家を自分でデザイン&組み立てられる! テクノロジーのチカラで素人でも低コスト&自由度高い家づくりサービス「NESTING」がおもしろい VUILD

従来、家はハウスメーカーや工務店、建築士が設計し、施工事業者が建てるものだったのが、今はそこに住まう人自身が家をデザインし、施工まで手がけられる時代になりました。そんな、新しい住まいづくりの仕組みを世に打ち出したのは、テクノロジーの力で誰もが作り手になれる世界を実現する、を掲げた建築系スタートアップ「VUILD株式会社」。同社が手がけるデジタル家づくりサービス「NESTING」によって、建築デザインや施工など専門家の領域だったものが、そうでない人にも開放され、自ら住まいの作り手になることができます。今回は、その記念すべき「NESTING」の1棟目を建てたお施主さんと、「VUILD
株式会社」の代表・秋吉浩気さん、「NESTING」事業責任者の森勇貴さんに、サービスの背景や「NESTING」で建てる価値など、話をうかがいました。

「建築の民主化」をめざして。消費者を生産者に変えていく「NESTING」の家・外観(画像提供/VUILD株式会社)

「NESTING」の家・外観(画像提供/VUILD株式会社)

施主自らデザインできて、施工もできる。そう聞くと、「DIYでつくった家」といったイメージを抱く人もいるかもしれません。しかし、「NESTING」は「DIY」の要素を含んでいながらも、「DIY」のクオリティを大きく超えるデザインと性能が光る家。日本の風土に根差した自然に溶け合う佇まいで、「HEAT20 G2」(断熱等級6)という最高レベルの断熱性能を誇ります。

「NESTING」の家・内観(画像提供/VUILD株式会社)

「NESTING」の家・内観(画像提供/VUILD株式会社)

そんな、プロが手がけるような建築を、専門家でもない一般生活者がどうすれば建てられるようになるのでしょうか。そもそも、「NESTNG」のサービスを始めたきっかけは?まずは代表・秋吉浩気さんに事業の背景をうかがいました。

「VUILDでは、“「いきる」と「つくる」がめぐる社会へ”を、会社のビジョンとして掲げています。例えば、食べること。料理をつくり、それを食べることで、僕たちは生きているわけです。料理をつくる過程には、好きな食べものをつくる楽しさもあるだろうし、おいしく仕上げる工夫を凝らす楽しさもある。こんなふうに、生きるためにつくり、つくることで生きるという循環の先に、僕たちのいきいきとした暮らしがあるのではないかと感じて、「誰もが作り手になれる世界を実現する」をVUILDの活動モットーとしています。

そこで、VUILDが初めに取り組んだのが、3D木材加工機「ShopBot」の販売。誰もがものづくりの作り手になれるように、ものづくり技術の普及に取り組んできており、現在までに日本全国200箇所以上に導入してきました。ですが、デジタル機械を使いこなすまでには一定のハードルがあり、単に機械を販売するだけでは「誰もが作り手になれる世界を実現する」には至らないと感じました。

そこで、次にスタートしたのが、設計データさえあればそれを機械で加工可能なデータへと自動で変換してくれるツール「EMARF」です。これにより、ものづくりへの技術的なハードルがぐっと下がったものの、結局はものづくり経験のある人や、設計者でないと、このプラットフォームを活用できないという課題にぶつかりました。そこで思い浮かべたのが、Apple社のiPhone。技術の匂いをあまり感じさせないのに、高性能なテクノロジーが一つの端末に結集していて、誰もが直感的に操作できる。それでいて、デザインもかっこいい。それまでインターネットに興味を持っていなかった人も、iPhoneの普及によりインターネットに親しむようになったりして、僕はそれを「技術の民主化」だと捉えているんです。

ならば、僕たちがフィールドとしている「建築の民主化」を目指すためには、どうすればよいか。Apple社のiPhoneのように、技術を技術として販売するのではなく、テクノロジーをパッケージングしてブランドを築くことで、ものづくりや、建築の作り手としての入り口が開かれるのではないかと考えて、デジタル家づくりサービス「NESTING」の事業構想が浮かび上がりました」

「VUILD株式会社」の代表・秋吉浩気さん

「VUILD株式会社」の代表・秋吉浩気さん

「これまでは、つくることに興味のある人や、すでに作り手である人を相手にしたサービスを手がけてきました。でも世の中を見渡してみると、お金を出せばある程度のものが手に入る時代ですから、ほとんどの人が生産者というより消費者サイド。「いきる」と「つくる」がめぐる社会を築くには、社会の大多数を占める消費者にアプローチしないと、本当の意味で世の中を変えることはできない。「NESTING」が普及していくことで、これまで消費者だった人を生産者に変えることができるかもしれないと思いました」(秋吉さん)

誰でも直感的にデザインできる。基礎も、構造体も、自分でつくれる。だから、誰でも建てられる!

「NESTING」で建てる家と、従来の家づくりにどんな違いがあるのか。
第一に、「NESTING」は施主の主体・主導で家づくりが進行するというところに、大きな違いがあります。例えば、設計プロセス。一般的には、施主の要望を工務店や設計士が聞き取り、それに基づいた設計プランを「提案する」流れですが、「NESTING」では施主がデザインを手がけ、そのサポートをプロが行います。

専門家が行う建築設計を、どうやって初心者でも手がけられるようにしたのか。その背景には、デジタル技術の活用があり、施主は専用アプリを使ってパソコン上で操作しながら、間取りや空間のイメージを膨らませられます。(注:アプリは改修中のため、実際の仕様と記載が異なる場合があります)

「NESTING」専用アプリ。画面上で建物の大きさや間取りを直感的にデザインできる

「NESTING」専用アプリ。画面上で建物の大きさや間取りを直感的にデザインできる

第二に、「価格の透明性」。従来の家づくりは、工務店や設計士に設計の比重があるため「何に」「どれだけ」コストがかかっているのか、施主側からは見えづらいという側面があります。そのため「知らない間に、コストが膨れあがっていた」なんてことも。また、木材加工、基礎工事、建て方工事、屋根工事、断熱材の吹付け、塗装、床張りなど、工事の工程ごとに専門の事業者が入っているため、見積もりも煩雑で時間がかかってしまいます。

それに対し「NESTING」は、施主本人がデザインを手がけるスタイルであるため、「何に」「どれだけ」コストがかかるのか、「何を」「どうすれば」コストが増えるのか・減らせるのかが分かります。その上、電気工事や給排水設備工事など、資格が必要な工事以外は施主本人で建てられるつくりとしているため、複数の事業者が入ることもなく即座に精度の高い見積もりが可能。このようにして、価格の透明性が実現できているのです。

さらに、「NESTING」の建物に使う木材パーツの多くを前述した3D木材加工機「ShopBot」で加工しており、事業者に依頼せずとも自分たちで高精度な木材加工ができる。それも、価格の透明性を高めている特徴の一つです。

木材を加工する3次元木工用切削機「ShopBot」(画像提供/VUILD株式会社)

木材を加工する3D木材加工機「ShopBot」(画像提供/VUILD株式会社)

「ShopBot」で加工した「NESTING」の木材キット(画像提供/VUILD株式会社)

「ShopBot」で加工した「NESTING」の木材キット(画像提供/VUILD株式会社)

この部品は、女性や子どもでも運べるように全て10kg以下で制作されています。だから、体力に自信がない人でも安心。家族や友人と協力しながら、自分たちの手で家の構造を組み上げることができるのです。

家の基礎も自分たちでつくります。一般的にはコンクリートを打設しますが、「NESTNG」では杭工法を用いて、電動工具を使いながら自分たちで杭を打ち込んでいきます。

専用の金物に単管パイプを打ち込み、基礎が完成!施工方法さえ覚えれば、初心者でもできる(画像提供/VUILD株式会社)

専用の金物に単管パイプを打ち込み、基礎が完成!施工方法さえ覚えれば、初心者でもできる(画像提供/VUILD株式会社)

「NESTING」を横から見た図面(画像提供/VUILD株式会社)

「NESTING」を横から見た図面(画像提供/VUILD株式会社)

第三に、建物のデザインに心が行き届いているというところ。誰でもつくれる家と聞くと、デザイン性が置き去りにされそうな印象がありますが、「NESTING」の家は違います。

「NESTINGのデザインパッケージを考えていた当初、コストカットするために軒の出をなくす案もありました。安価で合理的な家を建てようとすると、屋根を削って真四角な家をつくるのが一番いいんです。でも、日本建築は「屋根の建築」とも言われるくらい、気候条件的にも重要な存在。「NESTING」のデザインで最も特徴的でありこだわったのは、屋根かもしれません」(秋吉さん)

「NESTING」は、日本の風土や自然に溶け合う家。自然を愛する人、古くからある日本らしい風景を好む人の心をつかむデザインです。

(画像提供/VUILD株式会社)

(画像提供/VUILD株式会社)

記念すべき「NESTING」の1棟目は、香川県・直島のお宿

こうして考えられた構想が、リアルに実現できるのか。その検証も兼ねて、「NESTING」は応募制というかたちで、2023年春にサービスが始動しました。そこで、記念すべき一人目の施主に選ばれたのは、東京都在住・清るみこさん。IT関係の企業に勤めながら、香川県にある直島が好きで、宿泊業を営まれています。今回は、新たにもう1棟、直島で宿の運営を始めようと、「NESTING」で建てることにしたそうです。

「NESTINGを選んだ理由は、早く建てたかったというのと、おもしろそうだったから。デザイン性と快適性にこだわってつくりたかったので、「NESTING」ならそれが叶いそうだと思いました。

よくある話だと思いますが、建物にこだわればこだわるほど、設計や施工費用がかさみ、後で減額調整をすることになりますよね。これまでは、工務店さんに丸投げしていたために、材料費以外にどんな費用がかかっているのか、減額の余地があるのかないのか、分からなかったんです。でも、「NESTING」はセルフビルドなので、工程も費用も自分でつくりながら理解することができる。VUILDさんとだからできる宿づくりでした」(清さん)

完成した宿の外観(画像提供/VUILD株式会社)

完成した宿の外観(画像提供/VUILD株式会社)

今回は、スピード感を重視していたために、清さんご自身が設計やデザインをすることはなく、「NESTING」のベースとなるデザインをもとに、設計者のスタッフと相談しながら間取りを決めていったそう。その後の、木材キットの加工などには清さんも積極的に参加されました。

「海老名に木材加工の工場があり、毎週末のように通いながら、部品が製造されていく様子を見学したり、部品の組み立てを体験させていただいたりしました。私自身、DIYで棚をつくったりしたことはありますが、こんな大掛かりな加工現場を見たことはなくて。とても勉強になったし、このキットで建物がつくれるんだ……!と、驚きもありました」(清さん)

部品づくりを体験された様子(画像提供/VUILD株式会社)

部品づくりを体験された様子(画像提供/VUILD株式会社)

今回、基礎工事は事業者が行い、部品の組み立ては清さんやお仲間の皆さんで手がけられました。

「土日の2日間、友人たちが直島に手伝いに来てくれて、「VUILD」のスタッフさんや地元の大工さんの手を借りながら、自分たちで部品を組み立てていきました。女性が多かったので、屋根など高所での作業や男手が必要な施工は、サポートに来てくれていたスタッフさんにお任せしたのですが、部品を運んだりネジ締めをしたりと、大工さんに相談したりしながら、それぞれが役割を見つけて動いていました」(清さん)

ご友人と一緒に、2日間の建て方ワークショップを開催!(画像提供/VUILD株式会社)

ご友人と一緒に、2日間の建て方ワークショップを開催!(画像提供/VUILD株式会社)

チームワークを発揮し、どんどん組み上げていきます(画像提供/VUILD株式会社)

チームワークを発揮し、どんどん組み上げていきます(画像提供/VUILD株式会社)

2日間で上棟!(画像提供/VUILD株式会社)

2日間で上棟!(画像提供/VUILD株式会社)

屋根の板金工事や、壁の取り付けは「VUILD」のスタッフさんや大工さんが行い、清さんは床のタイルシールの貼り付けを担当。

「仕事の合間をぬって、毎週のように直島に通いながら、タイルシートを貼っていました。一見、簡単そうに見える作業も、ズレなくピシッと貼るのが意外と難しくて。床に接着するボンドが固まってしまい、一部だけ床が盛り上がってしまったりと、苦労しました」(清さん)

その後、再度ご友人の皆さんに集まってもらい、2日間の塗装ワークショップを開催。素人でも壁や建具をムラなく塗れるように、「NESTING」のためにオリジナルで開発した塗料を使用されたそうです。

ご友人が集まり、塗装ワークショップを開催!(画像提供/VUILD株式会社)

ご友人が集まり、塗装ワークショップを開催!(画像提供/VUILD株式会社)

皆さん、塗るのに夢中になっています(画像提供/VUILD株式会社)

皆さん、塗るのに夢中になっています(画像提供/VUILD株式会社)

こうして完成した宿が、こちら。

庭からの外観。海に面している直島の気候風土に合わせ、潮風にも耐えられるよう外壁は焼杉を使用している(画像提供/VUILD株式会社)

庭からの外観。海に面している直島の気候風土に合わせ、潮風にも耐えられるよう外壁は焼杉を使用している(画像提供/VUILD株式会社)

ダイニングからリビングを見た様子(画像提供/VUILD株式会社)

ダイニングからリビングを見た様子(画像提供/VUILD株式会社)

リビングから縁側を見た様子(画像提供/VUILD株式会社)

リビングから縁側を見た様子(画像提供/VUILD株式会社)

写真で見ても、未経験者がセルフビルドで建てた宿だとは思えない、ハイクオリティな仕上がりであることが分かります。さらに、着工してから竣工するまで工期は、たったの2カ月。実際の稼働日に換算すると、43日。通常では考えられない、驚きのスピードです。「NESTING」で建ててみた感想や手応えを、清さんはこのようにお話しされました。

「昔の家づくりって、コミュニティを巻き込みながらつくり上げていく側面があったと思うんですけど、現代はそれが薄れてきてると思うんです。その点、「NESTING」を通じて自分たちの手で建てることで関わった人たちの愛着も湧くし、直島の近隣の方が工事の様子を見に来て、そこから会話が始まったりもして。この場を運営するのは私であっても、みんなで場を共有している感覚が、とてもユニークだなと感じました。

その一方で、スタッフさんや大工さんの手を借りながらも、ほぼ全てをセルフビルドでつくっているので、後からみると手直しをしたくなるようなところもあります(笑)。でも、それも含めていい思い出ですね」

どんな人に「NESTING」を勧めたいですかと尋ねると、「中小企業のチームビルディング研修にピッタリだと思います」と、清さん。

「実際に自分が建てるプロセスに参加してみて、組織のチームビルディングにすごくいいなと思ったんです。タイプの異なる人間が、同じゴールに向かって形にしていく過程の中で、学べるものがたくさんある。なので個人的には、店舗やレストラン、小規模の宿を運営されている中小企業の会社さんが、スタッフみんなで建てて、一緒にその場を築いていくみたいな「NESTING」の活用はとても魅力的だと思います」

ご友人と一緒に建てることで、さらに関係性が深まったと清さん。つくること、建てることは、単なる手段ではなく、その過程そのものが人と人とのつながりを育み、場が地域にひらいていくきっかけになりそうです(画像提供/VUILD株式会社)

ご友人と一緒に建てることで、さらに関係性が深まったと清さん。つくること、建てることは、単なる手段ではなく、その過程そのものが人と人とのつながりを育み、場が地域にひらいていくきっかけになりそうです(画像提供/VUILD株式会社)

「NESTING」で一番届けたいのは、つくる喜びや楽しさ

1棟目の「NESTING」建築を経て、「VUILD」代表の秋吉さんは、可能性を感じられたと話します。

「清さんとご一緒できたおかげで、改善の余地がどこにあるかを確かめることができました。建てるというプロセスにおいては、住宅を購入するのとは明らかに違う光景が現場に広がっていて、関わっている人全員が、すごく楽しそうに作業している姿が印象的でした。「NESTING」によって、家づくりのあり方が変わる。その確かな手応えをつかむことができました。

さらに言えば、自分たちで家をつくれたなら、地域づくりや街づくりも自分たちでできるかもと思えたりして、「NESTING」を入り口に、つくることや街づくりに対してどんどん主体的になっていく可能性があるなとも感じました。

今回の1棟目をふまえて、現在は2棟目の「NESTING」を建てているところ。その施主は、「NESTING」事業責任者の森さんです。総工費1000万円、工期1カ月を目標に進めているところです」

森さんは栃木県で暮らしており、移住を検討されている方を対象にした「お試し移住拠点」として建てられているそう。

「NESTING」事業責任者の森勇貴さん

「NESTING」事業責任者の森勇貴さん

「都市圏に住みながらも、自分らしい生き方や暮らし方に興味関心があるような人たちが増えてきていると思います。僕も、その一人。以前は東京に住んでいたのですが、今は那須に移住してリモートで仕事をしています。「NESTING」でお試し移住拠点をつくろうと思った理由は、自分たち家族が移住してみて、まちの魅力を存分に感じたため、移住仲間を増やしたかったから。今、建物の躯体が組み上がったところで、完成が楽しみです」(森さん)

安全管理を行った上で、息子さんと一緒に施工現場に入る森さん(画像提供/VUILD株式会社)

安全管理を行った上で、息子さんと一緒に施工現場に入る森さん(画像提供/VUILD株式会社)

この2棟目の実践を経て、本格的に「NESTING」のサービスがローンチできる目処がたってきましたと、秋吉さん。新たに10組の先行ユーザーを募集し、次々に「NESTING」を建てようと志す仲間が集まってきているそうです。

能登半島地震によって全壊してしまった家を、「NESTING」を使って自力で再建を目指す人。東京から地方に移住して、自然と共生するサステナブルな暮らしを実践しようとする夫婦。地域への移住促進に取り組む会社のオフィスとして…などなど。

その用途や目的はさまざまですが、共通しているのは、地域との関わりがあることや、建物を通して、周りとのコミュニティを開いていこうとしていること。森さんが話すように、自分らしい生き方や暮らし方に興味関心がある人、地域や自然とのつながりを求める人に、「NESTING」が選ばれている傾向があるようです。

「今後、さらに展開していくにあたって、その地域ごとに使う素材やデザインをアレンジできればと思っています。地域資源を活用したり、自然が循環するきっかけに「NESTING」がなれたらなと。さらには、大工や職人の高齢化・減少化が進んでいますから、家づくりのプロが減っても、家づくりを諦めなくていい環境を僕たちが整備していけたらいいなと考えています」(秋吉さん)

「VUILD株式会社」の代表・秋吉浩気さん

「NESTING」で家を建てることは、自分の「生きる」を「つくる」こと。そして「つくる」ことで、「生きる」ことの実感や手応えが、その人の人生に蓄積されていく。そのおもしろみや価値は、きっと頭で考えることではなく、自分の心と体で感じるもの。「NESTING」は、地に足をつけた生き方や暮らし方へと、現代に生きる人々のあり方を建てなおす起点となり、拠点となりそうです。

●取材協力
VUILD

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住宅購入検討者の4割近くが将来的な売却や賃貸を検討!柔軟に住み替えるスタイルが広がるか?

リクルートのSUUMOリサーチセンターが「『住宅購入・建築検討者』調査(2023年)」を公表した。この調査では、住宅の買い時感や住宅検討状況、住宅に関する意識などを聞いている。調査結果の推移を見ると、消費者の意識の変化がうかがえるので、詳しく見ていくとしよう。

【今週の住活トピック】
「住宅購入・建築検討者』調査(2023年)」公表/リクルート

検討している一戸建てとマンション、新築と中古が同率に

調査は、2023年12月に、首都圏、東海圏、関西圏と政令指定都市のうち札幌市、仙台市、広島市、福岡市に住む、20歳から69歳の男女で、過去1年以内に住宅の購入・建築、リフォームについて具体的に検討した人を対象に行われた。

検討している住宅の種別(複数回答)は、「注文住宅」が過半数の56%で、「新築一戸建て」31%、「中古一戸建て」31%、「新築マンション」30%、「中古マンション」30%、「リフォーム」16%となっている。一戸建てもマンションも、経年で見ると中古検討率がじわじわと上がっており、新築と中古が同率となっているのが、今回の特徴だ。

「一戸建てか、集合住宅(マンション)か」を聞く(単一回答)と、「ぜったい」と「どちらかといえば」の合計で、「一戸建て派」が58%、「集合住宅派」が22%と一戸建て派が優勢に。「どちらでもよい」は20%だった。

48%が「買い時と思っていた」と回答、その理由は?

さて、住宅購入環境にさまざまな変化が生じている。都心部のマンションを中心に価格が上昇していることに加え、長期固定型の住宅ローンの金利がじわじわと上昇している。集計対象数6007人のうち、住宅購入・検討者は4240人(賃貸検討者が1767人)。この人たちは、「買い時」と思っているのだろうか?

調査で「買い時だと思っていたかどうか」聞いたところ、48%が「思っていた」(とてもそう思っていた12%+ややそう思っていた36%)、20%が「思っていなかった」(まったくそう思っていなかった6%+あまりそうは思っていなかった14%)となり、買い時の割合が前年(2022年調査)の44%から48%に増加した。

出典:『住宅購入・建築検討者』調査(2023年)

出典:『住宅購入・建築検討者』調査(2023年)

ちなみに、「買い時だと思った理由」については、「これからは、住宅価格が上昇しそう」がTOPの45%だった。2位は「いまは、住宅ローン金利が安い」の33%、3位は「いまは、いい物件が出ていそう」の30%だった。

出典:『住宅購入・建築検討者』調査(2023年)

出典:『住宅購入・建築検討者』調査(2023年)

買い時と思う理由について、少し考えてみよう。2024年3月に日銀がマイナス金利を解除するなど、調査時点よりも金利のある時代が近づいている。金利について、いま調査をしたら、「金利が上がりそうだから」といった理由が上位に入るのかもしれない。また、住宅価格が高くなっているので、住宅の売り時と判断している人が多いと考えられる。中古の物件が市場に出回ることで、「いい物件が出ていそう」という環境になるかもしれない。

では、今後の住宅価格についてはどうだろうか?価格が上がり続けているのは都心部の住宅なので、それほど上がっていない地域と上がり続けている地域がある状況なのだが、残業時間を規制する2024年問題が拍車をかけて、建設業界の人手不足による建設費の上昇が続いている。流通業界も同様なので、建築資材を運送する費用も上がるなど、住宅の建設費用に下がる要因が見当たらない。したがって、「住宅価格が上昇しそう」な環境は、まだ続くといえるだろう。

住み続けるよりも柔軟に住み替える考え方に変化?

今回の調査の特徴といえるのが、「買い替え」層が増えていることだ。「初めての購入、建築」が63%と最も多いものの、持ち家を売却して新しい家を購入、建築する「買い替え」が年々増えて、2023年調査で29%に達した。もちろん、住宅価格が高くなっているため、売りやすい市場になっていることもあるが、どうやらそれだけではないようなのだ。

出典:『住宅購入・建築検討者』調査(2023年)

出典:『住宅購入・建築検討者』調査(2023年)

次に特徴的なのが、「将来的に売却を検討している」層が増えたことだ。「永住意向」が44%と半数近くを占めるものの、売却を検討したり、賃借を検討している層が合わせて38%になっている。購入、建築を検討しているときから、いずれキャッシュ化しようと考えている人が増えているわけだ。

出典:『住宅購入・建築検討者』調査(2023年)

出典:『住宅購入・建築検討者』調査(2023年)※2021年以前は調査なし

では、そう考えている人たちが、売却や賃貸に出すタイミングをどう考えているのだろう?
「土地や不動産の価格が上がったら」、「家が老朽化したと感じたら」、「他に欲しい物件が出たら」といったタイミングを想定している人が増えた一方、「定年退職」などは減っている。

出典:『住宅購入・建築検討者』調査(2023年)

出典:『住宅購入・建築検討者』調査(2023年)※2021年以前は調査なし

かつては、マイホームが老朽化したらリフォームして住み続け、家族構成の変化など状況が変わったときに売却するという流れだったが、近年は、価格が上がったり、欲しい物件が出たりしたタイミングや、老朽化でリフォームをする前のタイミングで、売却するという考え方に変わっているようだ。

住宅購入を取り巻く環境にも変化が生じているが、住宅を購入、建築する消費者側の意識にも変化が生じている。住み続けることにこだわらず「柔軟に住み替える」スタイルが広がりつつあるので、住宅の流通市場をより整備して、売り買いのしやすい環境をつくっていくことが求められるだろう。

●関連サイト
リクルート「『住宅購入・建築検討者』調査(2023年)」

実家じまい、母の民芸コレクション数千点の譲渡会を父が設計した自宅で開催。新しい物語を次世代につなぐ 二部桜子さん

多くの人が気になる「実家の片づけ」。挿花家でエッセイストの母と建築家の父のもとに生まれた料理家の二部桜子(にべ・さくらこ)さんは、両親が世界中で集めた膨大な民芸品などのコレクションを次世代につなごうと、実家を開放して譲渡会を実施。遠方からも人が訪れて盛況に! 実家じまいとしてはもちろん、自身の今後についても多くの気づきが得られたというその経験について、二部さんにお話を伺いました。

暮らしも注目された母・二部治身さん。世界を旅して集めた民芸品が大量に

コンクリート打ちっ放しの天井の高い建築。広大な空間を埋め尽くすように、おびただしい数の器や古道具が並ぶ。「ちょっとした骨董市の物量ですよね」と二部桜子さんも笑うが、一家庭のコレクションとは思えないスケールだ。

フリマ形式の譲渡会「Recollection - 回想の記録 -」の様子(画像提供/鮫島亜希子さん)

フリマ形式の譲渡会「Recollection – 回想の記録 -」の様子(画像提供/鮫島亜希子さん)

ここは桜子さんが育った東京都八王子市郊外の家。母である挿花家でエッセイストの二部治身(にべ・はるみ)さんは、建築家の夫・誠司(せいじ)さんとともに桜子さんと弟を育てながら、約100坪もの敷地で花と野菜をつくり、四季の草花を愛でてきた。「暮らし系」という言葉が生まれるずっと以前の80年代後半から、自然とともに生きる治身さんのライフスタイルは数々の女性誌や著作で紹介され、全国に多くのファンを生んだ。

二部桜子さん。アメリカの大学で美術を学んだのちアパレル企業に勤め日米を行き来する。2017年、東京都台東区蔵前に「SHUNNO KITCHEN」スタジオを開設し、旬の野菜を軸とした料理教室やケータリング、レシピ開発を行う(写真撮影/片山貴博)

二部桜子さん。アメリカの大学で美術を学んだのちアパレル企業に勤め日米を行き来する。2017年、東京都台東区蔵前に「SHUNNO KITCHEN」スタジオを開設し、旬の野菜を軸とした料理教室やケータリング、レシピ開発を行う(写真撮影/片山貴博)

「母は高校生のころから骨董を集めていたほど器や雑貨が大好き。タイへの新婚旅行を機にアジアの魅力に目覚め、さまざまな国を訪れては現地の民芸品を山のように持ち帰っていました」と桜子さんは振り返る。「アジアやアフリカの民芸品が持つ、素朴でどこか不完全な美しさが好きだったようです。父も収集癖があり、夫婦で好みも一致していたので、二人で競うようにものを集めていました」

生活道具のみならず、イスなどの家具や壺などもコレクションしていた(画像提供/鮫島亜希子さん)

生活道具のみならず、イスなどの家具や壺などもコレクションしていた(画像提供/鮫島亜希子さん)

アジアやアフリカのオブジェやマスクも(画像提供/鮫島亜希子さん)

アジアやアフリカのオブジェやマスクも(画像提供/鮫島亜希子さん)

治身さんが現役のころは雑誌などの撮影用小道具のリース業も少なかった時代。仕事に使えるようにと集めていた部分もある。1999年に建て替えられたこの家も、治身さんの仕事の撮影にも使えるようにと誠司さんが設計したもの。「だからデザイン性は高いんですけれど、底冷えするように寒かったり、段差が多かったり。敷地も広すぎて、高齢の夫婦が暮らすには厳しくて」

両親とも実家を手放して小さく暮らすことを検討していたが、2021年に誠司さんが他界してしまう。治身さんは桜子さん夫妻と暮らすことになり、いよいよ実家じまいを行うこととなった。

仲間の力を借りながら、楽しんで準備した自宅での譲渡会が大反響

そうして始まった二部家の実家じまいだが、当初は明らかに不要なものも膨大にあったという。
「まずは不要品を処分するのがいちばん大事だと思います。体力の必要な作業ですが、海外に住む弟も帰国時にやってくれました。とはいえあまりに物量が多かったので、この最初の段階ですべてを要・不要に分けたわけではないんです。判断に迷うグレーゾーンを残しつつも、明らかな不用品やゴミを処分できたことで気持ちにゆとりができ、友人にも手伝いに来てもらいやすくなりました」

残されたのは、大量の民芸コレクション。業者に買い取りを依頼することも頭をよぎったが、せっかくなら友人に譲りたいと桜子さんはひらめいた。「アパレル業が長かったこともあり、器やインテリアが好きな友人が多いんです。話してみたら“おもしろそう!”と言ってくれて」。そうしてまずは友人知人限定で、フリマ形式の譲渡会を行うことにした。

治身さんが高校時代から集めていたデッドストックの器たちも販売された(画像提供/鮫島亜希子さん)

治身さんが高校時代から集めていたデッドストックの器たちも販売された(画像提供/鮫島亜希子さん)

フリマで難しいのが値付けだろう。「母も値段までは覚えていなかったので、骨董屋さんに出かけて値ごろ感を確かめたり、画像検索で由来や価格を調べたり。通常の骨董品店よりはかなりお得な値段に設定しました」

友人の手も借りながら準備を進め、2022年8月と9月の4日間で「Recollection – 回想の記録 -」として譲渡会を実施。「告知はInstagramの個人アカウントのみで、友人とその友人のみの予約制に。中には影響力のある友人もいたので拡散力がすごくて」。予想以上の反響があり、約1500点が新たな持ち主のもとに旅立った。

世界各国からかごやザルを背負って持ち帰った治身さんは「かご長者」とあだ名されたほどのかご好き(画像提供/鮫島亜希子さん)

世界各国からかごやザルを背負って持ち帰った治身さんは「かご長者」とあだ名されたほどのかご好き(画像提供/鮫島亜希子さん)

好評を受けて、10・11月には一般客にも予約枠を開放することに。「リテールビジネス(BtoCのビジネス)に携わっている友人たちがいろいろアドバイスをくれて。当初は“この引き出しの中はいくら”みたいな値付けでしたが、知らない人への販売なら一つひとつ値段を書いたほうが会計がスムーズだよとか。”このコーナー売れ行きがよくないね”と友人がささっとディスプレイを直してくれたとたん、驚くほど売れたりも」

明治~昭和の和食器もセンスよくディスプレイして販売(画像提供/鮫島亜希子さん)

明治~昭和の和食器もセンスよくディスプレイして販売(画像提供/鮫島亜希子さん)

手伝ってくれた友人たちとはいつしか“実家フェス”の通称が定着。「”せっかくならお茶ができたらいいよね”と、友人が和室で抹茶を立てて、私のお菓子とお出ししたり。そうやって仲間とアイデアをふくらませるのが楽しかった」。まるで学園祭のような自由さをベースに、ビジネススキルと創造力を持ち寄って準備したこのイベントには、北海道や石川県など遠方も含めのべ数百人が訪れ、総計5000点ほどを譲渡できたという。

2023年10月には「Recollection-回想の記録-エピローグ」として、治身さんの著書のレシピを再現した食事会も実施。「譲渡会で、父が建てた建築をみなさんに見ていただけたのも嬉しかったんです。せっかくだから記録に残そうと、母の料理をつくって父と母が元気だった頃の二部家を再現して、友人である写真家の鮫島亜希子さんに撮ってもらいました」

和気あいあいと和やかな食事会の様子。このときのコレクションは"お気持ち"価格で譲渡し、ウクライナの動物支援団体に寄付も行った(画像提供/鮫島亜希子さん)

和気あいあいと和やかな食事会の様子。このときのコレクションは”お気持ち”価格で譲渡し、ウクライナの動物支援団体に寄付も行った(画像提供/鮫島亜希子さん)

顔の見える使い手へ譲る喜びが、愛したものを手放す寂しさを和らげる

業者の買い取りより手間や時間はかかっても、ものの行く末がわかるのが嬉しいと桜子さん。「友人のおうちに遊びに行ったら、うちで活躍していたものにまた出合えたり。おうちで使う様子をInstagramに上げてくれる人もいて、両親の愛したものたちの新しい物語が始まるのだと実感できました」

来場した友人たちが購入物をインスタにアップ。「みなさんのセレクトが見ていて楽しくて」と桜子さん(画像提供/左から、@hirokoinabaさん、@mamimori8さん)

来場した友人たちが購入物をインスタにアップ。「みなさんのセレクトが見ていて楽しくて」と桜子さん(画像提供/左から、@hirokoinabaさん、@mamimori8さん)

治身さんもイベントの様子に感激。「ものを手放すから、と悲しむ様子が全くなくて。自分のコレクションがお店みたいにキレイに並べられて“やっぱりこれ素敵よね”なんて喜んだり。自分が好きで手に入れたものを、みなさんが楽しそうに選んで譲り受けていく姿がすごく嬉しかったようで、いい親孝行ができました」

もちろん治身さん自身が手離したくない宝物はキープ。桜子さんも、手元で大切にしたいものたちを自宅やスタジオで愛用している。

水屋箪笥はクリーニングして、桜子さんの「SHUNNO KITCHEN」スタジオで愛用(写真撮影/片山貴博)

水屋箪笥はクリーニングして、桜子さんの「SHUNNO KITCHEN」スタジオで愛用(写真撮影/片山貴博)

風格あるベンチも実家からスタジオに。桜子さんの愛犬・アズキちゃんも心地よさそう(写真撮影/片山貴博)

風格あるベンチも実家からスタジオに。桜子さんの愛犬・アズキちゃんも心地よさそう(写真撮影/片山貴博)

古い実験用漏斗をランプシェードに。「たまたま訪れたアンティークショップで、こんなふうに漏斗を照明にしているのを発見。そのお店にお願いして照明にしてもらいました」(写真撮影/片山貴博)

古い実験用漏斗をランプシェードに。「たまたま訪れたアンティークショップで、こんなふうに漏斗を照明にしているのを発見。そのお店にお願いして照明にしてもらいました」(写真撮影/片山貴博)

買い手がつかなかったランプシェードもスタジオで活躍(写真撮影/片山貴博)

買い手がつかなかったランプシェードもスタジオで活躍(写真撮影/片山貴博)

これからの“もの”との付き合い方を考えるきっかけにも

二部家の実家じまいは、かなり特別なケースかもしれない。でも桜子さんのアイデアと行動力があったからこそ譲渡会は実現でき、成功につながった。「思いついたら後先考えず突っ走るタイプ。料理の仕事もずっとやりたいと言っていたけれど、この物件との運命的な出合いがあって、会社を辞めるより先に契約したことで現実化したんです。今回のイベントも、アイデアを周囲に伝えることで現実のものになりました」

窓の前に咲く満開の桜に、自分の名前との運命的な符合を感じて契約したスタジオ。「譲渡会で知り合った人たちが一緒に料理教室に来てくれたりと、嬉しいご縁も生まれています」(写真撮影/片山貴博)

窓の前に咲く満開の桜に、自分の名前との運命的な符合を感じて契約したスタジオ。「譲渡会で知り合った人たちが一緒に料理教室に来てくれたりと、嬉しいご縁も生まれています」(写真撮影/片山貴博)

周囲の人を巻き込んだのも成功の秘訣。
「一人では絶対に無理でした。最初に不要品処分を弟がやってくれたことが突破口になったし、アパレルの仕事の友人や、料理の仕事を通してつながった暮らしに関心の高い友人が助けてくれたからこそ実現しました」

また、今回のイベントを経験して学んだこともある。
「次の世代が使いたいと思える“いいもの”だからこそ譲ることができたんですよね。自分がものを選ぶ際にも、単に便利で安価だからというのではなく、次の世代にも引き継げるものを選ぶことが大切だと痛感しました」

両親が愛用していたハンス・J・ウェグナーデザインの「Yチェア」もそのひとつ。「実家で使い込まれて、かなり傷んでいたんですが、クリーニングに出したらいい味わいを残しつつきれいになって。いいものだからこそ、こうして修繕しながら長く使えるんですよね」

二部家のダイニングで活躍していたYチェア。脚ががたつき、ペーパーコードの座面もボロボロだったが家具のクリーニングに出して風格ある姿に(写真撮影/片山貴博)

二部家のダイニングで活躍していたYチェア。脚ががたつき、ペーパーコードの座面もボロボロだったが家具のクリーニングに出して風格ある姿に(写真撮影/片山貴博)

高齢になり、広すぎる家や多すぎるものの扱いに困っていた両親の姿を見て、年齢に応じてものとの付き合い方を見直す必要性にも気づいたという。
「70歳くらいになったら新たなライフステージの準備として、またフリマをやろうかと仲間と話しているんです。そのためにも“20年後、次の使い手に引き継げるか”を、もの選びの指針として大切にしていきたいです」

桜子さんが陶芸作家の久保田由貴さんと一緒に考案した器のセット。これも大切に使って次世代につなぎたいと考えているもの(写真撮影/片山貴博)

桜子さんが陶芸作家の久保田由貴さんと一緒に考案した器のセット。これも大切に使って次世代につなぎたいと考えているもの(写真撮影/片山貴博)

桜子さんのご両親が美しいと思えるものだけを集めていたからこそ、次の使い手につながるという幸せな展開は実現した。特別なケースだと思われがちな二部家の実家じまいだが、サステナビリティが重視される時代に、“次の使い手に引き継げるか”は、誰もが実践したいもの選びの基準と言えるだろう。また次の使い手へ引き継ぐための自宅フリマや譲渡会も、新しい実家じまいのアイデアとして参考になるはずだ。

●取材協力
「SHUNNO KITCHEN」主宰 二部桜子さん
Instagram

おしゃれ空間が作れると人気の「ハイドア」厚くて高いと何がいい? 注文住宅の最新トレンド

このところ編集部では家を建てるメンバーがあらわれ、プランや設備についてさまざまな相談が上がっています。その中で注目されているのが、「ハイドア」。注文住宅では、室内に設置する床から天井まで2mを超えるドアが人気を集めているといいます。「ハイドア」そのものは珍しくありませんが、なぜ、今、注目を集めているのでしょうか。室内建具専業メーカー「フルハイトドア®」を製造する神谷コーポレーションで話を伺いました。

室内ドアは空間を大きく、広く、明るく見せる重要パーツだった

家探しをするときに、「室内ドア」の形状やデザインを意識したことがないという人がほとんどでしょう。

下の写真は、ごく一般的な日本の建物で、天井高が2m40cm、室内ドアの高さは2mほどで上部に壁(下がり壁といいます)があることがほとんどです。

2mの一般的な室内ドア。ドア上部に下がり壁があります(写真提供/神谷コーポレーション)

2mの一般的な室内ドア。ドア上部に下がり壁があります(写真提供/神谷コーポレーション)

床から天井まで高さのあるハイドア。ドアの高さが違うだけですが、室内の雰囲気が異なる(写真提供/神谷コーポレーション)

床から天井まで高さのあるハイドア。ドアの高さが違うだけですが、室内の雰囲気が異なる(写真提供/神谷コーポレーション)

対して上の写真はハイドアといい、床から天井の高さまである大型のドアです。高さは天井にもよりますが2m40cm、大きいものだと2m70cm近くなります。こうした大型のハイドア、近年、より人気が高まっているといいますが、どのようなメリットがあるのでしょうか。

「ひと言でいうなら、ハイドアは部屋を広く開放的に、明るく見せてくれるんです。ドアが大きくなることでスタイリッシュに見せる効果があります。また、下がり壁がなくなるためドアを開けると光が部屋いっぱいに広がり、自然光で部屋を明るくしてくれるのです」と話すのは神谷コーポレーション、ハイドアに特化した会社で営業部長を務める長尾謙介さんです。

こちらは別の角度から見たドアの比較。下がり壁があるドアに対し、ハイドアのほうが採光にすぐれ室内を明るく見せる効果がある(写真提供/神谷コーポレーション)

こちらは別の角度から見たドアの比較。下がり壁があるドアに対し、ハイドアのほうが採光にすぐれ室内を明るく見せる効果がある(写真提供/神谷コーポレーション)

同社では、通常の「ハイドア」と違い、目に見えるドア枠がなく、クロスの中に埋め込まれているため「枠レス」と認識されているそう。ほかにも、室内の自動ドア、引き手やハンドルのないタイプ、天然レザー張りなど、実に個性的な室内ドアをそろえています。室内建具は枠が大きいほど立派だといわれてきましたが、今や「ほぼ見えない」のもトレンドになっています。確かにないと洗練されているように見えます。

こちらもハイドアですが、上下左右にドア枠がありません。すっきりとした見た目で、海外の家のような仕上がりに(写真提供/神谷コーポレーション)

こちらもハイドアですが、上下左右にドア枠がありません。すっきりとした見た目で、海外の家のような仕上がりに(写真提供/神谷コーポレーション)

SNSで家づくりが当たり前。だからこそ室内ドアの存在感が高まる

現在、神谷コーポレーションでは売上推移の詳細は明らかにしていませんが、ハイドアをリリースしてからの売上は10年間で7倍にも伸びているといいます。新築住宅着工数そのものには大きな変化がないなかで、施主から「わざわざ」選ばれるようになっているといってもいいでしょう。でも、なぜ今、ハイドアなのでしょうか。

「ひとつはSNSです。通常、友人や知人以外の家は、なかなか見学することはないですよね。でも、インスタやルームツアー動画などで、気軽によそのお住まいのインテリアを見られるようになりました。そうして家づくりの実例をたくさん見ていくうちに、なんかかっこいいなという家がハイドアだった、当社のフルハイトドア®だった、という流れで採用されています」と長尾さん。

なるほど、SNSで家づくりやインテリアの勉強をする→タグを見る→ハイドアを知るという流れのようです。そのため、長尾さんのチームの日課は「エゴサーチ」。#ハイドアと#フルハイトドア®とタグのついた投稿を探し、自社の商品がどのように採用されているか、日々、見てまわっているそう。

「今から20年前、家づくりをした人に『自宅でこだわったパーツ30アイテム』を調査したところ、室内ドアはなんと27番目でした。それくらい『室内ドアは優先順位の低いパーツ』だったのですが、今ではハイドアやフルハイトドア®とタグをつけて投稿してもらえるように。特にコロナ禍で、家への意識、プライオリティは高まっているのを感じます」(長尾さん)

また、先日、「注文住宅トレンド2024! 注目は、平屋・ヌック・タイパ・省エネ・ランドリールームなど7キーワード」という記事で解説されていましたが、建物面積を抑える傾向にある今、ハイドアでできるだけ室内を広く、大きく、明るく見せたいというトレンドにもマッチしています。こうしてみると、ハイドアが採用されるのは時代の流れに沿っているんですね。

引き戸タイプのハイドア。枠がほとんどなくすっきりとおさまり、空間の広さと高さを感じられる(写真提供/神谷コーポレーション)

引き戸タイプのハイドア。枠がほとんどなくすっきりとおさまり、空間の広さと高さを感じられる(写真提供/神谷コーポレーション)

室内ドアが「厚い」とどんなメリットがあるの?

一方で、神谷コーポレーションでは単なる室内ドアの高さだけなく、「厚み」も大切だといいます。

「日本の室内ドアは3cm台であることがほとんどですが、当社の室内ドアは厚さ4cmです。数ミリ程度と思うかもしれませんが、実物を見るとかなり違います。そもそも室内ドアは西洋の文化で、欧州では厚さは4cm以上あることが一般的。厚みがあることのメリットは、やはり重厚感と高級感、安心感ですね。欧州では室内ドアが、命と財産を守る最後のパーツという位置づけなのです」と長尾さん。

ただ、室内ドアは木製。大きくなるほどに必然的に「ソリ」が生まれてしまうそう。すると開閉がスムーズに行えずに音がする、閉まらないなどの「立て付けが悪い」という状態になってしまうわけです。それを防ぐべく、建材メーカー各社は試験設備で性能試験を繰り返しています。ただ、加熱しての耐久試験はクリアが難しく、実施しているのは神谷コーポレーションのみだといいます。ちなみに神谷コーポレーションの伊勢原工場ではこうした試験の様子などを「KI-LABO」として限定公開しており、施主の方や契約しているビルダーの人が希望すれば見学できます(要予約)。

室内ドアの厚さ見本。ショールームで実際に見てみると、厚みのある安心感を体感できる(写真提供/神谷コーポレーション)

室内ドアの厚さ見本。ショールームで実際に見てみると、厚みのある安心感を体感できる(写真提供/神谷コーポレーション)

よく外国の家と日本の家を比較して「すべてが小さく、軽い」といわれますが、こうした「天井高や厚み」の差にあるような気がします。

一方でハイドアを採用するうえでの、注意点、デメリットはないのでしょうか。

「ひとつは価格ですね。一般的な高さの室内ドアと比較すると、どうしても価格は高くなってしまう。目安としては1.5倍とお伝えしています。本当は全室採用したかったけれど、リビングのみフルハイトドア®にしたというお声はよく頂戴します。ただ、メーカーが製造しているドアであれば、多くがソフトクローズ機能がついており、他の室内ドアと比較して重い、操作しにくい、歪みやすいといったことありません」(長尾さん)

一方で、建築士や工務店が設計してハイドアを造作してもらうとやや重かったり、経年にともなってやソリ、歪みがうまれてしまうこともあるとか。そのあたりは注意して選ぶとよいでしょう。

こちらは引き戸タイプのハイドア。横幅110cm~135cmでオーダーできるとか。通称「動く壁」(写真提供/神谷コーポレーション)

こちらは引き戸タイプのハイドア。横幅110cm~135cmでオーダーできるとか。通称「動く壁」(写真提供/神谷コーポレーション)

室内ドアで日本の家はまだまだかっこよくなる!?

神谷コーポレーションによると、ハイトドアで一番人気の色は白だそう。ほかにもグレーやグレージュ、天然木、鏡、デニム張りなど、さまざまな色やバリエーションがあり、幅広いインテリアの好みに対応しています。白やベージュが中心だった壁紙は、今はさまざまな色が選ばれているのと同様、ドアとの組み合わせも楽しめそうです。

こちらも引き戸タイプで空間を広く使える。天井のおさまりの美しさに注目。金具もなく、スリットに手をいれて開閉する。用の美の極地(写真提供/神谷コーポレーション)

こちらも引き戸タイプで空間を広く使える。天井のおさまりの美しさに注目。金具もなく、スリットに手をいれて開閉する。用の美の極地(写真提供/神谷コーポレーション)

「家に求める価値観が多様化しているなか、インテリアのトレンドも年々、変化していますし、居室の天井高もより高くなっていて、海外のような抜け感、スタイリッシュさを求める人は年々増えているように思います。当社のドアの枠がない、完全な壁面化はこうした時代のニーズに即していると自負しています。また現在、ドアの高さは最大3mまで対応していますが、まだ一部のシリーズのみなので今後すべてが3m対応になるよう挑戦したい」と意欲的です。

また、「KI-LABO」では、商品開発時に行う試験の様子を見学できるのですが、その内容がスゴイ! 前述の通り、室内ドアは「ソリ」が問題になるといいましたが、その「ソリ」を抑えるために、徹底して商品試験を行っており、その様子を見学できるのです。

限定公開されているKI-LABO(写真提供/神谷コーポレーション)

限定公開されているKI-LABO(写真提供/神谷コーポレーション)

照射加熱試験の様子。初めて見るテストに興奮します(写真提供/神谷コーポレーション)

照射加熱試験の様子。初めて見るテストに興奮します(写真提供/神谷コーポレーション)

(1)照射加熱試験…8時間ほど熱を加えて強制的に曲げたあとに、16時間ほど冷まし、これを5回繰り返す試験。一般的には外壁材で行われる。
(2)二室反狂環境試験…部屋間の湿度差による変化を試験する。湿度90%の部屋と50%の部屋を用意し、曲がらないか試験する。
(3)開閉繰り返し試験…10万回の開閉に耐えられるか。機械が実際に動かし、ドアだけでなく金物が壊れないかも試験する。
(4)衝撃剥離試験…30キロの袋をぶつけてドアが壊れないか試験する。子どもやモノがぶつかることを想定している。動画で最終的にバールでガラスを破壊する様子も視聴できる。

他にも、塗装とシートの違い、新商品の遮音ドアによる生活音の聞こえの「差」なども体験できます。個人的には、印象に残っているのは色や素材の違いや美しさ! 引き手のデザインの豊富さ、白の違いの美しささ、ベージュやグレージュとの違いなどに感動します。マニアックな施設だと思われがちですが、ここを見学したいと、関東だけでなく日本全国から見学希望があるとか。ハイドアは、大変失礼ながら見た目の美しさ、かっこよさ重視でここまで流行しているのかと思っていましたが、機能面や安全面でもすぐれていますし、ここまで広く公開しているのは、専業メーカーとしての自信があるからなのでしょう。

取材を終え、日本の室内ドアはこんなにかっこよくなるんだ……と一人で感激に打ち震えていました。よく考えてみれば、日本の室内建具といえば、基本的には障子と襖だったわけで、日本のドア、室内ドアの歴史はまだはじまったばかり。西洋のものを取り入れて、改良するのは日本の十八番です。「室内ドア」から、日本の住まいがもっと美しく快適で、安全になっていけばいいなと思います。

●取材協力
神谷コーポレーション

内窓DIYで室温10度も断熱できる省エネ対策。ホームセンターで買えるお手軽キットでも可能

「夏暑く、冬寒い」「結露ができて不快」、こうした住まいの問題を解決するには、どうやら「窓」の改修がいいらしい、ということが知られるようになりました。とはいえ、どのくらい効果があるの?DIYで手軽にできない?などの疑問はつきないはず。そうした疑問や悩みを解消してくれる「断熱改修はじめの一歩」ワークショップが長野県で開催されました。子どもも参加OK、ホームセンターで買える簡易的な内窓キットと最低限の工具だけを使って内窓のDIYをしよう! という一見お手軽な内容にも関わらず完成した内窓をつけたところ、なんと10度も表面の温度差が生まれるという驚きの結果に。その様子をレポートします。

内窓をDIYで自作してみたい!長野県全域から希望者殺到!

「断熱改修はじめの一歩」という講演会とDIYワークショップが開催されたのは、長野県上田市。二部構成で、一部は断熱推進イニシアチブ合同会社の木下史朗さんによる講演、現役の建具職人でもある有限会社クボケイの窪田智文さんのミニレクチャー、二部は市販されている内窓キットを使ってのDIYワークショップというもの。主催は長野県上田地域振興局で、運営にあたるのがNPO法人上田市民エネルギーです。

近年、内窓をDIYで作成できる「内窓キット」がホームセンターなどで購入できるようになっています。今回のワークショップではこの「内窓キット」を用いて、建具職人を講師に招いて、内窓を実際につくるという試みです。ちなみに、必要な道具は差し金や鉛筆、カッターなどの身近なものばかり。DIYの心得がなくとも誰でもできるといいます。

一部の講演会には上田市在住の方だけでなく、長野県内各地から約60名が参加し、二部のワークショップの定員20名はわずか数日で満員になったとか。想像以上の関心の高さに圧倒されますが、長野県上田市は冬の寒さはもちろん、夏はびっくりするほど暑くなるそう。

「全国的に暑かった2023年ですが、上田では全国最高の38.4度を記録したこともあるほど。とにかく夏は暑いんです。さらに冬は寒いため、二酸化炭素削減にも健康面でも、建物の省エネ性能向上が必須なんです」と話すのは上田市民エネルギーで理事長を務める藤川まゆみさん。

長野県はこうした自然の厳しさを背景に、住まいや建物の省エネルギー性向上を推進しており、上田高校や白馬高校など複数の県立高校で高校生が企画運営する断熱ワークショップを支援しています。また、こうした学生の断熱に関する取り組みがニュースになることも多く、それを見聞きした保護者をはじめ、一般世帯にも関心が広がっているようです。すばらしい流れですね。

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断熱改修の初心者に向けて。講演会でしっかりと知識を身に付ける!

まず一部は「断熱改修はじめの一歩」と題して、断熱推進イニシアチブの木下史朗さんが、自宅のサーモグラフィ画像をあげつつ、自宅や軽井沢の高性能賃貸「六花荘」を建てたこと、軽井沢の空き家を性能向上リノベさせたエピソードを紹介。

木下さんが断熱に目覚めるきっかけとなった家の寒さ。室内だが窓枠の表面温度は1度(画像提供/断熱推進イニシアチブ)

木下さんが断熱に目覚めるきっかけとなった家の寒さ。室内だが窓枠の表面温度は1度(画像提供/断熱推進イニシアチブ)

高性能賃貸「六花荘」をサーモグラフィカメラで撮影。もっとも冷たいのは牛乳。室温は20度程度に保たれており、裸足でも大丈夫な暖かさに(画像提供/断熱推進イニシアチブ)

高性能賃貸「六花荘」をサーモグラフィカメラで撮影。もっとも冷たいのは牛乳。室温は20度程度に保たれており、裸足でも大丈夫な暖かさに(画像提供/断熱推進イニシアチブ)

木下さんが実際に性能向上リノベをした物件。改修前はUa値0.94でしたが改修後は Ua値0.28と大幅に性能向上(画像提供/断熱推進イニシアチブ)

木下さんが実際に性能向上リノベをした物件。改修前はUa値0.94でしたが改修後は Ua値0.28と大幅に性能向上(画像提供/断熱推進イニシアチブ)

加えて、日本の既存住宅のうち、1999年の省エネ基準(2025年義務化予定)に達しているのがわずか1割程度しかないこと、建築物が断熱されていないため多くのエネルギーを無駄にしていること、断熱性能をあげるにはまず「窓」が大切であることを説明していきます。実体験+データを交えての話はリアリティがあるうえ、建築士ではなく、ひとりの住まい手としての体験から得た話となっており、非常にわかりやすいものとなっていました。

また、現在は「先進的窓リノベ事業」「長期優良住宅リフォーム推進事業」「信州健康ゼロエネ住宅(リフォーム)」といった助成制度があること、省エネ性能が高いものほど補助額が高いこと、今ある窓の内側にもう一枚窓をつくる工法、今ある窓枠を壊さず新しい窓に交換する工法があることなども紹介されていました。

上田高校の断熱改修ワークショップの施工前

上田高校の断熱改修ワークショップの施工前と施工後(画像提供/断熱推進イニシアチブ)

上田高校の断熱改修ワークショップの施工前と施工後(画像提供/断熱推進イニシアチブ)

断熱材を入れたところはオレンジで15度になっているが、入っていないところは紫色で7.6度。表面の温度差7.4度!(画像提供/断熱推進イニシアチブ)

断熱材を入れたところはオレンジで15度になっているが、入っていないところは紫色で7.6度。表面の温度差7.4度!(画像提供/断熱推進イニシアチブ)

参加者には子育て世帯が多いのかと思いきや、年配世代も多数参加していました。築年数が経過した住まいは無断熱、または断熱性の低い住まいが多いので、当たり前といえば当たり前かもしれません。講演のあとには、断熱材の主な材質とその特徴の違いについての質問が飛び出すなど、講演者・参加者のみなさんの本気度合いに圧倒されます。

建具職人によるDIYのコツ。成否の鍵を握るのは採寸と裁断

その後、二部でも登場する現役の建具職人・窪田智文さんが登壇し、ホームセンターで販売されている内窓キットを使って内窓を作成するコツを話してくれました。窪田さんは2012年の技能五輪全国大会家具部門で銅メダルに輝き、現在でも建具と家具を担当する現役の建具職人です。今までも上田高校などの断熱ワークショップを手伝っているそうですが、地元にこうしたトップクラスの職人さんがいて、協力を得られるのは大変貴重です。

窪田さんによるDIYのミニレクチャー。みなさん熱心にメモをとっていらっしゃいます(写真撮影/嘉屋恭子)

窪田さんによるDIYのミニレクチャー。みなさん熱心にメモをとっていらっしゃいます(写真撮影/嘉屋恭子)

窪田さんによると、ホームセンターでも内窓のDIYキットの取り扱いは増えているとのこと。DIYキットの内容は(1)窓枠に貼るレール、(2)サッシにあたるフレームのセットで、価格は2000~4000円程度。これに加えて、窓ガラスに相当するポリカーボネートを購入し、1窓約1万円程度でできるそう。

既存の窓に加えて、内窓を1枚つけると空気層ができます。空気は熱を伝えにくい性質をもっているため、冬は暖かく、夏は涼しくなる、これが内窓での断熱性が向上する理由です。
内窓のDIYを成功させるにはいくつかコツがあるそうですが、要約すると以下になります。

(1)既存の窓枠をしっかり採寸する
・定規はしっかりした材質で、まっすぐ良いものを使う
・レーザー計測器もあるが、自分でもしっかり確認を
・幅や高さだけでなく、真ん中の高さ、斜めもしっかり測る
(築年数が経過した物件はたわんでいることがあるため、たわんでいたら要補正)

(2)窓にあたるポリカーボネート板をまっすぐ裁断する
・ポリカーボネート板を、計測したサイズどおりに、まっすぐ切ること
・一度に切ろうとするのではなく、表面に筋をつけていき、徐々に裁ち落とす
・自分で切るのが難しい人はホームセンターのカットコーナーで依頼するとよい(ホームセンターにもよるが、1カット100円以内)

また、窓が大きいほど採寸・裁断が難しくなるため、まずは小さな窓からはじめてみて、成功したら次の窓をすすめるとよい、とアドバイスしていました。

温度差10度! 部屋の体感はぐっと暖かくなった

そしていよいよ二部のワークショップへ。今回は上田地域振興局が入る上田合同庁舎3階の会議室の内窓合計14枚を作り、その後も使っていく計画です。市民参加で公共建築物の断熱性が向上できるのは、とても有意義な取り組みですよね。何しろ(1)ワークショップの場として活用でき、(2)設計施工費用を抑えることができる、(3)建物の省エネ性能が高まる、(4)内窓を知らなかった人も目にすることができ、興味が湧く、など一石四鳥にもなるからです。

講師となる窪田さんに加え、木下さん、小さなお子さんはもちろん、高校生、大人など幅広い世代の参加者がいっしょに作業をしていきます。まずは安全のためにラジオ体操を行いますが、同じ空間で体操をするとぐっと気持ちの距離が縮まり、和やかな雰囲気になります。

また、SUUMOジャーナル編集部員も人生初のDIY体験で参加しましたが、「取材じゃなければ、人生で一度もDIYをしないと思う」というタイプだそう。興味はあるものの、なかなか腰が重い。これは、多くの人が同じ気持ちになるのではないでしょうか。

そんなDIYスキルも事情も異なる参加者が力を合わせ、完成したのが14枚の内窓です。まずは完成したところからご覧ください。下の写真でいうと、右の白枠が設置した内窓、左の結露しているのが既存の窓です。

窓にさわって温度の違い感じるお子さん。既存の窓は冷たく結露していますが、内窓はひんやりとせず温かい!(写真撮影/嘉屋恭子)

窓にさわって温度の違い感じるお子さん。既存の窓は冷たく結露していますが、内窓はひんやりとせず温かい!(写真撮影/嘉屋恭子)

完成した14枚の内窓をはめこんだ様子。内窓と既存の窓、その表面温度差10度にも(写真撮影/嘉屋恭子)

完成した14枚の内窓をはめこんだ様子。内窓と既存の窓、その表面温度差10度にも(写真撮影/嘉屋恭子)

内窓をつけたところ。サーモグラフィカメラで撮影すると17度と温かくなっています(写真撮影/嘉屋恭子)

内窓をつけたところ。サーモグラフィカメラで撮影すると17度と温かくなっています(写真撮影/嘉屋恭子)

既存窓を撮影するとなんと7度。そばによるとひんやりとした冷気を感じます(写真撮影/嘉屋恭子)

既存窓を撮影するとなんと7度。そばによるとひんやりとした冷気を感じます(写真撮影/嘉屋恭子)

取材日は最高気温5度、外はみぞれ交じりの天気でしたが、内窓はつけるとその表面温度は17度に。手のひらでさわるとより温かさを実感します。約2時間でここまででき、さらに直後で冷やされていないとはいえ表面温度にこんな変化があるとは。まさに感動!のひとことです。

内窓DIYするなら、ホームセンターのカットサービスを活用すると簡単に!

ここであらためて、どのようなプロセスで進められていったのか紹介します。

<使う道具>
内窓キット 14枚分
ポリカーボネート板 14枚分
軍手、差し金、鉛筆、カッターなど

<ワークショップの流れ>
(1)窓レールにあたるパーツの切り落とし
(2)窓レールにあたるパーツを貼る
(3)フレームパーツを切り落とし
(4)ポリカーボネート板を切り落とす
(5)フレームをはめ、フィルムを剥がす
(6)完成した窓を窓枠にはめる

こうしてみると、特別な道具は使わず、材料を切断して貼ったり、枠にはめていったりと、難しい作業はしていません。ただ、やっぱりそこは初対面の人との共同作業になるので、談笑しつつ手探りで作業を進めていきます。

(1)指示にしたがって窓枠になるパーツを指定のサイズに裁ち落とす(写真撮影/嘉屋恭子)

(1)指示にしたがって窓枠になるパーツを指定のサイズに裁ち落とす(写真撮影/嘉屋恭子)

(2)カットした窓枠を両面テープで貼って固定しているところ(写真撮影/嘉屋恭子)

(2)カットした窓枠を両面テープで貼って固定しているところ(写真撮影/嘉屋恭子)

既存の窓枠の手前、白い樹脂が貼り付けた内窓のレール部分になります(写真撮影/嘉屋恭子)

既存の窓枠の手前、白い樹脂が貼り付けた内窓のレール部分になります(写真撮影/嘉屋恭子)

(4)ポリカーボネート板を規定のサイズに裁断していきます(写真撮影/嘉屋恭子)

(4)ポリカーボネート板を規定のサイズに裁断していきます(写真撮影/嘉屋恭子)

カットできたポリカーボネート板にフレームをはめこんでいきます(写真撮影/嘉屋恭子)

カットできたポリカーボネート板にフレームをはめこんでいきます(写真撮影/嘉屋恭子)

最後にフィルムを剥がして完成(写真撮影/嘉屋恭子)

最後にフィルムを剥がして完成(写真撮影/嘉屋恭子)

白いフレームがDIYで作った内窓です。1面ですが、達成感と充実感が湧き上がります(写真撮影/嘉屋恭子)

白いフレームがDIYで作った内窓です。1面ですが、達成感と充実感が湧き上がります(写真撮影/嘉屋恭子)

参加されたみなさんに感想を聞きましたが、「実際にできるか不安だったが、楽しかった」「プロの技がすごいなと思った」などの感想が。なかには「DIYはあきらめてプロに依頼しようと思いました」「ホームセンターで切断してもらって、はめるだけならできるかも」との声も。確かにホームセンターで「裁断」までしてもらえていれば、ぐっと家庭でも取り入れやすいと思いました。

筆者は窪田さんのキズをつけないコツ、四隅のサイズを少しずつ調整していく仕事の確かさ、身のこなしなどが印象に残りました。なかなか見られない建具職人の仕事ぶりは、まさに眼福です。

さらに今回、DIY初体験だった編集部員はDIYに開眼したらしく、黙々とポリカーボネート板を切り落としていました。「無心になれていい。モノをつくる達成感がふつふつと湧いてくる」とのこと。DIYは無縁と思っていても、目の前で一つの形になっていく、クリエイトする喜びはやっぱり人の心に訴えかけるものがあるようです。

主催した長野県上田地域振興局環境課の上原さんによると、企画の背景を「地球温暖化対策として、やはり窓がよいということを聞いて、今回のワークショップを企画しました。想像以上に反響があり、関心の高さを実感しました。また、実際に手を動かすなかで得られたものは大きいですし、何よりみなさん進むとにこにこしてらして。身近なところから環境負荷を減らすとともに、住まいが快適になればうれしいですね」と話していました。

今回の講演とワークショップ、大きな反響もあったようなので今後、上田だけでなく、長野県全域に広がっていくかもしれません。こうした「断熱改修」の流れが、日本全国の津々浦々に広がっていったらいいのに、そう願わずにはいられません。

●取材協力
・長野県上田地域振興局環境課
・NPO法人上田市民エネルギー
・断熱推進イニシアチブ
・有限会社クボケイ

注文住宅トレンド2024! 注目は、平屋・ヌック・タイパ・省エネ・ランドリールームなど7キーワード

ハウスメーカーや工務店、建築家とイチから自分好みの住まいをつくれる「注文住宅」。マンション・建売一戸建てより自由度が高く、住まいにこだわりたい人の「究極の家づくり」といっていいでしょう。また、注文住宅は間取りや設備をイチから設計できるため、時代の価値観や好み、トレンドを色濃く反映します。では今、これから注文住宅を建てたい人がおさえておくべきポイントとは? 住まい情報誌『SUUMO注文住宅』の編集長を務める服部保悠氏に話を聞きました。

建築費や資材費の上昇を受け、小さくても満足度の高い家をめざす

2023年にSUUMOリサーチセンターが発表した調査(2023年注文住宅動向・トレンド調査)によると、建築費は全国平均で3186万円、土地代2145万円で、ともに直近8年では最高値となっています。自由に選べる「究極の家づくり」ではありますが、予算を潤沢につぎ込めるという人は多くないはず。では2024年、価格はどのように動くのでしょうか。

「近年、建築価格、土地価格ともに右肩上がりが続いていましたが、ここにきて一服感はあります。ただ、2024年以降、人件費・資材費ともに残念ながら下がる要素はなく、横ばいが続くと思われます」と服部氏。このところ増えてきた「平屋」も、住みやすいという側面とともに、建築面積を抑えられることで、建築費が節約でき、増えてきました。こうした「コンパクトで住みやすい家」というのは、まだまだ増えていく兆しがあるそう。

(写真撮影/北島和将)

(写真撮影/北島和将)

■関連連載:平屋回帰

「注文住宅は無限の選択肢がある分、土地にかけるお金と建物の費用調整が肝心になるわけですが、土地価格も下落しないとなれば、建築費で調整するという考え方もあります。つくり方にもよりますが、比較的建築費も抑えられ、なおかつ暮らしやすい、そんな平屋はまだまだ支持を集めるのではないでしょうか」(服部氏)

また、建物の面積をコンパクトにした分、家具と設備を一体にする(家具化)、ミニマム化するというトレンドもあげています。
「家具を買い替えて流行を追い続けるのではなく、デザイン性の高い内装・設備に家具の機能も持たせるようになってきており、例えばキッチン設備も家具のようなデザイン性にすぐれたものが登場しています。床や室内ドア、収納を含め、トータルコーディネートで空間を広く見せるデザインが好まれており、印象的なのは男性・女性ともに北欧デザインが好きという人が多いこと。流行に左右されず、インテリアのスタイルとして定着したと思っています」(服部氏)

家づくりにも「タイパ」の波。規格住宅もトレンドに

もう一つ、無限に選択肢がある、言い換えれば決断コストが無限にかかる注文住宅の中で、『タイパ』という傾向がじわりと見てとれるといいます。

「注文住宅は依頼先からはじまって、土地、住宅ローンといった大きなことから、それこそ壁紙や取っ手ひとつまで、本当に決断の連続です。とはいえ時間も体力も限られている。そこで選択肢の一つとして考えたいのが『タイパ』にすぐれた規格住宅です。規格住宅とは、ハウスメーカーや工務店があらかじめ用意した間取り、内装、設備のなかから選ぶ建て方のこと。もちろん、オプションを加えたり、内装材を選んだりなど注文住宅ならではの自由度もあります。ハウスメーカーや工務店の構法やデザイン、考え方が好き・合うという人であれば、こんなにしっくりくる家の建て方はありません。比較検討する時間や手間が省けますし、金額面でもお手ごろ感があり、増えている印象です」(服部氏)

確かに、「自由に建てられるのが注文住宅の魅力じゃないのか」という考え方もできますが、自由すぎるとどうしていいかわからない、自分が選んでデザインや世界観を壊してしまったらイヤだという人もいることでしょう(筆者もそのタイプです)。そのためある程度、パッケージ化されていて、そこからカスタマイズしていくほうが早いというのは合理的です。

ケイアイスター不動産グループのIKI株式会社が販売する、規格型平屋注文住宅IKI。施主夫妻は、間取りはいくつか用意されていたパターンのうち3室が南に面した2LDK、壁紙の色は3タイプから白ベースのカラーを選んだ(写真撮影/片山貴博)

ケイアイスター不動産グループのIKI株式会社が販売する、規格型平屋注文住宅IKI。施主夫妻は、間取りはいくつか用意されていたパターンのうち3室が南に面した2LDK、壁紙の色は3タイプから白ベースのカラーを選んだ(写真撮影/片山貴博)

また、家づくりだからこそ、「失敗したくない」「失敗できない」というマインドも規格住宅に有利だといいなす。

「規格住宅といっても、ハウスメーカーや工務店が過去のデータを蓄積し、家事ラクの間取り、家族の団らんをつくる間取りなどといった、ノウハウを含めて提案しています。テイストも北欧風、カフェ風、インダストリアルデザインなど、各社さまざまなテイストがありますし、好みとマッチするのであれば賢い方法だと思います」(服部氏)

「無数にあるからこそ楽しい」と思うのか「規格があるからこそ選べる」と思うのか、人によって考え方は異なりますが、自分や家族にあった選択をしたいですよね。

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アフターコロナ、人気を集める間取りや設備は?

間取りや設備では、どのような流行があるのでしょうか。コロナ禍では、「エントランス入ってすぐの手洗いポーチ」「ワークスペース」などが好まれましたが、アフターコロナの今、家づくりではどのような間取りや設備が好まれているのでしょうか。

「玄関近くの手洗い、全館空調、非接触スイッチのような『おうち衛生』はブームを経て、定着しそうです。手洗いポーチは玄関近くにあると、子どもの手洗いの習慣づけにもなり、ゲストにも使ってもらいやすいという声をよく聞きます。今後、断熱等性能等級5、いわゆるZEH水準が義務化されることを考えても(※詳細は後述)、定番化していくのではないでしょうか」(服部氏)

玄関のすぐ近くに配した洗面台(写真撮影/片山貴博)

玄関のすぐ近くに配した洗面台(写真撮影/片山貴博)

玄関に入って右手側に洗面台が(写真撮影/片山貴博)

玄関に入って右手側に洗面台が(写真撮影/片山貴博)

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一方で、費用や面積が限られているなか、こんな傾向も。

「リビングとは別のくつろぎスペースを設けておく、ヌック(※)や窓際のベンチが増えている気がします。ベンチなので、日差しを浴びながらごろんと寝転んでもいいし、子どもと遊んでもいい。本を読んでもいいし、机があれば仕事スペースにもなる。リビングでソファーに座ってテレビを見る場所とは別に、こうした余白のあるスペースが好まれていますね」(服部氏)

※ヌックは小ぢんまりとした居心地のいい空間。リビング脇・片隅に設けられるケースが多い

(写真/明野設計室 一級建築士事務所)

(写真/明野設計室 一級建築士事務所)

(写真/明野設計室 一級建築士事務所)

(写真/明野設計室 一級建築士事務所)

もう一つ、今らしい家づくりの特徴として、「バルコニーをつくらない家」があるといいます。

「共働きのため、日中外に干せない代わりに、夜洗濯をして室内で干す人が増えています。室内は全館空調にしていれば窓はあけなくても空気はキレイ。だとすれば室内干しスペースを確保して、逆にバルコニーはいらないという考え方で、その分、建築コストを下げようという発想です。こちらも今後、一定の支持を集めるのではないでしょうか」と分析します。

洗濯や乾燥は、ドラム式洗濯乾燥機を使う、ガス乾燥機を入れる、サンルームや室内干しスペースをつくるなど、さまざまなやり方があります。自分たちのライフスタイルに合わせて間取りを最適化していくのであれば、いままでの当たり前にとらわれず、バルコニーナシ間取りも自然な結論ですよね。これは注文住宅ならではの良さといえるでしょう。

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建材、設備でも環境性能は欠かせない指標に

新築マンション、賃貸住宅ともに「環境への配慮」という点があがっていましたが、注文住宅も同様です。

「2024年4月からは『省エネ性能表示制度』がスタートし、2025年から『断熱等性能(外皮性能)等級4以上』かつ『一次エネルギー消費量等級4以上』への適合が必要になります。また、2030年を予定していた新築住宅のZEH基準の水準並み義務化(断熱等性能 等級5)についても、地球温暖化の急激な進行から前倒しされる可能性も出てきています。今後、そういった性能の高い住宅が世の中の平均となる中、義務化水準だけを守った家を建てるのでは、みすみす自分の家の市場価値を下げていくことにもつながります。ハウスメーカーによってはZEHが標準であるなど、ほぼこの性能を満たしていますし、それ以上の住宅も登場しています。設備でいえば、断熱性能にすぐれた窓、エコキュート、節水節電トイレ、断熱浴槽、太陽光発電システムなどは、導入時にコストがかかりますが、補助金やランニングコストで回収しやすくなっています。提案するハウスメーカーや工務店も、『この設備を入れるとこの期間で回収できる想定です』と説明し、納得して導入されているようですね」と服部氏。

断熱性にすぐれた樹脂サッシ(写真提供/LIXIL)

断熱性にすぐれた樹脂サッシ(写真提供/LIXIL)

大開口でも断熱性を高めたハイブリッド窓(写真提供/LIXIL)

大開口でも断熱性を高めたハイブリッド窓(写真提供/LIXIL)

確かにコストとベネフィットが明確になり、回収期間がわかれば導入を検討しやすいことでしょう。また、環境に配慮した点では、廃プラスチックから生み出された外装材、バイオエタノール暖炉、国産の木材をつかった建材など、さまざまな取り組みがなされていて、注目を集めています。

再資源化が困難だった廃プラスチックと廃木材を活用した「レビアペイブ」。木彫のような自然な仕上がり(写真提供/LIXIL)

再資源化が困難だった廃プラスチックと廃木材を活用した「レビアペイブ」。木彫のような自然な仕上がり(写真提供/LIXIL)

(写真提供/LIXIL)

(写真提供/LIXIL)

「住宅設備メーカー含めて、省エネ技術の開発は活発に行われていますし、新しい建材、設備が次々と登場しています。もちろん、建設コストとの兼ね合いになるので、いきなり普及する、ビッグヒットになるとは思いませんが、潮流として確実にサステナブルな家づくりというのはあると思います」(服部氏)

コロナ禍を経て、家で過ごす時間への関心が高まっている今。家づくりは時間、お金、体力のすべてが必要ですが、その分、自分たち家族にあった空間が手に入るのであれば効果は抜群です。家に暮らしをあわせるのではなく、自分たちの暮らしに合わせた家づくり。やはり人生に一度でいいからやってみたいですし、やる価値はありそう!ですね。

●取材協力
住まい情報誌『SUUMO注文住宅』編集長
服部保悠氏
『SUUMO注文住宅』

9月に多く発生する大型台風。その大雨から雨漏りを防ぐには?チェックすべき項目を紹介

2023年も、異常気象が猛威を振るっている。世界的な海面水温の上昇との関連も指摘され、酷暑の一方で大型台風や線状降水帯などによる被害も生じている。9月は、大型台風が発生するリスクが高まる時期でもある。住宅リフォーム・紛争処理支援センターでは、「雨漏りを防ぐために(安全確認シート)」をホームページに掲載し、注意を呼び掛けている。

【今週の住活トピック】
「雨漏りを防ぐために(安全確認シート)」を掲載/住宅リフォーム・紛争処理支援センター

頻発する線状降水帯への危機感は感じるが、対策はしないという人も

「雨漏りを防ぐために(安全確認シート)」を見る前に、一条工務店が発表した「防災に関する意識調査2023」の結果を見ていこう。地震に関する調査と水害に関する調査をまとめているが、“水害”については、どんな結果が出ているのだろうか。

まず、「線状降水帯による大雨の可能性がある場合、大雨警報などに先駆けた発表で、早期の備えを促すために、半日程度前から 6 時間前までに気象情報で発表しているのを知っていますか」と聞いたところ、49.1%、約半数が「知らない」と回答した。

気象庁のホームページには、“「顕著な大雨に関する気象情報」の発表基準を満たすような線状降水帯による大雨の可能性がある程度高いことが予想された場合に、半日程度前から、気象情報において、「線状降水帯」というキーワードを使って呼びかけます。”とあり、呼び掛け例として以下のようなものを紹介している。

出典:気象庁「線状降水帯に関する各種情報」より転載

出典:気象庁「線状降水帯に関する各種情報」より転載

次に調査で、「お住まいの地域で線状降水帯が発生すると予報された場合、危機感を感じて何らかの対策を取りますか」と聞くと、「危機感を感じるが対策はしない」という人が38.8%、「危機感を感じない」という人が6.1%いることが分かった。

出典:一条工務店「防災に関する意識調査2023」

出典:一条工務店「防災に関する意識調査2023」

長時間の大雨が予測される場合には、まず自宅から出ないこと、一戸建ての場合は2階以上で崖や斜面から離れた部屋に移動すること、「避難指示」などの避難情報が出された場合は早めに避難所へ行くなどが求められる。

住宅には雨漏りのリスクがあるが、後から対策することが難しい

さて、長時間の大雨で自宅に留まったとして、雨漏りがするようであれば心もとない。

住宅リフォーム・紛争処理支援センターが掲載した「雨漏りを防ぐために(安全確認シート)」によると、「住宅は、屋根や壁の部材、窓(サッシ)、玄関扉など、いろいろな部材・部品が集まってできており、それぞれ素材が異なる部材・部品を組み合わせているため、継ぎ目の雨水侵入対策がしっかりしていないと雨漏りが生じる場合がある」という。特に近年は、局地的な大雨などの発生回数が増加傾向にあるため、さらに雨漏りへの注意が必要だとしている。

一方で、雨漏りが発生した場合の原因の特定が難しいことから、住宅を建築したり取得したりする段階で、雨漏りリスクを意識することが大切だと強調している。

では、雨漏りはどこで発生するのだろうか?同センターが、木造新築住宅での「瑕疵保険の事故情報※」を分析したところ、サッシまわりなどの「外壁開口部」、「外壁面」、「勾配屋根や天窓」からが多くなっている。
※瑕疵保険(かしほけん)とは、住宅の検査と保証がセットになった保険制度。保険対象となる部分に起因する事故情報のデータベースを利用

出典:住宅リフォーム・紛争処理支援センター「雨漏りを防ぐために(安全確認シート)」住宅取得者向け資料より転載

出典:住宅リフォーム・紛争処理支援センター「雨漏りを防ぐために(安全確認シート)」住宅取得者向け資料より転載

サッシや天窓の枠の部分は外壁や屋根との継ぎ目ができる部分であり、外壁自体は常に雨にさらされる部分だ。こうした部分に雨漏りリスクがあることをまずは知っておこう。

「雨漏りを防ぐために(安全確認シート)」で詳しくチェック

「雨漏りを防ぐために(安全確認シート)」の住宅取得者向け資料には、雨漏りリスクの高い6カ所について、リスク低減のアイデアを紹介している。その6カ所とは、(1)モルタルの外壁、(2)窓(サッシ)、(3)片流れ屋根の頂部、(4)屋根の側端部、(5)屋根と外壁が接する部分、(6)天窓(トップライト)。例えば、(1)のモルタルの外壁については、次のように説明している。

出典:住宅リフォーム・紛争処理支援センター「雨漏りを防ぐために(安全確認シート)」住宅取得者向け資料より抜粋転載

出典:住宅リフォーム・紛争処理支援センター「雨漏りを防ぐために(安全確認シート)」住宅取得者向け資料より抜粋転載

それぞれの箇所については専門的になるので、ぜひ直接資料を確認してほしい。自身で雨漏りのリスクと防ぐアイデアを理解することのほか、住宅の設計者や販売事業者などに、この資料の内容を見せて、きちんと設計施工されるか説明を求めるという使い方もあるだろう。

マンションなら雨漏りはしないかというと、そうでもない。筆者が住むマンションで、大雨の翌日、1階で共用廊下を見上げたら、廊下のコンクリートの下部(見上げた階からは天井部)がふくらんでいた。雨水がたまった証だ。ただし、大規模修繕工事の際に防水工事を行って修復された。

このようにマンションであれば、管理組合が建物診断や大規模修繕を行うが、一戸建ての場合は自身でチェックして補修する必要がある。建てたときに注意を払うだけではなく、雨どいが落ち葉などでつまらないように掃除をしたり、住宅の窓まわりの継ぎ目のシーリング材に破損が見られたら修復したりといった、メンテナンスを行うことも忘れないようにしたい。

●関連サイト
住宅リフォーム・紛争処理支援センター「雨漏りを防ぐために(安全確認シート)」住宅取得者向け資料
一条工務店「防災に関する意識調査2023」

4人家族で平屋79平米のコンパクトな暮らし。「リビングを通る動線」で思春期の子ども、夫婦ともに仲良しな距離にこだわりました

“家族4人が暮らす一戸建てマイホーム”と聞けば、多くの人が、2階建て・3LDK以上をイメージするのではないでしょうか。それより狭く、最近需要が伸びている約70平米前後の“コンパクト平屋”は、実はこのような子どものいるファミリーのマイホームとしても選ばれているようです。今回訪れたのは、40代のご夫妻と小学生・中学生が暮らす79平米の平屋。家族それぞれのプライバシーは? 部屋数は十分とれるの? 収納は? 家族4人平屋暮らしのリアルを取材しました。

広すぎた築40年超の家から、コンパクトな平屋に住み替え

5月の陽射しの強い日、千葉県の石井さん宅を訪ねました。住宅街に現れたのは、広々とした芝生の向こうに建つカバードポーチ(屋根付き玄関ポーチ)が印象的な平屋。ブルーグレーの外壁に白い枠の窓が映えます。アメリカの映画に出てくるさまざまな色の外壁やファサードにデッキやテラスのある家が並ぶ住宅街を訪れたような気持ちになる佇まいです。

もともとは北米で開発されたアスファルトシングルという屋根材を使用。瓦と比較して薄い素材で、アメリカの住宅に使われている。軒先がカバードポーチの庇(ひさし)と一体のデザイン(写真撮影/北島和将)

もともとは北米で開発されたアスファルトシングルという屋根材を使用。瓦と比較して薄い素材で、アメリカの住宅に使われている。軒先がカバードポーチの庇(ひさし)と一体のデザイン(写真撮影/北島和将)

「リビング・ダイニングは、落ち着いた雰囲気にしたかったので吹き抜けなど開放感のあるデザインは求めませんでした」と正美さん(妻)(写真撮影/北島和将)

「リビング・ダイニングは、落ち着いた雰囲気にしたかったので吹き抜けなど開放感のあるデザインは求めませんでした」と正美さん(妻)(写真撮影/北島和将)

迎えてくれた正美さん(妻:46歳)に導かれて中に入ると、開放的な外観から一転して、リビング・ダイニングは、隠れ家カフェのような佇まいです。正美さんは、夫(46歳)と、長女(13歳)、長男(10歳)の4人家族。平屋は、築40年以上の中古住宅を建て替えたものです。

「もともと住んでいた中古住宅は築40年を超えていて、雨漏りや隙間風に悩まされていました。木造2階建てで約83平米、1階は二間続きの和室になっており、奥の部屋を居間として使っていたため、手前の部屋は通り道としか使っていませんでした。2階の部屋数は2部屋でしたが1つは物置と化しており、あまり人が出入りすることがなかったんです。階段のスペースも、無駄だなと感じていました」(正美さん)

庭の芝生や敷石は家族皆で敷いたもの。もともとの庭にあったサルスベリの木が、庭のシンボルに(写真撮影/北島和将)

庭の芝生や敷石は家族皆で敷いたもの。もともとの庭にあったサルスベリの木が、庭のシンボルに(写真撮影/北島和将)

「子ども2人が過ごす時間はわずか20年ほど。その後のふたり暮らしを考えると広い家は必要ない」と考えていた夫妻。建て替えるなら平屋にしようと決めていました。将来を見越して建て替えをする上で、いちばん大切だったのは、家族と距離が生まれないこと。子どもが独立するまで家族の時間を大切に過ごせる家へ……。2016年、下の子どもが3歳になったのを機に、石井さんの家づくりがスタートしました。

関連記事:2023年住宅トレンドは「平屋回帰」。コンパクト・耐震性・低コスト、今こそ見直される5つのメリットとは?

海外映画に出てくる家に憧れ。デザインはアメリカンハウスを希望

アメリカ映画に出てくるようなカバードポーチ(屋根付き玄関ポーチ)に憧れていた夫妻。インターネットでアメリカンハウスの施工例が多い建築会社を見つけ、建築中の家を見学した上で、依頼することにしました。

希望したのは、板を横に重ねて張り上げていくラップサイディングの壁と、瓦より薄くて軽いアスファルトシングルの屋根。いずれも伝統的なアメリカンハウスに用いられているものです。

アメリカンハウスの特徴のひとつラップサイディングの外壁。色は悩みに悩んで落ち着いたブルーグレーに。建築会社の「よりアメリカンハウスらしい」という提案でポーチの柱は太め(写真撮影/北島和将)

アメリカンハウスの特徴のひとつラップサイディングの外壁。色は悩みに悩んで落ち着いたブルーグレーに。建築会社の「よりアメリカンハウスらしい」という提案でポーチの柱は太め(写真撮影/北島和将)

間取りと動線でこだわったのは、帰宅した家族がリビングを通って自室に行けること。

「家事がしやすいのも大事ですが、家族がリビングを通る動線は絶対条件でした。子どもが思春期になっても、お母さんの顔を見ずに部屋に行くのは、嫌だなあと」(石井さん)

完成したアメリカンハウスは、玄関を入ってダイニング・リビングを通り、主寝室、子ども部屋に行く動線です。「家の中に使わないスペースがあるのはもったいない」と、家族4人にとって広すぎず狭すぎずの79平米にしました。

延床面積79平米・3LDK。DKは、約28平米。ウォークインクローゼットのある洋室が夫妻の寝室で、玄関側の2室はもともとつながっていたが、点線部分にDIYで壁を新設し、別々の部屋として使っている(写真撮影/JKホーム)

延床面積79平米・3LDK。DKは、約28平米。ウォークインクローゼットのある洋室が夫妻の寝室で、玄関側の2室はもともとつながっていたが、点線部分にDIYで壁を新設し、別々の部屋として使っている(写真撮影/JKホーム)

長女の部屋。右側がDIYで新設した壁。ベニヤに部屋の雰囲気に合う木目調の壁紙を張った(写真撮影/北島和将)

長女の部屋。右側がDIYで新設した壁。ベニヤに部屋の雰囲気に合う木目調の壁紙を張った(写真撮影/北島和将)

長男の部屋。お気に入りは、「窓が大きくて開放的」なところ。以前の家には、断熱材が全く入っておらず寒かったが、断熱材と二重サッシの窓で、冬も快適(写真撮影/北島和将)

長男の部屋。お気に入りは、「窓が大きくて開放的」なところ。以前の家には、断熱材が全く入っておらず寒かったが、断熱材と二重サッシの窓で、冬も快適(写真撮影/北島和将)

来客時は、カウンターテーブルが活躍。友人家族の計20名以上が集まることもあるそう。普段は、カウンターと高さをそろえて夫がDIYしたテーブルを食卓として使用(写真撮影/北島和将)

来客時は、カウンターテーブルが活躍。友人家族の計20名以上が集まることもあるそう。普段は、カウンターと高さをそろえて夫がDIYしたテーブルを食卓として使用(写真撮影/北島和将)

正美さんのお気に入りは、キッチンです。

「料理や洗い物をしながら、家族の様子がよくわかります。『玄関から必ずリビングを通る間取りにしてよかったね』と夫と話しています。個室はあるのに、家族全員リビングにずっといるんですよね」と笑います。

子どもたちからも、「どこからでもリビングに行きやすい」「どこにいても家族の声が聞こえる」と好評です。

思い思いに過ごす石井さんファミリー。ソファに4人でぎゅうぎゅうに座って一緒にテレビを見ることも(写真提供/正美さん)

思い思いに過ごす石井さんファミリー。ソファに4人でぎゅうぎゅうに座って一緒にテレビを見ることも(写真提供/正美さん)

「部屋がつながっているから、エアコンを各自がつけなくても、家中が快適な温度です。このあたりは、プロパンガスで、ガス代が高いのですが、エコキュートを設置し、夜間割安のプランにして、オール電化にしたこともあり、光熱費が格段に安くなりました。家が完成したあと、高齢の愛犬が寝たきりになってしまったんです。大型犬を抱っこしてトイレをさせていたので、そのまま出られて掃除しやすいカバードポーチに助けられました。犬を介護しながら、自分の将来を考えても平屋でよかったなあって思っていました」(石井さん)

ポーチのタイルは、アンティークの雰囲気があるものをセレクト。汚れも目立ちにくい(写真撮影/北島和将)

ポーチのタイルは、アンティークの雰囲気があるものをセレクト。汚れも目立ちにくい(写真撮影/北島和将)

コストを抑えるため、洗面台やライトは施主支給に

平屋は、2階建てに比べて、基礎や屋根の面積が広いため坪単価が高くなりがち。石井邸では、設備や材料でコストを削減していますが、デザイン性にできるだけこだわるため、洗面台やライトはインテリアに合わせて石井さん自ら購入し、建築会社に支給(通称、施主支給)して取りつけてもらいました。もともと、ダイニングとリビングの床には、無垢材を使おうと考えていましたが、コスト面から傷・汚れに強いラミネートフロアを薦められイメージに近い木目調のデザインを選びました。

洗面台は正美さんが予算内でイメージに近いデザインを探した(写真撮影/北島和将)

洗面台は正美さんが予算内でイメージに近いデザインを探した(写真撮影/北島和将)

さまざまなタイプの照明を設置しているが、色味をそろえることで統一感が出ている(写真撮影/北島和将)

さまざまなタイプの照明を設置しているが、色味をそろえることで統一感が出ている(写真撮影/北島和将)

ニューヨークの街角で見かけるような両面の壁掛け時計(写真撮影/北島和将)

ニューヨークの街角で見かけるような両面の壁掛け時計(写真撮影/北島和将)

建築会社の提案で取り入れたアーチ壁(Rの垂れ壁)(写真撮影/北島和将)

建築会社の提案で取り入れたアーチ壁(Rの垂れ壁)(写真撮影/北島和将)

各部屋をまわると気になることが。家族4人に対して、収納が少ないのでは?

「主寝室にある3畳足らずのウォークインクローゼットに、家族全員の洋服を収納しています。もともとミニマムな暮らしをしてみたかったんです。以前の2階建てから平屋にする際に、物を捨てました。空間があるといらないものも残してしまいますが、これしかないと思えば、減らせるものです。すっきりして気持ちがいいですよ」(正美さん)

主寝室にある3畳足らずのウォークインクローゼットに1年分の家族4人の服を収納(写真撮影/北島和将)

主寝室にある3畳足らずのウォークインクローゼットに1年分の家族4人の服を収納(写真撮影/北島和将)

玄関には十分なシューズクロークを設けたので、靴だらけになる心配なし。リビングのアーチ壁と響き合うニッチ(壁をくぼませてつくった飾り棚)に鍵を吊るして。何気ないけどおしゃれ!(写真撮影/北島和将)

玄関には十分なシューズクロークを設けたので、靴だらけになる心配なし。リビングのアーチ壁と響き合うニッチ(壁をくぼませてつくった飾り棚)に鍵を吊るして。何気ないけどおしゃれ!(写真撮影/北島和将)

最後に、平屋にしなければよかったと思うことはありますか?と直球な質問をぶつけると、「私がひとりになれないことかな」と苦笑する正美さん。

「リビングで家族がずっとしゃべっているので、静かになりたい時になれない(笑)。思春期の子どもだと距離が近すぎて嫌がるかもしれないけれど、今のところ、子どもたちから不満は出ていません。二人暮らしの両親も『掃除や移動が楽そう。うちも平屋がいいなあ』ってうらやましがっています」(正美さん)

コンパクトな平屋は4人家族には狭いのでは?と思っていましたが、家族が自然と集えるなどのメリットもあるのですね。子どもが独立したあとの二人暮らしを想定して建てた平屋ですが、子どもたちは「ずっと住みたい!」と話しているそうです。

●取材協力
株式会社リビングライフ・イノベーション

住宅購入者の関心が高いワードはやはり【フラット35】、「住宅ローン減税」!購入時に知るべき制度も解説

リクルートが「『住宅購入・建築検討者』調査(2022年)」を公表した。この調査では、住宅の購入や建築を検討するうえで、知っておきたい制度などについての理解・関心度も聞いている。その結果、理解・関心度の高いワードの多くが、住宅ローンや減税に関するものだということが分かった。

【今週の住活トピック】
「住宅購入・建築検討者」調査(2022年度)公表/リクルート

住宅購入・建築検討者は一戸建て派が多数を占める

調査は、首都圏、東海圏、関西圏の三大都市圏と政令指定都市のうち札幌市、仙台市、広島市、福岡市に住む、20歳から69歳の男女で、過去1年以内に住宅の購入・建築、リフォームについて具体的に検討した人を対象に行われた。

検討している住宅の種別(複数回答)は、「注文住宅」が過半数の56%で、「新築一戸建て」32%、「中古一戸建て」29%、「新築マンション」32%、「中古マンション」26%、「(現在住む家の)リフォーム」15%となっている。「一戸建てか、マンションか」を聞く(単一回答)と、「ぜったい」と「どちらかといえば」の合計で、「一戸建て派」が63%、「マンション派」が22%と、一戸建て派が多数を占める結果となった。

また、検討している物件に、「永住する」と考えているのは45%、「将来的に売却を検討している」のは24%、「将来的に賃借を検討している」のは5%だった。

過半数が名前も内容も知っている、【フラット35】、「リノベーション」、「住宅ローン減税」

この調査では、「税制・優遇制度などへの理解・関心」について、詳しく聞いている。聞いた税制・優遇制度は、「今後創設予定の税制・優遇制度」、「住宅購入に関する税制・優遇制度」、「住宅購入に関する金利・補助金」、「物件の構造・仕様、取引、他に関するもの」に大別され、それぞれ複数項目を聞いている。

その項目の中で、「言葉も内容も知っている」と回答した割合(以降は、「認知度」と表記)の多いものを挙げてみよう。

■認知度の高い項目(上位10項目)

順位制度名等認知度1【フラット35】75%2リノベーション63%3住宅ローン減税※56%4【フラット35 S】46%4空き家バンク46%6固定資産税の減額措置45%6スマートハウス45%8贈与税の特例42%9認定長期優良住宅41%10住宅リフォームの減税制度40%※住宅ローン減税については、さらに細かく聞いているが、順位としては省略した。
リクルート『住宅購入・建築検討者』調査(2022年度)を基に筆者が作成

認知度の上位には、住宅ローンと減税に関するものが多く入っているのが目立つ。ローンと税金は多くの人に関係するだけに、認知度が高くなっているのだろう。ちなみに、認知度が低かったのは、「BELS」(23%)や「安心R住宅」(25%)だった。

【フラット35】と「住宅ローン減税」のどこまで知っている?

この調査では、回答者に対して言葉とその内容について説明文を提示し、そのうえで、知っているかどうか聞いている。その説明について、紹介しておこう。

まず、1位の【フラット35】と4位の【フラット35 S】。

【フラット35】全期間固定金利の住宅ローンである【フラット35】において、2023年4月よりすべての住宅について、省エネ基準への適合を求める制度の見直しが行われる。【フラット35 S】一定の基準を満たした住宅を取得する場合、一般の住宅より金利を引き下げる制度。

住宅金融支援機構と民間金融機関が提携して提供する【フラット35】だが、ポイントは、2023年4月以降は省エネ基準に適合していないと利用できないことだ。金利を引き下げる優遇制度である【フラット35 S】は、すでにZEHなど省エネ性の高い住宅ほど金利が優遇される仕組みに変わっている。

2位の「住宅ローン減税」については、「返済期間10年以上の住宅ローンを利用して住宅を購入した場合に、住宅ローン残高の0.7%を所得税等から控除」と概要を説明しており、認知度は56%になっている。実は、調査ではさらに細かく聞いている。

【住宅ローン減税×環境性能】環境性能の優れた住宅では、減税の対象となる借入限度額が上乗せになる。【住宅ローン減税×中古OK】新耐震基準適合住宅(1982年以降に建築された住宅と定義)であれば、住宅ローン減税が適用される。【住宅ローン減税×増改築OK】自宅の増改築でも基準を満たせば、住宅ローン減税が適用される。【住宅ローン減税×新築床面積】2023年末までに建築確認を受けた新築住宅であれば、床面積が40平米以上50平米未満でも適用される。(それより以前は床面積50平米以上で適用対象)【住宅ローン減税×耐震改修】新耐震基準を満たさない中古でも、取得後一定期間内に耐震改修して基準を満たせば、住宅ローンが適用される。

いずれについても、認知度は46%~51%と高く、住宅ローン減税については細かい適用条件まで理解している人が多いことがわかる。

リノベーションなど認知度の高いワードを再確認

以下、上位に挙がった項目について、説明していこう。

リノベーション既存の建物に大規模な改修工事を行い、用途や機能を変更して性能を向上させたり付加価値を与えること。空き家バンク地方自治体が、空き家の賃貸・売却を希望する所有者から提供された情報を集約し、空き家をこれから利用・活用したい方に紹介する制度。空き家対策の一つとして注目されている。固定資産税の減額措置2024年3月末までに新築住宅を取得した場合、固定資産税が3年間(マンション等の場合は5年間)、2分の1に減額される。スマートハウス太陽光発電システムや蓄電池などのエネルギー機器、家電、住宅機器などをコントロールし、エネルギーマネジメントを行うことで、家庭内におけるエネルギー消費を最適化する住宅。贈与税の特例住宅取得等資金として、子や孫が親や祖父母から贈与を受ける場合、通常の住宅で500万円、省エネ等住宅で1000万円まで贈与税が非課税になる。認定長期優良住宅耐震、省エネ、耐久性などに優れた住宅である長期優良住宅と認定されると、所得税、登録免許税、不動産取得税、固定資産税が軽減される。(住宅ローン減税では借入限度額が上乗せされる)住宅リフォームの減税制度耐震改修、バリアフリー対応、省エネ対応、三世代同居対応、長期優良住宅化対応の工事を行うと所得税等の控除がある。リクルート『住宅購入・建築検討者』調査(2022年度)を基に筆者が作成

少し補足説明をしておこう。
「リノベーション」については明確な定義がないのだが、住宅業界では一般的に、劣化した部分を建築当時の水準に改修するだけでなく、今の生活に合うように機能を引き上げる改修を行うことをいう。そのため、大規模な改修工事になることが多い。

「空き家バンク」は、かつては自治体ごとに公開しているホームページを見に行くしかなく、使いづらいものだったが、いまは民間の不動産ポータルサイトによって統一した内容で全国の空き家が探せるようになっている。

「スマートハウス」は、一般的にHEMS (home energy management system) と呼ばれる住宅のエネルギー管理システムで、家庭の電気などのエネルギーを一元的に管理する住宅のこと。IT技術を活用した住宅としてはほかに、IoT住宅(アイオーティー住宅。インターネットで住宅設備や家電などをつなげてコントロールできる住宅)などもある。IT技術によって、今後も多くのものがホームネットワークでつながり、安心安全や健康などの住生活の向上も期待されている。

ほかは、主に減税に関する項目が上位に挙がった。いずれも期限付きの減税制度となっている。期限がくると延長されるか、縮小されるか、終了するかになるので、注意が必要だ。

知っておきたい「新築住宅の省エネ基準適合義務化」と「インスペクション」

最後に、認知度が高くはなかったが、知っておきたい項目について紹介したい。それは「2025年新築住宅の省エネ基準適合義務化」(26%)と「インスペクション(建物状況調査)」(32%)だ。

新築住宅、特に一戸建てのような小規模な建築物にも、省エネ基準への適合が義務化されることになっている。適合義務化は、2030年までにZEH水準まで引き上げる予定となっている。こうした新築住宅への義務化によって、既存の住宅と省エネ性能に開きができる点も押さえておきたい。

「インスペクション」(32%)はもっと認知度が高いと思っていたので、少し意外に思った。中古住宅の売買において、宅地建物取引業者は、建物状況調査の事業者をあっせんするかどうかや、対象の住宅が建物状況調査を行っているかどうかなどを伝えることになっている。建物の状態はしっかり把握しておきたいものなので、認知度が上がることを期待したい。

さて、説明文が簡単に記載されていたとしても、「言葉も内容も知っている」というレベルは人それぞれだろう。何となく分かっているというレベルから、適用条件や期限まで正確に把握しているレベルまでさまざまある。実際に制度を利用しようとするときには、正確に理解していることが求められるので、この機会にぜひ各制度への理解を深めてほしい。

●関連サイト
リクルート「住宅購入・建築検討者」調査(2022年度)

共働き夫婦が建てた67平米コンパクト平屋。エアコン1台で夏冬も家中快適なアメリカンハウス

家を建てるとなれば、かつては「2階建て3LDK以上」が一般的でしたが、最近では約70平米前後のコンパクトな平屋の需要が見られるようになりました。子どもが巣立ったのをきっかけに2LDK・約67平米の平屋を新築したTさんご夫妻の住まいの事例から、“コンパクト平屋”の魅力を探ります。

子育てを終えたのをきっかけに、夫婦2人の家づくりをスタート

賃貸住宅に住んでいたTさんご夫妻(夫30代・妻40代)は、お子さんが巣立ち、2人だけの生活になったのを機にマイホームを検討しはじめます。

大きな壁になったのは資金計画。2人は新築のために貯蓄してきたわけではなかったため、当初は「無理かもしれない」と思っていたそう。しかし偶然、依頼した建築会社が不動産業も営んでいたため、「夫の年齢であれば十分な融資が下りること」「収入に見合った予算の立て方」などのアドバイスを受け、家づくりが現実のものになります。

Tさんご夫妻(写真撮影/片山貴博)

Tさんご夫妻(写真撮影/片山貴博)

家を建てるにあたり、Tさん(妻)にはある譲れない思いがありました。

「私が思春期のとき、実家が2階建てで、2階の子ども部屋にこもりがちになっていました。それもあって、家のつくり次第で家族の過ごし方が変わることを、身をもって知っていたのです。現に子育て期間を過ごした賃貸アパートはワンフロアだったので、子どもたちと料理をしたり気さくに会話したり、コミュニケーションが取れて本当によかったなと。夫婦2人にはなりますが、こうした背景から“コンパクトな平屋”にすることは外せませんでした」

年齢を重ねて体が思うように動かなくなったとき、平屋であれば負担が少ないはず。また、夫は車いじりが大好きで、ガレージでメンテナンスをするほか、屋外で食事や庭づくりをしたいとも思っていました。建坪を抑えれば、庭のスペースを最大限に確保できる。さまざまな点で小サイズの平屋は理にかなっていたと言います。

妻の意見に夫は大賛成。
2年かけていくつかのエリアを見て回り、埼玉県内にある約120坪の土地を購入しました。

ブルーを利かせたリラックス感あふれるアメリカンハウスが完成

夫が元来、車好きだったことや、妻のインテリアの嗜好から“アメリカンハウス”に惹かれていた2人。2021年10月に2LDK・約67平米の平屋を完成させました。

本体価格1000万台前半。2LDK・約67平米。竣工年月2021年10月(画像提供/デザインハウス・エフ)

本体価格1000万台前半。2LDK・約67平米。竣工年月2021年10月(画像提供/デザインハウス・エフ)

アメリカンハウスの世界に忠実に屋根やポーチをデザインしたT邸。敷地は農地転用されたばかりで周辺が静かだったことが決め手に。植樹したヤシの木もこだわり。外構、ヤシの木の植樹はヤシの木を販売している会社「ザルゲートガーデン」に依頼(写真提供/Tさん)

アメリカンハウスの世界に忠実に屋根やポーチをデザインしたT邸。敷地は農地転用されたばかりで周辺が静かだったことが決め手に。植樹したヤシの木もこだわり。外構、ヤシの木の植樹はヤシの木を販売している会社「ザルゲートガーデン」に依頼(写真提供/Tさん)

照明もこだわり。夜は昼間と違った趣に(写真提供/Tさん)

照明もこだわり。夜は昼間と違った趣に(写真提供/Tさん)

「今まで子育てに忙しくて暮らしにあまり手をかけられなかったので、新居には理想を込めました」(妻)

室内はブルーや白の壁・ブラウンの床を基調にした明るく穏やかな空間。LDKを吹き抜けにし、窓を大きく取ったことで、ミニマムな平屋とは思えない開放感が広がります。
リビングのソファに腰掛けると、窓の外にはやさしく葉を揺らすヤシの木が。まるでアメリカ西海岸を訪れたかのようなムードです。

T邸では将来、体が思うように動かせなくなったときに備えて床をフラットにしていますが、部屋ごとに床に異なる素材を使い、アクセントウォールを取り入れるなどして、各スペースの印象が変わるようにしています(写真撮影/片山貴博)

T邸では将来、体が思うように動かせなくなったときに備えて床をフラットにしていますが、部屋ごとに床に異なる素材を使い、アクセントウォールを取り入れるなどして、各スペースの印象が変わるようにしています(写真撮影/片山貴博)

庭を望むリビングのソファは、とくに夫が気に入っている場所(写真撮影/片山貴博)

庭を望むリビングのソファは、とくに夫が気に入っている場所(写真撮影/片山貴博)

高低差をつけてバランスよく配された植物が、くつろぎのムードを演出。スペースごとの色調に合わせ、ダイニングには木製ブラインド、リビングにはブルーのカーテンを採用しました(写真撮影/片山貴博)

高低差をつけてバランスよく配された植物が、くつろぎのムードを演出。スペースごとの色調に合わせ、ダイニングには木製ブラインド、リビングにはブルーのカーテンを採用しました(写真撮影/片山貴博)

関連記事:2023年住宅トレンドは「平屋回帰」。コンパクト・耐震性・低コスト、今こそ見直される5つのメリットとは?

別々のことをしていても近くに感じられる心地よさは平屋ならでは

T邸では玄関に入るとすぐに洗面室・トイレ・脱衣室があります。とくに洗面室には直接、玄関からアクセスできる通路が設けられていて、帰ってきてすぐ手洗い・うがいをし、そのまま脱衣室で汚れた服から着替えることが可能。もちろん、LDKには掃き出し窓があるので、こちらからも屋外に気軽に行き来することが。
庭でたくさんの時間を過ごす2人ならではの間取りと動線です。

「家中を滞りなく動き回れるよう、2つの個室以外は極力、区切りをなくしました。どこでもつながりを感じられて、逃げ場がないのがよいところ。喧嘩しても、いつまでも口を利かないわけにはいきませんから(笑)」(妻)

「2階建てよりは関わりを持ちやすいと感じている」と語るご夫妻。
休日はソファでくつろぐ夫の傍らで、妻がダイニングのテーブル席で副業のアーティフィシャルフラワーの作品づくり。別々のことをしながらひとつの空間で過ごす心地よさを、この平屋に住むようになってますます実感していると言います。

玄関に入ると右手に洗面室への出入口とシューズクローク。向かいの2つのドアは、右がトイレで左が脱衣室。畑仕事などの後、LDKに入る前に汚れを落とせます(写真撮影/片山貴博)

玄関に入ると右手に洗面室への出入口とシューズクローク。向かいの2つのドアは、右がトイレで左が脱衣室。畑仕事などの後、LDKに入る前に汚れを落とせます(写真撮影/片山貴博)

身支度の時間が重なると洗面台が取り合いになるため、カウンターを長めに取って鏡を2人分配置。「玄関のすぐ近くに洗面台を配したプランは、とくにコロナ禍で役立ちました」(妻)(写真撮影/片山貴博)

身支度の時間が重なると洗面台が取り合いになるため、カウンターを長めに取って鏡を2人分配置。「玄関のすぐ近くに洗面台を配したプランは、とくにコロナ禍で役立ちました」(妻)(写真撮影/片山貴博)

風が強い日が多い地域のため、脱衣室(兼ランドリールーム)を広めにしてたくさん部屋干しをできるよう工夫(妻)(写真提供/デザインハウス・エフ)

風が強い日が多い地域のため、脱衣室(兼ランドリールーム)を広めにしてたくさん部屋干しをできるよう工夫(妻)(写真提供/デザインハウス・エフ)

アーティフィシャルフラワーの作品は、妻が試しに手づくりしたことから虜になり制作しているもの。将来は家のガレージで教室を開きたいと考えています(写真撮影/片山貴博)

アーティフィシャルフラワーの作品は、妻が試しに手づくりしたことから虜になり制作しているもの。将来は家のガレージで教室を開きたいと考えています(写真撮影/片山貴博)

作業部屋もつくりました(写真撮影/片山貴博)

作業部屋もつくりました(写真撮影/片山貴博)

屋内外をつなぐミニマムな平屋は、ご近所づき合いにも好影響

引越してきて約1年半、ドライガーデンに挑戦したり、庭で食事をしたり、自分たちらしく暮らしを満喫している2人。アメリカンハウスの外観が目を引くこともあってか、その光景を見てよく道行く人が声をかけてくれるのだそう。

「子どもがいないと地域に溶け込みにくいイメージがありましたが、そんなことはまったくなくて、BBQに飛び入りで参加してもらって仲良くなり、プライベートでご飯を食べに行ったり、古くから住むお年寄りに家庭菜園で育てた野菜をおすそ分けしてもらったり。豊かな交流を広げています」(夫)

庭から玄関・LDKそしてまた庭へ。屋内外を行き来しやすい“コンパクト平屋”だからこそ、人との距離が縮まっていく――。その好循環も、ここに住む魅力のひとつと言えるでしょう。

軒先には英字の標識を立てた愛らしいドライガーデンが。手前の花壇には、季節ごとに異なる花々を植えています(写真撮影/片山貴博)

軒先には英字の標識を立てた愛らしいドライガーデンが。手前の花壇には、季節ごとに異なる花々を植えています(写真撮影/片山貴博)

フラットな床で将来の備えも万全。一方で防犯対策は念入りに

Tさん(妻)は長年、看護師をしてきたことから、さまざまな介護の現場を見てきたそう。そのため「将来の万一のときに備えて」というのも、平屋を選んだ大きな理由です。仮に車椅子になったとき、平屋だと上り下りがない分、2階建てより負担が少ないと言えますが、床の段差をなくし、さらにスムーズに移動できるようこだわりました。

キッチンの壁は掃除しやすい人造大理石を採用。現在ゴミ箱を収めているカウンター下の空洞は、将来、車椅子を入れて座ったまま料理ができるようにするためのアイデア(写真撮影/片山貴博)

キッチンの壁は掃除しやすい人造大理石を採用。現在ゴミ箱を収めているカウンター下の空洞は、将来、車椅子を入れて座ったまま料理ができるようにするためのアイデア(写真撮影/片山貴博)

「過ごしやすさの話で言うと、エアコンはLDKに1台備えただけ。部屋数を最小限にとどめた分、光熱費を抑えられていますし、掃除もラクにできます。また、意図的に収納スペースを少なくし、ものを目に届きやすくし、管理しやすくする工夫もしました」(夫)

平屋のメリットを享受しているご夫妻ですが、懸念している点がひとつあると言います。

「『平屋は防犯面で気をつけた方がいい』と聞くため、セキュリティサービスに入るほか、窓に防犯フィルムを貼る、フェンスを装備するなどして対策を徹底しています」(夫)

平屋は今後の2人の暮らしを魅力的なものにする、ベストな選択

「屋外との一体感を得られ、家中を移動するときに負担が少なく、ご近所ともつき合いやすくて。これ以上ないくらい自然体でいられるのが、平屋のよさかなと。
今後はガレージとウッドデッキを完成させたいです」(夫)

「何か地域のために役立つことができたらとも考えている」と笑顔を見せる2人。
妻は、幸運にも迎えられた新しい日常をこう話します。

「思えば私の小さいころからの夢は、看護師になって平屋を建てることでした。それが実現したのは夫のおかげ。とても感謝しています。
今は子どもが手を離れ、時間的なゆとりができていますが、そのことと平屋とが融合し、いい状態で過ごせていると感じます。
リビングからヤシの木を眺めては、夫婦で『いいね、うちは』と話しているんです(笑)」(妻)

2人だけの生活になってたどり着いたTさんご夫妻の平屋。
自分たちらしい解である小さな住まいからは、予想を上回る幸せが生まれているようです。

あたたかい季節は週1・2回、庭に出て音楽やお酒を楽しんでいるご夫妻。「夜、家から見る庭があまりにきれいで、自宅にいることが信じられない気持ちになります」と話します(写真撮影/片山貴博)

あたたかい季節は週1・2回、庭に出て音楽やお酒を楽しんでいるご夫妻。「夜、家から見る庭があまりにきれいで、自宅にいることが信じられない気持ちになります」と話します(写真撮影/片山貴博)

●関連記事
・2023年住まいのトレンドワードは「平屋回帰」!流行は”コンパクト”で”高コスパ”な平屋暮らし
・実家じまい跡に65平米コンパクト平屋を新築。家事ラク&ご近所づきあい増え60代ひとり暮らしを満喫
・50代から始めた終活でコンパクト平屋を選択。家事ラク・地震対策・老後の充実が決め手、築42年がリフォームで大変身
・2階建て実家をコンパクト平屋に建て替え。高齢の母が過ごしやすい動線、高断熱に娘も満足
・40代共働き夫婦、群馬県の約70平米コンパクト平屋を選択。メダカ池やBBQテラスも計画中で趣味が充実
・50代人気ブロガーRinさんがコンパクト平屋に住み替えた理由。暮らしのサイズダウンで夫婦円満に

●取材協力
デザインハウス・エフ

2023年住宅トレンドは「平屋回帰」。コンパクト・耐震性・低コスト、今こそ見直される5つのメリットとは?

一戸建てのマイホームといえば、2階建て、3LDK以上というのがこれまでの既定路線。いま、家族のあり方やライフスタイルの多様化にともない、70平米前後までのコンパクトな平屋が今需要を伸ばしています。ミニマムな広さと価格で自分らしい平屋暮らしを楽しむ人たちの声をもとに、マイホームの選択肢として注目が高まる「コンパクト平屋」の魅力を探ります。

なぜ今、コンパクト平屋が人気なのか

ここ数年、住宅資材や土地価格の高騰で、従来よりもコストダウンした住宅が関心を集めるようになりました。また、子育てファミリー世帯から、単身や高齢者夫婦、ひとり親世帯(シングルファーザー・シングルマザー)といった多様な世帯が増えたことにより、住宅ニーズも変化してきています。さらに、災害で資産を失うことや、終活、実家じまいなどでモノを多く持つことへの課題に直面し、“ミニマルな暮らし”が注目されています。
そうした背景から、年々需要を伸ばしているのが、コンパクトな平屋です。新しいマイホームの選択肢として、平屋住まいを選んだ方たちの事例取材を進めると、平屋が支持される5つのポイントが見えてきました。

平屋が支持される5つのポイント
1 上層階の重さがかからず、地震に強い構造がつくりやすい
2 施工コストが安く、購入できる人の幅が広がった
3 ランニングコストが安く、高性能な家が実現できる
4 アメリカンテイスト、ログハウスなど、デザインバリエーションの増加
5 ミニマリスト、終活など、モノを持たない暮らしへのシフト

それでは、具体的に見ていきましょう。

ポイント1 熊本地震以降、地震に強い平屋の需要が急増

熊本地震以降、全国と比較して熊本での平屋の需要が急増したことは、平屋の耐震性に着目する人が増えたことを物語っています。

2016年、震度6と震度7を立て続けに観測した熊本では、木造2階建て住宅の1階部分が上階に押し潰される形での倒壊が数多く見られました。こうした経験から、再建築や新築の際需要が増加したのが、シンプルで安定した構造の平屋の住まいでした。

全国と熊本の平屋棟数・着工割合

2016年以降、全国と比較して、熊本の平屋の割合が増加したことがわかります(データ/国土交通省より)

熊本県熊本市の工務店、グッドハート株式会社の営業・宮本紬麦さんにお話をうかがうと、「熊本地震から5年以上経っても、震災後の家づくりとしてやはり耐震性を気にかける方は多い印象です。当社で2022年度に完工した26棟のうち、10棟が平屋でした。セールスポイントであるローコストや自由設計という点にまず着目して来られる方からも、耐震性能の話は確実に出てきます」
地震に強い構造がつくりやすいということが、平屋を選ぶ大きな理由のひとつになっているようです。

外観と内観

(写真提供/グッドハート)

平屋が耐震性に優れているのは、バランスが取りやすい安定した構造であること、また建物の重心が低いため揺れにくいことが挙げられます。家にかかる重量という点でも、2階建て以上の建物と比べて軽いことから、倒壊のリスクは軽減されるといえます。
加えて、玄関や窓から屋外に逃げやすいという点も、平屋のメリットでしょう。

子どもが巣立ったのを機に、2階建ての家からリフォーム済み中古の平屋に移り住んだSさん夫妻(栃木県・夫60歳、妻52歳)。以前は福島県にお住まいで、東日本大震災で大きな地震も経験しています。「前の家では小さな地震でも2階にいると揺さぶられるように感じることがありましたが、平屋に住んでからはそこまでの揺れを感じたことがありません。いざ大きな地震や火災が起きても、足腰に負担をかけずすぐに外に逃げ出せると思うと、安心感があります」と言います。

中古の平屋をリフォーム

中古の平屋をリフォームし、夫妻と愛犬で第二の人生を楽しんでいるSさん宅(写真撮影/masaru tsurumi)

関連記事:50代から始めた終活でコンパクト平屋を選択。家事ラク・地震対策・老後の充実が決め手、築42年がリフォームで大変身

ポイント2 施工コストが低いから、多くの人の手に届きやすい

一般的に、階段や2階トイレの確保、建築中の足場代などがより必要な2階建て住宅と比べ、施工コストが抑えられる平屋。太陽光発電、高断熱といった機能性を追求しつつ、70平米前後で1500万円を切るローコスト新築住宅も登場しています。手元に老後資金を残したいシニア世帯や、住宅ローンの借入額に不安を感じていたシングル世帯、ひとり親世帯など、さまざまな人に手が届きやすい価格帯といえます。

夫と2人、マンションから住み替えたRinさん(千葉県・50代)の平屋は、約60平米で建築費は1600万円台。子どもが就職し、教育費がかからなくなったタイミングでの購入でした。「夫が住宅ローンを組める年齢だったので、10年で完済する予定で住宅ローンを組みました」と話します。

Rinさん宅

夫と二人暮らしをしているRinさん宅。面積は以前のマンションより2割ほど小さくなりました(写真提供/Rinさん)

関連記事:50代人気ブロガーRinさんがコンパクト平屋に住み替えた理由。暮らしのサイズダウンで夫婦円満に

前出のSさん夫妻(栃木県・夫60歳、妻52歳)は、老後を見据えた終活のひとつとして平屋での暮らしを選択。「平均寿命である80歳まで、住むのは20年。手元にもお金を残しておきたかったし、金銭面では無理をしないでおこうと思いました」と、元の家の売却金額をスライドして支払いに充て、住宅ローンを組まずに購入しました。

Sさん夫妻

平屋で、愛犬と一緒に二人暮らししているSさん夫妻(写真撮影/masaru tsurumi)

両親の介護を終え、実家で一人暮らしをしていたTさん(埼玉県・60代)は、実家の敷地の半分を売却し、その資金で65平米の平屋を新築しました。「必要最低限のほどよいサイズで、シンプルなつくりが気に入っています。女性単身で『家を建てるなんて無理』と思われるかもしれませんが、私にもできました」。庭では家庭菜園を楽しみ、広いウッドデッキは地域の憩いの場にもなっています。

自宅の敷地に平屋を新築したTさん。愛猫と一緒に一人暮らしを満喫しています(写真撮影/片山貴博)

関連記事:実家じまい跡に65平米コンパクト平屋を新築。家事ラク&ご近所づきあい増え60代ひとり暮らしを満喫

ポイント3 ランニングコストが安く、高性能な家に住める

この1年余りでエネルギー高に直面し、ランニングコストを下げたいという希望も高まってきました。コンパクトな平屋は冷暖房効率が高く、家中の温度を一定にしやすいのが特徴。高齢になるほど心配なヒートショック対策にもなります。また、同じ床面積の2階建てと比較して平屋は屋根面積が大きいため、より多くの太陽光パネルを設置することができます。発電効率がよく、メンテナンスがしやすいことも、注目したいポイントです。

80代の母と同居するため、2階建ての実家を約50平米の平屋に建て替えたHさん(千葉県)。「冬は朝起きる前に1時間ほどエアコンをつけておき、日中は灯油ストーブとリビングのホットカーペットだけ。廊下もないので、家中の温度差はほとんどありません」と、気密性の高いコンパクト平屋の快適さを実感しているそうです。

Hさん宅

モダンな土間キッチンのあるHさん宅。格子戸で仕切れる和室を母との2人の寝室に(写真提供/木のすまい工房)

関連記事:2階建て実家をコンパクト平屋に建て替え。高齢の母が過ごしやすい動線、高断熱に娘も満足

子どもが社会人になり独立、夫婦二人暮らしになるにあたり、67平米の平屋を新築したTさん(埼玉県・夫30代、妻40代)は、「小さい住まいは断熱性能がとてもよく、夏も冬もエアコン1台で快適に過ごせました」。電気料金が値上がりしても、使用電力が以前より少なく済んだため、電気代は抑えられたといいます。

Tさん宅

Tさん宅にはエアコンがリビングに1台のみ(写真撮影/片山貴博)

夫婦二人暮らしの久保田さん(群馬県・40代)の住まいは、約73平米、2LDKの平屋。「エアコンは3室に設置してありますが、この冬はリビングにある24畳用のエアコンだけ稼働させて、十分暖かかった。寝室に入ったときも寒さは感じませんでした」と言います。屋根には太陽光パネルを搭載。「今後メンテナンスが必要になったときも、足場が最小限で済むから費用は抑えられるはず」と話します。

久保田さん夫妻

開放的なリビングでストレスなくのびのび暮らす久保田さん夫妻(写真撮影/片山貴博)

関連記事:40代共働き夫婦、群馬県の約70平米コンパクト平屋を選択。メダカ池やBBQテラスも計画中で趣味が充実

ポイント4 アウトドア風などデザインのバリエーションも豊富に

カリフォルニアの風を感じるようなガレージ付きのアメリカンスタイルの家に、ぬくもりあふれるログハウスなど、コンパクトな平屋にも多彩なデザインが続々登場。好みや趣味によりフィットした、豊かな暮らしが叶います。テレワーク用の部屋やアウトドアなど趣味を楽しむ拠点として、敷地内に建てる“離れ”感覚のタイニーハウスも人気が高まっています。

前出のTさん夫妻(埼玉県・夫30代、妻40代)は、車をメンテナンスできる大きなガレージがほしいと、67平米のアメリカンハウスの平屋に住み替えました。「西海岸をイメージした、吹き抜けのある白いリビングが気に入っています。庭にはドライガーデンと、季節の花を植えた花壇を作りました。のんびり庭いじりしたり、デッキでお酒を飲んだりする時間が楽しいです」

Tさん夫妻

庭にガレージを建てるのが目標と話すTさん(夫)(写真撮影/片山貴博)

自宅の敷地内に約10平米のログハウスをセルフビルドした桑原さん(長野県・40代)は、10代のときから集めていたビンテージ雑貨や自転車、バイクなどを並べ、趣味の空間をつくり上げました。「6畳だけの空間は、湯船みたいな“おこもり感”もあり、サッシを開け放てばデッキの先につながる庭が見渡せて、視界が広がり開放感もあります」。ログのぬくもりも心地いい、秘密基地のようなサードプレイス平屋です。

桑原さんの小屋

ログ小屋のキットを購入してセルフビルドした桑原さんの小屋。薪ストーブもあります(撮影/窪田真一)

関連記事:10平米以下のタイニーハウス(小屋)の使い道。大人の秘密基地や、住みながら車で日本一周も! ステキすぎる実例を紹介

ポイント5 ミニマリスト、終活など、ものを持たない暮らしが実現

終活や実家じまいなどを通じて、ものを多く持つことで見えてくる課題にふれ、この先はシンプルに暮らしたいと考える人が増えてきました。コンパクトな平屋の住まいは、余計なものを持たないミニマム志向の暮らしにマッチします。

約60平米の平屋に住む前出のRinさん(千葉県・50代)はこう言います。「収納は、扇風機のような季節家電が入るくらいの奥行きがあれば十分。洋服も若いときほど多くなくていい。クロゼットもパントリーも、何があるか一目でわかるように収納しています」。必要なものだけを厳選し、家事動線を整えた小さな平屋暮らしでは、家事ストレスが減って夫婦仲も円満になったそうです。

キッチンとパントリー

写真右はキッチン横のパントリー。奥行きが浅く、全部見渡せるので、何があるのか忘れません(写真提供/Rinさん)

母娘2人で暮らす前出のHさん(千葉県)は、実家を約50平米の平屋に建て替えるのを機に、ものをすっきりと処分。「実家は使っていないものであふれていました。今の家に持ってきたのは本当に必要なものだけ。収納場所も限られていますが、手の届く範囲に収納できて、どこに何があるかきちんと把握できています」

Hさん宅

2階建ての実家を平屋に建て替えたHさん宅。ものを減らしてすっきり暮らしています(写真提供/木のすまい工房)

ライフスタイルの変化に合わせて、ものを減らし、スムーズな動線で快適に心地よく暮らす。地震に強く、広さも価格もミニマム。そんなコンパクト平屋は、世代を問わず、これからの理想の住まいとして、ますます広がりを見せていきそうです。

●関連ページ
「SUUMOトレンド発表会 2023」プレスリリース
PDF

●取材協力
・グッドハート株式会社/ペンギンホーム
・株式会社カチタス
・Rinさん ブログ「Rinのシンプルライフ」
・ヒロ建工
・木のすまい工房
・古川工務店
・ケイアイスター不動産株式会社
・BESS(株式会社アールシーコア)

40代共働き夫婦、群馬県の約70平米コンパクト平屋を選択。メダカ池やBBQテラスも計画中で趣味が充実

自分のライフスタイルに合った暮らしを実現できると、家選びの際に平屋を選ぶ人たちが増えています。40代の久保田さん夫妻も、家を新築する際、迷わず決めたのが平屋の一戸建てでした。タイルのテラスから庭とつながる、約22坪(約73平米)のコンパクトな家。その住み心地と、「多くの人に平屋をすすめたい」という理由をうかがいました。

2階はなくていい。コンパクトなワンフロアが理想

群馬県在住の久保田さん夫妻がお住まいなのは、22坪のコンパクトな平屋の家です。以前住んでいたのも、同程度の広さの平屋の賃貸住宅だったというご夫妻。「趣味で飼っているメダカが増えてしまって、今1000~2000匹くらいいるんです。以前の賃貸の家は古く、庭もなかったので、メダカの水槽を置ける庭付きの家に住み替えよう、と思ったのがきっかけでした」(久保田さん夫)

メダカがみるみる増えてしまったのが住み替えのきっかけだったといいます。庭先に置いたプレハブの小屋には、メダカに関連する道具がいっぱい(写真撮影/片山貴博)

メダカがみるみる増えてしまったのが住み替えのきっかけだったといいます。庭先に置いたプレハブの小屋には、メダカに関連する道具がいっぱい(写真撮影/片山貴博)

当初、中古の2階建ての家を見学したおふたり。そこは1階にキッチン、リビングと1部屋、2階に2部屋ある間取りでした。「内覧して、正直、2階はいらないなと思いました。ずっとふたり暮らしだから、部屋数があっても使わないですし。何十年か先、足腰が弱ってきたら、きっと2階には行かなくなって物置になってしまいそう。それなら、ワンフロアでコンパクトな平屋がいいなと思ったのです」(久保田さん妻)

その後、スマホで家探しをしていたところ、近所でモデルハウスを販売するという情報を見つけました。
「見学してみて、ひと目惚れ。廊下もない平屋のワンフロアで、吹き抜けで家中が明るく、住みやすそうだなと感じました。ロフトがあって、なんだか遊び心もあるなぁと」(妻)
ただ、その家は予算に合わなかったこと、完成品ゆえ仕様や色などが選べなかったため、改めて新築を依頼。土地探しから始めました。

22坪、2LDK。南側に3室ある、明るく開放的な住まい

ほどなくして、おふたりの仕事先から近い住宅地に約83.4坪の土地を見つけ、840万円で購入しました。「建物は、17坪、19坪、24坪、27坪の4つのプランのうち、19坪プランを選びました。ただ、住宅ローンは【フラット35】を使いたかったのですが、22坪以上でないと適用にならないとのこと。だけど24坪プランではうちには部屋が多すぎる。そこで相談して、19坪プランの居室部分を3坪分広げるかたちで、22坪の家を建てることにしたのです」(夫)

間取りは、いくつか用意されていたパターンのうち、3室が南に面した2LDKを選択。価格は1000万円台前半でした。

黒×茶色の外壁がシックな平屋。屋根にはソーラーパネルを設置しています。庭の右側、カバーをかけているのがメダカの水槽(写真撮影/片山貴博)

黒×茶色の外壁がシックな平屋。屋根にはソーラーパネルを設置しています。庭の右側、カバーをかけているのがメダカの水槽(写真撮影/片山貴博)

ずらりと並んだメダカの水槽(写真撮影/片山貴博)

ずらりと並んだメダカの水槽(写真撮影/片山貴博)

玄関ドアは明るいブルー。玄関ホールから居室につながり、廊下はありません(写真撮影/片山貴博)

玄関ドアは明るいブルー。玄関ホールから居室につながり、廊下はありません(写真撮影/片山貴博)

玄関脇はアウトドアグッズなどがしまえる土間状の収納スペース。ここにもメダカの鉢が(写真撮影/片山貴博)

玄関脇はアウトドアグッズなどがしまえる土間状の収納スペース。ここにもメダカの鉢が(写真撮影/片山貴博)

完成した住まいは、玄関ホールから洋室とLDKにつながっていて、リビングの奥に和室、キッチンの先に洗面脱衣室と浴室。廊下がなく、無駄なくまとまった間取りです。
「コンパクトなんだけど、キッチンも広いし、脱衣所もゆったりしていて着替えるのも楽です。洋室は寝室として使っていて、和室は今のところなにも置いたりせず、親や友人が泊まりにきたときに使えたらいいかなと思っています」(妻)

客間として使う予定の和室。物干しポール(オプション)もあり、室内干しもここで(写真撮影/片山貴博)

客間として使う予定の和室。物干しポール(オプション)もあり、室内干しもここで(写真撮影/片山貴博)

洗面脱衣所もゆったり広々(写真撮影/片山貴博)

洗面脱衣所もゆったり広々(写真撮影/片山貴博)

コンパクトだからとにかく家事が楽!のびやかな天井高は平屋ならでは。ロフトもプラスしました。テーブルを置かず、ダイニングスペースを広く使っています(写真撮影/片山貴博)

のびやかな天井高は平屋ならでは。ロフトもプラスしました。テーブルを置かず、ダイニングスペースを広く使っています(写真撮影/片山貴博)

当初のプランより広げたというLDKは18.5畳(30.63平米)とゆったり。天井が高く、オプションで2畳ほどのロフトもプラスしたそう。「実家ではロフトが自分の部屋だったので。でも、下で事足りてしまうし、ハシゴの上り下りが大変なので、今は使っていません」(夫)
壁紙の色は用意されていた3タイプから白ベースのカラーを選んだこともあり、明るくすっきり、広々と感じます。

白を基調にしたキッチン。リビングからカウンターの手元が見えないのですっきり(写真撮影/片山貴博)

白を基調にしたキッチン。リビングからカウンターの手元が見えないのですっきり(写真撮影/片山貴博)

「天井が高いのは憧れでした。以前住んでいた賃貸と広さはそんなに変わらないのに、おかげでここは開放的だなと感じます。ダイニングテーブルを置くと動線の邪魔になりそうだったので、食事はリビングのテーブルで。それもあって空間が広々と使えています。収納スペースも限られているけど、本当に使うものだけにして、すっきりさせています。いちばん気に入っているのは、家事が楽なところ。特に掃除は、お互い仕事をしているので週末に掃除機をかける程度ですが、10分もかからないで終わってしまうのがうれしい」と久保田さん(妻)は笑います。

シンプルな洋室はふたりの寝室に(写真撮影/片山貴博)

シンプルな洋室はふたりの寝室に(写真撮影/片山貴博)

動線も無駄がありませんよね。
「そこも便利だと感じています。うちの実家は3階建てで、私の部屋は3階にあったので、忘れ物をするといちいち3階まで階段を上がって取りに行かないといけなくて、それが本当に大変でした。今は車に乗ってから、『あ、アレ忘れた』と家に取りに戻っても、探すのは1階だけだからささっと(笑)。とても楽ちんです」(妻)
家の中の温度差がないのもよかった点。各部屋にエアコンは設置してありますが、この冬はリビングにある24畳用のエアコンのみ稼働させ、家中快適に過ごせたといいます。

休日はリビングでひたすらごろごろ

ふたりともテレビを見るのが大好きで、リビングのソファでまったり、お酒を飲みながら過ごすのがなによりの楽しみだといいます。
「せっかく庭もあるので、これから活用していきたいですね。先日、暖かい日に七輪を出して焼肉をしたんです。春にはBBQするのもいいな」と妻。

ソファでテレビを見ながら過ごすのが楽しみというふたり(写真撮影/片山貴博)

ソファでテレビを見ながら過ごすのが楽しみというふたり(写真撮影/片山貴博)

夫は「以前鯉を飼っていた知人が、ひょうたん型の大きな生簀をくれたので、庭に置いてメダカを放したんです。ここに屋根を付けたり、自然池みたいにしたい」と夢がふくらみます。
両親が遊びに来たときも、「ここはふたりにちょうどいい広さだね!」と絶賛したという住まい。ストレスなくのびのび過ごしているおふたりの姿が印象的でした。

大きな生簀にたくさんのメダカが。いずれは屋根も付ける予定(写真撮影/片山貴博)

大きな生簀にたくさんのメダカが。いずれは屋根も付ける予定(写真撮影/片山貴博)

久保田さんがこの家で暮らして半年ほど。今後どんな方に平屋ライフをおすすめしたいですか?
「もう、みんなにすすめたいです。土地が狭いとどうしてもスペースが足りず2階建て、3階建てになってしまうと思うんですけど、ある程度土地の広さがあれば、平屋ってとても便利ですよ、と伝えたいです。普段の家事も、メンテナンスや将来的にリフォームするのも楽だと思います。うちは屋根に太陽光発電をのせているんですが、いつか劣化して交換するときも、2階建てより平屋の方が便利ですよね」(妻)

(写真撮影/片山貴博)

(写真撮影/片山貴博)

ふたり世帯、シニア世帯のニーズを捉えるコンパクト平屋

平屋商品に注力するIKI株式会社(ケイアイスター不動産グループ)によると、平屋の販売数は年々増加傾向にあるといいます。特に契約者の割合が高いのは、夫婦/パートナーとのふたり世帯、次いでシニアで、年齢でいうと40~50代の関心を集めているようです。

まさしく久保田さん夫妻のように、ふたり世帯からの注目が高まる平屋暮らし。一戸建てといえば、部屋数を確保した2階建てをイメージしがちですが、自分たちの暮らし方によりフィットした、シンプルでミニマルな平屋、そんな選択肢も定着しつつあるのだなと実感しました。

●取材協力
ケイアイスター不動産株式会社
規格型平屋注文住宅IKI(イキ)
※ひら家IKIは、ケイアイスター不動産グループのIKI株式会社が販売する商品です

2階建て実家をコンパクト平屋に建て替え。高齢の母が過ごしやすい動線、高断熱に娘も満足

70平米前後コンパクトな平屋が、新しいマイホームの選択肢として需要を伸ばしています。今回お話を伺ったのは、ひとり暮らしの母と住むために、2階建ての実家を平屋に建て替えたHさん(50代)。その広さは約50平米。実家にあふれていた不要なものもすっきり処分し、高齢の母が過ごしやすいコンパクトな動線で、シンプルな二人暮らしを叶えています。

高齢の母との二人暮らし。小さな平屋が“ちょうどいい”

多様なライフスタイルに合わせて、それぞれが豊かな暮らしを実現できる時代。一戸建てのマイホームといえば「2階建て、3LDK以上」という規定路線は、すべての人には当てはまりません。子どもが巣立ったあとのシニア世代の終の棲家として、サスティナブルな価値観をもつファミリー世帯の成長の場として、また趣味や余暇を楽しむDINKS世代の個性を表現する場として、ミニマムな広さと価格で自分らしい暮らしが叶う小さな平屋が、今注目されています。
Hさんが選んだ平屋ライフは、コンパクト平屋の新しい可能性を見せてくれるものでした。

(写真提供/木のすまい工房)

(写真提供/木のすまい工房)

千葉県に住むHさんの家は、玄関からそのままキッチンに続く土間のある一戸建て。床面積50.30平米、2LDKのコンパクトな平屋です。
もともとこの土地は、Hさんが育った実家があった場所。ひとり暮らしをしていた母が高齢になり、これまでの2階建ての家では生活が不便に感じたことから、建て替えて一緒に住むことを決意したといいます。
「母は80歳を超えたということもあり、私が一緒に住んで面倒を見ながら暮らそうということになったのです。でも、実家は築50年ほどであちこち傷んでいましたし、収納とか間取りとか、そのままでは何かと暮らしづらい。実家の間取りは、1階に2部屋とキッチン、2階は何度か建て増しをして、3部屋ありました。ほとんどが当時使っていない部屋で、物も増え、どこの押し入れに何が置いてあるのかわからず、探すのも一苦労な状態。もちろん、高齢の母が階段を上り下りするのも大変でした」とHさん。

間取り図

(画像提供/木のすまい工房)

当初はリフォームも検討したそうですが、部分的な改装を重ねてもコストはかさみます。
「老後って意外と長いんですよね。無駄な部屋があったり、物であふれていたり、そういう家で母があと10年、20年と暮らしていくのは大変なこと。私が手伝いながら、母もできるだけ長く自分で自分のことができるような、快適で暮らしやすい家に住み替えたいと考えました」

リビングから見た土間キッチン(写真提供/木のすまい工房)

リビングから見た土間キッチン(写真提供/木のすまい工房)

母と二人でシンプルに暮らすことを念頭に、「平屋」というキーワードで検索して見つけたのが、千葉県を中心に自然素材の家づくりを行う工務店でした。モデルハウスを見学し、土間のある間取りが気に入ったというHさん。
二人暮らしなのでコンパクトな家がいい、階段を使わずに済むよう平屋のワンフロアで完結したい、モデルハウスにあった和モダンな土間キッチンを取り入れたい、という要望を伝え、家づくりがスタートしました。

平屋だからこそ天井は高く。以前とは比べ物にならないほど明るく、開放感も

玄関を開けると、Hさんが憧れていた土間とつながるキッチンが目に飛び込みます。その目の前には、漆喰の白壁がシンプルなリビングダイニング。DK部分が勾配天井になっていて、高窓が数カ所に設けられ、とても明るく開放的です。こんなふうにのびやかな空間がつくれるのも、上階がなく、天井の高さに自由度がある平屋ならではです。

101.18平米の敷地は、実は住宅密集地。実家だった住まいは、お隣に2階建ての建物ができて以来、1階部分にあまり日が入らず、日中も薄暗い感じだったといいます。
「だから今回平屋にするのにあたり、そこがいちばんの心配点だったんです。いざ完成してみたら、高窓の効果で以前とは比べものにならないほど明るくて。家にいて本当に気持ちがいいんです」とHさんは声を弾ませます。

漆喰の白い壁に梁が映えるLDK。上階がないため、開放感を生み出す勾配天井も自由につくれます(写真提供/木のすまい工房)

漆喰の白い壁に梁が映えるLDK。上階がないため、開放感を生み出す勾配天井も自由につくれます(写真提供/木のすまい工房)

通常の天井よりも高さを設けたことで、視線にも奥行きが生まれ、実際の面積以上の広がりも感じられます。
「キッチンの背面収納の上にも明かり取りの窓をつくってもらいました。隣のお宅の屋根に太陽が反射して、そこからすごく明るい光が入ってくるんです。設計ではその反射までは計算されていなかったようですが、とても気に入っています。リビングから見える玄関もガラスの引き戸なので、圧迫感みたいなものもありません」

玄関から続く土間キッチン(写真提供/木のすまい工房)

玄関から続く土間キッチン(写真提供/木のすまい工房)

背面収納ですっきり(写真提供/木のすまい工房)

背面収納ですっきり(写真提供/木のすまい工房)

間取りは2LDKで、LDKから和室と洋室にフラットにつながる、実に無駄のないレイアウトです。Hさんがキッチンで作業しているときも、リビングや和室にいる母の気配が感じられるといいます。
「二人で住むには、ワンフロアのこのコンパクトさがちょうどいい、と感じています」

和モダンな格子の引き戸で仕切れる和室は、母とHさんの寝室として使っています。廊下もないため、洗面室やトイレ、浴室への動線も短くとてもスムーズ。一方、洋室は、親族などが泊まりに来たときのための客間として使用しているとか。ウォークインクローゼットもあります。
「収納場所は限られていますが、この家にあるのは本当に必要なものだけ。手の届く範囲に収納できて、どこに何があるかきちんと把握できている。建て替えでとにかく大変だったのは、実家にたくさんあった物の処分で、1~2カ月ほどかかりました。それを乗り越えてこうしてシンプルに住み替えできて、気持ち的にもすっきり。これも、思い切って建て替えてよかった点です」

キッチンからは家全体が見渡せます。右の引き戸の先は洗面室と浴室(写真提供/木のすまい工房)

キッチンからは家全体が見渡せます。右の引き戸の先は洗面室と浴室(写真提供/木のすまい工房)

家中の温度差がなく快適なのは、コンパクトな平屋の大きなメリット

また、断熱性能も格段によくなりました。以前の家は、冬、暖房を入れてもなかなか暖まらなかった、とHさん。
「今は、母が起きたときに寒くないよう、朝起きる前にエアコンを1時間ほどかけておきます。昼から夜は灯油ストーブ1台とリビングのホットカーペットで十分暖かく、家中どこにいても温度差もほぼありません。夏は、日中は扇風機で過ごすことが多く、夜は防犯上窓を閉めてエアコンをつけて寝ています。気密性が高いのは新しい家だからというのもありますが、小さな平屋の快適さを実感しています」

断熱性能も以前の住まいよりもアップ。家中どこにいても温度差もほぼないとのこと(写真提供/木のすまい工房)

断熱性能も以前の住まいよりもアップ。家中どこにいても温度差もほぼないとのこと(写真提供/木のすまい工房)

リビング隣の和室は、現在は母とHさんの寝室として使っています(写真提供/木のすまい工房)

リビング隣の和室は、現在は母とHさんの寝室として使っています(写真提供/木のすまい工房)

6畳ほどの洋室は客間に(写真提供/木のすまい工房)

6畳ほどの洋室は客間に(写真提供/木のすまい工房)

建築費は1500万円。ローンは組まず、母の預貯金で支払ったそうです。平屋に建て替えるにあたって、まわりの人の意見はどうだったのでしょうか。
「きょうだいに報告したところ、『この年齢で建て替えだなんて。お金は取っておくべきだ』と反対の声しかありませんでした。でも、当時80歳の母があと10年暮らすことを考えたら、このままではいろいろな問題が出てくるはず、と、思い切って決めてしまったんです」

(写真提供/木のすまい工房)

(写真提供/木のすまい工房)

格子の引き戸は閉めても視界に広がりが(写真提供/木のすまい工房)

格子の引き戸は閉めても視界に広がりが(写真提供/木のすまい工房)

今は明るいリビングのソファでテレビを見てくつろぐのが、お母さまの楽しみになっているそう。
「私自身も、母がデイサービスに行っているときなどはソファでごろごろ寝転んだりして、明るいリビングで心地よく過ごしています」

子育て世代の住まいは広さや部屋数が必要ですが、子どもが独立したら、家の中で過ごす空間は限られてきて、物もスペースも持て余してしまいがち。また複雑な動線は体力的にもつらくなってきます。ですが、Hさんが冒頭で話していたように、そこからの人生もまた長く続くのです。今のライフスタイルに合った、暮らしやすい住まいを見つめ直すと、無駄のないコンパクトな平屋という選択肢は大きな魅力に感じました。

●取材協力
木のすまい工房

50代人気ブロガーRinさんがコンパクト平屋に住み替えた理由。暮らしのサイズダウンで夫婦円満に

50代でマンションから平屋に住み替え、人気ブログ「Rinのシンプルライフ」で暮らしを発信しているRinさん。
“一戸建てマイホーム”といえば、「2階建ての3LDK以上」といった既定路線があったが、70平米前後のコンパクトな平屋がじわじわ需要を伸ばしている。ミニマムな広さと価格で、自分らしい豊かな暮らしを実現できる「コンパクト平屋」の可能性とは?
Rinさんが平屋を選択した理由と6年ほど経ったいまの暮らしを聞いてみると、介護に携わってきたRinさんならではの賢い選択が見えてきた。

Rinさん 介護支援専門員・介護福祉士・防災士の資格を持ちながら、シンプルな暮らしを実践し発信する人気ブロガー。2018年6月に完成した千葉県の平屋で夫婦二人暮らし(写真提供/Rinさん)

Rinさん
介護支援専門員・介護福祉士・防災士の資格を持ちながら、シンプルな暮らしを実践し発信する人気ブロガー。2018年6月に完成した千葉県の平屋で夫婦二人暮らし(写真提供/Rinさん)

(写真提供/Rinさん)

(写真提供/Rinさん)

子育て時期は、通学・通勤に便利なマンション暮らしを選択

娘の高校進学をきっかけに、Rinさん夫妻が購入したのは駅に近い約80平米のマンションだった。結婚当初は賃貸暮らしだったが、娘の通学の便を考え住宅購入を検討することに。一戸建てかマンションか悩んだそうだが、共働きなので駅、銀行、スーパーなど商業施設、病院が徒歩圏内にあることが必須、そして、娘の個室も確保できる広さを求めるとなると、一戸建てはそもそも3人に便利な地元駅近くになく、「予算的にもマンションの選択肢しかありませんでした」

「夫の実家が一戸建てで、長男なので将来帰ることになりそうでしたし、そのとき売ることも考えると、当時はマンションがベストでした」(Rinさん)

以前住んでいたマンションは2LDK(約80平米)(写真提供/Rinさん)

以前住んでいたマンションは2LDK(約80平米)(写真提供/Rinさん)

やがて子どもが独立。整理整頓後の理想は「小さな住まい」に

10年ほど住んだころ、子どもが就職し独立した。
その間にRinさんは整理収納アドバイザーの資格を取得していて、「子ども部屋の片付けや使わないモノの整理整頓をしていくうちに、ムダなスペースが見えてきました」

使わないスペースにもホコリが溜まるし、冷暖房費もかかる。何より日常の家事動線がスムーズではなくストレスになる。
「10年住むと水回りなど設備交換がしたくなります。リフォームも検討しましたが結構な費用がかかることがわかったので、いっそのこと小さな家に住み替えたいと思いました」

夫の実家には義妹が同居することになったことも、住み替えへの追い風となった。

住み替え先としてマンションも候補になったが、当時住んでいたエリアのほとんどはファミリー用のマンションで、それまでの家よりコンパクトなマンションは探せなかったそう。

整理収納アドバイザーの資格を取得しているRinさん、キッチン収納も美しい(写真提供/Rinさん)

整理収納アドバイザーの資格を取得しているRinさん、キッチン収納も美しい(写真提供/Rinさん)

(写真提供/Rinさん)

(写真提供/Rinさん)

3駅ずらして郊外へ。土地と平屋を予算内で購入

小さなマンションが無理なら「ずっと夢だった平屋を建てたい」気持ちが高まったという。

「実は、生まれ育ったのが平屋でした。子どものときは階段のある2階建てを羨ましく思ったこともありましたが、振り返ると洗濯物干しや居室とリビングでの上下移動がなくて暮らしやすかったんです。マンションも便利ですが、平屋なら駐車スペースまで玄関から数歩の距離。買い物が重くてもオッケー。ゴミ出しも近いです。
マンション住まいは管理組合の規則に従うのがルールです。大規模修繕になったらバルコニーの植木鉢を運び入れたりしなければなりませんが、年をとったら自力では無理だと思っていました」
そして「階段がないと動線がラクで『平屋は過ごしやすかったよね』と実姉とよく話していたんです」とRinさんは振り返る。

「予算内だったら建てるのもいいよね」と夫も賛同した。
土地探しから始めたRinさんだったが、最初は本当に建てられるという自信はなく軽い気持ちだったそう。この後どのぐらい稼げるか、老後にいくら必要か、ある程度予測をつけられるのが50代。夢だったとはいえ、予算は限られる。
「でも、マンションを試しに査定してみたら、予想より1,000万円くらい高く売れそうだとわかってびっくり。なんとかなりそうだと思いました」

当時は夫妻とも通勤の必要があった。駅から歩けること、商業施設が豊富、といった生活利便性への条件は変わらなかったが、最寄り駅を2、3郊外にずらせば予算内で一戸建て用地を探せることがわかってきた。
「運よく50坪(約165平米)ほどの土地を見つけられて、購入することができました。自宅マンションもスムーズに売却できました」(Rinさん)

外観パース。徹底してシンプル(画像提供/Rinさん)

外観パース。徹底してシンプル(画像提供/Rinさん)

建築面積約60平米、建築費1,600万円台。以前のマンションより2割ほど狭くなった。夫の社用車と自家用車の2台分の駐車スペースが必要だったのも、一戸建てを選んだ理由のひとつ。「でも、夫の退職後は社用車がなくなり、高齢になったら自家用車も手放します。そのときのためにも駅から歩ける場所にこだわりました」(Rinさん)(画像提供/Rinさん)

建築面積約60平米、建築費1,600万円台。以前のマンションより2割ほど狭くなった。夫の社用車と自家用車の2台分の駐車スペースが必要だったのも、一戸建てを選んだ理由のひとつ。「でも、夫の退職後は社用車がなくなり、高齢になったら自家用車も手放します。そのときのためにも駅から歩ける場所にこだわりました」(Rinさん)(画像提供/Rinさん)

広さと豪華さはいらない。家事がラクな住まいを追及

家事がラクにできる住まいを熱望したRinさんが選んだのは、全国に展開し、平屋タイプも積極的に展開しているハウスメーカーだった。

「モデルルーム見学は楽しかったです! ですが、家事にムダのないシンプルな平屋が建てたい、という希望を理解してもらえるハウスメーカーさんは少なくて。『この広さならもっと広い家が建てられます』『坪あたり建築費もおトクになります』って各社さんが言うなかで、担当者が要望に沿ったプランを提案してくれたのが印象に残りました」

「介護士の経験から、室内で温度差が生まれにくい全館空調を推奨しているのも決め手でした。高血圧の夫のヒートショック現象が心配でしたし、寒がりな私にも魅力的なポイントでした」

建築時の様子(画像提供/Rinさん)

建築時の様子(画像提供/Rinさん)

キッチンからリビングと和室が見渡せる。「夫は家づくりにノータッチ。設計の打ち合わせは全面的に任せてくれました」(Rinさん)(写真提供/Rinさん)

キッチンからリビングと和室が見渡せる。「夫は家づくりにノータッチ。設計の打ち合わせは全面的に任せてくれました」(Rinさん)(写真提供/Rinさん)

「小上がりにした和室を気に入ってくれて、いつも寛いでいますよ」(Rinさん)(写真提供/Rinさん)

「小上がりにした和室を気に入ってくれて、いつも寛いでいますよ」(Rinさん)(写真提供/Rinさん)

天井に埋め込まれたエアコンが家全体の排気と給気をコントロールしている(写真提供/Rinさん)

天井に埋め込まれたエアコンが家全体の排気と給気をコントロールしている(写真提供/Rinさん)

老後が身近になる50代。何もかもめんどうになる前に最後の家づくり

早ければ40代後半から、多くの場合は50代になると、親の老いが身近になってくる。
元気だった両親も徐々に体力が衰える。気力が萎えてくる。片付けがおっくうになる。新しいことに手が出せない。そんな両親の変化が、やがて来る自分の未来と重なってくる。

さらに介護の仕事に携わるRinさんにとって、老後は現実世界だ。
「住み替えの決断をできて、引越しという大仕事をやり遂げられる50代が最後のチャンスになると思いました」と、夢だった平屋の建築に取り掛かった。

「年をとると書類1枚書くのも面倒になるんですよ。不動産購入契約、建築請負契約、住宅ローン締結……、ややこしい手続きや書類に立ち向かう気力が50代ならまだあります」

「子育て世代ための住まいには、老後には不向きなこともある。たとえば子どものオモチャやスポーツ道具をたくさん収納できる大きな納戸。奥から重いものを持ち運ぶなんてできなくなります。扇風機のような季節家電が入るくらいの奥行きがあれば十分。洋服も若いときほど多くなくていい。洋服全部が一目でわかるように収納できると厳選できます」

「かっこいいインテリアであふれた住まいも、私の希望にはありませんでした。光いっぱいの大きな窓にドレープたっぷりのカーテン、メンテナンスに気を遣えるうちはいいのですが、ガラス窓の掃除は大変です。カーテンの洗濯と干す作業も重労働。できなくなると湿気でカビが生えて健康被害の原因になります。そんなお家をたくさん見てきました」

寝室からつながる夫婦のクローゼット。左右を夫、妻それぞれで使用している。寝室→クローゼット→洗面所→ランドリースペースまで洗濯動線一直線。引き戸なので、ドアが邪魔になることもない(写真提供/Rinさん)

寝室からつながる夫婦のクローゼット。左右を夫、妻それぞれで使用している。寝室→クローゼット→洗面所→ランドリースペースまで洗濯動線一直線。引き戸なので、ドアが邪魔になることもない(写真提供/Rinさん)

(写真提供/Rinさん)

(写真提供/Rinさん)

キッチン横のパントリー。奥行きが浅く、全部見渡せるので何があるのか忘れない(写真提供/Rinさん)

キッチン横のパントリー。奥行きが浅く、全部見渡せるので何があるのか忘れない(写真提供/Rinさん)

「我が家でラッキーだったのは、夫が年下で住宅ローンを組める年齢だったこと。娘の教育費がかからなくなったぶん、余裕が出てきたころでもあります」(Rinさん)。

多くの金融機関では70歳までに住宅ローン返済を終えることを理想としている。Rinさん夫妻は夫名義で10年で完済する予定で住宅ローンを組んだのだそう。

一方で、年齢を重ねると病気がちになり、住宅ローン締結に不可欠な団体信用生命保険が締結できないリスクも増えてくる。
「夫には成人病の不安がありましたが、無事に保険審査が通りました。考えたくもないですが、夫に何かあったあとも私の住まいが確保されるので子どもにも心配をかけなくて済むので安心ですね」と、Rinさんの笑顔は晴れやかだ。

宅配ボックスは大型のものをチョイス。個人宅用だからマンションの共用部の宅配ロッカーのように満杯なことがない。部屋まで運びやすいのも平屋ならでは(写真提供/Rinさん)

宅配ボックスは大型のものをチョイス。個人宅用だからマンションの共用部の宅配ロッカーのように満杯なことがない。部屋まで運びやすいのも平屋ならでは(写真提供/Rinさん)

マンションか一戸建てか!? 防犯・防災面では一長一短

年をとっても段差がなく安全に住めるという点は、マンションも平屋も同じ。
では、防犯・防災面ではどのように考えているのか、防災士資格も持つRinさんに尋ねてみた。

「多くのマンションはオートロックですし、上層階なら通行人が窓の前を通り過ぎることもありません。防犯面ではマンションの方が安心かもしれません」

「ですが、高齢者の住まいとしてはライフラインの確保が大事です。いったん災害が起こって水や電気ガスが止まったとき、特に高齢者には一戸建ての方が生活を維持しやすいと考えています。エレベーターを使えなくなったらマンション高層階住民は重い水や食料の買い出しが難しい。自宅のトイレが使えず地上まで降りなければならないような場合、水分を控える高齢者もいて、あっという間に体調が悪化してしまう。助けを呼びやすい点でも、一戸建ての方が優れているのではないでしょうか」

玄関ホール、トイレ、ランドリー室などは換気ができる滑り出し窓にした。ホコリが溜まるブラインドもなし。室内の様子がわからないようにくもりガラスを選択(写真提供/Rinさん)

玄関ホール、トイレ、ランドリー室などは換気ができる滑り出し窓にした。ホコリが溜まるブラインドもなし。室内の様子がわからないようにくもりガラスを選択(写真提供/Rinさん)

寝室や風呂場などにはFIX窓(はめ殺し窓ともいわれる開閉できない窓)。こちらも、くもりガラス(写真提供/Rinさん)

寝室や風呂場などにはFIX窓(はめ殺し窓ともいわれる開閉できない窓)。こちらも、くもりガラス(写真提供/Rinさん)

「マンションと一戸建て、それぞれ一長一短ありますが、我が家では防災時のリスク軽減も考えて平屋を選びました。防犯面も、侵入者が隠れられるような塀は建てない、侵入口になる大きな窓は最小限にする、など工夫をしています」。一般的に平屋は2階がない分、建物が安定するため支えやすい。地震が起きてもダメージが小さいので、東日本大震災や熊本地震後、平屋に注目する人は増えている。

「ご近所や友人、娘が来てくれて寛げるような空間作りも心掛けました」というRinさん。周囲の人の見守りも、セキュリティの一端を担うはずだ。

出入りできる大きな窓はリビングと和室のふたつだけ。カーテンが少ないと洗う手間が省ける(写真提供/Rinさん)

出入りできる大きな窓はリビングと和室のふたつだけ。カーテンが少ないと洗う手間が省ける(写真提供/Rinさん)

暮らしがシンプルになるコンパクト平屋は、夫婦円満のとっておきアイテム

平屋に暮らし始めて6年ほど。Rinさんが住まいに求めていた「家族仲良し」は現在進行形だ。

「いま思うと、前のマンションではイライラすることが結構あったなあって。だって、自分も働いているのに夫は家事にあまり協力してくれない。子どもがいたこともあってモノがあふれていて、必要なときにすぐ見つけられない。疲れちゃっていましたね」

必要なものだけを厳選し、家事動線を整えた平屋暮らしになったいま、夫婦の仲良しレベルがアップ。
「モノが少ないと、すぐ掃除できるんですよ。掃除機をかける前に、まず散らばっているモノを片付けたり、家具を移動しなきゃいけなかったりするから面倒になるんです。床面が広がっていたら掃除機もすんなりです。洗濯物干しも、洗濯機から出してすぐ掛けられるバーがあると楽ちん。家事ストレスが減ったので、夫に優しくなれた気がします」と笑うRinさん。
さらに、何をどうすればいいのか “家事の見える化”が進んだ結果「夫が自然に家事をできるようになりました。お互いの様子を感じ取れる住まいということもあるのでしょうね」

リビングと和室のテーブルを繋げると10人は楽に座れる。和室の段差は30cmほどで、腰掛けておしゃべりするのにちょうどいいそう。「段差があるとリビングのホコリが和室に入り込まない効果もあるんですよ」(Rinさん)(写真提供/Rinさん)

リビングと和室のテーブルを繋げると10人は楽に座れる。和室の段差は30cmほどで、腰掛けておしゃべりするのにちょうどいいそう。「段差があるとリビングのホコリが和室に入り込まない効果もあるんですよ」(Rinさん)(写真提供/Rinさん)

キッチン(写真提供/Rinさん)

キッチン(写真提供/Rinさん)

Rinさんの計算外だったのは「庭で野菜づくりを楽しむ自分」。当初、庭を全面コンクリートにするつもりだったが、外構工事の担当者に「いずれ土いじりをしたくなりますよ」とアドバイスされ、半信半疑ながら一部だけ花壇にしたのだそう。

「夫はまだ通勤していますが、自分は自宅での仕事が多くなりました。知人に教えられて花壇で野菜づくりを始めてみると、植物の成長がとても楽しい。時間に余裕が出てくると自然に触れたくなるものなんですね。そういう意味でも、平屋を選んでよかったです」

夫妻の暮らしはこれからも変わっていく。
「ゆくゆくは高齢者施設への入居も視野に入っています」とRinさん。50代からの暮らしに喜びをもたらし、ゆるやかな変化も包みこむコンパクト平屋には、理想の住まいの形があった。

●取材協力
Rinさん
ブログ「Rinのシンプルライフ」

愛猫家必見、ペット共生住宅の専門家の自宅におじゃまします! 猫・犬・人が快適に過ごせる間取りや家づくりの工夫は?

ペット共生住宅の専門家で設計事務所fauna+design (ファウナ・プラス・デザイン)代表の廣瀬慶二さん。約20年、愛犬や愛猫と幸せに暮らす家づくりを研究し続ける中で、2020年に家族3人と犬1匹、猫2匹が暮らすマイホームを建築し、自宅を通して試行錯誤しながら今も研究を続けています。そんな廣瀬さんの自宅は「猫も犬も人も快適に美しく暮らす家づくり」のポイントがたくさん。中でも、完全室内飼いで家にしかいない猫は、より工夫が必要です。猫が遊ぶ場所、くつろげる場所、トイレの場所はどうするかなど、猫と暮らす家を検討している人が気になることを専門家かつ実践者の目線で教えてもらいました。

愛猫のシロイちゃん。愛猫は2匹とも保護猫だそう(写真撮影/水野浩志)

愛猫のシロイちゃん。愛猫は2匹とも保護猫だそう(写真撮影/水野浩志)

愛猫のチャイちゃん(写真撮影/水野浩志)

愛猫のチャイちゃん(写真撮影/水野浩志)

フィールドワークを出発点にペット共生住宅を手掛け、犬猫専門建築家へ

ペットとの共生住宅を専門に設計する建築士は国内外を通じてほとんどいません。その第一人者として海外でも知られる廣瀬慶二さんは、ペット共生住宅を100軒以上手掛けています。そのスタートとなったのは2000年ごろ、当時勤めていた設計事務所を辞めてから、犬と暮らす人の家を訪問して聞き取るフィールドワーク(住まい方調査)を始めたことでした。

fauna+design (ファウナ・プラス・デザイン)代表の廣瀬慶二さんとシロイちゃん(写真撮影:水野浩志)

fauna+design (ファウナ・プラス・デザイン)代表の廣瀬慶二さんとシロイちゃん(写真撮影:水野浩志)

「フィールドワークをする中で、ペットと暮らすことで家の中がぐちゃぐちゃになりストレスを感じている人が意外と多くいました。以前所属していた設計事務所で設計した家を引き渡しからしばらくして見に行くと、部屋の隅に大きな檻が置かれて、せっかくの豪邸が台無しになっているケースもありました」
ペットの生態や習性、飼い主の行動に基づく、ペットと人が共生する新しいコンセプトの家が必要ではないか。そう思った廣瀬さんは、まず犬のための家づくりを始めました。

「その分野を誰もやっていなかったこともペットとの共生住宅をつくるようになった理由の一つです。2004年、庭で飼うのが主流だった犬を室内で飼う習慣が出てきたころと同時に、屋外にいることが普通だった猫を外に出さない完全室内飼育が主流になり、それに合わせて家の形も変わらなければならないと、一気に猫の家の仕事が増えてきました」

そして、廣瀬さんは「猫専門建築家」としても認知されるようになりました。

爪研ぎができる猫柱を登ってキャットウォークに向かうチャイちゃん。猫がワクワクするのを見ると飼い主も楽しい(写真撮影/水野浩志)

爪研ぎができる猫柱を登ってキャットウォークに向かうチャイちゃん。猫がワクワクするのを見ると飼い主も楽しい(写真撮影/水野浩志)

そもそも、今はよく耳にするようになった「ペット共生住宅」とは何でしょうか。「今の段階で定義をすると、動物福祉の世界には5FREEDOM(5つの自由(解放))という国際的に認められた基準があります。この「5つの自由」が担保された、動物も人間もストレスを感じない住まいをペット共生住宅といいます」と廣瀬さん。

5FREEDOM(5つの自由(解放))とは、1960年代の英国で家畜の劣悪な飼育環境を改善、福祉を確保するために基本として定められたもので、英国の動物福祉法にも盛り込まれています(以下参照)。この問いかけの文言を一つひとつチェックしていくと、ペットとの共生住宅に必要なものが見えてきます。

「5つの自由」に基づく動物福祉の評価表
Animal Welfare Assessment by(注※)RSPCA,WOAH

■1.飢えと渇きからの自由(解放)
(1) 動物が、きれいな水をいつでも飲めるようになっていますか?
(2) 動物が、健康を維持するために栄養的に充分な食餌を与えられていますか?

■2.肉体的苦痛と不快からの自由(解放)
(3) 動物は、適切な環境下で飼育されていますか?
(4) その環境は、常に清潔な状態が維持されていますか?
(5) その環境には、風雪雨や炎天を避けられる屋根や囲いの場所はありますか?
(6) その環境に怪我をするような鋭利な突起物や危険物はないですか?
(7) その動物に休息場所がありますか?

■3.外傷や疾病からの自由(解放)
(8) 動物は、痛み、外傷、あるいは疾病の兆候を示していませんか?
 もしそうであれば、その状態が、診療され、適切な治療が行われていますか?

■4.恐怖や不安からの自由(解放)
(9) 動物は恐怖や精神的苦痛(不安)の兆候を示していませんか?
 もし、そのような徴候を示しているなら、その原因を確認できますか?
 その徴候をなくすか軽減するために的確な対応がとれますか?

■5.正常な行動を表現する自由 
(10) 動物は、正常な行動を表現するための充分な広さが与えられていますか?
 作業中や輸送中の場合、動物が危険を避けるための機会や休息が与えられていますか?
(11) 動物は、その習性に応じて、群れあるいは単独で飼育されていますか?
(注※)
RSPCA:The Royal Society for the Prevention of Cruelty to Animals(英国王立動物虐待防止協会)
WOAH:World Organisation for Animal Health(世界動物保健機関)

ポイント1 猫専用のものと猫立入禁止の空間を設け、猫の動線を考えて設計する

廣瀬さんがマイホームを建てたのは2021年3月。「実験の場を兼ねて家を建てて1年以上、いろいろなものをつくって、実際に猫たちが使って強度や使い勝手などを見て。お客さまに提供する前の実験をしていたんです」

廣瀬さんの自邸外観。正面の高い所にある正方形の窓は猫が外を見る場所(写真撮影/水野浩志)

廣瀬さんの自邸外観。正面の高い所にある正方形の窓は猫が外を見る場所(写真撮影/水野浩志)

廣瀬さんの自宅は見晴らしの良い高台の傾斜地に立つ2階建てで、さらに地下階とロフトがあります。上の写真すべて2階部分、駐車場部分は人工地盤で、本来の1階部分はこの下で、リビング・ダイニング・キッチンと和室、水まわり、さらに、地下階は子ども部屋、書斎、主寝室、ご家族の趣味の音楽室、そしてアクアリウムがあるプライベート空間となっています。1階と地下階が家族の生活の場で、愛犬の主な居場所は1階です。そして、2階は応接室と廣瀬さんの仕事場でもあるアトリエで、勾配屋根の下を利用した屋根裏やロフトは猫が主に利用しています。上の階に行くほど猫の滞在時間は長くなります。

2階の応接室とアトリエ(写真撮影/水野浩志)

2階の応接室とアトリエ(写真撮影/水野浩志)

間取図(以下参照)を見てわかるように、廣瀬さんの家には、猫専用のものと猫の立入禁止スペースを設けています。猫が好きなことも、家族(人間)の趣味や生活も大事にして、お互いに嫌な思いをしないで安全・安心に過ごせるよう線引きをしています。

・猫専用の空間と場所……猫ダイニング、猫用階段、猫大階段、猫柱、キャットウォークなど
・猫立入禁止スペース……書斎、音楽室、子ども部屋、キッチンなど水まわり

廣瀬さんの自邸の間取図。グレー部分は猫の立入禁止ゾーン、黄色部分は猫専用スペース(画像提供/fauna+design)

廣瀬さんの自邸の間取図。グレー部分は猫の立入禁止ゾーン、黄色部分は猫専用スペース(画像提供/fauna+design)

猫専用の空間には猫用の出入口を設けています。一方、猫立入禁止スペースにはドアの両側から鍵が閉められる両面サムターン鍵をつけているので、猫がレバーハンドルに飛びついて戸を開けてしまうことはありません。

右側は猫用のトイレ(下段)と水を飲んだり食事をしたりする場所(2段目)。掃除などで人間が出入りする扉とは別に、左の小さな扉は常時出入り可能な猫専用ドア(写真撮影/水野浩志)

右側は猫用のトイレ(下段)と水を飲んだり食事をしたりする場所(2段目)。掃除などで人間が出入りする扉とは別に、左の小さな扉は常時出入り可能な猫専用ドア(写真撮影/水野浩志)

玄関はメインエントランスのほかに、2階の応接室・アトリエに直接入れる来客用の玄関も設け、職と住を分けています。

そして、猫の動線も行動に合わせてしっかり道がつくられています。下の写真は、1階のリビング・ダイニングに隣接している「猫ダイニング」のくぐり穴(スリット)から専用通路(キャットウォーク)を歩いてキャットツリーを登って2階に行く動線です。ともすれば取ってつけたように感じるキャットウォークが、デザインとしても美しく成立しています。

猫ダイニングから和室、キャットウォーク、猫専用階段へ。出口や道がちゃんと用意されているから、家族の趣味の音楽のアイテムを邪魔しないで自由に動き回れる(写真撮影/水野浩志)

猫ダイニングから和室、キャットウォーク、猫専用階段へ。出口や道がちゃんと用意されているから、家族の趣味の音楽のアイテムを邪魔しないで自由に動き回れる(写真撮影/水野浩志)

ポイント2 猫のお気に入りになるキャットウォーク「大通り、横道、交差点」をつくる

愛猫家が「猫のための家をつくろう」と考えるとき、最初に浮かぶのはキャットウォークではないでしょうか。廣瀬さんの自宅、特にロフトにはキャットウォークがたくさんあります。

「キャットウォークは何も考えずにつくると、使ってくれないことが多々あります。1カ所に固めない方がいいです。まずは猫が好きな場所(A地点)から好きな場所(B地点)に行ける大きい道をつくる、それがメインキャットウォークです。そこから分岐するように、眺めを楽しむ窓の前やご飯を食べる所に行ける道、横断キャットウォークをつくります。交差する交差キャットウォークは、猫はどっちに行こうかと考えて自由に道を選べるので楽しいし、活発になりますね」

廣瀬さんの自宅のメインキャットウォークは部屋の端から端まで渡した、長さ7.5mの一本道。幅もあるので2匹の猫が擦れ違うときも悠々と歩けます。「住まいの中に猫的街並みを展開する」といった視点から解説すると、メインキャットウォークは都市でいえばメインストリート(大通り)という位置づけです。

メインキャットウォークの先には眺めを楽しむ窓。周囲にはすのこを張り巡らせ自在に動ける(写真撮影/水野浩志)

メインキャットウォークの先には眺めを楽しむ窓。周囲にはすのこを張り巡らせ自在に動ける(写真撮影/水野浩志)

メインキャットウォークから横断キャットウォークは、インテリア性も考えて廣瀬さんが好きなアーティスティックな組子細工の板を採用しています。

組子細工の横断キャットウォークは足元の下が見えるか見えないかで猫の冒険心をかき立てる? 厚さは約5cmで強度も問題ない(写真撮影/水野浩志)

組子細工の横断キャットウォークは足元の下が見えるか見えないかで猫の冒険心をかき立てる? 厚さは約5cmで強度も問題ない(写真撮影/水野浩志)

交差キャットウォークは、「猫的街並み」の視点では、信号がない交差点のような場所です。

キャットウォークが交差していると猫は自由で楽しい(写真撮影/水野浩志)

キャットウォークが交差していると猫は自由で楽しい(写真撮影/水野浩志)

猫の寝る場所もキャットウォークで上がれる天井裏を利用した落ち着く場所に設置。チャイちゃんがまったり(写真撮影/水野浩志)

猫の寝る場所もキャットウォークで上がれる天井裏を利用した落ち着く場所に設置。チャイちゃんがまったり(写真撮影/水野浩志)

廣瀬さんの家は勾配天井で、屋根材と下地の間に断熱材を入れて通気層となる隙間を設けた「屋根断熱通気層工法」を採用しているため、屋根裏に空間ができ、キャットウォークをたくさん設けることができました。小屋裏収納などに使うことが多い屋根裏を、猫たちが自由に楽しめるパラダイスとして有効活用したのです。平屋でも参考になる事例ではないでしょうか。

ポイント3 トイレと水飲み場がある猫専用の空間「猫ダイニング」をつくる

廣瀬さんの自宅には、1階と2階の2カ所に猫用の小部屋「猫ダイニング」があります。ダイニングといえば食事場所です。

「猫を初めて飼うとき、ほとんどの人が3段ケージを使います。一番下にトイレ、2段目にご飯と水を置いて、一番上にハンモックをつる、3段構成のケージです。飼い主がお世話するのに集中できますが、3段ケージを部屋として初めからつくればいいと考えたのが猫ダイニングです。

猫ダイニングには、猫の頭数分のトイレと猫の水飲み場(食事場所兼用)を置いています。水を少量だけ流しっ放しにできる水栓と手洗いボウルを設けた猫の水飲み場があると、猫はよく水を飲むようになります。水をよく飲む猫は下部尿路疾患のリスクが減り、毛艶もよくなります。猫は15年以上家の中で暮らしますから、長生きしてもらうためにも、間取りの中にあらかじめトイレの場所、猫ダイニングをつくってあげるといいですね」

カウンターにはくぐり穴を造作しトイレから2段目やキャットウォークへのスムーズな動線を設けた。トイレの置き場は防水性があるものを。つり戸棚には猫のものを収納((写真撮影/水野浩志)

カウンターにはくぐり穴を造作しトイレから2段目やキャットウォークへのスムーズな動線を設けた。トイレの置き場は防水性があるものを。つり戸棚には猫のものを収納((写真撮影/水野浩志)

食事場所とトイレが近くても立体的に配置すれば問題ありませんが、猫ダイニングではトイレの清潔感、掃除のしやすさがポイントになります。「猫トイレの置き場所はキッチンのカウンターに用いられる人造大理石で7cmの立ち上がりをつくり、内部の入隅にRをつけて、掃除がしやすいよう工夫しています。そして一番大事なのはトイレの近くに24時間稼働する換気扇をつけることです」。猫も個室があるとうれしいでしょうし、トイレも集中してできそう、飼い主は世話がしやすく省スペースで大助かりです。

廣瀬さんの自宅は猫2匹とジャックラッセルテリアのアリスちゃんが同居しています。犬が猫のトイレの砂を食べてしまうこともあるため、猫のトイレに犬を近づけないことが最重要課題で、だからこそ個室にすることが必要でした。

また、犬は猫が大好きで近づきたいそうですが、猫はマイペースで過ごしたいので犬と一緒にいたがらないそうです。犬と猫が仲良しの例もあるかもしれませんが、住まいにおいては、犬と猫がお互いに邪魔をしないように動線を分けてあげることが大切です。

ポイント4 猫が大好きな縦の運動ができる「猫大階段」などをつくる

キャットウォークは水平方向に動ける道ですが、猫にとっては縦の動き、縦と横をつないで立体的に動くことが大切です。廣瀬さんの自宅では、猫ステップ(上下の行き来ができる棚板)ではなく猫大階段、猫ロフト、猫専用階段を採用しています。

「猫はとにかく高い所が好きです。家の中ばかりにいると刺激も必要ですし、肥満防止にもなるので、縦の運動ができるように工夫しています。猫ステップは過去にたくさんつくって、幅や段差などをいろいろ調査しましたが、見た目(インテリア性)のことも考えて最近、猫ステップは設計に組み込んでいません。猫ダイニングの高さまで登るなら、椅子を一つ置くだけで十分です。
地形レベルで考えると、壁から飛び出した板を上がるより、小さい山があったり谷があったりした方が猫は楽しいので、最近は猫大階段と呼んでいる大きい階段をつくっています。猫は階段が大好きなので、機会があったら人間用の階段が複数ある家をつくりたいですね」

本棚兼用の猫大階段と、その背後にある猫ロフト(写真撮影/水野浩志)

本棚兼用の猫大階段と、その背後にある猫ロフト(写真撮影/水野浩志)

猫ロフトは、猫がのんびりくつろぐ空間。「猫専用の家具は必要ありません。人と猫が共用できる、猫のお気に入りの椅子があればいいですね」。猫は人が使う椅子が大好きですし、猫と住んでもインテリアの質を落としたくないという廣瀬さんのこだわりもあります。

人間用の読書空間にもなる猫ロフトにはカッシーナのすてきなチェアや小田隆の絵画が飾られている(写真撮影/水野浩志)

人間用の読書空間にもなる猫ロフトにはカッシーナのすてきなチェアや小田隆の絵画が飾られている(写真撮影/水野浩志)

デスク横の造り付けの家具は空間を仕切る収納棚であり、キャットウォークに上れる猫階段でもある(写真撮影/水野浩志)

デスク横の造り付けの家具は空間を仕切る収納棚であり、キャットウォークに上れる猫階段でもある(写真撮影/水野浩志)

左がキャットツリーで、1階から2階、猫ロフトまで一気に駆け上ることができる。右は猫用階段(写真撮影/水野浩志)

左がキャットツリーで、1階から2階、猫ロフトまで一気に駆け上ることができる。右は猫用階段(写真撮影/水野浩志)

廣瀬さんの自宅は、人間の居心地の良さと猫の居心地の良さ、人と猫の使いやすさが両立しています。美しく整然としていることも居心地の良さを高めます。例えば、家族がくつろぐリビング・ダイニングの壁、天井の下のキャットウォークはくぐり戸や猫柱とつながり部屋から部屋へ、上階から下階へと移動する機能をもちながら、インテリアとしてもアクセントになっています。

猫のほかに犬(テリア?の〇〇〇ちゃん)もいますが、

家族がくつろぐリビング・ダイニングにキャットウォークや猫専用階段、猫柱がなじんでいる。犬は主にリビングでくつろぐ(写真撮影/水野浩志)

家族がくつろぐリビング・ダイニングにキャットウォークや猫専用階段、猫柱がなじんでいる。犬は主にリビングでくつろぐ(写真撮影/水野浩志)

仕事の打ち合わせをする2階の応接室。猫が自在に動ける動線、猫が好きな景色を見る窓も、癒やしの植物もある(写真撮影/水野浩志)

仕事の打ち合わせをする2階の応接室。猫が自在に動ける動線、猫が好きな景色を見る窓も、癒やしの植物もある(写真撮影/水野浩志)

まだある!猫も家族もうれしい猫の家を2事例紹介

廣瀬さんの自宅のほか、廣瀬さんが設計した猫と暮らす家を2事例紹介します。

まずは、愛知県のW邸(猫5匹と同居)で、猫が岩盤浴を楽しむという個性的なコンセプトの家です。白とナチュラルを基調としたフレンチモダンのインテリアで統一されていて、猫も優雅に見えます。2階の猫大階段を上がると床暖房が採用された猫ロフトがあり、そこで猫がまるで岩盤浴のようにのんびりと楽しめる、ほんわかした雰囲気です。また、壁面の中に猫階段を設けた「猫壁」をつくるなど工夫を凝らしています。

W邸の猫大階段。左には猫トイレと食事スペース(画像提供/fauna+design)

W邸の猫大階段。左には猫トイレと食事スペース(画像提供/fauna+design)

W邸。猫が岩盤浴にアクセスするには猫大階段、キャットツリー、キャットタワー、爪研ぎ猫柱などいくつものルートがある。白い格子窓の窓台は猫の居場所(画像提供/fauna+design)

W邸。猫が岩盤浴にアクセスするには猫大階段、キャットツリー、キャットタワー、爪研ぎ猫柱などいくつものルートがある。白い格子窓の窓台は猫の居場所(画像提供/fauna+design)

W邸。猫は暖かい所が大好き。猫ロフト(岩盤浴)でくつろぐ猫(画像提供/fauna+design)

W邸。猫は暖かい所が大好き。猫ロフト(岩盤浴)でくつろぐ猫(画像提供/fauna+design)

W邸。壁に飾り棚や収納を設け、階段も猫の居場所に(画像提供/fauna+design)

W邸。壁に飾り棚や収納を設け、階段も猫の居場所に(画像提供/fauna+design)

次に紹介するのは、岡山県のO邸(猫3匹)で、キャット用のパティオ(中庭)、「キャティオ」のある家です。リビング・ダイニングの天井にはキャットウォークや猫ステップ、キャットツリーを設け、上部のすのこ上の猫寝天井(猫が寝るための天井空間)や猫ロフトへの移動をスムーズにしました。まるでバリのリゾートホテルのような趣のインテリアに猫の居場所や遊び場が違和感なくなじんでいます。

O邸。外からの視線も危険もない広いキャティオで、お腹を出して日なたぼっこを楽しむ猫(画像提供/fauna+design)

O邸。外からの視線も危険もない広いキャティオで、お腹を出して日なたぼっこを楽しむ猫(画像提供/fauna+design)

O邸。猫の寝床は人間のベッド。構造上必要な柱を爪研ぎの猫柱とし、連続的に並べているのは、猫のためと、デザイン面への配慮(画像提供/fauna+design)

O邸。猫の寝床は人間のベッド。構造上必要な柱を爪研ぎの猫柱とし、連続的に並べているのは、猫のためと、デザイン面への配慮(画像提供/fauna+design)

O邸。リビング・ダイニングのキャットウォークから猫ステップへリズミカルに移動する猫(画像提供/fauna+design)

O邸。リビング・ダイニングのキャットウォークから猫ステップへリズミカルに移動する猫(画像提供/fauna+design)

O邸。コーナーで折れ曲がるキャットウォーク(画像提供/fauna+design)

O邸。コーナーで折れ曲がるキャットウォーク(画像提供/fauna+design)

以上の二つの事例は、家族の好みや趣味、インテリア性を大事にしながら、猫のストレスがたまらないように、気持ちよく過ごせることを優先的に考えています。そして、猫が幸せだと飼い主も幸せ、お互いが幸せになる家です。

廣瀬さんの自宅を参考に「猫と暮らす家について大切なこと」をまとめてみました。

・お気に入りの場所に行けるキャットウォークを設ける
・縦、垂直に移動できる猫階段、猫柱などを設け、縦と横がつながるようにする
・屋根断熱工法を採用すると屋根裏を猫の遊び場として利用できる
・高い所、外を眺めるのが好きな猫のために窓と窓の前の居場所を設ける
・猫の水飲み場、食事場所、トイレを1カ所にまとめた猫ダイニングを設ける。少量でいいので常に新鮮な水を流しっ放しにし、換気扇をつけて清潔に保つ

廣瀬さんがつくるペット共生住宅は、猫の習性や行動に基づいて猫にとって必要なものをつくり、猫目線で猫が喜ぶこと、幸せに感じることを考えた住宅です。人間がペットのために我慢することがないように、反対にペットが人間のために我慢することがないように、お互いに健やかに暮らせるように工夫して、ペットと暮らす家づくりを考えてみませんか。

●取材協力
廣瀬慶二さん
設計事務所fauna+design代表、犬猫専門建築家、一級建築士、一級愛玩動物飼育管理士。神戸大学大学院自然科学研究科博士前期課程修了。著書『ペットと暮らす住まいのデザイン』ほか

ZEHの認知率が直近5年間で最高値に!2030年度のZEH基準義務化については?

リクルートが注文住宅の「建築者」(過去1年以内に注文住宅を建築した人)と「検討者」(今後2年以内に注文住宅の建築を検討している人)に調査を実施した。今回は調査結果の中でも、「ZEH(ゼッチ)」に関する結果に注目して見ていこう。

【今週の住活トピック】
「2022年注文住宅動向・トレンド調査」を発表/リクルート

ZEH認知率は77.4%、直近5年間で最高値。経済的メリットは月8562円

リクルートが実施した2022年の調査結果によると、「ZEHの認知率(内容まで知っている28.6%+名前だけは知っている48.8%)」は77.4%となり、直近5年の中で最高値となった。注文住宅建築者の4人に3人以上が、ZEHを認知していることになる。

また、ZEHを導入した人に「光熱費等の経済的メリット」を聞いたところ、平均額は8562円/月になった。電気代は気候によって変わるので毎月同じ額ではないが、この額なら年間を通じて電気代のかなりの部分をカバーできるのではないか。一方で、金額帯別に見ると、「5000円以上10000円未満」が最多の29.2%だが、次に「2500円未満」(26.3%)が挙がるなど、実際には各家庭でばらつきが大きいことも分かる。

SUUMO副編集長・中谷明日香さんは、「ハウスメーカー大手各社も、ZEH商品の強化を図っていますし、ZEH導入による光熱費などの経済的メリットの大きさからも、今後も導入率は伸びていくのでないかと見立てています」と分析している。

ZEH導入による光熱費等の経済的メリット(全国/ZEH導入者)(出典:リクルート「2022年注文住宅動向・トレンド調査」より転載)

ZEH導入による光熱費等の経済的メリット(全国/ZEH導入者)(出典:リクルート「2022年注文住宅動向・トレンド調査」より転載)

2030年度にはZEH基準が義務化される!この認知度はかなり高い

ところで、ZEH基準が2030年度からの新築住宅で義務化されることをご存じだろうか?

経緯を説明しよう。政府は2050年カーボンニュートラル宣言を受けて、建築物の省エネ性強化を加速させている。建築物には「省エネ基準」が定められており、住宅以外の建築物では現行の省エネ基準に適合していないと新築できないことになっている。この省エネ基準について、新築住宅でも2025年度には適合するように義務化する予定になっている。さらに、2030年度以降は義務化する基準を「ZEH基準」に引き上げようとしているのだ。

ここまで認知しているのは、住宅の省エネ性能について関心の高い人に限られるのではないかと思うが、調査結果を見てみよう。「建築者」の認知度は34.1%と3人に1人は認知していることになるが、「検討者」の認知度はさらに高く50.2%と2人に1人が認知している状況だ。検討者が自分事としてとらえていることがうかがえる結果だ。

Z2030年度ZEH基準義務化の認知状況 上図:建築者 下図:検討者(出典:リクルート「2022年注文住宅動向・トレンド調査」より転載)

Z2030年度ZEH基準義務化の認知状況 上図:建築者 下図:検討者(出典:リクルート「2022年注文住宅動向・トレンド調査」より転載)

ZEH導入とZEH基準義務化は、同じZEHでも同じじゃない

さて、ZEHの導入で光熱費等の経済メリットが平均で月8562円だったというのは、太陽光発電などで電気を生み出しているからだ。住宅の省エネ性をいくら高めたとしても、住宅内でエネルギーを消費するので、エネルギー収支はマイナスになり、ゼロエネルギーの家にはならない。プラスマイナスゼロにするには、住宅の設備機器で電気をつくり、エネルギーをプラスする必要があるのだ。

最近は電気代が上がっているので、経済的メリットを大きく感じられることだろう。太陽光発電設備については、設置費用が100万円程度かかるといわれている。先行投資費用を電気代などの経済メリットによって、住みながら時間をかけて回収するという形だ。政府だけでなく、東京都でも新築一戸建ての太陽光発電設備の設置を推し進める予定だ。そこで、補助金を出したり、初期投資は電力事業者が負担する(屋根貸しや電気代の一定期間サブスクなど)手法を用いて、初期費用の負担軽減を図る仕組みを広げようとしたりしている。

一方、2030年度から新築住宅で適合義務化となる「ZEH基準」は、必ずしも太陽光発電などで電気を生み出すことを求めていない。現行の省エネ基準よりも省エネ性の高いZEH基準に引き上げて、住宅そのものの省エネ性の底上げを図ろうとしているのだ。

住宅の省エネ性を高めるにはいろいろな方法があるが、たとえば東京の気候なら、天井や壁・床を覆う断熱材をより厚くしたり、窓まわりのガラスを複層ガラスからLow-E複層ガラス(遮熱タイプ)に、窓枠も熱を伝えやすいアルミサッシから樹脂サッシに切り替えたりして、省エネ性の高いZEH基準を実現するといった具合になる。その分コストが上がるので、気になるのは建築費のことだろう。

気になる建築費の高騰、新築住宅へのZEH基準義務化の影響は?

近年は、資材不足や円安、燃料費の影響などで住宅の建築費が上がっている。この調査で「建築者」に対して「建築費高騰を認識していたか」を聞いたところ、75.1%が認識していたと回答し、41.6%が「建築費高騰の影響があった」と回答した。

一方、「検討者」に対して、「建築費高騰を認識しているか」を聞くと、建築者よりさらに多い89.7%が認識していると回答した。また、「建築費高騰の今後の予想」では、62.3%が「現在より上がっていく」、26.6%が「現在の水準が続く」と回答し、合わせて約9割が建築費は今後もさらに上がるか高騰したまま推移すると予想している。

建築費高騰の今後の予想(検討者/建築費高騰の認識者)(出典:リクルート「2022年注文住宅動向・トレンド調査」より転載)

建築費高騰の今後の予想(検討者/建築費高騰の認識者)(出典:リクルート「2022年注文住宅動向・トレンド調査」より転載)

調査では、「検討者」に対して「建築費高騰で予算オーバーした場合にどうするか」も聞いている。最多は「予算を増やす」の39.4%だったが、「土地費用を抑える」(27.4%)や「建築費と土地費用を両方抑える」(21.3%)など、建築プランへの影響もみられた。

建築費高騰で予算オーバーした場合の予算・建築プラン変更の有無(検討者/建築費高騰の認識者)(出典:リクルート「2022年注文住宅動向・トレンド調査」より転載)

建築費高騰で予算オーバーした場合の予算・建築プラン変更の有無(検討者/建築費高騰の認識者)(出典:リクルート「2022年注文住宅動向・トレンド調査」より転載)

では、省エネ基準の引き上げによる建築費のコストアップはどうだろう?
現行の省エネ基準に適合している住宅がすでに普及していることから、省エネ基準の義務化で建築費が上がるとは思えないが、2030年度以降のZEH基準の義務化では、建築費に影響があると考えられる。ただし、いまの建築費高騰とは違って、義務化によるコストアップは予想できることなので、政府は優遇制度などで支援するだろう。

すでに、住宅ローン減税の控除対象となる住宅ローンの限度額をZEH基準などで引き上げたり、【フラット35】S(【フラット35】の金利引き下げ制度)でZEH基準を追加して優遇するなどの手を打っている。今後も、「こどもエコすまい支援事業」による補助金などが予定されている。

建築物の省エネ性の引き上げについては政府が力を入れているので、減税や補助金、融資などのさまざまな支援策が用意されるだろう。こうした優遇制度を有効に活用して、希望する建築プランで省エネ性の高い住宅を建てられることを願っている。

●関連サイト
リクルート「2022年注文住宅動向・トレンド調査」

京都の細長すぎる家に思わず二度見!1階は立ち飲み兼古本屋、2階は自宅の”逆うなぎの寝床” バヒュッテ

京都にある「細長ぁ~い」お店が話題です。間口がおよそ18mあるのに対し、奥行きはたったの2~3m。この悪条件のなか、なんと住居兼店舗を実現。狭小な敷地の有効活用が高い評価を受け、2021年度「グッドデザイン賞」を受賞しました。

連日にぎわうこの店には、未利用地の活用に頭を痛める人々を救うヒントがあるはず。古書、雑貨、立ち呑みの三つの商いを一堂で行う「バヒュッテ」の清野郁美さんに運用の秘訣をうかがいました。

狭い? 広い? 思わず二度見してしまう不思議な建物

「グッドデザイン賞」を受賞したウワサのお店は、叡山(えいざん)電鉄「修学院」駅を下車し、徒歩およそ5分のところにあります。

駅前のアーケード商店街「プラザ修学院」を抜けると、そこは白川通りという名の車道。ここに築かれた建物こそが、目指すお店「ba hütte.(バヒュッテ)」です。オープンは2019年5月30日。2022年で4年目を迎えます。

あなたは、きっと二度見するでしょう。木立のなかに現れたその建物を。あまりにも、あまりにも「細い」。いや、「細い」を通り越して、「薄い」のです。

白川通りに面して立つ、思わず二度見してしまう細長い建物。これがグッドデザイン賞を受賞した「バヒュッテ」(写真撮影/吉村智樹)

白川通りに面して立つ、思わず二度見してしまう細長い建物。これがグッドデザイン賞を受賞した「バヒュッテ」(写真撮影/吉村智樹)

しかし、通りの反対側から眺めてみると、今度は「ひ、広い!」。間口はなんと、およそ18mにも及ぶといいます。

広いのか、はたまた狭いのか。見る角度によって印象が大きく変わる、まるでトリックアートのような建物。隣接する大学施設や神社の樹木と相まって、とてもファンタジックな印象を受けます。

白川通をはさんで反対方向から眺めると、とても大きな建物に見える(写真撮影/吉村智樹)

白川通をはさんで反対方向から眺めると、とても大きな建物に見える(写真撮影/吉村智樹)

しかし、横から見ると窓サッシと同じサイズの奥行きしかない。神社の石碑もあり、神秘的なムードが漂う(写真撮影/吉村智樹)

しかし、横から見ると窓サッシと同じサイズの奥行きしかない。神社の石碑もあり、神秘的なムードが漂う(写真撮影/吉村智樹)

間口が広く、奥行きが浅い「逆・うなぎの寝床」

「うちの店はよく“逆・うなぎの寝床”と呼ばれますよ」

そう語るのは「バヒュッテ」店主、清野(せいの)郁美さん(38歳)。

古本・雑貨・立ち呑み「バヒュッテ」店主、清野郁美さん(写真撮影/吉村智樹)

古本・雑貨・立ち呑み「バヒュッテ」店主、清野郁美さん(写真撮影/吉村智樹)

「逆・うなぎの寝床」とは言い得て妙。「うなぎの寝床」といえば間口が狭く、反面、奥行きが深い建物のこと。江戸時代、京都は間口の広さに比例して税金の額が決められていました。そのため、住民はこぞって間口を狭くし、奥行きが深い家を建てたのです。京都の建築様式が「うなぎの寝床」と呼ばれているのは、そのためです。

バヒュッテは、うなぎの寝床の正反対。間口は驚くほど広く、しかしながら奥行きはたったの2.2~3.7mしかありません。間口が約18mもありながら、建坪はなんと、わずか8.7坪しかないのです。

清野「自分は見慣れているので日ごろはなんとも思わないのですが、たまに旅から帰ってきて、改めて自分の店を見てみると、『ほそっ!』と思います(笑)。江戸時代だったら、うちの店はものすごくたくさんの税金を払わなきゃいけませんね」

細長い店内には古本と雑貨がひしめく。とはいえ天井が高く、意外と閉塞感がない(写真撮影/吉村智樹)

細長い店内には古本と雑貨がひしめく。とはいえ天井が高く、意外と閉塞感がない(写真撮影/吉村智樹)

細長いだけではありません。敷地は、実はきれいな長方形になっていない不整形地。ご近所の人が言うには、以前この場所には小屋のように簡素な造りの魚屋さんがあったのだとか。さらにそれ以前は水車小屋が立っていました。代々、“地元に根付く小屋がある場所”だったようです。

更地にした状態。細長いうえに台形の不整形地。最南端の奥行きは驚きのわずか2.2m(画像提供/バヒュッテ)

更地にした状態。細長いうえに台形の不整形地。最南端の奥行きは驚きのわずか2.2m(画像提供/バヒュッテ)

かつてはここで鮮魚店が営まれていた(画像提供/バヒュッテ)

かつてはここで鮮魚店が営まれていた(画像提供/バヒュッテ)

清野「偶然なのですが、バヒュッテの『ヒュッテ』も小屋という意味なんです」

なんと、この地のさだめに引き寄せられたかのように、新たな小屋(ヒュッテ)が誕生していたのでした。ではバヒュッテの「バ」とは?

清野「世代を超えた交流の“場(バ)”になったらいいな、と思い……というのは後付けで、本当は“バ!”というパワーがある語感が好きなので名づけました」

本、雑貨、お酒。どれもはずせない要素だった

パワフルな語感のバヒュッテは、建物の細長さのみならず、業態もインパクト強め。コンセプトは「古本と雑貨と立ち呑みのお店」。壁一面に本棚があり、シブめなセレクトにうならされます。

殿山泰司、田中小実昌、深沢七郎、色川武大など「風来坊」「無頼派」と呼ばれた作家や役者の本が数多く並ぶ。風変わりな店の雰囲気とよく合っている(写真撮影/吉村智樹)

殿山泰司、田中小実昌、深沢七郎、色川武大など「風来坊」「無頼派」と呼ばれた作家や役者の本が数多く並ぶ。風変わりな店の雰囲気とよく合っている(写真撮影/吉村智樹)

2016年に結婚した清野郁美さん。パートナーの清野龍(りょう)さん(42)は20年以上にわたり大手書店にお勤めのベテラン書店員です。清野さんも同じ書店に10年以上働いていており、二人はかつての同僚でした。

夫妻ともども本が大好き。バヒュッテで販売している本はほぼすべて、ご両人の私物。センスのいい本ばかりと思ったのもどうりで。二人は二階で暮らし、夫の龍さんは、書店の勤務が休みの日はバヒュッテを手伝うのだそうです。

京都の大手書店で店長を務め、休日になるとバヒュッテを手伝う夫の龍さん。本とともに生きる日々(写真撮影/吉村智樹)

京都の大手書店で店長を務め、休日になるとバヒュッテを手伝う夫の龍さん。本とともに生きる日々(写真撮影/吉村智樹)

雑貨は、ポーチやペン、ノート、手ぬぐいと、バリエーション豊か。

手ぬぐい、靴下、ステーショナリーなど雑貨の品ぞろえも豊富(写真撮影/吉村智樹)

手ぬぐい、靴下、ステーショナリーなど雑貨の品ぞろえも豊富(写真撮影/吉村智樹)

そして注目すべきは、L字になった魅惑の立ち呑みスタンド。背徳の昼呑みが楽しめます。建築物としてのユニークさにばかり目を奪われがちですが、古書店で飲酒ができる点もかなり希少でしょう。

L字の立ち呑みスタンドで午後2時からお酒が楽しめる。意外とない“チョイ呑み”スポットだ(写真撮影/吉村智樹)

L字の立ち呑みスタンドで午後2時からお酒が楽しめる。意外とない“チョイ呑み”スポットだ(写真撮影/吉村智樹)

清野「私自身、本が好きで雑貨が好きで、そしてお酒が大好きだったんです。だから本、雑貨、お酒、三つともそろえました。狭いスペースで欲張りすぎなんですけれど、どれ一つ、はずせなかったですね」

清野さんの朗らかなキャラクターに惹かれ、夕方から続々とお客さんが呑みにやってきます。語感で選んだという「バヒュッテ」の「バ」は、コミュニティーの「場」として根付き、成熟していったようです。

南側の出入口には「外呑み」できるスペースが設けられている(写真撮影/吉村智樹)

南側の出入口には「外呑み」できるスペースが設けられている(写真撮影/吉村智樹)

「理想の物件に出会えないのならば土地を買って建てよう」

住居兼店舗である「バヒュッテ」は店舗としても住居としても非凡な、言わば珍建築のハイブリット。その発想は、どこから生まれたのでしょうか。

清野「結婚するタイミングで、夫と『家を借りようか。それとも買おうか』と話し合っているなかで、『お店もやれたらいいね』という気持ちが芽生えてきたんです」

本好きの二人は、「古本の販売を基本とした、自分たちらしいお店を営みたい」という夢を共有するようになりました。しかしながら、物件探しは簡単にはいきません。

清野「はじめは、『住むマンションは買って、店はテナントを借りる』という方針で動いていました。とはいえ、いいなと感じる住居、面白いと思えるテナント、二つを同時に探すのがものすごく大変で」

「自分たちらしい店がやりたいと思い、はじめは居住とテナントを別々に探していたが、なかなかいい物件に巡り合えなかった」と語る清野さん(写真撮影/吉村智樹)

「自分たちらしい店がやりたいと思い、はじめは居住とテナントを別々に探していたが、なかなかいい物件に巡り合えなかった」と語る清野さん(写真撮影/吉村智樹)

なかなか理想郷にたどり着けない清野さん夫妻。そこで、大胆な発想の転換を試みたのです。

清野「だったら、『いっそ思いきって土地を購入して、拠点を新たに建てたほうが、自分たちにあったかたちにできるんじゃないか』って、考え方が変わってきたんです」

店舗兼住居を借りるのではなく、「建てる」。言わば一世一代の大勝負に出た清野さん。そうしてたどり着いた場所が、「逆・うなぎの寝床」。ユニーク極まりない、尻込みする人が多い不整形地ですが、画期的な業態の店舗を開こうとする二人の新しい門出として、むしろ適していたのです。この土地に出会うまでに、「およそ3年もの月日を要した」と言います。

清野「長かったですね。やっと出会えた、そんな気がしました。私も夫も一目惚れ。『ここ、ここ!』って即決しました。並木道なので緑が豊富。散歩コースだから人通りもそれなりにある。隣接している建物がなく、たとえ少々音をたてたとしてもご近所に迷惑が掛からない。すぐそばに商店街があり、さらにスーパーマーケットがあって、病院があって、銀行があってと、至れり尽くせり。『住む』と『商売をする』の両立を可能とする唯一の物件だったんです」

レアな土地に誕生した、レアな城。遂にバヒュッテは完成し、細長さを逆手に取った仕様がたちまち話題になりました。そうして遂に「グッドデザイン賞」の受賞に至ったのです。

木材を斜めにとりつける大胆な構造。建築のプロたちも驚いた

バヒュッテがグッドデザイン賞に輝いた大きな理由の一つが「筋交い(すじかい)」。筋交いとは建物を強くするために、柱の間などに斜めに交差させてとりつけた木材のこと。とはいえ、実際に筋交いが空間を堂々と斜めに横切る店舗はそうそうありません。バヒュッテのシンボルともいえる武骨な筋交いは、何度見ても驚かされます。

バヒュッテのシンボルといえる、大胆に設えられた「筋交い」。初めて見た人はギョッとする(写真撮影/吉村智樹)

バヒュッテのシンボルといえる、大胆に設えられた「筋交い」。初めて見た人はギョッとする(写真撮影/吉村智樹)

清野「筋交いをしなきゃいけない理由は、通りに面した柱を減らすためです。『間口は全面ガラス張りにする』という設計士さんのアイデアがあり、そのために壁面に大きな筋交いが必要となったんです。これだけ大きいと、隠しようがない」

集成材でできた筋交いで壁側をしっかり固め、揺るぎない構造に。これにより間口の開放感がグンと増しました。

では、そもそも間口を全面ガラス張りにした理由は、なんなのでしょう。それは、「歩道すら建築の一部だと錯覚させるため」。狭いゆえに、外の景色も店内に採り入れようという発想なのです。筋交いは功を奏し、抜群の採光と眺望を手に入れました。視覚的効果がこれほどの爽快感をもたらすとはと、感心してしまいます。

筋交いが建物をしっかり支え、間口の全面ガラス張りを可能にしている。ガラス張りによって店内にいながら屋外の街路樹など眺望を楽しめる。おかげで狭さを感じない(写真撮影/吉村智樹)

筋交いが建物をしっかり支え、間口の全面ガラス張りを可能にしている。ガラス張りによって店内にいながら屋外の街路樹など眺望を楽しめる。おかげで狭さを感じない(写真撮影/吉村智樹)

地面を掘って天井を高く見せる効果は絶大

もう一つ、バヒュッテの構造には大きな特徴があります。それは古本や雑貨が並ぶ店舗部分の地面を掘り下げていること。その深さは約600mm。

清野「地面を掘ったのも設計士さんのアイデアです。掘って床を下げ、天井を高く見せ、狭さを感じなくさせているんです」

書籍や雑貨のコーナーは600mm掘り下げ、それによって天井を高く見せた(写真撮影/吉村智樹)

書籍や雑貨のコーナーは600mm掘り下げ、それによって天井を高く見せた(写真撮影/吉村智樹)

確かに掘られた床に立っていると、窮屈さをまるで感じません。天井が高く、ガラス戸から陽光が差し込み、まるで教会にいるような敬けんな気持ちにすらなってきます。

とはいえ、それは怪我の功名ともいえます。実はこの敷地、かたちがいびつなだけではなく、南北で高低差もある難物だったのです。地面を掘って店舗に床高の変化をつけたのは、やっかいな敷地を店舗として成立させる苦肉の策でもありました。そしてこの店内の起伏が、グッドデザイン賞を受賞したポイントとなったのです。

不整形かつ南高北低の傾斜地というなかなか難易度が高い立地。店内の床を掘り、地面をフラットにせざるをえなかった。最高で地上440mmの基礎を設け、雨の侵入を防いでいる(写真撮影/吉村智樹)

不整形かつ南高北低の傾斜地というなかなか難易度が高い立地。店内の床を掘り、地面をフラットにせざるをえなかった。最高で地上440mmの基礎を設け、雨の侵入を防いでいる(写真撮影/吉村智樹)

工事の様子(画像提供/バヒュッテ)

工事の様子(画像提供/バヒュッテ)

細長い店舗兼住居が「新時代の町家建築」と高評価に

2021年度「グッドデザイン賞」に選ばれたこの類まれなる店舗併用住宅「バヒュッテ」を設計したのは京都市北区にある「木村松本建築設計事務所」。

公益財団法人「日本デザイン振興会」は、バヒュッテを「京都に出現した新時代の町家建築だ。働くことと暮らすことが混ざり合った都市住宅の新しい在り方を示すことに成功している。街の本屋がどんどんと閉店していく中で、古本屋がこうやって暮らしと溶け合うのは、大変に現代的な現象であるとも言える。時代の流れを生む重要なデザインである」と評価しました。それが受賞の理由。

設計者の一人である木村吉成さんはバヒュッテを、「クライアント、構造家、施工者が一丸となってつくった建物」と語りました。自分たちでも会心の作だったという熱い想いが伝わってきます。木村松本建築設計事務所はさらにバヒュッテの設計を高く評価され、日本建築家協会が主催する「JIA新人賞」も同年に受賞。いっそう箔をつけたのです。

グッドデザイン賞の受賞を機に、特殊な構造を一目見ようと、バヒュッテには設計士、建築関係者、大学教授、建築を勉強する学生たちが続々とやってくるようになりました。なかには他府県からわざわざ見学に訪れる人もいるのだとか。

世代や国籍を問わず、建築に関心がある人たちが集まり、交流が始まるという(画像提供/バヒュッテ)

世代や国籍を問わず、建築に関心がある人たちが集まり、交流が始まるという(画像提供/バヒュッテ)

清野「みんな怪訝な表情で10分ほど写真を撮っていかれます。そして居合わせた見学者さん同士でビールを飲んで盛りあがる場合もしばしばあるんです。そんなときはいつも、『こういう仲をとりもてたのが、この構造の一番の効果かな』と思うんです。ただ、ここを設計してくれた木村さんは、『ここまで立ち呑み屋として発展するとは自分でも意外だった。酒がすすむ効果までは考えていなかった』とおっしゃっていましたね」

間口をガラス張りにして閉塞感を拭い去り、筋交いを隠すことなくさらけだした構造には、設計士すらも気がつかなかった、飾らずに楽しく会話させる効能があったのかもしれません。

立ち呑みコーナーには続々と人がやってきて、会話に花が咲く。「立ち呑み屋としてここまで機能するとは」と設計士自身も驚いたという(写真撮影/吉村智樹)

立ち呑みコーナーには続々と人がやってきて、会話に花が咲く。「立ち呑み屋としてここまで機能するとは」と設計士自身も驚いたという(写真撮影/吉村智樹)

珍しい日本酒やクラフトビールがそろう。BGMはアナログレコード。やさしい音色が穏やかな空間に溶け込む(写真撮影/吉村智樹)

珍しい日本酒やクラフトビールがそろう。BGMはアナログレコード。やさしい音色が穏やかな空間に溶け込む(写真撮影/吉村智樹)

不整形地もアイデア次第で活用できる

さて、気になるのは居住部分。さまざまな仕掛けで狭さを感じさせないように設計されたバヒュッテですが、家となるとさすがに「細長すぎるのでは」と心配になります。

間取図。「店を通らずに居住スペースへ行ける」点にこだわったという(画像提供/バヒュッテ)

間取図。「店を通らずに居住スペースへ行ける」点にこだわったという(画像提供/バヒュッテ)

建築模型。周辺の木立は当初から大切な要素だった(画像提供/バヒュッテ)

建築模型。周辺の木立は当初から大切な要素だった(画像提供/バヒュッテ)

清野「お客さんからよく、『本当に夫婦で二階に住んでいるの?』『人が住めるんですか?』と聞かれます。確かによその家よりも細長いので、友達を数人呼ぶと、横一列に並んで座る感じになりますね。『ちょっと、どいて』って言わないと通れませんし。でも、不便を感じるのはそれくらいかな。ロフトになっていて、狭さを感じないです。総面積だと小さめのマンション一部屋ぶんくらい十分にありますよ」

居住スペース。陽当たり良好。西日が強いため厚さが異なる2枚のカーテンで光の量を調節する(写真撮影/吉村智樹)

居住スペース。日当たり良好。西日が強いため厚さが異なる2枚のカーテンで光の量を調節する(写真撮影/吉村智樹)

それを聞いて安心しました。そして、いよいよ核心である「お値段」について踏み込まねばなりません。バヒュッテの建築には、いったいいくらかかったのでしょう。

清野「土地だけで2680万円。魚屋さんの建物を撤去する費用に10万円。そして店舗兼住居の建築費に3000万円。計およそ6000万円ですね。借入は35年の住宅ローンです。35年じゃないとローンが組めなかったので」

人気の京都市左京区内で、しかも駅から徒歩5分ほど場所の土地が2680万円とは安い。さらにもとあった鮮魚店店舗の撤去費用がわずか10万円とは破格にお得。不整形地でも固定観念を覆し、冴えたアイデアさえあれば存分に活かせるのだと、バヒュッテは教えてくれます。

お客さんに寄り添いながら流動してゆく店に

いまや修学院駅周辺エリアのランドマークであり、大切なコミュニティーの「バ」となったバヒュッテ。今後はどんなお店にしたいと考えているのでしょう。

清野「自分たちでこうしたいというより、お客さんに寄り添いながら流動してゆく店でありたい。もともとは古本と雑貨をメインに考えていて、午前11時オープン、夜は早く閉まるお店でした。けれども立ち呑みコーナーが人気となって、現在は昼下がりの午後2時から午後8時までになったんです。お酒の品ぞろえもお客さんの好みに合わせて変わってきました。そんなふうにニーズを探りつつ、自分たちがやりたいことをすり合わせて、変化させていく。そんなお店にしたい。現状維持はつまらないですしね」

夜になるとさらに存在感が増すバヒュッテ。全面ガラス張りの間口から漏れる灯りが街の治安にも貢献している(写真撮影/吉村智樹)

夜になるとさらに存在感が増すバヒュッテ。全面ガラス張りの間口から漏れる灯りが街の治安にも貢献している(写真撮影/吉村智樹)

開店して4年。いまや地元のコミュニティーの場として欠かせない存在となった(写真撮影/吉村智樹)

開店して4年。いまや地元のコミュニティーの場として欠かせない存在となった(写真撮影/吉村智樹)

街角に現れた、見る角度によって大きさが変わる不思議な小屋。そこは、人間の多様性や多面性を受け入れるやさしさがありました。

●取材協力
ba hütte.(バヒュッテ)
住所 京都府京都市左京区山端壱町田町38番地
営業時間 14:00 ~ 20:00
定休日 火曜日 水曜日 臨時休業あり
電話 075-746-5387
地上2階 /敷地面積:52.60平米 /建築面積:29.00平米 /延床面積:53.64平米

自宅の1階に酒屋&角打ちを誘致!会社員が夢をかなえた店舗付き住宅

「自宅の1階に好きなお店があったらいいのに」「家賃収入のある大家さんになりたい」、そんな妄想や夢想をした人もいるのではないでしょうか。今回は、賃貸でも購入でもなく、自宅の1階に好きな酒店「いまでや清澄白河」を誘致するという夢と愛のある「大家暮らし」を叶えた小島雄一郎さんにインタビューしました。

分譲も賃貸も経験。行き着いたのは好きな街・清澄白河で「店舗併用住宅」

コーヒーとアートの街として知られる清澄白河(東京都江東区)。この街の一角に今年2021年8月、酒屋「いまでや 清澄白河」が誕生しました。店のコンセプトは「はじめの100本」。お酒に詳しくない人でも、日本各地の日本酒やワインなどに詳しくなっていけるという、お酒のセレクトショップです。10月22日から「角打ち」(酒を酒屋の一角で立ち呑みすること)もできるようになりました。

住宅街の一角にできた「いまでや 清澄白河」(写真撮影/相馬ミナ)

住宅街の一角にできた「いまでや 清澄白河」(写真撮影/相馬ミナ)

日本酒やワインを知るための「はじめの100本」がコンセプト(写真撮影/相馬ミナ)

日本酒やワインを知るための「はじめの100本」がコンセプト(写真撮影/相馬ミナ)

「これはどんなお酒?」と手に取りやすく、会話もうまれやすい仕掛けがしてある(写真撮影/相馬ミナ)

「これはどんなお酒?」と手に取りやすく、会話もうまれやすい仕掛けがしてある(写真撮影/相馬ミナ)

店舗付き住宅の場合、オーナーが自宅で商売をする、または、不動産会社にテナント誘致を任せることが多いのですが、今回の家はそれとはまったく事情が異なります。この家の所有者は、広告代理店に勤務し、「若者研究」などで知られる小島雄一郎さん。自身で酒店を口説いて誘致し、「自分の家の1階に大好きな酒屋が入る」という酒飲みの夢のような家を建てた、というのがそのあらましです。とはいえ、いきなり店舗併用住宅という結論に至ったのではなく、実は「賃貸or購入」という、30代の住まいの「命題」について考え抜いた結果だったといいます。

「もともと、清澄白河近くの賃貸住宅で暮らしていましたが、コロナ騒動前は年間100日ほど出張があって、自宅にいないのに家賃を支払うという状況だったんです。だったら、買うにしても借りるにしても、『家』に“働いて”もらったほうがいいんじゃない?というのがそもそものはじまりなんです」と話します。

キッチンからリビングをのぞむ。どこを切りとってもスタイリッシュ(写真撮影/相馬ミナ)

キッチンからリビングをのぞむ。どこを切りとってもスタイリッシュ(写真撮影/相馬ミナ)

ただ、賃貸物件であっても、分譲物件であっても、集合住宅ではAirbnbなど民泊の時間貸し、部屋の貸し出しは、規約で禁じられていることが多いもの。「集合住宅で家に働いてもらう」のは、すぐに厳しいと気がついたそうです。

「次に考えたのが中古物件+リノベです。ただ、下町で流通する中古物件は、建ぺい率(敷地面積に対する建物の建築面積)がオーバーしているなど、現在の法律だと違法建築だったり、既存不適格だったりするため、住宅ローンが使えないこともあるようです。そのため、結果として新築の注文住宅、しかも店舗併用住宅という発想に至りました」といいます。こうして小島さんの「借りるor買う」からはじまった住宅問題は、「大家になって稼ぐ家をつくる」という判断になったのだといいます。

小島さん宅の間取り1、2階(画像提供/須藤剛建築設計事務所)

小島さん宅の間取り1、2階(画像提供/須藤剛建築設計事務所)

小島さん宅の間取り3、PH階(画像提供/須藤剛建築設計事務所)

小島さん宅の間取り3、PH階(画像提供/須藤剛建築設計事務所)

建築、食、酒、アートなどに触れる暮らし。家を建てたことで、「自分の文化度」が上がった

ただ、東京の人気エリアで、土地を買って、新築で店舗併用住宅を建てるとなれば、金額的にも大きな決断になることには違いありません。

「土地を買ってこの建物を建てたのですが、建物の建築面積は90平米程度、建物は3階建てで、2階と3階、屋上が住まいになります。東京都内の新築マンション価格はあがる一方なので、結果としては新築マンションを買ったのと同程度の価格帯におさまりました」といいます。毎月の住宅ローン収支でいうと、家賃収入を返済額に充てれば、ご自身で支払う返済額は賃貸に住んでいたころの賃料の半額程度といいます。ただ、自宅にはサウナがあったり、屋上でバーベキューや流しそうめんができたりと、暮らしの満足度、充実度は比較になりません。

リビングを横から。つるされたグリーン&ギターが素敵(写真撮影/相馬ミナ)

リビングを横から。つるされたグリーン&ギターが素敵(写真撮影/相馬ミナ)

2階の寝室&仕事スペース。手持ちの和箪笥もなじんでいます(写真撮影/相馬ミナ)

2階の寝室&仕事スペース。手持ちの和箪笥もなじんでいます(写真撮影/相馬ミナ)

2階にはサウナも! 建築家もサウナ好きだったそう(写真撮影/相馬ミナ)

2階にはサウナも! 建築家もサウナ好きだったそう(写真撮影/相馬ミナ)

屋上。目の前は寺社で、遮るものがなく、大きな空が広がる(写真撮影/相馬ミナ)

屋上。目の前は寺社で、遮るものがなく、大きな空が広がる(写真撮影/相馬ミナ)

「建築家と建てた家なので、インテリアをはじめ、好みのテイストで統一できていて、暮らしの満足度は比べ物になりません。ただ、電気配線工事の依頼や各種手続きなどは自分ですべてやらなくてはいけなくて、手間はかかりました。新築マンションや賃貸だと、ぜんぶセットアップされているので、決められた手続きをしていけば暮らしがはじめられますが、注文住宅なので一つひとつ自分がやらなくてはいけない。大変でしたが、家を建てるなかで、建築やインテリア、食、地域やコミュニティへの理解など、自分の暮らしの『文化度』があがった気がします」と家を建てた経験を振り返ります。

(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

また、家について考えていたこの1年は、コロナ禍でリモートワークが導入され、働き方や家の価値、街との関わり方について考えることも増えたといいます。

「在宅時間が増え、家や街のことをより考えるようになり、単なる収入ではなく、大家として自分にも、街や地域にもよい影響があったらいいなと考えるようになりました。当初、店舗部分はワークシェアスペースやレンタルスペースも考えましたが、コロナ禍で先が見えないし、カフェやギャラリーはすでにある店と競合する……と考えを整理していき、最終的に酒屋、しかも角打ちもできる店がよいだろうと。そこまで考えたあとで、自分で酒店を見学してまわり、誘致することにしたんです」といいます。

大家として土地や不動産を所有し、テナントや店子の管理はすべて不動産管理会社にまかせて「収入を得るだけ」という人はたくさんいますが、企画から開発まで、自分で考え、行動に移すのはさすがとしかいいようがありません。

勝ち馬に乗るのではなく、街を盛り上げた結果としての「資産」に

とはいえ、自宅の1階を店にするには、やはり覚悟と手間が必要だったといいます。

「自宅の一部で店をはじめるので、街や周辺住民との関わり方、当事者意識がまったく異なります。周辺にも、はじめる前もあいさつをしに行きました。清澄白河は、下町ということもあり、飲食店や商店、町内会などの横のつながりがあります。地域との関わりは、今までの賃貸や分譲マンションでは考えられないほど、深くなりましたね」と小島さん。

夕方、暗くなりはじめて明かりが灯ると、独特の風情が漂う(写真撮影/相馬ミナ)

夕方、暗くなりはじめて明かりが灯ると、独特の風情が漂う(写真撮影/相馬ミナ)

無事に開店。近所の人がふらりと立ち寄っていくのがおもしろい(写真撮影/相馬ミナ)

無事に開店。近所の人がふらりと立ち寄っていくのがおもしろい(写真撮影/相馬ミナ)

いわゆる不動産を所有することで、「資産を形成する」「所得を得る」だけということは、したくなかったといいます。
「清澄白河は今、盛り上がっている街ですが、だからといって何をやってもうまくいくわけではありません。自分が当事者として地域や街を盛り上げていった結果として、地価や資産が守られたらいいなとは思いますが、勝ち馬に乗って売り抜けるようなことは考えていませんでした」といいます。自分が当事者として地域に関わり、地元愛が盛り上がった結果として、資産が維持できたらいいというのは、不動産本来のあり方といえるでしょう。

今回、小島さんが声をかけたことで、住宅街の一角に店を出すことになった、株式会社いまでやの専務取締役の小倉あづささんは、どのように考えているのでしょうか。

小島さんもこの1年でだいぶお酒に詳しくなったとか(写真撮影/相馬ミナ)

小島さんもこの1年でだいぶお酒に詳しくなったとか(写真撮影/相馬ミナ)

左がいまでやの小倉さん、右が小島さん。大家と店子って本来、こんな感じだったのでしょうか(写真撮影/相馬ミナ)

左がいまでやの小倉さん、右が小島さん。大家と店子って本来、こんな感じだったのでしょうか(写真撮影/相馬ミナ)

「昨年の秋ごろでしょうか、突然、出店しないかというメールが会社に来て、おもしろそうな人だから会ってみようというのが、はじまりでしたね。当初は店を出すつもりはなくて、2回目に会ったときも出店する意向はなかったのですが、小島さんが家賃を含めて、本気で関わろうという姿勢を見せてくれたんですよね。そこではじめて覚悟や思いを感じたというか。何度も場を設けて、弊社の社員にはない知識や経験をもらって……を繰り返していくうちに、結局、出店することになりました」と1年を振り返ります。

小島さんがはじめにIMADEYAさんに送ったプレゼン資料(画像提供/小島雄一郎さん)

小島さんがはじめにIMADEYAさんに送ったプレゼン資料(画像提供/小島雄一郎さん)

ただ、この1年はお酒や外食産業にとって、先の見通せないつらい時期でもありました。緊急事態宣言が続き、お酒を飲み交わす場はすっかり精彩を欠いていたように思います。

「弊社は酒を販売するだけでなく、飲食店にも卸しているのですが、まさかこんなに長くコロナ禍が続くとは思ってなかったな」とぐちる小倉さん。
「ご近所の人は暖かくて、店の工事をしていると『今度は何屋ができるの?酒屋?楽しみだね』と言ってもらったり、『酒器も売っているんだね、今度来るから』と言ってもらえたり。期待度や関心度を実感していました」(小倉さん)

一方で、家飲み需要が高まっているという手応えもあり、小島さんと小倉さんとで店のコンセプト「はじめの100本」の完成度を高めていったそう。そして、デジタルを活用しつつ、お酒が好きな人も、すでに詳しい人も楽しめる仕掛けをして、今年8月、無事、お店がオープンとなりました。

「この酒をオススメする人の名前、顔、理由」がおもしろい。全部飲みたい(写真撮影/相馬ミナ)

「この酒をオススメする人の名前、顔、理由」がおもしろい。全部飲みたい(写真撮影/相馬ミナ)

グラスにいれると色がわかって、またきれい(写真撮影/相馬ミナ)

グラスにいれると色がわかって、またきれい(写真撮影/相馬ミナ)

お酒って話ながら選ぶのがおもしろいんですよね。貴重な交流の場に(写真撮影/相馬ミナ)

お酒って話ながら選ぶのがおもしろいんですよね。貴重な交流の場に(写真撮影/相馬ミナ)

「お酒は川の流れと同じで、常に人の暮らしに寄り添ってきたんです。今回、感染症対策で、飲食店で呑むのは難しい時期が続きましたが、だからこそ家では、美味しいお酒を飲んでほしいという思いは強くなりました。それと、美味しいものはなぜ美味しいのか、知識があるともっと楽しくなる。また、お酒の知識は人との会話で得るのが一番、記憶に残るんです。角打ちは、そういうお酒の楽しさを学ぶ場であり、サロンにもなる。人とお酒とが盛り上がる、豊かな場所にしていけたらいいですよね」と小倉さん。

「『お店なんて、よくできたね』と言われるんですが、3階建てのうち1階を自動車の車庫にしている家はよくありますよね。それと同じ感覚で、車庫部分にお店を誘致してきただけ。会社員でも、十分、ありえる方法だと思いますよ」と小島さん。1階に車庫があれば交流は生まれませんが、酒屋があることで、お客さんや地域と交流がうまれます。小島さん自身は、まだ家を所有している感覚はないといいますが、暮らしや地域に根ざしている感覚があるといいます。これも家の完成までに、多くの人とやりとりしたからこそかもしれません。

単に住む街、眠る街から、商いの当事者として関わる街へ。関わりが増えれば、手間や煩わしさも増えることでしょう。でも、それ以上に豊かに、得るものはきっとあるはず。買うor借りる、の発想を超えて、新しい暮らし方へ。すでに流れは変わっているのかもしれません。

静かに光る「いまでや」の看板。新しい光ですね(写真撮影/相馬ミナ)

静かに光る「いまでや」の看板。新しい光ですね(写真撮影/相馬ミナ)

●取材協力
小島雄一郎さん
・note
・Twitter
IMADEYA(いまでや 清澄白河)

無重力猫ミルコの家!DIYで注文住宅を“猫の巨大なジャングルジム”へ

元気に美しく空中を舞う姿がSNS等で話題の「無重力猫・ミルコ」をはじめ5匹の猫と暮らす、中川ちささん。猫を迎えてから、DIY未経験だった夫が猫トンネルやキャットウォークなどを家中に巡らせ、シンプルな注文住宅が激変!「自分たちの手でここまでできるの?」と驚く「猫の巨大ジャングルジム」のような家ができるまでのストーリーと、素人でもトライできる「猫のためのDIY」について話を伺いました。

「初めて猫を飼う不安」より目の前の猫の可愛さが勝り5匹の親に

TwitterやInstagramで人気の「無重力猫ミルコの家」を発信している中川ちささん。中川夫妻は15年前に、たくさん持っていた絵が映えるようにと、ダークブラウンと生成り色の壁でコーディネートしたシンプルシックな注文住宅を建てました。「いつか猫か犬を飼いたい」と思っていたことを知る友人から、「里親を募集している子猫の引き取り手がいなくて困っているから見に行こう」と誘われて会いに行きました。2人とも猫との暮らしがどういうものか分からなかったこと、壁や家を汚されるのではないかという不安はありましたが、猫のあまりの可愛さにほだされて、その場で迎え入れることを決意したのです。

猫専用通路を張り巡らせた家で、ミルコを抱いた中川ちささん(写真提供/中川ちささん)

猫専用通路を張り巡らせた家で、ミルコを抱いた中川ちささん(写真提供/中川ちささん)

「里親を募集していたのはオスとメスの2匹でしたが、夫が仲のいい2匹を引き離すのはかわいそうと言うので、2匹を同時に連れて帰ることにしました。飼う前は不安があったのに、実際暮らしてみたら癒やししかありませんでした」(ちささん)

2012年にうしお(オス)とピーチ(メス)と暮らし始め、1年後にベンガルのレオン(オス)を、2015年に駐車場でひろったミルコ(オス)も加わり、2017年に保護猫シェルターにいたロッケ(オス)を迎えました。ロッケは子猫のころから腎臓の持病があることが分かりましたが、獣医師に診てもらい、投薬を続けながら普通の生活ができています。「猫の飼いやすさは個体差があって何匹なら飼いやすいとは言えませんが、病気になったときのことなどを考えると、うちで飼えるギリギリは5匹です」

飛び跳ねるポーズがダイナミックで美しい白猫のミルコ(写真撮影/中川ちささん)

飛び跳ねるポーズがダイナミックで美しい白猫のミルコ(写真撮影/中川ちささん)

(写真撮影/中川ちささん)

(写真撮影/中川ちささん)

ユニークだったのは、躍動的に飛び跳ねるミルコでした。その写真を撮影してちささんがSNSに投稿するとたちまち話題になり、出版社からのオファーで「無重力猫、ミルコ」の名前が入った写真集が2冊発売され、「バレリーナのような猫」と海外でも話題に。ちささんは、「もっと猫について正しい知識を得たい」「猫と暮らす住まいについて学びたい」と、愛玩動物飼養管理士、ペット共生住宅管理士の資格を取得。猫との暮らしに関するコラムを執筆したり、猫イベントに呼ばれて参加するなど生活が一変したのです。

釘やビスを使わず組み立てた初めてのDIY作品「猫棚」

夫は週末DIYを始め、住まいは猫仕様に変わりました。リビング・ダイニング・キッチンを見ていきましょう。

猫トンネル、キャットウォーク、スケルトンキャットウォーク、本棚兼キャットタワーへ、家中を走り回れる住まいになった(写真撮影/中川ちささん)

猫トンネル、キャットウォーク、スケルトンキャットウォーク、本棚兼キャットタワーへ、家中を走り回れる住まいになった(写真撮影/中川ちささん)

DIYを始めたきっかけは、猫を完全な室内飼いにしたこと。「猫が3匹だったころ、庭で木登りをしたりして遊んでいるうちに塀を越えて隣の庭に入ってしまって。ご近所に迷惑をかけてはいけないと、庭に出さないことを決意しました。すると、外遊びができなくなった猫たちが淋しそうで、猫たちが家の中で楽しく遊べるようにと、夫がDIYを始めたのです」

DIY未経験の夫が初めてつくったのは、ちささんが欲しかった本棚と、猫たちが上り下りできる遊び場の2つのニーズを叶えた「猫棚」でした。収納したかった本が収まり、色合いもデザインも部屋になじんでいます。

初めてつくった猫棚(右)(写真撮影/中川ちささん)

初めてつくった猫棚(右)(写真撮影/中川ちささん)

「猫棚は、これまでつくったDIY作品の中でも最も苦労したものです。初めてで分からないこともあって、DIYは釘やビスを使うと猫が爪を傷めないかと心配で、ビスや釘を一切使わず、木と木の凸凹を組み合わせるほぞ組みで組み立てました。今考えると取り越し苦労でした」と夫。

作業は仕事がオフの週末だけ。実際の制作時間は短いものの、構想に時間がかかるそう。「『こういうものをつくりたい、欲しい』と思いついてからプランを練って作業に入るまで2、3カ月かかります。デザインが決まったら、サイズ、手順、必要な材料などを考えてメモして、完成イメージが決まれば、ホームセンターで材料を買って作業に入ります。作業時間は物にもよりますが、だいたい数日でできます」(ちささん)

細かいことが得意だという夫が描いた自分用のメモのような設計図(写真撮影/中川ちささん)

細かいことが得意だという夫が描いた自分用のメモのような設計図(写真撮影/中川ちささん)

Excelでつくった猫棚の立面図。ここまでできれば完成が見えてくる(画像提供/中川ちささん)

Excelでつくった猫棚の立面図。ここまでできれば完成が見えてくる(画像提供/中川ちささん)

猫棚の扉の取っ手を猫型にくり抜いたのはちささんの希望。細かいところも愛がキラリ(写真撮影/中川ちささん)

猫棚の扉の取っ手を猫型にくり抜いたのはちささんの希望。細かいところも愛がキラリ(写真撮影/中川ちささん)

もともとあった丸窓の前のステップ台とカーテンレールの上のキャットウォーク(写真撮影/中川ちささん)

もともとあった丸窓の前のステップ台とカーテンレールの上のキャットウォーク(写真撮影/中川ちささん)

壁に穴を空けて部屋から部屋へ抜けて遊べる「猫トンネル」

夫が猫棚の次につくったのは猫専用通路「猫トンネル」でした。猫を飼ったことがある人は分かると思いますが、猫は狭い所、高い所、隠れられるところが大好きです。中川家の猫トンネルは、壁に穴を空けて、壁を通り抜けて隣の部屋や1階と2階への行き来をショートカットできる猫専用通路。「あそこの壁に穴をあけよう」と夫が言い出して、リビングの小さな吹抜けから2階の寝室に抜けるトンネルをつくりました。

くぐったりお昼寝したりできるトンネルは猫たちに人気(写真撮影/中川ちささん)

くぐったりお昼寝したりできるトンネルは猫たちに人気(写真撮影/中川ちささん)

食器棚の上から階段へ続く猫トンネル。くぐるミルコの後ろ姿が可愛い(写真撮影/中川ちささん)

食器棚の上から階段へ続く猫トンネル。くぐるミルコの後ろ姿が可愛い(写真撮影/中川ちささん)

上の写真のトンネルを抜けるとそこは階段。『マツコ会議』(日本テレビ系列)で紹介されたトンネルは穴から顔だけ出したり、覗いたりして遊べる(写真撮影/中川ちささん)

上の写真のトンネルを抜けるとそこは階段。『マツコ会議』(日本テレビ系列)で紹介されたトンネルは穴から顔だけ出したり、覗いたりして遊べる(写真撮影/中川ちささん)

「猫トンネル」のつくり方を教えてもらいました。

猫トンネルのつくり方
(1)壁に穴を空ける前の準備として、壁の中の間柱を調べる機器「下地センサー」で柱がない場所を確認して、壁の中が空洞になっている部分に穴をあけます。電気配線が通っていそうな場所を避けるよう注意。
(2)猫の胴回りなどのサイズから、(4)の塩ビパイプのサイズ(直径)を決めます。
※塩ビパイプは決まった規格があるので、塩ビパイプに壁の穴の大きさ(5)の木枠の穴の大きさを合わせます。
(3)引き回しのこぎりで壁(入口と出口になる壁)に同じ大きさの穴をあけます。
(4)貫通した壁に塩ビパイプを通します。
※塩ビパイプは、下水道管や土木管など、排水や輸送配管として使われる建築資材です。
(5)円の周囲に木枠を当てて木工用ボンドで接着して完成。

写真のようにトンネルの木枠の色は、部屋のテイストと合わせてペイントしています。「1階のリビングから寝室へ続く道、リビングから夫の部屋に続く道、キャットウォークからキャットウォークに続く道、そして食器棚から階段に続く道と、家では4つも猫トンネルをつくってしまいましたが、失敗したら大変なので、おすすめはしません」と、ちささん。つくる際は、自己責任で正確かつ慎重に行う必要があります。マンションは自分のモノでも、外周壁や戸境壁は共用部分になるため、穴をあけられません。また、住戸内の壁も、管理規約で穴をあけることが禁止されている場合があるので確認が必要です。

猫も人も楽しめる天井の下の猫専用通路「キャットウォーク」

猫トンネルをくぐる猫たちの姿を見て、もっと駆け回れる範囲を広げたいと、夫はキャットウォークに着手しました。キャットウォークは、猫たちの専用歩道のようなもので、室内飼いの猫の運動不足、ストレス解消にもうってつけ。猫の飼い主が注文住宅を建てるときに要望が多いアイテムです。中川家は、ウォーキングコースを増設するようにキャットウォークを次々とつくり、猫の動線を伸ばしていきました。

板を棚受け金具で留めただけのシンプルなキャットウォーク(写真撮影/中川ちささん)

板を棚受け金具で留めただけのシンプルなキャットウォーク(写真撮影/中川ちささん)

キャットウォークを製作中の夫と作業を見守るレオン(写真撮影/中川ちささん)

キャットウォークを製作中の夫と作業を見守るレオン(写真撮影/中川ちささん)

猫好きが大好きな「肉球」を下から見放題のスケルトンキャットウォークは、透明な椅子に猫をのせて肉球の写真を撮っていたちささんが、肉球が歩く様子を見たいと要望して、夫が製作したもの。写真のように真っすぐ一直線に長くするのではなく、角度をつけているのは猫が全速力で走って、勢い余って落ちたりすることがないようにとスピード抑制対策です。また、アクリル板と木の枠の間にナットをはさみ少し隙間をあけたことで猫たちの抜け毛が溜らずに落ちて、植物や飾りを吊るすこともでき、一石二鳥でした。

アクリル板と木の枠の間に隙間を確保するのがポイント(写真撮影/中川ちささん)

アクリル板と木の枠の間に隙間を確保するのがポイント(写真撮影/中川ちささん)

キャットウォークの両脇に設けた木の枠は特別な部屋のよう(写真撮影/中川ちささん)

キャットウォークの両脇に設けた木の枠は特別な部屋のよう(写真撮影/中川ちささん)

上の写真はキャットウォークの支柱を枠上にデザインしたものですが、猫たちが手やあごをのせて休むのにちょうどよいスペースになりました。

形を変えるとキャットウォークにもなる「見晴らし台」のつくり方
窓際の高い所から外を眺める「見晴らし台」(写真撮影/中川ちささん)

窓際の高い所から外を眺める「見晴らし台」(写真撮影/中川ちささん)

パーツをステインで着色。パーツは正確に丁寧に切り出す(写真撮影/中川ちささん)

パーツをステインで着色。パーツは正確に丁寧に切り出す(写真撮影/中川ちささん)

天井や壁に穴をあけるのはちょっと困るという方のために、簡単につくれるキャットウォークを教えてもらいました。もともとカーテンレールの上を平行棒のように歩いたり、カーテンを上るのが好きな猫も多くいます。カーテンレールの上に細長い板を置いて、U字型のサドルバンドで留めて固定すれば完成。設置する前には、カーテンレールが壁にしっかり固定されているか念のため確認しましょう。

これなら、マンションでも穴をあけずにつくれますね。ただし、カーテンレールの上のキャットウォークまで上れる、足掛かりになるものを用意してあげましょう。

カーテンレールの上のキャットウォーク(写真撮影/中川ちささん)

カーテンレールの上のキャットウォーク(写真撮影/中川ちささん)

サドルバンドでカーテンレールと板をしっかり固定してつくったキャットウォーク(写真撮影/中川ちささん)

サドルバンドでカーテンレールと板をしっかり固定してつくったキャットウォーク(写真撮影/中川ちささん)

人と猫の喜ぶものを次々とつくり広がる「猫パラダイス」

中川家は、長年使っていた食器棚の一部を活かして食器棚を新たに製作し、食器棚の上をキャットウォークにしました。普通なら、人と猫が使うものは別で、空間が狭くなりがちですが、キャットステップ兼用の本棚も同様に、猫の遊び場と人の使い勝手が調和しています。

キャットウォークから食器棚の上のキャットウォークへ、さらに猫トンネルを通って階段に出られる(写真撮影/中川ちささん)

キャットウォークから食器棚の上のキャットウォークへ、さらに猫トンネルを通って階段に出られる(写真撮影/中川ちささん)

キャットステップ兼用の本棚には猫トンネルや隠れ場所もある(写真撮影/中川ちささん)

キャットステップ兼用の本棚には猫トンネルや隠れ場所もある(写真撮影/中川ちささん)

見晴らし台やキャットウォークへアクセスするのに便利な螺旋階段(写真撮影/中川ちささん)

見晴らし台やキャットウォークへアクセスするのに便利な螺旋階段(写真撮影/中川ちささん)

中川家のDIYがステキなのは、夫、妻、猫たちの三位一体の作品だから。妻が欲しいものと猫たちが喜ぶことを頭に描きながら、時間と手間をかけて形にする夫。ときには製作を見守り、完成したらうれしそうに使う猫たち。最近は色を塗ったりするなどの作業を手伝うこともある妻は、猫たちが作品を使う様子を撮影してSNSで発信。「真似したい」「つくり方を教えて」という問い合わせが多く、誰かの役に立つならと、目で見て分かりやすいYouTubeでつくり方を発信し始めました。

夫が仕事から帰ってくると、最短ルートのキャットウォークを駆使して、猫たちが玄関まで走って出迎えるそう。「DIYの面白さは、自分のセンス、知識、技術を自由に発揮できること。難しいのは、見栄えと機能性をどう両立させるかですが、だからこそやりがいを感じます。猫たちはキャットウォークで昼寝をしているか、走り回っているか、存分に活用してくれるのもうれしく、つくり甲斐があります」(夫)

夫が庭で作業する様子を並んで見守っている猫たち(写真撮影/中川ちささん)

夫が庭で作業する様子を並んで見守っている猫たち(写真撮影/中川ちささん)

「何をつくっているのかにゃ?ボクたちのもの?」と、興味津々な猫たちに見守られて作業するのは楽しいもの。けれども、仮止めした製作途中の作品に猫がのらないよう注意が必要です。

15年前に注文住宅を建てた中川さんは、猫5匹の大家族になり生活スタイルも変化、時とともに家具やインテリアの好みも変わったそうです。「注文住宅を建てるときにもし猫たちがいたら、全然違う家を建てていたと思います。例えば、猫のトイレと人のトイレを近くに置きたかったですが、後から変えられる部分と変えられない部分があります。DIYにトライして、失敗したら自己責任でやり直しての繰り返しで、家とともに自分たちも成長してきました。これからも少しずつDIYのアイテムを増やしたいです」と、ちささん。

家の購入、注文住宅は完成・引き渡しがゴールではありません。変化するライフスタイルや好みに合わせて自らが手を加え工夫して、家族が喜ぶ家にカスタマイズしていく。そして、家族の豊かなおうち時間を過ごし思い出を育む、そこからが「世界にたったひとつのわが家づくり」はずっと続いていくのです。

●無重力猫ミルコのお家
●Instaglam

猫マスター響介さんが叶えた“猫ファースト”の注文住宅。賃貸ワンルームから猫御殿まで変遷も紹介!

ブログ「リュックと愉快な仲間たち」やTwitterで、可愛い愛猫の写真とユニークな文章が人気の猫マスター兼作曲家の響介さん。20代前半はワンルームのアパートに住んでいましたが、5匹の猫を飼い始めてからなぜか運気が上がり、本気度も急上昇。猫のための豪邸(一戸建て)を建ててしまいました。その家づくりをまとめた書籍『下僕の恩返し』(ビジネス社 刊)も好評発売中です。猫のためにこだわりつくした注文住宅を建てるまでのストーリーを聞きました。
猫5匹と暮らし、賃貸ワンルームから100平米のマンションへ

子どものころ、家に帰る途中でついてきた猫を飼いたいと言ったところ、母親に怒られて、元の場所に戻しに行ったことが忘れられずに「いつか猫と暮らしたい」と思っていた響介さん。実家を出てアパート暮らしを始めて、ようやく猫を飼える環境になりました。

そんな時、たまたま目に入った里親募集の広告に載っていた2匹の猫にひと目惚れして、身体に衝撃が走ったそう。「この子たちはうちにくる、絶対この子たちと暮らすんだ」とすぐに電話をかけて、翌日迎えに行きました。

猫専用のソファで人間のようにくつろぐ2匹は、最初に恭介さん宅に来た保護猫のリュックとソラ(画像提供/恭介さん)

猫専用のソファで人間のようにくつろぐ2匹は、最初に恭介さん宅に来た保護猫のリュックとソラ(画像提供/恭介さん)

その後も行き先が決まらない保護猫を2匹引き取り、「もうこれ以上増やせない」と思っていたところ捨て猫と出会い、猫5匹との同居生活が始まりました。「当時はワンルームの賃貸アパート住まいで、楽器や機材、漫画、キャットタワー、おもちゃもあり、寝るときは僕の頭の周りに5匹が囲むように寝ていました。家の中を1、2歩歩くと壁にぶつかる約8畳(約26平米)のワンルームで、運動もできないし健康にも良くない環境でした」

面積に対する猫の人口密度(猫密度)が高かった賃貸アパート時代。「狭かったから5匹が仲良くなれたのかも?」と振り返る(画像提供/響介さん)

面積に対する猫の人口密度(猫密度)が高かった賃貸アパート時代。「狭かったから5匹が仲良くなれたのかも?」と振り返る(画像提供/響介さん)

「このままでは猫たちがかわいそう、と思っても、当時は仕事の芽が出ず、録音機材を含む設備投資や楽器代などで1000万円もの借金がありました。それでも、30歳までには家を建てよう、絶対建てる!という謎の自信がありました」と響介さん。「念ずれば叶う」のか、「猫たちを幸せにしたい」という意識の変化か、仕事の調子がぐんぐん良くなってきたのです。

「まずは猫たちが走り回れる広さのマンションを買おう」と突然思いたった響介さんは、約100平米のマンションの購入を決断。25歳で、音楽制作の仕事部屋のひと部屋以外はすべて5匹の猫たちが自由に走り回れる、広々とした4LDKのマンションを、なんと現金一括払いで手に入れたのでした。

猫とテレビを同時に見られる壁とアウトドア気分の“庭部屋”をつくった

響介さんにとってマンション購入は注文住宅への通過点でしたが、「自分の持ち家ができると気持ちは変わって、一気にいろいろやりたくなりました」とDIYやインテリアに凝り始めました。下の猫部屋も一例です。

猫のためだけのひと部屋。悠々とくつろぐ猫たちの姿を見るのは何よりの喜び(画像提供/響介さん)

猫のためだけのひと部屋。悠々とくつろぐ猫たちの姿を見るのは何よりの喜び(画像提供/響介さん)

2匹の猫を飼っている筆者も常々経験していますが、猫はパソコンに向かって仕事をしているとパソコンの前やキーボードの上を行ったり来たりしますし、テレビを見ていると「テレビより私を見ニャさい!」と画面の前でポーズをとって立ちふさがります。響介さんは、そんな「かまってちゃん」にデレッとしているだけでなく、「テレビを見ていると、その間は猫が見られない。1秒でも猫を視界に入れたい」と、猫もテレビも同時に見られるようテレビの壁掛けを造作しました。

「壁に穴を開けずにテレビを壁掛けにできるDIYセット」を使うと、初めての人でも簡単にできるそう。さらに、石膏ボードや軽量レンガタイルを貼り、配線を隠す工夫をして、間接照明をしつらえ、インテリアとしてもかっこいい壁に仕上げました。

Before(画像提供/響介さん)

Before(画像提供/響介さん)

After/テレビ台には猫のベッドを置いて、テレビを見ながら愛猫の寝姿も見られるようになった(画像提供/響介さん)

After/テレビ台には猫のベッドを置いて、テレビを見ながら愛猫の寝姿も見られるようになった(画像提供/響介さん)

次につくったのは“庭部屋”。響介さん宅の猫たちは脱走や交通事故などの危険から守るために完全室内飼いです。賃貸アパート時代よりはるかに広いマンションで猫たちは走り回ることができるようになりましたが、「猫たちに外を経験させたい」と、庭を模した部屋をつくることにしたのです。

まるでリゾート(画像提供/響介さん)

まるでリゾート(画像提供/響介さん)

庭部屋には人工芝を敷いて、ウッドデッキを手づくりし、草花のモチーフや切り株のクッションで森の雰囲気を演出しました。キャンプ風に猫テントやランタンも設置しました。天井には星のモチーフを貼り、プロジェクターで外の世界が映るようにしました。

ハンモックに響介さんが寝てリラックスすると、猫たちがお腹や脚に乗ってきます。猫たちとリゾートホテルに遊びに来たような気分が味わえる猫のための部屋。「人間の部屋より豪華」とため息をつく方もいるのではないでしょうか。

30歳までを目標に、理想の家のイメージに向かって着々と準備

マンションに引越してから、猫たちは運動量が増えて筋肉がつき、多少太めだった猫は身体が引き締まり、ストレスも減ったそうです。けれども響介さんは「30歳までに家を建てる」という目標を達成するために、がむしゃらに働き、「こんな家を建てたい」と紙に書いたり、好みの家の写真を保存したりして、家づくりの次のステップの準備を始めました。

30社くらいのモデルハウスを見て、候補を7社にしぼり「猫のための家を建てたい」と相談してプランの提案をしてもらいました。「猫のための家なんて大丈夫?」「フリーランスの音楽家が家を建てるのは無理でしょう」という反応を肌で感じたこともあったそうですが、担当者の年齢が近く、前向きに賛同してくれた建築会社に依頼を決めました。

「家を建てるぞ」と誓ってから約4年、打ち合わせ開始から上棟まで約1年、工期約5カ月、響介さんは31歳で理想の「猫たちを最強に幸せにする理想の家」を実現したのです。

左からピーボ(オス)、ソラ(メス)、ニック(メス)、リュック(オス)、ポポロン(オス)。約150平米と5匹が横並びでも悠々と歩ける新居が完成した(画像提供/響介さん)

左からピーボ(オス)、ソラ(メス)、ニック(メス)、リュック(オス)、ポポロン(オス)。約150平米と5匹が横並びでも悠々と歩ける新居が完成した(画像提供/響介さん)

目標は「人間から見てもカッコイイオシャレな家で、猫のためもしっかり考えている家」。
「猫と暮らす注文住宅」をうたっている建築例には、猫が部屋を自由に行き来できるペット用ドア、壁に造作したキャットウォーク、階段下を利用したトイレスペース、ペット用の壁紙や腰壁、床材、消臭対策などがあります。

けれどもそういった“あるある”にとらわれず、響介さんが5匹の猫たちと暮らした経験をもとにイチから考えたプランでした。「人間が良かれと思うことが必ずしも猫にとっていいとは限らない」という考えのもと、希望条件を箇条書きに。建築基準法でクリアできない部分を除いて希望をほぼ叶えたのです。

約30畳(約100平米)のLDKの一角に設けた画期的な「リビングイン猫部屋」

響介さんならではのアイデアが生かされたプランのひとつに、リビング・ダイニング・キッチンがあります。以下は最初に響介さんが描いたラフです。

1階のイメージ。「画力ゼロのゴミのような図面」と響介さんは謙遜しますが、ポイントはおさえています(画像提供/響介さん)

1階のイメージ。「画力ゼロのゴミのような図面」と響介さんは謙遜しますが、ポイントはおさえています(画像提供/響介さん)

リビングダイニングはできるだけ広い空間を確保するために、1階は玄関、トイレ、LDK(リビング・ダイニング・キッチン)のみ。猫たちが屋外に脱走しないよう玄関との間にはリビングドアを設け、居室と完全に分けています。希望したのは以下の7点でした。

LDKの絶対条件
●LDKは最低30畳以上、壁や仕切りはいらない(猫が追いかけっこするときに邪魔になるため)
●猫たちが窓辺に寝転んで日向ぼっこができるように大きな窓をつくる
●高級マンションさながらのアイランドキッチン(猫たちが周りをぐるぐる回れる)
●テレビの背面壁を造作(猫たちが周りをぐるぐる回れる)
●造作壁の裏側に落ち着ける猫スペースをつくる
●キャットウォークはあらかじめ取り付ける造作ではなく、自分で設置したり取り外せたりするアイテムを設置
●リビングイン階段はスケルトン階段に(常に猫たちが見えるように)

3階建て(画像提供/響介さん)

3階建て(画像提供/響介さん)

内装やインテリアにもこだわり、間接照明を多用したリビング・ダイニング・キッチン(画像提供/響介さん)

内装やインテリアにもこだわり、間接照明を多用したリビング・ダイニング・キッチン(画像提供/響介さん)

LDKの鏡面の床は、以前5匹全員が同じ日にウイルスに感染して10分に1回ぐらい嘔吐物を処理した経験から、掃除のしやすさで選びました。猫にはつきものの吐き戻しも、さっと拭くだけできれいになり、清潔さが保てます。

また、猫は高い所、縦運動が大好きです。キャットウォーク代わりになり運動不足解消に役立つ階段は、響介さんが上下左右から猫を見られるようスケルトン階段にしました。サイドからの落下を防ぐ手摺りも透明なポリカーボネイト製を採用しています。

階段も猫の遊び場。踊り場に窓を設け、日中は自然光で、夜は照明で足元が見えるようにしている(画像提供/響介さん)

階段も猫の遊び場。踊り場に窓を設け、日中は自然光で、夜は照明で足元が見えるようにしている(画像提供/響介さん)

部屋の壁の手前、テレビを掛けているのは造作壁で、周囲はぐるりと回ることができ、リビングと猫スペースをさりげなく仕切る役割も併せ持っています。造作壁の向こうは、猫たちの「遊ぶ、眠る、寛ぐ、トイレをする」スペースで、人と猫がお互いの気配を感じながら自由に過ごし、気になったときは小窓から猫を眺めたり、眺められたり双方向のコミュニケーションができるのです。このアイデアは、子ども部屋にも応用できそうです。

LDKの壁掛けテレビ用の造作壁。上の小窓から猫たちがリビングを見ている(画像提供/響介さん)

LDKの壁掛けテレビ用の造作壁。上の小窓から猫たちがリビングを見ている(画像提供/響介さん)

テレビを掛けた造作壁の後ろの猫スペース。トイレ、遊び場、寝床を設置している(画像提供/響介さん)

テレビを掛けた造作壁の後ろの猫スペース。トイレ、遊び場、寝床を設置している(画像提供/響介さん)

「壁にキャットウォークをあらかじめつくると、猫たちが年をとったときに、ジャンプに失敗して落下してケガをするリスクがあり、再工事が必要となるため、将来の変化に応じて取り外せるキャットステップを採用しました」

それが、六角形や三日月、雲の形など見た目も可愛らしい「MY ZOO」というブランドのもので、DIYで壁をつくると、賃貸でも元の壁に穴を開けずに設置が可能になります。

リビング側から三日月のキャットステップに乗った猫も見える(画像提供/響介さん)

リビング側から三日月のキャットステップに乗った猫も見える(画像提供/響介さん)

可愛くてスタイリッシュなデザイン(画像提供/響介さん)

可愛くてスタイリッシュなデザイン(画像提供/響介さん)

猫スペースの窓際にハンモックのベッドを一列に並べた。直射日光に当たりすぎるのも良くないそうでカーテン越しの光で日向ぼっこ(画像提供/響介さん)

猫スペースの窓際にハンモックのベッドを一列に並べた。直射日光に当たりすぎるのも良くないそうでカーテン越しの光で日向ぼっこ(画像提供/響介さん)

約150平米の3階建ての一軒家には、ほかにも猫のための工夫がいろいろ

2階には響介さんの仕事部屋(音楽スタジオ)、寝室を含む洋室3室、ウォークインクローゼットと、お風呂、トイレ、浴室、ランドリールームを設けました。猫が自由に移動できるようにドアや仕切りは極力少なくしていますが、仕事部屋には猫は入れません。また、柔軟剤のニオイが気化して部屋に充満することは猫の健康に良くないことから、各室に収納を設けずに大きなウォークインクローゼットを別途設け、室内干しをするランドリールームも独立させました。

猫は入室禁止の仕事部屋。防音対策は万全、配線を表に出さずにすっきりさせ、照明にもこだわった(画像提供/響介さん)

猫は入室禁止の仕事部屋。防音対策は万全、配線を表に出さずにすっきりさせ、照明にもこだわった(画像提供/響介さん)

3階には天井高140cmギリギリにして小屋裏収納扱いになる部屋を設けました。ここはマンション時代にも確保した、猫のモノだけを置いた、猫が寝て遊んでくつろぐオールインワンの猫部屋です。勾配天井には空のクロスを貼り、遊園地のように楽しそうな空間になりました。

3階の部屋のイメージを建築会社に伝えたラフ画。部屋の目的は明確(画像提供/響介さん)

3階の部屋のイメージを建築会社に伝えたラフ画。部屋の目的は明確(画像提供/響介さん)

ベッドやトイレを置いた約7.5畳の猫部屋は、たとえ響介さんでも掃除のとき以外は立ち入り禁止(画像提供/響介さん)

ベッドやトイレを置いた約7.5畳の猫部屋は、たとえ響介さんでも掃除のとき以外は立ち入り禁止(画像提供/響介さん)

「トイレは猫の頭数プラス1個は必要と言われています。トイレを我慢するのは健康にも良くないので、したいときにできるように各階に2、3個ずつ、合計6個設置しています。トイレ掃除だけでも大変です」と響介さん。ちなみに各室の壁は消臭効果のあるクロスを採用しています。

爪とぎは、リビングに7個、寝室に4個、廊下に3個、3階の猫部屋には爪とぎ兼ベッドも置いています。他にも、猫のおもちゃ、猫専用のソファ、猫が入れるテーブル兼居場所なども、インテリアになじむオシャレなアイテムを設置しました。

豪邸への引越しに最初は戸惑った猫たちですが、約3、4カ月で新しい住まいと生活に馴れて、我が物顔で家を使いこなしています。

個人事業主でも住宅ローン審査は通る、トラブルは猫愛で解決?

「家が完成するまでは、いろいろなことがありました。猫のためにと一般的な家づくりと違うことを要望して『本当にそれでいいんですか?』と何度も聞かれたり、『猫のために』と思いついて急に変更させてもらったこともありました。

リビングの天井の高さの変更が新しい担当者さんに引き継がれていなくて建築がだいぶ進んでから気づいたりといった予定外のこともありました」と振り返る響介さん。それでも、それらのトラブルは、担当者と円滑なコミュニケーションを常日ごろから取っていたこと、熱い猫愛を冷静に伝えることで乗り越えることができました。

資金面では、フリーランスの作曲家、個人事業主という仕事柄、毎月の収入は一定額ではないため、多少の不安はありました。「住宅ローンの審査基準は明らかにはなっていませんが、どうしたら住宅ローンが借りられるかを考えました。買い物は極力クレジットカードで買い物をして、毎月一定の金額を返済するリボ払いにして、3年間一日たりとも遅れずに返済して、毎月このくらい払えるという実績をつくったんです」

個人事業主だから住宅ローンを組めないということはありませんが、クレジットカードの支払いの延滞履歴がないことは信頼につながります。マンションを持っていることも評価されたかもしれません。努力の甲斐あって住宅ローン審査を無事クリアすることができました。

新居に馴れてソファで大の字になって人間のようにくつろぐリュックくん(画像提供/響介さん)

新居に馴れてソファで大の字になって人間のようにくつろぐリュックくん(画像提供/響介さん)

「愛猫たちを思いきり走り回れるストレスフリーな環境で育てたい」「僕と暮らせて幸せだ、この家に来て良かった」と猫に思ってもらいたい一心で建てた注文住宅。猫たちは保護猫から「ニャンデレラ」になりましたが、響介さんにとっては幸運の招き猫だったのかもしれません。大切なものと出会ったからこそ目標を持ち、人生や働き方、意識が変わり、Twitterで人気を得て2冊の書籍を発売し、豪邸を実現し、理想の未来を切り拓くことができたのではないでしょうか。

徹底した猫ファーストの家ですが、“好き”にこだわって家を建てたり、好きな家族が喜ぶ顔や姿を見たくて家を建てるという観点では、家づくりを検討している人の参考になる点が多くあると思います。響介さんの理想の家づくりのサクセスストーリーはひと段落ですが、新居でのハッピーストーリーはまだ始まったばかりです。

●取材協力・関連リンク
響介(Twitter)
リュック愉快な仲間たち(ブログ)
『下僕の恩返し 保護猫たちがくれたニャンデレラストーリー』

『大豆田とわ子』が社長を務める「しろくまハウジング」はリアリティ満載!監修の専門家に聞いた

各テレビ局の2021年春のドラマがスタートした。その中で注目したいのが『大豆田とわ子と三人の元夫』だ。注目した理由は、松たか子さんが演じる大豆田とわ子の仕事にある。住宅建設会社の女社長というからには、ドラマの中で建設関係の話題がてんこ盛り。そこで、ドラマ制作の裏情報を聞いてきた。
専門家による「建築監修」でリアリティ満載

『大豆田とわ子と三人の元夫』の主人公・大豆田とわ子は、しろくまハウジングの社長に就任したばかりのバツ3女性。ひょんなことから三人の元夫たちと顔を合わせることになり、三人に振り回されながらも幸せを求めて奮闘するという物語だ。並行して、それぞれに新しい恋の(あるいはトラブルの)兆しもあって、先が読めないドラマになっている。

さて、ドラマのストーリーは別として、注目はしろくまハウジングのことだ。医療ドラマには医師が監修に当たるように、しろくまハウジングにも建築士の監修がいた。建築士の上田真路さんが代表取締役を務めるKUROFUNE Design Holdingsだ。

上田さんに、具体的にどういったことに関わっているのかを聞いた。

しろくまハウジングは“こだわりの注文住宅”で一目置かれているデザイン系建設会社。第1話では、「法規の読み違い」というトラブルが起きる。法規にかなうように、徹夜で設計を修正する大豆田とわ子。優秀な建築士であることが分かるシーンだ。

設計の変更についてスタッフに説明するシーン(第1話より)(画像提供:関西テレビ)

設計の変更についてスタッフに説明するシーン(第1話より)(画像提供:関西テレビ)

番組プロデューサーの要望に応じて、住宅の設計時にどんなトラブルが起こりうるか、上田さんが情報提供をした例のひとつだ。第1話で起きたトラブルは、「第2種高度地区ではなく、実は第1種高度地区だった」というもの。第2種より第1種のほうが規制は厳しいので、第2種が前提で設計した建築物では建築の許可が得られないことになる。そこで、急遽、第1種の規制に合うように設計変更をする必要があるわけだ。

市街地の土地などには、都市計画法でそれぞれの土地に定められた建物の用途制限があり、これを“用途地域”という。主に住居系、商業系、工業系などに分かれ、例えば交通量の多い工場地帯に住宅が混在しないような規制をしている。重ねて、自治体ごとに、北側の隣地などに圧迫感をなくして日照などを確保するために“高度地区”を定めている。建築物を建てるにはこうした細かい法規制をクリアする必要があるのだ。

専門用語が飛び交うので、脚本にも上田さんの助言が反映される。大豆田とわ子は、自ら設計を変更した図面と模型をスタッフに見せながら、「北側の厳しい斜線制限がかかる側はボリュームを削減しました。3階のベッドルームはロフト部屋に変更して、代わりに広めのテラスを設置しました」と説明する。“斜線制限”とは、隣地の日照などを確保するために建物の高さだけでなく、建物上部の形状にも制限を設けるもの。斜線制限で3階にベッドルームをつくれなくなったので、2階の居室の天井を高くして、その居室の一部を2層式にしてロフトにすることで、制限をクリアしたのだ。全体の居住空間が減ってしまったので、庭に広めのテラスを設置して、部屋の延長空間として活用してもらおうという、使い勝手を考えた提案だ(と筆者は解釈している)。

このように、仕事の上でのトラブルを乗り切るドラマの展開において、専門知識の裏付けや専門用語を使った台詞が必要になるので、プロの監修が求められるのだ。脚本をつくる段階から関わるだけでなく、ドラマの展開に沿って、しろくまハウジングの作品として登場する建築物の設計図面やパース、模型などもKUROFUNE Design Holdingsで提供している。

しろくまハウジングが手掛ける大学図書館の図面とパースもKUROFUNEで提供した(第3話より)(画像提供:関西テレビ)

しろくまハウジングが手掛ける大学図書館の図面とパースもKUROFUNEで提供した(第3話より)(画像提供:関西テレビ)

第3話の大学図書館の設計について、若手建築士の仲島登火(神尾楓珠さん)が素晴らしいデザインを提案する。そのデザインを見てとわ子は、「スイチョクカジュウとスイヘイタイリョクをこのタイリョクヘキとハシラで支えるのか」と言う。多くの視聴者にとってはなんのこっちゃ?という台詞だが、建築に多少でも関わった視聴者なら「垂直荷重と水平耐力をこの耐力壁と柱で支えるのか」と漢字で聞き取ることができる。医療ドラマなら「なんのこっちゃ?」側の筆者も、このドラマなら「ふむふむ」側になるので、なんとなくうれしい。

さて、ドラマのほうでは、このデザインでは予算に収まらないという難題が勃発する。そのため、社長と設計部の間で気まずい雰囲気が漂い、とわ子は悪戦苦闘することになる。

製図の引き方から席の配置まで、プロが見ても納得感のあるドラマに

建築物に関する提供だけではない。第1話と第3話には、とわ子に扮する松たか子さんが図面を引くシーンがある。最近はCAD(コンピューターを使った設計を支援するツール)で設計するのが主流だが、とわ子は手で図面を描いている。筆者は建築については専門ではないので知らなかったのだが、製図で線を引くときには少しくるくる回るように描くのだそうだ。上田さんは、撮影現場に立ち会ってこうした演技指導もしている。松たか子さんは呑み込みが早かったそうだ。

ドラマでは松たか子さんが図面を引くシーンも多い(画像提供:関西テレビ)

ドラマでは松たか子さんが図面を引くシーンも多い(画像提供:関西テレビ)

ほかにも、第1話で住宅地のプロジェクトで設計部の三上頼知(弓削智久さん)が、模型を指さしながら説明するシーンがあったが、その手の動きなどにも演技指導が入っている。上田さんは「建築のプロが見ても違和感がないようにしている」という。

プロジェクトのデザインについての説明を受けるシーン(第1話より)(画像提供:関西テレビ)

プロジェクトのデザインについての説明を受けるシーン(第1話より)(画像提供:関西テレビ)

また、上田さんは、しろくまハウジングのオフィスのつくり方にも助言をしている。フロアの一段高いところに社長の席がある、おしゃれなオフィスなのだが、社長とスタッフの距離などにも配慮がなされている。

例えば、社長の席の近くに営業部署を置き、次いでインテリア部署や設計部署があり、遠い席に見積もりをする積算部署や経理部署があるという具合だ。それぞれの部署に応じて、壁材や床材のサンプルを置き、すぐに打ち合わせができるように大きなテーブルを置くなど、見た目では気づかないような細かい配慮もされているのだ。

しろくまハウジングのオフィスの様子(第3話より)(画像提供:関西テレビ)

しろくまハウジングのオフィスの様子(第3話より)(画像提供:関西テレビ)

余談になるが、上田さんによると、建築士は黒か白の洋服を着ることが多いという。デザインが主役となるように建築家自身はシンプルに見せるということと、建築現場は汚れやすいので汚れが目立ちにくい服を着ることが関係しているのではないかと。それを聞いてドラマを見直すと、さすがに主役の大豆田とわ子の衣装は、白や黒ではなくカラフルなものだが、設計部署の三上や登火などは黒い服を着ていたので、上田さんの情報提供が活かされているのかもしれない。

ドラマ本編はいよいよ佳境に

さて、ドラマを楽しむには、建築の専門用語が分からなくても全く問題はない。しかし、実はこうした専門知識の裏付けがあるといったことが分かると、違う面白さも加わるのではないか。

このドラマをきっかけに建築に興味を持ってくれる人たちが増えて、その中から世界的に活躍する建築士が誕生するかもしれないと思うと、ワクワクする。もちろん、とわ子が元夫の誰かと元鞘に収まるのか、はたまたこれから新たなパートナーが登場するのか、ドラマ本編の展開も楽しみたいと思う。

●取材協力
KUROFUNE Design Holdings
プレスリリース
関西テレビ
番組HP

注文住宅の予算、約3人に2人が「3,000万円未満」で検討

(株)MayLightはこのたび、注文住宅の検討理由や、不安に感じている点についてアンケート調査を行った。アンケートは、20代から60代の男女300名を対象に2019年6月に実施したもの。それによると、注文住宅を検討している理由は何ですか?では、「自分の家が欲しい」が最も多く34.7%。次いで「こだわりの家に住みたい」26.6%、「毎月の家賃がもったいない」21.6%と続いた。経済的な観点からも注文住宅が注目されているようだ。

家づくりにあたって重視しているものは、もっとも多かった回答が「予算」で35.7%と、約3人に1人が最重視している。次いで、「広さ・間取り」(20.1%)、「立地」(18.6%)、「周辺環境」(13.1%)、「住宅設備」(12.1%)の順。全体的に分散した回答となり、家づくりに関して重視する点は人それぞれ違うようだ。

家づくりで不安なことについては、もっとも多かったのが「資金計画」で38.7%。「住宅ローン審査」も6.5%あり、45.2%の人が金銭面の不安を感じている。また、「ハウスメーカー選び」も29.6%で、約3人に1人がハウスメーカー選びに不安を感じている。

予算はどれくらいで検討していますか?では、「2,000~3,000万円未満」が最も多く38.7%。次いで、「1,000~2,000万円未満」25.6%、「3,000~4,000万円未満」20.1%、「4,000~5,000万円未満」8.0%が続く。全体の約3人に2人(64.3%)は3,000万円未満で検討しているようだ。

ニュース情報元:(株)MayLight

サンワカンパニー社長の自邸を初公開!“家一軒丸ごと自社製品“への第一歩  あの人のお宅拝見[13]

住宅設備機器・建築資材業界において、ネット販売を推進しているサンワカンパニー。若き山根社長は、ミラノサローネ(世界的なインテリアデザインの見本市)でも日本企業で初めて賞を受賞するなど、デザイン性の高い商品をリーズナブルな価格で提供するべく建築業界の流通革命に挑んでいる。昨年ご自宅を建築したと聞き、まだメディアに出していないお宅を初取材させていただきました。連載【あの人のお宅拝見】
「月刊 HOUSING」編集⻑など長年住宅業界にかかわってきたジャーナリストのVivien藤井繁子が、暮らしを楽しむ達人のお住まいを訪問。住生活にまつわるお話を伺いながら、住まいを、そして人生を豊かにするヒントを探ります。35歳山根社長、グローバルなバックグラウンドが挑戦の源

普段、私が山根社長にお会いするのは東京・青山のショールームやミラノサローネですが、サンワカンパニーの本社があるのは大阪府大阪市。なので、ご自宅は関西。中でも憧れの住宅地である“THE 阪神間”なスゴい立地に新築されました。
社長宅は当然、外観撮影NG……。コンクリート打ち放しとだけご紹介。
エントランスまでお出迎えいただき中に入ると、まず玄関の広さとデザインに圧倒されます!

床のタイルは1枚75cm角、横に4枚=3m幅の玄関は豊かさの象徴。トールキャビネットがダークなオーク材で落ち着いた空間に。正面には名和晃平作のアートが、あつらえたように納まっていた(写真撮影/NOB 川谷)

床のタイルは1枚75cm角、横に4枚=3m幅の玄関は豊かさの象徴。トールキャビネットがダークなオーク材で落ち着いた空間に。正面には名和晃平作のアートが、あつらえたように納まっていた(写真撮影/NOB 川谷)

その先に待ち受けていたのは、さらに広いワンルーム空間。リビングダイニングの奥にオープン・キッチンがあります。床壁、キッチンなど建材はふんだんに自社商材が使われています。
リビングの上は大きな吹抜けになっています。奥のダイニングテーブルでお話を伺いました。

昨年の6月に完成入居された新居。3年前の土地購入後、設計・建築に「妥協無しにやらせていただいたので、設計だけで2年かかってしまいました」と山根社長。

玄関から続く大判のタイル床は床暖房。「広いので冬場の暖房は心配しましたが、床暖房だけで十分でした」。壁は光触媒機能の塗装『オプティマス』(照明が当たると空気を浄化)(写真撮影/NOB 川谷)

玄関から続く大判のタイル床は床暖房。「広いので冬場の暖房は心配しましたが、床暖房だけで十分でした」。壁は光触媒機能の塗装『オプティマス』(照明が当たると空気を浄化)(写真撮影/NOB 川谷)

創業者である父上の急逝によって、伊藤忠商事で会社員をしていた山根社長が会社を継がれたのは2014年、30歳のころ(当時、東証マザーズ上場企業で最年少)。それから数年でやっとご自身の体制に社内は整ってきたようです。相当な苦労もされているはず……。
「自分自身、二代目という立場に抵抗もありましたが、“明日から社長やれ”って言われる境遇なんて、そう無い訳ですから」と意を決し、会社経営に邁進されてきた。

「親とは別の仕事に就きたくて、商社務めではアパレル担当でした。だから建築業界のことも一から勉強」。外から入ったからこそ業界の不合理を流せない、“異端児”たる所以(写真撮影/NOB 川谷)

「親とは別の仕事に就きたくて、商社務めではアパレル担当でした。だから建築業界のことも一から勉強」。外から入ったからこそ業界の不合理を流せない、“異端児”たる所以(写真撮影/NOB 川谷)

建築業界では成功例が少ない“住宅設備機器と建築資材のインターネット販売・キッチンの海外販売”に挑戦しています。
「ものづくりで成功するには、顧客に好きなブランドとして指名してもらえることが必要」と、山根社長はNO.1ブランドを目指して国際見本市へ出展しました。
昨年は【ミラノサローネ・アワード/Salone del Mobile.Milano Award】を受賞し、世界から注目されるブランドになりました。(詳しくは、昨年の記事『ミラノサローネ2018リポート!キッチンもインスタレーションも“JAPANESE”が注目の的』)

【ミラノサローネ・アワード】を受賞した展示。世界から出展した企業1841社の中で3社が選出された。今年亡くなったイタリアデザインの巨匠アレッサンドロ・メンディーニ氏がデザインしたコンパクト・キッチンも展示(写真提供/サンワカンパニー)

【ミラノサローネ・アワード】を受賞した展示。世界から出展した企業1841社の中で3社が選出された。今年亡くなったイタリアデザインの巨匠アレッサンドロ・メンディーニ氏がデザインしたコンパクト・キッチンも展示(写真提供/サンワカンパニー)

世界の有名インテリア・ブランドが集まるミラノサローネに出展するというのは、会社として大きな決断。
「実は大学生時代に2年間、フィレンツェに留学していたのですが、そのときに父がミラノサローネへ視察に来て通訳に駆り出されたんです」
現地で学生の山根社長が見た驚きと感動が、10年後の出展、受賞につながっていると思うと、これは父上のお導きではないかと感じました。

イタリア語のほかに、英語はもちろん、上海駐在経験から中国語も話せる山根社長。それも手伝ってか、ミラノサローネでは国際コンテストの審査員も務められました。

新人デザイナーの登竜門【サローネサテリテ・アワード】の受賞者を囲んだ審査員たちの中で、山根社長はアジア代表的な存在(写真提供/Salone del Mobile.Milano)

新人デザイナーの登竜門【サローネサテリテ・アワード】の受賞者を囲んだ審査員たちの中で、山根社長はアジア代表的な存在(写真提供/Salone del Mobile.Milano)

今年のミラノサローネには仕事の都合で渡航されませんでしたが、私が見学してきたことをご報告しました。

ミラノ市内イタリアの販売代理店ショールームで、Karimoku New Standardとのコラボ・キッチンを展示(写真撮影/藤井繁子)

ミラノ市内イタリアの販売代理店ショールームで、Karimoku New Standardとのコラボ・キッチンを展示(写真撮影/藤井繁子)

「来年もミラノサローネでは、日本のプロダクトを日本の技術と感性で勝負したいと思っています。外国人に媚びない仕事をしたいですね」
アジアを中心にグローバル展開をしていますが、今後山根社長は北米にも関心をもっているようです。

迫力のモダンデザイン・キッチンは、もちろん自社製品

さて、とても楽しみにしていたご自宅のキッチンを拝見。
中庭を囲んでコの字型に設計された1階の一番奥、天井材を変えることでキッチンはリビング・ダイニング空間と緩やかに区切られています。そのキッチン天井が一段下がっている中に、業務用エアコンをビルトイン。黒い部分、窓枠とそろったデザインで綺麗に収まっています。

モデルのように可愛い奥様に立っていただくと、キッチンの大きさがよく分かります。横幅は3.6m。レンジはシンクの背後に壁付けで(写真撮影/NOB 川谷)

モデルのように可愛い奥様に立っていただくと、キッチンの大きさがよく分かります。横幅は3.6m。レンジはシンクの背後に壁付けで(写真撮影/NOB 川谷)

こちらも自社製品のキッチン『エレバートEX』。黒の鏡面仕上げ、カウンタートップはステンレス。木製カウンターを付けてL字型にレイアウト。奥のキャビネットとビルトイン冷蔵庫も一面でスッキリデザイン(写真撮影/NOB 川谷)

こちらも自社製品のキッチン『エレバートEX』。黒の鏡面仕上げ、カウンタートップはステンレス。木製カウンターを付けてL字型にレイアウト。奥のキャビネットとビルトイン冷蔵庫も一面でスッキリデザイン(写真撮影/NOB 川谷)

キッチンも中庭に面しているので明るく、お子様たちが走り回る姿にも目が届きます。ボールを蹴ったり、木登りをしたりとワンパク兄弟、山根家のDNA!?

山根社長はマンション育ち。「戸建てに住むのは初めてで、この中庭で息子たちが遊ぶ姿を見ていて“これが戸建ての良さだなぁ”って感じます」(写真撮影/NOB 川谷)

山根社長はマンション育ち。「戸建てに住むのは初めてで、この中庭で息子たちが遊ぶ姿を見ていて“これが戸建ての良さだなぁ”って感じます」(写真撮影/NOB 川谷)

「自宅で夕食を食べることが少ないので、ダイニングより、このカウンターが私の定位置です」

お酒を飲まない山根社長。「家で食べるときは、オーガニック・サラダとかを買ってきて、ここで食べる程度です」(写真撮影/NOB 川谷)

お酒を飲まない山根社長。「家で食べるときは、オーガニック・サラダとかを買ってきて、ここで食べる程度です」(写真撮影/NOB 川谷)

テニスの腕前はプロ並み、オン・オフをストイックに全力で!

大きな吹抜けになっているリビングルーム、壁付けのスポット照明はFLOS社(イタリア)のもの。
「これ以外は、全てダウンライトで照明器具は付けませんでした」

吹抜けは5.6mダイニングテーブル上にもペンダント照明無しの潔さ。それによって、リビングからキッチンまで障害物無しに見渡せる(写真撮影/NOB 川谷)

吹抜けは5.6mダイニングテーブル上にもペンダント照明無しの潔さ。それによって、リビングからキッチンまで障害物無しに見渡せる(写真撮影/NOB 川谷)

そのリビングから見上げた、2階のガラス越しに見えるのは……ホームジム!

ミラーが一面に張られ、エクササイズに集中できるジム。「まだマシンもそろえてなくて、子どもの友達が来ると遊び場になってます(笑)」(写真撮影/NOB 川谷)

ミラーが一面に張られ、エクササイズに集中できるジム。「まだマシンもそろえてなくて、子どもの友達が来ると遊び場になってます(笑)」(写真撮影/NOB 川谷)

実は、このホームジムだけでなく、山根社長が毎日のようにフィットネス・ジムへも通う理由がありました。
何と、山根社長はプロを目指した経歴のあるテニスプレーヤー。
「学生時代は試合で海外を転戦していていました。そのころの“自分が外国人”としてのタフな経験は、今ビジネスでも役に立っていますよ」

HEAD JAPANの契約ベテランテニスプレーヤーとして活躍中。私もベテランプレーヤーの端くれなので、手ほどきをお願い(笑)。山根社長はサウスポー!(写真撮影/NOB 川谷)

HEAD JAPANの契約ベテランテニスプレーヤーとして活躍中。私もベテランプレーヤーの端くれなので、手ほどきをお願い(笑)。山根社長はサウスポー!(写真撮影/NOB 川谷)

出場されているトーナメントは、生半可にはできないレベルの大会なので「朝5時半から7時半、練習をしてから仕事に向かいます」(やっぱり、出来る人はストイック)

「テニスができることで、留学や駐在時の海外でも現地コミュニティーに早く溶け込むことができました」取材日の前日も大会に出場、日焼けして顔が赤くなっていた山根社長(写真撮影/NOB 川谷)

「テニスができることで、留学や駐在時の海外でも現地コミュニティーに早く溶け込むことができました」取材日の前日も大会に出場、日焼けして顔が赤くなっていた山根社長(写真撮影/NOB 川谷)

「仕事では社長という扱いをされますが、テニス仲間はいつまでたっても年功序列。そういう関係性って心地よくもあり、大切にしたいですね」

最後に、ご自身の体験も踏まえ、これから家づくりをする方へのアドバイスを伺うと
「自分が妥協したくない点を最初に決めておくことかな。広さなのか、内装なのかなど。それを実現するためには、自分で興味をもって情報を集めて勉強する。業者任せで、後悔してほしくないですからね」

今後は新居での経験がユーザー目線として、お仕事に反映されそう。仕事もテニスも“NO.1“を目指して挑戦し続ける山根社長の活躍には、私も目が離せません。

山根太郎
株式会社サンワカンパニー 代表取締役社長
1983年奈良県生まれ。関西学院大学経済学部卒業、在学時代はプロテニス選手を目指して海外を転戦。卒業後、2008年伊藤忠商事株式会社に入社。繊維カンパニーにて、2年の上海駐在。創業者である父の急逝により2014年4月株式会社サンワカンパニー入社、同年6月に代表取締役社長に就任。
著書『アトツギが日本を救う ――事業承継は最高のベンチャーだ』(幻冬舎)
株式会社サンワカンパニー
サンワカンパニー・オンラインストア

ママの理想のマイホーム、「新築注文住宅」が66.0%

(株)インタースペースは、同社運営のママ向け情報サイト『ママスタジアム』にて、「マイホームに対する意識」調査を行った。調査は2019年2月19日~2019年2月28日、インターネットで実施。有効回答数は379名(~20代53名、30代221名、40代以上105名)。住宅購入にあたり、両親からの援助がありましたか?では、「援助は受けていない」が57.8%と過半数だったが、いずれかの両親からの援助を受けた人も4割以上となった。経済的側面からも、両親のサポートを受けている、いまどき子育て家族の姿が見えてくる。

理想のマイホームは持ち家ですか?賃貸ですか?では、「持家」と答えたママが74.1%と大多数。中でも「戸建の持家(新築注文住宅)」という回答が66.0%だったが、その理想を実現したママは約2割にとどまっている。一方で「賃貸と持家を臨機応変に」という考え方も2割強存在した。子どもの誕生や成長、パパママの通勤条件など、何かと変化が多い子育て世代だからこそ、臨機応変に対応することでリスクを軽減しようとしているのかもしれない。

理想のマイホームの立地・環境として重視したいポイントは、「立地」が最も高く69.4%。「商店街・スーパーの有無など買い物環境の良さ」(61.5%)、「日当たりや眺望の良さ」(55.7%)、「学区」(52.5%)が続く。「保育園・学童に入れそうか」という回答も2割弱あり、学区をはじめとする子どもの教育環境という視点は、ママたちにとってマイホーム選びの際にも重要な要素になっている。

理想のマイホームで重視するスペック・設備としては、「価格」が7割以上で最も高く、続いて「収納の多さ」「耐震性」「間取りや広さ」が6割程度だった。

ニュース情報元:(株)インタースペース

2018年の新設住宅着工戸数、2年連続減少

国土交通省はこのたび、2018年の住宅着工動向を発表した。それによると、2018年は新設住宅着工戸数が前年比2.3%減の942,370戸で、2年連続の減少となった。持家は同0.4%減の283,235戸で2年連続減少。貸家は同5.5%減の396,404戸で7年ぶりの減少となった。分譲住宅は255,263戸(前年255,191戸)で微増。うち、マンションは110,510戸で同3.8%減、昨年の増加から再び減少に転じた。一戸建住宅は142,393戸で同3.0%増、3年連続の増加となった。

地域別でみると首都圏の総戸数は同4.9%減の322,586戸。近畿圏は同2.6%増の142,289戸。中部圏は同3.2%増の112,253戸だった。

ニュース情報元:国土交通省

12月の住宅着工戸数、前年同月比2.1%増

国土交通省はこのたび、平成30年12月の住宅着工動向を発表した。それによると、12月の住宅着工戸数は前年同月比2.1%増の78,364戸だった。
利用関係別でみると、持家は前年同月比4.8%増の24,415戸で3か月連続の増加。貸家は同7.9%減の30,788戸で4か月連続の減少。

分譲住宅は、同16.5%増の22,756戸と5か月連続増加。そのうち、分譲マンションは同28.6%増の9,546戸で5か月連続増加。分譲一戸建住宅は同8.5%増の13,006戸と先月の減少から再び増加した。マンションが増加し、一戸建住宅も増加したため、分譲住宅全体で増加となった。

ニュース情報元:国土交通省

家づくりでまず始めたこと、1位は「住宅展示場に行った」

(株)リクルート住まいカンパニーはこのたび、マイホームに関するアンケート調査を行った。調査は、3年以内に注文住宅を建築した25歳~44歳の全国の男女を対象に、2018年9月、インターネットで実施。400名(男性172名・女性228名)より回答を得た。それによると、家づくりを思い立って始めたことは、1位が「住宅展示場に行った」で約6割(59.8%)。次いで「webで土地を探した」(10.8%)、「親に相談した」(9.3%)、「不動産会社に土地を探してもらった」(8.3%)などが続く。

家づくりを思い立ってから活動を始めるまでの期間は、「1カ月以内」が最多で39.0%。「2~3カ月以内」(32.3%)と合わせると、思い立ってから「3カ月以内」に7割以上(71.3%)が家づくりの活動を開始。多くの人が、住宅展示場に行ったり、不動産会社に土地探しの相談に行ったりと、スピーディーに行動しているようだ。

しかし、思い立ってから契約するまでの期間をみると、「1カ月以内」は4.0%、「2~3カ月以内」は17.5%、「4~6カ月以内」は27.5%と、合わせて「半年以内」が49.0%。「半年以上~1年以内」は26.0%と、スピーディーに動き始めたものの、それなりに期間はかかっている。さらに「1年~2年以内」が17.5%、「3年以上」は7.5%と、かなり長い期間かかってしまった人もいるようだ。

家づくりの流れの中で、自分たちの努力だけではスムーズに進めにくいのが「土地探し」と「建築会社選び」。今回の調査では「土地がない人」が66.3%いた。多くの人が希望の土地がすぐには見つからなかったり、建築会社選びに迷ったりしたことで、スムーズに家づくりが進められなかったことがうかがる。

ニュース情報元:(株)リクルート住まいカンパニー

住宅着工戸数、前年同月比0.6%減

国土交通省はこのたび、「平成30年11月の住宅着工動向」を発表した。それによると、11月の住宅着工戸数は84,213戸で、前年同月比0.6%減となった。利用関係別では、持家は25,527戸で前年同月比2か月連続の増加(前年同月比2.5%増)。貸家は34,902戸で、前年同月比3か月連続の減少(同6.9%減)。

分譲住宅は23,220戸で、前年同月比4か月連続の増加(同6.1%増)。そのうち、マンションは10,460戸で前年同月比4か月連続の増加(同15.6%増)、一戸建住宅は12,561戸で、前年同月比8か月ぶりの減少(同0.2%減)。一戸建住宅は減少したがマンションが増加したため、分譲住宅全体では増加となっている。

ニュース情報元:国土交通省

62.8%が「土地はないけど注文住宅を建てたい」 その方法は?

リクルート住まいカンパニーの「2018年注文住宅動向・トレンド調査」によると、注文住宅の建築を検討している人の6割以上が土地を持っていないことが分かった。所有する土地に注文住宅を建てるというのが、従来の考え方だったが、どういった状況になっているのだろうか?【今週の住活トピック】
「2018年 注文住宅動向・トレンド調査」を発表/リクルート住まいカンパニー6割以上が新たに土地を取得して注文住宅を建てる

同社の調査は、注文住宅の建築者(1845件)及び検討者(建築予定者1839件)を対象にしている。

全国で1年以内に注文住宅を建築した人の建築費用は平均2807万円。このうち首都圏では2984万円だった。
また、親や自分たちが住んでいた住居を建て替えたのは14.2%、住んではいないが所有していた土地に新築したのは17.5%、新たに土地を取得して新築したのは67.2%という内訳になっている。

新規建築と建て替え(建築者・全国)(出典:リクルート住まいカンパニー「「2018年注文住宅動向・トレンド調査」より転載)

新規建築と建て替え(建築者・全国)(出典:リクルート住まいカンパニー「2018年注文住宅動向・トレンド調査」より転載)

一方、今後2年以内に注文住宅の建築を検討している人で見ると、62.8%が「土地なし」となっている。

建築者で見ても、検討者で見ても、土地を所有しないで注文住宅を建てようとしている人が多いことが分かる。

注文住宅検討時の土地の有無(検討者・全国)(出典:リクルート住まいカンパニー「2018年注文住宅動向・トレンド調査」より転載)

注文住宅検討時の土地の有無(検討者・全国)(出典:リクルート住まいカンパニー「2018年注文住宅動向・トレンド調査」より転載)

注文住宅を建てるために、新たに土地を取得する方法とは?

注文住宅ではなく、分譲一戸建てであれば、土地を持っていなくても一戸建てが手に入る。土地がないのに、それでも「注文住宅を建てたい」ということは、それだけ自分好みの住まいにしたいということだろう。

注文住宅を建てるために土地を新たに取得するとしたら、どういった方法があるだろう?

まず思い浮かぶのは、「更地」を探すことだろう。ただ、一戸建てなどの建物を建てて土地ごと売ろうという事業者も更地を探しているので、競合も多いということになる。解体費用はかかるが、「古家付き土地」を探す方法もある。

次に、「建築条件付きの土地」を探すことが考えられる。どういった条件が付いている土地なのかというと、土地の売買契約をする上で、土地の売主または売主が指定した建築事業者と一定期間内に建築請負契約を結ぶことが条件となっている。したがって、自由に建築事業者を選ぶことはできない。さらに、建築プランを決める時期に期限があり、指定の建築事業者が得意とする工法に制約がある場合に自由に工法を選べないということも押さえておきたい点だ。

また、土地を所有するのではなく、借りるという方法もある。一般的な借地権(普通借地権)に加え、「定期借地権」付き土地(50年などの期限がきたら住宅を取り壊して土地を返却するもの)なども選択肢になる。

希望の地域に希望の住まいに適した土地を探すには、こうした多様な選択肢を検討する必要があるだろう。
さきほどの建築者で新たに土地を取得した人の内訳は、「古家付き・借地権付き土地を含む土地の取得」が45.8%、「建築条件付き土地の取得」が16.6%となっていて、「建築条件付き土地」の存在感が増している。

では、土地を取得するのに、誰に相談しているのだろうか?
建築者の場合で見ると、「建築会社に相談した」が55.9%で最も高く、次いで「不動産会社に相談した」が28.9%となっている。一方で、SUUMOなどの「ポータルサイトを見た」が28.3%となるなど、自分で情報を集めている実態もうかがえる。

土地取得の相談先(建築者・全国ほか)(出典:リクルート住まいカンパニー「2018年注文住宅動向・トレンド調査」より転載)

土地取得の相談先(建築者・全国ほか)(出典:リクルート住まいカンパニー「2018年注文住宅動向・トレンド調査」より転載)

最後に、イマドキの結果だと感じた項目を紹介しよう。
検討者のうち共働き世帯では、子どもの出産を機に検討を開始し、「保育園」入園までに入居したいと考えており、そのうち新たに土地を取得しようとする人では、「保育園」に入りやすい自治体であることも重視しているという結果が出ている。すんなりと認可保育園に入れない昨今、「保育園」というキーワードも見逃せないようだ。

注文住宅の建築費、全国平均は2,807万円

(株)リクルート住まいカンパニーはこのほど、「2018年 注文住宅動向・トレンド調査」を実施し、その結果を発表した。調査は、1年以内に一戸建て(新築・建て替え注文住宅)を建築した人(建築者)と、今後2年以内に一戸建て(新築・建て替え注文住宅)の建築を検討している人(検討者)を対象に行った。調査時期は建築者が2018年7月24日(火)~8月4日(土)。検討者が2018年10月17日(水)~10月30日(火)。有効回答数は建築者が1,845サンプル、検討者が1,839サンプル。

それによると、建築者(全国)の建築費用平均は2,807万円で、対前年で32万円増加した。首都圏の建築者の平均費用は2,984万円だった。

また、建築者(全国)では新規建築の割合が84.7%、建て替えの割合が14.2%。新規建築の割合は前年と同程度だった。首都圏も前年と同程度。建築者(首都圏)では「新しく土地を取得して注文住宅を建てた」がやや減少し(2017年51.6%→2018年45.8%)、「建築条件付き土地を取得して注文住宅を建築した」がやや増加(2017年12.8%→2018年16.6%)した。

土地の有無では、検討者(全国)のうち、「土地なし」の割合は62.8%。「土地なし」の割合は年々増加傾向にあり、対前年で2.9ポイント、対前々年では5.5ポイント増加している。また、検討者(首都圏)のうち、「土地なし」の割合は59.4%で、検討者(全国)と比べ「土地あり」の割合が3.1ポイント高い。

検討者(全国・新規建築)の家づくりを考えたきっかけは、1位が「いつかは一戸建てに住みたいと思っていた」(27.0%)で、対前年で2.6ポイント減少。2位は「子どもが誕生した」(25.8%)で、対前年で2ポイント増加している。

消費税の増税と住宅建築意向では、検討者(全国)のうち31.3%が「消費税が上がる前に、建築を絶対に間に合わせたい」と回答。対前年で2.3ポイント増加した。検討者(全国)のうち、「10%の消費税増税に伴う住宅に関する経過措置」を知っている人(名称認知)は67.2%。対前年で大幅(15.0ポイント)に増加している。

ニュース情報元:(株)リクルート住まいカンパニー

10月の住宅着工戸数、前年同月比0.3%増

国土交通省はこのたび、「平成30年10月の住宅着工動向」を発表した。それによると10月の住宅着工戸数は83,330戸で、前年同月比0.3%増となった。利用関係別でみると、持家は25,949戸で前年同月比では先月の減少から再びの増加(前年同月比4.6%増)。貸家は35,225戸で前年同月比2か月連続の減少(同7.3%減)。

分譲住宅は21,394戸で、前年同月比3か月連続の増加(同9.2%増)。そのうち、マンションは8,604戸で前年同月比3か月連続の増加(同14.9%増)、一戸建住宅は12,556戸で前年同月比7か月連続の増加(同5.9%増)となった。

ニュース情報元:国土交通省

暮らしのエッセイスト・柳沢小実さんの美しい収納と家づくり その道のプロ、こだわりの住まい[2]

初めての家づくりについてまとめた『考えない 探さない ラクして整う住まい考』(KADOKAWA)を2018年9月に上梓したばかりの暮らしのエッセイスト&整理収納アドバイザーの柳沢小実さん。それまでの賃貸の暮らしとこれからの生活を考えて出した答えは、物量は少しだけ少なく、一目で分かる収納に、ということだという。旅好きでもあり、身軽に暮らしたいという思いが詰まったご自宅に伺って、家づくりや暮らしについて話を聞いた。【連載】
料理家、インテリアショップやコーヒーショップのスタッフ……etc. 何かの道を追求し、私たちに提案してくれるいわば「プロ」たちは、普段どんな暮らしを送っているのだろう。プロならではの住まいの工夫やこだわりを伺った。キッチンは、左右からアクセスできるよう、アイランド型に。シンク下の収納はダイニング側に食器を、キッチン側に調理道具などを収納している(写真撮影/嶋崎征弘)

キッチンは、左右からアクセスできるよう、アイランド型に。シンク下の収納はダイニング側に食器を、キッチン側に調理道具などを収納している(写真撮影/嶋崎征弘)

東京都内にある柳沢さん宅は一戸建て。玄関から階段を上がった先には、広々と明るいLDKが広がる。取材陣が伺うと、柳沢さんは、さっとキッチンへ向かってお湯を沸かし、茶器を選んで、茶葉を出して、お茶を入れてくれた。その一連の動きはとてもスムーズだ。アイランド型のキッチンで、ダイニングとの境もないので、左右からアプローチしやすい。さらに、ダイニングとリビングもひとつながりなので、とても開放感がある。あえて壁をつくらなかったという理由が、一瞬にして伝わってきた。
運んできてくれたお茶は、かわいらしい花模様が入った茶器。ここ数年通っている台湾で購入したものだという。

(写真撮影/嶋崎征弘)

(写真撮影/嶋崎征弘)

「すっきり暮らしたいという思いもありますが、こういう食器は我慢できなくて、つい買ってしまうんです。物欲って抑えられないときもありますよね」と笑いながら話す。物欲があるとはいえ、このすっきりした空間はどうやって生まれ、どのようにキープしているのだろう?

ハウスメーカーで実現した「白い箱」のような家

家を建てるに当たって、建築家や工務店などの選択肢があるなかで、柳沢さんはハウスメーカーを選んだ。理由は、蓄積されたノウハウがあることや、長く住むことを考えてアフターケアがきちんとなされることだったという。
「家具はそれまで使っていたものを活用するので、『機能的な白い箱』のようなシンプルな家にしてもらいました」
すっきりと広く感じる理由は、この「シンプルさ」にもあるのかもしれない。造作家具などを必要以上につくらず、壁や床の面が大きく見えているから、開放感を感じられるのだろう。

物の量は「少ない」ではなく「少なめ」に

また、整理収納アドバイザーの資格をもつだけあり、出し入れしやすい収納にも心を配っている。
「この家に引越すに当たって極端に減らしたわけではありません。私はミニマリストではないので、物量が少ないわけじゃないし、物は好きなんです。意識しているのは、『少ない』じゃなく『少なめ』にするということ」と言う。
ほんのちょっと少なめにするだけで、積み重なったり、奥に入り込んだりということがなくなり、探し物をする手間が減るというわけだ。余白が生まれれば、出し入れしやすくなる。だから、お茶を入れるという作業も、スムーズに流れるようにできていたのだ。
物を少なめにキープしつつ、それらを分かりやすく収納しているのも、スムーズな動きの理由のひとつ。例えば、キッチンの引き出しは、どこを開けても、ひと目でどこに何があるかがすぐ分かる。フタ付きの収納グッズなどは使わず、中に入っているものが見渡せるようにしている。

引き出し内は無印良品のケースで仕切っている。カトラリー、木製のスプーン類、小さなもの、レンゲなどと大まかに分類。「奥には使用頻度の低いカトラリーを入れています。すぐには捨てられなくて」(写真撮影/嶋崎征弘)

引き出し内は無印良品のケースで仕切っている。カトラリー、木製のスプーン類、小さなもの、レンゲなどと大まかに分類。「奥には使用頻度の低いカトラリーを入れています。すぐには捨てられなくて」(写真撮影/嶋崎征弘)

旅先で購入したという器は、食器棚の中できちんと並んでいるし、キッチンカウンターの上に置きっぱなしにしていても絵になっている。好きだからといってぎゅうぎゅうに詰め込んだりせず、出し入れしやすい状態にしているのはさすがだ。
「仕事も家事もしなくちゃいけない。忙しいからこそ、簡略化してラクに暮らせるようにと思っています。おおざっぱでめんどうくさがりだからこそ、散らからない工夫をしているんです(笑)」

その考え方はキッチンに限らず、クローゼットや洗面所などのスペースでもしかり。
「好きだから、つい増えてしまう」という洋服は、クローゼットを開ければそのほとんどが目に入るように掛けて収納している。
「物量を把握できるし、畳みジワが嫌だということもあります。それに、洗濯物を畳みたくないという理由もあるんです(笑)。めんどうな家事はできるだけ省きたい。忙しくてもきちんと収納できている状態をキープするためには、効率よく家事をこなさないといけないですから」

洋服だけでなく、バッグ類もS字フックで掛けて見やすく、取り出しやすく。クローゼットは壁一面を3つに仕切り、左が柳沢さん、中央がご主人、右は裁縫道具や梱包材などの日用品を収納(写真撮影/嶋崎征弘)

洋服だけでなく、バッグ類もS字フックでかけて見やすく、取り出しやすく。クローゼットは壁一面を3つに仕切り、左が柳沢さん、中央が夫、右は裁縫道具や梱包材などの日用品を収納(写真撮影/嶋崎征弘)

洗濯物を干すにも、クローゼットに収めるにも同じハンガーを使っているので、洗って乾いた状態のまましまえる。伸びやすいニット類はくるくる丸めてかごの中へ入れているが、それ以外はほぼ掛けているので、こちらも扉を開ければ一目瞭然。家事は自分のライフスタイルに合わせて変えていけばいいのだ。

寝室のキャビネットの上にはアクセサリー類を並べている。その日のコーディネートに合わせ、さっと手に取れて便利(写真撮影/嶋崎征弘)

寝室のキャビネットの上にはアクセサリー類を並べている。その日のコーディネートに合わせ、さっと手に取れて便利(写真撮影/嶋崎征弘)

必要以上の収納スペースはつくらない

扉付きの食器棚は、上部はガラス製なので好きな食器を眺めることができ、下部は木製の扉で料理本を詰め込んでいても圧迫感がない。賃貸時代にデザインやサイズを吟味してやっと見つけた家具で、大切に使われていることがよく分かる。

2つ目のこの食器棚は以前から持っていたほうの奥行きと合うサイズと色、さらに掃除のしやすい脚付きのデザイン、ガラス扉でほどよく物が隠せる、など条件を決めて見つけた(写真撮影/嶋崎征弘)

2つ目のこの食器棚は以前から持っていた方の奥行きと合うサイズと色、さらに掃除のしやすい脚付きのデザイン、ガラス扉でほどよく物が隠せる、など条件を決めて見つけた(写真撮影/嶋崎征弘)

扉を開けると料理本やレシピファイルが並ぶ。扉を締めればすっきり。使う場所の近くにしまうというのも収納の鉄則だ(写真撮影/嶋崎征弘)

扉を開けると料理本やレシピファイルが並ぶ。扉を締めればすっきり。使う場所の近くにしまうというのも収納の鉄則だ(写真撮影/嶋崎征弘)

「料理本はダイニングで読むことが多いので、置き場所は食卓の近くに。大切に使ってきた家具はそのまま新しい家でも活躍しています。家を建てるからといって、必要以上に収納スペースをつくるのは避けました。例えば、階段上の空間を利用すれば、パントリーを設置することもできたんです。でも、果たしてそのスペースを活用するほど物を持つか、きちんと管理できるかを考えたら、私には必要ないという結論になりました」

つり戸棚をつけない代わりに、奥行きの狭い棚板を壁に設置。茶葉などを見せて収納している(写真撮影/嶋崎征弘)

吊り戸棚をつけない代わりに、奥行きの狭い棚板を壁に設置。茶葉などを見せて収納している(写真撮影/嶋崎征弘)

仕事をしながら家事もこなす柳沢さんにとって大切なのは、パッと見て物量を把握でき、出し入れしやすいこと。過剰な収納は必要ないのだ。同じ理由で、キッチンのつり戸棚も設置せず、クローゼットはウォークインタイプはやめてシンプルなつくりにした。そのぶん、キッチンは上部に開放感があって広々と感じるし、寝室もシングルベッドを並べておいても余裕が持てている。

夫婦それぞれの場所をキープして、共有場所はすっきりとリビングテーブルは置かず、床を見せることで広さを感じられるリビングに。「家具を買うときは本当に必要か吟味してから。夫と相談して、なるべく一生使えるものを、と思っています」。ソファはハンス・J・ウェグナーのもの(写真撮影/嶋崎征弘)

リビングテーブルは置かず、床を見せることで広さを感じられるリビングに。「家具を買うときは本当に必要か吟味してから。夫と相談して、なるべく一生使えるものを、と思っています」。ソファはハンス・J・ウェグナーのもの(写真撮影/嶋崎征弘)

一人ではなく、夫と暮らしているからこその工夫も随所にある。「お互いに個人的に持っている物もありますよね。私の場合は家で仕事をするので仕事関係のものや書籍や雑誌など。夫は趣味の山登りの道具類がたくさんあるんです」。柳沢さんのものは仕事部屋があり、夫には寝室の横に通称「山部屋」があるので、それぞれで物量を管理するようにしている。リビングやダイニングに置きっぱなしにしない。そして、お互いにその部屋に関しては干渉しないと決めているので、共有のスペースであるLDKをすっきりさせることができている。

柳沢さんの仕事部屋には好きな書籍や雑誌、勉強中だという中国語のテキストなどが並んでいる。この4畳半ほどのスペースがあるおかげでリビングダイニングには物が置きっぱなしにならずにすむ(写真撮影/嶋崎征弘)

柳沢さんの仕事部屋には好きな書籍や雑誌、勉強中だという中国語のテキストなどが並んでいる。この4畳半ほどのスペースがあるおかげでリビングダイニングには物が置きっぱなしにならずにすむ(写真撮影/嶋崎征弘)

(写真撮影/嶋崎征弘)

(写真撮影/嶋崎征弘)

無理せず、我慢せず、できることを

話を聞いていると、暮らしやすいということは、好きなものを大切にし、無理をしないということが伝わってくる。
「仕事も家事もしているので、いかに気持ちよくラクに暮らせるかが大切。めんどうくさがりだから(笑)、それでもすっきりできる方法を考えてこの状態になったんだと思っています」

ダイニングの食器棚の横にある椅子。ここが夫の仕事かばんなどの定位置。日中は、コード類を収納したバッグを置いている(写真撮影/嶋崎征弘)

ダイニングの食器棚の横にある椅子。ここがご主人の仕事かばんなどの定位置。日中は、コード類を収納したバッグを置いている(写真撮影/嶋崎征弘)

柳沢さんがずっと試行錯誤して実践し続けてきた収納法や家事に対する考え方は、家を建てずとも真似できる工夫がたくさんある。
「プライベートでも仕事でも、海外に行くことが多いので、身軽でいたいというのもあります。パッと準備して出かけたいし、帰ってきたときに片付いている状態のほうが気持ちいいですよね」
物量は少なめにし、物の場所をきちんと決めておくことで、それを実現させている。

シンク下には、好きで集めているという茶器やフルーツ柄のグラスなどを並べている。旅や仕事で行った台湾などで購入したもの。「決してミニマリストではない」という言葉にもうなずける。我慢はせず、暮らしを楽しむことも大切(写真撮影/嶋崎征弘)

シンク下には、好きで集めているという茶器やフルーツ柄のグラスなどを並べている。旅や仕事で行った台湾などで購入したもの。「決してミニマリストではない」という言葉にもうなずける。我慢はせず、暮らしを楽しむことも大切(写真撮影/嶋崎征弘)

物も収納スペースも、自分たちに必要なものを選べばいい。一般的な「こうあるべき」という概念に縛られず、それまでの自分たちの暮らし方をきちんと把握して考えた家だからこそ、今の柳沢さんの暮らしにとてもフィットしているのだろう。
「年内に2回台湾に行くんです」とうれしそうに笑う。きっと旅の準備はてきぱきとスムーズで、楽しんで帰ってきたときには、すっきりとして明るい家が迎えるに違いないのだ。

●取材協力
柳沢小実(やなぎさわ・このみ)
エッセイスト。1975年、東京都生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業。整理収納アドバイザーの資格をもち、雑誌や書籍、新聞などで軽やかな暮らしを提案。現在、読売新聞(水曜夕刊隔週)での連載のほか、セミナーなども積極的に行っている。
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9月の住宅着工戸数、前年比1.5%減

国土交通省はこのたび、「平成30年9月の住宅着工動向」を発表した。それによると9月の住宅着工戸数は81,903戸で、前年同月比で1.5%減となった。利用関係別では、持家は24,873戸で前年同月比では3か月ぶりの減少(前年同月比0.0%減)、貸家は35,350戸で先月の増加から再びの減少(同5.8%減)。

分譲住宅は21,064戸で、前年同月比で2か月連続の増加(同4.3%増)、うち、マンションは8,934戸で前年同月比2か月連続の増加(同3.5%増)、一戸建住宅は11,882戸で6か月連続の増加(同4.7%増)。マンションが増加し、一戸建住宅も増加したため、分譲住宅全体で増加となった。

ニュース情報元:国土交通省

住宅着工戸数、3か月ぶりの増加

国土交通省はこのほど「平成30年8月の住宅着工動向」を発表した。それによると8月の住宅着工戸数は81,860戸、前年同月比1.6%増で3か月ぶりの増加となった。
利用関係別にみると、持家は24,420戸で前年同月比では2か月連続の増加(前年同月比0.2%増)、貸家は35,457戸で15か月ぶりの増加(同1.4%増)。

また、分譲住宅は21,325戸で3か月ぶりの増加(同2.9%増)。そのうち、マンションは9,146戸で3か月ぶりの増加(同0.4%増)、一戸建住宅は11,953戸で5か月連続の増加(同4.0%増)となった。

ニュース情報元:国土交通省

戸建注文住宅の建築費や土地代が上昇! その理由は?どう対処した?

住宅生産団体連合会(以下、住団連)の「2017年度戸建注文住宅の顧客実態調査」の結果が公表された。それによると、建築費や土地代を加えた住宅取得費が昨年度より上昇したという。これから建てる人には、コスト増は気になるところ。なぜ建築費が上昇したのか、コスト増にどう対処したのかについて、詳しく見ていこう。【今週の住活トピック】
「2017年度戸建注文住宅の顧客実態調査」結果を報告/(一社)住宅生産団体連合会建築費が増加し、平均の建築費単価は1万円アップの27.5万円/平米

この調査は、三大都市圏と地方都市圏に注文住宅を建てた人を対象に住団連が毎年行っているもので、2017年度で第18回目となる。

まず、注文住宅を建てた人の最新の平均像を見ていこう。
世帯主年齢の平均は40.5歳で、平均世帯人数は3.4人。ここ数年、「25~29 歳」や「30~34歳」の世帯主の比率が増加傾向を示しているという。

平均延べ床面積は129平米で狭くなる傾向にある。一方で、平均建築費(3535万円)は昨年度より81万円増加し、土地代を加えた平均住宅取得費(4889万円) も昨年度より134万円増加するなど、コストは増加傾向にある。また、世帯年収が伸び悩むなか、住宅取得費の年収倍率は6.5倍、借入金年収倍率は4.5倍にそれぞれ上昇した。

このように、建物の面積が狭くなるのに建築費は増加しているので、平均の建築費単価も上昇し、昨年度より1万円アップの27.5万円/平米となった。

平均建築費単価の推移(出典:住団連「2017年度戸建注文住宅の顧客実態調査」)

平均建築費単価の推移(出典:住団連「2017年度戸建注文住宅の顧客実態調査」)

「長期優良住宅」や「低炭素住宅」の認定住宅が増加し、8割以上に

では、建築費単価が上昇するのは、どういった理由からだろう?

もちろん、大工などの職人不足による人件費の高騰などで、純粋に建築費自体が上がった部分もあるだろう。が、求められる性能の要因も見て取れる。

調査結果で、「長期優良住宅」(81.1%)や「低炭素住宅」(1.6%)の割合が増加し、一般住宅(15.8%)が減少していることに注目したい。

「長期優良住宅」「低炭素住宅」の適用((出典:住団連「2017年度戸建注文住宅の顧客実態調査」)

「長期優良住宅」「低炭素住宅」の適用((出典:住団連「2017年度戸建注文住宅の顧客実態調査」)

「長期優良住宅」とは、長期にわたって良好な状態を保てるようなさまざまな基準をクリアした住宅、「低炭素住宅」とは、二酸化炭素排出の削減ができる省エネ性の高い構造や設備を備えた住宅のことだ。いずれも国が定めた認定基準を満たす必要があり、高い性能を求められるがゆえに建築費も高くなる。

そのため、これらの認定を受けた住宅については、「住宅ローン減税(住宅ローン残高の1%を10年間にわたって所得税などから控除する制度)」の最大控除額が400万円→500万円に拡大し、「登録免許税」も減税されるなどのメリットを受けられる。「長期優良住宅」の場合はさらに、新築住宅の場合に「固定資産税(家屋)を1/2に減額」する措置が、一戸建ての場合で3年間→5年間に延長されるなどのメリットもある。

つまり性能の高い住宅が増えることで、建築費が上昇するという理由が考えられるわけだ。

なお、コスト増に対しては、自己資金(平均1372万円)と借入金(借入ありのみ平均4031万円)を増やすことで対処していると見られ、親などから贈与を受けた比率(18.0%)や贈与を受けた人の平均贈与額(1145万円)は下がっている。

土地なしで注文住宅を建てる人が増加傾向、過半数が新たに土地を購入

さて、コスト面で次に注目したいのは、土地の取得方法だ。

昔は注文住宅と言えば、元の家を建て替えて注文住宅を建てる「建て替え」が主体だった。ところが、「建て替え」比率(28.5%)は減少トレンドにあり、今は、新たに土地を購入して注文住宅を建てる「土地購入・新築」の比率(51.4%)が上がり、過半数を占めている。

「建て替え」では、建築費が住宅取得費総額のほぼ全てを占めるが、その平均建築費は4026万円と最も高くなる。これに対し、建築費に加えて土地代が別途必要となる「土地購入・新築」の平均建築費は3223万円だ。「建て替え」は土地代が必要ない分、建築費にシフトできるというわけだ。

昨年度からの変化を見ると、「建て替え」の建築費は50万円増加したが、「土地購入・新築」の建築費は78万円増加し、さらに新たに取得した土地代は昨年度より95万円増加して2160万円になった。「土地購入・新築」のほうが、建築費も土地代も負担が増えたことになる。

建築費と土地代の構成と合計金額のうち、「建て替え」と「土地購入・新築」のみ抜粋((出典:住団連「2017年度戸建注文住宅の顧客実態調査」)

建築費と土地代の構成と合計金額のうち、「建て替え」と「土地購入・新築」のみ抜粋((出典:住団連「2017年度戸建注文住宅の顧客実態調査」)

さて、注文住宅を建てる人の過半数は別途土地を取得しているが、土地の取得は難しい環境になっている。

利便立地の大きな土地は、商業ビル、オフィスビル、ホテル、マンションで競合していることから、住宅の分譲業者の一部は一戸建ての建売販売に手を広げている。そこで、一戸建てが数棟建てられる小さな土地にも、もともとの一戸建て販売業者に加え、これまでより多くの不動産業者で競争することになり、なかなか一般の市場に出回ってこない。こうした状況で、これからの戸建注文住宅の動向はどうなっていくのか気になるところだ。

注文住宅の取得費、年収倍率は昨年度より増加

(一社)住宅生産団体連合会は、このたび「2017年度戸建注文住宅の顧客実態調査」の結果を公表した。この調査は、戸建注文住宅の顧客ニーズの変化を把握することを目的に、2000年から開始し今回で18回目。調査対象エリアは、3大都市圏(東京圏、名古屋圏、大阪圏)と地方都市圏(札幌市、仙台市、広島市、福岡市、静岡市)。有効回答数は4,424件。

それによると、世帯主年齢の平均は、今年度40.5歳と、昨年度より0.5歳下がった。例年どおり30歳代の割合が高いとともに、ここ数年は25~29歳が増加傾向で、今年度は0.9ポイントアップとなった。従前住宅については、「賃貸住宅」の割合が最も高く52.5%を占めた。

「建て替え」の割合は28.5%で、昨年度より0.4ポイント低下。また、「買い替え」も1.2ポイント低下し5.1%となった。一方、「土地購入・新築」は51.4%で昨年度より0.9ポイント増加。「買い替え」、「土地購入・新築」、「新たに借地・新築」を合計した「更地に新築」は56.9%で、昨年度より0.5ポイント低下した。

「買い替え」は、合計金額が6,943万円と、他の住み替え状況との差異は依然として大きい。建築費、土地代とも昨年度より増加しており、合計金額も増加した(6,130万円→6,943万円)。建築費が住宅取得費総額のほぼ全てを占める「建て替え」の建築費は4,026万円。これに対し、建築費に加えて土地代が別途必要となる「土地購入・新築」の建築費は3,223万円。「建て替え」は土地代が必要ない分、相対的に建築費のグレードを高めている様子が読み取れる。

住宅取得費の年収倍率は、3年続けて6.1倍で変化がなかったが、今年度は6.5倍となり昨年度より0.5倍増加。借入金の年収倍率は今年度4.5倍で昨年度より0.2倍増加した。いずれも、世帯年収が伸び悩む中、建築費単価の高騰による影響と見ることができる。

住宅ローンの金利タイプは、「変動金利」が半数以上を占め55.8%。昨年度より7.4ポイント増加した(48.4→55.8%)。都市圏別にみると、名古屋圏において「変動金利」が61.1%で他に比べ高く、「全期間固定金利」の割合が14.4%と低い。

住宅購入を検討する上で特に重視した点は、「住宅の間取り」が67.8%で最多。次いで、「住宅の断熱性や気密性」(47.0%)、「地震時の住宅の安全性」(41.4%)、「収納の多さ、使いやすさ」(40.4%)、「住宅の広さ」(31.9%)の順。この傾向は、昨年度と変わらなかった。

ニュース情報元:(一社)住宅生産団体連合会

住宅購入検討で重視したこと、「立地・周辺環境」がトップ

ハイアス・アンド・カンパニー(株)(東京都品川区)はこのたび、住宅購入者や購入検討中の消費者の意向・動向を探る市場調査を実施した。調査対象は全国の25歳~39歳までの直近3年以内の住宅購入者・今後3年以内の住宅購入検討者。調査期間は2018年6月29日(金)~7月4日(水)。調査方法はWebアンケート。有効回答数は900名。

それによると、住宅購入を検討し始めた際に重視していた点は、全体としては「立地・周辺環境」が80.9%で最多。この傾向は検討対象が注文住宅であっても建売住宅であっても同様。ただし、注文住宅検討者・既購入者は「住みたい家の性能の高さ(断熱性・気密性・防音性等)」や「インテリアデザイン」を重視する回答が全体回答に比べ高かった。

住宅購入を検討する際に不安に思っていた点は、全体では「建物の性能に関する知識不足」がトップで57.1%。次いで「立地・周辺環境に関する情報不足」で53.4%。特に建売住宅検討者・既購入者は「立地・周辺環境に関する情報不足」が全体回答の割合よりも高く、また、注文住宅検討者・既購入者では「住宅性能に関する知識不足」が全体回答に比べ高かった。

住宅購入を検討する際、もっとも参考にした情報は、「住宅展示場やモデルハウス」で62.4%。注文住宅検討者・既購入者が展示場を活用することは当たり前として、建売住宅検討者・既購入者も「展示場やモデルハウス」を参考情報としていることがわかった。

建売住宅購入を検討する理由として、「価格の明示や間取りや内装が決まっていること」が多くを占める。一方で、課題や不満として「自分で決められない」「外観が他の家と似ている」「自分の理想や希望に対してできることが少ない」といったことが挙がった。

また、注文住宅購入を検討する理由のトップは、「間取りや内装について自分の理想のイメージを作れること」。一方で、課題や不満として「金額」「間取りや内装などを自分で決めることが手間」「理想の家つくりが自分にできるか自信がない」といった回答がある。

ニュース情報元:ハイアス・アンド・カンパニー(株)

7月の住宅着工戸数、前年比0.7%減

国土交通省が8月31日に発表した「平成30年7月の住宅着工動向」によると、7月の住宅着工戸数は82,615戸で前年同月比0.7%減、2か月連続の減少となった。
利用関係別でみると、持家は25,447戸で6か月ぶりの増加(前年同月比0.3%増)、貸家は35,847戸で14か月連続の減少(同1.4%減)となった。

また、分譲住宅は20,885戸で2か月連続の減少(同0.7%減)、そのうち分譲マンションは8,699戸で2か月連続の減少(同4.0%減)、分譲一戸建住宅は12,004戸で4か月連続の増加(同2.5%増)となった。

ニュース情報元:国土交通省

6月の住宅着工数、3か月ぶりの減少

国土交通省が7月31日に発表した「平成30年6月の住宅着工動向」によると、6月の住宅着工戸数は81,275戸、前年同月比7.1%減、3か月ぶりの減少となった。
利用関係別にみると、持家は25,148戸(前年同月比3.4%減)で5か月連続の減少。貸家は34,884戸(同3.0%減)で13か月連続の減少。

分譲住宅は20,281戸(前年同月比18.8%減)で3か月ぶりの減少。うち、分譲マンションは8,253戸(同36.2%減)で3か月ぶりの減少、分譲一戸建住宅は11,903戸(同0.7%増)で3か月連続の増加となっている。

ニュース情報元:国土交通省

BEAMS流インテリア[3] 休日が待ち遠しい!鎌倉のモダンなこだわりの注文住宅ができるまで

ご夫婦ともにスーパーバイザーの村口良(むらぐち・りょう)さんと恭子(きょうこ)さん。40歳前後のお2人、そろそろ脱賃貸をとマイホームに選んだのは、立地も建物もどちらも妥協しない注文住宅。古都・鎌倉駅に近い土地を選び、建物もデザインや素材ひとつひとつにこだわり、しかも予算内に収めたアイデアいっぱいの新居を紹介しよう。●BEAMSスタッフのお住まい拝見・魅せるインテリア術
センス抜群の洋服や小物等の情報発信を続けるBEAMS(ビームス)のバイヤー、プレス、ショップスタッフ……。その美意識と情報量なら、プライベートの住まいや暮らしも素敵に違いない! 5軒のご自宅を訪問し、モノ選びや収納の秘訣などを伺ってきました。ファッションだけでなくライフスタイルもおしゃれに。予算内で土地も建物も妥協なしバルコニーに面した2階リビングは明るく風通しもいい開放的でモダンな空間(写真撮影/飯田照明)

バルコニーに面した2階リビングは明るく風通しもいい開放的でモダンな空間(写真撮影/飯田照明)

ともにファッション好きで、BEAMSは憧れの職場だったという村口夫妻。若いころは洋服ばかりたくさん買って、後は飲み代に消えていたというが、会社の先輩の家に遊びに行き、そのライフスタイルに刺激を受け、考え方が変わったという。「ファッションだけでなくライフスタイルや生き方そのものをお洒落にしようと、目で盗んでインテリアセンスを磨きました」と村口さん。

「予算に限りがあるものの、土地・建物どちらも妥協したくなかった」というお2人がマイホームに選んだのは、土地探しから始める注文住宅。立地は通勤に便利な都内か、自然豊かな古都・鎌倉。運よく探し始めてすぐに、鎌倉駅から徒歩圏の、自然にも文化にも恵まれたイメージ通りの土地に巡り合い購入した。

知人でセンスも信頼できるデザイナーに依頼して、家のデザインイメージや間取りも決まった。そこまではとんとん拍子だったが、デザイナーは関西在住。地元でイメージ通りの家を建ててくれる工務店探しをすることになり、これが難航した。別プランを提案されたり、大幅に予算オーバーになったりを繰り返し、施工会社が決まるまでに20社近くとやり取りをする結果となった。

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村口さん夫妻とお父様、大人3人が暮らす家。玄関は土間スペースになっていて広々、主な生活の場は2階のオープンなLDK(村口さん提供の間取図をもとにSUUMOジャーナル編集部にて作成)

村口さん夫妻とお父様、大人3人が暮らす家。玄関は土間スペースになっていて広々、主な生活の場は2階のオープンなLDK(村口さん提供の間取図をもとにSUUMOジャーナル編集部にて作成)

古い街並みになじむモダンな家に。イメージに合う建具を自ら探し出し、特注も

新居のコンセプトは古都・鎌倉のモダンな家。古い街並みの中に、コンクリートやモルタルに真鍮(しんちゅう)や鉄などの金属を組み合わせた、モダンなイメージにこだわった。階段やバルコニーの手すりや寝室ドアはオーダーの鉄製。鉄の素材にこだわっていたものの、工務店に提案されたものがコスト的に合わず、自分で新潟県燕三条の会社を探し出して特注したという。

LDKと寝室を仕切るドア(写真右手)も新潟で特注した鉄製。ウォークインクローゼットのガラス窓は鉄製のドアと似たデザインで、素材の木枠を黒の塗装にしてコストダウン(写真撮影/飯田照明)

LDKと寝室を仕切るドア(写真右手)も新潟で特注した鉄製。ウォークインクローゼットのガラス窓は鉄製のドアと似たデザインで、素材の木枠を黒の塗装にしてコストダウン(写真撮影/飯田照明)

キッチンもイメージに合う既製品が高かったので、コンロなどのパーツはデザイン性の高い物を選び、モルタルとステンレスの組み合わせで造作して予算内に収めた。家づくりの過程ひとつひとつに手間をかけ、毎晩のようにインターネットで情報収集し、毎週末工務店と打ち合わせを繰り返したという努力の甲斐あって、イメージ通りの建物がなんと2000万円以内という予算内で出来上がった。

左手がこだわりの鉄製階段の手すり。2階のLDKはモルタルで造作したオープンキッチンの開放的な空間。ワンルームのLDKのなかでキッチン部分は天井に木を用いてコーナーを区切っている。オープンな大空間のなかでコーナーごとに素材で変化をつけるテクニックは店舗設計で学んだという(写真撮影/飯田照明)

左手がこだわりの鉄製階段の手すり。2階のLDKはモルタルで造作したオープンキッチンの開放的な空間。ワンルームのLDKのなかでキッチン部分は天井に木を用いてコーナーを区切っている。オープンな大空間のなかでコーナーごとに素材で変化をつけるテクニックは店舗設計で学んだという(写真撮影/飯田照明)

木の天井にステンレスやモルタルの厨房機器や収納棚で素材をまとめたキッチンスペース。調味料や調理道具類も全て見せる収納だが、素材や色がそろっているのでスッキリ見える(写真撮影/飯田照明)

木の天井にステンレスやモルタルの厨房機器や収納棚で素材をまとめたキッチンスペース。調味料や調理道具類も全て見せる収納だが、素材や色がそろっているのでスッキリ見える(写真撮影/飯田照明)

とはいえ、「少し無理してでも、妥協せずその時に最大限にいい物を選ぶべき」とアドバイスする村口さん。実はコストダウンのため玄関の照明に安い物を選んだものの、毎日見るたびに気になり、結局入居後早々に変更したという。「最初からいいほうを選んでいたら工事代もかからなかったのに(笑)」。

徹底的な「見せる収納」、絵になる秘訣は妥協しないモノ選びと統一感

村口家の収納の特徴は徹底した「見せる収納」。ウォークインクローゼットもキッチンの収納棚も全てオープンで、トイレットぺーパーのストックさえも見せて収納しているという。

「見せる収納の秘訣は、置きっぱなしになっていても絵になる、見せていい物を選ぶこと」という村口さん。「手鏡は北欧の木の置物のようなデザインのものに、ハンドクリームは国産でなくデザインが洒落た海外の缶入りに変えてリビングに置いています」と恭子さん。

細かなものが集まりがちなキッチンも全てオープン。整然として見えるのは、調理器具のメーカーがBALMUDAで統一されていたり、並んだ調味料ラベルを包装紙でくるんでいたり、細かい物は籠や箱や壺などの入れ物にまとめて入れるなどの工夫をしているから。使いやすく、きれいに見えるちょっとした工夫を積み重ねているのだ。

服も見せる収納。「畳むのは2人ともお手のもの。20年やっているプロですから(笑)」と恭子さん。「色や素材別にまとめるときれいに見えます」と村口さん。仕事柄服も増える一方だが、定期的に人にプレゼントしたり切ってふきんとして使ったりして総量をセーブするように心がけている。

ダイニングの食器棚は昭和テイスト満載の小学校の靴箱を利用。「インターネットで探したもので約8000円です」。このセンスと探究心はお見事(写真撮影/飯田照明)

ダイニングの食器棚は昭和テイスト満載の小学校の靴箱を利用。「インターネットで探したもので約8000円です」。このセンスと探究心はお見事(写真撮影/飯田照明)

寝室の収納もオープンな見せる収納。収納棚とデンマーク製アンティーク脚立の素材を木であわせているので統一感がある(写真撮影/飯田照明)

寝室の収納もオープンな見せる収納。収納棚とデンマーク製アンティーク脚立の素材を木であわせているので統一感がある(写真撮影/飯田照明)

1階玄関脇のクロークスペースは服と靴類中心。洋服は2人で共用することも多いので個別にわけるのではなく共通で素材別色別にまとめてすっきり見せている。ハンガーから落ちないよう前ボタンは留めて掛ける、が村口家のルール(写真撮影/飯田照明)

1階玄関脇のクロークスペースは服と靴類中心。洋服は2人で共用することも多いので個別にわけるのではなく共通で素材別色別にまとめてすっきり見せている。ハンガーから落ちないよう前ボタンは留めて掛ける、が村口家のルール(写真撮影/飯田照明)

お気に入りの靴は土間に置いたインドのアンティークのシューズキャビネットにディスプレーして見せる収納に(写真撮影/飯田照明)

お気に入りの靴は土間に置いたインドのアンティークのシューズキャビネットにディスプレーして見せる収納に(写真撮影/飯田照明)

引越しをきっかけに仕事中心だったライフスタイルが激変したという村口夫妻。庭づくりや周辺散策などやりたいことが沢たくさんあり、休日が待ち遠しいという。「仕事の張り合いにもなって、住まいって大事だなとしみじみ」と恭子さん。ベランダに照明をつけ、お気に入りの郵便受けを設置し、庭をモダンな金属製フェンスで囲み、ベランダに置く植物を選ぶ……まだまだこだわりの住まいは進化を続けています。

●取材協力
・BEAMS

住宅着工数、2か月連続増加

国土交通省はこのたび、平成30年5月の住宅着工動向を発表した。住宅着工戸数は79,539戸、前年同月比1.3%増、2か月連続の増加となった。
利用関係別では、持家は23,321戸(前年同月比2.2%減)で4か月連続の減少、貸家は31,083戸(同5.7%減)で12か月連続の減少。

分譲住宅は23,944戸(同12.2%増)で2か月連続の増加。そのうち、分譲マンションは11,861戸(同20.7%増)、一戸建住宅は11,944戸(同5.8%増)で、ともに2か月連続の増加となった。

ニュース情報元:国土交通省

4月の住宅着工戸数、10か月ぶりの増加

国土交通省はこのたび、平成30年4月の住宅着工動向を発表した。住宅着工戸数は84,226戸、前年同月比0.3%増、10か月ぶりの増加となった。利用関係別では、持家は23,289戸(前年同月比1.9%減)で3か月連続の減少。民間資金による持家は20,603戸(同2.2%減、3か月連続の減少)で、公的資金による持家は2,686戸(同0.2%減、10か月連続の減少)だった。

貸家は35,447戸(前年同月比2.1%減)で11か月連続の減少。民間資金による貸家は31,539戸(同3.4%減、11か月連続の減少)で、公的資金による貸家は3,908戸(同10.2%増、先月の減少から再びの増加)だった。

分譲住宅は24,904戸(前年同月比5.0%増)で、先月の減少から再びの増加。うち、マンションは12,350戸(同2.1%増、先月の減少から再びの増加)、一戸建住宅は12,324戸(同7.1%増、4か月ぶりの増加)。

ニュース情報元:国土交通省

3月の住宅着工戸数、9か月連続減少

国土交通省はこのたび、平成30年3月の住宅着工動向を発表した。住宅着工戸数は69,616戸、前年同月比8.3%減、9か月連続の減少となった。利用関係別にみると、持家は前年同月比4.2%減の20,576戸で2か月連続の減少。貸家は前年同月比12.3%減の29,750戸で10か月連続の減少。

分譲住宅は前年同月比3.6%減の19,019戸で先月の増加から再びの減少。うち、分譲マンションは前年同月比8.0%減の7,865戸で先月の増加から再びの減少、分譲一戸建住宅は前年同月比0.8%減の10,957戸で3か月連続の減少となった。

ニュース情報元:国土交通省

2017年度の新設住宅着工数、3年ぶりの減少

国土交通省はこのたび、2017年度の新設住宅着工戸数を発表した。それによると、新設住宅着工戸数は946,396戸(前年度比2.8%減)で、3年ぶりの減少となった。利用関係別では、持家は前年度比3.3%減の282,111戸で3年ぶりの減少。貸家は前年度比4.0%減の410,355戸、3年ぶりの減少。

分譲住宅は前年度比0.3%減の248,495戸で3年ぶりの減少。うち、マンションは108,278戸(前年度比3.6%減)で2年連続の減少。一戸建住宅は137,849戸(前年度比2.3%増)で3年連続の増加となった。

ニュース情報元:国土交通省

新居の住宅設備修理費を無料で保証、リクルート住まいカンパニー

(株)リクルート住まいカンパニーは5月1日(火)より、無料相談サービス「スーモカウンター注文住宅」を通じて建築会社と契約した方を対象に、「スーモカウンター注文住宅 設備あんしん保証」の提供を開始する。
新居において、キッチン、バス、トイレ、洗面、給湯の5大住宅設備が万が一故障した場合、修理費を最長3年、累計10万円(税込)まで保証するというサービス。

スーモカウンターより紹介された建築会社との成約であること、請負契約締結後、1カ月以内にスーモカウンターへ契約報告(=保証申し込み)していること、などが条件。

2017年に同社が実施した調査によると、注文住宅検討者の51.6%が「設備が充実した家に住みたい」と回答し、38.0%が購入時に「アフターサービス・メンテナンス」を重視すると回答している。設備のアフターサービスに関する保証を無料で提供することで、理想の家づくりをサポートしていく。

ニュース情報元:(株)リクルート住まいカンパニー

2月の住宅着工戸数、8か月連続の減少

国土交通省は3月30日、平成30年2月の住宅着工動向を発表した。それによると2月の住宅着工戸数は69,071戸で、前年同月比で2.6%減、8か月連続の減少となった。
利用関係別にみると、持家は前年同月比6.1%減の20,013戸で先月の増加から再びの減少。貸家は前年同月比4.6%減の29,420戸で、9か月連続の減少。

分譲住宅は前年同月比3.4%増の19,023戸で3か月ぶりの増加。うち、分譲マンションは前年同月比9.3%増の8,267戸で3か月ぶりの増加、分譲一戸建住宅は前年同月比1.3%減の10,560戸で2か月連続の減少となった。

ニュース情報元:国土交通省

イタリア仕込みのお料理ママが選んだのは「ドイツ製キッチン」、納得の理由とその使い心地は?

都内に土地を購入し家を建てた40代のHさんは、イタリアに留学経験のある子育て中のママ。注文建築で特にこだわったのは、キッチンのプランニング。イタリア本場でお料理を学んだとあって、数あるイタリア・ブランドのどこのキッチンが入っているのかな? と思いきや……。 新居にはドイツ製のキッチンが美しく収まっていた。その選択のワケを、興味津々で伺ってみた。
仕事も趣味もイタリアを満喫、モダンデザインのベースを学ぶ

都心の駅近なのに閑静な住宅街、希少な立地に3階建ての家を新築されたHさん。その3階、リビングとは完全に独立させた大きなキッチンがこの家の主役。

壁付けでキッチン~トールキャビネットを回して全長12m。中央にシンク付きのアイランドカウンターを備えた11畳の独立したキッチン・ダイニング(写真撮影/片山貴博)

壁付けでキッチン~トールキャビネットを回して全長12m。中央にシンク付きのアイランドカウンターを備えた11畳の独立したキッチン・ダイニング(写真撮影/片山貴博)

Hさんは2人の小学生のお子様がいる専業主婦、「結婚する前はインテリアの会社にも勤めていたので、家のイメージはある程度できていて、コンクリート打ち放しのモダンデザインにしたいと思っていました」とのこと。しかし、”戸建ては庭のある木造”と考えていた夫と意見が正反対⁉︎

「建築会社は信頼できる大手でなければダメだと言う夫に従って、打ち放しコンクリートを諦めました。その代わり、内装やキッチンは私の好きに選ばせてもらいました」

キッチン選びは、国内外メーカーのショールームを見て回ったそう。

「イタリアで暮らしているときにも、ショールームやミラノサローネ国際見本市でキッチンを見ていて大好きなブランドもあるのですが、イタリアのデザインはカッコいいけど適当な気がするんです(笑)。メンテナンスのことも考えて、輸入キッチンでも日本法人がしっかりしているブランドを選びました」

なるほど、イタリアを熟知している人の選択だ。

その御眼鏡(おめがね)にかなったのが、ドイツのポーゲンポール社のキッチン。
「扉材は鏡面仕上げのテカテカしたのが嫌だったの。マットなグレーにしたかったのですが、ポーゲンポールで思い通りのものが見つかりました」

柔らかいグレーなので、壁一面大きなキャビネットに囲まれているが圧迫感なく、家電の黒やお花の色が生きる。クォーツストーン製のカウンター、「このブラウンも私の好きな色」。広いアイランドで朝のお弁当づくりも手際良く(写真撮影/片山貴博)

柔らかいグレーなので、壁一面大きなキャビネットに囲まれているが圧迫感なく、家電の黒やお花の色が生きる。クォーツストーン製のカウンター、「このブラウンも私の好きな色」。広いアイランドで朝のお弁当づくりも手際良く(写真撮影/片山貴博)

ポーゲンポール(Poggenpohl)社は1892年創業のドイツを代表する老舗キッチンブランド。日本では約40年前から代理店により輸入販売されているが、2010年に日本法人も設立。「会社の信用性にうるさい夫も、了解してくれました」とHさん。

イタリアでお料理を学んだHさんは、カウンター高を95cmに要望。
「私の身長では高すぎると、他のキッチンメーカーからは否定されました(笑)。でも私には楽な高さだし、お料理を手伝ってくれる子どもたちも、すぐに背が伸びて私よりは高くなるでしょうから」

モダンデザインが好みのHさんは「シンプルでシャープなハンドル金具も気に入りました」(写真撮影/片山貴博)

モダンデザインが好みのHさんは「シンプルでシャープなハンドル金具も気に入りました」(写真撮影/片山貴博)

「つや消しのヘアライン加工は、マットな扉材との相性がいいでしょ。指紋や汚れも付きにくいし大正解」

ハンドルを引き出すと、さり気なく

ハンドルを引き出すと、さり気なく”poggenpohl”のロゴが現れる(写真撮影/片山貴博)

キッチン設備にもドイツの人気ブランドが並ぶ

シンプルなモダンデザインのキッチンには、よく見るとすてきな設備機器が搭載されている! コンロと換気扇は、ガゲナウ(GAGGENAU)社製。ドイツで1683年創業の歴史をもつ、人気ブランドだ。

換気扇のデザインを優先して選ばれたそう。クリーニングのサインが出たら、フィルターは簡単に取り外して食洗機で洗える(写真撮影/片山貴博)

換気扇のデザインを優先して選ばれたそう。クリーニングのサインが出たら、フィルターは簡単に取り外して食洗機で洗える(写真撮影/片山貴博)

コンロはIHクッキングヒーター、「4口にしたのですが、もう少し大きいものにしたほうが良かったかな……」とHさん。

IHコンロの手前にあるのは、電気の遠赤外線バーベキューグリル(写真撮影/片山貴博)

IHコンロの手前にあるのは、電気の遠赤外線バーベキューグリル(写真撮影/片山貴博)

バーベキューグリルは下に遠赤外線効果のある溶岩石が敷き詰められていて、炭火焼きのようにふっくらと焼き上がる。「お肉や野菜を焼くとおいしいですよ」

「グリルにカバーが付いているのが、ガゲナウ社の良いところです」(写真撮影/片山貴博)

「グリルにカバーが付いているのが、ガゲナウ社の良いところです」(写真撮影/片山貴博)

換気扇のフィルターをそのまま洗える、大型の食洗機もガゲナウ社(写真撮影/片山貴博)

換気扇のフィルターをそのまま洗える、大型の食洗機もガゲナウ社(写真撮影/片山貴博)

そして、壁付けのキャビネットにはドイツを代表するブランド、ミーレ(Miele)社のオーブンレンジがビルトイン。「オートメニューでピザを焼いたりもします」と話してくれた。

タテヨコのラインが美しく収まっている。キッチン全体のデザインにこだわる人が選ぶミーレの機器(写真撮影/片山貴博)

タテヨコのラインが美しく収まっている。キッチン全体のデザインにこだわる人が選ぶミーレの機器(写真撮影/片山貴博)

ドイツブランドがそろったキッチン。ブランドが違っても、根底に流れる質実剛健なドイツデザイン思想が共通であるからか、喧嘩すること無く整然と調和していた。

リビングとキッチン、独立させたレイアウトにある工夫

H邸のキッチンは2階のインナーバルコニーに面していて、都心でも十分な採光を考えられた設計。

大きく空が広がるバルコニーでは天体観測も楽しめる。「夏は大きなプールを広げて、子どもたちが大喜びです」(写真撮影/片山貴博)

大きく空が広がるバルコニーでは天体観測も楽しめる。「夏は大きなプールを広げて、子どもたちが大喜びです」(写真撮影/片山貴博)

そのバルコニーに沿って、キッチンと廊下でつながっているのがリビングルーム(写真の手前側)。

廊下の奥がキッチン、天井までの扉が開いた状態(写真撮影/片山貴博)

廊下の奥がキッチン、天井までの扉が開いた状態(写真撮影/片山貴博)

キッチンの扉を閉めた状態、階段から上がって来た手前がリビングルーム(写真撮影/片山貴博)

キッチンの扉を閉めた状態、階段から上がって来た手前がリビングルーム(写真撮影/片山貴博)

「LDKがオープンになっているプランは、キッチンの油やにおいが部屋に充満するので全く考えませんでした」

リビングとキッチンを廊下&バルコニーで距離をもたせ、個々の役割を明確にしている。そして、リビング側の大引き戸を閉めると、階段・廊下とも完全に独立した一室のリビングルームになる。

ウォールナットのフローリング床と合わせた特注の大引き戸(写真撮影/片山貴博)

ウォールナットのフローリング床と合わせた特注の大引き戸(写真撮影/片山貴博)

夫の選んだDENON社オーディオセットが、システム収納できれいに収まったリビングルーム。

60インチの大型テレビの前に、120インチのスクリーンが下りて来ると大迫力のシアタールームになる(写真撮影/片山貴博)

60インチの大型テレビの前に、120インチのスクリーンが下りて来ると大迫力のシアタールームになる(写真撮影/片山貴博)

「キッチンが私の部屋」だから、好きなものに囲まれていたい

「夫には書斎、子どもにも個室がありますが、1日の大半を過ごす私の部屋はキッチンなのです」

お料理だけでなく、お子様の宿題や事務仕事など。キッチンで過ごす時間が一番長いのがママの日常(写真撮影/片山貴博)

お料理だけでなく、お子様の宿題や事務仕事など。キッチンで過ごす時間が一番長いのがママの日常(写真撮影/片山貴博)

2.1mのトールキャビネットが4連で収納も豊富だが、「2連は子どもの書類やら一杯で、収納は足りないくらい!」

トールキャビネット内は、引き出しとシェルフで使い分け(写真撮影/片山貴博)

トールキャビネット内は、引き出しとシェルフで使い分け(写真撮影/片山貴博)

Hさんにとってはマルチな空間になっているキッチンですが、家族にとってはやはり食事の場。

「食事はできるだけ家族そろって食べるようにしています。テレビは無し! お話ししながら、しっかり食べることを大切にしています」

食事時にテレビを見ないのは、Hさんの育った習慣とのこと。そんなHさんが大切にしている習慣が、もう一つ……。

キッチンの窓辺に飾られた花。「母がいつも花を欠かさない人だったので、私も自然とそうなりました。そして、娘もお花屋さんが好きですね」(写真撮影/片山貴博)

キッチンの窓辺に飾られた花。「母がいつも花を欠かさない人だったので、私も自然とそうなりました。そして、娘もお花屋さんが好きですね」(写真撮影/片山貴博)

キッチンを調理の場としてだけでは無く、お子様とのコミュニケーションやご自身の時間を過ごす場にしているHさん。自分の部屋としてキッチンを心地よくするために、好きなカラーや素材を大切に選ぶことの意味を教えてくれた。

●取材協力
・ポーゲンポール東京(poggenpohl)

1月の住宅着工戸数、持家は8か月ぶりの増加、貸家は8か月連続の減少

国土交通省は2月28日、平成30年1月の住宅着工動向を発表した。それによると、1月の住宅着工戸数は66,358戸で、前年同月比で13.2%減となった。

利用関係別では、持家は前年同月比0.1%増の20,257戸で8か月ぶりの増加。貸家は前年同月比10.8%減の28,251戸で、8か月連続の減少となった。

分譲住宅は前年同月比27.5%減の17,448戸で、2か月連続の減少。うち、分譲マンションは前年同月比50.2%減の6,525戸で2か月連続の減少、分譲一戸建住宅は前年同月比1.1%減の10,743戸で4か月ぶりの減少となった。

ニュース情報元:国土交通省

話題ドラマ『隣の家族は青く見える』の舞台、コーポラティブハウスのセットをレポート

2018年1月から放送中のドラマ『隣の家族は青く見える』(フジテレビ)。深田恭子さんと松山ケンイチさんが演じる妊活に励む夫婦を中心に、集合住宅で暮らす4世帯の家族の成長と葛藤を描いた物語です。舞台となっている集合住宅は、購入希望者が意見を出し合いながら自由設計する「コーポラティブハウス」。戸建ての注文住宅に近い自由度で決められるとあって、近年注目されています。今回のドラマでは、どのようなところにこだわっているのでしょう? 部屋のセットを見学させていただきました。
登場人物の個性が垣間見られる部屋に。4タイプの部屋の特徴とは?

毎週木曜22時から放送中の『隣の家族は青く見える』。深田さんが演じる主人公の五十嵐奈々(いがらし・なな、35歳)は、スキューバダイビングのインストラクターをしている活発な妻、そして松山さんが演じる五十嵐大器(いがらし・だいき、32歳)は、中堅玩具メーカーに勤める心優しいけどちょっと頼りない夫。そんな二人は、“コーポラティブハウス”を購入したことをきっかけに、子づくりをスタートします。ところが、そう簡単には子どもは授からず、不妊治療の専門クリニックに通うように。

五十嵐家だけではなく、コーポラティブハウスでは、川村家(子どもをつくらないカップル)、広瀬家(男性同士のカップル)、小宮山家(幸せを装う夫婦)、それぞれ他人には言えない秘密を抱えながら暮らしていて……。
主人公の夫役・松山ケンイチさんは、番組公式サイト掲載のインタビューに次のようなメッセージを寄せています。

「コーポラティブハウスに住む人たちはそれぞれに悩みを抱えていますが、それぞれ違った形の幸せも抱えていると思うんです。なので、幸せの形がひとつではないということ、いろんな幸せの形があるということをきちんと表現できたらなと思っています」

キャストのリアルな演技もさることながら、それぞれに個性的な住み手のキャラクターを投影したセットも、みどころのひとつです。

ということで、早速コーポラティブハウスを見学していきたいと思います。今回、セットを案内してくれたのは、美術デザインを担当するフジテレビ美術制作局デザイナーの宮川卓也さん。

【画像1】月9ドラマ『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』、『世にも奇妙な物語』他、ドラマからバラエティまで、番組のジャンルを問わず活躍している宮川卓也さん(撮影/末吉陽子)

【画像1】月9ドラマ『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』、『世にも奇妙な物語』他、ドラマからバラエティまで、番組のジャンルを問わず活躍している宮川卓也さん(撮影/末吉陽子)

まずは、各部屋のこだわりについて教えてもらいました。

【五十嵐家】
「夫がおもちゃ会社勤務、妻がダイビングスクールの講師ということで、遊び心を感じられる部屋にしました。マリンっぽさを出したり、滑り台があったりと、楽しそうな空間にしています。色味も、ちょっとかわいらしい感じにして、すごくおしゃれではないけど、お互いの趣味がマッチしている雰囲気を狙っています。あとは、友人からもらった結婚祝いの寄せ書きを飾るなど、皆から好かれている夫婦なんだなということが、小物から伝わるようにしています。また、ベッドルームとかもそのまま抜けて奥が見えるんですけど、不妊がテーマのドラマなので、リビングで会話をしていても、あえて奥のほうでベッドがちらつくようにしています」(宮川さん、以下同)

【画像2】ところどころにアクセントのブルーを散りばめたリビング。子どもがはしゃぎそうな滑り台も(撮影/末吉陽子)

【画像2】ところどころにアクセントのブルーを散りばめたリビング。子どもがはしゃぎそうな滑り台も(撮影/末吉陽子)

【画像3】友人たちからの寄せ書きも飾られているベッドルーム。マリンテイストのアイテムもかわいい(撮影/末吉陽子)

【画像3】友人たちからの寄せ書きも飾られているベッドルーム。マリンテイストのアイテムもかわいい(撮影/末吉陽子)

【川村家】
「スタイリストとネイリストのカップルなので、スタイリッシュでおしゃれなデザインにしました。品が良くて、ちょっとエロティックな感じにしたくて、色味はダークトーンに。どっちかというとバブリーなテイストにしています。結婚もしていないですし、子どももいらないという家庭なので、二人が楽しく住めるような、趣味のもので固めているというイメージです。ただ、これから子どもを引き取るかもしれないということで、この状態で、子どもが来てどうなるのかっていうのがこれからの見どころかなと思いますね。このままじゃ、多分、生活できなくなってしまうので、それをどういう風に工夫して、物語がどのように進んでいくのか、注目してもらいたいです」

【画像4】大人感漂うムーディーな雰囲気がすてきな川村家のリビング(撮影/末吉陽子)

【画像4】大人感漂うムーディーな雰囲気がすてきな川村家のリビング(撮影/末吉陽子)

【画像5】調度品はモノトーンで統一されていておしゃれ。ただし、どこを切り取っても生活感はない(撮影/末吉陽子)

【画像5】調度品はモノトーンで統一されていておしゃれ。ただし、どこを切り取っても生活感はない(撮影/末吉陽子)

【小宮山家】
「ごく一般的な夫婦+子ども二人の4人家族ということで、普通のマンションぽいつくりにしています。ただ、妻がちょっと曲者でして、周囲の家族との間に波風を立てるタイプの人。自己顕示欲が強いところがあるので、普通のマンションをベースにしながらも、ところどころ背伸びしている感じを出しています。あとは、やたら子どもの写真を貼っているなど、全体的に子どもがいてこそ本当の幸せという価値観を表現しています。夫は、尻に敷かれているので、自分専用のスペースはありません。高価なL字キッチンがあって、ダイニングテーブルの隅に夫のスペースがある、というイメージです。インテリアは、ナチュラルベースでバリアフリーにしています」

【画像6】子どもたちの絵や写真が目を惹くリビングダイニング(撮影/末吉陽子)

【画像6】子どもたちの絵や写真が目を惹くリビングダイニング(撮影/末吉陽子)

【画像7】やや物が多い気がするものの、きちんと片付けられている(撮影/末吉陽子)

【画像7】やや物が多い気がするものの、きちんと片付けられている(撮影/末吉陽子)

【広瀬家】
「建築士の仕事をしているとあって、洗練されたおしゃれな空間、というよりは、少しユニークなつくりにしたいと思いました。海外のデザイン本や、アーティスティックな写真を飾るなどして、個性的な空間にしています。おしゃれでありつつ、どのようなバックボーンで生活しているのか、一目で分かるように心がけました。また、川村家との違いを色でみせるため、少し明るめのグレイッシュなトーンでまとめています。あとは、珍しい形状のアイランドキッチンを配置して、建築士ならではの『複雑な空間をおしゃれにまとめました』という雰囲気を出しています」

【画像8】デザイン本や模型などが置かれた棚がスペースの仕切りとしても機能(撮影/末吉陽子)

【画像8】デザイン本や模型などが置かれた棚がスペースの仕切りとしても機能(撮影/末吉陽子)

【画像9】すっきりと片付けられているアイランドキッチン。木工製品のようなディテールがおしゃれな照明にもセンスを感じる(撮影/末吉陽子)

【画像9】すっきりと片付けられているアイランドキッチン。木工製品のようなディテールがおしゃれな照明にもセンスを感じる(撮影/末吉陽子)

美術デザイナーが考える、コーポラティブハウスの魅力

住む人の個性を反映した4タイプの部屋のセット。物語同様、その細部にも注目したいところです。宮川さんに、セットをつくる際のセオリーを聞いてみました。

「どこで切り取られても、“この登場人物の部屋なんだな”と分かることを前提にデザインしています。例えば、壁をバックに演じるシーンでも、ただの真っ白な壁にならないように、その登場人物の個性を感じるポイントが映り込むように心掛けています。それは、おそらく美術デザイナーなら誰しも意識しているセオリーではないでしょうか。あとは、役者さんご自身のバックボーンもあるので、どのような生活をしてきたのか、ときに聞いてみたり想像したりしながら、感情移入しやすい空間づくりを心掛けています」

【画像10】コーポラティブハウスの模型(撮影/末吉陽子)

【画像10】コーポラティブハウスの模型(撮影/末吉陽子)

今回のドラマでは、デザイナーズ家具を取り扱う「リグナ」のアイテムがテイストに合うということで、メインに起用しているとのこと。なんでも、「セットをつくりあげるにあたっては、脚本家さんと話して人物のイメージを固めるまでに、かなりの時間を費やします。『この登場人物はこういう人なんだ』とイメージをつくりあげるのは、ドラマの核になるところですから」とのこと。

ちなみに、宮川さんが住むとしたら? 「僕もデザイナーなので住むとしたら広瀬家ですかね。もっと棚をいっぱいつくってデザイン本を置いて、作業台も使いやすくもう少し大きくしたいと思います」

さて、今回コーポラティブハウスという、新しいタイプの住まいをセットに落とし込むにあたっては、入念なリサーチを重ねたといいます。そこで改めて、コーポラティブハウスの良さを感じたと宮川さん。

【画像11】4世帯が暮らすコーポラティブハウスの共有スペースは、ドラマでも度々登場する場所だ(撮影/末吉陽子)

【画像11】4世帯が暮らすコーポラティブハウスの共有スペースは、ドラマでも度々登場する場所だ(撮影/末吉陽子)

「コーポラティブハウスをメインに設計しているメーカーを演出担当者と一緒に3、4社まわり、実際の建物を見学させてもらいました。自分たちで、構造から空間、部屋、床材から壁の色まで決められるのはメリットだと思います。あと、マンションだと隣に誰が住んでいるか分からないことが多いかもしれませんが、ゼロから建てるため、皆で集まって話し合いをするので、顔を見られる安心感があります。

そうした過程を経て、連帯感ができると聞きました。裏を返せば、ちょっとお付き合いしにくい人がいた場合、もめごとの要因にもなってしまう不安もありますが、メーカーさんいわく、普通のマンションのような距離感を保って住むこともできるそうなので、住む人次第なのかなと思います」

現代社会に生きる家族が抱える悩みを、新しい住まいのかたちを舞台にリアルに描いたドラマ。ぜひ物語と一緒に、お部屋のつくりにも目を向けてみてくださいね。

●取材協力
・フジテレビ木曜ドラマ『隣の家族は青く見える』

12月の住宅着工数、6か月連続の減少、国土交通省

国土交通省はこのほど、平成29年12月の住宅着工動向を発表した。それによると、12月の住宅着工戸数は76,751戸で、前年同月比2.1%減・6か月連続の減少となった。

利用関係別では、持家は前年同月比2.5%減の23,288戸で7か月連続の減少。貸家は前年同月比3.0%減の33,438戸で7か月連続の減少。

分譲住宅は前年同月比1.3%減の19,537戸で先月の増加から再びの減少。うち、分譲マンションは前年同月比11.0%減の7,422戸で先月の増加から再びの減少。分譲一戸建住宅は前年同月比6.6%増の11,992戸で3か月連続の増加となった。

ニュース情報元:国土交通省

11月の住宅着工数84,703戸、5か月連続の減少、国土交通省

国土交通省はこのほど、平成29年11月の住宅着工動向を発表した。それによると、11月の住宅着工戸数は84,703戸で、前年同月比0.4%減・5か月連続の減少となった。

利用関係別では、持家は前年同月比4.2%減の24,904戸で6か月連続の減少。貸家は前年同月比2.9%減の37,508戸で6か月連続の減少。

分譲住宅は前年同月比8.7%増の21,882戸で3か月ぶりの増加。うち、分譲マンションは前年同月比9.5%増の9,052戸で3か月ぶりの増加。分譲一戸建住宅は前年同月比7.7%増の12,580戸で2か月連続の増加となった。

ニュース情報元:国土交通省

もう一度建てるなら「3階建てにしたい」が増加、「2階建て」は減少、住環境研究所調べ

積水化学工業(株)住宅カンパニーの調査研究機関である(株)住環境研究所は、このほど「実現したい暮らしニーズ(もう一度建てるとしたらどんな住まいがいいのか)」調査を実施し、その結果を発表した。この調査は住まいの潜在ニーズ、特に2階建てと3階建てが混在する市場において、理想の住まいがどのようなものなのかを探ることを目的に行ったもの。

調査対象は2005~2017年に2階・3階建てを建築した20~69才の単身者を除く単世帯家族。調査エリアは全国(北海道・沖縄を除く)。調査方法はWebアンケート。調査時期は2017年8月。有効回答は1,200件(2階建て建築者:1,000件、3階建て建築者:200件)。

それによると、2階建て建築者も建設計画時には15.2%が3階建てを検討していたことがわかった。そこで、「もう一度建てるなら」と質問すると、「3階建てにしたい」が29.2%と約3割にまで増加。一方で、「2階建て」は検討時の81.8%から、願望は73.1%にまで減少した。3階建て居住者も3階建て願望は70.2%(検討時66.1%)にまで増加、2階建ては20.2%(同29.8%)に減少した。

2階建て建築者のうち、もう一度建てるなら「3階建てを検討」する割合を居住地別に見ると、東海32.3%(3階建て建築者:実績あり15.8%)、首都圏31.9%(同21.8%)、近畿圏22.1%(同20.1%)、その他地域29.3%(同8.0%)だった。近畿圏よりその他地域のほうが高いことから、3階建ては大都市圏だけでなく、全国的にニーズが高まっていることが分かる。

2階建て建築者と3階建て建築者の入居後満足度(+15~-15点の7段階の加重平均値)を比較すると、総合満足度は3階建て居住者7.4に対し、2階建て居住者は7.0で3階建て居住者の満足度が高い。満足度の差が大きいのは、「プライバシー確保」が2階建て居住者4.5に対し3階建て居住者5.7、「収納スペース」は3.9に対し5.0、「外まわりの計画」は3.9に対し5.5、「住まいからの眺め」3.7に対し5.2となっている。

3階建て願望(2階建て建築者)を実現したい暮らし別に見ると、1位が「水害に備えた暮らし」(50.1%)で、次いで「エレベーターのある暮らし」(47.2%)、「大型バルコニーのある暮らし」(43.3%)と続く。

ニュース情報元:(株)住環境研究所