「脱炭素問題」が企業も国も淘汰する時代へ。予断を許さぬ気象環境と日本の対策遅れ、住宅事情など最新情報  COP28

2023年は、世界各地で異常気象が相次ぎました。異常高温、大雨やサイクロンなど多数の死者を伴う気象災害により、多くの住宅やインフラが甚大な被害を受けました。日本も年平均気温は過去最高で、記録的な豪雨が発生。地球温暖化によって引き起こされる異常気象は、今後もさらに頻発する見込みで、各国は地球温暖化を抑制する脱炭素に向けた取り組みを加速しています。

NHKエンタープライズ エグゼクティブ・プロデューサーとして「脱炭素」を追ってきた堅達京子さんに最新事情を聞きました。2023年11月30日から12月13日にかけて、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催された、COP28※の成果や課題、住宅業界の脱炭素の動きを解説します。

※COPは、地球温暖化の影響緩和や適応策、炭素排出削減目標などに焦点を当て、国際社会の協力を促進する国際会議です。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

『化石燃料からの脱却』の合意は画期的な一歩堅達さんの著書『脱炭素革命への挑戦 世界の潮流と日本の課題』(山と渓谷社 刊)(画像提供/堅達京子)

堅達さんの著書『脱炭素革命への挑戦 世界の潮流と日本の課題』(山と渓谷社 刊)(画像提供/堅達京子)

2020年10月、菅前首相の「2050年カーボンニュートラル宣言」により、地球温暖化対策の「脱炭素」に対する日本全体の関心が高まりました。カーボンニュートラルとは、地球温暖化を進めないように、温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすること。政府は、これを2050年までに達成する目標を掲げています。これは、日本が脱炭素社会の実現に向けて、産業構造や社会システムの転換を進めていくことを意味しています。2021年に開催されたCOP26について堅達さんを取材した際、「この8年が地球温暖化を食い止める正念場」という強いメッセージがありました。それから2年、脱炭素の観点から世界はどのように変わったのでしょうか。

堅達さんは、「温暖化の危機は加速しているのに、人間は戦争や紛争に明け暮れ、結束が弱まっている。そういう2年間だったと思います」と話します。

「温暖化の悪影響が一層顕在化してきています。リビアの砂漠地帯やイタリアの洪水、アマゾン川流域の干ばつ、ハワイの山火事などがニュースで報じられました。海氷や陸地の氷が驚くほどの速さで溶け、特に西南極の氷床が大きく減少しているという科学者たちの報告があります。太平洋島嶼国は、海面上昇による国土消失が懸念されています。そして、ウクライナ戦争やガザ侵攻が勃発しました」

世界中で洪水や山火事、干ばつなどが続発(PIXTA)

世界中で洪水や山火事、干ばつなどが続発(PIXTA)

そうして2023年11月30日~12月13日、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催された「COP28」。気候変動の悪影響を受けやすい途上国の損失と損害(ロス&ダメージ)を支援する「ロス&ダメージ基金」や各国の脱炭素対策の進捗を評価する「グローバル・ストックテイク」などについて議論されましたが、なかでも大きな成果は「『化石燃料からの脱却を10年間で加速する』という合意が採択されたこと」だと言います。
「近年のCOPでは、『化石燃料の段階的廃止』という文言が合意文書に盛り込まれるのかが焦点でした。化石燃料の燃焼は、二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスを排出する主な原因で、大気中に蓄積することで、地球温暖化が引き起こされます。
化石燃料の廃止は、地球温暖化を抑えるために必要不可欠ですが、COP26、COP27では、化石燃料への依存度が高い国々からの反発があり、見送られました。
COP28では、『化石燃料からの脱却を10年間で加速する』という合意が採択されました。190を超える世界の国と地域の合意文書に盛り込まれたことは歴史的な進展であり、2023年が、石油や石炭に依存する『化石燃料時代の終わりの始まり』だと言えるでしょう」

化石燃料とは、石炭・石油・天然ガスなど。火力発電などで燃焼する際、温室効果ガスを排出する(PIXTA)

化石燃料とは、石炭・石油・天然ガスなど。火力発電などで燃焼する際、温室効果ガスを排出する(PIXTA)

一方で、「『廃止』という強い言葉が最初の案から消えて、『脱却』という解釈の余地を残す言葉になってしまった点は残念」と堅達さん。

「『phase-out(段階的廃止)』には、『全面的に無くす』という強い意味がありますが、『transitioning away(脱却)』は、『移行』と訳されることもあります。玉虫色だからこそ合意できた面もあるでしょうが、訳し方次第で都合よく解釈できる余地が残ってしまいました」

とはいえ、そんな中でも、化石燃料からの脱却を「10年間で加速する」と期限を明記できたことは大きい成果と言えるでしょう。

ビジネス界で加速する再生可能エネルギーの活用再生可能エネルギー(再エネ)とは、太陽光、水力、風力、地熱、バイオマスなどの、枯渇せずに繰り返して永続的に利用できるエネルギーのこと(PIXTA)

再生可能エネルギー(再エネ)とは、太陽光、水力、風力、地熱、バイオマスなどの、枯渇せずに繰り返して永続的に利用できるエネルギーのこと(PIXTA)

また、ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、ロシア産パイプラインガスへの依存度が高い欧州などで天然ガス価格が高騰したこともここ数年での大きな出来事のひとつ。日本に住む私たちも、日々影響を実感しています。

「脱炭素化」が停滞、後退するのではという見方もありました。それでも、堅達さんは「脱炭素なくしてビジネスはできない時代に突入します」と話します。

「最新の研究では、想定されていたほどウクライナ戦争による化石燃料への揺り戻しは起きなかったと捉えられています。むしろ、ロシアの天然ガスに依存するのは危険だという認識が強まり、再生可能エネルギーへの転換が一層加速しました。
その流れは、ビジネス界も同様で、例えば、アップルは、2030年までに、販売されるすべての製品をカーボンニュートラルにすることを目指すと宣言。再生可能エネルギーに移行するサプライヤー(商品やサービスを供給する人・企業)の数を大幅に増やしただけでなく、製品に使用するリサイクル素材の量を増やしています」

液化天然ガスのパイプライン。ロシア の ウクライナ 侵攻 で 世界的 に 需給が逼迫した(PIXTA)

液化天然ガスのパイプライン。ロシア の ウクライナ 侵攻 で 世界的 に 需給が逼迫した(PIXTA)

ビジネス界が脱炭素に向けた取り組みを加速させている背景には、世界各国でカーボンプライシングの導入が進んでいることがあります。

「カーボンプライシングとは、温室効果ガスの排出に価格を付ける仕組みで、例えば、炭素税は、温室効果ガスの排出量に応じて課税する制度。
1トンあたりの値段が1万円を超える国もある中、日本のカーボンプライシング(『地球温暖化対策のための税』)は、石炭火力発電の排出量に1トンあたり306円と世界各国と比較して低い水準にとどまっています(2024年1月8日時点)」

欧州連合(EU)は、2023年5月に、炭素税に匹敵する「炭素の国境調整メカニズム」を施行。温室効果ガス排出量の多い国から、排出量の少ない国への輸入品に対して、炭素価格相当の費用を課す制度です。さらに、2023年7月から「デジタルプロダクトパスポート」の導入を義務付け、製品の製造者、販売者、消費者、そしてリサイクル業者などが製品の持続可能性に関する情報を電子的に記録したものを共有できるようにしました。
温室効果ガス排出量の多い国から輸入される製品の競争力を低下させ、排出量の少ない国から輸入される製品の競争力を高める施策で、日本企業への影響も少なくはありません。
もはやビジネス界は、「脱炭素なくして商いができない」時代に突入しているというのです。

脱炭素ビジネスで世界をリードする中国に対抗するため、アメリカは国内の脱炭素産業育成に多額の資金を投入している(PIXTA)

脱炭素ビジネスで世界をリードする中国に対抗するため、アメリカは国内の脱炭素産業育成に多額の資金を投入している(PIXTA)

現在、脱炭素ビジネスは、欧州・アメリカと中国が牽引していますが、アメリカでは、2017年6月、ドナルド・トランプ大統領のもと、地球温暖化対策の国際的な枠組みであるパリ協定からの離脱を表明したのは印象的なできごとでした。
ジョー・バイデン大統領により2021年2月に復帰しましたが、その間に何があったのでしょうか。

「アメリカが離脱を宣言する中、2017年にドイツのボンでCOP23が開催されました。アメリカのビジネス界はどうするのか注目されましたが、アメリカの大手企業100社以上が連名で、『ウィーアースティルイン(We are still in)』の声明を発表し、『我々はまだパリ協定にいる』と表明したんです。企業には、アップル、マイクロソフト、グーグル、フェイスブックなどアメリカを代表する企業が名を連ねていました。2024年アメリカ大統領選挙で、たとえドナルド・トランプ氏が再選されたとしても、ビジネス界の脱炭素の動きは止まらないでしょう」

脱炭素と住まいの新潮流、世界の最新事情

住宅業界の脱炭素の動きについて、堅達さんは「世界各国で新築住宅への太陽光発電の義務化が進むこと」に注目しています。

「COP28では、『化石燃料からの脱却』を実現するために、2030年までに再生可能エネルギーを3倍にして、エネルギー効率を2倍にすることが目標になりました。
具体的な政策としては、新築住宅の太陽光発電の義務化が注目されています。既に、アメリカのカリフォルニア州やハワイ州では、新築住宅に太陽光発電を設置することが義務化されていましたが、日本でも、東京都が2025年4月から、新築住宅への太陽光発電設置の義務化を決定しました」

太陽光発電や電機自動車の充電ステーションが街の当たり前の風景に(PIXTA)

太陽光発電や電機自動車の充電ステーションが街の当たり前の風景に(PIXTA)

「化石燃料を廃止するには、石炭だけではなくて、石油と天然ガスからも脱却しなければいけません。
ニューヨーク市で2021年12月に可決された『新たな建築物での天然ガス使用を禁じる法案』は、その先駆けとなる政策です。2024年1月から7階建て未満の新築建物、2027年7月から7階建て以上の新築建物に対して、暖房、給湯、調理などのすべての用途で天然ガスの使用を禁止するもの。ニューヨーク市の新築建物は、すべて電気で暖房や給湯、調理を行うことになります。ガスをひねって調理する時代が終わりを迎えているのです」

街づくりや住宅にもEVシフトの動きが出てきており、こちらも見逃せないと言います。

「ここ数年で大きく進んだ分野は、EVです。ガソリン車やディーゼル車などの内燃機関車から、電気自動車(EV)への転換が急速に進んでいます。
世界におけるEV車の普及率は2023年には14%を超え、欧州では20%と5台に1台がEVの時代に突入しています。欧州、中国、アメリカでは、EVシフトを加速させるために、住宅へのEV充電設備の設置義務化を進める動きが広がっています。
日本では、東京都が、全国に先駆けて、2025年4月から、賃貸住宅を含む新築の住宅すべてにEV充電設備の整備義務化を施行。日本におけるEV車の普及率は世界水準を大きく下回っています。今後、EVシフトを加速させると同時に、全国へ充電ステーションの整備が急がれます」

自宅のガレージにEV充電設備を備えた住宅(PIXTA)

自宅のガレージにEV充電設備を備えた住宅(PIXTA)

また、堅達さんは「日本が一番遅れている既存住宅の断熱化が急務」と警鐘を鳴らします。

「『エネルギー効率2倍』を達成するためには、建物の省エネ性能を高めることが重要です。欧米では、住宅の断熱化は、エネルギー消費量の削減や、室内環境の改善、快適性の向上などの目的で、広く普及しています。それに比べると、日本では、特に既存住宅における省エネ診断や断熱工事の普及が進んでおらず、省エネ性能向上が遅れています」

既存住宅の性能表示については、2025年4月から義務化される予定。リクルートでは、2024年4月より、不動産情報サイト『SUUMO』に掲載される新築住宅の省エネ性能表示を開始します。「SUUMO」では、エネルギー消費性能を星の数で表示(国土交通省HPより)

既存住宅の性能表示については、2025年4月から義務化される予定。リクルートでは、2024年4月より、不動産情報サイト『SUUMO』に掲載される新築住宅の省エネ性能表示を開始します。「SUUMO」では、エネルギー消費性能を星の数で表示(国土交通省HPより)

ドイツでは、2002年に「省エネルギー建築法(EnEV)」が施行され、新築住宅の省エネ性能を一定の基準に満たすことが義務付けられ、既存住宅についても、2020年より、一定の基準に満たない住宅の売買や賃貸の際に、省エネ診断を実施することが義務化されました。

「国土交通省では、新築住宅の断熱性能を『ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)』の基準まで引き上げる目標を掲げています。また、2022年度から、『既存住宅における断熱リフォーム支援事業』により、窓やドアなどの断熱改修に対する補助金制度が拡充されました。
努力義務だけでは遅々として進みません。義務化と補助金等をセットにして導入するアプローチが効果的です」

「都市(まち)の木造化推進法」(国土交通省2022年施行)にともない、大型の木造建築が続々と登場していることにも注目しているとのこと。「木材を大規模建築に大量に使うことで炭素を貯留し、温室効果ガス排出量の削減につなげようと、『木造化』への期待が非常に高まっているのです」(堅達さん)(画像提供/三井不動産・竹中工務店)

「都市(まち)の木造化推進法」(国土交通省2022年施行)にともない、大型の木造建築が続々と登場していることにも注目しているとのこと。「木材を大規模建築に大量に使うことで炭素を貯留し、温室効果ガス排出量の削減につなげようと、『木造化』への期待が非常に高まっているのです」(堅達さん)(画像提供/三井不動産・竹中工務店)

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日本の課題と求められる取り組み

現在、日本では国全体としての排出量取引制度は実施されていません。日本政府は2026年度の本格稼働に向けて準備を進めている段階です。岸田首相は、2022年1月に「アジア・ゼロエミッション共同体構想」を提唱していますが、課題もあります。
世界では日本の脱炭素政策は、どう見られているのでしょうか。

「残念ですが、日本の温暖化対策は、世界から評価されていないのが現状です。
COP28の会場では、日本は、脱炭素で間違った方向に進んでいるとして、環境NGOから『化石賞』に選ばれました。化石賞とは、気候変動対策に対して足を引っ張った国や企業に与えられる不名誉な賞です。
また、脱炭素化の手段として、アンモニアを燃料として利用することに注力していますが、これについても冷ややかな目を向けられています。確かに、アンモニアは、燃焼時にはCO2は排出しませんが、現状では生成する時にCO2を排出しますから、差し引きでいえば効果が低いと言われるのは当然です」

日本は、化石燃料に多額の公的資金を投じていると非難されている(PIXTA)

日本は、化石燃料に多額の公的資金を投じていると非難されている(PIXTA)

「もはやマイボトルやエコバッグの自助努力だけで温暖化は止まりません」と堅達さん。

「まず、政府が、ルールや期限を決めてシステムを変える必要があります。『衣食住』の『住まい』は、地球環境の問題を身近に感じる入り口。断熱性能のいい住宅なら、快適に暮らせて地球環境にも優しい。太陽光や蓄電池を搭載すれば、防災にもなり、一石二鳥三鳥になります。省エネ性能表示を確認するなど、消費者として、環境に配慮した商品を選ぶことが地球の未来を変えると思います」

世界では、脱炭素化によるパラダイムシフトで、今までの思想や社会全体の価値観などが、革命的に、劇的に変化しています。日本でも2019年に風力発電の再エネ海域利用法が施行され、洋上風力発電の導入が本格化。国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が、脱炭素技術の研究開発に2兆円の「グリーンイノベーション基金」を創設するなど、脱炭素社会の実現に向けた投資を拡大しています。百点満点のエネルギーはなく、課題はありますが、堅達さんのように建設的な視点でとらえることが大切だと感じました。

●取材協力
NHKエンタープライズ エグゼクティブ・プロデューサー
堅達 京子(げんだつ・きょうこ)さん 
1965年、福井県生まれ。早稲田大学、ソルボンヌ大学留学を経て、1988年、NHK入局、報道番組のディレクター。2006年よりプロデューサー。NHK環境キャンペーンの責任者を務め、気候変動やSDGsをテーマに数多くの番組を放送。NHKスペシャル『激変する世界ビジネス “脱炭素革命”の衝撃』 『2030 未来への分岐点 暴走する温暖化 “脱炭素”への挑戦』、NHK民放の6局連動特番『1.5℃の約束 いますぐ動こう、気温上昇を止めるために』はいずれも大きな反響を呼んだ。
2021年8月、株式会社NHKエンタープライズに転籍。日本環境ジャーナリストの会副会長。環境省中央環境審議会臨時委員。文部科学省環境エネルギー科学技術委員会専門委員。世界経済フォーラムGlobal Future Council on Japanメンバー。東京大学未来ビジョン研究センター客員研究員。福井県立大学客員教授。
主な著書に『脱炭素革命への挑戦 世界の潮流と日本の課題』『脱プラスチックへの挑戦 持続可能な地球と世界ビジネスの潮流』。

注文住宅トレンド2024! 注目は、平屋・ヌック・タイパ・省エネ・ランドリールームなど7キーワード

ハウスメーカーや工務店、建築家とイチから自分好みの住まいをつくれる「注文住宅」。マンション・建売一戸建てより自由度が高く、住まいにこだわりたい人の「究極の家づくり」といっていいでしょう。また、注文住宅は間取りや設備をイチから設計できるため、時代の価値観や好み、トレンドを色濃く反映します。では今、これから注文住宅を建てたい人がおさえておくべきポイントとは? 住まい情報誌『SUUMO注文住宅』の編集長を務める服部保悠氏に話を聞きました。

建築費や資材費の上昇を受け、小さくても満足度の高い家をめざす

2023年にSUUMOリサーチセンターが発表した調査(2023年注文住宅動向・トレンド調査)によると、建築費は全国平均で3186万円、土地代2145万円で、ともに直近8年では最高値となっています。自由に選べる「究極の家づくり」ではありますが、予算を潤沢につぎ込めるという人は多くないはず。では2024年、価格はどのように動くのでしょうか。

「近年、建築価格、土地価格ともに右肩上がりが続いていましたが、ここにきて一服感はあります。ただ、2024年以降、人件費・資材費ともに残念ながら下がる要素はなく、横ばいが続くと思われます」と服部氏。このところ増えてきた「平屋」も、住みやすいという側面とともに、建築面積を抑えられることで、建築費が節約でき、増えてきました。こうした「コンパクトで住みやすい家」というのは、まだまだ増えていく兆しがあるそう。

(写真撮影/北島和将)

(写真撮影/北島和将)

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「注文住宅は無限の選択肢がある分、土地にかけるお金と建物の費用調整が肝心になるわけですが、土地価格も下落しないとなれば、建築費で調整するという考え方もあります。つくり方にもよりますが、比較的建築費も抑えられ、なおかつ暮らしやすい、そんな平屋はまだまだ支持を集めるのではないでしょうか」(服部氏)

また、建物の面積をコンパクトにした分、家具と設備を一体にする(家具化)、ミニマム化するというトレンドもあげています。
「家具を買い替えて流行を追い続けるのではなく、デザイン性の高い内装・設備に家具の機能も持たせるようになってきており、例えばキッチン設備も家具のようなデザイン性にすぐれたものが登場しています。床や室内ドア、収納を含め、トータルコーディネートで空間を広く見せるデザインが好まれており、印象的なのは男性・女性ともに北欧デザインが好きという人が多いこと。流行に左右されず、インテリアのスタイルとして定着したと思っています」(服部氏)

家づくりにも「タイパ」の波。規格住宅もトレンドに

もう一つ、無限に選択肢がある、言い換えれば決断コストが無限にかかる注文住宅の中で、『タイパ』という傾向がじわりと見てとれるといいます。

「注文住宅は依頼先からはじまって、土地、住宅ローンといった大きなことから、それこそ壁紙や取っ手ひとつまで、本当に決断の連続です。とはいえ時間も体力も限られている。そこで選択肢の一つとして考えたいのが『タイパ』にすぐれた規格住宅です。規格住宅とは、ハウスメーカーや工務店があらかじめ用意した間取り、内装、設備のなかから選ぶ建て方のこと。もちろん、オプションを加えたり、内装材を選んだりなど注文住宅ならではの自由度もあります。ハウスメーカーや工務店の構法やデザイン、考え方が好き・合うという人であれば、こんなにしっくりくる家の建て方はありません。比較検討する時間や手間が省けますし、金額面でもお手ごろ感があり、増えている印象です」(服部氏)

確かに、「自由に建てられるのが注文住宅の魅力じゃないのか」という考え方もできますが、自由すぎるとどうしていいかわからない、自分が選んでデザインや世界観を壊してしまったらイヤだという人もいることでしょう(筆者もそのタイプです)。そのためある程度、パッケージ化されていて、そこからカスタマイズしていくほうが早いというのは合理的です。

ケイアイスター不動産グループのIKI株式会社が販売する、規格型平屋注文住宅IKI。施主夫妻は、間取りはいくつか用意されていたパターンのうち3室が南に面した2LDK、壁紙の色は3タイプから白ベースのカラーを選んだ(写真撮影/片山貴博)

ケイアイスター不動産グループのIKI株式会社が販売する、規格型平屋注文住宅IKI。施主夫妻は、間取りはいくつか用意されていたパターンのうち3室が南に面した2LDK、壁紙の色は3タイプから白ベースのカラーを選んだ(写真撮影/片山貴博)

また、家づくりだからこそ、「失敗したくない」「失敗できない」というマインドも規格住宅に有利だといいなす。

「規格住宅といっても、ハウスメーカーや工務店が過去のデータを蓄積し、家事ラクの間取り、家族の団らんをつくる間取りなどといった、ノウハウを含めて提案しています。テイストも北欧風、カフェ風、インダストリアルデザインなど、各社さまざまなテイストがありますし、好みとマッチするのであれば賢い方法だと思います」(服部氏)

「無数にあるからこそ楽しい」と思うのか「規格があるからこそ選べる」と思うのか、人によって考え方は異なりますが、自分や家族にあった選択をしたいですよね。

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アフターコロナ、人気を集める間取りや設備は?

間取りや設備では、どのような流行があるのでしょうか。コロナ禍では、「エントランス入ってすぐの手洗いポーチ」「ワークスペース」などが好まれましたが、アフターコロナの今、家づくりではどのような間取りや設備が好まれているのでしょうか。

「玄関近くの手洗い、全館空調、非接触スイッチのような『おうち衛生』はブームを経て、定着しそうです。手洗いポーチは玄関近くにあると、子どもの手洗いの習慣づけにもなり、ゲストにも使ってもらいやすいという声をよく聞きます。今後、断熱等性能等級5、いわゆるZEH水準が義務化されることを考えても(※詳細は後述)、定番化していくのではないでしょうか」(服部氏)

玄関のすぐ近くに配した洗面台(写真撮影/片山貴博)

玄関のすぐ近くに配した洗面台(写真撮影/片山貴博)

玄関に入って右手側に洗面台が(写真撮影/片山貴博)

玄関に入って右手側に洗面台が(写真撮影/片山貴博)

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一方で、費用や面積が限られているなか、こんな傾向も。

「リビングとは別のくつろぎスペースを設けておく、ヌック(※)や窓際のベンチが増えている気がします。ベンチなので、日差しを浴びながらごろんと寝転んでもいいし、子どもと遊んでもいい。本を読んでもいいし、机があれば仕事スペースにもなる。リビングでソファーに座ってテレビを見る場所とは別に、こうした余白のあるスペースが好まれていますね」(服部氏)

※ヌックは小ぢんまりとした居心地のいい空間。リビング脇・片隅に設けられるケースが多い

(写真/明野設計室 一級建築士事務所)

(写真/明野設計室 一級建築士事務所)

(写真/明野設計室 一級建築士事務所)

(写真/明野設計室 一級建築士事務所)

もう一つ、今らしい家づくりの特徴として、「バルコニーをつくらない家」があるといいます。

「共働きのため、日中外に干せない代わりに、夜洗濯をして室内で干す人が増えています。室内は全館空調にしていれば窓はあけなくても空気はキレイ。だとすれば室内干しスペースを確保して、逆にバルコニーはいらないという考え方で、その分、建築コストを下げようという発想です。こちらも今後、一定の支持を集めるのではないでしょうか」と分析します。

洗濯や乾燥は、ドラム式洗濯乾燥機を使う、ガス乾燥機を入れる、サンルームや室内干しスペースをつくるなど、さまざまなやり方があります。自分たちのライフスタイルに合わせて間取りを最適化していくのであれば、いままでの当たり前にとらわれず、バルコニーナシ間取りも自然な結論ですよね。これは注文住宅ならではの良さといえるでしょう。

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建材、設備でも環境性能は欠かせない指標に

新築マンション、賃貸住宅ともに「環境への配慮」という点があがっていましたが、注文住宅も同様です。

「2024年4月からは『省エネ性能表示制度』がスタートし、2025年から『断熱等性能(外皮性能)等級4以上』かつ『一次エネルギー消費量等級4以上』への適合が必要になります。また、2030年を予定していた新築住宅のZEH基準の水準並み義務化(断熱等性能 等級5)についても、地球温暖化の急激な進行から前倒しされる可能性も出てきています。今後、そういった性能の高い住宅が世の中の平均となる中、義務化水準だけを守った家を建てるのでは、みすみす自分の家の市場価値を下げていくことにもつながります。ハウスメーカーによってはZEHが標準であるなど、ほぼこの性能を満たしていますし、それ以上の住宅も登場しています。設備でいえば、断熱性能にすぐれた窓、エコキュート、節水節電トイレ、断熱浴槽、太陽光発電システムなどは、導入時にコストがかかりますが、補助金やランニングコストで回収しやすくなっています。提案するハウスメーカーや工務店も、『この設備を入れるとこの期間で回収できる想定です』と説明し、納得して導入されているようですね」と服部氏。

断熱性にすぐれた樹脂サッシ(写真提供/LIXIL)

断熱性にすぐれた樹脂サッシ(写真提供/LIXIL)

大開口でも断熱性を高めたハイブリッド窓(写真提供/LIXIL)

大開口でも断熱性を高めたハイブリッド窓(写真提供/LIXIL)

確かにコストとベネフィットが明確になり、回収期間がわかれば導入を検討しやすいことでしょう。また、環境に配慮した点では、廃プラスチックから生み出された外装材、バイオエタノール暖炉、国産の木材をつかった建材など、さまざまな取り組みがなされていて、注目を集めています。

再資源化が困難だった廃プラスチックと廃木材を活用した「レビアペイブ」。木彫のような自然な仕上がり(写真提供/LIXIL)

再資源化が困難だった廃プラスチックと廃木材を活用した「レビアペイブ」。木彫のような自然な仕上がり(写真提供/LIXIL)

(写真提供/LIXIL)

(写真提供/LIXIL)

「住宅設備メーカー含めて、省エネ技術の開発は活発に行われていますし、新しい建材、設備が次々と登場しています。もちろん、建設コストとの兼ね合いになるので、いきなり普及する、ビッグヒットになるとは思いませんが、潮流として確実にサステナブルな家づくりというのはあると思います」(服部氏)

コロナ禍を経て、家で過ごす時間への関心が高まっている今。家づくりは時間、お金、体力のすべてが必要ですが、その分、自分たち家族にあった空間が手に入るのであれば効果は抜群です。家に暮らしをあわせるのではなく、自分たちの暮らしに合わせた家づくり。やはり人生に一度でいいからやってみたいですし、やる価値はありそう!ですね。

●取材協力
住まい情報誌『SUUMO注文住宅』編集長
服部保悠氏
『SUUMO注文住宅』

賃貸住宅トレンド2024は個性強め! 注目4キーワードは趣味特化・店舗兼用・省エネ性能・デジタル化

賃貸住宅というと、画一的なプランを思い浮かべる人も多いでしょう。でも、そんな思い込みを裏切る個性的な賃貸物件が日本各地で少しずつ増えています。お店が開けたり、相撲部屋付きだったり、農園付きだったりとその顔ぶれもさまざま。では、次に賃貸物件にやってくる新しい風とは? お部屋を借りる側にはどんなメリット・注意点があるのでしょうか。SUUMO副編集長でSUUMOリサーチセンター研究員でもある笠松美香氏に話を聞きました。

リサーチ期間や内見件数など、お部屋の探し方に変化が

まず前提として、賃貸住宅は間取りやデザインなどについては大きな変化が起きにくい構造になっています。それにはいくつか要因がありますが、
(1)既に多数のストックがあり、新築物件は多くない
(2)家を借りる人と建てる人が別である
(3)デザイン・間取りも大多数の人に嫌われないことが大切

というのが大きな理由です。借り手がどんな人になるかわからない以上、特別好かれなくても「嫌われない」お部屋づくりを基本にするのは、わかるような気がします。とはいえ、物件や大家さん側の意識にも少しずつ変化があり、また家を探す側、お部屋の探し方や意識が変わってきているため、個性的な物件が出やすい土壌になってきたといいます。

「今、お部屋を借りて住み替えたいと思う人は、物件情報を収集・検討する期間が長くなっています。ルームツアー動画も人気がありますし、引越す気がなくともスマホで日常の合間合間に『物件を見ている』という感じで、お部屋探しの情報にふれる期間が長くなっているんですね。ネットに載る物件情報もひとつひとつが詳しくなっており、いわゆる『コンセプト賃貸』のような、個性ある物件についても差別化され、借りたいと思う人とマッチングしやすくなっているんです」と笠松氏。

DIYし放題の賃貸。住民みんなで使えるピザ窯や住民のための図書館をつくった大家さんも「キタノアパート」(東京都八王子市)(写真撮影/田村写真店)

DIYし放題の賃貸。住民みんなで使えるピザ窯や住民のための図書館をつくった大家さんも「キタノアパート」(東京都八王子市)(写真撮影/田村写真店)

全9部屋でゴルフ、陶芸、ボルダリング、ピアノ演奏などコンセプトが異なるユニークなコンセプト賃貸も(写真は千葉県柏市にある「ガルガンチュア」)(写真撮影/内海明啓)

全9部屋でゴルフ、陶芸、ボルダリング、ピアノ演奏などコンセプトが異なるユニークなコンセプト賃貸も(写真は千葉県柏市にある「ガルガンチュア」)(写真撮影/内海明啓)

ただ、ネット上で決めてしまい、リアルには物件見学しないというわけではなく、訪問や内見「現地でしか見られない状況を確かめる」「入居前の最終確認」という位置づけになっているそう。

また、お部屋を借りる人が長く情報収集・物件の資料を見続けることで、目が肥え、「防音設備が整っていてYOUTUBEでオンライン実況ができる」「大型犬が飼える」「入居者同士のコミュニティがある」「菜園がある」といった特色ある物件が差別化され、「ニーズを捉えていれば、借り手が見つかる」「そのような特別な特徴に強く惹かれた入居希望者が何年も入居待ちしている」という状況も生まれています。これは「入居者に愛される賃貸をつくりたい」「マッチした人に長く住んでほしい」と考える大家さん、「似たような部屋しかない」と不満に思う借り手、双方にとって幸せな流れといえるでしょう。

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初期費用は抑え気味、家賃債務保証会社利用、デジタル化が進む

笠松氏の話をまとめると、これからお部屋探しをする人は「ゆるゆると情報を集めて、ここぞというときは決断する」と行動を想定しておくのが、良いお部屋探しの大原則といえそうです。また、もうひとつ、お部屋を借りる側としてうれしい傾向が初期費用にあるといいます。

「近年、大家さんが空室を極力減らしたいという意向もあり、礼金が減少傾向にあります。さらに日本各地で家賃債務保証会社の利用が一般化しています。そのため、家賃回収できなかったときのために多めに設定されてきた『敷金』も1カ月分、もしくは0カ月とし、ルームクリーニング代を実費で精算するなどして抑える傾向も。つまり、敷金や礼金といった初期費用が下がっているため、住み替えのハードルが下がっているんです」(笠松氏)といい、賃貸の魅力である「ライフスタイルの変化」にあわせた住み替えができるようになっているのが昨今の特徴だといいます。

共同住宅の入居募集看板

(写真/PIXTA)

コロナ禍では、「テレワークができる広めの郊外のお部屋」、収入減少に対応して「家賃が低めのお部屋」といった大きく変わった生活環境に合わせた選択をする人も見られたそう。これは変化に柔軟という賃貸のメリットを生かせるという意味でとてもいい傾向といえるのではないでしょうか。もうひとつ、コロナ禍を経た変化として不動産業界のデジタル化を教えてくれました。

「オンラインで重要事項説明を受けることも可能になりました。希望すれば不動産会社の担当者とはリアルで対面しないまま契約も可能になっています。現時点では一部ですが、こうしたデジタル化の流れは今後も廃れるとは思えないですし、じょじょに一般化するのではないでしょうか」(笠松氏)

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賃貸住宅も省エネ性能がマストの時代に。住み心地は大きく変わる

また、賃貸だけに限りませんが、新築マンション、新築一戸建てなど、すべての新築住宅に影響する制度がスタートし、賃貸にも好影響が期待されます。

「2024年4月から『省エネ性能表示制度』がスタートし、2025年には、断熱等級4が、さらに遅くとも2030年には等級5(ZEH基準並みの水準)が新築住宅においては義務化されます。すでに「長期優良住宅」の条件は2022年から等級5となっており、新築の賃貸住宅は省エネ性能も向上することが見込まれます」と解説します。

もちろん、賃貸住宅のなかでも新築といえば総数は多くありませんし、家賃も高めに設定されています。いきなり大多数の物件の省エネ性能が向上するわけではありませんが、義務化された以上、今後は大きな流れになっていくのは間違いありません。

住宅(住戸)の省エネ性能ラベルに記載される内容(国土交通省の資料より)

住宅(住戸)の省エネ性能ラベルに記載される内容(国土交通省の資料より)

SUUMOにおけるインターネット広告への掲載例

SUUMOにおけるインターネット広告への掲載例

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2024年4月スタートの新制度は、住宅の省エネ性能を★の数で表示。不動産ポータルサイトでも省エネ性能ラベル表示が必須に!?

「賃貸住宅の建築を請け負っているハウスメーカー各社も当然、この制度に対応していて、各社注力しています。2025年には等級4が最低基準になりますが、海外の基準を見ていると省エネ等級6や7をとるべきですよという流れになっていくはずです。住宅の省エネ性能が高まると、使用するエネルギー量が節約できるほか、住む人の健康にも良い影響を与えることもわかっているので、賃貸住宅を借りる側にとってはよいことだと思います」(笠松氏)

埼玉県和光市で環境性能評価システムLEEDを取得する予定の賃貸住宅「鈴森Village」(埼玉県和光市)(写真撮影/片山貴博)

埼玉県和光市で環境性能評価システムLEEDを取得する予定の賃貸住宅「鈴森Village」(埼玉県和光市)(写真撮影/片山貴博)

北海道ニセコ町にある“最強断熱”賃貸住宅

超高断熱・高気密の外壁と窓を採用しているため、冬季に使用する暖房は、建物全体を温める共用廊下のエアコン2台。このエアコンだけで外がマイナス14度でも、部屋の温度は19~20度を下回ることはないという、北海道ニセコ町にある“最強断熱”賃貸住宅(画像提供/ニセコまち)

副産物として、賃貸住宅の根強いニーズであった遮音性の向上も見込めるといいます。

「物件を借りる側のアンケートでは、収納や防音/遮音、省エネ性というニーズが高いことがわかっています。断熱性能の高い住まいは気密性も高く遮音性もよいことが多いので、賃貸住宅の住み心地そのものが向上していくのではないでしょうか」と期待を寄せます。

確かに「収納」「遮音」「断熱」は住み心地に大きく影響しますが、なかなか見てわかる「徒歩分数」「家賃」「差別化できる要因」とはなりにくく、今までは後回しにされてきました。今後はこうした「住み心地」に直結する基本性能がよくなっていくことでしょう。

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シェアハウスやコミュニティ。賃貸も顔の見える関係が大切に

もう一つ、東日本大震災以降、じわじわと増えているのが「コミュニティ型」賃貸住宅だといいます。

「日本各地で災害が頻繁に発生していることもあり、近所に見知った顔がほしいというニーズが根強くあるため、コミュニティ形成を助ける賃貸住宅は一定の支持を集めてきました。パルコカーサ、青豆ハウス、ハラッパ団地、高円寺アパートメントなどは代表的な例ですよね。コミュニティ賃貸だけでなく、人とつながって暮らすというのは、シェアハウスに住んだ経験者が多い、今の若い世代にとっては当たり前なんです。ずっとではないけれど、人生の一時期はシェアハウス暮らしでさまざまな人との出会いを楽しみたいという声もよく聞きます」と笠松氏。

賃貸住宅に革命起こした「青豆ハウス」、9年でどう育った? 居室を街に開く決断した大家さん・住民たちの想い 東京都練馬区

“育つ賃貸住宅”というコンセプトを掲げ、2014年に誕生した「青豆ハウス」(東京都練馬区)。住む人と青豆ハウスを訪れる人が一緒に育む新感覚の共同住宅だ(画像提供/青豆ハウス)

保育園・農園付きで3年満室続く「ハラッパ団地・草加」(埼玉県草加市)(写真撮影/片山貴博)

保育園・農園付きで3年満室続く「ハラッパ団地・草加」(埼玉県草加市)(写真撮影/片山貴博)

なるほど、コミュニティ賃貸は「ご近所づきあい」、シェアハウスは「節約目的」ばかりだと思っていましたが、ともに「人とのつながり」「体験」をシェアするという側面もあるのですね。また、いわゆる賃貸住宅の一角で商売をする「ナリワイ」をはじめられる賃貸住宅も同様だといいます。

「ナリワイって、そこで儲けようとか、起業して成功しようという目的ばかりではなく、人とつながったりとか、人との会話や関係性ができたり、誰かの役に立ちたいという目的が多いように思います。大家さんとしても、やっぱり商売する人が入居してくれれば、なかなかその場を離れないというのもあって、大家さん、借り手、地域住民の三方良しの仕組みなんですよね」とその背景を解説します。

「なりわい賃貸住宅」、「暮らしの町あい所」として話題になった「hocco(ホッコ)」(東京都武蔵野市)(撮影/片山貴博)

「なりわい賃貸住宅」、「暮らしの町あい所」として話題になった「hocco(ホッコ)」(東京都武蔵野市)(撮影/片山貴博)

令和は、賃貸住宅でしかできない経験や体験が重視されているのかもしれません。

「大家さんとしても、知らない人同士が住んで、どんどん入れ替わって、顔が見えなくてという不安な状態よりは、やっぱり同じ街に暮らす人同士が助け合いたい、そこに自分の資産である賃貸住宅を組み込んでほしいという思いはあります。大家さんは代々その地に根付いた人だからこそ、街に愛着を持ち、よくしていきたいという人が多いのです。土地や住んでいる人がいてこその大家さんなので」と笠松氏。

賃貸といえば「借り住まい」「帰って寝るだけの場所」という側面もありましたが、今は「家で過ごす時間がいちばん楽しい」「自分がいたいと思える家」という物件が次々と登場しているということなんでしょうか。2024年はより「愛ある賃貸住宅」「思いを込めてつくった家」が輝き、魅力を放つ一年になるかもしれません。

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【高円寺アパートメント】
災害時、賃貸でお隣さんは助けてくれる? 住民同士で防災計画をつくる「高円寺アパートメント」
デュアルライフ・二拠点生活[21] 高円寺と別府。意外と似ている2つの街を楽しむ暮らし

【hocco】
土間や軒下をお店に! ”なりわい賃貸住宅”「hocco」、本屋、パイとコーヒーの店を開いて暮らしはどう変わった? 東京都武蔵野市

●取材協力
SUUMO副編集長・SUUMOリサーチセンター
笠松美香氏

令和5年度補正予算で住宅の取得やリフォームでおトクに!補助金や優遇制度を先取り解説!キーワードは子育てと省エネ住宅

令和5年度補正予算について、概算が閣議決定した。国土交通省関係の補正予算の中から、住宅・不動産に関するものを中心に、どういった政策があってどのような優遇が受けられるようになるのかを見ていこう。キーワードは「子育て」と「省エネ住宅」だ。

【今週の住活トピック】
令和5年度国土交通省関係補正予算の概要について/国土交通省

「子育てエコホーム支援事業」に2100億円

国土交通省では、「エネルギーコスト上昇に対する経済社会の耐性の強化」として、「質の高い住宅ストック形成に関する省エネ住宅への支援」に2100億円を充てる。この支援事業は「子育てエコホーム支援事業」という名称となった。

「子育てエコホーム支援事業」は全く新しい事業というわけではない。「こどもみらい住宅支援事業」(令和3年度補正予算542億円、令和4年度予備費等600億円)、「こどもエコすまい支援事業」(令和4年度補正予算1500億円、令和5年度当初予算209.35億円)が、いずれも予算に達して早期に受付を終了したことを受けたものだ。予算を拡大し、適用条件などを変更しているので、以前の支援事業と同じ条件ではないことに注意が必要だ。

「子育てエコホーム支援事業」は、以前の支援事業と同様に、子育て世帯または若者夫婦世帯による(1)省エネ性能の高い住宅の新築と(2)住宅の一定のリフォームが対象。ただし、補助額とその条件が少し異なる。

■子育てエコホーム支援事業の補助対象 (下線部が前回の支援事業と異なる点)
(1)子育て世帯または若者夫婦世帯による省エネ性能の高い住宅の新築(注文住宅/新築分譲住宅の購入)
長期優良住宅の場合【補助額】100万円/戸
ZEH住宅の場合  【補助額】80万円/戸
※1:「子育て世帯」は、18歳未満の子どもがいる世帯、「若者夫婦世帯」は、いずれかが39歳以下の夫婦世帯
※2:ZEH住宅とは強化外皮基準かつ再エネを除く一次エネルギー消費量▲20%に適合するもの

(2)住宅の一定のリフォーム
【必須工事】住宅の省エネ改修
【任意工事】子育て対応改修、バリアフリー改修、空気清浄機能・換気機能付きエアコン設置工事等
【補助額】リフォーム工事内容に応じて定める額
【上限額】
子育て世帯または若者夫婦世帯:上限30万円/戸
※長期優良住宅リフォームの場合は上限45万円/戸、子育て世帯・若者夫婦世帯が既存住宅購入を伴う場合は上限60万円/戸
その他の世帯:上限20万円/戸
※その他の世帯が長期優良住宅リフォームを行う場合は上限30万円/戸

いずれも、事前に登録した事業者により、閣議決定日の2023年11月2日以降に工事に着工したものが対象で、補助金の申請は事業者が行うものとされている。

3省が連携して、住宅の省エネ化への支援を強化

住宅の省エネ化に対する補助事業は、国土交通省だけではない。現在も、国土交通省と経済産業省、環境省の連携による「住宅省エネ2023キャンペーン」が実施されており、「こどもエコすまい支援事業」以外の事業はまだ補助金の申請を受け付けている。こちらも、「住宅省エネ2024キャンペーン」が予定されているが、新しいキャンペーンも少し内容が変わる。

■住宅省エネ2024キャンペーンの対象
住宅の省エネリフォーム等を支援する補助制度で、住宅の省エネ改修、断熱窓への改修、高効率の給湯器の導入支援の補助制度をワンストップで利用可能とするもの。

(1)断熱窓への改修促進等による住宅の省エネ・省CO2加速化支援事業(先進的窓リノベ事業の後継)
高断熱窓の設置:【補助額】工事内容に応じて定める額(補助率1/2相当)上限200万円/戸

(2)高効率給湯器導入促進による家庭部門の省エネルギー推進事業費補助金(給湯省エネ事業の後継)
高効率給湯器の設置:【補助額】高効率給湯器の機器・性能ごとに定める額

(3)既存賃貸集合住宅の省エネ化支援事業(新規事業)
既存賃貸集合住宅におけるエコジョーズ等の取り替え

(4)子育てエコホーム支援事業

なお、子育てエコホーム支援事業で定める必須の省エネ改修を行うだけでなく、キャンペーンの(1)~(3)のいずれかの工事を行った場合でも、(4)の任意工事が支援事業の対象となり、複数の支援事業を申請する場合は一つの窓口で申請できるなどの連携が行われる。

子育て世帯を応援する【フラット35】子育てプラスを新設

令和5年度補正予算については、「こどもまんなかまちづくり」の実現に向けた子育てにやさしい住まいの支援として、子育て世帯を応援する【フラット35】子育てプラスの新設を挙げている。これは、子どもの人数に応じて【フラット35】※の金利の引き下げをするもの。
※【フラット35】は民間金融機関と住宅金融支援機構が提携して提供する長期固定型の住宅ローン

対象は、借入申込時点で、子育て(同居する孫を含む)世帯または若者夫婦(同性パートナー含む)世帯で、借入申込年度の4月1日に子どもの年齢が18歳未満または夫婦いずれかが40歳未満、などとなる。

【フラット35】の金利が引き下げられる【フラット35】Sなど※は、ポイントによって引き下げ幅が変わる仕組みになっているが、これに「子育てプラス」の以下のポイントが加算される形となる。
※【フラット35】Sのほかにも、管理・修繕に関する「維持保全型」、エリアに関する「地域連携型」などの金利引き下げ制度がある

○「子育てプラス」によるポイント
・若年夫婦世帯または子ども1人世帯:1ポイント
・子ども2人世帯:2ポイント
・子ども3人世帯:3ポイント
・子どもN人世帯:Nポイント

既存のそれぞれに与えられたポイントに「子育てプラス」のポイントを加算し、合計ポイントによって最終的な金利の引き下げ幅が決まる。1ポイントごとに5年間年0.25%の金利引き下げとなる。
※ただし、「子育てプラス」を利用しない場合は4ポイントまでが上限となる。

○「子育てプラス」を利用した場合の金利引き下げ例
1ポイント~4ポイントの場合、「当初5年間」1ポイントごとに年0.25%ずつ引き下げる(最大で当初5年間年1.00%引き下げ)
5ポイント~8ポイントの場合、さらに「6~10年目まで」1ポイントごとに年0.25%ずつ引き下げる(最大で当初10年間すべてで年1.00%引き下げ)
9ポイント以上の場合、さらに「11~15年目」も1ポイントごとに年0.25%ずつ引き下げる

この新しいポイント制度は、令和5年度補正予算が成立し、住宅金融支援機構が告知する適用開始日の資金受け取り分から適用される。ポイント制度についてはかなり複雑なので、住宅金融支援機構の案内などで確認してほしい。

なお、今回紹介した支援事業はすべて、国会で令和5年度補正予算が成立することが前提であり、まだ正式に決定しているわけではない。また、ここで説明したことのほかにも詳しい条件が定められているので、実際に利用したいと思う人は、告知サイト等でしっかり確かめてほしい。

●関連サイト
「子育てエコホーム支援事業」
新たな住宅の省エネ化への支援 「子育てエコホーム支援事業」の事業の内容を公開します!
「住宅省エネキャンペーン2024」
住宅の省エネ化への支援強化に関する予算案を閣議決定!~国交省・経産省・環境省が連携して取り組みます!~
「【フラット35】子育てプラス」
子育て世帯を応援する【フラット35】子育てプラス(仮称)が新登場

既存のマンションでもZEH水準にリノベが可能に!?国が推進する省エネ性能「ZEH水準」についても詳しく解説

政府はいま、住宅の省エネ化を加速している。特に新築住宅では、建築する際に求められる省エネ性能の基準を2030年までにZEH水準に引き上げる考えだ。一方で、既存のマンションはその多くが現行の省エネ基準の水準を満たしておらず、それをZEH水準に引き上げるのはハードルが高いと思われてきた。そこへ、積水化学工業とリノベるが協業して、既存マンションのZEH水準リノベーションの提供を始めたというのだ。

【今週の住活トピック】
既存マンションのZEH水準リノベーションを提供開始/積水化学工業・リノベる

ZEH(ゼッチ)水準とは?ZEHとは違うの?

まず、ZEH(ゼッチ)とは何かについて、説明しよう。
ZEHとは、Net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)を略した呼び方で、住宅で消費するエネルギーをゼロ以下にしようというものだ。そのためには、(1)住宅の骨格となる部分を断熱化して、エネルギーを極力使わないようにし、(2)給湯や冷暖房などの設備を高効率化して、エネルギーを効率的に使う。ただし、消費するエネルギーをゼロにするには、(3)太陽光発電設備などでエネルギーを創り、消費したエネルギーを補う必要がある。

ところが、マンションなどの高層住宅では、戸数が多いわりに太陽光発電設備を設置できる屋上の面積が広くないなどの制約がある。そこで政府は、建物の階数が高くなるほど太陽光発電などの再生エネルギーによる削減の基準を緩める形で、ZEH水準を定めている。

政府が定めたマンションのZEHの定義は次の4種類があり、1~3階建ては「ZEH-M」か「Nearly ZEH-M」を、4~5階建ては「ZEH-M Ready」、6階建て以上は「ZEH-M Oriented」を目指すべき水準としている。なお、いずれの場合も、再生エネルギーを除いた状態で、基準一次エネルギー消費量から20%以上削減することが条件となる。

○マンションの4種類のZEH
ZEH-M(ゼッチマンション):再生エネルギーを含めて100%以上を削減する
Nearly ZEH-M(ニアリーゼッチマンション):再生エネルギーを含めて75%以上100%未満を削減する
ZEH-M Ready(ゼッチマンションレディ):再生エネルギーを含めて50%以上75%未満を削減する
ZEH-M Oriented(ゼッチマンションオリエンティッド):再生エネルギーの導入を条件としない

既存のマンションでZEH水準のリノベーションを行う方法は?

今回提供を開始した、積水化学工業とリノベるが協業するZEH水準リノベーションは、住戸で「ZEH Oriented」に適合するようにしている。合わせて、建築物省エネルギー性能表示制度のBELSでは★5,リノベーション協議会の基準ではR1エコ★★の取得もするという。

出典:積水化学工業・リノベるの資料より転載

出典:積水化学工業・リノベるの資料より転載

まず、ZEH化の断熱改修では、積水化学グループの「マルリノ」の断熱特許工法を活用する。「グリーンシティ鷺沼」の事例では、住戸をスケルトンにした状態(上の写真)では、外気温34.6度のときには壁面温度も同程度になっているが、壁面の断熱工事後(内窓設置前=下の写真)では、外気温36.0度のときに31.8度になっている。

○断熱改修前(スケルトン)

断熱改修前(スケルトン)

○断熱改修後(内窓設置前)

断熱改修後(内窓設置前)

出典:積水化学工業・リノベるの資料より転載

さらに、樹脂サッシLow-E複層ガラスの内窓を設置し、高効率のエアコン、エコジョーズ(高効率給湯器)、高断熱浴槽などの設備を設置することで、ZEH水準に適合させる。光熱費削減シミュレーションをしたところ、ZEH水準化によって光熱費が約30%削減できるという。

このZEH水準リノベーションによる追加の費用は、300万円(税抜き)弱。この額は、通常並みに間取り変更や一般的な設備にリノベーションした場合の費用を除き、スケルトンから断熱等級5への断熱工事費用や内窓の設置費用、設備を高効率なものにグレードアップした差額などによる。両社によると、この追加費用による住宅ローン返済額のアップ分は、光熱費の削減分でカバーでき、住宅ローン減税のZEHによる上乗せ分などの支援制度でさらに経済的メリットが見込まれるという。

今後、ZEH水準リノベーションは、区分マンションの買取再販事業、個人向けのリノベーション請負事業、法人向けのリノベーション請負事業の3つのチャネルで展開される予定だ。

カーボンニュートラル実現に向けて、既存住宅の省エネ性能向上に期待

説明してきたように、新築の住宅では法規制により、省エネ基準の適合、さらにはZEH水準への対応が進んでいくと考えられる。一方で、既存の住宅はその時々の省エネ基準に適合しているため、現行の省エネ基準よりも低い性能で建てられているものが多い。そのため、省エネ性能を引き上げる改修を行わないと、新築住宅と既存住宅の省エネ性能の開きが大きくなる一方だ。

カーボンニュートラル社会が実現するためには、既存の住宅の省エネ性能の向上が進むことが必要になる。また、新築と比べて省エネ性能が劣る中古住宅には、買い手がつきにくいという問題も考えられる。

特に、住宅の構造を共有するマンションなどの集合住宅では、一戸建ての改修よりも制約を受けやすい。既存のマンションでもZEH水準化するリノベーションが可能だということなので、こうしたリノベーションが進むことが期待される。

マンションの省エネ性能が高くなると、それ以前より夏は涼しく冬は暖かいといった、快適な室内環境で過ごすことができる。さらに、ヒートショックのリスクが減ったり、結露が解消してカビなどを吸い込む健康被害を抑制する効果もある。中古マンションを改修する際には、ぜひ省エネ性能を引き上げるリノベーションを検討してほしい。

●関連サイト
積水化学工業とリノベるが既存マンションのZEH水準リノベーションを提供開始