二拠点生活で小・中学校はどうする? コロナ禍で高まるニーズ受けて

コロナで2回目の緊急事態宣言が発令されて始まった2021年。今回は休校や休園などの事態は免れたものの、テレワークなどの新しい生活様式の推奨に伴って、郊外への引越しや地方移住、二拠点生活を検討する人が増えていると言います。

2019年から二拠点生活を始めて2年、小学校・中学校への進学を控える子ども2人を持つ筆者が、改めて二拠点生活の「学校どうするか」問題について考えます。

コロナで地方移住や二拠点生活の志向が高まっている!?

1月29日、総務省が2020年の住民基本台帳に基づく人口移動報告を発表し、東京都からの転出者が全国で唯一増加となったことが話題になりました。転出先は神奈川・埼玉・千葉の近隣3県が55%を占めることに。コロナの影響でリモートワークが普及し、都心から通勤圏内の郊外へ移り住む流れが進んでいると言われます。

また、リクルート住まいカンパニーが発表した調査でも同様の傾向が見られます。『SUUMO』の物件詳細閲覧数を2020年1月と8月で比較した伸び率をランキングすると、伸び率1位となったのは中古マンションでは神奈川県三浦市、中古一戸建てでは千葉県富津市でした。さらにいずれもトップ5は都心から100キロメートル圏内の郊外エリアだったのです。2拠点生活意向者も2018年11月と比べ、2020年7月時点では13.4ポイント増加し、二拠点生活を志向する人が約2倍に増えていることを示しています。

『デュアルライフ(2拠点生活)に関する意識・実態調査』と2020年7月実施調査の比較(左)。『SUUMO』の物件詳細閲覧数を、2020年1月と8月で比較した際の伸び率をランキング化。赤が中古マンション 青が中古一戸建て(右)(資料/SUUMO編集部)

『デュアルライフ(2拠点生活)に関する意識・実態調査』と2020年7月実施調査の比較(左)。『SUUMO』の物件詳細閲覧数を、2020年1月と8月で比較した際の伸び率をランキング化。赤が中古マンション 青が中古一戸建て(右)(資料/SUUMO編集部)

二拠点生活をするとき、学校の選択肢は?

これまで二拠点生活の実現を阻むと言われてきた二大要素が「仕事」と「子どもの就学」でした。そのうち、「仕事」については、WEB会議システムをはじめとしたテレワーク化の流れによって、地方に住みながら今の仕事を続けられるかも、と二拠点生活をイメージできる人が増えたのではないでしょうか。

そして、もう一つの困難が「子どもの就学」問題です。二拠点生活をするときの通学形態には、いくつかの選択肢があります。公立の小・中学校に通学する場合、大体次の3つに分けられるでしょう。

1)いずれか主となる住所地に住民票と学籍を置き、その学校にのみ通学する
・現在の学校に引き続き通学
・転校する(親子留学制度などを利用する場合も含む)

2)デュアルスクール制度のある自治体(徳島県、長野県塩尻市、秋田県など)で区域外就学制度(後述)を活用し、都心部に住民票と学籍を置いたまま、地方の学校にも通学する

3)主となる住所地に住民票と学籍を置き、別拠点に滞在中はフリースクールや家庭教師など任意の教育で補う

山梨県や長野県に移住した友人からは、それらの県の一部地域で募集されている「親子留学」制度が、コロナによって問い合わせが増えていると聞きます。この親子留学制度も上の1)の住民票と学籍を移す形になります。

テレワーク普及の影響か、親子留学制度を活用しようと考える人も増えている様子(写真/PIXTA)

テレワーク普及の影響か、親子留学制度を活用しようと考える人も増えている様子(写真/PIXTA)

「区域外就学制度」が使える? 自治体や教育委員会に問い合わせてみた!

古くから各地方自治体には「区域外就学」の制度があります。これは具体的な事情が相当と認められる場合に、住民票と学籍のない自治体の公立学校に通うことが可能となる制度です。

実は、地方移住や二拠点生活などのニーズを反映し、2017年7月に文部科学省からこの区域外通学に関する通達が出されました。この通達には、「相当と認めるとき」に「地方への一時的な移住や二地域に居住するといった理由」も含まれることが記載されています。二拠点でこの制度を活用することに文科省のお墨付きを得ている、とも言えるこの通達ですが、文部科学省教育制度改革室の松岡将さんによると「実際の運用と認められるかどうかの判断は、各地方自治体の教育委員会の判断に委ねられている」と言います。

2017年7月に各都道府県・指定都市の教育委員会就学事務担当課長宛に通知された「地方移住等に伴う区域外就学制度の活用について」(画像/文部科学省)

2017年7月に各都道府県・指定都市の教育委員会就学事務担当課長宛に通知された「地方移住等に伴う区域外就学制度の活用について」(画像/文部科学省)

そこで、筆者は現在、東京の拠点である品川区と住民票を置いている佐賀県佐賀市にこの制度が活用できるかを尋ねてみることにしました! それぞれの自治体のホームページには、学期の途中で転出した場合などに加え、「その他教育委員会が特に必要と認めた場合」に区域外就学制度を利用できる旨の記載があります。

「コロナ」という“特別な事情”が、加味される可能性も

ところが、実際に各自治体に相談してみると、筆者のように1回あたり数日~1週間程度の滞在では申請が認められることは難しく、一つの目安として「一定期間(2~3週間程度)以上、居住していること」が必要であることが判明しました。

また、自治体によっては、主に海外赴任で一時的に帰国している場合などに、住民票がなくとも一定期間居住していることを条件に「体験入学」できる制度を設けているところもあります。この制度を活用する場合においても、居住期間2~3週間以上の場合の申請が一般的ということでした。

自治体によっては、海外からの一時帰国者を主な対象に「体験入学」制度を設けているところも(写真/PIXTA)

自治体によっては、海外からの一時帰国者を主な対象に「体験入学」制度を設けているところも(写真/PIXTA)

ただ、品川区学務課の篠田英夫さんによると「コロナによって区内に住む人から、地方の祖父母宅など一時的に他のエリアで子どもを通学させることができないか、といった相談が出てきている」といいます。

「『コロナのような特別な事情』があれば、受け入れ側の自治体との調整によっては可能になる場合もあるかもしれません。個別事情によって判断することになるので、詳細は各自治体や教育委員会などの窓口に相談してほしいと思います」(篠田さん)

意外と「デュアルスクール」を望んでいない子どもも!?

子ども2人がそれぞれ小学校、中学校に進学するのにともない、筆者の中では改めて“学校どうしよう”問題が湧き上がりました。特に1カ月に1~2回、3~7日ほどの東京・佐賀の行き来が日常になっていた長男には、区域外就学制度が活用できたらよかったのにな……という思いも拭えません。

ところが、いざ息子にその話をしてみると「小学校は佐賀だけでいい。2つも学校行くのは面倒だから」と言います。中学校に進学する長女に聞いても同様の返答です。

リビングで宿題をする小学6年生の長女。佐賀市の指定区域内の中学校への進学を希望している(撮影/唐松奈津子)

リビングで宿題をする小学6年生の長女。佐賀市の指定区域内の中学校への進学を希望している(撮影/唐松奈津子)

実は、私たちの二拠点生活も最初から全てが順調だったわけではなく、佐賀に引越して最初の半年ほどの間は、よく保育園の園長先生から長男の様子について話がありました。息子が移動中のバスの中でお友達を叩いたり、体操の時間にみんなで走っているときに前の子を押したりすることが頻発したのです。

園長先生から聞いたのは息子が「怒っているように見える。お母さんが仕事で東京に行って不在のときは、特にイライラしている様子」だということ。半年ほど経って息子の様子が落ち着いてきたことを園長先生と話したとき、「生活に慣れて、いつもの安心できる環境になったんでしょうね」と言われて、気付かされた思いでした。子どもにとっては“いつもの安心できる環境”が第一なのだな、と。

4月から小学校に進学する長男。佐賀でお気に入りの場所の一つ、佐賀県立図書館と併設する「こころざしの森」にて(撮影/唐松奈津子)

4月から小学校に進学する長男。佐賀でお気に入りの場所の一つ、佐賀県立図書館と併設する「こころざしの森」にて(撮影/唐松奈津子)

国も自治体も、そして親も「子どもの教育環境」を第一に

松岡さんに話を聞いたときにも印象的だったのは「子どもの教育環境が大切」という言葉が繰り返し使われたことです。また、篠田さんは「学級運営や他の子どもたちの学習環境にも影響するので、区域外就学も安易には認められない」と言っていました。

親としては生活の選択肢を増やす意味で、また子どもの将来にとって良かれと思って、二拠点生活に活用できる就学制度があれば、と思わずにいられません。実際、都会育ちの子どもが、デュアルスクールを体験し、かけがえのない経験や、自分の居場所はどこにでもつくれるという強い自信を得た、といった素晴らしい話も聞きます。一方で、二拠点生活を考える際に子どもの学校をどうするのか、本当に子どもにとって2つの学校に通うことが必要なのかどうかは、それぞれの家庭の事情にあわせて慎重に検討する必要があると感じました。

有明海の干潟でカニ探しをして遊ぶ長男。子どもに自然体験を増やしたいと考える人も多いだろう(撮影/酒井皓司)

有明海の干潟でカニ探しをして遊ぶ長男。子どもに自然体験を増やしたいと考える人も多いだろう(撮影/酒井皓司)

二拠点生活を始めた当時、小学4年生だった長女が転校して現在の小学校にすんなり馴染めたのも、既に顔見知りの同級生がいたことが大きいと思っています。実は、娘は東京・品川区の小学校に入学した6歳のころから4年間、毎年冬休みには佐賀の祖父母宅に一人で2週間ほど滞在し、現在の住まいの近所に住む子どもたちと一緒に遊んできたのです。

デュアルスクール制度、区域外就学制度、体験入学制度、親子留学制度など、二拠点生活の広まりに応じて活用できそうな就学制度が出てきました。また、コロナの今だからこそ、活用できる可能性もありそうです。

“子どもの教育環境”という簡単には答えの出ない問題だからこそ、まずは親子で休暇を利用して一時的に滞在してみる、「子連れワーケーション」を実践してみるなど、“試しに”から始めて子どもの様子を見るのも一手かもしれませんね。

●取材協力
・文部科学省
・東京都品川区
・佐賀県佐賀市

二拠点生活で小・中学校はどうする? コロナ禍で高まるニーズ受けて

コロナで2回目の緊急事態宣言が発令されて始まった2021年。今回は休校や休園などの事態は免れたものの、テレワークなどの新しい生活様式の推奨に伴って、郊外への引越しや地方移住、二拠点生活を検討する人が増えていると言います。

2019年から二拠点生活を始めて2年、小学校・中学校への進学を控える子ども2人を持つ筆者が、改めて二拠点生活の「学校どうするか」問題について考えます。

コロナで地方移住や二拠点生活の志向が高まっている!?

1月29日、総務省が2020年の住民基本台帳に基づく人口移動報告を発表し、東京都からの転出者が全国で唯一増加となったことが話題になりました。転出先は神奈川・埼玉・千葉の近隣3県が55%を占めることに。コロナの影響でリモートワークが普及し、都心から通勤圏内の郊外へ移り住む流れが進んでいると言われます。

また、リクルート住まいカンパニーが発表した調査でも同様の傾向が見られます。『SUUMO』の物件詳細閲覧数を2020年1月と8月で比較した伸び率をランキングすると、伸び率1位となったのは中古マンションでは神奈川県三浦市、中古一戸建てでは千葉県富津市でした。さらにいずれもトップ5は都心から100キロメートル圏内の郊外エリアだったのです。2拠点生活意向者も2018年11月と比べ、2020年7月時点では13.4ポイント増加し、二拠点生活を志向する人が約2倍に増えていることを示しています。

『デュアルライフ(2拠点生活)に関する意識・実態調査』と2020年7月実施調査の比較(左)。『SUUMO』の物件詳細閲覧数を、2020年1月と8月で比較した際の伸び率をランキング化。赤が中古マンション 青が中古一戸建て(右)(資料/SUUMO編集部)

『デュアルライフ(2拠点生活)に関する意識・実態調査』と2020年7月実施調査の比較(左)。『SUUMO』の物件詳細閲覧数を、2020年1月と8月で比較した際の伸び率をランキング化。赤が中古マンション 青が中古一戸建て(右)(資料/SUUMO編集部)

二拠点生活をするとき、学校の選択肢は?

これまで二拠点生活の実現を阻むと言われてきた二大要素が「仕事」と「子どもの就学」でした。そのうち、「仕事」については、WEB会議システムをはじめとしたテレワーク化の流れによって、地方に住みながら今の仕事を続けられるかも、と二拠点生活をイメージできる人が増えたのではないでしょうか。

そして、もう一つの困難が「子どもの就学」問題です。二拠点生活をするときの通学形態には、いくつかの選択肢があります。公立の小・中学校に通学する場合、大体次の3つに分けられるでしょう。

1)いずれか主となる住所地に住民票と学籍を置き、その学校にのみ通学する
・現在の学校に引き続き通学
・転校する(親子留学制度などを利用する場合も含む)

2)デュアルスクール制度のある自治体(徳島県、長野県塩尻市、秋田県など)で区域外就学制度(後述)を活用し、都心部に住民票と学籍を置いたまま、地方の学校にも通学する

3)主となる住所地に住民票と学籍を置き、別拠点に滞在中はフリースクールや家庭教師など任意の教育で補う

山梨県や長野県に移住した友人からは、それらの県の一部地域で募集されている「親子留学」制度が、コロナによって問い合わせが増えていると聞きます。この親子留学制度も上の1)の住民票と学籍を移す形になります。

テレワーク普及の影響か、親子留学制度を活用しようと考える人も増えている様子(写真/PIXTA)

テレワーク普及の影響か、親子留学制度を活用しようと考える人も増えている様子(写真/PIXTA)

「区域外就学制度」が使える? 自治体や教育委員会に問い合わせてみた!

古くから各地方自治体には「区域外就学」の制度があります。これは具体的な事情が相当と認められる場合に、住民票と学籍のない自治体の公立学校に通うことが可能となる制度です。

実は、地方移住や二拠点生活などのニーズを反映し、2017年7月に文部科学省からこの区域外通学に関する通達が出されました。この通達には、「相当と認めるとき」に「地方への一時的な移住や二地域に居住するといった理由」も含まれることが記載されています。二拠点でこの制度を活用することに文科省のお墨付きを得ている、とも言えるこの通達ですが、文部科学省教育制度改革室の松岡将さんによると「実際の運用と認められるかどうかの判断は、各地方自治体の教育委員会の判断に委ねられている」と言います。

2017年7月に各都道府県・指定都市の教育委員会就学事務担当課長宛に通知された「地方移住等に伴う区域外就学制度の活用について」(画像/文部科学省)

2017年7月に各都道府県・指定都市の教育委員会就学事務担当課長宛に通知された「地方移住等に伴う区域外就学制度の活用について」(画像/文部科学省)

そこで、筆者は現在、東京の拠点である品川区と住民票を置いている佐賀県佐賀市にこの制度が活用できるかを尋ねてみることにしました! それぞれの自治体のホームページには、学期の途中で転出した場合などに加え、「その他教育委員会が特に必要と認めた場合」に区域外就学制度を利用できる旨の記載があります。

「コロナ」という“特別な事情”が、加味される可能性も

ところが、実際に各自治体に相談してみると、筆者のように1回あたり数日~1週間程度の滞在では申請が認められることは難しく、一つの目安として「一定期間(2~3週間程度)以上、居住していること」が必要であることが判明しました。

また、自治体によっては、主に海外赴任で一時的に帰国している場合などに、住民票がなくとも一定期間居住していることを条件に「体験入学」できる制度を設けているところもあります。この制度を活用する場合においても、居住期間2~3週間以上の場合の申請が一般的ということでした。

自治体によっては、海外からの一時帰国者を主な対象に「体験入学」制度を設けているところも(写真/PIXTA)

自治体によっては、海外からの一時帰国者を主な対象に「体験入学」制度を設けているところも(写真/PIXTA)

ただ、品川区学務課の篠田英夫さんによると「コロナによって区内に住む人から、地方の祖父母宅など一時的に他のエリアで子どもを通学させることができないか、といった相談が出てきている」といいます。

「『コロナのような特別な事情』があれば、受け入れ側の自治体との調整によっては可能になる場合もあるかもしれません。個別事情によって判断することになるので、詳細は各自治体や教育委員会などの窓口に相談してほしいと思います」(篠田さん)

意外と「デュアルスクール」を望んでいない子どもも!?

子ども2人がそれぞれ小学校、中学校に進学するのにともない、筆者の中では改めて“学校どうしよう”問題が湧き上がりました。特に1カ月に1~2回、3~7日ほどの東京・佐賀の行き来が日常になっていた長男には、区域外就学制度が活用できたらよかったのにな……という思いも拭えません。

ところが、いざ息子にその話をしてみると「小学校は佐賀だけでいい。2つも学校行くのは面倒だから」と言います。中学校に進学する長女に聞いても同様の返答です。

リビングで宿題をする小学6年生の長女。佐賀市の指定区域内の中学校への進学を希望している(撮影/唐松奈津子)

リビングで宿題をする小学6年生の長女。佐賀市の指定区域内の中学校への進学を希望している(撮影/唐松奈津子)

実は、私たちの二拠点生活も最初から全てが順調だったわけではなく、佐賀に引越して最初の半年ほどの間は、よく保育園の園長先生から長男の様子について話がありました。息子が移動中のバスの中でお友達を叩いたり、体操の時間にみんなで走っているときに前の子を押したりすることが頻発したのです。

園長先生から聞いたのは息子が「怒っているように見える。お母さんが仕事で東京に行って不在のときは、特にイライラしている様子」だということ。半年ほど経って息子の様子が落ち着いてきたことを園長先生と話したとき、「生活に慣れて、いつもの安心できる環境になったんでしょうね」と言われて、気付かされた思いでした。子どもにとっては“いつもの安心できる環境”が第一なのだな、と。

4月から小学校に進学する長男。佐賀でお気に入りの場所の一つ、佐賀県立図書館と併設する「こころざしの森」にて(撮影/唐松奈津子)

4月から小学校に進学する長男。佐賀でお気に入りの場所の一つ、佐賀県立図書館と併設する「こころざしの森」にて(撮影/唐松奈津子)

国も自治体も、そして親も「子どもの教育環境」を第一に

松岡さんに話を聞いたときにも印象的だったのは「子どもの教育環境が大切」という言葉が繰り返し使われたことです。また、篠田さんは「学級運営や他の子どもたちの学習環境にも影響するので、区域外就学も安易には認められない」と言っていました。

親としては生活の選択肢を増やす意味で、また子どもの将来にとって良かれと思って、二拠点生活に活用できる就学制度があれば、と思わずにいられません。実際、都会育ちの子どもが、デュアルスクールを体験し、かけがえのない経験や、自分の居場所はどこにでもつくれるという強い自信を得た、といった素晴らしい話も聞きます。一方で、二拠点生活を考える際に子どもの学校をどうするのか、本当に子どもにとって2つの学校に通うことが必要なのかどうかは、それぞれの家庭の事情にあわせて慎重に検討する必要があると感じました。

有明海の干潟でカニ探しをして遊ぶ長男。子どもに自然体験を増やしたいと考える人も多いだろう(撮影/酒井皓司)

有明海の干潟でカニ探しをして遊ぶ長男。子どもに自然体験を増やしたいと考える人も多いだろう(撮影/酒井皓司)

二拠点生活を始めた当時、小学4年生だった長女が転校して現在の小学校にすんなり馴染めたのも、既に顔見知りの同級生がいたことが大きいと思っています。実は、娘は東京・品川区の小学校に入学した6歳のころから4年間、毎年冬休みには佐賀の祖父母宅に一人で2週間ほど滞在し、現在の住まいの近所に住む子どもたちと一緒に遊んできたのです。

デュアルスクール制度、区域外就学制度、体験入学制度、親子留学制度など、二拠点生活の広まりに応じて活用できそうな就学制度が出てきました。また、コロナの今だからこそ、活用できる可能性もありそうです。

“子どもの教育環境”という簡単には答えの出ない問題だからこそ、まずは親子で休暇を利用して一時的に滞在してみる、「子連れワーケーション」を実践してみるなど、“試しに”から始めて子どもの様子を見るのも一手かもしれませんね。

●取材協力
・文部科学省
・東京都品川区
・佐賀県佐賀市

子どもたちのサードプレイスに 民間の学童保育「キッズベースキャンプ」の取り組み【育住近接(4)】

共働きの夫婦にとって、小学校入学後に放課後どう過ごさせるかは悩みのタネだ。公立の学童保育だけでなく、最近では民間の学童保育施設も多くみられるようになった。東急グループの「キッズベースキャンプ」はそのひとつ。多種多様なプログラムを通じて、子どもたちに学びを提供している。「キッズベースキャンプ豊洲・東雲」を例に、その活動内容を紹介しよう。育住近接
近年、保育園や学童保育施設などをマンションや団地内に設置する「育住近接」というトレンドが生まれています。「育住近接」を実現させた物件や団体の取り組み事例を紹介する企画です。民間ならでは 22時まで預けられる学童保育

「ウォーター・フロント」として開発が始まった湾岸エリアの豊洲や東雲は、タワーマンションが林立していることで知られている。

豊洲駅と東雲駅の真ん中あたりに位置する「東雲キャナルコートCODAN」の敷地内には、塾や医療関係の施設など、生活に便利なショップなどが立ち並んでいる。今回訪ねたのは、その中にある「キッズベースキャンプ豊洲・東雲」。東急グループの株式会社キッズベースキャンプが運営する、民間の学童保育施設だ。同社の三沢敦子(みさわ・あつこ)さんに、施設の概要や学童保育のあり方について伺った。

「田植え」イベントの様子(画像提供/キッズベースキャンプ)

「田植え」イベントの様子(画像提供/キッズベースキャンプ)

「キッズベースキャンプ」の始まりは2008年。公設の学童保育施設では預かり時間が遅くても19時までというところがほとんどだが、ここでは、22時まで預けられるようになっている。残業が発生しても、子どもを安全に預かってもらえるのはうれしい点だ。また、スタッフが指定の小学校から施設までの送迎を行ってくれるのもありがたい。子どもだけで移動しなくてよいのは、保護者としてとても安心だろう。

キッズコーチは、7~10人に1人の割合で配置される。子どもに対してキッズコーチがこれだけいれば、それぞれの子どもの特徴を理解してコミュニケーションをとることもできるし、なにより子どもたちに目が届きやすいだろう。ちなみに、キッズコーチは20代が多い。正社員の採用倍率約30倍の難関を突破し、しっかりと研修を受けたプロフェッショナルがそろっている。

施設内には、木製のテーブルが並んでいる。「学校から帰ってきたらまず宿題の時間を設けています。勉強を習慣づけさせるのがねらいです。その後、おやつタイム、イベントもしくは自由時間というのがだいたいの流れです。おやつや食事はもちろん子どものアレルギーに対応することができます」と三沢さん。

その言葉どおり、部屋の隅っこでは、市販のお菓子の成分表示を見ながら仕訳をしているスタッフがいた。これだけでも頭が下がるが、念には念を入れ、ダブルチェック、あるいはトリプルチェックを行っているという。

また、施設が用意する夕食「キッズミール」をオプションで利用することもできるので、忙しいときには安心だ。

キッズベースキャンプといえば、「豊富なイベント」が特徴!

施設の特徴は何と言ってもイベントが充実していること。

「イベントは子どもへの投資になると思っており、遠足やお泊まりなどにもでかけます。スキーなど、保護者だけでは連れて行くのが難しい場所も訪れています」(三沢さん)

イベントは、週1回くらいの頻度で開催している。参加するかどうかは、子どもと保護者が話し合って決めることができる。イベントは実にさまざまで、料理や工作、スポーツや社会科見学など、子どもたちの知的好奇心をくすぐるものばかり。

「普段は入れないところに行ける、動物園や劇場のバックヤードツアーは特に人気です」(三沢さん)

また、夏休みや冬休み、春休みなど、長期休みだけ施設を利用することも可能。日曜日に登校した次の日の「代休」などは、朝から対応しているそうだ。

「利用者は1、2年生が多いですね。それ以上になると塾などに通い始め、だんだん通う日数が減ってきます。ですから、通う日数に応じた料金プランを設定しています」(三沢さん)

このように、キッズベースキャンプは、保護者や子どもの役に立ちたいという一心で活動をしてきたそうだ。

「10年続けてきたことで、理解を得られるようになったと感じています。時代の流れもありますし、続けてきたことで信頼度が高まったのだと思います」(三沢さん)

 全員でゲーム(画像提供/キッズベースキャンプ)

全員でゲーム(画像提供/キッズベースキャンプ)

「ただいま!」 サードプレイスでの体験が子どもを成長させる

取材をはじめて数十分、お話を聞いていると、子どもたちがスタッフに連れられて帰ってきた。「こんにちは」ではなく「ただいま!」と元気な声で、施設に次々とやってくる。そのまま思い思いの席につき、ランドセルから取り出した宿題を始めた。

その日勤務していたキッズコーチに、保護者たちの反応を聞いてみた。

「保護者のみなさんからは、日々感謝の言葉をいただきます。特に印象的だったのは、子どものトラブルを仲介して、仲直りさせたとき。子ども同士のトラブルは、親が介入しにくいこともあるので、とても喜んでいただけました。そのほかにも、乱暴な言葉づかいなどをしている子どもには注意するのですが、親以外の大人から指摘されたほうが効果的な場合もあるようで、感謝されたことがあります」(キッズコーチ)

「キッズベースキャンプは、保護者が働き続けるための役割はもちろんですが、子どもの居場所にもなることもあるのです。事情があって学校に行けなくなってしまってもキッズベースキャンプには来てくれるなど、子どもたちの受け皿になってあげられると考えています」(三沢さん)

アート工作イベント(画像提供/キッズベースキャンプ)

アート工作イベント(画像提供/キッズベースキャンプ)

ただ、施設の需要は増えつづけ、現在はキャンセル待ちが多くなってきたようだ。そのため、「プレキッズクラブ」という未就学児登録制度をはじめたという。この制度は、子どもが小学校に入学する前から学童保育へ入会できる権利を確保できるというもの。この制度は有料だが、「どこの学童も満員で入れない」という事態を防げるため、将来の安心材料として保護者たちは申し込みをするのだという。

この施設に限ったことではないが、「小1の壁」の問題は、なんとかならないものかと考えさせられた。

子どもたちの「やりたい!」を取り入れ、保護者たちの「体験させてほしい!」をかなえるキッズベースキャンプ。今後も独自のプログラムを通じて子どもたちを成長させ、保護者に安心を提供しつづけていくだろう。

●取材協力
・キッズベースキャンプ