中古マンションをリノベーションでZEH水準に!買取再販物件の広告では初の「省エネ性能ラベル」を表示

2024年4月から、新築住宅などを広告する際に「省エネ性能ラベル」を表示する制度がスタートした。新築住宅および事業者が再販売などをするリノベ物件に対して、ラベルの表示を努力義務としている。すでに、新築住宅ではSUUMOなどのポータルサイトでも、省エネ性能ラベルの表示をしている事例が増えているが、リノベ物件でも表示する事例が登場している。

【今週の住活トピック】
積水化学工業とリノベるが協業するすべての ZEH 水準リノベ物件にて「省エネ性能ラベル」の表示をスタート

2024年4月から努力義務となった「省エネ性能ラベル」とは?

「省エネ性能ラベル」の目的は、「販売・賃貸事業者が建築物の省エネ性能を広告などに表示することで、消費者が建築物を購入・賃借する際に、省エネ性能の把握や比較ができるようにする」ためだ。

例えば、家電製品を買おうとするときに販売店に行くと、パンフレットや店頭商品に、省エネ性能が★の数などで表示されるラベルが掲示されている。同じように、新築住宅やリノベ物件を販売するか賃貸するときに、その事業者が省エネ性能表示ラベルを掲示することで、住宅の検討者が省エネ性を比較しやすいようになる。

住宅の省エネ性能表示ラベルの特徴は、次の3つを表示して性能の違いが分かるようになっていることだ。
(1)エネルギー消費性能が星の数で分かる
(2)断熱性能が数字で分かる
(3)目安光熱費が金額で分かる (任意項目なので表示されない場合もある)

このほか、太陽光発電などの「再エネ設備の有無」と「ZEH水準」、「ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー)」に該当するかが表示される。

住宅の省エネ性能ラベルについては、このサイトの「2024年4月スタートの新制度は、住宅の省エネ性能を★の数で表示。不動産ポータルサイトでも省エネ性能ラベル表示が必須に!?」に詳しく説明しているので、合わせて見てほしい。

住宅(住戸)の省エネ性能ラベルに記載される内容(国土交通省の資料より)

住宅(住戸)の省エネ性能ラベルに記載される内容(国土交通省の資料より)

また、「省エネ性能ラベル」が表示されている物件は、合わせて「エネルギー消費性能の評価書」が発行される。この評価書は、省エネ性能ラベルの内容を詳しく解説した書類だ。

「ZEH水準」と「ZEH」の違いは?

積水化学工業とリノベるが協業するのは、「ZEH 水準リノベ」だ。また、省エネ性能ラベルにも、ZEH水準やZEHのチェック欄がある。では、どこが違うのだろうか?

ZEH(ゼッチ)は、Net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)を略した呼び方で、住宅で消費するエネルギーをゼロにしようというものだ。そのためには、(1)住宅の骨格となる部分を断熱化して、エネルギーを極力使わないようにし、(2)給湯や冷暖房などの設備を高効率化して、エネルギーを効率的に使う。ただし、消費するエネルギーをプラスマイナスゼロにするには、(3)太陽光発電設備などでエネルギーをつくり、消費したエネルギーを補う必要がある。

ところが、太陽光発電設備については、雪国では太陽光を十分に得られなかったり、マンションなどの高層住宅では、戸数が多いわりに屋上の面積が広くなくて、必要な数の太陽光発電設備を設置できないといった制約を受ける。

「ZEH水準」は、地域や住宅の形状によって制約を受ける(3)の再エネ設備を必須としない基準で、(1)と(2)については、住宅性能表示制度の「断熱等性能等級5」かつ「一次エネルギー消費量等級6」という基準を設けたものだ。

既存のマンションでZEH水準のリノベーションを実現

このように、政府は住宅の省エネ化を加速させている。2025年4月にすべての新築住宅で、現行の省エネ基準の適合を義務化するとともに、その省エネ基準を遅くとも2030年までには「ZEH水準」に引き上げようとしている。

一方で、既存のマンションの多くは現行の省エネ基準の水準を満たしておらず、それをZEH水準にまで引き上げるのはハードルが高いと思われてきた。ところが、いくつかの事業者が、既存マンションのZEH水準リノベを実現するようになってきた。

今回の積水化学工業とリノベるの協業もそのひとつで、どうやってZEH水準にリノベーションをするかは、当サイトの「既存のマンションでもZEH水準にリノベが可能に!?国が推進する省エネ性能「ZEH水準」についても詳しく解説」で紹介している。

両社によるZEH水準リノベの省エネ性能ラベルの表示、第1号が「東急ドエル・アルス千住」だ。

「省エネ性能ラベル」の発行・表示1号案件「東急ドエル・アルス千住」 

「省エネ性能ラベル」の発行・表示1号案件「東急ドエル・アルス千住」 

不動産ポータルサイトでも「省エネ性能ラベル」を表示

この制度のスタートに合わせて、主要な不動産ポータルサイトでも、省エネ性能ラベルの表示ができるようになっている。今回の物件についても、例えばSUUMOでは次のように表示されている。

「SUUMO」に表示された、東急ドエル・アルス千住の省エネ性能ラベル(2024年4月25日時点)

「SUUMO」に表示された、東急ドエル・アルス千住の省エネ性能ラベル(2024年4月25日時点)

なお、「ネット・ゼロ・エネルギー」にチェックがついているが、厳密にいうと「ネット・ゼロ・エネルギー」ではなく、「ZEH Oriented」であると記載されている。

国土交通省の「建築物省エネ法に基づく建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示制度 ガイドライン」では、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)について、「ZEH 水準以上の省エネ性能を有し、さらに再生可能エネルギーなどの導入により、年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロとすることを目指した住宅について、その削減量に応じて、(1)『ZEH』(100%以上削減=ネット・ゼロ)、(2)Nearly ZEH(75%以上100%未満削減)、(3)ZEH Oriented(再生可能エネルギー導入なし)」と、定義されている。

なお、マンションの住棟に関するラベルでは、ZEH-M、Nearly ZEH-M(75%以上100%未満削減)、ZEH-M Ready(50%以上75%未満削減)、ZEH-M Oriented(再生可能エネルギー導入なし)の4種類になる。

この物件は、(3)ZEH Orientedを満たす住宅であり、かつ、自社による「自己評価」ではなく、「第三者評価※」を取得して、第三者評価機関からZEH水準よりも高い性能を有することが確認できた場合という条件を満たしたことで、「ネット・ゼロ・エネルギー」にチェックがついている。

※第三者評価機関が、省エネルギー性能に特化した評価・表示制度である「BELS(ベルス)」を使って評価するもの。

一般ユーザーには、理解が難しいところなので、販売している事業者に詳細を確認しよう。

平成30年(2018年)の総務省「住宅・土地統計調査」で、全国の住宅総数(持ち家、借家、空き家含む)は約6241万戸とデータがある。その大半が現行の省エネ基準を満たしていない一方、新築住宅の省エネ性能はZEH水準に向かっている。性能格差は広がるばかりだが、既存の住宅でもZEH水準への改修が進めば、良質な住宅ストックになっていく。健康で快適な暮らしにもつながるものなので、さらなる増加に期待したい。

●関連サイト
積水化学工業とリノベるが既存マンションのZEH水準リノベーションを提供開始

金利優遇などお得に!環境配慮型住宅ローンや空き家関連ローンなど、時代のニーズに応じて変化中

これからの金利の動向が気になる住宅ローンだが、住宅金融支援機構が金融機関に対して、ローンへの取組姿勢などを調査した「住宅ローン貸出動向調査」の最新結果を公表した。金融機関では、住宅ローンについてどんな取り組みをしようと考えているのだろうか?詳しく見ていこう。

【今週の住活トピック】
「2023年度 住宅ローン貸出動向調査」を公表/住宅金融支援機構

金融機関の7割以上が今後も新規の住宅ローンに積極的に取り組む

住宅金融支援機構の調査に回答したのは、都市銀行・信託銀行、地方銀行、第二地方銀行、信用金庫などの301機関で、2023年7月~9月に調査を実施した。

新規の住宅ローンへの取組姿勢は、「積極的」という回答が「現状」でも72.1%、「今後」でも同じ72.1%となり、積極的な姿勢に変化はないようだ。積極的に取り組む方策としては、「商品力強化」が63.0%と最多で、2番目の「金利優遇拡充」の41.2%を大きく引き離す形となった。

環境配慮型住宅ローンの取り扱い状況は?

近年は、環境意識の高まりやエネルギー価格の高騰で、エネルギーの消費量を抑える住宅への関心が高まっている。加えて、金融機関でも、SDGsなどの時代の要請を受けて、環境配慮型住宅ローンに取り組む姿勢を見せたいところだろう。

今回の調査で、「環境配慮型住宅ローンの取り扱いの有無」を聞いたところ、「取り扱っている」が32.9%、「取り扱いを検討中」が8.3%となり、いずれも前回より増加した。やはり、取り組む金融機関が増えているようだ。

出典/住宅金融支援機構「2023年度 住宅ローン貸出動向調査」

出典/住宅金融支援機構「2023年度 住宅ローン貸出動向調査」

では、どんな「環境配慮型住宅ローン」を提供しているのだろう?

環境配慮型住宅ローンに特に定義はないので、金融機関が同じ名称を使っていても、その内容は金融機関ごとで異なる。調査結果で見ると、「太陽光発電設備、高効率給湯器 、家庭用蓄電池等の省エネ設備を備えた住宅」が75.8%と最多となっている。

出典/住宅金融支援機構「2023年度 住宅ローン貸出動向調査」

出典/住宅金融支援機構「2023年度 住宅ローン貸出動向調査」

住宅で使用するエネルギーを抑えるには、第一に、住宅そのものの断熱性能を高める必要がある。外の暑さ寒さに影響を受けにくいようにするためだ。第二に、エネルギーを大量に消費する給湯器やエアコンなどを省エネ性能が高いものにする必要がある。消費するエネルギーを抑制するためだ。第三に、太陽光発電などでエネルギーを生み出す設備や、発電した電気を蓄える設備を設置する必要がある。住宅で使った電気などを、発電した電気でカバーするためだ。

すべてをそろえて、消費するエネルギーをプラスマイナスゼロ以下にする住宅が、ZEH住宅(=ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)だ。すべてをそろえるには費用もかかるので、ハードルが高くなる。また、なかでも高額な設備となるのが、太陽光発電設備だ。

環境配慮型住宅ローンとしては、まず、こうした高額な設備を搭載した住宅を対象に、ローンの優遇をしようという金融機関が多いのが実態のようだ。2番目に多いZEH住宅を対象とするのは、45.5%と半数に満たないが、前回より大幅に増加している。政府がZEH住宅を増やしたいと考えていることを受けてのことだろう。

では、こうした住宅についてどんなローン優遇が受けられるのか?
調査結果を見ると、「金利引き下げ」が90.9%で大半となっている。ZEH住宅や太陽光発電設備・蓄電池などを搭載した住宅、地域木材を利用した住宅、長期優良住宅や低炭素住宅の認定住宅の場合などで、ローンの金利引き下げをする商品が多いということだろう。

具体的な環境配慮型住宅ローンの事例は?

具体的な住宅ローンを見ていこう。
例えば、りそな銀行では環境等配慮型住宅向けの特別金利プラン(名称:SX金利プラン)」を提供している。ZEH住宅、太陽光発電設備設置住宅、長期優良住宅、低炭素住宅、国産木材を一定割合以上使用している住宅、安心R住宅と、かなり幅広く対象としている。どの金利タイプを利用するかでも異なるが、原則、適用金利から0.01%引き下げる。

また、千葉銀行では「サステナ住宅応援割!」(2024年9月30日まで)を展開している。ZEH水準(発電設備等が必須ではない)以上の住宅や低炭素住宅・長期優良住宅などに加え、太陽光発電設備搭載の住宅、免震装置付き住宅を対象にしている。優遇については、適用金利から0.05%引き下げのほか、全傷病団信の上乗せ金利を0.2%優遇、または自然災害時支援特約を付帯するための金利上乗せ分を0.1%引き下げの3つから1つを選ぶ形となっている。

滋賀銀行の「スーパー住宅ローン未来よし」では、太陽光発電、蓄電池、エネファームのいずれかを新たに設置する一戸建てに対して、適用金利から0.05%引き下げる。これは、創エネ・畜エネ設備費用(想定金額300万円)の金利負担を実質ゼロにする想定なのだという。また、マンションでは省エネルギー性能表示制度「BELS(ベルス)」で★3つ以上および同等基準を満たすものも対象とする。

ほかにも、名称はさまざまだが、地球環境に配慮した住宅に対する優遇措置を取っている事例が多数ある。

空き家に関連するローンの取り扱い状況は?

近年は、空き家の増加が懸念されている。金融機関が、空き家解消のために利用できるローン(空き家関連ローン)を取り扱う事例も増えている。調査結果を見ると、ほぼ半数が取り扱う(「取り扱っている48.8%」「取り扱いを検討中」3.3%)と回答している。

資金使途を具体的に見ると、「空き家解体」が93.9%とかなり多く、次いで「空き家活用(リフォーム)」の44.2%、「空き家活用(取得+リフォーム)」の25.2%となった。

出典/住宅金融支援機構「2023年度 住宅ローン貸出動向調査」

出典/住宅金融支援機構「2023年度 住宅ローン貸出動向調査」

こちらも具体的な事例を見ていこう。
岩手銀行では、「空き家活用・解体ローン」を提供している。空き家を賃貸するための改修や空き家の解体、解体後の土地の造成や各種設備の設置、空き家の防災・防犯対策などに利用できる。借入額は10万円以上1000万円以内、借入期間は6カ月以上10年以内(1カ月単位)、変動金利で2.5%(提携市町村であれば0.5%引き下げ)などとなっている。

住宅ローンについては、最も気になるのが適用される金利だろうが、各金融機関がそれぞれに特徴のあるローンを用意している。その品ぞろえは、時代のニーズによっても変わるので、環境に配慮した住宅などについては、できるだけ多くの情報を集めたうえで選ぶようにしたい。長期間返済するローンであるだけに、後で知らなかったということのないようにしたいものだ。

※ローンの具体事例の内容については、いずれも執筆時時点(2024/3/1)の情報による

●関連サイト
・住宅金融支援機構「2023年度 住宅ローン貸出動向調査」
・りそな銀行「環境等配慮型住宅向けの特別金利プラン(名称:SX金利プラン)」
・千葉銀行「サステナ住宅応援割!」
・滋賀銀行「スーパー住宅ローン未来よし」
・岩手銀行「空き家活用・解体ローン」

最高水準の省エネ住宅をDIY! 光熱費4分の1以下、ZEH水準超えの断熱等級6の住みごこちを聞いてみた

住まいの省エネ性能に関心が高まるなか、ハーフビルドで省エネ性能の等級6というハイスペックな家づくりにチャレンジした夫妻がいます。等級6とは7と合わせて2022年に新たに設定された最高水準クラス。ほとんどの新築住宅で、まだそのレベルのものは搭載されていません。2023年には2人が主催するワークショプにも参加させてもらいましたが、無事、建物が引き渡しとなり、すでに半年ほど暮らしを営んでいるそう。ではその住み心地とは? 得られたものと、その幸せな暮らしぶりをご紹介します。

■関連記事:
ZEH水準を上回る省エネ住宅をDIY!? 断熱等級6で、冷暖房エネルギーも大幅削減!

省エネ等級6の家をハーフビルド。健康に暮らせる家ができた!

2023年1月、省エネルギー等級6の家を職人さんたちの手を借りつつ、ハーフビルドでつくるというワークショプに参加してきました。午前は壁や床の断熱性を高める施工、午後は焼き杉づくり&お餅つきという大変濃い内容でしたが、その楽しそうな様子は筆者の心に強く印象に残っています。2023年も終わりになり、住まいと暮らしが落ち着いてきたということで、この度、お邪魔してきました。

ワークショップ時の様子(写真撮影/桑田瑞穂)

ワークショップ時の様子(写真撮影/桑田瑞穂)

ワークショプ時の建物外観。あれから約1年が経過(写真撮影/桑田瑞穂)

ワークショプ時の建物外観。あれから約1年が経過(写真撮影/桑田瑞穂)

まず、森川さんのお家について整理しておきましょう。
神奈川県の山間に夫妻と2人のお子さんで暮らしています。完成した住まいは平屋建て、間取りは大きな1LDK、建物面積は約60平米、上部にロフトが30平米というもの。

南に大きなリビング。中央にキッチン・洗面などを配置。無駄のないシンプルな間取り(間取図提供:森川さん)

南に大きなリビング。中央にキッチン・洗面などを配置。無駄のないシンプルな間取り(間取図提供:森川さん)

2024年春の時点で上のお子さんは4歳、下のお子さんは2歳。夫は現在、子育てをしながら地域の仕事をしたり、自宅で養蜂をしてはちみつの販売をしており、妻は育休から仕事に復帰、現在リモートワーク中心に働き、週1回ほど都心部まで通勤しています。

正真正銘の自家製はちみつ。一部を販売しています(写真撮影/桑田瑞穂)

正真正銘の自家製はちみつ。一部を販売しています(写真撮影/桑田瑞穂)

住まいの断熱性能は、省エネ地域区分5(※)の省エネルギー等級6(外皮熱貫流率UA値0.46W/平米K)、気密値はC値0.3という、ZEH以上の高性能住宅です。給湯はエコキュート(ヒートポンプ技術で空気の熱でお湯を沸かす)を採用、空調は6畳用エアコン2台、熱効率80%の第一種熱交換システム、太陽光発電パネルを搭載し、発電した電気は、自宅で使うエネルギー(給湯含む)のほか、電気自動車の充電にも使っています。窓はLow-Eトリプルガラスの樹脂窓(遮熱タイプ)。建物はシンプルでありながらも、実に環境に配慮した、高性能なハイスペックなお住まいです。設計・施工したのはプロの3人、プラス、夫妻とお友達。この性能をハーフビルドで建てられるんだから、すごすぎる……!

※省エネルギー基準地域区分。国内を「1~8」の8つの地域に指定しており、どの地域区分かによって、求められる断熱性能、達成すべき基準値が異なる

太陽光発電の発電・消費・売電状況がリアルタイムにわかります(写真撮影/桑田瑞穂)

太陽光発電の発電・消費・売電状況がリアルタイムにわかります(写真撮影/桑田瑞穂)

樹脂のトリプルサッシ。価格は高くなっても窓はお金のかけどころです(写真撮影/桑田瑞穂)

樹脂のトリプルサッシ。価格は高くなっても窓はお金のかけどころです(写真撮影/桑田瑞穂)

山の中にある建物。外壁に使われた焼き杉!! 日差しを浴びて超絶かっこいい!!(写真撮影/桑田瑞穂)

山の中にある建物。外壁に使われた焼き杉!! 日差しを浴びて超絶かっこいい!!(写真撮影/桑田瑞穂)

建物の引き渡しは2023年3月で、その後も夫妻でDIYしつつ、アップデートして暮らしています。実に暑かった2023年の夏もこの住まいで過ごしました。

南側から建物を見たところ。ちょっと鋭角な切妻屋根が愛らしい!(写真撮影/桑田瑞穂)

南側から建物を見たところ。ちょっと鋭角な切妻屋根が愛らしい!(写真撮影/桑田瑞穂)

まずは、入居して半年経過した現在の気持ちから聞いていきましょう。

「朝昼晩といつも快適で体調がすこぶる良くなりました。特に夫は、冬は寒いと布団から出られず元気がなかったのですが、今は毎日元気。必要以上にエネルギーを使ったり、暑い・寒い・冷たいに気を使うストレスから解放されました。また、(自分たちの手でハーフビルドをして)構造や仕組みがわかっているから、何かあった時にどうしたらいいかわかる安心感もあります。エネルギーに依存しない暮らしはシンプルに気持ち良い。断熱性能の低い家に住んでいたころは、環境に配慮した暮らしがしたいと思いながらも、大量にエネルギーを使わなければ快適に過ごせない毎日に違和感がありました。今は、地球環境や次の世代に対してもやもやしていた気持ちが、少し晴れました」と妻は話します。

省エネ性能を高めた住宅にお住まいの人からよく聞くのが「健康になった」という話。室内の寒暖差によるストレス、ヒートショックは高齢者のみの問題のように思われがちですが、実はかかっている負荷は若い人でも同じ。慶應義塾大学の伊香賀 俊治(いかが・としはる)研究室では、「室温を2度上げると健康寿命は4歳のびる」のほか、「暖かな住まいでは風邪をひく子どもの数が減る」などの研究結果もあります。年齢や性別関係なく、あたたかい家は快適だといえるのでしょう。

■関連記事:
室温18度未満で健康寿命が縮む!? 脳卒中や心臓病につながるリスクは子どもや大人にも。家の断熱がマトな理由は省エネだけじゃなかった

リビングの様子。現し仕上げで見える県産材。壁は漆喰。友人の左官職人に協力してもらい、みなで塗りました。その仕事ぶりにも感動!(写真撮影/桑田瑞穂)

リビングの様子。現し仕上げで見える県産材。壁は漆喰。友人の左官職人に協力してもらい、みなで塗りました。その仕事ぶりにも感動!(写真撮影/桑田瑞穂)

上部にあるロフトの様子。屋根裏ってどうしてこうワクワクするんでしょう(写真撮影/桑田瑞穂)

上部にあるロフトの様子。屋根裏ってどうしてこうワクワクするんでしょう(写真撮影/桑田瑞穂)

妻の仕事の様子。出社することもありますが、在宅で仕事するにはちょうどよいスペース(写真撮影/桑田瑞穂)

妻の仕事の様子。出社することもありますが、在宅で仕事するにはちょうどよいスペース(写真撮影/桑田瑞穂)

冬でも室温は常に20度前後。光熱費は1/4以下に! 建築費は2810万

「朝昼晩いつも快適」というのは、データでも裏付けられています。森川さん宅には家の内外室内あわせて9の温度計をつけていますが、最も暑かった日も最も寒かった日も、室温がほぼ一定しているのがわかります。エアコンは2台設置していますが、動いているのはほぼ1台のみ!

◆もっとも暑かった日と寒かった日の室温の変化

最も暑かった2023年7月30日のグラフ。外気温40度を超えている(!)のに対し、室内は温度差にムラがなくどこも28度程度(データ提供:森川さん)

最も暑かった2023年7月30日のグラフ。外気温40度を超えている(!)のに対し、室内は温度差にムラがなくどこも28度程度(データ提供:森川さん)

最も温度差があった2023年11月24日のグラフ。外気温3度から20度まで上昇しているのに室温はおよそ20~25度で安定している(データ提供:森川さん)

最も温度差があった2023年11月24日のグラフ。外気温3度から20度まで上昇しているのに室温はおよそ20~25度で安定している(データ提供:森川さん)

特筆すべきは、建物の中、どこの箇所でも温度差がほとんどないことでしょうか。以前は断熱性能の低い賃貸一戸建てで、厳冬期は電気代が最大3万6000円を記録。さらに給湯のガス代が1万円、灯油ストーブの灯油代が5000円、山の暮らしで車移動が多かったためガソリン代は月2万円と高め。光熱費+ガソリン代で合計月7万円を超える時期もありましたが、今は日の短い冬でも電気代が月1万円程度(給湯、電気自動車充電分含む)まで下がりました。日の長い夏なら売電収入で月々のエネルギーコストはプラスになります。エネルギーを使わないのは節約になるわけですから、高性能住宅は、健康で、エネルギーを使わず、家計にもやさしいということがいえるのがわかります。

換気口。常時換気されていて、24時間ゆっくりと空気は入れ替わっていて、心地よさも抜群です(写真撮影/桑田瑞穂)

換気口。常時換気されていて、24時間ゆっくりと空気は入れ替わっていて、心地よさも抜群です(写真撮影/桑田瑞穂)

第一種空調換気で、室内の温度と湿度の調整を行います(写真撮影/桑田瑞穂)

第一種空調換気で、室内の温度と湿度の調整を行います(写真撮影/桑田瑞穂)

取材に訪れた日も12月で外気温は8度ほどでしたが、室内はエアコン1台で十分にあたたかくなります。お子さんたちは裸足でしたし、人が発する熱もあり、「少々窓をあけましょうか」という話にもなるほどの心地よい温度になります。また、第一種空調換気により常時換気されていて、24時間ゆっくりと空気は入れ替わっていて、家の一番のお気に入りは「温度と湿度の快適さ!」と胸を張ります。

ロフトからキッチン・リビングを見下ろす。日差しがたっぷりと注いでいます(写真撮影/桑田瑞穂)

ロフトからキッチン・リビングを見下ろす。日差しがたっぷりと注いでいます(写真撮影/桑田瑞穂)

「もう以前のような寒い家には戻れないなと思います。夏も冬も快適なのはもちろん、春と秋も超気持ちいい! ちなみに2番目のお気に入りは、廃材をたくさん使ったこと。ご近所に廃材があるのでもらってきて、棚やキッチンに使いました。『そこにあるものを活かす』はエネルギーもコストもかけてない、シンプルだし心地よい。自分で集めた廃材が家になってめっちゃ嬉しいです!」とにこやかに話します。

リビングからキッチンをのぞむ。キッチンカウンターの正面は、外壁の焼き杉の端材を加工し「浮造り」にした板を張りました(写真撮影/桑田瑞穂)

リビングからキッチンをのぞむ。キッチンカウンターの正面は、外壁の焼き杉の端材を加工し「浮造り」にした板を張りました(写真撮影/桑田瑞穂)

地元で廃材などももらえるそう。棚をつくるのもお手の物(写真撮影/桑田瑞穂)

地元で廃材などももらえるそう。棚をつくるのもお手の物(写真撮影/桑田瑞穂)

ここまで来ると気になるのが、価格です。総工費(本体価格に加え、キッチンなど設備費)2810万円ほど。これに設計費や外構工事含めた付帯費用を加算し、総額で3500万円ほど。この性能でこの価格というのは、設計や施工に携わったみなさんも「リーズナブル!!」と評するほどのコスパです。

家づくりで見えてきた、職人への敬意と新しい人生

設計と施工に携わったHandiHouse projectの中田りえさんは、この価格について、「高性能な住まいは『高い』と思われがちですが、この家は断熱と気密、窓や玄関など、後からリノベやリフォームでは変えにくい機能面に『全振り』しています。反対に室内の建具、仕切り、設備は最小限にし、あとでDIYしたり発注したり、暮らしにあわせて可変できるようにしています」といいます。

ワークショプで建築面での解説をしてくれたHandiHouse projectの中田りえさん(写真撮影/桑田瑞穂)

ワークショプで建築面での解説をしてくれたHandiHouse projectの中田りえさん(写真撮影/桑田瑞穂)

収納も扉を設けずに節約し、布でゆるく仕切ることでコストダウン(写真撮影/桑田瑞穂)

収納も扉を設けずに節約し、布でゆるく仕切ることでコストダウン(写真撮影/桑田瑞穂)

高性能な躯体をつくり、コンテンツはのちのち充実させていくという考え方ですね。また、ハーフビルドしたことで夫はDIYスキルを獲得。棚づくりなどはお手のものとなり、現在では最も大変だった黒い外壁として使用している「焼き杉づくり」にはまり、“株式会社焼き杉”をつくりたいというほど。今も友人宅の焼き杉づくりを手伝いに行くこともあるそうです。

「焼き杉は西日本でよく使われている手法で、防虫、防腐、調湿効果などがあります。我が家では外壁に使うため杉を焼いたのですが、その数約230本! 全部で1カ月くらい、朝から夕方まで焼き続けた(笑)。毎日50点~80点くらいを行き来して試行錯誤しながら、最後のほうは毎回98点のクオリティーに。上達していくのがとにかく面白かった」と夫。

大量の杉を焼くためにご近所の仲間(初対面の人も)、旧友、元会社の先輩などなど総勢30人くらいが参加し、焼杉をきっかけにいろんな人との出会い、再会もあったそう。

焼き杉づくりの様子。めっちゃ盛り上がりました(写真撮影/嘉屋恭子)

焼き杉づくりの様子。めっちゃ盛り上がりました(写真撮影/嘉屋恭子)

外壁をよく見るとシックスパックのような凸凹があります。一つとして同じものがない(写真撮影/桑田瑞穂)

外壁をよく見るとシックスパックのような凸凹があります。一つとして同じものがない(写真撮影/桑田瑞穂)

焼き杉以外にも「図面、設備以外はほぼ決まっていない状態で、細かいところは現場で決めながら進めた」というライブ感も貴重な体験になったようです。

「図面だけだとイメージがつかないことばかりで、毎日、現場でリアルに想像しながら仕様や細かい部分を決められたので、家の満足度がとても高いんです。休憩タイムにアイディア出しをしたり、家をつくってる感があって楽しかった。こういう家づくりがもっと広まったら、新居に引っ越して後悔する人、家づくりの工程でストレスを感じる人も減るんじゃないかな。家を買うというモノ消費から、家をつくるという『コト消費』ですね」と夫はその手応えを話します。

3人の多能工と協働作業をするなかで「来世は大工になりたい!」というほど職人の身のこなしの美しさ、手際のよさに感動したとか。わかります、職人さんってカッコいいですよね……。こうして得た「家づくり」の知見を活かし、夫は今、会社勤めとは異なる、人生を歩みはじめています。

もう1棟建てるなら? ハーフビルドでおすすめする工程は?

今、家づくりを終えてみての感想、夫妻ともに得たものはあるのでしょうか。

「本当の意味での建築の民主化は、ただ作業に参加するだけでなく、できなくてもいいからとにかく自分でやってみることだと思いました。今回、私たちは知り合いの山の杉やヒノキを使いたくて地元の林業会社、製材所に直接相談に行ったんですが、急峻で狭い山道から木材を運び出すのが難しく、搬出コストの問題で断念しました……。結果的に地域の製材所に津久井産材などの地元の木材を発注しましたが、日本の山が放置される理由と原因がわかり、山を見る目が変わりましたね」と収穫と課題感を口にします。

眼の前に建材適齢期の杉があるのに使えない、もどかしさ、苦しさ。顔の見える関係で建材を調達して家づくりをしたいと思っても、そう簡単にはいかないのには理由があるんですね。

「今回、自分たちでフローリングの製材(伐採した木を角材、板材として加工すること)もやってみて、いかに既製品が使いやすく、なぜ普及しているのかがよくわかったんです。仕上がりの精度や施工のしやすさがまったく異なるので。“仕上がりのラフさ”の許容範囲は人によって違うと思いますが、私たちは高い精度を追求するのではなく、本来の木の性質を活かした風合いが残っていてもいいし、施工時に多少の手間がかかっても、そこには人の手触りが残ってるからいいのでは、という結論に落ち着きました。画一化された商品以外の選択肢も含め、一般の消費者が自分の好みや許容度によって選べるようになればいいなと思います」と妻。

知っているのと体験したことがある、この2つには雲泥の差がありますが、まさに森川夫妻にとってはそんな家づくりとなったようです。

家族の寝室として使っている部屋。こちらにも無駄がありません!(写真撮影/桑田瑞穂)

家族の寝室として使っている部屋。こちらにも無駄がありません!(写真撮影/桑田瑞穂)

では、ハーフビルドやDIYでおすすめする工程があるとしたら、どのようなものがあるのでしょうか。

「工程を区切ってポイントで参加するのではなく、薄くてもいいからできるだけ広い範囲の工程に参加するのがいいと思う。毎週末土日に差し入れを持って見学するだけでもいいし、基礎から引き渡しまでの全工程が家づくりなので、とにかく多くの工程に関わるのが面白いです。もしDIYで参加するなら、土台組み、断熱施工、構造用合板を組むなどの完成後、目に見えない構造部分に関わるのがいいと思う。石膏ボードを張ったあとは、あとからリノベしたり塗り替えたりできるけど、石膏ボード張るより前の、構造に関わる部分はハーフビルドでしか経験できない領域だから。興味が湧いた方にはぜひおすすめです」(妻)

聞けば聞くほどに濃い「ハーフビルド体験」ですが、今、もう一軒、建てるとしたらどんな家を建てたいでしょうか。

「新築じゃなくて、中古を断熱改修して快適に住めるようにしたい。そのノウハウが広まればもっと快適な家が増えるはず。新築現場ではとにかく大量のゴミが出ます。もっと空き家が流通して、断熱改修でストック活用が必要だと、改めて思いました」といいます。

HandiHouse projectの中田りえさんは、今ある中古住宅の断熱改修にも携わっていますが、コストや施工といった面での難しさを痛感しているといいます。だからこそ、「せめて新築をつくるときは、断熱・気密ともに高性能な住宅にこだわってほしい」とアドバイスします。

2023年のワークショプ、そして今回の完成後の様子を見て、筆者の印象はとにかく、「『家づくり』ってこんなに楽しいものだったんだ!」という事実です。とかく家は「買う」「借りる」という意識でしたが、もしかしたら近代化・工業化、大量生産の時代に、本来、あったはずの「家を作る喜び」を手放してしまったのではないか、とすら思います。

総人口が減り、工業的な家と人のあり方、地球環境を含め、潮目が大きく変わる今、施主も施工する人も、周囲の人も巻き込んだこんな楽しい家づくりを、取り戻せたらいいなあと切に願います。

今回のプロジェクトに携わったみなさんと(写真撮影/桑田瑞穂)

今回のプロジェクトに携わったみなさんと(写真撮影/桑田瑞穂)

青空に映える……(写真撮影/桑田瑞穂)

青空に映える……(写真撮影/桑田瑞穂)

●取材協力
森川屋
ハンディハウスプロジェクト

「脱炭素問題」が企業も国も淘汰する時代へ。予断を許さぬ気象環境と日本の対策遅れ、住宅事情など最新情報  COP28

2023年は、世界各地で異常気象が相次ぎました。異常高温、大雨やサイクロンなど多数の死者を伴う気象災害により、多くの住宅やインフラが甚大な被害を受けました。日本も年平均気温は過去最高で、記録的な豪雨が発生。地球温暖化によって引き起こされる異常気象は、今後もさらに頻発する見込みで、各国は地球温暖化を抑制する脱炭素に向けた取り組みを加速しています。

NHKエンタープライズ エグゼクティブ・プロデューサーとして「脱炭素」を追ってきた堅達京子さんに最新事情を聞きました。2023年11月30日から12月13日にかけて、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催された、COP28※の成果や課題、住宅業界の脱炭素の動きを解説します。

※COPは、地球温暖化の影響緩和や適応策、炭素排出削減目標などに焦点を当て、国際社会の協力を促進する国際会議です。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

『化石燃料からの脱却』の合意は画期的な一歩堅達さんの著書『脱炭素革命への挑戦 世界の潮流と日本の課題』(山と渓谷社 刊)(画像提供/堅達京子)

堅達さんの著書『脱炭素革命への挑戦 世界の潮流と日本の課題』(山と渓谷社 刊)(画像提供/堅達京子)

2020年10月、菅前首相の「2050年カーボンニュートラル宣言」により、地球温暖化対策の「脱炭素」に対する日本全体の関心が高まりました。カーボンニュートラルとは、地球温暖化を進めないように、温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすること。政府は、これを2050年までに達成する目標を掲げています。これは、日本が脱炭素社会の実現に向けて、産業構造や社会システムの転換を進めていくことを意味しています。2021年に開催されたCOP26について堅達さんを取材した際、「この8年が地球温暖化を食い止める正念場」という強いメッセージがありました。それから2年、脱炭素の観点から世界はどのように変わったのでしょうか。

堅達さんは、「温暖化の危機は加速しているのに、人間は戦争や紛争に明け暮れ、結束が弱まっている。そういう2年間だったと思います」と話します。

「温暖化の悪影響が一層顕在化してきています。リビアの砂漠地帯やイタリアの洪水、アマゾン川流域の干ばつ、ハワイの山火事などがニュースで報じられました。海氷や陸地の氷が驚くほどの速さで溶け、特に西南極の氷床が大きく減少しているという科学者たちの報告があります。太平洋島嶼国は、海面上昇による国土消失が懸念されています。そして、ウクライナ戦争やガザ侵攻が勃発しました」

世界中で洪水や山火事、干ばつなどが続発(PIXTA)

世界中で洪水や山火事、干ばつなどが続発(PIXTA)

そうして2023年11月30日~12月13日、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催された「COP28」。気候変動の悪影響を受けやすい途上国の損失と損害(ロス&ダメージ)を支援する「ロス&ダメージ基金」や各国の脱炭素対策の進捗を評価する「グローバル・ストックテイク」などについて議論されましたが、なかでも大きな成果は「『化石燃料からの脱却を10年間で加速する』という合意が採択されたこと」だと言います。
「近年のCOPでは、『化石燃料の段階的廃止』という文言が合意文書に盛り込まれるのかが焦点でした。化石燃料の燃焼は、二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスを排出する主な原因で、大気中に蓄積することで、地球温暖化が引き起こされます。
化石燃料の廃止は、地球温暖化を抑えるために必要不可欠ですが、COP26、COP27では、化石燃料への依存度が高い国々からの反発があり、見送られました。
COP28では、『化石燃料からの脱却を10年間で加速する』という合意が採択されました。190を超える世界の国と地域の合意文書に盛り込まれたことは歴史的な進展であり、2023年が、石油や石炭に依存する『化石燃料時代の終わりの始まり』だと言えるでしょう」

化石燃料とは、石炭・石油・天然ガスなど。火力発電などで燃焼する際、温室効果ガスを排出する(PIXTA)

化石燃料とは、石炭・石油・天然ガスなど。火力発電などで燃焼する際、温室効果ガスを排出する(PIXTA)

一方で、「『廃止』という強い言葉が最初の案から消えて、『脱却』という解釈の余地を残す言葉になってしまった点は残念」と堅達さん。

「『phase-out(段階的廃止)』には、『全面的に無くす』という強い意味がありますが、『transitioning away(脱却)』は、『移行』と訳されることもあります。玉虫色だからこそ合意できた面もあるでしょうが、訳し方次第で都合よく解釈できる余地が残ってしまいました」

とはいえ、そんな中でも、化石燃料からの脱却を「10年間で加速する」と期限を明記できたことは大きい成果と言えるでしょう。

ビジネス界で加速する再生可能エネルギーの活用再生可能エネルギー(再エネ)とは、太陽光、水力、風力、地熱、バイオマスなどの、枯渇せずに繰り返して永続的に利用できるエネルギーのこと(PIXTA)

再生可能エネルギー(再エネ)とは、太陽光、水力、風力、地熱、バイオマスなどの、枯渇せずに繰り返して永続的に利用できるエネルギーのこと(PIXTA)

また、ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、ロシア産パイプラインガスへの依存度が高い欧州などで天然ガス価格が高騰したこともここ数年での大きな出来事のひとつ。日本に住む私たちも、日々影響を実感しています。

「脱炭素化」が停滞、後退するのではという見方もありました。それでも、堅達さんは「脱炭素なくしてビジネスはできない時代に突入します」と話します。

「最新の研究では、想定されていたほどウクライナ戦争による化石燃料への揺り戻しは起きなかったと捉えられています。むしろ、ロシアの天然ガスに依存するのは危険だという認識が強まり、再生可能エネルギーへの転換が一層加速しました。
その流れは、ビジネス界も同様で、例えば、アップルは、2030年までに、販売されるすべての製品をカーボンニュートラルにすることを目指すと宣言。再生可能エネルギーに移行するサプライヤー(商品やサービスを供給する人・企業)の数を大幅に増やしただけでなく、製品に使用するリサイクル素材の量を増やしています」

液化天然ガスのパイプライン。ロシア の ウクライナ 侵攻 で 世界的 に 需給が逼迫した(PIXTA)

液化天然ガスのパイプライン。ロシア の ウクライナ 侵攻 で 世界的 に 需給が逼迫した(PIXTA)

ビジネス界が脱炭素に向けた取り組みを加速させている背景には、世界各国でカーボンプライシングの導入が進んでいることがあります。

「カーボンプライシングとは、温室効果ガスの排出に価格を付ける仕組みで、例えば、炭素税は、温室効果ガスの排出量に応じて課税する制度。
1トンあたりの値段が1万円を超える国もある中、日本のカーボンプライシング(『地球温暖化対策のための税』)は、石炭火力発電の排出量に1トンあたり306円と世界各国と比較して低い水準にとどまっています(2024年1月8日時点)」

欧州連合(EU)は、2023年5月に、炭素税に匹敵する「炭素の国境調整メカニズム」を施行。温室効果ガス排出量の多い国から、排出量の少ない国への輸入品に対して、炭素価格相当の費用を課す制度です。さらに、2023年7月から「デジタルプロダクトパスポート」の導入を義務付け、製品の製造者、販売者、消費者、そしてリサイクル業者などが製品の持続可能性に関する情報を電子的に記録したものを共有できるようにしました。
温室効果ガス排出量の多い国から輸入される製品の競争力を低下させ、排出量の少ない国から輸入される製品の競争力を高める施策で、日本企業への影響も少なくはありません。
もはやビジネス界は、「脱炭素なくして商いができない」時代に突入しているというのです。

脱炭素ビジネスで世界をリードする中国に対抗するため、アメリカは国内の脱炭素産業育成に多額の資金を投入している(PIXTA)

脱炭素ビジネスで世界をリードする中国に対抗するため、アメリカは国内の脱炭素産業育成に多額の資金を投入している(PIXTA)

現在、脱炭素ビジネスは、欧州・アメリカと中国が牽引していますが、アメリカでは、2017年6月、ドナルド・トランプ大統領のもと、地球温暖化対策の国際的な枠組みであるパリ協定からの離脱を表明したのは印象的なできごとでした。
ジョー・バイデン大統領により2021年2月に復帰しましたが、その間に何があったのでしょうか。

「アメリカが離脱を宣言する中、2017年にドイツのボンでCOP23が開催されました。アメリカのビジネス界はどうするのか注目されましたが、アメリカの大手企業100社以上が連名で、『ウィーアースティルイン(We are still in)』の声明を発表し、『我々はまだパリ協定にいる』と表明したんです。企業には、アップル、マイクロソフト、グーグル、フェイスブックなどアメリカを代表する企業が名を連ねていました。2024年アメリカ大統領選挙で、たとえドナルド・トランプ氏が再選されたとしても、ビジネス界の脱炭素の動きは止まらないでしょう」

脱炭素と住まいの新潮流、世界の最新事情

住宅業界の脱炭素の動きについて、堅達さんは「世界各国で新築住宅への太陽光発電の義務化が進むこと」に注目しています。

「COP28では、『化石燃料からの脱却』を実現するために、2030年までに再生可能エネルギーを3倍にして、エネルギー効率を2倍にすることが目標になりました。
具体的な政策としては、新築住宅の太陽光発電の義務化が注目されています。既に、アメリカのカリフォルニア州やハワイ州では、新築住宅に太陽光発電を設置することが義務化されていましたが、日本でも、東京都が2025年4月から、新築住宅への太陽光発電設置の義務化を決定しました」

太陽光発電や電機自動車の充電ステーションが街の当たり前の風景に(PIXTA)

太陽光発電や電機自動車の充電ステーションが街の当たり前の風景に(PIXTA)

「化石燃料を廃止するには、石炭だけではなくて、石油と天然ガスからも脱却しなければいけません。
ニューヨーク市で2021年12月に可決された『新たな建築物での天然ガス使用を禁じる法案』は、その先駆けとなる政策です。2024年1月から7階建て未満の新築建物、2027年7月から7階建て以上の新築建物に対して、暖房、給湯、調理などのすべての用途で天然ガスの使用を禁止するもの。ニューヨーク市の新築建物は、すべて電気で暖房や給湯、調理を行うことになります。ガスをひねって調理する時代が終わりを迎えているのです」

街づくりや住宅にもEVシフトの動きが出てきており、こちらも見逃せないと言います。

「ここ数年で大きく進んだ分野は、EVです。ガソリン車やディーゼル車などの内燃機関車から、電気自動車(EV)への転換が急速に進んでいます。
世界におけるEV車の普及率は2023年には14%を超え、欧州では20%と5台に1台がEVの時代に突入しています。欧州、中国、アメリカでは、EVシフトを加速させるために、住宅へのEV充電設備の設置義務化を進める動きが広がっています。
日本では、東京都が、全国に先駆けて、2025年4月から、賃貸住宅を含む新築の住宅すべてにEV充電設備の整備義務化を施行。日本におけるEV車の普及率は世界水準を大きく下回っています。今後、EVシフトを加速させると同時に、全国へ充電ステーションの整備が急がれます」

自宅のガレージにEV充電設備を備えた住宅(PIXTA)

自宅のガレージにEV充電設備を備えた住宅(PIXTA)

また、堅達さんは「日本が一番遅れている既存住宅の断熱化が急務」と警鐘を鳴らします。

「『エネルギー効率2倍』を達成するためには、建物の省エネ性能を高めることが重要です。欧米では、住宅の断熱化は、エネルギー消費量の削減や、室内環境の改善、快適性の向上などの目的で、広く普及しています。それに比べると、日本では、特に既存住宅における省エネ診断や断熱工事の普及が進んでおらず、省エネ性能向上が遅れています」

既存住宅の性能表示については、2025年4月から義務化される予定。リクルートでは、2024年4月より、不動産情報サイト『SUUMO』に掲載される新築住宅の省エネ性能表示を開始します。「SUUMO」では、エネルギー消費性能を星の数で表示(国土交通省HPより)

既存住宅の性能表示については、2025年4月から義務化される予定。リクルートでは、2024年4月より、不動産情報サイト『SUUMO』に掲載される新築住宅の省エネ性能表示を開始します。「SUUMO」では、エネルギー消費性能を星の数で表示(国土交通省HPより)

ドイツでは、2002年に「省エネルギー建築法(EnEV)」が施行され、新築住宅の省エネ性能を一定の基準に満たすことが義務付けられ、既存住宅についても、2020年より、一定の基準に満たない住宅の売買や賃貸の際に、省エネ診断を実施することが義務化されました。

「国土交通省では、新築住宅の断熱性能を『ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)』の基準まで引き上げる目標を掲げています。また、2022年度から、『既存住宅における断熱リフォーム支援事業』により、窓やドアなどの断熱改修に対する補助金制度が拡充されました。
努力義務だけでは遅々として進みません。義務化と補助金等をセットにして導入するアプローチが効果的です」

「都市(まち)の木造化推進法」(国土交通省2022年施行)にともない、大型の木造建築が続々と登場していることにも注目しているとのこと。「木材を大規模建築に大量に使うことで炭素を貯留し、温室効果ガス排出量の削減につなげようと、『木造化』への期待が非常に高まっているのです」(堅達さん)(画像提供/三井不動産・竹中工務店)

「都市(まち)の木造化推進法」(国土交通省2022年施行)にともない、大型の木造建築が続々と登場していることにも注目しているとのこと。「木材を大規模建築に大量に使うことで炭素を貯留し、温室効果ガス排出量の削減につなげようと、『木造化』への期待が非常に高まっているのです」(堅達さん)(画像提供/三井不動産・竹中工務店)

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日本の課題と求められる取り組み

現在、日本では国全体としての排出量取引制度は実施されていません。日本政府は2026年度の本格稼働に向けて準備を進めている段階です。岸田首相は、2022年1月に「アジア・ゼロエミッション共同体構想」を提唱していますが、課題もあります。
世界では日本の脱炭素政策は、どう見られているのでしょうか。

「残念ですが、日本の温暖化対策は、世界から評価されていないのが現状です。
COP28の会場では、日本は、脱炭素で間違った方向に進んでいるとして、環境NGOから『化石賞』に選ばれました。化石賞とは、気候変動対策に対して足を引っ張った国や企業に与えられる不名誉な賞です。
また、脱炭素化の手段として、アンモニアを燃料として利用することに注力していますが、これについても冷ややかな目を向けられています。確かに、アンモニアは、燃焼時にはCO2は排出しませんが、現状では生成する時にCO2を排出しますから、差し引きでいえば効果が低いと言われるのは当然です」

日本は、化石燃料に多額の公的資金を投じていると非難されている(PIXTA)

日本は、化石燃料に多額の公的資金を投じていると非難されている(PIXTA)

「もはやマイボトルやエコバッグの自助努力だけで温暖化は止まりません」と堅達さん。

「まず、政府が、ルールや期限を決めてシステムを変える必要があります。『衣食住』の『住まい』は、地球環境の問題を身近に感じる入り口。断熱性能のいい住宅なら、快適に暮らせて地球環境にも優しい。太陽光や蓄電池を搭載すれば、防災にもなり、一石二鳥三鳥になります。省エネ性能表示を確認するなど、消費者として、環境に配慮した商品を選ぶことが地球の未来を変えると思います」

世界では、脱炭素化によるパラダイムシフトで、今までの思想や社会全体の価値観などが、革命的に、劇的に変化しています。日本でも2019年に風力発電の再エネ海域利用法が施行され、洋上風力発電の導入が本格化。国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が、脱炭素技術の研究開発に2兆円の「グリーンイノベーション基金」を創設するなど、脱炭素社会の実現に向けた投資を拡大しています。百点満点のエネルギーはなく、課題はありますが、堅達さんのように建設的な視点でとらえることが大切だと感じました。

●取材協力
NHKエンタープライズ エグゼクティブ・プロデューサー
堅達 京子(げんだつ・きょうこ)さん 
1965年、福井県生まれ。早稲田大学、ソルボンヌ大学留学を経て、1988年、NHK入局、報道番組のディレクター。2006年よりプロデューサー。NHK環境キャンペーンの責任者を務め、気候変動やSDGsをテーマに数多くの番組を放送。NHKスペシャル『激変する世界ビジネス “脱炭素革命”の衝撃』 『2030 未来への分岐点 暴走する温暖化 “脱炭素”への挑戦』、NHK民放の6局連動特番『1.5℃の約束 いますぐ動こう、気温上昇を止めるために』はいずれも大きな反響を呼んだ。
2021年8月、株式会社NHKエンタープライズに転籍。日本環境ジャーナリストの会副会長。環境省中央環境審議会臨時委員。文部科学省環境エネルギー科学技術委員会専門委員。世界経済フォーラムGlobal Future Council on Japanメンバー。東京大学未来ビジョン研究センター客員研究員。福井県立大学客員教授。
主な著書に『脱炭素革命への挑戦 世界の潮流と日本の課題』『脱プラスチックへの挑戦 持続可能な地球と世界ビジネスの潮流』。

2024年も3省連携で住宅省エネキャンペーンを実施。省エネで補助金がもらえるのは?内容を詳しく解説

住宅の省エネ化を推し進めている政府は、さまざまな優遇制度を設けている。国土交通省・経済産業省・環境省の3省連携による住宅省エネキャンペーンが2023年にスタートしたが、2024年も同様のキャンペーンを展開することが決まり、昨年末に2024キャンペーンのホームページが公開された。キャンペーン内容を見ていこう。

【今週の住活トピック】
住宅省エネ2024キャンペーン開始/国土交通省

「住宅省エネ2024キャンペーン」とは3つの補助事業の総称

「住宅省エネ2024キャンペーン」とは、国土交通省、経済産業省、環境省の3省連携により行う「住宅の省エネリフォーム支援」と国土交通省が行う「長期優良住宅及びZEH住宅の取得への支援」に関する支援事業の総称だ。具体的には次の事業となり、2023年の同様の事業よりも予算額を増やしている。

先進的窓リノベ2024事業(環境省) 給湯省エネ2024事業(経済産業省) 子育てエコホーム支援事業(国土交通省)

なお、賃貸集合住宅を対象とした給湯省エネ事業もあるが、賃貸オーナー向けのものなのでここでは割愛する。

省エネリフォームに対する補助制度は3つ

省エネリフォームに対する補助制度は3つある。高断熱窓の設置=「先進的窓リノベ2024事業」、高効率給湯器の設置=「給湯省エネ2024事業」、開口部・躯体の省エネ改修を含むリフォーム=「子育てエコホーム支援事業(リフォーム)」だ。省エネならなんでもよいわけではなく、それぞれに指定された部材や機器を使用する必要がある。

住宅の省エネリフォームへの補助制度

※1 断熱窓への改修促進等による住宅の省エネ・省CO2加速化支援事業(環境省)による支援(令和5年度補正予算)
※2 高効率給湯器の導入を促進する「家庭部門の省エネルギー推進事業費補助金」 (経済産業省)及び既存賃貸集合住宅の省エネ化支援事業(経済産業省)による支援(令和5年度補正予算)
※3 子育てエコホーム支援事業 (国土交通省)による支援(令和5年度補正予算、令和6年当初予算案)
※4 ①1)、3)及び②については、経済対策閣議決定日(令和5年11月2日)以降にリフォーム工事に着手したもの、①2)については、経済対策閣議決定日(令和5年11月2日)以降に対象工事に着手したものに限る(いずれの場合にも、交付申請までに事業者登録が必要)
国土交通省報道発表「住宅省エネ2024キャンペーンはじまります!」の資料より

1つ目の「先進的窓リノベ2024事業」は、既存の住宅のリフォームが対象で、内窓を設置したり、外窓や窓ガラスを断熱性の高いものに交換したり(窓リノベと同時に行う高断熱ドアの交換含む)した場合、リフォーム工事の内容に応じた所定の補助額の合計金額を、1戸当たり200万円を上限に還元する事業だ。

2つ目の「給湯省エネ2024事業」で、対象となる高効率の給湯器と1台当たりの補助額は、次の通り。台数制限があり、一戸建てはいずれか2台まで、マンションなどの共同住宅はいずれか1台まで、となっている。

「ヒートポンプ給湯器(エコキュート)」:補助額(基本額)8万円
性能加算額A:2万円、B:4万円、A+B:5万円「電気ヒートポンプ・ガス瞬間式併用型給湯器(ハイブリッド給湯器)」:補助額(基本額)10万円
性能加算額A:3万円、B:3万円、A+B:5万円「家庭用燃料電池(エネファーム)」:補助額(基本額)18万円
性能加算額C:2万円

※「性能加算額」とは、さらに高い性能A~Cを満たす給湯器の場合に基本額に加算される額
※工事内容によっては「撤去加算額」が対象となる場合がある

3つ目の「子育てエコホーム支援事業(リフォーム)」では、例えば小さな窓のガラス交換で3000円/枚など実施した工事内容ごとに定められた額を足し合わせて上限20万円/戸まで補助するもの。ただし、以下の場合は上限額が変わる。

子育て世帯・若者夫婦世帯の場合:上限30万円/戸子育て世帯・若者夫婦世帯が既存住宅購入を伴う場合:上限60万円/戸長期優良リフォームを行う場合:上限30万円/戸長期優良リフォームを行う場合で子育て世帯・若者夫婦世帯の場合:上限45万円/戸

※子育て世帯とは18歳未満の子を有する世帯、若者夫婦世帯とは夫婦のいずれかが39歳以下の世帯

住宅省エネキャンペーンの特徴は、これら3つの補助制度の省エネ改修を行った場合、同時に行うその他の改修(住宅の子育て対応改修、バリアフリー改修、空気清浄機能・換気機能付きエアコン設置工事等)についても、ワンストップで子育てエコホーム支援事業の対象になることだ。

新築住宅の省エネで利用できる支援制度は2つ

まず、「給湯省エネ2024事業」については、指定された高効率給湯器を設置する「注文住宅の新築」、「新築分譲住宅の購入」、「買取再販物件の購入」(買取再販事業者が給湯器を交換して販売することを条件に既存住宅を購入した場合に限る)についても補助対象となる。

長期優良住宅またはZEH住宅の新築住宅については、「子育てエコホーム支援事業」の対象となる。ただし、子育て世帯・若者夫婦世帯の場合に限られる。補助上限額はそれぞれ次の通り。

長期優良住宅の場合:100万円/戸

※長期優良住宅とは、国が定めた「長期優良住宅認定制度」の基準を満たす住宅

ZEH住宅の場合:80万円/戸

※ZEH住宅とは、強化外皮基準かつ再エネを除く一次エネルギー消費量▲20%に適合する住宅
なお、住宅の新築が抑制される所定の区域に立地する場合は補助上限額が半減となる。

登録事業者が工事を行うなどの注意点がある

工事内容や部材・機器が補助対象となるか判断したり、求められる書類等をそろえて補助金の交付申請をしたりなど、専門的な知識が求められることもあって、補助事業ごとに事務局に登録した事業者が工事を行うことが条件となっており、登録事業者が補助金の申請手続きも行う。したがって、住宅の購入や工事の発注を行う前に、利用したい補助制度の登録事業者かどうか(または登録する予定かどうか)を確認することが大切だ。

また、対象期間などスケジュールについても注意が必要。2024年12月31日までが申請期間となっているが、補助事業ごとの予算枠に達すると申請受付が打ち切られる。2024年の「子育てエコホーム支援事業」では予算が増えているが、2023年の「こどもエコすまい支援事業」は申請受付が早期に終了した。どの補助事業も早期に予算枠に達する可能性がある点に留意したい。

補助金の交付申請は3月中下旬(具体的な日程は未定)からとなっているが、それより前に工事に着手した場合も対象となる。令和5年度補正予算が閣議決定した、2023年11月2日以降に着工した場合などが対象になるからだ。また、対象となる機器などが今後追加されることになっているので、最新情報を確認する必要もある。

政府は住宅の省エネ化に力を入れている。こうした制度を上手に活用して、省エネ性の高い住まいを手に入れてほしい。「もらえると思っていた補助金をもらえなかった」ということのないように、細かい条件までしっかり確認し、登録事業者と綿密に相談することがポイントだ。

●関連サイト
〇国土交通省報道発表「住宅省エネ2024キャンペーンはじまります!」
〇住宅の省エネリフォーム支援「住宅省エネ2024キャンペーン」のホームページ
〇「子育てエコホーム支援事業」のホームページ

注文住宅トレンド2024! 注目は、平屋・ヌック・タイパ・省エネ・ランドリールームなど7キーワード

ハウスメーカーや工務店、建築家とイチから自分好みの住まいをつくれる「注文住宅」。マンション・建売一戸建てより自由度が高く、住まいにこだわりたい人の「究極の家づくり」といっていいでしょう。また、注文住宅は間取りや設備をイチから設計できるため、時代の価値観や好み、トレンドを色濃く反映します。では今、これから注文住宅を建てたい人がおさえておくべきポイントとは? 住まい情報誌『SUUMO注文住宅』の編集長を務める服部保悠氏に話を聞きました。

建築費や資材費の上昇を受け、小さくても満足度の高い家をめざす

2023年にSUUMOリサーチセンターが発表した調査(2023年注文住宅動向・トレンド調査)によると、建築費は全国平均で3186万円、土地代2145万円で、ともに直近8年では最高値となっています。自由に選べる「究極の家づくり」ではありますが、予算を潤沢につぎ込めるという人は多くないはず。では2024年、価格はどのように動くのでしょうか。

「近年、建築価格、土地価格ともに右肩上がりが続いていましたが、ここにきて一服感はあります。ただ、2024年以降、人件費・資材費ともに残念ながら下がる要素はなく、横ばいが続くと思われます」と服部氏。このところ増えてきた「平屋」も、住みやすいという側面とともに、建築面積を抑えられることで、建築費が節約でき、増えてきました。こうした「コンパクトで住みやすい家」というのは、まだまだ増えていく兆しがあるそう。

(写真撮影/北島和将)

(写真撮影/北島和将)

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「注文住宅は無限の選択肢がある分、土地にかけるお金と建物の費用調整が肝心になるわけですが、土地価格も下落しないとなれば、建築費で調整するという考え方もあります。つくり方にもよりますが、比較的建築費も抑えられ、なおかつ暮らしやすい、そんな平屋はまだまだ支持を集めるのではないでしょうか」(服部氏)

また、建物の面積をコンパクトにした分、家具と設備を一体にする(家具化)、ミニマム化するというトレンドもあげています。
「家具を買い替えて流行を追い続けるのではなく、デザイン性の高い内装・設備に家具の機能も持たせるようになってきており、例えばキッチン設備も家具のようなデザイン性にすぐれたものが登場しています。床や室内ドア、収納を含め、トータルコーディネートで空間を広く見せるデザインが好まれており、印象的なのは男性・女性ともに北欧デザインが好きという人が多いこと。流行に左右されず、インテリアのスタイルとして定着したと思っています」(服部氏)

家づくりにも「タイパ」の波。規格住宅もトレンドに

もう一つ、無限に選択肢がある、言い換えれば決断コストが無限にかかる注文住宅の中で、『タイパ』という傾向がじわりと見てとれるといいます。

「注文住宅は依頼先からはじまって、土地、住宅ローンといった大きなことから、それこそ壁紙や取っ手ひとつまで、本当に決断の連続です。とはいえ時間も体力も限られている。そこで選択肢の一つとして考えたいのが『タイパ』にすぐれた規格住宅です。規格住宅とは、ハウスメーカーや工務店があらかじめ用意した間取り、内装、設備のなかから選ぶ建て方のこと。もちろん、オプションを加えたり、内装材を選んだりなど注文住宅ならではの自由度もあります。ハウスメーカーや工務店の構法やデザイン、考え方が好き・合うという人であれば、こんなにしっくりくる家の建て方はありません。比較検討する時間や手間が省けますし、金額面でもお手ごろ感があり、増えている印象です」(服部氏)

確かに、「自由に建てられるのが注文住宅の魅力じゃないのか」という考え方もできますが、自由すぎるとどうしていいかわからない、自分が選んでデザインや世界観を壊してしまったらイヤだという人もいることでしょう(筆者もそのタイプです)。そのためある程度、パッケージ化されていて、そこからカスタマイズしていくほうが早いというのは合理的です。

ケイアイスター不動産グループのIKI株式会社が販売する、規格型平屋注文住宅IKI。施主夫妻は、間取りはいくつか用意されていたパターンのうち3室が南に面した2LDK、壁紙の色は3タイプから白ベースのカラーを選んだ(写真撮影/片山貴博)

ケイアイスター不動産グループのIKI株式会社が販売する、規格型平屋注文住宅IKI。施主夫妻は、間取りはいくつか用意されていたパターンのうち3室が南に面した2LDK、壁紙の色は3タイプから白ベースのカラーを選んだ(写真撮影/片山貴博)

また、家づくりだからこそ、「失敗したくない」「失敗できない」というマインドも規格住宅に有利だといいなす。

「規格住宅といっても、ハウスメーカーや工務店が過去のデータを蓄積し、家事ラクの間取り、家族の団らんをつくる間取りなどといった、ノウハウを含めて提案しています。テイストも北欧風、カフェ風、インダストリアルデザインなど、各社さまざまなテイストがありますし、好みとマッチするのであれば賢い方法だと思います」(服部氏)

「無数にあるからこそ楽しい」と思うのか「規格があるからこそ選べる」と思うのか、人によって考え方は異なりますが、自分や家族にあった選択をしたいですよね。

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アフターコロナ、人気を集める間取りや設備は?

間取りや設備では、どのような流行があるのでしょうか。コロナ禍では、「エントランス入ってすぐの手洗いポーチ」「ワークスペース」などが好まれましたが、アフターコロナの今、家づくりではどのような間取りや設備が好まれているのでしょうか。

「玄関近くの手洗い、全館空調、非接触スイッチのような『おうち衛生』はブームを経て、定着しそうです。手洗いポーチは玄関近くにあると、子どもの手洗いの習慣づけにもなり、ゲストにも使ってもらいやすいという声をよく聞きます。今後、断熱等性能等級5、いわゆるZEH水準が義務化されることを考えても(※詳細は後述)、定番化していくのではないでしょうか」(服部氏)

玄関のすぐ近くに配した洗面台(写真撮影/片山貴博)

玄関のすぐ近くに配した洗面台(写真撮影/片山貴博)

玄関に入って右手側に洗面台が(写真撮影/片山貴博)

玄関に入って右手側に洗面台が(写真撮影/片山貴博)

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一方で、費用や面積が限られているなか、こんな傾向も。

「リビングとは別のくつろぎスペースを設けておく、ヌック(※)や窓際のベンチが増えている気がします。ベンチなので、日差しを浴びながらごろんと寝転んでもいいし、子どもと遊んでもいい。本を読んでもいいし、机があれば仕事スペースにもなる。リビングでソファーに座ってテレビを見る場所とは別に、こうした余白のあるスペースが好まれていますね」(服部氏)

※ヌックは小ぢんまりとした居心地のいい空間。リビング脇・片隅に設けられるケースが多い

(写真/明野設計室 一級建築士事務所)

(写真/明野設計室 一級建築士事務所)

(写真/明野設計室 一級建築士事務所)

(写真/明野設計室 一級建築士事務所)

もう一つ、今らしい家づくりの特徴として、「バルコニーをつくらない家」があるといいます。

「共働きのため、日中外に干せない代わりに、夜洗濯をして室内で干す人が増えています。室内は全館空調にしていれば窓はあけなくても空気はキレイ。だとすれば室内干しスペースを確保して、逆にバルコニーはいらないという考え方で、その分、建築コストを下げようという発想です。こちらも今後、一定の支持を集めるのではないでしょうか」と分析します。

洗濯や乾燥は、ドラム式洗濯乾燥機を使う、ガス乾燥機を入れる、サンルームや室内干しスペースをつくるなど、さまざまなやり方があります。自分たちのライフスタイルに合わせて間取りを最適化していくのであれば、いままでの当たり前にとらわれず、バルコニーナシ間取りも自然な結論ですよね。これは注文住宅ならではの良さといえるでしょう。

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建材、設備でも環境性能は欠かせない指標に

新築マンション、賃貸住宅ともに「環境への配慮」という点があがっていましたが、注文住宅も同様です。

「2024年4月からは『省エネ性能表示制度』がスタートし、2025年から『断熱等性能(外皮性能)等級4以上』かつ『一次エネルギー消費量等級4以上』への適合が必要になります。また、2030年を予定していた新築住宅のZEH基準の水準並み義務化(断熱等性能 等級5)についても、地球温暖化の急激な進行から前倒しされる可能性も出てきています。今後、そういった性能の高い住宅が世の中の平均となる中、義務化水準だけを守った家を建てるのでは、みすみす自分の家の市場価値を下げていくことにもつながります。ハウスメーカーによってはZEHが標準であるなど、ほぼこの性能を満たしていますし、それ以上の住宅も登場しています。設備でいえば、断熱性能にすぐれた窓、エコキュート、節水節電トイレ、断熱浴槽、太陽光発電システムなどは、導入時にコストがかかりますが、補助金やランニングコストで回収しやすくなっています。提案するハウスメーカーや工務店も、『この設備を入れるとこの期間で回収できる想定です』と説明し、納得して導入されているようですね」と服部氏。

断熱性にすぐれた樹脂サッシ(写真提供/LIXIL)

断熱性にすぐれた樹脂サッシ(写真提供/LIXIL)

大開口でも断熱性を高めたハイブリッド窓(写真提供/LIXIL)

大開口でも断熱性を高めたハイブリッド窓(写真提供/LIXIL)

確かにコストとベネフィットが明確になり、回収期間がわかれば導入を検討しやすいことでしょう。また、環境に配慮した点では、廃プラスチックから生み出された外装材、バイオエタノール暖炉、国産の木材をつかった建材など、さまざまな取り組みがなされていて、注目を集めています。

再資源化が困難だった廃プラスチックと廃木材を活用した「レビアペイブ」。木彫のような自然な仕上がり(写真提供/LIXIL)

再資源化が困難だった廃プラスチックと廃木材を活用した「レビアペイブ」。木彫のような自然な仕上がり(写真提供/LIXIL)

(写真提供/LIXIL)

(写真提供/LIXIL)

「住宅設備メーカー含めて、省エネ技術の開発は活発に行われていますし、新しい建材、設備が次々と登場しています。もちろん、建設コストとの兼ね合いになるので、いきなり普及する、ビッグヒットになるとは思いませんが、潮流として確実にサステナブルな家づくりというのはあると思います」(服部氏)

コロナ禍を経て、家で過ごす時間への関心が高まっている今。家づくりは時間、お金、体力のすべてが必要ですが、その分、自分たち家族にあった空間が手に入るのであれば効果は抜群です。家に暮らしをあわせるのではなく、自分たちの暮らしに合わせた家づくり。やはり人生に一度でいいからやってみたいですし、やる価値はありそう!ですね。

●取材協力
住まい情報誌『SUUMO注文住宅』編集長
服部保悠氏
『SUUMO注文住宅』

令和5年度補正予算で住宅の取得やリフォームでおトクに!補助金や優遇制度を先取り解説!キーワードは子育てと省エネ住宅

令和5年度補正予算について、概算が閣議決定した。国土交通省関係の補正予算の中から、住宅・不動産に関するものを中心に、どういった政策があってどのような優遇が受けられるようになるのかを見ていこう。キーワードは「子育て」と「省エネ住宅」だ。

【今週の住活トピック】
令和5年度国土交通省関係補正予算の概要について/国土交通省

「子育てエコホーム支援事業」に2100億円

国土交通省では、「エネルギーコスト上昇に対する経済社会の耐性の強化」として、「質の高い住宅ストック形成に関する省エネ住宅への支援」に2100億円を充てる。この支援事業は「子育てエコホーム支援事業」という名称となった。

「子育てエコホーム支援事業」は全く新しい事業というわけではない。「こどもみらい住宅支援事業」(令和3年度補正予算542億円、令和4年度予備費等600億円)、「こどもエコすまい支援事業」(令和4年度補正予算1500億円、令和5年度当初予算209.35億円)が、いずれも予算に達して早期に受付を終了したことを受けたものだ。予算を拡大し、適用条件などを変更しているので、以前の支援事業と同じ条件ではないことに注意が必要だ。

「子育てエコホーム支援事業」は、以前の支援事業と同様に、子育て世帯または若者夫婦世帯による(1)省エネ性能の高い住宅の新築と(2)住宅の一定のリフォームが対象。ただし、補助額とその条件が少し異なる。

■子育てエコホーム支援事業の補助対象 (下線部が前回の支援事業と異なる点)
(1)子育て世帯または若者夫婦世帯による省エネ性能の高い住宅の新築(注文住宅/新築分譲住宅の購入)
長期優良住宅の場合【補助額】100万円/戸
ZEH住宅の場合  【補助額】80万円/戸
※1:「子育て世帯」は、18歳未満の子どもがいる世帯、「若者夫婦世帯」は、いずれかが39歳以下の夫婦世帯
※2:ZEH住宅とは強化外皮基準かつ再エネを除く一次エネルギー消費量▲20%に適合するもの

(2)住宅の一定のリフォーム
【必須工事】住宅の省エネ改修
【任意工事】子育て対応改修、バリアフリー改修、空気清浄機能・換気機能付きエアコン設置工事等
【補助額】リフォーム工事内容に応じて定める額
【上限額】
子育て世帯または若者夫婦世帯:上限30万円/戸
※長期優良住宅リフォームの場合は上限45万円/戸、子育て世帯・若者夫婦世帯が既存住宅購入を伴う場合は上限60万円/戸
その他の世帯:上限20万円/戸
※その他の世帯が長期優良住宅リフォームを行う場合は上限30万円/戸

いずれも、事前に登録した事業者により、閣議決定日の2023年11月2日以降に工事に着工したものが対象で、補助金の申請は事業者が行うものとされている。

3省が連携して、住宅の省エネ化への支援を強化

住宅の省エネ化に対する補助事業は、国土交通省だけではない。現在も、国土交通省と経済産業省、環境省の連携による「住宅省エネ2023キャンペーン」が実施されており、「こどもエコすまい支援事業」以外の事業はまだ補助金の申請を受け付けている。こちらも、「住宅省エネ2024キャンペーン」が予定されているが、新しいキャンペーンも少し内容が変わる。

■住宅省エネ2024キャンペーンの対象
住宅の省エネリフォーム等を支援する補助制度で、住宅の省エネ改修、断熱窓への改修、高効率の給湯器の導入支援の補助制度をワンストップで利用可能とするもの。

(1)断熱窓への改修促進等による住宅の省エネ・省CO2加速化支援事業(先進的窓リノベ事業の後継)
高断熱窓の設置:【補助額】工事内容に応じて定める額(補助率1/2相当)上限200万円/戸

(2)高効率給湯器導入促進による家庭部門の省エネルギー推進事業費補助金(給湯省エネ事業の後継)
高効率給湯器の設置:【補助額】高効率給湯器の機器・性能ごとに定める額

(3)既存賃貸集合住宅の省エネ化支援事業(新規事業)
既存賃貸集合住宅におけるエコジョーズ等の取り替え

(4)子育てエコホーム支援事業

なお、子育てエコホーム支援事業で定める必須の省エネ改修を行うだけでなく、キャンペーンの(1)~(3)のいずれかの工事を行った場合でも、(4)の任意工事が支援事業の対象となり、複数の支援事業を申請する場合は一つの窓口で申請できるなどの連携が行われる。

子育て世帯を応援する【フラット35】子育てプラスを新設

令和5年度補正予算については、「こどもまんなかまちづくり」の実現に向けた子育てにやさしい住まいの支援として、子育て世帯を応援する【フラット35】子育てプラスの新設を挙げている。これは、子どもの人数に応じて【フラット35】※の金利の引き下げをするもの。
※【フラット35】は民間金融機関と住宅金融支援機構が提携して提供する長期固定型の住宅ローン

対象は、借入申込時点で、子育て(同居する孫を含む)世帯または若者夫婦(同性パートナー含む)世帯で、借入申込年度の4月1日に子どもの年齢が18歳未満または夫婦いずれかが40歳未満、などとなる。

【フラット35】の金利が引き下げられる【フラット35】Sなど※は、ポイントによって引き下げ幅が変わる仕組みになっているが、これに「子育てプラス」の以下のポイントが加算される形となる。
※【フラット35】Sのほかにも、管理・修繕に関する「維持保全型」、エリアに関する「地域連携型」などの金利引き下げ制度がある

○「子育てプラス」によるポイント
・若年夫婦世帯または子ども1人世帯:1ポイント
・子ども2人世帯:2ポイント
・子ども3人世帯:3ポイント
・子どもN人世帯:Nポイント

既存のそれぞれに与えられたポイントに「子育てプラス」のポイントを加算し、合計ポイントによって最終的な金利の引き下げ幅が決まる。1ポイントごとに5年間年0.25%の金利引き下げとなる。
※ただし、「子育てプラス」を利用しない場合は4ポイントまでが上限となる。

○「子育てプラス」を利用した場合の金利引き下げ例
1ポイント~4ポイントの場合、「当初5年間」1ポイントごとに年0.25%ずつ引き下げる(最大で当初5年間年1.00%引き下げ)
5ポイント~8ポイントの場合、さらに「6~10年目まで」1ポイントごとに年0.25%ずつ引き下げる(最大で当初10年間すべてで年1.00%引き下げ)
9ポイント以上の場合、さらに「11~15年目」も1ポイントごとに年0.25%ずつ引き下げる

この新しいポイント制度は、令和5年度補正予算が成立し、住宅金融支援機構が告知する適用開始日の資金受け取り分から適用される。ポイント制度についてはかなり複雑なので、住宅金融支援機構の案内などで確認してほしい。

なお、今回紹介した支援事業はすべて、国会で令和5年度補正予算が成立することが前提であり、まだ正式に決定しているわけではない。また、ここで説明したことのほかにも詳しい条件が定められているので、実際に利用したいと思う人は、告知サイト等でしっかり確かめてほしい。

●関連サイト
「子育てエコホーム支援事業」
新たな住宅の省エネ化への支援 「子育てエコホーム支援事業」の事業の内容を公開します!
「住宅省エネキャンペーン2024」
住宅の省エネ化への支援強化に関する予算案を閣議決定!~国交省・経産省・環境省が連携して取り組みます!~
「【フラット35】子育てプラス」
子育て世帯を応援する【フラット35】子育てプラス(仮称)が新登場

既存のマンションでもZEH水準にリノベが可能に!?国が推進する省エネ性能「ZEH水準」についても詳しく解説

政府はいま、住宅の省エネ化を加速している。特に新築住宅では、建築する際に求められる省エネ性能の基準を2030年までにZEH水準に引き上げる考えだ。一方で、既存のマンションはその多くが現行の省エネ基準の水準を満たしておらず、それをZEH水準に引き上げるのはハードルが高いと思われてきた。そこへ、積水化学工業とリノベるが協業して、既存マンションのZEH水準リノベーションの提供を始めたというのだ。

【今週の住活トピック】
既存マンションのZEH水準リノベーションを提供開始/積水化学工業・リノベる

ZEH(ゼッチ)水準とは?ZEHとは違うの?

まず、ZEH(ゼッチ)とは何かについて、説明しよう。
ZEHとは、Net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)を略した呼び方で、住宅で消費するエネルギーをゼロ以下にしようというものだ。そのためには、(1)住宅の骨格となる部分を断熱化して、エネルギーを極力使わないようにし、(2)給湯や冷暖房などの設備を高効率化して、エネルギーを効率的に使う。ただし、消費するエネルギーをゼロにするには、(3)太陽光発電設備などでエネルギーを創り、消費したエネルギーを補う必要がある。

ところが、マンションなどの高層住宅では、戸数が多いわりに太陽光発電設備を設置できる屋上の面積が広くないなどの制約がある。そこで政府は、建物の階数が高くなるほど太陽光発電などの再生エネルギーによる削減の基準を緩める形で、ZEH水準を定めている。

政府が定めたマンションのZEHの定義は次の4種類があり、1~3階建ては「ZEH-M」か「Nearly ZEH-M」を、4~5階建ては「ZEH-M Ready」、6階建て以上は「ZEH-M Oriented」を目指すべき水準としている。なお、いずれの場合も、再生エネルギーを除いた状態で、基準一次エネルギー消費量から20%以上削減することが条件となる。

○マンションの4種類のZEH
ZEH-M(ゼッチマンション):再生エネルギーを含めて100%以上を削減する
Nearly ZEH-M(ニアリーゼッチマンション):再生エネルギーを含めて75%以上100%未満を削減する
ZEH-M Ready(ゼッチマンションレディ):再生エネルギーを含めて50%以上75%未満を削減する
ZEH-M Oriented(ゼッチマンションオリエンティッド):再生エネルギーの導入を条件としない

既存のマンションでZEH水準のリノベーションを行う方法は?

今回提供を開始した、積水化学工業とリノベるが協業するZEH水準リノベーションは、住戸で「ZEH Oriented」に適合するようにしている。合わせて、建築物省エネルギー性能表示制度のBELSでは★5,リノベーション協議会の基準ではR1エコ★★の取得もするという。

出典:積水化学工業・リノベるの資料より転載

出典:積水化学工業・リノベるの資料より転載

まず、ZEH化の断熱改修では、積水化学グループの「マルリノ」の断熱特許工法を活用する。「グリーンシティ鷺沼」の事例では、住戸をスケルトンにした状態(上の写真)では、外気温34.6度のときには壁面温度も同程度になっているが、壁面の断熱工事後(内窓設置前=下の写真)では、外気温36.0度のときに31.8度になっている。

○断熱改修前(スケルトン)

断熱改修前(スケルトン)

○断熱改修後(内窓設置前)

断熱改修後(内窓設置前)

出典:積水化学工業・リノベるの資料より転載

さらに、樹脂サッシLow-E複層ガラスの内窓を設置し、高効率のエアコン、エコジョーズ(高効率給湯器)、高断熱浴槽などの設備を設置することで、ZEH水準に適合させる。光熱費削減シミュレーションをしたところ、ZEH水準化によって光熱費が約30%削減できるという。

このZEH水準リノベーションによる追加の費用は、300万円(税抜き)弱。この額は、通常並みに間取り変更や一般的な設備にリノベーションした場合の費用を除き、スケルトンから断熱等級5への断熱工事費用や内窓の設置費用、設備を高効率なものにグレードアップした差額などによる。両社によると、この追加費用による住宅ローン返済額のアップ分は、光熱費の削減分でカバーでき、住宅ローン減税のZEHによる上乗せ分などの支援制度でさらに経済的メリットが見込まれるという。

今後、ZEH水準リノベーションは、区分マンションの買取再販事業、個人向けのリノベーション請負事業、法人向けのリノベーション請負事業の3つのチャネルで展開される予定だ。

カーボンニュートラル実現に向けて、既存住宅の省エネ性能向上に期待

説明してきたように、新築の住宅では法規制により、省エネ基準の適合、さらにはZEH水準への対応が進んでいくと考えられる。一方で、既存の住宅はその時々の省エネ基準に適合しているため、現行の省エネ基準よりも低い性能で建てられているものが多い。そのため、省エネ性能を引き上げる改修を行わないと、新築住宅と既存住宅の省エネ性能の開きが大きくなる一方だ。

カーボンニュートラル社会が実現するためには、既存の住宅の省エネ性能の向上が進むことが必要になる。また、新築と比べて省エネ性能が劣る中古住宅には、買い手がつきにくいという問題も考えられる。

特に、住宅の構造を共有するマンションなどの集合住宅では、一戸建ての改修よりも制約を受けやすい。既存のマンションでもZEH水準化するリノベーションが可能だということなので、こうしたリノベーションが進むことが期待される。

マンションの省エネ性能が高くなると、それ以前より夏は涼しく冬は暖かいといった、快適な室内環境で過ごすことができる。さらに、ヒートショックのリスクが減ったり、結露が解消してカビなどを吸い込む健康被害を抑制する効果もある。中古マンションを改修する際には、ぜひ省エネ性能を引き上げるリノベーションを検討してほしい。

●関連サイト
積水化学工業とリノベるが既存マンションのZEH水準リノベーションを提供開始

省エネ先進県・鳥取、中古住宅の省エネ性能を資産価値として評価! 「築22年以上の住宅も価値がゼロにならない」評価法を来年4月スタート

住宅は築22年以上になると価値がゼロになる――。そんな古い慣習を日本からなくしてしまうかも知れない委員会が今、鳥取県で開かれています。その名は「鳥取県版住宅性能等評価指針策定検討委員会」。高気密・高断熱の住宅価値が高まる評価プログラムづくりを目的にしたもので、別に古い慣習を打ち破ってやろうという、血気盛んな人々の集まりではありません。鳥取県が、県民の豊かで健康な暮らしのために、設置した委員会です。

始まりは国の基準より高い高断熱・高気密の住宅促進から

同委員会を紹介する前に、まずは鳥取県がこれまでに取り組んできた住宅に関する施策について説明しておく必要があります。

令和2年(2020年)から、鳥取県は「とっとり健康省エネ住宅普及促進事業」をスタートさせました。独自に国の基準より高い、家の「断熱」と「気密」の性能基準「NE-ST」を設け、NE-STを満たす家づくりを推奨・助成するという事業です。

■関連記事:
「日本の省エネ基準では健康的に過ごせない」!? 山形と鳥取が断熱性能に力を入れる理由

ちなみに「寒い北海道や東北地方でもない鳥取県がなぜそこまで?」と思う人もいるかもしれませんが、同県のシンボルである大山(だいせん)にスキー場があるように、冬になれば雪が積もる地域です。そして2014年時点(※)では、冬季の死亡増加率割合が全国の都道府県でワースト16位だったのです。

※慶応大学の伊香賀教授が、厚生労働省の2014年人口動態統計に基づいて月平均死亡者数を比較し、冬季(12月~3月)死亡増加率を算出(出典/慶應義塾大学 伊香賀研究室提供資料)

だいせんホワイトリゾート(写真/PIXTA)

だいせんホワイトリゾート(写真/PIXTA)

死因のすべてが、冬に多いヒートショックによって引き起こされる心疾患や脳血管疾患等とはいいませんが、少なくとも家の断熱・気密性能を高めれば、こうした疾患を防ぎやすくなります。

こうして始まった新築住宅へのNE-STの認定制度。「国の基準より高い」と述べましたが、ではどれくらい高いのかというと、下記表のとおりです。

(出典/鳥取県庁公式ホームページ「とりネット」)

(出典/鳥取県庁公式ホームページ「とりネット」)

※断熱性能(UA値):建物内の熱が外部に逃げる割合を示す指標。値が小さいほど熱が逃げにくく、省エネ性能が高い
※気密性能(C値):建物の床面積当たりの隙間面積を示す指標。値が小さいほど気密性が高い
※ZEHは、ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの略。断熱化による省エネと太陽光発電などの創エネにより、年間の一次消費エネルギー量の収支をプラスマイナス「ゼロ」にする住宅をいう

令和2年7月からNE-ST認定住宅の助成が始まりましたが、鳥取県住宅政策課企画担当の槇原章二さんによれば「初年度である令和2年(2020年)度は、新築の木造一戸建てにおけるNE-ST認定住宅の割合は約14%でした。それが令和4年度(2022年4月~2023年3月)には約31%まで伸びています」。つまり、施主の3人に1人はNE-STを建てたことになります。

またNE-STを建てるには県に登録された工務店等に依頼しなければなりませんが、「現在は県内の住宅供給者の約8割がNE-STの登録事業者です」(槇原さん)。要するに、認定されていない事業者を探すほうが難しいほどになっています。

新築だけでなく既存住宅に対しても認定&補助金制度を拡充

もちろん、住宅は新築ばかりではありません。既存住宅に対してもNE-ST同様の高断熱・高気密化のリフォームを促す「とっとり健康省エネ住宅改修支援事業補助金」制度が令和4年(2022年)7月から始まりました。

こちらは、上記「NE-ST」の「T-G1」基準同等の断熱リフォームを行った既存住宅を「Re NE-ST」認定住宅として助成するだけでなく、住宅の一部のみ「T-G1」基準同等の断熱リフォーム(ゾーン改修)を施したり、国の省エネ基準をクリアする断熱リフォーム(国省エネ基準改修)を行った場合のみでも、県が助成してくれる制度です。

工事費および補助金額の高い順に“「Re NE-ST」>ゾーン改修>国省エネ基準改修”となる(出典/鳥取県庁住宅政策課)

工事費および補助金額の高い順に“「Re NE-ST」>ゾーン改修>国省エネ基準改修”となる(出典/鳥取県庁住宅政策課)

「住宅全体をRe NE-ST基準まで引き上げるには、やはり家全体を改修すると費用がそれなりにかかります。そこで、予算やライフスタイルに応じた省エネ改修がしやすいようにしました」(槇原さん)

例えば「子育てを終えて今は夫婦2人で暮らしているので、2階はあまり使っていない」といった場合などは、老後の快適な暮らしを考えて、普段生活をする1階だけRe NE-ST基準まで改修して費用を抑える「ゾーン改修」を選ぶことができます。

さらに賃貸住宅についても、NE-STの基準を満たせば、新築・改修を問わず賃貸住宅のオーナーに対して助成が施されます。

「健康的な暮らし」の好サイクルを「古い慣習」が阻んでいた!?

確かに、こうやっていけば鳥取県民が豊かで健康的に暮らせそうです。とはいっても、新築でもリフォームでも、性能の高い家を建てようとするとそれなりに費用はかさみます。施主にとっては、この先の暮らしに“投資”することになります。

ところが現状の建物の評価方法では、木造住宅の場合、築22年で価値がゼロになってしまいます。税法上の木造住宅の減価償却年数が22年なのですが、この数字が建物の評価にも慣習的に使われるようになったためだといわれています。

つまり、せっかくお金をかけて快適な自宅を建てた(あるいはリフォームした)としても、22年たてば何もしていない住宅と価値が同じだと評価されてしまうのです。これでは費用のかかるNE-STを建てたり、Re NE-ST改修を行おうという意欲を削ぎかねません。

「従来の建物の評価方法は、築年数と床面積で評価され、性能や改修が評価されにくかったのですが、例えばアメリカでは、改修などの投資が資産価値に反映されます。」(槇原さん)

国土交通省「中古住宅市場活性化ラウンドテーブル平成25年度報告書」より。アメリカでは住宅投資額の累計(グラフの赤い折れ線グラフ)と住宅資産額(青い棒グラフ)が比例しているのに対し、日本では比例していないことが一目瞭然。アメリカと日本の差額を国土交通省は「失われた500兆円」と表現している(出典/国土交通省「中古住宅市場活性化ラウンドテーブル 平成25年度報告書(案)」)

国土交通省「中古住宅市場活性化ラウンドテーブル平成25年度報告書」より。アメリカでは住宅投資額の累計(グラフの赤い折れ線グラフ)と住宅資産額(青い棒グラフ)が比例しているのに対し、日本では比例していないことが一目瞭然。アメリカと日本の差額を国土交通省は「失われた500兆円」と表現している(出典/国土交通省「中古住宅市場活性化ラウンドテーブル 平成25年度報告書(案)」)

上記の国土交通省がまとめた報告書「中古住宅市場活性化ラウンドテーブル平成25年度報告書」の資料では、アメリカでは「大規模なリフォーム投資も住宅投資・資産額に反映」されているのに対し、日本はリフォームしてもそれが「住宅投資・資産額に織り込まれ難い」と指摘しています。

「これでは、何をやっても築22年で価値がゼロになる住宅を建てるために、多くの人が35年ローンを組んでいることになってしまいます」(槇原さん)

費用をかけただけ住宅の価値を高める「鳥取県版評価法」

NE-ST/Re NE-STを推進したい鳥取県としては、こうした現状の評価方法を何とか変えられないかと考えるのは当然の流れ。そこで集められたのが冒頭の、「鳥取県版住宅性能等評価指針策定検討委員会」というわけです。

(写真提供/鳥取県)

(写真提供/鳥取県)

委員長には、NE-ST基準の設定以来携わっている慶応義塾大学の伊香賀俊治教授が就任。また優良住宅部品(BL部品)認定事業や、住宅の部品・部材等の評価・試験などを行っているベターリビング住宅・建築評価センターの斉藤卓三氏といった面々が加わっています。

なかでも注目したいのは、鳥取県宅地建物取引業協会長の長谷川義明氏と全日本不動産協会鳥取県本部長の細砂修二氏というように、実際に住宅の売買を担う不動産業界の大手2団体からも参画を得ていることです。せっかく評価プログラムを作成しても、それを使ってもらわなければ意味がありません。その点、大手2団体が委員会として推進していく立場であることは、大きな意味を持っているといえます。

同委員会が鳥取県とともに目指すのは、下記のような独自の「鳥取県版評価法」です。

従来評価法と鳥取県版評価法の比較

鳥取県版では、従来は評価されにくかったリフォームや住宅の性能についても評価できるようにしようと考えている

上記表内にある「目標使用年数」とは、従来の減価償却年数に変わるものと捉えるとわかりやすいでしょう。例えば木造(木造軸組工法)の場合、旧耐震基準で建てられた住宅の躯体の目標使用年数を40年とし、新耐震基準なら50年、2000年耐震基準(※)なら60年、という具合に、耐震性の高い住宅は資産価値が高いことを示す「目標使用年数」を定めていくのです。

※2000年耐震基準とは、阪神・淡路大震災で多くの木造住宅が倒壊したことから、特に木造軸組工法に関して厳しい基準を設けた耐震基準のこと。現行の耐震基準とよく呼ばれている。

従来評価法と鳥取県版評価法の経年による評価の違いのイメージ

上記は、従来の評価法なら22年で価値がゼロになるが、新築時に性能の高い住宅を建てれば60年で価値がゼロになることを示す。またリフォームやインスペクション(建築士や住宅診断士などの専門家が、住宅の劣化レベルなどを診断すること)によってはさらに価値が長く残る(出典/鳥取県版住宅性能等評価指針策定検討委員会(第1回)資料)

上記は、従来の評価法なら22年で価値がゼロになるが、新築時に性能の高い住宅を建てれば60年で価値がゼロになることを示す。またリフォームやインスペクション(建築士や住宅診断士などの専門家が、住宅の劣化レベルなどを診断すること)によってはさらに価値が長く残る(出典/鳥取県版住宅性能等評価指針策定検討委員会(第1回)資料)

また上記を見れば、住宅の性能を高める投資(初期投資費用やリフォーム費用)を行うほど、資産の“延命”が図られることがわかると思います。

下記を見れば「お金をかけて性能・品質のよい家を建てると、資産価値が高まる」ことがよりイメージしやすいでしょう。

評価のイメージ(築12年の木造住宅(木造軸組工法)の場合)

上記表のように、水まわり設備や電気設備なども評価の対象だ。また台所設備に表の普及品より性能の高い高級品を備えていると、住宅の価値に反映される仕組みになっている(出典/鳥取県版住宅性能等評価指針策定検討委員会(第1回)資料)

上記表のように、水まわり設備や電気設備なども評価の対象だ。また台所設備に表の普及品より性能の高い高級品を備えていると、住宅の価値に反映される仕組みになっている(出典/鳥取県版住宅性能等評価指針策定検討委員会(第1回)資料)

上記表内の「残存年数」とは、「目標年数(目標使用年数)」から築年数を引いた数字になります。例に取り上げられているのは、2000年耐震基準で建てられた築12年の木造住宅ですから、目標使用年数60年-築年数12年=48年が「残存年数」となります。

また「グレード補正率」とは、グレードの高い装備の場合は価値が高いと評価されるようにした指標で、例えば表内では壁に普及品のビニルクロスが使用されているので、グレード補正率は100%ですが、高級な壁クロスの場合は割増しするなどして、その価値の高さが評価額に反映されるようになります。

ちなみに、実際にある住宅を鳥取県でシミュレーションしてみたところ、下記のように実勢価格と大きなズレはないものの、微妙な差がありました。

実勢価格との差額

いずれも仕様は中級品とし、リフォーム履歴はなしとしてシミュレーションした場合

この差額について槇原さんはこう話します。「実際に取引される価格は建物だけでなく、周囲環境など立地の条件や、これまでの販売実績などから建物価格が算出されるでしょから、鳥取県版評価法よりも高かったり、低かったりしているのだと思います」

別の見方をすれば、現状は築22年以上の建物の価値はゼロ、あとは立地と、ここならこれくらいで売れるだろうという、買い手と売り手の間に立つ不動産会社の“長年の経験値”から価値が決まっているということ。ですから売り手も買い手も、本当にこの金額が適正なのか、判断しようがありません。

しかし鳥取県版評価法を使うと、しっかりと建物の価値を売り手/買い手が理解した上で、立地条件を考慮して、両者も納得の、少なくとも売り手としてはわが家の価値を把握した上で売りに出すことができます。

今後の鳥取県版評価法を定める流れとしては、建築や不動産などの関係団体と鳥取県でコンソーシアムを組織し、実務者によるワーキングを開催して、そこで評価の指針や評価プログラムなどを詰めていきます。それを元に今度は先の委員会に諮り、最終的にコンソーシアムが定めていくというイメージです。

また、こうした鳥取県版評価法を実際に不動産会社に使ってもらえるよう、なるべく簡単に操作できる評価システムを用意しなければなりませんが、それは一般社団法人建物評価研究機構の「THK住宅査定システム」をベースに同機構と県及び関係団体の協働により製作します。

県民が健康に暮らすようになれば鳥取県は実入りが増える!?

こうして見てくると、鳥取県の取り組みは、国が行っても不思議ではない内容です。確かに県民のために性能の高い住宅を普及させたい、そのためには性能の高い住宅をきちんと評価できる仕組みが必要だ、というのはわかりますが、だからといって、なぜ鳥取県がここまで行うのでしょうか。

「まず1つは、NE-ST/Re NE-STが普及することで地場産業が活性化するため、県としては税収の増加につながります。リフォームでいうと、従来は100万~200万円のリフォーム費用が多いイメージでしたが、Re NE-ST認定住宅の平均工事費はだいたい2000万円くらいです。昨年から始まったばかりなので、まだ事例件数は10件ほどですが、こういった大規模なリフォームにより市場が拡大してきていることは大きいと思います」(槇原さん)

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

しかも、新築と比べてリフォームに携わる事業者は県内企業が多いので、より地場産業の活性化につながりやすいそうです。それに、高断熱・高気密の住宅で多くの県民が暮らせるようになれば、長い目でみると医療費の削減にも繋がるのではないでしょうか。

「また、空き家問題の解消にもなるのではないかと期待しています。現在は、子どもが成長して家を離れても、たいていは夫婦2人であまり使わない2階を抱えたまま、最後まで暮らします。なぜなら従来の評価方法では、たとえNE-ST認定住宅だったとしても思うような金額にならないので、移り住むことは難しいからです」(槇原さん)

しかし、鳥取県版評価法によって資産価値が高まれば、自宅の売却益を元手に老後の2人の生活に合った住宅に移り住むことができるかもしれません。

「一方の買い手としては、新築住宅はハードルが高いといった若い世代が考えられます。これから子育てなどでお金がかかるため、なるべく出費を抑えたい彼らが、NE-STの中古住宅の購入や、中古住宅を買ってRe NE-STするなら、と考えてくれるかもしれません」(槇原さん)

そんな風に、ライフステージに応じた住み替えが進んで行くのでは、と槇原さんは期待しています。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

「さらに、こうして住宅の寿命が延びることで、解体による廃棄物の抑制につながれば、SDGsでもあると思います」(槇原さん)

こうした鳥取県の取り組みに対し、既に全国の工務店などから問い合わせが多数あるそうです。「やはり性能の高い住宅をつくっている事業者は、自分たちの仕事をしっかりと評価してほしいと思っているのではないでしょうか」(槇原さん)

なかには「指針にはこんなことを盛り込んでほしい」など、メッセージを寄せる工務店もあるのだとか。これを機に各地で工務店レベルからのボトムアップが起これば、他県でも鳥取県同様の施策が行われるかもしれません。「他県で鳥取県版評価法を使いたい場合は、建物評価研究機構のシステムが使用できます」(槇原さん)。そうなれば、全国から「築22年以上だから価値はゼロになる」という古い慣習が消える日も近いのではないでしょうか。

鳥取県では来年の4月から鳥取県版評価法の運用を開始する予定。果たして古い慣習の消滅が始まるのでしょうか? 期待を込めて注目しましょう。

●取材協力
鳥取県
●関連サイト
鳥取県建築物環境総合性能評価システム「CASBEEとっとり」

2024年4月スタートの新制度は、住宅の省エネ性能を★の数で表示。不動産ポータルサイトでも省エネ性能ラベル表示が必須に!?

不動産情報サイト事業者連絡協議会や国土交通省などによる、「省エネ性能表示制度で住宅の省エネ化は進むのか?」記者発表会が開催された。2024年4月から始まる「省エネ性能表示制度」に関する説明会ではあるが、国の制度について、アットホーム、LIFULL HOME’S、SUUMOの主要不動産ポータル事業者が深くかかわっていることに、実は意味があるのだ。

2024年4月から始まる「省エネ性能表示制度」とは?

新しい「省エネ性能表示制度」とは、「販売・賃貸事業者が建築物の省エネ性能を広告等に表示することで、消費者が建築物を購入・賃借する際に、省エネ性能の把握や比較ができるようにする制度」だ。

改正建築物省エネ法に基づき、省エネ性能表示制度を強化し、表示すべき事項などを定めることなどになっていたが、国土交通省では「建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示制度に関する検討会」を設置して、省エネ性能の表示ルールなどについて検討を重ねてきた。それを踏まえて作成されたのが、9月25日に公表したばかりの「建築物の省エネ性能表示制度のガイドライン等」だ。

このガイドラインの概要に沿って、国土交通省の住宅局参事官付課長補佐・池田亘さんから、制度に関する説明があった。そのポイントを整理しよう。

・開始時期:2024年4月 (これ以降に建築確認申請を行う新築および再販売・再賃貸される物件)
・努力義務になること:広告する際に省エネ性能ラベルを表示する
・対象:住宅や建築物を販売・賃貸する事業者 (物件の売主や貸主、サブリース事業者など)
・罰則:従わない場合は、国が勧告等を行う (既存建築物は勧告等の対象にならない)
・目的:省エネ性能を示すラベルや評価書を発行し、消費者が省エネ性能の把握や比較ができるようにする

該当する物件については、「省エネ性能ラベル」と「エネルギー消費性能の評価書」が発行されることになる。

発行される「省エネ性能ラベル」と「エネルギー消費性能の評価書」とは?

「省エネ性能ラベル」と「エネルギー消費性能の評価書」を発行するには、「自己評価」と「第三者評価」のいずれかで行う。販売・賃貸事業者側が国の指定するWEBプログラムなどを使って、評価を行うのが「自己評価」。第三者評価機関に評価を依頼するのが「第三者評価」で、その場合は、省エネルギー性能に特化した評価・表示制度である「BELS(ベルス)」を使うとされている。

では、まず「省エネ性能ラベル」について説明しよう。その特徴は3つある。

(1)エネルギー消費性能が星の数で分かる
国が定める省エネ基準より消費エネルギーが少ないほど、星の数が増える。省エネ基準に適合していれば★1つ。それより10%削減するごとに、★が1つずつ増える計算だ。ただし、エネルギーを使っても、太陽光発電などで補えばさらに削減できるので、★4つ以上は再生エネルギー設備がある場合に付けられる。そのため、★4つからは★が光るようなデザインになっているのだ。
※なお、再エネ設備の有無や削減率により、光らない★が4つのケースや3つ目以下で光る★が付くケースもある。

(2)断熱性能が数字で分かる
「建物から熱が逃げにくく、日射しなどの外からの熱が入りにくい」ほど数字が大きくなる。国が定める省エネ基準に適合していれば「4」、ZEH(ゼッチ)水準に達していれば「5」になる。
※ZEH水準とは省エネ基準適合住宅より、一次エネルギー消費量が20%以上削減(再生エネルギーを除く場合)されたもの

(3)目安光熱費が金額で分かる
その住宅の省エネ性能であれば、電気やガスなどの年間消費量がどの程度になるか計算し、エネルギー単価をかけて算出した年間光熱費が目安として表示される。ただし、家族が何人でどんな暮らし方をするかで、実際に使う光熱費は異なるため、あくまで目安としての金額だ。

なお、(3)の目安光熱費は任意項目なので、表示される場合もされない場合もある。表示されていないからといって、義務に反しているわけではない。

住宅(住戸)の省エネ性能ラベルに記載される内容(国土交通省の資料より)

住宅(住戸)の省エネ性能ラベルに記載される内容(国土交通省の資料より)

次に、「エネルギー消費性能の評価書」だが、これは省エネ性能ラベルの内容を詳しく解説した書類だ。評価書は消費者に渡されるので、必ず保管しよう。例えば、住宅を購入してその後に売却する場合に、評価書があれば(仕様を変更していないなど、省エネ性能が維持されていることが条件)、売る際の広告でもラベルが使用できる。

不動産ポータルサイトでも省エネ性能ラベルが掲載される

さて、この記者発表会を不動産情報サイト事業者連絡協議会(略称RSC)が運営しているのには理由がある。住宅を探す際に、不動産情報サイトの不動産広告を見る人が多い。国が表示方法などを決めてから対応したのでは遅くなるし、どのように消費者に届けた方が浸透するかなどの助言の機会もあったほうがよい。ということもあって、国土交通省の検討会には、SUUMO編集長・SUUMOリサーチセンター長の池本洋一さんが委員として参加している。

不動産ポータル事業者では、不動産情報サイトの信頼性を保持するために、RSCという組織で、連携をしている。現在6事業者が加盟しているが、理事会社がアットホーム、LIFULL HOME’S、SUUMOの運営会社で、池本さんはRSCの監事も務めている。

RSCでは、2019年から省エネ性能の表示はどうあるべきか検討してきたというが、幹事会社3社の不動産情報サイトで2024年4月から省エネ性能ラベルを広告表示する、共通ルールを策定しているところだ。

SUUMOにおけるインターネット広告への掲載例

SUUMOにおけるインターネット広告への掲載例

例えば、新築マンションでは、「住棟ラベル」(共同住宅の住棟全体の性能を表示するものであるなどの注釈の表記必須)を掲載し、新築一戸建てでは、販売戸数1戸なら「住戸ラベル」、多棟販売なら「代表住戸ラベル」(特定の住戸の性能を示すものであるなどの注釈表記必須)を、賃貸では「住戸ラベル」を掲載することなどを検討しているという。

実際の光熱費とズレがあっても目安光熱費を表示してほしい

省エネ性能ラベルでは、★の数で性能の高さが分かるようになっている。目安光熱費はあくまで目安なので、実際に光熱費がその金額にはならない。それでも、消費者は目安光熱費の表示を希望しているという。

リクルートの調査によると、ズレが生じることを考慮しても、「目安光熱費と星印表示どちらもあったほうが良い」が44.8%、「目安光熱費のみあれば良い」が29.3%となり、「星印表示のみあれば良い」の18.3%を大きく引き離した。

プレス説明会の資料より

プレス説明会の資料より

消費者に届くまでに関与する工程が多く、消費者まで届けることが課題

制度は2024年4月にスタートするが、課題もある。売買に詳しい松浦翼さん(アットホーム)と賃貸に詳しい加藤哲哉さん(LIFULL HOME’S)は、ラベルや証明書が発行されてから、その物件の広告としてラベルが消費者に届くまでの間に、多くの関係者が関わり、さまざまなシステムやツールを経由して情報が伝達されるため、システム改修の必要性や人為的な問題により、せっかくの情報が消費者に伝わらないリスクを指摘した。

省エネ性能表示の努力義務の対象となるのは、販売・賃貸事業、つまり売主や貸主、サブリース事業者などだが、実際に広告を出すのは不動産の仲介事業者や賃貸管理事業者になる。そのため、こうした間を取り持つ関係者がラベルなどの情報をきちんと伝達しないと、消費者にデメリットとなるだけでなく、仲介や入居者募集を依頼した売主や貸主が国から勧告を受けることにもなる。

また、広告への表示を努力義務としているが、評価書を受け取る消費者にその内容が説明されるのが望ましい。それを担うのも、直接消費者と接する仲介事業者や賃貸管理事業者になるので、関係者すべてにこの制度への理解を深めてもらう必要があるのだ。

さて、国は2050年のカーボンニュートラルに向けて、段階的に省エネ性能の基準を引き上げる予定だ。基準が変わったり新しい制度ができたりすると、省エネ性能を評価する基準も複雑になっていく。専門知識のない消費者がそれらを理解することは難しいので、住宅を選ぶ際に★の数や目安光熱費を見比べることは、性能を知るのに大いに参考になる。業界を挙げて、消費者に分かりやすく伝えることに取り組んでほしいものだ。

●関連サイト
建築物の省エネ性能表示制度のガイドライン等を公表/国土交通省
築物省エネ法に基づく建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示制度(国土交通省特設サイト)

賃貸住宅、省エネ性能が高いと”住み続けたい・家賃アップ許容”ともに7割超! 大家などの理解進まず供給増えない課題も 横浜市調査

猛烈に暑かった2023年の夏。過去126年でもっとも暑い夏だったという気象庁の発表を憶えている人も多いことでしょう。季節は移ろい、秋へと進んでいますが未だに暑く、「夜もエアコンつけっぱなし」という人もいるのでは。一方で、寒さ対策が不可欠な冬もあっという間にやってきます。そこで、今こそ大事になるのが「住まいの断熱化」。少しずつ世間の意識は高まっているものの、なかでも賃貸住宅における省エネ性能には課題がいっぱい。なかなか思うように進まない賃貸住宅の省エネ化、横浜市建築局住宅政策課の杉江知樹さん、横浜市住宅供給公社街づくり事業課の都出祐司さんらに話を聞くとともに、神奈川県横浜市が実施したデータとモニター調査などから実情を探ります。

暑さ寒さ対策には住まいの「省エネ性能」が大事。でも賃貸では普及せず

そもそも、住まいの「省エネ性能」といっても、ピンとくる人は少ないかもしれません。省エネ性能が高い家とは、断熱性や気密性が高いということ。それらが高いと、住む人にどのようなメリットがあるのでしょうか。

住まいの省エネ性能が高いと……
(1)少量のエネルギーで室温を保ちやすい →夏涼しく、冬暖かい
(2)使用エネルギーが少ないので省エネになる →電気代が抑えられる、二酸化炭素排出量を抑制できる

さらに、以下のようなメリットがあることが近年の研究でわかっています。

(3)結露が起きにくくなるためカビやダニの繁殖が抑えられアレルギーを軽減する
(4)部屋間の温度差が少なくなることで健康を維持しやすくなり、ヒートショックも抑制
(5)防音性能が高まり、生活音に悩まされることが減る

ほかにもいくつかあるのですが、端的にいうと、住む人が健康・快適で、エネルギー量が抑えられ、家計面、二酸化炭素排出量削減にも貢献できるというものです。近年はこうしたメリットが知られるようになり、持ち家の省エネ化は進んでいますし、なかでも注文住宅ではパッシブハウスのような超高気密・高断熱の住まいも増えつつあります。

断熱性を高めたうえ、太陽光発電などを備えた住まいが増えている(写真撮影/新井友樹)

断熱性を高めたうえ、太陽光発電などを備えた住まいが増えている(写真撮影/新井友樹)

■関連記事:
世界基準の超省エネ住宅「パッシブハウス」を30軒以上手掛けた建築家の自邸がスゴすぎる! ZEH超え・太陽光や熱エネルギー活用も技アリ

とはいえ、省エネ化が進んでいるのは「持ち家」が中心で、借りて住む、いわゆる「賃貸」では進んでいるとはいえない状況です。

理由はいくつかありますが、主には
(1)借り手・大家・金融機関ともに省エネ住宅のメリットを知らない
(2)住まいの省エネ化を進めなくても、入居者が決まる
(3)住まいを省エネ化するために、建築費が割高になる
(4)割高な建築費をかけて省エネ化しても、賃料に反映できるか不透明

要は賃貸住宅の高性能化、省エネ化のメリットが「知らない」「知られていない」のです。こうした背景があることから、建築費をかけてわざわざ高性能化、省エネ化をしなくともいい、と思われているのが現状です。

横浜市は「省エネ賃貸住宅モニター」事業を実施。でも、なんで?

実はこの状況、地方自治体にとって看過できるものではありません。なぜかといえば、日本は2050年までに「2050年カーボンニュートラル」を国際公約として掲げているからです。また、直近の目標として国では、「2030年の温室効果ガス排出削減目標 2013年度比46%削減」とし、横浜市では、これを上回る「2030年の温室効果ガス排出削減目標 2013年度比50%削減」を宣言しています。二酸化炭素排出量の削減は短期では実現できるものではありませんし、むしろ、あと7年と考えると「今、取り組まなければマズイ」という極めて厳しい状況といえます。

そのため、どこの地方自治体でも二酸化炭素排出量の削減に取り組んでいますが、なかでもベッドタウンとして発展し、多くの住宅ストックを抱える横浜市は住宅、とりわけ賃貸住宅の省エネ性能の低さに着目しました。

横浜市では家庭から出る二酸化炭素排出量が最多という衝撃のデータ(データ提供/横浜市建築局住宅政策課(元の資料から一部加工))

横浜市では家庭から出る二酸化炭素排出量が最多という衝撃のデータ(データ提供/横浜市建築局住宅政策課(元の資料から一部加工))

「グラフを見てもらうと一目瞭然ですが、横浜市で最も二酸化炭素を排出しているのは家庭部門(住宅)からで、約3割にものぼっています。これは全国の他の市町村と比べても高い割合なんですね。また今ある住宅の課題として、耐震性やバリアフリー、省エネ性を高めていく試みをしていますが、二酸化炭素の排出量を見たときに、住宅から出る量を抑制しないことには、2050年のカーボンニュートラルは難しい。そのため、賃貸住宅の省エネ性能を高めることが本市の喫緊の課題となっているのです」(横浜市建築局住宅政策課・杉江知樹さん)

バリアフリー・省エネのいずれも満たす住宅は、持家4%に対して借家0.5%。耐震を満たしていない物件は17%にも(データ提供/横浜市建築局住宅政策課(元の資料から一部加工))

バリアフリー・省エネのいずれも満たす住宅は、持家4%に対して借家0.5%。耐震を満たしていない物件は17%にも(データ提供/横浜市建築局住宅政策課(元の資料から一部加工))

そのために、まず「省エネ性」を高めると「住む人にはどのようなメリット」があるのか、あらためて可視化し、周知徹底をする必要があると考えたそう。周知するにしても、まずは確実なデータが必要ということで、横浜市の賃貸住宅のなかでも断熱等級4以上の省エネ性能の高い賃貸住宅で生活する人を対象にして、モニターを募集。約1年間かけて「横浜市省エネ賃貸住宅モニター事業」を実施したのだとか。モニターには、年4回のWEBアンケート、1年分の室温の測定と記録、電気とガスの使用量の提供をお願いしたそう。いわゆる「室温と光熱費の可視化」になります。

「現時点で、市内で省エネ性能が高い賃貸物件は多くはないのと、自宅がどの程度の省エネ性能かを知らない・関心がないという人も多い中、どの程度、協力を得られるか未知数だったのですが、地道にモニターにご参加いただける方を探し、結果として42組にご参加いただきました。総数としては多くはありませんが、電気代の記録や満足度など、得られたデータは非常に貴重で、大きな手応えがありました」(横浜市建築局住宅政策課・杉江さん)

きっかけはコロナ禍での在宅時間の増加。温熱環境で改善されストレス軽減

横浜市鶴見区の賃貸住宅に住む稲子さん(40代女性)も、このモニター調査に協力した一人です。欧米の断熱基準と比較しても見劣りしない断熱等級6、HEAT20でいうとG2グレードに該当し、賃貸住宅ではレア中のレア物件。2021年から入居し、室内温度や防音性などに満足していて、今後も住み続ける予定だといいます。ただ、もともと住まいの省エネ性能に関心があったわけではなく、暮らしてみてはじめてその「快適さ」に驚きました。

「以前は東京都内の賃貸に暮らしていましたが、光も入らない狭い空間で、圧迫感があって。コロナ禍で外出もままならなかったので、とにかく住環境をアップグレードさせたいという思いで住まい探しをはじめました。ここはデザインに惹かれて見学しにきたんですが、すぐにピンときて。その場で申し込みました」(稲子さん)

最寄り駅は東急東横線の綱島駅ですが、まったく土地勘もなかったそう。バス便で、さらに周辺の家賃相場と比較すると1.2~1.3倍ほど高い賃料設定ですが、十分に満足しているといいます。

「性能がよいためか、窓が大きいのに室温はおどろくほど安定しています。真夏も真冬も経験しましたが、こんなにも違うのか、とびっくりしました。音も気にならず、家に感じていたストレスがかなり軽減されました」(稲子さん)

稲子さんが住む賃貸住宅は、2020年築の木造、31平米。窓辺のグリーンや器などで暮らしを楽しんでいます(写真撮影/片山貴博)

稲子さんが住む賃貸住宅は、2020年築の木造、31平米。窓辺のグリーンや器などで暮らしを楽しんでいます(写真撮影/片山貴博)

今回、横浜市の賃貸モニターに参加したことで、ガス代や電気代を記録するようになり、現在もその習慣を続けているそう。昨今、電気料金の高騰が叫ばれている中、連日35度を超えていた7月でも4000円弱、使用量にしても123kWでした。

横浜市のモニター調査に協力したことで、記録する習慣がついたそう(写真撮影/片山貴博)

横浜市のモニター調査に協力したことで、記録する習慣がついたそう(写真撮影/片山貴博)

「シングルの家って手狭だからエアコンをつければすぐに涼しくなるので、あまり省エネなどを気にしたことはなかったんですね。ただ、もともとエアコンが好きじゃないから、この家でも窓を開けて暮らしていたんですが、そうすると外の音がうるさくって、湿度も高くなってしまって。そこで、ためしに窓を閉めて生活をしてみたんです。するとエアコンは入れずとも、室温はずっと快適に保たれて、午前中はつけなくてもいいくらいでした」といい、快適さに驚いたといいます。

外気温35度を上回る灼熱の日。窓はもちろん、省エネ性能の高い複層ガラス&樹脂サッシ!!(写真撮影/片山貴博)

外気温35度を上回る灼熱の日。窓はもちろん、省エネ性能の高い複層ガラス&樹脂サッシ!!(写真撮影/片山貴博)

さすがに窓の温度は33度でしたが(写真撮影/片山貴博)

さすがに窓の温度は33度でしたが(写真撮影/片山貴博)

床の温度は26度(写真撮影/片山貴博)

床の温度は26度(写真撮影/片山貴博)

室温はだいたい26度に保たれていて、気密性も高いので室内も本当に静かです(写真撮影/片山貴博)

室温はだいたい26度に保たれていて、気密性も高いので室内も本当に静かです(写真撮影/片山貴博)

住宅好きだからこそ見つけた家。平均値で「断熱等級4」になってほしい

今回、もう1組、モニターとして協力してくれたHさんご家族にも話を聞きました。

Hさん一家が住む賃貸住宅は2019年築の鉄骨造、45平米。(写真撮影/片山貴博)

Hさん一家が住む賃貸住宅は2019年築の鉄骨造、45平米。(写真撮影/片山貴博)

横浜市神奈川区にあり、こちらは日本の持ち家では一般的な断熱等級4に相当します。この4とは2025年にはすべての新築住宅に適合が義務化される基準ですが、現時点の既存住宅では満たしていないのがほとんどです。Hさんご夫妻は結婚をきっかけに住まいを探し始めました。

こちらのお住まいも複層エコガラス(R)&アルミと樹脂の複合サッシ。断熱性能が高く、早春の朝でも寒さを感じなかったそう(写真撮影/片山貴博)

こちらのお住まいも複層エコガラス(R)&アルミと樹脂の複合サッシ。断熱性能が高く、早春の朝でも寒さを感じなかったそう(写真撮影/片山貴博)

省エネは家探しの条件にはありませんでしたが、妻はもともと間取りを見ることや家探しが好きで、SUUMOなどを日常的に閲覧していたとのこと、夫は大学で建築について学んでいたことで窓や構造に関する知識があったそう。

「住んだあとから変えられない、周辺環境、窓や壁、動線を重点的に確認しました。省エネや温熱環境について言うと、正直、今回のモニターに協力するまであまり意識しませんでした。ただ、印象に残っているのが、引越してきてすぐのときに感じた室内の暖かさでしょうか。3月だったのですが、前の家だと朝暖房を使って帰ってきたとき室内が寒かったのが、ここでは帰ってきても暖かかった。それはすごく印象に残っています」(夫)

湿度が高いと感知する息子くん。子どもが泣いているときに、その理由がわかるのは心強いですね(写真撮影/片山貴博)

湿度が高いと感知する息子くん。子どもが泣いているときに、その理由がわかるのは心強いですね(写真撮影/片山貴博)

「1年間、モニターをしてみて、すべてつじつまがあったな、というのが実感です。なんとなく暖かいね、寒いね、というのが数字でクリアに現れたのでびっくりしました。子どもが泣くのでどうしたんだろうと思ったら暑かったりとかして。あとは窓の性能がしっかりしているのか、周辺の生活音が聞こえてこなくて、静かなのでびっくりしています」(妻)

8月のエアコンのついていない部屋でも28度。ちょっと暑いが過ごせないほどではない(写真撮影/片山貴博)

8月のエアコンのついていない部屋でも28度。ちょっと暑いが過ごせないほどではない(写真撮影/片山貴博)

サッシ部分は30度超(写真撮影/片山貴博)

サッシ部分は30度超(写真撮影/片山貴博)

8月19日の13時ごろ。外気温は36度を超える猛暑日でしたが、ガラス部分で30度弱。省エネはやはり窓からですね(写真撮影/片山貴博)

8月19日の13時ごろ。外気温は36度を超える猛暑日でしたが、ガラス部分で30度弱。省エネはやはり窓からですね(写真撮影/片山貴博)

今回の家探しは、2人の今までの賃貸での失敗や経験、知識を活かしましたが、感想としては、「賃貸住宅のアベレージ(平均値)でこれくらいの住まいになってほしい」と夫。

今回2組に取材しましたが、声をそろえて「当たり前になってほしい」「もう、以前のような(断熱性能に配慮されていない)賃貸住宅には住めない」とおっしゃっていました。住宅探し時の条件には入っていないけれど、省エネ性能の高い住まいに暮らしてしまうと、もう元の住まいには戻れない、それくらい心地がよいようです。

満足度と居住意向の高さはデータでも! では、大家さんの意見は?

こうした満足度の高さは、アンケート結果ではより鮮明になっています。
「省エネ賃貸住宅全体で、住んでいる人の満足度が高いことがわかっていますし、長く住み続けたいという意向も明らかになっています。大家さんからみたときには、物件の差別化ができ経営が安定することにつながります。住んでいる人にとっても、大家さんにとってもメリットが大きいということが改めて把握できました」(横浜市住宅供給公社街づくり事業課・都出さん)

省エネ賃貸住宅は、遮音、断熱、室内の暖かさに満足している結果に

省エネ賃貸住宅は、遮音、断熱、室内の暖かさに満足している結果に

遮音、断熱性、部屋の暖かさといった点で、一般的な賃貸住宅と省エネ賃貸住宅で圧倒的な差がついています(一般賃貸5割強、省エネ賃貸住宅9割超)(データ提供/横浜市建築局住宅政策課(元の資料から一部加工))

(データ提供/横浜市建築局住宅政策課(元の資料から一部加工))

(データ提供/横浜市建築局住宅政策課(元の資料から一部加工))

意外!? 光熱費が抑制できれば家賃がアップしてもかまわない結果も!

意外!? 光熱費が抑制できれば家賃がアップしてもかまわない結果も!

光熱費が抑制できる分、家賃が高くなっても許容できると答えた人が73.2%も。「知り、体感する」ことで納得度が増すのでしょう(データ提供/横浜市建築局住宅政策課(元の資料から加工))

省エネ賃貸住宅は「ずっと住みたい」と思える家!大家さんがもっとも嫌う空室リスクを低減

省エネ賃貸住宅は「ずっと住みたい」と思える家!大家さんがもっとも嫌う空室リスクを低減

省エネ賃貸住宅ではなんと75%の人が住み続けたいという。劇的な差ですね(データ提供/横浜市建築局住宅政策課(元の資料から一部加工))

では、大家側さん、物件を所有する人からみたときには、省エネ性能を高めるには、どのような課題があるのでしょうか。賃貸住宅「パティオ獅子ヶ谷19号館」を手掛けた、岩崎興業地所の岩崎さんにお話を伺いました。

「弊社は横浜市内と東京都内に不動産を抱え、賃貸経営や不動産企画・管理業をしており、バス便立地、築年数30~40年の物件を多数抱えています。物件の差別化、または付加価値という意味で、リノベなども手掛けきており、以前から省エネ性・断熱性について関心がありました。新築の物件を建てるにあたり、建築家の内山章先生に相談して手掛けたのが、パティオ獅子ヶ谷19号館です。ただ、大家の視点でいうと、省エネ性だけで訴求するのはまだまだ難しいというのが正直な感想です。内山先生のデザイン性、住みたいと思う人のプロフィールや背景を想像して、丁寧に戦略を立てたことが奏功しました」(岩崎さん)

と率直に話します。また物件は2021年築ですが、まだまだ「最新事例」として紹介されます。クルマなどであれば例年のように新モデルが登場しますが、住宅、なかでも賃貸住宅では、断熱等級の高いものは「レア」な存在です。裏を返せば、圧倒的な競争優位性を保っていることになります。

「ただ、正直にいえば、ワンルームや一人暮らし用の賃貸では、ある程度立地条件が良ければ省エネ性を高めなくとも入居者が決まるというのが、現実だと思います。それほど省エネ性能の認知度や重要度はやはり高くないのです。あと、個人的にいえば、ネックになっているのは金融機関ではないでしょうか。省エネ性能を高めた結果、建築費が2~3割割高になりますが、競争優位性も高まります。しかし、それで金融機関の融資がおりるかというと、実際はかなり厳しい。手間も時間もかかりますよね」(岩崎さん)といい、よほどの使命感か情熱がある人でないと、まず難しいというのが省エネ賃貸住宅を建てる側のホンネのようです。

お金を持っているところが強いというのは、いつの時代も真実ですよね。ただ、これは制度や世の中の流れという後押しがあれば、変わることも十分ありえます。

ひとつは2025年、省エネ性能に関わる断熱性能が義務化されるようになり、新築住宅では「等級4」(Hさん一家宅と同水準)が最低基準になります。賃貸住宅であっても、「等級4」を満たさない水準の住まいは建てられなくなります。競争優位性を保つために等級5や等級6(稲子さん宅と同水準)の事例が出てくれば、賃貸物件も徐々に高性能化が進むことでしょう。

もう一つは、若い世代の台頭です。SNSでも、住まいについての情報収集が容易になった今、Hさん夫妻のように、住宅についての知識を蓄えた人が、「住まいの選別」をはじめています。また、若い世代ほど、環境についての問題意識は高いもの。クルマや家電に省エネ性能が求められるように、賃貸住宅も「省エネ性能が高くないと戦えない」という時期に近づいていると感じます。

また。金融機関もESG投資(環境や社会に配慮して事業を行っていて、適切なガバナンス(企業統治)がなされている会社への投資)のひとつとして、「省エネ賃貸住宅」に積極的に融資を行うようになるかもしれません。

夏の暑さ、冬の寒さ、電気代の高騰に振り回されないために。また、2050年カーボンニュートラルという大きな目標のために。今こそ大人世代の行動や決断が問われているときなのかもしれません。

●取材協力
横浜市建築局住宅政策課
横浜市住宅供給公社
岩崎興業地所株式会社

国土交通省の令和6年度予算要求、住宅施策は何が変わる?施策概要を解説

国土交通省が令和6年度予算の概算要求の概要を公表した。まだ要求した段階で決定したものではないが、国土交通省がどんなことに力を入れようとしているのかが分かる。その中から、住宅に関することをピックアップして、見ていくこととしよう。

【今週の住活トピック】
令和6年度予算概算要求概要等を公表/国土交通省

新築・既存住宅の省エネ化の推進や中古住宅流通・リフォーム市場の活性化などに予算を充てる

国土交通省の令和6年度の予算では、(1)「国民の安全・安心の確保」、(2)「持続的な経済成長の実現」、(3)「個性をいかした地域づくりと分散型国づくり」に重点を置いている。

(1)「国民の安全・安心の確保」では、自然災害の激甚化・頻発化に対応する強靭な国土づくりを掲げている。住宅関連について見ると、以前から行っている「密集市街地対策や住宅・建築物の耐震化」や近年多く発生している土砂崩れの要因ともなる「盛土の安全確保対策」を推進するとしている。

(2)「持続的な経済成長の実現」における住宅関連の主眼は、「ZEH・ZEBの普及や木材活用、ストックの省エネ化など住宅・建築物の省エネ対策等の強化」となる。また、住宅にも関係がある、建設業の「2024年問題※」の解決に向けた支援をするとしている。
※2024年4月から時間外労働の上限規制が建設業に適用されることで、さまざまな影響が生じること

(3)「個性をいかした地域づくりと分散型国づくり」では、「多様な世帯が安心して暮らせる住宅セーフティネット機能の強化」や「既存住宅流通・リフォーム市場の活性化」が住宅関連の項目と言えるだろう。加えて、「空き家対策、所有者不明土地等対策及び適正な土地利用等の促進」や「地方への人の流れを創出する移住等の促進」もテーマに掲げている。

また、岸田政権はこども・子育て政策に力を入れていることから、「こどもまんなかまちづくり」を推進するとして、「子育て世帯等に対する住宅支援の強化」や「通学路等の交通安全対策の推進」にも予算を充てるとしている。

こども・子育てへの支援内容とは?

次に、具体的な支援内容について、国土交通省住宅局の予算概算要求概要で見ていこう。詳しく見ると、おおむね継続または拡充となっているので、2023年度の支援策が2024年度にも継続され、一部の内容が見直されるということになりそうだ。

子育て世帯等に対する住宅取得支援の強化としては、「【フラット35】の金利引き下げ」が挙がっている。これは、【フラット35】のなかでも、「【フラット35】地域連携型」によるもの。地域連携型とは、地方公共団体がそれぞれ該当する住宅取得に関する補助金などの財政的支援を行っている場合に、併せて【フラット35】の金利を引き下げるもの。つまり前提として、地方公共団体が子育て支援策を設けている場合に限られる。残念ながら東京都は、首都圏でも神奈川県や千葉県に比べると子育て支援をしている区市が少なく、2023年4月時点の資料によると、台東区、墨田区、福生市、多摩市、奥多摩町となっている。

【フラット35】の金利引き下げ制度については、2023年4月に見直しが図られた。地域連携型で「子育て支援」と「空き家対策」については、返済当初10年間、0.25%の金利を引き下げる形になっている。また、【フラット35】地方移住支援型では、当初10年間、0.3%の金利引き下げとなる。省エネ性の高い住宅の場合に金利を引き下げる「【フラット35】S」などと組み合わせると、さらに金利が引き下げられる仕組みだ。これらは、2023年度の制度なので、2024年度も予算をつけて継続すると考えられる。金利の引き下げ幅については、2024年度でどうなるか見守りたい。

また、「子育て支援型共同住宅推進事業」という補助制度もある。マンションなどの共同住宅で、子どもの安全・安心や快適な子育て等に配慮した改修などを行った場合に補助金を出す事業だ。今住んでいる分譲マンションの住戸で、子育て中の区分所有者などが、条件に該当するリフォームを行うと、2023年度の場合は、補助対象事業費の3分の1までで上限100万円の補助金が交付される。2024年度は、この補助制度を拡充する予算を要求している。

子育て支援型共同住宅推進事業の拡充を要求(現行制度の概要)/令和6年度「住宅局関係予算概要要求概要:国土交通省住宅局」より抜粋

子育て支援型共同住宅推進事業の拡充を要求(現行制度の概要)/令和6年度「住宅局関係予算概算要求概要:国土交通省住宅局」より抜粋

住宅のリフォームへの支援策とは?

住宅のリフォームに関する補助金の制度もいくつかある。省エネリフォームや長期優良住宅化リフォームについての支援制度などだ。

たとえば「住宅エコリフォーム推進事業」では、省エネ診断や省エネ設計、省エネ改修(または建て替え)の費用に対して、上限枠まで補助金が交付される。2023年度の事業では、省エネ基準適合レベルなら30万円(交付対象費用の4割まで)、ZEHレベルなら70万円(交付対象費用の8割まで)を限度に補助金が交付されるものだったが、すでに予算枠に達してしまい受付を終了している。2024年度の予算要求では拡充となっているので、より多くの件数に対応できるように予算枠を増やす考えなのだろう。

また、「長期優良住宅化リフォーム推進事業」では、所定のリフォームを行った場合に、工事費用の3分の1を限度に、100万円(長期優良住宅(増改築)認定を取得する場合は200万円)まで補助金が交付される。ただし、若者・子育て世帯が工事を実施する場合や既存住宅を購入して工事を実施する場合などでは上限額が50万円加算される。この事業については、2024年度に継続する予算要求をしている。

長期優良住宅化リフォーム推進事業の継続を要求(現行制度の概要)

長期優良住宅化リフォーム推進事業の継続を要求(現行制度の概要)

対象が限られたり、申請や受領が事業者となったりするものも含めて、補助金などの支援策はほかにも数多くあり、継続や延長、拡充などの予算要求がされている。

なお、令和6年度予算概算要求概要の公表と同時に、令和6年度国土交通省税制改正要望事項についても公表されている。税制改正要望についても、期限切れを迎える減税制度の延長が多いが、住宅のリフォームに関する減税制度で、現行の「耐震」「バリアフリー」「省エネ」「三世代同居」「長期優良住宅化」のリフォームに加え、「子育て対応」に関するリフォームを加えるように要望している。

2024年度のこども・子育て政策については、目新しいものはないが、地道に予算や税制の要望をしているという印象を受けた。

●関連サイト
国土交通省 令和6年度予算概算要求概要等を公表(令和5年8月24日)
国土交通省「令和6年度予算概算要求概要」
「令和6年度国土交通省税制改正要望事項」

無印良品の小屋ズラリ「シラハマ校舎」に宿泊体験。災害時に強い上下水道・電気独立のオフグリッド型住宅の住みごこちって? 千葉県南房総市

シラハマ校舎は、千葉県南房総市白浜町の小学校跡地を活用してできた複合施設です。無印良品の小屋がずらりと並んだその一角に、2022年、上下水道、電気も既存インフラに頼らない「オフグリッド小屋」が誕生したといいます。省エネが注目される昨今、以前よりも耳にする機会が増えた「オフグリッド小屋」、一体どのように活用されるのでしょうか。可能性を探るため、シラハマ校舎に話を聞きました。

タイニーハウス(小屋)人気は健在。ウェイティングリストは27組も!

2016年、千葉県の房総半島の先に誕生した「シラハマ校舎」は、廃校となった長尾小学校・幼稚園の敷地と建物を用途変更してできた施設です。敷地内には18ある小屋が立つほか、レストラン(完全予約制)、シェアオフィス、コワーキングスペース、宿泊施設で構成されています。ちなみに小屋の1棟の広さは12平米で、バスやキッチン、トイレなどの水回りは共用で使います。運営しているのは、妻がこの町の出身者という多田夫妻。

小屋は発売当初、「どんな人が買うんだろう?」という声もありましたが、現在、ワーケーションやシェアオフィス、2拠点生活の場所として活用されていて、2019年に完売、2023年現在はウェイティングリストに27組もいるという人気物件です。(関連記事:コロナ禍で「小屋で二拠点生活」が人気! 廃校利用のシラハマ校舎に行ってみた 千葉県南房総市)

シラハマ校舎の夜景(写真提供/シラハマ校舎)

シラハマ校舎の夜景(写真提供/シラハマ校舎)

「今、1棟、販売されているんですが、見学にいらっしゃる方も多いですね。人気があるため、中古価格も崩れていません。
ただ、比較的大きな畑付きで、ほぼ毎週末、手入れが必要になるんです。週末くらいはゆっくりしたいというニーズが強いので。となると、当然、人を選んでしまう。やはり小屋でゆったりしたいという人は多いので」と話すのは、シラハマ校舎の企画から管理、運営までをご夫妻で行っている多田朋和さん。

また、コロナ禍で広まったアウトドア人気やキャンプ人気は未だに衰えず、特に房総半島では次々とキャンプ場が誕生しているよう。キャンプのようでもあり、別荘のようでもある、シラハマ校舎の「小屋」は、手堅い需要があるようです。

平時はキャンプ場、非常時は避難場所。小屋を柔軟に活用する

この大人気のシラハマ校舎の敷地の一角がさらに進化して、2022年には「オフグリッド」の小屋ができました。オフグリッドとは、電力などの送電網につながっていない独立型電力システムのこと。このシラハマ校舎では、電力だけでなく、なんと上下水道も既存のインフラに頼らず、自立して運営できる仕組みをつくったそう。一体なぜなのでしょうか。

「きっかけは、2019年の台風です。送電網が停止し、白浜町一帯も停電、陸の孤島となりました。避難場所となったコミュニティセンターの受け入れ可能人員は最大で80人ほど。そのため、150人近い人が避難できない状態になりました」と多田さん。また停電したことで9月の残暑が住民を直撃したほか、浄化槽も稼働できず、衛生状態もよくなかったといいます。

2022年末の取材時も、一角に残されていた井戸。今回のプロジェクトでは、こちらも活用(撮影/ヒロタ ケンジ)

2022年末の取材時も、一角に残されていた井戸。今回のプロジェクトでは、こちらも活用(撮影/ヒロタ ケンジ)

小屋はそもそもサイズが小さいため、使う電気エネルギーは最小限ですみます。そのため、生活に使う電力は太陽光発電でも十分まかなえるのです。いわば、「小屋の利点」を活かして、平時と非常時の二段階活用を実践したかっこうです。誰もが空想したり、アイデアとしては浮かびますが、民間の試みでさらりと行ってしまうところが、多田さん夫妻のすごいところ。

新しい小屋の内観。こうしてみると普通のホテルですね(写真提供/シラハマ校舎)

新しい小屋の内観。こうしてみると普通のホテルですね(写真提供/シラハマ校舎)

新しい小屋の内観。電気なので、キッチンはIHです(写真提供/シラハマ校舎)

新しい小屋の内観。電気なので、キッチンはIHです(写真提供/シラハマ校舎)

「もともと下水道はなく、浄化槽(※)を利用する地域なので、非常時でも電気と水さえあれば機能します。また小学校の敷地内には古い井戸があったので、これを吸い上げて配水に利用することに。太陽光発電と水を確保できることで、いざというときも下水も稼働するんです。電気だけなら、オフグリッドでまかなえる施設はたくさんありますが、上下水が既存インフラから独立して稼働するのは、日本でもシラハマ校舎くらいじゃないかな」と多田さん。

※敷地内に設ける小規模な汚水処理設備で微生物の働きなどを利用して汚水を浄化する古くからある仕組み

万一のことを考え、シラハマ校舎そのものは送電線とはつながっていますが、いざというときは電力を買わなくても稼働するとのこと。

今のところ大きなトラブルはナシ。課題は冬場の発電量。

実際に稼働してみて、課題はないのでしょうか。
「シラハマ校舎は、南向きの土地なので、夏であれば十分に発電できるのですが、問題は冬ですね。日照時間が短いので発電した電気を一日で消費してしまうんです。そのため、オフグリッド小屋に宿泊していただくお客様には、連泊してもらう場合、別の小屋に移動してもらっています(笑)」

小屋の裏側。太陽光発電した電力を蓄えておける蓄電池が設置されている(写真提供/シラハマ校舎)

小屋の裏側。太陽光発電した電力を蓄えておける蓄電池が設置されている(写真提供/シラハマ校舎)

なるほど、運用でカバーできる範囲の課題なんですね。エネルギーの地産地消というか、オフグリッドで建物を運営するのは、もう「リアル」にできることなんだなと実感します。使うエネルギーとつくるエネルギーのプラスマイナスゼロの住まいを「ZEH(ゼッチ)」(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)といいますが、まさに小屋もZEHの時代なんですね。

「今は小屋1棟でお貸ししていますが、2棟つなげて1つにキッチンとお風呂、トイレをつくり、1つをベッドルームにした宿泊棟もつくろうかと思っています。こちらもZEHで、使うエネルギーとつくるエネルギーはプラスマイナスゼロにする予定です」と多田さん。

シラハマ校舎のアップデートはまだまだ止まりそうにありません。
「水でいうと、エアコンから出た排水や汚水などをあわせてフィルターで濾過(ろか)し、真水にして循環利用できる技術もあるのですが、商業施設や複数人が利用することを考えて、導入を見送っています。技術的に問題ないといっても、気分的に嫌悪感を抱く人がいるのは理解できるので」(多田さん)。水の技術にも興味があるほか、海岸沿いに所有する農地に小型風力発電設備を設置する計画も進めています。

白浜町はその土地柄、強い海風が吹いています。これを活用し、小規模事業でも環境に貢献していきたいとのこと。こうした施策に興味を持ち、企業や自治体の視察希望者が次々とやってくるそう。

小学校らしさを残してリノベ。オフィスやレストランなどが入っています(撮影/ヒロタ ケンジ)

小学校らしさを残してリノベ。オフィスやレストランなどが入っています(撮影/ヒロタ ケンジ)

「どこの自治体や企業も環境への取り組みが欠かせません。自社の勝機はどこにあるのか、意識の高まりを感じますね。また、日本国内では廃校が毎年約400~500ほどあるので、どこも地方自治体は活用方法に頭を悩ませています。校舎は廃校して他用途で活用しようとすると、耐震補強工事や用途変更に手間がかかるんです。シラハマ校舎の場合、校舎をワーケーションオフィスとして活用しつつ、小屋を宿泊場所にしています。これは他の自治体でも有効な『パッケージ』として輸出できないかなと考えているんですが、なかなか運用が難しいようで。あとは韓国でも少子化によって同様の問題が起こると予想されているので、『廃校活用パッケージ』として輸出できたらおもしろいですよね」(多田さん)

外観も学校らしさを残している(撮影/ヒロタ ケンジ)

外観も学校らしさを残している(撮影/ヒロタ ケンジ)

キッチンや水回りなどの共用施設がある建物(撮影/ヒロタ ケンジ)

キッチンや水回りなどの共用施設がある建物(撮影/ヒロタ ケンジ)

さらに昨年には農業法人を立ち上げ、ワイナリー+ソーラーシェアリング(太陽をシェアし太陽光発電とパネルの下で農産物を生産する取り組み)も現在計画しているとのこと。これが可能になると、天候関係なく果実ができたり、収穫できたりするようになるのだとか。なんでしょう、房総半島の先にある民間の施設なのに、どこよりも新しい試みをはじめています。

強い風を利用した風力発電も計画中(撮影/ヒロタ ケンジ)

強い風を利用した風力発電も計画中(撮影/ヒロタ ケンジ)

小屋に注目が集まっている昨今ですが、オフグリッドやソーラーシェアリングなどと組み合わせ、どこよりもユニークな挑戦を続けるシラハマ校舎。小屋や環境、これからの暮らしに興味がある人なら、ぜひ一度、訪れてソンはないと思います。

●取材協力
シラハマ校舎

9割超が「省エネ住宅を選びたい」、背景に光熱費高騰。2025年省エネ基準義務化前に【フラット35】も適用要件を改定

物価高、とりわけ光熱費の高騰が家計に大きな影響を与えている。電気代が2倍以上になった家庭もあるといった調査結果もある。その影響からか、省エネ住宅への関心が高まっているという。詳しく見ていこう。

【今週の住活トピック】
「環境と住まいに関する意識調査」結果を発表/一条工務店

電気代の高騰が家計を圧迫している現状

一条工務店が、2023年2月に全国の男女750名を対象に「環境と住まいに関する意識調査」を実施した。「現在、電気代の高騰が家計を圧迫していると感じますか?」と聞いたところ、実に96.9%が「感じる(とても感じる65.6%+やや感じる31.3%)と回答した。電気代の高騰が、ほとんどの家庭の家計に影響を与えていることになる。

MILIZEとTEPCO i-フロンティアズが合同で、2023年2月に実施した「家計の管理に関する調査」(調査時期:2023年2月、調査対象:20~59歳の男女2000名)の結果を見ても、「値上がりを実感したもの」として挙がったのは、「食品」(66.6%)や「ガス」(45.0%)を抑えて、「電気代」が70.6%と1位になった。

日本トレンドリサーチとナチュラルハウスが共同で、2023年3月に実施した「電気代に関するアンケート」では、「2023年1月と昨年1月を比べて、電気代がどうなったか」を聞いている。

2人暮らしの回答結果では、最も多かったのが「昨年より1.1~1.3倍ほど高い」、次いで「昨年より1.4~1.7倍ほど高い」だった。「2倍以上」という回答も一戸建てで4.6%、マンションで2.9%おり、電気代の高騰ぶりがうかがえる結果となった。

出典:日本トレンドリサーチとナチュラルハウスの共同で実施した「電気代に関するアンケート」(調査時期:2023年3月、調査対象:一戸建てまたはマンションに住んでいる男女1341名)

出典:日本トレンドリサーチとナチュラルハウスの共同で実施した「電気代に関するアンケート」(調査時期:2023年3月、調査対象:一戸建てまたはマンションに住んでいる男女1341名)

電気代が家計を圧迫する結果、冷暖房を我慢するようなことがあると、ヒートショックなどの健康被害につながってしまう。一条工務店の調査で、「電気代が高すぎるために冷暖房を我慢する等、快適さを犠牲にすることがありますか?」と聞いた結果、79.2%がある(「よくある」30.1%+「時々ある」49.1%)と回答した。由々しき事態だ。

出典:一条工務店「環境と住まいに関する意識調査」

出典:一条工務店「環境と住まいに関する意識調査」

97.5%もの人が、省エネ住宅を選びたいと思うと回答

実は、光熱費の高騰により、省エネ住宅への関心が高まっている。一条工務店の調査で、「今後、新たに家を購入する場合、省エネ住宅(※)を選びたいと思いますか?」と聞いた結果、77.5%が「とてもそう思う」と回答しており、「ややそう思う」(20.0%)を加えた97.5%が省エネ住宅を選びたいと思っていることになる。
※調査では、省エネ住宅を「家庭の消費エネルギーを抑えるための設備の設置や施工を行った住宅」と定義

出典:一条工務店「環境と住まいに関する意識調査」

出典:一条工務店「環境と住まいに関する意識調査」

なかでも、20代と30代でその割合が高くなっている。では、省エネ住宅を選びたいと思う理由はどういったことだろう。

省エネ住宅を選びたいと回答した人に、次のグラフ図の4つの項目がそれぞれどの程度、省エネ住宅を選びたい理由として当てはまるか答えてもらったところ、「昨今、光熱費が高くなったから」が最も強い理由で、次いで「夏は暑く冬は寒いなど、住環境の面で今の家が快適に過ごせないから」となった。

出典:一条工務店「環境と住まいに関する意識調査」

出典:一条工務店「環境と住まいに関する意識調査」

2025年には、省エネ住宅が当たり前になる

さて、省エネ住宅と一口に言っても、きちんと定義がある。

住宅の省エネ基準については、「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(建築物省エネ法)」で定められている。この基準に適合した住宅を「省エネ基準適合住宅」といい、省エネ住宅とは、原則としてこの省エネ基準適合住宅を指すことになる。

建物の天井や壁・床を断熱材でしっかりおおうことで、住宅の断熱性が上がる。この断熱性能は、法律の改正によって次第に引き上げられている。住宅の性能を統一基準で示すのが「住宅性能表示制度」で、法改正により省エネ基準が引き上げられるごとに、新築時に求められる最低限の「断熱性能等級」も2→3→4と引き上げられてきた。

一方、住宅で生活すると冷暖房設備を使ったり給湯器を使ったりして、エネルギーを消費する。エネルギーをできるだけ消費しない、効率の良い設備を使うことでも、住宅の省エネ性が高まる。そこで加わった住宅の性能が「一次エネルギー消費量等級」で、現行の省エネ基準では等級4が求められている。

どういった仕様なら等級4を達成するかは、東京と北海道のような寒冷地とでは異なる。その地域に応じた「断熱性能等級4」と「一次エネルギー消費量等級4」を満たす住宅が、省エネ基準適合住宅となる。

実は、住宅のような小規模な建築物は、今現在は省エネ基準に適合させることを推奨しているものの、義務とまではされていない。ただし、2025年には義務化される予定で、そうなると新築住宅はすべて省エネ住宅ということになる。

注意したいのが、これに先駆けて、全期間固定金利型の住宅ローンである【フラット35】の適用要件が変わることだ。2023年4月以降の設計検査申請分から【フラット35】の新築住宅の技術基準が省エネ基準適合住宅となる。つまり、省エネ基準を満たしていない新築住宅は【フラット35】が使えなくなる。そうはいっても、今の新築住宅の大半は省エネ基準を満たしているので、使えないという新築住宅はかなり限定されるはずだが、注意したい点だ。

新築住宅と中古住宅で省エネ性に差が生じる

新築住宅では、省エネ基準を満たす省エネ住宅が当たり前になる一方で、すでに建築された中古住宅は、建築当時の省エネ基準を満たせばよかったので、現行の省エネ基準を満たす住宅はあまり多くはないと言えるだろう。

省エネ基準は、実は2030年までに「ZEH(ゼッチ)基準」(断熱性能等級5と一次エネルギー消費量等級6)に引き上げられる予定だ。新築住宅を供給するデベロッパーは、すでにZEH基準への取り組みを始めているので、今後はますます新築と中古の省エネ性に差が出ることになる。

となると、先の調査のように「省エネ住宅を選びたい」と思う人は、新築住宅を選ぶか、中古住宅を省エネ改修することを選ぶか、といった選択をすることになる。省エネ性の高い住宅にするには一定のコストもかかるが、光熱費の削減や夏は涼しく冬は暖かい住環境になるというメリットが得られるので、長い目で見て考えてほしい。

●関連サイト
一条工務店「環境と住まいに関する意識調査」
MILIZE・TEPCO i-フロンティアズ「家計の管理に関する調査」
日本トレンドリサーチ・ナチュラルハウス「電気代に関するアンケート」
ナチュラルハウス 会社HP

ZEH水準を上回る省エネ住宅をDIY!? 断熱等級6で、冷暖房エネルギーも大幅削減!

電気代の値上がりが続き、住まいの省エネ性能に関心が高まっています。そんななか、施主がプロの力を借りつつ、「断熱性の高い施工方法を学びながら、自分たちで省エネで環境にやさしい住まいをつくる」というワークショップが開催されました。子どもたちや周辺住民も加わりつつ行われた、楽しい模様をレポートします。

ハーフビルドで断熱等級6相当の省エネ住宅を建てる!……って、できるの?

高騰が続く光熱費を背景に、住まいの断熱性能、省エネ性能が急速に注目を集めています。そんなさなか、プロの力を借りて施主が自邸を建てるという「ハーフビルド」方式で、あたたかい家をつくるというワークショップが開催されました。その住まいの舞台となったのは、神奈川県相模原市緑区、旧藤野町の里山。東京と神奈川、山梨の県境にあり、東京駅まで1本でアクセスできるものの、のどかな環境です。

断熱ワークショップの舞台となる住まい。神奈川県内とはいえ、里山ののどかな雰囲気(写真撮影/桑田瑞穂)

断熱ワークショップの舞台となる住まい。神奈川県内とはいえ、里山ののどかな雰囲気(写真撮影/桑田瑞穂)

この住まいの施主は、30代の森川夫妻。妻は会社員、夫は今、退職して家づくりに全力投球しています。設計と施工を担当するのはHandiHouse projectのみなさん。SUUMOジャーナルでも、「施主も“一緒に”つくる住まい」という連載を続けていましたが、今回はその試みがバージョンアップし、「5地域の断熱等級6」(※1)相当の住まいをつくるのだといいます。相模原市は6地域にあたりますが、お住まいのある山間部は山梨にも近く、冬にはマイナスになることも多々あるため、山梨市と同等の5地域の断熱性能を求めることにしたといいます。
※1 日本は地形の気候に合わせて省エネ基準地域が8区分されています。数字が小さいほど寒い地域で、首都圏の都市部は多くが6地域に該当します。その地域区分によって、等級の評価基準が異なるので、同じ等級6の評価でも、6地域より、5地域の方がより高いものが求められます

「住宅省エネルギー基準」による地域区分(一般財団法人住宅・建築SDGs推進センターHPより)

「住宅省エネルギー基準」による地域区分(一般財団法人住宅・建築SDGs推進センターHPより)

断熱等級6と7は2022年10月に新設されたばかりですが、等級6はこれからの日本の住宅が目指すべき断熱のスタンダード暮らす、等級7は世界基準のトップクラスに相当します。とはいえ、今までは最高等級が4だったことを考えると、ハーフビルドでつくるには十分にハイレベルな水準でもあります。では、どのようにしてこのプロジェクトがはじまったのかを、施主の森川夫妻に聞きました。

「家をつくるにあたり、まずできる限り、自分たちの手でつくりたいという希望がありました。また、夫妻ともに寒がりで、一方で化石燃料や石油エネルギーをできるだけ使いたくない、減らしたいとの考えから、高断熱・高気密の家がいい。加えて、私たちには2人の子どもがいるのですが、現在、深刻化する気候変動に対し、未来の世代に自分たちなりの『解』を示しておきたい。加えて、地域の建材や廃材を使いたい、また太陽光パネルを搭載、将来的に電気自動車を購入してV2H(※2)にしてほぼすべてのエネルギーを太陽光で賄うプランを考えていたんです。そんな理想もりもりの家づくりがはたしてできるのか、依頼先を探していたところ、設計事務所HandiHouse projectの中田さん夫妻を紹介されて。コレだ! とすぐに決まりました」とその理由を明かします。

※2 V2H 自動車(Vehicle)から家(Home)へという意味。電気自動車に蓄えられた電力を、家庭用に有効活用する考え方。

「パーマカルチャー」(持続可能な循環型の農業をもとに、人と自然がともに豊かになるような関係性を築いていくためのデザイン手法)に加えて、地域や将来の環境のことを考えて家づくりをしたいと考えていた夫妻と、共感できる設計事務所の出合いは、まさに奇跡&運命ともいえるものでしょう。それが、今回のワークショップ開催の運びとなりました。

ワークショップ参加者やご近所さんの見学も。断熱への関心は高い

2023年1月中旬、断熱ワークショップが開催されました。2022年のうちに家づくりのプランが確定し、地鎮祭と基礎工事、棟上げ、屋根の防水や外壁張り、窓設置が完了しているので、見た目はほぼ「家」になっています。また、天井や床には発泡プラスチック系の断熱材10cmがプロの手によってすでに入っている状態です。

ワークショップ前には準備体操。本日もご安全に!(写真撮影/桑田瑞穂)

ワークショップ前には準備体操。本日もご安全に!(写真撮影/桑田瑞穂)

施工する前にまず住まいの断熱性能についての説明、使う断熱材やその理由、性能をHandiHouse projectメンバーから説明してくれました(写真撮影/桑田瑞穂)

施工する前にまず住まいの断熱性能についての説明、使う断熱材やその理由、性能をHandiHouse projectメンバーから説明してくれました(写真撮影/桑田瑞穂)

今回ワークショップを開催したHandiHouse projectの中田りえさんは、この試みについて、「施主だけでなく、参加者、ご近所の方などに、住まいの断熱の大切さを知ってもらえるいい機会になりますよね。あと、住まいの建築のプロセスにはいろいろとありますが、断熱って特別なスキルはいらず、ていねいに施工することが大切なんです。ウレタンスプレーで吹き付けるのも楽しいし。それこそお子さんやママ、パパも参加しやすいし、もっとこの輪を広げていけたら」と話します。

ワークショップの開催はHandiHouse projectのフェイスブックページや施主の森川さんがブログで告知したこともあり、筆者のSUUMOチームとはまた別に4名の取材チームがいらっしゃいました。ハーフビルドのワークショップは何度も参加しているという人もいれば、初めてという人も。いずれにしても「断熱や気密に関心がある」「DIYで家づくりがしてみたい」と、住まいそのものへの関心の高さが伺えます。

森川邸の断面図。断熱材を10.5cm入れる図面になっています(写真撮影/桑田瑞穂)

森川邸の断面図。断熱材を10.5cm入れる図面になっています(写真撮影/桑田瑞穂)

まずは施工する建物の前にて、自己紹介とあいさつ、そして準備体操をします。楽しそうではありますが、やはり事故や怪我をするわけにはいきません。その後、場所を建物内にうつし、「なぜ、今、断熱が大事なのか」「高気密が大切な理由」「今日の作業手順」を説明してもらいました。ここで断熱等級6は外皮性能レベル(いわゆるUA値)では0.46で、省エネ等級4の北海道と同水準あること、施工しやすさから発泡系断熱材を使うこと、断熱材は価格と性能がほぼ比例すること、住まい完成時には気密測定を行い、住宅の隙間総量を表すC値は実測で0.4をめざすという話が出ていました。ちなみに、C値は数値が低いほど気密性にすぐれるというもので、現時点で一般的な住まいでは1以下、世界基準のパッシブハウスで0.6以下だといわれています。0.4というのは、細部にわたって隙間なくていねいな施工が求められる水準のため、ハーフビルドでこの数字を本当に実現できるの?と筆者は驚きが隠せません。

ちなみに断熱ワークショップの作業そのものはとてもシンプルで、間柱(まばしら)に合わせてあらかじめカットされている断熱材(発泡プラスチック系)をはめこんでいくというもの。

断熱材を入れる前の壁の様子。柱と間柱(まばしら)の間は38cm(写真撮影/桑田瑞穂)

断熱材を入れる前の壁の様子。柱と間柱(まばしら)の間は38cm(写真撮影/桑田瑞穂)

柱と柱の間に、断熱材(発泡プラスチック系)を埋め込んでいます。手で押すだけで施工できるので、めちゃくちゃシンプル(写真撮影/桑田瑞穂)

柱と柱の間に、断熱材(発泡プラスチック系)を埋め込んでいます。手で押すだけで施工できるので、めちゃくちゃシンプル(写真撮影/桑田瑞穂)

断熱材は幅に合わせてカットされていますが、さらに現場で長さをカットします。カットするのは施主の森川さん(妻)。ちゃんとまっすぐサイズに合わせてカットできるか、ドキドキします(写真撮影/桑田瑞穂)

断熱材は幅に合わせてカットされていますが、さらに現場で長さをカットします。カットするのは施主の森川さん(妻)。ちゃんとまっすぐサイズに合わせてカットできるか、ドキドキします(写真撮影/桑田瑞穂)

カットした断熱材を埋め込んでいきます。隙間があってはいけないので、最後は押す力が必要です(写真撮影/桑田瑞穂)

カットした断熱材を埋め込んでいきます。隙間があってはいけないので、最後は押す力が必要です(写真撮影/桑田瑞穂)

手で押すと凹んでしまうため、木槌と板を使ってはめていきます(写真撮影/桑田瑞穂)

手で押すと凹んでしまうため、木槌と板を使ってはめていきます(写真撮影/桑田瑞穂)

隙間を見つけては、発泡ウレタンスプレーで埋めていきます。金具の周辺も同様に行います(写真撮影/桑田瑞穂)

隙間を見つけては、発泡ウレタンスプレーで埋めていきます。金具の周辺も同様に行います(写真撮影/桑田瑞穂)

説明をうけると、みんな夢中になって断熱材を加工したり、はめていく作業に入りました。また、発泡ウレタンスプレーで隙間を埋めていくのも楽しいよう。パズルがぴったりはまってく感覚、プチプチをつぶすのにも似た、おもしろさがあります。

森川さん(夫)の仕上げによって、壁一面に断熱材が入りました(写真撮影/桑田瑞穂)

森川さん(夫)の仕上げによって、壁一面に断熱材が入りました(写真撮影/桑田瑞穂)

県産材を施主が用意する。文字通り地域に根ざした家づくり

ワークショップは午前10時にはじまりましたが、途中、森川夫妻と中田さんのお子さん、ご近所のお子さん、近隣の方も顔を出すなど、なんともにぎやか。あっという間に終わった印象です。家のなかに資材を置かずに安全には十分配慮し、断熱材を充填する作業そのものは釘などをほとんど使わないので、部屋の片すみで子どもが遊んでいました。なんとも幸せで楽しげな施工風景です。家づくりってこんなにも楽しいんですね。

HandiHouse project中田さん夫妻のお子さんたち。断熱材を机にして、ぬり絵をしています(写真撮影/桑田瑞穂)

HandiHouse project中田さん夫妻のお子さんたち。断熱材を机にして、ぬり絵をしています(写真撮影/桑田瑞穂)

今回の住まい、床のフローリングや外壁などに使う木材は、すべて神奈川県内の地元のものを使っているとのこと。また自身の手で製材所に運び、なんと自身で製材も行った森川さん。インターネットでクリックひとつで海外のものも安く手に入る時代ですが、「輸送にかかる環境負荷を考えたら、地域の木材を使う方がいい。今回、使っているのはこの近郊、家からなるべく近い山で採れた木材です」と言います。

住まいの広さは4人家族にはコンパクトな60平米ほどの平屋。自分たちで施工をすることもあり、躯体は凸凹がなく、シンプルな長方形です。ロフトがありますが、それ以外のところは将来に仕切りを自由に変更できるなど、可変性のある間取りにしています。窓は樹脂サッシでトリプルガラスを採用、断熱や窓など、住んでから手を入れにくい箇所にお金をかけているのがわかります。

施主である森川夫妻とご両親、さらにはご近所のお子さんたちと一緒に(写真撮影/桑田瑞穂)

施主である森川夫妻とご両親、さらにはご近所のお子さんたちと一緒に(写真撮影/桑田瑞穂)

ちなみに、森川夫妻、妻は出産をして現在育休中、まだ頻回授乳もある時期です。また、夫はこの住まいづくりに合わせて会社を退職し、現在はフルタイムの大工見習いをしているとのこと。まだまだ手のかかるお子さんがいるのに、このチャレンジ精神と取り組み、夫妻ともにパワフルすぎる!

「ほぼ毎日、現場に来て家づくりに携わっているので家のつくりを理解できています。将来、多少の不具合が出ても自分たちで修正していけます。この家づくりで身につけたことを、これからの家族の変化に合わせた家づくりにも活かしていきたい」と夫。本当の意味で、「持続可能な家づくり」をめざしているんですね。

そしてこのワークショップ、何よりの特色は楽しいこと!! 
「この前ね、子どもに『お父さんとお母さんは、家ができるたびに友達が増えている』って言われたんですよ」と中田りえさん。施主も一緒につくるという価値観に惹かれて依頼するので、施主と工務店・建築士という間柄ではなく、友達になるのは当たり前といえば当たり前かもしれません。

お昼にはほうとうをつくって食べます。みんなで食べるともっと美味しい(写真撮影/桑田瑞穂)

お昼にはほうとうをつくって食べます。みんなで食べるともっと美味しい(写真撮影/桑田瑞穂)

ちなみに、午前に断熱材がひと通り充填されたところで、午後は焼き杉づくりに挑戦。焼き杉とは、杉の表面を焼き焦がして、耐久性や耐火性を高めたもの。知識としては知ってはいましたが、実際に焼く作業なんてめったにない貴重な機会なので、体験させていただくことに。

神奈川県産材の杉。3枚の板を三角形にして紐で固定します(写真撮影/嘉屋恭子)

神奈川県産材の杉。3枚の板を三角形にして紐で固定します(写真撮影/嘉屋恭子)

下の七輪に火を入れて焼いていきます。右のように煙と火が上がったら完成!(写真撮影/嘉屋恭子)

下の七輪に火を入れて焼いていきます。右のように煙と火が上がったら完成!(写真撮影/嘉屋恭子)

できた焼き杉は、外壁材として使用するため、全部で200枚以上焼く計算(写真撮影/嘉屋恭子)

できた焼き杉は、外壁材として使用するため、全部で200枚以上焼く計算(写真撮影/嘉屋恭子)

冒頭に紹介した通り、今年は電気代が高くなっていること、寒さが厳しいこの地域では、建物の高断熱化はとても注目度の高いトピックスになっています。ふらりと立ち寄ったご近所の方からも「高気密・高断熱の家って~?」「窓はトリプルサッシで~?」と会話が盛り上がっていました。そもそも、人って楽しそうにしていると集まってきますよね。もちろん、森川夫妻の人柄もある気がしますが、家って単なる建物ではなくて、人と人とをつなぐ特別なものなのだなと実感します。

森川家の住まいは今年3月、竣工の予定です。汗と思い出がつまった住まいは、一見すると小さな、普通の家に見えるかもしれません。ただ、断熱性や持続可能性、つくり手と住まい手のつながりなどは今までにない「新しい家」への試みがつまった住まいでもあります。これからの住まいは、コンパクトであたたかく、長持ち、地域や自然と一体となっている。こんな「森川さんち」のような家が増えていったらいいなあと思います。

●取材協力
森川家
ハンディハウスプロジェクト
●参考サイト
「住宅の省エネルギー基準」一般財団法人住宅・建築SDGs推進センター

「日本の省エネ基準では健康的に過ごせない」!? 山形と鳥取が断熱性能に力を入れる理由

在宅勤務が増えた人も多いだろうが、そうなると気になるのが今年の夏の冷房費。さらに今冬の暖房費もきっと……? そんななか、山形県が2018年に、鳥取県が2020年に国の省エネ基準のほぼ倍となる厳しい断熱基準を打ち出し、それに適合する省エネ住宅を推進している。なぜ国より厳しい基準を設けたのか、家を建てる私たちにどんなメリットがあるのか? 各県の担当者に話を聞いた。
ヒートショックによる死亡者数が交通事故の約4倍!?

国民が健康的な生活を送れるようにと定められているのが、省エネルギー基準(以降、省エネ基準)だ。この省エネ基準をクリアすることは家を建てる際の義務ではないが、例えば金利の優遇を受けられ【フラット35】S 金利Bプランの利用条件の1つに、「断熱等性能等級4」がある。これは現在の国の省エネ基準に相当する。また住宅ローン控除や固定資産税優遇制度などが受けられる長期優良住宅の「省エネルギー対策」も断熱等性能等級4が条件となる。

このように省エネ基準を満たす家づくりが推奨されている中、山形県は国の基準よりも高い「やまがた健康住宅基準」を2018年に定めた。これには同県ならではの切実な理由があった。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

「実は山形県でヒートショックによる死亡者数の推計値は年間200名以上。これは交通事故による死亡者数の4倍にもなります」と山形県県土整備部建築住宅課の永井智子さん。しかも山形県といえば寒い東北地方、というイメージだが、実は山形市や米沢市は盆地にあり、寒い地方だけれど夏は暑いという、寒暖差の大きい地域。大きな寒暖差は、体に悪影響を与える。ちなみに2007年に岐阜県多治見市に抜かれるまでは、74年間も1933年に山形市が記録した40.8度が日本一の最高気温だった(現在は2018年に記録した埼玉県熊谷市の41.1度が最高)。

では「やまがた健康住宅基準」が国の基準と比べてどれくらい高いのか。比較したのが下記図だ。

「やまがた健康住宅基準」と国の省エネ基準やZEHの基準との比較

「やまがた健康住宅基準」と国の省エネ基準やZEHの基準との比較(編集部作成)
※「国の地域区分」…国が省エネ基準を定める際、地域の気候に合った基準を定めるために全国を8つの地域に分けた区分のこと
※「UA値(外皮平均熱貫流率)」…住宅の断熱性能を示す。1平米あたりどれだけの熱が中から外へ逃げるのかを示しており、数値が低いほど断熱性能は高い
※「相当隙間面積(C値)」…住宅の隙間がどれだけあるかを示すもので、これも数値が低いほど気密性が高いことを示す

表内の「地域区分」は市区町村単位で決められていて、山形県の場合、地域区分は3~5に分かれているが、「やまがた健康住宅基準」は地域区分ごとに断熱性能の高低レベルとしてI~IIIの3つを設定している。一番低いレベルIIIでも、国の基準はもとより、ZEH(年間の一次エネルギー消費量がゼロ以下)の基準をも上回る。一番高いレベルIは、ZEHの約2倍という高い数値だ。

暖房を切って寝ても翌朝室温10度を下回らない家

もともと山形県は省エネ活動に積極的で、以前から学識経験者や県内の住宅関係者、環境や森林部門など各部署の人々から成る「山形県省エネ木造住宅推進協議会」を設けていた。この協議会の会長で、省エネ住宅に詳しい山形県東北芸術工科大学の三浦教授をはじめたとした学識経験者の方々に意見をうかがいながら「HEAT20」の基準を参考に「やまがた健康住宅基準」を定めることにしたのだという。

「HEAT20」が推奨するUA値は3つのレベルがあり、それが下記の数値だ。一番低いレベルの「G1」の数値を見ると、地域区分3では0.38、4なら0.46、5は0.48(いずれも単位はW/m2・k)。そう、山形県のレベルI~IIIの基準値と同じなのだ。

HEAT20の断熱性能推奨水準と国の基準との比較

HEAT20の断熱性能推奨水準と国の基準との比較(編集部作成)。ちなみに「HEAT20」とは地球温暖化やエネルギー問題に対応するため2009年に発足した「2020年を見据えた住宅の高断熱化技術開発委員会」の略称。住宅の省エネルギー化を図るため、研究者や住宅・建材生産者団体の有志によって構成されている

ちなみに「HEAT20」では、「G1」レベルの家で地域区分3~5(山形県の全域が該当)の場合、冬の最低の体感温度が概ね10度を下回らない断熱性能があるとしている。「ヒートショックを防ぐためには、最も寒い時期でも就寝前に暖房を切り、翌朝室温が10度を下回らないように」(永井さん)という断熱の目的に合致した基準というわけだ。

「やまがた健康住宅基準」と認定された住宅を建てた場合は、県による「山形の家づくり利子補給制度」の「寒さ対策・断熱化型(やまがた健康住宅)」として補助金を受け取ることができる。

令和2年度 山形県の家づくり利子補給制度

令和2年度 山形県の家づくり利子補給制度。所得1200万円以下の県内在住者を対象に、住宅ローンの当初10年間が対象。年度末に利子補給金が1年分振り込まれ、10年間で最大約80万円が交付される

上記表の「寒さ対策・断熱化型(やまがた健康住宅)」は「やまがた健康住宅基準」の認証を受けることが条件だが、認証制度を開始した2018年度で21件、2019年度で35件と着実に伸びている。「やはり暑さ寒さが身に染みている県民だからこそ、多少初期費用が高くても断熱性能の高い家を求めるのではないでしょうか」と永井さんは分析する。

(写真提供/山形県)

(写真提供/山形県)

鳥取県は山形県よりもヒートショックの危険が高い!? 

一方、同じ日本海側とはいえ山形県よりずっと西に位置する鳥取県も、同様に国の基準より高い「HEAT20」の基準を参考に、「とっとり健康省エネ住宅性能基準」を定めた。西の方だからさほど寒くないのでは?と思いがちだが、同県のシンボルの一つである大山(だいせん)にはスキー場もあるなど、冬になれば雪が積もる。鳥取県住まいまちづくり課の槇原章二さんによれば「国のスマートウェルネス事業にも携わっている慶応大学の伊香賀先生の調査によれば、鳥取県は全国の冬季の死亡率割合がワースト16位だったんです」という。

慶応大学の伊香賀教授が、厚生労働省の2014年人口動態統計に基づいて月平均死亡者数を比較し、冬季(12月~3月)死亡増加率を算出したもの

慶応大学の伊香賀教授が、厚生労働省の2014年人口動態統計に基づいて月平均死亡者数を比較し、冬季(12月~3月)死亡増加率を算出したもの(出典/慶應義塾大学伊香賀研究室提供資料)

大山鏡ヶ成の雪景色(写真/PIXTA)

大山鏡ヶ成の雪景色(写真/PIXTA)

すべての死因がヒートショックによるものかどうかまで精査するのは難しいが、冬の心疾患や脳血管疾患といえば、ヒートショックにより引き起こされる疾患の代表格。その数が寒冷な北海道や青森県よりずっと多いのだ。また上記グラフをよくみれば、死亡増加率の高い県は、意外と比較的温暖な地域がずらりと並んでいることに気づくだろう。「ヒートショックは寒い時期に起こりやすい→だから寒くない地域はそこまで心配する必要はない」という油断が、この結果を招いているのだと思われる。

一方で、上記の考え方に沿えば「寒い地域だからこそ、家の断熱性は高くしよう、家を暖かくしよう」と考える人が多いからこそ、寒冷な地域は数が少ないのかもしれない。とはいえ、上記表でベスト9位という山形県でも、先述の通り交通事故の4倍がヒートショックで亡くなっている。そう考えると東西南北を問わず、日本全体がヒートショックの危機にさらされているということになる。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

そもそも日本は昔から高気密高断熱の真逆、通気性を重視する家づくりが盛んだった。吉田兼好は「家つくりやうは、夏をむねと すべし」と、夏のジメジメした気候に合う、通気性のよい家づくりをと、徒然草に書いたほどだ。日本人の多くは、断熱性の低い住まいが当たり前だったことから、室内温度は外気に左右されやすいもので、家にいても「夏は暑い、冬は寒い」「北は寒い、南は暖かい」のは当たり前、という考えが根付いたのだと思われる。なにしろ高気密高断熱の住宅という考えが日本に知られるようになったのは、西洋風の住宅が広まりだした1960~70年あたりからと、日本の歴史から見れば、つい最近の話なのだ。

全館空調システムを導入しても採算が取れる家

もともと県内で健康省エネ住宅の普及に取り組んできた民間団体であるとっとり健康省エネ住宅推進協議会(代表理事 谷野利宏)に県としても参加し、協議会で話し合いを重ねる中で、健康省エネ住宅の普及に向けて県としての省エネ住宅のモノサシをつくろうということになったという。

とっとり健康省エネ住宅性能基準

とっとり健康省エネ住宅普及事業のホームページより。ちなみに鳥取県のほとんどは国の定めた地域区分では、比較的温暖な地域の6にあたるが、同一市町村内でも標高差が大きい鳥取県では国の定めた地域区分も「実態に則していない」「消費者にとってわかりづらい」という課題があった(出典/鳥取県庁公式ホームページ「とりネット」)

「ヒートショックを防ぐためには、廊下も含めて住宅の隅々まで同じ温度であることが必要になります。そうなると全館空調システムは必須。では全館空調システムの効果を高めるためには、住宅の断熱性能がどの水準にあればいいのか、光熱費の削減率や高気密高断熱住宅を建てるコストはいくらほどになるのか、をシミュレーションすることから始めました」と、鳥取県住まいまちづくり課長の遠藤淳さん。

その際に、山形県同様「HEAT20」の断熱基準を元にシミュレーションしてみたのだという。「HEAT20」の基準を元に計算した理由は、遠藤さんは以前から日本の基準がヨーロッパなど世界と比べ低いことに課題感を持っていて「HEAT20」の基準が欧米で義務化されている水準であることからだそうだ。

シミュレーションの結果「初期投資があまり高くなりすぎず、全館空調の効果を高める断熱性能の基準がUA値0.48であることがわかりました。UA値0.48は「HEAT20」の基準で地域区分が5のG1に相当します。鳥取県はほとんどが地域区分6ですが、県全体の共通基準としてシンプルに示すため地域区分5のUA値を採用しました」(槇原さん)。それが上記表の「とっとり健康省エネ住宅性能基準」の「T-G1」にあたり、国の基準値で建てた場合と比べると、光熱費を約30%削減できるというシミュレーションの結果となった。さらに断熱性能の高い「T-G2」や「T-G3」であれば、それぞれ約50%、約70%の削減に繋がる。「T-G2なら15年で初期費用の増額分を回収できるくらいの光熱費削減効果があります」と槇原さんはいう。やはり断熱性能が高ければ、光熱費を大幅に削減できるのだ。

「高断熱性能を実現するために最重要」と槇原さんが語るトリプルガラス(写真/PIXTA)

「高断熱性能を実現するために最重要」と槇原さんが語るトリプルガラス(写真/PIXTA)

始まったばかりだが、省エネ住宅を建てられる施工会社は多い

先述のシミュレーション結果をもとに策定した健康省エネ住宅性能基準を軸に、鳥取県では令和2年(2020年)度から「とっとり健康省エネ住宅普及事業」をスタートさせた。上記表の通り、補助金制度も用意したが、まだその詳細が決まっていないころの2019年の年末の仕事納めの日に、遠藤さんたちは知事にこれらの事業について報告。さあ、年が明けたら忙しくなるぞ、と思っていたら知事が年頭の挨拶でこの「とっとり健康省エネ住宅普及事業」について発言したため、正月から各メディアに取り上げてもらえたという、うれしいサプライズがあった。

知事による発言の効果もあったのだろう、2月に行った施工会社等事業者向けの説明会には、想定を超える200名以上が参加。5月から6月にかけて事業者向けの技術研修にも271名もの参加者があったという。

この技術研修の最後に、平たくいえば試験が行われ、そこで合格した人が「とっとり健康省エネ住宅普及事業」の登録事業者になる。登録事業者が建てて、とっとり健康省エネ住宅性能基準を満たした住宅が「とっとり健康省エネ住宅」と認定される。7月末時点で登録事業者は設計が121人、施工が104人(両方取得した人もいる)。スタートしたばかりにも関わらず、いずれも想定以上の人数で、業界をあげて事業に積極的であることが伺える。

この状況に対して遠藤さんは「年頭の知事の発言で『県が本腰を入れて取り組む事業』と周知されたことで注目を集めたことと、事前説明会で、日本の基準が世界と比べてかなり低いということ、思いのほか無理のない費用で高気密高断熱の住宅が建てられること、光熱費の削減効果でゆくゆくは初期費用の増加分のもとが取れることを伝えたことで、事業者の方々にも魅力を感じていただけたのだと思います」

さらに「2021年から新築住宅に対して施主への省エネ基準の説明が義務化されたことも大きいのでは」と遠藤さんは指摘する。

実は、事前説明会に参加した事業者の約6割が、これまで建てた家のUA値を把握していなかったという。だとすれば、「とっとり健康省エネ住宅」の認定住宅を建てれば、この説明義務も果たせるし、商品として魅力的に映ると考えてもおかしくはない。

もちろん家を建てる側からすれば、難しい数字で説明されるより「国よりも厳しい基準の省エネ住宅で、T-G2というレベルなら15年で初期費用の増額分を回収できる」のほうが分かりやすく、しかも光熱費の削減の具体的な数字が見えるのはうれしい。

地方発の断熱性能向上革命は、成功するのか!?

先述のように、「とっとり健康省エネ住宅普及事業」は今年度に始まった事業で、事業者への研修も6月末でようやく終わったばかり。しかし、実は以前から「とっとり健康省エネ住宅性能基準」をクリアするほどの省エネ住宅を既に手がけている事業者もいるという。もちろん既に建てられた家は事業開始前ゆえ、補助金は支給されないのだが、中には「それでもいいから、認定だけ欲しい」という施主もいるという。

山形県同様、それだけ暑さ寒さが身に染みていた県民がいたという証でもある。そのなかで「T-G2」(経済的で快適に生活できる推奨レベル)のUA値0.34を超える0.32の家を建てたKさんは「冬の寒い時期の、2月に福山建築さんの見学会に参加したのですが、エアコンが1台しかないのに、家中どこでも暖かくて驚きました。住むならこんな断熱性能の高い家がいいと、お願いしました」という。同社は県の事業が始まる前から、積極的に高気密高断熱の家を手がけてきた地元の施工会社の一つだ。

施工は鳥取県の福山建築。UA値は0.32、C値は0.13(写真提供/福山建築)

施工は鳥取県の福山建築。UA値は0.32、C値は0.13(写真提供/福山建築)

(写真提供/福山建築)

(写真提供/福山建築)

実際に住んでみると「冬でも毛布1枚で眠れますし、日中はTシャツ1枚でも十分です。こたつなどの暖房器具を出す手間も減りました」とKさん。UA値やC値といった数字では、なかなか「暖かい」「涼しい」が見えないため、こうした“体験談”の口コミは貴重だ。

先述した山形県でも“体験型”による省エネ住宅の普及が期待されている。同県の飯豊町では2019年11月から、やまがた健康住宅基準の中で2番目に高い基準の、レベルIIの認証住宅を建てることを条件に分譲地を販売しているが、この一角に「6月5日にモデル住宅が完成し、今後は体験宿泊も検討されています」(山形県県土整備部建築住宅課 永井智子さん)。

エコタウン椿(写真提供/山形県)

エコタウン椿(写真提供/山形県)

(写真提供/山形県)

(写真提供/山形県)

エコタウン椿 近景パース(写真提供/山形県)

エコタウン椿 近景パース(写真提供/山形県)

徒然草に書かれるほど、2000年近くも高気密高断熱の家とは無縁の生活を送ってきた日本人。そこから障子や欄間など日本固有の文化が生まれたのは確かだが、しかし「残念ながら日本の現在の省エネ基準でも、健康的に暮らせるレベルではありません」と槙原さん。とっとり健康省エネ住宅普及事業のホームページに掲げた、上記の「とっとり健康省エネ住宅性能基準」のグラフに、敢えて欧米の省エネ基準が併記されているのもその強い想いの表れだろう。では、本当に山形県や鳥取県のいう省エネ住宅なら、健康的に快適に暮らせるのか? 長年「夏は暑い、冬は寒いのは当たり前」という意識が身に染みている人にとってみれば、Kさんの「冬でもTシャツ」は本当なのか、Tシャツで「快適」と本気で思えるのか、と疑問も湧くだろうが、まずは山形県や鳥取県の省エネ基準をクリアした家の、見学会や宿泊を通して、身をもって体験してみるといいだろう。

●取材協力
鳥取県
山形県のエコ住宅

ZEH-M(ゼッチ・マンション)が続々登場! ZEHって何?なぜ増えている?

平成30年度になってから、「ZEH(ゼッチ)マンション」なるものが続々と登場している。ZEHとは?ZEHマンションとは?について、経済産業省の事業に認定されたマンションを事例に見ていくことにしよう。【今週の住活トピック】
経済産業省「平成30年度 高層 ZEH-M(ゼッチ・マンション)実証事業」
「Brillia 弦巻」が東京都内初の事業として採択決定/東京建物
大京グループ 10 事業が採択決定/大京グループ
当社の分譲マンション「(仮称)プレミスト稲川三丁目」が採択されました/大和ハウスZEH(ゼッチ)とはネット・ゼロ・エネルギー・ハウスのこと

まず、ZEH(ゼッチ)とは何かについて、説明しよう。
ZEHとは、Net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)を略した呼び方だ。住宅で消費するエネルギーをゼロにしようというものだが、全くエネルギーを使わないわけにはいかない。住宅の断熱性・省エネ性能を上げることに加え、太陽光発電などによってエネルギーを創り、年間の「1次エネルギー消費量」をプラスマイナスでおおむねゼロ以下にしようというもの。

なお、1次エネルギー消費量の対象となるのは、「暖冷房・換気・給湯・照明」で、テレビや冷蔵庫などの家電製品は対象外だ。

ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)の仕組み(出典:経済産業省の資料より転載)

ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)の仕組み(出典:経済産業省の資料より転載)

補助金で高層のZEHマンションを後押しする仕組み

住宅のエネルギー消費量を削減したい政府は、ZEHを普及させようとしているが、ZEHでは、住宅に太陽光発電設備などを備えつけてエネルギーを創り出す必要がある。マンションは戸数が多いわりに、太陽光発電設備を設置できる屋上の面積が広くないなどの制約がある。

そこで、政府はZEH普及の2030年までのロードマップを作成し、まずは注文住宅での普及に力を入れてきが、次第に分譲の新築一戸建て、賃貸・分譲のマンションへと普及対象を拡大してきている。

マンションについては、あいまいだったZEHマンションの定義を明確にし、補助金を交付する事業によって普及を加速させようというのが、経済産業省の「平成30年度 高層 ZEH-M(ゼッチ・マンション)実証事業」だ。

この事業は、住宅部分が6階以上のZEHの集合住宅が対象となる。住宅部分が5階以下のZEHマンションについては、別途「低・中層ZEH-M支援事業」がある。

では、国が定めたZEH-M(ゼッチ・マンション)の定義を確認しよう。
図にあるように、『ZEH-M』、Nearly ZEH-M、ZEH-M Ready、ZEH-M Orientedの4タイプがある。マンションの制約上、太陽光発電設備などによる再生エネルギーを期待しづらいことから、階数が高くなるほど再生エネルギーによる削減の基準を緩めている。

また、マンションのばあいは、従来から共用部分を含む住棟と購入対象となる住戸のそれぞれで、省エネ性能を評価してきた経緯もあり、住棟単位(専有部及び共用部の両方を考慮)と住戸単位(各々の専有部のみを考慮)の両方について、ZEH の評価方法を定めている点も特徴だ。

「平成30年度 高層 ZEH-M(ゼッチ・マンション)実証事業」公募要項より筆者が作成

「平成30年度 高層 ZEH-M(ゼッチ・マンション)実証事業」公募要項より筆者が作成

平成30年度は、15の事業(分譲マンション14・賃貸マンション1)で補助金の交付が決定している。「ZEH-M Oriented」という定義の導入と補助金が、ZEHマンションを後押しする仕組みとなったわけだ。

で、ZEH-M(ゼッチ・マンション)って、どんなマンション?

今回の国の定義によると、年間の1次エネルギー消費量がプラスマイナスゼロになるのは「ZEH-M」のみだ。「ZEH-M Oriented」の基準を満たすZEHマンションの場合では、地域ごとに設定された外皮基準をクリアし、年間の1次エネルギー消費量を20%以上削減すればよいわけだ。

「平成30年度 高層 ZEH-M(ゼッチ・マンション)実証事業」に採択された事業を見ると、おおむね次のようなマンションになる。

・住棟の外壁や屋根、住戸の床や天井の断熱性能を従来より引き上げる
・サッシのフレームに熱を伝えにくい樹脂材(従来はアルミ)を入れ 、省エネ性の高い複層ガラスを入れる。または二重サッシにして、内窓に樹脂サッシと複層ガラスを入れる
・給湯器にエネルギー消費効率の良いエコジョーズやエコキュート、エネファーム(燃料電池)を採用する
・床暖房やエネルギー消費効率の良いエアコンを採用する

大京グループのプレスリリースより転載

大京グループのプレスリリースより転載

ZEHマンションは、室内にいるときに夏の猛暑や冬の寒さといった外気の変化の影響を受けにくくなり、室内空間の快適性がアップする。さらに、室内の温度調節については、エアコンをガンガン使うことも抑えられ、光熱費も削減できる。エアコン嫌いの筆者にとっては、なかなか魅力的だ。

一方、ZEHマンションは、省エネ性能を引き上げるので、その分の建築コストは上がる。マンションの購入者が何を重視するか、どんな生活をしたいかによって、ZEHの価値も変わってくるのだろう。

9月は“秋バテ”に注意? 家でできる予防策を紹介!

暑かった2018年、夏。ようやく少し気温が下がってきました。でも実は、この時期も体調管理に注意が必要。特に冷房を酷使した今年は、今ごろになって体調不良をおこしている人が多いのです。それが秋バテ。その原因を調査し、対処法を探りました。
自律神経が乱れることで起こる、秋バテの症状

2018年は猛暑を通り越した酷暑でしたね。7月23日、埼玉県熊谷市では最高気温が41.1度と、国内の観測史上最高気温を更新。

最近は少し暑さも落ち着いてきて一安心……と思いきや、身体のダルさを感じる方も多いのでは?暑さのピークは過ぎたのに、どうして? と不思議に感じるかもしれませんが、実はこの時期、秋バテに注意が必要なのです。

夏バテはよく聞くけれど、秋バテとは? 免疫やアレルギー疾患などに詳しい、医師の清益 功浩(きよます・たかひろ)氏によれば、秋バテの主な原因は、気温差による自律神経の乱れだといいます。

「暑い季節から涼しくなると交感神経が優位になり、逆に涼しかったのに暑くなると副交感神経が優位になります。ところが寒暖差が激しくなる秋には、気温による刺激が目まぐるしく入れ替わり、交感神経・副交感神経のバランスが崩れてしまいます。それがだるさにつながり、さまざまな体調不良が引き起こされるのです」(清益氏)

今年のような猛暑の後、秋口は気温差が大きく、例年より秋バテになる可能性も高そうです。さらに9月は依然残暑も厳しい季節。朝晩の気温が下がるものの、日中は真夏並みの30℃を超えることも多く、1日の寒暖差も激しくなります。

秋バテになりやすい気候の今、予防策はあるのでしょうか?

秋バテを防ぐために、エアコンで部屋が冷えすぎないよう注意する

秋バテの季節に追い打ちをかけるのが、強い冷房。夏の間に下げた設定温度のままだと、秋には低すぎます。冷えた室内環境が、体感する寒暖差を広げ、また朝まで冷房をつけっ放しにすることによって、睡眠中に体が冷えてしまうことも。

「エアコンの設定温度は本来であれば、28度ぐらいで十分。でも、エアコンの効きによっては、28度では暑すぎると感じる人もいるでしょう。そんな場合は設定温度を下げてもよいのですが、こまめに設定温度を変えたり、就寝時にタイマー機能をセットしたりして調節してください。部屋を冷やしすぎず、一定の温度を保つことが大切です」(清益氏)

今年の夏は冷房の設定温度を下げてもなかなか室温が下がらず、エアコンの設定を低めにしていた人も多いと思います。ところが夏の設定温度のままでは、秋になって室温が下がりすぎていたということになりがち。センサーやAIで室温を快適に保ってくれる高機能エアコンもありますが、一般的にはエアコン任せにしておくと、冷えすぎたり、蒸し暑いままになってしまったりと、なかなか適温になりませんよね。

「体が冷えると免疫力が下がるという問題もあります。睡眠をしっかりとって適度な運動をし、入浴時に湯船で体を温めるなど、免疫力アップの対策も必要です」(清益氏)

熱中症対策に必須の冷房。残暑が厳しいうちは活用するべきですが、寒暖差をつくりだしたり体を冷やしすぎたりという弊害もあるのですね。こまめに冷房をつけたり消したりすることも必要ですが、実はエアーコントロールが上手くいかない原因の一つに、家の構造問題があるようです。

夏に温度が上がりやすく、冷房が効きにくい。日本の住宅の問題点

実はエアコンの効き方には、家の構造も大きく関係しているそうです。「日本の住宅は断熱性能に問題があり、外気の影響を受けやすく、エアコンの効きも悪くなります」と指摘するのは、東北芸術工科大学の建築・環境デザイン学科教授で、設計事務所「みかんぐみ」の竹内 昌義(たけうち・まさよし)氏。省エネルギー住宅の専門家です。

「日本の住宅は、通気性を重視して断熱性を軽んじる伝統があります。『家の作りやうは、夏をむねとすべし』という『徒然草』の時代からの伝統があり、開放的な住宅が良しとされてきました。しかし現代日本の気候は、この文章が書かれた鎌倉時代に比べて格段に暑さが厳しく、夏も風通しがよいだけでは太刀打ちできません」(竹内氏)

断熱性の足りない家は、空気が常に家に入り込み、また逃げていきます。熱しやすく冷めやすく、またエアコンの空気が外に漏れるため、冷房も効きにくいそう。これでは、気温の高い日中は設定温度を低くしないと部屋が涼しくなりませんし、逆に外気が冷えると部屋が寒くなりすぎてしまう。つまり、家が秋バテを加速してしまうのです。

「断熱がしっかりした家は、外気の熱が侵入しにくいので、そこまで室内温度が上がりません。また室内の温度調節した空気をしっかりと保持してくれるので、冷房効率もよいのです。また夜間の冷房による寝冷え防止にも、断熱は有効です。日照がない夜に暑さがおさまらない原因は、コンクリートの蓄熱性。鉄筋コンクリート造の家は、昼間の熱射を溜め込んでしまうのですが、しっかりと断熱していればそんなことはありません。断熱性能の高い家は夏の夜の寝苦しさも、ぐっと緩和されます」(竹内氏)

温暖化が進んだ現代、地面をアスファルトに覆われた日本の気候には、昔ながらの家はフィットしない(画像提供/PIXTA)

温暖化が進んだ現代、地面をアスファルトに覆われた日本の気候には、昔ながらの家はフィットしない(画像提供/PIXTA)

今住んでいる家の断熱をアップして秋バテを防ぐ方法は?

冷房による冷やしすぎも防げて、さらにエネルギー効率も良い断熱住宅。しかしながら、日本の住宅は今のところ断熱住宅の基準を満たす住宅が少ないそう。

「国土交通省の資料によると、2020年に義務化が検討されている『改正省エネ基準』に達している家は、日本全体の5%程度です」(竹内氏)

つまり、今のところ日本の住宅のほとんどが、断熱性能が足りていないということ。一体どのようにすれば、現在住んでいる家の断熱性をアップして、上手に冷房と付き合えるのでしょうか。

「天井や窓から熱が入ってくるので、天井裏に断熱材を敷き詰めたり、二重窓にしたりするとよいですね。窓に関しては、断熱ブラインドを活用する方法もあります。その際は窓のサイズにぴったりと合ったものを選んでください。また、昔ながらの“よしず”*を立てかけるだけでも、効果はありますよ」(竹内氏)

*“よしず”とは、葦を編んだ日よけ。立てかけて使用する。

酷暑に冷房を使って熱中症を防ぐことは大切ですが、気候が変化する秋口にもエアコンを乱用する癖が抜けないと、今度は冷房のせいで体調を崩すこともあります。
冷房でのエアーコントロールに加えて、家の性能をアップする工夫や、免疫力を高める努力もして、健康的に新しい季節を迎えたいですね。

●取材協力
・All About 「医師 / 家庭の医学」ガイド 清益 功浩(きよます たかひろ)
・設計事務所「みかんぐみ」