「いつか来る災害」そのとき役立つ備え4選。備蓄品サブスクやグッズ管理アプリ、大切なもの保管サービスなど「日常を取り戻す」ために一歩進んだ防災を

大規模災害を想定した、最低限の水や非常食の備蓄。しかし大地震により物流が途絶え、支援物資も届きづらい状況を思えば、防災リュックの中身だけでは心もとない。また、避難所や仮設住宅での生活が長引いた際には、嗜好品や思い出の品など「心を癒やすアイテム」も必要になる。

できれば最低限ではなく、最悪を想定した十分な備えをしておきたいところだが、自助で賄える備蓄や防災には限界がある。そこで、個人やマンション単位で導入できる最新の防災サービスの検討を含め、一歩進んだ対策について考えてみたい。

防災備蓄をスマホでまとめて管理「SAIBOU PARK」

その前に、多くの人は本当に「最低限」の備えができているのだろうか。防災リュックは、クローゼットの奥で埃をかぶっていないか。そもそも、中身を把握できていなかったり、非常食の消費期限が切れてしまっているケースもあるかもしれない。

そんな、怠りがちな防災備蓄の管理を、スマホで簡単に行えるのが「SAIBOU PARK」。自宅にあるアイテムの写真を撮り、数量や保管場所、消費期限を登録することで、防災備蓄をまとめて管理することができる。

物置に眠る防災用品を集めて撮影する

物置に眠る防災用品を集めて撮影する

アイテム名や個数、保管場所を登録していく

アイテム名や個数、保管場所を登録していく

非常食などは賞味期限や消費期限を設定。通知をONにしておくと、期限が切れる1カ月前と2週間前に、アプリから通知が届く

非常食などは賞味期限や消費期限を設定。通知をONにしておくと、期限が切れる1カ月前と2週間前に、アプリから通知が届く

サービスを運営しているのは、防災用品のセレクトショップも手がける株式会社サイボウ。「SAIBOU PARK」アプリを開発した背景には、防災備蓄にまつわるこんな課題感があったという。

「自宅の防災アイテムや備蓄品を『あったっけ?』『どこだっけ?』と探した経験がある人は多いと思います。防災備蓄を把握しづらい理由は主に3つあり、1つ目は『種類が多く、一つひとつが小さい』こと。2つ目は『購入後に収納すると、当面は気にかけない』こと。3つ目は『目の届かないところに収納したものは、時間の経過とともに忘れてしまう』こと。
防災用品はこうして存在自体を忘れられ、ひっそりと劣化が進んだり、期限が切れてしまいます。せっかく備えたアイテムも、これではいざというときに真価を発揮できません。その解決策として、防災備蓄の全体像をいつでも把握・管理できるように企画したのが、このアプリでした」

こう語るのは、自身も防災士の資格を持つ「SAIBOU PARK」の佐多大翼さん。

SAIBOU PARK

SAIBOU PARKでは防災アイテムの劣化や非常食の消費期限切れを防ぐため、アイテムごとに「期限」を設定し、期限が切れる1カ月前と2週間前にプッシュ通知でリマインドする機能を持たせた。

「非常食だけでなく、電池やガスボンベにも使用期限があります。SAIBOU PARKを使ってみて、そのことを初めて意識したというユーザーの方もいらっしゃいました」(佐多さん)

不足アイテムは、防災用品のセレクトショップ「SAIBOU PARK」で購入できる

不足アイテムは、防災用品のセレクトショップ「SAIBOU PARK」で購入できる

最低限の自助といえる防災備蓄。自分や家族にとって最適な備えを把握するためにも、まずはこうしたアプリを使い、現在の備蓄状況を俯瞰的にチェックしてみるといいかもしれない。

<サービス概要>
・SAIBOU PARK
自宅の備えがひと目でわかる「防災備蓄まとめて管理アプリ」。非常食や懐中電灯など、手元の防災用品をアプリに登録。賞味期限や使用期限を設定しておくと、期限が切れる前にプッシュ通知でお知らせしてくれる。足りないアイテムは、防災用品のセレクトショップ「SAIBOU PARK」から購入することも可能。

被災地で「本当に必要になるアイテム」をレコメンド「pasobo」

食糧の備蓄や日用品、簡易トイレといった防災アイテムは十分に備えていたとしても、避難生活では「意外なもの」が不足することがある。

例えば、乳幼児を連れて避難する場合、被災のストレスで一時的に母乳が出にくくなったり、哺乳瓶を消毒することができずに授乳に困るケースがあるという。
また、小さな子どもの不安やストレスをやわらげる遊び道具、高齢者のいる家庭なら避難所に持ち込める椅子、ペットがいる場合はケージなども用意しておきたい。

最低限の備蓄品以外に、避難所で必要になるものは人それぞれ。家族の属性だけでなく、住んでいる環境によっても必要な準備が異なる。そんな、一人ひとりに合わせた防災対策をパーソナライズして自宅に届けてくれるのが、「pasobo(パソボ)」だ。WEB上の防災診断で「住んでいる自宅の種類は?」「何人で暮らしていますか?」といった13の質問に回答すると、その世帯環境における災害リスクや、全国のハザードマップから見た立地リスクを分析したうえで、自分に必要な防災セットを提案してくれる。

SAIBOU PARK

1分程度の「オンライン診断」を回答

1分程度の「オンライン診断」を回答

自宅周辺の災害リスクや、ハザードマップ上から分析された立地リスクなどの診断結果を確認。パーソナライズされた防災セットのなかから、必要なものを注文する

自宅周辺の災害リスクや、ハザードマップ上から分析された立地リスクなどの診断結果を確認。パーソナライズされた防災セットのなかから、必要なものを注文する

サービスを手掛けるのは株式会社KOKUA。東日本大震災の被災地で出会い、全国各地の被災地支援を続けてきたメンバーたちで設立された防災ベンチャーだ。

「行政による支援は、どうしても『誰もが共通して使えるもの』の優先度が高くなりがちで、個人の属性に応じた物品を用意したり、それを各避難所へ配備することが難しいと聞きます。実際、私たちが避難所でボランティアをしているなかでも、必要なものが不足し不便な思いをしている方がたくさんいらっしゃいました。不便なだけならまだいいのですが、それがないことで体調が悪化してしまうこともある。被災してから『これを準備しておけばよかった』という事態を防ぐためにも、pasoboの防災診断をきっかけに自分や家族にとって『本当に必要な防災対策』を考えていただければと思います」(KOKUA共同代表の疋田裕二さん)

<サービス概要>
・パーソナル防災サービス「pasobo」
WEB上で、家族構成や立地、建物の耐震基準・階数、個人の災害に対する価値観といった、いくつかの質問に回答するだけで、自分に必要な防災対策が1分で見つかるサービス。サイト上に入力された情報をもとに、個人の世帯環境における災害リスクや、全国のハザードマップから見た立地リスクを分析し、最適な防災グッズを提案。提案された防災用品は、サイト上で購入することもできる。

マンション単位で導入できる備蓄品のサブスク「防災サステナ+」

災害の規模によっては、こうした自助の備えだけでは賄いきれない場合もある。そんなときに頼れるのは、地域やコミュニティのなかで助け合う「共助」の力だ。

特にマンションの場合、近年は「在宅避難」を見越した防災力の強化が叫ばれている。実際、管理組合が主体となり、マンション全体で備蓄の管理を含めた防災対策に取り組むケースも増えてきた。

最近では、防災備蓄品の選定や管理をアウトソーシングできるサービスも登場している。2023年10月に提供がスタートした「防災サステナ+」もその1つ。マンションの倉庫の容量や住人の数に応じた適正数量の防災備蓄品を提案・納品してくれるほか、期限切れの前に備蓄品を補充してくれる。

マンション引渡し~管理組合設立時まで(イメージ)

マンション引渡し~管理組合設立時まで(イメージ)

管理組合設立以降(イメージ)

管理組合設立以降(イメージ)

「有事の際に防災備蓄品の使用期限が切れて使用できなかったら、備蓄の意味がありません。実際、管理組合で消費期限や使用期限が切れていて問題になり、慌てて購入されるような事案もあるようです。通知だけでは現地にある備蓄品の期限切れが解消されるわけではないため、自動的に補充されるまでをサービスとしました」(サービスを運営する「つなぐネットコミュニケーションズ」の担当者)

現在は新築マンションを展開するデベロッパーや、既存マンションの管理会社を中心にサービスを提案中。同時に、マンションごとに異なる防災のニーズを聞き取りながらサービス内容をブラッシュアップしている。

ただ、いかに共助が大事といっても、あくまで最低限の「自助」があってこその「共助」。そのため、どこまでを自助とし、どこからを共助として管理組合で備えておくべきかは、住民同士で十分に話し合っておく必要があるという。

「発災当初、消防などの公的支援は被害が大きいところに集中するため、安全性の高いマンションへの支援が遅れる可能性があります。そのため、自分の命を守る『自助』、マンション内で助け合う『共助』が重要になります。『自助』では各住戸での安全対策や水食料等の備蓄をしておくこと、『共助』では救助活動や共用部の安全対策等のため活動ルールや備蓄品を備えておくことが必要です」(同)

<サービス概要>
・防災サステナ+
マンションでニーズの高い防災備蓄品の選定・納品(ハード)に加え、将来にわたる更新期限の管理を、月額利用料金で継続的に利用できる防災サービス。サービスの契約期間中は無料の防災相談サービスが受けられるほか、管理組合専用グループウェアも利用できる。平常時の管理組合による防災活動の活性化に加え、災害時の共助促進も期待できる。

「いつもの暮らし」を取り戻す“大切なもの”保管サービス「防災ゆうストレージ」

被災した際、何より欠かせないのは食糧や生活必需品。その次に必要になるのは、嗜好品や趣味の品、大切にしているものなど「心を癒やすアイテム」ではないだろうか。

2022年、日本郵便と寺田倉庫は防災サービス「防災ゆうストレージ」の提供を開始した。もしものときのために「必要なもの・大切なもの」を寺田倉庫が管理する安全な倉庫に預けておくことができ、地震や災害が起こった際には日本郵便の流通網で全国の被災地まで運んでくれる。

頑丈なポリプロピレン製の専用ボックスは「小」「大」の2種類。避難先ではテーブルや椅子などとしても活躍する(写真提供/日本郵便)

頑丈なポリプロピレン製の専用ボックスは「小」「大」の2種類。避難先ではテーブルや椅子などとしても活躍する(写真提供/日本郵便)

サービスの背景には、被災者たちの辛い経験談があるという。

「被災者の方々に話をお伺いすると、何よりも辛かったのは思い出の写真やアルバム、愛着のある品々をなくしてしまったことであると。家をなくすよりも悲しかったとおっしゃる方もたくさんいらっしゃいました。ふだんは嵩張るようなもの、ちょっと邪魔だなと思っているものでも、いざなくしてしまうと大きな喪失感につながってしまう。そこで、いったん遠くの場所へ思い出を移しておくことで自宅も整理できますし、有事の際の心の拠り所にもなるのではないかと考えました」(サービスを設計した日本郵便の担当者)

それらを預けておくだけでなく、有事の際には避難所まで届けてくれるのも大きい。なかなか自宅に戻れない状況下では、思い出の写真一枚、小さなぬいぐるみ1つが心の拠り所になることもある。

「思い出の品々だけでなく、好きな本や嗜好品もそうだと思います。これらは、命をつなぐために必要なものではありません。でも、避難生活が長引いたときに『いつもの暮らし』を取り戻させてくれます。例えば、避難所や仮設住宅での食事も、お気に入りの食器を使うだけで気持ちは変わる。ちょっとしたことですが、家族の日常を取り戻す第一歩になるのではないかと思います」(同)

「高齢者や子どもと暮らしている家庭」の利用イメージ(写真提供/日本郵便)

「高齢者や子どもと暮らしている家庭」の利用イメージ(写真提供/日本郵便)

災害の規模によっては、避難生活が長期化することもある。もとの暮らしを取り戻すまで日常をつなぎとめてくれるのは、じつは身の回りにあるちょっとしたアイテムなのかもしれない。

<サービス概要>
・防災ゆうストレージ
月額保管料275円~と、個人でも利用しやすい防災向け宅配型トランクルームサービス。専用ボックスに、思い出の品だけでなく、避難先での生活が長期化した場合に必要となる日用品を入れて発送するだけで「じぶん用支援物資」として預けておくこともできる。衣類や衛生品のほか、公的な支援物資だけでは不足しがちな紙おむつやコンタクトレンズ、使い慣れた生理用品、常備薬、ペット用品など、自宅に備えている防災リュックの「拡大版」のような形で利用することもできる。

最新サービスを活用して防災力の強化を

大規模な災害が頻発しているとはいえ、常日頃、高いレベルの防災意識を保ち続けることは難しい。重要なのは、普段は特別に意識しなくても、もしもの時に困らない体制をつくっておくこと。そのためにも、手軽に導入できるこれらの防災サービスをうまく活用し、防災力の強化に努めたい。

●関連リンク
・SAIBOU PARK
【iOS】
【Android】
・パーソナル防災サービス「pasobo」
・防災サステナ+
・防災ゆうストレージ

512戸の賃貸タワーマンション「プラザタワー勝どき」で防災イベント!消防署・警察署協力ならではの幅広いメニューに子どもも興味津々!

不動産業や海運業を行う乾汽船(いぬいきせん)が所有し、東急住宅リースが賃貸管理を行う、賃貸マンション「プラザタワー勝どき」で、大掛かりな防災イベントを開催すると聞いて、見学させてもらった。大掛かりに開催できるのは、東京消防庁臨港消防署と警視庁月島警察署が全面協力をしていることで、防災メニューが豊富になっているからだ。

防災イベントは512戸の「安否確認訓練」でスタート!

「プラザタワー勝どき」は、地上43階で総戸数512戸の大規模なタワーマンションだ。

賃貸タワーマンション「プラザタワー勝どき」外観(筆者撮影)

賃貸タワーマンション「プラザタワー勝どき」外観(筆者撮影)

今回の防災イベントは、「安否確認訓練」からスタートした。安否確認訓練とは、地震などの災害に見舞われたときに、居住者の被災状況を確認すること。このマンションでは事前に「無事」(黄色)「要救助」(赤色)などと記載したカードを配り、ドアノブに配布されたカードのいずれかをかける形を取っている。その状況をフロアごとに見て回り、各戸の「無事」「救助」「未貼付」を記録して、とりまとめて全戸の状況を把握するわけだ。

さて、防災対策本部(冒頭の写真参照)の準備ができると、館内放送で「訓練です」と伝えた後に、無事であれば黄色のカードを、救助が必要であれば赤色のカードをドアノブに掛けるようにとアナウンスが流れた。次に、事前に居住者から募集した“集計報告ボランティア”の方々に、担当するフロアの用紙をはさんだボードを渡し、担当フロアに行ってもらう。ボードは10個あり、43階までのフロアを10ブロックに分けて、担当フロアを振り分けている。

筆者もその様子を見ようと、一番にスタートした組に付いていった。もちろん、災害時を想定しているので、エレベータは使えない。階段を上がっていくことになると分かっていたものの、5階までの100段でかなり息が上がる。付いていこうとしている組は何階まで行くのか聞いてみたら、「43階です」と言われ、ギブアップ。一番低い階は9階からと聞いて、その組を待つことにした。

9階から5階を担当する組は、女性2人と子ども2人の4人組。応募した理由を聞くと、「前回は見ていただけだったが、子どもが大きくなって確認作業ができると思い、今回初めて集計報告ボランティアに応募した」という。1戸ごと玄関を見て、9階の1号室は無事の欄に✓、2号室は未貼付の欄に✓といったように記入していく。9階が終わると、また階段で降りて、8階を同じように回る。付いて見た限りは、半分以上がいずれかのカードをかけているという印象だ。

左:無事ですカードがドアノブのかかっている 右:1戸ずつ確認しながらシートに記入していく(筆者撮影)

左:無事ですカードがドアノブのかかっている 右:1戸ずつ確認しながらシートに記入していく(筆者撮影)

その集計作業を見ようと、一足先に1階の防災対策本部まで戻った。しばらくすると、最初にスタートした、43階~41階の組が確認を終えて戻ってきた。対策本部がその記入結果を見て、集計したり、ホワイトボードに書き込んだりしていく。

担当フロアの確認が終わって防災対策本部に結果を報告する(筆者撮影)

担当フロアの確認が終わって防災対策本部に結果を報告する(筆者撮影)

「早かったですね」と43階組の二人に筆者が声をかけると、一番乗りを目指してダッシュでやったのだという。ボランティアに応募したのは、その日が空いていたし運動になると思ったからという、エネルギッシュな若者らしい答えだった。

筆者が同行した9階~5階の組も含めて、続々と残りの組も報告にやってくる。同行した子どもに感想を聞くと、「ちょっと疲れちゃった」と。9階から5階まで同じ作業を繰り返すので、子どもには飽きてしまうことなのかもしれない。

きて、その集計結果がまとまって結果が公表される。集計に要した時間は36分、512戸の掲示率は51.7%だった。

集計結果。この右側には全住戸の状況が一覧になって掲示されている(筆者撮影)

集計結果。この右側には全住戸の状況が一覧になって掲示されている(筆者撮影)

スタンプラリーなど、多彩なメニューで楽しく参加できる工夫

実は、賃貸マンションであっても一定数以上の居住者がいる場合は、オフィスビルや分譲マンションと同様に、防火管理者を置いて、避難訓練などを行う必要がある。とはいえ、512戸となると訓練も大変なことだ。大勢が参加しないと訓練の意味がないが、賃貸居住者の防災意識は長く住み続ける分譲マンション住民よりは低くなりがち。そこで、参加しやすい工夫が必要となる。

「ぼうさいさい2023」と名付けられた防災イベントの内容を見ると、スタンプラリーや24キログラムの水を担いで屋上ヘリポートまで駆け上がる競争などが用意されている。ほかにも、消防署や警察署による訓練メニューもあり、なかなか充実している。

筆者が見た限りで最も参加者が多いように思ったのは、警察官の帽子や制服を着るコーナーだ。子どもに帽子や制服を着せて、親が写真を撮る姿が途切れることなく続いていた。ほかにも、消防車や白バイに乗る子どもの姿も多く見られた。小さな子どもでも気軽に参加できるからだろう。

「ぼうさいさい2023」のタイムテーブル(筆者撮影)

「ぼうさいさい2023」のタイムテーブル(筆者撮影)

スタンプラリーのメニューも多彩(筆者撮影)

スタンプラリーのメニューも多彩(筆者撮影)

筆者も体験!「蹴破り」「エレベータ閉じ込め」「煙」

さて、筆者が特に興味を持ったのは、「蹴破り」「エレベータ閉じ込め」「煙」の3つの体験だ。居住者でなくても参加できると聞いて、参加者に交じって体験してみた。

まずは「蹴破り体験」。火災のときの避難ルートは、一つは玄関からの避難。ただし、玄関に向かう方向で火災が発生しているときには、逆のベランダ側から避難することになる。ベランダが横に並ぶ形状のときには、隣戸の壁を蹴破って避難はしごのあるところまで行くことになる。この蹴破りが、意外に難しいと聞いたので、体験したかったのだ。

蹴破り体験。小さな子どもには蹴破りがなかなか難しい(筆者撮影)

蹴破り体験。小さな子どもには蹴破りがなかなか難しい(筆者撮影)

「蹴破り体験」の列に並んで、他の参加者のやり方を見ていると、小さな子どもでは力不足でなかなか蹴破れない。スニーカーではなくサンダル風の靴では特に難しそうだ。それでも、サッカーをしているという子どもは一度で穴を空けることができた。それを見て、筆者も思い切り蹴ったら、成功した。やはり避難時にはスニーカーだ。消防署の署員によると、壁に背を向けてかかとで蹴ると破れる場合もあるという。筆者の後の女性はかかとで成功していた。

蹴破り体験に筆者も挑戦(東急住宅リース撮影)

蹴破り体験に筆者も挑戦(東急住宅リース撮影)

次に、「エレベータ閉じ込め体験」へ。事前に衝撃があると言われたから冷静でいられたが、思いのほか衝撃が大きかった。その後は、連絡ボタンを押して外部と連絡を取る必要があるが、基本は中でドアが開くのを待つのだという。ほかの参加者に感想を聞いたところ、「衝撃が大きいのでびっくりしたが、災害時には冷静を心がけようと思う」「イメージトレーニングができた」といった声が返ってきた。

さらに、「煙体験」へ。消防署の署員から、煙は天井からたまっていくので低い姿勢で避難するのがよいと指導され、いよいよ煙が充満した通路に侵入。たしかに立ったまま見る景色としゃがんで見る景色では、見通しがかなり違う。避難を難しくする障害物として段ボールが置かれているが、立ったままではどこにあるかわかりづらい。段ボールを避けながら先に進むが、出口が見えないので距離感が分からない場所では相当な恐怖になるだろうと思った。

煙体験。左が立ったままの視線、右がしゃがんだ視線(筆者撮影)

煙体験。左が立ったままの視線、右がしゃがんだ視線(筆者撮影)

煙体験を終えた参加者に感想を聞いたところ、「見えにくかったけど、案外息はできた」「視界が悪いので段ボールが突然出てくるし、出口がどこにあるか分からないのが怖かった。白い煙だったが、黒い煙だともっと怖いと思う」。確かに白い煙で息はしやすかった。そこで再度、消防署員に煙について確認したら、体験なので無害の煙になっているが、実際の火災では煙もかなり熱く、燃え始めには有害な黒い煙が出るという。消火で水がかかると白い煙になるのだが、いずれも有害で息はしづらいのだという。こうした話を聞いたり、煙が充満する視界を体験したりして、心構えをしておくことが重要なのだと分かった。

ほかにも、AED(電気ショックを与えて正常なリズムに戻すための医療機器)訓練、消火器訓練などの防災に役立つメニューがあり、どれかひとつでも体験しておくと万一のときに役立つと思った。筆者も以前に、どちらも体験しているのだが、時間が経つと忘れてしまうので、繰り返し体験することが災害時に役立つと感じた。

AED訓練(筆者撮影)

AED訓練(筆者撮影)

消火器の使い方を体験する消火器訓練(筆者撮影)

消火器の使い方を体験する消火器訓練(筆者撮影)

自分が住む住戸を所有している分譲マンションでも、防災意識が高いとは限らない。自分たちで資産を守る役割の管理組合という組織のない、賃貸マンションであればなおさらだ。しかし、災害が発生した場合、近所の人たちと助け合って消火や救助に当たらないと、間に合わないということも多い。

タワーマンションであれば、エレベータが使えなくなる大変さを実感するだけでも、災害時の心構えが違うだろう。日頃の準備が災害時に大いに活きるものだ。

9月に多く発生する大型台風。その大雨から雨漏りを防ぐには?チェックすべき項目を紹介

2023年も、異常気象が猛威を振るっている。世界的な海面水温の上昇との関連も指摘され、酷暑の一方で大型台風や線状降水帯などによる被害も生じている。9月は、大型台風が発生するリスクが高まる時期でもある。住宅リフォーム・紛争処理支援センターでは、「雨漏りを防ぐために(安全確認シート)」をホームページに掲載し、注意を呼び掛けている。

【今週の住活トピック】
「雨漏りを防ぐために(安全確認シート)」を掲載/住宅リフォーム・紛争処理支援センター

頻発する線状降水帯への危機感は感じるが、対策はしないという人も

「雨漏りを防ぐために(安全確認シート)」を見る前に、一条工務店が発表した「防災に関する意識調査2023」の結果を見ていこう。地震に関する調査と水害に関する調査をまとめているが、“水害”については、どんな結果が出ているのだろうか。

まず、「線状降水帯による大雨の可能性がある場合、大雨警報などに先駆けた発表で、早期の備えを促すために、半日程度前から 6 時間前までに気象情報で発表しているのを知っていますか」と聞いたところ、49.1%、約半数が「知らない」と回答した。

気象庁のホームページには、“「顕著な大雨に関する気象情報」の発表基準を満たすような線状降水帯による大雨の可能性がある程度高いことが予想された場合に、半日程度前から、気象情報において、「線状降水帯」というキーワードを使って呼びかけます。”とあり、呼び掛け例として以下のようなものを紹介している。

出典:気象庁「線状降水帯に関する各種情報」より転載

出典:気象庁「線状降水帯に関する各種情報」より転載

次に調査で、「お住まいの地域で線状降水帯が発生すると予報された場合、危機感を感じて何らかの対策を取りますか」と聞くと、「危機感を感じるが対策はしない」という人が38.8%、「危機感を感じない」という人が6.1%いることが分かった。

出典:一条工務店「防災に関する意識調査2023」

出典:一条工務店「防災に関する意識調査2023」

長時間の大雨が予測される場合には、まず自宅から出ないこと、一戸建ての場合は2階以上で崖や斜面から離れた部屋に移動すること、「避難指示」などの避難情報が出された場合は早めに避難所へ行くなどが求められる。

住宅には雨漏りのリスクがあるが、後から対策することが難しい

さて、長時間の大雨で自宅に留まったとして、雨漏りがするようであれば心もとない。

住宅リフォーム・紛争処理支援センターが掲載した「雨漏りを防ぐために(安全確認シート)」によると、「住宅は、屋根や壁の部材、窓(サッシ)、玄関扉など、いろいろな部材・部品が集まってできており、それぞれ素材が異なる部材・部品を組み合わせているため、継ぎ目の雨水侵入対策がしっかりしていないと雨漏りが生じる場合がある」という。特に近年は、局地的な大雨などの発生回数が増加傾向にあるため、さらに雨漏りへの注意が必要だとしている。

一方で、雨漏りが発生した場合の原因の特定が難しいことから、住宅を建築したり取得したりする段階で、雨漏りリスクを意識することが大切だと強調している。

では、雨漏りはどこで発生するのだろうか?同センターが、木造新築住宅での「瑕疵保険の事故情報※」を分析したところ、サッシまわりなどの「外壁開口部」、「外壁面」、「勾配屋根や天窓」からが多くなっている。
※瑕疵保険(かしほけん)とは、住宅の検査と保証がセットになった保険制度。保険対象となる部分に起因する事故情報のデータベースを利用

出典:住宅リフォーム・紛争処理支援センター「雨漏りを防ぐために(安全確認シート)」住宅取得者向け資料より転載

出典:住宅リフォーム・紛争処理支援センター「雨漏りを防ぐために(安全確認シート)」住宅取得者向け資料より転載

サッシや天窓の枠の部分は外壁や屋根との継ぎ目ができる部分であり、外壁自体は常に雨にさらされる部分だ。こうした部分に雨漏りリスクがあることをまずは知っておこう。

「雨漏りを防ぐために(安全確認シート)」で詳しくチェック

「雨漏りを防ぐために(安全確認シート)」の住宅取得者向け資料には、雨漏りリスクの高い6カ所について、リスク低減のアイデアを紹介している。その6カ所とは、(1)モルタルの外壁、(2)窓(サッシ)、(3)片流れ屋根の頂部、(4)屋根の側端部、(5)屋根と外壁が接する部分、(6)天窓(トップライト)。例えば、(1)のモルタルの外壁については、次のように説明している。

出典:住宅リフォーム・紛争処理支援センター「雨漏りを防ぐために(安全確認シート)」住宅取得者向け資料より抜粋転載

出典:住宅リフォーム・紛争処理支援センター「雨漏りを防ぐために(安全確認シート)」住宅取得者向け資料より抜粋転載

それぞれの箇所については専門的になるので、ぜひ直接資料を確認してほしい。自身で雨漏りのリスクと防ぐアイデアを理解することのほか、住宅の設計者や販売事業者などに、この資料の内容を見せて、きちんと設計施工されるか説明を求めるという使い方もあるだろう。

マンションなら雨漏りはしないかというと、そうでもない。筆者が住むマンションで、大雨の翌日、1階で共用廊下を見上げたら、廊下のコンクリートの下部(見上げた階からは天井部)がふくらんでいた。雨水がたまった証だ。ただし、大規模修繕工事の際に防水工事を行って修復された。

このようにマンションであれば、管理組合が建物診断や大規模修繕を行うが、一戸建ての場合は自身でチェックして補修する必要がある。建てたときに注意を払うだけではなく、雨どいが落ち葉などでつまらないように掃除をしたり、住宅の窓まわりの継ぎ目のシーリング材に破損が見られたら修復したりといった、メンテナンスを行うことも忘れないようにしたい。

●関連サイト
住宅リフォーム・紛争処理支援センター「雨漏りを防ぐために(安全確認シート)」住宅取得者向け資料
一条工務店「防災に関する意識調査2023」

リニューアルしたハザードマップがかなり使いやすい!実際の使用感を解説

災害のリスクを知るには「ハザードマップ」を見る! このことは、かなり一般に浸透していると思う。実はこの国土交通省のハザードマップポータルサイトが、新しい機能を追加してバージョンアップした。最新のハザードマップは、スマホの位置情報からその場所の災害リスク等を探せたり、音声でリスクの程度を読み上げたりするようになった。

【今週の住活トピック】
ハザードマップポータルサイト のリニューアルについて/国土交通省

「わかる・伝わる」ハザードマップへとリニューアル

国土地理院は、「ハザードマップ」を「自然災害による被害の軽減や防災対策に使用する目的で、被災想定区域や避難場所・避難経路などの防災関係施設の位置などを表示した地図」と定義している。ハザードマップには、「地震」「火山」「土砂災害」「洪水」「内水※」「高潮」「津波」などの種類がある。この中でも、「洪水」「内水」「高潮」「津波」のハザードマップを総称して、水害ハザードマップと呼んでいる。
※大雨によって下水道などの排水能力を超えた場合の浸水被害

ハザートマップは、平常時に自宅などの場所の災害リスクについて把握し、災害に対する備えや避難場所などについて理解することが第一の目的だ。加えて第二の目的が、実際に災害リスクにさらされたときに対処できることにある。ところが、実際に災害リスクにさらされるのは、事前に情報を把握していた自宅などの場所に限らない。

「ハザードマップポータルサイト」の今回のリニューアルによって、TOP画面で「住所」や「現在地」を入力するとハザートマップがすぐに検索できるようになった。これなら、仕事や観光などで地縁のない場所に行っていた時に、洪水のリスクが高いとなったときでもすぐに情報を把握できるようになる。

実際に最新のポータルサイトで「わが家」のスマホの位置情報で試すと、すぐにハザードマップが表示された。次に、住所欄に「国土交通省」と入力して見ると、同様に国土交通省の所在地を示したハザードアップが検索できた。国土交通省の所在地では特にリスクはないようだ。災害のうち「洪水」を選んで調べると、周辺で浸水リスクのあるエリアが色別に表示された。近くの「日比谷公園」の場所をクリックすると「洪水によって想定される浸水深:0.5メートル未満」と文字が表示され、音声が流れた。

さらに、情報の中から「指定緊急避難場所」を選ぶと、その場所が地図上に表示された。洪水で避難するなら、浸水リスクエリアを超える避難場所(泰明小学校)よりも虎ノ門方面の避難場所(虎ノ門いきいきプラザ)のほうがよさそうだ。なお、避難場所は災害によって異なるので、災害種別を変えると表示される避難場所も増減する。

ハザードマップポータルサイト

住所欄に国土交通省と入力すると、ハザードマップが表示され、国土交通省の所在場所に危険性が想定されていない旨のテキストボックスが現れる。災害種別で「洪水」を選ぶと浸水が想定される色の帯と凡例が表示された(【1】)
「指定緊急避難場所」のうち「洪水」の避難場所を選ぶと緑色のピクトグラムが表示された(【2】)。それぞれをクリックすると具体的な建物名などが表示された。※丸印や直線は筆者が加えたもの

ハザードマップポータルサイト

【1】の画面で「千代田区のハザードマップを見る」をクリックすると千代田区のデータに遷移した(【3】)。【1】の画面で「災害種別で選択」や「すべての情報から選択」を開く(+をクリック)と欲しい情報を選ぶことができる(【4】)

ハザードマップポータルサイト

【5】ポップアップの背景色で示される詳細情報の例。災害リスクの程度に応じて、ポップアップの背景色が変化する。白、黄色、橙色、桃色、赤色の順に災害リスクが高くなる(出典:「ハザードマップサイト」の新機能の紹介より)

もちろんスマホやパソコンが利用できる通信環境にある場合に限られるが、これを使えば出先にいるときに万一のことがあっても、すぐ情報にたどりつけそうだ。

ハザートマップはリニューアルを繰り返して進化

国土交通省のハザードマップポータルサイトがオープンしたのは、2007年のこと。ハザードマップは本来、市町村が作成して住民に配布するものだが、いざというときに探せるようにと、市町村の情報を集約したことに始まる。以降もリニューアルを重ねてきた。

市町村ごとのマップだけでは、実は隣の市町村に逃げた方が適切という場合に分からない、河川の氾濫状況を広域で見られないといった課題があった。さらに、避難所の場所を探してそこを目指したら道路が冠水していたといったことも。こうした課題を解決するために提供した「重ねるハザードマップ」では、日本地図上で災害リスクを把握できるようにし、複数の災害リスク(「洪水浸水想定区域」と「道路冠水想定箇所」など)を重ねて表示できるようになった。

ほかにも、自治体によって凡例の区切り方や色分けが異なっていたものを統一したり、災害の種類を一目でわかる図記号 (ピクトグラム)から選択できるようにしたりと、さまざまなリニューアルを行ってきた。

今回は、あらゆる人が避難行動に必要なハザードマップ情報を活用できるように、「ユニバーサルデザイン」の観点からリニューアルを実施している。例えば、専門用語を読み込まないとリスクの程度が理解できないということのないように、「その場所の災害リスクや避難行動のポイント」について絞り込んだ解説がすぐに表示されるようになっている。複数の浸水リスクが該当する場合は、浸水深が最も大きくなる災害種別に絞って表示され、情報が多く出ることで見る人が混乱することを避ける形になっている。

また、目が不自由な人でも音声読み上げソフトを使うことで、ポイントが読み上げられるようになった。

なお、この情報がすべてではないので、自治体(国土交通省の例でいえば千代田区)のハザードマップを確認することを国土交通省では促している。

さて、災害リスクを感じてあわててスマホを取り出しても、使い方に慣れるまでに時間もかかるだろう。まずは、あらかじめハザードマップポータルサイトを使ってみて、どういった情報が得られるのかだけでも把握しておくべきだ。

ハザードマップには、ほかにも機能がいろいろあるが、自治体によってその内容は異なる。自宅や職場など自分の居場所として多い場所については、該当する自治体のハザードマップを事前に読み込んでおくことをお勧めする。自分の居場所の災害リスクを知ることに加え、避難施設や避難経路などの情報が掲載されているほか、防災に関する学習コーナーがあるなど、役立つ情報が多いからだ。災害への対応は、事前の備えがカギになることを肝に銘じておきたい。

●関連サイト
国土交通省/ハザードマップポータルサイト のリニューアルについて
国土交通省「ハザードマップポータルサイト」
「ハザードマップポータルサイト」の新機能の紹介

リニューアルしたハザードマップがかなり使いやすい!実際の使用感を解説

災害のリスクを知るには「ハザードマップ」を見る! このことは、かなり一般に浸透していると思う。実はこの国土交通省のハザードマップポータルサイトが、新しい機能を追加してバージョンアップした。最新のハザードマップは、スマホの位置情報からその場所の災害リスク等を探せたり、音声でリスクの程度を読み上げたりするようになった。

【今週の住活トピック】
ハザードマップポータルサイト のリニューアルについて/国土交通省

「わかる・伝わる」ハザードマップへとリニューアル

国土地理院は、「ハザードマップ」を「自然災害による被害の軽減や防災対策に使用する目的で、被災想定区域や避難場所・避難経路などの防災関係施設の位置などを表示した地図」と定義している。ハザードマップには、「地震」「火山」「土砂災害」「洪水」「内水※」「高潮」「津波」などの種類がある。この中でも、「洪水」「内水」「高潮」「津波」のハザードマップを総称して、水害ハザードマップと呼んでいる。
※大雨によって下水道などの排水能力を超えた場合の浸水被害

ハザートマップは、平常時に自宅などの場所の災害リスクについて把握し、災害に対する備えや避難場所などについて理解することが第一の目的だ。加えて第二の目的が、実際に災害リスクにさらされたときに対処できることにある。ところが、実際に災害リスクにさらされるのは、事前に情報を把握していた自宅などの場所に限らない。

「ハザードマップポータルサイト」の今回のリニューアルによって、TOP画面で「住所」や「現在地」を入力するとハザートマップがすぐに検索できるようになった。これなら、仕事や観光などで地縁のない場所に行っていた時に、洪水のリスクが高いとなったときでもすぐに情報を把握できるようになる。

実際に最新のポータルサイトで「わが家」のスマホの位置情報で試すと、すぐにハザードマップが表示された。次に、住所欄に「国土交通省」と入力して見ると、同様に国土交通省の所在地を示したハザードアップが検索できた。国土交通省の所在地では特にリスクはないようだ。災害のうち「洪水」を選んで調べると、周辺で浸水リスクのあるエリアが色別に表示された。近くの「日比谷公園」の場所をクリックすると「洪水によって想定される浸水深:0.5メートル未満」と文字が表示され、音声が流れた。

さらに、情報の中から「指定緊急避難場所」を選ぶと、その場所が地図上に表示された。洪水で避難するなら、浸水リスクエリアを超える避難場所(泰明小学校)よりも虎ノ門方面の避難場所(虎ノ門いきいきプラザ)のほうがよさそうだ。なお、避難場所は災害によって異なるので、災害種別を変えると表示される避難場所も増減する。

ハザードマップポータルサイト

住所欄に国土交通省と入力すると、ハザードマップが表示され、国土交通省の所在場所に危険性が想定されていない旨のテキストボックスが現れる。災害種別で「洪水」を選ぶと浸水が想定される色の帯と凡例が表示された(【1】)
「指定緊急避難場所」のうち「洪水」の避難場所を選ぶと緑色のピクトグラムが表示された(【2】)。それぞれをクリックすると具体的な建物名などが表示された。※丸印や直線は筆者が加えたもの

ハザードマップポータルサイト

【1】の画面で「千代田区のハザードマップを見る」をクリックすると千代田区のデータに遷移した(【3】)。【1】の画面で「災害種別で選択」や「すべての情報から選択」を開く(+をクリック)と欲しい情報を選ぶことができる(【4】)

ハザードマップポータルサイト

【5】ポップアップの背景色で示される詳細情報の例。災害リスクの程度に応じて、ポップアップの背景色が変化する。白、黄色、橙色、桃色、赤色の順に災害リスクが高くなる(出典:「ハザードマップサイト」の新機能の紹介より)

もちろんスマホやパソコンが利用できる通信環境にある場合に限られるが、これを使えば出先にいるときに万一のことがあっても、すぐ情報にたどりつけそうだ。

ハザートマップはリニューアルを繰り返して進化

国土交通省のハザードマップポータルサイトがオープンしたのは、2007年のこと。ハザードマップは本来、市町村が作成して住民に配布するものだが、いざというときに探せるようにと、市町村の情報を集約したことに始まる。以降もリニューアルを重ねてきた。

市町村ごとのマップだけでは、実は隣の市町村に逃げた方が適切という場合に分からない、河川の氾濫状況を広域で見られないといった課題があった。さらに、避難所の場所を探してそこを目指したら道路が冠水していたといったことも。こうした課題を解決するために提供した「重ねるハザードマップ」では、日本地図上で災害リスクを把握できるようにし、複数の災害リスク(「洪水浸水想定区域」と「道路冠水想定箇所」など)を重ねて表示できるようになった。

ほかにも、自治体によって凡例の区切り方や色分けが異なっていたものを統一したり、災害の種類を一目でわかる図記号 (ピクトグラム)から選択できるようにしたりと、さまざまなリニューアルを行ってきた。

今回は、あらゆる人が避難行動に必要なハザードマップ情報を活用できるように、「ユニバーサルデザイン」の観点からリニューアルを実施している。例えば、専門用語を読み込まないとリスクの程度が理解できないということのないように、「その場所の災害リスクや避難行動のポイント」について絞り込んだ解説がすぐに表示されるようになっている。複数の浸水リスクが該当する場合は、浸水深が最も大きくなる災害種別に絞って表示され、情報が多く出ることで見る人が混乱することを避ける形になっている。

また、目が不自由な人でも音声読み上げソフトを使うことで、ポイントが読み上げられるようになった。

なお、この情報がすべてではないので、自治体(国土交通省の例でいえば千代田区)のハザードマップを確認することを国土交通省では促している。

さて、災害リスクを感じてあわててスマホを取り出しても、使い方に慣れるまでに時間もかかるだろう。まずは、あらかじめハザードマップポータルサイトを使ってみて、どういった情報が得られるのかだけでも把握しておくべきだ。

ハザードマップには、ほかにも機能がいろいろあるが、自治体によってその内容は異なる。自宅や職場など自分の居場所として多い場所については、該当する自治体のハザードマップを事前に読み込んでおくことをお勧めする。自分の居場所の災害リスクを知ることに加え、避難施設や避難経路などの情報が掲載されているほか、防災に関する学習コーナーがあるなど、役立つ情報が多いからだ。災害への対応は、事前の備えがカギになることを肝に銘じておきたい。

●関連サイト
国土交通省/ハザードマップポータルサイト のリニューアルについて
国土交通省「ハザードマップポータルサイト」
「ハザードマップポータルサイト」の新機能の紹介