料理家のキッチンと朝ごはん[2]後編 オープン収納をセンスよく見せるポイント5つ

世界各地を旅する料理家、口尾麻美さんに、前回はトルコ風の朝ごはんのつくり方を教えていただきました。イスタンブールのバザールのような、パリのアパルトマンのような、ひと言で「●●風」と言いきれない、多国籍なムードが素敵な口尾家で、今回はご自宅のインテリアについて伺います。【連載】料理家のキッチンと朝ごはん
料理研究家やフードコーディネーターといった料理のプロは、どんなキッチンで、どんな朝ごはんをつくって食べているのでしょうか? かれらが朝ごはんをつくる様子を拝見しながら、おいしいレシピを生み出すプロならではのキッチン収納の秘密を、片づけのプロ、ライフオーガナイザーが探ります。さまざまなものがセンスよくディスプレイされた多国籍インテリア

旅先で気に入ったものをあれこれ持ち帰っているうちに、多国籍ミックスのインテリアにたどり着いたという口尾さん。たくさんのものが目につく場所に並べられているのに、不思議と統一感があるのは、口尾さんの審美眼を通して厳選されたものだけが、研ぎ澄まされたセンスでコーディネートされているから。

(写真撮影/嶋崎征弘)

(写真撮影/嶋崎征弘)

「最初はパリのインテリアを参考にしていたのですが、あちこち旅していろんなものを持ち帰っているうちに、ひと言で●●風と言いきれないミックス・スタイルにたどり着きました」と笑う口尾さん(写真撮影/嶋崎征弘)

「最初はパリのインテリアを参考にしていたのですが、あちこち旅していろんなものを持ち帰っているうちに、ひと言で●●風と言いきれないミックス・スタイルにたどり着きました」と笑う口尾さん(写真撮影/嶋崎征弘)

正直なところ、口尾家のように「さまざまなものを見せながら、統一感を出す」「多くのものを持ちながら、センスよく見せる」のは、インテリア的にかなり難易度が高いです。誰もが気軽に再現できるものではないけれど、やっぱりオープン収納っておしゃれ。ミックス・スタイルってかわいい。ちょっとでも自宅に取り入れてみたい。

……ということで今回は、インテリア初心者さんでも真似できそうな口尾スタイルを、ピンポイントでお教えいただきました。

ポイント1、トレーやカゴに、同じ種類のものをまとめてみる

数が多くて小さなものを出しっぱなしにすると、「単に雑多」な雰囲気になってしまいますよね。そんなときは、トレーやカゴに同じ種類のものをまとめると、ひとつの大きなもののように見せられるため、細々した印象を払拭できます。口尾家でも、たくさんのトレーやカゴが使われていましたよ。

モロッコで買い集めたという小さなミントティーグラスは、色も形も少しずつ違います。口尾さんは、大きなハンドル付きトレーにグラスをまとめて、窓辺のベンチに置いていました。日が当たるとキラキラ光ってきれい(写真撮影/嶋崎征弘)

モロッコで買い集めたという小さなミントティーグラスは、色も形も少しずつ違います。口尾さんは、大きなハンドル付きトレーにグラスをまとめて、窓辺のベンチに置いていました。日が当たるとキラキラ光ってきれい(写真撮影/嶋崎征弘)

ご自宅で開催する料理教室の生徒さんが使うグラスは、トレーにまとめてリビングのシェルフに(写真撮影/嶋崎征弘)

ご自宅で開催する料理教室の生徒さんが使うグラスは、トレーにまとめてリビングのシェルフに(写真撮影/嶋崎征弘)

常温保存の食材もカゴや器にまとめると、お店のディスプレイのように素敵に。よく見ると卵のカゴに親鳥プレートが!(写真撮影/嶋崎征弘)

常温保存の食材もカゴや器にまとめると、お店のディスプレイのように素敵に。よく見ると卵のカゴに親鳥プレートが!(写真撮影/嶋崎征弘)

ポイント2、よく似た色や素材のものを、1カ所に集めてみる

異なる素材や形のものをあちこちに点在させると、やっぱり「単に雑多」なイメージになってしまいます。けれども、よく似た素材や形のものを1カ所に集めてみると、自然と統一感が生まれるから不思議です。重ねる、立てる、並べるなど、口尾家ではさまざまな方法でよく似たものがまとめられていました。

自然素材のカゴや盆ざる、トレーなどはトースターの上に重ねて収納(写真撮影/嶋崎征弘)

自然素材のカゴやざる盆、トレーなどはトースターの上に重ねて収納(写真撮影/嶋崎征弘)

もともとあった窓と、リフォームで取り付けた内窓の間を収納スペースに見立て、普段使っていないガラス製の保存容器やグラスをディスプレイしながら保管(写真撮影/嶋崎征弘)

もともとあった窓と、リフォームで取り付けた内窓の間を収納スペースに見立て、普段使っていないガラス製の保存容器やグラスをディスプレイしながら保管(写真撮影/嶋崎征弘)

ポイント3、フックにかけてみる。カゴに入れて吊るしてみる

片づけに関する本や雑誌で「かける収納」「吊るす収納」を、よく見かけます。浮かせておけば、その下の掃除がラクだし、しまい込まないから出し入れしやすい一方で、何でもかんでもぶら下げると生活感が溢れ出てしまうのが難点。これをおしゃれに見せる高度なテクニックが、口尾家では駆使されていました。

複数のアイテムをかけるときは「ポイント2、よく似た素材や形のものを、1カ所に集めてみる」と、見た目がうるさくなりません。中が透けて見えるメッシュバッグに収めるものも、素材や形をそろえるとすっきり見えます(写真撮影/嶋崎征弘)

複数のアイテムをかけるときは「ポイント2、よく似た素材や形のものを、1カ所に集めてみる」と、見た目がうるさくなりません。中が透けて見えるメッシュバッグに収めるものも、素材や形をそろえるとすっきり見えます(写真撮影/嶋崎征弘)

(左)ポットラックには、小鍋やキッチンバサミ、ストレーナーなどを収納。かけるものの高さをそろえているので、雑多な感じが抑えられています。(右)マグカップツリーには、マグだけでなくミルクピッチャーやコースターも(写真撮影/嶋崎征弘)

(左)ポットラックには、小鍋やキッチンバサミ、ストレーナーなどを収納。かけるものの高さをそろえているので、雑多な感じが抑えられています。(右)マグカップツリーには、マグだけでなくミルクピッチャーやコースターも(写真撮影/嶋崎征弘)

ポイント4、オープンシェルフはグルーピングを意識してみる

ものをディスプレイしながら収納できるオープンシェルフ……ですが、気づけばものと一緒に生活感まで陳列してしまっていること、ありませんか(わたしはあります)。ポイントは、ものをひとつずつ個別に見るのではなく、グループにして見ることのようです。

キッチンのシンク上に取り付けられた棚には、普段よく使う「Atelier 16-27」の食器を収納。色とりどりの器でも、つくり手が同じものだけを厳選して並べれば、ショップのように美しくディスプレイできます(写真撮影/嶋崎征弘)

キッチンのシンク上に取り付けられた棚には、普段よく使う「Atelier 16-27」の食器を収納。色とりどりの器でも、つくり手が同じものだけを厳選して並べれば、ショップのように美しくディスプレイできます(写真撮影/嶋崎征弘)

カトラリーは素材と高さをそろえ、グラスに立てて収納。雑多に見えてしまうときは、大きめのアイテムを近くに置けば目線を外らすことができます。口尾さんはデザインのかわいい鍋敷きをアイキャッチにしていました(写真撮影/嶋崎征弘)

カトラリーは素材と高さをそろえ、グラスに立てて収納。雑多に見えてしまうときは、大きめのアイテムを近くに置けば目線を外らすことができます。口尾さんはデザインのかわいい鍋敷きをアイキャッチにしていました(写真撮影/嶋崎征弘)

収めるものの素材やデザイン、色などをグルーピングしたうえで絶妙のバランスで配置した、口尾ワールド全開のシェルフ。「壁面に固定したシェルフは、地震による揺れが少ないのも利点です。以前、大きな地震があったときも、何も落下しませんでしたよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

収めるものの素材やデザイン、色などをグルーピングしたうえで絶妙のバランスで配置した、口尾ワールド全開のシェルフ。「壁面に固定したシェルフは、地震による揺れが少ないのも利点です。以前、大きな地震があったときも、何も落下しませんでしたよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

ポイント5、手づくりしたものをちょっとだけ飾ってみる

最後にご紹介するのは、ぶきっちょさんでも簡単に真似できる手づくりのアイデアです。口尾さんによると、「やりすぎるとクドくなるので、あまり前面に出さず、ちょっと控えめにディスプレイするのが大人っぽいインテリアにする秘訣」なのだとか。

コリアンダーやシナモンスティックといったスパイス類は、透明のガラスジャーに保存。かわいい紙片にスパイス名をスタンプして一緒に入れておけば、ラベリング代わりになるうえインテリアとしても素敵(写真撮影/嶋崎征弘)

コリアンダーやシナモンスティックといったスパイス類は、透明のガラスジャーに保存。かわいい紙片にスパイス名をスタンプして一緒に入れておけば、ラベリング代わりになるうえインテリアとしても素敵(写真撮影/嶋崎征弘)

赤レンズ豆を保存しているジャーには、スパイス名の紙片ではなく子豚のフィギュアを入れていた口尾さん。「ぱっと見ただけでは分からないけれど、よく見るといる……くらいの、さりげなさがポイントです(笑)」(写真撮影/嶋崎征弘)

赤レンズ豆を保存しているジャーには、スパイス名の紙片ではなく子豚のフィギュアを入れていた口尾さん。「ぱっと見ただけでは分からないけれど、よく見るといる……くらいの、さりげなさがポイントです(笑)」(写真撮影/嶋崎征弘)

ニットで編まれたスイートチョリソーと赤いネットのリヨナーソーセージのオブジェは、フランスのブランド「MAISON CISSON」のもの。「これを見て、自分でもつくれるかなと思ったんです」と口尾さん(写真撮影/嶋崎征弘)

ニットで編まれたスイートチョリソーと赤いネットのリヨナーソーセージのオブジェは、フランスのブランド「MAISON CISSON」のもの。「これを見て、自分でもつくれるかなと思ったんです」と口尾さん(写真撮影/嶋崎征弘)

「MAISON CISSON」からインスピレーションを受けた口尾さんによる作品。「リネンのクロスやカットしたソックスに詰め物をして、麻ヒモや調理ネットで結んだだけ」とのことですが、とってもかわいかった!(写真撮影/嶋崎征弘)

「MAISON CISSON」からインスピレーションを受けた口尾さんによる作品。「リネンのクロスやカットしたソックスに詰め物をして、麻ヒモや調理ネットで結んだだけ」とのことですが、とってもかわいかった!(写真撮影/嶋崎征弘)

カットしたモミの木をカゴにのせて吊るせば、部屋中がよい香りでいっぱいに。リースやスワッグをつくるより手軽にドライフラワーが楽しめます。ユーカリやラベンダー、ミモザなどを飾っても(写真撮影/嶋崎征弘)

カットしたモミの木をカゴにのせて吊るせば、部屋中がよい香りでいっぱいに。リースやスワッグをつくるより手軽にドライフラワーが楽しめます。ユーカリやラベンダー、ミモザなどを飾っても(写真撮影/嶋崎征弘)

今回、5つのポイントをご紹介しましたが、改めて「さまざまのものを見せながら、統一感を出す」「多くのものを持ちながら、センスよく見せる」のってむずかしい!と感じました。

食・住だけでなく、衣(ファッション)もすてきな口尾さん。ショートカットに映えるパープルのイヤリングは「Alexandre de Paris」のもの。「料理中はシンプルなスタイルのことが多いので、大振りのイヤリングで変化を楽しんでいます」(写真撮影/嶋崎征弘)

食・住だけでなく、衣(ファッション)もすてきな口尾さん。ショートカットに映えるパープルのイヤリングは「Alexandre de Paris」のもの。「料理中はシンプルなスタイルのことが多いので、大振りのイヤリングで変化を楽しんでいます」(写真撮影/嶋崎征弘)

口尾家のインテリアは、筋の通ったもの選びや、スタイリングのセンス、住まい全体を俯瞰するバランス力が備わっている口尾さんだからこそ実現できる世界観なのだと思います。なかなか自宅で再現できそうな気がしないのだけれど……再現できないからこそ憧れてしまう、大人のおもちゃ箱のように素敵な口尾家のインテリアなのでした。

>前編はこちら

●取材協力
口尾麻美さん HP
北海道生まれ。アパレル会社勤務後、イタリア料理店を経て料理研究家に。旅で出会った料理、食材、スパイス、道具、雑貨、ライフスタイルからインスピレーションを受けたレシピを提案。著書に『おはよう! アジアの朝ごはん: 台湾・ベトナム・韓国・香港の朝食事情と再現レシピ 』(誠文堂新光社)、『はじめまして 電鍋レシピ 台湾からきた万能電気釜でつくる おいしい料理と旅の話。』(グラフィック社)など多数。

料理家のキッチンと朝ごはん[2]前編 旅する気分で料理する。口尾麻美さんのトルコ風朝ごはん

トルコやリトアニア、ウズベキスタンなど、旅先でヒントを得たレシピを、書籍や雑誌、料理教室で提案する料理家、口尾麻美さん。訪れた国で少しずつ買い集めた色とりどりの雑貨が楽しげに並ぶキッチンで、朝ごはんについて伺いました。【連載】料理家のキッチンと朝ごはん
料理研究家やフードコーディネーターといった料理のプロは、どんなキッチンで、どんな朝ごはんをつくって食べているのでしょうか? かれらが朝ごはんをつくる様子を拝見しながら、おいしいレシピを生み出すプロならではのキッチン収納の秘密を、片づけのプロ、ライフオーガナイザーが探ります。旅する料理家、口尾さんに教わるトルコの朝の定番メニュー

東京都内のヴィンテージマンションにお住まいの口尾さん。17年前にフルリノベーションしたキッチンスタジオ兼ご自宅は、全面的に扉のないオープン収納が採用されています。

「料理しているときに扉を開け閉めするのって手間がかかりますよね。扉を汚さないよう、その都度、手を洗うのも大変。中に収納したものを覚えておくのも難しいですから、あえて扉を付けないことにしたんです」という口尾さん。

異国情緒あふれる小さなもの、かわいいもの、不思議なもの、カラフルなものが家中のあちこちにたくさん、けれども美しく、センスが溢れている口尾家(写真撮影/嶋崎征弘)

異国情緒あふれる小さなもの、かわいいもの、不思議なもの、カラフルなものが家中のあちこちにたくさん、けれども美しく、センスが溢れている口尾家(写真撮影/嶋崎征弘)

フルリノベーションする前とした後の間取り

フルリノベーションする前とした後の間取り

今回、口尾さんに教えていただくのは、赤レンズ豆のスープ「メルジメッキ・チョルバス」と、卵料理の「メネメン」です。「メルジメッキ・チョルバスはトルコの伝統的なスープのひとつ、メネメンはトルコ風のスクランブルエッグ。どちらもトルコの朝ごはんの定番メニューで、日本でいう味噌汁と卵焼きのようなイメージです」

ほんのり甘い赤レンズ豆のスープ「メルジメッキ・チョルバス」

用意するもの(3~4人分)
・赤レンズ豆 150g
・玉ねぎ 1/2個分
・サルチャ(トマトペースト。トルコの調味料) 大さじ1
・水 900ml~1L
・オリーブオイル 大さじ1
・塩 小さじ1~2

【仕上げ用】
・バター 大さじ1
・プルビベル(赤唐辛子フレーク。トルコの調味料) 小さじ1
・ドライミント 小さじ1
・レモン くし形切り2~3かけ

「ほのかな甘みがあってクセのないトルコの赤レンズ豆は、火の通りがよいから水で戻す必要はありません。手軽に使えるうえ栄養価も高いので、トルコでは庶民の味方なんですよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

「ほのかな甘みがあってクセのないトルコの赤レンズ豆は、火の通りがよいから水で戻す必要はありません。手軽に使えるうえ栄養価も高いので、トルコでは庶民の味方なんですよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

サルチャやプルビベルは、輸入食品を扱うスーパーやカルディなどで見つけられるそうです。「サルチャはトマトケチャップ、プルビベルはカイエンペッパーで代用できます。でも、できたら一度は本物を使ってみてほしい。異国の味が楽しめますから」

そう話しながら口尾さんは、壁面に取り付けたマグネット式ナイフラックから包丁をぱっと取り出しました。キッチンカウンターに置いている小さなまな板を引き寄せ、玉ねぎをみじん切りに。

口尾家のキッチンはL型。シンク上の造作棚には、スパイスや豆などの食材が入ったガラスの保存瓶が並べられています。シンク下のオープン棚には食器や液体調味料などが収納されていました(写真撮影/嶋崎征弘)

口尾家のキッチンはL型。シンク上の造作棚には、スパイスや豆などの食材が入ったガラスの保存瓶が並べられています。シンク下のオープン棚には食器や液体調味料などが収納されていました(写真撮影/嶋崎征弘)

L型キッチンの左手にぱっと移動してガスコンロに鍋をのせ、口尾さんはオリーブオイルの瓶を手にとりました。鍋にオリーブオイルを熱し、サルチャと玉ねぎを加えて炒めます。赤レンズ豆をさっと水で洗って鍋に入れ、全体を混ぜたら水を加え、蓋をして弱火で15分。その間に、メネメンをつくります!

トマトの酸味とチーズの塩気がクセになる卵料理「メネメン」

用意するもの(2~3人分)
・卵 3個
・トマト 1個
・玉ねぎ 1/3個
・ししとう 2本
・フェタチーズ 50g
・塩 お好みで
・オリーブオイル 大さじ2

「牛挽肉を入れることも多いのですが、今回は軽めの朝食にするため省きました。その分、今回のレシピではフェタチーズを多めにしています。苦手なら、ししとうはなくても大丈夫ですよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

「牛挽肉を入れることも多いのですが、今回は軽めの朝食にするため省きました。その分、今回のレシピではフェタチーズを多めにしています。苦手なら、ししとうはなくても大丈夫ですよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

メネメンをつくりはじめる際、L型キッチンからダイニングテーブルに作業スペースを移した口尾さん。「カセットコンロがあれば、家中どこででも料理できます。料理する場所をあちこち変えてみると、気分が変わって楽しいですよ」と話しながら、トマトは角切りに、玉ねぎはみじん切りに、ししとうは輪切りにカット。

最近は小さめのまな板が好きだという口尾さん。「以前は大きなまな板がブームだったのですが、今は小さめのまな板が使いやすいと感じます」。好みが変われば、調理道具もフレキシブルに変更(写真撮影/嶋崎征弘)

最近は小さめのまな板が好きだという口尾さん。「以前は大きなまな板がブームだったのですが、今は小さめのまな板が使いやすいと感じます」。好みが変われば、調理道具もフレキシブルに変更(写真撮影/嶋崎征弘)

トルコのメネメンは、小さなアルミ鍋でつくるのが一般的だそうです。「ガスコンロにかけたときに不安定なら、五徳に網を乗せるといいですよ」と話しながら、口尾さんは四角い焼き網を取り出しました。決してものが少なくない口尾家ですが、必要なときに必要なものがひょいっ!と出てくるのはさすがです。

「小さなフライパンでもいいけれど、こんな小さな鍋でつくるとままごとみたいでかわいいでしょう? 週末の朝ごはんにしたら、キャンプみたいで楽しいですよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

「小さなフライパンでもいいけれど、こんな小さな鍋でつくるとままごとみたいでかわいいでしょう? 週末の朝ごはんにしたら、キャンプみたいで楽しいですよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

鍋にオリーブオイルを熱し、カットした玉ねぎを入れて炒めます。玉ねぎがしんなりしたら、ししとうとトマトも入れて炒めます。トマトに火が通ったら、溶いた卵、ほぐしたフェタチーズの順にアルミ鍋へ。

口尾さんは、ダイニングテーブル脇に置いたカトラリースタンドからさっとスプーンを取り出して混ぜていました。小さな鍋なら、大きなヘラやスパチュラよりスプーンのほうが混ぜやすそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

口尾さんは、ダイニングテーブル脇に置いたカトラリースタンドからさっとスプーンを取り出して混ぜていました。小さな鍋なら、大きなヘラやスパチュラよりスプーンのほうが混ぜやすそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

軽くかき混ぜたら蓋をして火を止め、あとは余熱で火を通します。その間にメルジメッキ・チョルバスの仕上げです!

耐熱容器でつくるなら、鍋ごとトースターに入れてもOK。卵が半熟になるまで、様子を見ながら15分から20分くらい加熱すればよいそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

耐熱容器でつくるなら、鍋ごとトースターに入れてもOK。卵が半熟になるまで、様子を見ながら15分から20分くらい加熱すればよいそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

スープの仕上げは、香りバターとレモン汁をお好みで

煮込んでいた鍋の蓋を開けると、赤レンズ豆がホロリと煮くずれておいしそう。「豆や野菜の形が少し残ったままでもいいけれど、今回はハンディブレンダーでなめらかにします」

「メルジメッキ・チョルバスのつくり方は、家庭によってさまざまなんです。トルコの人はみなさん、自分にとっての“お袋の味”といえるメルジメッキ・チョルバスがあるようです」。そんなところも日本の味噌汁っぽい(写真撮影/嶋崎征弘)

「メルジメッキ・チョルバスのつくり方は、家庭によってさまざまなんです。トルコの人はみなさん、自分にとっての“お袋の味”といえるメルジメッキ・チョルバスがあるようです」。そんなところも日本の味噌汁っぽい(写真撮影/嶋崎征弘)

最後に、仕上げ用の香りバターをつくります。フライパンを熱してバターを溶かし、プルビベルとドライミントを加え、香りが立ったら火を止めます。

溶かしたバターにスパイスとハーブを加えると、ぶくぶくっと泡立ちます。「ドライミントはなければ使わなくてもいいのですが、入れると一気にトルコの本場の味に近づきますよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

溶かしたバターにスパイスとハーブを加えると、ぶくぶくっと泡立ちます。「ドライミントはなければ使わなくてもいいのですが、入れると一気にトルコの本場の味に近づきますよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

煮込んだ赤レンズ豆の鍋に香りバターを入れたら、メルジメッキ・チョルバスの完成です!

香りバターは、鍋に直接入れて味を整えてから器に注いでもいいし、スープを器に注いだ後で各自お好みで入れてもいいそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

香りバターは、鍋に直接入れて味を整えてから器に注いでもいいし、スープを器に注いだ後で各自お好みで入れてもいいそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

「メルジメッキ・チョルバスもメネメンも、どんな食材や調味料を使うかで、味がかなり変わります。料理の途中でも何度か味見をしながら、好みの味に仕上げてくださいね」

「はじめての食材に挑戦するときは、レシピを参考しつつ、ご自身の味覚で確かめながら微調整するのが、おいしく仕上げる秘訣です」と口尾さん(写真撮影/嶋崎征弘)

「はじめての食材に挑戦するときは、レシピを参考しつつ、ご自身の味覚で確かめながら微調整するのが、おいしく仕上げる秘訣です」と口尾さん(写真撮影/嶋崎征弘)

日本にいながら旅する気分が味わえるのが、異国料理の醍醐味

食卓には、ふっくらと火の通ったメネメンと、レモンを添えたメルジメッキ・チョルバス、トルコのごまパン「シミット」も並べて、「いただきまーす」

1日の食事のなかでも、特に朝ごはんを大事にするというトルコ人。カフェやレストランには必ずと言っていいほど「朝食」のメニューがあるそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

1日の食事のなかでも、特に朝ごはんを大事にするというトルコ人。カフェやレストランには必ずと言っていいほど「朝食」のメニューがあるそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

「海外への旅行となると、なかなか気軽に行けません。けれども、異国のレシピを学んで料理するのは、それよりずっと手軽ですよね。本場の食材でつくった料理を食べれば、日本にいながら旅する気分が味わえます。新しい食材をいろいろ試してみると、楽しみが広がりますよ」

「シミットは食べる直前に軽くトーストすると、ごまの風味がこうばしくなって、よりおいしくいただけます。メネメンをのせたり、メルジメッキ・チョルバスにつけたりしながら食べるのがおすすめ」と口尾さん(写真撮影/嶋崎征弘)

「シミットは食べる直前に軽くトーストすると、ごまの風味がこうばしくなって、よりおいしくいただけます。メネメンをのせたり、メルジメッキ・チョルバスにつけたりしながら食べるのがおすすめ」と口尾さん(写真撮影/嶋崎征弘)

口尾さんのお話のなかで、繰り返し登場した「楽しい」という言葉。ヨーロッパや北アフリカ、中東、アジアなど、世界各地を旅しながら集めた色とりどりの雑貨が楽しげにあふれるキッチンで、楽しげに料理をする口尾さんにぴったりの言葉なのが印象的でした。

次回は、口尾さん流の住まいのしつらえ方についてお聞きします!

■料理研究家 口尾麻美さんのキッチン

●取材協力
口尾麻美さん HP
北海道生まれ。アパレル会社勤務後、イタリア料理店を経て料理研究家に。旅で出会った料理、食材、スパイス、道具、雑貨、ライフスタイルからインスピレーションを受けたレシピを提案。著書に『おはよう! アジアの朝ごはん: 台湾・ベトナム・韓国・香港の朝食事情と再現レシピ 』(誠文堂新光社)、『はじめまして 電鍋レシピ 台湾からきた万能電気釜でつくる おいしい料理と旅の話。』(グラフィック社)など多数。

料理家のキッチンと朝ごはん[1]後編 調理実習台が主役。道具・器は長く使えるいいものだけを集めた

スタイリングもこなす料理研究家として、雑誌や書籍でさまざまなお菓子のレシピを提案している桑原奈津子さん。前回は、定番の朝ごはんとそのつくり方についてお聞きしました。今回は、桑原家のキッチンと、愛用している調理道具や器について、お話を伺います。【連載】料理家のキッチンと朝ごはん
料理研究家やフードコーディネーターといった料理のプロは、どんなキッチンで、どんな朝ごはんをつくって食べているのでしょうか? かれらが朝ごはんをつくる様子を拝見しながら、美味しいレシピを生み出すプロならではのキッチン収納の秘密を、片づけのプロ、ライフオーガナイザーが探ります。築55年の戸建をリノベーション。月日を経て味わいを増すキッチン

「工場や学校っぽい雰囲気が好き」だという桑原さん。キッチンツールや家具なども、無駄な装飾を省いた業務用のものが好みだそうです。けれども、桑原さん宅のキッチンは「業務用」という言葉からイメージされる無骨さとは無縁の、あたたかみのある雰囲気。

窓枠には、自家製の梅干しやフルーツのシロップ、空き瓶や保存容器などをディスプレイするように並べて収納。インテリアとしてキッチンになじんでいます(写真撮影/嶋崎征弘)

窓枠には、自家製の梅干しやフルーツのシロップ、空き瓶や保存容器などをディスプレイするように並べて収納。インテリアとしてキッチンになじんでいます(写真撮影/嶋崎征弘)

あたたかな日が差し込むダイニングスペースには、雑種のキップル(左)、ハチワレ猫の小鉄(右)、黒猫のクロ(出演拒否)のふかふかベッドが仲良く並んでいました(写真撮影/嶋崎征弘)

あたたかな日が差し込むダイニングスペースには、雑種のキップル(左)、ハチワレ猫の小鉄(右)、黒猫のクロ(出演拒否)のふかふかベッドが仲良く並んでいました(写真撮影/嶋崎征弘)

12年前にリノベーションした築55年の一戸建ての窓枠や柱などを、当時のまま残していることが、ぬくもりを感じさせる一因のようです。そこに、てらいのないスタイリングを得意とする桑原さんの手が加わることで、甘すぎないけれども穏やかでほっとする、独自の世界観が築き上げられていました。

「クリナップ」の調理実習台。大勢で使うことを前提でデザインされたシンクは、手前からでも横からでも洗い物ができる仕様。作業台下の収納スペース奥側にはボウルなどの調理道具、手前には「無印良品」の密閉ボックスを並べ、小麦粉や砂糖のストックを収納(写真撮影/嶋崎征弘)(写真撮影/嶋崎征弘)

「クリナップ」の調理実習台。大勢で使うことを前提でデザインされたシンクは、手前からでも横からでも洗い物ができる仕様。作業台下の収納スペース奥側にはボウルなどの調理道具、手前には「無印良品」の密閉ボックスを並べ、小麦粉や砂糖のストックを収納(写真撮影/嶋崎征弘)

桑原家の家具やキッチンツールの大半は、素材がステンレスもしくは木、色は白でそろえられています。すべてのものを同じタイミングで集めたわけではないのに、素材感や色が統一されているから、ものを出しっぱなしにした「オープン収納」を取り入れていても、キッチン全体がすっきりと、まとまって見えます。

ステンレス製キッチンと調和する、淡いグレーの背面カウンターは「校庭にあった水飲み場のイメージ。小石を混ぜて固めたセメントを、職人さんが手作業で研ぎ上げてくれました」。使い込むほど味の出る素材です(写真撮影/嶋崎征弘)

ステンレス製キッチンと調和する、淡いグレーの背面カウンターは「校庭にあった水飲み場のイメージ。小石を混ぜて固めたセメントを、職人さんが手作業で研ぎ上げてくれました」。使い込むほど味の出る素材です(写真撮影/嶋崎征弘)

「調理台にも背面カウンターにも引き出しが少ないので、新たに引き出し付きのワゴンを買い足しました。仕事場っぽい雰囲気にしたかったので、家具より工具入れが合うのではないかと思って、ネットで探しました。キッチンまわりの細々としたものを整理するのにとても便利ですよ」

「トラスコ」の「エースワゴン」にスパイスやカトラリー、トングなどを収納。同行のカメラマンさんいわく、「フォトスタジオでもよく使われているスチールワゴンです。ぼくもほしい」そうです(写真撮影/嶋崎征弘)

「トラスコ」の「エースワゴン」にスパイスやカトラリー、トングなどを収納。同行のカメラマンさんいわく、「フォトスタジオでもよく使われているスチールワゴンです。ぼくもほしい」そうです(写真撮影/嶋崎征弘)

最初にリノベーションを行ったのは12年前ですが、その後も少しずつ手を加え続けている桑原家。「収納スペースの中に取り付ける予定だった固定式の棚板は、あえて2年ほど設置しなかったんです。実際に使ってみて、ここだと確信できてから取り付けを依頼しました」。3年前には、本格的な修繕工事も実施。当時予算の都合などもあり、建築家と相談のうえ後回しにしていた外壁や屋根などに手を加えたそうです。

ウォールナットのダイニングテーブルは190 x 100cm。テーブルに合わせた6脚のチェアはすべてデザイン違い。アメリカの工場用の照明は、アンティークショップで見つけたもの(写真撮影/嶋崎征弘)

ウォールナットのダイニングテーブルは190 x 100cm。テーブルに合わせた6脚のチェアはすべてデザイン違い。アメリカの工場用の照明は、アンティークショップで見つけたもの(写真撮影/嶋崎征弘)

ダイニングテーブル背面に置いた白い飾り棚は、桑原さんが大学生のときに買ったもの。「薬棚のようなたたずまいが気に入っています」。前面がガラス扉なので、美しいコーヒーカップやティーポットなどを飾りながら収納(写真撮影/嶋崎征弘)

ダイニングテーブル背面に置いた白い飾り棚は、桑原さんが大学生のときに買ったもの。「薬棚のようなたたずまいが気に入っています」。前面がガラス扉なので、美しいコーヒーカップやティーポットなどを飾りながら収納(写真撮影/嶋崎征弘)

気に入ったものを長く大切に使うことで、自然と生まれた”統一感”

前回、桑原さんが朝ごはんをつくる際に使用したキッチンツール一式はこちら。「気に入ったものは長く使うほうです。ゆで卵をつぶすのに使ったザル、野菜の水切りに使ったサラダスピナーは、わたしの実家で使っていたものを譲り受けました。20~30年以上前のものなので、残念ながらメーカーや商品名は分かりません……」

画像の上、2本は「ウェンガー」のブレッドナイフとスナックナイフ。右のゴムベラは、継ぎ目のない一体型を愛用。中央の小さなボウルは調味料や食材をちょこっと入れるのに便利なので、たくさん持っているそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

画像の上、2本は「ウェンガー」のブレッドナイフとスナックナイフ。右のゴムベラは、継ぎ目のない一体型を愛用。中央の小さなボウルは調味料や食材をちょこっと入れるのに便利なので、たくさん持っているそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

朝ごはんに合わせる水出しコーヒーは多めにつくって、冷蔵庫にストックしているとのことでしたが、「紅茶も多めに淹れて、冷蔵庫にストックしています。水出しコーヒーと同じように、アイスで飲みたいときはそのまま、ホットで飲みたいときは電子レンジで温めればいいだけなので手軽ですよ」。

コーヒーは「KINTO」のジャグに、紅茶は「HARIO」のティーサーバーにストック。コーヒーはストックを切らさないようジャグを2本使い、「1本がなくなりそうになったら、もう1本つくるようにしています」(写真撮影/嶋崎征弘)

コーヒーは「KINTO」のジャグに、紅茶は「HARIO」のティーサーバーにストック。コーヒーはストックを切らさないようジャグを2本使い、「1本がなくなりそうになったら、もう1本つくるようにしています」(写真撮影/嶋崎征弘)

水出しコーヒーは「iwaki」のウォータードリップサーバーで抽出しています。「サーバーの大きさが400mlちょっとなので、1本のジャグに2回分入れています。1回の抽出に4時間、2回だと8時間。時間はかかりますが、放っておくだけでできるので手間はかかりません」

お取り寄せしているコーヒー豆を、その都度「Bodum」のグラインダーで挽いて水出ししているそうです。時間をかけて抽出するため、苦みやエグみの少ない、さっぱりとまろやかなコーヒーが淹れられます(写真撮影/嶋崎征弘)

お取り寄せしているコーヒー豆を、その都度「Bodum」のグラインダーで挽いて水出ししているそうです。時間をかけて抽出するため、苦みやエグみの少ない、さっぱりとまろやかなコーヒーが淹れられます(写真撮影/嶋崎征弘)

「業務用」のキッチンツールのなかにも、桑原さんのお気に入りアイテムがあるそうです。例えば、あちこちで少しずつ集めたステンレスのメジャーカップは「計量するだけでなく、水分の多いものをすくったり、小さなボウル代わりに使ったり。多用途に使えるので便利です。無駄のないデザインで、見た目がシンプルなところも気に入っています」

お気に入りのメジャーカップの奥にあるスケールも業務用。「感度が高いので計量スピードが早く、精度も高いんですよ。業務用なので丈夫で、とても古いものですがまだまだ現役。壊れる気配はありません」(写真撮影/嶋崎征弘)

お気に入りのメジャーカップの奥にあるスケールも業務用。「感度が高いので計量スピードが早く、精度も高いんですよ。業務用なので丈夫で、とても古いものですがまだまだ現役。壊れる気配はありません」(写真撮影/嶋崎征弘)

砂糖・塩を入れている容器も業務用です。ステンレスふたの内側にある凸部分を本体ケースにひっかけると、ふたを開けたままにできるというスグレモノ(写真撮影/嶋崎征弘)

砂糖・塩を入れている容器も業務用です。ステンレスふたの内側にある凸部分を本体ケースにひっかけると、ふたを開けたままにできるというスグレモノ(写真撮影/嶋崎征弘)

工場や学校っぽい雰囲気が好きだとは言っても、「実用的なもの」ばかりではない桑原さんのキッチン。トースターの上に置かれた木製トングは、「はさみ型なのでトーストしたパンをはさみやすいんですよ。トングでトースターから取り出したパンは、木製トレーの上に置くと、溝にパンくずが落ちて散らからない仕組みなんです。かわいらしくて、いいでしょう(笑)」と、おちゃめに語ってくれました。

トーストだけでなく、お菓子やサラダをはさむのにも使いやすいという木製トング。よくあるステンレス製のトングよりあたたかみがあるので、テーブルにそのまま出してもスタイリングの邪魔になりません(写真撮影/嶋崎征弘)

トーストだけでなく、お菓子やサラダをはさむのにも使いやすいという木製トング。よくあるステンレス製のトングよりあたたかみがあるので、テーブルにそのまま出してもスタイリングの邪魔になりません(写真撮影/嶋崎征弘)

大好きな器を大事に収めるために設計した、天井まである大型収納

料理研究家という職業柄、桑原さんはたくさんの食器やグラス、スタイリング小物などをお持ちです。にもかかわらず、そういったものが出しっぱなしになっていないのは、シンク横に造り付けた大型タワー収納のおかげ。よく使う食器や調理道具はシンクのすぐ横の棚にまとめ、あまり使わない雑貨類は上の棚に保管しているそうです。

使用頻度の低いお菓子の型や木製トレーなどは、左側の棚に。スタイリング用に保管しておきたい小物のほか、あまり使わないホットプレートやたこ焼き機などは上段に収納。明確にゾーニングされていました(写真撮影/嶋崎征弘)

使用頻度の低いお菓子の型や木製トレーなどは、左側の棚に。スタイリング用に保管しておきたい小物のほか、あまり使わないホットプレートやたこ焼き機などは上段に収納。明確にゾーニングされていました(写真撮影/嶋崎征弘)

冷蔵庫のサイズに合わせて造り付けているため、収納スペースの奥行きは約70cmと深めです。奥行きが深いと食器棚としては扱いづらいものなのですが、桑原さんは手前に使用頻度の高いもの、奥側に使用頻度の低いものを収めることで、使い勝手をよくしていました。収めるものの高さに合わせて、棚板の幅が微調整されていることも、ものの探しやすさ、出し入れしやすさに直結しています。

グラス、マグ、平皿、小鉢、汁椀など、ジャンルごとにざっくり分類。お皿は似たサイズごとに重ねて収納しています。ココットや小さいグラスなど、こまごましたものはプラスチックのかごにまとめて取り出しやすく(写真撮影/嶋崎征弘) 

グラス、マグ、平皿、小鉢、汁椀など、ジャンルごとにざっくり分類。お皿は似たサイズごとに重ねて収納しています。ココットや小さいグラスなど、こまごましたものはプラスチックのかごにまとめて取り出しやすく(写真撮影/嶋崎征弘) 

「収納スペースがいっぱいなので、以前ほど食器を買わなくなりました。最近はお気に入りのショップに出かけても、見るだけのことが多いです。今使っているものが割れたり、欠けたりしたら、その分は買っていいことにしているんですが、食器って意外と丈夫で長持ちするんですよね(笑)。うちにあるものは、気がつくとどれも長いこと使っているものばかり。使い込むうちに愛着が増すように感じます」

「食器はまとめてそろえず、一枚ずつ集めてもいい」という桑原さん。おすすめは、「お皿なら、白い陶器のもの。磁器よりもあたたかみがあり、使うほどに味がでます。パスタでもカレーでも、おでんでも煮物でも、フルーツでも合いますよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

「食器はまとめてそろえず、一枚ずつ集めてもいい」という桑原さん。おすすめは、「お皿なら、白い陶器のもの。磁器よりもあたたかみがあり、使うほどに味がでます。パスタでもカレーでも、おでんでも煮物でも、フルーツでも合いますよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

グラスのおすすめは、「うすはりほど薄くないシンプルなタンブラーや、背の低いロックグラスのようなタイプが使いやすいと思います。ビールでもワインでも、お茶でもジュースでも、違和感なく使えます」(写真撮影/嶋崎征弘)

グラスのおすすめは、「うすはりほど薄くないシンプルなタンブラーや、背の低いロックグラスのようなタイプが使いやすいと思います。ビールでもワインでも、お茶でもジュースでも、違和感なく使えます」(写真撮影/嶋崎征弘)

よいものを長く大切に使いたいという想いが深い桑原さん。お母様から譲り受けたもの、大学生のころに買ったもの、アンティークショップで出合ったもの。桑原さんのキッチンには、時間をかけて集めたお気に入りがあふれていました。そのアプローチは、何年にもわたって手をかけ続ける家づくり、キッチンづくりにも表れています。

桑原さんのキッチンや愛用品を拝見し、そのお話を聞くにつれ、改めて「家づくりは急がなくていい」「いきなりゴールを目指さなくていい」のだと感じました。少しずつ積み重ねながら、時とともに味わいを増していく桑原家。ここから紡ぎ出される、素朴ながらも研ぎ澄まされたおいしいお菓子のレシピを、これからも楽しみにしています。

●前編はこちら
料理家のキッチンと朝ごはん[1]前編 オープン収納で取り出しやすく。桑原奈津子さんのサンドイッチレシピ●取材協力
桑原奈津子さん
広島市生まれ。幼少期をベルギーで過ごす。大学卒業後、カフェのベーカリー・キッチンを経て、大手製粉会社に入社。製菓・製パンメーカーへの試作・商品化に数多く携わる。その後、外資系の加工でん粉メーカーで研究職に従事。2004年独立、フリーの料理家に。著書に『小麦粉なしでかんたん、やさしい。お菓子とパン』(主婦と生活社)、『いっぴきとにひき』(大福書林)など多数。
>HP >Twitter >Instagram

料理家のキッチンと朝ごはん[1]後編 調理実習台が主役。道具・器は長く使えるいいものだけを集めた

スタイリングもこなす料理研究家として、雑誌や書籍でさまざまなお菓子のレシピを提案している桑原奈津子さん。前回は、定番の朝ごはんとそのつくり方についてお聞きしました。今回は、桑原家のキッチンと、愛用している調理道具や器について、お話を伺います。【連載】料理家のキッチンと朝ごはん
料理研究家やフードコーディネーターといった料理のプロは、どんなキッチンで、どんな朝ごはんをつくって食べているのでしょうか? かれらが朝ごはんをつくる様子を拝見しながら、美味しいレシピを生み出すプロならではのキッチン収納の秘密を、片づけのプロ、ライフオーガナイザーが探ります。築55年の戸建をリノベーション。月日を経て味わいを増すキッチン

「工場や学校っぽい雰囲気が好き」だという桑原さん。キッチンツールや家具なども、無駄な装飾を省いた業務用のものが好みだそうです。けれども、桑原さん宅のキッチンは「業務用」という言葉からイメージされる無骨さとは無縁の、あたたかみのある雰囲気。

窓枠には、自家製の梅干しやフルーツのシロップ、空き瓶や保存容器などをディスプレイするように並べて収納。インテリアとしてキッチンになじんでいます(写真撮影/嶋崎征弘)

窓枠には、自家製の梅干しやフルーツのシロップ、空き瓶や保存容器などをディスプレイするように並べて収納。インテリアとしてキッチンになじんでいます(写真撮影/嶋崎征弘)

あたたかな日が差し込むダイニングスペースには、雑種のキップル(左)、ハチワレ猫の小鉄(右)、黒猫のクロ(出演拒否)のふかふかベッドが仲良く並んでいました(写真撮影/嶋崎征弘)

あたたかな日が差し込むダイニングスペースには、雑種のキップル(左)、ハチワレ猫の小鉄(右)、黒猫のクロ(出演拒否)のふかふかベッドが仲良く並んでいました(写真撮影/嶋崎征弘)

12年前にリノベーションした築55年の一戸建ての窓枠や柱などを、当時のまま残していることが、ぬくもりを感じさせる一因のようです。そこに、てらいのないスタイリングを得意とする桑原さんの手が加わることで、甘すぎないけれども穏やかでほっとする、独自の世界観が築き上げられていました。

「クリナップ」の調理実習台。大勢で使うことを前提でデザインされたシンクは、手前からでも横からでも洗い物ができる仕様。作業台下の収納スペース奥側にはボウルなどの調理道具、手前には「無印良品」の密閉ボックスを並べ、小麦粉や砂糖のストックを収納(写真撮影/嶋崎征弘)(写真撮影/嶋崎征弘)

「クリナップ」の調理実習台。大勢で使うことを前提でデザインされたシンクは、手前からでも横からでも洗い物ができる仕様。作業台下の収納スペース奥側にはボウルなどの調理道具、手前には「無印良品」の密閉ボックスを並べ、小麦粉や砂糖のストックを収納(写真撮影/嶋崎征弘)

桑原家の家具やキッチンツールの大半は、素材がステンレスもしくは木、色は白でそろえられています。すべてのものを同じタイミングで集めたわけではないのに、素材感や色が統一されているから、ものを出しっぱなしにした「オープン収納」を取り入れていても、キッチン全体がすっきりと、まとまって見えます。

ステンレス製キッチンと調和する、淡いグレーの背面カウンターは「校庭にあった水飲み場のイメージ。小石を混ぜて固めたセメントを、職人さんが手作業で研ぎ上げてくれました」。使い込むほど味の出る素材です(写真撮影/嶋崎征弘)

ステンレス製キッチンと調和する、淡いグレーの背面カウンターは「校庭にあった水飲み場のイメージ。小石を混ぜて固めたセメントを、職人さんが手作業で研ぎ上げてくれました」。使い込むほど味の出る素材です(写真撮影/嶋崎征弘)

「調理台にも背面カウンターにも引き出しが少ないので、新たに引き出し付きのワゴンを買い足しました。仕事場っぽい雰囲気にしたかったので、家具より工具入れが合うのではないかと思って、ネットで探しました。キッチンまわりの細々としたものを整理するのにとても便利ですよ」

「トラスコ」の「エースワゴン」にスパイスやカトラリー、トングなどを収納。同行のカメラマンさんいわく、「フォトスタジオでもよく使われているスチールワゴンです。ぼくもほしい」そうです(写真撮影/嶋崎征弘)

「トラスコ」の「エースワゴン」にスパイスやカトラリー、トングなどを収納。同行のカメラマンさんいわく、「フォトスタジオでもよく使われているスチールワゴンです。ぼくもほしい」そうです(写真撮影/嶋崎征弘)

最初にリノベーションを行ったのは12年前ですが、その後も少しずつ手を加え続けている桑原家。「収納スペースの中に取り付ける予定だった固定式の棚板は、あえて2年ほど設置しなかったんです。実際に使ってみて、ここだと確信できてから取り付けを依頼しました」。3年前には、本格的な修繕工事も実施。当時予算の都合などもあり、建築家と相談のうえ後回しにしていた外壁や屋根などに手を加えたそうです。

ウォールナットのダイニングテーブルは190 x 100cm。テーブルに合わせた6脚のチェアはすべてデザイン違い。アメリカの工場用の照明は、アンティークショップで見つけたもの(写真撮影/嶋崎征弘)

ウォールナットのダイニングテーブルは190 x 100cm。テーブルに合わせた6脚のチェアはすべてデザイン違い。アメリカの工場用の照明は、アンティークショップで見つけたもの(写真撮影/嶋崎征弘)

ダイニングテーブル背面に置いた白い飾り棚は、桑原さんが大学生のときに買ったもの。「薬棚のようなたたずまいが気に入っています」。前面がガラス扉なので、美しいコーヒーカップやティーポットなどを飾りながら収納(写真撮影/嶋崎征弘)

ダイニングテーブル背面に置いた白い飾り棚は、桑原さんが大学生のときに買ったもの。「薬棚のようなたたずまいが気に入っています」。前面がガラス扉なので、美しいコーヒーカップやティーポットなどを飾りながら収納(写真撮影/嶋崎征弘)

気に入ったものを長く大切に使うことで、自然と生まれた”統一感”

前回、桑原さんが朝ごはんをつくる際に使用したキッチンツール一式はこちら。「気に入ったものは長く使うほうです。ゆで卵をつぶすのに使ったザル、野菜の水切りに使ったサラダスピナーは、わたしの実家で使っていたものを譲り受けました。20~30年以上前のものなので、残念ながらメーカーや商品名は分かりません……」

画像の上、2本は「ウェンガー」のブレッドナイフとスナックナイフ。右のゴムベラは、継ぎ目のない一体型を愛用。中央の小さなボウルは調味料や食材をちょこっと入れるのに便利なので、たくさん持っているそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

画像の上、2本は「ウェンガー」のブレッドナイフとスナックナイフ。右のゴムベラは、継ぎ目のない一体型を愛用。中央の小さなボウルは調味料や食材をちょこっと入れるのに便利なので、たくさん持っているそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

朝ごはんに合わせる水出しコーヒーは多めにつくって、冷蔵庫にストックしているとのことでしたが、「紅茶も多めに淹れて、冷蔵庫にストックしています。水出しコーヒーと同じように、アイスで飲みたいときはそのまま、ホットで飲みたいときは電子レンジで温めればいいだけなので手軽ですよ」。

コーヒーは「KINTO」のジャグに、紅茶は「HARIO」のティーサーバーにストック。コーヒーはストックを切らさないようジャグを2本使い、「1本がなくなりそうになったら、もう1本つくるようにしています」(写真撮影/嶋崎征弘)

コーヒーは「KINTO」のジャグに、紅茶は「HARIO」のティーサーバーにストック。コーヒーはストックを切らさないようジャグを2本使い、「1本がなくなりそうになったら、もう1本つくるようにしています」(写真撮影/嶋崎征弘)

水出しコーヒーは「iwaki」のウォータードリップサーバーで抽出しています。「サーバーの大きさが400mlちょっとなので、1本のジャグに2回分入れています。1回の抽出に4時間、2回だと8時間。時間はかかりますが、放っておくだけでできるので手間はかかりません」

お取り寄せしているコーヒー豆を、その都度「Bodum」のグラインダーで挽いて水出ししているそうです。時間をかけて抽出するため、苦みやエグみの少ない、さっぱりとまろやかなコーヒーが淹れられます(写真撮影/嶋崎征弘)

お取り寄せしているコーヒー豆を、その都度「Bodum」のグラインダーで挽いて水出ししているそうです。時間をかけて抽出するため、苦みやエグみの少ない、さっぱりとまろやかなコーヒーが淹れられます(写真撮影/嶋崎征弘)

「業務用」のキッチンツールのなかにも、桑原さんのお気に入りアイテムがあるそうです。例えば、あちこちで少しずつ集めたステンレスのメジャーカップは「計量するだけでなく、水分の多いものをすくったり、小さなボウル代わりに使ったり。多用途に使えるので便利です。無駄のないデザインで、見た目がシンプルなところも気に入っています」

お気に入りのメジャーカップの奥にあるスケールも業務用。「感度が高いので計量スピードが早く、精度も高いんですよ。業務用なので丈夫で、とても古いものですがまだまだ現役。壊れる気配はありません」(写真撮影/嶋崎征弘)

お気に入りのメジャーカップの奥にあるスケールも業務用。「感度が高いので計量スピードが早く、精度も高いんですよ。業務用なので丈夫で、とても古いものですがまだまだ現役。壊れる気配はありません」(写真撮影/嶋崎征弘)

砂糖・塩を入れている容器も業務用です。ステンレスふたの内側にある凸部分を本体ケースにひっかけると、ふたを開けたままにできるというスグレモノ(写真撮影/嶋崎征弘)

砂糖・塩を入れている容器も業務用です。ステンレスふたの内側にある凸部分を本体ケースにひっかけると、ふたを開けたままにできるというスグレモノ(写真撮影/嶋崎征弘)

工場や学校っぽい雰囲気が好きだとは言っても、「実用的なもの」ばかりではない桑原さんのキッチン。トースターの上に置かれた木製トングは、「はさみ型なのでトーストしたパンをはさみやすいんですよ。トングでトースターから取り出したパンは、木製トレーの上に置くと、溝にパンくずが落ちて散らからない仕組みなんです。かわいらしくて、いいでしょう(笑)」と、おちゃめに語ってくれました。

トーストだけでなく、お菓子やサラダをはさむのにも使いやすいという木製トング。よくあるステンレス製のトングよりあたたかみがあるので、テーブルにそのまま出してもスタイリングの邪魔になりません(写真撮影/嶋崎征弘)

トーストだけでなく、お菓子やサラダをはさむのにも使いやすいという木製トング。よくあるステンレス製のトングよりあたたかみがあるので、テーブルにそのまま出してもスタイリングの邪魔になりません(写真撮影/嶋崎征弘)

大好きな器を大事に収めるために設計した、天井まである大型収納

料理研究家という職業柄、桑原さんはたくさんの食器やグラス、スタイリング小物などをお持ちです。にもかかわらず、そういったものが出しっぱなしになっていないのは、シンク横に造り付けた大型タワー収納のおかげ。よく使う食器や調理道具はシンクのすぐ横の棚にまとめ、あまり使わない雑貨類は上の棚に保管しているそうです。

使用頻度の低いお菓子の型や木製トレーなどは、左側の棚に。スタイリング用に保管しておきたい小物のほか、あまり使わないホットプレートやたこ焼き機などは上段に収納。明確にゾーニングされていました(写真撮影/嶋崎征弘)

使用頻度の低いお菓子の型や木製トレーなどは、左側の棚に。スタイリング用に保管しておきたい小物のほか、あまり使わないホットプレートやたこ焼き機などは上段に収納。明確にゾーニングされていました(写真撮影/嶋崎征弘)

冷蔵庫のサイズに合わせて造り付けているため、収納スペースの奥行きは約70cmと深めです。奥行きが深いと食器棚としては扱いづらいものなのですが、桑原さんは手前に使用頻度の高いもの、奥側に使用頻度の低いものを収めることで、使い勝手をよくしていました。収めるものの高さに合わせて、棚板の幅が微調整されていることも、ものの探しやすさ、出し入れしやすさに直結しています。

グラス、マグ、平皿、小鉢、汁椀など、ジャンルごとにざっくり分類。お皿は似たサイズごとに重ねて収納しています。ココットや小さいグラスなど、こまごましたものはプラスチックのかごにまとめて取り出しやすく(写真撮影/嶋崎征弘) 

グラス、マグ、平皿、小鉢、汁椀など、ジャンルごとにざっくり分類。お皿は似たサイズごとに重ねて収納しています。ココットや小さいグラスなど、こまごましたものはプラスチックのかごにまとめて取り出しやすく(写真撮影/嶋崎征弘) 

「収納スペースがいっぱいなので、以前ほど食器を買わなくなりました。最近はお気に入りのショップに出かけても、見るだけのことが多いです。今使っているものが割れたり、欠けたりしたら、その分は買っていいことにしているんですが、食器って意外と丈夫で長持ちするんですよね(笑)。うちにあるものは、気がつくとどれも長いこと使っているものばかり。使い込むうちに愛着が増すように感じます」

「食器はまとめてそろえず、一枚ずつ集めてもいい」という桑原さん。おすすめは、「お皿なら、白い陶器のもの。磁器よりもあたたかみがあり、使うほどに味がでます。パスタでもカレーでも、おでんでも煮物でも、フルーツでも合いますよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

「食器はまとめてそろえず、一枚ずつ集めてもいい」という桑原さん。おすすめは、「お皿なら、白い陶器のもの。磁器よりもあたたかみがあり、使うほどに味がでます。パスタでもカレーでも、おでんでも煮物でも、フルーツでも合いますよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

グラスのおすすめは、「うすはりほど薄くないシンプルなタンブラーや、背の低いロックグラスのようなタイプが使いやすいと思います。ビールでもワインでも、お茶でもジュースでも、違和感なく使えます」(写真撮影/嶋崎征弘)

グラスのおすすめは、「うすはりほど薄くないシンプルなタンブラーや、背の低いロックグラスのようなタイプが使いやすいと思います。ビールでもワインでも、お茶でもジュースでも、違和感なく使えます」(写真撮影/嶋崎征弘)

よいものを長く大切に使いたいという想いが深い桑原さん。お母様から譲り受けたもの、大学生のころに買ったもの、アンティークショップで出合ったもの。桑原さんのキッチンには、時間をかけて集めたお気に入りがあふれていました。そのアプローチは、何年にもわたって手をかけ続ける家づくり、キッチンづくりにも表れています。

桑原さんのキッチンや愛用品を拝見し、そのお話を聞くにつれ、改めて「家づくりは急がなくていい」「いきなりゴールを目指さなくていい」のだと感じました。少しずつ積み重ねながら、時とともに味わいを増していく桑原家。ここから紡ぎ出される、素朴ながらも研ぎ澄まされたおいしいお菓子のレシピを、これからも楽しみにしています。

●前編はこちら
料理家のキッチンと朝ごはん[1]前編 オープン収納で取り出しやすく。桑原奈津子さんのサンドイッチレシピ●取材協力
桑原奈津子さん
広島市生まれ。幼少期をベルギーで過ごす。大学卒業後、カフェのベーカリー・キッチンを経て、大手製粉会社に入社。製菓・製パンメーカーへの試作・商品化に数多く携わる。その後、外資系の加工でん粉メーカーで研究職に従事。2004年独立、フリーの料理家に。著書に『小麦粉なしでかんたん、やさしい。お菓子とパン』(主婦と生活社)、『いっぴきとにひき』(大福書林)など多数。
>HP >Twitter >Instagram

料理家のキッチンと朝ごはん[1]前編 オープン収納で取り出しやすく。桑原奈津子さんのサンドイッチレシピ

パンケーキやショートブレッド、ビスケットなど、さまざまな”粉”を使ったお菓子のレシピを提案する料理研究家、桑原奈津子さん。デザイナーの夫と、雑種のキップル、黒猫のクロ、ハチワレ猫の小鉄と暮らす桑原さんのキッチンで、朝ごはんについて伺いました。【連載】料理家のキッチンと朝ごはん
料理研究家やフードコーディネーターといった料理のプロは、どんなキッチンで、どんな朝ごはんをつくって食べているのでしょうか? かれらが朝ごはんをつくる様子を拝見しながら、おいしいレシピを生み出すプロならではのキッチン収納の秘密を、片づけのプロ、ライフオーガナイザーが探ります。平日の朝はおかず系とおやつ系、2種類のサンドイッチを定番に

レシピの提案だけでなく、スタイリングも自らこなす料理研究家として、雑誌や書籍で活躍する桑原さん。12年前、築55年の一戸建てをリノベーションした自宅兼スタジオにお邪魔した私たちを、桑原さんと共に迎えてくれたのは、雑種のキップルでした。

キップルは桑原さんの著書にもたびたび登場する有名犬。『パンといっぴき』『パンといっぴき 2』(パイインターナショナル)といった書籍のほか、ツイッター(@KWHR725)でも、そのかわいい姿が見られます(写真撮影/嶋崎征弘)

キップルは桑原さんの著書にもたびたび登場する有名犬。『パンといっぴき』『パンといっぴき 2』(パイインターナショナル)といった書籍のほか、ツイッター(@KWHR725)でも、そのかわいい姿が見られます(写真撮影/嶋崎征弘)

桑原家の平日の朝ごはんは、サンドイッチが定番だそうです。「野菜をたっぷり使ったおかず系サンドイッチと、ジャムやバターを使った甘いおやつ系サンドイッチ。2種類つくることが多いです。おかず系とおやつ系、両方あると、飽きずに楽しめますよ」と桑原さん。

今回は、おかず系として「ブロッコリースプラウトとバジルの卵チーズサンド」、おやつ系として「ピーナツバター・ジャムサンド」のつくり方を教えていただきました。

桑原さんはいつも、使う食材をすべて作業台に並べてから、朝ごはんをつくり始めるそうです。「調理中に、何度も冷蔵庫と作業台を行ったり来たりしなくていいので、無駄なく動くことができますよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

桑原さんはいつも、使う食材をすべて作業台に並べてから、朝ごはんをつくり始めるそうです。「調理中に、何度も冷蔵庫と作業台を行ったり来たりしなくていいので、無駄なく動くことができますよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

桑原さん家のピーナツバターサンドは組み合わせを楽しむ

「ピーナツバター・ジャムサンド」

<用意するもの(各2人分。分量のないものは、お好みの量を)>
・食パン 2枚
・ピーナツバター
・マーマレード

まずは「ピーナツバター・ジャムサンド」からスタート。つくり方はとっても簡単。食パン一枚にピーナツバターを、もう一枚にマーマレードをぬって重ねるだけ。「マーマレード以外のジャムでもおいしいですよ。今の季節なら、わたしは栗のジャムとローストくるみをあわせるのも好きです」

ピーナツバターは、粒が残ったクランチタイプがおすすめ。桑原さんが今使っているのは、原材料の90%以上がピーナツという「ホームプレート ピーナッツバター」。成城石井などで手に入ります(写真撮影/嶋崎征弘)

ピーナツバターは、粒が残ったクランチタイプがおすすめ。桑原さんが今使っているのは、原材料の90%以上がピーナツという「ホームプレート ピーナッツバター」。成城石井などで手に入ります(写真撮影/嶋崎征弘)

桑原家では、朝ごはん用の食パンはホームベーカリーで焼いているそうです。「ふたり家族なので、一斤で2日分の朝ごはんになります」。小麦粉、塩、砂糖、バター、牛乳、ドライイーストでつくるシンプルなパンだそうですが、粉の配合にはこだわりが。「国産小麦の『春よ恋』だけではボリューム不足だと感じるので、外国産の『カメリア』と半々くらいにブレンドしています」

桑原さん家の卵チーズサンドは具材モリモリがポイント!

「ブロッコリースプラウトとバジルの卵チーズサンド」

<用意するもの(各2人分。分量のないものは、お好みの量を)>
・食パン 2枚
・スライスチーズ 2枚(桑原さんは、白カビチーズ「トランシュ・ドゥブリー」を使用)
・ブロッコリースプラウト 25g
・バジルの葉 10枚
・ゆで卵 2個
・ピクルス 1本
・粒マスタード 小さじ1
・マヨネーズ 20~30g
・バター
・胡椒

もうひとつは、「ブロッコリースプラウトとバジルの卵チーズサンド」。まず、食パンに、室温でやわらかくしたバターをぬります。

2日に一度の高頻度でパンを焼くため、ホームペーカリーは背面カウンターに出しっぱなしに。その隣にはスタンドミキサーが置かれていました。どちらも本体の色を「白」で統一することで、出しっぱなしでもすっきり見えます(写真撮影/嶋崎征弘)

2日に一度の高頻度でパンを焼くため、ホームペーカリーは背面カウンターに出しっぱなしに。その隣にはスタンドミキサーが置かれていました。どちらも本体の色を「白」で統一することで、出しっぱなしでもすっきり見えます(写真撮影/嶋崎征弘)

次に、ゆで卵をつぶします。「エッグスライサーを使ってみじん切りにすることもありますが、今回は粗めのザルでこします。同じ食材でも、食感が違うと味の印象も変わるんですよ」。そう話しながら、作業台下のオープン棚から、ひょい!とボウルを取り出す桑原さん。

ステンレス製の大・中・小サイズのボウルは重ねて収納。その右手にはミニサイズのボウル、左手にはサイズ違いのザルが収納されています(写真撮影/嶋崎征弘)

ステンレス製の大・中・小サイズのボウルは重ねて収納。その右手にはミニサイズのボウル、左手にはサイズ違いのザルが収納されています(写真撮影/嶋崎征弘)

奥側はコの字ラックでかさ上げし、ガラス製のボウルなどを収めています。右奥にはボックスにひとまとめにした液体調味料が。のぞきこめばどこになにがあるか一目瞭然の、作業効率のよい収納スタイルです(写真撮影/嶋崎征弘)

奥側はコの字ラックでかさ上げし、ガラス製のボウルなどを収めています。右奥にはボックスにひとまとめにした液体調味料が。のぞきこめばどこになにがあるか一目瞭然の、作業効率のよい収納スタイルです(写真撮影/嶋崎征弘)

ボウルに目の粗いザルを引っ掛け、ゴムベラでゆで卵を押しつけるようにしてこしたら、さっと振り向き、背面のカウンターに出しっぱなしにしている業務用クッキングスケールに、ゆで卵の入ったボウルをのせる桑原さん。計量しながら、マヨネーズをボウルに直接絞り出します。

硬くて荒い網目のザルを使い、短く持ったゴムベラでゆで卵をつぶします。ザルでこしたゆで卵は、まるでミモザのようにかわいらしい。「ふわっとした食感が楽しめますよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

硬くて粗い網目のザルを使い、短く持ったゴムベラでゆで卵をつぶします。ザルでこしたゆで卵は、まるでミモザのようにかわいらしい。「ふわっとした食感が楽しめますよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

続いて、瓶入りマスタードをすくうためのスプーンを取り出したのは、水切りかご。「頻繁に使うものは、洗ったあと水切りかごに入れっぱなしです(笑)」という桑原さんの発言に、なぜだか親近感を感じてしまう……。

洗ったカトラリー類は、水切りかご横に引っ掛けた付属のステンレスのカップに入れておきます。カップを作業台側にひっかけておけば、調理中でも片手でさっと取り出せます(写真撮影/嶋崎征弘)

洗ったカトラリー類は、水切りかご横に引っ掛けた付属のステンレスのカップに入れておきます。カップを作業台側にひっかけておけば、調理中でも片手でさっと取り出せます(写真撮影/嶋崎征弘)

先ほどバターをぬった食パンに粒マスターをのばしてスライスチーズをのせ、その上にマヨネーズを加えて混ぜたゆで卵ペーストをのせます。

ゆで卵をつぶすとき、調味料を混ぜるとき、卵ペーストをぬり広げるとき。すべて同じゴムベラを使えば、洗い物が減らせます。朝の貴重な時間を無駄にしない、小さな工夫(写真撮影/嶋崎征弘)

ゆで卵をつぶすとき、調味料を混ぜるとき、卵ペーストをぬり広げるとき。すべて同じゴムベラを使えば、洗い物が減らせます。朝の貴重な時間を無駄にしない、小さな工夫(写真撮影/嶋崎征弘)

作業台からまた振り向いて、背面カウンター上のナイフスタンドからナイフを、その横のツールスタンドから菜ばしを取ります。菜ばしでピクルスを瓶から取り出してまな板に置き、ナイフで半分にカット。

壁面に取り付けるマグネット式のナイフラックも検討したものの、「常に刃が見えているのが怖くて(笑)」。代わりに、ワンアクションで出し入れできる竹製のナイフスタンドを採用(写真撮影/嶋崎征弘)

壁面に取り付けるマグネット式のナイフラックも検討したものの、「常に刃が見えているのが怖くて(笑)」。代わりに、ワンアクションで出し入れできる竹製のナイフスタンドを採用(写真撮影/嶋崎征弘)

卵ペーストの上にカットしたピクルスを並べたら、洗ってサラダスピナーでしっかり水切りしたブロッコリースプラウトをのせます。その上に、お好みでマヨネーズをしぼって、バジルをのせます。もちろんバジルも、洗ってしっかり水切りするのが、水っぽくならない秘訣。「サラダスピナーは朝も晩もよく使う道具なので、あえてしまいこまず、たいてい作業台の上に出しっぱなしにしています」

ブロッコリースプラウトはパンではさむとかさが減るので、「盛りすぎかな?」と思うくらい多めにトッピングするのがポイント。バジルが苦手なら、なくてもOK(写真撮影/嶋崎征弘)

ブロッコリースプラウトはパンではさむとかさが減るので、「盛りすぎかな?」と思うくらい多めにトッピングするのがポイント。バジルが苦手なら、なくてもOK(写真撮影/嶋崎征弘)

最後に、もう一枚の食パンをのせ、上から優しくぎゅっと抑えたら、「ブロッコリースプラウトとバジルの卵チーズサンド」の出来上がりです。

夫婦の食べる時間に合わせ、半分は朝ごはん、もう半分は昼ごはんに

完成した二種類のサンドイッチは、夫婦二人分。桑原さんの朝ごはんと、夫の昼ごはんになるそうです。「夫は朝、あまり食欲がないので、コーヒーと果物といった軽いものを別に用意しています。夫用のサンドイッチはラップで包んで保冷バッグに入れ、お弁当にしています」。そう話しながら桑原さんは、作業台横にある電子レンジ台の下から、するっとラップを取り出しました。

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ラップの収納場所は、出来上がったサンドイッチを包むとき、作業台から一歩も動かずに取り出せる絶妙な配置。電子レンジ下なので、温めたい食品にラップをかけるのにも便利(写真撮影/嶋崎征弘)

ラップの収納場所は、出来上がったサンドイッチを包むとき、作業台から一歩も動かずに取り出せる絶妙な配置。電子レンジ下なので、温めたい食品にラップをかけるのにも便利(写真撮影/嶋崎征弘)

半分にカットしたおかず系サイドイッチとおやつ系サンドイッチをそれぞれラップで包んだら、夫のお弁当が完成。ご自身のサンドイッチは、お皿にのせて食卓へ。

食器類の大半は作業台横に造り付けた収納スペースにまとめているため、お皿を取り出して盛り付ける動きもスムーズ。奥行きがある棚の手前によく使う器、奥にあまり使わない器を配置(写真撮影/嶋崎征弘)

食器類の大半は作業台横に造り付けた収納スペースにまとめているため、お皿を取り出して盛り付ける動きもスムーズ。奥行きがある棚の手前によく使う器、奥にあまり使わない器を配置(写真撮影/嶋崎征弘)

朝ごはんに合わせる定番の飲み物は、水出しコーヒー。「夫とわたしで、それぞれコーヒーを飲むタイミングが違うので、一度に800mlくらいを水出しして、常に冷蔵庫にストックしています」。暑い季節なら冷蔵庫からそのまま取り出してアイスコーヒーとして、寒い季節は電子レンジで温めてホットコーヒーとして飲むそうです。

お気に入りのコーヒー豆は、鎌倉にある「カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュ」のもの。お店のウェブショップで、中深煎りと深煎りのものを選んで1kgくらいまとめて購入しているそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

お気に入りのコーヒー豆は、鎌倉にある「カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュ」のもの。お店のウェブショップで、中深煎りと深煎りのものを選んで1kgくらいまとめて購入しているそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

朝ごはんづくりに悩む時間が減らせる、メニューの柔軟なルール化

桑原さんが食卓に座り、「いただきまーす」の瞬間、どこからともなく近づいてきたのは、もちろんキップル。「パンが大好きなので、朝ごはんの準備ができると、自然と近くにやってきます」。書籍やツイッターで紹介されているとおりのキップルと桑原さんの朝ごはんの風景は、見ているだけでほのぼのと癒やされるものでした。

里親募集サイトを通して、生後3カ月くらいで桑原家にやってきたキップルは、現在12歳。「保護犬の存在と雑種犬の魅力を伝えられたらと思って、ツイッターにキップルの写真を投稿しはじめました」(写真撮影/嶋崎征弘)

里親募集サイトを通して、生後3カ月くらいで桑原家にやってきたキップルは、現在12歳。「保護犬の存在と雑種犬の魅力を伝えられたらと思って、ツイッターにキップルの写真を投稿しはじめました」(写真撮影/嶋崎征弘)

「朝ごはん」というと、毎朝、違うものを用意しなくては!と意気込んでしまい、キッチンに立つのが憂うつになることも。桑原さんのように、「平日はサンドイッチが定番。そのときどきで、具材を変える」と、あらかじめ柔軟なルールを決めておけば、「朝、なにをつくろうか?」と悩む時間を減らせそうです。

また、よく使うものは出しっぱなしにしたり、扉のないオープン棚を活用したりといった桑原家のキッチン収納のスタイルは、料理が苦手、片づけが面倒なわたしのようなタイプは積極的に見習いたい考え方です。いちいちものを取り出す手間、収める手間がかからないだけでも、料理がうんとラクになる可能性があります。

おでこのハチワレ模様がかわいい小鉄。カメラ目線で次々とポーズを決めてくれるキップルと違って、なかなかカメラのほうを向いてくれなかったのですが、最後はこのとおり。特別大サービスです((写真撮影/嶋崎征弘)

おでこのハチワレ模様がかわいい小鉄。カメラ目線で次々とポーズを決めてくれるキップルと違って、なかなかカメラのほうを向いてくれなかったのですが、最後はこのとおり。特別大サービスです((写真撮影/嶋崎征弘)

今回は、気分よくぱぱっとつくって、おいしく食べるための桑原さんの朝ごはんとキッチンの工夫をご紹介しました。次回は、桑原さん愛用のキッチンツールや器などについて、お話を伺います!

●取材協力
桑原奈津子さん
広島市生まれ。幼少期をベルギーで過ごす。大学卒業後、カフェのベーカリー・キッチンを経て、大手製粉会社に入社。製菓・製パンメーカーへの試作・商品化に数多く携わる。その後、外資系の加工でん粉メーカーで研究職に従事。2004年独立、フリーの料理家に。著書に『小麦粉なしでかんたん、やさしい。お菓子とパン』(主婦と生活社)、『いっぴきとにひき』(大福書林)など多数。
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