老朽化進む「団地」に新しい価値を。注目集める神奈川県住宅供給公社の取り組み

建設から40年50年が経過し、建物の老朽化、住民の高齢化などの課題が山積している「団地」。建物・土地をどう利活用していくのか、維持管理マネジメントが問われています。神奈川県内に約1万3500戸の団地を持つ「神奈川県住宅供給公社」は、いち早くマネジメントの見直しに取り組み、評価されているといいます。今回は、そのマネジメントと団地の持つ可能性をご紹介します。

課題が山積みの神奈川県住宅供給公社の団地、解決の仕方が評価

「建物の所有者が、建物と周辺環境を総合的に管理し、より効率的・戦略的に経営していく」ことを指すアメリカ発の概念「ファシリティマネジメント」という言葉があります。単なるビルの維持管理ではなく、不動産をどう経営に活かしていくかという、「経営戦略」です。2020年、公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会が主催する「第14回日本ファシリティマネジメント大賞(JFMA賞)」にて、あまたの企業・プロジェクトの取り組みの中から、神奈川県住宅供給公社が「最優秀ファシリティマネジメント賞(鵜澤賞)」を受賞しました。

神奈川県住宅供給公社は現在、神奈川県内に112団地、371棟、約1万3500戸の賃貸住宅の維持管理を行っており、その多くはいわゆる「団地」です。特に築40年以上経過した建物は323棟と全体の約87%にものぼり、建物と設備の老朽化が課題となっていました。

90haにもおよぶ広大な敷地の自然に囲まれた若葉台団地(写真提供/神奈川県住宅供給公社)

90haにもおよぶ広大な敷地の自然に囲まれた若葉台団地(写真提供/神奈川県住宅供給公社)

今回ファシリティ・マネジメント(以下「FM」)の視点において、財務・品質・供給の3視点がバランスよく、長期を見据え戦略的な展開をしていることが評価されて大賞受賞となったわけですが、そもそものきっかけとなったのは、2015年、とある団地で起きた「ボヤ騒ぎ」だったそう。大事には至らなかったものの、土曜日の夜だったこともあり、その部屋の住人の世帯情報(性別や年齢、人数など)にたどり着くのに数時間もかかったことをきっかけに、「統合的なデータベース」を導入することとなった。縦割り組織の弊害で、団地の情報(修繕履歴や空室率、入居者情報)も部門ごとにバラバラで作成したり、紙ベースで保管したりしており、持っている情報を活かすことができなかったのです。

そこで住戸単位であらゆる情報を管理するデータベースを導入、「団地の基礎情報」「棟ごとの資産情報」「修繕状況」「財務状況」「入居契約」「募集情報」など、各部署に必要な情報がすぐに分かるようになりました。また、それまで外注していた、入居希望者向けのコールセンター業務を内製化し、「顧客ニーズの把握」や「情報のフィードバック」など、情報を活用していくことができるようになりました。

各団地の課題が明確になり再生計画がスタート。経営状態も改善

こうした公社内での改革・改善が進むと、団地ごとの「入居状況」「強み」「課題」が明確になるとともに、「課題解決」のための取り組みやその反響も徐々に分かってきました。それにより、新しい施策→実行→反響→次回以降の改善、というプラスのサイクルがうまれるようになったのです。

「データベースの導入により各団地の特色や取り組むべき事柄が明確になり、効果的な施策につながったとみています」と振り返るのは神奈川県住宅供給公社の総務部課長の鈴木伸一朗さん。

FMという概念やデータベースを活用するのは主に管理する側で、一見すると住民には関係ないように思えますが、入居希望者や入居者の属性、建物などの「修繕履歴」「空き家率」等、情報が一元化してあることで「団地の課題」が把握でき、必要な施策や改善措置が行われるようになるため、住む側にとってもプラスの効果が出てきます。

これらの取り組みから分かるのは、古い団地の維持管理を単なる管理業務としてこなすのではなく、適切に修繕管理するとともに、より良い方向で活用すれば優良な「資産」となりうるということです。

3年で150組の入居も。団地再生の取り組みははじまったばかり

公社が行っている団地再生の取り組みはどれもユニークなものばかりですが、特にFM大賞で評価されているのは、持続可能な社会への取り組みや地域社会に貢献している点です。

例えば、「アンレーベ横浜星川」(横浜市保土ケ谷区:1954年着工)では、耐震性能には問題はなく、適切な投資(断熱や給排水設備の改修、室内のリノベーション)をすることで、十分に既存建物を活かせると判断。“一棟まるごとリノベーション”を行い、居住性能を向上させました。「持続可能な社会」のために、スクラップ・アンド・ビルドではなく、きちんと修繕して長く使う成功例となることに期待したいところです。

改修前(写真提供/神奈川県住宅供給公社)

改修前(写真提供/神奈川県住宅供給公社)

改修後(写真提供/神奈川県住宅供給公社)

改修後(写真提供/神奈川県住宅供給公社)

ストックの利用だけではありません。例えば、空室が4割を超えていた「二宮団地」(中郡二宮町:1962年造成着工)では所有するさまざまなデータを総合的に判断して、「残す18棟」と「壊す10棟」とを選別しました。その結果、取り壊しが決まった棟にお住まいの人には、同じ団地内の別の棟に移転してもらったといいます。残すと決めた「二宮団地」の棟では、内装や設備を改善したプランにより、今の暮らしにあわせた住宅としたほか、内装に地域木材を活用したリノベーションプランや一定の要件の中で原状回復不要のセルフリノベーションプランなど、二宮団地独自仕様の住宅も導入しました。
音楽を活用したコミュニティの活性化や団地内の公社所有地を活用した共同菜園、また、公社所有の共同農園の管理や農業体験イベントの開催などに協力することを条件とした「アグリサポーター」制度により就農を応援するなど、さまざまな取り組みに着手。地域住民、町と公社の協同で、団地のPRにとどまらず、二宮町での暮らしの魅力を発信したところ、3年間で約150組の新規入居があったそう。

約70haの二宮団地。新しい里山暮らしを提案(写真提供/神奈川県住宅供給公社)

約70haの二宮団地。新しい里山暮らしを提案(写真提供/神奈川県住宅供給公社)

リノベーション後の二宮団地の部屋の一例(写真提供/神奈川県住宅供給公社)

リノベーション後の二宮団地の部屋の一例(写真提供/神奈川県住宅供給公社)

二宮団地では「アグリサポーター制度」により就農を応援するなどの取り組みが行われている(写真提供/神奈川県住宅供給公社)

二宮団地では「アグリサポーター制度」により就農を応援するなどの取り組みが行われている(写真提供/神奈川県住宅供給公社)

また、「浦賀団地」(横須賀市:1970年着工)では、高齢者が住みにくい4、5階の空室が目立っていることが「データベース」でよりクリアに把握できました。そこで、団地の地域コミュニティの活性化を目的とした「団地活性サポーター制度」を導入。県立保健福祉大学の学生に住んでもらい、大学で学ぶ専門分野を活かし、コミュニティの担い手として活動してもらうことに。ちなみに入居した学生からは「地域コミュニティの経験が少ない環境で育ったからこそ、こうした地域の高齢者とふれあいたい」という声も聞かれるのだとか。

浦賀団地(写真提供/神奈川県住宅供給公社)

浦賀団地(写真提供/神奈川県住宅供給公社)

浦賀団地サポーター(写真提供/神奈川県住宅供給公社)

浦賀団地サポーター(写真提供/神奈川県住宅供給公社)

「相武台団地」(相模原市南区:1964年着工)の取り組みは2019年、記事でもご紹介しましたが、以前は空き店舗の利活用が課題となっていました。イベントの実施や情報発信などにより商店街と団地ににぎわいを取り戻す意志を持った入店者を募集し、現在は「カフェ」、「児童クラブ」などが入店したり、こども食堂が行われたりと、地域を盛り上げています。昨年は子育て層からシニアまで、幅広い世代が集う場として、多目的・多世代交流拠点「ユソーレ相武台」を開設し、さらににぎわいを取り戻すことに成功しています。

相武台団地(写真提供/神奈川県住宅供給公社)

相武台団地(写真提供/神奈川県住宅供給公社)

相武台団地の商店街(写真提供/神奈川県住宅供給公社)

相武台団地の商店街(写真提供/神奈川県住宅供給公社)

ユソーレ相武台(写真提供/神奈川県住宅供給公社)

ユソーレ相武台(写真提供/神奈川県住宅供給公社)

公社ではそれぞれの団地の状況を把握することで、その団地がもつ強み・特色を把握し、それぞれの団地に適した取り組みを実施するようになりました。それにより団地の埋もれていた魅力を掘り起こしたり、新たな価値を付け加えていくことで、「団地」をただ昔の住宅としか捉えていなかった人たちの関心を呼び起こすとともに、団地へ呼び込むことにより、団地を「持続可能な社会」とすることへと模索が続いています。

団地は大きなシェアハウス。再評価の流れに今後も注目

前出の鈴木さんは団地のよさについて「人との距離が近いことにつきます。オートロックのマンションの距離感、一戸建てとの距離感とは違います。階段室があって、住居がある。顔をつきあわせる存在がいる。団地内に商店街や緑、集会所をはじめとする共用スペースがあり、団地そのものが大きなシェアハウスのようなもの」と話します。

二宮団地の共用スペース「コミュナルダイニング」(写真提供/神奈川県住宅供給公社)

二宮団地の共用スペース「コミュナルダイニング」(写真提供/神奈川県住宅供給公社)

確かに! 団地そのもののゆとり、つながりは今でいう「シェアハウス」に近いのかもしれません。
また、神奈川県住宅供給公社の団地では、敷地内の歩車分離や電線地中化がなされていることも多く、まち全体が安全で、空が広く、緑と敷地にゆとりがあります。だからこそ、室内をリノベーションすれば住み継ぐことができるのでしょう。

昭和が残してくれた、暮らしの遺産。「団地」回帰・再評価の動きにこれからも注目していきたいところです。

●取材協力
神奈川県住宅供給公社

賃貸団地をDIY工房に! 世代や地区を超え、DIYが住民をつなぐ!?

この春、大阪府堺市の大規模賃貸住宅団地「茶山台団地」の一角がDIY工房「DIYのいえ」として生まれ変わった。賃貸住戸をあえて工房に転換させた狙いとは?
団地の空き住戸がDIY工房に変身した!

大阪府堺市・泉北ニュータウンにある総戸数930戸の賃貸住宅団地「茶山台団地」、その一角の空き住戸を使い、「賃貸住宅でも行えるDIY」の普及拠点として2019年2月に誕生したのがDIY工房「DIYのいえ」だ。工房スペースがあり、工具の貸し出し、ワークショップや相談室が随時行われるほか、関連書籍やDIY作品見本の展示、団地サイズに合わせたDIYパーツの販売も行われている。

ワークスペースには電動ノコギリや各種ツールも完備(写真撮影:井村幸治)

ワークスペースには電動ノコギリや各種ツールも完備(写真撮影:井村幸治)

団地の1階、2住戸を利用して「DIYのいえ」がつくられている(写真撮影:井村幸治)

団地の1階、2住戸を利用して「DIYのいえ」がつくられている(写真撮影:井村幸治)

大阪府住宅供給公社の小原旭登氏も「公社ではDIYを施した部分の原状回復義務を緩和する『団地カスタマイズ』制度があり、入居者にはDIYをある程度残したままでも退去可能なので気兼ねなくチャレンジいただけます。2017年1月の開始から約2年間で225件の申し込みがありました」と注目度の高さを語る。
「DIYのいえ」は周辺住民や入居検討中の人など、団地住民以外の利用も可能なので、地域コミュニティを活性化させる拠点になることも期待されているようだ。
実際に2月16日のオープニングには電動ノコ体験や子ども向けのワークショップも行われ、多くの人でにぎわった。

2月16日オープン時には女性も電動ノコギリに挑戦、子どもたちはフォトフレームづくりに参加(写真提供:大阪府住宅供給公社)

2月16日オープン時には女性も電動ノコギリに挑戦、子どもたちはフォトフレームづくりに参加(写真提供:大阪府住宅供給公社)

畳スペースにはおもちゃも用意されている(写真提供:大阪府住宅供給公社)

畳スペースにはおもちゃも用意されている(写真提供:大阪府住宅供給公社)

団地外からも参加者が! 早くもコミュニティ誕生の兆し

3月16日には「内窓フレームづくり体験」のワークショップが開催された。内窓フレームとは、既存窓の内側に簡易的な窓を追加することによって空気層をつくり、結露対策や断熱性のアップ、防音効果を高めようというもの。

戸車付きの内窓フレームキット「I・W・F」を使い、ワーク用に用意されたミニサイズの窓枠に合わせて製作を進める。手順は
1)メジャーでサイズを測り、プラスチックとアルミ製のフレームを金ノコなどで切断していく。
2)バリ(切断面の出っ張り)をやすりで削って組み立て、フレームの枠をつくる。
3)プラ板(中空ポリカーボネート)をカットし、両面テープでフレームに貼り付けていく。
4)戸車を付けて内窓フレームに設置…という流れだ。

作業自体は難しくないが、金ノコでアルミを切断する作業は女性陣が少し苦戦していた(写真撮影:井村幸治)

作業自体は難しくないが、金ノコでアルミを切断する作業は女性陣が少し苦戦していた(写真撮影:井村幸治)

子ども連れで参加された団地の住人Aさんに感想をお聞きした。
「DIYはほとんど経験がなく、アルミを切るのは大変だったけど、もっとやってみたいと思いました。子どもが小さくても遊べるスペースがあるので助かります! 団地の友人たちも参加したいって言っていますし、次回もテーマと時間が合えばぜひ参加したいです!」とのこと。

フレームの下に戸車を付けるときにはピッタリとはまって「おおーっ!」という歓声が♪(写真撮影:井村幸治)

フレームの下に戸車を付けるときにはピッタリとはまって「おおーっ!」という歓声が♪(写真撮影:井村幸治)

もうひと組の参加者、団地外から参加されたというBさんご夫妻は十数年間のアメリカ在住経験があるそう。「アメリカでは DIY が当たり前でした。現在は近くの一戸建て住宅に住んでいるのですが、賃貸なのであまり大きくDIYができません。ワークショップがあることを Facebook で知って参加したのですが、こんな内窓のキットがあるなんて知らなかった! 今後もいろいろやってみたいと思います」とのこと。

金ノコなど工具の扱いも手慣れたご様子(写真撮影:井村幸治)

金ノコなど工具の扱いも手慣れたご様子(写真撮影:井村幸治)

ワークは約1時間で終了し、無事に内窓が完成!
その後Bさんは「内窓フレームにはプラ板ではなくて網を貼って網戸にしてもいいかも。すりガラスタイプにすれば間仕切りにもできるし、シェルフの目隠しにもなりそう!」と、思いついたアイデアを相談されていた。 

素晴らしい!  

DIYは決められたやり方にこだわる必要はない。自分でどんどんアイデアを加えてオリジナリティーを出していけばいい、それが DIYの魅力だ 。今後はさらにコミュニティが広がり、より個性あふれる作品が誕生するのではないだろうか。みなさん、頑張って!

DIYの普及とともに、シニア層の活躍の場づくりを目指す

今回取材を行った茶山台団地は大阪府住宅供給公社が管理する全28棟の大規模賃貸住宅団地だ。1971年に入居が開始され、約800戸の入居世帯のうち契約名義人65歳以上の世帯が46%を占めるなど(2019年1月時点)入居者の高齢化が進んでいる。団地の一室を利用した惣菜屋さん「やまわけキッチン」、野菜などの移動販売「ちゃやマルシェ」、集会所を利用した「茶山台としょかん」、DIYリノベーションスクールの開催やDIYリノベーション住戸の賃貸募集、2住戸を合体させた「ニコイチ」の募集など、さまざまな「団地再生プロジェクト」が実施されているモデル団地でもある。

一方で、大阪府住宅供給公社の小原旭登氏は今後の課題を以下のように述べた。「ただ、利用者は40代までの若年層が中心で、団地居住者の半数以上を占める60代以上のシニア世代には浸透していないのが現状です。だからこそ、「DIYのいえ」を拠点とした世代間の交流を促し、将来的には団地居住のシニア層にこの施設のスタッフとして活躍してもらうことで、生きがいづくりにもつなげていければと考えています」

DIYで仕上げた突っ張りタイプのツールを使ったデスク&テレビ台の組み立て見本が展示されている(写真撮影:井村幸治)

DIYで仕上げた突っ張りタイプのツールを使ったデスク&テレビ台の組み立て見本が展示されている(写真撮影:井村幸治)

団地押入れサイズにDIYで仕上げた収納用カート(写真撮影:井村幸治)

団地押入れサイズにDIYで仕上げた収納用カート(写真撮影:井村幸治)

トイレの壁面を利用した収納スペースなどDIYのヒントもたくさん(写真撮影:井村幸治)

トイレの壁面を利用した収納スペースなどDIYのヒントもたくさん(写真撮影:井村幸治)

団地のキーマンにも参加してもらい、技術を継承していきたい

「DIYのいえ」の運営を担当しているカザールホーム代表の中島久仁氏も、
「もっともっとDIY が浸透してほしいと思い、試行錯誤しながら活動しています。ここではツールのレンタルもおこなっていますが、団地内の DIY だけを考えるサンダーや丸ノコといった本格的な工作ツールは必要なく、もっとシンプルなツールだけでもいいのかもしれません。そこも含めて試行錯誤中です」と展望を語る。

「団地に暮らすシニアには、現役のときにさまざまな分野でプロ&職人として活躍された方もいらっしゃいます。そうした人たちの技を、若い人たちに伝えていけるような場になればいいと思っています。団地内の惣菜屋さん「やまわけキッチン」のDIY改装をサポートさせていただいた際には団地住民のリーダー的な方がいらっしゃいました。そんなキーマンとなる方と一緒に活動していきたいと考えています」(中島氏)

「DIYのいえ」はひとまず8月までの期間限定での活動だ。今回のワークショップにも高齢者の女性の方が見学に訪れていたが、DIYがちょっと気になっているけど、きっかけがない……という人もいるだろう。そんな人たちが気軽に参加してくれるようになれば、地域のDIYコミュニティも拡大し新たな活動へとつながっていきそうだ。

若い人からシニア世代まで、それぞれの人の暮らしをもっとより良いものに変えていきたいとおっしゃる中島氏(写真撮影:井村幸治)

若い人からシニア世代まで、それぞれの人の暮らしをもっとより良いものに変えていきたいとおっしゃる中島氏(写真撮影:井村幸治)

北側の部屋には養生用のビニールシートも用意されており、塗装やペンキ塗りの作業にも活用できる(写真撮影:井村幸治)

北側の部屋には養生用のビニールシートも用意されており、塗装やペンキ塗りの作業にも活用できる(写真撮影:井村幸治)

DIYで仕上げたボックス(写真撮影:井村幸治)

DIYで仕上げたボックス(写真撮影:井村幸治)

世代やライフスタイルを超えたDIYのつながりで、暮らしを豊かに

この先、「DIYのいえ」では襖張りやペンキ塗り、壁塗りのワークショップも予定されている。日程が合えば工房としても利用でき、工房前の駐車場も利用可能。大きな材料を持ち込んだりまた運び出したりということもできるそうだ。

ワークショップの参加者には友人を誘いたいという人もいれば、アメリカのDIY文化に触れたことがある人もいた。DIYに興味をもつ若年層だけでなく、豊富な人生経験や匠の技をもつ団地住民、周辺に暮らすさまざまなライフスタイルの地域住民が「DIYのいえ」を通じてつながっていくことできれば素敵なことだと思う。それぞれの暮らしが豊かに変わっていく拠点、コミュニティの中心となる場所。そんな役割を「DIYのいえ」が担ってくれることに期待したい。

●店舗情報
「DIYのいえ」
堺市南区茶山台2丁1番 茶山台団地16号棟1階101・102号室
運営時間やワークショップについてはこちら
https://www.facebook.com/diynoie/
TEL:0120-45-8540●内窓フレームに関してのお問い合わせ
和気産業株式会社 EC事業部(直通)
TEL:06-6723-5060(平日9:30~17:00)

団地の一室に惣菜屋さん!? 「やまわけキッチン」がつなぐ住民の絆

大阪府堺市・茶山台団地の一室に、イートインもできるお惣菜屋さん「やまわけキッチン」が2018年11月にオープンした。クラウドファンディングを活用し、住民たちがDIYでリノベーションをした部屋へ、にぎわいぶりを取材してきた。
ここが団地の一室? 味わいあるカフェのような惣菜とランチのお店

「やまわけキッチン」は大阪府堺市、泉北ニュータウンの一角にある茶山台団地21棟1階の角部屋に2018年11月5日オープンしたばかり。オープン初日には約100名の来場があるなど、にぎわいをみせているそうだ。その人気の秘密を探るべく、12月の土曜日にお店を訪ねてみた。

(左)南側のベランダ面と(右)北側の玄関面にある立て看板が目印(写真撮影:井村幸治)

(左)南側のベランダ面と(右)北側の玄関面にある立て看板が目印(写真撮影:井村幸治)

丘陵地にある団地のなかでも見晴らしの良い場所に建つ21棟に着くと、「やまわけキッチン」の看板が目に入ってくる。数段の階段を上り玄関ドアを開けると「本日のお惣菜」のメニューボード。その奥にはお総菜や調理パン、そして野菜などが展示販売されている。南側のバルコニーに面した明るいスペースにはキッチンとテーブル席とレジ、北側には座卓の客席スペースがある。

ベランダに面したところにあるキッチンとテーブル席(写真撮影:井村幸治)

ベランダに面したところにあるキッチンとテーブル席(写真撮影:井村幸治)

玄関を開けると本日のメニューがある(写真撮影:井村幸治)

玄関を開けると本日のメニューがある(写真撮影:井村幸治)

その横にはお惣菜と野菜類(写真撮影:井村幸治)

その横にはお惣菜と野菜類(写真撮影:井村幸治)

さっそくランチをいただくことに。選んだのは「やまわけ盛り定食」700円。週替わり献立で、この日はひじきの煮物、チキンのトマト煮、五目豆、かき揚げのおかずとご飯、お味噌汁。お惣菜を単品で追加もできるし、うどんも別メニューである。

「やまわけ盛り定食」700円は野菜中心の健康的なメニューで“おふくろの味”(写真撮影:井村幸治)

「やまわけ盛り定食」700円は野菜中心の健康的なメニューで“おふくろの味”(写真撮影:井村幸治)

優しくて、ちょっと懐かしい味を美味しくいただいたころ、続々とお客さんが増え始める。
老人会の役員を務めている男性、その知り合いの人々、小学生の子ども、そして家族連れの親子……。団地の一室なので、それほど広くない空間はいつのまにか、満席の状態に。確かに、なかなかのにぎわいぶりだ!

お昼時にはお客さんで満席に。写真は北側の客席(写真撮影:井村幸治)

お昼時にはお客さんで満席に。写真は北側の客席(写真撮影:井村幸治)

買い物難民の解消、コミュニティの再創生をめざして住民が立ち上がる

茶山台団地は大阪府住宅供給公社が管理する総戸数936戸の賃貸住宅。昭和40年代から開発が進み、当初は多くのファミリー世帯が暮らす団地であったが、現在は約800戸の入居世帯のうち4割以上は名義人が65歳以上の世帯、65歳以上の単身世帯も70戸を超えるなど(2018年12月現在)、高齢化が進んでいる。

なぜ、団地の一室にこんなお店をつくったのか? 「やまわけキッチン」が登場した経緯を大阪府住宅供給公社の笹井純氏にお聞きした。

「団地近くにはスーパーや飲食店がなく、また団地は丘陵地に位置しており、移動手段をもたない高齢者にとっては、最寄駅となる泉ヶ丘駅の商業施設やコンビニなどへは徒歩で20分以上かかるため、買い物支援が課題となっていました。近隣スーパーが閉店して食料品やお総菜を買う場所もなくなったという単身居住者の声もお聞きし、何か良い方法はないかと思案していたところでした」と笹井氏。

毎週土曜日に行われている「ちゃやマルシェ」(写真撮影:井村幸治)

毎週土曜日に行われている「ちゃやマルシェ」(写真撮影:井村幸治)

一方、茶山台団地では集会所を活用したコミュニティ支援事業の拠点として「茶山台としょかん」が2015年11月に開館し、2016年5月からは野菜などの移動販売「ちゃやマルシェ」がスタートするなどコミュニティづくりの仕掛けがすでに動き始めていた。またDIYリノベーションスクールの開催やDIYリノベーション住戸の賃貸募集、2住戸を合体させた「ニコイチ」の募集など、さまざまな団地再生プロジェクトが活発に動いている土壌もあった。

「茶山台としょかん」(写真撮影:井村幸治)

「茶山台としょかん」(写真撮影:井村幸治)

月に1回行われる「ゼロ円マーケット」(写真撮影:井村幸治)

月に1回行われる「ゼロ円マーケット」(写真撮影:井村幸治)

DIYにはのべ181人の住民が参加、クラウドファンディングも活用!

公社から委託を受けて「茶山台としょかん」の運営を担ってきたNPO法人SEIN(サイン)代表理事の湯川まゆみさんは語る。
「茶山台としょかんでは、子どもたちが本を読んだり宿題を片付けたりするばかりでなく、衣類や雑貨の交換会「ゼロ円マーケット」なども実施してコミュニティづくりの活動を続けてきました。そのなかでよくお聞きしていたのは、食べ物を買える場所が欲しい、子どもたちが安心して食べられる場所も欲しい……といった住民の声でした。これまでの活動の枠を超えて、食を通じて住民のみなさんが仲良くなれる場所、暮らしが便利になる場所をつくりたいと思い立ったのです」

NPO法人SEIN(サイン)代表理事の湯川まゆみさん(写真撮影:井村幸治)

NPO法人SEIN(サイン)代表理事の湯川まゆみさん(写真撮影:井村幸治)

間仕切りや展示棚もすべて住民のみなさんのDIY!(写真撮影:井村幸治)

間仕切りや展示棚もすべて住民のみなさんのDIY!(写真撮影:井村幸治)

買い物支援の課題を解決するだけでなく、コミュニティづくりの夢をかなえるために「やまわけキッチン」の設立計画がスタートしたのは2017年11月。改築資金はクラウドファンディングの活用と一般財団法人ハウジングアンドコミュニティ財団の助成金を活用し、公社は2020年3月までは無償で部屋を貸し出すかたちでこのプロジェクトをサポートしている。店舗づくりのリノベーション作業はのべ181人の住民が参加してのDIYで完成させた、手づくり感満載のお店だ!

美味しさの秘密は地元の食材と、味付けの工夫!

「やまわけキッチン」を訪ねてみて、にぎわいの秘密をいくつか発見した。
●魅力その1
みんなに当事者意識が強いこと。
老人会の役員を務める川野さん(78歳)がおっしゃった「みんなでつくったんやから、つぶすわけにはいかへんからな」と言う言葉が耳に残っている。運営するスタッフだけでなく、お客さんである住民にも「自分たちでつくりあげた場」という想いが強いことが、にぎわいを継続させる秘密になるのだと思う。

「明日は老人会主催の餅つき大会をやります!」と熱く語ってくれた川野さんは子どもたちの見守り活動にも参加している(写真撮影:井村幸治)

「明日は老人会主催の餅つき大会をやります!」と熱く語ってくれた川野さんは子どもたちの見守り活動にも参加している(写真撮影:井村幸治)

●魅力その2
料理が美味しいこと。
この日のメニューはひじきの煮物、チキンのトマト煮、五目豆、コロッケ、かき揚げなど煮込み料理や揚げ物など家庭料理が中心。家族大勢で暮らしていたころはつくっていた煮込み料理も、1人暮らしになると面倒でつくらなくなったという声をよく聞く。「たくさんつくらないと美味しくないし」という人もいる。だから、あえて家庭の味を思い出させるようなメニューにしている。

(写真撮影:井村幸治)

(写真撮影:井村幸治)

(写真撮影:井村幸治)

(写真撮影:井村幸治)

ただし、おからサラダにも粒マスタードをいれるなど、味付けにはひと工夫している。そうすることで「この味付け、どうやってるの?」というコミュニケーションが生まれるという。さらに、食材にはできるだけ地元の産品を使っている。お米は近くの上神谷(にわだに)で取れたお米、天ぷらのニンジンは住民が畑で育てて間引きしたもの、といった具合だ。

●魅力その3
居心地がいいこと。
高台に位置するお部屋には暖かな日差しが降りそそぎ、窓からは遠く葛城山を見渡せる景色がひろがる。1階住戸だが空が抜けていて気持ちがいい。心地よいBGMが流れ、対流式ストーブの炎にも癒やされるカフェのような空間だ。

ふらっと訪ねると誰か知り合いがいて世間話が始まりそうな「丘の上の惣菜屋さん」、それが「やまわけキッチン」の魅力だ。

団地の斜面で栽培されているレモン。泉北の季候はレモン栽培に向いているそうで、特産品化を目指している!(写真撮影:井村幸治)

団地の斜面で栽培されているレモン。泉北の季候はレモン栽培に向いているそうで、特産品化を目指している!(写真撮影:井村幸治)

喜びや楽しみを「やまわけ」できる場所へ

出足好調な「やまわけキッチン」だが、にぎわいを継続&拡大させていくことがこれからの課題になりそうだ。団地の部屋には鉄の扉がついており、歳を重ねると扉を開けて出かけていくのが億劫になるもの。「やまわけキッチン」に興味はあるのだけど、扉を開けて中に入るのはちょっと勇気がない……、という人もまだいるようだ。老人会の川野さんも「知り合いを誘って、少しずつ仲間を増やしている。週に一度でも通ってくれる人が増えるとうれしい」とおっしゃる。

「やまわけキッチンには、もっと多くの方に通っていただきたいと思っています。ここで感じたうれしい気持ちを、住民のみなさんとわたしたちで“やまわけ”できる場にしていきたいです」とNPO法人SEINの湯川さんは語る。

子どもから高齢者まで、団地の住民みんなが喜びや楽しみをシェアできる場所として「やまわけキッチン」がにぎわい続けることを願いたい!

●店舗情報
丘の上の惣菜屋さん「やまわけキッチン」
堺市南区茶山台2丁1番 茶山台団地21棟1階302号室
営業時間:月・火・金・土 11:00~15:00