建築系学生によるアイデア・事業構想のプレゼンイベント「sprout~プレイスティック student edition~」開催!既に実社会とつながり始めているその内容レベルに驚いた

2014年からtoCスタートアップによるプレゼンイベント「sprout(スプラウト)」が開催されているが、今回はスピンオフ企画として、建築系学生によるプレゼンイベント「sprout student edition」を行うと聞いた。当初は、学生が建築関係のアイデアをプレゼンする場だと思っていたが、よく調べると単なるアイデアレベルではないようなのだ。プレゼン現場に行って、実際に聞いてみた。

7チームが10枚のスライドを200秒でプレゼン

sproutでは、10枚のスライドを20秒ずつ流す形でプレゼンする、という独特の手法をとっている。強制的に切り替わるので、スライドが次に移ってしまったり、説明するスライドが出るのを待ったりといったことも起こるが、200秒で終わるというのがルールだ。それぞれのプレゼン後には、登壇者のテーマ領域に精通する起業家やスタートアップに関わりが深いプロのゲストコメンテーターの感想も聞ける。

今回のゲストコメンテーターは、清水義次さん(株式会社アフタヌーンソサエティ 代表取締役)、冨田阿里さん(株式会社スマートラウンド 取締役チーフエバンジェリスト)、國枝伸行さん(東急株式会社 フューチャー・デザイン・ラボ)の3人。

ではまず、学生7チームのプレゼン内容を登壇順に、簡単に紹介しよう。

1番手は、生成AIを用いた、地域性をもとにしたボトムアップデザインの探求を行うプロジェクトチーム「NESS」だ。実際に地域芸術祭が開かれた墨田区京島(戦火を免れた長屋が多く残る下町)で生成した画像を展示したり、再開発が推進されている赤羽地区で高齢者も巻き込んだワークショップを行うなど、すでに実証実験を実施している。また、ワークショップツールからプラットフォームへ展開し、意思データを介して行政と住民の合意形成の一助を作るという構想も持っている。

プレゼン後は、東急の國枝さんが「ワークショップでは、人の意見に対して意見しづらいなど本音がつかみにくいところがあるが、AIを使うことで本音を引き出しやすくなるだろう」とコメントするなど、3人それぞれが感想を述べた。

登壇者:早稲田大学創造理工学部建築学科中谷研究室 B4 森原正希さん、東京大学大学院工学系研究科建築学専攻 M2 須藤望さん

登壇者:早稲田大学創造理工学部建築学科中谷研究室 B4 森原正希さん、東京大学大学院工学系研究科建築学専攻 M2 須藤望さん

2番手は、「Withvac」。センシング(センサーと呼ばれる検知器によって測定の対象を計測し、定量的な情報を取得する技術)によって得られる設備の運転データをAIを用いて高度に解析することで、設備の不具合や非効率な運転を自動で検知し、設備のメンテナンスを効率化・高度化するためのプロジェクト。将来的には運用段階における建築物のあらゆるデータを、ビル単体ではなく周辺を含めて統合的に扱うプラットフォームをつくり、データ連携によって環境問題にアプローチしたいと考えている。

登壇者:東京大学工学部建築学科4年 宮田龍弥さん、東京大学工学部建築学科3年 藤間朋久さん

登壇者:東京大学工学部建築学科4年 宮田龍弥さん、東京大学工学部建築学科3年 藤間朋久さん

3番手は、「COLUB」。読書会を開こうと思ったときの最大のハードルが「始まらないこと」と「続かないこと」といった事例から、事前準備のいらない独自の読書会スタイルや簡単にテーマ選定・日程調整ができる「ともに学ぶためのツール」を提供して、すでに70回以上の勉強会を開催している。このツールをさらに、自身の大学の建築系学生や芸大建築系の学生、ゼネコンやシェアオフィスコミュニティなどにも広げることで、都市に集うツールにしたいと考えている。

登壇者:東京大学大学院 新領域創成科学研究科 社会文化環境学専攻 M1 山路湧さん

登壇者:東京大学大学院 新領域創成科学研究科 社会文化環境学専攻 M1 山路湧さん

4番手は、「ReLink」。Re(リユース)×Link(つなぐ)のことで、解体されて残せない建物に、リユースデザインを提供しようというもの。すでに存在する中古建材販売市場のストック情報とデザインアイデアのデータベースを提供することで、中古建材を見つけやすくしたり中古建材の残し方を探しやすくしたりでき、これまで捨てられていた部材と空間デザインのバリューチェーン・サプライチェーン構築をするという考えだ。

登壇者:明治大学大学院理工学研究科建築・都市学専攻構法計画研究室 D1 本多栄亮さん

登壇者:明治大学大学院理工学研究科建築・都市学専攻構法計画研究室 D1 本多栄亮さん

5番手は、「stitch」。テーマは家具のリメイク。アンティークやブランド家具だけでなく、身近な家具もリメイクする手法を確立することで、どんな家具でもリメイクを楽しめる出会いのある家具ブランドへとつなげていきたいと考えている。

登壇者:多摩美術大学大学院美術研究科 デザイン専攻環境デザイン領域 松澤穣研究室 M1 森田靖之さん

登壇者:多摩美術大学大学院美術研究科 デザイン専攻環境デザイン領域 松澤穣研究室 M1 森田靖之さん

6番手は、「Pochant」。大量生産されてきた無個性の箱型建築は、予定調和な空間になってしまっていることから、室内空間に波風を立てる存在を置いて空間を流動的にしたいと考えた。いろいろな素材の流動物を自室に置いて実験し、不織布をPochantとして箱型空間に置くことで生活がどう変わるかを検証している。

登壇者:東京藝術大学美術学部建築科学部 B4 馬場 悠輔さん

登壇者:東京藝術大学美術学部建築科学部 B4 馬場 悠輔さん

7番手は、「おちば」。寄席の画一的な空間ではなく、落語の演目から高座、木戸、屏風といった舞台空間をデザインし、噺(はなし)の世界観に没入してしまうようなアーティステックな落語会を実現しようとしている。今年のGWに落語「愛宕山」で実施する予定。おちばは、街なかに落ち葉がひらりと舞い落ちるようにして都市に生まれる“落ち”の“場”なのだとか。

登壇者:東京大学大学院 新領域創成科学研究科 社会文化環境学専攻 M1 中山亘さん

登壇者:東京大学大学院 新領域創成科学研究科 社会文化環境学専攻 M1 中山亘さん

以上が、7チームのプレゼンだ。200秒なので、とにかく展開が速く、文系脳の筆者には苦手なAIの話ではついていくのが難しかった……。とりあえず、筆者が理解できた範囲なので、不正確かもしれない点を了解いただきたい。

優勝者はオーディエンスの投票で決定!

「sprout」の特徴は、プレゼンの優勝者をイベントに参加したオーディエンスの投票で決めること。投票フォームを見たら、それぞれのプレゼンを5点満点で評価していく形式で、多く得点したチームが優勝ということのようだ。

QRコードで投票をする。ゲストコメンテーターの3人もそれぞれスマホで投票した

QRコードで投票をする。ゲストコメンテーターの3人もそれぞれスマホで投票した

まず、イベントを共催する一般社団法人HEAD研究会賞が紹介され、「Pochant」の馬場さんが射止めた。そして、優勝者は、「NESS」の森原さん・須藤さんに決定。前回のスタートアップの優勝者(LIFULL ArchiTech 北川啓介さん)からトロフィーが贈呈された。

優勝したNESSの2人にトロフィーが贈呈された

優勝したNESSの2人にトロフィーが贈呈された

ゲストコメンテーターの國枝さんは、各プレゼンの感想の際に何度も、東急でできないか、東急沿線でやらないかと話していたので、閉会後にイベントの感想を聞いた。まず、レベルの高さに驚いたという。「マネタイズはこれからだと思うが、自分たちの情熱から純粋に提案しているのが社会人にはない強みだと感じる。使う側の目線に立っていけば、さらに発展すると思う」ということだった。

レベルが高いのは、インキュベーション・プログラムを経た7チームだから

プレゼンのレベルが高いのには、実は理由がある。登壇者は、一般社団法人ASIBAの第1期プログラムの卒業生で、2カ月間の都市建築領域に特化したインキュベーション・プログラムを経た7チームだからだ。

では、「ASIBA」(Architecture Studio for Impact Based Action)とはなにものか、代表理事 二瓶雄太さん(東京大学大学院 工学系研究科 建築学専攻修士課程)に聞いた。

一般社団法人ASIBA 代表理事 二瓶雄太さん

一般社団法人ASIBA 代表理事 二瓶雄太さん

二瓶さんは建築の中でも解体の研究をしていたが、解体がテーマとなると扱わなければならない領域は広く、社会に出ていく必要があると感じていた。そんなとき、同じテーマを研究していた早稲田大学の森原さん(NESSの登壇者の一人)と知り合った。建築系学生が思い描く提案を、提案に留まらずに社会に実装するには仲間と環境が必要で、ないなら自分たちでやったらよいとASIBAを立ち上げた。幸いなことに、まだ実績もない中で、清水建設や日建設計といった日本の建築界のビッグ企業がリターンを求めずに応援してくれた。

参加者と伴走しながらそれぞれの提案を実装する力を育てる、ASIBAのインキュベーション・プログラムでは、毎週課題を設けて展開していく。そこにはゲストとして、東京R不動産のディレクターを務める林厚見さんほか、パートナー企業から第一線で活躍する人や東京大学の准教授などが、レクチャーや学生のプレゼンの講評を行っている。それを受けて学生たちは仮説検証を重ねて、最後に最終講評会を行った。と、ここまでやったチームによるプレゼンなので、レベルが高いわけだ。

学生たちのホンキ度もかなりのものだ。閉会後に優勝したNESSの須藤さんに話を聞いた際に、このプロジェクトをライフワークとして取り組んでいきたいと話していた。学生なので、プロジェクトは将来へのステップとしてとらえているのかと思ったのだが、強い信念で始めてなんとかビジネスにつなげたいと考えていることが伝わってきた。NESSが優勝したが、最終講評会から2カ月たって、他のチームがさらにブラッシュアップしているとも言っていた。

ReLinkの本多さんも、震災で壊れた住宅をなんとか一部でも残せないか、解体が決まったが看板だけでも残せないかといった相談が、人づてに来ているという。すでに構想や提案なのではなく、実社会とつながっているようだ。

こうした経緯から、今回の建築系学生によるプレゼンイベント「sprout~プレイスティック student edition~」は、スタートアップを支援し「sprout」を運営するバ・アンド・コー株式会社と、HEAD研究会、ASIBAの3者が共催となっている。プレゼンを聞いた筆者は、学生の情熱に大いに元気をもらった気がする。建築業界の未来が、なんだか楽しみになってきた。

※掲載写真はすべて筆者が撮影したものです。

9人に1人が家具・家電などの長期リース型サブスクを利用。メリットやデメリットなども解説

家具と家電のレンタル・サブスク「CLAS」は、春の引越しシーズン到来前に「家具・家電に関するアンケート」を18歳~49歳の男女1,000人に実施した。そこで、高価格帯の商品を長期にわたって利用する「長期リース型」のサブスクについて調べたところ、9人に1人が利用していることが分かった。

【今週の住活トピック】
1000人への実態調査で見る「春の新生活の家具・家電事情2024」を公表/CLAS

長期リース型サブスク、11.7%=9人に1人が利用している

サブスクとは、サブスクリプション(subscription)の略。ある商品やサービスを一定期間、一定額で利用できる仕組みのこと。サブスクの中でも長期にわたって利用する「長期リース型サブスク」を利用しているか聞いたところ、「利用している」が11.7%、「利用していない」が88.3%という結果に。おおむね9人に1人が長期リース型サブスクを利用していることになる。

長期リース型サブスクを利用している人を年代別に見ると、20代(13.8%)と30代(14.3%)が10代や(10.0%)や40代(6.7%)よりも多い。CLASの個人会員属性も20代後半~30代が中心であることから、この年代に耐久消費財を所有しない傾向があるという。

長期リース型サブスクを利用してますか(年代別)

出典:CLAS

次に、長期リース型サブスクを利用していると回答した人に、利用しているサブスクの商品を聞いたところ、「家電」が48.7%と最も多く、次いで「家具」の42.7%となった。家電や家具は生活する上で必要なものだが、金銭的負担も大きいことから、サブスクを利用することが多いのだろう。

利用している長期リース型サブスクは

出典:CLAS

2021年時点で近い将来7~8人に1人が利用していそうと予測

別の調査結果を見てみよう。LINEリサーチでは、2021年5月に18~59歳の男女を対象に「家具・家電の定額制レンタルサービス」の現状の認知率や利用率、今後の流行予想などについて調査を実施した。

2021年時点ですでに、「家具・家電の定額制レンタルサービス」の認知率は45.9%(「知っているし、使っている」「知っているし、今は使っていないが以前使っていた」「知っているが、使ったことはない」の合計)で、半数近くが「知っている」状態だった。

次に、自分の身のまわりで「どのくらいの人が使っていそうか?」という『現在の流行体感』を聞いたところ、流行体感スコアは2.3(=100人中およそ2人が利用している)という結果に。では、「1年後、自分のまわりでどのくらいの人が使っていると思うか」という『近未来の流行予想』を聞くと、流行予想スコアは13.0(=100人中およそ7~8人に1人が利用していそう)という結果になった。

2024年2月に実施したCLASの調査結果では、長期リース型サブスクの利用者は9人に1人だったので、2021年時点の予想はかなり近い結果だと言ってよいのだろう。

家具・家電の定額制レンタルサービスの今と1年後

出典:LINEリサーチ

なお、自分が今後使ってみたい(今後の利用意向)かを聞くと、利用意向ありが26.2%(「ぜひ使ってみたいと思う」「機会があれば使ってみたいと思う」の合計)と、近い将来は自分が利用したいと思う人が増えていた。

家具家電の長期リース型サブスク、メリットとデメリット

実家を出て一人暮らしを始める、結婚や同棲で新たに二人暮らしを始める、といったときに、新居の家具家電を買いそろえるのは大変な場合がある。引越しによる初期費用がかさむなか、家具家電のレンタルを利用すれば当初の費用を抑えることができる。

一定期間だけ単身赴任することになった場合も、同様だろう。家族と再び暮らすときに、単身赴任時の家具家電の処分をする必要もない。子どもの年齢が一定期間だけ必要となるものなども、一定期間レンタルすることが有効だ。

また、高額な家具家電を使いたいとき、「いきなり買うのは不安だけど、一定期間使ってみたい」という場合も使い勝手が良さそうだ。つまり、「必要な期間だけ使える&コスパのよさ」がメリットと言えるだろう。

一方、レンタルでは新品とは限らないこと、好きな家具家電がレンタルできることは限らないこと、長く使うとかえって割高になること、などのデメリットもある。

Z世代は、「モノ消費」よりも「コト消費」を好み、所有にこだわらないとか、「買い物で失敗したくない」という意識が強いといった傾向があると言われている。今回の結果を見ると、こうした若い世代を中心に、一定の人たちが生活の中で賢くサブスクのサービスを利用していることがうかがえる。家具家電についても選択肢が増えることで、私たちの生活の仕方も変化していくのではないだろうか。

●関連サイト
【CLAS調査レポート】 9人に1人が長期リース型サブスクを利用、 「家電」と「家具」に人気が集中!
LINEリサーチ、今と近未来の流行予想調査(第七弾・家具、家電の定額制レンタルサービス編)を実施

一人暮らしで買った家具、人気の家具ショップビッグ3とは?家具への意識はどう変化している?

クレアスライフが、自社が運営するマンションに住んでいる一人暮らし中の男女599人に、インテリア・収納に関するアンケートを実施した。一人暮らしの家具はどこで何を買うかがテーマなのだが、どこでどんな家具を買ったのだろうか?詳しく見ていくことにしよう。

【今週の住活トピック】
都内599人にインテリア・収納に関するアンケート調査を実施/クレアスライフ

入居後に購入した家具のトップは、「カーテン・ブラインド」

最近、一人暮らしでInstagramなどのSNSを参考に、インテリアにこだわる人が多いという調査結果をよく見かける。筆者も「コロナ禍でインテリアへの関心が高まる!20代から50代まで幅広い層がインスタを参考に」や「Z世代の一人暮らしの特徴って? 重要なのは家賃、インテリアは”映える”韓国風がトレンド」といった記事を書いた。

今回は、家具はどこで何を買うかを調査した結果を見ていきたい。まず「今住んでいる住居に入居した際に新しく購入した家具があれば、何を購入したか」を聞いている。その結果、上位には「カーテン・ブラインド」(16.5%)、「ベッド」(14.6%)、「テーブル」(12.4%)が挙がった。

出典/クレアスライフ「インテリア・収納に関するアンケート調査」より転載

出典/クレアスライフ「インテリア・収納に関するアンケート調査」より転載

引っ越し後に購入したもののTOPに挙がることが多いのが、「カーテン・ブラインド」だ。住居によって、窓の形や大きさが異なるため、持っているものでは合わないことが多いからだ。といっても、近年は街を歩いていると、窓に何もかけていない住宅を多く見かけるようになった。16.5%という数値は思ったよりは多くないのだが、近年のそうした影響を受けてのことではないかと思う。

逆に意外だったのが、「照明」が5.1%と少ないことだ。住宅を買う場合は自身で照明を設置することが多いが、賃貸の場合は、照明は貸主側で取り付けている場合もあれば、借主が自身で手配してつける場合もある。今回の調査では、貸主側で設置済みの場合が多いということだろう。

一人暮らしの人気家具ショップ、ニトリ・無印良品・IKEA

次に、「今住んでいる住居に入居した際に新しく購入した家具があれば、どこのインテリアショップで購入したか」を聞いている。その結果を見ると、圧倒的に人気が高いのは「ニトリ」(34.4%)だ。性別・年代別に分析した結果を見ると、ニトリは、そのなかでも特に男性に人気が高いことが分かる。

出典/クレアスライフ「インテリア・収納に関するアンケート調査」より転載

出典/クレアスライフ「インテリア・収納に関するアンケート調査」より転載

出典/クレアスライフ「インテリア・収納に関するアンケート調査」より転載

出典/クレアスライフ「インテリア・収納に関するアンケート調査」より転載

どうやら、ニトリと無印良品、IKEAは3大人気家具ショップということになりそうだ。たしかに、シンプルなデザインで、リーズナブルな価格という共通点がある。ただし、それぞれに違いもある。

ニトリと無印良品は、日本の企業で全国に店舗数が多いという共通点があるが、無印良品の方がよりナチュラルなデザインで、価格はニトリより高めという印象だ。また、IKEAは北欧スウェーデン発祥で、よりおしゃれなデザインが特徴。郊外に大型店舗が多く、まとまった数のものを安く売るというスタイルなので、車のあるファミリーのほうが好むのかもしれない。

また、20代・30代の女性では、よりデザイン性の高い「Francfranc」の購入者も多いので、おしゃれなものを好む傾向があるといえそうだ。

さて、今回の調査結果で挙がった家具ショップのなかで、「LOWYA」(ロウヤ)と「KEYUCA」(ケユカ)は筆者には馴染みの薄いブランドだ。LOWYAもKEYUCAも、日本企業が2000年代にオープンしたブランド。LOWYAはオンライン販売が中心で、KEYUCAは東京都や神奈川県を中心に全国に店舗をもつ。いずれも、シンプルでリーズナブルという点で、ビッグ3と共通している。

手軽なDIYもインテリアには必要?

さて、「部屋のリフォームや家具作りなどのDIYに興味があるか」聞いたところ、過半数の52.6%がある(「興味関心があり、実践している」6.2%+「興味関心があり、今後やりたいと思っている」9.8%+「興味関心があるが、賃貸なのでできないと思っている」36.6%)と回答している。

現在行っている、あるいは今後行いたいDIYがどんなものかを聞くと、「収納を作る」が最多の30.1%で、次いで「剥がせる壁紙を貼る」20.3%、「置き敷きできる床材を使用する」19.4%の順となった。

出典/クレアスライフ「インテリア・収納に関するアンケート調査」より転載

出典/クレアスライフ「インテリア・収納に関するアンケート調査」より転載

ポイントは、賃貸でも可能という点だ。特に、「剥がせる壁紙」と「置き敷きできる床材」は、賃貸でもできるDIYニーズに応えて、DIY商材が豊富になってきたもの。賃貸の退去時に、貼った壁紙を剥がしたり、敷いた床材をはずしたりすればいいので、原状回復を気にせずにDIYで自分らしく部屋を演出できる。

収納も、独立した収納ボックスなどを組み立てて設置するだけでなく、最近は壁にピンで止めるだけで飾り棚になる商品もある。実はマイホームではあるが筆者も、DIYに自信がないので、無印良品のピンで取り付ける飾り棚を付けた。といっても、飾っているのは好きな落語家のサイン入り色紙なのだが…。

対面型キッチンの上部の空間に飾り棚を取り付けた(筆者撮影)ちなみに、左から三遊亭兼好、春風亭一之輔、桃月庵白酒

対面型キッチンの上部の空間に飾り棚を取り付けた(筆者撮影)ちなみに、直筆色紙は左から三遊亭兼好、春風亭一之輔、桃月庵白酒

調査結果を見ると、20代・30代が多い一人暮らしの場合、高級で高価格な家具ではなく、シンプルで低価格な家具を購入する人が多いということが分かる。一人暮らしの部屋はそれほど広さがないので、テーブルで仕事も食事もするのかといった暮らし方を考慮したり、収納スペースを考慮して収納付きのベッドにしたりと、さまざまな工夫が必要だろう。

最近は、インスタ映えするインテリアのコーナーを設けるなどのニーズもあるようなので、自身のセンスを見せるためにも、家具やインテリアにこだわったり、自分らしいDIYを行ったりすることも大切になる。さて、あなたはどんな家具を選ぶのだろうか?

●関連サイト
クレアスライフ「都内599人にインテリア・収納に関するアンケート調査を実施」

パリの暮らしとインテリア[13] アーティスト河原シンスケさんが暮らす、狭カッコいいアパルトマン

パリを拠点に活動するアーティストの河原シンスケさんは、若者に人気のエリア、バスティーユに暮らしています。話題のレストランやショップが次々と誕生するそばで、庶民の市場やおじさんたちのカフェが健在しているミックス感が、とても居心地良いのだそう。アーティスト・河原シンスケ(かわはら・しんすけ)さんの住まいにおじゃましました。

連載【パリの暮らしとインテリア】
パリで暮らすフォトグラファーManabu Matsunagaが、フランスで出会った素敵な暮らしを送る人々のおうちにおじゃまして、こだわりの部屋やインテリアの写真と一緒に、その暮らしぶりや日常の工夫をご紹介します。

今の自分に合わせて選んだ、コンパクトな住まい

ヨーロッパ、アメリカ、アジアの、さまざまな都市を舞台に活動するアーティスト、河原シンスケさん。日本に生まれ、武蔵野美術大学を卒業し、アーティスト活動を始めてからはパリに暮らしています。

河原さんのアートに頻繁に登場する動物、うさぎ。うさぎをモチーフにしたオブジェが室内のあちこちに点在している。うさぎの黒いキャンバス画は河原さんの作品(写真撮影/Manabu Matsunaga)

河原さんのアートに頻繁に登場する動物、うさぎ。うさぎをモチーフにしたオブジェが室内のあちこちに点在している。うさぎの黒いキャンバス画は河原さんの作品(写真撮影/Manabu Matsunaga)

その生活は文字通り移動の連続で、フランスでエルメスとのコラボレーションを続けつつ、東京都南青山にあるギャラリーSCÈNEや宮城県仙台市の仙台うみの杜水族館、ブリュッセルの@elevensteens 等で展覧会を開催する、といった具合。フットワークの軽さは引越しにも影響するのか、パリ暮らしの約30年の間に、なんと7回も住居を変え、そのたびに改装を重ねたそうです。

「パリで最初に住んだワンルームは、レピュブリック広場近く、今人気の北マレにある小さな住まいでした。そのあとでエッフェル塔の正面にある住まいや、90平米もある歴史的なアパルトマンなど、広さも、建築年代も、さまざまな住居に暮らしました。8年前に引越してきた今の住まいは、日本式でいう1階(海外では日本の2階部分を1階と数える)にあります。日本やフランスの地方都市への移動が多くなったころに、生活をコンパクトにしたいと思って、これまで住んだことがない20平米のワンルームを買いかえました」と、河原さん。

住まいの目の前は車の入らない路地。通行人の行き来もあまり激しくなく、若者エリアにありながらエアポケットにいるよう。古き良きパリの風情の中に、若者に人気のレストランが点在している(写真撮影/Manabu Matsunaga)

住まいの目の前は車の入らない路地。通行人の行き来もあまり激しくなく、若者エリアにありながらエアポケットにいるよう。古き良きパリの風情の中に、若者に人気のレストランが点在している(写真撮影/Manabu Matsunaga)

20平米はともかく、フランスでは1階の物件は人気がありません。集合住宅の入り口の階なので、人が出入りするたびにドアを開閉する音が響いたり、窓の目の前を通行人が行き来したり。都市の喧騒がそのまま住空間の中に入ることが、敬遠される理由です。日当たりも良くありません。住みにくいことが大前提になっている証拠に、かつて建物の入り口脇の1階は、管理人が暮らすスペースの定番でした。そこをなぜあえて、河原さんは選んだのでしょう?

「移動が多い私にとって、スーツケースを簡単に出し入れできる1階の住まいは何より楽です。段差がないので、作品の搬出の際も便利。そしてコンパクトな住まいは戸締まりが簡単で、セキュリティ面の心配も少ないでしょう。以前、90平米に住んでいた時は、出張のたびにチェックポイントが多くてなかなか面倒でした。今は東京からパリに戻って荷物を置いて、そのままブリュッセルへ出張、ということもとても楽にできます」

あえて暗く演出した室内はひっそりとしたムードがあり、とても落ち着く。壁画アートに見える木製の壁は、全て収納の扉(写真撮影/Manabu Matsunaga)

あえて暗く演出した室内はひっそりとしたムードがあり、とても落ち着く。壁画アートに見える木製の壁は、全て収納の扉(写真撮影/Manabu Matsunaga)

1階には1階のメリットがある。これは意外な発見でした。でも、日当たりや通行人による騒音はどうでしょう?

「もちろん日当たりの良い住まいの方が、悪い住まいよりはいいですよね。でも住まいというのは、その時その時の予算の中で、自分が何を優先するかで決まると思うのです。これから先また変わるとしても、今の私にとっての優先順位はまず、移動が楽な1階であること、そしてコンパクトであること。その優先順位の中で納得のいく物件を選び、そしてその中で、自分にとって暮らしやすい空間づくりに挑戦したいと思いました」

「狭くて落ち着く大人な場所」を表現

「自分にとって暮らしやすい空間」をつくる! そう明確な意図があった河原さんは、物件を購入するや否や大改装に着手しました。入り口のドアを塞ぎ、逆に塞がれ使われていなかったほうのドアを開け、こちらを入り口に変更。リビング側から住まいに入るつくりに変えました。リビングの奥に続く細長い空間は、キッチン兼バスルームに。システムキッチンは、奥行きをリビングとの仕切りになった入り口の開口に合わせてオーダーメイドしたものです。そのおかげでシステムキッチン全体が壁面のようにペタンと空間に収まり、全く圧迫感がありません。

リビングの開口に合わせて、ペタンと平面になるようデザインしたシステムキッチン。その向かいにバスタブが設置されている。洗濯機とトイレも、バスタブの延長に並列(写真撮影/Manabu Matsunaga)

リビングの開口に合わせて、ペタンと平面になるようデザインしたシステムキッチン。その向かいにバスタブが設置されている。洗濯機とトイレも、バスタブの延長に並列(写真撮影/Manabu Matsunaga)

オーダーメイドのシンクは奥行き約30cmとコンパクト。収納扉の取っ手は、バーナーを使って自分で焼き色を入れ加工した。河原さんは料理の腕前も有名。シンプルでおいしいおしゃれなレシピを日本の雑誌で連載中(写真撮影/Manabu Matsunaga)

オーダーメイドのシンクは奥行き約30cmとコンパクト。収納扉の取っ手は、バーナーを使って自分で焼き色を入れ加工した。河原さんは料理の腕前も有名。シンプルでおいしいおしゃれなレシピを日本の雑誌で連載中(写真撮影/Manabu Matsunaga)

キッチンに立った時に、背の側になる壁面がバスタブとトイレです。こちらも、リビングからの開口部の幅に合わせた奥行きにそろえて、スッキリと造り付けました。なんと、今バスタブが置かれている壁面が、以前の入り口ドアの場所だというのですから、河原さんの大改装がどれだけ抜本的なものだったのか想像できるというものです。白いパネル式のスライドドアでトイレや洗濯機をカバーして、1枚の壁にして隠す仕組みも、河原さんの考案によるオーダーメイドです。

「一人暮らしだからこんなことも可能」と、大胆な場所に設置したバスタブ。なんと今はタイルで覆われている壁が、物件購入時にはドアだった(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「一人暮らしだからこんなことも可能」と、大胆な場所に設置したバスタブ。なんと今はタイルで覆われている壁が、物件購入時にはドアだった(写真撮影/Manabu Matsunaga)

キッチンの向こうは小さな中庭。リビングの窓と合わせて、窓はトータル2カ所ある(写真撮影/Manabu Matsunaga)

キッチンの向こうは小さな中庭。リビングの窓と合わせて、窓はトータル2カ所ある(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「小さな住まいだからといって、学生の一人暮らしみたいな場所にはしたくありませんでした。これまでもずっとそうでしたが、ここでも『真似できない独特の空間をつくる』ことをポリシーに、住まいづくりをしています。もし家族がいたら20平米は狭すぎるでしょうし、予算は同じでも優先したいこと、しなければならないことは他にあったでしょう。でも私は今一人で、自分が満足するための空間づくりに集中することができるのです。ここには『狭くて落ち着く大人な場所』をつくりたいと思いました」

居心地の良さに必要な条件は、どうやら広さや日当たりにあるとは限らないようです。河原さんの住まいに居ると、確かにそう感じます。今の自分が満足するには何を優先するべきか、そこがカギになる、とスッと納得できるのです。では、1階にあるこの20平米がなぜ心地よいのか、そのポイントを探っていきましょう。

キッチンとリビングの間の開口部上に、トレーニング用のバーを設置。ジムの役割も備え、今の自分にとって必要な全てを装備した空間に。2カ月間続いたコロナ禍のロックダウン中も、この住まいのおかげで快適に過ごすことができた(写真撮影/Manabu Matsunaga)

キッチンとリビングの間の開口部上に、トレーニング用のバーを設置。ジムの役割も備え、今の自分にとって必要な全てを装備した空間に。2カ月間続いたコロナ禍のロックダウン中も、この住まいのおかげで快適に過ごすことができた(写真撮影/Manabu Matsunaga)

床暖房と、暗い照明

まず、住空間の快適さのために、河原さんは床暖房を取り入れました。床暖房は暖房装置としての性能が優れていることに加え、もし暖房器具を取り付けるとなった場合に必要な、気に入ったデザインを見つける時間や労力をまるまるカットすることができます。多忙な人ならなおのこと、この素早いジャッジは参考にしたいところです。さらには、暖房器具そのものを住空間に取り付けなくて済む、という大きなメリットもあります。小さい住まいにとって、電気機器等の家電の出っ張りは、できればない方がありがたい!

暖房器具としても、装飾のオブジェとしても、活躍している暖炉。暖炉はもともとあったものを残した。来客のあった時などにムードづくりも兼ねて使用するとか。暖炉の奥行きと窓の開口に合わせて、壁面収納をオーダーした(写真撮影/Manabu Matsunaga)

暖房器具としても、装飾のオブジェとしても、活躍している暖炉。暖炉はもともとあったものを残した。来客のあった時などにムードづくりも兼ねて使用するとか。暖炉の奥行きと窓の開口に合わせて、壁面収納をオーダーした(写真撮影/Manabu Matsunaga)

そして照明。1階であるが故の暗さをカバーするために、天井にスポットを付ける、という発想が一般的なところですが、河原さんはその反対。できるだけ暗くする目的で、アンティークやヴィンテージのライトを採用しました。

うさぎモチーフのネオンを照明に。明るさを抑えた照明をいくつも組み合わせるのが、心地よさのポイント(写真撮影/Manabu Matsunaga)

うさぎモチーフのネオンを照明に。明るさを抑えた照明をいくつも組み合わせるのが、心地よさのポイント(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「ライティングはくつろぎの演出にとってとても重要な要素です。落ち着きやリラックス感を得られるよう、できるだけ暗い照明にしたいと思いました。ライトの他に、キャンドルも毎日の生活に取り入れています」

『狭くて落ち着く大人な場所』は、床暖房の快適さと、抑えた照明がポイントであると言えそうです。実は、リビングにある唯一の窓の前には、屏風が置かれています。自然光をさえぎるのはもったいない、と多くの人が思うところですが、こうすることで窓の前を歩く通行人の存在が気にならず、なんとも言えない隠れ家的ムードが生まれるのでした。

窓の前の屏風は、河原さんの作品。ここにもうさぎが登場している。花は河原さんの生活に欠かせない大切なディテール(写真撮影/Manabu Matsunaga)

窓の前の屏風は、河原さんの作品。ここにもうさぎが登場している。花は河原さんの生活に欠かせない大切なディテール(写真撮影/Manabu Matsunaga)

既製品に手を加えて、自分だけのオリジナル家具に

あえて照明を暗くして、心地よさを演出した小さな住まい。コンパクトだからこそ、空間を最大限に生かすために、システムキッチンや収納をオーダーすることが不可欠だったことがわかりました。照明と、造り付けのオーダー家具の他はどうでしょう? 他の部分の、心地よさのポイントは? そう思って河原さんの住まいを眺めて気づくのは、目に入る全てが河原さん流だということです。

「コンパクトな生活をしたくて決めた20平米の暮らしでしたから、持ち物も厳選して、徹底的にミニマムにしました。ここには必要なもの、気に入っているもの、実際に使うものしかありません。小さい子どものいる家だったら、お客さん用の食器と普段使いのものを使い分けた方が安心です。でも、ここはそうではない。気に入っていて、使う食器だけがあれば十分で、たくさん持つ必要がないのです」

リビングのベッドは毎朝布団を収納に片付け、毎晩眠る前にベッドメイキングしている。毎日きちんとやるのは大変だ、と思ってしまうが「日本の布団だってそうでしょう?」と言われてみれば確かにそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

リビングのベッドは毎朝布団を収納に片付け、毎晩眠る前にベッドメイキングしている。毎日きちんとやるのは大変だ、と思ってしまうが「日本の布団だってそうでしょう?」と言われてみれば確かにそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

そのように厳選されたものが集まっているから、目に入る全てが河原さん流なのでしょう。壁のペイントや、作品のインスタレーション、そして既製品にバーナーで焼き色をつけた家具など、河原さんの手によるものと、アンティークのベッドや椅子、ヴィンテージの照明といった河原さんが選んだお気に入りが混在し、『真似できない独特の空間』がつくられているのでした。

イケアのテーブルと椅子は、バーナーで焼き色を入れて自分で加工した。このテーブルで6人が着席するディナーを振る舞うことも(写真撮影/Manabu Matsunaga)

イケアのテーブルと椅子は、バーナーで焼き色を入れて自分で加工した。このテーブルで6人が着席するディナーを振る舞うことも(写真撮影/Manabu Matsunaga)

バーナーで焼き色を入れた収納家具と壁面。ここが入り口のドア(写真撮影/Manabu Matsunaga)

バーナーで焼き色を入れた収納家具と壁面。ここが入り口のドア(写真撮影/Manabu Matsunaga)

アールデコのカトラリーホルダーも日常使いの小物。そしてこれも、やはりうさぎ(写真撮影/Manabu Matsunaga)

アールデコのカトラリーホルダーも日常使いの小物。そしてこれも、やはりうさぎ(写真撮影/Manabu Matsunaga)

河原さんのお話を伺いながら、いつか取材した女性内装デザイナーの話を思い出しました。家づくりは洋服選びと違って経験値が少ない分、失敗が怖くて冒険ができません。そう彼女に伝えると、「あなたの住まいなのですから、あなたが好きなようにすればいいのです。第一、外科の手術ではなくてインテリアです、失敗したらやり直せばいい。もし誰かに悪趣味だと言われたとしても、あなたの家はあなたのためのものですよ」との言葉。自分にとっての優先順位を明確にして、自分がいいと思うものを選ぶ、という河原さんのお話と、核心は同じです。そして同時に思うのです、自分が選ぶこと、自分が決めることに、なんと私たちは不慣れなことか! そう河原さんに伝えると、そっと背中を押してくれる言葉が返ってきました。

「予算や、家族等の条件や、色々を含めて、その中で最大限に楽しもうと考えてはどうでしょう? せっかく自分で、住まいづくりができるのですから」

河原さんのように、セオリーではなく、自分を優先してみる! そう考えるだけでプレッシャーから解放され、気が楽になります。住まいづくりを自由に楽しむことができそうです。

自分のバッグのオリジナルペイントは、フランスのファッション&アクセサリーブランドである「ピエール・アルディ」とのコラボの楽しみとして始めた。その後オーダーが殺到し、4月中ごろからピエール・アルディのサイトにも登場することに(写真撮影/Manabu Matsunaga)

自分のバッグのオリジナルペイントは、フランスのファッション&アクセサリーブランドである「ピエール・アルディ」とのコラボの楽しみとして始めた。その後オーダーが殺到し、4月中ごろからピエール・アルディのサイトにも登場することに(写真撮影/Manabu Matsunaga)

個性的なドクロのドアノブは、道端で拾ったもの(写真撮影/Manabu Matsunaga)

個性的なドクロのドアノブは、道端で拾ったもの(写真撮影/Manabu Matsunaga)

天井の高さを生かして設置したインスタレーション。鏡の額装を兼ねている(写真撮影/Manabu Matsunaga)

天井の高さを生かして設置したインスタレーション。鏡の額装を兼ねている(写真撮影/Manabu Matsunaga)

お気に入りのパリ暮らし。そしてこれから。

フランス人が敬遠する1階のワンルーム、しかもコンパクトな20平米をあえて選んで、自分のための快適な空間づくりに挑戦し、それを実現した河原さん。住まいがあるエリアもお気に入りで、19世紀から続くアリーグルの市場や、目利きが選ぶアンティークショップ、おしゃれなカフェやベトナムレストランなど、庶民の活気と最新アドレスが混ざり合うパリならではの環境を、一人のパリジャンとして日々、満喫しています。朝ちょっと外に出てテラスでカフェを飲む。そんななんでもないことが当たり前にできるのも、パリ暮らしの魅力だ、と。

天気がいい時、気分転換したい時、打ち合わせの時、ふらりと活用できるカフェはパリジャンにとって第2のリビング(写真撮影/Manabu Matsunaga)

天気がいい時、気分転換したい時、打ち合わせの時、ふらりと活用できるカフェはパリジャンにとって第2のリビング(写真撮影/Manabu Matsunaga)

河原さんがよく立ち寄るヴィンテージのショップ(写真撮影/Manabu Matsunaga)

河原さんがよく立ち寄るヴィンテージのショップ(写真撮影/Manabu Matsunaga)

パリジャンの暮らしに花は欠かせない。庭は無くとも、新鮮な切花が部屋にあればフレッシュな季節感を感じられる(写真撮影/Manabu Matsunaga)

パリジャンの暮らしに花は欠かせない。庭は無くとも、新鮮な切花が部屋にあればフレッシュな季節感を感じられる(写真撮影/Manabu Matsunaga)

19世紀から続くアリーグル市場はいつでも庶民の活気に満ちている。河原さんのお気に入りスポットの一つ(写真撮影/Manabu Matsunaga)

19世紀から続くアリーグル市場はいつでも庶民の活気に満ちている。河原さんのお気に入りスポットの一つ(写真撮影/Manabu Matsunaga)

(写真撮影/Manabu Matsunaga)

(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「でも実は、そろそろ次を考え始めているのですよ。気に入っていても、飽きるので(笑)。次の住まいは、広々とした郊外もいいかもしれませんし、コロナ禍以降人気の上がっている地方都市も面白いかもしれません。ヨーロッパのほかの都市という選択肢だってあり得ます。いろいろな考えが浮かんでは消えてゆき、まだ確定していません。というのも、ギャラリーや美術館の多いパリの暮らしがやっぱり好きですし、世界中どこへ行くにもここは便利ですから」

新しい住まいづくりは新しいチャレンジ! そう捉えている河原さんだからこそ、暮らし変えを躊躇せず、常に前に進んで行けるのだなあと実感しました。

(文/角野恵子)

●取材協力
河原シンスケさん
HP
Instagram
●関連サイト
ピエール・アルディ

パリの暮らしとインテリア[12] 陶芸作家が暮らすアール・デコ様式のアパルトマン

陶芸作家ソン・ヨンヒさんは、サンマルタン運河沿いのアール・デコ様式のアパルトマンに住んでいます。2年前から画家や写真家などのアーティスト仲間とリニューアル工事に着手し、現在も手を加えながら暮らしています。モノトーンを基調にした空間に、鮮やかな色合いの家具やアンティークの家具を配置して、パリ・シックを見事に体現したおうちです。

連載【パリの暮らしとインテリア】
パリで暮らすフォトグラファーManabu Matsunagaが、フランスで出会った素敵な暮らしを送る人々のおうちにおじゃまして、こだわりの部屋やインテリアの写真と一緒に、その暮らしぶりや日常の工夫をご紹介します。

ノスタルジックな下町の雰囲気が残るグルメなおしゃれエリア10区で暮らす

ヨンヒさんは、レースなどの繊細なモチーフにこだわったセラミック作品を生み出す陶芸作家で、絵画も手掛けています。彼女が住むのは10区の主役ともいえるサンマルタン運河沿い。さまざまな小説の舞台になり、名画にも登場しています。とりわけ有名なのはマルセル・カルネ監督の映画『北ホテル』映画『アメリ』など。パリの庶民の暮らしぶりを撮り続けたロベール・ドアノーの写真にも多く登場するフォトジェニックな界隈です。パリのおしゃれなボボ(ブルジョワ・ボヘミアンの略。裕福で高学歴、オーガニックやエコロジーに関心があり、自由なボヘミアンスタイルを好む人々)に好まれる地区で、運河の両サイドには、いまのパリの空気を感じられるようなバーやカフェ、雑貨店がひしめき合っています。もっとも、こうしたエリアも昔は下町で、歩いて数分でインド、オリエンタル、アフリカやアラブ人街があるさまざまな文化が交差しています。

冬は静かなサンマルタン運河は、散歩には最適な場所(撮影/manabu matsunaga)

冬は静かなサンマルタン運河は、散歩には最適な場所(撮影/manabu matsunaga)

特にシャトー・ドー(Château d’eau)界隈やフォブール・サン・ドニ通り(rue du faubourg Saint Denis)は活気があり、チーズ専門店、エピスリー(食材店)、炭火焼きサンドイッチの店などの新店が次々と誕生しています。ヨンヒさんのおうちの周辺は、パリきってのブランジュリーの激戦地区。古代小麦やオーガニックにこだわった「マミッシュ(Mamiche)」や「サン・ブランジュリー(Sain Boulangerie)」、グルテンフリーの名店「シャンベラン(Chambelland)」といった、いまパリで最も注目を集める店が軒を並べています。「私は食に興味があるので、さまざまな国の料理や食材に囲まれている、この界隈での生活にとても刺激を受けています」とヨンヒさんは語ります。週末の朝はフレッシュな食材が勢ぞろいする「マルシェ・ヴィレット」に行くのが日課。このあたりはパリで第二の中華街ともいわれるベルヴィル街で、懐に優しい中華料理店、新鮮なお豆腐屋、北アフリカ名物クスクスの店など、食の宝庫。ベルヴィルは、19世紀末から移民が移り住み、現在、アジア系、北アフリカ系、ユダヤ系の集まる、コスモポリタンなパリを象徴する地区となっています。

サンマルタン運河の川縁は春先からは人々が集い憩いの場所となります(撮影/manabu matsunaga)

サンマルタン運河の川縁は春先からは人々が集い憩いの場所となります(撮影/manabu matsunaga)

ヨンヒさん宅のご近所には、グルテンフリーの名店「シャンベラン(Chambelland)」など、おいしいパン屋さんが多い(撮影/manabu matsunaga)

ヨンヒさん宅のご近所には、グルテンフリーの名店「シャンベラン(Chambelland)」など、おいしいパン屋さんが多い(撮影/manabu matsunaga)

心地よい暮らしを求めてリノベーション

ヨンヒさんが渡仏した2000年当初は、パリ郊外の住宅街サン=モール=デ=フォセの友人宅に3カ月間お世話になった後、パリ16区の高級住宅街ジャスマンに3カ月、パリの東ヴァンセンヌ城から目と鼻の先のワンルームに2年間ちょっと暮らしていました。その後、家族の介護のために日本とフランスを行き来していましたが、2005年にフランスに戻り、彫刻家の故・藤江孝さんが生前に住んでいた南郊外ヴァンヴのアパルトマンに1年間居住。その翌年、渡仏直後に出会い、ずっと心の支えになってくれた後の夫の持ち家であるアパルトマンに引越し、現在で16年になります。

サロンはヨンヒさんが1日で一番長く過ごす場所。窓が北東に面している ので日差しが入り気持ちよく、サンマルタンが運河が一望できる(撮影/manabu matsunaga)

サロンはヨンヒさんが1日で一番長く過ごす場所。窓が北東に面している ので日差しが入り気持ちよく、サンマルタンが運河が一望できる(撮影/manabu matsunaga)

このアパートは1930年代に建てられたアール・デコ様式の建築で、直線的で機能的なデザインに特徴があります。後に夫となるピエール・リシアンさんは、フランス映画界の重鎮でした。ヌーヴェルヴァーグ(1950年代末に始まったフランスの映画運動)の金字塔『勝手にしやがれ』の助監督を経て、映画宣伝として世界で初めてプレスブックをつくった後、アメリカやアジアの新しい才能を世界に発信し続けた筋金入りの映画人。カンヌ映画祭を長きにわたって影で支えた立役者であるリシアンさんの世界各地の旅に同行し、ヨンヒさんも年の3分の1はパリを不在にする日々が始まります。映画に関するさまざまな雑貨やオブジェのコレクターであった夫は、映画のみならず文学、絵画に関する書籍や何万単位のDVDなど所有量が半端ではありません。まるで映画博物館のようで、「人を招待できる場所ではなかった」とヨンヒさんは述懐します。当時、二人は1階下に35平米のワンルームも所有し、友人知人をもてなしていました。フランスでは自宅に招き合って交流を深める習慣があります。ヨンヒさんはとびきりの料理上手。頻繁に招き招かれの生活を送りながら、夫と世界各国の映画人が深い関係を築いていくのに何役も買いました。
ところが2018年の春、夫が急逝します。ヨンヒさんは失意の時を過ごしますが、1年としばらく経ってから決意をします。「これから生きていく上でより快適に、心地よく暮らせる空間を」とリノベーション工事に着手。その上での絶対条件が「夫の思い出を散りばめた空間」にすることでした。

亡き夫の思い出のコーナー(撮影/manabu matsunaga)

亡き夫の思い出のコーナー(撮影/manabu matsunaga)

亡き夫の友人の映画監督&写真家ジェリー・ シャッツバーグの撮った有名人の写真。フェイ・ダナウェイ、カトリーヌ・ドヌーヴ、ボブ・ディラ ン、アンディ・ウォーホールなどのオリジナルプリント(撮影/manabu matsunaga)

亡き夫の友人の映画監督&写真家ジェリー・ シャッツバーグの撮った有名人の写真。フェイ・ダナウェイ、カトリーヌ・ドヌーヴ、ボブ・ディラ ン、アンディ・ウォーホールなどのオリジナルプリント(撮影/manabu matsunaga)

エンジェルのモチーフが大好 きなヨンヒさんのお宅にはさまざまな写真やオブ ジェがある。右の写真は、アメリカの映画監督アレクサンダー・ペイ ンが夫の著書を読んでいる写真(撮影/manabu matsunaga)

エンジェルのモチーフが大好 きなヨンヒさんのお宅にはさまざまな写真やオブ ジェがある。右の写真は、アメリカの映画監督アレクサンダー・ペイ ンが夫の著書を読んでいる写真(撮影/manabu matsunaga)

ところが、リニューアルは最初から難題に突入。“フランスあるある”で、夏のバカンス前から始める工事には困難がつきまといました。まずは工事の始まる数カ月前からアパートの管理組合の許可を取り、準備を粛々と進めなければいけないことが後になって判明します。バカンス前には工事が殺到するため、職人の確保も困難を極めます。リニューアルの第一歩はガス工事をする必要があるのに、当初来てくれる人たちのキャンセルが相次ぎました。しかもフランスではさまざまな部品がすぐに届かないことも大きな要因。「このままでは(“完成しない建築”とも言われる)サグラダ・ファミリアのようになってしまう!?」という不安がよぎったそうです。

そこで、2019年6月からヨンヒさんは業者の手を借りずに、画家、写真家などのアーティスト仲間と、一つ一つのディテールにこだわり抜きながら、唯一無二の空間づくりを開始することにしました。
現場監督は室内装飾家であり画家でもある鈴木出さん。彼は壁の質感や色に徹底的に気を配り、丁寧な作業を続けてくれました。元はパリでアンティーク店を営んでいたパク・ソンジンさんは、水道、電気、内装などでマルチな才能を発揮。花瓶をランプに変身させたり、古い家具を加工したりすることはお手の物です。いまはベルリンに居を移して写真家として活躍するパクさんは、工事のためにパリとベルリン間を往復する生活を2年以上も続けました。サックス奏者の北学さんは、アール・デコ様式の古くなった黒いボロボロのドアを溶接し、10日かけて丹精込めて修復しました。サッカーの指導者でジュエリー作家でもある向和孝さんは、強靭な体格を活かして壁を壊したりしたほか、ペンキ塗りを担当。そのほかにも随時、友人知人の手を借りて、一つ一つを丁寧につくり上げていきました。

扉はすべてアール・デコ 建築の様式。クリニャンクールの蚤の市でボロボロのドアを購入してサックス奏者の北学さんが10日 かけて修復した。とても重くて作業が大変だったとか(撮影/manabu matsunaga)

扉はすべてアール・デコ 建築の様式。クリニャンクールの蚤の市でボロボロのドアを購入してサックス奏者の北学さんが10日 かけて修復した。とても重くて作業が大変だったとか(撮影/manabu matsunaga)

傷んでいたステンドクラスは、教会や修道院など文化遺産の修復を手掛ける専門店で完璧にレストアしてもらった(撮影/manabu matsunaga)

傷んでいたステンドクラスは、教会や修道院など文化遺産の修復を手掛ける専門店で完璧にレストアしてもらった(撮影/manabu matsunaga)

照明のうち数個は手づくりしている。蚤の市で収集してきた真鍮のパーツを花瓶などと組み合わせた(撮影/manabu matsunaga)

照明のうち数個は手づくりしている。蚤の市で収集してきた真鍮のパーツを花瓶などと組み合わせた(撮影/manabu matsunaga)

現在も工事中のお風呂場は自分で工事するとのこと(撮影/manabu matsunaga)

現在も工事中のお風呂場は自分で工事するとのこと(撮影/manabu matsunaga)

試行錯誤のなかで始めた工事ですが、いろいろな気づきもありました。85平米でサロンと2つの寝室がある間取りのアパルトマンは、最初はやたらにドアが多いことや部屋の形がデコボコしていることなどを不思議に思ったそうですが、実は、どの部屋にも窓があってもプライバシーが守られる機能的な設計だったことが分かりました。リビング、お風呂、トイレの壁は左官技法によって、その空間にぴったりとくる質感の壁をつくり上げました。砂の割合などを緻密に計算してつくる左官による仕事は水回りの水分を早く吸収してくれます。現場監督の鈴木さんは画家の本領を発揮して、表面を美しく整えてくれました。

アンティークを日常生活に溶け込ませて、格調高く

内装は白、黒、グレーのモノトーンを基調に、イエロー、青、赤といったカラフルな色を差し色にした、クラシックとモダンが調和した現代的なパリ・シック。「古いものだけだと重たい印象になるので、明るいトーンの差し色や、少しだけラグジュアリーなものを融合してメリハリがあるように心掛けました」

アパルトマンに入ると、まず最初に目に入る衣紋掛けから、部屋への期待が高まる(撮影/manabu matsunaga)

アパルトマンに入ると、まず最初に目に入る衣紋掛けから、部屋への期待が高まる(撮影/manabu matsunaga)

カラフルなインテリアを差し色に(撮影/manabu matsunaga)

カラフルなインテリアを差し色に(撮影/manabu matsunaga)

パリでは一つの年代に統一するのではなく、「クラシックとモダンの調和」が好まれる傾向にあります。古いものを現代的なものと融合させてこそ「センスのある人」とみなされます。
かねてからのアンティーク好きのヨンヒさんは、外国を旅行すればその国の骨董街を訪ねて、日常的にアンティークを取り入れてきました。彼女の週末の楽しみの一つは「蚤の市散策」。クリニャンクールの蚤の市(マルシェ・オ・ピュス・サントアン)では、がらくたの山からアンティークのステンドグラスを発見。ドアノブや蛇口も蚤の市の“戦利品”です。

スイッチもアンティーク。壁は左官の技術を使い、鈴木出さんによってつくられた(撮影/manabu matsunaga)

スイッチもアンティーク。壁は左官の技術を使い、鈴木出さんによってつくられた(撮影/manabu matsunaga)

蚤の市で見つけたボロボロの手洗い場に真鍮などのアクセサリーを取り付けた(撮影/manabu matsunaga)

蚤の市で見つけたボロボロの手洗い場に真鍮などのアクセサリーを取り付けた(撮影/manabu matsunaga)

クリニャンクールの蚤の市のお気に入り店で見つけた王家の紋章のタイル。非常に古く、鉄筋が入っていたの で、一枚ずつ割らない様に剥がして高さを整えるのに苦心したそう。写真右の部分には、亡き夫の記念碑プレートを制作してはめ込む予定(撮影/manabu matsunaga)

クリニャンクールの蚤の市のお気に入り店で見つけた王家の紋章のタイル。非常に古く、鉄筋が入っていたの で、一枚ずつ割らない様に剥がして高さを整えるのに苦心したそう。写真右の部分には、亡き夫の記念碑プレートを制作してはめ込む予定(撮影/manabu matsunaga)

4回も旅行で訪れたポルトガル北部ポルトへの目的の一つも、本物のアンティークのタイル探し。昨今、ポルトガルですら本物は希少価値が高く、市場に出回っているものの多くはレプリカだそうです。

ヨンヒさんがポルト中心部のアンティーク街でたまたま入った店では、鮮やかな黄色のタイルに熱狂。高めのものでは1枚100ユーロのタイルも珍しくない中、25枚で400ユーロにまけてもらいました。値段交渉の駆け引きもアンティーク品や掘り出し物探しの醍醐味です。
サロン入り口のステンドグラスの横に配置された人形は、パリ7区のアンティークの老舗店で一目惚れ。高額でしたが、「こんなに優しい表情の人形はかつて見たことがない」と3回も通った末に、「清水の舞台から飛び降りる」気持ちで購入しました。1700年代につくられたこの人形は、フランス語ではサントン、英語圏ではサントスと呼ばれ、クリスマスに飾る装飾で「小さな聖人」を意味します。

(撮影/manabu matsunaga)

(撮影/manabu matsunaga)

ヨンヒさんが一日で最も多くの時間を過ごすサロンには、「タベルナクル」と呼ばれる、祈りのための装飾的な祭壇があります。「大切な人を身近に感じるために、サロンの一番見晴らしのいい場所に置きました」

壁際は夫のコレクションスペース。祈りのための祭壇「タベルナクル」はサロンの中央に鎮座(撮影/manabu matsunaga)

壁際は夫のコレクションスペース。祈りのための祭壇「タベルナクル」はサロンの中央に鎮座(撮影/manabu matsunaga)

サロンでのくつろぎの時間こそ、最高の贅沢

彼女が一日のうち、一番くつろげるのは、夕方の黄昏時。「風通しのいい窓際でアペリティフをしながら、静かに過ごすのが至福の時間です」。日差しがさんさんと降り注ぐ窓辺には植物や花を配し、都会にいながらも自然を愛でる暮らしを送っています。窓からはサンマルタン運河が一望でき、四季折々の、胸にしみるような美しさを見せます。

生花も至るところに(撮影/manabu matsunaga)

生花も至るところに(撮影/manabu matsunaga)

(撮影/manabu matsunaga)

(撮影/manabu matsunaga)

夕方以降はキャンドルに灯した明かりや、ランプの光で過ごす(撮影/manabu matsunaga)

夕方以降はキャンドルに灯した明かりや、ランプの光で過ごす(撮影/manabu matsunaga)

夫が亡くなった後も、彼女の周りには友人が集います。フランスでは女主人が席につかないと食事を始められない、という暗黙のルールがあります。食事とおしゃべりを楽しみながら交流を深めていくのがフランス流。女性がキッチンで料理にかかりっきりは、良しとされない文化があるのです。そこで今回のリノベーションでは、サロンにつながる食堂の奥にオープンキッチンを設置。「料理をしながら和気あいあいとしたおしゃべりが楽しいのです」。フランスの食事はスタートから終了までがとても長いため、長時間座っていても座り心地のいい椅子を探すために苦心したヨンヒさん。古い椅子を8脚そろえるために時間をかけて、決して妥協を許しませんでした。テーブルは長方形だと端に座った人たちがコミュニケーションを取れないので、正方形を選択しました。

リノベーションにあたって一番重視したというオープンキッチン。以前は台所と 食卓が区切られていたので改装が大変だったとのこと。友人に囲まれ、おしゃべりしながら楽しく料理 できる空間づくりを心がけた。 タイルは蚤の市で一目惚れしたタイルを使用(撮影/manabu matsunaga)

リノベーションにあたって一番重視したというオープンキッチン。以前は台所と 食卓が区切られていたので改装が大変だったとのこと。友人に囲まれ、おしゃべりしながら楽しく料理 できる空間づくりを心がけた。 タイルは蚤の市で一目惚れしたタイルを使用(撮影/manabu matsunaga)

ステンドグラスの食器棚は とても古く、購入時はガラスが半分以上 割れていて、ドアも外れていたそう。購入価格より、修復には何倍もの費用がかかっ た(撮影/manabu matsunaga)

ステンドグラスの食器棚は とても古く、購入時はガラスが半分以上 割れていて、ドアも外れていたそう。購入価格より、修復には何倍もの費用がかかっ た(撮影/manabu matsunaga)

テーブルは長方形だと端の人達がコミュニケーションを取れな いので、正方形のテーブルにこだわった(撮影/manabu matsunaga)

テーブルは長方形だと端の人達がコミュニケーションを取れな いので、正方形のテーブルにこだわった(撮影/manabu matsunaga)

寝室とゲストルームは白い壁にシンプルでリラックスできる空間を演出。

とても明るいゲストルームは、心地よいファブリックでデコレーション(撮影/manabu matsunaga)

とても明るいゲストルームは、心地よいファブリックでデコレーション(撮影/manabu matsunaga)

それぞれの部屋には310cm×320cmのタンスを設置し、ここにほとんどの衣類やモノを収納できるようにしました。このタンスは長年の友人である、93歳のアルジェリア人の家具職人によるものです。彼は13歳の時に故郷アルジェリアからフランスに渡って以来、80年もの間、家具一筋で生きてきた熟練の職人。仕事にシビアで、こだわりの強さは半端ではありません。フランスの木を購入し、車で南仏マルセイユ港まで運び、船でアルジェリアに渡り、そこのアトリエで制作し、パリに持ってくる事をなんども繰り返してくれたのです。「今は使い捨ての家具が多いが、家具を接着剤で貼るのではなく、全部組み合わせる方法でつくったから何百年も使えるんだ」と誇らしげに話すのが彼の口癖だったそう。

ゲストルームにある特注ダンスは、工事中の寝室にも配置されて いる(撮影/manabu matsunaga)

ゲストルームにある特注ダンスは、工事中の寝室にも配置されて いる(撮影/manabu matsunaga)

ヨンヒさんは今のアパルトマンが気に入っているので、引越しは考えていませんが、将来は田舎で生活をするのが夢です。「花や野菜を育てたりしながら、創作活動を続けたいです」とヨンヒさん。

食器棚にはたくさんの食器が。料理に合わせてテーブルコーディネートするのが大好きとのこと(撮影/manabu matsunaga)

食器棚にはたくさんの食器が。料理に合わせてテーブルコーディネートするのが大好きとのこと(撮影/manabu matsunaga)

ヨンヒさんがパリ南西郊外のドゥルダン(Dourdan)に借りているアトリエで制作するお皿はどれも一点物でとても繊細です(撮影/manabu matsunaga)

ヨンヒさんがパリ南西郊外のドゥルダン(Dourdan)に借りているアトリエで制作するお皿はどれも一点物でとても繊細です(撮影/manabu matsunaga)

友人知人のアーティストや職人たちの、確かな「手」によってつくり上げた、唯一無二のパーソナルな空間。サンマルタン運河を眺めながら、ゆったりと心地よく暮らす、本当の贅沢を垣間見た気がしました。

(文 / 魚住桜子)

パリの暮らしとインテリア[12] 陶芸作家が暮らすアール・デコ様式のアパルトマン

陶芸作家ソン・ヨンヒさんは、サンマルタン運河沿いのアール・デコ様式のアパルトマンに住んでいます。2年前から画家や写真家などのアーティスト仲間とリニューアル工事に着手し、現在も手を加えながら暮らしています。モノトーンを基調にした空間に、鮮やかな色合いの家具やアンティークの家具を配置して、パリ・シックを見事に体現したおうちです。

連載【パリの暮らしとインテリア】
パリで暮らすフォトグラファーManabu Matsunagaが、フランスで出会った素敵な暮らしを送る人々のおうちにおじゃまして、こだわりの部屋やインテリアの写真と一緒に、その暮らしぶりや日常の工夫をご紹介します。

ノスタルジックな下町の雰囲気が残るグルメなおしゃれエリア10区で暮らす

ヨンヒさんは、レースなどの繊細なモチーフにこだわったセラミック作品を生み出す陶芸作家で、絵画も手掛けています。彼女が住むのは10区の主役ともいえるサンマルタン運河沿い。さまざまな小説の舞台になり、名画にも登場しています。とりわけ有名なのはマルセル・カルネ監督の映画『北ホテル』映画『アメリ』など。パリの庶民の暮らしぶりを撮り続けたロベール・ドアノーの写真にも多く登場するフォトジェニックな界隈です。パリのおしゃれなボボ(ブルジョワ・ボヘミアンの略。裕福で高学歴、オーガニックやエコロジーに関心があり、自由なボヘミアンスタイルを好む人々)に好まれる地区で、運河の両サイドには、いまのパリの空気を感じられるようなバーやカフェ、雑貨店がひしめき合っています。もっとも、こうしたエリアも昔は下町で、歩いて数分でインド、オリエンタル、アフリカやアラブ人街があるさまざまな文化が交差しています。

冬は静かなサンマルタン運河は、散歩には最適な場所(撮影/manabu matsunaga)

冬は静かなサンマルタン運河は、散歩には最適な場所(撮影/manabu matsunaga)

特にシャトー・ドー(Château d’eau)界隈やフォブール・サン・ドニ通り(rue du faubourg Saint Denis)は活気があり、チーズ専門店、エピスリー(食材店)、炭火焼きサンドイッチの店などの新店が次々と誕生しています。ヨンヒさんのおうちの周辺は、パリきってのブランジュリーの激戦地区。古代小麦やオーガニックにこだわった「マミッシュ(Mamiche)」や「サン・ブランジュリー(Sain Boulangerie)」、グルテンフリーの名店「シャンベラン(Chambelland)」といった、いまパリで最も注目を集める店が軒を並べています。「私は食に興味があるので、さまざまな国の料理や食材に囲まれている、この界隈での生活にとても刺激を受けています」とヨンヒさんは語ります。週末の朝はフレッシュな食材が勢ぞろいする「マルシェ・ヴィレット」に行くのが日課。このあたりはパリで第二の中華街ともいわれるベルヴィル街で、懐に優しい中華料理店、新鮮なお豆腐屋、北アフリカ名物クスクスの店など、食の宝庫。ベルヴィルは、19世紀末から移民が移り住み、現在、アジア系、北アフリカ系、ユダヤ系の集まる、コスモポリタンなパリを象徴する地区となっています。

サンマルタン運河の川縁は春先からは人々が集い憩いの場所となります(撮影/manabu matsunaga)

サンマルタン運河の川縁は春先からは人々が集い憩いの場所となります(撮影/manabu matsunaga)

ヨンヒさん宅のご近所には、グルテンフリーの名店「シャンベラン(Chambelland)」など、おいしいパン屋さんが多い(撮影/manabu matsunaga)

ヨンヒさん宅のご近所には、グルテンフリーの名店「シャンベラン(Chambelland)」など、おいしいパン屋さんが多い(撮影/manabu matsunaga)

心地よい暮らしを求めてリノベーション

ヨンヒさんが渡仏した2000年当初は、パリ郊外の住宅街サン=モール=デ=フォセの友人宅に3カ月間お世話になった後、パリ16区の高級住宅街ジャスマンに3カ月、パリの東ヴァンセンヌ城から目と鼻の先のワンルームに2年間ちょっと暮らしていました。その後、家族の介護のために日本とフランスを行き来していましたが、2005年にフランスに戻り、彫刻家の故・藤江孝さんが生前に住んでいた南郊外ヴァンヴのアパルトマンに1年間居住。その翌年、渡仏直後に出会い、ずっと心の支えになってくれた後の夫の持ち家であるアパルトマンに引越し、現在で16年になります。

サロンはヨンヒさんが1日で一番長く過ごす場所。窓が北東に面している ので日差しが入り気持ちよく、サンマルタンが運河が一望できる(撮影/manabu matsunaga)

サロンはヨンヒさんが1日で一番長く過ごす場所。窓が北東に面している ので日差しが入り気持ちよく、サンマルタンが運河が一望できる(撮影/manabu matsunaga)

このアパートは1930年代に建てられたアール・デコ様式の建築で、直線的で機能的なデザインに特徴があります。後に夫となるピエール・リシアンさんは、フランス映画界の重鎮でした。ヌーヴェルヴァーグ(1950年代末に始まったフランスの映画運動)の金字塔『勝手にしやがれ』の助監督を経て、映画宣伝として世界で初めてプレスブックをつくった後、アメリカやアジアの新しい才能を世界に発信し続けた筋金入りの映画人。カンヌ映画祭を長きにわたって影で支えた立役者であるリシアンさんの世界各地の旅に同行し、ヨンヒさんも年の3分の1はパリを不在にする日々が始まります。映画に関するさまざまな雑貨やオブジェのコレクターであった夫は、映画のみならず文学、絵画に関する書籍や何万単位のDVDなど所有量が半端ではありません。まるで映画博物館のようで、「人を招待できる場所ではなかった」とヨンヒさんは述懐します。当時、二人は1階下に35平米のワンルームも所有し、友人知人をもてなしていました。フランスでは自宅に招き合って交流を深める習慣があります。ヨンヒさんはとびきりの料理上手。頻繁に招き招かれの生活を送りながら、夫と世界各国の映画人が深い関係を築いていくのに何役も買いました。
ところが2018年の春、夫が急逝します。ヨンヒさんは失意の時を過ごしますが、1年としばらく経ってから決意をします。「これから生きていく上でより快適に、心地よく暮らせる空間を」とリノベーション工事に着手。その上での絶対条件が「夫の思い出を散りばめた空間」にすることでした。

亡き夫の思い出のコーナー(撮影/manabu matsunaga)

亡き夫の思い出のコーナー(撮影/manabu matsunaga)

亡き夫の友人の映画監督&写真家ジェリー・ シャッツバーグの撮った有名人の写真。フェイ・ダナウェイ、カトリーヌ・ドヌーヴ、ボブ・ディラ ン、アンディ・ウォーホールなどのオリジナルプリント(撮影/manabu matsunaga)

亡き夫の友人の映画監督&写真家ジェリー・ シャッツバーグの撮った有名人の写真。フェイ・ダナウェイ、カトリーヌ・ドヌーヴ、ボブ・ディラ ン、アンディ・ウォーホールなどのオリジナルプリント(撮影/manabu matsunaga)

エンジェルのモチーフが大好 きなヨンヒさんのお宅にはさまざまな写真やオブ ジェがある。右の写真は、アメリカの映画監督アレクサンダー・ペイ ンが夫の著書を読んでいる写真(撮影/manabu matsunaga)

エンジェルのモチーフが大好 きなヨンヒさんのお宅にはさまざまな写真やオブ ジェがある。右の写真は、アメリカの映画監督アレクサンダー・ペイ ンが夫の著書を読んでいる写真(撮影/manabu matsunaga)

ところが、リニューアルは最初から難題に突入。“フランスあるある”で、夏のバカンス前から始める工事には困難がつきまといました。まずは工事の始まる数カ月前からアパートの管理組合の許可を取り、準備を粛々と進めなければいけないことが後になって判明します。バカンス前には工事が殺到するため、職人の確保も困難を極めます。リニューアルの第一歩はガス工事をする必要があるのに、当初来てくれる人たちのキャンセルが相次ぎました。しかもフランスではさまざまな部品がすぐに届かないことも大きな要因。「このままでは(“完成しない建築”とも言われる)サグラダ・ファミリアのようになってしまう!?」という不安がよぎったそうです。

そこで、2019年6月からヨンヒさんは業者の手を借りずに、画家、写真家などのアーティスト仲間と、一つ一つのディテールにこだわり抜きながら、唯一無二の空間づくりを開始することにしました。
現場監督は室内装飾家であり画家でもある鈴木出さん。彼は壁の質感や色に徹底的に気を配り、丁寧な作業を続けてくれました。元はパリでアンティーク店を営んでいたパク・ソンジンさんは、水道、電気、内装などでマルチな才能を発揮。花瓶をランプに変身させたり、古い家具を加工したりすることはお手の物です。いまはベルリンに居を移して写真家として活躍するパクさんは、工事のためにパリとベルリン間を往復する生活を2年以上も続けました。サックス奏者の北学さんは、アール・デコ様式の古くなった黒いボロボロのドアを溶接し、10日かけて丹精込めて修復しました。サッカーの指導者でジュエリー作家でもある向和孝さんは、強靭な体格を活かして壁を壊したりしたほか、ペンキ塗りを担当。そのほかにも随時、友人知人の手を借りて、一つ一つを丁寧につくり上げていきました。

扉はすべてアール・デコ 建築の様式。クリニャンクールの蚤の市でボロボロのドアを購入してサックス奏者の北学さんが10日 かけて修復した。とても重くて作業が大変だったとか(撮影/manabu matsunaga)

扉はすべてアール・デコ 建築の様式。クリニャンクールの蚤の市でボロボロのドアを購入してサックス奏者の北学さんが10日 かけて修復した。とても重くて作業が大変だったとか(撮影/manabu matsunaga)

傷んでいたステンドクラスは、教会や修道院など文化遺産の修復を手掛ける専門店で完璧にレストアしてもらった(撮影/manabu matsunaga)

傷んでいたステンドクラスは、教会や修道院など文化遺産の修復を手掛ける専門店で完璧にレストアしてもらった(撮影/manabu matsunaga)

照明のうち数個は手づくりしている。蚤の市で収集してきた真鍮のパーツを花瓶などと組み合わせた(撮影/manabu matsunaga)

照明のうち数個は手づくりしている。蚤の市で収集してきた真鍮のパーツを花瓶などと組み合わせた(撮影/manabu matsunaga)

現在も工事中のお風呂場は自分で工事するとのこと(撮影/manabu matsunaga)

現在も工事中のお風呂場は自分で工事するとのこと(撮影/manabu matsunaga)

試行錯誤のなかで始めた工事ですが、いろいろな気づきもありました。85平米でサロンと2つの寝室がある間取りのアパルトマンは、最初はやたらにドアが多いことや部屋の形がデコボコしていることなどを不思議に思ったそうですが、実は、どの部屋にも窓があってもプライバシーが守られる機能的な設計だったことが分かりました。リビング、お風呂、トイレの壁は左官技法によって、その空間にぴったりとくる質感の壁をつくり上げました。砂の割合などを緻密に計算してつくる左官による仕事は水回りの水分を早く吸収してくれます。現場監督の鈴木さんは画家の本領を発揮して、表面を美しく整えてくれました。

アンティークを日常生活に溶け込ませて、格調高く

内装は白、黒、グレーのモノトーンを基調に、イエロー、青、赤といったカラフルな色を差し色にした、クラシックとモダンが調和した現代的なパリ・シック。「古いものだけだと重たい印象になるので、明るいトーンの差し色や、少しだけラグジュアリーなものを融合してメリハリがあるように心掛けました」

アパルトマンに入ると、まず最初に目に入る衣紋掛けから、部屋への期待が高まる(撮影/manabu matsunaga)

アパルトマンに入ると、まず最初に目に入る衣紋掛けから、部屋への期待が高まる(撮影/manabu matsunaga)

カラフルなインテリアを差し色に(撮影/manabu matsunaga)

カラフルなインテリアを差し色に(撮影/manabu matsunaga)

パリでは一つの年代に統一するのではなく、「クラシックとモダンの調和」が好まれる傾向にあります。古いものを現代的なものと融合させてこそ「センスのある人」とみなされます。
かねてからのアンティーク好きのヨンヒさんは、外国を旅行すればその国の骨董街を訪ねて、日常的にアンティークを取り入れてきました。彼女の週末の楽しみの一つは「蚤の市散策」。クリニャンクールの蚤の市(マルシェ・オ・ピュス・サントアン)では、がらくたの山からアンティークのステンドグラスを発見。ドアノブや蛇口も蚤の市の“戦利品”です。

スイッチもアンティーク。壁は左官の技術を使い、鈴木出さんによってつくられた(撮影/manabu matsunaga)

スイッチもアンティーク。壁は左官の技術を使い、鈴木出さんによってつくられた(撮影/manabu matsunaga)

蚤の市で見つけたボロボロの手洗い場に真鍮などのアクセサリーを取り付けた(撮影/manabu matsunaga)

蚤の市で見つけたボロボロの手洗い場に真鍮などのアクセサリーを取り付けた(撮影/manabu matsunaga)

クリニャンクールの蚤の市のお気に入り店で見つけた王家の紋章のタイル。非常に古く、鉄筋が入っていたの で、一枚ずつ割らない様に剥がして高さを整えるのに苦心したそう。写真右の部分には、亡き夫の記念碑プレートを制作してはめ込む予定(撮影/manabu matsunaga)

クリニャンクールの蚤の市のお気に入り店で見つけた王家の紋章のタイル。非常に古く、鉄筋が入っていたの で、一枚ずつ割らない様に剥がして高さを整えるのに苦心したそう。写真右の部分には、亡き夫の記念碑プレートを制作してはめ込む予定(撮影/manabu matsunaga)

4回も旅行で訪れたポルトガル北部ポルトへの目的の一つも、本物のアンティークのタイル探し。昨今、ポルトガルですら本物は希少価値が高く、市場に出回っているものの多くはレプリカだそうです。

ヨンヒさんがポルト中心部のアンティーク街でたまたま入った店では、鮮やかな黄色のタイルに熱狂。高めのものでは1枚100ユーロのタイルも珍しくない中、25枚で400ユーロにまけてもらいました。値段交渉の駆け引きもアンティーク品や掘り出し物探しの醍醐味です。
サロン入り口のステンドグラスの横に配置された人形は、パリ7区のアンティークの老舗店で一目惚れ。高額でしたが、「こんなに優しい表情の人形はかつて見たことがない」と3回も通った末に、「清水の舞台から飛び降りる」気持ちで購入しました。1700年代につくられたこの人形は、フランス語ではサントン、英語圏ではサントスと呼ばれ、クリスマスに飾る装飾で「小さな聖人」を意味します。

(撮影/manabu matsunaga)

(撮影/manabu matsunaga)

ヨンヒさんが一日で最も多くの時間を過ごすサロンには、「タベルナクル」と呼ばれる、祈りのための装飾的な祭壇があります。「大切な人を身近に感じるために、サロンの一番見晴らしのいい場所に置きました」

壁際は夫のコレクションスペース。祈りのための祭壇「タベルナクル」はサロンの中央に鎮座(撮影/manabu matsunaga)

壁際は夫のコレクションスペース。祈りのための祭壇「タベルナクル」はサロンの中央に鎮座(撮影/manabu matsunaga)

サロンでのくつろぎの時間こそ、最高の贅沢

彼女が一日のうち、一番くつろげるのは、夕方の黄昏時。「風通しのいい窓際でアペリティフをしながら、静かに過ごすのが至福の時間です」。日差しがさんさんと降り注ぐ窓辺には植物や花を配し、都会にいながらも自然を愛でる暮らしを送っています。窓からはサンマルタン運河が一望でき、四季折々の、胸にしみるような美しさを見せます。

生花も至るところに(撮影/manabu matsunaga)

生花も至るところに(撮影/manabu matsunaga)

(撮影/manabu matsunaga)

(撮影/manabu matsunaga)

夕方以降はキャンドルに灯した明かりや、ランプの光で過ごす(撮影/manabu matsunaga)

夕方以降はキャンドルに灯した明かりや、ランプの光で過ごす(撮影/manabu matsunaga)

夫が亡くなった後も、彼女の周りには友人が集います。フランスでは女主人が席につかないと食事を始められない、という暗黙のルールがあります。食事とおしゃべりを楽しみながら交流を深めていくのがフランス流。女性がキッチンで料理にかかりっきりは、良しとされない文化があるのです。そこで今回のリノベーションでは、サロンにつながる食堂の奥にオープンキッチンを設置。「料理をしながら和気あいあいとしたおしゃべりが楽しいのです」。フランスの食事はスタートから終了までがとても長いため、長時間座っていても座り心地のいい椅子を探すために苦心したヨンヒさん。古い椅子を8脚そろえるために時間をかけて、決して妥協を許しませんでした。テーブルは長方形だと端に座った人たちがコミュニケーションを取れないので、正方形を選択しました。

リノベーションにあたって一番重視したというオープンキッチン。以前は台所と 食卓が区切られていたので改装が大変だったとのこと。友人に囲まれ、おしゃべりしながら楽しく料理 できる空間づくりを心がけた。 タイルは蚤の市で一目惚れしたタイルを使用(撮影/manabu matsunaga)

リノベーションにあたって一番重視したというオープンキッチン。以前は台所と 食卓が区切られていたので改装が大変だったとのこと。友人に囲まれ、おしゃべりしながら楽しく料理 できる空間づくりを心がけた。 タイルは蚤の市で一目惚れしたタイルを使用(撮影/manabu matsunaga)

ステンドグラスの食器棚は とても古く、購入時はガラスが半分以上 割れていて、ドアも外れていたそう。購入価格より、修復には何倍もの費用がかかっ た(撮影/manabu matsunaga)

ステンドグラスの食器棚は とても古く、購入時はガラスが半分以上 割れていて、ドアも外れていたそう。購入価格より、修復には何倍もの費用がかかっ た(撮影/manabu matsunaga)

テーブルは長方形だと端の人達がコミュニケーションを取れな いので、正方形のテーブルにこだわった(撮影/manabu matsunaga)

テーブルは長方形だと端の人達がコミュニケーションを取れな いので、正方形のテーブルにこだわった(撮影/manabu matsunaga)

寝室とゲストルームは白い壁にシンプルでリラックスできる空間を演出。

とても明るいゲストルームは、心地よいファブリックでデコレーション(撮影/manabu matsunaga)

とても明るいゲストルームは、心地よいファブリックでデコレーション(撮影/manabu matsunaga)

それぞれの部屋には310cm×320cmのタンスを設置し、ここにほとんどの衣類やモノを収納できるようにしました。このタンスは長年の友人である、93歳のアルジェリア人の家具職人によるものです。彼は13歳の時に故郷アルジェリアからフランスに渡って以来、80年もの間、家具一筋で生きてきた熟練の職人。仕事にシビアで、こだわりの強さは半端ではありません。フランスの木を購入し、車で南仏マルセイユ港まで運び、船でアルジェリアに渡り、そこのアトリエで制作し、パリに持ってくる事をなんども繰り返してくれたのです。「今は使い捨ての家具が多いが、家具を接着剤で貼るのではなく、全部組み合わせる方法でつくったから何百年も使えるんだ」と誇らしげに話すのが彼の口癖だったそう。

ゲストルームにある特注ダンスは、工事中の寝室にも配置されて いる(撮影/manabu matsunaga)

ゲストルームにある特注ダンスは、工事中の寝室にも配置されて いる(撮影/manabu matsunaga)

ヨンヒさんは今のアパルトマンが気に入っているので、引越しは考えていませんが、将来は田舎で生活をするのが夢です。「花や野菜を育てたりしながら、創作活動を続けたいです」とヨンヒさん。

食器棚にはたくさんの食器が。料理に合わせてテーブルコーディネートするのが大好きとのこと(撮影/manabu matsunaga)

食器棚にはたくさんの食器が。料理に合わせてテーブルコーディネートするのが大好きとのこと(撮影/manabu matsunaga)

ヨンヒさんがパリ南西郊外のドゥルダン(Dourdan)に借りているアトリエで制作するお皿はどれも一点物でとても繊細です(撮影/manabu matsunaga)

ヨンヒさんがパリ南西郊外のドゥルダン(Dourdan)に借りているアトリエで制作するお皿はどれも一点物でとても繊細です(撮影/manabu matsunaga)

友人知人のアーティストや職人たちの、確かな「手」によってつくり上げた、唯一無二のパーソナルな空間。サンマルタン運河を眺めながら、ゆったりと心地よく暮らす、本当の贅沢を垣間見た気がしました。

(文 / 魚住桜子)

デザインの祭典ミラノサローネ、2021年は異例の秋開催。日本からサローネを楽しむ!

毎年4月に開催されるミラノ・デザイン・ウィーク。その中核イベントが「ミラノサローネ国際家具見本市(Salone del Mobile.Milano・通称ミラノサローネ)」です。昨年はパンデミックにより中止になりましたが、今年2021年は9月に特別展「スーパーサローネ(supersalone)」と形を変えて開催にこぎつけました。デザイン大国イタリアにとって、ミラノサローネは生命線。現地に行けなかった私ですが、その熱意と行動力に敬意を表しながら、今年はデジタルプラットフォームを活用し、在宅サローネ視察にトライします。

デジタルプラットフォーム充実、会場はサステナブルに

今年の「スーパーサローネ」では、会場も運営も新形式によるチャレンジを見せてくれました。4パビリオン(6万8520平米)に出展ブランド425社、会期6日間の来場者数は6万人超と、規模は従来の5分の1程度に縮小されましたが、閉幕後に主催者は「勇気と、ビジョンと、団結力が勝利を飾った」と達成感のあるコメントを出しました。

「surpersalone」デジタルプラットフォームで見ることができる会場風景のムービー。ロー・フィエラ見本市会場入口からパビリオン内の展示ブースへ。建築家やアーティスト、起業家、政治家などが登壇したイベント「open talk」の様子なども(画像提供/Salone del Mobile.Milano)

感染対策として、欧州で運用されている「Green pass」などのCOVID-19グリーン証明書の提示、加えて即席抗原検査ステーション(22ユーロ)も設けるなどして入場者を管理。マスク装着は映像で見る限り、同時期開催の全米オープンテニス会場より多い様子。

新たな展示形式はオープンな仕切りで来場者の密を避ける工夫がなされ、100%リサイクルされた木材でつくられたパネルを使用。利用後のリサイクル含め、サステナブルな運営(画像提供/Andrea Mariani by Salone del Mobile.Milano)

新たな展示形式はオープンな仕切りで来場者の密を避ける工夫がなされ、100%リサイクルされた木材でつくられたパネルを使用。利用後のリサイクル含め、サステナブルな運営(画像提供/Andrea Mariani by Salone del Mobile.Milano)

カーボンニュートラルへの取り組みでは、紙媒体のパンフレットや資料を作成せずQRコードでデジタル化するなど大胆に転換。カタログの重さに疲弊したころが懐かしい……。

porro社:家具プロダクトの背景壁面に映像を展開する、アート・ディレクターのピエロ・リッソーニによるインスタレーション。映像では生産工程や環境への取り組みなども紹介。今年porroの38歳女性社長マリア・ポッロがSalone del Mobile.Milano新代表に就任(画像提供/porro)

porro社:家具プロダクトの背景壁面に映像を展開する、アート・ディレクターのピエロ・リッソーニによるインスタレーション。映像では生産工程や環境への取り組みなども紹介。今年porroの38歳女性社長マリア・ポッロがSalone del Mobile.Milano新代表に就任(画像提供/porro)

Molteni&C社:飛行機内のような展示で、アテンダントの女性が「アテンションプリーズ」とアナウンス、窓の外には雲の合間に家具プロダクトが浮かんで流れる映像が流れている。座席は1954年に巨匠ジオ・ポンティによってデザインされたアームチェアの復刻デザインの新作「Round D.154.5」。自由に旅できる日が待ち遠しいと思わせるような、ロン・ジラッドらしいウィットに富んだインスタレーション(画像提供/Diego Ravier by Salone del Mobile.Milano)

Molteni&C社:飛行機内のような展示で、アテンダントの女性が「アテンションプリーズ」とアナウンス、窓の外には雲の合間に家具プロダクトが浮かんで流れる映像が流れている。座席は1954年に巨匠ジオ・ポンティによってデザインされたアームチェアの復刻デザインの新作「Round D.154.5」。自由に旅できる日が待ち遠しいと思わせるような、ロン・ジラッドらしいウィットに富んだインスタレーション(画像提供/Diego Ravier by Salone del Mobile.Milano)

従来の新作を大空間にセットアップして見せる展示とは趣向が違う各社の展示ですが、実際の会場はどんな様子だったのでしょうか?

いつも現地でお世話になっている、ミラノサローネ広報日本担当の山本幸さんに伺いました。
「各社ブースのレイアウトを通路平行に並べたライブラリー型展示は、間口幅6~30mで規模の違いを出すだけだったので、従来の複雑なコマ割りレイアウトより、来場者的には見やすく効率が良かったようです。小さいブランドも見つけられた、と大好評。出展側も声がかけやすいメリットもありました」とのこと。
日本企業やデザイナーへの注目も高かったようで、山本さんが紹介してくれました。

ミラノサローネ広報山本幸さん、日本から初出展のポータブル照明ブランドAmbientec社の前で (画像提供/山本幸)

ミラノサローネ広報山本幸さん、日本から初出展のポータブル照明ブランドAmbientec社の前で
(画像提供/山本幸)

Ambientec(アンビエンテック)社は横浜にある2009年設立のポータブル照明ブランド。水中撮影機材のメーカーだけあって、独自の高い技術開発力を持つ企業。それを活かすデザイナーを招聘し、魅力的なプロダクトを発表してきました。
2015年からMilan Design Weekで、著名なRossana Orlandiギャラリーへの出展を果たして好評価を得、今年は本格的に世界を相手にビジネスをするべくサローネ参画に到ったようです。

「TURN+(ターン・プラス)」デザイナー田村奈穂。ブラス・ステンレス・ブラックアルミニウムの3種類。新開発のオリジナル光源、アウトドアからバスルームもOKのポータブルランプ。磨き上げられた金属加工の高いクオリティに欧州人も絶賛(画像提供/Ambientec)

「TURN+(ターン・プラス)」デザイナー田村奈穂。ブラス・ステンレス・ブラックアルミニウムの3種類。新開発のオリジナル光源、アウトドアからバスルームもOKのポータブルランプ。磨き上げられた金属加工の高いクオリティに欧州人も絶賛(画像提供/Ambientec)

また、ミラノ在住の日本人アーティスト後藤司の作品を、サローネ主催者が「木工とガラス瓶の作品展示“alla Modigliani(モディリアーニへ)”は、日常生活の中で職人の忍耐強い作業によってモデル化された美の有用性を広める」とフィーチャー。

Tsukasa Gotoの作品を熱心に撮影する来場者。「Makers Show」というアーティストや職人たちを中心にしたカテゴリーへ出展(画像提供/Diego Ravier by Salone del Mobile.Milano)

Tsukasa Gotoの作品を熱心に撮影する来場者。「Makers Show」というアーティストや職人たちを中心にしたカテゴリーへ出展(画像提供/Diego Ravier by Salone del Mobile.Milano)

後藤司:1981年東京生まれ、2004年からミラノで活動。2014年のサローネではSaloneSatelliteで作品を発表。写真左/「Daydream」(ガラス瓶に手触りのあるテクスチャーを与え幻想的なオブジェに) 写真右/「Proximity」(丸い木の棒が3次元で接合して構成された木工作品)(画像提供/Tsukasa Goto)

後藤司:1981年東京生まれ、2004年からミラノで活動。2014年のサローネではSaloneSatelliteで作品を発表。写真左/「Daydream」(ガラス瓶に手触りのあるテクスチャーを与え幻想的なオブジェに) 写真右/「Proximity」(丸い木の棒が3次元で接合して構成された木工作品)(画像提供/Tsukasa Goto)

「without hearing, touching what we can understand? So I try to feel, to touch. (聞かずに、触れずに、何が理解できるでしょう?だから私は触れて、感じるようにするのです)」
という彼のメッセージは、まさしくサローネをリアル開催に踏み切った、主催者の閉幕メッセージと同じものでした。
「やはり実際に目で見て、触って、人と会って話すということが、いかに大切だったか。スーパーサローネを訪れた人が皆、それを再認識しました。この感動はリアルでしか体感できないのです」

東京2020からミラノへと、日本代表の活躍が続く!

ミラノ・デザイン・ウィークでは、見本市会場以外の街中でさまざまな展示やイベントが開催される「fuorisalone(フオリサローネ)」も必見。インテリア以外の業界も含め今年は655ブランドが参加。ほとんどが無料入場できるので、学生や一般人も多く来場し、デザインやアートを楽しみます。

その一つ、フランスを代表するクチュールメゾンのDiorが開催した「THE DIOR MEDALLION CHAIR」展。17人のアーティストを招待して、メゾンの象徴的なエンブレムの1つであるメダリオン・チェアを再解釈するプロジェクトです。

ディオールメゾンの象徴的なエンブレムの1つであるメダリオン・チェアは、創業者クリスチャン・ディオールが愛した18世紀のルイ16世スタイル(写真撮影/©Alessandro Garofalo)

ディオールメゾンの象徴的なエンブレムの1つであるメダリオン・チェアは、創業者クリスチャン・ディオールが愛した18世紀のルイ16世スタイル(写真撮影/©Alessandro Garofalo)

18世紀の建造物Palazzo Citterio(ミラノ・ブレラ地区)での開催。ゲストデザイナーは、フランス、イタリア、レバノンや韓国など世界的に活躍する17人(写真撮影/©Alessandro Garofalo)

18世紀の建造物Palazzo Citterio(ミラノ・ブレラ地区)での開催。ゲストデザイナーは、フランス、イタリア、レバノンや韓国など世界的に活躍する17人(写真撮影/©Alessandro Garofalo)

日本からは二人の人気デザイナー、吉岡徳仁と佐藤オオキ(nendo)が招待されていました。
この二人、ミラノサローネでは毎年注目されていますが、今年は何と言っても東京オリンピック・パラリンピックでの活躍に触れなければなりません。

吉岡徳仁デザインの聖火リレートーチ(左) 佐藤オオキデザインの聖火台(右)(画像提供/©Tokyo 2020)

吉岡徳仁デザインの聖火リレートーチ(左) 佐藤オオキデザインの聖火台(右)(画像提供/©Tokyo 2020)

日本を代表するデザイナーとして選出され、お二人らしい見事なデザインで全うされた仕事ぶりに、長らくファンである私は感銘を受けました。

さて、デザイン界の日本代表とも言える両氏の「THE DIOR MEDALLION CHAIR」展ですが、こちらも各々の感性やキャラクターが反映された作品となっています。

”Medallion of Light” 「不規則な光を生み出す自然のように、人間の感覚を超越する偶然性を持ったものを表現したいと思いました。光に近い素材を用いて、歴史的でありながら未来的な椅子を生み出すことを考えました」(吉岡徳仁)(画像提供/THE DIOR MEDALLION CHAIR)

”Medallion of Light” 「不規則な光を生み出す自然のように、人間の感覚を超越する偶然性を持ったものを表現したいと思いました。光に近い素材を用いて、歴史的でありながら未来的な椅子を生み出すことを考えました」(吉岡徳仁)(画像提供/THE DIOR MEDALLION CHAIR)

364個の樹脂プレートをランダムに積層した椅子は、光を素材としてつくられたよう。目の錯覚と共に時空間の境界をぼかすような作品となって見る人を魅了します。

“Chaise Medaillon 3.0” 「メダリオンというクラシカルなチェアを先端技術を用いて再解釈することにしました。背もたれは楕円形に切り抜かれていることで、メダリオン・チェアの特徴が軽やかに空中に浮遊しているかのような表情が生まれました」(佐藤オオキ)(画像提供/THE DIOR MEDALLION CHAIR 撮影/©Yuto Kudo)

“Chaise Medaillon 3.0” 「メダリオンというクラシカルなチェアを先端技術を用いて再解釈することにしました。背もたれは楕円形に切り抜かれていることで、メダリオン・チェアの特徴が軽やかに空中に浮遊しているかのような表情が生まれました」(佐藤オオキ)(画像提供/THE DIOR MEDALLION CHAIR 撮影/©Yuto Kudo)

実はこの素材、強化ガラス。1800×1100mmの一枚板は厚みわずか3.0mmで、C字型まで深く曲げられる手法を新たに開発し実現したフォルムなのです。

この2作品、デザインはお二人らしさが出ていて、一方、素材はいつもと逆!?な意外性もあり興味深かったです。こういうプロジェクトは、やはり雰囲気のある会場で見ると感動がより深かったに違いありません……。

サステナブル社会の実現に向けて、技術とデザインが融合

インテリア業界以外の日本企業がミラノで企画展をすることも少なくないなか、今年初出展したのがNitto(日東電工)。スマホ用偏光フィルムや、工業用粘着テープなどなどを提供する高機能材料メーカーで、グローバルビジネスへのブランディングを強化しています。

クリエイションパートナーは面出薫(建築照明デザイナー)。透明な「RAYCREA(レイクレア)」フィルムをガラスやアクリル板に貼り光源を組み合わせることで、フィルムを貼った面だけが光る。光の迷宮のような会場(画像提供/Nitto)

Nitto(日東電工):「Search for Light」(ミラノ・トルトーナ地区)
クリエイションパートナーは面出薫(建築照明デザイナー)。透明な「RAYCREA(レイクレア)」フィルムをガラスやアクリル板に貼り光源を組み合わせることで、フィルムを貼った面だけが光る。光の迷宮のような会場(画像提供/Nitto)

新しい光の表現を可能にする光制御技術「RAYCREA」をミラノで披露し、デザイン界からユーザー視点での生の声を多く得られたようです。

最後にぜひ紹介したいのは、著名ギャラリーオーナー・Rossana Orlandi(ロッサーナ・オルランディ)が2019年から推進している「Ro GUILTLESSPLASTIC(罪のないプラスチック)」プロジェクト。
“プラスチックが罪なのではありません、私たちは習慣を変える必要があるのです”とロッサーナは呼びかけ、使用済みのプラスチックとゴミにデザインの力で新しい生命を与え、生まれ変わらせるデザインコンペを世界に向けて発信。
「Ro Plastic Prize」として毎年、Milan Design Week期間中に応募作品を展示し、表彰しています。

「Ro GUILTLESSPLASTIC」の会場はロッサーナのギャラリー近くにあるレオナルド・ダ・ヴィンチ記念国立科学技術博物館。中庭に設けられたステージのデザインも目を引く。期間中にはデンマーク王女も訪れた(画像提供/Galleria Rossana Orlandi)

「Ro GUILTLESSPLASTIC」の会場はロッサーナのギャラリー近くにあるレオナルド・ダ・ヴィンチ記念国立科学技術博物館。中庭に設けられたステージのデザインも目を引く。期間中にはデンマーク王女も訪れた(画像提供/Galleria Rossana Orlandi)

「廃棄物についての意識を高めるには、持続可能性と責任について話すだけではもはや十分ではありません。私たちは感情を刺激する必要があります」とロッサーナ、デザインコンペ「Ro Plastic Prize」に新たに設けた “Emotion on Communication”賞。その受賞作品に度胆を抜かれました!

受賞作はオランダ人アーティストのMaria Koijckの動画作品「this is the waste of one operation , my operation…. (これが一度の手術で出る廃棄物、私の手術……)」。自身の乳がん手術に使われた医療器具などの廃棄物を回収し、自分の周りに並べるという斬新な構想(画像提供/RO PLASTIC PRIZE 2021)

Maria Koijckはプラスチック廃棄問題に取り組んできたアーティストとして、自分の手術に使用される医療材料の60%が使い捨てであることに愕然とし、このプロジェクトに取り組みました。そして、病の回復に感謝しつつも、こう投げかけます。
「人間は常に“良くなる”ことを目指していますが、私たちの環境にかかるコストはどれくらいですか?」
医療関連のプラスチックもリサイクルできるように技術革新を続けることが重要と訴えています。

持続可能な社会に向けた取り組みは、「surpersalone」会場のブランドからもリサイクル率や素材開発など多く発信されていました。
アーティストはデザインで人の心に訴え、企業は技術開発に挑む。そんな活動の広がりを日本に居ながらにして垣間見ることのできたMilan Design Week/ミラノサローネ2021@ホームでした。

ミラノサローネ国際家具見本市「Salone del Mobile.Milano」
2021年9月5日(日)~10日(金)
場所:ロー・フィエラ ミラノ 入場料:15ユーロ
「surpersalone」デジタルプラットフォーム
※2022年4月5日~10日開催予定(60周年記念ミラノサローネ国際家具見本市&キッチン・バスルーム見本市併催)

閉店する喫茶店の家具と想いを次の使い手へと届ける「村田商會」の挑戦

赤いベルベットの椅子、カーブを描いた脚のテーブル、レトロなロゴ入りのグラスやあめ色に変わったコーヒーミル。村田商會が販売する古い家具や喫茶道具は、すべてが閉店するという喫茶店から引き取ってきたもの。この仕事を始めた経緯や想いを、2018年12月8日にオープンしたばかりの実店舗で話を聞いた。
ウェブショップから実店舗へ

西荻窪駅から歩いて5分ほど、喫茶店「POT」があった場所。ここが、それまでネット販売で営業していた村田商會の実店舗となる。オープンに向けて準備中だという店内は、以前の喫茶店の雰囲気を残しながらも、客席だったところには椅子やテーブルが所狭しと積まれている。
「これらが商品なんです。もともと喫茶店で使われていた家具や道具、雑貨などを引き取り、手入れをしてから販売しています」と話すのは村田商會の店主である村田龍一さんだ。

喫茶店としても営業するべく、準備中(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

喫茶店としても営業するべく、準備中(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

大好きな喫茶店の家具や想いを受け継ぐ

村田さんが自身の店を立ち上げたのは2015年。それまで勤めていた会社を辞めてのことだった。
「学生のころから純喫茶が好きで、よくいろいろなお店に行っていました。古いお店の内装、雰囲気、マスターやママさんと話す時間が好きで喫茶店巡りをするようになって。社会人になってからも続いていたんですが、それまで何度か足を運んでいた喫茶店に閉店のお知らせの紙が貼ってあったんです。マスターに話を聞いているうちに、家具を捨ててしまうという話が出て、もったいないなと思って1セットくださいとお願いしたんです。そのテーブルと椅子は、今でもうちで使っています」

自身が好きだった喫茶店のテーブルと椅子を自宅で使用している。譲ってもらってから10年以上たった今も現役。「この家具があることで、今でもお店のことを思い出したりして、愛着も増しています」(写真提供/村田龍一さん)

自身が好きだった喫茶店のテーブルと椅子を自宅で使用している。譲ってもらってから10年以上たった今も現役。「この家具があることで、今でもお店のことを思い出したりして、愛着も増しています」(写真提供/村田龍一さん)

そこで、村田さんは自分と同じように純喫茶が好きで、そこで使われている家具を欲しいと思う人がほかにもいるのではないかと考える。お店もしかり。閉店してしまうが、家具を捨てるのはもったいないと思う人もいるのではないか、と。
「純喫茶の家具って、欲しいと思って探してもなかなか見つからないんです。アンティークとも、中古家具とも違う。使い込まれてきた風合いがあって、さらにお店の雰囲気をもっているものだから。閉店するお店そのものは残せなくても、家具なら残せるし、仕事にしてみよう、と始めました」

現在はネットだけでなく、イベントにも出店し、家具だけでなく、喫茶小物や道具なども販売している(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

現在はネットだけでなく、イベントにも出店し、家具だけでなく、喫茶小物や道具なども販売している(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

閉店を望んでいるわけではないからこその葛藤

かくして村田商會がスタートする。閉店する喫茶店の情報は、実際に自分の足で探すこともあれば、周りから教えてもらったり、ネットで仕入れたりすることもある。村田さんは必ずお店へ出向き、話をするという。閉店することを決めた店主に話をするのは、かなり気使うことなのではないだろうか?
「それまで自分が通っていたお店だったら、話はしやすいんです。でも、行ったことのないお店だと確かに難しい。混んでいない時間帯に行って、コーヒーを飲んだり、ご飯を食べたりして、お店の雰囲気を伺って、話すタイミングを見計らって、やっと切り出す感じです」
閉店を決めた店主の気持ちがどのようなものか想像し、お客さんとの関係もきちんと汲み取ったうえで買い取りの話をもちかける。友人の紹介があれば信用してもらえるが、よく分からない営業だと思われたこともあったという。
「そりゃ怪しいですよ、僕が逆の立場だったら、なんだ?って思います(笑)。信用してもらえても、高い金額で買い取ることができないので、折り合わないこともあるし、すべてがうまくいくわけではないんです」。それに、とちょっと顔を曇らせて続ける。
「ものすごいジレンマがあって。僕は閉店を望んでいるわけではないんです。喫茶店は一軒でも多く残ってほしいし、続けられるなら続けてほしいから。矛盾というか葛藤というか、複雑な気持ちはいつもあります。

喫茶店ならではのおもしろい雑貨も。これは「かうひい異名熟字一覧」で、さまざまな文献に掲載されたコーヒーの別名を紹介している。非売品。小岩にあった喫茶店「らむぷ」で使われていたもの。(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

喫茶店ならではのおもしろい雑貨も。これは「かうひい異名熟字一覧」で、さまざまな文献に掲載されたコーヒーの別名を紹介している。非売品。小岩にあった喫茶店「らむぷ」で使われていたもの(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「瓦版」の文字がくりぬかれた板も喫茶店「らむぷ」で使われていたもの。当時はお店からの案内を貼るためのものだったのだろうか。村田商會の実店舗で使う予定だそう(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「瓦版」の文字がくりぬかれた板も喫茶店「らむぷ」で使われていたもの。当時はお店からの案内を貼るためのものだったのだろうか。村田商會の実店舗で使う予定だそう(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

家具を残すことで、お店の雰囲気を少しでも受け継ぎたい。なくなってしまう喫茶店のことが好きで、家具だけでも欲しいというお客さんもいます。僕自身がそうであったように、喫茶店を好きだという人が、自宅でも楽しめたらいいなと思ってのことなんです」

家庭でも使いやすいよう、丁寧にリペア

仕事は村田さんが一人ですべて行っている。喫茶店店主とのやりとり、買い取る家具の査定、運び出して倉庫に入れ、一つ一つ状態をチェックし、修理をして、写真を撮ってネットに掲載して販売し、発送する。書き出すだけでも膨大な仕事量だ。力仕事なのはいうまでもない。
「買い取る前にチェックはするんですが、照明の暗いお店だったりすると、外に運び出すときに初めて『あれ?』と気付くこともあるんです。ちょっと破れていたり、さびがひどかったり、いろいろです。喫煙可能なお店が多いので、ニオイも気になりますし、ヤニが付いているものもあります。それをすべてリペアしてから販売するので、手間も時間もかかるんです」

東大宮にあった喫茶店「ひまつぶし」の椅子。スポンジがすり減り、生地が擦り切れていた(左)。きれいに張り替え、きちんと使える状態に生まれ変わった(右)。手が触れる場所だからと裏地もしっかり張り替えている(写真提供/村田龍一さん)

東大宮にあった喫茶店「ひまつぶし」の椅子。スポンジがすり減り、生地が擦り切れていた(左)。きれいに張り替え、きちんと使える状態に生まれ変わった(右)。手が触れる場所だからと裏地もしっかり張り替えている(写真提供/村田龍一さん)

リペアの技術は知り合いに教えてもらったり、調べたりして身につけた。自宅でも問題なく使えるように、さび止め加工をしてペイントすることもあれば、生地の貼り直しやぐらつきの修正などもある。家具以外のものも加われば、細かな調理道具などの整理も必要だ。

ただ売るだけじゃなく、喫茶店の空気感も伝えたい

「以前、キャバレーの家具を買い取ったことがあるんです。やっぱりタバコの匂いやお酒のシミも残っていてリペアは必要でした。買ってくれたお客さんのなかに、お父様がそのキャバレーに通っていたから、サプライズでプレゼントしたいという方がいて。その話を聞いたときはうれしかったですね」
自分たちで喫茶店を始めたいと家具や小物を買っていくお客さんもいるという。

ただ単に売っているだけではない。村田商會のホームページには、その家具を使っていたお店について伝えるページがある。どんな歴史があり、どんな雰囲気でどんなお客さんが来ていたのか。閉店前のお店の写真まで掲載している。
「家具を売るだけじゃなく、お店のことをきちんと伝えていきたいと思って。受け継ぐ気持ちでやっています」

今年の夏に閉店した喫茶店「POT」。村田さんが内装や家具もそのまま引き継いで残している(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

今年の夏に閉店した喫茶店「POT」。村田さんが内装や家具もそのまま引き継いで残している(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

2018年8月営業当時のPOTの店内。記事トップの写真にある赤いポットは、もともとの喫茶店「POT」の象徴的なアイテムで、こちらも商品になる(家具(椅子・テーブル)は販売対象外)(写真提供/村田龍一さん)

2018年8月営業当時のPOTの店内。記事トップの写真にある赤いポットは、もともとの喫茶店「POT」の象徴的なアイテムで、こちらも商品になる(家具(椅子・テーブル)は販売対象外)(写真提供/村田龍一さん)

そうして、ネット販売を続け、実店舗のオープンにつながった。
「『POT』も好きなお店で、ちょこちょこ来ていたんです。閉店すると聞いてご主人と話をするうちに、家具を買い取るのではなく、この場所を受け継ごうと決心しました。ちょうどお店を持ちたと思い始めた時期でもあったので、ありがたかったです」

実店舗なら、たくさんの喫茶店で使われてきた家具を販売しながら、それぞれのお店のことをお客さんに直接話をして伝えていくことができる。
「今はまだ準備中ですが、ゆくゆくはここも喫茶店としてオープンする予定です。もともとの『POT』さんで使われていた家具や道具は残してあるのでそれをきちんと戻して、昔から通っていたお客さんにも楽しんでもらえるように」

形を変えても残るものがある。楽しめるものがある。喫茶店を営む人、楽しむお客さんへ向けた、村田さんの愛情はここからさらに広がっていくだろう。

12月8日にオープンし、家具や雑貨を販売している(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

12月8日にオープンし、家具や雑貨を販売している(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

●店舗情報
村田商會 西荻窪店
東京都杉並区西荻北3-22-17
2018年12月8日オープン(喫茶店の営業は2019年から予定)
12月中の営業時間 12:00~18:00【不定休】

「TSUTAYA BOOKSTORE ホームズ新山下店」レポート。家具店・ホームセンターと本屋が融合!?

2018年12月7日(金)、家具専門店・ホームセンター「島忠」「HOME’S」を展開する島忠とTSUTAYAがコラボレーションし、「ホームズ新山下店」がライフスタイル提案型の店舗へと生まれ変わった。「TSUTAYA BOOKSTORE ホームズ新山下店」店内では、商品の家具が「寛ぐ」「整える」などテーマに沿った12個の小部屋でスタリングがされており、本やコーヒーを楽しみながら使用感を試すことができる。その内容とは?(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

あなたはどんな暮らしがしてみたい? テーマに沿ってライフスタイルを提案

従来の「島忠」「HOME’S」といえば、商品が広大なフロアにズラリと並ぶ様子が思い浮かぶ人が多いはず。今回のリニューアルでは、商品ではなくライフスタイル提案型へとシフト。「寛ぐ」「眠る」「整える」「育む」「食べる」「癒し」「彩る」「作る」「贈る」のテーマに沿って“12のルームスタイル”を新設。それぞれのテーマごとに家具・本・雑貨を融合させた空間をつくり、理想のライフスタイルを体験しながら買い物を楽しめるようになった。

「魅せる、収納。」(テーマ:整える)のスペース。家具はすべて、もともと島忠で扱っていたものでコーディネート(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「魅せる、収納。」(テーマ:整える)のスペース。家具はすべて、もともと島忠で扱っていたものでコーディネート(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

収納にまつわる書籍をあわせて展開(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

収納にまつわる書籍をあわせて展開(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

例えば、「魅せる、収納。」(テーマ:整える)では、あえて美しく飾ることができる棚などとともに、収納グッズ、収納の実用書を組み合わせて提案する。「学び舎は、リビング。」(テーマ:育む)は、子どものリビング学習をテーマにしたローソファやコンパクトソファと組み合わせた空間。リビングで家族が楽しくコミュニケーションを取れる雑貨や、地図本や工作の本、図鑑などもあわせて展開している。ほかにも、「シアタールームを作ろう。」(テーマ:寛ぐ)、「ペットと暮らす。」(テーマ:寛ぐ)などバラエティ豊かなラインナップ。
それぞれのスペースでは、各テーマにあわせたワークショップやイベントが行われる予定とのこと。

「ヨコハマブルー。」(テーマ:寛ぐ)のスペースでは海とデニムのブルーをイメージし、外国の情緒にあふれる横浜にどっぷり浸れる、デニム生地を活かした棚やラグなどを展開(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「ヨコハマブルー。」(テーマ:寛ぐ)のスペースでは海とデニムのブルーをイメージし、外国の情緒にあふれる横浜にどっぷり浸れる、デニム生地を活かした棚やラグなどを展開(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「インテリアで遊ぶ。」(テーマ:作る)には手軽にできるDIYアイテムがそろう(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「インテリアで遊ぶ。」(テーマ:作る)には手軽にできるDIYアイテムがそろう(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

マスキングテープの無料サンプルも充実しており、自由に工作をして試せる(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

マスキングテープの無料サンプルも充実しており、自由に工作をして試せる(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

本やコーヒーを楽しみながら家具をお試し

また、同店舗内にはBOOK & CAFE「WIRED KITCHEN with フタバフルーツパーラー」も併設されており、テイクアウトしたコーヒーなどのドリンクや食事を、家具売り場で商品を試しながら楽しむことができる。本やコーヒーを気になる家具で心ゆくまで楽しむのもよし、「作る」のスペースで創作意欲が湧いたら1階の資材売り場でDIYのための材料を調達するのもよし。思い思いのお店の使い方をしてみたい。

「WIRED KITCHEN with フタバフルーツパーラー」で使用しているチェアも購入可(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「WIRED KITCHEN with フタバフルーツパーラー」で使用しているチェアも購入可(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「グリーンがある暮らし。」(テーマ:癒し)のスペース。12のルームスタイルで食事やドリンクを楽しめば、理想の暮らしをよりリアルに疑似体験できる(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「グリーンがある暮らし。」(テーマ:癒し)のスペース。12のルームスタイルで食事やドリンクを楽しめば、理想の暮らしをよりリアルに疑似体験できる(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

また、広々としたキッズスペースを設けているほか、専用カートを使用すればペットと一緒にショッピングを満喫することができる(カフェスペースのみ同伴不可)。買い物をするだけでなく、家族みんなで休日を楽しめる憩いの場となりそうだ。

店内にある本20万冊。児童書は3万冊で、横浜エリア最大級の品ぞろえ(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

店内にある本20万冊。児童書は3万冊で、横浜エリア最大級の品ぞろえ(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

広々としたキッズスペース。ボーネルンドの商品や知育玩具を試せる(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

広々としたキッズスペース。ボーネルンドの商品や知育玩具を試せる(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

■店舗情報
「ホームズ新山下店」
神奈川県横浜市中区新山下 2-12-34
営業時間:10時~21時、資材館9時~21時、ハニーフラワー10時~19時
>HP

「TSUTAYA BOOKSTORE ホームズ 新山下店」
神奈川県横浜市中区新山下 2-12-34
営業時間:10時~21時(定休日は施設休館日に準ずる)

イケア初の東京都心型店舗、原宿駅前に出店決定

イケア・ジャパン(株)は15日、イケア初となる東京都心型店舗を、原宿に出店すると発表した。開業は2020年春を予定している。場所はJR「原宿駅」徒歩1分、東京メトロ千代田線「明治神宮前〈原宿〉駅」徒歩1分という駅前の好立地。NTT都市開発(株)が2017年3月より開発中の複合ビル「原宿駅前プロジェクト」(渋谷区神宮前1丁目)の中に位置する。

今回の店舗は、より多くの方にイケアでの買い物体験を楽しんでもらうための同社初となる都心型店舗。都心部での生活のニーズは今後も大きくなることが見込まれていることから、オンラインショッピングなどにも力を入れていく考えだ。

同社代表取締役社長のヘレン・フォン・ライス氏は、「東京都心部での出店を通し、より多くの日本の消費者の皆さまに、イケアを体験していただけることを大変うれしく思います。日々の暮らしのお悩みや、ニーズにお応えできる商品や解決策を、インスピレーションあふれる環境でご提供できますことを楽しみにしております。」とコメントしている。

ニュース情報元:イケア・ジャパン(株)

“おブス部屋“はもう卒業! プロに聞くお部屋改造のコツとは

「うち近いから寄ってく?」と友人に言いかけて途中で飲み込んだ覚えはありませんか? 部屋が散らかっていたり汚かったりすると、人を呼ぶのをためらってしまいがち。「うちにおいでよ!」と気軽に言えるお部屋にするにはどうしたらよいのでしょうか。人には見せられない“おブス部屋”から卒業するための、ちょっとした工夫をプロに聞きました。
手がけた物件は1000件以上! お部屋改造のプロってどんな人?

今回、散らかり放題のおブス部屋をイケてる部屋にするヒントを聞かせていただくために伺ったのは、有限会社お部屋改造計画。一人暮らしや、ご夫婦の方々の「インテリアコーディネート」や「お部屋模様替え」、カフェやサロン、オフィスなど小さな店舗の「トータルプロデュース」を行っている会社です。今年で設立19年目、手がけた物件は1000件を超えるそう。

お部屋の改造例[1]Before(画像提供/お部屋改造計画)

お部屋の改造例[1]Before(画像提供/お部屋改造計画)

お部屋の改造例[1]After(画像提供/お部屋改造計画)

お部屋の改造例[1]After(画像提供/お部屋改造計画)

お客様は一人暮らしの方が多く、女性は20代~30代、男性は30~40代が多いとのこと。「しっかりヒアリングをして、その人の生活習慣にマッチした部屋づくりをします。好きなことや嫌いなこと、仕事は何かなど、こだわりや趣味を考え抜いてつくり上げます。ですから、100人100様の部屋ができ上がります」と代表兼ルームスタイリストの柳橋浩さんは話します。

そんなお部屋づくりのプロ・柳橋さんに聞く、おブス部屋から抜け出すコツとは!?

断捨離はする必要なし! 持ち物があってこその生活

ちまたではミニマリストなど、断捨離が流行して普遍になりつつありますが、柳橋さんはそれには賛同しかねると言います。

「思い入れのあるものなど、処分できないものは、リメイクや置く場所等を工夫してお部屋になじませるという方法でクリアできます。なんでもかんでも捨ててしまわなくても、きれいな部屋はつくれますよ」(柳橋さん)

大切なものは捨てられないと思っていた筆者としては、すこし安心しました。

とはいえ、物が多いと片づけの難易度が上がるはず。物を捨てずに片づけるコツはあるのでしょうか? 柳橋さんによると、まずは「収納場所を特定したほうがよい」とのアドバイスが。

「片づけやすい環境づくりをすることで、実際に『片づける』という行動につながります。ただ、収納スペースを多くつくってしまうと、安心感から今度はそこに物がたまってしまうので注意しましょう」(同)

また、収納が面倒くさくなるのは「収納の動線」がつくられていないからだそう。「捨ててもいいものは外に出しやすい、玄関に近いほうに置くようにしましょう。また、急な来客があったときなどのために、『とりあえず入れておくコーナー』を設置しておくのもよいですね」(同)

まずは収納の動線をつくって片づけをしやすい環境にととのえることが、おブス部屋脱却のカギになりそうです。

おブス部屋の原因はどこにある? 実際に聞いてみた

柳橋さんのお話にうなずきながら、おそるおそる筆者の部屋の写真を出して、見ていただきました。インテリア雑誌やテレビの情報番組を見て「隠せ、隠せ」とできるだけシンプルな布を購入して、積み上げたものを隠している部分です。

取材当日の筆者の部屋。積み上げた本と書類を布で覆って隠し、なんとかなっているつもり(写真撮影/近藤智子)

取材当日の筆者の部屋。積み上げた本と書類を布で覆って隠し、なんとかなっているつもり(写真撮影/近藤智子)

冷や汗をかきながら小声で「汚くてなんだかすみません」と恐縮しまくる筆者に「そんなに汚くないですよ~」と明るく優しく声をかけてくださる柳橋さん。そしてすぐさま直せそうなポイントを指摘してくださいました。

「目隠しの布はよく使われますが、相当に気を使わないと実は難しいもの。適当な布を置いてもバランスが崩れるので、やめたほうが賢明です」(同)

また、家具の並べ方にもポイントがあるそう。

「背の高い家具同士は極力並べるのを避けて、間に少し低い家具を置いたり、余白をつくったりして高低差をつけて、メリハリを出してください。そのほうが圧迫感を感じにくくなります。もし圧迫感のある家具が多い場合には、今の位置と反対側に置くなどして、同一方向の視線から外しましょう」(同)

さらに、新たに家具選びをするときには、こんなコツがあるそうです。

「『食器棚』『テレビ台』など、家具は決まった用途があるかのように名づけられて売られていますが、これに惑わされないでください。見た目とサイズ感から、従来の使い方以外にも用途がいろいろ浮かんでくると思います。そうすれば、自分にぴったりなオリジナルの使い方ができます」(同)

家具の並べ方は、やはりバランス感覚が重要とのこと、安定感や見た目の重視に気をつけるだけで、相当に片づいて見えるようです。これなら少しずつ解決ができそうな気がします。

お部屋の改造例[2]Before(画像提供/お部屋改造計画)

お部屋の改造例[2]Before(画像提供/お部屋改造計画)

お部屋の改造例[2]After(画像提供/お部屋改造計画)

お部屋の改造例[2]After(画像提供/お部屋改造計画)

お部屋改造は、どんなメリットがある?

最後に柳橋さんに、お部屋を改造することで部屋が片づくこと以外に得られるメリットについて伺いました。

「部屋が変わると、世界観が変わるというお客様が多いですね。『生活が好転しました』『気持ちが明るくなりました』と言ってくださる方が多いです。大掃除の達成感に似ているのかもしれませんが、部屋を変えることでご本人の何かが変わるのではないでしょうか。すぐには引越しできない場合にも、模様替えは可能ですから、ぜひ一度試してみていただきたいです」(同)

今回いただいたアドバイスで、おブス部屋から脱出する糸口が見つかったような気がします。大掛かりなものはプロに任せるという選択肢もアリかな、と感じました。

お部屋の改造は住み続けるための選択肢。人に見せても恥ずかしくない部屋づくりはちょっとしたことから始められます。そして部屋に向き合うことは、自分と向き合うことにもつながっているのかもしれません。

●取材協力
・有限会社お部屋改造計画

インテリアで重視すること、トップは「部屋が広く見える家具の配置やレイアウト」、ワコム調べ

(株)ワコムはこのたび、20代~30代の360人の男女を対象に「インテリアのレイアウト」に関する調査を実施した。調査時期は2018年1月4日~5日。それによると、インテリアを決めるとき最も重視することは、「部屋が広く見える家具の配置やレイアウト」と回答した人が51.7%と最も多く、次いで、「動線をしっかり確保した家具の配置やレイアウト」(42.8%)、「家具やアイテムのデザイン性」(35.3%)という結果。カラーコーディネートを重視するという声もあった。

引越しや模様替えの際、家具の配置やレイアウトで後悔したことがありますか?では、「ある」と答えた人が46.5%と、半数近くの人が家具の配置やレイアウトで後悔した経験があるようだ。理由は、「購入した家具の色や素材がイメージと違った」(57.3%)、「部屋が広く見える家具の配置やレイアウトができなかった」(44.9%)、「置く場所のシミュレーションをせず動線の確保ができなかった」(32.9%)だった。

家具の配置やレイアウトを考える際、配置図を書いたことがありますか?では、45.0%の人が「ある」と回答。さらに、配置図を書くことで失敗が防げると思いますか?では、66.1%の人が「思う」と回答しており、7割近くの人が事前に家具の配置図を書くことの重要性を感じているようだ。

ニュース情報元:(株)ワコム