話題の3代目大家・石井さん、マンションに”庭”を作ったら街の人が集まりはじめた。みんなの「やってみたい」に応え地域に開いたスペースを次々と 神奈川県川崎市

JR南武線、各駅停車駅の「武蔵新城」。低層住宅が立ち並ぶのどかな街です。駅周辺にある、なんてことのない商店街のなかに、最近ゆるやかな人のつながりが生まれつつあります。その中核を担うのが、このエリアで多くの土地を引き継いで管理をしてきた石井家の3代目、石井秀和(いしい・ひでかず)さんです。彼は、この街に人のつながりを生むために、コワーキングスペースや、シェアスペースなど大小さまざまなしかけをつくり、住民が地域で暮らすための接点を広げています。一体どんな取り組みなのでしょうか。

昔ながらのマンションの一角に、”小さな庭”をつくる

神奈川県・川崎市の武蔵新城エリア。各駅停車の「武蔵新城」駅を降りて北口方面にぬけると、目の前では昔ながらの商店街「新城北口はってん会」がお出迎え。理容店、町中華店などの小さな店がひしめく中央の通りをしばし歩いて路地に入ると、5階建てのマンションの1階部分に見えてくるのがカフェ「新城テラス」です。まず、エントランス前にある美しい緑とベンチが添えられたスペースが目にとびこんできます。まるでマンションであることを忘れてしまうような、”街の庭”。

カフェ「新城テラス」の前は、通りや店と一体感をもたらすような、憩いのスペースを設けている(写真撮影/桑田 瑞穂)

カフェ「新城テラス」の前は、通りや店と一体感をもたらすような、憩いのスペースを設けている(写真撮影/桑田 瑞穂)

カフェ「新城テラス」外観。開放感あふれ、緑に囲まれた気持ちの良いエントランスが、訪れる人たちを迎えてくれる(写真撮影/桑田 瑞穂)

カフェ「新城テラス」外観。開放感あふれ、緑に囲まれた気持ちの良いエントランスが、訪れる人たちを迎えてくれる(写真撮影/桑田 瑞穂)

ゆったりとした 24席のカフェスペースでは、近所の人々が談笑をしたり、学生がおしゃべりや勉強をする姿も。思い思いの過ごし方をしています。カフェの裏手には中庭も存在しています。中庭では、カフェで購入したドリンクやフードを手に語らうこともでき、住民以外の人の往来もあるフラットな場所です。

近所の住民や学生たちが思い思いの時間を過ごす(写真撮影/桑田 瑞穂)

近所の住民や学生たちが思い思いの時間を過ごす(写真撮影/桑田 瑞穂)

コの字型のつくりをしたマンションの一辺にはカフェが、そのもう一辺にはワークショップスペース「PASARBASE新城」とパン教室「シュクレアラネージュ」があり、コンパクトな敷地の中に多彩な機能がぎゅっと集います。

中庭からはマンション2階に接続するスロープ階段が設けられており、マンションのサービススペース「新城WORK-BOOTH-」と「新城WORK-FITNESS-」への出入りができる。階段奥に見えるのが、ワークショップスペース(写真撮影/桑田 瑞穂)

中庭からはマンション2階に接続するスロープ階段が設けられており、マンションのサービススペース「新城WORK-BOOTH-」と「新城WORK-FITNESS-」への出入りができる。階段奥に見えるのが、ワークショップスペース(写真撮影/桑田 瑞穂)

これらのスペースを立ち上げたのは街の中心人物でもある、株式会社南荘石井事務所の代表、石井秀和さんです。江戸時代より地主として数多の土地を守り抜いてきた石井家は、現在このエリアを中心に23物件を所有しています。カフェやワークショップスペースの入っているマンション「セシーズイシイ7」も、石井さんの所有する建物です。

武蔵新城生まれ、武蔵新城育ちの石井さんは、現在事務所の2代目として跡を継いでいます。「親を継ぎたいとは全く思っていなかった」と快活に笑いながら振り返ります。

「父には『大学なんか行かなくていい、さっさと跡を継いでくれ』と思われていたようです。ただ、一度家業を継いでしまうと、ほかの世界を見ることができなくて、つまらないじゃないですか。むしろ建築や不動産なんて硬くて難しいしゴメンだぜ、と思っていました」

資産を建て直すのか、活かすのか、試行錯誤が始まる

1998年に大学を卒業後、秀和さんはIT企業のカスタマーサービス職として就職します。ここで学んだことはのちにオーナー業に風穴を開ける経験となったと話します。その間も父親は秀和さんが跡を継ぐことを心待ちにしていました。その気持ちをくみとりたいと、秀和さんは2000年に実家の不動産会社へ入社し、2013年に父親の立場を引き継ぎ、代表に就任します。

「不動産」に面白みを感じていなかった秀和さん、しかし「街全体をデザインしていくこと」ととらえるようになってからは、この街のことに興味が増していきます。当時、街のコミュニティづくりについて勉強をしていた時期だったことも影響していたようです。

「設計事務所のブルースタジオさんが手掛ける街づくりに、憧れていたんですよね。ほかにも、コモンスペースや、街に開かれたコミュニティスペースが各所にある東京・池袋の街づくりのひとつである『IKEBUKURO LIVING LOOP』や、九州・福岡を拠点にしている『吉原住宅』のような存在にも憧れを抱いていました。あんな風に、自分の会社が持つ物件を活かして面白い人たちが往来する街をつくりたい、という夢を描きはじめていました」(石井さん)

飲み歩いて人と話すことが好きな石井さん。難しいことよりも楽しいこと、人との交流を大切にしています(写真撮影/桑田 瑞穂)

飲み歩いて人と話すことが好きな石井さん。難しいことよりも楽しいこと、人との交流を大切にしています(写真撮影/桑田 瑞穂)

人の集うコミュニティや場所、という側面に興味が増していった石井さんは、次第に武蔵新城のことを、このようにとらえていました。

「住んでいる家やマンション、街に何か楽しみを見出せることがないと、つまらないじゃないですか。武蔵新城は、溝の口駅と、知名度がぐんとアップした武蔵小杉駅にはさまれている、はざまの場所。実際は商店もたくさんあり住みやすい街ですが、比べてしまうとなんてことのない住宅街に見えるんです。これから社会全体が人口が減少していくわけで、よりここに住みたいと思ってもらえる街にならないと、街がさみしくなる。そう心が決まると、事業としてやりたいことが増えていきました」

まず取り組み始めたのが、カフェとワークショップスペースの入る賃貸マンション「セシーズイシイ7」でした。1992年竣工で部屋数は60室ほど。当初大規模改修の時期を迎えていて、どのように改修するべきか、とても悩んだそうです。その時に、憧れとして描いていた「このマンションに、この街に住みたいなと思ってもらえるような、しかけがあったら面白いのでは」と考えるようになりました。

カフェでは、自家製ハーブシロップを使ったドリンクやスイーツをつくって提供している (写真撮影/桑田 瑞穂)

カフェでは、自家製ハーブシロップを使ったドリンクやスイーツをつくって提供している (写真撮影/桑田 瑞穂)

こうして石井さんは、居室があった1階部分をオープンスペースとしてリノベーションし、2016年にまずはカフェをオープンしました。

街の人たちの「やりたい」に応えて、地域に開かれたスペースを次々と生み出す

拠点を生み出すことで、そこで自然と交流していく姿に、石井さんはますます面白みを見いだしていきます。そして、石井さんのもとには、街に住むあらゆる人から相談が持ちかけられるようになっていったのです。

「『実はお店をやってみたいんだ』『コミュニティスペースをやってみたいの』と相談されるようになったんですよ。だんだんと変化していく街の一角を見て、同じ商店街の人や、近所のママさんからも同じような声をかけられるようになっていったんです。だったら、“やりたいことがある人が、挑戦できる場所をつくってあげたい! “と、自社管理物件の一部をさらに活用することにしました」

そこで、2016年に「セシーズイシイ7」から徒歩5分ほどの場所にある、築50年以上のマンション「第六南荘」の一部をリノベーション。事務所や店舗利用が可能な仕様に変更し、まず一部の店舗がオープンします。そこから少しずつ、さまざまな店舗が入居して徐々に店やスペースが増えていきました。

「第六南荘」の外観。自転車で訪れた人がフラッと立ち寄っていくのが印象的(写真撮影/桑田 瑞穂)

「第六南荘」の外観。自転車で訪れた人がフラッと立ち寄っていくのが印象的(写真撮影/桑田 瑞穂)

通りに面した1階部分は「菓子工房 ichie」や、一級建築士事務所「ピークスタジオ」の事務所が並んでいます。塀がとりはらわれた庭先には、共用デッキが設けられており、通りからデッキを通じて、各々のスペースに入ることができます。オープンなスタイルゆえ、行き交う人の姿も見え、風も光も感じられるなごみの空間です。

デッキは、入居者である建築事務所の「ピークスタジオ」が設計(写真撮影/桑田 瑞穂)

デッキは、入居者である建築事務所の「ピークスタジオ」が設計(写真撮影/桑田 瑞穂)

お店やカフェだけではもったいないーー石井さんはさらに、「セシーズイシイ7」の向かいにある自社商業店舗の一部に、コワーキングスペースの「新城WORK」をオープン。時は、コロナ禍により人々の働き方は出社形式から、リモートワークが増えた変化の時期。20代~40代を中心に、新城WORKにも次第に人が訪れるようになったそうです。

商業ビルの2階部分をコワーキングスペースにリニューアル。合わせて店舗のサインたちも街の景観に溶け込むようリデザインした (写真撮影/桑田 瑞穂)

商業ビルの2階部分をコワーキングスペースにリニューアル。合わせて店舗のサインたちも街の景観に溶け込むようリデザインした (写真撮影/桑田 瑞穂)

「普段はもっと年齢層が高い世代の方が街には多かったのに、コロナ禍をきっかけに若い人たちを目にすることが増えました。この街に、こんなに若い方がいたんだな、という驚きの気持ちでいっぱいでした」

オープンスペースではミーティングする人もいれば、パソコン作業や勉強にいそしむ人もいる(写真撮影/桑田 瑞穂)

オープンスペースではミーティングする人もいれば、パソコン作業や勉強にいそしむ人もいる(写真撮影/桑田 瑞穂)

この街、住んでいて意外と面白いかも?と思ってもらえるしかけと関係づくり

現在石井さんは、もとから所有する土地に加えて、新たに周辺エリアの土地を購入し、新たな取り組みを始めています。
2023年5月には「セシーズイシイ7」の隣に、住み開きができる店舗兼住宅を建築しました。このマンションの土地はこれまで地域の方が所有していましたが、周辺物件と合わせてより一体感あるまちづくりをしたいために、石井さんが土地を購入したそうです。

新しく竣工した店舗兼住宅。「第六南荘」のように、通りに面したつくり(写真撮影/桑田 瑞穂)

新しく竣工した店舗兼住宅。「第六南荘」のように、通りに面したつくり(写真撮影/桑田 瑞穂)

通りと建物の間に、あえてスペースを設け、気軽に近づけるようなつくりに。軒先には小さな縁側があり、通りがかりの人がふらりと腰かけることができ、入居者や店を訪ねてくる人、道ゆく人と自然な会話が生まれていました。

店舗前にはベンチや縁側があり、つい立ち寄りたくなる(写真撮影/桑田 瑞穂)

店舗前にはベンチや縁側があり、つい立ち寄りたくなる(写真撮影/桑田 瑞穂)

入居する飲食店のオーナー。石井さんとは毎日のように立ち話をしているそう(写真撮影/桑田 瑞穂)

入居する飲食店のオーナー。石井さんとは毎日のように立ち話をしているそう(写真撮影/桑田 瑞穂)

「この街をもっと人のつながりにあふれる場所にしたいんですよね。せっかく商店街の中にある立地で顔を合わせている人たちがたくさんいる。実際に商店街の飲食店を飲み歩き回遊するイベント『ふらっと1000Bero in 武蔵新城』というイベントも開催しました。これからも彼らや、事業家の方と手を組んで、もっともっと活性化させていきたいですね。組合のようなしっかりした組織とかではなくていいんです。フラッときて顔を合わせられるそういうゆるい繋がりが大切だと思うし。そのためのしかけをつくっていきたいですね」

現在「セシーズイシイ7」の2階に、共用スペースの増設をはじめている。まずはフィットネススペースを設置(写真撮影/桑田 瑞穂)

現在「セシーズイシイ7」の2階に、共用スペースの増設をはじめている。まずはフィットネススペースを設置(写真撮影/桑田 瑞穂)

「セシーズイシイ7」の2階に増設したフォンブース(オフィス内等に設置するボックス型の個室スペースのこと)(写真撮影/桑田 瑞穂)

「セシーズイシイ7」の2階に増設したフォンブース(オフィス内等に設置するボックス型の個室スペースのこと)(写真撮影/桑田 瑞穂)

続けて、不動産業は単に場所貸しではないと力を込めて言い切る石井さん。

「今私たちが所有しているのは、23物件370世帯でほとんどが自主管理なんです。これほどの人とコミュニケーションがとれる関係って貴重ですよね。もちろん今は昔と違って、家賃を払うために管理人に会うということがなく、全て振込みで完結できてしまう。でも、思えばこの関係性ってもったいないですし、広げることができる可能性がありますよね。これほどの方と接点を持てるならば、皆さんに街の面白さを伝えるきっかけをつくれたら幸せだと思っているんです。これからのまちの不動産屋は、ただ住むだけではなく、暮らし方の提案をしていきたいし、私はこの街でそういう存在になりたいですね」

一人の行動がきっかけとなり、街の憩いの場がデザインされ始めましたが、これは石井さんがオーナーだからできることなんじゃない?と思われそうです。しかし、理由はそれだけではなさそう。この街を面白くしたい、街の人とちょっと交流してみたい、そういう思いがある人が少しでも集い、共感してくれるオーナーさんが手を差しのべてくれたら、どの街でも人のつながりは生み出せる気がします。
こと現代は、人のつながりをうとましく思う人もいるかもしれません。組合や商店会のように「必ず何かをしなくてはならない」関係性ではない、つながりが大切なのではないでしょうか。ほんのちょっとでも人と向き合い、言葉を交わし合う関係を少しずつでもいいから生み出していきたいですね。ただ住むだけより、街がほんのり面白くなるかもしれません。

●取材協力
・株式会社南荘石井事務所
・新城テラス
・新城WORK
・SEES ISHII LABO

築36年賃貸が大人気の理由は”大家さん”?! マンガ1000冊読み放題(定期入替)やコーヒー無料などホスピタリティ満載「百合ヶ丘池上マンション」神奈川県川崎市

毎年1月になると本格的な賃貸のお部屋探しシーズンに突入します。一般的には新築や築年数が浅い物件が好まれていますが、築36年、周辺エリアの家賃相場より高いというのにほぼ満室、空室が出てもすぐ埋まってしまう賃貸マンションが神奈川県川崎市麻生区にあるといいます。しかも大家(オーナー)の池上正芳さんはYouTuber。何がいったいどういうことなのでしょうか。人気の理由を探りました。

廊下もゴミ置き場、エントランスもきれい。設備は新築物件並みの充実ぶり

小田急線百合ヶ丘駅から徒歩6分、線路沿いに立つのが「百合ヶ丘池上マンション」です。築36年でありながら全42戸のうち、今、工事中の部屋をのぞくと満室という人気物件です。

最寄駅から徒歩6分、外観は一見よくある賃貸マンションですが、実は大人気物件「百合ヶ丘池上マンション」(撮影/片山貴博)

最寄駅から徒歩6分、外観は一見よくある賃貸マンションですが、実は大人気物件「百合ヶ丘池上マンション」(撮影/片山貴博)

パッと見ると普通の物件ですが、まず特筆すべきは、廊下やゴミ置き場がきれいに保たれている点です。通常、築20年を超えてくると個々の部屋の玄関まわりには傘などの私物が置かれていたり、ゴミ置き場のルールを守らない人がいたりするもの。不思議なことにゴミなどの生活のマナーが守られないと、生活音などの暮らしのトラブルも起こりやすくなりがちで、「築年数が古い物件はちょっと……」と敬遠される理由の一つとなってしまいます。

ところが、この百合ヶ丘池上マンションでは、玄関の郵便受けに投函されっぱなしのチラシはなく、共用のゴミ置き場もきれいに保たれており、住民のトラブルもほとんどないとか。注意喚起の看板はありますが、かわいらしくて、どことなくユーモラス。廊下にはアーティストの作品が掲げられていたり、エントランスまわりはクリスマスなど季節の装飾がされていて、愛着が湧くようになっています。

ゴミ置き場に貼られたポスターはやわらかなタッチで、きちんと分別して出そうという気持ちになります(撮影/片山貴博)

ゴミ置き場に貼られたポスターはやわらかなタッチで、きちんと分別して出そうという気持ちになります(撮影/片山貴博)

きれいに保たれた廊下。ワンコが描かれた作品が飾られ、これを朝晩見れば愛着が湧きますね(撮影/片山貴博)

きれいに保たれた廊下。ワンコが描かれた作品が飾られ、これを朝晩見れば愛着が湧きますね(撮影/片山貴博)

玄関はクリスマスの装飾が。宅配ロッカーなど嬉しい設備も備え付け(撮影/片山貴博)

玄関はクリスマスの装飾が。宅配ロッカーなど嬉しい設備も備え付け(撮影/片山貴博)

(撮影/片山貴博)

(撮影/片山貴博)

共用部分の玄関には、これから外に出るときにちょっと使える日焼け止めや虫よけ、さらに救急箱まで。物件側で置いているだけでなく、居住者も置くことでいつも充実しているとか。コレほどまでに「気が利いてる~!」と感じた賃貸物件があっただろうか、いやない(撮影/片山貴博)

共用部分の玄関には、これから外に出るときにちょっと使える日焼け止めや虫よけ、さらに救急箱まで。物件側で置いているだけでなく、居住者も置くことでいつも充実しているとか。コレほどまでに「気が利いてる~!」と感じた賃貸物件があっただろうか、いやない(撮影/片山貴博)

おまけに玄関には住民が利用できる、DIYツールや救急箱が置いてあったり、近隣のおすすめお店情報も告知されていたりと、「あったらうれしい」「ちょっとお出かけしようかな」という心づかいが至るところになされています。心憎いばかりの「おもてなし」ですが、このマンションの名物はこれだけではないのです。

シェアスペースにはマンガもズラリ。住民同士で交流を促すイベントも

このマンションには、1階に住人が利用できるシェアルーム「サードプレイス102」があり、朝7時~24時まで開いていて、365日利用可能で利用料も無料。
シェアスペース内には、4KTVやWi-Fi、無料のコーヒー、マンガ1000冊(しかも中身は3カ月ごとに入れ替えされるサブスク制)がそろえてあるので、仕事や勉強をしてもいいし、くつろぎの場にも最適。入居者同士でいっしょにスポーツ観戦したり、おしゃべりするのだって楽しそうです。コレ、絶対楽しいやつだ……!

1階にあるシェアルーム「サードプレイス102」の入口。この部屋だけでなく、全部屋電子キーになっています(撮影/片山貴博)

1階にあるシェアルーム「サードプレイス102」の入口。この部屋だけでなく、全部屋電子キーになっています(撮影/片山貴博)

中はカフェのような空間になっており、コーヒーを飲んだり、備え付けの漫画を読んで過ごすことができます(撮影/片山貴博)

中はカフェのような空間になっており、コーヒーを飲んだり、備え付けの漫画を読んで過ごすことができます(撮影/片山貴博)

壁に利用規約が書いてあります。住民同士が交流できるよう設置された掲示板には、住民が企画する「マンガ夜会」の案内が(撮影/片山貴博)

壁に利用規約が書いてあります。住民同士が交流できるよう設置された掲示板には、住民が企画する「マンガ夜会」の案内が(撮影/片山貴博)

ここまで「百合ヶ丘池上マンション」の共用部分の仕掛けや住みやすくなるさまざまな工夫を紹介してきましたが、実際の住心地はどうなのでしょうか。現在、暮らしている女性N.R.さん(30代)に話を聞いてみました。

「実は、初めて1人暮らしをした賃貸がこの物件なんです。10年間住み続けているので、正直なところ手狭になってきて、何度か引越しを検討し、住まいを探したこともあるんですが、家賃や広さ、設備を比較すると、どうしても今よりよい物件がなくて……。宅配ロッカーや電子キーなど、設備も年々、アップデートもされているし、私の暮らしにあわせて有孔ボード(※)を取り付けてもらったり、『サードプレイス102』のようなシェアスペースがあったり。他のお部屋の人とも『こんなに良いマンション、他にないよ』って話すんです」

※有孔ボード/小中学校の音楽室の壁にあったような穴の開いた壁材。穴を利用して、吊るしたり収納棚を取り付けたりなどでき、壁が有効利用できる

なるほど、家賃は同額なのに年々アップデートするのであれば、引越す理由はないですし、住み続けるほどに愛着が増す気もします。
「それに、大家の池上さんですね。池上さんがちょうど大家さんになったころに入居して、ご挨拶させていただいて。今では東京のお父さんというか(笑)。いっしょにYouTube動画を作成したり、ご一緒することが多くて、楽しいし、顔が見える分、安心して暮らせています」と魅力を解説します。

1人暮らしは自由で気楽な半面、防犯面や災害時、病気の時など心細いことがあるもの。こうした身近なつながりがあることで、安心して暮らせますよね。では、大家である池上さんはなぜこれほどまでに設備を更新したり、おもてなしをしたりするのでしょうか。話を聞いてみました。

祖母が建てた不動産を相続。空室と家賃低下のスパイラル

「この物件を建てたのは私の祖母で、今から10年ほど前、父から私が引き継ぎました。その時点では学生向けワンルームばかりで空室も多く、年々、家賃も下げていかないと部屋が埋まらない、そんな状況でした。管理は不動産会社任せ、さらにあまり部屋を大事に使ってもらえずにトラブルも多発、そんな状況だったんです」と当時を振り返ります。

大家の池上正芳さん(撮影/片山貴博)

大家の池上正芳さん(撮影/片山貴博)

このままでは「負動産」になってしまうと思った池上さんは、小さなことから物件を良くしていこうと工夫をはじめます。

「空いた部屋の玄関に全身が映る鏡をつける、荷物やコートがかけられるフックをつける、部屋に室内干しをつける、といったことをしていきました。予算は少額で、借りる人目線でちょっと手を加えたら、家賃を下げなくとも空室が埋まるようになって。入居者に喜んでもらえる楽しさに目覚めていったんです」(池上さん)

そのうち単なる工夫だけにとどまらず、デザイン性を重視したリノベーション、空間プロデュースを手掛けるように。建築士や施工会社ともつながりができ、空室が出る→空間のコンセプトを決める→リノベする→家賃を再設定して募集する→入居者が決まる、という「正のスパイラル」が生まれるようになりました。

現在、リノベ済みの部屋。1人暮らしはもちろん、2人暮らしもできる広さ(撮影/片山貴博)

現在、リノベ済みの部屋。1人暮らしはもちろん、2人暮らしもできる広さ(撮影/片山貴博)

有孔ボードがあるので収納場所やディスプレーする場所になる。Bluetoothスピーカーや椅子、照明も備え付けなので、初めての1人暮らしでもすぐに快適な生活ができる(撮影/片山貴博)

有孔ボードがあるので収納場所やディスプレーする場所になる。Bluetoothスピーカーや椅子、照明も備え付けなので、初めての1人暮らしでもすぐに快適な生活ができる(撮影/片山貴博)

キッチン側から見たところ。室内に段差があるので、空間に遊びあるのもうれしい(撮影/片山貴博)

キッチン側から見たところ。室内に段差があるので、空間に遊びあるのもうれしい(撮影/片山貴博)

もちろん、池上さんの取り組みのすべてが成功したわけではありません。リノベのコンセプトをつくり込みすぎてしまったり、ターゲットのほしい室内デザインとズレていたり。その度に修正して、柔軟に「部屋を借りる人がよろこぶデザイン・設備・サービスはなにか」と模索し続け、現在の「各部屋、コンセプトの異なる部屋」「電子キー」「Bluetoothスピーカー」「住民の共用スペース」「物件公式LINEアカウント」にたどりついたのです。

こちらもリノベ済みの部屋。ブルックリンの地下鉄をテーマにしたワンルームのキッチン。調理用に移動できる卓上のIHクッキングヒーターがついています。このキッチンカウンターで使うもよし、テーブルに運んで卓上で調理するもよし(撮影/片山貴博)

こちらもリノベ済みの部屋。ブルックリンの地下鉄をテーマにしたワンルームのキッチン。調理用に移動できる卓上のIHクッキングヒーターがついています。このキッチンカウンターで使うもよし、テーブルに運んで卓上で調理するもよし(撮影/片山貴博)

窓際のコーナーテーブルは、後付けしたことで一気に雰囲気アップ!ここにテレビやパソコンを置いて、くつろぎや作業をすることも。黒のブラインドもおしゃれ(撮影/片山貴博)

窓際のコーナーテーブルは、後付けしたことで一気に雰囲気アップ!ここにテレビやパソコンを置いて、くつろぎや作業をすることも。黒のブラインドもおしゃれ(撮影/片山貴博)

各部屋備え付けのBluetoothスピーカー。間接照明にもなります(撮影/片山貴博)

各部屋備え付けのBluetoothスピーカー。間接照明にもなります(撮影/片山貴博)

部屋の雰囲気を壊さない充電コーナー。奥には有孔ボードがあり、こちらもディスプレーが楽しくできそう(撮影/片山貴博)

部屋の雰囲気を壊さない充電コーナー。奥には有孔ボードがあり、こちらもディスプレーが楽しくできそう(撮影/片山貴博)

取材に同席し、以前から池上さんの大家業に注目していたという、ハウスメイトマネジメントソリューション事業本部の伊部尚子さんは「池上さんは、なんでも挑戦してみようという前向きな姿勢に加えていつも謙虚で偉ぶらず、ご自分よりはるかに若い入居者さんや業者さんからアイデアを教えてもらい、良いものはどんどん取り入れようという柔軟性をもっていらっしゃいます。相続した不動産が空室ばかりと悩んでいる人は多いですが、そんな悩める大家さんの希望の星です。こんなに楽しそうに賃貸経営をされている大家さんはあまりいらっしゃいません」と話す。不動産のプロとして日本全国のさまざまな賃貸物件の知見を持つ伊部さんからしても、ここまで細やかにサービスや工夫をしている賃貸物件は珍しいと証言します。

住む人に幸せになってもらうこと。それこそが大家の本懐

池上さんは今も入居者が決まる度に、「ごあいさつキットに入れたカギ」「百合ヶ丘の町ガイド」を手渡しします。また「ゴミの出し方」「傘を共用部に置かない」など、マンションのルールを、入居時に丁寧に伝え、LINEの公式アカウントに友達追加してもらっているといいます。

池上さんが入居者に渡しているハンドタオルとキーホルダーとカギのセット。キーホルダーのデザインはこれまでの大家業で関わってきた若いクリエイターによるオリジナル。これをもらったら大事にせずにはいられません(撮影/片山貴博)

池上さんが入居者に渡しているハンドタオルとキーフォルダーとカギのセット。キーホルダーのデザインはこれまでの大家業で関わってきた若いクリエイターによるオリジナル。これをもらったら大事にせずにはいられません(撮影/片山貴博)

「公式LINEアカウントを追加したあとに、例えば風邪をひいたとか、電子キーが開かないとか、ささいなこと、日常のお困りごとを連絡してくださいと伝えています。直接のグループLINEで大家や管理会社とつなげようとする方も多いのですが、それは入居者の方にはハードルが高くて。公式アカウントにした方が、入居者の方も直接会話ができて気軽なんです。これもいろんなケースを通じてわかってきたことです。入居者が困ったときにも即、対応できるし、反対に大家側からも一斉にお知らせができます。こうしたルール説明、対応方法を知らせておくと、みなさん気持ちよく暮らしてくれます」と池上さん。

建物での暮らしのルールはあいまいだったり、明文化されていないことが多いもの。入居時にしっかりと説明されるとガイドラインが明確になり、暮らしているほうも安心ですよね。

こうして手間と愛情をかけて物件や入居者と向き合うことで、思いもよらない副産物もあるのだそう。

「手間と費用をかけてリノベをし、借り手を募集すると、賃料ありきではなく、『したい暮らし』で物件を探してくれる人と出会えるんです。そうすると、新しい才能と出会えることがあって、入居者さんにデザインや動画を手伝ってもらえたりするんですよ。エントランスに貼った百合ヶ丘マップやアート作品はそのひとつなんです」と池上さん。物件が才能ある人を招いて、物件の魅力がさらに磨かれる、そんな好循環になっているんですね。

元入居者の作成した百合ヶ丘マップ。おすすめのお店情報を入居者同士で教えあえる工夫も(撮影/片山貴博)

元入居者の作成した百合ヶ丘マップ。おすすめのお店情報を入居者同士で教えあえる工夫も(撮影/片山貴博)

今、池上さんが取り組んでいるのが、この物件がある百合ヶ丘駅周辺の魅力の発信です。「百合ヶ丘駅」は各駅停車の小さな駅ですが、個人のお店が多く、あまり知られてない良さがあるのだとか。

「ターミナルであるお隣の新百合ヶ丘駅に目がいきがちですが、百合ヶ丘にもいいところがたくさんある。自分の物件でなく、この街の良さ、暮らしを知ってほしくて、YouTubeをはじめたんです。撮影して歩くと自分も知らなかった魅力に気付くんですよ」とYouTuberになったきっかけを明かしてくれます。(余談ですがこのチャンネル、ほのぼのしていて最高です……!)

まさか自分のためではなく、「人のため」ひいては「まちの魅力発信のため」にYouTuber大家さんになってしまうとは……。その行動力に感服以外の言葉がありません。ここまでする理由を、池上さんは、「大家をするなら、住んでもらう人に幸せになってもらいたいから」とさらりと言います。こうまで言われてしまうと、住み続けたくなる理由が大家さんというのも納得です。入居者も快適で幸せに暮らせ、大家さんも利益を得てまた幸せになる。「自他共栄」とは、まさにこういうことをいうのだな、としみじみ実感した取材となりました。

●取材協力
y-BROOKLYN
百合ヶ丘チャンネル

渋谷駅まで電車で30分以内、家賃相場が安い駅ランキング 2022年版

東京屈指の繁華街である、渋谷駅。大規模な再開発が進行中で、7月に東急百貨店本店跡地の複合ビルの計画概要が発表され「都心のオアシス構築」を目指すという。新しい顔を次々と見せてくれる渋谷までアクセスが良い場所に住むなら、どこがねらい目か。ワンルーム・1K・1DK(10平米以上~40平米未満)を対象にした、家賃相場が安い駅ランキングの最新版から考えてみた。

渋谷駅まで電車で30分以内、一人暮らし向け物件の家賃相場の安い駅TOP13

順位 駅名 家賃相場(主な路線/駅所在地/所要時間/乗り換え回数)
1位 生田 4.98万円(小田急線/神奈川県川崎市多摩区/27分/2回)
2位 読売ランド前 5.35万円(小田急線/神奈川県川崎市多摩区/30分/2回)
3位 妙蓮寺 5.90万円(東急東横線/神奈川県横浜市港北区/30分/1回)
4位 和泉多摩川 6.05万円(小田急線/東京都狛江市/25分/2回)
5位 和光市 6.10万円(東武東上線/埼玉県和光市/29分/1回)
5位 宿河原 6.10万円(JR南武線/神奈川県川崎市多摩区/28分/1回)
5位 青葉台 6.10万円(東急田園都市線/神奈川県横浜市青葉区/28分/0回)
8位 つつじヶ丘6.20万円(京王線/東京都調布市/27分/1回)
8位 向ヶ丘遊園6.20万円(小田急線/神奈川県川崎市多摩区/24分/1回)
8位 新百合ヶ丘6.20万円(小田急線・多摩線/神奈川県川崎市麻生区/30分/1回)
8位 狛江 6.20万円(小田急線/東京都狛江市/23分/2回)
8位 高田 6.20万円(横浜市営地下鉄グリーンライン/神奈川県横浜市港北区/30分/1回)
13位 久地 6.30万円(JR南武線/神奈川県川崎市高津区/26分/1回)
13位 喜多見 6.30万円(小田急線/東京都世田谷区/21分/2回)
13位 戸田公園6.30万円(JR埼京線/埼玉県戸田市/29分/0回)

1位と2位は川崎市多摩区のベッドタウン、生田駅と読売ランド前駅

1位と2位は、ともに川崎市多摩区に位置する駅がランクインした。多摩区は北に多摩川、南には多摩丘陵が広がる緑豊かなエリア。かつては多摩川梨の栽培で知られた農村地帯だったが、都心へのアクセスのよさから宅地開発が進んだベッドタウンだ。

川崎市多摩区(写真/PIXTA)

川崎市多摩区(写真/PIXTA)

1位の生田駅は小田急線の沿線駅で、準急や通勤準急の停車駅。新宿駅へも約20分で行くことができ、ランキング中で唯一、家賃が5万円を切っている。

生田駅は明治大学の生田キャンパスや聖マリアンナ医科大学の最寄駅で、専修大学生田キャンパスなども近い。そのため、学生を対象にした手ごろな家賃の単身者用物件が充実しているのもランキングに影響しているかもしれない。

駅周辺には大規模な商業施設があるというわけではないが、学生街らしく、手軽に行ける飲食店やドラッグストアなどは数多い。大学を中退した青年の引きこもりの葛藤を描いた滝本竜彦の人気小説やアニメ『NHKにようこそ!』の舞台になった街でもある。

少し行くと一戸建てが目立つ住宅街が広がっており、近年はファミリー層の住民も増えている。アットホームな雰囲気のこぢんまりした商店街があり、野菜の直売所を見かけることも。付近には遊歩道や、天候に恵まれた日には東京スカイツリーまで望める展望広場などもある。

3位の妙蓮寺駅は、人気の東急東横線の駅。各駅列車のみの停車駅だが、横浜駅へ約6分で行けるほか、特急停車駅の菊名駅は隣駅で、駅間距離は約1.5km。菊名駅は新幹線の新横浜駅へのアクセスも良く、物件の立地によっては手ごろな家賃と交通利便性の両方がねらえそうだ。

妙蓮寺駅(写真/PIXTA)

妙蓮寺駅(写真/PIXTA)

駅前には駅名の由来となった日蓮宗のお寺「妙蓮寺」がある。そのためか緑豊かで、街並みもどこか閑静な印象。昔ながらの個人商店が散在するノスタルジックな路地などは、街歩きも楽しそうだ。

駅の近くには、2万8000平米の敷地を持つ菊名池公園がある。桜並木や広場などのほか、夏に猛暑が続く昨今には嬉しい流水プールなどの施設も備えており、小さな子どもがいる家庭にとっても魅力的なエリアかもしれない。

渋谷まで直通の和光市駅、駅直結の施設開業でより便利に

5位の和光市駅は、ランキング中唯一、東武東上線・東京メトロ有楽町線・副都心線の沿線駅。副都心線は渋谷駅まで直通しているため、時間を気にしなければ座って乗り換えなしで行ける。東武東上線は池袋駅まで約13分、有楽町線は有楽町駅や銀座駅まで乗り換えなしで移動できるのもうれしいところだ。

和光市駅は所在地である埼玉県和光市の中心部にある、市の玄関口。駅南側を中心に大型スーパーやドラッグストア、飲食店は充実しているが、大きな繁華街へのアクセスがよいだけに、以前は足元の駅付近は日常以上の買い物施設も十分、とまでいえなかったかもしれない。しかし2020年に東武ホテルなどが入った駅直結の商業施設「エキアプルミレ和光」が開業したことで、仕事などの帰宅途中に家の近くで寄れる選択肢が増えた。

和光市駅(写真/PIXTA)

和光市駅(写真/PIXTA)

駅前広場では毎月2回、野菜の直売会も開催されている。和光市内は郊外を中心に農家も数多く、地元の農家の手による新鮮な農産品の直売所も市内各地にあり、店頭では目にしないような珍しい野菜や、地元特産のブランドいちごなども販売されている。駅近くにはそんないちご狩りができる農園があるほか、市が農地を貸し出して菜園体験ができる市民農園などもある。

整備された駅周辺の景色からベッドタウンとしてのイメージが強いが、和光市は江戸時代には川越街道の宿場の一つ、白子宿(しらこじゅく)としてにぎわった歴史を持つ。そのため古くから住んでいる住民も多く、地域のつながりが密接で、地域のお祭りやイベントの開催も盛ん。また市をあげて、日本中のご当地鍋の日本一を決めるコンテスト「ニッポン全国鍋グランプリ」を開催しており、観光客の殺到する名物イベントになっている。

駅北口は周辺道路が狭く住宅が密集しているが、新たな駅前広場や公園の整備、道路を拡充する再開発が推進中。安全で災害に強い街づくりが進められている。

同率5位の青葉台駅は、神奈川県横浜市青葉区に位置する。東急田園都市線の駅で、急行や準急が停車する。平日は渋谷駅からの深夜急行バスも運行しており、帰宅が遅くなりがちな多忙なビジネスパーソンから重宝されている。

青葉台駅(写真/PIXTA)

青葉台駅(写真/PIXTA)

駅から直結する商業施設「青葉台東急スクエア」はスーパーやドラッグストアのほか、書店やカルディコーヒーファーム、インテリアショップの「Francfranc」、生活雑貨の「ナチュラルキッチン」など、近場にあったら便利な店舗がひと通りそろっている。カルチャーセンターやコンサートホールも入っており、クラシックコンサート会場としての評価も高い。

駅周辺も「成城石井」や「明治屋」などの買い物施設や商店街、チェーン系からこだわりの飲食店まで充実しておりにぎやか。安売り店の「MEGAドン・キホーテ青葉台店」や業務スーパーもあり、買い物には不自由することはなさそうだ。

道路の幅も広く整備されており、住みやすさがうかがえる。駅から少し行くと、桜台公園がある。自然な環境が残された池や、森の中に散策路が設けてあり、都心の中とは思えない豊かな緑を満喫できるもの心地よい。ただ、住宅街は一戸建てが大半で、集合住宅も大規模建築が目立つ。子ども向けの教育施設も多く、どちらかというファミリー向けのエリアだが、ライフステージが変わっても満足して住み続けられる場所、ともいえるかもしれない。

8位の新百合ヶ丘駅は、小田急多摩線の始発駅。快速急行や急行、特急ロマンスカーも停車する。

駅には「小田急アコルデ新百合ヶ丘」「小田急マルシェ新百合ヶ丘」の2つの商業施設が直結。付近のスーパーなども大型の施設が多い。少し行くと飲食店が充実した商店街「マプレ専門店街」もある。

マプレ専門店街(写真/PIXTA)

マプレ専門店街(写真/PIXTA)

新百合ヶ丘は芸術啓発に力を入れている街であり、駅周辺には映画館やホールなどの文化施設が多い。南口の駅前には大作映画をチェックできるシネコン「イオンシネマ新百合ヶ丘」だけでなく、北口から徒歩3分の「川崎市アートセンター」には名画の上映が行われる「アルテリオ映像館」、演劇公演、イベントなども行われる「アルテリオ小劇場」などがある。また、日本で唯一の映画の単科大学である日本映画大学や昭和音楽大学も、新百合ヶ丘駅が最寄駅。昭和音楽大学では一般向けのコンサートも開催されている。そうしたホールなどが共催し、地域が主体となった芸術イベントや映画祭などの開催も数多い。

住宅街は閑静で、あちこちに中規模の公園や緑道を見かける。また所在地である麻生区は、区域の約4分の1が農地や山林だが、川崎市は緑地保全を推進しているため、穏やかな環境が急変することもなさそうだ。

巨大繁華街である渋谷駅へのアクセスの良さでピックアップしたランキングだが、自然豊かな街で閑静な街が多いため、部屋探しの際の選択肢の多彩さや奥深さが感じられる。ゆったりした生活と、繁華街での仕事や遊びのメリハリがつく、充実した日々の拠点になる部屋が、きっと見つかるはずだ。

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている渋谷駅まで電車で30分以内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2022/4~2022/6
【家賃の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む月額賃料から中央値を算出(3万円~18万円で設定)
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、朝7時30分~9時の検索結果から算出(2022年6月27日時点)。所要時間は該当時間帯で一番早いものを表示(乗換時間を含む)
※記載の分数は、駅内および、駅間の徒歩移動分数を含む
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している
※ダイヤ改正等により、結果が変動する場合がある
※乗換回数が2回までの駅を掲載

「向ヶ丘遊園」跡地を再開発、「商業施設」「温浴施設」など創出

小田急電鉄(株)はこのたび、2002年3月に閉園した「向ヶ丘遊園」の跡地(川崎市多摩区)利用に関する開発計画を発表した。開発地は神奈川県川崎市多摩区長尾2-8-1ほか。開発区域面積は約162,700m2の予定。「人と自然が回復しあう丘」をコンセプトに、「商業施設エリア」「温浴施設エリア」「自然体験エリア」の3つのゾーンを創出する。

「商業施設エリア」は、ゆとりある広場空間を設けるなど、買い物や飲食等をくつろぎながら楽しめるエリア。自然との親和性や雰囲気等も考慮した分棟型の建築様式を基本とし、現状の住宅地に不足する「ちょっとした非日常感」のある施設展開を図る。

「温浴施設エリア」では、緑に囲まれた環境の中で、伝統的な温泉旅館を連想させる日本家屋様式の特徴ある温浴施設を展開。都心までの眺望を併せ持つ露天風呂、貸切個室風呂や多様な機能を備えた規模感のある着衣サウナなどを幅広く展開していく。

「自然体験エリア」では、アウトドア系施設やグリーンショップ等、これまで生田緑地になかった新たな機能を導入。アウトドア系施設にはグランピングやキャンプ等の宿泊機能を計画するほか、他エリアとも連携した特徴のあるイベント等を実施していく。

2021年度に基盤整備工事、2022年度に建物建設工事に着手し、2023年度の竣工を目指す。

ニュース情報元:小田急電鉄(株)

国土交通省、「川崎駅西口開発計画」を認定

国土交通省は8月7日、都市再生特別措置法の規定に基づき、東日本旅客鉄道(株)から申請のあった民間都市再生事業計画「川崎駅西口開発計画」について認定した。同事業では、川崎市の中心的な広域拠点としての商業・業務エリアの形成を目指し、複合的土地利用による都市機能強化を図る。また、広場や歩行者用通路などを整備し、川崎駅周辺に安全・快適な歩行者ネットワークを形成することで、回遊性の向上を図る。

事業区域は、神奈川県川崎市幸区大宮町1-2他。地上29階・地下2階・塔屋1階、事務所・宿泊施設・飲食店舗・集会場・保育所などで構成される複合施設を建設する。全体完成は、2021年4月15日の予定。

ニュース情報元:国土交通省

初優勝なるか!? 川崎フロンターレのホームスタジアムがある「武蔵小杉」ってどんな街?

神奈川県川崎市をホームタウンにしているプロサッカークラブ『川崎フロンターレ』(以下フロンターレ)。1999年のJリーグ加盟以降着々と力をつけ、近年では優勝争い常連の強豪となり、今夜(11月29日)悲願の初優勝に望みを繋ぐ試合が控えている。そんなフロンターレのホームスタジアム『等々力陸上競技場』の最寄駅は武蔵小杉駅。20年ほど前から街の再開発が進み、関東の『住みたい街ランキング2017』では堂々の6位にランクインしている(SUUMO関東 住みたい街ランキング2017)。

そんな人気の街がホームタウンともなれば、引越したいと考えるサポーターも多いことだろう。そこで今回は川崎生まれ川崎育ち、生粋のフロンターレサポーターであるSさんに街の情報を教えてもらいながら、武蔵小杉を探索してみたいと思う。

再開発が続く東口エリア

武蔵小杉駅にはJR南武線、横須賀線、湘南新宿ラインのほかに東急東横線、目黒線が発着し、新宿や東京へも20分圏内だ。ここまで交通利便性が高いと、おのずと人の行き来も多くなる。しかも、取材日はフロンターレのホームゲームが行われるとあって駅前はチームカラーである『サックスブルー』に身を包んだ人であふれかえっていた。

【画像1】Sさんが一番好きなのは中村憲剛選手(写真撮影/小野洋平)

【画像1】Sさんが一番好きなのは中村憲剛選手(写真撮影/小野洋平)

もちろん、サポーター歴15年のSさんもその1人。身の回りの私物はフロンターレグッズでそろえている。

それでは、街探索キックオフ。まずは再開発エリアである東口から案内していただこう。

【画像2】東口のタワーマンション群。今後も数棟の建設が予定されている(写真撮影/小野洋平)

【画像2】東口のタワーマンション群。今後も数棟の建設が予定されている(写真撮影/小野洋平)

東口にはタワーマンションが立ち並び、また『東急スクエア』、『ららテラス武蔵小杉』、『グランツリー武蔵小杉』などの大型商業施設も多い。さらに大病院もあり、2019年には新たな小学校の開校も控えている。進化する街、武蔵小杉の勢いが最も感じられるエリアだ。

Sさんによれば、そんな街の変化とともにフロンターレも強くなっていったそうだ。

「今ではJ1の強豪チームになりましたが、昔はJ2の時代もありました。2003年シーズンなんて勝ち点『1』が足りずにJ1に昇格できなかった。この苦い経験が、今の強さにつながっているんだと思います。ちなみに、私もその時の悔しさがきっかけでフロンターレのサポーターになったんですよね」

【画像3】オシャレなお店が増えたという高架下(写真撮影/小野洋平)

【画像3】オシャレなお店が増えたという高架下(写真撮影/小野洋平)

住民やサポーターが集まる西口エリア

一方、西口はガラっと雰囲気が変わる。こちらは飲食店や個人経営のお店が多く、昔ながらの地域の結びつきが感じられるエリアだ。フロンターレのフラッグも目立ち、「おらが街のチーム」として地元に愛されていることがよく分かる。ちなみに、フロンターレはJリーグが調査する『地域貢献度ランキング』にて6年連続1位を誇っている。

「フロンターレの選手って地域との距離が近いんですよ。新年には商店街を挨拶回りし、クリスマスには街の小児科を訪れたり。小学校にもフロンターレの算数ドリルがありますからね。他チームと比べて、地元の人のサポーターの割合が多いのも地域に根付いている証拠です」

西口には、フロンターレのオフィシャルショップもある。試合前に限らず、新しいグッズが出ていないかついチェックしてしまうのがサポーターの性なのだとか。

スタジアムに続く北口エリア

続いては北口。こちらには、スタジアム行きのバス停がある。

【画像4】バスに並ぶサポーターの列(写真撮影/小野洋平)

【画像4】バスに並ぶサポーターの列(写真撮影/小野洋平)

ご覧のとおり、試合当日は混雑必至だが、徒歩でも15分ほどでスタジアムには着くそうだ。また隣の新丸子駅も徒歩圏内ということで街はフロンターレ一色。なお、等々力陸上競技場まで歩く場合は、道の狭い場所や交通量の多い道もあるのでご注意を。

【画像5】美容室にはJ1の順位表やチームへのメッセージが書かれたボードが(写真撮影/小野洋平)

【画像5】美容室にはJ1の順位表やチームへのメッセージが書かれたボードが(写真撮影/小野洋平)

Sさん、ホームの試合には必ず足を運ぶという。アウェイでも、休みがあれば新潟や札幌までも遠征に行くそうだ。チームを追いかけることが、全国を旅するいいきっかけになっている。

「基本的に試合日程に合わせて予定を決めるんですよ。だから試合の年間スケジュールが発表される時期になると同時に、私の1年間の予定も決まるんですよね(笑)。来年はV・ファーレン長崎がJ1に上がってくるので、今から長崎観光が楽しみです」

等々力陸上競技場の周りの様子

最後にホームスタジアム「等々力陸上競技場」にも足を運んでみた。ファン、サポーター、住民の署名運動が実を結び、2015年に改修工事を終えたばかりだ。

【画像6】スタジアムの背後に武蔵小杉駅前のタワーマンションが立つ(写真撮影/小野洋平)

【画像6】スタジアムの背後に武蔵小杉駅前のタワーマンションが立つ(写真撮影/小野洋平)

スタジアムが位置する等々力緑地内には、スポーツ施設やミュージアムなども併設されている。また、すぐ近くには多摩川も流れており、自然環境は申し分ない。

【画像7】試合の日にはグルメブース「フロンパーク」が登場(写真撮影/小野洋平)

【画像7】試合の日にはグルメブース「フロンパーク」が登場(写真撮影/小野洋平)

周辺は住宅街になっていて、試合前の「フロンパーク」は多くの地元民でにぎわっている。サポーターでなくても、試合の日はお祭り感覚でスタジアムを訪れる人が多いのかもしれない。

武蔵小杉駅と近辺の家賃相場は?

さて、そんな武蔵小杉の気になる家賃相場を見ていこう。一人暮らし用賃貸物件(駅徒歩10分圏内、20~30m2のワンルーム・1K・1SK)の相場は8.8万円。等々力陸上競技場のある川崎市中原区の家賃相場7.5万円と比較すると、やや割高感がある。

では、武蔵小杉駅までアクセスの良い、沿線の街まで範囲を広げてみるとどうか。武蔵小杉駅まで15分以内の、家賃相場が安い駅を見てみよう。

●武蔵小杉駅まで15分以内の家賃相場が安い駅ランキング(TOP10)
1位 宿河原(JR南武線)/14分/6.4万円
2位 白楽(東急東横線)/14分/6.5万円
3位 妙蓮寺(東急東横線)/12分/6.8万円
3位 久地(JR南武線)/12分/6.8万円
5位 高田(神奈川)(横浜市営地下鉄グリーンライン)/14分/6.9万円
5位 保土ケ谷(JR横須賀線・JR湘南新宿ライン)/15分/6.9万円
7位 日吉本町(横浜市営地下鉄グリーンライン)/12分/7.0万円
8位 津田山(JR南武線)/10分/7.1万円
9位 新川崎(JR横須賀線・JR湘南新宿ライン)/3分/7.2万円
10位 日吉(神奈川)(東急東横線/横浜市営地下鉄グリーンライン)/2分/7.3万円
10位 平間(JR南武線)/3分/7.3万円
10位 綱島(東急東横線)/5分/7.3万円
10位 菊名(JR横浜線/東急東横線)/8分/7.3万円
10位 大倉山(神奈川)(東急東横線)/8分/7.3万円

Sさん曰く、トップ5は住宅街で街中はさほど栄えていないという。狙い目は、同率10位にランクインした5つの駅。適度ににぎわいがあり、住環境も良好だという。また、15分以内で安さを求めるならば南武線、7万を超えても街並みや交通条件を求めるならば東横線がオススメとのことだ。

ちなみに、川崎の“地元っこ”が実家を出て一人暮らしをする際、武蔵小杉エリアは人気で、武蔵小杉徒歩圏の新丸子を選ぶ人も多い様子。Sさんも現在実家暮らしだが、一人暮らしをするなら利便性の面から武蔵小杉エリアに住みたいそう。

というわけで武蔵小杉の情報をまとめると

・JR、東急線が利用できるので交通利便性が高い
・東口は整備された道路、大型商業施設が点在している
・再開発された新しい街という印象だが、地元の人同士の結びつきも強い
・試合当日の南武線改札や北口はサポーターで混雑する
・スタジアムまでは徒歩で行けるが、狭い道や交通量の多い道もある
・フロンターレ推しのお店や飲食店が数多く存在
・等々力陸上競技場周辺には、豊かな自然環境と住宅街が広がる

もとより、武蔵小杉の交通利便性や整った住環境はよく知られるところ。加えて、強豪チームのホームタウンであるという側面は、サポーターではない筆者にとっても魅力的に映った。チームの存在が地元に根付いていることもあり、試合の度にお祭りムードに包まれ街全体が大いに盛り上がる。いまや“タワーマンションの街”という印象が強い武蔵小杉だが、街の「地元感」や、にぎやかな雰囲気が好きな人も楽しく暮らせる街といえるかもしれない。