省エネになる「木製内窓」に熱視線! 後付けもOK、樹脂や金属の窓枠と何が違う?

コロナ禍での経済活動の再開、おうち時間が増え、住環境の見直しをする人が増えています。住まいの省エネには窓のリフォーム、特に高性能な内窓の取り付けが効果的と言われています。そんななか、YKK APが木材・木建具事業者による木製内窓の商品化の支援を2021年に開始し、話題になっています。樹脂やハイブリッド(アルミと樹脂の複合)などとの違い、取り組みの背景などについて紹介します。

YKK APの窓の部材・部品を使って木製・建具事業者が自社ノウハウで製品化

今すでにある窓の内側に、もう一つの窓を取り付ける「内窓」。工事も簡易で、グリーン住宅ポイント制度や自治体の補助金などができるたびに話題になっていますが、昨今は光熱費の高騰などを背景に、「省エネになるらしい」「家の光熱費の節約にいいらしい」などとして、興味や関心を持つ人が増えています。

左はアルミ樹脂複合窓、右は樹脂窓(写真提供/YKK AP)

左はアルミ樹脂複合窓、右は樹脂窓(写真提供/YKK AP)

窓のサッシ(枠)の素材といえば、樹脂またはハイブリッド(アルミと樹脂の複合)が主流ですが、国産木材を使った、「木製内窓」にも関心が集まっています。高い断熱性能を持つ木製内窓を取り付けることで、元からある窓と付けた内窓の間に断熱効果のある空気層ができ、さらに木材のサッシは金属性に比べ熱を伝えにくいことから、より断熱効果を高めてくれます。木製内窓のメリットは大きく4つで、(1)断熱性が高まる(2)結露の軽減、(3)光熱費の節約、(4)木製素材ならではのあたたかみ、デザイン性があげられます。一方で、(1)価格が高くなる、(2)窓に求められる断熱や耐候性、おさまり(部材が美しく取りつけられた状態)などを確保するのが難しいといった難点があり、なかなか普及に至りませんでした。

今回、木製内窓を開発・発売したのは岐阜県岐阜市にある後藤木材で、その商品化を支援したのがYKK APです。YKK APといえば超大手、高性能な樹脂サッシを取り扱っていて、過去には木材を使った窓を生産していたこともあるといいます。今回、自社での開発でなく、木製内窓の商品化を支援する立場として“木製・木材加工のプロ”へ専用の部材・部品を開発し提供することに至った背景には、どのような理由があるのでしょうか。

木製内窓(写真提供/凰建設 森亨介さん)

木製内窓(写真提供/凰建設 森亨介さん)

「日本は森林資源も豊富にあり、木材は再生可能な材料でもあります。弊社でも活用を図ってきましたが、木材の調達加工、品質を確保しつつ製品化となるとやはり難しい。窓のことならすこしは得意なんですが(笑)、木材加工のプロである後藤木材さんに相談にいき『木材サッシ、木製の製品化にどうやって取り組むのがよいか』とヒアリングをしていたところ、『後付できる内窓をつくってみませんか?』という話になりました。こうした取り組みは初めてですので、お互いに手探りではじまったんです」と話すのはYKK APの住宅本部 住宅事業推進部商品企画部部長でもある山田司さん。

3年ほどの試行錯誤の末、YKK APが窓に必要な複層ガラスや部品や部材、ノウハウを提供し、後藤木材は独自の圧密技術(圧力をかけて木の強度を高める)の強みを活かして木材の調達や加工、組み立て、取り付けまでを行うという事業の枠組みができあがりました。
「YKK APが表にでるのではなく裏方になって、地方にたくさんある木材を扱う会社と組み、ネットワークを広げることが木製内窓にとってもよいのでは、という結論になりました」(山田さん)

木製内窓の提供イメージ。窓に必要な部品、部材、情報提供はYKK APが行い、木材加工ノウハウをもつ木材建具事業者が製品化する(画像提供/YKK AP)

木製内窓の提供イメージ。窓に必要な部品、部材、情報提供はYKK APが行い、木材加工ノウハウをもつ木材建具事業者が製品化する(画像提供/YKK AP)

木材・建具会社など13社から問い合わせ。試作品を製作した会社も

最近では伝統工芸×おもちゃなど、異なる業種・業態のコラボ商品やサービスを目にすることが増えましたが、今回の木製内窓は、「それぞれのプロフェッショナルが得意分野を活かす」という、ある意味で、「王道のコラボ」といえるかもしれません。YKK APは今回のビジネスモデルを後藤木材だけでなく、全国の木材加工・建具企業にも応用していきたいと考えているそう。

「2021年7月にプレスリリースを発表しましたが、13社から問い合わせがあり、6社が商品化を検討、1社が試作品の段階に来ています」と前出の山田さん。
驚いたのは、木材加工だけでなく、建具や家具といったいわゆる工芸品の会社からの問い合わせがあったことだそう。確かに欧米のインテリアと比較した場合、窓のデザイン面では現在の内窓は物足りなさを感じてしまうのが現状です。さまざまな木材加工のノウハウを持つ会社が木製内窓に参入することで、技術面や価格面でも新しい発見があることでしょう。

窓次第で部屋の雰囲気はぐっと変化する(写真提供/YKK AP)

窓次第で部屋の雰囲気はぐっと変化する(写真提供/YKK AP)

「窓辺を美しくしたいという潜在的な需要はありそうですし、何より日本には豊富な森林資源があります。1社で完結するのではなく、他社と強みを活かしつつ、窓の高性能化、断熱化を図っていけたらいいですね」と続けます。

10cmあれば取り付け可能。極薄で高性能な「木製サッシ」

一方、部材の提供を受け、木製内窓の開発にあたった後藤木材の後藤栄一郎社長と内外装事業部上條武さんは、地元の工務店である凰建設の森亨介専務とともに、数年前から木製サッシの製品化に興味を持っていたといいます。

「弊社は杉・ひのきという柔らかい木を複数層重ねて圧縮して強度を増す独自の技術を持っており、床材、テーブルカウンターなど幅広い用途で商品展開をしてきました。また、ユーザーと接点を持つ工務店の意見を聞きたいと、数年前から森さんとも懇談・勉強を重ねてきました。以前に木製窓をつくったこともあったんです」(後藤社長)。

とはいえ、木製サッシを自社のみでつくるのは容易ではなく、風圧や遮音、気密、断熱といった性能については、森さんにリスクを負ってもらうかたちとなり、性能面でもしっかりとしたものを世に送り出したいという思いを抱いていたそう。

「今回、内窓の製品化にあたっては、富山県にあるYKK APの技術施設に行き、木製内窓の試作品確認会や検証試験を行い、強度、施工のしやすさ、おさまり、断熱、防音など徹底的に試験でき、樹脂の内窓と同程度の性能が担保できました」(上條さん)といい、胸を張って送り出せる「木製内窓」が完成したそう。

驚くべきはその薄さで、なんと10cm! 自然素材である木材は節などがあるため、薄くて強度を出すのは容易ではないそう。一方で、10cmという薄さを担保したことで、既存のマンションや一戸建ての窓に施工しやすく、多くの窓に取り付けることができ、見た目にも美しく収まります。

断熱性や気密性といった性能面、薄さを両立(写真提供/後藤木材)

断熱性や気密性といった性能面、薄さを両立(写真提供/後藤木材)

「完成した内窓を今回、我が家で取り付けましたが、施工時間や手間などは樹脂の内窓とほぼ変わりません。なれてくれば1窓1時間あれば施工可能になりそうです」(森さん)

木製内窓を組み立てる様子。10cmと薄いため、マンション/戸建てともにおさまりのよい商品に。木枠ってやっぱり見ていて惚れ惚れします……(写真提供/後藤木材)

木製内窓を組み立てる様子。10cmと薄いため、マンション/戸建てともにおさまりのよい商品に。木枠ってやっぱり見ていて惚れ惚れします……(写真提供/後藤木材)

欧米の高性能窓に遜色なし。日本の技術を集めた窓に木製内窓を取り付けたところ。YKK APが誇る高性能樹脂窓「APW430」と遜色ない断熱性の数値を出せるそう(写真提供/凰建設 森亨介さん)

木製内窓を取り付けたところ。YKK APが誇る高性能樹脂窓「APW430」と遜色ない断熱性の数値を出せるそう(写真提供/凰建設 森亨介さん)

左側が内窓を取り付けていない箇所、右側が内窓を取り付けた箇所のサーモ画像。左側の窓は青みが強く、右側の窓は緑色になっていて、温度に差があることがわかります。「暮らしがてきめんに変わったということはありませんが、気がつくと快適」(森さん)といいます(写真提供/凰建設 森亨介さん)

左側が内窓を取り付けていない箇所、右側が内窓を取り付けた箇所のサーモ画像。左側の窓は青みが強く、右側の窓は緑色になっていて、温度に差があることがわかります。「暮らしがてきめんに変わったということはありませんが、気がつくと快適」(森さん)といいます(写真提供/凰建設 森亨介さん)

木製内窓の第一号は、ともに研究をしてきた森さん宅の住まいに設置。もとから木のぬくもりを感じる住まいでしたが、木製内窓が違和感なくなじみ、「元からこのような住まいだったのでは?」と見紛うほど。

「住んでしまうとすぐに慣れてしまい以前との差が分かりにくいのですが、朝晩の冷えは気にならなくなりましたし、やはり常に快適です。また、既存の窓と内窓をあわせるとYKK APさんのトリプルガラスのAPW430を上回る熱貫流率0.84w/(平米・K)の性能が出せるように。木製の内窓でここまで性能値を出している商品はないので、自信をもっておすすめできます」と森さん。

ちなみに、森さんがこの木製内窓と相性がよいと考える住まいは、(1)既存~新築マンション、(2)2005年~最近に建てられた一戸建て、(3)防火地域に建てる新築一戸建てだそう。

「特に(1)マンションの場合、窓部分は共用部のため、個人で簡単には窓を取り換えることができませんが(新築・中古ともに)、こうした内窓であれば取り付けやすいでしょう。マンションは躯体自体の断熱性は高いものの、北側は底冷えしたり、直射日光を強く受ける夏場は冷房効率も悪くなるので、弱点ともいえる窓の部分を対策するのにお金をかける価値は十分にあることでしょう」

(写真提供/凰建設 森亨介さん)

(写真提供/凰建設 森亨介さん)

「現在13社から問い合わせがありますが、木製内窓の商品化支援を進め、もっとつながりをつくっていきたいですね。後藤木材様をはじめ、今後、商品化される事業者の技術やノウハウを蓄積・共有することで、生産性向上やコストダウンにもつなげていただきたいと思います。また、森林資源の活用をして、地域活性化にもつなげていただきたいと思います」(山田さん)

後藤木材の後藤さんも、地域活性、森林資源の活用を課題に挙げます。
「戦後に植林された木材は今、使い時を迎えています。1本の丸太からさまざまな製品をつくりたいですし、地域で使って、地域にお金を落としていきたい。今回のように業界や会社の垣根を超えて、知恵を出していけたら」といいます。

森さんは、「今回の内窓のように大勢の人が集まっていいものをつくっても、住まいに採用されなかったとしたらあまりにさみしいので(笑)、まず知ってもらうこと、そして体感してもらうことが大切だと思います。日本の住まいの高断熱化は、本当に窓がカギとなっているので」と力説します。

今年は、「こどもみらい住宅支援事業」がはじまり、記事で紹介した内窓「ゴトモクのウチマド」を使ったリフォームも補助対象となっています。もし、「家が寒い」「光熱費が高い」と気になっているのであれば、この木製内窓、ぜひ検討してみてはいかがでしょうか。ちなみに我が家は2012年築、省エネ等級4ですが、この冬の電気代は3万円を超えました。今、真剣に検討中です。

●取材協力
YKK AP
後藤木材
凰建設 

おしゃれ別荘に月額5.5万円で家族や友人と泊まり放題! サブスク「SANU」八ヶ岳、山中湖など

毎月定額でさまざまな暮らし方ができる「住まいのサブスク」。空き家やゲストハウスを活用したADDressやHafH(ハフ)、ホテルが泊まり放題になるサービスも登場するなど、コロナ禍でテレワークが定着したこともあり、暮らし方のひとつとして普及しつつあります。2021年11月、そんな住まいのサブスクのなかでも、大自然にあるセカンドホーム、いわゆる別荘暮らしが月額5万5円でできるサービス「SANU 2nd Home」が登場し、注目を集めています。実際の利用者の声とあわせてご紹介しましょう。

毎月5万5000円! 豊かな自然の中でもう一つの家―セカンドホームが利用できる

SANU 2nd Home(サヌ セカンドホーム)は、「Live with nature. / 自然と共に生きる。」をコンセプトにした、住まい・別荘のサブスクサービスです。月額利用料は5万5000円で、会員登録をすれば会員本人に加えて、家族や友人など3人まで無料で宿泊できます。利用できる住まいは「SANU CABIN」と呼び、都市部から車で1.5~3時間程度の白樺湖、八ヶ岳などのアクセスのよい場所に、2022年2月現在、2拠点5棟が誕生しており、春頃までに新たに5拠点45棟にオープンする予定です。

白樺湖の風景(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

白樺湖の風景(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

SANU CABIN(写真提供/SANU、撮影/Yikin Hyo)

SANU CABIN(写真提供/SANU、撮影/Yikin Hyo)

SANU CABINは抜群のロケーションに建つ(写真提供/Timothée Lambrecq)

SANU CABINは抜群のロケーションに建つ(写真提供/Timothée Lambrecq)

1回の滞在は4泊まで、週末・休前日やピークシーズンにプラス料金が発生するなどの条件はありますが、憧れの別荘が、ホテルのように使いたいときに使え、しかも定額制とあれば興味がわくのではないでしょうか。2021年11月にサービスを開始しましたが、初期の会員枠は完売し、現在、キャンセル待ちの登録希望者(ウェイティング会員)が1500人以上いる状態だそうで、いかに注目を集めているかがわかります。

今回、SANU 2nd Homeを運営する株式会社Sanuを創業したのは本間貴裕さんと福島弦さん。今まで本間さんは蔵前のNui. HOSTEL & BAR LOUNGEや東日本橋のCITANといった人気ホステルを運営してきましたが、今回の「自然の中にもう一つの家を持つ」というビジネスモデル構築のきっかけとなったのは、自身のコロナ禍の「疎開体験」だといいます。

左から、本間貴裕さん、福島弦さん。本間さんはゲストハウス・ホステルを運営するBackpackers’ Japanの創業者でもあり、ご自身もサーフィンやスノーボードが趣味の、自然を愛する人でもあります。福島さんは、外資系コンサルティング企業を経て、プロラグビーチームの創業やラグビーチームW杯の運営に携わった経歴の持ち主。スキーとラグビーがお好きです(写真提供/SANU、撮影/Ayato Ozawa)

左から、本間貴裕さん、福島弦さん。本間さんはゲストハウス・ホステルを運営するBackpackers’ Japanの創業者でもあり、ご自身もサーフィンやスノーボードが趣味の、自然を愛する人でもあります。福島さんは、外資系コンサルティング企業を経て、プロラグビーチームの創業やラグビーチームW杯の運営に携わった経歴の持ち主。スキーとラグビーがお好きです(写真提供/SANU、撮影/Ayato Ozawa)

「以前から漠然と自然と人をつなげる仕事をしたいと考えていたんですが、2020年の緊急事態宣言下、都市部での密な暮らしへの違和感がはっきりとしてきました。そこで、千葉県の自然豊かな環境に家を借りて過ごしたんですが、それがとても心地よくて。オンラインで仕事しつつ、合間に野に咲く花を摘んできて活けたり、サーフィンをしたり。そこで、海や山に近い場所にある住まいを、スマートフォンで会員登録すればすぐに利用できるサービスがあったらいいなと思いついたんです」(本間さん)

なるほど、本間さん自身の「あったらいいな」をかたちにしていったんですね。別荘やホテルとの違いは、「個人の空間を確保できる」そして「暮らし」の延長線上にある点だ、といいます。
「ホテルにはキッチンがないことが多く、調理や洗濯などができないことが多いもの。また、自分もバックパッカーだったからわかるのですが、アドレスホッパーのように住まいを持たずに転々とホテルやゲストハウスを渡り歩く生活をするのは万人には向きません。自宅のようにくつろぎつつ過ごせて、思いついたときに利用できる気軽さを目指しました」(本間さん)

そのため、利用する人の暮らしやすさを考え、キャビンは内装を統一し、一度滞在すると他のキャビンに滞在しても「どこに何があるかわかる」状態にしているといいます。

(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

海、山、湖、川…。日本の豊かな環境を建物や室内でも楽しめるように

筆者が個人的にすてき!だと思ったのは、周囲の環境だけでなく、建物やインテリアそのものが美しく、滞在したくなるという点です。また、キャビンの内装は統一しているものの、大きい窓の先に広がる風景は二つとして同じものがなく、キャビンごとにまったく異なる景色が映ります。

(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

「海や山や湖、川、高原など、日本の自然環境は本当に豊かです。季節ごとの変化や表情の移り変わりを部屋にいても楽しめるように配慮しています。季節が変わるたび、何度でも来たくなる、繰り返し使ってもらうことがこのサービスで大切にしたいこと」と本間さんは話します。このあたりは、何より本間さん自身が「美しい自然が好き」という想いがあるからでしょう。

デッキから見える風景(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

デッキから見える風景(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

また今回、「建物に岩手県釜石市の杉材を使用しています。それにはコロナの影響も大きく関係しています」と解説するのは、同じく創業者の福島弦さん。

「サービスの設計を考え、建築プランも決まり、いざ着工するぞという段階になって、コロナ禍で海外からの木材の輸入が少なくなったことで国内の木材価格が高騰し、調達できなくなる『ウッドショック』が起きたんです。でも、まあ着工はできるでしょと軽く考えていたら、なんと1棟目からすでに調達できない、と。そこで、日本各地の森林組合さんにお願いしてまわり、結果的に協力してもらえることになったのが釜石地方森林組合だったんです」

(写真提供/SANU、撮影/Sayuri Murooka)

(写真提供/SANU、撮影/Sayuri Murooka)

日本では、戦後に植林した杉材が樹齢50年前後になり、今、建材として“使いどき”になっていますが、長年の木材価格低迷や人手不足などの問題もあり、思うように木材として提供できない状態が続いています。今回SANU 2nd Homeでは、釜石地方森林組合と協力し、木材を提供してもらうだけでなく、キャビンのために伐採した杉の木(50棟でおよそ7500本分)と同じ本数の苗木を、釜石地方に植林する予定です。こうして事業で使った分だけ新しい木々を植えることで、地方の林業、そして森が蘇ることになりますし、事業を通じたカーボンネガティブ(CO2吸収量がCO2排出量を上回る状態)を達成することができます。

(写真提供/ADX)

(写真提供/ADX)

「針葉樹の杉だけではなく、ナラや樫、シイノキなどの広葉樹など異なる種類の苗木を植えることで、多様性のある豊かな森になる。SANU CABINをつくることで、林業が活性化し、日本の森が美しくなっていくとしたら、こんなにうれしいことはないですよね」と話します。

もちろん、SANU 2nd Homeで提供したいのは「自然のなかでの暮らし」といいますが、サービスを考えるうえでも、「持続可能性」が考えられているのはやはり時流といえるでしょう。

旅行やホテルとも違う居心地のよさ! 仕事にもプラスに

SANU 2nd Homeを利用している石田さんと野村さん(ともに30代)にも話を聞いてみました。

野村さん(左)と石田さん(右)(写真提供/野村さん、石田さん)

野村さん(左)と石田さん(右)(写真提供/野村さん、石田さん)

「11月はサービス開始直後から3泊、12月は4泊、1月には4泊と、今のところ毎月利用しています。初めて訪れたのは白樺湖のSANU CABINでしたが、窓からの開放感がすごくて、部屋のカーブがきれいでとても印象に残っています。キッチンも充実していますし、3泊で滞在予定でしたが、すぐに4泊にすればよかった!と思いました」(石田さん)

滞在中は、山に登ったり、自転車でサイクリングにいったり、焚き火をしたりと、存分に野遊びを楽しんでいるそう。もちろん、自宅にいるように仕事をしたり、料理をしたり。ときには地域の店で外食や買い物などをし、地域の人と交流ができるのも、ホーム感があり、二人のたのしみになっています。

(写真提供/野村さん、石田さん)

(写真提供/野村さん、石田さん)

(写真提供/野村さん、石田さん)

(写真提供/野村さん、石田さん)

(写真提供/野村さん、石田さん)

(写真提供/野村さん、石田さん)

「八ヶ岳では周辺の店を紹介したオリジナルのマップがあったんですが、掲載されている店はすべてめぐりました。お店の人との会話でもSANU 2nd Homeに滞在しているというと、どういうサービスなのか聞かれたり。興味関心の高さを感じました」

料理好きな野村さんにとっては、キッチンが充実しているのも、楽しいといいます。
「キャビンが同じかたちをしていて、どこに何があるのかわかるのは、我が家のような安心感がありますね。自分の別荘があるとこんな感じなのかなと思いました」(野村さん)。使い方を聞いていると、生活や暮らしの延長に利用してもらいたいという、サービスの狙い通りと言えるのかもしれません。

(写真提供/野村さん、石田さん)

(写真提供/野村さん、石田さん)

友人たちを招いてホームパーティーをすることも(写真提供/野村さん、石田さん)

友人たちを招いてホームパーティーをすることも(写真提供/野村さん、石田さん)

SANU 2nd Homeのように自宅と別に拠点があると、仕事をするうえでもプラスになっているといいます。
「自宅で働いていると、曜日や時間などのメリハリがなくなってしまいがちですよね。その点、SANU 2nd Homeに行くぞと予定を入れることで、1週間がフラットにならずに、○曜日までにこれを終わらせるなどの意識をするようになりました。違う場所に行くことが、よい刺激になっていると思います」(石田さん)。また、場所も車で2~3時間程度で、ほどよいそう。

(写真提供/野村さん、石田さん)

(写真提供/野村さん、石田さん)

「ホテルやコテージと比較しても、定額料金の価格設定には納得感があるのですが、カーシェアや高速代に加えて、珍しい食材を買ったりすることで、意外とお金を使っているんです(笑)。想定外といえばそれくらいでしょうか。あと、仕事をしていると、背景が映り込むので、『どこにいるの?』と聞かれるんですよね。SANUだよ~と答えると、『いいな』『今度一緒に行きたい』などポジティブな反応がほとんど。私の周りでも移住ほどではなくても、旅行とは違う、地方の体験への興味は高まっている気がします」(野村さん)

お話を聞いていると、「いいな~~!」というみなさんの気持ちにはげしく共感します。旅行ではなく、暮らしと遊びをシームレスに楽しめる。そんなライフスタイル、やっぱり憧れますよね。

別荘を持つよりも手軽で、さまざまな拠点で飽きることもなく生活できるサブスクサービス「SANU 2nd Home」。都市部にある家ももちろん好きだけど、自然のある暮らしもしたい。コロナ禍の転換期に生まれたサービスですが、きっとコロナが収束しても、ひとつの暮らし方として、定着していくに違いありません。

●取材協力
SANU 2nd Home

おしゃれ別荘に月額5.5万円で家族や友人と泊まり放題! サブスク「SANU 2nd Home」八ヶ岳、山中湖など

毎月定額でさまざまな暮らし方ができる「住まいのサブスク」。空き家やゲストハウスを活用したADDressやHafH(ハフ)、ホテルが泊まり放題になるサービスも登場するなど、コロナ禍でテレワークが定着したこともあり、暮らし方のひとつとして普及しつつあります。2021年11月、そんな住まいのサブスクのなかでも、大自然にあるセカンドホーム、いわゆる別荘暮らしが月額5万5円でできるサービス「SANU 2nd Home」が登場し、注目を集めています。実際の利用者の声とあわせてご紹介しましょう。

毎月5万5000円! 豊かな自然の中でもう一つの家―セカンドホームが利用できる

SANU 2nd Home(サヌ セカンドホーム)は、「Live with nature. / 自然と共に生きる。」をコンセプトにした、住まい・別荘のサブスクサービスです。月額利用料は5万5000円で、会員登録をすれば会員本人に加えて、家族や友人など3人まで無料で宿泊できます。利用できる住まいは「SANU CABIN」と呼び、都市部から車で1.5~3時間程度の白樺湖、八ヶ岳などのアクセスのよい場所に、2022年2月現在、2拠点5棟が誕生しており、春頃までに新たに5拠点45棟にオープンする予定です。

白樺湖の風景(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

白樺湖の風景(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

SANU CABIN(写真提供/SANU、撮影/Yikin Hyo)

SANU CABIN(写真提供/SANU、撮影/Yikin Hyo)

SANU CABINは抜群のロケーションに建つ(写真提供/Timothée Lambrecq)

SANU CABINは抜群のロケーションに建つ(写真提供/Timothée Lambrecq)

1回の滞在は4泊まで、週末・休前日やピークシーズンにプラス料金が発生するなどの条件はありますが、憧れの別荘が、ホテルのように使いたいときに使え、しかも定額制とあれば興味がわくのではないでしょうか。2021年11月にサービスを開始しましたが、初期の会員枠は完売し、現在、キャンセル待ちの登録希望者(ウェイティング会員)が1500人以上いる状態だそうで、いかに注目を集めているかがわかります。

今回、SANU 2nd Homeを運営する株式会社Sanuを創業したのは本間貴裕さんと福島弦さん。今まで本間さんは蔵前のNui. HOSTEL & BAR LOUNGEや東日本橋のCITANといった人気ホステルを運営してきましたが、今回の「自然の中にもう一つの家を持つ」というビジネスモデル構築のきっかけとなったのは、自身のコロナ禍の「疎開体験」だといいます。

左から、本間貴裕さん、福島弦さん。本間さんはゲストハウス・ホステルを運営するBackpackers’ Japanの創業者でもあり、ご自身もサーフィンやスノーボードが趣味の、自然を愛する人でもあります。福島さんは、外資系コンサルティング企業を経て、プロラグビーチームの創業やラグビーチームW杯の運営に携わった経歴の持ち主。スキーとラグビーがお好きです(写真提供/SANU、撮影/Ayato Ozawa)

左から、本間貴裕さん、福島弦さん。本間さんはゲストハウス・ホステルを運営するBackpackers’ Japanの創業者でもあり、ご自身もサーフィンやスノーボードが趣味の、自然を愛する人でもあります。福島さんは、外資系コンサルティング企業を経て、プロラグビーチームの創業やラグビーチームW杯の運営に携わった経歴の持ち主。スキーとラグビーがお好きです(写真提供/SANU、撮影/Ayato Ozawa)

「以前から漠然と自然と人をつなげる仕事をしたいと考えていたんですが、2020年の緊急事態宣言下、都市部での密な暮らしへの違和感がはっきりとしてきました。そこで、千葉県の自然豊かな環境に家を借りて過ごしたんですが、それがとても心地よくて。オンラインで仕事しつつ、合間に野に咲く花を摘んできて活けたり、サーフィンをしたり。そこで、海や山に近い場所にある住まいを、スマートフォンで会員登録すればすぐに利用できるサービスがあったらいいなと思いついたんです」(本間さん)

なるほど、本間さん自身の「あったらいいな」をかたちにしていったんですね。別荘やホテルとの違いは、「個人の空間を確保できる」そして「暮らし」の延長線上にある点だ、といいます。
「ホテルにはキッチンがないことが多く、調理や洗濯などができないことが多いもの。また、自分もバックパッカーだったからわかるのですが、アドレスホッパーのように住まいを持たずに転々とホテルやゲストハウスを渡り歩く生活をするのは万人には向きません。自宅のようにくつろぎつつ過ごせて、思いついたときに利用できる気軽さを目指しました」(本間さん)

そのため、利用する人の暮らしやすさを考え、キャビンは内装を統一し、一度滞在すると他のキャビンに滞在しても「どこに何があるかわかる」状態にしているといいます。

(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

海、山、湖、川…。日本の豊かな環境を建物や室内でも楽しめるように

筆者が個人的にすてき!だと思ったのは、周囲の環境だけでなく、建物やインテリアそのものが美しく、滞在したくなるという点です。また、キャビンの内装は統一しているものの、大きい窓の先に広がる風景は二つとして同じものがなく、キャビンごとにまったく異なる景色が映ります。

(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

「海や山や湖、川、高原など、日本の自然環境は本当に豊かです。季節ごとの変化や表情の移り変わりを部屋にいても楽しめるように配慮しています。季節が変わるたび、何度でも来たくなる、繰り返し使ってもらうことがこのサービスで大切にしたいこと」と本間さんは話します。このあたりは、何より本間さん自身が「美しい自然が好き」という想いがあるからでしょう。

デッキから見える風景(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

デッキから見える風景(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

また今回、「建物に岩手県釜石市の杉材を使用しています。それにはコロナの影響も大きく関係しています」と解説するのは、同じく創業者の福島弦さん。

「サービスの設計を考え、建築プランも決まり、いざ着工するぞという段階になって、コロナ禍で海外からの木材の輸入が少なくなったことで国内の木材価格が高騰し、調達できなくなる『ウッドショック』が起きたんです。でも、まあ着工はできるでしょと軽く考えていたら、なんと1棟目からすでに調達できない、と。そこで、日本各地の森林組合さんにお願いしてまわり、結果的に協力してもらえることになったのが釜石地方森林組合だったんです」

(写真提供/SANU、撮影/Sayuri Murooka)

(写真提供/SANU、撮影/Sayuri Murooka)

日本では、戦後に植林した杉材が樹齢50年前後になり、今、建材として“使いどき”になっていますが、長年の木材価格低迷や人手不足などの問題もあり、思うように木材として提供できない状態が続いています。今回SANU 2nd Homeでは、釜石地方森林組合と協力し、木材を提供してもらうだけでなく、キャビンのために伐採した杉の木(50棟でおよそ7500本分)と同じ本数の苗木を、釜石地方に植林する予定です。こうして事業で使った分だけ新しい木々を植えることで、地方の林業、そして森が蘇ることになりますし、事業を通じたカーボンネガティブ(CO2吸収量がCO2排出量を上回る状態)を達成することができます。

(写真提供/ADX)

(写真提供/ADX)

「針葉樹の杉だけではなく、ナラや樫、シイノキなどの広葉樹など異なる種類の苗木を植えることで、多様性のある豊かな森になる。SANU CABINをつくることで、林業が活性化し、日本の森が美しくなっていくとしたら、こんなにうれしいことはないですよね」と話します。

もちろん、SANU 2nd Homeで提供したいのは「自然のなかでの暮らし」といいますが、サービスを考えるうえでも、「持続可能性」が考えられているのはやはり時流といえるでしょう。

旅行やホテルとも違う居心地のよさ! 仕事にもプラスに

SANU 2nd Homeを利用している石田さんと野村さん(ともに30代)にも話を聞いてみました。

野村さん(左)と石田さん(右)(写真提供/野村さん、石田さん)

野村さん(左)と石田さん(右)(写真提供/野村さん、石田さん)

「11月はサービス開始直後から3泊、12月は4泊、1月には4泊と、今のところ毎月利用しています。初めて訪れたのは白樺湖のSANU CABINでしたが、窓からの開放感がすごくて、部屋のカーブがきれいでとても印象に残っています。キッチンも充実していますし、3泊で滞在予定でしたが、すぐに4泊にすればよかった!と思いました」(石田さん)

滞在中は、山に登ったり、自転車でサイクリングにいったり、焚き火をしたりと、存分に野遊びを楽しんでいるそう。もちろん、自宅にいるように仕事をしたり、料理をしたり。ときには地域の店で外食や買い物などをし、地域の人と交流ができるのも、ホーム感があり、二人のたのしみになっています。

(写真提供/野村さん、石田さん)

(写真提供/野村さん、石田さん)

(写真提供/野村さん、石田さん)

(写真提供/野村さん、石田さん)

(写真提供/野村さん、石田さん)

(写真提供/野村さん、石田さん)

「八ヶ岳では周辺の店を紹介したオリジナルのマップがあったんですが、掲載されている店はすべてめぐりました。お店の人との会話でもSANU 2nd Homeに滞在しているというと、どういうサービスなのか聞かれたり。興味関心の高さを感じました」

料理好きな野村さんにとっては、キッチンが充実しているのも、楽しいといいます。
「キャビンが同じかたちをしていて、どこに何があるのかわかるのは、我が家のような安心感がありますね。自分の別荘があるとこんな感じなのかなと思いました」(野村さん)。使い方を聞いていると、生活や暮らしの延長に利用してもらいたいという、サービスの狙い通りと言えるのかもしれません。

(写真提供/野村さん、石田さん)

(写真提供/野村さん、石田さん)

友人たちを招いてホームパーティーをすることも(写真提供/野村さん、石田さん)

友人たちを招いてホームパーティーをすることも(写真提供/野村さん、石田さん)

SANU 2nd Homeのように自宅と別に拠点があると、仕事をするうえでもプラスになっているといいます。
「自宅で働いていると、曜日や時間などのメリハリがなくなってしまいがちですよね。その点、SANU 2nd Homeに行くぞと予定を入れることで、1週間がフラットにならずに、○曜日までにこれを終わらせるなどの意識をするようになりました。違う場所に行くことが、よい刺激になっていると思います」(石田さん)。また、場所も車で2~3時間程度で、ほどよいそう。

(写真提供/野村さん、石田さん)

(写真提供/野村さん、石田さん)

「ホテルやコテージと比較しても、定額料金の価格設定には納得感があるのですが、カーシェアや高速代に加えて、珍しい食材を買ったりすることで、意外とお金を使っているんです(笑)。想定外といえばそれくらいでしょうか。あと、仕事をしていると、背景が映り込むので、『どこにいるの?』と聞かれるんですよね。SANUだよ~と答えると、『いいな』『今度一緒に行きたい』などポジティブな反応がほとんど。私の周りでも移住ほどではなくても、旅行とは違う、地方の体験への興味は高まっている気がします」(野村さん)

お話を聞いていると、「いいな~~!」というみなさんの気持ちにはげしく共感します。旅行ではなく、暮らしと遊びをシームレスに楽しめる。そんなライフスタイル、やっぱり憧れますよね。

別荘を持つよりも手軽で、さまざまな拠点で飽きることもなく生活できるサブスクサービス「SANU 2nd Home」。都市部にある家ももちろん好きだけど、自然のある暮らしもしたい。コロナ禍の転換期に生まれたサービスですが、きっとコロナが収束しても、ひとつの暮らし方として、定着していくに違いありません。

●取材協力
SANU 2nd Home

木造住宅や建築が地球を救う!? 法改正で住まいの潮流は変わる?

2021年10月に木材利用に関する法律が改正された。もっと建築物に木材を利用しましょう、というものだが、なぜ今、国は木材利用を促進するのか。その背景には、単に脱炭素社会を進めるためだけでなく、森林を健全に保つことで人々の生活を豊かにし、地域経済を活性化しようという目標があった。今後の住宅やまちの建築物はどうなっていくのだろうか。具体的に見てみよう。

日本の人工林の半数以上がすでに利用期を迎えている

2021年10月に改正された法律は「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」。要はもっと木材を利用しましょう、利用しやすい環境も整えます、という法律なのだが「改正」という通り、もとの法律は10年以上前の平成22年に制定された「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」だ。

「戦後復興による木材需要の高まりを受けて、日本全国で植林活動が盛んに行われるようになりました。それにより現在では約54億立方メートルという豊かな森林資源を保有するまでになりました。植林から50年以上が経って大きく育ち、本格的な利用期を迎えた人工林がたくさんあるのです」と林野庁の林政部木材利用課、櫻井知さん。

平成29年(2017年)時点で利用期を迎える51年生以上の人工林が全体の50%に達している。なお「齢級」とは、植林からの年数を5年の幅でくくった単位。植林した年を「1年生」として、「11齢級」なら51年~55年生となる(資料提供/林野庁)

平成29年(2017年)時点で利用期を迎える51年生以上の人工林が全体の50%に達している。なお「齢級」とは、植林からの年数を5年の幅でくくった単位。植林した年を「1年生」として、「11齢級」なら51年~55年生となる(資料提供/林野庁)

高性能林業機械による伐採の様子(写真提供/林野庁)

高性能林業機械による伐採の様子(写真提供/林野庁)

樹木は高齢になると成長量が減少し、CO2吸収量も減少するため、森林サイクルを回して若い森林を増やすことが重要だ。森林サイクルを回すメリットは、CO2削減だけではない。このサイクルを回すことで下記図の通り、全国各地の山間部の経済や雇用、生物の多様性、国土や水資源の保全、豊かな海の創出、健康の促進……多様なSDGsにも貢献することになる。「森林」にはそれだけたくさんの産業や、それに伴う人々が関わっていることになる。

人工林を伐って、使って、植えて、育てるという森林サイクルが回ることで、様々なSDGsに貢献することができる(資料提供/林野庁)

人工林を伐って、使って、植えて、育てるという森林サイクルが回ることで、様々なSDGsに貢献することができる(資料提供/林野庁)

木材は国外依存度が高く、安定的な供給が課題

そこで平成22年(2010年)に公共建築物での木材利用を促進する「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が定められた。さらに木材の利用量を増やすため、2021年に入って公共建築物等だけでなく民間の建築物での利用も促す法律に改定されたというわけだ。

木材の利用事例。江東区立有明西学園(写真提供/ウッドデザイン賞運営事務局)

木材の利用事例。江東区立有明西学園(写真提供/ウッドデザイン賞運営事務局)

木材の利用事例。東急池上線戸越銀座駅(写真提供/ウッドデザイン賞運営事務局)

木材の利用事例。東急池上線戸越銀座駅(写真提供/ウッドデザイン賞運営事務局)

改定内容の大きな特徴は、対象物を単に民間建築物に広げただけでなく、建築主などの事業者による木材利用の取組を国や地方自治体が後押ししたり、川上から川下まですべからく見通しをよくし、お互いの信頼関係をつくることができるよう「建築物木材利用促進協定制度」が新設されたことにある。

木材の流通経路は、川の流れに例えて、よく「川上」「川中」「川下」と呼ばれる。「川上」は森林所有者や丸太の生産者、造林などの林業従事者など、主に原材料としての木材を供給する立場のこと。「川中」は木材の流通に関わる業者や、単板・合板、チップ等の加工業者、プレカット(施工前にあらかじめ使用サイズや形状に加工しておくこと)業者などが当てはまる。「川下」は住宅メーカーなどの施工会社、家具製造会社、バイオマス事業者、建築主や消費者など、木材の最終利用者や最終製品の提供者や利用者を指す。

「山に木が植えられてから、住宅などに使用される間には、たくさんの人々が関係しています。そのため川上からは川下の、逆に川下から川上も、それぞれが抱えている課題が見えにくくなっています」。また間に多くの人々が絡むということは、お互いの信頼関係が築きにくいということもある。

特に信頼関係が重要だということは、最近のウッドショックで例えるとわかりやすい。新型コロナウイルス感染症拡大により、アメリカでは一時期経済が落ち込んだ一方で、急速に新築戸建需要が高まり、木材の供給が需要に追いつかなくなった。そのため木材の価格が世界的に高騰。また、コンテナ不足によって、欧州、北米の現地サプライヤーは、アメリカ向けの供給を増やしたことなどにより、日本向けの供給量は減少。これがウッドショックだ。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

先述の通り森林資源が豊かな日本は、一見ウッドショックと無縁かと思われがちだが、日本でも木材価格が高騰した。これまで多くの木材を輸入していた日本は、そもそもウッドショックを受けやすい。だからといって豊富なはずの国内に目を向けても、蛇口をひねるように木材は増えないからだ。例えば製材事業者ひとつとっても、これまで以上の製材を行うためには設備投資が必要になる。「投資後も木材の利用が進むようなら製材事業者としても投資するでしょうが、一時の需要だけで投資するのはリスクが高いのです」と櫻井さん。

投資の難しさを理解するために、もう1つ加えるならば、木は植えて50年後にようやく伐採できるということ。春に植えて秋には収穫できる稲作とはタイムスケールが大きく異なるのだ。ウッドショックで言えば「伐れば植えなければならないが、植えた木を50年後に買ってくれるんですか?」と懐疑的になってもおかしくはない。林野庁では、中期的な戦略として、サプライチェーン・マネジメントの構築によるハウスメーカー等からの国産材の安定需要の獲得、加工流通施設の整備等による国産材製品の供給量の増大や競争力の強化、ICTを活用した生産流通管理等による原木の供給量増大を図っていくこととしている。そこで「建築物木材利用促進協定制度」にも、国や地方自治体が川上・川中・川下の三者の信頼関係の構築に一役買うことが期待されている。

法改正により川上から川下まで、信頼関係が築ける環境をつくる

「建築物木材利用促進協定制度」とは、建築主となる民間の事業者等が、安心して木材の利用に取り組めるようにするため、国や地方公共団体、そしてその先の川中や川上サイドと結ぶ協定だ。主に下記のような形態が考えられている。国や地方公共団体が協定に関わることで、事業者等による取組が社会的に認知されやすくなったり、川上から川下までの関係する各者がお互いの信頼関係を構築しやすくなる。

建築物木材利用促進協定制度による協定のイメージ例。建築主となる事業者は、木材供給事業者等と本協定を締結することで、木材の安定的な供給を受けやすくなる。一方で木材を供給する側も安心して供給できる(資料提供/林野庁)

建築物木材利用促進協定制度による協定のイメージ例。建築主となる事業者は、木材供給事業者等と本協定を締結することで、木材の安定的な供給を受けやすくなる。一方で木材を供給する側も安心して供給できる(資料提供/林野庁)

川下である建設事業者側から見れば、これまで製材を販売する川中までは知っていたとしても、森林所有者など木材を供給する川上の事情まではあまり把握していなかった。しかしこの協定制度によって、利用する木材の産地にこだわることができたり、川上では今どんな種類・樹齢の木材が供給可能であるか、再造林は確実に行われているかなど、全体の流れを隅々まで把握できるようになるから、事業計画を立てやすい。逆に川上の木材供給側は川下の考えを直接聞けるようになるため、木材の供給や植林計画が立てやすくなる。その信頼関係は国や地方自治体等が入ることで裏付けもされる。

新設された「木材利用促進本部」は、いわばこの協定制度の旗振り役といったところ。建築物での木材利用促進に関する基本方針の策定や、実施の推進を行う。これまでは農林水産大臣や国土交通大臣の役割だったが、民間企業を広く巻き込む今回の改正後は環境大臣、経済産業大臣、総務大臣、文部科学大臣といった、関係するすべての大臣が加わっている。

さらに官民協議会「民間建築物等における木材利用促進に向けた協議会」(通称「ウッド・チェンジ協議会」)が昨年9月に立ち上がった。これには日本経済団体連合会(日本経団連)、経済同友会、日本商工会議所の経済3団体をはじめ、日本建設業連合会など建築サイド、全国森林組合連合会や全国木材組合連合会など木材供給サイド、全国知事会など行政サイド……という具合に、川上から川下までの各界の関係者が一堂に会する協議会だ。「法改正を契機として、経済3団体を含む幅広い団体に参画いただくことができました」と櫻井さん。今回の法改正は、木材の利用促進にオールニッポンとして一丸となって取り組もうという意思の表れともいえる。

環境問題への取り組みは、もはや企業の至上命題

実際に、民間企業が木材利用を進めている事例も出てきている。例えば三井ホームは国産材も用いて木造マンション「モクシオン」を建設。また三菱地所は建材用の木材の製造から販売までのビジネスフローを統合することで、中間コストを抑制し、新たな建材の生産や、プレファブ化を行う新会社「MEC Industry」を設立。通常の一戸建てでの商品力・供給力を高めるだけでなく、中高層建築・大規模建築物においても木材利用を推進していくことを目指している。

昨年10月に竣工した東京都中央区銀座の「HULIC &New GINZA 8」(ヒューリック アンニュー ギンザエイト)も民間企業による木材利用促進事例の一つだ。

HULIC &New GINZA 8。約60mという高さのうえ、細長いため先進的な技術が必要だった。設計施工は竹中工務店、基本デザイン監修を隈研吾建築都市設計事務所が担当した。

HULIC &New GINZA 8。約60mという高さのうえ、細長いため先進的な技術が必要だった。設計施工は竹中工務店、基本デザイン監修を隈研吾建築都市設計事務所が担当した。

日本初の耐火木造12階建て商業ビルで、木造+鉄骨造のハイブリッド建築。内装では木材を利用した柱や梁、天井が現し(構造材が見える状態のまま仕上げる方法)となっていて、外装材にも木材が利用されている。しかもこの建築で使用された木材と同等量の、約1万2000本が福島県白河市で植林され、森林サイクルを回している。

貸室内観。外観には天然木のルーバーをあしらい、内装では耐火集成材の柱や梁、CLT(直交集積板)の天井が現しとなっている

貸室内観。外観には天然木のルーバーをあしらい、内装では耐火集成材の柱や梁、CLT(直交集積板)の天井が現しとなっている

ヒューリックプロパティソリューション(株)の浦谷健史副社長は「きっかけは2018年の、経済同友会で提言としてまとめられた『地方創生に向けた“需要サイドからの”林業改革~日本の中高層ビルを木造建築に!~』。主に都心における建築での木材利用を促進し、それにより林業の活性化を図り、地方の創生に繋げていこうという趣旨です。もともと当社は約10年前からCO2削減に着目して事業を展開してきましたが、これに地方創生を加えた方針に賛同し、自ら第一号のビル(HULIC &New GINZA 8)を建てて世の中に木造利用の促進を訴えようと考えたのです」

CO2削減に以前から着目していたというが、それはなぜか? 「ESG投資(環境・社会・企業統治に配慮している企業を重視・選別して行なう投資)が注目されているように、これからの企業にとって、企業価値を高めるために環境問題に取り組むことはもはや必須だからです」

実際、同社は約7年前から太陽光発電事業に参入し、全国各地にメガソーラーを建設。そこで発電した電力を、本社ビルをはじめグループ全体で活用している。2024年までに自社で使用する電力を再生可能エネルギーへ100%転換、2030年には同社が保有する全ての建物において 電力由来のCO 2 排出量ネットゼロ化を達成するという目標も掲げられた。ちなみに、このメガソーラーのひとつが福島県にあり、それが縁で今回の福島県白河市の森林サイクル活動につながったそうだ。

太陽光発電施設(埼玉県加須市)。ヒューリックのメガソーラー。他に福島県等にもある。同社はメガソーラー以外にも自社ビル屋上に太陽光発電パネルを設置している(写真提供/ヒューリック)

太陽光発電施設(埼玉県加須市)。ヒューリックのメガソーラー。他に福島県等にもある。同社はメガソーラー以外にも自社ビル屋上に太陽光発電パネルを設置している(写真提供/ヒューリック)

法改正によって森林サイクルが回りやすくなってきた

今回の法改正について浦谷さんは「改正の目的である『民間建築物に木材利用を広げよう』ということは、まさに当社がHULIC &New GINZA 8で身をもって示そうとしたこと。改正の趣旨や改正点は、当社が取り組んでいる姿勢と同義だと考えています」という。

加えて、実際に手がけたからこそわかる、木材利用の課題についても教えてくれた。それはコストだ。高層化や耐火に対応できる木材は最近の技術で、まだ広く普及していないこともあって、現状では高層化・耐火建築物に木材を利用しようとすると、鉄筋コンクリート造よりもコストが高くなるという。

ただし浦谷さんは同時に、この法律によって日本の木材の生産者(川上)や製造者(川中)の活動が促進されれば、市場が活性化されてコストが下がるだろうと期待していている。また「建築物木材利用促進協定制度」などで、福島県白河市とのような関係が他地域とも築けることに期待を寄せる。「やはり国産材を使いたいですし、建物によってそれぞれ特徴にあった木材を利用したいと思います。そのために全国の様々な木材生産者等とつながりやすくなることはとても有効だと思います」

同社は今後も、現在計画中の新宿区の老人ホーム建設をはじめ木材利用を推進していくという。「これを一時のブームで終わらせてはいけません。木材利用は継続的にやること、森林サイクルを回すことに意味があるのですから」

森林サイクルを回すことで脱炭素化が図れるだけでなく、地域経済も潤い、雇用が増え、森や海が保全されて私たちの生活まで豊かになる。今回の法改正では木材利用を国民運動として展開するため「木材利用促進の日」(10月8日)と「木材利用促進月間」(10月)が法定された。私たちもまずは家を建てる際に、利用する木材に思いをはせることから森林サイクルについて考えてみてはどうだろう。

●取材協力
林野庁
ヒューリック