京都の細長すぎる家に思わず二度見!1階は立ち飲み兼古本屋、2階は自宅の”逆うなぎの寝床” バヒュッテ

京都にある「細長ぁ~い」お店が話題です。間口がおよそ18mあるのに対し、奥行きはたったの2~3m。この悪条件のなか、なんと住居兼店舗を実現。狭小な敷地の有効活用が高い評価を受け、2021年度「グッドデザイン賞」を受賞しました。

連日にぎわうこの店には、未利用地の活用に頭を痛める人々を救うヒントがあるはず。古書、雑貨、立ち呑みの三つの商いを一堂で行う「バヒュッテ」の清野郁美さんに運用の秘訣をうかがいました。

狭い? 広い? 思わず二度見してしまう不思議な建物

「グッドデザイン賞」を受賞したウワサのお店は、叡山(えいざん)電鉄「修学院」駅を下車し、徒歩およそ5分のところにあります。

駅前のアーケード商店街「プラザ修学院」を抜けると、そこは白川通りという名の車道。ここに築かれた建物こそが、目指すお店「ba hütte.(バヒュッテ)」です。オープンは2019年5月30日。2022年で4年目を迎えます。

あなたは、きっと二度見するでしょう。木立のなかに現れたその建物を。あまりにも、あまりにも「細い」。いや、「細い」を通り越して、「薄い」のです。

白川通りに面して立つ、思わず二度見してしまう細長い建物。これがグッドデザイン賞を受賞した「バヒュッテ」(写真撮影/吉村智樹)

白川通りに面して立つ、思わず二度見してしまう細長い建物。これがグッドデザイン賞を受賞した「バヒュッテ」(写真撮影/吉村智樹)

しかし、通りの反対側から眺めてみると、今度は「ひ、広い!」。間口はなんと、およそ18mにも及ぶといいます。

広いのか、はたまた狭いのか。見る角度によって印象が大きく変わる、まるでトリックアートのような建物。隣接する大学施設や神社の樹木と相まって、とてもファンタジックな印象を受けます。

白川通をはさんで反対方向から眺めると、とても大きな建物に見える(写真撮影/吉村智樹)

白川通をはさんで反対方向から眺めると、とても大きな建物に見える(写真撮影/吉村智樹)

しかし、横から見ると窓サッシと同じサイズの奥行きしかない。神社の石碑もあり、神秘的なムードが漂う(写真撮影/吉村智樹)

しかし、横から見ると窓サッシと同じサイズの奥行きしかない。神社の石碑もあり、神秘的なムードが漂う(写真撮影/吉村智樹)

間口が広く、奥行きが浅い「逆・うなぎの寝床」

「うちの店はよく“逆・うなぎの寝床”と呼ばれますよ」

そう語るのは「バヒュッテ」店主、清野(せいの)郁美さん(38歳)。

古本・雑貨・立ち呑み「バヒュッテ」店主、清野郁美さん(写真撮影/吉村智樹)

古本・雑貨・立ち呑み「バヒュッテ」店主、清野郁美さん(写真撮影/吉村智樹)

「逆・うなぎの寝床」とは言い得て妙。「うなぎの寝床」といえば間口が狭く、反面、奥行きが深い建物のこと。江戸時代、京都は間口の広さに比例して税金の額が決められていました。そのため、住民はこぞって間口を狭くし、奥行きが深い家を建てたのです。京都の建築様式が「うなぎの寝床」と呼ばれているのは、そのためです。

バヒュッテは、うなぎの寝床の正反対。間口は驚くほど広く、しかしながら奥行きはたったの2.2~3.7mしかありません。間口が約18mもありながら、建坪はなんと、わずか8.7坪しかないのです。

清野「自分は見慣れているので日ごろはなんとも思わないのですが、たまに旅から帰ってきて、改めて自分の店を見てみると、『ほそっ!』と思います(笑)。江戸時代だったら、うちの店はものすごくたくさんの税金を払わなきゃいけませんね」

細長い店内には古本と雑貨がひしめく。とはいえ天井が高く、意外と閉塞感がない(写真撮影/吉村智樹)

細長い店内には古本と雑貨がひしめく。とはいえ天井が高く、意外と閉塞感がない(写真撮影/吉村智樹)

細長いだけではありません。敷地は、実はきれいな長方形になっていない不整形地。ご近所の人が言うには、以前この場所には小屋のように簡素な造りの魚屋さんがあったのだとか。さらにそれ以前は水車小屋が立っていました。代々、“地元に根付く小屋がある場所”だったようです。

更地にした状態。細長いうえに台形の不整形地。最南端の奥行きは驚きのわずか2.2m(画像提供/バヒュッテ)

更地にした状態。細長いうえに台形の不整形地。最南端の奥行きは驚きのわずか2.2m(画像提供/バヒュッテ)

かつてはここで鮮魚店が営まれていた(画像提供/バヒュッテ)

かつてはここで鮮魚店が営まれていた(画像提供/バヒュッテ)

清野「偶然なのですが、バヒュッテの『ヒュッテ』も小屋という意味なんです」

なんと、この地のさだめに引き寄せられたかのように、新たな小屋(ヒュッテ)が誕生していたのでした。ではバヒュッテの「バ」とは?

清野「世代を超えた交流の“場(バ)”になったらいいな、と思い……というのは後付けで、本当は“バ!”というパワーがある語感が好きなので名づけました」

本、雑貨、お酒。どれもはずせない要素だった

パワフルな語感のバヒュッテは、建物の細長さのみならず、業態もインパクト強め。コンセプトは「古本と雑貨と立ち呑みのお店」。壁一面に本棚があり、シブめなセレクトにうならされます。

殿山泰司、田中小実昌、深沢七郎、色川武大など「風来坊」「無頼派」と呼ばれた作家や役者の本が数多く並ぶ。風変わりな店の雰囲気とよく合っている(写真撮影/吉村智樹)

殿山泰司、田中小実昌、深沢七郎、色川武大など「風来坊」「無頼派」と呼ばれた作家や役者の本が数多く並ぶ。風変わりな店の雰囲気とよく合っている(写真撮影/吉村智樹)

2016年に結婚した清野郁美さん。パートナーの清野龍(りょう)さん(42)は20年以上にわたり大手書店にお勤めのベテラン書店員です。清野さんも同じ書店に10年以上働いていており、二人はかつての同僚でした。

夫妻ともども本が大好き。バヒュッテで販売している本はほぼすべて、ご両人の私物。センスのいい本ばかりと思ったのもどうりで。二人は二階で暮らし、夫の龍さんは、書店の勤務が休みの日はバヒュッテを手伝うのだそうです。

京都の大手書店で店長を務め、休日になるとバヒュッテを手伝う夫の龍さん。本とともに生きる日々(写真撮影/吉村智樹)

京都の大手書店で店長を務め、休日になるとバヒュッテを手伝う夫の龍さん。本とともに生きる日々(写真撮影/吉村智樹)

雑貨は、ポーチやペン、ノート、手ぬぐいと、バリエーション豊か。

手ぬぐい、靴下、ステーショナリーなど雑貨の品ぞろえも豊富(写真撮影/吉村智樹)

手ぬぐい、靴下、ステーショナリーなど雑貨の品ぞろえも豊富(写真撮影/吉村智樹)

そして注目すべきは、L字になった魅惑の立ち呑みスタンド。背徳の昼呑みが楽しめます。建築物としてのユニークさにばかり目を奪われがちですが、古書店で飲酒ができる点もかなり希少でしょう。

L字の立ち呑みスタンドで午後2時からお酒が楽しめる。意外とない“チョイ呑み”スポットだ(写真撮影/吉村智樹)

L字の立ち呑みスタンドで午後2時からお酒が楽しめる。意外とない“チョイ呑み”スポットだ(写真撮影/吉村智樹)

清野「私自身、本が好きで雑貨が好きで、そしてお酒が大好きだったんです。だから本、雑貨、お酒、三つともそろえました。狭いスペースで欲張りすぎなんですけれど、どれ一つ、はずせなかったですね」

清野さんの朗らかなキャラクターに惹かれ、夕方から続々とお客さんが呑みにやってきます。語感で選んだという「バヒュッテ」の「バ」は、コミュニティーの「場」として根付き、成熟していったようです。

南側の出入口には「外呑み」できるスペースが設けられている(写真撮影/吉村智樹)

南側の出入口には「外呑み」できるスペースが設けられている(写真撮影/吉村智樹)

「理想の物件に出会えないのならば土地を買って建てよう」

住居兼店舗である「バヒュッテ」は店舗としても住居としても非凡な、言わば珍建築のハイブリット。その発想は、どこから生まれたのでしょうか。

清野「結婚するタイミングで、夫と『家を借りようか。それとも買おうか』と話し合っているなかで、『お店もやれたらいいね』という気持ちが芽生えてきたんです」

本好きの二人は、「古本の販売を基本とした、自分たちらしいお店を営みたい」という夢を共有するようになりました。しかしながら、物件探しは簡単にはいきません。

清野「はじめは、『住むマンションは買って、店はテナントを借りる』という方針で動いていました。とはいえ、いいなと感じる住居、面白いと思えるテナント、二つを同時に探すのがものすごく大変で」

「自分たちらしい店がやりたいと思い、はじめは居住とテナントを別々に探していたが、なかなかいい物件に巡り合えなかった」と語る清野さん(写真撮影/吉村智樹)

「自分たちらしい店がやりたいと思い、はじめは居住とテナントを別々に探していたが、なかなかいい物件に巡り合えなかった」と語る清野さん(写真撮影/吉村智樹)

なかなか理想郷にたどり着けない清野さん夫妻。そこで、大胆な発想の転換を試みたのです。

清野「だったら、『いっそ思いきって土地を購入して、拠点を新たに建てたほうが、自分たちにあったかたちにできるんじゃないか』って、考え方が変わってきたんです」

店舗兼住居を借りるのではなく、「建てる」。言わば一世一代の大勝負に出た清野さん。そうしてたどり着いた場所が、「逆・うなぎの寝床」。ユニーク極まりない、尻込みする人が多い不整形地ですが、画期的な業態の店舗を開こうとする二人の新しい門出として、むしろ適していたのです。この土地に出会うまでに、「およそ3年もの月日を要した」と言います。

清野「長かったですね。やっと出会えた、そんな気がしました。私も夫も一目惚れ。『ここ、ここ!』って即決しました。並木道なので緑が豊富。散歩コースだから人通りもそれなりにある。隣接している建物がなく、たとえ少々音をたてたとしてもご近所に迷惑が掛からない。すぐそばに商店街があり、さらにスーパーマーケットがあって、病院があって、銀行があってと、至れり尽くせり。『住む』と『商売をする』の両立を可能とする唯一の物件だったんです」

レアな土地に誕生した、レアな城。遂にバヒュッテは完成し、細長さを逆手に取った仕様がたちまち話題になりました。そうして遂に「グッドデザイン賞」の受賞に至ったのです。

木材を斜めにとりつける大胆な構造。建築のプロたちも驚いた

バヒュッテがグッドデザイン賞に輝いた大きな理由の一つが「筋交い(すじかい)」。筋交いとは建物を強くするために、柱の間などに斜めに交差させてとりつけた木材のこと。とはいえ、実際に筋交いが空間を堂々と斜めに横切る店舗はそうそうありません。バヒュッテのシンボルともいえる武骨な筋交いは、何度見ても驚かされます。

バヒュッテのシンボルといえる、大胆に設えられた「筋交い」。初めて見た人はギョッとする(写真撮影/吉村智樹)

バヒュッテのシンボルといえる、大胆に設えられた「筋交い」。初めて見た人はギョッとする(写真撮影/吉村智樹)

清野「筋交いをしなきゃいけない理由は、通りに面した柱を減らすためです。『間口は全面ガラス張りにする』という設計士さんのアイデアがあり、そのために壁面に大きな筋交いが必要となったんです。これだけ大きいと、隠しようがない」

集成材でできた筋交いで壁側をしっかり固め、揺るぎない構造に。これにより間口の開放感がグンと増しました。

では、そもそも間口を全面ガラス張りにした理由は、なんなのでしょう。それは、「歩道すら建築の一部だと錯覚させるため」。狭いゆえに、外の景色も店内に採り入れようという発想なのです。筋交いは功を奏し、抜群の採光と眺望を手に入れました。視覚的効果がこれほどの爽快感をもたらすとはと、感心してしまいます。

筋交いが建物をしっかり支え、間口の全面ガラス張りを可能にしている。ガラス張りによって店内にいながら屋外の街路樹など眺望を楽しめる。おかげで狭さを感じない(写真撮影/吉村智樹)

筋交いが建物をしっかり支え、間口の全面ガラス張りを可能にしている。ガラス張りによって店内にいながら屋外の街路樹など眺望を楽しめる。おかげで狭さを感じない(写真撮影/吉村智樹)

地面を掘って天井を高く見せる効果は絶大

もう一つ、バヒュッテの構造には大きな特徴があります。それは古本や雑貨が並ぶ店舗部分の地面を掘り下げていること。その深さは約600mm。

清野「地面を掘ったのも設計士さんのアイデアです。掘って床を下げ、天井を高く見せ、狭さを感じなくさせているんです」

書籍や雑貨のコーナーは600mm掘り下げ、それによって天井を高く見せた(写真撮影/吉村智樹)

書籍や雑貨のコーナーは600mm掘り下げ、それによって天井を高く見せた(写真撮影/吉村智樹)

確かに掘られた床に立っていると、窮屈さをまるで感じません。天井が高く、ガラス戸から陽光が差し込み、まるで教会にいるような敬けんな気持ちにすらなってきます。

とはいえ、それは怪我の功名ともいえます。実はこの敷地、かたちがいびつなだけではなく、南北で高低差もある難物だったのです。地面を掘って店舗に床高の変化をつけたのは、やっかいな敷地を店舗として成立させる苦肉の策でもありました。そしてこの店内の起伏が、グッドデザイン賞を受賞したポイントとなったのです。

不整形かつ南高北低の傾斜地というなかなか難易度が高い立地。店内の床を掘り、地面をフラットにせざるをえなかった。最高で地上440mmの基礎を設け、雨の侵入を防いでいる(写真撮影/吉村智樹)

不整形かつ南高北低の傾斜地というなかなか難易度が高い立地。店内の床を掘り、地面をフラットにせざるをえなかった。最高で地上440mmの基礎を設け、雨の侵入を防いでいる(写真撮影/吉村智樹)

工事の様子(画像提供/バヒュッテ)

工事の様子(画像提供/バヒュッテ)

細長い店舗兼住居が「新時代の町家建築」と高評価に

2021年度「グッドデザイン賞」に選ばれたこの類まれなる店舗併用住宅「バヒュッテ」を設計したのは京都市北区にある「木村松本建築設計事務所」。

公益財団法人「日本デザイン振興会」は、バヒュッテを「京都に出現した新時代の町家建築だ。働くことと暮らすことが混ざり合った都市住宅の新しい在り方を示すことに成功している。街の本屋がどんどんと閉店していく中で、古本屋がこうやって暮らしと溶け合うのは、大変に現代的な現象であるとも言える。時代の流れを生む重要なデザインである」と評価しました。それが受賞の理由。

設計者の一人である木村吉成さんはバヒュッテを、「クライアント、構造家、施工者が一丸となってつくった建物」と語りました。自分たちでも会心の作だったという熱い想いが伝わってきます。木村松本建築設計事務所はさらにバヒュッテの設計を高く評価され、日本建築家協会が主催する「JIA新人賞」も同年に受賞。いっそう箔をつけたのです。

グッドデザイン賞の受賞を機に、特殊な構造を一目見ようと、バヒュッテには設計士、建築関係者、大学教授、建築を勉強する学生たちが続々とやってくるようになりました。なかには他府県からわざわざ見学に訪れる人もいるのだとか。

世代や国籍を問わず、建築に関心がある人たちが集まり、交流が始まるという(画像提供/バヒュッテ)

世代や国籍を問わず、建築に関心がある人たちが集まり、交流が始まるという(画像提供/バヒュッテ)

清野「みんな怪訝な表情で10分ほど写真を撮っていかれます。そして居合わせた見学者さん同士でビールを飲んで盛りあがる場合もしばしばあるんです。そんなときはいつも、『こういう仲をとりもてたのが、この構造の一番の効果かな』と思うんです。ただ、ここを設計してくれた木村さんは、『ここまで立ち呑み屋として発展するとは自分でも意外だった。酒がすすむ効果までは考えていなかった』とおっしゃっていましたね」

間口をガラス張りにして閉塞感を拭い去り、筋交いを隠すことなくさらけだした構造には、設計士すらも気がつかなかった、飾らずに楽しく会話させる効能があったのかもしれません。

立ち呑みコーナーには続々と人がやってきて、会話に花が咲く。「立ち呑み屋としてここまで機能するとは」と設計士自身も驚いたという(写真撮影/吉村智樹)

立ち呑みコーナーには続々と人がやってきて、会話に花が咲く。「立ち呑み屋としてここまで機能するとは」と設計士自身も驚いたという(写真撮影/吉村智樹)

珍しい日本酒やクラフトビールがそろう。BGMはアナログレコード。やさしい音色が穏やかな空間に溶け込む(写真撮影/吉村智樹)

珍しい日本酒やクラフトビールがそろう。BGMはアナログレコード。やさしい音色が穏やかな空間に溶け込む(写真撮影/吉村智樹)

不整形地もアイデア次第で活用できる

さて、気になるのは居住部分。さまざまな仕掛けで狭さを感じさせないように設計されたバヒュッテですが、家となるとさすがに「細長すぎるのでは」と心配になります。

間取図。「店を通らずに居住スペースへ行ける」点にこだわったという(画像提供/バヒュッテ)

間取図。「店を通らずに居住スペースへ行ける」点にこだわったという(画像提供/バヒュッテ)

建築模型。周辺の木立は当初から大切な要素だった(画像提供/バヒュッテ)

建築模型。周辺の木立は当初から大切な要素だった(画像提供/バヒュッテ)

清野「お客さんからよく、『本当に夫婦で二階に住んでいるの?』『人が住めるんですか?』と聞かれます。確かによその家よりも細長いので、友達を数人呼ぶと、横一列に並んで座る感じになりますね。『ちょっと、どいて』って言わないと通れませんし。でも、不便を感じるのはそれくらいかな。ロフトになっていて、狭さを感じないです。総面積だと小さめのマンション一部屋ぶんくらい十分にありますよ」

居住スペース。陽当たり良好。西日が強いため厚さが異なる2枚のカーテンで光の量を調節する(写真撮影/吉村智樹)

居住スペース。日当たり良好。西日が強いため厚さが異なる2枚のカーテンで光の量を調節する(写真撮影/吉村智樹)

それを聞いて安心しました。そして、いよいよ核心である「お値段」について踏み込まねばなりません。バヒュッテの建築には、いったいいくらかかったのでしょう。

清野「土地だけで2680万円。魚屋さんの建物を撤去する費用に10万円。そして店舗兼住居の建築費に3000万円。計およそ6000万円ですね。借入は35年の住宅ローンです。35年じゃないとローンが組めなかったので」

人気の京都市左京区内で、しかも駅から徒歩5分ほど場所の土地が2680万円とは安い。さらにもとあった鮮魚店店舗の撤去費用がわずか10万円とは破格にお得。不整形地でも固定観念を覆し、冴えたアイデアさえあれば存分に活かせるのだと、バヒュッテは教えてくれます。

お客さんに寄り添いながら流動してゆく店に

いまや修学院駅周辺エリアのランドマークであり、大切なコミュニティーの「バ」となったバヒュッテ。今後はどんなお店にしたいと考えているのでしょう。

清野「自分たちでこうしたいというより、お客さんに寄り添いながら流動してゆく店でありたい。もともとは古本と雑貨をメインに考えていて、午前11時オープン、夜は早く閉まるお店でした。けれども立ち呑みコーナーが人気となって、現在は昼下がりの午後2時から午後8時までになったんです。お酒の品ぞろえもお客さんの好みに合わせて変わってきました。そんなふうにニーズを探りつつ、自分たちがやりたいことをすり合わせて、変化させていく。そんなお店にしたい。現状維持はつまらないですしね」

夜になるとさらに存在感が増すバヒュッテ。全面ガラス張りの間口から漏れる灯りが街の治安にも貢献している(写真撮影/吉村智樹)

夜になるとさらに存在感が増すバヒュッテ。全面ガラス張りの間口から漏れる灯りが街の治安にも貢献している(写真撮影/吉村智樹)

開店して4年。いまや地元のコミュニティーの場として欠かせない存在となった(写真撮影/吉村智樹)

開店して4年。いまや地元のコミュニティーの場として欠かせない存在となった(写真撮影/吉村智樹)

街角に現れた、見る角度によって大きさが変わる不思議な小屋。そこは、人間の多様性や多面性を受け入れるやさしさがありました。

●取材協力
ba hütte.(バヒュッテ)
住所 京都府京都市左京区山端壱町田町38番地
営業時間 14:00 ~ 20:00
定休日 火曜日 水曜日 臨時休業あり
電話 075-746-5387
地上2階 /敷地面積:52.60平米 /建築面積:29.00平米 /延床面積:53.64平米

月に一度、満月の日は大切な人に会いに。「コロナ禍で会えない」から始まった生活直売店 福島県いわき市

月に一度、満月の日にだけオープンする店がある。そう聞いたのは一年ほど前のことだ。運営するのは鈴木智子さん。ご主人の康人さんとともにomotoという名のユニットを組み、鉄と布を素材とする生活道具を製作して展示を行う布作家である。私自身、2人とは数年前に知り合い、度々お会いしてきた。その智子さんが2年ほど前から、いわき市の自宅を月に一度開放して生活用品のお店を開いているという。この日だけごく普通の民家の前にコーヒースタンドが立ち、まるで小さなマルシェが出現したかのようになる。それにしてもなぜお店を?しかも満月の日に。そんな話を伺うために、いわきを訪れた。

(写真撮影/白石ちか(シロヤマ写真館))

(写真撮影/白石ちか(シロヤマ写真館))

満月の日にだけ開く小さなお店に、女性たちが次々と

JRいわき駅から歩くこと約20分。周囲には大型スーパーやチェーン店が立ち並ぶ都市郊外の風景が続く。初めて訪れると「この近くにそんなお店が……?」と不安になるが、大通りから一歩奥まった位置に「生活直売店」の看板が見える。家の前にはテーブルが置かれ、コーヒースタンドも。そこだけ小さなマーケットのような空間が広がっている。

この家は、普段は智子さんと康人さん夫妻の住まいで、2人がつくる包丁やナイフなどの鍛冶道具や、布小物、衣服を製作するアトリエでもある。2人はomotoの名で全国のセレクトショップやクラフトマーケットなどに出展し作家活動を行っている。

その自宅兼アトリエが、月に一日だけ満月の日に「生活直売店」として様がわりする。

玄関入ってすぐ脇の棚には味噌や醤油などの調味料や食品。普段は作業場として使っている左手の部屋には食品や小物が陳列され、美味しそうな焼菓子やパンが並ぶショーケースも。奥の居間には衣服や雑貨などが販売されている。いずれも智子さん自身がセレクトした品で、「普段うちで使っているものか、使ってみて気に入ったもの」だという。もちろんomotoの品も置いてある。

(写真撮影/白石ちか(シロヤマ写真館))

(写真撮影/白石ちか(シロヤマ写真館))

いわき市内のお客さんもいれば、県外からわざわざ訪れる人も少なくない。月に一度、この日しか開いていない小さなお店に、次々に洗練された格好の女性が入ってくるのに驚いた。みな満月の日を把握しているのだろうか? そう疑問に思ったが、omotoのインスタグラムを見て訪れる人が多いのだそうだ。

数カ月ぶりに会う智子さんは、とても元気そうに見えた。

 omotoの2人、鈴木康人さんと智子さん(写真撮影/白石ちか(シロヤマ写真館))

omotoの2人、鈴木康人さんと智子さん(写真撮影/白石ちか(シロヤマ写真館))

日常的な場で、大切な人たちに会えるように

智子さんが「生活直売店」を初めてオープンしたのは、コロナ禍が本格化した2020年のことだ。なぜお店を始めたのだろう。そう問うと、こんな話をしてくれた。

「近所によく通っていた自然食品店があったんですが、その店の女性が亡くなって会えなくなったのが一つのきっかけでした。お店の娘さんだったんですが、年齢も近くて、お店に行くたびに話をして。一言か二言他愛ない話をするだけですが、時々深い話になることもあって。とても気の合う人だったんです。彼女の顔を見に行くようなところもあって、いつもその店で買い物して毎回元気をもらっていました」

女性はしばらく入院していたのだが、コロナ禍でお見舞いに行くことも叶わなかった。

「会いたい人に会えずにいるうちに、会えなくなってしまう。そんなことが本当に起こるんだなって」

コロナ禍で、私たちは嫌というほどそのことを教えられた。
さらに、日常の些細なやり取りに人はどれほど励まされ、元気をもらっているのか。気付くきっかけにもなった。

「だから定期的に会いたい人たちに会える機会をつくれたらいいなと思ったんです。買い物の場なら、日常的に周囲の人たちに会うことができる。彼女がやっていたようなお店なら友達も来れるし、全然知らない人と出会う可能性も広がると思ったんです」

(写真撮影/白石ちか(シロヤマ写真館))

(写真撮影/白石ちか(シロヤマ写真館))

実はお店を始める一年ほど前まで、鈴木夫妻は月に一度、やはり満月の夜に「満月講」という会を開いていた。この時は主にいわきの友人知人が一人一品、料理を持ち寄って楽しむ会で、メンバーは知り合い限定の親密な場だった。

満月の日なら、月によって休日にも平日にもなる。休日の異なる参加者全員に平等な日の選び方だったという。だが2019年秋の台風19号による水害で、休止を余儀なくされる。

「川の水が氾濫して約1.8メートルまで浸水したんです。いわき市の一部が水没して、うちも目の前まで水がきました。それでしばらく満月講をお休みにしていたら、翌年コロナが始まってそのまま再開できずで」

コロナ禍で、人と会う機会はぐっと減った。この期間、誰にも会えず不安を抱いた人は多かったのではないだろうか。静まり返ったまちを歩いて気付いたのは、たとえそれが見知らぬ誰かであっても、笑い声や話し声を耳にして得られる活力があるのだということ。誰にも会えない間、静かに心が蝕まれていくような、元気が失われていく感覚があった。

お店が開く日のみ、こうした看板が立てられる。室内の案内図(写真撮影/白石ちか(シロヤマ写真館))

お店が開く日のみ、こうした看板が立てられる。室内の案内図(写真撮影/白石ちか(シロヤマ写真館))

友人のおすすめ品を買える、小さな生協

そうして智子さんが始めた「生活直売店」では、その名のとおり、日用品や食品、衣服など日常生活で使う品を扱っている。お客さんにとって嬉しいのは、一般的なスーパーでは取り扱っていないような品も手に入ること。智子さんが実際に愛用している品が多いため、味噌も醤油も一種と種類は少ないが、乾物から下着まで品数は豊富。それも友人のおすすめを買えるといった安心感がある。

智子さん自身、2011年の東日本大震災以降、食べるものには気を遣ってきた。調味料や食材などできるだけ天然素材や無添加のもので美味しいものを選ぶ。衣類や生活雑貨も一度は使ってみたもの。日持ちのしない食品などは仕入れ前に事前予約を受け付ける。ちょっとした生協のようだ。

例えば、「これまでに出合ったなかで一番しっくりきた」と智子さんがお勧めしてくれたのが兵庫県の「薪火野」というベーカリーのパン。お客さんにも人気。中でも「パンデピス」は香辛料によるスパイシーな風味と蜂蜜の甘さがじんわり感じられる保存性に優れたパン菓子で、しっかりした硬さの生地と奥深い味で美味しい。そこらのパンとは違うぞという風格と味わいがあった。残念ながらパンデビスは今は新しいパンに変わっているが、スコーンやカンパーニュなどもあり、それぞれが限定品なので、予約する人も多い。

「薪火野」の「パンペイサージュ」(写真撮影/白石ちか(シロヤマ写真館))

「薪火野」の「パンペイサージュ」(写真撮影/白石ちか(シロヤマ写真館))

家の前のコーヒースタンドでは、毎回違う出店者がコーヒーやドリンク、サンドイッチなどの軽食をふるまう。規模は小さくても小さなマルシェのようで、お客さんが都度新しさを感じられる工夫がされている。

「いわきの人たちって新しいもの好きなんです。目新しいものに探究心があるというか。なのでいつも用意する定番品と、その月にしかない新しい企画や展示をするスタイルがいいかなと思って。飲食も違う出店者に出てもらえば、毎回違う味のコーヒーを飲めてお客さんの楽しみにもなりますし」

(写真撮影/白石ちか(シロヤマ写真館))

(写真撮影/白石ちか(シロヤマ写真館))

もともと鈴木夫妻の家は古い家具や生活道具が並ぶしっとりした内装で、落ち着いた雰囲気(写真撮影/白石ちか(シロヤマ写真館))

もともと鈴木夫妻の家は古い家具や生活道具が並ぶしっとりした内装で、落ち着いた雰囲気(写真撮影/白石ちか(シロヤマ写真館))

オンラインとは違った買い物を

智子さんと話している間にも、お客さんが次々に訪れる。
「こんにちは~」「ちょっと見ていいですか?」「どうぞ~」「もう一つ腕抜き買っちゃった」「ありがとうございます!」そんな言葉が交わされて、智子さんは心から嬉しそうな顔をしている。お客さんの中には常連さんも少しずつ増えている。

「コロナでどこにも行けなくなって、オンラインで買い物する機会が増えましたよね。でも店頭販売にはモノを売り買いするだけじゃない良さがあると思うんです。写真と実物を見るのとでは全然違うし、モノの見方や使い方を知ったり。そんな買い物ができる場所をつくりたいと思ったのも、お店を始めた理由の一つかもしれません」

もともとomotoの2人が刃物や衣服を製作する上で大事にしてきたのも「一生使える品」であること。対面で説明して気に入って買ってもらえたら、その後メンテナンスも請け負う。お客さんにはモノと長く付き合ってほしい。自分たちも長く付き合うつもりで品物を売っている。そんなスタンスでものづくりを行ってきた。

鍛冶職人の康人さんがつくるデザイン性のある包丁。その布カバーを智子さんがつくる(写真撮影/白石ちか(シロヤマ写真館))

鍛冶職人の康人さんがつくるデザイン性のある包丁。その布カバーを智子さんがつくる(写真撮影/白石ちか(シロヤマ写真館))

智子さんが手がけるomotoの衣服。染めも行っている(写真撮影/白石ちか(シロヤマ写真館))

智子さんが手がけるomotoの衣服。染めも行っている(写真撮影/白石ちか(シロヤマ写真館))

お客さんもスタッフも

そんな成り立ちの店だからか、生活直売店は買い物の場としてだけでなく、集まった人たちの束の間の憩いの場になる。

店は毎回お昼12時ごろにオープンして閉店は19時。昨年夏に訪れたときは、夕暮れ時になると、どこからともなく店の前に人が集まってきて、ベンチに腰かけて夕涼みしながら話が弾んだ。康人さんがもぎたてのキュウリをお皿に山盛り出してくれて、スタッフもお客さんも一緒になってみんなでかじった。蚊取り線香の匂い。夏休みの夜のような、懐かしく穏やかな空気が心地よかった。

昔はこんな夕涼みの光景があちこちにあったのだろう。今はそうした暮らしからどれだけ遠く離れてしまったのかと思う。

お客さんは、ご近所さんや県外からの方も。常連さんも多い(写真撮影/白石ちか(シロヤマ写真館))

お客さんは、ご近所さんや県外からの方も。常連さんも多い(写真撮影/白石ちか(シロヤマ写真館))

いま智子さんの知り合いの女性たちが数名入れ替わり立ち替わり、スタッフとして店を手伝ってくれている。それもお金を稼ぐためというより、友達の延長上で手伝いをしながら買い物客との交流を楽しんでいる。そんな風に見えた。

カメラマンで、普段omotoの活動写真を撮っている白石ちか(シロヤマ写真館)さんも、生活直売店の時は度々お手伝いをしている。

「お客さんと話すのもすごく楽しいんです。感覚を共有できるようないいお客さんばっかりなので。ほかのお店で展示会が減っていることもあって、月に一回ここで知人に会えるのは本当に嬉しい」

手伝って得たバイト代を、この生活直売店で買い物するのに使うと言うスタッフもいた。楽しく働いたお金でいい品物も手に入る。お客さんが少ない日もあるだろうけれど、omotoの2人と顔を合わせて楽しく時間を過ごせればそれで十分なのかもしれない。

私自身、智子さんや康人さんに会いに出かけて、話して帰ってくるとそれだけでいつも元気をもらう。そこに直売店のようなきっかけがあると、遠方からでも出かける後押しになる。

(写真撮影/白石ちか(シロヤマ写真館))

(写真撮影/白石ちか(シロヤマ写真館))

「私はお店を始めてから積極的に外に出るより、できるだけここに居て来てくれる方たちを迎え入れたいなと思うようになりました。外に出ることも自分にとって大事ではあるけれど、ここを充実させる方に気持ちが強くなっています」(智子さん)

智子さんは将来、お店を常設にすることも考え始めている。これから先、どういった形になるかはわからないけれど、この店が身近な人たちとの大切な接点であることは変わらないだろう。そしてその入口は、まちに開かれ、少しずつ広がっている。

お客さんにとっても、こうした小さくても信頼できる店が生活圏内にあることは心強い。店はいまも昔も、そこに集まる人たち同士が心を通わせ合える貴重な場所になるからだ。

(写真撮影/白石ちか(シロヤマ写真館))

(写真撮影/白石ちか(シロヤマ写真館))

●取材協力
omoto「生活直売店」

タイニーハウス村が八ヶ岳に出現!? 「TINY HOUSE FESTIVAL2021」から最先端をレポート

タイニーハウス(=小さな家)による持続可能な暮らしを提案する「TINY HOUSE FESTIVAL2021」が、東京駅前で2021年10月に開催された。コロナ禍を経た今年、タイニーハウスはどう変わったのだろうか。最新のタイニーハウスの話とともに、探ってみた。

暮らしの多様化とともに、住まいの形も変化していく

コロナ禍でワークスタイルが変化してきたなか、自分たちの暮らし方や住まいについて見直す時間が増えてきた人も多いだろう。自宅での仕事スペースの確保や、プライベートとの切り替え方など、新たな課題が浮き彫りになってきたかもしれない。タイニーハウスは、その解決策のひとつとして需要が高まってきているという。
例えば、テレワークのスペースとして活用したいと考える人もいれば、アウトドアでの活動が増えて、移動先でも居心地良く過ごすためにバン型を使いたいという人もいる。テレワークが進んで、都心に住む必要のなくなった方が、二拠点生活をするために取り入れるという形も。

テレワーク化が進み、仕事をするためのワークスペースとして提案しているタイニーハウスもあった(画像提供/HandiHouse project 大石義高 佐藤陽一)

テレワーク化が進み、仕事をするためのワークスペースとして提案しているタイニーハウスもあった(画像提供/HandiHouse project 大石義高 佐藤陽一)

(画像提供/HandiHouse project 大石義高 佐藤陽一)

(画像提供/HandiHouse project 大石義高 佐藤陽一)

そもそも、タイニーハウスは、2000年代にアメリカで生まれた「タイニーハウスムーブメント」が発端と言われている。その後、2007年に住宅バブルの崩壊とともにサブプライム住宅ローンが破綻し、翌年にはリーマンショックが起きた。そんな背景から、消費社会に縛られない、経済に左右されないカルチャーとして今さらなる広がりを見せているのだ。
暮らしにどれくらいの費用をかけ、何に時間を費やし、どのような生活をしていきたいか。「お金と時間の自由」を大切にしたいと考える人たちにとって、そのライフスタイルを体現できる形が「タイニーハウス」というわけだ。
その広さに明確な定義はないものの、だいたい延べ床面積は20平米以内のものが多い。もちろん、キャピングカーなどのバン型の車を使ったモバイルハウスも含まれる。価格の幅は広いが、一般的な住宅に比べれば低コストで手に入れやすい。後から住み手が好きに手を加えやすく、小さいがゆえに移動も自由。そんな魅力が積み重なって、暮らしの選択肢の一つとして注目が集まっている。
その見本として、数々のタイニーハウスが集まったのが「TINY HOUSE FESTIVAL」だ。2019、2020年と開催され、今年は一体どのように変化しているのだろうか。

東京駅近くで開催された今回の「TINY HOUSE FESTIVAL2021」。車に牽引されている小屋もあれば、荷台に取り付けられているコンテナなどさまざまな形態のものがあった。ビルの狭間のスペースだったことから、その小ささがなおのこと強調されて見える(画像提供/HandiHouse project 佐藤陽一)

東京駅近くで開催された今回の「TINY HOUSE FESTIVAL2021」。車に牽引されている小屋もあれば、荷台に取り付けられているコンテナなどさまざまな形態のものがあった。ビルの狭間のスペースだったことから、その小ささがなおのこと強調されて見える(画像提供/HandiHouse project 佐藤陽一)

個々の用途に合わせた、幅広いタイニーハウスが登場

主催者の一人であり、「断熱タイニーハウスプロジェクト」などさまざまなタイニーハウスを手掛けている建築家の中田理恵さん(中田製作所/HandiHouse project)は、昨今の流れについて以下のように話す。

「コロナ禍でさまざまな形の暮らし方が広がったと思います。先日は、集合住宅の管理会社から相談がありました。マンション全体で使えるワークスペースをつくりたい、ということでタイニーハウスを設置できないかという話だったんです」

マンションで暮らす人にとって、新たに部屋を確保するのは難しいこと。しかし、全戸共有のタイニーハウスがあれば、テレワークのスペースとして使ったり、ワークショップやフリーマーケットなどの小さなイベントをしたりと、臨機応変なスペースになるに違いない。
また、空地を飲食スペースとして暫定利用するため、タイニーハウスを置きたいという要望にも応えたという。

「コロナ禍で飲食店が大変な状況なため、屋外でテイクアウト専門店を期間限定で出すというプランでした。そういう突発的なことにもすぐに対応してつくれるのは、タイニーハウスならではだと思います」

中田さんが手がけた「FLATmini」。2020年春に完成した青森県八戸市の「FLAT HACHINOHE」を拠点に、地域の「遊び場」「学び場」を発見・発掘するためにはじまったプロジェクト。八戸市内外を移動しながら、まちの人や来訪者と有機的に繋がり、「動く部室」として機能しているタイニーハウスだ(写真撮影/相馬ミナ)

中田さんが手がけた「FLATmini」。2020年春に完成した青森県八戸市の「FLAT HACHINOHE」を拠点に、地域の「遊び場」「学び場」を発見・発掘するためにはじまったプロジェクト。八戸市内外を移動しながら、まちの人や来訪者と有機的に繋がり、「動く部室」として機能しているタイニーハウスだ(写真撮影/相馬ミナ)

アメリカのムーブメントを取材し、各地での知見をもとにタイニーハウスの製作を行っている「Tree Heads & Co.」の竹内友一さんもタイニーハウスを展示。
「宮城県気仙沼市では、東日本大震災の津波によって流れ着いたものを使って、みんなのシェルターになるツリーハウスをつくりました。ほかにも、障がい者の就労支援の休憩所や、移動式ビアバー、牛舎を解体して宿泊所をつくったりもしました」

今までつくったタイニーハウスは65以上で、この日はキャンピングカーをリビルドしたタイニーハウスが登場。

(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

「オーダーしてくれた方は、これでスキーできる山の近くで過ごしたいということでした。料理はできなくていいということなので、脱ぎ着できるスペースと寝る場所としてのタイニーハウスというわけです。
運転席上の寝室スペースは、断熱材などを入れて暖かさを追求していますが、寝室スペース以外は板壁にしてコストダウンしています。休憩スペースはソファを置いてくつろげるようにしています」

スキー終わりにくつろいだり、ゆっくり寝るためのタイニーハウス。運転席上には寝室スペースがある(写真撮影/相馬ミナ)

スキー終わりにくつろいだり、ゆっくり寝るためのタイニーハウス。運転席上には寝室スペースがある(写真撮影/相馬ミナ)

タイニーハウスがあることで、自由に移動をしたり、好きなスペースを確保したりと、暮らしの幅が広がっているのだろう。そんな考え方は、他にもさまざまな形態で現れている。

例えば、煙突が出ているタイニーハウスは「旅するサウナ まんぷく号」。軽トラックの荷台に小屋を載せ、移動式のサウナにしている。いつでもどこでもサウナを楽しみたい、楽しんでもらいたいという思いで始まったプロジェクトだ。これなら、自宅にサウナがない人も気軽に自由に使えて、ひとときの満足感を味わうことができる。

昨今のサウナブームからも人気の高い移動式のサウナ(写真撮影/相馬ミナ)

昨今のサウナブームからも人気の高い移動式のサウナ(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

まだ軽トラックに躯体しかできていないタイニーハウスもあった。これは「スエナイ喫煙所」というプロジェクト。喫煙所でのコミュニケーションを非喫煙者でも楽しめるようにと、中央にはノンニコチンのシーシャを設置している。一つのシーシャを共有することで自然とコミュニケーションが生まれ、新しい形の喫煙所をつくろうというもの。建築学を専攻している学生が中心となっているプロジェクトで、今まさにクラウドファンディングで資金を集めている最中だという。

少しずつこれから形になっていく予定の「スエナイ喫煙所」。コミュニティスペースとしての提案であり、コロナ対策もきちんとされていた(写真撮影/相馬ミナ)

少しずつこれから形になっていく予定の「スエナイ喫煙所」。コミュニティスペースとしての提案であり、コロナ対策もきちんとされていた(写真撮影/相馬ミナ)

写真右下が完成予定の模型(写真撮影/相馬ミナ)

写真右下が完成予定の模型(写真撮影/相馬ミナ)

このように用途と目的に合わせ、自由な形で広がっていくことができるのがタイニーハウスなのだ。

持続可能な暮らしを目指すタイニーハウス。断熱など住宅性能も追求

SDGsの流れが強まり、持続可能な暮らしに目を向ける人たちが増えてきたのも、タイニーハウスが注目される後押しになっている。暮らしの幅を広げるだけでなく、脱炭素など環境への配慮や、暮らしやすさを追求したタイニーハウスも見られた。

「断熱タイニーハウスプロジェクト」は、2019年に開催されたイベントから毎年変わらず出展している。発案者は大学で都市環境を学んでいた沼田汐里さん。「断熱」の大切さを身近に感じてもらうために製作したタイニーハウスで、天井や壁、床、すべてに断熱材の「ネオマフォーム」が入っている。省エネを考えたときに、夏の暑さと冬の寒さに対応できなければならないが「断熱と気密がしっかりしていれば、最小限のエネルギーで暮らすことができる」と沼田さんは教えてくれる。また、「Do It Together」を意味する「DIT」をコンセプトに、HandiHouse projectの中田さんたちプロの指導のもとにセルフビルドしたものでもある。環境にも住み手にも快適な住まいを自分たちの手で楽しみながらつくれるということを教えてくれるタイニーハウスだ。

窓から顔を出す「断熱タイニーハウスプロジェクト」の沼田さん(写真撮影/相馬ミナ)

窓から顔を出す「断熱タイニーハウスプロジェクト」の沼田さん(写真撮影/相馬ミナ)

断熱の温度を実感したいとたくさん人が出入りしていた(写真撮影/相馬ミナ)

断熱の温度を実感したいとたくさん人が出入りしていた(写真撮影/相馬ミナ)

同じく毎年出展しているのが「えねこや」で、太陽光発電と蓄電池で電力を自給する「オフグリッド」タイプのタイニーハウスを紹介している。小さなスペースながらも、キッチンやエアコンが設置され、ペレットストーブもあって実に快適そうな空間だ。日本の木窓メーカーの窓を採用し、断熱や気密性を高めて、電力消費を抑える工夫をしながら、太陽光を活用することで、オフグリッドを実現している。再生可能エネルギーだけで快適に過ごせるのは、タイニーハウスならではのこと。もちろん、災害時に強いのはいうまでもない。

えねこやは、災害時に被災地へけん引していき、復興作業に携わることもできるという(写真撮影/相馬ミナ)

えねこやは、災害時に被災地へけん引していき、復興作業に携わることもできるという(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

これからのタイニーハウスの広がりとは?

「Tree Heads & Co.」の竹内さんは、タイニーハウスの製作に加え、新しいプロジェクトをスタートさせた。実際にタイニーハウスで暮らしたい人を募集して敷地を共有し、必要な技術や道具、情報をシェアしてコミュニティをつくっていきたいと話す。

「『ホームメイド』というプロジェクトで、僕たちが持っているタイニーハウスに関する知識をシェアしながら暮らしのコミュニティをつくりたいと考えています。住まいとしてのタイニーハウスだけでなく、食べ物やエネルギーなども、少しでもいいから自分たちの力で手づくりしてみようという試みです」

住まいだけでなく、畑仕事をしたり、周辺の環境整備なども視野に入れているのだそう。

「知識がない、道具がない、場所がない。たくさんの人からそういう話を聞くので、だったら僕たちが持っているものをシェアして、みんなで暮らしを考えていくことができればと思っています」

「ホームメイド」構想(画像提供/TREE HEADS & Co.)

「ホームメイド」構想(画像提供/TREE HEADS & Co.)

また、HandiHouse Projectの中田さんも、これからのタイニーハウスの可能性について教えてくれた。

「住まいはもちろん、店舗やパーソナルな仕事場など、いろいろな形が求められていると思います。個人だけじゃなく、自治体も目を向けていて、移住者のためにタイニーハウスを取り入れている地域も出てきました」

山梨県ではまず土地のことを知ってもらい、どんな暮らしができるかを試せるようにと、「移住者向けお試し住宅」としてタイニーハウスを建てているのだそう。そこを拠点に仕事や生活のベースを見つけてもらえれば移住の促進につながるというわけだ。「いろいろな要望が増えてきて、タイニーハウスだからこそできることが広がっていると実感しています」(中田さん)

コロナ禍が続き、少しずつ環境や人々の価値観が変わっていくなかで、自分たちの暮らしを考える時間はますます増えていくだろう。暮らしのなかで何を優先し、大切にしたいのか。誰とどこでどんな時間をすごしていきたいのか。働く場所や環境をどう整えていきたいか。
それぞれの答えがあるもので、決めたからといってそれが永遠に続くわけでもないだろう。臨機応変に対応していければ、心地よく健やかに過ごす時間はきっと増えるに違いない。タイニーハウスは選択肢の一つ。選択肢が増えればそれだけ私たちの暮らしは自由になっていくはずだ。

●取材協力
Handihouse project
Tree Heads & Co.
ホームメイドプロジェクト
えねこや

空きビル「アメリカヤ」がリノベで復活! 新店や横丁の誕生でにぎわいの中心に 山梨県韮崎市

山梨県韮崎市の名物ビル「アメリカヤ」。かつて地元で親しまれていたものの、閉店して15年間、抜け殻になっていました。しかし2018年にリノベーションされ復活したことで街に訪れる人が増え、新しいお店が次々とオープン。きっかけをつくった建築家の千葉健司さんにお話を伺うとともに、活性化する「アメリカヤ」界隈の“今”をお届けします。

15年間、閉店して廃墟となっていたかつてのランドマークが復活

JR甲府駅から普通列車に揺られること約13分の場所にある山梨県韮崎市。韮崎駅のホームに降り立つと、屋上に「アメリカヤ」と看板を掲げた建物が見えます。

(写真撮影/片山貴博)

(写真撮影/片山貴博)

1階から5階まで多種多様な店舗が入るこのビルは地元の人気スポット。しかし2018年に再オープンするまでの15年間は、閉店して廃墟と化していました。復活の立役者は、建築事務所「イロハクラフト」代表の千葉健司さんです。

建築家の千葉健司さん。子どもの頃からの夢を実現するべく大学を1年で辞め、京都府の専門学校で建築を学んだ後、地元・山梨県にUターン。「アメリカヤ」4階に建築事務所「イロハクラフト」を構えています(写真撮影/片山貴博)

建築家の千葉健司さん。子どもの頃からの夢を実現するべく大学を1年で辞め、京都府の専門学校で建築を学んだ後、地元・山梨県にUターン。「アメリカヤ」4階に建築事務所「イロハクラフト」を構えています(写真撮影/片山貴博)

子ども時代に祖母の住む和風住宅や、修学旅行で京都府に訪れるなどした経験から「持ち主の想いが宿り、使い込まれた古い家屋」に魅力を感じていた千葉さん。建築家として工務店に勤務し、はじめて一戸建てをリノベーションしたとき、既存の家の劇的な変化を施主が喜んでくれたことに感動。日本で空き家問題が深刻化しているのもあり「古い建物をリノベーションで甦らせていく」ことに注力してきました。

2010年に独立してからは、築70年の農作業機小屋を店舗にしたパンと焼き菓子のお店「asa-coya」、築150年の元馬小屋にハーブやアロマ・手づくり石けんを並べる「クルミハーバルワークス」を改修。若者に人気を博したことから、手応えを感じたと言います。

山梨県出身で韮崎高校に通っていた千葉さんにとって「アメリカヤ」は高校生のときに通学電車から見ていたビル。独自の空気感に魅了され、存在がずっと頭の片隅にありました。

あるときふと知人に「あのビルを再び人の集まる場所にできたら」と話したところ、相続した家族と会えることに。「もう取り壊す予定」だと聞き、たまらず自分たちでリノベーションし、管理・運営まで担うことを提案。二代目「アメリカヤ」が誕生しました。

1967年に開業した後、オーナーの星野貢さんの他界に伴い2003年に閉店した初代「アメリカヤ」。貢さんが戦時中シンガポールで見た文化や、アメリカから帰還した兄の話を参考にした独自のデザインが魅力(写真提供/アメリカヤ)

1967年に開業した後、オーナーの星野貢さんの他界に伴い2003年に閉店した初代「アメリカヤ」。貢さんが戦時中シンガポールで見た文化や、アメリカから帰還した兄の話を参考にした独自のデザインが魅力(写真提供/アメリカヤ)

1階はレストラン「ボンシイク」、2階はDIYショップ「AMERICAYA」。店内には工具を貸し出すワークルームを併設していて、気軽にDIYを楽しめます(写真撮影/片山貴博)

1階はレストラン「ボンシイク」、2階はDIYショップ「AMERICAYA」。店内には工具を貸し出すワークルームを併設していて、気軽にDIYを楽しめます(写真撮影/片山貴博)

5つの個人店が入る3階「AMERICAYA FOLKS」。初代「アメリカヤ」は、1階がみやげ屋と食堂、2階が喫茶店、3階がオーナー住居、4・5階が旅館でした(写真撮影/片山貴博)

5つの個人店が入る3階「AMERICAYA FOLKS」。初代「アメリカヤ」は、1階がみやげ屋と食堂、2階が喫茶店、3階がオーナー住居、4・5階が旅館でした(写真撮影/片山貴博)

5階には街を一望するフリースペースのほか、「アメリカヤ」のロゴやウェブデザインを担当した「BEEK DESIGN」のオフィスが。フリースペースは誰でも自由に使うことができ、小学生から大学生・社会人まで幅広い層が訪れます(写真撮影/片山貴博)

5階には街を一望するフリースペースのほか、「アメリカヤ」のロゴやウェブデザインを担当した「BEEK DESIGN」のオフィスが。フリースペースは誰でも自由に使うことができ、小学生から大学生・社会人まで幅広い層が訪れます(写真撮影/片山貴博)

建物単体からまちづくりに視点を変え、飲み屋街や宿を手がける

かつては静岡県清水と長野県塩尻を結ぶ甲州街道の主要な宿場町として栄えた韮崎市。1984年に韮崎駅前に大型ショッピングモールが、2009年に韮崎駅北側にショッピングモールができたことで、とくに駅西側の韮崎中央商店街は元気を無くしていました。しかし名物ビルの再生により、県内外から人が訪れるように。
それまでは建物単体で捉えていた千葉さんですが、想像以上にみんなに笑顔をもたらしたことで、「あれもこれもできるのでは」と街全体を見るようになります。
「あるとき地域の人から、建物の解体情報を聞いたんです。訪ねてみると、築70年の何とも味のある木造長屋。壊されるのが惜しくて、『修繕と管理を含めてうちにやらせてください』とまた直談判しました」(千葉さん)

「夜の街に活気をつけたい」という発想から、今度は個性豊かな飲食店が入居する「アメリカヤ横丁」としてオープンさせます。

「アメリカヤ横丁」は、「アメリカヤ」正面の路地裏に。日本酒場「コワン」、居酒屋「藁焼き 熊鰹」、ラーメン酒場「藤桜」が入ります(写真撮影/片山貴博)

「アメリカヤ横丁」は、「アメリカヤ」正面の路地裏に。日本酒場「コワン」、居酒屋「藁焼き 熊鰹」、ラーメン酒場「藤桜」が入ります(写真撮影/片山貴博)

人との出会いが生まれるなかで、地元の有志と協働する話が持ち上がります。「横丁で食事をした後に泊まれる宿があったら言うことなし」とできたのがゲストハウス「chAho(ちゃほ)」です。
韮崎市は鳳凰三山の玄関口で、登山者が前泊する土地。ここでは「登山者はもちろん、そうでない人も山を感じて楽しめること」をテーマにしています。

お茶と海苔のお店だった築52年の3階建てビルを改修したゲストハウス「chAho」。名前はかつてのビル名「茶舗」に由来。駅から徒歩約3分の商店街にありながら、物件価格は500万以下とリーズナブル(写真撮影/片山貴博)

お茶と海苔のお店だった築52年の3階建てビルを改修したゲストハウス「chAho」。名前はかつてのビル名「茶舗」に由来。駅から徒歩約3分の商店街にありながら、物件価格は500万以下とリーズナブル(写真撮影/片山貴博)

「chAho」は韮崎市出身のトレイルランナー、山本健一さんのプロデュース。登山者向けに下駄箱を高めに作るなど工夫がされていて、共有リビングではアウトドアグッズを陳列。「アメリカヤ」2階で購入できます(写真撮影/片山貴博)

「chAho」は韮崎市出身のトレイルランナー、山本健一さんのプロデュース。登山者向けに下駄箱を高めに作るなど工夫がされていて、共有リビングではアウトドアグッズを陳列。「アメリカヤ」2階で購入できます(写真撮影/片山貴博)

各部屋は地蔵岳・観音岳など地元を代表する山の名前に。「chAho」は甲府市でゲストハウスを営む「バッカス」が運営。オーナーはJR甲府駅近くの観光地、甲州夢小路を運営する「タンザワ」の会長、丹沢良治さんが担っています(写真撮影/片山貴博)

各部屋は地蔵岳・観音岳など地元を代表する山の名前に。「chAho」は甲府市でゲストハウスを営む「バッカス」が運営。オーナーはJR甲府駅近くの観光地、甲州夢小路を運営する「タンザワ」の会長、丹沢良治さんが担っています(写真撮影/片山貴博)

リノベーションをする際は、古い浄化槽を下水道に切りかえるほか、配線や水道管といったインフラを一新し、適宜、耐震補強。トイレは男女別にするなどして、現代人が使いやすい形に変えています。しかし何より大事にしているのは「建物の価値を生かす」こと。手を加えるのはベースの部分に留め、大工の思いが込められた、趣いっぱいの床やドア・サッシなどは、そのままにしているのが特長です。

「古い建物はところどころで職人の“粋”を感じます」(千葉さん)。利用するうえで支障がない限り、躯体は汚れを落とす程度に。写真はアートのような「アメリカヤ」のらせん階段(写真撮影/片山貴博)

「古い建物はところどころで職人の“粋”を感じます」(千葉さん)。利用するうえで支障がない限り、躯体は汚れを落とす程度に。写真はアートのような「アメリカヤ」のらせん階段(写真撮影/片山貴博)

仲間たちと和気あいあいと楽しく仕事ができる、それが地元のよさ

もともと千葉さんが山梨県に事務所を構えたのは、地元特有の緩やかな空気のなかで、仲間と和やかに仕事がしたかったから。それだけに自分たちのしたことで人のつながりが生まれるのは、何よりの喜びです。

「かつてのビルを知る人がお店にやってきて、懐かしそうに昔話を聞かせてくれることがあるんです。がんばっている下の世代を見て、ご年配の方も応援してくれていると感じます。古い建物の復活は昭和を生きてきた人には懐かしいだろうし、世代間の交流が促されるといいですね」(千葉さん)

「アメリカヤ」を契機にまちづくりの実行委員をつくり、「にらさき夜市」などのイベントを開催。SNSを利用しない高齢の人にも情報が届くよう、ときにチラシを配り歩きます。

こうした取り組みをする千葉さんの元には、SNSや市役所を通じて物件の問い合わせが入ることが少なくありません。そんなときはサービス精神で紹介し、“空き家ツアー”を企画。オーナーと入居者の中継地点になっています。

街の活性化の兆しは、行政や地元のオーナーにとっても喜ばしいこと。韮崎市では補助金制度を拡充し、50万円の修繕費、及び1年まで月5万円の家賃を補助する「商店街空き店舗対策費補助金」を、市民のみならず転入者も対象とするように。「新規起業準備補助金」の限度額を条件次第で200万円まで引き上げるなど、柔軟な対応をするようになりました。
活動に共感し、もっと人が増えて街がにぎわうようになるならと、良心的な賃料にしてくれるオーナーもいるといいます。

「アメリカヤ」のある韮崎中央商店街。「築50~60年の建物が多いのですが、高度経済成長期に建てられたためか1つひとつが個性的で面白いです」(千葉さん)。街歩きしては風情ある建物を心に留めています(写真撮影/片山貴博)

「アメリカヤ」のある韮崎中央商店街。「築50~60年の建物が多いのですが、高度経済成長期に建てられたためか1つひとつが個性的で面白いです」(千葉さん)。街歩きしては風情ある建物を心に留めています(写真撮影/片山貴博)

「アメリカヤ横丁」を宣伝するため、韮崎駅ホームの正面にあるビルに最近、看板が取りつけられました。3分の2を山梨県と韮崎市が出資してくれています(写真撮影/片山貴博)

「アメリカヤ横丁」を宣伝するため、韮崎駅ホームの正面にあるビルに最近、看板が取りつけられました。3分の2を山梨県と韮崎市が出資してくれています(写真撮影/片山貴博)

名物ビルの復活から3年。商店街には新しいスペースが続々と登場

さまざまな動きが後押しとなり、韮崎市では空き家を使って活動をはじめる人が次々と見られるように。既存のスポットも変化を遂げています。

2020年4月に「PEI COFFEE(ペイ コーヒー)」をオープンした谷口慎平さんと久美子さんご夫妻は、東京都千代田区の「ふるさと回帰支援センター」で韮崎市を勧められ、市が運営する「お試し住宅」に滞在。そこで自然の豊かさや人のやさしさを感じ、東京都からの移住を決めました。

近隣のニーズに応えるべく8時からオープン。お店の一角では慎平さんの兄が営む「AKENO ACOUSTIC FARM」の野菜やピクルスなどを販売しています(写真撮影/片山貴博)

近隣のニーズに応えるべく8時からオープン。お店の一角では慎平さんの兄が営む「AKENO ACOUSTIC FARM」の野菜やピクルスなどを販売しています(写真撮影/片山貴博)

「PEI COFFEE」は「chAho」の2軒隣。料理もクッキーもケーキも、すべて丹精込めて手づくり。コーヒーは幅広い年齢層に親しまれるよう深煎りの豆をメインに使っています(写真撮影/片山貴博)

「PEI COFFEE」は「chAho」の2軒隣。料理もクッキーもケーキも、すべて丹精込めて手づくり。コーヒーは幅広い年齢層に親しまれるよう深煎りの豆をメインに使っています(写真撮影/片山貴博)

「オーナーは何かに挑戦する人に好意的な方で、自由にやらせてもらえているのでありがたいです。マイペースに長く続けていけたらと思っています」(慎平さん)

2021年2月には「アメリカヤ横丁」と同じ路地のビルの2階に、中村由香さんによる予約制ソーイングルーム「nu-it factory(ヌイト ファクトリー)」が誕生。

月1回、裁縫のワークショップが行われるほか、各種お直しやオーダーメイド服の制作などをしています(写真撮影/片山貴博)

月1回、裁縫のワークショップが行われるほか、各種お直しやオーダーメイド服の制作などをしています(写真撮影/片山貴博)

「以前は甲府市にアトリエがあったのですが、北杜市からもお客さんを迎えられる韮崎市にくることに。のどかでいて文化的なムードがあるのがいいなと思います」(中村さん)

明るく広々としたアトリエ。「この辺りは駅近でも5万円前後の賃料の物件が多いので、都会からくる人はメリットが高いでしょう」(千葉さん)(写真撮影/片山貴博)

明るく広々としたアトリエ。「この辺りは駅近でも5万円前後の賃料の物件が多いので、都会からくる人はメリットが高いでしょう」(千葉さん)(写真撮影/片山貴博)

2021年5月に韮崎中央商店街の北側にオープンした「Aneqdot(アネクドット)」は、テキスタイルデザイナーの堀田ふみさんのお店。スウェーデンの大学院でテキスタイルを学んだ後、10年ほど同国で活動していましたが、富士山の麓で郡内織を手がける職人たちと出会い、山梨県に住むことに。にぎわいあるこの通りが気に入り、ブランドショップを構えました。

堀田さんがデザインし、職人が手がけた生地を使った洋服・カバン・財布・アクセサリーのほか、生地単体も販売。「かつては養蚕業が盛んで製糸工場があり、今も織物産業が根づく山梨にこられたことに縁を感じます」(堀田さん)(写真撮影/片山貴博)

堀田さんがデザインし、職人が手がけた生地を使った洋服・カバン・財布・アクセサリーのほか、生地単体も販売。「かつては養蚕業が盛んで製糸工場があり、今も織物産業が根づく山梨にこられたことに縁を感じます」(堀田さん)(写真撮影/片山貴博)

「あたたかで個性豊かな職人とのめぐり合いがここにきた理由です」と堀田さん。複数の織元と協働しており、錦糸を使ったものもあれば、綿・ウール・リネン・キュプラなどの生地も(写真撮影/片山貴博)

「あたたかで個性豊かな職人とのめぐり合いがここにきた理由です」と堀田さん。複数の織元と協働しており、錦糸を使ったものもあれば、綿・ウール・リネン・キュプラなどの生地も(写真撮影/片山貴博)

奥のアトリエにはスウェーデン製の手織り機が。壁の塗装・床のワックス塗りなど、内装は堀田さんと友人たちでDIY。「オーナーに理解があったからこそできました」(堀田さん)(写真撮影/片山貴博)

奥のアトリエにはスウェーデン製の手織り機が。壁の塗装・床のワックス塗りなど、内装は堀田さんと友人たちでDIY。「オーナーに理解があったからこそできました」(堀田さん)(写真撮影/片山貴博)

「周辺の方はみなさんオープンで、気さくにおつき合いさせてもらっています。お客さんにきてもらえるよう少しずつでも輪を広げ、長く続けていきたいです」(堀田さん)

「アメリカヤ横丁」の木造長屋裏側の民家には2020年春に「鉄板肉酒場 ニューヨーク」と「沖縄酒場 じゃや」、2021年2月に「ゴキゲン鳥 大森旅館」がオープン。2022年4月にはクラフトビールのバーができる予定です。

手前1階が「和バル ニューヨーク」、2階が「沖縄酒場 じゃや」、突き当たりが「ゴキゲン鳥 大森旅館」(写真撮影/片山貴博)

手前1階が「和バル ニューヨーク」、2階が「沖縄酒場 じゃや」、突き当たりが「ゴキゲン鳥 大森旅館」(写真撮影/片山貴博)

表通りから見えるこの提灯の下をくぐると、「アメリカヤ横丁」の木造長屋の裏手小道に入れます(写真撮影/片山貴博)

表通りから見えるこの提灯の下をくぐると、「アメリカヤ横丁」の木造長屋の裏手小道に入れます(写真撮影/片山貴博)

日本酒場「コワン」の店主、石原立子さんは「アメリカヤ横丁」がオープンした当初からのメンバー。横丁での日々をこう語ります。

「地元に縁のある人がやってくることが多いので、何十年ぶりの感動の再会を目の当たりにすることも。いろいろな人がきて毎日が面白いです」(石原さん)

燗酒と燗酒に合う料理を届ける日本酒場「コワン」。ベルギー産のビールも人気です(写真撮影/片山貴博)

燗酒と燗酒に合う料理を届ける日本酒場「コワン」。ベルギー産のビールも人気です(写真撮影/片山貴博)

“リノベーションのまち、韮崎”のために、できることは無限大

千葉さんは、今では行政や商工会に対し、空き家の活用を進めるうえで何が現場で妨げになっているか発信する役割も果たしています。

「昔は職住一体だった家に住んでいるご年配の場合、いくら店舗部分だけ貸して欲しいと言っても、ひとつ屋根の下でトラブルにならないか心配になります。出入口を2つに分ける、間仕切り壁を立てるなどすれば解決することもあるのですが、状況に即した提案に加え、工事費を助成金で賄えたらハードルはぐんと下がるでしょう。借主だけでなく貸主のメリットも打ち出し、『受け皿』をつくっていくことが大事だと感じます」(千葉さん)

あくまで本職は建築業。まちづくりを生業にするつもりはないという千葉さんですが、「面白そう」というアイデアが次々と湧いてくるよう。最近では休眠している集合住宅をリノベーションして移住者を増やせたら、と想像を膨らませているのだとか。

「誰もが親しんでいた『アメリカヤ』が復活して、イヤな思いをした人はいないと思うんです。地元の人もお客さんも、市長まで関心を寄せてくれました。『みんなにとって良いことは、おのずとうまくいく』と実感しています」(千葉さん)

常にわくわくすることに気持ちを向けている千葉さん。その原動力によって「リノベーションのまち、韮崎」が着々とつくり上げられています。

●取材協力
アメリカヤ
パンと焼き菓子のお店asa-coya
クルミハーバルワークス
BEEK DESIGN
chAho
トレイルランナー 山本健一さん
PEI COFFEE
nu-it factory
Aneqdot
鉄板肉酒場 ニューヨーク
沖縄酒場 じゃや
ゴキゲン鳥 大森旅館
コワン

「シェアキッチン」発の“濃いお店”で地元をおもしろく! コロナ禍で人気

東京都・東小金井の高架下に、洋菓子、パン、おにぎり・惣菜……いつも売っているモノが違うお店がある。実はこちら、複数のメンバーが店舗、厨房を共同で使う「シェアキッチン」。初期投資の費用を抑えられるメリットから、ここ数年、新たな形態として注目を集めている仕組みだ。さらにこのコロナ禍で、「シェアキッチン」を始めたい人が増加しているという。2014年に小平の「学園坂タウンキッチン」でシェアキッチンスタイルを確立し、今では都内4カ所に独自のブランド「8K」をはじめとしたシェアキッチンを運営する株式会社タウンキッチンの代表・北池智一郎さんにお話を伺った。
地域がつながる場づくりには、「食」が一番

「飲食業をしたいわけではない」と語る北池さんがシェアキッチンを始めたのは、「地域につながる場を提供したい」という想いから。
「例えば、昔は、お醤油が切れていたらお隣さんに借りに行ったりしていたんですよね。お互い助けあうことが、生活を円滑にすすめるために不可欠なことだったから。しかし、今はコンビニがあるから、そんなお願いをしなくていいでしょう。便利さと引き換えに失った、地域の『つながり』を再生したい。そのための『場』を提供するには、まず『食』を媒体とすることがいいと考えたことが始まりです」

株式会社タウンキッチン代表・北池智一郎さん(写真提供/タウンキッチン)

株式会社タウンキッチン代表・北池智一郎さん(写真提供/タウンキッチン)

保健所からの許認可を受けたキッチンを「所有」でなく、複数人で「共有」することで創業のハードルを低くできる。利用料は月額料金で、開業コストを大きく抑えられるのも特徴だ。食品衛生責任者の資格は必要だが、看板やショップカード、ラベルなどそれぞれのオリジナル屋号で営業できる。また、開業前からマーケティング、商品開発、経理、補助金などについて個別相談ができる仕組みや、先輩利用者にアドバイスをもらえるなど他の利用者と交流できる定期的な勉強会もある。

趣味を活かし、週に1度もしくは隔週なら子育てを優先しつつも挑戦できると始める人や、会社勤めの傍ら休日のみ営業する人など、自分なりのペースで営業が可能だ。土日は子育てで稼働できない人と、平日は本業がある人と、営業日も分散できているそう。現在、タウンキッチンが直接運営しているシェアキッチンは都内4カ所。商店街の空き店舗、住宅街、高架下、大規模マンションの敷地内など、立地条件は異なるが、近所のリピーター、遠方から来るファンなど固定客をつかんでいる。

第1号店は、西武多摩湖線一橋学園駅の商店街に面した「学園坂タウンキッチン」(写真提供/タウンキッチン)

第1号店は、西武多摩湖線一橋学園駅の商店街に面した「学園坂タウンキッチン」(写真提供/タウンキッチン)

シェアキッチンでは、厨房をシェアする店主同士のつながりも。お互い情報交換したり、イベントやコラボ商品などへ発展することも(写真提供/タウンキッチン)

シェアキッチンでは、厨房をシェアする店主同士のつながりも。お互い情報交換したり、イベントやコラボ商品などへ発展することも(写真提供/タウンキッチン)

2017年に開業した武蔵境のシェアキッチン「8K musashisakai」(写真撮影/Ryoukan Abe)

2017年に開業した武蔵境のシェアキッチン「8K musashisakai」(写真撮影/Ryoukan Abe)

「むさしの創業サポート施設開設支援事業」の選定を受け、女性をターゲットとした創業支援施設でもある (写真撮影/Ryoukan Abe)

「むさしの創業サポート施設開設支援事業」の選定を受け、女性をターゲットとした創業支援施設でもある (写真撮影/Ryoukan Abe)

東小金井にある「MA-TO」のシェアキッチンは現在16店舗がシェアしており、すでに満員。イートインスペースもある(写真撮影/本浪隆弘)

東小金井にある「MA-TO」のシェアキッチンは現在16店舗がシェアしており、すでに満員。イートインスペースもある(写真撮影/本浪隆弘)

西武池袋線ひばりヶ丘駅から徒歩17分、大規模マンションの敷地内にある「HIBARIDO」。シェアキッチンの他、ショップやワークスペースもある(写真撮影/Ryoukan Abe)

西武池袋線ひばりヶ丘駅から徒歩17分、大規模マンションの敷地内にある「HIBARIDO」。シェアキッチンの他、ショップやワークスペースもある(写真撮影/Ryoukan Abe)

10年前にオープン。しかし当初の目的とはずれてしまった現実

しかし、すべてが順調だったわけではない。

2010年11月に開設した「学園坂タウンキッチン」は、地域に住む女性たちが家庭料理を総菜として提供するお店としてスタート。“地域がつながるおすそわけ”がコンセプトで、一人暮らしの高齢者や、働くお母さんたちに喜ばれたとか。

しかし、いったん店をクローズし、2014年大幅な方向転換、リニューアルをすることになる。どうしてだろうか?

「当初は、どちらかというとボランティア的な、地元主婦によるお店でした。しかし、人前に立つことが苦手な方も多く、地域での窓口はだいたい私。私自身は地域に知り会いがたくさんできたけれど、それって、本来の目的とは違うなと違和感を持ち始めたんです。私が現場にいることも多く、店長とスタッフみたいな関係性になってしまうのでは意味がないんじゃないかなぁって。だったら、私みたいな人間がたくさんいることのほうが大切なんじゃないかと、思い切って方針を変えたんです」

2010年当時の「学園坂タウンキッチン」。「〇〇さんのサバの味噌煮」「□□さんの唐揚げ」などの家庭料理を提供しファンも多かったが、ひとつのお店として味を管理することの難しさも(写真提供/タウンキッチン)

2010年当時の「学園坂タウンキッチン」。「〇〇さんのサバの味噌煮」「□□さんの唐揚げ」などの家庭料理を提供しファンも多かったが、ひとつのお店として味を管理することの難しさも(写真提供/タウンキッチン)

リニューアル後は、主婦以外の人も含めて「個人がつくりたいものやこだわりのものを提供する」シェアキッチンへ。
「自分が本当にいいと思ったものを食べてほしい」――そんな強い思いをもった人たちは、当然、自分自身が発信者になり、横とのつながりも生まれる。
「自分で何かしたい、発信したいという人は、人を惹き付けるもの。自然とつながりも生まれますし、当事者意識が高い。そんな地域のハブとなるような人を増やすことが、地域の魅力につながるんじゃないかと思ったんです」

創業ハードルが低い分、自分の「好き」を突き詰めたコンセプトに

シェアキッチンでお店を営む利用者についても話を伺った。

意外にも、「飲食店勤務から独立して自分の店舗を持ちたい」という明確な目標があった人は少数派で、趣味・好きの延長線上にお店を始める人が多いという。

「例えば自分のお子さんがアレルギーだったことから、グルテンフリーのお菓子を手づくりしているうちに、ママ友から頼まれるようになり、週に1度ならできるかもと、シェアキッチンを始めた方もいます」

ほかにも、会社員の傍ら月に数日のみ焼き菓子のお店を始めた方、チョコ好きが高じてカカオ豆からチョコづくりをしている方など、経緯は千差万別。空いた時間を使って、自分のこだわりを貫きながら商品をつくっている利用者は多い。

例えば、学園坂タウンキッチン内の「やさしいオヤツ+ごはんmiel*(ミエル)」は、子育てをきっかけに、マクロビオティックを学んだ店主が、「アレルギーのある人やベジタリアンの人でも安心して食べられるお菓子やお惣菜を提供したい」という想いからスタート。化学調味料不使用、旬の野菜をたっぷり使ったデリやおやつは“身体にやさしく元気になれる“と大人気。天然色素中心のアイシングクッキーはオーダー販売もしている。

「やさしいオヤツ+ごはんmiel*(ミエル)」。「自分のお店を持つために卒業していく方もいますが、古き良き学園坂商店街が大好きなので、私はここでお店を続けています。赤ちゃん連れのママからご近所のお年寄りまで、おしゃべりが目的で来てくださる常連さんも多いです。地域のサードプレイスになれたら」と店主さん(写真提供/miel*)

「やさしいオヤツ+ごはんmiel*(ミエル)」。「自分のお店を持つために卒業していく方もいますが、古き良き学園坂商店街が大好きなので、私はここでお店を続けています。赤ちゃん連れのママからご近所のお年寄りまで、おしゃべりが目的で来てくださる常連さんも多いです。地域のサードプレイスになれたら」と店主さん(写真提供/miel*)

(写真提供/miel*)

(写真提供/miel*)

(写真提供/miel*)

(写真提供/miel*)

ただし、多くのお店が、1人体制で、仕込み・調理・販売まで手掛けるため、売り切れ次第閉店で、営業時間も限られる。「いつ開いているか分からない」という声も少なくない。
「自分のライフバランスを大切にしながら、本当に美味しいもの、自分がこだわったものを提供しようとするとおのずとそうなると思うんです。もちろんデメリットもある。でも、商品力があるから、twitterやインスタなどでフォローし、買いに来る固定客の方たちは多いんです」

MA-TOで人気のパン屋では開店前から行列も(写真提供/タウンキッチン)

MA-TOで人気のパン屋では開店前から行列も(写真提供/タウンキッチン)

個人のお店の充実が、街の魅力を底上げする

こうした“小さくとも濃い商い”は、飲食チェーンのいわばアンチテーゼだ。

飲食チェーンは、マーケティングに裏付けられた商品展開、徹底した商品管理、いつでもいつもの味を提供してもらえる安心感がある。
ただ、そのためには人通りの多い人気の場所に出店せざるを得ず、テナント料も高い。早朝から夜まで商品をつくって売り続けるには人件費もかかる。当然、利益を追求せざるを得ない。

「シェアキッチンは逆。駅から遠い立地も多く、店舗・厨房をシェア、人件費も最小限です。でも、商品にはこだわっている方ばかりで、正直、原価率は高い利用者さんが多いと思います」

また、最初は好き・趣味ベースでもシェアキッチンで営業を続ける中で手ごたえを感じ、シェアキッチンをやめて実店舗を開く“卒業生“も多い。

「普通に考えれば人気店がやめてしまうのは痛手ですけれど、当社ではウェルカム。いいお店がまた街に増えるわけですから。循環も大切です」

個人のお店が増えることは、その街の個性になり、暮らす人の愛着を生む。その循環こそが、地域を活性化させる理想形のひとつといえるだろう。

「日用品とお菓子の店 sofar」は、MA-TO卒業生が2020年11月に東小金井駅から徒歩2分の場所にオープン。2人の子育てをしながら、水曜と金曜、月1度の土曜に営業をしている(写真提供/sofar)

「日用品とお菓子の店 sofar」は、MA-TO卒業生が2020年11月に東小金井駅から徒歩2分の場所にオープン。2人の子育てをしながら、水曜と金曜、月1度の土曜に営業をしている(写真提供/sofar)

お店の空間は、カメラマンの夫のスタジオとしても活用。また、夫が取材先等で出会うつくり手さんのコトやモノも紹介・販売している(写真提供/sofar)

お店の空間は、カメラマンの夫のスタジオとしても活用。また、夫が取材先等で出会うつくり手さんのコトやモノも紹介・販売している(写真提供/sofar)

「街に開いたお店を目指して、今後は作家さんとのコラボやスタンドカフェなど、子どもたちの成長に合わせたお店でづくりを楽しんでいけたら」と店長(写真提供/sofar)

「街に開いたお店を目指して、今後は作家さんとのコラボやスタンドカフェなど、子どもたちの成長に合わせたお店でづくりを楽しんでいけたら」と店長(写真提供/sofar)

コロナ禍きっかけで「シェアキッチン」を始めたい人が増加

コロナ禍を受けて、地元で過ごす人が増え、シェアキッチンで買い物をする人が増加。さらにお店を始めたいという問い合わせも急増しているそうだ。

「例えば、普段は飲食店で働いているけれど、短縮営業になったことを機に、副業として休日にだけシェアキッチンでお店をやりたい、と考えている方からの問い合わせが増えました。今、飲食業は大変です。だからこそ、自分のやりたかったことをやってみようと、発想を変えてみるチャンスなのかもしれません」

さらに、タウンキッチンでは、シェアキッチン「8K」の開設をサポートするプロデュース事業をスタート。これまでのノウハウを活かし、企画から開設後の運用までトータルにサポートしていくという。例えば集合住宅、商業施設、オフィス、公共空間などにシェアキッチンが導入されることで、地域コミュニティの拠点となり、街ににぎわいが生まれる。こうした取り組みを通して、より広く、より深く、「地域のハブとなる場づくり」を目指していく。

東小金井高架下には、KO-TO、PO-TO、MA-TOの3つの創業支援施設が立ち並ぶ。オフィス・工房・教室・ショールーム等として利用できる場所も。コロナ前には、各スペースが連携したイベントも開催していた(写 真提供/タウンキッチン)

東小金井高架下には、KO-TO、PO-TO、MA-TOの3つの創業支援施設が立ち並ぶ。オフィス・工房・教室・ショールーム等として利用できる場所も。コロナ前には、各スペースが連携したイベントも開催していた(写真提供/タウンキッチン)

何でもそろう大型ショッピングモールは便利で快適だ。しかし、自分のホームタウンだと実感できるのは、その街でしか味わえない食、手に入らないモノ、体験できないコトだったりする。コロナ禍で、家の周りで過ごす時間が増え、暮らす地元を再発見しようという動きはさらに加速するはず。そんななか、オリジナリティを発信でき創業のハードルが低い「シェアキッチン」は、今後さらに期待が高まるはずだ。

●取材協力 
タウンキッチン
シェアキッチン「8K」
やさしいオヤツ+ごはんmiel*(ミエル)
日用品とお菓子の店 sofar(Instagram)

原宿駅前の新施設、名称「WITH HARAJUKU」に決定

NTT都市開発(株)は、原宿駅前で開発を進めている「原宿駅前プロジェクト」(東京都渋谷区)の施設名称を、「WITH HARAJUKU(ウィズ ハラジュク)」に決定した。同施設は渋谷区神宮前1丁目、JR「原宿駅」徒歩1分及び東京メトロ千代田線「明治神宮前(原宿)駅」徒歩1分に誕生する地下3階・地上10階建て。2020年春に開業を予定している。

地下2階から地上3階にはライフスタイル雑貨、スポーツ、アパレル、コスメ、飲食店など、生活を彩る店舗を導入。3階には約300m2の多目的イベントホール「WITH HARAJUKU HALL」を配し、原宿における文化発信地としての役割を担う。4階以上は賃貸レジデンス。8階には明治神宮の森を一望できるパークビューレストランもオープンする。

施設名称には、訪れる世界中のさまざま人々が互いに高め合う場であると共に、街や集う人々に寄り添う存在でありたいという想いを込めている。

ニュース情報元:NTT都市開発(株)

大型商業施設「テラスモール松戸」、10月下旬に開業決定

住商アーバン開発(株)はこのたび、大型商業施設「Terrace Mall(テラスモール)松戸」(千葉県松戸市)の開業時期を、2019年10月下旬に決定した。施設は松戸市八ケ崎二丁目に立地。敷地面積約49,000m2。地上4階建(一部5階建)で、約180店舗を導入予定。

福岡のライフスタイル雑貨店「Grande Maree(グラン マレ)」の関東初出店、洋菓子店「POGG(ポグ)」や話題の「WORKMAN Plus(ワークマンプラス)」が千葉県初出店。

また、「ゾフ マルシェ」や「カルディコーヒーファーム」など、エリア初出店が64店舗、地元の人気ベーカリー「SAFFRON(サフラン)」などSC初出店が7店舗、「DONQ(ドンク)」の新業態「Bakery Table(ベーカリーテーブル:仮称)」、寿司がルーツの地元店「六歌撰」の和惣菜「手作りのやさしいお惣菜 こはるや」など、新業態8店舗の導入も決定した。

施設の2階中央に位置する吹き抜け空間には、イベントステージを常設。開業後は主に地域の方を対象に、サークル・団体などの発表の場として貸し出す。

施設北側の「けやき通り」の広場には、憩いや遊べる場として、水が出る演出のポップジェット(噴水)を設置。屋外広場として、様々なイベントも展開していく。

ニュース情報元:住商アーバン開発(株)

大阪梅田ツインタワーズ・サウス、II期部分を着工

阪神電気鉄道(株)と阪急電鉄(株)は、6月1日(土)より「大阪梅田ツインタワーズ・サウス」II期部分の新築工事に着手した。同事業は、大阪市北区梅田1丁目に整備中の地下3階・地上38階の超高層複合ビル。「大阪神ビルディング」と「新阪急ビル」間の道路上空を活用した建替と、周辺公共施設の整備を一体的に行うことで、都市機能の高度化や防災機能を強化し、質の高いまちづくりを目指している。I期部分は2018年4月27日に竣工、同年6月1日から「阪神百貨店(阪神梅田本店)」が部分開業した。

今回着工したII期部分では、2021年秋に全面開業する予定の百貨店ゾーンや、1フロア当たりの貸室面積が西日本最大規模(約3,500m2)となるオフィスゾーン(地上11階~38階)のほか、大小2つのホールを備えるカンファレンスゾーンを整備する。

新しくなる「阪神百貨店(阪神梅田本店)」は、解体工事前と同規模(延床面積約100,000m2)で、フロア数は11層(地下2階から地上9階まで)を計画。店舗づくりにおいては、品揃えの充実を図り快適な売場環境を整備、様々なイベントを通じてライフスタイルの提案を行っていく施設を目指す。なお、全体開業は2022年春の予定。

ニュース情報元:阪神電気鉄道(株)

福岡「西新」駅直結の新商業施設、全テナントが決定

東京建物(株)と(株)プライムプレイスはこのたび、西新エルモールプラリバ跡地にて開発中のタワーマンション「Brillia Tower 西新」(福岡市早良区)に併設する新商業施設「PRALIVA(プラリバ)」の全テナントを決定した。
同施設は、福岡市営地下鉄「西新」駅徒歩1分(駅直結)に立地する地上4階・地下2階建。2019年夏に開業し、九州初出店を含む36店舗が集結する。全体開業は2021年春で、約40店舗になる予定。

B2FとB1Fは食品を中心としたフロア。京都で人気の老舗ベーカリー「GRANDIR(グランディール)」が九州初出店。ちょい飲みができる「博多とりかわ大臣 プラス」といった、立ち寄ることで日常の食卓に楽しみをプラスできる多彩な店舗構成を予定している。

1Fのメインエントランス横には、憩いの場となるカフェ「プロント」が出店。ステーショナリーやコスメを集約した「プラットインキューブ」や、ペット雑貨「P2DOG&CAT」など、幅広いニーズに寄り添った店舗構成とした。

2Fはサービスやカルチャーを集積させたフロアで、九州初出店のキッズスクール「My Gym」、様々なジャンルの書籍を取り揃える「くまざわ書店」が出店。3Fはワンフロアまるごと「無印良品」で、日々の生活を豊かにするアイテムを揃える。

ニュース情報元:東京建物(株)

広島駅ビル「ASSE」建替え、新駅ビルは2025年春開業

西日本旅客鉄道(株)は、JR西日本不動産開発(株)、中国SC開発(株)及び(株)ジェイアール西日本ホテル開発と共に、広島駅ビルの建替え計画を推進していくと発表した。同事業は、2014年9月に広島市が策定した「広島駅南口広場の再整備等に係る基本方針」に基づいて検討してきたもの。新駅ビルは地上20階・地下1階とし、商業・ホテル・駐車場を導入。広島に新たな賑わいや交流を創出する施設を目指す。

商業として、店舗面積約25,000m2のショッピングセンターおよびシネマコンプレックスを計画。高層階には、JR西日本ホテルズの新規ブランド「ホテルヴィスキオ」(400室規模)を配置。駅北の「ホテルグランヴィア広島」とあわせ、国内外からの多様なニーズに対応していく。ホテルの事業主体は(株)ジェイアール西日本ホテル開発、運営は(株)ホテルグランヴィア広島を予定している。

なお、1965年の開業以来、50年以上にわたり運営してきた現駅ビル「ASSE(アッセ)」は、2020年3月末に閉館。2020年4月に建替え工事に着手し、2025年春に新駅ビルを開業予定。

ニュース情報元:西日本旅客鉄道(株)

ららぽーと沼津、2019年10月に開業

三井不動産(株)は、静岡県東部エリア初進出となるリージョナル型ショッピングセンター「三井ショッピングパーク ららぽーと沼津」を、2019年10月に開業する。計画地は静岡県沼津市東椎路地区、JR東海道線「沼津駅」より約2.5km、同線「片浜駅」より約2.0kmに位置する。敷地面積約119,816m2、延床面積約165,000m2。地上4階建の店舗棟と地上5階建の立体駐車場(3棟)で構成され、ファッションから雑貨、スーパー・食物販、話題のレストラン・カフェ、フードコートなど約210店舗が出店する。

また施設は、2017年3月31日の都市計画変更により市街化編入された土地(約30ha)の中核に立地し、沼津市におけるまちづくりの新たな拠点としての役割を担う。施設計画に合わせて、周辺道路の拡幅整備や当敷地内に3ヵ所、合計約5,000m2の緑地広場と交通広場などの整備を行っていく。

ニュース情報元:三井不動産(株)

「阪急西宮ガーデンズ」、開業以来2度目の大規模リニューアル

阪神阪急ホールディングス(株)は、昨年11月に開業10周年を迎えたショッピング施設「阪急西宮ガーデンズ」(兵庫県西宮市)の大規模リニューアルを実施すると発表した。大規模リニューアルは開業以来2度目となる。
10周年事業として昨年10月1日には、本館南側に立体駐車場とクリニック店舗等を併設した「別館」を開業。次いで11月21日には、阪急西宮北口駅、今津行きホームの東側に、飲食店舗や教育・文化・保育サービスを提供する「ゲート館」を開業し、西宮北口エリアの更なる魅力向上を図ってきた。

同事業の締めくくりとして、店舗の大規模リニューアルを実施し、全259店の約3割にあたる73店舗(新規出店26店、移転・改装47店)がリニューアルオープンする。このうち、1店舗は日本初上陸、20店舗は兵庫県・西宮エリア初出店となる予定だ。

また、散歩や憩いの場として利用できる屋上庭園「スカイガーデン」には、新たに噴水周りに人工芝を敷設。夜には照明演出により新たなナイトシーンを創出することで、空間の魅力を高めていく。

リニューアルオープン第1弾は本年3月8日(金)、第2弾は3月20日(水)の予定。また、改装店舗は3月1日(金)に一部先行オープンする。

ニュース情報元:阪神阪急ホールディングス(株)

渋谷から代官山間の複合施設、9月13日第1弾オープン

東急電鉄は、東横線渋谷~代官山間の地下化によって新たに創出されたトンネル上部の線路跡地で推進する「渋谷ブリッジ(SHIBUYA BRIDGE)」の第1弾オープンを、2018年9月13日(木)に決定した。
同施設は、約600mに渡って官民連携により整備される渋谷川沿いの遊歩道の先に位置する、A棟の保育所、B棟のホテル・店舗・オフィスからなる複合施設。
A棟外観イメージ。画像:東急電鉄

A棟外観イメージ。画像:東急電鉄


B棟外観イメージ。画像:東急電鉄

B棟外観イメージ。画像:東急電鉄


第1弾オープンの9月13日には、B棟1~7階の「MUSTARD HOTEL」と、同ホテル1階に併設されるカフェ・バー・パティスリー「megan」がオープンする。同じくB棟1階に、カフェ「NO RAIL,NO RULE.(ノーレイル ノールール)」がオープン、ルーフテラスを活用したイベントを積極的に開催する。

また、2階のオフィスには、(株)博報堂ケトルが入居し、クリエイティブ関連の会社が集まるストリートオフィスとして、同施設で新しい働き方の実践やイベント開催などを行っていく。

B棟1階には今後、コネクション(株)が運営するレンタルスペースと、(株)THINK GREEN PRODUCEが新たに展開する「本格カレーと気の利いた季節の小料理」をコンセプトにした飲食店の2店舗が、2018年内に順次営業を開始する。A棟の保育所「渋谷東しぜんの国こども園 small alley」は、10月1日(月)に開園予定。

【施設概要】
●住所:(A棟)東京都渋谷区東一丁目29番1号、(B棟)東京都渋谷区東一丁目29番3号
●用途:(A棟)保育所、(B棟)ホテル・事務所・店舗
●延床面積:(A棟)1,282m2、(B棟)4,370m2
●階数:(A棟)地上3階、(B棟)地上7階
●高さ:(A棟)約15m、(B棟)約26m

ニュース情報元:東急電鉄