料理家のキッチンと朝ごはん[4]後編 男性料理家が選ぶ! 男前で機能性も高い調理器具ベスト5

トライアスロン世界選手権の日本代表でもあるアスリートらしい機敏な動きと、3つの店舗の経営者として自ら厨房に立つ料理人らしい習熟した手つきで、タンパク質がたっぷり取れる朝ごはんをつくってくれた料理家のYOSHIROさん。今回は、愛用している調理器具についてお聞きしました。【連載】料理家のキッチンと朝ごはん
料理研究家やフードコーディネーターといった料理のプロは、どんなキッチンで、どんな朝ごはんをつくって食べているのでしょうか? かれらが朝ごはんをつくる様子を拝見しながら、おいしいレシピを生み出すプロならではのキッチン収納の秘密を、片づけのプロ、ライフオーガナイザーが探ります。統一感のある男前キッチンのテーマカラーは、白・黒・シルバー

「白」は、大きなスペースを占める収納家具やカーテン。「シルバー」は、スチールラックや調理道具。「黒」は、トレーニング用品やカメラ機材。3色のテーマカラーでまとめられたYOSHIROさんのキッチンは、全体的にかっこいい雰囲気です。けれども、自宅のキッチンに立つのはご自身ばかりではありません。奥様もよく料理をされるのだとか。

「見た目がシンプルでかっこいいし、水や汚れに強くてガンガン使えるから」という理由でスチールラックが好きなのだそうです。「自宅だけでなくお店でも使っています」(写真撮影/相馬ミナ)

「見た目がシンプルでかっこいいし、水や汚れに強くてガンガン使えるから」という理由でスチールラックが好きなのだそうです。「自宅だけでなくお店でも使っています」(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

ご夫妻そろって料理だけでなくインテリアもお好きで、それぞれ食器を買い集めたり、花を飾ったりするそうです。ふたりでものを持ち寄っても空間に統一感があるのは、テーマカラーがしっかりしているからだけではありません。お話をお聞きしていると、「もの選びに対する軸がブレていない」気配を強く感じました。

スチールラックの隣にニトリの本棚を2つ並べ、たくさんある料理本を収納。グルメマンガも大好きでよく読むというYOSHIROさん一番の愛読書は『クッキングパパ』(写真撮影/相馬ミナ)

スチールラックの隣にニトリの本棚を2つ並べ、たくさんある料理本を収納。グルメマンガも大好きでよく読むというYOSHIROさん一番の愛読書は『クッキングパパ』(写真撮影/相馬ミナ)

そんなYOSHIROさんに、かっこいいだけでなく機能性も高い「愛用の調理器具ベスト5」をご紹介いただきました。

見た目がいいだけじゃない!機能性も大満足の調理器具ベスト5

1つめの愛用品は、マイヤーのフライパンと両手鍋。アメリカの調理器具メーカーとして数多くのラインナップを誇るマイヤーですが、YOSHIROさんが特に気に入っているのはハイエンドシリーズ「アナロン ヌーヴェルカッパー」のフライパンと「サーキュロン クール」の両手鍋。

銀に次いで熱伝導率が高い銅を使ったフライパンは、プロの料理人にも愛用者が多いそうです。「アナロン ヌーヴェルカッパー」の底面は銅を挟んだ多層構造、内面は耐久性の高いテフロンコーティング(写真撮影/相馬ミナ)

銀に次いで熱伝導率が高い銅を使ったフライパンは、プロの料理人にも愛用者が多いそうです。「アナロン ヌーヴェルカッパー」の底面は銅を挟んだ多層構造、内面は耐久性の高いテフロンコーティング(写真撮影/相馬ミナ)

内面に渦巻き状の凹凸があるため、肉や魚を加熱すると余分な脂や水分が溝に流れ出て、パリッとした仕上がりに。世界でも限られたメーカーしか取り扱いのない高品質のコーティングが施されているため、お手入れもラク(写真撮影/相馬ミナ)

内面に渦巻き状の凹凸があるため、肉や魚を加熱すると余分な脂や水分が溝に流れ出て、パリッとした仕上がりに。世界でも限られたメーカーしか取り扱いのない高品質のコーティングが施されているため、お手入れもラク(写真撮影/相馬ミナ)

「いずれも耐久性と熱伝導性に優れていて家庭で使われることもありますが、機能性に加えて持ったときの重厚感があることからプロの現場で使われていることも多いです。 女性だと少し重いと感じる方もいるかもしれませんが、その場合は少し小ぶりなサイズにするとフライパンをあおったりもしやすいと思います。あおるシーン以外だと食材にじっくり火を通して旨味を引き出すような使い方もいいですね」

チョッパーを使って野菜をみじん切りにする場合、野菜から出る水分量に要注意。「チョッパーで大根おろしもつくれますがべちゃっとしてしまうから、手でおろしたほうがおいしいんですよ。食材によって使い分けています」(写真撮影/相馬ミナ)

チョッパーを使って野菜をみじん切りにする場合、野菜から出る水分量に要注意。「チョッパーで大根おろしもつくれますがべちゃっとしてしまうから、手でおろしたほうがおいしいんですよ。食材によって使い分けています」(写真撮影/相馬ミナ)

2つめは上の写真手前、クイジナートの「スリム&ライト マルチハンドブレンダー」。1台で「つぶす・混ぜる」「切る・刻む」「泡立てる」の3役をこなす多機能ハンドブレンダーです。YOSHIROさんは主に肉をミンチにするため、チョッパーアタッチメントを使用することが多いそう。「店でも、同じクイジナートの業務用フードプロセッサーを使っていますが、やっぱり丈夫でパワーがある。信頼できるブランドです」

3つめは上の写真奥、パナソニックの密封パック器「ハイシール」。専用袋に食材を入れて本体にセットすると、脱気して真空状態にしてくれます。食材の酸化や乾燥・湿気を防止するため、食品の保存に使われることが多いのですが、YOSHIROさんはこれを調理に使っているのだとか。「例えば煮豚をつくる場合、袋の中に肉と調味料を加えてパックし、そのまま低温の湯煎で煮込むんです。真空なので旨みを逃さず、ムラなく加熱できるから、ほろほろに柔らかく、しっかり味の染みた煮豚が簡単にできますよ。調味料も最小限で済みます」

愛用品の特徴や使い方を楽しそうに、詳しく解説してくれる姿から、ひとつひとつのものに対する「愛」を感じました(写真撮影/相馬ミナ)

愛用品の特徴や使い方を楽しそうに、詳しく解説してくれる姿から、ひとつひとつのものに対する「愛」を感じました(写真撮影/相馬ミナ)

美味しいものを食べるだけでなく、美味しいお酒を飲むのも大好きだというYOSHIROさん。ソムリエ(ANSA)やきき酒師の資格を保有するはもちろんのこと、きき酒師の上位資格である日本酒学講師の試験に当時史上最年少で合格したという記録の持ち主です。「ワインや日本酒だけでなく、ハイボールやチューハイも好きで、毎晩必ず晩酌してます(笑)」

そんなYOSHIROさん愛用の調理道具、4つめはソーダストリームの炭酸メーカー「Source Power」。ボタンひとつで炭酸水がつくれる全自動モデルです。「飲むお酒に合わせて、簡単に強炭酸、中炭酸、弱炭酸が選択できます」

専用のガスシリンダーを本体にセットしてボタンを押すだけで、普通の水をわずか数秒で炭酸水にできます。こちらは、プラダの香水ボトルなども手掛けるプロダクトデザイナー、イヴ・ベアール氏との共同開発モデル(写真撮影/相馬ミナ)

専用のガスシリンダーを本体にセットしてボタンを押すだけで、普通の水をわずか数秒で炭酸水にできます。こちらは、プラダの香水ボトルなども手掛けるプロダクトデザイナー、イヴ・ベアール氏との共同開発モデル(写真撮影/相馬ミナ)

料理するときに音楽が欠かせないYOSHIROさんにとって、スピーカーはもはや調理道具のひとつ?! ということで、愛用品5つめはBoseのポータブルスピーカー「SOUNDLINK REVOLVE BLUETOOTH SPEAKER」。ワイヤレス再生できるうえ防滴仕様なので、テラスに持ち出して音楽を楽しむこともあるそうです。

意外なことに、「自宅でも店でも、かけているのは90年代のJ-POPです。お客さんに『聴いていると、つい歌っちゃう~』と言われます(笑)」

このとき部屋に流れていたのは、織田哲郎作詞・作曲、相川七瀬が歌う『夢見る少女じゃいられない』でした。思わず歌っちゃうお客さんの気持ちがよく分かります(写真撮影/相馬ミナ)

このとき部屋に流れていたのは、織田哲郎作詞・作曲、相川七瀬が歌う『夢見る少女じゃいられない』でした。思わず歌っちゃうお客さんの気持ちがよく分かります(写真撮影/相馬ミナ)

簡単におしゃれ&美味しいを手に入れたい人に捧げる番外編!

最後に“番外編”として、「あまり料理はしないけれど、キッチンを素敵にしたい」「料理は苦手だけれど、手軽に美味しいものが食べたい」という、私のような人におすすめのものを聞いてみました。

1つめは、「香りがサイコー」だというミセスメイヤーズ クリーンデイの洗剤です。オープンキッチンに生活感のある洗剤を置いてしまうと、リビングから丸見えになって残念な印象になってしまいます。けれども、この洗剤はむしろ積極的に出しっ放しにしたくなるおしゃれなデザイン。「食器を洗ったり、カウンターを拭いたりするたびにいい香りがして癒やされます」

香りのラインナップはラベンダー、レモンバーベナ、バジル、ハニーサックルの4種類。食器用洗剤、クリーナーのほか、食洗機用洗剤やスクラブクレンザーなどもあるため、トータルで香りを楽しめます(写真撮影/相馬ミナ)

香りのラインナップはラベンダー、レモンバーベナ、バジル、ハニーサックルの4種類。食器用洗剤、クリーナーのほか、食洗機用洗剤やスクラブクレンザーなどもあるため、トータルで香りを楽しめます(写真撮影/相馬ミナ)

「手軽におつまみをつくりたいなら、缶詰を活用してみてください」。なかでも扱いやすく美味しいのが、魚の缶詰。「例えばオイルサーディンだったら、ニンニクをすりおろして醤油をひと回しして、缶ごとトースターで焼くだけで、おつまみ完成です。缶詰なら魚の骨まで丸ごと食べられるから、カルシウムも取れますよ」

特に「缶つま」と「ラ・カンティーヌ」のシリーズにはハズレがなく、お気に入りだそうです。アスリートだけでなく、成長期のお子さんやダイエット時の補助食として、ケンミンの「高タンパクめん」も便利(写真撮影/相馬ミナ)

特に「缶つま」と「ラ・カンティーヌ」のシリーズにはハズレがなく、お気に入りだそうです。アスリートだけでなく、成長期のお子さんやダイエット時の補助食として、ケンミンの「高タンパクめん」も便利(写真撮影/相馬ミナ)

運動する人のタンパク質摂取におすすめなのは、プロテイン。「ぼくが愛飲しているのはDNSの『ホエイプロテインG+』。チョコレート味がイチオシです。体にいいと分かっていても美味しくないと続かないので、味も大事です」。本物のアスリートが言うと説得力があります。

料理家として活躍するYOSHIROさんですが、アスリートとしての次の大きな目標は2019年9月、スイスのローザンヌで行われるトライアスロン世界選手権だそうです。日本代表として出場予定で、日々トレーニングに邁進中。YOSHIROさんの爽やかな笑顔がローザンヌでも見られることを、取材チーム一同、心より応援しております!

●取材協力
YOSHIROさん HP
神奈川県生まれ。和食料理人である父の影響で、幼少期から実家の店舗で料理の基礎を学ぶ。専修大学卒業後、日本食研(株)に入社。退職後は日本料理店での店長勤務を経て、料理家として独立。世田谷区経堂の「凧」など3店舗を経営するほか、トライアスロン世界選手権の日本代表として「食 ✕ 健康 ✕ スポーツ」を普及する活動も行う。著書に『燃やすおかず つくりおき』(学研プラス)、『BRUNOの絶賛ホットプレートごはん』(宝島社)など。

料理家のキッチンと朝ごはん[4]前編 アスリート料理家・YOSHIROさんの筋肉をつくるスクランブルエッグ

料理家ながら、トライアスロンの国内大会で優勝するほどの実力をもつYOSHIROさん。「食 ✕ 健康 ✕ スポーツ」を普及する活動を精力的に行うだけでなく、現役アスリートとしての実績も評価されています。そんなYOSHIROさんに朝ごはんについて伺いました。【連載】料理家のキッチンと朝ごはん
料理研究家やフードコーディネーターといった料理のプロは、どんなキッチンで、どんな朝ごはんをつくって食べているのでしょうか? かれらが朝ごはんをつくる様子を拝見しながら、おいしいレシピを生み出すプロならではのキッチン収納の秘密を、片づけのプロ、ライフオーガナイザーが探ります。開放的で明るいアイランドキッチンが住まい選びの決め手に

昨年8月に引越してきたばかりだというYOSHIROさん。今年5月1日に「令和婚」され、現在は夫婦おふたりで1LDKのマンションにお住まいです。

玄関から廊下を抜けた先に広がるリビングの主役は、開放的なアイランドキッチン。YOSHIROさんは、「コンパクトな部屋ですが、キッチンが大きくて明るいところが気に入っています」

リビングの片隅には本格的なトライアスロンバイクのほか、YouTubeの動画チャンネル「Cooking Athlon(クッキングアスロン)」用の撮影機材も。壁に飾ったIKEAのアートプラント「FEJKA(フェイカ)」が爽やかな印象(写真撮影/相馬ミナ)

リビングの片隅には本格的なトライアスロンバイクのほか、YouTubeの動画チャンネル「Cooking Athlon(クッキングアスロン)」用の撮影機材も。壁に飾ったIKEAのアートプラント「FEJKA(フェイカ)」が爽やかな印象(写真撮影/相馬ミナ)

YOSHIROさんの家の間取り

YOSHIROさんの家の間取り

今回、お教えいただくのは「ソーセージとチーズのスクランブルエッグ」。アスリートにとって重要な栄養素であるタンパク質を、朝からしっかり摂取できるレシピです。

トライアスリートの肉体をつくる! チーズ入りスクランブルエッグ

用意するもの(1人分)
・ソーセージ2本
・卵2個
・プチトマト(お好みで)
・しめじ(お好みで)
・ベビーチーズ1個(1センチ角にカット)
・オリーブオイル 大さじ1
・塩、こしょう 少々

今回はチョリソーとベビーチーズを使っていますが、それぞれお好みのものを選んでOK。より高タンパクな魚肉ソーセージや、切らずに使えるピザ用シュレッドチーズを使っても(写真撮影/相馬ミナ)

今回はチョリソーとベビーチーズを使っていますが、それぞれお好みのものを選んでOK。より高タンパクな魚肉ソーセージや、切らずに使えるピザ用シュレッドチーズを使っても(写真撮影/相馬ミナ)

材料をひととおり準備したら、アイランドキッチン背面のスチールラックにS字フックで引っ掛けたフライパンを手にとるYOSHIROさん。体の向きをキッチン側にさっと戻してフライパンをコンロに置き、熱し始めます。

天井近くまであるスチールラックを2台ならべ、キッチンツールや食器を配置。ものを持つたびに盛り上がる、YOSHIROさんの前腕の腕橈骨筋に歓声をあげる取材班(全員女子)。騒がしくてすみません(写真撮影/相馬ミナ)

天井近くまであるスチールラックを2台ならべ、キッチンツールや食器を配置。ものを持つたびに盛り上がる、YOSHIROさんの前腕の腕橈骨筋に歓声をあげる取材班(全員女子)。騒がしくてすみません(写真撮影/相馬ミナ)

今度は左手でコンロ下の引き出しを開けてボウルを取り出し、右手でコンロ脇に置いたツールスタンドから菜箸を取り出しました。

深さのある引き出しの右側にボウルを、左側に片手鍋をスタッキングして収納しています。手前の隙間には、鍋の蓋とまな板を立てて収めているため、それぞれ出し入れしやすそうです(写真撮影/相馬ミナ)

深さのある引き出しの右側にボウルを、左側に片手鍋をスタッキングして収納しています。手前の隙間には、鍋の蓋とまな板を立てて収めているため、それぞれ出し入れしやすそうです(写真撮影/相馬ミナ)

よく使う菜箸やターナー、木ベラなどのキッチンツール類は、コンロ脇に出しっ放しにして取り出しやすく。ツールスタンドとしてガラス製のメジャーカップを使っているため、汚れが気になったらさっと洗えます(写真撮影/相馬ミナ)

よく使う菜箸やターナー、木ベラなどのキッチンツール類は、コンロ脇に出しっ放しにして取り出しやすく。ツールスタンドとしてガラス製のメジャーカップを使っているため、汚れが気になったらさっと洗えます(写真撮影/相馬ミナ)

ボウルに卵を割り入れ、菜箸を使ってさっくり混ぜます。

とろっとした食感に仕上げたい場合は、卵白のコシが残るくらいに軽く混ぜるのがポイントだそうです(写真撮影/相馬ミナ)

とろっとした食感に仕上げたい場合は、卵白のコシが残るくらいに軽く混ぜるのがポイントだそうです(写真撮影/相馬ミナ)

熱しておいたフライパンにオリーブオイルを入れ、ソーセージをこんがり炒めます。焼き色がついたら弱火にして、再びぱっとスチールラックのほうを振り返り……。

使用頻度の高いお皿はスチールラックの中段に配置されていました。同一メーカーのものでなくても、形や色を合わせてスタッキングすれば、オープン収納でもすっきり見えます(写真撮影/相馬ミナ)

使用頻度の高いお皿はスチールラックの中段に配置されていました。同一メーカーのものでなくても、形や色を合わせてスタッキングすれば、オープン収納でもすっきり見えます(写真撮影/相馬ミナ)

ラックから平皿を取ってキッチンカウンターに置いたら、ソーセージをフライパンから取り出して、お皿に移します。

ソーセージの美味しさを引き出すコツは、少し焦げ目がつくまでじっくり焼くこと。弱火で4~5分、菜箸で転がしながら焼き付けます。「ソーセージから肉汁が滲み出てきたら焼き上がりです」(写真撮影/相馬ミナ)

ソーセージの美味しさを引き出すコツは、少し焦げ目がつくまでじっくり焼くこと。弱火で4~5分、菜箸で転がしながら焼き付けます。「ソーセージから肉汁が滲み出てきたら焼き上がりです」(写真撮影/相馬ミナ)

ソーセージを炒めたフライパンにプチトマトとしめじを入れて軽く炒め、塩こしょうします。

ソーセージと具材は火の通る時間や付けたい焦げ目の度合いが違うので、別々に炒めるのが大事。ソーセージを焼いた油をそのまま使えば、具材にソーセージから溶け出した旨味や香りが移って美味しさアップ(写真撮影/相馬ミナ)

ソーセージと具材は火の通る時間や付けたい焦げ目の度合いが違うので、別々に炒めるのが大事。ソーセージを焼いた油をそのまま使えば、具材にソーセージから溶け出した旨味や香りが移って美味しさアップ(写真撮影/相馬ミナ)

全体に油がまわってミニトマトとしめじがくたっとしたら、卵を溶いたボウルにチーズを加えて軽く混ぜ……。

ひとつの動作と同時に次の工程の準備を進めるため、流れるようにスムーズに動くYOSHIROさん。細かい質問に笑顔で丁寧に答えながらも、まったく手が止まらないのがすごい(写真撮影/相馬ミナ)

ひとつの動作と同時に次の工程の準備を進めるため、流れるようにスムーズに動くYOSHIROさん。細かい質問に笑顔で丁寧に答えながらも、まったく手が止まらないのがすごい(写真撮影/相馬ミナ)

フライパンにじゅわわっと卵液を流し込み、菜箸でぐるぐるっと大きくかき混ぜます。

卵を入れたら火を強めます。ここからは時間との勝負。必ず側にお皿を用意しておいてください(写真撮影/相馬ミナ)

卵を入れたら火を強めます。ここからは時間との勝負。必ず側にお皿を用意しておいてください(写真撮影/相馬ミナ)

「あっという間に卵に火が通るので、強火で10秒くらいを目安に仕上げてくださいね」(写真撮影/相馬ミナ)

「あっという間に卵に火が通るので、強火で10秒くらいを目安に仕上げてくださいね」(写真撮影/相馬ミナ)

スクランブルエッグをお皿に盛り付けたら、仕上げに塩、こしょうをお好みでパラリ。

ソーセージとチーズの塩分が入っているため、仕上げの塩は控えめに。「黒こしょうはぜひ挽きたてを使ってください。香りがまったく違いますよ」(写真撮影/相馬ミナ)

ソーセージとチーズの塩分が入っているため、仕上げの塩は控えめに。「黒こしょうはぜひ挽きたてを使ってください。香りがまったく違いますよ」(写真撮影/相馬ミナ)

最後にお皿のフチに粒マスタードを添えたら、完成です!

レース前など、YOSHIROさんご自身は炭水化物の摂取を制限されるそうですが、「一般のご家庭で朝食に出すなら、クロワッサンなどのパンを添えるといいですね」(写真撮影/相馬ミナ)

レース前など、YOSHIROさんご自身は炭水化物の摂取を制限されるそうですが、「一般のご家庭で朝食に出すなら、クロワッサンなどのパンを添えるといいですね」(写真撮影/相馬ミナ)

この日はとても天気がよかったので、テラスで朝食を取ることに。テラスに出るドアの脇に置いたスチールワゴンからクロスとカトラリーを取り出して、テーブルに運びます!

スチールワゴンにダイソーの「アルティメットコンテナ」を乗せてキッチン雑貨を収納。最上段から順に、クロス類、スパイス類、カトラリー類、食品のストック類。整然と分類されていました(写真撮影/相馬ミナ)

スチールワゴンにダイソーの「アルティメットコンテナ」を乗せてキッチン雑貨を収納。最上段から順に、クロス類、スパイス類、カトラリー類、食品のストック類。整然と分類されていました(写真撮影/相馬ミナ)

カトラリーを収めたコンテナの中はボックスで細かく仕切り、お箸や木製カトラリー、ナイフ&フォークのセットなどをアイテムごとに収納(写真撮影/相馬ミナ)

カトラリーを収めたコンテナの中はボックスで細かく仕切り、お箸や木製カトラリー、ナイフ&フォークのセットなどをアイテムごとに収納(写真撮影/相馬ミナ)

あんなにイヤだと思っていた料理の世界に飛び込んだ理由は……

つくり慣れた朝食だったこともあるとは思いますが、キッチンでのYOSHIROさんの動きはとにかく機敏で、つくり始めてから完成までがあっという間でした。料理家であるだけなく、3つの店舗を経営し、自ら料理人として厨房に立つこともあるというから、手際がいいのは当然のことかもしれませんね。

われわれにレシピの説明をしてくれるときは優しい料理の先生ですが、味見をするときの鋭い目つきはプロの料理人、重いフライパンを持つときに盛り上がる上腕二頭筋はさすがアスリート!の貫禄がありました(写真撮影/相馬ミナ)

われわれにレシピの説明をしてくれるときは優しい料理の先生ですが、味見をするときの鋭い目つきはプロの料理人、重いフライパンを持つときに盛り上がる上腕二頭筋はさすがアスリート!の貫禄がありました(写真撮影/相馬ミナ)

ところで、お父様が和食料理人だというYOSHIROさんですが、大学卒業後は営業職で一般企業に勤められていたとのこと。そのまま家業を継ぐという選択をしなかった理由は何なのでしょうか?

「毎日帰りが夜遅い、店が休めず学校の授業参観には来られない。そんな父の姿を幼いころから見てきて、子ども心に料理人なんかイヤだと思っていたんですよ(笑)。大学を出てサラリーマンになるんだと意気込んで希望の会社に入ったのですが、入社式当日に東日本大震災が起こって式は延期になりました。いろんな意味で、今でも忘れられない1日です。

後日、有給を使って被災地を訪れ、ボランティアとして多くの人と接するうちに、改めて自分にできることは何なのかと自問自答するようになって……。悩んだ末、自分にできるのは見よう見まねで父から学んだ料理だと行き着いたんです。あんなにイヤだと思っていたのに、結局父と同じ、料理の世界に飛び込むことになりました」。爽やかな笑顔で、そう語ってくれたYOSHIROさん。

その後、活躍の場は料理の世界だけにとどまらず、2015年には農林水産省・JICAの共同事業に参画し、日本食文化を世界に発信する活動にも携わった経験も。現在はパラ卓球ナショナルチームの公認フードアドバイザーにも就任し、2020年の東京パラリンピックで選手と共にメダル獲得を目指しています。「食」を軸に活躍の場を広げるYOSHIROさんの今後に、これからも目が離せませんね。

次回は、かっこいいインテリアとしても楽しめるだけでなく機能性も高い「愛用の調理器具ベスト5」をご紹介いただく予定です!

■料理家 YOSHIROさんのキッチン

●取材協力
YOSHIROさん HP
神奈川県生まれ。和食料理人である父の影響で、幼少期から実家の店舗で料理の基礎を学ぶ。専修大学卒業後、日本食研(株)に入社。退職後は日本料理店での店長勤務を経て、料理家として独立。世田谷区経堂の「凧」など3店舗を経営するほか、トライアスロン世界選手権の日本代表として「食 ✕ 健康 ✕ スポーツ」を普及する活動も行う。著書に『燃やすおかず つくりおき』(学研プラス)、『BRUNOの絶賛ホットプレートごはん』(宝島社)など。

料理家のキッチンと朝ごはん[3]後編 ワタナベマキさんの収納と、新生活におすすめの道具5選

前回、流れるような動きで手際よく朝ごはんをつくってくださった、人気料理家のワタナベマキさん。今回は、その美しくも素早く、ムダのない動きを支えるキッチン収納のヒミツについて伺います。これから新生活をスタートする方に向けて、ワタナベさんおすすめの調理道具もご紹介いただきました。【連載】料理家のキッチンと朝ごはん
料理研究家やフードコーディネーターといった料理のプロは、どんなキッチンで、どんな朝ごはんをつくって食べているのでしょうか? かれらが朝ごはんをつくる様子を拝見しながら、おいしいレシピを生み出すプロならではのキッチン収納の秘密を、片づけのプロ、ライフオーガナイザーが探ります。自分と家族の「今」に合わせて、少しずつ形を変える暮らし方

10年前の入居時に加えて、ワタナベさんは4年前にもご自宅をリノベーションされています。

「もともとリビングの奥に和室がありました。子どもが小さいうちは和室があるほうが快適かなと考えて、当時はそのまま残したんです」とワタナベさん。実際、お子さんが小さかったころは本当によく和室を使ったそうです。けれども、お子さんが大きくなると和室を使う機会がぐんと減りました。そこで改めてリノベーションを検討し、和室をなくしてリビングを広げることにしたのだとか。

2度目のリノベーションで張り替えた、むく材のヘリンボーン床。経年で少しずつ変化した色合いが素敵。約1カ月の工期は夏休みにあわせ、家族や仕事への影響が少なくなるよう配慮したそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

2度目のリノベーションで張り替えた、むく材のヘリンボーン床。経年で少しずつ変化した色合いが素敵。約1カ月の工期は夏休みにあわせ、家族や仕事への影響が少なくなるよう配慮したそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

その際、入居時のまま使ってきたキッチンの天板も交換しました。「見た目はきれいだけれど扱いに気を使う、白い人造大理石の天板だったんです。しばらく使ってみて、プライベートと仕事の両方で、長時間キッチンに立つ私には向いていないことが分かり、水、熱、汚れにも強いステンレスの天板に入れ替えました」

将来の暮らしを先取りしすぎず、今の自分、今の家族に合わせて、段階的に住まいを整えていくことが、そのときどきの快適な暮らしを実現する秘訣なのかもしれませんね。

オープンキッチンの向かいがダイニング、手前側がリビングスペースです。ダイニング、リビングともに南向きのベランダに面しているため、とても明るく風通しのよいお住まいでした(写真撮影/嶋崎征弘)

オープンキッチンの向かいがダイニング、手前側がリビングスペースです。ダイニング、リビングともに南向きのベランダに面しているため、とても明るく風通しのよいお住まいでした(写真撮影/嶋崎征弘)

暮らしながら少しずつ形を変えてきたワタナベさんのキッチンには、どんな「使いやすさ」「美しさ」のヒントが隠されているのでしょうか。

ワタナベさんの手際のよさを支える、動線に合わせた収納計画

キッチン背面の収納スペースには、最小限の動きで必要な道具がさっと出し入れできるよう、計画的にものが配置されています。

オープン棚には、実用的で見た目も端正な鍋やカゴ、蒸篭(せいろ)といった調理道具を収納。陶器の器や木製のまな板、ガラスのケトルなどは、素材ごとにまとめることで、見た目もすっきり整います。「最下段のカウンターは手前にものを置かないようにして、作業スペースとしても使っています」というワタナベさん。

壁面の余白が多く見えるため、ものによる圧迫感がありません。トースター代わりに焼き網、炊飯器代わりに土鍋、電気ケトル代わりに鉄瓶を使うなどして、生活感の出やすいキッチン家電を持たないことも美しさの一因(写真撮影/嶋崎征弘)

壁面の余白が多く見えるため、ものによる圧迫感がありません。トースター代わりに焼き網、炊飯器代わりに土鍋、電気ケトル代わりに鉄瓶を使うなどして、生活感の出やすいキッチン家電を持たないことも美しさの一因(写真撮影/嶋崎征弘)

オープン棚の下には、左、中央、右に、それぞれ両開きの扉が付いた収納スペースがありました。左の棚には、おもにバットやボウル、ザルなどを収納。シンクに近いため、水まわりでさっと使うことができる配置です。中央の棚には、主に保存容器をまとめて収納。シンクとガスコンロの間にある作業スペースの真後ろなので、調理中、振り向くだけで容器を取り出すことができます。

腰より低い位置にある収納棚は「高さ」によってゾーニングされています。手の届きやすい上段には使用頻度の高いものを、手の届きづらい下段には使用頻度の低いものが収められていました(写真撮影/嶋崎征弘)

腰より低い位置にある収納棚は「高さ」によってゾーニングされています。手の届きやすい上段には使用頻度の高いものを、手の届きづらい下段には使用頻度の低いものが収められていました(写真撮影/嶋崎征弘)

ガスコンロに最も近い右の棚には、液体調味料をまとめています。火にかけた鍋の様子を見ながら、手早く油やしょうゆを取り出せる場所です。

最下段には使用頻度の低い調理家電を収納。右下は山本電気の精米機。「お米は玄米で買って、3日分くらいずつ精米しています。精米したてのお米はとっても美味しいんですよ」と聞いて、わが家でも同じ精米機を購入(写真撮影/嶋崎征弘)

最下段には使用頻度の低い調理家電を収納。右下は山本電気の精米機。「お米は玄米で買って、3日分くらいずつ精米しています。精米したてのお米はとっても美味しいんですよ」と聞いて、わが家でも同じ精米機を購入(写真撮影/嶋崎征弘)

奥行きが深い、もと・冷蔵庫置き場に造作された収納スペースは、上部が扉付きの棚になっています。スライドレールを使った引き出しを取り付けることで、奥のものにラクに手が届くよう工夫されていました。最も出し入れしやすい引き出しには、普段使いしている業務用の食器が収納されています。

収納スペースの下部には扉をつけず、ゴミ箱置き場に。凹みにゴミ箱を置くと目立たないうえ、調理中の動きの邪魔になりません。キッチンの床が掃除しやすくなるというメリットも(写真撮影/嶋崎征弘)

収納スペースの下部には扉をつけず、ゴミ箱置き場に。凹みにゴミ箱を置くと目立たないうえ、調理中の動きの邪魔になりません。キッチンの床が掃除しやすくなるというメリットも(写真撮影/嶋崎征弘)

「朝ごはんのときや、自宅での撮影などで大勢のスタッフに食事を出したりするときは、ここに収納している業務用のサタルニアやアラビアの食器を使います。丈夫だから気兼ねなく扱えるし、食洗機にもかけられるから、忙しいときに便利です」

一方で、作家による器のコレクションは、リビングスペースに置いた腰高の収納棚にまとめているといいます。「職業柄、器の量が多いため、分けて管理しています。夜ごはんのときや、友人とのんびり食事をするときなどは、ここからゆっくりお気に入りの器を選びます」。器というだけで、すべてキッチンの同じ場所に収納する必要はないんですね。

「最近いいなと思っているのは、伊藤聡信さんと伊藤環さんの器。どちらも丈夫で使いやすいところが気に入っています」。隣のガラス棚には、グラス類をまとめて収納。棚の上にスパイラル状に重ねられた本がかわいい(写真撮影/嶋崎征弘)

「最近いいなと思っているのは、伊藤聡信さんと伊藤環さんの器。どちらも丈夫で使いやすいところが気に入っています」。隣のガラス棚には、グラス類をまとめて収納。棚の上にスパイラル状に重ねられた本がかわいい(写真撮影/嶋崎征弘)

少しずつそろえていきたい。美しく実用性の高いキッチン道具5選

料理家として、さまざまな調理道具を使ってきたワタナベさん。最後に、これから新生活をスタートする人におすすめの道具を5つ教えていただきました。

1つめは、ビアレッティの「モカエキスプレス」。細挽きのコーヒー豆をポットに入れて直火にかけるだけで、本格的なエスプレッソが淹れられます。本体価格が数千円~とリーズナブルなうえ、小さなキッチンでも邪魔にならないコンパクトサイズなのがうれしいところ。「カフェに行かなくても、自宅で手軽に美味しいコーヒーが楽しめますよ」

高いデザイン性と実用性を評価され、ニューヨーク近代美術館「MoMA」に永久収蔵されているモカエキスプレス。ワタナベさんの夫は「自宅で淹れるコーヒーはモカエキスプレスで」と決めているそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

高いデザイン性と実用性を評価され、ニューヨーク近代美術館「MoMA」に永久収蔵されているモカエキスプレス。ワタナベさんの夫は「自宅で淹れるコーヒーはモカエキスプレスで」と決めているそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

2つめは、ワタナベさんが「これから新生活を始める人にプレゼントすることも多い」という、プジョーの電動式ペッパーミル「ゼフィア」。「コショウは挽き立ての香りが一番いいので、ぜひミルを使ってみてください。電動ミルは、料理中でも片手で挽けるのでとっても便利です」

フランスの自動車メーカーでもあるプジョーの切削加工技術を活かしてつくられた電動ミル。挽いたときにスパイスの香りが引き立つ刃(グラインダー)の構造が採用されているそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

フランスの自動車メーカーでもあるプジョーの切削加工技術を活かしてつくられた電動ミル。挽いたときにスパイスの香りが引き立つ刃(グラインダー)の構造が採用されているそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

3つめのおすすめはル・クルーゼの「ココット・エブリィ 18」。日本人のために開発された鋳物ホーロー鍋で、ごはんがとっても美味しく炊けるそうです。「専用の内蓋を使えば、炊飯時の吹きこぼれを最小限に抑えられます。小さく見えても、3合までのお米が炊けるんですよ。もちろん、炊飯だけでなく煮物にも使えます」

2Lの容量を備えながら、径を小さくして深さをもたせることで収納スペースを圧迫しないデザイン。鍋底の角を丸くすることで、熱がうまく対流するように設計されています(写真撮影/嶋崎征弘)

2Lの容量を備えながら、径を小さくして深さをもたせることで収納スペースを圧迫しないデザイン。鍋底の角を丸くすることで、熱がうまく対流するように設計されています(写真撮影/嶋崎征弘)

4つめは、前回もご紹介したタークの「クラシックフライパン」。つなぎ目のない一体型の鉄製フライパンです。「蓄熱性が高いため、食材に均一に火が通り、美味しく焼き上げられます。テーブルウェアとして使えるほど、シンプルで素敵な見た目も魅力です」

鉄の塊を高温で加熱して叩いて伸ばしていく鍛造製法でつくられるため、強度と密度が高く、耐久性が高いタークのフライパン。適切に扱えば、半永久的に使えるそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

鉄の塊を高温で加熱して叩いて伸ばしていく鍛造製法でつくられるため、強度と密度が高く、耐久性が高いタークのフライパン。適切に扱えば、半永久的に使えるそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

5つめは、ステンレス加工で有名な新潟県燕市生まれのブランド、conteによる「まかないシリーズ」のボウル、丸バット、平ザルです。「ボウルは適度な重さがあるため、食材を入れて和えたり混ぜたりしても安定しています。丸バットは単品でバットとして使ったり、ボウルと組み合わせてフタにしたり。平ザルは茹でた野菜を冷ましたり、揚げ物の油を切ったり。何通りにも使い回せますよ」

「まかないシリーズ」とは、「賄い」であると同時に「巻かない」でもあるそうです。ステンレスボウルにつきものの巻き込んだフチがないため、汚れがたまらず、清潔に使えます(写真撮影/嶋崎征弘)

「まかないシリーズ」とは、「賄い」であると同時に「巻かない」でもあるそうです。ステンレスボウルにつきものの巻き込んだフチがないため、汚れがたまらず、清潔に使えます(写真撮影/嶋崎征弘)

気持ちよく使える道具を、使い勝手よく、美しく収めたキッチン

気持ちよく使える道具を厳選し、使い勝手と見た目のバランスをとりながら配置する。……これが細部まで行き届いているのが、ワタナベさんのキッチンなのだと思います。

(左)経年変化によって魅力が増す天然素材の道具が並ぶキッチン。(右)大人シックなインテリアのところどころに、お子さんが描いた油絵の作品が飾られていました(写真撮影/嶋崎征弘)

(左)経年変化によって魅力が増す天然素材の道具が並ぶキッチン。(右)大人シックなインテリアのところどころに、お子さんが描いた油絵の作品が飾られていました(写真撮影/嶋崎征弘)

ひとことで言うと簡単に聞こえるけれど、これがとってもむずかしいことなのです。日々忙しく過ごしていると、「間に合わせ」で手に入れたものを「後で片づけよう」とあちこちに置いてしまい、気づけば扱いづらいキッチンになってしまう……。

新生活が始まる今こそ! ほかの誰でもない自分自身が気持ちよく、そして長く使える道具との出会いを大切に。そして選んだ道具をいつでも心地よく使えるよう、片づけや収納を後回しにしない。そんな習慣を身につけるのに最適なタイミングなのかもしれません。

>料理家のキッチンと朝ごはん[3]前編 ワタナベマキさんの10分でできるカリッふわっトーストと目玉焼き

●取材協力
ワタナベマキさん
神奈川県生まれ。グラフィックデザイナーを経て料理家に。2005年に「サルビア給食室」を立ち上げ、本・雑誌・広告などで体にやさしい料理や季節を感じる料理の提案、ワークショップ、ケータリングなどを行っている。夫、4月から中学生になる息子との3人暮らし。著書に『旬菜ごよみ365日: 季節の味を愛しむ日々とレシピ』(誠文堂新光社)、『何も作りたくない日はご飯と汁だけあればいい』(KADOKAWA)など多数。

料理家のキッチンと朝ごはん[3]前編 ワタナベマキさんの10分でできるカリッふわっトーストと目玉焼き

体にやさしく、おいしく、アートのように美しいひと皿をつくり出す料理家、ワタナベマキさん。料理だけでなく、インテリアやファッション、ライフスタイル全般に及ぶ、洗練されたデザインセンスにファンが多いワタナベさんに、キッチンの工夫や朝ごはんについて伺いました。【連載】料理家のキッチンと朝ごはん
料理研究家やフードコーディネーターといった料理のプロは、どんなキッチンで、どんな朝ごはんをつくって食べているのでしょうか? かれらが朝ごはんをつくる様子を拝見しながら、おいしいレシピを生み出すプロならではのキッチン収納の秘密を、片づけのプロ、ライフオーガナイザーが探ります。キッチンの全壁面をリノベーションして、大容量の収納スペースに

ワタナベさんは現在お住まいのマンションへの入居時、キッチン背面に収納棚を造作したそうです。本来、冷蔵庫を置くために奥まっていたスペースもあわせ、全壁面をリノベーションすることで、大容量の収納スペースを実現しました。

ワタナベさんが愛用している冷蔵庫は、アメリカの「GE(ゼネラル・エレクトリック)」のもの。本体だけでなく、ドアハンドルまで真っ白で余計な装飾がないところが、いかにも“プロ仕様”っぽい(写真撮影/嶋崎征弘)

ワタナベさんが愛用している冷蔵庫は、アメリカの「GE(ゼネラル・エレクトリック)」のもの。本体だけでなく、ドアハンドルまで真っ白で余計な装飾がないところが、いかにも“プロ仕様”っぽい(写真撮影/嶋崎征弘)

収納を増やすために「あえて」そのように造作したのかと思いきや、「愛用している業務用の冷蔵庫が、家庭用の冷蔵庫に合わせてつくられた既存のスペースに収まらなかったんです(笑)。それで、冷蔵庫はダイニングスペースに置き、キッチン背面はすべて収納スペースとして活用することにしました」

そう話しながら、冷蔵庫から食材を取り出して、シンク横のカウンターに置いていきます。

冷蔵庫を開けても、ダイニングテーブル側からは中が見えない配置。ワタナベさんは右利きなので、冷蔵庫を右手で開け→左手で中のものを取り出し→その手で作業スペースに置く、という一連の流れもスムーズ(写真撮影/嶋崎征弘)

冷蔵庫を開けても、ダイニングテーブル側からは中が見えない配置。ワタナベさんは右利きなので、冷蔵庫を右手で開け→左手で中のものを取り出し→その手で作業スペースに置く、という一連の流れもスムーズ(写真撮影/嶋崎征弘)

キッチン側に移動したら、今度は背面カウンターに置かれたカゴからパンをさっと取り出しました。……え? もしや、もうすでに本日の朝ごはんづくりはスタートしている? ワタナベさんの流れるように自然な動きに、取材スタッフ一同、油断しました。

通気性のよいカゴは、食材の一時置きスペースに最適。編み目の大きな六つ目のカゴでも、ほどよく中に入れたものを隠す効果があります(写真撮影/嶋崎征弘)

通気性のよいカゴは、食材の一時置きスペースに最適。編み目の大きな六つ目のカゴでも、ほどよく中に入れたものを隠す効果があります(写真撮影/嶋崎征弘)

今回、ワタナベさんが教えてくださるのは、忙しい朝でも10分でできる「カリッふわっトーストと目玉焼き」。朝食に必要だと言われる3つの栄養素「炭水化物(パン)」「タンパク質(卵、ヨーグルト)」「ビタミン・ミネラル類(野菜と果物)」をバランスよく組み合わせた、健康的な朝ごはんです。

忙しい朝でも10分でできる! カリッふわっトーストと目玉焼き

用意するもの(1人分)
・食パン 1枚
・卵1個
・プチトマト 2~3個(お好みで)
・ブラウンマッシュルーム 2~3個(お好みで)
・オリーブオイル 大さじ1
・塩 ひとつまみ
・コショウ 少々
・オレンジ 1個
・ヨーグルト 1/2カップ(お好みで)

ワタナベさん宅では木次乳業のプレーンヨーグルトが定番。ヨーグルトに合わせるフルーツはオレンジのほか、そのとき手に入りやすい旬のものを使っても(写真撮影/嶋崎征弘)

ワタナベさん宅では木次乳業のプレーンヨーグルトが定番。ヨーグルトに合わせるフルーツはオレンジのほか、そのとき手に入りやすい旬のものを使っても(写真撮影/嶋崎征弘)

材料をひと通り準備したら、ワタナベさんは背面カウンターからまな板を取り出しました。シンクとガスコンロの間にある作業スペース真後ろなので、振り向くだけで手にとれます。

木目が美しいまな板は、出しっぱなしでもインテリアに馴染みます。左手のカゴには先ほどのパンのほか、キッチンペーパーも収納。無漂白タイプを選べば、カゴからちらりと見えても悪目立ちしません(写真撮影/嶋崎征弘)

木目が美しいまな板は、出しっぱなしでもインテリアに馴染みます。左手のカゴには先ほどのパンのほか、キッチンペーパーも収納。無漂白タイプを選べば、カゴからちらりと見えても悪目立ちしません(写真撮影/嶋崎征弘)

作業スペース側に体の向きを戻したら、シンク下から焼き網を取り出し、ガスコンロにセット。「外はカリッと中はふわっと食パンを焼き上げるコツは、直火を使うこと。今回は焼き網を使ってトーストしますが、ガスコンロのグリルでも美味しく焼けますよ」

「焼き網はトーストだけでなく、お餅や野菜も美味しく焼けます」。キッチンにトースターを置かなければ、広々とした作業スペースを確保できるというメリットも(写真撮影/嶋崎征弘)

「焼き網はトーストだけでなく、お餅や野菜も美味しく焼けます」。キッチンにトースターを置かなければ、広々とした作業スペースを確保できるというメリットも(写真撮影/嶋崎征弘)

弱火にしたら、焼き網にパンをのせます。続いて、ガスコンロ下の収納スペースからフライパンを取り出し、隣のコンロにかけて熱し始めます。

ワタナベさん愛用の焼き網は、辻和金網の「足付焼網」。目の細かい「焼網受」が直火を和らげ、食材に熱をまんべんなく伝えて焼き上げます。足は折りたたみ式なので、使わないときはたたんでコンパクトに収納(写真撮影/嶋崎征弘)

ワタナベさん愛用の焼き網は、辻和金網の「足付焼網」。目の細かい「焼網受」が直火を和らげ、食材に熱をまんべんなく伝えて焼き上げます。足は折りたたみ式なので、使わないときはたたんでコンパクトに収納(写真撮影/嶋崎征弘)

再び作業スペースに戻り、シンク下の扉を開けて包丁を取り出し、ミニトマトを半分に、ブラウンマッシュルームは1/4にカット。

直径25cmくらいの丸いまな板は、食材をちょこっと切るのに便利。大きいまな板より洗いやすいから、忙しい朝でも扱いやすそう。ワタナベさんがミニトマトを切っているのは、GLOBALのペティーナイフ(写真撮影/嶋崎征弘)

直径25cmくらいの丸いまな板は、食材をちょこっと切るのに便利。大きいまな板より洗いやすいから、忙しい朝でも扱いやすそう。ワタナベさんがミニトマトを切っているのは、GLOBALのペティーナイフ(写真撮影/嶋崎征弘)

フライパンが十分温まったら、ガスコンロ後ろの収納スペースからオリーブオイルを取り出して、フライパンに注ぎます。「鉄のフライパンをよく熱してから卵を入れると、白身のフチはカリッと黄身はふわっとした美味しい目玉焼きができます。卵は常温に戻しておくといいですよ」

「鉄フライパンを使いこなすポイントはよく熱することと、フッ素樹脂加工のフライパンを使うときより少し多めに油を入れること」。それだけで食材への火の通りがよくなり、こびり付きも防げるそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

「鉄フライパンを使いこなすポイントはよく熱することと、フッ素樹脂加工のフライパンを使うときより少し多めに油を入れること」。それだけで食材への火の通りがよくなり、こびり付きも防げるそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

油が熱くなったら、フライパンの端のほうに卵を割り入れ、空いたスペースにカットしたプチトマトとブラウンマッシュルームを加えます。

よく熱した鉄のフライパンに卵を落とすと、ジュジュジューーーッ!とよい音が。ワタナベさん愛用のフライパンはタークの「クラシックフライパン」。18cmサイズは、1人分の朝食づくりにちょうどよい大きさ(写真撮影/嶋崎征弘)

よく熱した鉄のフライパンに卵を落とすと、ジュジュジューーーッ!とよい音が。ワタナベさん愛用のフライパンはタークの「クラシックフライパン」。18cmサイズは、1人分の朝食づくりにちょうどよい大きさ(写真撮影/嶋崎征弘)

プチトマトとブラウンマッシュルームは火が通ると水分が抜けてひと回り小さくなるので、「え、こんなに?」と驚くほど高い密度で入れてOK! 焼き上がったときに隙間がないほうが美味しそうに見えます(写真撮影/嶋崎征弘)

プチトマトとブラウンマッシュルームは火が通ると水分が抜けてひと回り小さくなるので、「え、こんなに?」と驚くほど高い密度で入れてOK! 焼き上がったときに隙間がないほうが美味しそうに見えます(写真撮影/嶋崎征弘)

背面カウンターに並べた塩壺を手に取り、フライパンの卵と野菜に塩をひとつまみ回しかけます。

厳選された道具だけが並ぶ、ギャラリーのように美しい背面カウンター。インテリアに馴染む美しい塩壺のほか、自家製の梅干し、ガラスの容器に入れた煮干しなど、美味しそうな食材も並んでいました(写真撮影/嶋崎征弘)

厳選された道具だけが並ぶ、ギャラリーのように美しい背面カウンター。インテリアに馴染む美しい塩壺のほか、自家製の梅干し、ガラスの容器に入れた煮干しなど、美味しそうな食材も並んでいました(写真撮影/嶋崎征弘)

ガスコンロ前に並べたキッチンツール・スタンドから菜箸を取って、プチトマトとブラウンマッシュルームを軽く炒めます。弱火にして蓋をしめ、中まで火を通します。途中、焼き具合を見ながら、食パンをひょいっと裏返しに。

ヨーグルトに入れるオレンジは、包丁で両サイドを切り落としたら、丸みに沿って皮をそぎ落とします。果肉は一口大にカット。ヨーグルトをグラスによそい、オレンジをトッピングします。

朝は食洗機にかけられる、白い磁器の食器を使うことが多いというワタナベさん。けれども、すべて磁器の器でそろえず、ヨーグルトの盛り付けに透明なグラスを使うことで、食卓が軽やかで明るい雰囲気に(写真撮影/嶋崎征弘)

朝は食洗機にかけられる、白い磁器の食器を使うことが多いというワタナベさん。けれども、すべて磁器の器でそろえず、ヨーグルトの盛り付けに透明なグラスを使うことで、食卓が軽やかで明るい雰囲気に(写真撮影/嶋崎征弘)

フライパンの蓋を外して目玉焼きと野菜に火が通ったことを確認したら、最後に電動のペッパーミルでコショウをひと回しして、完成です!

一枚の鉄板から打ち出されたタークのフライパンには継ぎ目がなく、シンプルで美しいたたずまい。そのまま食卓に出しても違和感がありません。蓄熱性が高く冷めにくいので、アツアツのままいただけます(写真撮影/嶋崎征弘)

一枚の鉄板から打ち出されたタークのフライパンには継ぎ目がなく、シンプルで美しいたたずまい。そのまま食卓に出しても違和感がありません。蓄熱性が高く冷めにくいので、アツアツのままいただけます(写真撮影/嶋崎征弘)

美味しい料理は「時間をかける」も「特別な食材」も必須じゃない

冷蔵庫から食材を出し、調理してダイニングテーブルに運ぶまで、かかった時間は約10分。途中、撮影のために手を止めたり、つくり方や収納に関する質問に答えたりしていただいたにも関わらず、本当にあっという間に出来上がりました。

「忙しい朝に時間をかけたり、特別な食材をそろえたりしなくても大丈夫。よい道具とよい調味料を使って、シンプルに調理するだけで、美味しい朝ごはんはできますよ」

とくに、塩、油、酢、しょうゆ、みりん、酒などの基本的な調味料は「昔ながらの製法でつくられたものがおすすめ。同じものをつくっても、調味料を変えるだけで別ものの美味しさが味わえますよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

とくに、塩、油、酢、しょうゆ、みりん、酒などの基本的な調味料は「昔ながらの製法でつくられたものがおすすめ。同じものをつくっても、調味料を変えるだけで別ものの美味しさが味わえますよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

ワタナベさんご自身も、この春から中学生になるお子さんをおもちのワーキングマザーです。朝、食欲のない子どもが何であれば食べられるか、仕事が立て込んでいる日でもぱぱっと準備できるものは何か、考え続けてきたからこそできる、10分でつくれて美味しい、健康的な朝ごはん。わが家にも今年小学1年生になる、食べムラのある息子がいるので、さっそくつくってみたいと思います。

次回は、効率よく動けるヒミツがつまったワタナベさんのキッチン収納の工夫と、これから新生活を始める人におすすめの調理道具をご紹介いただきます!

■料理家 ワタナベマキさんのキッチン

●取材協力
ワタナベマキさん
神奈川県生まれ。グラフィックデザイナーを経て料理家に。2005年に「サルビア給食室」を立ち上げ、本・雑誌・広告などで体にやさしい料理や季節を感じる料理の提案、ワークショップ、ケータリングなどを行っている。夫、4月から中学生になる息子との3人暮らし。著書に『旬菜ごよみ365日: 季節の味を愛しむ日々とレシピ』(誠文堂新光社)、『何も作りたくない日はご飯と汁だけあればいい』(KADOKAWA)など多数。

料理家のキッチンと朝ごはん[2]後編 オープン収納をセンスよく見せるポイント5つ

世界各地を旅する料理家、口尾麻美さんに、前回はトルコ風の朝ごはんのつくり方を教えていただきました。イスタンブールのバザールのような、パリのアパルトマンのような、ひと言で「●●風」と言いきれない、多国籍なムードが素敵な口尾家で、今回はご自宅のインテリアについて伺います。【連載】料理家のキッチンと朝ごはん
料理研究家やフードコーディネーターといった料理のプロは、どんなキッチンで、どんな朝ごはんをつくって食べているのでしょうか? かれらが朝ごはんをつくる様子を拝見しながら、おいしいレシピを生み出すプロならではのキッチン収納の秘密を、片づけのプロ、ライフオーガナイザーが探ります。さまざまなものがセンスよくディスプレイされた多国籍インテリア

旅先で気に入ったものをあれこれ持ち帰っているうちに、多国籍ミックスのインテリアにたどり着いたという口尾さん。たくさんのものが目につく場所に並べられているのに、不思議と統一感があるのは、口尾さんの審美眼を通して厳選されたものだけが、研ぎ澄まされたセンスでコーディネートされているから。

(写真撮影/嶋崎征弘)

(写真撮影/嶋崎征弘)

「最初はパリのインテリアを参考にしていたのですが、あちこち旅していろんなものを持ち帰っているうちに、ひと言で●●風と言いきれないミックス・スタイルにたどり着きました」と笑う口尾さん(写真撮影/嶋崎征弘)

「最初はパリのインテリアを参考にしていたのですが、あちこち旅していろんなものを持ち帰っているうちに、ひと言で●●風と言いきれないミックス・スタイルにたどり着きました」と笑う口尾さん(写真撮影/嶋崎征弘)

正直なところ、口尾家のように「さまざまなものを見せながら、統一感を出す」「多くのものを持ちながら、センスよく見せる」のは、インテリア的にかなり難易度が高いです。誰もが気軽に再現できるものではないけれど、やっぱりオープン収納っておしゃれ。ミックス・スタイルってかわいい。ちょっとでも自宅に取り入れてみたい。

……ということで今回は、インテリア初心者さんでも真似できそうな口尾スタイルを、ピンポイントでお教えいただきました。

ポイント1、トレーやカゴに、同じ種類のものをまとめてみる

数が多くて小さなものを出しっぱなしにすると、「単に雑多」な雰囲気になってしまいますよね。そんなときは、トレーやカゴに同じ種類のものをまとめると、ひとつの大きなもののように見せられるため、細々した印象を払拭できます。口尾家でも、たくさんのトレーやカゴが使われていましたよ。

モロッコで買い集めたという小さなミントティーグラスは、色も形も少しずつ違います。口尾さんは、大きなハンドル付きトレーにグラスをまとめて、窓辺のベンチに置いていました。日が当たるとキラキラ光ってきれい(写真撮影/嶋崎征弘)

モロッコで買い集めたという小さなミントティーグラスは、色も形も少しずつ違います。口尾さんは、大きなハンドル付きトレーにグラスをまとめて、窓辺のベンチに置いていました。日が当たるとキラキラ光ってきれい(写真撮影/嶋崎征弘)

ご自宅で開催する料理教室の生徒さんが使うグラスは、トレーにまとめてリビングのシェルフに(写真撮影/嶋崎征弘)

ご自宅で開催する料理教室の生徒さんが使うグラスは、トレーにまとめてリビングのシェルフに(写真撮影/嶋崎征弘)

常温保存の食材もカゴや器にまとめると、お店のディスプレイのように素敵に。よく見ると卵のカゴに親鳥プレートが!(写真撮影/嶋崎征弘)

常温保存の食材もカゴや器にまとめると、お店のディスプレイのように素敵に。よく見ると卵のカゴに親鳥プレートが!(写真撮影/嶋崎征弘)

ポイント2、よく似た色や素材のものを、1カ所に集めてみる

異なる素材や形のものをあちこちに点在させると、やっぱり「単に雑多」なイメージになってしまいます。けれども、よく似た素材や形のものを1カ所に集めてみると、自然と統一感が生まれるから不思議です。重ねる、立てる、並べるなど、口尾家ではさまざまな方法でよく似たものがまとめられていました。

自然素材のカゴや盆ざる、トレーなどはトースターの上に重ねて収納(写真撮影/嶋崎征弘)

自然素材のカゴやざる盆、トレーなどはトースターの上に重ねて収納(写真撮影/嶋崎征弘)

もともとあった窓と、リフォームで取り付けた内窓の間を収納スペースに見立て、普段使っていないガラス製の保存容器やグラスをディスプレイしながら保管(写真撮影/嶋崎征弘)

もともとあった窓と、リフォームで取り付けた内窓の間を収納スペースに見立て、普段使っていないガラス製の保存容器やグラスをディスプレイしながら保管(写真撮影/嶋崎征弘)

ポイント3、フックにかけてみる。カゴに入れて吊るしてみる

片づけに関する本や雑誌で「かける収納」「吊るす収納」を、よく見かけます。浮かせておけば、その下の掃除がラクだし、しまい込まないから出し入れしやすい一方で、何でもかんでもぶら下げると生活感が溢れ出てしまうのが難点。これをおしゃれに見せる高度なテクニックが、口尾家では駆使されていました。

複数のアイテムをかけるときは「ポイント2、よく似た素材や形のものを、1カ所に集めてみる」と、見た目がうるさくなりません。中が透けて見えるメッシュバッグに収めるものも、素材や形をそろえるとすっきり見えます(写真撮影/嶋崎征弘)

複数のアイテムをかけるときは「ポイント2、よく似た素材や形のものを、1カ所に集めてみる」と、見た目がうるさくなりません。中が透けて見えるメッシュバッグに収めるものも、素材や形をそろえるとすっきり見えます(写真撮影/嶋崎征弘)

(左)ポットラックには、小鍋やキッチンバサミ、ストレーナーなどを収納。かけるものの高さをそろえているので、雑多な感じが抑えられています。(右)マグカップツリーには、マグだけでなくミルクピッチャーやコースターも(写真撮影/嶋崎征弘)

(左)ポットラックには、小鍋やキッチンバサミ、ストレーナーなどを収納。かけるものの高さをそろえているので、雑多な感じが抑えられています。(右)マグカップツリーには、マグだけでなくミルクピッチャーやコースターも(写真撮影/嶋崎征弘)

ポイント4、オープンシェルフはグルーピングを意識してみる

ものをディスプレイしながら収納できるオープンシェルフ……ですが、気づけばものと一緒に生活感まで陳列してしまっていること、ありませんか(わたしはあります)。ポイントは、ものをひとつずつ個別に見るのではなく、グループにして見ることのようです。

キッチンのシンク上に取り付けられた棚には、普段よく使う「Atelier 16-27」の食器を収納。色とりどりの器でも、つくり手が同じものだけを厳選して並べれば、ショップのように美しくディスプレイできます(写真撮影/嶋崎征弘)

キッチンのシンク上に取り付けられた棚には、普段よく使う「Atelier 16-27」の食器を収納。色とりどりの器でも、つくり手が同じものだけを厳選して並べれば、ショップのように美しくディスプレイできます(写真撮影/嶋崎征弘)

カトラリーは素材と高さをそろえ、グラスに立てて収納。雑多に見えてしまうときは、大きめのアイテムを近くに置けば目線を外らすことができます。口尾さんはデザインのかわいい鍋敷きをアイキャッチにしていました(写真撮影/嶋崎征弘)

カトラリーは素材と高さをそろえ、グラスに立てて収納。雑多に見えてしまうときは、大きめのアイテムを近くに置けば目線を外らすことができます。口尾さんはデザインのかわいい鍋敷きをアイキャッチにしていました(写真撮影/嶋崎征弘)

収めるものの素材やデザイン、色などをグルーピングしたうえで絶妙のバランスで配置した、口尾ワールド全開のシェルフ。「壁面に固定したシェルフは、地震による揺れが少ないのも利点です。以前、大きな地震があったときも、何も落下しませんでしたよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

収めるものの素材やデザイン、色などをグルーピングしたうえで絶妙のバランスで配置した、口尾ワールド全開のシェルフ。「壁面に固定したシェルフは、地震による揺れが少ないのも利点です。以前、大きな地震があったときも、何も落下しませんでしたよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

ポイント5、手づくりしたものをちょっとだけ飾ってみる

最後にご紹介するのは、ぶきっちょさんでも簡単に真似できる手づくりのアイデアです。口尾さんによると、「やりすぎるとクドくなるので、あまり前面に出さず、ちょっと控えめにディスプレイするのが大人っぽいインテリアにする秘訣」なのだとか。

コリアンダーやシナモンスティックといったスパイス類は、透明のガラスジャーに保存。かわいい紙片にスパイス名をスタンプして一緒に入れておけば、ラベリング代わりになるうえインテリアとしても素敵(写真撮影/嶋崎征弘)

コリアンダーやシナモンスティックといったスパイス類は、透明のガラスジャーに保存。かわいい紙片にスパイス名をスタンプして一緒に入れておけば、ラベリング代わりになるうえインテリアとしても素敵(写真撮影/嶋崎征弘)

赤レンズ豆を保存しているジャーには、スパイス名の紙片ではなく子豚のフィギュアを入れていた口尾さん。「ぱっと見ただけでは分からないけれど、よく見るといる……くらいの、さりげなさがポイントです(笑)」(写真撮影/嶋崎征弘)

赤レンズ豆を保存しているジャーには、スパイス名の紙片ではなく子豚のフィギュアを入れていた口尾さん。「ぱっと見ただけでは分からないけれど、よく見るといる……くらいの、さりげなさがポイントです(笑)」(写真撮影/嶋崎征弘)

ニットで編まれたスイートチョリソーと赤いネットのリヨナーソーセージのオブジェは、フランスのブランド「MAISON CISSON」のもの。「これを見て、自分でもつくれるかなと思ったんです」と口尾さん(写真撮影/嶋崎征弘)

ニットで編まれたスイートチョリソーと赤いネットのリヨナーソーセージのオブジェは、フランスのブランド「MAISON CISSON」のもの。「これを見て、自分でもつくれるかなと思ったんです」と口尾さん(写真撮影/嶋崎征弘)

「MAISON CISSON」からインスピレーションを受けた口尾さんによる作品。「リネンのクロスやカットしたソックスに詰め物をして、麻ヒモや調理ネットで結んだだけ」とのことですが、とってもかわいかった!(写真撮影/嶋崎征弘)

「MAISON CISSON」からインスピレーションを受けた口尾さんによる作品。「リネンのクロスやカットしたソックスに詰め物をして、麻ヒモや調理ネットで結んだだけ」とのことですが、とってもかわいかった!(写真撮影/嶋崎征弘)

カットしたモミの木をカゴにのせて吊るせば、部屋中がよい香りでいっぱいに。リースやスワッグをつくるより手軽にドライフラワーが楽しめます。ユーカリやラベンダー、ミモザなどを飾っても(写真撮影/嶋崎征弘)

カットしたモミの木をカゴにのせて吊るせば、部屋中がよい香りでいっぱいに。リースやスワッグをつくるより手軽にドライフラワーが楽しめます。ユーカリやラベンダー、ミモザなどを飾っても(写真撮影/嶋崎征弘)

今回、5つのポイントをご紹介しましたが、改めて「さまざまのものを見せながら、統一感を出す」「多くのものを持ちながら、センスよく見せる」のってむずかしい!と感じました。

食・住だけでなく、衣(ファッション)もすてきな口尾さん。ショートカットに映えるパープルのイヤリングは「Alexandre de Paris」のもの。「料理中はシンプルなスタイルのことが多いので、大振りのイヤリングで変化を楽しんでいます」(写真撮影/嶋崎征弘)

食・住だけでなく、衣(ファッション)もすてきな口尾さん。ショートカットに映えるパープルのイヤリングは「Alexandre de Paris」のもの。「料理中はシンプルなスタイルのことが多いので、大振りのイヤリングで変化を楽しんでいます」(写真撮影/嶋崎征弘)

口尾家のインテリアは、筋の通ったもの選びや、スタイリングのセンス、住まい全体を俯瞰するバランス力が備わっている口尾さんだからこそ実現できる世界観なのだと思います。なかなか自宅で再現できそうな気がしないのだけれど……再現できないからこそ憧れてしまう、大人のおもちゃ箱のように素敵な口尾家のインテリアなのでした。

>前編はこちら

●取材協力
口尾麻美さん HP
北海道生まれ。アパレル会社勤務後、イタリア料理店を経て料理研究家に。旅で出会った料理、食材、スパイス、道具、雑貨、ライフスタイルからインスピレーションを受けたレシピを提案。著書に『おはよう! アジアの朝ごはん: 台湾・ベトナム・韓国・香港の朝食事情と再現レシピ 』(誠文堂新光社)、『はじめまして 電鍋レシピ 台湾からきた万能電気釜でつくる おいしい料理と旅の話。』(グラフィック社)など多数。

料理家のキッチンと朝ごはん[2]前編 旅する気分で料理する。口尾麻美さんのトルコ風朝ごはん

トルコやリトアニア、ウズベキスタンなど、旅先でヒントを得たレシピを、書籍や雑誌、料理教室で提案する料理家、口尾麻美さん。訪れた国で少しずつ買い集めた色とりどりの雑貨が楽しげに並ぶキッチンで、朝ごはんについて伺いました。【連載】料理家のキッチンと朝ごはん
料理研究家やフードコーディネーターといった料理のプロは、どんなキッチンで、どんな朝ごはんをつくって食べているのでしょうか? かれらが朝ごはんをつくる様子を拝見しながら、おいしいレシピを生み出すプロならではのキッチン収納の秘密を、片づけのプロ、ライフオーガナイザーが探ります。旅する料理家、口尾さんに教わるトルコの朝の定番メニュー

東京都内のヴィンテージマンションにお住まいの口尾さん。17年前にフルリノベーションしたキッチンスタジオ兼ご自宅は、全面的に扉のないオープン収納が採用されています。

「料理しているときに扉を開け閉めするのって手間がかかりますよね。扉を汚さないよう、その都度、手を洗うのも大変。中に収納したものを覚えておくのも難しいですから、あえて扉を付けないことにしたんです」という口尾さん。

異国情緒あふれる小さなもの、かわいいもの、不思議なもの、カラフルなものが家中のあちこちにたくさん、けれども美しく、センスが溢れている口尾家(写真撮影/嶋崎征弘)

異国情緒あふれる小さなもの、かわいいもの、不思議なもの、カラフルなものが家中のあちこちにたくさん、けれども美しく、センスが溢れている口尾家(写真撮影/嶋崎征弘)

フルリノベーションする前とした後の間取り

フルリノベーションする前とした後の間取り

今回、口尾さんに教えていただくのは、赤レンズ豆のスープ「メルジメッキ・チョルバス」と、卵料理の「メネメン」です。「メルジメッキ・チョルバスはトルコの伝統的なスープのひとつ、メネメンはトルコ風のスクランブルエッグ。どちらもトルコの朝ごはんの定番メニューで、日本でいう味噌汁と卵焼きのようなイメージです」

ほんのり甘い赤レンズ豆のスープ「メルジメッキ・チョルバス」

用意するもの(3~4人分)
・赤レンズ豆 150g
・玉ねぎ 1/2個分
・サルチャ(トマトペースト。トルコの調味料) 大さじ1
・水 900ml~1L
・オリーブオイル 大さじ1
・塩 小さじ1~2

【仕上げ用】
・バター 大さじ1
・プルビベル(赤唐辛子フレーク。トルコの調味料) 小さじ1
・ドライミント 小さじ1
・レモン くし形切り2~3かけ

「ほのかな甘みがあってクセのないトルコの赤レンズ豆は、火の通りがよいから水で戻す必要はありません。手軽に使えるうえ栄養価も高いので、トルコでは庶民の味方なんですよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

「ほのかな甘みがあってクセのないトルコの赤レンズ豆は、火の通りがよいから水で戻す必要はありません。手軽に使えるうえ栄養価も高いので、トルコでは庶民の味方なんですよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

サルチャやプルビベルは、輸入食品を扱うスーパーやカルディなどで見つけられるそうです。「サルチャはトマトケチャップ、プルビベルはカイエンペッパーで代用できます。でも、できたら一度は本物を使ってみてほしい。異国の味が楽しめますから」

そう話しながら口尾さんは、壁面に取り付けたマグネット式ナイフラックから包丁をぱっと取り出しました。キッチンカウンターに置いている小さなまな板を引き寄せ、玉ねぎをみじん切りに。

口尾家のキッチンはL型。シンク上の造作棚には、スパイスや豆などの食材が入ったガラスの保存瓶が並べられています。シンク下のオープン棚には食器や液体調味料などが収納されていました(写真撮影/嶋崎征弘)

口尾家のキッチンはL型。シンク上の造作棚には、スパイスや豆などの食材が入ったガラスの保存瓶が並べられています。シンク下のオープン棚には食器や液体調味料などが収納されていました(写真撮影/嶋崎征弘)

L型キッチンの左手にぱっと移動してガスコンロに鍋をのせ、口尾さんはオリーブオイルの瓶を手にとりました。鍋にオリーブオイルを熱し、サルチャと玉ねぎを加えて炒めます。赤レンズ豆をさっと水で洗って鍋に入れ、全体を混ぜたら水を加え、蓋をして弱火で15分。その間に、メネメンをつくります!

トマトの酸味とチーズの塩気がクセになる卵料理「メネメン」

用意するもの(2~3人分)
・卵 3個
・トマト 1個
・玉ねぎ 1/3個
・ししとう 2本
・フェタチーズ 50g
・塩 お好みで
・オリーブオイル 大さじ2

「牛挽肉を入れることも多いのですが、今回は軽めの朝食にするため省きました。その分、今回のレシピではフェタチーズを多めにしています。苦手なら、ししとうはなくても大丈夫ですよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

「牛挽肉を入れることも多いのですが、今回は軽めの朝食にするため省きました。その分、今回のレシピではフェタチーズを多めにしています。苦手なら、ししとうはなくても大丈夫ですよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

メネメンをつくりはじめる際、L型キッチンからダイニングテーブルに作業スペースを移した口尾さん。「カセットコンロがあれば、家中どこででも料理できます。料理する場所をあちこち変えてみると、気分が変わって楽しいですよ」と話しながら、トマトは角切りに、玉ねぎはみじん切りに、ししとうは輪切りにカット。

最近は小さめのまな板が好きだという口尾さん。「以前は大きなまな板がブームだったのですが、今は小さめのまな板が使いやすいと感じます」。好みが変われば、調理道具もフレキシブルに変更(写真撮影/嶋崎征弘)

最近は小さめのまな板が好きだという口尾さん。「以前は大きなまな板がブームだったのですが、今は小さめのまな板が使いやすいと感じます」。好みが変われば、調理道具もフレキシブルに変更(写真撮影/嶋崎征弘)

トルコのメネメンは、小さなアルミ鍋でつくるのが一般的だそうです。「ガスコンロにかけたときに不安定なら、五徳に網を乗せるといいですよ」と話しながら、口尾さんは四角い焼き網を取り出しました。決してものが少なくない口尾家ですが、必要なときに必要なものがひょいっ!と出てくるのはさすがです。

「小さなフライパンでもいいけれど、こんな小さな鍋でつくるとままごとみたいでかわいいでしょう? 週末の朝ごはんにしたら、キャンプみたいで楽しいですよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

「小さなフライパンでもいいけれど、こんな小さな鍋でつくるとままごとみたいでかわいいでしょう? 週末の朝ごはんにしたら、キャンプみたいで楽しいですよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

鍋にオリーブオイルを熱し、カットした玉ねぎを入れて炒めます。玉ねぎがしんなりしたら、ししとうとトマトも入れて炒めます。トマトに火が通ったら、溶いた卵、ほぐしたフェタチーズの順にアルミ鍋へ。

口尾さんは、ダイニングテーブル脇に置いたカトラリースタンドからさっとスプーンを取り出して混ぜていました。小さな鍋なら、大きなヘラやスパチュラよりスプーンのほうが混ぜやすそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

口尾さんは、ダイニングテーブル脇に置いたカトラリースタンドからさっとスプーンを取り出して混ぜていました。小さな鍋なら、大きなヘラやスパチュラよりスプーンのほうが混ぜやすそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

軽くかき混ぜたら蓋をして火を止め、あとは余熱で火を通します。その間にメルジメッキ・チョルバスの仕上げです!

耐熱容器でつくるなら、鍋ごとトースターに入れてもOK。卵が半熟になるまで、様子を見ながら15分から20分くらい加熱すればよいそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

耐熱容器でつくるなら、鍋ごとトースターに入れてもOK。卵が半熟になるまで、様子を見ながら15分から20分くらい加熱すればよいそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

スープの仕上げは、香りバターとレモン汁をお好みで

煮込んでいた鍋の蓋を開けると、赤レンズ豆がホロリと煮くずれておいしそう。「豆や野菜の形が少し残ったままでもいいけれど、今回はハンディブレンダーでなめらかにします」

「メルジメッキ・チョルバスのつくり方は、家庭によってさまざまなんです。トルコの人はみなさん、自分にとっての“お袋の味”といえるメルジメッキ・チョルバスがあるようです」。そんなところも日本の味噌汁っぽい(写真撮影/嶋崎征弘)

「メルジメッキ・チョルバスのつくり方は、家庭によってさまざまなんです。トルコの人はみなさん、自分にとっての“お袋の味”といえるメルジメッキ・チョルバスがあるようです」。そんなところも日本の味噌汁っぽい(写真撮影/嶋崎征弘)

最後に、仕上げ用の香りバターをつくります。フライパンを熱してバターを溶かし、プルビベルとドライミントを加え、香りが立ったら火を止めます。

溶かしたバターにスパイスとハーブを加えると、ぶくぶくっと泡立ちます。「ドライミントはなければ使わなくてもいいのですが、入れると一気にトルコの本場の味に近づきますよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

溶かしたバターにスパイスとハーブを加えると、ぶくぶくっと泡立ちます。「ドライミントはなければ使わなくてもいいのですが、入れると一気にトルコの本場の味に近づきますよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

煮込んだ赤レンズ豆の鍋に香りバターを入れたら、メルジメッキ・チョルバスの完成です!

香りバターは、鍋に直接入れて味を整えてから器に注いでもいいし、スープを器に注いだ後で各自お好みで入れてもいいそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

香りバターは、鍋に直接入れて味を整えてから器に注いでもいいし、スープを器に注いだ後で各自お好みで入れてもいいそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

「メルジメッキ・チョルバスもメネメンも、どんな食材や調味料を使うかで、味がかなり変わります。料理の途中でも何度か味見をしながら、好みの味に仕上げてくださいね」

「はじめての食材に挑戦するときは、レシピを参考しつつ、ご自身の味覚で確かめながら微調整するのが、おいしく仕上げる秘訣です」と口尾さん(写真撮影/嶋崎征弘)

「はじめての食材に挑戦するときは、レシピを参考しつつ、ご自身の味覚で確かめながら微調整するのが、おいしく仕上げる秘訣です」と口尾さん(写真撮影/嶋崎征弘)

日本にいながら旅する気分が味わえるのが、異国料理の醍醐味

食卓には、ふっくらと火の通ったメネメンと、レモンを添えたメルジメッキ・チョルバス、トルコのごまパン「シミット」も並べて、「いただきまーす」

1日の食事のなかでも、特に朝ごはんを大事にするというトルコ人。カフェやレストランには必ずと言っていいほど「朝食」のメニューがあるそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

1日の食事のなかでも、特に朝ごはんを大事にするというトルコ人。カフェやレストランには必ずと言っていいほど「朝食」のメニューがあるそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

「海外への旅行となると、なかなか気軽に行けません。けれども、異国のレシピを学んで料理するのは、それよりずっと手軽ですよね。本場の食材でつくった料理を食べれば、日本にいながら旅する気分が味わえます。新しい食材をいろいろ試してみると、楽しみが広がりますよ」

「シミットは食べる直前に軽くトーストすると、ごまの風味がこうばしくなって、よりおいしくいただけます。メネメンをのせたり、メルジメッキ・チョルバスにつけたりしながら食べるのがおすすめ」と口尾さん(写真撮影/嶋崎征弘)

「シミットは食べる直前に軽くトーストすると、ごまの風味がこうばしくなって、よりおいしくいただけます。メネメンをのせたり、メルジメッキ・チョルバスにつけたりしながら食べるのがおすすめ」と口尾さん(写真撮影/嶋崎征弘)

口尾さんのお話のなかで、繰り返し登場した「楽しい」という言葉。ヨーロッパや北アフリカ、中東、アジアなど、世界各地を旅しながら集めた色とりどりの雑貨が楽しげにあふれるキッチンで、楽しげに料理をする口尾さんにぴったりの言葉なのが印象的でした。

次回は、口尾さん流の住まいのしつらえ方についてお聞きします!

■料理研究家 口尾麻美さんのキッチン

●取材協力
口尾麻美さん HP
北海道生まれ。アパレル会社勤務後、イタリア料理店を経て料理研究家に。旅で出会った料理、食材、スパイス、道具、雑貨、ライフスタイルからインスピレーションを受けたレシピを提案。著書に『おはよう! アジアの朝ごはん: 台湾・ベトナム・韓国・香港の朝食事情と再現レシピ 』(誠文堂新光社)、『はじめまして 電鍋レシピ 台湾からきた万能電気釜でつくる おいしい料理と旅の話。』(グラフィック社)など多数。

料理家のキッチンと朝ごはん[1]後編 調理実習台が主役。道具・器は長く使えるいいものだけを集めた

スタイリングもこなす料理研究家として、雑誌や書籍でさまざまなお菓子のレシピを提案している桑原奈津子さん。前回は、定番の朝ごはんとそのつくり方についてお聞きしました。今回は、桑原家のキッチンと、愛用している調理道具や器について、お話を伺います。【連載】料理家のキッチンと朝ごはん
料理研究家やフードコーディネーターといった料理のプロは、どんなキッチンで、どんな朝ごはんをつくって食べているのでしょうか? かれらが朝ごはんをつくる様子を拝見しながら、美味しいレシピを生み出すプロならではのキッチン収納の秘密を、片づけのプロ、ライフオーガナイザーが探ります。築55年の戸建をリノベーション。月日を経て味わいを増すキッチン

「工場や学校っぽい雰囲気が好き」だという桑原さん。キッチンツールや家具なども、無駄な装飾を省いた業務用のものが好みだそうです。けれども、桑原さん宅のキッチンは「業務用」という言葉からイメージされる無骨さとは無縁の、あたたかみのある雰囲気。

窓枠には、自家製の梅干しやフルーツのシロップ、空き瓶や保存容器などをディスプレイするように並べて収納。インテリアとしてキッチンになじんでいます(写真撮影/嶋崎征弘)

窓枠には、自家製の梅干しやフルーツのシロップ、空き瓶や保存容器などをディスプレイするように並べて収納。インテリアとしてキッチンになじんでいます(写真撮影/嶋崎征弘)

あたたかな日が差し込むダイニングスペースには、雑種のキップル(左)、ハチワレ猫の小鉄(右)、黒猫のクロ(出演拒否)のふかふかベッドが仲良く並んでいました(写真撮影/嶋崎征弘)

あたたかな日が差し込むダイニングスペースには、雑種のキップル(左)、ハチワレ猫の小鉄(右)、黒猫のクロ(出演拒否)のふかふかベッドが仲良く並んでいました(写真撮影/嶋崎征弘)

12年前にリノベーションした築55年の一戸建ての窓枠や柱などを、当時のまま残していることが、ぬくもりを感じさせる一因のようです。そこに、てらいのないスタイリングを得意とする桑原さんの手が加わることで、甘すぎないけれども穏やかでほっとする、独自の世界観が築き上げられていました。

「クリナップ」の調理実習台。大勢で使うことを前提でデザインされたシンクは、手前からでも横からでも洗い物ができる仕様。作業台下の収納スペース奥側にはボウルなどの調理道具、手前には「無印良品」の密閉ボックスを並べ、小麦粉や砂糖のストックを収納(写真撮影/嶋崎征弘)(写真撮影/嶋崎征弘)

「クリナップ」の調理実習台。大勢で使うことを前提でデザインされたシンクは、手前からでも横からでも洗い物ができる仕様。作業台下の収納スペース奥側にはボウルなどの調理道具、手前には「無印良品」の密閉ボックスを並べ、小麦粉や砂糖のストックを収納(写真撮影/嶋崎征弘)

桑原家の家具やキッチンツールの大半は、素材がステンレスもしくは木、色は白でそろえられています。すべてのものを同じタイミングで集めたわけではないのに、素材感や色が統一されているから、ものを出しっぱなしにした「オープン収納」を取り入れていても、キッチン全体がすっきりと、まとまって見えます。

ステンレス製キッチンと調和する、淡いグレーの背面カウンターは「校庭にあった水飲み場のイメージ。小石を混ぜて固めたセメントを、職人さんが手作業で研ぎ上げてくれました」。使い込むほど味の出る素材です(写真撮影/嶋崎征弘)

ステンレス製キッチンと調和する、淡いグレーの背面カウンターは「校庭にあった水飲み場のイメージ。小石を混ぜて固めたセメントを、職人さんが手作業で研ぎ上げてくれました」。使い込むほど味の出る素材です(写真撮影/嶋崎征弘)

「調理台にも背面カウンターにも引き出しが少ないので、新たに引き出し付きのワゴンを買い足しました。仕事場っぽい雰囲気にしたかったので、家具より工具入れが合うのではないかと思って、ネットで探しました。キッチンまわりの細々としたものを整理するのにとても便利ですよ」

「トラスコ」の「エースワゴン」にスパイスやカトラリー、トングなどを収納。同行のカメラマンさんいわく、「フォトスタジオでもよく使われているスチールワゴンです。ぼくもほしい」そうです(写真撮影/嶋崎征弘)

「トラスコ」の「エースワゴン」にスパイスやカトラリー、トングなどを収納。同行のカメラマンさんいわく、「フォトスタジオでもよく使われているスチールワゴンです。ぼくもほしい」そうです(写真撮影/嶋崎征弘)

最初にリノベーションを行ったのは12年前ですが、その後も少しずつ手を加え続けている桑原家。「収納スペースの中に取り付ける予定だった固定式の棚板は、あえて2年ほど設置しなかったんです。実際に使ってみて、ここだと確信できてから取り付けを依頼しました」。3年前には、本格的な修繕工事も実施。当時予算の都合などもあり、建築家と相談のうえ後回しにしていた外壁や屋根などに手を加えたそうです。

ウォールナットのダイニングテーブルは190 x 100cm。テーブルに合わせた6脚のチェアはすべてデザイン違い。アメリカの工場用の照明は、アンティークショップで見つけたもの(写真撮影/嶋崎征弘)

ウォールナットのダイニングテーブルは190 x 100cm。テーブルに合わせた6脚のチェアはすべてデザイン違い。アメリカの工場用の照明は、アンティークショップで見つけたもの(写真撮影/嶋崎征弘)

ダイニングテーブル背面に置いた白い飾り棚は、桑原さんが大学生のときに買ったもの。「薬棚のようなたたずまいが気に入っています」。前面がガラス扉なので、美しいコーヒーカップやティーポットなどを飾りながら収納(写真撮影/嶋崎征弘)

ダイニングテーブル背面に置いた白い飾り棚は、桑原さんが大学生のときに買ったもの。「薬棚のようなたたずまいが気に入っています」。前面がガラス扉なので、美しいコーヒーカップやティーポットなどを飾りながら収納(写真撮影/嶋崎征弘)

気に入ったものを長く大切に使うことで、自然と生まれた”統一感”

前回、桑原さんが朝ごはんをつくる際に使用したキッチンツール一式はこちら。「気に入ったものは長く使うほうです。ゆで卵をつぶすのに使ったザル、野菜の水切りに使ったサラダスピナーは、わたしの実家で使っていたものを譲り受けました。20~30年以上前のものなので、残念ながらメーカーや商品名は分かりません……」

画像の上、2本は「ウェンガー」のブレッドナイフとスナックナイフ。右のゴムベラは、継ぎ目のない一体型を愛用。中央の小さなボウルは調味料や食材をちょこっと入れるのに便利なので、たくさん持っているそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

画像の上、2本は「ウェンガー」のブレッドナイフとスナックナイフ。右のゴムベラは、継ぎ目のない一体型を愛用。中央の小さなボウルは調味料や食材をちょこっと入れるのに便利なので、たくさん持っているそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

朝ごはんに合わせる水出しコーヒーは多めにつくって、冷蔵庫にストックしているとのことでしたが、「紅茶も多めに淹れて、冷蔵庫にストックしています。水出しコーヒーと同じように、アイスで飲みたいときはそのまま、ホットで飲みたいときは電子レンジで温めればいいだけなので手軽ですよ」。

コーヒーは「KINTO」のジャグに、紅茶は「HARIO」のティーサーバーにストック。コーヒーはストックを切らさないようジャグを2本使い、「1本がなくなりそうになったら、もう1本つくるようにしています」(写真撮影/嶋崎征弘)

コーヒーは「KINTO」のジャグに、紅茶は「HARIO」のティーサーバーにストック。コーヒーはストックを切らさないようジャグを2本使い、「1本がなくなりそうになったら、もう1本つくるようにしています」(写真撮影/嶋崎征弘)

水出しコーヒーは「iwaki」のウォータードリップサーバーで抽出しています。「サーバーの大きさが400mlちょっとなので、1本のジャグに2回分入れています。1回の抽出に4時間、2回だと8時間。時間はかかりますが、放っておくだけでできるので手間はかかりません」

お取り寄せしているコーヒー豆を、その都度「Bodum」のグラインダーで挽いて水出ししているそうです。時間をかけて抽出するため、苦みやエグみの少ない、さっぱりとまろやかなコーヒーが淹れられます(写真撮影/嶋崎征弘)

お取り寄せしているコーヒー豆を、その都度「Bodum」のグラインダーで挽いて水出ししているそうです。時間をかけて抽出するため、苦みやエグみの少ない、さっぱりとまろやかなコーヒーが淹れられます(写真撮影/嶋崎征弘)

「業務用」のキッチンツールのなかにも、桑原さんのお気に入りアイテムがあるそうです。例えば、あちこちで少しずつ集めたステンレスのメジャーカップは「計量するだけでなく、水分の多いものをすくったり、小さなボウル代わりに使ったり。多用途に使えるので便利です。無駄のないデザインで、見た目がシンプルなところも気に入っています」

お気に入りのメジャーカップの奥にあるスケールも業務用。「感度が高いので計量スピードが早く、精度も高いんですよ。業務用なので丈夫で、とても古いものですがまだまだ現役。壊れる気配はありません」(写真撮影/嶋崎征弘)

お気に入りのメジャーカップの奥にあるスケールも業務用。「感度が高いので計量スピードが早く、精度も高いんですよ。業務用なので丈夫で、とても古いものですがまだまだ現役。壊れる気配はありません」(写真撮影/嶋崎征弘)

砂糖・塩を入れている容器も業務用です。ステンレスふたの内側にある凸部分を本体ケースにひっかけると、ふたを開けたままにできるというスグレモノ(写真撮影/嶋崎征弘)

砂糖・塩を入れている容器も業務用です。ステンレスふたの内側にある凸部分を本体ケースにひっかけると、ふたを開けたままにできるというスグレモノ(写真撮影/嶋崎征弘)

工場や学校っぽい雰囲気が好きだとは言っても、「実用的なもの」ばかりではない桑原さんのキッチン。トースターの上に置かれた木製トングは、「はさみ型なのでトーストしたパンをはさみやすいんですよ。トングでトースターから取り出したパンは、木製トレーの上に置くと、溝にパンくずが落ちて散らからない仕組みなんです。かわいらしくて、いいでしょう(笑)」と、おちゃめに語ってくれました。

トーストだけでなく、お菓子やサラダをはさむのにも使いやすいという木製トング。よくあるステンレス製のトングよりあたたかみがあるので、テーブルにそのまま出してもスタイリングの邪魔になりません(写真撮影/嶋崎征弘)

トーストだけでなく、お菓子やサラダをはさむのにも使いやすいという木製トング。よくあるステンレス製のトングよりあたたかみがあるので、テーブルにそのまま出してもスタイリングの邪魔になりません(写真撮影/嶋崎征弘)

大好きな器を大事に収めるために設計した、天井まである大型収納

料理研究家という職業柄、桑原さんはたくさんの食器やグラス、スタイリング小物などをお持ちです。にもかかわらず、そういったものが出しっぱなしになっていないのは、シンク横に造り付けた大型タワー収納のおかげ。よく使う食器や調理道具はシンクのすぐ横の棚にまとめ、あまり使わない雑貨類は上の棚に保管しているそうです。

使用頻度の低いお菓子の型や木製トレーなどは、左側の棚に。スタイリング用に保管しておきたい小物のほか、あまり使わないホットプレートやたこ焼き機などは上段に収納。明確にゾーニングされていました(写真撮影/嶋崎征弘)

使用頻度の低いお菓子の型や木製トレーなどは、左側の棚に。スタイリング用に保管しておきたい小物のほか、あまり使わないホットプレートやたこ焼き機などは上段に収納。明確にゾーニングされていました(写真撮影/嶋崎征弘)

冷蔵庫のサイズに合わせて造り付けているため、収納スペースの奥行きは約70cmと深めです。奥行きが深いと食器棚としては扱いづらいものなのですが、桑原さんは手前に使用頻度の高いもの、奥側に使用頻度の低いものを収めることで、使い勝手をよくしていました。収めるものの高さに合わせて、棚板の幅が微調整されていることも、ものの探しやすさ、出し入れしやすさに直結しています。

グラス、マグ、平皿、小鉢、汁椀など、ジャンルごとにざっくり分類。お皿は似たサイズごとに重ねて収納しています。ココットや小さいグラスなど、こまごましたものはプラスチックのかごにまとめて取り出しやすく(写真撮影/嶋崎征弘) 

グラス、マグ、平皿、小鉢、汁椀など、ジャンルごとにざっくり分類。お皿は似たサイズごとに重ねて収納しています。ココットや小さいグラスなど、こまごましたものはプラスチックのかごにまとめて取り出しやすく(写真撮影/嶋崎征弘) 

「収納スペースがいっぱいなので、以前ほど食器を買わなくなりました。最近はお気に入りのショップに出かけても、見るだけのことが多いです。今使っているものが割れたり、欠けたりしたら、その分は買っていいことにしているんですが、食器って意外と丈夫で長持ちするんですよね(笑)。うちにあるものは、気がつくとどれも長いこと使っているものばかり。使い込むうちに愛着が増すように感じます」

「食器はまとめてそろえず、一枚ずつ集めてもいい」という桑原さん。おすすめは、「お皿なら、白い陶器のもの。磁器よりもあたたかみがあり、使うほどに味がでます。パスタでもカレーでも、おでんでも煮物でも、フルーツでも合いますよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

「食器はまとめてそろえず、一枚ずつ集めてもいい」という桑原さん。おすすめは、「お皿なら、白い陶器のもの。磁器よりもあたたかみがあり、使うほどに味がでます。パスタでもカレーでも、おでんでも煮物でも、フルーツでも合いますよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

グラスのおすすめは、「うすはりほど薄くないシンプルなタンブラーや、背の低いロックグラスのようなタイプが使いやすいと思います。ビールでもワインでも、お茶でもジュースでも、違和感なく使えます」(写真撮影/嶋崎征弘)

グラスのおすすめは、「うすはりほど薄くないシンプルなタンブラーや、背の低いロックグラスのようなタイプが使いやすいと思います。ビールでもワインでも、お茶でもジュースでも、違和感なく使えます」(写真撮影/嶋崎征弘)

よいものを長く大切に使いたいという想いが深い桑原さん。お母様から譲り受けたもの、大学生のころに買ったもの、アンティークショップで出合ったもの。桑原さんのキッチンには、時間をかけて集めたお気に入りがあふれていました。そのアプローチは、何年にもわたって手をかけ続ける家づくり、キッチンづくりにも表れています。

桑原さんのキッチンや愛用品を拝見し、そのお話を聞くにつれ、改めて「家づくりは急がなくていい」「いきなりゴールを目指さなくていい」のだと感じました。少しずつ積み重ねながら、時とともに味わいを増していく桑原家。ここから紡ぎ出される、素朴ながらも研ぎ澄まされたおいしいお菓子のレシピを、これからも楽しみにしています。

●前編はこちら
料理家のキッチンと朝ごはん[1]前編 オープン収納で取り出しやすく。桑原奈津子さんのサンドイッチレシピ●取材協力
桑原奈津子さん
広島市生まれ。幼少期をベルギーで過ごす。大学卒業後、カフェのベーカリー・キッチンを経て、大手製粉会社に入社。製菓・製パンメーカーへの試作・商品化に数多く携わる。その後、外資系の加工でん粉メーカーで研究職に従事。2004年独立、フリーの料理家に。著書に『小麦粉なしでかんたん、やさしい。お菓子とパン』(主婦と生活社)、『いっぴきとにひき』(大福書林)など多数。
>HP >Twitter >Instagram

料理家のキッチンと朝ごはん[1]後編 調理実習台が主役。道具・器は長く使えるいいものだけを集めた

スタイリングもこなす料理研究家として、雑誌や書籍でさまざまなお菓子のレシピを提案している桑原奈津子さん。前回は、定番の朝ごはんとそのつくり方についてお聞きしました。今回は、桑原家のキッチンと、愛用している調理道具や器について、お話を伺います。【連載】料理家のキッチンと朝ごはん
料理研究家やフードコーディネーターといった料理のプロは、どんなキッチンで、どんな朝ごはんをつくって食べているのでしょうか? かれらが朝ごはんをつくる様子を拝見しながら、美味しいレシピを生み出すプロならではのキッチン収納の秘密を、片づけのプロ、ライフオーガナイザーが探ります。築55年の戸建をリノベーション。月日を経て味わいを増すキッチン

「工場や学校っぽい雰囲気が好き」だという桑原さん。キッチンツールや家具なども、無駄な装飾を省いた業務用のものが好みだそうです。けれども、桑原さん宅のキッチンは「業務用」という言葉からイメージされる無骨さとは無縁の、あたたかみのある雰囲気。

窓枠には、自家製の梅干しやフルーツのシロップ、空き瓶や保存容器などをディスプレイするように並べて収納。インテリアとしてキッチンになじんでいます(写真撮影/嶋崎征弘)

窓枠には、自家製の梅干しやフルーツのシロップ、空き瓶や保存容器などをディスプレイするように並べて収納。インテリアとしてキッチンになじんでいます(写真撮影/嶋崎征弘)

あたたかな日が差し込むダイニングスペースには、雑種のキップル(左)、ハチワレ猫の小鉄(右)、黒猫のクロ(出演拒否)のふかふかベッドが仲良く並んでいました(写真撮影/嶋崎征弘)

あたたかな日が差し込むダイニングスペースには、雑種のキップル(左)、ハチワレ猫の小鉄(右)、黒猫のクロ(出演拒否)のふかふかベッドが仲良く並んでいました(写真撮影/嶋崎征弘)

12年前にリノベーションした築55年の一戸建ての窓枠や柱などを、当時のまま残していることが、ぬくもりを感じさせる一因のようです。そこに、てらいのないスタイリングを得意とする桑原さんの手が加わることで、甘すぎないけれども穏やかでほっとする、独自の世界観が築き上げられていました。

「クリナップ」の調理実習台。大勢で使うことを前提でデザインされたシンクは、手前からでも横からでも洗い物ができる仕様。作業台下の収納スペース奥側にはボウルなどの調理道具、手前には「無印良品」の密閉ボックスを並べ、小麦粉や砂糖のストックを収納(写真撮影/嶋崎征弘)(写真撮影/嶋崎征弘)

「クリナップ」の調理実習台。大勢で使うことを前提でデザインされたシンクは、手前からでも横からでも洗い物ができる仕様。作業台下の収納スペース奥側にはボウルなどの調理道具、手前には「無印良品」の密閉ボックスを並べ、小麦粉や砂糖のストックを収納(写真撮影/嶋崎征弘)

桑原家の家具やキッチンツールの大半は、素材がステンレスもしくは木、色は白でそろえられています。すべてのものを同じタイミングで集めたわけではないのに、素材感や色が統一されているから、ものを出しっぱなしにした「オープン収納」を取り入れていても、キッチン全体がすっきりと、まとまって見えます。

ステンレス製キッチンと調和する、淡いグレーの背面カウンターは「校庭にあった水飲み場のイメージ。小石を混ぜて固めたセメントを、職人さんが手作業で研ぎ上げてくれました」。使い込むほど味の出る素材です(写真撮影/嶋崎征弘)

ステンレス製キッチンと調和する、淡いグレーの背面カウンターは「校庭にあった水飲み場のイメージ。小石を混ぜて固めたセメントを、職人さんが手作業で研ぎ上げてくれました」。使い込むほど味の出る素材です(写真撮影/嶋崎征弘)

「調理台にも背面カウンターにも引き出しが少ないので、新たに引き出し付きのワゴンを買い足しました。仕事場っぽい雰囲気にしたかったので、家具より工具入れが合うのではないかと思って、ネットで探しました。キッチンまわりの細々としたものを整理するのにとても便利ですよ」

「トラスコ」の「エースワゴン」にスパイスやカトラリー、トングなどを収納。同行のカメラマンさんいわく、「フォトスタジオでもよく使われているスチールワゴンです。ぼくもほしい」そうです(写真撮影/嶋崎征弘)

「トラスコ」の「エースワゴン」にスパイスやカトラリー、トングなどを収納。同行のカメラマンさんいわく、「フォトスタジオでもよく使われているスチールワゴンです。ぼくもほしい」そうです(写真撮影/嶋崎征弘)

最初にリノベーションを行ったのは12年前ですが、その後も少しずつ手を加え続けている桑原家。「収納スペースの中に取り付ける予定だった固定式の棚板は、あえて2年ほど設置しなかったんです。実際に使ってみて、ここだと確信できてから取り付けを依頼しました」。3年前には、本格的な修繕工事も実施。当時予算の都合などもあり、建築家と相談のうえ後回しにしていた外壁や屋根などに手を加えたそうです。

ウォールナットのダイニングテーブルは190 x 100cm。テーブルに合わせた6脚のチェアはすべてデザイン違い。アメリカの工場用の照明は、アンティークショップで見つけたもの(写真撮影/嶋崎征弘)

ウォールナットのダイニングテーブルは190 x 100cm。テーブルに合わせた6脚のチェアはすべてデザイン違い。アメリカの工場用の照明は、アンティークショップで見つけたもの(写真撮影/嶋崎征弘)

ダイニングテーブル背面に置いた白い飾り棚は、桑原さんが大学生のときに買ったもの。「薬棚のようなたたずまいが気に入っています」。前面がガラス扉なので、美しいコーヒーカップやティーポットなどを飾りながら収納(写真撮影/嶋崎征弘)

ダイニングテーブル背面に置いた白い飾り棚は、桑原さんが大学生のときに買ったもの。「薬棚のようなたたずまいが気に入っています」。前面がガラス扉なので、美しいコーヒーカップやティーポットなどを飾りながら収納(写真撮影/嶋崎征弘)

気に入ったものを長く大切に使うことで、自然と生まれた”統一感”

前回、桑原さんが朝ごはんをつくる際に使用したキッチンツール一式はこちら。「気に入ったものは長く使うほうです。ゆで卵をつぶすのに使ったザル、野菜の水切りに使ったサラダスピナーは、わたしの実家で使っていたものを譲り受けました。20~30年以上前のものなので、残念ながらメーカーや商品名は分かりません……」

画像の上、2本は「ウェンガー」のブレッドナイフとスナックナイフ。右のゴムベラは、継ぎ目のない一体型を愛用。中央の小さなボウルは調味料や食材をちょこっと入れるのに便利なので、たくさん持っているそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

画像の上、2本は「ウェンガー」のブレッドナイフとスナックナイフ。右のゴムベラは、継ぎ目のない一体型を愛用。中央の小さなボウルは調味料や食材をちょこっと入れるのに便利なので、たくさん持っているそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

朝ごはんに合わせる水出しコーヒーは多めにつくって、冷蔵庫にストックしているとのことでしたが、「紅茶も多めに淹れて、冷蔵庫にストックしています。水出しコーヒーと同じように、アイスで飲みたいときはそのまま、ホットで飲みたいときは電子レンジで温めればいいだけなので手軽ですよ」。

コーヒーは「KINTO」のジャグに、紅茶は「HARIO」のティーサーバーにストック。コーヒーはストックを切らさないようジャグを2本使い、「1本がなくなりそうになったら、もう1本つくるようにしています」(写真撮影/嶋崎征弘)

コーヒーは「KINTO」のジャグに、紅茶は「HARIO」のティーサーバーにストック。コーヒーはストックを切らさないようジャグを2本使い、「1本がなくなりそうになったら、もう1本つくるようにしています」(写真撮影/嶋崎征弘)

水出しコーヒーは「iwaki」のウォータードリップサーバーで抽出しています。「サーバーの大きさが400mlちょっとなので、1本のジャグに2回分入れています。1回の抽出に4時間、2回だと8時間。時間はかかりますが、放っておくだけでできるので手間はかかりません」

お取り寄せしているコーヒー豆を、その都度「Bodum」のグラインダーで挽いて水出ししているそうです。時間をかけて抽出するため、苦みやエグみの少ない、さっぱりとまろやかなコーヒーが淹れられます(写真撮影/嶋崎征弘)

お取り寄せしているコーヒー豆を、その都度「Bodum」のグラインダーで挽いて水出ししているそうです。時間をかけて抽出するため、苦みやエグみの少ない、さっぱりとまろやかなコーヒーが淹れられます(写真撮影/嶋崎征弘)

「業務用」のキッチンツールのなかにも、桑原さんのお気に入りアイテムがあるそうです。例えば、あちこちで少しずつ集めたステンレスのメジャーカップは「計量するだけでなく、水分の多いものをすくったり、小さなボウル代わりに使ったり。多用途に使えるので便利です。無駄のないデザインで、見た目がシンプルなところも気に入っています」

お気に入りのメジャーカップの奥にあるスケールも業務用。「感度が高いので計量スピードが早く、精度も高いんですよ。業務用なので丈夫で、とても古いものですがまだまだ現役。壊れる気配はありません」(写真撮影/嶋崎征弘)

お気に入りのメジャーカップの奥にあるスケールも業務用。「感度が高いので計量スピードが早く、精度も高いんですよ。業務用なので丈夫で、とても古いものですがまだまだ現役。壊れる気配はありません」(写真撮影/嶋崎征弘)

砂糖・塩を入れている容器も業務用です。ステンレスふたの内側にある凸部分を本体ケースにひっかけると、ふたを開けたままにできるというスグレモノ(写真撮影/嶋崎征弘)

砂糖・塩を入れている容器も業務用です。ステンレスふたの内側にある凸部分を本体ケースにひっかけると、ふたを開けたままにできるというスグレモノ(写真撮影/嶋崎征弘)

工場や学校っぽい雰囲気が好きだとは言っても、「実用的なもの」ばかりではない桑原さんのキッチン。トースターの上に置かれた木製トングは、「はさみ型なのでトーストしたパンをはさみやすいんですよ。トングでトースターから取り出したパンは、木製トレーの上に置くと、溝にパンくずが落ちて散らからない仕組みなんです。かわいらしくて、いいでしょう(笑)」と、おちゃめに語ってくれました。

トーストだけでなく、お菓子やサラダをはさむのにも使いやすいという木製トング。よくあるステンレス製のトングよりあたたかみがあるので、テーブルにそのまま出してもスタイリングの邪魔になりません(写真撮影/嶋崎征弘)

トーストだけでなく、お菓子やサラダをはさむのにも使いやすいという木製トング。よくあるステンレス製のトングよりあたたかみがあるので、テーブルにそのまま出してもスタイリングの邪魔になりません(写真撮影/嶋崎征弘)

大好きな器を大事に収めるために設計した、天井まである大型収納

料理研究家という職業柄、桑原さんはたくさんの食器やグラス、スタイリング小物などをお持ちです。にもかかわらず、そういったものが出しっぱなしになっていないのは、シンク横に造り付けた大型タワー収納のおかげ。よく使う食器や調理道具はシンクのすぐ横の棚にまとめ、あまり使わない雑貨類は上の棚に保管しているそうです。

使用頻度の低いお菓子の型や木製トレーなどは、左側の棚に。スタイリング用に保管しておきたい小物のほか、あまり使わないホットプレートやたこ焼き機などは上段に収納。明確にゾーニングされていました(写真撮影/嶋崎征弘)

使用頻度の低いお菓子の型や木製トレーなどは、左側の棚に。スタイリング用に保管しておきたい小物のほか、あまり使わないホットプレートやたこ焼き機などは上段に収納。明確にゾーニングされていました(写真撮影/嶋崎征弘)

冷蔵庫のサイズに合わせて造り付けているため、収納スペースの奥行きは約70cmと深めです。奥行きが深いと食器棚としては扱いづらいものなのですが、桑原さんは手前に使用頻度の高いもの、奥側に使用頻度の低いものを収めることで、使い勝手をよくしていました。収めるものの高さに合わせて、棚板の幅が微調整されていることも、ものの探しやすさ、出し入れしやすさに直結しています。

グラス、マグ、平皿、小鉢、汁椀など、ジャンルごとにざっくり分類。お皿は似たサイズごとに重ねて収納しています。ココットや小さいグラスなど、こまごましたものはプラスチックのかごにまとめて取り出しやすく(写真撮影/嶋崎征弘) 

グラス、マグ、平皿、小鉢、汁椀など、ジャンルごとにざっくり分類。お皿は似たサイズごとに重ねて収納しています。ココットや小さいグラスなど、こまごましたものはプラスチックのかごにまとめて取り出しやすく(写真撮影/嶋崎征弘) 

「収納スペースがいっぱいなので、以前ほど食器を買わなくなりました。最近はお気に入りのショップに出かけても、見るだけのことが多いです。今使っているものが割れたり、欠けたりしたら、その分は買っていいことにしているんですが、食器って意外と丈夫で長持ちするんですよね(笑)。うちにあるものは、気がつくとどれも長いこと使っているものばかり。使い込むうちに愛着が増すように感じます」

「食器はまとめてそろえず、一枚ずつ集めてもいい」という桑原さん。おすすめは、「お皿なら、白い陶器のもの。磁器よりもあたたかみがあり、使うほどに味がでます。パスタでもカレーでも、おでんでも煮物でも、フルーツでも合いますよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

「食器はまとめてそろえず、一枚ずつ集めてもいい」という桑原さん。おすすめは、「お皿なら、白い陶器のもの。磁器よりもあたたかみがあり、使うほどに味がでます。パスタでもカレーでも、おでんでも煮物でも、フルーツでも合いますよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

グラスのおすすめは、「うすはりほど薄くないシンプルなタンブラーや、背の低いロックグラスのようなタイプが使いやすいと思います。ビールでもワインでも、お茶でもジュースでも、違和感なく使えます」(写真撮影/嶋崎征弘)

グラスのおすすめは、「うすはりほど薄くないシンプルなタンブラーや、背の低いロックグラスのようなタイプが使いやすいと思います。ビールでもワインでも、お茶でもジュースでも、違和感なく使えます」(写真撮影/嶋崎征弘)

よいものを長く大切に使いたいという想いが深い桑原さん。お母様から譲り受けたもの、大学生のころに買ったもの、アンティークショップで出合ったもの。桑原さんのキッチンには、時間をかけて集めたお気に入りがあふれていました。そのアプローチは、何年にもわたって手をかけ続ける家づくり、キッチンづくりにも表れています。

桑原さんのキッチンや愛用品を拝見し、そのお話を聞くにつれ、改めて「家づくりは急がなくていい」「いきなりゴールを目指さなくていい」のだと感じました。少しずつ積み重ねながら、時とともに味わいを増していく桑原家。ここから紡ぎ出される、素朴ながらも研ぎ澄まされたおいしいお菓子のレシピを、これからも楽しみにしています。

●前編はこちら
料理家のキッチンと朝ごはん[1]前編 オープン収納で取り出しやすく。桑原奈津子さんのサンドイッチレシピ●取材協力
桑原奈津子さん
広島市生まれ。幼少期をベルギーで過ごす。大学卒業後、カフェのベーカリー・キッチンを経て、大手製粉会社に入社。製菓・製パンメーカーへの試作・商品化に数多く携わる。その後、外資系の加工でん粉メーカーで研究職に従事。2004年独立、フリーの料理家に。著書に『小麦粉なしでかんたん、やさしい。お菓子とパン』(主婦と生活社)、『いっぴきとにひき』(大福書林)など多数。
>HP >Twitter >Instagram

料理家のキッチンと朝ごはん[1]前編 オープン収納で取り出しやすく。桑原奈津子さんのサンドイッチレシピ

パンケーキやショートブレッド、ビスケットなど、さまざまな”粉”を使ったお菓子のレシピを提案する料理研究家、桑原奈津子さん。デザイナーの夫と、雑種のキップル、黒猫のクロ、ハチワレ猫の小鉄と暮らす桑原さんのキッチンで、朝ごはんについて伺いました。【連載】料理家のキッチンと朝ごはん
料理研究家やフードコーディネーターといった料理のプロは、どんなキッチンで、どんな朝ごはんをつくって食べているのでしょうか? かれらが朝ごはんをつくる様子を拝見しながら、おいしいレシピを生み出すプロならではのキッチン収納の秘密を、片づけのプロ、ライフオーガナイザーが探ります。平日の朝はおかず系とおやつ系、2種類のサンドイッチを定番に

レシピの提案だけでなく、スタイリングも自らこなす料理研究家として、雑誌や書籍で活躍する桑原さん。12年前、築55年の一戸建てをリノベーションした自宅兼スタジオにお邪魔した私たちを、桑原さんと共に迎えてくれたのは、雑種のキップルでした。

キップルは桑原さんの著書にもたびたび登場する有名犬。『パンといっぴき』『パンといっぴき 2』(パイインターナショナル)といった書籍のほか、ツイッター(@KWHR725)でも、そのかわいい姿が見られます(写真撮影/嶋崎征弘)

キップルは桑原さんの著書にもたびたび登場する有名犬。『パンといっぴき』『パンといっぴき 2』(パイインターナショナル)といった書籍のほか、ツイッター(@KWHR725)でも、そのかわいい姿が見られます(写真撮影/嶋崎征弘)

桑原家の平日の朝ごはんは、サンドイッチが定番だそうです。「野菜をたっぷり使ったおかず系サンドイッチと、ジャムやバターを使った甘いおやつ系サンドイッチ。2種類つくることが多いです。おかず系とおやつ系、両方あると、飽きずに楽しめますよ」と桑原さん。

今回は、おかず系として「ブロッコリースプラウトとバジルの卵チーズサンド」、おやつ系として「ピーナツバター・ジャムサンド」のつくり方を教えていただきました。

桑原さんはいつも、使う食材をすべて作業台に並べてから、朝ごはんをつくり始めるそうです。「調理中に、何度も冷蔵庫と作業台を行ったり来たりしなくていいので、無駄なく動くことができますよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

桑原さんはいつも、使う食材をすべて作業台に並べてから、朝ごはんをつくり始めるそうです。「調理中に、何度も冷蔵庫と作業台を行ったり来たりしなくていいので、無駄なく動くことができますよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

桑原さん家のピーナツバターサンドは組み合わせを楽しむ

「ピーナツバター・ジャムサンド」

<用意するもの(各2人分。分量のないものは、お好みの量を)>
・食パン 2枚
・ピーナツバター
・マーマレード

まずは「ピーナツバター・ジャムサンド」からスタート。つくり方はとっても簡単。食パン一枚にピーナツバターを、もう一枚にマーマレードをぬって重ねるだけ。「マーマレード以外のジャムでもおいしいですよ。今の季節なら、わたしは栗のジャムとローストくるみをあわせるのも好きです」

ピーナツバターは、粒が残ったクランチタイプがおすすめ。桑原さんが今使っているのは、原材料の90%以上がピーナツという「ホームプレート ピーナッツバター」。成城石井などで手に入ります(写真撮影/嶋崎征弘)

ピーナツバターは、粒が残ったクランチタイプがおすすめ。桑原さんが今使っているのは、原材料の90%以上がピーナツという「ホームプレート ピーナッツバター」。成城石井などで手に入ります(写真撮影/嶋崎征弘)

桑原家では、朝ごはん用の食パンはホームベーカリーで焼いているそうです。「ふたり家族なので、一斤で2日分の朝ごはんになります」。小麦粉、塩、砂糖、バター、牛乳、ドライイーストでつくるシンプルなパンだそうですが、粉の配合にはこだわりが。「国産小麦の『春よ恋』だけではボリューム不足だと感じるので、外国産の『カメリア』と半々くらいにブレンドしています」

桑原さん家の卵チーズサンドは具材モリモリがポイント!

「ブロッコリースプラウトとバジルの卵チーズサンド」

<用意するもの(各2人分。分量のないものは、お好みの量を)>
・食パン 2枚
・スライスチーズ 2枚(桑原さんは、白カビチーズ「トランシュ・ドゥブリー」を使用)
・ブロッコリースプラウト 25g
・バジルの葉 10枚
・ゆで卵 2個
・ピクルス 1本
・粒マスタード 小さじ1
・マヨネーズ 20~30g
・バター
・胡椒

もうひとつは、「ブロッコリースプラウトとバジルの卵チーズサンド」。まず、食パンに、室温でやわらかくしたバターをぬります。

2日に一度の高頻度でパンを焼くため、ホームペーカリーは背面カウンターに出しっぱなしに。その隣にはスタンドミキサーが置かれていました。どちらも本体の色を「白」で統一することで、出しっぱなしでもすっきり見えます(写真撮影/嶋崎征弘)

2日に一度の高頻度でパンを焼くため、ホームペーカリーは背面カウンターに出しっぱなしに。その隣にはスタンドミキサーが置かれていました。どちらも本体の色を「白」で統一することで、出しっぱなしでもすっきり見えます(写真撮影/嶋崎征弘)

次に、ゆで卵をつぶします。「エッグスライサーを使ってみじん切りにすることもありますが、今回は粗めのザルでこします。同じ食材でも、食感が違うと味の印象も変わるんですよ」。そう話しながら、作業台下のオープン棚から、ひょい!とボウルを取り出す桑原さん。

ステンレス製の大・中・小サイズのボウルは重ねて収納。その右手にはミニサイズのボウル、左手にはサイズ違いのザルが収納されています(写真撮影/嶋崎征弘)

ステンレス製の大・中・小サイズのボウルは重ねて収納。その右手にはミニサイズのボウル、左手にはサイズ違いのザルが収納されています(写真撮影/嶋崎征弘)

奥側はコの字ラックでかさ上げし、ガラス製のボウルなどを収めています。右奥にはボックスにひとまとめにした液体調味料が。のぞきこめばどこになにがあるか一目瞭然の、作業効率のよい収納スタイルです(写真撮影/嶋崎征弘)

奥側はコの字ラックでかさ上げし、ガラス製のボウルなどを収めています。右奥にはボックスにひとまとめにした液体調味料が。のぞきこめばどこになにがあるか一目瞭然の、作業効率のよい収納スタイルです(写真撮影/嶋崎征弘)

ボウルに目の粗いザルを引っ掛け、ゴムベラでゆで卵を押しつけるようにしてこしたら、さっと振り向き、背面のカウンターに出しっぱなしにしている業務用クッキングスケールに、ゆで卵の入ったボウルをのせる桑原さん。計量しながら、マヨネーズをボウルに直接絞り出します。

硬くて荒い網目のザルを使い、短く持ったゴムベラでゆで卵をつぶします。ザルでこしたゆで卵は、まるでミモザのようにかわいらしい。「ふわっとした食感が楽しめますよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

硬くて粗い網目のザルを使い、短く持ったゴムベラでゆで卵をつぶします。ザルでこしたゆで卵は、まるでミモザのようにかわいらしい。「ふわっとした食感が楽しめますよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

続いて、瓶入りマスタードをすくうためのスプーンを取り出したのは、水切りかご。「頻繁に使うものは、洗ったあと水切りかごに入れっぱなしです(笑)」という桑原さんの発言に、なぜだか親近感を感じてしまう……。

洗ったカトラリー類は、水切りかご横に引っ掛けた付属のステンレスのカップに入れておきます。カップを作業台側にひっかけておけば、調理中でも片手でさっと取り出せます(写真撮影/嶋崎征弘)

洗ったカトラリー類は、水切りかご横に引っ掛けた付属のステンレスのカップに入れておきます。カップを作業台側にひっかけておけば、調理中でも片手でさっと取り出せます(写真撮影/嶋崎征弘)

先ほどバターをぬった食パンに粒マスターをのばしてスライスチーズをのせ、その上にマヨネーズを加えて混ぜたゆで卵ペーストをのせます。

ゆで卵をつぶすとき、調味料を混ぜるとき、卵ペーストをぬり広げるとき。すべて同じゴムベラを使えば、洗い物が減らせます。朝の貴重な時間を無駄にしない、小さな工夫(写真撮影/嶋崎征弘)

ゆで卵をつぶすとき、調味料を混ぜるとき、卵ペーストをぬり広げるとき。すべて同じゴムベラを使えば、洗い物が減らせます。朝の貴重な時間を無駄にしない、小さな工夫(写真撮影/嶋崎征弘)

作業台からまた振り向いて、背面カウンター上のナイフスタンドからナイフを、その横のツールスタンドから菜ばしを取ります。菜ばしでピクルスを瓶から取り出してまな板に置き、ナイフで半分にカット。

壁面に取り付けるマグネット式のナイフラックも検討したものの、「常に刃が見えているのが怖くて(笑)」。代わりに、ワンアクションで出し入れできる竹製のナイフスタンドを採用(写真撮影/嶋崎征弘)

壁面に取り付けるマグネット式のナイフラックも検討したものの、「常に刃が見えているのが怖くて(笑)」。代わりに、ワンアクションで出し入れできる竹製のナイフスタンドを採用(写真撮影/嶋崎征弘)

卵ペーストの上にカットしたピクルスを並べたら、洗ってサラダスピナーでしっかり水切りしたブロッコリースプラウトをのせます。その上に、お好みでマヨネーズをしぼって、バジルをのせます。もちろんバジルも、洗ってしっかり水切りするのが、水っぽくならない秘訣。「サラダスピナーは朝も晩もよく使う道具なので、あえてしまいこまず、たいてい作業台の上に出しっぱなしにしています」

ブロッコリースプラウトはパンではさむとかさが減るので、「盛りすぎかな?」と思うくらい多めにトッピングするのがポイント。バジルが苦手なら、なくてもOK(写真撮影/嶋崎征弘)

ブロッコリースプラウトはパンではさむとかさが減るので、「盛りすぎかな?」と思うくらい多めにトッピングするのがポイント。バジルが苦手なら、なくてもOK(写真撮影/嶋崎征弘)

最後に、もう一枚の食パンをのせ、上から優しくぎゅっと抑えたら、「ブロッコリースプラウトとバジルの卵チーズサンド」の出来上がりです。

夫婦の食べる時間に合わせ、半分は朝ごはん、もう半分は昼ごはんに

完成した二種類のサンドイッチは、夫婦二人分。桑原さんの朝ごはんと、夫の昼ごはんになるそうです。「夫は朝、あまり食欲がないので、コーヒーと果物といった軽いものを別に用意しています。夫用のサンドイッチはラップで包んで保冷バッグに入れ、お弁当にしています」。そう話しながら桑原さんは、作業台横にある電子レンジ台の下から、するっとラップを取り出しました。

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ラップの収納場所は、出来上がったサンドイッチを包むとき、作業台から一歩も動かずに取り出せる絶妙な配置。電子レンジ下なので、温めたい食品にラップをかけるのにも便利(写真撮影/嶋崎征弘)

ラップの収納場所は、出来上がったサンドイッチを包むとき、作業台から一歩も動かずに取り出せる絶妙な配置。電子レンジ下なので、温めたい食品にラップをかけるのにも便利(写真撮影/嶋崎征弘)

半分にカットしたおかず系サイドイッチとおやつ系サンドイッチをそれぞれラップで包んだら、夫のお弁当が完成。ご自身のサンドイッチは、お皿にのせて食卓へ。

食器類の大半は作業台横に造り付けた収納スペースにまとめているため、お皿を取り出して盛り付ける動きもスムーズ。奥行きがある棚の手前によく使う器、奥にあまり使わない器を配置(写真撮影/嶋崎征弘)

食器類の大半は作業台横に造り付けた収納スペースにまとめているため、お皿を取り出して盛り付ける動きもスムーズ。奥行きがある棚の手前によく使う器、奥にあまり使わない器を配置(写真撮影/嶋崎征弘)

朝ごはんに合わせる定番の飲み物は、水出しコーヒー。「夫とわたしで、それぞれコーヒーを飲むタイミングが違うので、一度に800mlくらいを水出しして、常に冷蔵庫にストックしています」。暑い季節なら冷蔵庫からそのまま取り出してアイスコーヒーとして、寒い季節は電子レンジで温めてホットコーヒーとして飲むそうです。

お気に入りのコーヒー豆は、鎌倉にある「カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュ」のもの。お店のウェブショップで、中深煎りと深煎りのものを選んで1kgくらいまとめて購入しているそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

お気に入りのコーヒー豆は、鎌倉にある「カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュ」のもの。お店のウェブショップで、中深煎りと深煎りのものを選んで1kgくらいまとめて購入しているそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

朝ごはんづくりに悩む時間が減らせる、メニューの柔軟なルール化

桑原さんが食卓に座り、「いただきまーす」の瞬間、どこからともなく近づいてきたのは、もちろんキップル。「パンが大好きなので、朝ごはんの準備ができると、自然と近くにやってきます」。書籍やツイッターで紹介されているとおりのキップルと桑原さんの朝ごはんの風景は、見ているだけでほのぼのと癒やされるものでした。

里親募集サイトを通して、生後3カ月くらいで桑原家にやってきたキップルは、現在12歳。「保護犬の存在と雑種犬の魅力を伝えられたらと思って、ツイッターにキップルの写真を投稿しはじめました」(写真撮影/嶋崎征弘)

里親募集サイトを通して、生後3カ月くらいで桑原家にやってきたキップルは、現在12歳。「保護犬の存在と雑種犬の魅力を伝えられたらと思って、ツイッターにキップルの写真を投稿しはじめました」(写真撮影/嶋崎征弘)

「朝ごはん」というと、毎朝、違うものを用意しなくては!と意気込んでしまい、キッチンに立つのが憂うつになることも。桑原さんのように、「平日はサンドイッチが定番。そのときどきで、具材を変える」と、あらかじめ柔軟なルールを決めておけば、「朝、なにをつくろうか?」と悩む時間を減らせそうです。

また、よく使うものは出しっぱなしにしたり、扉のないオープン棚を活用したりといった桑原家のキッチン収納のスタイルは、料理が苦手、片づけが面倒なわたしのようなタイプは積極的に見習いたい考え方です。いちいちものを取り出す手間、収める手間がかからないだけでも、料理がうんとラクになる可能性があります。

おでこのハチワレ模様がかわいい小鉄。カメラ目線で次々とポーズを決めてくれるキップルと違って、なかなかカメラのほうを向いてくれなかったのですが、最後はこのとおり。特別大サービスです((写真撮影/嶋崎征弘)

おでこのハチワレ模様がかわいい小鉄。カメラ目線で次々とポーズを決めてくれるキップルと違って、なかなかカメラのほうを向いてくれなかったのですが、最後はこのとおり。特別大サービスです((写真撮影/嶋崎征弘)

今回は、気分よくぱぱっとつくって、おいしく食べるための桑原さんの朝ごはんとキッチンの工夫をご紹介しました。次回は、桑原さん愛用のキッチンツールや器などについて、お話を伺います!

●取材協力
桑原奈津子さん
広島市生まれ。幼少期をベルギーで過ごす。大学卒業後、カフェのベーカリー・キッチンを経て、大手製粉会社に入社。製菓・製パンメーカーへの試作・商品化に数多く携わる。その後、外資系の加工でん粉メーカーで研究職に従事。2004年独立、フリーの料理家に。著書に『小麦粉なしでかんたん、やさしい。お菓子とパン』(主婦と生活社)、『いっぴきとにひき』(大福書林)など多数。
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