「SUUMO住みたい街ランキング2024」練馬が注目度急上昇! レトロ飲食店街、巨大公園、人気エンタメ施設、温浴施設など、一日遊べるリゾートみたいな街だった!

リクルートが、首都圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県・茨城県)在住の20歳~49歳の男女9335人を対象に実施した「SUUMO住みたい街ランキング2024」を発表。今回は、世界的人気のエンタメ施設が誕生し、注目度が急上昇している「練馬」にフォーカスし、街の魅力を探ります。

「ワーナー ブラザース スタジオツアー東京 メイキング・オブ・ハリー・ポッター」がオープン

前回の63位から過去最高位の48位にランクアップした西武池袋線・都営大江戸線の練馬駅。昨年から「得点がジャンプアップした駅」のランキングでは5位、「穴場な街」ランキングでは4位と、街に対する注目が高まっていることがうかがえます。
性別・年代別・ライフステージ別の内訳では、前年に比べ「男性20代」「女性40代」「シングル世帯」からの支持が伸びました。

「SUUMO住みたい街ランキング2024」練馬が注目度急上昇! レトロ飲食店街、巨大公園、人気エンタメ施設、温浴施設など、一日遊べるリゾートみたいな街だった!

練馬

練馬に関心が寄せられている要因として、まず挙げられるのは「ワーナー ブラザース スタジオツアー東京 メイキング・オブ・ハリー・ポッター」の存在。2023年6月16日、アジア初の「ハリー・ポッター」スタジオツアーとして「としまえん」の跡地にオープンしました。ちなみに、ロンドンのスタジオツアーは、オープンから10年以上が経った現在でも予約が困難という人気施設です。

スタジオツアー東京では、ホグワーツ魔法魔術学校の象徴的な大広間、ダイアゴン横丁、禁じられた森といった物語の世界を体感できるほか、魔法動物に遭遇したり、豪華な衣装を鑑賞できます。

地域の人々や国内の観光客のほか、訪日外国人からの関心も高く、国内最大級のインバウンド総合メディア「訪日ラボ」を運営する株式会社movが発表した「インバウンド人気観光地ランキング」では、東京ディズニーランドなどを抑え2位に。街に新たな人の流れを呼び込む起爆剤になっています。

練馬城址公園

練馬城址公園

また、2023年5月には、同じ「としまえん」の跡地を中心に「練馬城址公園」も一部開園。園内の中心を流れる石神井川沿いの「川辺の散策ゾーン」、四季折々の花が咲き、イベントが開催される「花のふれあいゾーン」、「エントランス交流ゾーン」などが整備されています。今後も段階的に整備され、全面開園は2029年を予定。交流・憩いのスペースとしての魅力はもちろん、広域防災拠点としても、地域住民にとっては頼もしい存在です。

周辺には、「豊島園 庭の湯」や「ユナイテッド・シネマ としまえん」などの人気スポットもあり、一帯は1日過ごせるリゾートエリアに進化中です。

「豊島園 庭の湯」。1200坪の日本庭園を擁する都内最大級のスパ施設。天然温泉、バーデプール、サウナ、食事処などがあり、1日中楽しめる

「豊島園 庭の湯」。1200坪の日本庭園を擁する都内最大級のスパ施設。天然温泉、バーデプール、サウナ、食事処などがあり、1日中楽しめる

緑豊かな環境と気軽に農業を体験できる環境

練馬区の大きな特色の一つに挙げられるのが、緑豊かな環境です。区域に占める樹木などの割合を示す緑被率は23区でも上位で、区立公園などの面積も年々増加。2014年から2022年までの9年間で、10haも広がっています。

また、東京23区でありながら農地が多いことでも知られています。区民農園など農業を体験できる施設も増加中で、2022年の段階で87施設に。2023年には種まきから収穫まで体験できる「高松みらいのはたけ」も開設されるなど、区民が農業に親しむための取り組みに力を入れています。

「高松みらいのはたけ」

「高松みらいのはたけ」

一方で、練馬駅南口には「練馬三角地帯」と呼ばれる飲食店街も。安くて美味しい飲食店が密集しています。人気居酒屋の「春田屋」や、町中華の「小姑娘」など、昼飲みでにぎわうお店も多数あり、レトロな下町的な雰囲気とともにさまざまな世代に愛されています。

練馬三角地帯

練馬三角地帯

手厚い子育て施策も魅力

子育て環境に目を向けると、練馬区では直近9年間で保育定員数を8500人拡大。2021年から3年連続で待機児童ゼロを達成しています。2016年には全国初となる区独自の幼保一元化施設「練馬こども園」を創設。現在24園で実施し、定員は1869人(令和5年4月1日時点)。「3歳からは預かり保育のある幼稚園に通わせたい」という保護者のニーズに対応し、共働き家庭などからも利用されています。

同じく2016年には、小学校の放課後に児童が図書室などで読書や自主学習ができる「ひろば事業」と学童運営を一体化した「ねりっこクラブ」もスタート。年々、実施校数と定員枠を増やし、2023年時点で区内の全65校中52校で実施。定員枠は7012人に達するなど、小学生の居場所をしっかりと用意しています。

他にも、新宿から10km圏の駅のなかでは家賃が2番目に安い穴場感、2040年まで人口の増加が見込まれている将来性の高さなど、ポジティブな指標も多い練馬。もともとの住み心地の良さに加え、休日を過ごす街としての魅力が強化されたことで、ますます人気が高まっていくことは間違いなさそうです。

シングル向け家賃、カップル・ファミリー向け家賃

【調査対象物件】駅徒歩15分以内
シングル:築年数35年以内の10平米以上~40平米未満(1R,1K,1DK)の物件(定期借家を除く) ファミリー:築年数35年以内の50平米以上~80平米未満の物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2023/8/1~2023/10/31
【家賃の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(マンション/アパート)の管理費を含む月額賃料から中央値を算出

●関連サイト
SUUMOリサーチセンター「SUUMO住みたい街ランキング2024 首都圏版」プレスリリース

賃貸住宅に革命起こした「青豆ハウス」、9年でどう育った? 居室を街に開く決断した大家さん・住民たちの想い 東京都練馬区

「青豆ハウス」は”育つ賃貸住宅”というコンセプトを掲げ、2014年に誕生した。住む人と青豆ハウスを訪れる人が一緒に育む新感覚の共同住宅として注目され、その年のグッドデザイン賞を受賞。多数のメディアに紹介されてきた。設立9年目を迎えた青豆ハウスを訪ね、運営する株式会社まめくらしの青木純さんに、地域と溶け合うコミュニティ創出やその背景にある思いを取材。大家さんしかできない役割や賃貸住宅の可能性をたっぷり語ってもらった。

(写真撮影/桑田瑞穂)

(写真撮影/桑田瑞穂)

“住む人集う人で育てる賃貸住宅”「青豆ハウス」

青豆ハウスは、東京都練馬区平和台にある。副都心線平和台駅から5分歩くと住宅街の中に突如大きな農園が現れて驚く。練馬区が管理する田柄一丁目区民農園だ。青豆ハウスは、その農園に隣接して建っている。3階建てのメゾネットが2階にあるデッキを介して繋がる様子は、まさに豆の木が絡まるよう。畑を一望できる青豆ハウスは、農園を見守っているようにも見える。

9年前の建築当時に苗木で植えた木々が育ち建物を包む(写真撮影/桑田瑞穂)

9年前の建築当時に苗木で植えた木々が育ち建物を包む(写真撮影/桑田瑞穂)

「畑を見下ろす風景を住民に見せたかったんですよ」と青木さんは、白菜や大根の葉っぱで青々とした畑を指さす。門を入り、2階デッキへと上る階段から眺める235区画もの区民農園は壮観。東京とは思えないほど空が広く感じる。

「これだけの自然環境の中で暮らすことに価値を感じてもらえる住宅にしたかったんです。デッキに面しているのは各住戸のリビングダイニング。食卓には、朝昼晩だいたい同じ時間に灯りがともるでしょう? 人の営みを感じながら同じ時間を共有することを大事にしていますね」(青木さん以下同)

「いつも誰かが土を耕しているのが見えますよ」と青木さん。夕立ちのあとには虹がかかるという(写真撮影/桑田瑞穂)

「いつも誰かが土を耕しているのが見えますよ」と青木さん。夕立ちのあとには虹がかかるという(写真撮影/桑田瑞穂)

門を入ったところにある階段をのぼって2階デッキへ。デッキの下には各住戸用の収納庫がある(写真撮影/桑田瑞穂)

門を入ったところにある階段をのぼって2階デッキへ。デッキの下には各住戸用の収納庫がある(写真撮影/桑田瑞穂)

青木さんは、住み手と大家が一緒につくる「カスタマイズ賃貸」をはじめるなど日本の賃貸文化の変革者として知られ、公民問わず講演の依頼が絶えない。ジェイアール東日本都市開発と組んだ高円寺アパートメントや南池袋公園など公共空間活用も公民連携で実践してきた。それらの活動の原点が青豆ハウスだ。

「2011年ごろは、東京のシェアハウスブームがはじまって10年くらい経ったタイミングでした。当時シェアハウスは、単身世帯用の独身寮をコンバージョン(※)していた背景がありましたので、そこで出会って結婚すると卒業しなきゃいけない、ということが少なくありませんでした。シェアハウス卒業組が、シェアハウス時代と同じ感覚で誰かと繋がりながら住めるところが賃貸にない。これはおかしいなという思いが、青豆ハウスの構想につながりました」
※コンバージョン/用途変更

自然環境や天然素材を活かし「暮らしの価値」を創造する

青木さんが青豆ハウスで試みたのは、建物などハードだけでなく、暮らしの価値にお金を払ってもらうこと。いわゆるポータルサイトでの不動産広告はせずに、賃貸住宅では珍しい、物件専用ウェブサイトをつくり、パーススケッチやコンセプトを掲載。ブランディングデザイナーの土屋勇太さんや素描家のshunshun(しゅんしゅん)さんと会話を重ねながら、コンセプトに沿ったロゴや未来の暮らしがイメージできるイラストを作成した。出来上がったロゴは、「青」という文字をモチーフにしたものだった。

「コンセプトは、『住む人集まる人が育む賃貸住宅』。青という漢字にはもともと育つと言う意味合いがあるそうです。8枚の葉っぱの形が違うのは、それぞれの個性を尊重するって意味を込めて。それぞれの暮らしが実って、共用デッキに人が集うことによって、大きな木になる。建築過程は、『そらと豆』という成長日記のブログに公開しました」

イチョウやモミジなど葉っぱの種類がそれぞれ違う(写真撮影/桑田瑞穂)

イチョウやモミジなど葉っぱの種類がそれぞれ違う(写真撮影/桑田瑞穂)

shunshunさんが1本のペンで描いた青豆ハウスの未来予想図。「運営側の色に染めたくない」と色はつけなかった(画像提供/青豆ハウス)

shunshunさんが1本のペンで描いた青豆ハウスの未来予想図。「運営側の色に染めたくない」と色はつけなかった(画像提供/青豆ハウス)

建築途中に青豆ハウスの世界観を伝えるための一歩目として行われた上棟式。左にいるのが青木さん(画像提供/青豆ハウス)

建築途中に青豆ハウスの世界観を伝えるための一歩目として行われた上棟式。左にいるのが青木さん(画像提供/青豆ハウス)

建物の設計は、ブルースタジオに依頼。「目の前でむくむく緑が育つ農園と、のびのびと広がる空にインスピレーションを得て」企画された。内装も外装も天然素材にこだわった。外壁や床などには天然木を、中庭などの外構には古くから使われてきた大谷石(おおやいし)がふんだんに用いられている。いずれも年月を経ると変色などが発生する。一般的には「経年劣化」と言われてしまうが、青木さんは「経年変化」と呼んで慈しむ。

ピザ窯のある中庭に敷き詰めた大谷石。年月を経て白から青緑色に変化する(写真撮影/桑田瑞穂)

ピザ窯のある中庭に敷き詰めた大谷石。年月を経て白から青緑色に変化する(写真撮影/桑田瑞穂)

「豆の木にならうからには」と、構造も木にこだわり、木造三階建てに。外壁の天然木も時を経るごとに渋い味わいを増す(写真撮影/桑田瑞穂)

「豆の木にならうからには」と、構造も木にこだわり、木造三階建てに。外壁の天然木も時を経るごとに渋い味わいを増す(写真撮影/桑田瑞穂)

「日本だと築年数が経つほど価値が毀損されて原状回復しきゃいけないって考え方があるけど、欧米の賃貸市場では、築年数が古ければ古いほど、関係性ができればできるほど建物の価値が上がっていく。日本もスクラップアンドビルドじゃなくて、いいものを大切に使って無駄をなくしていく方がいいと思います。建った瞬間はゼロ歳で一歳、二歳、三歳となるうちに暮らしも豊かになるし、建物の雰囲気、味わいも出ていくのだから」

コミュニティづくりは、無理しない、無理強いしない初期から続く年始の恒例行事「新年会」(画像提供/青豆ハウス)

初期から続く年始の恒例行事「新年会」(画像提供/青豆ハウス)

青豆ハウスの世界観を理解してくれる人に入居してほしいと、建築中から募集を開始し、1組1組丁寧にコミュニケーション取りながら面接を重ねること3カ月。青豆ハウスの家賃は、当時の練馬区の賃料相場の1.5倍ほどだったが、オープンする時には満室に。青豆ハウスには、青木さん夫妻も入居している。コミュニティづくりでいちばん大切なことをたずねると、「正直であること」と青木さん。

「僕も正直です。なんでも正直にしゃべる。言いにくいことも『言いにくいんだけど』ってちゃんと話します。虚勢を張ったり無理しているとどこかで破綻してしまいますから。あとは、自分ファーストじゃなくて、相手の感情、相手の状況を思いやることが大事かな。青豆ハウスに管理規約はないけど、『無理せず気負わず楽しむ』という家訓があります。住民同士の食事会などのイベントの参加は、無理しない、無理強いしない。自分の意志で集うことを大事にしています」

毎年夏、地域に開放して催される夏祭り。住民同士の家族のような関係を子どもたちは「仲間」と表現する(画像提供/青豆ハウス)

毎年夏、地域に開放して催される夏祭り。住民同士の家族のような関係を子どもたちは「仲間」と表現する(画像提供/青豆ハウス)

住居の玄関に掲げられた葉っぱの看板には、“hana(花豆)”や“hiyoko(ひよこ豆)”など豆の名前がつけられている(写真撮影/桑田瑞穂)

住居の玄関に掲げられた葉っぱの看板には、“hana(花豆)”や“hiyoko(ひよこ豆)”など豆の名前がつけられている(写真撮影/桑田瑞穂)

中庭のピザ窯を使ったガーデンパーティや地域の人も参加できる夏祭り、区民農園での野菜づくりなどコミュニケーションをとる機会が多く、居住者は皆家族ぐるみのつきあいだ。

苦しいことも分かち合ったコロナ禍を経て再び街に開く

9年の間には、設立時からいた住民の卒業も経験した。青木さんに、筆者がどうしても聞かなければと考えていたことがあった。青木さんのブログのトップに固定されている2020年8月に書かれた記事のことだ。「実家、のようなもの。」というタイトルがつけられた記事の文章は、青木さんの決意表明のようにみえた。記事に登場する「けんけんさん、くにーさん」のことを問いかけると、青木さんは、ふたりが暮らし、今は居住者がいないlens(レンズ)という住居へ案内してくれた。

lensは、レンズ豆からとった名前(写真撮影/桑田瑞穂)

lensは、レンズ豆からとった名前(写真撮影/桑田瑞穂)

けんけんさん、くにーさん家族が過ごした部屋。今は共有スペースとして使っている(写真撮影/桑田瑞穂)

けんけんさん、くにーさん家族が過ごした部屋。今は共有スペースとして使っている(写真撮影/桑田瑞穂)

「ふたりともクリエイターで、部屋の名前に惹かれて、青豆ハウスありきで練馬に引越してくれました。青豆ハウスに来てから、はなちゃん、うたちゃんという双子の女の子も生まれました。彼ら“レンズファミリー”は住民にとても愛されていたんです。はなちゃん・うたちゃんは未熟児で大変でしたが無事に成長してよかったと思っていたところ、お母さんのくにーが重い肺の病気を患ってしまったんです。僕はけんけんからこの話を聞いたとき、皆には僕から話すって言いました。皆が大好きな家族がこういう状況にあると。全員、できる限りの支援をしたいという気持ちでした」

lens入居当初のけんけんさん(左)と、くにーさん(画像提供/青豆ハウス)

lens入居当初のけんけんさん(左)と、くにーさん(画像提供/青豆ハウス)

はなちゃんうたちゃんの話になると自然と笑みがこぼれる(写真撮影/桑田瑞穂)

はなちゃんうたちゃんの話になると自然と笑みがこぼれる(写真撮影/桑田瑞穂)

生まれも育ちも青豆ハウスなふたり(画像提供/青豆ハウス)

生まれも育ちも青豆ハウスなふたり(画像提供/青豆ハウス)

住民の皆で、子どもたちのお守りや食材の買い出しを手伝い、面白い動画や写真を撮影して励ましのメッセージをくにーさんに届けた。

「そうしたら、肺移植が必要なほど悪かった病気がお医者さんもびっくりするくらい回復して退院できたんです。皆で大喜びしました。ところが、今度はコロナがやってきたんですよ。肺の疾患だったのでコロナに感染したら致命的。レンズファミリーは、緊急事態宣言中に群馬の実家に戻ったまま帰京することなく、ぼくはオンラインで退去したいと連絡を受けました。『悩みに悩んだし、ずっとここに暮らしたいと思ってたけど、一緒に暮らすことで、誰かからコロナをもらってしまうかもしれない。自分も相手も傷つけちゃうから。それだけは嫌だ』って。パソコン越しに泣く泣く。僕もとっても辛かった」

別れのとき、はなちゃん・うたちゃんが「絶対嫌だ、ここで皆と暮らす!」と泣き叫ぶのを聞いて、青木さんはひとつの決断をする。

「ぼくは、大家として一連のやり取り見ていて、他の人にlensを貸したくなくなったんですよ。じゃあ、ここは、はなうたの実家だ、残すよってふたりに約束したんです」

レンズファミリーの旅立ちの日にも、祝福するような虹が出ていた(画像提供/青豆ハウス)

レンズファミリーの旅立ちの日にも、祝福するような虹が出ていた(画像提供/青豆ハウス)

こうして、lensは、欠番の部屋になった。レンズファミリーが帰った時に使うだけでなく、コロナ禍で住民たちのもうひとつの部屋として活用されることに。テレワークをする人たちがスケジュールを共有し合うことで、こどもの面倒を交代でみたり、英語の先生に出張してもらって英会話教室をしたり。それぞれの部屋に人を受け入れるのは抵抗がある中、lensのおかげでコミュニケーションをとることができた。

現在、lensの1階部分はまちのキオスク「まめスク」として活用されている。コロナ禍で疎遠になってしまった地域の人とキヨスクのように気軽に関わりを持てるスペースとして活用され、植栽さんや洋裁屋さんなどが出店する日は近所の人でにぎわっている。

悲しい別れもあれば、出会いもある。イラストレーターの熊谷奈保子さんは、初期住民以外の引越し組第一号だ。まめスクで個展中だというので青豆ハウスの暮らしをたずねてみた。

lensを店舗併用住宅に変更し、1階をまめスクに(写真撮影/桑田瑞穂)

lensを店舗併用住宅に変更し、1階をまめスクに(写真撮影/桑田瑞穂)

小さな個展「甘い毎日」では、童話とお菓子をモチーフにしたイラストを展示(会期終了)(写真撮影/桑田瑞穂)

小さな個展「甘い毎日」では、童話とお菓子をモチーフにしたイラストを展示(会期終了)(写真撮影/桑田瑞穂)

近所で賃貸暮らしをしていた熊谷さんは、建築中から青豆ハウスが気になっていたという。決め手になったのは?

「建物に良い素材を用いていること。単純に高級ということではなく、以前から惹かれるものだった、ということが大きいです。大家さんが心地よく感じるものと自分のそれがフィットした感じでしょうか。『住む人に心地よく過ごして欲しい』という大家さんの思いを感じました」(熊谷さん)

すでにあるコミュニティに入る不安もあったが、内覧会で住民の人と話が盛り上がり、心配は吹き飛んだという。「今回の個展の設営や告知も手伝ってもらったんですよ」と嬉しそう。

ご自宅を訪ねるとどこを切り取ってもおしゃれな空間! 緑の壁やキッチンのタイルは先住者が選んだものだが、もともと大好きな色なので、お気に入り。在宅で仕事をしているので、「窓越しに隣の人の気配を感じると、ほっこりした気持ちになる」と話してくれた。

農園を借景にした明るいリビングダイニング(写真撮影/桑田瑞穂)

農園を借景にした明るいリビングダイニング(写真撮影/桑田瑞穂)

熊谷さんがひと目ぼれした紺色のタイルが貼られたキッチン(写真撮影/桑田瑞穂)

熊谷さんがひと目ぼれした紺色のタイルが貼られたキッチン(写真撮影/桑田瑞穂)

壁から天井まで余すところなく素敵なインテリアで飾る(写真撮影/桑田瑞穂)

壁から天井まで余すところなく素敵なインテリアで飾る(写真撮影/桑田瑞穂)

毎年販売される熊谷さんのイラストを使ったカレンダー。来年のカレンダーはすでに完売(写真撮影/桑田瑞穂)

毎年販売される熊谷さんのイラストを使ったカレンダー。来年のカレンダーはすでに完売(写真撮影/桑田瑞穂)

居住者にはクリエイティブな仕事をしている人が多いので、助け合ったり、一緒に仕事をすることも多い。「売り切れないようにカレンダーの印刷部数を増やさなきゃ」と熊谷さんにアドバイスする青木さん(写真撮影/桑田瑞穂)

居住者にはクリエイティブな仕事をしている人が多いので、助け合ったり、一緒に仕事をすることも多い。「売り切れないようにカレンダーの印刷部数を増やさなきゃ」と熊谷さんにアドバイスする青木さん(写真撮影/桑田瑞穂)

住む人の暮らしをつくる大家さんの仕事は面白い!

青木さんは、住民として大家として、居住者に向き合い続ける中で、疲れたり、いやになってしまうことはないのだろうか。

「初めのうちは力みがありましたね。大家さんとして、こうしてほしい、こうなったらいいなって押し付けてしまったり。最初は、緊張感を持っていたけど、段々と気を緩ませ始めて。壁を自分が取っ払ってありのままでいることを意識し始めたらすごくうまく回ったんですね。ぼくのダメな部分は、皆が知ってます。例えば酔っ払って寝ちゃうとか、承認欲求が強そうとか、意外と根暗とか(笑)。ぼくも、それぞれのいい部分、悪い部分、ぜんぶ知っています。家族みたいなものです。共同で暮らすのは、楽しいことばかりじゃない。でも、辛いこと、苦しいことも分かち合えることが、コロナの時によくわかりました」

青木家にはひとり息子がいる。思春期で親とは話さなくても住民の人に話を聞いてもらっていたそうだ(画像提供/青豆ハウス)

青木家にはひとり息子がいる。思春期で親とは話さなくても住民の人に話を聞いてもらっていたそうだ(画像提供/青豆ハウス)

青木さんは、「大家さんの仕事は、皆が考えているより、ずっと楽しい!」と力説する。青木さんが不動産業界に関わることになった時、感銘を受けたのが、リクルート住宅総研(当時)のレポート「愛ある賃貸住宅を求めて」だった。

「『日本の大家さんへ』という島原万丈さんからのメッセージを今でもおぼえています。『あなたが建てたアパートやマンションの部屋で毎日眠り目覚め、食事を摂り勉強したり、仕事にでかけたり、時に友と語らい、時に恋をして、社会人として成長していく若者のことを、自分の物件にふさわしいとあなたが選んだ若者の人格を慈しみ、その暮らしを思いやることはできる。いやそれはあなたにしかできない仕事だ。』って書いてあったんですね。家だったり、共同住宅は、街の前にある一番最初の単位。そこでいい関係性をつくって、ちょっとはみ出して、街に幸せを広げていきたい。地方都市で移住者と先住者が対立する問題があるけど、大家さんが地域とその人をちゃんと繋いであげて関係性つくってあげたらうまくいくと思うんです」

話を聞いていると、大家さんはなんて面白い仕事だろう。自分も大家になってみたい!と思えてくる。自ら校長を務める「大家の学校」や池袋東口グリーン大通りで開催するイベント「池袋リビングループ」など、青豆ハウスの経験やノウハウを未来に繋ぐ活動も取り組んでいる。

青豆ハウスの住民たちで区民農園を残す活動もしてきた(写真撮影/桑田瑞穂)

青豆ハウスの住民たちで区民農園を残す活動もしてきた(写真撮影/桑田瑞穂)

自宅では窓辺で過ごすことが多い青木さん、どんぐりの木が窓いっぱいに見えてツリーハウスにいる気分(写真撮影/桑田瑞穂)

自宅では窓辺で過ごすことが多い青木さん、どんぐりの木が窓いっぱいに見えてツリーハウスにいる気分(写真撮影/桑田瑞穂)

思い出の詰まった絵や写真が壁一面に(写真撮影/桑田瑞穂)

思い出の詰まった絵や写真が壁一面に(写真撮影/桑田瑞穂)

プリンの絵の後ろにインターホンが隠れている。遊び心がニクイ(写真撮影/桑田瑞穂)

プリンの絵の後ろにインターホンが隠れている。遊び心がニクイ(写真撮影/桑田瑞穂)

最後に、青木さんの夢を聞いた。

「青豆ハウスが、百年後も続いていることですね。きっと建物も僕も残っていないだろうけど、地域の人に『青豆ハウスがここにあったよね』って言われたい。子どもたちが成長して、自分に子どもが出来た時にここに来てくれたら嬉しいなあ」

真ん中にいるのは青木さんの長男。今年、高校の寮に入るため青豆ハウスを巣立つ際に住民がイラストを描いてくれた(画像提供/青豆ハウス)

真ん中にいるのは青木さんの長男。今年、高校の寮に入るため青豆ハウスを巣立つ際に住民がイラストを描いてくれた(画像提供/青豆ハウス)

ポイ捨てがなくなればいいねと花壇に置くようになった黒板。日々交代で住民が描くかわいいイラストが評判でファンレターが置かれていたことも(写真撮影/桑田瑞穂)

ポイ捨てがなくなればいいねと花壇に置くようになった黒板。日々交代で住民が描くかわいいイラストが評判でファンレターが置かれていたことも(写真撮影/桑田瑞穂)

取材が終わった時、朝、入口で見つけた小さな看板のことを思い出していた。迎えてくれたのは、住民の方が描いたというスーモ君の絵。取材は、皆で相談して引き受けることを決めたという。さりげない歓迎の印が嬉しくて、少しの時間、青豆ハウスの仲間に含まれた気持ちがした。いつか青豆ハウスがなくなっても、だれかの心にきっと残り続ける。そんな思いを胸に青豆ハウスを後にした。

●取材協力
・青豆ハウス
・大家の学校
・池袋リビングループ

練馬区で23区最大級のマンション建替え事業

東京建物(株)と旭化成不動産レジデンス(株)、(株)URリンケージ参画する「石神井公園団地」の建替え事業が、4月21日、区分所有者数の90%を超える賛成をもって、一括建替え決議が可決された。東京23区最大級のマンション建替え事業となる。
同団地は練馬区上石神井三丁目19番に立地。1967年(昭和42年)竣工、敷地規模42,681m2、総戸数490戸、全9棟のRC造地上5階建で、日本住宅公団により分譲された。

竣工から52年を経過し、建物・設備の老朽化と住民の高齢化が進み将来への不安が増加。管理組合では2007年(平成19年)に建替・修繕検討委員会を設置し、10年以上前から団地の再生について勉強と検討が重ねられてきた。その後2015年(平成27年)に3社が事業協力者として選定され、建替えに向けた協力を続けてきた。

解体工事は2020年度に着手する予定。建替え後は、敷地面積36,988m2(建築敷地)、地上8階建・7階建含む8棟構成、延床面積67,909m2、住戸数844戸(地権者住戸を含む)を計画している。

ニュース情報元:東京建物(株)