若者も高齢者も”ごちゃまぜ”! 孤立ふせぐシェアハウスや居酒屋などへの空き家活用 訪問型生活支援「えんがお」栃木県大田原市

栃木県大田原市で高齢者向けの「訪問型生活支援事業」を行っている一般社団法人えんがお。近隣の高齢者のたまり場としてつくった地域サロン「コミュニティハウスみんなの家」には、年間延べ1500人の高齢者と2500人の若者が訪れます。活動を始めて6年。若者向けシェアハウス、地域居酒屋、障がい者向けグループホームもできました。えんがお代表理事の濱野将行さんに多世代が日常的に交流する「ごちゃまぜのまち」をつくった理由と地域に与えた影響について伺いました。

えんがおの主な活動は、「訪問型生活支援事業」。高齢者の自宅を訪ね、困りごとをお手伝いする(画像提供/えんがお)

えんがおの主な活動は、「訪問型生活支援事業」。高齢者の自宅を訪ね、困りごとをお手伝いする(画像提供/えんがお)

空き家を活用し、地域サロン、シェアハウス、地域居酒屋、グループホームなどを徒歩2分圏内に運営(画像提供/えんがお)

空き家を活用し、地域サロン、シェアハウス、地域居酒屋、グループホームなどを徒歩2分圏内に運営(画像提供/えんがお)

「話し相手になって」という言葉から始まった高齢者の生活支援

「1週間に1回、電話でいいから話し相手になってほしい」

濱野さんが衝撃を受け、えんがおを設立するきっかけになった、あるおばあちゃんの言葉です。

学生時代から社会貢献活動に携わってきた濱野さん。しかし、東日本大震災の支援活動に参加した際、苦しむ人を前にして「何もできなかった」と無力感を抱えたそうです。それから、「社会課題と向き合える大人になること」が、夢になりました。

卒業後、作業療法士をしながら社会貢献活動を続けていましたが、そのなかで、地域の高齢者の孤立の問題を知りました。

「大きな家でひとりぼっち、体を思うように動かせず、誰にも会いに行けず、会いに来てくれる人もいない。同居している家族がいても日中の多くをひとりで過ごし、夜遅く帰ってきた家族との会話もほとんどない。それでも、体がある程度動かせたり、同居家族がいる人は、独居高齢者向けの制度は使えないんです。寝っ転がって天井を見て何日も過ごしている高齢者の姿がありました」(濱野さん)

「今すぐ誰かがやらないと」という思いで、えんがおを立ち上げたのは、25歳のとき。困っている人にダイレクトにすぐに対応できる「訪問型生活支援事業」を始めました。

内容は、買い物代行やゴミ捨て、大掃除などを手伝う高齢者向け便利屋サービス。「生活のお手伝いをする」という手段を用いて、人とのつながりが希薄な高齢者の生活に「つながり」と「会話」をつくるのが目的です。

「自立支援は、やってあげるではなく、ちょっと助けること」と濱野さん。作業の合間に会話が生まれる(画像提供/えんがお)

「自立支援は、やってあげるではなく、ちょっと助けること」と濱野さん。作業の合間に会話が生まれる(画像提供/えんがお)

「やることないから寝てた」と話すおばあちゃんが、会話で笑顔になる(画像提供/えんがお)

「やることないから寝てた」と話すおばあちゃんが、会話で笑顔になる(画像提供/えんがお)

高齢者を地域のプレーヤーに変える

えんがおの特徴は、高齢者宅を訪れる際、学生や若者を一緒に連れて行くこと。「訪問型生活支援事業」で、若者と訪問するのは、えんがおオリジナルの取り組みです。

宇都宮から「訪問型生活支援事業」の見学に来た大学生。遠方からも見学希望がある(画像提供/えんがお)

宇都宮から「訪問型生活支援事業」の見学に来た大学生。遠方からも見学希望がある(画像提供/えんがお)

中学生と高校生のおふざけに笑いが止まらないおばあちゃんたち(画像提供/えんがお)

中学生と高校生のおふざけに笑いが止まらないおばあちゃんたち(画像提供/えんがお)

支援の内容は、窓ふきや草むしり、障子の張り替えなどさまざま(画像提供/えんがお)

支援の内容は、窓ふきや草むしり、障子の張り替えなどさまざま(画像提供/えんがお)

なぜ若者に関わってもらおうと考えたのでしょうか。

「当時発表されていた調査(*)では、日本の若者(満13歳から満29歳まで)で、『将来に対する希望がある』と答えた人の割合は、先進7カ国のなかで最も低い割合でした。2020年は、中高生の自殺者数が過去最多になってしまいました。こういった社会の現状と高齢者の孤立の問題は無関係ではないと思います。一生懸命生きて来た高齢者が孤立したまま生涯を終える社会では、若者が未来に希望なんて抱けるはずがないと感じました」

*「我が国と諸外国の若者の意識に対する調査」(2013年内閣府)

えんがおの常勤スタッフは濱野さんを入れて3名ですが、運営に積極的に関わってくれる学生の「えんがおサポーター」が20名、個人会員や地域の人が100名以上います。

えんがおの講演会や発表会を見て、活動に参加したい! と言ってくれる大学生や高校生も多いという(画像提供/えんがお)

えんがおの講演会や発表会を見て、活動に参加したい! と言ってくれる大学生や高校生も多いという(画像提供/えんがお)

濱野さんと、えんがおの立ち上げから一緒に活動してきた門間大輝さん(写真左)(画像提供/えんがお)

濱野さんと、えんがおの立ち上げから一緒に活動してきた門間大輝さん(写真左)(画像提供/えんがお)

「作業の傍ら学生が話を聞いたり、時にはおばあちゃんに相談したりすることで、高齢者の強みや昔やっていた仕事や趣味が分かります。お掃除が得意。料理が上手。そういう部分を活かして『役割』をつくり、おじいちゃん、おばあちゃんを地域のプレーヤーに変えていきます。例えば、もともと掃除のプロだったおばあちゃんには、学生に掃除を教える指導役になってもらいました。若者も『人の役に立っている』という肯定感を得ることができます」(濱野さん)

2018年にできた地域サロン「コミュニティハウスみんなの家」は、若者と高齢者が交流できる場所です。「高齢者の日中の居場所をつくりたい」えんがおと、「若者の居場所をつくりたい」商工会議所が協働し、20年使われていなかった空き家を、学生たちとDIYでリノベ―ションしました。もともと酒屋だった建物で、通りに面して窓があり、中に人がいることが見える造りです。

2018年からボランティアを募り、集まったメンバーとDIYでつくりあげていった(画像提供/えんがお)

2018年からボランティアを募り、集まったメンバーとDIYでつくりあげていった(画像提供/えんがお)

「年間延べ4000人の訪問者のうち、2500人が地元の高校生や大学生です。2階に学習スペースがあり、勉強に来た学生は、1階のお茶飲みスペースで、おばあちゃんに受付をしてもらい、2階で勉強して、昼休みにはお茶飲みスペースに。一角には、子ども向けの絵本図書館や不登校の学生のプレイスペースがあります。おじいちゃんがお団子をくれたり、おばあちゃんがお茶を入れてくれたり。近くにいることで、自然と、日常的な世代間交流ができたらいいなと思っています」(濱野さん)

地元の人との食事会。学生、大人、おじいちゃんおばあちゃん、障がいのある人が「ごちゃまぜ」で関わり合う(画像提供/えんがお)

地元の人との食事会。学生、大人、おじいちゃんおばあちゃん、障がいのある人が「ごちゃまぜ」で関わり合う(画像提供/えんがお)

2階にある学生向けの勉強スペースは、地元の中高生の常連さんでいっぱい(画像提供/えんがお)

2階にある学生向けの勉強スペースは、地元の中高生の常連さんでいっぱい(画像提供/えんがお)

休み時間、ストーブでお餅を焼いてもらって大はしゃぎする学生たち。「餅を焼くだけでこんなに喜ばれるなんて」とおばあちゃんもにっこり(画像提供/えんがお)

休み時間、ストーブでお餅を焼いてもらって大はしゃぎする学生たち。「餅を焼くだけでこんなに喜ばれるなんて」とおばあちゃんもにっこり(画像提供/えんがお)

地域サロンには、えんがおの事務所もある。大掃除で、おばあちゃんに新聞の縛り方を教わる学生(画像提供/えんがお)

地域サロンには、えんがおの事務所もある。大掃除で、おばあちゃんに新聞の縛り方を教わる学生(画像提供/えんがお)

徒歩2分圏内に地域居酒屋や無料宿泊所、シェアハウスを運営

地域サロンのほかに、「毎日ひとりでごはんを食べている高齢者と週1回ごはんを食べよう」と、地域居酒屋も始めました。建物内に、シェアキッチンやレンタルオフィスもあり、シェアキッチンは月3、4人の利用者がいて、2階のレンタルオフィスは2企業が利用しています。

週2回は地域食堂「てのかご」、毎週土曜日は「たこ焼き居酒屋ちーちゃん」がオープンする(画像提供/えんがお)

週2回は地域食堂「てのかご」、毎週土曜日は「たこ焼き居酒屋ちーちゃん」がオープンする(画像提供/えんがお)

えんがおの活動を知り、全国から見学にやってくる学生や若者は、年々増えています。支援活動に参加した学生は1000人を超え、2019年には、遠方から来る学生向けの無料宿泊所「えんがおハウス」が、2020年には、えんがおサポーターが交流できるシェアハウス「えんがお荘」ができました。

次第に、学生と高齢者を中心に時々子どもがいたり、社会人がいたり、楽しいコミュニティーができていきました。「ごちゃまぜ」にいろいろな世代や立場の人がいることで、お互いにできないことは助け合い、得意なことで支え合うことにつながっています。

ハロウィンイベントで子どもとゲームをして遊ぶおばあちゃん(画像提供/えんがお)

ハロウィンイベントで子どもとゲームをして遊ぶおばあちゃん(画像提供/えんがお)

忘年会では、3歳の子どもから90歳のお年寄り、支援者、学生が入り混じって盛り上がった(画像提供/えんがお)

忘年会では、3歳の子どもから90歳のお年寄り、支援者、学生が入り混じって盛り上がった(画像提供/えんがお)

濱野さんは、これからのまちづくりのキーワードを「混ぜる」と「シェアする」だと言います。

「見学や体験に来る学生には、『自分に自信が持てない』『なにか変わりたい』と考えている人が多いんです。その人の強みを探して、具体的な言葉で伝えるようにしています。最近では、カメラが趣味の学生が来てくれました。写真がテクニック的に上手というだけではなくて、誰かがいい笑顔をしていると走って行って写真を撮っていたんです。全体が見えているし、人もよく見ている。後輩にも適格なことをズバリと指摘できていました。その学生には、ホームページ用の写真を撮ってもらったり、年下の子をサポートしてもらっています。自信がなかった人も、誰かの役に立つことで、少しずつ自分が好きになれるんです」(濱野さん)

毎日来てくれるおばあちゃんの誕生日。「ここがあるからいいの。ここができるまでは苦しかった」という言葉をかけてもらった(画像提供/えんがお)

毎日来てくれるおばあちゃんの誕生日。「ここがあるからいいの。ここができるまでは苦しかった」という言葉をかけてもらった(画像提供/えんがお)

学生たちが参加する「えんがおゼミ」の月例会。社会課題についてどう向き合うか議論。ここから街中にベンチを置くプロジェクトも生まれた(画像提供/えんがお)

学生たちが参加する「えんがおゼミ」の月例会。社会課題についてどう向き合うか議論。ここから街中にベンチを置くプロジェクトも生まれた(画像提供/えんがお)

濱野さんの原点となった福島の復興支援も引き続き行っている(画像提供/えんがお)

濱野さんの原点となった福島の復興支援も引き続き行っている(画像提供/えんがお)

高齢者や若者だけでなく、障がい者も地域と交流できる場所へ

活動をしながら濱野さんは、世代だけではなく、障がいの有無に関わらず過ごせる空間を目指すようになります。「地域に足りていないものは何か」「障がいのある方と関われる入口になるものは?」……そうやって探った結果、障がい者向けグループホームにたどり着きました。

障がい者向けグループホームとは、障がいを抱える人、数人が共同生活しながら、生活するための能力を学んでいく場所です。

制限が多く自由に外出できなかったり、地域とほとんど交流できていない施設が多いと感じた濱野さんは、「えんがおの近くにつくれば、地域の皆で見守って、比較的自由な施設ができるかもしれない」と考えました。

2021年にオープンした障がい者向けグループホーム「ひととなり」は、比較的自立度の高い精神・知的障がいがある人向けの施設です。

「地域居酒屋、シェアハウス、無料宿泊所、グループホームは、地域サロンから徒歩2分圏内です。グループホームの利用者さんが地域サロンでお茶飲みをして、そこにいるおじいちゃん、おばあちゃん、学生と仲良くなったり、遊びに来た子連れのパパさんが一息ついている間、子どもたちがおばあちゃんと遊ぶ。子どもから高齢者まで、障がいの有無にかかわらず、誰も分断されず、いろいろな人が日常的に関わり合う。全員参加型の『ごちゃまぜ』のまちです」(濱野さん)

おばあちゃんたちとお茶を飲むグループホームの利用者さん。買い物に行くおばあちゃんに「気を付けて行ってください」と声をかける(画像提供/えんがお)

おばあちゃんたちとお茶を飲むグループホームの利用者さん。買い物に行くおばあちゃんに「気を付けて行ってください」と声をかける(画像提供/えんがお)

地域サロンができて4年。「ごちゃまぜのまち」は、さまざまな人を巻き込みなから大きくなっている(画像提供/えんがお)

地域サロンができて4年。「ごちゃまぜのまち」は、さまざまな人を巻き込みなから大きくなっている(画像提供/えんがお)

ビジネスとしての成立させることで、継続できる

えんがおは、2022年の5月で立ち上げから5年が経ち、経営的には6期目に入りました。5期目の1年間の事業規模は、3000万円。6期目の予想規模は、4600万円で順調に伸びています。収入割合は、事業収益が約7割、寄付会費や助成金が合わせて約3割です。

「すべての事業の収支はトントンか黒字。障がい者向けグループホームは、ニーズが多く、その後2棟目もオープンしました。訪問型生活支援事業は、30分500円~3000円と料金は高めですが、リピート率は90%以上です。もちろん特例として無料で行うことはあっても、ちゃんと値段設定をしないと活動を継続できません。それに、『無料だと悪くて次から頼みにくい』という声もあるんです。目の前のニーズを拾って、自分たちのやれることをする積み重ねでやっとここまで来ました。経営的に成り立つサービスでないと広がっていかないのでがんばっています」(濱野さん)

えんがおで公開しているやり方や収益などを参考に、北海道や長野、広島などで、生活支援や多世代交流サロンを始めた人もいるそうです。

設立から6年、今までいちばん苦労したことをたずねると、「思いつかないなあ」と笑う濱野さん。

「大変なことも全部意味があると思うので……。いろいろな人がごちゃまぜに関わると、さまざまな問題が出てきますが、世代や立場など属性が違うからこそ、それぞれの強みが発揮されます。コロナ禍の葛藤からは、電話での健康確認サービスや若者と高齢者が文通するサービスが生まれました。工夫していくのが楽しいんです」(濱野さん)

現在、えんがおでは、障がいのある身寄りのない人のアパートが借りられない問題について、地域の不動産会社と連携して活動しています。今後は、小規模の託児施設やフリースクールなども始める予定です。

高齢者と若者、障がい者などさまざまな立場の人が多世代交流することで、生まれる自己肯定感。『ごちゃまぜのまち』への入り口をたくさんつくることが、濱野さんの今の夢です。えんがおの挑戦は、高齢者の孤立化問題を抱える地域へひとつの答えを示してくれています。

●取材協力
一般社団法人えんがお

認知症になっても住める街へ。街全体で見守る「ふくろうプロジェクト」始動 栃木県下野市

2021年、高齢者人口は3640万人(※1)と過去最多となりました。みなさんの身のまわりでも、年齢を重ねた父母や祖父母が高齢者だけ、または一人で暮らしているというご家庭は多いのではないでしょうか。高齢者、また認知症になった人を見守る、栃木県で地域ぐるみのユニークな「ふくろうプロジェクト」がはじまりました。その試みと街への影響をご紹介します。

ゴミ収集をしつつ、ひとり歩きの高齢者の足元を確認

今年11月、栃木県下野(しもつけ)市ではじまったのが、「ふくろうプロジェクト」です。この取り組みは、認知症になっても暮らしやすい街を目指すというもので、その内容はゴミ収集車とスタッフが通常のゴミ回収を行いつつ、歩いている高齢者の足元をさりげなく気にするというもの。認知症になると、街を徘徊してしまい、徘徊中に自宅に帰れなくなってしまったり、交通事故に巻き込まれてしまったりすることもあるといいます。

そこで大切になるのが、徘徊の早期発見です。このプロジェクトではまず街を縦横に走るゴミ収集車に着目し、清掃員がゴミを回収しながらまちゆく高齢者の足元を見て、気になる人がいれば警察や地域包括支援センターに連絡するという仕組みが考案されました。

では、なぜ高齢者の「足元」なのでしょうか。このプロジェクトの発案者である、横木淳平さんに聞いてみました。

「もともと、靴を見るのは私の職業病みたいなものなんです。街を歩いていても、ついつい高齢者の足元を見てしまう。それは、徘徊している人は、状況やサイズにあっていない履物を履いていることが多いことから。スリッパやサイズのあわない靴、子どもの靴など、明らかに違和感のある靴を履いていること多いんですね。高齢者も徘徊しようと思って徘徊しているのではなくて、ご自身は目的があって出かけたけれど、家がわからない、何が目的だったかわからないなどの理由で歩いてしまう。だから靴に違和感があるんです」

ゴミ収集車につけられた「ふくろうプロジェクト」のステッカー(写真提供/ふくろうプロジェクト)

ゴミ収集車につけられた「ふくろうプロジェクト」のステッカー(写真提供/ふくろうプロジェクト)

なるほど、確かにその違和感は人間の目だからこそ気付ける観点ですね。今回のプロジェクトは、ゴミの回収という通常業務にあたりつつ「さり気なく」気にするというのもポイントです。

「今、できることから、ちょっとだけ世の中を良くしようというのが今回のプロジェクトの趣旨です。だから、気になる人を見つけたら、警察や地域包括支援センターに引き継いで、その後は通常業務にあたってもらいます」と横木さん。大切なのは、できるだけ多くの人に、無理なく、継続的に協力してもらう仕組みだといいます。

高齢者を取り巻く環境は悪化する。だからこそ視線を増やすことが大切

「今回はゴミ収集車と清掃員に協力してもらいましたが、運送会社、新聞や郵便、飲料の配達など、街のなかに今にいる人達にちょっとだけ、視線という機能を貸してもらえるだけで、高齢者が街にずっと住み続けていくことができるようになります。今後も高齢者人口、認知症の人口は増え続けていきます。まちなかには空き家も増えますし、ゲリラ豪雨、熱中症の増加のように、命の危険を感じるような天候も増えています。超高齢化社会の到来を考えると、もともとある高齢者施設だけでは受け皿になりきれない。だからこそ、普段の生活のなかで、ちょっとだけ助けてもらう、そんな仕組みが大切なんです」と話します。

認知症は一度発症すると進行を遅くすることはできても、治すことはできないといわれています。また高齢者の数に対する施設の受け入れ数など、高齢者をとりまく環境は厳しくなる一方です。であれば、プロの介護事業者だけでなく、周囲の人のちょっとした「見守り」があることで、高齢者が安心して暮らせるようにというのは納得の発想です。

プロジェクト発案者である横木さん(右)と廃棄物収集運搬業を営み、今回プロジェクトをともに行うことになった有限会社国分寺産業の田村友輝さん(左)(写真提供/ふくろうプロジェクト)

プロジェクト発案者である横木さん(右)と廃棄物収集運搬業を営み、今回プロジェクトをともに行うことになった有限会社国分寺産業の田村友輝さん(左)(写真提供/ふくろうプロジェクト)

「やさしい視線が多い街って、やっぱり住みやすいと思うんですよ。認知症だから、高齢者だから、家や施設で寝ていてもらえばいい、そんなことは絶対にないはず。生きる希望に満ちた暮らしをかなえてあげたい。徘徊を問題行動だと考えるのではなく、地域に居場所がある、役割がある、そんな街が住みやすい街と言えるのではないでしょうか。こうした視線が行き届いた街は、地方創生・復活のコンテンツにもなり得ると思っています」(横木さん)

筆者自身、母親になってわかったことですが、親になると子どもや子ども連れの人に助けられたり、助けたりということが格段に増えます。そして多くの人は、「少しおせっかいかもしれないけれど、助けたい」と思っているのだとしみじみ思います。まだ介護は経験していませんが、多くの人は子育てと同様、どこかみんなで助けたい/助けられたいと思っているはず。今回は、そんな「相互の思い」をかたちにした事業といえるでしょう。

発見はゼロでいい。できることからはじめてみよう

今回は「仕組み」として整えることで「発見」や「おせっかい」がしやすくなるのもポイントです。
「運用にあたって、できる限り本業に支障をきたさない、気楽に参加しやすようにと、極限までハードルを下げ、誰でも参加できる仕組みを考えました。それは、街にヒーローをつくりたいから。介護やゴミ収集の仕事は、やはり敬遠されがち。特に、コロナ禍でその過酷さが注目されました。しかし今回のプロジェクトのように『人助けができる』『まちの目線になる』ということで、仕事の価値をさらに広げ、関心をもつ人を増やしていけたらいいですよね」と横木さん。

「街にヒーローをつくりたい」と話す横木さん。徘徊を見つけてもらえたら、それこそご家族にとってはヒーローですよね(写真提供/ふくろうプロジェクト)

「街にヒーローをつくりたい」と話す横木さん。徘徊を見つけてもらえたら、それこそご家族にとってはヒーローですよね(写真提供/ふくろうプロジェクト)

極限までハードルを下げたというだけあって、ゴミ収集のほかに新聞配達などの企業からも声がかかっているそう。確かに街を駆け巡っているという点は同じですから、親和性は高そうです。

「はじまってまだ半月なので、今のところ、徘徊に気がついたという報告はあがってきていません。でも、いいんです、結果ゼロ件でも想像以上に多かったでも。やってみないとわからない。できることからはじめて、ちょっとだけ社会を、地域を良くしたい、そういう思いを共有できる仲間が増えていくことが大事ですし、広がっていくことが大切だと思っています」(横木さん)

思いは通じているようで、今のところ、行政や地域の人からも好評で、「応援しているよ」と声をかけてもらえることが多いといいます。そもそも、「靴を見る」という今回のプロジェクトそのものが、じんわりと認知症への理解へとつながります。

またテレワークが普及した昨今では、住んでいる街で1日の多くの時間を過ごす人が増えたことになります。単に「いる」だけではなく、「関心」や「かかわり」「やさしい視線」が増えていけば、今住んでいる場所も、より住みやすい街となっていくことでしょう。

高齢者や認知症だけでなく、障がいがある人、子どもたち。社会で暮らしているのは、健康な成人だけではありません。誰しも居場所があって、役割がある。「理解する」「ちょっとだけ気にかけてみる」「行動をほんのりと見守る」というあたたかい視線こそが、2020年代の住みやすい街に必要なのかもしれません。

※1総務省統計局より

●取材協力
横木淳平さん 
介護3.0

対策していますか? 新入学を迎える約8割のお母さんは事件・事故が心配

この4月から、小学生になるお子さんをもつ方もいらっしゃるのでは? 新生活に向けてドキドキわくわく、期待に胸がふくらみますね! その一方で、生活が変わることで、子どもの環境にどんな変化が訪れるのか不安だというのも正直な親心ではないでしょうか。
IoTを活用した見守りサービス『おうちの安心プラン』を提供する東京電力エナジーパートナー株式会社(以下東京電力エナジーパートナー)は、30歳~49歳の300人の男女に「新入学に関するアンケート調査」を実施しました。それによると、多くの保護者が小学校入学に関して、なんらかの心配を抱えているようです。一体、新1年生の保護者はどのようなことに不安を感じているのでしょうか。
約8割の保護者は小学校入学に不安を感じている

アンケートによると、「お子さまが小学校に入学することに対して、不安を感じること(感じていたこと)はありますか?」という問いに対して、全体の77%が「あてはまる」もしくは「どちらかといえばあてはまる」と回答しています。約8割の保護者は小学校入学に対して、なんらかの不安な気持ちをもっているようです。

(画像提供/東京電力エナジーパートナー株式会社)

(画像提供/東京電力エナジーパートナー株式会社)

不安の具体的な内容としては、女性の回答の1位は「友達と仲良くできるかということ(86.5%)」、2位が「通学時に事故・事件に巻き込まれること(77.7%)」、男性では1位が「通学時に事故・事件に巻き込まれること(77.7%)」、2位が「友達と仲良くできるかということ(75.2%)」だったそうです。お子さまの入学後の交友関係、通学路での事故や通学中に事件に巻き込まれることへの不安は両親ともに大きいのですね。

働き続けたいけど、子どもが1人で過ごす時間が心配

近年は共働き家庭の間で、「小1の壁」という言葉がよく知られるようになってきました。保育園時代は、延長保育などのオプションのお陰で、ある程度遅い時間まで子どもを預かってもらえた家庭が直面する問題です。小学校になると親よりも子どもが早く帰ってくることも多く、保育園時代よりも子どもが家で1人になってしまいがちです。
仕事と安全な子育ての両立の前に立ちふさがる「小1の壁」ですが、それでも約94%の母親が「子どもが小学校に入学しても、今まで通りの働き方を続けたい」と希望しているそうです。子どもの生活も不安ですが、仕事もしっかり続けていきたい意向が垣間見られます。

9割超のお母さんが「子どもの入学に際して不安はいっぱいだが、今まで通り働き続けたい!」と思っている一方で、「お子さまが小学校に入学することへの不安に対して、何か対策をしていますか」という質問に、「対策をしている」と答えたのはわずか20%程度。一番多かった回答は「必要だと思うが、対策はしていない」の45.7%でした。新入学に際しての対策の必要性は感じていても、ついつい先延ばしにしているようです。どのような対策を打てばいいのか分からないのかもしれませんね。

回答数=300(画像提供/東京電力エナジーパートナー株式会社)

回答数=300(画像提供/東京電力エナジーパートナー株式会社)

このアンケートを実施した東京電力エナジーパートナーの担当者にとっても、この結果は意外だったよう。

「お子さまの新入学にあたって、多くの方が不安に思っていることがあるだろうというのは想定していました。しかしその対策をしている方が約20%だったのは予想外でした。新入学期では準備しなければならないことが多く、漠然とした不安だけではどうしても対策が後手にまわってしまうということでしょうか」(東京電力エナジーパートナー)

近年は高齢者や幼児の見守りに、IoTを活用する動きが盛んです。例えば、高齢者の見守りを目的にしたセコムのサービスや、福岡市が九州工業大学や保育園と協力して始めた保育園児見守りの実証実験など。今回調査を実施した東京電力エナジーパートナーのIoT見守りサービス『おうちの安心プラン』は、自宅に規定のレンタル機器を設置することにより、子どもの外出・帰宅などをスマートフォンに知らせる仕組み。スマートタグを身に着けた子どもが外出・帰宅すると、その通知が保護者のスマートフォンに届くようになっています。
何かが起こる前に、それぞれのご家庭に合った見守り方法を導入できたらいいですね。特に最近はIoT機器の普及がぐっと進んでいますから、この機会にいろいろと調べてみてはいかがでしょうか。