13代続く湘南の地主・石井さん、地域の生態系や風景まもる賃貸住宅で”100年後の辻堂の風景”を住まい手とつくる 「ちっちゃい辻堂」神奈川県藤沢市

コミュニティ賃貸のはしり、賃貸住宅に革命を起こしたといわれる「青豆ハウス」の誕生から10年。タネが芽吹くように、ゆるやかな人と人、人と地域がつながりを持つ個性的な賃貸が静かに増えつつあります。では、どんな人が共感し、どのような暮らしが行われているのでしょうか。湘南にある「ちっちゃい辻堂」を訪ね、その暮らしぶりを取材しました。

13代続く地主の石井光さん。100年後の辻堂の風景をつくりたい

2016年、青豆ハウスをつくった青木純さんは、「大家の学校」を開校しました。これは、日本全国の大家さんや希望者を対象に、「大家業」の実践と学び、出会いの場です。「愛のある大家さんになるにはどうしたらいいか」という視点にたち、「選ばれる場づくり」「関係性のデザイン」を学びつつ、「大家という仕事を描き直す地図」を手に入れる。今までにない学校といっていいでしょう。

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「大家の学校」校長である青木純さんは、「大家として大切にしている6つの向き合い方(①そこにいる、②愛し続ける、③決めすぎない、④気を遣わせない、⑤一人ひとりの居心地を大切にする、⑥場が育つ触媒になる)というのがあるのですが、そのすべてをていねいに実行している方です」と話すのが、大家の学校1期生の、石井光さん。湘南・辻堂で13代続く地主の家系で、現在、小さな村のような賃貸住宅「ちっちゃい辻堂」のほか、コミュニティ農園の代表や田んぼにも携わり、「半農半大家」をしています。

「ちっちゃい辻堂」の大家である石井光さん(左)とお母さま(右)(写真撮影/相馬ミナ)

「ちっちゃい辻堂」の大家である石井光さん(左)とお母さま(右)(写真撮影/相馬ミナ)

ちっちゃい辻堂は、JR東海道線辻堂駅から海側に徒歩13分、平屋3棟と二階建て1棟、集合住宅、畑やみんなで使うコモンハウス「shareliving縁と緑」で構成されています。駅からも近いながら、敷地内にはふんだんに緑が植えられており、鳥のさえずりが心和ませてくれる、サンクチュアリのよう。住民はみな、口をそろえて「とにかく気持ちがいい」と話します。

手前が平屋、右奥には二階建て。建築設計はビオフォルム環境デザイン室(写真撮影/相馬ミナ)

手前が平屋、右奥には二階建て。建築設計はビオフォルム環境デザイン室(写真撮影/相馬ミナ)

取材時はまだ少なかった緑も、5月はこのように(写真提供/石井さん)

取材時はまだ少なかった緑も、5月はこのように(写真提供/石井さん)

竣工は2023年春、相場の賃料より高めの設定ですが、半年かけて満室に。2024年には少し離れた場所にできる第二期の募集をはじめますが、すでに15件ほどの問い合わせが寄せられているといい、着実に注目を集めているのがわかります。

大学では景観生態学を学んでいた石井さんは、地域の生態系や風景、生き物を大切にしたいとの思いを持っていたそう。そのため、プロジェクトのコンセプトは「ゆるやかに集まってつくる土とつながった暮らし」としました。建物には神奈川県産木材を使っているほか、敷地内には井戸が2カ所(どちらも手掘り)、さらに雨水タンク、コンポスト、サウナ、にわとり小屋があり、駐車場と通路はコンクリートではなく、微生物舗装(有機物や炭、石などの資源でつくる舗装の手法のこと)、敷地内の植栽は博覧会開催のため伐採予定だった木々を貰い受けて植えるなど、とにかくエピソードが満載です。

奥が雨水タンク、手前にあるのが井戸。草木や野菜の水やりや防災にもつながります(写真撮影/相馬ミナ)

奥が雨水タンク、手前にあるのが井戸。草木や野菜の水やりや防災にもつながります(写真撮影/相馬ミナ)

コモンハウスの室内。こたつが心地いいですね(写真撮影/相馬ミナ)

コモンハウスの室内。こたつが心地いいですね(写真撮影/相馬ミナ)

敷地内を散歩するメスのにわとりたち。産んだ卵は住民と分け合っているそう。奥には黒いテントサウナ(写真撮影/相馬ミナ)

敷地内を散歩するメスのにわとりたち。産んだ卵は住民と分け合っているそう。奥には黒いテントサウナ(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

完成から1年、住民たちと実験のような遊びを繰り返しながら現在のかたちに。つくり込み過ぎないのも魅力のひとつです(写真撮影/相馬ミナ)

完成から1年、住民たちと実験のような遊びを繰り返しながら現在のかたちに。つくり込み過ぎないのも魅力のひとつです(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

もともとは、築約60年の平屋4軒(最後は2軒)とアパートが立っていましたが、祖父に代わって光さんが経営を担うことになり、この「ちっちゃい辻堂」が誕生しました。他になかなかないコンセプトですが、家族からの理解はすぐに得られたのでしょうか。

「この地域は古くからの地主さんたちが土地を持っていて、相続が発生するごとに、土地が切り売られていき、また相続対策としてのマンション建設もあり、どこにでもある風景になっていっているような気がしていました。それと同時にまちから緑が少なくなり、生き物の居場所も減っていると感じていました。。わが家も相続対策をしないといけなかったのですが、先代にあたる祖父がとにかく借金が嫌だ、何もしない、と意地になっていて、どうにも話が進まない。そのため、ちっちゃい辻堂のコンセプトはできたものの、数年ほどお休み期間もありました」と光さん。

ただ、祖父が年齢を重ね、転倒が続くなどしたことから遺言書と家族信託を急いで作成。祖父の見送りなどもあり、当初の構想から7年ほど時間はかかってしまったものの、「ちっちゃい辻堂」は完成しました。

一方で、光さんのお母様は、先代の娘でもあります。世代的にも立場的にも板挟み、新しい価値観との出合いで、やや複雑な思いで見守っていたそう。

先代の娘でもあり、光さんの母でもある。心配しつつも「ちっちゃい辻堂」を見守り、応援しています(写真撮影/相馬ミナ)

先代の娘でもあり、光さんの母でもある。心配しつつも「ちっちゃい辻堂」を見守り、応援しています(写真撮影/相馬ミナ)

「私の父がしてきた『大家業』と、光のすることはイチから十までぜんぶ逆。父は昔ながらの感覚で、とにかく強烈な人。土地を守っていくことが第一、家は建てたらあとは管理会社にまかせておけばいい。でも光は、住民の引越しの手伝いから、段ボールをまとめて軽トラで公民館に持って行ったり……。よくやっているなあと思っています。ただ、事業にともなって借金をしていますし、不安はありました。そこである時、聞いたんです。『本当に大丈夫なの』って。そしたら光が『ここまでやってうまくいかないなら、この世界は生きている意味がない』ということを言ったんです。ああ、ここまでの覚悟ならもう支えるしかないと腹が決まりました」といいます。

光さんは光さんで、自分にしかできないことを、という覚悟を持っていました。

「地主の家系に生まれ、引き継いだ土地は都市部でも田舎でもなく、しかも離婚していて父親がいないので一代飛ぶ。このポジションにあるので、人が住めば住むほど生態系が回復していくというモデルを社会に広めやすい、そういうお役目があると思っています」(光さん)

大学で生態学を学び、コミュニティデザインやパーマカルチャーなどにも興味があり、コミュニティ農園の代表をしていて、しかも実家は地主業。確かにここまでの条件はなかなかそろわないもの。石井光さんらしいミッション、それが「ちっちゃい辻堂」なんですね。

虫や鳥、植物、微生物を含めた多様な生き物を守るため、除草剤や殺虫剤は基本使用しません。ふかふかの土が心地いい(写真撮影/相馬ミナ)

虫や鳥、植物、微生物を含めた多様な生き物を守るため、除草剤や殺虫剤は基本使用しません。ふかふかの土が心地いい(写真撮影/相馬ミナ)

昔からあった平屋は1棟残し、光さんと大工さんの手でリノベし、共用スペースにしています。2週間に1回の住民の食事会、ヨガ教室、来客の宿泊などに使われています(写真撮影/相馬ミナ)

昔からあった平屋は1棟残し、光さんと大工さんの手でリノベし、共用スペースにしています。2週間に1回の住民の食事会、ヨガ教室、来客の宿泊などに使われています(写真撮影/相馬ミナ)

続いて、実際に暮らしている人に話しを聞いてみましょう。

「住体験を創造したい」。50歳を過ぎて見つけたノイズのない暮らし

浦川貴司さんは、現在、夫妻とお子さん3人の5人家族で「ちっちゃい辻堂」にお住まいです。住民でもありますが、現在は仕事としても「ちっちゃい辻堂」プロジェクト全般に携わっています。

浦川さんの、引越しと転職という大きな変化のきっかけは、子ども達が成長し、賃貸/分譲/注文住宅などのくくりにとらわれず、「次の暮らし、住体験の創造をしたい」と漠然と思い描いていたことにはじまります。

「SNSで『ちっちゃい辻堂』を知り、前に住んでいた家も近くなので、ふらっと行ってみたら光さんがいて、立ち話をしたんです。そこで出た言葉が『100年後の辻堂の風景をつくる』というフィロソフィー(哲学)でした。これは、この1年で聞いた話でいちばんいい話だなと感銘をうけて、2023年秋に引越してきました。ついでにいうと転職もしました(笑)」

浦川さんと石井光さん。ちっちゃい辻堂には、「どこよりも楽しい体験と人生がある」(浦川さん)(写真撮影/相馬ミナ)

浦川さんと石井光さん。ちっちゃい辻堂には、「どこよりも楽しい体験と人生がある」(浦川さん)(写真撮影/相馬ミナ)

「前の住まいを手放すと言ったら、家族はまさに青天の霹靂(へきれき)で『何を言っているんだ』という感じでした。以前の住まいに比べると広さは3分の2 程度、モノもだいぶ処分しましたが、結果からいうと、家族全員ハッピーで満足していますね。朝起きてから就寝するまで敷地内には視界にノイズを感じず気持ちがいい。人との関係、あり方なども含めて、本当に心地いいです」

浦川さんのお住まい。土間と続くリビングを上手に住みこなしています。大人が憧れる空間です(写真撮影/相馬ミナ)

浦川さんのお住まい。土間と続くリビングを上手に住みこなしています。大人が憧れる空間です(写真撮影/相馬ミナ)

「今まで自身の事業のなかでも自分自身も何度も 住宅をつくってきましたが、住まいを買う事は目的ではなく、賃貸でも分譲でも、住まい手の美意識や自己表現を通してどんなライフスタイルを過ごしたいのかという事に向かい合うことがより大切。コロナ禍を経て、新しい、本質的な人生の豊かさに向かい合った住まい方、価値観の変異が起き始めているように思います。美しい暮らし、生き方のセンスというのかな、大きな転換期がはじまっているように思います。

一方で、現在進行系で『ちっちゃい辻堂』で得られた知見というのはとても貴重なものですし、『100年先の辻堂の風景』のためには、より多くの地主さんや大家さんに知ってもらわないといけない。賃料が相場よりプラス設定だとしても、豊かな体験がある住宅には人が集まりエリア相場以上に収益を出していけることを知ってもらいたいですね」

(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

浦川さんの書斎スペース。庭に面しているので、自然光が入ってくる設計。当初は小さな商いもできる前提(写真撮影/相馬ミナ)

浦川さんの書斎スペース。庭に面しているので、自然光が入ってくる設計。当初は小さな商いもできる前提(写真撮影/相馬ミナ)

家賃ではなく、新しい暮らし方への投資、共同出資のような感覚

20代のKさんは、デザイナーのパートナーと二人暮らし。前は都内の賃貸住宅で暮らしていましたが、オーナーの事情で退去を迫られ、新たな住まいを探していたそう。

“個”を保ちながら会話が生まれる。ちょうどよい距離感(写真撮影/相馬ミナ)

“個”を保ちながら会話が生まれる。ちょうどよい距離感(写真撮影/相馬ミナ)

「家と仕事をともに振り回されることが続いて、これから”どこに住むか(where to live)を考えるよりどのように生きるのか?(how to live) “ を話し合いこの物件に出合いました。マイクログリッドなどにも興味がありましたが、自分たちでイチからつくるにはムリがある。この物件は、2人で話していた『生き方の実験』にドンピシャなところがいっぱいあって、ゆるくつながりながら、東京にもアクセスできる、それに共鳴したという感じです」(Kさん)

Kさん(左)とYさん(右)の住まい。「ちっちゃい辻堂」の第一印象である、「とにかく心地いい」という言葉が印象的です(写真撮影/相馬ミナ)

Kさん(左)とYさん(右)の住まい。「ちっちゃい辻堂」の第一印象である、「とにかく心地いい」という言葉が印象的です(写真撮影/相馬ミナ)

パートナーのYさんは、以下のように話します。
「建物、敷地の第一印象はすごく気持ちがいい、ということ。光とか風とか、五感に働きかけるところがあって。建築・ランドスケープデザインの人と話しをしたら、すべて理由があって納得しました。コミュニティや共有という概念は、正直、苦手だなと思っていたんです。でも、実際、暮らしてみると誰も何も強制しないし、自発的な交流が生まれる仕掛けがあって、居心地がいい。庭の手入れをしていたら、ワイン片手に食事がはじまったりしてね。住まいは独立しているけれど、それぞれの境界線から色がにじみでる感じ。また新しい色ができているのが、未来的といえるかもしれません」

中央のペンダントライトは浦川さんが持っていたもの。よいものがないか探していたところ、「借してあげるよ」といわれ、借りているのだそう。これもシェアのひとつですね(写真撮影/相馬ミナ)

中央のペンダントライトは浦川さんが持っていたもの。よいものがないか探していたところ、「借してあげるよ」といわれ、借りているのだそう。これもシェアのひとつですね(写真撮影/相馬ミナ)

「自分は3DプリンターやDIYツールをたくさん持っているんですけれど、それを光さんのスペースに置かせてもらう代わりに、他の住民にも使っていいよ、としています。所有ではなく完全な共有でもない。モノや知恵をシェアする暮らし、所有すること、私有と共有についてもよく二人で話あっています。ほかにも、なんでお金が必要なんだっけ、なんの仕事をしたいんだっけなど、豊かさや暮らし、都市やアートについて考え直すことが多く、あらためて人生を見つめ直している感じです」(Kさん)

花やアートのあしらいが上手なお二人。「ちっちゃい辻堂」の暮らしは触発されることが多く、話し合うことも多いのだそう(写真撮影/相馬ミナ)

花やアートのあしらいが上手なお二人。「ちっちゃい辻堂」の暮らしは触発されることが多く、話し合うことも多いのだそう(写真撮影/相馬ミナ)

「引越してきて3~4カ月ですが、得られたものが大きいですね。親には家賃の割には空間は狭いよね、と言われることがあったんですが、単純に空間に家賃を払っているわけではない。生きることやつながりに対しての対価ですよね。暮らしのなかでも、畑をつくる、みそをつくるなど、動詞がすごく増えました。自然との共存という大きな挑戦や、可能性という、大きなものにお金を払っている。そんな感覚があります」(Yさん)

室内にもたくさん自然光が入ってくる間取りです(写真撮影/相馬ミナ)

室内にもたくさん自然光が入ってくる間取りです(写真撮影/相馬ミナ)

アーティストカップルだからこそ、コミュニティに助けられる

もう一組、フラワーアーティストのお二人にも話を聞きました。以前は東京都立川市在住、こちらも引越して半年になります。パーマカルチャー講座で光さんと知り合い、SNSで入居者募集を知ったのがきっかけでした。アーティストである二人にとって、この「ちっちゃい辻堂」はプラスしかない、といいます。

フラワーアーティストのお二人の住まい。写真左の花のオブジェが作品(写真撮影/相馬ミナ)

フラワーアーティストのお二人の住まい。写真左の花のオブジェが作品(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

「まずは、土間があって創作活動の作業がしやすい、水が使いやすい。そして外も緑が多くて気持ちがいい。軒先にドライフラワーを飾ってもいいし、使いきれなかったお花は、まわりのお宅に渡すと喜ばれます。周囲に大工さん、デザイナー、エンジニアがいるので相談できるし、さらに道具まであって。自分が表現したい世界や幅が広がるので、アーティストとしてはプラスしかないです。

アーティスト二人で暮らしていると、それはぶつかることもありますから。でも縁側にいて、誰か来るとおしゃべりして、すっと気が晴れることもあります」

土間があり、水をたくさん使える間取り、そういえばなかないですよね(写真撮影/相馬ミナ)

土間があり、水をたくさん使える間取り、そういえばなかないですよね(写真撮影/相馬ミナ)

「あと、人同士の距離がね、ほんとうに心地いいんです。光さんの考えや価値観を理解したうえで暮らしているので、違和感がないというか。濃密過ぎず、薄いわけでもない。これが新しい暮らしというものなのかな、と思います」

どこを切り取っても絵になります(写真撮影/相馬ミナ)

どこを切り取っても絵になります(写真撮影/相馬ミナ)

縁側のドライフラワー。さり気なくつるしてあるのがかわいい(写真撮影/相馬ミナ)

縁側のドライフラワー。さり気なくつるしてあるのがかわいい(写真撮影/相馬ミナ)

定例の食事会。顔の見える距離感ってこんなに心地いいんですね(写真撮影/相馬ミナ)

定例の食事会。顔の見える距離感ってこんなに心地いいんですね(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

最後に、2週間に1回、開催されている食事会に少しだけお邪魔しました。訪れてみると、住民のみなさんはそれぞれのおうちでつくったご飯とアルコールを持ち寄り、すでに盛り上がっていました。出会って数カ月とは思えないほどですが、とにかくムリなく、自然に、ゆるりと背伸びしない関係ができているようです。石井光さんと仲間たちが耕しはじめた、未来の暮らしはまだまだはじまったばかり。時間がたつほどに味わいを増して、「みんなの居場所」として心地よくなっていく気がします。

●取材協力
ちっちゃい辻堂
大家の学校 ※第11期の締切は5月31日(金)まで

テレワークが変えた暮らし[7] 湘南でマリンスポーツ&子育て。仕事の効率もアップ!

“自分の人生で通勤ほどムダな時間はない”。そう考えて、職住近接の都心暮らしから、現在は湘南暮らしのテレワーカー(リモートワーカー)となった勝見彩乃さん。
現在は、1歳児のママでもある勝見さんに、その経緯、子育てと仕事の両立、生活の変化など、テレワーク(リモートワーク)だからこそ実現した暮らしについてお話を伺った。
結婚を機に働き方を見つめなおす。その結果が「テレワーク」だった

テレワーク歴3年の勝見さん。夫も別会社のテレワーカーだ。
もともと「通勤時間はなるべく短く」がモットーで、常に都心暮らし。職場も住まいも新橋で、歩いて通勤という時期もあったそう。「地方出身で、大学もつくば。いつも交通手段は自転車か車だったので、満員電車が苦手なんです」
テレワークを決めたきっかけは、結婚。プライベートを充実させたい。仕事のパフォーマンスは上げたい。それを両立させるため、夫婦で話し合った結果だった。「結婚すると、今後のキャリアとかライフスタイルとかについて考えるじゃないですか。自分のキャリアを形成していくうえで、効率的に成果を出すのに一番邪魔で削りやすいものってなんだろう、それは通勤時間じゃない? だったら、リモートで働くのが一番じゃないかって結論になったんです」
そこで、転職活動はテレワークをできることが第一条件。結果、「リモートワークを当たり前にする」をミッションとし全メンバーがテレワーカーという企業「キャスター」に出会う。
転職後は、企業の一員として人事や広報を統括する業務に携わる傍ら、副業でスタートアップ企業のための採用サポートにも関わっている。夫もほぼ同時期に転職し、エンジニアとして会社に所属しつつ、フリーランスで業務を請け負うテレワーカーになった。

勝見彩乃さん(35歳)。大学3年生のときにインターンをしていた、求人メディアのベンチャー企業に卒業後就職。その後、ソフトウェア、インターネットメディア企業などで、主に人事・採用に携わる(写真撮影/片山貴博)

勝見彩乃さん(35歳)。大学3年生のときにインターンをしていた、求人メディアのベンチャー企業に卒業後就職。その後、ソフトウェア、インターネットメディア企業などで、主に人事・採用に携わる(写真撮影/片山貴博)

海の近くにマンション購入。一部をおうちオフィスに

テレワーク当初は、中央区晴海在住。もともと、前の職場に30分以内で通えることを理由に選んだ都心エリアだ。「ただ、リモートで働くなら、高い家賃を払ってまで東京都心にこだわる理由はないし、もっと自由に住む場所を選びたいと思うようになりました。家賃がもったいないし、資産としてマイホームを買うきっかけにもなりました」
購入したのは、湘南エリアの新築マンション。「夫婦ともサーフィンやSUP(スタンドアップパドル)
などマリンスポーツが好き。海へ気軽に行ける立地は魅力でした。また、フルリモートとはいえ、週に1度は東京都内に足を運ぶ業務もあるので、通勤圏でもある、このあたりが現実的でした」
新居を構えると、一部屋は夫の書斎に。リビングには作業用デスクをオーダーし、キッチンカウンター下はホワイトボードを張るなど、おうちオフィス仕様とした。

作業デスク、チェアはハンドメイドやクラフト作品のマーケットサイト『minne』で見つけたお気に入り作家さんにオーダー(写真撮影/片山貴博)

作業デスク、チェアはハンドメイドやクラフト作品のマーケットサイト『minne』で見つけたお気に入り作家さんにオーダー(写真撮影/片山貴博)

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キッチン下のカウンターにはシール式のホワイトボードを貼って、自分の考えをまとめる場に。「書く場所の広さは思考の広がりに比例すると思って、できるだけ広く取りたかったんです」(写真撮影/片山貴博)

キッチン下のカウンターにはシール式のホワイトボードを貼って、自分の考えをまとめる場に。「書く場所の広さは思考の広がりに比例すると思って、できるだけ広く取りたかったんです」(写真撮影/片山貴博)

辻堂西海岸にある自転車・SUP専門店「FAVUS」でのツーリングに参加した1コマ。江の島もすぐ。「マンションの屋上からは海が見えます」(写真提供/FAVUS)

辻堂西海岸にある自転車・SUP専門店「FAVUS」でのツーリングに参加した1コマ。江の島もすぐ。「マンションの屋上からは海が見えます」(写真提供/FAVUS)

ママになって、テレワークのメリットを再確認

そしてマンションの契約後、引越し前のタイミングで妊娠が判明、出産。「リモートワークは、育児を想定した選択ではありませんでしたが、限られた時間のなか、子どもとの時間を捻出するのは、通勤時間がないリモートワークが理にかなっています」
実は「なるべく仕事のブランクをつくりたくない」と、子どもが生後4カ月のときには仕事復帰。保育園の4月入園までの半年間は、自宅で育児をしながらのテレワークだったそう。「とはいえ、子どもが寝ている間など合間の時間を見つけて、1日4時間程度でしたけれど。本格復帰の前に育児しながらの仕事に覚悟をちゃんと持っておきたかったんです」
Web会議などまとまった時間が必要な場合は、会社から月3万円を上限にベビーシッター費の半額を助成してもらえる制度があり、そちらも活用することも。「プロの手を借りる。これは良かったです。私も育児に本当に慣れない時期で、”こうやって楽しませるんだ”とか、“こんなふうに刺激を与えて泣き止ませるのね”と、プロの技を教えもらったのは、とても心強かったです」
また、夫は育児休暇を取ったわけでないが、自宅でテレワークをしていたため、否応なく育児の当事者に。新生児時期の大変な時期の新米ママの伴走者でもいてくれた。「『僕がお世話しているから、寝ていたら?』と声をかけてくれたり、体力的にも精神的にも心強かったです。育児とテレワークは父親にも母親にもプラスばかり。小泉進次郎さんが育休を取って、テレワークをするということにも注目しています」

現在は子どもを近くの保育園に預けて、帰宅したら、朝の8時半には仕事開始。17時に子どもを迎えに行って、食事、お風呂をすませ、子どもを寝かしつけた21時から、また仕事をすることも。「子どもと一緒に寝落ちしてしまうこともあります(笑)」

1歳7カ月の娘さんと。「発熱などでお迎えの電話があっても、在宅なのですぐに迎えに行けます」(写真撮影/片山貴博)

1歳7カ月の娘さんと。「発熱などでお迎えの電話があっても、在宅なのですぐに迎えに行けます」(写真撮影/片山貴博)

組織の一員だからこそ実現できることもある

とはいえ、もっと仕事の自由度を上げるなら、「フリーランス」や「自分で独立してビジネス立ち上げ」という選択もあるのでは?
「もちろん、先のことは分かりませんが、今は会社の中で、自分がやりたいことを実現できていると思うので完全フリーランスは考えていません。同じミッションを共有している仲間がいることは心強いし、きっと会社が好きなんですよね(笑)。また、1人でできることには限られているし、組織だからこそ実現できることも多いでしょう。組織なら、経験がないことでも挑戦させてもらえる余地があります」
とはいえ、テレワークはフリーランス同様、過程ではなく成果で評価されるため、シビアさもある。誰でもテレワーカーになれるのだろうか?
「私も普通の会社員でしたよ。ただ成果を重視する働き方にコミットできる人、ある程度オンラインでのツールを使いこなせることは必要かと思います」 

ワーケーションも実践。プライベートもぐっと自由に

Web上のコミュニケーションに慣れるにつれ、プライベートにも変化が。
「今いる場所にこだわらなくなり、沖縄やアメリカにいる友人とZoom(Web会議室)でおしゃべりしたり、新しい仕事の相談に乗ってもらったり。会社の同僚ともオンラインランチ、オンライン飲み会と称して、つながっています」

社内に「オンライン飲み会部」という部活があり、ZoomというWeb会議ツールを使って不定期で飲み会を実施している これは2020年1月に実施した際に撮影したスクリーンショット(写真提供/本人)

社内に「オンライン飲み会部」という部活があり、ZoomというWeb会議ツールを使って不定期で飲み会を実施している これは2020年1月に実施した際に撮影したスクリーンショット(写真提供/本人)

旅行しながら仕事をする「ワーケーション」も実践済みだ。訪れた場所は、奄美大島、北海道、五島列島など。特に五島列島では自治体主催のプログラムに参加。土・日は家族で観光、月・火は子どもを地域の保育園に預けて、ホテルのコワーキングスペースで仕事をした。「これなら旅行のハードルがぐっと下がるでしょう。とても楽しかったです」

五島列島での風景。オフシーズンにリモートワーカーを招く取り組みで、参加費にタクシーチケットが含まれるので、運転免許を持っていない方でもOK (写真提供/一般社団法人 みつめる旅)

五島列島での風景。オフシーズンにリモートワーカーを招く取り組みで、参加費にタクシーチケットが含まれるので、運転免許を持っていない方でもOK (写真提供/一般社団法人 みつめる旅)

茨城県水戸市を中心に1カ月ほどワーケーションをしたことも。「日立駅にある海の見えるカフェで仕事をしていました」

茨城県水戸市を中心に1カ月ほどワーケーションをしたことも。「日立駅にある海の見えるカフェで仕事をしていました」

世の中には、あくまでも人対人の対面のやり取りにこだわりたい人がいるのも事実だ。しかし、技術の進化、副業の奨励などに伴い、暮らす街、働き方は今後もっと自由になるだろう。夫婦ともテレワーカー、フリーランスと会社員の二足のわらじ、という勝見さんは、まさにその実現者。「仕事する場所を選ばないなら、どこに住んだっていい。もっと田舎でも、海外でも。二拠点もありです」と、将来の選択肢は広がる一方。これからが楽しみだ。

テレワークが変えた暮らし[6]湘南で見つけた新しい生き方。「サーフィンを楽しむ70歳になりたい」

テレワーク(リモートワーク)を利用すると、出勤準備や通勤にあてていた時間が自由に使えるようになります。その時間で、サーフィンや畑などのやってみたかったことを始め、ついには新しい生き方を選んだ人がいます。住まいと街、働き方、生き方が溶けあった事例を紹介しましょう。
いつかは住みたかった湘南。理想の物件にひとめぼれ

東京生まれ、東京育ちのL・Iさん(40代女性)が一人暮らしを満喫しているのは、湘南・藤沢にある「鵠ノ杜舎(くげのもりしゃ)」。団地リノベや街のブランディングで知られるブルースタジオが手掛けたテラスハウスで、周囲に畑や丘もあります。

ブルースタジオが手掛けた「鵠ノ杜舎」。玄関まわりに自転車やサーフボードがあるのがいかにも湘南らしい(写真撮影/片山貴博)

ブルースタジオが手掛けた「鵠ノ杜舎」。玄関まわりに自転車やサーフボードがあるのがいかにも湘南らしい(写真撮影/片山貴博)

(写真撮影/片山貴博)

(写真撮影/片山貴博)

L・Iさんが以前から漠然と「住めたらいいな」と思っていたこの地に引越したきっかけは、会社がテレワークを導入したこと。

「外資系企業に勤めていたのですが、週5日のテレワークが導入されたんです。それまで通勤しやすさを考えて都内や川崎市で暮らしていたんですが、これなら湘南に住めるかもしれないな、とぼんやりと考えていたときにこの物件を見学、“素敵すぎて手放したくない”と思いました」とほれ込んだそうです。

するとそこからLさんの人生は少しずつ変わっていきます。
「もともとスノーボードをやっていて、似ているかなと思ってサーフィンを始め、今では夏は朝、冬は昼に1~2時間ほど海に入っています。それから畑仕事も始め、今はハーブ類のローズマリー、セージ、タイムなどと、野菜を育てています」

海岸までは愛車で向かう。平日に波に乗り、人の多い休日に仕事をすることも(写真提供/L・Iさん)

海岸までは愛車で向かう。平日に波に乗り、人の多い休日に仕事をすることも(写真提供/L・Iさん)

Lさんが畑で育てているハーブたち(写真撮影/片山貴博)

Lさんが畑で育てているハーブたち(写真撮影/片山貴博)

手前はハーブ。奥の防寒対策をした苗シートの中で、キャベツなどの野菜の栽培にチャレンジ(写真撮影/片山貴博)

手前はハーブ。奥の防寒対策をした苗シートの中で、キャベツなどの野菜の栽培にチャレンジ(写真撮影/片山貴博)

ほかにはランニング、合間には友人や家族と外食をしたりと、充実した日々を送っています。
「藤沢や湘南の人って、とてもおしゃれでフレンドリー。海辺の街が心をオープンにするのかな。いい意味でゆるさがあって入りやすい。独特のカルチャーもあってとても居心地がいいんです」と新しくできた人間関係も楽しむように。

ワークスペースも整えて、ストレスフリーな環境に

もともと「手放したくない!」とほれ込んだ住まいというだけあって、家に合うインテリアを買いそろえ、好きな絵画を飾り、「ストレスを極限まで減らした」住まいに。仕事用にハーマンミラーの椅子、腱鞘炎になりにくいマウス、固定電話をそろえるとともに、家電はできる限りIot化、デスクまわりは整理整頓して、集中できる環境を整えているといいます。

ワークスペースのまわりが散らかっていると、気が散ってしまって仕事にならないといい、常にきれいにしているのだそう(写真撮影/片山貴博)

ワークスペースのまわりが散らかっていると、気が散ってしまって仕事にならないといい、常にきれいにしているのだそう(写真撮影/片山貴博)

「家の規制はあまりないんです。管理会社に相談をすれば釘を打ってもいいし、共用部分にあるBBQスペースを自由に利用したり、敷地内では住人みんなでウズラも飼っているんですよ。少し前には烏骨鶏(うこっけい)がいました」と楽しそう。

「家が素敵というのもありますが、自分でもたまに夢のような暮らしだなって思うときがあります。ストレスは本当に感じないですね」(Lさん)

ワークスペースの反対にはベッド。壁にはデイヴィッド・ホックニー(画面左上)などのアートをギャラリーのように飾っている(写真撮影/片山貴博)

ワークスペースの反対にはベッド。壁にはデイヴィッド・ホックニー(画面左上)などのアートをギャラリーのように飾っている(写真撮影/片山貴博)

ベッドサイドの窓からは丘が見え、気持ちよく目覚められるのだそう(写真撮影/片山貴博)

ベッドサイドの窓からは丘が見え、気持ちよく目覚められるのだそう(写真撮影/片山貴博)

人生設計を見直す。今の夢は70歳になってもサーフィンしていること

引越してきた当初は、週2日は出社、週3日はテレワークという暮らしをしていました。そこで、実感したのが通勤や出社にかかる時間と負担感です。

「通勤ってその前の準備も含めると2時間半くらい必要なんですよね。藤沢から東京都心だと3時間くらいかかるかもしれない。それに出社するための衣服や化粧品、ランチ、帰宅するまでの間のちょっとした買い物にもお金も使う。経済的にも時間的にもすごくロスが多いし、やっぱり通勤電車はすごく疲れる」と話します。

一方、テレワークだと通勤や出社で疲れることはありません。
「通勤のストレスがないので、仕事のクオリティが上がると実感しました。また、通勤や出社にかけていた時間やお金を、趣味や自分の使いたいもののために使える。仕事前後にスポーツができるから健康にもいいし」。自由時間=可処分時間が増えることで、健康や趣味といった仕事以外の「生きた時間」の使い方ができると実感したそう。

1階のキッチンとダイニング。海外の旅先で買った照明と日本の調理器具などが絶妙に調和(写真撮影/片山貴博)

1階のキッチンとダイニング。海外の旅先で買った照明と日本の調理器具などが絶妙に調和(写真撮影/片山貴博)

照明は海外で購入したもの。この家に引越してきた家具とも自然と調和(写真撮影/片山貴博)

照明は海外で購入したもの。この家に引越してきた家具とも自然と調和(写真撮影/片山貴博)

「それと、湘南の暮らしが良すぎて、だんだん東京にギャップを感じ始めたんです。電車に乗っていると余裕がなくなっていくような気がして、いやになってしまったんですね。勤務先は規模の大きい企業だったこともあり、できるだけ長く会社にいるつもりだったのですが、50代が近づいて退社するより、今退職して夢を描くほうがいいと、思い切ってチャレンジしました」

なんと退職を決意、現在はフリーの翻訳者として在宅で仕事をし、必要なときに都内へ出向くという生活にシフト。さらに、退職後に手づくりでオーガニックの石けんづくりをはじめ、新しい楽しみ(と収入源)を増やしています。

「不安もありましたが、先ほども話したように、フリーランスになって給料や収入が減ったとしても、出ていくお金も減るし、時間も有効に使えます。あと、つくった石けんは海辺のマルシェなどで販売して売り上げています」

ヤギのミルクを使ってつくった石けん。ハーブの一部には畑で栽培したものを使っている(写真撮影/片山貴博)

ヤギのミルクを使ってつくった石けん。ハーブの一部には畑で栽培したものを使っている(写真撮影/片山貴博)

これからの夢について、「70歳になってもサーフィンをしていたら、かっこよくないですか?」と笑いながら話します。テレワークをきっかけに、住まいも仕事も、生き方も大きく変えたLさん。すべてが自然体で心地よい、新しい生き方を見つけたようです。

●取材協力
鵠ノ杜舎

湘南生まれ、サーフィン育ち! 人気タウン藤沢市辻堂を地元サーファーに案内してもらった

サーフィンをはじめとするマリンスポーツが盛んな湘南。なかでも、神奈川県藤沢市は人気があり、サーファーの移住者も少なくないらしい。今年の4月には、人口が43万人を突破したそうだ。そんな藤沢ではいったいどんな暮らしがかなうのだろうか? 今回は、藤沢のなかでも駅前の再開発で注目を集める「辻堂周辺」を、実際にそこに暮らす地元の方に案内してもらった。
サーファーに大人気のビーチタウン中野拓さん。後ろに見えるのは「江の島」(写真撮影/小野洋平)

中野拓さん。後ろに見えるのは「江の島」(写真撮影/小野洋平)

今回、街のガイド役をお願いしたのは、藤沢で生まれ育ち、現在はフリーのWebデザイナーをしている中野・拓(なかの・たく)さん。「太陽がファンデーション」と豪語するだけあって、お肌がこんがり焼けている。

中野さん(以下省略)「辻堂の魅力といえば、やはりサーフィンだよ。まずは海に行ってみようか」

というわけで、さっそく中野さんのマイカーに乗り込み、辻堂の街案内がはじまった。言わずもがな、車のBGMはサザンオールスターズである。

「藤沢住民は車を持っている人が多いと思う。移動手段としても楽だし、基本的にアウトドアやスポーツ好きが多いから、車があると道具を運ぶのに便利なんだよね」

国道134号線へ続く昭和通り。道沿いにはサーフショップやカフェなどが立ち並ぶことから「サーファー通り」と呼ばれている(写真撮影/小野洋平)

国道134号線へ続く昭和通り。道沿いにはサーフショップやカフェなどが立ち並ぶことから「サーファー通り」と呼ばれている(写真撮影/小野洋平)

辻堂駅から辻堂海岸までつながるサーファー通りを走ること10分。辻堂海浜公園に到着した。

「サーフィンする人は辻堂海浜公園に車を止める場合が多いかな。というのも、駐車場は800台まで収容可能だし、屋外には無料のシャワーもついているので多くのサーファーが重宝しているんだよ」(日中は有料の温水シャワーも使用可能)

1年を通してサーフィンが盛んな辻堂海岸(写真撮影/小野洋平)

1年を通してサーフィンが盛んな辻堂海岸(写真撮影/小野洋平)

中野さんの言うとおり、平日の午前中にもかかわらず、駐車場にはたくさんの車が止まっており、海では多くのサーファーが波に乗っていた。

「サーフィンはオールシーズン、老若男女が楽しめるところがいいよね。ちなみに湘南には初心者も多いので、気軽に体験するのにいいと思うよ」

そんな中野さん自身はというと、サーファー歴20年のベテラン。現在住んでいる実家は藤沢市内にあるが、より海に近い場所へ引越そうと、1人暮らしも検討しているそうだ。……サーフィンへの情熱がとてつもない。

南国気分が味わえるヤシの木が植えられている(写真撮影/小野洋平)

南国気分が味わえるヤシの木が植えられている(写真撮影/小野洋平)

なお、辻堂海浜公園にはジャンボプールや交通展示館、芝生広場などがあり、多くの子連れファミリーが訪れており、年間を通じてイベントが多数開催されているそうだ。また、辻堂海浜公園以外にも、市街地には多くの公園が点在しているとのこと。

再開発で生まれ変わった辻堂駅北口

続いて案内してくれたのは、JR東海道線と湘南新宿ラインが乗り入れる辻堂駅。海に程近いだけではなく、東京駅や新宿駅にも1時間ほどでダイレクトアクセスでき、東京都心への交通利便性も悪くない。

駅前広場はキレイに整備され、広々としている(写真撮影/小野洋平)

駅前広場はキレイに整備され、広々としている(写真撮影/小野洋平)

2010年には地上6階、地下2階建ての商業施設『Luz』、2011年には湘南最大級のショッピング施設『テラスモール湘南』がオープンするなど、近年辻堂駅では大規模な再開発が行われ、駅周辺は便利かつ近代的な街並みに生まれ変わった。それに伴い、街の人気が上がっているという。

工場跡地を利用した「テラスモール湘南」には約280店舗が入る(写真撮影/小野洋平)

工場跡地を利用した「テラスモール湘南」には約280店舗が入る(写真撮影/小野洋平)

「北口は『シークロス』と呼ばれる再開発計画によって、大きく変わったよ。ショップだけでなく、飲食店やシネコンなどが入っているので、地元民以外にもたくさんの人が辻堂を訪れるようになったと思う」と中野さん。

さらに、駅周辺には湘南藤沢徳洲会病院をはじめ、辻堂市民図書館、子育て支援センター、神台公園など充実した環境。

テラスモールの裏側に立つ湘南藤沢徳洲会病院(写真撮影/小野洋平)

テラスモールの裏側に立つ湘南藤沢徳洲会病院(写真撮影/小野洋平)

「主観だけど、藤沢市で育った人は地元に住み続ける人が多い気がするんだよね。おそらく、市内の施設が充実してきただけじゃなく、行政のサポートもしっかりしてるからだと思うよ」

実際、藤沢市では小学校6年生までの子どもについては、通院・入院の医療費が所得に関係なく無料という制度がある。また、65歳以上の方対象の寝具乾燥消毒サービスや障がい者施設等通所交通費助成などの福祉の補助もある。

再開発により快適な生活環境が整備されつつある辻堂。海に近いだけでなく、住環境としても整っているようだ。

辻堂には珍しい、夜遅くまで楽しめる「湘南T-SITE」

次に中野さんが案内してくれたのは、辻堂駅から少し車を走らせたところにある『Fujisawaサスティナブル・スマートタウン(Fujisawa SST)』。

Fujisawa SSTは、住宅はもちろんのこと、クリニックや保育所、公園などの施設が充実した新しい街だ。また、電気自動車のシェアリングサービスといった先進的な取り組みを進めているそう。

「『Fujisawa SST』はすごい人気だね。街並みはオシャレだし、住宅街としても機能的だから俺も住んでみたいよ」

2014年にオープンした「湘南T-SITE」(写真撮影/小野洋平)

2014年にオープンした「湘南T-SITE」(写真撮影/小野洋平)

中野さんが特にオススメしてくれたのは、国内2店舗目のT-SITEとなる『湘南T-SITE』。13万冊の書籍をそろえる『湘南 蔦屋書店』があるほか、年間1000回ものイベントを開催しているそうだ。

「『湘南T-SITE』は一番のお気に入りだね。辻堂の店って全体的に閉まるのが早いんだけど、ここは遅くまでやっているから、ついつい目的がなく来てもブラブラしちゃうんだよ」

理由はサーフィンが好きだから! 東京から移住した方にインタビュー

近年では、住宅地の増加や駅周辺のマンション建設によって多くのファミリーが新たに住み始めているという辻堂。それだけでなく、単身の移住者も珍しくないという。

というわけで、昨年、都内から移住したというMさんを紹介してもらい、お話を聞いてみた。

中野さんの友人Mさん(写真撮影/小野洋平)

中野さんの友人Mさん(写真撮影/小野洋平)

――どうして移住されたんですか?

「3年前にサーフィンにハマったからです。それと同時に会社を辞め、フリーランスになりました。通勤する必要がなくなったため、今では波の良い日は朝から海に行けますよ」

サーフボードは7枚所有(写真撮影/小野洋平)

サーフボードは7枚所有(写真撮影/小野洋平)

――どうして辻堂だったんですか?

「海にも都内にも気軽にアクセスできる点で選びました。また、湘南は僕みたいにサーフィン好きが多く移住しているので、サーファーに合った物件や施設が多かったんです。まあ人気エリアな分、思ったより家賃が高かった印象ですけどね(笑)」

ボードを乗せられるビーチクルーザーも所有。それを借りて楽しむ中野さん(写真撮影/小野洋平)

ボードを乗せられるビーチクルーザーも所有。それを借りて楽しむ中野さん(写真撮影/小野洋平)

――移住して良かったと思うところはどこですか?

「やっぱり、家からウエットスーツを着て、海までビーチクルーザーで行けるのは非常に便利です。帰りもぬれたまま帰ってきて、風呂場に直行できますから」

辻堂は、便利さと湘南ならではのスローライフの両方を享受できる場所、とMさん。Mさんのような生活を求めて移住する人は少なくないようだ。

辻堂の家賃相場は?

最後に気になる家賃相場をチェックしてみよう。辻堂駅の一人暮らし向け賃貸物件の家賃相場は6.1万円。辻堂駅の使える路線はJR東海道本線と湘南新宿ラインの2路線だが、快速が止まる隣の藤沢駅に出れば、江ノ島電鉄と小田急江ノ島線が利用できる。

というわけで、街のポイントをまとめると……

・豊かな自然環境があり、公園も数多く点在
・再開発を遂げた駅前の充実ぶり
・街にはファミリー層や単身の移住者が年々増えている印象

なんとなくオシャレなイメージが先行していた湘南エリア。しかしそれだけでなく、便利な生活環境や、計画的な街づくりなど、豊かな毎日が送れそうな魅力あふれるエリアでもあった。自然を身近に感じながら、都市のにぎわいも楽しむ。最先端の湘南が味わえる街こそ、ここ辻堂なのかもしない。

●調査概要
【調査対象駅】辻堂駅
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、面積10平米~40平米、築年数35年以下、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2018年4⽉1⽇~2018年6⽉30⽇
【家賃の算出⽅法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む⽉額賃料から中央値を算出

逗子にたたずむ「和モダン」な住まい 季節を楽しむ演出とは?

住宅取材を長年続けてきた筆者が、心底憧れる住まい。それはご近所にある、お庭も素晴らしい入母屋造りの家。愛犬と暮らすSさんの、日常を大切にするライフスタイルにも惹かれています。建物ハードと住まい方ソフトの両面で、和と洋が融合した情緒ある和モダンのお住まいを紹介します。
緑青の銅屋根が美しい、和紙とガラス工芸が彩る住まい

神奈川県逗子市の里山に囲まれた谷戸で、ひときわ目を引く白壁の門構え。
緑青屋根のグリーンと木の濃い茶色が、白壁とのコントラストで美しく映える外観です。

茶色はガレージの折戸、今は閉じて中をギャラリーにリモデル。植栽のドウダンツツジは秋に紅葉して右写真のように鮮やかになる(写真撮影/(左)片山貴博・(右)Sさん)

茶色はガレージの折戸、今は閉じて中をギャラリーにリモデル。植栽のドウダンツツジは秋に紅葉して右写真のように鮮やかになる(写真撮影/(左)片山貴博・(右)Sさん)

玄関門扉の素晴らしさが、この家への関心を高めます。
よく見る豪邸の威圧的な門でなく、板引戸の渋さが“わびさび”感すら醸し出し、里山の自然に囲まれた街並みに調和しています。

庭の桜を背景にたたずむ門扉。正面の飾りや手前の鉢植えは季節毎に替わり、道ゆく人を楽しませてくれる(写真撮影/片山貴博)

庭の桜を背景にたたずむ門扉。正面の飾りや手前の鉢植えは季節毎に替わり、道ゆく人を楽しませてくれる(写真撮影/片山貴博)

玄関灯は、Sさんが大好きなガラス工芸の蝉(写真撮影/片山貴博)

玄関灯は、Sさんが大好きなガラス工芸の蝉(写真撮影/片山貴博)

取材時は陶器の時計が飾られていたが、お正月飾り(右)やクリスマスリースだけでなく天使の羽などバリエーション豊富(写真撮影/(左)片山貴博・(右)Sさん)

取材時は陶器の時計が飾られていたが、お正月飾り(右)やクリスマスリースだけでなく天使の羽などバリエーション豊富(写真撮影/(左)片山貴博・(右)Sさん)

門をくぐり、庭石のアプローチを進むと玄関。
こちらも合理的でシンプルで美しい、和のたたずまいには必須、引戸の玄関。

庭の花を愛でながら、自然石のアプローチを進む。木の造作が施されたガラス引戸(写真撮影/片山貴博)

庭の花を愛でながら、自然石のアプローチを進む。木の造作が施されたガラス引戸(写真撮影/片山貴博)

「どうぞ、お上がりください」と、Sさん。廊下の両側は、はめ込みガラスで庭を眺めながら入っていくと
「この扉、素敵でしょ。奈良の古い知人宅を取り壊すときに、もったいないからいただいたのよ」

見事な鶴が描かれた板戸、かなりな年代物のよう。高さや取手をリメイクして、この家で生きのびた幸せな鶴(写真撮影/片山貴博)

見事な鶴が描かれた板戸、かなりな年代物のよう。高さや取手をリメイクして、この家で生きのびた幸せな鶴(写真撮影/片山貴博)

「この貝殻、逗子海岸に犬と散歩に行く度に拾っていたら、こんなたくさんになっちゃった(笑)」
ゴミ拾いのボランティアをしていた所、砂浜で貝が“拾って!”ってSさんに向かって光っているのだそう……。

自分がきれいだと思うものを、好きなガラスの器に飾る。好きなものに囲まれて生活する心地よさを教えてくれた(写真撮影/片山貴博)

自分がきれいだと思うものを、好きなガラスの器に飾る。好きなものに囲まれて生活する心地よさを教えてくれた(写真撮影/片山貴博)

今回、顔出しNGのSさんですが、知人が描いたパステル画肖像でご紹介。何と、50歳から始めたフラメンコを踊る姿。
「フラメンコを見たとき、それまでの私は“自分”を生きていなかったことに気づいたの」と、フラメンコダンサーがりりしい眼差しで見栄を切る姿に魅了され習い始めたそうです。

この肖像は筆者(50歳代)と同じ歳のころのSさん。「フラメンコのおかげで足腰が鍛えられました」実は、20歳上の大先輩!(写真撮影/片山貴博)

この肖像は筆者(50歳代)と同じ歳のころのSさん。「フラメンコのおかげで足腰が鍛えられました」実は、20歳上の大先輩!(写真撮影/片山貴博)

廊下から居間へ入ると、庭に面した広縁のある畳10畳の和室が広がっています。
古材を利用した表しの梁は、年季の入った焦茶色。同色の造り付け家具と共に、落ち着いた古民家のような大空間です。

漆喰の壁に、和紙の創作照明が柔らかな光を映す(写真撮影/片山貴博)

漆喰の壁に、和紙の創作照明が柔らかな光を映す(写真撮影/片山貴博)

畳敷にテーブル&チェア、こんな風に和洋折衷のライフスタイルでくつろぐアイデアが満載のお住まいです。

居間の引戸の引手は、「安土桃山時代の形に七宝焼きでつくっていただいたの」(写真撮影/片山貴博)

居間の引戸の引手は、「安土桃山時代の形に七宝焼きでつくっていただいたの」(写真撮影/片山貴博)

こんな細部に伝統工芸のアイデア、宝探しのように見つけるとうれしくなります。

日本的な曖昧さが豊かさをもたらす、広縁のある暮らし

Sさんのお住まいは、約25年前に建てた木造2階建て。

「建てるときに注文したのは、屋根。迎賓館などで見る緑青の銅板屋根にしたかったの。私、色もねグリーンが好きなのよ」

屋根にこだわるなんて、素人考えではなかなか出てこない。Sさんの感性には、いつも驚かされている筆者。
旅先や雑誌などで見たもの感動したことを、自分でやって見るのだそう。

2層になった入母屋屋根の下、すだれは日除けと共に外観デザインのアクセントにもなっている(写真撮影/片山貴博)

2層になった入母屋屋根の下、すだれは日除けと共に外観デザインのアクセントにもなっている(写真撮影/片山貴博)

すだれは外部からの視界を遮る役目も。ちょうど、お向かい2階からの視線を遮ることができます。高い塀を立てずに、緩やかにプライバシーを守る技に脱帽。

外側はガラスサッシ戸、和室側は障子によって囲われた板張りの広縁(ひろえん)。室内との緩衝エリアとなっている広縁は、季節ごとに寒さを遮ったり、涼を運んだり。

Sさんは、その広縁にお気に入りのものを飾っていました。

この日は、珍しいガラス細工が施されたアンティークの噴水(ムラーノ島ヴェネチアングラス)。百合が活けられている花瓶も、やっぱり好きな緑色(写真撮影/片山貴博)

この日は、珍しいガラス細工が施されたアンティークの噴水(ムラーノ島ヴェネチアングラス)。百合が活けられている花瓶も、やっぱり好きな緑色(写真撮影/片山貴博)

こちら側の広縁は、愛犬Doriちゃんの特等席です!

Doriちゃんは、Sさんが保護団体から譲り受けた2代目の愛犬。Sさん宅にもらわれた犬は皆、元気に生まれ変わる(写真撮影/片山貴博)

Doriちゃんは、Sさんが保護団体から譲り受けた2代目の愛犬。Sさん宅にもらわれた犬は皆、元気に生まれ変わる(写真撮影/片山貴博)

庭と居間の間にある広縁は、その面積以上に生活を豊かにしてくれるもののようです。

6月はインテリアも衣替え、季節を感じる住まい方

玄関と広縁からも出られるお庭は、あまりつくり込まずに自然な趣にされています。

奥のほうには近所の子どもが遊べるよう、ブランコと鉄棒も(写真撮影/片山貴博)

奥のほうには近所の子どもが遊べるよう、ブランコと鉄棒も(写真撮影/片山貴博)

取材時、桜やお花の時期とズレてしまったのでSさんの写真をお借りしました。

かれんな“立てば”芍薬、“座れば”牡丹。Sさんのよう! (写真撮影/Sさん)

かれんな“立てば”芍薬、“座れば”牡丹。Sさんのよう! (写真撮影/Sさん)

お庭の花を花器に飾って、二度楽しむ。枝垂れ桜が和の住まいと調和する(写真撮影/Sさん)

お庭の花を花器に飾って、二度楽しむ。枝垂れ桜が和の住まいと調和する(写真撮影/Sさん)

キッチンからは裏庭が望めるよう、大きなフィックス窓。キッチンキャビネットは、やはりグリーン!(写真撮影/片山貴博)

キッチンからは裏庭が望めるよう、大きなフィックス窓。キッチンキャビネットは、やはりグリーン!(写真撮影/片山貴博)

お庭の四季を楽しむと共に、日本住宅の季節感ある伝統的な機能も見せて下さいました。
秋から冬、6月までは内側に障子戸を入れて寒さを防ぎながら、和紙の柔らかい空間で過ごす居間。

「障子の桟(さん)を少なくしたデザインをお願いしたの」、桟の入れ方次第で障子の表情も大きく変わるものだ(写真撮影/片山貴博)

「障子の桟(さん)を少なくしたデザインをお願いしたの」、桟の入れ方次第で障子の表情も大きく変わるものだ(写真撮影/片山貴博)

そして6月になったら、夏障子とも呼ばれる簾戸(すど)に替えるのです(わざわざ替えていただきました!)

Sさん邸の簾戸には萩が使われている。夏は風通し良く、日差しを遮る日本の伝統建具(写真撮影/片山貴博)

Sさん邸の簾戸には萩が使われている。夏は風通し良く、日差しを遮る日本の伝統建具(写真撮影/片山貴博)

そしてもう一つ、すてきなアイデアを拝見。和紙でつくられた四枚仕立ての屏風ですが、両面異なるデザインになっており、季節によって使い分けることができるようになっています。

クローバーが描かれた、淡いブラウン系の片面(写真撮影/片山貴博)

クローバーが描かれた、淡いブラウン系の片面(写真撮影/片山貴博)

もう一面は、アイビーが描かれた水色の屏風。「季節やイベントに合わせて使い分けるの」とSさん(写真撮影/片山貴博)

もう一面は、アイビーが描かれた水色の屏風。「季節やイベントに合わせて使い分けるの」とSさん(写真撮影/片山貴博)

ほかにも、キッチンのドアを暖簾(のれん)に替えるなど、インテリア小物でも季節を楽しむ住まい方を教えてくれました。

“天使が舞い降りる” 好きなものに囲まれると、家がパワースポットに

2階のプライベートゾーンにもご案内いただきました。
「天使がたくさん、居るわよ」と、早速、階段に天女のような絵がお出迎え。

ご友人の画家が描かれた絵、天女はSさんのイメージと重なる(写真撮影/片山貴博)

ご友人の画家が描かれた絵、天女はSさんのイメージと重なる(写真撮影/片山貴博)

「なんだか、天使が集まってくるのよね(笑)」と寝室にも、羽の生えた天使たちの絵が……

折り上げ天井で、空間に豊かさが増す寝室(写真撮影/片山貴博)

折り上げ天井で、空間に豊かさが増す寝室(写真撮影/片山貴博)

その天井には、ヴェネチアンガラスのシャンデリア。やはり!緑色があしらわれたもの(写真撮影/片山貴博)

その天井には、ヴェネチアンガラスのシャンデリア。やはり!緑色があしらわれたもの(写真撮影/片山貴博)

Sさんお気に入りのスペース・デザインは、この暖炉の一角。
「昔、スペインのホテル リッツのロビーで見たとき“これはすてき!”と思ったの」、そのアイデアを取り入れたそう。

部屋の角、三角に暖炉を取り、その上に直角にミラーを天井まで貼ることで、万華鏡のように部屋が映りこみ、ズーと奥まで部屋が広がって見える(写真撮影/片山貴博)

部屋の角、三角に暖炉を取り、その上に直角にミラーを天井まで貼ることで、万華鏡のように部屋が映りこみ、ズーと奥まで部屋が広がって見える(写真撮影/片山貴博)

2階の寝室は、1階の古民家風とは打って変わって洋館の雰囲気になっています。
部屋のドアとバスルームへのドアも、木製の開き戸。

左がバスルームへのドア、右が部屋のドア。対の小窓にも、天使!(写真撮影/片山貴博)

左がバスルームへのドア、右が部屋のドア。対の小窓にも、天使!(写真撮影/片山貴博)

天使とガラスが大好きなSさんがオーダーした、趣のある色彩がすてきなエッチングガラス(写真撮影/片山貴博)

天使とガラスが大好きなSさんがオーダーした、趣のある色彩がすてきなエッチングガラス(写真撮影/片山貴博)

バスルームには、洗面との壁にはめ込まれた大きなエッチングガラス(彫刻ガラス)の作品が!

エッチングガラスのデザインも空飛ぶ天使。洗面室の壁には寝室のシャンデリアと同じヴェネチアンガラスの、ブラケット照明(写真撮影/片山貴博)

エッチングガラスのデザインも空飛ぶ天使。洗面室の壁には寝室のシャンデリアと同じヴェネチアンガラスの、ブラケット照明(写真撮影/片山貴博)

天使が舞う魅惑の寝室空間でお話を聞いていると、何だか時空が歪むような感覚になってしまいました。
「天使にほほ笑まれて、ついつい欲しくなってしまってね(笑)」、好きなものに囲まれたSさんにとってはパワースポットのような家。

ふと、窓から外を見下ろすと……

2階寝室の眼下には、入母屋造りの緑青屋根が重なり、マンサクのピンクの花が広がっていた(写真撮影/片山貴博)

2階寝室の眼下には、入母屋造りの緑青屋根が重なり、マンサクのピンクの花が広がっていた(写真撮影/片山貴博)

この居間で、よく、お友達やご近所さんを招いてホームパーティーをしてくださるSさん邸。
「ボケ防止に、ここでマージャンをしたりね!」と、住生活の楽しみはますます広がっている様子。

テーブルは囲炉裏(いろり)も備え付けられ、冬に使う鉄瓶をつるしてみてくださった(写真撮影/片山貴博)

テーブルは囲炉裏(いろり)も備え付けられ、冬に使う鉄瓶をつるしてみてくださった(写真撮影/片山貴博)

今回じっくりお話を伺って、今まで気づかなかった家の細部に改めて魅了されました。
Sさんの趣味や旅、人との出会いで築いてこられた感性が、この家に集約されていて、住まいは人の鏡なのだと実感する取材でした。