下北沢などの街を変えたグリーン(植物)とコミュニティの力。 NYセントラルパークと感染症対策にも意外な接点

古くは明治神宮の森、近年では池袋の新しいランドマーク南池袋公園など暮らしやすさやまちの心地よさに深く関係している、ランドスケープデザイン(景観デザイン)。最近、“サブカルのまち”下北沢(東京都世田谷区)の風景が、大きく変わったことが話題になりました。下北沢のまちを久々に訪れた人は、豊かな緑をあちこちで目にすることができるでしょう。「シモキタ園藝部」の企画と立ち上げに取り組み、今は共同代表としてシモキタ園藝部で活動を続けるほかにも、全国の様々な地域でランドスケープデザインを通じた街づくりに取り組んでいる株式会社フォルクの代表である三島由樹さんは、緑を通じて社会課題を解決する「ソーシャルグリーンデザイン」の担い手のひとり。いま、緑を使ってどのように都市の課題に取り組んでいるのでしょうか。

下北線路街のランドスケープデザインの構想に携わる。下北線路街の緑の手入れをする地域コミュニティ「シモキタ園藝部」もフォルクが企画と立ち上げに携わった(画像提供/一般社団法人シモキタ園藝部)

下北線路街のランドスケープデザインの構想に携わる。下北線路街の緑の手入れをする地域コミュニティ「シモキタ園藝部」もフォルクが企画と立ち上げに携わった(画像提供/一般社団法人シモキタ園藝部)

東京都八王子市の「AJIROCHAYA」では、明治時代から続くお茶屋さんの改修に伴うランドスケープデザインおよびコミュニティのデザインを行った(画像提供/フォルク)

東京都八王子市の「AJIROCHAYA」では、明治時代から続くお茶屋さんの改修に伴うランドスケープデザインおよびコミュニティのデザインを行った(画像提供/フォルク)

関連記事:総勢150名「シモキタ園藝部」が下北沢の植物とまちの新しい関係を育て中。鉢植え、野原など、暮らしと共にあるグリーンがあちこちに

都市計画の歴史は、ランドスケープ・アーキテクチャーから始まった

慶應義塾大学とハーバード大学大学院で、ランドスケープデザインを学んだ三島さん。ランドスケープは、「風景・景観」という意味があります。学部時代は「ランドスケープデザインといえば、緑を使って綺麗な空間をつくるもの」と認識していた三島さんは、ランドスケープ・アーキテクチャーの本質が、「都市の課題解決のために生まれた学問と職能」であるとアメリカで学び、衝撃を受けました。

「慶應義塾大学の恩師であった、建築家の坂茂先生からは、社会貢献のできるデザインが大切であること、ランドスケープ・デザイナーの石川幹子先生からは、緑地は社会共通資本であることを学びました。その後、石川先生の勧めでハーバード大学の大学院に進みましたが、アメリカでは、近代化と経済成長によって汚染された土地であるブラウンフィールドをいかに現代において人が暮らすことができる環境として再生するかが、ランドスケープデザインのメインテーマでした」(三島さん)

ハーバード大学院で学んでいたころの三島さん(画像提供/フォルク)

ハーバード大学院で学んでいたころの三島さん(画像提供/フォルク)

「楽しくも猛烈な日々だった」と振り返る(画像提供/フォルク)

「楽しくも猛烈な日々だった」と振り返る(画像提供/フォルク)

最も衝撃を受けたのは、セントラル・パーク(Central Park)の設計思想を学んだときのことでした。セントラル・パークは、19世紀につくられたアメリカのニューヨーク市マンハッタン地区の中央にある美しい都市公園です。

「私はセントラルパークについて、ほとんど知らなかったのですが、調べてみると、それは感染症対策のために計画された公園という一面を持っています。当時ニューヨークは、人口の爆発的な急増があり、道端に馬の死骸が転がっているような劣悪な環境で感染症が蔓延していました。開発されていく街の中に、緑の空間をつくり、人種の差別なく、全ての人が生き続けられる環境をつくることが目的だったのです」(三島さん)

セントラル・パークは、ニューヨークの密集した市街地の中に存在する(画像/PIXTA)

セントラル・パークは、ニューヨークの密集した市街地の中に存在する(画像/PIXTA)

セントラル・パークの設計者のひとりフレデリック・ロー・オルムステッドが、建築、土木などを束ねた環境デザインの専門分野として提唱したランドスケープ・アーキテクチャーは、その後、都市計画分野の基礎になりました。ランドスケープデザインは、都市についての問題意識から生まれたものだったのです。

開発が進む街に開かれた皆の庭「AJIROCHAYA」

アメリカから帰国した三島さんは、東京大学での研究・教育活動を経て、2015年にフォルクを設立。最初に手掛けたのは、出身地である八王子市の中心市街地にある「AJIROCHAYA」です。同郷で同世代の建築家、松葉邦彦さんからの誘いでした。

まわりの高層マンションの中に灯る「AJIROCHAYA」(画像提供/フォルク)

まわりの高層マンションの中に灯る「AJIROCHAYA」(画像提供/フォルク)

「『AJIROCHAYA』のまわりには高層マンションがたくさん建っています。周辺にはかつて専門店が並んでいたのですが、それらがどんどんなくなって高層マンションに建て替わっているんですね。依頼主は、明治時代発祥のお茶屋さんのオーナー。『高層マンションによる街の改変とは異なる、この街の文化を承継し創造していくような新しい場所づくりができないか』という問題意識から、プロジェクトが始まりました」(三島さん)

「AJIROCHAYA」がつくられる前は、前面に歩行者専用道路がありますが、シャッターが下りたお茶屋さんは、街に対して閉じた印象でした。そこで、三島さんは、街に面したスペースに庭をつくってパブリックスペースとしてまちに開放し、街の人が大きな木の下で道ゆく人たちを眺めたり、大きなベンチでくつろいだりできる、「街に開かれた庭」を提案しました。

三島さんが初期に提案したスケッチ(画像提供/フォルク)

三島さんが初期に提案したスケッチ(画像提供/フォルク)

駐車場に完成した庭。カフェなどのテナントも入り、ほっとできる場所に(画像提供/フォルク)

駐車場に完成した庭。カフェなどのテナントも入り、ほっとできる場所に(画像提供/フォルク)

「意識したのは、街の人を受け入れる場所づくり。奥行42mの敷地は、前と後ろが歩行者道路に接していました。そこで、敷地内に、道路と道路をつなぐ路地(私道)をつくり、日中は、街の人が自由に通れるようになっています。通り沿いには、知らない人同士でも気詰まりなく座れる大きなベンチを宮大工さんと一緒につくって設置しました」(三島さん)

敷地の前面(右)は歩行者専用道路、奥(左)は甲州街道に接している。矢印部分を新しく通路にした(画像提供/フォルク)

敷地の前面(右)は歩行者専用道路、奥(左)は甲州街道に接している。矢印部分を新しく通路にした(画像提供/フォルク)

以前は、通り過ぎるだけだった場所でくつろぐ街の人(画像提供/フォルク)

以前は、通り過ぎるだけだった場所でくつろぐ街の人(画像提供/フォルク)

通路が抜け道になり、街に新しい人の流れができた(画像提供/フォルク)

通路が抜け道になり、街に新しい人の流れができた(画像提供/フォルク)

改装中の蔵(画像提供/フォルク)

改装中の蔵(画像提供/フォルク)

ajirochayaの現場で出会った八王子の宮大工、吉匠建築工藝。宮大工の技術を使って金輪継のベンチをつくってもらった(画像提供/フォルク)

ajirochayaの現場で出会った八王子の宮大工、吉匠建築工藝。宮大工の技術を使って金輪継のベンチをつくってもらった(画像提供/フォルク)

職人さん・地域の人が一緒になって、園路に石を据えていく(画像提供/フォルク)

職人さん・地域の人が一緒になって、園路に石を据えていく(画像提供/フォルク)

「AJIROCYAYA」では、コミュニティデザインもフォルクが手掛けています。例えば、施工中は、皆が愛着を持ってこの場所に関わっていけるように、園路の舗装も造園の親方に教わりながら、大学生・地域の人・テナントの人に協力してもらい、時間をかけてつくりました。オープン後の植栽管理については、「にわのひ」というイベントを行い、テナントの人や地域の人が一緒に手入れをする日を設けることを試みました。コロナ禍で休止していましたが、今後また開催していけたらと考えています。

社会を変えるソーシャルグリーンデザインとは

三島さんは、一般社団法人ソーシャルグリーンデザイン協会の立ち上げに関わり、理事を務めています。ソーシャルグリーンデザインとは、緑で地域課題の改善と持続可能な社会を目指す、新しいデザインムーブメントです。

「ソーシャルデザイン(social:社会、design:計画)は、商業主義的、消費的なデザインに対し、社会貢献を前提としたデザインのこと。ソーシャルグリーンデザインは、それを緑を通じて実現しようとしています」(三島さん)

「緑=植物と狭く捉えるのではなく、緑は承継すべき都市の文化であり、新しい文化が生まれる素地であると考えています。『AJIROCHAYA』や『シモキタ園藝部』のコミュニティづくりに関わったのも、場所をつくって終わりではなく、いかに緑に関わる人を増やし、地域社会を育てていくかが、景観をデザインすること以上に大事だと思っているからです」(三島さん)

街づくりを学ぶ学生と地域住民をマッチング

全国には、豊かな自然がありながら、うまく活用できていない地域がたくさんありますが、ソーシャルグリーンデザインは、地域課題を解決するひとつの方法になるのでしょうか?

「ソーシャルグリーンデザインと直接関係するプロジェクトではないのですが、地域住民と大学生とのマッチングをして、街づくりを学ぶ学生に実践の機会を提供するまちづくりワークショップ『PLUS KAGA』を石川県加賀市で2016年から行っています。日本全国で、人口減少などを背景とする身近な地域の課題が置き去りにされていることが多々ありますが、地域住民はそれらすべてをコンサルタントなどのプロに相談できるわけではない。一方、『大学で街づくりを学んでいるけど、自分で考えて実践する機会が少ない』、と感じている学生は少なくないように思います。地域住民と大学生が出会って、ともに地域課題に向き合う機会をつくってきました。その中で、地域と緑に関するプロジェクトもたくさん生まれてきました」(三島さん)

全国の大学から、延べ61名ほどの大学生が活動に参加。地域の人と一緒にプロジェクトを進めていく(画像提供/フォルク)

全国の大学から、延べ61名ほどの大学生が活動に参加。地域の人と一緒にプロジェクトを進めていく(画像提供/フォルク)

加賀市の水と緑の未来マップ(画像提供/フォルク)

加賀市の水と緑の未来マップ(画像提供/フォルク)

「大学生が地域で活動を始めると、地域の人たちもアクティブになっていきます。この6年間で、地域の山や水辺の環境を再生するプロジェクトなど37ものプロジェクトが生まれました。デザインをする人だけじゃなく、行動できる人、関係をつくっていける人を育てていくことが重要です。九州や台湾など、さまざまなところから大学生が加賀市にきましたが、街に愛着が生まれて卒業後も通い続ける人も多くいます。街づくりは行政がやるというイメージを持たれがちなんですけど、ひとりひとりが街づくりは自分でできるんだと思ってもらえたら嬉しいですね」(三島さん)

社会問題を解決に導くランドスケープデザインを生かした街づくり。身近な癒やしの存在である緑が、ソーシャルイノベーションを起こす力があることに驚きました。三島さんは最近では福井県勝山市の建設会社と共に地域の遊休資源を活用した循環型の新規事業の立ち上げや、和歌山県田辺市の中山間地帯で地域と自然と連携した教育施設のランドスケープデザインなどを手掛けているとのこと。ますます持続可能な都市計画が求められる今、街の緑との関わり方も変わってきそうです。

●取材協力
株式会社フォルク

総勢150名「シモキタ園藝部」が下北沢の植物とまちの新しい関係を育て中。鉢植え、野原など、暮らしと共にあるグリーンがあちこちに

小田急電鉄は東北沢駅~世田谷代田駅間の地上に生まれた1.7kmのエリアを「下北線路街」として整備してきました。2022年5月に全面開業して1年。個性的なショップが並ぶ商店街は雑木に囲まれ、駅前には土管のある空き地や草が茂る原っぱも! かつての“サブカルのまち・下北”から記憶がアップデートされていないならば、その変わりように驚くかもしれません。そんな下北沢で、いま、街の緑の維持管理を行っているのが、地域コミュニティ「シモキタ園藝部」です。

下北線路街の緑のコンセプトづくりと「シモキタ園藝部」の企画と立ち上げに携わった、株式会社フォルク代表のランドスケープ・デザイナー三島由樹さんに、下北沢に生まれた新しい街の緑について伺いました。

街の人が鉢植えを持ち寄り緑を育む「下北線路街空き地」

三島さんは、東京やアメリカでランドスケープデザインを学び、帰国後は大学で研究と教育に携わりました。その後、2015年に設立した株式会社フォルクで、ランドスケープデザインと街づくりのプロジェクトに携わってきました。小田急電鉄から依頼を受けて下北線路街の計画に携わっていたUDS株式会社から、「ランドスケープデザインのコンセプトを一緒に考えてほしい」とお願いされ、2018年から下北沢のまちづくりに関わることになりました。

最初に緑の場所づくりをしたのは、「下北線路街空き地」です。冒頭の写真の土管が印象的な「下北線路街空き地」は、「みんなでつくる自由な遊び場」がコンセプトの屋外イベントスペース。小田急線下北沢駅東口から、下北沢交番方面へ徒歩4分のところにあります。

「下北線路街空き地」入口を入ると、街の人が持ち寄った鉢植えが出迎えてくれる(画像提供/フォルク)

「下北線路街空き地」入口を入ると、街の人が持ち寄った鉢植が出迎えてくれる(画像提供/フォルク)

イベントに訪れた人は、草花に触れあえる楽しみもある(画像提供/フォルク)

イベントに訪れた人は、草花に触れあえる楽しみもある(画像提供/フォルク)

入口を入ると、右手に「空き地カフェ&バー」、「空き地キッチン」、左手にはイベント時にキッチンカーの並ぶエリアがあります。中央にあるレンタルスペースAは、土管のある芝生エリアで、ステージがあり、屋外映画上映会やサウナ体験会などさまざまなイベントを開催。レンタルスペースBでは頻繁にマルシェが行われています。

右から、入口、飲食スペース、レンタルスペースA、レンタルスペースBに分かれている(画像提供/フォルク)

右から、入口、飲食スペース、レンタルスペースA、レンタルスペースBに分かれている(画像提供/フォルク)

芝生エリアでは、ライブやフェス、縁日などさまざまなイベントが催される(画像提供/フォルク)

芝生エリアでは、ライブやフェス、縁日などさまざまなイベントが催される(画像提供/フォルク)

最近見かけるおしゃれなイベントスペースかと思いきや、ミミズコンポストがあったり、鉢植えの並んだ棚があったり……。ただのイベント会場とはちょっと違うことがわかります。

「棚にたくさん並んでいる鉢植えは、下北沢の街の人が持ち寄ったもの。下北線路街で皆で緑を育てていったり、緑を通じて交流する仕組みづくりの試みは、ここからスタートしました」(三島さん)

緑の少なかった下北沢に現代の雑木林「シモキタマチバヤシ」をつくる

そもそも再開発前の下北沢の街は緑が少なく、小田急電鉄には、「再開発が行われる時には緑をたくさんつくってほしい」という地元の声が寄せられていたそうです。そこで、下北線路街全体の緑のコンセプトとして三島さんたちが提案したのが、「シモキタマチバヤシ」でした。

「開発で生まれるグリーンは、『美しい緑』『かっこいい緑』であることが多いですが、触っちゃいけない緑が多いですよね。下北線路街の緑のコンセプトは、言ってみれば現代の都市における雑木林みたいな感じです。下北沢も昔は雑木林がたくさんあったそうです。人が植物を暮らしに役立てていた、人と植物が共に支え合って生きていた時代があったんですね。植物が少なくなってしまった下北沢という街に、人と植物が関わり合う新しい文化をつくろうという意味を込めました」(三島さん)

下北線路街にできた商店街「BONUS TRACK」は、あちこちに株立ちの木々が葉を揺らし、道を歩くと、雑木林を通り抜けていくようです。

野山に生えるような木々をできるだけ自然樹形で管理しているから、本物の林の中にいるみたい(画像提供/一般社団法人シモキタ園藝部)

野山に生えるような木々をできるだけ自然樹形で管理しているから、本物の林の中にいるみたい(画像提供/一般社団法人シモキタ園藝部)

下北沢駅南西口エリアの植栽は、大きな石のある築山が見所。石に座って草木を感じてもいい(画像提供/一般社団法人シモキタ園藝部)

下北沢駅南西口エリアの植栽は、大きな石のある築山が見所。石に座って草木を感じてもいい(画像提供/一般社団法人シモキタ園藝部)

「『下北線路街空き地』ができ、これから下北線路街の中にたくさん緑が生まれていく中で、緑をどうやって管理していくか。普通だったら小田急電鉄さんの関連会社が植栽の維持管理をしますが、現代の雑木林みたいな人の暮らしに役立つような緑をつくっていくのであれば、緑を必要とする人が街の緑を育てていくやり方の方がいいんじゃないかと。そこで、緑を育て、活用するコミュニティづくりを提案しました」(三島さん)

関連記事:
・下北沢は開発でどう変貌した? 全長1.7km「下北線路街」がすごかった!
・「サブカルのシモキタ」開発で再注目。熱気と個性が下北沢に戻ってきた!

地域の緑をみんなでつくり育てていく「シモキタ園藝部」

小田急電鉄の賛同を得て、2019年秋からワークショップを始め、2020年春にシモキタ園藝部の前身である下北線路街園藝部を発足。人が苗木を土に植え込む形に由来する「藝」という字をあえて使いました。コミュニティのミッションは、緑を通じた循環型地域社会の担い手となること。メンバーは、駅にポスターを張ったりSNSで一般公募しましたが、最初に集まったのは、20名ほどでした。

2019年に駅に張られた下北線路街第1回目の園芸ワークショップのチラシ(画像提供/フォルク)

2019年に駅に張られた下北線路街第1回目の園芸ワークショップのチラシ(画像提供/フォルク)

「半年間、ワークショップを開催しながらどんなコミュニティにしていきたいか、一人一人がそこで何がやりたいかを話し合うことから始めました。用意した企画に乗ってもらうんじゃなくて、皆で園藝部の企画をゼロからつくっていったのです」(三島さん)

その後、2021年に法人化され、シモキタ園藝部という名称に。小田急電鉄から委託され、世田谷区の北沢、代沢、代田地域を主なフィールドに、街の植栽管理を行っています。雑草や剪定後の枝や葉を廃棄するのではなく、コンポストを使ったり、剪定枝をリースとして提供するなど、なるべくゴミを出さずにすべてを循環させる取り組みをはじめました。

植物や様々な生き物と触れ合える、住宅街の中の原っぱ「シモキタのはら広場」

その後、2022年4月、下北沢駅のすぐ近くに、シモキタ園藝部の拠点がオープン。事務所である「こや」、ワイルドティーと天然ハチミツの店「ちゃや」、そして「シモキタのはら広場」ができました。コンセプトは、循環をつくる街の圃場です。憩いの場所であると同時に、土や枝葉の回収や育苗を行い、植物の循環をつくり出す場所。広場にはワイルドフラワーが咲き、虫たちが集まり、動植物が混然一体となって、街の中に原っぱが生まれました。

住宅街に出現した原っぱにもともと住んでいた地元の人も驚いた(画像提供/フォルク)

住宅街に出現した原っぱにもともと住んでいた地元の人も驚いた(画像提供/フォルク)

種を蒔いた草花が入り混じって共存している(画像提供/フォルク)

種を蒔いた草花が入り混じって共存している(画像提供/フォルク)

園藝部の拠点と広場づくりは、園藝部のコミュニティメンバーと連携し、一緒に議論してつくっていきました。地域コミュニティであるシモキタ園藝部を、どう運営していくか? ただのボランティアでなく事業として経営していけるか? 今では、一人一人の興味をもとに様々な事業が立ち上げられています。コンポストをつくるキットの商品化が進行中だったり、養蜂の事業、緑の担い手を育てるシモキタ園藝學校という人材育成事業も行っています。

落ち葉・雑草コンポスト。草刈りや剪定で出た枝葉に、コーヒーパルプなどを加え、堆肥をつくり、土に還す(画像提供/一般社団法人シモキタ園藝部)

落ち葉・雑草コンポスト。草刈りや剪定で出た枝葉に、コーヒーパルプなどを加え、堆肥をつくり、土に還す(画像提供/一般社団法人シモキタ園藝部)

下北線路街や下北の住宅地からミツバチが集めた蜂蜜「シモキタハニー」が、新しい世田谷土産に(画像提供/一般社団法人シモキタ園藝部)

下北線路街や下北の住宅地からミツバチが集めた蜂蜜「シモキタハニー」が、新しい世田谷土産に(画像提供/一般社団法人シモキタ園藝部)

ほかには、「古樹屋」という下北沢らしいネーミングのビジネスも。洋服の古着屋の植物版で、街の人が育てきれなくなってしまった植木や鉢植えを引き取って、仕立て直し、新しい引き取り手にマッチングしています。

古樹屋に並べられた植物は、枝が曲がったり、ひょろっと伸びすぎていたり。それがむしろ味なのは、古着と同じ(画像提供/一般社団法人シモキタ園藝部)

古樹屋に並べられた植物は、枝が曲がったり、ひょろっと伸びすぎていたり。それがむしろ味なのは、古着と同じ(画像提供/一般社団法人シモキタ園藝部)

「緑を誰かの所有物ではなく、地域のコモンズ、地域で共に生きるパートナーとしてみてほしいんです。街の緑は、自治体だったり、個人だったり、誰かのものになりがちなんですけど、緑は、人間だけでなく全ての生き物が生きていく上で不可欠な存在なんだという意識を持ってもいいのではないかと思うんです。『古樹屋』は園藝部の事業ですが、金額は買い手の人につけてもらうんですよ。子どもはお小遣いで、園藝部の活動を応援したい人は、普通のお店で買うよりも高く出してくださるとか。植物をたくさん売って稼ぐことが目的ではなくて、植物は街で生きる全て誰もにとって欠かせないパートナーなのだというこれからの新しい社会をつくるためにやっている事業というイメージです」(三島さん)

シモキタのはら広場も、見た目の美しさではなく、いかに街の人がいきいきと活動する場所になるかにフォーカスし、住宅街の中の静かな原っぱをつくっていこうとしています。「こんな雑草だらけでいいのか」という声もたまにあるそうですが、「街中にワイルドな野原をつくってくれてありがとう」「子ども達をこういう所で遊ばせたかった!」という声が多いそうです。夏休みには、子ども達が虫取り網を持ってうろうろしている光景が毎日のように見られたそうです。

緑が増えるにつれて、下北沢の街の人にも変化が。20名から始まったシモキタ園藝部のコミュニティメンバーの数は大人から子どもまでの地元の人やプロの造園家など約150人ほどに増え、一人一人のやりたいことを事業の企画にして、みんなで少しずつ実現しています。街の風景が変わるだけでなく、街の緑に対してアクティブに関わる人がどんどん増えているのです。

シモキタ園藝學校の授業風景。1年間の講座終了後には、園藝部認定の「エコガーデナー」になれる(画像提供/一般社団法人シモキタ園藝部)

シモキタ園藝學校の授業風景。1年間の講座終了後には、園藝部認定の「エコガーデナー」になれる(画像提供/一般社団法人シモキタ園藝部)

「植物は手入れが必要ですが、手間のかかることを面白くして、楽しみながら緑に関わる人を増やしていきたい」と三島さん。新たに生まれた緑の空間が、下北の街にインパクトを与え、ビジネスやイベントが生まれる場所になっています。昔からある街の緑を引き継ぎ、育て、新しいものを生み出す緑の街づくり。学生時代、古着を買いに通った下北沢を久しぶりに訪れてみたくなりました。

●取材協力
・株式会社フォルク
・シモキタ園藝部
・下北線路街空き地

枯らした観葉植物の駆け込み寺!? 唯一無二の姿に再生&販売するリボーンプランツ店「REN」に行ってみた

コロナ禍で在宅時間が増え、自然の癒やしを求めてインテリアに観葉植物を取り入れた方も多かったのではないでしょうか。一方で、育て始めたけど枯らしてしまったという人も少なくないかもしれません。素人からみて、枯れていると思う植物でも、プロが見ると、一部再生できる場合があります。枯れてしまった観葉植物を捨てるよりケアして次の人の元へ。そんな素敵な取り組みを紹介します。

枯らした観葉植物に捨てる以外の選択肢。再生して再販するサービス

インテリアショップや雑貨店で気に入った観葉植物を育ててみたけれど、何だか元気がない、いつの間にか枯れてしまった……そんな経験はないでしょうか。罪悪感がありつつも、どうしたらよいかわからず捨ててしまうことも多いでしょう。

「枯れたので捨てる」という悲しい最後ではなく、プロによる正しいケアで再生を目指し、再販して新たに望んでいる人の元へ届けるサービスを展開しているのが、観葉植物専門店RENです。

地上4階建て築55年の東京生花本社ビルをフルリノベし、元々別の場所にあった観葉植物専門店RENの店舗として2021年8月にリニューアルオープンした(写真撮影/相馬ミナ)

地上4階建て築55年の東京生花本社ビルをフルリノベし、元々別の場所にあった観葉植物専門店RENの店舗として2021年8月にリニューアルオープンした(写真撮影/相馬ミナ)

1階には再生観葉植物「リボーンプランツ」、手間をかけて仕立てた一点ものの「スペシャリティプランツ」が販売されている(写真撮影/相馬ミナ)

1階には再生観葉植物「リボーンプランツ」、手間をかけて仕立てた一点ものの「スペシャリティプランツ」が販売されている(写真撮影/相馬ミナ)

観葉植物専門店として2005年に創業したRENでは、2020年8月より「観葉植物の下取りサービス」を開始。下取りから再生まで一貫して対応し、再生した植物を新たに再販する観葉植物の二次流通を実践するサービスは、業界初の試みです。

店舗は、白金高輪駅や三田駅などから徒歩10分、桜田通りから脇の道へ入ったところにあるレンガ造りの建物で、中に入ると、ほかでは見ないような独特な枝ぶりの個性的な観葉植物がいっぱい。育てられなかった人から下取りし、プロによる適切なケアで再生された「リボーンプランツ」です。流木のように立ち枯れた枝から芽吹いた葉が美しいシェフレラ、土を洗い、幹の途中から出る気根を活かしたガジュマル。吊り棚状のモジュールで浮遊して展示されている観葉植物はどれも生き生きとしています。

腐っていた樹皮をそぎ落とすことで、新しい枝や葉が芽吹いた (写真撮影/相馬ミナ)

腐っていた樹皮をそぎ落とすことで、新しい枝や葉が芽吹いた (写真撮影/相馬ミナ)

真ん中は、茂りすぎた葉を剪定して枝ぶりを活かしたフィカス・ベンガレンシス。両側は人気のガジュマル。土にうまっていた根を表出し、荒々しい自然の趣が出た(写真撮影/相馬ミナ)

真ん中は、茂りすぎた葉を剪定して枝ぶりを活かしたフィカス・ベンガレンシス。両側は人気のガジュマル。土にうまっていた根を表出し、荒々しい自然の趣が出た(写真撮影/相馬ミナ)

立ち枯れてしまったシェフレラの幹は、流木のような味わいがあるので活かし、生きている幹からは葉が新生した。生と死をイメージして仕立てたという(写真撮影/相馬ミナ)

立ち枯れてしまったシェフレラの幹は、流木のような味わいがあるので活かし、生きている幹からは葉が新生した。生と死をイメージして仕立てたという(写真撮影/相馬ミナ)

RENマネージャーの山田聖貴さんに企画の背景や反響を伺いました。

「人が理解できない生物を探求したい」という思いから植物業界に入った山田さん。「まだ答えは出ないけれど、植物のケアを通じて私の知見や気持ちを後の人に受け継いでもらえたらうれしいですね」(写真撮影/相馬ミナ)

「人が理解できない生物を探求したい」という思いから植物業界に入った山田さん。「まだ答えは出ないけれど、植物のケアを通じて私の知見や気持ちを後の人に受け継いでもらえたらうれしいですね」(写真撮影/相馬ミナ)

「いま、コロナ禍の『おうち時間の充実』として、観葉植物を取り入れたいという需要が増加傾向にあります。そのなかで、お客様より『弱ってしまったり、枯れてしまったりしたらどうしたらいいか?』という声が増えてきました。最近はフラワーロスなど花にまつわる課題にはスポットが当たっていますが、観葉植物についてはケアをするという概念がありませんでした。RENの母体は、創業1919年のいけばな花材専門店東京生花です。社是である『活ける』を花だけでなく、植物全体に広くとらえ直したときに、物として販売するだけでなく、生きている植物をケアすることは、SDGs観点からもこれから重要になると考えました。そこで、観葉植物についての相談や植え替え、下取り、再生まで行う『プランツケア』のサービスが生まれたのです」(山田さん)

サービスの利用は、電話やコミュニケーションアプリによるオンライン無料相談・診断の後、必要に応じて、「植え替えサービス」「出張プランツケア」「下取りサービス」が選べます。例えば、「植え替えサービス」は、植物3号1050円+植え替え料1300円で総額2350円(税別)。都内の一部エリアを対象にした「出張プランツケア」は、観葉植物の疑問や困りごとについて専門知識のあるプランツケアマイスターが自宅やオフィスに出張し解決するサービスです。剪定や病害虫駆除を行い、料金は15000円(税別)です。

観葉植物の二次流通となる「下取りサービス」は、うまく育てられなかったり、引っ越しなどの事情で手放されたりした観葉植物を再販可能な個体に仕立て直してから店舗で販売する仕組み。枯れてしまったと思っても、実はプロの目で見れば再生可能な場合があるのです。下取り額分は、新たな植物を買い替えるときに割引されます。すべてのサービスは、他社で購入した鉢植えにも対応しています。さらに、定額制で年間ケアが受けられる植物のサブスクリプションサービス「プランツケアクラブ」(年間定額4680円)も開始しました。

「プレスリリースした当初は、植物をケアして長く付き合っていくというコンセプトが伝わらず、ほとんどリアクションがありませんでした。今まで、植物をケアするという概念がなかったのだから、仕方がないのかもしれません。展示会などで『リボーンプランツ』を実際に見てもらい、アピールを続けた結果、少しずつ認知されてきたと感じています。今では、月に約300件の相談があり、実際注文があったうち、植え替えサービスは100件、出張プランツケアは30件、下取りサービスは20件の利用です。今年のゴールデンウイークには、お店に行列ができるほどの反響があり、モンステラの大鉢を抱えた方が並んでいるのを見て、とてもうれしかったです」(山田さん)

店舗デザインは、国内外で活躍するデザイナーの「NOSIGNER(ノザイナー)」が担当。天井から吊り下げたモジュール什器で360度植物の表情を見てお気に入りを探せる(写真撮影/相馬ミナ)

店舗デザインは、国内外で活躍するデザイナーの「NOSIGNER(ノザイナー)が担当。天井から吊り下げたモジュール什器で360度植物の表情を見てお気に入りを探せる(写真撮影/相馬ミナ)

世界にひとつのリボーンプランツは、ヴィンテージのような味わいが人気

REN店舗内で開催された「サードウェーブプランツ展」(2020年1月)や「リボーンプランツ展-植物の持続可能性」(2020年9月)で、コンセプトとしてきたのは、「インテリアでもファッションでもない家族としての植物」です。

「観葉植物には何度かブームがありました。第1の波は、観葉植物が日本に普及し始めたころ、画一的で育てやすい品種。インテリアとして広く受け入れられて家具店やインテリアショップで販売されるようになり、定着したんです。第2の波は、約10年前の多肉植物や塊根植物など個性的な品種のブームでした。アパレルショップでも植物が販売され、ファッション感覚で楽しむ人が増えましたが、管理の難しさ・育成環境に課題があったのです。RENが提案するのは、育てやすい品種でありながら個性豊かな一点物の植物。育てやすく個性的な植物を、長く付き合っていける家族やパートナーとして、おうちに迎えてもらいたいです」(山田さん)

実際にリボーンプランツを目にして驚いたのは、長い年月を経て風格を増した盆栽のような味わいがあること。観葉植物は、流通コストがかからないようにまっすぐで画一的な形をしているものが多いのですが、リボーンプランツは枝が曲がったり、ねじれたりと、植物本来のたくましさ・生命力を感じます。

立ち枯れてしまったシェフレラの幹。盆栽では、幹や枝が朽ち、白骨化した枝をジン、幹をシャリといい珍重する。RENの観葉植物には、生け花や盆栽のノウハウが活かされている(写真撮影/相馬ミナ)

立ち枯れてしまったシェフレラの幹。盆栽では、幹や枝が朽ち、白骨化した枝をジン、幹をシャリといい珍重する。RENの観葉植物には、生け花や盆栽のノウハウが活かされている(写真撮影/相馬ミナ)

プランツケア前のガジュマル。枝が伸び放題で、葉も密に茂っている(画像提供/REN)

プランツケア前のガジュマル。枝が伸び放題で、葉も密に茂っている(画像提供/REN)

プランツケア後のガジュマル。枝葉が剪定されてすっきり。葉が重なると病害虫になりやすい。適度に隙き、幹や枝を見せる。どの枝を残すかはプロの経験が生きる(画像提供/REN)

プランツケア後のガジュマル。枝葉が剪定されてすっきり。葉が重なると病害虫になりやすい。適度に隙き、幹や枝を見せる。どの枝を残すかはプロの経験が生きる(画像提供/REN)

「植物はしゃべらないけれど、形は言葉のようなもの。プランツケアで心がけているのは、植物本来の姿をよりよく導くこと。下取りした観葉植物が形になるまでは、1年かかるのは普通で、3年、5年かけて美しく再生していきます。曲がった枝や経年変化した幹を見て、植物が発する声を聞いていただけたら」(山田さん)

ショップには、「リボーンプランツ」として再生された観葉植物たちが、これから新たに育ててくれる人との出会いを待っています。

「プランツケアラボ」はまるで手術室。プロの技術で再生して植物の命をつなぐ

ショップの奥には、観葉植物の剪定や植え替えを行うプランツケアサービスの拠点「プランツケアラボ」があり、ちょうど、植え替え作業をしていました。鉢がパンパンになるほど伸びていた古い根を丁寧にほぐしながら崩し、大きい器に植え替えます。オンライン相談では、「ちょっと調子が悪いので見てほしい」という問い合せが多いそうです。画像診断をすると、水のやりすぎによる根腐れや育ちすぎの状態がほとんど。根腐れの場合は植え替えを行い、育ちすぎた場合は、剪定し、鉢を大きくします。

「植物の根は内臓。土は腸内環境に似ています。いい土には、微生物が食べる有機物が必要です」と山田さん。空気を含む天然の有機培養土、鉱物由来珪酸液などを使い、植物のメンテナンスを行っています。

「プランツケアラボ」には、専門の道具が並ぶ。盆栽の道具や幹を削ぐための彫刻刀など様々な工具を使い分ける(写真撮影/相馬ミナ)

「プランツケアラボ」には、専門の道具が並ぶ。盆栽の道具や幹を削ぐための彫刻刀など様々な工具を使い分ける(写真撮影/相馬ミナ)

植え替えを行う東京生花代表取締役社長の川原伸晃さん。2011年に、植物店として史上初めてのグッドデザイン賞の受賞に導いた(写真撮影/相馬ミナ)

植え替えを行う東京生花代表取締役社長の川原伸晃さん。2011年に、植物店として史上初めてのグッドデザイン賞の受賞に導いた(写真撮影/相馬ミナ)

一般的な観葉植物でも、個性を生かして仕立てているので、他にはないオリジナルな一鉢になる(写真撮影/相馬ミナ)

一般的な観葉植物でも、個性を生かして仕立てているので、他にはないオリジナルな一鉢になる(写真撮影/相馬ミナ)

2階の「アウトドアプランツ」コーナーには、オリーブの鉢が並ぶ。流通しているものの多くはスペイン産のオリーブは、意外にも東京の気候に合う植物だという(写真撮影/相馬ミナ)

2階の「アウトドアプランツ」コーナーには、オリーブの鉢が並ぶ。流通しているものの多くはスペイン産のオリーブは、意外にも東京の気候に合う植物だという(写真撮影/相馬ミナ)

ショップを訪れた人のなかには、年配のご夫婦が30年育てた観葉植物を「私が引き継ぎます」と言って買い取った人、引っ越しのため手放さざるを得なかった大鉢の観葉植物をトラックで搬入した人もいるそうです。

「観葉植物をインテリアの一部ではなく、命のある植物として、家族として、大切に思う人やその思いを受け継ぎたい人が少しずつ増えてきています」(山田さん)

観葉植物を手放すしかなくても、再生されて、新しく望む人の手に届けられるのなら、気持ちよく送り出せそうです。枯れてしまった植物の命が再生・循環する仕組みは、社会と植物の持続可能な新しい関係創出につながっています。

●取材協力
・観葉植物専門店REN

コロナで「フラワーロス」が深刻! 花と花農家を救う花屋の挑戦

2020年春先、新型コロナウイルスの感染拡大で卒業式や結婚式など花が欠かせないイベントの中止が相次ぎ、多くの花が出荷できず廃棄され、半年以上経つ今も業務用花の需要低迷は続いています。その過程で、まだ綺麗なのに捨てられる花(フラワーロス)をなくそうと、花業界はさまざまな取り組みを開始しました。今回は、コロナ禍以前からフラワーロスの解決に積極的に取り組んできた株式会社BOTANICの上甲友規(じょうこう ともき)さんに話を聞きました。
イベントの中止で花の需要が低下、大量のフラワーロスが発生

まだ食べられるのに廃棄される食品「食品ロス」の量は年間612万トンも発生しています(2017年度、農林水産省発表、2020年4月現在)。食品ロスは2012年から国が削減に取り組み数値を公表していますが、「フラワーロス」は正確なデータがありません。「食品ロス」ほど、身近に感じている人は少ないのではないでしょうか。

「フラワーロスのとらえ方はさまざまで、統一された定義はありませんが、大きく分けて3つあります。ひとつは店舗にディスプレイしていた花がお客様の手に渡らず残ってしまったもの、結婚式などのイベントの装飾花で朝にディスプレイしてイベントが終了すると家には飾れてもお店で売ることはできない花、そして生産者のもとで供給過多になり出荷されずに捨てられる花があります」と話すのは、BOTANICの上甲友規(じょうこうともき)さん。まだ十分に愛でることができる綺麗な花が燃えるゴミとして捨てられる現実は、想像するだけで心が痛みます。

株式会社BOTANICの代表取締役 上甲友規さん(写真提供/BOTANIC)

株式会社BOTANICの代表取締役 上甲友規さん(写真提供/BOTANIC)

コロナの影響で卒業式、送別会など花が欠かせない各種イベントが中止・延期・縮小され、花が出荷されず大量の花が廃棄される「フラワーロス」「ロスフラワー」がニュースになりました。

コロナ禍になる以前から、この問題は注目されており、農林水産省は2020年3月6日、花の消費拡大を目指し、花業界を支援するため、家庭や職場で花を飾り、花の購入促進を広く呼びかける「花いっぱいプロジェクト」をスタートし、趣旨に賛同する地方自治体、企業、全国の団体などが協力。フローリストらによるフラワーロスを減らすプロジェクトも始まり、花のある暮らしの提案を続けています。

「コロナ禍以降、花を贈るといった個人消費の需要は増えていますが、イベントの減少で花業界全体が低迷し、今後どうしたらいいかと不安を抱えている生産農家は少なくありません」と上甲さん。フラワーロスをなくすには、一時的な支援ではなく、根本的な改善が必要です。

提携農園から新鮮な花と新聞が直接届く花のサブスク(定期便)都内に3店舗あるフラワーショップ「Ex. Flower Shop & Laboratory(イクス、フラワーショップ アンド ラボラトリー)」の自然光が入る明るい店内(写真提供/BOTANIC)

都内に3店舗あるフラワーショップ「Ex. Flower Shop & Laboratory(イクス、フラワーショップ アンド ラボラトリー)」の自然光が入る明るい店内(写真提供/BOTANIC)

「BOTANICは花屋の流通の複雑さ、大量な廃棄ロス、マーケティングのやり方、働く側の労働環境など、花屋の業界全体にある課題を解決したいと2014年に立ち上げた会社です。“花き業界をアップデートする”をミッションに自分たちが描く理想の花き業界をつくりたいという想いがあります」

その継続的な課題の解決のために、BOTANIC が提供するサービスのひとつが、花のサブスクリプションサービスです。

2017年にBOTANICが開始した花のサブスクリプションサービスの「霽れと褻(ハレトケ)」。生産者が旬の花を開花状況を見ながら収穫する(写真提供/BOTANIC)

2017年にBOTANICが開始した花のサブスクリプションサービスの「霽れと褻(ハレトケ)」。生産者が旬の花を開花状況を見ながら収穫する(写真提供/BOTANIC)

花のサブスクリプションサービス(サブスク)は、あらかじめ契約して定額料金を支払った顧客に旬の新鮮な花を定期的に届けるシステムで、顧客は、ポスト投函や手渡し、宅配ボックスなどを通じて受け取ります。

「サブスクが今までの店舗で販売するスタイルと違うのは、売れた分だけ仕入れること。お店は選択肢を多くして一定以上の在庫を抱えていないと成り立ちませんが、オンラインで注文を受け、注文があった分だけ提携農園で花を切り取り、採れたてを顧客に出荷できるのが大きいです」(上甲さん)

つまり、花のサブスクリプションサービスによって「店舗でのフラワーロス」と「生産者のもとでのフラワーロス」を削減することができます。

「霽れと褻(ハレトケ)」は、花と新聞が届く定期宅配便。顧客はどんな花が届くか分からない楽しみもある(写真提供/BOTANIC)

「霽れと褻(ハレトケ)」は、花と新聞が届く定期宅配便。顧客はどんな花が届くか分からない楽しみもある(写真提供/BOTANIC)

タブロイド判の8ページの新聞は、写真や絵を使って分かりやすい記事が満載で、保存しておきたくなるような内容(写真提供/BOTANIC)

タブロイド判の8ページの新聞は、写真や絵を使って分かりやすい記事が満載で、保存しておきたくなるような内容(写真提供/BOTANIC)

「霽れと褻(ハレトケ)」は、花とともに、その花にまつわるストーリーなどを掲載した新聞を配達しているのが特徴です。花を飾ることプラス、届いた花の名前や特徴、生産者に取材した花のストーリー、お手入れ方法、飾り方のコツなどを網羅した新聞が届くことで、知識欲が満たされ、花への興味が深まります。

その重要なカギになるのが生産者です。同社は、全国各地の100近くの花農家と会って、信頼できる花農家と提携。「安定供給ができるか、花の美しさや日持ちといった品質、配送に耐えられるか、などを見極めて提携しています。コロナ禍が続いて、生産者の方も、自らオンラインで花を販売したり、弊社の取り組みに対してさらに前向きに受け取っていただけるようになり、意識が変わってきたと感じます」

オンライン販売では生産者との交流が重要。花の新聞も直接生産者に会って話を聞いてまとめている(写真提供/BOTANIC)

オンライン販売では生産者との交流が重要。花の新聞も直接生産者に会って話を聞いてまとめている(写真提供/BOTANIC)

タイムロス、フラワーロスをなくしブーケにして届けるサービス

国内の花農家は約8万1000戸あります。花が開花するまでは、種を蒔いてから約3カ月~6カ月、胡蝶蘭などのように3年以上かかる花もあります。花農家が時間をかけて育てた花は、農協などの出荷団体がまとめて、市場を通して花屋に届くルートが一般的で、通常4~5日かかります。

花きが消費者に届くまでの主な流通ルート。市場経由率は76%、市場外取引は24%(2017年)(出典:農林水産省「花きの現状について」2019年12月)

花きが消費者に届くまでの主な流通ルート。市場経由率は76%、市場外取引は24%(2017年)(出典:農林水産省「花きの現状について」2019年12月)

BOTANICは2019年、花の流通経路を見直したサービス「Lifft(リフト)」を開始しました。これは「花のサブスクリプションサービスの延長上にあるサービスで、提携農家です。オンラインで注文を受けてから採花した花を直接仕入れて、ブーケにして届けています。フラワーロスとタイムロスがなく、流通コストや人件費、実店舗の家賃などを削減でき、価格を抑えて新鮮な花を届けることができます」

フローリストが束ねたブーケを花が傷まない工夫をした専用ボックスで届ける「Lifft(リフト)」(写真提供/BOTANIC)

フローリストが束ねたブーケを花が傷まない工夫をした専用ボックスで届ける「Lifft(リフト)」(写真提供/BOTANIC)

廃棄ロスをなくす未来の花屋を目指すコンセプトショップ

2020年2月、BOTANICは、さらにフラワーロスゼロを目指し、クラウドファンディングで支援を呼びかけ、花・植物・人が交わるサスティナブルな施設「Lifft Concept Shop(リフトコンセプトショップ)」がオープンしました。

ショップには植物相談デスク、イートインスペースを併設。花農家から仕入れて3日間以内の花のみを販売し、4日以上経つ花はビル内のカフェで活用しています。また、Web(Zoom)でコンセプトショップを見ながら無料で花選びの相談ができるコンシェルジュサービスも開始しました。

Lifft Concept Shopのショールーム(写真提供/BOTANIC)

Lifft Concept Shopのショールーム(写真提供/BOTANIC)

「個人消費や、花を飾る習慣が少しずつ増えた実感があります。今後も、このような活動を通じて、花の需要と供給のギャップをなくすよう取り組んでいきたいと思います」(上甲さん)

日常に花を取り入れフラワーロスを低減。花を飾るお手入れのコツは?

花の魅力について上甲さんに聞きました。「花の魅力はいつか枯れてしまうこと。五分咲き、八分咲き、十分咲きと開花して、首が垂れて変化していく、その時々に味があり、生きていると感じられます。お花は贈り物のイメージがありますが、自分自身の気分がいいときも元気が出ないときも一輪からでも気軽にお花を買っておうちで楽しんでほしいですね。

お花を選ぶときは、お花屋さんとコミュニケーションをとって、教えてもらうのがいいと思います。花瓶は
家にあるコップでもOK。短くて4、5日、毎日水を変えて、茎を斜めに切ってお手入れをすると1週間以上持ちます」というアドバイスも。

一般社団法人花の国日本協議会(2020年)によると、新型コロナウイルス感染予防対策として自宅で過ごす時間が長くなってから、「花やグリーンを飾りたい」という気持ちになった人が90%、そのうち、とても飾りたくなった人が65%、また実際に花を飾る頻度が増えた人が56%いることが分かりました。

また、「花の取り扱い方法や飾り方が分からない」という人は 30~40 代女性で 7 割以上、花を飾りたい気持ちがあっても知識のなさがハードルを上げてしまっていることも分かりました。花もし素敵に花を飾れたら、もっと花を身近に置きたいと思うのではないでしょうか。花き業界6団体と花き文化団体3団体から成る「日本花き振興協議会」では、花を飾り馴れていない花初心者のための特設サイト「はじめて花屋」を開設。コンテンツのひとつ「#花のABC」では、初めて花を飾る人のための基礎知識を紹介しています。

花の初心者を対象に、これだけは知っておきたい基礎知識を分かりやすく動画などでまとめたサイト「#花のABC」

初めて花と暮らすときに知っておきたい7つの基礎知識
1)清潔な花器に、水は半分くらい
2)花の下葉(水に浸かる葉)は取り除く
3)茎は斜めにスパッと切る
4)エアコンの風が直接当たらない涼しい場所に置く
5)水は毎日取り換える
6)水を変えるたびに切り戻す
7)枯れた花、傷んだ花は取り除く
(「#花のABC」から抜粋、詳しい説明はWebサイトを参照)

筆者も「STAY HOME」の呼びかけ以来、週1回の花のサブスクを契約し、常におうちに生花がある生活をしています。リビングや玄関に飾るのもいいですが、テレワークのときパソコンの脇に花を飾るのも和みますし、花の香りや自然の色に癒やしとパワーをもらっています。

花のサブスクは、忙しくて花を買いに行く時間がない人にもうってつけですし、生花は鉢植えに比べて気軽にさまざまな種類が楽しめるのも魅力です。

筆者が契約している花の定期便で届いた花の一例。1回500円(送料別途)のリーズナブルなコースでも、暮らしと気持ちに与える影響は大きい(撮影/佐藤由紀子)

筆者が契約している花の定期便で届いた花の一例。1回500円(送料別途)のリーズナブルなコースでも、暮らしと気持ちに与える影響は大きい(撮影/佐藤由紀子)

コロナ禍の影響で注目されるようになったフラワーロスは、潜在的にある問題です。ネットショッピングが急増して、花もリアル店舗からオンラインへ移行・開始する業者が増え、捨てられるはずの花をリサイクルして商品化する取り組みも始まっています。フラワーロス問題へ前向きに取り組むことで、花農家や花業界の未来が変わりつつあると感じます。

業務用花に比べればささやかですが、一人ひとりが花を暮らしに取り入れることが、フラワーロスの削減につながります。そして、消費者は品質のいい花が安く買えるようになり、ムダなごみの量も減らせるメリットもあります。サブスクリプションやオンライン購入などを利用して、気軽に試してみてはいかがでしょうか。

●取材協力
株式会社BOTANIC
日本花き振興協議会
はじめて花屋(日本花き振興協議会)
#花のABC

グリーンカーテンは6月でも間に合う! マンションでのつくりかたも紹介

令和元年5月は、全国各地で過去最高気温を更新。夏本番を前に、何か暑さ対策をと考えた方が多いのでは? そこで、今から手軽にできる暑さ対策としておすすめしたいのが「緑のカーテン(グリーンカーテン)」。通常の植える時期は4・5月上旬だが、種類や方法によっては6月以降につくり始めてもまだ間に合う。電気代を節約することができ、植物を育てる楽しみもあるのが魅力だ。
緑のカーテンは生きているから涼しい

グリーンカーテンは、長時間日光に当たると熱くなる簾(すだれ)や葦簀(よしず)とは異なり、根から吸い上げた水を葉から蒸発させること(蒸散作用)で、自らの熱を逃している。夏の強い日差しを遮るだけでなく、周りの気温をわずかに下げてくれ、室温の上昇を抑えることができる。冷房の使用が控えられて省エネになるほか、緑が見た目にも涼しく、リラックスできるという効果もある。
ただ、グリーンカーテンは植物を育てネットに這わせる期間が必要になる。夏本番まであと1カ月ほど。今からでもグリーンカーテンづくりに間に合う植物の種類や栽培方法を、2013年から毎年グリーンカーテンづくりをしている三郷市立ピアラシティ交流センター・副センター長の河地伸浩さんに話を伺った。

三郷市立ピアラシティ交流センターの菜園「ポタジェ」前に立つ河地さん。ここで栽培した野菜の収穫体験や調理教室を通じて、地域コミュニティの形成に取り組んでいる(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

三郷市立ピアラシティ交流センターの菜園「ポタジェ」前に立つ河地さん。ここで栽培した野菜の収穫体験や調理教室を通じて、地域コミュニティの形成に取り組んでいる(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

アクティビティももたらす公共の場のグリーン

河地さんの所属は、三郷市立ピアラシティ交流センターの指定管理者である、日比谷花壇 三郷街づくり共同事業体。日比谷花壇というとフラワーショップのイメージが強いが、北は宮城県から南は福岡県まで、公園や交流センター、霊園、文化財などで植栽管理を含めた施設の管理運営も行っている。
近ごろでは、公共施設でグリーンカーテンをよく目にするようになった。三郷市立ピアラシティ交流センターでグリーンカーテンに取り組んでいる背景は「ガラスをグリーンカーテンで覆うことで、より快適に過ごすことができ、冷房代の削減になるため」と河地さん。さらに三郷市立ピアラシティ交流センターでは、収穫したゴーヤを使った料理教室や、ヒョウタンランプづくりなどのアクティビティを実施し、地域のコミュニティづくりにもグリーンカーテンが一役買っている。「料理や工作といったアクティビティにつながるゴーヤやひょうたんなどの品種が、公共施設では需要があります」(河地さん)。

三郷市立ピアラシティ交流センターの窓辺の様子。左はグリーンカーテンが育つ前、右は成長後。体感温度だけでなく見た目の涼しさも大きく異なる(上・写真撮影/SUUMOジャーナル編集部、下・画像提供/日比谷花壇)

三郷市立ピアラシティ交流センターの窓辺の様子。左はグリーンカーテンが育つ前、右は成長後。体感温度だけでなく見た目の涼しさも大きく異なる(上・写真撮影/SUUMOジャーナル編集部、下・画像提供/日比谷花壇)

苗ならまだ間に合う!目的に応じた品種選び

「ゴーヤの場合は、6月前半までに苗を植えれば間に合います。苗からでしたら育てるのも比較的簡単ですし、初心者にもオススメです」(河地さん)
種からの場合は、4月から5月までに蒔き終えていなければならない。しかし、苗から植えるのであれば、7月に実の収穫や花を咲かせたい場合、6月中旬くらいまでに植えると、ゴーヤ以外にもほとんどの品種が間に合うという。

三郷市立ピアラシティ交流センターで恒例となったグリーンカーテンの植付イベントの様子。毎年5月中旬から下旬にかけて実施(画像提供/日比谷花壇)

三郷市立ピアラシティ交流センターで恒例となったグリーンカーテンの植付イベントの様子。毎年5月中旬から下旬にかけて実施(画像提供/日比谷花壇)

グリーンカーテンをつくるのに、ほとんどの品種がまだ間に合うと聞いて、ひと安心。しかし、選択肢が広い分、何を植えようか悩むところだ。
「まずは、食べる・見る・使うの3つの中から、目的を何にするか決めると選びやすいですよ」と河地さんは言う。三郷市立ピアラシティ交流センターでは、食べる=ゴーヤ料理教室、見る=グリーンカーテン de 記念写真、使う=ヒョウタンランプづくり、といったアクティビティが行われている。

“見る” グリーンカーテンの一部を顔を出せるように開けて、フレームに見立てたグリーンカーテン de 記念写真。インスタへの投稿や暑中見舞いの画像にぴったりと子ども連れの来園者に人気(画像提供/日比谷花壇)

“見る” グリーンカーテンの一部を顔を出せるように開けて、フレームに見立てたグリーンカーテン de 記念写真。インスタへの投稿や暑中見舞いの画像にぴったりと子ども連れの来園者に人気(画像提供/日比谷花壇)

“使う”乾燥させたヒョウタンに穴を開けて光源を中に入れればおしゃれな照明に(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

“使う”乾燥させたヒョウタンに穴を開けて光源を中に入れればおしゃれな照明に(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「”食べる”では、定番のゴーヤをはじめ、オカワカメやトケイソウ(パッションフルーツ)、ぶどう、小玉スイカなどがあります。ゴーヤやオカワカメ、”使う”のヒョウタン・ヘチマくらいでしたら大丈夫ですが、小玉スイカくらいになると、実の重さに耐えられるようにネットを張る必要があるので中級者向きです」(河地さん)。藤棚などしっかりした柵に応用すれば、かぼちゃなど重い実がなるものも栽培できるという。

ヒョウタンのグリーンカーテン。藤棚やテント状に組んだ柵などにツルを這わせると、緑の屋根のようにもアレンジできる(画像提供/日比谷花壇)

ヒョウタンのグリーンカーテン。藤棚やテント状に組んだ柵などにツルを這わせると、緑の屋根のようにもアレンジできる(画像提供/日比谷花壇)

花を楽しむ”見る”であれば、支柱を組む必要がなく、ネットを張るのが初めての方によさそうだ。ツル性の植物というと、筆者はアサガオしか思い浮かばないが、他にはどんな品種があるのだろうか?
「開花期が長く繁茂しやすい、スネールフラワーやアサリナは初心者向きです」と河地さん。6月上旬に苗を植え付ければ、9月や10月ごろまで花が咲いているという。
定番のアサガオも育てやすく初心者にオススメだが、中でも、ノアサガオや西洋朝顔(ヘブンリーブルー・ソライロアサガオ)は、茎や葉が枯れても根は枯れない宿根性のため、冬越しが可能。盛り土をしたり土の表面をビニールなどで覆ったりしておけば、種まきせずに翌年も花を楽しむことができるのはうれしい。

ねじれた蕾の形がカタツムリ(スネール)に似ていることから名付けられたスネールフラワー(画像提供/日比谷花壇)

ねじれた蕾の形がカタツムリ(スネール)に似ていることから名付けられたスネールフラワー(画像提供/日比谷花壇)

特に実がなる品種では、育てる場所が大切となりそうだが、河地さんに伺うと「南向きがベストですが、北向きでもゴーヤは育ちますよ」と教えてくれた。ただ、強風は植物の成長阻害要因となるため、ビル風が通る場所や室外機の近くは避けたほうがいいだろう。
また、水やりについて。苗を植えて根がしっかりと張るまでの1カ月ほどは、土の表面が乾いたら根腐れに気を付けつつ水をたっぷり。7月から9月の猛暑時には朝・夕の水やりが必要になる。ただ、この時期はお盆などで家を空ける日があるだろう。そういった場合は、自動散布機のほか、給水キャップを付けたペットボトルを土に挿しておくという手軽な対処法もある。

道具をそろえたら成長を待つのみ

バルコニーが西向きで、夏の強い西日に悩まされていた筆者。西洋すだれを使っているが、見た目に文字どおり華がないため、昨年もグリーンカーテンをつくりたいと思っていた。ただ面倒臭がりのため、ためらっていたが、河地さんの「繁殖力がすごいので、初心者でも簡単に綺麗につくれる」という言葉に惹かれ、今年は西洋朝顔を育てることに。
必要な道具は、深さがある大きめのプランター、培養土、肥料、鉢底石、ネット(10cm角目)、苗。そのほか環境に応じて、ネットを窓辺に取り付ける道具や支柱を用意する。

面倒臭がりな筆者は、グリーンカーテンづくりに必要な道具がセットになったものをネットショップで購入(税込2725円・送料込)。苗はホームセンターで実際に見て選んだ(2つで税込643円)(写真撮影/大川晶子)

面倒臭がりな筆者は、グリーンカーテンづくりに必要な道具がセットになったものをネットショップで購入(税込2725円・送料込)。苗はホームセンターで実際に見て選んだ(2つで税込643円)(写真撮影/大川晶子)

プランターや土は、運ぶのが大変。ネットショッピングでスターターキットを購入したら、グリーンカーテンづくりのハードルが心理的にも物理的にもがグッと下がった。ネットの張り方や植え付け方法については、「SUUMO」(アサガオ、ゴーヤ)や「日比谷花壇」の緑のカーテン紹介ページを参考に。筆者宅では、窓上に洋風すだれ用のフックを取り付けていたので、そこにネットの端を引っ掛けた。
あとは、毎日水をやり、ツタがネットに這うのを調整するだけ。こんなに簡単だったとは!
冒頭で述べたように、グリーンカーテンは生きているからこそ、育てる喜びがある。「ヘブンリーブルー、ソライロアサガオという名前のように、鮮やかな青い花を咲かせますよ」という河地さんの言葉にワクワク。今年の夏はどんな涼を取れるのか、楽しみだ!

植え付けて1週間ほどの状態。苗を購入する際、すでに他の苗と絡まり合っていたほどで、成長が本当に早い!(写真撮影/大川晶子)

植え付けて1週間ほどの状態。苗を購入する際、すでに他の苗と絡まり合っていたほどで、成長が本当に早い!(写真撮影/大川晶子)

(写真撮影/大川晶子)

(写真撮影/大川晶子)

●取材協力
>日比谷花壇
>三郷市立ピアラシティ交流センター●関連リンク
>緑のカーテンをみんなで広げよう!キャンペーン
>緑のカーテン応援団

山野草からサボテン……さまざまな緑と暮らす、こだわり夫婦の家

インドアグリーンは住まいに自然の彩りを与え、不思議と心を落ち着かせてくれます。そこで、緑と上手に暮らしているご夫婦を取材。すぐに取り入れたくなる、こだわりのポイントを聞いてみました。
和を感じる山野草を中心にセレクト

訪れたのは、世田谷区にお住まいのHさんご夫婦の自宅。夫のDさんはIT企業勤務、妻のKさんはライターというクリエイターのお二人です。2016年に購入した100平米3階建ての戸建てには、緑をアクセントとして上手に取り入れています。

植物をセレクトしているのは、基本的に妻。部屋やベランダの随所に、多種多様な緑や花が配置されています。

「種類はバラバラなのですが、山野草が好きなので比較的多いかもしれません。食器やインテリアもですが、和テイストに惹かれるんです。それで自然と山野草に手が伸びるのかも。ただ、山野草ばかりに偏るのではなく、ハーブなども取り入れてバランスよく調和させることも意識していますね」(Kさん)

ベランダに置いている山野草はイワシャジンやキイジョウロウホトトギスなど。冬に枯れ、春になると蘇ったかのように芽吹き、葉をつけるところにも魅力を感じているのだそう(撮影/末吉陽子)

ベランダに置いている山野草はイワシャジンやキイジョウロウホトトギスなど。冬に枯れ、春になると蘇ったかのように芽吹き、葉をつけるところにも魅力を感じているのだそう(撮影/末吉陽子)

こちらが秋口のイワシャジン。キキョウ科で関東地方南西部や中部地方南東部の山地の岩場に生息しているとか。淡くて優しい紫に癒される(写真/PIXTA)

こちらが秋口のイワシャジン。キキョウ科で関東地方南西部や中部地方南東部の山地の岩場に生息しているとか。淡くて優しい紫に癒される(写真/PIXTA)

「山野草が芽吹くと春だな~ってしみじみします。静寂さを醸し出しているところがすごく好きなんです」(Kさん)

窓辺には一目惚れしたという観葉植物が二鉢(撮影/小野洋平)

窓辺には一目惚れしたという観葉植物が二鉢(撮影/小野洋平)

葉の形状がユーモラスなこちらは、「ソフォラ・ミクロフィラ(リトルベイビー)」、通称“メルヘンの木”。カクカクした繊細な枝がおしゃれ(撮影/小野洋平)

葉の形状がユーモラスなこちらは、「ソフォラ・ミクロフィラ(リトルベイビー)」、通称“メルヘンの木”。カクカクした繊細な枝がおしゃれ(撮影/小野洋平)

隣の鉢は「グリーンドラム」。まるっとした葉の表情がとてもチャーミング。並べるだけで窓際の個性を演出できる(撮影/小野洋平)

隣の鉢は「グリーンドラム」。まるっとした葉の表情がとてもチャーミング。並べるだけで窓際の個性を演出できる(撮影/小野洋平)

ニュートラルカラーやアースカラーの器に惹かれるというKさん。土っぽさや温かみがある焼物の鉢を好んで購入しているとか。さまざまな種類の観葉植物も、鉢のトーンを統一させるだけで、まとまりがうまれ、おしゃれ度がアップするのかもしれません。

空間のシンボルになっているのは、柱サボテン。見た目もサイズもひときわ存在感を放っています。他の観葉植物とはがらっとテイストが異なりますが……?

「素敵な住宅の写真を見ている中で目に留まり、懇意にしているエンジョイボタニカルライフ推進室の氏井さんに相談して仕入れていただきました」(Kさん)

ちなみに、エンジョイボタニカルライフ推進室では、室内緑化やお手入れの相談サポートの他、ワークショップなどを通して緑と暮らす楽しさを伝える活動も展開しているそう。Kさんもイベントを通じて知り、さまざまなアドバイスをもらっているそう。専門家の意見を取り入れるのも、上手に緑と暮らすコツなのかも。

最近仲間入りした柱サボテン。高さもあってインパクト抜群(撮影/小野洋平)

最近仲間入りした柱サボテン。高さもあってインパクト抜群(撮影/小野洋平)

グレージュな焼物に、幾何学的なカバーを組み合わせた鉢。主張し過ぎず、かつスパイシーなアクセントに(撮影/小野洋平)

グレージュな焼物に、幾何学的なカバーを組み合わせた鉢。主張し過ぎず、かつスパイシーなアクセントに(撮影/小野洋平)

真鍮製の器に植えられたガジュマル。ミニマルサイズなので本棚やちょっとしたスペースにも飾れそう(撮影/小野洋平)

真鍮製の器に植えられたガジュマル。ミニマルサイズなので本棚やちょっとしたスペースにも飾れそう(撮影/小野洋平)

こちらはIKEAで入手したという吊るせる鉢植え。ベランダの竿受けのようなデッドスペースも緑で埋めることができる(撮影/末吉陽子)

こちらはIKEAで入手したという吊るせる鉢植え。ベランダの竿受けのようなデッドスペースも緑で埋めることができる(撮影/末吉陽子)

住まいのテイスト→鉢→植物の順に考えるとインテリア性が高まるかも!

緑を暮らしに取り入れるうえで意識しているポイントについて、Kさんは次のように語ります。

「私はスモーキーやグレイッシュのような灰色がかったトーンのグリーンが好きなので、なるべく統一させるようにしています。ところどころ違う色が入ってもいいと思いますが、同じ系統の色味だと落ち着いた感じにまとまるんじゃないかと思います」

さりげなくグリーンを置いているKさん。「植物=生き物。部屋の中に植物を置くと空気が変わるような気がします」(撮影/末吉陽子)

さりげなくグリーンを置いているKさん。「植物=生き物。部屋の中に植物を置くと空気が変わるような気がします」(撮影/末吉陽子)

また、植物のインテリア性についても独自のこだわりが。

「植物はもとより、鉢は家に合うようなものを選んでいます。もし植物選びに迷ったら、内装の色味やデザインを踏まえたうえで、まずは鉢から選んでそこに植物を合わせるのもおすすめです。むしろ、その方がインテリア性が高まるような気がします」

時折、『Pen』『BRUTUS』といった雑誌にも目を通し、緑の取り入れ方の参考にしているそう。

こちらは引越し時に購入した思い出深いシーグレープ。大きな観葉植物が欲しいとチョイス。まるっこい葉が気に入ったそう(撮影/小野洋平)

こちらは引越し時に購入した思い出深いシーグレープ。大きな観葉植物が欲しいとチョイス。まるっこい葉が気に入ったそう(撮影/小野洋平)

また、お二人の友人で植物に関するアドバイザーでもある、エンジョイボタニカルライフ推進室の氏井暁さんは、緑のある暮らしについて次のように話します。

「Kさんは、ウッドパネルやフラワースタンド、壁掛けラックなど、資材を活用して上手にレイアウトしていますよね。住まいとのコーディネートも含め”緑のある暮らし”を楽しんでいらっしゃる感じがとても良いと思います」

もし、「どんな植物を選んでいいか分からない」という人も、眺めているだけで自然と好みが分かるようになるそうです。また、植物も生き物とあって、上手に共存するには植物が生まれ育った環境を知り、住まいとのギャップ(日照・気温・湿度など)をなるべく軽減してあげることも大切とのこと。

「植物からイメージを演出したい場合、植物の原産地や生息環境でセレクトしても面白いかもしれません。例えば一目惚れした植物が『シーグレープ』だったとすると、ネットで調べると原産地はフロリダ南部・西インド諸島・南米であることが容易にわかります。原産地のイメージから鉢植えを揃えてインテリアと一致させても良いでしょうし、器でがらっとイメージを変えてみるのもいいかもしれません。Kさんのように器ベースでコーディネートしてみてもいいと思います」(氏井さん)

住まいと緑を上手にコーディネートしているH家。テイストでまとめてレイアウトしたり、器の色味や素材感で統一感や住まいとの調和を演出したりすることが上手に緑を暮らしに溶け込ませるためのポイントになりそうです。

●取材協力
・エンジョイボタニカルライフ推進室

すぐ枯らしていない? お部屋の環境に合った観葉植物の選び方を教えて!

お部屋に観葉植物がある生活、憧れますよね。インテリアとして観葉植物を飾るだけでお部屋が華やかになります。
でも、日当たりが悪かったり西日が強かったりすると、植物はうまく育つことができません。最悪の場合、枯れてしまうことも……。せっかく観葉植物を置くのであれば、上手に育ててあげたいですよね。そこでお部屋の環境にぴったりな植物や上手な育て方を、観葉植物の専門店であるグリーンインテリアの真下悦洋(ましも・よしひろ)さんに教えてもらいました。

初心者でも安心して観葉植物を育てるために、そろえておくべきグッズは?

まずは、観葉植物を育てたことのない方がそろえておきたいグッズと上手な使い方についてうかがいました。

観葉植物専門店グリーンインテリア バイヤー 真下悦洋さん(写真撮影/近藤宏美)

観葉植物専門店グリーンインテリア バイヤー 真下悦洋さん(写真撮影/近藤宏美)

「最初に準備したほうがいいものは、じょうろ・霧吹き・栄養剤の3点ですね。じょうろは鉢の中の土が乾いていたときの水やりに使います。お水をあげないと枯れてしまいますが、実はあげすぎるのもよくないんです。土の状態をチェックして最適な量をあげることが長持ちのコツ。表面の土が乾いていても、中が湿っていたら水やりをする必要はありませんので、指や割り箸などで中の土の状態を確認してからお水をあげてください」(真下さん、以下同)

観葉植物に水やりをする親子(写真/pixta)

観葉植物に水やりをする親子(写真/pixta)

じょうろだけなく、霧吹きも必要なのはなぜでしょうか。

「霧吹きは葉っぱにお水をかけるときに使うんです。空気が乾燥しているとハダニが発生しやすいので、葉っぱに適度な潤いを与えてハダニ予防をしたいですね。春先以降に育てる場合は栄養剤を使用すれば、より元気に育ってくれます。栄養剤には即効性のある液体のものと、緩効性の固形タイプのものがあります。栄養剤はあげすぎてしまうと逆に弱ってしまうので、用量を守って使用してくださいね」

観葉植物が成長してきたら、植え替えるための大きな鉢や、虫が発生したときには専用の薬剤を用意することも必要になります。

初心者でも育てやすい「おすすめの観葉植物」は?

じょうろや霧吹き、栄養剤をちゃんとそろえて観葉植物を育て始めたとしても、お世話を忘れてしまったり、忙しくてなかなか手がかけられなかったりして、うっかり枯らしてしまった……なんてことにならないようにしたいもの。観葉植物初心者でも育てやすい、生命力の強い観葉植物を真下さんに教えていただきました。

●サンスベリア
サンスベリア・レディチャーム(写真撮影/近藤宏美)

サンスベリア・レディチャーム(写真撮影/近藤宏美)

「『サンスベリア』は、観葉植物初心者でも育てやすい植物のひとつです。水やりは月に1回程度でもOKですし、気温が10度以下になる12月から2月までの冬の間は生長がストップして休眠に近い状態になるので、断水でも大丈夫なほど。光があまり入らない暗い場所でも頑張って生きていくことができる植物なんです」

●ポトス
ポトス・エンジョイ(写真撮影/近藤宏美)

ポトス・エンジョイ(写真撮影/近藤宏美)

「『ポトス』も強い植物のひとつです。頻繁にお水をあげる必要はなく、土が乾いていたらあげる程度で大丈夫。暗い場所で育てることもできます」

●ソテツキリン
ソテツキリン(写真撮影/近藤宏美)

ソテツキリン(写真撮影/近藤宏美)

「乾燥にも寒さにも強く、暗い場所でも育つ植物です。パイナップルのような可愛らしい形なので女性に人気です」

寒さに強い観葉植物は?

いくら育てやすいと言われる観葉植物であっても、お部屋の環境や気候のせいでうっかり枯らしてしまう可能性もあります。そこで、真下さんに、寒さや暑さ、日差しの強さや日陰や湿気など、それぞれの環境に強い観葉植物についても教えていただきました。

まずは、寒さに強い観葉植物について。真下さんいわく、寒さに強い観葉植物は比較的葉っぱが細長いものが多いのだそうです。

ユッカ(写真撮影/近藤宏美)

ユッカ(写真撮影/近藤宏美)

シェフレラ(写真撮影/近藤宏美)

シェフレラ(写真撮影/近藤宏美)

「『ユッカ』や『シェフレラ』などは比較的寒さに強いですね。ユッカは中南米などの乾燥地帯原産で、シェフレラは熱帯アジアが原産です。主な産地である八丈島では、防風林に使われることもあるくらい寒さには強いですよ。

日当たりの良くない部屋や外出が多くて暖房がついていない時間の短い部屋でも、上手に育てることができます。もちろん光合成をしますので、なるべく窓際やベランダの近くに置いてあげるのが良いのですが、寒さに強い観葉植物は比較的暗い場所にも強いです」

暑さに強い観葉植物は?

基本的に観葉植物は暑い場所で育っているので、どの品種も暑さに強いものが多いのだとか。なかでも「ガジュマル」や「ベンジャミン」「エバーフレッシュ」などは、特に暑さに強いと真下さんは言います。

ガジュマル(写真撮影/近藤宏美)

ガジュマル(写真撮影/近藤宏美)

ベンジャミン(写真撮影/近藤宏美)

ベンジャミン(写真撮影/近藤宏美)

エバーフレッシュ(写真撮影/近藤宏美)

エバーフレッシュ(写真撮影/近藤宏美)

ただし、暑さに強いからといって、日差しに強いわけではないので注意が必要なのだそう。

「外に出したり直射日光を浴びせたりすると、葉っぱが焼けて黒く色が変わってしまいます。日焼けしたとしても、観葉植物の命に影響を与えるようなものではないのですが、できれば急に外には出さずに室内に置いておくのがよいでしょう。西日が強く当たる間取りや全面窓でも室内に置いて窓越しに光が当たる程度であれば問題ありません」

暑さに強い観葉植物はお水が大好きなので、乾燥しないように気を付けることが大事。また、換気も必要だと真下さんは言います。

「閉め切って空気が流れていない場所に長時間置いておくと、弱ってしまうことがあります。朝と夜に換気をしていれば昼間は多少空気がこもっていても問題ありません。

旅行や帰省などで、数日間家にいないような場合は要注意。24時間換気の設備がついている家ならスイッチをつけておいてはいかがでしょうか。サーキュレーターや扇風機などで風を送るのも良いと思います。ただ、直接風を当てないように気を付けてください。換気孔が備わっている住宅では開けてから外出するとか、防犯的に問題がないようなら網戸にしておくなど、風が通る工夫をしておくとよいでしょう」

観葉植物のことを「ペットのように世話をしてあげてほしい」と語る真下さん(写真撮影/近藤宏美)

観葉植物のことを「ペットのように世話をしてあげてほしい」と語る真下さん(写真撮影/近藤宏美)

日差しに強い観葉植物は?

全面ガラス窓のリビングに置いても問題ない日差しに強い観葉植物や、ベランダや玄関の外に置けるような植物はあるのでしょうか。しかし、どの観葉植物でも基本的には直射日光は苦手だと真下さんは言います。

「直射日光を当て続けると、葉っぱが焼けて黒いシミになってしまうんです。でも、植物は与えられた環境に適応しようとする力が強いので、日焼けした葉っぱが落ちても、次に生えてくる新芽からは日差しが当たっても大丈夫になることもあるんです」

「オリーブ」や「シマトネリコ」といった外で育てられる観葉植物は、日焼けなどの心配がないのだそうです。

オリーブ(写真撮影/近藤宏美)

オリーブ(写真撮影/近藤宏美)

シマトネリコ(写真撮影/近藤宏美)

シマトネリコ(写真撮影/近藤宏美)

日陰や湿気に強いグリーンは?

日当たりのあまり良くない部屋や、水まわりなどの湿気の多いところなら、シダ系の植物がおすすめと真下さんは言います。

アスプレニウム・クリーシー(写真撮影/近藤宏美)

アスプレニウム・クリーシー(写真撮影/近藤宏美)

アジアンタム・ぺルビアナム(写真撮影/近藤宏美)

アジアンタム・ぺルビアナム(写真撮影/近藤宏美)

ネフロレピス・ドラゴンテール(写真撮影/近藤宏美)

ネフロレピス・ドラゴンテール(写真撮影/近藤宏美)

「シダ系の植物は、幹がなくペタっとしていて葉っぱが多いのが特徴です。高めの空中湿度が好きなので、こまめに霧吹きをしてあげると元気に育ちますよ。逆に乾燥には弱い植物が多いので、窓の近くよりは少し暗い場所に置くのがおすすめですね。洗面所やキッチンに置くのも良いと思います。リビングであれば窓から離れた暗い場所に置けるので、レイアウトの幅が広がっていいのではないでしょうか」

さまざまなお部屋の環境にあわせて、ベランダや窓の近くには暑さに強い植物、キッチンや洗面所には湿気に強い植物を置くことを意識するだけで、ぐっと育てやすくなるのではないでしょうか。

ちなみに、観葉植物からはリラックス効果のある成分が分泌されているのだとか。日々の仕事や家事などで疲れているときでも、観葉植物の鮮やかなグリーンを目にするだけで、穏やかな気持ちになれるでしょう。
これまで観葉植物を育てたことがないという方も、以前観葉植物を育てて失敗したという方も、お部屋に飾る生活を始めてみませんか?

●取材協力
・観葉植物専門店グリーンインテリア

お部屋がまるで公園に! グリーンも設計するリノベーションプランとは?

植物に囲まれた暮らしに憧れるけれど「都会のマンション住まいでは無理」と諦めていませんか? そんな固定観念を覆すべく発表されたのが、「GREEN DAYS(グリーンデイズ)」というリノベーションプランです。「植物と人間が心豊かな時間を過ごせる住空間」をコンセプトに、植物がそこに住む人とともに成長し、生きる環境づくりを目標にしているそう。

このサービスはリノベーション事業を行うグローバルベイス株式会社の「マイリノ事業部」と、青山フラワーマーケットの姉妹ブランドで空間デザイン事業を行う「parkERs by Aoyama Flower Market(パーカーズ バイ アオヤマフラワーマーケット)」が事業提携して展開。今年2月から提供が始まっています。

「GREEN DAYS」の空間を体験!

 

さっそく展示会場である渋谷の2LDKマンションを訪れてみると、そこには部屋のなかに公園があるかのような、癒やしの空間が広がっていました。

キッチンまわりの水耕栽培では、ハーブを育てるのもおすすめ(画像提供/グローバルベイス株式会社)

キッチンまわりの水耕栽培では、ハーブを育てるのもおすすめ(画像提供/グローバルベイス株式会社)

インナーバルコニーの一角は、読書や考え事をするのにもぴったり(画像提供/グローバルベイス株式会社)

インナーバルコニーの一角は、読書や考え事をするのにもぴったり(画像提供/グローバルベイス株式会社)

「GREEN DAYS」のポイントはふたつあります。

ひとつめは、プランターや水耕栽培システムのみならず、キッチンやソファー、照明などもオリジナルでデザインされており、植物が映える住空間が演出されていること。

ふたつめに、植物の選び方や手入れなどを植物の専門家がしっかりとサポートしてくれることです。入居した後も初年度4回の無料フォローがついており、専門家がお家を訪問してアフターケア等についてアドバイスをくれるそう。

しかし植物選びが完璧でも、部屋全体に配置するとなると日当たりや水やりの加減なども気になるもの。これだけの量のグリーンがあると、逆に枯れてしまったら悲惨なことになるのではないかと不安になるのですが……。

グローバルベイス株式会社広報企画室の植田有紀(うえだ・ゆき)さんによれば、リノベーションの段階からグリーンを設計することが、そんな不安を解消するカギになるといいます。

グローバルベイス株式会社広報企画室 植田有紀さん(写真撮影/蜂谷智子)

グローバルベイス株式会社広報企画室 植田有紀さん(写真撮影/蜂谷智子)

「物件の日当たりと植物を置く位置なども考慮して、オリジナル家具を設計します。植物のある生活を前提にしたリノベーションを行っているからこそ、機能的な栽培ができるんですよ。例えば水やり回数が少なくて済むプランターは、保水性のある構造になっているので重量がありますが、その分床の強度を上げて対応しています。またキッチンまわりは水耕栽培ができるようになっていて、ハーブなどを育てることが可能。それもキッチンから直接水やりができるような構造になっています。植物に適した環境をつくることと、育てる手間を減らし、負担に感じないよう設計の段階から意識しています」(植田さん)

水やりは週一回 忙しい人でもグリーンに囲まれた生活が可能に

「GREEN DAYS」で使用する土はココヤシピートやコーヒーのカスを使用し、虫も含まれていません。これは環境に負荷をかけないエコで地球に優しい「parkERs soil(パーカーズソイル)」といって、地球環境に配慮した園芸資材を製造しているプロトリーフ社とパーカーズが共同開発したオリジナルの土だそうです。

「特殊な土とプランターによって、水やりは週に1度で問題ありません。またパーカーズは植物の専門家集団なので、育て方で迷ったときは的確なアドバイスをしてくれます。季節ごとの植え替えなどもご提案できますので、マンションでも季節を感じる暮らしを楽しんでいただけますよ」(植田さん)

なお同プランでフルリノベーションする場合に限って、リビングだけ、インナーバルコニーだけなど、一部分に特化した植栽設計も可能とのこと。また初年度4回が無料の植物専門家のアドバイスは、2年目以降も有料で申し込むことができます。
※費用はアドバイス内容に応じて変動

住まいの好みが細分化しており、住宅の資産としての価値だけでなく「そこでどんな暮らしができるのか」が重視される昨今。間取りや立地などの物件の魅力だけでなく、ライフスタイルも込みで提案するビジネスが増えそうです。

●取材協力
グローバルベイス