育休中の夫婦、0歳双子と北海道プチ移住! 手厚い子育て施策、自動運転バスなどデジタル活用も最先端。上士幌町の実力とは?

長期の育児休業中に、移住体験の制度を活用して北海道へのプチ移住を果たした私たち夫婦&0歳双子男子。
約半年間の北海道暮らしでお世話になったのは、十勝エリアにある豊頃町(とよころちょう)、上士幌町(かみしほろちょう)という2つのまち。
実際に暮らしてみると、都会とは全然違うあんなことやこんなこと。田舎暮らしを検討されている方には必見⁉な、実際暮らした目線で、地方の豊かさとリアルな暮らしを実践レポートします! 今回は上士幌町&プチ移住してみてのまとめ編です。

上士幌町は北海道のちょうど真ん中。ふるさと納税と子育て支援が有名

9月上旬から1月末まで滞在した上士幌町は、十勝エリアの北部に位置する人口5,000人ほどの酪農・農業が盛んなまち。面積は東京23区より少し広い696平方km。なんと牛の数は4万頭と人口の8倍も飼育されています。そして、十勝エリアのなかでも何と言っても有名なのが、「ふるさと納税」。ふるさと納税の金額が北海道内でも上位ランクなんです。そのふるさと納税の寄付を子育て施策に充て、0歳~18歳までの子どもの教育・医療に関する費用は基本無料、ということをいち早く導入したまち。子育て層の移住がかなり増えたことで注目を集めています。
町の北側はほとんどが大雪山国立公園内にあり、携帯の電波も届かない国道273号線(通称ぬかびら国道)を北に走ると、三国峠があり、そこからさらに北上すると、有名な層雲峡(上川町)の方に抜けていきます。

上士幌町の北の端、三国峠付近の冬のとある日。凛とした空気が気持ちよく、手つかずの国立公園が広がります(写真撮影/小正茂樹)

上士幌町の北の端、三国峠付近の冬のとある日。凛とした空気が気持ちよく、手つかずの国立公園が広がります(写真撮影/小正茂樹)

上士幌町にある糠平湖では、この冬から、完全に凍った湖面でサイクリングを楽しめるようになりました(上士幌観光協会にて受付・許可が必要)。タウシュベツ川橋梁のすぐ近くまで自転車で行くことができ、厳寒期しか楽しめないアクティビティ&風景が体感できます(写真提供/鈴木宏)

上士幌町にある糠平湖では、この冬から、完全に凍った湖面でサイクリングを楽しめるようになりました(上士幌観光協会にて受付・許可が必要)。タウシュベツ川橋梁のすぐ近くまで自転車で行くことができ、厳寒期しか楽しめないアクティビティ&風景が体感できます(写真提供/鈴木宏)

糠平湖上に期間限定でオープンするアイスバブルカフェ「Sift Coffee」さん。国道から数百メートル歩いた湖のほとりにて営業。歩き疲れた体に美味しいコーヒーが沁みわたります(写真撮影/小正茂樹)

糠平湖上に期間限定でオープンするアイスバブルカフェ「Sift Coffee」さん。国道から数百メートル歩いた湖のほとりにて営業。歩き疲れた体に美味しいコーヒーが沁みわたります(写真撮影/小正茂樹)

上士幌町の暮らし。徒歩圏でなんでもそろうちょうどいい環境

上士幌町は人口5,000人のまちで、中心となる市街地は一つ。この中心地に人口の約8割、4,000人ほどが住んでいるそう。ここにはスーパーがコンビニサイズながら2つ、喫茶店や飲食店もたくさんあります。そして、コインランドリーに温泉に、バスターミナルに……と生活利便施設がきっちりそろっています。中心地から少し離れると、ナイタイテラス、十勝しんむら牧場のカフェ、小学校跡地を活用したハンバーグが絶品のトバチ、ほっこり空間がすっごくステキな豊岡ヴィレッジなどがあり、暮らすには不自由はほぼないと言ってもいいと思います。

そして、なんと、2022年12月から、自動運転の循環バスが本格稼働しているんです! ほかにも、ドローン配送の実験など、先進的な取組みがたくさんなされているまちでもあります。実は上士幌町さんには、デジタル推進課という課があります。ここが中心となって、高齢者にもタブレットを配布・スマホ相談窓口が設置されています。デジタル化に取り残されがちな高齢者へのサポート体制をしっかり取りながら、インターネット技術を十分活用し、まちのインフラ維持、サービス提供を進めていこうという町としての取組みは素直にすごいなと感じました。

カラフルな自動運転バスがまちの中心地をループする形で運行。雪道でも危なげなく動いていてすごかったです(写真撮影/小正茂樹)

カラフルな自動運転バスがまちの中心地をループする形で運行。雪道でも危なげなく動いていてすごかったです(写真撮影/小正茂樹)

十勝しんむら牧場さんにはミルクサウナが併設。広大な放牧地を望める立地のため、牛を眺めたり、少し遅い時間なら、満点の星空を望みながら整うことができます(写真撮影/荒井駆)

十勝しんむら牧場さんにはミルクサウナが併設。広大な放牧地を望める立地のため、牛を眺めたり、少し遅い時間なら、満点の星空を望みながら整うことができます(写真撮影/荒井駆)

ナイタイテラスからの眺めは壮観! ここで食べられるソフトクリームが美味しい。のんびり風景を楽しみながら、ゆっくり休憩がおすすめです(写真撮影/小正茂樹)

ナイタイテラスからの眺めは壮観! ここで食べられるソフトクリームが美味しい。のんびり風景を楽しみながら、ゆっくり休憩がおすすめです(写真撮影/小正茂樹)

我が家イチ押しの豊岡ヴィレッジは木のぬくもりが感じられる元小学校。子ども用品のおさがりが無料でいただけるコーナーがあり、双子育児中の我が家にとっては本当にありがたかったです(写真撮影/小正茂樹)

我が家イチ押しの豊岡ヴィレッジは木のぬくもりが感じられる元小学校。子ども用品のおさがりが無料でいただけるコーナーがあり、双子育児中の我が家にとっては本当にありがたかったです(写真撮影/小正茂樹)

誕生会やママのHOTステーションなどさまざまな出会いの場が

上士幌町では、移住された方、体験移住中の方などが集まる「誕生会」と呼ばれる持ち寄りのお食事会が月1回開催されています。毎回さまざまな方が来られるので、移住されている方がすごく多い、というのがよく分かります。移住して25年という方もいらして、移住者・まちの人、両方の視点を持っていらっしゃる先輩からの上士幌暮らしのお話は、すごく参考になることが多かったです。

毎月行われている移住者の集い、誕生会。12月はクリスマス会で、サンタさんから双子へもプレゼントが!(写真撮影/小正茂樹)

毎月行われている移住者の集い、誕生会。12月はクリスマス会で、サンタさんから双子へもプレゼントが!(写真撮影/小正茂樹)

また、上士幌町といえば、我々子育て世代にとって、すごくありがたい取組みが「ママのHOTステーション」。育児の集まりの場合、子どもたちが主役になり、「子育てサロン」として開催されることが多いのですが、この取組みの主役は“ママ”。ママが子どもたちを連れて、ゆっくりしたひと時を過ごすことができる場を元保育士の倉嶋さんを中心に企画・運営されていて、今や全国的にも注目される取組みになっています。

実は、上士幌町で移住体験がしたかった一番の目的は、この「ママのHOTステーション」を妻に体験してもらいたかったこと、倉嶋さんの取組みをしっかり体感したかったことにありました。ほぼ毎週のように参加させていただいた妻は本当に大満足で、ママ同士の交流も楽しんだようです。ここでは、〇〇くんのママではなく、きちんと名前でママたちも呼び合い、リラックスムード満点の雰囲気づくりも素晴らしいなと感じました。妻は、「ママのしんどい気持ちや育児悩みを共有してくれて、アドバイスをくれたりするのがすごくありがたいし、同じような立場のママが集ってゆっくり話せるのは嬉しい。子どもの面倒も見てくれるし、ここには毎週通いたい!」と言っていました。こういった同じ境遇のお友達ができるかどうかは、移住するときの大きなポイントだと感じました。もっといろいろな同世代、子育てファミリーに特化したような集まりがあってくれると、更に安心感が増すんだろうなと思います。

ママのHOTステーションの取組みとして面白いところは、「ベビチア」という制度。高齢者の方が登録されていて、子どもたちの世話のお手伝いをしてくださいます。コロナ禍になり、遠方にいるお孫さん・ひ孫さんと会えず寂しい思いをしている高齢の方々などが登録してくださっていて、週1回の触れ合いを楽しみにしてくださっている方も。「子育て」「小さな子ども」というのをキーワードに、多世代の方がのんびり時間を共有しているのはすごくいいなと感じました。

ママのHOTステーションが開催される建物は温浴施設などと入り口が一緒になるので、自然発生的に多世代のあいさつやたわいもない会話が生まれていて、ほっこりします(写真撮影/小正茂樹)

ママのHOTステーションが開催される建物は温浴施設などと入り口が一緒になるので、自然発生的に多世代のあいさつやたわいもない会話が生まれていて、ほっこりします(写真撮影/小正茂樹)

乳幼児救急救命講習会にも参加できました。ベビチアさんたちの大活躍のもと、子どもたちの面倒をみていただき、じっくりと救急救命講習に参加できたことはすごくありがたかったです(写真撮影/小正茂樹)

乳幼児救急救命講習会にも参加できました。ベビチアさんたちの大活躍のもと、子どもたちの面倒をみていただき、じっくりと救急救命講習に参加できたことはすごくありがたかったです(写真撮影/小正茂樹)

上士幌町の移住相談窓口は、NPO法人「上士幌コンシェルジュ」さんが担われています。こちらの名物スタッフの川村さん、井田さんを中心に移住体験者のサポートを行ってくださいました。私たちも入居する前から、いろいろと根掘り葉掘りお伺いして、妻の不安を取り除きつつ、入居後もご相談事項は迅速に対応いただきました。

移住体験住宅もたくさん!テレワークなどの働く環境も

私たち家族が暮らした移住体験住宅は、75平米の2LDKで、納屋・駐車スペース4台分付きという広さ。豊頃町の体験住宅に比べるとやや狭いものの、やはり都会では考えられない広さでゆったり暮らせました。住宅の種類としては、現役の教職員住宅(異動の多い学校の先生向けの公務員宿舎)でした。平成築の建物で、冬の寒さも全く問題なく、この住宅の家賃は月額3万6000円で水道・電気代込み。移住体験をさせていただくと考えると破格の条件かもしれません(暖房・給湯などの灯油代は実費負担)。今回お借りできた住宅以外にも、短期~中・長期用まで上士幌町では10戸程度の移住体験住宅が用意されています。ただ、本当に人気のため、夏季などの気候がいい時期については、かなりの倍率になるようです。ただし、豊頃町と同じく、上士幌町でもエアコンがないことは要注意。スポットクーラーはあるものの、夏の暑さはかなりのものなので、小さなお子さんがいらっしゃる場合は、ご注意ください。エアコンはもう北海道でも必須になりつつあるようなので、少し家賃が上がっても、ご準備いただけるといいなぁと思いました。また、ぜいたくな希望になりますが、食器類や家具などの調度品も比較的古くなってきていると思うので、一度全体コーディネートされると、移住体験の印象が大きく変わるのでは、と感じました。

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必要最低限の家具・家電付き。広めのお家やったので、めっちゃ助かりました(写真撮影/小正茂樹)

必要最低限の家具・家電付き。広めのお家やったので、めっちゃ助かりました(写真撮影/小正茂樹)

私たちの住まいになった住宅は、まちの中心からは徒歩10~15分ほど。ベビーカーを押して動ける季節には、何度も散歩がてら出かけましたが、ちょうどいい距離感でした。南側は開けた空き地になっていて、日当たりもすごくよくて、冬の寒い日も、晴天率が高いため、日光で室内はいつもぽかぽかになっていました。

一戸建てかつ納屋まで付いて、月額3万6000円とは思えない広々とした体験住宅。子育てファミリーにとっては、一戸建ては音の心配も少なく、すごく過ごしやすかったです(写真撮影/小正茂樹)

一戸建てかつ納屋まで付いて、月額3万6000円とは思えない広々とした体験住宅。子育てファミリーにとっては、一戸建ては音の心配も少なく、すごく過ごしやすかったです(写真撮影/小正茂樹)

体験住宅の南側は空き地が広がっていて、本当に日当たり・風通しも良く、都会では到底体感できないすがすがしい毎日を過ごせました(写真撮影/小正茂樹)

体験住宅の南側は空き地が広がっていて、本当に日当たり・風通しも良く、都会では到底体感できないすがすがしい毎日を過ごせました(写真撮影/小正茂樹)

また、私たちは育児休業中だったため使うことはなかったのですが、上士幌町さんはテレワークやワーケーションなどの取組みについてもすごく前向きに取り組まれています。
まず、テレワーク施設として「かみしほろシェアオフィス」があります。建設に当たっては、ここで働く都市部からのワーカーの方に向けて眺望がいいところ、ということで場所を選定されたそう。個室などもあり、2階建ての使い勝手の良いオフィスとなっています。

個人的に2階がお気に入り。作業で煮詰まったときに正面を見ると気持ち良い風景が広がり、リラックスできる環境(写真撮影/小正茂樹)

個人的に2階がお気に入り。作業で煮詰まったときに正面を見ると気持ち良い風景が広がり、リラックスできる環境(写真撮影/小正茂樹)

さらに2022年にオープンしたのが「にっぽうの家 かみしほろ」。この施設はまちの南側、道の駅のすぐ近くに位置しています。こちらは宿泊施設になりますが、1棟貸しを基本としていて、広々したリビングで交流や打ち合わせ、個室ではプライバシーをしっかり守りつつお仕事に没頭することなどが可能に。また、ワーケーション滞在の方のために、交通費・宿泊費などの助成制度も創設されたとのことで、これからさまざまな企業・団体の活用が期待されます。

にっぽうの家は2棟が廊下で繋がった形状。仕事・生活環境が整っていて、余暇活動もたくさん楽しめる場所で、スタートアップなどの合宿をしてみるのは面白いなと感じました(写真撮影/小正茂樹)

にっぽうの家は2棟が廊下で繋がった形状。仕事・生活環境が整っていて、余暇活動もたくさん楽しめる場所で、スタートアップなどの合宿をしてみるのは面白いなと感じました(写真撮影/小正茂樹)

子育て層にとって、子どもの教育環境というのが移住検討するに当たってはかなり重要な事項となります。上士幌町では、「上士幌Two-way留学プロジェクト」として、都市部で生活する児童・生徒が住民票を移動することなく、上士幌町の小・中学校に通うことができる制度が2022年度から始まりました。この制度を使えば、移住体験中や季節限定移住などの場合も、お子さんの教育環境が担保されることとなり、これまでなかなか移住検討までできなかった就学児がいるファミリーも懸念材料の一つがなくなったこととなります。

十勝には質の高いイベントがたくさん! 起業支援なども盛ん

半年ほど暮らしてみてわかったことはたくさんあったのですが、子育てファミリーとしてすごくいいなと思ったのが、「イベントの質が高く、数も多い」にもかかわらず、「どこに行ってもそこまで混まない」こと。子育てファミリーにとって、子どもを遊ばせる場所がそこここにあるというのはものすごく大きいなと感じました。

とよころ産業まつりでの鮭のつかみ取り競争のひとコマ(写真撮影/小正茂樹)

とよころ産業まつりでの鮭のつかみ取り競争のひとコマ(写真撮影/小正茂樹)

個人的にかなり気に入ったのが芽室公園で行われたかちフェス。広大な芝生広場を会場に、さまざまな飲食・物販ブースや、サウナ体験、ライブが行われていました。すごく心地よく長時間過ごしてしまいました(写真撮影/小正茂樹)

個人的にかなり気に入ったのが芽室公園で行われたかちフェス。広大な芝生広場を会場に、さまざまな飲食・物販ブースや、サウナ体験、ライブが行われていました。すごく心地よく長時間過ごしてしまいました(写真撮影/小正茂樹)

ママたちが企画・運営した「理想のみらいフェス」には3,000人を超える来場が。様々な飲食店やワークショップが並ぶなか、革小物のハンドメイド作家の妻も双子を引き連れて、ワークショップで出店していました(写真撮影/小正茂樹)

ママたちが企画・運営した「理想のみらいフェス」には3,000人を超える来場が。様々な飲食店やワークショップが並ぶなか、革小物のハンドメイド作家の妻も双子を引き連れて、ワークショップで出店していました(写真撮影/小正茂樹)

また、実際に移住して暮らすとなるとお金をどうやって稼ぐかというのもポイントになってくると思います。上士幌町では、「起業支援塾」が年1回開催され、グランプリには支援金も出されるなど、起業サポートも充実しています。また、帯広信用金庫さんが主催され、十勝19市町村が協賛している「TIP(とかち・イノベーション・プログラム)」というものも帯広市内で年1回開催されています。2022年は7月から11月まで。私も育児の隙間を縫って参加させていただきましたが、かなり本気度が高い。野村総研さんがコーディネートをされているのですが、実際5カ月でアイディア出しからチームビルディング、事業計画までを組み上げていきます。ここで起業を実際にするもよし、このTIPには多方面の面白い方々が参加されるため、横の繋がりが生まれたりし、仕事に繋がることもあると思います。

TIPでは、カーリングと美食倶楽部のビジネス化チームに参加しました。チームで体験会を実施して、カーリングの面白さを体感しました(写真撮影/小正茂樹)

TIPでは、カーリングと美食倶楽部のビジネス化チームに参加しました。チームで体験会を実施して、カーリングの面白さを体感しました(写真撮影/小正茂樹)

また、こちらは直接起業とは関連がありませんが、「とかち熱中小学校」というものもあります。これは、山形県発祥の社会人スクールのようなもので、「もういちど7歳の目で世界を……」というコンセプト。ゴリゴリの社会人スクールというよりは、本当に小学校に近い仲間づくりができるアットホームな雰囲気。とはいえ、テーマは先進的な事例に取り組むトップランナーさんの講義や、地元の産業など。こちらも講師はもちろん、開催地が十勝エリア全般にわたるため、参加者の方もさまざまで、人間関係づくりにはもってこい。こちらには家族全員で参加させていただいていました。

2023年1月は豊頃町での開催。当日の講師は金融のプロとお笑い芸人というすごく面白い取り合わせの2コマの授業。毎回、双子を連れ立って授業を聴講でき、育児のよい気分転換にもなりました(写真撮影/小正茂樹)

2023年1月は豊頃町での開催。当日の講師は金融のプロとお笑い芸人というすごく面白い取り合わせの2コマの授業。毎回、双子を連れ立って授業を聴講でき、育児のよい気分転換にもなりました(写真撮影/小正茂樹)

農業に興味がある方は、ひとまず農家でアルバイト、というのもあります。どこの農家さんも収穫の時期などは人手が足りないケースが多く、農業の体験を通じて、地元のことを知れるチャンスが生まれると思います。私も1日だけですが、友人が勤める農業法人さんにお願いして、お手伝いさせていただきました。作物によって時給単価が違うそうなのですが、夏前から秋まで色々な野菜などの収穫がずっと続くため、いろんな農家さんに出向いて、農業とのマッチングを考えてみる、というのもありだと思います。

かぼちゃの収穫はなかなかの重労働でした。農作物によって、アルバイトの時給も違うそうで、なかには都会で働くより時給がよい場合もあるそう(写真撮影/小正茂樹)

かぼちゃの収穫はなかなかの重労働でした。農作物によって、アルバイトの時給も違うそうで、なかには都会で働くより時給がよい場合もあるそう(写真撮影/小正茂樹)

今回、長期の育休を取得し、子育てを実践するとともに、自分のこれからの暮らし方を見つめなおせるいい機会が移住体験で得られました。2拠点居住は子どもができると難しいのではとか、地方で仕事はあるのかなどの漠然とした不安を抱えていましたが、「どこに行っても暮らしのバランスはとれる」ということも分かりました。
大阪の暮らしとは明らかに異なりますが、既に暮らされている方々に教えてもらえれば、その土地土地の暮らしのツボが分かってきます。個人的には、地方に行くほど、システムエンジニアやクリエイターさんたちの活躍の場が実はたくさんある気がしています。こういう方々が積極的に暮らせるような仕組みづくりが出来ると、自然発生的に面白いモノコトが生まれてきて、まちがどんどん便利に面白くなっていくのではないかなと感じました。

我々家族としては、今後2拠点居住を考えていくにあたって、我々1歳児双子を育てている立場として重視したいポイントもいくつか判明しました。それは、「近くにあるほっこり喫茶店」「歩いていける利便施設」があることです。双子育児をするに当たって、双子用のベビーカーって重たくて、小柄な妻は車に乗せたり降ろしたりすることはかなり大変。さらに双子もどんどん重たくなっていきます。そう考えると、私たち家族の現状では、ある程度歩いて行ける範囲に最低限の利便施設があったり、近所の人とおしゃべりができる喫茶店があったりするのはポイントが高いなと妻と話していました。

我々夫婦の趣味がもともと純喫茶巡りだったこともあり、気軽に歩いて行ける範囲に1軒は喫茶店が欲しいなぁと思いました(写真撮影/小正茂樹)

我々夫婦の趣味がもともと純喫茶巡りだったこともあり、気軽に歩いて行ける範囲に1軒は喫茶店が欲しいなぁと思いました(写真撮影/小正茂樹)

今回、長期育休×地方への移住体験という新しい暮らし方にトライしてみて、憧れの北海道に実際暮らすことができました。これまで漠然とした憧れだった北海道暮らしでしたが、憧れから、より具体的なものになりました。また、たくさんの友人・知人や役場の方との繋がりもでき、仕事関係についても可能性を感じられました。
子どもが生まれると、住むまちや家について考えるご家族は多いのではないでしょうか。育休を機会に、子育てしやすく、親たちにとっても心地よいまち・暮らしを探すべく、移住体験をしてみるのは、より楽しく豊かな人生を送るきっかけになると思います。10年後には男性の育休が今より当たり前になり、子育て期間に移住体験、という暮らし方をされる方がどんどん登場すると、地方はより面白くなっていくのではないかなと感じました。
家族みんなの、より心地よい場所、暮らしを移住体験を通じて探してみませんか? いろいろな検討をして、移住体験をすることで、暮らしの可能性は大きく広がると思います。

移住して1カ月ほど経過した時の写真。これからもこの子たちにとっても、楽しく、のびのび暮らせる環境で育ててあげたいなと思います(写真撮影/小正茂樹)

移住して1カ月ほど経過した時の写真。これからもこの子たちにとっても、楽しく、のびのび暮らせる環境で育ててあげたいなと思います(写真撮影/小正茂樹)

●関連サイト
上士幌町移住促進サイト
上士幌観光協会(糠平湖氷上サイクリング)
上士幌町Two-way留学プロジェクト 
十勝しんむら牧場ミルクサウナ
ママのHOTステーション
かみしほろシェアオフィス
にっぽうの家 かみしほろ
理想のみらいフェス
十勝イノベーションプログラム(TIP)
とかち熱中小学校
かちフェス

育休中の双子パパ、家族で北海道プチ移住してみた! 半年暮らして見えてきた魅力と課題

「地方への移住」=田舎暮らしは憧れだけど、仕事環境などなどハードルが高い。
「男性の育児休業」=まだまだ認知されていなくて、取得できる気がしない……。
一見ハードルが高そうで互いに関係がなさそうな、こんな二つのキーワードを組み合わせた暮らしを体験してみると、実はすごく豊かな暮らし方&働き方改革、そして新たな地方創生が実現できるかも?! 1歳双子男子の関西人新米パパが実践レポートします!

男性の長期育休取得→移住体験にいたるまで

2021年の春のこと。「双子やったわ~」妻からの報告に、嬉しかったり、ビックリしたり。以前から抱いていた「育児休業」という言葉が頭の中を飛び回りました。現実問題として、双子の子育てって、一人じゃ到底難しいよなぁ……育休取れるんやろか。でも、0歳の子どもって、日々成長して変わっていくと言いますし、何にも代えがたい経験が出来る気がする。よくあるワンオペ育児もホンマに大変そうやし、妻に頼りっきりで、妻が倒れてしまったら双子育児なんてどうにも立ち行かなくなるし、二人で育児をするために、なんとか育休取らねば。

とはいえ、男の育休が話題になっている今ですが、現実問題としては、突然いなくなるのも周りへの迷惑も気になるのも事実。社外のバリバリ働いている友人たちからは、その後の会社での処遇なども含めて心配もされました。まだまだ世の中の雰囲気は男性育休に対して意見がいろいろあるんやなぁと実感しました。

ただ幸いなことに、先輩女性職員さんをはじめ、社内のほとんどの同僚たちは大賛成してくれ、上長も「双子やしね~」と前向きな反応。その後、3カ月程にわたり会社との相談を重ね、長期育休を取る方向で話を進めていき、2021年10月、無事、双子男子の父となることができました。

無事産まれて、家に来てくれたばかりの双子。今改めて見ると、本当にちっちゃくてカワイイ!(写真撮影/小正茂樹)

無事産まれて、家に来てくれたばかりの双子。今改めて見ると、本当にちっちゃくてカワイイ!(写真撮影/小正茂樹)

単に“イクメン”として子育てするのも良かったものの、ふと、「育休中って会社に通勤せんでもいいし、育児を大好きな北海道で出来るんじゃ?!」と頭によぎりました。子どもたちの育児環境も、都会より、緑が多くて、空気が澄んでいて、のんびりした空間で出来たほうがいいんじゃなかろうか。記憶には残らないまだまだ小さい頃ですが、のんびりした温和な性格に育ってくれないかなぁ。周囲の先輩パパ・ママに聞いてみると、都会で泣き声とかで周囲への迷惑などにビクビクしながら育てるより、のんびりした空間で育てるほうが親にも子どもにもいいと思うなぁとのこと。

会社に確認すると、育休中の居住地は特に問わず、連絡さえつけばどこにいても問題ないとのこと。そこまで確認し、2021年度中はリモートワーク主体になりながらも、仕事をこなしつつ、2022年度には、長期の育休を取得させていただくことで、上司・人事にも仁義を切り、社内調整も完了しました。あとは、北海道で暮らす算段を立てるのみ!!

せっかく行くなら、できるだけ長く、半年くらいは北海道で暮らしてみたい。暮らす手段を考えてみると、やはりコストの問題が出てきます。ウィークリー/マンスリーマンション的なもの。エアビー(Airbnb)的なもの。長期で借りると安くなる可能性はあるとはいえ、やはり結構高額になってしまう。また、本州から北海道までの引越し代って、海を確実に渡るので、すっごい高いと友人からも聞いています……。うーん、難しい。

でも、すごくいい解決方法が見つかりました!「移住体験」という制度です。
地方都市のいろんなところで実施しているこの制度、これなら、「家具・家電付き」で、「家賃」もお値ごろの住宅が多い。そして、市町村が運営しているだけに、町のあれこれも教えていただけたりしそうで一石二鳥。「ちょっと暮らし」という北海道の体験移住WEBサイトも発見! このサイトなどを穴が開くほど見つめて、友人・知人の多く住んでいる北海道十勝エリア、日高エリアを中心に検討することにしました。また、私が住む大阪には、「大阪ふるさと暮らし情報センター」というところもあり、こちらでは、パンフレットをいただいて、より詳細に検討を行いました。

WEBでいろいろと調べるのもいいですが、調べ物はまずは紙派。いただいたパンフやこれまでストックしてあったさまざまな資料をチェックしながら、詳細をWEBで確認して、検討していきました(写真撮影/小正茂樹)

WEBでいろいろと調べるのもいいですが、調べ物はまずは紙派。いただいたパンフやこれまでストックしてあったさまざまな資料をチェックしながら、詳細をWEBで確認して、検討していきました(写真撮影/小正茂樹)

問い合わせてみると、申込条件としては、基本的に、「二拠点居住」「移住」などを検討していることになっています。私としては、以前から北海道が大好きで、仕事の調整が付けば、将来的に「二拠点居住」が出来ると嬉しいなぁと思っていたため、条件はクリア。

妻の説得、幼い子どもを連れて移住体験するために考えておくこととは

北海道に行く。この気持ちはもう揺るがないものになってきてはいるものの、当時の最重要タスクは、0歳児双子の育児&出産間もない妻の心身のケア。コロナ禍まっただ中ということもあり、都会の子育てサロン的なものはほぼすべて中止になり、なかなかママ友などもできない状況でした。「都会にいると息苦しいから、育児は田舎の方でやったほうがいいかなぁ」なんてことを小出しにしながら、妻の意向確認をするべく、18ページにわたる企画提案書を出してみました。この企画提案書では、暮らすことになる移住体験住宅のイメージはもちろん、大阪での育児と比べて、のんびりした育児環境となること、グルメや遊び情報などと合わせて、プチ移住するにあたっての子どもたちの予防接種などの課題などにも触れ、まずは妻の意見をしっかり聞けるように工夫しました。

妻にプレゼンした18ページの育休期間暮らし方提案書(写真撮影/小正茂樹)

妻にプレゼンした18ページの育休期間暮らし方提案書(写真撮影/小正茂樹)

妻からは楽しそう、美味しいものが食べられそう、などというポジティブな意見もあったものの、「医療機関など子育てに不安がない都会から、突然地方へ乳飲み子を抱えて移動するリスク」や、「最寄りの医療機関の情報」「日常の買い物施設の情報」「子連れウェルカムな施設」などの宿題をたくさんもらいました。プレゼン終了後、別資料で「最寄りの医療機関」「日常の買い物施設」については、地図にプロットし、どこに何があるか、口コミ情報なども調べて、しっかり共有しました。また、小さな子連れで過ごせる施設や、子育てサロン的な集まりなども事前に自治体さんに問い合わせするなどして、情報を集めていき、思ったよりいろいろなものがあることも分かり、無事課題クリア。

しかしながら、「乳飲み子を抱えて移動するリスク」については、難しい点がありました。子育てをご経験された方はご存じかと思いますが、産まれて満1歳ころまでは、数多くのワクチン接種などがあり、健診もたくさん。これらをどこで受診するのか、あれこれ考えることが結構ありました。実は、移住体験はあくまで扱いとしては、「体験」であるため、住民票の異動は認められていません。そのため、ワクチン接種や健診の主体はもともと暮らしている自治体で受診するのが原則になっています。ワクチン接種もできるだけもともと通っていた医院で受けたいという妻の意見をくみ取りつつ、健診がいったん落ち着く9カ月健診の終了後、2022年7月、移住体験をスタートできることになりました。

双子にとって初めての飛行機に乗り、帯広空港に到着。友人たちが荷物運びなどのために出迎えてくれました(写真撮影/小正茂樹)

双子にとって初めての飛行機に乗り、帯広空港に到着。友人たちが荷物運びなどのために出迎えてくれました(写真撮影/小正茂樹)

移住体験先の賢い選び方!

移住体験でお借りできる住宅は、家賃・築年・広さ・住宅内の設備や付属している家具・家電などなど、本当に千差万別。教員住宅だったものを利活用している(小中高校の教員さん向けの公務員住宅だが、地方では統廃合などで、教員住宅自体が余ってきている)ケースが多いですが、民間物件や、地元木材を使って新築で建てられた移住体験用住宅をお借りするケースもあります。個人的なおすすめとしては、移住体験用に建てられた住宅。家賃が他のものより高いことが多いですが、設備も新しく、妻を説得する私としては、「せっかく移住体験するなら、きれいなところ」というのは結構重要な点でした(笑)。

豊頃町(とよころちょう)でお世話になった移住体験住宅は、妻へのプレゼン資料で決め手に。築10年ほど経っていますが、地元木材がふんだんに使われ、お庭も広く、吹き抜けの気持ちいい空間が広がります(写真撮影/小正茂樹)

豊頃町(とよころちょう)でお世話になった移住体験住宅は、妻へのプレゼン資料で決め手に。築10年ほど経っていますが、地元木材がふんだんに使われ、お庭も広く、吹き抜けの気持ちいい空間が広がります(写真撮影/小正茂樹)

また、寝具は別途レンタルとなっていたり、水道光熱費は、灯油代(暖房代)は別途となっていることは多いものの、水道・電気代は込みになっていることが多いです。

■検討する際に忘れてはならない大事なポイント
・借りられる期間(これは市町村さんごとに2週間~1年程度まで、全く異なるので要注意!)
・申し込み締切り日(年に1回、まとめて募集があります。その締切りは概ね年末から2月中旬までが多いです。それ以降も、空きがある場合は、追加募集を行う市町村もあるため、要チェック)
・北海道の場合は、夏場の暑さ!北海道といえど、夏場は30度以上になったりして、暑く感じることもありますが、移住体験住宅はエアコン設備がないところがほとんど。逆に冬はストーブが付けていれば、本州の家とは比べ物にならないくらい暖かいです。移住体験する時期に注意!!

我が家としては、「半年間継続して暮らせる」ことが何より重要でした。乳飲み子を抱えて、ウロウロするのは結構大変。なので、基本的に、半年間を一つの町で暮らせるように考えました。ただ、半年間という長期で申し込める市町村はそこまで多くはなく、申込締切りに間に合い、かつ、楽しい暮らしが実現できそうな「豊頃町」「上士幌町(かみしほろちょう)」の2町に申込することにしました。そして、無事選定いただき、豊頃町で2カ月、上士幌町で4カ月、移住体験をさせていただくこととなりました。

【豊頃町の決め手】
・とにかく移住体験住宅がかっこいい!
・お庭があって、希望者は農作業ができる家庭菜園も。子どもたちに収穫した野菜を食べさせてあげられるかも(今回は2カ月の短期居住で収穫体験が出来るよう、特別に先に植え付けをしてくださっていました)
・農地に隣接していて、のんびり空間を満喫できそう。
・問い合わせした際の町の担当の方がすごく親切だった。
・十勝エリアのなかでも、あまり情報がない町なので、どういう町か暮らしてみたかった。

豊頃町の移住体験住宅からの眺め。都会では到底味わえない抜け感で心身ともにリフレッシュができました(写真撮影/小正茂樹)

豊頃町の移住体験住宅からの眺め。都会では到底味わえない抜け感で心身ともにリフレッシュができました(写真撮影/小正茂樹)

【上士幌町の決め手】
・「ママのHOTステーション」という子育てママが集える空間があった。
・糠平温泉郷や小学校をリノベしたカフェなど、楽しめそうな場所がたくさんあった。
・町がさまざまな斬新な取組みをされているので、肌でそれを感じたかった。
・移住者がすごく多い町という噂なので、移住されている方と仲良くなれるかも。
・移住対応窓口がNPO法人で、いろんな暮らしの情報をもらえそうだった。

「ママのHOTステーション」。実は、一昨年、仕事で上士幌町を視察をしたとき「これや!!」と直感して、上士幌町に移住体験して、妻に通ってほしい!と思ったのです。実際、すごく居心地よく素晴らしいものだったそうです(写真撮影/小正茂樹)

「ママのHOTステーション」。実は、一昨年、仕事で上士幌町を視察をしたとき「これや!!」と直感して、上士幌町に移住体験して、妻に通ってほしい!と思ったのです。実際、すごく居心地よく素晴らしいものだったそうです(写真撮影/小正茂樹)

まだまだ他の町にも! チェックすべき移住体験のオトク情報

移住体験住宅のセレクトで、つい目が行きがちなのが、「家賃」や「築年数」「広さ」など。もちろん、暮らすにあたって、すごく重要なポイントではありますが、実は、個性的な特徴を持っている移住体験住宅もたくさんあります。そんなおすすめポイントを、私が検討した日高・十勝エリアに絞り込んでご紹介します。

1、農園付き住宅!
私が暮らさせていただいた豊頃町の移住体験住宅は、2戸で800平米の敷地。えらい広いなぁと思っていたら、実は、農園付きの住宅でした。自由に植え付けることもできますが、私たちは短期滞在ということもあり、役場のOBのおじいちゃまが育ててくださって、収穫体験させていただく、というようなありがたいサプライズもありました!

また、士幌町には、その名も「もっと暮らし体験『農園付き住宅』」という農園をがっつり楽しみたい方のための1年以上の長期滞在向け体験住宅も用意されていて、本気度が高い方にはこちらもおすすめです。

豊頃町の移住体験住宅のお庭でジャガイモの収穫! 町役場OBのおじいちゃまが手伝ってくださいました。我が家はほとんど収穫体験のみ……。できたて野菜をたくさん双子に食べさせてあげられました(写真撮影/小正美奈)

豊頃町の移住体験住宅のお庭でジャガイモの収穫! 町役場OBのおじいちゃまが手伝ってくださいました。我が家はほとんど収穫体験のみ……。できたて野菜をたくさん双子に食べさせてあげられました(写真撮影/小正美奈)

2、ワーキングステイできる!
ロケット開発や宇宙港開発で有名になりつつある大樹町(たいきちょう)では、移住体験住宅の一つが、専門的な知識やスキルを持つ「クリエイティブ人材」のワーキングステイの場として提供されています。デザインやWEB等の知識がある方、ICTを活用し、都市部の仕事をテレワークで受注する企業や個人事業主の方向けということになっています。実は、このワーキングステイで大樹町にまちづくり提案をした場合、1カ月分の家賃相当の謝礼を受け取ることができます。まちづくりに興味がある方はもちろん、これから宇宙関係で盛り上がっていく大樹町に関われるチャンスが生まれるかもしれません。

大樹町と言えば、実業家の堀江貴文さんが創業し、ロケット開発をベースに宇宙の総合インフラ会社を目指しているインターステラテクノロジズ株式会社。大樹町の宇宙産業開発はこれからも大注目!(写真撮影/小正茂樹)

大樹町と言えば、実業家の堀江貴文さんが創業し、ロケット開発をベースに宇宙の総合インフラ会社を目指しているインターステラテクノロジズ株式会社。大樹町の宇宙産業開発はこれからも大注目!(写真撮影/小正茂樹)

3、オシャレ空間で暮らしたい!
私が暮らしていた豊頃町の移住体験住宅は2棟ともに木材がふんだんに使われていて、土間があったり吹き抜け空間があったりと、妻もオシャレとすごく喜んでいました。また、上士幌町でも、私が滞在した移住体験住宅とは別に、1カ月以内の短期居住向け住宅があり、ややお家賃の割高感はあるものの、新築のオシャレな住宅も用意されています。また、足寄町(あしょろちょう)の移住体験住宅も新築になりますので、快適な暮らしができるのではないでしょうか。

さらに、十勝清水町では、令和5年1月に無印良品さんとコラボし、リノベーション&家具・家電をコーディネートしたすっごいオシャレな住宅が完成しました。一般的な移住体験住宅でちょっと残念なのが、家具・家電のコーディネート力がやや弱いこと。しかしこちらの住宅は、内装に合わせて家具・家電もコーディネートされていました。

豊頃町の体験住宅は、土間・薪ストーブ付き。革小物のハンドメイド作家の妻は、土間で制作作業をしたり、デザインを考えたり。冬ならぜひ、都会の人の憧れ、薪ストーブも使ってみたかったです(写真撮影/小正茂樹)

豊頃町の体験住宅は、土間・薪ストーブ付き。革小物のハンドメイド作家の妻は、土間で制作作業をしたり、デザインを考えたり。冬ならぜひ、都会の人の憧れ、薪ストーブも使ってみたかったです(写真撮影/小正茂樹)

4、馬に囲まれて暮らせる!
また、日高エリアの浦河町では、民間の戸建て物件やホテルなどが移住体験住宅として提供されていますが、そのなかで、「うらかわ優駿ビレッジAERU」の和洋室のお部屋がミニキッチン付きで家族でも十分な広さがあります。ホテル内には大浴場もあり、敷地内にはお馬さんたちがたくさん繫養(けいよう)されていて、のんびりした空間が広がります。北海道発祥のスポーツ「パークゴルフ」や、乗馬も初心者から楽しめるコースも。私も今回の北海道プチ移住では1週間ほど滞在しましたが、ホテルライクにいろいろ体験しながら、のんびり暮らしたい方にはおすすめです。

うらかわ優駿ビレッジAERUの敷地内でのんびり草を食むお馬さん。浦河町は古くからサラブレッドの生産・育成が主な産業。のんびりした牧場空間でサラブレッドが過ごす光景は本当に癒やされます(写真撮影/小正茂樹)

うらかわ優駿ビレッジAERUの敷地内でのんびり草を食むお馬さん。浦河町は古くからサラブレッドの生産・育成が主な産業。のんびりした牧場空間でサラブレッドが過ごす光景は本当に癒やされます(写真撮影/小正茂樹)

長期育児休業×移住体験で新たな暮らし・生き方・住まいを探そう!

現在、日本では、異次元の少子化対策として、さまざまな検討がなされています。私は一足先に、男性ではまだまだ珍しい長期育児休業を取得し、さらに移住体験を通じて、地方で子育てをすることで、すごくポジティブに育児に取り組めました。

■長期育児休業×移住体験のいいところ
・移住先では、子どもをすごく大事にしてくださいました。子どもを抱っこしてくださった地域のおばあちゃまたちの笑顔にすごく癒やされます。
・会社員としての属性は残したまま、自分が気になっているエリアに中・長期で移住体験ができる。
・例えば、祖父母の近くの町などに移住体験できれば、祖父母孝行をしながら、育児ができる。
・中・長期で暮らすことによって、地域の住宅やお仕事情報などが手に入ったり、地元のお祭りに参加出来たり、新しい友人・知人が増え、人生が豊かになる。
・20・30代の方々が長期育休を取り、地方へ移住体験することで、地方の活力がアップしたり、二拠点・多拠点居住など新たな暮らし方を模索するきっかけに。地方の空き家対策などにもつながる可能性。関係人口という地域とのつながり方も注目されています。
・自分の暮らす町で育児をすると、どうしてもマンネリ感と、ストレスを感じがち。移住体験で子育てすることで、日々に変化が生まれ、リフレッシュできる環境で子育てができる。

喫茶店で私たちがランチを食べている間、お店の方とお客さんが双子と遊んでくれているようす。いろんなお店でいろんな方にすごくお世話になりました。おばあちゃまたちの子どもあやすスキルがすごい!(写真撮影/小正茂樹)

喫茶店で私たちがランチを食べている間、お店の方とお客さんが双子と遊んでくれているようす。いろんなお店でいろんな方にすごくお世話になりました。おばあちゃまたちの子どもあやすスキルがすごい!(写真撮影/小正茂樹)

数多くのローカルイベントにも参加でき、町の雰囲気などをいろいろな角度から体感できたのは大きな収穫でした(写真撮影/小正茂樹)

数多くのローカルイベントにも参加でき、町の雰囲気などをいろいろな角度から体感できたのは大きな収穫でした(写真撮影/小正茂樹)

私たちの子どもが双子だということもあるかもしれませんが、どこに出掛けても、いろんな方に声を掛けていただいて、子どもたちをあやしたり、抱っこしてくださったりしました。子どもたちをかまってくださるのは本当に助かりました。町の喫茶店や食堂では、お店の方とお客さんが双子の世話をしてくださり、その間に我々夫婦は食事をとったり、コーヒーを飲んだりも。おかげで、子どもたちは人見知りも、場所見知りもしなくなり、我々夫婦はゆっくり食事ができたりと、良いことずくめでした。そして、すごい副産物やな、と感じたのは、抱っこしてくださったおばあちゃまたちが笑顔で「ありがとう!小さい子に会うのもなかなかないからほんまに癒やされたわ~、また抱っこしたいから遊びに来てね!」と言ってくださったこと。こちらが助けていただいているのに、本当にありがたかったですし、多世代の交流が勝手に生まれていて、すごくほんわか空間ができていました。

また、旅行ではなかなか得られない地域の細かな住宅やお仕事事情、行政サービスのことなどなど、いろんなことを知ることができ、将来的な移住検討もより具体的に考えられるなと感じました。

お孫さんが使っていたというおもちゃを使って、双子とずっと遊んでくださった喫茶店のマスター(写真撮影/小正茂樹)

お孫さんが使っていたというおもちゃを使って、双子とずっと遊んでくださった喫茶店のマスター(写真撮影/小正茂樹)

一方、この新しい暮らし方にも課題があります。

■長期育児休業×移住体験のここに注意! 改善できればいいなというところ
・住民票が動かせないので、行政サービスが受けられないものが多い。
・育児休業中の収入は育児休業給付金のみ(雇用保険料を一定期間納めている方のみいただける制度)になるため、ある程度貯金を取り崩したりするなどしないとダメ。
・保育・幼稚園留学や小・中学校のデュアルスクールなど、教育環境が柔軟なエリアはまだまだ少ないので、兄弟がいる世帯は難しいケースも。

育児休業給付金の制度は、取得から当初180日間は直近6カ月の給料相当額の67%、その後、50%にまで減額されます。社会保険料などは免除されるため、当初180日間を概ね80%まで引き上げることができれば、働いているときとほぼ変わらない収入を確保でき、心配なく育児に専念できます。こうなれば、男性の半年間程度の長期育休は確実に増えると思います。また、私たちのように、地方への移住体験をしながら育児、といった新しい子育てのあり方もどんどん生まれてくるのではないでしょうか。

保育・幼稚園留学や小・中学校のデュアルスクールなどは、まだまだ数は少ないものの、私たちがお世話になった上士幌町では、「上士幌Two-way留学プロジェクト」という地方と都市の2つの学校の行き来を容易にし、双方で教育を受けることができる留学制度は既に始まっており、浦河町でもすごくステキなこども園が一時保育などを積極的に受け入れられています。子どもたちの教育環境としても、実は地方のほうが手厚く、都会では経験できないようなさまざまな体験ができるのではないかなと思います。

ぜひ、国や自治体さんには子育ての多様化、ポジティブな子育て環境をつくりだしていただいて、子どもを育てやすい、と思えるような環境整備や制度拡充ができてくればいいな、と思います。

浦河町滞在時に利用した「浦河フレンド森のようちえん」の子育て支援フレンドクラブ。絵本の読み聞かせなどをしてくださり、園舎内も自由に遊ばせてOK。ワーケーションなどで浦河町滞在時の一時預かりなどにも対応されています(写真撮影/小正茂樹)

浦河町滞在時に利用した「浦河フレンド森のようちえん」の子育て支援フレンドクラブ。絵本の読み聞かせなどをしてくださり、園舎内も自由に遊ばせてOK。ワーケーションなどで浦河町滞在時の一時預かりなどにも対応されています(写真撮影/小正茂樹)

妻の双子の妊娠が発覚してから、ぼんやり考えていた育児休業と真剣に向き合い、男性ではまだまだ珍しい長期の育児休業取得へ。さらに、単に育児休業を取って育児をするより、親のリフレッシュも兼ね、いつもと違った環境に移住体験しながら育児ができたことは、すごくいい刺激を受け、よい経験となりました。

今回、お伺いした2町以外にも移住体験住宅はたくさんありますし、都市部では絶対に経験できないような魅力的なコンテンツも盛りだくさん。旅行では味わえない、田舎暮らしを満喫して、育児も!暮らしも!しっかり人生を楽しみながら、育児に取り組む。こんな新しい育児休業はすごく可能性があるなと感じました。 

また、今回の長期育児休業×移住体験を行ったことにより、新しい友人・知人ができ、新しい地方の魅力を体感できました。もちろん、これからも今回伺った地域との関わりは続けていきたいなと思っています。地方創生の新たな仕組みにもなり得るのではないか、そんなことを感じる体験となりました。

2023年1月中旬、中札内村の道の駅内にある無料で遊べるキッズスペースにて。生後9カ月で北海道に来た双子も、1歳3カ月になり、しっかり歩き回り、自己主張も出てきて、のびのび成長してくれています(写真撮影/小正茂樹)

2023年1月中旬、中札内村の道の駅内にある無料で遊べるキッズスペースにて。生後9カ月で北海道に来た双子も、1歳3カ月になり、しっかり歩き回り、自己主張も出てきて、のびのび成長してくれています(写真撮影/小正茂樹)

移住体験ラストは、さよならパーティーを企画。総勢40名を超える方々にお越しいただけて、半年で本当にさまざまな友人・知人が新たに出来て、これからの人生がより豊かになると確信したひとときとなりました(写真提供/森山直人)

移住体験ラストは、さよならパーティーを企画。総勢40名を超える方々にお越しいただけて、半年で本当にさまざまな友人・知人が新たに出来て、これからの人生がより豊かになると確信したひとときとなりました(写真提供/森山直人)

●関連サイト
大阪ふるさと暮らし情報センター
豊頃町移住計画ガイド
上士幌町移住促進サイト
上士幌町Two-way留学プロジェクト

シングルマザーの賃貸入居問題、根深く。母子のためのシェアハウスで「シングルズキッズ」が目指すもの

ひとり親世帯の住まい探しでは、オーナーや不動産会社から収入面に不安を持たれたり、子どもだけで過ごす時間が多く危ないのではないかなど、偏見から入居を断られるケースもあり、容易ではありません。中でも、母子世帯の住まい探しは父子世帯よりも困難だといいます。こうした問題を少しでも軽減して、親子が共に楽しく幸せに暮らすことをミッションにかかげる企業があります。

シングルマザーとその子どものためにシェアハウスを提供する「シングルズキッズ」の代表取締役である山中真奈さんに、母子シェアハウスの仕組みや、事業を立ち上げた背景、現在そしてこれからの取り組みについて話を聞きました。

都道府県を越える引越しも検討。ひとり親が求める住まい

日本でのひとり親世帯は、年々急増しています。内閣府発表の「男女共同参画白書 令和元年版」によると、ひとり親世帯は1993年から2003年までの10年間で、94.7万世帯から139.9万世帯と約1.5倍に増加し、それ以降、同水準で推移しています。
その中でも、母子世帯数は父子世帯と比較して増加傾向にあり1993年はひとり親世帯の約8割だったところ、2016年には8.5割まで増加しています。

(画像出典:内閣府「男女共同参画白書 令和3年版」)

(画像出典:内閣府「男女共同参画白書 令和3年版」)

また所得格差も課題です。厚生労働省が発表した「2021年度(令和3年度)ひとり親世帯等調査結果報告」によると、父子世帯は518万円であることに対し、母子世帯の平均年間収入は272万円と約2倍近く開きがあることから、収入格差もうかがえます。さらに母子世帯の4割以上は非正規雇用であるため、一般の賃貸住宅に入居したくても入居審査が通らないなど、住宅探しは困難を極めます。一方の公的賃貸住宅(公営住宅や地域優良賃貸住宅、URなど)に入りたくても、母子世帯の声として多く挙がるのは「希望の公営住宅に当選しない」というものです。

こうした母子世帯の住まいの問題を解決するために立ち上げられたのが東京都の世田谷区上用賀にある「MANAHOUSE(マナハウス)上用賀」。シングルズキッズが運営する母子シェアハウスの一つです。1軒家の中には、全部で9室あり、ここに入居する人たちはひとり親世帯の母子と単身女性。さまざまな事情を抱えた母子が一同に集まり暮らす賃貸型、地域開放型のシェアハウスです。ここで山中さんは、悩み苦しみながらも立ち上がろうとする母子たちを真摯にサポートしています。

なぜこのような取り組みをしているのでしょうか。そこには自身の苦しい体験がありました。

「複雑な家庭で育ち、親への愛情を求めて苦しみながら青年期を過ごしました。大人になり、友人の子どもたちが離婚によって両親の間でたらい回しになっているところを見て、“親の理不尽な都合で子どもたちが傷つく様子をなんとかしたい”と強く思ったんです」(山中さん、以下同)

シングルズキッズ代表取締役の山中真奈さん。提供したいのは、家というただの箱ではなく「人のつながり」だと話す(画像提供/シングルズキッズ)

シングルズキッズ代表取締役の山中真奈さん。提供したいのは、家というただの箱ではなく「人のつながり」だと話す(画像提供/シングルズキッズ)

さらに、不動産仲介会社に勤務しているとき、シングルマザーが家を借りることがあまりに難しいという場面に何度も直面したことが後押しし、山中さんは“私にできること”として、「シングルズキッズ」を立ち上げたのだそうです。

山中さんによれば、「入居したい、話を聞きたいと問い合わせをくれる人には、世田谷区外の人、地方から上京を検討している人も少なくない」と言います。子育て世帯の多くが子どもの保育園や小学校への通いやすさや友人関係などを考え、現居住地の周辺で住まいを探す傾向があることとは少しギャップがあるようです。

「例えばDV被害者であれば、現居住地の周辺で避難をしても相手や家族から追い続けられるリスクがあります。遠方に引っ越すなどして完全離別ができないと問題の解決に繋がりづらいんですね。こうした事情から、今暮らす場所から離れた拠点を探すひとり親世帯がいます」

全部で9室ある「MANAHOUSE上用賀」の間取図。2階建ての戸建をシェアハウスとして利用している(画像提供/シングルズキッズ)

全部で9室ある「MANAHOUSE上用賀」の間取図。2階建ての戸建をシェアハウスとして利用している(画像提供/シングルズキッズ)

また、仕事を求めて地方から上京を検討する人も少なくありません。母子だけで生活するには、まとまった生活費の確保が必要です。しかし、仕事を探しても、地方では母子で生活するのに十分な給与が得られる仕事の選択肢が少ないことも。そこで首都圏に移転して就職し、給与水準を上げることで母子だけでも暮らしていけるようにしたいと考え、首都圏にあるシングルズキッズのシェアハウスへ転居を希望するのです。

地域に合わせて育つ、シングルズキッズの母子シェアハウス

シングルズキッズが運営する母子シェアハウスは、現在5カ所。同じ賃貸型母子シェアハウスでも、それぞれ個性があります。

「MANAHOUSE上用賀」の共用リビング。入居者や近所に住む人、サポートする人たちが出入りすることもある(画像提供/シングルズキッズ)

「MANAHOUSE上用賀」の共用リビング。入居者や近所に住む人、サポートする人たちが出入りすることもある(画像提供/シングルズキッズ)

例えばMANAHOUSE上用賀は、家賃とセットで共益費4万5000円(入居する子どもの数に応じて追加)を支払うことで保育・家事サービスを受けられます。管理人として70代シニアや主婦の方が勤務しており、食事の提供、保育園のお迎えサポートの他、多様なサポートを行っています。他の4カ所は住まいの提供のみで、お母さんたち同士で共同生活を営んでいます。

シングルズキッズの代表取締役・山中真奈さん(左)と、保育士資格を持つMANAHOUSE上用賀の元管理人・関野紅子さん(右)(画像提供/シングルズキッズ)

シングルズキッズの代表取締役・山中真奈さん(左)と、保育士資格を持つMANAHOUSE上用賀の元管理人・関野紅子さん(右)(画像提供/シングルズキッズ)

山中さんは「困っている人のために提供している場所であるとはいえ、シェアハウスは、合う人・合わない人がいる」と話します。生活を続けるために、入居を希望する者にとって家賃負担が重すぎないかどうかも確認しているそう。

「私たちは母子の金銭面や生活面など、全面支援をするシェルター事業とは異なります。各々が自立して生活をする共同生活支援なのです。そのため、入居の際にメリット・デメリットをきちんと話したうえで、お互いに協力が必要なことなどについても確認をしています」

シェアハウスは共同生活。互いに気持ちよく暮らすために、心得とルールをしっかり守ることが求められます。そして「言った言わない」で揉めないためにも、ルールを目で見てわかる形で示し、相互に確認できるようにしているそうです。

「入居後に困ったときやトラブルが発生しそうなときには、メンタル面でのサポートに力を入れます。ここが一番力を入れたいところであり、難しいところ。オーナーシップが求められると感じています。

お母さんたちはこれまで心身に逃げ場がない状況で生きてきたのです。母子シェアハウスは共同で暮らすメリットがある一方、問題や揉めごとが起きると再び厳しい精神状態に追い詰められてしまうことも。そんなときは私が一家の主(あるじ)として父親のような役割を担います。方針を示しながらみんなの前に立って根気強く向き合って解決すること。住まいを提供する以上に、心の面で寄り添いながらしっかりサポートすることは、お母さんたちが自立して生活するために最も必要としているものです」

「デコ」と「ボコ」がハマる関係を家主と共につくる

シングルズキッズでは母子だけではなく、シニアや学生など多世代の人がシェアハウスの運営に関わる取り組みも進めています。

「世代やお互いの課題、ニーズが異なることによって、お互いにできること・できないこと、得意なこと・苦手なことがある。お互いの凸凹(デコボコ)がうまくハマると、感謝につながり、良いコミュニティになります。だからこそ、同じ課題の人を集めたハウスではなく、多世代型のシェアハウスが求められていると思います」

サポートするシニアの人が母子たちの夕食づくりをする(画像提供/シングルズキッズ)

サポートするシニアの人が母子たちの夕食づくりをする(画像提供/シングルズキッズ)

日々「やったほうがいいけれど、行き届かずにこぼれ落ちてしまう」家事や育児などを、リタイアしたシニア世代が「社会参画」の一つとしてサポートしたり、子どもとの触れ合いに興味がある大学生がボランティアとしてサポートしたり、と互いが支え合っていくのです。

シニアのサポーターは「甘えさせてくれるおじいちゃん・おばあちゃんのような存在」で、子どもたちに大人気。抱きつかれて大喜びする姿が印象的(画像提供/シングルズキッズ)

シニアのサポーターは「甘えさせてくれるおじいちゃん・おばあちゃんのような存在」で、子どもたちに大人気。抱きつかれて大喜びする姿が印象的(画像提供/シングルズキッズ)

ひとり親家庭、特に母子家庭が貧困や孤独に苦しみながら生活している事実は、十分には知られていません。

「日本の母子家庭における母親の就労率は、諸外国よりも高いのに、母子家庭貧困率が非常に高い。子どもの貧困が7人に1人といわれていて、その多くは母子家庭なのです」

こうした事実を知り「自分ごと」と捉え、何かできることはないか、と手を差しのべる人も多いそうです。2023年6月にシングルズキッズが管理・運営をサポートする形で新たに立ち上げる「みたか多世代のいえ」はシニア世代が“最期まで私らしく暮らす“をテーマにした多世代型シェアハウス。オーナーの村野氏はシニア世代の在宅医療(訪問診療)を行っている医師で「シニア世代に子どもや社会と関わり合いながらイキイキと暮らしてほしい。日常的な関わりができるようシングルマザーも住めるようにしたいのでサポートしてほしい」と山中さんに協力依頼をしてくれたのだそうです。

「みたか多世代のいえ」のイメージ。開かれた家で、地域の人たちやシニア、子どもたちとの交流にあふれる家を目指す(画像提供/シングルズキッズ)

「みたか多世代のいえ」のイメージ。開かれた家で、地域の人たちやシニア、子どもたちとの交流にあふれる家を目指す(画像提供/シングルズキッズ)

「みたか多世代のいえ」には、カフェライブラリや吹き抜けのある遊び場、シニアの部屋も備える(画像提供/シングルズキッズ)

「みたか多世代のいえ」には、カフェライブラリや吹き抜けのある遊び場、シニアの部屋も備える(画像提供/シングルズキッズ)

「お互いさま」の社会で、子どもたちをハッピーに

シングルズキッズが運営する母子シェアハウスでは、自然発生的に起きるコミュニケーションや関係性を大事にし、ルールでがんじがらめにするのではなくできるだけ居住者に運営を任せるようにしています。

「シェアハウス内で共同生活をしている際に“ルールは守りましょう”と話しますが、関わり方は実にそれぞれなんですよね。シェアハウス内で、“小さな子どもが好きだから”と、他の子どもたちのお世話をする中学生もいれば、“1人になりたい”と部屋にこもる子もいる。でも、それで良いのです。関わりたい人が関わり、お互いに助け合う。そういう関係が生まれる環境が、1人で頑張っているお母さんを救ってくれるし、子どもたちもイキイキと暮らすことできると思うのです」

子どもたちも一緒に食事づくり。まわりの大人や子どもと自然に協業していく(画像提供/シングルズキッズ)

子どもたちも一緒に食事づくり。まわりの大人や子どもと自然に協業していく(画像提供/シングルズキッズ)

さらに今後の展望について山中さんは続けます。

「日本の社会課題の一つとして母子家庭も高齢者も“孤立”してしまうことが挙げられると思います。ひとり親に限らず多世代・多コミュニティが互いを支え合う環境になれたら、孤立せずに大人も子どもも楽しくハッピーに過ごせますよね。そのために最も大切なことの一つが暮らす環境を整えること。そして幸せに暮らす多世代の姿をたくさん眺めることが私の夢です」

異なる年齢の子どもたちが、ボランティアの学生と共に遊ぶ(画像提供/シングルズキッズ)

異なる年齢の子どもたちが、ボランティアの学生と共に遊ぶ(画像提供/シングルズキッズ)

山中さんは「私が何か助けてあげている訳ではない。みんなが“お互い様”」「明日は我が身」だと言います。突然身寄りがなくなったり、心身が不自由になったりすることもあれば、離婚してひとり親家庭になったり、暴力やDVを受けたりすることもあるかもしれません。そのようなときに、シングルズキッズの営むシェアハウスのような支え合いの仕組みがあれば、きっと心強く、そして楽しく暮らしていけるのではないでしょうか。

●取材協力
シングルズキッズ株式会社

テレワークだからこそ「半育休」を取得。新米パパの挑戦 私のクラシゴト改革9

今年の新春ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ ガンバレ人類!新春スペシャル!!』では、IT企業に勤める星野源演じる平匡さんが男性育児休暇を取るくだりがあり、大きな話題に。しかし、厚生労働省の2019年度調査によると、男性育児休暇取得率は7.48%と1割にも満たないのが実情だ。今回はフルリモート勤務という特性を活かして、「育児休暇。たまに仕事」という方法を選んだエンジニア、土屋貴裕さんにインタビュー。連載名:私のクラシゴト改革
テレワークや副業の普及など働き方の変化により、「暮らし」や「働き方(仕事)」を柔軟に変え、より豊かな生き方を選ぶ人が増えています。職場へのアクセスの良さではなく趣味や社会活動など、自分のやりたいことにあわせて住む場所や仕事を選んだり、時間の使い方を変えたりなど、無理せず自分らしい選択。今私たちはそれを「クラシゴト改革」と名付けました。この連載では、クラシゴト改革の実践者をご紹介します。

育休取得は当然の流れ。ただし、たまに仕事をする余地も残すことに

Web開発などを担当するエンジニアという仕事柄、在宅ワークが可能な土屋さん。フルリモートで働ける企業「キャスター」に転職したのが2年前。偶然にも転職の内定を承諾した翌日に妻の妊娠が判明。新しい職場で育児休暇を取るのは自然な流れだったそう。
「フルリモートをはじめ、もともと自由な働き方を応援している企業。男性の育児休暇も自然な流れでした。”予定日は8月下旬なので9月1日より育児休暇を取りたいんです”と、伝えたら、”おめでとう。了解しました”というリアクションでした」
実際、キャスターでは、自由な働き方を実現することを企業ミッションやビジョンに掲げていることもあり、男性が育児を取ることは特別視されないという。
「育児休暇を取るのは自然なことでした。制度としてあるなら取らないのはもったいないですから」

ただし仕事を100%休みにせず、緊急時には対応するなど、臨時的に仕事をすることも。「とはいえ、ほとんど育休でしたよ。”半育休”という表現もありますが、育休中に仕事をするのは本来推奨されないことですし。僕自身が仕事をしたいと望んだことも大きかったです」
どうして土屋さんは完全に仕事をシャットアウトせず、仕事をする余地を残しておいたのだろうか。
「入社して半年で、仕事が面白くなってきたフェーズだったんですよね。チャットだけでもいいので内部の様子を共有しながら育休とりたかったんです。ずっとベンチャーのエンジニアをしていて、トレンドの流れが早い業界。完全に離れると勘がにぶる恐れもありました」

現在は仕事復帰し、自宅でリモートワーク中。スタンディングで仕事をするのは集中力が増すので効率的だそう(画像提供/土屋さん)

現在は仕事復帰し、自宅でリモートワーク中。スタンディングで仕事をするのは集中力が増すので効率的だそう(画像提供/土屋さん)

怒涛の新生児育児、2人が担い手になることで乗り切る

そして2019年8月予定日ぴったりに第一子誕生。9月から11カ月間の育児休暇を取得した。
「育児休暇を妻と同時に取ったのは、オムツ替えもミルクも寝かしつけも最初から夫婦2人で子育てをしたかったから。育休も妻→僕の順番になると、僕が教わる立場になり、妻が育児のメインの担い手になってしまうでしょう。そうしたら、僕が甘えてしまいそう。どちらか仕事で不在でも育児がまわっていけるようにしたかったんです」
とはいえ、最初からすべてがスムーズだったわけではない。最初のうちは、夜中に子どもが泣いてもどうしても起きることができず、夜中の3時間おきのミルクは100%妻担当に。当然、叱られた。
「二人で育児をするんだ! と意気込んでいたけれど、やはり当初はどこかで当事者意識が足りなかったと反省しています」

新生児のころ。ドラム式洗濯乾燥機、お掃除ロボット、食器洗浄乾燥機など、家事時短の家電に投資。「特に、ミルクづくりにウォーターサーバーは本当に便利。みんなにオススメしています」(画像提供/土屋さん)

新生児のころ。ドラム式洗濯乾燥機、お掃除ロボット、食器洗浄乾燥機など、家事時短の家電に投資。「特に、ミルクづくりにウォーターサーバーは本当に便利。みんなにオススメしています」(画像提供/土屋さん)

育児は大変だったが、我が子との時間は宝物に。「毎日、いろいろな成長がみられました。仕事をしていたら、毎日数時間しか触れ合う時間がなかったと思うので、育休を取って良かったと思います」

ママじゃなきゃダメ、ということがない土屋さんファミリー。過ごしてきた時間の長さゆえに息子との絆は強い(画像提供/土屋さん)

ママじゃなきゃダメ、ということがない土屋さんファミリー。過ごしてきた時間の長さゆえに息子との絆は強い(画像提供/土屋さん)

育児ストレスが仕事をすることで解消されるメリット

育休中の試行錯誤の育児の苦労の中、「仕事がいい気分転換になった」という土屋さん。
「結局仕事が好きなんですよね。自分がずっと関わってきたプロジェクトに思い入れも強かったですし」
土屋さんだけでなく、妻もたまにヘルプで職場に呼ばれることがあったが、むしろ仕事に行ってリフレッシュした顔をして帰ってきたとか。
昨年秋には、子どもを保育園に預け、夫婦ともに仕事復帰。夫婦2人で仕事と育児を両立させる生活がスタート。「育児休暇中も同僚と情報共有していたので、復帰はスムーズ。いわゆる育休明けに感じる”疎外感”とも無縁でした」
仕事を再開してからも、育児も家事も2人で、が大原則。「育児・家事の役割分担も細かく決めず、片方が朝ごはんをつくったから、片方が晩御飯をつくる。片方が寝かしつけをしてるから、片方がお風呂掃除するなど、自然な流れで、負担を分散するようにしています」
そのため、使えるICT(情報通信技術)はフル活用。新生児のころのミルクや睡眠時間はアプリ「ぴよログ」、復帰後の仕事や休みなどお互いのスケジュールはGoogle カレンダー、ちょっとした情報共有はSlackを活用するといった具合だ。

育児休暇中に料理の腕が上がったとか。「もともと凝り性なので、カレーは彼のほうが上手。鯛めし、蛸めしも美味しいですよ」と妻(写真提供/土屋さん)

育児休暇中に料理の腕が上がったとか。「もともと凝り性なので、カレーは彼のほうが上手。鯛めし、蛸めしも美味しいですよ」と妻(写真提供/土屋さん)

積雪の日の外遊び。今は岐阜市在住。都会の名古屋へも実は車で30分圏内。かつ自然豊かな環境も身近で、子育てしやすい(画像提供/土屋さん)

積雪の日の外遊び。今は岐阜市在住。都会の名古屋へも実は車で30分圏内。かつ自然豊かな環境も身近で、子育てしやすい(画像提供/土屋さん)

「育児は、母親の私がメイン、夫はサブ。そんな関係にならなくてすんだ」と妻も証言

ここまで、土屋さんの奮闘ぶりについてお話を伺ったが、妻の立場からはどう見えていたのか、土屋さんの妻にもお話を伺った。
「最初から一緒に育児スキルを上げていったので、私が教える手間がなかったのはとてもありがたかったです。もちろん完璧じゃなくて、実は彼、子どもと遊ぶのは苦手なほうだったと思うんですよ。子どもの面倒を見るってテレビを観せることじゃないよって正直思ったこともあります(笑)。でも、今では外遊びは彼のほうが得意。息子と楽しそうです。特に生まれてすぐのときは私が赤ちゃんの世話でいっぱいいっぱいで、夫が家事全般をやってくれたのは助かりました」(妻)

現在新居を建築中。新生活も間近(画像提供/土屋さん)

現在新居を建築中。新生活も間近(画像提供/土屋さん)

ママ友や友人と話していて、「あ、ウチとは違うな」と思うことはあるだろうか。
「みなさん、パパの帰りが遅く、ほとんど平日には子どもと触れ合えない家庭が多いよう。だから、寝かしつけがママじゃないとだめだったり、ママへの後追いがひどいという話を聞くと、ウチとはずいぶん違うなと思います。子どもが病気のときも当然母親の方が休むものと思われていることも多いですが、ウチは2人で調整しています。そうそう、保育園の抽選のとき父親は夫1人で、周囲は母親ばかりで“完全アウェイだったよ”と聞いたときは笑いました」(妻)

男性のための育休本を出版~後輩パパたちの背中を押したい

確かに土屋さんの勤務先は男性育休を取りやすい雰囲気があり、フルリモートで受け入れられやすかったのも事実だ。恵まれていると感じる人もいるだろう。しかし、自分も育休を取りたいと考えているパパとその予備軍はもっともっと多いはずだと考えた土屋さん。自分自身の育休体験を基にした書籍を、友人と共著で自主出版した。

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『迷ったら読みたい 育休はじめてガイド』。現在は電子書籍版を販売している。そもそもの制度の話から、実践編までリアルな話が満載だ(画像提供/土屋さん)

『迷ったら読みたい 育休はじめてガイド』。現在は電子書籍版を販売している。そもそもの制度の話から、実践編までリアルな話が満載だ(画像提供/土屋さん)

「もともとエンジニア界隈で技術やマネジメントに関する本を出すのが流行っていて、僕も年に1回のペースで出していました。そんななか、学びの多い育休を、何かの形でアウトプットしたいと考えたんです。自分たち自身が育休を取得して良かったと実感しているから、迷っている方の背中を押したいと思いました」
Twitterで反響になり、取材を受けることも。そのなかで感じたのは、男性の育児休暇の取得が少ない理由のひとつが、単純に「前例がないから」ということ。「こうした実例があるよ、という情報発信を僕がしていくだけで、育児休暇を取るという選択をする人が増え、雇用者側も対応しやすくなることもあるのかなと思っています。育児休暇中に雇用者に支払われるお金は雇用保険から。雇用主側が負担するものではないんです。そのことから勘違いしている人も多いと実感しました」

コロナ禍で男女ともにテレワークをする人が増え、通勤時間に縛られにくくなる中で、男性も育児休暇を取るというケースは今後増えるかもしれない。土屋さん自身は、“半育休=在宅だから育児もしながら仕事できるでしょう”と雇用主側が拡大解釈をすることには警鐘を鳴らしつつ、育児に軸足をおいて、「たまに」仕事をするスタイルが、男女どちらにも、メリットの多い働き方であると実感している。
また、コロナ禍で里帰り出産や親が手伝いにやってくるといったケースが難しく、はじめての育児を女性1人がワンオペで担うのは本当に大変だ。男性の育児休暇取得率の増加に期待したい。

●土屋さんのnote
「迷ったら読みたい 育休はじめてガイド」を発売します!|ころちゃん|note

探究力をはぐくむ「研究者を育てた家」

2022年の高等学校学習指導要領改訂に向けて、全国の中学・高校で導入され始めた「探究学習」。
未来子どもたちには、自身で課題を発見し、解決する力が求められるようになるだろう。
今回は、自身の探究力を開花させた研究者たちへ、幼少期の住まいについてインタビューした。
子どもたちの問いをはぐくみ、探究力を伸ばす家の秘密をひもといていこう。

探究力とは、自ら課題を設定し、その課題を自ら解決へ導くループを回す力のこと。日々の暮らしの些細な出来事から生まれるふとした疑問「問い」をきっかけに、地域や社会に目を向けて自ら課題を設定し、課題解決のための情報収集を行い、手に入れた情報の取捨選択や分析を行いながら、自分なりの答えを探していく。インタビュー1:“21世紀のドリトル先生” 長谷川眞理子さん●プロフィール:長谷川眞理子さん
総合研究大学院大学学長。1952年、東京都生まれ。83年に東京大学大学院理学系研究科人類学専攻博士課程修了。2006年より総合研究大学院大学教授。17年より同校学長に就任。専門は、行動生態学、進化生物学

●研究テーマ:ヒトはなぜ大人になるのか?
みなさんも経験している思春期。実は、ヒトの思春期は他の動物に比べるととても長いことが分かっています。私はヒトの思春期がいつ始まり、いつ終わりを迎えるか、つまりヒトがいつ大人になるのかを研究しています。子どものころに読んで憧れたドリトル先生のように前人未到の地に足を踏み入れたいと考え、チンパンジーをはじめ、世界中の動物たちの研究をしてきました。そこでヒトの思春期の不思議にたどり着き、現在に至っています。

長谷川さんに聞いてみました!
Q. 幼少期、どんな家・街で暮らしていましたか?
A. 豊かな自然がいつも身近にある環境でした

3歳から5歳ぐらいまで、和歌山県田辺市にある古い町家に住んでいました。近くには海があったので、よく遊びに行っていました。今のようにテトラポッドで遮られておらず、海に棲息するイソギンチャクや貝殻を手にすることができて、生物に関心をもつようになりました。これが私の原風景です。
その後、8歳の時に小金井市の一軒家に引越します。当時の小金井市には自然がたくさんあって、家から少し離れると畑も多く、牛がのんびりと歩いていたほどです。この家には、広い庭を見渡すことのできるリビングがあり、家のなかにいても緑を間近に感じられる環境でした。庭では父の芝刈りを手伝って、雑草取りをするのが私の役割。抜いた雑草を眺めては、「これは何という植物なのだろう」と、自分の部屋に持ち帰り、図鑑で調べて名前を覚えたりしていました。毎日が生き物に対する発見の連続でしたね。

広い庭を見渡すことのできるリビングで、家の中でも緑を間近に感じることができる(イラスト/3rdeye)

広い庭を見渡すことのできるリビングで、家の中でも緑を間近に感じることができる(イラスト/3rdeye)

Q. 家がご自身にどんな影響を与えましたか?
A. 書斎からまだ見ぬ風景に思いを馳せていました

北側にある父の書斎が涼しかったので、夏休みによく忍び込んで、目についた本を読んでいました。並んでいたのは志賀直哉や芥川龍之介など。訳も分からず目を通していましたね。大人の本ばかり読んでいたのを父が見かねて、『少年少女世界文学全集』を買ってくれました。毎月1巻ずつ家へ届けられるお話の数々に、私はワクワクしていました。そこで出合ったのが、『ドリトル先生航海記』です。あの本を読んで、私もドリトル先生みたいに前人未到の地を旅してみたい、と思うようになったのです。

Q. 子どもにどんな家を与えたいですか?
A. 自分だけの世界観がはぐくめる場所を設けたい

私は一人っ子でしたので部屋をもらうことができましたが、今の住環境ではなかなか難しいかもしれないので、この部屋の一角はあなただけの場所、というところを設けたいですね。そのような場所があると、自分だけの世界観と責任感をはぐくむことができます。あまり汚くしていたら、時には叱ることも必要だとは思いますが、親の許容度が何よりも大切です。こうした住環境のもと、公園でも何でもいいので、自然を見られたり、触れられたりする場所がお住まいの近くにあってほしいと思います。

長谷川さんのFavorite time~当時のお気に入りの過ごし方
(左)『ドリトル先生航海記』はじめ、読書は冒険への入口。物語を通じて、田辺で見た海の向こうに広がる世界を想像していたという(右)家の近くの小川に棲息する生物を捕まえ観察するなかで、どこまで足を踏み入れると川が深くなるかなどを体感的に学んでいったそう(イラスト/3rdeye)

(左)『ドリトル先生航海記』はじめ、読書は冒険への入口。物語を通じて、田辺で見た海の向こうに広がる世界を想像していたという(右)家の近くの小川に棲息する生物を捕まえ観察するなかで、どこまで足を踏み入れると川が深くなるかなどを体感的に学んでいったそう(イラスト/3rdeye)

長谷川さんのHINT FOR KIDS~子どもたちへのヒント
好奇心の種は公園や学校など、大抵外に転がっています。興味をもったものを持ち帰って調べたり、深めたりするのが「家」の役割。ぜひ外で「本物」を見てみてください。そして、ご両親にお願いして家でじっくり外での発見を味わってみましょう。そうすることであなたの世界が広がります。

インタビュー2:“プラモデルからメディアを考える社会学者”松井広志さん●プロフィール:松井広志さん
愛知淑徳大学創造表現学部講師。1983年、大阪府生まれ。ポピュラー文化の歴史やモノのメディア論の理論枠組を研究している。著書に『模型のメディア論:時空間を媒介する「モノ」』(青弓社)など

●研究テーマ:モノがなぜメディアになるのか?
私は社会のなかでメディアがどう形づくられ、どんな役割をもつのかを研究しています。新聞、雑誌、テレビといった従来のメディアはもちろん、現代はスマホや通信アプリ、SNSなど、インターネットを活用するメディアが増えました。一方で、例えばテーマパークやフェスなどの場、人、展示物やガンプラなどのキャラクターグッズといったモノも、メディアと捉える見方が登場しました。ポップカルチャーと親和性の高いこの分野を探究しています。

松井さんに聞いてみました!
Q. 幼少期、どんな家・街で暮らしていましたか?
A. 駅や商店街に近い下町の、古い家に住んでいました

都会でも田舎でもない下町で暮らしていました。家のすぐ横を近鉄とJRが走っていたので、常に電車の音が聞こえ、隣家はカラオケ店、その横は酒屋さん、さらに隣は駄菓子屋さんという、電車や人の往来が多い場所でした。妙に古い木造の一軒家に両親と妹と住んでいて、庭には物置になっていた離れがあり、よく探検しました。いつ誰が使っていたのか分からない昔の物や本が出てくるので、埃まみれなんですが、宝探しのようで本当に面白かったです。
家のなかで特徴的なのは、滑り台。なぜだかリビングに、小学生でも滑れるくらいしっかりした滑り台があったんです。これがあるので幼稚園や学校帰りに友達が立ち寄り、滑りながらビデオデッキでアニメを観たり、連れ立って駄菓子屋さんに行ったりしました。リビングの滑り台が我が家の象徴となり、人と人をつなぐメディアになっていたわけですね。

リビングの滑り台が象徴となっていた松井さんのご自宅の間取り(イラスト/3rdeye)

リビングの滑り台が象徴となっていた松井さんのご自宅の間取り(イラスト/3rdeye)

Q. 家がご自身にどんな影響を与えましたか?
A. 予期せぬ出合いで興味の幅を広げてくれました

離れの物置空間は、「世の中には自分の知らないものが存在している」と実感できる場所でした。この空間が歴史に興味をもつきっかけとなり、今の研究にも役立っています。また当時、家にビデオの宅配業者が毎週7本ほど映画やアニメを持ってきていたので、よく観ました。開封して、観た分の料金を後日支払う仕組みでした。レンタルショップと違って観たいものが選べず、好みではない作品もセレクトされているのですが、あるとつい観てしまう。選り好みしないで幅広く興味をもつようになりました。

Q. 子どもにどんな家を与えたいですか?
A. パブリックとプライベートが両方備わった家

私の経験則から、子どもにはある程度の刺激が欲しいと思います。問いやアイデアは人とのコミュニケーションから生まれやすいので、滑り台じゃなくても庭にビニールプールを置くとか、リビングが広くて人を招きやすいとか、人とのつながりをはぐくむきっかけや開放性があるといいですね。ただし、物事を探究するときは、自分自身と向き合うことが必要です。他との交わりを断って内にこもるような、秘密をもてることは大事です。開放性と閉鎖性、どちらが欠けてもいけないと思います。

松井さんのFavorite time~当時のお気に入りの過ごし方
(左)タイムカプセルのような離れの物置を探検。江戸川乱歩の小説や、ブリキのおもちゃなどを発掘しては、自室に持ち帰り楽しんだ(右)考えた物語を妹に伝え、リカちゃんや怪獣のおもちゃで小さな劇団ごっこをして遊んだ。妹にはお兄ちゃん風を吹かせていたそう(イラスト/3rdeye)

(左)タイムカプセルのような離れの物置を探検。江戸川乱歩の小説や、ブリキのおもちゃなどを発掘しては、自室に持ち帰り楽しんだ(右)考えた物語を妹に伝え、リカちゃんや怪獣のおもちゃで小さな劇団ごっこをして遊んだ。妹にはお兄ちゃん風を吹かせていたそう(イラスト/3rdeye)

松井さんのHINT FOR KIDS~子どもたちへのヒント
好奇心を養い、問いを見つけるには、人と交流したり刺激を受けたりするような、遊び心のある空間は大事です。しかしそれだけでは、人の顔を見て右往左往する、世の中の関心事に引っ張られるような人になってしまう恐れが。時には外からの刺激を遮断してみると、安心できますよ。

インタビュー3:“ロボットで「生き物」をつくる研究者”梅舘拓也さん●プロフィール:梅舘拓也さん
信州大学学術研究院繊維学系准教授。2005年、名古屋大学工学研究科計算理工学専攻修士課程修了後、一般企業への就職を経て、2009年に東北大学大学院工学研究科学位を取得。2019年より現職

●研究テーマ:日常生活に溶け込む、やわらかいロボットとは?
日常生活や自然環境で活躍する「ソフトロボット」の開発に取り組んでいます。ロボットというと硬い金属製のイメージがあると思いますが、“やわらかい材料”を用いることで、安全かつ自然に生活環境に溶け込めるのではないかと考えています。筋肉や皮膚をどんな素材でつくるか、ロボットをどう自律的に動かすか、ハードウェア、ソフトウェアの両面から研究を重ねています。私が開発した「イモムシ型ロボット」は学習塾で教育用キットとしても活用されています。

梅舘さんに聞いてみました!
Q. 幼少期、どんな家・街で暮らしていましたか?
A. 母屋の向かいに工場があり、そこが遊び場でした

子どものころに暮らしていたのは、田舎の古い一軒家でした。1階で曽祖父母が、2階で僕ら家族が生活していましたね。2階には4つ部屋がありましたが、ふすまを開けると全部つながるんです。だから、プラレールの線路で全部屋を結ぶなど、空間をフルに使って遊んでいましたよ。また、母屋から道路を挟んだ向かい側には、祖父母が営む製材工場がありました。空き地と隣り合っていて、そこでもよく友達と遊びましたが、工場自体もよい遊び場でしたね。
流行りのおもちゃをほとんど買ってもらえない家だったので、欲しいものは工場で手づくりするんです。転がっている端材を使って、磁石で走る車とか、天体観測用のキットなんかをつくったのを覚えています。今思えば、おもちゃを買ってくれなかったのは、母の教育方針だったのかもしれませんね。自分で創意工夫する力を育てようとしてくれていたのだと思います。

ふすまで全室をつなげて、プラレールなどを楽しむことができる間取り(イラスト/3rdeye)

ふすまで全室をつなげて、プラレールなどを楽しむことができる間取り(イラスト/3rdeye)

Q. 家がご自身にどんな影響を与えましたか?
A. 学んで成功に近づく面白さに気付きました

欲しいものを自作したといっても、実際は失敗だらけ。頭にある完成形の4~6割くらいのものしかつくれませんでした。でも、そこで満足できなかったからこそ、新たに知識を得て完成度を引き上げていく楽しさに気付けたんじゃないでしょうか。思い出深いのは、小学生の時に母に連れて行かれた近所の電機メーカーのワークショップ。イチからスピーカーを組みました。自分がつくったものから音が出ることに感動し、将来は「もっとすごい何かをつくりたい」と思えた、大きな出来事でしたね。

Q. 子どもにどんな家を与えたいですか?
A. 試行錯誤してモノづくりができる空間を

僕でいう資材工場にあたる場所は与えてあげたい。それも、家族で何かをつくるスペースがいいですね。ガレージに作業場を設け、みんなで囲む机を置きたいです。そして、そこで子どもたちと遊びたい。僕には3人の子どもがいて、今の家でも色々とつくっていますよ。小2の息子はCADソフトで図面を引いて、3Dプリンターでおもちゃをつくっています。何でも簡単に手に入れるのではなく、まずは自分で試行錯誤する人になってほしい。そんな願いどおりに育ってくれているのかなと思います。

梅舘さんのFavorite time~当時のお気に入りの過ごし方
(左)小学校低学年からは資材工場に入りびたり、ものづくりに没頭。不要になった電気製品などを分解するのも好きだった(右)土間の上に釜が置かれた昔ながらの台所では、曽祖父母たちと餅をつくなど、多世代に渡る交流を楽しんでいた(イラスト/3rdeye)

(左)小学校低学年からは資材工場に入りびたり、ものづくりに没頭。不要になった電気製品などを分解するのも好きだった(右)土間の上に釜が置かれた昔ながらの台所では、曽祖父母たちと餅をつくなど、多世代に渡る交流を楽しんでいた(イラスト/3rdeye)

梅舘さんのHINT FOR KIDS~子どもたちへのヒント
大事なのは、何でもまず自分でやってみることです。例えば自転車がパンクしたら、すぐ修理に出さず自分で直してみる。うまくいかなくても、そこで構造や仕組みを覚えることで好奇心が刺激されますし、得意なこと、好きなことが見つかるきっかけになるんじゃないでしょうか。

インタビュー4:“「作品をつくること」を問い直す哲学者”千葉雅也さん●プロフィール:千葉雅也さん
哲学者、作家。立命館大学大学院先端総合学術研究科教授。著書に『動きすぎてはいけない:ジル・ドゥルーズと生成変化の哲学』、『勉強の哲学』、『意味がない無意味』、『アメリカ紀行』、『デッドライン』などがある

●研究テーマ:作品をつくるとはどういうことか?
作品と聞いて何を思い浮かべますか?一般的に作品とは広く「work」を指しますが、芸術作品ばかりでなく、研究、仕事、手仕事など、区切りのある仕事や作品の一切を「work≒仕事≒作品」として、“作品をつくるとはどういうことか”を根本的に問い直しています。広い意味で「work」の哲学を考えているのです。そして、「作品をつくる」「仕事を完了させる」「形にする」ための哲学、方法を探究し、シェアすることで、「つくり方を哲学する方法論」を民主化したいと考えています。

千葉さんに聞いてみました!
Q. 幼少期、どんな家・街で暮らしていましたか?
A. 離れにあった「パパのアトリエ」がお気に入りでした

8歳まで住んでいたのは、2階建ての古い家。そこに祖父母と両親、僕と妹が生活していました。遊び場だったリビングには図鑑がたくさんありましたね。親戚のおじさんがお年玉代わりに、生物の図鑑などをプレゼントしてくれたのを覚えています。
当時、自分の部屋はありませんでしたが、「離れ」があって、そこでよく遊んでいました。多趣味な父親の隠れ家、遊び場のようなところで、母屋2階のベランダから階段で入れるようになっていたんです。オーディオマニアの父は壁にJBLのスピーカーを埋め込んで、部屋の音響にもこだわっていました。ほかにも、ラジコンや電子工作など色々な遊びを教えてもらいましたよ。「パパのアトリエ」と呼んでいたその空間で父親と同じ趣味を共有する。「アンプの真空管を変えたら音がどう変わるか」みたいなことを教わるのがとにかく楽しくて。素敵な時間でしたね。

お気に入りの「パパのアトリエ」でよく遊んでいた幼少期の千葉さん宅(イラスト/3rdeye)

お気に入りの「パパのアトリエ」でよく遊んでいた幼少期の千葉さん宅(イラスト/3rdeye)

Q. 家がご自身にどんな影響を与えましたか?
A. 両親を見て「本気で遊ぶ」楽しさを知りました

そんなふうに親が趣味に没頭する姿を間近で見て育ちました。母親も絵が好きで、自作の絵を部屋に飾ったりしていましたからね。僕の両親は子どもと「遊んであげる」のではなく、子どもを自分の遊びのプロジェクトに巻き込んでいるところがあった。
改めて振り返ると、僕もそんな両親に感化されましたね。父の姿を見て、僕も本気で遊ぶ大人になろうと思ったし、母の影響で僕も描いた絵を飾るようになった。大人の本気に圧倒されるなかで、自分の価値観や創造性が育っていった気がします。

Q. 子どもにどんな家を与えたいですか?
A. 親子で一緒に没頭できる空間がある家

遊びが大事とはいえ、個室で一人黙々と趣味に勤しむだけでは、クリエイティブな展開につながりづらいのではないかと思います。ですから僕にとっての「パパのアトリエ」や母親と絵を描いたリビングなど、誰かと一緒に何かをやる空間があるといいですよね。
そして、親はそこで子どもが興味をもったこと、何かを集めたり、うんちくを語ったりしているのを受け止めてあげることが大事。そんなコミュニケーションが、子どもの探究力をさらに伸ばすカギになるのではないでしょうか。

千葉さんのFavorite time~当時のお気に入りの過ごし方
(左)男の子が憧れそうなものは何でもあったという離れのアトリエ。帰りの遅い父親を待って、ここで一緒に遊ぶのが何よりの楽しみだった(右)中学からはMacが一番のおもちゃに。プログラミングなどをして遊んだ。創造性を育む道具は惜しみなく与えてくれる両親だったそう(イラスト/3rdeye)

(左)男の子が憧れそうなものは何でもあったという離れのアトリエ。帰りの遅い父親を待って、ここで一緒に遊ぶのが何よりの楽しみだった(右)中学からはMacが一番のおもちゃに。プログラミングなどをして遊んだ。創造性を育む道具は惜しみなく与えてくれる両親だったそう(イラスト/3rdeye)

千葉さんのHINT FOR KIDS~子どもたちへのヒント
よく遊んでほしいです。家に自分の部屋がないなら「空間を遊び場化」させればいい。家にあるものを障害物に見立て「シューティングゲームごっこ」をしたりね。遊び場がない、ゲームを買ってもらえない。そんな状況でこそ、想像力を働かせてほしいです。

子どもの探究力をはぐくむ家のアイデア7

第一線で活躍する研究者のインタビューを通じて「身近に想像力を刺激するものがある」「多くの人と接する」
「自分だけの空間をもつ」など、子どもの探究力を伸ばす家の共通点が浮かんできた。家探しの参考にしてほしい。

本棚ならぬ“本壁”がある
壁一面の本棚で、絵本や図鑑、文学、写真集など、さまざまな本を家族で共有しよう。本を通じた意外な出合いが子どもの好奇心や想像力につながる。難しければ、図書館の近くに住むのもひとつの手(画像提供/@morningsun3480)

壁一面の本棚で、絵本や図鑑、文学、写真集など、さまざまな本を家族で共有しよう。本を通じた意外な出合いが子どもの好奇心や想像力につながる。難しければ、図書館の近くに住むのもひとつの手(画像提供/@morningsun3480)

秘密基地がある
好奇心のタネを、子どもがひとり熟成できる場所を用意したい。一部屋でなくても、ロフトや屋根裏、屋内テントを設置するのもいいだろう(画像提供/@lokki__talo)

好奇心のタネを、子どもがひとり熟成できる場所を用意したい。一部屋でなくても、ロフトや屋根裏、屋内テントを設置するのもいいだろう(画像提供/@lokki__talo)

おうち美術館を開く
子どもの描いた絵や工作を部屋に飾ってみよう。できれば専用の場所を設けるといい。子どもの創作意欲を刺激し、自己肯定感をはぐくむ(画像提供/@uk__502)

子どもの描いた絵や工作を部屋に飾ってみよう。できれば専用の場所を設けるといい。子どもの創作意欲を刺激し、自己肯定感をはぐくむ(画像提供/@uk__502)

自然と身近に触れ合う
山や海に近い環境は理想的だが、利便性との両立が難しい場合も。庭付きの家や、自然公園の近くに住めば、日常生活のなかで自然と触れ合いやすい(画像提供/@589littlegarden)

山や海に近い環境は理想的だが、利便性との両立が難しい場合も。庭付きの家や、自然公園の近くに住めば、日常生活のなかで自然と触れ合いやすい(画像提供/@589littlegarden)

おうちオフィスを構える
大人が本気で取り組む姿を子どもに見せるのに、自宅ワークスペースは最適。最近は共用施設にスタディールームを持つマンションもある(画像提供/Unsplash)

大人が本気で取り組む姿を子どもに見せるのに、自宅ワークスペースは最適。最近は共用施設にスタディールームを持つマンションもある(画像提供/Unsplash)

庭を開いてみる
色々な人とかかわりをもつのに、庭を交流空間として開放するのも一案。マンションなら敷地内公園やキッズルームがある物件もあるので活用して(画像提供/PIXTA)

色々な人とかかわりをもつのに、庭を交流空間として開放するのも一案。マンションなら敷地内公園やキッズルームがある物件もあるので活用して(画像提供/PIXTA)

相棒と暮らす
ペットと一緒に暮らすことで、動物たちの豊かな感情表現が感受性をはぐくみ、子どもに命の尊さを教えてくれる。マンションの場合、ペットの飼育が可能か事前に確認しよう(画像提供/@mattam_interio(r ICHIMIRI))

ペットと一緒に暮らすことで、動物たちの豊かな感情表現が感受性をはぐくみ、子どもに命の尊さを教えてくれる。マンションの場合、ペットの飼育が可能か事前に確認しよう(画像提供/@mattam_interior(ICHIMIRI))

研究者たちの幼少期の住まいや暮らしぶりから、育った環境がその後の成長に大きな影響を与えていることがわかります。人とのつながりをはぐくむリビングや、両親と一緒にものづくりができるアトリエなど子どもの好奇心をかきたてるような住環境に加えて、その好奇心を受け止める家族の存在がより“子どもの探究力”を伸ばすのかもしれません。

●スタディサプリ
スタディサプリよりお知らせ

・スタディサプリ三賢人の学問探究ノート(1)人間を究める
・スタディサプリ三賢人の学問探究ノート(2)社会を究める
・スタディサプリ三賢人の学問探究ノート(3)生命を究める

取材・文/小野雅彦(長谷川眞理子さん)、寺井真理(松井広志さん)、やじろべえ榎並紀行(梅舘拓也さん、千葉雅也さん)
※この記事はSUUMOマガジン2020年5月27日発売号からの提供記事です

入浴後の家事・育児、0歳児を持つ親は平均6.5つ

パナソニック(株)は(株)オールアバウトが協同で、「子育て世帯における冬場の生活実態調査」を行った。調査は2018年10月1日(月)~10月4日(木)、0歳~8歳までの子どもを持つ25歳~40歳の男女を対象にインターネットで実施。426名より回答を得た。
それによると、入浴後に行う家事・育児については、ほぼすべて(97.9%)の親が何らかの家事・育児に従事していることが分かった。内容は「子どもの寝かしつけ」が最も多く63.1%。「子どもの歯磨きをする」62.9%、「夕飯の食器のあと片づけ」46.5%が続く。ほかには、「子供と遊ぶ」46.2%、「子供の髪の毛をとかす」39.0%、「部屋の片付け・掃除」35.9%などがあり、0歳児を持つ親は平均で6.5つの家事・育児を行っていることも分かった。

入浴後から就寝までの所要時間については、「約2時間」が最多で21.4%。次いで「約4時間」20.0%、「約3時間」19.7%と、2時間以上が合わせて8割以上。1時間ほどで就寝ができている割合は母親で19.2%、父親で27.7%にとどまった。また、寝るときに体が「冷え切っていると思う」13.1%、「どちらかというと冷え切っていると思う」43.2%となり、合わせて約半数以上が就寝時までに体が冷え切っていることが明らかになった。特に女性では60.7%が「冷え切っている」「どちらかというと冷え切っていると思う」と回答、多くの女性が「湯冷め」状態に陥っているようだ。

お風呂上りに体を冷やさないよう、リビングの暖房をつけるようにしていますか?という質問では、「つけている」は57.9%と約6割。「つけていない」方も約2割ほどいる結果となった。リビングの室温をどのくらいに調整したらよいと思いますか?では、「20~25度未満」が約半数の49.6%と最も多い。一方で「20度未満」13.3%や、「25~30度以上」30.6%と低めまたは高めの室温を希望する人もいた。

睡眠の状態については、「どちらかというと快眠できていない」30.5%、「快眠できていない」22.5%と感じており、そのうち母親の結果を子どもの年齢別にみると、0~5歳の乳幼児を持つ母親の快眠度が低い。子どもの年齢が低いほど家事・育児の負担や、睡眠中の乳幼児のケアなどに労力がかかっているようだ。

ニュース情報元:パナソニック(株)

男性の家事・育児、参加時間は女性の6分の1

夢の街創造委員会(株)が運営する「出前総研」は、このたび「男性の家事・育児」と「普段負担を感じる家事」に関する調査結果を合わせて発表した。

「男性の家事・育児」に関する調査は2018年9月29日~10月8日に実施。既婚で子供のいる男女633名を対象に行った。「普段負担を感じる家事」については、2017年12月16日~22日、女性625名を対象に行った。

普段の育児や家事の参加頻度では、「毎日」と回答したのは男性の40.2%だったのに対し、女性は93.3%だった。一方で、男性の25.4%が「休日のみ」、15.6%が「気が向いた時」に家事・育児に参加していると回答しており、まだまだ男性の育児・家事参加は女性と比べて少ないことが分かる。

また、女性が普段行っている家事で「負担に感じている家事」は、1位が「掃除」で60.9%。2位は「料理」で47.9%。3位「食器洗い」46.0%と続く。「時短したい家事」では、1位が「料理」で60.9%。次いで、2位「掃除」60.2%、3位「食器洗い」35.6%、4位「食材や生活用品の買い物」30.3%。食事まわりの家事に関して負担を感じていることが分かる。

総務省が5年ごとに実施している社会生活基本調査によると、6歳未満の子どもを持つ夫婦の家事関連の時間では、男性が家事・育児にかかわる時間が1日平均1時間5分(うち、育児が48分)だったのに対し、女性は6時間48分(うち、育児が3時間42分)と男性の約6倍。

また、共働き家庭では男性が家事・育児にかかわる時間は1時間7分(うち、育児が47分)、女性は5時間27分(うち、育児が2時間47分)。専業主婦の家庭では、男性が54分(うち、育児が44分)だったのに対して、女性は8時間38分(うち、育児が4時間56分)と差は9倍にもなっている。女性の社会進出が進む中でも、男性の育児・家事参加時間は非常に短いようだ。

ニュース情報元:夢の街創造委員会(株)

平日の家事・育児時間、ママ全体の平均は4.8時間

東京ガス(株)都市生活研究所はこのほど、子育てファミリーを対象に「共働きの家計に関する調査」を実施した。

調査は2017年1月にインターネットで実施。調査対象は1都3県在住・28~44歳の既婚男女1,248名。

妻の働き方によって子育てファミリーをタイプ分けしたところ、平日の家事・育児時間は、ママ全体の平均が4.8時間であるのに対して、正規で週30時間以上働いている「フル共働きママ」も4.1時間と長く、0.7時間しか変わらなかった。パパ全体の平均が1.4時間であるのに対して、妻が正規で週30時間以上働いている「フル共働きパパ」は1.8時間で、4タイプのパパ(フル共働きパパ、準共働きパパ、補助働きパパ、専業パパ)の中では最も長いものの、0.4時間しか差はなかった。

「フル共働きママ」と「フル共働きパパ」を比べると、差は2.3時間あり、フル共働きでも家事・育児は妻に偏っている。家事分担比率では、夫の家事は自分が思うほど妻の評価を得られていないようだ。

また、7割以上のママは「ひとりの時間が欲しい」と思っており、働き方による違いはみられなかった。仕事・家事・育児に追われ、自分の時間が持てていないと感じているママが多いようだ。

「子供と過ごす時間を増やしたい」と考えているかどうかは、働き方によって違いがみられた。「専業ママ(専業主婦)」は、半数程度しか子供と過ごす時間を増やしたいと考えていない。しかし、「共働きママ」は子供と過ごす時間を増やしたいと考えており、特に「フル共働きママ」は8割近くが子供と過ごす時間を増やしたいと考えている。子供と十分に接する時間が持てていないと感じている「フル共働きママ」が多いようだ。

さらに、「フル共働きママ」は、「時間をお金で買いたいと思うことがある」「家事を効率化するモノやサービスにはお金を惜しまない」と答えた割合が他のタイプよりも高く、お金をかけてでも時間を生み出したいと考えていることがわかった。

ニュース情報元:東京ガス(株)

子どもたちのサードプレイスに 民間の学童保育「キッズベースキャンプ」の取り組み【育住近接(4)】

共働きの夫婦にとって、小学校入学後に放課後どう過ごさせるかは悩みのタネだ。公立の学童保育だけでなく、最近では民間の学童保育施設も多くみられるようになった。東急グループの「キッズベースキャンプ」はそのひとつ。多種多様なプログラムを通じて、子どもたちに学びを提供している。「キッズベースキャンプ豊洲・東雲」を例に、その活動内容を紹介しよう。育住近接
近年、保育園や学童保育施設などをマンションや団地内に設置する「育住近接」というトレンドが生まれています。「育住近接」を実現させた物件や団体の取り組み事例を紹介する企画です。民間ならでは 22時まで預けられる学童保育

「ウォーター・フロント」として開発が始まった湾岸エリアの豊洲や東雲は、タワーマンションが林立していることで知られている。

豊洲駅と東雲駅の真ん中あたりに位置する「東雲キャナルコートCODAN」の敷地内には、塾や医療関係の施設など、生活に便利なショップなどが立ち並んでいる。今回訪ねたのは、その中にある「キッズベースキャンプ豊洲・東雲」。東急グループの株式会社キッズベースキャンプが運営する、民間の学童保育施設だ。同社の三沢敦子(みさわ・あつこ)さんに、施設の概要や学童保育のあり方について伺った。

「田植え」イベントの様子(画像提供/キッズベースキャンプ)

「田植え」イベントの様子(画像提供/キッズベースキャンプ)

「キッズベースキャンプ」の始まりは2008年。公設の学童保育施設では預かり時間が遅くても19時までというところがほとんどだが、ここでは、22時まで預けられるようになっている。残業が発生しても、子どもを安全に預かってもらえるのはうれしい点だ。また、スタッフが指定の小学校から施設までの送迎を行ってくれるのもありがたい。子どもだけで移動しなくてよいのは、保護者としてとても安心だろう。

キッズコーチは、7~10人に1人の割合で配置される。子どもに対してキッズコーチがこれだけいれば、それぞれの子どもの特徴を理解してコミュニケーションをとることもできるし、なにより子どもたちに目が届きやすいだろう。ちなみに、キッズコーチは20代が多い。正社員の採用倍率約30倍の難関を突破し、しっかりと研修を受けたプロフェッショナルがそろっている。

施設内には、木製のテーブルが並んでいる。「学校から帰ってきたらまず宿題の時間を設けています。勉強を習慣づけさせるのがねらいです。その後、おやつタイム、イベントもしくは自由時間というのがだいたいの流れです。おやつや食事はもちろん子どものアレルギーに対応することができます」と三沢さん。

その言葉どおり、部屋の隅っこでは、市販のお菓子の成分表示を見ながら仕訳をしているスタッフがいた。これだけでも頭が下がるが、念には念を入れ、ダブルチェック、あるいはトリプルチェックを行っているという。

また、施設が用意する夕食「キッズミール」をオプションで利用することもできるので、忙しいときには安心だ。

キッズベースキャンプといえば、「豊富なイベント」が特徴!

施設の特徴は何と言ってもイベントが充実していること。

「イベントは子どもへの投資になると思っており、遠足やお泊まりなどにもでかけます。スキーなど、保護者だけでは連れて行くのが難しい場所も訪れています」(三沢さん)

イベントは、週1回くらいの頻度で開催している。参加するかどうかは、子どもと保護者が話し合って決めることができる。イベントは実にさまざまで、料理や工作、スポーツや社会科見学など、子どもたちの知的好奇心をくすぐるものばかり。

「普段は入れないところに行ける、動物園や劇場のバックヤードツアーは特に人気です」(三沢さん)

また、夏休みや冬休み、春休みなど、長期休みだけ施設を利用することも可能。日曜日に登校した次の日の「代休」などは、朝から対応しているそうだ。

「利用者は1、2年生が多いですね。それ以上になると塾などに通い始め、だんだん通う日数が減ってきます。ですから、通う日数に応じた料金プランを設定しています」(三沢さん)

このように、キッズベースキャンプは、保護者や子どもの役に立ちたいという一心で活動をしてきたそうだ。

「10年続けてきたことで、理解を得られるようになったと感じています。時代の流れもありますし、続けてきたことで信頼度が高まったのだと思います」(三沢さん)

 全員でゲーム(画像提供/キッズベースキャンプ)

全員でゲーム(画像提供/キッズベースキャンプ)

「ただいま!」 サードプレイスでの体験が子どもを成長させる

取材をはじめて数十分、お話を聞いていると、子どもたちがスタッフに連れられて帰ってきた。「こんにちは」ではなく「ただいま!」と元気な声で、施設に次々とやってくる。そのまま思い思いの席につき、ランドセルから取り出した宿題を始めた。

その日勤務していたキッズコーチに、保護者たちの反応を聞いてみた。

「保護者のみなさんからは、日々感謝の言葉をいただきます。特に印象的だったのは、子どものトラブルを仲介して、仲直りさせたとき。子ども同士のトラブルは、親が介入しにくいこともあるので、とても喜んでいただけました。そのほかにも、乱暴な言葉づかいなどをしている子どもには注意するのですが、親以外の大人から指摘されたほうが効果的な場合もあるようで、感謝されたことがあります」(キッズコーチ)

「キッズベースキャンプは、保護者が働き続けるための役割はもちろんですが、子どもの居場所にもなることもあるのです。事情があって学校に行けなくなってしまってもキッズベースキャンプには来てくれるなど、子どもたちの受け皿になってあげられると考えています」(三沢さん)

アート工作イベント(画像提供/キッズベースキャンプ)

アート工作イベント(画像提供/キッズベースキャンプ)

ただ、施設の需要は増えつづけ、現在はキャンセル待ちが多くなってきたようだ。そのため、「プレキッズクラブ」という未就学児登録制度をはじめたという。この制度は、子どもが小学校に入学する前から学童保育へ入会できる権利を確保できるというもの。この制度は有料だが、「どこの学童も満員で入れない」という事態を防げるため、将来の安心材料として保護者たちは申し込みをするのだという。

この施設に限ったことではないが、「小1の壁」の問題は、なんとかならないものかと考えさせられた。

子どもたちの「やりたい!」を取り入れ、保護者たちの「体験させてほしい!」をかなえるキッズベースキャンプ。今後も独自のプログラムを通じて子どもたちを成長させ、保護者に安心を提供しつづけていくだろう。

●取材協力
・キッズベースキャンプ

2018年住まいのトレンドは「育住近接」、リクルート住まいカンパニー

(株)リクルート住まいカンパニーは、このほど、2018年住まいのトレンド予測を発表した。2018年住まいのトレンドキーワードは「育住近接」。共働き世帯は増加の一途をたどり、「職住近接」といわれる都心志向、駅近志向が高まっている一方、利便性の高い人気エリアでは、保育園不足や周囲の住民との繋がり不足から生じる育児中の親の精神的・時間的負担が課題。そのようななか、保育園や学童保育施設などをマンションや団地内に設置する「育住近接」というトレンドが生まれている。

背景として、同社が行ったアンケートにおいて、保育園不足に伴い、保育園・学童が併設されているマンションなら駅から離れても妥協できると答えた人が約35%いたこと、また、今年10月には国土交通省が保育園不足が見込まれるエリアへの大規模マンション建設の際は、開発事業者に保育施設設置を要請するよう、地方公共団体宛に通知したことがある。

これらのことから、今後の住まい選びは、「職住近接」から「育住近接」に変化していくだろうと予測した。

ニュース情報元:(株)リクルートホールディングス