木のコンテナが今すごい!どこにでも移動できるキャンピングトレーラー、コンサートやバー、茶室などへの用途も

今年は「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律(通称、改正木材利用促進法)」によって、公共建築物やマンションまで「木造」の建築物が次々と誕生しています。そんな中、ついに車にまで木造が進出。箱型の居室に窓やテーブルが整備された木造のキャンピングトレーラー「Wood Vehicle(ウッドビークル)」です。はたしてどんな空間なのでしょうか。誕生の理由と今後の可能性を聞きました。

福井県産の杉を使用。部位で使い分けて強度を確保

木造のキャンピングトレーラー「Wood Vehicle(ウッドビークル)」をデザインしたのは、一級建築士で株式会社HUG山田敏博さん。木造建築の可能性を探るNPO法人 team Timberize(ティンバライズ)の副理事長も務め、都市木造の技術開発や普及活動に取り組んでいる木材活用のスペシャリストです。山田さんは2010年ごろから木材を活用した建築に携わりはじめ、建築はもちろんインテリアや家具の設計まで幅広く手掛けています。

高層だったり、燃えにくくなっている木造の集合住宅はsuumoジャーナルでも取り上げてきたので、なんとなくイメージできましたが、さすがに“木造でキャンピングトレーラー”はなかなかイメージがわきません。少し前にトヨタが手掛けた“木の車”が話題になりましたが、いったい、どんなものなのでしょうか。

木造キャンピングトレーラーの設営イメージ。当たり前ですが木なので、自然とよく調和します(写真提供/株式会社古崎)

木造キャンピングトレーラーの設営イメージ。当たり前ですが木なので、自然とよく調和します(写真提供/株式会社古崎)

「キャンピングトレーラーの土台にあたる“シャーシ”は規格が定まっていて市販されています。まずこれを購入してきて、土台にします。箱状の居住スペースには、主に福井県産の杉を使用しました。外装には防腐、防蟻処理して耐久性を高め、内装には杉の赤身と白太をランダムなストライプに張るなど、パーツごとに最適になるよう杉材を使いわけています。さらに杉とアルミを組み合わせることでけん引車の規格(けん引免許不要)である『750kg以下』になるよう軽量化。販売価格はフルオプション付きのもので、1台450万円ほど。オプションをいれなければ300万円台になります」(山田さん)

木造キャンピングトレーラーの内装。杉でつくった天然のストライプがかっこいい(写真提供/株式会社古崎)

木造キャンピングトレーラーの内装。杉でつくった天然のストライプがかっこいい(写真提供/株式会社古崎)

一部を切り取って見るとキャンピングトレーラーではなく、日本家屋のよう(写真提供/株式会社古崎)

一部を切り取って見るとキャンピングトレーラーではなく、日本家屋のよう(写真提供/株式会社古崎)

ホイール部分も木製。ロゴもおしゃれ!(写真提供/株式会社古崎)

ホイール部分も木製。ロゴもおしゃれ!(写真提供/株式会社古崎)

トレーラー後部を開けたところ。音楽を聞いたり、テントなど各種道具の収納にもぴったり。キャンプ場でもひときわ注目を集めることでしょう(写真提供/株式会社古崎)

トレーラー後部を開けたところ。音楽を聞いたり、テントなど各種道具の収納にもぴったり。キャンプ場でもひときわ注目を集めることでしょう(写真提供/株式会社古崎)

木造のキャンピングトレーラーというのは日本(というか世界でも)まだ希少なため、業界の人だけでなく一般の方からも問い合せが入るのだそう。
「みなさんの興味関心は高いですね。ただ、値段を聞くと『そうですか……』となるケースがほとんどです(笑)」。確かに即決できる金額ではないですが、それでも、興味を持つ人の気持ち、よくわかります。

「木造じゃないものを木造に、木造のものも木造に」

木造キャンピングトレーラー、内観・外観、ホイールどこもかしこもかっこいいのはわかるのですが、でもなぜ、わざわざキャンピングトレーラーを“木造”にしようと思ったんでしょうか。

「私が福井県出身なので、2017年から“ふくい県産材販路拡大協議会“の木材アドバイザーとして携わっているんです。そのご縁で、福井の株式会社古崎という企業と知り合いまして。木材に関する高い技術と加工ノウハウを持っているので、せっかくならオリジナルの製品をつくろう、おもしろいことをやりましょう、と話していたんです。で、古崎さんデザインで車の内装の木質化に取り組むことになりました」と話す山田さん。

自動車の内装を木材で仕上げた。ため息のでるようなかっこよさ。マテリアル好きとしてはたまりません!(写真提供/株式会社古崎)

自動車の内装を木材で仕上げた。ため息のでるようなかっこよさ。マテリアル好きとしてはたまりません!(写真提供/株式会社古崎)

こうして「自分たちのやりたいもの、ほしいものをつくる」ことの楽しさに目覚めた古崎の社員さんと山田さん、自然と出てきたのが、「キャンピングトレーラー」だったそう。

「タイニーハウス(小屋)やバンライフ、キャンプブームもあって、次につくるなら車、なおかつキャンピングトレーラーがいいだろうとなったんです。車を販売するのは、エンジンやブレーキなど駆動部分の整備があって難しい。でも、キャンピングトレーラーなら、居住性も必要だし、木との相性がよさそうだ、ということでチャレンジしてみました。合言葉は、“木でないものを木造に、木のものを木造に”。これが僕の仕事なんです(笑)」と楽しそう。

木造キャンピングトレーラーの制作途中。こう見ると家ですね。思ったより“家”(写真提供/株式会社古崎)

木造キャンピングトレーラーの制作途中。こう見ると家ですね。思ったより“家”(写真提供/株式会社古崎)

「“木”そのものは、日本人にとっても身近にある素材です。それを現代のライフスタイルにあわせて、既存にない、今までにないものをつくることで、より身近に、親近感を持ってもらう。それがこのプロジェクトの価値なんですよ」と山田さん。なるほど、身近にある木材×キャンピングトレーラーのような「ギャップ」があると、注目を集めるもの。見てくれた人が「木っていいな」という再発見こそが、山田さんたちの真の狙いともいえそうです。

HUG山田敏博さん。木に触れる機会、きっかけとしてキャンピングトレーラーをデザイン(写真提供/HUG)

HUG山田敏博さん。木に触れる機会、きっかけとしてキャンピングトレーラーをデザイン(写真提供/HUG)

茶室や音楽室も。まだまだ見逃せない、木造プロジェクト!

山田さんたちの作品はこれだけではありません。ここでは、キャンピングトレーラー以外にも注目したい、木の作品をご紹介しましょう。モバイルウッドベース。音楽鑑賞のためにだけに制作された、コンテナです。コンテナなので移動は可能で、どこでも移動音楽ホールが完成します。遠隔地や地方、屋外イベントとの相性もよさそうです。

外から見たところ。コンテナは世界規格なので、完成した状態で移動や輸出(!)も可能です。伸びしろしかない(写真提供/株式会社古崎)

外から見たところ。コンテナは世界規格なので、完成した状態で移動や輸出(!)も可能です。伸びしろしかない(写真提供/株式会社古崎)

自宅の庭にコンサートホールを付け足すことも可能(写真提供/株式会社古崎)

自宅の庭にコンサートホールを付け足すことも可能(写真提供/株式会社古崎)

天井の凹凸は単なるデザインではなく、音を拡散・吸音・反射させる「QRD音響パネル」になっているそう。デザインと実用を兼ねているんです! かっこよすぎ(写真提供/株式会社古崎)

天井の凹凸は単なるデザインではなく、音を拡散・吸音・反射させる「QRD音響パネル」になっているそう。デザインと実用を兼ねているんです! かっこよすぎ(写真提供/株式会社古崎)

次にご紹介するのが、モバイルウッドベース茶室です。音楽室と同様、コンテナの規格になっているのですが、室内に待合、にじり口(くぐって通る戸)、そして茶室へという茶道の一連の流れまで再現。しかも坪庭まであるではないですか。もちろん茶室にしてもいいですが、オフィスにしたり、2拠点生活の場所として活用したり、用途は無限にありそうです。

「モバイルコンテナにすることで、地方の雇用創出につながります。組み立てて消費地に持っていけるので、建設業のマンパワー不足の解消にも貢献。さらに移動できるので災害時の住まいにもなるし、海外に輸出することもできます」(山田さん)。コンテナと木の組み合わせも、確かにユニークです。

コンテナから明かりが漏れる様子は、雅だし和ですね!(写真提供/株式会社古崎)

コンテナから明かりが漏れる様子は、雅だし和ですね!(写真提供/株式会社古崎)

コンテナのモバイル性を活かしつつ木の空間に仕上げる。木製の踏石や玉砂利にも注目!(写真提供/株式会社古崎)

コンテナのモバイル性を活かしつつ木の空間に仕上げる。木製の踏石や玉砂利にも注目!(写真提供/株式会社古崎)

水平ラインを強調した横格子。視線を遮りつつ、光を取り入れる工夫がされています(写真提供/株式会社古崎)

水平ラインを強調した横格子。視線を遮りつつ、光を取り入れる工夫がされています(写真提供/株式会社古崎)

木造コンテナは、さらに移動可能なバーとして活用する方法もあります(写真提供/HUG)

木造コンテナは、さらに移動可能なバーとして活用する方法もあります(写真提供/HUG)

ほかにもホテルとして活用する方法もある。木造ならではの、くつろぎ感と上質感、最高ですね(写真提供/HUG)

ほかにもホテルとして活用する方法もある。木造ならではの、くつろぎ感と上質感、最高ですね(写真提供/HUG)

キャンピングトレーラーは株式会社古崎(福井県福井市)で、コンテナ作品はホテル田園プラザ(群馬県利根郡川場村)で見学可能。発注は、HUGまたは株式会社古崎で受け付けており、個別オーダー(カスタマイズ)も可能とのことです。

福井県の森の様子。日本には活用されていない木材がまだまだ眠っています……(写真提供/福井県木材組合連合会)

福井県の森の様子。日本には活用されていない木材がまだまだ眠っています……(写真提供/福井県木材組合連合会)

山田さんは、こうした木材の活用デザインのほかにも、ワークショップやイベントなどを仕掛けて、木の魅力、文化を発信しているといいます。
「品川の宮前商店街(東京都品川区)で“ふくいしながわハッピーウッドキャラバン”というイベントを実施します。2015年にワークショップで木製のベンチを作り設置して使ってきたのですが、だいぶいたんできたので、みんなでリペアするんですよ。メンテすれば長持ちする、これも木の良さですよね」(山田さん)。ほかにも、商店街のど真ん中で木の玉プール、滑り台、ウッドボルトクラフトなどの「木育ひろば」を設置するほか、木工ワークショップ、マルシェ、木製品などの販売も行う予定だとか。

2022年に実施するハッピーウッドキャラバン(左)と、同日開催のトーク&ものづくりイベント(連動企画)(右)のチラシ(写真提供/HUG)

2022年に実施するハッピーウッドキャラバン(左)と、同日開催のトーク&ものづくりイベント(連動企画)(右)のチラシ(写真提供/HUG)

2021年、青山で実施したハッピーウッドキャラバンの様子。子どもたちも、やっぱり木が好き(写真提供/HUG)

2021年、青山で実施したハッピーウッドキャラバンの様子。子どもたちも、やっぱり木が好き(写真提供/HUG)

木の良さは触れること、体感することで、実感できます。そもそも、木材は時間をかけて育んだ日本の貴重な資源のはずですが、現状では安く輸入される海外のものが中心で、国産材は十分に活用できてはいません。山や林業を、次世代によりよいかたちで引き継ぐためにも、もっともっと木がさまざまなものに使われ、身近になっていってほしいな、と思います。

●取材協力
HUG
FUKUI SHINAGAWA HAPPY WOOD CARAVAN リペアWS、トーク&ものづくり共通申込フォーム

昭和レトロの木造賃貸が上池袋で人気沸騰! 住民や子どもが立ち寄れる憩いの場、喫茶店やオフィスにも活用 豊島区

東武東上線の北池袋駅(東京都豊島区)から徒歩10分ほどの場所で活動する「かみいけ木賃文化ネットワーク」。活動の中心は昭和に建築された3つの木造賃貸建築物。コミュニティづくりやアートワーク、オフィス、住居などに利用し、訪れる人や住まう人たちがゆるやかに活動をする繋がりをつくり上げています。
そのようななか、2022年1月に新たなスペースとして「喫茶売店メリー」をオープン。まちなかに住む人々とのつながりが変化したそうです。一体どのように変わったのでしょうか。

木造賃貸アパートをもっと面白く活用したい

巨大ターミナル駅・池袋駅の1つ隣にある、東武東上線の北池袋駅。周辺には低層住宅が所せましと並び、大都会である豊島区・池袋とは思えぬ穏やかな時間が流れます。駅から住宅街を10分ほど歩いていくと、昔ながらの木造の建物「山田荘」「くすのき荘」「北村荘」が見えてきます。戦後、「木賃(もくちん)」と呼ばれる、狭い木造賃貸アパートが多く建築されたこのまちで、ネットワークをつくりながら”木賃文化”を盛り上げているのは、「かみいけ木賃文化ネットワーク」を運営する、山本直さん・山田絵美さん夫妻。

実家である「山田荘」について、思いを話す山田絵美さん(写真撮影/片山貴博)

実家である「山田荘」について、思いを話す山田絵美さん(写真撮影/片山貴博)

「かみいけ木賃文化ネットワーク」は木造賃貸アパートをどう面白く活用するかを徹底的に考える活動。活動のきっかけは、山田さんが両親から受け継いだ「山田荘」でした。

「『山田荘』は、もともと私の実家が、賃貸アパートとして運営していた建物です。とはいえ、狭くて古い建物を住まいとして貸し続けることには限界があると感じていて。私が受け継ぐ時に、この建物を『もっと良く活用ができないものか』と考え始めたんです」(山田さん)

1979年築の木造賃貸アパート「山田荘」は、昔ながらの風呂なし・トイレ共同で、4畳半の部屋が並ぶ6室構成。随所に古き良き面影を残しながらも、綺麗にリフォームされています。入口では愛らしい人形がお出迎えする(写真撮影/片山貴博)

1979年築の木造賃貸アパート「山田荘」は、昔ながらの風呂なし・トイレ共同で、4畳半の部屋が並ぶ6室構成。随所に古き良き面影を残しながらも、綺麗にリフォームされています。入口では愛らしい人形がお出迎えする(写真撮影/片山貴博)

「山田荘もそうですが、かなり築年数の進んだ木造アパートなどは、現代の建物と比べると機能も足りてないところが多いんですよね……。風呂なし、トイレ共同、洗濯機置き場がないというのがおおむねスタンダードです。でも暮らしの全てを、自分の住むスペースでまかなうのではなく、まち全体を1つの『家』に見立てれば、いろんな暮らし方ができるんじゃない?と思うのです。台所がないなら食堂へ。お風呂がないならば、銭湯へ。アトリエがないならばガレージへ。庭がないならば公園へ――古き良き木造建築物を楽しんで生かし、”足りないことはまちなかで補い、まちの人や暮らしとゆるく繋がろう”ということを目指しています」(山田さん)

アーティストの拠点として、木造賃貸アパートの居室を利活用

こうした活動に至ったのは、山田さん自身が、豊島区内で実施していたアートイベントとの出合いも影響していたようです。2011年ごろから、東京都や豊島区は「としまアートステーション構想」という、地域資源を活かした「アート」につながる活動をする場づくりをしていました。その一環で山田荘のアパートの一部を、美術家である中崎透さんの滞在制作場所として提供しました。

アーティストなどに賃貸している山田荘1階の入口部分(写真撮影/片山貴博)

アーティストなどに賃貸している山田荘1階の入口部分(写真撮影/片山貴博)

「山田荘をプロジェクトで活用してもらえることはうれしかったですね。この建物は、古い木造建築物で、当時の建築基準法に沿ってつくられており、現行法では既存不適格です。そのため、これを壊すことなく同じ形で、建物そのものが持つ良さを文化として残したいという思いもあったので、これはチャンスだと感じました」(山田さん)

3つの拠点を行き来することで、新たな出会いと交流が生まれる

「山田荘」の、居住する以外の活用方法を通じて、おもしろさを実感した山本さん・山田さん。

「そうしたら、自然と空き物件が目に入るようになったんです(笑)」(山田さん)

その後、2016年に「山田荘」から徒歩5分ほどの位置にある「くすのき荘」を借り、2020年には「北村荘」を借りることとなりました。

運送会社が使用していた建物を改修した「くすのき荘」。右横にはくすのき公園があり、まるで庭のよう(写真撮影/片山貴博)

運送会社が使用していた建物を改修した「くすのき荘」。右横にはくすのき公園があり、まるで庭のよう(写真撮影/片山貴博)

運送会社の名残を残す「くすのき荘」は、1975年築の2階建て事務所兼住居建物です。隣にはくすのき公園があり、あたりには気持ちの心地の良い穏やかな時間が流れています。

運送会社時代に倉庫として使用されていた天井の高い1階スペースは、メンバー制のシェアアトリエとして利用。2階は、山本さん・山田さん夫妻の居住スペースのほか、メンバーのシェアリビング、シェアキッチンとしても開放。時折開かれるイベントには、近所に住むメンバー外の人も訪れることもあり、まさに「まちのリビング」として、思い思いの時間を過ごしています。

1階にあるメンバー制のシェアアトリエ。大学生がアート作品の制作をしたり、アーティストがワークショップを開いたりと、それぞれの活動を繰り広げている(写真撮影/片山貴博)

1階にあるメンバー制のシェアアトリエ。大学生がアート作品の制作をしたり、アーティストがワークショップを開いたりと、それぞれの活動を繰り広げている(写真撮影/片山貴博)

2階のシェアスペースは、勉強に使ってよし、食事してよし、と使い道は自由自在。時折イベントやワークショップも実施されている(写真撮影/片山貴博)

2階のシェアスペースは、勉強に使ってよし、食事してよし、と使い道は自由自在。時折イベントやワークショップも実施されている(写真撮影/片山貴博)

看板猫がのんびりと同居中(写真撮影/片山貴博)

看板猫がのんびりと同居中(写真撮影/片山貴博)

一方、2020年に活動開始した「北村荘」は一見すると一軒家のようですが、1階・2階にそれぞれ玄関があり、スペースが区切られている2階建ての木造賃貸アパート。1階は住人たちのコミュニティスペース、2階はシェアハウスになっています。

「1964年築のこの建物は、山田荘と同じく、旧耐震基準の建物です。やはり一度壊したら同じ形での再建築は不可です。私たちが山田荘に対して感じていたことと同じように、不動産屋さんからも『この建物を壊すことなく活かす方法を探している』と相談をいただき、引き受けることにしました」(山田さん)

その後、耐震改修を加え、内装をDIYで改装し、「北村荘」は再生されたのです。

「北村荘」への入口は昔ながらの細路地(写真撮影/片山貴博)

「北村荘」への入口は昔ながらの細路地(写真撮影/片山貴博)

1階のコミュニティスペース、2階のシェアハウス(居住スペース)にはそれぞれに別の玄関がある(写真撮影/片山貴博)

1階のコミュニティスペース、2階のシェアハウス(居住スペース)にはそれぞれに別の玄関がある(写真撮影/片山貴博)

DIYのワークショップを行いながら改装した「北村荘」1階のコミュニティスペース。”日常生活の中で探求する場”として研究活動や、ワークショップなどが行われている(写真撮影/片山貴博)

DIYのワークショップを行いながら改装した「北村荘」1階のコミュニティスペース。”日常生活の中で探求する場”として研究活動や、ワークショップなどが行われている(写真撮影/片山貴博)

「3つの建物は、コンセプトも用途も異なりますが、利用者は居住者やご近所さんだけでなく、遠方から”何か楽しい集まり”や”出会い”を期待して足繁く通う人もいます。また、それぞれの拠点を行き来する使い方もあります。そうすることで新たな出会いや交流が生まれますね」(山田さん)

コロナ禍で、半径500m圏内のご近所付き合いを実感

「開けたまちのスペース・まちの人同士をつなぐ場でありたい」という願いがありながらも、「メンバーシップ制」のため、どうしても仲間うちの閉じた活動になりやすいことが悩みだったそうです。

「活動をするメンバーは、”アート”をきっかけに興味を持った人のほか、豊島区近郊ではなく、首都圏内広くから、さらにはそれより遠方から通うクリエイターさんもいて。特に『くすのき荘』はガレージの奥が深く、常にオープンしていたわけではないので、近所の人たちからは『一体あそこで何をやっているのだろう?』と思われがちだったんです」(山本さん)

子どもが気軽に楽しめるようにと、駄菓子やおもちゃも販売(写真撮影/片山貴博)

子どもが気軽に楽しめるようにと、駄菓子やおもちゃも販売(写真撮影/片山貴博)

隣にあるくすのき公園で遊ぶ人も(写真撮影/片山貴博)

隣にあるくすのき公園で遊ぶ人も(写真撮影/片山貴博)

そんななか、2020年からのコロナ禍で状況が大きく変化しました。

区外の離れた場所からコミュニティスペースに通えなくなる人が増加した一方で、人々の活動範囲が狭められ、半径500m圏内の生活濃度が上がったのを実感したそうです。

これを機に、『くすのき荘』を、地域の人たちと繋がるためのもっと”開けた場”にし直そうと決意。いつでも誰でもふらっと足を運び、気軽におしゃべりしたり、交流する” 半径500m圏内の憩いの場”にするべく、リニューアルすることにしたのです。

特別な店ではない 日常の延長にある「喫茶売店メリー」をオープン

山本さんは、リニューアルにあたって「喫茶売店メリー」を設けることを決めます。

「喫茶というよりも、イメージは『公園にある売店』といった感じのものを考えていました。ガレージを開放した状態だと、隣にあるくすのき公園と地続きになり、自由に行き来ができる。そういうつくりにして、『喫茶売店メリー』が”街の一角である”ことをイメージさせたかったのです」(山本さん)

(写真撮影/片山貴博)

(写真撮影/片山貴博)

正面の通りからも、ガレージ側からも購入ができる開放的なキッチンカウンター(写真撮影/片山貴博)

正面の通りからも、ガレージ側からも購入ができる開放的なキッチンカウンター(写真撮影/片山貴博)

やはり、まちの人にとって「こんな開放的な場所があるのね!」と知ってもらい、いつでも足を延ばしてほしい、という思いがあるゆえなのでしょう。

「このエリアにはお年を召した方も多く住んでいます。若い単身者や外国にルーツを持つ人も多く、まさに多種多様です。さまざまな人にとって魅力的に感じ、いつでも気軽に訪れることができるコンテンツは何か?と考えた結果、カフェという答えに行きつきました。でも僕自身は今までカフェなんてやったことなかったんですよ。だから本当にイチから勉強で、試行錯誤もいいところです(笑)。

最初はレシピやメニューをつくるにも、何からすればいいか分からなかったんです。なので、近所に住む台湾人の料理人のおじさんに教えてもらい、看板メニューであるルーローハンをつくったんですよ。おかげさまで彼はよく顔を出してくれます」(山本さん)

看板メニューのルーローハンとアイスコーヒー(写真撮影/片山貴博)

看板メニューのルーローハンとアイスコーヒー(写真撮影/片山貴博)

カフェを増築するにあたっては、山本さんと旧知の関係である建築事務所「チンドン」主宰、建築家の藤本綾さんが設計を担当しました。

設計を担当した藤本綾さん。施主である山本・山田さん夫妻の想いや願いを聞きながら一緒につくり上げていくことが新鮮かつ楽しかったそう(写真撮影/片山貴博)

設計を担当した藤本綾さん。施主である山本・山田さん夫妻の想いや願いを聞きながら一緒につくり上げていくことが新鮮かつ楽しかったそう(写真撮影/片山貴博)

「中をのぞけば楽しそうにしている方たちがたくさんいるのに、外部から中の様子が見えづらいことで、入りづらさを感じて。開放的な場所づくりを意識し、建物の大きな扉を開けるとコンパクトな売店が出現する設計にしました。テイクアウトで使えるような小さな窓口を設けることで、通りを歩く人との接点がつくりやすいようにしています」(藤本さん)

通りからフラッと入れる入口ゆえ、この日も台湾人のおじさんが顔を出す(写真撮影/片山貴博)

通りからフラッと入れる入口ゆえ、この日も台湾人のおじさんが顔を出す(写真撮影/片山貴博)

ゆるく交わるオープンスペースの連続性で、都心の街並みは変わる

2022年1月に「喫茶売店メリー」がオープンしてから、半年以上が経過。内輪感のある空気にひそかに頭を悩ませていた山田・山本さん夫妻は「顔ぶれに変化が生まれた」と話します。

開放的なガレージ部を利用した喫茶スペースに開店と同時に人が集う(写真撮影/片山貴博)

開放的なガレージ部を利用した喫茶スペースに開店と同時に人が集う(写真撮影/片山貴博)

「ワンちゃん連れのお客さんが散歩の途中でコーヒーを買ってくれたり、ベビーカーで赤ちゃんを連れたファミリーが公園に寄る途中で訪れてくれたりすることが増えましたね。あと、たまに小学生がフラっとガレージに紛れ込んでくるんです。何気なくベンチで休憩していて(笑)。そういうのが楽しいですよね。まちの居場所として思ってもらえているんだなと」(山本さん)

これまでに「かみいけ木賃文化ネットワーク」の活動にアドバイスしてきた、「まちを編集する出版社」千十一編集室の代表・編集者の影山裕樹さんは、今回「喫茶売店メリー」オープンに伴い、クラウドファンディングの立ち上げから、コピーライティング、コンセプトの考案などのディレクションに携わりました。その時のことを思い出しながら、こう話します。

まちのコミュニティについて研究を続ける影山さんは、「かみいけ木賃文化ネットワーク」を支える重要な存在の一人(写真撮影/片山貴博)

まちのコミュニティについて研究を続ける影山さんは、「かみいけ木賃文化ネットワーク」を支える重要な存在の一人(写真撮影/片山貴博)

「昔は、角のタバコ屋のようにちょっとした憩いの場ってありましたよね。いまでも都市公園にある、気の抜けた売店みたいな場所があり、そこに集う人々は飲食や休憩、遊具の購入などいろいろな目的を持って訪れています。ですが、現代の都市空間においては、経済合理性が優先され、お店の機能が限定されてしまっています。複数の機能を持ったゆるいスペースがなくなっているんです。そういう場所をつくりたかったので、今回のプロジェクトは渡りに船だなと感じました。また、東京の人たちは、自分の足元の半径500mのコミュニティとの繋がりがほとんどなく、せいぜいコンビニや居酒屋とかしか行かない。こうした狭い範囲で暮らす人が多様な人と関われる場所にもしたくて、”公園の売店のようなお店”だとか、”開けっぱなしの客席”というコンセプトにつながりました」(影山さん)

上池袋のまちを中心とした、「木賃文化」のことやご近所付き合いについても、続けてこう話します。

「このエリアは木造密集エリアとして知られ、火事などの災害に弱い反面、木貸アパートが持つゆるやかなご近所づきあいという、文化的遺伝子を持つエリアでもあります。都市開発において、木造賃貸アパートは次第に淘汰されていく運命ですが、高度成長期は地方都市からの上京組が、その時代を経て、日本へやってきた外国人や単身者が暮らし、家族とは違うコミュニティを形成してきました。こうしたご近所さんとのゆるやかなつながりを生み出す仕組みを、現代に引き継ぐというのが木賃アパートの価値だと思います。こうしたソフト面でのまちづくりは現代の東京に必要な視点だと思いますね」(影山さん)

くすのき荘オープン時に募ったクラウドファンディングのリターンの1つ、中崎透制作の看板たち。地域の応援でこの場所は支えられている(写真撮影/片山貴博)

くすのき荘オープン時に募ったクラウドファンディングのリターンの1つ、中崎透制作の看板たち。地域の応援でこの場所は支えられている(写真撮影/片山貴博)

「カフェができることによって、出入り自由のオープンな雰囲気がより強くなったと思います。こうした空気感のある中で生まれる小さなつながりが、徐々に広がっていくと、きっと住みやすい街になっていきそうですよね」(山本さん)

「かみいけ木賃文化ネットワーク」内にもたらされた、「喫茶売店メリー」オープンという変化は、都市のソーシャルな課題を解決するために多くの人に知ってほしい、”小さくも大きい出来事”だったのではないでしょうか。

●取材協力
・かみいけ木賃文化ネットワーク

マンションも木造の時代に! 耐震性や遮音など住みごこち満足度98%のお墨付き 「MOCXION INAGI」東京都稲城市

法律の改正により国土交通省が民間での木材活用を推進したこともあり、2021年から木造ビルが各地に誕生し、今、かつてないほど「木造建築」に注目が集まっています。なかでも、2021 年に完成した「MOCXION INAGI(以下、モクシオン稲城)」(三井ホーム)は木造マンションの幕開けを象徴するような建物です。入居者の実際の住み心地や満足度、マンションの性能、今後どのように普及していくかについて紹介します。

遮音、耐震性もバッチリ! 入居者の98%が住み心地に満足と回答

高層ビルやマンションは珍しいものではありませんが、その多くはコンクリートと鉄骨鉄筋で、構造でいうと、鉄筋コンクリート(RC造)や、鉄骨鉄筋コンクリート(SRC造)にあたります。だからこそ、記事冒頭のように一見よくある新築マンションが「木造なんだよ」と言われたら、多くの人は驚くのではないでしょうか。

「木造マンション」という新しいカテゴリーを生み出した「モクシオン稲城」一見、よくあるマンションですが、実は「木造」なんです(写真撮影/片山貴博)

「木造マンション」という新しいカテゴリーを生み出した「モクシオン稲城」一見、よくあるマンションですが、実は「木造」なんです(写真撮影/片山貴博)

そんな驚くような木造マンション「モクシオン稲城」が2021年11月、東京都稲城市に完成しました。総戸数は51戸、間取りは2LDK~3LDK、専有面積は50平米~96平米で、シングルからディンクス、子どものいる世帯が暮らしています。1階はRC(鉄筋コンクリート)造で、2~5階に木造枠組壁工法を採用しています。賃料は稲城駅の周辺物件の相場よりも高額な設定でありながらも、見学した人の約7割が入居を申し込みたい(内覧即申し込み含む)と回答し、募集開始後約1カ月で満室になるほどの人気物件です。

エントランスの上部にも木をあしらっています。木ってやっぱりカッコいい(写真撮影/片山貴博)

エントランスの上部にも木をあしらっています。木ってやっぱりカッコいい(写真撮影/片山貴博)

木造の建物というと、音や耐火性、耐震性などが心配という人もいるかもしれませんが、住み心地はどうなのでしょうか。

「入居から4カ月が経過した今春、アンケートをしましたが、入居している47世帯からの回答のうち98%もの人が満足と回答してくださっています」と話すのはこのプロジェクトの推進責任者の依田明史(よだあけし・三井ホーム)さん。では、どのような点に魅力を感じているのでしょうか。

「入居開始が12月だったので、入居者のみなさんは冬をマンションで過ごされたわけですが、断熱性にすぐれ、結露が少なくて快適、天井高や断熱、遮音といった点で高く評価していただいています。耐震性でいうと、3月には東京都で震度4の地震が発生しましたが、その際も揺れてモノが落ちるなどもなく、コンクリートのマンションに住んでいたときと体感はまったく変わらなかったとのコメントも聞きました」(依田さん)

「木造」マンションを推進した依田さん。完成するまでは「木造でしょ」と言われることが多く、悔しい思いをしたことも(写真撮影/片山貴博)

「木造」マンションを推進した依田さん。完成するまでは「木造でしょ」と言われることが多く、悔しい思いをしたことも(写真撮影/片山貴博)

見学のきっかけは、「木造マンションに興味」「脱炭素に貢献」

木造建築物をめぐる法改正などの背景はSUUMOジャーナルでもお伝えしてきましたが、そうはいっても、「一戸建てではない木造建築に住みたい!」と意欲的な人は実はまだごく少数なのではないでしょうか。そもそも、入居者のみなさんは、「木造マンション」のどのあたりに魅力を感じて、見学にいらっしゃったのでしょう。

「見学者のみなさんに来場のきっかけのアンケートをしたのですが、『木造マンションに興味があった』が2位、『木造マンションは地球環境にやさしく脱炭素に貢献』が6位となっていました。実はこの『脱炭素に貢献』というのは、マーケットにおける環境意識の変化を知りたくて手探りで選択肢に入れたのですが、驚くほど上位に来ていました。私たちが思っている以上に、環境意識が高まっているのだと思います」と依田さんは分析します。

回答数89、複数回答可

回答数89、複数回答可

近隣エリアからの見学者は当然のことながら多かったそうですが、東京都品川区や文京区といった都心部からの住み替えもあったといい、いかに木造マンションが注目されていたかがわかります。

「コロナ禍で、多くの企業でテレワークが導入されたことで、郊外で少し広め、質のよい建物に住みたいという需要をくみ取れたと思います。室内の広さを確保したい、地球環境意識の高まりなど、まさに時代の流れにあった建物が完成したと思っています」(依田さん)

エントランスホールには木をふんだんにあしらった和モダンな雰囲気に(写真撮影/片山貴博)

エントランスホールには木をふんだんにあしらった和モダンな雰囲気に(写真撮影/片山貴博)

廊下は建物に内包された「内廊下方式」に。高級感があっていいですよね(写真撮影/片山貴博)

廊下は建物に内包された「内廊下方式」に。高級感があっていいですよね(写真撮影/片山貴博)

部屋番号も木製。こういう遊び心のある造りも心躍ります(写真撮影/片山貴博)

部屋番号も木製。こういう遊び心のある造りも心躍ります(写真撮影/片山貴博)

1階のモデルルーム。木造マンションへの関心は高く、デベロッパー、不動産会社、金融機関など見学希望が絶えないそう(写真撮影/片山貴博)

1階のモデルルーム。木造マンションへの関心は高く、デベロッパー、不動産会社、金融機関など見学希望が絶えないそう(写真撮影/片山貴博)

5階のモデルルーム。最上階ですが表面に木材を使って仕上げています(写真撮影/片山貴博)

5階のモデルルーム。最上階ですが表面に木材を使って仕上げています(写真撮影/片山貴博)

テレワークを想定した部屋。コロナ禍のテレワーク需要に応える結果に(写真撮影/片山貴博)

テレワークを想定した部屋。コロナ禍のテレワーク需要に応える結果に(写真撮影/片山貴博)

RC造(写真左)には柱や梁(はり)のでっぱりがありますが、木造(写真右)は壁面工法のため梁のでっぱりがなく、部屋がより広く、のびやかな空間になるのがおわかりいただけますでしょうか(写真撮影/片山貴博)

RC造(写真左)には柱や梁(はり)のでっぱりがありますが、木造(写真右)は壁面工法のため梁のでっぱりがなく、部屋がより広く、のびやかな空間になるのがおわかりいただけますでしょうか(写真撮影/片山貴博)

写真を見ていただくとわかると思いますが、エントランスや内廊下、キッチン、リビングなど、随所に木が使われていて、一般的な賃貸物件のデザイン・仕様とは一味違います。

建物をつくる、住む、解体する。すべてのステップで環境負荷を軽減

木造建築の強みとして(1)快適で住み心地がよい、(2)断熱性にすぐれる、(3)軽量で施工性にすぐれるが挙げられますが、それだけではありません。

「『木』で建物をつくるということは、S(鉄骨)造、RC(鉄筋コンクリート)造、SRC(鉄骨鉄筋コンクリート)造と違い、二酸化炭素を大気中に戻さないわけですから、この建物で炭素を数十年間貯蔵しているわけです。この建物だと約736.4トン、貯蔵している計算になり、これは樹齢35年の杉の木に換算すると約3,000本に相当します。また、建築にかかる二酸化炭素排出量はRC造の半分程度で、将来、解体するときも二酸化炭素の排出量が抑えられるでしょうし、解体後も木材なら再利用も可能です」と依田さん。

コンクリートは二酸化炭素を吸収してくれませんが、木は二酸化炭素を吸収して大きくなります。木材を使っている住まいだとそれだけで「二酸化炭素を貯蔵している」というのは、新しい発見です。また、冒頭に挙げたとおり、(2)木材は断熱性にすぐれているという特性を活かし、省エネルギー集合住宅の証である「ZEH-M oriented(ゼッチ・エム・オリエンテッド)」の認証を取得。住んでいる人から見ると、真夏の冷房、真冬の暖房使用量が少なくて済み、より省エネルギーになるというわけです。よく、“つくる責任、使う責任”といわれますが、トータルで見ても環境性能にすぐれる木造建築は、非常に時代に合った建物といえそうです。

中層建築・大型建築を可能にした高強度耐力壁「MOCX wall」(写真撮影/片山貴博)

中層建築・大型建築を可能にした高強度耐力壁「MOCX wall」(写真撮影/片山貴博)

モデルルームでは生活音を再現し、音の伝わり方を体験できて、遮音性の高さに驚くはず(写真撮影/片山貴博)

モデルルームでは生活音を再現し、音の伝わり方を体験できて、遮音性の高さに驚くはず(写真撮影/片山貴博)

木材に加えて、構造的にも高気密・高断熱とすることで、住宅性能評価の「断熱等性能等級4」「一次エネルギー消費量等級5」を取得(写真撮影/片山貴博)

木材に加えて、構造的にも高気密・高断熱とすることで、住宅性能評価の「断熱等性能等級4」「一次エネルギー消費量等級5」を取得(写真撮影/片山貴博)

課題は部資材や人材確保。「木造マンション」を当たり前の時代に

実は木造マンション、環境負荷が低いだけでなく、工期を短縮できることから、RC造と比較して「建築費が安く、工期も早い」という利点もあったそうですが、昨今のウッドショックの影響と世界情勢による建築費の高騰から「安くて早い」とは断言しにくくなったとのこと。

「住宅建材全般の急激な値上がりが激しいのと、工事を実施する土地の周辺事情により建築費と工期は違ってきます」と依田さん。

もう一つ、今まで木造住宅の普及のネックになってきたのがとポータルサイトでの「ジャンル」です。

「一般的にはアパートよりマンションの方が価値が高いと認識されています。しかし、今まで弊社でどんなによい木造賃貸住宅をつくっても、SUUMOほか、ポータルサイトでは規約によりマンションで募集登録できませんでしたし、同業他社からは『木造アパートはマンションでないため経年すると価値が下がり入居者募集に苦労しますよ』と言われてきました。どんなにいい木造建築をつくっても評価されないのだと、悔しい思いをしてきたんです。今回、一定の要件のもと、木造住宅でも『マンション』として募集できるようになりました。さらに、プロ投資家に向けて、住宅性能評価書と投資判断に重要とされるエンジニアリングレポートを取得することで、木造でもRC(鉄筋コンクリート)造と同等の減価償却期間47年が可能となることを証明し、木造建物に投資する門戸を広げました」(依田さん)

今後の課題は、木材の確保、部資材の調達、施工監理などの人材育成だといいます。
「普及を考えたときの木材や、木造マンションに合った建材、部資材の確保は課題といえるでしょう。あわせて施工してくれる人材は必要不可欠なので、その点を解決していきたいですね。これは私の後輩の役割となると思いますが、RC造と同様に、木造マンションが当たり前の選択肢として世の中に広まっていったら、と願っています」(依田さん)

「同潤会アパート」や「霞が関ビルディング」のように、時代の転換点を象徴するような「建築物」がありますが、後世から振り返ってみたとき、「モクシオン稲城」もそのような存在になるのかもしれません。

●取材協力
モクシオン稲城

木造住宅や建築が地球を救う!? 法改正で住まいの潮流は変わる?

2021年10月に木材利用に関する法律が改正された。もっと建築物に木材を利用しましょう、というものだが、なぜ今、国は木材利用を促進するのか。その背景には、単に脱炭素社会を進めるためだけでなく、森林を健全に保つことで人々の生活を豊かにし、地域経済を活性化しようという目標があった。今後の住宅やまちの建築物はどうなっていくのだろうか。具体的に見てみよう。

日本の人工林の半数以上がすでに利用期を迎えている

2021年10月に改正された法律は「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」。要はもっと木材を利用しましょう、利用しやすい環境も整えます、という法律なのだが「改正」という通り、もとの法律は10年以上前の平成22年に制定された「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」だ。

「戦後復興による木材需要の高まりを受けて、日本全国で植林活動が盛んに行われるようになりました。それにより現在では約54億立方メートルという豊かな森林資源を保有するまでになりました。植林から50年以上が経って大きく育ち、本格的な利用期を迎えた人工林がたくさんあるのです」と林野庁の林政部木材利用課、櫻井知さん。

平成29年(2017年)時点で利用期を迎える51年生以上の人工林が全体の50%に達している。なお「齢級」とは、植林からの年数を5年の幅でくくった単位。植林した年を「1年生」として、「11齢級」なら51年~55年生となる(資料提供/林野庁)

平成29年(2017年)時点で利用期を迎える51年生以上の人工林が全体の50%に達している。なお「齢級」とは、植林からの年数を5年の幅でくくった単位。植林した年を「1年生」として、「11齢級」なら51年~55年生となる(資料提供/林野庁)

高性能林業機械による伐採の様子(写真提供/林野庁)

高性能林業機械による伐採の様子(写真提供/林野庁)

樹木は高齢になると成長量が減少し、CO2吸収量も減少するため、森林サイクルを回して若い森林を増やすことが重要だ。森林サイクルを回すメリットは、CO2削減だけではない。このサイクルを回すことで下記図の通り、全国各地の山間部の経済や雇用、生物の多様性、国土や水資源の保全、豊かな海の創出、健康の促進……多様なSDGsにも貢献することになる。「森林」にはそれだけたくさんの産業や、それに伴う人々が関わっていることになる。

人工林を伐って、使って、植えて、育てるという森林サイクルが回ることで、様々なSDGsに貢献することができる(資料提供/林野庁)

人工林を伐って、使って、植えて、育てるという森林サイクルが回ることで、様々なSDGsに貢献することができる(資料提供/林野庁)

木材は国外依存度が高く、安定的な供給が課題

そこで平成22年(2010年)に公共建築物での木材利用を促進する「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が定められた。さらに木材の利用量を増やすため、2021年に入って公共建築物等だけでなく民間の建築物での利用も促す法律に改定されたというわけだ。

木材の利用事例。江東区立有明西学園(写真提供/ウッドデザイン賞運営事務局)

木材の利用事例。江東区立有明西学園(写真提供/ウッドデザイン賞運営事務局)

木材の利用事例。東急池上線戸越銀座駅(写真提供/ウッドデザイン賞運営事務局)

木材の利用事例。東急池上線戸越銀座駅(写真提供/ウッドデザイン賞運営事務局)

改定内容の大きな特徴は、対象物を単に民間建築物に広げただけでなく、建築主などの事業者による木材利用の取組を国や地方自治体が後押ししたり、川上から川下まですべからく見通しをよくし、お互いの信頼関係をつくることができるよう「建築物木材利用促進協定制度」が新設されたことにある。

木材の流通経路は、川の流れに例えて、よく「川上」「川中」「川下」と呼ばれる。「川上」は森林所有者や丸太の生産者、造林などの林業従事者など、主に原材料としての木材を供給する立場のこと。「川中」は木材の流通に関わる業者や、単板・合板、チップ等の加工業者、プレカット(施工前にあらかじめ使用サイズや形状に加工しておくこと)業者などが当てはまる。「川下」は住宅メーカーなどの施工会社、家具製造会社、バイオマス事業者、建築主や消費者など、木材の最終利用者や最終製品の提供者や利用者を指す。

「山に木が植えられてから、住宅などに使用される間には、たくさんの人々が関係しています。そのため川上からは川下の、逆に川下から川上も、それぞれが抱えている課題が見えにくくなっています」。また間に多くの人々が絡むということは、お互いの信頼関係が築きにくいということもある。

特に信頼関係が重要だということは、最近のウッドショックで例えるとわかりやすい。新型コロナウイルス感染症拡大により、アメリカでは一時期経済が落ち込んだ一方で、急速に新築戸建需要が高まり、木材の供給が需要に追いつかなくなった。そのため木材の価格が世界的に高騰。また、コンテナ不足によって、欧州、北米の現地サプライヤーは、アメリカ向けの供給を増やしたことなどにより、日本向けの供給量は減少。これがウッドショックだ。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

先述の通り森林資源が豊かな日本は、一見ウッドショックと無縁かと思われがちだが、日本でも木材価格が高騰した。これまで多くの木材を輸入していた日本は、そもそもウッドショックを受けやすい。だからといって豊富なはずの国内に目を向けても、蛇口をひねるように木材は増えないからだ。例えば製材事業者ひとつとっても、これまで以上の製材を行うためには設備投資が必要になる。「投資後も木材の利用が進むようなら製材事業者としても投資するでしょうが、一時の需要だけで投資するのはリスクが高いのです」と櫻井さん。

投資の難しさを理解するために、もう1つ加えるならば、木は植えて50年後にようやく伐採できるということ。春に植えて秋には収穫できる稲作とはタイムスケールが大きく異なるのだ。ウッドショックで言えば「伐れば植えなければならないが、植えた木を50年後に買ってくれるんですか?」と懐疑的になってもおかしくはない。林野庁では、中期的な戦略として、サプライチェーン・マネジメントの構築によるハウスメーカー等からの国産材の安定需要の獲得、加工流通施設の整備等による国産材製品の供給量の増大や競争力の強化、ICTを活用した生産流通管理等による原木の供給量増大を図っていくこととしている。そこで「建築物木材利用促進協定制度」にも、国や地方自治体が川上・川中・川下の三者の信頼関係の構築に一役買うことが期待されている。

法改正により川上から川下まで、信頼関係が築ける環境をつくる

「建築物木材利用促進協定制度」とは、建築主となる民間の事業者等が、安心して木材の利用に取り組めるようにするため、国や地方公共団体、そしてその先の川中や川上サイドと結ぶ協定だ。主に下記のような形態が考えられている。国や地方公共団体が協定に関わることで、事業者等による取組が社会的に認知されやすくなったり、川上から川下までの関係する各者がお互いの信頼関係を構築しやすくなる。

建築物木材利用促進協定制度による協定のイメージ例。建築主となる事業者は、木材供給事業者等と本協定を締結することで、木材の安定的な供給を受けやすくなる。一方で木材を供給する側も安心して供給できる(資料提供/林野庁)

建築物木材利用促進協定制度による協定のイメージ例。建築主となる事業者は、木材供給事業者等と本協定を締結することで、木材の安定的な供給を受けやすくなる。一方で木材を供給する側も安心して供給できる(資料提供/林野庁)

川下である建設事業者側から見れば、これまで製材を販売する川中までは知っていたとしても、森林所有者など木材を供給する川上の事情まではあまり把握していなかった。しかしこの協定制度によって、利用する木材の産地にこだわることができたり、川上では今どんな種類・樹齢の木材が供給可能であるか、再造林は確実に行われているかなど、全体の流れを隅々まで把握できるようになるから、事業計画を立てやすい。逆に川上の木材供給側は川下の考えを直接聞けるようになるため、木材の供給や植林計画が立てやすくなる。その信頼関係は国や地方自治体等が入ることで裏付けもされる。

新設された「木材利用促進本部」は、いわばこの協定制度の旗振り役といったところ。建築物での木材利用促進に関する基本方針の策定や、実施の推進を行う。これまでは農林水産大臣や国土交通大臣の役割だったが、民間企業を広く巻き込む今回の改正後は環境大臣、経済産業大臣、総務大臣、文部科学大臣といった、関係するすべての大臣が加わっている。

さらに官民協議会「民間建築物等における木材利用促進に向けた協議会」(通称「ウッド・チェンジ協議会」)が昨年9月に立ち上がった。これには日本経済団体連合会(日本経団連)、経済同友会、日本商工会議所の経済3団体をはじめ、日本建設業連合会など建築サイド、全国森林組合連合会や全国木材組合連合会など木材供給サイド、全国知事会など行政サイド……という具合に、川上から川下までの各界の関係者が一堂に会する協議会だ。「法改正を契機として、経済3団体を含む幅広い団体に参画いただくことができました」と櫻井さん。今回の法改正は、木材の利用促進にオールニッポンとして一丸となって取り組もうという意思の表れともいえる。

環境問題への取り組みは、もはや企業の至上命題

実際に、民間企業が木材利用を進めている事例も出てきている。例えば三井ホームは国産材も用いて木造マンション「モクシオン」を建設。また三菱地所は建材用の木材の製造から販売までのビジネスフローを統合することで、中間コストを抑制し、新たな建材の生産や、プレファブ化を行う新会社「MEC Industry」を設立。通常の一戸建てでの商品力・供給力を高めるだけでなく、中高層建築・大規模建築物においても木材利用を推進していくことを目指している。

昨年10月に竣工した東京都中央区銀座の「HULIC &New GINZA 8」(ヒューリック アンニュー ギンザエイト)も民間企業による木材利用促進事例の一つだ。

HULIC &New GINZA 8。約60mという高さのうえ、細長いため先進的な技術が必要だった。設計施工は竹中工務店、基本デザイン監修を隈研吾建築都市設計事務所が担当した。

HULIC &New GINZA 8。約60mという高さのうえ、細長いため先進的な技術が必要だった。設計施工は竹中工務店、基本デザイン監修を隈研吾建築都市設計事務所が担当した。

日本初の耐火木造12階建て商業ビルで、木造+鉄骨造のハイブリッド建築。内装では木材を利用した柱や梁、天井が現し(構造材が見える状態のまま仕上げる方法)となっていて、外装材にも木材が利用されている。しかもこの建築で使用された木材と同等量の、約1万2000本が福島県白河市で植林され、森林サイクルを回している。

貸室内観。外観には天然木のルーバーをあしらい、内装では耐火集成材の柱や梁、CLT(直交集積板)の天井が現しとなっている

貸室内観。外観には天然木のルーバーをあしらい、内装では耐火集成材の柱や梁、CLT(直交集積板)の天井が現しとなっている

ヒューリックプロパティソリューション(株)の浦谷健史副社長は「きっかけは2018年の、経済同友会で提言としてまとめられた『地方創生に向けた“需要サイドからの”林業改革~日本の中高層ビルを木造建築に!~』。主に都心における建築での木材利用を促進し、それにより林業の活性化を図り、地方の創生に繋げていこうという趣旨です。もともと当社は約10年前からCO2削減に着目して事業を展開してきましたが、これに地方創生を加えた方針に賛同し、自ら第一号のビル(HULIC &New GINZA 8)を建てて世の中に木造利用の促進を訴えようと考えたのです」

CO2削減に以前から着目していたというが、それはなぜか? 「ESG投資(環境・社会・企業統治に配慮している企業を重視・選別して行なう投資)が注目されているように、これからの企業にとって、企業価値を高めるために環境問題に取り組むことはもはや必須だからです」

実際、同社は約7年前から太陽光発電事業に参入し、全国各地にメガソーラーを建設。そこで発電した電力を、本社ビルをはじめグループ全体で活用している。2024年までに自社で使用する電力を再生可能エネルギーへ100%転換、2030年には同社が保有する全ての建物において 電力由来のCO 2 排出量ネットゼロ化を達成するという目標も掲げられた。ちなみに、このメガソーラーのひとつが福島県にあり、それが縁で今回の福島県白河市の森林サイクル活動につながったそうだ。

太陽光発電施設(埼玉県加須市)。ヒューリックのメガソーラー。他に福島県等にもある。同社はメガソーラー以外にも自社ビル屋上に太陽光発電パネルを設置している(写真提供/ヒューリック)

太陽光発電施設(埼玉県加須市)。ヒューリックのメガソーラー。他に福島県等にもある。同社はメガソーラー以外にも自社ビル屋上に太陽光発電パネルを設置している(写真提供/ヒューリック)

法改正によって森林サイクルが回りやすくなってきた

今回の法改正について浦谷さんは「改正の目的である『民間建築物に木材利用を広げよう』ということは、まさに当社がHULIC &New GINZA 8で身をもって示そうとしたこと。改正の趣旨や改正点は、当社が取り組んでいる姿勢と同義だと考えています」という。

加えて、実際に手がけたからこそわかる、木材利用の課題についても教えてくれた。それはコストだ。高層化や耐火に対応できる木材は最近の技術で、まだ広く普及していないこともあって、現状では高層化・耐火建築物に木材を利用しようとすると、鉄筋コンクリート造よりもコストが高くなるという。

ただし浦谷さんは同時に、この法律によって日本の木材の生産者(川上)や製造者(川中)の活動が促進されれば、市場が活性化されてコストが下がるだろうと期待していている。また「建築物木材利用促進協定制度」などで、福島県白河市とのような関係が他地域とも築けることに期待を寄せる。「やはり国産材を使いたいですし、建物によってそれぞれ特徴にあった木材を利用したいと思います。そのために全国の様々な木材生産者等とつながりやすくなることはとても有効だと思います」

同社は今後も、現在計画中の新宿区の老人ホーム建設をはじめ木材利用を推進していくという。「これを一時のブームで終わらせてはいけません。木材利用は継続的にやること、森林サイクルを回すことに意味があるのですから」

森林サイクルを回すことで脱炭素化が図れるだけでなく、地域経済も潤い、雇用が増え、森や海が保全されて私たちの生活まで豊かになる。今回の法改正では木材利用を国民運動として展開するため「木材利用促進の日」(10月8日)と「木材利用促進月間」(10月)が法定された。私たちもまずは家を建てる際に、利用する木材に思いをはせることから森林サイクルについて考えてみてはどうだろう。

●取材協力
林野庁
ヒューリック

イマドキ仮設住宅は快適?移動式コンテナや木造住宅が進化

東日本大震災から10年。その後も日本は多くの災害を経験してきた。避難所生活から新しい暮らしを再建するにあたり、重要な存在となるのが仮設住宅だ。従来プレハブのイメージが強かったが、最近はその形態も多様化してきているそう。
近年多くの災害を経験した熊本県、首都直下型地震に備える東京都、避難所や被災者用住宅に設備を提供しているLIXILの担当者へ話を聞いた。
トラックで移動できるコンテナサイズの住宅「トレーラーハウス」

2016年の地震、2020年の豪雨災害と、近年災害が続いた熊本県。2016年の地震ではプレハブ及び建設型の木造仮設住宅が活用されたが、2020年の豪雨災害では、仮設住宅として初めて球磨村でトレーラーハウスが導入された。

球磨村で導入したトレーラーハウス外観(写真提供/熊本県)

球磨村で導入したトレーラーハウス外観(写真提供/熊本県)

トレーラーハウスとは、工場で生産されるコンテナサイズの住宅だ。解体せずに基礎から建物を切り離してトラックで輸送することができる。既に建物としては完成しているため、準備期間を短縮できることが特徴だ。

背景として、被災規模が大きかった球磨村は、賃貸住宅がほとんどない地域だった。高齢者も多く、避難所での生活を長期間強いることは避けたいが、建設型の仮設住宅を建てるとなると1.5~2カ月ほどかかってしまう。
そこで、北海道胆振東部地震等で導入実績があるトレーラーハウスに目を付けた。発災から2週間で発注を決定し、さらにその2週間後には33戸のトレーラーハウスが球磨村に到着。その後追加で35戸が到着し、68世帯が新たな生活を開始した。

熊本県でトレーラーハウスを導入するのは初めてのこと。居住性がどの程度のものか判断しかねた健康福祉部健康福祉政策課すまい対策室 課長補佐 緒方雅一さん(以下、緒方(雅)さん)は、実際に使用されている岡山県倉敷市まで実物を見に行ったそう。
「もともと北海道でつくられたものということもあり、気密性・断熱性に優れており、温度が安定して保てること、遮音性も高く、まわりの音があまり聞こえないことなどが分かりました。
さらに室内はフラットで、バリアフリーに近い状態で使える。これは良い、と判断し、導入を決めました」(緒方(雅)さん)
実際に、利用者からは快適と声が届いているそうだ。

球磨村で導入したトレーラーハウス、内部の様子(写真提供/熊本県)

球磨村で導入したトレーラーハウス、内部の様子(写真提供/熊本県)

建設型木造仮設住宅の居住性も進化

2020年の豪雨災害では、現地でイチから組みたてる建設型の木造仮設住宅も740個用意された。スピード感を持って準備できるトレーラーハウスやフレームを工場生産するプレハブ住宅に対し、時間はかかるものの「居住性に優れている」と評価されているのが建設型の木造仮設住宅だ。
「県産の木材や畳を使用し、温かみがあるものになっています。木や畳の香りが良い、という評価も多くいただいています。そうした素材のぬくもりが、被災者の心の傷を癒やしてくれることを願ってつくっています」と土木部建築住宅局住宅課 主幹 緒方慎太郎さん(以下「緒方(慎)」さん)。

球磨村で建設された木造仮設住宅(写真提供/熊本県)

球磨村で建設された木造仮設住宅(写真提供/熊本県)

熊本県において、建設型の木造仮設住宅がつくられるのは3度目だ。2012年の熊本広域大水害、2016年の熊本地震、そして2020年の豪雨災害だ。災害のたびに知見を蓄積し、進化してきたという。

例えば、建設型の木造仮設住宅は「9坪でつくる」というルールがある。ゆえに収納スペースを取ることが難しい。そこで編み出されたのが「屋根裏収納」だ。専用のはしごがあり、屋根の裏側にモノを収納できる。

仮設住宅に設置された屋根裏収納。2016年、熊本地震の仮設住宅から導入された(写真提供/熊本県)

仮設住宅に設置された屋根裏収納。2016年、熊本地震の仮設住宅から導入された(写真提供/熊本県)

また、かつては洗濯機を置くスペースが屋内になく、玄関ポーチに設置し屋外で洗濯するしかなかった。そこで、玄関ポーチを屋内に取り込んだ設計とし、畳一畳分のスペースをつくることで、屋内で洗濯までできるようにした。

新たに生まれた洗濯機の設置スペース(写真提供/熊本県)

新たに生まれた洗濯機の設置スペース(写真提供/熊本県)

高齢者の多い地域での被災も続いた。バリアフリーに配慮し、現在では玄関~室内全ての部屋と水まわりまで、段差をなくしている。2020年の豪雨災害では、全戸数の1割には、車いすの方が入りやすいよう玄関横にスロープもつけた。今後、高齢者が多い地域で被災した場合はスロープつきの割合を増やす可能性が高いという。
こうした工夫によって、「もともと住んでいた家より良い」なんていう声まであるそうだ。

スロープつきの仮設住宅(写真提供/熊本県)

スロープつきの仮設住宅(写真提供/熊本県)

「適材適所」の配置と、避難所の密回避が課題

数多くの災害を乗り越えたからこそ、見えてきた課題や今後改善していきたい点についても聞いてみた。
「木造仮設住宅は、建設回数を重ね、一つの集大成ができたと感じています」と語る緒方(慎)さん。
熊本地震で使用された木造仮設住宅は、約4割がそのまま現地で被災者の一般住宅として使用されており、約3割が移設し別の場所で住宅や公民館等の施設として利活用されている。「雨が降るとスロープがすべりやすくなる」など、実際に建設して見えてきた細かな課題は今後も改善していく予定だが、既に完成形に近い、という手応えを感じている。

一般住宅として再活用されている仮設住宅(写真提供/熊本県)

一般住宅として再活用されている仮設住宅(写真提供/熊本県)

一方でトレーラーハウスについては、まだ工夫の余地があるという。
「例えば、現在の居室はトレーラーのような長方形ですが、正方形に近い形で仕切ることもできるので、通常の住まいに近い形とすることでより暮らしやすくできるのではないかと考えています」(緒方(雅)さん)
準備されている個数が少ない、という課題もある。設置する際の浄化槽整備や砂利の調達など基盤づくりもまだスムーズではない。地元業者との連携をスムーズにしていきたい、と語る。

「いち早く数を用意する意味では、従来からのプレハブ型も強いです。熊本地震のように被災者数の多い震災の場合は、やはりプレハブも活用しなくてはいけないでしょうね」と緒方(慎)さん。地域や災害規模を踏まえて、適材適所で使い分けていくことが求められるようだ。

コロナ禍においては、避難生活で「密」を避けることも重要だ。
「いちはやく密を解消するという意味では、今回、トレーラーハウスを早めに導入したのも対策のひとつです。
避難所については、段ボールや布での仕切りは熊本地震の際にも設置しており、プライバシーを守る観点での備蓄は進んでいますが、今後はテントのように1世帯ずつを囲むような設備も必要になりますね。
避難所の数自体も増やす必要があり、結果、対応する職員の数もより多く必要になります。そういった点は、今後の大きな課題です」(緒方(雅)さん)

球磨村の仮設住宅全体像(写真提供/熊本県)

球磨村の仮設住宅全体像(写真提供/熊本県)

ひとりひとりの自衛意識向上が最重要

人口密度、建物密度が高い都市部ではどうだろうか。首都直下型地震に備える東京都 住宅政策本部 住宅企画部にも話を聞いた。
「東京都の場合、大きな課題は、人数に対する『住戸数』の確保をいかに速く行うかということです。特にコロナ禍のような状況では、長期間、避難所で密をつくることは避けたい」と住宅施策専門課長の吉川玉樹さん。

熊本県と異なり、中心となるのは民間賃貸住宅を借り上げて仮設住宅とするスタイルだ。公的住宅を含め、現在も空き家がかなりの数存在するため、それらを有効活用していく想定だという。
「不足する場合には、建設型も適宜使用していきます。そのためにいくつかの団体と協定を締結しています。ただし、用地が限られるため、やはり空き家活用を中心とした対策が現実的ではあります」(吉川さん)

人口の多さに対し、仮設住宅を新たに建設できる用地は限られる。未曾有の災害となった場合、空き家の活用にも限界があるかもしれない。だからこそより重要なのが、ひとりひとりが自衛する意識だ。

「それぞれが自宅に留まれる状態が一番望ましく、自宅の耐震強化や防災意識を高める呼びかけも行っています」と吉川さん。大学と連携し、リーフレットなどを作成しているが、まだまだ平均的な都民の防災意識は高いとは言えず、課題も感じているという。

東京都が作成したリーフレット(写真提供/東京都)

東京都が作成したリーフレット(写真提供/東京都)

避難所の密を避け、プライベート空間をつくる設備も登場

メーカーが提供する住宅設備や避難所設備も年々進化している。
LIXILでは、2020年に熊本で発生した豪雨災害の際、避難所内でプライベート空間をつくることができる可動式ブース「withCUBE」を提供した。
夜泣きが続く乳児と保護者の宿泊スペースとして、また、発熱のあった幼児の療養室として活用され、避難所を管理する球磨村役場の職員から多くの感謝の言葉が届いたという。
避難生活で課題となるプライバシー確保が簡単に実現できるものとして、利用者からも高い評価を得た。
現在、災害支援を終え、熊本赤十字病院に移設されているが、球磨村役場職員から防災備蓄にしたいという要望も届いているそうだ。

被災者の避難先で活用されたwithCUBE(写真提供/LIXIL)

被災者の避難先で活用されたwithCUBE(写真提供/LIXIL)

役目を終えた仮設住宅建材の二次活用も進んでいる。東日本大震災から10年が経過し、多くの仮設住宅が解体されている。「仮設住宅に関わった方々の想いをつなぐ」という目的のもと、仮設住宅の窓などを再利用し、東京オリンピック・パラリンピックの聖火トーチやモニュメントへ生まれ変わらせる取り組みも行われた。

前述の熊本県のケースのように、解体するのではなく、建物そのものを恒久住宅や集会所として二次利用するケースもある。2011年に6000戸の木造仮設住宅が供給された福島県では、その一部を災害公営住宅として再構築した。躯体や間取りはそのままに、屋根・サッシ・設備などを一新、屋根や外壁に断熱材を補強するなどし、居住性を高めている。

設備の進化を活かしながら、ひとりひとりが「自衛」する

災害は、いつ起こるか分からない。各自治体等でもさまざまな準備が行われており、日々進化している。一方で、どれだけ進化しても、やはり一番重要なのはひとりひとりの自衛意識だ。
住宅・設備メーカーでも、震災の教訓を活かし、災害に強い商品が日々開発されている。各自治体の災害対策について知ると同時に、自身の住まいを選ぶ際には、そうした設備や地区の情報を調べながら、必要な備えをぜひ、行ってほしい。

●取材協力
熊本県
東京都
LIXIL

あなどれない木造! マンションもオフィスビルも建てられる最新事情

全国47都道府県の木材を軒庇(のきひさし)に使用した新国立競技場など話題の建築を引き合いにだすまでもなく、昔から日本では家を建てる際に「木」が使われてきた。その多くは3階建てまでだが、最近は技術的な進化で中高層の木造住宅も建築されるようになってきた。こうした背景には何があるのか? 国土交通省の一重(ひとえ) 喬一郎さんに話を伺いながら、木造住宅・木造建築の最新事情をさぐった。
実は燃えにくく、地震にも強い!?木造住宅

童話『三匹の子豚』ではオオカミにあっという間に壊されてしまった“木の家”だが、世界で最も古い木造建築物は、607年に建てられた法隆寺の五重塔だ。子豚の次男は、正確には“木の枝”を集めてちゃちゃっと建てたから、文字どおり“木っ端みじん”にされたのであって、きちんと建てて、メンテナンスさえ怠らなければ1400年以上も長持ちするのだ。

法隆寺(写真/PIXTA)

法隆寺(写真/PIXTA)

「そもそも日本は国土の約7割が森林に覆われています」と一重さん。そのため木の家は昔から私たちにとって身近な存在だった。今でもそれは変わらないようで「国土交通省がまとめた令和元年度の『建築着工統計』によると、3階建て以下の住宅のうち、木造は実に82.5%を占めています。また内閣府の『森林と生活に関する世論調査(令和元年)』でも、『新たに住宅を建てたり、買ったりする場合、どんな住宅を選びたいか?』という問いに対し、73.6%が木造住宅を建てたいと回答しています」。つまり、私たちは木の家が大好きなのだ。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

それを示すように21世紀に入ってからは古民家が見直されるようになってきたし、無垢(むく)の床材が流行ったり、木のフィトンチッド(木が発散する物質で、消臭や抗菌、リラックス効果があると言われている)が注目を集めるようになった。

一方で「木造は燃えやすい」とか「地震に弱い」と思われていたのも事実。けれど、一昔以前と比べて、木造建築の技術は飛躍的に進歩している。

たしかに木は燃えるが、燃えた部分が炭化層となり、酸素供給を阻むことで燃え進みにくくなる。この性質を活かし、「準耐火建築物」では、一定の厚みを増した上で木の柱や梁を“現し”(=燃えしろ設計)にすることが可能である。防火地域内では、一般の住宅でも3階建て以上か、延べ面積100平米を超えるものは、これまで「耐火建築物」とする必要があったが、平成30年の法改正により石膏ボードなどで覆わずに、燃えしろ設計で木造住宅を建築することができるようになっている。

さらに古くは漆喰壁など、昔から “防耐火技術”の研究が絶え間なく続けられ、現在は難燃薬剤の注入や、不燃材を内部に埋め込み木の柱や梁をつくる技術なども開発されている。

また耐震性に関しては、木造だろうと鉄筋コンクリート造であろうと、現在の耐震基準を満たすことが求められている。つまり、基準を満たしている住宅は、構造種別とは関係なく、すべからく一定以上の耐震性があるということだ。実際「2016年に起きた熊本地震の悉皆調査によれば、2000年に改正された基準を満たして建てられた木造の住宅は一部の特殊なものを除き全てが倒壊を免れており、約6割が無被害でした。さらに、耐震性のレベルを示す耐震等級で、最も高い耐震等級3の住宅はほとんどが無被害であったため、被災後も安全に住み続けられることができると考えられます」

そもそも木は、鉄やコンクリートと比べて、「軽い割に強い」素材だ。加えて、最近は「CLTなどの新しい素材の開発や、木材と木材を強固に繋いで耐震性を高める要となる金具の開発などによって、木造でも高層建築物が建てられるようになってきています」という。

CLT(直交集成板)パネル(写真提供/国土交通省)

CLT(直交集成板)パネル(写真提供/国土交通省)

ちなみにCLTとはヨーロッパで生まれた技術で、繊維方向が直交するように積み重ねて接着した集成パネルのこと。そのため大木を必要とせず、また節の多い木でも使えるため、木材を有効に活用できるというメリットがある。また厚みや強度があるので、構造を支える壁や床として使用できる。

鉄筋コンクリート造と組みあわせれば高層建築物も可能!

では、実際の最新木造住宅とはどんなものがあるのか。

(写真提供/三井ホーム)

(写真提供/三井ホーム)

「例えば東京都千代田区に三井ホームが建てた木造(ツーバイフォー構法)4階建て住宅は、『防火地域』『4階建て』『狭小』という3つもの課題をクリアして、3世代が暮らせるような造りになっています」。『防火地域』と『4階建て』は最新の木造技術を使って、隣家との間が狭くて足場の組めない『狭小』では独自の「建て起こし工法」と呼ばれる方法を使って、4階建てを実現した。

また神奈川県横浜市で大林組が「仮称OYプロジェクト」として建築を計画しているのは「木造軸組構法による11階建ての研修所です」。柱と梁の接合部分に「十字型剛接合プレファブユニット」という技術を採用し、高層化を実現している。

高層純木造耐火建築物「仮称OYプロジェクト」(画像提供/大林組)

高層純木造耐火建築物「仮称OYプロジェクト」(画像提供/大林組)

鉄骨造や鉄筋コンクリート造と組みあわせる方法でも、もっと高い“木の家”を建てることも可能だ。2020年9月に、三井不動産と竹中工務店は東京都中央区日本橋において、木造高層建築物として国内最大・最高層となる木造賃貸オフィスビル計画の検討に着手したと発表した。構造は「ハイブリッド木造」とされ、規模は地上17階・高さ約70m・延べ面積約26000平米になるという。今後、詳細の検討を勧め、2023年着工・2025年竣工を目指すとしている。

(画像提供/三井不動産・竹中工務店)

(画像提供/三井不動産・竹中工務店)

このように木造建築の高層化は着々と進んでいるのだ。

竹中工務店は木造技術を多く採用した12階建ての単身者向け社宅「フラッツ ウッズ 木場」も手掛けている(写真提供/竹中工務店)

竹中工務店は木造技術を多く採用した12階建ての単身者向け社宅「フラッツ ウッズ 木場」も手掛けている(写真提供/竹中工務店)

(写真提供/竹中工務店)

(写真提供/竹中工務店)

“木”は日本にとって貴重な天然資源

それにしても、いくら日本人が「木が好き」だといっても、なぜ近年こうした高層化プロジェクトが続々と生まれているのか。それには「天然資源が乏しい日本にとって、森林は他国よりも豊富にある、貴重な資源」であることが関係している。

昔から日本は森林が豊富だと思う人は多いだろうが、実は日本の長い歴史の中では、森林伐採と植林の歴史を繰り返してきている。日本人にとって木は最も身近な材料ゆえ、森林乱伐が幾度となく行われてきたのだ。あまりにも乱伐が進んだため676年に天武天皇が伐採禁止令を出したほどである。

太平洋戦争の終戦直後は、現在よりも荒廃した国土で、統計が取られ始めた昭和41年(1966年)時点では、人工林の資源量は現在の約3分の1ほどだった。しかし戦後の植林や間伐などに手入れにより順調に日本の国土では豊かな森林資源がはぐくまれ「最近10年では年平均で約8100立米の『森林資源ストック』が増え続けています」という。

約8100立方メートルとは、平成30年(2018年)の木材需要量とほぼ同等。つまり普通に木を使っていても、1年間分の需要量に相当する“ストック”が毎年増え続けているというわけだ。これを秒単位でみると、9秒で家一軒分の木材が増えているという計算になる。

(写真提供/国土交通省)

(写真提供/国土交通省)

「そこで木材をもっと積極的に利用してもらおうと、国としてさまざまな施策を行っています」。その一つが、中高層の木造建築物の振興施策だ。「3階建て以下の低層住宅の82.5%は木造ですが、オフィスや店舗などの「非住宅」は3階建て以下の低層であっても木造は15.7%、4階建て以上では、住宅、非住宅ともに木造はほとんどありません。そのため木造のシェアを伸ばせる余地の多い、非住宅や、4階建て以上の木造住宅を増やすためにさまざまな施策を行っています」。先述した4階建て木造住宅やOYプロジェクトは、いずれも「木造先導プロジェクト」として国が費用の一部を支援している。

こうした資金面の支援だけではなく「先進的な木造建築を建てられる人材の育成にも力を入れています」という。例えばCLTをはじめとした先進技術の知識やノウハウの共有を目的に、欲しい情報がすぐに見られるようにしたポータルサイトの整備、開設に向けた準備を進めている。

木造住宅で生活の質も高められる

一方で、木造住宅の割合が高い3階建て以下の低層住宅だが、「生活の質をより向上させるための住宅や、長年にわたって住み続けられる住宅を増やすための取り組みも行っています」。例えば一定の省エネ基準や耐久性、耐震基準などを満たした「長期優良住宅」に対する税制優遇はその一例だが、「事業者別にみると、年間1万戸以上供給する大手事業者が建てる住宅のほとんどは長期優良住宅なのですが、年間50戸未満の中小事業者の場合、平成28年度の数字でみても12.6%と、まだまだ少ないという現状です」

1・2階がRC造(鉄筋コンクリート造)、2~5階が木造の集合住宅「下馬の集合住宅(サンパパ下馬ハウス)」(設計:小杉栄次郎・内海彩、撮影:淺川敏)

1・2階がRC造(鉄筋コンクリート造)、2~5階が木造の集合住宅「下馬の集合住宅(サンパパ下馬ハウス)」(設計:小杉栄次郎・内海彩、撮影:淺川敏)

「下馬の集合住宅(サンパパ下馬ハウス)」(設計:小杉栄次郎・内海彩、撮影:淺川敏)

「下馬の集合住宅(サンパパ下馬ハウス)」(設計:小杉栄次郎・内海彩、撮影:淺川敏)

年間50戸未満の中小事業者の多くは、地元に密着して活動していることが多い。そこで地域の中小工務店や建築事務所、原木供給者、製材事業者などがグループを形成して補助金を申請できる「地域型住宅グリーン化事業」が用意された。例えばグループで長期優良住宅を建てると一戸につき最大110万円、省エネルギー性の高いゼロエネルギー住宅なら最大140万円といったように、各種補助金を受け取ることができる。こうした補助金制度を活用してもらうことで、木造住宅を建てようとする人々の「生活の質の向上や、長年にわたって住み続ける」ことを支援しようというものだ。

先述したように3階建て以下の低層住宅のほとんどは木造住宅。しかもこの10年間というレンジで見ると、その割合はじわじわと上昇している。だから木造住宅を増やすという意味では、ここまでの施策は必要ないのだが、「原木供給者や製材事業者など、地方には林業に関連する産業が多いので、こうした施策で地域が活性化することも目的としています」。それゆえ中小工務店単体ではなく、グループでの申請というわけなのだ。

森林という貴重な資源が豊富な日本で、豊かな暮らしを得るために、木材を上手に活用する。しかも木材はCO2を貯め込んだ材料のため、50年、100年と長きにわたり使われる建築物の材料としては、とてもエコな資源だ。木材を上手く使い、都市や地方を問わず生活の質を向上させるというのは、日本の風土に合った暮らし方だと言えそうだ。

●取材協力
国土交通省

空室化進む“賃貸アパート”でまちづくり?「モクチン企画」の取り組み

レトロな味わいのある木造賃貸アパートをはじめとする築古の賃貸物件には、老朽化が進み、空き家化が問題になるケースも増えてきている。そんななか、それらの価値を認め、「モクチンレシピ」という名で改修・リフォーム例をウェブサイトで公開することにより、日本の不動産・建築業界における“スクラップ&ビルド”一辺倒の流れに一石を投じている人物がいる。NPO法人モクチン企画の代表を務める、建築家の連 勇太朗(むらじ ゆうたろう)さんだ。賃貸アパートは今後どうなっていくのか? また、賃貸アパートを活用したまちづくりについても話を聞いた。
空室化問題救済のキーワードは「距離感」

NPO法人モクチン企画の事業は多岐に渡る。リフォーム例「モクチンレシピ」を通じて、賃貸物件の改修案を公開・提供しつつ、改修事業を手掛けることや「モクチンスクール」と銘打った空き家対策を目的としたデザイン学校の開校、「LIXIL」のような建築資材メーカーのリサーチや商品開発を請け負うこともあるという。築古の賃貸物件を切り口に、これからの縮小化社会に必要とされるさまざまなプロジェクトを展開している。

レシピ「広がり建具」は、襖を透過性のある木製建具に交換することで、部屋を広く明るくみせるアイデア。モクチンレシピは、会員になると図面や品番が書かれた「概要書」や「仕様書」がダウンロード可能に(写真提供/モクチン企画、撮影/kentahasegawa))

レシピ「広がり建具」は、襖を透過性のある木製建具に交換することで、部屋を広く明るくみせるアイデア。モクチンレシピは、会員になると図面や品番が書かれた「概要書」や「仕様書」がダウンロード可能に(写真提供/モクチン企画、撮影/kentahasegawa)

Before(写真提供/モクチン企画)

Before(写真提供/モクチン企画)

After。レシピ「広がり建具」を使用(写真提供/モクチン企画、撮影/kentahasegawa)

After。レシピ「広がり建具」を使用(写真提供/モクチン企画、撮影/kentahasegawa)

「私は一概に“木造賃貸アパートなどの古い物件を保存しよう”と言っているわけではありません」と話す連さん。モクチン企画の提供する会員プログラム/コミュニティである「メンバーズ会員」や「パートナーズ会員」に入っている物件オーナーや不動産屋さんとともに、「まちにおける価値」を総体的に考えた上で、それぞれの物件に合わせた対応をしているという。そのため必要に応じてて、建て替えを勧める場合もある。「適正なタイミングで住居の更新や循環が行われ、そのことでまちの魅力が生み出されていくようなサービスを提供すること」が、モクチン企画の存在価値と言ってもいいだろう。

蒲田にある木造賃貸物件にあるモクチン企画オフィスで取材に応じていただいたNPO法人モクチン企画代表の連勇太朗さん(筆者撮影)

蒲田にある木造賃貸物件にあるモクチン企画オフィスで取材に応じていただいたNPO法人モクチン企画代表の連勇太朗さん(筆者撮影)

木造建築(木造在来工法)に代表的される“築古”と呼ばれる賃貸アパートに対し、壁が薄くて騒音が心配、古い、夏暑く・冬寒い、といったデメリットをイメージに挙げる人も多い。一方でタワーマンションなどと違い、低階層の建物が多く、密集して建っているため、まちのなかで暮らしている感覚が味わえるといったことや、「木造の建物は、柱・梁の軸組構造でできているからこそ、自分たちで手を入れたり、改修が行いやすい」というメリットを連さんは挙げる。

逆にデメリットになっている部分は、防音性能や断熱性能を上げたり、耐震補強を加えるといったリフォームにより、「チューニングが可能」だと話す。そうすることで、住居のある街とのいい距離感が保てるのだという。この「距離感」こそ、都心部でも賃貸物件の空室率が上がっているといわれている現在、魅力的な賃貸物件を運用する際のキーワードになりそうだ。

築古賃貸アパートは新しいことを始めるのにぴったり

東京都内23区には、1960年~90年代に建てられた木造の民営アパートだけでも20万戸以上あると言われる。

「人口が増えている時代は、部屋をつくれば入居者が決まるという方程式が成り立っていました。しかし今はそれが全然効かなくなっています。物件オーナーや不動産会社が、単に部屋をつくるということ以上に、『物件にどういった価値をつくっていけるか』を真剣に考えなくてはならない時代に突入しています」と連さんは言う。

「人口が減ることによる賃貸物件の供給過多において、これからはもっと『さまざまな用途に対応可能な空間や物件』を提供していく必要があると言えます。また住民は、そのアパートに住むだけでなく、その街に住むという総合的視点から住居を選択する。そう考えると、物件を管理する人は必然的に街に関する視点や、周囲にどんな人が住んでいるか、関わりを持つ不動産会社や物件オーナーがどんな人か、と言ったことが重要になってくると思います」(連さん)

築60年近い木造の戸建てを改修したモクチン企画の事務所(写真提供/モクチン企画)

築60年近い木造の戸建てを改修したモクチン企画の事務所(写真提供/モクチン企画)

木造建築は、壁や床を改造することが簡単にでき、見栄えを良くしたり補強がしやすい(写真提供/モクチン企画)

木造建築は、壁や床を改造することが簡単にでき、見栄えを良くしたり補強がしやすい(写真提供/モクチン企画)

こうした築古のアパートやマンションは、借りる側の視点で考えると、ロケーションに関係なく「家賃が低め」という大きな魅力がある。「私たちのようなNPOや、スタートアップといった何か新しいことをはじめようと考えている人たちにもってこいの物件が結構たくさんあります」と連さん。実際、福祉系のNPOや、地域の貧困家庭向けに無料あるいは安価で食事を提供する「子ども食堂」、地域密着のローカルビジネスのための場として、雑居ビルに事務所を構えるより、地域の人との関係を構築できるチャンスがある木造アパートはさまざまな可能性を持っていると言う。

空室化を食い止める総合的な手段として

「モクチンレシピ」は、当初は木造アパート向けを想定してつくられたリフォーム例だった。だが現在では、住宅メーカーが大量生産した「軽量鉄骨」でできたアパートや、ワンルーム型のマンションでも、モクチンレシピは積極的に利用されるようになった。理由は、最小限の手数で最大の魅力を引き出す「コスパ」のよいリフォーム例であること。さらに部分別に紹介されているため、導入しやすいことからだ。こうした流れから「レシピの内容も、木造に拘らずに、ある程度汎用性があるアイデアを意識的につくっています」と連さんは話す。

モクチン企画は、連さんが提唱する「物件オーナーが建物や街の価値をつくる」という考えに賛同する人たちを「メンバーズ会員」と呼びコミュニティ化し、レシピを使ったリフォームの個別のコンサルティングや、問題や解決方法を積極的に共有することで、手ごろな投資による「空室化対策」のノウハウを学びあっている。実際に、リフォームを通じてこれまでとは違う入居者を募ることに成功してきた例が、サイト内には並ぶ。

例えば、モクチンが2017年に監修した、神奈川県横浜市青葉区にある「ピン!ひらはらばし」の物件は、築47年の木造賃貸アパート。2階建4戸の賃貸アパートはリフォームを手掛けた当時は空室だった。リフォーム後、物件数は3戸に減らしたものの、現在公表されている家賃は、1DK57.55平米の1部屋で9.3万円だ。(現在全戸入居済み)

同アパートにおいて、最も斬新なリフォーム箇所は共用部に採用された「くりぬき土間」レシピだ。居室と廊下に適度な距離をつくることにより、廊下側の壁の耐震補強のために窓をつぶしても、プライバシーを確保しながら開口部をつくることも可能だ。

実際、レシピ上でも掲載されている「くりぬき土間」の実例(左がリフォーム前、右がレシピを使ったリフォーム後)(写真提供(左)/モクチン企画、撮影(右)/kentahasegawa)

実際、レシピ上でも掲載されている「くりぬき土間」の実例(左がリフォーム前、右がレシピを使ったリフォーム後)(写真提供(左)/モクチン企画、撮影(右)/kentahasegawa)

一方20数社と連携している「パートナーズ会員」と呼ばれる不動産会社とは、さらにエリア全体の街づくりに繋がるプロジェクトを通じて、木造アパートに限らず、賃貸物件全体の可能性を共に探っている状態だという。

神奈川県相模原市淵野辺にある入居者向け食堂の「トーコーキッチン」は、モクチン企画がデザインから協力したプロジェクトの一つ。不動産会社・東郊住宅社はモクチン企画のパートナーズ会員の古参だが、同社が管理する1600室の入居者が利用できる食堂をつくることで、「ここに住みたい!」、「この街に住みたい!」と思わせる物件提供を可能にした例として、広く知られている。

モクチン企画が参画したプロジェクト「トーコーキッチン」(写真提供/モクチン企画、撮影/kentahasegawa)

モクチン企画が参画したプロジェクト「トーコーキッチン」(写真提供/モクチン企画、撮影/kentahasegawa)

また、埼玉県戸田市で不動産会社の平和建設とともに手掛けているプロジェクト「トダピース」は、最新事例の一つだ。賃貸物件(木造に限らず)を通じて、空室対策を兼ねたまちづくりを目指すもので、モクチンレシピを取り入れて低価格でリノベをした物件に、個性を持たせた部屋を増やすことで人を集め、戸田市そのものの街の価値を高めることが目的だ。すでに戸田市内で、17戸の賃貸物件をリノベでリースしていることに加え、今年始めには、モクチン企画とともに、新築の木造アパート「はねとくも」を生み出した。「はねとくも」はアトリエ付きの賃貸アパートであり、そこで小商いや制作環境が生まれることで、住む人がまちの価値になっていくような循環を目指すと言う。

連さんとともにプロジェクトを進めるのは、トダピース/平和建設の河邉政明さん。アトリエ付き住居「はねとくも」は、まちにひらかれた賃貸物件だ(写真提供/モクチン企画、撮影/kentahasegawa)

連さんとともにプロジェクトを進めるのは、トダピース/平和建設の河邉政明さん。アトリエ付き住居「はねとくも」は、まちにひらかれた賃貸物件だ(写真提供/モクチン企画、撮影/kentahasegawa)

連さんらの取り組みはトーコーキッチンに代表されるように賃貸物件そのものの価値向上だけでなく、まちの魅力や価値に影響を与えるようなアイデアにつながっている。モクチン企画への共感やプロジェクトは全国的に広がりを見せている。

“ニューノーマル”における賃貸物件の可能性

新型コロナ禍で、社会動向や情勢が刻一刻と変化しつつある今、賃貸物件全般に何か新たな変化は待ち受けているのだろうか。2020年6月5日、モクチン企画が主催した物件オーナーや不動産会社向けのオンラインイベントでは、「モクチン企画」の理事やメンバーである建築や不動産のエキスパートたちが顔をそろえ、ニューノーマルな時代の不動産賃貸について議論が交わされた。

その中では、リモートワークの推奨と増加により、共通認識としてこれまで分けて考えられてきた「働く場と寝る場」に変化が訪れ、いわゆる「ベッドタウン」と呼ばれている住宅地での生活時間が増えることによって、地域ごとの暮らしにあった「ビジネスニーズ」が出てくる兆しが見えたという。

さらに、自粛生活の影響で「孤独」を味わう人たちが増えるなか、「共同住宅を通じて得られる<ゆるいつながり(=ちょっと)>のニーズも出てくる可能性がある」と、アジアの住宅市場や暮らし方について研究しさまざまなプロジェクトを展開してきた土谷貞雄さんは話す。

一方ソーシャル・ディスタンス(社会的距離)を保つことが社会的共通認識となった中で、これまで東日本大震災以来のキーワードとなっていた「絆」から連想される「密な」距離感から、これからは少し距離を取らざるを得ない社会環境に置かれるだろう。それにより、他者の“存在”は感じつつも、それほど密接ではない「点在」という概念が、住環境を語る上でもキーワードになると、このパネルディスカッションは締め括られた。

6月5日のオンラインセミナーのパネリストの一人で、モクチン企画のメンバーである、「しぇあハウスよこはま」のオーナー、荒井聖輝さんが提案する3つのキーワード(撮影/筆者)

6月5日のオンラインセミナーのパネリストの一人で、モクチン企画のメンバーである、「しぇあハウスよこはま」のオーナー、荒井聖輝さんが提案する3つのキーワード(撮影/筆者)

「今後は空室対策だけではなく、パートナーズ会員である不動産会社とともに、賃貸アパートの改修だけに限らず、まち自体を魅力的にするような仕掛けをつくれるような取り組みを積極的に増やしていきたい」と話す連さんたち。「ニューノーマル」の世界では、これまで空室化問題の筆頭になりそうな、駅から遠い、都会への距離が遠いといったロケーション的に不利な場所でも、リノベによるプレゼンテーション一つで価値が生まれ、入居者が絶えない物件が増えてくる可能性がある。

彼らの活動がさらに広まることで、借りる人それぞれの生き方の選択の幅がさらに広がることを楽しみにしたい。

●取材協力
モクチン企画
モクチンレシピ
動画

森林調査、2割が農山村に定住意向あり、7割が木造住宅を選びたい

森林の存在や木材の利用は、私たちの生活に深くかかわっており、その効用にも注目されている。内閣府が「森林と生活に関する世論調査」の令和元年版(全国の18歳以上の3000人を対象に個別面接形式で実施、有効回収率51.5%)を公表した。そのなかから、「農山村での暮らし」や「木造住宅」に関する結果について、詳しく見ていこう。【今週の住活トピック】
「森林と生活に関する世論調査(令和元年10月調査)」を公表/内閣府約2割が農山村に定住意向あり。農山村での森林浴や景観は魅力

まず、「農山村に定住してみたいと思いますか」と聞いたところ、「定住してみたい」(定住してみたい8.6%+どちらかといえば定住してみたい12.2%)という回答が20.8%と、約2割が定住の意向があることが分かった。また、「既に定住している」割合は14.1%だった。

定住意向のある人に「定住する場合に就いてみたい職業」を聞いたところ(複数回答)、「農業」を挙げた割合が最も高く56.4%で、次いで「第3次産業(農業以外の小売業、飲食サービス業、医療業など)」の22.1%となった。一方、「就いてみたい職業はない」の割合が15.6%と3番目に多くなった。定住する場合に、どんな仕事をしていくかは課題になりそうだ。

次に、「農山村に滞在して休暇を過ごす場合、どのようなことをして過ごしてみたいと思いますか」(複数回答)と聞いたところ、「森林浴により気分転換する」が43.1%、「森や湖、農山村の家並みなど魅力的な景観を楽しむ」が41.4%となり、4割以上が森林浴や景観に魅力を感じていることが分かった。

農山村に関する企画への参加意向(複数回答)(出典/内閣府「森林と生活に関する世論調査(令和元年10月調査)」)

農山村に関する企画への参加意向(複数回答)(出典/内閣府「森林と生活に関する世論調査(令和元年10月調査)」)

政府は「定住人口」「関係人口」「交流人口」で地域創生を狙う

さて、地域創生を掲げた政府だが、就労などのハードルが高い「定住人口」や観光目的の短期的な「交流人口」の創出に加え、「関係人口」の創出を打ち出している。関係人口とは、地域に関心をもち、地域や地域の人々と多様にかかわっていこうとする人々のことだ。

「農山村に関する企画への参加意向」の調査は、関係人口の可能性につながるものだろう。選択肢にあるような「地域の特産品購入」を定期的に行うことや「自然と触れ合う体験」、「伝統的な文化の体験」などで頻繁に地域を訪れることも、関係人口に該当する。

定住意向の有無にかかわらず、こうした企画に参加意向のある人が多いということが、将来的な関係人口へとつながることを期待したい。

木造住宅を選びたい人が7割超、ただし若年層では約6割に

調査では、木造住宅に関する項目もある。「仮に今後、住宅を建てたり買ったりする場合、どのような住宅を選びたいと思うか」を聞いたところ、「木造住宅(昔から日本にある在来工法のもの)」の割合が47.6%、「木造住宅(ツーバイフォー工法など在来工法以外のもの)」の割合が26.0%で、木造住宅の合計が73.6%になった。「非木造住宅(鉄筋、鉄骨、コンクリート造りのもの)」の23.7%に比べると、木造住宅を選びたいという回答が多いことが分かる。

木造住宅か非木造住宅かの意向(単一回答)(出典/内閣府「森林と生活に関する世論調査(令和元年10月調査)」)

木造住宅か非木造住宅かの意向(単一回答)(出典/内閣府「森林と生活に関する世論調査(令和元年10月調査)」)

前回調査(2011年10月調査※20歳以上に調査)と比べると、「木造住宅(在来工法)」で8.4ポイント減少、「木造住宅(在来工法以外)で1.3ポイント増加という違いが見られたが、依然として木造住宅の意向が高いことが分かる。

ただし年齢別に見ると、若い世代ほど「非木造住宅」を選びたいと回答する割合が高くなり、18~29歳では、「非木造住宅」(39.4%)、「木造住宅(在来工法以外)」(37.9%)、「木造住宅(在来工法)」(21.2%)の順で、木造住宅の合計は約6割だった。マンションなどの非木造住宅がマイホームとして定着し、現在マンションで暮らしている人などが多いという背景もあるのだろう。

では、「様々な建物や製品に木材を利用すべきと思いますか」と聞くと、「利用すべきである」(利用すべきである53.8%+どちらかといえば利用すべきである35.2%)が89.0%と9割近くを占めた。

「利用すべきである」と回答した人に、「木材を利用すべきと思う理由」(複数回答)を聞くと、「触れた時にぬくもりが感じられるため」(62.7%)、「気持ちが落ち着くため」(57.8%)、「日本らしさを感じるため」(49.5%)、「香りが良いため」(40.7%)が上位に挙がった。

一方、「利用すべきない」と回答した人に、「木材を利用すべきではないと思う理由」(複数回答)を聞くと、「森林破壊につながる印象があるため」(63.0%)、「火に弱い印象があるため」(35.3%)、「地震に弱い印象があるため」(30.3%)が上位に挙がった。

また、「どのような施設に木材が利用されることを期待するか」(複数回答)を聞いたところ、「保育園などの保育施設や幼稚園、小・中学校などの教育施設」が75.6%と最多だった。

木材は二酸化炭素を吸収してくれるし、繰り返し生産できる循環型の資源でもある。自然環境に優しいことに加え、調査結果からも分かるように、森林には森林浴や自然美あふれる景観などの魅力があり、木材の利用には木のぬくもりを感じたり、気持ちを落ち着けたりする効果が期待できる。

木材を活用してきた日本社会では、木造住宅を選ぶ意向も高い。半面、火災や地震に弱いことへの懸念もある。最近では、RC造(鉄筋コンクリート造)などと同等の防火性能を有する木造建築物が認められるようになり、設計上の工夫や技術開発などによって、木造建築物の安全性を高められるようになっている。木材活用の可能性が広がることに期待したい。

東池袋四丁目を再開発、複合施設など建設

野村不動産(株)が特定業務代行者として参画する「東池袋四丁目2番街区地区第一種市街地再開発事業」における新築工事が、2月12日付けで着工した。 同事業は、2012年10月に準備組合設立、2017年3月に都市計画決定、2017年10月に再開発組合の設立認可を受けた。その後、2018年9月の権利変換計画認可を経てこのたび着工となった。

開発地は東京メトロ有楽町線「東池袋」駅徒歩1分、JR「池袋」駅より徒歩12分に位置する。木造住宅密集地域の解消を通じて防災性の向上を図り、道路整備と地域に開かれた地区広場を新設。「東池袋」駅出入口のバリアフリー化も図る。

また、地上36階・地下2階の複合施設を建設し、店舗・事務所、子育て支援施設、都市型住宅(総戸数248戸)等の整備を行う。竣工は2022年3月の予定。

ニュース情報元:野村不動産ホールディングス(株)

東京都、木造住宅の建替えサポート、借入金に対する利子補給

東京都は、木造住宅密集地域の不燃化を促進するため、自己資金だけでは住宅の建替えが困難な方向けに、金融機関からの借入金に対する利子補給事業を実施する。
「防災都市づくり推進計画で指定する整備地域」「防災都市づくり推進計画で指定する重点整備地域(不燃化特区)」「東京都木造住宅密集地域整備事業地区」のいずれか一つに該当する地区に、耐火又は準耐火構造の自己用住宅を建替えにより建設すること、かつ、都道府県税及び区市町村税を滞納していないことが条件。

利子補給額は、利用者負担利率の1%相当額(1%未満の場合は当該金利)で、補給期間は10年間とする。募集戸数は30戸。東京都庁や各区市町村窓口などでパンフレットを配布し、2018年5月14日(月)から2019年2月28日(木)まで受け付ける(※募集戸数に達したときは申込締切)。

ニュース情報元:東京都