スニーカー600足が部屋にズラリ! 業界30年の高見薫さんに聞く美しい収納術とストリートファッションの奥深き歴史

床から天井まで壁面いっぱいに、ずらりと並べられたスニーカー。色とりどりの600足に囲まれた空間は、美術館のようでもある。その部屋の主は、ナイキやデッカーズなどで30年にわたりスニーカーのセールスに従事してきた高見薫さん。高見さんの仕事の履歴、そしてスニーカーの歴史が詰まった「スニーカー部屋」を拝見しながら、美しく収納するためのポイントやこだわりを伺った。

ファッションアイテムとしてのスニーカー史

高見薫さんは1991年にナイキジャパンに新卒入社。96年にはナイキショップの立ち上げなどにも携わった。2018年からはデッカーズジャパンに転職し、同社が取り扱う「UGG(R)」のスニーカーのセールスを担当している。

千葉県にある高見さんの自宅の一室には、三面の壁に600足が並ぶ「スニーカー部屋」がある。1990年代から現在までのスニーカーの歴史、高見さんの仕事履歴が詰まった、圧巻の空間だ。

床から天井まで全面を使った壁面棚に、美しく並ぶ600足。これでも全部ではないという。ここに収まらないぶんは玄関などに収納されている(写真撮影/小野奈那子)

床から天井まで全面を使った壁面棚に、美しく並ぶ600足。これでも全部ではないという。ここに収まらないぶんは玄関などに収納されている(写真撮影/小野奈那子)

高見薫さん。ナイキ時代は新モデルやコラボ商品の販売戦略の企画など、さまざまなプロジェクトに従事。現在はデッカーズジャパンに所属し、同社のスニーカー戦略を推進している(写真撮影/小野奈那子)

高見薫さん。ナイキ時代は新モデルやコラボ商品の販売戦略の企画など、さまざまなプロジェクトに従事。現在はデッカーズジャパンに所属し、同社のスニーカー戦略を推進している(写真撮影/小野奈那子)

――ものすごい数ですね。これだけのスニーカーをコレクションするようになったきっかけは何だったのでしょうか?

高見:確かにすごい数なんですけど、私はコレクターっていうわけじゃないんですよ。

――どういうことでしょうか?

高見:好きで集めている方には失礼かもしれないですけど、私の場合は集めているというより「集まっちゃった」というほうが正しくて。30年間、ずっとスニーカーに近い仕事をしてきたので、必然的にこれだけの数になってしまいました。セールスの仕事をやっていると、その時々で会社が推していく商品のことを知っておかないといけないじゃないですか。だから自分でも買って履いてみたりしているうちに、どんどん増えていったんです。

「集まっちゃった」とはいえ、一足一足に対する思い入れは強いという(写真撮影/小野奈那子)

「集まっちゃった」とはいえ、一足一足に対する思い入れは強いという(写真撮影/小野奈那子)

――そのスタンスは少し意外でした。

高見:みんなに不思議って言われますね。ただ、そもそも私がナイキジャパンに新卒入社した1991年って、スニーカーをファッションで履くという感覚がなかったんですよ。当然、今のようにコレクションする人も少なくて。当時はいわゆるスニーカーブームがくる前で、会社もあくまでスポーツシューズとして売っていました。

高見さんがナイキに入社した1991年に発売された「エア マックスBW」(写真は復刻)。入社年度に出た最高峰モデルの一つということで、高見さんにとって思い入れの深い一足だという(写真撮影/小野奈那子)

高見さんがナイキに入社した1991年に発売された「エア マックスBW」(写真は復刻)。入社年度に出た最高峰モデルの一つということで、高見さんにとって思い入れの深い一足だという(写真撮影/小野奈那子)

――1996年に「エア マックス95」が大ブレイクし、スニーカーブームが起こる少し前あたりから、何となくスニーカーがストリートファッション系の雑誌にも取り上げられるようになったと記憶しています。

高見:そうですね。大きなきっかけの一つが1992年のバルセロナオリンピックです。アメリカの男子バスケットボール代表が「ドリームチーム」と呼ばれる最強チームを結成し、そこから「バッシュブーム」が起こります。そうした動きと、アメリカのファッションやヒップホップなどの文脈も相まって、スニーカーがファッション誌に掲載されるようになりました。

――そこからスポーツシーン以外でもスニーカーを普段履きするカルチャーがじわじわ広がって、「エア マックス95」の登場によって一気にブレイクすると。

高見:「エア マックス」というのはナイキのスニーカーの最高峰のシリーズとして、1987年から新作が毎年のように発売されていました。そのなかで、たまたまブームになったのが95年モデル。スタイリストさんが気に入ったのか、当時、芸能人の方がテレビなどでよく95マックスを履いていたんですよ。それを見た視聴者の間で「あの靴はなんだ!」となり、1996年に大ヒットするという。

じつは同じ96年にナイキショップがオープンするんですけど、開店と同時に95マックスを求めるお客様が殺到しました。なかにはオープン予定日の1カ月前から並ぶ人もいたりして。

左側の棚に並んでいるのが「エア マックス95」。発売当初の貴重なモデルもある(写真撮影/小野奈那子)

左側の棚に並んでいるのが「エア マックス95」。発売当初の貴重なモデルもある(写真撮影/小野奈那子)

――当時の熱狂ぶりはよく覚えています。「エアマックス狩り」なんて事件も起こるほどの社会現象になりましたよね。

高見:ただ、当時はブームが加熱しすぎて「ナイキだったら何でもいい」みたいな人も増えたんですよ。それで、ひと通り商品がお客様に行き渡るとブームが一気に萎(しぼ)んでしまいます。1998年あたりから急激に失速しましたね。

それからは会社も「もう一度しっかりスポーツシューズとしてアプローチしていこう」という方向に向かうんですけど、一方で「せっかく新しいお客様を獲得できたのだから、本格的にファッションアイテムとして仕掛けていこう」という声もあって、2000年前後くらいからスニーカーをスポーツとファッションの両輪で展開していく動きが出てきます。その後、2010年くらいになると、他社ブランドでもスポーツ仕様と普段履きのスニーカーをはっきり区別して売るようになっていきましたね。

1996年に発売された「エア リフト」。つま先部分が足袋のように分かれているのが特徴。高見さんは2000年ごろ、よくこれを履いて出社していたそう。「靴下なしで履けてラクなので愛用していましたね。社割で安かったのもあって、たくさん買いました(笑)」(写真撮影/小野奈那子)

1996年に発売された「エア リフト」。つま先部分が足袋のように分かれているのが特徴。高見さんは2000年ごろ、よくこれを履いて出社していたそう。「靴下なしで履けてラクなので愛用していましたね。社割で安かったのもあって、たくさん買いました(笑)」(写真撮影/小野奈那子)

――確かに、ある時期からシューズ専門店でも、スポーツ用とファッション用のスニーカーのコーナーが分かれるようになりました。

高見:そうですよね。それが2010年代までの動きです。ちなみに、最近では小規模なブランドもスニーカーやスポーツシューズに参入するようになりました。ひと昔前まではナイキやアディダスといった、いくつかの大手しかやっていなかったんですけど、今はそれこそ私が所属するデッカーズジャパンが取り扱う「UGG(R)(アグ)」や「HOKA(R)(ホカ)」だったり、「Salomon(サロモン)」「On(オン)」など、さまざまなブランドがスニーカーやランニングシューズを手掛けるようになっています。

「UGG CA805 Zip」。それまでブーツのイメージが強かったUGG(R)が、本腰を入れて開発したスニーカー。2018年にデッカーズジャパンに入社した高見さんがセールスを担当し、一時期はこればかり履いていたのだとか(写真撮影/小野奈那子)

「UGG CA805 Zip」。それまでブーツのイメージが強かったUGG(R)が、本腰を入れて開発したスニーカー。2018年にデッカーズジャパンに入社した高見さんがセールスを担当し、一時期はこればかり履いていたのだとか(写真撮影/小野奈那子)

高見:多様なブランドの参入と技術の進化により、デザインのバリエーションも広がっています。よりファッショナブルになっていて、洋服に合わせる楽しみも広がっていると思いますよ。

UGGの最新スニーカー「CA805V2 Remix」。スリッポンのように軽やかな履き心地が特徴。初代モデルから5年でデザインも大幅に進化している(写真撮影/小野奈那子)

UGGの最新スニーカー「CA805V2 Remix」。スリッポンのように軽やかな履き心地が特徴。初代モデルから5年でデザインも大幅に進化している(写真撮影/小野奈那子)

600足を収納する「スニーカー部屋」のつくり方

――この家に引越してくる前は、どのようにスニーカーを保管していましたか?

高見:以前は実家近くの団地で一人暮らしをしていたんですけど、スニーカーは箱に入れて天井の高さまで積んでいました。少し大きめの地震がくると一気に倒れて悲惨なことになっていましたね。それに加えて、トランクルームも2つ借りていました。ですから、今みたいにすぐに取り出せる状態ではなかったです。

ただ、この家を買ったのはスニーカーのためというわけではありません。結婚して夫が私の部屋に越してきて、夫婦ともに物が多いから生活スペースが激狭になってしまったんです。通路も片側通行でしか通れないくらい狭くて……。

そんな生活から抜け出したくて引越しを考えていた時に、たまたまこの一戸建てが売りに出ているのを見つけました。それで、せっかく買うならスニーカーをちゃんと保管できるように、一部をリフォームしようと考えたんです。建築士さんに相談したところ、元のオーナーが2人の息子さんの部屋として使っていたスペースを、スニーカー部屋に変更しようということになりました。

もともとは壁で仕切られていたスペースを一つの空間にリフォーム。3つの壁全面に、新たにスニーカー専用棚を設けた(写真撮影/小野奈那子)

もともとは壁で仕切られていたスペースを一つの空間にリフォーム。3つの壁全面に、新たにスニーカー専用棚を設けた(写真撮影/小野奈那子)

――壁面棚をつくるにあたって、建築士さんに要望したことはありますか?

高見:とにかくできるだけ多くの靴を並べられるようにしてくださいと。最初は箱ごと棚に収納する案もあったんですけど、そうするとお店のストックルームみたいになっちゃって全然面白くないじゃないですか。だから裸のまま並べちゃおうと。剥き出しだと埃が溜まったりもするんですけど、私はコレクターではないからか、あまりそのへんは気にならなくて。

一つひとつの棚板の高さを変えることも可能。高見さんは一番高い靴の縦幅に合わせて棚板の位置を統一している(写真撮影/小野奈那子)

一つひとつの棚板の高さを変えることも可能。高見さんは一番高い靴の縦幅に合わせて棚板の位置を統一している(写真撮影/小野奈那子)

壁面棚の両サイドには鏡を設置し、無限にスニーカーが並んでいるように見せる遊び心も(写真撮影/小野奈那子)

壁面棚の両サイドには鏡を設置し、無限にスニーカーが並んでいるように見せる遊び心も(写真撮影/小野奈那子)

高見:あと、これは建築士さんから勧められたんですけど、棚の材料は北海道のチーク材を使っています。とても綺麗な木材ですし、スニーカーも映えるだろうということで。北海道から輸送しなきゃいけないので高いんですけどね。

――スニーカーのコンディションを保つという点でも、やはり天然木を使った棚のほうがいいのでしょうか?

高見:そうですね。スチールラックなどに置いている人も多いと思いますが、金属は錆びる可能性があるので、靴にとってはあまりよくありません。

それから、スニーカーのコンディションを保つためには、部屋の空気の状態にも気を配る必要があります。なるべく空気を循環させることと、湿度が高くなりすぎないこと。空気が湿っていると、靴がどんどんベタベタになってくるんです。この部屋では、空調でなるべく一定のコンディションをキープできるようにしています。

――ちなみに、ずっと置いておくよりも、たまには履いたほうがよかったりしますか?

高見:はい。履かないと逆に駄目になりやすいです。置きっぱなしにしていると空気中の水分がスニーカーに溜まっていき、ミッドソール部分の素材が加水分解を起こしてしまうんです。すると、靴底からボロボロと崩れてしまう。それを防ぐにはたまに履いてあげて、身体の重力を利用して水分を抜くことが必要です。私もここにあるスニーカーはただ飾るだけじゃなくて、なるべく履くようにしていますよ。

(写真撮影/小野奈那子)

(写真撮影/小野奈那子)

グループ分けで美しく。思わず眺めたくなる棚に

――上から下まで、とても美しくスニーカーが並んでいますが、飾る時のコツやポイントがあれば教えてください。

高見:私の場合は、持っているスニーカーをグループ分けするところから始めました。まずは「ランニングシューズ」「バスケットシューズ」といった感じで大まかに分類し、そこからさらに細かく種類を分けます。あとは年代別だったり、シンプル系・派手系みたいな形でグループを分けていきました。そのうえで、エクセルで作った棚の図面に、何をどこに入れるか入力しながらシミュレーションしましたね。

実際に棚に置く時には、薄い色から濃い色の順番に並べたり、背が低い順から並べたりと、なるべく美しく見えるように意識しました。このあたりはナイキで学んだ陳列の法則みたいなものを取り入れています。

靴の種類ごとに分けた上で、デザインが派手なコーナー、シンプルなコーナーなど、なんとなくグループをつくるだけでも見栄えがよくなる(写真撮影/小野奈那子)

靴の種類ごとに分けた上で、デザインが派手なコーナー、シンプルなコーナーなど、なんとなくグループをつくるだけでも見栄えがよくなる(写真撮影/小野奈那子)

――ここまで美しく飾られていると、もはやスニーカーというよりインテリアのようです。眺めているだけで楽しくなりますね。

高見:私自身はあまりインテリアという感覚はないのですが、眺めるのは楽しいですね。やはり、一つひとつに思い入れがあるので。「これは、あそこに行った時に買ったよな」とか、「これを履いていた時、仕事大変だったな」とか、いろんなことを思い出します。

――この部屋は、高見さんの歴史そのものなんですね。

高見:そうですね。ですから、一般的なコレクターの方とは違う感覚なんでしょうけど、全てのスニーカーに愛着があります。もともとは狭い空間から逃げるために家を買い、やむにやまれずリフォームした部屋ですが、今となっては懐かしい思い出にひたれる大切な場所になりましたね。

●取材協力
UGG(R)/デッカーズジャパン

勝間和代さんインタビュー:“汚部屋“が一転、一番快適な場所に! 人生を変えた「断捨離」

経済評論家として、働く女性の代表的存在としても大活躍中の勝間和代さん。多忙を極める裏で、かつてはモノがあふれ収拾のつかない状態だった「汚部屋」を、「家が一番快適」というまでに蘇らせ、その体験をまとめた『2週間で人生を取り戻す!勝間式汚部屋脱出プログラム』(文春文庫)を2016年発行。2019年の文庫化を機に、勝間さんが一念発起したきっかけ、人生がガラリと変わったという劇的効果、約4年経過後の断捨離やライフスタイルの進化などを伺ってきました。
2015年秋、友人・川島なお美さんの急逝で断捨離の必然性に目覚める

――勝間さんが断捨離を始めることになったきっかけを教えていただけますか?

2007年に独立して以来、多忙を口実に、片付けに関しては放棄していました。強制的に荷物整理をするために引越しを繰り返してきましたが、今の部屋に5年以上住んだころからモノが収納限界点を超える「収納破産」状態に。部屋には使わないモノがあふれ、人も呼べない汚部屋でしたが、見て見ないふりをしていました。

そんな2015年秋、公私ともに親しくさせていただいていた川島なお美さんが急逝。同世代だけに、「死」というものが現実化して。ご主人である鎧塚俊彦さんが、なお美さんの残したものを前に辛い思いをしているのを目の当たりにして、「自分もいつ死ぬか分からない」「自分のものが多いと遺族も大変だし、何かあったときに他人を家に入れることもできない」と、スイッチが入って断捨離を始めました。

(左)同じ部屋とは思えない、汚部屋時代。デスクまわりも仕事関連のモノがあふれ、収拾のつかない状態。せっかくのルンバも床に散乱したモノで活躍の場がなかった(写真提供/勝間和代さん)(右)現在の勝間さんのお部屋。明るく広々、厳選されたものだけに囲まれた「一番快適な場所」。断捨離で床にモノがなくなり、時間セットしたルンバが毎日大活躍でさらに綺麗に(写真提供/文藝春秋)

(左)同じ部屋とは思えない、汚部屋時代。デスクまわりも仕事関連のモノがあふれ、収拾のつかない状態。せっかくのルンバも床に散乱したモノで活躍の場がなかった(写真提供/勝間和代さん)(右)現在の勝間さんのお部屋。明るく広々、厳選されたものだけに囲まれた「一番快適な場所」。断捨離で床にモノがなくなり、時間セットしたルンバが毎日大活躍でさらに綺麗に(写真提供/文藝春秋)

――断捨離の成果が出てご著書『勝間式汚部屋脱出プログラム』が出来上がるまではどれくらいの期間で?

そのときたまたま睡眠の大切さに関する本を読んでいたこともあり、試しに寝室の断捨離から始めました。するとすぐに睡眠の質が高まる効果を実感して。その相乗効果で断捨離は加速、どんどん面白くなって、毎日2~3時間片付けて、2015年末には8割のモノがゴミと化していました。ブログに書いたところ好評だったこともあり、この仕組みをまとめて、2016年に『2週間で人生を取り戻す!勝間式汚部屋脱出プログラム』の単行本を出しました。

『2週間で人生を取り戻す! 勝間式 汚部屋脱出プログラム』勝間和代 著、文春文庫

『2週間で人生を取り戻す! 勝間式 汚部屋脱出プログラム』勝間和代 著、文春文庫

片付けてスッキリすると気持ちいいし、効果を実感する、楽しくなる、どんどん捨てるべきものが目につく、という好循環で、無理はしていません。むしろ汚部屋だったころの方が、掃除をするにもモノをどかしてからでないと掃除さえもできなかったので、無理して頑張っていたと思います。

――断捨離はダイエットにも絶大なる効果があったとか?

断捨離でこまめに身体を動かすようになって、自然に体重が4~5kg落ちました。かつてはゴミを溜めておいて収集日に合わせて運んでいましたが、いまは目につけば24時間いつでもマンションの集積場所まで捨てに行きます。自然に良く身体を動かす癖がついたのだと思います。

さらに自炊に切りかえて外食が減ったこともあり、ピーク時は60kgを超えたこともあった体重はぐんぐん減って、いまは40kg台になりました。人生100年時代、人生の先輩に「体が動くのは50代のうち」と言われて、仕事ばかりでなく、意識して運動していることもあると思います。今日もゴルフ練習場に行ってきましたし、家でダンベルを使ったりして、毎日2~3時間は運動していますよ。

――家を一番快適な場所にすることによって、何が変わりましたか?

まず、モノが少なくなったことで、モノを探す無駄な時間もなくなりました。断捨離したら、ハサミやカッターが家じゅうから何セットも出てきましたからね。掃除もしやすくなりいつもきれいな状態を保て、いつ誰が訪ねてきて、どこを見られてもOKです。

家でも身体をこまめに動かすようになったので、以前は行きもしないジムに会費を払ってお金を浪費していましたが、そんな必要もなくなりました。ジムもちゃんと場所や時間帯を選んで通っていればいいのですが、たいてい入会しているだけで満足しがちですよね。

今までは家で仕事をしていても、快適とは言えない環境なのですぐ息抜きに外に行きたくなって。例えばカフェに息抜きに出かけると、その往復時間もカフェ代も無駄になります。家が一番快適でストレスもないと、外に行く必要がなく時間とお金の無駄がなくなって経済的。その時間とお金を好きなものに集中できます。

汚部屋の時代は自宅には親友くらいしか呼べなかったけれど、今は月に数回、椅子は8脚なので8名マックスのパーティーもするようになりました。以前は不意に人が来たら困っていましたが、いまはたとえ日にちを間違えていても、いつでもどこを見られても大丈夫です。

(写真提供/文藝春秋)

(写真提供/文藝春秋)

コツは捨て癖。片付けの「仕組み」で歯磨きのように習慣化

――片付けが苦手でいつも挫折しているのですが、どこから、どのように手を付ければいいでしょうか?

まずは捨て癖を付けて、成果を実感しやすいところから始めるといいですね。例えば浴室や寝室のベッドまわり。浴室は「お風呂に入る」という目的がはっきりしている狭い空間なので、取り掛かりやすいです。入浴に関係ないものがあれば取り除き、使っているもののみ残します。私は立ってシャワーを浴びるので、桶や椅子も使っていないことに気付き、処分しました。広々と気持ちよい空間でバスタイムを楽しむことができ、さらに掃除もしやすく、すぐに断捨離効果を実感できるでしょう。

寝室も同じです。「眠る」という目的に必要なものだけを残すことで、質の高い眠りを得ることができることが実感できるはずです。寝室は、まずベッドまわりから始めて、クローゼットや物置は難易度が高いので後回しで。「捨てる物を選ぶ」という発想ではなく、「残すものを選ぶ」という感覚で、捨て癖を付けていくことが大切です。8割がたの不要なものがなくなれば、「整理整頓」とか「収納」などと考える必要もなくなります。

――具体的に、捨てる・捨てない、はどのように判断すればいいのでしょうか?

判断基準はシンプルに、「使っているか、いないか」、ということだけです。こんまりさんこと、近藤麻理恵さんの「ときめき」による片付け術が世界中で大流行していますが、ときめくか、ときめかないかって、私には分かりにくくて。季節ものは別にして、1カ月間使っていないものは、要らないのでは、という目で見ます。

例えばキッチンの調理器具は包丁3本、お玉2つ、トング、木べら、ピーラーを残し、さまざまな便利グッズや予備は捨てました。同時に使うものでない限り、すぐ洗えばストックも不要です。7~8本も出てきたラップのストックも一種一本だけにしました。ちゃんと出汁をとれば、出来合いの各種調味料類も不要になります。

買い置きは、結局使わず無駄になってしまい経済的ではないので、しません。冷蔵庫の中も、3日以内に食べる物しかはいっていません。それでも米や豆、水、カセットコンロなどがありますから、台風の3、4日分の食料は大丈夫です。

そのようにどんどん身の回りのものもシンプルにしていき、化粧品もワンセット、小さな化粧ポーチのみです。そうすれば、なくなりそうなときはすぐ分かるので在庫管理も楽。アイシャドウだって何色もあっても、結局使うのはお気に入りのブラウン系だけなので、一種でいいのです。

――難易度が高い場所はどのようにクリアしてキープすればいいのでしょう?

捨て癖がついて、断捨離の効果も実感してからだと、難易度が高い断捨離もやりやすくなります。さまざまなものがあって判断が複雑になりがちな収納スペースは、捨て癖が付いた断捨離の最後に取り掛かるのがおすすめです。クローゼットの衣類なら、値段が高く使用頻度が少ないフォーマルなものは悩みますので、まずはカジュアルな服の断捨離をしてからフォーマルに。物置もさまざまなものが混在している場所なのでやっかいですが、最終的には日常的には使わないけれど、必ず使うものだけ残すのが理想です。

捨て癖は、習慣にしてこまめに捨てることが大事です。歯磨きだって3日とか1週間に一度では、歯石も溜まって大変でしょう。歯磨きを毎食後習慣にするように、断捨離もちょこちょこ習慣化してしまえば長続きします。
無理せず、こまめに、ですね。

かつて持ってはいても、床にモノが散乱していて起動できなかったルンバは、毎日タイマーで自動で動き出すようセットし、そのために床にはモノを置きません。キッチンも片付いている方が、断然お料理の効率もいいし、楽しいです。手洗いか食器洗浄機か、ではなく、両方使った方が早いので、食器に応じて手洗い&食器乾燥機、食器洗浄機、を使いわけ、食事のときには片付けも終わっているようにします。皿や調理器具もストックは持たないので、整理整頓や収納で悩むこともありません。

モノから行動の断捨離へ。時間を生み出し自分が主役の人生に

――勝間さんが捨てにくかったモノはどんなものですか? どんな変化がありましたか?

高額なもの、他人にいただいたものや思い出のあるもの、物理的に大きなものなどが捨てにくいです。100円ショップで買ったものは誰でも気軽に捨てるでしょうが、3万円を超えるものだと悩むでしょう。頂きものや思い出のものも、送り主の立場を思うと申し訳ない気持ちになります。物理的に大きなものも、運んだり粗大ごみの手配をしたりが大変です。

コレクションしている趣味のものも捨てにくいです。一眼レフやビデオカメラ、古いPCなどもたくさんありましたが、時代とともに進化して、今どきスマートフォンで事足りるので、古いものは処分しました。

捨てるのがめんどうなものが分かってからは、なるべく家まで持ち込まないようにしています。買い物は厳選し、特に3万円以上は慎重になります。いただきものも「モノを増やしたくないので」「お酒は飲みませんので」などとその時点で断ります。そうしているうちに周囲に浸透してきましたが、それでも断り切れない場合は、事務所のスタッフに配ったりして、基本家には消えもの以外は持ち帰りません。逆に自分がプレゼントを選ぶ場合も、消えものと決めています。

――モノを増やさずキープするための、勝間流の仕組みや工夫を教えてください。

基本はモノもダイエットも同じで「出る」「入る」の仕組みです。出るが多いと痩せるし、入るが多いと太る。断捨離で綺麗になっても、人間生きている限り、モノは放っておけばまた増えていきリバウンドしてしまいます。
モノが増える仕組みを知って、増やさない仕組みをつくることが大切です。買い物はとにかく厳選し、何かを買うということは、何かと入れ替えます。現在本当に必要なもののみになっているので、それに並ぶものか、入れ替えてまで欲しいモノか熟考します。

どうしても溜まりがちなものに郵便物があります。家に持ち込んでどこかにポイと置いたら最後、そのままになって溜まっていきます。そこで「郵便物は絶対にそのまま置かない」と決めて、ポストから部屋に戻る途中、エレベーターや廊下でも中身を確認して、要るものや要返信のものなどを分けるなど処理をしたうえではじめて部屋に置きます。クリーニングに出した際のハンガーも断って家には持ち込みません。

所有に拘らず、必要なものは「エアークローゼット」などのサブスク(サブスクリプションの略称で、製品やサービスなどを一定期間利用しその代金を払うシステム)を利用しています。バッグなどは買う前にいくら吟味しても使い勝手までは分からないので、まずはレンタル。今日のバッグもレンタルで、気に入ってはいるけれど購入するほどではないかな、とか使ってみて判断できますよ。

――単行本発行から文庫化まで4年、現在の断捨離の進捗状況と読者へのメッセージを。

モノに支配されない自分が主役の暮らしが快適だ、ということを断捨離で実感して以来、常に効率化できるものはないか、捨てられるものはないか、考えています。無理をしていないので、もちろんリバウンドすることもありません。自分にとって快適でストレスのない状態を追求して、断捨離しているだけです。

いまは「モノ」の断捨離から、「行動」の断捨離に移行しています。一日は24時間と限りがあるので、自分にとって快適でないことは辞めました。例えばテレビの仕事は1時間番組の収録でも、現場への往復や事前打ち合わせなどで合計6時間前後拘束されてしまいます。自分はテレビを一切見ないし、テレビに出ている時間を楽しんでいるわけでもないことに気付き、今年の2月から一切テレビのお仕事は断っています。

「行動」を断捨離することで「時間」が生まれ、自分で自分のスケジュールを組めるようになります。先日は誘われるままに、8日間で5回ゴルフのラウンドに行きました。逆に、少しでも迷った誘いは断ります。自分の人生、自分の時間は自由に使い、自分でコントロールしたいですからね。

さっそうとインタビュー場所に現れた勝間さんは、表情キラキラ、お肌ピカピカ、スッキリ華奢なシルエット。「部屋の状態は心の状況を表す」と言いますが、お部屋もご本人も、いつ誰に見られても良い状態に整っているのだと納得。最後に仕事道具を詰め込んだ大荷物の取材陣に、「バッグも小さくして、持ち歩く荷物の断捨離を」、とアドバイスいただきました。断捨離、やらないと人生損です!!

2週間で人生を取り戻す! 勝間式 汚部屋脱出プログラム』 (文春文庫) 『2週間で人生を取り戻す! 勝間式 汚部屋脱出プログラム』 (文春文庫)

モテる人は収納上手? 整理された部屋にお呼ばれすると、ときめく人が続出!

日本ワークスが、東京23区に一人暮らし経験のある20代~30代男女819人を対象に、「理想の物件」に関するアンケート調査を実施した。その結果、異性を呼ぶときに、勝負を分けるカギとなるのが部屋の「収納」であることが分かった。さて、どんな対策をすればよいのだろうか。【今週の住活トピック】
「『理想の物件』に関するアンケート調査」を発表/日本ワークス異性の部屋でときめいたり、がっかりしたポイントは?

調査結果は、意外とシンプルだった。

「異性の部屋」に入って、「ときめいたポイント」を聞くと、ダントツが、「きちんと整理整頓されている」(46.1%)だった。

「異性の部屋でときめいたポイントを教えてください」(出典/日本ワークス「『理想の物件』に関するアンケート調査」より転載)

「異性の部屋でときめいたポイントを教えてください」(出典/日本ワークス「『理想の物件』に関するアンケート調査」より転載)

さらに、「異性の部屋」に入って、「がっかりしたポイント」を聞くと、こちらもTOPが、「収納ができていない」(31.5%)だった。

「異性の部屋でがっかりしたポイントを教えてください」(出典/日本ワークス「『理想の物件』に関するアンケート調査」より転載)

「異性の部屋でがっかりしたポイントを教えてください」(出典/日本ワークス「『理想の物件』に関するアンケート調査」より転載)

つまり、異性の部屋でモノがきちんと収納されていない様子を見ると、異性そのものへの印象が悪くなり、きちんと収納できていると好感度がアップして「ときめく」というわけだ。

基本は「確認」・「処分」→「仕分け」→「収める」の繰り返し

ならば、「異性を部屋に招く際には、きちんとモノを収納すればよい」ことになる。
が、この収納が案外厄介なものなのだ。

かく言う筆者も収納下手だ。「収納ができてない」状態をつくるのが、むしろ上手だからだ。どういうことかというと、次の2つのことをいつもしてしまう。
(1)床にモノを広げる
(2)なんとなく分けて置いたモノの周辺に似たモノを溜める
だから、仕事部屋の床は足の踏み場が少なく、仕事場やリビングの机の上はモノであふれかえることになる。

そこで週に1回、散らばったパートごとに何の書類かを「確認」し、不要なものがあれば「処分」し、自分の分類ルールに沿ってそれらを「仕分け」、定めた場所に分類したものを「収める」ことをしている。「確認」と「処分」→「仕分け」→「収める」の繰り返しが、収納の基本だからだ。

その前提として、次のことを決めておく必要がある。
・分類ルールを決めておく
・分類したものを収める場所を決めておく

筆者の場合は、書類の整理が中心なので、ルールや収納場所を決めるのはそれほど難易度が高くないが、衣類や雑貨、家事道具などはどんどん増えていき、かさばって収納スペースが不足するので、難易度が高くなる。厄介なことだ。

「見せる収納」と「隠す収納」の使い分け

収納の専門家に取材してよく指摘されるのが、「見せる収納」と「隠す収納」だ。

マイホーム購入者のお宅を訪問した際にも、モノを見せるように収納している家庭、収納スペースにしまって見せないようにしている家庭に大きく分かれるように感じる。これは部屋や空間によっても変わり、見せたり隠したり、それぞれに工夫が感じられる。

ところで筆者は断然、「隠す派」だ。そのほうが掃除は楽だし、すっきり見える。ただし、しまえるだけの収納スペースが必要となるので、もともと収納の多い家を選ぶか居室に収納スペースを設けるかになる。

一方、「見せる派」は、住む人のセンスが光る。以前マイホームを購入したシングル女性を取材したが、家選びの条件に「趣味でつくった帽子を壁に飾れる」ことを挙げていた。大好きな帽子を常に視界に入れて、生活を楽しむことができる上、訪ねてきた知人は彼女の趣味やセンスを知ることができる。

筆者の知人にも「見せる収納」が上手な女性が多い。ある人は、リビングはヨーロッパの家具や小物で、和室は和風家具と小物で統一していた。「気に入る家具が見つかるまでは無理に収納を意識せずダンボールに入れたままでよい。妥協して収納家具を買ってしまうと、結局そのまま気に入っていない家具を使い続けてしまうから」 というほどの徹底ぶりだった。

「どのように見せてモノを置くか」「どのように収納スペースにしまって隠すか」を使い分けることができれば、異性が部屋を訪れたときに「ときめいてくれる」ような収納された部屋になるだろう。

とはいえ、筆者が拝見した収納が上手な部屋は、間違いなくモノが少なかった。「本当に必要なモノしか買わない」、「使わなくなったらどんどん処分する」ということが、実は収納が上手になる秘訣なのかもしれない。筆者の自戒も込めて、モノは増やさないようにしよう。

料理家のキッチンと朝ごはん[3]後編 ワタナベマキさんの収納と、新生活におすすめの道具5選

前回、流れるような動きで手際よく朝ごはんをつくってくださった、人気料理家のワタナベマキさん。今回は、その美しくも素早く、ムダのない動きを支えるキッチン収納のヒミツについて伺います。これから新生活をスタートする方に向けて、ワタナベさんおすすめの調理道具もご紹介いただきました。【連載】料理家のキッチンと朝ごはん
料理研究家やフードコーディネーターといった料理のプロは、どんなキッチンで、どんな朝ごはんをつくって食べているのでしょうか? かれらが朝ごはんをつくる様子を拝見しながら、おいしいレシピを生み出すプロならではのキッチン収納の秘密を、片づけのプロ、ライフオーガナイザーが探ります。自分と家族の「今」に合わせて、少しずつ形を変える暮らし方

10年前の入居時に加えて、ワタナベさんは4年前にもご自宅をリノベーションされています。

「もともとリビングの奥に和室がありました。子どもが小さいうちは和室があるほうが快適かなと考えて、当時はそのまま残したんです」とワタナベさん。実際、お子さんが小さかったころは本当によく和室を使ったそうです。けれども、お子さんが大きくなると和室を使う機会がぐんと減りました。そこで改めてリノベーションを検討し、和室をなくしてリビングを広げることにしたのだとか。

2度目のリノベーションで張り替えた、むく材のヘリンボーン床。経年で少しずつ変化した色合いが素敵。約1カ月の工期は夏休みにあわせ、家族や仕事への影響が少なくなるよう配慮したそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

2度目のリノベーションで張り替えた、むく材のヘリンボーン床。経年で少しずつ変化した色合いが素敵。約1カ月の工期は夏休みにあわせ、家族や仕事への影響が少なくなるよう配慮したそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

その際、入居時のまま使ってきたキッチンの天板も交換しました。「見た目はきれいだけれど扱いに気を使う、白い人造大理石の天板だったんです。しばらく使ってみて、プライベートと仕事の両方で、長時間キッチンに立つ私には向いていないことが分かり、水、熱、汚れにも強いステンレスの天板に入れ替えました」

将来の暮らしを先取りしすぎず、今の自分、今の家族に合わせて、段階的に住まいを整えていくことが、そのときどきの快適な暮らしを実現する秘訣なのかもしれませんね。

オープンキッチンの向かいがダイニング、手前側がリビングスペースです。ダイニング、リビングともに南向きのベランダに面しているため、とても明るく風通しのよいお住まいでした(写真撮影/嶋崎征弘)

オープンキッチンの向かいがダイニング、手前側がリビングスペースです。ダイニング、リビングともに南向きのベランダに面しているため、とても明るく風通しのよいお住まいでした(写真撮影/嶋崎征弘)

暮らしながら少しずつ形を変えてきたワタナベさんのキッチンには、どんな「使いやすさ」「美しさ」のヒントが隠されているのでしょうか。

ワタナベさんの手際のよさを支える、動線に合わせた収納計画

キッチン背面の収納スペースには、最小限の動きで必要な道具がさっと出し入れできるよう、計画的にものが配置されています。

オープン棚には、実用的で見た目も端正な鍋やカゴ、蒸篭(せいろ)といった調理道具を収納。陶器の器や木製のまな板、ガラスのケトルなどは、素材ごとにまとめることで、見た目もすっきり整います。「最下段のカウンターは手前にものを置かないようにして、作業スペースとしても使っています」というワタナベさん。

壁面の余白が多く見えるため、ものによる圧迫感がありません。トースター代わりに焼き網、炊飯器代わりに土鍋、電気ケトル代わりに鉄瓶を使うなどして、生活感の出やすいキッチン家電を持たないことも美しさの一因(写真撮影/嶋崎征弘)

壁面の余白が多く見えるため、ものによる圧迫感がありません。トースター代わりに焼き網、炊飯器代わりに土鍋、電気ケトル代わりに鉄瓶を使うなどして、生活感の出やすいキッチン家電を持たないことも美しさの一因(写真撮影/嶋崎征弘)

オープン棚の下には、左、中央、右に、それぞれ両開きの扉が付いた収納スペースがありました。左の棚には、おもにバットやボウル、ザルなどを収納。シンクに近いため、水まわりでさっと使うことができる配置です。中央の棚には、主に保存容器をまとめて収納。シンクとガスコンロの間にある作業スペースの真後ろなので、調理中、振り向くだけで容器を取り出すことができます。

腰より低い位置にある収納棚は「高さ」によってゾーニングされています。手の届きやすい上段には使用頻度の高いものを、手の届きづらい下段には使用頻度の低いものが収められていました(写真撮影/嶋崎征弘)

腰より低い位置にある収納棚は「高さ」によってゾーニングされています。手の届きやすい上段には使用頻度の高いものを、手の届きづらい下段には使用頻度の低いものが収められていました(写真撮影/嶋崎征弘)

ガスコンロに最も近い右の棚には、液体調味料をまとめています。火にかけた鍋の様子を見ながら、手早く油やしょうゆを取り出せる場所です。

最下段には使用頻度の低い調理家電を収納。右下は山本電気の精米機。「お米は玄米で買って、3日分くらいずつ精米しています。精米したてのお米はとっても美味しいんですよ」と聞いて、わが家でも同じ精米機を購入(写真撮影/嶋崎征弘)

最下段には使用頻度の低い調理家電を収納。右下は山本電気の精米機。「お米は玄米で買って、3日分くらいずつ精米しています。精米したてのお米はとっても美味しいんですよ」と聞いて、わが家でも同じ精米機を購入(写真撮影/嶋崎征弘)

奥行きが深い、もと・冷蔵庫置き場に造作された収納スペースは、上部が扉付きの棚になっています。スライドレールを使った引き出しを取り付けることで、奥のものにラクに手が届くよう工夫されていました。最も出し入れしやすい引き出しには、普段使いしている業務用の食器が収納されています。

収納スペースの下部には扉をつけず、ゴミ箱置き場に。凹みにゴミ箱を置くと目立たないうえ、調理中の動きの邪魔になりません。キッチンの床が掃除しやすくなるというメリットも(写真撮影/嶋崎征弘)

収納スペースの下部には扉をつけず、ゴミ箱置き場に。凹みにゴミ箱を置くと目立たないうえ、調理中の動きの邪魔になりません。キッチンの床が掃除しやすくなるというメリットも(写真撮影/嶋崎征弘)

「朝ごはんのときや、自宅での撮影などで大勢のスタッフに食事を出したりするときは、ここに収納している業務用のサタルニアやアラビアの食器を使います。丈夫だから気兼ねなく扱えるし、食洗機にもかけられるから、忙しいときに便利です」

一方で、作家による器のコレクションは、リビングスペースに置いた腰高の収納棚にまとめているといいます。「職業柄、器の量が多いため、分けて管理しています。夜ごはんのときや、友人とのんびり食事をするときなどは、ここからゆっくりお気に入りの器を選びます」。器というだけで、すべてキッチンの同じ場所に収納する必要はないんですね。

「最近いいなと思っているのは、伊藤聡信さんと伊藤環さんの器。どちらも丈夫で使いやすいところが気に入っています」。隣のガラス棚には、グラス類をまとめて収納。棚の上にスパイラル状に重ねられた本がかわいい(写真撮影/嶋崎征弘)

「最近いいなと思っているのは、伊藤聡信さんと伊藤環さんの器。どちらも丈夫で使いやすいところが気に入っています」。隣のガラス棚には、グラス類をまとめて収納。棚の上にスパイラル状に重ねられた本がかわいい(写真撮影/嶋崎征弘)

少しずつそろえていきたい。美しく実用性の高いキッチン道具5選

料理家として、さまざまな調理道具を使ってきたワタナベさん。最後に、これから新生活をスタートする人におすすめの道具を5つ教えていただきました。

1つめは、ビアレッティの「モカエキスプレス」。細挽きのコーヒー豆をポットに入れて直火にかけるだけで、本格的なエスプレッソが淹れられます。本体価格が数千円~とリーズナブルなうえ、小さなキッチンでも邪魔にならないコンパクトサイズなのがうれしいところ。「カフェに行かなくても、自宅で手軽に美味しいコーヒーが楽しめますよ」

高いデザイン性と実用性を評価され、ニューヨーク近代美術館「MoMA」に永久収蔵されているモカエキスプレス。ワタナベさんの夫は「自宅で淹れるコーヒーはモカエキスプレスで」と決めているそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

高いデザイン性と実用性を評価され、ニューヨーク近代美術館「MoMA」に永久収蔵されているモカエキスプレス。ワタナベさんの夫は「自宅で淹れるコーヒーはモカエキスプレスで」と決めているそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

2つめは、ワタナベさんが「これから新生活を始める人にプレゼントすることも多い」という、プジョーの電動式ペッパーミル「ゼフィア」。「コショウは挽き立ての香りが一番いいので、ぜひミルを使ってみてください。電動ミルは、料理中でも片手で挽けるのでとっても便利です」

フランスの自動車メーカーでもあるプジョーの切削加工技術を活かしてつくられた電動ミル。挽いたときにスパイスの香りが引き立つ刃(グラインダー)の構造が採用されているそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

フランスの自動車メーカーでもあるプジョーの切削加工技術を活かしてつくられた電動ミル。挽いたときにスパイスの香りが引き立つ刃(グラインダー)の構造が採用されているそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

3つめのおすすめはル・クルーゼの「ココット・エブリィ 18」。日本人のために開発された鋳物ホーロー鍋で、ごはんがとっても美味しく炊けるそうです。「専用の内蓋を使えば、炊飯時の吹きこぼれを最小限に抑えられます。小さく見えても、3合までのお米が炊けるんですよ。もちろん、炊飯だけでなく煮物にも使えます」

2Lの容量を備えながら、径を小さくして深さをもたせることで収納スペースを圧迫しないデザイン。鍋底の角を丸くすることで、熱がうまく対流するように設計されています(写真撮影/嶋崎征弘)

2Lの容量を備えながら、径を小さくして深さをもたせることで収納スペースを圧迫しないデザイン。鍋底の角を丸くすることで、熱がうまく対流するように設計されています(写真撮影/嶋崎征弘)

4つめは、前回もご紹介したタークの「クラシックフライパン」。つなぎ目のない一体型の鉄製フライパンです。「蓄熱性が高いため、食材に均一に火が通り、美味しく焼き上げられます。テーブルウェアとして使えるほど、シンプルで素敵な見た目も魅力です」

鉄の塊を高温で加熱して叩いて伸ばしていく鍛造製法でつくられるため、強度と密度が高く、耐久性が高いタークのフライパン。適切に扱えば、半永久的に使えるそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

鉄の塊を高温で加熱して叩いて伸ばしていく鍛造製法でつくられるため、強度と密度が高く、耐久性が高いタークのフライパン。適切に扱えば、半永久的に使えるそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

5つめは、ステンレス加工で有名な新潟県燕市生まれのブランド、conteによる「まかないシリーズ」のボウル、丸バット、平ザルです。「ボウルは適度な重さがあるため、食材を入れて和えたり混ぜたりしても安定しています。丸バットは単品でバットとして使ったり、ボウルと組み合わせてフタにしたり。平ザルは茹でた野菜を冷ましたり、揚げ物の油を切ったり。何通りにも使い回せますよ」

「まかないシリーズ」とは、「賄い」であると同時に「巻かない」でもあるそうです。ステンレスボウルにつきものの巻き込んだフチがないため、汚れがたまらず、清潔に使えます(写真撮影/嶋崎征弘)

「まかないシリーズ」とは、「賄い」であると同時に「巻かない」でもあるそうです。ステンレスボウルにつきものの巻き込んだフチがないため、汚れがたまらず、清潔に使えます(写真撮影/嶋崎征弘)

気持ちよく使える道具を、使い勝手よく、美しく収めたキッチン

気持ちよく使える道具を厳選し、使い勝手と見た目のバランスをとりながら配置する。……これが細部まで行き届いているのが、ワタナベさんのキッチンなのだと思います。

(左)経年変化によって魅力が増す天然素材の道具が並ぶキッチン。(右)大人シックなインテリアのところどころに、お子さんが描いた油絵の作品が飾られていました(写真撮影/嶋崎征弘)

(左)経年変化によって魅力が増す天然素材の道具が並ぶキッチン。(右)大人シックなインテリアのところどころに、お子さんが描いた油絵の作品が飾られていました(写真撮影/嶋崎征弘)

ひとことで言うと簡単に聞こえるけれど、これがとってもむずかしいことなのです。日々忙しく過ごしていると、「間に合わせ」で手に入れたものを「後で片づけよう」とあちこちに置いてしまい、気づけば扱いづらいキッチンになってしまう……。

新生活が始まる今こそ! ほかの誰でもない自分自身が気持ちよく、そして長く使える道具との出会いを大切に。そして選んだ道具をいつでも心地よく使えるよう、片づけや収納を後回しにしない。そんな習慣を身につけるのに最適なタイミングなのかもしれません。

>料理家のキッチンと朝ごはん[3]前編 ワタナベマキさんの10分でできるカリッふわっトーストと目玉焼き

●取材協力
ワタナベマキさん
神奈川県生まれ。グラフィックデザイナーを経て料理家に。2005年に「サルビア給食室」を立ち上げ、本・雑誌・広告などで体にやさしい料理や季節を感じる料理の提案、ワークショップ、ケータリングなどを行っている。夫、4月から中学生になる息子との3人暮らし。著書に『旬菜ごよみ365日: 季節の味を愛しむ日々とレシピ』(誠文堂新光社)、『何も作りたくない日はご飯と汁だけあればいい』(KADOKAWA)など多数。

料理家のキッチンと朝ごはん[3]前編 ワタナベマキさんの10分でできるカリッふわっトーストと目玉焼き

体にやさしく、おいしく、アートのように美しいひと皿をつくり出す料理家、ワタナベマキさん。料理だけでなく、インテリアやファッション、ライフスタイル全般に及ぶ、洗練されたデザインセンスにファンが多いワタナベさんに、キッチンの工夫や朝ごはんについて伺いました。【連載】料理家のキッチンと朝ごはん
料理研究家やフードコーディネーターといった料理のプロは、どんなキッチンで、どんな朝ごはんをつくって食べているのでしょうか? かれらが朝ごはんをつくる様子を拝見しながら、おいしいレシピを生み出すプロならではのキッチン収納の秘密を、片づけのプロ、ライフオーガナイザーが探ります。キッチンの全壁面をリノベーションして、大容量の収納スペースに

ワタナベさんは現在お住まいのマンションへの入居時、キッチン背面に収納棚を造作したそうです。本来、冷蔵庫を置くために奥まっていたスペースもあわせ、全壁面をリノベーションすることで、大容量の収納スペースを実現しました。

ワタナベさんが愛用している冷蔵庫は、アメリカの「GE(ゼネラル・エレクトリック)」のもの。本体だけでなく、ドアハンドルまで真っ白で余計な装飾がないところが、いかにも“プロ仕様”っぽい(写真撮影/嶋崎征弘)

ワタナベさんが愛用している冷蔵庫は、アメリカの「GE(ゼネラル・エレクトリック)」のもの。本体だけでなく、ドアハンドルまで真っ白で余計な装飾がないところが、いかにも“プロ仕様”っぽい(写真撮影/嶋崎征弘)

収納を増やすために「あえて」そのように造作したのかと思いきや、「愛用している業務用の冷蔵庫が、家庭用の冷蔵庫に合わせてつくられた既存のスペースに収まらなかったんです(笑)。それで、冷蔵庫はダイニングスペースに置き、キッチン背面はすべて収納スペースとして活用することにしました」

そう話しながら、冷蔵庫から食材を取り出して、シンク横のカウンターに置いていきます。

冷蔵庫を開けても、ダイニングテーブル側からは中が見えない配置。ワタナベさんは右利きなので、冷蔵庫を右手で開け→左手で中のものを取り出し→その手で作業スペースに置く、という一連の流れもスムーズ(写真撮影/嶋崎征弘)

冷蔵庫を開けても、ダイニングテーブル側からは中が見えない配置。ワタナベさんは右利きなので、冷蔵庫を右手で開け→左手で中のものを取り出し→その手で作業スペースに置く、という一連の流れもスムーズ(写真撮影/嶋崎征弘)

キッチン側に移動したら、今度は背面カウンターに置かれたカゴからパンをさっと取り出しました。……え? もしや、もうすでに本日の朝ごはんづくりはスタートしている? ワタナベさんの流れるように自然な動きに、取材スタッフ一同、油断しました。

通気性のよいカゴは、食材の一時置きスペースに最適。編み目の大きな六つ目のカゴでも、ほどよく中に入れたものを隠す効果があります(写真撮影/嶋崎征弘)

通気性のよいカゴは、食材の一時置きスペースに最適。編み目の大きな六つ目のカゴでも、ほどよく中に入れたものを隠す効果があります(写真撮影/嶋崎征弘)

今回、ワタナベさんが教えてくださるのは、忙しい朝でも10分でできる「カリッふわっトーストと目玉焼き」。朝食に必要だと言われる3つの栄養素「炭水化物(パン)」「タンパク質(卵、ヨーグルト)」「ビタミン・ミネラル類(野菜と果物)」をバランスよく組み合わせた、健康的な朝ごはんです。

忙しい朝でも10分でできる! カリッふわっトーストと目玉焼き

用意するもの(1人分)
・食パン 1枚
・卵1個
・プチトマト 2~3個(お好みで)
・ブラウンマッシュルーム 2~3個(お好みで)
・オリーブオイル 大さじ1
・塩 ひとつまみ
・コショウ 少々
・オレンジ 1個
・ヨーグルト 1/2カップ(お好みで)

ワタナベさん宅では木次乳業のプレーンヨーグルトが定番。ヨーグルトに合わせるフルーツはオレンジのほか、そのとき手に入りやすい旬のものを使っても(写真撮影/嶋崎征弘)

ワタナベさん宅では木次乳業のプレーンヨーグルトが定番。ヨーグルトに合わせるフルーツはオレンジのほか、そのとき手に入りやすい旬のものを使っても(写真撮影/嶋崎征弘)

材料をひと通り準備したら、ワタナベさんは背面カウンターからまな板を取り出しました。シンクとガスコンロの間にある作業スペース真後ろなので、振り向くだけで手にとれます。

木目が美しいまな板は、出しっぱなしでもインテリアに馴染みます。左手のカゴには先ほどのパンのほか、キッチンペーパーも収納。無漂白タイプを選べば、カゴからちらりと見えても悪目立ちしません(写真撮影/嶋崎征弘)

木目が美しいまな板は、出しっぱなしでもインテリアに馴染みます。左手のカゴには先ほどのパンのほか、キッチンペーパーも収納。無漂白タイプを選べば、カゴからちらりと見えても悪目立ちしません(写真撮影/嶋崎征弘)

作業スペース側に体の向きを戻したら、シンク下から焼き網を取り出し、ガスコンロにセット。「外はカリッと中はふわっと食パンを焼き上げるコツは、直火を使うこと。今回は焼き網を使ってトーストしますが、ガスコンロのグリルでも美味しく焼けますよ」

「焼き網はトーストだけでなく、お餅や野菜も美味しく焼けます」。キッチンにトースターを置かなければ、広々とした作業スペースを確保できるというメリットも(写真撮影/嶋崎征弘)

「焼き網はトーストだけでなく、お餅や野菜も美味しく焼けます」。キッチンにトースターを置かなければ、広々とした作業スペースを確保できるというメリットも(写真撮影/嶋崎征弘)

弱火にしたら、焼き網にパンをのせます。続いて、ガスコンロ下の収納スペースからフライパンを取り出し、隣のコンロにかけて熱し始めます。

ワタナベさん愛用の焼き網は、辻和金網の「足付焼網」。目の細かい「焼網受」が直火を和らげ、食材に熱をまんべんなく伝えて焼き上げます。足は折りたたみ式なので、使わないときはたたんでコンパクトに収納(写真撮影/嶋崎征弘)

ワタナベさん愛用の焼き網は、辻和金網の「足付焼網」。目の細かい「焼網受」が直火を和らげ、食材に熱をまんべんなく伝えて焼き上げます。足は折りたたみ式なので、使わないときはたたんでコンパクトに収納(写真撮影/嶋崎征弘)

再び作業スペースに戻り、シンク下の扉を開けて包丁を取り出し、ミニトマトを半分に、ブラウンマッシュルームは1/4にカット。

直径25cmくらいの丸いまな板は、食材をちょこっと切るのに便利。大きいまな板より洗いやすいから、忙しい朝でも扱いやすそう。ワタナベさんがミニトマトを切っているのは、GLOBALのペティーナイフ(写真撮影/嶋崎征弘)

直径25cmくらいの丸いまな板は、食材をちょこっと切るのに便利。大きいまな板より洗いやすいから、忙しい朝でも扱いやすそう。ワタナベさんがミニトマトを切っているのは、GLOBALのペティーナイフ(写真撮影/嶋崎征弘)

フライパンが十分温まったら、ガスコンロ後ろの収納スペースからオリーブオイルを取り出して、フライパンに注ぎます。「鉄のフライパンをよく熱してから卵を入れると、白身のフチはカリッと黄身はふわっとした美味しい目玉焼きができます。卵は常温に戻しておくといいですよ」

「鉄フライパンを使いこなすポイントはよく熱することと、フッ素樹脂加工のフライパンを使うときより少し多めに油を入れること」。それだけで食材への火の通りがよくなり、こびり付きも防げるそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

「鉄フライパンを使いこなすポイントはよく熱することと、フッ素樹脂加工のフライパンを使うときより少し多めに油を入れること」。それだけで食材への火の通りがよくなり、こびり付きも防げるそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

油が熱くなったら、フライパンの端のほうに卵を割り入れ、空いたスペースにカットしたプチトマトとブラウンマッシュルームを加えます。

よく熱した鉄のフライパンに卵を落とすと、ジュジュジューーーッ!とよい音が。ワタナベさん愛用のフライパンはタークの「クラシックフライパン」。18cmサイズは、1人分の朝食づくりにちょうどよい大きさ(写真撮影/嶋崎征弘)

よく熱した鉄のフライパンに卵を落とすと、ジュジュジューーーッ!とよい音が。ワタナベさん愛用のフライパンはタークの「クラシックフライパン」。18cmサイズは、1人分の朝食づくりにちょうどよい大きさ(写真撮影/嶋崎征弘)

プチトマトとブラウンマッシュルームは火が通ると水分が抜けてひと回り小さくなるので、「え、こんなに?」と驚くほど高い密度で入れてOK! 焼き上がったときに隙間がないほうが美味しそうに見えます(写真撮影/嶋崎征弘)

プチトマトとブラウンマッシュルームは火が通ると水分が抜けてひと回り小さくなるので、「え、こんなに?」と驚くほど高い密度で入れてOK! 焼き上がったときに隙間がないほうが美味しそうに見えます(写真撮影/嶋崎征弘)

背面カウンターに並べた塩壺を手に取り、フライパンの卵と野菜に塩をひとつまみ回しかけます。

厳選された道具だけが並ぶ、ギャラリーのように美しい背面カウンター。インテリアに馴染む美しい塩壺のほか、自家製の梅干し、ガラスの容器に入れた煮干しなど、美味しそうな食材も並んでいました(写真撮影/嶋崎征弘)

厳選された道具だけが並ぶ、ギャラリーのように美しい背面カウンター。インテリアに馴染む美しい塩壺のほか、自家製の梅干し、ガラスの容器に入れた煮干しなど、美味しそうな食材も並んでいました(写真撮影/嶋崎征弘)

ガスコンロ前に並べたキッチンツール・スタンドから菜箸を取って、プチトマトとブラウンマッシュルームを軽く炒めます。弱火にして蓋をしめ、中まで火を通します。途中、焼き具合を見ながら、食パンをひょいっと裏返しに。

ヨーグルトに入れるオレンジは、包丁で両サイドを切り落としたら、丸みに沿って皮をそぎ落とします。果肉は一口大にカット。ヨーグルトをグラスによそい、オレンジをトッピングします。

朝は食洗機にかけられる、白い磁器の食器を使うことが多いというワタナベさん。けれども、すべて磁器の器でそろえず、ヨーグルトの盛り付けに透明なグラスを使うことで、食卓が軽やかで明るい雰囲気に(写真撮影/嶋崎征弘)

朝は食洗機にかけられる、白い磁器の食器を使うことが多いというワタナベさん。けれども、すべて磁器の器でそろえず、ヨーグルトの盛り付けに透明なグラスを使うことで、食卓が軽やかで明るい雰囲気に(写真撮影/嶋崎征弘)

フライパンの蓋を外して目玉焼きと野菜に火が通ったことを確認したら、最後に電動のペッパーミルでコショウをひと回しして、完成です!

一枚の鉄板から打ち出されたタークのフライパンには継ぎ目がなく、シンプルで美しいたたずまい。そのまま食卓に出しても違和感がありません。蓄熱性が高く冷めにくいので、アツアツのままいただけます(写真撮影/嶋崎征弘)

一枚の鉄板から打ち出されたタークのフライパンには継ぎ目がなく、シンプルで美しいたたずまい。そのまま食卓に出しても違和感がありません。蓄熱性が高く冷めにくいので、アツアツのままいただけます(写真撮影/嶋崎征弘)

美味しい料理は「時間をかける」も「特別な食材」も必須じゃない

冷蔵庫から食材を出し、調理してダイニングテーブルに運ぶまで、かかった時間は約10分。途中、撮影のために手を止めたり、つくり方や収納に関する質問に答えたりしていただいたにも関わらず、本当にあっという間に出来上がりました。

「忙しい朝に時間をかけたり、特別な食材をそろえたりしなくても大丈夫。よい道具とよい調味料を使って、シンプルに調理するだけで、美味しい朝ごはんはできますよ」

とくに、塩、油、酢、しょうゆ、みりん、酒などの基本的な調味料は「昔ながらの製法でつくられたものがおすすめ。同じものをつくっても、調味料を変えるだけで別ものの美味しさが味わえますよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

とくに、塩、油、酢、しょうゆ、みりん、酒などの基本的な調味料は「昔ながらの製法でつくられたものがおすすめ。同じものをつくっても、調味料を変えるだけで別ものの美味しさが味わえますよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

ワタナベさんご自身も、この春から中学生になるお子さんをおもちのワーキングマザーです。朝、食欲のない子どもが何であれば食べられるか、仕事が立て込んでいる日でもぱぱっと準備できるものは何か、考え続けてきたからこそできる、10分でつくれて美味しい、健康的な朝ごはん。わが家にも今年小学1年生になる、食べムラのある息子がいるので、さっそくつくってみたいと思います。

次回は、効率よく動けるヒミツがつまったワタナベさんのキッチン収納の工夫と、これから新生活を始める人におすすめの調理道具をご紹介いただきます!

■料理家 ワタナベマキさんのキッチン

●取材協力
ワタナベマキさん
神奈川県生まれ。グラフィックデザイナーを経て料理家に。2005年に「サルビア給食室」を立ち上げ、本・雑誌・広告などで体にやさしい料理や季節を感じる料理の提案、ワークショップ、ケータリングなどを行っている。夫、4月から中学生になる息子との3人暮らし。著書に『旬菜ごよみ365日: 季節の味を愛しむ日々とレシピ』(誠文堂新光社)、『何も作りたくない日はご飯と汁だけあればいい』(KADOKAWA)など多数。

グラフィックデザイナー葉田いづみさんの余白を活かした美しい空間 その道のプロ、こだわりの住まい[5]

極端に物量が少ないわけではないのに、そのミニマムな印象に驚かされる。グラフィックデザイナーの葉田いづみさんの住まいは、壁や床に面が広く、余白と収納部分とのメリハリがはっきりしているのだ。詰め込みすぎず、かといって、必要なものはきちんとそろっている。モノトーンで統一しながら、木の風合いも適度に取り入れて冷たくなりすぎないように。それは自身が手がけるデザインとどこか似ているように感じられる。グラフィックデザイナーならではの絶妙なバランス感覚の秘密を教えてもらった。葉田さんがデザインを手掛けた『アトリエナルセの服』(成瀬文子著/文化出版局刊)(画像提供/葉田さん)

葉田さんがデザインを手掛けた『アトリエナルセの服』(成瀬文子著/文化出版局刊)(画像提供/葉田さん)

【連載】その道のプロ、こだわりの住まい
料理家、インテリアショップやコーヒーショップのスタッフ……何かの道を追求し、私たちに提案してくれるいわば「プロ」たちは、普段どんな暮らしを送っているのだろう。プロならではの住まいの工夫やこだわりを伺った。色も物も氾濫させず、きりっとシャープにダイニングでは、壁付けの棚だけを収納スペースに。夫婦それぞれが大切に長く持ち続けたい本を厳選している。右側の壁は何も飾らずにスッキリしていて広さを感じさせる(写真撮影/嶋崎征弘)

ダイニングでは、壁付けの棚だけを収納スペースに。夫婦それぞれが大切に長く持ち続けたい本を厳選している。右側の壁は何も飾らずにスッキリしていて広さを感じさせる(写真撮影/嶋崎征弘)

空間に足を踏み入れると、自然と背筋がしゃんとのびる感じがする。凛と美しく整えられたこの部屋は、グラフィックデザイナーの葉田いづみさん、木工作家である夫ともうすぐ小学生になる長男との3人の住まいだ。

3年前にリフォームしたマンションは、構造上間取りを変えることはせず、壁や床などの内装に手を加え、モノトーンを基調にした空間に仕上げている。壁や床は白とグレーを中心に、キッチンは業務用をイメージしてステンレスを多く使うように。テレビ台や椅子、棚などには夫が手がけたものもある。

「たくさんの色があると、どうまとめたらいいのか分からなくなってしまうので、色数は増やさないようにしています」

家具も雑貨も白や黒、グレー、ステンレスを選ぶようにすれば目にうるさくない。色が氾濫せず、すっきりとまとまって見えるというわけだ。

テレビ台は木工作家である夫の西本良太さんが手がけたもの。床置きにせず配線もきれいに隠しているさまはさすが。「広い壁に何か飾るのって難しい。あえてこのままにしています」(写真撮影/嶋崎征弘)

テレビ台は木工作家である夫の西本良太さんが手がけたもの。床置きにせず配線もきれいに隠しているさまはさすが。「広い壁に何か飾るのって難しい。あえてこのままにしています」(写真撮影/嶋崎征弘)

「面」をキープして、広く見せる

リビング・ダイニングでは棚もテレビも壁付けのため、床はすっきりしている。大きな壁も特別に飾ったりはしていない。広い「面」があるおかげで、すっきりと清潔感のある雰囲気になっている。

「広い壁にものを飾るのが苦手なんです。バランスが難しくて悩んでしまう。だったら何もなくていいかな、と。ヌケ感というか余白があったほうが好きということもあります」

棚は一定の高さにそろえ、その上は開けるように。収納する本は棚に入るだけと決めているし、子どものおもちゃはケースに入るだけの分量をリビングに持ち込んでよし、としている。

「子どもはおもちゃを広げるし、夫は仕事柄いろいろな材料を収集しているし、散らかることもあります。でも、元に戻す場所が決まっているので、この片付いた状態にするのは苦にならないのかもしれません」

ケースに入りきらないおもちゃは寝室の収納スペースに。夫は自身の部屋にあれこれ入れていて、葉田さんはほとんどノータッチだという。持ち込む物量を意識し、余白を活かすことで、家族共有のスペースであるリビング・ダイニングのすっきり感が保たれている。

ソファ脇に積んでいるボックスが長男のおもちゃ入れ。放り込めばいいだけなので、自分できちんと片付けができる。ここからはみ出るものは、隣の寝室にあるベッド下のおもちゃスペースに(写真撮影/嶋崎征弘)

ソファ脇に積んでいるボックスが長男のおもちゃ入れ。放り込めばいいだけなので、自分できちんと片付けができる。ここからはみ出るものは、隣の寝室にあるベッド下のおもちゃスペースに(写真撮影/嶋崎征弘)

よく使うものは素材と色を厳選して出しっぱなしに

キッチンも床の面が広い。見渡すと、一般的な家のほとんどにある食器棚が存在していないことに気が付く。

「調理台の下の引き出しに全部入っているので必要ないかな、と。奥行きも幅もあるので収納力たっぷりで、調理道具やキッチン用品などはほとんどしまっておける。よく使う道具だけ出しっぱなしにしています」

「業務用のキッチンが好きなのですが、オープンすぎると掃除が大変だから引き出しタイプにしました」という調理台。収納力たっぷりなので必要なものはすべて収まってしまう。色を抑えた空間だからこそ、窓辺のチューリップが映える(写真撮影/嶋崎征弘)

「業務用のキッチンが好きなのですが、オープンすぎると掃除が大変だから引き出しタイプにしました」という調理台。収納力たっぷりなので必要なものはすべて収まってしまう。色を抑えた空間だからこそ、窓辺のチューリップが映える(写真撮影/嶋崎征弘)

調理台上や壁付けの棚に置いている道具も、ステンレスや白、黒と色数を抑えて。リビング・ダイニングでのルールと同じだ。
食器棚しかり、一般的にはそろえてしまいがちな収納家具や雑貨でも、葉田さんは取り入れる際に必要かどうかじっくり吟味しているという。

「引き出しの中にケースがあったら便利だろうな、と思ってもすぐには買いません。紙袋でサイズを確かめて、やっぱり必要だと実感したら探すようにしています」

よく手にする道具は、使い勝手はもちろん、厳選しているため出しっぱなしのままでもすっきり。正面の壁はリフォーム時に薄いグレーのタイルを貼ってクールな印象に(写真撮影/嶋崎征弘)

よく手にする道具は、使い勝手はもちろん、厳選しているため出しっぱなしのままでもすっきり。正面の壁はリフォーム時に薄いグレーのタイルを貼ってクールな印象に(写真撮影/嶋崎征弘)

仕事部屋でも子どもの絵やアート作品を飾ってほっと一息

一方、仕事部屋は葉田さんにとっていちばん悩ましい場所なのかもしれない。自身が手がけた本はもちろん、好きな小説や仕事の資料などは、どうしても増えてしまうから。

「ダイニングと同じように、本棚に入るぶんだけと気を付けて、増えたら誰かに譲ったり処分したりして減らしています」

ボックスを積み重ねて本棚にし、一定の高さを保つようにしている。

窓からのやわらかい光が差し込む葉田さんの仕事部屋。グラフィックデザイナーという仕事柄、書籍や雑誌が多い(写真撮影/嶋崎征弘)

窓からのやわらかい光が差し込む葉田さんの仕事部屋。グラフィックデザイナーという仕事柄、書籍や雑誌が多い(写真撮影/嶋崎征弘)

また、デスクの背面の壁にはほとんど物がなく、アート作品を床置きしているだけで一面が広く空いている。夫の商品や仕事道具も置いているが、白いボックスにまとめて重ね置きすることで、色数を増やさないように。見事に、自身が仕事に集中できる空気を生み出している。

壁に貼っているのは長男の絵。スタイリッシュな空間のなかで、ほっと心を緩ませてくれるかわいらしい作品(写真撮影/嶋崎征弘)

壁に貼っているのは長男の絵。スタイリッシュな空間のなかで、ほっと心を緩ませてくれるかわいらしい作品(写真撮影/嶋崎征弘)

アート作品を飾るためのスペースを設ける

必要なものしかないのかと思うと、決してそうではない。棚には子どもの絵が飾られていたり、夫の作品を収納小物として使っていたり、本棚の隙間にデザインが好きで捨てられない紙箱が積んであったりする。その塩梅が絶妙で、好きなもの、必要なものを厳選しているということが伝わってくる。

さまざまなアーティストの作品が並んでいる玄関。夫婦で好きなものを集めていて、ちょっとしたギャラリーのよう(写真撮影/嶋崎征弘)

さまざまなアーティストの作品が並んでいる玄関。夫婦で好きなものを集めていて、ちょっとしたギャラリーのよう(写真撮影/嶋崎征弘)

「玄関の靴箱の上は、飾るためだけのスペースです。結構幅が広いので、いろいろ置いてしまうし、気が付くと夫が拾ってきた小石とかが無造作に並んでいることもあります。でもそれもおもしろい。ちょっと増えすぎだなと思ったときだけ整理しながら、ここは家族で好きに飾って楽しんでいます」

ドアを開けるとすぐ目に入る場所に、好きなアーティストや夫の作品、花などが並んでいる。ガラスや木の素材、さらに色も白と黒が多い。好きなものを並べても色が増えないということは、好みの基準をブラさずにもっているということなのだろう。

「私も夫も、雑貨やアートが好きなので、つい増えてしまいます。飾るスペースはここだけとしながらも、欲しいという気持ちもあって、いつもせめぎ合いなんです。悩ましい」と笑う。

収納と装飾、余白のバランスを大切に(写真撮影/嶋崎征弘)

(写真撮影/嶋崎征弘)

ふとテーブルの上を見ると、天板は薄いグレーで木の椅子、入れてくれたお茶セットもトレーはグレーで器は白と、この家のルールが凝縮した世界になっていた。色であふれるのも、物が増えるのも、苦手だからやっていないだけと話すが、その確固たる基準があってこの空間が保たれている。気が付くと、しゃんと伸びた背筋がふんわり緩み、すっかりくつろいでいた。余白を活かしたキリッとした空間でありながら、子どもの絵やアート作品を要所に飾って楽しむ。モノトーンの内装でありながら、木製の家具や雑貨を少し取り入れて温かみを感じさせる。このメリハリは、デザイナーである葉田さんのバランス感覚が成せる技だ。

ダイニングの天井にさりげなく飾られている蛍光灯を模したオブジェは夫である西本さんの作品(写真撮影/嶋崎征弘)

ダイニングの天井にさりげなく飾られている蛍光灯を模したオブジェは夫である西本さんの作品(写真撮影/嶋崎征弘)

「仕事部屋の本が増えてきちゃったので、また整理しないとなと思っています。あと、夫の部屋もカオスだったので年末に整理したのですが、きっとまたいろいろ持ち込んでいるだろうから、今どうなっているかは分からないです」と、悩みながらも楽しそうに笑う。この家での生活がとても居心地のいいものなのだとしっかり伝わってくる、そんな笑顔だった。

リビング・ダイニングでは、本のほかに、CDもこの棚に収まるだけにしているそう。上部には絵を一枚かけているが、そのほかの壁に何も飾っていない。収納と装飾、そして余白のバランスを取っていることがよく分かる。「これくらい限られたスペースの壁なら、何か飾ってもバランスが取りやすい気がします」(写真撮影/嶋崎征弘)

リビング・ダイニングでは、本のほかに、CDもこの棚に収まるだけにしているそう。上部には絵を一枚かけているが、そのほかの壁に何も飾っていない。収納と装飾、そして余白のバランスを取っていることがよく分かる。「これくらい限られたスペースの壁なら、何か飾ってもバランスが取りやすい気がします」(写真撮影/嶋崎征弘)

●取材協力
葉田いづみ
静岡県出身、東京都在住。木工作家である夫の西本良太さんと息子の3人暮らし。デザイン事務所勤務を経て、2005年に独立。書籍を中心に活躍し、すっきりとシャープでありつつ、柔らかも感じさせるデザインに定評がある。
>HP

冬服の収納方法をプロに聞いた! 見せる収納&隠す収納でおしゃれに

冬は重ね着が楽しい季節。でも、厚手の洋服は収納場所に困りますよね。かさばりがちな冬の衣類をスッキリ、おしゃれにクローゼットなどに収納する方法を、整理収納アドバイザーの村上直子さんに伺いました。
冬の衣類は、見せる収納と隠す収納のメリハリが大切

厚手のコートやマフラー、肌寒いときに部屋で羽織るカーディガン……冬の衣類はかさばるうえに、体温調節のために着脱する回数も多いもの。ちょっと気を抜くと、玄関やリビングにあふれてしまい、部屋がゴチャゴチャしてきませんか? 整理収納アドバイザーの村上直子(むらかみ・なおこ)さんにその原因を聞くと、第一には、「生活スタイルや動線、使用頻度を考えず、収納場所を決めているから」なのだそうです。

「例えば全ての衣類を、その都度クローゼットにしまうことができれば、スッキリするかもしれません。でも実際には面倒だったり、ニオイや湿気が残って、すぐにクローゼットに入れる気にはならなかったりすることもありますよね。それが散らかる原因。それなら、さっと置くだけの“見せる収納”と、しっかりクローゼットの中にしまって“隠す収納”に分けて、手間を減らすほうが現実的です」(村上さん)

確かに、クローゼットにいちいちしまうのは、面倒くさくてできないことも多いですよね。ではどのように見せる収納と隠す収納を使い分けたらよいのでしょう。今回は実際に村上さんが実践しているアイデアをご紹介します。

整理収納アドバイザーの村上直子さん(写真撮影/蜂谷智子)

整理収納アドバイザーの村上直子さん(写真撮影/蜂谷智子)

見せる収納家具は、インテリアのポイントとしてふさわしいものを

見せる収納としてまず村上さんが見せてくれたのは、おしゃれなカゴ。こちらに部屋で羽織るカーディガンを入れています。見せるための収納には、適当な家具はNG。何も入れていなくてもインテリアとして部屋に置きたいと思うものを、活用するのがポイントだそう。

「見せる収納を部屋のアクセントにしたいなら、いくつかの用途が思い浮かぶような、お気に入りの入れ物を入手しましょう。『部屋着を入れるだけだから』と、ランドリーボックスのような柔らかな収納箱をリビングに置く人がいますが、たくさん入る分、膨らんでだらしない印象になってしまうことも。収納力よりもインテリアとしての価値を重視したほうが、かえって節度のある使い方ができるものです」(村上さん)

さっと脱いだカーディガンや膝掛けを、このカゴへ(写真撮影/蜂谷智子)

さっと脱いだカーディガンや膝掛けを、このカゴへ(写真撮影/蜂谷智子)

見せる収納は部屋のインテリアのポイントにもなる高品質な家具を(写真撮影/蜂谷智子)

見せる収納は部屋のインテリアのポイントにもなる高品質な家具を(写真撮影/蜂谷智子)

外に出しておく衣類は、期間や用途を限定して置きっぱなしを防ぐ

また玄関脇のラックも、雰囲気のあるものを選びましょう。村上さんは、玄関のラックにはお子さんが帰ってきてから学校に行くまでの間、制服を掛けているそう。

「制服以外は、この場所には掛けません。子どもにとって2階の部屋に制服を片付けるのは手間ですし、制服は思いのほか、ホコリや汗がついています。ですから、玄関のラックは干したり消臭スプレーをかけたりして衣類を休ませる場所にしているんです。子どもが学校に行っている間はラックが空になるので、昼間に来客があっても、玄関がスッキリ。ラックは来客にコートを掛けてもらうスペースとして活用します」(村上さん)

玄関にラックを置くと、つい家族の上着類全てを掛けてしまい、こんもりと見苦しくなるもの。使う頻度の高いものだけにするなど、用途を限定することが大切なようです。

また、裏技として、扉の裏を利用した収納方法もおすすめだそう。着たばかりでクローゼットに入れるのはためらわれるコート類は、扉の裏側にフックをセットしてつるしておくと、邪魔になりません。ここにつるすのも、当日着たものに限定し、衣類を休ませたらクローゼットへ。

透かし模様が美しいラックは玄関のイメージを格上げ。衣類を掛けすぎないのがポイント(写真撮影/蜂谷智子)

透かし模様が美しいラックは玄関のイメージを格上げ。衣類を掛けすぎないのがポイント(写真撮影/蜂谷智子)

消臭スプレーなどをセットしておくと、家族が自発的に衣類のケアもするように(写真撮影/蜂谷智子)

消臭スプレーなどをセットしておくと、家族が自発的に衣類のケアもするように(写真撮影/蜂谷智子)

扉の裏を活用した収納は、すぐにでも真似できるアイデア(写真撮影/蜂谷智子)

扉の裏を活用した収納は、すぐにでも真似できるアイデア(写真撮影/蜂谷智子)

クローゼットは、収納用引き出しの容量を最大限に活用する

クローゼットの中が整理できず、いざというときに着たい服が見つからない。服を掘り当てたときにはクローゼットの中がメチャクチャに……整理が苦手な人にはよくあることですが、そういう人は収納用の引き出しの使い方やサイズの選び方を見直す必要がありそうです。

「大前提として、収納ボックスに入れる衣類は、縦に並べて収納しましょう。上に積み重ねて行くと下の服を取り出すたびに引き出しの中を掻き回すことになってしまいますよね」(村上さん)

また、村上さんが特に伝えたいのが、収納用の引き出しのサイズ選びです。

「収納用の引き出しを用途よりも深いものを選ぶ人が多いのですが、上に隙間ができてもったいないですよ。洋服を縦に並べて入れたときにピッタリとおさまる高さを選びましょう」(村上さん)

引き出しの中にデッドスペースができないように、例えば厚めのセーターや夫のボトムスやシーツなどのかさばるものなら36cm、靴下や下着ならば18cmなど、アイテムによって高さを変えることが必要だとのこと。引き出しの中にピッタリと服が入れば、整った印象になり洋服も選びやすいですね。

「収納ケースの選び方のポイントは収納ケースの高さと奥行きの使い方。押入れなどの奥行きがある場合は、収納ケースを前後で使うことをお勧めします。手前がシーズンのよく着る物、後ろを季節外のものにして前後で衣替えをしましょう」(村上さん)

畳んだ衣類を縦に入れてしまえば、洋服が一覧できて服選びが簡単に。高さが引き出しの高さに合っていて、デッドスペースができていないことにも注目(写真撮影/蜂谷智子)

畳んだ衣類を縦に入れてしまえば、洋服が一覧できて服選びが簡単に。高さが引き出しの高さに合っていて、デッドスペースができていないことにも注目(写真撮影/蜂谷智子)

ストール、マフラー類をしまう、ボックスのニ段活用術

冬になって増えてくるのが、ストール・マフラーなどの“巻物”類。ファッションに変化をつけるのに重宝しますが、案外使いたいときに見当たらないことが多いのではないでしょうか。そんな巻物を分かりやすく収納するのが、ボックス使い。シーズンオフのときはクローゼットの上の棚にしまって、出番が来たら箱ごと下に下ろし、出し入れする側を前に倒せば取り出しやすくなります。

「ソフトな箱型収納は、箱自体を折り畳んでしまえる優れもの。使わないときは小さく畳んでおきましょう。輸入家具店などで3つ1500円ぐらいで手に入ります」(村上さん)

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収納ボックスは軽くて取っ手つきで、厚い底がある。まとめやすく高い場所への上げ下ろしもしやすい(写真撮影/蜂谷智子)

収納ボックスは軽くて取っ手つきで、厚い底がある。まとめやすく高い場所への上げ下ろしもしやすい(写真撮影/蜂谷智子)

ニット類はシワにならず、型崩れしないハンガー使いがおすすめ

ニットはシワになりやすく、厚手のものはかさばってしまい、引き出しにしまいにくいもの。着用頻度の高いものはハンガーに掛けることも多いと思いますが、掛け方を間違うと伸びたり、跡がついたりしてしまいます。そこで村上さんが実践しているハンガーの使い方を教えていただきました。

「ハンガーは滑らないタイプのハンガーを使って、畳みながら掛けると跡がつきにくいですよ。ニットを毎回洗うのは手間ですが、着たものを引き出しにしまうのは抵抗があるものです。ハンガーに掛けておけば通気性もよく、お気に入りが見当たらなくなってしまうこともありません」(村上さん)

ニットは畳んでからハンガーに掛ければ肩が伸びることもない(写真撮影/蜂谷智子)

ニットは畳んでからハンガーに掛ければ肩が伸びることもない(写真撮影/蜂谷智子)

衣類を出し入れするのは毎日のことですから、できるだけ無理なく効率よく片付けしたいですね。村上さん流の収納術なら、生活動線や衣類のケアのことも考えられているので、スッキリと部屋が片付くだけでなく、毎日のおしゃれも楽しくなりそうです。厚着になっていく時期に備え、衣類の収納を見直してみませんか?

●取材協力
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夏休みがチャンス! 「小学生のうちに“片づけ力”を身につける」ススメ

夏休み突入! 子どもが家にいる時間が長いこの季節、子に毎日「片づけなさい!」と言いつつ、「何度言っても無理」と嘆いている親は多いのではないでしょうか。でも、もしかしたら、子どもは片づけ方が分からないのかもしれません。方法をきちんと知れば、自然と整理整頓ができるようになる子も多いはず。この夏休み、子どもが「片づけ力」を身につけられるように、一緒に考えてみませんか。
「片づけ力」がないと、損してばかりの人生に!?

今、片づけられない子どもが増えているそうです。現代は安価な物がいつでも手に入る「飽和・氾濫」の時代。子どもの持ち物も増加傾向にある一方で、共働き家庭の増加、塾や習い事などによる子どもの在宅時間の減少によって、子が親の片づけの様子を見たり、親が教えたりする機会が減っています。そのため、どう片づければいいのか知識も経験もないまま、「片づけられない化」するのだと考えられます。

2004年以降、小学5年生の家庭科で片づけ・整理の授業が行われるようになりましたが、教科書には数ページ程度しか掲載されておらず、子どもたちが自発的に片づけられるようになるかは、本人次第なのかもしれません。

では、大人になったら自然と片づけられるようになるかというと、片づけ下手な大人が大勢いることを見れば、答えは明らか。しかし、片づけられないまま人生を送ると、時間やお金を無駄にしてしまったり、心をすり減らしてしまうことがあります。探し物がいつまでも見つからない(時間損失)、見つからないので二度買いしてしまう(お金損失)、そんな状況にイライラがつのる(心の損失)となるわけです。日常生活にも仕事にも影響が生じます。

逆に、片づけができるようになれば、自分の持ち物を把握・管理することで、時間的、経済的、精神的な損失を回避でき、さらに、自分の思考や行動までも、きちんと整理することができるようになるのではないでしょうか。

片づけを夏休みの自由研究のテーマにしよう!

そうした状況を踏まえて、一般社団法人日本ライフオーガナイザー協会は、子どものうちから「片づけ力」を身につけることが大切であるとしています。日本ライフオーガナイザー協会とは、思考の整理から始めるコンサルティング型片づけのプロ「ライフオーガナイザー(R)」を育成する団体。「自分が大事にしたいものは何か、大事なものを選びとる・順番をつける、自分の時間を生み出すために片づける」という意識をもち、「使ったら元に戻す、ゴミはすぐに捨てる」といった行動を習慣化することが、現代社会をよりよく生きるために必要と提唱しています。

片づけ力を身につける手段として、同協会は「10歳からはじめるライフオーガナイズ・小学生のための楽しいかたづけ公式サイト」を立ち上げ、夏休みの自由研究のテーマとして片づけを学び、実践することを推奨しています。時間がたっぷりある夏休みに、宿題として片づけ研究をすることで、子どもが自身の部屋や生活を見直し、「片づけられない」を克服していく取り組みです。

子どもがすぐ取りかかれるように、サイト内の「自由研究の進め方」ページに、片づけ研究を進めるための手順が細かく書かれたワークシートが掲載されています。これに沿って進めていけば、片づけの研究・実践がしやすいつくりになっています。

・「ステップ1:書き出す」
 目標や困りごと、対象の場所などを具体的に洗い出します
・「ステップ2:片づける」
 対象場所の物を全て出し、好き・好きじゃない、よく使う・使わないなど、いくつかの要素別に分類します
・「ステップ3:まとめる」
 工夫したところ、実践して変わった内容などを、写真やイラストを添えて文書にまとめます

また、夏休み期間中には、子ども向けや親子参加型など、片づけの方法が分かるワークショップや講座を全国各地のライフオーガナイザーが開催しているそうなので、「子ども一人では難しそう」「親としてアドバイスできない」という場合は、片づけに取り掛かる前に参加してみるのもいいかもしれません。

「かたづけ自由研究ワークシート」を一部抜粋。箇条書きの項目に沿って進めていきます。詳しく知りたい人、実践したい人は「小学生のための楽しいかたづけ公式サイト」へ!(画像提供/日本ライフオーガナイザー協会)

「かたづけ自由研究ワークシート」を一部抜粋。箇条書きの項目に沿って進めていきます。詳しく知りたい人、実践したい人は「小学生のための楽しいかたづけ公式サイト」へ!(画像提供/日本ライフオーガナイザー協会)

「片づけ大賞・こども部門」で優秀な片づけキッズを発見!

この片づけ自由研究を行った子どもたちはどんな成果を上げたのでしょうか。「小学生のための楽しいかたづけ公式サイト」内の「みんなの自由研究」ページには、完成した片づけ自由研究レポートが掲載されているので、子どもたちがどんな風に取り組んだのか共有できるようになっています。

さらに、優秀な研究は、「片づけ大賞・こども部門」で表彰されます。
「片づけ大賞」とは、片づけや整理収納のアドバイザーとして活動しているプロたちがさまざまな事例を共有し、高度な片づけセオリーやスキルを讃える、年1回開催の大会(詳しくは昨年紹介した記事、発表! 「片づけ大賞2017」。片づけられない人の暮らしは、プロ技アドバイスでどう変わった?参照)。一般社団法人日本片づけ整理収納協議会が主催し、今年は8月22日に第5回が開かれる予定です。

片づけ大賞には、小学生対象の「こども部門」があり、応募されたもののなかから優秀な片づけ研究に対して入賞3人、佳作3人を表彰します。昨年の「片づけ大賞2017」の大会で、入賞した子どもたちが研究発表をしていましたが、大人顔負けの素晴らしい理論構築と実践内容で、来場者の注目を集めていました。

「片づけ大賞2017・こども部門」入賞者・佳作受賞者のみなさん(画像提供/JAPAN ORGANIZING AWARD 実行委員会事務局)

「片づけ大賞2017・こども部門」入賞者・佳作受賞者のみなさん(画像提供/JAPAN ORGANIZING AWARD 実行委員会事務局)

片づけ方法を知って、片づけられなかった子が激変!!

プロが絶賛した子どもたちの片づけ研究はどんな内容なのか、昨年入賞した3人の研究結果を例として紹介します。さらに、親がどうかかわったのか、親から見た片づけに取り組む子どもの様子や、実践後の変化についても聞きました。

「片づけとは、必要な物がすぐに取り出せる仕組みづくりだと気づきました」

●植田倫成さん(当時小学校5年生・東京都)

植田倫成さんの研究レポート。整理整頓できず物のあふれていた部屋が、最後にはスッキリ片づきました。気持ちいいですね(画像提供/JAPAN ORGANIZING AWARD実行委員会事務局)

植田倫成さんの研究レポート。整理整頓できず物のあふれていた部屋が、最後にはスッキリ片づきました。気持ちいいですね(画像提供/JAPAN ORGANIZING AWARD実行委員会事務局)

整理整頓が苦手で、物の要・不要の判別もできずに困っていたという植田倫成さん。趣味のプロ野球記事のスクラップをさくさくつくって管理したいという気持ちがきっかけとなり、片づけ研究をスタートさせました。以前は、記事を切り抜いてノートに貼る前にあちこちに置きっ放しにしてしまい、それが部屋の散らかる大きな要因となっていたのです。

きちんと分類整理されたスクラップブックの状態を目標とし、記事をためてから一気に貼るなど、自分がやりやすい作業プロセスを具体的に分析。出し入れしやすい収納位置や、収納物の量に合った収納用品を決め、ラベリングで一覧性を高めるなどして、家族にもスクラップに協力してもらいやすい工夫をしました。

物の分類や収納の仕組みづくりを通じて、「ただ元に戻すだけのことが片づけだと思っていましたが、本当の片づけというのは自分の暮らしに合った、物をしまいやすく取り出しやすい収納の仕組みづくりであると気づきました」との言葉通り、片づけのセオリーをしっかりつかんだようです。

左/昨年、研究発表をした際の倫成さん(画像提供/JAPAN ORGANIZING AWARD実行委員会事務局)、右/約11カ月後、たくさんの野球グッズが飾られた部屋の様子。切り抜きのファイルがピシッと整理されています(画像提供/植田洋子さん)

左/昨年、研究発表をした際の倫成さん(画像提供/JAPAN ORGANIZING AWARD実行委員会事務局)、右/約11カ月後、たくさんの野球グッズが飾られた部屋の様子。切り抜きのファイルがピシッと整理されています(画像提供/植田洋子さん)

母親の植田洋子さんに、お子さんの片づけへの取り組みについて聞きました。

――片づけに取り組む前のお子さんはどんな様子でしたか?
「物を手放すことが苦手で、使ったものを元に戻すことに対してもモチベーションがない状態でした。使ったら出しっぱなしということが多く、部屋はごちゃごちゃと散らかっていて、何がどこにあるのか分からず、よく探し物をしていました」

――片づけを実践するお子さんに対してアドバイスやサポートは?
「『何をしたくて片づけるのかを考えること』が大切であること、『選別→配置→維持』という順番通りに進めることなど、オーガナイズ(整理)の基本を伝えました」

――感心した点など、お子さんの片づけについてどう感じましたか?
「全部の物を出して要・不要など4つに分類するという、地味ながらも判断が求められる大変な作業を1人でやり遂げたことは頑張った!と思いました。私はその間、記念にと思って息子の様子をタイムラプス動画(コマ送り動画)で撮影していましたが、本人はYouTuber気分だったようです(笑)。どこに・何を・どうしまうかという、収納の仕組みづくりの段階では、困っていることは何か、どんな風に収納したいのかと私が質問する形で思考整理の手伝いをしました。息子なりにちゃんと仕組みを考え出して、それに沿った収納場所をつくった後は、片づいた状態をきちんと維持できるようになりました」

――お母さまご自身は、片づけにどう取り組んでいますか?
「『楽チンに片づけられる仕組みづくり』を意識しています。物を出し入れする際のアクション数を少なくし、短い動線で済む配置を考えています。『出したら戻す』が簡単にできるよう、戻しやすさを考え、もし戻しにくい物があれば、その都度、改善するようにしています」

――片づけの方法を小学生で学ぶことについて、どう考えますか?
「『自分は何が好きで、何を大切にしたいのか』をきちんと意識していないと、片づけることが難しくなってしまうと思います。『手放す力』も同時に身につけないと、物が潤沢にある現代では、物を管理できない人に……。物を片づける過程で思考も整理されていくという意味でも、高学年くらいから片づけを学ぶことが必要だと考えています」

――お子さんの意識や習慣はどう変わりましたか?
「息子は面倒くさがりの面があるので、率先して片づけるほうではありませんが、片づけの方法を学んだおかげで、作業を始めれば部屋をスッキリさせることができるようになりました。いざとなればできる子だと認識できたことはうれしかったですね。息子に『片づけなさい』と言うことも減りましたよ」

●「片づけとは、モノを通して考える力を身につけること」

寺嶋なるさん(当時小学校5年生・神奈川県)

分かりやすい研究レポートです。手伝いやすいように食器の分類整理を進めたという寺嶋なるさん。なんて親思いなんでしょう!(画像提供/JAPAN ORGANIZING AWARD実行委員会事務局)

分かりやすい研究レポートです。手伝いやすいように食器の分類整理を進めたという寺嶋なるさん。なんて親思いなんでしょう!(画像提供/JAPAN ORGANIZING AWARD実行委員会事務局)

普段からよく家事を手伝っているという寺嶋なるさん。手伝う際に食器棚の高い位置に手が届きにくく、食器の出し入れが思うようにできないことが悩みでした。それを解消するため、自分にとって取り出しやすくしまいやすい収納の仕組みを考えることに。

最初に食器の選別です。棚から全部出して次の4タイプに分類し、出し入れしやすい収納位置も考えました。
1.好きでよく使う物→一番使いやすい「ゴールデンゾーン」(パッと手が届く範囲)に
2.好きだけれど使わない物→どこかに飾る
3.好きではないが使う物→それなりに使いやすい場所に
4.好きではなく使わない物→捨てる
まさに整理収納のセオリー通り。棚板の高さも自分の手の届く高さに変え、引き出しの奥には物を入れないようにするなど、大人顔負けのアイデアです。小学生向けの片付け本が参考になったそう。真剣に考えた結果、本当の使いやすさが実感できるようになりました。

左/昨年、「使いやすく整えることができました」と研究発表をしたなるさん(画像提供/JAPAN ORGANIZING AWARD 実行委員会事務局)右/約11カ月後の現在、出し入れしやすくなった食器棚の前で(画像提供/寺嶋真弓さん)

左/昨年、「使いやすく整えることができました」と研究発表をしたなるさん(画像提供/JAPAN ORGANIZING AWARD 実行委員会事務局)右/約11カ月後の現在、出し入れしやすくなった食器棚の前で(画像提供/寺嶋真弓さん)

母親の寺嶋真弓さんに、お子さんの片づけへの取り組みについて聞きました。

――お子さんが片づけ自由研究に取り組むきっかけは、どんなことだったのでしょうか?
「母親である私自身、片づけられない人間で、ライフオーがナイザーさんに整理収納を依頼したのですが、それがきっかけとなりました。娘にもとても使いやすい収納になり、『私もやる!』という気持ちが芽生えたようです。家事の手伝いがはかどる収納づくりを夏休みの自由研究にしようということになりました」

――片づけを実践するお子さんに対してアドバイスやサポートは?
「小学生向けに書かれた片付け本を渡しました。食器の分類では、割れ物が多いので一緒に作業を進めました」

――感心した点など、お子さんの片づけについてどう感じましたか?
「『好き・好きではない』『使う・使わない』という観点で食器を仕分けした工夫に感心しました。また、以前から思考力がある娘だとは思っていましたが、物事に対してきちんと向き合って、深く考えるタイプなのだと改めて認識しました。受賞時、審査員の先生から『片づけとはモノを通して考える力を身につけることだと、なるさんの研究発表から学んだ』という言葉を頂きましたが、私も本当にそのとおりだなと思います」

――お母さまご自身は、片づけにどう取り組んでいますか?
「片づけが苦手なので、整理収納のプロに頼ることが多いですが、プロから学んで、できるようになった片づけ方法はきちんと実践して、維持するようにしています」

――片づけの方法を小学生で学ぶことについて、どう考えますか?
「小さいうちから学ぶことで、考える力が身につきますし、片づいた空間で過ごすことで、時間の管理もしっかりできるようになると思います。日常生活が快適になるので、学習など、やるべきことに向き合える余裕が生まれるのではないでしょうか」

――お子さんの意識や習慣はどう変わりましたか?
「よく家事をしてくれる娘でしたが、 さらに手伝ってくれるようになりました 本人が言うには『使いやすくなったら、手伝いを頼まれ過ぎ!』とのこと(笑)。実践後も片づけ習慣はきちんと身についています。また、娘は『片づけって素晴らしいことだよ!』とお友達に教えています。私も娘を見習って少しずつ片づけるようになりました。でも、娘のほうが上手ですね(笑)」

●「片づけられない人に、片づけにはたくさんのいいことがある!と伝えたい」
横田万葉さん(当時小学校4年生・兵庫県)

横田万葉さんの研究結果をまとめたレポートはスッキリ読みやすいつくり。たくさんの気づきがあったようです(画像提供/JAPAN ORGANIZING AWARD実行委員会事務局)

横田万葉さんの研究結果をまとめたレポートはスッキリ読みやすいつくり。たくさんの気づきがあったようです(画像提供/JAPAN ORGANIZING AWARD実行委員会事務局)

散らかった自分の部屋で、なくしてはいけない大切な物がなくなってしまったことがきっかけで、1年という長い時間をかけて片づけに取り組んだ横田万葉さん。「なぜ物をなくすんだろう」と自分と向き合い、変わりたい、変えたいと強く願うようになったそう。

そして、片づけを進めていくうちにさまざまな発見をするように。「ぎゅうぎゅうに入れるのはダメ」「その物を好きと思う気持ちは、変わることと変わらないことがある。だからすぐ決めなくて良い、ゆっくりでいい」「迷う物は戻さないほうが良い」「どよんと淀んでいた部屋が、片づけていくうちにピカピカに見えるようになった」「1年前の私のように片づけられない人には、手を動かしていくといっぱいいいことがあると伝えたい」……。万葉さんの口から、まるで片づけセオリー本に書かれているような心に響く言葉がたくさん飛び出してきました。たくさんの「気づき」によって、大きく成長したのですね。

左/昨年、笑顔で元気に発表した万葉さん(画像提供/JAPAN ORGANIZING AWARD実行委員会事務局)、右/約11カ月後に自室にて。女の子らしい可愛いインテリアの部屋です(画像提供/横田ちひろさん)

左/昨年、笑顔で元気に発表した万葉さん(画像提供/JAPAN ORGANIZING AWARD実行委員会事務局)、右/約11カ月後に自室にて。女の子らしい可愛いインテリアの部屋です(画像提供/横田ちひろさん)

母親の横田ちひろさんに、お子さんの片づけへの取り組みについて聞きました。

――片づけに取り組む前のお子さんはどんな様子でしたか?
「片づけは親まかせでした。片づけ習慣を身につけてほしいので、娘には、幼稚園のころからキラキラシールなど、お気に入りや宝物を自分で工夫して引き出しにしまうよう働きかけていましたが、それ以外の片づけにはまったく興味を持っていませんでした。大切な物をなくしてしまったことで、ひとつひとつの物に目を向ける大切さに気づき、物が散乱した部屋ではそれが難しいために、部屋の片づけを決意したようです」

――片づけを実践するお子さんに対してアドバイスやサポートは?
「まずは、宝物コーナーなど、やりやすい場所から始めることを勧めてみました。1.宝物の入った箱から中身を出す →2.好き・必要な物を選ぶ →3.使いやすいように収納するという3点に絞って片づけ方法を伝えました。何度か一緒に片づけることで次第にコツをつかんで、1年後には自分で全てを行うようになりました」

――感心した点など、お子さんの片づけについてどう感じましたか?
「1年経って、娘が発するようになった言葉に驚きました。『誰かに言われた方法ではなく、私は私が好きな方法で片づけたい』『いるかいらないか、すぐに決めなくてもいい』など、人任せだった片づけを自分のこととして捉え、自分なりの工夫をするようになって、その大きな変化に頼もしさを感じました。自我が目覚める年ごろとタイミングが重なったことも影響したのかもしれません」

――お母さまご自身は、片づけにどう取り組んでいますか?
「心地よいと感じる片づけ方は人それぞれだと思うので、片づけにおいては自分も家族もそれぞれを尊重するようにしています。個室や個々人のコーナーは家族であっても口出しをせず、共用部分はそれぞれが気持ちよく過ごせるように家族で話し合うようにしています」

――片づけの方法を小学生で学ぶことについて、どう考えますか?
「成長していくにつれて、多くの場面で選択する事柄が生じると思いますが、小さいころから片づけを通じて、自分にとって何が大切で、何を選ぶのかと考える習慣が身につくのはとても良いことだと思います。娘にも自分自身で良いと思う生き方を選んでいってほしいですね」

――お子さんの意識や習慣はどう変わりましたか?
「1年にも及ぶ片づけを体験し、賞まで頂けたことで自信がついたようです。自分だけの部屋を欲しがって、個室で過ごすようになってからは、ますます片づけの仕組みづくりを試行錯誤しながら、あれこれ工夫しています。そんな娘の成長に影響されて、私も自分自身について考える機会が増えました」

紹介した3人のうち2人はもともと片づけが苦手で、整理収納に目覚めるまでは散らかった自室を持て余している状態でした。片づけの方法を体系立てて学ぶことで、180度とも言えるほど大きな意識の変化が生じました。そして、自分で考えた片づけの仕組みづくりを実践し、経験を積んでいくことで、すっかり片づけ上手に。

子どもだから片づけをサポートしなくてはと親が思っていても、子ども自身が有効な方法を考え、自発的に実践しない限り、片づけられる子にはなれないのかもしれません。でも、今回紹介したように、片づけのワークシート、ワークショップや講習会、小学生向けの片づけ本などで、考え方・実践方法を知ることができれば、3人のようなスーパー片づけキッズになれる可能性は大きいと感じました。

この夏休み、片づけを自由研究のテーマに取り組むのは、お子さんの人生にとって非常に有意義なことだと思います。ぜひチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

●参考
・小学生のための楽しいかたづけ公式サイト
・「片づけ大賞・こども部門」応募要項
(「片づけ大賞2018・こども部門」の応募締め切り:7月31日必着)●取材協力
・JAPAN ORGANIZING AWARD 実行委員会事務局
・一般社団法人日本ライフオーガナイザー協会

激狭ワンルームなのに満足? 東京・6畳以下の賃貸で暮らす若者の生活をのぞいてみた

世の中には風呂なしトイレ共同や4畳半ワンルームなど、いわゆる狭小物件がたくさんあります。ひと昔前であれば、苦労人の貧乏暮らしを真っ先に思い浮かべるところですが、最近は少し事情が違うようです。あえて激狭ワンルームを選んで、充実した暮らしをしている人がいるとしたら……ちょっと生活をのぞいてみたくなりませんか?
衝撃の事実!狭小といえば10平米以下が当たり前?

「え、15平米もあっていいの?」これは狭小物件で暮らす人を探すべく、東京都を中心に家賃6万円以下の賃貸物件を専門とする「部屋まる。(株式会社城南コミュニティ)」に問い合わせた際、狭小物件の定義を伝えたあとの一言です。

対応してくれたのは、代表取締役の並河 宏明(なみかわ ひろあき)さん。いわく、「東京で家賃6万円以下の賃貸物件だと、15平米というのは普通です。もちろん狭いことは確かですが、ひとり暮らしなら極端に窮屈ということもないと思います。当社で扱っている物件で狭小と言えば、やはり10平米以下ですね」とのこと。驚きです。(1畳で1.62平米なので、10平米といえば、6.1畳、しかもトイレ・お風呂まで入れての広さです!)

「布団を敷くので精一杯というような狭小物件でも、自発的に選択する人は増えています。ここ5~10年くらいで狭小の新築物件自体も増え、選択肢も多くなりました。人気エリアの駅近で、部屋もキレイだけど、狭いから比較的家賃が安いという物件も探すと結構見つかります。昔は多かった“古い畳敷きの四畳半”のような狭小物件とは、だいぶ印象が違うと思いますよ」と並河さん。

では実際に狭小物件を選んだ人たちは、どんな暮らしをしているのでしょうか。2つの激狭ワンルームに突撃してきました。

取材の前情報として入手した激狭ワンルームの間取図。Naotoさんの部屋《左》、Emiさんの部屋《右》(画像提供/株式会社城南コミュニティ)

取材の前情報として入手した激狭ワンルームの間取図。Naotoさんの部屋《左》、Emiさんの部屋《右》(画像提供/株式会社城南コミュニティ)

【CASE1】ミニマリストに憧れて、物をごっそり処分しました-Naotoさん(20代男性)

1件目は東急東横線の某駅より徒歩3分ほどにお住まいのNaotoさん。玄関が開いて、部屋の中が見えた瞬間、その狭さに驚きのあまり、うっかり自己紹介を忘れたほどです(あとで気づいて名刺を渡しました)。両腕を伸ばしたら左右の壁に手が届きそう……なぜ、このような激狭ワンルームを選んだのでしょうか。

「以前暮らしていた昭島市からは職場が遠く、通勤負担が大きかったので、仕事の都合で都心方面へのアクセスが良い場所を選びました。狭い部屋を選んだというより、東横線沿線でこれだけ駅近だと家賃が高いので、結果的に狭くなったのですが、さほど不便は感じていません。この立地条件で家賃が約5万円ですから、破格だと思います」とサッパリとした様子のNaotoさん。

そういえば部屋もサッパリしています。そう、物がないんです。冷蔵庫すら置いていません。「昭島では2DKの部屋を弟とシェアしていたので、それなりに物もありました。でも1年ぐらい前にミニマリストの本を読んで感銘を受けたこともあって、この部屋に引越すときにごっそり処分しました。おかげで気分もスッキリしましたよ」とNaotoさん。物への執着をあっさり断ち切る潔さに脱帽です。

「外に出かけることが多く、食事も外食中心なので、この部屋は基本的にお風呂に入って寝るだけ。だから布団が敷けるだけの広さで十分なんです。以前は紙の本も結構持っていたのですが、今はすべてスマートフォンの電子書籍です。テレビもネットもスマホひとつで事足りますし、スマホケースにカードや部屋の鍵なども収納しているので、お財布も持ち歩かなくなりました」ミニマリストぶりが板についています。

物が置けない狭小物件を選んだことで、部屋の中で無為に時間をつぶすことなく、アクティブに暮らしているNaotoさん。家に居る時間が少ない人、趣味にお金をかけたい人にぴったりのライフスタイルかもしれませんね。

専有面積10.00平米の部屋は布団を敷くだけでいっぱい一杯の狭さ。「さすがにスマホがなければ今の暮らしは成立していませんね」とNaotoさん(写真撮影/宮崎 林太郎)

専有面積10.00平米の部屋は布団を敷くだけでいっぱい一杯の狭さ。「さすがにスマホがなければ今の暮らしは成立していませんね」とNaotoさん(写真撮影/宮崎 林太郎)

【CASE2】狭さにさえ慣れれば、掃除や引越しがラクになります-Emiさん(20代女性)

次に訪ねたのは、京王線「笹塚」駅から徒歩8分の賃貸アパートでひとり暮らしをするEmiさん。招き入れられた玄関から見えた部屋は、やはり狭い!専有面積9.67平米はダテではありません。

「狭いですよね。人気物件らしく、内覧をせずに即決したので、最初は失敗したかなと思いました」と笑顔で話すEmiさん。「でも私は油断するとすぐに物が増えるので、今は物が置けないから増やせない環境は結果オーライ。家に居るより仕事などで外にいる時間のほうが長いので、意外と部屋が狭いこと自体を不便に感じることもないですね。家賃も安いので、特に節約しなくても毎月一定の貯金もできています」

以前は板橋区の大山で、狭小ながらロフト付の部屋に暮らしていたというEmiさん。街並みや商店街の雰囲気も気に入っており、家賃は5万円強の現在よりさらに安い4万円台。にもかかわらず引越したのはなぜなのか、「渋谷に住んでいますって言ってみたくて」と冗談めかすも、理由はそれだけではありません。

「私はとにかく、いろんな経験をしたい性格なんです。高校では建築を勉強し、専門学校では特殊メイクを学びました。その後テレビ局で映像制作に携わり、現在の職場では建築デザインのスキルを磨いています。それは住む場所も同じで、そのうち居住地として東京23区を制覇してみたいなと思っています。次は足立区の綾瀬あたりを考えています」とEmiさん。表情がいきいきとしています。

気軽に住み替えができるのは賃貸の良さですね。そもそも置けるものが少ない狭小物件なら、引越しの荷物をまとめるのも楽そうです。「狭いと普段の掃除もラクで良いですよ。私は掃除し始めると窓枠とか細かいところまでキレイにしたくなるので、広かったらとても手が回りません」

一つ所に留まるより、定期的に環境を変えたい人は、コンパクトな賃貸物件で、持ち物と家賃を抑えた身軽な生活をしてみると、意外としっくりくるかもしれません。

ラックが置かれた廊下は人ひとり通るのがやっと《左》。2人向かい合うだけでも狭いのに、「以前3人の友人が泊まりに来て、4人で川の字になって寝ました」と笑うEmiさん。おそるべし《右》(写真撮影/宮崎 林太郎)

ラックが置かれた廊下は人ひとり通るのがやっと《左》。2人向かい合うだけでも狭いのに、「以前3人の友人が泊まりに来て、4人で川の字になって寝ました」と笑うEmiさん。おそるべし《右》(写真撮影/宮崎 林太郎)

狙い目は杉並区!賃貸は予算内で70点の部屋を探すのがコツ

部屋が狭いことをメリットと捉える人がいることは分かりました。では実際に狭小物件を探す際、狙い目のエリアはどこなのでしょうか。改めて並河さん(株式会社城南コミュニティ)に聞いてみました。

「杉並区と中野区、それから板橋区などはコンパクトな物件自体が多いので、いい物件も見つけやすいと思います。特に杉並区はJR中央線と東京メトロ丸ノ内線の間や、西武新宿線の沿線に新しいコンパクト賃貸物件が多く、競争が激しいので、設備仕様や立地条件のわりに家賃が安い物件を探しやすいのではないでしょうか」

中央線や丸ノ内線は「新宿」駅をはじめ複数のターミナル駅に直通アクセスできるので、交通利便もよさそうですね。しかしあえて狭小物件を選ぶ人がいる一方、予算やライフスタイルの都合で部屋の広さを妥協しなければならない人も多くいるはず。そういった人たちへ部屋探しのアドバイスなどはありますか。

「100点満点の部屋を探そうとすると、もっと広い部屋、もっとたくさんの収納など、要求がエスカレートして歯止めが利かなくなりやすいので、70点くらいの部屋を探すことをおすすめしています。特に仕事や趣味などで外に活動基盤をもち、アクティブな生活をしている方々は家に居る時間も短く、部屋の広さはさほど重要ではなかったということも多いですね」

「立地条件や設備仕様が同じであれば、基本的に部屋が狭いほうが家賃は安いので、暮らしやすさを求めていくなかで予算を抑えるには、検討する部屋の面積を狭くするのが一番簡単です。賃貸は住み替えがしやすいことがメリットですが、いざ失敗したとき、家賃が高いより安いほうが、その後の身動きがとりやすいですから」

「あとはメリットより、デメリットをしっかりと把握することも大切です。物件スペックはインターネットで簡単に検索できますが、実際に暮らした方の感想やオーナーさんの人柄など、広告に載っている情報だけでは見えないこともたくさんあります。そのため、私たちは必ず部屋探しをする方から対面で話を聞き、人柄やライフスタイルを把握したうえで、オーナーさんとの橋渡しも含めて物件を紹介することを意識しています」

「住まいは暮らしの重要な要素ですが、すべてではありませんので、日々の生活をトータルで考えた部屋選びが大切です」と語る並河さん(写真撮影/宮崎 林太郎)

「住まいは暮らしの重要な要素ですが、すべてではありませんので、日々の生活をトータルで考えた部屋選びが大切です」と語る並河さん(写真撮影/宮崎 林太郎)

インターネットの発達により自由に情報が引き出せる現在、たくさんの人が新しい暮らし方や考え方を知る機会が増えています。その結果、多様化するライフスタイルのなかで、狭小物件に対する認識も変わり始めているようです。家は体を休める場所と割り切り、暮らしやすい立地だけど家賃の安い激狭ワンルームで暮らしながら、趣味や夢にお金をかけることもまた、心豊かに暮らすための、ひとつの答えかもしれません。

●取材協力
・東京6万円以下の専門店【部屋まる。目黒本店】(運営/株式会社城南コミュニティ)

実家がゴミ屋敷になったら…あなたはどうする?  “汚屋敷育ちの娘”が得た教訓とは

時折ニュースでも話題となるゴミ屋敷問題。他人事としてテレビで眺めていられるうちは気楽なものですが、いざ身近にゴミ屋敷があったら大問題。隣近所、あるいは実家がゴミ屋敷と化したとき、あなたは冷静に対処できますか?ゴミ屋敷に住む母と奮闘するコミックエッセイ『母は汚屋敷住人』(実業之日本社)の著者・高嶋あがささんに、その凄絶な日々と経験から得た片付けの極意を語ってもらいました。
家族もお手上げ~主がいる限り何度でもよみがえる汚屋敷の恐怖~

――ゴミ屋敷で想像するのは行政命令による行政代執行(※1)の様子と、廃棄にあらがう住人の姿です。家族や近隣の住民は苦労しているんだろうなと思うものの、どこかテレビの向こうの話で現実感がないという人が大半だと思います。高嶋さんの著書内でも、家をゴミ屋敷にしてしまう人の家族がどれほど苦しんでいるか、切実な訴えでもなかなか理解してもらえないと書かれています。

※1. 国や自治体などの行政機関の命令(ゴミの処理など)に従わない人に対し、その本人に代わって行政機関側が強制的に撤去や排除をすること

高嶋さん 日本ではあまりゴミ屋敷の内情や、そこで生まれ育った子ども、一緒に生活している家族の様子って公にされないので、実態がなかなか伝わらないんですよね。そんな大げさなって。ゴミ屋敷本もどちらかと言えば、掃除代行業者の人が書いていたりしますが、実際にゴミ屋敷で暮らす家族サイドから発信されたものってほとんどないんです。実際に『母は汚屋敷住人』に対する反響なんかを見ると、同じように悩んでいる人は想像以上に多いんだなと気づかされました。

――かくいう私も部屋を散らかしがちなのですが、『母は汚屋敷住人』に描かれている生活は想像の範疇(はんちゅう)をはるかに超えていたので、読んでいて戦慄(せんりつ)が走りました。

高嶋さん 母も年を取ったので、今でこそ多少パワーは落ちましたが、怒ると手が付けられなくて本当に怖いんです。目をカッと見開いて、「人のものを勝手に捨てるんじゃない!!」って。新しい物を買ったら、もう使えなくなったもの、古くなったものは捨てるっていう概念が存在しないんです。尋常じゃない雰囲気ですごまれるともう何も言えなくなってしまいます。

「捨てる」というワードに過敏に反応する汚屋敷の主(C)実業之日本社/「母は汚屋敷住人」高嶋あがさ(画像提供/高嶋あがささん)

「捨てる」というワードに過敏に反応する汚屋敷の主(C)実業之日本社/「母は汚屋敷住人」高嶋あがさ(画像提供/高嶋あがささん)

――それでも一度は、その壮絶な汚屋敷の片付けに乗り出したんですよね。母親に悟られないようにゴミを捨てて捨てて捨てまくったものの、ついにばれて撤退。やがてたどり着いた「母は片付けられないのではなく、片付けたくないのだ」という結論には、長年の苦悩に対する諦観の念がにじみ出ています。

高嶋さん そのころ、ひとり暮らしをしていたのですが、経済的な事情と、ちょうど東日本大震災のあとということもあり、古い一軒家に母を一人にしておくのは心配という気持ちもあって実家で暮らすことに決めました。しばらく実家を離れていたので、ゴミ屋敷の記憶が薄れていたんですね。想像以上の物量で、引越しの荷物が入りきらない状態でしたから。そこからは『母は汚屋敷住人』に書いたとおり、母の目を盗んではひたすらゴミと格闘する日々です。

読者の方から「結局片付いてないじゃん」という突っ込みもありましたね。はたから見ると投げやりに思えるかもしれませんが、結局どれだけ片付けても、母がいる限り片付けは妨害されるし物は増え続けるので、家を掃除するどころではなく心身ともに疲弊しきってしまうんです。それでうつになる人も多いそうですよ。

私は「片付けられない人」について、海外の論文まで含めて調べていくうちに、母がいなくなるまでどうにもならないという結論に至りました。もちろん、なんとかしたいという気持ちもありますが、今はなるべく距離を置くようにしています 。ここまで来ると心が病む前に自分で予防線を張るしかないですから。

2年に及ぶ汚屋敷との闘いの果てに得た結論は悲哀に満ちて・・・(C)実業之日本社/「母は汚屋敷住人」高嶋あがさ(画像提供/高嶋あがささん)

2年に及ぶ汚屋敷との闘いの果てに得た結論は悲哀に満ちて・・・(C)実業之日本社/「母は汚屋敷住人」高嶋あがさ(画像提供/高嶋あがささん)

引越すたびにゴミ捨てだけで数百万円!?驚愕の汚屋敷遍歴

――高嶋さんはご自身を汚屋敷育ちの娘と表現していますが、実際にはいつごろからゴミ屋敷だったのでしょうか。また、自分の家が一般的な家庭と違うということに、いつごろ気が付いたのでしょうか。

高嶋さん 両親は新婚当時、父の仕事の都合で海外で暮らしていたんです。私が生まれたのも海外暮らしの最中です。その当時は家にお手伝いさんがいたので、母の壊滅的な家事能力のなさは露見していなかったそうです。朝晩の食事は料理好きの父がつくっていましたし、私の食事も母乳や離乳食で済んでいましたから。

しかし私が幼稚園児のころに母が弟を身ごもり、さすがに子ども2人を海外で育て続けるのは大変だろうという判断で日本に戻ってきたそうです。社会的にファミリーファーストの文化が根付いている海外と違って、当時の日本では、まだ深夜残業や休日出勤は当たり前でした。父が家にいられる時間が少なくなったこともあり、母が「物をため込む」「掃除をしない」という状態が続き、家の中はゴミだらけでひどい有様でしたね。

当時住んでいた団地は購入したものかと思ってたんですが、実は叔母に借りていたそうです。借りている家をよくもあそこまで汚く使えたものだなと唖然としましたね。その後、より都心に近い一軒家に引越したんですが、団地を引き払うときにゴミ捨ての費用だけで数十万円かかったそうです。

そんなわが家の惨状に気付いたのは、小学校に入学して比較的早い段階でしたね。女の子って成長が早いので、そのころからお互いの家に呼び合うんですよ。「○○ちゃん、次はうちね」みたいに。でもあるとき、ふとわが家には呼べないと気付きました。友だちの家に行くと、みんなどこを見てもキレイで。これはわが家がとてつもなく異常なんだなと思いましたね。

――弟さんいわく、高嶋さんは姉というより同じ汚屋敷で生き抜いた戦友とのことですが。

高嶋さん あの家でご飯を食べたくないという思いは同じでした。母の料理がまずい以上に、あの汚い台所でつくった食べ物を口にしたくなかったんです。私は塾やバイトで家にいないことも多く、大学に入学してからはルームシェアを経てひとり暮らしをしているので、歳が離れていることもあって弟と接する時間はあまりありませんでした。

弟はそのころが一番悲惨で、目が死んでいましたね。団地で暮らしていたころ、弟はかわるがわる友人の家に遊びに行っては食事をごちそうになっていたのですが、引越しでそのネットワークが使えなくなったんです。当時はまだ携帯電話もなく、友だちの家も子どもの足で通える距離ではなくなってしまいましたから。それからは給食だけで食いつないでいたので、夏休みなどは冗談抜きに餓死寸前まで追い込まれたそうです。

――今なら児童保護の対象になりそうなものですが……

高嶋さん 保護してもらえればよかったですが、ゴミ屋敷もネグレクトも当時はまだあまり知られていませんでした。保護された子どもの境遇なんかを見ると、保護される前の環境は本当に悲惨。それに比べればわが家はまだマシだと思えますから、保護の優先順位を考えれば、今の時代でも私たちが保護してもらうのは難しいんじゃないでしょうか。

もっとも、最終的には母と別居することを決めた父と一緒に、弟も汚屋敷を脱出しています。汚屋敷育ちの反動からか、今では大のキレイ好きになっていますよ。自分の荷物をまとめたら段ボール3箱で収まると言っていました。

――三つ子の魂百までとも言いますが、大人になっても片付けの習慣は身に付くのですね。

高嶋さん 親が片付けられないと、高確率で子どもも片付けられない大人になるという統計データがあるそうです。私も物は捨てられるのですが整理整頓はあまり得意ではないので、いつか母のようになってしまうのではと恐れていました。母が汚屋敷住人となった年齢を通り過ぎて、思ったより自分はひどくないなと思えたとき、気持ちが少しだけ楽になりました。

初めてルームシェアをしたときは片付けや掃除の頻度が分からなくて、同居人に注意されたりもしました。いろんな片付けのノウハウ本や、片付けエッセイも読みましたが、掃除の仕方は書いてあっても頻度とか汚れの目安ってアバウトなんですよね。

『母は汚屋敷住人』を描いてからは、片付けられない悩みを相談されることもあるのですが、「物が腐ってなければ大丈夫。片付けたいと思えるなら大丈夫」と言っています。それから、家をきれいに保つには第三者の目が大事ですね。頻繁に来客があると、やっぱり片付けなければという気持ちになります。

同じ境遇で頑張っている人がいると分かるだけでも気持ちは和らぎます。私も汚屋敷で暮らす家族を取り上げるアメリカのドキュメンタリー番組や、インターネットの片付けサイトや掲示板のコメントに励まされました。心のよりどころを見つけるのも、片付けを継続するためのポイントかもしれません。

自分と同じように苦しい思いをしている人がいると知るだけで、心が救われることもある(C)実業之日本社/「母は汚屋敷住人」高嶋あがさ(画像提供/高嶋あがささん)

自分と同じように苦しい思いをしている人がいると知るだけで、心が救われることもある(C)実業之日本社/「母は汚屋敷住人」高嶋あがさ(画像提供/高嶋あがささん)

汚屋敷育ちの娘がたどり着いた片付けの極意

――実家の片付けに挑んで約2年、断念しながらも得た教訓などがあれば教えてください。

高嶋さん 部屋の広い狭いにかかわらず、汚屋敷住人の多くは物を目いっぱいため込んでしまうそうです。知人はあえて狭い部屋に引越して、溜め込める量を減らしたそうで、全部捨てても30万~40万円で済むだろうと言ってました。我が家の場合は確実に1桁増えるでしょうね。

日本では財産権の都合で、どんなにゴミとしか思えないものであっても、持ち主が所有権を主張する限り、たとえ家族でも勝手に捨てたら犯罪ですから、私のように隠れて捨てていたことがばれて、弁護士に相談されたら法律上は私が有罪になってしまうんです。

そんなリスクを背負ってまで手間暇かけてコツコツ片付けても、それに倍する速度で物が増え、しかも処分する度に必要経費を負担していては経済的に立ち行かなくなってしまいます。それに狭い部屋に引越したら、一軒家の処理と引越し代に加えて、確実に汚屋敷化する引越し先もお金をかけて処分することになりますよね。それなら住民が不在になってから一括で処理してしまう方が負担は少ないですよね。

インターネットがなければ、「母は片付けたくない人なんだ」という結論にたどり着くこともなく、心身ともに擦り切れていたんじゃないかなと思います。実家を離れた今でも、当時の汚屋敷の写真を自分への戒めとして時々見返しています。

なかなか私の実家ほど汚くすることはできないですが、整理整頓が苦手な人は収納に要注意です。隠れ汚屋敷や汚屋敷予備軍は意外と多いらしいので。よく片付けのノウハウ本に書かれているとおり、見えない物は無いのと一緒というのは本当にそのとおりで、母も普段は見える部分しか意識していませんでした。汚屋敷を片付けていたときも収納の奥から片付けていくことで、しばらくはゴミ捨てがはかどりましたから。

――裏を返すと奥行きがあったり、引き出しが深くて物を積み上げられるような収納は不要な物をためこむ原因になるということですね。物が隠れて見えなくなったら危険信号と覚えておきます。

それからマンションやアパートでも共用廊下に物を置いてある家はゴミ屋敷の可能性が高いそうです。私も整理整頓が得意ではないので、自分で管理できるキャパシティを把握するまでに、引越しては物を処分するを繰り返しました。

――まずは、どれくらいの広さの部屋で、どれくらいの物量までなら自分で片付けきれるのかを把握することが大切なんですね。「片付けたい」という思いを「片付けよう」という意志に置き換えるだけで部屋はキレイに保つことができるのかもしれませんね。

「ちなみに祖母の家を片付けた際には、田舎ということもあり、大量の家具などを外で燃やしました。東京だと無理ですよね」と苦笑する高嶋さん。ワイルドですね……(C)実業之日本社/「母は汚屋敷住人」高嶋あがさ(画像提供/高嶋あがささん)

「ちなみに祖母の家を片付けた際には、田舎ということもあり、大量の家具などを外で燃やしました。東京だと無理ですよね」と苦笑する高嶋さん。ワイルドですね……(C)実業之日本社/「母は汚屋敷住人」高嶋あがさ(画像提供/高嶋あがささん)

『母は汚屋敷住人』を読むと、片付けたい以上に片付けねばという危機感に襲われます。同時に、「片付けが苦手な自分でもできるかもしれない」という勇気も湧いてきます。不要な物やゴミをため込む前にコツコツ片付けることが、部屋をキレイに保つ一番の近道なのかもしれません。片付けや整理整頓が苦手な人も、「片付けたいと思えるなら大丈夫」を合言葉に、キレイ好きを目指してみませんか?

●取材協力
・高嶋あがさ氏
・実業之日本社

『モノのために家賃を払うな! 』の著者に聞く、片付けられないスパイラルから脱出する方法

モノが増えて部屋が手狭に感じるようになると、「もっと広い部屋に、もっと収納力のある家に引越したい」と考えるようになりますよね。でも、よくよく考えたら、モノのために家賃を払っているようなものだとは思いませんか? そこで『モノのために家賃を払うな!』の著者であるあらかわ菜美さんに、脳を活かして片付けられる回路をつくるコツをうかがいました。
モノを置くスペースに家賃を払うってバカバカしい!

なぜ人は広い家に住みたいと思うのでしょう? そう考えるのは、たくさんモノを持っているからかもしれません。しかし、本当の豊かさや暮らしのグレードを決めるのは、モノの多さや部屋数の多い家に住むことではなく、「いかにスペースをつくるか、そして落ち着いた空間で暮らせるか」だとあらかわ先生は話します。

――モノに家賃を払うのがバカバカしい! と感じるようになったきっかけはありますか?

「スペース」をはっきりと意識するようになったきっかけは、子どもたちが独立したことを機に駅の近くに引越したことですね。実際に駅からゼロ分のところに住んでみると、生活スタイルも変わってきました。あたらしい目標ができ、自宅でギターを教えたいと思うようになったんです。でも、教室として使うための部屋はありません。

見渡してみるとダイニングテーブルに椅子4つ、大きな茶だんすもありました。子どもが独立して夫婦2人だけの生活には、大きなテーブルは必要ありませんよね。そこで思い切ってそれまで使っていたモノを処分して、必要以上に大きな家具は小さなものに替えました。

部屋には2人用のテーブルと椅子、そして腰の高さくらいのチェストが1つ。そのなかに、食器も仕事で使う書類も全て収納するようにしました。すると、部屋がものすごく広く感じるんです。ちょうど目の高さのところはすべて抜けていて、遮るものが何もないので、奥行きがあります。リラックスできる快適な空間ができあがりました。

スペースはモノを置くための場所ではなく、落ち着いて暮らせる空間。そしてそこで過ごす目に見えない時間こそが私が家に求めるものであり、モノに縛られずに暮らせる真の豊かさだと思うのです。

“モノ”にいくら家賃を払っているか、試算してみよう

――ご著書の中で“空間は道具”という言葉が大変興味深かったのですが、どのようなお考えか教えてください。

モノを置くには空間が必要です。例えばコップ。コップに水が入れられるのは空間があるからで、いっぱいに満たされていてはそれ以上水を汲むことはできません。タンスだってそうです。モノをしまえるのはそこに空間があるからです。だから私は“空間は道具”であるという考え方を持っています。

それは、部屋も同じ。人が快適に暮らしていくには、ストレスなく動くことができ、ゆったりとくつろぐための空間が必要です。しかし、モノを置けば置くほど、空間は埋まってしまいます。

実際に下記の計算式を使って、今部屋にあるモノのためにどのくらいの家賃がかかっているかを見える化してみてください。何年もモノのために払い続けている金額を知ったら、愕然とするかもしれません。

(STEP1)1平米当たりの家賃を割り出す
[家賃(円)]÷[住まいの広さ(平米)]=[1平米当たりの家賃(円)]

(STEP2)[モノのあるスペース]が何平米あるか概算する

(STEP3)[モノのあるスペース(平米)]×[1平米当たりの家賃(円)]⇒[モノに支払っている家賃(円)]

使わないモノであふれた家から脱却するには?

――具体的にモノを減らしていくにはどのようなことを心がければよいでしょう?

私が普段心がけているのは、いかに空間をつくるかということです。ですから、どれだけの数のものを捨てたのか、ということはあまり重要ではありません。

スペースをつくるためには、大きなものから処分するのが効率的。でも、モノを減らさなければならないと考えると、なかなか思い切れず、手放せないという人もいらっしゃるでしょう。そうではなく、まずは“1/3のスペースを空ける”ことを心がけましょう。1/3の余裕があると、モノの出し入れがスムーズになりますし、新たなモノを置くスペースもできるので、毎日の動作が快適になります。そのための手段として、必然的に処分するモノが出てくると考えてみてください。

手放していいものかどうか迷う場合は、とりあえずひとまとめにして袋に入れて、スペースを空ければいいだけです。私も迷ったものは“迷い袋”にまとめていて、後でゆっくり考えて、いらないと思えば処分する。一つひとつをどうしようか考えていては、1/3のスペースはなかなかつくれるものではありません。

インタビュー中、空間の重要性について熱く語るあらかわ菜美先生(画像撮影/スパルタデザイン)

インタビュー中、空間の重要性について熱く語るあらかわ菜美先生(画像撮影/スパルタデザイン)

スッキリ暮らす生活を持続するには?

――せっかく空けた1/3のスペースも、日常生活を送りながら持続するのは難しいように感じます。これを維持するにはどうすればよいのでしょうか。

せっかく快適な空間をつくっても、気がつけばすぐモノで埋まってしまい、いつの間にかいっぱいになっているという経験を誰もがおもちでしょう。でも、私はそれでいいと思います。気がついたらまた1/3を空ければ良いのです。繰り返すうちに、スペースのあることの快適さ、いっぱいにしてしまうといかに使いにくいかに気づくでしょう。そうすると、モノを詰めることが嫌になってくるはずです。

例えば「子どもが小さいころ、このまな板でじゃがいもを切ってカレーをつくったな」といった愛着のあるモノたちにも、もう十分使ったなと思えるときがやってきます。「今までありがとう」という気持ちでお別れするのです。そうやってモノを処分してスペースができたときのスッキリ感は格別ですよ。

何もないところから本当に必要なものは何なのか、生活を見直すことは自分のクセを見直すようなもの。きちんと向き合うことで、モノのために自分を苦しませたくないという気持ち、ひいては自分を愛する気持ちにも通じると考えています。

1/3の空間は幸せを呼ぶ(写真/PIXTA)

1/3の空間は幸せを呼ぶ(写真/PIXTA)

なかなか捨てられない、片付けてもすぐに元に戻ってしまう……何だか耳の痛い話です。しかし、あらかわ先生の「いかに捨てるかではなく、どれだけスペースを空けるか」という考え方は、モノではなく空間に目を向けるというもの。この方法であれば続けられそうな気がしますね。

家とは本来のびのびと体を伸ばして、一番自分らしくいられる場所であるべきです。具体的にモノがどのくらいのスペースを占有しているのかを計算して見える化したうえで、自分にとって心地よい空間を実現したいと思いました。

152771_sub03●取材協力
あらかわ菜美(時間デザイナー)
時間=命であるという考えの基、1999年に『時間簿』を考案。
多くの女性たちやビジネスパーソンの支持を得て全国的な話題になり、『モノのために家賃を払うな!』(WAVE出版)ほか、生活空間や時間の効率化を意識した著書は多数。
自宅でライアー&ギターやヒーリング音楽を教えながら、自身でもモノがあふれない空間づくりを実践中。

本好き夫婦が暮らす”おウチライブラリー”がある家(後編) テーマのある暮らし[1]

医療系の出版社にお勤めの加藤泰郎(かとう・やすあき)さん。仕事上、本を購入する機会が多いことに加えて、夫婦そろって無類の活字好き。そんな本好きが高じて、本とともに暮らす家を手にしました。大好きな本に囲まれたライフスタイル、その後編をお届けします。【連載】テーマのある暮らし
この連載では、ひとつのテーマで住まいをつくりあげた方たちにインタビュー。自分らしい空間をつくることになったきっかけやそのライフスタイル、日々豊かに過ごすためのヒントをお伺いします。

いよいよ「本とともに暮らす家」のメインとなる2階へ

活字が大好きな加藤さんは、本の編集に携わっています。以前は建築関係、現在は医療関係と専門書を読む機会が多く、どんどん本が増えているのだとか。その本のほとんどは、2階のリビング・ダイニングに収められています。

「後になって読み返すか? といったら、その頻度は低いかもしれません。どちらかというと捨てられないタイプなんです。それでも、1年に1回くらい本の整理をして処分しているのですが、これがなかなか追いつかない(笑)。そこで、家のリフォームに合わせて、本を収納できる棚も欲しい、と建築家に相談しました」

では早速、今回のメインとなる2階にお邪魔してみましょう。

家の中央に位置する階段は、吹抜けタイプ。階段の幅は90cmですが、手すりのみのシンプルなつくりで、圧迫感はありません。階段を上っていくと、正面に本棚が見えてきます(写真撮影/内海明啓)

家の中央に位置する階段は、吹抜けタイプ。階段の幅は90cmですが、手すりのみのシンプルなつくりで、圧迫感はありません。階段を上っていくと、正面に本棚が見えてきます(写真撮影/内海明啓)

イメージは樽のタガ、開放的なリビングをぐるっと囲む本棚

2階は、すっきりとした1ルームのリビングダイニングキッチン。元々、増築したアパートの壁があった部屋ですが、当時の柱だけを残し、壁を抜いたことで開放感のある回遊型空間が生まれました。この空間をぐるっと囲むように、5段の棚が壁につくられています。

「イメージしたのは、ウイスキー工場やワイナリーにある樽のタガ。棚で囲むことで建物の強度も増すだろう、という思いもあって、可能な限り隙間なく設置してみました」と話すのは、このリフォームを担当した建築家の荒木さん。この棚が、本はもちろん、いろいろな用途に使える大容量の収納スペースとなるわけです。

「確かに、棚が欲しいということはお話ししました。でも、ここまで多くなるとは想像してなくて、最初はビックリしました(笑)」

「最初はジャンルごとに本の置き場所を決めていたのですけど、最近はつい空いているところに置いちゃって……」と妻の加藤さん。それでも、どこに何があるかを把握してるのはさすが! (写真撮影/内海明啓)

「最初はジャンルごとに本の置き場所を決めていたのですけど、最近はつい空いているところに置いちゃって……」と妻の加藤さん。それでも、どこに何があるかを把握してるのはさすが! (写真撮影/内海明啓)

キッチン、階段、吹抜けを部屋の中央に集め、その周囲を自由に行き来できるつくりになっています。それを囲むように、つくり付けの棚(青色で塗った部分)を設置

キッチン、階段、吹抜けを部屋の中央に集め、その周囲を自由に行き来できるつくりになっています。それを囲むように、つくり付けの棚(青色で塗った部分)を設置

また、階段の隣には「縦180cm×横90cm」の吹抜けがあり、1階と2階をひとつにさせる一体感も演出。それぞれ1階と2階で離れていても会話ができるくらい、音と風が流れる空間になっています。

2階から吹抜けを覗くと、真下に洗面台が見えます。洗面台の裏側は洗濯機置き場、その奥がバスルーム、反対側の廊下奥にはトイレ。どこにいても声をかけやすい間取りです(写真撮影/内海明啓)

2階から吹抜けを覗くと、真下に洗面台が見えます。洗面台の裏側は洗濯機置き場、その奥がバスルーム、反対側の廊下奥にはトイレ。どこにいても声をかけやすい間取りです(写真撮影/内海明啓)

「出会いは突然に」当時の技と現代の技がコラボ

「現場で天井を壊していたときに、いきなり現れたのがツガ材の梁。ずっと天井裏に隠れていた梁はきれいで、見た目も良かったので、”見せる梁“にしようと遊び心をプラス。場所によって天井の高さを変えたことで同じ部屋のなかでも動きができ、見た目にもメリハリがつきました」

天井を高くしたダイニングテーブル側の棚には、CDや可愛い小物類、加藤さんの趣味でもあるカメラ、フォトフレームなどが飾られています(写真撮影/内海明啓)

天井を高くしたダイニングテーブル側の棚には、CDや可愛い小物類、加藤さんの趣味でもあるカメラ、フォトフレームなどが飾られています(写真撮影/内海明啓)

柱も梁と同じく、ツガ材でできています。「リフォームは、実際にフタを開けてみないと状態が分からないことが多いんです。幸い柱はシロアリにやられることもなく、全て使えたのでほっとしました」

2階のスペースは基本的に1つの大きな部屋ですが、奥の引き戸を閉めることで、手前をダイニングキッチン、奥の書斎を個室としてそれぞれ使い分けられる柔軟性の高さも魅力的です。限られたスペースだからこそ、部屋のあちこちにさまざまな工夫が施されています。

キッチンは回遊性の高い、アイランドタイプになっています(写真撮影/内海明啓)

キッチンは回遊性の高い、アイランドタイプになっています(写真撮影/内海明啓)

「書斎横の引き戸は開けたり閉めたりできるので、ときには個室、ときにはオープンと、そのときどきで自由に使えるようにしてもらいました」(写真撮影/内海明啓)

「書斎横の引き戸は開けたり閉めたりできるので、ときには個室、ときにはオープンと、そのときどきで自由に使えるようにしてもらいました」(写真撮影/内海明啓)

窓の前にも棚!? 幅広いジャンルの本が並ぶ「おウチライブラリー」

よく見ると窓の前にも棚が。そして、2階の窓にはカーテンが一枚もありません。「1階と同じように、2階も今まで使っていたサッシをそのまま活用しています。曇りガラスというのもありますし、ここに長く住んでいるのでご近所さんはみんな顔見知り。だからなのか、あまり気にならないですよ。それよりも、窓の掃除に苦労しています(笑)」

本の紙焼け防止と日当たりの確保から、できるだけ窓の前には本を置かないように心がけているそうです(写真撮影/内海明啓)

本の紙焼け防止と日当たりの確保から、できるだけ窓の前には本を置かないように心がけているそうです(写真撮影/内海明啓)

ちなみに、棚の一番上は3匹の猫が使うキャットウォークとして空けているのだそう。
「自分の専用スペースと分かっているのでしょうか。本にいたずらすることもなく、いつも棚の上を走り回っています」

専門書から歴史もの、小説と、幅広いジャンルの本が並んでいる膨大なライブラリー。「“見せる収納”は掃除やメンテナンスが大変ですが、部屋をキレイに保つためのモチベーションにもなります」(写真撮影/内海明啓)

専門書から歴史もの、小説と、幅広いジャンルの本が並んでいる膨大なライブラリー。「“見せる収納”は掃除やメンテナンスが大変ですが、部屋をキレイに保つためのモチベーションにもなります」(写真撮影/内海明啓)

床材は柔らかいスギを使用。「傷がつきやすいですが、足への負担が少なく、断熱性もあって、床に寝転んでも痛くなりません。人にも猫にもやさしい材料です」(写真撮影/内海明啓)

床材は柔らかいスギを使用。「傷がつきやすいですが、足への負担が少なく、断熱性もあって、床に寝転んでも痛くなりません。人にも猫にもやさしい材料です」(写真撮影/内海明啓)

加藤さん夫妻が大切にしているのは本だけに限らず、家の持ち主だった祖父母への感謝、家族の歴史や記憶、当時の家を建てた職人さんへのリスペクト、そして愛らしい猫たち。「本を捨てられない」という言葉からも、「全てを大切にする心」がベースにあると感じました。ほっこりした温かさにあふれる住空間は、おふたりの人柄そのもので、やさしさのおすそ分けをいただきました。

●取材協力
・有限会社 荒木毅建築事務所

憧れの壁一面本棚を楽しむ ”おウチライブラリー”がある家(後編)テーマのある暮らし[1]

医療系の出版社にお勤めの加藤泰朗(かとう・やすあき)さん。仕事上、本を購入する機会が多いことに加えて、夫婦そろって無類の活字好き。そんな本好きが高じて、本とともに暮らす家を手にしました。大好きな本に囲まれたライフスタイル、その後編をお届けします。【連載】テーマのある暮らし
この連載では、ひとつのテーマで住まいをつくりあげた方たちにインタビュー。自分らしい空間をつくることになったきっかけやそのライフスタイル、日々豊かに過ごすためのヒントをお伺いします。

いよいよ「本とともに暮らす家」のメインとなる2階へ

活字が大好きな加藤さんは、本の編集に携わっています。以前は建築関係、現在は医療関係と専門書を読む機会が多く、どんどん本が増えているのだとか。その本のほとんどは、2階のリビング・ダイニングに収められています。

「後になって読み返すか? といったら、その頻度は低いかもしれません。どちらかというと捨てられないタイプなんです。それでも、1年に1回くらい本の整理をして処分しているのですが、これがなかなか追いつかない(笑)。そこで、家のリフォームに合わせて、本を収納できる棚も欲しい、と建築家に相談しました」

では早速、今回のメインとなる2階にお邪魔してみましょう。

家の中央に位置する階段は、吹抜けタイプ。階段の幅は90cmですが、手すりのみのシンプルなつくりで、圧迫感はありません。階段を上っていくと、正面に本棚が見えてきます(写真撮影/内海明啓)

家の中央に位置する階段は、吹抜けタイプ。階段の幅は90cmですが、手すりのみのシンプルなつくりで、圧迫感はありません。階段を上っていくと、正面に本棚が見えてきます(写真撮影/内海明啓)

イメージは樽のタガ、開放的なリビングをぐるっと囲む本棚

2階は、すっきりとした1ルームのリビングダイニングキッチン。元々、増築したアパートの壁があった部屋ですが、当時の柱だけを残し、壁を抜いたことで開放感のある回遊型空間が生まれました。この空間をぐるっと囲むように、5段の棚が壁につくられています。

「イメージしたのは、ウイスキー工場やワイナリーにある樽のタガ。棚で囲むことで建物の強度も増すだろう、という思いもあって、可能な限り隙間なく設置してみました」と話すのは、このリフォームを担当した建築家の荒木さん。この棚が、本はもちろん、いろいろな用途に使える大容量の収納スペースとなるわけです。

「確かに、棚が欲しいということはお話ししました。でも、ここまで多くなるとは想像してなくて、最初はビックリしました(笑)」

「最初はジャンルごとに本の置き場所を決めていたのですけど、最近はつい空いているところに置いちゃって……」と妻の加藤さん。それでも、どこに何があるかを把握してるのはさすが! (写真撮影/内海明啓)

「最初はジャンルごとに本の置き場所を決めていたのですけど、最近はつい空いているところに置いちゃって……」と妻の加藤さん。それでも、どこに何があるかを把握してるのはさすが! (写真撮影/内海明啓)

キッチン、階段、吹抜けを部屋の中央に集め、その周囲を自由に行き来できるつくりになっています。それを囲むように、つくり付けの棚(青色で塗った部分)を設置

キッチン、階段、吹抜けを部屋の中央に集め、その周囲を自由に行き来できるつくりになっています。それを囲むように、つくり付けの棚(青色で塗った部分)を設置

また、階段の隣には「縦180cm×横90cm」の吹抜けがあり、1階と2階をひとつにさせる一体感も演出。それぞれ1階と2階で離れていても会話ができるくらい、音と風が流れる空間になっています。

2階から吹抜けを覗くと、真下に洗面台が見えます。洗面台の裏側は洗濯機置き場、その奥がバスルーム、反対側の廊下奥にはトイレ。どこにいても声をかけやすい間取りです(写真撮影/内海明啓)

2階から吹抜けを覗くと、真下に洗面台が見えます。洗面台の裏側は洗濯機置き場、その奥がバスルーム、反対側の廊下奥にはトイレ。どこにいても声をかけやすい間取りです(写真撮影/内海明啓)

「出会いは突然に」当時の技と現代の技がコラボ

「現場で天井を壊していたときに、いきなり現れたのがツガ材の梁。ずっと天井裏に隠れていた梁はきれいで、見た目も良かったので、”見せる梁“にしようと遊び心をプラス。場所によって天井の高さを変えたことで同じ部屋のなかでも動きができ、見た目にもメリハリがつきました」

天井を高くしたダイニングテーブル側の棚には、CDや可愛い小物類、加藤さんの趣味でもあるカメラ、フォトフレームなどが飾られています(写真撮影/内海明啓)

天井を高くしたダイニングテーブル側の棚には、CDや可愛い小物類、加藤さんの趣味でもあるカメラ、フォトフレームなどが飾られています(写真撮影/内海明啓)

柱も梁と同じく、ツガ材でできています。「リフォームは、実際にフタを開けてみないと状態が分からないことが多いんです。幸い柱はシロアリにやられることもなく、全て使えたのでほっとしました」

2階のスペースは基本的に1つの大きな部屋ですが、奥の引き戸を閉めることで、手前をダイニングキッチン、奥の書斎を個室としてそれぞれ使い分けられる柔軟性の高さも魅力的です。限られたスペースだからこそ、部屋のあちこちにさまざまな工夫が施されています。

キッチンは回遊性の高い、アイランドタイプになっています(写真撮影/内海明啓)

キッチンは回遊性の高い、アイランドタイプになっています(写真撮影/内海明啓)

「書斎横の引き戸は開けたり閉めたりできるので、ときには個室、ときにはオープンと、そのときどきで自由に使えるようにしてもらいました」(写真撮影/内海明啓)

「書斎横の引き戸は開けたり閉めたりできるので、ときには個室、ときにはオープンと、そのときどきで自由に使えるようにしてもらいました」(写真撮影/内海明啓)

窓の前にも棚!? 幅広いジャンルの本が並ぶ「おウチライブラリー」

よく見ると窓の前にも棚が。そして、2階の窓にはカーテンが一枚もありません。「1階と同じように、2階も今まで使っていたサッシをそのまま活用しています。曇りガラスというのもありますし、ここに長く住んでいるのでご近所さんはみんな顔見知り。だからなのか、あまり気にならないですよ。それよりも、窓の掃除に苦労しています(笑)」

本の紙焼け防止と日当たりの確保から、できるだけ窓の前には本を置かないように心がけているそうです(写真撮影/内海明啓)

本の紙焼け防止と日当たりの確保から、できるだけ窓の前には本を置かないように心がけているそうです(写真撮影/内海明啓)

ちなみに、棚の一番上は3匹の猫が使うキャットウォークとして空けているのだそう。
「自分の専用スペースと分かっているのでしょうか。本にいたずらすることもなく、いつも棚の上を走り回っています」

専門書から歴史もの、小説と、幅広いジャンルの本が並んでいる膨大なライブラリー。「“見せる収納”は掃除やメンテナンスが大変ですが、部屋をキレイに保つためのモチベーションにもなります」(写真撮影/内海明啓)

専門書から歴史もの、小説と、幅広いジャンルの本が並んでいる膨大なライブラリー。「“見せる収納”は掃除やメンテナンスが大変ですが、部屋をキレイに保つためのモチベーションにもなります」(写真撮影/内海明啓)

床材は柔らかいスギを使用。「傷がつきやすいですが、足への負担が少なく、断熱性もあって、床に寝転んでも痛くなりません。人にも猫にもやさしい材料です」(写真撮影/内海明啓)

床材は柔らかいスギを使用。「傷がつきやすいですが、足への負担が少なく、断熱性もあって、床に寝転んでも痛くなりません。人にも猫にもやさしい材料です」(写真撮影/内海明啓)

加藤さん夫妻が大切にしているのは本だけに限らず、家の持ち主だった祖父母への感謝、家族の歴史や記憶、当時の家を建てた職人さんへのリスペクト、そして愛らしい猫たち。「本を捨てられない」という言葉からも、「全てを大切にする心」がベースにあると感じました。ほっこりした温かさにあふれる住空間は、おふたりの人柄そのもので、やさしさのおすそ分けをいただきました。

●取材協力
・有限会社 荒木毅建築事務所

本好き夫婦が暮らす”おウチライブラリー”がある家(前編) テーマのある暮らし[1]

「きっかけは、老朽化した家を快適な環境にすることでした」と話す加藤泰郎(かとう・やすあき)さん。夫婦そろって本好きという加藤さんは、リフォームを機に今までスペースを取っていた本の”美しい収納“にもこだわりました。大好きな本に囲まれたライフスタイルとは? 今回はその前編をお届けします。【連載】テーマのある暮らし
この連載では、ひとつのテーマで住まいをつくりあげた方たちにインタビュー。自分らしい空間をつくることになったきっかけやそのライフスタイル、日々豊かに過ごすためのヒントをうかがいます。50年の時を経た祖父母の家をリフォーム

加藤さんの家は、神楽坂駅から徒歩10分。細い路地を入った閑静な住宅街に、夫婦で暮らしています。現在は、医療系の出版社に勤務している加藤さん。実はこの家、もともと加藤さんの祖父母が住んでいたもの。築50年になる母屋にアパートが付いた建物は、親の代を経て3代目の加藤さんが受け継ぐことになりました。

しばらく夫婦で暮らしていましたが、年季の入った家は傷みが進んでいるうえに使い勝手も悪く、断熱材も使われていません。「お風呂場は外のブロック塀とくっついているし、部屋の壁もわずか1枚。冬はもう寒くて仕方ありませんでした」

加藤さん夫婦は3匹の愛猫(11歳になる八兵衛くん、8歳のまめ吉くん、3歳のまん福くん)と一緒に暮らしています。取材がはじまると年長の八兵衛くんがやって来て、スリスリと挨拶をしてくれました。

「本とともに大切にしたかったのは、人にも猫にも気持ちよく過ごせる空間」と話す加藤さん夫妻。細かく区切っていた壁を抜いたことで、さらに日当たり抜群の環境に(写真撮影/内海明啓)

「本とともに大切にしたかったのは、人にも猫にも気持ちよく過ごせる空間」と話す加藤さん夫妻。細かく区切っていた壁を抜いたことで、さらに日当たり抜群の環境に(写真撮影/内海明啓)

土間が中心の1階は、新しく生まれた庭を楽しむ開放的な空間に

「ここを更地にして家を建てる、という発想はなかったです。せっかく引き継いだ家なので、今あるものを残してリフォームすることを決めていました」

そんな加藤さん宅の1階は、約9畳の土間が中心。土間の中央には2階への階段、その奥は寝室となる和室。その隣には譲り受けた年代モノの桐箪笥(きりだんす)が置かれており、おばあちゃんの家に遊びに来たようなぬくもりが感じられます。

土間と和室の段差は、腰かけて庭を見渡せる高さに設計。桐箪笥の上にある棚にはプロジェクターがあり、映画の上映会も可能です(写真撮影/内海明啓)

土間と和室の段差は、腰かけて庭を見渡せる高さに設計。桐箪笥の上にある棚にはプロジェクターがあり、映画の上映会も可能です(写真撮影/内海明啓)

また、昔の母屋があった場所を減築(建物の一部を解体)して、あらたに6坪の庭をつくりました。階段下をふさがなかったのも、和室から庭までのつながりを持たせるためで、和室からも庭を楽しめる開放的な空間になっています。ちなみに、階段下は猫たちのトイレスペース。砂が多少とび散っても、下が土間なので掃除をするのもラクになったとか。

「夏になると、うちの子はみんな土間でゴロゴロしていますよ。風もよく通って涼しいですし、土間ならではのひんやり感は、猫たちも気に入ってくれているみたいです(笑)」。建物全体に断熱材を入れ、土間には土間暖房も設置しているため、冬でも寒すぎず快適に過ごせるそうです。

夏場も涼しい土間は、漬け物を寝かせる場所としても最適。祖父母の代から庭にある梅の木から今でも収穫できるので、毎年梅干しを漬けているそうです(写真撮影/内海明啓)

夏場も涼しい土間は、漬け物を寝かせる場所としても最適。祖父母の代から庭にある梅の木から今でも収穫できるので、毎年梅干しを漬けているそうです(写真撮影/内海明啓)

1階の本棚も圧倒的な存在感

土間が中心の1階といっても、ここにも本棚はあります。メインの本棚は2階のリビング・ダイニングになりますが、バスルームとトイレを結んでいる1階の廊下やその手前の壁にも棚をつくって、本を置くスペースに。ずらっと並ぶ本の数々が、存在感を放っています。

以前の家には洗面所がなかったため、土間の一角に待望の洗面所を設置。配管もむき出しにして圧迫感を減らし、木のぬくもりにマッチするデザインになっています(写真撮影/内海明啓)

以前の家には洗面所がなかったため、土間の一角に待望の洗面所を設置。配管もむき出しにして圧迫感を減らし、木のぬくもりにマッチするデザインになっています(写真撮影/内海明啓)

どうやら、加藤さんの本好きはDNAのなせるわざなのかもしれません。というのも、実はこの家とともに受け継いだ本もたくさんあるのだそう。「この1番上と2番目の棚にある本は、新聞紙に包まれて押入れに保管されていた文芸集です。ほかにもありますが、この赤い装丁がとてもきれいなので、日差しを直接受けないこの場所で保管することに決めました」

赤い文芸集が並んでいる姿は、オブジェとしても楽しめるアクセントに。その下には、庭の手入れや家庭菜園用の園芸本もたくさん。庭に通じる玄関脇にあるため、ガーデニングの際にすぐ手に取れるようにしているのだとか(写真撮影/内海明啓)

赤い文芸集が並んでいる姿は、オブジェとしても楽しめるアクセントに。その下には、庭の手入れや家庭菜園用の園芸本もたくさん。庭に通じる玄関脇にあるため、ガーデニングの際にすぐ手に取れるようにしているのだとか(写真撮影/内海明啓)

古民家風の風情が落ち着く、障子と昭和レトロな曇りガラス

1階でもうひとつ特徴的なのは、古民家風な雰囲気を醸し出している障子付きのサッシ。掃き出し窓として使われていた当時のものをそのまま活用して、土間との一体感を演出しています。

「日差しが強いときは障子を閉めればいいですし、カーテンやブラインドと違って暗くなり過ぎないのも障子の良さ。外からの目隠しにもなりますしね。ただ、一番下の障子は猫が突き破るので、そのまま空けています(笑)」

昔の家でよく見かけた、懐かしい欄間(らんま)にも障子が付いて、柔らかい日差しが入ってきます。欄間を開けるだけで空気の入れ替えができるなど、日本家屋ならではの知恵が詰め込まれています(写真撮影/内海明啓)

昔の家でよく見かけた、懐かしい欄間(らんま)にも障子が付いて、柔らかい日差しが入ってきます。欄間を開けるだけで空気の入れ替えができるなど、日本家屋ならではの知恵が詰め込まれています(写真撮影/内海明啓)

障子を開けると、サッシの下半分は昭和のレトロ風情が漂う模様付きの曇りガラス。「妻がとても気に入って、これだけは残したい、という想いがありました。それに、今どきこういうガラスは珍しくて、なかなか見つからないです」。多層づくりではないシングルのガラスでも、障子があるため、断熱効果や結露の防止になるのだとか。
「リフォーム前にここに実際に暮らしていたからこそ、残したい部分と変えたい部分が明確になっていました」

障子の骨組みも敷居も当時のまま。長い年月を経たとは思えない状態で、日焼けによる風合いが“いい味”に。また、模様付きの曇りガラスは、バスルームとトイレにも使われています(写真撮影/内海明啓)

障子の骨組みも敷居も当時のまま。長い年月を経たとは思えない状態で、日焼けによる風合いが“いい味”に。また、模様付きの曇りガラスは、バスルームとトイレにも使われています(写真撮影/内海明啓)

さて、本と暮らす家【前編】はここまで。【後編】では、いよいよ2階のリビング・ダイニングを紹介。見渡す限り本、本、本……と数えきれないほどの本に囲まれたライフスタイルのメインに迫ります。【後編】も、どうぞお楽しみに。

●取材協力
・有限会社 荒木毅建築事務所

築50年の家をリフォーム、猫3匹とくつろぐ ”おウチライブラリー”がある家(前編) テーマのある暮らし[1]

「きっかけは、老朽化した家を快適な環境にすることでした」と話す加藤泰朗(かとう・やすあき)さん。夫婦そろって本好きという加藤さんは、リフォームを機に今までスペースを取っていた本の”美しい収納“にもこだわりました。大好きな本に囲まれたライフスタイルとは? 今回はその前編をお届けします。【連載】テーマのある暮らし
この連載では、ひとつのテーマで住まいをつくりあげた方たちにインタビュー。自分らしい空間をつくることになったきっかけやそのライフスタイル、日々豊かに過ごすためのヒントをうかがいます。50年の時を経た祖父母の家をリフォーム

加藤さんの家は、神楽坂駅から徒歩10分。細い路地を入った閑静な住宅街に、夫婦で暮らしています。現在は、医療系の出版社に勤務している加藤さん。実はこの家、もともと加藤さんの祖父母が住んでいたもの。築50年になる母屋にアパートが付いた建物は、親の代を経て3代目の加藤さんが受け継ぐことになりました。

しばらく夫婦で暮らしていましたが、年季の入った家は傷みが進んでいるうえに使い勝手も悪く、断熱材も使われていません。「お風呂場は外のブロック塀とくっついているし、部屋の壁もわずか1枚。冬はもう寒くて仕方ありませんでした」

加藤さん夫婦は3匹の愛猫(11歳になる八兵衛くん、8歳のまめ吉くん、3歳のまん福くん)と一緒に暮らしています。取材がはじまると年長の八兵衛くんがやって来て、スリスリと挨拶をしてくれました。

「本とともに大切にしたかったのは、人にも猫にも気持ちよく過ごせる空間」と話す加藤さん夫妻。細かく区切っていた壁を抜いたことで、さらに日当たり抜群の環境に(写真撮影/内海明啓)

「本とともに大切にしたかったのは、人にも猫にも気持ちよく過ごせる空間」と話す加藤さん夫妻。細かく区切っていた壁を抜いたことで、さらに日当たり抜群の環境に(写真撮影/内海明啓)

土間が中心の1階は、新しく生まれた庭を楽しむ開放的な空間に

「ここを更地にして家を建てる、という発想はなかったです。せっかく引き継いだ家なので、今あるものを残してリフォームすることを決めていました」

そんな加藤さん宅の1階は、約9畳の土間が中心。土間の中央には2階への階段、その奥は寝室となる和室。その隣には譲り受けた年代モノの桐箪笥(きりだんす)が置かれており、おばあちゃんの家に遊びに来たようなぬくもりが感じられます。

土間と和室の段差は、腰かけて庭を見渡せる高さに設計。桐箪笥の上にある棚にはプロジェクターがあり、映画の上映会も可能です(写真撮影/内海明啓)

土間と和室の段差は、腰かけて庭を見渡せる高さに設計。桐箪笥の上にある棚にはプロジェクターがあり、映画の上映会も可能です(写真撮影/内海明啓)

また、昔の母屋があった場所を減築(建物の一部を解体)して、あらたに6坪の庭をつくりました。階段下をふさがなかったのも、和室から庭までのつながりを持たせるためで、和室からも庭を楽しめる開放的な空間になっています。ちなみに、階段下は猫たちのトイレスペース。砂が多少とび散っても、下が土間なので掃除をするのもラクになったとか。

「夏になると、うちの子はみんな土間でゴロゴロしていますよ。風もよく通って涼しいですし、土間ならではのひんやり感は、猫たちも気に入ってくれているみたいです(笑)」。建物全体に断熱材を入れ、土間には土間暖房も設置しているため、冬でも寒すぎず快適に過ごせるそうです。

夏場も涼しい土間は、漬け物を寝かせる場所としても最適。祖父母の代から庭にある梅の木から今でも収穫できるので、毎年梅干しを漬けているそうです(写真撮影/内海明啓)

夏場も涼しい土間は、漬け物を寝かせる場所としても最適。祖父母の代から庭にある梅の木から今でも収穫できるので、毎年梅干しを漬けているそうです(写真撮影/内海明啓)

1階の本棚も圧倒的な存在感

土間が中心の1階といっても、ここにも本棚はあります。メインの本棚は2階のリビング・ダイニングになりますが、バスルームとトイレを結んでいる1階の廊下やその手前の壁にも棚をつくって、本を置くスペースに。ずらっと並ぶ本の数々が、存在感を放っています。

以前の家には洗面所がなかったため、土間の一角に待望の洗面所を設置。配管もむき出しにして圧迫感を減らし、木のぬくもりにマッチするデザインになっています(写真撮影/内海明啓)

以前の家には洗面所がなかったため、土間の一角に待望の洗面所を設置。配管もむき出しにして圧迫感を減らし、木のぬくもりにマッチするデザインになっています(写真撮影/内海明啓)

どうやら、加藤さんの本好きはDNAのなせるわざなのかもしれません。というのも、実はこの家とともに受け継いだ本もたくさんあるのだそう。「この1番上と2番目の棚にある本は、新聞紙に包まれて押入れに保管されていた文芸集です。ほかにもありますが、この赤い装丁がとてもきれいなので、日差しを直接受けないこの場所で保管することに決めました」

赤い文芸集が並んでいる姿は、オブジェとしても楽しめるアクセントに。その下には、庭の手入れや家庭菜園用の園芸本もたくさん。庭に通じる玄関脇にあるため、ガーデニングの際にすぐ手に取れるようにしているのだとか(写真撮影/内海明啓)

赤い文芸集が並んでいる姿は、オブジェとしても楽しめるアクセントに。その下には、庭の手入れや家庭菜園用の園芸本もたくさん。庭に通じる玄関脇にあるため、ガーデニングの際にすぐ手に取れるようにしているのだとか(写真撮影/内海明啓)

古民家風の風情が落ち着く、障子と昭和レトロな曇りガラス

1階でもうひとつ特徴的なのは、古民家風な雰囲気を醸し出している障子付きのサッシ。掃き出し窓として使われていた当時のものをそのまま活用して、土間との一体感を演出しています。

「日差しが強いときは障子を閉めればいいですし、カーテンやブラインドと違って暗くなり過ぎないのも障子の良さ。外からの目隠しにもなりますしね。ただ、一番下の障子は猫が突き破るので、そのまま空けています(笑)」

昔の家でよく見かけた、懐かしい欄間(らんま)にも障子が付いて、柔らかい日差しが入ってきます。欄間を開けるだけで空気の入れ替えができるなど、日本家屋ならではの知恵が詰め込まれています(写真撮影/内海明啓)

昔の家でよく見かけた、懐かしい欄間(らんま)にも障子が付いて、柔らかい日差しが入ってきます。欄間を開けるだけで空気の入れ替えができるなど、日本家屋ならではの知恵が詰め込まれています(写真撮影/内海明啓)

障子を開けると、サッシの下半分は昭和のレトロ風情が漂う模様付きの曇りガラス。「妻がとても気に入って、これだけは残したい、という想いがありました。それに、今どきこういうガラスは珍しくて、なかなか見つからないです」。多層づくりではないシングルのガラスでも、障子があるため、断熱効果や結露の防止になるのだとか。
「リフォーム前にここに実際に暮らしていたからこそ、残したい部分と変えたい部分が明確になっていました」

障子の骨組みも敷居も当時のまま。長い年月を経たとは思えない状態で、日焼けによる風合いが“いい味”に。また、模様付きの曇りガラスは、バスルームとトイレにも使われています(写真撮影/内海明啓)

障子の骨組みも敷居も当時のまま。長い年月を経たとは思えない状態で、日焼けによる風合いが“いい味”に。また、模様付きの曇りガラスは、バスルームとトイレにも使われています(写真撮影/内海明啓)

さて、本と暮らす家【前編】はここまで。【後編】では、いよいよ2階のリビング・ダイニングを紹介。見渡す限り本、本、本……と数えきれないほどの本に囲まれたライフスタイルのメインに迫ります。【後編】も、どうぞお楽しみに。

●取材協力
・有限会社 荒木毅建築事務所

“おブス部屋“はもう卒業! プロに聞くお部屋改造のコツとは

「うち近いから寄ってく?」と友人に言いかけて途中で飲み込んだ覚えはありませんか? 部屋が散らかっていたり汚かったりすると、人を呼ぶのをためらってしまいがち。「うちにおいでよ!」と気軽に言えるお部屋にするにはどうしたらよいのでしょうか。人には見せられない“おブス部屋”から卒業するための、ちょっとした工夫をプロに聞きました。
手がけた物件は1000件以上! お部屋改造のプロってどんな人?

今回、散らかり放題のおブス部屋をイケてる部屋にするヒントを聞かせていただくために伺ったのは、有限会社お部屋改造計画。一人暮らしや、ご夫婦の方々の「インテリアコーディネート」や「お部屋模様替え」、カフェやサロン、オフィスなど小さな店舗の「トータルプロデュース」を行っている会社です。今年で設立19年目、手がけた物件は1000件を超えるそう。

お部屋の改造例[1]Before(画像提供/お部屋改造計画)

お部屋の改造例[1]Before(画像提供/お部屋改造計画)

お部屋の改造例[1]After(画像提供/お部屋改造計画)

お部屋の改造例[1]After(画像提供/お部屋改造計画)

お客様は一人暮らしの方が多く、女性は20代~30代、男性は30~40代が多いとのこと。「しっかりヒアリングをして、その人の生活習慣にマッチした部屋づくりをします。好きなことや嫌いなこと、仕事は何かなど、こだわりや趣味を考え抜いてつくり上げます。ですから、100人100様の部屋ができ上がります」と代表兼ルームスタイリストの柳橋浩さんは話します。

そんなお部屋づくりのプロ・柳橋さんに聞く、おブス部屋から抜け出すコツとは!?

断捨離はする必要なし! 持ち物があってこその生活

ちまたではミニマリストなど、断捨離が流行して普遍になりつつありますが、柳橋さんはそれには賛同しかねると言います。

「思い入れのあるものなど、処分できないものは、リメイクや置く場所等を工夫してお部屋になじませるという方法でクリアできます。なんでもかんでも捨ててしまわなくても、きれいな部屋はつくれますよ」(柳橋さん)

大切なものは捨てられないと思っていた筆者としては、すこし安心しました。

とはいえ、物が多いと片づけの難易度が上がるはず。物を捨てずに片づけるコツはあるのでしょうか? 柳橋さんによると、まずは「収納場所を特定したほうがよい」とのアドバイスが。

「片づけやすい環境づくりをすることで、実際に『片づける』という行動につながります。ただ、収納スペースを多くつくってしまうと、安心感から今度はそこに物がたまってしまうので注意しましょう」(同)

また、収納が面倒くさくなるのは「収納の動線」がつくられていないからだそう。「捨ててもいいものは外に出しやすい、玄関に近いほうに置くようにしましょう。また、急な来客があったときなどのために、『とりあえず入れておくコーナー』を設置しておくのもよいですね」(同)

まずは収納の動線をつくって片づけをしやすい環境にととのえることが、おブス部屋脱却のカギになりそうです。

おブス部屋の原因はどこにある? 実際に聞いてみた

柳橋さんのお話にうなずきながら、おそるおそる筆者の部屋の写真を出して、見ていただきました。インテリア雑誌やテレビの情報番組を見て「隠せ、隠せ」とできるだけシンプルな布を購入して、積み上げたものを隠している部分です。

取材当日の筆者の部屋。積み上げた本と書類を布で覆って隠し、なんとかなっているつもり(写真撮影/近藤智子)

取材当日の筆者の部屋。積み上げた本と書類を布で覆って隠し、なんとかなっているつもり(写真撮影/近藤智子)

冷や汗をかきながら小声で「汚くてなんだかすみません」と恐縮しまくる筆者に「そんなに汚くないですよ~」と明るく優しく声をかけてくださる柳橋さん。そしてすぐさま直せそうなポイントを指摘してくださいました。

「目隠しの布はよく使われますが、相当に気を使わないと実は難しいもの。適当な布を置いてもバランスが崩れるので、やめたほうが賢明です」(同)

また、家具の並べ方にもポイントがあるそう。

「背の高い家具同士は極力並べるのを避けて、間に少し低い家具を置いたり、余白をつくったりして高低差をつけて、メリハリを出してください。そのほうが圧迫感を感じにくくなります。もし圧迫感のある家具が多い場合には、今の位置と反対側に置くなどして、同一方向の視線から外しましょう」(同)

さらに、新たに家具選びをするときには、こんなコツがあるそうです。

「『食器棚』『テレビ台』など、家具は決まった用途があるかのように名づけられて売られていますが、これに惑わされないでください。見た目とサイズ感から、従来の使い方以外にも用途がいろいろ浮かんでくると思います。そうすれば、自分にぴったりなオリジナルの使い方ができます」(同)

家具の並べ方は、やはりバランス感覚が重要とのこと、安定感や見た目の重視に気をつけるだけで、相当に片づいて見えるようです。これなら少しずつ解決ができそうな気がします。

お部屋の改造例[2]Before(画像提供/お部屋改造計画)

お部屋の改造例[2]Before(画像提供/お部屋改造計画)

お部屋の改造例[2]After(画像提供/お部屋改造計画)

お部屋の改造例[2]After(画像提供/お部屋改造計画)

お部屋改造は、どんなメリットがある?

最後に柳橋さんに、お部屋を改造することで部屋が片づくこと以外に得られるメリットについて伺いました。

「部屋が変わると、世界観が変わるというお客様が多いですね。『生活が好転しました』『気持ちが明るくなりました』と言ってくださる方が多いです。大掃除の達成感に似ているのかもしれませんが、部屋を変えることでご本人の何かが変わるのではないでしょうか。すぐには引越しできない場合にも、模様替えは可能ですから、ぜひ一度試してみていただきたいです」(同)

今回いただいたアドバイスで、おブス部屋から脱出する糸口が見つかったような気がします。大掛かりなものはプロに任せるという選択肢もアリかな、と感じました。

お部屋の改造は住み続けるための選択肢。人に見せても恥ずかしくない部屋づくりはちょっとしたことから始められます。そして部屋に向き合うことは、自分と向き合うことにもつながっているのかもしれません。

●取材協力
・有限会社お部屋改造計画

住みたい部屋に収納がない……!  それでも快適に暮らす方法はある?

駅近でエリアもよく、部屋の広さもバッチリ! なのに、「収納がないから……」という理由で物件を諦めたことはありませんか? クローゼットや押入れがなくても心地よく過ごせる、お部屋づくりの方法はあるのでしょうか。整理収納アドバイザーのkomugiさんにお話を伺いました。
14m2で収納なし! 快適に暮らす工夫とは?

以前、komugiさんは都内で14m2のワンルーム、収納なしの物件に住んでいたそう。現在はクローゼットのある物件に住んでいますが、それでも18m2で広いとは言えません。

【画像1】今回お話を伺ったkomugiさん。自身の経験を活かし、整理収納アドバイザー1級の資格を取得(写真撮影/浅野智恵美)

【画像1】今回お話を伺ったkomugiさん。自身の経験を活かし、整理収納アドバイザー1級の資格を取得(写真撮影/浅野智恵美)

【画像2】14m2のときのkomugiさん宅の間取図(画像提供/komugiさん)

【画像2】14m2のときのkomugiさん宅の間取図(画像提供/komugiさん)

収納がないことの最大のデメリットは、服や物の置き場がない、特に目に付かないところにしまっておきたいモノを隠すところがない、ということでしょう。
それでもkomugiさんは「収納なし物件ならではの魅力もある」と話します。

「モノが仕舞われずに外に出ていると、いつも目に付くので自分の好みも分かるようになりますし、部屋に置くモノ自体も厳選されます。見せる収納が好きな方にもオススメです。また、やはり収納が必要だと思えば『自分の好きな位置に必要な大きさでつくることができる』というのは意外と大きなメリットなんです」(komugiさん)

その言葉どおり、収納のない部屋に暮らしていたときにKomugiさんが収納とインテリアの両方の視点から活用していたのが「有孔ボード」でした。有孔ボードとは、等間隔で穴が開けられた板で、ホームセンターなどで購入できます。好きな位置に収納をつくることも出来ますし、フックなどでお気に入りのものを吊るせば見せる収納も楽しめます。

【画像3】収納はもちろん、好きなインテリアを飾ることもできる。狭いお部屋にとって壁は貴重なスペース(画像提供/komugiさん)

【画像3】収納はもちろん、好きなインテリアを飾ることもできる。狭いお部屋にとって壁は貴重なスペース(画像提供/komugiさん)

狭くても、自分好みの空間はつくれる!

自由に使えるスペースがなかなか確保できない広さのお部屋でも、何とか快適に暮らせる空間をつくりたいもの。そのポイントは「イメージに合わないモノ、ミスマッチなモノは取り除くこと」とkomugiさんは言います。そうすることで、お気に入りのインテリアも引き立つそうです。

「どんな部屋にしたいのか、イメージが漠然としている人は、まずインターネットなどで『この部屋いいな』と思う画像を探し、ストックしてみてください。自分の好みの傾向やテイストが把握できます。
テイストが決まったら、家具など買い替えが簡単にできないものは、色を変えるだけでも全体のお部屋の雰囲気に馴染ませることができたりします。リメイクシートやマスキングテープをうまく活用するのがオススメです」(komugiさん)

【画像4】現在のkomugiさんのご自宅。扉の印象を変えるために、クローゼットに白いマスキングテープを貼ってある(画像提供/komugiさん)

【画像4】現在のkomugiさんのご自宅。扉の印象を変えるために、クローゼットに白いマスキングテープを貼ってある(画像提供/komugiさん)

また、キッチンが狭いとよくある「冷蔵庫や食器を置く場所がなく、部屋に置かざるを得ない」というケース。そんなときはエリアを決めてあげるといいそう。

「このエリアには冷蔵庫やお皿などキッチン関連のモノを置く、クローゼットの近くにはベッドを置く……といったように、目的別に分けてあげるとスッキリします」

「もしスペースに余裕があれば、細身の収納棚で区切ってもいいですね。背面のないものだと圧迫感も少ないですよ。また、部屋の中に太陽の光が入ると広く見えるので、ベッド周りを区切りたければ、薄い布を活用して天井から吊るすなどもオススメです」(komugiさん)

ひと工夫と毎日の習慣で「ため込まない」お部屋に!

収納のない狭い部屋で快適に暮らすには「モノをため込まない」ことがキーワード。モノに対して思い入れが強い方は、捨てられずにためる傾向にあるのだそう。

「モノを手放すのは罪悪感を覚えやすいものですが、『またどこかで使えるかも』『〇〇すれば使えるかも』と無理矢理シチュエーションを考えてしまうようなら、本当に必要かどうか、モノとの今後の付き合い方を考えてみてください」(komugiさん)

そこでkomugiさんが実践する、モノをためないコツを伝授していただきました。

●ポイント1:あえて目に付く場所に置く
まだスペースがあるし……と、ついモノをためてしまう方は、モノを「目に付く場所」に置くのがポイント。

「時間をおいて、自分が使っているかを都度確認します。また、あえて邪魔だと思う場所に置いてみるのも効果的です。使っていないモノをいちいち避けて通ることになるので、自分にとって必要なモノかどうかを考えるキッカケになります」(komugiさん)

●ポイント2:引き出しの中は常に8割をキープ
引き出しや収納グッズの中はパンパンにモノを入れておくのではなく、あらかじめ余裕を残した状態にしておくと良いのだそう。

「2割の空スペースを『一時置き場』にすれば、そこだけの管理で済みます。疲れているときなどはその一時置き場に仕舞っておいて、後で自分のペースで片付けるのです。
買い物をして帰って来たばかりのタイミングで、それをどこに片付けるかということまで考えて動くのは億劫だったりします。ある程度モノの位置が決まっていると、考えなくても自然と体が動いて片付けが終わりますよ」(komugiさん)

●ポイント3:買いだめに注意
「切れてしまったらイヤだからストックしておきたい」、「特売で安いから」……つい食品や日用品は買いだめしたくなるもの。ところが、余計なストックが増えれば、当然、部屋の中にそれを置けるスペースが必要になります。

「収納にとって一番の敵は『不安』と『お得感』による買い物です。自分の生活に合わせて必要最小限の買い物をするために、自分が何を持っていて、どれくらい使うのかを把握したうえで買い物に出かけてください」(komugiさん)

●ポイント4:モノではなく「自分」を基準に考える
意識していないと「これ買ってきたけど、どこに片付けよう?」「どうやって使おう?」と、モノに振り回されがちになるとkomugiさんは言います。

「自分にとって今これが本当に必要か、ブレない軸を持つとモノは増えづらくなると思います。買う前に、置く場所や飾る場所があるか考える。ビジョンを持つことが大事です」(komugiさん)

●ポイント5:外出から戻ったらバッグの中身を全部取り出す
Komugiさんは外出から帰った際、一度荷物を全て取り出し、不要なモノがないかチェックするそうです。

「例えばレシート1枚でも、外から帰ってくると何かしら増えていると思うんです。それが積み重なって荷物が増えていきます。同じバッグを次の日に使う場合も、一度中身を全部取り出して入れ直すことを習慣にしてみてください」(komugiさん)

●ポイント6:使っていないモノを可視化する
「例えばバッグなら、収納がないときは壁に掛けて、まんべんなく全てのバッグを使いやすいようにします。動いてないバッグは使ってないと一目で分かります。
この方法は、本などにも応用可能です。本棚から取った本は一番右に戻す、と決めて片づけると使用頻度の低いモノは左端にたまっていきます。時間のあるときに左端のものから処分すればいいのです」

もちろん、モノに対する価値観は人それぞれ。使っていなくても、取っておきたいモノもあります。

「大切なモノは無理に捨てる必要はありません。もし厳選できるようなら、その中でも特に大切なモノだけを残し、ほかは写真に収めるなどして手放す、というのも方法の一つです」(komugiさん)

「本当に必要な収納グッズ」を見極める!

クローゼットがないから「収納グッズを買って何とかしよう!」と考えがちですが、そこには落とし穴があります。「収納グッズを買うということは、その分モノが増えるということ」だとkomugiさんは指摘します。

「収納グッズを先に買ってしまう方も多いですが、順番が逆です。まず持っているものを把握し、何を収納するのかを考える。収納グッズを買う前に、置く場所や仕舞うモノのサイズを必ず採寸し、どんなサイズの収納が必要なのかをきちんと把握しましょう」

また、収納に関しては値段が多少高くても「使いやすさ」を重視することがポイント。komugiさんは、めぼしい収納グッズが見当たらなければ、段ボールで一時的な代用品をつくってしまうそうです。

「少し見栄えは悪いですが、自分に必要な収納の大きさや、置く場所のイメージがしやすくなります。私の場合、大きな引き出しなどの収納は大抵段ボールで試作品をつくり、ちょうどいいものが見つかるまではそれで代用します」

例えば、飼い猫のエサなどの収納にはまとめ買い用に商品が入っていた箱をそのまま活用しているそうです。「引き出しの中は自分しか見ませんから。あまり気張りすぎず、見えないところは適度に手を抜くのも、普段から散らからない部屋をつくるポイントです」(komugiさん)

【画像5】箱を活用した収納なら、躊躇なく捨てられるというメリットも(画像提供/komugiさん)

【画像5】箱を活用した収納なら、躊躇なく捨てられるというメリットも(画像提供/komugiさん)

工夫次第では、収納なし物件でも自分らしく快適に暮らせそうですね。もし、気に入った物件に収納が見当たらなくても、諦める前に一度、今回ご紹介したような方法を活用して住んでみることを検討してみてはいかがでしょうか。

●取材協力
整理収納アドバイザー komugiさん