賃貸住宅でトラブルを避けたい人必見!東京都の資料が「使える」理由

東京都では、都の条例や法律の改正を受けて、賃貸住宅のトラブル防止ガイドラインを改訂した。あわせて、ガイドラインの概要を記載したリーフレットの改訂版も作成したのだが、このリーフレットがけっこう優れものなのだ。賃貸住宅でトラブルに遭わないようにするためにどうしたらよいか、具体的な情報が掲載されている。どんな内容なのか見ていこう。【今週の住活トピック】
『賃貸住宅トラブル防止ガイドライン』第3版を作成/東京都東京都の賃貸住宅紛争防止条例やトラブル防止ガイドラインとは?

東京都は「賃貸住宅紛争防止条例」を制定している。条例とは、国の法令の下で地方公共団体が独自に制定する法のこと。「賃貸住宅紛争防止条例」の施行にあわせて『賃貸住宅トラブル防止ガイドライン』を作成し、都民や不動産関係者への普及啓発にも努めている。

2017年10月にこの条例を改正したことや、国が宅地建物取引業法や民法※を改正したことを受けて、ガイドラインの第3版を作成した。これに応じて、東京都がリーフレットの『賃貸住宅紛争防止条例&賃貸住宅トラブル防止ガイドライン』の改訂版も作成した。
※民法の改正は、2020年4月に施行予定

では、賃貸住宅紛争防止条例とはどういうものだろうか?

賃貸住宅で多いトラブルは、貸主と借主の間でどちらが費用を負担するのか、というトラブルだ。特に、借主が退去するときの「原状回復」費用を、借主負担として敷金が返ってこないとか、追加の費用を請求されたといったトラブルが多い。

そこで、裁判の判例などを基に、国土交通省が「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を作成したり、東京都がガイドラインを作成したりして、どちらが負担すべきか明示した。年月の経過とともに自然に発生する「経年劣化」と日常生活で生じる「通常損耗(そんもう=使って減ること)」については「貸主の負担」というのが、これらのガイドラインの線引きだ。

東京都のガイドラインでは、さらに「入居期間中の必要な修繕は、貸主が行うことが原則」と明示している。つまり、居住中に故意や過失、あるいは通常とは異なる使用をして、損耗したり補修が必要な状態にしたりした場合だけ、「借主の負担」ということだ。ただし、契約時に「特約」を付けて、一部を借主負担とすることも可能だ。

東京都の条例では、これらの原状回復や入居中の修繕について、仲介や代理を行う不動産会社が賃貸借契約前に重要事項として説明することなどを義務付けている。

また、入居中に共用部分や専用部分の設備などで不具合が生じて修繕が必要となった場合、すぐに連絡できるようにしておくことが大切なため、それぞれの連絡先をあらかじめ説明することを求めている。
不動産会社自らが所有物件を賃貸して管理する場合、重要事項説明の義務がないのだが、東京都の条例ではこのケースにおいても説明の必要があるとしている。

東京都のリーフレットの優れどころ(1)どちらの費用負担か図解で説明

東京都が普及啓発のために作成したリーフレットでは、最初に都の条例について説明しているが、その大半は、
退去時の原状回復と入居中の修繕に関するガイドラインの説明となっている。費用負担の考え方だけでなく、過去の相談事例や具体的にどの部位をどちらが負担するのかなど、図解入りで分かりやすく説明している。

例えば、原状回復における壁(クロス)の補修については、日差しによる変色や電気ヤケといわれる冷蔵庫の後部にできる黒ズミ、画びょうの穴など通常の使用によるものは「貸主負担」だが、タバコのヤニによる変色や臭いの付着、落書きや大きなネジ穴などは「借主負担」とすることなど、具体的に図や表で整理をしているので、とても分かりやすくなっている。

また、ネジ穴などによる一定箇所のクロスの張り替えを借主が負担する場合でも、色合わせのために他の古いクロスの張り替え費用すべてを負担する必要はないといったことも整理されている。

●「賃貸住宅紛争防止条例&賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」の目次より「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」に関して抜粋
○賃貸住宅トラブル防止ガイドライン
1 退去時の復旧
(1)建物価値の減少の考え方
(2)「原状回復」とは
(3)善管注意義務(善良なる管理者の注意義務)とは
(4)経過年数の考え方
(5)借主の負担割合
(6)特約
2 入居中の修繕
(1)貸主の義務と借主の費用負担
(2)小規模な修繕の特約
(3)修繕等の連絡東京都のリーフレットの優れどころ(2)入居前から退去時までの注意点も紹介

このリーフレットの優れどころは、さらに「賃貸住宅の契約と住まい方の注意事項」にまで及んでいることだ。

例えば、契約前にしっかり説明を聞いて、納得してから契約すること。原状回復の費用負担でトラブルにならないように、入居時にキズや汚れがないか、設備機器などに不具合はないかをきちんとチェックしておくこと(その際に「物件状況確認書」などを作成しておくとよい)。入居中に修繕が必要となった場合にすぐに連絡すること。などが分かりやすくまとめられている。

●「賃貸住宅紛争防止条例&賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」の目次より「賃貸住宅の契約と住まい方の注意事項」に関して抜粋
1 契約から入居前
(1)事前説明はわかるまで確認を
(2)特約には注意を
(3)入居時の物件確認はしっかりと
2 入居中
(1)修繕等の連絡はこまめに
(2)入居中のマナーを守り快適に
3 退去時
(1)退去予告は何日前?契約書で確認を
(2)明渡しはきれいに!大家さんに迷惑をかけないで
(3)退去時の物件確認もしっかりと
(4)納得できない点は話し合いを

ほかに、トラブルになってしまった場合の相談窓口なども紹介しており、賃貸住宅を借りる人には、ぜひ目を通しておいてほしい、役立つ資料となっている。

賃貸借契約は、貸主と借主の合意によって契約が成立するものだ。そのため、これまで説明してきた一般的なルールを前提としながらも、個別のルールを「特約」として付けることが可能だ。

例えば、防犯上の理由から入居ごとに鍵を交換するので「鍵交換費用は借主負担とする」といった特約を付けることもある。特約の必要性があって暴利的でないなどの場合、双方で合意すれば特約は有効とされる。

ガイドラインはあくまで一般的な事例なので、契約書の内容をよく理解して納得した上で、それぞれ契約を結ぶようにしてほしい。

●参考:東京都の「賃貸住宅紛争防止条例&賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」
改訂版リーフレットをダウンロードできる東京都都市整備局のサイト

住まいのトラブル調査【賃貸編】 敷金が戻ってこない… 退去時に起こるトラブル事例を公開!

賃貸契約が終了して次の住まいへ引越しが済むまでは、何事もなく気持ちよく終わりたいものです。今回は、退去時の具体的なトラブル内容や、その回避法などを紹介します。現在賃貸住宅に住んでいる人にも必見の内容です。
退去時のトラブルは「敷金の返金について」が多い

前回の調査で、賃貸物件で居住中に次いで多いことが分かった退去時のトラブル。いったいどんなことでトラブルになっているのでしょうか。

結果は「敷金の返金について」(70.3%)と「原状回復について」(56.8%)が多いと分かりました。この2つに関して回答した人数はそれほど多くはありませんでしたが、その中で、「敷金よりオーバーしてしまい、経済的な負担があった」(47.1%)と回答した人が「敷金でカバーできる範囲内だった」(35.3%)を上回る結果となりました。

賃貸物件を借りる際には、敷金や礼金を支払うことがほとんど。しかし、借主がその物件を退去する際に、貸主が原状回復するためのクリーニングや壁紙の張り替えなどを行った結果、敷金が返金されないといったトラブルになるようです。そもそも、借主が普通に部屋を使用していた場合に生じる経年劣化や損耗は貸主負担。借主の故意や過失、通常の使用方法に反するなどで生じた傷や損耗は借主が負担することと決められています。この消耗と故意や過失の境界線が曖昧(あいまい)なのがトラブルの元なのかもしれません。

退去時の敷金問題は7割もの人が経験している(出典/SUUMOジャーナル編集部)

退去時の敷金問題は7割もの人が経験している(出典/SUUMOジャーナル編集部)

「特に経済的な負担は生じなかった」のはわずか23.5%だった(出典/SUUMOジャーナル編集部)

「特に経済的な負担は生じなかった」のはわずか23.5%だった(出典/SUUMOジャーナル編集部)

また、「敷金よりオーバーしてしまい、経済的な負担があった」人は、「5万円以上」の負担が43.8%でトップ、「3万円以上~5万円未満」が25.0%で続きました。通常の使用で起こる消耗は借主の費用負担にはならないことを考えれば、5万円以上の負担はかなり大きいと言えます。

3万円以上負担した人は全体の約7割という結果に(出典/SUUMOジャーナル編集部)

3万円以上負担した人は全体の約7割という結果に(出典/SUUMOジャーナル編集部)

退去時のトラブルの具体的な内容は、以下のようなものがありました。

・入居前からの汚れなども原状回復と言われ、料金を請求された(42歳・女性)
・10年暮らしていた。タバコ禁止と契約書には記載なかったが、ヤニは居住者の過失と言われ敷金以上の金銭を求められた(47歳・女性)
・必要以上のハウスクリーニング代金を請求されたが、簡易裁判を起こすと言ったらお金が逆に返ってきた(45歳・男性)
・入居時に鍵の交換代を支払っているにも関わらず、退去時にも鍵の交換代金を請求された(43歳・男性)
・入居時から汚れがあった畳の入れ替え料金を請求された(48歳・男性)
・取り壊しが決まっていた物件なのに、原状回復を言われた(42歳・男性)
・設備品の処分費を負担させられた(41歳・女性)

トラブルを回避するために……「入居時に部屋をチェック」「内見は必須」など

次に、日ごろトラブルに巻き込まれないように気を付けていることがあるか聞いたところ、「気をつけていることがある」と回答した人が6割を超え、トラブル回避のための注意を払っている人が多いことが分かります。

トラブル防止のために、日ごろから気を付けていることがある人は6割を超え、意識の高さがうかがえる(出典/SUUMOジャーナル編集部)

トラブル防止のために、日ごろから気を付けていることがある人は6割を超え、意識の高さがうかがえる(出典/SUUMOジャーナル編集部)

気を付けていることとしては、「入居時に室内の状態をよくチェックしておく」(54.4%)、「必ず内見をしてから契約をする」(44.6%)、「契約書の内容をよく読む」(37.8%)、「インターネットなどで、よくあるトラブル事例を調べておく」(32.1%)などが並びました。

入居前に、室内に既にある傷や消耗などは写真に撮る、契約書にある内容を読み込むなど、トラブルを避けるために事前に出来ることはたくさんあります。インターネットでトラブル事例を調べておくのも、トラブル回避には有効だと言えるでしょう。

退去時の敷金問題を考えると、入居前の内見や室内の状態チェックは必須と言える(出典/SUUMOジャーナル編集部)

退去時の敷金問題を考えると、入居前の内見や室内の状態チェックは必須と言える(出典/SUUMOジャーナル編集部)

今回の調査で、居住中だけでなく、退去時にもトラブルが発生していることが分かりました。そして、「敷金よりオーバーしてしまい、経済的な負担があった」人は約5割にのぼります。

戻ってくるはずの敷金が戻ってこないばかりか、経済的負担があるのは避けたいもの。そのためには、居住中に部屋をきれいに使用することはもちろんですが、入居前に既に室内にある傷や汚れをチェックしておいたり、過去のトラブル事例を調べて回避法を知っておくなど、事前に出来ることはしておいたほうがよさそう。不当に経済的な負担を負うことがないよう、必要な知識は身に付けておきたいものですね。

●調査概要
・[住まいのトラブル調査 賃貸編]より
・調査期間:2018年3月8日~9日
・調査方法:インターネット調査(ネオマーケティング)
・対象:全国の賃貸住宅にお住まいの18歳~49歳の方
・有効回答数:男女300名