「共につくろう、変わり続けるものづくりのまちを」工房一斉開放イベント 福井「RENEW」現地レポート

3万人の来場者が、全国から集う「RENEW(リニュー)」。2015年から福井県で毎年秋に開催されてきた、年に一度の工房一斉開放イベントです。

イベントの舞台である「丹南エリア」とは、鯖江市・越前市・越前町のこと。全国屈指のものづくりが盛んなエリアとして知られています。RENEWでは、それぞれの工房・企業を一斉に開放。来場者は職人と直接話したりワークショップに参加したりしながら、ものづくりを体感できます。
RENEWのイメージ・赤丸が目をひくポスター(写真撮影/Tsutomu Ogino(TOMART:PhotoWorks)

RENEWのイメージ・赤丸が目をひくポスター(写真撮影/Tsutomu Ogino(TOMART:PhotoWorks)

2020年、新型コロナウイルスによって多くのイベントが中止に追い込まれるなか、RENEWは7月に現地開催を決定。

「くたばってたまるか」

このステートメントを掲げ、現地では感染対策に留意し、オンラインで楽しめるコンテンツも用意。出展者76社(現地64社・オンライン12社)が参加し、2020年10月9日(金)から11日(日)の3日間、予定どおり開催を実現したのでした。

総合案内所である「うるしの里会館」周辺には、多くの人が集まる(写真撮影/Tsutomu Ogino(TOMART:PhotoWorks)

総合案内所である「うるしの里会館」周辺には、多くの人が集まる(写真撮影/Tsutomu Ogino(TOMART:PhotoWorks)

直前には台風の影響が心配されながらも、来場者は前年を上回る延べ約3万2000人にのぼり、オンラインからも延べ約1万4000人が参加。1出展者あたりの売上も前年より大幅に上昇し、ものづくりのまちは、いつにも増してエネルギーに溢れていました。

今年のRENEWが掲げたコンセプトは、「共につくろう、変わり続けるものづくりのまちを」。2020年のRENEWが見せてくれた、変わり続けるまちの新たな「景色」をお届けします。

※ 開催までの道のりはこちら

受け継がれてきたものづくりを「体感」する

RENEWの会場である福井県の丹南エリアには、多くの産業が集中しています。伝統的につくられてきた漆器、和紙、刃物、箪笥(たんす)、焼物、そして地場産業である眼鏡、繊維など。この土地にものづくりの技術が蓄積され、継承されてきました。

車で約45分ほどの圏内に点在する工房・企業を思い思いにめぐりながら、それぞれの出展者が提供するワークショップへの参加も可能(画像提供/RENEW実行委員会)

車で約45分ほどの圏内に点在する工房・企業を思い思いにめぐりながら、それぞれの出展者が提供するワークショップへの参加も可能(画像提供/RENEW実行委員会)

総合案内所がある「越前漆器&眼鏡エリア」は、徒歩圏内に最も出展者が集中。工房に併設された直営ショップが続々と増加している熱いエリアです。5年間RENEWを続けてきたことで、エリア外からの移住者が増加。ものづくりを継承しようと移住してきた若き職人たちが、率先して説明してくれるため、「工房」や「職人」の存在がグッと身近になります。

77歳の伝統工芸士に学んだ若き職人たちが、蒔絵(まきえ)を施したアクセサリーを販売する/駒本蒔絵工房 / KOMAYA(写真撮影/Tsutomu Ogino(TOMART:PhotoWorks)

77歳の伝統工芸士に学んだ若き職人たちが、蒔絵(まきえ)を施したアクセサリーを販売する/駒本蒔絵工房 / KOMAYA(写真撮影/Tsutomu Ogino(TOMART:PhotoWorks)

駒本蒔絵工房では、漆塗りのパーツに蒔絵(まきえ)を描いて、オリジナルアクセサリーをつくるワークショップへ。

参加者が漆で蒔絵を描いた後は、仕上げに職人が金箔や銀箔を施す(写真撮影/Tsutomu Ogino(TOMART:PhotoWorks)

参加者が漆で蒔絵を描いた後は、仕上げに職人が金箔や銀箔を施す(写真撮影/Tsutomu Ogino(TOMART:PhotoWorks)

職人さんによる熟練の技を間近で見られるのは、RENEWならではの醍醐味です。蒔絵職人さんと和やかにお話しできたおかげで、「また、ここに来たいな」と思うひとときを過ごしました。

越前和紙が受け継がれてきたエリアで、伝統的な紙すきからアート作品の制作まで「紙」を軸に幅広い制作を手がける/長田製紙所(写真撮影/Tsutomu Ogino(TOMART:PhotoWorks)

越前和紙が受け継がれてきたエリアで、伝統的な紙すきからアート作品の制作まで「紙」を軸に幅広い制作を手がける/長田製紙所(写真撮影/Tsutomu Ogino(TOMART:PhotoWorks)

「ほら、光の当たり具合によって紙の見え方が違うでしょう」

普段見ない角度から眺めてみたり、おそるおそる触らせてもらったり。越前和紙を製造する長田製紙所で、紙すきの工場に差し込む淡い光と職人さんの言葉を頼りに、ふすまサイズの紙と向き合います。

「手のおもむくままに」下書きなしでふすまの柄が描かれていく/長田製紙所(写真撮影/Tsutomu Ogino(TOMART:PhotoWorks)

「手のおもむくままに」下書きなしでふすまの柄が描かれていく/長田製紙所(写真撮影/Tsutomu Ogino(TOMART:PhotoWorks)

ふすまが一番美しく映えるように光がおさえられた工房で、身近な存在だったはずの「紙」が、はっと驚くほどに美しい姿を見せてくれます。紙すきの営みが、1500年以上続いてきたことを実感する瞬間です。

打刃物のハンドル「柄(え)」を製作する山謙木工所が、2020年に直売するショップをオープン/柄と繪(etoe)(写真撮影/Tsutomu Ogino(TOMART:PhotoWorks)

打刃物のハンドル「柄(え)」を製作する山謙木工所が、2020年に直売するショップをオープン/柄と繪(etoe)(写真撮影/Tsutomu Ogino(TOMART:PhotoWorks)

越前打刃物エリアでは、国内外から高い評価を受けている刃物を集めたファクトリーショップ「柄と繪(etoe)」へ。1カ月前にオープンしたばかりの建物に、作り手によって特色の異なる刃物がずらりと並びます。

「この刃物はご高齢の職人さんがつくっていて、製造できる数に限界があります。だからもう値段がつけられないんです。でも、その方しか持っていない素晴らしい技術でつくられているので、ここに置かせていただいています」

ものづくりの新たな発信基地に置かれたその刃物に、受け継がれていく歴史を感じずにはいられませんでした。

「これまでどおり」を支えた、適切な対策の積み重ね総合案内所の横には、「ローカルフード」として鯖江や福井にちなんだ食事を提供するキッチンカーが並んだ(写真撮影/Tsutomu Ogino(TOMART:PhotoWorks)

総合案内所の横には、「ローカルフード」として鯖江や福井にちなんだ食事を提供するキッチンカーが並んだ(写真撮影/Tsutomu Ogino(TOMART:PhotoWorks)

現地開催を実現するために、運営方法の変容が必要になった今年のRENEW。しかし昨年までに何度も訪れたことがある来場者は「いい意味で、例年と変わっていなくてよかった」と思ったんだとか。これまでと変わらずに職人さんと話して工房を見学でき、RENEWの空気を満喫できたといいます。

「現地開催することがゴールではなく、一人の感染者も出さないことが最低条件」

実行委員会はこの軸をぶらすことなく、コロナ禍で「これまでどおり」を実現する仕組みづくりに奔走しました。

受付で配布されるリストバンドで、参加者の行動経路を把握できる仕組みに(写真撮影/Tsutomu Ogino(TOMART:PhotoWorks)

受付で配布されるリストバンドで、参加者の行動経路を把握できる仕組みに(写真撮影/Tsutomu Ogino(TOMART:PhotoWorks)

昨年までは受付がなく、来場者は気ままに好きな箇所をめぐっていましたが、今年は受付を必須に。毎日検温した後、工房見学やワークショップで必須になるリストバンドが配布されます。それぞれの工房・企業でリストバンドの番号を記録するので、万が一の場合でも感染者の追跡が可能です。

参加者は地図が掲載されたパンフレットを持ち歩き、思い思いに気になる場所をめぐる(写真撮影/Tsutomu Ogino(TOMART:PhotoWorks)

参加者は地図が掲載されたパンフレットを持ち歩き、思い思いに気になる場所をめぐる(写真撮影/Tsutomu Ogino(TOMART:PhotoWorks)

新型コロナウイルスが現れて以来、対策をしていてもどこか後ろめたさがあった「移動」。その後ろめたさには、「移動した先で受け入れてもらえるのだろうか」という不安もありました。

しかしRENEWでは、適切な対策を用意した上で「ぜひ来てください」と受け入れる姿勢を発信してくれたことで、去年までと同じように安心して楽しめたように思います。県外からの来場者も多く、久しぶりの再会を喜ぶ場面もありました。

来場者を歓迎してくれたのは、工房を案内してくれた職人さんも同じ。「RENEWのおかげで、遠くから工房に来てくれる人がいるんだ、と知ることができました。だから今年も変わらず、たくさんの人が来てくれてうれしいです」と話してくれました。

3密を避け、RENEWのシンボル・赤丸マークの上に並ぶ来場者(写真撮影/Tsutomu Ogino(TOMART:PhotoWorks)

3密を避け、RENEWのシンボル・赤丸マークの上に並ぶ来場者(写真撮影/Tsutomu Ogino(TOMART:PhotoWorks)

「開催できるか、できないか。いつもどおりに開催できない環境なら、何ならできて、何ならできないのか。工夫できることはないのか」

現地開催の決断に向けて、RENEW実行委員長の谷口康彦さんはこう考えたと言います。

この言葉のとおり、適切な対策を重ねて地元や行政の理解を得れば、多くの人が安心して楽しめるイベントを実現できるかもしれない。2020年のRENEWは、コロナ禍でのイベント開催への希望も見せてくれました。

ものづくりのまちを「共につくる」ための、新たな挑戦

2020年、RENEWは3年間掲げてきたコンセプト「来たれ若人、ものづくりのまちへ」を初めて変更。

「共につくろう、変わり続けるものづくりのまちを」

掲げたコンセプトを体現するために、新たな企画を複数立ち上げていました。

越前市にある和紙問屋「杉原商店」の和紙ソムリエによるセミナー。「RENEW TV」としてオンラインコンテンツを数多く配信した(写真撮影/Tsutomu Ogino(TOMART:PhotoWorks)

越前市にある和紙問屋「杉原商店」の和紙ソムリエによるセミナー。「RENEW TV」としてオンラインコンテンツを数多く配信した(写真撮影/Tsutomu Ogino(TOMART:PhotoWorks)

現地開催と並行して、今年はオンラインでもRENEWを開催。ゲストによるトークから現場レポート、動画による工房見学まで、さまざまなコンテンツを配信しました。

今年初の取り組みのなかでもRENEWらしさが際立ったのが、産地の新たな可能性を探究する「RENEW LABORATORY」。各地で活躍する新進気鋭のデザイナーと、ものづくりを受け継ぐ5社がタッグを組み、120日間かけてオンラインで商品開発に取り組むプロジェクトです。普段使いできる漆のお弁当箱から、眼鏡づくりを解説する絵本まで、このプロジェクトによって完成した5つの商品が、初めてお披露目されました。

タッグを組んだデザイナーと出展者は、全員RENEWに関わったことがある作り手たち。RENEWが積み重ねてきた信頼関係があったからこそ、コロナ禍でもリモートで商品を完成させられたのでしょう。

デザイナーと出展者が1組ずつ手を携え、5チームが同時に商品を開発。デザイナー自らブースに立ち、ものづくりに込めた思い、職人へのリスペクトを熱く語るため、来場者も興味津々(写真撮影/Tsutomu Ogino(TOMART:PhotoWorks)

デザイナーと出展者が1組ずつ手を携え、5チームが同時に商品を開発。デザイナー自らブースに立ち、ものづくりに込めた思い、職人へのリスペクトを熱く語るため、来場者も興味津々(写真撮影/Tsutomu Ogino(TOMART:PhotoWorks)

足を止めてデザイナーとじっくり話し込む来場者が多く、「デザイナーの仕事ぶりや発想に触れられて、おもしろかった」と話す来場者も。時代に合わせて手段を変えながら、産地として真摯にものづくりと向き合い、柔軟に挑戦していく姿勢を感じました。

作り手、伝え手、使い手をつなぐために開催されている「ててて往来市 TeTeTe All Right Market」は、今年初めてRENEWに登場(写真撮影/Tsutomu Ogino(TOMART:PhotoWorks)

作り手、伝え手、使い手をつなぐために開催されている「ててて往来市 TeTeTe All Right Market」は、今年初めてRENEWに登場(写真撮影/Tsutomu Ogino(TOMART:PhotoWorks)

RENEWの会場にて同日開催されたのは、マーケットイベント「ててて往来市 TeTeTe All Right Market」です。福井県内だけでなく、近隣県含めて19組の作り手が出店。RENEWと開催時間をずらすことで作り手どうしの交流が実現し、ものづくりの可能性を拡げる新たなつながりが生まれていました。

誰もが自分に言い聞かせた「くたばってたまるか」

「コロナ禍でイベントを開催するには、誰かがリスクを引き受ける必要があります。1番目が出てこなければ、2番目、3番目が続かない。民間有志で運営しているRENEWが、1番目を引き受けることが望ましい、と考えました」

開催に至った経緯をこのように話してくれた、RENEW実行委員長の谷口さん。当日は予想以上に来場者が集い、満車になった駐車場の対応に追われながらも、「今年RENEWが担うべき役割は果たせたんじゃないでしょうか」と穏やかな表情で語ります。

2015年からの5年間で、RENEWに関わるお金も人も一気に増えました。名前が知られるようになったRENEWで万が一のことがあれば、他のイベントの開催判断にも大きくマイナスの影響が出てしまうでしょう。それでも現地開催を決断した背景には、「役割」を担う覚悟があったのです。

「RENEWに求められる役割は、かなり大きくなっています。5年前はいわば村おこしのサイズでしたが、今やすでに『自分たちの』という大きさではありません。時代のなかで必要とされている役割を常に考えながら動いています」

RENEW開催直前には、RENEW実行委員会が国土交通省の「地域づくり表彰」にて、国土交通大臣賞を受賞(写真撮影/Tsutomu Ogino(TOMART:PhotoWorks)

RENEW開催直前には、RENEW実行委員会が国土交通省の「地域づくり表彰」にて、国土交通大臣賞を受賞(写真撮影/Tsutomu Ogino(TOMART:PhotoWorks)

初開催から5年の歳月を経て、RENEWは各地の工芸祭がベンチマークする最先端の事例となりました。役割が大きくなっている──その強い実感の先に実現されたのが、今年のRENEWだったのです。

「うーん、正直……『わー、しんどいなぁ』と思うときもありますよ、1ミリくらいね。でも、少し無理をしてでも、そのしんどさを『糧』と言わなきゃいかんでしょう。そういう何もかもを凝縮したのが、今年掲げた『くたばってたまるか』でした。

この言葉もね、実行委員会の誰が言い始めたのか、もう覚えていないんですよ。でも、誰が言っても同じ気持ちでした。外側に発信するだけでなく、自分たちに言い聞かせていたんですよ。くたばってたまるか、と」

その決断を行政が支え、賛同した工房・企業が今年もRENEWへの出展を決め、思いに共鳴した参加者がRENEWに参加する。

「前を向く」「自分がやる」と決めた一人ひとりの思いが共鳴しあい、覚悟を後押しする土壌が、今年のRENEWを支える柱になっていました。

今年から結成された、RENEWと産地のサポーターチーム「あかまる隊」。ワークショップの企画や当日運営、取材などを担当し、県内外から約30名が集まった(写真撮影/Tsutomu Ogino(TOMART:PhotoWorks)

今年から結成された、RENEWと産地のサポーターチーム「あかまる隊」。ワークショップの企画や当日運営、取材などを担当し、県内外から約30名が集まった(写真撮影/Tsutomu Ogino(TOMART:PhotoWorks)

時代に応え、時代を切り拓く「ものづくりのまち」

谷口さんは最後に、「最近よく聞かれること」について話してくれました。

「これからRENEWはどうするんですか、と何度も聞かれます。現段階で言えるのは、答えは今出すものではないということ。一年後の社会が抱える課題、RENEWに求められる役割は当然読めませんから、その答えを今の時点で出すものではない。変化に対応しましょう、それが答えですね。

そもそも私たちは、RENEWが時代の先頭で戦っている、なんて意識を持っていないんですよ。時代に応えようとしている、というのかな。うん、みなさんと一緒に時代を『つくっていく』ような感じかもしれない。それぞれの役割を担うみなさんと一緒にね」

コロナ禍であろうと3万2000人の来場者を受け入れられる産地のあり方、伝統産業が試みたことのない新しいものづくりの方法があること、そして開催を決断したRENEWにこれだけ多くの人が集まって、一緒にこの街の変化を見届けられたこと。今年のRENEWは、新しい景色をたくさん見せてくれました。

新型コロナウイルスの影響でさまざまな変更を余儀なくされた今年だけでなく、これまでも、そして来年も。

常にその瞬間の社会を捉え、変化に対応し自分たちで時代をつくっていく。未来への志を共有し、自らを更新し続ける産地の意志を感じました。

共につくろう、変わり続けるものづくりのまちを。共につくろう、変わり続ける「未来」を。

(画像提供/RENEW実行委員会)

(画像提供/RENEW実行委員会)

●撮影
Tsutomu Ogino(TOMART:PhotoWorks)
●編集
Huuuu.inc

「くたばってたまるか」福井・ものづくりの街が工房一斉開放イベント「RENEW」で示す覚悟

工房の扉をあけると、漆のつんとしたにおい。ラジオの音だけが響くなか、所狭しと並んだうつわに囲まれ、若い職人さんが黙々とハケを動かしている。

工房を案内してくれた職人さんが口を開いた。

「ここは塗り場といって、毎日、200個から300個の漆器を塗り上げているんです」

1日300個、気が遠くなるような数だ。漆器ってこうしてひとつひとつ、手塗りされているんだな。「そういえば、塗るのに使っているハケって、何の毛でできているんですか?」ふと浮かんだ疑問を口にすると、職人さんはよくぞ聞いてくれた、という顔をして、うれしそうに答えてくれる……。職人自ら、工房を案内してくれる/漆琳堂(写真撮影/Rui Izuchi)

職人自ら、工房を案内してくれる/漆琳堂(写真撮影/Rui Izuchi)

こんにちは、RENEW事務局長の森一貴です。

「RENEW(リニュー)」とは、福井県丹南エリアを舞台に開催される、ものづくりを“見て・知って・体験する”体感型マーケット。普段立ち入ることのできない産地の工房・企業が一斉開放され、来場者は自由に工房見学やワークショップを楽しむことができます。2020年の開催日程は10月9日(金)から11日(日)の3日間。

RENEWのイメージ・赤丸がはためく総合案内所(写真撮影/TOMART:PhotoWorks)

RENEWのイメージ・赤丸がはためく総合案内所(写真撮影/TOMART:PhotoWorks)

2015年に始まり5年の歳月を経たRENEWは、出展者約80社・来場者約3万人を数える、日本最大級のものづくりイベントに成長しました。今回はRENEWがどのようにして生まれ広がってきたのか、事務局の立場からお伝えしたいと思います。

工房を一斉開放し、ものづくりに触れる

福井県の中央部に位置する福井県丹南エリア(鯖江市・越前市・越前町)は、日本でも有数のものづくりの産地。越前漆器、越前和紙、越前打刃物、越前箪笥、越前焼、眼鏡、繊維の計7つの地場産業が、端から端まで車で約40分という狭い圏内に集まっています。

このエリアで年に一度だけ開催されるのが、ものづくりを“見て・知って・体験する”体感型マーケット「RENEW(リニュー)」です。

RENEW期間中は約80の工房や事業所を一斉開放。2m以上もある和紙の大紙を漉く(すく)現場に立ち会ったり、うずたかく積まれた木地のサンプルに圧倒されたり、眼鏡職人に手ほどきを受けながら自分オリジナルの眼鏡をつくったりと、ものづくりの産地ならではの体験ができます。

漆器の木地を手掛ける木工所。サンプルが所狭しと並ぶ/井上徳木工(写真撮影/TOMART:PhotoWorks)

漆器の木地を手掛ける木工所。サンプルが所狭しと並ぶ/井上徳木工(写真撮影/TOMART:PhotoWorks)

RENEWは2020年で6回目を迎えます。この5年の間に、丹南エリアの産地には新たな店舗やギャラリーが20店舗以上もオープン。さらに通年で工房見学を楽しめる施設も開設され、就職者・移住者も増加するなど、この町の景色は着実に変わってきています。

2019年にオープンした、福井のグッドプロダクトを扱うスーベニアショップ「SAVA!STORE」

2019年にオープンした、福井のグッドプロダクトを扱うスーベニアショップ「SAVA!STORE」(写真撮影/森一貴)

1701年創業の漆器メーカー「関坂漆器」の倉庫を改装したセレクトショップ/ataW

1701年創業の漆器メーカー「関坂漆器」の倉庫を改装したセレクトショップ/ataW(写真撮影/森一貴)

しかし、RENEWもはじめから成功を予期していた訳ではありません。2015年当時、RENEWはまだ始まったばかりの、小さな地方イベントにすぎませんでした。

待っていても、スーパーマンは来ない。合言葉は「ないならつくる」

RENEWが生まれたのは、鯖江市東部にある「河和田(かわだ)」という町。

三方を山に囲まれた中山間地域・河和田(写真撮影/instagram : @cityflaneurs)

三方を山に囲まれた中山間地域・河和田(写真撮影/instagram : @cityflaneurs)

河和田は人口約4000人と小規模な地区ながら、200近い漆器の工房を抱える越前漆器の里です。この町では「河和田アートキャンプ」というアートプロジェクトの卒業生を中心に、2010年ごろより徐々に移住して職人になる人が増えてきたそうです。

その移住者第一号が、RENEWの発起人。大阪府出身で、現在デザイン事務所・TSUGI(ツギ)の代表およびRENEWディレクターを務める新山直広さんです。

デザイン事務所TSUGIのメンバー。新山さんは左から三番目(写真撮影/TOMART:PhotoWorks)

デザイン事務所TSUGIのメンバー。新山さんは左から三番目(写真撮影/TOMART:PhotoWorks)

新山さんは、移住してきた職人の友人とよく話していたことがあったと言います。

「僕たちの仕事は、30年、50年後も残っているのだろうか」

越前漆器の売上はここ数十年、右肩下がりが続いています。当時、新山さんは鯖江市役所に勤めており、越前漆器の産業調査に取り組んでいました。その一環で東京を訪れた際、よく知る職人さんの漆器がワゴンセールで叩き売りされているのを見た新山さんは、愕然とします。

「もたもたしていたら、本当に産業がなくなるかもしれない」

そこで新山さんたちは、2013年に若手移住者によるサークル「TSUGI」を結成。自分たちで漆器をつくって河和田の食を楽しむ「ふくいフードキャラバン」など、自分たちなりの取り組みを始めていました。

福井新聞社と実施した、ふくいフードキャラバン「かわだ くらしの晩餐会」の様子 その過程で思いついたのが、「工房を開放する」というアイディア

福井新聞社と実施した、ふくいフードキャラバン「かわだ くらしの晩餐会」の様子
その過程で思いついたのが、「工房を開放する」というアイデア(写真撮影/森一貴)

漆器や眼鏡の工房が集積するのがこの町の強み。ならば実際に産地に来てもらい、職人と出会ってもらえば、ものづくりの価値は必ず伝わると新山さんは考えたのです。

そんな中で新山さんが出会ったのは、同じ河和田地区にある谷口眼鏡の社長であり、現RENEW実行委員長・谷口康彦さんでした。谷口さんは当時、河和田地区の区長会長。いわば村長としての目線で、「河和田をどうにかしなくては」と考えていたと言います。

谷口眼鏡の工場にて。右側が谷口さん

谷口眼鏡の工場にて。右側が谷口さん(写真撮影/森一貴)

出会った二人はすぐに意気投合。その時の合言葉は「ないならつくる」。早速谷口さんが地元の有志に声をかけ、新山さんのアイデアを伝える場を設けました。

その最初の会議のことを、新山さんはこう振り返ります。

「待っていても、スーパーマンは来ない。欲しい未来は自分でつくるしかないんです。そう確信していたけど、やっぱり緊張しました。みんな下を向いて腕組みをしていて、本当に冷や汗がとまらなかったです」

第一回目のRENEW出展者会議

第一回目のRENEW出展者会議(写真撮影/森一貴)

会議風景。打ち合わせは深夜まで続くことも

会議風景。打ち合わせは深夜まで続くことも(写真撮影/森一貴)

「とはいえ、まずは一回やってみようよ」と、谷口さんが地域の人たちに声をかけてくれたことで開催が決定。手探りでパンフレットや看板、垂れ幕などをがむしゃらに準備し、なんとか2015年10月31日、第一回目の開催にこぎつけました。

しかしその「まずは一回」が、町を大きく変えることになりました。2015年のRENEW当日、来場者がひっきりなしに訪れ、普段は静かな河和田の町が人で溢れ返ったのです。

全国から来場者が集った/ろくろ舎(写真撮影/Rui Izuchi)

全国から来場者が集った/ろくろ舎(写真撮影/Rui Izuchi)

全国から来場者が集った/総合案内所の様子(写真撮影/Rui Izuchi)

来場者の多くが立ち寄った総合案内所の様子(写真撮影/Rui Izuchi)

初年度のRENEWのなかで、「忘れられないシーンがある」という新山さん。

「『この時期は忙しいんだよ』と、最後まで出展を渋っていた眼鏡の職人さんがいたんです。なんとか説得して参加してもらったのですが、打ち上げの時にその職人さんは、目に涙を浮かべながら『新山くん、本当にやってよかったよ、ありがとう』と伝えてくれたんです」

話を聞くと、彼の工房に眼鏡が大好きな青年がやってきたのだそう。東京から来たその青年にとっては、職人さんのありふれた作業のひとつひとつが新鮮で驚きに満ちたもの。職人さんの話を熱心に聞き、質問してくれたのが、本当にうれしかったと言うのです。

河和田地区にある眼鏡の工房/ハヤカワメガネ(写真撮影/Rui Izuchi)

河和田地区にある眼鏡の工房/ハヤカワメガネ(写真撮影/Rui Izuchi)

新山さんは「その話を聞いたとき、RENEWをやった意義があったなと、心の底から思えたんです」と、当時を振り返ります。

第一回目のRENEWは出展者21社、来場者約1200人。近年の来場者数から比べれば、少ない人数です。しかし、そこで事務局側も出展者側も全員が同じ景色を共有できたことが、後々の変化につながったのかもしれません。

その後、2017年には中川政七商店とコラボレーションした「RENEW×大日本市鯖江博覧会」を開催。越前市など河和田地区以外の地区を初めて巻き込み、4日間で約4万2000人の来場者が訪れました。

2017年の様子。中川政七商店の担当者は、半年以上福井に通い詰めた(写真撮影/TOMART:PhotoWorks)

2017年の様子。中川政七商店の担当者は、半年以上福井に通い詰めた(写真撮影/TOMART:PhotoWorks)

これを足がかりに、RENEWは市町村の枠組みを超え、7産業を巻き込むイベントに発展。2019年には、グッドデザイン賞や総務省ふるさとづくり大賞の受賞といった機会にも恵まれました。

和紙の原料を混ぜる様子/やなせ和紙(写真撮影/TOMART:PhotoWorks)

和紙の原料を混ぜる様子/やなせ和紙(写真撮影/TOMART:PhotoWorks)

蒔絵師の工房。小物づくりワークショップなどを実施/駒本蒔絵(写真撮影/TOMART:PhotoWorks)

蒔絵師の工房。小物づくりワークショップなどを実施/駒本蒔絵(写真撮影/TOMART:PhotoWorks)

「前を向こう」。変わり続ける町の覚悟

しかし2020年、RENEWを待ち受けていたのが新型コロナウイルスでした。株式会社和えるが6月に発表したレポートが報じたのは、このままの状況が続くと「伝統産業の4割が年内に廃業の危機」という現実。

RENEWも開催が危ぶまれる状況ではあったものの、イベント名を「Re:RENEW2020」に変更し、7月10日に開催を決断する宣言文を発表しました。

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「くたばってたまるか」、強いキャッチコピーと新しいイベント名には、コロナ禍での開催に向けて、「更に新しく変わっていこう」という覚悟が込められています。

もちろんRENEW実行委員会は、何度も中止を考えました。それでも開催へと踏み切った思いを、実行委員長の谷口さんはこう話します。

「今年は間違いなく、こうした産業観光イベントのほとんどが中止になりますよね。RENEWも、中止になっても止むを得ない状況だとは思います。……でも、その中でファイティングポーズをとり続けることがRENEWの役割だと思うんです。全国がコロナで打撃を受けているなかで、この町に対しても、日本全国の産地に対しても、“前を向こう”というメッセージを伝えていきたいんです」

谷口さんはRENEWを通じ「持続可能な地域づくり」を目指す(写真撮影/Rui Izuchi)

谷口さんはRENEWを通じ「持続可能な地域づくり」を目指す(写真撮影/Rui Izuchi)

コロナウイルスへの対応を考えると、今年の開催は例年に比べ、圧倒的に難易度の高い準備が必要であることは明らか。しかしその「前を向こう」という覚悟が、今年のRENEWを支えているのです。

更に「前を向こう」というメッセージに呼応して、内容にも大きな変化が生まれています。

今年は工房見学やワークショップを楽しめるRENEWに加え、“作り手”、“伝え手”、“使い手”を繋ぐマーケット「ててて往来市 TeTeTe All Right Market」の同時開催が決定。またオンラインでも「RENEW TV」や「オンラインRENEWストア」の実施が決まっています。

ててて往来市のイメージ。うるしの里会館の軒下で開催される

ててて往来市のイメージ。うるしの里会館の軒下で開催される(写真撮影/森一貴)

また、商品開発プロジェクト「RENEW LABORATORY」や、福井のものづくりを学ぶメディア「産地の赤本」といった新たな企画を次々に立ち上げ、準備を進めてきました。

RENEW LABORATORY。井上徳木工×堀内康広によるプロジェクト

RENEW LABORATORY。井上徳木工×堀内康広によるプロジェクト(写真撮影/森一貴)

加えて今年から、RENEWと産地のサポーターチーム「あかまる隊」を創設。県内外から約30名が集い、職人さんたちとの飲み会を企画したり、独自に動画配信を行ったりと、これまでのRENEWでは想像もできなかった景色が生まれています。

あかまる隊による訪問取材の様子

あかまる隊による訪問取材の様子(写真撮影/森一貴)

産地やRENEWを取り巻く環境はこの半年で、ものすごいスピードで変化してきました。新山さんはこの状況を「不謹慎かもしれないけれど、実は、少しワクワクしているんです」と述べます。

「町が変化するためには、危機感が重要だと僕はずっと思ってきました。それが今、産地の全員が同じ危機感を共有しています。これはものすごいチャンスなんです。今年はもしかしたら、産地の人々がもっと創造性をもって新たなプロダクトやサービスをつくっていくための、ひとつの元年になるかもしれません」

共につくろう、変わりつづけるものづくりのまちを職人たちが暮らす、ものづくりの町・福井県丹南エリア

職人たちが暮らす、ものづくりの町・福井県丹南エリア(写真撮影/森一貴)

この町にあるのは、「つくる」という文化なのだと感じます。それはモノをつくることだけではなく、仕事や暮らし、人間関係、町、そして文化までをもつくりつづけていく、変わりつづける文化です。

2020年10月9日(金)~11日(日)の3日間にわたって開催される、「Re:RENEW2020」。前を向く産地の姿を、ぜひ見にきてください。

●取材協力
RENEW 2020
●編集
Huuuu.inc

「くたばってたまるか」福井・ものづくりの町が工房一斉開放イベント「RENEW」で示す覚悟

工房の扉をあけると、漆のつんとしたにおい。ラジオの音だけが響くなか、所狭しと並んだうつわに囲まれ、若い職人さんが黙々とハケを動かしている。

工房を案内してくれた職人さんが口を開いた。

「ここは塗り場といって、毎日、200個から300個の漆器を塗り上げているんです」

1日300個、気が遠くなるような数だ。漆器ってこうしてひとつひとつ、手塗りされているんだな。「そういえば、塗るのに使っているハケって、何の毛でできているんですか?」ふと浮かんだ疑問を口にすると、職人さんはよくぞ聞いてくれた、という顔をして、うれしそうに答えてくれる……。職人自ら、工房を案内してくれる/漆琳堂(写真撮影/Rui Izuchi)

職人自ら、工房を案内してくれる/漆琳堂(写真撮影/Rui Izuchi)

こんにちは、RENEW事務局長の森一貴です。

「RENEW(リニュー)」とは、福井県丹南エリアを舞台に開催される、ものづくりを“見て・知って・体験する”体感型マーケット。普段立ち入ることのできない産地の工房・企業が一斉開放され、来場者は自由に工房見学やワークショップを楽しむことができます。2020年の開催日程は10月9日(金)から11日(日)の3日間。

RENEWのイメージ・赤丸がはためく総合案内所(写真撮影/TOMART:PhotoWorks)

RENEWのイメージ・赤丸がはためく総合案内所(写真撮影/TOMART:PhotoWorks)

2015年に始まり5年の歳月を経たRENEWは、出展者約80社・来場者約3万人を数える、日本最大級のものづくりイベントに成長しました。今回はRENEWがどのようにして生まれ広がってきたのか、事務局の立場からお伝えしたいと思います。

工房を一斉開放し、ものづくりに触れる

福井県の中央部に位置する福井県丹南エリア(鯖江市・越前市・越前町)は、日本でも有数のものづくりの産地。越前漆器、越前和紙、越前打刃物、越前箪笥、越前焼、眼鏡、繊維の計7つの地場産業が、端から端まで車で約40分という狭い圏内に集まっています。

このエリアで年に一度だけ開催されるのが、ものづくりを“見て・知って・体験する”体感型マーケット「RENEW(リニュー)」です。

RENEW期間中は約80の工房や事業所を一斉開放。2m以上もある和紙の大紙を漉く(すく)現場に立ち会ったり、うずたかく積まれた木地のサンプルに圧倒されたり、眼鏡職人に手ほどきを受けながら自分オリジナルの眼鏡をつくったりと、ものづくりの産地ならではの体験ができます。

漆器の木地を手掛ける木工所。サンプルが所狭しと並ぶ/井上徳木工(写真撮影/TOMART:PhotoWorks)

漆器の木地を手掛ける木工所。サンプルが所狭しと並ぶ/井上徳木工(写真撮影/TOMART:PhotoWorks)

RENEWは2020年で6回目を迎えます。この5年の間に、丹南エリアの産地には新たな店舗やギャラリーが20店舗以上もオープン。さらに通年で工房見学を楽しめる施設も開設され、就職者・移住者も増加するなど、この町の景色は着実に変わってきています。

2019年にオープンした、福井のグッドプロダクトを扱うスーベニアショップ「SAVA!STORE」

2019年にオープンした、福井のグッドプロダクトを扱うスーベニアショップ「SAVA!STORE」(写真提供/TSUGI)

1701年創業の漆器メーカー「関坂漆器」の倉庫を改装したセレクトショップ/ataW

1701年創業の漆器メーカー「関坂漆器」の倉庫を改装したセレクトショップ/ataW(写真提供/ataW)

しかし、RENEWもはじめから成功を予期していた訳ではありません。2015年当時、RENEWはまだ始まったばかりの、小さな地方イベントにすぎませんでした。

待っていても、スーパーマンは来ない。合言葉は「ないならつくる」

RENEWが生まれたのは、鯖江市東部にある「河和田(かわだ)」という町。

三方を山に囲まれた中山間地域・河和田(写真撮影/instagram : @cityflaneurs)

三方を山に囲まれた中山間地域・河和田(写真撮影/instagram : @cityflaneurs)

河和田は人口約4000人と小規模な地区ながら、200近い漆器の工房を抱える越前漆器の里です。この町では「河和田アートキャンプ」というアートプロジェクトの卒業生を中心に、2010年ごろより徐々に移住して職人になる人が増えてきたそうです。

その移住者第一号が、RENEWの発起人。大阪府出身で、現在デザイン事務所・TSUGI(ツギ)の代表およびRENEWディレクターを務める新山直広さんです。

デザイン事務所TSUGIのメンバー。新山さんは左から三番目(写真撮影/TOMART:PhotoWorks)

デザイン事務所TSUGIのメンバー。新山さんは左から三番目(写真撮影/TOMART:PhotoWorks)

新山さんは、移住してきた職人の友人とよく話していたことがあったと言います。

「僕たちの仕事は、30年、50年後も残っているのだろうか」

越前漆器の売上はここ数十年、右肩下がりが続いています。当時、新山さんは鯖江市役所に勤めており、越前漆器の産業調査に取り組んでいました。その一環で東京を訪れた際、よく知る職人さんの漆器がワゴンセールで叩き売りされているのを見た新山さんは、愕然とします。

「もたもたしていたら、本当に産業がなくなるかもしれない」

そこで新山さんたちは、2013年に若手移住者によるサークル「TSUGI」を結成。自分たちで漆器をつくって河和田の食を楽しむ「ふくいフードキャラバン」など、自分たちなりの取り組みを始めていました。

福井新聞社と実施した、ふくいフードキャラバン「かわだ くらしの晩餐会」の様子

福井新聞社と実施した、ふくいフードキャラバン「かわだ くらしの晩餐会」の様子(写真提供/TSUGI)

その過程で思いついたのが、「工房を開放する」というアイデア。

漆器や眼鏡の工房が集積するのがこの町の強み。ならば実際に産地に来てもらい、職人と出会ってもらえば、ものづくりの価値は必ず伝わると新山さんは考えたのです。

そんな中で新山さんが出会ったのは、同じ河和田地区にある谷口眼鏡の社長であり、現RENEW実行委員長・谷口康彦さんでした。谷口さんは当時、河和田地区の区長会長。いわば村長としての目線で、「河和田をどうにかしなくては」と考えていたと言います。

谷口眼鏡の工場にて。右側が谷口さん

谷口眼鏡の工場にて。右側が谷口さん(写真提供/谷口眼鏡)

出会った二人はすぐに意気投合。その時の合言葉は「ないならつくる」。早速谷口さんが地元の有志に声をかけ、新山さんのアイデアを伝える場を設けました。

その最初の会議のことを、新山さんはこう振り返ります。

「待っていても、スーパーマンは来ない。欲しい未来は自分でつくるしかないんです。そう確信していたけど、やっぱり緊張しました。みんな下を向いて腕組みをしていて、本当に冷や汗がとまらなかったです」

第一回目のRENEW出展者会議

第一回目のRENEW出展者会議(写真提供/RENEW実行委員会)

会議風景。打ち合わせは深夜まで続くことも

会議風景。打ち合わせは深夜まで続くことも(写真提供/RENEW実行委員会)

「とはいえ、まずは一回やってみようよ」と、谷口さんが地域の人たちに声をかけてくれたことで開催が決定。手探りでパンフレットや看板、垂れ幕などをがむしゃらに準備し、なんとか2015年10月31日、第一回目の開催にこぎつけました。

しかしその「まずは一回」が、町を大きく変えることになりました。2015年のRENEW当日、来場者がひっきりなしに訪れ、普段は静かな河和田の町が人で溢れ返ったのです。

全国から来場者が集った/ろくろ舎(写真撮影/Rui Izuchi)

全国から来場者が集った/ろくろ舎(写真撮影/Rui Izuchi)

全国から来場者が集った/総合案内所の様子(写真撮影/Rui Izuchi)

来場者の多くが立ち寄った総合案内所の様子(写真撮影/Rui Izuchi)

初年度のRENEWのなかで、「忘れられないシーンがある」という新山さん。

「『この時期は忙しいんだよ』と、最後まで出展を渋っていた眼鏡の職人さんがいたんです。なんとか説得して参加してもらったのですが、打ち上げの時にその職人さんは、目に涙を浮かべながら『新山くん、本当にやってよかったよ、ありがとう』と伝えてくれたんです」

話を聞くと、彼の工房に眼鏡が大好きな青年がやってきたのだそう。東京から来たその青年にとっては、職人さんのありふれた作業のひとつひとつが新鮮で驚きに満ちたもの。職人さんの話を熱心に聞き、質問してくれたのが、本当にうれしかったと言うのです。

河和田地区にある眼鏡の工房/ハヤカワメガネ(写真撮影/Rui Izuchi)

河和田地区にある眼鏡の工房/ハヤカワメガネ(写真撮影/Rui Izuchi)

新山さんは「その話を聞いたとき、RENEWをやった意義があったなと、心の底から思えたんです」と、当時を振り返ります。

第一回目のRENEWは出展者21社、来場者約1200人。近年の来場者数から比べれば、少ない人数です。しかし、そこで事務局側も出展者側も全員が同じ景色を共有できたことが、後々の変化につながったのかもしれません。

その後、2017年には中川政七商店とコラボレーションした「RENEW×大日本市鯖江博覧会」を開催。越前市など河和田地区以外の地区を初めて巻き込み、4日間で約4万2000人の来場者が訪れました。

2017年の様子。中川政七商店の担当者は、半年以上福井に通い詰めた(写真撮影/TOMART:PhotoWorks)

2017年の様子。中川政七商店の担当者は、半年以上福井に通い詰めた(写真撮影/TOMART:PhotoWorks)

これを足がかりに、RENEWは市町村の枠組みを超え、7産業を巻き込むイベントに発展。2019年には、グッドデザイン賞や総務省ふるさとづくり大賞の受賞といった機会にも恵まれました。

和紙の原料を混ぜる様子/やなせ和紙(写真撮影/TOMART:PhotoWorks)

和紙の原料を混ぜる様子/やなせ和紙(写真撮影/TOMART:PhotoWorks)

蒔絵師の工房。小物づくりワークショップなどを実施/駒本蒔絵(写真撮影/TOMART:PhotoWorks)

蒔絵師の工房。小物づくりワークショップなどを実施/駒本蒔絵(写真撮影/TOMART:PhotoWorks)

「前を向こう」。変わり続ける町の覚悟

しかし2020年、RENEWを待ち受けていたのが新型コロナウイルスでした。株式会社和えるが6月に発表したレポートが報じたのは、このままの状況が続くと「伝統産業の4割が年内に廃業の危機」という現実。

RENEWも開催が危ぶまれる状況ではあったものの、イベント名を「Re:RENEW2020」に変更し、7月10日に開催を決断する宣言文を発表しました。

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「くたばってたまるか」、強いキャッチコピーと新しいイベント名には、コロナ禍での開催に向けて、「更に新しく変わっていこう」という覚悟が込められています。

もちろんRENEW実行委員会は、何度も中止を考えました。それでも開催へと踏み切った思いを、実行委員長の谷口さんはこう話します。

「今年は間違いなく、こうした産業観光イベントのほとんどが中止になりますよね。RENEWも、中止になっても止むを得ない状況だとは思います。……でも、その中でファイティングポーズをとり続けることがRENEWの役割だと思うんです。全国がコロナで打撃を受けているなかで、この町に対しても、日本全国の産地に対しても、“前を向こう”というメッセージを伝えていきたいんです」

谷口さんはRENEWを通じ「持続可能な地域づくり」を目指す(写真撮影/Rui Izuchi)

谷口さんはRENEWを通じ「持続可能な地域づくり」を目指す(写真撮影/Rui Izuchi)

コロナウイルスへの対応を考えると、今年の開催は例年に比べ、圧倒的に難易度の高い準備が必要であることは明らか。しかしその「前を向こう」という覚悟が、今年のRENEWを支えているのです。

更に「前を向こう」というメッセージに呼応して、内容にも大きな変化が生まれています。

今年は工房見学やワークショップを楽しめるRENEWに加え、“作り手”、“伝え手”、“使い手”を繋ぐマーケット「ててて往来市 TeTeTe All Right Market」の同時開催が決定。またオンラインでも「RENEW TV」や「オンラインRENEWストア」の実施が決まっています。

ててて往来市のイメージ。うるしの里会館の軒下で開催される

ててて往来市のイメージ。うるしの里会館の軒下で開催される(写真提供/ててて協働組合)

また、商品開発プロジェクト「RENEW LABORATORY」や、福井のものづくりを学ぶメディア「産地の赤本」といった新たな企画を次々に立ち上げ、準備を進めてきました。

RENEW LABORATORY。井上徳木工×堀内康広によるプロジェクト

RENEW LABORATORY。井上徳木工×堀内康広によるプロジェクト(写真提供/RENEW実行委員会)

加えて今年から、RENEWと産地のサポーターチーム「あかまる隊」を創設。県内外から約30名が集い、職人さんたちとの飲み会を企画したり、独自に動画配信を行ったりと、これまでのRENEWでは想像もできなかった景色が生まれています。

あかまる隊による訪問取材の様子

あかまる隊による訪問取材の様子(写真提供/RENEW実行委員会)

産地やRENEWを取り巻く環境はこの半年で、ものすごいスピードで変化してきました。新山さんはこの状況を「不謹慎かもしれないけれど、実は、少しワクワクしているんです」と述べます。

「町が変化するためには、危機感が重要だと僕はずっと思ってきました。それが今、産地の全員が同じ危機感を共有しています。これはものすごいチャンスなんです。今年はもしかしたら、産地の人々がもっと創造性をもって新たなプロダクトやサービスをつくっていくための、ひとつの元年になるかもしれません」

共につくろう、変わりつづけるものづくりのまちをRENEW実行委員会の幹部メンバー

RENEW実行委員会の幹部メンバー(写真提供/RENEW実行委員会)

職人たちが暮らす、ものづくりの町・福井県丹南エリア。

この町にあるのは、「つくる」という文化なのだと感じます。それはモノをつくることだけではなく、仕事や暮らし、人間関係、町、そして文化までをもつくりつづけていく、変わりつづける文化です。

2020年10月9日(金)~11日(日)の3日間にわたって開催される、「Re:RENEW2020」。前を向く産地の姿を、ぜひ見にきてください。

●取材協力
RENEW 2020
●編集
Huuuu.inc

「ふるさと副業」で個人と地域の成長を。福井県が取り組む関係人口の新しいかたち

地方と関わる新しい形、「ふるさと副業」が広がっている。都市部で働く人材が地方の企業や団体・自治体などの仕事に関わる働き方だ。前回(「地方に副業を持つ『ふるさと副業』が拡大中!地域とゆるやかにつながるきっかけを」)に続き、今回は実際の取り組み事例を、働き手と受け入れ側、双方の視点から紹介する。
自治体ながら民間の転職サイトを通じて「ふるさと副業」の求人を行った福井県 地域戦略部副部長の藤丸伸和さんと未来戦略課主査の岩井渉さん、「未来戦略アドバイザー(以下『アドバイザー』)」3名に話を聞いた。
プロの力を借りると同時に、関係人口増加を狙った

2019年9月、福井県では副業・兼業限定で「未来戦略アドバイザー」を公募した。業務内容は「県が策定を進める長期ビジョンを、県民に分かりやすく伝えるための広報戦略立案・実行」。勤務は月2回程度、うち1回は福井県を訪問することが条件で、1回の勤務あたり2万5000円が支払われる。

福井県 地域戦略部 の藤丸さん(左)と岩井さん(右)(画像提供/福井県)

福井県 地域戦略部 の藤丸さん(左)と岩井さん(右)(画像提供/福井県)

募集の背景には、2023年春に北陸新幹線が福井県敦賀市まで延伸されることがあるという。

「リニア中央新幹線の全線開業なども含め、福井を取り巻く交通ネットワークの整備が進み、来福者の増加が予測されます。⼀⽅で、他の地方同様、福井県も人口減少や高齢化の課題を抱えています。先を見越して働き方や暮らし方を考えていく必要がある。そうした背景から、20年先を見据えた長期ビジョンづくりを進めています」(藤丸副部長)

しかし、「県庁が決めたビジョンを発表する」という従来のコミュニケーションでは不十分と考えたという。

「県民の方に、ビジョンをいかに『自分ごと化』し、具体的な行動に移していただくかが重要です。しかし、県庁職員の未来戦略課のメンバーだけでは、『どのターゲットを巻き込むために、どのような手法・メッセージングが適切か』といった視点やスキルが不足していると感じていました」(岩井さん)

そこで、広報・マーケティングなど「伝える」ことに関するプロ人材を外部から募集することにしたという。

「兼業・副業限定で募集したのは、他の自治体において、この形式で数多くの応募があったことを知っていたからです。また、できるだけ多くの方に一定期間、何らかの形で地域に関わってもらうことが関係人口増加のためにも大切だと考えており、この形式を選びました」(藤丸さん)

当初は応募があるか不安視していたというが、蓋を開けてみれば想像をはるかに上回る421名の応募があった。スキルの高さと福井県に対する思いの強さ、最終選考でのプレゼン内容を基準に4名を選出。2019年11月より、実務にあたっている。

県外出身者も選出。県庁職員への好影響も任用されたアドバイザーの4名。左から大宮千絵さん、坂井美帆さん、瀬戸久美子さん、太田誠二郎さん(画像提供/大宮千絵さん)

任用されたアドバイザーの4名。左から大宮千絵さん、坂井美帆さん、瀬戸久美子さん、太田誠二郎さん(画像提供/大宮千絵さん)

今回話を聞いたアドバイザー3名のうち、大宮千絵さん、坂井美帆さんは福井県出身、瀬戸久美子さんは東京都出身だ。

坂井さんは、同県の高校卒業後、進学を機に上京して都内の大手PR会社や投資ファンドで10年以上にわたり広報・PRのキャリアを積んできた。応募したのは、「これまではふるさと納税をするくらいしか故郷に関与できなかった。自身が培ってきたスキルで貢献できる絶好のチャンス」という思いから。

同じく福井県出身の大宮さんは、大手自動車メーカーでマーケティングの経験を積んだ後、現在、開発途上国における飢餓や栄養失調問題に取り組むNPO法⼈TABLE FOR TWO InternationalのCMOを務めている。本業でも福井県から協賛を受けており、「恩返しの形を模索していた」中での応募だった。

一方、東京都出身の瀬戸さんは、『日経WOMAN』『日経トレンディ』の副編集長などを経て現在フリーランスで活動しており、これまではまったく福井と縁がなかったというが、「『福井モデル』(文藝春秋)という本を読み、幸福度や世帯年収が高く、社長輩出数も随一という福井県の特殊性に興味を持った」ことから応募に至ったそうだ。

任命後は、「広報・PR」「マーケティング」「編集」とそれぞれの強みを活かす形で活動している。

大宮さんは、福井県民自身がそれぞれの友人や仲間に声をかけて、未来について語り、発信する場を主催する取り組み「FUKUI未来トーク」を企画・実施。

坂井さんは「長期ビジョン」を県民が考えるきっかけとなるような各分野の第一人者を招いたセミナーを企画。県民がコンテンツに興味を持てるよう、福井県庁の方が主体となったSNSでの情報発信を行った。

瀬戸さんは長期ビジョンの方向性を、県民に伝わりやすいビジュアルデザインに落とし込んだり、Facebookやnoteを活用したメッセージ発信を行っている。県庁職員などに対して「伝え方講座」の実施も計画中だ。

アドバイザーたちの仕事に、県庁職員も良い影響を受けているという。
「私たちだけでは思い浮かばなかったアイデアをいただいたり、作成した案内チラシやSNSを見て『こう表現したら伝わるのか!』と学んだり。皆さんの仕事に刺激を受けて、職員のスキルレベルも上がっていると感じます」(藤丸さん)

アドバイザー任命後、初打ち合わせの様子(画像提供/福井県)

アドバイザー任命後、初打ち合わせの様子(画像提供/福井県)

中学1年生向けに実施した福井県長期ビジョンについての出前講座の様子(画像提供/福井県)

中学1年生向けに実施した福井県長期ビジョンについての出前講座の様子(画像提供/福井県)

副業で携わるアドバイザーの稼働時間は限られている。月2回程度、さらに現地を訪れるのは月1回という勤務体系の中で成果を生むために、各プロジェクトは県庁職員とアドバイザーでチームを組んで進めているという。

「アイデアの発想や企画はアドバイザーの皆さんが、事務作業や地域での交渉は県庁職員が得意とするところ。お互いの得意分野を活かして仕事を仕切っています」(岩井さん)

非出身者ならではの悩みも

非出身者である瀬戸さんは、「外から地域に入る」難しさを感じたこともあったという。
「『東京都の出身で、福井を知らない人に何ができるのか』と思う方もいると思いますし、指摘されたこともあります。それはどこの地域でも多少は起こり得るものですよね」(瀬戸さん)

「よそ者だからこそ持ちうる視点や、キャリアから来る強みを明確にして、具体的なアウトプットに落とし込もう!」と自分を奮い立たせたという瀬戸さん。その中で、本業で培った「聞く力」が役立ったと語る。

「自己アピールをするのではなく、相手のこと、地域のことを知って理解しようとする姿勢を示すことで、心を開いていただける。都市部に住んでいるからこそ感じられる福井の良さや、相手に対するリスペクトを言葉にすることも大切だと感じています。
福井を深く理解している方のほうが適している仕事は他のアドバイザーの方にお任せし、私は私にできることを最大限務めよう、と考えています」(瀬戸さん)

福井県(画像/PIXTA)

福井県(画像/PIXTA)

また、「ふるさと副業」のなかにはリモート業務だけで完結できるものもあるが、この福井県の未来戦略アドバイザーの場合は、月に1回現場に通う故の課題もある。3者とも、体調管理やタイムマネジメントは苦労したようだ。

「福井まで片道4時間ほどかかるので、長距離移動による体の負担はどうしてもあります。月曜夜に福井に帰って、火曜に県庁のお仕事をして、火曜の夜に東京に戻って水曜から本業…という2拠点生活にしばらくは慣れなくて、体調を崩したりもしました」(坂井さん)

瀬戸さんも、時間の使い方に工夫が必要と語る。
「実際に福井県に行く1日に人と会う予定を固めてしっかりインプットして、残りの1日分で一気にアウトプットしています。とはいえ、企画の仕事は明確にオンとオフを分けられるものではないので、常に頭の片隅にはある感じですね」(瀬戸さん)

2児の母である大宮さんも「自分の時間も体力も有限なので……さまざまなサービスを活用して家事を短縮するなど工夫はいりますね」と2人の意見に頷く。

また、会社勤めである坂井さんと大宮さんは「本業からの理解を得ることも大切」と口をそろえる。
「あらかじめ、どんな思いで福井県の仕事に取り組んでいるのか、本業側の仲間にも共有しています。結果として応援してもらうことができ、とてもありがたく感じています」(大宮さん)

アドバイザーと福井県出身の東京都在住者との座談会の様子(画像提供/福井県)

アドバイザーと福井県出身の東京都在住者との座談会の様子(画像提供/福井県)

仕事を通して得た人のつながりは、一生もの

課題はたくさんあったが、それでも「福井での仕事を通して得ているものの方がずっと大きい」というのが3人の共通見解だ。

「福井県に顔の見えるつながりができたことは自分にとってすごく大きな価値。顔の見えるつながりができると、その地域への興味関心がぐっと高まりますよね。福井県で起こるニュースが他人ごとではなくなって、自分ごととして捉えられるようになりました。
両親が福井に行きたいと言っているので、落ち着いたら福井旅行も計画したいと思っています」(瀬戸さん)

「福井の良い面を改めて知ることができました。学生時代の友人やこの仕事を通じて知り合った福井の方々と、福井の未来について話すことができたり、実家の家族とも定期的に会える機会ができて、福井の大切な人とのつながりを以前よりも密に感じます。自分の気持ちの豊かさも増していると感じますね。
ともに働くアドバイザーや県庁職員の方からも刺激を受けて、自分のキャリアを考える中でも大切な機会になりました」(大宮さん)

「アドバイザーの活動を、SNSを通して知った本業の仕事関係の方から、『福井つながりで』と人を紹介して頂いたことが何件かありました。アドバイザーの仕事で出会う方々だけでなく、こうした機会を通じて人のつながりがより一層広がっていっていると感じます。

東京にいる本業の同僚たちも興味を示してくれて、福井に全然ゆかりのない先輩や同僚も『福井通』になってくれているんですよ。そのこともとてもうれしく思っています」(坂井さん)

この仕事を通じてできた仲間や人脈が何よりの宝。契約期間終了後も、福井とのつながりを大切にしていきたい――3人は笑顔でそう語ってくれた。

福井県(画像/PIXTA)

福井県(画像/PIXTA)

「今回の取り組みは、福井県庁にとってトライアル的なもの」と藤丸さんは語る。

「今回のケースをきっかけに、他の部や課にも外部のプロフェッショナル人材を招いたプロジェクトを展開できるのではないかと考えています。また、アドバイザーの皆さんのスキルを、未来戦略課以外の部や課で活かすこともできるのではないかと。

私たちが最終的に目指しているのは、福井県内の中小企業と都市部のプロフェッショナル人材をマッチングさせる仕組みをつくることです。地域に根差した中小企業の力と、優れたスキルやノウハウを持った方々の力をコラボレーションさせることで、福井の産業をさらに発展させられると確信しています。今回の取り組みは、その構想を実現させる第一歩ですね」(藤丸さん)

“仕事”を通すからこそ生まれる「信頼関係」「地域との絆」

自身の故郷や関心のある地域と関係を持つ方法として、ふるさと納税、観光、移住といった選択肢は今までもあった。「ふるさと副業」の特徴は、「仕事」という機会を通しているからこそ、地域での人間関係の基盤となる「信頼」や、「地域との絆」と呼べるような愛着が生まれている、という点ではないだろうか。

地方副業のマッチングサイトをのぞいてみると、本当にさまざまな仕事がある。今回のようにキャリアを積んだプロフェッショナル人材を求めるケースもあれば、学生向けの募集なども存在する。

「移住」よりはハードルが低く、「ふるさと納税」や「観光」より深いつながりを生みだす新しい選択肢として。「ふるさと副業」は今後も広がっていきそうだ。

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●取材協力
福井県 地域戦略部 未来戦略課