人口減少と空き家増加の課題、住まいに困っている人と空き家のマッチングで活路。高齢者や低所得者などの入居サポート、入居後の生活支援も 福岡県大牟田市

近ごろ話題になることの多い空き家問題。福岡県大牟田市では、住宅系部門管轄の空き家を活用するために、福祉系部門の民生委員が調査を行いました。空き家の状態を調査し、住宅を必要とする人とのマッチング、他の支援団体と連携して包括的な生活の支援を目指しています。

他の自治体のお手本になりそうなこの取り組み、大牟田市都市整備部建築住宅課の今福信幸さん、西山妙佳さん、NPO法人大牟田ライフサポートセンターの牧嶋誠吾さん、三浦雅善さんにお話を聞きました。

大牟田市の空き家問題と住宅要確保配慮者の実情とは

福岡県大牟田市は、かつては炭坑節でも知られる三池炭鉱が栄え、1960年代には20万人以上の人でにぎわう、日本の高度経済成長を象徴する街でした。しかし閉山と共に人口は減り、現在では多くの自治体と同様に、人口減少や高齢化などの問題を抱えています。

増え続ける空き家問題も深刻です。
大牟田市の今福さんによると、2019年に実施した調査では2912件の空き家が存在し、2016年からわずか3年で1138件も新たに空き家が増えているとのこと。現状のまま利用できる空き家が減少し、修繕が必要だったり利用が困難だったりする建物が増えていることがわかります。

大牟田市では、人口の減少とともに空き家の増加も問題になっている(資料提供/大牟田市)

大牟田市では、人口の減少とともに空き家の増加も問題になっている(資料提供/大牟田市)

一方、何らかの事情で住まい探しに困っている高齢者、障がい者、ひとり親世帯、外国人など「住宅確保要配慮者」と呼ばれる人たちも増え続けています。

これらの問題を解決しようと、大牟田市では、2012年から行動を起こし始めました。同年、住まい探しが困難な人たちの入居や生活をサポートする団体としてNPO法人大牟田ライフサポートセンターが誕生。翌2013年には、不動産関係団体や医療・福祉関係団体らと情報を共有し、円滑に居住支援を行うための場として「大牟田市居住支援協議会」が立ち上がりました。現在、協議会の事務局は大牟田市の建築住宅課と大牟田ライフサポートセンターが共同で担っています。

大牟田市では全国の取り組みと比べてもかなり早い時期から見守りや、空き家を居住支援に利活用するためのワークショップを行い、関係者間で問題を共有することが居住支援協議会立ち上げの素地となっていった(資料提供/大牟田ライフサポートセンター)

大牟田市では全国の取り組みと比べてもかなり早い時期から見守りや、空き家を居住支援に利活用するためのワークショップを行い、関係者間で問題を共有することが居住支援協議会立ち上げの素地となっていった(資料提供/大牟田ライフサポートセンター)

空き家の実態を調査するために、民生委員と学生が活躍!

現在は大牟田ライフサポートセンターの事務局長であり、当時は大牟田市の職員だった牧嶋さんは、増え続ける空き家を住まいの問題を抱える人たちの受け入れ先として利活用できないか、と考えました。そのためには、まず空き家が「市内のどこに、どれくらいあるのか」の把握と「空き家の老朽状態の確認」をする必要がありますが、市の財政は厳しく、予算もなければ人も足りません。

大牟田ライフサポートの牧嶋さん(右)。かつては大牟田市職員として、住宅部局と福祉部局両方の仕事を経験したため、双方の仕事や考え方も理解した上で「居住支援とは暮らしの基盤を整えることで、決して箱だけを提供するものではない」と話す(写真撮影/りんかく)

大牟田ライフサポートの牧嶋さん(右)。かつては大牟田市職員として、住宅部局と福祉部局両方の仕事を経験したため、双方の仕事や考え方も理解した上で「居住支援とは暮らしの基盤を整えることで、決して箱だけを提供するものではない」と話す(写真撮影/りんかく)

そこで牧嶋さんたちは300人の民生委員(※)に協力を求めることを思いつきました。ところが、当初は相談しても「厚生労働大臣から委嘱され活動している民生委員は、自治体職員の下請けではない」「なぜ私たちがやらなくてはならないのか」と反対意見も多かったのだとか。

「日ごろから築いてきた人間関係を武器に『空き家利活用は地域の問題でもある』ということを何度も説明し、最終的には24校区の内、23校区に協力してもらうことができました。地域で支える認知症の取り組みなど、長期にわたる行政と民間(民生委員)の協働という土壌があったからできたのだと思います」(牧嶋さん)

※民生委員/厚生労働大臣から委嘱された非常勤の地方公務員で、地域住民の立場から生活や福祉全般に関する相談・援助活動を行う。地域社会のつながりが薄くなっている現在、子育てや介護の悩みを抱える人や、障害のある方・高齢者などが孤立し、必要な支援を受けられないケースがある中、身近な相談相手となって、支援を必要とする住民と行政や専門機関をつなぐパイプ役を務めている

民生委員たちは地域に精通しているので、地図を見ただけでどこに空き家があるかを把握していることも多い。この空き家調査でデータだけではわからなかった、市内の空き家の位置や数が明らかに(画像提供/大牟田市)

民生委員たちは地域に精通しているので、地図を見ただけでどこに空き家があるかを把握していることも多い。この空き家調査でデータだけではわからなかった、市内の空き家の位置や数が明らかに(画像提供/大牟田市)

さらには、市内の高等専門学校の建築学科の先生に相談し、学生たちに空き家の老朽度調査を実施してもらえないかを相談。結果、かかった費用は民生委員に渡した蛍光ペン代と学生たちのアルバイト代を合わせて、約90万円でした。

空き家と、住まいに困っている人たちをつなぐ仕組み

この調査で得られた情報をもとに、牧嶋さんたちは本格的な空き家を利活用した居住支援に踏み出します。
2014年には、住宅確保要配慮者向けWEB情報システム「住みよかネット」を立ち上げました。入居を希望する人と空き家のオーナーをマッチングするだけではなく、入居してからの暮らしも見据えた「居住支援」の相談窓口へとつなげるものです。

「住みよかネット」では、空き家の所有者などから許可を得た物件情報を掲載。借りたい人や購入したい人が物件を探せるだけでなく、問い合わせることで居住支援の窓口につながる(画像提供/大牟田市居住支援協議会)

「住みよかネット」では、空き家の所有者などから許可を得た物件情報を掲載。借りたい人や購入したい人が物件を探せるだけでなく、問い合わせることで居住支援の窓口につながる(画像提供/大牟田市居住支援協議会)

大牟田市の居住支援では、住宅の確保から入居支援まで、大牟田市居住支援協議会が窓口となりつつ、入居後の生活支援に関しては居住支援法人であるNPO法人大牟田ライフサポートセンターなどの支援団体が主となって支援していく体制をとっています。ここまでが住宅施策、と区切ってしまうのではなく、互いに連携をとり、必要なところを補い合いながら業務を分担しているところが特徴的でしょう。

「私たち大牟田市居住支援協議会は、空き家所有者と入居希望者を結びつける『仲人』です。オーナーに行政や福祉の窓口に相談にきた相談者の人となりを紹介しながら、現場でお見合いをしてもらいます。この、第三者が間に入るトライアングルの関係と運用の仕組みづくりが重要なんです」(牧嶋さん)

入居後も支援団体が間に入ることで、オーナーが直接対峙するのを避け、入居者に起こっている問題解決のための相談に乗ることができるわけです。

住宅確保の相談から生活支援までの流れ。「居住支援とは、ただ家を紹介するのではなく、空き家物件の確保から、入居サポート、さらには入居後の生活の支援まで、住宅と福祉、両方の支援が必要」だと、牧嶋さんは言う(画像提供/大牟田市)

住宅確保の相談から生活支援までの流れ。「居住支援とは、ただ家を紹介するのではなく、空き家物件の確保から、入居サポート、さらには入居後の生活の支援まで、住宅と福祉、両方の支援が必要」だと、牧嶋さんは言う(画像提供/大牟田市)

住宅の確保には、空き家を提供するオーナーさんを継続して募集しています。
空き家を貸し出すことができれば、オーナーさんはその収入を建物の維持管理に充てることが可能。空き家のまま放置して劣化が進み、倒壊の恐れや相続の際のトラブルの原因になったりするリスクも減らせるので、オーナーさんにとってもメリットです。

オーナーさんから相談が入ると、市役所の建築住宅課の職員と大牟田ライフサポートセンターのスタッフとが一緒に現地に空き家調査に赴きます。

「大牟田市に空き家の相談が寄せられる件数は年間約80件ほど。オーナーさんの希望を聞きながら利用が可能か、取り壊さないと危険なのか建物状況を調査し、使用可能な場合は利活用の道をオーナーさんと共に相談していきます。行政職員が一緒に同行することでオーナーさんも安心して活用を検討できます」(大牟田ライフサポートセンター 三浦さん)

「調査に伺うと、家財道具の処分などを希望されることもあります。市としては特定の会社を紹介することができませんが、NPO法人である大牟田ライフサポートセンターなら直に紹介できるので、オーナーさんも、市としても助かります」(大牟田市 西山さん)

大牟田市職員の西山さん(左)と大牟田ライフサポートセンターの三浦さん(右)(撮影/りんかく)

大牟田市職員の西山さん(左)と大牟田ライフサポートセンターの三浦さん(右)(撮影/りんかく)

困っている人たちにとって「本当に必要な支援は何か」を見極める

大牟田市では、居住支援を行う際、相談に来る人たちに必ずお願いしていることがあります。それは、居住支援協議会の事務局である大牟田市の職員と大牟田ライフサポートのスタッフ以外に、メインとなる支援者をつけること。最初の相談時点で支援者が誰もいない場合は、支援団体への紹介も行っているそうです。

また、大牟田市においては近年、ひとり親世帯、特に母子家庭の困窮者が目立つと言いますが、住まいに困っている人の事情はさまざま。単純に高齢者の問題、低所得者の問題、といったように分類して区切れるものではありません。

「住まい探しだけに困っているケースはごくわずかです。多くの場合、仕事やそれに伴う収入、医療・介護の必要性など、さまざまな問題が複雑に絡み合っているため、よくよく話を聞くと、その人に必要なのは住まいではなく、生活に紐づく複数の問題だったりします。

現場でメインとなる支援者とは別に、私たち大牟田ライフサポートでは、面談を通じた適切なアセスメント(その人自身や周りの人、環境に及ぼす影響を把握すること)によって、相談内容の本質はどこにあるのか、必要な支援は何かを見極めるのです」(牧嶋さん)

住まい探しの相談にくる人は、住まいだけでなく、さまざまな問題を抱えている場合が多い。相談者ごとに本当に必要な支援をしていくため、居住支援協議会以外にメインとなって支援をしていく団体をつけるようにしている(資料提供/大牟田ライフサポートセンター)

住まい探しの相談にくる人は、住まいだけでなく、さまざまな問題を抱えている場合が多い。相談者ごとに本当に必要な支援をしていくため、居住支援協議会以外にメインとなって支援をしていく団体をつけるようにしている(資料提供/大牟田ライフサポートセンター)

居住支援を継続していくためのポイントや課題は?

大牟田市の住宅部局と福祉が連携をとって、居住支援を押し進める事ができるのは、以前から協働の土壌があったことが大きいでしょう。さまざまな分野の人が集まって福祉的視点からの空き家利活用などについて話し合うワークショップを開催するなど、コミュニケーションを重ねてきました。

「民生委員だったり、地域の住民だったり、民間の企業とも関わっていく必要があります。居住支援を広げたいと考えるときも、最初の一歩は現場で属人的な関わりをきっかけに動いていくことが大事です」(牧嶋さん)

そして、今後改善すべき点を聞いたところ、間髪を入れずに「運営費です!」との答えが返ってきました。

「基本的に、お金にゆとりのない人を支援の対象者にしています。既にある制度に則った支援には補助金がつきますが、NPO職員の人件費など、運営費を確保していくのも大変だということを基礎自治体にもっと知っていただきたい。居住支援は行政サービスの一環だという認識がもっと広まってほしいと思います」(牧嶋さん)

居住支援だけで事業を成り立たせるのは至難の業。継続的な支援のための運営費を確保していくことが大牟田市のみならず、居住支援の現場の課題といえそうです。

大牟田市都市整備部建築住宅課課長の今福さん。牧嶋さんと一緒に長年大牟田市の住宅施策、居住支援を推し進めている(撮影/りんかく)

大牟田市都市整備部建築住宅課課長の今福さん。牧嶋さんと一緒に長年大牟田市の住宅施策、居住支援を推し進めている(撮影/りんかく)

空き家をセーフティネット住宅として活用していくことは、国としても目指しているところです。しかし、うまく推し進められている自治体はまだまだ多くはありません。そんな中で、大牟田市は非常にうまく、住宅と福祉が連携している例と言えます。

300人もの民生委員が空き家調査に動いたり、市の職員とNPO法人が常に一緒に活動を行う大牟田市の居住支援は、常日頃から良好な人間関係を築いてきたからこそ。大牟田市の協働の姿勢は、他の地域にも参考となるヒントがいろいろとあるのではないでしょうか。

●取材協力
・大牟田市居住支援協議会
・住みよかネット
・大牟田市
・大牟田ライフサポートセンター

食の工場の街が「食の交流拠点」にリノベーション! 角打ちや人気店のトライアルショップ、学生運営の期間限定カフェなどチャレンジいっぱい 福岡県古賀市

リノベーションの魅力や可能性を広く発信するアワード「リノベーション・オブ・ザ・イヤー」。2023年度、連鎖的エリアリノベーション賞というユニークな名前の賞を受賞したのが、JR古賀駅西口エリアの商店街を中心に展開されている「食の交流拠点」の整備を中心としたエリアリノベーションだ。エントリーの際の作品名には「お手本のようなエリアリノベーション」とも掲げられているプロジェクト。どんなまちのリノベーションが行われているのか。その全貌を知るために、西口エリアへ足を運んでみた。

(株式会社ヨンダブルディー)

(株式会社ヨンダブルディー)

シャッター商店街に新たな点と線を

福岡市に近接する利便性と豊かな自然を併せ持ち、県内有数のベッドタウンとして人気の古賀市。市内にはJRの駅が3つ、九州自動車道の古賀インターチェンジなどもあり、JR及びマイカーでのアクセスの良さが魅力。まちの中心にある西口エリアは、かつて商機能の集積地として栄えていた。インターネット消費が盛んになったライフスタイルの変化に加え、国道3号・国道495号沿いにIKEAをはじめ大規模な集客施設が進出。ここ数年、商機能の拠点が大きく変化してきた。また、福岡の私鉄「西鉄宮地岳線」の最寄駅が廃駅になったことや、JR古賀駅に連絡橋がかけられ駅の東側からも行き来ができるようになったことが人の流れに大きな打撃を与えている。店主の高齢化が進みシャッター商店街となった西口エリアをなんとか再起させることはできないか。住民はもちろん、行政の中でも大きな課題となっていた。

JR古賀駅の西口周辺(写真撮影/加藤淳蒔)

JR古賀駅の西口周辺(写真撮影/加藤淳蒔)

まちおこし請負人木藤亮太さん率いるチームがプロポーザルに参加

古賀駅の待ち合わせ場所で、まず満面の笑顔で取材チームを出迎えてくれたのがこのまちの首長こと田辺一城市長だ。聞けばこのまちには「#市長と気軽に会えるまち」というハッシュタグが存在するぐらい、抜群のフットワークの持ち主だ。もともと、このエリアで生まれ育ったという田辺市長。市長就任後に、商店街の状況に対策を打つために取り組んだのが、エリアマネジメントのプロポーザル企画だ。

写真左から田辺一城市長、プロジェクトマネージャーの橋口敏一さん、設計担当の田村晟一朗さん、プロデューサーの木藤亮太さん。官民の近さもプロジェクトの推進力になっている(写真撮影/加藤淳蒔)

写真左から田辺一城市長、プロジェクトマネージャーの橋口敏一さん、設計担当の田村晟一朗さん、プロデューサーの木藤亮太さん。官民の近さもプロジェクトの推進力になっている(写真撮影/加藤淳蒔)

希望は広がる一方で、ハードルも高いこのプロポーザルに立ち上がったのが、まちづくり界隈で一目置かれる木藤亮太さん率いるチームだ。木藤さんといえば、“猫も歩かない”と言われた宮崎県日南市の油津商店街を再生したことで、「地方創生」の成功事例として全国区で高い評価を得ている。その後も福岡県那珂川市をはじめ九州各地でのプロジェクトや、全国でまちおこし請負人として活躍している。

3年間の任務の間に自走できる流れをつくる

プロポーザルでは、どんな提案をしたのか?そんな質問に木藤さんがゴソゴソと取り出してきたのが、手書きの文字が一面に記された大きな模造紙だ。まさに、プロポーザル提案時に使った資料であり、まちの人たちへの説明にも使われた資料なのだそう。そこには、3年間でどうまちを変化させるのかが、模造紙いっぱいに手書きで記されている。行政の事業は多くが3年程度を区切りにしている。しかし、エリアリノベーションの土壌づくりは、3年で終わるものではない。そこで、木藤さんたちが大切にしたのが「自走できる仕組みをつくる」こと。3年間の流れを記したスケジュールは、模造紙におさまりきれない。その後、さらに自走へと繋がっている。

(写真撮影/加藤淳蒔)

(写真撮影/加藤淳蒔)

あえてアナログな手書きの企画書が、まちの未来図となっている(写真撮影/加藤淳蒔)

あえてアナログな手書きの企画書が、まちの未来図となっている(写真撮影/加藤淳蒔)

30代のプレイヤーが活躍できる場のフレームを

フレームをつくるにあたってのヒアリングで気づいたのは、30代ぐらいの若いプレイヤーが、あまり関われていないこと。そこで、そういう世代が動きだすきっかけとなる“活躍の場”をつくることの大切さを感じたという木藤さん。地元の若手を含めたメンバーで、まちづくりの運営会社を立ち上げることにする。4WDと書いて「ヨンダブルディー」と読むその会社の主要メンバーは、木藤さんチームのメンバーが2名に、Uターンで家業を継いだ6代目の店主、古賀を拠点に動画マーケティングやシティプロモーションを手がける会社を経営する計4名だ。よそ者・わか者をうまくブレンドした運営体制を立ち上げたことで、特定の誰かだけではなく、誰でも関われる余白のあるリノベーションに取り組む狼煙を、しっかりと上げたわけだ。

まちづくり運営会社、株式会社ヨンダブルディーの立ち上げ時の様子(写真撮影/株式会社ヨンダブルディー)

まちづくり運営会社、株式会社ヨンダブルディーの立ち上げ時の様子(写真撮影/株式会社ヨンダブルディー)

ところで、コンセプトとして掲げる「食の交流拠点」とはどういう意味をもつのか?それを紐解く鍵は、古賀市の産業構造にある。全国区で有名なドレッシングを手掛ける工場や、ローカルで人気のインスタントラーメンの工場、全国区のパンメーカーの製造工場など、食料品製造品出荷額は県内2位という現状がある。また、プロジェクトの初期に「地元にどんな場所があったらいい?」と地道なヒアリングを行ったところ、住民から口を揃えてでてきたのが「もう少し気軽でカジュアルに食を楽しめる場所が欲しい」という声。さらに、ヨンダブルディーのメンバーの一人、ノミヤマ酒販の許山さんがもつ、これまでの商売の中で大切に構築してきた生産者や飲食事業者とのつながりを活かすことができる。そんな、古賀市に根付く食の文脈を取り入れているというわけだ。

ノミヤマ酒販の角打ちコーナーは、お酒をきっかけに人と人との出会いを楽しむことができる(写真撮影/橋口敏一)

ノミヤマ酒販の角打ちコーナーは、お酒をきっかけに人と人との出会いを楽しむことができる(写真撮影/橋口敏一)

食の交流拠点施設「るるるる」の立ち上げ

1年目の信頼関係の構築を経て、2年目に着手したのは拠点づくり。
その一歩となったのが、レンタルシェアスタジオとしてサブリースをはじめた社交場の意味をもつ「koga ballroom(コガボールルーム)」だ。もともと長年、社交ダンスの教室として借りていた方が、生徒の高齢化とコロナ禍による生徒数の減少によって手放そうとしていた物件を借り直してリノベーション。若者のダンススペースや子育てママのサロンやヨガ教室など多目的で利用できる「まちの社交場」をコンセプトとしたシェアスペースとして運用している。もともと社交ダンス教室を運営していた先生も、時間貸しで再び利用してくれている。

(写真撮影/橋口敏一)

(写真撮影/橋口敏一)

ヨガやダンススタジオだけでなく、イベントの拠点としても活用されているkoga ballroom(写真撮影/橋口敏一)

ヨガやダンススタジオだけでなく、イベントの拠点としても活用されているkoga ballroom(写真撮影/橋口敏一)

次に元化粧品店だった空き店舗を活用して、旗印を掲げたのが「まちの企画室」。メンバーの橋口敏一さんは一時、この場所の2階に住居まで移して、住民との交流を深めていた。

(写真撮影/橋口敏一)

(写真撮影/橋口敏一)

地元の高校生や大学生の期間限定カフェなどもこのまちの企画室で行われている(写真撮影/橋口敏一)

地元の高校生や大学生の期間限定カフェなどもこのまちの企画室で行われている(写真撮影/兒玉健太郎)

そして、エリアリノベーションのシンボルとして完成させたのが食の交流拠点施設「るるるる」だ。
駅前の商店街通りを少し入ったところにある「るるるる」の建物は、もともと、音楽教室として使われていた物件だ。設計に加わったのは、リノベーション・オブ・ザ・イヤーの受賞でも常連の、リノベーションを得意とする建築家・タムタムデザインの田村晟一朗さん。もともとピアノ5台ほどが備えられていた教室だったので、それなりに広さのある建物だ。ここでは、気軽に食を楽しめる場をつくれるように、あえて出店者の敷居を低くするための工夫がいくつか施されている。

タムタムデザイン田村さん(写真右)によって建築が進められている様子(写真撮影/橋口敏一)

タムタムデザイン田村さん(写真右)によって建築が進められている様子(写真撮影/橋口敏一)

音楽教室の面影を残しながらも、大きく変化した「るるるる」外観(写真撮影/加藤淳蒔)

音楽教室の面影を残しながらも、大きく変化した「るるるる」外観(写真撮影/加藤淳蒔)

ひとつが、一階の大きなスペースを占めるシェアキッチンとイートインスペースだ。シェアキッチンは、日替わりや短期間で利用可能なスペース。近隣の人気店が期間限定で出店したり、飲食をはじめたい人のトライアルスペースになったりもする。利用料はキッチンスペースぶんだけ、食事のできるイートインスペースはお客に自由に使ってもらえる仕組みとなっている。ただ、ここを使えるのはシェアキッチンのお客だけではない。ヨンダブルディー直営のパン販売ショップのお客も使えるし、一階角の小さなスペースを賃貸するスコーンとハンドメイドのアクセサリー店「jugo.JUGO(じゅごじゅご)」さんで買ったものも食べられるし、時には1階に入居する洋風居酒屋「bar ponte(バルポンテ)」の団体客が利用することもできる。さらには、打ち合わせで使う人もいれば、お茶を飲みながらのんびりおしゃべりも楽しむことができる。ほどよく自由な空間が、いろいろな交流を生み出そうとしている。ちなみに、2階は音楽教室や洋服のリフォーム店、写真家のアトリエやドローンのプログラミングスクールを運営する事務所などが入居。一部屋はもともとの音楽教室だった時代にピアノの講師として通っていた先生が再度利用している。

るるるるの室内。写真手前が誰でも使えるフリースペース。奥に備えられているのがシェアキッチン(写真撮影/大田聖)

るるるるの室内。写真手前が誰でも使えるフリースペース。奥に備えられているのがシェアキッチン(写真撮影/大田聖)

るるるるの室内。商店街に面する食物販ショップではパンや雑貨が販売されている。食物販ショップをヨンダブルディーが直接運営することで、リアルな接客の中からまちづくりのニーズをヒアリングしている(写真撮影/大田聖)

るるるるの室内。商店街に面する食物販ショップではパンや雑貨が販売されている。食物販ショップをヨンダブルディーが直接運営することで、リアルな接客の中からまちづくりのニーズをヒアリングしている(写真撮影/大田聖)

ただ、ヨンダブルディーで目指しているエリアリノベーションは、決してこれらの場所のにぎわいを生み出すことだけではない。いくつかの点を根付かせて繋いでいくことで、エリア全体の回遊の楽しさを深めることにある。こうした地道な活動をいくつも重ねていく中で、最初は距離を置いて見守っていた住人の人たちもだんだんと交流をもってくれるようになってきた。地元の方から「先代から継いだ大切な建物を手放したいけれど、どうにかならないか?」などの声をいただくことも増えてきた。そこで、場所と入居したい人とをつなぐリーシング的な役割も出てきた。最近は、書店が出店したり、アメリカンダイナーの出店が決まったり、着実にエリアの活性化が広がろうとしている。

関係者がこれからの課題として口にしているのが、持続性だ。地域の人はもちろん、外の人も訪れて多様な交流が生まれるのが理想。しかし、もともと衰退が進んでいる商店街。魅力的で面白いコンテンツを提供していかないと、なかなか足を運んでもらえない。まちづくりは立ち上げるだけでなく、継続的な運営によって思いをつなぎ、小さくても一歩一歩進んでいくことが重要。その一歩一歩の手がかりになりそうなのが、最初に見せてもらった大きな模造紙のようだ。思いの原点であり、まちの変化を記録しつづける大きな地図。時々振り返りながらも、掲げる目標へ向かってまっすぐ歩み続ける。古賀のエリアリノベーションは、日本の商店街にも大きな活路を見出してくれそうな「お手本のような」プロジェクトであった。

駅前にオープン予定の新店舗。ヨンダブルディーが、空き家と新しい運営者につないだ事例のひとつ。「何ができるの」と、地元の人たちも興味津々(写真撮影/加藤淳蒔)

駅前にオープン予定の新店舗。ヨンダブルディーが、空き家と新しい運営者につないだ事例のひとつ。「何ができるの」と、地元の人たちも興味津々(写真撮影/加藤淳蒔)

●取材協力
株式会社ヨンダブルディー
株式会社タムタムデザイン

福岡県・福岡市「住みたい街ランキング2023」駅1位は博多! 沿線は「西鉄天神大牟田線」に注目集まる

リクルートより「SUUMO住みたい街ランキング2023福岡県版/福岡市版(駅/自治体)」が発表された。福岡県在住の20歳〜49歳の男女1,600人にアンケート調査を行ったものだ。前回の2020年と比べてどんな変化があったのかも併せて紹介。約3年間での福岡の街の変化についても考察してみたい。

2023年「住みたい街(駅)」ランキングは、JR鹿児島本線「博多」が第1位!福岡県 住みたい街(駅)ランキング

福岡市の「博多」と北九州市の「小倉」がワンツートップ!
※今回の調査(2023年)では2020年調査と集計方法を変更しており、変更のあった対象駅。2023年は一定ルールのもと乗換可能な駅は駅名や路線が異なっても同一駅として得点を合算している

2023年の「住みたい街(駅)」ランキングでは「博多」駅が第1位を獲得した。九州の玄関口と言われる「博多」駅周辺は、福岡市による再開発プロジェクト「博多コネクティッド」によって、大きく変化している注目のエリアだ。

その一例が、以前はビジネス街が中心で落ち着いた印象であった「博多駅筑紫口」側の活況である。エリアのシンボルである「都ホテル博多」もプロジェクトのひとつとして2019年にリニューアル。最上階に天然温泉の屋外プールやスパ施設、2階には一般客も入りやすいレストランを有した“おしゃれなスポット”として認知されている。「博多」駅とも地下通路で直結され、今後ますます注目を集めそうだ。

博多駅筑紫口の「都ホテル博多」(写真/PIXTA)

博多駅筑紫口の「都ホテル博多」(写真/PIXTA)

ほかにも「博多」駅より延伸された屋根付きペデストリアンデッキで直結し、人気ベーカリーやおしゃれなイタリアンバルが入ったオフィスビル「博多深見パークビルディング(2021年2月完成)」、屋外広場やカフェバーを有し旧博多スターレーン跡地に誕生した「博多イーストテラス(2022年8月完成)」などが続々と誕生している。

福岡県の「穴場だと思う街(駅)」ランキングも「博多」が1位! 福岡県の総合ランキング24位「春日原」は10位に福岡県 穴場だと思う街(駅)ランキング

※今回の調査(2023年)では2020年調査と集計方法を変更しており、変更のあった対象駅。2023年は一定ルールのもと乗換可能な駅は駅名や路線が異なっても同一

駅として得点を合算している「交通利便性や生活利便性が高いのに家賃や物件価格が割安なイメージがある駅」という意味合いで、福岡県の「穴場だと思う街(駅)」を調査。その結果は「住みたい街(駅)」と同じく、「博多」駅が1位だった。

九州の玄関口である「博多」駅は福岡県のJR在来線・地下鉄が乗り入れ、福岡空港へも地下鉄で5~6分と、その利便性はいわずもがな。一方で駅から少し離れた徒歩圏内にはマンションやアパートが点在し、博多駅南や堅粕(かたかす)方面には家賃に値ごろ感のある物件も豊富。専門学校が多いので、学生が住める街であるのも「穴場の街」感をUPさせたポイントだ。

イルミネーションがきれいな博多駅(写真/PIXTA)

イルミネーションがきれいな博多駅(写真/PIXTA)

「住みたい街(駅)」では24位でありながら、「穴場の街(駅)」では10位と順位をあげてきたのは春日市の「春日原」駅。急行停車駅なので、西鉄天神大牟田線「福岡(天神)」駅からのアクセスは約9分。2024年には西鉄の高架化とそれにともなう駅周辺の再開発が完了。新しい街に生まれ変わる。

また、住宅価格の高騰が続く福岡市に比べて、家賃や住宅価格に値ごろ感があるのもうれしいところ。「春日原」駅から徒歩6分の「イオン大野城」には映画館もあるなど、施設面の充実もうれしいところだ。

「住みたい沿線」ランキング第1位は「JR鹿児島本線」、2位は「西鉄天神大牟田線」福岡県 住みたい沿線ランキング

「西鉄天神大牟田線」の人気の上昇にも注目

「住みたい沿線」ランキングでは、「JR鹿児島本線」と「西鉄天神大牟田線」が地下鉄各路線をおさえて、1位と2位に。特に近年住宅地として注目が集まるのは、福岡市の南部から南に延びる「西鉄天神大牟田線」で、なかでも沿線の「大橋」駅は「住みたい街(駅)」ランキングで2020年の9位から6位に順位を伸ばしたほどの人気ぶりである。

西鉄大牟田線「大橋」駅(写真/PIXTA)

西鉄大牟田線「大橋」駅(写真/PIXTA)

西鉄天神大牟田線の特急・急行が停車する「大橋」駅。「西鉄福岡(天神)駅」から5分程度と中心部へのアクセスの良さで人気があり、駅構内の「レイリア大橋」にはスーパーマーケットから、居酒屋、カフェ、ベーカリーなど飲食店、ファッション、生活雑貨、書店などの生活に欠かせない店舗がそろう。また、2022年にオープンした「ららぽーと福岡」へも「大橋」駅から直通バスが出ており10分程度でアクセスできることで、さらに人気が増したと思われる。

福岡県「住みたい自治体」ランキングでは「福岡市南区」「福岡市城南区」「北九州市小倉南区」の順位がアップ

福岡県 住みたい自治体ランキング

福岡県「住みたい自治体」ランキング1位は「福岡市博多区」。僅差で2位の「福岡市中央区」が続く形となった。

4位に順位をあげた「福岡市南区」は、注目の街(駅)の「大橋」駅が中心地のエリア。2023年4月、南区民の憩いの場所だった油山市民の森・油山牧場が、複合体験型アウトドア施設「ABURAYAMA FUKUOKA」にリニューアル。おしゃれなキャンプエリアも登場し、福岡市民からも注目される存在となった。「大橋」駅から「ABURAYAMA FUKUOKA」へは車で20分ほど。身近な場所に自然あふれる施設があるのも住環境としてこの上ないぜいたくだ。

「大橋」駅からも車で20分の「ABURAYAMA FUKUOKA」(写真/PIXTA)

「大橋」駅からも車で20分の「ABURAYAMA FUKUOKA」(写真/PIXTA)

8位に順位を上げた「福岡市城南区」は、地下鉄七隈線が博多駅まで延伸したことが大きい。天神方面・博多駅方面へのダブルアクセスがかない、交通の利便性がUP。福岡大学のお膝元「七隈」駅や落ち着いた住宅地である「梅林」駅周辺も注目が集まる存在となっている。

「小倉南区」はその郊外にカルスト台地が広がる平尾台があり、自然豊かなエリア。こちらも「ABURAYAMA FUKUOKA」同様に、身近なエリアで気軽にキャンプが楽しめるので、ファミリー層から認知や支持を集めているのかもしれない。

小倉南区の平尾台には美しいカルスト台地が広がる(写真/PIXTA)

小倉南区の平尾台には美しいカルスト台地が広がる(写真/PIXTA)

福岡市「住みたい街(駅)」ランキングは10位の「香椎」に注目。「住みたい自治体ランキング」1位は「福岡市中央区」福岡市民 住みたい街(駅)ランキング

※今回の調査(2023年)では2020年調査と集計方法を変更しており、変更のあった対象駅。2023年は一定ルールのもと乗換可能な駅は駅名や路線が異なっても同一駅として得点を合算している

福岡市民「住みたい街(駅)」ランキングで年々順位を上げているのは「香椎」駅だ。福岡市東区の中心地である「香椎」駅は、駅入口の朱色の大きな鳥居が象徴しているとおり、古くから親しまれ今も参拝者で賑わう「香椎宮」と共に発展した街。

福岡市東区民に愛される香椎宮(写真/PIXTA)

福岡市東区民に愛される香椎宮(写真/PIXTA)

駅周辺は、1999年から続いた大規模な再開発が完了しており、駅前ビル、道路、ロータリーが整備され、歩道は広く歩きやすくなった。また、「JR香椎」駅と「西鉄香椎」駅は徒歩2~3分と乗換可能な距離。隣駅の「千早」駅もJRと西鉄が乗り入れており、交通の利便性が非常に良い立地である。

福岡市民 住みたい自治体ランキング

さらに福岡市民「住みたい自治体ランキング」では「香椎」駅のある「福岡市東区」は第3位に浮上。福岡県「住みたい自治体」ランキング4位だった「福岡市南区」も同じく順位をあげ、福岡県民・市民の両方から「住みたい」と思われていることが分かった。

今後も、福岡市が中心とはなるが「天神ビックバン」「博多駅コネクティッド」「九州大学跡地の開発」など、さらなる開発が続いていく福岡県。これから人々の注目がどの街に集まり、どのように「住みたい街」が変化していくのか興味深く観察を続けていきたい。

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SUUMO住みたい街ランキング2023 福岡県版/福岡市版

高齢化率30%の北九州市が居住支援のフロントランナーに。官民連携の理想モデルが全国で話題 市&NPO抱樸インタビュー

高齢者や生活困窮者の住宅確保と自立支援を一体的に進めるため、厚生労働省と国土交通省が連携して取り組む『地域共生社会づくりのための「住まい支援システム」構築に関する調査研究事業』実施自治体として、2022年度まで選定された全国5市の1つ、福岡県北九州市。かつて北九州工業地帯の中核として繁栄したこの街は、今は全国の政令指定都市の中で最も高い30%を超える高齢化地域となりました。同時に単身・高齢世帯は、オーナーや不動産会社が物件の提供を拒否する対象となりやすいことから、住宅確保問題の課題先進地域となっています。

事業実施自治体として選出された背景には、ホームレスや居住困難を抱える人たちに寄り添い尽力してきたNPO法人や困窮者問題に取り組む民間の不動産会社の存在と、行政との連携・協働体制がありました。全国から注目されるようになるまでの軌跡や北九州市における居住支援の今、そして今後の課題を当事者の皆さんに聞きました。

高齢化とともに拡大した「住まいの確保に困難を抱える人たち」

北九州市 建築都市局 住宅計画課の尋木さやかさんと樋口泰輔さん(取材当時、現在は別部署に異動)によると「北九州市において住まいの確保に配慮が必要な人の中でも特に増加しているのが、高齢者」だと言います。高齢者の単身世帯や夫婦のみで暮らしている世帯は市内に11万世帯を超え、高齢者のいる世帯の60%以上に達し、今後も増加が見込まれます。

「また、障がいがある人のうち、知的障がいと精神障がいのある人が2017年以降はおよそ2万6000人を数え、少しずつ増加傾向にあります。その一方で、市営住宅の世帯数に占める割合は2022年度末現在で全国の政令市平均の約2倍、管理戸数にして約3万2000戸程度あるものの、将来的な世帯数の減少予測などを踏まえ、2055年までに約2万戸まで減らす計画が進行中です」(北九州市 樋口さん)

北九州市の高齢者は年々増え続け、特に単身世帯や夫婦のみの世帯が増加している。また、障がいのある人の数自体は横ばいだが、知的障がいのある人、精神障がいのある人は増加傾向にある(資料提供/北九州市)

北九州市の高齢者は年々増え続け、特に単身世帯や夫婦のみの世帯が増加している。また、障がいのある人の数自体は横ばいだが、知的障がいのある人、精神障がいのある人は増加傾向にある(資料提供/北九州市)

市営住宅を減らしていくためには、すでに十分存在している民間の賃貸住宅への入居を増やしていくことも必要です。しかし、賃貸オーナーや管理会社の中には、孤独死や近隣トラブルなどを懸念し、高齢者や障がい者などの受け入れに消極的なところも少なくありません。市営住宅に安価で入居できていた人たちが、新たに居住困難に陥ることがないよう、貸し手の不安を軽減しながら、民間の賃貸住宅に入居しやすくなるような支援がますます必要です。

国のモデル事業に指定された、北九州市の居住支援とは

北九州市は、厚生労働省と国土交通省が行う『地域共生社会づくりのための「住まい支援システム」構築に関する調査研究事業』実施自治体に選定されています(他に2022年度までに選定されたのは神奈川県座間市、兵庫県伊丹市、宮城県岩沼市、石川県輪島市)

「2012年には、北九州市・居住支援団体・不動産関係団体からなる『北九州市居住支援協議会』を設立し、居住支援の体制をつくってきました。さらに市内の不動産会社に呼びかけ、高齢者や障がいのある人が安心して賃貸住宅を探せるよう協力する不動産会社を『住まい探しの協力店』として登録しています。住まい探しの協力店は高齢者世帯・障がい者世帯であることを理由に入居を拒むことはありません」(北九州市 尋木さん)

住宅確保要配慮者の民間賃貸住宅への円滑な入居の促進を図るために、2012年に北九州市・居住支援団体・不動産関係団体からなる北九州市居住支援協議会が設立された(資料提供/北九州市)

住宅確保要配慮者の民間賃貸住宅への円滑な入居の促進を図るために、2012年に北九州市・居住支援団体・不動産関係団体からなる北九州市居住支援協議会が設立された(資料提供/北九州市)

さらに北九州市では、居住支援協議会と居住支援法人とがより密接に連絡・連携を図るため、2022年2月に「居住支援法人連絡協議会」を設置しており、2022年度から会長及び副会長が委員として正式に居住支援協議会に参加しています。

北九州市では、居住支援法人の存在をより多くの不動産会社やオーナーに届け、理解を深め、住宅確保要配慮者の民間賃貸住宅への円滑な入居に協力を得られるよう、動画やリーフレットによる普及啓発活動も行っている(画像提供/北九州市)

北九州市では、居住支援法人の存在をより多くの不動産会社やオーナーに届け、理解を深め、住宅確保要配慮者の民間賃貸住宅への円滑な入居に協力を得られるよう、動画やリーフレットによる普及啓発活動も行っている(画像提供/北九州市)

NPOが行政に提言。「行政がやるべきこと」と「民間がやるべきこと」

市民協議会の発足などを先導してきた NPO法人の抱樸は、低所得層や高齢者への支援活動を行ってきました。

しかし、かつては、低所得者や高齢者、障がい者などへの福祉的な支援や対応について、抱樸と北九州市の福祉部門の間で意見がぶつかることもあったそう。転機となったのは、2003年に抱樸から「行政がやるべきこと」と「民間がやるべきこと」を提言書としてまとめて行政(北九州市)に提出したことだったといいます。

これを機に、行政と民間の協働が本格的に始まります。

「私たち抱樸は、最初にアパート5部屋を借り上げて、低所得者や障がいのある人が社会への自立を目指していくための『自立支援住宅』をつくりました。民間の団体がスピードをもって実践してみせた結果、その3年後に北九州市は自立支援住宅を参考に、50床を有し、24時間支援員を配置し、朝・昼・夕の3食を提供する『ホームレス自立支援センター』を立ち上げたのです。

民間だけでこれだけの規模の施設をつくることはとてもできません。行政ができることと民間ができることは違うので、これからの住宅問題においても、その間をどう繋げていくかの議論が重要になってくると思います」(抱樸 奥田さん)

北九州市が立ち上げたホームレス自立支援センター。抱樸に委託する形で運営されているが「ここまでの規模の支援施設を民間だけの力で立ち上げることは難しい、行政との協働が必要だ」と奥田さんは語る(資料提供/抱樸)

北九州市が立ち上げたホームレス自立支援センター。抱樸に委託する形で運営されているが「ここまでの規模の支援施設を民間だけの力で立ち上げることは難しい、行政との協働が必要だ」と奥田さんは語る(資料提供/抱樸)

2017年以降、支援の実務を担う抱樸は、居住支援の枠組みを作る組織「北九州市居住支援協議会」に、居住支援法人としてオブザーバー参加。行政と民間の繋ぎ役として、新しい一歩を踏み出します。さらに2019年ごろからは福祉部門だけでなく、北九州市の住宅部門とも協働するようになりました。北九州市内の居住支援法人の代表として行政と民間を繋ぐ役割を果たし、現在、奥田さんは先に紹介した「北九州市居住支援法人連絡協議会」の会長としても活動を続けています。

地域の不動産会社との連携で、民間の賃貸住宅を提供しやすくなる仕組みづくり

さらに抱樸は、先で紹介した「自立支援住宅」を皮切りに、社会生活に困難を抱える人たちの状況に応じたさまざまな形態の住まいを提供してきました。自分で生活できる人に対しては入居できる住宅の提供を、生活の支援が必要な人には24時間生活支援付きの共同居住施設を運営しています。

しかし、奥田さんは「高齢者や障害のある人、ひとり親家庭など、住まいを必要とする人が多様化するなか、多くの人に必要なのは、ただ家を提供するのではなく、社会とのつながりを支援する住宅と暮らしの一体型支援」だと考えています。そこで行き着いたのが、「地域居住型」の居住支援でした。

抱樸が行っている居住支援。利用者の状況によって提供する支援も変わるが、図のBのような、住宅と一部見守りや互助支援で社会参加を支える「地域居住型」のニーズが高まっているという(画像提供/抱樸)

抱樸が行っている居住支援。利用者の状況によって提供する支援も変わるが、図のBのような、住宅と一部見守りや互助支援で社会参加を支える「地域居住型」のニーズが高まっているという(画像提供/抱樸)

地域居住型の住宅支援は、住まいの確保に困難を抱える人たちが一般の民間賃貸住宅に入居し、地域に見守られながら支援を受けて暮らしていくものです。この形態を維持しながら運営し続けるためには、人手もお金も必要です。また、民間企業の理解や協力も欠かせません。

北九州市で不動産業を営んでいる田園興産は、1981年ごろから北九州市内でワンルームマンションを中心に住宅を供給している会社です。田園興産の代表・田園直樹さんは、抱樸から「住宅の確保に配慮が必要な人が入居できる住宅を提供してもらえないか」との相談に、自社の所有する築30年超えのマンション60室を「家賃は通常家賃の6割、入居者が入ってからの家賃支払い」という条件で、抱樸にサブリース(一括借り上げ)形態で物件を貸すことにしました。

「本来、サブリースは、管理者が複数の住戸を一括で借り上げてオーナーに定額の家賃を支払う方式なので、空き部屋が出ると管理者(このケースでは抱樸)がリスクを負うことになります。田園さん(オーナー)が居住支援に対して理解があり、抱樸にとってリスクの小さい条件設定をしてくれたおかげで、公的な資金に頼らずに支援費を出すことができるようになりました。3万円の家賃の物件を抱樸が2万円で借り上げ、その差額が入居者の生活支援を行うスタッフの人件費などに充てられています」(抱樸 奥田さん)

これにより抱樸では、性別や年齢、収入などにかかわらず、多様な人たちを受け入れることができるようになりました。

プラザ抱樸など借上型支援付住宅は、抱樸が家主(オーナー)からマンションを借り受け、入居者に部屋を提供するサブリース型。入居者が支払う家賃から、見守りなどの支援費用が充てられる(画像提供/抱樸)

プラザ抱樸など借上型支援付住宅は、抱樸が家主(オーナー)からマンションを借り受け、入居者に部屋を提供するサブリース型。入居者が支払う家賃から、見守りなどの支援費用が充てられる(画像提供/抱樸)

しかし、この破格の条件は、企業の事業として成立するのでしょうか。

「奥田さんから物件を貸してほしいとお話をいただいたのはちょうど、建設時の融資の返済が終わった時期です。マンションが古くなり空室も多くなっていたため、そのままで部屋の状態が悪くなっていくよりも、どなたかに住んでもらったほうが良いと考えました。借金の返済が終わっていたので、『6割の家賃』でも『入居してから家賃発生』でも当社が損をすることはなく、事業として問題はなかったのです」(田園興産 田園さん)

ただし「田園興産のような会社は稀有」だと奥田さんは話します。一般的な物件の管理契約では、オーナーの考えや、すでに入居している人たちへの配慮などにより、入居できる人が限られてしまう可能性もあります。そのため抱樸は、一括借り上げのマスターリースという方法を選択することで、審査を自分たちで行い、オーナーの意志に大きく影響されずに住まいを必要とする人が入居できるようにしたのです。

見守り支援付き住宅「プラザ抱樸」は、先の画像で「B2.借上型支援付地域居住」として運営しているもの。抱樸が一括で借り上げて管理することで、オーナーの意志に影響されることなく、どのような人でも入居できるようになった(画像提供/抱樸)

見守り支援付き住宅「プラザ抱樸」は、先の画像で「B2.借上型支援付地域居住」として運営しているもの。抱樸が一括で借り上げて管理することで、オーナーの意志に影響されることなく、どのような人でも入居できるようになった(画像提供/抱樸)

今後は「支援付き住宅」ではなく、「住宅付き支援」が必要

奥田さんは、今後の居住支援は、福祉と住宅の連携がますます必要になってくるといいます。

「福祉に携わっている人は、不動産の取引や法制度についてよく知らない人が多く、不動産業界の人は福祉のことをほとんど知りません。お互いの領域を勉強していかないと、理解し合うことができずに話が進まなくなってしまいます。

そして、机上の会議や勉強会を行うのではなく、いま目の前の困っている人にどう対応するか、実際に動いていくことが大事です」(抱樸 奥田さん)

また、日本の社会保障制度は、家族がいてその支えがあることが前提となっていますが、実際は総世帯のおよそ40%が、いざというときに支える家族や相談できる相手がいない単身世帯です。

日本の医療や介護といった社会保障制度は家族がいることが前提だが、現在は40年前とは違い、総世帯数のおよそ40%が単身世帯というのが現実(画像提供/抱樸)

日本の医療や介護といった社会保障制度は家族がいることが前提だが、現在は40年前とは違い、総世帯数のおよそ40%が単身世帯というのが現実(画像提供/抱樸)

この現状を踏まえ、奥田さんは今後の居住支援のあり方に関しても提言します。

「これからの居住支援は、身内に頼れない単身者を社会とどうつなげていくかを真剣に考えなければなりません。これまで当たり前のように家族が担ってきた機能をこれからは社会が担う『家族機能の社会化』を目指すべき、というのが私の考えです。これからは私たちのような第三者が単身者と社会とをつなぐ役目を果たしながら、新しい民間のあり方や制度が必要とされています」(抱樸 奥田さん)

家族や企業の支援が前提の従来の日本型社会保障制度では成り立たなくなっている。家族や企業の支援が受けられない人たちを取りこぼさない、新しい支援や制度が必要(画像提供/抱樸)

家族や企業の支援が前提の従来の日本型社会保障制度では成り立たなくなっている。家族や企業の支援が受けられない人たちを取りこぼさない、新しい支援や制度が必要(画像提供/抱樸)

「住まいにおいては、これまでのように生活支援と住宅をセットにした『支援付き住宅』だけではなく、切れ目のない伴走型の支援の中でその時々に合わせた住まいを提供する『住宅付き生活支援』という考え方へのシフトが必要です。その実践のためにはより多くの低廉な民間賃貸住宅が必要で、先のサブリース形態やオーナーさんが福祉部分をアウトソースするような形が有効に働くと考えます。不動産会社、とくに管理会社にとってこれはビジネスチャンスにもなり得るのではないでしょうか」(抱樸 奥田さん)

奥田さんの言葉に、居住支援と福祉は決して別々に考えることはできないことを改めて認識しました。

住まいの確保に困難を抱える人たちの支援を定めた住宅セーフティネット法を、空き家や空室を活用し減らすための法律と捉える自治体も多いようですが、居住支援とは、住まいを提供するだけのものではありません。社会的な孤立や孤独をどう防ぐかが、奥田さんが目指す「助けを必要としている人が『助けて』と言える、助け合える街。誰もが一人にならない、誰もが安心して暮らせる街」を実現する鍵となるのではないでしょうか。

そのためには行政がつくる土台を前提に、支援が必要な人たちに寄り添い、継続して支援するNPO法人や民間企業が果たす役割は大きいと感じました。

特に高齢化と単身化が進む日本で、これまで身内が担ってきたケアを支援や制度でどうカバーしていくのか、住宅付き生活支援型の居住支援が全国規模で実現する日が来るのか、北九州市の居住支援、今後の展開にも目が離せません。

●取材協力
・北九州市
 北九州市居住支援協議会
 居住支援法人に関する情報提供
・NPO法人 抱樸
・株式会社田園興産

平屋を愛しすぎて東京・福岡で二拠点生活&専門誌を自費出版。賃貸平屋を渾身DIYしたアラタ・クールハンドさんの暮らし

全ての暮らしがコンパクトに収まり、毎日の生活で上下移動が必要のない「平屋」。今、世代を問わず平屋を選ぶ人たちが増えています。そんな平屋を愛しすぎたゆえ、東京と福岡の二拠点生活で異なる平屋暮らしを楽しんでいる人がいます。平屋暮らしの提唱者として知られている、文筆家・イラストレーターのアラタ・クールハンドさんです。二拠点生活×平屋、一体どのような暮らしをしているのでしょうか。お話をうかがいました。

東京の平屋はDIY可賃貸。自分好みにカスタム中

平屋暮らしの魅力を伝えている文筆家・イラストレーターのアラタ・クールハンドさん。
アラタさんは戦後建てられた木造平屋を「FLAT HOUSE」と命名し、自身の審美眼で捉えた全国各地の平屋たちを紹介する活動をしています。2009年以降に出版した『FLAT HOUSE LIFE1+2』、自費出版による一冊一軒の『FLAT HOUSE style』、九州地方のフラットハウスを紹介した『FLAT HOUSE LIFE in KYUSHU』といった本の数々は、多くの平屋ファンの心をくすぐっています。

アラタさんが執筆した著書の数々(写真撮影/桑田瑞穂)

アラタさんが執筆した著書の数々(写真撮影/桑田瑞穂)

そんなアラタさん、2013年から東京と福岡の二拠点生活をしています。

アラタさんが東京の拠点を構える場所は、郊外にある閑静な住宅街。駅から徒歩で15分くらいはある距離でしょうか。一戸建てが建ち並ぶエリアの一角に、こぢんまりとした平屋が見えてきます。

「いらっしゃい~」と近くまで迎えにきてくれたアラタさん。

白壁が可愛らしい、アラタさんが借りている東京の文化住宅。文化住宅とは、大正時代中期以降から流行した、庶民向けの洋風の住宅のこと(写真撮影/桑田瑞穂)

白壁が可愛らしい、アラタさんが借りている東京の文化住宅。文化住宅とは、大正時代中期以降から流行した、庶民向けの洋風の住宅のこと(写真撮影/桑田瑞穂)

真っ白な柱や壁が印象的な平屋。なんとDIY可能な賃貸住宅なのだそう。これまで都内で平屋を転々としてきたアラタさんは、家を探す際に必ずDIY可能な平屋を探していたそうです。もちろん今回の家に引越した際もDIY可能な平屋というのが条件。この家は、知人から紹介してもらい、決めたそうです。

「もちろんDIYは大家の了解があってこそ、というところは気をつけるべきところですね。クオリティの高いDIYをほどこせば自分が退去する際にも次に借り手がつきやすいんです。それは貸し手・借り手双方にとってメリットがありますよね」と、アラタさんは話します。

平屋の中には部屋が3室あり、全体で50~60平米ほどの広さ。1LDKくらいの規模感です。

「僕にとってはどこに何の物があるかがちゃんと分かることや掃除が簡潔にできるというのが結構重要なポイントで。このフラットハウスの気に入っているところは、ひと目で見渡せるコンパクトさですかね。窓辺からは景色もよく見えるし気持ちいいですよ。仮に大金持ちになったとしても、お手伝いさんを雇わないと暮らせない家には住みたくないなあ。自分で自分のことができないサイズの家には興味がないということも、平屋暮らしをしている理由かもしれませんね」(アラタさん)

入居1ヶ月半前に壁と天井を抜き、スケルトン状態にしてから施工を開始。完成後は採光率も上がって窓辺のデスクで手を動かす時間が何よりの至福だそう(写真撮影/桑田瑞穂)

入居1ヶ月半前に壁と天井を抜き、スケルトン状態にしてから施工を開始。完成後は採光率も上がって窓辺のデスクで手を動かす時間が何よりの至福だそう(写真撮影/桑田瑞穂)

写真右部分の窓は壁を抜いて、自身でカスタム。玄関からリビング、キッチン、作業場、寝室まで見渡せるつくり(写真撮影/桑田瑞穂)

写真右部分の窓は壁を抜いて、自身でカスタム。玄関からリビング、キッチン、作業場、寝室まで見渡せるつくり(写真撮影/桑田瑞穂)

明日は何が起きるか分からない。ひとつの場所に留まる息苦しさ

二拠点で、かつそれぞれ一戸建ての平屋暮らしと聞くと、なんだか費用がかさみそうなイメージです。しかし、アラタさんは「二拠点生活に踏み切れたのは、やはり賃貸住まいだったことが大きいでしょうね。もちろん今住むどちらの家も貸家です」と、秘訣を教えてくれました。

元のキッチン設備は激しい老朽化から全撤去。ユニットも採寸して一から再製作しています(写真撮影/桑田瑞穂)

元のキッチン設備は激しい老朽化から全撤去。ユニットも採寸して一から再製作しています(写真撮影/桑田瑞穂)

「古い平屋暮らしは自分で暮らしをカスタマイズすることができるプラットフォームなんです。特に築年数が古い平屋の賃貸は、DIYが可能な物件が多いんです。家賃が低廉なので自費投入しても懐の痛みも少ない。ここも一般の工務店に頼んだら400~500万円はかかるけど、自分で作業をすれば材料費だけ。そういう楽しみがあるところが古い賃貸平屋の魅力ですね」(アラタさん)

窓辺にあるワークスペースでは、執筆作業やイラスト制作をしています。この日は、福岡でのイベントに向けたフライヤーの制作をしていました(写真撮影/桑田瑞穂)

窓辺にあるワークスペースでは、執筆作業やイラスト制作をしています。この日は、福岡でのイベントに向けたフライヤーの制作をしていました(写真撮影/桑田瑞穂)

ワークスペースからすぐに庭のデッキへと出ることができます。季節の移ろいをすぐに感じることができるのは、コンパクトな平屋の魅力(写真撮影/桑田瑞穂)

ワークスペースからすぐに庭のデッキへと出ることができます。季節の移ろいをすぐに感じることができるのは、コンパクトな平屋の魅力(写真撮影/桑田瑞穂)

海外ネットオークションで購入したオールド・トイ(写真撮影/桑田瑞穂)

海外ネットオークションで購入したオールド・トイ(写真撮影/桑田瑞穂)

2011年に起きた東日本大震災。人々はみな、こんなにも予測不可能なことが起きるのかと、大きな衝撃を受けました。アラタさんもそのひとり。さらに2020年以降コロナ禍になり、人生はますます1年先のことが分からないと思ったそうです。

「両親とも東京出身なので自分にとって、いわゆる“田舎”がなかったんです。そういう拠点と呼ばれる場所に憧れがあった。そういう時に震災が起きまして。家族全員が東京にいると、何かあった時に避難する場所がないということに震災で気付かされました。それを解決するためにも、フリーになったときから憧れていた地方との多拠点生活に挑んでみようと。インフラの拡充など利便性が向上している今なら、そう難しくはない。そんなとき好条件の平屋が東京と福岡同時に見つかって、踏み切りました。九州は以前から一度住んでみたいと思っていたので、迷う理由はありませんでしたね」(アラタさん)

こうして、アラタさんは新たな拠点として福岡に家を借りることを決断します。

「周囲には完全移住したものの、溶け込めずに引き返してくる例も。東京に拠点を残しておけば焦る気持ちも半減するし、仮にうまくいかなかったとしても引き返すことができると思っていました」(アラタさん)

福岡県の新たな拠点 出会いは人の縁だった

南のエリアにもう一つの拠点を設けたいと思っていたアラタさんは、知り合いを通じて福岡県へ訪れることになります。

「13年の春、福岡の不動産業の友人から米軍ハウスが売りに出ていると聞き、九州旅行ついでに物件を見に行ったんです。現地に着いて偶然目にした別の空き家もまた米軍ハウスで、そっちにひと目惚れしてしまいます。首尾よくオーナーと連絡が取れましたが、面接があると聞いてこれは無理だなと諦めたものの、友人の尽力もあってご縁をいただきました。その夏にめでたく入居し、現在に至ります」(アラタさん)

福岡県のある海辺の町。徒歩数分で美しい景色が望めるといいます(画像提供/アラタ・クールハンドさん)

福岡県のある海辺の町。徒歩数分で美しい景色が望めるといいます(画像提供/アラタ・クールハンドさん)

こうして福岡にも拠点を見つけ、二拠点暮らしが始まったアラタさん。

「海辺のこぢんまりとした町は、暮らしてみると、とても快適。天神までは船に乗る必要があるけれど、その距離は15分くらい。天神に出てしまえばなんでもそろうし、空港も近いからどこへ行くにも不便がないんですよ。チェーン店が少なく、個人の商店が多くて、自然な賑わいがあるんですよね。スピード感のある東京とは違い、穏やかで豊かな文化圏を築いているように見えます。東京との違いを味わえるところが魅力です」(アラタさん)

福岡県にある自宅。築年数は約70年だそう(画像提供/アラタ・クールハンドさん)

福岡県にある自宅。築年数は約70年だそう(画像提供/アラタ・クールハンドさん)

東京と福岡。平屋だからこそ実現できたミニマムな暮らし

現在、1年の3分の1を東京で過ごし、残りは福岡で暮らすアラタさん。

南の方に憧れがあって拠点を設けたものの、もちろん福岡には知り合いが多くいたわけではありませんでした。しかし暮らしていく中で、アラタさんの著書の読者や、近隣に住まう人とコミュニケーションをとるようになり、徐々に知り合いが増えていったといいます。

米軍ハウスに入居の際、アラタさん自身が床を張り替えたそう(画像提供/アラタ・クールハンドさん)

米軍ハウスに入居の際、アラタさん自身が床を張り替えたそう(画像提供/アラタ・クールハンドさん)

「こちらで出会った方と、日々の暮らしを通してゆるやかにつながっていったんですよね。観光局の人と地域活性化につながるマーケットや街歩きなど、一緒に面白いことができないかなと、話もしていますよ」(アラタさん)

お気に入りのアンティーク家具や食器、インテリアに囲まれて(画像提供/アラタ・クールハンドさん)

お気に入りのアンティーク家具や食器、インテリアに囲まれて(画像提供/アラタ・クールハンドさん)

「東京か福岡か。自分の拠点をどちらか一つに絞らないとかなって時々思うことも。とはいえ両方にコミュニティがあるってすごくいいなと思って。自分にとってのサードプレイスなのでしょうね」とアラタさんは話します。

「今、時代が大きく変わっている。10年前と比べると、生き方も暮らし方もずいぶん多様ですよね。いつ暮らし方が変化するか分からないから、身軽に過ごしたいと思う人も多いと思うのです。そういう人に、僕は平屋暮らしはおすすめしたいですね。身の丈に合わせた暮らしに変えてみると、心地よく過ごすことができるんじゃないかな」(アラタさん)

今回紹介したような、「コンパクトな賃貸の平屋で、リーズナブルに暮らす」ということを思い浮かべると、狭そうなイメージが先行して、実際に暮らすイメージが湧かない人もいるかもしれません。しかし、アラタさんのように拠点を複数持ちたい人、さらにDIY可物件であれば暮らしをカスタマイズしてみたい人には、とてもメリットがありそうです。何より持ち物や暮らしのサイズをミニマムにする人が増えている今、「足るを知り、余白を感じる」ことができる毎日は、平屋で実現できそうだと感じますね。

●取材協力
・アラタ・クールハンド
・再評価通信

高齢者・外国人・LGBTQなどへの根強い入居差別に挑む三好不動産(福岡)、全国から注目される理由とは

日々の生活を送る上で、安心して暮らせる場所があることは重要です。しかし、高齢者や低所得者層、外国人など、住まいを探してもさまざまな事情により入居先を確保することが困難な人たちの問題が今も存在します。
福岡県を中心に活動している三好不動産は、持続可能な社会の実現に向けて、「すべての人に快適な住環境の提供を」のマインドを常に持ち続けています。三好不動産の川口恵子さんと原麻衣さんに取り組みや、その思いについて、話を聞きました。

「お客様が希望する住環境を提供できない」不動産賃貸業界における問題

福岡のまちには、企業や大学が多く存在します。また、地の利も良いことから、海外からの留学生や移住者、日本で仕事をする人も増え、投資の対象としても注目されてきました。

下図は福岡市が民間賃貸住宅事業者に対して行ったアンケート結果(「福岡市住宅確保要配慮者賃貸住宅供給促進計画(2019年3月)」より抜粋)です。2016年時点で実に67.5%の民間の不動産会社が「入居を断ることがある」と答えており、その対象として「外国人」「ホームレス」「高齢者世帯」では3割以上の会社で入居を制限しているという実態がありました。

家を探そうとしても、断られてしまう人たちがいる(画像提供/福岡市)

家を探そうとしても、断られてしまう人たちがいる(画像提供/福岡市)

「当社は『すべての人に快適な住環境の提供をしたい』という基本姿勢のもと、かねてより高齢者や外国人、DV被害者、災害時の住宅提供など、さまざまなニーズにいち早くお応えしてきました。住まい探しに困っている方がいるのであれば、なんとか力になりたいといった社風があります。どのような方がお部屋探しにいらっしゃっても、基本的にお断りすることはありません」(原さん)

すべての人に快適な住環境の提供を!三好不動産が舵を切った分岐点

三好不動産はもともと多様性には理解のある社風でしたが、中でも社員の意識が大きく変わったきっかけがあったといいます。それは、2008年にプロジェクトを立ち上げ、外国人の入居希望者を積極的に受け入れるようになったこと。原さんは、当時のことを「“ありとあらゆる人たちに住環境を提供するのだ”と、社員全員がはっきりと意識する分岐点になった」と感じているそうです。

外国人の従業員も採用するようになり、現在は中国、ベトナム、ネパール、韓国出身の13名が三好不動産で働いており、このうち9名が宅地建物取引士の資格を取得しています。

「2008年当時、福岡で外国人に物件を紹介していた不動産会社は、三好不動産だけだったような気がします。他社よりも外国人への理解はそれなりにあると思っていたのですが、新たに外国人スタッフが加わったことで、今まで当たり前と思っていたことに対して『私の国ではこうです』と指摘され、文化の違いを知ることもあり、お互いの凝り固まった見方とはまた違った考え方や“世界から見た日本”の視点に気付かされることが、たくさんありました」(原さん)

現在、三好不動産が支援する住宅確保に配慮が必要な人たちは、多岐にわたります。外国人や高齢者、LGBTQ、DV被害者、被災者など、抱える問題や事情に違いはあれど、対応していこうとする姿勢に変わりはありません。

「身寄りがないなどの理由で賃貸住宅を借りることが困難な高齢者など、通常の契約が難しいケースでは、自社で設立したNPO法人が、オーナーと借主の間に入って住宅を提供しています。身寄りのない方とも面談をして、一人で生活するのに支障がないことを確認した上でお部屋を紹介することが可能です」(川口さん)

三好不動産が設立した介護賃貸住宅NPOセンターを介したサービス。「身寄りがない」「高齢だから」などの理由で一般の住宅に入居しづらい人と、空室に悩むオーナーをつなぐ(画像提供/三好不動産)

三好不動産が設立した介護賃貸住宅NPOセンターを介したサービス。「身寄りがない」「高齢だから」などの理由で一般の住宅に入居しづらい人と、空室に悩むオーナーをつなぐ(画像提供/三好不動産)

「問題の根本は何なのか」「足りない点は何なのか」を勉強することから始めたLGBTQの居住支援

LGBTQの人たちも、不動産会社側の偏見や理解不足、知識不足から、部屋探しにはさまざまな壁があるようです。LGBTQの居住支援の担当者となった原さんと広報の川口さんは、まずLGBTQの人たちが抱える悩みごとや問題点は何なのか、勉強するところからスタートしました。

「LGBTQ専用のサービスの必要性や所得が低いために生じる問題はほとんどなく、多くは理解のないことや知識不足に起因します。知識と相互理解によって、齟齬のないようにしていくことが大事です」と話す原さん。よくある事例としては、パートナーと一緒に入居を希望した場合に、カミングアウトしていないため、親族に保証人を頼めないケースや、同性パートナーとの同居を、その関係性を打ち明けられず一人入居と偽って契約してしまうといったケースなどが挙げられます。

原さんたちは、まずは店舗にレインボーマークを掲げるなどLGBTQの方が相談しに来やすい環境づくりからはじめ、最近ではYouTubeチャンネルで情報を発信するなど、活動を広げていきました。そして、今では、どの店舗でもLGBTQの人の部屋探しに対応できるまでに。2016年10月~2022年10月の間の賃貸契約数は約120組、相談件数においては常時100件以上にのぼります。

社内勉強会の様子。「何が問題なのか」「何が足りないのか」、まずは知るところから取り組みが始まる(画像提供/三好不動産)

社内勉強会の様子。「何が問題なのか」「何が足りないのか」、まずは知るところから取り組みが始まる(画像提供/三好不動産)

店舗のドアに貼られたレインボーステッカーが、LGBTQフレンドリーである姿勢を示している(画像提供/三好不動産)

店舗のドアに貼られたレインボーステッカーが、LGBTQフレンドリーである姿勢を示している(画像提供/三好不動産)

行政や異業種とのタッグも!取り組みがもたらした変化

三好不動産では、住まいの確保に困難を感じている人たちと、オーナーさんが貸し出すことを承諾した管理物件とをつないで、契約を結んでいます。行政から相談を受けたり、調査や講演などへの協力を要請されたりすることも少なくないそう。

「LGBTQ支援をはじめ、さまざまな活動を通して、不動産業界以外の企業や団体から『三好不動産のLGBTQの取り組みを話してほしい』などの依頼をいただくこともあります。福岡市パートナーシップ宣誓制度の導入を受け、福岡市に後援いただいて当社が主催したセミナーも4回にわたりました」(原さん)

活動を通じて、同じ方向を見ている企業や行政とは、業種を超えて新たな取り組みにつながっていく、良い循環ができているようです。

福岡市高島市長より、LGBTQをはじめとする性的マイノリティ支援に取り組む企業として、ふくおかLGBTQフレンドリー企業登録証が直接手渡されたときの様子。行政から相談を受けることも多い(画像提供/三好不動産)

福岡市高島市長より、LGBTQをはじめとする性的マイノリティ支援に取り組む企業として、ふくおかLGBTQフレンドリー企業登録証が直接手渡されたときの様子。行政から相談を受けることも多い(画像提供/三好不動産)

他社でできないことが三好不動産ならできる、その理由は?

三好不動産で行っている、住まい探しに配慮が必要な人たちに寄り添う取り組みについては「取り組みを始めたけどなかなかうまくいかない」と話す会社も多いそうです。それはどうしてなのか、という疑問を原さんにぶつけてみました。

「何のためにやるのか、そもそもの方向性が違うのだと思います。住まいを求めるお客さまの目線から入っていくことに従業員一人ひとりの発見があるのです。世の中から評価されるために、例えば『SDGsが世の中で評価されているからやる』という視点で見てしまうと、見えるべきものも見えなくなるのではないかと感じます」(原さん)

原さんたちは「いつかは取り組まなくてはならないことだから」と、見切り発車でも、まずは動いてきたと言います。まだ先を完全に読みきれない不安もある中、「失敗を恐れて何もしないよりは」と行動することで取り組みを推し進めてきました。

また、三好不動産の各部署では、自主的に研修会や勉強会を企画・開催し、社内だけでなく社外向けに発信する機会も多くもあるそうです。一人ひとりが受け身ではなく、能動的に動くことこそが、他社ではできないことを可能にしているのではないでしょうか。

九州レインボープライドのブースにて(画像提供/三好不動産)

九州レインボープライドのブースにて(画像提供/三好不動産)

原さんは会社全体のプロジェクトとしてLGBTQやDV被害者のお部屋探しの推進を担当していますが、三好不動産ではそれぞれの店舗でも、高齢者や災害被害者、LGBTQといった住宅確保に困難を抱える人の、住まい探しを支援しています。

「お客さまの身になって」「一人ひとりに寄り添って」。言葉で言うのは簡単です。しかし、本当に困っている人たちと向き合うには、知識も必要ですし、多くの人に理解をしてもらうための手間暇を惜しんではいけないのだと改めて感じました。それは、ボトムアップで意見のできる風通しの良い社風、そして、会社の利益だけでなく“お客さまのために何ができるか”で行動できる環境がそろっているからこそできることなのかもしれません。

そして活動の効果を実感するまでには長い年月がかかるといいます。原さんたちが明らかな変化を感じたのが、2016年から参加している、性的少数者をはじめとするすべての人が自分らしく生きていける社会の実現を目指す啓発イベント「九州レインボープライド」にブースを出店したときの来場者の反応だそう。最初はLGBTQなどの当事者、行政、NPOなど、LGBTQの問題に直接的に関わる人や団体の参加が多く、「どうして不動産会社がここにいるの?」と不思議そうな顔をされたそうですが、2022年の開催では、来場者から「応援しています」「三好不動産の活動、知っていますよ」など、激励の言葉をたくさんもらったのだとか。地道な活動が、少しずつ形になり、実を結びつつあるということでしょう。

●取材協力
株式会社三好不動産

人気の花火職人が山里で始めたカフェ兼宿。コロナ禍で気づいた豊かさや幸せの答え 「山の家」福岡県みやま市

コロナ禍によって人々の価値観が変わった。大切なことが明確になった、という人も多いかもしれない。今回紹介する筒井良太、今日子夫妻がカフェ兼宿「山の家」(福岡県みやま市)を始めたのも、コロナがきっかけだった。「足元に目を向ける」「地元のものを生かす」と口でいうのは簡単だが、誰かに提供するには形にしないとならない。お土産品、飲食店、カフェやゲストハウス……さまざまな形があるけれど、筒井夫妻が始めたのは、みやまの宝を集結した家だった。なぜ宿を?山の家を訪れて話を聞いた。

趣のある「山の家」

福岡県の南に位置するみやま市。福岡の繁華街からわずか車で1時間ほどだが、まるで風景が変わる。道脇には清流が流れ、小高い山々や田畑が広がる。今年3月、ここに「山の家」と呼ばれるカフェ兼宿がオープンした。築100年以上の屋敷を改修して店を始めたのは、同じみやま市で玩具花火をつくってきた「筒井時正玩具花火製造所」の筒井良太、今日子夫妻だ。

(写真撮影/藤本幸一郎)

(写真撮影/藤本幸一郎)

山の家に到着すると、お屋敷、といっていいような風格ある古民家が、緑の茂るなかに立っていた。山の家という名から、標高の高い場所にあるのかと想像していたが、思っていたより平地からすぐの場所にある。

中へ入ると思わず声が漏れた。「うわぁ素敵ですね」。
年月を経た家の重厚な空気感に、ラインの美しいカウンターや洗練された椅子とテーブル。ショーケースには美味しそうなケーキが並び、レジ向こうは座敷になっていて、女性スタッフが座って花火づくりの作業をしていた。

古い壁から出てきた竹格子はあえて残してある。窓際のカウンター上部には長崎の陶器ブランド「JICON」のオレンジ色の照明が存在感を放っている。(写真撮影/藤本幸一郎)

古い壁から出てきた竹格子はあえて残してある。窓際のカウンター上部には長崎の陶器ブランド「JICON」のオレンジ色の照明が存在感を放っている。(写真撮影/藤本幸一郎)

玄関から向かって左半分のスペースが「カフェ・フイユ」。右ののれんをくぐった先が宿「山の家」になる。

「カフェフイユ」のフイユとはフランス語で「葉っぱ」のこと。「葉っぱに「予約席」の文字(写真撮影/藤本幸一郎)

「カフェフイユ」のフイユとはフランス語で「葉っぱ」のこと。「葉っぱに「予約席」の文字(写真撮影/藤本幸一郎)

「じつはすごく贅沢な暮らしをしていた」

筒井夫妻は、ここから車で5分ほどの場所で「筒井時正玩具花火製造所」兼ギャラリーを営んできた。なぜ、宿を?

「コロナ禍で何がほんとうに贅沢で豊かなのか。幸せって何だろうって考え直した時、「みやま」ってなんていいところなんだろうって改めて思ったんです。

今まではお金を稼いでいいもの買って、というのが贅沢だったけど、明らかに以前とは考え方が変わった。ここでは採れたての野菜が食べられたり、週末には炭でパンを焼いて青空の下で食べたりして」

川はきれいで緑は豊か。夜には星も見える。子どもたちはのびのびと花火もできるし川遊びもできる。周囲には優しい地元の人たち。それまで当たり前に享受してきたあれこれが、いかに贅沢であるかに気づいた。

「この豊さを、都会から訪れる人たちにも楽しんでもえたらいいなと思ったんですね。地元のいいものを集めた場所がつくれたらいいなって」

そうして昨年2021年、導かれるように知人に紹介されたのがこの物件だった。

筒井今日子さん。夫の良太さんとともに「筒井時正玩具花火製造所」を営む(写真撮影/藤本幸一郎)

筒井今日子さん。夫の良太さんとともに「筒井時正玩具花火製造所」を営む(写真撮影/藤本幸一郎)

“ユミちゃんのケーキ”が食べられる店

今年の春には、まず「カフェ・フイユ」を先行してオープン。メニューには地元の美味しいものが詰まっている。切り盛りするのは、「ユミちゃん」の愛称で呼ばれる、パティシエの高巣由美(たかす・ゆみ)さん。もともと地元で「ランコントル」という予約制のケーキ屋を営んでいた。

カフェをやるなら、ユミちゃんにお願いできないかと今日子さんはまず思ったのだそうだ。

パティシエで、カフェフイユのオーナー、高巣由美さん(写真撮影/藤本幸一郎)

パティシエで、カフェフイユのオーナー、高巣由美さん(写真撮影/藤本幸一郎)

「ユミちゃんのケーキはほんとに人気で、でも予約して数日待たないと食べられない。それがこのカフェでいつでも食べられればみんな喜ぶだろうなと思ったんです。蓋を開けてみると、思ったとおりでした(笑)」(今日子さん)

ショーケースにはチーズケーキやガトーショコラなど美味しそうなケーキが並び、持ち帰りもできる。看板商品はレーズンサンド。クリームには近くの酒蔵の甘酒や酒粕を使用。それとは別に、酒粕パンも販売している。

ケーキの並ぶショーケースの横には、筒井時正玩具花火製造所の線香花火をはじめ、びわの葉茶や九州の工芸品も並ぶ(写真撮影/甲斐かおり)

ケーキの並ぶショーケースの横には、筒井時正玩具花火製造所の線香花火をはじめ、びわの葉茶や九州の工芸品も並ぶ(写真撮影/甲斐かおり)

ランチのスープセット。今は食事のメニューはホットサンドとスープセットのみだが、カレーも近く提供する予定(写真撮影/藤本幸一郎)

ランチのスープセット。今は食事のメニューはホットサンドとスープセットのみだが、カレーも近く提供する予定(写真撮影/藤本幸一郎)

11時の開店時間を過ぎると、カフェはお客さんでいっぱいになった。若者や女性が多いのだろうと想像していたのだが、年配者も多い。地元の人らしいお母さんたちが少しお洒落した装いで集まっている。「パン買いに来たよ~」とにこにこ声をかける女性もいる。

「お店をオープンする前に、地元の人たち先行でお披露目会をしたんです。そうじゃないとなかなか接点がもてないんじゃないかと思って。地元が元気になったらいいなと始める店でもあるから」(今日子さん)

「ユミちゃん、ユミちゃん」とお客さんが楽しげに声をかけているのが聞こえてきた。

おしゃべりに興じるご近所さん(写真撮影/藤本幸一郎)

おしゃべりに興じるご近所さん(写真撮影/藤本幸一郎)

長いこと、地域には背を向けてきた

もともと「筒井時正玩具花火製造所」は、少し変わった花火メーカーでもある。

花火の国産メーカーは、安い海外品におされて数が減っている。なかでも線香花火をつくる会社は、いま全国に4軒しかない。一時期は残り一社となった製造所が廃業し、絶滅寸前に陥った。このままでは線香花火は日本でつくられなくなってしまうぞという時に、筒井時正玩具花火製造所3代目の筒井良太さんが廃業前の製造所へ出向いて修行をし、技術を引き継いだのだった。

国産の線香花火は、海外産に比べて火花が大きく、長く火が落ちない。その質の良さを生かして、二人は自社の線香花火をギフトや雑貨として「一箱40本で1万円」の高価なオリジナル商品として発表した。

「そんな高い花火が売れるはずない」と周囲に反対されながらも、インテリアライフスタイル展などに出展し、販路を増やしてきた。花火を製造する工房横には、線香花火を試せるギャラリーも設けた。新しい花火のあり方を切り開いてきた10年間だった。

筒井時正玩具花火製造所の線香花火。火花が大きく長くもつ(提供/筒井時正玩具花火製造所)

筒井時正玩具花火製造所の線香花火。火花が大きく長くもつ(提供/筒井時正玩具花火製造所)

だからこそ、これまではほとんど地元に関心を向けてこられなかったのだという。

「花火を売れるようにするのに必死やったんで。どうしてもそっちが先になってしまって」と良太さん。

けれど、自社のギャラリーを訪れたお客さんにリピーターが少ないことに気付く。

「自分のところだけ頑張っていてもダメだなって。お客さんにとっては、ここへ来た後、あそこでお昼を食べて、最後ここに寄って帰ろうなどいくつか立ち寄れる場所があるといいですよね。だからみんなでまちを盛り上げていけたらいいなと思ったんです」(今日子さん)

筒井さんたちは山の家を始める前にもう一軒、「川の家」という宿を近くで運営している。花火をできる場所がどんどん限られていることも宿を始めるきっかけだった。

「今、3割の子どもたちは花火をしたくてもできないまま、大人になってしまうと知ったんです。それがショックで。公園も浜辺もどこも禁止、禁止でしょう。川沿いなど屋外であればいくらでも花火を楽しめますから」(今日子さん)

筒井時正玩具花火製造所の線香花火(写真撮影/藤本幸一郎)

筒井時正玩具花火製造所の線香花火(写真撮影/藤本幸一郎)

びわプロジェクト

山の家をオープンするに至るには、これまでに筒井さんが地元の人たちと進めてきたいくつもの活動が背景にあった。

そのひとつが、「びわプロジェクト」だ。

ある時、筒井さんたちに、びわ畑を引き取ってもらえないかと相談があった。広さ1500坪の畑は、そう簡単に「はい」と引き受けられる規模ではなかったが、調べてみると、びわにはさまざまな活用法があることがわかった。びわの葉を使ったお茶、お灸、びわ染め。

今日子さんは、すぐに営利目的で活用するのは難しいけれど、地域のみんなとびわ畑で新しいことを始めるのにはいいと考えた。

「山の家」宿側の縁側から見える庭(写真撮影/藤本幸一郎)

「山の家」宿側の縁側から見える庭(写真撮影/藤本幸一郎)

「びわプロジェクト」を立ち上げるのに造園家、農家、市役所の職員など有志約20名が集まり、みやま市の地域ブランドをつくろうと活動が始まったのが2020年6月。それから月に一度、みんなで楽しみながら作業を続けていて、現在は約50名のプロジェクトメンバーがいる。

昨年の6月には立派な実がたくさん収穫できて、道の駅などで販売した。

(提供/びわプロジェクト)

(提供/びわプロジェクト)

びわプロジェクトの活動の様子(提供/びわプロジェクト)

びわプロジェクトの活動の様子(提供/びわプロジェクト)

「ゆくゆくはびわを活用して商品化、ブランドにしてお金をまわしていくことも考えているんですけど、いま動いてくれる人たちはほとんどがボランティア。それじゃあ長続きしないと思って、びわコインという地域通貨を発行しています。でもベースはみなさんの地元がよくなるようにって気持ち、郷土愛によるものなんです。

みやまには、誰かが何かを始めるんやったら、よっしゃ一緒にやってやろうと関わってくれる人がたくさんいる。そんな人が50人もいるってすごいじゃないですか」(今日子さん)

このびわプロジェクトは、2年目からウコンも含めた「薬草研究会」として発展。びわゼリー、びわ大福、びわフローズンを試作したり、びわやウコンの効能、加工、商品開発に向けての意見交換をして、収穫から活用まで考えている。

その、地元の人たちと活動してきたひとつの出口として「山の家」がある。近々、ウコン(ターメリック)とびわ茶、みやまの特産品であるセロリを用いたカレーも新しいメニューとして、カフェで提供される予定。宿で出すお茶もびわ葉。部屋着やのれんもびわ染めした。

宿「山の家」は、人とのつながりで生まれた

年内には宿「山の家」もオープンする予定。全面に庭の緑が見える広々としたお座敷と、現代風にアレンジされた中の間の二部屋、屋敷の右半分が貸切で使用できる。

座敷(写真撮影/藤本幸一郎)

座敷(写真撮影/藤本幸一郎)

中の間(写真撮影/藤本幸一郎)

中の間(写真撮影/藤本幸一郎)

「初めは接客のプロを雇ってお任せしようと思っていたんです。でも知人に、老舗旅館と勝負しても勝てないのではと言われて、そうだなって。私たちはあくまで花火屋。サービスレベルなどで勝負しても、長年旅館をやっていらっしゃるところにはかないっこない。であれば、せめて私たち自身が直接お客さんと話したり、最大限のもてなしをする方が私たちらしいやり方なんじゃないかと思うようになりました」

泊まらなくても「山の家」を気軽に体験できるよう、カフェと宿の定休日である水曜限定の、ジビエ料理「Nuit」と「山の家鍼灸所」をオープンした。

「地元の人たちにも楽しんでもらえるといいなと思って。この家は格子から漏れる光がきれいで、夜の雰囲気がすごく素敵なんです」

(写真撮影/藤本幸一郎)

(写真撮影/藤本幸一郎)

さらに今年、筒井さんたちは「有明月」という名前の一般社団法人を設立した。地元の人たちとのつながりも増え、より機動力のある形で動けるようにとの思いから。お寺の住職さんと朝のお勤めを体験するツアーを実施したり、元商工会の職員さんと事業計画づくりのサポートをする仕事をしたり。

「行政にしかできないことはもちろんあると思いますが、小さくても自分たちでできることはどんどんやろうって気持ちなんです。役場の職員さんも、個人的に関わってくれていたりします」

山の家を始めるうえで協力してくれた人たちは数えきれない。今日子さんの話に登場する人たちはみんな、個性的で魅力的で聞いていて飽きない。ジビエ料理にしたのも、ハンティングから手がける若きシェフとの出会いがあったから。カフェの器を依頼したのは海外に暮らす作家さん。びわの栽培を教えてくれた佐賀のおじいさんの話。

「私たちがやっていることって、結局すべて人とのつながりから始まってるんです。ああ、この人と一緒に何かしたいなって思ったら一緒にやる。そうしてひとつひとつ、つながってきた結果が山の家かもしれない」(今日子さん)

そんな山の家の成り立ちを聞いていると、田舎の未来像が見えるようだった。

(写真撮影/藤本幸一郎)

(写真撮影/藤本幸一郎)

●取材協力
山の家
カフェ・フイユ

日の里団地を「ひのさと48」で再生。ビールやDIY工房、保育園などでにぎわう

福岡県宗像市にある、日の里団地は、1971年に日本住宅公団(現・UR都市機構)が“九州最大級の団地”として開発。憧れのニュータウンだった場所だが、他エリアの団地と同様、建物の老朽化や住民の高齢化などが進んでいる。しかし日の里団地は団地の再生プランを立て、新しい団地のあり方「宗像・日の里モデル」を提案できるように歩み始めている。今回はその象徴となる48号棟「ひのさと48」を訪れた。

50歳を迎えた「日の里団地」48号棟が「ひのさと48」に。ワクワク虹色の未来を描く(写真撮影/笠井鉄正)

(写真撮影/笠井鉄正)

最寄駅となるJR鹿児島本線・東郷駅は、博多駅まで快速列車で約30分の距離。福岡市の都心部に通勤するのにほどよいベッドタウンだ。その東郷駅から広がる丘陵地に開かれた日の里団地は、開発された1971年当初、全65棟に次々と入居者が決まり、最盛時は約2万人もの人々が暮らしていた。

そして50年後の2021年。住民数は10分の1の2000人程度となり、65歳以上人口の割合である高齢化率は4割前後。宗像市全体の高齢化率3割前後を超えている。

そんななか、日の里団地のいちばん奥まったエリアにある、48号棟に注目が集まっている。2017年に閉鎖された10棟のうちの1棟で、住民はもちろん宗像市や周辺エリアのコミュニケーションのハブとなるよう2021年3月、「ひのさと48(よんじゅうはち)」という場所として動き始めた。

虹色のバルコニーパネルや木のテラスは2021年3月末に「ひのさと48」に関わる人が集まってペイントした(写真撮影/笠井鉄正)

虹色のバルコニーパネルや木のテラスは2021年3月末に「ひのさと48」にかかわる人が集まってペイントした(写真撮影/笠井鉄正)

虹色のカラーリングをほどこされた「ひのさと48」の見た目はもちろん、その中身もワクワクしたものがあふれだし始めているようだ。これからこの場所で何が起こり、日の里団地はどのように変わっていくのか。

お話を伺うために、「ひのさと48」のディレクター・吉田啓助(よしだ・けいすけ/東邦レオ株式会社)さんとスタッフの谷山紀佳(たにやま・のりか/同社)さんを訪ねた。

「ひのさと48」ディレクター・吉田啓助さん。ご自身も日の里団地内に分譲の物件を購入している(写真撮影/笠井鉄正)

「ひのさと48」ディレクター・吉田啓助さん。ご自身も日の里団地内に分譲の物件を購入している(写真撮影/笠井鉄正)

ふたつのエリアが融合しながら里山的な暮らしをつくる

下の写真の広々とした更地は「ひのさと48」と隣接したエリアにある。かつて10棟の団地が存在していたが、そのうち9棟は取り壊されて2022年、64戸の新築戸建てが建設される「戸建てエリア(むなかた さとのは hinosato)」が誕生する予定だ。新築の戸建てエリアが築50年の団地に挟まれている風景にも興味が湧く。

「ひのさと48」の3Fベランダから、日の里団地58・59号棟を方面を眺めた風景。「ひのさと48」と団地の間の土地に新しく「戸建てエリア」が出現する(写真撮影/笠井鉄正)

「ひのさと48」の3Fベランダから、日の里団地58・59号棟を方面を眺めた風景。「ひのさと48」と団地の間の土地に新しく「戸建てエリア」が出現する(写真撮影/笠井鉄正)

上の写真の逆向きバージョン。日の里団地58・59号棟から「ひのさと48」を眺めた風景(写真撮影/笠井鉄正)

上の写真の逆向きバージョン。日の里団地58・59号棟から「ひのさと48」を眺めた風景(写真撮影/笠井鉄正)

「戸建てエリア」の開発を担うのは、ハウスメーカーなど8社からなるJV(ジョイントベンチャー。特定目的会社)で、里山をイメージした街づくりが進められている。木々のなかに戸建てがゆったりと並び、大人も子どもも自由に伸びやかに散歩にでかけ、小さな自然を楽しむ。そんなイメージだ。

「戸建てエリア」に隣接する「生活利便施設エリア」として位置づけられているのが、かつての48号棟「ひのさと48」である。

現在、1階にはクラフトビールのブリュワリー&ショップ「ひのさとブリュワリー」、最新の木工加工機が設置された「じゃじゃうま工房」、コミュニティカフェ「みどり TO ゆかり」、シェアキッチン「箱とKITCHEN」、「ひかり幼育園 ひのさと分園」が入居。取材に訪れた日も子どもたちの声が響いていた。

(写真撮影/笠井鉄正)

(写真撮影/笠井鉄正)

(写真撮影/笠井鉄正)

(写真撮影/笠井鉄正)

この「戸建てエリア」と「生活便利エリア」を合わせて「宗像・日の里モデル」と呼ばれる団地再生プロジェクトとなっている。

クラフトビールを足がかりに、人と地域が交わり、広がる

2021年3月から本格的に稼働し始めた「ひのさと48」で今、何かと話題をふりまいているのがブリュワリー&ショップ「ひのさとブリュワリー」だ。団地の1階にクラフトビール工房というシチュエーション。聞いただけでワクワクするし、ここを目指してふらりと訪れる人も多い。

2021年10月までに、第7弾まで発売されている(写真撮影/笠井鉄正)

2021年10月までに、第7弾まで発売されている(写真撮影/笠井鉄正)

「ひのさとブリュワリー」の醸造タンクは2つ。東邦レオ株式会社の社員が醸造長となり、クラフトビール界で有名な「インターナショナル・ビアカップ2021」で賞を獲得した。すごい!(写真撮影/笠井鉄正)

「ひのさとブリュワリー」の醸造タンクは2つ。東邦レオ株式会社の社員が醸造長となり、クラフトビール界で有名な「インターナショナル・ビアカップ2021」で賞を獲得した。すごい!(写真撮影/笠井鉄正)

訪れた人が「おもしろいことをやっている団地がある」と周りの人に伝え、よい循環もできている。
「宗像市の離島・大島のみなさんも『日の里がビールとかつくるんなら、私たちにもなにかできるかも?』と独自の地域活性に取り組もうと動き出したり。周辺の活性化にもいい影響があるといいですね」と吉田さん。

お隣の福津市でクラフトビールづくりを始めたいという男性が、買い物&リサーチに訪れていた(写真撮影/笠井鉄正)

お隣の福津市でクラフトビールづくりを始めたいという男性が、買い物&リサーチに訪れていた(写真撮影/笠井鉄正)

また、「ビールを買いに来てくれたご夫婦が『私たち、実は、この48号棟に住んでいたのよ。懐かしいわ!』なんて打ち明けてくれたり。日の里団地との関係性が切れた方も、ビールをきっかけに思い出してくれて、さらに足を運んでくれるって素敵ですよね」と谷山さんもうれしそう。

おいしいアルコール飲料であるのはもちろん、人と人、人と地域を楽しくさせるコンテンツでもある。「ひのさとブリュワリー」はそんな役割も担っている。

ちなみに「ひのさとブリュワリー」のビール「さとのBEER」には、宗像での栽培が盛んな大麦が使われている。自分たちの足元にそんな農産物があるという、情報を知るきっかけにもなっている。

「ひのさとブリュワリー」のショップで大麦を見せてくれた谷山さん(写真撮影/笠井鉄正)

「ひのさとブリュワリー」のショップで大麦を見せてくれた谷山さん(写真撮影/笠井鉄正)

お金のつながりだけでないことが、持続していくこと

「ひのさとブリュワリー」「じゃじゃうま工房」などは吉田さんたちが運営している施設だが、2021年の春からそれ以外のテナントもぼちぼちと入居をし始めている。ウクレレの工房や就労継続支援のオフィスなど「ひのさと48」のコンセプトに賛同してくれた人ばかりだ。

「みなさんテナントさんであるし、もっと増えてほしいです。ただ、お金をもらったからスペースを貸すよ、という関係性は目指していません。みんなでこの場所を、この地域をどう楽しみ、どうしていくのか。一緒に考えられる関係性でいたいなと思っています」。そう話してくれた谷山さんは、入居者のことを「さとの仲間」と呼んでいる。「『ひのさと48』担当になって最初のころ、ついつい『さとの仲間』のことをお客さんだと思いそうになっていました。でもそうじゃないんですよね。日の里に一緒にコトを起こす仲間になりたいんです」

今はスタートしたばかりの「ひのさと48」だが、今後、持続的に活動を続け、10年後には運営を地域にバトンタッチしていく予定だ。それまでに仲間たちで何ができるのか、次代へ何を手渡せるのか、これからの課題でもある。

「ひのさと48」の一角には野菜畑があり、入居者やご近所さんがゆるやかに協力し合いながら育てている。もうすぐさつまいもの収穫(写真撮影/笠井鉄正)

「ひのさと48」の一角には野菜畑があり、入居者やご近所さんがゆるやかに協力し合いながら育てている。もうすぐさつまいもの収穫(写真撮影/笠井鉄正)

日の里団地の子どもたちがドミノ大会を開催。「ひのさと48」でお化け屋敷をやりたいという声もあがり、スペースを提供する予定(写真撮影/笠井鉄正)

日の里団地の子どもたちがドミノ大会を開催。「ひのさと48」でお化け屋敷をやりたいという声もあがり、スペースを提供する予定(写真撮影/笠井鉄正)

テーブルの足は、団地のベランダにあった物干し竿かけを再利用(写真撮影/笠井鉄正)

テーブルの足は、団地のベランダにあった物干し竿かけを再利用(写真撮影/笠井鉄正)

10年後も変わらないもの、変わっていくものはなんだろう?(写真撮影/笠井鉄正)

10年後も変わらないもの、変わっていくものはなんだろう?(写真撮影/笠井鉄正)

「ひのさと48」と2022年に完成する戸建てエリアのコンセプトは「サスティナブル・コミュニティ」である。そして「ひのさと48」持続可能にしていくものは、地域であり、人々であり、里山の自然である。

先日は地域の子どもたちのリクエストに応えて、クラウドファンディングで資金をつくり、団地の壁にクライミングのホールドを設置した。これからも多様な切り口で活動することで、人々に多様なワクワクをプレゼントしていく。

●取材協力
ひのさと48
UR都市機構

商店街のシェアハウスで “街×人”の化学反応はじまる!「寿百家店」で北九州市黒崎が再燃中

福岡県北九州市黒崎の「寿通り商店街」を、“ニューノーマルな商店街”に生まれ変わらせるプロジェクト「寿百家店」。商店街の一部区画をフルリノベーションし、店舗とシェアハウスを創出するこの取り組み。シェアハウス「三角フラスコ」の入居もスタートして、これまでにない化学反応が起こりつつある。
シャッター通りが、なごやかでにぎわいのあるアーケードにJR黒崎駅からアーケードまでは雨に濡れずに移動できて便利(写真撮影/加藤淳史)

JR黒崎駅からアーケードまでは雨に濡れずに移動できて便利(写真撮影/加藤淳史)

北九州市内で小倉に続く規模の街・黒崎。JR黒崎駅前から扇のカタチのように広がる黒崎商店街は、1901年の官営・八幡製鐵所の創業をきっかけに発展してきた。1970~80年代に黒崎で青春時代を過ごした人々は「小倉や博多よりにぎわいのある街だった」とも語る。

昭和~平成~令和と時代は流れて、JR黒崎駅から徒歩約6分の「寿通り商店街」はシャッター通りと化していた。2016年時点で13店舗中8店舗が空き店舗。そのうち3店舗分(174.83平米/52.88坪)をリノベーションし、1階にテナント11区画、2階にシェアハウス4室+LDKをつくったプロジェクトが「寿百家店」だ。

シャッター通りと化していた「寿通り商店街」(写真提供/田村晟一朗さん)

シャッター通りと化していた「寿通り商店街」(写真提供/田村晟一朗さん)

2020年5月にスタートした「寿百家店」プロジェクトの中心人物はPR・企画会社「三角形」代表の福岡佐知子(ふくおか・さちこ)さんと、建築事務所「タムタムデザイン」代表の田村晟一朗(たむら・せいいちろう)さん。その想いやプロジェクトの経緯はこちらの記事で詳しく紹介されている。

2021年8月時点で、1階のテナント11区画はすべて入居が決まり、取材で訪れた日は子どもたちが参加するワークショップも開催中。集まった人々の楽しそうな声であふれていた。

飲食店やショップ、サロンが入居する「寿通り商店街」(写真撮影/加藤淳史)

飲食店やショップ、サロンが入居する「寿通り商店街」(写真撮影/加藤淳史)

黒崎商店街のお店や住民たちによるコミュニティが運営する無人の古本屋も登場(写真撮影/加藤淳史)

黒崎商店街のお店や住民たちによるコミュニティが運営する無人の古本屋も登場(写真撮影/加藤淳史)

「寿百貨店」が運営する無添加ラーメンと人形焼の店「あんとめん」(写真撮影/加藤淳史)

「寿百貨店」が運営する無添加ラーメンと人形焼の店「あんとめん」(写真撮影/加藤淳史)

「あんとめん」のラーメンのかまぼこに「寿」の文字が(写真撮影/加藤淳史)

「あんとめん」のラーメンのかまぼこに「寿」の文字が(写真撮影/加藤淳史)

シェアハウス開業の狙いは、街の密度を高かめたかったから

商店街の2階にイベントスペースなどではなく、シェアハウスを選択したのは「街の中心部における“人”や“暮らし”の密度を高めたかったから」と田村さんは話す。かつて商店街の2階には店主ファミリーが暮らすのが定番だった。しかし時代の変化で2階はオフィスや倉庫になるパターンが増えていった。

「夜の商店街に灯りがともったら人の気配があり、何より安心です。 またいろいろな人が商店街に暮らすことで多様性が生まれ、可能性も広がる。ですからシェアハウスがいいねと決まったんです」

福岡県行橋市の商店街にもアーケードハウスを立ち上げたことがある田村さんの経験も活きた。

ただ田村さんも福岡さんも口をそろえて「どんなシェアハウスがいいのか、なかなかイメージが固まらなかった。そもそも黒崎にシェアハウスの需要があるのか?とも考えていた」という。1階のテナント誘致が好調だったが、2階に関してはモヤモヤしたまま日々が過ぎていった。

シェアハウス「三角フラスコ」の一室。右側の窓は古い木枠のまま。採光のため右側の小窓2つを新設した(写真撮影/加藤淳史)

シェアハウス「三角フラスコ」の一室。右側の窓は古い木枠のまま。採光のため右側の小窓2つを新設した(写真撮影/加藤淳史)

部屋の窓から眺めるアーケードの景色。明るくて想像していたよりも圧迫感がない(写真撮影/加藤淳史)

部屋の窓から眺めるアーケードの景色。明るくて想像していたよりも圧迫感がない(写真撮影/加藤淳史)

地元・黒崎出身者が入居して、商店街を少しずつ変えていく

そんな折、「寿百家店」のInstagramにメッセージが届いた。第1号の入居者となる堀 加奈恵(ほり・かなえ)さんからだ。北九州市内で働く堀さんは、ひとり暮らしをいったん終えて黒崎の実家に戻り、また新たに一人暮らしができる住まいを探していた。

「多様な人と出会えるシェアハウスに住んでみたくて、北九州市内で探していました。情報収集するうちに発見したのが『寿百家店』。メッセージを送った翌日には福岡さんのところへ会いに行き、街づくりから人生についてまで初対面とは思えないほど濃い内容の話をしたんです」と堀さん。

「寿百家店」についてワクワク感いっぱいに話す福岡さんと出会い「こんなに人生を楽しんでいる人が運営しているシェアハウスなら間違いない!」と入居を即決。古い木枠の窓を残した部屋を選び、LDKの壁のクリーム色もお気に入りになった。

写真右から田村さん、福岡さん、入居者の堀さん、奥迫さん(写真撮影/加藤淳史)

写真右から田村さん、福岡さん、入居者の堀さん、奥迫さん(写真撮影/加藤淳史)

店舗3店分をつなげているので、奥に長いシェアハウスに(写真撮影/加藤淳史)

店舗3店分をつなげているので、奥に長いシェアハウスに(写真撮影/加藤淳史)

「もっとコミュニケーションを」と入居者が入居者を連れてくる

LDKが充実していて他の入居者とコミュニケーションが取れるシェアハウスであることも、決め手となった。「他のシェアハウスでは、あえて入居者同士が接触しないようにしているところも。私の場合、シェアハウスに住むのなら、ぜひいろんな人と交流したいと考えていたんです」と堀さんは続ける。

そんなある日、堀さんは高校の同級生で近くの美容室「cococara-hair」の1階店長を務める奥迫響子(おくさこ・きょうこ)さんをシェアハウスに招いた。すると奥迫さんもこの場所にひと目惚れ。奥迫さんが一人暮らしをしようと思いはじめたタイミングも重なり、2人目の入居者となった。

奥迫さんも入居を即決したそうで「この場所にはなにか吸引力があるのかも」と堀さん。「寿通り商店街は実家からも勤務先からも歩いてすぐの場所だし、幼いころから知っている場所。でも“住む”となると、ときめくし、とても新鮮ですよね」と話す。

左が1人目の入居者・堀さん、右が奥迫さん(写真撮影/加藤淳史)

左が1人目の入居者・堀さん、右が奥迫さん(写真撮影/加藤淳史)

奥迫さんが店長を務める美容室は歩いて4分の職住近接(写真撮影/加藤淳史)

奥迫さんが店長を務める美容室は歩いて4分の職住近接(写真撮影/加藤淳史)

堀さんの個室は木の窓枠が残っているタイプ。全4部屋あり、1部屋あたりの広さは6畳(写真撮影/加藤淳史)

堀さんの個室は木の窓枠が残っているタイプ。全4部屋あり、1部屋あたりの広さは6畳(写真撮影/加藤淳史)

奥迫さんの部屋の出窓には、商店街内にある花屋さんから贈られた観葉植物があった(写真撮影/加藤淳史)

奥迫さんの部屋の出窓には、商店街内にある花屋さんから贈られた観葉植物があった(写真撮影/加藤淳史)

商店街を昔に戻すのではなく、今の姿にバージョンアップすればいい

堀さん・奥迫さんの親は黒崎の全盛期を知っている世代。ふたりは幼いころから「自分たちが若いころ、アーケードを歩くと人と人の肩がぶつかり合うほどにぎわっていた」というエピソードを聞かされていた。でも「私たちは黒崎がその時代に戻ってほしいわけじゃない」と口をそろえる。

「どんな商店街でも、活性化したい、若者に来てもらいたいと言うけれど、若者の人口自体が減っている。だからそこにこだわらなくていいんじゃないかな?」と堀さん。福岡さんも「一過性のものでなく今の時代にあった、本当の新陳代謝が必要だよね?」と相槌を打つ。

2021年7月の入居から1カ月。「この場所で人と街、人と人との化学反応が起きるといいな」と願う堀さんは自ら発案し、みんなと相談しながらシェアハウスをネーミング。決まった名前は「三角フラスコ」だ。フラスコ内で起こる化学反応をイメージし、福岡さんの事務所「三角形」をプラスした。

堀さんが中心となり、みんなで決めた「三角フラスコ」のネーミング(写真撮影/加藤淳史)

堀さんが中心となり、みんなで決めた「三角フラスコ」のネーミング(写真撮影/加藤淳史)

20代のふたりが商店街の風景になじんでいる(写真撮影/加藤淳史)

20代のふたりが商店街の風景になじんでいる(写真撮影/加藤淳史)

商店街のシャッター前で趣味のダンスを踊ってInstagramで発信している(写真撮影/加藤淳史)

商店街のシャッター前で趣味のダンスを踊ってInstagramで発信している(写真撮影/加藤淳史)

商店街から見上げたシェアハウス。ここに灯りがともる(写真撮影/加藤淳史)

商店街から見上げたシェアハウス。ここに灯りがともる(写真撮影/加藤淳史)

20代の堀さん・奥迫さんが持つ「商店街をにぎわっていた時代に無理やり巻き戻すのではなく、今の時代にそった新しいにぎわいを生み出したらいい」という感覚。これは今後さらなる少子化と人口減が進む日本において、共有されるべきものではないだろうか。余談ではあるが堀さんは「三角フラスコ」入居によって出会った福岡さんのもとで働くことになったそうだ。もちろん「寿百家店」にも関わっていく。自ら「三角フラスコ」の中心となり、化学反応を起こしていく。これからも「寿百家店」と黒崎の街に注目したい。

●取材協力
・寿百家店
・cococara-hair

人と人が「つながるバス停」? 福岡・八女市でライブラリー併設のバス停が誕生!

日本各地の自治体が、人口減少や山間部の過疎問題に直面しています。課題解決に取り組む福岡県八女市は、コミュニティ通貨が利用できるライブラリーを併設した「つながるバス停」の運用を開始しました。日本初の本で人をつなげるユニークなバス停と、人と人をつなげるコミュニティ通貨「まちのコイン」は、地域にどのような影響を与えているのでしょうか。八女市とプロジェクトを企画した面白法人カヤックに話を聞きながら、新しい地域のまちづくりについて、お伝えしたいと思います。
人と人をつなげる、ライブラリー併設のバス停とは?

福岡県南西部に位置する人口約6万2000人の八女市。市街地の玄関口、西鉄バス福島停留所にできた新しいバス停は、市町村として日本初の取り組みであるコミュニティ通貨が利用できるバス停です。八女杉と漆喰の白壁を使ったぬくもりのある建物の中に、ライブラリーがあります。地域の高校生が選んだ本が並び、減農薬で栽培された八女茶を楽しむことができます。マイボトルを持参し、通勤前にお茶を入れるリピーターも多いそうです。

福岡県立八女農業高等学校の学生が栽培から製造まで一貫して行ったこだわりの八女茶(水出し)をコミュニティ通貨50ロマンで提供(画像提供/面白法人カヤック)

福岡県立八女農業高等学校の学生が栽培から製造まで一貫して行ったこだわりの八女茶(水出し)をコミュニティ通貨50ロマンで提供(画像提供/面白法人カヤック)

「つながるバス停」のオープニング式典で企画の趣旨を説明する八女市長と面白法人カヤック代表の柳澤大輔さん(画像提供/面白法人カヤック)

「つながるバス停」のオープニング式典で企画の趣旨を説明する八女市長と面白法人カヤック代表の柳澤大輔さん(画像提供/面白法人カヤック)

地元の高校生や地域で活躍している人がおすすめする本などがずらり(画像提供/面白法人カヤック)

地元の高校生や地域で活躍している人がおすすめする本などがずらり(画像提供/面白法人カヤック)

内装には八女杉も使用。天井高は4m以上あり、開放感がある(画像提供/面白法人カヤック)

内装には八女杉も使用。天井高は4m以上あり、開放感がある(画像提供/面白法人カヤック)

ライブラリーには、「今月のセレクター」というコーナーがあり、地域の魅力ある「八女人」が月ごとに紹介されていく予定です。屋根とベンチしかなかったバス停が、通勤通学の利用者だけでなく、お年寄りや観光客も立ち寄れる地域内外に開かれた場所に生まれ変わりました。

地域コミュニティを創り出す! 「関係人口」を増やす試み

山間部が多くを占め、八女杉を産出する自然豊かな八女市では、人口減少や過疎問題を抱えていました。
「八女市では、地域コミュニティの機能低下による悪循環をなくすために、『関係人口創出事業』の取り組みを行ってきました。民間の知恵を借りようと2020年6月にプロポーザルを実施。バス停をコミュニティライブラリーにするというユニークな発想によって乗降客のコミュニケーションの場とすることで地域内外の交流を促進させる点を評価し、『つながるバス停』が採用となりました。本をフックにするというのは、IT関係の会社の提案としては意外で、面白い発想だと感じました」と話すのは、八女市役所定住対策課町並み景観係の溝尻竜夫(みぞじり・たつお)さんです。

古いバス停を取り壊した跡地に建築(画像提供/面白法人カヤック)

古いバス停を取り壊した跡地に建築(画像提供/面白法人カヤック)

外壁を木製の縦格子にすることで、圧迫感がなく、ぬくもりのある雰囲気に(画像提供/面白法人カヤック)

外壁を木製の縦格子にすることで、圧迫感がなく、ぬくもりのある雰囲気に(画像提供/面白法人カヤック)

「関係人口」とは、移住による「定住人口」でも、観光による「交流人口」でもない、地域や地域の人と多様に関わる人を指す言葉です。若者を中心とした地域外の人材が、地域づくりの新しい担い手となることが期待されています。

「つながるバス停」を提案した面白法人カヤックの地域プロデューサー長田拓さんは、企画の背景を次のように語ります。

「八女市には、別の事業で頻繁に訪れておりますが、広く知られていないだけで、ポテンシャルが高いと感じていました。八女茶のほかにも、八女手漉和紙や八女提灯、八女福島仏壇などの伝統工芸も盛んですし、重要伝統的建造物群保存地区に選定されている江戸時代から続く白壁の町並みも美しい。そんな八女の魅力をしっかりと発信したいと考えたんです。本というアナログのものに着目したのは、八女の魅力を支えている人を起点にしたい、そのために人のつながりを可視化したいと考えたから。高校生が選んだ本や八女に関わる本、八女出身の作家の本などを置くことで、地域内外の人に興味を持ってもらい、会話のきっかけをつくる。読んだ人は、本にしおりをはさめるようになっているんですよ。しおりには、名前やニックネーム、SNSのアカウントやよく行くお店を記入できます。昔の図書貸し出しカードのように、人とゆるくつながれるアイテムとして役立ててもらえたらと考えました」

人とのつながりを実感してほしいと、30種類の人の形のしおりを作成。仲良くなるきっかけに(画像提供/面白法人カヤック)

人とのつながりを実感してほしいと、30種類の人の形のしおりを作成。仲良くなるきっかけに(画像提供/面白法人カヤック)

高校生など地元の人が集まり、にぎわうオープニング式典時のバス停内(画像提供/面白法人カヤック)

高校生など地元の人が集まり、にぎわうオープニング式典時のバス停内(画像提供/面白法人カヤック)

室内には、八女茶の香りが漂う(画像提供/面白法人カヤック)

室内には、八女茶の香りが漂う(画像提供/面白法人カヤック)

使えば使うほど仲良くなる!? コミュニティ通貨「まちのコイン」

「つながるバス停」での八女茶のボトリングサービス等、加盟店が提供する特別なサービスを受けるときに使える地域通貨が、「まちのコイン」です。「まちのコイン」は、面白法人カヤックが、2018年に開発を開始したコミュニティ通貨サービスで、神奈川県の「SDGsつながりポイント事業」に採択され、2019年11月に鎌倉市で実証実験を行い、現在は神奈川県小田原市や民間のデベロッパー主導で山手線大塚駅周辺の地域で導入が開始されています。八女市の通貨名は「ロマン」。コミュニティ通貨のテーマは、「大自然や歴史、伝統をつないでにぎわうまち八女」です。

アプリをダウンロードすれば、面白法人カヤックが提供するコミュニティ通貨導入地域が選択でき、どこでも利用ができる(画像提供/面白法人カヤック)

アプリをダウンロードすれば、面白法人カヤックが提供するコミュニティ通貨導入地域が選択でき、どこでも利用ができる(画像提供/面白法人カヤック)

「従来の地域通貨は、お金の代わりですが、コミュニティ通貨は、人と人のつながりが生まれたときに、交換するためのものです。当社では、地域固有の魅力を資本価値と捉える『地域資本主義』を発信しています。まちのコインの流通量を増やしていくことが、地域の魅力の増加につながります」(長田さん)

「まちのコイン」アプリの操作画面。通帳から、貯まったロマンと使用頻度に応じた自分の八女レベルが分かる(画像提供/面白法人カヤック)

「まちのコイン」アプリの操作画面。通帳から、貯まったロマンと使用頻度に応じた自分の八女レベルが分かる(画像提供/面白法人カヤック)

「クラフトコーラづくり」など地域の商店が発行するおもしろチケット

「まちのコイン」導入にあたり、チケットを発行する加盟店から戸惑いの声はなかったのでしょうか。
「市として前例がなく、参考になるものがないので、説明会などでは、『これは八女市のファンをつくるための事業です』と必ずお伝えしていました。皆さん、『面白いですね!』『八女の魅力を伝えるためなら!』と、すぐに理解してくださいました。個人事業主の方は、柔軟でチャレンジ精神も旺盛ですし、我々が思いつかないような面白いアイデアを出してくださいます」(溝尻さん)

例えば、薬膳料理の店「八女サヘホ」では、子どもと一緒にコーラシロップづくりを体験できるチケットを発行。講習では、中に入れるスパイスの紹介があるなど、なかなかできない体験が好評でした。ほかにも、醤油屋さんの若旦那とお話ができるチケットやお店の裏メニューを注文することができるチケットも。
「それらは、コインを払うチケットですが、お店にとってありがたいSNSでの発信に協力したり、八女の『町歩きツアー』に参加するだけで、コインをもらえるチケットもあります。アプリでは、活動履歴が残るようになっています。仕事とボランティアの間にあるお手伝いごとの動機付けとして、また、少しハードルが高いSDGs(持続可能な開発目標)に関係する地域活動を身近に感じるきっかけになっています」(長田さん)

「コーラの材料にスパイスがあったとは」と、参加者も驚いていた(画像提供/面白法人カヤック)

「コーラの材料にスパイスがあったとは」と、参加者も驚いていた(画像提供/面白法人カヤック)

筆者も「まちのコイン」のアプリをダウンロードしてみましたが、地域ごとにおもしろいチケットがあり、ゲーム感覚で操作できるのも楽しい! 神奈川県小田原市や山手線大塚駅周辺など「まちのコイン」導入地域同士の連携や関係イベントを今後、検討していくとのことなので、最寄りを訪ねた際は、チェックして使ってみるのも良いと思います。

今後は、「つながるバス停」を交流拠点だけでなく、人材が活躍できる場所として活用していくそうです。同じ八女市が運営するコワーキングスペース「南仙荘」を中心に展開する地域仕事づくり支援事業と連携し、起業希望者に期間限定のチャレンジショップとして役立ててもらう予定です。

地域のにぎわいを生み出す「つながるバス停」と「まちのコイン」。「まちのコイン」は、人と人とのつながりを可視化し、地域をひらいていくコミュニティ通貨です。多様な人に地域に関わってもらう取り組みが続いています。

●取材協力
・面白法人カヤック

福岡「西新」駅直結の商業施設、7月26日オープン

東京建物(株)、(株)プライムプレイス、東京不動産管理(株)は、商業施設「PRALIVA(プラリバ)」(福岡市早良区)を、7月26日(金)にオープンする。同施設は、福岡市営地下鉄「西新」駅直結。2021年3月に竣工予定の住宅棟「Brillia Tower 西新」に併設する商業施設で、「西新エルモールプラリバ」(2015年7月閉館)跡地に、新たな形のランドマークとしてオープンするもの。

建物は地上4階・地下2階建。店舗数は36店舗。駅直結の地下2階、地下1階はこだわりの「食」ゾーンで、専門性の高い生鮮食品のほか、総菜からスイーツまで人気店舗がオープンする。

1階には、憩いの場となるカフェやファミリーにも対応したショップ等が出店。2階はサービスやカルチャーが集積。3階は「無印良品」がワンフロアまるごと出店する。

屋上(2021年春より利用開始予定)には「ルーフガーデン」を設置し、訪れる人に快適な空間を提供する。

ニュース情報元:東京建物(株)

福岡・旧大名小学校跡地に複合施設、九州初「ザ・リッツ・カールトン ホテル」を誘致

積水ハウス(株)、西日本鉄道(株)、西部瓦斯(株)、(株)西日本新聞社、福岡商事(株)の5社は、福岡市中央区で推進する「旧大名小学校跡地活用事業」において「大名プロジェクト特定目的会社」を設立し、7月8日、ホテル・オフィスを含む複合施設の工事に着手した。
旧大名小学校跡地は、様々な都市機能や交通拠点が集積する天神地区に隣接し、新たな空間と雇用を生み出す福岡市の取り組み「天神ビッグバン」の西のゲートとして重要な役割を担う場所。

同プロジェクトでは、地下1階・地上25階、延床面積約90,400m2、最高高さ約111mの複合施設(オフィス・ホテル棟、コミュニティ棟)を建設する。オフィス・ホテル棟の17~24Fには、九州初となるラグジュアリーホテル「ザ・リッツ・カールトン ホテル」を誘致。3・5・16Fには、高度なセキュリティ機能とBCP性能、耐震性を備えたハイグレードなオフィスを設置する。

コミュニティ棟においては、7~11Fに国際水準のレジデンス(賃貸)を整備。2・3階にコワーキングスペースやシェアオフィスを配置する。また、約3,000m2の広大な広場を設け、イベントホールとの一体的利用による憩い・賑わいの創出や、コワーキングスペースなどによる企業や人材の交流など、多様な交流拠点を目指す。

竣工は2022年12月を予定している。

ニュース情報元:積水ハウス(株)

福岡・旧博多スターレーン跡地に複合施設

NTT都市開発(株)と大成建設(株)は、「(仮称)博多駅東1丁目開発計画」(福岡県福岡市)を共同で実施すると発表した。

同計画は、博多駅より徒歩4分、旧博多スターレーン(ボウリング場)跡地において行われる。詳細については協議・検討中だが、2022年の竣工を目指し、オフィスと低層部を賑わいの空間とした複合施設を計画している。

福岡市では、博多駅周辺の活力と賑わいを周辺につなげていくプロジェクト「博多コネクティッド」を推進。2社は同計画を通じて、周辺地域と連携した街づくりを行っていく。

ニュース情報元:NTT都市開発(株)

ローカルで長屋暮らし。福岡県八女市で賃貸住宅「里山ながや・星野川」を選んだ人たちに起きたこと

福岡の山どころとも呼ばれる八女市。お茶の産地として有名だが、特によい茶葉が取れるエリアとして人気の高い上陽町に2018年7月に誕生したのが、この賃貸住宅「里山ながや・星野川」だ。自然あふれるローカルエリアに突如できた長屋にどのような人たちが移り住み、生活しているのだろうか。現地の暮らしぶりをリサーチしてきた。
民間企業が運営。移住前のお試し居住として、長屋の暮らしを提供

上陽町久木原は近隣にスーパーなど日用品をそろえる施設がなく、八女の市街地からも車で20分と、ローカル中のローカル、という声が地元でもちらほら聞こえるエリアだ。

もともと小学校跡地のグラウンドを民間会社が土地を借り利活用、建築設計事務所アトリエ・ワンの塚本由晴氏が設計を手掛けている。施工は地元の若手大工が行い、全8戸がつながった長屋様式の建物は、ほぼ全てが八女産の木材を使用して造られている。

この場所に賃貸の長屋を構えることを決めたのは、この住宅の管理会社でもある八女里山賃貸株式会社。自然資源の活用と、無理のない移住生活へのステップを創出しようという想いから、あえてこの田舎で長屋建築を計画実行した。

地域おこし協力隊で八女移住。夢を形にする助走期間として住まう山内淳平さん(28歳)は、福岡県小郡市出身。新卒で大手家電メーカーに就職後、2018年9月から八女の地域おこし協力隊に就任。地元企業のIT指導や広報支援を行う(写真撮影/加藤淳史)

山内淳平さん(28歳)は、福岡県小郡市出身。新卒で大手家電メーカーに就職後、2018年9月から八女の地域おこし協力隊に就任。地元企業のIT指導や広報支援を行う(写真撮影/加藤淳史)

まずお話をお聞きしたのは、会社員時代は営業職を担当していたという山内淳平さん。東京、大阪、福岡と転勤を繰り返すなかで、今はローカルが時代の最先端だと感じ、地域おこし協力隊の求人を一年かけて探したという。全国的にも珍しい、商工会に配属されるという募集要項を見て、八女への移住を決めた。「この建物はSNSで見て一目惚れ。地域資源を使って地元の若手大工がつくったというコンセプトもとても良くて、絶対ここに住もうと思っていました」と、協力隊就任とともに入居を開始した。大学時代を含めると、ひとり暮らしは4拠点目になるが、今が最も心にゆとりがあるという。

部屋はメゾネットタイプの2階建て。天井、柱、家具、格子などは全て八女杉を使用。1階は土間空間で、ひんやりと涼しい空気が流れる。写真はモデルルーム。どの部屋も同じ間取りとなる(写真撮影/加藤淳史)

部屋はメゾネットタイプの2階建て。天井、柱、家具、格子などは全て八女杉を使用。1階は土間空間で、ひんやりと涼しい空気が流れる。写真はモデルルーム。どの部屋も同じ間取りとなる(写真撮影/加藤淳史)

同じく八女杉を使ったキッチン。通常、八女杉を素材に使ったキッチンはほぼないそう。木の良い香りが漂う(写真撮影/加藤淳史)

同じく八女杉を使ったキッチン。通常、八女杉を素材に使ったキッチンはほぼないそう。木の良い香りが漂う(写真撮影/加藤淳史)

キッチン裏は浴室とトイレ、ランドリースペースと水まわりが1カ所にまとめられている。小屋の先には元ランチルームがあり、それが程よい目隠しに。日光が差し込んで開放感あふれる空間が広がる(写真撮影/加藤淳史)

キッチン裏は浴室とトイレ、ランドリースペースと水まわりが1カ所にまとめられている。小屋の先には元ランチルームがあり、それが程よい目隠しに。日光が差し込んで開放感あふれる空間が広がる(写真撮影/加藤淳史)

「室内は木材がいっぱいで、玄関をくぐるたびにふわっと森林の香りがします。朝には鳥のさえずりが聴こえます。星野川は星が綺麗な地域なので、空を見上げると満天の星空が望めますし、目の前にある清流の音も心地いい。空間や家具に木が使われていることでおだやかな気持ちになり、料理や入浴の時間とかも、ひとつひとつを丁寧に過ごせるようになりましたね」と話すように、飲み会の多かった会社員時代と比べて自宅でゆっくりと過ごす時間が増えたそうだ。

当初は、八女でなくてもどこでも構わないと思っていたが、至るところに野菜の直売所があり、どれを食しても美味しいことや、長屋暮らしを通じて隣人や地元の人たちとも程よい交流ができたおかげで、暮らしを通じて、この土地に住む人のあたたかさや生活環境の良さが分かってきた山内さん。特に八女の星空と山の景色に魅せられ、地域おこし協力隊の任期を終えたあとは、この地形を活かし体験型のアクティビティをメインにした事業を起こそうと計画中だ。

「地域を盛り上げることを目標とするより、八女にいる自分がどう幸せになれるかを考えた方が地域にとって良くなりそうな気がするんです」と語る。自分の生活像も将来のことも八女に来た当初はぼんやりとしか持っていなかったが、自分の環境を変えたことで少しずつ考えがクリアになってきたそうだ。

「自身のステップの場としてこの環境があることに満足しています」と最後、爽やかに答えていただいた。

「長屋暮らしだからか周囲に人がいなくて寂しいと感じたことはないです。地域の方とは年に数回、近くの公民館で親睦会を開いてお酒を飲みながら交流するのが楽しいです」(写真撮影/加藤淳史)

「長屋暮らしだからか周囲に人がいなくて寂しいと感じたことはないです。地域の方とは年に数回、近くの公民館で親睦会を開いてお酒を飲みながら交流するのが楽しいです」(写真撮影/加藤淳史)

夫婦生活のはじまりの場として。職場は変わらずとも気持ちに変化が桜木愼也・有希子さんご夫妻。お互い理学療法士で、同じ病院に就職したことがきっかけで知り合い、昨年結婚。初めての同居生活をこの里山賃貸でスタートさせた。仕事は結婚後も継続中(写真撮影/加藤淳史)

桜木愼也・有希子さんご夫妻。お互い理学療法士で、同じ病院に就職したことがきっかけで知り合い、昨年結婚。初めての同居生活をこの里山賃貸でスタートさせた。仕事は結婚後も継続中(写真撮影/加藤淳史)

次にお話を聞いたのは、里山賃貸住宅の利用者第一号となった桜木愼也・有希子さんご夫妻。「八女のロマン」という地元の移住ポータルサイトを見て竣工式から完成まで何度も足を運び、入居開始と同時に二人暮らしを始めた。
お互いアウトドア好き、また、夫が柳川、妻が筑後から職場のある八女の中心街まで通っていたということもあり、もともと3,40分の通勤時間が発生していたことから、星野川から勤務地まで車で20分という距離もさほど気にならず、それよりも自然に囲まれた環境が良いということで、長屋生活を選んだ。

「最初は、キャンプのコテージに泊まっているような気分でしたね。春は家の窓から桜並木を眺めたり、夏は目の前にある川に足を浸して涼んだり、冬はストーブで暖をとったりと、四季を生活のなかで楽しんでいます」

そう話す愼也さんは、この物件に移り住んでからドライフラワーの制作に目覚めて、趣味でつくった花々を壁に吊るして飾っている。

ドライフラワーは愼也さんの趣味。「いつの間にか始めてましたね」とコメント。中には結婚式のブーケで使った花もあるそう(写真撮影/加藤淳史)

ドライフラワーは愼也さんの趣味。「いつの間にか始めてましたね」とコメント。中には結婚式のブーケで使った花もあるそう(写真撮影/加藤淳史)

日用品などの買い物については市街地の病院で働いていることもあり、仕事帰りに済ませているので田舎暮らしに不便は感じていない。むしろ、周囲に店が少ないことで、なるべく自宅にあるもので済ませるうちに、物を買うことへの意識が変わってきたとのこと。ひとつひとつを吟味して買うようになったので、無駄遣いがなくなり貯金ができるようになったそうだ。また、家庭菜園を始めたことで、病院に来るおじいちゃん、おばあちゃんと肥料の種類など、野菜の栽培についての話が盛り上がるようにったという。

「接客業という仕事柄、ストレスを溜めることもあります。しかし、夫への悩み相談は通勤中にするようになったので、家に帰ると自然とスイッチが切り替わって、全く仕事のことは考えなくなりますね」とにこやかに話す有希子さん。外出してもすぐに家に帰りたくなるくらい、自分の住まいが好きなんだそう。

(写真撮影/加藤淳史)

(写真撮影/加藤淳史)

(写真撮影/加藤淳史)

(写真撮影/加藤淳史)

「以前は、せかせかして時間にゆとりが持てていなかったんだろうな、と思うときがあります。自分たちは、職場は変わらず、ただ住環境を変えただけなのですが、木のお風呂に浸かったり、2階のスペースで横になって休んだり、そういう暮らしが手に入ったことで変わってきたような気がしますね」と有希子さん。場所の力をひしひしと感じているようだ。

長屋の住人たちとの軽い挨拶や日常会話は毎日。「さっきイタチを見たよ」など気軽に話せる相手が近くにいることが生活の安心・安定感にもつながっている(写真撮影/加藤淳史)

長屋の住人たちとの軽い挨拶や日常会話は毎日。「さっきイタチを見たよ」など気軽に話せる相手が近くにいることが生活の安心・安定感にもつながっている(写真撮影/加藤淳史)

愼也さんも「もともと意識下にあった自分の好きなことや物が引き出された感じがありますね」というように、住まいによってご夫婦それぞれの行動や心境にポジティブな変化が生まれたようだ。

「子どもが生まれても生活的に問題なければずっとここにいたいですね。それ位この自然環境と木の生活は気に入ってます」と話す桜木さんご夫婦は最後、顔を見合わせて穏やかに微笑みあっていた。

シンプルに心地よい暮らしを求めたら、たまたま移住につながった(写真撮影/加藤淳史)

(写真撮影/加藤淳史)

今回取材した山内さん、桜木さんはともに都市部からの移住。一般的にはそのように環境の大きく異なる地域への移住は、うまく生活していけるかなどの不安で、ハードルが高く感じるものだ。しかしこの2組の場合は、いきなり完成形を求めるのではなく、まずは里山賃貸住宅の暮らしに惹かれてコンパクトな長屋暮らしを始め、そこから少しずつ自分たちの好きなことや、やってみたいことに出会え、将来的にもここに住み続けるという「移住」という思いに至った。

全く違う環境に飛び込んでいく「移住」を大げさにとらえずに、こんな暮らしをしてみたいな、とか、単に住まい環境を変えたい、他者のコンセプトや物に惹かれた、という心のままにローカルでの暮らしを始めるのもいいのかもしれない。特にこの八女里山賃貸住宅では、同じ感覚で集まった人同士がつながることによって、それぞれが良い方向へと進んでいるようだった。

継続的な生産性は、無意識レベルでの「好き」から始まるのかもしれない。

取材当日に地域住民の有志で植えた芝生。今後はここでBBQや星空観察などを計画中だ(写真撮影/加藤淳史)

取材当日に地域住民の有志で植えた芝生。今後はここでBBQや星空観察などを計画中だ(写真撮影/加藤淳史)

●取材協力
>八女里山賃貸住宅ホームページ

福岡で誕生、100年先の暮らしを模索する実験的 コミュニティ

近年、東京都内でも拡張家族をテーマにしたシェアハウスなどができ、新たな社会関係が生まれはじめている。その中で昨年、福岡では「100年先の暮らし」をテーマにした実験的コミュニティ『Qross』が誕生。その特徴と、ファミリーやシングルマザー、多拠点生活者などさまざまな立場の中でコミュニティへ参加することへのメリットを、立ち上げから1年経った今、振り返りながら語っていただいた。
コンセプトは「100年先の暮らしを実験する場所」

Qrossができたのは、2018年4月。立ち上げ当初のメンバーが、たまたま同じ価値観をもっており一緒に暮らす場が欲しいということで、移動にも便利な天神に拠点をおいた。

ここはシェアハウスのように住むことが前提ではない。住む人もいれば、日中の生活拠点として利用する人、たまに遊びに来る人もいる。0歳から66歳まで多様な人が所属し、思い思いに自分の生活をゆだねることができる場所といった感じだろうか。

現在の利用者は約30名。クリエイターをはじめ、プロジェクトデザイナー、映画プロデューサー、新米猟師、不動産会社社長、シェアハウス運営者、アイドル、デザイナー、編集者、日韓ツアープロデューサー、占星術師、鍼灸師、小学校教師、元大学教授、学生……と、肩書きはそれぞれ。

ニュースでも流れるように、テクノロジーの急速な進化、地球温暖化など環境への不安、政治や経済も含めた既存の社会システムの限界など、さまざまな社会問題が世界を取り巻き、これからの未来が予測不能ななかで個人として暮らしはどうあるべきか?100年後、どういう暮らしが残っていたらうれしいのか?そういった問いかけをそれぞれに感じながら、ともに生活という場で実験をしている。

基本的には暮らしに重きをおいてはいるが、コミュニティ内でも集団子育てなど、さまざまな活動もこの1年で行ってきた。

Qrossでの社会実験1.「きいちの学校」。集団子育ての一環として、さまざまな肩書きをもつ利用者の特性を活かして、非婚シングルマザーの子どもの先生を日替わりで担当。この活動だけではなく、普段の生活でも利用者同士で子育てをしている。 ※)背景の松は、もともと能の練習場だった時の状態をそのまま残したもの。現在はリビング・ダイニングとして使用(写真提供/Qross)

Qrossでの社会実験1.「きいちの学校」。集団子育ての一環として、さまざまな肩書きをもつ利用者の特性を活かして、非婚シングルマザーの子どもの先生を日替わりで担当。この活動だけではなく、普段の生活でも利用者同士で子育てをしている。
※)背景の松は、もともと能の練習場だった時の状態をそのまま残したもの。現在はリビング・ダイニングとして使用(写真提供/Qross)

Qrossでの社会実験2.「田んぼ部」。都心の天神から車で30分ほどの糸島で田んぼを借りて自分たちのお米を育てる。手植えから脱穀まで、プロの指導を仰ぎつつ自分たちで管理(写真提供/Qross)

Qrossでの社会実験2.「田んぼ部」。都心の天神から車で30分ほどの糸島で田んぼを借りて自分たちのお米を育てる。手植えから脱穀まで、プロの指導を仰ぎつつ自分たちで管理(写真提供/Qross)

Qrossでの社会実験3.「ソウルツアー」。韓国のまちづくりをアートの視点で観光。また韓国と日本での共同イベントも今後実施予定(写真提供/Qross)

Qrossでの社会実験3.「ソウルツアー」。韓国のまちづくりをアートの視点で観光。また韓国と日本での共同イベントも今後実施予定(写真提供/Qross)

Qrossは8割が多拠点居住者で、残り2割が定住者であることが特徴。それぞれに個人の家、または家族と住む家を持っている中でコミュニティを利用している人のほうが多い。職業も働き方もバラバラ、単身者もいれば家族もいて、さらにここに定住する人もいれば多拠点先のひとつとして利用している人もいる。このように多様な、人・暮らし方が生まれたのは、それぞれこの場所のどこに魅力を感じたからだろうか?

年齢層も0歳~66歳と幅広い(写真撮影/加藤淳史)

年齢層も0歳~66歳と幅広い(写真撮影/加藤淳史)

コミュニティにしかない価値

主にあげられたのはこのような理由だ。

▪「ただいま」と言える場所が複数あると心に余裕が生まれて、いろいろなことに挑戦しやすい。会社と一人暮らしの往復だと視野が狭くなる気がした。自分の拠点を3つ以上持つと一つ一つの拠点にいる時間は短いけれどもその分、その場にいる人を大切にしようと思えた(多拠点居住/デザイナー)

▪起業を予定してシェアオフィスも探したけれど、皆が黙々と作業している雰囲気がそもそも苦手。変にルールに縛られる空間よりも自分は多様な空気、カオス感を感じる場所に身を置いていたかった。60歳代ともなると、ルールをつくることは簡単だけれどもカオスに戻るのが難しい。認識論より存在論。ありかたの大切さに重きを置きたかった(同県内にて家族と居住中/元大学教授・イドビラキ伝道師)

▪ある程度仕事をしながら収入は確保できるし、それなりにやりたいこともできるけれど、こなし作業になる気がした。自分がこの先どうなるか分からない、ワクワク感に身を置いていたかった(長崎壱岐と二拠点居住/プロジェクトデザイナー)

▪子育ては自分が運営しているシェアハウスでもしていたけれど、大家と入居者という立場だと遠慮して言えないことがあったかもしれない。ここでは全員で子育てしているので、子どもを叱ってくれることもあるし、叱るポイントも人それぞれなのが面白い。多様な価値観に触れ合えることで、柔軟性や社会性も自然と身について、キャパも広がりそう。(非婚シングルマザー/シェアハウス運営者)

▪友達と一緒に子育てがしたかったからQrossの利用者になった。結果的にはいろんな世代の人がいて、今まで出合わなかった価値観を知ることができた。大人になるにつれ、どんどん居心地の良い空間や人を求めがちだから、ここで暮らすことはすり合わせも大変だけれどいい刺激になる。(東京からUターン/フリーランス)

Qrossの入居は基本紹介制。さらに入居前に「100年先の暮らし」について事前に説明があり、その価値観を共有した上で利用者を迎えている。さまざまな肩書きや背景はあるけれども、皆が共通で感じているのは、時間や心の「余白」だった。

非婚シングルマザーで0歳と3歳の子どもをQrossで子育て中の江頭聖子さん。「最近は、私以外のQrossメンバーと子どもだけで海外旅行に行ったり、逆に私も子どもを残して数日海外に行けたり。集団子育てをすることで、安心信頼できる大人が実親以外にもいることは、私にも子どもにとっても有難いです」と語る(写真撮影/加藤淳史)

非婚シングルマザーで0歳と3歳の子どもをQrossで子育て中の江頭聖子さん。「最近は、私以外のQrossメンバーと子どもだけで海外旅行に行ったり、逆に私も子どもを残して数日海外に行けたり。集団子育てをすることで、安心信頼できる大人が実親以外にもいることは、私にも子どもにとっても有難いです」と語る(写真撮影/加藤淳史)

東京と福岡の二拠点生活中の山崎瑠依さん。東京でもシェアハウス居住中。「一人暮らしのときと違い、職場と自宅の往復だけではない、心が満たされている感じがする。人といる時間を大切にするようになった」と話す(写真撮影/加藤淳史)

東京と福岡の二拠点生活中の山崎瑠依さん。東京でもシェアハウス居住中。「一人暮らしのときと違い、職場と自宅の往復だけではない、心が満たされている感じがする。人といる時間を大切にするようになった」と話す(写真撮影/加藤淳史)

元大学教授であり、Qross最年長利用者の坂口光一さんはこう話す。「コミュニティは生き物のようで一人が入ってくるとまた色を変える。リアルな生命体のような印象で、それがさらに新しい可能性を見出しそう」糸島に自宅もあるが、「ダンナ元気に外遊び、おかげで手数いらず」と、コミュニティに参加することは妻も大賛成だったそう(写真撮影/加藤淳史)

元大学教授であり、Qross最年長利用者の坂口光一さんはこう話す。「コミュニティは生き物のようで一人が入ってくるとまた色を変える。リアルな生命体のような印象で、それがさらに新しい可能性を見出しそう」糸島に自宅もあるが、「ダンナ元気に外遊び、おかげで手数いらず」と、コミュニティに参加することは妻も大賛成だったそう(写真撮影/加藤淳史)

新しい暮らしは余白から生まれる

このようにお互いのバックグラウンドが違っていることをQrossでは歓迎し、お互いがそれぞれでできる範囲で暮らしの役割分担をしている。入居前に価値観をすり合わせていることもあり、利用後に「イメージと違う」と言う人はほぼいない。お互いが依存しすぎない、程よい距離感の中で付き合っているから良い関係性が成り立っているようだ。

「集団子育てや田んぼの耕作なども、この余白ができた上で成り立つ活動ですね。なので目立たない普段の日常での状態が、暮らしの実験そのものなんです」

今回、Qross立ち上げの際の呼びかけ人でもある坂田賢治さんはこう話す。

「Qrossは経営者などほぼ日常すべてがビジネスに関連づいている、という人たちも多く所属しています。ですがQrossの暮らしのなかでは互いの社会的立場はさほど関係なく、お互いが素でいられる状態が自然とつくられています。それによってビジネスの世界とはまた別の、感覚的なものや言語化できないものを、生活を通じて知ることができる。それによって自分一人では気がつかない感覚を知ることは、この先の未来、意味があることだと思っています」

新しい生活は、新しい社会関係の中で生まれる。

(写真撮影/加藤淳史)

(写真撮影/加藤淳史)

Qross呼びかけ人のプロジェクトデザイナー・坂田賢治さん。「100年先の暮らしがどうなるかについて、ゴール設定はしていません。どうなるか分からないのに設定しても無理があるので、まず個人がどうありたいか、社会から個人の暮らしを考えるのではなく、個人から暮らしのあり方を発信していくことを大切にしています」(写真撮影/加藤淳史)

Qross呼びかけ人のプロジェクトデザイナー・坂田賢治さん。「100年先の暮らしがどうなるかについて、ゴール設定はしていません。どうなるか分からないのに設定しても無理があるので、まず個人がどうありたいか、社会から個人の暮らしを考えるのではなく、個人から暮らしのあり方を発信していくことを大切にしています」(写真撮影/加藤淳史)

フリーランス(たまにDJ)で昨年、東京からUターン帰省した梅田佳枝さん。「いろんな人と交わると、なぜそうするの?と疑問をもつこともあるけれど、伝え合うことで幅広い視野が身につく!」とコメント(写真撮影/加藤淳史)

フリーランス(たまにDJ)で昨年、東京からUターン帰省した梅田佳枝さん。「いろんな人と交わると、なぜそうするの?と疑問をもつこともあるけれど、伝え合うことで幅広い視野が身につく!」とコメント(写真撮影/加藤淳史)

不動産やWEB、映像関連事業など多岐にわたってプロジェクトや会社を立ち上げている後原宏行さん。「今社会が分断され続けて改めてコミュニティが出来ているけれど、元々は皆、大きなコミュニティに属しているという認識です。それが曖昧になってきているから、昨今では分かりやすい場所のあるコミュニティが増えている。Qrossはそんなコミュニティのひとつですが、天神という福岡の都心部なのに気を張らずにいられる、ということは大きな価値だなと感じています」(写真撮影/加藤淳史)

不動産やWEB、映像関連事業など多岐にわたってプロジェクトや会社を立ち上げている後原宏行さん。「今社会が分断され続けて改めてコミュニティが出来ているけれど、元々は皆、大きなコミュニティに属しているという認識です。それが曖昧になってきているから、昨今では分かりやすい場所のあるコミュニティが増えている。Qrossはそんなコミュニティのひとつですが、天神という福岡の都心部なのに気を張らずにいられる、ということは大きな価値だなと感じています」(写真撮影/加藤淳史)

さまざまな立場でも、コミュニティに参加するしないの選択はできる

コミュニティに参加して1年、マインド面で変化したことは?と聞くと皆が「そんなに変わっていない」と一様に答える。ただ、コミュニティ、イコール「参加者が似通った、閉ざされた集団」というネガティブなイメージがポジティブに変わったり、朝起きてリビングに一人一人現れてコーヒーを誰かが淹れたり、子どもの楽しそうな声がBGMに加わったり、誰かと誰かが盛り上がって話していたりと、これまでの自分の暮らしに加えて、さらにQrossでお気に入りの場所やシーンが増えたみたいだ。無理なく生活の延長上に新たな視点を添える。それもまた、コミュニティを続ける秘訣なのかもしれない。

どうしてもコミュニティとなると、その場に生活拠点を構えたり、活動への参加が半ば強制的になったりと、特に子育て世代などには参加のハードルが高いように感じることもある。けれどもQrossのような、ある一定条件を満たせば、どんな社会的立場でも参加可能なコミュニティも誕生している。コミュニティは、いわば小さな社会でもある。このようなコミュニティに関わることで、自分の周囲にはない、新たな視点が得られる機会となり、社会に出る前の学びにもなりそうだ。

これからまたさらに変化する時代のなか、自分たちの暮らしのありかたもまた、再構築する時期がやってきているのかもしれない。

福岡「西新」駅直結の新商業施設、全テナントが決定

東京建物(株)と(株)プライムプレイスはこのたび、西新エルモールプラリバ跡地にて開発中のタワーマンション「Brillia Tower 西新」(福岡市早良区)に併設する新商業施設「PRALIVA(プラリバ)」の全テナントを決定した。
同施設は、福岡市営地下鉄「西新」駅徒歩1分(駅直結)に立地する地上4階・地下2階建。2019年夏に開業し、九州初出店を含む36店舗が集結する。全体開業は2021年春で、約40店舗になる予定。

B2FとB1Fは食品を中心としたフロア。京都で人気の老舗ベーカリー「GRANDIR(グランディール)」が九州初出店。ちょい飲みができる「博多とりかわ大臣 プラス」といった、立ち寄ることで日常の食卓に楽しみをプラスできる多彩な店舗構成を予定している。

1Fのメインエントランス横には、憩いの場となるカフェ「プロント」が出店。ステーショナリーやコスメを集約した「プラットインキューブ」や、ペット雑貨「P2DOG&CAT」など、幅広いニーズに寄り添った店舗構成とした。

2Fはサービスやカルチャーを集積させたフロアで、九州初出店のキッズスクール「My Gym」、様々なジャンルの書籍を取り揃える「くまざわ書店」が出店。3Fはワンフロアまるごと「無印良品」で、日々の生活を豊かにするアイテムを揃える。

ニュース情報元:東京建物(株)

本当に住みやすい街 in福岡、トップは「藤崎」

アルヒ(株)はこのたび、福岡県の“本当に住みやすい街”TOP10を発表する「ARUHI presents 本当に住みやすい街大賞 2019 in 福岡」を開催した。理想ではなく、実際にその地域で生活するという視点から、同社データを基に住宅専門家が住みやすい街を厳選した。

それによると、ランキングで1位に輝いたのは、早良区の「藤崎」(福岡地下鉄空港線)だった。生活利便性が高く、子育て環境も充実した魅力満載のファミリータウンと評価されている。

2位には南区の「大橋」(西鉄天神大牟田線)がランクイン。都心へのアクセス至便、駅ビルのリニューアルで更なる躍進が期待できる買物環境抜群の街として評価されている。

3位には「博多南」(JR博多南線)がランクイン。JR博多駅まで1駅8分、西鉄バス路線も天神・博多方面に多数出ておりアクセス性が良好。自然にめぐまれつつ、商業施設&住宅開発の発展計画もある「究極の博多近接タウン」として評価されている。

4位には衣食住遊豊かなアーバンシティ「唐人町」(福井岡地下鉄空港線)、5位には自然豊かで歴史ある街「香椎」(JR香椎線)が選ばれた。

ニュース情報元:アルヒ(株)

福岡・天神の都市再生事業計画を認定、国土交通省

国土交通省は都市再生特別措置法の規定に基づき、民間都市再生事業計画「(仮称)天神ビジネスセンタープロジェクト」を認定した。
同事業は今年11月5日付けで福岡地所(株)より申請があったもの。福岡市が主導する「天神ビッグバン」で掲げる中核事業の一環として、天神地区内における機能性や災害対応力の高いビルへの建替えを行い、高質なオフィス・商業空間並びに都市景観を創出する。

また、天神地下街へつながる地下通路や、地上と地下を円滑につなぐアトリウム(吹き抜け空間)を整備するなど、歩行者ネットワークの強化も図る。

事業区域は、福岡市中央区天神一丁目87-1他、5,453.94m2。地上19階・地下2階の複合ビルを建設する。事業施行期間は2019年1月7日~2021年9月30日までの予定。

ニュース情報元:国土交通省

福岡・天神の建替プロジェクト、第1期事業計画が決定

西日本鉄道(株)は、福ビル街区(福岡ビル、天神コアビル、天神第一名店ビルを含む街区)において、第1期事業の建替計画を決定した。事業地は福岡市中央区天神一丁目11番。福岡ビル及び天神コアビルを建替える。地上19階、地下4階、高さ約96m、延床面積約100,000m2、商業・オフィス・ホテル等のミクスドユース施設(複合施設)を建設する。

商業フロアは、福岡ならではのライフスタイルを発信することで天神の魅力を高めるとともに、オフィスワーカーの利便性向上に寄与する機能を配置。オフィスフロアは、九州最大の基準階面積を誇る賃貸オフィスを整備。ホテルフロアでは、クリエイティブワーカーや外資系ワーカーをターゲットとしたハイクオリティホテルを整備する。

2019年4月以降に福岡ビルを、2020年4月以降に天神コアビルの解体に着手し、2023年12月に第1期ビルの竣工、2024年春に開業予定。職住接近のコンパクトシティといった特徴を活かし、常に新しいビジネスと文化を生み出す街を創出する。

ニュース情報元:西日本鉄道(株)

首都圏の賃貸住宅市場、18年第1四半期は下降地域が大きく増加

(株)タス(東京都中央区)はこのたび、「賃貸住宅市場レポート 首都圏版・関西圏・中京圏・福岡県版 2018年7月」を発表した。
「2018年第1四半期 1都3県賃貸住宅市況図」「東京23区ハイクラス賃貸住宅の市場動向」および「2018年5月期の1都3県賃貸住宅指標」「2018年5月期の関西圏・中京圏・福岡県賃貸住宅指標」を掲載している。

それによると、1都3県賃貸住宅市況図では、東京23区は墨田区が「悪い」→「やや悪い」、江東区が「悪い」→「やや悪い」に改善。一方で、台東区が「やや良い」→「やや悪い」、品川区が「やや良い」→「やや悪い」、大田区が「やや悪い」→「悪い」に悪化した。首都圏では、千葉県が「やや悪い」→「悪い」に悪化している。トレンドが上昇を示す地域は、2017年第4四半期の12地域から2018年第1四半期は5地域と大きく減少。下降を示す地域は、2017年第4四半期の14地域から2018年第1四半期は22地域と大きく増加した。

東京23区ハイクラス賃貸住宅の市場動向では、供給量の多い4,000~5,000円/m2月クラスの空室率TVI(タス空室インデックス)は、2017年4月より改善傾向にあったが2017年9月より再び悪化に転じている。また、5,000円/m2月超クラスの空室率TVIは、2017年1月より悪化傾向が続いている。賃料が上昇傾向にあることが要因と思われる。

4,000~5,000円/m2月クラスの募集期間は、2016年11月をピークに横ばい傾向で推移しており、2018年3月末時点で2.92ヶ月。5,000円/m2月超クラスの募集期間は2017年3月より悪化が続いていたが、2018年2月より改善傾向にあり、2018年3月末時点で3.21ヶ月となっている。

ニュース情報元:(株)タス

福岡・天神に都市型コンパクト商業施設、東京建物

東京建物(株)は、福岡市中央区天神にて開発を進めてきた都市型コンパクト商業施設「TENJIN249」を7月31日(火)に竣工すると発表した。建物は、九州最大の商業集積地である福岡天神に位置し、西鉄天神大牟田線「西鉄福岡(天神)」駅から徒歩3分に立地する地上8階建。

1~2Fには日本たばこ産業(株)が展開する加熱式たばこ「Ploom TECH」の専門店「Ploom Shop」と、スペシャリティコーヒーを扱う専門的なコーヒーショップ「REC COFFEE」のコラボレーションストアが開業(8月8日)。美容エステ等の出店も決定しており、近隣オフィスワーカーをはじめ、福岡を訪れる幅広い層の方が利用できる、魅力ある商業施設を目指す。

【施設概要】
●所在地:福岡県福岡市中央区天神二丁目3番37号
●交通:西鉄天神大牟田線「西鉄福岡(天神)」駅徒歩3分
●用途:物販店舗、飲食店舗、サービス店舗
●構造・規模:鉄骨造・地上8階建(貸室:1~7階)
●設計・監理:りんかい日産建設(株)
●施工:りんかい日産建設(株)

ニュース情報元:東京建物(株)

福岡でコンパクトマンション展開、レジデンスギャラリー開設、フージャースコーポレーション

(株)フージャースコーポレーション(東京都千代田区)は、コンパクトマンションブランドを展開するため、「天神レジデンスギャラリー」(福岡県福岡市)を、4月14日(土)にオープンする。同ギャラリーは、地下鉄七隈線「渡辺通」駅徒歩3分のショッピングモール「BiVi福岡」4階に立地。初弾として、「デュオヴェール大濠公園」(地下鉄空港線「大濠公園」駅徒歩6分)、「デュオヴェール平尾駅前」(西鉄天神大牟田線「西鉄平尾」駅徒歩2分)の販売を予定している。

同社グループは、2016年9月にコンパクトマンションブランド「Duo Veel(デュオヴェール)」を立ち上げ、東京・銀座にてギャラリーを開設、東京都心エリアでコンパクトマンションの供給を行ってきた。九州福岡エリアにおいても、単身者やDINKSの増加から、都市型のコンパクトマンションへのニーズがあると考え、東京・銀座に続き、コンパクトマンションのレジデンスギャラリーをオープンする。「都心でいきいきと、自分らしく働く女性」をメインターゲットに、快適に暮らせる住まいを提案していく。

ニュース情報元:(株)フージャースコーポレーション

17年9月期の首都圏の賃貸住宅、更新確率の悪化が継続、タス

不動産評価Webサイト「TAS-MAP」を運営する(株)タスは、このほど「賃貸住宅市場レポート 首都圏版・関西圏・中京圏・福岡県版 2017年11月」を発表した。
首都圏賃貸住宅市場は、世帯数の増加数が過去1年と同程度、金融機関の融資態度が硬化していることから、着工数は過去1年の90%程度と仮定すると、2018年の東京23区の需給ギャップは緩やかに拡大すると予想。これに伴い東京23区の空室率TVI(タス空室インデックス)も2018年は悪化基調で推移すると考察している。

2017年9月期の1都3県賃貸住宅は、首都圏の更新確率の悪化が継続。また、金融機関の融資態度の効果に伴い、貸家着工数の増加に抑制がかかったことからアパート系空室率TVIの悪化幅が緩やかになってきた。

2017年9月期の関西圏・中京圏・福岡県賃貸住宅は、アパート系空室率TVIは大阪府で改善傾向、京都府と福岡県は横ばい、その他の地域では悪化傾向で推移している。マンション系空室率TVIは兵庫県、愛知県、静岡県で悪化傾向、その他の地域は横ばいで推移している。

ニュース情報元:(株)タス