小規模な街中のビルでも、脱炭素に資する木造ビルになる!ブルースタジオが推進するプロジェクトの挑戦を徹底解説

大島土地建設とブルースタジオが、『まちの大家による都市の面的木造化』推進プロジェクトを推進している。「都市の木造化」のために、中小規模事業者でも計画可能な小規模木造ビルのモデルが必要で、それを構築し普及を図るというものだ。そのモデルとなる「OS annex 2」が上棟し、見学会が開催されたので参加した。

まちの大家に小規模な木造ビルを建てるという選択肢を提供

政府の2050年カーボンニュートラル宣言に見られるように、脱炭素が求められている。その方策の一つが、木造化・木質化だ。住宅・建築分野において、積極的に「木」を使うことで温室効果ガスの吸収を増やせるからだ。大規模な建築物では、大手ゼネコンなどが独自の工法を確立し、すでに木は燃えやすいというイメージを覆すような高層の木造ビルをいくつか建てている。

一方、建築・不動産業界の多数を占めるのは、中小規模の事業者だ。中小規模の事業者がビルの木造化に取り組まない限り、都市の面的な木造化は進まない。そう考えて動き出したのが、大島土地建設三代目代表でブルースタジオの専務取締役でもある、大島芳彦さんだ。大島土地建設は、東中野のみで小規模ビル7棟を賃貸する、いわゆる「まちの大家」だ。その大島土地建設が施主(大家)となり、ブルースタジオが建築設計を担当して、木造化による賃貸ビル「OS annex 2」を建築することを決意した。

都心商業地域の主たる建築物は、2000平米未満の商業・事務所ビル。このクラスの「小規模ビル」の木造化技術の標準化とその普及が目的だ。「中小規模不動産事業者、中小規模設計事務所、中小規模工務店」でも計画可能な標準工法による小規模木造ビルの建築モデルを構築することで、本質的な『都市の木造化』の促進を目指すという。

つまりは、まちの大家(大島土地建設)でも、まちの設計事務所(ブルースタジオ)やまちの工務店(今回は礎コラム)と共に、小規模な木造ビルを建てられる建築モデルを用意したので、実際に建てた事例を見て同じように建ててほしいということだ。

見学会で熱く語る、大家兼blue studioディレクターの大島芳彦さん(筆者撮影)

見学会で熱く語る、大家兼blue studioディレクターの大島芳彦さん(筆者撮影)

小規模ビルの木造化、その手法とは?

建築モデルとなる「OS annex 2」の概要を見ると、JR中央・総武線「東中野」駅徒歩2分、敷地は間口約9m・奥行約17m、8階建て、延べ床面積714.46平米となっている。大島さんによると「都心部の建物の約7割は10階建て以下、間口10m以下」の縦長のビルだというので、その典型の建物と言えるだろう。ただし、木造化と言ってもすべてが木造というわけではない。設計上はすべて木造とすることは可能なのだが、そうすると建築コストがかなりかかるため、経済合理性を考えて、1~4階は鉄骨造、5~8階は木造としている。

1~4階は、標準的なラーメン構造の2時間耐火の鉄骨造だ。ラーメン構造とは、「柱」(垂直方向)と「梁(はり)」(水平方向)で四角形の枠を構成して建物を支える構造のこと。柱と梁をしっかり接合することで、地震の揺れで変形しないようになっている。
※鉄骨造は両方向のラーメン構造

この鉄骨造の上に、1時間耐火の木造を載せる構造となっている。木造部分は、構造となる木材(カラマツ)を強化石膏ボードで両側からはさんで耐火被膜とし、さらにその両側面を木材の耐震フレームではさむ「門型」フレームのラーメン構造としている。ただし、門型フレームは、開口部側の一方向のラーメン構造なので、奥行側にブレース(筋交い※)を入れる形を採っている。
※四角形に組まれた骨組みに対角線状に入れる補強材のこと

ビルの構造の説明図

ビルの構造の説明図

筆者はかつて、大手ハウスメーカーが建てた木造の賃貸マンション(5階建て)を見学したことがあるが、それも経済合理性を考えて1階をRC(鉄筋コンクリート)造としていたので、混構造となるのはよくあることなのだろう。

この構造がよく分かる上棟の段階で、見学会が行われた。

数回に分かれて行われた見学会。筆者参加の回も大勢が見学に訪れた(筆者撮影)

数回に分かれて行われた見学会。筆者参加の回も大勢が見学に訪れた(筆者撮影)

建築中の建物内に入り、ビルの構造をこの目で確認

間取図と現地写真で、鉄骨造と木造の違いを見てほしい。鉄骨造のフロアでは左右それぞれに柱が3本ずつ、木造のフロアではそれぞれに柱が5本ずつ入っているのが分かる。

■鉄骨造のフロア

2~4階の間取図

2~4階の間取図(間取図提供:ブルースタジオ)

1階の様子

1階の様子(筆者撮影)

■木造のフロア

5~8階の間取図

5~8階の間取図(間取図提供:ブルースタジオ)

6階の様子

6階の様子(筆者撮影)

木造部分を詳しく見ると、下の写真の緑色の部材が主要構造部で、木材をそのまま見える形にした耐震フレームで両脇をはさんでいる。奥行側は隣にマンションがあるので、斜めのブレースを入れて耐震補強している。床は山型デッキプレートを使った合成スラブ構造で、天井部分にデッキプレートが見えている。

8階の木造部分(筆者撮影)

8階の木造部分(筆者撮影)

さて、見学会では、もっと詳しい説明があったのだが、筆者は建築の専門知識がないので、残念ながら構造や設計について詳しいことがよく理解できなかった。木造防耐火監修の桜設計集団による木造門型フレームの加熱実験が行われるなど、標準モデルとなるような細かい設計がなされているので、詳しく知りたい場合は、ブルースタジオに確認をしてほしい。

小規模木造ビルで、賃料設定はどうなる?

さて、木造ビルは決して安価で建てられるものではない。国からの補助金などを受けているが、それでも賃料は周辺相場より高めになる。募集する賃料は、2~4階(専有面積76.45平米)で38万2800円、5~8階(専有面積71.61平米)で39万600円※8階のみ41万2300円(賃料はいずれも消費税別)。

ただし、ZEB-ready(ゼブ・レディ=完全なZEB/ゼロエネルギービルではないが、ZEBを見据えた先進建築物としての条件を備えたビル)を取得し、通常より電気代を抑制できることに加え、外壁面に太陽光パネルを設置することで、テナントが光熱費を抑えることができるようになっている。また、外から見て木造ビルであることがすぐに分かるようにデザインされているので、地球環境に配慮したビルに入居することの意義などSDGsの要素も加わり、そのうえで賃料を見てもらえると考えている。

大島さんは、木造ビルの建て方だけでなく、こうした募集ノウハウなども合わせて提供できるのではないかという。

さて、地球温暖化が進み、カーボンニュートラルに向けて待ったなしの状況になっている。住宅や建築分野の脱炭素は、資金力や人手のある大手事業者が先導して取り組むことが多いが、現実には小規模な住宅や建築物が街中には多く存在している。小規模な建築物でも脱炭素に取り組みやすい手法があり、成功事例が増えていけば、街の中に木造のビルが増えていくかもしれない。大島さんの挑戦に、今後も注目していきたい。

●関連サイト
ブルースタジオ プレスリリース「まちの大家による『都市の木造化』促進計画 都心商業地域における小規模木造ビルの標準化プロジェクト」

空き家だらけの下町に2000世帯も転入! 大阪・蒲生四丁目がオシャレなまちに「がもよんモデル」

「がもよん」の愛称で親しまれる大阪の下町が、2021年度グッドデザイン賞「グッドデザイン・ベスト100」に選出されました。昭和の風情が今なお息づく庶民的な街がいったいなぜ、ここにきて注目を集めているのでしょう。それはこの街が日本中の市区町村が頭を抱える「空き家問題」「古民家再生」に対し先鋭的な取り組みをしてきたからなのです。

「がもよんモデル」と呼ばれる、その方法とは? 実際に「がもよん」の街を歩き、キーパーソンをはじめ関わった人々にお話を伺いました。

街をむしばむ「空き家問題」に悩まされた「がもよん」

「がもよん」。まるでドジな怪獣のような愛らしい語感ですが、これは大阪府大阪市城東区の蒲生(がもう)四丁目ならびにその周辺の愛称。「がもう・よんちょうめ」略して「がもよん」なのです。

大阪城の北東に位置する「がもよん」には住宅がひしめいています。蒲生四丁目交差点を中心として半径2kmに広がるエリアに約7万もの人が暮らしているのです。かつては大坂冬の陣・夏の陣の激戦地。現在は大阪きっての住宅密集地となっています。

住宅が軒を連ねる蒲生四丁目。通称「がもよん」(写真撮影/吉村智樹)

住宅が軒を連ねる蒲生四丁目。通称「がもよん」(写真撮影/吉村智樹)

大阪メトロ長堀鶴見緑地線と同・今里筋線が乗り入れる「がもよん」は、副都心「京橋」まで地下鉄でわずか3分で着く交通利便性が高い場所。それでいて昭和30年(1955年)ごろに発足した城東商店街や入りくんだ路地など、のんびりした下町の風情がいまなお薫るレトロタウンなのです。

味わい深い小路が縦横に延びる「がもよん」(写真撮影/吉村智樹)

味わい深い小路が縦横に延びる「がもよん」(写真撮影/吉村智樹)

そんな「がもよん」は下町ゆえの問題もはらんでいました。旧街道に沿う蒲生四丁目は第二次世界大戦の空襲を逃れたため戦前に建てられた木造の古民家や長屋、蔵が多く残っていたのです。住民の少子高齢化とともに築古の空き家が増加し、住む人がいない建物は日に日に朽ちてゆきます。街は次第に寂れたムードが漂い始めていました。

2000世帯以上の流入を成し遂げた「がもよんにぎわいプロジェクト」

そんな下町「がもよん」が2021年10月20日、グッドデザイン賞2021「グッドデザイン・ベスト100」に選出されました。

グッドデザイン賞2021「グッドデザイン・ベスト100」に選出された「がもよんにぎわいプロジェクト」(画像提供/がもよんにぎわいプロジェクト)

グッドデザイン賞2021「グッドデザイン・ベスト100」に選出された「がもよんにぎわいプロジェクト」(画像提供/がもよんにぎわいプロジェクト)

約5800件から選ばれたのは、一般社団法人「がもよんにぎわいプロジェクト」の事業。「がもよんにぎわいプロジェクト」とは閉業した昭和生まれの商店や老朽化した古民家などの空き家を事業用店舗に再生する取り組みのこと。これが「住民が地域活性化に参加できる“エリア全体のリノベーション”を実現した」と高く評価されたのです。

「“がもよんにぎわいプロジェクト”を始めて13年。今回の受賞が全国で増加する空き家問題を解決する一手となり、活動を支えてくれた地域の人が、街を誇りに感じてもらえたらうれしいですね」

そう語るのは「がもよんにぎわいプロジェクト」代表理事であり、建設・不動産業を営む会社R-Play(アールプレイ)の代表取締役、和田欣也さん(56)。

「がもよんにぎわいプロジェクト」代表理事、和田欣也さん(写真撮影/吉村智樹)

「がもよんにぎわいプロジェクト」代表理事、和田欣也さん(写真撮影/吉村智樹)

和田さんは無人物件の所有者と事業オーナーとのマッチングによって空き家問題を解決し、「貸す人も借りる人も地域も喜ぶ」三方よしの新たなビジネスモデルを打ち立てています。しかも公的な補助金はいっさい受け取らず、民間の力だけで。「経済自立したエリアマネジメント」を成立させたのです。

「この5年間で、がもよんは2030世帯も住民が増えたんです(令和2年 国勢調査)。『にぎわう』という当初の目標は達成できているんじゃないかな」

「がもよんにぎわいプロジェクト(GAMO4)」のラッピングバスが大阪市内を走る。知名度がアップし、さらににぎわいをもたらす(画像提供/がもよんにぎわいプロジェクト)

「がもよんにぎわいプロジェクト(GAMO4)」のラッピングバスが大阪市内を走る。知名度がアップし、さらににぎわいをもたらす(画像提供/がもよんにぎわいプロジェクト)

地道な「街歩き」で人々と接してきた効果は絶大

和田さんがこの10余年に「がもよん」内にて手掛けた空き家再生の物件は40軒以上。そのうち店舗は33軒。刮目すべきは、再生した物件のほぼすべてがしっかり収益を上げ、成功していること。家庭の事情で閉業した一例を除き、業績の不振によって撤退したケースはなんと「ゼロ」なのだそう。コロナ禍の渦中ですら一軒も潰れることなく営業していたのだから感心するばかり。

成功の秘訣は、自らの足で街を巡り、路地に立ち、街の空気を感じること。和田さんが「がもよん」を歩くと、皆が声をかけてくる。いわば「街の顔」なのです。

「僕の顔、み~んな知っています。街を歩けば、近所のおばちゃんから『あそこに新しい店ができたなー。こんど連れて行ってーや』と声をかけられる。サービス券を渡したら、『孫も連れて行くから、もう一枚ちょうだい』って」

和田さんは「がもよん」エリア内にある40軒以上の空き家を再生してきた(写真撮影/吉村智樹)

和田さんは「がもよん」エリア内にある40軒以上の空き家を再生してきた(写真撮影/吉村智樹)

「ここは“がもよん”や。梅田とちゃうぞ」と敬遠された

そんな和田さんには他のまちおこしプランナーにはない大きな特徴があります。それは「耐震診断士の資格」を取得していること。過去に「あいち耐震設計コンペ最優秀賞」「兵庫県耐震設計コンペ兵庫県議長賞」を受賞している和田さん。実はこの耐震診断士資格こそが「がもよんにぎわいプロジェクト」の発端といえるのです。

「がもよんにぎわいプロジェクト」が誕生したきっかけは、2008年6月、築120年以上の米蔵をリノベーションしたイタリアンレストラン「リストランテ・ジャルディーノ蒲生」(現:リストランテ イル コンティヌオ)の開業でした。

再生物件の第一号。古い米蔵をイタリアンの店に蘇らせた「リストランテ イル コンティヌオ」(旧:リストランテ・ジャルディーノ蒲生)(画像提供/がもよんにぎわいプロジェクト)

再生物件の第一号。古い米蔵をイタリアンの店に蘇らせた「リストランテ イル コンティヌオ」(旧:リストランテ・ジャルディーノ蒲生)(画像提供/がもよんにぎわいプロジェクト)

老朽化したまま放置された米蔵の扱いに悩んでいた現スギタハウジング株式会社の代表取締役、杦田(すぎた)勘一郎さん。「古い米蔵が醸し出す温かな雰囲気を残したい」と、当初は「そば屋」をイメージしてテナントを募集しました。しかしながら、反応がありません。「先代から引き継いだ古い建物を守りつつ、次の世代へ良い形で残したい」と願うものの、和食という固定観念にとらわれていた様子。

そこで杦田さんは、耐震のエキスパートである和田さんに参加を呼びかけ、古民家再生プロジェクトがスタートしました。そして和田さんは「蔵だから和食、では当たり前すぎる」と、「柱や梁を残し、蔵の装いをそのまま活かしたイタリアンレストラン」への転用を提言したのです。

「フルコースでイタリアン。一番安いコースを3000円くらいで食べられる。そういうタイプの予約制の店は、がもよんにはなかった。ないからこそ、やりたかったんです」

しかし、蔵の所有者は「そんなワケのわからんものにするくらいなら更地にせえ」と猛反対。周囲からも「がもよんでイタリアンなんか流行るわけがない」と奇異な目で見られ、理解が得られませんでした。

「めちゃくちゃ敬遠されました。13年前はまだ外食の際に予約を取る習慣ががもよんにはなかったんです。ジャージにつっかけ履きのままで、ふらりとメシ屋の暖簾をくぐるのが当たり前やったから。『予約がないと入れない? はぁ? なにスカシとんねん。ここをどこやと思っとんのじゃ。がもよんやぞ。梅田ちゃうで』と、訪れた客から捨て台詞まで吐かれる。梅田に比べて破格に安い値段設定にしたのですが、それでも受け入れてもらえませんでした」

「高級レストランへの再生をなかなか理解してもらえず、ナンギした」と当時を振り返る和田さん(写真撮影/吉村智樹)

「高級レストランへの再生をなかなか理解してもらえず、ナンギした」と当時を振り返る和田さん(写真撮影/吉村智樹)

和田さんは「失敗したらギャラはいらん」と覚悟の姿勢を見せて所有者を説得。建築のみならず腕利きの料理人のスカウトまで担ったのです。

古い物件ゆえに耐震や断熱の工事に時間がかかります。蔵は天井が低く、地面を掘り下げる必要が生じるなど工事は困難を極めました。周囲は「失敗を確信していた」といいます。

ところが結果は……オープンと同時にテレビをはじめマスコミが「下町に不似合いなイタリアンの店が誕生」と報じ、噂を聞きつけて他都市からわざわざ訪れる客やカップル、家族連れなどで予約が取れぬほどの盛況に。街のランドマークとなり、がもよんの外食需要が掘り起こされたのでした。

このイタリアンの件を機にタッグを組んだ和田さんと杦田さん。杦田さんは「自分は空き家を数多く所持している。一軒の店の再生という“点”で終わらず、地域という“面”で活性化に取り組まないか」と提案し、これが「がもよんにぎわいプロジェクト」へと発展していったのです。

目の当たりにした阪神淡路大震災の悲劇

和田さんが古民家を再生するにあたり、もっとも重要視するのが「耐震」。

「耐震にはうるさいので、疎ましがられます。『和田さんはさー、耐震野郎なんだよ』とよくからかわれました。喜ばしいことですよ。それくらい耐震を考えて街づくりをしている人が少ないということです」

和田さんが耐震に重きを置く背景には1995年に発生した阪神・淡路大震災がありました。

「震災でお亡くなりになった約7000人のうち、圧死したのはおよそ3000人。多くの人が自分の家につぶされて亡くなっている。最も安心できるはずのわが家に殺されるって、なんて悲しいんだろうと」

和田さんは震災の後、ブルーシートや水を車に積んで被災地へボランティアへ出かけました。そこで見た光景は「忘れることができない」悲壮なものだったのです。

「雪がちらつく寒い夜、公園に被災した人が集まっている。けれども誰も眠っていないんです。『襲われるんじゃないか』と不安になって眠ることができない。みんな殺気立っていました」

生き残った人たちまで疑心暗鬼に駆られる悲劇を二度と繰り返したくない。そのため耐震の重要性を説くものの、当初はなかなか理解してもらえませんでした。

「古民家改修の耐震設計は一から行うより大変なんです。どうしてもお金と時間がかかる。そのわりに目に見えた効果がない。お店に入って『耐震がしっかりしているか』なんて、わからないじゃないですか。そもそも地震が来るかどうかすらわからない。耐震を軽んじれば時間も予算も削減できる。なので、所有者の説得には何度も心が折れそうになりましたよ」

阪神・淡路大震災の経験から、耐震工事の重要性を痛感した和田さん(写真撮影/吉村智樹)

阪神・淡路大震災の経験から、耐震工事の重要性を痛感した和田さん(写真撮影/吉村智樹)

「ちょっと背伸びして」味わえるフードタウンへ

イタリアンの店「ジャルディーノ蒲生」のヒットをきっかけに旗揚げされた「がもよんにぎわいプロジェクト」。このプロジェクトはいったい、なにをテーマとするのか。これが和田さんに課せられた最初の命題でした。

同じころ、大阪の各所では「古い街を活性化させようとする動き」が起こっていました。先駆事例を挙げるなら、北区の中崎町は「雑貨」、天王寺区の空堀(からほり)町は「アート」といったように。

そこで和田さんが選んだプロジェクトのテーマは「ごはん」。

「雑貨はお客さんが『店に入っても何も買わない』選択ができてしまう。アートは『自分には縁がない』と考える人がいる。けれども誰しも必ず食事はする。月に一度は外食をするでしょう。なので、人口密度が高くファミリーが多いがもよんを『フードタウンにしようやないか』と」

食べ物でのまちおこし。下町なら「B級グルメ」が定番。しかし和田さんは、あえてB級を選びませんでした。

「がもよんでB級グルメって、そのまんまでしょう。ギャップがない。目指したのは“地元の高級店”。お祝いごととか、正月に娘や息子が帰ってくるとか。そういうときに『ちょっと、ごはんを食べに行こうや』となりますよね。でもファミレスでは『ざんない』(しのびない)。とはいえオータニはさすがに高い。そのあいだくらいの、“ちょい背伸びする料金”でおいしいものが食べられる街にしましょうよ、と提案しました」

こうして古民家の趣を大切に残しつつ、一店舗一店舗オリジナリティに溢れる飲食店の誘致が始まったのです。

「古民家再生」の気概に触れ、腕のいい料理人が集結

「和田さんと杦田さんから、『がもよんには本格的な和食割烹がない。店をやっていただけませんか』とお誘いをいただいて」

そう語るのは、オープン5年目を迎えるカウンター割烹『かもん』店主、多羅尾光時さん。

カウンター割烹『かもん』店主、多羅尾光時さん(写真撮影/吉村智樹)

カウンター割烹『かもん』店主、多羅尾光時さん(写真撮影/吉村智樹)

和田さんたちからの出店の依頼を引き受けた最も大きな理由は「古民家の再生プロジェクト」という点が琴線に触れたから、なのだそう。

「空き家って、どの街でも大きな問題になっているじゃないですか。私も微力ながら問題解消のために協力できるのでは、と思いまして」

紹介された空き家は「93年前までの資料しか残っていない」という、築100年越えの可能性がある四軒長屋の一棟。もともとは大きな邸宅で、一軒を四軒に分離させた異色の建築です。恐るべきことに、工事前はなんと「耐震措置ゼロ」というつくりでした。

もともとは築100年を超えるとみられる古民家だった(写真撮影/吉村智樹)

もともとは築100年を超えるとみられる古民家だった(写真撮影/吉村智樹)

「和田さんにしっかり耐震工事をやっていただきました。それでいて、できるかぎり元の建物の情緒を残してもらって。なので、とても気に入っています。欄間は当時の家のまま。ガラスも今ではつくる職人さんがいない、割れたら終わりという貴重なものなんです」

風情ある欄間は当時の家のまま。カウンター中央にはしっかりとした太い柱が設えられ、耐震対策は万全(写真撮影/吉村智樹)

風情ある欄間は当時の家のまま。カウンター中央にはしっかりとした太い柱が設えられ、耐震対策は万全(写真撮影/吉村智樹)

「割れると再現できない」という貴重なガラス戸(写真撮影/吉村智樹)

「割れると再現できない」という貴重なガラス戸(写真撮影/吉村智樹)

再生した古民家に「満足している」という多羅尾さん。さらに気に入ったのは「がもよんにぎわいプロジェクト」に加盟している店同士の「仲の良さ」でした。

「ミナミや北新地って各店がライバル関係なんです。けれども、がもよんは店舗さん同士の仲が良くて。一緒に飲みに行ったり、ご飯を食べに行ったり。皆さんで協力し合ってまちおこしをしている。『自分もその輪に入って力になれたら』という気持ちが湧いてきましたね」

古民家に惹かれUターンする人も

かつての「がもよん」の住人が、古民家再生の取り組みに惹かれ、再びこの街へ転入してきた例もあります。

そのうちの一軒が2021年6月にオープンしたイタリアンカフェ『amaretto(アマレット)』。エスプレッソのみならず抹茶やほうじ茶のティラミスなど絶品のイタリアンスイーツが楽しめるお店です。

ほろ苦い「ほうじ茶のティラミス」が人気(写真撮影/吉村智樹)

ほろ苦い「ほうじ茶のティラミス」が人気(写真撮影/吉村智樹)

店主の脇裕一朗さんは他都市でさまざまな飲食関係の業務を経験したのち独立。故郷であるがもよんへ帰ってきました。そうして初めての個人店を開いたのです。

イタリアンカフェ「amaretto(アマレット)」のオーナーシェフ、脇裕一朗さん。古民家再生の取り組みに関心を寄せ、がもよんへUターンした(写真撮影/吉村智樹)

イタリアンカフェ「amaretto(アマレット)」のオーナーシェフ、脇裕一朗さん。古民家再生の取り組みに関心を寄せ、がもよんへUターンした(写真撮影/吉村智樹)

「イタリアの田舎町にある雰囲気の店にしたかったので、古民家を探していたんです。そんなときに以前に住んでいたがもよんが古民家再生でまちおこしをしていると知り、『それはちょうどいいな』と思って和田さんにお願いしました」

吹抜けに建て替えた古民家は、天井はそのまま。梁も玄関戸があった位置も往時の姿を今に残しています。

たっぷりとした広さがあるアプローチも古民家時代のまま。「このスペースが気に入ったんです」と脇さんは語る(写真撮影/吉村智樹)

たっぷりとした広さがあるアプローチも古民家時代のまま。「このスペースが気に入ったんです」と脇さんは語る(写真撮影/吉村智樹)

さらに脇さんが気に入ったのは、街を包む活気でした。

「がもよんは、いい意味で雰囲気は昔っからの下町のまんま。けれども人口が増え、『新しいお店がいっぱいできているな』という印象です」

プロジェクトが生みだす店同士の連帯感

「がもよんにぎわいプロジェクト」は店舗物件の保守管理にとどまらず、マネジメントの一環として、店舗同士が集うコミュニティも運営しているのが特徴。割烹『かもん』の多羅尾さんがプロジェクトに関心を抱いたのも、この点にありました。

コミュニティの本拠地は元・空き家だったスペース「久楽庵(くらくあん)」。ここで毎週木曜日に店主ミーティングが開かれているのです。

元・空き家だったスペース「久楽庵(くらくあん)」。定期的に店主が集まりミーティングが開かれる(画像提供/がもよんにぎわいプロジェクト)

元・空き家だったスペース「久楽庵(くらくあん)」。定期的に店主が集まりミーティングが開かれる(画像提供/がもよんにぎわいプロジェクト)

「がもよんにぎわいプロジェクトは加盟金などない非営利団体。鬼ごっこと同じです。『入りたい』と思ったら入っていい。『もういやや』って感じたら抜けていい。ミーティングも任意参加。そんな気楽な関係やけど、参加してくださる方はとても多いんですよ」(和田さん)

ミーティングではハード面での相談はもちろん、経営ノウハウの共有、情報交換や共同イベント企画など、店主さんたちが腹を割って話し合います。そうすることで店同士が経営動向を把握し、悩みを解消し合い、連帯感を生む。支え合い、ひいては、がもよん一帯の魅力を押し上げているのです。

「お店の周年記念には、花を贈り合う。そんな温かな習慣が生まれています。お店同士の仲がいいと、お客さんにもそれが伝わる。常連客が『あっちの店にも行ってみるわ』と他店へも顔を出すようになり、経済が回るんです」

店主同士、仲がいい。この良好な関係を築くため、和田さんには決めている原則があります。それは「同じ業態の店舗はエリア内で一つだけ」というルール。

「例えばラーメン屋さんやったら一軒だけ。同業者がお客さんを奪い合って共倒れになったらプロジェクトが持続できない。それに大家さんも、店子と店子がライバルになったら悲しいでしょう」

「競争ではなく共闘できる環境づくり」。それが和田さんのモットーなのです。

「空き家の活用は普通、物件の契約が済んだら関係は終わる。でも、がもよんにぎわいプロジェクトは“契約からがスタート”なんです。『がもよんに店を開いて良かった』と思ってほしいですから。そのために、やれるサポートはやっていくつもりです」

「まちおこしは“店同士の仲の良さ”が大事」と和田さんは語る(写真撮影/吉村智樹)

「まちおこしは“店同士の仲の良さ”が大事」と和田さんは語る(写真撮影/吉村智樹)

こうして和田さんたちの取り組みは「売り上げ」という目に見える形で効果を表し、いつしか「がもよんモデル」と呼ばれ、評価され始めました。

赤と黒が織りなす戦乱のゲストハウス

成功のノウハウを蓄積し、発起から10年を過ぎて地域密着型まちづくりモデルとして成熟してきた「がもよんにぎわいプロジェクト」。その手法は次第に飲食店というワクを超え、他分野へ応用されるようになってきました。

例えば2018年に「戦国の世」をイメージしてオープンしたゲストハウス「宿本陣 幸村/蒲生」。

がもよんが戦国武将「真田幸村」ゆかりの地であることから、幸村のイメージカラーである赤と黒を基調として内装。寝室には人気アニメ『ワンピース』とのコラボでも話題の墨絵師・御歌頭氏が描く大坂・冬の陣が壁全面に広がっており、大迫力。

ゲストハウス「宿本陣 幸村/蒲生」。かつて「大坂・冬・夏の陣」の合戦場だったがもよん。真田幸村の激闘を描いた真っ赤な寝室が話題に(写真撮影/吉村智樹)

ゲストハウス「宿本陣 幸村/蒲生」。かつて「大坂・冬・夏の陣」の合戦場だったがもよん。真田幸村の激闘を描いた真っ赤な寝室が話題に(写真撮影/吉村智樹)

「『民泊ブームの逆路線を行こう』。そんな発想から生まれた宿です」

そう語るのは、和田さんの右腕として働くアールプレイ株式会社の宅建士、田中創大(そうた)さん。

和田さんの右腕として働く宅建士、田中創大さん(写真撮影/吉村智樹)

和田さんの右腕として働く宅建士、田中創大さん(写真撮影/吉村智樹)

確かに、野点を再現した居間、黒で囲まれた和の浴室など、民泊ではありえない非日常感があります。

「もともとは大きな住宅でした。『せっかく広々とした場所があるのだから、旧来のホテルや旅館とは違う、がもよんに来ないと体験できないエンタテインメントを感じてもらおう』。そのような気持ちから、見てのとおりの設えになりました」

ブッ飛んだ発想は海を越えて口コミで広がり、コロナ禍以前は英語圏や中華圏から宿泊予約が殺到したのだそう。

改修不能な空き家が「農園」に生まれ変わった

古民家の再生によりまちおこしを図る「がもよんにぎわいプロジェクト」。とはいえ古民家のなかには改修不能な状態に陥った物件もあります。そこで和田さんたちが始めたのが貸農園「がもよんファーム」。

住宅地に突如現れる貸農園「がもよんファーム」(写真撮影/吉村智樹)

住宅地に突如現れる貸農園「がもよんファーム」(写真撮影/吉村智樹)

2018年、平成最後の年に大阪に甚大な被害をもたらした「平成30年台風第21号」。風雨にさいなまれた空き家4棟は屋根瓦が崩れ落ちるなど倒壊の危険性をはらんでいました。

「がもよんファーム」は、そんな空き家が連なっていた住宅密集地にあります。「え! ここに農園が?」と驚くこと必至な、意外な立地です。

案内してくれた田中さんは、こう言います。

「台風の被害に遭った空き家を修復しようにも、当時は大阪全体の業者さんが多忙で、工事のスケジュールが押さえられない状況でした。『このまま放置はできない』と、仕方なく解体し、更地にしたんです」

台風により大きな被害を受けた古民家の跡地に貸農園を開いた(画像提供/がもよんにぎわいプロジェクト)

台風により大きな被害を受けた古民家の跡地に貸農園を開いた(画像提供/がもよんにぎわいプロジェクト)

台風の被害が大きかった建物を解体撤去して拓いた貸農園「がもよんファーム」。令和元年(2019)5月、新元号の発表とともに開園。全29区画。1区画が5平米(約2.5平方m)。1 区画/月に4000円という手ごろな賃料。

開園に先立ち、設置したのが農機具を預けられるロッカー。

「住宅街なので鍬(くわ)を持参するのはハードルが高い。『手ぶらで来られる農園』をアピールしました」

農器具を預けられるロッカー。手ぶらで往き来できる(写真撮影/吉村智樹)

農器具を預けられるロッカー。手ぶらで往き来できる(写真撮影/吉村智樹)

それにしても、いったいなぜ「農園」だったのでしょう。

「街の空き地はコインパーキングにするのが一般的です。けれども、夜中にエンジンの音が聴こえたり、狭路なので事故につながったり。『駐車場では、近隣の人々に喜んでもらえないだろう』と。それで地域のかたが利用できる農園を開きました。これまで農園という発想がなかったです。なんせ畑がぜんぜんない地域だったので。初めての経験で、手探りでしたね」

反応が予想できず、恐る恐る始めた「がもよんファーム」。ところが開園後1カ月で全区画が埋まる人気に。しかも8割以上のユーザーが開園当時から現在まで利用を継続しているというから驚き。いかに貸農園のニーズが潜在していて「待望の空間」だったかがうかがい知れます。

前例がないため不安だった貸農園の開園。しかし、またたく間に予約で全区画が埋まった(写真撮影/吉村智樹)

前例がないため不安だった貸農園の開園。しかし、またたく間に予約で全区画が埋まった(写真撮影/吉村智樹)

さらに幸運だったのが、がもよん在住歴13年という元・農業高校の教師、加藤秀樹さんが退職直後に区画の借主になってくれたこと。加藤さんが他の利用者に栽培のアドバイスをするなどし、おかげで世代間交流が盛んに。農園から新たなコミュニティが生まれたのです。

「がもよんファーム」の救世主と呼んでも大げさではない元・農業高校の教師、加藤秀樹さん(写真撮影/吉村智樹)

「がもよんファーム」の救世主と呼んでも大げさではない元・農業高校の教師、加藤秀樹さん(写真撮影/吉村智樹)

「週に3回、夏は週に4回は『がもよんファーム』へ来ます。自宅から歩いて13~14分なので近いですし。『がもよんファーム』の存在はホームページで知りました。この辺で『がもよんバル』(※)というのをやっていて、『今年もあるのかな』と思ってホームページを見てみたら、たまたま農園が開かれるニュースを見つけたので」(加藤さん)

※がもよんバル……和田さんたちが開催する飲食イベント。店と地域の人をつなぐ取り組み

「加藤さんは一般の人ではわかりにくい病気を発見してくれて、『気をつけたほうがいいですよ』とアドバイスをしてくださるので助かります」(田中さん)

加藤さんの助言によりキュウリがたくさん実り「ご近所に配って喜ばれたのよ」とほほ笑むご婦人も。

さらに『がもよんファーム』は新たなニーズを開拓しました。

「趣味で園芸を楽しんでいる利用者だけではなく、アロマのお店がハーブを育てていたり、クラフトビールの工房がホップを育てていたりします」(田中さん)

ゆくゆくは、がもよん生まれの地ビールがこの街の名物になるかもしれません。住宅密集地に誕生した貸農園が商業利用の需要を発掘したのです。これもまた、街全体を活気づけるエリアリノベーションであり、「古民家再生」の姿といえるでしょう。

「がもよんモデル」を世界へ

こうして文字通り「にぎわい」を創出し、「グッドデザイン・ベスト100」に選出された「がもよん」。和田さんが考える今後は?

「喫茶店でお茶を飲んでいたらね、後ろの席で女性が『昔はな、がもよんに住んでるって言うのが恥ずかしかった。なので、京橋に住んでるねんって言ってた。でも今は『がもよんに住んでるって自慢してるねん』と話していたんです。思わず『よしっ!』って小さくガッツポーズしましたよ。自分が住む街を誇りに思えるって、素敵じゃないですか。こんな気持ちを日本中、世界中の人に感じてほしい。がもよんモデルには、それができる力があると思うんです。なので、ほかの街でも展開していきたいですね」

「がもよんモデルを全国、全世界へと広げてゆきたい」。和田さんの夢は大きい(写真撮影/吉村智樹)

「がもよんモデルを全国、全世界へと広げてゆきたい」。和田さんの夢は大きい(写真撮影/吉村智樹)

空き家問題への対策から誕生した新たなビジネスモデル「がもよんモデル」。地域のお荷物だった空き家が収益を生み、「わが街の自慢」にイメージチェンジする。和田さんはその方法論を全国に広げたいと考えています。

これからますます深刻になってゆく空き家問題。しかしながら、空っぽだからこそ、新しい価値観を芽生えさせるチャンスでもある。がもよんが、それを教えてくれた気がします。

●取材協力
がもよんにぎわいプロジェクト

おしゃれだけじゃない!最先端の“性能向上リノベ“で新築以上の耐震性や断熱性を手に入れる

中古マンションや一戸建てをオシャレに変えるリノベーションという選択肢はすっかり浸透してきたが、住宅性能は中古のまま……ということは珍しくない。しかし、元の住宅よりも「性能向上」をさせるリノベーションが最近注目を集めている。全国でそのプロジェクトに取り組むYKK APリノベーション本部の西宮貴央さん、4月に完成した「鎌倉の家」に不動産事業者として携わった浜田伸さん、リノベーションコンサルティングの黒田大志さんに話を聞いた。
「リノベーション・オブ・ザ・イヤー」で住宅性能の向上が脚光を浴びている

鳥のさえずりが心地よい神奈川県鎌倉市内の高台にある「鎌倉の家」。フルリノベーションされた築46年の民家だ。南側の道路に面したガレージの横にある階段を上り、玄関を開けると、水まわり部分を除けばほぼワンルームという広い空間が広がる。施主のライフスタイルに応じていかようにも仕切られたり、生活しながらインテリアを施主の好みに仕上げられる、こうした令和の時代に即したモダンな間取りや内装の仕上げについ目を奪われがちだが、「鎌倉の家」 の一番のウリは「一年中快適に過ごせる断熱性の高さと、ずっと安心して暮らせる耐震性の高さ」にある。

リノベーション前(写真提供/YKK AP)

リノベーション前(写真提供/YKK AP)

レッドシダー(北米のヒノキ科針葉樹)のサイディングに、既存の銅葺きを補修した屋根、大きな窓のコントラストがモダンな「鎌倉の家」(写真撮影/桑田瑞穂)

レッドシダー(北米のヒノキ科針葉樹)のサイディングに、既存の銅葺きを補修した屋根、大きな窓のコントラストがモダンな「鎌倉の家」(写真撮影/桑田瑞穂)

間取り

断熱性能はHEAT20のG2グレードを満たすUa値0.39。これは国の省エネルギー基準で言えば北海道に推奨されているものよりも高いレベルで、断熱先進国のドイツ並みの断熱性能であることを示している。一方、耐震性能のほうも上部構造評点1.61。新築住宅の耐震等級で言えば最も高い等級3に相当する。

実は最近、こうした「住宅の性能を向上させるリノベーション」に注目が集まっている。きっかけは、「リノベーション・オブ・ザ・イヤー」での受賞だ。「リノベーション・オブ・ザ・イヤー」とは優れたリノベーション事例を表彰する制度で、「鎌倉の家」を手がけたYKK APが、「鎌倉の家」より前に全国5カ所で取り組んだリノベーションに対し、「リノベーション・オブ・ザ・イヤー2019」無差別級部門の最優秀作品賞が贈られた。

翌年の「リノベーション・オブ・ザ・イヤー2020」でも、同様に省エネ性能を高めた古民家が1000万円以上部門で受賞している。もはや「今の時代に即した間取りにする、空間をおしゃれにする」のはマストで、これからのリノベーションに求められることは「本当に“快適”と呼べる住宅まで性能を向上させる」ことだと示唆するように。

実際、「鎌倉の家」を購入した夫妻は、住宅の性能の高さが決め手となったそうだ。海外旅行を年に1回楽しむなど、自分たちのライフスタイルを大切にしたい、そのためには家の購入費用を抑えたいと考えていた二人は、新築ではなく中古住宅を購入してリノベーションすることを検討していた。そんな時に見つけたのが「鎌倉の家」だった。正直、当初の予算よりは少し増えたそうだが、それでも「鎌倉の家」の性能の高さに惹かれたという。

リノベーション前の1階リビングルーム(写真提供/YKK AP)

リノベーション前の1階リビングルーム(写真提供/YKK AP)

リノベーション前の1階キッチン(写真提供/YKK AP)

リノベーション前の1階キッチン(写真提供/YKK AP)

リノベーション後の1階のリビングダイニングキッチン(写真撮影/桑田瑞穂)

リノベーション後の1階のリビングダイニングキッチン(写真撮影/桑田瑞穂)

1階は既存の洋室+和室+廊下部分をワンルームに間取りを変更(写真撮影/桑田瑞穂)

1階は既存の洋室+和室+廊下部分をワンルームに間取りを変更(写真撮影/桑田瑞穂)

使える梁や柱はそのまま使用されている(写真撮影/桑田瑞穂)

使える梁や柱はそのまま使用されている(写真撮影/桑田瑞穂)

実は日本は“断熱性後進国”、しかも地震が多い国

YKK APでは、住宅の断熱性能と耐震性能を向上させるリノベーションを「戸建性能向上リノベーション」と呼んでいる。同社のリノベーション本部の西宮貴央さんは「我々の主力商品である窓やドアなどの開口部は、断熱性や耐震性を高める際の要です。例えば家の熱の出入りは、窓やドアなど開口部が一番大きいのです。そのため従来から断熱性の高い窓やドア、耐震性能を高める商品を開発してきました」

一方で、今後の人口減少が見込まれる中、既に住宅総数が世帯総数を上回っていることを考えると既存住宅をきちんと手入れして、次の住民が快適に長く住める家にすることが重要だ。「そうした時代背景もあり、我々の『戸建性能向上リノベーション』のプロジェクトが始まりました」(西宮さん)

左から、「鎌倉の家」のリノベーションコンサルティングを手掛けたu.company株式会社の黒田大志さん、不動産事業者として関わった株式会社プレイス・コーポレーションの浜田伸さん、YKK APリノベーション本部の西宮貴央さん(写真撮影/桑田瑞穂)

左から、「鎌倉の家」のリノベーションコンサルティングを手掛けたu.company株式会社の黒田大志さん、不動産事業者として関わった株式会社プレイス・コーポレーションの浜田伸さん、YKK APリノベーション本部の西宮貴央さん(写真撮影/桑田瑞穂)

2017年からスタートしたこのプロジェクトは、最新の「鎌倉の家」で16例目。北海道から神奈川、長野、鳥取、京都、兵庫、福岡……と全国各地で「戸建性能向上リノベーション」が行われている。

「最初は東京都の下北沢の事例でした。確かに断熱性や耐震性をもとの住宅より高めるリノベーションはこれまでにもあったとは思いますが、我々は断熱性ならHEAT20のG2レベル、耐震性は耐震等級3相当と具体的な数値目標を掲げて始めました」(西宮さん)

断熱性も耐震性も、「高い」といった抽象的な表現より、具体的な数値を示されたほうが説得力はある。しかも国の省エネルギー基準や、国が最低限求めている耐震等級1相当よりも高い基準値をクリアしているとなればなおさらだ。また将来手放す際においても性能が可視化(それも高いレベルで)できるため、家の価値も高いままで売ることが期待できる。

道路から一段高く、庭もあるため、南側に大開口の窓を備えてもプライバシーを確保しやすい。窓の周りの壁にはYKK APの耐震フレーム(フレームⅡ)が入っている。さらに手前の大きな柱に見える部分も耐震フレームで、この写真だけで耐震フレームが4つ備わっていることになる(写真撮影/桑田瑞穂)

道路から一段高く、庭もあるため、南側に大開口の窓を備えてもプライバシーを確保しやすい。窓の周りの壁にはYKK APの耐震フレーム(フレームⅡ)が入っている。さらに手前の大きな柱に見える部分も耐震フレームで、この写真だけで耐震フレームが4つ備わっていることになる(写真撮影/桑田瑞穂)

実は日本は“断熱性後進国”だ。本来、家の断熱性能を高めるには同時に気密性を高める必要がある。しかし『徒然草』にも書かれているのだが、昔から蒸し暑い夏のある日本では、気密性を高めるのとは逆に、開口部を大きく開けることで風通しをよくすることが重んじられてきた。そのため日本人は「夏は暑い、冬は寒い」ものとして、住宅の断熱性をあまり気にしなかった。

やがて世界の国々と比べて日本の省エネルギー基準は遅れを取り、現在ではドイツやアメリカ、中国よりも低い基準となってしまった。しかもヒートアイランド現象や近年の地球温暖化の影響で、『徒然草』の書かれた約700年前のように窓を開放しても、今や体温と同じ、あるいはそれ以上の温度の空気が入ってきて、ちっとも涼しくなどなくなっている。

そこで地球温暖化やエネルギー問題に対応するため「2020年を見据えた住宅の高断熱化技術開発委員会」が2009年に発足した。この組織の略称が「HEAT20」で、住宅の省エネルギー化を図るため、研究者や住宅・建材生産者団体の有志によって構成されている。以前、SUUMOジャーナルでもご紹介したように、HEAT20で推奨している省エネ基準は、断熱先進国と呼ばれるヨーロッパとほぼ同じ世界トップレベルで、近年自治体が独自に採用し補助金制度を導入する例もある(「日本の省エネ基準では健康的に過ごせない」!? 山形と鳥取が断熱性能に力を入れる理由)

耐震性にしても、開口部が大きければ当然建物を支える力は弱くなる。1981年に新耐震基準が施行され、2000年にその改正が行われたが、その最低基準である耐震等級1は阪神・淡路大震災レベルの大地震でも「倒壊しないこと」が求められている。しかし要は「命が助かること」を最優先しているため、壁にヒビが入ったりして、損傷の度合いによっては住み続けることが難しくなる。

窓はYKK APの高断熱の樹脂窓、ドアも断熱性の高いものが使用されている。また壁には断熱材(グラスウール)がたっぷりと入れられた(写真撮影/桑田瑞穂)

窓はYKK APの高断熱の樹脂窓、ドアも断熱性の高いものが使用されている。また壁には断熱材(グラスウール)がたっぷりと入れられた(写真撮影/桑田瑞穂)

これが等級3になると、ダメージが少なくなるため、地震後も住み続けやすい。ちなみに災害時の救護活動の拠点となる消防署や警察署は等級2以上が必須だ。

新築ではなく、リノベーションだからこその課題が多い

世界トップレベルの断熱性能を備え、地震の多い日本で安心して過ごせる耐震性能のある住宅。しかし、既存住宅でこれらの性能を世界トップレベル等に押し上げるのは実は容易なことではない。イチから断熱性能と耐震性能を計算できる新築住宅と違い、既存住宅の性能は住宅ごとに千差万別。加えて既存住宅のリノベーションする際に、現代の暮らしに合わせるため間取り変更はほぼ必須といえる。

「立地条件、既存住宅の性能、リノベーション後の間取り……それらの評価を正しく判断した上で、何をどんな風に追加すれば基準をクリアできるか計算しなければなりません」とは同プロジェクトをYKK APとともに推進し、「鎌倉の家」のリノベーションコンサルティングを担当した黒田大志さん。しかも単純にそれぞれを高めるだけでは、コストがあっという間に跳ね上がる。いかにコストを抑えて性能を高めるかも肝心だ。

1階北側はドアで仕切ると東と西側にそれぞれ個室として利用できる。またそれぞれの個室の間は大きなクローゼットにするなどのフリースペース。リモートワークなど新しい生活様式にも対応する間取りだ(写真撮影/桑田瑞穂)

1階北側はドアで仕切ると東と西側にそれぞれ個室として利用できる。またそれぞれの個室の間は大きなクローゼットにするなどのフリースペース。リモートワークなど新しい生活様式にも対応する間取りだ(写真撮影/桑田瑞穂)

階段は従来よりも北側に新たに設置された。床はオークの無垢材。手入れを施主に楽しんでもらうことで、住宅に愛着をもってもらおうと、あえて無塗装での引き渡しとなる(写真撮影/桑田瑞穂)

階段は従来よりも北側に新たに設置された。床はオークの無垢材。手入れを施主に楽しんでもらうことで、住宅に愛着をもってもらおうと、あえて無塗装での引き渡しとなる(写真撮影/桑田瑞穂)

3部屋あった2階もこのようにワンルーム化されている。ただし、既にドアが用意されていて、ライフスタイルの変化に応じて容易に3部屋に仕切ることができる(写真撮影/桑田瑞穂)

3部屋あった2階もこのようにワンルーム化されている。ただし、既にドアが用意されていて、ライフスタイルの変化に応じて容易に3部屋に仕切ることができる(写真撮影/桑田瑞穂)

新たに用意されたバルコニー。屋根がついているので、どんな時間でも周囲の森から聞こえる鳥のさえずりを聞きながら、のんびりとしたひとときを過ごすことができる。晴れた日は富士山も見える。ダウンライトや電源も備えられているので、BBQなど用途に応じて使いやすい(写真撮影/桑田瑞穂)

新たに用意されたバルコニー。屋根がついているので、どんな時間でも周囲の森から聞こえる鳥のさえずりを聞きながら、のんびりとしたひとときを過ごすことができる。晴れた日は富士山も見える。ダウンライトや電源も備えられているので、BBQなど用途に応じて使いやすい(写真撮影/桑田瑞穂)

「プロジェクトを始めた当初は、こうした技術的要素の検証と、そもそも『性能を向上させた既存住宅』に対するニーズがあるのか、それはビジネスモデルとして成り立つのかという検証からスタートしました」(西宮さん)

例えば断熱性能はエリアによって、あるいは南向きか北向きかなど立地条件によっても変わる。同じHEAT20のG2レベルでも、北海道と九州では数値が異なる。だからこそ、これまで検証を兼ねて取り組んだ16事例は全国各地に点在しているのだ。

こうして行われた技術的検証によって「技術ノウハウの確立や、課題の洗い出しなど、ある程度の検証ができました」(西宮さん)という。同じ立地で、同じ大きさの同じ性能を有する建替えよりも販売価格を抑えられることにビジネスモデルとしても手応えを感じているようだ。

一方、見えて来た課題の中で特に大きいのが「施工する業者の断熱性に対するリテラシーがバラバラだということです」(黒田さん)。同プロジェクトとしてはもっと事例を増やしたいのだが、対応できる施工業者がまだまだ少ない。

従来の方法で十分商売ができた施工業者の中には、なぜ断熱性能をそこまで上げる必要があるのか、そもそもどうやって上げればよいのか、知らない人がいても不思議ではない。
「性能を向上させるリノベーションの知識を持つ設計士や建築会社、販売する不動産会社をもっと増やして、全体を底上げしなければなりません」(黒田さん)

「鎌倉の家」の壁断熱の工事の様子(写真提供/YKK AP)

「鎌倉の家」の壁断熱の工事の様子(写真提供/YKK AP)

例えば自宅や、購入したい中古住宅の性能を向上させるリノベーションを考えても、身近にそれを叶えてくれる施工会社などがいなければ、なかなか「G2レベル」や「耐震等級3相当」まで性能を向上させることは難しいのだ。

「鎌倉の家」に不動産事業者として携わった浜田伸さんは「自社で物件を仕入れて、リノベーションして、販売するのが我々不動産事業者の仕事。また建築士や施工会社と比べて、エンドユーザーに一番近い立場です。購入した中古住宅の性能を向上させることで再価値化し、自信をもってお客さまに勧めることができます。ですから不動産事業者が率先して推進するべきじゃないかと思います」という。

さらに、我々エンドユーザーの意識も変わるべきなのではないだろうか。冷暖房費を今より約38%削減してくれ、大きな地震に遭っても住み続けることのできる住宅。税制優遇や補助金、地震保険料の割引など数々のメリットも生まれる『戸建性能向上リノベーション』。少なくとも「夏は暑く、冬は寒い」のは、世界レベルでみたら“当たり前ではない”ことに、早く気付くべきだろう。

●取材協力
YKK AP

地震の備えは建物だけじゃダメ! 地盤対策で安心な暮らしを

家を購入・建てるときに耐震性を重視するのは当たり前になりつつありますが、それと同じくらい大切な地盤についてもご存じでしょうか? そこで今回は、地盤を調べる簡単な方法や最新の調査方法などについて、さくら事務所会長の長嶋氏に解説いただきました。
大地震の経験を経て見直されてきた耐震基準

建物の耐震性には、戦前から大都市のみを対象に規定があり、全国一律の基準が設けられたのは1950年にできた建築基準法によって。それ以降、大地震の経験などをふまえて順次、耐震基準は見直されてきました。

なかでも最も大きな見直しとなったのが、1981年の「新耐震設計基準」導入。1995年の阪神・淡路大震災でも、ビルやマンションなどRC(鉄筋コンクリート)造については、建築時期がこの「新耐震設計基準」の前か後かで、建物被害に差が出ました。「新耐震設計基準」を満たしていれば、人命を損なうような倒壊は基本的に防げるとされています。

中古住宅の耐震性は、マンション・一戸建てとも、まずはこの「新耐震設計基準」を満たしているかどうかが重要。建築確認申請の日付が、1981年6月1日以降かどうかを確認してみましょう。ポイントは、建物が竣工した日付ではなく、あくまでも建築確認申請の日付を見ることです。

ところで、建物の耐震性と同様に、あるいはそれ以上に大事になるのが、建物が建つ「地盤」。どんなに頑丈な建物でも、そもそも地盤が弱く揺れやすい土地に建っていては、建物の耐震性もその効果は十分に発揮できないのです。実証的なデータはありませんが「地盤の弱い土地に建つ新耐震建物」と「地盤の強固な土地に建つ旧耐震建物」では、後者のほうが地震に強いものと思われます。

そこで、自分が住んでいるところ、これから買おうと思っているところの地盤を調べる簡単な方法をいくつかお教えします。

水をイメージさせる地名は地盤が柔らかい可能性が!

まずは「地名」。「池」や「沼」「沢」「津」など漢字に「サンズイ」が入っており、水をイメージさせるものは、低地でかつては文字どおり沼や池だった可能性があります。「川」「堤」「谷」といった、水辺や低地をイメージするものも同様。例えば渋谷駅周辺は、舗装された道路の下に川が流れており低地で、地盤も弱いのです。

(画像/PIXTA)

(画像/PIXTA)

内陸部でも「崎」の地名がつくところには、縄文時代など海面が高かった時代に、海と陸地の境目だった地域もあり、地盤が強いところと弱いところが入り組んでいる可能性があります。注意したいのは、近年になって地名が変更されたところ。例えば戦後の高度経済成長期以降に開発された大規模宅地などでは、旧地名から「〇〇〇野」といった地名に変更されていることがあります。
所轄の法務局に行くと、該当地の「登記事項証明書」を、一通600円で土地所有者でなくても取得でき、そこには「田」「畑」「宅地」といった土地の用途区分が書かれています。現在は宅地のように見える土地でも、過去をさかのぼれば田んぼだったかもしれず、そうなると地盤は柔らかい可能性が高くなります。

インターネットで「国土地理院地図」を見れば、戦前までさかのぼって空中写真・衛星画像が確認できますので、時代ごとにどのような土地の使われ方をしてきたのか分かるうえ、地盤の固い「台地」なのか、それとも軟弱地盤の「低地」なのかが地図上で確認できます(ベクトルタイル提供実験―自然地形)。ただしこの地図は250メートルメッシュの大雑把なものであることに注意してください。
個別具体の地盤の状態を知るには「地盤調査」が必要になります。「ボーリング調査」「SS」(スウェーデン式サウンディング)試験といった方法で地盤の固さを調べます。中古住宅購入を検討するならこうした地盤調査データがあるか尋ねてみるとよいでしょう。また、新築一戸建てを建てる際には、建築基準法によって、地盤調査が事実上義務付けられているため調査結果は必ず参照することができます。

地盤の「揺れやすさ」を測定する新技術が登場

ただしこうした地盤調査にも一定の限界があるのです。従来型のこうした手法はあくまで地盤の「固さ」を測定するものであり「揺れやすさ」は分からないのです。そこで近年登場したのが「微動探査」というもの。

2016年の熊本地震では震度7の大地震が2回発生。住宅の全壊が8637棟、半壊は3万4726棟など、甚大な被害が発生しました。この地震では、わずか数十m離れたエリアで住宅の被害が大きく異なる現象がみられました。全壊している建物が多いエリアと、被害の小さい建物が多いエリアが隣り合っていたのです。原因は各々の地盤の「揺れやすさの違い」によるものでした。

これから新築一戸建てを建てる方や、自宅土地の地盤の揺れやすさを知った上で耐震改修を行いたい方にはおすすめの技術です。どんな地盤か分かっていれば、どんな改良策を取れば被害を小さくできるかが事前に検討できます。

地盤の「固さ」を測定する地盤調査と、地盤の「揺れやすさ」を測定する微動探査(図表/地域微動探査協会HP)地域微動探査協会HPより。

地盤の「固さ」を測定する地盤調査と、地盤の「揺れやすさ」を測定する微動探査(図表/地域微動探査協会HP)地域微動探査協会HPより

政府の専門家委員会によれば、今後30年以内にM8~M9クラスの南海トラフ地震が70~80%、首都直下型地震はM6.7~M7.3クラスが70%の確率で起こると予想していますが、近年ではこうした予想の範囲外でも大規模地震が起きています。いざというときのための備えをしておくことはとても大切ですね。

「垂水」駅北側の再開発事業、神戸市が都市計画決定

野村不動産(株)が事業協力者として参画する「垂水中央東地区第一種市街地再開発事業」が、7月4日、神戸市より都市計画決定の告示を受けた。同事業は、神戸市垂水区の中心であるJR・山陽電鉄「垂水」駅の北側で行われる再開発事業。地区内には狭小な敷地が多く、老朽化した木造建物が密集しているため、再開発の実現を目指してまちづくり活動が進められてきた。

同事業では、駅前の低利用地の高度利用と都市機能の更新を行い、商業施設の整備や居住機能の集積を図る。また、建物の耐火・耐震化により防災性を向上させ、歩道状空地の整備により歩行者空間を確保する。

施行区域は垂水区神田町3番(一部)5番6番7番の約0.7ha。2020年度に本組合設立認可、2021年度に権利変換計画認可、本体工事着工、2024年度に竣工の予定。

ニュース情報元:野村不動産(株)

「旧耐震」のマンション、買ったらだめですか? 住まいのホンネQ&A(9)

新築マンションの価格が高騰している昨今、注目を集めているのが中古マンション。しかし、いくら価格が安くても「耐震性」は気になる人が多いのではないでしょうか。
1981年以前に建てられた「旧耐震」のマンションも市場に多く出回っています。果たしてその安全性は? 選び方は? さくら事務所の長嶋修会長に解説いただきました。
地震大国日本「安全なマンション」の見分け方

2013年以降、新築マンションの価格は大幅上昇。17年の東京都区部における新築マンション平均発売価格は7000万円を超え、庶民には手の届きにくい水準に。一方で中古マンションは4000万円台と、相対的にリーズナブルであることから「中古マンションを買ってリフォーム・リノベーション」を検討する人が増えています。

一般には、価格下落が緩やかになる築15~20年の物件にお買い得感があり、また最近は築30年以上の取引のウエイトも高まっています。というのも、マンションが数多く造られた70年代の物件が市場に出始めているからです。

そうはいっても気になるのは、中古マンションの「耐震性」。いつどこで大きな地震が起きても不思議ではない地震大国日本で、マンションの耐震性についてどう考えたらいいでしょうか。

大きな目安となるのはいわゆる「新耐震基準」を満たしているかどうか。新耐震基準の建物は阪神淡路大震災の際に全壊が少なかったのに対し、旧耐震建物の中には大破・倒壊した建物も多数見られました(国土交通省「住宅・建築物の耐震化に関する現状と課題」より)。

現行のいわゆる「新耐震基準」は、78年の宮城県沖地震における被害を受け、81年に建築基準法が改正されたもの。この基準をかんたんにいうと「震度5強程度の中規模地震では軽微な損傷、震度6強から7程度の大規模地震でも倒壊は免れる」というものです。地震被害が心配な人は81年以降のマンションを選ぶのが基本ですが、いくつか注意点があります。

ここでいう81年とは正確に言えば「81年6月1日以降に建築確認申請が受理されているかどうか」。ところが中古マンションの物件広告には築確認申請受理日の記載はなく、建物の完成(竣工)年月が分かるだけです。なので新耐震基準を満たしているかどうか見極めるには、建築工事期間を考慮に入れる必要があります。マンションは工期が長く、規模にもよるものの、着工から完成までに1~2年近くかかるのが一般的。もし、物件の完成年月が83年もしくは84年以降であれば、新耐震基準で建てられていると考えてよいでしょう。具体的に建築確認申請受理日を知りたければ、不動産仲介会社に調べてもらうか、自治体の担当部署に赴いて尋ねてみましょう。

「旧耐震」でも安全な建物はある

もちろん、新耐震基準以前に建築されたいわゆる「旧耐震」のマンションでも、新耐震基準と同等の耐震設計をしているものは数多くあり、構造面、管理面などを含めて個別にチェックすることが大切。心配ならホームインスペクター(住宅診断士)や建築士など建物の専門家に相談してみましょう。

81年以前の旧耐震の建物なら、耐震診断を受けて、その結果に応じ必要な耐震改修をしているかどうかが評価の一つの目安。

ただし現実には「建物の竣工図面がない」「耐震改修費用がない」「所有者間の合意が得られない」など多くの課題があり、国や自治体も耐震診断や改修に助成措置を講じているものの、耐震診断を受けているマンションはそれほど多くなく、中には耐震診断を受けても改修までは行っていないマンションも多いものです。

地盤のチェックも欠かさずに

もう一つ大事な視点があります。それは「地盤」です。マンションは一般的に地盤の支持層まで、地盤改良を施すため、大きな地震が来てもその影響は限定的であるように設計されていますが、それでも軟らかい地盤の上では建物はより揺れやすくなります。逆に、固い地盤の上に建っていれば、地震の影響は相対的に軽微です。

地盤を調べるのは、国土地理院の「土地条件図」が便利です。住所を入力し「情報」-「ベクトルタイル提供実験」-「地形分類」(自然地形・人口地形)で地盤の傾向を見ることができます。建物の揺れや液状化被害などが心配なら「台地」など相対的に土地が高い位置にあり、浸水や液状化の懸念がなく、地盤の固いところを選びましょう。

国土地理院の「土地条件図」

国土地理院の「土地条件図」

地盤の固いところでも、地面をかさ上げする「盛土」をしていればその限りではありませんので注意が必要です。また、この地盤情報は250メートル基準で作成されており、厳密には個別に地盤調査を行わないとわからないところがありますので、あくまで地盤の傾向がわかるものだということを理解しておきましょう。

よりお得に、安全な中古マンションを購入したい場合、こうした「目利き」のポイントを外さないことが大切です。実際に購入を検討している方は、参考にしてみて下さい。

s-長嶋修_正方形.jpg長嶋 修  さくら事務所創業者・会長
業界初の個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクション(住宅診断)を行う「さくら事務所」を創業、現会長。不動産購入ノウハウの他、業界・政策提言や社会問題全般にも言及。著書・マスコミ掲載やテレビ出演、セミナー・講演等実績多数。【株式会社さくら事務所】

耐震改修促進計画、47都道府県全てで策定済み

国土交通省は10月2日、地方公共団体における「耐震改修促進計画の策定状況」及び「耐震改修等に対する補助制度の整備状況」について、本年4月1日時点の状況を公表した。
それによると、「耐震改修促進計画」は47都道府県全てで策定済みだった。1,741市区町村のうち1,701市区町村(97.7%)がすでに策定しており、前年(97.5%)と比べると0.2ポイントの増加。また、残りの市区町村のうち本年度中に7市区町村が策定する予定で、来年度以降に策定する予定は33市区町村となっている。

「耐震診断」については、補助が受けられるのは1,512市区町村で86.8%(前年86.5%)。戸建住宅では1,499市区町村で86.1%(同85.6%)、共同住宅は713市区町村で41.0%(同40.6%)、非住宅建築物は675市区町村で38.8%(同38.2%)となっている。

「耐震改修」については、1,523市区町村が補助制度を用意しており、整備率は87.5%(前年85.0%)だった。戸建住宅は1,514市区町村で87.0%(同84.4%)、共同住宅は628市区町村で36.1%(同35.3%)、非住宅建築物は441市区町村で補助制度を用意しており、整備率は25.3%(同24.3%)だった。

同省は、地方公共団体に対して、引き続き積極的な取り組みを要請するとしている。

ニュース情報元:国土交通省

大切な命を守るために! 知っておきたい耐震基準や防災グッズのそろえ方【地震対策まとめ】

毎日どこかしら揺れている地震大国・日本。6月18日には大阪府北部で最大震度6弱の地震が発生、大きな被害をもたらしました。SUUMOジャーナルがこれまでに掲載してきた記事のなかから、耐震基準や建築技術の種類、補強工事の内容や費用、用意しておきたい防災グッズなど、地震・災害にまつわる内容のものをピックアップしました。
いざというときのために、あらためて住まいのつくりや日ごろの備えを振り返ってみませんか?
地震にそなえた建築技術と耐震基準の見直しの歴史

●「免震」「耐震」「制震」…大地震に強いのはどれ?
(2013年1月25日 (金)掲載)

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“<耐震構造>
壁や柱を強化したり、補強材を入れることで建物自体を堅くして振動に対抗する。
<制震構造>
建物内にダンパーと呼ばれる振動軽減装置を設置し、地震のエネルギーを吸収。建物に粘りをもたせて振動を抑える。
<免震構造>
建物と地面の間に免震装置を設置。建物を地面から絶縁して、振動を伝えない。“

“いずれも、建物自体の損壊を防ぐという点では優れた工法ですが、「免震」の場合はさらに「建物内の揺れを軽減する」という利点があります。基礎部分に埋め込まれた免震装置が「激しい地震エネルギーを吸収」→「ゆるやかな横揺れに変え、家具の転倒などの被害を最小限に食い止める」というもので、耐震・制震に比べ揺れを三分の一程度に抑えられるそう。“

●地震のたびに強くなってきた耐震基準。旧耐震と新耐震をおさらい
(2016年3月11日 (金)掲載)

(画像/iStock / thinkstock)

(画像/iStock / thinkstock)

“耐震設計法が抜本的に見直されたのは1978年の宮城県沖地震後。1981年に施行された「新耐震設計基準」(新耐震)だ。現在では1981年以前の基準を「旧耐震」、以後の設計法を「新耐震」と呼んでいる。それまでの「旧耐震」では、震度5程度の地震に耐えられることが基準。しかし、「新耐震」では、建物の倒壊を回避するだけでなく、建物内にいる人の命を守ることに主眼がおかれ、比較的よく起きる中程度の地震では軽度なひび割れ程度、まれに起きる震度6~7程度の地震では崩壊・倒壊しない耐震性を求めている。“

“しかし、新耐震基準だから100%大丈夫というわけではない。”
“地震に強いか弱いかは、さまざまな要因が影響するからだ。では、どんな家が地震に強いのだろう。”

“まずは「建物の形」。地震に強いのは上から見たときに正方形や長方形のシンプルな形の建物。”
“また、建物だけでなく地盤も耐震性に影響する。弱い地盤の場合、同じ震度でも建物に伝わる揺れが大きくなる。”

いざというときのための耐震診断や補強工事、費用はどれくらい?

●「私の家は大丈夫?」地震が来る前に知っておきたい耐震診断
(2015年5月29日 (金)掲載)

(画像/iStock / thinkstock)

(画像/iStock / thinkstock)

“地震が引き起こす被害のうち、特に大きいのは「家の倒壊などによる圧死」と日本木造住宅耐震補強事業者協同組合(以下:木耐協)の関さん。「柱や梁、天井の下敷きになると、救助なしでの脱出は難しくなります」“

“「自分の家は地震が来た場合大丈夫なのか?」と不安に思うならば、まずはきちんと耐震診断を受けることが重要。自分の家が倒壊する可能性はどれくらいなのかを調べておくにこしたことはないといえそうだ。“

“耐震診断は自治体や民間の団体、リフォーム会社に依頼できる。無料のところも15万~20万円ほどかかるところもあるが、診断内容を確認して依頼しよう。補強工事にかかる費用は、建物の状態などにより異なるが、100万円未満で行うケースも少なくない。“

“一定条件をクリアすると、国や自治体の減税や補助金が受けられることも。「補強レベルを高めて補助金を受けるか、簡易補強にして工事費を抑えるかは考え方次第。家族やリフォーム会社とよく相談して決めましょう」(関さん)“

●耐震補強工事の平均額は約152万円、倒壊する木造住宅の共通点とは
(2015年9月16日 (水)掲載)

(画像/iStock / thinkstock)

(画像/iStock / thinkstock)

“平成18年4月~27年6月に耐震診断した2階建て以下の木造住宅2万2626棟を分析したところ、現行の耐震性を満たしている住宅(「倒壊しない」「一応倒壊しない」)は7.9%で、耐震性を満たしていない住宅(「倒壊する可能性がある」16.2%「倒壊する可能性が高い」75.9%)は92.1%に達した。平均築年数は、約34年だった。”

“このうち、耐震補強工事の金額について回答があったものの平均施工金額は、約152万円(中央値128万円)だった。”

“木耐協によると、倒壊する木造住宅には、共通の弱点があるという。
(1)壁の量が少ない
(2)壁の入れ方のバランスが悪い
(3)柱のホゾ抜け対策がされていない
(4)腐朽や蟻害で弱くなっていた
このうちホゾ抜け対策とは、土台と柱を接合する際に、片側に突起(ホゾ)、もう片側に穴を開けて継ぐのだが、地震の揺れで柱が抜けないように接合金物を取り付けることだ。“

今すぐできる家具の転倒防止から非常食の準備まで

●地震に備えて…カンタン&壁を傷つけない家具の転倒防止策
(2015年1月16日 (金)掲載)

(写真撮影/玉置 豊)

(写真撮影/玉置 豊)

“近年発生した地震で、怪我をした原因の約3割~5割は、家具類の転倒・落下・移動によるもの。そこで家具類の転倒防止が肝心になってくるのですが、壁や家具に傷をつけるのが嫌だったり、器具の取り付けが面倒そうだったりと、いつくるか分からない地震だからこそ腰が重くなってしまうという人も多いと思います。“

“しかし、いざホームセンターの防災グッズコーナーへ行ってみると、壁にも家具にも傷をつけることがなく、設置も簡単な転倒防止器具が多数販売されていました。突っ張って支える転倒防止自在ポールは、家具から天井までの距離さえ測って購入すれば、設置はとても簡単です。また家具の下に挟むストッパー式の器具と合わせることで、ネジで固定するタイプの器具と同等の耐震効果が期待できるそうです。 “

“もっと簡単な転倒防止対策としては、家具の下に振動を吸収するゲル状のマットを敷くという方法もあります。これなら補強したい箇所に挟むだけで設置が可能なので、固定が難しいテレビやパソコン、あるいは花瓶などにも応用が利きそうです。“

●1万円台でここまでできる! 防災グッズのそろえ方
(2016年6月20日 (月)掲載)

(写真撮影/フルカワカイ)

(写真撮影/フルカワカイ)

“オススメ商品としてはラップとベビーパウダー。ラップは紙皿に巻いた上で食事をすると洗う手間が省ける、というのは誰でも知っていると思いますが、怪我をした場合の傷口の圧迫や、防水、紐状にして物を縛る等、さまざまな用途に使え、被災地の方から送って欲しいと多くの要望がありました。
また衛生シートで全身を拭いたあとにベビーパウダーを体や髪に使うとサラサラ感が持続するので不快感が軽減します。“

“「防災グッズをそろえることは大変なように感じるかもしれませんが、ホームセンターに行けば1時間位で購入できます。震災が起きた後だと在庫も一気になくなって手に入りにくくなってしまうので、今のうちにそろえておくことで過不足ない準備が可能になります。家族構成を踏まえて生活に最低限必要なものをリスト化するのも良いですね。キャンプの準備のように、イベント感覚でやる方が楽しいかもしれません」“

“『防災グッズ』は品目が多い分、手間と時間が必要なように感じていたが、実際にそろえてみると費用もそこまで高くなく、想像していたよりもすんなりとそろえられたという印象だった。“

●非常食の備えは万全? おすすめを食べ比べてみた
(2018年4月9日 (月)掲載)

(画像/PIXTA)

(画像/PIXTA)

“非常時に役立つ食料のポイントは、「調理が簡単で栄養が高いもの。加えて災害時には野菜が手に入りにくいのでビタミン・繊維質のとれるものもストックするとよい」とのこと。“

“杉田エース IZAMESHI Deli(イザメシデリ) 名古屋コーチン入りつくねと野菜の和風煮
210g 500円(税抜) 賞味期限3年
オフィス防災EXPOで「第1回 日本災害食大賞」美味しさ部門のグランプリに選ばれた一品。
根菜がゴロゴロと入っているのがうれしいですよね。化学調味料無添加で、優しい出汁の味がします。冷えたままでもおいしくいただけました。“

“戦闘糧食II型 あつあつ防災ミリメシ「牛丼」
210g 1400円(税抜・編集部調べ) 賞味期限3年
東日本大震災の洪水の被害にあった方のお話をうかがったとき「温かい食事ができたとき、やっとほっとできた」とおっしゃっていました。そこで火がなくても温かく食べられる加熱剤つき非常食をお試し! こちらは実際に航空自衛隊でも活用されている、いわゆる「ミリ飯」です。
食べる前に加熱剤で温めます。20分ぐらいで温めは終了。白飯と具材をお皿に入れたら温かい牛丼の完成! 具材は煮込んだネギがトロッとしていてお肉はホロホロ。少し甘めの味付けで元気がでそう! やはり、温かいご飯はおいしいですね。“

いつ、どこで起こるか分からない地震。住まいの構造理解や防災グッズの準備、家具の固定など、対策しておきたいことはたくさんあります。倒壊した家具を買い替えたい、衛生用品が欲しい、と災害後にいろいろそろえたくてもなかなか手に入らないかもしれません。
いざというとき困らないために、あらためて日ごろの対策を振り返ってみてはいかがでしょうか。

「新築物件」で約4割、「中古物件」で約7割の人が耐震性に不安

(株)ホームステージング・ジャパンは、「安心R住宅に関する調査」を実施し、その結果を発表した。調査方法はインターネット。調査時期は2018年3月12日(月)から3月19日(月)。全国の20歳以上の男女で中古物件を購入したことがある561人を対象に行った。「安心R住宅」とは、国土交通省が4月1日より実施を予定している既存住宅の流通促進に向けた制度。「不安」「汚い」「わからない」といった従来の「中古住宅」のマイナスイメージを払拭し、「住みたい」「買いたい」既存住宅を選択できる環境整備を図るもの。

「安心R住宅」という制度を知っていますか?では、全体の18.9%が「知っている」と答えた。年代別に見ると、20代は31.3%、30代は24.1%が「知っている」と回答し、若い世代ほど認知度が高い結果となった。一方で、40代以上では、40代が11.6%、50代が12.7%、60代以上が14.3%という結果。

新築物件と中古物件の印象では、新築物件に対しては約7割(67.4%)が「不安・汚い・わからない」イメージはないと答えた。一方、中古物件に関しては「不安・汚い・わからない」イメージを持っていないと答えた割合は約2割(19.1%)となり、約8割がいずれかのイメージを持っていることがわかった。

「不安」とイメージを持っている主な理由に、「なんで売りに出されたのか、事故物件ではないか」「どんな人が住んでいたのか」「前に住んでいた人がどのような使い方をしていたのか」「見えない不具合があるのではないか」などがあり、「汚い」とイメージを持っている主な理由に、「知らない人が使っていた家だから」「水回りの清潔感が気になる」「経年劣化」などが挙げられた。

新築物件の購入を検討する時、同条件の中古物件がいくら安ければ中古物件を選ぶかを、築年数ごとに聞いたところ、マンションの場合は築5年で500万円、築10年・築20年で1,000万円、築30年で2,000万円。戸建ての場合では築5年・築10年・築20年で1,000万円、築30年で1,500万円という結果。この金額程度に安価な物件があれば、中古物件を選ぶ傾向のようだ。また、物件種別や築年数に関係なく、「中古物件は選ばない」と回答した割合は年齢があがるほど増える傾向にあった。

物件の購入を検討する際に気になるものを、「新築マンション」「新築戸建て」「中古マンション」「中古戸建て」それぞれで聞いたところ、どの種別でも最も多くの回答を集めたのは「耐震性」で約6割。新築では続いて「保障・アフターサービス(48.0%)」が続いた。中古では「内装の傷・汚れ(57.2%)」が耐震性とほぼ変わらないポイントで続き、「設備の状態(51.3%)」と続いた。中古物件に関して、「内装の傷・汚れ」「外装の傷・汚れ」を気にする人は5割を超えているのに対し、「内装のデザイン」「外装のデザイン」を気にする人は約3割にとどまる結果となった。

「新築マンション」「新築戸建て」「中古マンション」「中古戸建」の物件を購入する際に耐震に不安を感じるかを聞いたところ、「新築マンション(36.7%)」「新築戸建て(38.1%)」「中古マンション(71.5%)」「中古戸建(71.3%)」となり、新築物件では約4割、中古物件では約7割の人が耐震性に不安を感じていた。年齢別には、年齢が高まるに従って、不安に感じる割合が増える傾向にあった。特に50代以上では、中古戸建てと中古マンションへの耐震に対する不安が約8割だった。

ニュース情報元:(株)ホームステージング・ジャパン

大地震で建物倒壊が心配!耐震診断より地震保険でカバーって、それで大丈夫?

内閣府が防災に関する世論調査を実施したところ、建物倒壊への不安が高いものの耐震診断を実施していない人が多いことが分かった。大地震への備えは、地震保険と考える人が多いようなのだが、果たしてそれで大丈夫だろうか?【今週の住活トピック】
「防災に関する世論調査」結果公表/内閣府大地震の備えは、耐震診断より地震保険が多い!?

まず、「災害の被害に遭うことを具体的に想像したことがある自然災害」を聞くと、最多だったのは「地震」で、実に81.0%の高さだった。さらに、「大地震が起こったとしたら、どのようなことが心配か」を聞くと、最多だったのは「建物の倒壊」の72.8%で、次いで「家族の安否確認ができなくなる」の61.3%だった。

これだけ地震被害や大地震による建物倒壊への不安が高い回答ではあるが、「耐震診断を実施しているか」については、「実施している」が28.3%、「実施していない」が51.5%。実施していない人のうちでも、「今後、実施する予定がある」は3.5%いるので、予定を含む耐震診断の実施については3割強ということになるだろう。

ただし、回答者には賃貸住宅に住んでいる人も含まれているので、持ち家のみで見ると、「実施している」は31.2%とわずかに上がる。持ち家の種類は不明確だが、耐震診断の実施主体が管理組合となるマンションの場合と、所有者の判断だけで実施できる一戸建ての場合でも違いはあるかもしれない。

【画像1】耐震診断の状況(出典/内閣「防災に関する世論調査」)

【画像1】耐震診断の状況(出典/内閣「防災に関する世論調査」)

次に、「大地震が起こった場合の備え」を聞くと、「地震保険への加入」が最多の46.1%だった。耐震診断の実施率(3割)より高いものとしては、ほかにも画像2の4項目が挙がった。

【画像2】大地震に備えている対策(出典/内閣「防災に関する世論調査」)

【画像2】大地震に備えている対策(出典/内閣「防災に関する世論調査」)

住宅の倒壊への備えは、どうあるべき?

大地震への住宅の備えを考えると、まずは被災時に「建物が倒壊しない」こと、「家具・家電が落下しない」ことなどが重要だ。最優先は自身や家族の命を守ることだからだ。被災時に生き残ってこその課題が、日常生活への備えや住宅の改修・建て替えなどの対策だ。

そういう点では、「耐震診断の実施(耐震性が不足していれば耐震改修の実施も)」と「家具・家電などの落下防止」については、高い実施率が望まれる。特に、今の耐震基準より低い「旧耐震基準(1981年5月31日以前の建築確認が適用)の住宅」や「2000年基準よりも前(2000年5月31日以前の建築確認が適用)の木造一戸建て」については、耐震診断を実施して住宅の耐震性を確認するべきだろう。

被災時に命を守れた後は、その後の生活の備えが必要だ。被災直後の日常生活が落ち着いたら、住める状態にするために、住宅の補修や建て替え、家財の購入などを検討することになる。しかし、いずれもかなりの支出となる。

貯蓄が十分あって万一に備えられるならよいが、いつ起こるか分からない大地震のための貯蓄はなかなかしづらいもの。こうした「起きる確率は低いけれど、万一発生したら相当額が必要となるリスク」に備えるのが保険だ。実際に、地震保険に加入している人は46.1%だった。

この調査では、地震保険に加入していない人に、「加入していない理由」を聞いているが、最多は「保険料が高い」の25.6%で、次いで「特にない」が18.6%だった。保険に加入しないなら、万一に備えた貯蓄をするようにしてほしい。

といっても、地震保険は、被災者の当面の生活の安定を目的とした保険なので、住宅の建て替え費用まで補償されるものでない。地震保険は火災保険とセットで契約するもので、契約金額は火災保険の30~50%以内といった制限もある。

また、地震で住宅が倒壊しても、原則として住宅ローンは免除されないので、あくまで地震保険は、被災後の生活を立て直す一時金のためと考え、地震に強い住宅にしておくというのが王道だろう。

耐震診断や耐震改修には、各地方自治体で補助金を出している場合が多く、特に大地震の発生する確率の高い自治体ほど手厚くする傾向が見られる。また、一定の耐震改修には減税措置もある。こうしたものを利用して費用を抑えながら、地震に強い住宅にすることを検討してほしい。

住まいの耐震診断、51.5%が実施していない、内閣府調べ

内閣府はこのほど、「防災に関する世論調査」の結果を公表した。調査時期は平成29年11月16日~11月26日。調査員による個別面接聴取法で実施。有効回収数(率)は1,839人(61.3%)。
自然災害の被害に遭うことを具体的に想像したことがありますか?では、「地震」を挙げた方の割合が81.0%と最も高く、以下、「竜巻、突風、台風など風による災害」(44.2%)、「河川の氾濫」(27.0%)、「津波」(20.4%)などの順。「想像したことがない」と答えた方の割合は11.1%だった。

大地震が起こったとしたら、どのようなことが心配ですか?では、「建物の倒壊」が72.8%と最も高く、以下、「家族の安否の確認ができなくなること」(61.3%)、「食料、飲料水、日用品の確保が困難になること」(57.3%)、「電気、水道、ガスの供給停止」(53.9%)、「家具・家電などの転倒」(50.3%)などの順。都市規模別に見ると、「家族の安否の確認ができなくなること」、「電気、水道、ガスの供給停止」を挙げた方の割合は中都市で高くなっている。

住まいの「耐震診断」についての質問では、「耐震診断を実施している」とする方の割合が28.3%(「すでに耐震診断を実施しており、耐震性を有していた」24.9%+「すでに耐震診断を実施しており、耐震性が不足していた」2.0%+「すでに耐震診断を実施したが、結果についてはわからない」1.4%)、「耐震診断を実施していない」とする方の割合が51.5%(「耐震診断をしていないが、今後、実施する予定がある」3.5%+「耐震診断をしていないが、今後、実施する予定はない」17.7%+「耐震診断をしていないが、今後の実施予定はわからない」30.4%)、「わからない」と答えた方の割合が20.2%。

大地震が起こった場合に備えて、どのような対策をとっていますか?では、「自宅建物や家財を対象とした地震保険(地震共済を含む)に加入している」が46.1%、「食料や飲料水、日用品などを準備している」が45.7%、「停電時に作動する足元灯や懐中電灯などを準備している」が43.3%、「家具・家電などを固定し、転倒・落下・移動を防止している」が40.6%、「近くの学校や公園など、避難する場所を決めている」が38.8%などの順。「特に何もしていない」と答えた方の割合は10.4%だった。

ニュース情報元:内閣府

旧耐震マンション、首都圏は6,746物件、不動産経済研究所調べ

(株)不動産経済研究所は、全国の現存する旧耐震マンションを調査し、その結果を発表した。調査対象は民間が分譲した物件で、東京都は1967年以降、その他首都圏(神奈川県、埼玉県、千葉県)は1968年以降、首都圏以外の全国は1973年以降に発売された物件が中心。調査方法は過去の発売データを元に、インターネットなどを利用して現存しているかどうかや所在地(住居表示)等を確認している。

それによると、全国で現存する旧耐震マンションは1万1,280物件・79万3,633戸にのぼった。そのうち首都圏は6,746物件・45万1,560戸で、その他のエリアとは調査対象期間が異なるものの、シェアは56.9%を占めている。

首都圏の中での内訳は、東京23区4,430物件・24万1,045戸、都下410物件・2万6,578戸、神奈川県1,001物件・7万9,777戸、埼玉県416物件・4万290戸、千葉県489物件・6万3,870戸。東京都全域では4,840物件・26万7,623戸で、首都圏の59.3%を占めている。

また23区を区別に見ると、最も多かったのは港区の480物件・2万5,337戸。世田谷区の456物件・19,005戸が続く。以下、新宿区338物件・1万8,091戸、渋谷区374物件・1万7,736戸、品川区270物件・1万5,931戸、大田区269物件・1万5,072戸、板橋区215物件・1万2,989戸、江東区145物件・1万2,174戸、杉並区253物件・1万1,172戸、目黒区241物件・1万618戸と、計10区が1万戸を上回った。

また近畿圏は2,025物件・20万5,122戸、東海・中京圏は762物件・4万7戸で、三大都市圏で9,533物件・69万6,689戸と、ほぼ70万戸に達している。

ニュース情報元:(株)不動産経済研究所

「旧耐震」って危ないの? それでも住みたいならどう選ぶ?

「少しでも賃料が安い物件に住みたい」あるいは「かっこいいリノベーションマンションに住みたい」……。そんなとき、候補に挙がるのが築年数を経た中古マンションだ。しかし、大型地震が頻発している昨今、いわゆる「旧耐震」の物件に不安に感じる人も多いだろう。そこで、耐震制度そのものの解説から、旧耐震物件に住みたい場合はどう選んだらよいかを、碓井建築オフィス代表で一級建築士の碓井民朗(うすい・たみお)さんに聞いてみた。
そもそも「新耐震」と「旧耐震」って、どういうこと?

中古マンションを選ぶときの基準として、新耐震か旧耐震であるかはよく取り沙汰される。だが、そもそも旧耐震・新耐震とはいったい何かについて、一般人の知識は曖昧であることも多い。

「耐震基準というのは、建物が地震の震動に耐えうる能力を定めるものです。1919年に日本で最初の建築法規である『市街地建築物法』が制定されますが、最初は木造のみの基準でした。関東大震災の次の年の1924年に同法が規則改正され、耐震基準が導入されました。その後1950年に同法が廃止され、あらたに『建築基準法』が制定され、その中で耐震性に関する基準ができたのです。

その後も大きな地震があるたびに見直されています。例えば1968年の十勝沖地震を経て1971年に建築基準法の改正があり、鉄筋コンクリート造の柱の帯筋が強化されました。さらに1978年の宮城県沖地震を経て1981年6月に大きな『耐震基準』の改正がありました」(碓井氏)

なかでも大幅な改正が行われたのが、1981年6月1日。耐震設計法が抜本的に見直された。
「現在では1981年以前の基準を『旧耐震』、以後の設計法を『新耐震』と呼んでいます」(同)
「旧耐震」では、震度5程度の地震に耐えられることが基準だったが、「新耐震」では、建物の倒壊を回避するだけでなく、建物内の人命が重要視され、比較的よく起きる中程度の地震では軽度なひび割れ程度、まれに起きる震度6~7程度の大きな地震でも崩壊・倒壊しないことが求められている。

「注意したいのは、新耐震かどうかの判断は建物が完成した『竣工年』ではないということです。特にマンションは完成まで時間がかかるので、1982年に完成したマンションでも、建築確認済証の交付日が1981年6月1日以前であれば旧耐震になります。中古マンションや中古住宅を購入する場合は、不動産販売会社や自治体で確認する必要があります」(同)

耐震改修工事の実施率はわずか5.9%、なぜ進まない?

これだけ大きな問題なのに耐震補強工事はあまり進められていない。2013年に東京都が発表した「マンション実態調査(※1)」では、都内にある旧耐震基準の分譲マンションのうち耐震診断を行った物件は17.1%、実際に耐震改修工事の実施率は5.9%となっている。

つまり8割以上のマンションではマンションの耐震診断すら行っていないということだ。その理由についても聞いてみた。

「耐震補強工事は実は難しいのです。1階のピロティ部分(※2)を補強しただけで耐震工事をしたと言っている場合がありますが、『耐震補強工事』は全ての階を行わないと効果はないと思います。住戸のバルコニー側や廊下側の外壁には『筋かい』(※3)が最低限必要になりますが、技術的には可能でも実際には無理です。『筋かい』を入れるとなると住戸内での生活が不自由になりますし、大変な工事費の負担になります」と碓井氏。

耐震診断自体に費用がかかるうえ、不適格という結果が出れば耐震工事にどれだけ費用がかかるか分からない。結果的に耐震診断も実施しないという結論になる場合が多いようだ。

旧耐震物件に住むなら? 中古マンションの選び方

しかし旧耐震のマンションは、都心からのアクセスに恵まれた立地が多い。新築マンションでは手が届かない場合でも、中古マンションだからこそ住めることもあるはずだ。どうしても住みたいと思う際のアドバイスを聞いてみた。

「どうしても旧耐震のマンションを選ぶ必要があるならば、私は『壁式構造』(※4)のものをすすめます。壁全体で建物を支えているので強度が『ラーメン構造』(※4)よりも高いです。阪神・淡路大震災でも、5階建て(高さ地上15m)以下の『壁式構造』については被害が少なく、また、少数の被災事例も、地盤の関係で沈下や傾斜が生じたもので、建物の壁等の破損はほとんどなかったと言われています」(同)

立地についてはどこをチェックすべきだろうか。
「築年数を経た建物であれば、より地盤がしっかりしていることが重要視されます。国土交通省による国土地盤情報検索サイト(KuniJiban)や行政が公開している液状化予測図等を確認しておくのも重要ではないでしょうか」と碓井氏。

中古マンションの購入を検討する場合、やはり「旧耐震であるか新耐震であるか」ということが、大きなチェックポイントであることが分かった。併せて立地条件や構造など、さまざまな条件を照らし合わせることも大切だ。住まいは資産としてはもちろん、人の暮らしや命を預かるものなので、冷静に判断する必要があるだろう。

●取材協力 
・碓井建築オフィス●参考資料と注釈
(※1)マンション実態調査(東京都)
(※2)1階部分を柱だけで構成した吹放しの空間
(※3)建物の構造を強固にするために、柱と柱との間に斜めに入れる部材。
(※4)鉄筋コンクリート造には「ラーメン構造」と「壁式構造」の2種類の形式がある。「ラーメン構造」とは、柱と梁により構成されている構造。一方、「壁式構造」とは、柱がなく、壁梁や壁により、支えられる構造であり、通常は5階建てで地上15m以下までの建物に採用される。