赤羽VS川口、葛西VS浦安 川を越えると家賃は下がる? 東京の端VSとなり街を調査してみた

東京へは毎年多くの人が移り住む。利便性もさることながら、東京に住むこと自体に憧れを抱く人もいるのではないだろうか? しかし、その人気ゆえ必然的に家賃も高くなる。
もし、東京というステータス(?)にさほどこだわりがないのであれば、「東京のとなり街」に住むという選択肢もアリなのではないだろうか? 都心の利便性を享受しつつ、県境を一歩越えるだけで家賃もグッと安くなったりするものだ。おそらく住み心地だって、そう大きくは変わらないのでは?
そこで、東京の端っこに位置する街とそのとなり街を実際に歩き、両街の「生活環境」を比較してみることにした。
【埼玉編】赤羽(東京の端っこ)VS川口(そのとなり街)

というわけで、今回は埼玉寄り、千葉寄り、神奈川寄りの東京の端っこの街と、それぞれのとなり街を比較してみようと思う。
まずは、東京都北区の「赤羽」と、そのとなり街にあたる埼玉県「川口」をチェックしていく。

■「赤羽」(東京の端っこ)の生活環境は?

赤羽を代表する飲み屋ストリート「一番街」(写真撮影/小野洋平)

赤羽を代表する飲み屋ストリート「一番街」(写真撮影/小野洋平)

荒川を隔てて埼玉県に接する東京都北区赤羽。ディープな飲み屋がひしめいているイメージだが、実は生活利便性も優れている。今年の「SUUMO住みたい街ランキング」では19位、「SUUMO穴場だと思う街ランキング」では2位に輝いた。

赤羽駅西口駅前(写真撮影/小野洋平)

赤羽駅西口駅前(写真撮影/小野洋平)

まず、特筆すべきは買い物環境の充実ぶり。飲食店や雑貨店が入る駅中の「エキュート赤羽」や駅直結のショッピングセンター「ビーンズ赤羽」、さらには「赤羽アピレ」、「ビビオ」、「イトーヨーカドー赤羽店」など、多種多様なショッピング施設が駅前に大集結しているのだ。

赤羽駅東口駅前(写真撮影/小野洋平)

赤羽駅東口駅前(写真撮影/小野洋平)

また、駅徒歩5分圏内にはドラッグストアや100円ショップ、八百屋、魚屋もあり、買い物の選択肢は多様だ。仮にひいきにしているスーパーが閉店してしまったとしても、第二、第三の選択肢があるのは心強い。

赤羽公園近くのマンション群(写真撮影/小野洋平)

赤羽公園近くのマンション群(写真撮影/小野洋平)

住環境はどうだろう。一番街周辺には一人暮らし向けのマンションやアパートが多い印象。一方、東口の繁華街を抜けると、ファミリー向けのマンションが立ち並び、静かな住宅エリアとなっている。周辺には、荒川の河川敷や赤羽自然観察公園もあり、豊かな自然環境も魅力だ。

赤羽駅のホーム(写真撮影/小野洋平)

赤羽駅のホーム(写真撮影/小野洋平)

そして、なんといっても最大の魅力は抜群の交通アクセス。JR京浜東北線、埼京線、湘南新宿ラインなど複数路線が利用でき、乗り換えなしで池袋まで10分、新宿まで16分、東京まで19分だ。赤羽駅から10分ほど歩けば、南北線の赤羽岩淵駅も利用可能。さらに都内からの終電時間は遅く、池袋からは深夜バスが出ている。深い時間まで足があるのは有難い。

そんな赤羽の家賃相場だが、シングル向けの部屋(ワンルーム・1K・1DK 以下同)で7.7万円。ここ数年、テレビドラマの舞台になるなど注目を集めたこともあり、若干お高めの相場観である。

■「川口」(東京のとなり街)の生活環境は?

川口駅西口駅前(写真撮影/小野洋平)

川口駅西口駅前(写真撮影/小野洋平)

一方、こちらは赤羽のとなり街、川口。埼玉きってのベッドタウンだ。ちなみに、家賃相場は7万円ジャスト。赤羽からたった一駅なのに7000円もの差である。これが東京の壁なのか……。

さっそく駅前を見てみよう。

川口駅西口駅前(写真撮影/小野洋平)

川口駅西口駅前(写真撮影/小野洋平)

まずは、高層マンションが建ち並ぶ西口。十数年前から街の再開発が進んだ結果、街中の道幅は広く、街路樹も整備されて心地よい景観。全体的に穏やかな雰囲気が漂っている。

川口駅西口ロータリー。花壇の手入れも行き届いている(写真撮影/小野洋平)

川口駅西口ロータリー。花壇の手入れも行き届いている(写真撮影/小野洋平)

川口駅東口駅前(写真撮影/小野洋平)

川口駅東口駅前(写真撮影/小野洋平)

一方、反対側の東口は一大商業エリア。赤羽に負けない充実ぶりだ。特に、老舗百貨店の「そごう」をはじめ、ジムやエステなどが入った「キャスティ」、図書館や保育園が入った「キュポ・ラ」など、大型ショッピング施設が目を引く。

さらに、かつて川口の一大産業だった鋳物工場の跡地には「イオンモール川口前川」「ララガーデン川口」「アリオ川口」「ミエルかわぐち」など、多くのショッピングモールも誕生している。

東口のペデストリアンデッキ。大型商業施設が点在する(写真撮影/小野洋平)

東口のペデストリアンデッキ。大型商業施設が点在する(写真撮影/小野洋平)

駅前の各商業施設は西口と東口を結ぶペデストリアンデッキで行き来することができ、バス乗り場にも簡単にアクセスができて便利だ。

東口に設置されたバス専用の掲示板(写真撮影/小野洋平)

東口に設置されたバス専用の掲示板(写真撮影/小野洋平)

バス路線も充実している川口らしく、バスの運行情報をぎゅっと集めた専用コーナーも設けられていた。

鉄道アクセスは赤羽に劣るものの、買い物環境や街の発展度などは川口も負けていない。家賃の安さを考えれば、「東京のとなり街」である川口に住むのもアリだろう。

【都心までのアクセス比較】
・赤羽―池袋 10分・154円
・川口―池袋 20分・165円

【家賃相場比較】
・赤羽駅 7.7万円
・川口駅 7.0万円【千葉編】葛西(東京の端っこ)VS浦安(そのとなり街)

続いて、(千葉寄りの)東京の端っこ「葛西」と、そのとなり街である「浦安」(千葉県)を比較してみよう。

■「葛西」(東京の端っこ)の生活環境は?

葛西駅前のバスロータリー(写真撮影/小野洋平)

葛西駅前のバスロータリー(写真撮影/小野洋平)

東西線が発着する葛西駅は環七通り沿いに位置しており、駅前には広々と開放的な空間が広がっている。羽田空港や東京ディズニーランドへのバス便もあり、アクセス環境はなかなか充実しているようだ。

ちなみに、葛西には友人が住んでいる。せっかくなのでお話を聞いてみた。

葛西在住歴4年のHさん(写真撮影/小野洋平)

葛西在住歴4年のHさん(写真撮影/小野洋平)

「葛西に住むなら自転車かバスの移動が便利だと思います。駅前に大きなショッピング施設はないんですが、街中には24時間営業のスーパーや安い飲食店がけっこう点在しているんですよ」

高架下の商店街「メトロセンター葛西」。書店やスーパー、飲食店が並ぶ(写真撮影/小野洋平)

高架下の商店街「メトロセンター葛西」。書店やスーパー、飲食店が並ぶ(写真撮影/小野洋平)

Hさんの証言通り、これといった商店街や大型商業施設はないものの、駅周辺や住宅街に近いエリアにひと通りのものはそろっていた。旧江戸川の河川敷も近く、そのまま南へ3kmほど下ると葛西臨海公園へ行ける(自転車なら15~20分程度)。ランニングや散歩コースとしてもちょうどいい距離感だ。家賃相場も6.7万円と、先ほどの赤羽と比べて1万円安い。

■「浦安」(東京のとなり街)の家賃相場は?

浦安駅南口(写真撮影/小野洋平)

浦安駅南口(写真撮影/小野洋平)


旧江戸川を越えて千葉県に位置する浦安駅はどうだろうか。駅前にはビルが点在していて、葛西よりもギュっと商業エリアが密集している感じだ。高架下には「浦安メトロ・グルメショッピングセンター」があり、居酒屋を中心にさまざまな飲食店が集まっている。

メトロセンターの飲食街(写真撮影/小野洋平)

メトロセンターの飲食街(写真撮影/小野洋平)

また、駅近くの南口商店会には24時間営業のスーパーや100円ショップ、カラオケなどが。生活のための買い物や外食、遊びまで駅周辺で完結するコンパクトさは魅力的だ。駅徒歩3分の場所には「浦安魚市場」もあり、プロが目利きした新鮮な魚が手に入る。スーパーではなかなかお目にかかれない珍しい魚や高級魚も買えるので、料理好きには重宝するだろう。

首都高速へ続く、やなぎ通り(写真撮影/小野洋平)

首都高速へ続く、やなぎ通り(写真撮影/小野洋平)

駅前の商業空間を抜けると、幹線道路「やなぎ通り」が走り、このあたりには住宅も点在している。

あくまで筆者の所感ではあるが、駅前に関しては浦安の方がお店が多い印象だ。これで家賃も安ければと思ったが、東西線の快速が停車することもあってか、相場は6.8万円でなんと東京の葛西よりも1000円高いという結果に。とはいえ、快速も停まり、駅前の充実ぶりや市場の存在、さらには葛西と同様に江戸川が至近の自然環境などを考慮すれば、なかなかリーズナブルであるといえる。

【都心までのアクセス比較】
・葛西―大手町 20分・195円
・浦安―大手町 23分・237円

【家賃相場比較】
・葛西駅 6.7万円
・浦安駅 6.8万円おまけ:【神奈川編】町田(東京の端っこ)VS相模大野(東京のとなり街)

ちなみに、神奈川寄りの東京の端っこである「町田」と、そのとなり街「相模大野」もチェックしてみた。

こちらは「町田」の駅前通り。駅前の商業施設は充実している。家賃相場は6.1万円(写真撮影/小野洋平)

こちらは「町田」の駅前通り。駅前の商業施設は充実している。家賃相場は6.1万円(写真撮影/小野洋平)

一方、こちらは「相模大野」。駅ビル「ステーションスクエア」にはスーパーや飲食店、ドラッグストア、家電量販店などが入っている。さらに、北口には「伊勢丹」、「モアーズ」、そして約180店舗が入る商業施設「ボーノ」も。買い物環境は町田と遜色ない印象。家賃相場は5.1万円と1万円安い(写真撮影/小野洋平)

一方、こちらは「相模大野」。駅ビル「ステーションスクエア」にはスーパーや飲食店、ドラッグストア、家電量販店などが入っている。さらに、北口には「伊勢丹」、「モアーズ」、そして約180店舗が入る商業施設「ボーノ」も。買い物環境は町田と遜色ない印象。家賃相場は5.1万円と1万円安い(写真撮影/小野洋平)

【都心までのアクセス比較】
・町田―新宿 38分・370円
・相模大野―新宿 41分・370円

【家賃相場比較】
・町田 6.1万円
・相模大野 5.1万円

というわけで今回3つのエリアを比較してみたが、赤羽VS川口は交通利便性は赤羽に軍配が上がったが、商業施設はどちらも充実しており、家賃相場は赤羽が7000円高いという結果に。町田VS相模大野は、どちらも商業施設が充実しているものの、相模大野のほうが家賃は1万円も安い。しかし葛西VS浦安は、浦安の方が1000円家賃が高いことが判明。川を越えればどこでも家賃が下がる、というわけではないのだ。

もちろん都心までの距離、移動時間やそれに伴う交通費は川を越えた方が遠くなるが、
無理に東京にこだわらなくても、街の雰囲気や家賃相場によっては、「東京」のとなり街を選ぶのもありだと思う。

●調査概要
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、10平米~40平米 、定期借家のぞく 、住戸名寄せあり、管理費込み、ワンルーム/1K/1DK、築35年以下、物件数11件以上
【調査期間】2018年3⽉1⽇~2018年5⽉31⽇
【家賃の算出⽅法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を除く⽉額賃料から中央値を算出(随時更新のため、物件数は変動の可能性があります)
【乗車時間の算出方法】『Yahoo!乗換案内』を使用。2018年6月20日時点で「2018年7月2日(月)8:30までに都心駅に到着」を指定し検索した結果。(列車種別ごとに乗車時間は算出していません)

「街の達人」地理人に聞いた! 引越し先に悩むSUUMO編集部員が住む街は?

空想だけで一つの都市をつくり上げ、それを超リアルな地図に落とし込む人がいる。“地理人(ちりじん)”こと今和泉隆行(いまいずみ・たかゆき)さんだ。実際にはどこにも存在しない、でも、どこかにありそうな空想都市「中村市(なごむるし)」。その極めて精巧な地図をつくり上げることに情熱を注いでいる。
ベースには、全国津々浦々の土地を自らの足で歩き通し、実際に見聞きしてきた「街」についての膨大な知見がある。そのため、引越し先についてアドバイスを求められることも多いそうだ。
そこで、街選びに悩むSUUMO編集部員が今和泉さんを直撃。ズバリ、「どこに住めばいいか」聞いてみた。

落書きの延長から始まった、超リアルな空想地図

まずは、今和泉さんの空想都市「中村市」の地図をご覧いただこう。

【画像1】そこに暮らす人々の生活の匂いが感じられるような、中村市の地図。現在も街は成長過程にあるという(画像提供/地理人)

【画像1】そこに暮らす人々の生活の匂いが感じられるような、中村市の地図。現在も街は成長過程にあるという(画像提供/地理人)

【画像2】自宅には壁一面を覆い尽くすほどの紙の地図もあった。手前の掃除機と比較すると、その巨大さがよく分かる(撮影/榎並紀行)

【画像2】自宅には壁一面を覆い尽くすほどの紙の地図もあった。手前の掃除機と比較すると、その巨大さがよくわかる(撮影/榎並紀行)

今和泉さんが、空想地図を描きはじめたのは7歳のころ。当初は「落書きの延長だった」と振り返るが、現在まで25年余の歳月をかけ制作しているその地図は、本物の都市と見紛うばかりだ。現在は、ドラマや番組の小道具として架空の地図を制作するほか、国内最大手の地図情報会社ゼンリンのアドバイザーをしていたこともある。

【画像3】地理人こと今和泉さん(撮影/榎並紀行)

【画像3】地理人こと今和泉さん(撮影/榎並紀行)

今和泉さんが描く空想地図の凄さは、地図の元になる空想土地の歴史やバックグラウンドまでしっかり想像して創られているところ。例えば、中村市の場合は

今和泉さん「中村市は、(空想都市における)首都『西京』の南30kmほどに位置する、人口156万人の都市です。もともと街道の分岐点だったこともあって、人が集まる土地でした。100年以上前には、城が建てられてにぎわいをみせました。川沿いで肥沃な土があり、農業従事者の割合も多かったのですが、首都近郊では珍しい平地が広がっていたころから製造業の工場が進出。それにともない1970年代ごろからニュータウンがつくられ、人口と住宅が増えていきました。製造業で栄えた街ですが、最近は企業の伸び悩みから税収もダウン。産業誘致を頑張っていますが、税収的にはかなりひっ迫していますね」

……という具合。思わず「ありそう!」と声を上げてしまいたくなるほど、緻密に設計されている。都市の規模としては「さいたま市の大宮(埼玉県)とか千葉市(千葉県)っぽい感じ」。

【画像4】空想は留まることを知らず、中村市の不動産チラシまで作成。書体やレイアウトなど、よくある不動産チラシのデザインを踏襲している(撮影/榎並紀行)

【画像4】空想は留まることを知らず、中村市の不動産チラシまで作成。書体やレイアウトなど、伝統的な不動産チラシのデザインを踏襲している(撮影/榎並紀行)

都市計画の知識はもちろん、経済学、社会学、地形、歴史、さまざまな分野をかじり、細部まで練られた「街づくり」が行われているようだ。今和泉さんは「中村市は決して理想の街ではなく、自分が住みたい街というわけでもない」という。「あくまで平均的な大都市です」という中村市に対する冷静な距離感が、絶妙なリアリティを生んでいるのだろう。

今和泉さん「ただの草むらだったところでも、たまたま人の往来が多いところが道になり、その先に重要な目的地があれば街道になり、街ができることもある。土地を開発したほうが嬉しい、あるいは利する人々と、開発しないほうが良い人々といる。色んな思惑が絡み合った結果、絶妙な現実ができあがるんですよ」

【画像5】こちらは中村市の家賃相場。中心部の中村駅周辺でも6.2万円と、相場感も何となく大宮っぽい(撮影/榎並紀行)

【画像5】こちらは中村市の家賃相場。中心部の中村駅周辺でも6.2万円と、相場感も何となく大宮っぽい(撮影/榎並紀行)

なお、現在は中村市を拡張させつつ、首都である「西京」の地図づくりにも着手しているそうだ。

【画像6】空想都市の都心部にあたる西京市。まだ下書き段階だが、今和泉さんの脳内では着々と街づくりが進んでいる(撮影/榎並紀行)

【画像6】空想都市の都心部にあたる西京市。まだ下書き段階だが、今和泉さんの脳内では着々と街づくりが進んでいる(撮影/榎並紀行)

SUUMO編集部員はどこに住むべき? 地理人の街選びアドバイス

今和泉さんはこれまで日本各地のさまざまな街を訪れ、細部に至るまでその特色をインプットし、空気感を肌で感じ、地図づくりに活かしてきた。そのため、各地の長所・短所、どんな人にとって住みやすいかといった分析力・考察力はプロ顔負けだ。

今和泉さん「引越し先についての相談を受けることもあるのですが、その度に感じるのは街の選択肢を狭めている方が多いなあと。人気であるとか、今まで住んだことがある沿線とか、職場の人にすすめられたとか、そこで出てきた二、三の街から選んでしまうのはもったいないですよね」

そこで、今まさに引越しを検討しているSUUMO編集部2名が現実世界でどのような場所に住むべきか、今和泉さんに導き出してもらった。

まずは、編集O(男性)。SUUMOの編集部員でありながら引越し経験がないという26歳だ。現在は実家の板橋区暮らし。練馬区のニュータウンで育った彼女とは高校時代からのお付き合いで、婚約したのを機に新居探しを始めた。希望エリアは東京23区内、2人の職場である東京駅周辺へのアクセスが良い街で検討しているという。

まず、今和泉さんが着目したのはOと彼女が今も実家住まいであること、そして、高校時代から長続きしているカップルであることだ。

今和泉さん「互いに地元から出たことがないという、ある意味保守的な性格に加え、長期交際を貫き通した点を鑑みると、Oさんたちは『安定した暮らし』に対するプライオリティが高いのではないかと思います。このタイプの方は実家の近く、沿線から動きたがらない。となると、実家にアクセスしやすい東京メトロ有楽町沿線や西武池袋線沿線、中央線あたりを選びそうな気もしますが…」

そう今和泉さんがカマをかけると、Oはややドキリとした様子。まさに今、西武池袋線や有楽町線沿線を軸に探している最中だったようだ。

編集O「特に彼女が実家近辺を望んでいるんですよね。東京の城北エリアからあまり動きたがらないんです。でも、中央線は彼女がイヤだと言っています」

今和泉さん「西武線沿線特有の居心地の良さってありますよね。中央線と違って外からあまり人がこないから、空も広いし、窮屈さがないので、彼女さんにとっては落ち着くのだと思います。逆に、中央線沿線のサブカル臭みたいなものは少し苦手なのかもしれませんね」編集O「まさにその通りです! 音楽や映画など文化的なものは好きだけど、いらんサブカル臭は鼻につくっていうタイプですね」

【画像7】今和泉さんの鋭い分析により、内面をズバズバ言い当てられる編集O。でも、なんだかうれしそうだ(撮影/榎並紀行)

【画像7】今和泉さんの鋭い分析により、内面をズバズバ言い当てられる編集O。でも、なんだかうれしそうだ(撮影/榎並紀行)

そうした彼女の意向を踏まえながら、もう少し刺激もほしいというO。「いつもの定食屋の安心感がありつつ、変わったメニューも味わえる街がいい」と、よく分からないことを言う彼に対し、今和泉さんが導き出したのは……

「西武池袋線沿線の『桜台』なんていいと思います。互いの実家にほどよく近く、練馬、江古田というにぎやかな街に挟まれていますが、桜台は小さな商店街が伸びている程度で、駅のすぐそばに静かな住宅街があります。また、職場の最寄りの東京駅へは、池袋で丸ノ内線に1回の乗り換えで行くことができます」

しかし、せっかくの提案にもあまりピンと来ていない様子のO。そんなOに対し、今和泉さんは思考実験として「空想都市」に置き換えて説明してくれた。

「ちなみに中村市でいうと、『出ノ町』のあたりがいいと思いますね。日本で言うJRのようなものと私鉄のようなもの、2つの路線が通っていて都心まで30分程度。市の中心である中村駅にも2駅で行けます。集合住宅とスーパー、緑がそれなりにあって、彼女の実家がある(と仮定)那田沢ニュータウンにも帰りやすい。もちろん、いらんサブカル臭も全くありません(笑)」

編集O「そこならありかも! 日ごろから馴染みのある『桜台』と言われると、自分の先入観で街のイメージをつくってしまいますが、空想都市に置き換えてみると偏見なしに街の良さを考えられますね。おもしろい!」

続いて、自称“引越し魔”という、30歳の編集K(女性)の相談。山梨県甲府市郊外の街から10年前に上京。Oと同じく職場は東京駅周辺だが、渋谷が好きで、会社よりも渋谷に行きやすいことを優先するフシがある(会社にも近ければなおよし)。しかし混雑が苦手で、電車には極力乗りたくない。なお、日常の足は自転車を愛用しており、体力には自信があるという。

この、若干わがままな要望に対しても、今和泉さんはすぐさま回答。

「渋谷が好きだけど、混雑は嫌い……、でしたら『中目黒』あたりは選択肢の一つかもしれません。渋谷まで高低差が少ないルートもあるため、自転車で行きやすい。会社へのアクセスも考慮するなら半蔵門沿線がいいと思います。体力があり、上り坂を気にしないのであれば、『青山一丁目』や同エリアの『外苑前』なんていいと思います。青山通りを真っすぐ進めば渋谷ですし、職場に近い大手町駅へも電車一本でアクセスできます。住宅街としても閑静ですし、意外に掘り出し物の物件も見つかるエリアです」

こちらのご提案に、Kもドキリ。実は中目黒は数カ月前まで住んでいた大好きな街だったという。一流の占い師かなにかのように、ずばずばと言い当てていく今和泉さんに、編集部両名ともたじたじだった。

最後に、住む場所を探すときのワンポイントアドバイスを今和泉さんが授けてくれた。
平日の出勤時間帯や帰宅時間帯、休日の昼下がりなど、そこでの生活をよりイメージしやすい時間帯・シチュエーションをチョイスして歩いてみるといいそうだ。また、日ごろから注意深く街を観察するクセをつけておくと、自分にフィットするか否かが分かるようになってくるという。

【画像08】その街並みが生まれた背景などを想像しながら歩くのが趣味だという(撮影/榎並紀行)

【画像8】その街並みが生まれた背景などを想像しながら歩くのが趣味だという(撮影/榎並紀行)

今回、妄想の世界を飛び出し、現実に存在するエリアとのマッチングを試みてくれた今和泉さん。暮らしの充実を目指すなら、まずは土地を知ること。そんな当たり前のことに改めて気づかせてくれたのだった。

●取材協力
空想都市へ行こう!