NY現地レポ! 新型コロナ、戦争、物価高。「モノ不足」に市民が悲鳴

コロナ禍になって3年目。アメリカでは「モノ不足」が叫ばれるようになって久しい。
2020年3月、日本と同様、アメリカでも人々は未曾有の脅威に備え「買いだめ」に走った。それによりトイレットペーパー、消毒液、不織布マスク、風邪薬、長期保存用のパスタや米といった食料品、ミネラルウォータなどがスーパーの棚からごっそり消えた。
感染拡大の落ち着きとともに品不足は解消されたが、コロナ禍3年目の今年になっても、さまざまな「モノ不足」が社会問題になっている。

(写真/PIXTA)

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アメリカで深刻な粉ミルク不足

日本では、新型コロナや戦争などに関連して材料不足・労働力不足による値上げや品不足が取りざたされているが、それだけとも限らない。例えば今春、ベビーフォーミュラ(粉ミルクなど乳児用ミルク)の品薄が子を持つ親にとって切実な問題となった。

そもそもの原因は、粉ミルクを飲んだ乳児4人が細菌による感染症で入院、うち2人が死亡したことだ。この粉ミルクは米最大手アボット・ラボラトリーズのミシガン州の工場で製造されたもので、同社は問題発覚後、製品を回収し工場の稼働を停止した。その影響で消費者がパニック買いをしたことで、5月半ばには全米で粉ミルクが常時より43%減り、どの店でも品薄状態に陥った。

きっかけは1社の感染症によるもので、厳密に言えば労働力不足や戦争などが関連したものではないが、コロナ禍で社会不安が広がるなか、人々がニュースに敏感になり、ちょっとした異変を感じては買いだめに走り、商品が棚からごっそりなくなるという意味では、この2年で発生したほかの品不足騒動と類似している。

その後FDA(アメリカ食品医薬品局)は、外国製粉ミルクの輸入を認める方針を発表し、ヨーロッパからの輸入に頼る緊急対策を打ち出した。さらに、工場の衛生環境の見直しなどを条件にアボット社の再稼働を許可したことで、問題はさしずめ落ち着いたように見られるが、店によってはまだ品薄状態だ。足りない地域の人々は、他州に買いに行ったりオンラインで購入したりしている。

7月下旬になっても、ニューヨーク市内のドラッグストアでは乳幼児用製品が品薄状態  (c) Kasumi Abe

7月下旬になっても、ニューヨーク市内のドラッグストアでは乳幼児用製品が品薄状態 (c) Kasumi Abe

ドラッグストアでは、タンポンも不足気味だ。まったくないわけではないが、商品によっては空の棚が目立つ。

タンポン売り場。7月下旬、ニューヨーク市内のドラッグストアにて (c) Kasumi Abe

タンポン売り場。7月下旬、ニューヨーク市内のドラッグストアにて (c) Kasumi Abe

ニューヨークタイムズによると、タンポンの品薄状態はインフレによる消費者物価の上昇が背景にあるという。また、金融関連の専門メディア、ブルームバーグによると、インフレにより今年5月の時点で、生理用ナプキンの平均価格は今年の初めに比べて8%以上上昇し、タンポンの価格は10%近く上昇した。

タンポンの製造を行うタンパックス(Tampax)社は、コットンやプラスチックなどの原材料を入手するのに高いコストがかかっていることにより(製造が)非常に不安定であると発表している。

コロナ禍以降のモノ不足について、ニューヨークタイムズは、粉ミルクやタンポン以外にも「トイレットペーパー、自動車、厨房機器などの世界的なサプライチェーンが品薄の危機に晒されている」と報じた(筆者の住むエリアでは、トイレットペーパーの仕入れはここ1~2年ほど安定しているが、全米では品薄の場所もあるようだ)。

また筆者は本屋を取材した際、出版業界でも紙不足と労働力不足で印刷が減っているという話も聞いた。

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米労働省労働統計局(U.S. Bureau of Labor Statistics)によると、2021年6月と比べて、食品価格は10.4%上昇した。具体的に卵は33.1%、レタスは11.4%、パンは10.8%値上がりし、消費者物価指数(CPI)は1981年以来もっとも高い上昇率だという。ガソリンの高騰も報じられている。

インフレ以前もアメリカの都市部では物価、家賃、外食費は高かったのだが、以前ならスーパーでちょっとしたものを購入し て5000円~1万円程度で済んでいたものが、インフレの今は、6000円~1万1000円出さないといけない状態だ。買い物1回あたりは約1.1倍と微増だが、塵も積もれば結構な出費となる。筆者も極力外食を減らし自炊を増やしているのはもちろんのこと、単価が高くなったもの自体の購入自体をやめた、もしくは購入する回数を減らしたケースもある(例えば、6ドルから数セント値上がりしついに7ドルに達したお気に入りのジュースなど。6ドルでも高いと思ったが、7ドルになると手が出せない域になったと感じた)。

価格高騰の波は、さまざまな分野に影響を及ぼす

例えばニューヨークでは、数々の映画でもおなじみの観光地であるセントラルパークのボートハウスが2022年10月16日、150年の歴史に幕を閉じることが7月21日に発表された。閉店理由は「人件費と物価の上昇による」という。「また1つ、ニューヨークのアイコンがなくなる」と、市民を失望させるニュースだった。市内ではコロナ禍以降、店舗の閉店が増えるなど、ボートハウスの閉店は氷山の一角だ。

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また、都市部では住宅不足による家賃高騰も続いている。

新型コロナがサプライチェーンにもたらす影響

コロナ禍初期、行動制限により世界中の工場が操業を停止した。それにより何が起こったかというと、サプライチェーン(商品や製品が消費者の手元に届くまでの調達、製造、在庫管理、配送、販売、消費という一連の流れ)の一時停滞と、世界の物流の寸断だ。

コロナ禍3年目のいま、初期とは別の問題が生じている。一時は停滞していた経済活動が回復し、需要が増えたのはいいが、供給が追いつかない状態なのだ。コロナ禍以降、住宅着工件数が急増したことで、輸入木材の価格は2021年10月の時点で、コロナ禍前の2019年12月に比べて1.8倍に、自動車や電子機器に使われる銅の価格は2021年11月、2019年12月の1.5倍にはね上がった。木材や銅などの資源価格が急激に上昇し、コンテナ不足などもあり物流が混乱している状態だ。

労働力も足りない

コロナ禍以降の不足は「モノ」など物質だけではない。「人」や「労働力」もそうだ。

筆者は日常生活のあらゆる場で、人手不足を感じている。例えば、銀行に行くにも予約が取りにくい状況だ。その理由を行員に尋ねると「Labor shortage(人手不足、労働力不足)」と説明される。薬局では、万引き防止で鍵のかかった商品を出してもらおうと店員を呼んでも、しばらく誰も来てくれないことがある。スタッフが足りていないのだ。

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現在は真夏のプールシーズン真っ盛りだが、ライフガード不足でいくつかの公共プールの閉鎖(もしくは入場制限)が報じられた。

また、今はそれほど深刻ではないものの、今後はオリーブオイルの品薄も懸念されている。オリーブの生産国の1つ、イタリアでオリーブ急速衰退症候群といってオリーブの樹木を枯らす細菌が急速に蔓延しているのが原因だ。専門家によると、そのせいで過去5年間で生産量が約50%も損なわれるなど大きな被害が出ている。これに加え、世界中のサプライチェーンの問題、労働力不足、ウクライナでの戦争も供給に影響を及ぼすというのだ。

このようにコロナ禍以降の「人・モノ不足」は、アメリカのみならず世界各地での切実な問題だ。
市井の人の視点としては、モノ不足に関して「まったくない」状態ではないので行政の目立った対策はないものの、以前と比べて「チョイスが限られるようになった」のは事実。世界的なサプライチェーンの問題はしばらく続きそうだが、それさえ解決できたら少しは人・モノ不足も解消されていくだろうと、人々は期待を寄せている。

コロナ、がん、認知症など重い社会課題に”太陽のアプローチ”を。「注文をまちがえる料理店」小国士朗さんが起こした『笑える革命』

世界にはさまざまな「社会課題」がありますが、そのほとんどはどこか重々しく、深刻な雰囲気をまとっています。そんな、ともすれば目を背けてしまいたくなる課題に対し、「笑って考える」という独特のアプローチで向き合う人がいます。

小国士朗さん。認知症の状態にある高齢者などがホールスタッフを務める「注文をまちがえる料理店」をはじめ、社会課題をテーマにした話題のプロジェクトを数多く手掛けてきました。

「みんなで手を取り合って、にこにこ、へらへら、わっははと笑いながら革命をしたい」と語る小国さん。そんな「笑える革命」に取り組む理由や思いについて伺いました。

全ての企画には「原風景」がある

――小国さんはこれまで社会課題をテーマにしたさまざまなイベントやプロジェクトを手掛けていますが、最初に大きな話題を呼んだのはNHK在職時の2017年に企画した「注文をまちがえる料理店」でした。この企画は、どんな経緯で生まれたのでしょうか?

小国:企画の起点になったのは、2012年に『プロフェッショナル 仕事の流儀』というテレビ番組の取材で訪れた、とあるグループホームでの出来事でした。ロケの合間に入居者のおじいさん、おばあさんからお昼ご飯をご馳走になることがあったのですが、その日の食卓に出てきたのは事前に聞いていたハンバーグではなく餃子。でも、そんな“まちがい”を気にする人なんてそこには誰もいなくて、みんな美味しそうに餃子を食べている。そんな「風景」が強烈に印象に残ったんです。

小国士朗さん。株式会社小国士朗事務所 代表取締役/プロデューサー。2003年NHK入局。『プロフェッショナル 仕事の流儀』『クローズアップ現代』などのドキュメンタリー番組を中心に制作。その後、番組のプロモーションやブランディング、デジタル施策を企画立案する部署で、ディレクターなのに番組を作らない“一人広告代理店”的な働き方を始める。150万ダウンロードを記録したスマホアプリ「プロフェッショナル 私の流儀」の他、個人的なプロジェクトとして、世界150カ国に配信された、認知症の人がホールスタッフを務める「注文をまちがえる料理店」なども手掛ける。2018年6月にNHKを退局し、現職。「deleteC」「丸の内15丁目プロジェクト」「Be Supporters!」など多数のプロジェクトに携わっている(写真撮影/片山貴博)

小国士朗さん。株式会社小国士朗事務所 代表取締役/プロデューサー。2003年NHK入局。『プロフェッショナル 仕事の流儀』『クローズアップ現代』などのドキュメンタリー番組を中心に制作。その後、番組のプロモーションやブランディング、デジタル施策を企画立案する部署で、ディレクターなのに番組を作らない“一人広告代理店”的な働き方を始める。150万ダウンロードを記録したスマホアプリ「プロフェッショナル 私の流儀」の他、個人的なプロジェクトとして、世界150カ国に配信された、認知症の人がホールスタッフを務める「注文をまちがえる料理店」なども手掛ける。2018年6月にNHKを退局し、現職。「deleteC」「丸の内15丁目プロジェクト」「Be Supporters!」など多数のプロジェクトに携わっている(写真撮影/片山貴博)

小国:僕はそれまで、「間違いは指摘して正すのが当たり前」だと思っていました。でも、そうではなくて、その場にいるすべての人がそれを受け入れれば間違いではなくなるのだと気づいた。目からウロコが落ちると同時に、ふと“注文をまちがえる料理店”というワードと、そこで働くおじいさん、おばあさんの姿、間違えて運ばれてきた料理を笑いながら食べているお客さんの姿が浮かびました。

認知症の状態にある高齢者や若年性認知症の方がホールスタッフを務めるイベント型のレストラン「注文をまちがえる料理店」。オーダーや配膳を間違えても、それを一緒に笑い飛ばすおおらかな雰囲気に包まれている(画像提供/小国士朗さん)

認知症の状態にある高齢者や若年性認知症の方がホールスタッフを務めるイベント型のレストラン「注文をまちがえる料理店」。オーダーや配膳を間違えても、それを一緒に笑い飛ばすおおらかな雰囲気に包まれている(画像提供/小国士朗さん)

――小国さんの企画には、全てにそうした「原風景」があるそうですね。

小国:そうですね。これまでに携わってきた企画には全て、心を動かされた「原風景」があります。僕はただ、それをちょっとずらしたり、拡張しているだけなんです。

例えば、みんなの力でがんを治せる病気にすることを目指すプロジェクト「deleteC」も、とある原風景が企画の発端になっています。この企画はもともと、自身も乳がんを患っていた友人の中島ナオさんから「がんを治せる病気にしたい」と相談を受けたのが始まりでした。でも、そんなことを言われても正直、医者でも研究者でもない僕にできることなんて何もないと思っていたんです。

そんな時、ふとナオさんが見せてくれた一枚の名刺を見た瞬間に衝撃を受けました。

アメリカのがん専門病院に勤務する上野直人医師の名刺。「Cancer(がん)」の文字の部分に赤線が引かれている(画像提供/小国士朗さん)

アメリカのがん専門病院に勤務する上野直人医師の名刺。「Cancer(がん)」の文字の部分に赤線が引かれている(画像提供/小国士朗さん)

小国:その名刺は「Cancer(がん)」の文字の部分に赤線が引かれていました。僕はこれを見て感動するとともに、こんなアイデアが浮かびました。「世の中の商品やサービスの名前から“C”の文字を消して、それらの売上の一部を、がんの治療研究に寄付しよう」と。

つまり、この名刺を見た時に受けた衝撃が「deleteC」の原風景です。「Cancer」の文字を消した名刺に僕が心を動かされたように、コンビニで“C”が消えた商品を見た人が「何これ?」と前のめりになってくれるんじゃないかと。僕が感動した原風景を、企画を通して共有するようなイメージですね。

――その、共有できる「風景」がないと、企画はうまくいかないのでしょうか?

小国:必ずしもそうではないと思いますが、僕の場合は「風景」にものすごくこだわります。多くの人が参加したくなる企画や、社会全体に広がっていくようなプロジェクトには、本能的に体が動いてしまう要素があると思います。そして、そんな本能的な行動を呼び起こすのが、企画者自身が心を動かされた原風景です。それがないと、単に奇を衒(てら)ったコンセプトありきの、薄っぺらいものになってしまう気がするんです。

Cの文字を消したC.C.Lemon。この商品を買うと、売上の一部ががん治療の研究費用として寄付される(画像提供/小国士朗さん)

Cの文字を消したC.C.Lemon。この商品を買うと、売上の一部ががん治療の研究費用として寄付される(画像提供/小国士朗さん)

(画像提供/小国士朗さん)

(画像提供/小国士朗さん)

社会課題の解決には、北風よりも「太陽のアプローチ」で

――小国さんは著書『笑える革命』のなかで「北風ではなく、太陽のアプローチを心がける」と書いています。社会課題を取り上げる時、あるいは解決しようとする時に、なぜ「太陽のアプローチ」が必要なのでしょうか?

小国:NHKで社会課題を取材していた際、僕は基本的に北風的な番組づくりをしていました。つまり「このままだとヤバイですよ」「みなさん、このままでいいんですか?」といういわゆる不安訴求型のアプローチですね。もちろん、社会の大きな問題に気づいてもらうためには、こうしたド直球の伝え方も必要です。

『笑える革命』(光文社)(写真撮影/片山貴博)

『笑える革命』(光文社)(写真撮影/片山貴博)

でも、世の中がその課題に気づいた後もずっと北風を吹かせ続けていると、次第にそのテーマが顔を出しただけで目をそらしたくなってしまう。やっぱり北風がビュービュー吹いている谷には、そもそもみんな寄り付きませんから。だから、「課題解決」を目指すフェーズでは正攻法ではない「太陽のアプローチ」が必要なのだと思います。

――太陽のアプローチとは具体的にどのようなものですか?

小国:ワハハと笑いながら、思わず行動を起こしたくなるようなアプローチです。一見、暗くて重い社会課題とは似つかわしくないやり方ですね。

例えば、NHKの『テンゴちゃん』(2020年3月に放送終了)という番組で、2018年に放送した「8・15無念じいといっしょ」という企画は、まさに太陽的なアプローチだったと思います。長崎県で自身の被曝体験を次世代に語り継ぐ「語り部」の森口貢さん(当時82歳)が、VTuber(バーチャルユーチューバー)に扮して若者たちと語り合う、という企画です。

――82歳の語り部VTuverとは、かなりぶっとんだ企画ですね。

小国:森口さんはそれまでずっと、小中学校などで子どもたちに向けて戦争の悲惨さを伝える活動を続けてこられました。しかし、とある中学校で語り部をしていた際、そこにいた生徒数名から心無い暴言を吐かれることがあったんです。でも、森口さんはそこで「自分の伝え方が悪かったんだ」と反省し、どうすれば若い人にもっと伝わるのか、発信の仕方を試行錯誤していました。

(写真撮影/片山貴博)

(写真撮影/片山貴博)

だったら、いっそのこと森口さんを当時流行りはじめていたVTuberにしちゃうのはどうだろうと、番組のメンバーが言い始めたんですね。82歳のおじいさんが戦争を語ると、中学生にとっては重すぎると感じてしまうかもしれない。でも、VTuberを通せば受け入れやすく、自分ごととして捉えてもらえるのではないかと考えました。結果、1時間の生放送の間に1万5000通の質問や便りが森口さん宛に届くなど、驚くほどの反響があったんです。森口さんが言っていること自体はいつもと変わらないのですが、見せ方、表現の仕方を変えるだけでこんなにも多くの人に届くのだと実感しましたね。

――そうした太陽のアプローチが広く社会の関心を呼び、「笑える革命」につながっていくと。ただ、こうした方法は“奇策”ととられ、快く思わない人も出てきそうですが。

小国:もちろん、僕もできることなら正攻法で届けたいと思います。正攻法で世の中に広がって人が動くなら、それが一番いい。でも、それだけでは届かないことをNHKのディレクター時代に思い知らされてきました。NHKでは『クローズアップ現代』や『NHKスペシャル』といった社会課題を取り上げる番組を制作していましたが、もともとその問題に関心がある人は見てくれるんです。でも、大きくコトを動かすためには「関心がない」あるいは「(その問題を)知らない」人たちに、いかに届けるかが重要だと思っていました。

――そして、そのためには北風的なアプローチだけでは限界があると。実際、小国さんが個人として初めて手掛けた「注文をまちがえる料理店」は、国内外で大きな反響を呼びましたよね。多くの人に「届いた」という実感はありましたか?

小国:そうですね、番組づくりでは全くなかった手応えを「注文をまちがえる料理店」で初めて感じることができました。SNSなどでの反響・熱量もすごかったし、国内外のメディアが撮影に来ました。“世の中がざわついている”という感覚があって、これが「届く」ということなんだなと。

(画像提供/小国士朗さん)

(画像提供/小国士朗さん)

(画像提供/小国士朗さん)

(画像提供/小国士朗さん)

特に、海外のメディアが関心を寄せてくれたのは、自分のなかで大きかったですね。なぜなら、日本って「課題先進国」と言われているわりに、国内に解決策が少ない気がしていたんです。僕が『クローズアップ現代』や『NHKスペシャル』をつくっていたときも、「課題」は国内でいくらでも取材できる。でも、「解決策」が国内になかなかないから、ノルウェーやオランダ、イギリス、アメリカの事例を取材するという状況が当たり前になっていました。それってヘンじゃないですか。課題先進国であるなら「解決先進国」であってもいいはずなのに、その答えを海外に求めるのは違うような気がしたんです。

そんなモヤモヤがあったなか、規模は小さいけれど自分が企画したプロジェクトに対し、海外メディアが関心を示して世界に発信してくれた。ノルウェーの公衆衛生協会の偉い方がが「これが高齢化社会の次のモデルだ」と言ってくれたりした。このことは素直に嬉しかったですね。

「当たり前」を営み続けられる社会であってほしい

――もともとはテレビ番組のディレクターだった小国さんが、こうした社会課題をテーマにした企画を手掛けるようになったきっかけを教えてください。

小国:番組ディレクターとしての仕事には、大きなやりがいを感じていました。でも、33歳の時に病気になり、医者から「(激務である)ディレクターの仕事を続けるのはおすすめしません」と言われてしまったんです。

当時は、自分の一番の武器を突然奪われてしまったように感じて落ち込みましたが、同時にどこかホッとしているところもありました。先ほども言いましたが、ディレクターの仕事は楽しかったものの、いくら良い番組をつくれても、それが思うように届かないジレンマがあった。本当に届けたい人に大切なテーマが届かないというモヤモヤを抱えたまま、長く番組づくりを続けているような状態でした。

そんな時に病気になり「これで、やっと“降りられる”」と思えました。そして、安堵すると同時に、これからは「番組をつくらないディレクターになろう」と考えるようになった。テレビというものにこだわらず、自分が大切だと思うことを届け切るために、あらゆる手段を探求していこうと。

――その「届けきりたいこと」とは、それまで番組づくりで取材してきたさまざまな社会課題だったのでしょうか?

小国:いえ、僕はそもそも社会課題そのものに関心がある人間ではありません。関心があるのは、「誰も見たことがない風景」や「誰も触れたことがない価値観」を形にして、多くの人に届けることです。そもそも“Tele-vision(テレビジョン)”という言葉の意味は「遠く離れた場所でのできごとを映す」ことですから。

社会課題というのは、当事者以外にとっては遠く離れた場所での出来事、つまり“Tele”ですよね。だから、それを映したい、届けたいと思うんです。

(写真撮影/片山貴博)

(写真撮影/片山貴博)

――今は当事者ではなく「遠く離れた場所での出来事」のように思えても、いつかは自分がその問題に直面する時が来るかもしれません。すぐに何か具体的な行動を起こすことは難しくても、それについて日頃から考えておくのは大事なことですよね。

小国:そのためには、「日々の暮らし」と「社会の課題」を自然な形で結びつけることが大事だと思います。もちろん、「注文をまちがえる料理店」のように尖ったコンセプトのイベントを開催して、多くの人にそのテーマについて考えてもらうことにも意義はあるのですが、イベントというのは単発で終わってしまう。イベントをきっかけに認知症について関心を寄せてくれた人も、そのうち忘れてしまうかもしれません。

だからこそ、暮らしの中に社会課題にタッチできる接点をつくり、常にそのことについて身近に感じられるような状態にしていきたいんです。例えば、「deleteC」はコンビニやスーパーで「Cを消した商品」を買うだけで、がんの治療研究を少しだけ前に進めることができる。日々の買い物が、そのまま「がんを治せる病気にする」という社会の実現を後押しするわけです。

――そうした接点を数多く社会に実装していけば、みんなが普通に暮らしているだけで様々な社会課題を解決できるかもしれません。

小国:はい。そうなれば日本だけでも1億人ぶんのパワーが集まるわけですから、とてつもなく大きなインパクトを与えられるのではないでしょうか。

――では最後に、小国さんがこれから取り組んでみたいテーマがあれば教えてください。

小国:今は「当たり前を営む」ことに関心があります。というのも、今ってこれまで当たり前だったことが、当たり前じゃなくなっていると感じるんです。例えば、ウイルスによって当たり前のことができなくなったし、考えられないような戦争も起きてしまった。こうやって「当たり前が当たり前でなくなる」というのは、とても怖いことだと思います。

ひと箱50枚入りのマスクを55枚分の料金で販売する「おすそわけしマスク」。残りの5枚分は福祉現場に寄付(おすそわけ)される仕組み(写真提供/小国士朗さん)

ひと箱50枚入りのマスクを55枚分の料金で販売する「おすそわけしマスク」。残りの5枚分は福祉現場に寄付(おすそわけ)される仕組み(写真提供/小国士朗さん)

だって、本来は「認知症の人と共生できる社会をつくりましょう」も「気候変動をストップしましょう」も、当たり前のことですよね。でも、今はその当たり前を声高に叫ばなければいけないくらい、いろんなことが歪んでいたり、こんがらがっていたりする。同じように、「戦争なんてないほうがいい」という当たり前のことすら、いずれは当たり前に言えなくなる社会になってしまうかもしれません。

だからこそ、これからも多くの人が「当たり前」を営み続けられるよう、その尊さを実感できるような企画をやっていきたいですね。

(写真撮影/片山貴博)

(写真撮影/片山貴博)

●取材協力
小国士朗さん

NY、経済活動再開で家賃相場が30%増の地域も! シビアな世界の不動産事情

新型コロナウイルス感染症拡大で、2020年以降大打撃を受けたアメリカ・ニューヨーク。一時はロックダウンで街から人が消え去り、さらにはリモートワーク/テレワークなどの新たな働き方の浸透によって、多くの市民が市外や州外へ転出した。それに伴って、市内の不動産価格や家賃が下落。あれから2年。コロナ禍3年目となった今、感染状況は一進一退だが、不動産価格や家賃相場は再び上昇傾向になっている。そこには全世界から人が集まる大都市ならではの「ある理由」があった。

NYと日本、いま「住みたい街」とは?

アメリカの大都市ニューヨークでは、東京や大阪などと同様に、街によってそこを選ぶ人の世代やライフスタイルが異なる。収入が十分でない若年層が注目するのは、マンハッタンの外れの地域や、川を越えたクイーンズだ。タウンハウスという一軒家を借りて何人かでシェアしていることもある。子育てをしているファミリー層はマンハッタンから電車で1時間ほどの郊外にある、広い庭付きの一軒家が好まれる傾向がある。富裕層はマンハッタンのパークアベニューやアップタウン、トライベッカなどに好んで住む傾向だ。個性を求めているアーティストには、クリエイティブで独自の文化があるマンハッタンのダウンタウンや、広いロフトが多いブルックリンなどが人気だ。

ブルックリン(写真/PIXTA)

ブルックリン(写真/PIXTA)

ちなみに日本では、今コロナ禍による影響も大きな要因となって、都心よりも郊外の人気がやや上昇している。在宅時間が長くなり、人々が利便性に優れた都心だけでなく郊外の住環境などにも目を向けた結果だろう。 今年発表された「SUUMO住みたい街(駅)ランキング2022」でも、横浜駅や吉祥寺駅、恵比寿駅の人気は相変わらずだが、上位に埼玉県の大宮市や浦和市など、郊外の都市がランクインしたのが特徴的だった。

ニューヨークも同様、観光客が多いマンハッタンの繁華街ではなく、中心部から少し離れた場所や郊外などが「住みたい街」として注目されている。

2年前、この街は新型コロナウイルスの感染拡大によって大打撃を受け、経済が壊滅状態となった。感染を避けるため、またはリモートワーク/テレワークの浸透によって、多くの市民が市外や州外へと続々と転出したことが地元メディアでも報じられた。それによって、不動産価格や地価、家賃の下落が起きたのだ。不動産の調査をする「ストリート・イージー」によると、2021年1月~3月期のマンハッタンの月の家賃の中央値はコロナ騒動が勃発した時期の前年同期比17%減の2700ドル(当時の為替で約29万円)だった。これは集計を開始した10年以来で最低の数値だった。

コロナ禍3年目、不動産市場が再び活況に

しかしコロナ禍3年目となる今、ニューヨーク市内での不動産価格や地価、家賃の上昇が伝えられている。

「ニューヨークは戻った」という見出しを掲載したビジネス誌『FORTUNE(フォーチュン)』のウェブ版記事は、「アメリカの金融資本の需要はかつてないほど高まっている」とし、マンハッタンの家賃が記録的な金額に達したと報じた。

マンハッタン(写真/PIXTA)

マンハッタン(写真/PIXTA)

同誌によると、マンハッタンの家賃は昨年に比べて24%も上昇したという。中央値は昨年より705ドル(9万円以上。1ドル128円計算。以下同)も値上がりし、(今年3月時点で)3700ドル(47万円超え)に。家賃の上昇は、オフィス勤務の復活や学校再開に伴い人々が市内に戻り、空室が少なくなったことを意味する。空室率は昨年2月の時点で12%近かったが、今年の同時期は1.32%まで下がっている。

マンハッタン以外でも、ブルックリンで昨年に比べて10.5%上昇し、中央値は2900ドル(37万円超え)、クイーンズで14.5%上昇し中央値は2888ドル(37万円超え)に達するなど、市内の至るところで家賃が上昇している。

地元メディアのニューヨークポストによると、特に中心部や繁華街(マンハッタンのアッパーウェストサイドやダウンタウン、ブルックリン)の駅近くの物件において家賃が上昇傾向にあるという。

NY、エリア別の家賃相場

家賃が東京の2倍もしくはそれ以上とも言われるニューヨーク。家賃相場はエリアにより、また間取りやビルの状態などによって異なる。
ニューヨークは全体的に家賃が急上昇しています。特にマンハッタンは前年同月比で30%くらい上がっていると思います。ブルックリンも負けずに上がっています」と話すのは、滝田不動産(Yoshi Takita REALTOR(R))の代表、滝田佳功(たきたよしのり)さん。

Living NY社に勤務する、ニューヨーク州認定の不動産エージェント、木城祐(ひろし)さんも、「特に家賃が上昇しているのはマンハッタンです。アッパーマンハッタン(北部)など一部エリアを除いて、上がり続けています」と話す。

アッパーウエストサイド(写真/PIXTA)

アッパーウエストサイド(写真/PIXTA)

木城さんによると、昨年は入居者を呼び込むための優遇措置で、家賃割引や仲介料なしといった物件もあったが、現在の市場ではそれらの優遇措置はほぼ見られないという。

「日本人留学生などに人気のイーストビレッジ地区やローワー・イーストサイド地区ではパンデミック中、入居者が大量に流出し、多数の空室が出て大家は頭を抱えました。しかし昨年秋に市内の大学が対面授業の再開を発表するや否や、学生が州外や国外から市内に戻り、瞬く間に空室がなくなってしまったのが印象的です」(木城さん)

また前述の「優遇」の恩恵を受けた入居者も1年契約が終わった途端に家賃が大幅に高騰し、住み続けられず慌ててほかのアパートを探すケースもよくあるという。

滝田さんは、学校が再開して学生が戻ってきたあと、学生寮のルームシェアが撤廃されたため、寮以外の一般のアパートを借り始めた学生も多いという情報を聞いており、そんな事情も家賃上昇に拍車をかけている一因になっていそうだ。

学生だけでなく、新しくビジネスを始める人々や一度は郊外や州外に引越しをしたがやはりニューヨーク市内での生活が良いと感じた人などが戻り、市内を拠点にしたことで、家賃の高騰に拍車をかけた。

家賃以外で、暮らしで変化したこと

ニューヨーカーの暮らしを圧迫しているのは家賃だけではない。物価高騰も暮らしを圧迫している。
家賃上昇に加え、最近アメリカでは記録的なインフレが続いている。2021年から加速して39年ぶりの高水準となり、ガソリンや日用品、食費などあらゆる物価が高騰している。特にロシアによるウクライナ侵攻後、ガソリン価格が過去最高値を更新した。

また、物不足も深刻だ。住宅建築需要の増加によって、木材不足・価格高騰(ウッドショック)や半導体などあらゆる不足が連日ニュースとなっている。そして最近は、粉ミルク不足も大きな社会問題となっている。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

今後、家賃相場の高騰に対するなにか対策がされていくのか

また、インフレとは無関係に、世界を代表する大都市ニューヨークは、世界中から移住者が増え続けており、家賃は恒常的に毎年上昇し続けている。ブルックリンのアパートに住む筆者の家賃も、13年前の引っ越し当初の家賃と比べて、円にして数万円単位で値上がりしている。家賃上昇と物価高騰のWパンチで、ますます大都市は住みにくくなっている。

「この街を一層ユニークで味のあるものにしてきたのは、ここで生まれ育ったニューヨーカーたち。そんな彼らが、物価上昇と家賃の高騰に悲鳴を上げている。以前と同じ住居やエリアに住み続けられないのだとしたら、それはとても残念なことです」と、木城さんは話す。

滝田さんも、以下のように言う。
「ニューヨーク州の条例では、コロナ禍に家賃が払えなくなった住民のために『Eviction Moratorium(強制立ち退き猶予)』が設けられ、今年1月15日まで、大家による強制立ち退きは禁止されていました。またハードシップ手当として、家賃支払いができない人のための補助金も出ていたので、本当に家賃が支払えなくて退去させられた人は少ないと思います。また、生活費に困窮した市民が申請し、審査に通れば、よりリーズナブルな家賃で住める『アフォーダブルハウジングのプログラム』などの措置もあります」

最近物価高騰が報じられる日本だが、それでもコンビニに行けば、数百円単位の美味しいものに出合うことができる。当地でも昔から1ドルピザなるものがあったが、コロナ禍で次々に閉店が報じられている。物価上昇と家賃上昇などで、この大都市はさらに住みにくい街として汚名を着せられていくのか? 人々は戦々恐々としている。

●取材協力
Yoshi Takita REALTOR(R)
Living New York

コロナ対策、人気は「玄関クローゼット」。一戸建ての設計に世相が見えた!

住宅金融普及協会が、住宅事業者を対象に、近年供給されている一戸建ての設備及び仕様等に関する実態を把握するためのアンケート調査を実施した。その結果は、近年のコロナ禍や災害頻発などの社会情勢を反映したものになった。詳しく見ていこう。

【今週の住活トピック】
「住宅の設備および仕様等に関する事業者アンケート調査」結果を公表/住宅金融普及協会

住宅設計上のコロナ対策では、玄関にクローゼットが人気?

筆者が注目した調査結果の一つが、「住宅設計における新型コロナウイルスの感染予防対策への取り組み」についてだ。住宅事業者がコロナ下の2020年度に供給した、一戸建ての注文住宅または建売住宅について、次の4つの設備等を設置したかどうか聞いている。

(1)玄関に手洗い設備等の設置
(2)玄関にクローゼット等の設置
(3)在宅勤務スペースの設置
(4)宅配ボックスの設置

その結果は以下の通り。各住宅事業者が供給した「すべての住宅に設置した」か「一部の住宅に設置した」か、あるいは「設置実績がない」かを回答したものだ。

住宅金融普及協会「住宅の設備および仕様等に関する事業者アンケート調査」より転載

住宅金融普及協会「住宅の設備および仕様等に関する事業者アンケート調査」より転載

最も設置されたと考えられるのが「玄関にクローゼット等」だろう。玄関に下足入れ(靴箱)を設置するのは当然として、その脇などにコートなどが収納できる高さのクローゼットを設置するプランだ。そこにコートや上着、カバンなどを収納すれば、外出先から持ち込んだウイルスを玄関で留める効果が期待できる。

「宅配ボックス」や「在宅勤務スペース」の設置も多い。宅配ボックスは、外出が減ってネット購入が増えたこと、対面せずに受け取れることなどから、ますますニーズが高まった。在宅勤務がコロナ下で普及したことで、自宅にワークスペースを設けるニーズも生まれた。

「すべての住宅に設置」と「一部の住宅に設置」の比率の違いは、コロナ前からニーズがあったかどうかではないだろうか? 玄関脇のクローゼットや宅配ボックスはコロナ前からニーズがあったものだが、ワークスペースは一部の人にしかニーズがなかったし、「玄関手洗い」はコロナ禍で創出されたニーズだ。コロナ前は洗面所で手を洗えば十分だったので、玄関に給排水管を引いてまで手洗い場を設けるプランはめったになかった。こうした違いが、今回の調査結果にも影響していると思われる。

いずれにせよ、新型コロナウイルス感染拡大により、住宅の設計に変化が生じたことは間違いないだろう。

住宅の耐震性向上のために制振の採用が増加?

次に筆者が注目したのは、「震災対策への取り組み」だ。南海トラフ地震などの巨大地震が発生するリスクが高まっている。そんななかで、住宅の耐震性をより高めたいというニーズが感じられる結果だ。

住宅金融普及協会「住宅の設備および仕様等に関する事業者アンケート調査」より転載

住宅金融普及協会「住宅の設備および仕様等に関する事業者アンケート調査」より転載

住宅の耐震設計には「耐震」「免震」「制振(制震)」がある。地震の揺れで倒壊しない頑丈な構造にしようというのが「耐震」で、一戸建ての一般的な建て方になる。

これに対して、「免震」は基礎の上に揺れを吸収する免震装置(積層ゴムやボールベアリングなど)を設置して、その上に建物を支える鉄骨の架台を置いて建物の土台を載せることで、建物と地面を切り離す工法。地震の揺れが建物に伝わる前に吸収されるので、揺れが大幅に軽減される。ただし、費用もかかるので一戸建てで採用される事例は少ない。

一方、最近増えているのが、壁などの構造材の一部に制振装置(ダンパーなど)を使って、地震の揺れを吸収する「制振」だ。免震が地震の揺れを建物に伝えないようにするのに対して、制振では揺れは建物に伝わるものの建物内で揺れを吸収するので、一般的な耐震工法に比べて揺れを抑えることができる。免震ほど費用が掛からないので、採用しやすいという側面もある。

今回の結果を見ると、大規模地震のリスクが高まるなか、より住宅の耐震性を高めようと「制振」を提案したり、選ばれることが多いと見てよいのかもしれない。

また、今回の調査では、行政が普及を図っている「感震ブレーカー」についても質問している。大規模地震では、電化製品が落下することなどによる発火や停電が復旧した際に起こる通電火災などの「電気による火災」も多い。感震ブレーカーは、震度5強以上の地震を感知して分電盤の主幹ブレーカーを強制遮断するもの。不在時やブレーカーを落とす余裕のないときでも自動的に遮断できるので、電気火災を防止する効果がある。

調査結果では42%の住宅事業者が感震ブレーカーを設置(「すべての住宅に設置」22%、「一部の住宅に設置」20%)していた。

こうして調査結果を見ていくと、住宅設計においてはその時々の情勢によるニーズが反映されていると感じる。その後に情勢が変わっても、日々の生活に便利だったり安全だったりするものは、引き続き採用されていくだろう。社会情勢と住宅のプランは、密接に関係しているのだ。

「住宅の設備および仕様等に関する事業者アンケート調査」結果を公表/住宅金融普及協会

コロナ禍の新小学1年生、住まいはどう対応する?カギは「親こそ柔軟に」

「春から我が子が新入学」という人は、今、悩んでいるのではないだろうか。コロナ禍でおうち時間が長くなる中、子どもの生活リズムが変わり、勉強が始まり、持ち物が増える……。家庭内で気になるのは、学習環境をどう整えるべきか?ということ。そこで今回、「一生モノの学び体質を作る戦略的メソッド」である「かおりメソッド」を展開する岩田かおりさんにお話を聞いた。
子どもたちも期待と不安でいっぱい。親はゆったりと構えて

コロナ禍での新入学。気をつけるべき例年との違いは?

「保護者や先生といった大人が、新型コロナウイルスに関して過剰に反応することが、子どもの心的負担に影響するように感じます。これらは学校への行き渋りや不登校につながりかねません。ただでさえ、コロナ禍での子どもたちは『初めまして』でマスクをしているという状態。口元が隠れて表情が分かりづらく、意思疎通がしにくいのです。また本来であれば、1年生の担任の先生はハグなどのスキンシップをして、コミュニケーションをとってくれることが多いもの。コロナ禍でそれがなくなったことも、まだ幼い1年生にとってはストレスなのでは。昨年1年生になった受講生のお子さんでも、『学校が怖い』と言って行き渋りをした子がいました」(岩田かおりさん・以下同)

昨春はすでにコロナ禍で、入学式の後、初登校が6月ごろだった小学校も多い。低学年ではうまく言語化できないものの、不安な気持ちが積み重なり、スタートがうまく行かないケースが見られたそう。

「対応としては、親が過剰に反応しすぎないことです。親が不安な様子を見せると、子どもも不安を感じてしまうもの。コロナ禍での新入学という現状を大げさに捉えすぎず、子どもから違和感を感じ取ったときにだけ、寄り添うために動きましょう」

岩田かおりさん

岩田かおりさん 株式会社ママプロジェクトJapan代表取締役 子ども教育アドバイザー 1男2女の母。幼児教室勤務を経て、「子どもを勉強好きに育てたい」との思いから独自の教育法を開発。ガミガミ言わず勉強好きで知的な子どもを育てる作戦「かおりメソッド」を全国へ展開中(画像提供/かおりメソッド)

まずは学習場所の確保を。低学年にはリビング学習がおすすめ

子どもが小学校に入学すると、生活にどのような変化があるのだろう。

「まず、子どもと過ごす時間の長さが変わります。幼稚園児だったのであれば、小学生になると学校で過ごす時間の方が長くなり、保育園児だったのであれば、園時代より早く帰宅するようになります」

小学校に入学すると勉強が始まり、宿題もある。そこで大切なのは学習場所の確保だ。

「1年生は、まだまだ1人で勉強することが難しいので、リビング学習が中心になると思います。持ち物は格段に増え、ランドセルや教科書、ノートのほかに、使うとその都度持ち帰る絵の具セットなどもあります」

子ども用に個室があれば別だが、個室がない完全なリビング学習派にとって困るのが、増えた物の置き場所だ。
「リビング学習派の受講生におすすめしているのが、子ども用にキッチンワゴンを1つ用意して、持ち物をまとめる方法です。ホームセンターなどで販売されているキッチンワゴンに、ここは宿題、ここは習字道具を置くなどと決めさせます。本人がやる気になったら、宿題に取り掛かることができるよう、取り出しやすくしておくことが大事なのです。宿題が終わったら片付けて、自分でワゴンを定位置に移動させます」

子どもが好きな色のキッチンワゴンを選べば、やる気もアップしそう。リビング学習派は、リビングやテーブルに子どものモノが置きっぱなしになりやすいが、その問題も解決してくれる。

3人の子を持つ母である岩田さん宅も、モノが多くなりがちだという。成長した上の子たちは学習机を使わなくなったといい、各自がリビングをはじめ好きなところで学習し、勉強用具は使用後自室に持ち帰る。「子どもたちがリビングに持ち込んでいいモノは、その場でよく使う“一軍”のアイテムだけと決めています」とのことだ。

親も子もストレスなく、おうち時間を過ごすために

コロナ禍で外出の機会が減少し、親も子も家の中で過ごす時間が長くなった。

「今はステイホームがスタンダード。だからこそ、家の中で快適に過ごそうと考えるご家庭はとても増えました。受講生も、室内のレイアウトを変えたり、おうち時間のためにカードゲームやボードゲームを購入したりといったご家庭が多いですね。保護者の在宅勤務も増えたので、スケジュールボードに『この時間、お母さんは仕事中』などと書き入れ、子どもが大声を出していい時間とそうでない時間を“見える化”したという工夫も聞きました」

また、子どもが小学生になると、子どもの友達が自宅に遊びにきて、にぎやかに過ごすということがある。筆者にも経験があるが、我が子のためには無下に断りたくはないものの、オンライン会議をはじめ在宅勤務を思うと悩ましい。

「親は住まいの中に自分の仕事スペースを確保しましょう。その上で、仕事がある時間はこちらの都合に合わせてもらうといいですね。子どもたちに『3時までは公園や児童館で遊んでね。帰ってきたらおやつにしましょう』などと提案を」

おうち時間が増えると、子どもがゲームやインターネットに触れる時間が増えることも心配のタネだ。
「自室があってもデバイスを持ち込ませないことです。時間を区切るためにも、使うのはリビングなど親の目が届く場所で。これはオンライン学習でも同様です。勉強が終わった後のパソコンやタブレットでネットサーフィンをしてしまう子も多いので、時間が来たら、電源を切って片付けることを習慣にしましょう」

住まいの「我が家流」を見つけよう!

「住環境や家族構成は人それぞれです。ある程度の枠組みを整えたら、ぜひ“我が家流”をつくってみてください」と岩田さん

枠組みづくりの導入におすすめなのは、「モノの住所を決めること」だそう。
「文房具ならここ、ハサミはここ、学校からのお便りはここ……とモノを収納する場所を決めて、それぞれラベリングを。文房具などが、すぐ手が届く場所に分かりやすく配置されていると、勉強へのハードルが下がるものです」

家庭用のラベルプリンターなどを使えば、手軽にラベルづくりができる。子どもと一緒にラベリングするとさらに効果的だ。

「学習環境にはこれが正解という答えがありません。私は“ノマド派”を推奨しています。今日は自室で勉強をしよう、今日は階段で座って本を読もう……など、家の中であれば、どこで学習してもOK。『必ずここに座って勉強しなさい』『終わったら見せに来て』などと締め付けると、子どもはヤル気を失ってしまいます。我が家ではその子の気分によって、フリースタイルで学習していいことにしています」

子どもの学習机を買うべきかどうかも悩むところ。
「置くスペースがあればいいのですが、余裕がない方もいると思います。我が家も上の子たちが小2と小4の時に学習机を買いましたが、二人が高校生になった今では使っていません。今は、安価で小さいテーブルも売られているので、子どもの学習意欲が上がるのなら、期間限定で楽しんでもいいと思います」

また、子どもが主体的に学習に取り組むよう、受講生には「家の中に仕掛けを」と伝えているとか。

「例えば壁に日本地図を貼って、親が興味を持たせるような会話やアプローチをしてみるなど、勉強は楽しいものだと思わせましょう。特に小学校低学年であれば、学習に遊び感覚を取り入れると効果的です」

新入学前、先輩ママのレイアウト変更例

ここで、受講生が実践した、住まいのレイアウト変更例をご紹介しよう。

・Kさん 小学2年男子の母
「学習用品を収納するスペースが欲しい」と考えていたことから、小学校入学後1カ月で新しい生活スタイルを把握し、5月に子どもスペースのリフォームを実施。家具職人によるオーダーメイドで、壁面2面に収納をつくった。「元から本好きでしたが、大きな本棚をつくったことでますます読書に夢中に。また、自分で身支度するのが得意になりました」

(上)ビフォア、(下)アフター

Kさん宅のビフォア・アフター。側面の白い収納を開けると、学習用のポスターなどが貼ってあるが、閉めるとスッキリ(写真提供/Kさん)

・Mさん 大学1年男子、高校2年女子、小学6年男子、小学1年女子の母

二女の小学校入学にあたり、学習スペースをつくることに。リビングにあるMさんの仕事スペースのすぐ隣に、切り離した絵本棚の上部分を設置。棚にラベリングし“モノの住所”をつくった。「ちょうど住み替えのタイミングでもあったので、先生のアドバイスで、同じ学区中で、より人通りが多い場所へ引越しました。そのおかげで友達が訪ねて来てくれ、1年生を楽しくスタートすることができました」

(上)Mさん学習スペース1、(下)Mさん学習スペース2

食卓のすぐ側の仕事場兼学習スペースで、Mさんと二女が机を並べる。飽きないよう学習ポスターは随時貼り替える(写真提供/Mさん)

・Tさん
小学2年女子、幼稚園年中女子の母

1SLDKの間取りで収納スペースが少なく、カラーボックスを並べるなどして対応していたが、この年末年始に模様替え。夫の部屋にあった本棚をリビング移動させ、長女用に。辞書などが見たいときに、すぐに手が届くようにした。「自分でしまう場所ができたことで、より主体的に学びやすい環境に。長女がリビング学習していると、二女も自然と並ぶので、良い相乗効果が生まれています」

Tさん宅リビング1

教材などを貼ってリビング学習(写真提供/Tさん)

(左)Tさん宅リビング2、Tさん宅リビング3(右)

トランポリンと鉄棒はステイホーム期間に購入した(写真提供/Tさん)

親のサポートで、子どもに柔軟性と成功体験を

岩田さんの上の子たちの現在の学習スペースは、リビングや図書館、カフェなどだそう。
「塾に行くのであれば塾の学習室も利用できます。逆に『静かな自分の部屋でないと勉強に集中できない』というのでは困ってしまいますよね。主体的に自分をマネジメントして取り組むのが勉強です。『ここではやりにくい』と感じるのであれば、場所を変えて勉強する柔軟性も必要です」

子どもの柔軟性を育むためには、親が柔軟に考えることが大切だという。

「住まい方は、ライフスタイルや家族の成長に合わせて変えていけばいいと思います。学習机を買って失敗だったのなら、近所の人に声を掛けたり、フリマアプリなどを活用したりして誰かにお譲りしては」

「子育ては、常に更新を」と岩田さんは力を込める。
「年に一度は住まいのレイアウトを見直してみてください。昨今はコロナ禍で状況に変化があったので、より見直しのタイミングだといえるかもしれません。例えば小学生のころは、手が届きやすい低めの位置に持ち物を配置するといいのですが、中高生では使いづらいこともあります」

「子どもが小さい時にこそ、住まいについて一緒に考えてみてください。自分で『ここに置く』と決めたレイアウトがうまく機能すれば、成功体験になります。親のサポートのもと、子どもがやりたいことを実現していく過程が、主体的に学ぶ子を育てることにつながります」

春から小学5年になる筆者の娘に、新入学の時に心配だったことを聞くと、「友達ができるかどうかと、先生が優しい人かどうかが気になった」とのこと。

実際に小学校が始まってから困ったことは、「宿題を家に置き忘れたり、時間割を間違えたり、プリントをなくしたこと」……。学習スペースや収納について、親が深く考えていなかったからだと反省した。

そんな娘は小学校が大好き。いよいよ高学年という成長を感じながら、一緒に学習スペースをアップデートしようと思った。

●取材協力
・かおりメソッド

二拠点生活で小・中学校はどうする? コロナ禍で高まるニーズ受けて

コロナで2回目の緊急事態宣言が発令されて始まった2021年。今回は休校や休園などの事態は免れたものの、テレワークなどの新しい生活様式の推奨に伴って、郊外への引越しや地方移住、二拠点生活を検討する人が増えていると言います。

2019年から二拠点生活を始めて2年、小学校・中学校への進学を控える子ども2人を持つ筆者が、改めて二拠点生活の「学校どうするか」問題について考えます。

コロナで地方移住や二拠点生活の志向が高まっている!?

1月29日、総務省が2020年の住民基本台帳に基づく人口移動報告を発表し、東京都からの転出者が全国で唯一増加となったことが話題になりました。転出先は神奈川・埼玉・千葉の近隣3県が55%を占めることに。コロナの影響でリモートワークが普及し、都心から通勤圏内の郊外へ移り住む流れが進んでいると言われます。

また、リクルート住まいカンパニーが発表した調査でも同様の傾向が見られます。『SUUMO』の物件詳細閲覧数を2020年1月と8月で比較した伸び率をランキングすると、伸び率1位となったのは中古マンションでは神奈川県三浦市、中古一戸建てでは千葉県富津市でした。さらにいずれもトップ5は都心から100キロメートル圏内の郊外エリアだったのです。2拠点生活意向者も2018年11月と比べ、2020年7月時点では13.4ポイント増加し、二拠点生活を志向する人が約2倍に増えていることを示しています。

『デュアルライフ(2拠点生活)に関する意識・実態調査』と2020年7月実施調査の比較(左)。『SUUMO』の物件詳細閲覧数を、2020年1月と8月で比較した際の伸び率をランキング化。赤が中古マンション 青が中古一戸建て(右)(資料/SUUMO編集部)

『デュアルライフ(2拠点生活)に関する意識・実態調査』と2020年7月実施調査の比較(左)。『SUUMO』の物件詳細閲覧数を、2020年1月と8月で比較した際の伸び率をランキング化。赤が中古マンション 青が中古一戸建て(右)(資料/SUUMO編集部)

二拠点生活をするとき、学校の選択肢は?

これまで二拠点生活の実現を阻むと言われてきた二大要素が「仕事」と「子どもの就学」でした。そのうち、「仕事」については、WEB会議システムをはじめとしたテレワーク化の流れによって、地方に住みながら今の仕事を続けられるかも、と二拠点生活をイメージできる人が増えたのではないでしょうか。

そして、もう一つの困難が「子どもの就学」問題です。二拠点生活をするときの通学形態には、いくつかの選択肢があります。公立の小・中学校に通学する場合、大体次の3つに分けられるでしょう。

1)いずれか主となる住所地に住民票と学籍を置き、その学校にのみ通学する
・現在の学校に引き続き通学
・転校する(親子留学制度などを利用する場合も含む)

2)デュアルスクール制度のある自治体(徳島県、長野県塩尻市、秋田県など)で区域外就学制度(後述)を活用し、都心部に住民票と学籍を置いたまま、地方の学校にも通学する

3)主となる住所地に住民票と学籍を置き、別拠点に滞在中はフリースクールや家庭教師など任意の教育で補う

山梨県や長野県に移住した友人からは、それらの県の一部地域で募集されている「親子留学」制度が、コロナによって問い合わせが増えていると聞きます。この親子留学制度も上の1)の住民票と学籍を移す形になります。

テレワーク普及の影響か、親子留学制度を活用しようと考える人も増えている様子(写真/PIXTA)

テレワーク普及の影響か、親子留学制度を活用しようと考える人も増えている様子(写真/PIXTA)

「区域外就学制度」が使える? 自治体や教育委員会に問い合わせてみた!

古くから各地方自治体には「区域外就学」の制度があります。これは具体的な事情が相当と認められる場合に、住民票と学籍のない自治体の公立学校に通うことが可能となる制度です。

実は、地方移住や二拠点生活などのニーズを反映し、2017年7月に文部科学省からこの区域外通学に関する通達が出されました。この通達には、「相当と認めるとき」に「地方への一時的な移住や二地域に居住するといった理由」も含まれることが記載されています。二拠点でこの制度を活用することに文科省のお墨付きを得ている、とも言えるこの通達ですが、文部科学省教育制度改革室の松岡将さんによると「実際の運用と認められるかどうかの判断は、各地方自治体の教育委員会の判断に委ねられている」と言います。

2017年7月に各都道府県・指定都市の教育委員会就学事務担当課長宛に通知された「地方移住等に伴う区域外就学制度の活用について」(画像/文部科学省)

2017年7月に各都道府県・指定都市の教育委員会就学事務担当課長宛に通知された「地方移住等に伴う区域外就学制度の活用について」(画像/文部科学省)

そこで、筆者は現在、東京の拠点である品川区と住民票を置いている佐賀県佐賀市にこの制度が活用できるかを尋ねてみることにしました! それぞれの自治体のホームページには、学期の途中で転出した場合などに加え、「その他教育委員会が特に必要と認めた場合」に区域外就学制度を利用できる旨の記載があります。

「コロナ」という“特別な事情”が、加味される可能性も

ところが、実際に各自治体に相談してみると、筆者のように1回あたり数日~1週間程度の滞在では申請が認められることは難しく、一つの目安として「一定期間(2~3週間程度)以上、居住していること」が必要であることが判明しました。

また、自治体によっては、主に海外赴任で一時的に帰国している場合などに、住民票がなくとも一定期間居住していることを条件に「体験入学」できる制度を設けているところもあります。この制度を活用する場合においても、居住期間2~3週間以上の場合の申請が一般的ということでした。

自治体によっては、海外からの一時帰国者を主な対象に「体験入学」制度を設けているところも(写真/PIXTA)

自治体によっては、海外からの一時帰国者を主な対象に「体験入学」制度を設けているところも(写真/PIXTA)

ただ、品川区学務課の篠田英夫さんによると「コロナによって区内に住む人から、地方の祖父母宅など一時的に他のエリアで子どもを通学させることができないか、といった相談が出てきている」といいます。

「『コロナのような特別な事情』があれば、受け入れ側の自治体との調整によっては可能になる場合もあるかもしれません。個別事情によって判断することになるので、詳細は各自治体や教育委員会などの窓口に相談してほしいと思います」(篠田さん)

意外と「デュアルスクール」を望んでいない子どもも!?

子ども2人がそれぞれ小学校、中学校に進学するのにともない、筆者の中では改めて“学校どうしよう”問題が湧き上がりました。特に1カ月に1~2回、3~7日ほどの東京・佐賀の行き来が日常になっていた長男には、区域外就学制度が活用できたらよかったのにな……という思いも拭えません。

ところが、いざ息子にその話をしてみると「小学校は佐賀だけでいい。2つも学校行くのは面倒だから」と言います。中学校に進学する長女に聞いても同様の返答です。

リビングで宿題をする小学6年生の長女。佐賀市の指定区域内の中学校への進学を希望している(撮影/唐松奈津子)

リビングで宿題をする小学6年生の長女。佐賀市の指定区域内の中学校への進学を希望している(撮影/唐松奈津子)

実は、私たちの二拠点生活も最初から全てが順調だったわけではなく、佐賀に引越して最初の半年ほどの間は、よく保育園の園長先生から長男の様子について話がありました。息子が移動中のバスの中でお友達を叩いたり、体操の時間にみんなで走っているときに前の子を押したりすることが頻発したのです。

園長先生から聞いたのは息子が「怒っているように見える。お母さんが仕事で東京に行って不在のときは、特にイライラしている様子」だということ。半年ほど経って息子の様子が落ち着いてきたことを園長先生と話したとき、「生活に慣れて、いつもの安心できる環境になったんでしょうね」と言われて、気付かされた思いでした。子どもにとっては“いつもの安心できる環境”が第一なのだな、と。

4月から小学校に進学する長男。佐賀でお気に入りの場所の一つ、佐賀県立図書館と併設する「こころざしの森」にて(撮影/唐松奈津子)

4月から小学校に進学する長男。佐賀でお気に入りの場所の一つ、佐賀県立図書館と併設する「こころざしの森」にて(撮影/唐松奈津子)

国も自治体も、そして親も「子どもの教育環境」を第一に

松岡さんに話を聞いたときにも印象的だったのは「子どもの教育環境が大切」という言葉が繰り返し使われたことです。また、篠田さんは「学級運営や他の子どもたちの学習環境にも影響するので、区域外就学も安易には認められない」と言っていました。

親としては生活の選択肢を増やす意味で、また子どもの将来にとって良かれと思って、二拠点生活に活用できる就学制度があれば、と思わずにいられません。実際、都会育ちの子どもが、デュアルスクールを体験し、かけがえのない経験や、自分の居場所はどこにでもつくれるという強い自信を得た、といった素晴らしい話も聞きます。一方で、二拠点生活を考える際に子どもの学校をどうするのか、本当に子どもにとって2つの学校に通うことが必要なのかどうかは、それぞれの家庭の事情にあわせて慎重に検討する必要があると感じました。

有明海の干潟でカニ探しをして遊ぶ長男。子どもに自然体験を増やしたいと考える人も多いだろう(撮影/酒井皓司)

有明海の干潟でカニ探しをして遊ぶ長男。子どもに自然体験を増やしたいと考える人も多いだろう(撮影/酒井皓司)

二拠点生活を始めた当時、小学4年生だった長女が転校して現在の小学校にすんなり馴染めたのも、既に顔見知りの同級生がいたことが大きいと思っています。実は、娘は東京・品川区の小学校に入学した6歳のころから4年間、毎年冬休みには佐賀の祖父母宅に一人で2週間ほど滞在し、現在の住まいの近所に住む子どもたちと一緒に遊んできたのです。

デュアルスクール制度、区域外就学制度、体験入学制度、親子留学制度など、二拠点生活の広まりに応じて活用できそうな就学制度が出てきました。また、コロナの今だからこそ、活用できる可能性もありそうです。

“子どもの教育環境”という簡単には答えの出ない問題だからこそ、まずは親子で休暇を利用して一時的に滞在してみる、「子連れワーケーション」を実践してみるなど、“試しに”から始めて子どもの様子を見るのも一手かもしれませんね。

●取材協力
・文部科学省
・東京都品川区
・佐賀県佐賀市

二拠点生活で小・中学校はどうする? コロナ禍で高まるニーズ受けて

コロナで2回目の緊急事態宣言が発令されて始まった2021年。今回は休校や休園などの事態は免れたものの、テレワークなどの新しい生活様式の推奨に伴って、郊外への引越しや地方移住、二拠点生活を検討する人が増えていると言います。

2019年から二拠点生活を始めて2年、小学校・中学校への進学を控える子ども2人を持つ筆者が、改めて二拠点生活の「学校どうするか」問題について考えます。

コロナで地方移住や二拠点生活の志向が高まっている!?

1月29日、総務省が2020年の住民基本台帳に基づく人口移動報告を発表し、東京都からの転出者が全国で唯一増加となったことが話題になりました。転出先は神奈川・埼玉・千葉の近隣3県が55%を占めることに。コロナの影響でリモートワークが普及し、都心から通勤圏内の郊外へ移り住む流れが進んでいると言われます。

また、リクルート住まいカンパニーが発表した調査でも同様の傾向が見られます。『SUUMO』の物件詳細閲覧数を2020年1月と8月で比較した伸び率をランキングすると、伸び率1位となったのは中古マンションでは神奈川県三浦市、中古一戸建てでは千葉県富津市でした。さらにいずれもトップ5は都心から100キロメートル圏内の郊外エリアだったのです。2拠点生活意向者も2018年11月と比べ、2020年7月時点では13.4ポイント増加し、二拠点生活を志向する人が約2倍に増えていることを示しています。

『デュアルライフ(2拠点生活)に関する意識・実態調査』と2020年7月実施調査の比較(左)。『SUUMO』の物件詳細閲覧数を、2020年1月と8月で比較した際の伸び率をランキング化。赤が中古マンション 青が中古一戸建て(右)(資料/SUUMO編集部)

『デュアルライフ(2拠点生活)に関する意識・実態調査』と2020年7月実施調査の比較(左)。『SUUMO』の物件詳細閲覧数を、2020年1月と8月で比較した際の伸び率をランキング化。赤が中古マンション 青が中古一戸建て(右)(資料/SUUMO編集部)

二拠点生活をするとき、学校の選択肢は?

これまで二拠点生活の実現を阻むと言われてきた二大要素が「仕事」と「子どもの就学」でした。そのうち、「仕事」については、WEB会議システムをはじめとしたテレワーク化の流れによって、地方に住みながら今の仕事を続けられるかも、と二拠点生活をイメージできる人が増えたのではないでしょうか。

そして、もう一つの困難が「子どもの就学」問題です。二拠点生活をするときの通学形態には、いくつかの選択肢があります。公立の小・中学校に通学する場合、大体次の3つに分けられるでしょう。

1)いずれか主となる住所地に住民票と学籍を置き、その学校にのみ通学する
・現在の学校に引き続き通学
・転校する(親子留学制度などを利用する場合も含む)

2)デュアルスクール制度のある自治体(徳島県、長野県塩尻市、秋田県など)で区域外就学制度(後述)を活用し、都心部に住民票と学籍を置いたまま、地方の学校にも通学する

3)主となる住所地に住民票と学籍を置き、別拠点に滞在中はフリースクールや家庭教師など任意の教育で補う

山梨県や長野県に移住した友人からは、それらの県の一部地域で募集されている「親子留学」制度が、コロナによって問い合わせが増えていると聞きます。この親子留学制度も上の1)の住民票と学籍を移す形になります。

テレワーク普及の影響か、親子留学制度を活用しようと考える人も増えている様子(写真/PIXTA)

テレワーク普及の影響か、親子留学制度を活用しようと考える人も増えている様子(写真/PIXTA)

「区域外就学制度」が使える? 自治体や教育委員会に問い合わせてみた!

古くから各地方自治体には「区域外就学」の制度があります。これは具体的な事情が相当と認められる場合に、住民票と学籍のない自治体の公立学校に通うことが可能となる制度です。

実は、地方移住や二拠点生活などのニーズを反映し、2017年7月に文部科学省からこの区域外通学に関する通達が出されました。この通達には、「相当と認めるとき」に「地方への一時的な移住や二地域に居住するといった理由」も含まれることが記載されています。二拠点でこの制度を活用することに文科省のお墨付きを得ている、とも言えるこの通達ですが、文部科学省教育制度改革室の松岡将さんによると「実際の運用と認められるかどうかの判断は、各地方自治体の教育委員会の判断に委ねられている」と言います。

2017年7月に各都道府県・指定都市の教育委員会就学事務担当課長宛に通知された「地方移住等に伴う区域外就学制度の活用について」(画像/文部科学省)

2017年7月に各都道府県・指定都市の教育委員会就学事務担当課長宛に通知された「地方移住等に伴う区域外就学制度の活用について」(画像/文部科学省)

そこで、筆者は現在、東京の拠点である品川区と住民票を置いている佐賀県佐賀市にこの制度が活用できるかを尋ねてみることにしました! それぞれの自治体のホームページには、学期の途中で転出した場合などに加え、「その他教育委員会が特に必要と認めた場合」に区域外就学制度を利用できる旨の記載があります。

「コロナ」という“特別な事情”が、加味される可能性も

ところが、実際に各自治体に相談してみると、筆者のように1回あたり数日~1週間程度の滞在では申請が認められることは難しく、一つの目安として「一定期間(2~3週間程度)以上、居住していること」が必要であることが判明しました。

また、自治体によっては、主に海外赴任で一時的に帰国している場合などに、住民票がなくとも一定期間居住していることを条件に「体験入学」できる制度を設けているところもあります。この制度を活用する場合においても、居住期間2~3週間以上の場合の申請が一般的ということでした。

自治体によっては、海外からの一時帰国者を主な対象に「体験入学」制度を設けているところも(写真/PIXTA)

自治体によっては、海外からの一時帰国者を主な対象に「体験入学」制度を設けているところも(写真/PIXTA)

ただ、品川区学務課の篠田英夫さんによると「コロナによって区内に住む人から、地方の祖父母宅など一時的に他のエリアで子どもを通学させることができないか、といった相談が出てきている」といいます。

「『コロナのような特別な事情』があれば、受け入れ側の自治体との調整によっては可能になる場合もあるかもしれません。個別事情によって判断することになるので、詳細は各自治体や教育委員会などの窓口に相談してほしいと思います」(篠田さん)

意外と「デュアルスクール」を望んでいない子どもも!?

子ども2人がそれぞれ小学校、中学校に進学するのにともない、筆者の中では改めて“学校どうしよう”問題が湧き上がりました。特に1カ月に1~2回、3~7日ほどの東京・佐賀の行き来が日常になっていた長男には、区域外就学制度が活用できたらよかったのにな……という思いも拭えません。

ところが、いざ息子にその話をしてみると「小学校は佐賀だけでいい。2つも学校行くのは面倒だから」と言います。中学校に進学する長女に聞いても同様の返答です。

リビングで宿題をする小学6年生の長女。佐賀市の指定区域内の中学校への進学を希望している(撮影/唐松奈津子)

リビングで宿題をする小学6年生の長女。佐賀市の指定区域内の中学校への進学を希望している(撮影/唐松奈津子)

実は、私たちの二拠点生活も最初から全てが順調だったわけではなく、佐賀に引越して最初の半年ほどの間は、よく保育園の園長先生から長男の様子について話がありました。息子が移動中のバスの中でお友達を叩いたり、体操の時間にみんなで走っているときに前の子を押したりすることが頻発したのです。

園長先生から聞いたのは息子が「怒っているように見える。お母さんが仕事で東京に行って不在のときは、特にイライラしている様子」だということ。半年ほど経って息子の様子が落ち着いてきたことを園長先生と話したとき、「生活に慣れて、いつもの安心できる環境になったんでしょうね」と言われて、気付かされた思いでした。子どもにとっては“いつもの安心できる環境”が第一なのだな、と。

4月から小学校に進学する長男。佐賀でお気に入りの場所の一つ、佐賀県立図書館と併設する「こころざしの森」にて(撮影/唐松奈津子)

4月から小学校に進学する長男。佐賀でお気に入りの場所の一つ、佐賀県立図書館と併設する「こころざしの森」にて(撮影/唐松奈津子)

国も自治体も、そして親も「子どもの教育環境」を第一に

松岡さんに話を聞いたときにも印象的だったのは「子どもの教育環境が大切」という言葉が繰り返し使われたことです。また、篠田さんは「学級運営や他の子どもたちの学習環境にも影響するので、区域外就学も安易には認められない」と言っていました。

親としては生活の選択肢を増やす意味で、また子どもの将来にとって良かれと思って、二拠点生活に活用できる就学制度があれば、と思わずにいられません。実際、都会育ちの子どもが、デュアルスクールを体験し、かけがえのない経験や、自分の居場所はどこにでもつくれるという強い自信を得た、といった素晴らしい話も聞きます。一方で、二拠点生活を考える際に子どもの学校をどうするのか、本当に子どもにとって2つの学校に通うことが必要なのかどうかは、それぞれの家庭の事情にあわせて慎重に検討する必要があると感じました。

有明海の干潟でカニ探しをして遊ぶ長男。子どもに自然体験を増やしたいと考える人も多いだろう(撮影/酒井皓司)

有明海の干潟でカニ探しをして遊ぶ長男。子どもに自然体験を増やしたいと考える人も多いだろう(撮影/酒井皓司)

二拠点生活を始めた当時、小学4年生だった長女が転校して現在の小学校にすんなり馴染めたのも、既に顔見知りの同級生がいたことが大きいと思っています。実は、娘は東京・品川区の小学校に入学した6歳のころから4年間、毎年冬休みには佐賀の祖父母宅に一人で2週間ほど滞在し、現在の住まいの近所に住む子どもたちと一緒に遊んできたのです。

デュアルスクール制度、区域外就学制度、体験入学制度、親子留学制度など、二拠点生活の広まりに応じて活用できそうな就学制度が出てきました。また、コロナの今だからこそ、活用できる可能性もありそうです。

“子どもの教育環境”という簡単には答えの出ない問題だからこそ、まずは親子で休暇を利用して一時的に滞在してみる、「子連れワーケーション」を実践してみるなど、“試しに”から始めて子どもの様子を見るのも一手かもしれませんね。

●取材協力
・文部科学省
・東京都品川区
・佐賀県佐賀市

コロナ禍でクリエイターが石巻に集結?空き家のシェアハウスで地域貢献

宮城県石巻市で、空き家を新たな発想で活用する取り組みを行ってきたクリエイティブチーム「巻組」。2020年6月、コロナ禍で困窮したクリエイターに住む場所と発表の場を提供し、地域とつながりながら「お互いさま」の関係をつくるプロジェクト「Creative Hub(クリエイティブハブ)」をスタートさせた。その取り組みは、単なる空き家問題解消にとどまらず、地域の活性化にも大きな影響を与えている。
震災ボランティアの住まいを確保するために立ち上げた「巻組」

東日本大震災の津波被害が大きかった宮城県石巻市で「Creative Hub」を企画、運営する「巻組」を立ち上げた、渡邊享子(きょうこ)さんに話を聞いた。

合同会社巻組代表の渡邊享子さん(写真提供/渡邊享子さん)

合同会社巻組代表の渡邊享子さん(写真提供/渡邊享子さん)

2011年、埼玉県出身の渡邊さんは学生ボランティアとして石巻市を訪れた。石巻市は住宅地が津波に飲み込まれ、2万2000戸の家屋が全壊。もともと賃貸物件は少ないが、既存の賃貸物件は被災者や復興需要で埋まり、ボランティアが住む場所が足りなかった。

渡邊さんは、仲間のボランティアが石巻市に残って支援を続けられるように、空き家を探し、住めるようにリノベーションをして貸し出そうと考えた。2012年から始めて何軒か手掛けるうちに、事業化できるのではと思い始めた。当時、渡邊さんは東京で就職活動をしていたが、震災不況で決まらず、「やることがある所に住もう」と移住した。

「2018年の住宅土地統計調査によると、石巻市内の空き家は1万3000戸、全家屋の約20%です。賃貸物件は、一般的にPLACE(立地)、PRICE(家賃)、PLAN(間取り・設備)の『3P』を基準に選ばれますが、私たちが扱うのは『3P』が絶望的な空き家です。敷地が公道に接していない立地や、給水設備が未整備のもの、築60年を超える廃屋など、持ち主が“ただでももらってほしい”という空き家、不動産会社も扱いづらく困っているような建物を買い上げています」(渡邊さん、以下同様)

空き家を買い上げてリノベーションした巻組の賃貸住宅。古さや傷も味わいになっている(写真提供/巻組)

空き家を買い上げてリノベーションした巻組の賃貸住宅。古さや傷も味わいになっている(写真提供/巻組)

「リノベーションで苦心しているのは、予算内でどこまでできるか。素材などお金をかけるべきところにはかけますが、できるだけ物件の持ち味を活かし、住む人自身が自らカスタマイズする余地を大事にしています」

巻組は、この空き家を活用した住宅支援や事業開発プログラムの提供などを行い、2015年に3人のメンバーで合同会社として法人化。これまで、空き家を買い上げて自社で改修した物件が35軒、そのうち、自ら運営するシェアハウスや賃貸住宅、民泊が11軒、すでにのべ約100人が居住した。

クリエイティブ人材を活用した「Creative Hub」のスタート

「不動産会社が扱いにくい廃屋、一般的には絶望的な条件も、視点を変えてプラスの価値に転換する、大量生産、大量消費とは真逆の価値観です。悪条件も、ものづくりや芸術活動などのクリエイティブな活動をする人は『かえっていいね』『おもしろい』とポジティブに受け止めてくれました。

例えば、音を出してパフォーマンスしたい人は、静かな環境で思いきり声を出すことができるし、ものづくりをするために壁や床を汚してしまう、壊してしまう恐れがあるという人には、自由に創作できるキャンバスのようなものになります。また、都会では難しい広いアトリエや作品を保管する倉庫が確保できます。

狩猟用の猟銃を所持している場合、賃貸物件を借りるときは大家さんの許可が必要で、嫌がられる場合があります。そういった、一般の賃貸住宅を借りにくい住宅難民、規格におさまりきらないニーズを持った人が喜んで使ってくれるのです」

都会にはない広さや広縁を利用したリノベーションした賃貸住宅。障子のデザインもアートごころを刺激。レトロな雰囲気が若い人には新鮮に感じられる(画像提供/巻組)

都会にはない広さや広縁を利用したリノベーションした賃貸住宅。障子のデザインもアートごころを刺激。レトロな雰囲気が若い人には新鮮に感じられる(画像提供/巻組)

水まわりを中心に改修した民泊はノスタルジックな趣。ワーケーションなどを目的に石巻に来た人に使われている(画像提供/巻組)

水まわりを中心に改修した民泊はノスタルジックな趣。ワーケーションなどを目的に石巻に来た人に使われている(画像提供/巻組)

2020年はコロナウイルスの感染が拡大するなか、活動や発表の場を奪われたアーティストが増えた。「アーティスト活動ができず、生活費を稼ぐためのアルバイトすらできなくなったクリエイターを支えたい。クリエイティブ系の人材を石巻に集めたら、使われていない地方の資源を活用できるのではないか」と、巻組は「Creative Hub(クリエイティブハブ)」プロジェクトを計画。クラウドファンディングで応援してくれる人を募り、倉庫のリノベーションなどの準備費用の寄付・協力を呼びかけた。

老若男女が出会い支え合う場をつくる

2020年6月に立ち上げたこのプロジェクトは、どんな仕組みなのか。

活動の場、働く場を失ったアーティストの卵に、巻組が運営するシェアハウスやアトリエ倉庫を一定期間無償で提供する。食料や家電など、生活に必要なものは、寄付で集めた「ギフト」をギフトバンクに集め、入居者にマッチするものを提供する。

生活の拠点と生活資材の提供を受けたアーティストは、クリエイティブな活動に集中しながら、次へのステップの準備ができる。そしてギフトのお返しとして、製作のプロセスや製作物を地域の方に公開する。また、ギフトバンクに届いた「掃除や草取り、雪かきを手伝ってほしい」「農作業の一部を手伝ってほしい」といった「ちょっとした手伝いのSOS」に対して、労働力などのお金以外の形でお返しをする。こうして、アーティストと地域住民のコミュニケーションが生まれる。

昭和以前の田舎にあった「助け合い」「おすそ分け」「お互いさま」のような関係性を再構築したのだ。

また巻組は、アーティストと地域住民の交流の場として、石巻市と連携し月1回、第4日曜日に「物々交換市」を開催している。「Creative Hub」の倉庫などを利用して、アーティストが制作物を出品したり、パフォーマンスをしたりする。地域住民は、出店するものが気に入れば、持ち寄ったものと交換したり、投げ銭などを行う。ワークショップブースでは、絵の具や木材などを使って、アーティストと一緒に制作活動が楽しめる。「物々交換市」は、3カ月間で、のべ120名が参加、約280人が市外から寄付などを通してこの仕組みを応援している。

物々交換市では、ユニークなものが出品され、思いがけない発見や出会いが生まれている(画像提供/巻組)

物々交換市では、ユニークなものが出品され、思いがけない発見や出会いが生まれている(画像提供/巻組)

「石巻ではアートのイベントを頻繁に行っていますが、地域にアーティストが定着するためには参加者も双方向的な仕組みをつくれると良いと思いました。アーティストの作品を見に来てください、と誘うとハードルが高くなりますが、物々交換なら地域の高齢者が楽しみに来てくれますし、若い人の役に立ちたいと、家にある食器類、古着、端材、農産物などを持ってきてくれます。アーティストにとっては、作品が売れたり、人の目に触れて反響があったり、応援してもらうことはとても大事なこと。首都圏のアーティストは孤立しがちですが、ここで共同生活をすることで他の人から刺激を受けることも、力になると思います。

一方で、地域の高齢者は、人の役に立つことで自己肯定感が高まります。マンション住まいの子どもたちは、家ではできないような絵の具を使って壁に絵を描いたりして、クリエイティビティな感性が育ちます。子どもから高齢者までがリアルに触れ合い、支え合い、元気になれるコミュニティがつくられる、それが重要だと思っています」。市の来場者アンケートによると「新しい人と出会えた」という意見が多く寄せられるという。

「Creative Hub」に参加して「人のための演劇」にシフト

ここで「Creative Hub」の入居者の声を紹介する。よしだめぐみさんは、東京都出身のパフォーミングアーティスト。東日本大震災のときは中学2年生、高校時代に東北を訪れる機会があったが、まさか東北に住むとは思っていなかったという。

よしだめぐみさん(写真提供/巻組、写真撮影/Furusato Hiromi)

よしだめぐみさん(写真提供/巻組、写真撮影/Furusato Hiromi)

小学生のときから児童劇団に所属し、演劇を続け、多摩美術大学の演劇舞踊デザイン学科に進んだが、他の世界を知らないことが不安になり、大学2年生のときに中退。さまざまな仕事を経験し、石巻市の食・アート・音楽の総合芸術祭「REBORN ART FESTIVAL(リボーンアート・フェスティバル)」でアルバイト運営スタッフとして働く。そのときに演劇をつくれるスキルを現地に滞在し制作するアーティストに面白いと言われて、演劇を再開しようと決意。

「2020年は都内でイベントの仕事をする予定でしたが、コロナの影響でイベントはできず、制作費を稼ぐのも大変になってきました。東京にいる理由がなくなり、自分を求めてくれる人、味方になってくれる人がたくさんいる石巻で活動することにしました」

住むところがなかったよしださんは、巻組を紹介され、5月からシェアハウスに入居。まもなく「Creative Hub」が始まった。

「家賃なしでクリエイターに住まいを提供してくれる、全国でもない取り組みです。全国から集まる入居者、街の人たちとも仲良くなりました。

外に出れば出会い、発見があります。街の人はお米や牡蠣、飲み物などをくれて『ちゃんと食べなさい』と言ってくれる。大きなファミリーに見守られている感じで、都会とは違った人のつながりがありますね。関係が濃密なので、人が好きな人には合っているし、やりたいことがある人には、やりやすい場所だと思います」

CheativeHubの倉庫の一角、制作した作品の中でパフォーマンスをするよしださん(写真提供/巻組、写真撮影/Furusato Hiromi)

CheativeHubの倉庫の一角、制作した作品の中でパフォーマンスをするよしださん(写真提供/巻組、写真撮影/Furusato Hiromi)

演劇の脚本を書き、演じ、演出もする。福祉施設のコミュニケーション教育のワークショップや高校の演劇部の指導、イベントや撮影のアシスタントも。さらに石巻、仙台、女川など、宮城県の地域のイベントやアーティストのマネジメントと、仕事の幅を広げている。

「『Creative Hub』に参加して、知らない世界を知る人たちに出会い、影響を受けました。東京にいたときは、自分ががむしゃらに演劇をやりたいと思ってきましたが、ここに来て『誰から、どんなニーズがあるから、こういう演劇をつくりたい』と、自己満足ではなく、仕事にする方向で演劇を考えられるようになりました。人のために自分のスキルを活用したいと考え、視野が広がりました。

ここを原点に、いずれは拠点を選ばずに演劇活動ができるように、発展させていきたい。石巻で必要とされなくなるまで活動していきたい」と声を弾ませる。

創作意欲が高まり、日々出会いがある

次に紹介するのは、「みち草工房」の菅原賀子(よしこ)さんと、阿部史枝(ふみえ)さん。巻組の賃貸物件を工房として借りて2人でシェアしている。菅原さんは、大阪府大阪市出身で、神戸の木材の会社に勤めていたが、交際相手が住んでいる宮城県へ移住したことをきっかけに、石巻に惹かれた。コワーキングスペースをもつ石巻のカフェを訪れ、そこで働く阿部さんと出会った。

木を使ってモノづくりをしていた菅原さん、布を使って洋服の直しやオーダーメイドを請け負っていた阿部さんは、お互いの取り組みを面白いと感じた。そして一緒に活動するべく借りたシェアオフィスが手狭になり、いったん解散しようと思ったが、巻組のシェアハウスが気に入り、作業場として二人で借りた。

「石巻のまちなかにありながら、山際に立ち、植物に囲まれ、まるで山奥にいるよう。魅力的な物件です」と菅原さん。

「ここは広いので、たくさんの端材を置けるし、庭で植物を育てたりして、家ではできないことができます。

家とは別の空間を持つ面白さもあり、癒しの場所でもあります。また、ここは誰でも気軽に立ち寄れるオープンな物件なので、巻組が連れてくる見学者、デザイナー、アーティストなど、いろいろな人が遊びに来るのも楽しい」

菅原さんと阿部さんが借りている平屋木造住宅。住居兼アトリエみたいな場所(写真提供/みち草工房、写真撮影/Furusato Hiromi)

菅原さんと阿部さんが借りている平屋木造住宅。住居兼アトリエみたいな場所(写真提供/みち草工房、写真撮影/Furusato Hiromi)

「釘を打ったり、棚をつけたりとDIYをすることは賃貸では難しいですが、ここは自分たちの好きなように自由に変えられるし、原状回復も必要ありません。この場所にいるだけで、何かをつくりたくなるような気持ちになりました。

『どうしてそんな目立たない所に引越したの?』と言う人もいましたが、一度遊びに来た人は『隠れ家みたい』と気に入って、何度も気軽に来てくれます。今は震災に関係なくここの取り組みに惹かれて移住した人が増えている感じがします」と阿部さん。

庭仕事をしている阿部さん(左)と菅原さん(右)。クリエイティブな作業に最適な環境だ(写真提供/みち草工房、写真撮影/Furusato Hiromi)

庭仕事をしている阿部さん(左)と菅原さん(右)。クリエイティブな作業に最適な環境だ(写真提供/みち草工房、写真撮影/Furusato Hiromi)

2人のコラボ作品の第一弾は、猫用のハンモック「にゃんもっく」。「物々交換市」では、住民が持ってきたものと交換、または投げ銭で物を交換する「クルクルフリマ」という物々交換の店を出している。「普通のマーケットと違って、パフォーマンスもあり、活気があります。幅広い年齢層の方がのぞいてくれますね」(阿部さん)

2人がコラボしてつくった「にゃんもっく」(写真提供/みち草工房、写真撮影/Furusato Hiromi)

2人がコラボしてつくった「にゃんもっく」(写真提供/みち草工房、写真撮影/Furusato Hiromi)

「最先端の考え方をする人が集まってきて、もともとの住民と移住した人、古さと新しさが同居する面白いまちになっていると思います」(菅原さん)

アーティストの支援にとどまらない、社会の課題解決のモデルとして

巻組は、2020年12月、築70年の古民家を改築した「OGAWA(おがわ)」を開設。密集を避けて仕事をしたい人のためのワーケーションの拠点として、都心などから人を呼び込み、石巻と関わる「関係人口」を増やすことが目的だ。

「少子高齢化、人口の減少、孤立化などは全国的な問題。空き家問題が進む地域にアイデアとして何か転化していければと思います。空き家を活用して、ただカッコいい場所をつくろうとか、クリエイティブ人材を市内外から連れてくるだけでもありません。

現在の取り組みは、反響もありますが、こういう形がどれだけ広がり、一般化していくか、課題と制約のなかで、いかに価値を出すかが、クリエイティブやアートにとって大事なところだと思います。そして、アーティストがこういう場所で生み出したものを、どう売り出していくかを考えて、形として見えやすいものにしていく必要があると思います。見逃されがちなものを、空き家を活用して、さまざまな問題にどうコミットできるかを考えていきたいです」(渡邊さん)

若いアーティスト人材の居場所をつくり、呼び込んで育てながら、地域を活性化する、巻組の取り組み。多世代のコミュニケーションが生まれ、誰も孤立させずみんなで幸せになる地域社会をつくる。人材、資材を活用しアイデアを加える、人も経済も元気になる「良循環」といえるだろう。

震災後、外から多くのアーティストやクリエイター、ボランティアなど優れた人材が出入りしたことも変化につながった。都会の便利さはない田舎だからこその懐の大きさとポテンシャルの高さ。豊かな人材、資材、アイデアが流入して変化していく石巻は面白いまちだ。

●取材協力
・巻組

コロナ影響でどうなる? 2021年の不動産市場の行方

2020年は新型コロナウイルスが、日本はもちろん世界中を席巻。多くの国で感染者数・死者数が爆発的に増加する中、日本では相対的に見れば影響は大きくなく、各国がロックダウン(都市封鎖)といった厳しい措置を複数回にわたってとる中、「緊急事態宣言」といった相対的に緩やかな措置でした。

こうしたなか欧州や米国の大都市部ではコロナで不動産取引に急ブレーキ。例えばニューヨークなどでは中心部から都市郊外へと大移動する流れが発生、中心部の取引が激減し、郊外の売買・賃貸市場が活発化しました。

コロナ禍でも利便性を重視する傾向が強まる日本

一方日本では都心部・都市部から都市郊外・地方へ移住といった動きは限定的でした。不動産情報検索サイトによれば、昨年4~5月の緊急事態宣言中には検索範囲が郊外や地方物件へと拡大し、情報閲覧や資料請求なども増加したものの、緊急事態宣言が解かれるとその傾向も弱まっていったとのこと。むしろ「密を避けるため公共交通の利用を極力避けたい」「通勤時間のムダを削減したい」などの理由から、通勤や買物利便性を重視する傾向が強まり、折からの低金利も手伝って「都心」「駅前・駅近」「大規模」「タワー」などのワードに代表される、比較的高額な物件の取引が活発です。 また都市郊外では2~3LDKの賃貸から4LDKの新築中古一戸建てに引越すといった動きも活発化。住宅市場全体が年々縮小を続ける中、コロナ後に顕著に見られた動きはこうしたものです。

昨年の緊急事態宣言中には日経平均株価も一時、1万6000円台へと大暴落し、各地の不動産取引数も前年比40~50%減となったものの「投げ売り」は起きず価格に大きな変化は見られませんでした。2008年のリーマン・ショック時には多くの新築マンション・一戸建ての事業者が千万単位の値引き販売をして在庫処分を進め、それでも持ちこたえることができず多くが破綻、中古市場もつられて暴落しました。

2021年の不動産市場は「3極化」がますます加速

翻って2020年5月25日、緊急事態宣言が解除されると、それまで滞留していた需要を補って余りある需要が噴き出す形で都市部の不動産取引は新築・中古・マンション・一戸建てのいずれも急回復しています。とりわけ東京都心5区(千代田・中央・港・新宿・渋谷区)などの中古マンション成約平米単価はここまで一貫して上昇基調にあります。また新規売出しが少ないことも手伝って在庫も減少していることから、さらなる上値圧力すら感じられるといった状況です。

都心3区中古マンションの「在庫数」と「成約単価」

また他の先進国に比して日本の不動産は相対的に割安感があり、コロナの影響が小さく海外投資家にも注目されており、今後分かっているだけでも兆円単位のマネーが流入する見込み。ただしこうした動きは都心部・大都市部が中心で、2021年の不動産市場は「3極化」がますます加速する一年となりそうです。全国レベルで見れば、2019年10月の消費税増税以降、新築・中古・マンション・一戸建てとも取引は低調でした。

2021年はいきなり1都3県(東京都・神奈川・埼玉・千葉県)を対象とした「緊急事態宣言」がスタートしましたが、昨年大きく下落した日経平均とは異なり、目立った株価の反応はありません。また前回は新築マンションのモデルルームが閉鎖されたり、工事現場がストップしましたが、現在では多くのモデルルームや工事現場においてコロナ対応が進んでおり、前回のような滞りは起きにくくなっています。したがって今回も、緊急事態宣言中において取引数がマイナスに振れることはあっても、投げ売りによる価格下落も起こりにくく、緊急事態宣言が解除された後の取引は通常運転に戻るでしょう。もちろんそのゆくえはコロナ次第であり、現在予定されている2月7日までの緊急事態宣言が大幅に長引くようなことになればその限りではありません。

つまり、日経平均株価が安泰である限り「都心・大都市部」「駅前・駅近」「大規模」「タワー」といったワードに代表される好立地かつ高額物件や郊外で値ごろ感のある新築・中古・マンション・一戸建てなどは好調で、一方で「立地に難のあるもの」はことごとく厳しいといったことになりそうです。

住宅は長期的にニーズのある物件を吟味した上で取得することが大切

「日経平均株価」 と 「都心3区中古マンション成約平米単価」

定量的なデータこそありませんが、史上最高値を更新し続けているビットコインやイーサリアムといった仮想通貨や、コロナ後に大幅上昇した株式を売って不動産購入の頭金にしたという話もちらほら聞くようになりました。加えて歴史的な低金利は続いており、形式的には1980年代後半のバブル経済に近い状況と言えるでしょう。実体経済とは無関係に株や不動産などの資産価格が上昇し「上がるから買う」「買うから上がる」を繰り返す「期待」がバロメータとなり、天井が見えない資産バブルが発生するといった流れです。

時限的に控除期間が10年から13年に延長されている住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)をはじめとする各種の税制優遇は昨年に続き適用される見込み、そして何より低金利と、住宅取得環境は整っていると言えます。一方で長期的に見れば人口・世帯数減が必至な日本において住宅需要全体がしぼむ中、利便性や災害可能性を考慮した立地、耐震性や省エネ性など建物の基本性能など長期的にニーズのある物件を吟味した上で選択する、といった慎重姿勢も求められることになるでしょう。

コロナ禍で犯罪も変化。おうち防犯をアップデートしよう

新型コロナウイルスの影響で、テレワークのための在宅時間が増えるなど、今までと違う暮らし方が浸透しつつありますが、それに伴って住まいや人を狙う犯罪も大きく変化しているといいます。今回は防犯ジャーナリストの梅本正行さんに、犯罪手口の変化と防犯対策を聞きました。
マスクの着用や在宅時間の増加を利用した犯罪が増加中

2020年、新型コロナウイルスの影響で、かつてないほど暮らしが変わりました。防犯ジャーナリストの梅本さんは、この変化と犯罪の影響について以下のように指摘します。

(1)マスクをしている人が増え、警戒が難しい

新型コロナウイルス対策で、マスクをしていることが当たり前になりました。犯罪の下見をしていても人相がばれにくく、周囲に怪しまれにくいため、犯罪を企てる人にとっては好都合なのだといいます。「現在、世界中で課題となっています」(梅本さん、以下同)

ただ、新型コロナウイルスの対策として、当面、マスクは手放せそうにありません。
「常日ごろから周囲をよく観察し、周辺に見たことのない人物はいないか警戒をしましょう。歩きながらのスマホはやめ、イヤホンははずし、バッグは道路の反対側に持つなど、『警戒しているぞ』という気配を出し、生活の仕方を工夫することで、犯罪に巻き込まれる可能性を下げられます」

家に帰宅するとき、また家を出るときにも同様の「警戒心」が大事になるそう。
「マンションでは、共用廊下のくぼみなどに潜んで待ち伏せし、出社時に玄関扉があいたスキを狙って、部屋に押し入った事件がありました。玄関扉を開閉するときは緊張感を忘れずにいたいですね」

アパートの内廊下の写真

マンションやアパートでは、玄関扉を開閉するときはいっそう注意したいところ(画像/PIXTA)

(2)在宅時間が増え、特殊詐欺・訪問盗も増加中

外出自粛で高齢者の在宅時間が増加し、高齢者が孤立したところに、特殊詐欺やなりすまし詐欺の電話が入ることが増えました。また、新型コロナウイルスに便乗した検査や還付金詐欺、ガスなどの点検を装って家を訪れる「訪問盗」も多発しています。

「高齢者だけで暮らしているのであれば、固定電話を【出ても良い。出ない方が良い。がランプの色で分かる】という防犯電話機能付きに機種変更しておきましょう。高齢者がその場で判断をしなくてよくなり、それだけ犯罪に巻き込まれずに済みます。また、自宅に点検が来たとしても、玄関の外で待ってもらい、会社・役所に電話をして本当に点検の予定があるか確認すると伝えたり、実際に電話をして確認するとよいでしょう。本物の業者なら必ず待っていてくれます。怪しいなと思ったら、とにかく施錠・ドアガードをかけた状態を徹底して、対応するようにしましょう」

昔ながらの物件の玄関では、互い違いの「引き戸」になっていることも多いはず。その場合は片方の扉に施錠し、施錠していない方の戸のレールに戸1枚分の横幅より少し短い棒を置いて「突っ張り棒」のような状態として、「ドアガード」を自作するのがおすすめだといいます。

引き戸の写真

引き戸は、突っ張り棒を使ってドアガードを自作することもできる(画像/PIXTA)

(3)宅配便やデリバリーサービスが当たり前に

買い物を避けるため、通販やデリバリーサービスを使う人が増加し、マンションでも一戸建てでも、配送業者が敷地に入っても怪しまれにくい状況が続いています。前述の通り、訪問盗も紛れ込みやすく、また、敷地内に置いた荷物(いわゆる置き配)を狙った犯罪も増えているそう。

「宅配ロッカーを利用するなどして、建物内に外部の人間が入れないようにするほか、荷物は配送時間の事前通知や写真による配送完了通知などの防犯対策を。対面で荷物を受け取りたくない人は、配達通知があったらすぐに荷物を受け取るなどすれば、盗難被害を防げます。デリバリーだからといって安心するのではなく、警戒心を持って、ドアガード越しに『そこに置いてください』といい、帰ったあとに食品や荷物を受け取る方法も有効です」

また、上記にあげた以外の変化として、感染を恐れてレンタカーやカーシェアリングで移動する人が増えた点をあげ、「今までレンタカーを利用する人は限定的でしたが、今では当たり前となりました。犯罪やその下見にレンタカーを使うケースは以前から多かったのですが、利用者が増えたことで、近くに「わ」ナンバーの車が停まっていても警戒しにくくなった、こうした変化も、犯罪の取締りを難しくしています」(梅本さん)

ちなみに、最近では交通系ICカードをお財布に入れている人が多いため、バッグの手に取りやすい場所にお財布があることが多く、スリの標的になっているとか。
「スマホやICカードで、決済する人が増えましたが、これもお財布と同じ機能を持つため狙われています。注意してほしいですね」

カバンの中を探す人

最近では、お財布やスマホ、ICカードなどがかばんのとりやすい場所にあるため、スリの標的になっている(画像/PIXTA)

在宅時間が増えたのは子どもも同じ。どうやって守る?

(4)子どもだけの在宅を狙った犯罪も

在宅時間が増えたのは、大人だけでなく子どもも同じです。また、「買い物は最少人数で」と呼びかけられていることもあり、子どもだけの「留守番」も増加しているため、その時間帯を狙った犯罪者もいるそう。

「子ども狙う犯罪は、家だけでなく周囲に大人がいる・大人の気配がするだけで防げるもの。子どもだけで留守番させるときは、『今、お母さん(お父さん)は、手が放せないのであとにしてください』と言わせましょう。よく『居留守』を使って、無視しなさいという人がいますが、すると犯罪者が留守だと思って侵入することも。そこで、インターホン越しで対応させ、『手が離せない』と言うことで、大人がいることを匂わせることができます」

最近では、スマホと自宅のインターホンを連動させる機能が付いた商品が登場しているので、外出先から親が対応するという手段もよいでしょう。実は、子どもを狙った犯罪を企てるのは、見知らぬ人ではなく、近所の人など顔を見知っている人が多いのです。

「昔、言われた『知らない人についていかない』では対策になりません。『家を一歩出たら、家族以外についていってはダメ』と言い聞かせましょう。また、被害にあっても、子どもは親に怒られると思って話をせずに、被害が拡大するケースも。日ごろから親子でなんでも話せるような親子の信頼関係が大切です」

話し合う親子

子どもは被害を話すと親に怒られると思い、言い出せずにいることも。日ごろから何でも話せるような、親子の信頼関係が大切(画像/PIXTA)

(5)子どもがインターネットに接する時間が増えた

自宅で過ごすことが増えた子どもたちは、デジタルネイティブ世代で、ネットやネットゲームがあるのは当たり前です。そこで悪意を持った大人と接触し、事件や事故に巻き込まれることもあるといいます。

「子どもがスマホやタブレット端末、ゲーム端末で何をしているか、知らない…。残念ながらよく聞く話です。また、親が使っていたお古のスマホをアプリも入れたまま与える人もいるようです。さらに、携帯各社が用意するフィルタリング機能や利用制限などの見守り機能を活用できておらず、外部の人と接触してしまい、言葉たくみに連れ出されることも。親がITリテラシーを高めて、子どもが使えない環境にしておきましょう」

内閣府もフィルタリングについては、万能でないとしつつも「親子でフィルタリングの特徴や機能を正しく理解して、インターネットの利用ルールについて考えて」と推奨しています。機能だけでなく、ルールやマナーについて話し合っておく・話せる環境にしておくというのがよさそうです。

犯罪を企てる人は衝動的に行動するのではなく、意図を持って・念入りに準備し、油断したスキをたくみについてくるといいます。
「今回、解説した通り、現状としてマスクやレンタカーで素性を隠しやすい、SNSで犯罪仲間を募りやすいといった側面があります。社会の状況の変化に応じて、犯罪も変化しているのです。被害に遭う前に警戒を怠らず、賢く『防犯生活』を送ってください」(梅本さん)

これから何かと慌ただしくなる年末です。「昨日まで何もなかったから平気~」ではなく、もう一度、気を引き締めて1年を締めくくりましょう。

家を手に乗せている人

時代にあわせて、家族全員で防犯対策をアップデートしていこう(画像/PIXTA)

●取材協力
防犯ジャーナリスト 梅本正行さん
一般社団法人 日本防犯学校学長。長年、警察署で署員特別教養講師を務めるなど、防犯対策のエキスパートとして知られる。防犯対策責任者の育成のため養成講座を開講。地域の防犯ボランティアや防犯住宅を造る工務店の育成を目指し全国で活躍中。近年、防犯アパート・マンションの普及に力を注いでいる。テレビ出演等を通じて予知防犯対策を提唱している

コロナ禍の「オンライン祭り」仕掛け人に聞いた!お祭りの未来はどうなる?

コロナ禍により、日本中のほとんどのお祭りが中止を余儀なくされた2020年。年に一度のハレの日のイベントを失い、地域住民は意気消沈……。そんな状況を何とかしようと、全国のお祭り支援を手掛けるオマツリジャパンは今年の8月、「オンライン夏祭り2020」を開催した。前代未聞のオンライン祭りは、地域に何をもたらしたのか? お祭りの未来は一体どうなる? オマツリジャパン営業担当の加藤さんと、「オンライン夏祭り2020」参加団体の一つである、宝龍会の上林さんにお話を伺った。
祭りの中止が続々と決定。手探りで始めたオンライン配信

新型コロナの感染が日本で広がり始めた2~3月、音楽ライブなどの大型イベントは軒並み中止に。地域のお祭りも、残念ながらその例に漏れることはなかった。そんな中、お祭り支援団体のオマツリジャパンは、徳島県の阿波踊りや、熊本県の牛深ハイヤ、沖縄県のエイサーなどの8つのお祭り団体とともに「オンライン夏祭り2020」を開催。お祭り動画の視聴や踊りの体験など、自宅にいながらお祭りの魅力を味わえる企画を2日間にわたりYoutubeで生配信した。

開催に至るまでの経緯を、オマツリジャパンの加藤さんはこう語る。

「年に一度のハレの日のイベントが失われ、ショックを受けている地域住民の方は多いのではないかと思いました。コロナ禍が落ち着くのを待つのではなく、今できることを模索する中、僕らは『かなまら祭り』の試みで突破口を見出しました」

オマツリジャパン営業部長・加藤匠さん(写真提供/オマツリジャパン)

オマツリジャパン営業部長・加藤匠さん(写真提供/オマツリジャパン)

かなまら祭りとは、神奈川県川崎市で毎年4月に行われる、男性の局部をかたどったお神輿が有名なお祭り。毎年多くの観光客が訪れるが、コロナ禍の影響を免れず中止が決定。肩を落とす主催者に、オマツリジャパンはSNSを利用した発信を提案した。

神奈川県川崎市で昨年行われた「かなまら祭り」の様子(写真提供/オマツリジャパン)

神奈川県川崎市で昨年行われた「かなまら祭り」の様子(写真提供/オマツリジャパン)

「お神輿は担げないけれど、普段公開していない神事の様子をライブ配信すれば、興味を持ってくれる人がいるかもしれないと思ったんです。実際にやってみると反響は想像以上で、オンラインのお祭りでも喜んでいただけるんだと、非常に可能性を感じました」

「オンライン夏祭り2020」を開催すると決めた加藤さんたちが最初に声をかけたのは、日本三大音頭の一つである泉州音頭(大阪府)の担い手、宝龍会だった。

「宝龍会さんは、メンバーの自宅をオンラインで繋いで稽古している様子をYoutubeで配信していました。お祭りの担い手は高齢者が多く、ITに抵抗がある方も少なくない中、宝龍会の皆さんはむしろ率先してデジタルを取り入れていた。オンライン祭りにもきっと楽しんで参加してくださるはずと思いました」

例年大阪南西部の泉州エリアで催される「泉州音頭」(写真提供/泉州音頭 宝龍会)

例年大阪南西部の泉州エリアで催される「泉州音頭」(写真提供/泉州音頭 宝龍会)

コロナ禍によりオンラインで稽古を行った様子(写真提供/泉州音頭 宝龍会)

コロナ禍によりオンラインで稽古を行った様子(写真提供/泉州音頭 宝龍会)

宝龍会が毎年稽古場として利用していた公民館は、コロナ禍で使えなくなってしまった。それでも週に一度の稽古を続けるために、メンバーの家からでもセッションができるよう、オンラインで音を遅滞なく届ける専用のソフトを各々が購入したという。メンバーの年齢は45~70代。環境構築は簡単ではなかったのではないだろうか。そう聞くと、宝龍会の上林さんは、「なかなか面白かったですよ」と笑顔で答えてくれた。

「最初は、『バラバラな場所から演奏するなんて、つまらないんじゃないか』と思ってたんです。でも、やってみたら意外に面白かった。みんな乗り気で、機材に10万円使った人もいるぐらい(笑)。今回整えたオンライン稽古の環境は、今後も使えると思いましたね」

お祭り団体の交流、全国への配信……オンラインならではの良さも

「本物のお祭りと比べて満足感が低かったり、物足りなく感じてしまうことのないように気を配った」と話す加藤さん。特に、視聴者を飽きさせないように、さまざまな工夫を凝らしたという。

その1つが、オンライン祭り専用の短時間プログラムの制作だ。例えば、宝龍会の泉州音頭は、本来であれば歌い手が約20分ずつ歌いつなぎ、何時間も音頭が続いていく。しかし、それをそのまま動画で配信すると飽きられてしまうため、今回は歌い手一人あたりの歌う時間を20分から3分に短縮。オンライン祭り専用の30分のプログラムを用意してもらった。

また、個々のお祭りの動画を配信するだけではなく、複数のお祭り団体が共演する企画も実施した。徳島県の阿波踊りのルーツが熊本県の牛深ハイヤ節にあると言われていることから、2つの団体の踊り手が一緒に踊りながら、曲調や踊りの似ている点や異なる点を見つけ合う「阿波踊り×牛深ハイヤ教室」の開催だ。

「阿波踊り×牛深ハイヤ教室」では、それぞれの祭りの踊り手が一堂に会した。© Omatsuri Japan / © kiCk inc.(写真提供/オマツリジャパン )

「阿波踊り×牛深ハイヤ教室」では、それぞれの祭りの踊り手が一堂に会した。© Omatsuri Japan / © kiCk inc.(写真提供/オマツリジャパン )

さらに、東京のスタジオでは、カメラを3台設置。ずっと同じカメラの映像を流していると視聴者が退屈してしまうため、引きの画、よりの画、動きのある画を撮影し、随時切り替えを行った。

オマツリジャパンの加藤さんは、初めてのオンライン祭りを終えての感想を次のように語る。

「ストレスなく楽しめるコンテンツをつくるのは、こんなに大変なんだと痛感しました。でも、ちゃんと体制を整えて配信すれば、お祭りの楽しさや空気感を映像を通じて伝えられることも分かった。本物のお祭りに及ばない部分はありますが、オンラインだからこそできることもあるんだと、非常に勉強になりました」

一方、お祭りの担い手側は、どのような感想を抱いたのだろうか?

「楽しませてもらいましたよ。短い時間でしたが、やりきった感があった。終わったあとは魂が抜けたようになりましたね(笑)。特にうれしかったのは、配信した動画をいろんな地域の人が見てくれたことです。東京の人や東北の人がコメントしてくれて。まさか自分たちの祭りを遠くの地域の人が楽しんでくれるなんて、やってみるまでは思いもしませんでしたから」(宝龍会・上林さん)

初めての観客不在のお祭りに、寂しさは拭えなかったはず。しかしオンライン配信によって、今まで接触する機会のなかった人に自分たちのパフォーマンスを見てもらえたことは、担い手の方たちの新たなやりがいにつながっていた。

来年以降のお祭りは、オンラインとオフラインのハイブリッド型に

日本のお祭りはこれからどうなるのだろうか? 加藤さんは、「オンラインの良さを取り入れつつ、オフラインに戻していくのが大きな流れになる」と説明する。

「オンライン祭りの良さは、確かにあります。先ほどお話ししたような、オンラインだからこそ実現できる企画がありますし、高齢の方など現地に来られない方がお祭りに参加する手段にもなる。さらに、遠くの人たちにお祭りを知ってもらうプロモーションの機会にもなります。

その一方で、オンライン祭りだけではオフラインのお祭りほど地域経済に貢献できないのも実情です。例えば徳島県では今年、阿波踊りの中止によって多くの宿泊施設が廃業の危機に追い込まれました。年に一度の大きなお祭りで経済が成り立っている地域があることを踏まえると、『お祭りはこれからもずっとオンラインで』というわけにはいきません」

例年開催されている徳島県内の阿波踊り(写真提供/オマツリジャパン)

例年開催されている徳島県内の阿波踊り(写真提供/オマツリジャパン)

オンライン夏祭りで全国配信された阿波踊り(写真提供/オマツリジャパン)

オンライン夏祭りで全国配信された阿波踊り(写真提供/オマツリジャパン)

そこでオマツリジャパンは現在、内閣官房の関係各省、日本青年会議所と連携し、アフターコロナのお祭りガイドラインの作成を進めている。どのような安全対策が適切なのかが明確になれば、オフラインのお祭り復活に向けた目処が立ちそうだ。

とはいえ、どんなに体制が整ったとしても、お祭りをやる人たちの意欲が削がれてしまっては意味がない。例年通りのお祭りを開催できなかったために、肝心の担い手のモチベーションが落ちてしまってはいないだろうか? そんな筆者の心配をよそに、宝龍会の上林さんは来年に向けた意気込みを力強く語ってくれた。

「逆に火がついていますよ。僕たちの勢いが止まることはありません。今年のオンライン祭りで僕たちの祭りに興味を持った方が直接見に来てくれるようなことがあったら、すごくうれしいですしね。それから、来年はお祭り中の櫓(やぐら)の中の様子も配信できたら面白いと思うんですよ。舞台裏のドタバタ劇を楽しんでもらうのもいいかもしれません」

取材に対応してくれた宝龍会の上林さん(写真提供/オマツリジャパン)

取材に対応してくれた宝龍会の上林さん(写真提供/オマツリジャパン)

今年のオンライン祭りをきっかけに、新しいアイデアも広がっている様子。来年以降はオンライン配信という新しい武器とともに、全国のお祭りが今まで以上の盛り上がりを見せてくれることを願いたい。

●取材協力
オマツリジャパン
泉州音頭 宝龍会

“タイニーハウス”が災害時の避難場所に!? 山梨県小菅村で「ルースターハウス」誕生

地震や台風、風水害、豪雪などの自然災害が多発する日本。しかも2020年は新型コロナウイルスが流行し、災害発生時の避難場所、仮設住宅をどう備えるのかが課題となっています。今回、そんな感染症流行下の避難場所としても活躍しそうな「タイニーハウス」が、山梨県小菅村に誕生しました。その背景や思いを聞いてきました。
山梨県小菅村で、災害発生時に避難場所になるタイニーハウスが誕生

人口約700人、多摩源流の山間にある小菅村は、10~25坪の小さな小屋が次々と誕生している「タイニーハウス村」として、以前、SUUMOジャーナルでも紹介しました。

山あいにある小菅村。多摩川の源流の村でもあります(写真提供:SUUMOジャーナル編集部)

山あいにある小菅村。多摩川の源流の村でもあります(写真提供:SUUMOジャーナル編集部)

小菅村のタイニーハウスのひとつ(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

小菅村のタイニーハウスのひとつ(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

この小菅村で今年10月に誕生したのが、感染症対応をしつつ、災害発生時に避難場所として活躍するタイニーハウスの「ルースターハウス」です。

2020年10月にお披露目となった「ルースターハウス」。見た目はかわいいが、避難所になる(写真提供/小菅村)

2020年10月にお披露目となった「ルースターハウス」。見た目はかわいいが、避難所になる(写真提供/小菅村)

ちなみに、「ルースター」は英語で、雄鶏という意味のほか、とまり木、ねぐらという意味があるとか。災害時のひとときの住まいという意味で、「ルースターハウス」と名付けたといいます。

このルースターハウスの特徴は、災害時、感染症対策をしながらの避難場所になるだけでなく、(1)軽トラ一台で持ち運べる、(2)4m×4mのスペースに、ドライバーとレンチがあれば大人2~3人で、1時間程度で組み立てられ、(3)山梨県の木材を活用する、といった点にあります。トイレやシャワーなどの水まわりはありませんが、家族4人程度のプライバシーを保ちながら仮住まいすることが可能です。

地元の間伐材を加工して集成材とし、建物の骨組みにしている。避難場所、資源の有効活用、地元の産業振興と一石三鳥にもなる(写真提供/小菅村)

地元の間伐材を加工して集成材とし、建物の骨組みにしている。避難場所、資源の有効活用、地元の産業振興と一石三鳥にもなる(写真提供/小菅村)

(写真提供/小菅村)

(写真提供/小菅村)

ルースターハウスの原型は、「タイニーハウスコンテスト」の応募作品

このルースターハウスの仕掛け人となったのは、前回の取材でも登場してくれた一級建築士・技術士の和田隆男さんと小菅村村長の舩木直美さんの2人です。

「小菅村では毎年、タイニーハウスコンテストを開催しているのですが、2019年に最優秀賞を獲得していた、滝川麻友さんの『森を浴びる家』のアイデアはすばらしく、なんとかかたちにしたいと思っていました」と和田さん。

『森を浴びる家』の応募時の模型。当初は好きな場所で組み立てることができ、自然の明かりで目覚める住まいを考えていて、防災用の用途は考えていなかったといいます(写真提供/小菅村)

『森を浴びる家』の応募時の模型。当初は好きな場所で組み立てることができ、自然の明かりで目覚める住まいを考えていて、防災用の用途は考えていなかったといいます(写真提供/小菅村)

しかし、今年はコロナウイルスの流行もあり、サンプルをつくるのは難しいと考えていたところ、舩木村長から「組み立て式の建物でポータブル。これは、感染症流行下の避難場所として活用できるのではないか。費用はなんとか工面するので、かたちにしてみよう」と提案があり、サンプルづくりを進めたそう。

そもそも、災害発生時に自治体が設置する避難所は、学校などの公共施設に開設されることが多く、多数の人が避難生活を送るため、プライバシーが確保できない、感染症の集団感染が起きるといった問題点が指摘されてきました。

「災害はいつ、どこで発生するかわかりません。しかも今年はコロナウイルス対策として、避難場所の受け入れ人数を半分以下とせざるを得ないため、国も地方自治体も頭を悩ませています。このルースターハウスは組み立て式で持ち運べる。ひょっとしたら避難場所になるのでは、という思いがありました」(舩木村長)

ちなみに、東日本大震災発生時には、「まわりに迷惑がかかると感じた」「設備面で滞在に支障があった」といった理由で避難所から退所していった人が多かったそう(平成25年「避難に関する総合的対策の推進に関する実態調査結果報告書」内閣府)。特に小さな子どもや高齢者・障がいがある人にとっては、避難所での大きな場所が区切られていない、集団生活は大きなストレスとなることでしょう。

また、小菅村では2019年台風19号で被災し、道路が寸断された経験があることから、災害時に空輸・持ち運びしやすさを考え、組立前の重量350kg以内、一つのパーツの長さ1.8m、重さ10kg未満など、軽トラに乗せられる「持ち運びやすさ」にもこだわったといいます。

材料は軽トラック一台で運べる(写真提供/小菅村)

材料は軽トラック一台で運べる(写真提供/小菅村)

「地方の山間の集落は道路も細く、大型トレーラーが入れないことがあります。機動力のある軽トラで持ち運べることというのはサンプルをつくるのにあたって何度も言われました」と和田さん。被災経験があり、地方の実情を知っているだけに、その説得力は十分です。

船木さんは、「このルースターハウスがあれば、周囲の目を気にせずに避難生活が送れます。感染症が流行する心配もなく、自宅とまではいかなくとも、多少なりともくつろげることでしょう」といいます。

タイニーハウスの表彰式での和田さん(左)、デザインした滝川さん(中央)、村長の舩木さん(右)(写真提供:小菅村)

タイニーハウスの表彰式での和田さん(左)、デザインした滝川さん(中央)、村長の舩木さん(右)(写真提供:小菅村)

ちなみに、このルースターハウスの原型となった『森を浴びる家』をデザインした滝川麻友さんは、応募当時、高校生でしたが(!)、現在は早稲田大学建築学科に進学したといいます。
「今回のサンプルを拝見して、自分が空想していたことが現実になったのが、いちばんの驚きでした。私の妄想が大人のみなさんの力でかたちになっていき、貴重な経験をさせていただいたと思っています」と話します。若い着想と大人の力が組み合わさって新しいタイニーハウスができる。まるでドラマのような展開ですね。

気になる価格は80万円程度? 平時はグランピングとして活用!

今回のルースターハウスはまだサンプルの段階ですが、実用化にあたっての課題、今後の活用法についても聞いてみました。

「骨組みは木材ですが、タイニーハウスの外側はポリエステル樹脂を使っていて、通気性や断熱性などの居住性を高めつつ、耐久性も確かめたいですね。また、デジタルファブリケーションを使って加工しているので、1基を生産するのに5日間かかりました。量産化するのであればこのペースアップ、1基の価格設定でしょうか」と和田さん。ちなみに現在だと外皮を含めて一基80万円ほどかかりますがこれからコストダウンを考えますとの事。舩木村長からも、もう少し安く、早くできるようにプッシュされているとか。

デジタルファブリケーションを用いて木材を加工している(写真提供/小菅村)

デジタルファブリケーションを用いて木材を加工している(写真提供/小菅村)

「ルースターハウスは、平時はグランピングやキャンプなどの宿泊施設としてお金を稼ぎ、非常時には仮設住宅、避難場所として活用することを考えています。小屋もしまっておくのではなく、平時も非常時も活用できるのが理想ではないでしょうか」(舩木村長)

グランピングやキャンプなど宿泊施設としての活用も検討中(写真提供/小菅村)

グランピングやキャンプなど宿泊施設としての活用も検討中(写真提供/小菅村)

移動可能な小さな住まいにはモンゴルの伝統家屋「パオ」、避難場所として受け継がれてきた日本の「板倉小屋」がありますが、ルースターハウスは「パオ」や「板倉小屋」のいいとこ取りをしています。もちろん、自然災害が起きないに越したことはありませんが、世界中で気候変動が進む今、日本のみならず各国で住まいの備えが必要になりつつあります。もしかしたらルースターハウスは、日本発の持ち運べる避難場所として世界に広まっていくかもしれません。

●取材協力
小菅つくる座
小菅村 ルースターハウス
タイニーハウス小菅プロジェクト

コロナ禍で50万円以下プチリフォームが増加! 換気、テレワーク、おうち時間の見直しで

新型コロナウイルスの影響で、おうちで過ごす時間が増え、自宅をリフォームする人が増えているといいます。リフォームというとトイレやキッチン、バスなどの水まわりがまず頭に浮かびますが、新型コロナウイルスの影響か換気や内装の工事も増えているとか。どんな工事が多いのか、一戸建て・マンションのリフォームのプロに聞いてみました。
「換気」や「抗ウイルス対応壁紙」「除菌水」のリフォームが急増中!

今、不動産市場のなかで、最も活況といわれているのがリフォームです。在宅時間が増えたことで、長年、放置されてきた「家の不具合」「故障箇所」などに気が付き、リフォームを依頼するという流れがあるようです。

「今回、新型コロナウイルスの対策として、換気が大きく注目されました。2003年以降、分譲された住宅には24時間空調換気が義務付けられていますが、それ以前の建物はそうではありません。『動いているのか分からない古い換気扇を交換したい』との問い合わせから、熱交換機能付きや24時間換気機能付きの換気扇をご案内することは多かったですね」と話すのは、静岡鉄道株式会社 不動産分譲事業部リフォームグループ 茂木 仁志さん。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

先のことは誰にも分かりませんが、来年以降の第二波、第三波を考慮し、早めに対策をして「家を快適にしておこう」「より安全な環境にしたい」という人も多そうです。

「抗ウイルスなどの壁紙や床材、抗菌水などは、もともとよく知られている商品ではないと思います。ですから、『換気扇を交換したい』という問い合わせから、話が広がっていくことが多いですね」と茂木さん。建物の状況にもよりますが、総額でも50万円ほどの少額で収めている人が増えているといいます。

事例内容:一戸建ての玄関ドアをリフォームして通風ドアに 施工費用:36万円~ 施工期間:1日 (写真提供/静鉄リフォーム)

事例内容:一戸建ての玄関ドアをリフォームして通風ドアに
施工費用:36万円~
施工期間:1日
(写真提供/静鉄リフォーム)

事例内容:外から帰ってすぐに手洗いできるよう、玄関入ってすぐのところに洗面台を増設 施工費用:15万円~ 施工期間:4日 (写真提供/静鉄リフォーム)

事例内容:外から帰ってすぐに手洗いできるよう、玄関入ってすぐのところに洗面台を増設
施工費用:15万円~
施工期間:4日
(写真提供/静鉄リフォーム)

「コロナの影響で、収入減を予測している人が多いのだと思います。壊れてしまって生活できない『修繕』は別ですが、しなくても暮らしが成立する高額リフォームは、『贅沢品』という側面があるんです。それゆえになかなか高額にはなりにくいのではないでしょうか」(茂木さん)とその理由を明かしてくれました。

ちなみに予算をおさえつつ、プチリフォームで頼りになるのがDIYです。実際、コロナウイルスの影響もあって、ホームセンター各社の売上は好調ですが、特にDIY用品がよく売れているといいます。近年は塗料や手軽に加工できる壁紙・床材が出ているので、気軽にチャレンジしやすくなっているのかもしれません。

おうちオフィス化計画は、リビングまわりに机を配置する人多数

コロナの影響で増えたといえば、テレワークです。『おうちオフィス化計画』、リフォームでさらに充実したものにしたいと考えている人はいることでしょう。筆者もその一人で、大人2人がそろって自宅作業してもストレスがないよう、リフォームを検討しています。

「特にマンションにお住まいだと、室内の広さに余裕がある、または部屋が余っているというご家庭は少ないもの。そのため、クローゼットなどに書斎をつくろうという人はあまり多くないように思います。多いのは、リビングの一部にパソコン台をつくって子どもを見ながら仕事ができるようにするご依頼です。家族の生活音は、ヘッドホンをしてしまえば意外と気にならないようですね」(茂木さん)

事例内容:マンションのリビングにカウンター机を造作 施工費用:10万円~ 施工期間:2日 (写真提供/静鉄リフォーム)

事例内容:マンションのリビングにカウンター机を造作
施工費用:10万円~
施工期間:2日
(写真提供/静鉄リフォーム)

50万円のリフォームなら、どこまでできるの? 期間はどのくらい?

リフォーム検討者として気になるのが、ほかにも50万円以下でどんなリフォームができるのか、という点です。茂木さんに目安を伺いました。

「通常のトイレなら節水トイレに交換し、床と壁天井の内装も施工できます。また、12畳ほどのLDKの壁天井クロスの張り換え、テレワーク用の作業台を設置するのもいいですね。ただ、マンションも一戸建てでも、建物の状況によるので、一概には言えません。基本的には、住まいの下見や素材のご相談のあと見積もりという流れになり、見積もり作成まで無料というのが一般的です」と解説します。

次に50万円以下でできるリフォームの例を紹介していきましょう。おうち時間の増加により、「家で遊べる」「家が楽しい」と、リフォームを考えているなら、以下のようなケースが参考になりそうです。神奈川県を中心にリフォーム事業を展開する株式会社フレッシュハウスが手掛けた事例から紹介しましょう。

事例内容:インナーガーデンをつくって、家なのにカフェ気分が楽しめる 施工費用:床部分10万円、上部スポット等照明追加工事5万円※面積により金額は変わります 施工期間:2日 (写真提供/フレッシュハウス)

事例内容:インナーガーデンをつくって、家なのにカフェ気分が楽しめる
施工費用:床部分10万円、上部スポット等照明追加工事5万円※面積により金額は変わります
施工期間:2日
(写真提供/フレッシュハウス)

事例内容:階段の手すりを使ってデスクをつくり、趣味のDTMコーナーに 施工費用:5万円~※机にする材料や面積などにより金額は変動します 施工期間:1日 (写真提供/フレッシュハウス)

事例内容:階段の手すりを使ってデスクをつくり、趣味のDTMコーナーに
施工費用:5万円~※机にする材料や面積などにより金額は変動します
施工期間:1日
(写真提供/フレッシュハウス)

事例内容:吹抜けに大型スクリーンプロジェクターを設置。家が映画館に早変わり 施工費用:スクリーン取り付け10万円、手すり変更(既存の手すりを撤去し、新たに枠を設けて強化ガラスをはめ込み)30万円 ※プロジェクターやスクリーンの費用は含みません 施工期間:同時施工で2日 (写真提供/フレッシュハウス)

事例内容:吹抜けに大型スクリーンプロジェクターを設置。家が映画館に早変わり
施工費用:スクリーン取り付け10万円、手すり変更(既存の手すりを撤去し、新たに枠を設けて強化ガラスをはめ込み)30万円
※プロジェクターやスクリーンの費用は含みません
施工期間:同時施工で2日
(写真提供/フレッシュハウス)

室内以外にも、「部屋から目に入る場所」に手を加える人も増えているようです。例えば新潟県を中心にデザイン性の高い注文住宅、リフォームなどを手掛ける株式会社アンドクリエイトでは、以下のようなリフォームができるといいます。

事例内容:青石と青砂利を敷くことで庭をおしゃれに。家庭菜園スペースもつくっておうち時間を楽しめるように 施工費用:7万円(材料費のみ)施工は施主 施工期間:2日 (写真提供/アンドクリエイト)

事例内容:青石と青砂利を敷くことで庭をおしゃれに。家庭菜園スペースもつくっておうち時間を楽しめるように
施工費用:7万円(材料費のみ)施工は施主
施工期間:2日
(写真提供/アンドクリエイト)

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事例内容:タタミコーナーと浴槽から眺める庭をつくった。2階タタミコーナーと浴槽から見える坪庭バルコニーを枕木で隣地目隠し施工し、植木鉢と石敷きを行った 施工費用:25万円 施工期間:3日 (写真提供/アンドクリエイト)

事例内容:タタミコーナーと浴槽から眺める庭をつくった。2階タタミコーナーと浴槽から見える坪庭バルコニーを枕木で隣地目隠し施工し、植木鉢と石敷きを行った
施工費用:25万円
施工期間:3日
(写真提供/アンドクリエイト)

こうして事例を見ると、やっぱりリフォームって、快適になるだけでなくおしゃれになりますよね。目にする空間が自分好みだと、やっぱりストレスなく暮らせる気がします。

「インスタグラムをはじめ、SNSの影響は大きいと思います。弊社でもリノベアイテムをそろえたECサイト『HAGS』と提携しており、インスタ映えするようなおしゃれな建材をお客様がWEB上で選ぶこともできます」(茂木さん)

最後にもう一つ聞いておきたいのが、リフォームを依頼してから着工までにかかる期間です。もともと、建設業の人手不足から施工までに時間がかかるなどと言われていましたが、コロナの影響も加わったことで、依頼してから施工まで、余計に時間はかかるのでしょうか。

「工事の規模や内容にもよりますが、弊社の場合は相談して現地確認後、1週間ほどでプランの提案、ご契約から1週間程度で工事着工を心がけています。ただ、住設機器メーカーのショールームで現物を確認するとなると時間がかかってきます。現在、各社ショールームの週末予約が取りにくい状況が続いているので、その場合、お時間をいただく場合がございます」(茂木さん)

なんと、やっぱりここにもコロナの影響があるんですね。新しい生活様式にはさまざまな不便もありますが、住まいに関心が高まるのは個人的にとても良いことだと思っています。住まいを大事にすれば、暮らしの充実度や満足度は高まるはず。気軽にできるリフォームが多くの人に広まり、「わが家って、手入れするとめちゃ快適じゃん!」という人が増えてほしいなと思います。

●取材協力(※50音順)
静鉄リフォーム 
アンドクリエイト
フレッシュハウス

コロナ禍で家でもキャンプ! テレワークにも役立つアウトドアな暮らし

新型コロナウイルスの影響で、「ベランピング」「おうちキャンプ」などの言葉が普及し、実際に暮らしにキャンプのエッセンスを取り入れた人も多いのではないでしょうか。今、住まいとアウトドアがかつてなく近づいているようです。それでは、どんな住まいや住まい方が登場しているのでしょうか、アウトドアブランドとハウスメーカーに聞いてみました。
暮らしにアウトドアを取り入れる人が急増!

このところキャンプブームが続いていましたが、住まいの世界でも「キャンプのようなインテリア」「アウトドアっぽい暮らし」は、ひとつのトレンドとなっていました。ところが今年に入り、新型コロナウイルスの影響でその流れは一気に加速。外出自粛しながらも家でも外遊びがしたいと、「おうちキャンプ」「ベランピング」などを取り入れる人がぐっと増えているようです。

アウトドア総合メーカーのスノーピークのアーバンアウトドア事業担当・王治菜穂子さんによると、「世間では『メスティン』レシピが話題になっていますが、同社でも、1~2人を対象にしたミニサイズのダッチオーブン『コロダッチ』や、コンパクトに収納できて家使いでも重宝する『HOME&CAMPクッカー』、チタン製のマグカップといったテーブルウェアの売れ行きが大変好調です」といいます。

「HOME&CAMPクッカー」は2020年度グッドデザイン賞で「グッドデザイン・ベスト100」にも選出(写真提供/スノーピーク)

「HOME&CAMPクッカー」は2020年度グッドデザイン賞で「グッドデザイン・ベスト100」にも選出(写真提供/スノーピーク)

「外出自粛期間中は店舗を閉めておりましたが、その後営業再開してからは、かなりのスピードで売上が回復。キャンプビギナーから、根っからのキャンパーまで、おうちのなかでもキャンプを楽しみたい! という動きを肌で感じています」(王治さん)と話します。

ハウスメーカーとアウトドアのコラボは反響大!

ハウスメーカーでも同様の手応えがあるようです。ヘーベルハウス(旭化成ホームズ)では、アウトドアな暮らしを提案していますが、資料請求数が前年同期比5割増になっているといいます。キャンプ道具はインテリアアイテムとしても優秀なので、今、流行している「男前インテリア」の影響もあるかもしれません。

バルコニーを有効活用する暮らし方を提案(写真提供/ヘーベルハウス(旭化成ホームズ))

バルコニーを有効活用する暮らし方を提案(写真提供/ヘーベルハウス(旭化成ホームズ))

(写真提供/ヘーベルハウス(旭化成ホームズ))

(写真提供/ヘーベルハウス(旭化成ホームズ))

注文住宅に留まらず、新築の完成物件でもアウトドアを取り入れた住まいは好調のようです。例えば、中央住宅とアウトドア家具ブランド「INOUT(イナウト)」とコラボしたモデルハウスは、新型コロナウイルスの影響が深刻だった今年5月に販売を開始しましたが、全14棟完売したそう。

(写真提供/中央住宅)

(写真提供/中央住宅)

写真を見ても分かる通り、リビングとデッキがひとつづきになっていて、家の中と外がゆるくつながっています。シェードがあるので、いつでもキャンプ気分が楽しめる住まいと言えるでしょう。

実はスノーピークも2018年、地元・新潟の工務店などとコラボした「天野エルカール」という住宅街の開発に取り組んでいて、当時も大変好調だったといいます。

「地元工務店、ハウスメーカー、全10社とコラボした企画でしたが、計画中はどこまで反響があるか分からず、手探りだったのです。3週連続、週末に住宅展を開催したときは計7日間で1200組以上の方にご来場をいただき、関心の高さに驚かされました」(王治さん)と話します。

コロナ前からあったアウトドアな住まいですが、ブームで終わるとは考えにくく、今後、加速して一大ムーブメントとなっていくかもしれません。

家でもキャンプの楽しさを! アウトドアな住まいの良さとは

では、アウトドアな住まいの特徴や魅力は、どこにあるのでしょうか。

「うちと外がゆるやかにつながり、自然を感じられる工夫がされている点でしょうか。『天野エルカール』では、キッチン・リビングにつづいた土間やデッキをマストで設置しました。すると、窓をあければすぐに外の空気が感じられるのです。また、住まいにシェードを張りつけました。これだとすぐにシェードを張ることができ、さっと設営して、すぐにキャンプ気分が楽しめます」と王治さん。

スノーピーク 企画開発エグゼクティブクリエイター佐藤さんの自宅にもウッドデッキが。「自宅でのテレワークの際、晴れて気持ちいい天気のときは、ウッドデッキにさっとテーブルとチェアを持ち出します。休憩中はアウトドアギアを使ってコーヒーを豆から挽いて気分転換しています」(佐藤さん)

スノーピーク 企画開発エグゼクティブクリエイター佐藤さんの自宅にもウッドデッキが。「自宅でのテレワークの際、晴れて気持ちいい天気のときは、ウッドデッキにさっとテーブルとチェアを持ち出します。休憩中はアウトドアギアを使ってコーヒーを豆から挽いて気分転換しています」(佐藤さん)

シェードを張ると、キャンプ気分がアップ(写真提供/スノーピーク)

シェードを張ると、キャンプ気分がアップ(写真提供/スノーピーク)

とはいえ、家づくりからというと、なかなかハードルが高くなるもの。今すぐにできる「おうちキャンプの楽しみ方」を教えてもらいました。

「アウトドアグッズの良さは、収納してコンパクトに持ち運べ、使わないときにはしまっておける点があります。例えば、テレワークだと気分転換が難しいですが、アウトドアグッズがあると気分転換も自宅でも容易にできます。弊社の社員では、おうちのバルコニーに机と椅子を置いて、テレワークする人もいます。リビングで仕事をするより、気分も変わって良いですよ」といいます。

なるほど、おうちアウトドアをチェアと机からはじめられるというのは、手軽ですね。

スノーピークビジネスソリューションズ  HRS事業部オフィスディレクションチーム  神原さんのご自宅。「在宅ワークでは気分転換が重要。集中したいときはリビングで、Webミーティングはテラスのお気に入りローチェアで。家の中でも場所を変えるだけで、気分も変わって生産性をアップできます」(神原さん)(写真提供/スノーピーク)

スノーピークビジネスソリューションズ HRS事業部オフィスディレクションチーム 神原さんのご自宅。「在宅ワークでは気分転換が重要。集中したいときはリビングで、Webミーティングはテラスのお気に入りローチェアで。家の中でも場所を変えるだけで、気分も変わって生産性をアップできます」(神原さん)(写真提供/スノーピーク)

もう一つ、アウトドアな住まいの良さとして、王治さんが教えてくれたのは、コミュニティを円滑にしてくれる点です。

「焚き火や火の匂いを敬遠する人もいるなか、やっぱりキャンプに憧れる人たち、してみたいなという人たちは一定数いるのだと思います。弊社では都心の新築マンションに住まわれる方でも、気軽に野遊びやキャンプを楽しめるための提案を行ってきましたが、実際にイベントをしてみると、やはりみなさんとてもうれしそうなんですね。焚き火を囲んで、会話がはずみ、打ち解けるきっかけになります」と王治さん。

住んでいる場所は大都会でも郊外でも、風や光、緑を感じたい、というのはいつも変わらぬ願いかもしれません。アウトドアな暮らし、これからはブームではなく、定番となっていくのではないでしょうか。

●取材協力
旭化成ホームズ
スノーピーク
スノーピークビジネスソリューションズ
中央住宅

2020年の地価は下落へ転換? 分野別にみるコロナ禍の影響

2012年の民主党から自民党への政権交代以降、一貫して上昇を続け、2017年をピークに高原状態にあった地価は新型コロナウイルスで様相が一変しました。
新型コロナウイルス影響で先行き不透明な地価

国土交通省が8月29日発表した7月1日時点の基準地価は、全国平均(全用途)の変動率が前年比マイナス0.6%と、2017年以来3年ぶりの下落。商業地はマイナス0.3%と5年ぶりに下落に転じ、昨年、28年ぶりに上昇した地方圏の商業地は再び下落に転じました。住宅地はマイナス0.7%と下落幅を拡大させています。下落地点数の割合は60.1%と2年ぶりに半数を超え、新型コロナウイルスの影響に伴う外出自粛や在宅勤務の普及を要因に不動産取引が鈍り、オフィスやホテル、店舗の需要も急失速する中、先行きの不透明感が反映された格好です。

経済停滞が長期化すれば、回復を続けてきた地価が下落へと転換しそうですが、その内訳をみると異なった様相も見えてきます。とりわけマイホームの世界は、新築中古・マンション戸建てともにさしたる影響はないどころか、足元では活況を呈していると言っていいでしょう。分野別に現状を探ってみます。

インバウンド需要が激減した商業地

新型コロナの影響が最も大きかった分野で、大きな地価押し上げ要因となっていたインバウンド需要が今年に入って激減し、不透明感が強まっています。訪日外国人客がほぼ消滅したことに加え、緊急事態宣言などの外出自粛や店舗への休業要請で国内の経済活動も大幅に停滞しました。

かつてホテルや商業施設用の不動産取引が活況だった地方の観光地や、東京の銀座や新宿、大阪の道頓堀付近など、繁華街エリアにおいて値下がりが目立ちます。金沢市の繁華街の、ある地点は前年の19.6%の上昇から4.5%の下落に。岐阜県高山市の奥飛騨温泉郷は観光客減が響きマイナス9.3%と下落率が最大。道頓堀に近く、多くの訪日客が訪れる大阪市中央区の地価変動率はマイナス4.5%。前年は商業地で全国3位のプラス45.2%でした。いずれも観光客向けの店舗やホテル需要が弱まったことが響いています。3大都市圏の商業地はプラス0.7%となんとか上昇を維持したものの、伸びは鈍化。東京、大阪で上昇幅が縮小し、名古屋は8年ぶりに下落に転じています。

最高価格は東京都中央区の「明治屋銀座ビル」で、1平方メートル当たり4100万円。最も上昇率が大きかったのは住宅地、商業地とも、リゾート開発が活発な沖縄県宮古島市でプラス30%を超えています。地域別では地方圏と名古屋圏の下げが大きい一方、札幌、仙台、広島、福岡の底堅さも目立ちます。三大都市圏より高利回りを求めた投資マネーが流れ込み再開発が進んでいるためです。

(画像/PIXTA)

(画像/PIXTA)

リモートワークも増えるオフィス街

大手町・丸の内といったオフィス街には取り立てて変動がありません。一部企業がオフィス床を減少させるとのアナウンスもありますが、、その動きは限りなく限定的です。というのも、リモートワークで生産性が低下した企業も多く、またソーシャルディスタンスを保つには一定の床面積が必要となるからです。なにより多くのオフィス賃貸契約は、3~5年問といった長期契約のものが多く、期間中に解約すると違約金が発生するパターンが多いのです。渋谷区のオフィス空室率が3%台前半とやや高まったのは、機動的に動けるIT系企業が集積していたため。それでもオフィス市場の好不調を占う5%には程遠く、大手町・丸の内や虎ノ門・新宿といったオフィス街には何ら変化がないのです。変化が訪れるとしてもずいぶんと先の話になりそうです。

息を吹き返してきた?住宅地

東京、大阪、名古屋の3大都市圏の住宅地はすべてマイナスとなり、東京、大阪が下落したのは7年ぶり、名古屋は8年ぶりです。地方圏は住宅地がマイナス0.9%と下落幅が拡大。札幌、仙台、広島、福岡の4市は住宅地がプラス3.6%、商業地がプラス6.1%といずれも上昇を維持したものの、伸び率は縮小しています。

しかし最も元気なのがこのセクター。一時期半減した新築・中古一戸建て市場もすっかり息を吹き返し、在庫を減らしつつ順調に取引がなされているどころか、緊急事態宣言中のマイナスを補って余りある勢いといっていいでしょう。8月の首都圏中古マンション取引件数は前年同月比プラス18.2%、平均価格は同プラス5.3%と絶好調。とりわけ都心3区(千代田区・中央区・港区)の中古マンション成約平米単価は過去最高を更新し、引き続き在庫が減少し底堅い。新築・中古戸建ても同様です。新築マンションの発売戸数は前年同月比8.2%減も都区部以外は大幅増、契約率も68.5%とまずまずです。

(資料/東日本不動産流通機構)

(資料/東日本不動産流通機構)

下落率の大きい災害地域

昨年の台風19号で浸水被害を受けた長野市の地点はマイナス13.1%、福島県郡山市の地点はマイナス12.6%と大幅に下落。付近の丘陵が土砂災害警戒区域に指定された東京都日野市の地点がマイナス18.4%と、全国住宅地では下落率ナンバーワンでした。

■まとめ

今回は90年バブルやリーマンショック前のバブルとその崩壊とは異なります。日米欧の同時金融緩和、とりわけ日米は無制限金融緩和を行うことで、金融システムが崩壊することを阻止したためです。一時1万6000円台をつけた日経平均株価も現在は2万3000円台と、すっかりコロナ前の水準に戻っています。とりわけマイホームの世界は、継続されるであろう日米欧の同時金融緩和を受けた超低金利といった追い風を受け、当面は好調を継続しそうです。

ウィズコロナの今だからこそ、家族で家事シェアを進めよう!

コロナ禍で例年のようなレジャーや遠出が難しい昨今。在宅勤務を続ける会社もあり、家にいる人数と時間はいつもより増え、必然的に家事も増える……。つい、イライラする人もいるのでは。筆者もその1人だ。そこでこの時期を「家での過ごし方を見直す機会」と捉えて、家族で家事シェアについて考えてみてはいかが。筆者も実践してみた。
コロナ禍であらわになった、夫婦間や家庭内の問題

まず、家族が仲良くなければ、家事シェアは成り立たない。コロナ禍で気をつけるべき家庭内のストレスについて、社会心理学や精神保健福祉を専門とする大手前大学准教授の武藤麻美先生に聞いた。

夫婦ともに自宅にいる時間が増加したコロナ禍では、「コロナ離婚」や「コロナDV」といった問題もメディアで取り上げられていますが……。

「『コロナ離婚』について先に注意しておきたいことは、コロナはあくまできっかけであって、これが原因で離婚になるのではないということです。何らかの形ですでに存在していた夫婦間の問題が、在宅勤務の増加や休校、外出自粛などによって浮き彫りになってきたと考えられます」

ドキリとするお話だ。そして、この「夫婦間の問題」があらわになった原因として、次の2点が考えられるという。

「1点目は、在宅勤務が増えたことで、夫婦によっては家事シェアの配分がもともと対等でなくうまくバランスが取れていなかったところに、さらに片方に家事の負担が集中し、精神的な不満や体力的な限界などの問題が深刻化したという点です。特に共働き家庭の女性においては、家事と仕事 (テレワーク) のほかに、休校で子どもが日中も家にいることから増えた育児や、場合によっては夫の分の食事づくりなどまで行うことになり、いっそう負担がかかることになりがちです。ここで以前から夫婦でよく話し合っていて、家事のシェア配分が対等であったり、うまくバランスが取れていたりするカップルは、基本的にはそう大きく関係性が変わらず、逆に互いに補い合って、不安や緊張をほぐし合うことも可能です。

2点目は、各自がパーソナルスペース (心理的な縄張り) を思うように確保できないことから、フラストレーションがたまっていることが挙げられます。例えば、テレワークを行う自分専用の部屋やスペースがないことや、オンとオフの切り替えがうまくできないこと、周囲の音が気になって仕事に集中できないといったことなどから、男女ともに在宅勤務によるストレスを感じてしまうということが考えられます。

大手前大学現代社会学部心理学専攻准教授、武藤麻美先生。大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程修了。博士 (人間科学)。専門は社会心理学と精神保健福祉。公認心理師や精神保健福祉士、社会福祉士の国家資格も持つ(写真提供/武藤先生)

大手前大学現代社会学部心理学専攻准教授、武藤麻美先生。大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程修了。博士 (人間科学)。専門は社会心理学と精神保健福祉。公認心理師や精神保健福祉士、社会福祉士の国家資格も持つ(写真提供/武藤先生)

コロナ禍以前は、共働きまたは片働きをしていたことで、夫婦が子どもも含め、自然に適度な心理的距離を取ることができていました。日中は別々の空間や時間を過ごし、自分のペースやリズムを確保し、精神的な安定やバランスを取ることができました。しかし、コロナの問題により、急激な生活環境の変化が起きて、一つの場所・環境を皆で共有せざるを得なくなりました。各自がパーソナルスペースを確保できず、時間のリズムも狂うことになり、フラストレーションがたまって、喧嘩などを引き起こしてしまうのではないでしょうか」

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

「Iメッセージ」で素直な気持ちを伝えよう

では、家事の負担が家庭内で偏りがちな場合、バランスを取り直すにはどんな心がけが必要なのだろう。

「テレワークが増えたことで、家庭内の家事シェアのあり方を再考する機会にもなるのでは。これを機に、今後の家事・育児のシェアの配分について話し合うことも対策となるでしょう。これは夫婦だけでなく、子どもも良い意味で巻き込み、話し合うといいと思います」と武藤先生。

家族間での話し合いにあたり、ポイントを教えていただいた。

「自分の考えや意見を伝える際には、YOUメッセージではなくIメッセージを使用するといいですね。 『あなたは~をしてくれない!』と伝えるのではなく、『私は~をしてくれたらうれしい』『私は~を協力してくれたらすごく助かる』などと伝えると、相手が受け取る印象も大きく変わります。もちろん、パートナーだけでなくほかの家族、子どもに対しても、自分の考えや意見を伝える際に応用できますので、実践してみてください」

相手への非難や攻撃的な言い方になってしまいがちなYOUメッセージに対して、Iメッセージでは発信者目線の素直な気持ちを伝えることができるのだ。

「また、例えば子どもがお手伝いをしてくれた場合に、感謝を伝えるなどのポジティブな声かけを積極的に行うことで、子どもは自分の行動が人の役に立ち、喜んでもらえるという貴重な体験をすることになります。これは自己肯定感(自分のあり方や存在意義を肯定する感情)や自己効力感(ある状況下で自分は必要な行動がうまくできるという予期や自信)を育むことにも繋がりますから、ぜひお子さんとコミュニケーションを取りながら、家事シェアをされるといいのでは」

普段からよく手伝いをしてくれる、筆者の10歳の娘。娘専用のスポンジを買い、久しぶりに並んで洗い物をしてみたら、「家事シェアって楽しいね」とご機嫌に(写真撮影/倉畑桐子)

普段からよく手伝いをしてくれる、筆者の10歳の娘。娘専用のスポンジを買い、久しぶりに並んで洗い物をしてみたら、「家事シェアって楽しいね」とご機嫌に(写真撮影/倉畑桐子)

ほかにも、コロナ禍で長くなる家族の時間を心地よくするために、大切な考え方や取り組みを聞いてみた。

「家族全員におすすめのリフレッシュ対策としては、少しでもいいので、各々が自分の空間と時間を確保することです。例えば、一つの部屋に皆でとどまり過ぎないことや、時間を決めてリビングやダイニングに集まり、そのほかは自分の部屋で過ごしたり、社会的距離を保ったうえでの散歩や買い出し、ベランダやバルコニーで日光に当たること、目を閉じてゆっくり深呼吸する時間を設けることなどが効果的です。また、イヤフォンをして音楽を聴いたり映画やドラマを見たりして、自分だけの世界を確保することも効果があると考えられます」

「現状のコロナ禍に、家族間でよく話し合う姿勢を身につけることができれば、より良いパートナシップの構築につながるはずです。また、きちんと説明してあげるのであれば、テレワークは、子どもにとっては親が日ごろどのような仕事をしているのかを間近で見ることができる好機ともいえます。そして、親が家族のためにどのような家事をしているのかも、一緒に経験できる貴重な機会といえるでしょう」

コロナ禍での家庭内の問題は、家事シェアで家の中を快適にすることでカバーできる面も多いのかもしれない。

まずは家事の全体像を見せて「相談」を

具体的な家事シェアの方法を、「知的家事プロデューサー」として、妻と夫、それぞれの立場からの意見を聞くことも多い本間朝子先生に取材した。

「ウィズコロナで、家族が長時間家にいるので、家は汚れるし料理の回数は多くなり、家事は増えますよね。一方で、みんなが家にいることで『自然と家事シェアが進んでいる』という話も聞きます。『在宅ワークになった夫が家の中のことに興味を持った』という話や、『給付金で家の中を過ごしやすくプチリフォームをした』というも聞くので、今は家族で家事シェアがしやすい状況だとも言えます」

確かに、ステイホーム中に家族で大掃除をした家も多いはず。

自身が仕事と家事の両立に苦労した経験から、時間と無駄な労力を省く家事メソッド「知的家事」を考案。TVや雑誌、セミナーや著書を通じて、時短家事のアイデアを伝えている本間朝子先生(写真提供/本間先生)

自身が仕事と家事の両立に苦労した経験から、時間と無駄な労力を省く家事メソッド「知的家事」を考案。TVや雑誌、セミナーや著書を通じて、時短家事のアイデアを伝えている本間朝子先生(写真提供/本間先生)

「とはいえ、いきなり大きく家事の割合を変えるのは難しいかもしれません。そんなときは掃除や洗濯、食事の支度といった家事以外に、ストレスの元となる『名もなき家事』の解決策から始めてもいいですね。『名もなき家事』は大和ハウス工業さんが名付けたものですが、例えば、話を聞いていると『僕はゴミ捨てを担当している』と言いつつ、すでにゴミをまとめたゴミ袋を回収場所まで運ぶだけしかしていない夫が多くいます。でも担当するなら、各部屋にあるゴミを集めて、空になったゴミ箱に袋をかけるところまでやってください。『捨てに行く』のはゴミ捨てのほんの一部です」

本間先生はこれまでも、「家事を積極的にやる意思があるか」「基本的なスキルを持っているのかどうか」など、パートナーの資質を見極めて、名もなき家事の負担を軽減するよう提案している。

「年代によって、パートナーがどのカテゴリーに当てはまるかによっても状況が変わってきます。現在30代半ばくらいのミレニアル世代であれば、共働きは当たり前に考えていて、家事シェアも自然にできているケースも多いのです」

ここはミレニアル世代以上に向けたお話をお聞きすることに。

本間先生が制作した「家事シェアリスト」を見せてもらった。これは最初の家事シェア会議にオススメだ。

家庭ごとに項目をカスタマイズしてつくってみたい「家事シェアリスト」の例。家事の全体像をお互いに把握し、歩み寄って、理想の割合に近づけていく(画像提供/本間先生)

家庭ごとに項目をカスタマイズしてつくってみたい「家事シェアリスト」の例。家事の全体像をお互いに把握し、歩み寄って、理想の割合に近づけていく(画像提供/本間先生)

「特に男性は家事の全体像が見えていないことが多いので、全体像を見せるということが大切です。現状、女性の方が家事の比重が多いのであれば、今お互いが担当している家事を書き出して『こんな風に、自分の方が多くて辛い』と現実の姿を見せること。セミナーの参加者さんに聞くと、男性は7対3の3くらい家事ができていると思っているけれど、女性に聞くと9対1で自分が9だという話をよく聞きます。それを5対5にするのはパートナーも抵抗があるかもしれませんが、8対2や7対3の割合にできたら自分がラクになりますよね」

「多くの男性は、女性に喜んでほしいと思っています。また、褒められる機会が少ないので、女性が思う以上に、褒められたり、感謝されたりすることに喜びを感じます」と本間先生。だから、例えばパートナーの男性が掃除してくれたなら「すごくキレイになったね!」「ありがとう!」などと伝えるといいそう。

そして本間先生は、男性からの意見として、「家事を褒める以前に怒らないで」という声があると話す。
「男性は、せっかく取り組んだ家事を見て、女性からがっかりされると傷つきます。また、そばで見ていられると監視されるような気分になる人もいます。だから『買い物に行ってくるから、その間にここを掃除しておいて』などと任せると、『出かけている間にキレイにしてやろう』と張り切ってくれる人も多いですよ」とのこと。

料理の時短ができ、掃除がしやすい道具の配置になっている本間先生宅のキッチン。道具の置き場所を家族と話し合って決めているため、シェアしやすい(写真提供/本間先生)

料理の時短ができ、掃除がしやすい道具の配置になっている本間先生宅のキッチン。道具の置き場所を家族と話し合って決めているため、シェアしやすい(写真提供/本間先生)

本間先生宅の冷蔵庫の脇にはスプレーモップが。「キッチンの床が汚れたらひと拭き。ボトルから水が出るので、夫も水鉄砲感覚で楽しみながら床掃除をしてくれます」という。家族のテンションが上がる道具を用意することも大事(写真提供/本間先生)

本間先生宅の冷蔵庫の脇にはスプレーモップが。「キッチンの床が汚れたらひと拭き。ボトルから水が出るので、夫も水鉄砲感覚で楽しみながら床掃除をしてくれます」という。家族のテンションが上がる道具を用意することも大事(写真提供/本間先生)

筆者の家でも、娘が掃除しているといつも乱入する息子用に、キャラクター付きのフロアモップを購入したところ、張り切った(写真撮影/倉畑桐子)

筆者の家でも、娘が掃除しているといつも乱入する息子用に、キャラクター付きのフロアモップを購入したところ、張り切った(写真撮影/倉畑桐子)

家族への思いやりを家事シェアの前提に

本間先生のセミナーでは、グループワークで参加者と家事アイデアを共有している。
パートナーとの家事シェアで気をつける点として、以下のことを挙げてくれた。

・「なぜやらないの?」のYOUメッセージではなく、「私はこうしてほしい」のIメッセージで(前出の武藤先生のお話と同様)
・家事のやり方を直してほしいときは、「やり方が違う」ではなく「惜しい!」と伝える。そのあとに「こうしてくれたら、次は120点」などと明るく足りない点を伝える
・ケンカの元を避けるため、自分のこだわりがある家事は相手に頼まない
・素直に褒め言葉や感謝の気持ちが言えないときは、「ナイスサポート!」などの声掛けから始める

疲れていたり自分の心に余裕がなかったりして、感謝の言葉を口に出せないときでも、スポーツの「ナイスボール!」の感覚なら相手に伝えられそう。どれも子どもに対しても応用できそうだ。

「ただそれらも、パートナーがテレワークになるなどで、家事シェアがしやすい環境であることが前提です。そもそもハードな仕事であるとか、帰宅が遅い、単身赴任をしているなど、家事への参加が難しいケースもあると思います。また、家事スキルが低いパートナーもいます。その場合は『今のままでは大変だから、便利な家電やキットを取り入れたい』と相談してみては」

自動調理の電気鍋やロボット掃除機、食材とレシピがセットで配達されるミールキットなども、家事をかなり助けてくれるので検討しよう。

また、「共働きにも色々な状況があるので、踏まえておきたいことがあります」と本間先生。

「どちらかが家計を、半々ではなくメインで支えているという場合、やはり重責は一家の大黒柱の方にかかってきます。仕事でプレッシャーを抱えて働いてきた人たちが、『帰ってすぐに家事をするというのは辛く感じる』という声も耳にします。共働き=家事を半々ではなく、お互いが歩み寄り、納得いく形にするということが大切。家事シェア表もそのためにあるので、『自分はこれだけやっている!』と主張するのではなく、『今はこうだけど、もう少しこうできない?』と相談から始めてください」

子どもたちの自立と、未来のパートナーのためにも

次に、子どもやパートナーと一緒に取り組む家事シェアのアイデアと、子どもの年代によってオススメの家事をご紹介。「子どもと家事シェアすることは、本人の自立のためでもあるし、その子の未来のパートナーのためにもなります」と本間先生。

「給食当番表のような家事当番表をつくってローテーションをすると、家族で飽きずに家事シェアできますよ。頑張った人には特典があったり、1週間の家事が済んだらみんなにご褒美を用意したりするのも楽しいと思います。子どもには最初は教える必要があるので、やはり大変ですが、だんだん任せる範囲を広げていき、家庭内でやりやすいような形に合わせていってください」

ネット上のアイデアを参考につくった我が家の家事当番表。「弟も読めるように」と、娘がひらがなで家事の内容を書いた。子どもたちはまだ全部はできないので、「当番の週は親のサポート」でもOKに(写真撮影/倉畑桐子)

ネット上のアイデアを参考につくった我が家の家事当番表。「弟も読めるように」と、娘がひらがなで家事の内容を書いた。子どもたちはまだ全部はできないので、「当番の週は親のサポート」でもOKに(写真撮影/倉畑桐子)

家事シェアのアイデア

1)家事の候補を提示し、選択してもらう
「これをやって」ではなく、「洗濯物を干すのと洗うのではどちらがいい?」のように選んでもらうと、「自分はラクな方を選んだからいいか」「1/2個ならやろう」と納得してくれるもの。

2)制限時間を伝える
「4時までに床を拭いておいて」のように時間を伝えると、相手も自分の好きなタイミングで取りかかることができる。本間先生より、「相手がすぐ取り掛かってくれると思うのは間違い」とのこと。また、制限時間を過ぎたときには注意もしやすい。

3)肩書き制度を導入
子どもに「洗濯マイスター」「秘書さん」(パートナーには「チャーハンの匠」)などの肩書きを与えることで、本人もノリノリで家事に参加できる。肩書きのおかげでお願いもしやすくなります」と本間先生。

夏場は大量になりやすい、ペットボトルのラベルを剥がす作業。姉弟に「どっちが早いか競争。用意、スタート!」と声を掛けると、あっという間に終わった(写真撮影/倉畑桐子)

夏場は大量になりやすい、ペットボトルのラベルを剥がす作業。姉弟に「どっちが早いか競争。用意、スタート!」と声を掛けると、あっという間に終わった(写真撮影/倉畑桐子)

未就学児にオススメの家事

・箸を並べる
・食器を選ぶ
・料理の盛り付けの手伝い
・タオルをたたむ
・植物の水やり
・フロアモップで拭き掃除をする
・ペットボトルのラベルを剥がす

小学生からオススメの家事

・テーブルを拭く
・配膳の手伝い
・水出し麦茶をつくる
・料理のサポート
・ご飯を炊いて味噌汁をつくる
・使った食器を食洗機に入れる
・食器を洗う
・洗濯物を畳んで仕舞う
・床や窓を拭く
・自動掃除機が通る場所を片付ける
・ゴミ箱からゴミを集め、新しいゴミ袋をかける
・スプレーするだけの洗剤を使ってお風呂の浴槽洗い

タオルを畳む息子。バスタオルはまだ荷が重いのか、「小さいのだけ」と言ってカゴから選び、予想より丁寧に畳んだ(写真撮影/倉畑桐子)

タオルを畳む息子。バスタオルはまだ荷が重いのか、「小さいのだけ」と言ってカゴから選び、予想より丁寧に畳んだ(写真撮影/倉畑桐子)

「子どもに好きなスポンジを選んでもらい、親子で一緒に食器洗いをしてもいいですね。並んで家事をするとコミュニケーションの時間にもなります。未就学児なら、割れない食器を子どもの手が届くところに配置するなど、家事シェアしやすい環境づくりも大切です。いきなり難度が高い家事をシェアするとトラブルの元なので、本人ができることや、得意なことから始めましょう」

家族でホットプレートを使って料理するのもオススメだという。
「普段はお好み焼きなどをつくることが多いと思いますが、チャーハンや野菜炒めもホットプレートでつくりましょう。そこから、パートナーや子どもがキッチンでもつくりやすい流れができます」

3歳によるダイナミックなホットケーキづくり。生地を混ぜてホットプレートに落とすところまで自分でできた(写真撮影/倉畑桐子)

3歳によるダイナミックなホットケーキづくり。生地を混ぜてホットプレートに落とすところまで自分でできた(写真撮影/倉畑桐子)

前出の「家事シェア表」を子どもに見せるのも効果的だそう。
「子どもにも全体像を把握してもらうことで、『家族の健康のために、大人はこれだけのことをしてくれている』、『これから自分はこの部分に貢献するんだな』という意識を持ってもらう。これは、ウィズコロナの今だからこそ、より必要なことだと思います」

また、「家事シェア以前に、できるだけ家事を減らすことも考えてみてください」と本間先生。「その家事は必要なのか、みんなの取り組みで減らせないのかと見直すことも大切です。家事シェアの方法も、日々の中で少しずつ振り分けていくのか、週末に家族全員で取り組むのか、自分のことは自分で担当するのか。どのやり方が合うのかを模索しながら、家族に合う方法を見つけてください」とのことだ。

ホットケーキと一緒にソーセージも焼いて、ラクして楽しいランチに。ホットプレートは今後も家事シェアに活用していきたい(写真撮影/倉畑桐子)

ホットケーキと一緒にソーセージも焼いて、ラクして楽しいランチに。ホットプレートは今後も家事シェアに活用していきたい(写真撮影/倉畑桐子)

「ゴール設定が家事シェアではないですよね」と本間先生はにこやかに話した。そう、ゴールは家族が健康で楽しく、仲良く暮らすことだ。

2人の先生に共通して教わったのは、コロナ禍は家事シェアのタイミングでもあるということ。これを機に家族が一丸のチームとして「一緒に乗り越えよう!」という気持ちになることで、絆はより深まるはず。

私と子どもが「家事当番表」をつくっていたら、夫はスッと立って食器を洗い始めた。普段からシーツを洗って干すなど大物の家事を担当してくれるが、これを機に「名もなき家事」にも目を向けてくれるとよりうれしい。

今回、「あれもこれも自分でやらなくては」という思い込みを手放すと、思ったより家事シェアが進むことに気がついた。そこには、孤独な家事の反対側にある、家族と一緒に取り組む楽しさが、もれなくついてきた。

●取材協力
・武藤麻美先生 大手前大学
・本間朝子先生

コロナ禍で“タクシー”に注目。AIなどで進化続ける未来の可能性

電車やバス、飛行機、そしてタクシーといった公共交通機関をシームレスにつなぐ次世代モビリティサービス「MaaS(Mobility as a Service)」などモビリティの進化が目覚ましい。なかでもタクシーは、このコロナ禍で3密を避けられると需要が高まっているほか、今後の高齢化社会の移動手段としても注目されている。そこでAIの導入によってさらに便利になったタクシーの最新事情について、AI配車システムの開発などを行う、株式会社未来シェアの代表取締役 松舘渉さんに話を聞いた。
「移動困難者をなくしたい」という想いが原点松舘渉さん(画像提供/株式会社未来シェア)

松舘渉さん(画像提供/株式会社未来シェア)

株式会社未来シェアは「移動困難者をなくしたい」という想いのもと、独自のAI配車システム「SAVS(Smart Access Vehicle Service)」を開発し、プラットフォームを提供している企業だ。

アプリを使い他の乗客と一緒に同乗する「相乗りタクシー」、AIによる「タクシー配車計算」、「予約ができるバス」としてドアtoドアの送迎ができる「オンデマンド(需要)バス」など、移動交通の効率化を実現している。

SAVSの全体的なシステム概要(画像提供/株式会社未来シェア)

SAVSの全体的なシステム概要(画像提供/株式会社未来シェア)

松舘さんによると、5年ほど前までは、バスのように乗り合いができ、タクシーのように移動先が指定できる「オンデマンド交通」の概要は、一般的な公共交通の活用法とは異なっていたため、なかなか理解してもらえなかったそうだ。スマートフォンが普及し、AIへの注目度が高まるにつれて認知度が増していったという。

現在は岡山県久米南町、岩手県紫波町、長野県伊那市、群馬県太田市で運用され、介護業界や観光地でも利用されている。そのほか、企業にライセンス提供を行い「AI運行バス」(NTTドコモ)という名称でさまざまな自治体などで活用されている。

住まいが駅から遠く、自家用車を持たない世帯にとって、タクシーやバスは生活に密着した大切な移動手段だ。特にドアtoドアで移動できるタクシーは高齢化社会にともない需要は高まっているが、タクシーの運転者数は年々減り続けている現実がある。需要はあるもののなり手が少ないため、いかに効率的な配車計算を行うかが、タクシー業界の課題を解決するカギとなっている。

「タクシーにAI配車を導入すると、効率的な配車計画が可能となります。地域住民にとってはタクシーの利便性が上がり、事業主には効率化によるコスト削減が可能となるのです」(松舘さん)

効率的な配車計算は運転手にとってもメリットになる。長時間労働をしていた運転手が、AIによる配車システムにより短時間でより大勢のお客さんを送迎し、無駄な時間が無くなることで効率の良い働き方ができるため、働き方改革につながっているという。

では実際に、オンデマンド交通を取り入れたことで、住民の暮らしがどう変化したのだろうか。

高齢化進む岡山県久米南町、新たな足とコミュニケーションの場に町内風景(画像提供/久米南町役場)

町内風景(画像提供/久米南町役場)

岡山県久米南町は、岡山県中央部に位置し、総人口4737人、世帯数2249世帯(2020年6月30日現在)の小さな町だ。
2020年から株式会社未来シェアのAI配車プラットフォーム「SAVS」を導入し、その運行エリアは、町内全域に及ぶ。

カッピーのりあい号(画像提供/久米南町役場)

カッピーのりあい号(画像提供/久米南町役場)

町内では『カッピーのりあい号』と呼ばれる乗用車が4台(ほかに予備車両1台)用意され、スマートフォン(Web)や電話で予約をすると、1人1回300円(割引制度あり)で指定の時間に迎えに来てくれるうえ、町内どこでも移動できる。運行時間は年末年始を除く、平日の8時15分から17時。乗り合いのため、住民同士のコミュニケーションがはかれるサービスだ。

「完全に町内どこでもいつでも、ドアtoドアで移動できるサービスを『交通空白地帯』と言われる地域で実現したのです」と松舘さんが話すとおり、住民からも好評のようだ。「病院や美容室などの時間が読めないときも、呼べばすぐ来てくれるので便利。時間を気にせず安心して利用できるようになった」との声も。

カッピーのりあい号の利用者数を比較したところ、2019年は644名(20日間)だが、翌年は928名(22日間)で、1年の間に月284名の増加(1日当たり約10名増)。地域を支える「足」として認知されてきている様子がうかがえる。

さらに今年の6月からは、宅配サービスもスタートしたという。

カッピーのりあい号の「宅配サービス」(画像提供/久米南町役場)

カッピーのりあい号の「宅配サービス」(画像提供/久米南町役場)

人と共に荷物も運ぶ「貨客混載」型のサービスで、現在のところ宅配時間は、運行時間と同様。配送料1ケースにつき300円(5kg以内)で利用できる。

スマホからの予約画面。人と荷物をのせる場合も簡単に予約可能だ(画像提供/久米南町役場)

スマホからの予約画面。人と荷物をのせる場合も簡単に予約可能だ(画像提供/久米南町役場)

6月にはさっそく4件の利用があった。宅配サービスはスタートしたばかりのため今後さらに周知がされれば、より利用者も増えていくだろう。

「オンデマンド交通という新しいサービスを取り入れることで、新型コロナなどの影響により経済的ダメージを受けたお店にも、『宅配サービス』という形で町の活性化に繋がるチャンスが生まれている」と松舘さん。

完了時刻を基準にした曜日毎の時間帯別トリップ集計表(画像提供/久米南町役場)

完了時刻を基準にした曜日毎の時間帯別トリップ集計表(画像提供/久米南町役場)

また上の集計表にあるように、利用可能時刻のすべてが満遍なく埋まっている点も興味深い。毎日、何らかの予約が入り、地域住民に愛されているサービスであることが読み取れる。

松舘さんによると既存のバスをやめて、オンデマンド型交通に置き換えることで利便性が高まり、どんどん利用者が増えている地域もあるという。需要があるから予約をしてタクシーのように利用できるが、価格はバスのような価格(300円※)とあれば、それは利用増となるだろう。高齢化が進む地域ならばなおさら、重宝される移動手段だ。

※乗車価格等は、自治体などにより異なる

今後増えるかも!? 便利な相乗り通勤タクシーサービスオンデマンド相乗り通勤タクシーの全体イメージ(画像提供/KDDI株式会社)

オンデマンド相乗り通勤タクシーの全体イメージ(画像提供/KDDI株式会社)

「この事例は、満員電車から解放され、新型コロナウィルス対策にもなるサービスであるため、今後増えていくと思います」と松舘さんが教えてくれたのは、延べ約2000人のKDDI社員を対象として実施された「オンデマンド相乗り通勤タクシーサービス」の実証実験(2020年7月13日~8月7日)だ。

相乗り走行ルート一例(画像提供/株式会社未来シェア)

相乗り走行ルート一例(画像提供/株式会社未来シェア)

サービス範囲は、都内の一部エリアから飯田橋、新宿、虎ノ門エリアにあるKDDI事業所の間で行われた。出勤時は希望する場所で社員をピックアップし、会社周辺まで送迎。退勤時も同様で、事務所からエリア内の自宅周辺まで送迎してくれる。出勤時の送迎予約は前日の夜、退勤時は当日の昼までにアプリで行う。乗降場所や時刻などが指定でき、コンビニなどの乗降場所も指定可能だ。

もちろん車両は、徹底したコロナ対策を行っている。車には運転席と乗車席の間に「飛沫防止ビニールカーテン」を設置し、3密対策として、少人数での移動(非密集)やソーシャルディスタンスを意識した座席設定(非密接)、常時の換気実施(非密閉)、送迎後のアルコール消毒、ドライバーおよび乗客の事前検温、マスク着用も行っている。

さらにこのサービスは、すべてITで管理されているため、「いつ誰がどの車両を、どこまで利用したか」がしっかりと把握できる。感染症の封じ込めも即座に対応しやすいというメリットがあるそうだ。

地域住民のニーズと共に、今後も移動困難者を減らしていきたい

政府は今年度中に相乗りタクシーの解禁にむけ法改正を進めているが、「バスのように乗り合いができ、タクシーのように予約や乗降場所が指定できる」オンデマンド交通は、未だ厳密なルール化はされていない。現行の法律は「乗り合いは、バス」「タクシーは貸し切り」という認識のままなのだという。

「地域のニーズとして実証実験などを繰り返して普及させ、追随するかたちで認めてもらっている現状があります」(松舘さん)。逆に言えば、地域の移動交通を進化させているのは、「そこに住む人々のニーズ」ということになる。それが行政をも動かしているのだ。

「私たちは今後も、移動困難者をなくす活動を続けていきたいですね。そしてほかのさまざまな地域や技術と連携しながら、MaaSの1技術として発展に参加していきます」と松舘さんは言葉に力を込めた。

AIなどで進化を続けるタクシーをはじめとする公共交通機関は、高齢化社会における人々の「足」として、そして交通渋滞の緩和や新型コロナ対策として、今後も、さらに多くの人の生活を支え続けるだろう。これからの展開にも注目したい。

●取材協力
・株式会社未来シェア
・久米南町役場

アフターコロナの住宅市場は買い時?売り時?

新型コロナの影響で国内・海外経済は大きく停滞し、各種経済指標も大幅に悪化しています。不動産市場においては一時的に住宅取引数が50~80%減と大幅にストップするなど暗雲が立ち込めましたが、結論を言うと住宅市場は、すっかりコロナ前に戻っているどころか、たまっていた需要が噴き出し活況を呈しています。
リーマンショック時との違い

もちろんインバウンド需要を見込んだホテルや、人が多く集まる会議室、レストランが入る建物などは大打撃で回復の兆しも全く見えない状況です。一方で住宅市場は、新築マンションについては首都圏の取引数85%減、中古市場についてはおよそ半減といった状況に陥ったものの、価格は全く下落していないのです。その理由は明白で、2008年のリーマンショック時のような金融システムが破綻したわけではなく、積極的な財政出動や無制限金融緩和、金融機関による無利子融資などによって、手元資金が潤沢であるためです。また、当時と違ってマンションデベロッパーの大手寡占化が進んだことで、比較的に資金体力があるといったことも一因です。リーマンショック時には抱えきれない在庫の投げ売りが起き、数千万円の値引きは当たり前といった底なしの市場となり、ほどなく多くのデベロッパーが破綻していきました。

当時と決定的に異なるのは、今回のコロナによる自粛期間中は、売主・買主ともにひたすら様子見といった状況にあり、緊急事態宣言解除後はすっかり元に戻ったどころか、まだデータには表れていないものの、新築・中古ともその動きは非常に活発で成約も順調に進んでいるようです。東京都内を中心に新築住宅を供給する会社や埼玉県を中心に新築住宅を供給する企業は、単月で過去最高を更新しそうだといいます。中古住宅など不動産仲介の市場も、好調のところが多いようです。

(画像/PIXTA)

(画像/PIXTA)

また、リモートワーク(在宅勤務)の進展による「都心・駅近ニーズの減退」「郊外や地方移住が増える」といった予想も、結論を言うと大外れで、そうしたニーズは限りなく限定的。むしろ「電車など公共交通機関利用による密を避けたい」「通勤時間というものがいかに無駄かを実感した」といった向きが多く、より都心に、より駅近にといったニーズが強くなったように思われます。

以上はあくまで筆者による各所へのヒアリングに基づくものですが、結果は数カ月後のデータとなって表れるはずです。

結局は日経平均株価がほぼコロナ前に戻ったことが大きいでしょう。日米欧が協調し無制限の金融緩和措置をとることで金融システムが維持され、各国や各企業の資金繰り懸念がおさまり、現在ではむしろ市場にマネーが大幅に余剰した状態で、株価はもちろんゴールド(金)や債券、仮想通貨などのあらゆる資産価格は高止まりしています。同様に不動産市場は一部を除いて変化がないどころか需要超過といった状態です。

出典:東日本不動産流通機構(都心3区は千代田区・中央区・港区)

出典:東日本不動産流通機構(都心3区は千代田区・中央区・港区)

また例えば中古マンション市場は、新規の売り出しが控えられたため在庫は減少しており、この事は取引価格維持の方向に働きます。

(出典:東日本不動産流通機構)

(出典:東日本不動産流通機構)

不動産市場の今後は?

「ホテル需要がなくなると、新築マンション価格にも影響が出るのではないか」といった声もありますが、それも限定的でしょう。というのも、これまでホテル用地取得で優位だったホテル需要がなくなっても、新築マンション需要が控えているからです。ここ数年新築マンション発売戸数が年々減少してきたのは、都心・駅近を主な条件とするホテル用地取得と競合してきたからという側面も大きかったのです。

もちろん今後、コロナの第2波や新種や変種が登場する、台風や線状降水帯といった水害や大地震などの天災地変、世界情勢における地政学的なリスクなどが重なるようなことがあればこの限りではないでしょう。変化の兆しは金利上昇に現れるはずですが、現在のところそうした予兆は見られません。

むろん住宅市場は、特に都心部・都市部において、2012年の民主党から自民党への政権交代以降一本調子で上昇し続けてきたところ、その勢いに陰りが見られはじめたタイミングでしたので、ここから再び大きく上昇するという状況でもありません。

ただし、これだけ世界の金融市場にマネーがあふれると、それはどこかに向かうでしょうか。30年前のバブルと状況は酷似していて、景気は目立って回復していないのに株や不動産などの価格が上昇する「資産バブル」とでもいった状況が再来してもおかしくありません。そうならない場合は、じわじわデフレが続く、ないしはインフレにも景気回復にもならず、不動産をはじめ各資産価格も頭打ち、といった状況が続くでしょう。

いずれにしても不動産市場は引き続き
(1)価値を維持する、あるいは価値が上がる不動産
(2)なだらかに下落し続ける不動産
(3)限りなく無価値になる、あるいはマイナス価値となる不動産
といった「三極化」の途上にあるといえるでしょう。

ウィズコロナ、家庭での「子どもの学習スペース」のあり方を考える

リモートワークが取り入れられるなど、コロナ禍で私たちの仕事環境が変化したように、子どもたちを取り巻く状況も刻々と変わりつつある。休校期間を機に、オンライン授業を取り入れた塾や学校もあり、家庭での学習スペースについては頭を悩ませるところだ。そこで、子どもの学習環境についてあらためて考えてみた。
トレンドのオンライン授業、親が見守る? あえて覗かない?

今回、早稲田大学人間科学学術院准教授であり、環境心理学や建築計画学、こども環境学を専門として、2児の父でもある佐藤将之先生にお話を聞いた。

ちなみに筆者の小学4年生の娘は、休校中から大手塾の無料サービスであるオンデマンド型のオンライン講座を受講中だ。開口一番、知りたかった疑問を佐藤先生に投げかけた。

それは、双方向ではなく一方向の、オンデマンド型のオンライン授業は、保護者が見ている中で受けさせるべきか、離れて一人にしてあげた方が集中できるのか、という問いだ。講師からこちらの様子も見られる双方向型であれば、親は席を外そうなどと考えますが、一方向型の場合はどうなのでしょう、佐藤先生!?

「それは、子どもによります。ひらけた環境で、元気いっぱいに盛り上がりながら学習したい子もいれば、静かな環境の中、一人で学習したい子もいます。大事なのは親が一方的に決めるのではなく、その子が成長に応じて発するシグナルをキャッチして、柔軟に考えていくことです」

親が見守るor見守らないという二択の答えしか考えていなかった筆者は、目からウロコが落ちるのを感じた。

幼児や子どもが過ごす環境や建築に関する研究も行う佐藤将之先生。2020年8月19日に著書『思いと環境をつなぐ 保育の空間デザイン 心を育てる保育環境』(小学館)が発行(写真提供/佐藤先生)

幼児や子どもが過ごす環境や建築に関する研究も行う佐藤将之先生。2020年8月19日に著書『思いと環境をつなぐ 保育の空間デザイン 心を育てる保育環境(小学館)』が発行(写真提供/佐藤先生)

ウィズコロナの今だからこそ、親子で話し合い、特別感を楽しむ

「ウィズコロナの今を、問題を考える機会だと捉えてほしいですね」と佐藤先生はいう。

「学習スペースに関しても、子どもの意思を大切にするのであれば話し合いが重要です。普段、塾や学校でどんな発言をしているかにもよりますが、日常の勉強場所はリビングだとしても、『発言を親に見られるのは恥ずかしい』『親に見られにくい場所で生中継のオンライン講義に没頭したい』という子がいるかもしれません。そうであれば、積極性を大切にするため、親から見られない勉強場所が必要かもしれません。また、子ども部屋を与えていたがそこで勉強はしていなかったという場合は、逆に親の側のリビングでオンライン授業を受けると、緊張感を持って学習を続けられるケースもあり得ます。これを機に、勉強場所の移動について検討していただきたいですね」

また、佐藤先生は「ウィズコロナで、普段はできない特別感を楽しんでみては」とも。

「子どもたちには、『オンライン授業を受けなければ……』というやらされ感で失望するのではなく、新しい勉強方法を試す機会と考えてほしいですね。例えば、タブレット端末の小さな画面で見づらさを我慢するのではなく、テレビと接続してリビングの大画面で授業を観るなど、普段はできない特別感を味わって。非日常感を許容し、親子で前向きに楽しんでいただきたいと思います」

我が子がにぎやかに勉強したいタイプなら、親子一緒にオンライン授業を受けて『難しい問題だったね』『あの先生って面白い!』などとコンテンツを共有するのも、コミュニケーションに一役買いそうだ。

自分が育った環境を押し付けないように配慮を

「親は、自分が育ったのと同じような環境を与えがちです。でも子どもの個性は十人十色で、きょうだいであっても性格や成長の度合いが違いますから、一人ひとりに合った環境を考えてあげないと」と佐藤先生は話す。

親が早くから個室を与えてもらって育ったなら、自分の子どもにもそうしてあげるべきだと考えるだろうし、きょうだいと同室だったり、個室がなくても不便を感じなかったりしたら「勉強はどこでもできる!」とその価値観を押し付けてしまいがちということだ。

「子どもは、小さいうちは親の目が届くところにいたがるものです。ダイニングやリビングのテーブルなどで勉強するいわゆる『リビング学習』が増え、それを受けるように住宅業界では2000年代初頭に、リビングの中に子どもの学習スペースを設けるブームが起きました。多くのハウスメーカーがリビング学習に対応した商品を共有していたのですが、2015年ごろに検証した結果、中高生になってもリビングのその居場所を活用する子どもたちの様子が確認できました。それでも成長するにつれ、子どもは一人で勉強したり遊んだりするスペースが欲しくなることがあります。中学生くらいになると、個室が欲しいと考える子もいます。各家庭の事情はあるでしょうが、学習スペースにカーテンをつけて区切っただけでも本人が満足したという例もありますから、子どもの特徴や主張に合わせて調整していくことが、『ちょうどよい』と思える親子関係をもたらすと思います」

ちなみに、自宅のスペースに限りがあるとしても、学習机のように勉強道具を常設できる場所は用意した方がいいようだ。

「近年は『教科センター方式』といって、国語や社会、英語などの教科ごとの専用教室に生徒が向かうスタイルが、公立の中学校であっても再普及していますが、それでも、自分のホームとなるスペースは必要だと考えられています」

成長に応じて、学習スペースは柔軟に変化させる

現在、中学1年生と小学5年生の父である、佐藤先生のご自宅の例を紹介しよう。
「長男が小学生になったタイミングで話し合い、3階建の3階にそれぞれの子ども部屋を設けていたのですが、まだ個室では勉強をしたくないということだったので、子ども部屋は『寝る』部屋に。学習机は2階のリビングに運び、子どものスペースを『寝る』と『勉強する』の2拠点にしました」

すると、あちこちで散らかりがちだったおもちゃも、二人が子ども部屋から好きなものを選び、リビングに持ち込んで入れ替えるようになったので、リビングの子どものスペースを整理整頓する習慣が身についたのだとか。

2014年、小1の長男が登校前に2階のリビングで勉強する様子(写真提供/佐藤先生)

2014年、小1の長男が登校前に2階のリビングで勉強する様子(写真提供/佐藤先生)

2017年、2階リビングの一角に学習机を並べてつくった子どものスペース(写真提供/佐藤先生)

2017年、2階リビングの一角に学習机を並べてつくった子どものスペース(写真提供/佐藤先生)

上の写真と同時期。机の左右を入れ替えることによって離れて座ることもできたが、兄が弟に勉強を教えるなど2人が「近づきたい」ということで、互いが近いこの配置に(写真提供/佐藤先生)

上の写真と同時期。机の左右を入れ替えることによって離れて座ることもできたが、兄が弟に勉強を教えるなど2人が「近づきたい」ということで、互いが近いこの配置に(写真提供/佐藤先生)

長男が中学生になったタイミングで再度話し合ったところ、「個室で塾のオンライン授業を受けたい」とのことだったので、新たに長男の机を個室に配置。リビングにあった机には母親が本などを置き、個人のスペースをつくることができた。

「中1の長男は勉強時には個室で過ごしていますが、小5の次男は今も、リビングにある学習机やテーブルで勉強していますね。長男と同様に、次男にも個室に机を置くことを聞きましたが、それは不要だと、本人がリビングで勉強することを選びました」

2020年6月、長男の部屋。長男のみ学習机を3階の個室に移動した。塾のオンライン授業には長男が個室で、次男はリビングで打ち込む(写真提供/佐藤先生)

2020年6月、長男の部屋。長男のみ学習机を3階の個室に移動した。塾のオンライン授業には長男が個室で、次男はリビングで打ち込む(写真提供/佐藤先生)

学習スペースに関しては、親が「この学習環境でいいよね」と誘導するのではなく、「ウチではこれとこれができるけど、どこで勉強したい?」と選択肢を用意して、本人に選ばせることが大事だという。

「自分が『この環境で頑張ろう』と決めることで、本人のやる気も明確になります」

限りある間取りや空間を、アイデア次第で住みやすく

ウィズコロナ時代に活用できそうだと編集部が注目した空間が、三菱地所と三菱地所レジデンスが開発した『箱の間』だ。国産の無垢材を使用した、家具デザイナーによる“建築と家具の間”という商品で、居室内の間取りや空間に新しい居場所をつくることができる。2017年にはグッドデザイン賞を受賞した。

まず、コロナ禍前後で、住まいのニーズに変化はあったのか。三菱地所広報部の益和江さんに聞いた。

「コロナ禍において、テレワークとなった親御さんも少なくなく、その場合、お子さまと同じスペースでお仕事をされるといったケースも多かったようです。その中で、常にお子さまの気配を感じていたいというニーズを、多くの方から感じています」

可能なのであれば、子どもの側で仕事をしていたい。その気持ちはよく分かる。

オンライン授業を想定した子どもの学習スペースとして、『箱の間』のおすすめの使い方はありますか?

「『箱の間』を、ダイニングの周囲から見える場所に置くといいのでは。オンライン授業中も、お子さまとしては独立したスペースにいるようにも感じられますし、親御さんからは様子が見えています。緩やかに繋がりつつ独立している『箱の間』は、オンライン学習に有効に活用できると思います」

ほかに、対面キッチンの前に『箱の間』を置いて、ダイニングテーブル兼子どものスタディコーナーとして使っている事例もあるそう。

対面キッチンの前に『箱の間』を置いた実際の事例。隠れたり潜ったり、子どもたちの遊び場としても活躍(写真提供/三菱地所)

対面キッチンの前に『箱の間』を置いた実際の事例。隠れたり潜ったり、子どもたちの遊び場としても活躍(写真提供/三菱地所)

「常にお子さまの気配を感じていられる活用法です。お客さまからは『対面に座って宿題を見てあげることができたり、座面下の収納に学習用具をまとめて収納できたりと使い勝手がよく、親子共に気に入っています』と言っていただいています」と益さん。

半面、子ども部屋としての独立性にこだわりたいときは、リビングダイニングやキッチンに背を向けて配置するといいそう。限られた間取りや空間でも、一人ひとりの好みに合わせてアレンジして、住みやすくしていくことは可能なのだ。

空間を仕切るように『箱の間』を使用した、リノベーションマンションのモデルケース(写真提供/三菱地所)

空間を仕切るように『箱の間』を使用した、リノベーションマンションのモデルケース(写真提供/三菱地所)

コロナ禍で、小さな口にマスクをして登校する子どもたちの息苦しさを、私たち大人は知らない。皆元気に明るく振る舞っているけれど、本当は思いっきり友達とじゃれあったり、おしゃべりしたりしたいはずだ。

だからせめて、家の中では笑っていてほしい。そして、学校でも塾でもオンライン授業でも、「勉強って楽しい!」と思う瞬間が訪れることを願う。そのために親ができることは、子どもの主張に耳を傾けて、一緒に考え、サポートしていくことなのだと改めて感じた。

筆者は娘と机を並べている。オンライン授業について親子で話したところ、「ママに見られるのはちょっとイヤだった」とのこと……。オンライン授業中、私は席を離れ、娘はヘッドフォンを使うことで今回は一件落着。これからも定期的に話し合い、見直していこうと思う。

●取材協力
・早稲田大学人間科学学術院准教授 佐藤将之先生
・三菱地所グループ『箱の間』

遊休地に屋台などでにぎわいを。3密を避けたウィズコロナ時代のまちづくり

新型コロナウイルスの感染リスクを低減しつつ、街のにぎわいを生み出すにはどうしたらいいのか、テラス席を設置して活用するなど、屋外を有効利用しようという試みが世界中ではじめられています。今回は都市部にある遊休地を活用して、半屋外・風通しのよい環境でにぎわいを生み出す取り組みをご紹介します。
高架下・建設予定地・空き店舗など、都市部には遊休地がいっぱい

遊休地とは、利用されていない土地のこと。地価が高く、土地の高度利用が進んでいる都市部ですが、鉄道や高速道路の高架下、建設予定地、空き店舗など、実は使われていない土地=遊休地は意外にたくさんあるもの。しかも空き家問題が進んでいることから、遊休地が増えているといいます。また、2020年の新型コロナウイルスの影響で、再開発事業などもストップし、一時的に塩漬けになっている土地もあるとか。

遊休地は一見するとなにも問題ないように見えますが、街のにぎわいが損なわれますし、放置されて不法投棄などがされれば、治安や景観にマイナスとなります。

「私自身、まちづくりや都市開発に14年ほど携わってきましたが、空き地や空き店舗など都市部の空洞化、スポンジ化が大きな課題のひとつでした。遊休地や空き家・空き地は街の活力を奪い、心理的にも視覚的にも大きなデメリットになっているんです」と話すのは、遊休地に屋台を並べて新しいにぎわいを創出している「Replace」の中谷タスク(なかたに たすく)さん。

写真最左が中谷 タスクさん(写真提供/Replace)

写真最左が中谷 タスクさん(写真提供/Replace)

課題となっている遊休地でなにかできないか、中谷さんが考えだしたのが「屋台」という手法です。飲食店は店舗を構えるとなると1000万円以上の費用が必要になり、それが経営の大きな負担になっています。ただ、屋台であれば初期費用が店舗と比較して1/20以下、キッチンカーと比べても1/6以下で済み、利益を生みやすくなります。

また、土地の所有者からすると、活用しかねていた土地を貸すことによる賃料収入を得ることができ、街ににぎわいも創出できるというメリットがあります。

京都府京都市の「梅小路京都西駅」の廃線跡の「梅小路ハイライン」に小籠包やクラフトビール、おでんなどの屋台が並ぶ様子。屋台って並んでいるとやっぱりワクワクしますよね……。8月7日からエリアを拡大してリニューアルオープンするとのこと(写真提供/Replace)

京都府京都市の「梅小路京都西駅」の廃線跡の「梅小路ハイライン」に小籠包やクラフトビール、おでんなどの屋台が並ぶ様子。屋台って並んでいるとやっぱりワクワクしますよね……。8月7日からエリアを拡大してリニューアルオープンするとのこと(写真提供/Replace)

「今までにぎわい創出を目的として、土地所有者、例えば鉄道事業者などがイベント開催費用を負担していましたが、この仕組みでは反対に賃料収入を得られる。何よりにぎわいも生み出せて、地域のブランド力の向上につながると考えています」(中谷さん)。

また、屋台そのもののデザイン性を向上させ、スタイリッシュな印象にしているのも印象的です。

実際、以前は不法投棄や違法駐輪でいっぱいだった大阪環状線天満駅の遊休地で中谷さんが実施した「ほんまのYATAI天満」では、駅の印象を大きく変えただけでなく、「この場所に来たい」と屋台を目当てに訪れる人も増えているとか。遊休地が資産になっている好例といえるでしょう。

「ほんまのYATAI天満」には焼き鳥、台湾料理、沖縄料理などの幅広い種類の飲食店の屋台がならぶ(写真提供/Replace)

「ほんまのYATAI天満」には焼き鳥、台湾料理、沖縄料理などの幅広い種類の飲食店の屋台がならぶ(写真提供/Replace)

屋台は半屋外で風通しのよさは抜群。でも人との距離が近い…

新型コロナウイルスの対策でいうと、屋台は「屋外」になるので、「密閉」にはなりませんし、お弁当やテイクアウトなどの業態とも親和性が高く、時流にあわせて業態を変えられるのも大きな魅力です。

「ただ、屋台では店主と客、客同士、つまり人との距離が近いことがあるんです。ここで会話がうまれて、新しい交流がうまれる。一方で、アルコールが入ることも多く、『密接』に近くなることも。そこはマスクや消毒など対策を徹底しつつ、取り組んでいます」と話します。

現在、Replaceには廃線跡や高架下、公開空地などに出店しないかという引き合いも多いといいます。
「屋台を始めたいという飲食店側、土地の所有者、それぞれからの問い合わせが増えています。街のにぎわいを絵に描くだけでなく、実際につくりだしていけたらと思っています」(中谷さん)

高架下はホステルやスポーツイベントにも活用できる

遊休地の活用法は飲食店だけではありません。「Tinys Yokohama Hinodecho(タイニーズ横浜日ノ出町)」(神奈川県横浜市)は、鉄道の高架下に複数のタイニーハウス(小型の移動できる住まい)を設置して「Tinys Hostel (タイニーズホステル)」とイベント・飲食スペース「Tinys Living Hub(タイニーズリビングハブ)」のほか、目の前を流れる大岡川で水上スポーツ「SUP(スタンドアップパドルボード)」などが体験できる「Paddlers+(パドラーズプラス)」からなる複合施設です。可動式の5台のタイニーハウスを設置することで、食べるだけでなく、遊ぶ、集うということも可能です。この「Tinys Yokohama Hinodecho」を運営する川口直人さんは、高架下の遊休地の可能性についてこう話します。

鉄道の高架下に可動式のタイニーハウスを並べてできた「Tinys Yokohama Hinodecho」(写真提供/YADOKARI)

鉄道の高架下に可動式のタイニーハウスを並べてできた「Tinys Yokohama Hinodecho」(写真提供/YADOKARI)

「Tinys Yokohama Hinodecho」にはタイニーズホステルがあり、宿泊も可能に(写真提供/YADOKARI)

「Tinys Yokohama Hinodecho」にはタイニーズホステルがあり、宿泊も可能に(写真提供/YADOKARI)

高架下は半屋外なので換気は良好。密を避けるにはぴったりの環境だ(写真提供/YADOKARI)

高架下は半屋外なので換気は良好。密を避けるにはぴったりの環境だ(写真提供/YADOKARI)

「遊休地は土地の所有者が今後、どうするか決めかねているということも多いもの。建築物は一度、つくってしまうと動かせませんが、可動式の施設を使うというのは、相性がいいのかもしれません。このスタイルだと、一時的にお試し・実験的に事業をすることも可能です。また、今回の新型コロナ対策のように大きな変化があっても、柔軟に対応することができます」と川口さん。

ちなみに「Tinys Yokohama Hinodecho」ができたのは2018年。もともとは違法風俗店が立ち並んでいたエリアでしたが、アートによるまちづくり、「Tinys Yokohama Hinodecho」などの努力によって、街の雰囲気が大きく変わりつつあった矢先、今回の新型コロナ騒動がおきました。今後のにぎわいについてどのように考えているのでしょうか。

「高架下は屋根や壁がなく、半屋外になるため実は換気が抜群なんです。また、タイニーズ横浜日ノ出町では基本的には外から何をしているのか見えるデザインになっています。ウィズコロナでは外から何をしているのか、にぎわいが可視化されて、不安を取り除けることがとても大切だと考えています」(川口さん)

大岡川から川を下れば、みなとみらいの風景を眺めながら水上スポーツ「SUP(スタンドアップパドルボード)ができる(写真提供/YADOKARI @横浜SUP倶楽部)

大岡川から川を下れば、みなとみらいの風景を眺めながら水上スポーツ「SUP(スタンドアップパドルボード)ができる(写真提供/YADOKARI @横浜SUP倶楽部)

さすがに密接・密集になるようなイベントはできませんが、それでもにぎわいを取り戻すための取り組みは続けています。

「街のにぎわいは、人が集まり、交流からうまれます。人が集まって語らうことは、街を守ることにもつながります。感染を恐れるあまりネガティブになりすぎるのではなく、気をつけながら街が少しずつ回復していくことを願っています」と川口さん。

「遊休地」を単なる「困った場所」ではなく、新しいにぎわいの場所とするために、試行錯誤はまだまだ続きそうです。

●取材協力
STAND3.0
Tinys Yokohama Hinodecho(タイニーズ横浜日ノ出町)

新しい生活様式は睡眠不足を招く!?眠りのプロに聞く快眠スペースのつくり方

在宅勤務で通勤の負担は減ったけれど、何だか夜ぐっすり眠れない……。そんな人が増えている。

新しい生活様式には慣れても、睡眠環境が整っていなければ、知らぬ間にストレスを溜め込んでしまっているのかもしれない。一体どうすれば快適な睡眠を取り戻せるのだろうか?今回はこれまでに1万人以上の眠りの悩みを解決してきた快眠セラピストの三橋美穂さんに、快眠スペースのつくり方や睡眠の質を上げる方法を伺った。

自覚のない睡眠不足はこんなサインに気をつけて

最近何だか眠りが浅い気がするのは、気のせいではなさそうだ。

過去の調査では、災害に遭った人には睡眠の問題が生じやすいと言われている。1995年の阪神淡路大震災では被災地住民の60%、1999年の台湾地震では69.1%に不眠症状がみられた(※1)。

今回の新型コロナも例外とは言えそうにない。実際に、メンタルヘルスの悪化を示唆するSNS投稿が1月から4月にかけて80倍以上に急増したとの調査結果が出ており(※2)、在宅勤務へ移行したことによって睡眠時間は伸びたものの、睡眠の質は全体的に下がったことが明らかになっている(※3)。

新型コロナウイルスの睡眠への影響のグラフ

新型コロナウイルスが睡眠に与えた変化(株式会社ブレインスリープ調べ)

コロナ禍による生活スタイルの変化が睡眠に及ぼす悪影響を、快眠セラピストの三橋さんは次のように指摘する。

「在宅勤務になると、就寝・起床時刻や食事の時間が日によってまちまちになったり、朝日を浴びないまま仕事を始めてしまったりする人は多いのではないでしょうか。夕方以降のうたた寝で夜眠れなくなり、深夜まで仕事をしてしまっている人もいるかもしれません。こうした生活を続けると、体内のリズムが乱れ、睡眠の質が落ちてしまいます」

在宅勤務をしたことのある方なら、一つは思い当たる節があるのではないだろうか?

「毎日6時間は寝ているので、睡眠不足の自覚はない」という方もいるかもしれないが、三橋さんによると、個人差はあるものの大人に必要な睡眠時間は7~8時間。睡眠不足のサインは日常のあらゆる場面に現れているらしい。

「睡眠不足になると、感情のコントロールが上手にできなくなると言われています。例えば、ちょっとしたことでイライラしたり、逆に落ち込みやすくなってしまうことも。睡眠不足のカップルは喧嘩しやすいという報告もされています。最近子どもやパートナーに当たってしまうことが増えたと感じたら、すぐに睡眠を見直しましょう」

十分な睡眠が取れない日が続くと、自律神経が乱れ、身体機能を正常に維持できなくなる。感情だけでなく、食欲もコントロールできなくなり、つい食べ過ぎてしまうことも。高血圧や低血圧にもなりやすく、糖尿病やがん、うつ、脳卒中のリスクも高まるという。

決して軽く見ることのできない睡眠不足。一体どうすれば、私たちはぐっすり眠れる日々を取り戻せるのだろうか?

快眠スペースをつくる5つの条件寝室の写真

(写真/PEXELS)

三橋さんによると、自宅で快眠スペースをつくるために大切なのは「明るさ」「温度」「湿度」「音」「寝具」の5つの要素だという。順番に解説してもらった。

1.明るさ

「部屋の明るさは0.3ルクス以下にして寝ることが推奨されています。これは暗闇に近い状態。豆電球は明るすぎるので、寝るときは全て消灯するようにしましょう」

部屋を真っ暗にすると怖くて眠れない人はどうすれば良いのだろう?

「フットライトを使うようにしてください。目に直接当たらないところからほのかに照らす程度であれば、豆電球よりは光の刺激を抑えられます」

2.温度

「冬は18度以上、夏は28度以下がよく眠れる温度です。外気温と温度差がありすぎると体の負担になるので、夏は26~8度ぐらいの間でエアコンを設定するようにしてください。ただ、寝具や服、体質によって、適切な設定温度は変わります。いろいろ試しながら、自分がぐっすり眠れる温度を見つけてみてください」

3.湿度

「湿度の基準は季節問わず40~60%です。夏は湿度が高くなりますが、冷房をつければ下がります。現代の夏はエアコンなしには眠れない日も多いと思います。暑さで寝苦しくて途中で目が覚めてしまう方は、エアコンは朝までしっかりつけておくようにしましょう」

4.音

真っ暗な部屋のほうがよく眠れるように、無音の部屋のほうが熟睡できる、というわけではないらしい。

「無音状態だと不安な気持ちになって、かえって眠れなくなってしまいます。ただ普通、無音状態はつくれませんから、こだわりすぎる必要はありません。静かな図書館ぐらいの静けさが目安です。もし、エアコンや冷蔵庫の音などが気になって眠れないようであれば、耳栓を使うのがお勧めです。耳に入る雑音のレベルが下がるだけで、こんなにぐっすり眠れるんだってびっくりすると思いますよ」

耳栓で何も聞こえなくなると、朝の目覚ましも聞こえなくなってしまうのでは?

「耳栓をしても完全に無音になるわけではありませんから、目覚ましの音はちゃんと聞こえます。不安な方は休日に一度試してみてくださいね」

5.寝具

「ベッドは一人一台がベストです。相手がいることによって寝返りが制限されると、睡眠が浅くなってしまうので。それでもパートナーや子どもと一緒に寝たい人は、ベッドを組み合わせれば、将来の生活の変化にも対応できますよ。ベッドを置く位置は、部屋の入り口から遠いところに頭が来るように配置するようにしましょう。ドアに近いところに頭があると、人が入って来るかもしれないと不安になり、眠りが浅くなってしまいます」

子ども部屋、カップル、一人暮らし……生活スタイル別の快眠のコツは?子供部屋の写真

(写真/PEXELS)

1.子ども部屋

「子どもが朝なかなか起きないと悩みを抱える親御さんは多いと思います。子どもの寝起きを良くするためにおすすめなのは、子ども部屋のカーテンを少しだけ開けておくこと。朝になると日光が入ってくるので、目覚めやすくなりますよ」

部屋の向きによって入ってくる光の量が異なるため、「起きにくい部屋」と「起きやすい部屋」が存在するという。

「西向きの部屋は日光が少ないので、一般的に起きにくい部屋です。その場合は、カーテンを半分ぐらい開けて寝るといいですね。難しい場合は、起床時刻の30分前ぐらいから徐々に明るくなる照明を利用してみるのもお勧めです」

子どもの睡眠の質を高めるためには、「朝だけでなく夜の照明にも気をつけた方がいい」とのアドバイスも。

「子どもの目の水晶体はクリアなので、大人よりも光の影響を受けやすいんです。そのため遅い時間まで強い昼白灯の中にいると、なかなか眠くなりません。夜は暖色系の明かりに切り替えて生活するようにしましょう。今は昼白色と電球色を簡単に切り替えられる照明も多いので、特にお子さんがいる家庭では積極的に利用してみてください」

2.カップル

暑がりさんと寒がりさんが一緒に寝る場合、どちらかが寝苦しい思いをしてしまいがちだ。エアコンのリモコンの奪い合いは日常茶飯事……なんてカップルもいるかもしれない。

「そういう方は多いんですよ(笑)。その場合は、暑がりさんにエアコンの設定温度を合わせて、寒がりさんは寝具か衣服で調節してみてください。もし、寒がりさんが夏だからといってTシャツ短パンで寝ているのなら、それを長袖長ズボンに変えてみるんです。ちゃんと体の周りが覆われていれば寝冷えしませんし、薄着のときより朝起きたときによく眠れた実感があると思いますよ」

3.一人暮らし

寝室には何も置かない方がいいと言われている。ものが目に入ると気になってしまい、熟睡の妨げになるからだ。ただ、ワンルームで一人暮らしをしている人などは、視界からものを排除するのはなかなか難しい。雑然としたスペースで眠らざるを得ない場合、何かできることはあるのだろうか?

「最低限、ベッドの上には何も置かないようにしてください。携帯が枕元にあると、どうしても睡眠に集中することができません」

「たとえスマホが視界に入っていなかったとしても、近くにあるとどうしても見たくなってしまうんですよね。私のおすすめは、目覚ましをかけたスマホをできるだけ遠くに置いて寝ることです。熟睡できる上に、朝もスマホを取りに行くついでに起きられて、一石二鳥です」

たっぷり眠ると時間に余裕が生まれるワケ部屋で仕事をする人の写真

(写真/PEXELS)

忙しい人の中には、「たっぷり寝たいけれど、どうしてもそんな時間が取れない。多少我慢して睡眠時間を削るしかない」と考えている人もいるかもしれない。しかし実際は、「たくさん寝た方が昼間の活動効率は上がる」と三橋さんは言う。

「しっかり眠ると、体感の活動時間は伸びるんです。6時間しか寝ていないことによって日中のパフォーマンスを80%に落としているとしたら実質活動時間は14.4時間、8時間寝て残りの時間を100%活動したら実質活動時間は16時間です。たっぷり睡眠をとると時間に余裕を感じるのは、気のせいではなく本当なんですよ」

眠い目を擦って夜中まで働いても、しっかり寝て短時間働く方がパフォーマンスが上がるのなら、睡眠時間を削ってまで頑張る必要はもはやないだろう。

最後に、すでに体内時計が乱れていてなかなか眠れなくなってしまっている人のために、今日から実践できる入眠法を三橋さんに教えてもらった。

「『4 – 7 – 8呼吸法』を試してみてください。完全に息を吐ききったら、4カウントで鼻から吸って、7カウント息を止め、8カウントで口から吐く。寝るときにお布団の中で、これを4~10回繰り返すだけです。寝初めに呼吸が深くなると寝つきが良くなるだけでなく、睡眠中の呼吸も深まって疲れが取れやすくなります。最近中学生たちにこの方法を教えたのですが、『普段なかなか眠れなかったけど、この呼吸法をやっただけですごくよく眠れた』と好評でした。もちろん大人にも効果はあるので、ぜひ試してみてください」

それでも眠れないときは、一度ベッドから出て、また眠くなるのを待つのが良いという。

「眠れないときはベッドから出て、単調な作業をするようにしましょう。暖色系の明かりを暗めにつけてアイロンがけをしたり、読書をするのもいいですね。それも簡単なものではなく、難しい本がいいです。興味はあるけれども、なかなか読み進められないような本を開くと、あっさり眠りにつけると思いますよ」

今は先の見えない生活にストレスを抱えている人も多いはず。睡眠環境を見直すだけで、体の問題も心の問題も解決に向かうなら、今日から実践しない手はなさそうだ。

眠トレ!表紙画像●取材協力
・快眠セラピスト 三橋美穂(みはし・みほ)
快眠セラピスト・睡眠環境プランナー
寝具メーカーの研究開発部長を経て独立。これまでに1万人以上の眠りの悩みを解決してきており、とくに枕は頭を触っただけで、どんな枕が合うのかわかるほど精通。全国での講演や執筆活動のほか、寝具や快眠グッズのプロデュース、ホテルの客室コーディネートなども手がける。主な著書に『眠トレ!ぐっすり眠ってすっきり目覚める66の新習慣』(三笠書房)ほか多数。https://sleepeace.com/

『眠トレ! ―ぐっすり眠ってすっきり目覚める66の新習慣』(三笠書房)
睡眠を正しく理解し、その効果を最大限にする睡眠トレーニングメソッド「眠トレ」。「睡眠の質を高める」「戦略的に眠る」「眠りの悩みを解決する」といったテーマ別に、66のメソッドを紹介する。

参考:
※1,※2 三島和夫「睡眠の都市伝説を斬る 第114回 新型コロナがむしばむ睡眠やメンタルヘルスの深刻度」Webナショジオ,2020年5月14日
※3 参考:「~新型コロナウイルスの影響による働き方の変更に伴う実態を調査~ 睡眠専門医西野精治から免疫力アップのアドバイスをYouTubeチャンネルにて独占取材」株式会社ブレインスリープ, 2020年4月27日

コロナ禍で変わる賃貸物件のニーズ。多拠点、コミュニティ、ストーリーがキーワード

ここ数年、「デュアラー(二拠点居住者)」や「アドレスホッパー」など、新たな住まい方をする人が出現し、それらの多様なニーズに応える賃貸や宿のサービスが展開されてきました。さらに新型コロナウイルスの影響を受け、家で過ごす時間が増えたことで賃貸物件の選び方や求める条件も変わってきているようです。
そこで今回は、全国賃貸住宅新聞の編集長・永井ゆかりさんに、いま注目を集めている賃貸物件やこれからの部屋さがしについてお話を聞きました。今回、お話を聞いた全国賃貸住宅新聞の永井ゆかり編集長(写真/全国賃貸住宅新聞)

今回、お話を聞いた全国賃貸住宅新聞の永井ゆかり編集長(写真/全国賃貸住宅新聞)

コロナの影響で「住まいに求めるもの」が変わった!

SUUMOが6月30日に発表した「コロナ禍を受けた『住宅購入・建築検討者』調査(首都圏)」では、コロナ禍を経て、今まで住まい選びの筆頭条件のひとつだった「駅からの距離」よりも「広さ」を求める傾向が強まっていることが明らかになりました。賃貸物件に求める条件が大きく変わってきていると同時に、広さや駅からの距離など、これまでの指標となってきた条件だけではない選び方が広がっているようです。

今回の調査で「駅からの距離」よりも「広さ」を重視する人が10ポイントほど増加した(資料/SUUMO)

今回の調査で「駅からの距離」よりも「広さ」を重視する人が10ポイントほど増加した(資料/SUUMO)

「コロナ以前は、最寄駅へ徒歩での移動が難しいバス便の物件などでは、明確に『そこに住む理由』がないと、みなさんの検討に入って来ませんでした。結果、駅からの距離が近く、立地の良い物件に人気が集まってきたと思います。ところが今、テレワークや自宅学習の時間が増え、物件を探すときの条件の中で通勤・通学に必要な『アクセス利便性』の優先順位が下がってきているように感じます。

実際に4月以降、湘南でしばらく空室になっていた一戸建て賃貸の数棟が満室になった話を聞きました。これまでこの物件に入居する人はサーファーや自営業など仕事に融通がきく人が多かったようですが、今回新たに入居した人のなかには会社勤めのファミリーもいたそうです。本当は海の近くに住みたいと思っていながら職場へのアクセスを重視して都心に住んでいた人たちが、テレワークが可能になって一気に動いたわけです」(永井さん、以下同)

海沿いの一戸建賃貸の入居率が上がるなど、テレワークによって場所に縛られない働き方が可能になり「本当に住みたい」場所を選ぶ人が増えている(写真/PIXTA)

海沿いの一戸建賃貸の入居率が上がるなど、テレワークによって場所に縛られない働き方が可能になり「本当に住みたい」場所を選ぶ人が増えている(写真/PIXTA)

これまで賃貸物件で重視されてきた条件の優先順位づけが変わる一方で、海に近い一戸建て賃貸住宅の例をはじめ、住む人の志向に応じていっそう「ニーズの多様化」が進んでいると言えそうですね。

「何が起こるか分からない」なかで「住む場所を選べる」強み

このように新型コロナの影響を経て、人びとの働き方や住まいに求めるものが変わっているのを感じます。ここ数年注目を集めている賃貸物件の傾向と、それらのコロナ禍を受けての影響、さらに今後どのように変化していくのかを伺ってみました。

「まず1つ目として多拠点居住をする人たちは間違いなく増えるでしょう。例えば、ここ数年のうちには、10世帯のうち2~3世帯はいろいろなところに拠点を確保して、1つの物件には1年のうち数カ月しか居住していないという状況になるかもしれません。そんなスタイルに応じたサブスク的な(一定期間、一定額で利用できるような)住み方ができるサービスがどんどん出てきています」

サブスク、多拠点といえば、ここ1~2年、定額住み放題型の多拠点居住サービスが注目を集めています。多拠点居住のスタイルは移動を前提としているので、かなりのコロナの影響が出たのではと思われますが……。

「定額住み放題サービスを提供している『ADDress(アドレス)』の代表・佐別当(さべっとう)隆志さんや『HafH(ハフ)』の代表・大瀬良亮さんのお話を聞くと、やはり拠点によって利用頻度が下がるなどの影響があったようです。けれども、近年の災害の多発、世界規模のコロナ感染など『何が起こるか分からない』世の中になりつつあるなかで、住む場所が複数ある状態は自分の生活を守る『防御策』にもなりうるといいます」

全国の空き家を活用した定額住み放題サービスを提供する「ADDress」。それぞれの地域の自然やコミュニケーションを楽しむなど、利用目的はさまざま(写真提供/ADDress)

全国の空き家を活用した定額住み放題サービスを提供する「ADDress」。それぞれの地域の自然やコミュニケーションを楽しむなど、利用目的はさまざま(写真提供/ADDress)

世界に200の拠点をもつ定額制住み放題サービス「HafH」は「出会える、学べる、働ける」がコンセプト。ウィズコロナ時代に合わせて個室のある拠点も増やしている(写真提供/KabuK Style)

世界に200の拠点をもつ定額制住み放題サービス「HafH」は「出会える、学べる、働ける」がコンセプト。ウィズコロナ時代に合わせて個室のある拠点も増やしている(写真提供/KabuK Style)

HafH Goto The Pier(長崎県五島市)の部屋(写真提供/KabuK Style)

HafH Goto The Pier(長崎県五島市)の部屋(写真提供/KabuK Style)

実は筆者も昨年から東京と佐賀の2拠点生活をしていますが、たしかに住まいの選択肢を複数もっていることで心理的な「自由」と「選択できる余裕」を持つことができているように思います。

いざというときに心強い「コミュニティ型賃貸」

また、選べる自由を手に入れたとき、筆者がまず選んだのは親類や友人など「頼れる人」の多い場所でした。賃貸物件を選ぶ際にも、同じようにこの点を重視する人は多そうです。

「非常時にこそ、その重要性を再認識できるのが『コミュニティ』ですよね。これから注目される賃貸物件の2つ目としては、改めて『コミュニティ型賃貸』が支持されていくように思います。

例えば溝ノ口の『キャムスクエア』では、入居契約時に『笑顔特約』を設け、ほかの人とすれ違ったときに笑顔で挨拶を交わすことを約束しています。地域とつながることを大切にし、周辺のお店やイベントなど、さまざまな情報を共有するためにオーナーさんと入居者さんはLINEで繋がっているそうです。挨拶や小さな不具合の相談など、日々のコミュニケーションが生まれることで防犯や非常時の情報共有にも役立ちます」

キャムスクエアでは「笑顔特約」を設けたり、鍵を渡すときにキーホルダーをプレゼントするなど、入居時からコミュニケーションを大切にしている(写真提供/わくわく賃貸)

キャムスクエアでは「笑顔特約」を設けたり、鍵を渡すときにキーホルダーをプレゼントするなど、入居時からコミュニケーションを大切にしている(写真提供/わくわく賃貸)

(写真提供/わくわく賃貸)

(写真提供/わくわく賃貸)

「コミュニティ型賃貸」といえば、ここ十数年で「シェアハウス」も増えました。複数の世帯が同じ空間で過ごすシェアハウスでは「密」を生むことへの懸念などもあったのではないでしょうか。

「はい、コロナ禍で『シェアハウスは大丈夫?』と多くの人に聞かれました。結論からいうと、物件ごとに感染対策をしっかり採られたうえでなら、複数人で暮らすことのリスクよりも共有スペースがあることなどのメリットが上回ったといえます。広い共有スペースはテレワークがしやすく、誰かの気配を感じながら仕事ができますから」

共有スペースを有するシェアハウスは、テレワークにも最適(写真/PIXTA)

共有スペースを有するシェアハウスは、テレワークにも最適(写真/PIXTA)

それぞれの物件がもつ「ストーリー」に共感

たしかに誰かの気配を感じることが落ち着く、という感覚に納得しますし、入居者間のコミュニケーションを大切にしている物件には魅力を感じます。一方で、ひとりで過ごす場所やプライベートな時間を重視する人もいて、ニーズが多様化していることを感じます。個人によって好みや志向が異なるなかで、多くの人の支持や注目を集める物件も出てくるでしょうか?

「これからは“ストーリー”や“住みたい理由”を持つ物件に魅力を感じる人が増えるでしょう。八王子にある『アパートキタノ』は、DIYを前提として住む人が自由にお部屋を変えることができます。この自由さに共感したクリエイティブな人たちが集まり、SNSなどでDIY事例やこの物件の魅力を発信するため、さらに人気が高まっているといいます。

賃貸物件を探すときには、これからの生活をイメージしながらワクワクする物件を探したいですよね。ぜひ“ストーリーのある物件”を見つけていただければと思います」

京王線・北野駅から徒歩15分ほどの場所にある「アパートキタノ」。築26年の趣を感じさせるDIY前の部屋の様子(画像提供/アパートキタノ)

京王線・北野駅から徒歩15分ほどの場所にある「アパートキタノ」。築26年の趣を感じさせるDIY前の部屋の様子(画像提供/アパートキタノ)

「アパートキタノ」に住む沼田汐里さんがDIYしたお部屋。板張りの壁にDIYを施されたインテリアがオシャレ(画像提供/アパートキタノ)

「アパートキタノ」に住む沼田汐里さんがDIYしたお部屋。板張りの壁にDIYを施されたインテリアがオシャレ(画像提供/アパートキタノ)

アクセサリー作家・大坪郁乃さんがDIYして住んでいるお部屋。白とグレーのペンキを混ぜて壁を塗っている(画像提供/アパートキタノ)

アクセサリー作家・大坪郁乃さんがDIYして住んでいるお部屋。白とグレーのペンキを混ぜて壁を塗っている(画像提供/アパートキタノ)

まだまだ手探り、これからも変化しつづける賃貸物件

これまで新しい取り組みを行っている物件やサービスをたくさん紹介いただきましたが、このような時代の流れにあわせて、大手の住宅メーカーも新しい商品開発に着手し始めたようですね。

「大東建託が7月1日からテレワーク対応型の間取りプランを採用した賃貸住宅の販売を開始しました。このように専用部に仕事ができる場所を確保することはもちろん、共用部にワークスペースを併設したり、1階のテナントにコワーキングスペースが入っている物件なども今後増えていくかもしれませんね」

大東建託が7月1日より販売開始した「DK SELECT」ブランドの賃貸住宅(資料/大東建託プレスリリース)

大東建託が7月1日より販売開始した「DK SELECT」ブランドの賃貸住宅(資料/大東建託プレスリリース)

一方で従来のスタイルの賃貸物件においては、大家さんがポストコロナの生活への対応についてまだまだ手探りの状態で、課題も多いと言います。

「例えばテレワークの時間が増えたことで、『インターネット回線の接続が良くない』というクレームが増えたそうです。これまでは入居する人も大家さんも、通信速度や安定性まで強く意識する機会は少なかったのではないでしょうか。物件の仕様もウィズコロナ・ポストコロナの生活スタイルに応じて変わっていくかもしれませんね」

テレワークの機会が増えたことにより、「インターネット接続の安定性」など、これまで意識しなかった点も物件探しのポイントになるかもしれない(写真/PIXTA)

テレワークの機会が増えたことにより、「インターネット接続の安定性」など、これまで意識しなかった点も物件探しのポイントになるかもしれない(写真/PIXTA)

永井さんにお話いただいたように、これからは専用のワークスペースがある物件や地域や入居者間のコミュニティを大切に築く物件、簡単に貸し借りができるような賃貸物件が増えていきそうです。また、距離に縛られなくなれば、住む場所の選択肢も広がります。

自分がどんな暮らしをしたいのか、どんな毎日ならワクワクするのか、もう一度自分の「好きなもの、好きなこと」を見直すことが、ダイレクトに賃貸物件選択につながる――。部屋探しもますます自分らしく楽しむ時代になりつつあるのかもしれませんね。

●取材協力
・全国賃貸住宅新聞
・ADDress
・HafH
・KabuK Style
・キャムスクエア
・アパートキタノ

「歩道」がにぎわいの主役に!? 規制緩和が生むウィズコロナ時代の新しい街の風景

コロナ対策として「3 密」の回避が提唱され、商業施設をはじめ、公共交通機関やオフィスでも「ソーシャルディスタンス」を呼びかける掲示や床にラインが引かれるなど、さまざまな対策が採られています。
そして、この影響は街の交通を担う道路や歩道の使い⽅にも新しいアイデアを取り込む変化を与えているようです。

そこで、これまで街の再⽣や道路・歩道の活⽤に取り組んできたワークヴィジョンズの⻄村浩さんに、国内・海外の魅⼒的な事例やこれからの街と暮らしについてお話を聞きました!
ワークヴィジョンズの西村浩さん(右)。佐賀市街地活性化を目指してオープンさせた「MOM’s Bagle(マムズ・ベーグル)」の前で(写真提供/ワークヴィジョンズ)

ワークヴィジョンズの西村浩さん(右)。佐賀市街地活性化を目指してオープンさせた「MOM’s Bagle(マムズ・ベーグル)」の前で(写真提供/ワークヴィジョンズ)

全国各地で行われている! 「歩道活⽤」の実験

歩道活用の事例として筆者の記憶に新しいのは、佐賀県の「SAGAナイトテラスチャレンジ」です。2020年5月22日から6月6日の18時半から22時の間、佐賀市街地の屋台骨である中央大通りで、「3密」回避と地域活性化のために店舗の軒先1mほどのスペースにテラス席を設ける社会実験が行われ、全国の注目を集めました。このSAGAナイトテラスチャレンジの企画アドバイスを行った西村さんによると、「ここ2~3年でこのような社会実験が全国で盛んに行われている」と言います。

全国的に注目を浴びた佐賀県の歩道活用の社会実験「SAGAナイトテラスチャレンジ」実施中の風景(写真/唐松奈津子)

全国的に注目を浴びた佐賀県の歩道活用の社会実験「SAGAナイトテラスチャレンジ」実施中の風景(写真/唐松奈津子)

「岡山県岡山市、愛知県岡崎市でも佐賀県同様の1mチャレンジをやってきました。それぞれの街、もっといえば、その通りごとに、場所の魅力を活かした歩道の活用が進んでいます」(西村さん、以下同)

それでは、具体的にはどんなことが行われているのでしょうか? 西村さんに、岡山市や岡崎市の事例についても教えてもらいます。

「岡山県岡山市の県庁通りでは、もともと車道を一方通行2車線から1車線に減らしてその分を歩道に充てたいという市の計画がありました。自治体は道路や施設・設備などの『ハード』を先に整備しがちですが、それよりも『誰がどのように使うのか、使いたいのか』という『ソフト』の方が大切です。そのため、道路を整備する前に社会実験として、これまで2年かけて駐車場の一角にお店を出してみたり、道路の使い方についてのディスカッションをやってみたりしました」

岡山市の駐車場の一角で開催された、歩道の活用を考える「県庁通りデザインミーティング」(写真提供/ワークヴィジョンズ)

岡山市の駐車場の一角で開催された、歩道の活用を考える「県庁通りデザインミーティング」(写真提供/ワークヴィジョンズ)

車1台分のスペースでジュース屋さんも開業(写真提供/ワークヴィジョンズ)

車1台分のスペースでジュース屋さんも開業(写真提供/ワークヴィジョンズ)

「愛知県岡崎市の連尺通りでは、住宅街のなかにある通りの雰囲気を活かす形で、オープンテラスを実施しました。また、その近くの康生通りでも、地元の人たちがやはり軒先1mのところに水槽をおいたり、おもちゃを出してみたり、遊び心のある風景をつくっています」

閑静な住宅地の中にある連尺通り(左)。1m分のテラス席が出されたことで、にぎやかな雰囲気になった(右)(写真提供/ワークヴィジョンズ)

閑静な住宅地の中にある連尺通り(左)。1m分のテラス席が出されたことで、にぎやかな雰囲気になった(右)(写真提供/ワークヴィジョンズ)

同じく連尺通りの社会実験中の様子。白いビニールテープで貼られた「けんけんぱ」のガイドが行き着く先には、木のおもちゃが待っている、地元住民のアイデア(写真提供/ワークヴィジョンズ)

同じく連尺通りの社会実験中の様子。白いビニールテープで貼られた「けんけんぱ」のガイドが行き着く先には、木のおもちゃが待っている、地元住民のアイデア(写真提供/ワークヴィジョンズ)

岡崎市の連尺通りと平行に走る康生通りでは、雑貨店の店先に並べられた多数のおもちゃで、通りの一角が、明るく、楽しげな印象に(写真提供/ワークヴィジョンズ)

岡崎市の連尺通りと平行に走る康生通りでは、雑貨店の店先に並べられた多数のおもちゃで、通りの一角が、明るく、楽しげな印象に(写真提供/ワークヴィジョンズ)

「3 密」を避けるために、道路の使⽤規制が緩和された!

このようにここ数年、歩道の活用が全国で進んできた背景の一つとして、道路の活用について、徐々に国の規制緩和が進んできたことがあります。通常、歩道を含む道路を使用するには、管轄の警察署に「道路使用許可」、道路管理者に「道路占用許可」をとる必要があります。

ところが近年、イベント等で道路を活用したいというニーズが高まり、2005年に地域の活性化やにぎわい創出のため、道路管理者の「弾力的な措置」、つまり許可に融通を効かせるよう国土交通省から通知が出されました。さらに通常、地域の団体や民間企業が道路を使用する場合はその許可申請と一緒に「占用料」を払う必要がありますが、地方自治体が一括して申請することで占用料は不要になりました。

今回、その国交省が新型コロナウイルスの影響による社会ニーズを反映する形で、6月5日にさらに規制緩和を行ったのです。つまり「3密(密閉空間、密集場所、密接場面)」を避けるための暫定的な営業において、地域の清掃に協力するなど一定の条件を満たせば、地方公共団体だけではなく、地元関係者の協議会や地方公共団体が支援する民間団体なども道路の占用料が免除されることに。これにより、テイクアウト販売やテラス席設置のための道路使用・道路占用の許可が受けやすくなりました。

2020年6月5日に国土交通省から通知された、道路占用の許可基準緩和についての内容。イメージ画像に「SAGAナイトテラスチャレンジ」の画像が使用されている(資料/国土交通省)

2020年6月5日に国土交通省から通知された、道路占用の許可基準緩和についての内容。イメージ画像に「SAGAナイトテラスチャレンジ」の画像が使用されている(資料/国土交通省)

先に紹介した佐賀県や岡山市、岡崎市の事例は、国の通知を待つことなく自治体独自で展開した例ですが、今回の国交省の通知によって全国でいっそう、このような取り組みが進みそうです!

海外の街の「なんだかステキ!」も歩道がカギを握る

これまで西村さんが街の再生を考えるときには、海外の事例なども参考にしてきたそうです。

「欧米の人たちは外での過ごし方がすごく上手ですよね。特に北欧の国などでは日照時間が短いために、外で過ごすことへの願望が強いらしく、天気のいい日は出来る限り日光の当たる場所にいたいといいます。

写真はオランダのユトレヒトの街の風景ですが、人々がテラスで食事を楽しむ風景は、欧米のいたるところで見ることができます。ポイントは、実はテラス席のテーブルや椅子が出ているスペースだけ歩道のパターンが違っていることです。歩道の活用を前提にした街区の設計が意図的に行われることを示すものだと思います」

オランダ・ユトレヒトのカフェの風景。テラス席はパターンの違う石畳の中にきっちり収まっており、歩行者を妨げない形に(写真提供/ワークヴィジョンズ)

オランダ・ユトレヒトのカフェの風景。テラス席はパターンの違う石畳の中にきっちり収まっており、歩行者を妨げない形に(写真提供/ワークヴィジョンズ)

先に紹介した岡山市の県庁通りでは今まさに工事が行われており、この歩道のパターンを変えることによって、活用可能なスペースを明示する手法を取り入れたのだそうです。さらに西村さんは、海外で歩道の活用が進んできたのは、外で過ごす風土や習慣だけでなく「ボランティアをはじめとする公共空間の使い方の教育もポイント」だと言います。

「例えば海外の公園では、管理・運営が市民団体やボランティアによって行われているところが少なくありません。海外では、地域に住む人たちが自分たちの街をよくするために、公共空間の清掃や整備はボランティアによって運営されるのが当たり前で、人気の公園などではボランティアの順番待ちすらあるそう。これは、幼いころからボランティアに参加することが普通で、みんなが使う場所を気持ちのいい空間にしたいから自分たちでやる、という教育が根付いているからだといえます」

アメリカのニューヨーク市のブライアント・パークは「BID(Business Improvement District)」という仕組みを活用にしていることでも有名。地域のエリアマネジメント活動資金を自治体が周辺の企業等から負担金として徴収・再配分、管理も一体的に任せて街づくりを推進する(写真/PIXTA)

アメリカのニューヨーク市のブライアント・パークは「BID(Business Improvement District)」という仕組みを活用にしていることでも有名。地域のエリアマネジメント活動資金を自治体が周辺の企業等から負担金として徴収・再配分、管理も一体的に任せて街づくりを推進する(写真/PIXTA)

気持ちよく使いたい、気持ちよく過ごしたい人たちが自分たちで動く、この思想や考え方は、これからの私たちの生活にも、必要な視点になりそうです。

これから街や暮らしはどうなる!? 私たちの新しいライフスタイル

このように、歩道が有効活用されるようになったとき、私たちの街や暮らしはどのように変わっていくのでしょうか? 今回の新型コロナウイルスが与えた影響と、今後の展望についても西村さんに聞いてみました。

「近年、歩道に限らず、公共空間といわれる場所でのルールが厳しくなって、例えば公園でボール遊びもできない、といったように『自由さ』が失われてきていたと思うんです。これは自治体をはじめとする管理者と住民の間で『信頼』が失われてきた結果だと思います」

近年、日本の公園では禁止事項が増え、ボール遊びができない公園も増えてきた(写真/PIXTA)

近年、日本の公園では禁止事項が増え、ボール遊びができない公園も増えてきた(写真/PIXTA)

「ところが、今回のコロナをきっかけに多くの人たちが外での時間を楽しむようになり、屋外の使い方が上手になったと感じます。例えばいつもは家でやるパズル遊びも外でやってみたら楽しい、とか、屋外の可能性にみんなが気付き始めた。これは失われた信頼を取り戻すチャンスなんです」

たしかに、先ほどの国交省のコロナ対策を目的とした歩道活用の通知も、全国からのニーズが高まったことを背景として挙げています。

「屋外、特に道路や公園などの公共的な空間をみんなが気持ちよく使っていくにはどうしたらいいか、それをしっかりと地域で話していくことで、これからの日本の街の景色が変わると思います。まずは自治体に対してそこで住む人たちが『屋外を使いたい!』と要望を上げ、地域主体で自律的な運用ができるように考え、お互いの信頼を回復していくことです。その姿を大人が見せることは、長い視点では子どもたちの教育にもつながります」

西村さんは公共空間をみんなが気持ちよく使うために管理者と住民の「信頼の回復」が重要だという(写真/唐松奈津子)

西村さんは公共空間をみんなが気持ちよく使うために管理者と住民の「信頼の回復」が重要だという(写真/唐松奈津子)

なるほど! 国交省の通知は一旦、今年の11月末までの暫定措置とされていますが、全国の自治体や住民の取り組み次第で、新しい国の動きにつながるかもしれませんね。

「面白い街に住みたい」気持ちから、街をみんなでつくる

コロナの影響受けて、地方に住みたい、就職したい若者が増えてきたというニュースが話題になりました。住む街や住まいの選び方も変わりそうです。

西村さんは「例えばひと言で『地元』と言っても、その県や市町村のなかでどの街に住もうか、と考えたときに、どんな場所を選びますか? 『あの街、なんか面白いことやってるな』という街に住みたくありませんか?」と投げかけます。たしかに、かくいう筆者も地元である佐賀の街が面白くなってきた、と聞いて、昨年から東京と佐賀の二拠点生活を始めた一人です(笑)。

西村さんが手がける、佐賀市街地の駐車場(左)を活用してオープンした店舗「MOM’s Bagle(マムズ・ベーグル)」(右)。店の前の通りでは週末にマーケットが開催され、街の風景を変えた(写真提供/ワークヴィジョンズ)

西村さんが手がける、佐賀市街地の駐車場(左)を活用してオープンした店舗「MOM’s Bagle(マムズ・ベーグル)」(右)。店の前の通りでは週末にマーケットが開催され、街の風景を変えた(写真提供/ワークヴィジョンズ)

「面白いことをやっている街には、人が集まるんですよ。それが不動産の価値を上げて、街全体の価値も上がっていく。自治体も、不動産をもつ人も、そこに住む人も、商売をする人も、みんなが街を面白くしていこう、という気持ちをもって同じ方向に進むことで、もっと魅力的な街になり、そこに住む幸せにつながると思います」

西村さんは「日本ではほとんどの公園が税金によって管理・運営されているなんて言ったら、欧米の人はびっくりするのでは」といいます。
面白そうな街を選ぶ、という観点はもちろん、西村さんの言うように「自分たちが街を面白くしていくんだ」「もっと心地よい場所、通りにしていくんだ」という積極的な関わり方ができると、全国の歩道や街も、私たちの住む場所も、もっと素敵になりそうですね!

●取材協力
・株式会社ワークヴィジョンズ

資源ごみ「捨てられない時代」に!? 税金負担も左右するごみ処理知識

新型コロナウイルス対策下、自宅で過ごす時間が増え、家の掃除をしたり生活を見直したりする機会が増えているようです。また7月からはレジ袋の全面有料化が始まるので、改めてごみやリサイクルに対する知識をつけておきたいところですね。

そこで今回は、リサイクルの現場やごみの正しい出し方について、モノファクトリーの河西桃子さんにお話を聞きました。モノファクトリーでは、グループ会社の産業廃棄物処理業者であるナカダイに運びこまれた廃棄物を、ユニークな方法で利活用しているそうです! どんな方法があるのでしょうか?
コロナの影響で、家庭ごみが増えている!産業廃棄物の新たな使い方を提案するモノファクトリーの品川のショールーム(写真/モノファクトリー)

産業廃棄物の新たな使い方を提案するモノファクトリーの品川のショールーム(写真/モノファクトリー)

自宅にいる時間が増えると、家の中のいろいろなところが気になります。私も3月以降、これまで使っていた照明器具を買いかえたり、家の中の汚れが気になって頻繁に掃除をしたりするようになりました。

「コロナの影響は、ごみにおいてもさまざまなところで変化を与えています。まず、自宅でジュースやお酒などを飲む機会が増えたことで、アルミ缶がごみとして出される量が確実に増えました。また、資源ごみや粗大ごみの回収量も増えているといいます。

さらに、私たちの気持ちの変化も大きいでしょう。近年、ごみを減らすために、エコバックをはじめとしてものを繰り返し使うことや、一つのものをシェアするなど、ものの有効活用の意識が少しずつ浸透してきたと感じます。けれども、今回のコロナ対策下では、衛生面に配慮して感染リスクを避けることが最優先になりました。これもこの数カ月でごみが増えている原因の一つと言えるでしょう」(河西さん、以下同)

衛生面を第一に考えれば「使い捨て」が増え、ごみも増える(写真/PIXTA)

衛生面を第一に考えれば「使い捨て」が増え、ごみも増える(写真/PIXTA)

実は、日本のごみ処理は危機的な状況に!?

やはり、家庭ごみの量が増えているんですね。全国で同じようなことが起こっていそうで心配です……。

「コロナ対策の前から、廃棄物は国内でだぶつき始めています。実は、一昨年くらい前から中国が資源ごみの輸入をストップしていて、このニュースは業界内では話題になりました。それまで日本は中国にお金を払って資源ごみを処理やリサイクルしてもらっていたわけですが、以来、ごみの出し先がない状況です。私たち廃棄物処理業に携わる者は、そう遠くないタイミングで『捨てられない時代』になるのでは、と危機感を持っています。一般の家庭に影響が出ていないのが不思議なくらいなんです」

資源ごみの出し先となっていた中国が資源ごみの輸入をストップし、日本国内のごみ問題は深刻な状況(写真/PIXTA)

資源ごみの出し先となっていた中国が資源ごみの輸入をストップし、日本国内のごみ問題は深刻な状況(写真/PIXTA)

コロナの影響にかかわらず、すでに日本のごみ事情はかなり切迫している状況だったんですね。このような危機的な状況を回避するためにも、私たちが家庭でごみを出すときに気をつけることなどはありますか?

「まず、ご家庭でごみを出すときのベストな方法は、当たり前のようですが、本当に『自治体が指定する通りの方法で出すこと』なんです。自治体によってごみの処理方法は異なります。例えば、燃えるごみにプラスチックを入れていいかどうかが自治体によって異なりますが、それは各自治体がもっている焼却炉のスペックが異なるからです。つまり、プラスチックを焼却する際に発生する有毒ガスを浄化できる機能を持った焼却炉があれば、プラスチックも燃えるごみとして出すことができます。自治体の提示するごみの出し方は、それぞれ最も効率よくごみを利活用または処理できる方法になっているので、ぜひその通りに出してください」

資源ごみのさまざまな疑問・質問に回答!

やはり、ごみの出し方の指定にもそうすべき理由があるんですね。
私もここ最近、自治体から配布されているごみの捨て方の冊子を開いてみたんですが、一つひとつ確認しながらその通りに出すのは結構大変です。これだけ労力を使うと、ごみが一体どのように活用されているのかが気になります……。そこで、河西さんにいくつかの質問を投げかけて、答えてもらえました。

●資源ごみとして紙を出すとき、縛る「ひも」も、紙のひもでないとダメ?
「基本的にはガムテープでもビニール紐でも大丈夫なはずです。紙はリサイクルの過程で一度水に溶かして不純物はすくい取ってしまうので、別の素材で縛ってもそれほど大きな問題になりません。ただ、リサイクルする機械のスペックにもよるので、最終的には住んでいる自治体に確認をしましょう」

河西さんによると、ナカダイで回収している古紙を縛る「ひも」の素材は必ずしも紙である必要はないそうだ(写真/PIXTA)

河西さんによると、ナカダイで回収している古紙を縛る「ひも」の素材は必ずしも紙である必要はないそうだ(写真/PIXTA)

●蛍光灯は資源ごみ? どんな形でリサイクルされるの?
「蛍光灯はちゃんと分解すれば100%リサイクルができます。ガラスの部分はグラスウールに、両端の金属部分はアルミとして、中の水銀もリサイクルされます。ただし、蛍光灯が割れると水銀の取り扱い上、資源ごみとして出せなくなるので、割らないように注意してください」

蛍光灯は割らずに分解できれば100%リサイクル可能な素材でできている(写真/PIXTA)

蛍光灯は割らずに分解できれば100%リサイクル可能な素材でできている(写真/PIXTA)

●古着の回収があるが、どのように使われるの?
「素材や服として再利用できるものは、国内の寄付団体などを通じて、海外へ輸出されることが多いようです。また、綿100%の衣類は国内でもウェス(油や汚れなどを拭き取るための布)として工場や工事現場などで利用されています」

古着などの布類は、工場や工事現場などで油や汚れを拭き取るウェスとして再利用される(写真/PIXTA)

古着などの布類は、工場や工事現場などで油や汚れを拭き取るウェスとして再利用される(写真/PIXTA)

「発想はモノから生まれる」モノファクトリーの取り組み

ごみの行き先や使い道を教えてもらったことで、俄然、ごみやリサイクルに興味が湧いてきました! モノファクトリーさんでは、近年の社会的なニーズの高まりに応じて産業廃棄物を利活用されているそうですが、その取り組みについても詳しく教えてください。

「当社グループ会社のナカダイが、産業廃棄物処理業者です。産業廃棄物は大きく4つのルートを辿ります。1つはマテリアルリサイクルと呼ばれるもので、単一の素材にして資源として再利用します。代表的なものには鉄やペットボトルをイメージしていただくと分かりやすいでしょう。2つ目はサーマルリサイクルと言って、リサイクルできないものがある場合に、燃やして灰にするだけでなく、燃料等に加工して熱源などに活用します。3つ目は家具や家電など、まだ使えるものをリユースすること、そして最後は焼却などの適切な方法で処理して埋め立て処分等することです」

プラスチック製品の原料になる「ペレット」などもモノファクトリーのショールームで購入できる(写真提供/モノファクトリー)

プラスチック製品の原料になる「ペレット」などもモノファクトリーのショールームで購入できる(写真提供/モノファクトリー)

ナカダイで産業廃棄物として回収したものを、モノファクトリーで加工したり、活用している、ということでしょうか?

「モノファクトリーでは、『捨て方のデザイン』と『使い方の創造』を提案しています。捨て方のデザインについては、主に企業向けに大量に出る産業廃棄物をどのように回収すれば有効な資源として使えるか、コンサルティングやアドバイスを行っています。使い方の創造については、リサイクルの過程で出た素材を仕入れ、大量に集めて展示・販売しています。私たちは『発想はモノから生まれる』ことを伝えていますが、素材をいろいろ触ってみた結果、これに使えるかも、というアイデアが出ることを面白がっていただきたいのです」

「自由な発想」でモノが新しい価値を生む

どのような素材がどのように活用できるのか、素人にはなかなかすぐにイメージしづらいのですが、具体的に面白い事例があれば、ぜひご紹介ください!

「まずは、隈研吾さんが設計した三鷹駅前の『ハモニカ横丁ミタカ』です。放置自転車360台分の前輪を、外装や店舗什器に使用しています。素材を単品で考えるだけでなく、同じものがたくさん並ぶ、ということによってとてもインパクトのあるものになりますよね。特にインテリアやDIYなどが好きな人は、同じものを並べてディスプレイするなど、自由な発想で楽しんでいただきたいです」

隈研吾さん設計の「ハモニカ横丁ミタカ」。放置自転車360台分の前輪を並べた外観はインパクト大!(写真提供/モノファクトリー)

隈研吾さん設計の「ハモニカ横丁ミタカ」。放置自転車360台分の前輪を並べた外観はインパクト大!(写真提供/モノファクトリー)

さすが日本を代表する建築家の隈さんならではの活用法ですね。私たちが普段の生活に簡単に活かせるようなアイデアもありますか?

「先日、ショールームにいらした親子連れのお母さんが素材を見て口にしたひと言が印象に残っています。ゴムの細長い素材を見て『このゴムを使えば引き戸のドアがいつもバタンと大きな音を立てて閉まるのを防げるかも』と言って買っていかれたんです(笑)」

なるほど! まさに「発想はモノから生まれる」ですね。

モノファクトリーのショールームで展示・販売しているさまざまな形状・色とりどりの素材。見ているだけで心が弾む。写真は前橋市のショール―ムの様子(写真提供/モノファクトリー)

モノファクトリーのショールームで展示・販売しているさまざまな形状・色とりどりの素材。見ているだけで心が弾む。写真は前橋市のショール―ムの様子(写真提供/モノファクトリー)

快適で持続可能な生活のために、私たちがこれからできることは?

本日のお話を聞いて、楽しみながらごみをリサイクルしてまた活用する、という流れができるといいなと思いました。

「その通りです。近年、海外の商品を安く手軽に購入できるようになりました。将来的にごみが捨てられない状況になれば、国内で再利用する仕組みを考えていくほかありません。そのとき、ごみを処理するためにかかる費用は、税金やそのほかの形で一層私たちにのしかかってくることになるでしょう。本当は、商品をつくって販売する会社が責任をもって、商品を買った人からごみを回収して再活用する、という『循環』の体制ができればベストです。私たちもごみを扱う会社として、有効にごみをリサイクルできる方法を各企業に提案しています。

また、そのような事業を行っている会社を応援する意味でも、自分が消費者として購入する場合には、値段だけではなく、販売したものを循環させる仕組みや体制があるかどうかなど、各企業の取り込みにも興味を持って購入してほしいと思います」

ごみを捨てるときだけでなく、購入を検討するときからリサイクルは始まっているのかもしれない(写真/PIXTA)

ごみを捨てるときだけでなく、購入を検討するときからリサイクルは始まっているのかもしれない(写真/PIXTA)

河西さんのお話によれば「ごみは単一の素材として分類されていればリサイクルができる」といいます。その素材が複雑に絡み合っていたり、汚れたりしていると、きれいな単一の素材にするために分解をしたり、洗浄したり、といった作業が必要になるのだそうです。その作業費が膨れ上がれば、最後は私たちが税金やそのほかの形でその負担をすることになるわけです。

日々、商品の購入から使用、ごみの廃棄までちょっとしたケアをすることで、無駄なごみや無駄な費用を抑制できることが分かりました! 私たちの生活が快適で持続可能なものになるよう、商品の選び方やごみの捨て方にも意識して取り組みたいですね。

●取材協力
・株式会社モノファクトリー
・株式会社ナカダイ

コロナ禍で住まい選びのオンライン化進む。売買・賃貸契約、住宅購入はどう変わる?

新型コロナウイルスの影響によって仕事や買い物など、さまざまな場面で「新しい生活様式」が広がりつつある。バーチャル画面を使ったモデルルーム見学やオンラインによる住まい選びセミナーなど、住まい選びにもそうした新しい動きが出始めているようだ。国や業界の対応、各企業の現状を取材した。
賃貸取引に続き売買取引でもIT重説の社会実験スタート

不動産業界では国が音頭をとり、コロナ以前から「重説のIT化」が進められていた。重説とは重要事項説明のことで、宅地建物取引業法では賃貸や売買の契約時に宅地建物取引士による説明が義務付けられている。

これまでは重要事項説明書という書面を使い、借主や買主に対して対面で重説が行われてきた。それがコロナ禍をきっかけに、IT化、つまりオンラインによるリモート化が一気に進みそうな状況なのだ。

重説のIT化はまず、賃貸取引で始まった。2015年8月から2017年1月まで、賃貸取引と法人間売買取引について社会実験が行われ、事前に登録した不動産会社が実際の業務でテレビ会議システムなどによる重説を実施。2017年10月からは賃貸取引での本格運用がスタートし、すべての不動産会社がIT重説を実施できるようになっている。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

さらに2019年10月からは、個人を含む売買取引についても社会実験が開始された。賃貸取引と同様に事前登録した不動産会社が実験に参加する形で、2020年9月30日まで実施される予定だ。参加事業者の募集は当初は2020年5月中旬までの予定だったが、コロナ禍を受けて門戸を広げる意味で当面の間延長されることとなった。

売買取引でのIT重説では、事前に不動産会社が売主と買主の双方に同意を得る必要がある。買主には重要事項説明書などの資料が郵便などで送付されるので、事前に目を通しておくことが可能だ。IT重説を実施するときには通常の重説と同様に不動産会社側から宅地建物取引士証が提示され、説明の様子が録画・録音される。また説明後は買主にもアンケート調査が行われ、国土交通省に提出することになっている。

社会実験に参加している不動産会社は売主の同意があれば、物件広告にIT重説が可能なことをPRでき、国が指定したロゴマークも表示できる。IT重説が受けられる物件かどうか知りたい場合は、ロゴマークで確認するといいだろう。

売買取引の社会実験に登録している不動産会社は、2020年5月29日時点で475社となっており、今後も増えることが予測される。また賃貸取引については重要事項説明書などの書面を電子化する社会実験も2019年に実施された。今後も重説のIT化が進めば、自宅に居ながら簡単に住まいの契約がしやすくなりそうだ。

国や業界団体が感染予防対策のガイドラインを策定

重説のIT化が進められる一方で、不動産・住宅業界ではコロナ禍に対応した新しい接客方法などを模索する動きも出ている。緊急事態宣言の期間中は営業を自粛する店舗やモデルルームも多かったが、宣言が解除されたことで徐々に営業が再開され、客足も戻りつつあるようだ。

そんななか、国土交通省は不動産業界向けに感染予防対策ガイドラインを作成した。従業員の健康確保やテレワーク・時差出勤などの検討、勤務中のマスク着用の推奨といった基本的な対策をまとめたものだ。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

店舗などでの接客については、来店やモデルルームへの来場はできる限り予約制とし、少人数での来店・来場を依頼するとしている。また仲介時の売買活動に関する報告は、対面ではなく電話などでも可能とするといった内容だ。

住宅業界の団体である住宅生産団体連合会も同様に、住宅業界向けの感染予防ガイドラインを策定。顧客との打ち合わせや商談はできる限り電話やメール、オンラインで行い、対面で行う場合はできる限り2m(最低1m)の間隔をとり、お茶などはペットボトルや紙コップで出すといったきめ細かな対策をまとめている。

不動産・住宅業界では感染予防に注意を払いつつ、早期の景気回復や市場活性化に向けた経済対策を自治体や国に要望しているところだ。

VRでの住まいづくりが体験できるセットが好評

住宅メーカーやリフォーム会社など、個々の企業でもオンラインを活用した対応が進んでいる。どのような対策に取り組んでいるのか、具体例を紹介しよう。

在宅で住まいづくりの相談ができる「おうちで住まいづくり」を4月から展開しているのが積水ハウスだ。希望の日時を予約すると、間取りや土地探し、資金などについて電話やWEBで担当者と相談できる。またVR(バーチャル・リアリティ)を使ってプランニング例などを体験できる「住まいづくり」体験セットを、希望者に無料で送付するサービスも行っている。

「おうちで住まいづくり」(写真提供/積水ハウス)

「おうちで住まいづくり」(写真提供/積水ハウス)

同社によると、住まいづくり体験セットは特に好評で、4月の資料請求は前年比で約2倍、5月はエリアによって5倍以上の引き合いがあったという。またリモートによる相談は当初は申し込みが少なかったが、企業でのリモートワークなどが普及するにつれて徐々に増えてきているそうだ。さらに6月には同社社員の自邸を動画で紹介するコンテンツをHP上で公開したり、今後は営業が分譲地や建売物件をライブ配信するなど、オンラインを活用したサービスを予定している。

リフォームのオンラインセミナー・相談会で集客増

東京・横浜を拠点にリフォームを手がけるスタイル工房では、以前からセミナーや相談会を行っていたが、コロナ禍を受けてオンラインでの対応に力をいれている。これまでは月2回の店舗セミナーでそれぞれ3~4組程度の参加だったが、オンライン化によって月に十数組の申し込みが入っているという。またオンライン相談会も新規の申し込みが月に30件程度と好調だ。

オンライン相談会のイメージ(写真提供/スタイル工房)

オンライン相談会のイメージ(写真提供/スタイル工房)

「オンラインでの打ち合わせやセミナーはお互いに時間調整がしやすく、進めやすいと言えます。また事前に質問事項や要望を整理するなど、しっかり準備して参加されるお客様が多く、こちらからのプラン提案などもスムーズです。ただ、工事の詳細を決める打ち合わせなどは、対面のほうが素材感などを直接感じられてよいという感想も聞かれました」と、同社の担当者は話している。

また現状ならではの要望として、オンライン授業用に子ども部屋をリフォームしたいといった相談もあったという。同社では今後もオンライン化を進め、モデルルームのライブ見学会なども検討しているそうだ。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

このほか、新築マンションでもモデルルーム見学や商談などをオンラインで可能にする取り組みが広がっている。なかには情報収集や見学、契約から引き渡しまで、マンション購入のほぼすべての手続きをオンラインや郵送などでリモート化できるケースもある。

国や業界団体、各企業の取り組みが進むことにより、極力外出しなくても住まい選びが完結できるようになるかもしれない。不動産会社とオンラインで相談や打ち合わせをすれば、対面よりも効率的で内容の濃い話ができる場合もあるだろう。とはいえ、採光や眺望、室内空間や内装の素材、周辺環境などは、実物を見ないとイメージしにくい面はある。アフターコロナ時代には、手続きなど可能な部分はオンラインを活用しつつ、必要に応じて現地を確認することで、間違いのない住まい選びを実現するようにしたい。

●取材協力
積水ハウス
スタイル工房

横浜だからできたコロナ禍の地域対策。「おたがいハマ」って?【全国に広がるサードコミュニティ4】

新型コロナウイルスは学校教育やビジネスだけでなくさまざまな分野にも影響を与えています。各地方自治体が補助金などの独自の支援策を行っているなか、横浜市はコロナ収束後の地域社会を見据えながら、インターネットを活用したコミュニティづくりにいち早く乗り出しています。
おたがいハマとは? コロナ禍に際して緊急オープン

新型コロナウイルスの影響で、人に会う機会が激減し、オンライン飲み会などでさみしさを紛らわせている人も多いのではないでしょうか。緊急事態宣言が解除されても、これまでとは違った暮らし方が余儀なくされることでしょう。

そんな、リアルな人のつながりが希薄になっていくかもしれない今、ウィズコロナ、アフターコロナを見据えてもともとある地域のコミュニティ活動を促進したり、今後の新しいコミュニティ形成を担うことを目的としたプラットフォーム「おたがいハマ」がこの5月より運営をスタートさせました。

おたがいハマWEBサイト

おたがいハマWEBサイト

おたがいハマとは、横浜の市民や企業、大学、行政が連携し、共創、参加型の取り組みを広げていこうとするWEBサイト。横浜市内外のコロナウイルス関連情報の発信、働き方、暮らし方の変化に対応するためのアクション(後述の横浜市内の飲食店のコロナ対策やテイクアウト情報などを紹介する「#横浜おうち飯店」プロジェクトなど)や、オンライントークイベントなどをこれまで開催してきました。リアルで出会えないからこそ、オンラインで支え合う。「ネット上のサードプレイス」を謳った取り組みです。

ネットがメインではあるものの、横浜市民や横浜市がこれまで培ってきた人と人のつながり=関係資本を活かし、コロナ後の“市民発意型”アクションにつなげていくためのコミュニティづくりを心がけています。

おたがいハマをスタートさせたのは、ウェブマガジン「ヨコハマ経済新聞」などを運営するNPO法人「横浜コミュニティデザイン・ラボ」と、横浜市内で複数の「リビングラボ」という市民活動をサポートする一般社団法人「YOKOHAMAリビングラボサポートオフィス」。コロナ禍にいち早く反応し、5月1日には同2団体と横浜市との間で正式に協定が締結され、市民の自発的な活動に行政がいち早く参画を表明したことも話題となりました。

横浜コミュニティデザイン・ラボの杉浦裕樹さんは、いまこそ民間と行政がタッグを組み公共性の高い情報を市民に届けることが不可欠だと語ります。

「5月15日に横浜市が新型コロナウイルスに対する5000億円の補正予算を成立させたのですが、こういう情報を知らない市民に適切に情報を届けたいということと、横浜市内の飲食店や小規模事業者が、コロナ禍でいろんな工夫をしたりしているのですが、そうした情報を発信したり、人と人をつなげる場が欲しいよね、ということでおたがいハマが立ち上がりました」(杉浦さん)

コロナ後のコミュニケーションを準備する

「ハマのお店を応援する!」というコンセプトのもと、横浜市内の飲食店のコロナ対策やテイクアウト情報などを紹介する「#横浜おうち飯店」プロジェクトは、観光客の激減で打撃を受けている中華街などの飲食店の支援にひと役買っています。また、コロナ禍に立ち向かう横浜市内の事業者、行政マン、市民活動家をリレー形式で紹介する「おたがいハマトーク」は、5月1日のオープンより、平日毎日、お昼時に配信されています。

オンラインイベントの様子(画像提供/おたがいハマ)

オンラインイベントの様子(画像提供/おたがいハマ)

(画像提供/おたがいハマ)

(画像提供/おたがいハマ)

おたがいハマに準備段階から関わり、上述のトークイベントの配信や、Facebookグループの運営をはじめとしたプロジェクト・マネジメント全般を統括する編集者・ライターの小林野渉(のあ)さんは、京急線の高架下の複合施設「Tinys Yokohama Hinodecho」で“コミュニティ・ビルダー”や、簡易宿泊所(ドヤ)が立ち並ぶ福祉の町と変貌した寿町にある「ことぶき協働スペース」のまちづくりスタッフとしてとして活動するなど、地域を巻き込んだプロジェクトの広報やマネジメントを得意としています。そんな小林さんがジョインすることで、おたがいハマはWEBプラットフォームの枠を超えて、横浜市民の助け合いのためのメディアとして動き出しています。

「横浜に拠点のあるメディア、行政、大学など日々、いろいろな方がこのプロジェクトに参加表明してくれるんですが、当然、編集者やデザイナー、もしくは“傾聴”というスキルを持った方などバリエーション豊かな市民がいます。例えば横浜市金沢区でテイクアウトのアプリをつくるデザイナーがいるんですが、金沢区で活動するNPOや商店街の人は知らなかったりする。近所にいるのにお互い知らなかった人をトークで一緒にしてあげると、新しいことが始まると思うんです」(小林さん)

メディアに登場しないけれど地道に活動している市民とその拠点が「見える化」することはとても大切です。意外に身近にいる、新しい仲間との出会いや、同じ地域に暮らしているがゆえの課題を共有する事業者との助け合いを後押しします。こうした目に見えないつながりは、ウィズコロナの今だけでなく、アフターコロナでこそ真価を発揮することでしょう。

横浜ならではのコミュニティ資源

それにしてもなぜ、横浜で民間と行政が連携し、おたがいハマのようなプラットフォームを迅速にスタートすることができたのでしょうか? 横浜市政策局共創推進課の関口昌幸さんはこう語ります。

「横浜市では数年前から、地域課題や政策課題を市内の各地域ごとに議論し、事業モデルをつくる“共創ラボ”や”リビングラボ”という活動を支援してきました。おたがいハマの発起人でもあるYOKOHAMAリビングラボサポートオフィスとともに取り組んでいて、市内に15ほどのリビングラボがあります。そこに加えて杉浦さんの横浜コミュニティデザイン・ラボと市の三者連携でおたがいハマが生まれたんです」(関口さん)

左から杉浦裕樹さん、関口昌幸さん

左から杉浦裕樹さん、関口昌幸さん

小林野渉さん

小林野渉さん

企業が大学やNPOなどと協働しオープンイノベーションに取り組む事例は多々ありますが、そこに市民がジョインして一緒に活動しようという取り組みを「リビングラボ」といいます。関口さんが言うように、横浜には複数のリビングラボがあって、それぞれの地域課題を市民目線で解決していこうという流れができつつあります。横浜って地元愛が強いイメージがありますが、地元を愛する市民が多いからこそ、仕事から帰ったら寝るだけ、ではなく、日ごろから関わり合う地域コミュニティが活発です。まさに、学校でも職場でもない、“サードコミュニティ”に複数所属しているのが横浜市民の強みなのかもしれません。杉浦さんは話します。

「横浜で20年以上、コミュニティデザインの活動をしていますが、横浜って、観光資源もいろいろあるけれど、コミュニティ資源が豊かな印象があります。横浜にはNPOが今1500~1600ぐらいあるんですよ。そこにSDGsの流行もあって、企業が市民やNPOとタッグを組み地域課題に取り組む流れが自然と育まれてきました。こういう横浜ならではの土台があるからこそ、おたがいハマのような取り組みもできるのだと思います」(杉浦さん)

ネット上のサードプレイスを目指して

おたがいハマでは横浜市民同士の横のつながりで生まれた活動を広く市民に発信し、応援しています。例えば最近だと、戸塚リビングラボのメンバーである介護事業者の方が、まさに「おたがいハマ」の精神で、サービス付き高齢者住宅にランチやディナーを届けるプロジェクトが始まりました。また、高齢化が激しい横浜・寿町の住人と関わる医療や介護事業者に、就労継続支援B型事業所の通所者やアルコールなどの依存症患者らがつくったガウン(防護服)を配布するプロジェクト「寿DIYの会」もスタート。ガウンは作業賃を支払った仕事として制作しており、現在の工賃は時給250円。今後は工賃の増額を目指しています。寿DIYの会ではガウンの材料費・作業費向上も含め、広く寄付金を募り、グッズの販売もしています。
普段であれば、介護福祉施設や工務店、工場、商店主など多様な事業者同士の接点はなかなかありません。しかし、お互いのスキルや得意なところを持ち合えば、いろんな課題が解決していくはず。距離的に近いからこそ、つながったほうがいい人たちはたくさんいる。おたがいハマは、異なる立場にいる人たちをつなぐ、目に見えない地道で、でも大切な“ネット上のサードプレイス”になりつつあるのです。

戸塚リビングラボの活動の様子(画像提供/一般社団法人YOKOHAMAリビングラボサポートオフィス)

戸塚リビングラボの活動の様子(画像提供/一般社団法人YOKOHAMAリビングラボサポートオフィス)

寿DIYの会の取り組み(画像提供/寿DIYの会)

寿DIYの会の取り組み(画像提供/寿DIYの会)

おたがいハマは横浜市もメンバーに加わっていますが、決して行政主導のプロジェクトではありません。あくまで広報協力や人や事業者の紹介、バックアップの立場にとどまっています。「意義のある取り組みだから、もっとお金を投入すればいいのに」「横浜市、何もやってないじゃん!」という意見もあるかもしれませんが、むしろ行政の事業でないからこそボトムアップで有機的な活動が生まれるので、後方支援に徹した方がいいこともあります。関口さんはこう語ります。

「新型コロナの問題に関して、東京都がシビックテックを使って感染者数を見える化するサイトをつくって話題になりました。もちろん、行政による情報開示は大事なのですが、どうしても自治体からの情報発信って一方的になりがちです。でも、今の時期に大事なのって、市民と一緒にコロナ禍に立ち向かうんだというメッセージ、思想なんじゃないでしょうか。まちをつくるのは市民であり、行政はそれを最大限サポートする。なぜなら私たち市の職員も、横浜市民としてできることをしたいからです」(関口さん)

行政による必要な資金面での支援は、先に紹介したようにさまざまな分野ですでに行われています。予算を使い議会にかけるような事業にしてしまっては、市民の自発性やボランティア精神に頼ったプロジェクトは、瞬く間に萎んでしまうでしょう。行政セクターだろうが民間だろうが、それぞれの立場でできることをシェアし、一歩前に踏み出して支え合う、そんなことが自然とできる人が多いのも、横浜ならではだなぁと羨ましくなります。

5月1日に正式にスタートして、まだ1カ月半にもかかわらず、おたがいハマトークはすでに31回目を迎えています(※6月10日現在)。現在は地元の大学の学生がファシリテーターとなってトークイベントを回すなど、関わる人がどんどん増えてきている印象があります。

コロナウイルス感染症で学んだことは、ネット上でのコミュニケーションを加速して業務を効率化する、ということだけではありません。ネット上だけで互いの信頼関係を醸成することは難しい。リアルで会ったときに、見知らぬ人同士ではなく、少しの信頼感を持ち寄って話せること。その関係資本を積み上げていくこと。アフターコロナに向けて、行政、民間、個人の区別なく、今僕たちが準備しなければならないことのヒントが、おたがいハマには詰まっています。今後もおたがいハマの活動に注目していきましょう!

●取材協力
#おたがいハマ
横浜コミュニティデザイン・ラボ
一般社団法人YOKOHAMAリビングラボサポートオフィス
寿DIYの会

新型コロナウイルス感染、マンションの管理組合はどう備える

筆者は分譲マンションに住んでいる。そして、今、管理組合の役員をしている。外出自粛、3密回避のなかで新型コロナウイルスの感染対策はどうしたらよいのか、例年5月に開催される管理組合の総会をどうするか、いろいろ気になることばかりだ。ほかのマンションはどうしているのだろう?
頼りにしたい管理会社はどこまでしてくれる?

新型コロナウイルスに関して、管理会社はどう対応するのだろうか?マンションの管理会社の業界団体である「一般社団法人マンション管理業協会」に聞いた。

マンション管理業協会では「マンション管理会社の感染症等流行時対応ガイドライン」を出している。それによると、管理会社は業務をするうえで法令順守が求められるが、「マンション居住者の安全を確保することを最優先として業務を行う」ことが望まれる、としている。管理組合に対する業務については、緊急時には定められた業務を行えない場合もあること、管理員の安全を確保する必要もあるので、マンションのライフラインを維持するための必要最小限の業務に絞る(勤務時間を短縮する)場合もあることなども、管理組合に対して事前に協議しておくようにといった方針を打ち出している。

また、政府の「緊急事態宣言」により交通の遮断が発令された場合は、管理会社の社員なども動けなくなるので、マンションのライフライン維持の対応について事前に管理組合と協議しておくように促している。

たしかにうちのマンションでも、緊急事態宣言で交通が遮断されたら、誰もマンションまで来られないので、各戸でゴミ出しをするようにといった書面が管理会社から来ていた。

新型コロナウイルスの感染予防策は?

次に、感染予防策について考えてみよう。感染予防対策の原則は、各家庭において手洗いなどの予防対策をしっかり行ってもらうことだ。そのうえで、密閉空間の換気の問題や共用で使用する部分の消毒などの対策が考えられる。

うちのマンションは小規模なので、理事会から管理会社に、エレベーターの換気扇を稼働させること、エントランス扉の取っ手やエレベーターの操作盤を乾拭きではなく消毒液(消毒液は備蓄していないので次亜塩素酸水)で拭くことを依頼した。

ほかのマンションはどうしているのだろう?マンション管理組合の理事長や防災委員などの経験者でつくる情報交換を目的としたネットワークに話を聞いた。規模が大きいマンションでは、集会室などの共用施設もあるので、そうした施設の閉鎖なども行っていた。

また、いくつかのマンションでは、エントランスなどに消毒液を用意したり、感染予防に関する情報を掲示版などに掲示したりしていた。掲示する情報は、日々状況が変わるので頻繁にアップデートしたり、「新型コロナウイルス詐欺への注意喚起」「テイクアウトをしているご近所のショップ」などの情報まで提供しているマンションもあった。

このようにスピーディに予防対策に動けているマンションは、平時から防災委員会などが活発に稼働している傾向があるように感じた。なかには、大型台風で被災した経験から、備蓄した消毒液が今回活用できたという事例もあった。日ごろから緊急時の体制が整っているかどうかが、大きなカギになるのだろう。

マンション内で新型コロナウイルスの感染者が発生したときどうする?

うちのマンションでは、実は「感染者が発生したとき」の対応策については、まったく考えていなかった。そうしたときに頼りにする管理会社は、どんな対応をしてくれるのだろう?マンション管理業協会に聞いた。

まず、感染が判明した段階で当人は病院に入院したり宿泊療養施設に移ったりしてマンションにはいないことや、管理組合や管理会社への報告義務もないので、状況を把握することは難しい。その後の保健所からの指導に従うことになるという。消毒を指示されたら、保健所の助言を得て消毒事業者を手配するといったことが考えられる。

この際に最も注意したいのは、プライバシーの保護だという。マンション内で感染者探しが始まったり、バッシングが起きたりといったことにならないように、個人情報を保護することが大切。理事がうっかり部屋番号を言ってしまう、ということはあってはならない。うちのマンションも、理事会で心構えだけでもしておきたいものだ。

さて、ネットワークで話を聞いたなかに、かなり先進的に事前準備をしているマンションがあった。「パークシティ溝の口」がその事例だが、どういった準備をしているのかを紹介しよう。

しかしその前に、このマンションの特殊性について触れる必要がある。「数戸数1000戸超の大規模マンションで、管理組合と自治会が並行して活動していること」、「築年数が経過しているため、高齢者が多いこと」といった特殊性を前提に見てほしい。

出典:全戸に配布された「コロナ対策のしおり」(パークシティ溝の口)

出典:全戸に配布された「コロナ対策のしおり」(パークシティ溝の口)

このマンションでは、緊急事態宣言の発令を受けて、
・対策本部の立ち上げ
・注意事項等の掲示
・手指洗浄液、消毒液設置
などを行った。
さらに、感染者が発生した場合、
・本人または家族に感染したことの連絡を要請
・感染者が発生したことを居住者に通知
・共用部の消毒のための事業者の手配
・感染者・濃厚接触家族への生活支援
などの準備をしており、担当表(管理組合・自治会・管理会社)の作成などもしているところだ。

感染したことを管理組合に知らせる義務はないが、単身や夫婦のみの高齢者も多いことから、自宅待機の場合に食料品や日用品を各戸の玄関まで届けたいと考えており、そのために本人や家族から連絡をもらって、居住者による支援体制を整えようしている。そのために、本人の同意を得て自宅待機者を把握しておくという考え方だ。

また、消毒事業者がオーバーフローして、保健所から紹介された事業者がすぐには消毒作業を行えない場合も多い。そのため事前に、依頼できる消毒事業者を管理会社と一緒に探しているという。

ここで課題になるのは、分譲マンションに賃貸で住んでいる居住者だ。管理組合は、区分所有者で組織し運営するものなので、賃借人には及ばない。このマンションでは、管理組合(組合員=区分所有者を対象)と自治会(自治会員=居住者を対象)が連携しているので、賃借人も対象として一律の対応ができるのだ。

ここまでできるマンションはまれだと思うが、どういったことが起きるのか、事前に準備できることはないか、などを感染者が発生する前に考えておくことは大切なことだ。

年に一度の管理組合の総会はどうする?

さて、マンションの管理組合の総会が開催されるのは、例年5月が最も多いという。総会と言えば、大きな会議室に大勢が集まることになり、まさに3密状態になる。そのため、今年は総会を開催するかどうかが一つの問題になっている。

区分所有法で「管理者(理事長)は、少なくとも毎年一回集会を招集しなければならない」と定められている。マンションの管理規約に「理事長は、通常総会を毎年1回新会計年度開始以後2カ月以内に招集しなければならない」(標準管理規約第42条第3項)といった規定を置く管理組合も多い。

そこで(公財)マンション管理センターでは、「新型コロナウイルス感染拡大における通常総会開催に関する Q&A」を提示している。

通常総会の開催については、法務省が「今般の新型コロナウイルス感染症に関連し、前年の集会の開催から1年以内に区分所有法上の集会の開催をすることができない状況が生じた場合には、その状況が解消された後、本年中に集会を招集し、集会において必要な報告をすれば足りる」という見解を示している。つまりいったん延期して、収束してから総会を開催してもよいということだ。

ただし、すでに総会を延期したものの延期日に開催できる状況ではない、というマンションも出ている。マンション管理センターのQ&Aでは、通常総会を延期した場合の手続きや注意点に加え、総会会場に来場することなく、議決権行使書または委任状により、議決権を行使してもらうことを勧める方法も推奨している。

ちなみにうちのマンションでは、できる限り書面による議決権行使をするようお願いし、総会を開催することとした。

朝のテレビ番組で、実際にマンションで感染者が発生した事例を取り上げていた。消毒作業について、管理会社は作業をしないし、費用も負担しないといったコメントがあったが、管理会社が何でもやってくれるわけではない。

管理組合と管理会社は「管理業務委託契約」を交わし、それに基づいて管理業務を行っている。感染症対策などは、通常の管理業務の範囲を超えたものになるので、それぞれのマンションで管理会社がどこまで担当してくれるのか、費用負担はどう考えたらよいかを事前に協議しておく必要がある。

だからこそ、あらかじめ感染症対策について、管理組合と管理会社の対応範囲を決めておき、必要な準備をしておくことが大切になるのだ。さて皆さんのマンションは、どうされていますか。

新型コロナウイルスによる不動産市場の動向は?

新型コロナウイルスによる緊急事態宣言の範囲が7都府県から全国に拡大されました。さまざまな業界が自粛の影響を受け大変な状況になっていますが、今後、不動産市場にはどのような影響が出てくると考えられるでしょうか。さくら事務所会長の長嶋氏に伺いました。
分野別にみる、今後の不動産状況

新型コロナウイルスはあっという間に世界中を席捲。人の流れも経済も大きく滞り、2万4000円水準だった日経平均株価は大幅下落。各種経済指標は急速に悪化しています。政府による緊急事態宣言の影響でとりわけ東京・大阪など主要都市は人通りも少なく、不動産取引にも大きな影響を及ぼしそうです。分野別にその状況を検証するとともに、今後の見通しを占ってみましょう。

●新築マンション
新型コロナウイルスが日本に上陸して以降、新築マンションモデルルームへの来場者は大幅に減少。来場者数は半減どころか80~90%減といったところが続出しました。当初は来場者同士の感染を避けるために時間を区切って案内するといった対応をとるところが多かったのですが、現在では多くのモデルルームが閉鎖に追い込まれています。東京オリンピック・パラリンピックの選手村跡地の新築マンション「晴海フラッグ」も販売を延期、電話による問い合わせすら休止しています。こうなると当然発売戸数は減り、成約数も大きく滞ることになります。

2008年のリーマン・ショック時にはやはり取引急減。中小マンションデベロッパーによる20~30%ディスカウントの投げ売りが出て、それでも持ちこたえることができず多くのデベロッパーが破綻しました。さらに2011年には東日本大震災が発生、他先進国が株式市場や不動産市場を回復させていく中で再び足踏みを余儀なくされることとなります。局面が転換したのは2012年末の、民主党から自民党への政権交代。以降「アベノミクス」「黒田バズーカ」といった金融・財政政策で株価は7000~8000円台から急転換、不動産市場も大きな上昇局面を迎えました。

今回はリーマン・ショックのように金融システムが破綻したわけではなく、株価が半減したわけでもありません。またリーマン以前と大きく異なるのは、市場の「大手寡占化」が進んでいることです。かつて「メジャーセブン」と呼ばれる大手マンションデベロッパーの市場占有率は25~30%、言い換えれば大半は中小デベロッパーによるものであり、市場が急変すると多くの投げ売りが出て市場は混乱、崩壊しましたが、今回はそのようなことが起こる可能性は低いでしょう。もちろん多数の在庫を抱え続けるのは大手マンションデベロッパーにとっても重荷となるため、局地的に値引き販売は起きるはずで、価格下落圧力は大いにあります。

●中古マンション
2008年のリーマン・ショック後、数カ月~半年程度で回復に向かったのが中古マンション市場。新築マンションの発売が滞る中で中古マンション市場に流れる向きが増えました。また中古マンション売主はそのほとんどが事業者ではなく個人であるため、市場が上向きであっても下向きであっても転勤や子どもの学校の都合など、各家庭や個人の内部要因によって一定の取引は発生します。とりわけ東京都心7区(千代田・港・中央・新宿・渋谷・目黒・品川区)あたりの中古マンション成約平米単価は日経平均株価の推移と見事に連動しており、相場としては最も分かりやすいものです。現行の都心中古マンション成約平米単価は日経平均株価と同様、2万4000円程度であり、仮に今後も日経平均株価が1万9000円程度で推移するなら、都心中古マンション成約単価は15~20%マイナスで推移するでしょう。

「日経平均株価」 と 「都心3区中古マンション成約平米単価」

東京都心以外のマンションはどうでしょうか。東京の都心以外や神奈川・埼玉・千葉といった地域では、アベノミクスによる価格上昇は20~30%と、都心部が70%程度上昇したのに比べれば限りなく限定的。現行程度の株価ではやや下落するといった程度にとどまるはずです。

首都圏中古マンション平米単価の推移

ただし10年前と現在で大きく異なるのは「より駅近を望む傾向が高まったこと」。自動車保有比率の圧倒的な低下や共働き世帯の増加で、通勤をはじめ買い物や病院といった日常生活における利便性の追求が進行していることです。

新型コロナによって働き方に変化が生じ「リモートワーク」(在宅勤務)の比率が高まるとしても、通勤が完全にゼロになることはありません。また通勤以外の日常における生活利便性を考慮すれば、駅近を志向する傾向は今後も変わらないでしょう。

「自動運転が普及すれば必ずしも駅近である必要はなくなる」といった意見もあります。それは個人としてはもちろんその通りなのですが、そうなると今度は自治体の経営が立ち行かなくなります。上下水道や道路の修繕や、ゴミ収集・除雪をはじめとする行政サービス効率を考えればどうしても駅前や駅近といった立地を中心に街をコンパクトにせざるを得ないのです。「都心や駅近を離れ、地方や駅から遠いところに移動する」といった動きは一定程度起こりそうですが、それは限りなく限定的で、市場に大きな変化は与えないはずです。

新型コロナウイルスの蔓延が止まらない、変種やさらなる新種が発生し、人が集まること自体がリスクであるといった状況になればまた異なるシナリオは考えられます。

●新築・中古一戸建て
最も影響を受けにくいのが一戸建て市場です。というのも、アベノミクス以降も価格動向にさしたる変化はないからです。とはいえどんな市場も、景気後退が長引けば、あるいはコロナ騒動が長引けば、販売動向や価格動向に一定の影響が出るのは避けられません。

不動産価格指数(住宅 / 南関東)

不動産市場について、何より気になるのが「金利動向」。現在の住宅市場は多分に低金利に支えられており、金利が上昇するほど取引はしぼみます。日銀の現行政策が続く限り、金利が大きく上昇する可能性は低いはずです。

以上、住宅市場についてざっと概観してきましたが、結局すべては今後の新型コロナ騒動が、いつ、どの程度で終息するかにかかっています。比較的短期で終息するなら、たまっていた需要が吹き返す展開となり、長期化するようならじわじわと下落する局面となるでしょう。

とはいえ、株式投資などと異なり、住宅は「上がっているから買わない」「下がっているから買う」といった性質のものではありません。首尾よく住まいをサーフィンするような動きは、この市場においては限定的です。市場動向に大きく左右されるより、あくまで自身や家族の生活イベントに合わせて売る、支払いに無理がなければ買う、といったスタンスでよいのではないでしょうか。

外出自粛でテントのニーズ急増中!?快適な在宅生活のための知恵をプロに聞いた!

学校や幼稚園・保育園が休みになり、子どものめんどうを見ながらのテレワーク。1日3回の食事の準備と後片付け、片付かない部屋と、気持ちがめいっていませんか(筆者のことです)。そんななか、家でもお出かけ気分が味わえると、テントやアウトドア用品が売れているといいます。わが家も子ども用テントが出しっぱなしですが、どう活用するとよいのでしょうか。スウェーデン発の家具量販店「イケア」と登山・アウトドアショップ「好日山荘」に聞いてみました。
わが家を楽しく快適に! お手軽アウトドアで気分を変えよう

外出自粛が呼びかけられて早2カ月。今、キャンプ用のテントやアウトドアグッズがじわじわと売れているといいます。アウトドア用品店の好日山荘の広報担当の菰下さんによると、「ネットショップが中心ですが、登山用品全般、初心者向けアウトドアグッズは例年通りに売れています」。外出も登山もできない現在の状況を考えると、一見、使い道がないように思えますが、そのアウトドアグッズやテント、どのように使っているのでしょうか。

菰下さんによると「テレワーク部屋として集中したい時」「子どもの昼寝用」というではありませんか。なるほど、今ならではの使い方ですね! ちなみにテントは、部屋の大きさに合っていて、テント内の高さのあるものが使いやすくおすすめとのこと。子どものお昼寝であれば、ポップアップテントでも十分かもしれません。さっそくわが家でもチャレンジしたところ、子どもたちが大はしゃぎ。「今日、何して遊ぼうかな」という方にぜひおすすめしたい使い方です。

(写真撮影/嘉屋恭子)

(写真撮影/嘉屋恭子)

子どもの声が周囲に響かないよう、注意しつつ、自宅ベランダにテントを設置したところ。生活感のある写真で恐縮ですが、子どもたちはテントが気に入り、出てきません。煮込んだカレーを持ち込み、食べるだけで大満足です(写真撮影/嘉屋恭子)

子どもの声が周囲に響かないよう、注意しつつ、自宅ベランダにテントを設置したところ。生活感のある写真で恐縮ですが、子どもたちはテントが気に入り、出てきません。煮込んだカレーを持ち込み、食べるだけで大満足です(写真撮影/嘉屋恭子)

夜になると明かりをともして、キャンプらしい雰囲気に。息子はテントのなかで寝袋にくるまって一晩、眠りました(写真撮影/嘉屋恭子)

夜になると明かりをともして、キャンプらしい雰囲気に。息子はテントのなかで寝袋にくるまって一晩、眠りました(写真撮影/嘉屋恭子)

アウトドア用品だけでなく、イケアでも屋内用のテントは好調だといいます。
「現在、好評いただいているのが、(1)テレワーク用アイテム、(2)子ども向けテントやマット、(3)収納用品です。特にお手軽・簡単に取り入れられるアイデア、それを実現できる機能的でスタイリッシュな商品が人気です」(イケア広報)

対象年齢:18カ月以上(イケア・ジャパン)

対象年齢:18カ月以上
イケア・ジャパン

わが家にあるのは、かなり前のイケアの子ども用テントですが、確かに子どもが大好きなスペースです。カラーボールを入れて、なんちゃってボールプール風にするのが定番の楽しみ方。一人が楽しく遊んでいると、もうひとりが違う遊び方がしたいとケンカがはじまるという黄金コースではありますが……。

イケアのだいぶ前の子ども用テント。子ども部屋に出しているので、子どもたちが思い思い、遊んでいます(写真撮影/嘉屋恭子)

イケアのだいぶ前の子ども用テント。子ども部屋に出しているので、子どもたちが思い思い、遊んでいます(写真撮影/嘉屋恭子)

イケアおすすめ! 家にいながら「外を感じる」工夫

また、イケアでは家のなかでも外を感じる場所として、「ベランダ」「バルコニー」の活用を提案しています。

「日本では、ベランダは洗濯物を干す場所、植物を育てる場所になっていますが、アイデア次第で『セカンドリビング』になります。食事やコーヒーを飲んだり、仕事をしたり、読書やゲームをしたり、屋内とは少し違う雰囲気で、楽しく快適な時間を屋外で過ごしていただければと思います」(イケア広報)

イケア・ジャパン

イケア・ジャパン

イケアが提案しているのは、フロアタイルや屋外用ラグなどを敷いて椅子を置く、オープンカフェのようなスタイル。さらにクッションやひざ掛けなどのテキスタイル、照明やキャンドル、ランタンなどを活用することで、よりロマンチックな空間に演出できるとのこと。

欧米、特に家で長い冬をすごす北欧の人たちは、家でリフレッシュをするのがすごく上手な印象です。照明やファブリックに手を加えて、模様替えをすることでマンネリ化を防ぎ、今の自分の気分に合うよう、家の居心地をよくなるようアップデートするとともに、ストレスを解消しているのでしょう。これは、在宅時間が増える今こそ、見習いたい知恵なのですね。

またイケアでは、「空気清浄カーテン」という機能性カーテンが登場しています。なんでも自然光のエネルギーを利用して、室内の空気を浄化する鉱物ベースの処理を施しているそう。日本ではカーテンも引越しなどがないとあまり買い替えない印象ですが、窓まわりがかわると気分も変わるもの。この機会に一新してみると部屋の空気も気分も変わるかもしれません。

イケア・ジャパン

イケア・ジャパン

ランタンや寝袋などで「ちょいアウトドア気分」がおすすめ

一方、好日山荘のホームページでは、家でアウトドアグッズを使って楽しむ写真をシェアする「OUTiDOOR(おうちドア)グランプリ」という取り組みがされています(4/17~5/10)。家にいながらにしてアウトドアを取り入れることで、「非日常感」が楽しめるとのこと。

例えば、寝袋(顔だけ出して寝るタイプ)で、リビングで眠ってみる、またガスなどを使ったランタンを灯してみるなど。家にいながらにして、いつもと違う場所やことをしてみることで、違った風景が見えてくるそうです。

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好日山荘

好日山荘

また、ナイフ類を使ってみたり、山ごはんをつくってみたりすると、普通の家事とは違った心持ちで取り組めるとのこと。山ごはんは調理器具と食器を兼用できるので、洗い物もラク(これは重要)ですし、家族のコミュニケーションになるといいます。ランタンもバーナーも同じく換気には要注意ですし、小さなお子さんがいると難しいかもしれませんが、火を使ったごはんやぬくもりを感じる優しい灯りってやっぱりときめきますよね。

ほかにも、今やおしゃれインテリアとしてファンが多い「ハンモック」を設置したり、カセットコンロで燻製・干物をつくったりという楽しみ方もよいとか。確かにこの2つはこれからの季節的にもぴったりですよね。燻製はフライパンでもできますし、手軽~本格派までいろいろなタイプがあって個人的にも大好きです(ただし酒量が増えるので要注意)。

こうしてみると、家での過ごし方は、まだまだ工夫できそうですね。この度の「おうちにいましょうウィーク」、ランタンひとつ、寝袋で眠る「ちょいアウトドア」にチャレンジしてみたいと思います。

●取材協力
好日山荘
イケア・ジャパン

若宮正子さん「これからの高齢者に必要なのは“デジタル”」。日本人の意識に課題も

81歳でシニア向けのアプリ「hinadan」を開発して以来、国内外からデジタル世界におけるシニアの代弁者として注目されているICTエバンジェリストの若宮正子さん(85歳)。世界に先駆けて超高齢化社会を迎える日本は、PCやスマホに限らず、AIスピーカーをはじめとしたデジタル機器を導入することで、シニアの生活は目覚しく快適になるはずだと語る。情報管理の重要性とデジタル機器への期待について、話を聞いた。
自己情報の管理に疎い日本人。ITリテラシーの前に、意識改革を

昨年、世界で最も電子政府が整っていると言われる国、エストニアを訪れたという若宮さん。エストニア訪問で一番感じたのは「国民も、国家も、個人の情報をとても大切にしていることでした」と話す。例えば、日本人は自分の健康情報を正確に把握していない人が多い。一方エストニアでは、個人の健康に関する総合的なデータベースの中に、健康保険の情報と一緒にかかりつけ医の診断情報(カルテ)が共有されており、ワクチンの摂取情報や、薬の処方内容など全てを自分で確認することができるうえ、管理もできるという。

この重要性が顕著に現れたのが、今年1月に日本で起きたダイヤモンド・プリンセス号における集団船内隔離。世界中の人が乗り合わせた現場で、予定より長期的な滞在を余儀なくされたシニアの中には、持ち合わせの持病の薬が不足する事態に見舞われた人もいたらしい。そんな時、多くの外国人たちは、自分が処方されている薬の種類や量を的確に把握しており、必要な薬を医師に伝えることができたため、すぐに処方箋を用意してもらえたとのこと。一方、日本のシニアは薬の色やその数を伝えることしかできず、自分がどんな薬をどれだけ飲んでいるか分からない人もいたという。ましてやかかりつけ医の連絡先さえ把握していない人もいたそうだ。

「エストニアのシニアたちに、パソコンの使い方はどうやって覚えたのですか?と聞いたら”By Myself(独学で)”と答える人が多かったことに驚きました」と若宮さん。ご自身も、スマホもなんとなく触り始めたら、だんだん使い方が分かるようになったのだそう(写真撮影/片山貴博)

「エストニアのシニアたちに、パソコンの使い方はどうやって覚えたのですか?と聞いたら”By Myself(独学で)”と答える人が多かったことに驚きました」と若宮さん。ご自身も、スマホもなんとなく触り始めたら、だんだん使い方が分かるようになったのだそう(写真撮影/片山貴博)

若宮さんは、「私は海外へ一人で旅行に行くことも多いので、スマートフォンに処方箋とかかりつけ医の診察券を画像で保存して、常備薬については英語で何と説明するかのメモもスマホに保存しています」と準備に余念がない。「日本にはエストニアのような健康に関する総合的なデータベースがあるわけではないので、一人ひとりがしっかりと情報を管理しておかねばならないはずなんです。なのに、“他人任せ”という人が多いのが非常に残念です」と若宮さん。これはパソコンやスマートフォンの操作ができるかという以前の問題で、「自分の情報は自分で管理しなくてはいけないから、そのためにデジタル機器を使う、という意識を持つことがまず大切だと痛感しました」と続ける。

行政業務を電子化するには、全国民のITリテラシーが平均的に高い状態でなくては成り立たない。これに対し「シニアの協力なしには実現できない」という話を、金融庁主催のイベントで海外から参加したパネラーから聞かされたという若宮さん。若宮さんがある企業と行った調査では、エストニアで100名のシニア(60歳以上)に聞いたろころ、84人がすでに電子政府サービスを使っていると結果が出た。そこから学んだことは、政府と民間企業が協力し、シニアをはじめとした非デジタルネイティブユーザーでも使いやすい目線で構築されたシステムを用いて、統一された操作手順を持つことの重要性だという。

自身が開発したシニア向けゲームアプリ「hinadan」を操作する若宮さん(写真撮影/片山貴博)

自身が開発したシニア向けゲームアプリ「hinadan」を操作する若宮さん(写真撮影/片山貴博)

シニアの未来で期待を寄せるのはAIスピーカー機器

「将来的にシニアにとって期待が持てるのはAIスピーカー関連のデジタル機器です」と若宮さん。スピーカーそのものの性能に期待しているのではなく、いかに家電や家庭内の機器と同調させることができるかがカギになると話す。特に高齢者の一人住まいや、老老介護家庭など、デジタルを使った自立支援が役立つ場面があるのに、そういう家庭に限ってネット環境がないことでデジタル導入が進んでいない事例が多いことを指摘する。

「パソコンも、スマートフォンも、多少なりとも操作手順を覚えてからでないと使えませんが、AIスピーカーの魅力は、その導入へのハードルが低い点」と語る。スピーカーと会話をするだけで、家電を動かしたり、調べ物が簡単にできるからだ。「テレビをつけて」と言う代わりに、「テレビをオンにして」や「テレビが見たい」と言った言い方に変えても、今のAIスピーカーはほぼ対応可能なレベルだ。また事前登録さえしておけば「テレビさつけてけろ」といった方言でさえ、対応可能になるところまで進化している。

日常的にAIスピーカーを愛用しているという若宮さんは、出張前に天気を確認したり、台所で料理に必要な情報を得たりするなど、両手が塞がっていても、瞬時に情報検索できるという便利さを実感しているという。「スマートフォンでさえ、立ち上げて検索するまでに1分ほどはかかりますが、AIスピーカーを使えば、一瞬。AIスピーカーこそ、シニアにぴったりのデジタル機器です」と話す。

表計算ソフトEXCELを使ったエクセルアートは、若宮さんが「シニアがパソコンやテクノロジーに親しむきっかけになれば」と考案したもの。この日の服は、自身の作品をプリントしたオーダーメイド品(写真撮影/片山貴博)

表計算ソフトEXCELを使ったエクセルアートは、若宮さんが「シニアがパソコンやテクノロジーに親しむきっかけになれば」と考案したもの。この日の服は、自身の作品をプリントしたオーダーメイド品(写真撮影/片山貴博)

シニアがデジタルに親しむためには? 自治体も支援を

総務省統計局によると、年齢階層別インターネット利用状況は13~60歳はほぼ100%に近いのに対して、61歳以上になると70%程度に減り、70代になると47%、80代になると20%に減少する(「2020年国勢調査 インターネット回答の促進に向けた検討状況」より)。こうした状況に対して、自治体などが積極的にネット環境を整備すると同時に、AIスピーカーの設置と、それらを家電と繋ぐセッティングを行う「お助けマン(支援員)」の必要性を若宮さんは提案している。地域包括センターのような場所がハブとなってそれらを普及させていくことで、シニアのデジタル化を前進させることができるのではないかということだ。

一方シニアに対しては、若宮さんは「細かい操作を丁寧に覚えようとするよりも、全体像をもっと把握することに努めた方がいいのでは」と提案する。LINEの操作をひとつずつ一生懸命覚えることではなく、まず適当に操作をしてみる。そしてやり方を体感することで、デジタル機器に慣れることを勧めたいと話す。「重箱の隅をつつくような学び方ではなく、コンピューターとは何かといった全体像を掴む考え方を持っていることが必要だと思います」と投げかける。また「『もう歳だから……』と言ってしまわずに、無理のない範囲で触ってみるのが一番」と続ける。

そんなシニアたちがデジタルへの一歩を踏み出すきっかけになっているのは、“孫のような愛おしい存在”と話す若宮さん。実際、孫の写真を見たい、孫と話したいという欲求が、シニアたちのデジタル化に一役買っているのは事実だろう。

「エクセルアート」でつくった作品の数々。若宮さんは「シニアは手芸などのとっつきやすいものから、コンピューターの存在に親しむのがいいのではないか」と話す(写真撮影/片山貴博)

「エクセルアート」でつくった作品の数々。若宮さんは「シニアは手芸などのとっつきやすいものから、コンピューターの存在に親しむのがいいのではないか」と話す(写真撮影/片山貴博)

「私が“にわか有名人”になって以来、それまでの10倍は仕事をこなしているんですよ」と終始笑顔で話す若宮さんからは、聞くとやりたいことが次々とあふれ出る。昨今のコロナウイルス騒動で、若宮さんの主催イベントも中止を余儀なくされたというが、オンライン配信に切り替えた結果、視聴者は会場のキャパシティを超える1000人以上にも増えたそうだ。また今後は自宅から動画配信ができるように、必要な機材を準備していると話す若宮さん。急な出来事にしなやかに対応する様は、実に若々しい。「ちょうど気軽に動画配信をしたかったので、良い機会」と話す若宮さんは、持ち前のポジティブな姿勢で、まさにピンチをチャンスに変えている。これからの活躍も楽しみだ。

『老いてこそデジタルを。』(1万年堂出版 刊)●取材協力
若宮正子さん
昭和10年、東京都生まれ。東京教育大学附属高等学校(現・筑波大学附属高等学校)卒業後、三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)に入社。定年をきっかけにパソコンを購入し、楽しさにのめり込む。シニアにパソコンを教えているうちに、エクセルと手芸を融合した「エクセルアート」を思いつく。その後もiPhoneアプリの開発をはじめ、デジタルクリエーター、ICTエバンジェリストとして世界で活躍する。シニア向けサイト「メロウ倶楽部」副会長。NPO法人ブロードバンドスクール協会理事。熱中小学校教諭。
『老いてこそデジタルを。』(1万年堂出版 刊)