/ASTER中川さん)

車は1993年製造、建物でいうと築30年、広さは8平米のワンルーム。キッチン・バス・トイレと運転席がついていて、昨今、都心部で話題になっている「激狭ワンルーム」と同程度といってもいいかもしれません。

「せっかくのキャンピングカーなので、単なる改装で終わらせるのは惜しいと思いました。居住性を高めて『動く家』にするのはどうだろう、という案を川原さんに提案したところ『よいですね』と話がまとまりました。キッチン・トイレ・シャワーは十分に動くためそのままで、位置などの変更も行っていません」と話すのは、設計を担当したASTERの中川正太郎さん。

既存の駆体のギミック、良さは残しつつ、価値を高めるのは「リノベ」の得意とするところです。車の改装では終わらせずに「家」「別荘」のように使える空間をつくる、そんなプランニングが固まりました。

居住性を高めるのは素材感。住宅用の無垢材、家具屋のソファを採用

「動く家」にするということは、すなわち「居住性を高める」こと。そのため、プランニングでは手触り、心地よさなど素材感を活かすことにしようと思い至ったといいます。

リノベ前の写真。これはこれで味があります(写真提供/ASTER中川さん)

リノベ前の写真。これはこれで味があります(写真提供/ASTER中川さん)

リノベ前の写真。室内から運転席を見たところ(写真提供/ASTER中川さん)

リノベ前の写真。室内から運転席を見たところ(写真提供/ASTER中川さん)

「内装の雰囲気の参考にするため、キャンピングカーショーを訪れるなどし、かなりの数のキャンピングカーを見学しました。そのなかで気がついたのは、家らしさというのは、やはり素材ということ。自動車改装用パーツで木っぽい見た目にするのは容易ですが、やっぱりどこか工業用部品なんです。ですから、今回は住宅用の建材を使おうと。床や壁にはたくさん木材を使っていますが、突板(スライスした天然木をシート状にして加工したもの)を貼っていますし、塗装も住宅用、照明はダウンライトです。ソファなども車用ではなくて家具屋さんに依頼しました」と中川さん。

ソファベッドは折りたたみ式で、ベッドのように広げたところ。間接照明がおしゃれ(写真提供/ASTER中川さん)

ソファベッドは折りたたみ式で、ベッドのように広げたところ。間接照明がおしゃれ(写真提供/ASTER中川さん)

ソファベッドをソファとテーブルを囲む椅子にした状態(左)とベッドにした状態(右)の間取図。バス・キッチン・トイレ。動線も考えられた、まさに家(写真提供/ASTER中川さん)

ソファベッドをソファとテーブルを囲む椅子にした状態(左)とベッドにした状態(右)の間取図。バス・キッチン・トイレ。動線も考えられた、まさに家(写真提供/ASTER中川さん)

狭い空間だからこそ、目に入るもの、手や足で触れるものの素材感が大事というのは、わかる気がします。また、空間がコンパクトになることから、省スペースで小さく作られていることが多い船舶用パーツを採用したとか。

「施工に関しては、普通の住宅のリノベとほぼ同様の工程です。残せる部分は残しつつ、施工する床やソファなど既存のものは剥がしています。床はヘリンボーン(角が90度になっている貼り方)なので、座席と接する面など、細かな部分は職人さんも苦労したと思います」(中川さん)

床のヘリンボーンを貼っているところ。車だと思えないですね(写真提供/ASTER中川さん)

床のヘリンボーンを貼っているところ。車だと思えないですね(写真提供/ASTER中川さん)

こうしてみると手仕事でできているのがわかります(写真提供/ASTER中川さん)

こうしてみると手仕事でできているのがわかります(写真提供/ASTER中川さん)

施工にかかったのは約1カ月半、費用は130万円ほど。通常、リノベーションでは職人さんが現地に赴いて作業を行いますが、そこは車なので、なんと職人さんの庭に移動してきて作業をしたそう。大工さんも家ではなく車に施工するとは、きっと貴重な機会になったことでしょう。

車内に船舶用の照明を採用するなど、狭くても快適に暮らせる工夫が凝縮(写真提供/ASTER中川さん)

車内に船舶用の照明を採用するなど、狭くても快適に暮らせる工夫が凝縮(写真提供/ASTER中川さん)

窓の景色が移ろう、動く城のような最強の可動産が完成!

完成した住まいは、常に移動して窓から景色が動いていく「動く城」のよう。出来上がりについて施主の川原さんは、「最強の可動産ができた!」と表現します。

この車からの眺め、そのままロードムービーに使えそう(写真提供/ASTER中川さん)

この車からの眺め、そのままロードムービーに使えそう(写真提供/ASTER中川さん)

「動線がスムーズなので、寝る、着替える、くつろぐ、収納からモノを出す、といった行動が家と同じ感覚でできています。目的地についてもキャンプ設営は不要ですし、着替えやシャワー、トイレの場所を探すといった行動にストレスがなく、滞在時間を思う存分、アクティビティに使えます。運転席にロールスクリーンがあるので、下ろして映画を見たりもしています。2人の子どもたちはゲームをしたり、家となんら変わらないくつろぎ方をしていますね。窓から景色がキレイなんですけど、まったく見ていないという……」(川原さん)

キッチンでコーヒーを淹れるだけで、至福のひととき(写真提供/ASTER 中川さん)

キッチンでコーヒーを淹れるだけで、至福のひととき(写真提供/ASTER 中川さん)

ロールスクリーンを下ろしてゲーム中。川原家のお子さんになりたい(写真提供/川原さん)

ロールスクリーンを下ろしてゲーム中。川原家のお子さんになりたい(写真提供/川原さん)

こうして動く城に家族を乗せて、サーフィンや釣り、キャンプに行ったり、初日の出を屋根の上で見たりと、すっかり家族の居場所になっているといいます。ご近所にも評判で、同級生が内見(?)するということも多いとか。

生活に必要なインフラでいうと、電気は大型のポータブルバッテリーを搭載、上水は大きめの給水タンク、下水も汚水タンクがあるため、「家」と変わらない快適さをキープ。断熱材はもともと入っているため今回は手をつけていませんが、現状、エアコン1台で冬も夏も快適に過ごせるといいます。そこはさすが断熱先進国ドイツ製!といったところでしょうか。

一方で、キャンピングカーはそのものが大きいので運転では注意が必要なこと、事前に駐車するスペースを調べておくこと、目的地までの道路が細すぎないか、という点に注意しているそう。もう一つ、気を付けている点として、家の生活感を持ち込まないことをあげてくれました。

お子さんたちのものは極力、厳選して持ち込んでいます(写真提供/川原さん)

お子さんたちのものは極力、厳選して持ち込んでいます(写真提供/川原さん)

「子どもがいるとどうしても、住空間に生活感がにじみでてしまいますよね。せっかくおしゃれにつくってくれたので、この世界観を壊さないように、大人のインテリア空間にするよう、努めています」(川原さん)

ああ、わかります、その気持ち。子どもと一緒の空間は好きなんだけれども、たまには生活感のない大人の空間にいたい……。「動く家」はそんな大人の切なる願いも叶えてくれたようです。

家や住宅ローンのように「動かせないもの」に囚われない生き方を提案したい

今回の「動く家」、現在、乗れているのはほぼ週末といいますが、川原さんがもっとも魅力を感じたのは、「家が自分についてくる、自分本意の生き方ができること」だといいます。

「私たちが暮らす九州は、風光明媚な場所が多くて、阿蘇、天草、鹿児島、大分、宮崎など、自然そのもの、移動そのものが楽しいことが多いんです。『動く家』があれば、ドライブに出かけてそのまま夜空を眺めたり、美しい景色を見て、気に入ったら長く滞在したりと、自由に暮らすことができる。時間通りに動くというより、自分に合わせて家がついてくる、そんな生き方を可能にすると思いました」

窓の向こうに広がる絶景! キャンピングカーで九州を巡るのを夢見ている人は多いのでは(写真提供/川原さん)

窓の向こうに広がる絶景! キャンピングカーで九州を巡るのを夢見ている人は多いのでは(写真提供/川原さん)

動く家。ドライブだけでもしてみたい(写真提供/ASTER中川さん)

動く家。ドライブだけでもしてみたい(写真提供/ASTER中川さん)

設計を担当した中川さんも、手応えを感じているようです。
「弊社の『マンション』『一戸建て』『賃貸』というメニューに『車』という領域を増やしたいくらい。一軒家+離れや応接間のような感覚で、車の空間を使ってみたいという人は多いと思います」と話します。確かにテレワークスペース、家族の避難場所などとして、十分に「ほしい」という人はいることでしょう。

ともすると、私たちは、家や住宅ローンという「重いもの」に縛られがちですが、「動く家」はそうした重たさや、「動かせない」という思い込みを追い払ってくれる存在です。

「老後のためにと今まで積み立ててきた有価証券を取り崩さず、担保に入れて資金調達するスキームを組むことで月々の返済負担をなくし、目先を楽しむことを実現しています。今、老後や将来のためにといって貯蓄や投資にまわす人は多いですが、死ぬときにお金はもっていけません。やりたいことを我慢するのではなく、きちんと暮らしとやりたいことは両立できるんだよという、事例になっていけたらいい」と話す川原さん。

キャンピングカーやバンライフが広がりはじめたものの、「いいなあ」「やってみたい」という人は多いはず。ただ、移動する車窓のように、人生は移ろいゆき、変化していくもの。「定年後に」「ゆくゆくはキャンピングカーで」と憧れるのではなく、実はすぐにでも動き出すことが大切なのもしれません。

●取材協力
ASTER
ASTERのInstagramアカウント

「平屋の多い都道府県」ランキング1位は沖縄じゃない!? TOP10を九州が席巻、新築半分以上が平屋の県とは?

「今、平家が空前のブーム」この言葉にピンときますでしょうか? SUUMOでは、2023年のトレンドワードとして、「平屋回帰」「コンパクト平屋」という言葉を発表しました。比較的地価の高い都会に暮らす人には、平屋が建てられるような条件はなかなかそろうわけもなく、その人気は実感しようもありません。ところが、全都道府県の新築一戸建て(※注)の平屋率を調査してみると、都会暮らしの人には想像もできないような意外な事実が……。都道府県別であまりにも違う平屋事情を見ていきましょう。

九州で高い平屋率。宮崎県、鹿児島県では新築一戸建ての半分以上が平屋

SUUMOが2023年のトレンドワードとして「平屋回帰」「コンパクト平屋」という言葉を発表した背景には、最近の平屋のニーズの大きな変化があります。現在ブームになっている平屋は、建物面積で15坪(約50平米)から25坪(約83平米)くらい、間取りは1LDK~2 LDK位のコンパクトなもの。適度な大きさで動線が効率化されていること、価格の手ごろさから、子どもが独立して2階部分を持て余しているシニア夫婦、一人暮らしや一人親世帯など、さまざまな世帯で平屋が選ばれており、2022年に着工された新築の一戸建て住宅(※注)のうち、約7件に1件は平屋になっています。
それでは、気になるランキングはどのような結果になっているのでしょうか。

※注 記事中の「一戸建て」と「平屋率」の定義=国土交通省が発表している建築着工統計調査より、居住専用住宅の建築物の地上階数1階~3階の総棟数のうち、地上階数1階の棟数の割合を集計し「平屋率」としている。構造は木造・鉄骨造など全構造の合計。3階建てまでの居住専用住宅には、アパートやマンションなどの集合住宅も含むため、すべてが一戸建てではないが、本記事では便宜上一戸建てとしている。1階建ての集合住宅は非常に出現率が低いため、実際の新築一戸建ての平屋率は本記事の試算より高くなると考えられる(本記事内共通)

都道府県別平屋率1位~20位

都道府県別色見表

都道府県別平屋率21位~47位

出典:国土交通省 『建築着工統計調査 / 建築物着工統計』※注に記載の通り

なんと、1位の宮崎県、2位の鹿児島県は2022年に着工された3階建て以下の新築住宅のうち、過半数以上が1階建て、つまり平屋です。九州地方は福岡県を除くすべての県で平屋率3割を超え、上位10位以内にランクイン。続く平屋率が20%を超える20位までの上位グループには、香川県、愛媛県などの四国勢、群馬県、茨城県、栃木県の北関東勢が並びます。全国最下位の東京は1.4%と、新築約71件に1件の割合。そりゃ都内では見かけないはずです。上位の地域はもともと平屋率が高かったことに加え、前述の世帯の少人数化や、家事動線の良さ、冷暖房がワンフロアで完結するため光熱費が低く済むこと、さまざまなメリットが認知され、この8年の間に平屋率は150%~250%ほど上がっています。

■関連記事:
2023年住宅トレンドは「平屋回帰」。コンパクト・耐震性・低コスト、今こそ見直される5つのメリットとは?

熊本地震をきっかけに、揺れに強い平屋の関心が増加。地域独特の気候も影響

では、どうしてこんなに九州で平屋率が高いのか?熊本県で注文住宅を中心に手掛ける工務店、グッドハート株式会社の営業・宮本紬麦さんに聞いてみました。

「同じ九州地方でも地価が高い福岡が上位に入っていないことからも、まず、土地が比較的安く手に入ることが大きいと思います。さらに九州は日常の移動はほとんどが車で平置き3台の駐車場を希望される方がとても多く、ご家族で3台乗るケース、ご家族2台に来客用、という方も多くいらっしゃいます。それから、熊本では、2016年の熊本地震をきっかけに、平屋を希望される人がぐっと増えました。建物が自らの重みでつぶれている様子を目の当たりにして、2階の重みがなく、地震の揺れに強い平屋に、より注目が集まったのです。家が倒壊して建て替えが必要になった人だけでなく、初めてマイホームを持たれる方も、これから建てるなら地震に強い構造がとりやすい平屋がいいと希望される方が増えました」

(写真提供/グッドハート)

(写真提供/グッドハート)

実際、熊本県で震災後に平屋を希望する人が増えたことは話題になっていたそうです。一方、災害といっても、近年多い水害においては、高い建物に避難する必要があり平屋は不利です。ただ、いつ来るかわからない地震に比べ、水害は何日か前から予測でき、早めに避難をすれば命は守れることを考えると、まずは日常の生活のしやすさと、予測不能な有事を優先するというのは合理的です。

台風・火山噴火、地域独特の気候が平屋率にも影響

また、宮崎県、鹿児島県を中心に注文住宅・分譲住宅を手掛ける万代ホームのハウジングアドバイザー西原礼奈さんは、以下のように話します。

「宮崎、鹿児島は、以前から建売住宅やモデルハウスも平屋で建てることが多く、2階建にする場合でも総2階(※1)でなく、一部分だけや、中2階(※2)を取り入れる程度です。これには台風や桜島の噴火などの影響があると思います。壁面は低いほど台風の強風に耐えられます。火山灰が降ってくる地域では、屋根に積もった灰の掃除なども雨どいを守るためには必要で、平屋は高い建物に比べ対処しやすいのです」

(写真提供/万代ホーム)

(写真提供/万代ホーム)

熊本大学 大学院で建築構造・防災建築を研究している友清衣利子教授も、「台風が多い九州は、耐風性の観点から、住宅の高さや屋根の勾配を低く設計する傾向にあります」とコメント。

「九州では、屋根の対策のほかにも、雨戸やシャッターなどで窓やドアなどの開口部を守る建築上の工夫がされているのが一般的です。
さらに、2018年と2019年の台風被害をきっかけに、住宅の耐風性が着目されるようになったと実感しています。国土交通省が屋根の留め付けなどの対策を発表していますが、それらが世の中で反映され、変わっていくのはこれからだと思います」(友清教授)

では、台風と平屋の関係について、気象庁が発表している1951年以降の都道府県別、台風の上陸数上位ランキングを見てみましょう。

※1.総2階/1階部分と2階部分がほぼ同じ面積となる建て方。直方体のような形になる
※2.中2階/階と階の中間に設けられる床部分のことで、スキップフロアともいう。平屋の場合の中2階は、2階がなくロフトのような形状となる

台風の上陸が多い都道府県ランキング

出典/気象庁ホームページ 台風の統計・資料より 統計期間:1951年~2023年第1号台風まで

最も台風の上陸数が多かったのは平屋率2位の鹿児島県、続いて長崎県、宮崎県、熊本県も平屋率が高く、台風の影響を受けやすい地域で平屋率が高いことは明らかです。

ここで疑問が。台風といえば、沖縄県が上位のランキングに入っていないのはどうしてでしょう。気象庁の解説をよく見ると、「上陸」の定義は台風の中心が「北海道、本州、四国、九州の海岸線に達した場合」。小さい島や半島を横切って短時間で再び海に出る場合は「通過」、そして、沖縄県、鹿児島県の奄美地方のいずれかに近づいた(各気象官署等から300 km以内)場合は「沖縄・奄美に接近」と、「接近」という分類になるため、この地域には台風の「上陸」と定義される事象が存在しないようです。

そんな台風の通り道、沖縄といえば、イメージするのは低く構えた赤瓦屋根の平屋に風よけの石垣やブロック塀、屋敷林の伝統的な家。さぞかし平屋率は高かろうと見てみると全国3位。ただ、2014年から2022年の8年の間に平屋率は47.4%から41.7%にダウンしています。ほとんどの都道府県が8年間で平屋率が大きくアップする中、これは何故なのでしょうか。

沖縄の住宅(写真/PIXTA)

沖縄の住宅(写真/PIXTA)

台風接近の多い沖縄県の平屋率がダウンしている理由には、独自の住宅文化とその変化があった!

前出の都道府県別平屋率を全国と沖縄県について住宅の建て方(構造)別に集計してみました。

全国と沖縄県の構造別着工棟数の割合(2014年と2022年の比較)

全国と沖縄県の構造別平屋割合(2014年と2022年の比較)

構造別の着工棟数割合を見ると全国では圧倒的に木造の比率が高く約9割。これはどの都道府県でも同じ傾向です。ところが、沖縄は鉄筋コンクリート造(RC造)、コンクリートブロック造の比率が高く、木造比率は2014年時点で14% と低い、独特な住宅文化を持っています。沖縄県は全国の中でも比較的森林比率が低く、特に木材の生産目的で苗木を植えるなどして人が手を加えている「人工林」の割合は全国一低いのです。

そのため、貴重な木材を再利用しながら家を住み継いでいく「貫木屋(ぬちやー)」という独特の工法が古くから受け継がれてきました。戦後の復興では伝統的な工法でない木造住宅が一時的に増えますが、多湿な気候に合わず白アリ被害が拡大したこと、度重なる台風被害を受けたことからRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)やコンクリートブロック造のニーズが高まっていったことがこの独特な住宅文化の背景です。

ところが近年、コンクリート価格の高騰、本州からのハウスメーカーの進出、木造住宅の工法や建材、防蟻処理の進化などにより木造住宅の割合が急速に増えてきました(2014年14.0%→2022年38.6%)。これら、増加してきた木造住宅が平屋ではなく2階建て以上で建てられていること(木造の平屋率2014年30.9%→2022年16.5%)が、沖縄県の平屋率ダウンの要因です。

■関連記事:
沖縄の家、台風や災害に負けない家づくりを現在・過去に学ぶ

岩手・宮城でも平屋率ダウン、福島県で横ばいとなっている背景には東日本大震災の影響が

沖縄と同じく、平屋率が2014年より下がっている県がほかにもあります。
岩手県 2014年 16.0% →2022年 15.7%
宮城県 2014年 13.6% →2022年 8.8%
また、福島県も 2014年 14.7% →2022年 15.4%と、平屋率はほぼ横ばいです。

市区町村別の人口や着工戸数の変化を見てみると、東日本大震災直後は、被害の大きかった地域の住宅再建が進み、それらの地域は比較的土地区画が広く平屋が建てやすかったのに対し、近年は人口も住宅需要も都市部に集中してきており平屋という形態がとりにくくなっていること、また、宮城県の都市部では新築マンション供給が増加しており、平屋志向が強い高齢者がそれらも選択肢に入れていること等の要因が考えられます。

割高とされていた平屋の価格は2階建て並に。メンテナンスしやすさも魅力(写真撮影/片山貴博)

(写真撮影/片山貴博)

このように、都道府県によって事情は違えど、全国的にはますますシェアが高まる平屋は、その家事動線の良さ、地震や風などへの強さ、コンパクトなことで光熱費を抑えられることなど時代に合った魅力が多く、検討してみたいと思っている人も多いかと思います。ただ、私がかつて工務店に取材した際には、例えば100平米の平屋を、1階50平米、2階50平米の総2階建てと比べた場合、建築コストは1.2倍程度と割高になる、と聞いたことがあります。理由は、平屋は基礎部分や屋根の面積が大きいことによる材料費や施工費の増加。実際今もそうなのでしょうか?

「施工方法や工務店によって一概には言えませんが、当社の場合では、同じ面積ならば平屋も2階建てもほとんど坪単価は変わりません。確かに屋根や基礎の大きさは平屋の方が大きいのですが、平屋の場合、工事用の足場が低く済むこと、高所作業が減ることで建物の施工費が安く済むんです。メンテナンスにおいても、約10年ごとに必要な壁の塗り替えも大きな足場作りは不要ですし、屋根修理にも同じことが言えます。また近年注目が集まっている太陽光パネルは、床面積に対して屋根が広い平屋は広く置くことができ、発電できる量において有利です」とグッドハート宮本さん。

建設作業現場での事故を無くすために建設現場には「労働安全衛生規則」という詳細なルールを守ることが義務付けられているのですが、墜落・転落防止のための足場の作り方や管理については法改正がたびたび行われており、今後もさらに強化される予定です。
このような変化がある中で、平屋は割高とは限らなくなってきているんですね。

ちなみに、SUUMOジャーナルの人気記事ランキングでも、4月~6月は平屋の実例記事の数々が上位を占拠しました。東京にいると、平屋の人気は実感しがたく、実例紹介を始めてからの反響の多さには本当に驚きました。地域独特の住宅文化は気候や時代の影響も強く受けていることがわかり、私たちもさまざまな情報をアップデートしていかねばと強く実感した取材でした。

●取材協力
・グッドハート
・万代ホーム
・熊本大学大学院 先端科学研究部 物質材料科学部門 建築構造・防災分野 友清 衣利子教授

●関連サイト
・林野庁ホームページより都道府県別森林率・人工林率(平成29年3月31日現在)

移住者をドラフト会議で指名!? 南九州の移住支援がおもしろい!

2014年、「地方創生」の掛け声のもと、日本全国で移住相談窓口やHP開設など移住支援施策が活発化した。それから5年が経過し、地域によって成果の明暗は分かれつつある。いまだ多くの人にとって「移住」のハードルは高く、地域の関心は「関係人口」を増やすことに移り始めた。そんな「関係人口」を考える上でヒントとなり得るプロジェクトが「南九州移住ドラフト会議」だ。
「真面目じゃないけど本気の移住支援施策」

宮崎県東臼杵郡美郷町、渡川地区。公共交通機関でたどり着くことは難しく、車で向かう道中には鹿やたぬきが頻出。山々に囲まれた人口約350名の「限界集落」廃校跡地に、この日各地から100名近い人々が集まった。そこで行われていたのが「南九州移住ドラフト会議 クライマックスシリーズ」だ。

「南九州移住ドラフト会議」とは、移住支援プログラムをプロ野球のドラフト会議に見立て、「球団=各地域」が「選手=移住志望者」を指名する、ユニークな取り組みだ。各地域がSNS上でPRを行う「オープン戦」、移住に関するハードルやリスクマネジメントの考えを地域側・移住志望者側双方が学ぶ「移住力強化キャンプ」を経て、各地域が移住志望者を指名する「ドラフト会議」が行われる。他地域と競合した場合は抽選を行い、当選地域が期限付きの「独占交渉権」を獲得するなど、徹底的にプロ野球の仕組みを模している。2015年に鹿児島(カ・リーグ)で始まった同プロジェクトは今年で4回目。2016年より宮崎(ミ・リーグ)、2019年より熊本(ク・リーグ)が加わり、現在は「3リーグ制」になっている。

ドラフト会議中にはオリジナルのスポーツ紙も配布(画像提供/南九州移住ドラフト会議事務局)

ドラフト会議中にはオリジナルのスポーツ紙も配布(画像提供/南九州移住ドラフト会議事務局)

ドラフト会議の様子。2019年は、3県から12地域が「球団」として参加した(画像提供/南九州移住ドラフト会議事務局)

ドラフト会議の様子。2019年は、3県から12地域が「球団」として参加した(画像提供/南九州移住ドラフト会議事務局)


約半年に渡り行われてきた同プロジェクト最後のイベントが、この日行われた「クライマックスシリーズ」だ。各地域は、10月に指名した選手とこの日までどのような交流を行ってきたか、思い思いの方法でプレゼンテーションを行った。

愛知県から参加し、宮崎県西臼杵地域から指名された「選手」のひとり、小仲さんは参加理由を次のように語った。
「地方での暮らしに興味があり、友人から誘われて参加しました。絶対に移住しなければいけないわけではなく、関係人口を増やす取り組みと聞いて。気軽さがいいですね。自分としては希望の地域などは無いので、指名してくれるところがあれば、という気持ちでした」

一方の「球団」側はどうか。地域側担当者のひとりは、移住ドラフト会議の魅力をこう語る。
「移住志望者との出会いの場であると同時に、他地域とつながる場、他地域の取り組みを知ることができる場にもなっていますね。まちづくりの取り組みって『県域』で情報が流通していて、立地的に近くても隣県の成功事例は案外知れなかったりするので」

また別の担当者は、主催者の「真面目じゃないけど本気の移住支援」という言葉に共感した、と語る。
「移住に関して、『真面目な制度』はたくさんあるし、関わっている方々もきちんと仕事をしている。でも、移住者の人生に本気で向き合えているか?というと疑問が残るものも多い。移住ドラフトは、『真面目』ではないですが、移住者の人生を最初に考えている。同時に、地域に必要な人、合う人とは?と自分たちの地域を見つめ直す機会にもなっています」

夫婦で参加した「選手」をそれぞれ別の地域が指名。結果、夫婦のために、指名した地域同士が「連携協定」を結ぶ一幕も(写真撮影/ゆげさおり)

夫婦で参加した「選手」をそれぞれ別の地域が指名。結果、夫婦のために、指名した地域同士が「連携協定」を結ぶ一幕も(写真撮影/ゆげさおり)

参加者が「関わりやすく、離れやすい」仕組みであること

プロジェクトの発起人であり、鹿児島リーグ「コミッショナー(責任者)」の永山さんはこう語る。

「地域側が『あなたが欲しい』と言える場が無かったんですよね。地域側は『誰でもいい』『みんなに来てほしい』と言ってしまいがちなのですが、移住ってある種結婚に近いと思うんです。『誰でもいいから結婚して』と言われて、結婚する人なんていない。『あなたと一緒に何かしたい』と言える場が必要だと思い、ドラフト会議という仕組みを考えました」

「南九州移住ドラフト会議」の発起人・永山由高さん。鹿児島を中心に、まちづくりのプロジェクトに広く携わる(写真撮影/ゆげさおり)

「南九州移住ドラフト会議」の発起人・永山由高さん。鹿児島を中心に、まちづくりのプロジェクトに広く携わる(写真撮影/ゆげさおり)

プロジェクトを通じて、全参加者の約1/4にあたる25組が実際に移住しているという。一方、残りの3/4も、地域とつながりを持ちながら活躍している。

「実際に移住された方ですと、地域のゲストハウスの女将になっていただいたり、地域の中心的な商社のNo.2になっていただいた事例もあります。

関東圏など他の地域に暮らしながら、南九州各地域をサポートしてくれている方もいます。例えばカメラが趣味の方に、お祭りのポスター写真を撮ってもらったり。プロジェクトのキャッチコピー考案や、マーケティングのサポート、商品パッケージのデザイン、新施設のロゴマークをつくっていただいた例もありますね。関東圏でイベントをする際に売り子をしてもらったり、商品開発時のモニターとして協力してもらうなど、もう少しライトな付き合い方もあります」

東京で行われた移住説明会をサポートした「指名選手(写真中央)」(画像提供/南九州移住ドラフト会議事務局)

東京で行われた移住説明会をサポートした「指名選手(写真中央)」(画像提供/南九州移住ドラフト会議事務局)

永山さんをはじめとする関係者はこのプロジェクトを「壮大なコント」と表現する。

「絶対に移住してほしいわけではなく、移住後『やっぱり違うな』と思ったらまた違うまちに行っていただいてもいいんです。参加者が『関わりやすく、離れやすい』仕組みであることが大切で、あまり大きなものを背負おうとしないこと。
参加者はそのまちの未来を背負っているわけではなく、自分たちの人生を少しでも楽しいものにするために集まっている。その感覚は、関係者間で共有できていると思います」(永山さん)

取り組みも4年目となり、周囲の反応も少しずつ変化してきているという。

「それぞれのやり方で移住施策に真面目に取り組んできた行政や企業の方々に、『ちょっと肩の力を抜くこと』の意味を感じていただけているのかなと思います。

例えばスポンサーとしてサポートしてくれているソラシドエアさんは、航空券等のサポートだけでなく社員さんや社長も積極的に関わってくれています。このプロジェクトに協賛したからといって、何百人何千人が飛行機を利用するわけではないと思うのですが、こういう関わりが大事だと考えてくださっている。

同様に、行政機関の方々にも、『遊び』を持つことの重要性は伝わってきていると感じます」(永山さん)

「地域のキーパーソン」とつながれることが一番の価値

2018年に参加し、2019年9月に宮崎県新富町へ移住、地域おこし協力隊として働きはじめた二川さんにお話を聞いた。

2018年、新富町に「1位指名」された二川智南美さん(画像提供/二川智南美)

2018年、新富町に「1位指名」された二川智南美さん(画像提供/二川智南美)

「地方創生がテーマの映画を見て、自身の“地方熱”が高まっていた時期だったんです。ずっと東京で編集の仕事をしていたのですが、今後は地方の魅力的な方々を発信したいという気持ちになって。そんなときに友人から誘われて、軽い気持ちで参加しました」

地方に関する情報収集を始めたばかりで、参加地域とは全く接点がなかったそう。

「いつか移住したいな、そのときのための判断材料や人脈ができたらいいな、くらいの気持ちでした。すぐ移住するとは思っていなかった」

新富町から“指名”を受けたのち、実際にまちを訪れ、4日間ほど滞在。しかしその1回で、すっかり新富町に惚れ込んでしまったそう。

「現地を案内していただくなかで、自分の思い描いていた“住みたいまち”のイメージにぴったりだなと思ったんです。地元と似ている、というのもあったかもしれません。立地や人口、人との距離感、よくも悪くも不便なところ。旅が好きで日本全国さまざまな場所を訪れましたが、ここまで強く住みたいと思ったことはなかった。特別な何かがあるわけではなくて、まちの雰囲気や暮らしている方々の印象が自分に“合っている”と感じたんです」

宮崎県児湯郡新富町(画像提供/PIXTA)

宮崎県児湯郡新富町(画像提供/PIXTA)

宮崎県のほぼ中心に位置する、自然豊かなまち(画像提供/二川智南美)

宮崎県のほぼ中心に位置する、自然豊かなまち(画像提供/二川智南美)

そう感じていたのは二川さんだけではなかった。指名した新富町の担当者も、彼女を選んだ理由について「このまちに合っていそうだから」と伝えたそうだ(もちろん、彼女の持つスキルが地域にとって必要だったという理由もあるだろう)。

「その後、ドラフト会議に参加していたいくつかの地域をまわりましたが、新富町のことが頭から離れなかった。東京に帰ってしばらく考えましたが、2019年の1月ごろには『行きたい』という意志を新富町の担当者へ伝えました」

そして地域おこし協力隊として2019年9月に移住に至った。現在は、編集のスキルを活かしてまちの広報誌改革を行っている。移住後の満足度は非常に高いようだ。

「人間として生きるためのものがちゃんとある、と感じています。安くて新鮮でおいしい食べ物や、地域のコミュニティ。道ですれ違うときに挨拶するようなまちに住みたい、という思いがずっとあったのですが、それもここで叶いました。

仕事を通じて、少しずつ知り合いも増えてきました。最近はまちの施設でやっているバドミントンに参加したりしています。いきなり溶け込もうと頑張りすぎず、焦らず、少しずつ関係を広げていけたらいいですね」

あらためて、移住ドラフト会議への参加について振り返り、こう語る。

「移住する・しないに関わらず、地域の人とつながれるというのは魅力的だと思います。地域で、外部の人を受け入れるために活動しているキーパーソンは誰なのかを知って、その場でつながれたことはすごく価値があった。その方々と会って話したからこそ、地域を訪れるハードルが下がりますよね。指名されたまち以外も含めて、『あの人に案内してもらおう』と顔が浮かぶ。それって観光で訪れるだけでは分からないことですよね。

南九州に限らず、まちづくりに関わっている方々は全国につながりがあるようなので、『どこかしらのまちとつながりを持ちたい』という気持ちがあるなら、参加して損はないんじゃないかなと思います」

2018年の参加者同士のコミュニティも、いまだ健在だという。
「東京にいたからかもしれませんが、『地方移住に興味がある』という人が周囲にほぼいなかったんですよね。移住ドラフトに参加したことで、同じ感覚を持った方に会えたのもうれしかったです」

新富町にて。まちの広報誌リニューアルに向けて、調整を重ねている(画像提供/二川智南美)

新富町にて。まちの広報誌リニューアルに向けて、調整を重ねている(画像提供/二川智南美)

「楽しんでいる」地域こそが、人を惹きつける

「これまでの移住施策は、地域側に悲壮感があった。『我々が困ってるから、どうか来てください』と」

地域側担当者のひとりが語ったそんな言葉にはっとさせられた。南九州移住ドラフト会議で最も印象的だったのは、地域側も移住志望者側も、一貫して「楽しそう」だったことだ。そこには、「この人たちと関わっていきたい」と思える、前向きなエネルギーがあった。

結果としてそれは、外からの移住者だけでなく、地域に暮らす住民側にも効果があるのかもしれない。参加者のひとりである鹿児島の大学生はこう語った。
「今までは、大学を出たら東京や海外で働きたいという気持ちが強かった。でも、移住ドラフトに参加して、面白い大人に出会って、九州で働くのも悪くない、という気持ちになりました」

本プロジェクトは来年以降も継続していく意向だという。次回対象地域についても検討中とのことだ。年々注目度が増し、進化し続けている取り組みだが、永山さんは「課題は山積み」と語る。

「事務局体制の強化、選手コミュニティ盛り上げ、参加地域同士のつながり強化など、まだまだやりたいこと、できていないことはたくさんあります。

地域において、人が採用できず営業停止している民間企業などもたくさんあるのですが、これからはその会社の魅力だけでなく、地域の魅力がきっと大事になってくる。鹿児島って、南九州って、九州って面白いねと言ってもらえるように、より楽しい、わくわくする環境をつくる必要があると思っています」

2020年、さらに進化するであろう本プロジェクトの行方に期待したい。

●取材協力
・南九州移住ドラフト会議