SNSが浸透した今、インテリア提案も新たな局面へ。感性を形にするデザインシステムとは?

積水ハウスが、新デザイン提案システム「life knit design(ライフ ニット デザイン)」を6月30日から全国で始動するという。そのプレス向けの発表会が、6月20日に開催された。併せて、「life knit atelier(ライフ ニット アトリエ)」の内覧会もあり、筆者も参加してみた。

【今週の住活トピック】
「life knit design(ライフニットデザイン)」6月30日始動/積水ハウス

「和・洋・モダン」などから、「静・優・凛・暖・艶・奏」の6分類へ

積水ハウスの説明によると、“感性”を住まいに映し出すのが、新デザイン提案システム「life knit design」だという。“時間と共に愛着を編み込む住まい”といった意味合いがあるそうだ。これまでは、その時々に流行した「和・洋・モダン」などといったテイストをベースにしていたが、より普遍的な“感性”をベースにした空間提案をするのが、ライフ ニット デザインということだ。

その感性とは、これまでの積水ハウスの施工事例などのインテリア画像約6600点から受ける印象を言語化して、日本カラーデザイン研究所の言語イメージスケールを元に3D化した結果、おおらかな6つの感性フィールドを導き出したもの。例えば、静かな、くつろいだ、豊潤な、凛とした、などをプロットして、おおらかな(重なる部分もある)関係性をグループ化した結果、「静・優・凛・暖・艶・奏」の6つの感性フィールドに集約した。

【6つの感性フィールド】
「静 PEACEFUL」:しなやかな空気感…ローコントラスト、同系色
「優 TENDER」 : さわやかな空気感…すっきりナチュラルな木質感
「凛 SPIRIT」: 緊張感のある空気感…上質なシンプルさ
「暖 COZY」: 暖かみのある空気感…暖かみのある木質感
「艶 LUXE」: 贅沢な空気感…ハイコントラスト、重厚感
「奏 PLAYFUL」: 心躍る空気感…ワクワクする色やカタチ

6つの感性フィールドをプロット

積水ハウス プレゼン資料より転載

この提案システムはインテリアとエクステリアが対象で、エクステリアについても同様に、美しい景観を構成する「明度グラデーション」を特定している。顧客の感性から、インテリアやエクステリアをプランニングするのが新しい提案の手法だ。

好みのインテリア画像から感性を判断して空間を提案

説明を聞いただけでは具体的なイメージがわかないし、家族といえどもそれぞれ感性が異なる場合はどう提案するのだろうと疑問に思った。「SUMUFUMU TERRACE新宿」内に、実際に提案をする場となる「life knit atelier」があり、そちらに移動してさらに詳しく話を聞いた。

SUMUFUMU TERRACE新宿/筆者撮影

SUMUFUMU TERRACE新宿/筆者撮影

まず、同社が開発した「interior communication tool」で顧客の感性を調べる。内覧会では、筆者のいるグループから、夫役・妻役・子ども役の3人で実際に試してみることに。筆者は手を挙げて、子ども役を担当した。家族3人は、別々のタブレットで次々と映し出される36枚のインテリア画像を見て、好き(♡)かそうでもないか(△)をマークをタップして直感的に選ぶ。すべて選び終わると、好きなインテリア画像だけが映し出されるので、その中からベスト5を選ぶ。ベスト5については、その理由(例えば、使ってみたい家具や小物がある、過ごし方のイメージがわいたなど)も入力する。

積水ハウス プレゼン資料より転載

積水ハウス プレゼン資料より転載

入力が終わると、同社のスタッフが家族3人の選んだベスト5を一覧にして出してくれた。今回は、にわか家族なので、好きなインテリアがあまり重ならない。特に夫役の選んだ画像は、重厚感のある画像が多くて他の家族と全く一致しなかったが、妻役と子ども役はナチュラルな印象の画像が多く、数枚重なって選んでいた。「このように家族でも感性は一致しない場合はどうなるのか」という疑問を抱えたまま、次のステップへ移動。

筆者撮影

筆者撮影

インテリアの提案をしてくれるスタッフのいる部屋には、すでに家族の好みの画像が共有されている(写真左のディスプレイ)。そのうえで、好みの画像やその理由などを基に、一つのインテリアイメージをCG動画で提案してくれる(写真右のディスプレイ)。CG動画では、最初に平面の間取りが提示され、その間取りをどう作りこむかのCGが空間や角度を変えて映し出される。床・壁・天井といったシンプルな空間に、家具などを掛け合わせることで感性を表現するということなので、CG動画には家具、照明、ラグなども入っている。また、サンプルも用意してあるので、実際の色味や手触りなども確かめながら、決めていけるという。

今回の家族に提案されたCG動画は全体的にナチュラルな印象だったので、妻役と子ども役で共通する感性が優先されているのだろう。家具が気に入ったなどの理由によっては、誰かの好みの家具も配置されているのかもしれない。実際には、家族が提案されたCG動画を見ながら、床材はこうしたいなどと話し合い、要望に応じて変更された動画で確認しながら決めていくので、家族の感性が異なれば、家族で協議して解決することになるようだ。筆者が念のために、提案されるCG動画の数を聞いてみると、それぞれを組み合わせて提案するので、何万通りにもなるという。

住宅の範疇といえば、インテリアのうち内装や住宅設備になるが、提案されるCG動画には家具やラグなども配置されている。家具などの販売やあっせんもしてもらえるのかを聞いたところ、家具や照明はもちろん、観葉植物や絵画などの相談にも応じているという。その場ですぐに、照明や観葉植物を差し替えたCGを見せてくれた。至れり尽くせりだ。

最後に、マテリアルビュッフェのあるコーナーに移動した。ここでは、床材や壁紙、カーテン等のサンプルが展示してあるほか、6つの感性フィールド別のコラージュボックスが用意されている。コラージュボックスとは、「暖」の感性ならインテリアの内装はこうした組み合わせがオススメといったセットがボックスに収納されているものだ。残念ながら、どの感性に該当するといった判定はしてもらえないが、好みのセットをベースに、素材を触りながら他の感性の素材も取り入れて決めていくということになるのだろう。

マテリアルビュッフェのコーナー/筆者撮影

マテリアルビュッフェのコーナー/筆者撮影

ベースがあるので、家づくりを効率的に検討できるのがメリット

エクステリアに関する体験はできなかったのでよくわからないが、インテリアについては、感性にマッチしたものをトータルに提案してもらえるので、それをスタートラインにして検討できるという点で、決定するまでの時間の短縮が図れるだろう。

またその際に、家族の好みが見える化されるので、互いに話しやすいという利点もあるだろう。最近は、新築やリフォームの際に、好みの画像を用意して希望を伝える人も多いと聞く。この仕組みでは、積水ハウスが用意した画像だけでなく、例えばインスタグラムの好みの画像を提示すれば、それも加味して分析することも可能だという。

一方で、実際の家づくりでは、インテリアだけでなく、決まった広さの中で間取りを固めるため、スペースの取り合いという側面もある。スペースと好みのインテリアを上手に織り込むのが、スタッフの腕の見せ所となるのだろう。

また、インテリアについては至れり尽くせりなので、あれこれとこだわるほどにいろいろなものを新たに買うことになる可能性もあり、コスト管理という側面も欠かせないように思う。

さて、感性を軸として空間を提案するという新しい手法は、画像や動画に親しんでいる今の人たちにマッチしているのだろう。「何となく好き」な画像が、こうした手法でつきつめていくと、床や壁が好みなのか、家具が好みなのか、居住空間が好みなのかといったことが認識できるようになり、言語化されていくのも面白い。

一方でトータル提案されるのがメリットである半面、提案から外れるものを加えた途端、デザインが崩れてしまうので、住む人のインテリアセンスも問われることになるのだろう。

●関連サイト
積水ハウス「life knit design(ライフニットデザイン)」6月30日始動
「life knit design」ウェブサイト

隈研吾ら東大と積水ハウスがタッグ! 研究施設T-Boxで目指すテクノロジー×建築の未来とは?

東京大学と積水ハウスは、東京大学工学部1号館に研究教育施設「T-BOX」を新設した。ここでデジタルテクノロジーと建築との関連性の研究や、次世代の建築人材の育成を目指すという。なぜこの施設が必要なのか? デジタルテクノロジーによって未来の住まいはどう変わるのか? 東京大学の平野利樹特任講師と、積水ハウスの古村嘉浩デザイン設計部長に伺った。

海外と比べると遅れている建築の教育現場

2021年10月に、東京大学と積水ハウスは「国際建築教育拠点(SEKISUI HOUSE – KUMA LAB)」の研究施設として「T-BOX」を東京大学工学部1号館に新設した。国際建築教育拠点(SEKISUI HOUSE – KUMA LAB)とは、「未来の住まいのあり方」をテーマに両者で設けた研究の場のこと。その名に「KUMA」とあるように、建築家であり東京大学特別教授でもある隈研吾氏がアドバイザーとして参加している。これまで東京大学で特別講座を開くなどしていたが、実際に体を使って学べる研究施設「T-BOX」も誕生したというわけだ。

「T-BOX」発表記者会見の様子。左から3人目が隈研吾氏。右から4人目が仲井嘉浩代表取締役社長。左から2人目に今回お話を伺った平野利樹東京大学特任講師(写真提供/SEKISUI HOUSE - KUMA LAB)

「T-BOX」発表記者会見の様子。左から3人目が隈研吾氏。右から4人目が仲井嘉浩代表取締役社長。左から2人目に今回お話を伺った平野利樹東京大学特任講師(写真提供/SEKISUI HOUSE – KUMA LAB)

東京大学の平野利樹特任講師は、「ここでは、デジタルテクノロジーと建築の関係性を探究するとともに、国際的な建築人材を育てるための教育のネットワークのハブとしての役割を果たすことを目指しています」という。

平野さん(写真提供/ SEKISUI HOUSE - KUMA LAB )

平野さん(写真提供/ SEKISUI HOUSE – KUMA LAB )

「SEKISUI HOUSE – KUMA LABは3つのテーマを掲げて活動しています。1つは国際デザインスタジオとして、世界的に活躍している海外の建築家や教育者、研究者などをお呼びし、学生を指導してもらうというものです。2つ目はデジタルファブリケーション(デジタルを活用したモノづくり)センターとしての役割です。3Dプリンターをはじめデジタルテクノロジーを使って実際にモノをつくることで、その技術をどう建築に活用できるのかを探究していきます。最後にデジタルアーカイブセンターとしての機能。これは有名な建築物の図面や模型といった歴史的に価値のある資料を、デジタルテクノロジーでアーカイブ化し、データベースとしてさまざまな研究に役立てるというものです」

東京大学の工学部1号館4階415号室を改修してT-BOXのスペースがつくられた(写真提供/SEKISUI HOUSE - KUMA LAB)

東京大学の工学部1号館4階415号室を改修してT-BOXのスペースがつくられた(写真提供/SEKISUI HOUSE – KUMA LAB)

この3つのテーマで活動することを通して、次世代の建築界で活躍する人材を育成していくという。日本ではおそらく初の試みだが、なぜこうした研究施設が必要なのか? そこには世界と比べて、日本の建築の教育現場が遅れているという背景があるようだ。

「デジタルファブリケーションの面では、アメリカの大学ではもう3Dプリンターや大型のCNC加工機(コンピュータ制御によってどんな複雑なカタチでも切ったり、彫ったりなどの加工ができる機械)、レーザーカッター等々を学生が使うのが当たり前になっています」。

(写真提供/SEKISUI HOUSE - KUMA LAB)

(写真提供/SEKISUI HOUSE – KUMA LAB)

当たり前、の一例を挙げると、建築の模型づくりがある。日本の学生たちは図面を描いた後に、それを元にカッターを使って自分で模型をつくるほかなかったが、アメリカの学生は図面をデータ化して、校舎の各フロアに何十台も並んでいる3Dプリンターを使い模型を作成する。模型提出日の前夜にデータを入力すれば、あとは寝ていても提出期限である次の日の朝には模型が出来上がっているというわけだ。

3Dプリンターで作られた建築模型の例(写真提供/SEKISUI HOUSE - KUMA LAB)

3Dプリンターで作られた建築模型の例(写真提供/SEKISUI HOUSE – KUMA LAB)

「東京大学でも研究室単位でデジタルファブリケーションの機械がいくつかありますが、誰もが自由に使えるわけではありませんでした」。こうした機械を東京大学の建築学科の学生はもちろん、建築学科以外の学生や教職員も広く自由に使えるようにすることを、T-BOXで目指しているのだという。

T-BOXには3Dプリンターをはじめ、さまざまなデジタルファブリケーションの機械が並ぶ(写真提供/SEKISUI HOUSE - KUMA LAB)

T-BOXには3Dプリンターをはじめ、さまざまなデジタルファブリケーションの機械が並ぶ(写真提供/SEKISUI HOUSE – KUMA LAB)

これまでの枠を突き破る発想が育まれる可能性は無限大

もちろん誰もがデジタルファブリケーションの機械を使える環境だけが、建築界の明るい未来像ではない。「こうした機械を当たり前のように使うことで、従来にはない発想が生まれることを期待しています」

確かに、生まれた頃からパソコンやスマートフォンがあったデジタルネイティブ世代は、現在IT業界で目覚ましい活躍をしている。20世紀には思いもよらなかったサービスや機械が生まれているのはそのためだ。

それと同じようなことが将来、建築界で起こりえるということ。例えば3Dスキャンのデータは、点群と呼ばれる点の塊で示される。2次元の紙の上に描かれる点と線と、モニターに表示される点群とでは比較にならないほどデータ量が違う。そのデータを眺めるのと、紙の上の図面を眺めるのとでは、おのずと発想が異なっても不思議ではない。

T-BOXにある大型のCNC加工機。コンピュータ制御によってさまざまな素材を複雑なカタチで切ったり、彫ったりといった加工ができる(写真提供/SEKISUI HOUSE - KUMA LAB)

T-BOXにある大型のCNC加工機。コンピュータ制御によってさまざまな素材を複雑なカタチで切ったり、彫ったりといった加工ができる(写真提供/SEKISUI HOUSE – KUMA LAB)

「自らの手でカッターを使って模型をつくっていることも、発想の制約になっていたかもしれません。3Dプリンターやレーザーカッターならもっと複雑な形状も可能ですから」。新しいデジタルテクノロジーを使えば、これまで考えもしなかった形状を発想することもできるということだ。

3DデータとCNC加工機を用いて、発泡スチロールから形状を削り出している様子(写真提供/平野利樹)

3DデータとCNC加工機を用いて、発泡スチロールから形状を削り出している様子(写真提供/平野利樹)

さらにSEKISUI HOUSE – KUMA LABの国際デザインスタジオとしての機能により海外の有名建築家等から大いに刺激や情報を得られる。あるいはデジタルアーカイブセンターとしての機能により、過去の名建築の再評価などからヒントも生まれる。T-BOXの環境から、これまでの枠を突き破る発想が育まれる可能性はこのように無限大のようだ。

「従来にはない自由な発想」が未来の住宅での暮らしを豊かにする

東京大学とT-BOXを設立した積水ハウスのデザイン設計部長・古村嘉浩さんも、こうした「従来にはない自由な発想」に期待をかける。「我々住宅メーカーは住宅づくりの工業化によって、耐震性・品質耐久性といった安心・安全、さらに省エネやユニバーサルデザインなどの快適性を高めてきました。その成果として“100年暮らせる”構造体としての住宅をつくることはできるようになっています。ではその先は?といえば、“人生100年時代”を迎える成熟社会では、感性価値が求められるようになると考えています」

古村さん(写真提供/積水ハウス)

古村さん(写真提供/積水ハウス)

住宅の感性価値といってもさまざまある。建築物としての色やカタチ、景観を取り込んだ間取り、素材の手ざわり……。しかし未来に求められる感性価値とは、そういった“従来”の要素だけではなく、“その先”の発想も必要になるらしい。

ロンドンデザインビエンナーレ2021に、平野さんが日本代表作家として出展したインスタレーション「Reinventing Texture」。東京とロンドンの都市空間に点在するさまざまなテクスチャを3Dスキャン技術で収集し、それらをデジタルモデリングで加工・組み合わせ、デジタルファブリケーションと和紙の張り子技法によって高さ約1.8m×幅約8mのレリーフとして制作した((c)Prudence Cuming)

ロンドンデザインビエンナーレ2021に、平野さんが日本代表作家として出展したインスタレーション「Reinventing Texture」。東京とロンドンの都市空間に点在するさまざまなテクスチャを3Dスキャン技術で収集し、それらをデジタルモデリングで加工・組み合わせ、デジタルファブリケーションと和紙の張り子技法によって高さ約1.8m×幅約8mのレリーフとして制作した((c)Prudence Cuming)

例えば100年保つ住宅といっても、その時間の流れの中で暮らす人のライフスタイルは絶えず変化し、それに伴って感性も変わってくる。今でもリフォームや模様替えである程度変えることはできるが、その時々の気持ち、感性に合わせてもっと手軽に、簡単に住宅のカタチや表情を変化させることができれば、暮らしている人の気分も弾む。

大がかりなリフォーム工事をしなくても、3Dプリンターでつくった小さなピースで壁をつくれるなら、ピースの組み替えだけで簡単に間取りを変えられるかもしれない。あるいは、かつての日本家屋は欄間をはじめさまざまな名工の手仕事による装飾が施されていたが、そうした職人技をデジタルテクノロジーで、時代に合ったカタチで再現できるのではないか、などなど。未来の住む人の感性を刺激できることは、たくさんありそうだ。

3Dスキャン技術によって再現されたデジタルモデリングの一部((c)Prudence Cuming)

3Dスキャン技術によって再現されたデジタルモデリングの一部((c)Prudence Cuming)

「名工の手仕事でいえば、昔の建築物には今の職人ではできない加工もあります。しかしデジタルスキャンやCNC加工機を使えば、それを再現できるかもしれません」と平野さん。今ではできない名工の手仕事を再現できる。これもまた、従来にはない自由な発想を生む源になる。「世界的に見て、T-BOXのように未来に向かって新しいモノを創造するデジタルファブリケーションセンターと過去を振り返ってこれまで作られてきたモノを研究するアーカイブセンターが併設されている研究施設は世界的にも稀」(平野さん)なのだから、最先端技術と歴史的価値による、思いもよらぬ化学変化も期待できる。

同様にSDGsな建材や、最近高まっている木材利用の方法も、自身がライターとして「例えば~」とここに書きたくても書けないのが悔しいくらい、想像を超えた発想で実現できる可能性がある。聞けば聞くほど、まるでT-BOXは誰も見たことのない花を生む土壌のようだ。その花が咲く時期はいつくるのか。期待しながらその春を待ちたい。

●取材協力
国際建築教育拠点(SEKISUI HOUSE – KUMA LAB)

集合住宅の省エネ対応、ZEHの普及は進んでる? メリット・デメリットは?

ZEH(ゼッチ ※ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの略称)とは、高断熱化と高効率設備の導入により、使うエネルギーを減らしつつ、太陽光発電等でエネルギーをつくり、1年間で消費する一次エネルギー消費量をおおむねゼロ以下にする住宅のことだ。これまで一戸建てを中心にZEHの普及が進んできたが、最近になって分譲マンションや賃貸住宅といった集合住宅のZEH化も始まっている。集合住宅がZEH化すると、入居者にはどんなメリットがあるのか? デメリットは?

そもそも「ZEH」って何? どんな種類やメリットがある?

集合住宅のZEHの状況について説明する前に、まずはZEH(Net Zero Energy House=ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)とは何か?について、おさらいしておこう。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

まず住宅の断熱性能を高め、高効率設備を導入することで、使用するエネルギーを減らす。さらに太陽光発電等の再生可能エネルギーでエネルギーをつくり、1年間で消費する住宅のエネルギー量から創エネルギー量を引くことにより、正味(net=ネット)でおおむねゼロ以下となる住宅のことである。

ちなみに、ここで言うエネルギー量とは一次エネルギー消費量のことで、住宅で使う電気等をつくり出すエネルギー(石油や石炭、天然ガスなど)の量を指す。また、創エネルギーの使い道は太陽光発電を設置した住宅の所有者等にまかされていることから、必ずしも光熱費がゼロになるわけではないが、既にZEHに暮らしている人の中には、1年間の光熱費が実質ゼロになっている人もいるものと考えられる。

ZEHは、屋根や壁、窓等の断熱性能を高め、照明やエアコンといった設備を省エネ性能の高いものにすることで、建築物のエネルギー消費性能基準から一次エネルギー消費量を20%削減することが要件。その上で、都市部狭小地域や多雪地域等の地域的な制約がある場合に限り、太陽光発電がなくても「ZEH Oriented」が認められている。一方、太陽光発電等の創エネ設備を設置して、更に一次エネルギー消費量を削減したものが『ZEH』や「Nearly ZEH」となる(画像提供/経済産業省)

ZEHは、屋根や壁、窓等の断熱性能を高め、照明やエアコンといった設備を省エネ性能の高いものにすることで、建築物のエネルギー消費性能基準から一次エネルギー消費量を20%削減することが要件。その上で、都市部狭小地域や多雪地域等の地域的な制約がある場合に限り、太陽光発電がなくても「ZEH Oriented」が認められている。一方、太陽光発電等の創エネ設備を設置して、更に一次エネルギー消費量を削減したものが『ZEH』や「Nearly ZEH」となる(画像提供/経済産業省)

ZEHで暮らすことには下記のようなメリットがある。
●住宅の省エネルギー化や創エネルギーの活用によって光熱費を抑えられる
●住宅の高断熱化によって、夏は涼しく、冬は暖かい快適な住環境を実現できる
●断熱化により室温を保ちやすくなるので、ヒートショックなどのリスクの低減が期待できる
●太陽光発電の設置によって災害による停電時でも一定程度の生活を営むことができる

このように、光熱費を抑えられて、一年中快適かつ安心安全に暮らせるのがZEHというわけだ。

一方デメリットとしては、高断熱化や太陽光発電等の導入などの初期費用がかかること。そこで国は補助金制度によりZEHの普及促進を図っている。現在は、地域的な制約や政策目的に応じて下記のZEHが普及促進の対象となっている。

一戸建て住宅のZEH

こうした様さまざまな種類のZEHがある理由は大きく二つある。一つは地域や周辺環境によって、どうしても太陽光発電による発電量が比較的少なくなるエリアがあることだ。例えば雪国などは冬の日射量や積雪の影響で発電量は見込めないし、ビルや家々がひしめくように立ち並ぶ都心部などは日陰になりがちだ。

こうしたエリアにおいてはエネルギー収支をゼロ以下にすることが困難であるが、これらのエリアにおいても可能な限り省エネルギー化を図り、再生可能エネルギーを導入していくことが重要であることから「Nearly ZEH」や「ZEH Oriented」が設けられた。これらのZEHもエネルギー収支こそゼロにはならないものの、外皮性能(屋根、天井、壁、開口部、床、基礎など)がZEH基準に達しているため、先に挙げたメリットを享受できる。

もう1つは、ZEHよりもさらに省エネルギー性能を高め、かつ再生可能エネルギーの自家消費率を高めたZEHの普及を政策的に促すためだ。いわばさらに高性能なZEHとして「ZEH+」や「次世代ZEH+」が設定されている。

集合住宅のZEH=ZEH-Mとは? 一戸建てのZEHと何が違う?

上記、一戸建て住宅におけるZEHに加えて、集合住宅のZEHについても説明しよう。集合住宅においても一戸建てのように種類が分けられているので、まずはそちらを見てみよう。

集合住宅のZEH

一戸建てのZEHと比べると、「Ready」という名称がつくZEH-Mが設けられていることがわかる。これは、一戸建てにはなかった「太陽光発電によって集合住宅全体の一次エネルギー消費量の50%以上を削減」しているもの。

なぜ“このようなZEH-Mが設けられているのか”といえば、一戸建てに比べて住戸数に対しての太陽光発電の設置面積が少ない集合住宅では、一次エネルギー消費量を100%以上削減することが現状の技術では難しいからだ。当然、高層になればなるほど難しくなる。

高層になるほど住戸数が増えるが、屋上に設置する太陽光発電の面積は同じ比率では増やせない。そのため高層の集合住宅になるほど太陽光発電による一次エネルギー消費量の削減が難しくなる(画像提供/経済産業省)

高層になるほど住戸数が増えるが、屋上に設置する太陽光発電の面積は同じ比率では増やせない。そのため高層の集合住宅になるほど太陽光発電による一次エネルギー消費量の削減が難しくなる(画像提供/経済産業省)

「集合住宅の場合、創エネルギーで全住戸の消費エネルギーをまかなうことが高層になるほど難しくなります」と資源エネルギー庁の鈴木さん。

とはいえ、外皮性能がZEH基準なら光熱費を削減しやすくなるし、一年中快適かつ安全に暮らしやすくなる。また、全住戸は無理だとしても、太陽光発電の電気を一部の住戸に分配することは可能だ。「集合住宅の場合、住棟単位のZEH-Mとしての評価に加えて、ZEHとして住戸単位で評価することも可能であり、分譲マンションの販売主や賃貸住宅のオーナーの方々にとっては、一部の住戸のみ一次エネルギー消費量を100%以上削減した『ZEH』として資産価値を差別化して販売や賃貸することも可能になっています」

高層の集合住宅における技術的課題については、太陽電池の発電換率の向上や、最近話題になっているフィルム状の太陽電池を壁面に設置するという方法により解消していくことが考えられるが、いずれもこれからの技術開発が待たれる分野だ。

集合住宅のZEH化は、入居者にどんなメリットがあるのか?

ではZEH-Mにすることで、分譲マンションの購入者や賃貸住宅の入居者にとってどんなメリットをもたらすのか。既にあるZEH-Mの中から、積水ハウスが手がけた賃貸住宅「シャーメゾンZEH」を例に見てみよう。

(写真提供/積水ハウス)

(写真提供/積水ハウス)

(写真提供/積水ハウス)

(写真提供/積水ハウス)

2020年度のシャーメゾンZEHの年間受注戸数は2976戸を記録した。これは「2022年までに年間受注数2500戸を達成」という同社の目標を2年前倒しでクリアしたことになる。それだけ賃貸住宅のオーナーからZEH-Mの注目度が高いといえるだろう。なお累計では2021年1月時点で3500戸を突破している。

上記の通りZEH-Mには「ZEH-M「Nearly ZEH-M」「ZEH-M Ready」「ZEH-M Oriented」があるが、シャーメゾンZEHはZEH-M Ready以上、つまり太陽光発電等で一次エネルギーの使用量を50%以上削減できる賃貸住宅となる。

積水ハウスの賃貸住宅「シャーメゾン」ZEH仕様の埼玉県さいたま市の実例。屋根に太陽光発電パネルが搭載されている以外、ZEHのために特殊な形にしているというわけではない(写真提供/積水ハウス)

積水ハウスの賃貸住宅「シャーメゾン」ZEH仕様の埼玉県さいたま市の実例。屋根に太陽光発電パネルが搭載されている以外、ZEHのために特殊な形にしているというわけではない(写真提供/積水ハウス)

住戸の断熱性能を高めるため、窓は全て高断熱窓が採用されている(写真提供/積水ハウス)

住戸の断熱性能を高めるため、窓は全て高断熱窓が採用されている(写真提供/積水ハウス)

各住戸には現在のエネルギー状況が一目でわかるHEMS(ヘムス※ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)の端末が置かれている(写真提供/積水ハウス)

各住戸には現在のエネルギー状況が一目でわかるHEMS(ヘムス※ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)の端末が置かれている(写真提供/積水ハウス)

同社が入居者に向けたアンケート結果によると、入居後の満足の理由に「光熱費が安くなるから」「太陽光発電があるから」「断熱性能が高いから」が上位にランクインした(下記表参照)。

積水ハウスが行ったシャーメゾンZEHの入居者アンケートより。入居前から大きくランクを、つまり満足度を上げたのはいずれもZEH由来のメリットであることがわかる(資料提供:積水ハウス)

積水ハウスが行ったシャーメゾンZEHの入居者アンケートより。入居前から大きくランクを、つまり満足度を上げたのはいずれもZEH由来のメリットであることがわかる(資料提供:積水ハウス)

いずれも入居前には入居者にとってあまり重要視されていなかったZEH-M化のメリットが、リアルな体験を通して満足度の順位をグンと上げたことになる。

確かに「あれ、今月の光熱費ってこれだけ?」とか「エアコンを切って寝ても朝まで暑くない(寒くない)」など快適な暮らしを体感したからこそ、満足度が高まったのだろう。ちなみに同社の調べでは、年間光熱費が約4割も削減できるという(下記グラフ参照)。

積水ハウスが試算した年間光熱費の比較。約4割の削減はかなり大きいと言えるだろう(資料提供:積水ハウス)

積水ハウスが試算した年間光熱費の比較。約4割の削減はかなり大きいと言えるだろう(資料提供:積水ハウス)

入居者の満足が上がることは、賃貸住宅のオーナーにとってもメリットがある。満足度が高ければ、それだけ長期入居が見込めるため、家賃収入の安定化が図れるからだ。またこれらの高付加価値があれば、周囲より高い家賃設定も可能になる。ZEH-Mの事例が増えるほど、ますます賃貸住宅オーナーからの注目が高まり、普及につながりそうだ。

ZEHの普及についてはまだまだこれから。その課題は?

では今後はどのようにZEHの普及が進んで行くのだろう。

国は、2014年の「エネルギー基本計画」において、「住宅については、2020 年までにハウスメーカー等が新築する注文戸建住宅の半数以上でZEHの実現を目指す」と掲げていた。

「『エネルギー基本計画』における『2020 年までにハウスメーカー等が新築する注文住宅の半数以上でZEH』というのは、数値目標としては新築一戸建ての50%をZEHにすることでした。その進捗ですが、2019年時点で見ると、大手住宅メーカーに限れば約50%ですが、全体ではまだ約20%と、達成とはいえない状況です」と資源エネルギー庁の鈴木さん。

ZEHロードマップフォローアップ委員会が令和3年3月31日に発表した資料より。一般工務店によるZEHがなかなか進んでいないことを示している(画像提供/経済産業省)

ZEHロードマップフォローアップ委員会が令和3年3月31日に発表した資料より。一般工務店によるZEHがなかなか進んでいないことを示している(画像提供/経済産業省)

「こうした状況を踏まえ、昨年8月に国土交通省、経済産業省、環境省の3省合同で開催した『脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方・進め方検討会』で検討が行われ、2030年に目指すべき住宅の姿が定められました」

まず省エネルギーについては「新築される住宅についてはZEH基準の水準の省エネルギー性能」を目指すとされた。一方の再生可能エネルギーについては「新築戸建住宅の6割において太陽光発電設備が導入されること」を目指すとしている。ZEH-Mで説明したように、集合住宅については、現状では太陽光発電の技術開発を待たなければならないということのようだ。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

これらの目標に対し、既にロードマップもつくられ、ZEH化の促進が図られているが、その際のポイントの一つは、「ZEHの周知」だという。ZEHやZEH-Mの認知度、認識がまだまだ不足しているのが実情だ。施主に求められなければ建てる側も建てようがない。

最後に資源エネルギー庁の鈴木さんは、「まずはZEH・ZEH-Mについて多くの人に知ってもらうことが重要だと考えています。そのためには光熱費の削減といった経済的メリットだけではなく、ZEH・ZEH-Mが快適に暮らせること、安心安全に過ごせること、災害による停電時でも自宅で過ごせるメリットを伝えていくことが大切です」と強調した。

世界的な脱炭素社会への潮流の中、昨年政府から「2050年カーボンニュートラル」が宣言され、その中で2030年代半ばまでに、新車販売で電動車100%を実現するとした。また東京都では新築住宅への太陽光発電の設置義務付けが検討されるという。ほかにも省エネ性能をさらに高めた家電の開発や、太陽光発電以外の再生可能エネルギーの検討など、さまざまな動きが今後もあると思われるが、大事なのは脱炭素社会になることで私たちがどんなメリットを享受できるのか、ということを改めて理解することではないだろうか。

電気自動車に乗ったり、太陽光発電を住宅に載せたりすることが私たちの「メリット」ではない。脱炭素化によって光熱費が抑えられ、暮らしが快適に、安心安全になり、それが地球温暖化の防止につながっていくということが「メリット」であるはずだ。そのメリットを手に入れるにはどんな住宅に暮らせばかなうのか。それを今一度問いなおしてみてほしい。今なら望みさえすれば、すぐに手に入るメリットなのだから。

●取材協力
経済産業省
積水ハウス

福岡・旧大名小学校跡地に複合施設、九州初「ザ・リッツ・カールトン ホテル」を誘致

積水ハウス(株)、西日本鉄道(株)、西部瓦斯(株)、(株)西日本新聞社、福岡商事(株)の5社は、福岡市中央区で推進する「旧大名小学校跡地活用事業」において「大名プロジェクト特定目的会社」を設立し、7月8日、ホテル・オフィスを含む複合施設の工事に着手した。
旧大名小学校跡地は、様々な都市機能や交通拠点が集積する天神地区に隣接し、新たな空間と雇用を生み出す福岡市の取り組み「天神ビッグバン」の西のゲートとして重要な役割を担う場所。

同プロジェクトでは、地下1階・地上25階、延床面積約90,400m2、最高高さ約111mの複合施設(オフィス・ホテル棟、コミュニティ棟)を建設する。オフィス・ホテル棟の17~24Fには、九州初となるラグジュアリーホテル「ザ・リッツ・カールトン ホテル」を誘致。3・5・16Fには、高度なセキュリティ機能とBCP性能、耐震性を備えたハイグレードなオフィスを設置する。

コミュニティ棟においては、7~11Fに国際水準のレジデンス(賃貸)を整備。2・3階にコワーキングスペースやシェアオフィスを配置する。また、約3,000m2の広大な広場を設け、イベントホールとの一体的利用による憩い・賑わいの創出や、コワーキングスペースなどによる企業や人材の交流など、多様な交流拠点を目指す。

竣工は2022年12月を予定している。

ニュース情報元:積水ハウス(株)

ZEH(ゼッチ)を子どもと体験してきた! 無料宿泊体験も期間限定で可能

ZEH、つまりNet Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)は、近ごろ、住まいの購入を検討している人であれば、耳にしたことはあるかもしれません。ざっくりいうと家で使う一次消費エネルギー量(空調・給湯・照明・換気)の年間収支をプラスマイナス「ゼロ」にする住まいのことですが、実際にはイメージがわかない、という人も多いことでしょう。今回、なんと、このZEHに無料宿泊体験できるというので、現地に子どもとともに訪問。その一部始終をご紹介します。
外気温9度でも室温は16度。冬でも薄着ですごせる快適さ!

ZEHは断熱性気密性を高めるとともに、太陽光発電などでエネルギーをつくり出し、一次消費エネルギー消費をプラスマイナスゼロにする家のことです。電気やガスのエネルギーを購入するのはいわば当たり前ですから、「特別な家なのでは……」と思う人も多いことでしょう。使用エネルギーがプラスマイナスゼロになるので、光熱費も安く、環境への負担は軽くなりますが、「そうはいってもお高いんでしょ?」「住むとなったら実際、どんなメリットがあるわけ?」と疑問を抱く人は多いはず。

そうした素朴な疑問を解消できるのが、このZEHの無料宿泊体験です。日本各地にあるZEHハウスに事前予約をとり、宿泊してその良さを知ってもらおうという取り組みです。論より証拠、説明より体感ということですね。この環境省の「COOL CHOICE ZEH体験宿泊事業」は2018年12月にはじまり、2019年2月末までの期間限定で行われています。開始して間もないですが、週末は次々と予約が入るほどの人気ぶりだとか。今回、筆者は2人の子どもと訪問し、実際に家族で過ごしてきました。

ちなみに、訪問したのは積水ハウスが設計施工した「RAFFINE石蔵」という亀有駅から歩いてすぐの物件です。ZEHでは一戸建てが多いのですが、ここは珍しいことに集合住宅。しかもすでにほかの部屋は賃貸として入居している人もいます。

訪れた日の気温9度と寒い日でしたが、室内はほんのり暖かく感じる程度の16度。暖房をつけていないのにこの温度にはまず驚きます。床もひんやりとせず、娘はそうそうに上着・靴下を脱いで遊び始めてしまいました。

普段は場所見知りもするのですが、暖かさといつものおもちゃに安心したのか、すぐに遊び始める娘。なじみすぎ(撮影/嘉屋恭子)

普段は場所見知りもするのですが、暖かさといつものおもちゃに安心したのか、すぐに遊び始める娘。なじみすぎ(撮影/嘉屋恭子)

宿泊前に、設備や仕様についてかんたんに説明してもらえるので、最新の設備(例えばIHクッキングヒーター、エネファームなど)についても実際に使い、お試しすることができます。デジタルネイティブの子どもたちはHEMS(※Home Energy Management System/ホーム エネルギー マネジメント システムの略語。使用エネルギーなどがグラフで見えるほか、管理することもできる)に興味しんしん。使用エネルギー、現在の発電量が見える化できるのは、子どもにとってもおもしろいようです。

リビングのデスクコーナーに置かれたHEMS。キャラクターが気になるのか「コレはなに?」と聞かれて説明。子どもの環境教育にも役立ちます(撮影/嘉屋恭子)

リビングのデスクコーナーに置かれたHEMS。キャラクターが気になるのか「コレはなに?」と聞かれて説明。子どもの環境教育にも役立ちます(撮影/嘉屋恭子)

エアコンは22度ですぐに暖かく。線路のそばとは思えないほど静か

ZEHの特徴は、まず暖かいこと。いわゆる高断熱高気密の住宅です。エアコンを切った状態では室温は16度でしたが、エアコンを22度の温度に設定し、スイッチをいれるとすぐに暖かくなります。また窓辺は日差しで暖かく、「すきま風が入る」や「ひんやりとする感じ」はありません。

すぐに窓辺が暖かくなったのは、サーモグラフィカメラで見ても一目瞭然(撮影/嘉屋恭子)

すぐに窓辺が暖かくなったのは、サーモグラフィカメラで見ても一目瞭然(撮影/嘉屋恭子)

このポイントは窓にあり、この物件では高断熱アルミサッシ(アルミの枠の中に熱を伝えにくくする樹脂を採用)、複層ガラスを使っているといいます。ただ、特別な商品ではなく、近年の高断熱・高気密をうたう物件では、採用しているところが増えています。窓の性能がよくなると必然的に遮音性も高くなり、窓から電車が見えるものの、締め切ってしまえば鉄道の存在にまったく気づかないほどに静か。防犯合わせガラスにもなっています。

子どもは「安心できる」「くつろげる」と感じたのか、自分の家のように自由に遊んでいます。やっぱり暖かい家はよいですね。

日差しは春めいて見えますが、外は9度。すぐに室温は24度となり、心地よい暖かさ。音は静かな状態といわれる40~50デシベル。いちばんうるさいのは母ちゃん(筆者)の声でした(撮影/嘉屋恭子)

日差しは春めいて見えますが、外は9度。すぐに室温は24度となり、心地よい暖かさ。音は静かな状態といわれる40~50デシベル。いちばんうるさいのは母ちゃん(筆者)の声でした(撮影/嘉屋恭子)

暖かいのは窓辺だけではありません。エアコンをいれていない、寝室や洗面所もじょじょに暖かくなるので、部屋ごとの温度ムラができにくくなっているのです。ヒートショックは、部屋間の温度差があることで発生すると言われていますが、それが起きにくい状態です。

洗面所と洋室はつながっていて、回遊性のある間取り(撮影/嘉屋恭子)

洗面所と洋室はつながっていて、回遊性のある間取り(撮影/嘉屋恭子)

子どもたちは探検&走りまわってエンジョイしている(撮影/嘉屋恭子)

子どもたちは探検&走りまわってエンジョイしている(撮影/嘉屋恭子)

もちろん、エアコンはつけていないので、洗面所・寝室も16度程度で、けして暖かいわけではありませんが、身体に負荷がかかり、不快になるような温度差(一般的に10度以上の差)ではありません。また、このときは発電量>使用量でしたので、余った電力を売っていた状態でした(!)。少しのエネルギーで、冬は暖かく、夏は涼しく過ごせる。省エネルギーは人間にとって快適でもあり、経済的でもあるのです。

リビングの続きにある寝室。こちらもエアコンなしでも15度程度。遊んでいる娘だけでなく、息子もいちばん気に入ったのはこの寝室だったとか。この日差しのなかでひたすら昼寝がしたい(撮影/嘉屋恭子)

リビングの続きにある寝室。こちらもエアコンなしでも15度程度。遊んでいる娘だけでなく、息子もいちばん気に入ったのはこの寝室だったとか。この日差しのなかでひたすら昼寝がしたい(撮影/嘉屋恭子)

ZEHは特別ではなく、「当たり前」の住まいに

ZEHのもう1つのメリットは、やはりランニングコストで経済的という点でしょう。もちろん、ZEHに必要な太陽光発電やエネファームといった設備には初期コストが必要になりますが、ランニングとなる光熱費がほぼゼロとなるわけですから、トータルコストで比較した場合には収支面でのメリットも大きいのです。また、自治体や国などでは、省エネルギー設備の導入時に補助金制度を設けていることも多いので、賢く利用したいところです。

今回の「RAFFINE石蔵」ですが、床・壁・天井の断熱に配慮し、窓を少しだけグレードアップ、太陽光発電の発電量に少しだけ余裕をもたせたものの、「ZEHとしての特別な仕様」という設計ではないといいます。言い換えればZEHのような高断熱住宅プラス創エネ住宅は、「当たり前」になっていくのだと感じました。

環境への負荷を減らしつつ、自分たちの経済面でも、また快適で健康面でもメリットの大きいZEH。住まいを建てようかなという人、リフォームしようと考える人だけでなく、今、家にまったく興味のない人でも「暖かい家」「エネルギーを創る家」の良さを体感すると、きっと新たな発見と驚きがあると思います。

●取材協力
COOL CHOICE ZEH 体験宿泊事業

【検証】自転車発電は、太陽光発電に勝てるのか?

きつい、辛い、帰りたい。

なぜ僕は部屋の中で自転車を漕いでいるのだろうか。なぜ一生懸命に走っているのだろうか?
【画像1】(写真撮影/大嶺 建)

【画像1】(写真撮影/大嶺 建)

今、僕は部屋で必死に自転車発電を行っている。そして僕の横では女の子がくつろいでピザを食べている。ふざけているわけではない。これはれっきとした闘いなのだ。己の魂をかけた挑戦なのである。

こんなカオスな空間が生まれたのには理由がある。きっかけは1カ月前に遡る。

遡ること約1カ月前【画像2】リクルート住まいカンパニーの社屋(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

【画像2】リクルート住まいカンパニーの社屋(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

とある日、SUUMOジャーナル編集部に打ち合わせに行く用があった。そのときにたまたまSUUMO編集長である池本さんにお会いした。

SUUMO編集長はとても気さくだった。初対面の僕に向かって「君の顔めちゃくちゃ長いね!」と言って緊張をほぐしてくれるような人だ。あくまで緊張をほぐすために言ってくれたことであり、バカにされたわけではないと、僕は池本編集長を信じている。信じている。

【画像3】池本編集長(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

【画像3】池本編集長(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

池本編集長「最近注目の集まっているエコな住宅関係で記事をつくりたいと思っているので、おもしろいネタがあったらぜひ一緒にやりましょう」

そんな声をかけてもらったので、僕はとっさに

「自転車発電と太陽光発電のどっちが勝つのか比べたらおもしろそうですよね(笑)!」

と冗談半分で提案した。僕は過去にママチャリで日本一周した経験があり、それをやっているときにふと思った疑問をここで出してみたのである。

そしたらそのネタに池本編集長が予想外に食いついてくれ、大盛り上がりしてネタがどんどんと膨らんでいった。

【画像4】(写真撮影/大嶺 建)

【画像4】(写真撮影/大嶺 建)

そして気づいたらこうなっていた。

もちろん自転車を借りて、部屋を借りて……と段取りを踏んでやっているので、いきなり拉致されて企画に巻き込まれたという意味で言っているわけではない。

冗談で言った企画が、編集部から連絡が来て、ガッチリとした企画になり、まさか家を借りて行うほどの大掛かりなものになるとは思っていなかったのだ。あれよあれよと気づいたらあとに引き下がれない状況になっていたのだ。

大人になると「言葉に責任をもたなきゃいけない」というのは本当のことであったと学んだ。

ただし、やるからには負けたくない。過去にママチャリで日本一周した経験は本当であるし、勝つ気でやらないとものごとはまったくおもしろくない。記事もおもしろくならない。

かくして「自転車発電 vs 太陽光発電」の火ぶたが切って落とされた。

自転車発電 vs 太陽光発電自転車発電 vs 太陽光発電の対戦ルール
・ママチャリを使用して発電を行う
・宿泊して2日にわけて行う
・制限時間は最大10時間(借りている部屋の使用時間が決まっているため)
・Wh(電力量)で対決する ※1時間でどのくらいの電力が稼げるかの値

今回の企画を簡単に言うと「自転車発電で太陽光発電に勝てるのか?」という検証である。

【画像5】(写真撮影/大嶺 建)

【画像5】(写真撮影/大嶺 建)

【画像6】(写真撮影/大嶺 建)

【画像6】(写真撮影/大嶺 建)

自転車発電と太陽光発電を比べるために、今回は積水ハウスの賃貸住宅をお借りすることができた。亀有駅から徒歩5分という好立地な部屋だ。

ここまできれいな部屋を用意されていたら、僕の言った「あとに引けない状況になっている」という言葉の意味がよく分かると思う。やるしかないのだ。

【画像7】(写真撮影/大嶺 建)

【画像7】(写真撮影/大嶺 建)

実はこの家は太陽光発電ができるだけでなく、なんとその日に発電した電力量がどのくらいかを見ることができる「HEMS」という端末までついているのだ。

こんなに今回の企画に適した家もなかなかないだろう。

【画像8】(写真撮影/大嶺 建)

【画像8】(写真撮影/大嶺 建)

今回の企画では「vs 太陽光発電」という形をとるために、仮想対戦相手を用意した。仮想対戦相手には太陽光発電ができる家で一日過ごしてもらう。

つまり「自転車で一生懸命漕ぐ人(自転車発電)」vs「家でダラダラ過ごす人(太陽光発電)」という、図式にして分かりやすくした。

仮想対戦相手として選んだのはアイドルのカワシマユカさんだ。彼女はアイドルグループを自ら運営して立ち上げている途中であり、現在はアイドルニートを自称している。そのため一日中家の中ですごしてもらう今回の企画に合っていると思ったからだ。

あと「企画的に写真が地味になりそうだから女の子を呼んだ」という大人の事情もある。むしろこっちの理由がメインかもしれない。

【画像9】(写真撮影/大嶺 建)

【画像9】(写真撮影/大嶺 建)

ちなみにカワシマユカさんには、仮想敵なので「なるべく僕がムカつくようなことをやってほしい」とお願いしてある(お願いしなきゃよかったと後悔した)。

どうでも良いけど灰色のパーカが被っていて、親戚のぎこちない記念撮影みたいになった。

自転車の準備に時間がかかる/部屋の説明を受ける【画像10】(写真撮影/大嶺 建)

【画像10】(写真撮影/大嶺 建)

ということで対戦は始まったのだけれど、まずは下記のように自転車発電の準備をしなければならない。

自転車を家の中に運び込む

発電機を組み立てる

発電機に自転車をセットする

自転車発電のセットは有限会社ひのでやエコライフ研究所でお借りした。これが予想以上に組み立てるのに時間がかかる重労働であった。というか僕はイケアの家具すら組み立てるのを挫折したことがある男だ(結局そのときは兄を呼んでことなきを得た)。

【画像11】(写真撮影/大嶺 建)

【画像11】(写真撮影/大嶺 建)

このときもなかなか上手く組み立てられず、写真撮影をしてくれているカメラマンに手伝ってもらいながら2時間くらいかかってようやく準備をし終えた。この組み立て段階が今回一番だったと言ってもいいくらい大変だった……。

【画像12】説明をしてくれているのはZEH体験宿泊のPR担当をしている向井さん(写真撮影/大嶺 建)

【画像12】説明をしてくれているのはZEH体験宿泊のPR担当をしている向井さん(写真撮影/大嶺 建)

そのころカワシマユカさんはこの家の設備の説明を受けていた。

この家はZEH(ゼッチ)の基準を満たした家である。ZEHとは、ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの略称で、断熱や省エネ、そして太陽光発電などで電力を売り、年間の一次消費エネルギー量(空調・給湯・照明・換気)の電気代をゼロにするという住宅である。

【画像13】ソーラーパネルが最初から設置されている(写真撮影/大嶺 建)

【画像13】ソーラーパネルが最初から設置されている(写真撮影/大嶺 建)

【画像14】お風呂も大気の熱を利用してお湯を沸かすエコキュートが採用されている(写真撮影/大嶺 建)

【画像14】お風呂も大気の熱を利用してお湯を沸かすエコキュートが採用されている(写真撮影/大嶺 建)

【画像15】窓はなんとガラスが二重になっており、外の冷気が入りづらくなっている。外側にガラスがあるため、内側の窓には水滴ができずカビの心配もない(写真撮影/大嶺 建)

【画像15】窓はなんとガラスが二重になっており、外の冷気が入りづらくなっている。外側にガラスがあるため、内側の窓には水滴ができずカビの心配もない(写真撮影/大嶺 建)

今回借りた部屋も、高断熱材を使用した壁、2枚のガラス板でつくられた複合ガラスの窓など、熱を逃がさないようなエコなつくりになっている。そして太陽光発電ができるので家で電力を生み出し、それを自動で売ってくれる。

家の工夫によって熱を外に逃さずにエコな過ごし方ができ、さらに自分の家の電気代を太陽光で生まれた電気でまかない、実質的に電気代が概ねゼロ以下になるようになっているのだ。

【画像16】太陽光発電などでどのくらい電気が売れたのかは、HEMSという端末ですぐに確認することができる(写真撮影/大嶺 建)

【画像16】太陽光発電などでどのくらい電気が売れたのかは、HEMSという端末ですぐに確認することができる(写真撮影/大嶺 建)

ZEHの家に無料で宿泊体験ができるキャンペーンがあり、今回はその中の一つを借りているという形だ。

【画像17】(写真撮影/大嶺 建)

【画像17】(写真撮影/大嶺 建)

発電機の準備をしながら横で僕も聞いていたんだけど、「ZEHってどういう意味か知っている?」という質問に対して、カワシマユカさんは

「ゼッチって漢字でどう書くんですか?」

と聞くほどだったので本当に何も知らないようであった。それにしても漢字という発想はなかった。「絶地」と書くと思ったのだろうか? 漢字で書くと『るろうに剣心』とかに出てくる必殺技っぽくなる。

【画像18】(写真撮影/大嶺 建)

【画像18】(写真撮影/大嶺 建)

カワシマユカさんが説明を受けている間に着々と準備を進めて、いよいよ自転車は組み上がった。あとはひたすら漕ぐだけだ。

自転車発電の計算方法【画像19】(写真撮影/大嶺 建)

【画像19】(写真撮影/大嶺 建)

ということで僕の勝負がいよいよ始まった。時刻はだいたい16時ごろ。22時までは漕げるので、6時間は漕げる計算になる。あとはとにかく必死に漕ぐだけである。

それにしても異質な空間である。女の子がいる部屋で僕はひたすら自転車を漕いでいる。なんだろうこの空間。新しいフェチ動画として世に発信したほうが良かったかもしれない。

【画像20】自転車発電の仕組み(画像作成/megaya)

【画像20】自転車発電の仕組み(画像作成/megaya)

自転車発電といっても、漕げば漕ぐだけ電力が溜まっていくという仕組みではない。(蓄電ができれば話は別であるが、)どれくらいの電力を消費するか、が計算される。

分かりやすくいうと、例えば自転車に繋いでスマホを充電する場合はMAXで5W(ワット)までしか発電できない。つまりずっと5W分のスピードを出して漕げば充電されるわけだ。

しかし例えばドライヤーの場合は約1000Wほどあるので、その分の力を常に出してないといけない。自転車を一生懸命漕いでもそのW数にいかない場合は、ドライヤーが動くことはないのだ。ほぼ全力でずっと漕いでいないといけないので、自転車発電でドライヤーを動かすのはかなりの労力がいる。

つまりW数が高いもので発電すれば大変だけど稼げる電力は大きくなり、W数が低いもので発電すれば楽だけど稼げる電力が小さくなるのだ。

【画像21】(写真撮影/大嶺 建)

【画像21】(写真撮影/大嶺 建)

今回はWh(ワットアワー)という単位で勝負を行う。Whとは1時間でどのくらいのWを発電しているかを表す単位だ。100Wを1時間使ったら単純に100Whだ。

ざっくりと言ってしまえば1時間の平均の値で勝負することになる。つまりは継続ができなければまるで意味がないのである。

なので僕はとにかく継続して電力を稼ぐことを目的として、体力的に負担が低いスマホを自転車に繋いで、常に5Wの発電をするようにした。

【画像22】スマホのメーターで発電量を確認できる(写真撮影/大嶺 建)

【画像22】スマホのメーターで発電量を確認できる(写真撮影/大嶺 建)

【画像23】(写真撮影/大嶺 建)

【画像23】(写真撮影/大嶺 建)

とにかく止まることが悪なので、ひたすら漕ぐ。ママチャリ日本一周した経験が蘇ってくるものの、やったのはもうすでに7年も前の話だ。体力的には今とかなり違う。普段運動しないので開始10分でかなり体力が奪われた。足が早くも笑っている。

【開始1時間】暑さとの闘いだと気づく【画像24】(写真撮影/大嶺 建)

【画像24】(写真撮影/大嶺 建)

【画像25】(写真撮影/大嶺 建)

【画像25】(写真撮影/大嶺 建)

それにしても暑い。ZEHの家では高断熱材を使用しているので、部屋がとてもあたたかい。普段なら快適で過ごしやすい家なのかもしれないが、自転車を漕いでる今はそれが仇になっている。

とりあえず着ていたパーカを脱いだ。あと脱水症状が怖いので、水分は多めにとるようにした。

【開始から2時間】着替えてテンションをあげる【画像26】(写真撮影/大嶺 建)

【画像26】(写真撮影/大嶺 建)

走り始めて1時間経ったころに、膝がガクガクしていることに気づいた。運動不足がここに来て響いている。早くも辛くなってきた。

しかしこちらも太陽光発電に勝つために準備はしっかりとしているのだ。テンションをあげるために着替えよう。

【画像27】(写真撮影/大嶺 建)

【画像27】(写真撮影/大嶺 建)

【画像28】(写真撮影/大嶺 建)

【画像28】(写真撮影/大嶺 建)

【画像29】(写真撮影/大嶺 建)

【画像29】(写真撮影/大嶺 建)

【画像30】(写真撮影/大嶺 建)

【画像30】(写真撮影/大嶺 建)

ということでサイクルウェアに着替えた。初めて着たけど異常にカッコイイ……!

なぜこれを着たのかというと『弱虫ペダル』という自転車漫画が僕は好きで、ロードバイクに憧れがあるのだ。なのでサイクルウェアを着ただけで自然と笑みがこぼれてくる。やる気も出てくるのだ。

日本一周のときに学んだことの一つに「体力よりも精神を安定させた方が漕ぐ力が湧いてくる」という僕の中での学びがある。なのでこのサイクルウェアにも大きな働きがあるのだ。断じてただコスプレがしたかったわけではない。

【画像31】(写真撮影/大嶺 建)

【画像31】(写真撮影/大嶺 建)

僕が必死に漕いでる横でカワシマユカさんは『魔法少女まどか☆マギカ』というアニメのSNSゲームをずっとやっており、開始30分くらいでこの体勢になっていた。もはや実家のようである。

僕のことはまるで空気のように意に介していなかった。思っていたよりも図太い子なのかもしれない。

【開始から3時間】夜ご飯【画像32】(写真撮影/大嶺 建)

【画像32】(写真撮影/大嶺 建)

この日の制限時間は22時までなので(念のために騒音の心配も考慮して)、まだまだ先は長い。倒れないように食料と水は定期的にとるようにする。この「自転車に乗りながら携行食を食べる」というのも『弱虫ペダル』の憧れのシーンなのである。箱根の直線鬼と呼ばれる新開隼人がやっていて、それが真似できたのでひそかにテンションが爆上がりしていた。

ただこのくらいの時間が一番つらいのだ。まだまだ終わりは見えないし、漕ぎ続けないといけない。

必死に自転車を漕いでいるとインターホンが鳴った。「誰だろうか?」と疑問に思っているとカワシマユカさんが玄関に向かっていった。誰かがやってきたようだ。

【画像33】(写真撮影/大嶺 建)

【画像33】(写真撮影/大嶺 建)

【画像34】(写真撮影/大嶺 建)

【画像34】(写真撮影/大嶺 建)

【画像35】(写真撮影/大嶺 建)

【画像35】(写真撮影/大嶺 建)

……

携行食を食べている僕を尻目にカワシマユカさんの夜飯がこれみよがしに到着した。ピザと寿司とコーラである。「欧米か!!」という懐かしいフレーズで全力でツッコミたくなる夜ご飯である。

【画像36】(写真撮影/大嶺 建)

【画像36】(写真撮影/大嶺 建)

実においしそうに食べるカワシマユカさんを横目に足を動かす。僕は初めに「闘いなのでムカつくことをやってください」とお願いしているため、彼女は何も間違ったことはしていない。正しい働きなのだ。彼女をキャスティングしてよかった。ムカつくけど。

それから一つ言っておきたいのは、僕はピザや寿司は食べていない。お腹いっぱいで自転車に乗ると辛くなるのは経験則で分かっているし、何事も真剣にやったほうがおもしろくなると思っているからだ。

【開始から4時間】体にガタが来る【画像37】(写真撮影/大嶺 建)

【画像37】(写真撮影/大嶺 建)

だんだんと体力の限界に近づいてくる。足のガクガクが尋常じゃなくなってくるし、飲み物の消費量がかなり多くなってくる。もうすでに2リットルを消費している。

【画像38】(写真撮影/大嶺 建)

【画像38】(写真撮影/大嶺 建)

その一方でカワシマユカさんはポテチを食べながらゴロゴロしていた。まさにアイドルニートに恥じない動きである。

【開始から5時間】昔を思い出す【画像39】(写真撮影/大嶺 建)

【画像39】(写真撮影/大嶺 建)

【画像40】(写真撮影/大嶺 建)

【画像40】(写真撮影/大嶺 建)

体力は消耗しているものの、だんだんとどのくらいのペースで漕げば良いのか掴んできたので、スマホをいじりながらでも走れる余裕が出てきた。

またも自転車日本一周したときの知識が活きてきた。「中途半端に休んだり走ったりしてはいけない」ということを思い出したのだ。自転車で長い距離を走るためには常に一定のペースで走るのが大切だ。マラソンと同じだ。常に漕ぎ続けろ……!!

【画像41】(写真撮影/大嶺 建)

【画像41】(写真撮影/大嶺 建)

僕の心の中で熱い思いがほとばしっているとき、カワシマユカさんはスマホで『弱虫ペダル』のアニメの最新話を見ていた。

いやいやいや、真横で一人でママチャリで必死に走っているんだからこっち見てくれ。スマホに写った『弱虫ペダル』じゃなくて、現実のママチャリ男をせめて応援してくれ。

【開始から6時間】今日のラストラン【画像42】(写真撮影/大嶺 建)

【画像42】(写真撮影/大嶺 建)

途中で足をつりながらも、いよいよラストスパート。とにかく必死に漕いで漕ぐしかない。何も考えず、ただただ走り抜くだけである。ここまで来ると体力ではなく精神の問題である。

大丈夫だ。おれは最後までやれる。走れる。頑張れる。やれる。頑張れ。最後まで……!!

【画像43】(写真撮影/大嶺 建)

【画像43】(写真撮影/大嶺 建)

ちらりと横を見るとアイスを食べながら彼女はこっちを見ていた。

クソ野郎……!!

就寝【画像44】(写真撮影/大嶺 建)

【画像44】(写真撮影/大嶺 建)

6時間走り切ったので、いよいよ就寝である。しかしさすがにアイドルと同じ部屋で寝ることはできないので、池本編集長の紹介で近くにある知り合いの家に移動した。

泊まらせてもらう家は、築95年の木造建築の長屋なので、先ほどのZEHの家と比べてかなり寒い。

【画像45】ZEHの部屋の壁の温度(写真撮影/大嶺 建)

【画像45】ZEHの部屋の壁の温度(写真撮影/大嶺 建)

【画像46】築95年の長屋の壁の温度(写真撮影/大嶺 建)

【画像46】築95年の長屋の壁の温度(写真撮影/大嶺 建)

ついこの前Amazonで「壁の温度が測れる機械」があったので衝動買いした(なんで買ったのか覚えていない)。

試しにZEHと長屋でどのくらい違うのかやってみたら一目瞭然であった。壁の温度が8度も違うのだ。やっぱり高断熱材を使用している効果がハッキリと出ている。数値を見たら余計に寒く感じてきた。壁の温度なんて測らなければよかったと後悔した。

【画像47】(写真撮影/大嶺 建)

【画像47】(写真撮影/大嶺 建)

【画像48】(写真撮影/大嶺 建)

【画像48】(写真撮影/大嶺 建)

あまりに寒かったので寝袋を借りて就寝。まさか家の中で寝袋を使うことになるとは思わなかった。あとこの企画が思ったより過酷で辛い。

こうやって写真で見ると寝るときの差がえげつない……。

ラスト2時間【画像49】(写真撮影/大嶺 建)

【画像49】(写真撮影/大嶺 建)

朝6時前に起きた。前日が過酷で「もうやりたくない……」となるかと思ったが、意外にも気持ちはやる気で満ち溢れていた。

早めにZEHの家に戻り、朝の7時から再び漕ぎ始めた。いよいよ残り2時間である。これで勝負が決まる。

コツコツやっている人が勝つ世の中であって欲しい。そう願いながら必死に漕ぐ。

【画像50】(写真撮影/大嶺 建)

【画像50】(写真撮影/大嶺 建)

思えば21のときに家出をしてママチャリ日本一周をしてから、もう7年も経っていた。あのときはとにかく毎日必死に生きていて、明日のことなどこれっぽっちも考えていなかった。

毎日とにかく必死にペダルを漕いで、毎日必死に限界に挑んだ。

今はどうだろうか?
毎日を必死に生きているだろうか?
一つ一つを大切に生きているだろうか?

どうですか?僕?

あのころを思い出して今はペダルを漕いでいる。久しぶりに全力で生きている。今はそれがただただ誇らしい。

【画像51】(写真撮影/大嶺 建)

【画像51】(写真撮影/大嶺 建)

完走……!!!

今日僕はここで大切なことを思い出し、大切なものを手にいれた。

カワシマユカさんもこの僕の姿にきっと感動しているはずだ……!!

【画像52】(写真撮影/大嶺 建)

【画像52】(写真撮影/大嶺 建)

化粧してました。

結果発表

5Wでずっとやり続けてきた僕の結果は約35Whという結果になった。僕は電力などには詳しくないが、これはそこそこの結果なんじゃないだろうか? 距離もサイクルメーターで測っていて約70kmを走破したことになる。

ということで、運命の結果発表……

【画像53】(写真撮影/大嶺 建)

【画像53】(写真撮影/大嶺 建)

【画像54】(写真撮影/大嶺 建)

【画像54】(写真撮影/大嶺 建)

なんと太陽光発電!!

しかも差が圧倒的だと言う。嘘だ。地道に努力して努力して、必死に漕いだあの時間はなんだったんだろうか。いやいや確認間違いの可能性もある。

それなりに頑張ったがさすがに最新鋭の機械には勝てないかもしれない。しかし「太陽光発電とどのくらい良い勝負ができたか?」ということだ。端末にてその結果を確認する。

【画像55】(写真撮影/megaya)

【画像55】(写真撮影/megaya)

昨日の発電量のデータを確認したのだが、昨日の発電量は1Whや2Whが多く、僕よりかなり低い数値を叩きだしていた。

「あれ? これ結果発表間違っていたんじゃないか?」

と思いもう一度確認したみたところ「単位の読み間違えしていませんか?」と指摘された。ん? 単位?

【画像56】(写真撮影/megaya)

【画像56】(写真撮影/megaya)

 【画像57】(写真撮影/megaya)

【画像57】(写真撮影/megaya)

単位が「kWh」だ。つまり僕が一生懸命に稼いでいた「Wh」の1000倍である。ZEHの家では1時間で最大3kWhも発電していた。太陽光発電に今の同じペースで追いつくためには、僕があと685人はいないとダメということだ。

僕は今まで家庭の電力はWh計算だと勝手に勘違いしていた。だからスマホの5Whを走り抜ければ勝てると思っていた。その勘違いをしたままだったので、つまりはこの企画がスタートした時点で負けが確定していたということだ。自分の無知さが憎い。

さらに僕の漕いだ電力を円に換算(1kWh=24円)すると約0.8円らしい。1円にすら満たない。どんなに頑張っても日本円にはならないのだ。つらすぎる。

真っ白に燃え尽きたよ。

発電は圧倒的に太陽光発電

1日当たりの電気使用量平均は18.5kWhくらいで、この家(ZEH)の発電量は、だいたい20kWh近くはいくらしい。ほぼ発電だけで電力をまかなえていることになる。

自転車だと1日分の電力稼ぐだけでも何年かかるか分からない。自転車発電ってもっと効率の良いものだと思ってた。よくよく考えたら効率がもしよかったら色んな家庭で流行るはずだもんなぁ……。

【画像58】(写真撮影/大嶺 建)

【画像58】(写真撮影/大嶺 建)

【画像59】(写真撮影/大嶺 建)

【画像59】(写真撮影/大嶺 建)

というか必死にやっている感じずっと出してたけど、実はアイス食べたり、カワシマユカさんがつくった動画見てたりしてだいぶ休んでいた。

8時間漕いで70kmしか走ってないのを考えると、思っていたよりサボっていたというのが自分でも分かる。

【画像60】(写真撮影/大嶺 建)

【画像60】(写真撮影/大嶺 建)

最後にカワシマユカさんに「今回、ZEHの宿泊体験でどこが一番よかった?」という話を聞いてみたら、

「シャワーが上下に動くのが一番良かったです!」

と元気よく教えてくれた。いやそれZEH全然関係ないから……!!

アラ30男性は家事に積極的、「⼦どもも⼀緒に」志向、積水ハウス調べ

積水ハウス総合住宅研究所は、このほど、子どものいるフルタイム勤務の既婚男性(20~60代/全国)1886人を対象に、インターネットで「家事参加に関するアンケート調査」を実施した。

それによると、三大家事(炊事・洗濯・掃除に関する15項目)について「自分が行う」と答えた男性を見ると、25~34歳(アラ30)で50%近くにのぼり、35~44歳(アラ40)・45~54歳(アラ50)・55~64歳(アラ60)と大きな差が表れた。アラ30世代は他世代平均より約10ポイント高く、家事を積極的に取り組んでいる。

また、「家事を週に3回以上行う」という積極派の男性の68.5%が「子どもも家事に参加させたい」と考えているのに対し、「家事をほとんどしない・まったくしない」と答えた男性は61.8%と、意識の違いが表れた。子どものいる男性が自分で行う具体的な家事では、「ゴミ出し」「風呂掃除」「食器洗い」がトップ3だった。

さらに、家事積極派の男性には「頑張っていることを妻にわかってほしい」という思いを強く持っているといった特徴がある。家事積極派の男性では44.9%、月1回未満の家事をほとんどしない・まったくしない男性では35.2%と、約10ポイントの差がついている。

ニュース情報元:積水ハウス(株)

光熱費を抑えられ、一年中快適! 「エコな賃貸住宅」の今に迫る

地球温暖化が世界的な問題になっている中、国土交通省と環境省は合同でCO2(二酸化炭素)を削減する省CO2賃貸住宅を増やすために補助金制度を設けて推進している。このようなエコな賃貸住宅は、地球にやさしいだけでなく、入居者の暮らしにもメリットがあるようだ。省CO2賃貸住宅を手がける積水ハウスと、建て主であるオーナーに話を聞いた。
CO2を削減するエコな賃貸住宅とは?

温暖化の原因となる温室効果ガスにはCO2やメタン、フロン類などさまざまあるが、なかでもCO2は石油をはじめとした化石燃料の使用が急増したことで増加し、温暖化への影響が最も大きいと言われている。

このCO2を削減する賃貸住宅、つまり省CO2賃貸住宅が、今回取り上げる「エコな賃貸住宅」だ。具体的には高性能な断熱材や高断熱の窓、電力消費の少ないエアコンや照明、高効率な給湯器などを備え、使用するエネルギーを抑えることで省CO2を実現する。

家電の省エネマークのように、省CO2住宅かどうかを第三者機関が評価する制度「BELS(建築物省エネルギー性能表示制度)」があり、今回訪れた埼玉県の「グリーンガーデン稲荷山」も、省CO2住宅として認証された賃貸住宅だ。

【画像1】「グリーンガーデン稲荷山」のエントランスのドアには、省CO2住宅として認められた賃貸住宅を示すステッカーが貼られている(写真撮影/籠島康弘)

【画像1】「グリーンガーデン稲荷山」のエントランスのドアには、省CO2住宅として認められた賃貸住宅を示すステッカーが貼られている(写真撮影/籠島康弘)

グリーンガーデン稲荷山が竣工したのは2017年1月。18戸ある約45m2の1LDKはすぐに満室になったという。自分の住む部屋が「地球にやさしい」ことは入居者にとって誇らしいことではあるが、それだけで入居を決めるとは思えない。入居者のメリットはどんなところにあるのだろう。

光熱費が抑えられ、一年中快適に過ごせる

グリーンガーデン稲荷山の最寄駅は都心へのアクセスが良く、それゆえ競合する賃貸住宅も多い。しかし「入居希望者に省CO2であるメリットを伝えると、すぐに入居が決まります」と、グリーンガーデン稲荷山の管理を担当する積和不動産関東の佐野友洋さんは言う。

【画像2】「グリーンガーデン稲荷山」の一室。照明はLEDのダウンライト、エアコンや給湯器は省エネタイプを採用。また断熱窓や高断熱の壁や床が使用されている(写真提供/積水ハウス)

【画像2】「グリーンガーデン稲荷山」の一室。照明はLEDのダウンライト、エアコンや給湯器は省エネタイプを採用。また断熱窓や高断熱の壁や床が使用されている(写真提供/積水ハウス)

魅力としてまず、断熱性能を高めたことで光熱費を抑えられることが挙げられる。竣工して1年未満のため、平均の光熱費は算出できないそうだが「同規模の省CO2ではない一般的な賃貸住宅と比べると、抑えられていると思います」と、グリーンガーデン稲荷山を手がけた積水ハウス・永井秀人さんは言う。

実際、オーナーの横田さんは入居者の一人から「エアコンの効きがよくてビックリしました」と聞いたことがあるそうだ。断熱性や気密性が高いゆえ、約45m2の広さでもエアコン1台で、さほどフル回転しなくても快適な温度を保てるようだ。

また断熱性能が高いと、そもそもエアコンを使う頻度が減り、自然の風や太陽の恩恵を受ける時間が長くなる。断熱窓は冬なら日差しによる温かさを外に逃さず、逆に夏は日差しによる熱を遮る。風や太陽の気持ちよさを享受できるのも、省CO2賃貸住宅の入居者ならではないだろうか。

断熱性能が高いと結露も少なくなる。結露が少なければカビも生えにくいから、健康的に過ごすことができる。このように省CO2賃貸住宅は、光熱費の削減効果や健康的な暮らしを入居者にもたらしてくれるのだ。

なんとかできるうちに、温暖化対策に少しでも役立ちたい

一方建てる側のオーナーからすれば、省CO2化は一般的な賃貸住宅よりも建築費用がかかる。それでもグリーンガーデン稲荷山のオーナー・横田豊三郎さんはなぜ建てることにしたのだろう。

【画像3】「グリーンガーデン稲荷山」の夜景。室内だけでなく外構など共用部の照明もLED照明だ。「地域に溶け込むよう、温かみのある明かりを選びました」とオーナーの横田さん(写真提供/積水ハウス)

【画像3】「グリーンガーデン稲荷山」の夜景。室内だけでなく外構など共用部の照明もLED照明だ。「地域に溶け込むよう、温かみのある明かりを選びました」とオーナーの横田さん(写真提供/積水ハウス)

「自分たちで食べる程度の田畑を持っているのですが、種をまく時期や収穫時期が昔とずれてきているなど、温暖化の影響を実感していました」と横田さん。「自然災害のニュースも最近は増えてきたと感じています。なんとかできるうちに、一人ひとりが考えたり行動したりすることが必要なのだと思います」(横田さん)

【画像4】緑あふれるエントランスは、横田さん夫婦が自ら「どんな在来の木を植えようか」と散歩をしながら調べ、植栽(写真撮影/籠島康弘)

【画像4】緑あふれるエントランスは、横田さん夫婦が自ら「どんな在来の木を植えようか」と散歩をしながら調べ、植栽(写真撮影/籠島康弘)


また地元に愛着のある横田さんは、「地域の気候に合った自生種を外構に植栽するという『5本の樹』計画の提案も魅力的でした。これなら昆虫や鳥の生態系を守ることができるでしょうから」と話す。

現状、省CO2賃貸住宅の知名度は低いが、光熱費が削減できて一年中快適に暮らせると認知さえされれば、入居希望者はもっと増えるはずだ。そうなれば、省CO2賃貸住宅を建てるオーナーが増え、環境にも地域にもやさしい街が増えていくのではないだろうか。

●取材協力
・積水ハウス
・積和不動産
・横田豊三郎さん