断熱等級6以上が標準装備の”スーパー工務店”に脚光。「時代の2歩先」モットーに30年前から樹脂製サッシやペアガラス、気密測定、全館暖房も採用の超高性能な家づくり 埼玉「夢・建築工房」

住まいの気密性・断熱性を高める重要性は、徐々に周知されつつあります。しかし、その一方で、高性能住宅を施工する工務店の中でも、意識や技術には差があるというのが現状です。

2025年にはすべての新築住宅に省エネ基準の適合が求められますが、新築住宅の着工数は減少傾向にあり、既存住宅の割合は増えるばかり。さらに、新築住宅は高騰を続けていることから、消費者ニーズを満たし、カーボンニュートラル達成のためには、新築住宅のみならず既存住宅の性能向上が不可欠だといえるでしょう。

そこで今回は、いち早く気密・断熱改修に力を入れている埼玉県の工務店「夢・建築工房」を取材。代表取締役の岸野浩太(きしの・こうた)さんに、今の日本の課題や高性能リノベーションの効果についてお聞きしました。

30年前から超高性能な家づくりに取り組む理由(写真提供/夢・建築工房)

(写真提供/夢・建築工房)

(写真提供/夢・建築工房)

(写真提供/夢・建築工房)

夢・建築工房は1995年、埼玉県東松山市で創業しました。今でこそ、住まいの断熱、気密の重要性が認知され始めていますが、約30年前の当時の家は、夏は暑く、冬は寒いのが当たり前。窓は単板ガラスが一般的で、1992年の省エネ法改正により徐々に断熱性能の重要性が高まりだしたころ、同社ではすでに樹脂製のサッシやペアガラスを取り入れ、気密測定や全館暖房などの仕組みを導入していたといいます。

「創業者の土居は、空調換気の仕事やハウスメーカーの現場監督を経て独立したと聞いています。おそらく、何か変わったことをやりたかったんじゃないですかね。当時、うちでつくっていた住まいは、UA値でいうと0.5前後くらい(ZEH水準以上)です。時代に先駆けてここまでやるのは『バカ』ですよ(笑)でも、その『バカ』たちが日本の住宅性能を上げてきたのだと思います」(岸野さん、以下同)

岸野さんが代表に就いたのは、2013年のこと。その前年には東京都でドイツ認定のパッシブハウスを2棟施工し、UA値0.3を切る家(断熱の最高レベル)を建築していたといいます。とはいえ、当時はまだまだ高断熱・高気密の重要性やその言葉自体もあまり認識されていない時代だったため、同社の現場に見学に来る工務店も多かったのだとか。

「営業も発信もせず、ただただ性能の高い住まいづくりをしていたら、自ずと高性能住宅として評判が上がっていきました。一般の方より先に目をつけてくれたのは、全国のメーカーさんや工務店さんです。当時、興味津々でうちの現場を見に来ていた業者さんは、今では断熱等級7の住宅しかつくっていないですよ」

夢・建築工房 代表取締役 岸野浩太さん(写真提供/夢・建築工房)

夢・建築工房 代表取締役 岸野浩太さん(写真提供/夢・建築工房)

日本の家づくりはようやく「スタートライン」に立ったところ

高性能住宅は、単に高性能な建材や設備を使うだけでなく、高い設計力や施工技術を要します。同社では、高い品質を維持・管理するため社内に住宅管理部を置き、同社専属の8名の大工のみが施工しているそうです。

「大工さんを増やすときは、しばらく他の大工さんと一緒に現場に入ってもらいます。先進的な家づくりをしている他国に学びに行くこともありますし、うちみたいに他とは違うことをやっている工務店の現場にお邪魔して学ばせていただくこともあります。モットーは『2歩先を行く』こと。他と同じことをしていないで、常にバカなことをやっていきたいと思っています」

建築業界には、以前から他社と切磋琢磨し、学び・学ばれる文化があるようです。しかし、そのような交流が見られるのは一部であり、日本の建築技術は決して高いとはいえないと岸野さんは言います。

「ゆめけんの家 コンセプトハウス」(写真提供/夢・建築工房)

「ゆめけんの家 コンセプトハウス」(写真提供/夢・建築工房)

(写真提供/夢・建築工房)

(写真提供/夢・建築工房)

「2025年からすべての新築住宅に省エネ基準適合が義務付けられますが、いくら机上で高性能な住宅を設計しても、それが実現できるかどうかは現場の意識や技術次第です。また、たとえ高気密・高断熱であっても、空調や換気の入れ方、使い方によってはすごく寒い家になってしまうこともあります。断熱材の入れ方によっては、数年でカビが見られるようになってしまうこともあるでしょう」

省エネ基準適合義務化に先駆け、2024年4月には「省エネ性能表示制度」がスタートしました。これにより、消費者の意識も徐々に高まっていくことが予想されます。岸野さんによれば、日本の家づくりはようやくスタートラインに立ったところ。高品質の家をつくるには知識や技術が求められますが、それ以前に「住宅の性能を高めよう」という意識が必要だといいます。

「知識や技術の差は、わずかなものだと思います。やろうとしなければ、できるようにはなりません。とはいえ、北海道、東北、関東圏……と徐々に施工技術の高まりは南下してきていて、近年は近畿圏で盛り上がりを見せています。まだまだ高気密・高断熱の施工がしっかりできる職人さんは少ないですが、これから徐々に増えていくことに期待したいですね」

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注)単位未満を含む数値で計算しているため、表章数値による計算とは一致しない場合がある

2024年4月に総務省から発表された令和5年住宅・土地統計調査の住宅数概数集計の速報値によれば、2023年10月時点の日本の住宅総数は6,502万戸。2018年からの5年間で4.2%増加しました。このうち900万戸が空き家で、空き家率は13.8%と過去最高となりました。

2025年から省エネ基準適合が義務付けられるのは、新築住宅のみです。しかし、近年の新築住宅着工戸数は年間80万戸程度にとどまることから、カーボンニュートラルの推進や空き家問題の解消のためには、6,500万戸以上存在する既存住宅の性能向上と流通促進が不可欠だといえるでしょう。

昨今では新築住宅の高騰が見られることもあり、同社でもリフォームやリノベーションに力を入れているといいます。

「我々は、より多くの方に断熱等級6や7の住まいの良さを体感していただきたいんです。新築でここまで高性能な住宅となると、一般の人にはなかなか手が届きません。しかし『中古住宅+リノベーション』であれば、新築住宅を買うより500~1,000万円ほど価格を抑えられます。断熱等級4の新築戸建と断熱等級7の築30年の住宅が同じ金額で取得できるのであれば、圧倒的に後者のほうが”買い”だと思います。30年という差は、リノベーションで埋められますからね」

築30年の木造戸建てを高性能住宅に既存建物調査で施主の要望を確認。さらに改修範囲と断熱性能気密性能をどこまで高めるか相談

既存建物調査で施主の要望を確認。さらに改修範囲と断熱性能気密性能をどこまで高めるか相談

既存リビング

既存リビング

左/既存洗面所、右/既存浴室

左/既存洗面所、右/既存浴室
(写真提供/夢・建築工房)

同社がフルリノベーションした築30年の木造住宅は、一見すると綺麗な外観ですが、内部の壁面表層は黒カビが目立ち、壁内はかなり腐食が進んでいたといいます。床下には、シロアリ被害も見られました。

「中古住宅探しからサポートさせていただくときは、新耐震基準かつ延べ床面積が80~100平米程度のお住まいをご提案させていただきます。この程度の広さであれば、長期優良住宅の認定を取得することも可能で、リノベーション費用も抑えられるからです。加えて、今は瑕疵(かし)保険を付帯することもできるので、新築と遜色ない安心感が得られると思います」

解体後(写真提供/夢・建築工房)

解体後(写真提供/夢・建築工房)

このお住まいは、基礎補強が必要になり、気密性・断熱性もできる限り最新の状態にしたいという施主さんの要望もあったことから、床・壁・天井を全面的に解体したのだとか。かなり大掛かりな工事となったようですが「ここまで解体するからこそ安心できる」と岸野さんは言います。

「工事の際は必ず中か外をすべてスケルトンにしますので、基礎・柱・梁が健全である証拠を写真に収めることができます。中古住宅に不安を抱くのは『見えない』からです。いっそ、すべてむき出しにしてしまったほうが安心できるんですよね。シロアリ被害があっても、腐食が見られていても、丁寧に補修します」

リノベーションデータ

高断熱工事熱損失係数UA値0.45W/m2Kへ改修(既存時UA値2.1W/m2K)天井:熱貫流率0.12W/m2Kへ改修(既存時4.48W/m2K)壁:熱貫流率0.42W/m2Kへ改修(既存時0.81W/m2K)床:熱貫流率0.37W/m2Kへ改修(既存時2.54W/m2K)サッシ:オール樹脂アルゴンガス入りペアへ入替え(既存時アルミ単板ガラス)玄関ドア:熱貫流率0.9W/m2K超高断熱木製ドア高気密工事気密測定C値1.7cm2/m2、合板気密工法・シート気密工法による冷暖房工事暖房:エアコン冷房:エアコン換気工事第1種熱交換型換気システム:パナソニック製を使用「部分断熱リフォーム」でLDKを断熱気密空間に(画像提供/夢・建築工房)

(画像提供/夢・建築工房)

部分断熱リフォームとは、寝室だけ・LDKだけなど、部分的に断熱改修を実施するリフォームを指します。床・壁・天井に加え、窓も改修することで、一部分だけ完全な断熱気密空間に仕上げるといいます。

「総断熱改修をするほど予算をかけられない方に選ばれているリフォームです。この事例の施主様は、60代のご夫婦。2階に上がることが億劫になってきたということで、1階の和室を洋間に変えて、将来的には1階だけで生活できるようにしたいと希望されていました。私たちが気になったのは『でも、寒いのよね』のひと言。家全体を断熱改修することができなくても、長く過ごす場所が快適であれば暮らしの満足度は高まることから、部分断熱リフォームをご提案しました」

(写真提供/夢・建築工房)

(写真提供/夢・建築工房)

部分リフォームとはいえ、床、壁、天井を解体し、窓は樹脂サッシに交換。床断熱・壁断熱・天井断熱に加え、床下・外周部・隣室との間には気流止めを施工しました。

リフォーム後のLDKは、冬でも無暖房で17~18度ほどで、夏は冷房の効きが格段に上がり、電源をOFFにしてもしばらく涼しい状態が続くのだとか。岸野さんは、家中の窓を高性能なものに替えるのなら、部分断熱リフォームをおすすめしたいと言います。

「窓を替えれば暖かくなりますし、冷暖房効率も上がりますが、それは『輻射(ふくしゃ)』による効果ではありません。この事例はLDKのみの断熱リフォームなので、冬場は廊下が一桁の温度になることもあります。しかし施主さんは、寒い廊下に出ても寒さを感じづらいとおっしゃっていました。高気密・高断熱の家は暖房で無理やり空気を暖めるのではなく、床・壁・天井からの輻射熱によって体が温まるため、芯までぽかぽかになります」

完成(写真提供/夢・建築工房)

完成(写真提供/夢・建築工房)

買取再販事業の先に見据える「暖かいまちづくり」

夢・建築工房は、リフォーム・リノベーションに加え、買取再販事業にも積極的に取り組んでいます。

「リノベーションに力を入れるのは、工務店にとっても良いことだと思うんですよ。新築の設計や施工に比べて、時短になるからです。さらに、買取再販事業は自社の意思で物件購入からリノベーションまで施工できます。新築やリノベーションを受注しながら2~3棟でも買取再販事業に時間と労力を割くことができれば、タイムパフォーマンスは一層高くなると思います」

(写真提供/夢・建築工房)

(写真提供/夢・建築工房)

現在、同社で施行中の買取再販住宅「鳩山町楓ケ丘の家」は、築45年の在来軸組2階建住宅。改修後のUA値0.26で、断熱等級は日本の現行制度の最高等級にあたる「7」、C値は世界でもトップレベルの「0.8以下」となる予定です。

岸野さんは、買取再販事業で「暖かいまちづくりを目指したい」と語ります。このため、現在は、埼玉県の鳩山町に絞って買取再販事業を推進しているのだと言います。「2歩先に行くこと」をモットーとするからには、気密性・断熱性の追求だけでなく、工務店としての新たなステージを見据えているようです。

性能向上リノベーションは「三方良し」の住まいの選択肢

性能向上リノベーションは、人手不足や土地不足、空き家問題などの課題も解決できるとともに、消費者は取得費も抑えられることから、工務店、国、消費者にとってメリットの大きい三方良しの選択肢ともいえます。岸野さんによれば、まだまだ高気密・高断熱の施工がしっかりできる職人さんは多くないとのことですが「新木造住宅技術研究協議会」や「パッシブハウス・ジャパン」など、技術の習得に熱心な工務店が加盟する団体もあるようです。

性能向上リノベーションを実施するには、リノベーションによってどのように生まれ変わるのか、リノベーションにいくらかかるのか、補助金制度は利用できるのか、長期優良住宅の認定は取得できるのか……など幅広い知識と経験が必要です。物件選びの段階で意識が高く、技術力のある工務店に相談することで、住まいの選択肢は格段に広がるのではないでしょうか。

●取材協力
夢・建築工房(スーモサイト)
●画像出典
総務省「令和5年住宅・土地統計調査 住宅概数集計(速報集計)結果」

【2024年夏】熱中症は室内でもリスクあり! 気候変動の今こそ家の断熱で「室温28℃以下・湿度70%以下」キープが必須  慶應義塾大学名誉教授 伊香賀俊治先生が警鐘

今年も、熱中症を想起させる救急車のサイレンが気になる季節になりました。そこで早めに対応したいのが住宅の断熱です。断熱というと寒い冬を連想するかも知れませんが、暑い夏からも命を守ってくれるのです。夏の断熱の効用について、住宅と健康の関係についての第一人者である慶應義塾大学名誉教授の伊香賀俊治先生に教えていただきました。

慶應義塾大学名誉教授 伊香賀俊治先生(撮影/片山貴博)

慶應義塾大学名誉教授 伊香賀俊治先生(撮影/片山貴博)

今年も熱中症に注意が必要、なかでも住宅内で過ごす高齢者は危険!?

気象庁は昨年2023年9月に、同年の日本の夏(6月~8月)は1898年の統計開始以降で最も気温の高い夏だったと発表しました。さらに同庁が今年4月に発表した「向こう3カ月(5月~7月)の天候の見通し」によれば、全国的にこの初夏は「高い見込み」だそう。暑かった昨年同様、今年もまた熱中症に注意する必要がありそうです。

熱中症とは、高温多湿な環境に長時間いることで、体温を調整する機能が上手く働かなくなり、体内に熱がこもった状態を指します。場合によっては意識障害やけいれんが起こり、時には死に至ることさえあります。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

テレビや新聞では炎天下のなかでの「スポーツの練習中」や「農作業中」に倒れて緊急搬送された、というような熱中症がよく取り上げられます。しかし、熱中症になる場所で一番多いのは、実は屋外ではなく「住宅の中」であることはご存じでしょうか。

約40%が住宅の中で熱中症になり、緊急搬送されました(出典/総務省「令和5年(5月から9月)の熱中症による救急搬送状況」)

約40%が住宅の中で熱中症になり、緊急搬送されました(出典/総務省「令和5年(5月から9月)の熱中症による救急搬送状況」)

また、熱中症で緊急搬送される人の年齢を比較すると、下記のように65歳以上の高齢者が半数以上を占めています。

熱中症で緊急搬送される人の半数以上が65歳以上の高齢者でした(出典/総務省「令和5年(5月から9月)の熱中症による救急搬送状況」)

熱中症で緊急搬送される人の半数以上が65歳以上の高齢者でした(出典/総務省「令和5年(5月から9月)の熱中症による救急搬送状況」)

さらに、伊香賀先生によれば「住宅内の熱中症の発生箇所は居間・リビングや寝室が多く、熱中症で緊急搬送された高齢者の多くがエアコンを使用していませんでした」と指摘しています。

伊香賀先生による、高齢者の住宅内の熱中症発生場所の調査結果です。「居間・リビング」と「寝室・就寝中」が71%を占めます(伊香賀俊治、堀 進悟、三宅康史、鈴木 昌、村上由紀子: 住環境と熱中症、日本臨牀 Vol.70, No.6, pp.1005-1012, 2012年6月)

伊香賀先生による、高齢者の住宅内の熱中症発生場所の調査結果です。「居間・リビング」と「寝室・就寝中」が71%を占めます(伊香賀俊治、堀 進悟、三宅康史、鈴木 昌、村上由紀子: 住環境と熱中症、日本臨牀 Vol.70, No.6, pp.1005-1012, 2012年6月)

伊香賀先生による、住宅内で熱中症になった人々が冷房を使っていたかどうかを調べた結果です。住宅内で熱中症になった人の85%が冷房を使っていませんでした。また冷房を使わなかった人の60%が扇風機も使っておらず、50%が窓を閉めていました(伊香賀俊治、堀 進悟、三宅康史、鈴木 昌、村上由紀子: 住環境と熱中症、日本臨牀 Vol.70, No.6, pp.1005-1012, 2012年6月)

伊香賀先生による、住宅内で熱中症になった人々が冷房を使っていたかどうかを調べた結果です。住宅内で熱中症になった人の85%が冷房を使っていませんでした。また冷房を使わなかった人の60%が扇風機も使っておらず、50%が窓を閉めていました(伊香賀俊治、堀 進悟、三宅康史、鈴木 昌、村上由紀子: 住環境と熱中症、日本臨牀 Vol.70, No.6, pp.1005-1012, 2012年6月)

つまり、炎天下を避けて大人しく家で過ごしていたにもかかわらず、いつの間にか熱中症になる可能性がある、ということです。特に暑さを感じにくくなり、エアコンは体に悪いと思っている高齢者は注意が必要です。

さらに、伊香賀先生は「古い集合住宅の最上階にある住宅は、熱中症になる危険が高くなります」と注意を促します。その理由は、下記を見ると一目瞭然です。

同じ日・同じ地域の一戸建てと集合住宅の室温の違いをグラフ化したもの。当日の最高気温は36.4℃の猛暑日でした。一戸建てでは朝の5時には28.5℃まで室温が下がりましたが、集合住宅ではなかなか室温が下がらず、特に最上階の住戸では朝5時になっても32.0℃ありました(伊香賀先生調査)

同じ日・同じ地域の一戸建てと集合住宅の室温の違いをグラフ化したもの。当日の最高気温は36.4℃の猛暑日でした。一戸建てでは朝の5時には28.5℃まで室温が下がりましたが、集合住宅ではなかなか室温が下がらず、特に最上階の住戸では朝5時になっても32.0℃ありました(伊香賀先生調査)

コンクリートは蓄熱性が比較的高い建築材です。そのため近年のRC造(鉄筋コンクリート造)等の分譲マンションなどはしっかりと断熱が施されていますが、古い集合住宅は断熱が不十分であることが多いのです。すると日中の日射熱を蓄熱した、建物の天井(最上階の天井)や外壁が夜になっても住宅を温め続けるという状態になるのです。

調査した古い集合住宅では最上階の天井の表面温度が32.5℃に達していました。この時の就寝時の住人の体温は、熱中症の「厳重警戒(上記表参照)」域でした(伊香賀俊治:屋内で発生する熱中症、特集 熱中症と闘う  in 2019 for 2020、救急医学第43巻第7号、pp.912-917、ヘルス出版)

調査した古い集合住宅では最上階の天井の表面温度が32.5℃に達していました。この時の就寝時の住人の体温は、熱中症の「厳重警戒(上記表参照)」域でした(伊香賀俊治:屋内で発生する熱中症、特集 熱中症と闘う in 2019 for 2020、救急医学第43巻第7号、pp.912-917、ヘルス出版)

熱中症を防ぐ目安としては「室温28℃以下で湿度が70%以下」

では、家の中の温度が何℃以上だと熱中症になる危険があるのでしょう。

「実は、WHO(世界保健機関)や、国による確たる基準は現在のところありません。まだ研究中であることや、国や地域によって、汗をかきやすい(=体温を下げやすい)体質が異なるなどの理由からです」と伊香賀先生。

(撮影/片山貴博)

(撮影/片山貴博)

ただし、目安としては「室温28℃以下で湿度が70%以下」にするといいそうです。

これは、厚生労働省が働く職場環境(事務所衛生基準規則)に定めている数字。ここで注意したいのは室温だけでなく、湿度も重要だということです。なぜなら、湿度が高いと汗がかきにくくなるため、体温調整が上手くいかなくなるからです。

下記は、日本生気象学会の「日常生活における熱中症予防指針」をもとに、伊香賀先生が作成した表になります。これによれば、たとえ室温が26℃でも、湿度が70%未満なら「注意」ですが、湿度が90%であれば「厳重警戒」になります。

温度基準注意すべき生活行動の目安注意事項室温と相対湿度の組み合わせ例危険
31℃以上すべての生活活動で起こる危険性高齢者においては安静状態でも発生する危険性が大きい。外出はなるべく避け、涼しい室内に移動する。28℃ 100%以上
30℃ 85%以上
32℃ 70%以上
34℃ 60%以上厳重警戒
28℃~31℃外出時は炎天下を避け、室内では室温の上昇に注意する。26℃ 90%以上
28℃ 75%以上
30℃ 65%以上警戒
25℃~28℃中等度以上の生活行動で起こる危険性運動や激しい作業をする際は、定期的に充分な休息を取り入れる。26℃ 70%以上
28℃ 55%以上
30℃ 45%以上注意
25℃未満強い生活行動で起こる危険性一般に危険性は少ないが、激しい運動や重労働時には発生する危険性がある。26℃ 70%未満
28℃ 55%未満
30℃ 45%未満同じ「室温28℃」でも、湿度が75%だと「厳重警戒」、55%なら「警戒」となります(出典:日本生気象学会, 日常生活における熱中症予防指針 Ver.3 確定版, 2013)

エアコンでは、「除湿」機能はさることながら、「冷房」機能でも室温を下げる際に、湿度も下げてくれます。ですから断熱をしっかり施せば、エアコンを効率的に働かせることができ、熱中症を避けることができるのです。

もはや日本の夏は亜熱帯気候に変化している!?

それにしても、最近の日本の夏は暑くなったと感じませんか。「昔はエアコンなんてつけずに眠れた」や「扇風機を回したまま寝ると、風邪を引くといって親に怒られた」という昭和世代も多いのではないでしょうか。

事実として、下記のデータでは日本の夏が確実に暑くなっているとわかります。

棒グラフ(緑)は毎年の値、折れ線(青)は5年移動平均値です。1950年以前は5日以下だったのに対し、1990年に初めて30日を記録すると、2018年には49日に到達しています(出典:気象庁)

棒グラフ(緑)は毎年の値、折れ線(青)は5年移動平均値です。1950年以前は5日以下だったのに対し、1990年に初めて30日を記録すると、2018年には49日に到達しています(出典:気象庁)

上記は京都のグラフですが、東京も大阪も北海道も福岡も、全国各地で軒並み夜でも気温が25℃を下回らない熱帯夜が増えているのです。

以前「室温18度未満で健康寿命が縮む!? 脳卒中や心臓病につながるリスクは子どもや大人にも。家の断熱がマストな理由は省エネだけじゃなかった」でも紹介しましたが、1330年代に書かれた『徒然草』には「家の作りやうは、夏をむねとすべし。冬は、いかなる所にも住まる」、という記述があります。

当時、京都に暮らしていた吉田兼好(『徒然草』の作者)は、夏の暑さに辟易としていたのでしょう。だから家をつくるなら夏の暑さをなんとかすれば、冬はなんとでもなると書いたのですが、上記グラフから推測すれば、700年以上前の京都には猛暑日なんてほとんどなかったと思われます。

つまり「吉田兼好(『徒然草』の作者)が嘆いた夏よりも、今はさらに暑い夏なのです」と伊香賀先生は言います。「日本の夏は、亜熱帯気候に変化していると思います」。

もはや兼行が暮らしていた頃のように、風通しをよくすればしのげた夏ではなく、冬と同様、家の断熱性能を高めて冷房機器や暖房機器を効率的に使うことが望ましい夏になったということです(冬の断熱効果については「室温18度未満で健康寿命が縮む!? 脳卒中や心臓病につながるリスクは子どもや大人にも。家の断熱がマストな理由は省エネだけじゃなかった」をご参照ください)。

暑い夏の危害は、高齢者だけでなく、子どもや大人にも迫っている

また、夏のエアコンの使用といえば、数年前に小学校でのエアコン使用の是非がニュースになりました。文部科学省も2018年に学校環境衛生基準において、教室の温度を「10℃以上、30℃以下が望ましい」から「18℃以上、28℃以下が望ましい」へと改訂しましたが、伊香賀先生による調査でも、夏の暑さが子どもたちに与える悪影響は如実に表れています。

A校とE校は木造校舎、B・C・D・F・G・H校はRC造の校舎です。また木造とA・E校はどちらも断熱改修を施した前と後の結果を記載しています。このように、体感温度が高い教室のほうが体調不良や集中力の低下が起こりやすいとわかります。木造とA・E校は断熱改修をしたことで、それらの低下がはっきりと見られました(「月刊 健康づくり_健康に住み続けられる住まい入門_熱中症抜粋_2020年度」より)

A校とE校は木造校舎、B・C・D・F・G・H校はRC造の校舎です。また木造とA・E校はどちらも断熱改修を施した前と後の結果を記載しています。このように、体感温度が高い教室のほうが体調不良や集中力の低下が起こりやすいとわかります。木造とA・E校は断熱改修をしたことで、それらの低下がはっきりと見られました(「月刊 健康づくり_健康に住み続けられる住まい入門_熱中症抜粋_2020年度」より)

このように、校舎の断熱改修を施したことで体調不良を訴えたり、集中力が欠如する児童が減ったのです。「体調不良になったり、集中ができない校舎は、とても学ぶ環境とはいえないでしょう」と伊香賀先生も話します。

(撮影/片山貴博)

(撮影/片山貴博)

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

もちろん、暑い夏の危害は、子どもや年寄りだけに及ぶわけではありません。伊香賀先生の調査によれば、働く世代の仕事効率も下げているのです。

オフィスビルで働いている人に協力してもらい、冷房設定温度の違いで作業効率がどう変わるか調べたところ、室温25.7℃が最も作業効率が良いとわかりました。

(「月刊健康づくり_健康に住み続けられる住まい入門_熱中症抜粋_2020年度」より)

(「月刊健康づくり_健康に住み続けられる住まい入門_熱中症抜粋_2020年度」より)

一方で、28℃から25.7℃へ室温を下げれば光熱費が余計にかかりますが、代わりに残業が減ります。この調査では人件費3000万円/月が節約できるのに対し、光熱費の増加はわずか34万円/月という結果になりました。

省エネしたいなら、温度設定ではなく、建物を断熱する

そもそも夏のエアコンの設定温度に28℃が推奨されてきたのは、省エネという目的からです。一方で、作業効率や費用対効果を考えれば25.7℃が理想です。

だからといって省エネをおろそかにするわけにはいきません。そこで、エネルギーをほとんど使わずに快適な室温を維持しやすいよう、建物に断熱を施すことが重要になります。断熱性能を上げることで、エアコンのエネルギー消費量を下げることができるからです。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

国も現在、住宅だけでなく、オフィスビル等の断熱性能を高めて省エネ化を図ろうとしています。その一例が「ZEB(ゼブ)」の推奨です。ZEBとは住宅のZEH(ゼッチ)同様、快適な室内環境のまま、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにする建物のこと。もっと分かりやすくいえば、ほとんどエアコンを稼働させなくても快適なビル、のことです。国はこのZEB化に対する補助金制度を用意しています。

もちろん、断熱性能が重要なのはオフィスビルだけではなく、私たちの住宅も同じです。ですから国は現在、住宅については断熱に関する補助金制度をいくつか用意しています。

その中でも、断熱の要である“窓の断熱”を促す補助金制度「先進的窓リノベ2024事業」は、内窓の設置だけでも補助金を受け取れるので、手軽に利用できる補助金制度です。今夏を迎える前に、こうした補助金制度を使って自宅のリフォームを検討してみてはいかがでしょうか。

また、もし離れて暮らす高齢の両親がいるなら、お盆の時期よりもできるだけ早く、断熱リフォームの話をしてみてください。断熱すれば夏も冬も安心です。壁を剥がすような大がかりな断熱リフォームだと、両親は二の足を踏むかもしれませんが、例えばリビングと寝室に内窓を備えるだけなら拒否感が少なく応じてくれるかもしれません。

その際に、実家に温度湿度計がないなら持っていくことをおすすめします。高齢になると体の温度センサーが上手く機能しないので「実は自分たちが思っている以上に蒸し暑い」とわかれば、断熱の話もスムーズに進むはずですよ。

●取材協力
慶應義塾大学 理工学部 名誉教授
日本建築学会 前副会長
伊香賀 俊治(いかが・としはる)さん
1959年東京生まれ。1981年早稲田大学理工学部建築学科卒業、同大学院修了。(株)日建設計環境計画室長、東京大学助教授を経て、2006年慶應義塾大学理工学部教授に就任。2024年4月より名誉教授、5月末より一般財団法人 住宅・建築SDGs推進センター 理事長に就任日本学術会議連携会員、日本建築学会副会長、日本LCA学会副会長を歴任。主な研究課題は『住環境が脳・循環器・呼吸器・運動器に及ぼす影響実測と疾病・介護予防便益評価』。著書に『すこやかに住まう、すこやかに生きる、ゆすはら健康長寿の里づくりプロジェクト』『”生活環境病”による不本意な老後を回避するー幸齢住宅読本ー』など。

住まいと学校の断熱事情の最前線、夏は教室が危ない! 住宅は断熱等級6以上が必要、2025年4月からの等級4以上義務化も「不十分」 東京大学・前真之准教授

近年“住宅の省エネ”、中でも“断熱”への関心が高まっています。2022年の建築物省エネ法の改正を受け、2025年4月以降に着工するすべての新築住宅・非住宅で「断熱等級4」以上が義務化されることの影響も大きいでしょう。
そもそも断熱はなぜ住宅に必要なのでしょうか? また断熱によって住まいはどう変わるのでしょうか? エコハウス研究の第一人者、東京大学 准教授の前真之(まえ・まさゆき)さん(工学系研究科 建築学専攻)に聞きました。

そもそも「断熱」とは?住まいの断熱はどうすべき?

そもそも「断熱」とはどのようなものでしょうか?

「断熱とは、熱の出入りを断ち、部材の表と裏に温度差を作り出す技術です。次の画像は断熱材としてよく使用されるグラスウールをホットプレートで熱したときの表裏の温度差を計測したときのものです。ホットプレートに接する下部の面は加熱されて150度以上になっていますが、反対側である上部の面は30度に保たれており、120度以上の温度差が生じています。断面には温度分布のグラデーションができていて、熱を遮断していることがわかりますね」(前さん、以下同)

断熱材であるグラスウールをホットプレートで熱したときの温度差を実証したときの様子。断熱材によって下側のホットプレートの熱が上部では断たれていることがわかる(画像提供/Maelab前真之サスティナブル建築デザイン研究室)

断熱材であるグラスウールをホットプレートで熱したときの温度差を実証したときの様子。断熱材によって下側のホットプレートの熱が上部では断たれていることがわかる(画像提供/Maelab前真之サスティナブル建築デザイン研究室)

「この断熱材の性能を活かして断熱・気密をしっかりしていれば、エアコン1~2台で住まいの全空間を冬も夏も快適な状態に保つことができます。実はエアコンを使用するとき、各部屋に1台ずつ4~6畳用のエアコンを同時に稼働させて低負荷運転を続けるのはエネルギー効率が悪く、電気代が余計にかかります。自動車が渋滞にはまると燃費が悪くなるのと同じです。それよりも家全体を1台で空調することでエアコンにうまく負荷をかけたほうがずっとエネルギー効率が良く、電気代を抑えられるのです」

冬にエアコン1台で暖房の効き具合を比較したときの様子(左が写真、右が遠赤外線カメラで撮影して温度分布を表したもの)。断熱等級6以上になると床の温度が22度を超え、エアコン1台で広いLDKスペースや隣接する部屋も含めた全体が暖まっている(画像提供/Maelab前真之サスティナブル建築デザイン研究室)

冬にエアコン1台で暖房の効き具合を比較したときの様子(左が写真、右が遠赤外線カメラで撮影して温度分布を表したもの)。断熱等級6以上になると床の温度が22度を超え、エアコン1台で広いLDKスペースや隣接する部屋も含めた全体が暖まっている(画像提供/Maelab前真之サスティナブル建築デザイン研究室)

断熱が必要なのは、冬だけじゃない!「夏の断熱」が大事な理由

部屋の温度差について考えるときには、近年「ヒートショック(急激な気温の変化によって血圧や脈拍が変動することで心筋梗塞や不整脈、脳出血・脳梗塞などの発作を起こすこと)」による事故の報道などを通じて、住宅内の気温差が問題になっていることを思い起こす人もいるでしょう。この住宅内で暖房している場所と暖房していない場所の間で極端な温度差が生じるのは、まず第一に断熱・気密の不足、次に家全体を暖める空調ができていないことが原因です。建物の断熱・気密をしっかり確保して、暖房の熱を家中にしっかり届ける仕掛けが必要なのです。

ヒートショックとは、部屋間の寒暖差によって血圧や脈拍の変動が体に悪影響を与えること(画像提供/Maelab前真之サスティナブル建築デザイン研究室)

ヒートショックとは、部屋間の寒暖差によって血圧や脈拍の変動が体に悪影響を与えること(画像提供/Maelab前真之サスティナブル建築デザイン研究室)

ヒートショックは冬に起こることが多いのですが、前さんは「これからは、夏を健康・快適に過ごすためにも断熱が非常に重要」だと言います。

「一日の最高気温が35度を超える猛暑日の発生日数を見てみると、1980年代・ 90年代は年間でほぼゼロ日だったのが、2023年には40日を超える地域が出てきています。北海道や東北地方でも熱中症になって救急搬送される人が2023年には2022年の10倍に急増しました。日本はエアコンを使わずにガマンすることが省エネだと考える風潮もあり、暑さ・寒さに耐えて命を脅かす事件が多発しています。すでに温暖化の影響は明らかですが、今後さらに夏の暑さは厳しくなることが予想されます」

(画像提供/Maelab前真之サスティナブル建築デザイン研究室、出典/日本気象協会推進「熱中症ゼロへ」プロジェクト)

(画像提供/Maelab前真之サスティナブル建築デザイン研究室、出典/日本気象協会推進「熱中症ゼロへ」プロジェクト)

さらに深刻なのは、子どもたちが長い時間を過ごす小・中学校です。

「学校建築は本来、換気が命。大きな窓を開けて空気を入れ替え、風を通すことで快適に過ごせるように設計されています。ところが、近ごろは夏期の外気温が高すぎて、窓を開けると室内が熱くなるため、開けられません。断熱が十分に施されてない学校施設では、外の熱がそのまま室内に侵入するため、どんなに冷房を入れても涼しくならない。結果、子どもたちが学習に集中できないばかりか、中には熱中症にかかってしまう子も出ています。子どもたちを過酷な暑さと汚れた空気から救うため、最近では教室を断熱改修する取り組みが広がっています」

築40年以上の建物も多い小・中学校は換気する前提で設計されているため、断熱性能が低く、子どもたちの日常が危険にさらされている(画像提供/Maelab前真之サスティナブル建築デザイン研究室)

築40年以上の建物も多い小・中学校は換気する前提で設計されているため、断熱性能が低く、子どもたちの日常が危険にさらされている(画像提供/Maelab前真之サスティナブル建築デザイン研究室)

学校の断熱改修前後における冷房時の温度変化。いずれも冷房1台を稼働させているが、天井断熱を施すことで、同じ冷房器具でも教室全体の温度を下げられるようになる(画像提供/Maelab前真之サスティナブル建築デザイン研究室)

学校の断熱改修前後における冷房時の温度変化。いずれも冷房1台を稼働させているが、天井断熱を施すことで、同じ冷房器具でも教室全体の温度を下げられるようになる(画像提供/Maelab前真之サスティナブル建築デザイン研究室)

この状況に対して、強い危機感を抱いた前さんは、2023年の夏に、学校改修を求める2万6千人の署名を集めた上で、当時の文部科学大臣に小・中学校の断熱改修について提言をしたこともあるそう。ところが当時は「通常の建物改修で十分に対策できる」との返答で、納得のいくものではありませんでした。

「自治体によっても学校の断熱改修などの対応には差があります。例えば、ある都道府県では積極的に対策がとられているが、隣の県では全く断熱改修に取り組まれていなかったりします。自治体によって子どもたちの教育環境が大きく異なっている実態はあまり知られていません」

積極的に取り組みが行われている自治体の例として、東京・葛飾区では、区内の小・中学校で児童・生徒とワークショップ等を行いながら断熱改修し、その効果検証をしています。同じく東京・杉並区でも今後、断熱改修に取り組んでいく予定だそうです。

「文部科学省も、2024年3月に公開した『学校施設のZEB化の手引き』において、『まずは断熱改修から!』ということで、予防改修+屋根断熱を緊急で行うことを提言しています。日本中の教室が一刻も早く、すべて断熱改修されることを期待しています」

2025年4月から「断熱等級4」が義務化! 省エネ性能の表示制度も始まる

建築物省エネ法の改正(正式名称:脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律)を受け、2025年4月以降に着工するすべての新築住宅・非住宅で「断熱等級4」「一次消費エネルギー4」以上であることが義務化されます。これに先駆けて2024年4月に開始した建築物の省エネ性能表示制度は、新築住宅の販売時や賃貸住宅の入居募集時に住宅性能を明示することを販売・賃貸する事業者の努力義務としたもの。省エネ性能ラベルに記載される住宅性能の中で最も重要なのは、家マークの数で表されている「断熱性能」です。

前さんは「住宅の省エネ性能表示がようやく開始されたこと自体は一歩前進」と評価しながらも、「住宅も商品である以上、性能がきちんと表示され、それを買う側・借りる側が確認をして購入・賃借するのは当たり前のこと。今回ははじめの一歩であり、今後は中古住宅も含めて、住宅の性能が買う人・借りる人のすべてに提供されていくことが肝心です」と言います。

東京大学 工学系研究科 建築学専攻 准教授の前真之(まえ・まさゆき)さん。「Maelab前真之サスティナブル建築デザイン研究室」を主宰し「みんなが快適で豊かに暮らせる住まいのあり方」を追究している(写真撮影/片山貴博)

東京大学 工学系研究科 建築学専攻 准教授の前真之(まえ・まさゆき)さん。「Maelab前真之サスティナブル建築デザイン研究室」を主宰し「みんなが快適で豊かに暮らせる住まいのあり方」を追究している(写真撮影/片山貴博)

2025年から義務化されることが決まっている「断熱等級4」も、もはや十分な断熱性能とはいえません。国土交通省は「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」にもとづき、断熱性能に1~7の等級をつけており、数字が大きいほど断熱性能が高いことを示します。ところが、前さんによれば「義務化される断熱等級4は、世界標準と比べると低すぎる」そう。

「断熱性能は、UA値(外皮平均熱貫流率)で判断されます。これは外気に触れる住宅の壁や屋根、窓などから室内の熱がどれくらい外に逃げやすいかを表したもので、数値が小さいほど断熱性能が優れていることを示します。地域の気候に応じて、断熱等級ごとにUA値の上限(基準値)が定められています。日本で2025年に義務化される断熱等級4という基準は、25年も前の1999年に設定されたものであり、同じ程度の寒さの諸外国のと比較してもUA値がはるかに大きく、断熱性能が不足しています」(前さん、以下同)

「断熱等級4」は1999年時点の他国の水準と比べても大きく劣る(画像提供/Maelab前真之サスティナブル建築デザイン研究室、出典/国土交通省「今後の住宅・建築物の省エネルギー対策のあり方(第三次報告案)及び建築基準制度のあり方(第四次報告案)について」)

「断熱等級4」は1999年時点の他国の水準と比べても大きく劣る(画像提供/Maelab前真之サスティナブル建築デザイン研究室、出典/国土交通省「今後の住宅・建築物の省エネルギー対策のあり方(第三次報告案)及び建築基準制度のあり方(第四次報告案)について」)

日本の断熱基準には抜け穴も!? 断熱性能はどう見るといい?

さらに前さんは適正な基準であるべき指標が「日本では住宅を建てる側が達成しやすくするために、基準があえて緩められているのでは」と指摘します。

「次の図は日本の住宅・建材生産者団体の有志が20年先を見据えて設けた『HEAT20』という断熱等級と国交省が定める先の断熱等級とを比較したものです。日本の断熱等級は8つの地域区分に応じて各等級ごとのUA値(※1)を設定しています。上位の断熱等級である5~7はHEAT20(※2)のG1・G2・G3の指標を参考に定められたはずなのですが、なぜかHEAT20のUA値と比べると準寒冷地である4地域(代表都市:秋田)や5地域(代表都市:仙台)のUA値が大きい、断熱性能が劣るほうに緩和されているのです。また、国交省が2030年までに義務化するとしている『ZEH水準」の等級5では、準寒冷地の4地域(代表都市:秋田)や5地域(代表都市:仙台)が、温暖地の6地域(代表都市:東京)や7地域(代表都市:鹿児島)と同じ基準値でよいとされています。本当にこれでいいの?と疑いたくなる基準です」

※1:UA値…外皮平均熱貫流率。住宅の熱の出入りのしやすさを表す
※2:HEAT20…「20年先を見据えた日本の高断熱住宅研究会」のこと。住宅外皮水準のレベル別にG1~G3と設定し、提案している

等級5では、準寒冷地である秋田や仙台などを代表とする地域が、東京や鹿児島と同じUA値になっている(画像提供/Maelab前真之サスティナブル建築デザイン研究室)

等級5では、準寒冷地である秋田や仙台などを代表とする地域が、東京や鹿児島と同じUA値になっている(画像提供/Maelab前真之サスティナブル建築デザイン研究室)

このような基準になっている背景について、前さんは「建設会社が全国で建築物を建てるときに、建築物の着工数が多い首都圏の6地域に基準を寄せることで、準寒冷地である4地域や5地域の建築物でも同じ断熱で仕様基準を達成できるようにしているのではないか」と疑念を向けます。

さらにこのような基準設定の違和感は、マンションの断熱性能の評価方法や太陽光発電の搭載など、さまざまなところで見られ「国交省が2025年から義務化する断熱等級4、2030年までに義務化予定の断熱等級5を満たすから、十分な住宅性能がある」とはいえないと言います。
それでは、一般の人が省エネ性能ラベルなどで判断するときには何を基準に判断すればいいのでしょうか?

「先の表で断熱等級4と5のUA値を比較して見ると分かりますが、その差は大きくありません。実際に住んで体感できるほどの断熱効果が感じられ、暖冷房のコストも抑えられるのは、HEAT20のG2相当である断熱等級6以上だと考えています。もうちょっと断熱を頑張ると、温度と電気代のバランスが十分に良くなります。こうした断熱等級6+αの断熱は国交省の規定にはありませんが、断熱等級6.5とか呼んだりしています。
温度と電気代のバランスを取るには等級6以上が必要、等級5はZEHレベルといえどもまだ十分ではなく、等級4ともなると23年前の基準で不十分といって良いレベル、等級3以下だと実質無断熱といっていいと思います。残念ながら日本の住宅ストックの多くはこうした実質無断熱のため、今後はリフォーム時に断熱改修を行うことも重要になります」

前さんが注目する、全国の断熱の取り組み

「住宅の性能を高めるためには、国、さらには自治体の努力が不可欠です。住宅の性能向上に関する施策で、とくに進んでいるのは鳥取県です。今の欧米基準と比べても遜色のない住宅性能評価基準として、新築では『NE-ST(ネスト、とっとり健康省エネ住宅)』、既存改修では『Re NE-ST(リネスト、とっとり健康省エネ改修住宅)』を設け、断熱はもちろん、気密性能についても基準を設けています。県内で生産された建材を使うことを条件に、新築住宅の性能に応じた補助金を出して導入を促進。また、中古住宅に対しても『T-HAS(ティーハス、とっとり住宅評価システム)』という独自の住宅性能査定エンジンをつくり、中古住宅の性能やリフォームの状況を適正に評価できるようにしました。この仕組みによって高い評価を受けた住宅は、中古住宅として売買する際もその価値に応じた銀行の融資が可能になるはずです」

鳥取県では独自に「とっとり健康省エネ住宅性能基準」を設け、基準を満たす新築住宅に補助金を出すなどしている(画像提供/Maelab前真之サスティナブル建築デザイン研究室、出典/鳥取県)

鳥取県では独自に「とっとり健康省エネ住宅性能基準」を設け、基準を満たす新築住宅に補助金を出すなどしている(画像提供/Maelab前真之サスティナブル建築デザイン研究室、出典/鳥取県)

他には山形県でも「やまがた省エネ健康住宅」として独自に認証する仕組みがあるほか、長野県も類似の制度を導入しようとしているようです。また、断熱への取り組みは自治体だけではありません。地域でがんばっている、家の作り手がたくさんいるのです。

「近年、小さな工務店などでも『基本的な住宅性能を満たす家を建てることが、住む人の快適で健康な生活につながる』と考えて、懸命に断熱に取り組んでいる会社が全国にたくさんあります。ぜひそのような物件や会社に注目してほしいですね」

■関連記事:
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これからも快適に住み続けるために、私たちが考えたいこと

最後に前さんに、これから私たちが住まいの省エネや断熱をどのように考えていくかべきかについてメッセージをもらいました。

「近年、デザイン性の高いものや3Dプリンターを使った技術など、建築手法に凝ったものなどさまざまな建築が話題にのぼりますが、私は本来、建築は手段であり、目的そのものではない。建築は『器』であり、その中で営まれる人びとの生活がメインのコンテンツだと考えています。なので、中で暮らす人を幸せにすることこそが、建築の第一の使命のはずです。住む人を幸せにするためには、当然に快適で安心で安全な家でなければなりません。寒い、暑い、電気代が高いなどといった問題は、今や設計や技術によって容易に解決できるわけですから、早急に解決しなければならない問題です。今の日本の低い住宅性能基準に合わせて住宅をつくっていては、到底、数十年後の将来に評価される、つまり資産としても価値のある家にはなりません。

断熱の効果は一度体験してみれば全く快適性が異なることを感じていただけるものです。最近ではいろいろなところで、断熱ワークショップやオープンハウス、宿泊体験などをやっているのを見るようになりました。目にされる機会があればぜひ実体験をしてその効果と『暮らしが変わる』可能性を実感してほしいと思います」

「断熱の効果は体験してみないとわからないが、一度体験すると断熱なしの生活には戻れない」と言う前さん(写真撮影/片山貴博)

「断熱の効果は体験してみないとわからないが、一度体験すると断熱なしの生活には戻れない」と言う前さん(写真撮影/片山貴博)

工学部の建物の屋上には、断熱効果を実験するためのハウスを設置。土台が回転するようになっており、あらゆる方角に窓の向きを変えることで日照条件を変更しながら日射取得や暖冷房熱負荷などの測定ができる(写真撮影/片山貴博)

工学部の建物の屋上には、断熱効果を実験するためのハウスを設置。土台が回転するようになっており、あらゆる方角に窓の向きを変えることで日照条件を変更しながら日射取得や暖冷房熱負荷などの測定ができる(写真撮影/片山貴博)

前さんは「1回施工すれば効果が数十年という長いスパンで続くのが、建築の良いところ」だと言います。さらに「2100年に暮らす人から『建てておいてくれて、ありがとう』と言ってもらえる住宅を増やしていきたいと思いませんか?」と投げかけます。

日々の自分と家族の生活を快適で安心なものにするために、そして日本の住環境全体をより良いものにしていくためにも、断熱に興味をもち、その良さを実感する機会を積極的に探してみることが「幸せな暮らし」への第一歩になるかもしれません。

●取材協力
東京大学 Maelab前真之サスティナブル建築デザイン研究室

梅雨時に気になる住まいのカビ、あなたのカビ対策は間違っていませんか?専門家直伝の対策法を解説!

梅雨の季節がやってきた。リンナイが、カビ専門家・千葉大学真菌医学研究センター准教授の矢口貴志先生監修により、カビに関する意識調査を実施した。普段やっているカビ対策が、実は逆効果という場合もあるようなので、詳しく見ていくことにしよう。

【今週の住活トピック】
「熱と暮らし通信 カビに関する意識調査」を発表/リンナイ

○か×か? あたなのカビ対策は正しい?

まずは、リンナイの「カビ対策○×クイズ」10問に挑戦してみよう。

■リンナイ作成「カビ専門家 矢口先生監修 カビ対策○×クイズ」
□ 1. 入浴後は浴室のドアを開けておく
□ 2. 重曹はカビに効く
□ 3. パッキンのカビはスポンジでこする
□ 4. 圧縮袋はカビを防ぐ
□ 5. 湿度と温度の2つの条件が揃うとカビが生える
□ 6. 浴室のカビ掃除は天井から
□ 7. 玄関はカビが生えづらい
□ 8. 冬の結露もカビの温床になる
□ 9. パッキンのカビ汚れは落ちない
□ 10. 使用後の洗濯機のフタは開けておく

自信のほどはいかがだろう? 実は1番は、今年の正月に筆者も実家でもめたばかり。実家で入浴後に浴室のドアを全開するように言われたが、そうすると浴室の湿気が部屋中に流れるからやってはいけないと答え、ひと悶着(もんちゃく)あったのだ。

正解は以下のとおり。
1. 入浴後は浴室のドアを開けておく (×)
2. 重曹はカビに効く (×)
3. パッキンのカビはスポンジでこする (×)
4. 圧縮袋はカビを防ぐ (〇)
5. 湿度と温度の2つの条件が揃うとカビが生える (×)
6. 浴室のカビ掃除は天井から (〇)
7. 玄関はカビが生えづらい (×)
8. 冬の結露もカビの温床になる (〇)
9. パッキンのカビ汚れは落ちない (×)
10. 使用後の洗濯機のフタは開けておく (〇)

正解数 判定結果 7 問以上カビ対策優等生5~6 問合格点4 問以下間違った知識でカビ対策を行っている可能性あり

筆者の場合、パッキンを歯ブラシでこすってしまったことがあることや、そもそも浴室の天井を掃除しないということなど、いくつか不正解はあったものの、7問以上正解の「カビ対策優等生」になれた。皆さんはいかがだったろうか?

正答率が低いのは、「カビが発生する条件」や「浴室の換気方法」

リンナイが意識調査対象者にこの○×クイズを行った結果から、正解率の低いものをいくつか見ていこう。

出典/リンナイ「熱と暮らし通信 カビに関する意識調査」

出典/リンナイ「熱と暮らし通信 カビに関する意識調査」

最も正解率が低かった(正解率11%)のは、「5.湿度と温度の2つの条件が揃うとカビが生える」だ。カビが発生しやすいのは、「湿度(60%以上)」「温度(20~30℃)」「栄養分(食べカス・人のアカなど)」の3つの条件が揃うこと。矢口先生によると「浴室はせっけんカス、湯アカ、皮脂などカビの栄養源になるものが多く、温度と湿度が高いため、カビが目立つ」のだという。逆にいうと、どれか1つの条件を満たさなければ、カビは発生しにくくなるということを覚えておきたい。

次に正解率が低かった(正解率27%)のは、「1.入浴後は浴室のドアを開けておく」。カビ発生の3つの条件のうち、「湿度」を下げるには、浴室の水分を取り除くことが重要だ。矢口先生によると「入浴後にドアを開けておくと、脱衣所や居室の湿度が高くなり、屋外に面した壁や家具の裏など、思わぬ場所で結露を起こしてしまう」という。やっぱり、ドアを閉めて浴室乾燥機でしっかり乾燥させるのがよいのだ。

リンナイの意識調査では、「普段どのように浴室を乾燥させているか」という質問に対して、60%が「換気扇を使用する」と答え、「浴室のドアを開ける」は43%だった。

出典/リンナイ「熱と暮らし通信 カビに関する意識調査」

出典/リンナイ「熱と暮らし通信 カビに関する意識調査」

ちなみに、浴室の窓を開けて屋外に湿気を出す場合、窓を全開にすると浴室内の中央部分の空気が多く移動してしまうので、窓は細めに開けて、壁際に空気が通るようにするのがよいという。もちろん、雨の日は、窓を開けずに換気扇を使うのがよい。

続けて正解率の低いものを見ていこう。「4.圧縮袋はカビを防ぐ」(正解率33%)については、圧縮袋は湿気を防いでくれるため、上手に使えばカビ予防にもなるが、衣類が少しでも汚れていると袋の中でカビが繁殖してしまう場合もあるという。

「2.重曹はカビに効く」(正解率42%)については、重曹ではカビを根元から取り除くことができないので、次亜塩素酸ナトリウムが配合されたカビ汚れ専用洗剤を使うのがよいと矢口先生。

梅雨を快適に過ごすには「溜めない」「止めない」「吸わない」

カビで悩むのは、「カビ汚れが落ちない」(カビ掃除の悩み不満1位:73%)だけでなく、せっかくカビを落としても「すぐにカビが復活する」(2位:64%)ことだ。

出典/リンナイ「熱と暮らし通信 カビに関する意識調査」

出典/リンナイ「熱と暮らし通信 カビに関する意識調査」

矢口先生によると、「空気中に浮遊するカビの胞子が落下して定着し、そこで発芽、菌糸を成長させ、さらに胞子をつくって増殖する」のがカビ発生のメカニズムで、「カビの菌糸が目地やパッキンの隙間などに入り込むと、カビ汚れ専用洗剤が浸透しづらく、落ちにくい汚れとして残る」「洗浄後、カビの菌糸が少しでも残っていると、またそこから生育を始め、カビ汚れがすぐに復活する」のだという。

そこで矢口先生は、「溜めない・止めない・吸わない」が梅雨を快適に過ごす3つのポイントになると助言している。

■矢口先生監修 梅雨を快適に過ごす3つのポイント
1. カビの栄養源を溜めない
カビの栄養源となるもの、浴室では皮脂、せっけんカス、湯アカなど、リビングルームなどでは食べカス、ダニの死骸、ふん、土などを含むホコリをこまめに取り除くことが必要。掃除は朝イチに、ウェットタイプのモップで拭き取り、そのあとで掃除機をかけるのがよい。

2. 空気の流れを止めない
空気のよどんでいる場所、家具の裏、部屋の隅、クローゼット内、下駄箱内などはカビが生えやすくなる。カビの胞子が定着しないように、扇風機、サーキュレーターなどを使用して、空気の流れをつくること、つまり換気が重要。

3. なるべくカビを吸わない
カビを多く吸いすぎると呼吸器系のアレルギーを起こすことがあるので、カビをなるべく吸わないようにして、快適な生活を心がけて。

意識調査の結果を見ると、自宅のカビ汚れが気になる場所の1位は「浴室」(92%)だが、2位には「エアコン」(43%)が挙がった。エアコン内部の湿気を放置するとカビが繁殖しやすいので、エアコンを使い終わったらすぐに電源を切らず、15~20分ほど送風運転して乾燥させるとよいという。また、梅雨時は部屋干しをしたくなるが、浴室乾燥機が備わっている場合なら、浴室のような小さな部屋は効率よく湿度を下げることができるので、浴室で衣類を乾燥させるのがオススメだという。

じめじめした梅雨をカビの汚れ取りに追われないように、正しい知識で快適に過ごしてほしい。

●関連サイト
リンナイ「熱と暮らし通信 カビに関する意識調査」

浜松町駅チカの大規模複合開発「BLUE FRONT SHIBAURA(ブルーフロント芝浦)」がすごすぎた! 船着場付きホテルでのクルージング、”船旅通勤”もスタンダードに!? 東京都港区

野村不動産と東日本旅客鉄道は、共同で推進している国家戦略特別区域計画の特定事業「芝浦プロジェクト」の街区名称を「BLUE FRONT SHIBAURA(ブルーフロント芝浦)」に決定した。報道関係者に対して、街区名公表と合わせ、S棟(2025年2月に竣工予定)の一部エリアの先行内覧、新たな舟運航路を含めた船上からの見学会を開催した。筆者も参加したので、事業の概要について紹介したい。

浜松町駅最寄りに高さ約230mのツインタワーが誕生

新街区名「BLUE FRONT SHIBAURA」の開発計画は、端的にいうと、浜松町ビルディングの建替事業で、新たにS棟とN棟のツインタワーを建設するもの。いずれもオフィスが中心で、S棟にはホテルを、N棟には住宅を高層階に設け、低層階に商業施設が入る。2021年10月に着工したS棟はすでに骨格が建ち上がり、2025年2月に竣工する予定。N棟は着工が2027年度なのでまだ既存のビルが立っており、2030年度に竣工予定となっている。

出典:プレスリリースより転載

出典:プレスリリースより転載

ただし、単なる建替事業にとどまらないのが、このプロジェクトの大きな特徴だ。

浜松町駅から竹芝・日の出ふ頭をつなぐネットワークを形成

浜松町駅周辺では、世界貿易センタービルディングの建替事業(浜松町駅西口地区開発計画)や東京ポートシティ竹芝、ウォーターズ竹芝など大型再開発プロジェクトが複数進行していた。浜松町駅西口地区、竹芝地区と芝浦一丁目地区との三地区連携を図ることで地域の回遊、にぎわいの創出といった効果を生み出すようになっている。

出典:プレス発表会のプレゼンシーン(筆者撮影)

出典:プレス発表会のプレゼンシーン(筆者撮影)

JR浜松町駅は北口と南口に東西自由通路が整備され、歩行者のアクセスが向上することになるが、その浜松町駅からの歩行者専用道路に屋根を設けてアンブレラフリーで「BLUE FRONT SHIBAURA」に行けるようになる計画だ。

出典:プレスリリースより転載

出典:プレスリリースより転載

一方、日の出ふ頭に「Hi-NODE」(ハイノード)をつくり、船客待合所のほか芝生広場や海をのぞむテラス付きのカフェ・レストランなどを整備。Hi-NODEと竹芝地区をつなぐ橋を架けて夜間にライトアップするなど、水辺に開かれたにぎわい空間を創り出した。

「Hi-NODE」(筆者撮影)

「Hi-NODE」(筆者撮影)

東京湾のベイエリアの整備は、国や東京都も後押ししている。このプロジェクトは、「国家戦略特区」に認定され、東京都が掲げる「東京ベイeSGまちづくり戦略」にも盛り込まれている。東京都は、東京湾岸のベイエリアを、海と緑の環境に調和したサステナブルなエリアとして発展させようと考えているからだ。

新しい働き方「TOKYO WORKation」を提供するオフィス

さて、先行内覧が行われたS棟には、高層部に日本初進出の「フェアモントホテル」が入る。S棟が面する運河に船着き場を設けて、ホテルの専用船によるクルージングサービスが提供されるのが、この場所ならでは。低層部には水辺を活かした飲食店などの商業施設が入り、オフィスで働く人の需要にも応える。

メインとなる中層部のオフィスでは、「TOKYO WORKation」を提供する。眼前に広がる空と海、ツインタワーを囲む運河と緑地といった自然を身近に感じられるような、さまざまな工夫をしている。大きな特徴の一つが、共用部のワークスペースの多様さだ。建築中の28階フロアでその説明を受けた。この階には、さまざまなワークスタイルのラウンジ・バケーション・テラスエリアや共創エリア(フレキシブルにレイアウトが変えられる)などがあり、フィットネスやサウナなどのエリアもある。特に、約10m幅の大開口となるバックデッキは、内側と外側をつなぐ大空間となっていて、東京湾の眺望をゆっくり楽しむことができる。

こうした多様なワークスペースは、アプリで予約ができるようになる。アプリでは、見たい景色やリラックスしたい、集中したいなどの気分でも検索できるというから驚きだ。その日の状況に応じたワークスペースを選ぶことで、業務のパフォーマンスが高まるのだそうだ。これは、野村不動産の従業員を集めて、柔軟なオフィスで勤務した場合とそうでない場合で実験を行った効果検証からも明らかになったという。

バックデッキの外側部分。画像では小さく感じるが、実際にはかなり大きい空間となっている(筆者撮影)

バックデッキの外側部分。画像では小さく感じるが、実際にはかなり大きい空間となっている(筆者撮影)

開放的な開口部からは海だけでなく、東京タワーも見える(筆者撮影)

開放的な開口部からは海だけでなく、東京タワーも見える(筆者撮影)

舟運の拠点にもなり、海からの景観にも配慮

最後に、Hi-NODEから小型船で海に出て、船上からベイエリアを眺めた。

日の出船着場から小型船に乗る(筆者撮影)

日の出船着場から小型船に乗る(筆者撮影)

この芝浦・日の出と晴海を約5分でつなぐ「BLUE FERRY」の運航が、2024年5月22日に始まった。今回は、その航路とは異なる回遊ルートが運航された。船はまず、竹芝ふ頭付近に行ってから、BLUE FERRYの船着き場のある晴海フラッグ付近へ移動し、豊洲市場やレインボーブリッジの手前で折り返すルートだ。

出典:取材当日に配布された船上ツアーのルート(青ライン)を筆者が撮影

出典:取材当日に配布された船上ツアーのルート(青ライン)を筆者が撮影

ツインタワーの建築デザインは、槇文彦氏が名誉顧問を務める槇総合計画事務所によるもの。最大の特徴は、カーテンウォールの外壁だ。残念ながら晴天とはならなかったが、外壁が水面のように情景を映すというので、船上から注意して見ていた。

3層構成のタワーは上層階に行くほどセットバックする形状で空が広く見えるようになっている。まだS棟のみのシングルタワーだが、将来はこうしたツインタワーになると、パースを見せてもらった。

建築中のS棟。最初は東京タワーが右手側に見えた(筆者撮影)

建築中のS棟。最初は東京タワーが右手側に見えた(筆者撮影)

将来は少しデザインの異なるツインタワーが誕生する(筆者撮影)

将来は少しデザインの異なるツインタワーが誕生する(筆者撮影)

S棟の外壁に空の雲が映っている(筆者撮影)

S棟の外壁に空の雲が映っている(筆者撮影)

角度を変えると近くのビルが映る。東京タワーは左側に位置を変えた(筆者撮影)

角度を変えると近くのビルが映る。東京タワーは左側に位置を変えた(筆者撮影)

カメラの腕と天気がもっと良ければきれいに写せたのだろうが、場所や天候によって違う表情を映すという外観の目的が、海から見るとよく分かる。夕日が映えるところも見てみたいものだ。それにしても、方向音痴の筆者には、東京タワーの位置が変わるのが不思議でならない。

対岸の晴海フラッグ(筆者撮影)

対岸の晴海フラッグ(筆者撮影)

お台場方面トレインボーブリッジ(筆者撮影)

お台場方面トレインボーブリッジ(筆者撮影)

このプロジェクトは、ツインタワー内のオフィスに勤務する人やホテルや商業施設を利用する人だけにとどまらず、地域の活性化によって、快適な水辺空間を楽しみたい人や船を利用したい人などにもメリットを生み出す。ベイエリアに新たな魅力をもたらすものだろう。

6月1・2日にはHi-NODEで、音楽やヨガ、フードを楽しめる水辺FESTIVALが開催されたという。東京では再開発がめじろ押しだが、JRやゆりかもめの陸のアクセスとふ頭からの海のアクセスを利用できる、ベイエリアの玄関口となるエリアの再開発となる。その点では、他と異なるユニークな再開発といえるだろう。

●関連サイト
野村不動産、東日本旅客鉄道「延床面積約 55 万平米の大規模複合開発「芝浦プロジェクト」街区名称決定 「BLUE FRONT SHIBAURA」~更なる成長が期待されるベイエリアと東京都心部の結節点「つなぐ“まち”」を目指す。~」

新宿駅まで30分以内・中古マンション価格相場が安い駅ランキング 2024年版

世界で最も乗降客数が多い駅としてギネス世界記録に認定されたこともある、巨大ターミナル・新宿駅。JR各線をはじめ京王線、小田急線、東京メトロ丸ノ内線、都営地下鉄の新宿線と大江戸線が乗り入れ、駅周辺のビジネス街や繁華街を訪れる国内外の人々が平日・休日を問わず多く利用している。さらに「新宿グランドターミナル」構想に基づいて新宿駅の直近地区、西口地区、西南口地区などの再整備が計画され、今後はますますの発展が予想されている。そんな新宿駅まで電車で30分圏内というアクセス性のよさを確保しつつ、価格相場が安い街を調査してみた。その結果をご紹介しよう。

新宿駅まで電車で30分以内にある中古マンションの価格相場が安い駅TOP10

【シングル向け】
順位/駅名/価格相場(主な路線名/駅の所在地/新宿駅までの所要時間/乗り換え回数)
1位 西馬込 2790万円(都営浅草線/東京都大田区/28分/1回)
2位 方南町 2980万円(東京メトロ丸ノ内線/東京都杉並区/11分/0回)
3位 地下鉄成増 3080万円(東京メトロ有楽町線・副都心線/東京都板橋区/26分/1回)
3位 成増 3080万円(東武東上線/東京都板橋区/22分/1回)
5位 板橋区役所前 3180万円(都営三田線/東京都板橋区/20分/1回)
6位 大山 3200万円(東武東上線/東京都板橋区/16分/1回)
7位 南千住 3280万円(東京メトロ日比谷線/東京都荒川区/30分/2回)
8位 川崎 3330万円(JR東海道本線/神奈川県川崎市幸区/30分/2回)
9位 雑司が谷 3380万円(東京メトロ副都心線/東京都豊島区/11分/1回)
10位 王子神谷 3385万円(東京メトロ南北線/東京都北区/27分/1回)
※11位以降は記事末に掲載

【カップル・ファミリー向け】
順位/駅名/価格相場(主な路線名/駅の所在地/新宿駅までの所要時間/乗り換え回数)
1位 読売ランド前 2630万円(小田急小田原線/神奈川県川崎市多摩区/24分/1回)
2位 京王稲田堤 2990万円(京王相模原線/神奈川県川崎市多摩区/28分/1回)
2位 北戸田 2990万円(JR埼京線/埼玉県戸田市/27分/0回)
4位 朝霞 3380万円(東武東上線/埼玉県朝霞市/29分/1回)
5位 生田 3480万円(小田急小田原線/神奈川県川崎市多摩区/22分/1回)
5位 蕨 3480万円(JR京浜東北・根岸線/埼玉県蕨市/26分/1回)
7位 戸田 3539.5万円(JR埼京線/埼玉県戸田市/25分/0回)
8位 中野島 3565万円(JR南武線/神奈川県川崎市多摩区/26分/1回)
9位 百合ヶ丘 3649万円(小田急小田原線/神奈川県川崎市麻生区/26分/1回)
10位 久地 3650万円(JR南武線/神奈川県川崎市高津区/28分/1回)
※11位以降は記事末に掲載

「シングル向け」は新宿駅までわずか11分の駅がトップ10入り

新宿は日本屈指の繁華街だけあり、駅の徒歩15分圏内にある中古マンションの価格相場も高め。今回の調査によると、「シングル向け(専有面積20平米以上~50平米未満)」は5025万円、「カップル・ファミリー向け(専有面積50平米以上~80平米未満)」は8998万円という結果に。しかし新宿駅から電車で30分圏内にまで範囲を広げて見ると、価格相場がグッとリーズナブルな街もあることが判明。その調査結果を見ていこう。

馬込駅(写真/PIXTA)

馬込駅(写真/PIXTA)

「シングル向け(専有面積20平米以上~50平米未満)」ランキングの1位は、都営浅草線・西馬込駅で価格相場は2790万円。東京都大田区に位置し、西馬込駅から4駅目の五反田駅でJR山手線に乗り換えると、計約28分で新宿駅に到着する。JR山手線の五反田駅~新宿駅間にある目黒、恵比寿、渋谷、原宿、代々木の各駅へも行きやすい。西馬込駅は都営浅草線の始発駅でもあり、混雑する通勤の時間帯でも座りやすい点も魅力だろう。地下にある駅から地上に出ると国道1号・第二京浜道路が通っており、その大通り沿いにスーパーやドラッグストア、コンビニが点在している。脇道に入ると地元の人に愛されるベーカリーや飲食店などの商店がぽつりぽつりとあるほかは静かな住宅街が広がり、落ち着いた暮らしができるだろう。

方南町駅周辺(写真/PIXTA)

方南町駅周辺(写真/PIXTA)

2位は東京都杉並区にある東京メトロ丸ノ内線・方南町駅で、価格相場は2980万円。新宿駅までは乗り換え不要で約11分という近さ。ちなみにこの所要時間は、9位の東京メトロ副都心線・雑司が谷駅(価格相場3380万円)と並んでトップ10では最短タイ。ただ、雑司が谷駅~新宿駅は乗り換えが必要なので、新宿駅までのアクセス性のよさは方南町駅がトップ10で最強といえるだろう。

地下にある方南町駅のホームから地上の1番出入口へと出ると、そこは環七通りと方南通りが交わる方南町交差点。周辺には24時間営業のコンビニや24時まで営業するスーパー、ドラッグストアやファミレスがあり、都内有数の大街道・環七通りは昼夜を問わず車が行き交うので帰宅時間が遅くなっても寂しくなさそうだ。駅の2番出入口はアーケード商店街が続く方南通り沿いにあり、こちらもにぎやかな雰囲気。気軽に入れるチェーン系の飲食店や持ち帰り弁当店、元気な個人商店の青果店や精肉店などが軒を連ね、電車を降りてから買い物や食事をするならこちらの出入口を利用すると便利だろう。

3位には価格相場3080万円で東京メトロ有楽町線・副都心線の地下鉄成増駅と東武東上線・成増駅の2駅がランクイン。駅名からもわかるように、両駅は駅前のバスロータリーをはさんで向かい合うように近接している。地下鉄成増駅から新宿駅までは、線路を共有して運転される東京メトロ有楽町線・副都心線で新宿三丁目駅へ出て、東京メトロ丸ノ内線に乗り換えると計約26分。成増駅から新宿駅までは、東武東上線で池袋駅に出てからJR埼京線に乗り換えて計約22分で行ける。新宿駅に向かうなら、東武東上線の成増駅を利用するとよさそうだ。

成増駅周辺(写真/PIXTA)

成増駅周辺(写真/PIXTA)

成増駅にはスーパーや総菜店、書店などを備えた駅ナカ商業施設「EQUiA(エキア)成増」が併設されているほか、地下鉄成増駅と成増駅の周辺には商店が充実。日常使いできる多彩な飲食店をはじめ、スーパーやドラッグストア、コンビニが複数あり、買い物も食事も駅周辺で済ませられる。2024年3月には両駅から徒歩3分ほどの場所に、ディスカウントストア「MEGA ドン・キホーテ成増店」もオープン。4階建ての店舗は都内最大級の売場面積を誇るそうで、日用消耗品や生活雑貨、家電などに加え、生鮮食品や石窯焼きピザなどの総菜にも力を入れており、日々の買い物に役立ちそうだ。

川崎駅前(写真/PIXTA)

川崎駅前(写真/PIXTA)

5位以下にもさまざまな駅が並んでいるが東京都外・JR沿線から唯一、トップ10入りした8位のJR東海道本線・川崎駅を見てみよう。価格相場3330万円の川崎駅は神奈川県川崎市幸区に位置している。新宿駅まで約30分で行くには、JR東海道本線で品川駅に出てからJR山手線に乗り換えて大崎駅へ、さらにJR埼京線に乗って新宿駅に向かう乗り換え2回のルート。品川駅からJR山手線に乗ったまま新宿駅に向かうルートなら、川崎駅から所要時間は約33分かかるものの乗り換え1回で行くことが可能だ。川崎駅から東京駅まではJR東海道本線で3駅・約18分、JR東海道本線の反対方面に乗ると横浜駅まで1駅・約7分で行くこともできる。

JRの京浜東北・根岸線や南武線も乗り入れるターミナル駅であり、すぐ近くに京急本線・京急川崎駅もある川崎駅周辺はにぎやかな街並み。JR駅舎に駅ビル「アトレ川崎」が併設され、駅前にはショッピングモールの「ラゾーナ川崎プラザ」をはじめとした大型商業施設が林立。さらに川崎駅と京急川崎駅を結ぶ地下街「川崎アゼリア」も広がり、雨の日も濡れずに街の各方面にアクセスできるのも便利だ。

すでに大いに発展している川崎駅周辺だが、さらなる再開発事業の計画も。京急川崎駅の北側では、1万人規模のアリーナを核として宿泊施設・飲食施設・商業施設を含む複合エンターテインメント施設の建設を目指す「川崎新!アリーナシティ・プロジェクト」が始動。2025年着工、2028年の竣工・開業が目標だそう。また、京急川崎駅西口地区でも再開発事業の計画がある。こちらは高さ約119mと高さ約46mの複合商業ビルを中心にした街づくりを目指すもので、2025年の着工、2030年の事業完了が予定されている。

「カップル・ファミリー向け」には川崎市多摩区から4駅ランクイン

「カップル・ファミリー向け(専有面積50平米以上~80平米未満)」ランキングの1位は、小田急小田原線・読売ランド前駅で価格相場は2630万円。新宿駅周辺の価格相場は8998万円だったので、その3分の1以下という結果だ。神奈川県川崎市多摩区にある読売ランド前駅から新宿駅までは、まず通勤準急で登戸駅に出て、快速急行に乗り換えると計約24分。乗り換えずに各駅停車1本で新宿駅に向かうと、約42分で到着する。

よみうりランド(写真/PIXTA)

よみうりランド(写真/PIXTA)

駅名にある通り、読売ランド前駅は遊園地「よみうりランド」の最寄駅の一つ。とはいえバスで10分ほど離れた立地だ。駅の北側には日本女子大学の付属中学・高校がたたずむ丘があり、住宅街は丘の周囲と、駅の南側に広がっている。商店があるのは駅南側が中心で、駅舎の南口側にスーパーが併設されているほか、手づくりソーセージが評判の精肉店をはじめ鮮魚店やベーカリーといった個人商店や、ドラッグストア、コンビニなどが並んでいる。駅の徒歩30分圏内には幼稚園や保育園、小中学校も複数あるので、子育て世代も多く住む地域のようだ。

京王稲田堤駅(写真/PIXTA)

京王稲田堤駅(写真/PIXTA)

2位には価格相場2990万円となった、京王相模原線・京王稲田堤駅とJR埼京線・北戸田駅の2駅がランクインした。京王稲田堤駅は1位・読売ランド前駅と同じ神奈川県川崎市多摩区にあり、読売ランド前駅から北へ車で8分ほどの立地。京王相模原線の区間急行で調布駅に行き、京王線の特急に乗り換えると新宿駅まで約28分で行くことができる。京王線特急に直通の京王相模原線特急列車もあり、そちらを利用すると新宿駅まで乗り換え0回・約30分だ。

京王稲田堤駅の南口改札を出るとすぐ左手にスーパーがあり、右手にはコンビニやドラッグストアが見える。駅高架下をくぐって進むと、100円ショップやファストフードなどの飲食店、ドラッグストアなどが並ぶ商店街が続いている。車道と歩道が一体となったような細い道でありながら人通りが多いのは、この先にJR南武線・稲田堤駅があるため。京王稲田堤駅から徒歩5分ほどの稲田堤駅前にも商店街が広がっており、飲食店はこちらのほうが充実している印象だ。

北戸田駅(写真/PIXTA)

北戸田駅(写真/PIXTA)

もう1つの2位の駅、JR埼京線・北戸田駅は埼玉県戸田市にある。新宿駅まではJR埼京線1本・約27分で、途中駅である池袋駅にも行きやすい。新宿とは逆方面に約14分乗車すると、埼玉県屈指のターミナル・大宮駅に到着する。

北戸田駅の周辺には住宅街が広がり、駅高架下の店舗をはじめ徒歩20分圏内にスーパーが9軒もあることからも住民の多さがうかがえる。そのうちの1軒は駅から徒歩12分ほどの「イオンモール北戸田」に併設され、ファッションや雑貨、インテリアのお店もついでに立ち寄りやすい。駅から20分ほど歩くとホームセンターもあり、買い物環境は充実しているといえるだろう。遊具がある公園も点在しているほか、駅から徒歩15分ほどの場所には水泳や体操など子ども向けスポーツ教室を開講している「戸田市スポーツセンター」も。駅から西へ車で10分ほど走った荒川沿いには、河川敷の調節池に沿って整備された市営公園「彩湖・道満グリーンパーク」があり、BBQや釣りができるので休日に家族で出かけるのも楽しそう。

さて、トップ10を見てみると1位・読売ランド前駅や2位・京王稲田堤駅をはじめ5位・生田駅、8位・中野島駅、と神奈川県川崎市多摩区の駅が4駅ランクインしていた。多摩区は川崎市の7つの行政区のなかでは最も北側の多摩川沿いに広がり、川を越えると東京都の狛江市や調布市というロケーションだ。

多摩区では独自の取り組みとして「多摩区子育て支援パスポート」を発行している。これは多摩区商店街連合会と協働した取り組みで、18歳までの子どもがいる家庭を対象として商店街の協賛店や公共施設が割引などのサービスを提供するというもの。割引サービスがありがたいのはもちろん、街ぐるみで子育てを応援してくれる地域なのだと感じられる点もうれしいところだろう。こういった生活をサポートする制度は自治体によって内容や充実度がさまざま。家族とともに長く定住するための住まいを探す際は、物件の価格に加えて地域の制度もチェックすると、より充実した暮らしが送れるだろう。

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている新宿駅まで電車で30分圏内の駅(掲載物件が20件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】
駅徒歩15分圏内、物件価格相場3億円以下、築年数40年未満、敷地権利は所有権のみ
シングル向け:専有面積20平米以上50平米未満
カップル・ファミリー向け:専有面積50平米以上80平米未満
【データ抽出期間】2023/8~2024/2
【物件相場の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された中古マンション価格から中央値を算出
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、朝7時30分~9時の検索結果から算出(2024年4月22日時点)。所要時間は該当時間帯で一番早いものを表示(乗換時間を含む)
※記載の分数は、駅内および、駅間の徒歩移動分数を含む
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している
※ダイヤ改正等により、結果が変動する場合がある
※乗換回数が2回までの駅を掲載

住まいを高く売るには有利な時期?約6割がそう感じた、不動産売却市場。価格と売却時期はどちらを重視?

リクルートが『住まいの売却検討者&実施者』調査(2023年/首都圏)を実施した。過去1年以内に売却を検討した人に、その物件や売却理由、売る時期をどう見ているかなどを聞いている。今どきの売却実態を見ていくことにしよう。

【今週の住活トピック】
2023年『住まいの売却検討者&実施者』調査(首都圏)公表/リクルート

売却を検討した物件の所在地、千葉県と埼玉県で前年より増加

リクルートの調査は、首都圏に住む20歳~69歳の男女に、2023年12月~2024年1月に実施したもの。まず、過去1年以内に土地や居住用不動産の売却を主体的に検討したかを聞き、該当した18%を売却検討者として、本調査を行っている。なお、そのうち38.5%が売却を完了している。

売却を検討したのは「買い替え」か「相続・贈与」か「不要な不動産を処分するため、その他」かを聞いたところ、「買い替え」が58.5%、「相続・贈与」が25.1%になった。ただし、50代・60代では「相続・贈与」の割合が3割前後と増える傾向が見られた。

では、「売却しようと思った理由」は何だろう?1位は「売れるときに売るため」(28.0%)、2位は「住む場所を変えるため」(26.9%)となったが、年々減少にある。3位は「高いうちに売るため」(26.0%)だった。近年の不動産の価格上昇を受けてのことだろう。

不動産を売却しようと思った理由(複数回答)(出典:リクルート「2023年『住まいの売却検討者&実施者』調査(首都圏)」)

不動産を売却しようと思った理由(複数回答)(出典:リクルート「2023年『住まいの売却検討者&実施者』調査(首都圏)」)

売却を検討した物件は、「土地」が25.4%、「一戸建て」が40.0%、「マンション・アパート」が34.6%だった。興味深いのは、売却検討物件の所在地だ。「東京都」が減少トレンドにある一方で、「千葉県」と「埼玉県」がこれまでより増加する形となった。早い時期から価格上昇が感じられた東京23区から遅れて、千葉県や埼玉県でも買い替えがしやすい市場になったということだろうか。

売却検討物件の属性(単一回答)(出典:リクルート「2023年『住まいの売却検討者&実施者』調査(首都圏)」)

売却検討物件の属性(単一回答)(出典:リクルート「2023年『住まいの売却検討者&実施者』調査(首都圏)」)

「高く売るのに有利な時期」か?有利57.5%、不利9.7%

さて、不動産の価格が上昇トレンドにあることで、売却に有利な時期と感じている人が多いのだろうか? 調査結果を見ると、「高く売るのに有利な時期だと感じていた」のは57.5%(とても19.8%+やや37.7%)となり、半数を超えた。一方、「不利な時期だと感じていた」のは9.7%(とても2.5%+やや7.2%)だった。過去の調査と比べると、有利という回答が増え、不利という回答が減る傾向が見られる。

売却検討物件の属性(単一回答)(出典:リクルート「2023年『住まいの売却検討者&実施者』調査(首都圏)」)

※有利・計(「とても有利な時期だと感じていた」+「やや有利な時期だと感じていた」)
※不利・計(「やや不利な時期だと感じていた」+「とても不利な時期だと感じていた」)
売却検討物件の属性(単一回答)(出典:リクルート「2023年『住まいの売却検討者&実施者』調査(首都圏)」)

注目したいのは、有利の割合が、売却タイプ別では「相続・贈与」が51.8%であるのに対し、「買い替え」が64.2%とかなり高くなっている。さらに、物件タイプ別では、「一戸建て」が51.0%で横ばいの傾向であるのに対し、「マンション・アパート」が62.0%、「土地」が61.6%と前年より増えている。高く売るのに有利と感じている人が多いものの、不動産によってその感じ方に微妙な差があるようだ。

売却で時期と価格のどちらを重視する?

さて、「売れるときに売る」「高く売れるときに売る」と思う人が多く、「売却に有利な時期と感じる」人が多いなか、重視するのは、「時期」と「価格」のどちらなのだろう?

「時期(いつ売れるか)を重視する(した)」か、「価格(いくらで売れるか)を重視する(した)」かを聞くと、「どちらかといえば」を含む「時期重視」派は47.2%、「価格重視」派は34.2%、「どちらともいえない」は18.6%という結果となった。

時期と価格のどちらを重視するか(単一回答)(出典:リクルート「2023年『住まいの売却検討者&実施者』調査(首都圏)」)

※時期 重視(「時期(いつ売れるか)を重視する(した)」+「どちらかといえば時期(いつ売れるか)を重視する(した)」)
※価格 重視(「どちらかといえば価格(いくらで売れるか)を重視する(した)」+「価格(いくらで売れるか)を重視する(した)」)
時期と価格のどちらを重視するか(単一回答)(出典:リクルート「2023年『住まいの売却検討者&実施者』調査(首都圏)」)

ただし、年代別で見ると、「時期重視」派は、20代で67.4%、30代で55.0%と、全体平均の47.2%よりもかなり高くなっている。若い世代の方が、子どもの入学前になど、売るタイミングが決まっていて、早く売ることに重きがあるからなのだろうか?

高く売るには、不動産価格が上昇あるいは高止まりしている時期であること、一定規模の需要(不動産を買う人が多い)があること、などの条件が必要だ。後者は、売れるときに売るための条件でもある。住宅ローンの金利上昇がいよいよ現実的になっている今は、売るにはよいタイミングといえるだろう。とはいえ、売る物件と買う人がうまくマッチングするには、個別の事情もある。自分の物件が今の市場でどういったポジショニングにあるのか、見極める必要もあるだろう。

●関連サイト
リクルート「2023年『住まいの売却検討者&実施者』調査(首都圏)」

家を自分でデザイン&組み立てられる! テクノロジーのチカラで素人でも低コスト&自由度高い家づくりサービス「NESTING」がおもしろい VUILD

従来、家はハウスメーカーや工務店、建築士が設計し、施工事業者が建てるものだったのが、今はそこに住まう人自身が家をデザインし、施工まで手がけられる時代になりました。そんな、新しい住まいづくりの仕組みを世に打ち出したのは、テクノロジーの力で誰もが作り手になれる世界を実現する、を掲げた建築系スタートアップ「VUILD株式会社」。同社が手がけるデジタル家づくりサービス「NESTING」によって、建築デザインや施工など専門家の領域だったものが、そうでない人にも開放され、自ら住まいの作り手になることができます。今回は、その記念すべき「NESTING」の1棟目を建てたお施主さんと、「VUILD
株式会社」の代表・秋吉浩気さん、「NESTING」事業責任者の森勇貴さんに、サービスの背景や「NESTING」で建てる価値など、話をうかがいました。

「建築の民主化」をめざして。消費者を生産者に変えていく「NESTING」の家・外観(画像提供/VUILD株式会社)

「NESTING」の家・外観(画像提供/VUILD株式会社)

施主自らデザインできて、施工もできる。そう聞くと、「DIYでつくった家」といったイメージを抱く人もいるかもしれません。しかし、「NESTING」は「DIY」の要素を含んでいながらも、「DIY」のクオリティを大きく超えるデザインと性能が光る家。日本の風土に根差した自然に溶け合う佇まいで、「HEAT20 G2」(断熱等級6)という最高レベルの断熱性能を誇ります。

「NESTING」の家・内観(画像提供/VUILD株式会社)

「NESTING」の家・内観(画像提供/VUILD株式会社)

そんな、プロが手がけるような建築を、専門家でもない一般生活者がどうすれば建てられるようになるのでしょうか。そもそも、「NESTNG」のサービスを始めたきっかけは?まずは代表・秋吉浩気さんに事業の背景をうかがいました。

「VUILDでは、“「いきる」と「つくる」がめぐる社会へ”を、会社のビジョンとして掲げています。例えば、食べること。料理をつくり、それを食べることで、僕たちは生きているわけです。料理をつくる過程には、好きな食べものをつくる楽しさもあるだろうし、おいしく仕上げる工夫を凝らす楽しさもある。こんなふうに、生きるためにつくり、つくることで生きるという循環の先に、僕たちのいきいきとした暮らしがあるのではないかと感じて、「誰もが作り手になれる世界を実現する」をVUILDの活動モットーとしています。

そこで、VUILDが初めに取り組んだのが、3D木材加工機「ShopBot」の販売。誰もがものづくりの作り手になれるように、ものづくり技術の普及に取り組んできており、現在までに日本全国200箇所以上に導入してきました。ですが、デジタル機械を使いこなすまでには一定のハードルがあり、単に機械を販売するだけでは「誰もが作り手になれる世界を実現する」には至らないと感じました。

そこで、次にスタートしたのが、設計データさえあればそれを機械で加工可能なデータへと自動で変換してくれるツール「EMARF」です。これにより、ものづくりへの技術的なハードルがぐっと下がったものの、結局はものづくり経験のある人や、設計者でないと、このプラットフォームを活用できないという課題にぶつかりました。そこで思い浮かべたのが、Apple社のiPhone。技術の匂いをあまり感じさせないのに、高性能なテクノロジーが一つの端末に結集していて、誰もが直感的に操作できる。それでいて、デザインもかっこいい。それまでインターネットに興味を持っていなかった人も、iPhoneの普及によりインターネットに親しむようになったりして、僕はそれを「技術の民主化」だと捉えているんです。

ならば、僕たちがフィールドとしている「建築の民主化」を目指すためには、どうすればよいか。Apple社のiPhoneのように、技術を技術として販売するのではなく、テクノロジーをパッケージングしてブランドを築くことで、ものづくりや、建築の作り手としての入り口が開かれるのではないかと考えて、デジタル家づくりサービス「NESTING」の事業構想が浮かび上がりました」

「VUILD株式会社」の代表・秋吉浩気さん

「VUILD株式会社」の代表・秋吉浩気さん

「これまでは、つくることに興味のある人や、すでに作り手である人を相手にしたサービスを手がけてきました。でも世の中を見渡してみると、お金を出せばある程度のものが手に入る時代ですから、ほとんどの人が生産者というより消費者サイド。「いきる」と「つくる」がめぐる社会を築くには、社会の大多数を占める消費者にアプローチしないと、本当の意味で世の中を変えることはできない。「NESTING」が普及していくことで、これまで消費者だった人を生産者に変えることができるかもしれないと思いました」(秋吉さん)

誰でも直感的にデザインできる。基礎も、構造体も、自分でつくれる。だから、誰でも建てられる!

「NESTING」で建てる家と、従来の家づくりにどんな違いがあるのか。
第一に、「NESTING」は施主の主体・主導で家づくりが進行するというところに、大きな違いがあります。例えば、設計プロセス。一般的には、施主の要望を工務店や設計士が聞き取り、それに基づいた設計プランを「提案する」流れですが、「NESTING」では施主がデザインを手がけ、そのサポートをプロが行います。

専門家が行う建築設計を、どうやって初心者でも手がけられるようにしたのか。その背景には、デジタル技術の活用があり、施主は専用アプリを使ってパソコン上で操作しながら、間取りや空間のイメージを膨らませられます。(注:アプリは改修中のため、実際の仕様と記載が異なる場合があります)

「NESTING」専用アプリ。画面上で建物の大きさや間取りを直感的にデザインできる

「NESTING」専用アプリ。画面上で建物の大きさや間取りを直感的にデザインできる

第二に、「価格の透明性」。従来の家づくりは、工務店や設計士に設計の比重があるため「何に」「どれだけ」コストがかかっているのか、施主側からは見えづらいという側面があります。そのため「知らない間に、コストが膨れあがっていた」なんてことも。また、木材加工、基礎工事、建て方工事、屋根工事、断熱材の吹付け、塗装、床張りなど、工事の工程ごとに専門の事業者が入っているため、見積もりも煩雑で時間がかかってしまいます。

それに対し「NESTING」は、施主本人がデザインを手がけるスタイルであるため、「何に」「どれだけ」コストがかかるのか、「何を」「どうすれば」コストが増えるのか・減らせるのかが分かります。その上、電気工事や給排水設備工事など、資格が必要な工事以外は施主本人で建てられるつくりとしているため、複数の事業者が入ることもなく即座に精度の高い見積もりが可能。このようにして、価格の透明性が実現できているのです。

さらに、「NESTING」の建物に使う木材パーツの多くを前述した3D木材加工機「ShopBot」で加工しており、事業者に依頼せずとも自分たちで高精度な木材加工ができる。それも、価格の透明性を高めている特徴の一つです。

木材を加工する3次元木工用切削機「ShopBot」(画像提供/VUILD株式会社)

木材を加工する3D木材加工機「ShopBot」(画像提供/VUILD株式会社)

「ShopBot」で加工した「NESTING」の木材キット(画像提供/VUILD株式会社)

「ShopBot」で加工した「NESTING」の木材キット(画像提供/VUILD株式会社)

この部品は、女性や子どもでも運べるように全て10kg以下で制作されています。だから、体力に自信がない人でも安心。家族や友人と協力しながら、自分たちの手で家の構造を組み上げることができるのです。

家の基礎も自分たちでつくります。一般的にはコンクリートを打設しますが、「NESTNG」では杭工法を用いて、電動工具を使いながら自分たちで杭を打ち込んでいきます。

専用の金物に単管パイプを打ち込み、基礎が完成!施工方法さえ覚えれば、初心者でもできる(画像提供/VUILD株式会社)

専用の金物に単管パイプを打ち込み、基礎が完成!施工方法さえ覚えれば、初心者でもできる(画像提供/VUILD株式会社)

「NESTING」を横から見た図面(画像提供/VUILD株式会社)

「NESTING」を横から見た図面(画像提供/VUILD株式会社)

第三に、建物のデザインに心が行き届いているというところ。誰でもつくれる家と聞くと、デザイン性が置き去りにされそうな印象がありますが、「NESTING」の家は違います。

「NESTINGのデザインパッケージを考えていた当初、コストカットするために軒の出をなくす案もありました。安価で合理的な家を建てようとすると、屋根を削って真四角な家をつくるのが一番いいんです。でも、日本建築は「屋根の建築」とも言われるくらい、気候条件的にも重要な存在。「NESTING」のデザインで最も特徴的でありこだわったのは、屋根かもしれません」(秋吉さん)

「NESTING」は、日本の風土や自然に溶け合う家。自然を愛する人、古くからある日本らしい風景を好む人の心をつかむデザインです。

(画像提供/VUILD株式会社)

(画像提供/VUILD株式会社)

記念すべき「NESTING」の1棟目は、香川県・直島のお宿

こうして考えられた構想が、リアルに実現できるのか。その検証も兼ねて、「NESTING」は応募制というかたちで、2023年春にサービスが始動しました。そこで、記念すべき一人目の施主に選ばれたのは、東京都在住・清るみこさん。IT関係の企業に勤めながら、香川県にある直島が好きで、宿泊業を営まれています。今回は、新たにもう1棟、直島で宿の運営を始めようと、「NESTING」で建てることにしたそうです。

「NESTINGを選んだ理由は、早く建てたかったというのと、おもしろそうだったから。デザイン性と快適性にこだわってつくりたかったので、「NESTING」ならそれが叶いそうだと思いました。

よくある話だと思いますが、建物にこだわればこだわるほど、設計や施工費用がかさみ、後で減額調整をすることになりますよね。これまでは、工務店さんに丸投げしていたために、材料費以外にどんな費用がかかっているのか、減額の余地があるのかないのか、分からなかったんです。でも、「NESTING」はセルフビルドなので、工程も費用も自分でつくりながら理解することができる。VUILDさんとだからできる宿づくりでした」(清さん)

完成した宿の外観(画像提供/VUILD株式会社)

完成した宿の外観(画像提供/VUILD株式会社)

今回は、スピード感を重視していたために、清さんご自身が設計やデザインをすることはなく、「NESTING」のベースとなるデザインをもとに、設計者のスタッフと相談しながら間取りを決めていったそう。その後の、木材キットの加工などには清さんも積極的に参加されました。

「海老名に木材加工の工場があり、毎週末のように通いながら、部品が製造されていく様子を見学したり、部品の組み立てを体験させていただいたりしました。私自身、DIYで棚をつくったりしたことはありますが、こんな大掛かりな加工現場を見たことはなくて。とても勉強になったし、このキットで建物がつくれるんだ……!と、驚きもありました」(清さん)

部品づくりを体験された様子(画像提供/VUILD株式会社)

部品づくりを体験された様子(画像提供/VUILD株式会社)

今回、基礎工事は事業者が行い、部品の組み立ては清さんやお仲間の皆さんで手がけられました。

「土日の2日間、友人たちが直島に手伝いに来てくれて、「VUILD」のスタッフさんや地元の大工さんの手を借りながら、自分たちで部品を組み立てていきました。女性が多かったので、屋根など高所での作業や男手が必要な施工は、サポートに来てくれていたスタッフさんにお任せしたのですが、部品を運んだりネジ締めをしたりと、大工さんに相談したりしながら、それぞれが役割を見つけて動いていました」(清さん)

ご友人と一緒に、2日間の建て方ワークショップを開催!(画像提供/VUILD株式会社)

ご友人と一緒に、2日間の建て方ワークショップを開催!(画像提供/VUILD株式会社)

チームワークを発揮し、どんどん組み上げていきます(画像提供/VUILD株式会社)

チームワークを発揮し、どんどん組み上げていきます(画像提供/VUILD株式会社)

2日間で上棟!(画像提供/VUILD株式会社)

2日間で上棟!(画像提供/VUILD株式会社)

屋根の板金工事や、壁の取り付けは「VUILD」のスタッフさんや大工さんが行い、清さんは床のタイルシールの貼り付けを担当。

「仕事の合間をぬって、毎週のように直島に通いながら、タイルシートを貼っていました。一見、簡単そうに見える作業も、ズレなくピシッと貼るのが意外と難しくて。床に接着するボンドが固まってしまい、一部だけ床が盛り上がってしまったりと、苦労しました」(清さん)

その後、再度ご友人の皆さんに集まってもらい、2日間の塗装ワークショップを開催。素人でも壁や建具をムラなく塗れるように、「NESTING」のためにオリジナルで開発した塗料を使用されたそうです。

ご友人が集まり、塗装ワークショップを開催!(画像提供/VUILD株式会社)

ご友人が集まり、塗装ワークショップを開催!(画像提供/VUILD株式会社)

皆さん、塗るのに夢中になっています(画像提供/VUILD株式会社)

皆さん、塗るのに夢中になっています(画像提供/VUILD株式会社)

こうして完成した宿が、こちら。

庭からの外観。海に面している直島の気候風土に合わせ、潮風にも耐えられるよう外壁は焼杉を使用している(画像提供/VUILD株式会社)

庭からの外観。海に面している直島の気候風土に合わせ、潮風にも耐えられるよう外壁は焼杉を使用している(画像提供/VUILD株式会社)

ダイニングからリビングを見た様子(画像提供/VUILD株式会社)

ダイニングからリビングを見た様子(画像提供/VUILD株式会社)

リビングから縁側を見た様子(画像提供/VUILD株式会社)

リビングから縁側を見た様子(画像提供/VUILD株式会社)

写真で見ても、未経験者がセルフビルドで建てた宿だとは思えない、ハイクオリティな仕上がりであることが分かります。さらに、着工してから竣工するまで工期は、たったの2カ月。実際の稼働日に換算すると、43日。通常では考えられない、驚きのスピードです。「NESTING」で建ててみた感想や手応えを、清さんはこのようにお話しされました。

「昔の家づくりって、コミュニティを巻き込みながらつくり上げていく側面があったと思うんですけど、現代はそれが薄れてきてると思うんです。その点、「NESTING」を通じて自分たちの手で建てることで関わった人たちの愛着も湧くし、直島の近隣の方が工事の様子を見に来て、そこから会話が始まったりもして。この場を運営するのは私であっても、みんなで場を共有している感覚が、とてもユニークだなと感じました。

その一方で、スタッフさんや大工さんの手を借りながらも、ほぼ全てをセルフビルドでつくっているので、後からみると手直しをしたくなるようなところもあります(笑)。でも、それも含めていい思い出ですね」

どんな人に「NESTING」を勧めたいですかと尋ねると、「中小企業のチームビルディング研修にピッタリだと思います」と、清さん。

「実際に自分が建てるプロセスに参加してみて、組織のチームビルディングにすごくいいなと思ったんです。タイプの異なる人間が、同じゴールに向かって形にしていく過程の中で、学べるものがたくさんある。なので個人的には、店舗やレストラン、小規模の宿を運営されている中小企業の会社さんが、スタッフみんなで建てて、一緒にその場を築いていくみたいな「NESTING」の活用はとても魅力的だと思います」

ご友人と一緒に建てることで、さらに関係性が深まったと清さん。つくること、建てることは、単なる手段ではなく、その過程そのものが人と人とのつながりを育み、場が地域にひらいていくきっかけになりそうです(画像提供/VUILD株式会社)

ご友人と一緒に建てることで、さらに関係性が深まったと清さん。つくること、建てることは、単なる手段ではなく、その過程そのものが人と人とのつながりを育み、場が地域にひらいていくきっかけになりそうです(画像提供/VUILD株式会社)

「NESTING」で一番届けたいのは、つくる喜びや楽しさ

1棟目の「NESTING」建築を経て、「VUILD」代表の秋吉さんは、可能性を感じられたと話します。

「清さんとご一緒できたおかげで、改善の余地がどこにあるかを確かめることができました。建てるというプロセスにおいては、住宅を購入するのとは明らかに違う光景が現場に広がっていて、関わっている人全員が、すごく楽しそうに作業している姿が印象的でした。「NESTING」によって、家づくりのあり方が変わる。その確かな手応えをつかむことができました。

さらに言えば、自分たちで家をつくれたなら、地域づくりや街づくりも自分たちでできるかもと思えたりして、「NESTING」を入り口に、つくることや街づくりに対してどんどん主体的になっていく可能性があるなとも感じました。

今回の1棟目をふまえて、現在は2棟目の「NESTING」を建てているところ。その施主は、「NESTING」事業責任者の森さんです。総工費1000万円、工期1カ月を目標に進めているところです」

森さんは栃木県で暮らしており、移住を検討されている方を対象にした「お試し移住拠点」として建てられているそう。

「NESTING」事業責任者の森勇貴さん

「NESTING」事業責任者の森勇貴さん

「都市圏に住みながらも、自分らしい生き方や暮らし方に興味関心があるような人たちが増えてきていると思います。僕も、その一人。以前は東京に住んでいたのですが、今は那須に移住してリモートで仕事をしています。「NESTING」でお試し移住拠点をつくろうと思った理由は、自分たち家族が移住してみて、まちの魅力を存分に感じたため、移住仲間を増やしたかったから。今、建物の躯体が組み上がったところで、完成が楽しみです」(森さん)

安全管理を行った上で、息子さんと一緒に施工現場に入る森さん(画像提供/VUILD株式会社)

安全管理を行った上で、息子さんと一緒に施工現場に入る森さん(画像提供/VUILD株式会社)

この2棟目の実践を経て、本格的に「NESTING」のサービスがローンチできる目処がたってきましたと、秋吉さん。新たに10組の先行ユーザーを募集し、次々に「NESTING」を建てようと志す仲間が集まってきているそうです。

能登半島地震によって全壊してしまった家を、「NESTING」を使って自力で再建を目指す人。東京から地方に移住して、自然と共生するサステナブルな暮らしを実践しようとする夫婦。地域への移住促進に取り組む会社のオフィスとして…などなど。

その用途や目的はさまざまですが、共通しているのは、地域との関わりがあることや、建物を通して、周りとのコミュニティを開いていこうとしていること。森さんが話すように、自分らしい生き方や暮らし方に興味関心がある人、地域や自然とのつながりを求める人に、「NESTING」が選ばれている傾向があるようです。

「今後、さらに展開していくにあたって、その地域ごとに使う素材やデザインをアレンジできればと思っています。地域資源を活用したり、自然が循環するきっかけに「NESTING」がなれたらなと。さらには、大工や職人の高齢化・減少化が進んでいますから、家づくりのプロが減っても、家づくりを諦めなくていい環境を僕たちが整備していけたらいいなと考えています」(秋吉さん)

「VUILD株式会社」の代表・秋吉浩気さん

「NESTING」で家を建てることは、自分の「生きる」を「つくる」こと。そして「つくる」ことで、「生きる」ことの実感や手応えが、その人の人生に蓄積されていく。そのおもしろみや価値は、きっと頭で考えることではなく、自分の心と体で感じるもの。「NESTING」は、地に足をつけた生き方や暮らし方へと、現代に生きる人々のあり方を建てなおす起点となり、拠点となりそうです。

●取材協力
VUILD

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中古マンションの1平米当たり管理費は全年度比2.1%上昇、修繕積立金は3.1%も!その背景とチェックポイントを徹底解説

東日本不動産流通機構が、2023年度に成約した首都圏中古マンションの管理費や修繕積立金について、分析した結果を発表した。それによると、管理費も修繕積立金も前年度より上昇しているという。なぜ上昇しているか、その理由も含めて考えてみたい。

【今週の住活トピック】
「首都圏中古マンションの管理費・修繕積立金(2023年度)」を発表/東日本不動産流通機構

1平米当たり管理費は前年度比2.1%、修繕積立金は3.1%上昇

東日本不動産流通機構(東日本レインズ)は、不動産会社間で不動産情報を共有するシステムなどを運用する指定流通機構で、東日本を担当している。それを通じて成約に至った中古マンションについて、年度ごとの管理費や修繕積立金などのランニングコストを分析している。

2023年度の首都圏中古マンション月額平均額は、1戸当たりで管理費が平均1万2831円、修繕積立金が1万1907円だった。これを1平米当たりに換算すると、管理費は平均201円(前年度比2.1%上昇)、修繕積立金は187円 (同3.1%上昇)となった。いずれも、前年より上昇したことが分かる。

首都圏中古マンションの管理費・修繕積立金の月額(平均額と1平米当たり)(出典:東日本不動産流通機構「首都圏中古マンションの管理費・修繕積立金(2023年度)」より抜粋転載)

首都圏中古マンションの管理費・修繕積立金の月額(平均額と1平米当たり)(出典:東日本不動産流通機構「首都圏中古マンションの管理費・修繕積立金(2023年度)」より抜粋転載)

マンションの管理費は、日常の管理を円滑に進めるためのもので、管理会社への委託費、共用部の清掃費や水道光熱費、共用設備の点検などに使われる。また、修繕積立金は、計画的に行われる大規模修繕工事を実施するために積み立てられる。

まず管理費については、地域では東京都区部で高く、築年では築10年以内や築11~20年など、新しいものほど高くなっている。また、総戸数50戸未満、200戸以上でも高くなっている。

一般的に、高額なマンションほど、その設備仕様や管理サービスの水準が高くなり、維持管理の費用も高くなる傾向がある。また、大規模なマンションには、共用施設が多いため、その維持管理の費用もかかってくる。一方で、大規模なマンションは発生する固定費を多くの戸数で分担できるが、50戸未満の小規模なマンションでは分担できる戸数が少ないため割高になる場合もある。

こうした要因が管理費に影響するわけだが、近年新築マンションの価格高騰により高額なマンションが増えていること、なかでも東京都区部でその傾向が顕著であることから、管理費を引き上げる要因になっているといえるだろう。

次に修繕積立金を見ると、管理費ほどの金額差はないが、50戸未満の小規模なものは1戸当たりの平均額が高くなっており、規模感の影響が出ている。目立つのは、築10年以内で低くなっていることだが、これには別の理由もある。

築年数が新しいほど管理費が高く、修繕積立金が低い理由とは?

管理費と修繕積立金の1平米当たりの月額の推移を築年別に見ていこう。

建築年別の1平米当たり管理費・修繕積立金(月額)(出典:東日本不動産流通機構「首都圏中古マンションの管理費・修繕積立金(2023年度)」より転載)

建築年別の1平米当たり管理費・修繕積立金(月額)(出典:東日本不動産流通機構「首都圏中古マンションの管理費・修繕積立金(2023年度)」より転載)

管理費は、1967年~1977年など築年の古いものでは月額150円前後で推移しているが、以降は200円近くに上がり、バブル期で豪華なマンションが多かった1988年~1993年では200円を超えるものの、おおむね横ばいに推移していた。しかし、2013年以降は右肩上がりの上昇トレンドになり、2023年に建築されたマンションではついに300円を超える結果となった。

これには、管理員の人件費の高騰が大きく影響している。政府が2013年に施行した『高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年齢者雇用安定法)』による定年延長や再雇用などにより、定年後の仕事の選択肢が広がった。管理員の仕事は、かつては定年退職後の雇用の受け皿になっていたこともあり、採用が難しくなった結果、近年は人手不足に陥っているのだ。そのため、報酬を引き上げるなど人件費が上昇し、それが管理費にも影響しているというわけだ。

また、近年は共用部で使う水道光熱費などさまざまなものが値上がりしているので、管理費が上がる要因が多くなっている。築年の新しいマンションほど管理費が高くなるのには、こういった要因もあるのだ。

一方、修繕積立金はおおむね横ばいで推移してきたものが、ここ10年程度を境に下降トレンドになっている。これを見ると、修繕積立金の負担が軽減されてきたように見えるが、けっしてそういうわけではない。建設工事の費用が上昇しているなかで、大規模修繕工事の費用も上昇しないはずはない。

「均等積立方式」か「段階増額積立方式」か?

修繕積立金については、かつては規制がなかったため、マンション分譲時に長期修繕計画を作成しているものの、それを確実に行えるだけの修繕積立金の額を設定していない事例が多かった。それでは実際の大規模修繕工事を実施するのに支障があるということで、長期修繕計画通りに工事が行えるように修繕積立金の金額を設定するようになった。

とはいえ、マンションを販売する際には管理費・修繕積立金・駐輪駐車場代などの合計月額が低い方が売りやすいこともあって、それまで主流だった均等に積み立てる「均等積立方式」から、あらかじめ段階的に増額する「段階増額積立方式」を採用する事例が多くなった。

「段階増額積立方式」では、当初の修繕積立金の額は抑えられているが、5年ごとなどに一定割合で上がっていく形になる。修繕積立金の値上げは、管理組合の総会で承認される必要があり、否決されると値上げができなくなる。

修繕積立金で築年の新しいマンションの月額が低いのは、値上げされる前の金額の事例が多いという事情もあるのだ。修繕積立金については、さらに注意点がある。

長期修繕計画は適宜見直すことになっているが、近年、大規模修繕工事にかかる費用が上がっている。建築資材や水道光熱費などの上昇に加え、建設業界や物流業界では残業時間を規制する2024年問題が拍車をかけて人手不足が深刻化している。そして人件費の高騰は大規模修繕工事の費用に大きく影響する。となると、以前の長期修繕計画上の費用と現実の費用にズレが生じる可能性も高い。不足しない計画だったとしても、不足する可能性もあるのだ。

毎月払うランニングコストは安い方がよいのだが、管理費も修繕積立金も上がる可能性はある。特に、「段階増額積立方式」では、負担すべき費用を順繰りに送る形なので、上がることが前提となっている。

新築マンションを購入する場合は、ランニングコストが上がる可能性を考慮する必要があるし、中古マンションを購入する場合は、修繕積立金の積立方式がどうなっているか、長期修繕計画はいつ見直されたものかなども、しっかり確認する必要がある。事前に把握できることをスルーしてしまうと、将来家計に大きな影響が出るということもあるので、忘れずに確認してほしい。

●関連サイト
東日本不動産流通機構「首都圏中古マンションの管理費・修繕積立金(2023年度)」

6月使用分から電気料金引き下げ措置がなくなる!?電気代高騰について、みんなどう思っている?

電気代が6月使用分から高くなる。値上げではなく、経済対策による値引きの終了だ。一条工務店の調査によると、このことを7割以上が「知らなかった」と回答している。物価高に加え、生活インフラともいえる電気代の値引き終了で、家計を圧迫することになりそうだ。消費者は、どう思っているのだろうか?

【今週の住活トピック】
「家庭の電気料金に関する意識調査 2024」結果を発表/一条工務店

「電気・ガス価格激変緩和対策」により2024年5月まで電気料金が値引き

さて、電気料金が値引きされていた理由は「電気・ガス価格激変緩和対策」が実施されていたからだ。

まず、ロシアによるウクライナ侵略などの世界情勢により、燃料価格が上昇したことなどの影響を受けて、電気・ガス料金の単価から一定額を値引きする措置を、2023年1月の使用分から12月の使用分まで行っていた。この措置の継続が2023年11月に閣議決定され、2024年4月の使用分まで継続、5月の使用分については激変緩和の幅を縮小して実施されていた。つまり、5月使用分ですでに値引き幅が縮小されていたわけだ。

■電気・ガス価格激変緩和対策による値引き単価(沖縄電力を除く)

適用期間電気(低圧)電気(高圧)都市ガス※2024年1月使用分(2月検針分)から3.5円/kWh1.8円/kWh15円/m32024年4月使用分(5月検針分)まで2024年5月使用分(6月検針分)1.8円/kWh0.9円/kWh7.5円/m3※家庭及び年間契約量1,000万m3未満の企業等が対象
電気・ガス価格激変緩和対策事業について/資源エネルギー庁 より筆者作成

手元にある筆者の自宅の「電気・ガス使用料のお知らせ」に、たしかに「請求金額は政府支援ガス15円/m3電気3.5円/kWhを値引きしています」と記載されていた。

請求金額は、5月使用分で上がり、6月使用分以降はそれがさらに上がるということだ。筆者は自宅で仕事をしているので、電気をたくさん消費するため、特にこれからの電気代の請求金額が気になるところだ。

7割以上が、電気料金の引き下げ措置が終了することを知らない!

一条工務店が、2024年3月に全国の男女897名を対象に「家庭の電気料金に関する意識調査」を実施した。「政府が実施している『電気・ガス価格激変緩和対策事業』による電気料金の引き下げが2024年5月使用分で終了することを知っていますか?」と聞いたところ、実に72.9%が「知らない」と回答した。

出典:一条工務店「家庭の電気料金に関する意識調査2024」

出典:一条工務店「家庭の電気料金に関する意識調査2024」

知らないという人たちは、6月以降の電気代やガス代を見て、驚くことだろう。この調査で、「電気料金の引き下げが行われなくなる2024年6月以降、家計に不安を感じていますか?」と聞いたところ、「とても感じる」が60.1%、「やや感じる」が34.3%で、合わせて9割以上が家計に不安を感じるという結果になった。

家計を圧迫する電気代の高騰、節電はしているけれど…

実は、一般家庭で値上がりによる家計の影響を最も受けているのは、ガス代よりも電気代だ。調査で「物価上昇によって、家計で最も影響を受けているのは何ですか?」と聞いた結果を見ると、ガス代の7.5%よりも、食費の36.8%よりも、電気代の42.3%が一番多いのだ。

出典:一条工務店「家庭の電気料金に関する意識調査2024」

出典:一条工務店「家庭の電気料金に関する意識調査2024」

その結果、「冷房や暖房を使うのを我慢」したり(「とても我慢する」10.9%「やや我慢する」49.6%)、「日常的に節電」したり(「している」70.0%)、しているのだ。

具体的には、過半数の人が「照明をこまめに切る」、「衣類で温度調節をする」、「エアコンの設定温度・角度を調整する」といったことをしていた。

出典:一条工務店「家庭の電気料金に関する意識調査2024」

出典:一条工務店「家庭の電気料金に関する意識調査2024」

電気代を節約するために、住宅でできることとは?

節電のためのさまざまな工夫をしている家庭が多いことが分かったが、工夫だけではなかなか節約できない場合もあるだろう。一時的に費用はかかっても、住宅のほうを変えることで、より多くの節電ができる場合もある。

まずは、「省エネ住宅」や「ゼロエネルギー住宅」への改修だ。住宅を断熱材でしっかり覆い、熱の出入りが激しい窓まわりの省エネ性を高めると、エアコンの冷暖房の効果が高まる。さらに費用はかかるが、太陽光発電などの設備を搭載し、それを蓄電池に溜めるなどして、電力会社の電気にあまり頼らない生活をするという方法もある。

調査結果でも、「省エネ住宅」(70.1%)、「太陽光発電」(67.7%)、「蓄電池」(67.9%)のそれぞれにとても興味があると回答していた。

もっと手軽にできるのが、家電を省エネ性の高いものに買い替えることだ。実は筆者もエアコンの買い替えを検討している。なぜいま検討しているかというと、補助金が出るからだ。

たとえば、東京都では、省エネ性の高いエアコン、冷蔵庫、給湯器、LED照明器具に買い替えた都民にポイントを付与する「東京ゼロエミポイント」を実施している。現行のゼロエミポイントは、2024年9月30日までが対象だが、10月以降はさらに拡充される予定となっている。ポイント付与から、登録店舗で直接購入額から値引きされる形になり、使い勝手も変わる予定だ。

現行の東京ゼロエミポイント(2023年4月~2024年9月対象)では、対象商品であれば、エアコンで9000ポイント~2万3000ポイント、冷蔵庫で1万4000ポイント~2万6000ポイント、給湯器で1万2000ポイント、LED照明器具で4000ポイントなどが付与される。ポイントは、商品券とLED割引券に交換できる。

こうした補助金は東京都に限ったことではない。ヤマダ電機の「省エネ補助金制度対象市区町村一覧」というサイトを見ると、多くの自治体で、省エネ家電の買い替えに対する補助金の制度があることが分かる。今はカーボンニュートラルが求められているので、家電だけでなく、太陽光発電などの発電設備、エネファームなどの家庭用燃料電池、節水トイレや節水シャワーヘッドなどの節水設備、処理場の焼却時の省エネになる生ごみ処理機などに対する補助金などもあることが分かる。

補助金の制度は、予算枠に達すると申請受付が打ち切りになったり、制度内容が変わったりするので、自分が住む自治体に省エネに対するどんな補助金があるか、自分で調べることをおススメする。

古い家電を使い続けるよりも、省エネ性の高いものに買い替えたほうが、電気代が削減できることも多いし、新しいものほどさまざまな機能が搭載されているので、使い勝手もよくなる。同様に、古い住宅に住み続けるよりも、省エネ性を高める改修をするほうが、省エネでかつ快適に過ごせることも多い。

一時的に費用がかかるうえ、家電販売店やリフォーム会社に行って詳細を決める手間がかかったりはするが、長期的に節電になるという効果もあるので、電気代高騰への対応策として一度検討してはいかがだろう。

●関連サイト
一条工務店「家庭の電気料金に関する意識調査2024」結果を発表
東京都「東京ゼロエミポイント」
ヤマダ電機「省エネ補助金制度対象市区町村一覧」

住宅購入検討者の4割近くが将来的な売却や賃貸を検討!柔軟に住み替えるスタイルが広がるか?

リクルートのSUUMOリサーチセンターが「『住宅購入・建築検討者』調査(2023年)」を公表した。この調査では、住宅の買い時感や住宅検討状況、住宅に関する意識などを聞いている。調査結果の推移を見ると、消費者の意識の変化がうかがえるので、詳しく見ていくとしよう。

【今週の住活トピック】
「住宅購入・建築検討者』調査(2023年)」公表/リクルート

検討している一戸建てとマンション、新築と中古が同率に

調査は、2023年12月に、首都圏、東海圏、関西圏と政令指定都市のうち札幌市、仙台市、広島市、福岡市に住む、20歳から69歳の男女で、過去1年以内に住宅の購入・建築、リフォームについて具体的に検討した人を対象に行われた。

検討している住宅の種別(複数回答)は、「注文住宅」が過半数の56%で、「新築一戸建て」31%、「中古一戸建て」31%、「新築マンション」30%、「中古マンション」30%、「リフォーム」16%となっている。一戸建てもマンションも、経年で見ると中古検討率がじわじわと上がっており、新築と中古が同率となっているのが、今回の特徴だ。

「一戸建てか、集合住宅(マンション)か」を聞く(単一回答)と、「ぜったい」と「どちらかといえば」の合計で、「一戸建て派」が58%、「集合住宅派」が22%と一戸建て派が優勢に。「どちらでもよい」は20%だった。

48%が「買い時と思っていた」と回答、その理由は?

さて、住宅購入環境にさまざまな変化が生じている。都心部のマンションを中心に価格が上昇していることに加え、長期固定型の住宅ローンの金利がじわじわと上昇している。集計対象数6007人のうち、住宅購入・検討者は4240人(賃貸検討者が1767人)。この人たちは、「買い時」と思っているのだろうか?

調査で「買い時だと思っていたかどうか」聞いたところ、48%が「思っていた」(とてもそう思っていた12%+ややそう思っていた36%)、20%が「思っていなかった」(まったくそう思っていなかった6%+あまりそうは思っていなかった14%)となり、買い時の割合が前年(2022年調査)の44%から48%に増加した。

出典:『住宅購入・建築検討者』調査(2023年)

出典:『住宅購入・建築検討者』調査(2023年)

ちなみに、「買い時だと思った理由」については、「これからは、住宅価格が上昇しそう」がTOPの45%だった。2位は「いまは、住宅ローン金利が安い」の33%、3位は「いまは、いい物件が出ていそう」の30%だった。

出典:『住宅購入・建築検討者』調査(2023年)

出典:『住宅購入・建築検討者』調査(2023年)

買い時と思う理由について、少し考えてみよう。2024年3月に日銀がマイナス金利を解除するなど、調査時点よりも金利のある時代が近づいている。金利について、いま調査をしたら、「金利が上がりそうだから」といった理由が上位に入るのかもしれない。また、住宅価格が高くなっているので、住宅の売り時と判断している人が多いと考えられる。中古の物件が市場に出回ることで、「いい物件が出ていそう」という環境になるかもしれない。

では、今後の住宅価格についてはどうだろうか?価格が上がり続けているのは都心部の住宅なので、それほど上がっていない地域と上がり続けている地域がある状況なのだが、残業時間を規制する2024年問題が拍車をかけて、建設業界の人手不足による建設費の上昇が続いている。流通業界も同様なので、建築資材を運送する費用も上がるなど、住宅の建設費用に下がる要因が見当たらない。したがって、「住宅価格が上昇しそう」な環境は、まだ続くといえるだろう。

住み続けるよりも柔軟に住み替える考え方に変化?

今回の調査の特徴といえるのが、「買い替え」層が増えていることだ。「初めての購入、建築」が63%と最も多いものの、持ち家を売却して新しい家を購入、建築する「買い替え」が年々増えて、2023年調査で29%に達した。もちろん、住宅価格が高くなっているため、売りやすい市場になっていることもあるが、どうやらそれだけではないようなのだ。

出典:『住宅購入・建築検討者』調査(2023年)

出典:『住宅購入・建築検討者』調査(2023年)

次に特徴的なのが、「将来的に売却を検討している」層が増えたことだ。「永住意向」が44%と半数近くを占めるものの、売却を検討したり、賃借を検討している層が合わせて38%になっている。購入、建築を検討しているときから、いずれキャッシュ化しようと考えている人が増えているわけだ。

出典:『住宅購入・建築検討者』調査(2023年)

出典:『住宅購入・建築検討者』調査(2023年)※2021年以前は調査なし

では、そう考えている人たちが、売却や賃貸に出すタイミングをどう考えているのだろう?
「土地や不動産の価格が上がったら」、「家が老朽化したと感じたら」、「他に欲しい物件が出たら」といったタイミングを想定している人が増えた一方、「定年退職」などは減っている。

出典:『住宅購入・建築検討者』調査(2023年)

出典:『住宅購入・建築検討者』調査(2023年)※2021年以前は調査なし

かつては、マイホームが老朽化したらリフォームして住み続け、家族構成の変化など状況が変わったときに売却するという流れだったが、近年は、価格が上がったり、欲しい物件が出たりしたタイミングや、老朽化でリフォームをする前のタイミングで、売却するという考え方に変わっているようだ。

住宅購入を取り巻く環境にも変化が生じているが、住宅を購入、建築する消費者側の意識にも変化が生じている。住み続けることにこだわらず「柔軟に住み替える」スタイルが広がりつつあるので、住宅の流通市場をより整備して、売り買いのしやすい環境をつくっていくことが求められるだろう。

●関連サイト
リクルート「『住宅購入・建築検討者』調査(2023年)」

【東京駅30分以内】中古マンション価格相場が安い駅ランキング2024年。シングル向け、カップル・ファミリー向け、それぞれ1位は?

東京を代表する駅と言えば東京駅。東海道新幹線や東北新幹線をはじめ、山形・秋田・上越・北陸・北海道に向かう新幹線、JR各線に加えて東京メトロ丸ノ内線も発着する一大ターミナル駅だ。駅周辺は日本最大と言えるビジネス街でもあり、通勤客から旅行客まで日々多くの人が利用している。さらに複数の再開発事業が進行中でもあり、今後もますますの発展が見込まれる。そんな東京駅まで電車で30分以内の近さでありつつ、リーズナブルな中古マンションがそろう街はどこだろう? 徒歩15分圏内にある「シングル向け(専有面積20平米以上~50平米未満)」と「カップル・ファミリー向け(専有面積50平米以上~80平米未満駅)」それぞれの、中古マンションの価格相場が安い駅ランキングをご紹介しよう。

東京駅まで電車で30分以内にある中古マンションの価格相場が安い駅ランキング

【シングル向け トップ11(16駅)】
順位/駅名/価格相場(主な路線名/駅の所在地/東京駅までの所要時間/乗り換え回数)
1位 西馬込 2790万円(都営浅草線/東京都大田区/28分/2回)
2位 方南町 2980万円(東京メトロ丸ノ内線/東京都杉並区/30分/1回)
2位 鶴見 2980万円(JR京浜東北・根岸線/神奈川県横浜市鶴見区/25分/1回)
4位 板橋区役所前 3180万円(都営三田線/東京都板橋区/28分/0回)
5位 大山 3200万円(東武東上線/東京都板橋区/27分/1回)
6位 京急川崎 3240万円(京急本線/神奈川県川崎市川崎区/30分/0回)
7位 南千住 3280万円(JR常磐線/東京都荒川区/15分/0回)
8位 川崎 3330万円(JR東海道本線/神奈川県川崎市幸区/18分/0回)
9位 雑司が谷 3380万円(東京メトロ副都心線/東京都豊島区/25分/1回)
10位 王子神谷 3385万円(東京メトロ南北線/東京都北区/29分/1回)
11位 三ノ輪 3480万円(東京メトロ日比谷線/東京都台東区/19分/1回)
11位 三河島 3480万円(JR常磐線/東京都荒川区/12分/0回)
11位 亀戸 3480万円(JR総武線/東京都江東区/12分/1回)
11位 板橋本町 3480万円(都営三田線/東京都板橋区/30分/0回)
11位 王子 3480万円(JR京浜東北・根岸線/東京都北区/22分/0回)
11位 赤羽 3480万円(JR東北本線/東京都北区/17分/0回)
※17位以下は記事末に掲載

【カップル・ファミリー向け トップ14(15駅)】
順位/駅名/価格相場(主な路線名/駅の所在地/東京駅までの所要時間/乗り換え回数)
1位 松戸 3380万円(JR常磐線/千葉県松戸市/27分/0回)
2位 六町 3399万円(つくばエクスプレス/東京都足立区/27分/1回)
3位 堀切菖蒲園 3480万円(京成本線/東京都葛飾区/29分/1回)
3位 蕨 3480万円(JR京浜東北・根岸線/埼玉県蕨市/29分/1回)
3位 青井 3480万円(つくばエクスプレス/東京都足立区/24分/1回)
6位 西船橋 3523万円(JR京葉線/千葉県船橋市/29分/0回)
7位 五反野 3540万円(東武伊勢崎線/東京都足立区/27分/1回)
8位 四ツ木 3580万円(京成押上線/東京都葛飾区/30分/1回)
9位 下総中山 3650万円(JR総武線/千葉県船橋市/26分/1回)
10位 小菅 3665万円(東武伊勢崎線/東京都足立区/25分/1回)
11位 西川口 3690万円(JR京浜東北・根岸線/埼玉県川口市/26分/1回)
12位 扇大橋 3740万円(日暮里・舎人ライナー/東京都足立区/30分/1回)
13位 綾瀬 3755万円(東京メトロ千代田線/東京都足立区/25分/1回)
14位 梅島 3880万円(東武伊勢崎線/東京都足立区/29分/1回)
14位 鐘ケ淵 3880万円(東武伊勢崎線/東京都墨田区/28分/1回)
※16位以下は記事末に掲載

東京駅までわずか約12分の駅も「シングル向け」上位にランクイン

「シングル向け」の1位は東京都大田区の都営浅草線・西馬込駅で価格相場は2790万円。都営浅草線で新橋駅に出て、JR東海道本線に乗り換えると東京駅に到着する。最短所要時間の約28分を狙う場合は、新橋駅より手前の泉岳寺駅で途中下車して行き先違いの都営浅草線へと乗り継ぐため「乗り換え2回」と記載したが、新橋駅まで1本で行ってJR東海道本線を利用する「乗り換え1回」のルートでも、東京駅まで30分以内に行くことが可能だ。

西馬込駅周辺(写真/PIXTA)

西馬込駅周辺(写真/PIXTA)

1位・西馬込駅は都営地下鉄の駅では最南端に位置し、都営浅草線の始発駅でもあるので混雑する朝も座って乗車しやすいのがうれしいところ。地下にある駅から地上に向かうと、国道1号・第二京浜沿いに出る。大通り沿いにスーパーやコンビニ、ドラッグストアが点在し、脇道に入れば飲食店や和菓子店、ベーカリーなどがあるのどかな商店街も。静かな住宅街を通って駅から南へ13分ほど歩けば、五重塔がシンボルの「池上本門寺」へ。その隣には緑豊かな「本門寺公園」があり、住民の憩いの場として親しまれている。

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続く2位には価格相場が同額2980万円となった、東京メトロ丸ノ内線の方南町駅とJR京浜東北・根岸線の鶴見駅がランクイン。方南町駅は東京都杉並区、鶴見駅は神奈川県横浜市鶴見区に位置している。

方南町駅前(写真/PIXTA)

方南町駅前(写真/PIXTA)

方南町駅から東京駅まで30分以内で行く場合は、東京メトロ丸ノ内線で新宿駅に出て、JR中央線快速で東京駅を目指すため「乗り換え1回」となる。しかし丸ノ内線に乗ったままでも東京駅まで31~32分ほどなので、実際は乗り換え0回のルートを利用する人も多いだろう。沿線の新宿駅や東京駅に行きやすいアクセス性のよさに加え、駅周辺の買い物環境が整っている点も魅力の一つ。方南通りと環七通り沿いにスーパーやドラッグストア、ホームセンターなどの大型店舗が点在しているほか、ファミレスやファストフード店、ラーメン店など気軽に利用できる飲食店も豊富にそろっている。

JR鶴見駅(写真/PIXTA)

JR鶴見駅(写真/PIXTA)

鶴見駅から東京駅までは、JR京浜東北・根岸線で川崎駅に出て、JR東海道本線に乗り換えるルートだと約25分。もう少し時間がかかっても構わなければ、JR京浜東北・根岸線1本でも東京駅まで約34分でたどり着く。東京駅とは反対方面に乗車すれば、横浜駅まで3駅・約9分で行くことが可能だ。また、鶴見駅前には京急本線の急行停車駅である京急鶴見駅もあるので、横須賀や三浦半島方面に行く際はこちらを利用すると便利だろう。そんな鶴見駅は駅ビル「シァル鶴見」に直結。生鮮食品やフード、ドラッグストアのフロアから、ファッション、雑貨、飲食店のフロアまでそろい、気軽に食事や買い物が楽しめる。駅周辺にもスーパーや飲食店、ディスカウントストアなどの商店が充実し、暮らしやすそうな街並みだ。

4位以下にも東京都または神奈川県にある、さまざまな路線の駅が並んだ。トップ11(16駅)のうち東京駅までの所要時間が最短だったのは、価格相場が同額3480万円で11位にランクインしたJR常磐線・三河島駅とJR総武線・亀戸駅。両駅から東京駅までは、約12分という近さだ。三河島駅から東京駅は、JR上野東京ライン直通の常磐線を利用すると乗り換え0回で行ける。亀戸駅から東京駅までは、JR総武線の普通列車と快速を乗り継いで向かうため乗り換え1回だ。

三河島駅周辺の様子(写真/PIXTA)

三河島駅周辺の様子(写真/PIXTA)

三河島駅は東京都荒川区にあり、JR常磐線の日暮里駅と南千住駅に挟まれた立地。1つしかない駅改札を出るとすぐ前を尾竹橋通りが南北に走っており、駅から南下していくと商店街が続いている。牛丼や回転寿司などのチェーン店から、ネパール料理やグルメバーガー、イタリアンなど個性豊かな飲食店も豊富なので、ぶらぶら歩きながら店選びをするのも楽しそう。また、駅の北側地区では再開発が進行中。住宅と商業施設、多目的アリーナからなる地上43階建てのビル建設が計画されおり、着工は2024年12月、竣工は2028年3月の予定だそう。

亀戸駅周辺の様子(写真/PIXTA)

亀戸駅周辺の様子(写真/PIXTA)

亀戸駅は東京都江東区に位置し、JR総武線のほかに東武亀戸線が乗り入れている。三河島駅と同様に駅周辺に飲食店が豊富なほか、地下1階から8階屋上まで多彩な店舗が並ぶ駅ビル「アトレ亀戸」が駅北口側にあるのも便利なところ。同店舗は2024年秋の完成を目指して、大規模増床リニューアルが進められているのも楽しみだ。また、駅東口側には2022年に複合商業施設「カメイドクロック」がオープンしている。大型スーパーを核とする食のマルシェや、下町のにぎわいを感じる飲食店横丁と9店舗が並ぶフードコートなどがあり、近所に住んだ際はぜひ訪れたい。

「カップル・ファミリー向け」トップ15のうち4駅は東武伊勢崎線松戸駅前(写真/PIXTA)

松戸駅前(写真/PIXTA)

「カップル・ファミリー向け」の1位は千葉県松戸市にあるJR常磐線・松戸駅で、価格相場は3380万円。JR上野東京ライン直通の常磐線に乗ると、約27分で東京駅に到着する。駅周辺は江戸時代から水戸街道の宿場町として栄えた歴史があり、現在は松戸市の中心地。駅ビル「アトレ松戸」や複合商業施設「キテミテマツド」をはじめ大小の商店がひしめく、にぎわいある街並みだ。また、新京成線も乗り入れる松戸駅は現在、駅改良工事が進められている。東西通路の拡張や改札口周辺の改良は2026年春ごろに完成予定で、2027年春ごろには駅南側に駅ビルも誕生予定だそう。

六町駅(写真/PIXTA)

六町駅(写真/PIXTA)

2位には東京都足立区にある、つくばエクスプレス・六町(ろくちょう)駅が価格相場3399万円でランクイン。東京駅までは、まず南千住駅に出てからJR上野東京ライン直通の常磐線に乗り換える。すると1位・松戸駅と同じ所要時間の約27分でたどり着く。駅周辺に大型商業施設はなく、落ち着いた住宅街。ただ、駅の出入口すぐ近くに24時まで営業のスーパーがあるほか、周辺にはコンビニやホームセンターもあるので日々の買い物には困らないだろう。また、駅から南へ10分ほど歩いた環七通り沿いに出ると、うどんや回転寿司、ラーメンなどの飲食店も利用できる。

3位には価格相場3480万円となった3駅が並んだ。京成本線の堀切菖蒲園駅、JR京浜東北・根岸線の蕨(わらび)駅、つくばエクスプレスの青井駅だ。東京都足立区にある青井駅は、2位の六町駅から乗り換え駅である南千住駅方面に向かって1駅目。東京駅まで約24分という所要時間は、トップ15の駅では最短だ。駅は都営住宅・都民住宅の団地に囲まれたような立地で、住宅街だけあって徒歩10分圏内に複数のスーパーやドラッグストアが点在している。サッと食べられるような飲食店が駅の近くには見当たらないものの、北へ10分ほど歩くと六町駅の紹介部でも記述した環七通りに出るので、そのあたりで食事をしてもいいだろう。

堀切菖蒲園(写真/PIXTA)

堀切菖蒲園(写真/PIXTA)

青井駅の2.8kmほど南には、同額3位の京成本線・堀切菖蒲園駅がある。東京都葛飾区に位置するこの駅は、駅名からわかるように「堀切菖蒲園」の最寄り駅。駅から南に10分ほど歩いた荒川近くに広がる園内では、例年6月上旬~中旬にハナショウブが美しく咲き誇る。駅周辺にはスーパーやコンビニのほか、飲食店も多彩。実は町中華を含めてラーメンが味わえる店が多い街でもあるので、自分好みの一杯を探し歩くのも楽しそうだ。東京駅までは、まず日暮里駅に出てからJR上野東京ライン直通の常磐線快速に乗り換えると計29分で到着できる。

蕨駅周辺の様子(写真/PIXTA)

蕨駅周辺の様子(写真/PIXTA)

3位に入った残る1駅、JR京浜東北・根岸線の蕨駅についても見てみよう。赤羽駅に出てからJR上野東京ライン直通の高崎線に乗ると、東京駅まで約29分。JR京浜東北・根岸線1本でそのまま向かっても、東京駅まで約37分だ。蕨駅の所在地である埼玉県蕨市は、面積がわずか約5.1平方キロと全国の市のなかで最も狭く、人口密度は最も高い市として知られている。そんな市の玄関口である蕨駅の西口側では、2024年1月に再開発事業が着工。駅前広場の再整備とともに、商業施設や公共公益施設、住宅として利用される地下1階・地上28階建てのビル2棟の建築が進められている。竣工は2027年7月の予定だ。現在の駅周辺の様子はというと西口・東口のどちらにも多彩な飲食店があり、スーパーやドラッグストアも複数。東口から自転車で10分ほど走ると、「ニトリ」や「ユニクロ」など160店舗以上が営業する「イオンモール河口前川」もある。

さて「カップル・ファミリー向け」のトップ15を見てみると、千葉、東京、埼玉の各地にある駅が並んでいる。路線もさまざまだが、東武伊勢崎線が最多で4駅ランクイン。そのうち最も価格相場が安いのは、3540万円で7位になった五反野駅だ。

7位・五反野駅は東京都足立区に位置し、北千住駅に出てからJR上野東京ライン直通の常磐線に乗り換えると計約27分で東京駅にたどり着く。五反野駅にも停車する東武伊勢崎線の普通列車は東京メトロ日比谷線との直通運転が行われており、上野駅や銀座駅、中目黒駅にも1本で行ける点も便利だろう。駅周辺には住宅街が広がり、複数のスーパーが点在。駅前通りの商店街にはファストフード店や個性的な飲食店、精肉店に青果店、持ち帰りおでんのお店まで約50店舗が連なっている。駅から南へ15分ほど歩くと、荒川の河川時にへ。のどかな川辺の景色を眺めながら、ジョギングや散歩をしてリフレッシュできる環境なのも魅力だろう。

●「シングル向け」17位~48位

「シングル向け」17位~48位

●「カップル・ファミリー向け」16位~50位

「カップル・ファミリー向け」16位~50位

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている東京駅まで電車で30分圏内の駅(掲載物件が20件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】
駅徒歩15分圏内、物件価格相場3億円以下、築年数40年未満、敷地権利は所有権のみ
シングル向け:専有面積20平米以上50平米未満
カップル・ファミリー向け:専有面積50平米以上80平米未満
【データ抽出期間】2023/8~2024/2
【物件相場の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された中古マンション価格から中央値を算出
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、朝7時30分~9時の検索結果から算出(2024年3月25日時点)。所要時間は該当時間帯で一番早いものを表示(乗換時間を含む)
※記載の分数は、駅内および、駅間の徒歩移動分数を含む
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している
※ダイヤ改正等により、結果が変動する場合がある
※乗換回数が2回までの駅を掲載

世界の名建築を訪ねて。圧倒的売れっ子建築家ビヤルケ・インゲルス設計の高層集合住宅「イコン集合住宅タワー(Iqon Residential Tower)」/エクアドル・キト

世界中の建築を訪問してきた建築ジャーナリスト淵上正幸が、世界最先端の建築を紹介する連載16回目。今回は、エクアドルの首都・キトにある高層集合住宅「イコン集合住宅タワー(Iqon Residential Tower)」(設計:ビヤルケ・インゲルス)を紹介する。

「ウーブン・シティ」などを手掛ける世界的建築家・ビヤルケ・インゲルス設計「イコン集合住宅タワー」

ビヤルケ・インゲルスといえば、ニューヨークをベースに活躍する建築家で、現今の世界建築分野では圧倒的なパワーでデザイン活動をしているスター・アーキテクトとして知られている。

その話題の建築家ビヤルケ・インゲルスがデザインした「イコン集合住宅タワー」(Iqon Residential Tower)が、南米エクアドルの首都キトに完成し、話題となっている。建物はキトのカロリーナ公園近くにできた高層ビルで、インゲルス初の南米建築となった。

カロリーナ公園とストリートを挟んで向かい合う32階建ての「イコン集合住宅タワー」は、ファサードがカスケード状になったバルコニーが特徴の建築だ。キトでは最高の高さを誇るタワーで、220戸のアパートメントを擁し、コマーシャル・スペースやオフィス群も併設されている。

(c) copia

(c) copia

“生物多様性”を建築で表現した

高さ133mのスカイスクレーパー(摩天楼)は特異な外観で、キトのスカイラインに君臨している。ファサードは、現地の樹木や草花を植えこんだコンクリート・ボックス群で覆われている。こうしたデザインにより、キトの都市景観や有名なピチンチャ火山を展望することができる。また時間の経過に連れてグリーンが生育し、カロリーナ公園のグリーンと連携することを目指している。

(c)BICUBIK

(c)BICUBIK

インゲルスが考えたのは、キトのアイコニックな地理学的な条件、すなわち、地球上で最もバイオ・ダイバーシティ(生物多様性)のある国のひとつであるということ。さらに人間や植物にとっては常にエネルギッシュな状態にある赤道直下の国という特徴を、垂直的な形態にデザインしたという。

インゲルスによれば、キトの全てのアイコニックな性質を引き出すことにより、個人住宅群の垂直的コミュニティである「イコン集合住宅」を生みだした。これはカロリーナ公園を建物の頂上まで伸び上がらせた増築というコンセプトをベースにして完成させた。

「イコン集合住宅」は、キトにあるふたつのランドマーク的集合住宅のひとつとしてデザインされたものである。もう一方は、 やはりアメリカのモシェ・サフディ・アーキテクツのデザインによる、彼らの南米初の集合住宅である「コーナー・ビルディング」(Qorner building)である。

インゲルスによる「イコン集合住宅」と、近隣にあるサフディ・アーキテクツの「コーナー・ビルディング」は、キトにおける現代建築ブームを反映しているようだ。ふたつの建物は、キトという都市が、建築、デザイン、イノベーションなどの試金石となり、変貌していくプロセスを表現しているとも言われている。

最初の住民が入居しはじめて、建物内部でのビジネスがスタートし、両ビル間での相互作用により、近隣界隈の繁栄のドライビング・フォース(推進力)になることが期待されている。

先端的なアーバン・ライフを享受できるぜいたくな集合住宅

「イコン集合住宅」は延床面積が55,000平米もあり、220戸のアパート、5店舗の商業施設、36社のオフィスが入居している巨大ビルディングである。住居は1ベッド・ルームから3ベッド・ルームがあり、その中にはキト市街のパノラミックな景観をエンジョイできる、ゴージャスな9戸のペントハウスが含まれている。

(c)Pablo Casals Aguirre

(c)Pablo Casals Aguirre

住戸、オフィス、商業施設に加えて、建物にはパブリック・プラザ、ショップ、野菜ガーデンが併設された大きなグラウンド・フロア・プラザがある。その他のアメニティとしては屋上プール&テラス、スポーツ&スパ施設、ボウリング場、ミュージック・ルームなどがあり、同市における先端的なアーバン・ライフを享受できる施設でもある。

増加する空き家、政府が不動産売買の仲介手数料上限の一部改正に向けてパブリックコメントの募集をスタート

5年ごとに日本の住宅とそこに居住する世帯の居住状況などを調べる、「住宅・土地統計調査」の令和5年版が公表された。日本の住宅数は増える一方で、空き家の数も過去最多を更新するという結果だった。空き家の実態とその対策について、考えていこう。

【今週の住活トピック】
「令和5年住宅・土地統計調査」結果を公表/総務省

放置されている可能性の高い空き家は全国に385万戸

調査結果によると、日本の総住宅数は6502万戸で過去最多となった。常に居住していない「空き家」の数は、全国で900万戸に達し、空き家率は13.8%にまで上昇した。日本の総人口が減少する一方で、住宅の数は増え、空き家も増えているのが実態だ。

ただし、空き家の中には、売却予定で住んでいない住宅や賃借人の入れ替わりで空いている賃貸住宅など、いずれ居住される予定の住宅も含まれている。さらには、別荘や二次的住宅として、常に居住はしていないが必要な時に利用しているものも含まれる。

空き家すべてが問題なのではなく、居住予定や利用予定のない、“放置された空き家”がさまざまなトラブルの元になる。放置されている可能性の高い「賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家」に限定すると、385万戸、空き家率は5.9%になる。むしろ、この部分が増えていることが問題だろう。

出典:「令和5年住宅・土地統計調査結果」(総務省統計局)

出典:「令和5年住宅・土地統計調査結果」(総務省統計局)

ちなみに、「賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家率」(全国平均5.9%)が10%を超えるのは、北から順に秋田県(10.0%)、和歌山県(12.0%)、島根県(11.4%)、山口県(11.1%)、徳島県(12.2%)、愛媛県(12.2%)、高知県(12.9%)、鹿児島県(13.6%)だった。

放置された空き家はなぜ問題になるのか?

適切な管理をしないで空き家が放置されると、建物は急速に老朽化し、庭木も伸び放題となる。そうなると、建物が倒壊する危険性が高まるだけでなく、周囲の景観を乱したり、害獣や害虫による衛生面の問題が生じたり、犯罪の温床になったりといったトラブルを引き起こす原因になりかねない。

ただし空き家といえど、住宅は個人の財産なので、国や自治体が勝手に立ち入ったり、取り壊したりすることはできない。だからと言って、政府も手をこまねいているわけではない。

「空家等対策の推進に関する特別措置法(空き家対策特措法)」によって、自治体が空き家に立ち入って実態を調べたり、空き家の所有者に適切な管理をするよう指導したり、空き家の跡地の活用を促進できるようにした。放置されて問題となる空き家を「特定空家」に指定したり、その危険性のある空き家を「管理不全空家」に指定することで、自治体が強く関与できるようにもしている。

空き家が放置される原因ひとつひとつに手を打っているが……

空き家を放置する原因のひとつが、売っても値が大してつかないといったことや、住宅が建っていた方が更地にするよりも減税になるといったことがあった。そこで、政府は「特定空家」や「管理不全空家」に対しては、固定資産税の減額措置を解除したり、逆に空き家を売却した場合には、譲渡所得から最大3000万円を差し引ける特別控除の適用を認めたりする措置を取っている。

また、さらに問題を大きくしているのは、所有者が分からない場合だ。相続を繰り返す際に登記をしないことで、所有者が判明しないという事例も多い。そのため、相続登記の申請を義務づける改正を行い、2024年4月から施行されている。

住宅価格の高い都市部では、譲渡所得の特別控除などの対策が効果的に働くものの、過疎地域、郊外型団地、木造住宅密集地などによって、空き家が発生する経緯や解決すべき課題、対応方法などが異なる。空き家に対する相談窓口を強化するなどの対策も講じているが、空き家の課題解決は一筋縄ではいかない。

新たな解決策につながるか?仲介手数料の上限規制を緩和?

2024年5月2日に、「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額」の一部改正案に関して意見募集がされた。いわゆるパブリックコメントだ。

背景にあるのは、不動産会社が不動産の売買などを仲介した際の手数料に規制があることだ。売買では、価額が400万円を超える場合に「売買価格×3%+6万円+消費税」といった速算式がある。なお、200万円以下の場合は売買価格の5%が上限なので、200万円の取引なら仲介手数料は最大で10万円+消費税しか受け取れない。

放置された空き家はこうした低価格な取引にしかならないことが多いため、地方の空き家を仲介しても経費を差し引くと手元に残らないといったことが起こる。同じ時間を都市部の高額な住宅の売買に向けたほうが効率的なので、不動産会社が仲介に積極的に取り組みづらいということになる。

こうした背景を受けて改正案では、低価格な取引となる空き家の売買などの仲介をした場合、価額が800万円以下であれば仲介手数料を従来の規定より多く受け取ることができるようにするという趣旨になっている。ただし、「30万円の1.1倍に相当する金額を超えてはならない」などの制限を設けている。また、長期間空き家の賃貸借の仲介についても、仲介手数料の上限を緩和する案となっている。

これによって、空き家が仲介市場に出回るようになることを期待しているわけだ。

資産である住宅が空き家として放置されるのには、さまざまな理由がある。政府もかなり踏み込んだ対策を打ってはいるが、急速に増加する空き家に追いつかない状況だ。負動産を後世に残さないために、今後も空き家に対する対策をさらに検討する必要があるだろう。

私たちにできることは、空き家にならないように早めに対処したり、しっかり予防することだ。住まないことが想定される親の住まいや別荘などをどうするか、きちんと話し合って準備をしておきたいものだ。

●関連サイト
総務省「令和5年住宅・土地統計調査 調査の結果」
パブリックコメント「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額」の一部改正案に関する意見募集について

実家じまい、母の民芸コレクション数千点の譲渡会を父が設計した自宅で開催。新しい物語を次世代につなぐ 二部桜子さん

多くの人が気になる「実家の片づけ」。挿花家でエッセイストの母と建築家の父のもとに生まれた料理家の二部桜子(にべ・さくらこ)さんは、両親が世界中で集めた膨大な民芸品などのコレクションを次世代につなごうと、実家を開放して譲渡会を実施。遠方からも人が訪れて盛況に! 実家じまいとしてはもちろん、自身の今後についても多くの気づきが得られたというその経験について、二部さんにお話を伺いました。

暮らしも注目された母・二部治身さん。世界を旅して集めた民芸品が大量に

コンクリート打ちっ放しの天井の高い建築。広大な空間を埋め尽くすように、おびただしい数の器や古道具が並ぶ。「ちょっとした骨董市の物量ですよね」と二部桜子さんも笑うが、一家庭のコレクションとは思えないスケールだ。

フリマ形式の譲渡会「Recollection - 回想の記録 -」の様子(画像提供/鮫島亜希子さん)

フリマ形式の譲渡会「Recollection – 回想の記録 -」の様子(画像提供/鮫島亜希子さん)

ここは桜子さんが育った東京都八王子市郊外の家。母である挿花家でエッセイストの二部治身(にべ・はるみ)さんは、建築家の夫・誠司(せいじ)さんとともに桜子さんと弟を育てながら、約100坪もの敷地で花と野菜をつくり、四季の草花を愛でてきた。「暮らし系」という言葉が生まれるずっと以前の80年代後半から、自然とともに生きる治身さんのライフスタイルは数々の女性誌や著作で紹介され、全国に多くのファンを生んだ。

二部桜子さん。アメリカの大学で美術を学んだのちアパレル企業に勤め日米を行き来する。2017年、東京都台東区蔵前に「SHUNNO KITCHEN」スタジオを開設し、旬の野菜を軸とした料理教室やケータリング、レシピ開発を行う(写真撮影/片山貴博)

二部桜子さん。アメリカの大学で美術を学んだのちアパレル企業に勤め日米を行き来する。2017年、東京都台東区蔵前に「SHUNNO KITCHEN」スタジオを開設し、旬の野菜を軸とした料理教室やケータリング、レシピ開発を行う(写真撮影/片山貴博)

「母は高校生のころから骨董を集めていたほど器や雑貨が大好き。タイへの新婚旅行を機にアジアの魅力に目覚め、さまざまな国を訪れては現地の民芸品を山のように持ち帰っていました」と桜子さんは振り返る。「アジアやアフリカの民芸品が持つ、素朴でどこか不完全な美しさが好きだったようです。父も収集癖があり、夫婦で好みも一致していたので、二人で競うようにものを集めていました」

生活道具のみならず、イスなどの家具や壺などもコレクションしていた(画像提供/鮫島亜希子さん)

生活道具のみならず、イスなどの家具や壺などもコレクションしていた(画像提供/鮫島亜希子さん)

アジアやアフリカのオブジェやマスクも(画像提供/鮫島亜希子さん)

アジアやアフリカのオブジェやマスクも(画像提供/鮫島亜希子さん)

治身さんが現役のころは雑誌などの撮影用小道具のリース業も少なかった時代。仕事に使えるようにと集めていた部分もある。1999年に建て替えられたこの家も、治身さんの仕事の撮影にも使えるようにと誠司さんが設計したもの。「だからデザイン性は高いんですけれど、底冷えするように寒かったり、段差が多かったり。敷地も広すぎて、高齢の夫婦が暮らすには厳しくて」

両親とも実家を手放して小さく暮らすことを検討していたが、2021年に誠司さんが他界してしまう。治身さんは桜子さん夫妻と暮らすことになり、いよいよ実家じまいを行うこととなった。

仲間の力を借りながら、楽しんで準備した自宅での譲渡会が大反響

そうして始まった二部家の実家じまいだが、当初は明らかに不要なものも膨大にあったという。
「まずは不要品を処分するのがいちばん大事だと思います。体力の必要な作業ですが、海外に住む弟も帰国時にやってくれました。とはいえあまりに物量が多かったので、この最初の段階ですべてを要・不要に分けたわけではないんです。判断に迷うグレーゾーンを残しつつも、明らかな不用品やゴミを処分できたことで気持ちにゆとりができ、友人にも手伝いに来てもらいやすくなりました」

残されたのは、大量の民芸コレクション。業者に買い取りを依頼することも頭をよぎったが、せっかくなら友人に譲りたいと桜子さんはひらめいた。「アパレル業が長かったこともあり、器やインテリアが好きな友人が多いんです。話してみたら“おもしろそう!”と言ってくれて」。そうしてまずは友人知人限定で、フリマ形式の譲渡会を行うことにした。

治身さんが高校時代から集めていたデッドストックの器たちも販売された(画像提供/鮫島亜希子さん)

治身さんが高校時代から集めていたデッドストックの器たちも販売された(画像提供/鮫島亜希子さん)

フリマで難しいのが値付けだろう。「母も値段までは覚えていなかったので、骨董屋さんに出かけて値ごろ感を確かめたり、画像検索で由来や価格を調べたり。通常の骨董品店よりはかなりお得な値段に設定しました」

友人の手も借りながら準備を進め、2022年8月と9月の4日間で「Recollection – 回想の記録 -」として譲渡会を実施。「告知はInstagramの個人アカウントのみで、友人とその友人のみの予約制に。中には影響力のある友人もいたので拡散力がすごくて」。予想以上の反響があり、約1500点が新たな持ち主のもとに旅立った。

世界各国からかごやザルを背負って持ち帰った治身さんは「かご長者」とあだ名されたほどのかご好き(画像提供/鮫島亜希子さん)

世界各国からかごやザルを背負って持ち帰った治身さんは「かご長者」とあだ名されたほどのかご好き(画像提供/鮫島亜希子さん)

好評を受けて、10・11月には一般客にも予約枠を開放することに。「リテールビジネス(BtoCのビジネス)に携わっている友人たちがいろいろアドバイスをくれて。当初は“この引き出しの中はいくら”みたいな値付けでしたが、知らない人への販売なら一つひとつ値段を書いたほうが会計がスムーズだよとか。”このコーナー売れ行きがよくないね”と友人がささっとディスプレイを直してくれたとたん、驚くほど売れたりも」

明治~昭和の和食器もセンスよくディスプレイして販売(画像提供/鮫島亜希子さん)

明治~昭和の和食器もセンスよくディスプレイして販売(画像提供/鮫島亜希子さん)

手伝ってくれた友人たちとはいつしか“実家フェス”の通称が定着。「”せっかくならお茶ができたらいいよね”と、友人が和室で抹茶を立てて、私のお菓子とお出ししたり。そうやって仲間とアイデアをふくらませるのが楽しかった」。まるで学園祭のような自由さをベースに、ビジネススキルと創造力を持ち寄って準備したこのイベントには、北海道や石川県など遠方も含めのべ数百人が訪れ、総計5000点ほどを譲渡できたという。

2023年10月には「Recollection-回想の記録-エピローグ」として、治身さんの著書のレシピを再現した食事会も実施。「譲渡会で、父が建てた建築をみなさんに見ていただけたのも嬉しかったんです。せっかくだから記録に残そうと、母の料理をつくって父と母が元気だった頃の二部家を再現して、友人である写真家の鮫島亜希子さんに撮ってもらいました」

和気あいあいと和やかな食事会の様子。このときのコレクションは"お気持ち"価格で譲渡し、ウクライナの動物支援団体に寄付も行った(画像提供/鮫島亜希子さん)

和気あいあいと和やかな食事会の様子。このときのコレクションは”お気持ち”価格で譲渡し、ウクライナの動物支援団体に寄付も行った(画像提供/鮫島亜希子さん)

顔の見える使い手へ譲る喜びが、愛したものを手放す寂しさを和らげる

業者の買い取りより手間や時間はかかっても、ものの行く末がわかるのが嬉しいと桜子さん。「友人のおうちに遊びに行ったら、うちで活躍していたものにまた出合えたり。おうちで使う様子をInstagramに上げてくれる人もいて、両親の愛したものたちの新しい物語が始まるのだと実感できました」

来場した友人たちが購入物をインスタにアップ。「みなさんのセレクトが見ていて楽しくて」と桜子さん(画像提供/左から、@hirokoinabaさん、@mamimori8さん)

来場した友人たちが購入物をインスタにアップ。「みなさんのセレクトが見ていて楽しくて」と桜子さん(画像提供/左から、@hirokoinabaさん、@mamimori8さん)

治身さんもイベントの様子に感激。「ものを手放すから、と悲しむ様子が全くなくて。自分のコレクションがお店みたいにキレイに並べられて“やっぱりこれ素敵よね”なんて喜んだり。自分が好きで手に入れたものを、みなさんが楽しそうに選んで譲り受けていく姿がすごく嬉しかったようで、いい親孝行ができました」

もちろん治身さん自身が手離したくない宝物はキープ。桜子さんも、手元で大切にしたいものたちを自宅やスタジオで愛用している。

水屋箪笥はクリーニングして、桜子さんの「SHUNNO KITCHEN」スタジオで愛用(写真撮影/片山貴博)

水屋箪笥はクリーニングして、桜子さんの「SHUNNO KITCHEN」スタジオで愛用(写真撮影/片山貴博)

風格あるベンチも実家からスタジオに。桜子さんの愛犬・アズキちゃんも心地よさそう(写真撮影/片山貴博)

風格あるベンチも実家からスタジオに。桜子さんの愛犬・アズキちゃんも心地よさそう(写真撮影/片山貴博)

古い実験用漏斗をランプシェードに。「たまたま訪れたアンティークショップで、こんなふうに漏斗を照明にしているのを発見。そのお店にお願いして照明にしてもらいました」(写真撮影/片山貴博)

古い実験用漏斗をランプシェードに。「たまたま訪れたアンティークショップで、こんなふうに漏斗を照明にしているのを発見。そのお店にお願いして照明にしてもらいました」(写真撮影/片山貴博)

買い手がつかなかったランプシェードもスタジオで活躍(写真撮影/片山貴博)

買い手がつかなかったランプシェードもスタジオで活躍(写真撮影/片山貴博)

これからの“もの”との付き合い方を考えるきっかけにも

二部家の実家じまいは、かなり特別なケースかもしれない。でも桜子さんのアイデアと行動力があったからこそ譲渡会は実現でき、成功につながった。「思いついたら後先考えず突っ走るタイプ。料理の仕事もずっとやりたいと言っていたけれど、この物件との運命的な出合いがあって、会社を辞めるより先に契約したことで現実化したんです。今回のイベントも、アイデアを周囲に伝えることで現実のものになりました」

窓の前に咲く満開の桜に、自分の名前との運命的な符合を感じて契約したスタジオ。「譲渡会で知り合った人たちが一緒に料理教室に来てくれたりと、嬉しいご縁も生まれています」(写真撮影/片山貴博)

窓の前に咲く満開の桜に、自分の名前との運命的な符合を感じて契約したスタジオ。「譲渡会で知り合った人たちが一緒に料理教室に来てくれたりと、嬉しいご縁も生まれています」(写真撮影/片山貴博)

周囲の人を巻き込んだのも成功の秘訣。
「一人では絶対に無理でした。最初に不要品処分を弟がやってくれたことが突破口になったし、アパレルの仕事の友人や、料理の仕事を通してつながった暮らしに関心の高い友人が助けてくれたからこそ実現しました」

また、今回のイベントを経験して学んだこともある。
「次の世代が使いたいと思える“いいもの”だからこそ譲ることができたんですよね。自分がものを選ぶ際にも、単に便利で安価だからというのではなく、次の世代にも引き継げるものを選ぶことが大切だと痛感しました」

両親が愛用していたハンス・J・ウェグナーデザインの「Yチェア」もそのひとつ。「実家で使い込まれて、かなり傷んでいたんですが、クリーニングに出したらいい味わいを残しつつきれいになって。いいものだからこそ、こうして修繕しながら長く使えるんですよね」

二部家のダイニングで活躍していたYチェア。脚ががたつき、ペーパーコードの座面もボロボロだったが家具のクリーニングに出して風格ある姿に(写真撮影/片山貴博)

二部家のダイニングで活躍していたYチェア。脚ががたつき、ペーパーコードの座面もボロボロだったが家具のクリーニングに出して風格ある姿に(写真撮影/片山貴博)

高齢になり、広すぎる家や多すぎるものの扱いに困っていた両親の姿を見て、年齢に応じてものとの付き合い方を見直す必要性にも気づいたという。
「70歳くらいになったら新たなライフステージの準備として、またフリマをやろうかと仲間と話しているんです。そのためにも“20年後、次の使い手に引き継げるか”を、もの選びの指針として大切にしていきたいです」

桜子さんが陶芸作家の久保田由貴さんと一緒に考案した器のセット。これも大切に使って次世代につなぎたいと考えているもの(写真撮影/片山貴博)

桜子さんが陶芸作家の久保田由貴さんと一緒に考案した器のセット。これも大切に使って次世代につなぎたいと考えているもの(写真撮影/片山貴博)

桜子さんのご両親が美しいと思えるものだけを集めていたからこそ、次の使い手につながるという幸せな展開は実現した。特別なケースだと思われがちな二部家の実家じまいだが、サステナビリティが重視される時代に、“次の使い手に引き継げるか”は、誰もが実践したいもの選びの基準と言えるだろう。また次の使い手へ引き継ぐための自宅フリマや譲渡会も、新しい実家じまいのアイデアとして参考になるはずだ。

●取材協力
「SHUNNO KITCHEN」主宰 二部桜子さん
Instagram

中古マンションをリノベーションでZEH水準に!買取再販物件の広告では初の「省エネ性能ラベル」を表示

2024年4月から、新築住宅などを広告する際に「省エネ性能ラベル」を表示する制度がスタートした。新築住宅および事業者が再販売などをするリノベ物件に対して、ラベルの表示を努力義務としている。すでに、新築住宅ではSUUMOなどのポータルサイトでも、省エネ性能ラベルの表示をしている事例が増えているが、リノベ物件でも表示する事例が登場している。

【今週の住活トピック】
積水化学工業とリノベるが協業するすべての ZEH 水準リノベ物件にて「省エネ性能ラベル」の表示をスタート

2024年4月から努力義務となった「省エネ性能ラベル」とは?

「省エネ性能ラベル」の目的は、「販売・賃貸事業者が建築物の省エネ性能を広告などに表示することで、消費者が建築物を購入・賃借する際に、省エネ性能の把握や比較ができるようにする」ためだ。

例えば、家電製品を買おうとするときに販売店に行くと、パンフレットや店頭商品に、省エネ性能が★の数などで表示されるラベルが掲示されている。同じように、新築住宅やリノベ物件を販売するか賃貸するときに、その事業者が省エネ性能表示ラベルを掲示することで、住宅の検討者が省エネ性を比較しやすいようになる。

住宅の省エネ性能表示ラベルの特徴は、次の3つを表示して性能の違いが分かるようになっていることだ。
(1)エネルギー消費性能が星の数で分かる
(2)断熱性能が数字で分かる
(3)目安光熱費が金額で分かる (任意項目なので表示されない場合もある)

このほか、太陽光発電などの「再エネ設備の有無」と「ZEH水準」、「ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー)」に該当するかが表示される。

住宅の省エネ性能ラベルについては、このサイトの「2024年4月スタートの新制度は、住宅の省エネ性能を★の数で表示。不動産ポータルサイトでも省エネ性能ラベル表示が必須に!?」に詳しく説明しているので、合わせて見てほしい。

住宅(住戸)の省エネ性能ラベルに記載される内容(国土交通省の資料より)

住宅(住戸)の省エネ性能ラベルに記載される内容(国土交通省の資料より)

また、「省エネ性能ラベル」が表示されている物件は、合わせて「エネルギー消費性能の評価書」が発行される。この評価書は、省エネ性能ラベルの内容を詳しく解説した書類だ。

「ZEH水準」と「ZEH」の違いは?

積水化学工業とリノベるが協業するのは、「ZEH 水準リノベ」だ。また、省エネ性能ラベルにも、ZEH水準やZEHのチェック欄がある。では、どこが違うのだろうか?

ZEH(ゼッチ)は、Net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)を略した呼び方で、住宅で消費するエネルギーをゼロにしようというものだ。そのためには、(1)住宅の骨格となる部分を断熱化して、エネルギーを極力使わないようにし、(2)給湯や冷暖房などの設備を高効率化して、エネルギーを効率的に使う。ただし、消費するエネルギーをプラスマイナスゼロにするには、(3)太陽光発電設備などでエネルギーをつくり、消費したエネルギーを補う必要がある。

ところが、太陽光発電設備については、雪国では太陽光を十分に得られなかったり、マンションなどの高層住宅では、戸数が多いわりに屋上の面積が広くなくて、必要な数の太陽光発電設備を設置できないといった制約を受ける。

「ZEH水準」は、地域や住宅の形状によって制約を受ける(3)の再エネ設備を必須としない基準で、(1)と(2)については、住宅性能表示制度の「断熱等性能等級5」かつ「一次エネルギー消費量等級6」という基準を設けたものだ。

既存のマンションでZEH水準のリノベーションを実現

このように、政府は住宅の省エネ化を加速させている。2025年4月にすべての新築住宅で、現行の省エネ基準の適合を義務化するとともに、その省エネ基準を遅くとも2030年までには「ZEH水準」に引き上げようとしている。

一方で、既存のマンションの多くは現行の省エネ基準の水準を満たしておらず、それをZEH水準にまで引き上げるのはハードルが高いと思われてきた。ところが、いくつかの事業者が、既存マンションのZEH水準リノベを実現するようになってきた。

今回の積水化学工業とリノベるの協業もそのひとつで、どうやってZEH水準にリノベーションをするかは、当サイトの「既存のマンションでもZEH水準にリノベが可能に!?国が推進する省エネ性能「ZEH水準」についても詳しく解説」で紹介している。

両社によるZEH水準リノベの省エネ性能ラベルの表示、第1号が「東急ドエル・アルス千住」だ。

「省エネ性能ラベル」の発行・表示1号案件「東急ドエル・アルス千住」 

「省エネ性能ラベル」の発行・表示1号案件「東急ドエル・アルス千住」 

不動産ポータルサイトでも「省エネ性能ラベル」を表示

この制度のスタートに合わせて、主要な不動産ポータルサイトでも、省エネ性能ラベルの表示ができるようになっている。今回の物件についても、例えばSUUMOでは次のように表示されている。

「SUUMO」に表示された、東急ドエル・アルス千住の省エネ性能ラベル(2024年4月25日時点)

「SUUMO」に表示された、東急ドエル・アルス千住の省エネ性能ラベル(2024年4月25日時点)

なお、「ネット・ゼロ・エネルギー」にチェックがついているが、厳密にいうと「ネット・ゼロ・エネルギー」ではなく、「ZEH Oriented」であると記載されている。

国土交通省の「建築物省エネ法に基づく建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示制度 ガイドライン」では、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)について、「ZEH 水準以上の省エネ性能を有し、さらに再生可能エネルギーなどの導入により、年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロとすることを目指した住宅について、その削減量に応じて、(1)『ZEH』(100%以上削減=ネット・ゼロ)、(2)Nearly ZEH(75%以上100%未満削減)、(3)ZEH Oriented(再生可能エネルギー導入なし)」と、定義されている。

なお、マンションの住棟に関するラベルでは、ZEH-M、Nearly ZEH-M(75%以上100%未満削減)、ZEH-M Ready(50%以上75%未満削減)、ZEH-M Oriented(再生可能エネルギー導入なし)の4種類になる。

この物件は、(3)ZEH Orientedを満たす住宅であり、かつ、自社による「自己評価」ではなく、「第三者評価※」を取得して、第三者評価機関からZEH水準よりも高い性能を有することが確認できた場合という条件を満たしたことで、「ネット・ゼロ・エネルギー」にチェックがついている。

※第三者評価機関が、省エネルギー性能に特化した評価・表示制度である「BELS(ベルス)」を使って評価するもの。

一般ユーザーには、理解が難しいところなので、販売している事業者に詳細を確認しよう。

平成30年(2018年)の総務省「住宅・土地統計調査」で、全国の住宅総数(持ち家、借家、空き家含む)は約6241万戸とデータがある。その大半が現行の省エネ基準を満たしていない一方、新築住宅の省エネ性能はZEH水準に向かっている。性能格差は広がるばかりだが、既存の住宅でもZEH水準への改修が進めば、良質な住宅ストックになっていく。健康で快適な暮らしにもつながるものなので、さらなる増加に期待したい。

●関連サイト
積水化学工業とリノベるが既存マンションのZEH水準リノベーションを提供開始

キャンピングカーをリノベで「動く別荘」に! 週末バンライフで暮らしながら家族と九州の絶景めぐり

キャンピングカー、バンライフなど、車と住まいが一体化したライフスタイルが注目を集めています。そんなトレンドの影響もあってか、リノベーションオブ・ザ・イヤー2023で特別賞を受賞したのがキャンピングカーをリノベした「動く家」です。キャンピングカーをリノベしたら、一体どのような住まいになったのでしょうか。施主と設計を担当した建築士に話を聞いてみました。

中古のキャンピングカーをリノベしてできた「動く家」

今回の「動く家」プロジェクトの施主・川原一弘さんは、サーフィンやキャンプを趣味としていて、もともとハイエースを所有していました。ただ、コロナ禍もあって自由に移動できず不便さを感じていたため、別荘またはハイエースへの買い替えを検討していましたが、偶然、中古のキャンピングカーを発見しました。

もともと、熊本を中心にリノベーションや店舗デザインなどを幅広く手掛けていた会社ASTERの社名を知っていた川原さんは、すぐに会社宛にメールを送り、相談したといいます。

「状態のいいキャンピングカーがあるのですが、これをリノベできますか」。すると、わずか10分後にメールで「できますよ!」と即答が。このレスポンスに後押しされ、キャンピングカーを購入したのです。2022年3月3日のことでした。

30年前に製造されたキャンピングカー。横顔がりりしい!(写真提供/ASTER中川さん)

30年前に製造されたキャンピングカー。横顔がりりしい!(写真提供/ASTER中川さん)

車は1993年製造、建物でいうと築30年、広さは8平米のワンルーム。キッチン・バス・トイレと運転席がついていて、昨今、都心部で話題になっている「激狭ワンルーム」と同程度といってもいいかもしれません。

「せっかくのキャンピングカーなので、単なる改装で終わらせるのは惜しいと思いました。居住性を高めて『動く家』にするのはどうだろう、という案を川原さんに提案したところ『よいですね』と話がまとまりました。キッチン・トイレ・シャワーは十分に動くためそのままで、位置などの変更も行っていません」と話すのは、設計を担当したASTERの中川正太郎さん。

既存の駆体のギミック、良さは残しつつ、価値を高めるのは「リノベ」の得意とするところです。車の改装では終わらせずに「家」「別荘」のように使える空間をつくる、そんなプランニングが固まりました。

居住性を高めるのは素材感。住宅用の無垢材、家具屋のソファを採用

「動く家」にするということは、すなわち「居住性を高める」こと。そのため、プランニングでは手触り、心地よさなど素材感を活かすことにしようと思い至ったといいます。

リノベ前の写真。これはこれで味があります(写真提供/ASTER中川さん)

リノベ前の写真。これはこれで味があります(写真提供/ASTER中川さん)

リノベ前の写真。室内から運転席を見たところ(写真提供/ASTER中川さん)

リノベ前の写真。室内から運転席を見たところ(写真提供/ASTER中川さん)

「内装の雰囲気の参考にするため、キャンピングカーショーを訪れるなどし、かなりの数のキャンピングカーを見学しました。そのなかで気がついたのは、家らしさというのは、やはり素材ということ。自動車改装用パーツで木っぽい見た目にするのは容易ですが、やっぱりどこか工業用部品なんです。ですから、今回は住宅用の建材を使おうと。床や壁にはたくさん木材を使っていますが、突板(スライスした天然木をシート状にして加工したもの)を貼っていますし、塗装も住宅用、照明はダウンライトです。ソファなども車用ではなくて家具屋さんに依頼しました」と中川さん。

ソファベッドは折りたたみ式で、ベッドのように広げたところ。間接照明がおしゃれ(写真提供/ASTER中川さん)

ソファベッドは折りたたみ式で、ベッドのように広げたところ。間接照明がおしゃれ(写真提供/ASTER中川さん)

ソファベッドをソファとテーブルを囲む椅子にした状態(左)とベッドにした状態(右)の間取図。バス・キッチン・トイレ。動線も考えられた、まさに家(写真提供/ASTER中川さん)

ソファベッドをソファとテーブルを囲む椅子にした状態(左)とベッドにした状態(右)の間取図。バス・キッチン・トイレ。動線も考えられた、まさに家(写真提供/ASTER中川さん)

狭い空間だからこそ、目に入るもの、手や足で触れるものの素材感が大事というのは、わかる気がします。また、空間がコンパクトになることから、省スペースで小さく作られていることが多い船舶用パーツを採用したとか。

「施工に関しては、普通の住宅のリノベとほぼ同様の工程です。残せる部分は残しつつ、施工する床やソファなど既存のものは剥がしています。床はヘリンボーン(角が90度になっている貼り方)なので、座席と接する面など、細かな部分は職人さんも苦労したと思います」(中川さん)

床のヘリンボーンを貼っているところ。車だと思えないですね(写真提供/ASTER中川さん)

床のヘリンボーンを貼っているところ。車だと思えないですね(写真提供/ASTER中川さん)

こうしてみると手仕事でできているのがわかります(写真提供/ASTER中川さん)

こうしてみると手仕事でできているのがわかります(写真提供/ASTER中川さん)

施工にかかったのは約1カ月半、費用は130万円ほど。通常、リノベーションでは職人さんが現地に赴いて作業を行いますが、そこは車なので、なんと職人さんの庭に移動してきて作業をしたそう。大工さんも家ではなく車に施工するとは、きっと貴重な機会になったことでしょう。

車内に船舶用の照明を採用するなど、狭くても快適に暮らせる工夫が凝縮(写真提供/ASTER中川さん)

車内に船舶用の照明を採用するなど、狭くても快適に暮らせる工夫が凝縮(写真提供/ASTER中川さん)

窓の景色が移ろう、動く城のような最強の可動産が完成!

完成した住まいは、常に移動して窓から景色が動いていく「動く城」のよう。出来上がりについて施主の川原さんは、「最強の可動産ができた!」と表現します。

この車からの眺め、そのままロードムービーに使えそう(写真提供/ASTER中川さん)

この車からの眺め、そのままロードムービーに使えそう(写真提供/ASTER中川さん)

「動線がスムーズなので、寝る、着替える、くつろぐ、収納からモノを出す、といった行動が家と同じ感覚でできています。目的地についてもキャンプ設営は不要ですし、着替えやシャワー、トイレの場所を探すといった行動にストレスがなく、滞在時間を思う存分、アクティビティに使えます。運転席にロールスクリーンがあるので、下ろして映画を見たりもしています。2人の子どもたちはゲームをしたり、家となんら変わらないくつろぎ方をしていますね。窓から景色がキレイなんですけど、まったく見ていないという……」(川原さん)

キッチンでコーヒーを淹れるだけで、至福のひととき(写真提供/ASTER 中川さん)

キッチンでコーヒーを淹れるだけで、至福のひととき(写真提供/ASTER 中川さん)

ロールスクリーンを下ろしてゲーム中。川原家のお子さんになりたい(写真提供/川原さん)

ロールスクリーンを下ろしてゲーム中。川原家のお子さんになりたい(写真提供/川原さん)

こうして動く城に家族を乗せて、サーフィンや釣り、キャンプに行ったり、初日の出を屋根の上で見たりと、すっかり家族の居場所になっているといいます。ご近所にも評判で、同級生が内見(?)するということも多いとか。

生活に必要なインフラでいうと、電気は大型のポータブルバッテリーを搭載、上水は大きめの給水タンク、下水も汚水タンクがあるため、「家」と変わらない快適さをキープ。断熱材はもともと入っているため今回は手をつけていませんが、現状、エアコン1台で冬も夏も快適に過ごせるといいます。そこはさすが断熱先進国ドイツ製!といったところでしょうか。

一方で、キャンピングカーはそのものが大きいので運転では注意が必要なこと、事前に駐車するスペースを調べておくこと、目的地までの道路が細すぎないか、という点に注意しているそう。もう一つ、気を付けている点として、家の生活感を持ち込まないことをあげてくれました。

お子さんたちのものは極力、厳選して持ち込んでいます(写真提供/川原さん)

お子さんたちのものは極力、厳選して持ち込んでいます(写真提供/川原さん)

「子どもがいるとどうしても、住空間に生活感がにじみでてしまいますよね。せっかくおしゃれにつくってくれたので、この世界観を壊さないように、大人のインテリア空間にするよう、努めています」(川原さん)

ああ、わかります、その気持ち。子どもと一緒の空間は好きなんだけれども、たまには生活感のない大人の空間にいたい……。「動く家」はそんな大人の切なる願いも叶えてくれたようです。

家や住宅ローンのように「動かせないもの」に囚われない生き方を提案したい

今回の「動く家」、現在、乗れているのはほぼ週末といいますが、川原さんがもっとも魅力を感じたのは、「家が自分についてくる、自分本意の生き方ができること」だといいます。

「私たちが暮らす九州は、風光明媚な場所が多くて、阿蘇、天草、鹿児島、大分、宮崎など、自然そのもの、移動そのものが楽しいことが多いんです。『動く家』があれば、ドライブに出かけてそのまま夜空を眺めたり、美しい景色を見て、気に入ったら長く滞在したりと、自由に暮らすことができる。時間通りに動くというより、自分に合わせて家がついてくる、そんな生き方を可能にすると思いました」

窓の向こうに広がる絶景! キャンピングカーで九州を巡るのを夢見ている人は多いのでは(写真提供/川原さん)

窓の向こうに広がる絶景! キャンピングカーで九州を巡るのを夢見ている人は多いのでは(写真提供/川原さん)

動く家。ドライブだけでもしてみたい(写真提供/ASTER中川さん)

動く家。ドライブだけでもしてみたい(写真提供/ASTER中川さん)

設計を担当した中川さんも、手応えを感じているようです。
「弊社の『マンション』『一戸建て』『賃貸』というメニューに『車』という領域を増やしたいくらい。一軒家+離れや応接間のような感覚で、車の空間を使ってみたいという人は多いと思います」と話します。確かにテレワークスペース、家族の避難場所などとして、十分に「ほしい」という人はいることでしょう。

ともすると、私たちは、家や住宅ローンという「重いもの」に縛られがちですが、「動く家」はそうした重たさや、「動かせない」という思い込みを追い払ってくれる存在です。

「老後のためにと今まで積み立ててきた有価証券を取り崩さず、担保に入れて資金調達するスキームを組むことで月々の返済負担をなくし、目先を楽しむことを実現しています。今、老後や将来のためにといって貯蓄や投資にまわす人は多いですが、死ぬときにお金はもっていけません。やりたいことを我慢するのではなく、きちんと暮らしとやりたいことは両立できるんだよという、事例になっていけたらいい」と話す川原さん。

キャンピングカーやバンライフが広がりはじめたものの、「いいなあ」「やってみたい」という人は多いはず。ただ、移動する車窓のように、人生は移ろいゆき、変化していくもの。「定年後に」「ゆくゆくはキャンピングカーで」と憧れるのではなく、実はすぐにでも動き出すことが大切なのもしれません。

●取材協力
ASTER
ASTERのInstagramアカウント

Z世代は地域社会とつながる旅を志向。調査で分かった地域貢献意識の高さや地方移住の動きを解説

宿やホテルを予約できる「じゃらん」のじゃらんリサーチセンターでは、宿泊旅行についての大型調査「じゃらん宿泊旅行調査」を定期的に行っている。今回、Z世代に焦点を当てて、Z世代の価値観や旅行への意識について再分析した結果を公表した。それによると、Z世代は「地域貢献意識」が高く、「地方への移住を考える旅」も実施しているという。地方移住の鍵になると見られるZ世代の意識について詳しく見ていこう。

【今週の住活トピック】
じゃらん宿泊旅行調査を再分析/リクルート じゃらんリサーチセンター

Z世代で多い「地域体験交流タイプ」、女性は「効率・欲張りタイプ」も

公表されたリリースでは、「Z世代」を調査対象の20代(18歳~29歳)として分析している。調査対象全体をクラスター分析すると、「1.地域体験交流」「2.地域訪問」「3.話題性重視」「4.効率・欲張り」「5.リピートなじみ」「6.計画」「7.こだわりなし」の7タイプに分類できる。

なかでも、「地域体験交流タイプ」は、Z世代男性で29.6%、女性で15.8%の出現率となり、他の世代よりも多いことが分かった。このタイプは、観光したら終わるといったものではなく、「地域や地元の文化や生活習慣を深く理解し、地域社会とのつながりを築くことに重点が置かれている」点に特徴があるという。

また、「地域体験交流タイプ」は男性が多いのに対して、「効率・欲張りタイプ」は女性が多く、なかでもZ世代の女性は22.6%と最多だった。効率・欲張りタイプの特徴は、効率よくできるだけ多くの場所を回り、新しい場所への好奇心が強いタイプだという。女性のほうが、友人や恋人との旅行比率が高いことも影響しているそうだ。

●宿泊旅行に対する意識 クラスター構成2023(性年代別)

宿泊旅行に対する意識 クラスター構成2023(性年代別)

出典:じゃらんリサーチセンター「じゃらん宿泊旅行調査再分析」より転載

Z世代の「地方への移住」を考える旅は実施フェーズに

じゃらんリサーチセンターによると、Z世代に多い「地域体験交流タイプ」で強く見られる因子が「地域志向性」だという。「地域志向性」と相関の強い6項目(ⅰ地域のためになること、貢献できることを選ぶ、ⅱ将来の移住やライフスタイルの参考になりそうな旅をする、ⅲ地元の人に積極的に話しかけて情報を聞いたり交流する、ⅳ旅行先の風土や生活習慣を体験する、v自ら主体的に参加する・体験する、ⅵ暮らすように旅をする)を可視化すると、次の画像のようになり、Z世代の地域志向性の高さが分かるという。

●Z世代の地域とのかかわりへの意識と実施(男女別)

Z世代の地域とのかかわりへの意識と実施(男女別)

出典:じゃらんリサーチセンター「じゃらん宿泊旅行調査再分析」より転載

また、コロナ禍を経てZ世代で最も変化した項目は、「地域のためになること、貢献できることを選ぶ」で、男女ともに「地域貢献意識」が大きく上昇したという。

ほかにも、「地方移住」はコロナ禍で注目度が一気に高まったキーワードだが、コロナ禍前後を比べると「将来の移住やライフスタイルの参考になりそうな旅をする」ことへの関心が高まり、実施ポイントも増加していることから、関心にとどまらず実施フェーズへの移行の兆しが見られるという。

増加が期待される「地方移住」について、Z世代が関心を持ち、動き出しているとは、なんとも頼もしい限りだ。

Z世代の価値観は、地域で活躍することがかっこいい!?

この分析を担当した同研究員の池内摩耶さんは、分析結果を「とーりまかし別冊 研究年鑑 2024」で詳しくまとめている。そこで池内さんは、「なぜZ世代は『地域とのかかわり』を求めるのか」についても考察している。

「①オンラインやリモートなど学び方、働き方が柔軟になったことで移住含め地域がより身近な存在となったこと。②Z世代の三大都市圏居住率は年々高まり約6割で地域を知る機会に乏しいこと。③地域に居を構え地域活性に向き合う若手への注目など、コロナによって「地域」というものを強く意識する機会が増えたこと。主にこれらの要因が、Z世代が地域とのかかわりを求める動機付けとなり、地域で活躍することへの憧れ・かっこよさのような志向性が表れていると考えられる」という考察だ。

Z世代がこれからの地方移住の核になりそうだ、という結果については頼もしいと思うが、一方で受け入れ側の体制の改善にも期待したい。地方自治体が予算を取って地方移住を呼び込むさまざまな対策を用意しているが、地域特性を生かした魅力的な対策でなければ、「選ばれる地方」にならない。また、受け入れる地元の住民が「よそもの」意識を持っていると、移住は進まない。

人口減少、急激な高齢化が進むなか、移住先としての地方の選別がなされるようになるだろう。こうした課題を解決していかないと、地域志向性の高いZ世代に注目されることが難しいかもしれない。

●関連サイト
じゃらんリサーチセンター「じゃらん宿泊旅行調査を再分析」
じゃらんリサーチセンター「とーりまかし別冊 研究年鑑 2024」

「SUUMO住みたい街ランキング2024」大宮が吉祥寺を抑え初の2位に! 遊び・買い物環境だけじゃない、教育・交通利便性も大進化していた

リクルートが、首都圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県・茨城県)在住の20歳~49歳の男女9335人を対象に実施した「SUUMO住みたい街ランキング2024」を発表。今回は、”住みたい街といえば”の代名詞的な存在だった吉祥寺をおさえ2位になった埼玉県「大宮」にフォーカスし、街の魅力を探ります。

駅周辺の商業施設に1000以上の店舗が集まる

吉祥寺を抑え、初の2位に輝いた大宮。埼玉県勢としても過去最高順位となりました。特に評価されているポイントは、買い物環境、遊ぶ環境の充実ぶり。「街の魅力(住みたい理由)」として、最も多くのポイントを集めたのも「文化・娯楽施設が充実している(映画館、劇場、美術館、博物館など)」(62.3%)で、以下「ショッピングモールやデパートなどの大規模施設がある」(61.5%)、「街に賑わいがある」(57.8%)と続きます。

大宮駅前

大宮駅前

大宮駅内・駅周辺だけでも「ルミネ1・2」「エキュート大宮」「大宮アルシェ」「そごう大宮店」「高島屋大宮店」「大宮マルイ」「大宮西口DOMショッピングセンター」があるという買い物天国ぶり。さらに、大宮の隣駅、さいたま新都心駅に直結する「コクーンシティ」を含めた8つの商業施設の総店舗数は1000店を超えます。

買い物だけでなく、駅から直径2km圏に「飲食街(南銀座・北銀座)」、「ライブスポット(さいたまスーパーアリーナ)」、「公園(大宮公園・大宮第二公園)」、「神社(氷川神社)」など、さまざまな要素が凝縮。
古着屋ストリートとして知られる「一の宮通り」や、ケヤキ並木が美しい「氷川参道」など、個性豊かな通りも魅力的です。

氷川神社

氷川神社

また、実はサウナ・スパも質量ともに充実していて、「おふろcafé utatane」や「美楽温泉 SPA HERBS」などの人気施設に加え、2023年4月には大宮駅徒歩4分の場所に個室サウナとワーキングスペース、カフェが融合した「ととのい+」もオープンしました。

そして、大宮といえばやはり「東日本の玄関口」と称される、鉄道交通の利便性の高さが光ります。新幹線だけでも6路線が乗り入れ、通勤、通学だけでなく、旅行・出張にも便利なアクセス環境。2024年3月には北陸新幹線の金沢~敦賀駅間が開業し、大宮駅から福井駅や敦賀駅まで乗り換えなしで移動できるようになりました。

「中学生以下の子どもを持つファミリー」に選ばれ続ける大宮

大宮は埼玉県の県庁所在地である「さいたま市」に属していますが、さいたま市の大きな特徴の一つが「ファミリー層から選ばれている」ことです。じつは、さいたま市は0歳~14歳の転入超過数(転入数から転出数を引いた数)が全国最多。2015年から2023年まで9年連続で1位と、14歳以下の人口増加が続いています。これはつまり、「中学生以下の子どもを持つファミリー」が数多く転入していることの現れです。

子育て世帯の増加に伴い、さいたま市も受け入れ対策を講じてきました。まず、高まる保育需要に対応するため、ここ数年は特に保育施設の整備に注力。平成29年(2017年)の304施設から令和5年(2023年)は513施設と、7年間で1.7倍以上に。定員数も1万9388人から3万788人に増加しています。こうした施設の拡充に加え、保育コンシェルジュなどの相談支援にも力を入れた結果、2022年から待機児童数0人を実現しました。

大宮

大宮駅

子育て世帯にとっては、さいたま市の教育環境も魅力。義務教育レベルでは、特に英語教育の充実ぶりで知られています。さいたま市独自の英語教育「グローバル・スタディ」は、全ての市立小・中学校で、9年間一貫したカリキュラムのもと英語を教えるというもの。これにより、中学3年生時点で英検3級相当の学力を有している子どもの割合が全国1位の86.6%に(※文部科学省「令和4年度 英語教育実施状況調査」より)上るなど、目覚ましい成果が生まれています。

中学3年生時点で英検3級相当の学力を持つ生徒は86.6%

中学3年生時点で英検3級相当の学力を持つ生徒は86.6%。全国の政令都市でも突出して高い数字だ

東京から埼玉へ移転する企業が増加中

近年では、さいたま市のビジネス環境にも大きな注目が集まっています。ここ10年間(2013年~2022年)の企業の転入超過数は、神奈川県に次ぐ全国2位。特に、東京都から埼玉県に移転する企業が多く見られます(※帝国データバンク発表「埼玉県・本社移転企業調査」(2013年~2022年)より)。

さいたま市

さいたま市

多くの企業にとって、大宮の交通利便性は大きなメリット。また、さいたまエリア(埼玉県中心部)は東京23区に比べてオフィス賃料も手頃です。
加えて人材採用の面でも、さいたま市には大きな利点が。市による将来推計人口は2035年まで増え続け、2050年時点でも現在と同程度の人口水準を維持できる見通しです。

これらの魅力に加え、近年は大宮駅周辺で再開発が進み、大型のオフィスビルが増加中。駅近に快適なオフィス環境が整備されることで、ますます企業移転が加速すると見込まれます。

駅の近くで進む大型再開発にも期待

大宮駅周辺の再開発は企業のオフィス需要を満たすだけでなく、街にさらなる活気を呼びます。たとえば、駅東口では2022年4月に、市民ホール、集会場、商業施設、クリニック、オフィスなどから成る「大宮門街(おおみやかどまち)」が誕生しました。大宮駅前に新たな人の流れを生み、そのにぎわいを氷川参道へと結ぶ。そんな、駅と街をつなぐ結節点としての役割も担っています。

「大宮門街」。1階から6階にショップやレストラン、4階から9階には「RaiBoC Hall(市民会館おおみや)」が入り、コンサートや演劇、各種イベントなどに幅広く利用される

「大宮門街」。1階から6階にショップやレストラン、4階から9階には「RaiBoC Hall(市民会館おおみや)」が入り、コンサートや演劇、各種イベントなどに幅広く利用される

大宮門街に隣接するエリアでは、新たな再開発事業「大宮駅東口大門町3丁目中地区第一種市街地再開発事業」が、2023年12月に都市計画決定。100mの高層ビルに高規格のオフィス、店舗、銀行、緑溢れるオープンスペースなどを整備する計画で、一帯の風景が大きく変わりそうです。

一方、駅西口では2023年5月に「大宮ソラミチKOZ」、2024年3月27日に「アドグレイス大宮」という民間大型複合ビルが誕生。今後も、ソニックシティビルの北側のエリア約5.6haについて、機運の高まったところから段階的に整備を進めていくまちづくりの方針を定めています。2024年7月にはその第一弾として、住宅、オフィス、店舗から成る「大宮サクラスクエア」が誕生予定。これを皮切りに、これから数年にわたって開発ラッシュが続く発展性や、それに伴う期待感も、大宮に人気が集まる大きな理由の一つといえそうです。

2024年7月に誕生予定「大宮サクラスクエア」

2024年7月に誕生予定「大宮サクラスクエア」

大宮が初めてTOP10入りしたのは2018年。2022年には初めてTOP3に、そして今回は初の2位と、少しずつ着実に順位を上げています。

東京都心部と同等以上の交通・生活利便性がありながら、遊びや文化、自然、ビジネス環境にも恵まれ、なおかつ住宅コストも手頃で、再開発による今後の発展まで見込める大宮。知名度ではなく、住み心地や街の魅力、将来性に対する純粋な評価が、この順位に現れているといえそうです。

●関連サイト
SUUMOリサーチセンター「SUUMO住みたい街ランキング2024 首都圏版」プレスリリース

「SUUMO住みたい街ランキング2024」秋葉原が20位も急上昇! 空前のエンタメブームにおしゃれ・個性派店舗の充実で「暮らせる街」大進化

リクルートが、首都圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県・茨城県)在住の20歳~49歳の男女9335人を対象に実施した「SUUMO住みたい街ランキング2024」を発表。今回は、前回から20位と脅威のジャンプアップを果たした「秋葉原」にフォーカスし、街の魅力を探ります。

「働く街」としての評価が上昇

過去最高位の29位にランクインした秋葉原。昨年の49位から20も順位を上げ、昨年から「得点ジャンプアップした街(駅)」のランキングでも2位と飛躍しました。

得点ジャンプアップ(駅)ランキング

性別、年代別、ライフステージ別の内訳では、男性の支持が8割と圧倒的。特に30代男性、シングル男性から多くの支持を集めています。また、前回調査に比べ「子どものいない共働き夫婦」からの得票も増加しました。

「秋葉原」性年代別・ライフステージ別得票シェアの推移

秋葉原といえば、やはり「サブカルチャーの街」というイメージ。しかし、今回の調査で秋葉原を支持した人が挙げた「街の魅力(住みたい理由)」を見てみると、現在のアキバの意外な一面も浮かび上がってきました。

街の魅力の1位は「仕事のできる施設がある(コワーキングスペースやカフェなど)」、2位は「魅力的な働く場や企業がある」と、いずれも秋葉原のビジネス環境が高く評価されていることが分かります。

「秋葉原」街の魅力(住みたい理由)TOP10

秋葉原

秋葉原

一方で、5位「文化・娯楽施設が充実している(映画館、劇場、美術館、博物館など)」、6位「学びや、趣味の施設がある(稽古事・カルチャースクールなど)」など、サブカルの街らしい項目も上位に。また、7位は「周囲の目を気にせず自由な生活ができる」。オタクやインバウンド(訪日客)まで幅広く受け入れる、街の懐の深さがうかがえます。

秋葉原駅徒歩10分圏内にスーパーが充実

仕事、遊び環境の充実ぶりに対し、生活の場としてのイメージは薄い秋葉原ですが、じつは秋葉原駅周辺はたくさんのスーパーがあり、静かな住宅地が点在しています。

たとえば、「肉のハナマサ秋葉原店」(24時間営業)や「ライフ神田和泉町店」(9:30~24:00)、「オリンピック淡路町店」(9:00~21:00)、「ピーコックストア神田妻恋坂店」(8:00~23:00)は、いずれも秋葉原駅から徒歩10分程度。小型食品スーパー「まいばすけっと」も各所に点在しています。

秋葉原駅周辺はたくさんのスーパーがあり、静かな住宅地が点在

秋葉原駅周辺はたくさんのスーパーがあり、静かな住宅地が点在

JR高架下の商業施設「CHABARA」には、“食のテーマパーク”がコンセプトの「しょくひんかん」があり、全国から厳選した約4000のご当地グルメアイテムがそろっています。なお、同じ高架下には、クリエイターのアトリエやギャラリー、ものづくりをテーマにしたショップなど全52店舗からなる「2k540 AKI-OKA ARTISAN」、オーディオ、カメラ、ホビーなどのショップが集まる「SEEKBASE」も。日常使いのお店だけでなく、趣味の世界を探求できる場所、ひとひねり加えた個性豊かなショップが充実しているのもアキバの魅力です。誰もが知る商業施設ではなく、サブカルチャーや職人の街といわれてきたルーツにちなんで独自のコンセプトを打ち出した空間は、ここに来なければ得られない体験ができ、遊びに来る人・働く人・暮らす人をも飽きさせません。

「2k540 AKI-OKA ARTISAN」。高架下にショップ、アトリエ、ギャラリー、飲食施設が並ぶ

「2k540 AKI-OKA ARTISAN」。高架下にショップ、アトリエ、ギャラリー、飲食施設が並ぶ

2023年4月、JR山手線・秋葉原駅の高架下に誕生した「キャンプ練習場」。都心の高架下でテント設営やキャンプ飯など、キャンプの練習体験ができる

2023年4月、JR山手線・秋葉原駅の高架下に誕生した「キャンプ練習場」。都心の高架下でテント設営やキャンプ飯など、キャンプの練習体験ができる

「SEEKBASE AKI-OKA MANUFACTURE」。ここでしか出会えないプロダクトや食の専門店が集結

「SEEKBASE AKI-OKA MANUFACTURE」。ここでしか出会えないプロダクトや食の専門店が集結

アニメ・トレカ、空前のブームにより子どもも楽しめる街に

そして今、秋葉原を熱くしているのが、アニメとトレーディングカード。アニメ産業市場(ユーザーが支払った金額を推定した広義のアニメ市場)は2017年に初めて2兆円を突破し、2022年は2兆9277億円と5年で約1.5倍の市場規模に成長(出典/一般社団法人日本動画協会「アニメ産業レポート2023」)。また、「カードゲーム・トレーディングカードゲーム」も2022年の市場規模は前年比32.2%増で2348億9100億円となりました。

一般社団法人日本玩具協会調べ「玩具市場規模調査結果」より

一般社団法人日本玩具協会調べ「玩具市場規模調査結果」より

もともと人気のあった『ポケモンカードゲーム』に加え、『ONE PIECEカードゲーム』など新しいゲームも登場し、秋葉原にはこれらトレカを扱うショップが月に複数軒のペースで開店しています。これらのコンテンツにより、秋葉原は子どもたちにも楽しめる場所に変貌しつつあります。

成人男性のイメージが強かったメイド喫茶にも、子どもに人気のキャラメニューと子ども料金を設け、家族連れで楽しめる場所も誕生。オタク・マニアと呼ばれたアキバは、尖りつつも裾野を広げ、さまざまな人を受け入れる街に変貌していく過程といえるかもしれません。

駅前にはオフィスビルも増え、「働く街」としてのイメージも定着しつつある

駅前にはオフィスビルも増え、「働く街」としてのイメージも定着しつつある

「mAAch ecute 神田万世橋」。ショップ、カフェ、アート空間が並ぶ

「mAAch ecute 神田万世橋」。ショップ、カフェ、アート空間が並ぶ

秋葉原という街は戦後の闇市からはじまり、電気街、サブカルの発信地と、変化を繰り返しつつ発展を遂げてきました。そして、改めて今の街を見つめてみると、驚くほど多彩な顔を持っていることに気付かされます。次々と新しい魅力を備え、アップデートされ続ける。そんな秋葉原の、これからにも注目です。

●関連サイト
SUUMOリサーチセンター「SUUMO住みたい街ランキング2024 首都圏版」プレスリリース

温泉付きリゾートマンションを98万円で購入、200万円でリノベ&DIY! 築75年をレトロかわいいセカンドハウスに大変身 小説家・高殿円さん 伊豆

『トッカン』シリーズ(早川書房)などの代表作がある小説家の高殿円さん。最近、伊豆(静岡県)の築75年のリゾートマンションの1室を98万円で購入しました。この体験を、2024年4月に発行した同人誌『98万円で温泉の出る築75年の家を買った』に綴っています。

もともと和室2Kだった部屋を、約200万円かけて40平米1Rへとリノベーションし、DIYにも挑戦しました。築古リゾートマンションのリノベで注意した点やDIYのコツを伺います。

産業廃棄物の処理が必要な部分は、業者へ依頼

高殿さんの部屋は、購入した当時、襖で2部屋に区切られた和室だったそう。高殿さんはまずはどこまで工事可能か、同じマンション内でAirbnb(民泊)を借りてシミュレーションすることから始めました。

「古い壁や建材によってはアスベストが混ざっていたり、壁の中に配管が通っていたりすると工事を断られてしまうこともありますから、まず壁や天井をどこまで壊せるのか確認しました」

小説家の高殿円さん

小説家の高殿円さん

産業廃棄物の処理が必要な和室の天井落としや、土壁部分の取り壊しは、業者へ依頼。張るのが難しい総柄の壁紙の処理も、職人さんに頼みました。

「壁紙と床を替えるだけでも、部屋の雰囲気は変わります。私は一点投資型で、ポイントとなる場所にお金をかけて、ほかは安く仕上げるタイプ。今回は壁紙にポイントを置きました」

鳥が舞う印象的な壁紙はドイツのデザイナーが手掛けた作品。上海でプリントアウトして輸入したもので、日本国内で使用したのは高殿さんが初だったそう。部屋の中のフォーカルポイントになっています。

作業の様子を見て、ほかの壁紙の張り替えも工数的に同じ職人へ頼んだほうがいいと判断し、ほかの箇所の処理も合わせて依頼。全部で約40万円ほどかけて壁紙を替えました。

鳥が舞う壁紙が目を惹く。壁紙は10万円以上した奮発ポイント

鳥が舞う壁紙が目を惹く。壁紙は10万円以上した奮発ポイント

床には飲食店などでも使われる硬くて傷がつきにくいサンゲツ(メーカー)の黒いフロアタイルを使用。

「もともと床板は張り替えるつもりだったのですが、部屋の畳を上げたら、木の素材が良くって。そのまま使っても大丈夫だと判断しました。リゾートマンションはもともと超高級マンションですから、築75年経っても使えるほど良い材質のものが使われているのでは、と施工をお願いした職人さんから教えていただきました。張り替え代が浮いた分、フロアタイルにお金をかけました」

キッチンは、木製だったものをすべて取り除き、業務用のステンレスシンクを取り付けました。

「ステンレスって磨けば何年でもピカピカに使えるのでいいですよね。中古品を約2万円で取り付けました。業務用なので、普段の手入れも楽です」

キッチンのガス回りには、名古屋でつくられた燃えにくい素材のステーションタイルを業者に張ってもらいました

キッチンのガス回りには、名古屋でつくられた燃えにくい素材のステーションタイルを業者に張ってもらいました

■関連記事:
・温泉付きリゾートマンションを98万円で購入してみた! 「別荘じまい」が狙い目、Airbnbで宿泊内見など物件選びのコツ満載 小説家・高殿円さん 伊豆
・大の家好き作家・高殿円の新刊エッセイ『35歳、働き女子よ城を持て!』インタビュー

水回りは現状維持のまま、部分DIYに挑戦

水回りは配置を動かすとお金がかかるので、今回は現状維持。お風呂やトイレはDIYして、気に入って使えるように工夫しています。

お風呂場の天井部分などの塗装壁は、表面が湿気にやられ、かびやすい部分。漆喰風に見える水性シリコン素材の「STYLE MORUMORU」を自分で塗って仕上げました。

「STYLE MORUMORUを20kgぐらい買って、友人を呼んで天井などを塗装しました。最初はていねいに塗っていたんですけど、思ったよりも時間がかかったので途中から急いで塗り終えました。無事に漆喰風になってほっとしています」

「STYLE MORUMORU」を塗ったお風呂場の天井

「STYLE MORUMORU」を塗ったお風呂場の天井

お風呂の床は、自分でタイル塗装。浴室全体の色合いを締める紺色を選びました。

「濡れる場所をタイル塗装するのは難しいんですが、『失敗してもいいや』と気楽に挑戦しました。修復方法を知っていれば、多少剥がれても直せます。もちろんプロに頼むほうがキレイですが、先々ちょっとしたことでも費用がかかりますから、長く住むなら少しでも自分で覚えることにメリットを感じました」

シックな色合いの浴室の床

シックな色合いの浴室の床

昭和風のお風呂ですが、蛇口を取り替えるなどちょっとした工夫を施して、気に入って使えるようにしています

昭和風のお風呂ですが、蛇口を取り替えるなどちょっとした工夫を施して、気に入って使えるようにしています

トイレの扉のガラス部分は、いわゆるレトロガラス。マンション建築当時に使われたものをそのまま活用することにしました。

「細工があるガラスは当時使われていた型がなくなり、現在は製造することができません。せっかくなのでそのまま活かすことにして、縁(フチ)の部分はアイアンペイントを塗りました」

現在は手に入らない細工ガラスの扉

現在は手に入らない細工ガラスの扉

高殿さんがDIYに使った用具の一部

高殿さんがDIYに使った用具の一部

収納場所は少なめに

部屋の内装で高殿さんがこだわったのは、クローゼットを設けないこと。天井からアイアンのパイプを吊るし、衣服をかけて陳列しています。

「収納スペースを設けないことで、部屋自体を広く使えます。私はもともと掃除好きで、神戸の自宅にも家具をあまり置いてないんです。収納場所があると、あっという間に物が増えちゃうんですよね。」

天井に近い場所に洋服やタオルやシーツなどを収納する棚を自作。広島県の廿日市市で木製品を製造する「WOODPRO」から足場材を取り寄せてつくりました。

「足場材って建物を作る時に利用されるのでペンキで汚れていたりするんですけど、ガサッとした質感が好みで利用しました」

同じ足場材を使って、ベッドヘッドの制作も行いました。

「ベッド自体はアイリスオーヤマで購入した安価なものですが、動いて壁紙と擦れてしまうので、足場材を使ってベッドヘッドをつくりました」

足場材を使ってつくられた棚とベッドヘッド

足場材を使ってつくられた棚とベッドヘッド

ベッド下も収納場所として活用します

ベッド下も収納場所として活用します

食器棚も同じ要領で、足場材を使って制作し、見せる収納。来客が多いため、ワイングラスなどが増えて、天井から吊るす収納方法も取り入れたそう。

「工夫したのは水切りカゴの配置場所。水が滴っても困らないように、洗濯機の上に置きました。収納場所が少ないなかで、どう楽しんで生活するか、チャレンジの場となっています」

調味料なども並ぶ食器棚

調味料なども並ぶ食器棚

洗濯機に置かれた水切りカゴ

洗濯機に置かれた水切りカゴ

高殿さんは神戸との2拠点生活を送るため、月の半分以上はセカンドハウスを空けています。空き巣対策としても、家具類は最低限に揃え、家電や小物もジモティーやYahoo!オークション、メルカリなどで安く購入したそう。

資材高騰直前に滑り込めたこともあり、今回のリノベーションとDIYでかかった総額は約200万円。

「DIYはコストを削減できる分、失敗もしますから、それも含めて楽しめるどうか、自分の性格を見極めて挑戦することが大切だと思います」

Airbnbに宿泊してリノベーション後の自室を想像するのは、なかなか考え付かない妙案です。セカンドハウス利用が多いリゾートマンションだからこそできる技ですが、2拠点生活に憧れたら試してみる価値がありそうです。

小説家の高殿円さん

●取材協力
高殿円さん
小説家。漫画の原作や脚本なども担う。2000年、『マグダミリア 三つの星』で第4回角川学園小説大賞奨励賞を受賞。2013年、『カミングアウト』で第1回エキナカ書店大賞を受賞。2024年4月には同人誌『98万円で温泉の出る築75年の家を買った』を刊行。X(旧Twitter)

<撮影:曽我美芽 / 構成:結井ゆき江 / 取材・編集小沢あや(ピース株式会社)>

温泉付きリゾートマンションを98万円で購入してみた! 「別荘じまい」が狙い目、Airbnbで宿泊内見など物件選びのコツ満載 小説家・高殿円さん 伊豆

『トッカン』シリーズ(早川書房)などの代表作がある小説家の高殿円さん。最近、伊豆(静岡県)の築75年のリゾートマンションの1室を98万円で購入しました。この体験を、2024年4月に発行した同人誌『98万円で温泉の出る築75年の家を買った』に綴っています。

もともと3Kだった物件をリノベーションとDIYで1Rに仕上げ、部屋のお風呂で温泉を楽しんでいます。自宅は神戸にある高殿さんが2拠点生活を始めたきっかけや、リゾートマンションを購入した経緯、物件選びのポイントを伺いました。

自分の人生を支える拠点・温泉付きのセカンドハウス

小説家の高殿円さんはコロナ禍で大好きな海外旅行ができず、気持ちが塞ぎ込んでしまったことをきっかけに、自分の人生を支える拠点として温泉付きのセカンドハウスの購入を決めました。

「昔から大の温泉好き。それに、自宅は神戸(兵庫県)なんですけど、東京へ出張する度に小さなストレスが重なっていたんですよね。ホテルに泊まってもドライヤーの風量が気になるし、いつもの美容液やお気に入りのタオルケットとか、荷物が多くなって大変だなと思ったんです」

高殿円さん

高殿円さん

伊豆のリゾートマンションから東京までは、特急列車「サフィール踊り子」を使えば約2時間。最寄駅からはタクシー圏内で、観光資源が豊かな土地だけに、買い物もネットスーパーを利用できるそう。

「静岡県の南側はすべて海。視界も抜けがあって気持ちがいいし、太陽の光でどこも暖かく、睡眠の質もよくなりました」

山の上に立つリゾートマンションは海からの照り返しで冬でもエアコンなしの半袖で過ごせるほどの温かさ。箱根の山から海へ向かって風が吹くため、潮風の影響を受けることもほとんどないのだそう。

■関連記事:
大の家好き作家・高殿円の新刊エッセイ『35歳、働き女子よ城を持て!』インタビュー

見知らぬ土地での物件取得 情報収集のポイントは?

「物件探しでは、セカンドハウスで自分が叶えたいポイントを整理することから始めました。私はお風呂好きで、1日の3分の1は漬かっていたいタイプです。だから温泉と、海が見える景観の2つを重視して探し始めました」

どの温泉地がいいか、まずは草津温泉や別府温泉、道後温泉、有馬温泉などあらゆる場所を旅しました。

「そのうち自分のなかで『瀬戸内海以外の海が見たい』『神戸からアクセスしやすい場所がいい』と条件が出てきて、最終的に伊豆エリアでセカンドハウスを探すことに決めました」

おおよそのエリアを決めた後は、よりリアルな現地の状況を知るために、近隣のお店を訪ねます。

「情報収集で良かったのは美容院。ご高齢の方が経営する場所ではなく、若い人が働く活気のある美容院で話を聞きたかったので、まずはネット予約できる場所を探しました」

そこでヘアカラーとカットを注文。その間に「最近どうですか?」と話しかけて、地域の良いところやおすすめのお店をヒアリングしていきます。たまたま高殿さんが訪ねた美容院は、東京で修業して、コロナ禍をきっかけに地元で店を構えた美容師だったといいます。

DIYしたこだわりのドレッサースペース 日々のメイクも楽しいのだとか

DIYしたこだわりのドレッサースペース 日々のメイクも楽しいのだとか

高殿さんは美容院で情報収集するだけでなく、美容院に来るお客さんにも注目しました。

「白髪染めや子どものヘアカットは、セルフで仕上げるか、美容院へ通うかの二択ですよね。美容院って、実は家計の余裕と切実に結びついているんです。美容院の客層や施術内容を、地域の豊かさを測るポイントにしていました」

特に重視したのは、子どものヘアカット。高殿さんが訪れた美容院では、入れ代わり立ち代わり近所の子どもが一人でやってきて施術していたそう。

「子どもが一人で美容院へ通うのは、母親が忙しく働いている家庭で、周辺の治安が良いからこそできることだと考えました。子育て世代が活気づく地域は少子化が緩やかですし、移住者が増える余地があるとわかりました」

「お部屋で源泉を楽しみたい」温泉好きのマニアックな物件探し

情報収集を進める一方、温泉の条件についても整理していきました。実際に物件を見るだけではなくAirbnb(民泊)やマンスリーマンションを利用して、さまざまな温泉付きマンションや一軒家に宿泊。改めて、温泉付き物件を所有する難しさを感じたといいます。

温泉を一軒家などで利用する際は温泉権が必要です。温泉権は新規取得後10年ごとに更新料がかかります。建設当初は温泉権を所有していた物件でも、相続を機に手放してしまうケースや、温泉権を所有していないのに「温泉付き」を謳ってトラックなどで温泉を運び入れるケースもありました。

加えて、温泉は温度が低くても成分を含有していれば認められるため、ガスボイラーで沸かす管理費にコストがかかる場合もあったそう。

「温泉付きマンションの管理費は、高いと約10万円もかかることもあるんです。2拠点生活では維持費が重要。軽視することはできませんでした。また、リゾートマンションで空き部屋が多い物件は、管理費の負担が増えるケースもありますから、その辺りの事情も尋ねるようにしていました」

一方、さまざまな物件と出会うなかで、高殿さん好みの温泉付き物件の条件も見えてきます。

「大浴場付きリゾートマンションは冬は寒いなかを出歩かないといけないし、同じマンションの住民と会ったら挨拶もしなくちゃいけない。それよりは、1人でじっくりお部屋のお風呂に漬かって、好きに過ごしたいなと気付きました」

将来的に売ることも考えて物件購入

最初に提示していた条件以外にも、実際に住むとなると細かなところが気になってきます。例えば虫。高殿さんは虫が苦手なので、マンションの下の階や山の中にある一軒家を避けたそう。

「リゾートマンションの1階は虫が出やすいだけでなく、湿気が上がってきやすいので床が傷んでいる可能性もあるんです。でも、庭付きでペット可物件の場合は1階でも人気が出ます。人によって好みは分かれますが、私は上層階を選ぶようにしました」

加えて、将来的に売ったり貸したりすることも考えたといいます。

「住みたい地域のマーケットを見続けると、すぐに売れるマンションとなかなか売れないマンションの違いがわかってくるんです。流動性が高い物件は売りやすいから、まずはそういう物件を探しました」

最初にあげていた高殿さんの条件である海が見える景観は、マリンスポーツ好きなどから変わらない人気があります。加えて温泉が楽しめるとあれば魅力的な物件です。

「リゾートマンションの場合は、Airbnbとして貸し出しているケースも多いので、購入希望のマンションに滞在してみて、人気の理由を探るようにしていました」

宿泊するAirbnbは、ほかの部屋と同じ間取り。どれくらいのリノベーションができるか配管の位置などもチェックしたそうです。

リノベーションとDIYで1Rに仕上げた部屋

高殿さんが購入したリゾートマンションは0円で売られている部屋もあります。相続したはいいけれど維持費がかかり手放す選択をした場合や、高齢になってから介護付きマンションへ移るために「別荘じまい」をするケースも多いのです。

「0円物件はお値打ち価格ですが、給湯器などの設備が古いと入れ替えに何十万円もかかったりします。また、築年数が古いと、建築素材にアスベストが含まれる可能性がある物件もあります。いざリノベーション工事を依頼したら『請けられません』なんてことも。どこまで内装が変えられるかは、リノベーションを経験した人と一緒に行かないとわからないかもしれません。同じマンション内にリノベ済みの部屋があれば、参考になると思います」

購入意思を固めた後は、マンションの管理組合の議事録も忘れずにチェック。

「まず、新しく入居した人と、元から住んでいた人が仲良く暮らすために建設的な対話ができているかを見ます。例えば『1階はペット可物件じゃなかったけど、空き部屋になるよりは需要が見込める選択をしよう』など、前向きな議論ができているか。壮絶な論争があったマンションには、ご近所トラブルが発生しないか、構えてしまいますよね。入居者同士の話し合いの様子は、長く物件を所有するつもりであればまずチェックしたいポイントです」

高殿円さん

60度の源泉が出るリゾートマンションを購入し、現在は月のうち1週間ほどを伊豆で過ごしている高殿さん。高殿さんのSNSでは地魚を使ったおいしそうな料理が見られ、満喫している様子が伝わってきます。

「ひとりで過ごすのはもちろん、滞在中は友達が代わる代わる遊びに来ます。みんなで順番に温泉に入って、絶景を眺めて、伊豆の海鮮を楽しむんです。友達が友達を連れてくることもあります」

大人数で滞在となると光熱費も心配になりそうですが、なんとこの物件、温泉付きだからこそ節約ができているのだとか。

「まず、温泉は沸かす必要がないため、ガス代は月に約980円。その分、熱いお湯を運ぶための配管メンテナンスが必要ですが、私のようなお風呂好きはガス代を気にせずに使いまくれるのでお得な気分です。加えて、温泉代は月額利用料が決まっていて、水道代とは別請求。結果として水道代が抑えらえます」夢の温泉付きリゾートマンション、初期費用は98万円の購入費のほか、リノベーションとDIYに約200万円がかかったそう。物件取得後のDIYやインテリアについても、別記事で詳しく伺います。

リノベーションとDIYで1Rに仕上げた部屋

●取材協力
高殿円さん
小説家。漫画の原作や脚本なども担う。2000年、『マグダミリア 三つの星』で第4回角川学園小説大賞奨励賞を受賞。2013年、『カミングアウト』で第1回エキナカ書店大賞を受賞。2024年4月には同人誌『98万円で温泉の出る築75年の家を買った』を刊行。X(旧Twitter)

<取材・編集小沢あや(ピース株式会社)/撮影:曽我美芽 / 構成:結井ゆき江 / >

「0円空家バンク」で転入者170人増! 家を手放したい人にもメリットあり、移住者フォローも手厚すぎる富山県上市町の取り組みが話題

「地方に空家があるなら、移住希望者に住んでもらえばいいんじゃない?」そんな誰もが空想する取り組みを実行に移し、大成功している自治体があります。富山県上市町です。では、どのようにして成功させたのでしょうか。現場を見学してきました。

0円空家バンクに希望者殺到。能登半島地震の被災者も受け入れ

富山県上市町は、富山駅から電車で約25分の約2万人の町(令和6年1月31日時点)です。町内の多くは山岳地で、名峰・剱岳があるほか、映画『おおかみこどもの雨と雪』(細田 守監督)の舞台になった町でもあります。以前、SUUMOジャーナルでは、「古民家をイメージした公営住宅が誕生!」という記事でもご紹介しました。

この上市町で2022年にはじまったのが「上市町0円空家バンク」(空家解消特別推進事業)です。仕組みとしてはとてもシンプルで、空家所有者の依頼・要望を受けて、行政が建物や土地の現地調査を行い、0円空家バンクに登録します。0円空家バンクを見て取得を希望する人を募集し、内覧会を実施したうえで、空家所有者が取得希望者を選定し、契約を締結、譲渡という流れになります。

上市町0円空家バンクの仕組み(資料提供:上市町役場)

上市町0円空家バンクの仕組み(資料提供:上市町役場)

空家所有者は無償で建物や土地を譲渡できるほか、相続手続き・不用品の処分費用として最大10万円の補助が受けられます。また、取得希望者は住宅が0円で手に入るだけでなく、定額50万円(所有権移転登記費用が発生する場合には贈与税など)の補助があり、さらに該当すれば移住定住の助成金を受け取れます。一方で上市町は空家の指導や特定などに人手を割く必要がなくなり、人口減少どころか定住者の増加、税収増も見込めます。

まさに三方良しの取り組みとあって、2022年度の制度スタートからすぐに人口増へとつながり、その年度のうちで転入者数が前年度より77人、2023年度にはさらに170人まで伸びています。なかでも県外転入者数は、2022年度に前年度の4.4倍となり、2023年度には2021年度の5.9倍まで増加しています。

また、今年1月に発生した能登半島地震の被災者も、2月にこの「0円空家バンク」を利用して移住につながりました。建物の所有者が「被災者の力になりたい」ということで、譲渡が決まったといいます。空き家が住まいという資源として活用できている、好事例といってよいでしょう。

空家を持つと“詰む”!? 所有者にも補助金を出す理由とは

「空家バンク」そのものは全国各地にありますが、ここまで成果が出ている自治体はなかなかありません。上市町の取り組みにはどういった特徴があるのでしょうか? 上市町建設課の金盛敬司主幹に話を聞きました。

上市町建設課の金盛敬司主幹(左)と企画課の盛一紗弥子係長(撮影/SUUMO編集部)

上市町建設課の金盛敬司主幹(左)と企画課の盛一紗弥子係長(撮影/SUUMO編集部)

「以前は、私は固定資産税を担当する部署にいたのですが、空家の所有者から、実家が空家になっているので手放したいという相談を受けていました。その後、現在の建設課に異動になったところ、できるだけ安く住まいを手に入れたい、空家を紹介してもらいたいというニーズがあることに気づきました。副町長からも大胆な取り組みを、という後押しもあり、不動産業者が取り扱わない『無料』の物件に絞って、町が紹介すればいいんじゃないか、という仕組みを思いつきました」と解説します。

0円空家バンク誕生の経緯(資料提供/上市町建設課)

0円空家バンク誕生の経緯(資料提供/上市町建設課)

不動産は売却額が200万円以下の場合、不動産会社が受け取れる仲介手数料の上限は「成約価格× 5%」+消費税と決められています。ただこの手数料では事業として利益を出すことができず、事実上、扱うことはほとんどありません。そのため、「0円でもいいから引き取ってほしい」という要望があっても流通することはなく、空き家として放置されてしまうのです。国は対策として、2023年より「相続土地国庫帰属制度※」をはじめましたが、手放すにも20万円もしくはそれ以上の「負担金」や各種手続きが発生するので、「手放すのにもお金がかかる……」と二の足を踏む人がいるといいます。

※相続土地国庫帰属制度/相続または遺贈(遺言によって特定の相続人に財産の一部または全部を譲ること)によって土地を相続した人が、土地を手放し、国庫に帰属させることを可能にした制度

空家・農地に十分な市場価値がない、売却に必要な図面や書類がない、国庫に帰属させようにもお金がかかる、建物を解体したくても解体費用が出せない、家庭や健康状態によっては家財や荷物の片付けができない。さらに思い入れのある家だからこそ、譲渡する相手は誰でもいいわけではない。経済面はもちろん、感情面も入り交じり、より問題を複雑にしています。「上市町0円空家バンク」では、こうした所有者の事情を考慮して空家所有者にも費用を助成し、譲渡先の決定権も所有者が決める制度です。

「空家所有者には、食器や仏壇、寝具、壊れた家電などは処分していただくことと、権利や担保は整理・抹消と相続してから登録していただくことを説明しています。一方で、タンスなどの大型家具に関しては利活用できることもありますので、そのままでよいですよとお伝えしています。間取図は法務局と固定資産税担当の部署で閲覧し、私が図面を作成します。写真も撮影して、0円空家バンクに登録。複数の応募者のなかから、基本的には直接会っていただき、この人なら、という方に譲渡を決めていただきます」(金盛さん)

空き家に残された立派な家財箪笥。まだまだ使用可能(撮影/SUUMO編集部)

空家に残された立派な家財たんす。まだまだ使用可能(撮影/SUUMO編集部)

これは、金盛さんが一級建築士でもあるからこその機動力です。ちなみに前述の映画監督の細田守さんとは中学の同級生で高校進学時に先生がこの2人を呼んで、美術の道を目指すように勧めたとか。出てくるエピソードにまたまたびっくりします。

<「上市町0円空家バンク」の空家所有者のメリット>
・家財の処分費用助成がある
・譲渡相手を見つけてもらえるが、最終決定は自分たちで行う
・譲渡に必要な物件写真撮影や間取図作成、応募者募集は行政が行う

移住希望者にも助成。不動産会社だけでなく、周囲の企業にも好影響

一方で、取得希望者にも安全な住まいを用意するよう、配慮しています。

「どんな建物でも0円空家バンクに登録できるのか、というとそうではありません。われわれが現地調査を行い、損傷度や危険性に応じて1から4ランクまで判定します。居住するには危険がないと判断でき、なおかつ不動産会社が取り扱わないものを0円空家バンクに登録し、希望者を募るのです。一方で100万円~500万円など価格がつきそうなものは、不動産会社を紹介し、扱ってもらっています。逆に不動産会社から行政に相談して、といわれることもあり、お互いに補い合っている関係です」(金盛さん)

また、0円空家バンクで上市町を知り、内見に来て土地を気に入り、中古住宅を購入して引越してくることもあるよう。

「上市町は、富山駅まで富山地方鉄道も利用できますし、行政や病院、学校、商業施設などもまとまっています。建物が0円というのでどんな山奥・へき地かと思ったら、コンパクトで便利そう、気に入ったとのお声を聞きます。0円空家バンクの住宅取得者には50万円が助成されますが、ほかにも若者・子育て世帯定住促進事業などの他の助成制度を使えば、住宅取得補助費用として最大360万円までもらえます」(金盛さん)

上市町移住・定住ポータル「かみスイッチ」(写真提供/上市町建設課)

上市町移住・定住ポータル「かみスイッチ」(写真提供/上市町建設課)

「上市町0円空家バンク」は、充実した移住定住ポータルサイトをもっているほか、YouTubeでも情報発信をしており、首都圏はもちろん、関西、沖縄、海外からはアメリカやオーストラリア・ドバイなどからも申し込み・反響があったとか。基本は現地で内見しますが、難しい場合はオンラインで建物のルームツアーを行い、紹介しています。こうした「かゆいところに手が届く」あたりも成功の秘訣といえそうです。

こうした情報発信がうまくいき、一時期、不動産会社からは「上市町から売る土地・不動産がなくなった」とまでいわれたほど。もちろん、移住者が来てくれれば、家具や家電、リフォーム、カーテンなどの家財を購入する必要があり、地元企業にも還元されていきます。民間の不動産会社で利益が出せるものは民間で行い、行政にしかできないことに絞って行うというのも大きなポイントのようです。

移住者が近隣コミュニティと打ち解けるため、LINEを活用

上市町のこの0円空家バンクでは、今まで17号まで登録され、うち16物件が契約済みとなっています。(令和6年3月18日時点)そのなかには、建物の雑草対策としてヤギの飼育をはじめ、それをきっかけに子どもたちや近所の人とのつながりもでき、地域コミュニティにもすっかりと打ち解けたという移住者もいるそう。

赤ちゃんや動物ってそれだけで打ち解けますよね(写真提供/上市町建設課)

赤ちゃんや動物ってそれだけで打ち解けますよね(写真提供/上市町建設課)

ヤギと飼い主さん。これは人の輪がひろがります(写真提供/上市町建設課)

ヤギと飼い主さん。これは人の輪が広がります(写真提供/上市町建設課)

「この制度を利用して移住してきた方からは、可処分所得と時間が増えたということをよく聞きます。通勤時間が短くなったり、テレワークをしたりすることで、家族といっしょに過ごす時間が増えた、また、住宅ローンや家賃に縛られずに使えるお金が増えたという声もありますね。水、お米、魚、野菜がおいしい、山が美しいと、改めて上市町の良さを教えてもらえることも多いですね」(金盛さん)

また、移住者がスムーズに地域コミュニティに打ち解けられるよう、LINEオープンチャット「ウェルカミ」を開設し、地域の情報を発信していて、住民情報交換、交流の場をつくっているとか。年1回にオフ会も行い、リアルとSNSの両方で移住支援を行っています。

上市町オンライン交流コミュニティ「WELKAMI」(写真提供/上市町企画課)

上市町オンライン交流コミュニティ「WELKAMI」(写真提供/上市町企画課)

<「上市町0円空家バンク」の移住者側のメリット>
・0円で土地、建物などが入手できる
・国内外の遠方、オンライン内見も可能
・移住後は地域コミュニティに打ち解ける仕組みも

「これが0円!?」 取材陣も驚愕(きょうがく)の0円空家の状態とは?

では、0円空家とはどのような物件なのでしょうか。実際に2物件を見学させてもらいました。まず、向かったのは上市駅近くの121平米、1962年(一部1972年)築の建物です。こちらは能登半島地震で被災された方が住むことが決定しています。店舗付き住宅だったようで、道路に面して建物がひらかれているのが特徴で、2階は和室となっています。建物全体に古さは感じるものの、キッチン、バス、トイレといった水回りをリフォームし、窓は二重窓にすれば、ぐっと住みやすくなるのが素人目にもわかります。

上市町駅近くの0円空家(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

上市町駅近くの0円空家(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

玄関をあけるとたたき、その奥に浴室。窓ガラスもレトロかわいい(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

玄関を開けるとたたき、その奥に浴室。窓ガラスもレトロかわいい(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

一階の和室は、畳もキレイ状態です。大きな姿見がありかつては美容室だったのかな、と推測できます(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

一階の和室は、畳もキレイな状態です。大きな姿見がありかつては美容室だったのかな、と推測できます(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

そして、もう一軒の0円空家を見学させていただきました。こちらは建物内部ではなく、外側から。土地と私道をあわせて約800平米、住宅220平米で間取り10DK、車庫と物置で50平米超になります。建物はいちばん古いもので1971年築、増改築を重ねていますが、まだまだ住めるというか、こんな立派な家が0円!?と驚きを隠せません。これが0円で住めるのであれば、私はなんのために都会で生きているのか、人生の価値基準が揺らぐ音がします。

こちらが220平米・10DKの住まい。晴れていると美しい山々の景色を望めます(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

こちらが220平米・10DKの住まい。晴れていると美しい山々の景色を望めます(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

こちらは離れ。もちろん0円。ここをリノベしてサウナにしたい。目の前の土地はととのいスペースなどにしたいと、妄想が止まりません(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

こちらは離れ。もちろん0円。ここをリノベしてサウナにしたい。眼の前の土地はととのいスペースなどにしたいと、妄想が止まりません(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

電動シャッター付きの車庫。2階は倉庫になっています。っていうかここに住めるのでは?(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

電動シャッター付きの車庫。2階は倉庫になっています。っていうかここに住めるのでは?(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

現在も取得希望者・空家登録者を募集中!制度はよりブラッシュアップして継続へ

この取り組み、以前から上市町に暮らす住民たちからも好評だとか。
「やはり隣家が空家だと、火事や、動物が住み着く、台風や雪などの自然災害での倒壊の危険など、不安が募るようです。若い世代に住んでもらえてうれしい、ほっとしたという声を聞きます」(金盛さん)

家は人が住んでいないとあっという間に劣化していきます。新しい人が入居し、手入れをしながら住んでもらえたら、これほどに幸せな出会いはありません。また、今回のような震災があった場合、被災者支援にも有効であることがわかりました。

上市町には、誰も居住していない、売買市場にも取引されていない空家が、現在、336戸ほどあるといいます(令和6年1月取材時点)。これを単なる「空家」だと思うと負債になりますが、この仕組みでマッチングが成立していけば、立派な「資源」であり、「伸びしろ」ということになります。金盛さんは、「まずは空家の所有者の方に登録してもらいたい」といい、今ある制度をよりブラッシュアップし、次世代につなげていくと意気込んでいます。

取材をしたあとには、制度そのものもすばらしいですが、「空家を所有する人」「移住を考えている人」のお困りごとを一つずつ解決していく、「ていねいさ」「人柄のよさ」が心に残りました。制度をつくるのも人ですが、運用するのも人。良い町を次世代に残していきたい、そんな思いが「上市町0円空家バンク」成功の秘訣だと思いました。

●取材協力
上市町移住・定住ポータルサイト
富山県上市町公式ホームページ

「0円空家バンク」等で転入者170人増! 家を手放したい人にもメリットあり、移住者フォローも手厚すぎる富山県上市町の取り組みが話題

「地方に空家があるなら、移住希望者に住んでもらえばいいんじゃない?」そんな誰もが空想する取り組みを実行に移し、大成功している自治体があります。富山県上市町です。では、どのようにして成功させたのでしょうか。現場を見学してきました。

0円空家バンクに希望者殺到。能登半島地震の被災者も受け入れ

富山県上市町は、富山駅から電車で約25分の約2万人の町(令和6年1月31日時点)です。町内の多くは山岳地で、名峰・剱岳があるほか、映画『おおかみこどもの雨と雪』(細田 守監督)の舞台になった町でもあります。以前、SUUMOジャーナルでは、「古民家をイメージした公営住宅が誕生!」という記事でもご紹介しました。

この上市町で2022年にはじまったのが「上市町0円空家バンク」(空家解消特別推進事業)です。仕組みとしてはとてもシンプルで、空家所有者の依頼・要望を受けて、行政が建物や土地の現地調査を行い、0円空家バンクに登録します。0円空家バンクを見て取得を希望する人を募集し、内覧会を実施したうえで、空家所有者が取得希望者を選定し、契約を締結、譲渡という流れになります。

上市町0円空家バンクの仕組み(資料提供:上市町役場)

上市町0円空家バンクの仕組み(資料提供:上市町役場)

空家所有者は無償で建物や土地を譲渡できるほか、相続手続き・不用品の処分費用として最大10万円の補助が受けられます。また、取得希望者は住宅が0円で手に入るだけでなく、定額50万円(所有権移転登記費用が発生する場合には贈与税など)の補助があり、さらに該当すれば移住定住の助成金を受け取れます。一方で上市町は空家の指導や特定などに人手を割く必要がなくなり、人口減少どころか定住者の増加、税収増も見込めます。

まさに三方良しの取り組みとあって、2022年度の制度スタートからすぐに人口増へとつながり、その年度のうちで転入者数が前年度より77人、2023年度にはさらに170人まで伸びています。なかでも県外転入者数は、2022年度に前年度の4.4倍となり、2023年度には2021年度の5.9倍まで増加しています。

また、今年1月に発生した能登半島地震の被災者も、2月にこの「0円空家バンク」を利用して移住につながりました。建物の所有者が「被災者の力になりたい」ということで、譲渡が決まったといいます。空き家が住まいという資源として活用できている、好事例といってよいでしょう。

空家を持つと“詰む”!? 所有者にも補助金を出す理由とは

「空家バンク」そのものは全国各地にありますが、ここまで成果が出ている自治体はなかなかありません。上市町の取り組みにはどういった特徴があるのでしょうか? 上市町建設課の金盛敬司主幹に話を聞きました。

上市町建設課の金盛敬司主幹(左)と企画課の盛一紗弥子係長(撮影/SUUMO編集部)

上市町建設課の金盛敬司主幹(左)と企画課の盛一紗弥子係長(撮影/SUUMO編集部)

「以前は、私は固定資産税を担当する部署にいたのですが、空家の所有者から、実家が空家になっているので手放したいという相談を受けていました。その後、現在の建設課に異動になったところ、できるだけ安く住まいを手に入れたい、空家を紹介してもらいたいというニーズがあることに気づきました。副町長からも大胆な取り組みを、という後押しもあり、不動産業者が取り扱わない『無料』の物件に絞って、町が紹介すればいいんじゃないか、という仕組みを思いつきました」と解説します。

0円空家バンク誕生の経緯(資料提供/上市町建設課)

0円空家バンク誕生の経緯(資料提供/上市町建設課)

不動産は売却額が200万円以下の場合、不動産会社が受け取れる仲介手数料の上限は「成約価格× 5%」+消費税と決められています。ただこの手数料では事業として利益を出すことができず、事実上、扱うことはほとんどありません。そのため、「0円でもいいから引き取ってほしい」という要望があっても流通することはなく、空き家として放置されてしまうのです。国は対策として、2023年より「相続土地国庫帰属制度※」をはじめましたが、手放すにも20万円もしくはそれ以上の「負担金」や各種手続きが発生するので、「手放すのにもお金がかかる……」と二の足を踏む人がいるといいます。

※相続土地国庫帰属制度/相続または遺贈(遺言によって特定の相続人に財産の一部または全部を譲ること)によって土地を相続した人が、土地を手放し、国庫に帰属させることを可能にした制度

空家・農地に十分な市場価値がない、売却に必要な図面や書類がない、国庫に帰属させようにもお金がかかる、建物を解体したくても解体費用が出せない、家庭や健康状態によっては家財や荷物の片付けができない。さらに思い入れのある家だからこそ、譲渡する相手は誰でもいいわけではない。経済面はもちろん、感情面も入り交じり、より問題を複雑にしています。「上市町0円空家バンク」では、こうした所有者の事情を考慮して空家所有者にも費用を助成し、譲渡先の決定権も所有者が決める制度です。

「空家所有者には、食器や仏壇、寝具、壊れた家電などは処分していただくことと、権利や担保は整理・抹消と相続してから登録していただくことを説明しています。一方で、タンスなどの大型家具に関しては利活用できることもありますので、そのままでよいですよとお伝えしています。間取図は法務局と固定資産税担当の部署で閲覧し、私が図面を作成します。写真も撮影して、0円空家バンクに登録。複数の応募者のなかから、基本的には直接会っていただき、この人なら、という方に譲渡を決めていただきます」(金盛さん)

空き家に残された立派な家財箪笥。まだまだ使用可能(撮影/SUUMO編集部)

空家に残された立派な家財たんす。まだまだ使用可能(撮影/SUUMO編集部)

これは、金盛さんが一級建築士でもあるからこその機動力です。ちなみに前述の映画監督の細田守さんとは中学の同級生で高校進学時に先生がこの2人を呼んで、美術の道を目指すように勧めたとか。出てくるエピソードにまたまたびっくりします。

<「上市町0円空家バンク」の空家所有者のメリット>
・家財の処分費用助成がある
・譲渡相手を見つけてもらえるが、最終決定は自分たちで行う
・譲渡に必要な物件写真撮影や間取図作成、応募者募集は行政が行う

移住希望者にも助成。不動産会社だけでなく、周囲の企業にも好影響

一方で、取得希望者にも安全な住まいを用意するよう、配慮しています。

「どんな建物でも0円空家バンクに登録できるのか、というとそうではありません。われわれが現地調査を行い、損傷度や危険性に応じて1から4ランクまで判定します。居住するには危険がないと判断でき、なおかつ不動産会社が取り扱わないものを0円空家バンクに登録し、希望者を募るのです。一方で100万円~500万円など価格がつきそうなものは、不動産会社を紹介し、扱ってもらっています。逆に不動産会社から行政に相談して、といわれることもあり、お互いに補い合っている関係です」(金盛さん)

また、0円空家バンクで上市町を知り、内見に来て土地を気に入り、中古住宅を購入して引越してくることもあるよう。

「上市町は、富山駅まで富山地方鉄道も利用できますし、行政や病院、学校、商業施設などもまとまっています。建物が0円というのでどんな山奥・へき地かと思ったら、コンパクトで便利そう、気に入ったとのお声を聞きます。0円空家バンクの住宅取得者には50万円が助成されますが、ほかにも若者・子育て世帯定住促進事業などの他の助成制度を使えば、住宅取得補助費用として最大360万円までもらえます」(金盛さん)

上市町移住・定住ポータル「かみスイッチ」(写真提供/上市町建設課)

上市町移住・定住ポータル「かみスイッチ」(写真提供/上市町建設課)

「上市町0円空家バンク」は、充実した移住定住ポータルサイトをもっているほか、YouTubeでも情報発信をしており、首都圏はもちろん、関西、沖縄、海外からはアメリカやオーストラリア・ドバイなどからも申し込み・反響があったとか。基本は現地で内見しますが、難しい場合はオンラインで建物のルームツアーを行い、紹介しています。こうした「かゆいところに手が届く」あたりも成功の秘訣といえそうです。

こうした情報発信がうまくいき、一時期、不動産会社からは「上市町から売る土地・不動産がなくなった」とまでいわれたほど。もちろん、移住者が来てくれれば、家具や家電、リフォーム、カーテンなどの家財を購入する必要があり、地元企業にも還元されていきます。民間の不動産会社で利益が出せるものは民間で行い、行政にしかできないことに絞って行うというのも大きなポイントのようです。

移住者が近隣コミュニティと打ち解けるため、LINEを活用

上市町のこの0円空家バンクでは、今まで17号まで登録され、うち16物件が契約済みとなっています。(令和6年3月18日時点)そのなかには、建物の雑草対策としてヤギの飼育をはじめ、それをきっかけに子どもたちや近所の人とのつながりもでき、地域コミュニティにもすっかりと打ち解けたという移住者もいるそう。

赤ちゃんや動物ってそれだけで打ち解けますよね(写真提供/上市町建設課)

赤ちゃんや動物ってそれだけで打ち解けますよね(写真提供/上市町建設課)

ヤギと飼い主さん。これは人の輪がひろがります(写真提供/上市町建設課)

ヤギと飼い主さん。これは人の輪が広がります(写真提供/上市町建設課)

「この制度を利用して移住してきた方からは、可処分所得と時間が増えたということをよく聞きます。通勤時間が短くなったり、テレワークをしたりすることで、家族といっしょに過ごす時間が増えた、また、住宅ローンや家賃に縛られずに使えるお金が増えたという声もありますね。水、お米、魚、野菜がおいしい、山が美しいと、改めて上市町の良さを教えてもらえることも多いですね」(金盛さん)

また、移住者がスムーズに地域コミュニティに打ち解けられるよう、LINEオープンチャット「ウェルカミ」を開設し、地域の情報を発信していて、住民情報交換、交流の場をつくっているとか。年1回にオフ会も行い、リアルとSNSの両方で移住支援を行っています。

上市町オンライン交流コミュニティ「WELKAMI」(写真提供/上市町企画課)

上市町オンライン交流コミュニティ「WELKAMI」(写真提供/上市町企画課)

<「上市町0円空家バンク」の移住者側のメリット>
・0円で土地、建物などが入手できる
・国内外の遠方、オンライン内見も可能
・移住後は地域コミュニティに打ち解ける仕組みも

「これが0円!?」 取材陣も驚愕(きょうがく)の0円空家の状態とは?

では、0円空家とはどのような物件なのでしょうか。実際に2物件を見学させてもらいました。まず、向かったのは上市駅近くの121平米、1962年(一部1972年)築の建物です。こちらは能登半島地震で被災された方が住むことが決定しています。店舗付き住宅だったようで、道路に面して建物がひらかれているのが特徴で、2階は和室となっています。建物全体に古さは感じるものの、キッチン、バス、トイレといった水回りをリフォームし、窓は二重窓にすれば、ぐっと住みやすくなるのが素人目にもわかります。

上市町駅近くの0円空家(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

上市町駅近くの0円空家(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

玄関をあけるとたたき、その奥に浴室。窓ガラスもレトロかわいい(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

玄関を開けるとたたき、その奥に浴室。窓ガラスもレトロかわいい(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

一階の和室は、畳もキレイ状態です。大きな姿見がありかつては美容室だったのかな、と推測できます(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

一階の和室は、畳もキレイな状態です。大きな姿見がありかつては美容室だったのかな、と推測できます(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

そして、もう一軒の0円空家を見学させていただきました。こちらは建物内部ではなく、外側から。土地と私道をあわせて約800平米、住宅220平米で間取り10DK、車庫と物置で50平米超になります。建物はいちばん古いもので1971年築、増改築を重ねていますが、まだまだ住めるというか、こんな立派な家が0円!?と驚きを隠せません。これが0円で住めるのであれば、私はなんのために都会で生きているのか、人生の価値基準が揺らぐ音がします。

こちらが220平米・10DKの住まい。晴れていると美しい山々の景色を望めます(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

こちらが220平米・10DKの住まい。晴れていると美しい山々の景色を望めます(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

こちらは離れ。もちろん0円。ここをリノベしてサウナにしたい。目の前の土地はととのいスペースなどにしたいと、妄想が止まりません(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

こちらは離れ。もちろん0円。ここをリノベしてサウナにしたい。眼の前の土地はととのいスペースなどにしたいと、妄想が止まりません(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

電動シャッター付きの車庫。2階は倉庫になっています。っていうかここに住めるのでは?(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

電動シャッター付きの車庫。2階は倉庫になっています。っていうかここに住めるのでは?(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

現在も取得希望者・空家登録者を募集中!制度はよりブラッシュアップして継続へ

この取り組み、以前から上市町に暮らす住民たちからも好評だとか。
「やはり隣家が空家だと、火事や、動物が住み着く、台風や雪などの自然災害での倒壊の危険など、不安が募るようです。若い世代に住んでもらえてうれしい、ほっとしたという声を聞きます」(金盛さん)

家は人が住んでいないとあっという間に劣化していきます。新しい人が入居し、手入れをしながら住んでもらえたら、これほどに幸せな出会いはありません。また、今回のような震災があった場合、被災者支援にも有効であることがわかりました。

上市町には、誰も居住していない、売買市場にも取引されていない空家が、現在、336戸ほどあるといいます(令和6年1月取材時点)。これを単なる「空家」だと思うと負債になりますが、この仕組みでマッチングが成立していけば、立派な「資源」であり、「伸びしろ」ということになります。金盛さんは、「まずは空家の所有者の方に登録してもらいたい」といい、今ある制度をよりブラッシュアップし、次世代につなげていくと意気込んでいます。

取材をしたあとには、制度そのものもすばらしいですが、「空家を所有する人」「移住を考えている人」のお困りごとを一つずつ解決していく、「ていねいさ」「人柄のよさ」が心に残りました。制度をつくるのも人ですが、運用するのも人。良い町を次世代に残していきたい、そんな思いが「上市町0円空家バンク」成功の秘訣だと思いました。

●取材協力
上市町移住・定住ポータルサイト
富山県上市町公式ホームページ

おしゃれ空間が作れると人気の「ハイドア」厚くて高いと何がいい? 注文住宅の最新トレンド

このところ編集部では家を建てるメンバーがあらわれ、プランや設備についてさまざまな相談が上がっています。その中で注目されているのが、「ハイドア」。注文住宅では、室内に設置する床から天井まで2mを超えるドアが人気を集めているといいます。「ハイドア」そのものは珍しくありませんが、なぜ、今、注目を集めているのでしょうか。室内建具専業メーカー「フルハイトドア®」を製造する神谷コーポレーションで話を伺いました。

室内ドアは空間を大きく、広く、明るく見せる重要パーツだった

家探しをするときに、「室内ドア」の形状やデザインを意識したことがないという人がほとんどでしょう。

下の写真は、ごく一般的な日本の建物で、天井高が2m40cm、室内ドアの高さは2mほどで上部に壁(下がり壁といいます)があることがほとんどです。

2mの一般的な室内ドア。ドア上部に下がり壁があります(写真提供/神谷コーポレーション)

2mの一般的な室内ドア。ドア上部に下がり壁があります(写真提供/神谷コーポレーション)

床から天井まで高さのあるハイドア。ドアの高さが違うだけですが、室内の雰囲気が異なる(写真提供/神谷コーポレーション)

床から天井まで高さのあるハイドア。ドアの高さが違うだけですが、室内の雰囲気が異なる(写真提供/神谷コーポレーション)

対して上の写真はハイドアといい、床から天井の高さまである大型のドアです。高さは天井にもよりますが2m40cm、大きいものだと2m70cm近くなります。こうした大型のハイドア、近年、より人気が高まっているといいますが、どのようなメリットがあるのでしょうか。

「ひと言でいうなら、ハイドアは部屋を広く開放的に、明るく見せてくれるんです。ドアが大きくなることでスタイリッシュに見せる効果があります。また、下がり壁がなくなるためドアを開けると光が部屋いっぱいに広がり、自然光で部屋を明るくしてくれるのです」と話すのは神谷コーポレーション、ハイドアに特化した会社で営業部長を務める長尾謙介さんです。

こちらは別の角度から見たドアの比較。下がり壁があるドアに対し、ハイドアのほうが採光にすぐれ室内を明るく見せる効果がある(写真提供/神谷コーポレーション)

こちらは別の角度から見たドアの比較。下がり壁があるドアに対し、ハイドアのほうが採光にすぐれ室内を明るく見せる効果がある(写真提供/神谷コーポレーション)

同社では、通常の「ハイドア」と違い、目に見えるドア枠がなく、クロスの中に埋め込まれているため「枠レス」と認識されているそう。ほかにも、室内の自動ドア、引き手やハンドルのないタイプ、天然レザー張りなど、実に個性的な室内ドアをそろえています。室内建具は枠が大きいほど立派だといわれてきましたが、今や「ほぼ見えない」のもトレンドになっています。確かにないと洗練されているように見えます。

こちらもハイドアですが、上下左右にドア枠がありません。すっきりとした見た目で、海外の家のような仕上がりに(写真提供/神谷コーポレーション)

こちらもハイドアですが、上下左右にドア枠がありません。すっきりとした見た目で、海外の家のような仕上がりに(写真提供/神谷コーポレーション)

SNSで家づくりが当たり前。だからこそ室内ドアの存在感が高まる

現在、神谷コーポレーションでは売上推移の詳細は明らかにしていませんが、ハイドアをリリースしてからの売上は10年間で7倍にも伸びているといいます。新築住宅着工数そのものには大きな変化がないなかで、施主から「わざわざ」選ばれるようになっているといってもいいでしょう。でも、なぜ今、ハイドアなのでしょうか。

「ひとつはSNSです。通常、友人や知人以外の家は、なかなか見学することはないですよね。でも、インスタやルームツアー動画などで、気軽によそのお住まいのインテリアを見られるようになりました。そうして家づくりの実例をたくさん見ていくうちに、なんかかっこいいなという家がハイドアだった、当社のフルハイトドア®だった、という流れで採用されています」と長尾さん。

なるほど、SNSで家づくりやインテリアの勉強をする→タグを見る→ハイドアを知るという流れのようです。そのため、長尾さんのチームの日課は「エゴサーチ」。#ハイドアと#フルハイトドア®とタグのついた投稿を探し、自社の商品がどのように採用されているか、日々、見てまわっているそう。

「今から20年前、家づくりをした人に『自宅でこだわったパーツ30アイテム』を調査したところ、室内ドアはなんと27番目でした。それくらい『室内ドアは優先順位の低いパーツ』だったのですが、今ではハイドアやフルハイトドア®とタグをつけて投稿してもらえるように。特にコロナ禍で、家への意識、プライオリティは高まっているのを感じます」(長尾さん)

また、先日、「注文住宅トレンド2024! 注目は、平屋・ヌック・タイパ・省エネ・ランドリールームなど7キーワード」という記事で解説されていましたが、建物面積を抑える傾向にある今、ハイドアでできるだけ室内を広く、大きく、明るく見せたいというトレンドにもマッチしています。こうしてみると、ハイドアが採用されるのは時代の流れに沿っているんですね。

引き戸タイプのハイドア。枠がほとんどなくすっきりとおさまり、空間の広さと高さを感じられる(写真提供/神谷コーポレーション)

引き戸タイプのハイドア。枠がほとんどなくすっきりとおさまり、空間の広さと高さを感じられる(写真提供/神谷コーポレーション)

室内ドアが「厚い」とどんなメリットがあるの?

一方で、神谷コーポレーションでは単なる室内ドアの高さだけなく、「厚み」も大切だといいます。

「日本の室内ドアは3cm台であることがほとんどですが、当社の室内ドアは厚さ4cmです。数ミリ程度と思うかもしれませんが、実物を見るとかなり違います。そもそも室内ドアは西洋の文化で、欧州では厚さは4cm以上あることが一般的。厚みがあることのメリットは、やはり重厚感と高級感、安心感ですね。欧州では室内ドアが、命と財産を守る最後のパーツという位置づけなのです」と長尾さん。

ただ、室内ドアは木製。大きくなるほどに必然的に「ソリ」が生まれてしまうそう。すると開閉がスムーズに行えずに音がする、閉まらないなどの「立て付けが悪い」という状態になってしまうわけです。それを防ぐべく、建材メーカー各社は試験設備で性能試験を繰り返しています。ただ、加熱しての耐久試験はクリアが難しく、実施しているのは神谷コーポレーションのみだといいます。ちなみに神谷コーポレーションの伊勢原工場ではこうした試験の様子などを「KI-LABO」として限定公開しており、施主の方や契約しているビルダーの人が希望すれば見学できます(要予約)。

室内ドアの厚さ見本。ショールームで実際に見てみると、厚みのある安心感を体感できる(写真提供/神谷コーポレーション)

室内ドアの厚さ見本。ショールームで実際に見てみると、厚みのある安心感を体感できる(写真提供/神谷コーポレーション)

よく外国の家と日本の家を比較して「すべてが小さく、軽い」といわれますが、こうした「天井高や厚み」の差にあるような気がします。

一方でハイドアを採用するうえでの、注意点、デメリットはないのでしょうか。

「ひとつは価格ですね。一般的な高さの室内ドアと比較すると、どうしても価格は高くなってしまう。目安としては1.5倍とお伝えしています。本当は全室採用したかったけれど、リビングのみフルハイトドア®にしたというお声はよく頂戴します。ただ、メーカーが製造しているドアであれば、多くがソフトクローズ機能がついており、他の室内ドアと比較して重い、操作しにくい、歪みやすいといったことありません」(長尾さん)

一方で、建築士や工務店が設計してハイドアを造作してもらうとやや重かったり、経年にともなってやソリ、歪みがうまれてしまうこともあるとか。そのあたりは注意して選ぶとよいでしょう。

こちらは引き戸タイプのハイドア。横幅110cm~135cmでオーダーできるとか。通称「動く壁」(写真提供/神谷コーポレーション)

こちらは引き戸タイプのハイドア。横幅110cm~135cmでオーダーできるとか。通称「動く壁」(写真提供/神谷コーポレーション)

室内ドアで日本の家はまだまだかっこよくなる!?

神谷コーポレーションによると、ハイトドアで一番人気の色は白だそう。ほかにもグレーやグレージュ、天然木、鏡、デニム張りなど、さまざまな色やバリエーションがあり、幅広いインテリアの好みに対応しています。白やベージュが中心だった壁紙は、今はさまざまな色が選ばれているのと同様、ドアとの組み合わせも楽しめそうです。

こちらも引き戸タイプで空間を広く使える。天井のおさまりの美しさに注目。金具もなく、スリットに手をいれて開閉する。用の美の極地(写真提供/神谷コーポレーション)

こちらも引き戸タイプで空間を広く使える。天井のおさまりの美しさに注目。金具もなく、スリットに手をいれて開閉する。用の美の極地(写真提供/神谷コーポレーション)

「家に求める価値観が多様化しているなか、インテリアのトレンドも年々、変化していますし、居室の天井高もより高くなっていて、海外のような抜け感、スタイリッシュさを求める人は年々増えているように思います。当社のドアの枠がない、完全な壁面化はこうした時代のニーズに即していると自負しています。また現在、ドアの高さは最大3mまで対応していますが、まだ一部のシリーズのみなので今後すべてが3m対応になるよう挑戦したい」と意欲的です。

また、「KI-LABO」では、商品開発時に行う試験の様子を見学できるのですが、その内容がスゴイ! 前述の通り、室内ドアは「ソリ」が問題になるといいましたが、その「ソリ」を抑えるために、徹底して商品試験を行っており、その様子を見学できるのです。

限定公開されているKI-LABO(写真提供/神谷コーポレーション)

限定公開されているKI-LABO(写真提供/神谷コーポレーション)

照射加熱試験の様子。初めて見るテストに興奮します(写真提供/神谷コーポレーション)

照射加熱試験の様子。初めて見るテストに興奮します(写真提供/神谷コーポレーション)

(1)照射加熱試験…8時間ほど熱を加えて強制的に曲げたあとに、16時間ほど冷まし、これを5回繰り返す試験。一般的には外壁材で行われる。
(2)二室反狂環境試験…部屋間の湿度差による変化を試験する。湿度90%の部屋と50%の部屋を用意し、曲がらないか試験する。
(3)開閉繰り返し試験…10万回の開閉に耐えられるか。機械が実際に動かし、ドアだけでなく金物が壊れないかも試験する。
(4)衝撃剥離試験…30キロの袋をぶつけてドアが壊れないか試験する。子どもやモノがぶつかることを想定している。動画で最終的にバールでガラスを破壊する様子も視聴できる。

他にも、塗装とシートの違い、新商品の遮音ドアによる生活音の聞こえの「差」なども体験できます。個人的には、印象に残っているのは色や素材の違いや美しさ! 引き手のデザインの豊富さ、白の違いの美しささ、ベージュやグレージュとの違いなどに感動します。マニアックな施設だと思われがちですが、ここを見学したいと、関東だけでなく日本全国から見学希望があるとか。ハイドアは、大変失礼ながら見た目の美しさ、かっこよさ重視でここまで流行しているのかと思っていましたが、機能面や安全面でもすぐれていますし、ここまで広く公開しているのは、専業メーカーとしての自信があるからなのでしょう。

取材を終え、日本の室内ドアはこんなにかっこよくなるんだ……と一人で感激に打ち震えていました。よく考えてみれば、日本の室内建具といえば、基本的には障子と襖だったわけで、日本のドア、室内ドアの歴史はまだはじまったばかり。西洋のものを取り入れて、改良するのは日本の十八番です。「室内ドア」から、日本の住まいがもっと美しく快適で、安全になっていけばいいなと思います。

●取材協力
神谷コーポレーション

残価設定型の住宅ローンってどんなもの?メリットや注意点などをわかりやすく解説

パナソニックホームズが、一般社団法人移住・住みかえ支援機構が開発した長期優良住宅対象の残価設定型住宅ローンについて、楽天銀行との提携を経て、返済期間が最長40年の「楽天銀行オプション付加型残価設定住宅ローン」の取り扱いを開始すると公表した。残価設定の住宅ローンとは、一体どんなものなのだろう?

【今週の住活トピック】
楽天銀行と返済期間最長40年の残価設定型提携住宅ローン取り扱いを開始/パナソニック ホームズ

住宅ローンにおける残価設定のローンとは?

住宅ローンでは耳慣れないローンだが、カーローンではよく耳にする「残価設定型ローン」。車の購入の際に、あらかじめ将来の下取り価格を設定して、車両価格から下取り価格(残価)を差し引いた金額に対してローンを組む方法のことだ。

では、住宅版ではどうなるのか?
パナソニックホームズの残価設定型住宅ローンは、移住・住みかえ支援機構(以下「JTI」)が提供する「残価設定型住宅ローン」を利用するもので、通常の住宅ローンに、「返済額軽減オプション」と「買取オプション」という二つのオプションを付ける形になる。

大雑把に言うと、通常のローン返済をする途中で、あらかじめ決められたオプションが行使できる時点で、返済額は大幅に減るが終身でローン返済を続けるか、住宅ローンの残高と同額で買い取ってもらうかを選べる、といったものだ。残価設定時期などはJTIが決める。

したがって、JTIが大きな役割を果たすことになるので、JTIが残価設定型住宅ローンの仕組みを提供する背景について見ていこう。

JTIが残価設定型住宅ローンを提供する背景は?

JTIは国土交通省の支援を受けて設立した、持ち家を長く活用してもらうことを目的とした一般社団法人。シニア層が使わなくなった住宅を子育て世代に向けて転貸する「マイホーム借上げ制度」などを提供している。

2021年に住生活基本計画の見直しが行われた際に、「ライフスタイルに合わせた柔軟な住替えを可能とする既存住宅流通の活性化」のため、残価設定ローンを含む多様な金融商品を活用することが盛り込まれた。これを契機に、JTIが、維持管理体制の充実した事業者が施工する認定長期優良住宅について、将来の残価を保証する仕組みを開発した。これが、残価設定型住宅ローンだ。

したがって、残価設定型住宅ローン対象となるのは、国の認定を受けた「長期優良住宅」で、施行する事業者も指定されたハウスメーカーに限られるので、対象は一戸建てになる。また、取り扱いができる金融機関も、現時点で指定されているのは、日本住宅ローン、三菱UFJ銀行、楽天銀行だ。

※長期優良住宅とは、長期にわたり良好な状態で使用するための措置が講じられた優良な住宅。長期に使用するための構造及び設備を有していること、維持保全の期間や方法を定めていることなどが求められる。

残価設定型住宅ローンの仕組みをもっと詳しく

残価設定型住宅ローンについて、下の概念図でもう少し詳しく見ていこう。

例えばJTIが残価設定月を20年後に設定した場合、通常の住宅ローンの返済をしていくが、30歳で借りて50歳で残価設定月に達したら、リバースモーゲージ(死亡時に担保不動産を処分して残債を返済する住宅ローン)の仕組みを使った「返済額軽減オプション」を選ぶ(左側)か、その時点のローン残高の額で買い取ってもらう「買取オプション」を選ぶ。また、「返済額軽減オプション」を選んだ場合でも、途中で「買取オプション」を行使することもできる(右側)。

出典:パナソニック ホームズのリリースより

出典:パナソニック ホームズのリリースより

まず、「返済額軽減オプション」について見ていこう。「1」では通常の住宅ローンの返済となるが、残価設定月以降にオプションを行使すると、元金の返済額をJTIの保証する残価に合わせることで返済額を大幅に軽減する「新型リバースモーゲージ」に切り替わる。借り入れから50年経つと元金の返済がなくなり、51年目以降は利息のみの返済となる。そのため、「2」、「3」と段階的に返済額が減る形になる。

次に、「買取オプション」について。残価設定月に行使した場合は、その時点の住宅ローン残高と同額で、また返済額軽減オプション選択後に行使した場合は、新型リバースモーゲージの残高と同額で、JTIが買い取る形となる。

残価設定型住宅ローンのメリットやデメリットは?

残価設定型住宅ローンのメリットは、長期間返済する中でいくつかのリスクを回避できることにある。例えば定年後に想定したよりも収入が減ってしまった場合でも、「返済額軽減オプション」によって、返済額を抑えることができる。

また、一定期間住んでから売却しようとしたとき、住宅市況が悪化して売却額では住宅ローンの残債を返せないといったときでも、残債と同額で売却できるので、ローンから解放される。住宅市況が良好で高く売れるときは、自身で売却した額で住宅ローンを完済すればよい。

このように、住宅ローンによって自由な住替えを妨げられることがなくなるのだが、注意点もある。

「返済額軽減オプション」を行使した場合、当初の住宅ローンに付帯した団体信用生命保険は終了し、以降は団体信用生命保険に加入できない。また、終身で返済することになり、当初の住宅ローンよりも利息を多く払う場合もある。

なお、認定長期優良住宅は、長期使用ができるように認定計画に沿ったメンテナンスを継続的に行うことが求められる。そのため、一般的な住宅よりも点検や補修費用などがかかってしまうことも、理解しておきたい。

社会的に見ると、残価設定型住宅ローンを利用した住宅は、いずれのオプションでも、最終的にはJTIに帰属するので、良質な住宅が空き家になることはない。こうしたメリットもある残価設定型住宅ローンだが、利用できる住宅(事業者)や金融機関が限られるので、どの住宅でも利用できるわけではない。とはいえ、ローンを利用する側にとって、多様な選択肢の一つになるので、こうした住宅ローンがあることを知っておいてほしい。

●関連サイト
パナソニック ホームズ「楽天銀行と返済期間最長40年の残価設定型提携住宅ローン取り扱いを開始」
移住・住みかえ支援機構「残価設定型住宅ローン利用者フォーラム」

”おせっかい”が高経年マンション問題の危機を救う!? 京都市の行政と民間の関わりがユニークすぎる管理の解決策とは

京都市が取り組む「おせっかい型支援」が注目を集めています。劣化が進むマンションを見つけだし、飛び込みで訪問する独特な後方支援ゆえに「よけいなお世話だ」と門前払いされる場合もしばしば。ハードルが高いこの支援、どのように運営しているのでしょう。京都市都市計画局住宅室住宅政策課に話を聞きました。

マンションの老朽化は周辺住民の命にかかわる問題

「『おせっかい』という言葉は、『もう、こちらから押しかけていこう』という気持ちの表れなんです」

「おせっかい型支援」の陣頭指揮を執る京都市都市計画局住宅室住宅政策課の企画担当課長、神谷宗宏(じんや ・むねひろ)さんはそう語ります。リーダーの神谷さんは、建築の技術職です。そして神谷さんをはじめ、同課係長の鈴木裕隆さん、武田あゆみさん、野上智也さんの計4名と、NPO法人「マンションサポートネット」から「おせっかい型支援」は成り立っています。

では、「おせっかい型支援」は、どのようないきさつでスタートしたのでしょう。

京都市都市計画局住宅室住宅政策課の企画担当課長、神谷宗宏(じんや むねひろ)さん(写真撮影/吉村智樹)

京都市都市計画局住宅室住宅政策課の企画担当課長、神谷宗宏(じんや むねひろ)さん(写真撮影/吉村智樹)

「外壁が崩壊等した事例(滋賀県野洲市)」(写真提供/京都市役所)

「外壁が崩壊等した事例(滋賀県野洲市)」(写真提供/京都市役所)

発足のきっかけは、国の「マンション管理適正化法」の制定を受け、2000(平成12)年から始めたマンションの実態調査にあります。

マンション管理に問題が生じていると、築年が古くなるにつれて、居室の賃貸化など非居住化が進みやすく、管理組合の高齢化も相まって、組合活動自体が難しくなり、行政に助けを求めることも難しくなる場合もあります。ひとたび管理不全に陥ると居住者の努力だけでは機能回復が難しくなるため、老朽化がさらに深刻になる実態が幾度の調査から浮き彫りになりました。

神谷「マンションの廃墟化は、京都の景観への影響も大きく、もはや私有財産の問題ではないことにいち早く気づいたのです。当初はマンションの管理に行政が踏み込む法的な根拠はありませんでした。しかし、廃墟化を待つわけにはいかない。マンションに長く快適に住み続けてほしい。だから頼まれてもないのに管理組合の支援を始めたのです。これが京都発“おせっかい型”支援の所以です」

全国でマンションの管理不全に注目が集まるきっかけとなったのが、かつて滋賀県野洲市に存在した「廃墟化マンション」です。このマンションは2010年(平成22年)に建築基準法に基づく外装材の落下防止措置などが勧告されたにもかかわらず放置状態が続き、2020(令和2)年、遂に行政代執行による解体工事が着工。その費用はなんと1.18億円にものぼりました。このように管理組合が正常に機能していない場合、問題を抱えたマンションは放置され、解体費用などで財政を圧迫してしまうケースがあるのです。

神谷「野洲の廃墟化マンションの行政代執行の件は、京都も関心を持っていました。行政代執行にかかった金額は相当ですが、何より危険です。マンションは私有財産ですが、管理不全に陥って老朽化したときに、景観だけではなく周辺の住環境やコミュニティに与える影響がひじょうに大きい。放っておくと住民の命にかかわるんです」

2020(令和2)年に国が「マンション管理適正化法」を改正し、同法に基づく指針のなかで、マンションは民間資産であり社会的資産でもあると初めて位置づけられました。行政のマンション管理への関与が位置づけられたことを機会に、近年京都の“おせっかい型支援”が注目され、全国にも広がっています。

それにしても「おせっかい型支援」とは、わかりやすい、大胆なネーミングです。

神谷「いきなり“要支援”と言葉にすると、どうしてもネガティブイメージを払拭できない。いやがる人もいるでしょう。そこで『おせっかい』という、くだけた表現を使いました」

老朽化したマンションの外壁のイメージ(画像/PIXTA)

老朽化したマンションの外壁のイメージ(画像/PIXTA)

建築のプロの目視で発見する「要支援マンション」

では、「おせっかい」が必要なマンションは、どのように発見するのでしょう。

神谷「第一歩は、各マンションの管理組合へのアンケート調査です。アンケートの回答を参考にしますが、組合活動がしっかり行われていない場合、回答をいただけないことが多い。 回答がないことが、管理不全に陥っている可能性を示唆しているんです」

アンケートの回答がないのも、一つの調査結果です。管理不全状態に陥っている可能性をより明確化するため、新たに加わったもう一つの方法が、専門家による外観目視の調査。視察するのはマンション管理士、建築士、弁護士など複数業種のエキスパート約15名によって運営されているNPO法人「マンションサポートネット」。築20年以上が経ったマンションの外壁の剥がれ具合、金属製の柵が錆びた様子などから異常がないかどうかを彼らが判断し、要支援マンションの候補とします。

ヒアリングと外観調査の双方向に指標も設け、基準7項目のうち4項目に該当していると、要支援の対象に。NPO法人「マンションサポートネット」のメンバーと、神谷さんを筆頭とした京都市都市計画局住宅室住宅政策課4名による「おせっかい」が始まるのです。マンションサポートネットはマンション管理組合が「主体的によいマンション管理ができる」ように現地へ赴き、「建物や設備の点検」「大規模修繕工事」「長期修繕計画の作成や見直し」「管理規約の改正」「委託管理の見直し」などのコンサルタント業務を行う、言わば実行部隊なのです。

要支援マンションなどの判断基準(表1)と定義(表2)(京都市役所資料を基にSUUMO編集部作成)

要支援マンションなどの判断基準(表1)と定義(表2)(京都市役所資料を基にSUUMO編集部作成)

神谷「外観から『もしや?』と感じた場所へ実際に出向き、棟内や部屋を視察すると、配管設備がボロボロだったり、ひどく漏水していたりする場合もあります。外観に傷みが見受けられると、内部もかなり劣化が進んでいると考えられるので、一刻も早い対策が必要です」

建築の技術職である神谷さん。街を歩いていても、マンションを見て「ピンとくる」場合があるのだそうです。

京都市の街のイメージ(画像/PIXTA)

京都市の街のイメージ(画像/PIXTA)

投資型マンションに多く見られる「管理不全」

要支援マンションが現れる背景には「管理不全」があります。「マンションを維持する母体となるはずの管理組合がうまく機能してない」「管理組合の実態が確認できない」など、管理責任の在り処があいまいなのです。そのようなケースでは、「おせっかい型支援」として、「管理組合の規約を立ち上げる」という根源的な部分から介入するといいます。

その管理不全に陥る一つの大きな要因に、「非居住化が進んでいる」という傾向が挙げられます。

神谷「例えば区分所有者が投資や事業を目的としてマンションを購入している場合、ご自身は住んでおられないことが多いんです。部屋を賃貸されている場合、借主である居住者には管理組合に参加する義務がない。賃貸されていなくても区分所有者が倉庫や事務所として利用されている場合もある。つまり、区分所有者は現地に住んではおられない。建物に少々の不具合があってもご自身がお住まいになっているわけじゃないので、お金を出してまで修繕するかというと、どうしても無関心になってしまうんですよね」

マンションの利用形態が複雑多様化するなか、区分所有者と居住者が異なるため、管理に関する合意形成ができず不行き届きになってしまう。非居住化が進んでいるマンションの支援は難航し、長期化します。今後の「おせっかい型支援」の大きな課題の一つです。

投資系マンションが管理不全に陥るという傾向が多いという(画像/PIXTA)

投資系マンションが管理不全に陥るという傾向があるという(画像/PIXTA)

「いらぬお世話だ」と追い返されるケースも

マンションの管理体制を立て直し、より長く使ってもらおうと立ち上がった「おせっかい型支援」。とはいえ、誰しもがやすやすとは受け入れてくれません。おせっかいと銘打つわけですから、「いらぬお世話だ」と追い返されるケースもあるのです。

神谷「話を聞いてくださる方にたどり着くのが大変ですし、たどり着けても、まずは警戒されます。いきなり押しかけてこられて、自分たちの私有財産、台所事情を探られるわけですから。たとえマンションの関係者が話を聞いてくれたとしても、管理組合が機能していない内情を簡単には明かしてくれません。根気のいる作業なんです」

「おせっかい型支援」のイメージ図(画像/PIXTA)

「おせっかい型支援」のイメージ図(画像/PIXTA)

このように、サポートに辿り着くまでに幾つもの壁があるといいます。

神谷「マンションサポートネットはその点、さすが経験豊富な専門家の集団です。さまざまなパターンに対して、対応のノウハウを蓄積されておられます。大きな声で怒鳴られるなど、危険な目に遭う可能性もあるわけですから、誰でもできるわけではない。豊富な経験に裏付けられた知見を持っている彼らは頼りになる存在です」

そうして幾度かの説得の末、申し出を受け入れたマンションと、やっと話し合いへと駒を進めることができるのです。

マンションと住民の「二つの老い」

マンションが抱える問題は、大きく二つあるといいます。一つは「マンション自体の高経年化」。二つ目が「区分所有者の高齢化」です。そしてこの二つの問題は、セットでもあるのです。

神谷「“二つの老い”と呼ばれています。昔はマンションに永住するという考え方は、あまりなかったようです。一時期はマンションに住んで、ゆくゆくは戸建てに移住する。それが一般的な暮らし方とされていました。しかし近年はマンションを終の棲家とする人たちも増えてきた。しかし管理費が計画的に積み立てられていない場合、マンションが高経年化すると修繕箇所が増えるにもかかわらず積立金が不足しているために適切な対応ができない。積立金額を上げたくても高齢化が進み、上げられない。そうしていっそう管理不全化が進んでしまうんです」

マンションの高経年化の進行(京都市役所作成)

マンションの高経年化の進行(京都市役所作成)

マンションの修繕積立金は、年数が経つにつれてだんだんと金額が上がっていく「段階積立方式」をとっている場合が多い。しかし計画的な管理ができていない場合、必要な積立金額がわからず、必要額がわかったとしても「時すでに遅し」なのです。そういった事態をできるだけ避けるため、京都市では積立方式について議論している検討会に参加しています。

京都のマンションは6割が小型

京都のマンションには、一つの顕著な特徴があります。それは「小規模マンションが多いこと」。50戸以下の小さなマンションが全数の約6割を占め、さらに21~30戸のマンションは350棟を数えます(2020年調べ)。京都市は小規模な土地が多いことや、厳しい景観政策を実行しており、建築物の高さに制限が設けられている地区があります。それゆえに高層マンションが建ちにくく、小規模化するのです。そして小さなマンションほど「支援を要する場合が多い」のだとか。

京都市住戸別マンション数(京都市役所作成)

京都市住戸別マンション数(京都市役所作成)

老朽化の兆候が見られるマンション(京都市役所作成)

老朽化の兆候が見られるマンション(京都市役所作成)

神谷「大きなマンションには、管理会社が入っていることが多いです。小規模な高経年マンションも管理会社が入っていたり、管理会社を入れずに自主管理されていたりするところは少なくありませんが、大中規模以上に比べて人材面、資金面ともに脆弱になってしまう傾向がありますね」

国土交通省も注目する「おせっかい型支援」の成功事例

では「おせっかい型支援」は、どのような実績があるのでしょう。成功事例を二つ、紹介します。

一つ目は1974(昭和49)年竣工、築50年 の「真如堂マンション」。左京区岡崎地域の静かな住宅地に立つ13 戸の小型マンションです。

真如堂マンションの「おせっかい型支援」介入前

真如堂マンションの「おせっかい型支援」介入前(写真提供/京都市役所)

真如堂マンションの「おせっかい型支援」介入前(写真提供/京都市役所)

真如堂マンションの「おせっかい型支援」介入後

真如堂マンションの「おせっかい型支援」介入後(写真提供/京都市役所)

真如堂マンションの「おせっかい型支援」介入後(写真提供/京都市役所)

真如堂マンションは理事長と居住区分所有者の数名で自主管理を行ってきたものの、建物の老朽化が進みました。そこでマンションサポートネットの協力のもと、2013(平成 25 )年度に外壁塗装、鉄部の塗り替えなどの維持工事、受水槽の撤去、遮音や断熱性能の高い玄関ドアへの交換、水道管直結などを着工。資産価値のアップを図ったのです。

工事が始まる前にはマンションサポートネットのメンバーのアドバイスを仰ぎながら管理組合を立ち上げ、規約改正を行いました。そうして長期修繕計画に基づく資金計画を検討した後、修繕積立金を適正に値上げし、工事費に充てました。それでも足りない分は住宅金融支援機構の融資を活用。専門家の助言を受け、帳簿を作成し、融資の条件を満たすことができたのです。

このように多角度的な支援の甲斐があり、築50年を経ながら現在も特段に古びた様子は見受けられません。

もう一つが1971(昭和46)年竣工、築53年 の「京都グランドハイツ」。平安神宮や琵琶湖疎水など京都の歴史的建造物に囲まれた左京区聖護院にあります。7階建、総戸数91戸という中型マンションです。

京都グランドハイツ「おせっかい型支援」介入前

京都グランドハイツ「おせっかい型支援」介入前(写真提供/京都市役所)

京都グランドハイツ「おせっかい型支援」介入前(写真提供/京都市役所)

京都グランドハイツ「おせっかい型支援」介入後(写真提供/京都市役所)

京都グランドハイツ「おせっかい型支援」介入後(写真提供/京都市役所)

昭和のオイルショックのさなか、管理会社から委託費用の大幅値上げを要求され、これをきっかけに1976(昭和51)年には自主管理へと移行。外壁塗装、屋上防水ほか小修繕を実施し、活発な管理が行われてきました。

しかし高経年マンション実態調査において、建物の劣化が進行していると判明。役員の高齢化が進んだなどの理由で必要な改修ができていなかったのです。京都市役所は2013(平成25)年よりマンションサポートネットを派遣。専門家の助言を契機に役員が熱心に管理業務に取り組むようになり、規約の改正、資金の調達のうえ、2018(平成30)年、遂に大規模修繕工事の実施にこぎつけました。

現在は建物の劣化や管理不全の問題が解消され、良好なマンション組合の運営が行われています。2023(令和5)年10月の国交省主催の事例報告会では好例として取り上げられたほどの事例なのです。

なかには『維持していくことすらも非現実』という物件も

管理不全に陥ったマンションのなかには、管理体制の見直しという観念ではもはや収束できない、危険な状態にある例もあるのだとか。

神谷「この建物を安心安全な状態まで修繕するには何千万、いや何億かかる。たとえ修繕積立金等を切り崩して修繕しても、老朽化は進行するので次の修繕が必要になる。重なる修繕に多額の費用がかかるであろうが修繕積立金の目途が立たない。そのように『維持していくことすらも非現実』という物件も実は幾つか見つかっています。そうなるともう、『売却すれば、今ならこれぐらいのお金は戻ってきますよ』という方向にしか話を持っていきようがない。言わば“マンションの終活”ですね。今後マンションはどんどん高経年化が進みますから、マンションの終わり方を考える支援はこれから増えていくでしょう」

マンションを支援する形も、今後は除却も視野に入れて提示するなど、選択肢が増えていくようです。

要支援状態から脱しても油断はできない

こうして京都市都市計画局住宅室住宅政策課とマンションサポートネットの尽力により、マンションにしっかりした管理組合が設立されたり、大規模修繕工事が実施されたり、長期修繕計画ができたり、管理費や修繕積立金の適切な徴収が可能となったりし、47棟あった要支援マンションは、半数がその状態を脱することに成功しました。

しかし、「そこで終わりではない」と神谷さんは言います。

神谷「専門家が入っているあいだは支援がうまくいっていたけれども、いったん専門家が外れてしまうと元に戻るケースもありました。『やっぱり、どうしていいかわからない』『うまく回せない』という例があるんです。そのためにも、支援を要しなくなったあとも、常に状況を把握しておくことが大事だと考えます」

「一度介入して終わりではなく、継続的な支援が必要だ」と語る神谷さん(写真撮影/吉村智樹)

「一度介入して終わりではなく、継続的な支援が必要だ」と語る神谷さん(写真撮影/吉村智樹)

次に取り組むのが「マンションの管理状態の“見える化”」

改正マンション管理適正化法は2022(令和4)年4月に施行されました。この法律は、マンション管理業者の業務を規定する内容が主でしたが、今回の改正で、管理組合に向けた内容が追加されました。行政が管理組合に対し、助言や指導を行うといったことも盛り込まれています。「行政もマンションの管理をしっかりやらなければならない」と国ぐるみの議論が加速化するなか、京都市役所の先進的な取り組みは他都市からも注目されています。

神谷「他の自治体さんからも高い評価をいただき、『おせっかい型支援の方法論を教えてほしい』『どのように実態を把握するのか』という問い合わせをけっこういただいています。プッシュ型支援という言い方で、全国に取り組みが広がっているんです。京都市としてはとても喜ばしいことと受け取っています」

高経年マンションが増え、新しい支援のスタイルとして全国のモデルケースとなった京都市役所。そんな京都市役所はさらに未来へ向け、次の一手を打とうとしていました。

マンションの管理の見える化のイメージ図(画像/PIXTA)

マンションの管理の見える化のイメージ図(画像/PIXTA)

神谷「現在、取り組んでいるのがマンションの管理状態の“見える化”です。2022(令和4)年に改正されたマンション管理適正化法のなかに『管理計画認定制度』という、マンションの管理状態を行政が認定する制度が作られたんです。この制度の最大の意義は、マンションの管理状態を図る物差しができたことだと考えています。マンションの広告などに『法律に基づく行政機関の認定を受けました』などと記載していただく。そうすると市民のマンション購入の目安になり、中古マンションであっても『しっかりしたマンションなんだな』と考えてもらえるでしょう。金融機関も認定によって管理状態を推し量ることができるので、『長期修繕計画もしっかりしているし融資をつけてみようか』という展開に持っていきたい。そうなると、マンション側も『うちも、どうせなら認定を取ろうか』という発想になっていきますよね。認定マンションを増やすことによって、管理に対する意識がどんどん高くなっていくと思うんです」

経過年数が長いマンションは不安視されがちです。しかし、管理計画認定がされているのならば購入を検討するなかでの安心材料となります。昨今、若い子育て世帯の流出が問題になっている京都市。マンションの認定制度が普及し、マンション全体の管理水準を上げることが、流出を食い止めるカギの一つになるでしょう。

国土交通省の発表によると、2022(令和4)年末の段階で、築40年以上のマンションは日本に約125.7万戸が存在し、20年後(2042年末)には445万戸にまで増加するのだそうです。
人間ともに高齢化するマンション。高経年による事故や悲劇を防ぐのは、どんなに時代が進んでも、「おせっかい」という古きよき人情なのだと、取材を通じて感じました。

●取材協力
京都市都市計画局住宅室住宅政策課

内窓DIYで室温10度も断熱できる省エネ対策。ホームセンターで買えるお手軽キットでも可能

「夏暑く、冬寒い」「結露ができて不快」、こうした住まいの問題を解決するには、どうやら「窓」の改修がいいらしい、ということが知られるようになりました。とはいえ、どのくらい効果があるの?DIYで手軽にできない?などの疑問はつきないはず。そうした疑問や悩みを解消してくれる「断熱改修はじめの一歩」ワークショップが長野県で開催されました。子どもも参加OK、ホームセンターで買える簡易的な内窓キットと最低限の工具だけを使って内窓のDIYをしよう! という一見お手軽な内容にも関わらず完成した内窓をつけたところ、なんと10度も表面の温度差が生まれるという驚きの結果に。その様子をレポートします。

内窓をDIYで自作してみたい!長野県全域から希望者殺到!

「断熱改修はじめの一歩」という講演会とDIYワークショップが開催されたのは、長野県上田市。二部構成で、一部は断熱推進イニシアチブ合同会社の木下史朗さんによる講演、現役の建具職人でもある有限会社クボケイの窪田智文さんのミニレクチャー、二部は市販されている内窓キットを使ってのDIYワークショップというもの。主催は長野県上田地域振興局で、運営にあたるのがNPO法人上田市民エネルギーです。

近年、内窓をDIYで作成できる「内窓キット」がホームセンターなどで購入できるようになっています。今回のワークショップではこの「内窓キット」を用いて、建具職人を講師に招いて、内窓を実際につくるという試みです。ちなみに、必要な道具は差し金や鉛筆、カッターなどの身近なものばかり。DIYの心得がなくとも誰でもできるといいます。

一部の講演会には上田市在住の方だけでなく、長野県内各地から約60名が参加し、二部のワークショップの定員20名はわずか数日で満員になったとか。想像以上の関心の高さに圧倒されますが、長野県上田市は冬の寒さはもちろん、夏はびっくりするほど暑くなるそう。

「全国的に暑かった2023年ですが、上田では全国最高の38.4度を記録したこともあるほど。とにかく夏は暑いんです。さらに冬は寒いため、二酸化炭素削減にも健康面でも、建物の省エネ性能向上が必須なんです」と話すのは上田市民エネルギーで理事長を務める藤川まゆみさん。

長野県はこうした自然の厳しさを背景に、住まいや建物の省エネルギー性向上を推進しており、上田高校や白馬高校など複数の県立高校で高校生が企画運営する断熱ワークショップを支援しています。また、こうした学生の断熱に関する取り組みがニュースになることも多く、それを見聞きした保護者をはじめ、一般世帯にも関心が広がっているようです。すばらしい流れですね。

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断熱改修の初心者に向けて。講演会でしっかりと知識を身に付ける!

まず一部は「断熱改修はじめの一歩」と題して、断熱推進イニシアチブの木下史朗さんが、自宅のサーモグラフィ画像をあげつつ、自宅や軽井沢の高性能賃貸「六花荘」を建てたこと、軽井沢の空き家を性能向上リノベさせたエピソードを紹介。

木下さんが断熱に目覚めるきっかけとなった家の寒さ。室内だが窓枠の表面温度は1度(画像提供/断熱推進イニシアチブ)

木下さんが断熱に目覚めるきっかけとなった家の寒さ。室内だが窓枠の表面温度は1度(画像提供/断熱推進イニシアチブ)

高性能賃貸「六花荘」をサーモグラフィカメラで撮影。もっとも冷たいのは牛乳。室温は20度程度に保たれており、裸足でも大丈夫な暖かさに(画像提供/断熱推進イニシアチブ)

高性能賃貸「六花荘」をサーモグラフィカメラで撮影。もっとも冷たいのは牛乳。室温は20度程度に保たれており、裸足でも大丈夫な暖かさに(画像提供/断熱推進イニシアチブ)

木下さんが実際に性能向上リノベをした物件。改修前はUa値0.94でしたが改修後は Ua値0.28と大幅に性能向上(画像提供/断熱推進イニシアチブ)

木下さんが実際に性能向上リノベをした物件。改修前はUa値0.94でしたが改修後は Ua値0.28と大幅に性能向上(画像提供/断熱推進イニシアチブ)

加えて、日本の既存住宅のうち、1999年の省エネ基準(2025年義務化予定)に達しているのがわずか1割程度しかないこと、建築物が断熱されていないため多くのエネルギーを無駄にしていること、断熱性能をあげるにはまず「窓」が大切であることを説明していきます。実体験+データを交えての話はリアリティがあるうえ、建築士ではなく、ひとりの住まい手としての体験から得た話となっており、非常にわかりやすいものとなっていました。

また、現在は「先進的窓リノベ事業」「長期優良住宅リフォーム推進事業」「信州健康ゼロエネ住宅(リフォーム)」といった助成制度があること、省エネ性能が高いものほど補助額が高いこと、今ある窓の内側にもう一枚窓をつくる工法、今ある窓枠を壊さず新しい窓に交換する工法があることなども紹介されていました。

上田高校の断熱改修ワークショップの施工前

上田高校の断熱改修ワークショップの施工前と施工後(画像提供/断熱推進イニシアチブ)

上田高校の断熱改修ワークショップの施工前と施工後(画像提供/断熱推進イニシアチブ)

断熱材を入れたところはオレンジで15度になっているが、入っていないところは紫色で7.6度。表面の温度差7.4度!(画像提供/断熱推進イニシアチブ)

断熱材を入れたところはオレンジで15度になっているが、入っていないところは紫色で7.6度。表面の温度差7.4度!(画像提供/断熱推進イニシアチブ)

参加者には子育て世帯が多いのかと思いきや、年配世代も多数参加していました。築年数が経過した住まいは無断熱、または断熱性の低い住まいが多いので、当たり前といえば当たり前かもしれません。講演のあとには、断熱材の主な材質とその特徴の違いについての質問が飛び出すなど、講演者・参加者のみなさんの本気度合いに圧倒されます。

建具職人によるDIYのコツ。成否の鍵を握るのは採寸と裁断

その後、二部でも登場する現役の建具職人・窪田智文さんが登壇し、ホームセンターで販売されている内窓キットを使って内窓を作成するコツを話してくれました。窪田さんは2012年の技能五輪全国大会家具部門で銅メダルに輝き、現在でも建具と家具を担当する現役の建具職人です。今までも上田高校などの断熱ワークショップを手伝っているそうですが、地元にこうしたトップクラスの職人さんがいて、協力を得られるのは大変貴重です。

窪田さんによるDIYのミニレクチャー。みなさん熱心にメモをとっていらっしゃいます(写真撮影/嘉屋恭子)

窪田さんによるDIYのミニレクチャー。みなさん熱心にメモをとっていらっしゃいます(写真撮影/嘉屋恭子)

窪田さんによると、ホームセンターでも内窓のDIYキットの取り扱いは増えているとのこと。DIYキットの内容は(1)窓枠に貼るレール、(2)サッシにあたるフレームのセットで、価格は2000~4000円程度。これに加えて、窓ガラスに相当するポリカーボネートを購入し、1窓約1万円程度でできるそう。

既存の窓に加えて、内窓を1枚つけると空気層ができます。空気は熱を伝えにくい性質をもっているため、冬は暖かく、夏は涼しくなる、これが内窓での断熱性が向上する理由です。
内窓のDIYを成功させるにはいくつかコツがあるそうですが、要約すると以下になります。

(1)既存の窓枠をしっかり採寸する
・定規はしっかりした材質で、まっすぐ良いものを使う
・レーザー計測器もあるが、自分でもしっかり確認を
・幅や高さだけでなく、真ん中の高さ、斜めもしっかり測る
(築年数が経過した物件はたわんでいることがあるため、たわんでいたら要補正)

(2)窓にあたるポリカーボネート板をまっすぐ裁断する
・ポリカーボネート板を、計測したサイズどおりに、まっすぐ切ること
・一度に切ろうとするのではなく、表面に筋をつけていき、徐々に裁ち落とす
・自分で切るのが難しい人はホームセンターのカットコーナーで依頼するとよい(ホームセンターにもよるが、1カット100円以内)

また、窓が大きいほど採寸・裁断が難しくなるため、まずは小さな窓からはじめてみて、成功したら次の窓をすすめるとよい、とアドバイスしていました。

温度差10度! 部屋の体感はぐっと暖かくなった

そしていよいよ二部のワークショップへ。今回は上田地域振興局が入る上田合同庁舎3階の会議室の内窓合計14枚を作り、その後も使っていく計画です。市民参加で公共建築物の断熱性が向上できるのは、とても有意義な取り組みですよね。何しろ(1)ワークショップの場として活用でき、(2)設計施工費用を抑えることができる、(3)建物の省エネ性能が高まる、(4)内窓を知らなかった人も目にすることができ、興味が湧く、など一石四鳥にもなるからです。

講師となる窪田さんに加え、木下さん、小さなお子さんはもちろん、高校生、大人など幅広い世代の参加者がいっしょに作業をしていきます。まずは安全のためにラジオ体操を行いますが、同じ空間で体操をするとぐっと気持ちの距離が縮まり、和やかな雰囲気になります。

また、SUUMOジャーナル編集部員も人生初のDIY体験で参加しましたが、「取材じゃなければ、人生で一度もDIYをしないと思う」というタイプだそう。興味はあるものの、なかなか腰が重い。これは、多くの人が同じ気持ちになるのではないでしょうか。

そんなDIYスキルも事情も異なる参加者が力を合わせ、完成したのが14枚の内窓です。まずは完成したところからご覧ください。下の写真でいうと、右の白枠が設置した内窓、左の結露しているのが既存の窓です。

窓にさわって温度の違い感じるお子さん。既存の窓は冷たく結露していますが、内窓はひんやりとせず温かい!(写真撮影/嘉屋恭子)

窓にさわって温度の違い感じるお子さん。既存の窓は冷たく結露していますが、内窓はひんやりとせず温かい!(写真撮影/嘉屋恭子)

完成した14枚の内窓をはめこんだ様子。内窓と既存の窓、その表面温度差10度にも(写真撮影/嘉屋恭子)

完成した14枚の内窓をはめこんだ様子。内窓と既存の窓、その表面温度差10度にも(写真撮影/嘉屋恭子)

内窓をつけたところ。サーモグラフィカメラで撮影すると17度と温かくなっています(写真撮影/嘉屋恭子)

内窓をつけたところ。サーモグラフィカメラで撮影すると17度と温かくなっています(写真撮影/嘉屋恭子)

既存窓を撮影するとなんと7度。そばによるとひんやりとした冷気を感じます(写真撮影/嘉屋恭子)

既存窓を撮影するとなんと7度。そばによるとひんやりとした冷気を感じます(写真撮影/嘉屋恭子)

取材日は最高気温5度、外はみぞれ交じりの天気でしたが、内窓はつけるとその表面温度は17度に。手のひらでさわるとより温かさを実感します。約2時間でここまででき、さらに直後で冷やされていないとはいえ表面温度にこんな変化があるとは。まさに感動!のひとことです。

内窓DIYするなら、ホームセンターのカットサービスを活用すると簡単に!

ここであらためて、どのようなプロセスで進められていったのか紹介します。

<使う道具>
内窓キット 14枚分
ポリカーボネート板 14枚分
軍手、差し金、鉛筆、カッターなど

<ワークショップの流れ>
(1)窓レールにあたるパーツの切り落とし
(2)窓レールにあたるパーツを貼る
(3)フレームパーツを切り落とし
(4)ポリカーボネート板を切り落とす
(5)フレームをはめ、フィルムを剥がす
(6)完成した窓を窓枠にはめる

こうしてみると、特別な道具は使わず、材料を切断して貼ったり、枠にはめていったりと、難しい作業はしていません。ただ、やっぱりそこは初対面の人との共同作業になるので、談笑しつつ手探りで作業を進めていきます。

(1)指示にしたがって窓枠になるパーツを指定のサイズに裁ち落とす(写真撮影/嘉屋恭子)

(1)指示にしたがって窓枠になるパーツを指定のサイズに裁ち落とす(写真撮影/嘉屋恭子)

(2)カットした窓枠を両面テープで貼って固定しているところ(写真撮影/嘉屋恭子)

(2)カットした窓枠を両面テープで貼って固定しているところ(写真撮影/嘉屋恭子)

既存の窓枠の手前、白い樹脂が貼り付けた内窓のレール部分になります(写真撮影/嘉屋恭子)

既存の窓枠の手前、白い樹脂が貼り付けた内窓のレール部分になります(写真撮影/嘉屋恭子)

(4)ポリカーボネート板を規定のサイズに裁断していきます(写真撮影/嘉屋恭子)

(4)ポリカーボネート板を規定のサイズに裁断していきます(写真撮影/嘉屋恭子)

カットできたポリカーボネート板にフレームをはめこんでいきます(写真撮影/嘉屋恭子)

カットできたポリカーボネート板にフレームをはめこんでいきます(写真撮影/嘉屋恭子)

最後にフィルムを剥がして完成(写真撮影/嘉屋恭子)

最後にフィルムを剥がして完成(写真撮影/嘉屋恭子)

白いフレームがDIYで作った内窓です。1面ですが、達成感と充実感が湧き上がります(写真撮影/嘉屋恭子)

白いフレームがDIYで作った内窓です。1面ですが、達成感と充実感が湧き上がります(写真撮影/嘉屋恭子)

参加されたみなさんに感想を聞きましたが、「実際にできるか不安だったが、楽しかった」「プロの技がすごいなと思った」などの感想が。なかには「DIYはあきらめてプロに依頼しようと思いました」「ホームセンターで切断してもらって、はめるだけならできるかも」との声も。確かにホームセンターで「裁断」までしてもらえていれば、ぐっと家庭でも取り入れやすいと思いました。

筆者は窪田さんのキズをつけないコツ、四隅のサイズを少しずつ調整していく仕事の確かさ、身のこなしなどが印象に残りました。なかなか見られない建具職人の仕事ぶりは、まさに眼福です。

さらに今回、DIY初体験だった編集部員はDIYに開眼したらしく、黙々とポリカーボネート板を切り落としていました。「無心になれていい。モノをつくる達成感がふつふつと湧いてくる」とのこと。DIYは無縁と思っていても、目の前で一つの形になっていく、クリエイトする喜びはやっぱり人の心に訴えかけるものがあるようです。

主催した長野県上田地域振興局環境課の上原さんによると、企画の背景を「地球温暖化対策として、やはり窓がよいということを聞いて、今回のワークショップを企画しました。想像以上に反響があり、関心の高さを実感しました。また、実際に手を動かすなかで得られたものは大きいですし、何よりみなさん進むとにこにこしてらして。身近なところから環境負荷を減らすとともに、住まいが快適になればうれしいですね」と話していました。

今回の講演とワークショップ、大きな反響もあったようなので今後、上田だけでなく、長野県全域に広がっていくかもしれません。こうした「断熱改修」の流れが、日本全国の津々浦々に広がっていったらいいのに、そう願わずにはいられません。

●取材協力
・長野県上田地域振興局環境課
・NPO法人上田市民エネルギー
・断熱推進イニシアチブ
・有限会社クボケイ

調査結果に見る新築マンション購入者の3つの属性と意識の変化。金利上昇が懸念される今後はどうなる?

日銀の金融政策が転換し、ついに“金利のある時代”がやってくる。リクルートの2023年調査を見ると、首都圏の新築マンション購入者の購入物件の平均価格は、これまでよりさらに上がっている。また、三菱UFJ信託銀行の調査を見ると、デベロッパーは1年後のマンション価格が上昇すると予想している。そこで、新築マンションの購入者の変化を中心に、今後のマンション市場について市場の現状と今後はどうなっていくか見ていきたい。

【今週の住活トピック】
「2023年首都圏新築マンション契約者動向調査」を発表/リクルート

首都圏のローン借入額は「5000万円以上」が52.4%と過半数

リクルートの調査研究機関『SUUMOリサーチセンター』が、「2023年首都圏新築マンション契約者動向調査」の結果を発表した。首都圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県)の、2023年1月~12月の新築分譲マンション購入契約者4934件の結果をまとめたもの。

まず、3つの特徴的な購入者の傾向を見てみよう。

第1の特徴は、購入世帯のライフステージ。かつては、結婚して夫婦のみか子どもがいる世帯が購入者の中心だった。しかし、2023年の結果を見ると、「子どもあり世帯」は年々減少してわずか35.0%に。次いで、「夫婦のみ世帯」30.9%が続く。逆に大きく増加したのは「シングル世帯」の19.1%(男性シングル8.1%+女性シングル11.0%)だ。なお、シングル世帯の平均年齢は男性40.3歳、女性42.0歳と、夫婦のみ世帯(33.3歳)、子どもあり世帯(37.7歳)よりも高くなっている。

分譲するマンションの価格上昇を受けて、平均購入価格も年々上昇してきたが、2023年は6033万円となり、ついに6000万円台に乗った。「6000万円以上」が40.7%を占めることが要因だ。

購入価格が高くなれば、住宅ローンの借入額も増えることになる。第2の特徴は、「借入額」の高さだ。ローンの平均借入額は5235万円だった。借入額「5000万円以上」が52.4%と、ついに過半数にまで達した影響は大きい。

ローン借入総額

ローン借入総額(ローン借入総額の回答があり、かつ金額が0円でない者/実数回答)(出典:リクルート「2023年首都圏新築マンション契約者動向調査」)

一方、自己資金の比率は下がった。自己資金比率が第3の特徴だ。自己資金比率の平均は21.7%だが、自己資金比率が5%未満を見ると、41.7%(「0%」17.7%+「5%未満」24.0%)もいるのだ。共働き世帯が増えて、2人で返済していくことで借入額を増やし、自己資金が少ない状況でも購入に動いていることが見て取れる。ちなみに、全額キャッシュも、わずかながら増え続けている。富裕層が購入しているからだろう。

自己資金比率

自己資金比率(実数回答)(出典:リクルート「2023年首都圏新築マンション契約者動向調査」)

マンション購入では資産性を意識、低金利による促進効果は低い

次に、購入者の意識の変化を見ていこう。それは「住まいの購入理由」によく表れている。

住まいの購入を思い立った理由は、「子どもや家族のため、家を持ちたいと思ったから」が最も高く36.1%。この理由は、1位が定位置の常に強い理由だ。2位は、「資産を持ちたい、資産として有利だと思ったから」(32.0%)。10年前の2013年調査では17.4%だったので、近年は購入する際に「資産性」を意識していることがうかがえる。

これに対して、「金利が低く買い時だと思ったから」は12.4%。日銀がマイナス金利政策を導入した2016年には、34.5%で2位に位置していたことと比べると、かなり減っている。金利上昇圧力が強まって、2023年に長期固定金利の【フラット35】の金利が、じわじわ上がっていたことも影響しているだろう。

購入理由(2023年調査の降順)

購入理由(3つまでの限定回答)(出典:リクルート「2023年首都圏新築マンション契約者動向調査」)

マンションデベロッパーの予測、価格は上昇、金利が上がったら供給戸数は減少

さて、三菱UFJ信託銀行 不動産コンサルティング部では、デベロッパーに対して半期ごとに首都圏のマンション・戸建住宅の市況について調査している。2024年1月に調査をした「2023年度下期デベロッパー調査」の結果が公表された。

マンションデベロッパーは、1年後の販売価格は現在より上昇すると予測している。特に、販売価格が高いほど上昇率も高くなると見ている。ただし、戸建住宅のデベロッパーは、1年後「1億円以上」の価格帯のほかは価格が下がると予想している。新築のマンションと戸建住宅では、今後の価格予想に違いがあるのだが、新築マンションの価格上昇は止まらないようだ。

出典:三菱UFJ信託銀行「2023年度下期デベロッパー調査」

出典:三菱UFJ信託銀行「2023年度下期デベロッパー調査」

また、「住宅ローン金利が上昇した場合(+0.5%)の市況影響」を聞いたところ、供給戸数が減り、販売価格が下落すると予想している。ただし、供給戸数への影響の方が大きくなる回答だ。「供給戸数が減少する(10%以上)」(31%)、「供給戸数が減少する(10%未満)」(46%)と、実に77%のデベロッパーは金利が上昇すると供給戸数が減少すると見ているわけだ。

住宅ローン金利が0.5%上昇した場合の供給戸数

住宅ローン金利が0.5%上昇した場合の販売価格

出典:三菱UFJ信託銀行「2023年度下期デベロッパー調査」

金利が上がっていくと専有面積が小さくなる?

では、もしローン金利が上がると、新築マンションの販売価格は下がるのだろうか? おそらく、ローン金利が0.5%も上がると購入者が借りられる額が減るので、販売価格を下げざるを得ないということだろう。

新築マンションの価格は、「土地」を買った費用と施工会社に払う「建築工事」の費用、デベロッパーが土地や建築工事の費用を金融機関から借りて支払う際の「利息」に、「宣伝や販売管理にかかる費用」が加算され、デベロッパーが自社の「利益」を上乗せして全戸の販売総額が決まる。

1年後に販売するマンションの場合、すでに土地を購入しており、施工会社を決めて建築工事の費用も決めて発注していることが多い。となると、ローン金利が上がったからといって、販売価格を変えることは簡単ではない。金利の上昇を見ながら、販売の長期化も視野に戦略を見直したり、住戸の内装や設備のグレードを下げたりといったレベルの対応しかできないだろう。

一方で、地価は上昇しているし、人件費高騰による建築工事費用の上昇も続く見込みだ。金利が上昇すれば、デベロッパーが負担する利息も増える。省エネ基準が今後ZEH水準に引き上げられることを踏まえた性能向上も必要なので、その分のコストアップもある。このようにマンションの原価は上がるので、販売価格を下げる余地はあまりない。となると、販売価格を下げるために「専有面積を小さく」して、平米単価は上がっても面積を小さくすることで各戸の販売価格を引き下げる、といった対応が増える可能性が高いだろう。

実際に、リクルートの新築マンション購入者の調査結果では、価格上昇局面で購入したマンションの面積が小さくなる傾向が見られる。2023年調査では、50~60平米の広さが前年よりも増えていた。

金利の上昇による住宅市場への影響は大きい。それでも、収入が増えれば、物価上昇や住宅価格上昇などの影響は少なくなる。つまり、これからの景気回復が本格的になるかどうかで、マンションの購入ニーズも変わり、その大きさに応じてマンションの販売価格も変わっていくのだろう。

●関連サイト
リクルート「2023年首都圏新築マンション契約者動向調査」
三菱UFJ信託銀行「23年度下期のデベロッパー調査」

【2024年】JR山手線、中古マンションの価格相場が安い駅ランキング。シングル向け、カップル・ファミリー向け、それぞれ1位は?

東京都を走る鉄道路線は合計するとなんと80以上! そのなかでも東京を代表する路線といえば、JR山手線だろう。都心の主要エリアを囲むように全30駅を結んで環状に線路が続き、東京駅や新宿駅をはじめ都心から各方面へと向かう路線に接続するターミナル駅も数多い。便利な暮らしを求めるならJR山手線沿線で住まいを探すのがうってつけではある一方で、都心部だけあり住宅価格が高いことが予想される。そこで今回は、JR山手線沿線の中古マンションの価格相場を調査! 専有面積20平米以上~50平米未満の「シングル向け」と、専有面積50平米以上~80平米未満の「カップル・ファミリー向け」について、価格相場が安い駅をランキング。さっそく結果を発表しよう。

JR山手線の中古マンション価格相場が安い駅ランキング(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

シングル向け

※東京(千代田区)、有楽町(千代田区)、高輪ゲートウェイ(港区)、原宿(渋谷区)の各駅は調査対象物件数が20件以下のためランク外

カップル・ファミリー向け

※東京(千代田区)、有楽町(千代田区)、神田(千代田区)の各駅は調査対象物件数が20件以下のためランク外

リーズナブルな物件を探すなら新大久保駅~秋葉原駅間を狙おう山手線の中古マンション価格相場が安い駅ランキング シングル向け

(図/SUUMOジャーナル編集部)

山手線の中古マンション価格相場が安い駅ランキング シングル向け カップル・ファミリー向け

(図/SUUMOジャーナル編集部)

「シングル向け」中古マンション(専有面積20平米以上~50平米未満)の価格相場が最も安かったのは、荒川区にある西日暮里駅で価格相場は3770万円。「カップル・ファミリー向け」(専有面積50平米以上~80平米未満)の価格相場は5798万5000円で、2位にランクインしている。

西日暮里駅(写真/PIXTA)

西日暮里駅(写真/PIXTA)

西日暮里駅にはJRの山手線に加えて京浜東北線も停車するほか、日暮里・舎人ライナーと東京メトロ千代田線も通っている。東京メトロ千代田線1本で大手町駅や霞ケ関駅、表参道駅に行けるうえ、代々木上原駅から先は一部列車が小田急小田原線と直通運転されているのも便利なところ。西日暮里駅の駅周辺を見ると細い路地が入り組んでいるが、この街並みがガラリと変わる計画が持ち上がっている。JRや千代田線の駅と日暮里・舎人ライナーの駅に挟まれた区間に、地上47階建て程度の住宅棟と地上11階建て程度の商業棟が建設され、文化交流施設や保育施設も設置される予定だそう。2024年夏に再開発の組合設立・事業計画の認可、着工は2025年度末ごろ、竣工は2030年度内を目指しており、少々先ではあるものの大きな転換期を迎えた街といえる。今後は物件の価格相場も上がっていくかもしれない。

そんな西日暮里駅から飲食店が並ぶ商店街を抜けつつ南東へ7~8分も歩くと、「シングル向け」2位の日暮里駅へ。両駅間の距離はJR山手線で最も短くわずか500mほど、価格相場も大きくは変わらず日暮里駅は西日暮里駅から20万円アップの3790万円という結果に。ちなみに「カップル・ファミリー向け」では価格相場6680万円で5位となった。

日暮里駅(写真/PIXTA)

日暮里駅(写真/PIXTA)

日暮里駅にはJRの山手線と京浜東北線、常磐線が停車するほか、日暮里・舎人ライナーと、成田空港にダイレクトアクセスも可能な京成本線が乗り入れている。駅ナカ商業施設「エキュート日暮里」が併設され、弁当や総菜、お菓子など食品関係のショップやカフェ、雑貨店が営業中。また、駅西側には約170mの通りに60軒ほどのさまざまな商店が連なる「谷中銀座商店街」が広がっている。この商店街を含む谷中・根津・千駄木一帯は「谷根千エリア」と呼ばれ、古い建物や下町情緒が残る街並みが人気。歴史ある神社や文化施設も点在しているので、街歩きを楽しんではいかがだろう。

谷中銀座商店街(写真/PIXTA)

谷中銀座商店街(写真/PIXTA)

さて、西日暮里駅から日暮里駅とは反対の北西へ15分ほど歩くと、JRの山手線・京浜東北線が通る田端駅に到着する。価格相場は「シングル向け」が3905万円で4位に、「カップル・ファミリー向け」だと5740万円で1位にランクインした。北区にある田端駅は武蔵野台地の東端部に位置し、周囲には起伏にとんだ台地と平坦な低地で構成された高低差のある街並みが広がる。駅前にはスーパーやコンビニ、ファストフード店はあるが繁華街といった雰囲気ではなく、静かな住宅街。しかし、3フロアにわたる駅ビル「アトレヴィ田端」にはスーパーやドラッグストア、飲食店などがあるので、日頃の買い物には困らなそうだ。

田端駅前(写真/PIXTA)

田端駅前(写真/PIXTA)

「シングル向け」「カップル・ファミリー向け」のランキングを見てみると、両ランキングともトップ10の駅は環状に走るJR山手線の北側半分に位置する新大久保駅~秋葉原駅間の14駅に収まっていた。14駅のうち唯一、トップ10に漏れた池袋駅も「シングル向け」「カップル・ファミリー向け」で各11位にランクインしている。JR山手線内でも安い物件を探したいなら、新大久保駅~秋葉原駅間を狙うとよいだろう。

「住みたい沿線」1位のJR山手線沿線のなかでも人気の駅をチェック!

JR山手線は「SUUMO住みたい街ランキング2024(首都圏版)」で調査した「住みたい沿線」の1位に輝いている。今回調査で上位にランクインした「安い」駅も軒並み価格帯が高めなのは、さすが人気の路線といえる。例えば先日ご紹介した「東京23区内の中古マンション価格相場ランキング」の調査結果と比べてみたところ、今回の「シングル向け」1位の西日暮里駅は23区内の安い駅ランキングだと40位(=価格相場が23区内で40番目に安い駅)で、「カップル・ファミリー向け」1位の田端駅にいたっては何と23区内の安い駅ランキングでは142位! こうして見ると、住宅価格が日本屈指の高さである東京23区のなかでも、JR山手線沿線は特別なエリアだと改めてわかる。

そんな人気の路線、JR山手線の全30駅のなかでも特に人気の駅はどこか。「SUUMO住みたい街ランキング2024(首都圏版)」によると、住みたい街トップ3の横浜駅・大宮駅・吉祥寺駅に続いて4位に恵比寿駅、5位に新宿駅、6位に目黒駅、7位に池袋駅、8位に品川駅、9位に東京駅、11位に渋谷駅、とJR山手線の駅がランクインしていた。恵比寿駅は今回調査した「シングル向け」では24位(価格相場7280万円)、「カップル・ファミリー向け」では25位(同1億2690万円)。1億円の大台を突破すると住まいを購入する人はだいぶ限られてくるだろうが、さてどんな街なのか見てみよう。

恵比寿駅前(写真/PIXTA)

恵比寿駅前(写真/PIXTA)

恵比寿駅は渋谷区に位置し、両隣にある渋谷駅と目黒駅と比べても「シングル向け」「カップル・ファミリー向け」ともに価格相場が突出して高くなっている。乗り入れ路線はJR各線のほかに、霞ケ関駅や銀座駅などを通る東京メトロ日比谷線があって便利。駅ビル「アトレ恵比寿」は本館が7階、西館が地下1階から地上8階まであり多彩な店舗がそろっている。この恵比寿駅は現・サッポロビールが製造した「ヱビスビール」の出荷専用の貨物駅として1901年に開業したそうで、駅名もビール名に由来するのだとか。ビール工場の跡地に1994年誕生したのが商業・文化施設や住居、ホテル、オフィスの大型複合施設「恵比寿ガーデンプレイス」で、2022年11月の大型リニューアルでまた注目度がアップ。商業棟の地下2階から地上2階が一新されたほか、一時休館していた映画館も再オープンしている。駅周辺には各国の大使館が多く、商業施設が多いわりに大通り沿いを外れると静かな住宅街が広がるのも特徴。便利さと静かな暮らしが両立できる点が、街の人気につながっているのだろう。

前出の「住みたい街」に挙がっていたJR山手線の駅からもう1駅、ピックアップしてみよう。新宿駅、目黒駅、池袋駅、品川駅、東京駅、渋谷駅のうち「シングル向け」「カップル・ファミリー向け」ともに価格相場が最も安かったのは、池袋駅だ。両ランキングとも11位に入っており、価格相場は「シングル向け」が4399万円、「カップル・ファミリー向け」が7480万円だ。

池袋駅前(写真/PIXTA)

池袋駅前(写真/PIXTA)

豊島区にある池袋駅はJR各線と東武東上線、西武池袋線、東京メトロ丸ノ内線・有楽町線・副都心線が乗り入れる一大ターミナル駅。駅周辺に大型商業施設が立ち並ぶ都内屈指の繁華街であり、さらに今後は大型の再開発が計画されている。東武百貨店や池袋センタービル、西口公園などがある駅西口地区を4つの街区に分け、A街区には地上41階・地下4階、B街区には地上50階・地下5階、C街区には地上33階・地下6階の高層複合施設を建設し、D街区には公園を整備するという壮大なプロジェクトだ。早ければ2027年度に既存建物の解体に着手し、全体竣工は2043年度ごろだという。約20年後とまだまだ完成は先だが、ほかにも駅東口側では2026年度竣工を目指して文化体験施設を備えた地上33階・地下3階の複合施設の開発事業が進行中だったりと、さまざまな再開発が計画されている。さらなる発展が見込まれる街・池袋に、今のうちによい物件を入手しておくのもよいかもしれない。

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されているJR山手線沿線の駅(掲載物件が20件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】
駅徒歩15分圏内、物件価格相場3億円以下、築年数40年未満、敷地権利は所有権のみ
シングル向け:専有面積20平米以上50平米未満
カップル・ファミリー向け:専有面積50平米以上80平米未満
【データ抽出期間】2023/7~2023/12
【物件相場の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された中古マンション価格から中央値を算出
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している

9人に1人が家具・家電などの長期リース型サブスクを利用。メリットやデメリットなども解説

家具と家電のレンタル・サブスク「CLAS」は、春の引越しシーズン到来前に「家具・家電に関するアンケート」を18歳~49歳の男女1,000人に実施した。そこで、高価格帯の商品を長期にわたって利用する「長期リース型」のサブスクについて調べたところ、9人に1人が利用していることが分かった。

【今週の住活トピック】
1000人への実態調査で見る「春の新生活の家具・家電事情2024」を公表/CLAS

長期リース型サブスク、11.7%=9人に1人が利用している

サブスクとは、サブスクリプション(subscription)の略。ある商品やサービスを一定期間、一定額で利用できる仕組みのこと。サブスクの中でも長期にわたって利用する「長期リース型サブスク」を利用しているか聞いたところ、「利用している」が11.7%、「利用していない」が88.3%という結果に。おおむね9人に1人が長期リース型サブスクを利用していることになる。

長期リース型サブスクを利用している人を年代別に見ると、20代(13.8%)と30代(14.3%)が10代や(10.0%)や40代(6.7%)よりも多い。CLASの個人会員属性も20代後半~30代が中心であることから、この年代に耐久消費財を所有しない傾向があるという。

長期リース型サブスクを利用してますか(年代別)

出典:CLAS

次に、長期リース型サブスクを利用していると回答した人に、利用しているサブスクの商品を聞いたところ、「家電」が48.7%と最も多く、次いで「家具」の42.7%となった。家電や家具は生活する上で必要なものだが、金銭的負担も大きいことから、サブスクを利用することが多いのだろう。

利用している長期リース型サブスクは

出典:CLAS

2021年時点で近い将来7~8人に1人が利用していそうと予測

別の調査結果を見てみよう。LINEリサーチでは、2021年5月に18~59歳の男女を対象に「家具・家電の定額制レンタルサービス」の現状の認知率や利用率、今後の流行予想などについて調査を実施した。

2021年時点ですでに、「家具・家電の定額制レンタルサービス」の認知率は45.9%(「知っているし、使っている」「知っているし、今は使っていないが以前使っていた」「知っているが、使ったことはない」の合計)で、半数近くが「知っている」状態だった。

次に、自分の身のまわりで「どのくらいの人が使っていそうか?」という『現在の流行体感』を聞いたところ、流行体感スコアは2.3(=100人中およそ2人が利用している)という結果に。では、「1年後、自分のまわりでどのくらいの人が使っていると思うか」という『近未来の流行予想』を聞くと、流行予想スコアは13.0(=100人中およそ7~8人に1人が利用していそう)という結果になった。

2024年2月に実施したCLASの調査結果では、長期リース型サブスクの利用者は9人に1人だったので、2021年時点の予想はかなり近い結果だと言ってよいのだろう。

家具・家電の定額制レンタルサービスの今と1年後

出典:LINEリサーチ

なお、自分が今後使ってみたい(今後の利用意向)かを聞くと、利用意向ありが26.2%(「ぜひ使ってみたいと思う」「機会があれば使ってみたいと思う」の合計)と、近い将来は自分が利用したいと思う人が増えていた。

家具家電の長期リース型サブスク、メリットとデメリット

実家を出て一人暮らしを始める、結婚や同棲で新たに二人暮らしを始める、といったときに、新居の家具家電を買いそろえるのは大変な場合がある。引越しによる初期費用がかさむなか、家具家電のレンタルを利用すれば当初の費用を抑えることができる。

一定期間だけ単身赴任することになった場合も、同様だろう。家族と再び暮らすときに、単身赴任時の家具家電の処分をする必要もない。子どもの年齢が一定期間だけ必要となるものなども、一定期間レンタルすることが有効だ。

また、高額な家具家電を使いたいとき、「いきなり買うのは不安だけど、一定期間使ってみたい」という場合も使い勝手が良さそうだ。つまり、「必要な期間だけ使える&コスパのよさ」がメリットと言えるだろう。

一方、レンタルでは新品とは限らないこと、好きな家具家電がレンタルできることは限らないこと、長く使うとかえって割高になること、などのデメリットもある。

Z世代は、「モノ消費」よりも「コト消費」を好み、所有にこだわらないとか、「買い物で失敗したくない」という意識が強いといった傾向があると言われている。今回の結果を見ると、こうした若い世代を中心に、一定の人たちが生活の中で賢くサブスクのサービスを利用していることがうかがえる。家具家電についても選択肢が増えることで、私たちの生活の仕方も変化していくのではないだろうか。

●関連サイト
【CLAS調査レポート】 9人に1人が長期リース型サブスクを利用、 「家電」と「家具」に人気が集中!
LINEリサーチ、今と近未来の流行予想調査(第七弾・家具、家電の定額制レンタルサービス編)を実施

「SUUMO住みたい街ランキング2024関西版」梅田が西宮北口と大差で3年連続1位に! 本町、尼崎も躍進

リクルートは関西圏(大阪府・兵庫県・京都府・奈良県・滋賀県・和歌山県)に居住している20歳〜49歳の4600人を対象に実施した「SUUMO住みたい街ランキング2024年関西版」を発表した。
どのような街がランクインしたか、結果と併せて街の魅力を探ってみた。

TOP3は3年連続1位「梅田」、2位「西宮北口」、3位「神戸三宮」

1位は大都心部「梅田」、2位は阪神間の人気の街「西宮北口」、3位は神戸市の玄関口「神戸三宮」だった。
トップ3は2022年から3年連続で同じ位置をキープしたが、今年際立ったのが1位の「梅田」の強さだ。2位の「西宮北口」と約300点もの差をつけており、「得点がジャンプアップした街ランキング」でも昨年から100点以上も得点を伸ばして1位に。
「梅田」の人気の高まりがはっきりと結果に出た。

住みたい街(駅)ランキング [1位~20位]

得点がジャンプアップした街(駅)ランキング[1位~10位]

梅田人気はうめきた開発の期待感や高い資産価値が決め手に

「梅田」の人気の背景には、西日本最大のターミナル「JR大阪駅」北側の再開発「うめきた」による街の発展がある。「グランフロント大阪」が誕生した1期開発に続いて「うめきた2期(グラングリーン大阪)」が進行しており、今年9月には一部先行街開きをする予定だ。

グランフロント大阪(写真/PIXTA)

グランフロント大阪(写真/PIXTA)

中でも特に期待が寄せられるのが、大阪駅と直結する都市公園「うめきた公園」の誕生だろう。関西最大のビッグターミナルであるJR大阪駅前に、広大な芝生広場や、美しい曲線を描く大屋根のイベントスペースを設けた巨大公園が姿を現す。周辺にはホテルやオフィスビル、タワーマンションなども続々開業するという、心躍らされる都市プランだ。
住みたい理由としてあげられる街の魅力は、働く場にとどまらない街のにぎわい、文化娯楽施設の充実などだ。
「梅田」を「西宮北口」と年代別で比較すると、20代の支持率が突出して高いのもうなずける。
ビジネスや商業のイメージが強い「梅田」だが、うめきたエリア再開発の波及効果や福島方面や中津方面の再開発により住宅供給が増加。直近10年間でも大阪市北区・福島区で1万5000戸以上の分譲マンションが供給された。
近年、若い人の間で住宅を資産価値として見る層が増えており、住むイメージが希薄だった梅田エリアも、都心居住への憧れの強さに後押しされ、“働き、暮らす街”として魅力を増していると考えられる。

街の魅力項目トップ10 梅田駅

年代別上位3駅の得票率

同時にアンケートをとった「穴場だと思う街(駅)」でも「梅田」が昨年の2位から1位に上昇した。
「梅田」と「穴場」のイメージがマッチしない印象だが、ハイブランドの店舗から昔ながらの飲食街まで多様な顔があることが、“住む街としても見逃せない”という穴場感につながっているのかも。

穴場だと思う街(駅)ランキング

ほかにも得点を上げた街を見てみたい。
「江坂」は昨年の11位から8位にランクインした(310点→342点)。
「江坂」は大阪中心部のオフィス街に直結する大阪メトロ御堂筋線にあり、新幹線停車駅「新大阪」や「梅田」「淀屋橋」に乗り換えなしで行ける。
また、阪急京都線「烏丸」は昨年の15位から12位に(238点→270点)、「本町」は18位から13位(216点→256点)に大きく順位を上げている。
それぞれ京都市、大阪市の中心エリアにあり、商業施設やオフィスが集まる華やかな街だ。
これらの結果を見ても、都心への交通アクセスの良さや商業施設の充実など、利便性の高い街に人気が集まっていることがわかる。

「住みたい自治体」は「西宮市」「大阪市北区」がトップ2

アンケートでは「住みたい自治体」についても尋ねた。
1位は「西宮市」。以下「大阪市北区」、「明石市」、「大阪市天王寺区」、「大阪市中央区」と続いた。

住みたい自治体ランキング [1位~20位]

得点ジャンプアップした自治体ランキング[1位~10位]

「住みたい街ランキング」でトップ2だった街の自治体「西宮市」「大阪市北区」がやはり1位、2位を獲得した。
1位から5位までが昨年と同じ順位だが、昨年との得点差を見ると「大阪市北区」が130点(997点→1127点)と、他の自治体に比べて突出して大きい。
一方、手厚い子育て施策で注目を集める「明石市」は今年も3位をキープし、依然として高い支持を得ている。

「梅田」が利便性や都心への憧れ、資産価値の高さを背景にしているのに対し、「明石市」は市民目線のサービスで注目を集めた。
「明石市」の街の魅力項目には「子育てに関する自治体のサービスが充実している」だけでなく、「介護や高齢者向けのサービスが充実している」「公共施設が充実している(図書館、コミュニティセンター、公民館など)」など、子育て以外の自治体の施策や生活環境の充実も挙げられる。

明石駅前。大規模商業施設だけでなく、近くに公共施設や商店街がある(画像提供/明石市役所)

明石駅前。大規模商業施設だけでなく、近くに公共施設や商店街がある(画像提供/明石市役所)

明石駅前。大規模商業施設だけでなく、近くに公共施設や商店街がある(画像提供/明石市役所)

明石駅前。大規模商業施設だけでなく、近くに公共施設や商店街がある(画像提供/明石市役所)

年代・ライフステージでは、夫婦+子ども世帯の支持(2位)だけでなく、夫婦のみ世帯(3位)、女性20代・30代(2位)、男性20代・30代(5位)と子育てファミリー以外のさまざまな層からも高く注目されている。
また、「メディアによく取り上げられて有名」という声も多く、自治体の発信力も地元以外でも住みたいと思う人が増える要因になっているようだ。

■関連記事:
子育て支援の“東西横綱”千葉県流山市と兵庫県明石市、「住みたい街ランキング」大躍進の裏にスゴい取り組み

おしゃれなオフィス街「本町」が大躍進本町の風景(写真/PIXTA)

本町の風景(写真/PIXTA)

「本町」は住みたい街ランキングで昨年の18位から13位へとランクアップ。得点ジャンプアップした街ランキングでも40点も得点を伸ばし3位となった。
「本町」のある「大阪市中央区」は自治体総合ランキングで6位となり、特に男性40代、シングル男性、シングル女性では3位の高順位に。

街の魅力として「魅力的な働く場」や「雰囲気やセンスのいい飲食店やお店」などがあり、最先端のおしゃれな街という印象で捉えられていることが分かる。
大阪市中央区は2府4県の中でも人口増加率、15歳未満の人口増加率がともにナンバー1。小学校の児童数も10年前の3000人未満から4000人に届きそうな数に。本町駅周辺は中央区・西区ともに小型の分譲マンション供給が続いており、この5年間で中央区だけで約6000戸以上増えたことが人口増の要因となっている。
1975年の万博開催年に建てられた「船場センタービル」はコロナ禍の中、2021年から土日の営業を開始。地域住民が増えていることで飲食店などがにぎわいを見せている。

梅田に隣接しているのに割安な家賃相場。新築マンションの供給進む「尼崎市」JR尼崎駅前の様子(写真/PIXTA)

JR尼崎駅前の様子(写真/PIXTA)

「尼崎市」は「住みたい自治体」総合順位で過去最高位の19位にランクイン。特にシングル男性で8位に食い込み、夫婦のみの世帯も16位と高支持を得た。ファミリーよりもシングルやカップルからの支持が厚い傾向が見られる。
JR「尼崎」駅は「住みたい街ランキング」では31位だが、「得点がジャンプアップした街」では9位に躍進を遂げた。

JR尼崎駅は大阪駅まで新快速で1駅6分、東海道本線、福知山線、東西線が乗り入れ、交通利便性の高さでは関西屈指。その割に家賃相場が割安なのも魅力のひとつといえる。

住みたい理由として「コストパフォーマンスが良い」「物価が安い」「電車やバスでさまざまな場所に行きやすい」「街に賑わいがある」など、交通利便性や物価といった実質的な側面が評価されている。

尼崎市全体では高齢化が進むものの再開発で美しく整備されたJR尼崎駅周辺を中心にマンションの供給が続き、周辺エリアからの流入も多い。
子ども向け施設として最近注目を集めているのが、2022年に「ボートレース尼崎」場内にオープンした関西初のキッズパーク「モーヴィあまがさき」。ボーネルンド社や行政が共同で子ども向けのイベントを開催しており、なかなか予約がとれないほどの人気だという。

市も子育て支援に力を入れており、子どものうちから健康に関心を持つよう11歳と14歳を対象に「尼っこ検診」を実施。定住・転入促進情報発信サイト「AMANISM(アマニスム)」やSNSを使った情報発信など、独自の取り組みで住みやすさをアピールしている。

2024年の「住みたい街ランキング」では、「梅田」が圧倒的に強かった。得点ジャンプアップランキングでも1位となり、人気の高まりは現在進行形だ。
また、「尼崎」や「本町」など、梅田から10分圏内の街も躍進が目立つ。

コロナ禍を抜け出した今、関西圏では都心の利便性と華やぎが一層求められるようになったと思える。
一方、「明石市」のように、市民目線の施策や地道な街づくりにより人口を増やしている自治体もある。
うめきたエリアの再開発などで都心部が今後さらに整備されていく中、人々が「住みたい」と思う街がどう変化していくか、注目していきたい。

●関連サイト
・SUUMOリサーチセンター「SUUMO住みたい街ランキング2024 関西版」プレスリリース

「SUUMO住みたい街ランキング2024関西版」梅田が西宮北口と大差で3年連続1位に! 本町、尼崎も躍進

リクルートは関西圏(大阪府・兵庫県・京都府・奈良県・滋賀県・和歌山県)に居住している20歳〜49歳の4600人を対象に実施した「SUUMO住みたい街ランキング2024年関西版」を発表した。
どのような街がランクインしたか、結果と併せて街の魅力を探ってみた。

TOP3は3年連続1位「梅田」、2位「西宮北口」、3位「神戸三宮」

1位は大都心部「梅田」、2位は阪神間の人気の街「西宮北口」、3位は神戸市の玄関口「神戸三宮」だった。
トップ3は2022年から3年連続で同じ位置をキープしたが、今年際立ったのが1位の「梅田」の強さだ。2位の「西宮北口」と約300点もの差をつけており、「得点がジャンプアップした街ランキング」でも昨年から100点以上も得点を伸ばして1位に。
「梅田」の人気の高まりがはっきりと結果に出た。

住みたい街(駅)ランキング [1位~20位]

得点がジャンプアップした街(駅)ランキング[1位~10位]

梅田人気はうめきた開発の期待感や高い資産価値が決め手に

「梅田」の人気の背景には、西日本最大のターミナル「JR大阪駅」北側の再開発「うめきた」による街の発展がある。「グランフロント大阪」が誕生した1期開発に続いて「うめきた2期(グラングリーン大阪)」が進行しており、今年9月には一部先行街開きをする予定だ。

グランフロント大阪(写真/PIXTA)

グランフロント大阪(写真/PIXTA)

中でも特に期待が寄せられるのが、大阪駅と直結する都市公園「うめきた公園」の誕生だろう。関西最大のビッグターミナルであるJR大阪駅前に、広大な芝生広場や、美しい曲線を描く大屋根のイベントスペースを設けた巨大公園が姿を現す。周辺にはホテルやオフィスビル、タワーマンションなども続々開業するという、心躍らされる都市プランだ。
住みたい理由としてあげられる街の魅力は、働く場にとどまらない街のにぎわい、文化娯楽施設の充実などだ。
「梅田」を「西宮北口」と年代別で比較すると、20代の支持率が突出して高いのもうなずける。
ビジネスや商業のイメージが強い「梅田」だが、うめきたエリア再開発の波及効果や福島方面や中津方面の再開発により住宅供給が増加。直近10年間でも大阪市北区・福島区で1万5000戸以上の分譲マンションが供給された。
近年、若い人の間で住宅を資産価値として見る層が増えており、住むイメージが希薄だった梅田エリアも、都心居住への憧れの強さに後押しされ、“働き、暮らす街”として魅力を増していると考えられる。

街の魅力項目トップ10 梅田駅

年代別上位3駅の得票率

同時にアンケートをとった「穴場だと思う街(駅)」でも「梅田」が昨年の2位から1位に上昇した。
「梅田」と「穴場」のイメージがマッチしない印象だが、ハイブランドの店舗から昔ながらの飲食街まで多様な顔があることが、“住む街としても見逃せない”という穴場感につながっているのかも。

穴場だと思う街(駅)ランキング

ほかにも得点を上げた街を見てみたい。
「江坂」は昨年の11位から8位にランクインした(310点→342点)。
「江坂」は大阪中心部のオフィス街に直結する大阪メトロ御堂筋線にあり、新幹線停車駅「新大阪」や「梅田」「淀屋橋」に乗り換えなしで行ける。
また、阪急京都線「烏丸」は昨年の15位から12位に(238点→270点)、「本町」は18位から13位(216点→256点)に大きく順位を上げている。
それぞれ京都市、大阪市の中心エリアにあり、商業施設やオフィスが集まる華やかな街だ。
これらの結果を見ても、都心への交通アクセスの良さや商業施設の充実など、利便性の高い街に人気が集まっていることがわかる。

「住みたい自治体」は「西宮市」「大阪市北区」がトップ2

アンケートでは「住みたい自治体」についても尋ねた。
1位は「西宮市」。以下「大阪市北区」、「明石市」、「大阪市天王寺区」、「大阪市中央区」と続いた。

住みたい自治体ランキング [1位~20位]

得点ジャンプアップした自治体ランキング[1位~10位]

「住みたい街ランキング」でトップ2だった街の自治体「西宮市」「大阪市北区」がやはり1位、2位を獲得した。
1位から5位までが昨年と同じ順位だが、昨年との得点差を見ると「大阪市北区」が130点(997点→1127点)と、他の自治体に比べて突出して大きい。
一方、手厚い子育て施策で注目を集める「明石市」は今年も3位をキープし、依然として高い支持を得ている。

「梅田」が利便性や都心への憧れ、資産価値の高さを背景にしているのに対し、「明石市」は市民目線のサービスで注目を集めた。
「明石市」の街の魅力項目には「子育てに関する自治体のサービスが充実している」だけでなく、「介護や高齢者向けのサービスが充実している」「公共施設が充実している(図書館、コミュニティセンター、公民館など)」など、子育て以外の自治体の施策や生活環境の充実も挙げられる。

明石駅前。大規模商業施設だけでなく、近くに公共施設や商店街がある(画像提供/明石市役所)

明石駅前。大規模商業施設だけでなく、近くに公共施設や商店街がある(画像提供/明石市役所)

明石駅前。大規模商業施設だけでなく、近くに公共施設や商店街がある(画像提供/明石市役所)

明石駅前。大規模商業施設だけでなく、近くに公共施設や商店街がある(画像提供/明石市役所)

年代・ライフステージでは、夫婦+子ども世帯の支持(2位)だけでなく、夫婦のみ世帯(3位)、女性20代・30代(2位)、男性20代・30代(5位)と子育てファミリー以外のさまざまな層からも高く注目されている。
また、「メディアによく取り上げられて有名」という声も多く、自治体の発信力も地元以外でも住みたいと思う人が増える要因になっているようだ。

■関連記事:
子育て支援の“東西横綱”千葉県流山市と兵庫県明石市、「住みたい街ランキング」大躍進の裏にスゴい取り組み

おしゃれなオフィス街「本町」が大躍進本町の風景(写真/PIXTA)

本町の風景(写真/PIXTA)

「本町」は住みたい街ランキングで昨年の18位から13位へとランクアップ。得点ジャンプアップした街ランキングでも40点も得点を伸ばし3位となった。
「本町」のある「大阪市中央区」は自治体総合ランキングで6位となり、特に男性40代、シングル男性、シングル女性では3位の高順位に。

街の魅力として「魅力的な働く場」や「雰囲気やセンスのいい飲食店やお店」などがあり、最先端のおしゃれな街という印象で捉えられていることが分かる。
大阪市中央区は2府4県の中でも人口増加率、15歳未満の人口増加率がともにナンバー1。小学校の児童数も10年前の3000人未満から4000人に届きそうな数に。本町駅周辺は中央区・西区ともに小型の分譲マンション供給が続いており、この5年間で中央区だけで約6000戸以上増えたことが人口増の要因となっている。
1975年の万博開催年に建てられた「船場センタービル」はコロナ禍の中、2021年から土日の営業を開始。地域住民が増えていることで飲食店などがにぎわいを見せている。

梅田に隣接しているのに割安な家賃相場。新築マンションの供給進む「尼崎市」JR尼崎駅前の様子(写真/PIXTA)

JR尼崎駅前の様子(写真/PIXTA)

「尼崎市」は「住みたい自治体」総合順位で過去最高位の19位にランクイン。特にシングル男性で8位に食い込み、夫婦のみの世帯も16位と高支持を得た。ファミリーよりもシングルやカップルからの支持が厚い傾向が見られる。
JR「尼崎」駅は「住みたい街ランキング」では31位だが、「得点がジャンプアップした街」では9位に躍進を遂げた。

JR尼崎駅は大阪駅まで新快速で1駅6分、東海道本線、福知山線、東西線が乗り入れ、交通利便性の高さでは関西屈指。その割に家賃相場が割安なのも魅力のひとつといえる。

住みたい理由として「コストパフォーマンスが良い」「物価が安い」「電車やバスでさまざまな場所に行きやすい」「街に賑わいがある」など、交通利便性や物価といった実質的な側面が評価されている。

尼崎市全体では高齢化が進むものの再開発で美しく整備されたJR尼崎駅周辺を中心にマンションの供給が続き、周辺エリアからの流入も多い。
子ども向け施設として最近注目を集めているのが、2022年に「ボートレース尼崎」場内にオープンした関西初のキッズパーク「モーヴィあまがさき」。ボーネルンド社や行政が共同で子ども向けのイベントを開催しており、なかなか予約がとれないほどの人気だという。

市も子育て支援に力を入れており、子どものうちから健康に関心を持つよう11歳と14歳を対象に「尼っこ検診」を実施。定住・転入促進情報発信サイト「AMANISM(アマニスム)」やSNSを使った情報発信など、独自の取り組みで住みやすさをアピールしている。

2024年の「住みたい街ランキング」では、「梅田」が圧倒的に強かった。得点ジャンプアップランキングでも1位となり、人気の高まりは現在進行形だ。
また、「尼崎」や「本町」など、梅田から10分圏内の街も躍進が目立つ。

コロナ禍を抜け出した今、関西圏では都心の利便性と華やぎが一層求められるようになったと思える。
一方、「明石市」のように、市民目線の施策や地道な街づくりにより人口を増やしている自治体もある。
うめきたエリアの再開発などで都心部が今後さらに整備されていく中、人々が「住みたい」と思う街がどう変化していくか、注目していきたい。

●関連サイト
・SUUMOリサーチセンター「SUUMO住みたい街ランキング2024 関西版」プレスリリース

車椅子での家事動線など追求したら、リノベがバリアフリーの家の最適解だった! 扉ナシ・カウンター下は空間に、など斬新テク満載の共働き夫婦の家

日本には、病気やケガなどで脚部や上肢・胴体の一部を使わずに生活する方が約193万1000人(2016年 厚生労働省 生活のしづらさなどに関する調査)いますが、生活にはどんな不便があり、住宅にはどんなことが求められるのでしょう。マンションをリノベーションし、自分たちらしい住まいを手に入れた30代の夫妻の事例を通して、「バリアフリー住宅×リノベーション」の可能性に迫ります。

「賃貸住宅は自分にとって不便だらけ」。Nさん夫妻がリノベーションを決めた理由

高校時代に事故にあい、車椅子生活になったNさんは、これまで進学・就職・結婚と人生の節目節目で引越しをし、4つの賃貸住宅に住んできました。そこでは、たくさんの不便があったと言います。

「とくに使いにくかったのは水まわりです。洗面やキッチンはシンク下収納棚が設置されているものがほとんどで、車椅子を横づけして体を捻りながら使っていました。車椅子で動き回るのに十分な広さがないため、トイレや浴室のドアは物件によってはオーナーに断りを入れて取り外す必要がありましたし、床との段差が大きい浴槽に関しては、横に台を置けば入浴できる物件はあったものの、その対策が取れず、湯船に漬かるのを諦めていた物件もありました」(Nさん)

Nさんご夫妻(写真撮影/桑田瑞穂)

Nさんご夫妻(写真撮影/桑田瑞穂)

2020年に結婚をし、ひとり暮らし用のワンルームから妻と2人で住める部屋に越してきましたが、車椅子を乗り入れる分、一般的な住宅だと玄関もキッチンも洗面室も窮屈。かといって設備や広さが理想的な物件は、手が出ないほど家賃が高額でした。
賃貸住宅では限界があるということを痛感した2人は、持ち家をリノベーションした方が金銭的にも得策だと考え、自分たちらしいバリアフリー住宅をつくることを決意します。

バリアフリー住宅は、周辺環境に妨げがないことが第一条件

さっそく、物件探しをはじめたNさんご夫妻ですが、そこでは大前提の条件がありました。都心の企業で会社員をしているNさんは、コロナ禍以降、月半分がリモートワークになったものの、残りはマイカー通勤。プライベートでは、電車で出かけることもあります。部屋をスケルトンにした状態からリノベーションすれば、中身はいくらでも変えられますが、周辺環境はそうはいきません。それだけに、「駅から物件までの道筋がフラットであること」「車椅子で乗り降りができる『平置き駐車場』があること」「建物のエントランスがスロープつきであること」が不可欠。ようやく3LDK・約87平米のマンションに出合います。
リノベ会社は「細かい要望にも寄り添ってくれる」と感じたゼロリノベに依頼。事前に希望を書き出して共有したほか、打ち合わせでは、設計担当の前川香織さんに車椅子で日常の動作を再現して見せ、2人にとっての暮らしやすさを確実に落とし込んでもらえるようにしたと言います。

N邸の平面図(画像提供/ゼロリノベ)

N邸の平面図(画像提供/ゼロリノベ)

2人にとっての快適な形を追求し、ストレスのない生活を実現

そうして2022年4月に完成したN邸。1歩中に入ってまず気がつくのは玄関です。ここでは上がり框(あがりかまち)のほかに、車椅子用のスロープを設置。妻とNさんとで二手に出入口を分けることで、2人が一緒に外出・帰宅をしたときに生じがちな混雑を避けられるようにしました。

以前は車椅子に占領されていた玄関が、開放的な空間に。妻は右手の上がり框を、Nさんは左手のスロープを使います(写真撮影/桑田瑞穂)

以前は車椅子に占領されていた玄関が、開放的な空間に。妻は右手の上がり框を、Nさんは左手のスロープを使います(写真撮影/桑田瑞穂)

玄関には傷がつきにくい石材調のコンポジションタイルを使用。Nさんは車椅子を屋外用と室内用とで2台、所有していますが、専用のスペースがあるためラクに乗りかえられます(写真撮影/桑田瑞穂)

玄関には傷がつきにくい石材調のコンポジションタイルを使用。Nさんは車椅子を屋外用と室内用とで2台、所有していますが、専用のスペースがあるためラクに乗りかえられます(写真撮影/桑田瑞穂)

玄関隣には、物干し場を兼ねたウォークインクローゼット。そのまま洗濯機置き場・脱衣室・洗面室・廊下・LDKへと抜けられるため、生活動線としてはもちろん、家事動線としてもスムーズです。

左の白いカーテンの奥がウォークインクローゼット。ぐるりと洗面室に回り、ブルーの壁の出入口から廊下に抜けられます(写真撮影/桑田瑞穂)

左の白いカーテンの奥がウォークインクローゼット。ぐるりと洗面室に回り、ブルーの壁の出入口から廊下に抜けられます(写真撮影/桑田瑞穂)

ウォークインクローゼットは物干し場を兼ねており、隣の部屋に洗濯機があるため、サッと洗濯物を干し、ハンガーに掛けたまま収納することが可能。バーの高さも計算されていて、上は妻、下はNさんが使用中(写真撮影/桑田瑞穂)

ウォークインクローゼットは物干し場を兼ねており、隣の部屋に洗濯機があるため、サッと洗濯物を干し、ハンガーに掛けたまま収納することが可能。バーの高さも計算されていて、上は妻、下はNさんが使用中(写真撮影/桑田瑞穂)

「どの部屋も車椅子が通れる幅でつくってもらっていますが、とりわけ車椅子でUターンや旋回できることが大切でした。そのため、キッチンと洗面室のカウンターは、下部に収納をつくらず開放しています」(Nさん)

カウンター下が開放されたキッチン。料理は主に妻が、洗いものはNさんが担当。換気扇のスイッチはコンロ下に設置しています(写真撮影/桑田瑞穂)

カウンター下が開放されたキッチン。料理は主に妻が、洗いものはNさんが担当。換気扇のスイッチはコンロ下に設置しています(写真撮影/桑田瑞穂)

洗面室は幅・奥行きともに余裕を持たせ、鏡も大きくして2人が並んで使えるように。カウンター下が開放されているので、膝を入れてシンクに正面から身体を近づけたりUターンしたり、のびのびと使えます(写真撮影/桑田瑞穂)

洗面室は幅・奥行きともに余裕を持たせ、鏡も大きくして2人が並んで使えるように。カウンター下が開放されているので、膝を入れてシンクに正面から身体を近づけたりUターンしたり、のびのびと使えます(写真撮影/桑田瑞穂)

さらなるポイントは、扉をなくしたことにあると言います。

「賃貸住宅では、戸棚や部屋に扉があることも問題でした。横にスライドさせる引き戸であればよいですが、ドアだと押したり引いたり、体を屈ませたり。無駄な動きが出るうえ、開く側のスペースにゆとりが必要です。そこでトイレと浴室以外は扉をなくしてオープンに。妨げが解消され、一気にストレスがなくなりました」(Nさん)

N邸は扉がない分、行き来がスムーズ。どこにいても互いの気配を感じられます。げた箱は、以前は扉があるため取り出しにくく、履く靴が限定されていたそう。「扉をなくした分、コストが浮きましたし、しまい込むと持っていることを忘れがちですが、そうはなりません。片づける動機にもなります(笑)」(Nさん)(写真撮影/桑田瑞穂)

N邸は扉がない分、行き来がスムーズ。どこにいても互いの気配を感じられます。げた箱は、以前は扉があるため取り出しにくく、履く靴が限定されていたそう。「扉をなくした分、コストが浮きましたし、しまい込むと持っていることを忘れがちですが、そうはなりません。片づける動機にもなります(笑)」(Nさん)(写真撮影/桑田瑞穂)

廊下沿いには2人で使えるワークスペースが。ここでも机の下を開放しているため、アクセスがよくスムーズに方向転換ができます(写真撮影/桑田瑞穂)

廊下沿いには2人で使えるワークスペースが。ここでも机の下を開放しているため、アクセスがよくスムーズに方向転換ができます(写真撮影/桑田瑞穂)

間仕切り壁を一枚だけ立てただけの、開放感あふれる寝室。あえて日の当たる場所に配置し、生活に溶け込ませました(写真撮影/桑田瑞穂)

間仕切り壁を一枚だけ立てただけの、開放感あふれる寝室。あえて日の当たる場所に配置し、生活に溶け込ませました(写真撮影/桑田瑞穂)

収納はすべてオープン棚にしているN邸ですが、これは妻にとってもメリット。食器などが取り出しやすいうえ、飾って見せる楽しみが増えたとか。ほかにも車椅子のための仕様が、妻にも役立つシーンがあると言います。

「わが家では車椅子でも高さ約37cmの窓からバルコニーに出られるよう、ゆるく勾配させたスロープを、玄関から窓辺まで4.5mの長さで設置しています。これがダイニング脇まで伸びているので、重い食材を台車に乗せて帰ってきたときに、すぐに冷蔵庫にしまえて便利。友人が親子で遊びにきたときは、子どもたちの格好の遊び場になっています」(Nさんの妻)

有孔ボードで間仕切りしたスロープは、小さな部屋のようなこもり感。黒板塗装はご夫妻によるDIY(写真撮影/桑田瑞穂)

有孔ボードで間仕切りしたスロープは、小さな部屋のようなこもり感。黒板塗装はご夫妻によるDIY(写真撮影/桑田瑞穂)

スロープはNさんが登りやすい角度でつくられたもの。窓の高さに合わせて設置しているため、気軽にバルコニーに出られます(写真撮影/桑田瑞穂)

スロープはNさんが登りやすい角度でつくられたもの。窓の高さに合わせて設置しているため、気軽にバルコニーに出られます(写真撮影/桑田瑞穂)

トイレは実際に設計者に車椅子で動き回る姿を見せて、四方のサイズを緻密に計算。手すりも使いやすい位置を確かめてから取りつけました(写真撮影/桑田瑞穂)

トイレは実際に設計者に車椅子で動き回る姿を見せて、四方のサイズを緻密に計算。手すりも使いやすい位置を確かめてから取りつけました(写真撮影/桑田瑞穂)

Nさんが段差のある浴槽に入るときは台が必要ですが、市販品は高額。設計者にコスト面でも見合う「TOTOリモデルWYシリーズ」のベンチつきユニットバスを見つけてもらって解決しました(写真撮影/桑田瑞穂)

Nさんが段差のある浴槽に入るときは台が必要ですが、市販品は高額。設計者にコスト面でも見合う「TOTOリモデルWYシリーズ」のベンチつきユニットバスを見つけてもらって解決しました(写真撮影/桑田瑞穂)

デザインが取り残された家にはしたくないという2人の強い思い

「一般的に福祉用具は、機能性を重視するあまりに見た目が二の次になっているケースが少なくないのではないでしょうか。バリアフリーをうたった賃貸住宅にも、実は同じような物足りなさを感じていました。私たちがリフォームではなく“リノベーション”を選んだのは、住まいを丸ごと好きなテイストにできると思ったのも理由です」(Nさんの妻)

もともと躯体(くたい)に埋め込まれていたインサート(ボルト用の穴)を利用し、天井にルーバーを設置。レールを取りつけ、照明をつるしたりカーテンをつけたりできるようにしました。妻の手づくりブーケが調和しています(写真撮影/桑田瑞穂)

もともと躯体(くたい)に埋め込まれていたインサート(ボルト用の穴)を利用し、天井にルーバーを設置。レールを取りつけ、照明をつるしたりカーテンをつけたりできるようにしました。妻の手づくりブーケが調和しています(写真撮影/桑田瑞穂)

バリアフリー住宅としての実用性を備えているN邸ですが、主張している感じがしないのは、ところどころで採用した趣ある素材や色づかいが、豊かな表情をもたらしているから。デザインにもこだわったことで、極上の居心地を手に入れています。

カフェに行くより、家が一番。リノベーションという選択に大満足

以前の住まいではくつろげるスペースが限られており、よく2人でカフェに出かけていたというNさんご夫妻。しかし今では、家が一番、落ち着ける場所。何も予定のない休日に、のんびり起きて遅めの朝食を取ったり、ソファでまったりコーヒーを飲んだりするのが至福の時間です。

冷蔵庫は上部のものを取りやすい「AQUA」シリーズの低めのタイプを購入。ただそれだけだと収納量が足りないため、横に冷凍庫を並べています(写真撮影/桑田瑞穂)

冷蔵庫は上部のものを取りやすい「AQUA」シリーズの低めのタイプを購入。ただそれだけだと収納量が足りないため、横に冷凍庫を並べています(写真撮影/桑田瑞穂)

「“バリアフリー住宅”というと、大まかな捉えられ方をされがちなのですが、需要は人によって千差万別。せっかくバリアフリーの賃貸住宅を見つけても合わなかったり、リフォームしてもかゆいところまでは手が届かなかったり。それだけに、リノベーションに大満足。私たちの例が必要としている人に届いたら、こんなにうれしいことはありません」(Nさんご夫妻)

Nさんご夫妻が家づくりでもうひとつ課題にしたのが、住まいに可変性を持たせること。寝室はベッドを3台まで置ける広さにし、リビングは将来、一部をキッズスペースにしたり、客室にしたりできるようにしました。
形を変えながら長く住み続けられる住まいで、これからも家族の物語が紡がれていきます。

大きなバルコニーがあったのも、この物件を購入した理由のひとつ。普段づかいができるよう窓辺にウッドデッキを配置。晴れた日は2人で食事をしたりお酒を飲んだりして楽しみます(写真撮影/桑田瑞穂)

大きなバルコニーがあったのも、この物件を購入した理由のひとつ。普段づかいができるよう窓辺にウッドデッキを配置。晴れた日は2人で食事をしたりお酒を飲んだりして楽しみます(写真撮影/桑田瑞穂)

●取材協力
ゼロリノベ

金利優遇などお得に!環境配慮型住宅ローンや空き家関連ローンなど、時代のニーズに応じて変化中

これからの金利の動向が気になる住宅ローンだが、住宅金融支援機構が金融機関に対して、ローンへの取組姿勢などを調査した「住宅ローン貸出動向調査」の最新結果を公表した。金融機関では、住宅ローンについてどんな取り組みをしようと考えているのだろうか?詳しく見ていこう。

【今週の住活トピック】
「2023年度 住宅ローン貸出動向調査」を公表/住宅金融支援機構

金融機関の7割以上が今後も新規の住宅ローンに積極的に取り組む

住宅金融支援機構の調査に回答したのは、都市銀行・信託銀行、地方銀行、第二地方銀行、信用金庫などの301機関で、2023年7月~9月に調査を実施した。

新規の住宅ローンへの取組姿勢は、「積極的」という回答が「現状」でも72.1%、「今後」でも同じ72.1%となり、積極的な姿勢に変化はないようだ。積極的に取り組む方策としては、「商品力強化」が63.0%と最多で、2番目の「金利優遇拡充」の41.2%を大きく引き離す形となった。

環境配慮型住宅ローンの取り扱い状況は?

近年は、環境意識の高まりやエネルギー価格の高騰で、エネルギーの消費量を抑える住宅への関心が高まっている。加えて、金融機関でも、SDGsなどの時代の要請を受けて、環境配慮型住宅ローンに取り組む姿勢を見せたいところだろう。

今回の調査で、「環境配慮型住宅ローンの取り扱いの有無」を聞いたところ、「取り扱っている」が32.9%、「取り扱いを検討中」が8.3%となり、いずれも前回より増加した。やはり、取り組む金融機関が増えているようだ。

出典/住宅金融支援機構「2023年度 住宅ローン貸出動向調査」

出典/住宅金融支援機構「2023年度 住宅ローン貸出動向調査」

では、どんな「環境配慮型住宅ローン」を提供しているのだろう?

環境配慮型住宅ローンに特に定義はないので、金融機関が同じ名称を使っていても、その内容は金融機関ごとで異なる。調査結果で見ると、「太陽光発電設備、高効率給湯器 、家庭用蓄電池等の省エネ設備を備えた住宅」が75.8%と最多となっている。

出典/住宅金融支援機構「2023年度 住宅ローン貸出動向調査」

出典/住宅金融支援機構「2023年度 住宅ローン貸出動向調査」

住宅で使用するエネルギーを抑えるには、第一に、住宅そのものの断熱性能を高める必要がある。外の暑さ寒さに影響を受けにくいようにするためだ。第二に、エネルギーを大量に消費する給湯器やエアコンなどを省エネ性能が高いものにする必要がある。消費するエネルギーを抑制するためだ。第三に、太陽光発電などでエネルギーを生み出す設備や、発電した電気を蓄える設備を設置する必要がある。住宅で使った電気などを、発電した電気でカバーするためだ。

すべてをそろえて、消費するエネルギーをプラスマイナスゼロ以下にする住宅が、ZEH住宅(=ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)だ。すべてをそろえるには費用もかかるので、ハードルが高くなる。また、なかでも高額な設備となるのが、太陽光発電設備だ。

環境配慮型住宅ローンとしては、まず、こうした高額な設備を搭載した住宅を対象に、ローンの優遇をしようという金融機関が多いのが実態のようだ。2番目に多いZEH住宅を対象とするのは、45.5%と半数に満たないが、前回より大幅に増加している。政府がZEH住宅を増やしたいと考えていることを受けてのことだろう。

では、こうした住宅についてどんなローン優遇が受けられるのか?
調査結果を見ると、「金利引き下げ」が90.9%で大半となっている。ZEH住宅や太陽光発電設備・蓄電池などを搭載した住宅、地域木材を利用した住宅、長期優良住宅や低炭素住宅の認定住宅の場合などで、ローンの金利引き下げをする商品が多いということだろう。

具体的な環境配慮型住宅ローンの事例は?

具体的な住宅ローンを見ていこう。
例えば、りそな銀行では環境等配慮型住宅向けの特別金利プラン(名称:SX金利プラン)」を提供している。ZEH住宅、太陽光発電設備設置住宅、長期優良住宅、低炭素住宅、国産木材を一定割合以上使用している住宅、安心R住宅と、かなり幅広く対象としている。どの金利タイプを利用するかでも異なるが、原則、適用金利から0.01%引き下げる。

また、千葉銀行では「サステナ住宅応援割!」(2024年9月30日まで)を展開している。ZEH水準(発電設備等が必須ではない)以上の住宅や低炭素住宅・長期優良住宅などに加え、太陽光発電設備搭載の住宅、免震装置付き住宅を対象にしている。優遇については、適用金利から0.05%引き下げのほか、全傷病団信の上乗せ金利を0.2%優遇、または自然災害時支援特約を付帯するための金利上乗せ分を0.1%引き下げの3つから1つを選ぶ形となっている。

滋賀銀行の「スーパー住宅ローン未来よし」では、太陽光発電、蓄電池、エネファームのいずれかを新たに設置する一戸建てに対して、適用金利から0.05%引き下げる。これは、創エネ・畜エネ設備費用(想定金額300万円)の金利負担を実質ゼロにする想定なのだという。また、マンションでは省エネルギー性能表示制度「BELS(ベルス)」で★3つ以上および同等基準を満たすものも対象とする。

ほかにも、名称はさまざまだが、地球環境に配慮した住宅に対する優遇措置を取っている事例が多数ある。

空き家に関連するローンの取り扱い状況は?

近年は、空き家の増加が懸念されている。金融機関が、空き家解消のために利用できるローン(空き家関連ローン)を取り扱う事例も増えている。調査結果を見ると、ほぼ半数が取り扱う(「取り扱っている48.8%」「取り扱いを検討中」3.3%)と回答している。

資金使途を具体的に見ると、「空き家解体」が93.9%とかなり多く、次いで「空き家活用(リフォーム)」の44.2%、「空き家活用(取得+リフォーム)」の25.2%となった。

出典/住宅金融支援機構「2023年度 住宅ローン貸出動向調査」

出典/住宅金融支援機構「2023年度 住宅ローン貸出動向調査」

こちらも具体的な事例を見ていこう。
岩手銀行では、「空き家活用・解体ローン」を提供している。空き家を賃貸するための改修や空き家の解体、解体後の土地の造成や各種設備の設置、空き家の防災・防犯対策などに利用できる。借入額は10万円以上1000万円以内、借入期間は6カ月以上10年以内(1カ月単位)、変動金利で2.5%(提携市町村であれば0.5%引き下げ)などとなっている。

住宅ローンについては、最も気になるのが適用される金利だろうが、各金融機関がそれぞれに特徴のあるローンを用意している。その品ぞろえは、時代のニーズによっても変わるので、環境に配慮した住宅などについては、できるだけ多くの情報を集めたうえで選ぶようにしたい。長期間返済するローンであるだけに、後で知らなかったということのないようにしたいものだ。

※ローンの具体事例の内容については、いずれも執筆時時点(2024/3/1)の情報による

●関連サイト
・住宅金融支援機構「2023年度 住宅ローン貸出動向調査」
・りそな銀行「環境等配慮型住宅向けの特別金利プラン(名称:SX金利プラン)」
・千葉銀行「サステナ住宅応援割!」
・滋賀銀行「スーパー住宅ローン未来よし」
・岩手銀行「空き家活用・解体ローン」

3Dプリンターの家、国内初の土を主原料としたモデルハウスが完成! 2025年には平屋100平米の一般販売も予定、CO2排出量抑制効果も期待

熊本県山鹿市にある住宅メーカーLib Work(リブワーク)が、土を主原料とする3Dプリンター住宅のモデルハウスの第1号「Lib Earth House “modelA”」を2024年1月に完成させた。今まで日本で開発されてきた3Dプリンター住宅はコンクリート造のみで、土を原材料とした3Dプリンターの家は国内初となる。2025年には100平米の平屋での一般販売も予定しており、ゆくゆくは火星住宅建築プロジェクトを目指しているのだとか。実物を体感しに、同社の「Lib Work Lab(リブワークラボ)」を訪れた。

国内初、土が主原料の3Dプリンターの家が誕生3Dプリンターモデルハウス 「Lib Earth House “modelA”」の広さは約15平米。斜め格子の模様の入った壁は、上にいくほど模様が薄くなっている。3Dプリンターでデータをコントロールしながら出力することで実現した(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

3Dプリンターモデルハウス 「Lib Earth House “modelA”」の広さは約15平米。斜め格子の模様の入った壁は、上にいくほど模様が薄くなっている。3Dプリンターでデータをコントロールしながら出力することで実現した(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

住宅メーカーLib Work(リブワーク)は、熊本県山鹿市に本社を置き、一戸建ての企画・施工・販売を中心に行っており、福岡・佐賀・大分・千葉・神奈川などでも事業を展開している。住宅の資材調達から完成までに排出される温室効果ガスの量をCO2として数値化し、住戸ごとに可視化する「カーボンフリット」の導入や、断熱材に新聞紙を再利用したセルロースファイバーを標準採用していたり、国産木材の使用比率を98%まで高めるなど、SDGsに対する取り組みも積極的に行っている企業だ。「3Dプリンター住宅の開発もその一環」と代表取締役社長の瀬口 力(せぐち・ちから)さんは話す。

「昔と比べて住宅は性能が上がってきていますが、僕らが子どものころに夢見たような“21世紀の家”というと、なかなか登場しない。そんななか、3Dプリンターを使った家づくりは、住宅業界にイノベーションを起こすものです。住宅業界では今までもCGやVRといったデジタルの活用はされてきましたが、家そのものをつくるということにはデジタル化ができていませんでした。2年前から計画し、今回ようやく完成した約15平米の3Dプリンター住宅のモデルハウスは、建築DXへの小さな一歩です」

3Dプリンターの家の特徴といえば、まずは自由な造形だ。今回のモデルハウスも、人間の手ではつくれない斜め格子の模様の入った円形フォルム。
工期の短縮ができるのもポイントで、今回の土壁は約2週間で完成。ただし、3Dプリンターを24時間フル稼働させれば施工時間は合計72時間で完成するとのことだ。
ほかにも、3Dプリンターが建築を自動で行うため、人件費が少なくてすむというメリットもある。

「ここ熊本においては、熊本地震後の対応と、コロナ禍に一戸建て需要が急増し、大工さんなどの職人不足が深刻でした。今はいったん落ち着いてはいますが、長期的にみると、職人さんの高齢化もあり、10年、20年後には3分の1にまで減ってしまうでしょう。にもかかわらず、有効な施策が出ていない状況です。そのなかで、3Dプリンターは一つの重要な役割になってくるのではないかと期待しています」

今回使用したのは海外製のプリンターで、型枠を使わずに立体成形ができるタイプのもの(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

今回使用したのは海外製のプリンターで、型枠を使わずに立体成形ができるタイプのもの(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

3Dプリンター出力するための工場(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

3Dプリンター出力するための工場(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

主原料の土は日本では昔から親しまれてきた材料で、吸湿性にも優れる。高温多湿な日本の気候風土にもぴったり。写真は3Dプリンターでテスト出力したものを1日乾かしたもの。すでにガチガチに固まっていた(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

主原料の土は日本では昔から親しまれてきた材料で、吸湿性にも優れる。高温多湿な日本の気候風土にもぴったり。写真は3Dプリンターでテスト出力したものを1日乾かしたもの。すでにガチガチに固まっていた(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

そして何より特筆すべきなのは、自然由来の素材を中心に使用していること。今まで国内で登場してきた3Dプリンターの家は、すべてがコンクリートやモルタルを中心に使っているなか、国内初の試みだ。土70%、もみがら、藁、石灰などその他の自然素材と一部セメント(※)を配合し、3Dプリンターで壁を出力している。

※セメントは粘土や石灰岩を粉末にし、水や液剤を混ぜて硬化させたもの。セメントに水と砂を加えるとモルタルになり、さらに砂利を混ぜるとコンクリートになる。

「強度を出すために若干セメントを使用していますが、さらに環境にやさしい再生セメントへの代替を検討しています。ゆくゆくは限りなく比率をゼロに近づけられるよう減らしていきたい」と瀬口さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「強度を出すために若干セメントを使用していますが、さらに環境にやさしい再生セメントへの代替を検討しています。ゆくゆくは限りなく比率をゼロに近づけられるよう減らしていきたい」と瀬口さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

なぜ土を主原料にすることにこだわるのか。
その背景には、環境への配慮と、持続可能性を追求したいという思いがある。自然由来の資源なので従来の建築に比べて二酸化炭素の排出量を大幅に抑えることができ、再利用可能なので廃棄物も最小限に抑えることができる等のメリットがあるが、耐震性・耐久性については「正直なところ、現在も試行錯誤を続けている」とのこと。

「主原料をコンクリートやモルタルにすれば、耐震性・耐久性は担保しやすい。それでも、今まで住宅業界で建築時や解体時の二酸化炭素の排出が課題になってきたなか、脱炭素社会を目指す今後の家づくりでそこを追求しないのは本末転倒。3Dプリンター住宅への挑戦の意味はそこにもある。今回、世界中をまわって見つけた方法を採用しています」

今回のプロジェクトは、ロンドンに本社を構え、設計者、アドバイザー、専門家を有し、世界140カ国で持続可能な開発プロジェクトに携わってきたエンジニアリング・コンサルティング会社Arup(アラップ)と協力して行っている。3Dプリンター住宅の開発はヨーロッパが先進だが、今回のプロジェクトにあたっては同社とともに、現地視察や研究を進めてきた。

ちなみに自然素材を活用した3Dプリンターの家といえば、2019年にSUUMOジャーナルでも紹介した、イタリアで3Dプリンターの開発販売を手掛ける企業WASP社による、通称ライス・ハウス(米の家)「GAIA」がある。建築現場で手配できる土などの原料は、加工費や運搬費がかからず、紹介当時で材料費はたったの900ユーロ(約10万円)だった。

「Lib Earth House “modelA”」も同様のメリットが想定される。価格については、現状では上記の耐久性・耐震性の経過観察の問題から「現状では価格設定が行えない」段階とのことだが、日本の住宅業界がどう変わっていくのか楽しみになる話だ。

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住み心地はどうなる? 断熱性や耐震性は?

コスト、工期、環境配慮などの面においてメリットがあることは理解した。そこで気になるのは住み心地。耐震性・耐久性に課題はあるとしつつ、2025年には一般発売もされるとのことで、今後はどうなっていくのだろうか。

「現段階では、正直なところ、パーフェクトとは言えない。耐震性・耐久性、耐水性、断熱性については 、今後時間をかけてこのモデルハウスでモニタリングを行っていきます」(瀬口さん)

建築確認申請が必要なエリア外で建築したため申請は行っていないが、「建築基準法の条件はクリアしている」とのこと。基礎部分は従来の住宅と同様に行っている(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

建築確認申請が必要なエリア外で建築したため申請は行っていないが、「建築基準法の条件はクリアしている」とのこと。基礎部分は従来の住宅と同様に行っている(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「耐震性能は等級3(最も高い耐震性能)が目標ですが、まずは1(※)を取得します。シミュレーション上は耐震性能に問題がなく、今回のモデルハウスは建築確認が不要エリアで確認は行っていませんが、今後は他のエリア進出にあたってクリアにしていかなければならないところです。壁くずれや耐水性についても何度もシミュレーションを行い、すべて問題ないという判断をしていますが、まだ他の季節を経験していませんから、季節の寒暖差などによる変化などはきちんと見ていきたいです」

※耐震等級:建物の地震に対する強さの評価基準は耐震等級1~3の3段階あり、等級1は数百年に一度程度の地震(震度6強から7程度)に対しても倒壊や崩壊しないとされているが、倒壊の可能性はゼロではない

屋根の施工中の様子。現時点では屋根はシート防水(樹脂製)を施しているが、今後は屋根も3Dプリンターで出力することを検討している。屋根上に太陽光パネルを載せる計画もある(写真提供/Lib Work)

屋根の施工中の様子。現時点では屋根はシート防水(樹脂製)を施しているが、今後は屋根も3Dプリンターで出力することを検討している。屋根上に太陽光パネルを載せる計画もある(写真提供/Lib Work)

壁の表面にはヒビ割れがあったが、「強度には問題がない」とのこと。今後は塗装などで対応を検討していく(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

壁の表面にはヒビ割れがあったが、「強度には問題がない」とのこと。今後は塗装などで対応を検討していく(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

3Dプリンターで出力した土壁のほかに、ドア部分や柱などに木材(集成材による門型フレーム)を使用。ここにも自然素材にこだわり、住み心地のよさを追求している(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

3Dプリンターで出力した土壁のほかに、ドア部分や柱などに木材(集成材による門型フレーム)を使用。ここにも自然素材にこだわり、住み心地のよさを追求している(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

組み立て図(画像提供/Lib Work)

組み立て図(画像提供/Lib Work)

窓には断熱性が高いとされる木製サッシを使用(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

窓には断熱性が高いとされる木製サッシを使用(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

玄関ドアは顔認証で管理(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

玄関ドアは顔認証で管理(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

断熱については、壁の間に3Dプリンターでの出力時に空洞をつくり、そこに2種類の断熱材をそれぞれ入れた箇所と、あえて空洞のままにした箇所をつくり、季節ごとの室内温度のモニタリングを行う。1種類は住宅の断熱材としておなじみの、新聞紙などを主原料にしたセルロースファイバー。もう1種類は自然素材であるもみがらだ。

取材当日の気温14度(曇り)と少しだけ肌寒いくらいだったが、「実験段階」とは言いつつ、暖房なしでも入った瞬間に明らかに暖かさを感じた(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

取材当日の気温14度(曇り)と少しだけ肌寒いくらいだったが、「実験段階」とは言いつつ、暖房なしでも入った瞬間に明らかに暖かさを感じた(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

断熱材は、3Dプリンター印刷時につくった空洞部分に入る(写真提供/Lib Work)

断熱材は、3Dプリンター印刷時につくった空洞部分に入る(写真提供/Lib Work)

2025年には100平米の一般住宅を販売予定。ゆくゆくは宇宙進出も!

2024年内にはLDK・トイレ・バス・居室などを設けた広さ100平米の3Dプリンターモデルハウス(平屋)を完成させ、2025年には一般販売を目指している。今回完成したモデルハウス同様の15平米のものも一般発売を予定していて、グランピング施設やサウナ施設などに使うことを想定しているという。

ハウスメーカーや工務店とフランチャイズでの全国展開も視野に入れているといい、共同で地域ごとの土の違いや、地域特有の気候を考慮した研究も進めていきたいとのこと。
「今回のモデルハウスでは、実験検証がしやすい淡路島産のものを使用していますが、今後はその地域ごとの土にあわせて素材を開発していくのが目標です」(瀬口さん)

そして、最終的には「3Dプリンターによる火星住宅建築プロジェクト」を目標に掲げている。
「火星現場にある素材を使うことで、地球からの資源の運搬を最小限にとどめられるため、大幅なコスト削減を見込めます。また、プログラミングされたロボットによる施工もでき、短期間での施工も期待できます。なにより、宇宙規模でサステナブルな開発が進められるのがメリットです」と意気込む。

「3Dプリンターによる火星住宅建築プロジェクト」イメージ(写真提供/Lib Work)

「3Dプリンターによる火星住宅建築プロジェクト」イメージ(写真提供/Lib Work)

3Dプリンター住宅の一般向け発売については、日本国内でも数年以内に実現されるだろうとすでに話題になっている。そのなかで、自然素材を使ったもの、さらに100平米は前代未聞。まだ経過観察段階ではあるが、日本でも昔からなじみのある土壁による住宅が、高い耐震性と断熱性能をもって未来の家として登場するのであれば、とても感慨深い。

また、今回は工場で出力したものを建築現場で組み立てる工法を採用しているが、技術的には3Dプリンターの機器を現地に持ち込み、現地調達できる自然の材料で家が建てられる点も見逃せない点だ。災害時に仮設住宅として活用したり、木材などの建材を確保するのが難しい地域などでも住宅の建築ができるようになる。宇宙進出よりも近い未来であっても、3Dプリンター技術が住宅業界にもたらす数々の可能性に心躍らずにはいられない。

●取材協力
Lib Work

【2024年】東京23区の中古マンション価格相場が安い駅ランキング。シングル向け、カップル・ファミリー向け、それぞれ1位は?

全国のなかでも群を抜いて人口が多い東京都。多少の増減はありつつも増加傾向が続き、総務省によると2023年の1年間で東京都への転入者数は転出者数を約6万8000人も上回っていたそう。そんなニーズの高さも反映し、東京23区内の住宅価格は他地域に比べて高め。利便性のよさや仕事の都合から都内に住みたい、でも費用はなるべく抑えたい……と考える人も多いだろう。そこで今回は、東京23区内に位置する駅から徒歩15分圏内にある、中古マンションの価格相場を調査。シングル向け(専有面積20平米以上~50平米未満)とカップル・ファミリー向け(専有面積50平米以上~80平米未満)、それぞれの中古マンションの価格相場が安い駅ランキングをご紹介しよう。

東京23区内の中古マンション価格相場が安い駅ランキング

【シングル向け/TOP18(24駅)】
順位 駅名 価格相場(主な路線/駅の所在地)
1位 千鳥町 2980万円(東急池上線/大田区)
1位 方南町 2980万円(東京メトロ丸ノ内線/杉並区)
3位 武蔵新田 2989.5万円(東急多摩川線/大田区)
4位 池上 2990万円(東急池上線/大田区)
4位 西馬込 2990万円(都営浅草線/大田区)
6位 成増 3039.5万円(東武東上線/板橋区)
7位 地下鉄成増 3080万円(東京メトロ有楽町線/板橋区)
8位 板橋区役所前 3180万円(都営三田線/板橋区)
9位 大山 3280万円(東武東上線/板橋区)
10位 両国 3310万円(JR総武線/墨田区)
11位 新井薬師前 3330万円(西武新宿線/中野区)
12位 練馬 3340万円(西武池袋線/練馬区)
13位 八幡山 3380万円(京王線/杉並区)
13位 三ノ輪橋 3380万円(都電荒川線/荒川区)
15位 南千住 3430万円(JR常磐線/荒川区)
16位 東十条 3435万円(JR京浜東北線/北区)
17位 三ノ輪 3440万円(東京メトロ日比谷線/台東区)
18位 赤羽 3480万円(JR京浜東北線/北区)
18位 板橋本町 3480万円(都営三田線/板橋区)
18位 王子 3480万円(JR京浜東北線/北区)
18位 落合南長崎 3480万円(都営大江戸線/新宿区)
18位 十条 3480万円(JR埼京線/北区)
18位 三河島 3480万円(JR常磐線/荒川区)
18位 雑司が谷 3480万円(東京メトロ副都心線/豊島区)
※25位~50位は記事末に記載

【カップル・ファミリー向け/TOP20】
順位 駅名 価格相場(主な路線/駅の所在地)
1位 谷在家 3024.5万円(日暮里・舎人ライナー/足立区)
2位 京成高砂 3180万円(京成本線/葛飾区)
3位 竹ノ塚 3220万円(東武伊勢崎線/足立区)
4位 柴又 3280万円(京成金町線/葛飾区)
5位 青井 3285万円(つくばエクスプレス/足立区)
6位 新柴又 3340万円(北総線/葛飾区)
7位 北綾瀬 3380万円(東京メトロ千代田線/足立区)
7位 西新井大師西 3380万円(日暮里・舎人ライナー/足立区)
9位 お花茶屋 3394.5万円(京成本線/葛飾区)
10位 見沼代親水公園 3398万円(日暮里・舎人ライナー/足立区)
11位 舎人 3423.5万円(日暮里・舎人ライナー/足立区)
12位 大師前 3480万円(東武大師線/足立区)
12位 堀切菖蒲園 3480万円(京成本線/葛飾区)
12位 六町 3480万円(つくばエクスプレス/足立区)
15位 四ツ木 3499万円(京成押上線/葛飾区)
16位 京成立石 3499.5万円(京成押上線/葛飾区)
17位 五反野 3580万円(東武伊勢崎線/足立区)
18位 小菅 3650万円(東武伊勢崎線/足立区)
19位 扇大橋 3700万円(日暮里・舎人ライナー/足立区)
20位 綾瀬 3739.5万円(東京メトロ千代田線/足立区)
※21位~48位は記事末に記載

「シングル向け」物件は大田区・板橋区・北区に注目を!

「シングル向け(専有面積20平米以上~50平米未満)」のランキング1位には、価格相場が2980万円の2駅がランクイン。東急池上線・千鳥町駅と東京メトロ丸ノ内線・方南町駅だ。千鳥町駅は23区南端の大田区、方南町駅は23区西端の杉並区に位置している。

千鳥町駅(写真/PIXTA)

千鳥町駅(写真/PIXTA)

まずは千鳥町駅の様子から見てみよう。住宅街にある駅周辺は、落ち着いた雰囲気。スーパーやコンビニ、ファストフード店や居酒屋などの飲食店のほか、ベーカリーや精肉店などの個人商店、さらにポップコーン専門店があるのも気になるところ。駅前の通りを西に5分ほど歩くと環八通り、東へ8分ほど歩くと国道1号・第二京浜にぶつかり、そうした大通り沿いにはホームセンターやファミレスなども立っている。千鳥町駅から環八通りを越えつつ西へ8分ほど歩くと東急多摩川線・下丸子駅があり、行き先に応じて2路線を使い分けられるのは便利だろう。千鳥町駅から東急池上線に乗ると、JR京浜東北線が通る蒲田駅まで約7分。JR山手線や都営浅草線が通る五反田駅までは、約20分で行くことができる。ちなみに蒲田方面に進んで1駅目の池上駅は、価格相場2990万円で4位にランクインしている。

方南町駅前(写真/PIXTA)

方南町駅前(写真/PIXTA)

同じく1位になった方南町駅は、中野坂上駅で二股にわかれる東京メトロ丸ノ内線の分岐線の終着駅。丸ノ内線沿線の新宿駅や東京駅、池袋駅に1本で行けるのはもちろん、始発駅のため混雑する朝でも座りやすいのも魅力だ。駅出口近くの方南通りと環七通り沿いには商店も充実。スーパーやドラッグストアにホームセンターなどの大型店舗のほか、青果店や精肉店、ベーカリーも元気に営業している。ファミレスやファストフード店、ラーメン店など気軽に利用できる飲食店も多彩にあるので、自炊をしない人も気分に応じて食事ができるだろう。クラフトビール醸造所や、古びた一軒家を活用したお化け屋敷など個性的な施設もあるので、休日の街歩きも楽しそうだ。

武蔵新田駅前の様子(写真/PIXTA)

武蔵新田駅前の様子(写真/PIXTA)

3位は東急多摩川線・武蔵新田駅で価格相場は2989万5000円。1位の千鳥町駅と同じ大田区にあり、両駅間は歩いて10分弱という近さだ。駅周辺の環境も似ているが武蔵新田駅のほうが環八通りに近く、駅周辺のスーパーや飲食店は千鳥町駅周辺以上に豊富かもしれない。駅から南へ15分ほど歩くと、多摩川の河川敷へ。対岸の神奈川県川崎市側を眺めつつ、春の桜並木も美しい河川敷をのんびり散策するのもいいだろう。駅から東急多摩川線に乗ると、蒲田駅までは約5分。蒲田とは反対方面の終点・多摩川駅までは約8分で、そこから東急目黒線と東急東横線に乗り換えることができる。

前出の池上駅と並んで4位になった、都営浅草線・西馬込駅も大田区に位置。トップ4の5駅のうち4駅が大田区からランクインしたわけだ。価格相場2990万円の4位・西馬込駅は地下鉄駅で、3カ所ある地上出入口はいずれも国道1号・第二京浜沿いにある。その大通り沿いにスーパーやドラッグストアがあるほか、国道から東西に延びる脇道に入った住宅地にも飲食店や和菓子店、ベーカリーなどがぽつぽつと立ち並ぶのどかな商店街が続く。駅から南へ13分ほど歩くと、現存するものでは関東最古の五重塔がそびえる「池上本門寺」が佇んでいる。隣接地には緑豊かな「本門寺公園」が広がっているので、息抜きに訪れたい。

6位~18位の19駅を見てみると、いずれも埼玉県に隣接する板橋区と北区の駅が最多タイとなる4駅ずつランクインしている。1位~4位に4駅並んだ大田区は神奈川県に隣接することを考えると、23区内で費用を抑えつつ一人暮らし向け物件を見つけたいなら、都県境に接する区にある駅をチェックするとよさそうだ。

「カップル・ファミリー向け」はトップ20のうち13駅が足立区という結果に

「カップル・ファミリー向け(専有面積50平米以上~80平米未満)」ランキングの1位は、日暮里・舎人(にっぽり・とねり)ライナーの谷在家(やざいけ)駅で価格相場は3024万5000円。日暮里・舎人ライナーは全13駅・総延長9.7kmの比較的、短い路線だが、トップ20には谷在家駅に隣接する西新井大師西駅(7位・価格相場3380万円)をはじめ全5駅がランクイン。リーズナブルな物件探しの際は、要チェックの路線だろう。

谷在家駅(写真/PIXTA)

谷在家駅(写真/PIXTA)

都立 舎人公園(写真/PIXTA)

都立 舎人公園(写真/PIXTA)

さて、1位・谷在家駅は足立区に位置しており、駅西側には12棟からなる都営谷在家アパートが立っている。この集合住宅は建築から50年を超えているため、建て替え工事計画が進行中。新たな建物が完成した際には街が活気づきそうだ。現在の駅周辺も多くの人が住む住宅地で、徒歩約15分圏内に複数のスーパーやドラッグストアが点在している。駅から北へ歩いて10分ほど、1駅隣の舎人公園駅前には敷地面積約65ヘクタールの「都立 舎人公園」が広がり、豊かな緑や大きな池に囲まれて気軽に自然に親しめる環境だ。

京成高砂駅(写真/PIXTA)

京成高砂駅(写真/PIXTA)

続く2位には葛飾区の京成本線・京成高砂駅が、価格相場3180万円でランクイン。京成金町線と京成成田空港線、北総線も乗り入れるターミナル駅であり、京成高砂駅から京成金町線に乗って1駅目が4位の柴又駅(価格相場3280万円)、北総線に乗って1駅目が6位の新柴又駅(価格相場3340万円)という位置関係だ。京成線はさまざまな路線との直通運転もされているため、京成高砂駅から日暮里・上野方面に向かえるのはもちろん、日本橋駅や新橋駅といった都営浅草線内の各駅、京急線内の品川駅や羽田空港第1・第2ターミナル駅までも、乗り換えることなく1本で行くことが可能。京成成田空港線の特急に乗れば、京成高砂駅から成田空港駅(成田第1ターミナル)まで約41分で行けるのも便利だろう。

そんな京成高砂駅の周辺には、駅前のイトーヨーカドーをはじめ複数のスーパーやドラッグストア、食品系の個人商店が点在し、買い物には困らない環境。飲食店が多いのも特徴で、日常使いしたい食堂や行列のできるラーメン店、親子3代で続けてきた中国料理店などバラエティー豊か。休日ごとにいろんなお店を訪れるのも楽しそうだ。

竹ノ塚駅周辺の様子(写真/PIXTA)

竹ノ塚駅周辺の様子(写真/PIXTA)

3位は東武伊勢崎線・竹ノ塚駅で、価格相場は3220万円。1位と同じ足立区に位置しており、両駅間は直線距離だと2kmほどと割と近い立地だ。竹ノ塚駅周辺はかつて「開かずの踏切」による交通渋滞が問題視されていたが10年ほど前から高架化工事が進められ、ついに2022年3月から上下線ともに高架橋上での運行が開始して踏切も廃止に。駅舎も新しくなり、利便性がアップした。線路をはさんだ街の東西の分断も高架化により解消された駅周辺には商店街が広がり、スーパーやファストフード店などの飲食店のほか、青果店や鮮魚店、豆腐店などもあって地元の人々でにぎわっている。また、現在は駅の高架下スペースの開発が進行中。2024年度上期には、飲食店や物販店など約25店舗からなるアーケード商店街が誕生する予定なので、楽しみに待ちたい。

さて、トップ20の駅の所在地を見てみると13駅が足立区、7駅が葛飾区。なんとランクインしたのは足立区または葛飾区にある駅のみという結果に! 最も多くの駅がランクインした足立区は、子育て支援に力を入れていることでも注目を集めている自治体だ。妊娠期から出産・子育て期まで切れ目のない支援を行う「あだちスマイルママ&エンジェルプロジェクト」という独自の支援制度があったり、3歳までの子どもとその保護者が利用できる「子育てサロン」が地域の拠点や商業施設内、児童館に計65カ所もあったりと、安心して子どもが育てられる環境を整備している。子どものいるファミリーが住まい探しをする際は、こうした自治体の取り組みも考えあわせて、どの物件にするかを決めると新居での生活がより充実しそうだ。

●21位以降のランキング
【シングル向け】

シングル向け

【カップル・ファミリー向け】

カップル・ファミリー向け

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている東京23区内の駅(掲載物件が20件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】
駅徒歩15分圏内、物件価格相場3億円以下、築年数40年未満、敷地権利は所有権のみ
シングル向け:専有面積20平米以上50平米未満
カップル・ファミリー向け:専有面積50平米以上80平米未満
【データ抽出期間】2023/7~2023/12
【物件相場の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された中古マンション価格から中央値を算出
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している

最高水準の省エネ住宅をDIY! 光熱費4分の1以下、ZEH水準超えの断熱等級6の住みごこちを聞いてみた

住まいの省エネ性能に関心が高まるなか、ハーフビルドで省エネ性能の等級6というハイスペックな家づくりにチャレンジした夫妻がいます。等級6とは7と合わせて2022年に新たに設定された最高水準クラス。ほとんどの新築住宅で、まだそのレベルのものは搭載されていません。2023年には2人が主催するワークショプにも参加させてもらいましたが、無事、建物が引き渡しとなり、すでに半年ほど暮らしを営んでいるそう。ではその住み心地とは? 得られたものと、その幸せな暮らしぶりをご紹介します。

■関連記事:
ZEH水準を上回る省エネ住宅をDIY!? 断熱等級6で、冷暖房エネルギーも大幅削減!

省エネ等級6の家をハーフビルド。健康に暮らせる家ができた!

2023年1月、省エネルギー等級6の家を職人さんたちの手を借りつつ、ハーフビルドでつくるというワークショプに参加してきました。午前は壁や床の断熱性を高める施工、午後は焼き杉づくり&お餅つきという大変濃い内容でしたが、その楽しそうな様子は筆者の心に強く印象に残っています。2023年も終わりになり、住まいと暮らしが落ち着いてきたということで、この度、お邪魔してきました。

ワークショップ時の様子(写真撮影/桑田瑞穂)

ワークショップ時の様子(写真撮影/桑田瑞穂)

ワークショプ時の建物外観。あれから約1年が経過(写真撮影/桑田瑞穂)

ワークショプ時の建物外観。あれから約1年が経過(写真撮影/桑田瑞穂)

まず、森川さんのお家について整理しておきましょう。
神奈川県の山間に夫妻と2人のお子さんで暮らしています。完成した住まいは平屋建て、間取りは大きな1LDK、建物面積は約60平米、上部にロフトが30平米というもの。

南に大きなリビング。中央にキッチン・洗面などを配置。無駄のないシンプルな間取り(間取図提供:森川さん)

南に大きなリビング。中央にキッチン・洗面などを配置。無駄のないシンプルな間取り(間取図提供:森川さん)

2024年春の時点で上のお子さんは4歳、下のお子さんは2歳。夫は現在、子育てをしながら地域の仕事をしたり、自宅で養蜂をしてはちみつの販売をしており、妻は育休から仕事に復帰、現在リモートワーク中心に働き、週1回ほど都心部まで通勤しています。

正真正銘の自家製はちみつ。一部を販売しています(写真撮影/桑田瑞穂)

正真正銘の自家製はちみつ。一部を販売しています(写真撮影/桑田瑞穂)

住まいの断熱性能は、省エネ地域区分5(※)の省エネルギー等級6(外皮熱貫流率UA値0.46W/平米K)、気密値はC値0.3という、ZEH以上の高性能住宅です。給湯はエコキュート(ヒートポンプ技術で空気の熱でお湯を沸かす)を採用、空調は6畳用エアコン2台、熱効率80%の第一種熱交換システム、太陽光発電パネルを搭載し、発電した電気は、自宅で使うエネルギー(給湯含む)のほか、電気自動車の充電にも使っています。窓はLow-Eトリプルガラスの樹脂窓(遮熱タイプ)。建物はシンプルでありながらも、実に環境に配慮した、高性能なハイスペックなお住まいです。設計・施工したのはプロの3人、プラス、夫妻とお友達。この性能をハーフビルドで建てられるんだから、すごすぎる……!

※省エネルギー基準地域区分。国内を「1~8」の8つの地域に指定しており、どの地域区分かによって、求められる断熱性能、達成すべき基準値が異なる

太陽光発電の発電・消費・売電状況がリアルタイムにわかります(写真撮影/桑田瑞穂)

太陽光発電の発電・消費・売電状況がリアルタイムにわかります(写真撮影/桑田瑞穂)

樹脂のトリプルサッシ。価格は高くなっても窓はお金のかけどころです(写真撮影/桑田瑞穂)

樹脂のトリプルサッシ。価格は高くなっても窓はお金のかけどころです(写真撮影/桑田瑞穂)

山の中にある建物。外壁に使われた焼き杉!! 日差しを浴びて超絶かっこいい!!(写真撮影/桑田瑞穂)

山の中にある建物。外壁に使われた焼き杉!! 日差しを浴びて超絶かっこいい!!(写真撮影/桑田瑞穂)

建物の引き渡しは2023年3月で、その後も夫妻でDIYしつつ、アップデートして暮らしています。実に暑かった2023年の夏もこの住まいで過ごしました。

南側から建物を見たところ。ちょっと鋭角な切妻屋根が愛らしい!(写真撮影/桑田瑞穂)

南側から建物を見たところ。ちょっと鋭角な切妻屋根が愛らしい!(写真撮影/桑田瑞穂)

まずは、入居して半年経過した現在の気持ちから聞いていきましょう。

「朝昼晩といつも快適で体調がすこぶる良くなりました。特に夫は、冬は寒いと布団から出られず元気がなかったのですが、今は毎日元気。必要以上にエネルギーを使ったり、暑い・寒い・冷たいに気を使うストレスから解放されました。また、(自分たちの手でハーフビルドをして)構造や仕組みがわかっているから、何かあった時にどうしたらいいかわかる安心感もあります。エネルギーに依存しない暮らしはシンプルに気持ち良い。断熱性能の低い家に住んでいたころは、環境に配慮した暮らしがしたいと思いながらも、大量にエネルギーを使わなければ快適に過ごせない毎日に違和感がありました。今は、地球環境や次の世代に対してもやもやしていた気持ちが、少し晴れました」と妻は話します。

省エネ性能を高めた住宅にお住まいの人からよく聞くのが「健康になった」という話。室内の寒暖差によるストレス、ヒートショックは高齢者のみの問題のように思われがちですが、実はかかっている負荷は若い人でも同じ。慶應義塾大学の伊香賀 俊治(いかが・としはる)研究室では、「室温を2度上げると健康寿命は4歳のびる」のほか、「暖かな住まいでは風邪をひく子どもの数が減る」などの研究結果もあります。年齢や性別関係なく、あたたかい家は快適だといえるのでしょう。

■関連記事:
室温18度未満で健康寿命が縮む!? 脳卒中や心臓病につながるリスクは子どもや大人にも。家の断熱がマトな理由は省エネだけじゃなかった

リビングの様子。現し仕上げで見える県産材。壁は漆喰。友人の左官職人に協力してもらい、みなで塗りました。その仕事ぶりにも感動!(写真撮影/桑田瑞穂)

リビングの様子。現し仕上げで見える県産材。壁は漆喰。友人の左官職人に協力してもらい、みなで塗りました。その仕事ぶりにも感動!(写真撮影/桑田瑞穂)

上部にあるロフトの様子。屋根裏ってどうしてこうワクワクするんでしょう(写真撮影/桑田瑞穂)

上部にあるロフトの様子。屋根裏ってどうしてこうワクワクするんでしょう(写真撮影/桑田瑞穂)

妻の仕事の様子。出社することもありますが、在宅で仕事するにはちょうどよいスペース(写真撮影/桑田瑞穂)

妻の仕事の様子。出社することもありますが、在宅で仕事するにはちょうどよいスペース(写真撮影/桑田瑞穂)

冬でも室温は常に20度前後。光熱費は1/4以下に! 建築費は2810万

「朝昼晩いつも快適」というのは、データでも裏付けられています。森川さん宅には家の内外室内あわせて9の温度計をつけていますが、最も暑かった日も最も寒かった日も、室温がほぼ一定しているのがわかります。エアコンは2台設置していますが、動いているのはほぼ1台のみ!

◆もっとも暑かった日と寒かった日の室温の変化

最も暑かった2023年7月30日のグラフ。外気温40度を超えている(!)のに対し、室内は温度差にムラがなくどこも28度程度(データ提供:森川さん)

最も暑かった2023年7月30日のグラフ。外気温40度を超えている(!)のに対し、室内は温度差にムラがなくどこも28度程度(データ提供:森川さん)

最も温度差があった2023年11月24日のグラフ。外気温3度から20度まで上昇しているのに室温はおよそ20~25度で安定している(データ提供:森川さん)

最も温度差があった2023年11月24日のグラフ。外気温3度から20度まで上昇しているのに室温はおよそ20~25度で安定している(データ提供:森川さん)

特筆すべきは、建物の中、どこの箇所でも温度差がほとんどないことでしょうか。以前は断熱性能の低い賃貸一戸建てで、厳冬期は電気代が最大3万6000円を記録。さらに給湯のガス代が1万円、灯油ストーブの灯油代が5000円、山の暮らしで車移動が多かったためガソリン代は月2万円と高め。光熱費+ガソリン代で合計月7万円を超える時期もありましたが、今は日の短い冬でも電気代が月1万円程度(給湯、電気自動車充電分含む)まで下がりました。日の長い夏なら売電収入で月々のエネルギーコストはプラスになります。エネルギーを使わないのは節約になるわけですから、高性能住宅は、健康で、エネルギーを使わず、家計にもやさしいということがいえるのがわかります。

換気口。常時換気されていて、24時間ゆっくりと空気は入れ替わっていて、心地よさも抜群です(写真撮影/桑田瑞穂)

換気口。常時換気されていて、24時間ゆっくりと空気は入れ替わっていて、心地よさも抜群です(写真撮影/桑田瑞穂)

第一種空調換気で、室内の温度と湿度の調整を行います(写真撮影/桑田瑞穂)

第一種空調換気で、室内の温度と湿度の調整を行います(写真撮影/桑田瑞穂)

取材に訪れた日も12月で外気温は8度ほどでしたが、室内はエアコン1台で十分にあたたかくなります。お子さんたちは裸足でしたし、人が発する熱もあり、「少々窓をあけましょうか」という話にもなるほどの心地よい温度になります。また、第一種空調換気により常時換気されていて、24時間ゆっくりと空気は入れ替わっていて、家の一番のお気に入りは「温度と湿度の快適さ!」と胸を張ります。

ロフトからキッチン・リビングを見下ろす。日差しがたっぷりと注いでいます(写真撮影/桑田瑞穂)

ロフトからキッチン・リビングを見下ろす。日差しがたっぷりと注いでいます(写真撮影/桑田瑞穂)

「もう以前のような寒い家には戻れないなと思います。夏も冬も快適なのはもちろん、春と秋も超気持ちいい! ちなみに2番目のお気に入りは、廃材をたくさん使ったこと。ご近所に廃材があるのでもらってきて、棚やキッチンに使いました。『そこにあるものを活かす』はエネルギーもコストもかけてない、シンプルだし心地よい。自分で集めた廃材が家になってめっちゃ嬉しいです!」とにこやかに話します。

リビングからキッチンをのぞむ。キッチンカウンターの正面は、外壁の焼き杉の端材を加工し「浮造り」にした板を張りました(写真撮影/桑田瑞穂)

リビングからキッチンをのぞむ。キッチンカウンターの正面は、外壁の焼き杉の端材を加工し「浮造り」にした板を張りました(写真撮影/桑田瑞穂)

地元で廃材などももらえるそう。棚をつくるのもお手の物(写真撮影/桑田瑞穂)

地元で廃材などももらえるそう。棚をつくるのもお手の物(写真撮影/桑田瑞穂)

ここまで来ると気になるのが、価格です。総工費(本体価格に加え、キッチンなど設備費)2810万円ほど。これに設計費や外構工事含めた付帯費用を加算し、総額で3500万円ほど。この性能でこの価格というのは、設計や施工に携わったみなさんも「リーズナブル!!」と評するほどのコスパです。

家づくりで見えてきた、職人への敬意と新しい人生

設計と施工に携わったHandiHouse projectの中田りえさんは、この価格について、「高性能な住まいは『高い』と思われがちですが、この家は断熱と気密、窓や玄関など、後からリノベやリフォームでは変えにくい機能面に『全振り』しています。反対に室内の建具、仕切り、設備は最小限にし、あとでDIYしたり発注したり、暮らしにあわせて可変できるようにしています」といいます。

ワークショプで建築面での解説をしてくれたHandiHouse projectの中田りえさん(写真撮影/桑田瑞穂)

ワークショプで建築面での解説をしてくれたHandiHouse projectの中田りえさん(写真撮影/桑田瑞穂)

収納も扉を設けずに節約し、布でゆるく仕切ることでコストダウン(写真撮影/桑田瑞穂)

収納も扉を設けずに節約し、布でゆるく仕切ることでコストダウン(写真撮影/桑田瑞穂)

高性能な躯体をつくり、コンテンツはのちのち充実させていくという考え方ですね。また、ハーフビルドしたことで夫はDIYスキルを獲得。棚づくりなどはお手のものとなり、現在では最も大変だった黒い外壁として使用している「焼き杉づくり」にはまり、“株式会社焼き杉”をつくりたいというほど。今も友人宅の焼き杉づくりを手伝いに行くこともあるそうです。

「焼き杉は西日本でよく使われている手法で、防虫、防腐、調湿効果などがあります。我が家では外壁に使うため杉を焼いたのですが、その数約230本! 全部で1カ月くらい、朝から夕方まで焼き続けた(笑)。毎日50点~80点くらいを行き来して試行錯誤しながら、最後のほうは毎回98点のクオリティーに。上達していくのがとにかく面白かった」と夫。

大量の杉を焼くためにご近所の仲間(初対面の人も)、旧友、元会社の先輩などなど総勢30人くらいが参加し、焼杉をきっかけにいろんな人との出会い、再会もあったそう。

焼き杉づくりの様子。めっちゃ盛り上がりました(写真撮影/嘉屋恭子)

焼き杉づくりの様子。めっちゃ盛り上がりました(写真撮影/嘉屋恭子)

外壁をよく見るとシックスパックのような凸凹があります。一つとして同じものがない(写真撮影/桑田瑞穂)

外壁をよく見るとシックスパックのような凸凹があります。一つとして同じものがない(写真撮影/桑田瑞穂)

焼き杉以外にも「図面、設備以外はほぼ決まっていない状態で、細かいところは現場で決めながら進めた」というライブ感も貴重な体験になったようです。

「図面だけだとイメージがつかないことばかりで、毎日、現場でリアルに想像しながら仕様や細かい部分を決められたので、家の満足度がとても高いんです。休憩タイムにアイディア出しをしたり、家をつくってる感があって楽しかった。こういう家づくりがもっと広まったら、新居に引っ越して後悔する人、家づくりの工程でストレスを感じる人も減るんじゃないかな。家を買うというモノ消費から、家をつくるという『コト消費』ですね」と夫はその手応えを話します。

3人の多能工と協働作業をするなかで「来世は大工になりたい!」というほど職人の身のこなしの美しさ、手際のよさに感動したとか。わかります、職人さんってカッコいいですよね……。こうして得た「家づくり」の知見を活かし、夫は今、会社勤めとは異なる、人生を歩みはじめています。

もう1棟建てるなら? ハーフビルドでおすすめする工程は?

今、家づくりを終えてみての感想、夫妻ともに得たものはあるのでしょうか。

「本当の意味での建築の民主化は、ただ作業に参加するだけでなく、できなくてもいいからとにかく自分でやってみることだと思いました。今回、私たちは知り合いの山の杉やヒノキを使いたくて地元の林業会社、製材所に直接相談に行ったんですが、急峻で狭い山道から木材を運び出すのが難しく、搬出コストの問題で断念しました……。結果的に地域の製材所に津久井産材などの地元の木材を発注しましたが、日本の山が放置される理由と原因がわかり、山を見る目が変わりましたね」と収穫と課題感を口にします。

眼の前に建材適齢期の杉があるのに使えない、もどかしさ、苦しさ。顔の見える関係で建材を調達して家づくりをしたいと思っても、そう簡単にはいかないのには理由があるんですね。

「今回、自分たちでフローリングの製材(伐採した木を角材、板材として加工すること)もやってみて、いかに既製品が使いやすく、なぜ普及しているのかがよくわかったんです。仕上がりの精度や施工のしやすさがまったく異なるので。“仕上がりのラフさ”の許容範囲は人によって違うと思いますが、私たちは高い精度を追求するのではなく、本来の木の性質を活かした風合いが残っていてもいいし、施工時に多少の手間がかかっても、そこには人の手触りが残ってるからいいのでは、という結論に落ち着きました。画一化された商品以外の選択肢も含め、一般の消費者が自分の好みや許容度によって選べるようになればいいなと思います」と妻。

知っているのと体験したことがある、この2つには雲泥の差がありますが、まさに森川夫妻にとってはそんな家づくりとなったようです。

家族の寝室として使っている部屋。こちらにも無駄がありません!(写真撮影/桑田瑞穂)

家族の寝室として使っている部屋。こちらにも無駄がありません!(写真撮影/桑田瑞穂)

では、ハーフビルドやDIYでおすすめする工程があるとしたら、どのようなものがあるのでしょうか。

「工程を区切ってポイントで参加するのではなく、薄くてもいいからできるだけ広い範囲の工程に参加するのがいいと思う。毎週末土日に差し入れを持って見学するだけでもいいし、基礎から引き渡しまでの全工程が家づくりなので、とにかく多くの工程に関わるのが面白いです。もしDIYで参加するなら、土台組み、断熱施工、構造用合板を組むなどの完成後、目に見えない構造部分に関わるのがいいと思う。石膏ボードを張ったあとは、あとからリノベしたり塗り替えたりできるけど、石膏ボード張るより前の、構造に関わる部分はハーフビルドでしか経験できない領域だから。興味が湧いた方にはぜひおすすめです」(妻)

聞けば聞くほどに濃い「ハーフビルド体験」ですが、今、もう一軒、建てるとしたらどんな家を建てたいでしょうか。

「新築じゃなくて、中古を断熱改修して快適に住めるようにしたい。そのノウハウが広まればもっと快適な家が増えるはず。新築現場ではとにかく大量のゴミが出ます。もっと空き家が流通して、断熱改修でストック活用が必要だと、改めて思いました」といいます。

HandiHouse projectの中田りえさんは、今ある中古住宅の断熱改修にも携わっていますが、コストや施工といった面での難しさを痛感しているといいます。だからこそ、「せめて新築をつくるときは、断熱・気密ともに高性能な住宅にこだわってほしい」とアドバイスします。

2023年のワークショプ、そして今回の完成後の様子を見て、筆者の印象はとにかく、「『家づくり』ってこんなに楽しいものだったんだ!」という事実です。とかく家は「買う」「借りる」という意識でしたが、もしかしたら近代化・工業化、大量生産の時代に、本来、あったはずの「家を作る喜び」を手放してしまったのではないか、とすら思います。

総人口が減り、工業的な家と人のあり方、地球環境を含め、潮目が大きく変わる今、施主も施工する人も、周囲の人も巻き込んだこんな楽しい家づくりを、取り戻せたらいいなあと切に願います。

今回のプロジェクトに携わったみなさんと(写真撮影/桑田瑞穂)

今回のプロジェクトに携わったみなさんと(写真撮影/桑田瑞穂)

青空に映える……(写真撮影/桑田瑞穂)

青空に映える……(写真撮影/桑田瑞穂)

●取材協力
森川屋
ハンディハウスプロジェクト

ペアローンの団体信用生命保険でローンまるごと完済できる?そもそもペアローンと収入合算の違いとは

第一生命保険は、住宅購入時にペアローンを利用する世帯向けに、夫婦などのいずれかに万一のことがあった場合に両者のローン残高の合計を保障する連生団体信用生命保険の取り扱いを始めると公表した。取り扱い開始は、2024年7月から。そこで、今回はペアローンについて、深掘りしていこうと思う。

【今週の住活トピック】
ペアローン利用者の連生団体信用生命保険の取扱開始/第一生命保険

そもそもペアローンってどんなもの?

まず、ペアローンとは何かを説明しよう。

ペアローンとは、一つの物件を購入する際に、同居する夫婦などが、それぞれ契約者として住宅ローンを組む方法だ。それぞれの収入に応じて借り入れができるので、どちらかが単独でローンを組むよりも借入金額を増やすことができる。それぞれが住宅ローンの契約を結ぶことになるので、自分の住宅ローンについて団体信用生命保険に加入し、住宅ローン減税を利用できることになる。

ただし、同じ金融機関で同時に住宅ローンの借り入れをし、お互いが連帯保証人になる必要がある。また、2本の契約が発生するため、ローンに関する事務手数料や登記費用などの諸費用がそれぞれにかかってくる。

出典:第一生命保険のリリースより転載

出典:第一生命保険のリリースより転載

新築マンション購入者の3割がペアローンを利用

近年、ペアローンの利用者は多くなっている。

リクルートのSUUMOリサーチセンターが実施した「2022年首都圏新築マンション契約者動向調査」によると、世帯主と配偶者のペアローンは、全体で29.9%となっており、近年はおおむね3割で推移している。

リクルート「2022年首都圏新築マンション契約者動向調査」より抜粋して転載

出典:リクルート「2022年首都圏新築マンション契約者動向調査」より抜粋して転載

ペアローンの比率は、「既婚・共働き世帯」で見ると、48.2%と半数近くに達している。さらに、共働き世帯で世帯年収が1000万円以上に限ると72.6%にまで達する。フルタイムで働くなど、それぞれに一定の年収がある共働き世帯では、ペアローンが当たり前になっているようだ。

ペアローンと収入合算の違い

夫婦で協力して住宅を購入するには、ほかに収入合算という方法もある。

収入合算は、夫婦どちらかが単独で住宅ローンを組み、相手側の収入を合算する方法。合算した金額をもとに住宅ローンの審査を受けることができ、収入合算者は、連帯保証人になる必要がある。

収入合算で一般的な連帯保証の場合、収入合算者は団体信用生命保険の対象にはなれず、住宅ローン控除の利用もできない。例えば、夫が住宅ローンの契約者となった場合、夫が亡くなったときには、残りのローン全額が保険で清算されるが、妻が亡くなって収入が減少したときでも、ローンの返済はそのまま続くことになる。ただし、連帯債務の場合(【フラット35】など)は、収入合算者は住宅ローン控除が利用でき、デュエット(ペア連生団信)に加入すれば団体信用生命保険の対象になれる。

ペアローンの連生団体信用生命保険とは

ペアローンの場合、それぞれが住宅ローンの契約者として団体信用生命保険に加入するので、たとえば夫が亡くなった場合は夫のローンだけが保険で清算される。妻は従来通り、自分が借りたローンの返済を続けることになる。

今回の連生団体信用生命保険は、ペアローンの利用者それぞれを被保険者として、借入額の合計額をそれぞれの保険金額として団体信用生命保険に加入するもの。夫婦などのいずれかに万一のことがあったら、両者のローンをまるごと保険で完済できるようになる。

住宅ローンは長期間返済し続けるものなので、団体信用生命保険に加入するのが原則だ。疾病保障特約や所得補償特約などを付けることができるものもあり、連生団体信用生命保険が加わることで、保険の選択肢が増えることはよいことだろう。ただし、それに伴う保険料、保険が適用される条件などにも考慮したうえで、自分たちはどこまでの保障が必要かをしっかり検討する必要がある。

●関連サイト
第一生命保険「ペアローン利用者の連生団体信用生命保険の取扱開始」

2023年の一戸建て市場を総括。新築の一戸建ての価格は上昇するも面積は縮小気味?

前回(「2023年のマンション市場を総括。新築・中古マンションの価格推移と供給戸数を徹底解説!」)に続き、2023年の住宅市場を総括したい。今回は、東京カンテイが公表した「マンション・一戸建て住宅データ白書 2023」から、三大都市圏の新築・中古一戸建て市場ついて見ていくことにしよう。

【今週の住活トピック】
「一戸建て住宅データ白書 2023」を公表/東京カンテイ

2023年三大都市圏の新築・中古一戸建ての平均価格は総じて前年より上昇

新築マンションの価格高騰が指摘され、中古マンションの価格も新築に誘導されるように上昇している。上昇に鈍化傾向が見られるが、手が届きにくい状況となっている。では、一戸建ての市場はどうなっているのだろう?
東京カンテイが公表した新築・中古一戸建てデータで、三大都市圏の状況を見ていこう。

東京カンテイ「一戸建て住宅データ白書2023」

東京カンテイ「一戸建て住宅データ白書2023」

まず、2023年の首都圏の新築一戸建ての平均価格は4769万円で前年より5.4%上昇した。「2015年の調査開始以来最高額を3年連続で更新した」という。近畿圏でも前年より3.8%アップして3680万円になり、こちらも上昇が続いている。また、中部圏でも前年より0.6%アップの3417万円となり、「調査開始以降8年連続で上昇している」という。

三大都市圏ともに新築一戸建ての平均価格は上昇を続けているが、前年と比べると上昇率は縮小しているのが特徴だ。また、価格の上昇に対して、土地面積や建物面積の平均は、わずかながら縮小する傾向が見られる。

次に、中古一戸建てに目を向けよう。2023年の首都圏の中古一戸建ての平均価格は4016万円で、前年より2.5%上昇した。近畿圏では2589万円(前年2.8%上昇)、中部圏では2447万円(2.3%上昇)と、新築一戸建て同様に、三大都市圏ともに価格は上昇している。ただし、前年からの上昇率については、首都圏では大幅に縮小(10.2%→2.5%)、近畿圏では縮小(5.3%→2.8%)、中部圏では拡大(1.4%→2.3%)と、動きがそれぞれ異なっている。

一方、三大都市圏ともに中古一戸建ての平均価格は上昇を続けているが、平均の土地面積や建物面積は拡大している。新築一戸建てが面積を小さくしているのとは、逆の動きだ。

新築一戸建ての建物面積は100平方メートル未満のシェアが増加

一戸建ての面積について、さらに詳しく見ていこう。首都圏の例となるが、建物面積の面積帯シェアの推移を見よう。

東京カンテイ「一戸建て住宅データ白書2023」(首都圏)

東京カンテイ「一戸建て住宅データ白書2023」(首都圏)

首都圏の建物面積帯を見ると、新築一戸建てで100平方メートル未満(80平米未満・80平米台・90平米台)のシェアが増えているのが顕著で、近畿圏でも中部圏でも、面積の小さな一戸建てのシェアが拡大する同様の傾向が見られる。

一方、中古一戸建てでは、面積帯の推移に新築ほどの大きな変化は見られないが、建物面積120平方メートル以上のシェアが増えているのが特徴。この点も、近畿圏や中部圏で同様の傾向が見られる。広い一戸建てを探すなら、中古一戸建ての方が見つけやすいという状況のようだ。

新築一戸建てで面積が小さくなるのは、新築特有の要因がある。例えば、分譲事業者が広めの一戸建ての土地を取得した場合に、2区画や3区画などと区分けして、小さな一戸建てを建てて売るからだ。首都圏の新築一戸建てで顕著なのだが、土地面積で「50平米以上80平米未満」と「80平米以上100平米未満」のシェアが大きく拡大していることから、そうしたことがうかがえる。土地の仕入れ値が上がり、コンパクトにして購入希望者の買いやすい価格に抑える傾向が見て取れる。

一戸建てはマンションに比べて市場は安定している!?

最後に、2023年の一戸建ての市場をマンション市場と比較して見ていこう。東京カンテイでは、参考資料(マンションデータがまだ確定していないため)として、三大都市圏の2023年のマンション市場の結果も紹介している。

東京カンテイ「一戸建て住宅データ白書2023」

東京カンテイ「一戸建て住宅データ白書2023」

マンション、特に新築マンションを見ると、価格の上昇レベルでかなりばらつきがある。新築マンションの供給戸数が近年減少しているため、例えば東京23区で高額で大規模な新築マンションが売り出されると、その影響で平均価格を強く押し上げるといった現象が起きている。価格が乱高下しているわけではなく、国内外から居住・投資目的で需要がある特定エリアでの価格上昇が顕著なのだ。

一方、一戸建ては、投資目的の需要はあまりないので、供給戸数や価格は比較的安定している。それでも新築・中古ともに価格が上昇しているマンションから、面積の広い一戸建てを志向する傾向もあり、価格が上昇気味という状況と見てよいだろう。

なお、東京カンテイによると、新築マンションの供給エリアは変わらずに駅近での供給が多く、新築一戸建ては首都圏と中部圏で駅徒歩10分から15分へと変化する状況が見られたという。これは最寄駅からの距離へのこだわりがマンションのように強くはなく、一戸建てならではの住環境の立地で供給をしているからだと指摘している。なお、「近畿圏は駅間が短く最寄駅からの所要時間が相対的に近くなる圏域」という特徴があるという。

さて、2023年の住宅市況はおおむね好調で、価格の上昇傾向が続いている。とはいえ、富裕層や投資目的の需要が価格上昇を受け入れていることから、価格が大きく変動するマンションとは異なり、一戸建ての価格上昇は上昇率が縮小するなど、落ち着きを見せつつある。ただし、新築一戸建てについては、価格上昇を面積の縮小で軽減する傾向も見られる。

2024年から新築住宅は省エネ基準適合住宅でないと住宅ローン控除が適用されないなど、省エネ性能を強化する動きもある。2024年4月からは、広告する際に省エネ性能ラベルを表示することが努力義務になるので、一戸建てを選ぶ際にも省エネ性能のレベルに注目してほしい。

●関連サイト
東京カンテイ「Kantei eye 118(マンション化率/マンション・一戸建て住宅データ白書)」

電気自動車の普及がマンションの資産価値に影響する?! EV充電器の設置が加速中、導入メリットや課題を徹底解説

私が住んでいるマンションでも、EV(電気自動車)充電器の設置が取り沙汰されるようになってきた。まだEV車を所有している人がいないので、具体的な検討課題にはなっていないが、いずれは本格的に議論されることになるのだろう。そこで今回は、マンションにEV充電器を設置することについて、深掘りしたいと思う。

マンションにEV充電器の設置が求められる理由とは?

政府は、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を目指し、これに伴い、グリーン成長戦略を策定した。その中で成長が期待される分野として自動車を挙げ、乗用車については2035年までに新車販売で電動車100%を目標に掲げている。

そうなると、充電インフラを整備する必要がある。そのため、政府は補助金を用意して、電気自動車・プラグインハイブリッド自動車(以下、電動車)の充電設備の設置を促進している。

充電インフラは、自宅や事業所などの「基礎充電」、高速道路などの移動中の「経路充電」、ホテルや商業施設などの「目的地充電」に大別される。特に懸念されるのが、基礎充電だ。一戸建てなら電動車を買った本人が充電設備も整えればよいが、マンションの場合は共用部の電気を使用するために、合意形成が難しいことが考えられるからだ。

さらに東京都でも、2030年度までに都内で新車販売される乗用車を100%非ガソリン化することを目指している。東京都にはマンション居住者が多いこともあり、条例により2025年4月から都内の新築マンションに規模に応じた数の充電設備設置を義務化することになっている。また、既存のマンションについても、管理組合などに補助金を出すなどして、設置を促している。

このように、電動車が普及するにつれて、充電インフラを整備する必要があるが、私有財産である自宅、特に駐車場を共有するマンションでの充電設備設置が大きな課題となっているのだ。

マンションに電動車充電設備を設置するメリットとは?

もちろん電動車所有者なら、自分のマンションの電動車充電設備で夜間などに充電しておきたいと思うだろう。新築分譲マンションでは、デベロッパーがあらかじめ電動車充電設備を設置して販売する事例が多くなっている。一方で、既存のマンションの場合は後付けで設置をすることになるが、電動車どころか車自体を持っていない人もいる。そうした人にとってもメリットはあるのだろうか?

「既存の分譲マンションへの電気自動車(EV)・プラグインハイブリッド車(PHEV)充電設備導入マニュアル」を作成した、(一社)マンション計画修繕施工協会(以下、MKS)に聞いてみた。事務局の細田義裕さんによると、「電動車の普及に伴い、その充電設備がないマンションは買い手に選ばれにくくなる」という。マンションに電動車充電設備が設置されていることがスタンダードになったときに、設置されていないマンションは購入の選択肢から外されるので、売りづらくなる。つまり資産価値に影響するというわけだ。

ここで、日産自動車が実施した、「EV(電気自動車)の購入時に重要な住居の環境について」の調査を見てみよう。調査対象は、集合住宅居住者でEVの購入意向のある30~50代の男女400人。EVの購入検討者「集合住宅に充電設備がないとEV購入が難しいと感じるか」を聞いたところ、88.6%が「難しいと感じる」(とても感じる36.0%+まあまあ感じる52.6%)と回答した。EVの所有とマンションの充電設備の関係性が強いことが分かる結果だろう。

日産自動車【EVと住環境についての調査リリース】より

日産自動車【EVと住環境についての調査リリース】より

電動車充電設備を設置するデメリットは高額な初期費用?

ではデメリットはなんだろう?MKSの細田さんによると、設置に伴う導入費用が大きな課題だという。どの程度の額になるかというと、マンションの構造や設備、充電設備の種類や台数などによって大きく変わるという。

マンションの共用部の電気容量によって、たとえば共用部から電源を確保できない場合に新たに電柱を立てて電気を引く必要があったり、共用部の電源から設置する駐車場まで距離があり、ケーブルの埋設工事が必要であれば、工事費用はかなり高額になる。EV・PHEV充電設備導入マニュアルの中に、いくつかモデルケースの設置工事費用を試算した事例があるが、最低で約46万円、最高で約3104万円とかなり幅がある。

加えて、充電設備の利用方法によっても、設置計画が変わる。利用方法は、電動車を所有する居住者専用使用の場合、電動車の所有者が充電設備を共用する場合、電動車のカーシェアリングを導入する場合の主に3つあるという。

■利用方法によるメリットとデメリット

利用方法によるメリットとデメリット

マンション計画修繕施工協会「既存の分譲マンションへの電気自動車(EV)・プラグインハイブリッド車(PHEV)充電設備導入マニュアル」より

また、充電設備にもいろいろな種類があり、それぞれで費用も異なる。まず大別して、「普通充電器」と「急速充電器」に分かれる。急速充電器は、短時間で充電可能であるが、費用は高額になる。短時間で充電が必要な「移動充電」に向いており、マンションでは普通充電器が向いているという。

充電器の種類

東京都環境局のパンフレット「マンションへの電気自動車の充電設備導入基礎ガイド」より

さらに、普通充電器にもさまざまなタイプがあり、どのタイプを何台設置するかの設置計画によって、費用も変わってくる。

■普通充電器の概要

普通充電器の概要

(一社)次世代自動車振興センターのチラシ「EV・PHV用充電設備導入をご検討の皆様へ」より普通充電器を抜粋

ようするに、マンションの構造や電気容量などを調べて、どういった利用方法を採るかを考えながら、具体的にどこにどれを何台設置するかといった設置計画を立ててみないと、設置に関する全体の工事費用がわからないということだ。それを知るには、充電サービス事業者に依頼して設置プランと見積もりを出してもらうしかないのだろう。

ただし、国が充電設備費・工事費で50%~100%補助金を出している。補助対象となる充電設備が定められているが、普通充電設備設置の場合で、機器費用の50%(上限額35万円)、工事費用の100%(上限額135万円)が2023年度の補助金の額だ。加えて、東京都の補助金も利用できれば、持ち出しがほとんどない場合もあるようだ。

電動車充電設備の導入のハードルになるのは管理組合での合意形成

補助金を利用できれば、電動車充電設備の設置工事費用をかなり抑えることはできるが、導入する際のハードルになるのは何だろう?MKSの細田さんによれば、管理組合での合意形成だという。電動車所有者や購入検討者が利益を受けることになるので、利益を受けない人たちが反対したり先送りしたりすることになる可能性がある。

また、電動車充電設備設置に前向きな管理組合であっても、設置に伴う工事費用をどう負担するか、使用電気料をどう負担するか、不公平にならないようにどういったルールで運用するかなど、決めるべきことがたくさんある。細かいルールについても管理組合で合意する必要があるので、かなりの時間を要することにもなるだろう。

EV・PHEV充電設備導入マニュアルには、費用の負担方法について考え方の一例を紹介している。充電設備の設置の際には、マンションの共用設備として修繕積立金を用いて設置し、その後、充電設備の利用者から月々の利用料などで回収する方法だ。使用した電気料金は充電設備の利用者が支払うことを基本に、実態に応じて選択する。充電サービス事業者によっては、スマホを用いて各自が使った分だけ徴収する方法を採っている場合もある。こうしたモデルケースを参考に検討するとよいだろう。

既存マンションへの充電設備設置には注意点がいろいろある

充電設備を設置するとなった場合、注意点もいくつかある。

まず、機械式駐車場によっては設置できない場合もある。安全に機械式駐車場を使うために、電動車対応とするための要求事項が定められている。まず、設置されている機械式駐車場のメーカーに、充電設備が設置できるかどうかを確認する必要がある。

さらに、電動車はバッテリーを搭載しているため、車種によっては車両が重たくなる。機械式駐車場それぞれに重量制限があるので、サイズや重量に制限が生じるかどうかも確認しておきたい。電動車充電設備はあるのに、そもそも自分の電動車では機械式駐車場を利用できないといったことがあると、トラブルの要因になる。

また、補助金を使いたいと思ってもいつでも利用できるとは限らない。補助金は毎年予算を組んで募集するもので、たとえば2023年度の国の補助金は早期に予算枠に達してしまったため、予備費で追加枠が設けられたという経緯がある。補助金は流動的な部分もあるので、常に最新の情報を正確に把握しておくことが大切だ。

こうした注意点に適切に対処するには、充電サービス事業者がカギになる。充電サービス事業者は数多くあり、設置から運用まで幅広く手掛ける事業者も多いが、それぞれ取り扱う充電設備や提供するサービス内容が異なるので注意が必要だ。管理組合の意向に沿った提案をしてくれるか、補助金などの知識は正確か、設置から運用、管理まで欲しいサービスが提供されるかなど、見極めて選びたい。

また、MKS細田さんによると「長期的な観点で計画することも重要だ」という。電動車所有者が年を追うごとに増えていったり、急速な技術革新によって電動車自体や充電設備が進化する可能性もある。導入後に容量が不足したり、新しい規格に対して陳腐化したりすることも考慮したい。また「充電サービス事業者は個別の通信規格で運用していることが多いが、標準通信規格※に対応していれば、サービス事業者を変更した場合でも既設の設備を使い続けることができる」という。
※充電設備を管理システムで遠隔制御する標準通信規格OCPP=Open Charge Point Protocolなど

筆者のマンションでは、駐車場に空きがでることが多くなっていることもあり、機械式駐車場を使い続けるのか、外部貸しで運用するのかなどの問題も抱えている。今後はEV充電器設置の問題も加わるので、管理組合に「駐車場専門員会」を設置して長期的に検討することを提案した。電動車充電設備も一度導入すればそれで終わるものではないようなので、きちんと議論する必要があるだろう。

●関連サイト
マンション計画修繕施工協会「電気自動車(EV)・プラグインハイブリッド車(PHEV) 充電設備導入マニュアル」
日産自動車【EVと住環境についての調査リリース】
次世代自動車振興センター「充電インフラ補助金サイト」
東京都マンションEV充電器情報ポータル「補助金制度」

2023年のマンション市場を総括。新築・中古マンションの価格推移と供給戸数を徹底解説!

2024年に入って、2023年の住宅市場の動向が相次いで公表された。そこで今回は、不動産経済研究所と東京カンテイが公表したデータから、首都圏及び近畿圏の新築・中古マンションの価格動向について見ていくことにしよう。

【今週の住活トピック】
「首都圏/近畿圏 新築分譲マンション市場動向2023年(年間のまとめ)」を公表/不動産経済研究所
「『中古マンション70平米価格推移』2023年(年間版)」を公表/東京カンテイ

2023年の首都圏新築マンションの平均価格は前年より28.8%アップの8101万円

まず、2023年の新築マンション市場だが、東京23区の平均価格が1億円を超えたとニュースになった。やはり、マンション価格は上がり続けているのだろうか。

不動産経済研究所が公表した首都圏の新築マンションの平均価格は、前年(2022年)の6288万円より28.8%アップの8101万円。まだまだ大きく上昇している。と、見てよいのだろうか?実は、詳しく見ていくと、必ずしもそうではないのだ。

ここ3年間の首都圏と近畿圏の平均価格の推移を見ていこう。

■新築マンションの平均価格(単位:万円)(不動産経済研究所)

2021年2022年2023年対前年上昇率首都圏62606288810128.8%東京23区829382361148339.4%東京都下5061523354273.7%神奈川県52705411606912.2%埼玉県480152674870-7.5%千葉県4314460347864.0%対前年2.9% up0.4% up28.8% up2021年2022年2023年対前年上昇率近畿圏4562463546660.7%大阪府475746834435-5.3%兵庫県45334456513915.3%京都府39604927548811.4%奈良県4292430445585.9%滋賀県401743154159-3.6%和歌山県36623655423715.9%対前年9.1% up1.6% up0.7% up不動産経済研究所「首都圏/近畿圏 新築分譲マンション市場動向2023年(年間のまとめ)」のデータを筆者が抜粋して作成

まず、首都圏を見ると、明らかに、東京23区の平均価格が1億円を超え、対前年上昇率が39.4%と大幅に上昇したことで、全体を引き上げていることが分かる。「三田ガーデンヒルズ」など、超高額の大型物件の影響も大きかったと思われる。人気エリアの横浜市・川崎市を抱える神奈川県では、まだ上昇トレンドにあるが、東京都下(3.7%)、埼玉県(-7.5%)、千葉県(4.0%)では、大幅に上昇しているわけではない。

首都圏の供給戸数を見ると、2023年は対前年9.1%ダウンの2万6886戸となり、そのうち1万1909戸、4割以上が東京23区で占めている。23区の価格上昇の影響が首都圏全体に色濃く出たわけだ。

次に、近畿圏を見ると、2023年の平均価格は前年より0.7%アップの4666万円。大票田の大阪府で対前年5.3%ダウンの4435万円になった影響が大きい。一方、兵庫県(特に神戸市)と京都府(特に京都市)では価格が上昇している。

兵庫県については、供給戸数が対前年23.8%ダウンの2666戸(神戸市は35.5%ダウンの971戸)なので、特定の大型物件の影響を受けたという見方もできるだろう。一方、京都府も供給戸数が減少したが、大型物件が出にくいエリアでもあるので、根強い需要によるものと考えられる。

つまり、東京23区と京都市などは、国内の富裕層だけでなく、海外からも需要があるため、価格上昇トレンドが続いていると見てよいだろう。

2023年の中古マンションの平均価格は首都圏・近畿圏ともに上昇が鈍化

では、2023年の中古マンション市場を見ていこう。東京カンテイでは、70平米換算して平均価格を算出しているのが特徴だ。なお、近畿圏は新築マンションと同じ2府4県だが、エリア別についてはサンプル数の多い2府県の平均価格を算出している。

■中古マンションの平均価格(単位:万円)(東京カンテイ)【70平米当たり】

2021年2022年2023年対前年上昇率首都圏4166471648021.8%東京都5739630164231.9%内、 東京23区6333684270553.1%神奈川県3114352036654.1%埼玉県2528290430204.0%千葉県2292256927727.9%対前年11.6% up13.2% up1.8% up2021年2022年2023年対前年上昇率近畿圏2607281628922.7%大阪府2820304730851.2%兵庫県2270242525314.4%対前年6.2% up8.0% up2.7% up東京カンテイ「『中古マンション70平米価格推移』2023年(年間版)」より抜粋して筆者が作成

首都圏の中古マンションの平均価格(70平米換算)は、前年より1.8%アップの4802万円。最も上昇率が高かったのは千葉県の7.9%で、東京23区(3.1%)の上昇率が他県より低いのが、新築マンションと大きく異なる点だ。

東京カンテイによると、東京23区の中でも「都心部」では上昇率が6.3%となり、「堅調なトレンドを示している」という。また、「割安感が強い周辺3県の方が高い上昇率を示すも、前年までの勢いに陰りが認められる」と指摘している。

次に、近畿圏を見ると、中古マンションの平均価格は前年より2.7%アップの2892万円。こちらも新築マンション同様に、「圏域平均をけん引してきた大阪府で強い鈍化が見られる」。また、新築マンション同様に、兵庫県では神戸市で対前年9.4%アップの2634万円となるなど、大阪府とは異なる動きを見せている。

2023年の中古マンション市場は、首都圏・近畿圏ともに、これまで急激に高騰してきた価格の上昇が鈍化し、頭打ちになる可能性を感じさせる市況となっているようだ。

不動産経済研究所では、新築マンションの「2024年の供給予測」も公表している。それによると、首都圏の新築マンションは2023年より10.7%増える見込みで、東京都の市部、神奈川県、埼玉県で供給戸数が大きく増え、近畿圏でも2023年より17.9%増える見込みで、大阪府の市部で大きく増えるという。

新築マンションは、この4月から省エネ性能を見える化した省エネラベルの表示が努力義務となり、2025年4月からは現行の省エネ基準適合が義務化される。省エネ性能の高い新築マンションの供給が進むようになると、中古マンションとの性能の違いが表面化する可能性がある。

これからマンションを購入する場合、新築か中古かは予算や立地などさまざまな条件で選ぶことになると思うが、特に築年の古いマンションについては、購入時にリフォームをして省エネ性を高めることをオススメしたい。

●関連サイト
不動産経済研究所「首都圏 新築分譲マンション市場動向2023年(年間のまとめ)」
不動産経済研究所「近畿圏 新築分譲マンション市場動向2023年(年間のまとめ)」
東京カンテイ「『中古マンション70平米価格推移』2023年(年間版)」

アプリでご近所付き合いが復活! マンションや自治会、住む街のコミュニケーションの悩み解決の救世主に 「GOKINJO」「common」

同じマンション内や近所に住んでいても、なかなか隣人の顔が見えにくいのはよくあること。「コミュニティ醸成型サービス」とは、同じ街やマンションに住む人限定のプラットフォームで、簡単にリアルタイムでコミュニケーションできる機能を備えている。地域コミュニティを支える基盤として、コロナ禍以降、存在感を増している。「日本DX大賞」UX部門 優秀賞を受賞したマンション・自治会の住民限定コミュニティ醸成サービス「GOKINJO」と、東急運営の地域共助プラットフォームアプリ「common」を取材。コミュニティ醸成型サービスの最新事例を紹介する。

ご近所で多世代交流できるきっかけをアプリでつくる(画像提供/コネプラ)

ご近所で多世代交流できるきっかけをアプリでつくる(画像提供/コネプラ)

マンション等の住民限定で近所付き合いができるアプリ「GOKINJO」

新型コロナウィルス流行の前後に登場した各社のコミュニティ醸成型サービスは、地域情報の共有を促し、住民同士の共感を育てる機能があり、利用することで暮らしが豊かになるよう設計されている。

株式会社コネプラが運営するGOKINJOは、マンションなどの住民限定で、程よいご近所付き合いが出来るサービス。街やマンションの資産価値向上や防災力アップに繋がるサービスとして、タワーマンションから戸建て分譲地の自治会まで幅広く導入されている。

子どものお下がりや日用品を住民間で気軽に無料でシェアリング・リユース(画像提供/コネプラ)

子どものお下がりや日用品を住民間で気軽に無料でシェアリング・リユース(画像提供/コネプラ)

サービスの構想がはじまったのは、2019年に募集された旭化成グループの社内コンテストがきっかけだった。最終プレゼンを経て実証実験を行い、初の社内ベンチャーとして2022年4月にコネプラが創業された。開発に関わったのは創業メンバーのCEO中村磨樹央さん、CTO森屋大輔さん、マーケティングディレクター根本由美さん。中村さんと根本さんに企画の背景や開発の経緯を取材した。

左から中村さん、森屋さん、根本さん(画像提供/コネプラ)

左から中村さん、森屋さん、根本さん(画像提供/コネプラ)

老若男女を問わず、多くのユーザーに愛用されていることが評価され、DX推進を加速させるDXコンテスト「日本DX大賞2023」で、全国から応募のあった100を超える企業、自治体、公的機関、大学からUX部門 優秀賞を受賞(画像提供/コネプラ)

老若男女を問わず、多くのユーザーに愛用されていることが評価され、DX推進を加速させるDXコンテスト「日本DX大賞2023」で、全国から応募のあった100を超える企業、自治体、公的機関、大学からUX部門 優秀賞を受賞(画像提供/コネプラ)

「構想の元になったのは、私と森屋が知り合った時、森屋がつくっていた子どもを保育園に入れる保活をしているママ同士を繋げるサービスでした。保活情報を頑張って勉強して集めても入園したら必要ない。一方で、保活中のお母さんはその情報をすごく欲しがっている。Aさんが不要となった知識や経験は、Bさんにとっては必要なものにも関わらず、価値交換の仕組みがこのような狭小地域社会においては機能していませんでした。特に子育て中の女性やシニアなど資本主義社会から分断されがちな人たちをケアしながら、地域での価値交換を機能させるサービスをつくろうと話し合いました」(中村さん)

その後、プロジェクトに加わった根本さんは、11年ほど自社ブランドの住宅設計に携わってきたが、「お客様の暮らしを見ている中で、物やスキルを持て余していて役立てる場所がない方が多いと感じていた」と同じ課題感を抱えていた。

そこで、特定地域内で「信頼できる相手」とつながり、無形の遊休資産活用に結び付ける現在のGOKINJOのプラットフォーム開発に着手。シニアにも使いやすいUI開発に苦心し、古い「らくらくフォン」等のシニア世代が所有する機種をテスト用に数台購入し、操作しながら開発にあたった。

2020年9月から、分譲マンションでGOKINJOの運用がスタート。開始時のGOKINJOは、気軽な情報をやりとりできる「情報交換」機能を搭載。その後、「お譲り機能」、「お助け」機能、「お知らせ」機能、「コイン」機能が追加された。

「不要な物をあげてお金をもらうより、ありがとうって笑顔をもらった方が嬉しいという方は少なくありません。お譲り機能では、子どものお下がりや日用品を無償でシェアリングしたり、住民間でリユース出来る場を提供しています。コイン機能は、貨幣経済に乗らないコミュニケーションを表現するために開発しました」(根本さん)

ニックネームなど匿名で利用でき、多世代間で情報交換が盛んに行われている(画像提供/コネプラ)

ニックネームなど匿名で利用でき、多世代間で情報交換が盛んに行われている(画像提供/コネプラ)

マンションの住民間で譲渡する品物を、ゆるく受け渡しできるキャビネも提案。部屋番号を明かさずに、気軽にモノのやり取りができる(画像提供/コネプラ)

マンションの住民間で譲渡する品物を、ゆるく受け渡しできるキャビネも提案。部屋番号を明かさずに、気軽にモノのやり取りができる(画像提供/コネプラ)

マンションの住民は、アバターや画像を選び、ニックネームを登録、パーソナル情報で「2歳の女の子がいます」「ランニング好き」など自由にプロフィールを公開設定できる。顔はわからなくても、「こういう人が近くに住んでいるんだな」とわかる。アプリ利用者は居住者のみで、また、コネプラが管理・運営を行ってくれるので、匿名不特定多数のSNSにはない安心感があると好評だ。

アプリ上住民同士で問題解決が進むなどマンション運営上のメリットも

GOKINJO は2023年11月10日現在、12箇所の分譲マンションや分譲地で使用されており、利用住戸数は、約2000戸、ユーザー総数は約3300人。20代から90代まで多世代に支持され、順調に導入物件を増やしている。

GOKINJOを導入したマンションの理事の声を紹介しよう。

新築で導入した東京都板橋区のマンション(約230戸)は、開始3年で住民の91%330名が利用している。30~40代の理事からは、「潜在的意見が出やすい」「理事会活動の可視化が図れる」という声がある。大阪市にある築8年のマンション(約280戸)では、住民の72%にあたる286名が利用。30代理事は、メリットに、「子育て世代に必須な近所の情報がわかり、譲り合いもできること」を挙げている。

アプリ投稿を組合運営に役立てたり、住民が情報交換することで問題解決できたり、居住者がランニングクラブを立ち上げ、GOKINJOを通じて集まったメンバーで練習・マラソン大会に参加するなどアプリからリアルへ展開したケースもある。お金で買えない体験は、マンションの価値向上にも繋がっている。

「壊れていた自転車置き場の空気入れを買い替えませんか?」という投稿に寄せられた使い勝手のいい製品の情報を管理組合に提案、共同購入に至った例(画像提供/コネプラ)

「壊れていた自転車置き場の空気入れを買い替えませんか?」という投稿に寄せられた使い勝手のいい製品の情報を管理組合に提案、共同購入に至った例(画像提供/コネプラ)

マンション以外では、分譲後30年が経過した佐賀県基山町けやき台の分譲地に導入。登録者のうち70%が年齢60代以上。掲示板をデジタル化するなどタイムリ―な情報発信で交流が活発に(画像提供/コネプラ)

マンション以外では、分譲後30年が経過した佐賀県基山町けやき台の分譲地に導入。登録者のうち70%が年齢60代以上。掲示板をデジタル化するなどタイムリ―な情報発信で交流が活発に(画像提供/コネプラ)

居住マンションの元理事で、GOKINJOを導入するきっかけをつくった奥井亮佑さん(30代)に詳しく伺った。

「2022年1月に、居住マンションの理事になり、マンション情報のデジタル掲示板づくりに取り組んでいるとき、GOKINJOに出会ったんです。課題解決の手段として理事メンバーで導入を検討し、半年間の検証期間を経て、採用に至りました」(奥井さん)

奥井さんは、GOKINJOを毎日利用するヘビーユーザー。「日次で情報が更新されますので、それを見るのが毎日の楽しみ。自分の投稿にたくさん『いいね』がつくと嬉しいです」と話す。

たびたび利用するというお譲り機能を利用して、子ども用の衣服、おもちゃ、電子機器などを譲渡した。マンションでは、年2回GOKINJOのお譲り機能をもちいたバザーを開催している。GOKINJOと組み合わせることで自宅に居ながら出品物をスマホで確認でき、大変便利だと大人気に。苺ジャムの蓋が固すぎて開けられなかった時、お助け機能タブでSOSしたというユニークな使い方も。マンションの中で、力自慢の人を募る投稿をしたところ、数分以内に立候補コメントが続々届きびっくり。集会室で公開開封式を実施し、無事に苺ジャムを美味しく食べることができたという。

「マンション居住者と挨拶する機会が増え、マンション全体が明るくなった気がしますね。アプリを通じて知り合った方々と、一緒にイベント(ゴルフコンペや、飲み会)の企画もするようになり、同一の趣味を持った知人が増えて、楽しいマンション生活を送れています」(奥井さん)

地域と連携した仕掛け(地域クーポン等)を使って、街を盛り上げることができるのもメリットだ。これからのGOKINJOに期待するのは、地域特化の防災情報の自動連係や、連携防災イベントの実現。理事会としても活用を広げていきたいと考えている。

GOKINJO導入のマンションではデジタルからリアルな交流へ発展する例も。マラソン大会や集会室でのボードゲーム大会など住民主体のイベントが開催されている(画像提供/コネプラ)

GOKINJO導入のマンションではデジタルからリアルな交流へ発展する例も。マラソン大会や集会室でのボードゲーム大会など住民主体のイベントが開催されている(画像提供/コネプラ)

同じ街をフォローする住民同士が交流できる東急「common」commonの利用イメージ(画像提供/東急)

commonの利用イメージ(画像提供/東急)

コミュニティ醸成型サービスには、同じマンションの住民に限らず、同じ街に住む人を対象にしたものもある。東急が運営するcommonは、投稿機能、譲渡機能、相談機能を搭載したアプリで、同じ街に住むご近所さんとの共助関係を生み出し、より良い街をみんなでつくるサービスだ。開発を主導した東急株式会社デジタルプラットフォームデジタル戦略グループの小林乙哉さんと池原雄大さんにプロジェクトの経緯を取材した。

小林さん(左)・池原さん(右)のお写真(画像提供/東急)

小林さん(左)・池原さん(右)のお写真(画像提供/東急)

不動産や鉄道、いわゆるハードの開発を行ってきた東急だが、少子高齢化などの課題解決のため、2010年代からソフトな街づくり、住民主体の街づくりを推進してきた。住民参加の街づくりを進める中で新たに生じた課題があった。

「二子玉川や池上などで住民参加や公民連携の街づくりに関わる中で、例えばイベントを実施した場合でも住民のごく一部の方しか参加していただけないということに気づきました。より多くの地域の住民の皆さまに何かしらの形で関わっていかないと解決できない課題が地域には多い中で、これまでの住民参加の街づくりのやり方の限界を感じました。また旧来の地域コミュニティが高齢化や担い手不足の問題を抱えている中で、デジタルを使って、新しい共助の仕組みをつくろうと2019年の末頃からプロジェクトがはじまりました」(小林さん)

東急が2019年に公表した長期経営構想のビジョン。CaaS(City as a Service)構想は、リアルな街づくりに加えて、デジタル技術を積極的に活用した新しい街づくりを目指している(画像提供/東急)

東急が2019年に公表した長期経営構想のビジョン。CaaS(City as a Service)構想は、リアルな街づくりに加えて、デジタル技術を積極的に活用した新しい街づくりを目指している(画像提供/東急)

地域に関心があってもきっかけがない、忙しくて関われない人は多い。そのような大多数の人たちに関わってもらえるような場をつくることがプロジェクトの使命だった。プロジェクトを進める中で、コロナ禍に突入。開発メンバーもテレワークになった。

「自宅にいる時間が長くなり、散歩をするようになってはじめて自分が暮らす街の魅力に気づいたんです。こんな素敵な景色があったんだ!と思った時に、同じ街に住む人同士で情報などを共有する方法が無いな、そういう場をつくれないだろうかと思うようになりました」(小林さん)

結果的に、開発メンバーのコロナ禍の体験が、街の景色や出来事、食や防犯・防災の情報などを共有できる投稿機能の開発に繋がった。

なんていうことのない見慣れた風景が輝く一瞬。写真は、多摩川のマジックアワー(画像提供/東急)

なんていうことのない見慣れた風景が輝く一瞬。写真は、多摩川のマジックアワー(画像提供/東急)

2021年3月、第1弾として二子玉川エリアでcommonの運用をスタートした。投稿機能のほか街の困りごとや疑問を解決していく「質問・回答機能」を提供。これらの機能を利用者が活用すると、街への貢献が数値として可視化される機能も搭載した。

街のどこで何が今起こっているかがわかるタイムラインとマップ ※デザインは当時のもの(画像提供/東急)

街のどこで何が今起こっているかがわかるタイムラインとマップ ※デザインは当時のもの(画像提供/東急)

相談に答えるなど街に貢献するとポイントがもらえる ※デザインは当時のもの(画像提供/東急)

相談に答えるなど街に貢献するとポイントがもらえる ※デザインは当時のもの(画像提供/東急)

「『同じ街に住む、働く特定多数の人とのコミュニケーション』を促進・活性化させるのが狙いです。2023年1月から対象エリアを東急線沿線全域に拡大しました。コミュニケーションできる範囲は、駅を基点とした生活圏単位に限定。二子玉川や自由が丘など駅名でエリアを提示し、好きな街、コミュニティに属したい街を選んでいただく形にしています。街をフォローする感覚が近いと思います」(小林さん)

■関連記事:
【東急・京急・小田急】少子高齢化で変わる私鉄沿線住民の暮らし。3社が挑む沿線まちづくり最前線

自分の持っているものを共有し街づくりに貢献

2023年12月末時点で累計ダウンロード数は約10万と着実に増加し、アプリ内での月間コミュニケーション数(投稿数、コメント数などのユーザー間のやりとりの合計)は30,000件を突破した。従来のSNSのような不特定多数でもなく、また特定の知り合いでもない、新しい交流が生まれている。運用開始前後からアンケートやインタビューを実施し、届いた声を開発に活かしてきた。どのような声が寄せられていたのだろうか。

街歩きで見つけたお蕎麦屋さん。「地域のお店こそ街のアイデンティティを形づくるもの」という考えから、ユーザーだけでなく、地域店舗も、広告費なし(無料)で利用できるようにした(画像提供/東急)

街歩きで見つけたお蕎麦屋さん。「地域のお店こそ街のアイデンティティを形づくるもの」という考えから、ユーザーだけでなく、地域店舗も、広告費なし(無料)で利用できるようにした(画像提供/東急)

「運用開始後のアンケートで多かったのは、譲渡機能の要望です。既存のサービスは、対象エリアが広域だったり、機能が有料だったり、身近な人に無償で譲りたいというニーズを満たせていないことがわかりました。commonが目指すのは、自分のリソースを他人の為に使って街に貢献できること。二子玉川エリアで運用を開始した直後から譲渡機能の開発の検討を進めていました」(池原さん)

2021年12月に実装された譲渡機能には、マイナンバーカード等の公的身分証明書を使った本人確認機能を導入し、安心して譲渡できる仕組みをつくった。「大きくて郵送料がかかるようなもの、お金をもらわなくてもいいものを譲る際に役立つ」と好評だ。小さなものなら、駅付近に設置した無料で利用できる「commonスポット」も用意されている。譲りたいものをロッカーに入れて対面なしでやりとりできるので、通勤・通学の合間にも手軽に譲渡できる。不要になった物を譲ることで、地域に関わるのは、ハードルが低く、地域コミュニティへの入口としてよさそうだ。

取引相手にのみ本人確認後の町名までの住所(例:世田谷区玉川)を公開する仕組み。確実に同じ街に住んでいるかを判別できる ※デザインは当時のもの(画像提供/東急)

取引相手にのみ本人確認後の町名までの住所(例:世田谷区玉川)を公開する仕組み。確実に同じ街に住んでいるかを判別できる ※デザインは当時のもの(画像提供/東急)

さらに、commonを使ったリユースプロジェクトが神奈川県座間市内全域で実施されている。市民間の無償譲渡の促進により廃棄物を減らすプロジェクト(実施期間:2023年10月23日~2024年2月29日)だ。画期的なのは、手渡しや「commonスポット」のほかリユース品を玄関先等へ出すことで、市の粗大ごみ収集・運搬を担う座間市リサイクル協同組合が回収し、貰い手の玄関先等へお届けする無料サービスを選択できること。高齢者や外出が難しい方の利用促進が期待されている。

2023年6月に搭載した相談機能では日々の暮らしの中で生まれた悩みについて、同じ街の人に相談したり、相談にのったりできる(画像提供/東急)

2023年6月に搭載した相談機能では日々の暮らしの中で生まれた悩みについて、同じ街の人に相談したり、相談にのったりできる(画像提供/東急)

植栽に関する相談の投稿に対して、地域の観葉植物・生花店がアドバイスを寄せてくれたこともある(画像提供/東急)

植栽に関する相談の投稿に対して、地域の観葉植物・生花店がアドバイスを寄せてくれたこともある(画像提供/東急)

「人口が減少していけば税収も減少し、自治体ができることが限られていく中、住民サイドで解決しなくてはいけないことが増えていくはずです。住んでいる方が地域に貢献できる仕組みがますます求められると思います。今のcommon には住民間の助け合いの機能しかないのですが、将来的にはユーザーの声が直接街づくりに繋がるような機能を増やしていきたいですね」(小林さん)

近年、少子高齢化や自然災害の増加などにより、地域住民間の共助の必要性は、高まる一方。見返りを求めないやりとりから新たな地域コミュニティを生み出す「GOKINJO」と、「common」。「親切にしてもらったから、私もしてあげたい」という人間の素直な気持ちに寄り添うサービスだと感じた。

●取材協力
・株式会社コネプラ
・common

「賃貸住宅に革命起こした『青豆ハウス』」「サラリーマン30代コンビ『週末縄文人』の縄文ぐらしに密着」【12月人気記事まとめ】

厳しい寒さが続くこのごろ。『SUUMOジャーナル』で12月に公開した記事では、「賃貸住宅に革命起こした『青豆ハウス』、9年でどう育った? 居室を街に開く決断した大家さん・住民たちの想い」「サラリーマン30代コンビ『週末縄文人』、石斧や土器から竪穴住居まで手づくり。文明ゼロからスタート、人気YouTuberの縄文ぐらしに密着」などが人気TOP10に入りました。見どころをご紹介します。

12月の人気記事ランキングTOP10はこちら!

第1位: 賃貸住宅に革命起こした「青豆ハウス」、9年でどう育った? 居室を街に開く決断した大家さん・住民たちの想い 東京都練馬区

第2位: サラリーマン30代コンビ「週末縄文人」、石斧や土器から竪穴住居まで手づくり。文明ゼロからスタート、人気YouTuberの縄文ぐらしに密着

第3位: 築36年賃貸が大人気の理由は”大家さん”?! マンガ1000冊読み放題(定期入替)やコーヒー無料などホスピタリティ満載「百合ヶ丘池上マンション」神奈川県川崎市

第4位: 地元企業の共同出資で生まれた絶景の宿「URASHIMA VILLAGE」。地域の企業が暮らしのインフラを支える時代が始まっている 香川県三豊市

第5位: 「高齢者が賃貸を借りづらい問題」に解決策はあるか? R65代表取締役に聞いた!

第6位: 転出超過つづきの危機から一転、転入者が10倍以上に!「おしゃれ田舎プロジェクト」の勢い、長野県小諸市が移住者から熱視線

第7位: 【JR中央線】家賃相場が安い駅ランキング2023年(東京-高尾32駅)。TOP3は多摩地域でALL5万円台!

第8位: 最大の不安は「物価高」。節約志向が高まるなかでも持ち家派が多数。住宅ローンの不安を軽減する方法を紹介

第9位: 賃貸住宅トレンド2024は個性強め! 注目4キーワードは趣味特化・店舗兼用・省エネ性能・デジタル化

第10位: 高騰続く新築マンション、2024年は買いやすくなる? 価格・金利上昇から見る買い時や注目の「省エネ性能」を解説
※対象記事とランキング集計2023年12月1~31日に公開された記事のうち、PV数の多い順

街に開かれた住宅、縄文時代の竪穴住居!? 新しい住まいの形に注目

第1位: 賃貸住宅に革命起こした「青豆ハウス」、9年でどう育った? 居室を街に開く決断した大家さん・住民たちの想い 東京都練馬区

賃貸住宅に革命起こした「青豆ハウス」、9年でどう育った? 居室を街に開く決断した大家さん・住民たちの想い 東京都練馬区

(画像提供/青豆ハウス)

「青豆ハウス」は、東京都練馬区にある賃貸住宅。”育つ賃貸住宅”というコンセプトを掲げ、2014年から住む人、集う人々がコミュニティを育んできました。9年の間には、設立時からいた住民の卒業も経験。その部屋は「欠番の部屋」とし、1階は “まちのキオスク”として地域に開き、2階は住民たちのもうひとつの部屋として活用することにしました。そして現在、「青豆ハウス」はどう育っているのでしょうか? 大家の青木純さんに、9年間を振り返ってもらいました。

第2位: サラリーマン30代コンビ「週末縄文人」、石斧や土器から竪穴住居まで手づくり。文明ゼロからスタート、人気YouTuberの縄文ぐらしに密着

サラリーマン30歳コンビ「週末縄文人」、石斧や土器から竪穴住居まで手づくり。文明ゼロからスタート、人気YouTuberの縄文ぐらしに密着

(写真撮影/嶋崎征弘)

チャンネル登録者数14万人超の人気YouTuber「週末縄文人」。30代のサラリーマン二人組「縄(じょう)さん」と「文(もん)」さんは、週末に現代文明を離れ、縄文時代の生活を再現する活動をしています。なんと、石斧や土器、竪穴住居もイチから手づくり! 二人には、高度なテクノロジーに支えられた現代の住まいや暮らしはどのように見えているのでしょうか。縄文生活は、現代の生き方にも変化をもたらしたのでしょうか。山の中の活動拠点にお邪魔して話をうかがってきました。

第3位: 築36年賃貸が大人気の理由は”大家さん”?! マンガ1000冊読み放題(定期入替)やコーヒー無料などホスピタリティ満載「百合ヶ丘池上マンション」神奈川県川崎市

賃貸の大家さんなのにユーチューバー!? 入居者「10年住んでも『これ以上ない』」小さな工夫と思いやり重ね続け、築36年・家賃相場より高くても満室続き「百合ヶ丘池上マンション」神奈川県川崎市

(写真撮影/片山貴博)

築36年の賃貸物件「百合ヶ丘池上マンション」は、周辺エリアの家賃相場より高いというのにほぼ満室、空室が出てもすぐ埋まってしまう人気物件。その秘密は、大家さんのユニークなアプローチ!住人が利用できるシェアルーム「サードプレイス102」にはマンガ1000冊(しかも中身は3カ月ごとに入れ替えされるサブスク制)の読み放題や無料コーヒーなどのサービスがあり、住民の生活を豊かにする工夫がいっぱい! しかも大家さんはYouTuberとしても活躍中。「こんな物件に住んでみたい!」という気持ちがかき立てられます。

第4位: 地元企業の共同出資で生まれた絶景の宿「URASHIMA VILLAGE」。地域の企業が暮らしのインフラを支える時代が始まっている 香川県三豊市

地元企業の共同出資で生まれた絶景の宿「URASHIMA VILLAGE」。地域の企業が暮らしのインフラを支える時代が始まっている 香川県三豊市

(撮影/Fizm藤岡優)

雲や夕焼けが映り込む“天空の鏡“と呼ばれる光景がInstagramで話題になり、年間50万人が訪れるようになった香川県三豊市の父母ヶ浜。 そんな父母ヶ浜に2021年1月、一棟貸しの宿「URASHIMA VILLAGE」がオープンしました。地元の民間企業11社による共同出資の仕組みは、今や三豊市の交通や教育、不動産などのベーシックインフラ整備にまで広がっています。飲み会から始まったという、この「URASHIMA VILLAGE」構想の仕組みとは? 事務局の瀬戸内ワークス・原田佳南子さんと、地域プロデューサーの古田秘馬さんにお話をうかがいました。

第5位: 「高齢者が賃貸を借りづらい問題」に解決策はあるか? R65代表取締役に聞いた!

「高齢者が賃貸を借りづらい問題」に解決策はあるか? R65代表取締役に聞いた!

(筆者撮影)

近年、報道もされている「65歳以上の高齢者は賃貸住宅を借りづらい」という問題。65歳以上の部屋探しを支援する「R65不動産」では、高齢者が入居できる物件を紹介するとともに、高齢者の賃貸入居を難しくする課題を解消する取り組みを積極的に行っています。高齢者の部屋探しには、どんな課題があるのか。その解決策は?実態について、代表取締役の山本遼さんに話を聞きました。

第6位: 転出超過つづきの危機から一転、転入者が10倍以上に!「おしゃれ田舎プロジェクト」の勢い、長野県小諸市が移住者から熱視線

転出超過つづきの危機から一転、転入者が10倍以上に!「おしゃれ田舎プロジェクト」の勢い、長野県小諸市が移住者から熱視線

(写真撮影/窪田真一)

長野県東部に位置する小諸(こもろ)市は、3年連続で転入者が転出者を上回ったことで注目を集めています。2021年には16人増、2022年は一気に169人増、2023年は7月末時点で187人増という人気ぶり。なんとその理由のひとつには、「まち歩きが楽しくなってきたから」という理由が挙げられるといいます。かつては年間100人を超える転出者が出ていたという小諸市を変えたのは、その名も「おしゃれ田舎プロジェクト」。若い人たちが出かけたくなる街づくりとは? プロジェクトの仕掛人で、小諸市役所で働く高野慎吾さんにお話をうかがいました。

第7位: 【JR中央線】家賃相場が安い駅ランキング2023年(東京-高尾32駅)。TOP3は多摩地域でALL5万円台!

【JR中央線】家賃相場が安い駅ランキング2023年(東京-高尾32駅)。TOP3は多摩地域でALL5万円台!

(写真/PIXTA)

東京を代表する路線の一つ、JR中央線。今回は、中央線内で東京都内に位置する駅の家賃相場を調査しました。東京駅から高尾駅の全32駅は、千代田区から八王子市まで、約53kmの沿線に点在しています。東京都、といってもその住環境はさまざま。もちろん家賃相場にも大きな違いが――? なんと、1位(最も家賃相場が安い駅)と32位(最も家賃相場が高い駅)には倍以上! さて、最も家賃が安い駅はどの駅でしょうか。

第8位: 最大の不安は「物価高」。節約志向が高まるなかでも持ち家派が多数。住宅ローンの不安を軽減する方法を紹介

最大の不安は「物価高」。節約志向が高まるなかでも持ち家派が多数。住宅ローンの不安を軽減する方法を紹介

(写真/PIXTA)

今回の記事では、カーディフ生命が2000人を対象に実施した「第5回 生活価値観・住まいに関する意識調査」を取り上げました。調査結果によると、対象者が現在最も不安に思っているのは「物価高」。しかし物価高による節約志向が進む中で、「家を買う派」は67.1%と依然、多数派に。住宅購入に対する憧れは健在のようです。この不安を軽減するための方法として、無理のない返済計画の立て方や、保険によるリスク軽減なども紹介。ぜひ一読して、将来の生活設計の参考にしてみてください。

第9位: 賃貸住宅トレンド2024は個性強め! 注目4キーワードは趣味特化・店舗兼用・省エネ性能・デジタル化

賃貸住宅トレンド2024! 注目キーワード4つ「コンセプト賃貸」「ナリワイ」「省エネ性能」「デジタル化」

(写真撮影/片山貴博)

賃貸といえばどれも似たような間取りで無個性――。そんな思い込みを裏切る個性的な賃貸物件が日本各地で少しずつ増えています。お店をひらけたり、相撲部屋付きだったり、農園付きの物件も!? 次に賃貸物件にやってくる新しい風とは? SUUMO副編集長でSUUMOリサーチセンター研究員でもある笠松美香氏によると、2024年の賃貸住宅トレンドは「コンセプト賃貸」「趣味特化型賃貸」「省エネ性能の強化」および「デジタル化」の4つが注目されているといいます。さっそく内容をチェックしてみましょう。

第10位: 高騰続く新築マンション、2024年は買いやすくなる? 価格・金利上昇から見る買い時や注目の「省エネ性能」を解説

高騰続く新築マンション、2024年は買いやすくなる? 価格・金利上昇から見る買い時や注目の「省エネ性能」を解説

ブリリア聖蹟桜ヶ丘ブルーミングテラス(写真提供/東京建物、東栄住宅)

「新築マンション」と検索すると「高騰」「億ション」など、景気の良い検索キーワードが表示される昨今。都市部では、新築マンションの価格は高騰を続けています。とはいえ、多くの世帯で収入が価格上昇に追いついていないのもたしか。このまま新築マンションは高嶺の花に――? 2024年の新築マンション市場はどのように動くのか。『SUUMO』編集長・SUUMOリサーチセンター長の池本洋一氏に、市場動向と買うべきときに見ておいてほしいポイントなど、最新事情を取材しました。

12月の人気記事ランキングでは、新しい賃貸住宅の形や不動産市場の動向を調査した記事などのランクインが目立ちました。まだまだ寒い日が続きますが、今年も住まいに関する新しい取り組みや、市場動向などを取り上げていきたいと思います。本年もよろしくお願い致します。

関心高まる「移住・二地域居住」 、促進に向け専門委員会が中間とりまとめを公表 これから何が変わる?

空家の増加が懸念されるなか、東京圏の転入超過数はコロナ禍で一時的に減少したものの、現在は再び増加している。一方で、若者世代を含めた移住や二地域居住の希望者が増加している。こうした状況下で、地方への人の流れを創出・拡大させようと、国土交通省では移住・二地域居住等促進専門委員会を設けて「移住・二地域居住」などを促進するための施策について審議を続け、この度その中間とりまとめを公表した。

【今週の住活トピック】
移住・二地域居住等の促進に向けた対応の方向性等をとりまとめ/国土交通省

地方移住や二地域居住への関心は高い

政府は、移住や二地域居住を促進することは、東京一極集中の是正や地方創生という課題について効果があると見ている。また移住や二地域居住の促進は、「関係人口」の創出拡大を通じた魅力的な地域づくりにも有効な手段と考えている。

関係人口とは、移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、特定の地域に継続的に多様な形で関わる人のことで、「二地域居住等」を行う人も含んでいる。なお、政府では二地域居住を「主な生活拠点とは別の特定の地域に生活拠点(ホテル等も含む)を設ける暮らし方」と定義している。必ずしも2つの地域に住まいがあることに限定していない。

さて、専門委員会の中間とりまとめを見よう。内閣府や国土交通省の調査結果から、地方移住や二地域居住への関心が高まっていると指摘している。まず、内閣府が2023年3月に行った「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」では、東京圏(東京都・埼玉県・千葉県・神奈川県)に居住する人の地方移住への関心は年々高まっている様子がうかがえる。

また、国土交通省が2023年8月~9月に行った「二地域居住に関するアンケート」で、二地域居住を行っていない人に二地域居住等を行いたいと思うか聞いたところ、27.9%が二地域居住を行いたい・行う予定があるなどの高い関心を示した。

地方移住への関心(東京圏)全年齢

出典/「国土審議会 推進部会移住・二地域居住等促進専門委員会中間とりまとめ」より

今後、居住地や通勤・通学先以外で、二地域居住等を行いたいと思いますか?

出典/「国土審議会 推進部会移住・二地域居住等促進専門委員会中間とりまとめ」の参考資料集より

このように関心が高まっている移住や二地域居住だが、実行するにはさまざまなハードルもある。

場所にしばられない働き方が可能になり、転職なき移住も

移住や二地域居住で最も高いハードルになるのが、「仕事や収入」といわれてきた。ところが、コロナ禍でテレワークが普及し、地方にいながらにして東京での仕事を続けることができるようになった。地方で希望の仕事が見つからない、地方での収入が都市部より低くて経済的に成り立たないといったハードルが低くなったことで、移住や二地域居住がしやすくなってきた。また、副業を禁止しない企業も増えているので、東京で本業を、地方で副業やボランティアを、といったスタイルが取りやすいことも追い風となっている。

パーソル総合研究所「地方移住に関する実態調査」(2022年3月作成)によると、移住した人の53.4%が「転職をしていない」と回答している。場所にしばられない働き方ができれば、「転職なき移住」も可能になるわけだ。もちろん、残りの半数近くは転職や独立・起業をしているので、それを支援する手立ても必要となる。

移住に伴う転職・職務変更

出典/「国土審議会 推進部会移住・二地域居住等促進専門委員会中間とりまとめ」の参考資料集より

「住まい」「なりわい(仕事)」「コミュニティ」の3本柱

次に、「地域コミュニティへの参加のしやすさ」というハードルもある。地域独特のルールに馴染めないといったことや、「よそ者」に対する寛容性が低い地域、性別や世代などによる偏見が残っている地域があったりして、移住や二地域居住の障害になる場合もある。

そこで、中間とりまとめでは「住まい」「なりわい(仕事)」「コミュニティ」を3つの柱に据えて、それぞれの課題や対応の方向性を提示している。

「住まい」「なりわい(仕事)」「コミュニティ」の課題

出典/「国土審議会 推進部会移住・二地域居住等促進専門委員会中間とりまとめ」より

移住や二地域居住の促進をするための施策についてのとりまとめなので、「中間とりまとめ」ではそれぞれの対応策について、地方自治体が取り組むべき内容や実際に取り組んでいる自治体の事例などを詳しく紹介している。さらに、受け入れる個々の地方自治体だけでなく、民間との連携や地域間、基礎自治体と広域の都道府県との連携も必要であり、区域外就学制度などの子どもの学びの環境づくりなど、横断的な対応も必要と指摘している。

筆者が取材した地方移住者の場合、空き家はあるのによそ者には売ったり貸したりしたくないという風潮があり、それが大きな課題となったという事例もあった。その事例では、移住者のサポートをする橋渡し役の人が地元住民に働きかけて意識を変えたことで、移住者向けの空き家が増え、新たなコミュニティが形成されて、今では多くの移住者や地元住民と良い関係が築けていた。

中間とりまとめは、かなり細かい点にまで言及した提言となっている。実際に行うのは難しい内容も多いが、新しい人材を求める自治体には積極的に取り組んでほしい。働き方や家族のライフスタイルなどが変化している今こそ、障害を減らして魅力を発信できる自治体が移住先・二地域居住先として選ばれていくだろう。

●関連サイト
国土交通省の報道発表:移住・二地域居住等の促進に向けた対応の方向性等をとりまとめ
「国土審議会 推進部会移住・二地域居住等促進専門委員会中間とりまとめ」
「国土審議会 推進部会移住・二地域居住等促進専門委員会中間とりまとめ」の参考資料集

「要求定義」から自宅リノベを始めてみた。建築家とアイデアふくらみ想像以上の仕上がりに!【後悔しないマンションリノベのコツ】

スタートアップ企業でUXリサーチャーとして働く松薗美帆さん。昨年、都内にある築41年のマンションをリノベーション。パートナーとの新生活をスタートさせました。

建築家とリノベーションのプランを検討するにあたり、松薗さんが最初に着手したのが「要求定義」。仕事でサービスの開発や改善を行う際に欠かせないプロセスを、家づくりに導入したといいます。

家づくりの要求定義って、何をどうまとめればいいのでしょうか? 建築家の反応は? やってみて分かったことは? やりたいことを実現するための要求定義のポイントを、松薗さんに伺いました。

「曲線の壁」で分かれる、表と裏の空間

ともあれ、まずは完成した家を見てみましょう。

松薗さん、建築家の坂田裕貴さん・marieさんの3人チームでつくりあげた住空間。松薗さんたちが暮らしに求める機能はもちろん、坂田さん、marieさん発案の驚きのアイデアも随所に盛り込まれています。

松薗美帆さん。スタートアップ企業にて新規事業の立ち上げやUXリサーチの仕組みづくりに取り組む。大学院に社会人学生として在学中(写真撮影/池田礼)

松薗美帆さん。スタートアップ企業にて新規事業の立ち上げやUXリサーチの仕組みづくりに取り組む。大学院に社会人学生として在学中(写真撮影/池田礼)

設計を担当した坂田さん(左)、marieさん(右)にもお話を伺った(写真撮影/池田礼)

設計を担当した坂田さん(左)、marieさん(右)にもお話を伺った(写真撮影/池田礼)

最大の特徴は、フロア全体に立てられた「曲線の壁」です。

L字型のフロアに「正円」を描いた特徴的な間取り。L型と曲線が重なり、円の外側と内側にさまざまな空間を生み出している(写真提供/a.d.p Inc.)

L字型のフロアに「正円」を描いた特徴的な間取り。L型と曲線が重なり、円の外側と内側にさまざまな空間を生み出している(写真提供/a.d.p Inc.)

円の内側は「ホールスペース」。ソファに座って景色を眺めたり、読書をしたり。使い方を限定しない抽象的な空間で、松薗さんたちが暮らしながら用途を発見していくスペースになっている(写真撮影/池田礼)

円の内側は「ホールスペース」。ソファに座って景色を眺めたり、読書をしたり。使い方を限定しない抽象的な空間で、松薗さんたちが暮らしながら用途を発見していくスペースになっている(写真撮影/池田礼)

等間隔の間柱が、空間に一定のリズムを刻む(写真撮影/池田礼)

等間隔の間柱が、空間に一定のリズムを刻む(写真撮影/池田礼)

一方、円の外側にはプライベート空間と生活機能が集約されている。ここは松薗さんの寝室兼ワークスペース(写真撮影/池田礼)

一方、円の外側にはプライベート空間と生活機能が集約されている。ここは松薗さんの寝室兼ワークスペース(写真撮影/池田礼)

そこから本棚のある通路を抜けてキッチンへ。さらに進むと洗面やパートナーの個室などがある(写真撮影/池田礼)

そこから本棚のある通路を抜けてキッチンへ。さらに進むと洗面やパートナーの個室などがある(写真撮影/池田礼)

円の内側は「均一さ」を意識し、バーチ材で統一。一方、外側は各スペースの機能や、松薗さん、パートナーの趣味嗜好を反映させた内装になっている(写真撮影/池田礼)

円の内側は「均一さ」を意識し、バーチ材で統一。一方、外側は各スペースの機能や、松薗さん、パートナーの趣味嗜好を反映させた内装になっている(写真撮影/池田礼)

L型に折れることで分断されていた空間を、曲線がゆるやかにつないでいる(写真撮影/池田礼)

L型に折れることで分断されていた空間を、曲線がゆるやかにつないでいる(写真撮影/池田礼)

ひとつながりの壁の「表」と「裏」を行き来しながら暮らす、不思議で楽しい住まい。かくもユニークなアイデアは、いかにして生まれたのでしょうか?

松薗「初回の打ち合わせの時に話していたのは、室内に“縁側”のような余白スペースをつくること。また、L型の形状を活かして、生活の機能と余白スペースを分けることでした。L型に曲線を重ねるアイデアは、2回目の打ち合わせの時に坂田さんからご提案いただいたものです。思いもよらない発想に感動して『もう、これしかないな』と」

坂田「生活機能と余白スペースを分ける際に、普通に直線的な壁を立ててしまうと、幅が均一になり空間にメリハリをつくることができません。図面を眺めながら思案するうちに『もしかしたら、ここに正円を描けるんじゃないか』と閃いて。CAD(コンピューターで図面作成を行うツール)で描いてみたら、本当にすっぽりとおさまりました。円が外側に膨らむ部分は窮屈になる懸念もありましたが、棚を置きつつ人が通れるくらいのスペースは確保できています。今回は現地での実測がかなり正確にできていたことも、プランを実現するうえで大きなポイントでしたね」

例えば、右側の空間は奥に向かって広がっていくような間取りになっている。ここを個室にするなど、曲線により生まれる空間のメリハリを活かして生活の機能を分けている(写真撮影/池田礼)

例えば、右側の空間は奥に向かって広がっていくような間取りになっている。ここを個室にするなど、曲線により生まれる空間のメリハリを活かして生活の機能を分けている(写真撮影/池田礼)

「要求定義」にプロの発想が加わり、想像以上の仕上がりに

リノベーションにあたり、はじめに松園さんが着手したのが「住まいの要求定義(※)」。日ごろ、UXリサーチャーとしてサービスを開発する際に行うプロセスを、家づくりに取り入れました。

※要求定義……システム開発プロジェクトにおいて、システムを通して何を実現したいのかを分かりやすくまとめていくプロセス

松薗「先に良い物件が見つかって、申し込みをしたのと同時に、建築家さんにお渡しするための要求定義をまとめました。リノベで実現したいことや、私とパートナーのライフスタイル、各部屋の詳細なプランも全て書き出して。文字だけでなく具体的な間取りを描いてみたり、イメージボードを作成してみたりと、私たちのやりたいことがなるべく正確に伝わるように心がけました。普段の仕事でやっているのと同じようなことですね」

物件の内覧を重ねるなかで「自分たちがやりたいこと」、逆に「これだけは避けたいこと」が分かってきたと松園さん。それらを整理し、要求定義に落とし込んだ(画像提供/松薗さん)

物件の内覧を重ねるなかで「自分たちがやりたいこと」、逆に「これだけは避けたいこと」が分かってきたと松園さん。それらを整理し、要求定義に落とし込んだ(画像提供/松薗さん)

現状のライフスタイルも、なるべく具体的に書き出した(画像提供/松薗さん)

現状のライフスタイルも、なるべく具体的に書き出した(画像提供/松薗さん)

具体的な間取りのイメージや、各部屋の雰囲気、素材のイメージ、求める機能なども細かくまとめている(画像提供/松薗さん)

具体的な間取りのイメージや、各部屋の雰囲気、素材のイメージ、求める機能なども細かくまとめている(画像提供/松薗さん)

なお、要求定義をまとめた時点で設計を依頼する建築家は確定しておらず、坂田さんのほか大手のリノベ専門会社を含めた複数の候補がいたそう。最終的に知人に紹介された坂田さんを選んだ決め手は、松薗さんの要求をそのまま受け取るのではなく、要求定義をふまえつつ、プロの視点で思いもよらない提案を打ち返してくれたことだったといいます。

松薗「UXデザインの仕事でも、ユーザーの要求をそっくりそのまま受け取って形にすることはありません。そこにプロの知見や発想が加わるからこそ、よりよいサービスやプロダクトが生まれます。坂田さんやmarieさんも、私の要望をいったん受け止め、自分のなかで解釈したうえで魅力的なアイデアをいくつも出してくれました。このお二人となら私たちが求める暮らしを叶えつつ、想像を超えるような面白い家をつくれるんじゃないかと思いましたね」

坂田「施主さんは自分のライフスタイルを最も理解していて、僕らは常に家のことを考えている。その両者がお互いに意見やアイデアをすり合わせることで、最適解にたどり着けると思っています。美帆さんは家づくりに対して確固たる意志や要望をお持ちでありながら、僕らなりの解釈やアイデアも柔軟に受け止めて、面白がってくれました。本当にやりやすかったですし、楽しく取り組むことができましたね」

「建築家とお客さんではなく、一緒に家をつくるチームのようなスタンスが感じられたのも良かった」と松薗さん(写真撮影/池田礼)

「建築家とお客さんではなく、一緒に家をつくるチームのようなスタンスが感じられたのも良かった」と松薗さん(写真撮影/池田礼)

大量の本は「仕事で使う本」「大学院の研究で使う本」「趣味の本」と大きく3種類に分類し、仕事の本は個室スペースの本棚へ、研究や趣味の本はリビングの本棚へ置いている。「marieさんから『用途ごとに分けて置くのはどうか』とご提案いただきました。目的の本を、使う場所ですぐに取り出せて便利です」と松薗さん(写真撮影/池田礼)

大量の本は「仕事で使う本」「大学院の研究で使う本」「趣味の本」と大きく3種類に分類し、仕事の本は個室スペースの本棚へ、研究や趣味の本はリビングの本棚へ置いている。「marieさんから『用途ごとに分けて置くのはどうか』とご提案いただきました。目的の本を、使う場所ですぐに取り出せて便利です」と松薗さん(写真撮影/池田礼)

左奥の扉はパートナーの個室。パートナーのオンライン会議の声が気にならないよう、お互いの個室を離して配置している(写真撮影/池田礼)

左奥の扉はパートナーの個室。パートナーのオンライン会議の声が気にならないよう、お互いの個室を離して配置している(写真撮影/池田礼)

最も気に入っている場所は、ホールスペースのソファ。目の前には本棚や観葉植物など、松薗さんの好きなものが並ぶ(写真撮影/池田礼)

最も気に入っている場所は、ホールスペースのソファ。目の前には本棚や観葉植物など、松薗さんの好きなものが並ぶ(写真撮影/池田礼)

建築家がアイデアを出しやすくなる要求定義を

はじめに要求定義をまとめる利点は、施主と建築家の目線合わせのほか、言った・言わないのトラブル防止、大まかな費用の共有など、さまざまです。

また、設計側から見ても、こんなメリットがあると坂田さんは言います。

坂田さん「通常の場合、僕らは最初に施主さんにヒアリングをして要求を引き出していきます。このプロセスには結構な労力と時間がかかるので、お客さん側で要望やイメージをある程度まとめておいていただけるのは有り難いですね。そのぶん、こちらもクリエイティブな作業に時間を使えて、より良いアイデアが生まれやすくなると思います」

一方で、松薗さんには反省点もあるのだとか。

松薗さん「かなり細かいところまで、具体的に書きすぎてしまったかなと。最初に坂田さんたちを含む複数社に要求定義をお伝えした時、会社さんによってはそのまま受け取られて、プロならではの提案があまり出てきませんでした。
少なくとも、最初の時点で間取りまで描く必要はなかったですね。『個室と個室は離してください』と伝えるくらいに留めておいて、具体的な間取りについては専門家にお任せしたほうが魅力的なプランをご提案いただけると思うので」

(写真撮影/池田礼)

(写真撮影/池田礼)

松薗さんが言うように、具体的すぎる要求定義は建築家の思考を制限してしまうかもしれません。最初の段階では詳細なプランではなく、住まいに求めることや理想の暮らしを抽象化して伝えたほうがよさそうです。

ともあれ、精度の高い要求定義が、満足度の高いアウトプットにつながるのは確か。リノベーションに限らず、家づくりのプロセスに取り入れてみてはいかがでしょうか?

●取材協力
松薗美帆さん
a.d.p Inc.

室温18度未満で健康寿命が縮む!? 脳卒中や心臓病につながるリスクは子どもや大人にも。家の断熱がマストな理由は省エネだけじゃなかった

「もしナイチンゲールが日本で活躍していたら、今ごろ日本の住宅は夏も冬も快適だった!?」「しかも住宅が快適なら、日本の生活習慣病の患者はもっと少なかったかも知れない!?」。にわかに理解しがたい話ですが、世界と日本の住宅環境の差が分かってくるほどに、さもあらんと思えてくるのです。住宅と健康の関係についての第一人者である慶應義塾大学教授の伊香賀俊治先生のお話から、世界との違いや、住宅と健康との密接な関係を紐解いていきましょう。

慶應義塾大学 理工学部 教授、日本建築学会 前副会長 伊香賀 俊治(いかが・としはる)先生(写真提供/伊香賀先生) 

慶應義塾大学 理工学部 教授、日本建築学会 前副会長 伊香賀 俊治(いかが・としはる)先生(写真提供/伊香賀先生) 

WHOが「冬は室温18度以上にすること」と強く勧告

今から約5年前。2018年11月にWHO(世界保健機関)は「住宅と健康に関するガイドライン」を公表しました。その中で各国に「冬は室温18度以上にすること」を強く勧告しましています。特に子どもや高齢者には「もっと暖かい環境を提供するように」と言葉が添えられました。

・WHOは「温かい住まいと断熱」を勧告

WHO(世界保健機関)は「住宅と健康に関するガイドライン」

WHOは「冬の室温は18度以上」と強く勧告し、「子どもと高齢者にはもっと温かく」としています。また新築時と改修時の断熱対策や夏の室内での熱中症についても勧告しています。近年、ヒートショックによる健康被害はメディアでもよく取り上げられるようになりましたが、高齢者特有の問題と思われている人も多いのではないでしょうか。
出典:WHOウェブサイト 2018.11.27公表

なぜWHOは年齢を問わず「冬の室温18度以上」にこだわるのでしょうか? 伊香賀先生によれば「冬の室温が18度以上であれば、呼吸器系や心血管疾患の罹患・死亡リスクを低減することが、エビデンス(根拠)は中程度だとしながらも、確認できたからです」と言います。

またイギリスはWHOの勧告より前の、2011年に住宅法を改正し、室温を18度以上に保つことを賃貸住宅に義務づけました。達成できない賃貸住宅に対して行政は解体命令を出すこともできます。賃貸住宅を対象にしたのは、お金持ちではない人々の住宅環境を改善しようという狙いからです。

さらに、日本とは北半球と南半球の違いはあるものの、緯度がほぼ同じで、島国であるという共通点のあるニュージーランドでも住宅の断熱性能を高める施策が行われています。2009年~2014年にかけて断熱改修の補助金制度が実施されたのですが、その成果を検証したところ、断熱改修によって居住者の入院頻度が減少したそうです。

こうした流れの中、日本では2022年に住宅性能表示基準が一部改正され、従来1等級から5等級まであった住宅の断熱等級の、上位等級として6等級と7等級が新設されました。さらに2025年からはすべての新築住宅に、断熱等級4以上の適合が求められ、遅くとも2030年には、ZEH基準(※)の水準が義務化されます。これは、入居者の健康はもちろん、住まいでの消費エネルギーを抑え、地球温暖化を避けるカーボンニュートラルの観点から決められたロードマップによるものです。

足の血行と冷えを改善する断熱性の良い住まい

足元の温度が低いと健康被害につながる血流低下が起きる。等級6の高性能な住まいであればこの問題は大幅に低減されることがわかる。
出典:河本紗弥、伊香賀俊治ほか:住宅断熱性能の違いが生理学的反応及び在宅作業成績に及ぼす影響に関する被験者実験、日本建築学会環境系論文集Vol.87, No.798, 2022.8

なお「断熱等級4で室温を18度にしても、足元は16度くらいになるでしょう。それでは十分な効果は得られないんです。足元も18度にならないと。現在のZEH基準とほぼ同等の、断熱等級5でやっと足元も18度になりますから、私が推奨する断熱等級は5以上です」と伊香賀先生。「義務化」とは「最低でもここまで」というレベルということです。

※ZEH/ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスのこと。太陽光発電の搭載等により、生活で消費するエネルギー量を実質ゼロ以下にすることができる

日本で室温18度以上だった都道府県は北海道をはじめ、わずか4道県

では2025年以降の新築ではなく、日本の既存住宅の断熱性能はどうなっているでしょう。少し前ですが、国土交通省は2014年に「スマートウェルネス住宅等推進調査」を実施しました。この調査には伊香賀先生も参加しているのですが、調べてみると、冬に室温18度以上だった都道府県は20度だった北海道をトップに、わずか4道県に過ぎませんでした。一方で、比較的温暖と思われている地域ほど、住宅の室温が低いという結果が現れたのです。

・温暖地ほど住宅の中が寒いという傾向が見られる

温暖地ほど住まいが寒い

冬の在宅中の居室において、平均の室温を調査した結果が上記。比較的温暖な九州や四国でも16度以下の都道府県があることがわかります。
出典:海塩 渉、伊香賀俊治、村上周三ほか、冬季の室温格差~日本のスマートウェルネス住宅全国調査~、Indoor Air. 2020 Nov;30(6):1317-1328

そもそも、断熱を高める要の「窓」に対して、日本人の関心は薄いようです。窓は住宅の中で最も大きい “熱の出入り口”。二重窓や複層ガラス窓、樹脂製や木製など金属製でないサッシにすれば断熱性能を高められます。しかし日本の「二重サッシまたは複層ガラス窓の設置範囲」の平均は、約30%しかありません。

一方で、窓を二重窓や複層ガラス窓にした、いわゆる断熱住宅が普及している都道府県ほど、冬に死亡者数が増えないという傾向があります。それが下記のグラフです。

・断熱住宅普及県ほど冬に死者が増えない

断熱住宅普及県ほど冬に死者が増えない

ここで言う「断熱住宅」とは「二重サッシまたは複層ガラス窓のある住宅」を指す。断熱性能を高めるのは断熱材など窓以外の考慮も重要だが、窓に配慮がなされている、つまり断熱意識が高い住宅という点だけで見ても大きな差になることがわかる。
出典:総務省「住宅・土地統計調査2008」と厚生労働省「人口動態統計2014年」都道府県別・月別から伊香賀先生が分析グラフ化

冬に死亡者が増える理由としては、冬の寒さによって血圧が上昇し、高血圧性疾患のリスクが増えることがまず挙げられます。さらに寒さは、肺の抵抗を弱らせて肺感染症リスクを高めたり、血液を濃化することで冠状動脈血栓症リスクを増加させます。

しかし上記グラフから、冬の寒さに起因するこれらの3大リスクを、住宅の室温が高い「温かい家」なら抑えられると推測できるのです。

室温を18度に上げると生活習慣病が改善される

国土交通省は先述の調査に加え、「住宅の断熱性能を高めたら健康的になれるのか?」の継続調査や研究を行いました。伊香賀先生を含む建築と医療の研究者80名のチームは「断熱等級1~2の住宅を断熱改修(リフォーム)によって断熱等級3~4にすると、居住者の健康にどう影響するのか」を調査。すると「まだサンプル数が不足しているので、医学論文には出せませんが」としながらも「生活“習慣”病は生活“環境”病だと言い得る」ということがわかったと言います。

では、その具体的な結果を見ていきましょう。まずは「高血圧症のリスク」についてです。

一般的に寒いと血圧は高くなり、また高齢者ほど高血圧になります。高血圧症は脳梗塞などの脳血管障害や心臓病、腎臓病、動脈硬化を引き起こす要因になります。朝起きた時の室温と「血圧」との関係は下記の通りで、80歳の男性の場合、室温20度ではまだ薬が必要なほど高血圧の状態です。

・朝起きたときの室温と血圧の関係

朝起きたときの室温と血圧の関係

室温が寒い&年齢が高いほど血圧が高いことがわかります。80歳の男性の場合、室温20度でも血圧が140mmHg近くです。
出典:伊香賀先生の資料より、JSH2014(日本高血圧学会:高血圧治療ガイドライン2014)

「これが住宅の断熱改修をすると、血圧が平均で3.1mmHg低下するとわかったのです。厚生労働省は国民の健康のために血圧を4mmHg下げる数値目標を掲げていますが(健康日本21(第二次))、食事の工夫や運動といった生活習慣を改めなくても、住宅の断熱改修を高めるだけで目標の約8割を達成できまることになります」

さらに「脂質異常症の発症を抑制する」面でも断熱改修の効果が現れました。脂質異常症とは、血液中の脂質の値が基準値から外れた状態のこと。いわゆる悪玉コレステロールや中性脂肪などの血中濃度が異常だという状態です。

この脂質異常症の発症を改修前と改修から5年後に調査したところ、居住者の脂質異常症の発症するオッズ(発症した人の数を発症していない人で割って得られる値。数値が小さいほど発症が起きにくいことを示す)が約0.3倍(約7割減)まで下がったのです。

・コレステロール値と室温の関係

レステロール値と室温の関係

上記の通り、温かい寝室で過ごしている人ほど脂質異常症を発症するオッズが減ります(伊香賀先生の資料より)

私たちは高血圧症や循環器疾患という「生活習慣病」は食生活を見直して、適度な運動をし、飲酒や喫煙を抑え、十分休養することで改善できると考えてきました。しかし上記の伊香賀先生たちの調査によって、そういった日頃の摂生だけではなく、暮らしの環境を整えるだけでもこうした病気のリスクを減らすことができるというわけです。伊香賀先生が「生活習慣病は生活環境病でもある」と唱える意味がわかると思います。

・高血圧・循環器疾患は生活環境病でもある

高血圧・循環器疾患は生活環境病でもある

(伊香賀先生の資料より)

日本で断熱意識が欠落していた理由とは?

実は以前から欧米では、健康に対する住宅の重要性を説いていた、と伊香賀先生は言います。だからこそ先述の通りWHOの勧告があり、イギリスや、歴史的にイギリスと関係の深いニュージーランドで住宅に対する施策が行われたのです。

では、なぜ日本ではこれまで、欧米のような住宅の高断熱化に関心が集まらなかったのでしょうか。

その理由は、今から約700年前の1330年代に書かれた『徒然草』にもあるように、日本の住宅は昔から、夏の気温や湿度を重視して建てられてきたからです。徒然草には「家の作りやうは、夏をむねとすべし。冬は、いかなる所にも住まる」とあります。少なくとも700年も前から日本人は「家は夏の暑さに対してなんとかすれば、冬はなんとでもなる」という考えが“当たり前”だったと考えられます。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

一方イギリスでは、19世紀にナイチンゲールが活躍していました。彼女は「どうすれば病気に罹らないか」「どうすれば病気から快復させることができるか」といったことをまとめた『看護覚え書』を1860年に刊行します。同書は全13章で構成されているのですが、その第一章は「換気と暖房」。冒頭からもう、温かい環境について言及しています。しかも13章中、実に半分以上の7章が生活環境、つまり住宅にも関係することです。イギリスで国民の健康政策に住宅が含まれるのは、この『看護覚え書』の考えが影響しているのは想像に難くありません。

・ナイチンゲールの看護覚え書

ナイチンゲールの看護覚え書

第一章以外にも「きれいな空気や水」「物音」「よい環境の変化」「陽光」など、暮らしの環境について言及されていますが、それらを押さえて最初にナイチンゲールが伝えたかったのが「換気と暖房」だと言えるのではないでしょうか(伊香賀先生の資料より)

ですから冒頭で触れたように、日本でもしナイチンゲールが活躍していたら、日本の住宅は断熱性能が高くなり、それによって生活習慣病が今よりも抑えられていたかもしれない、というわけです。

室温を18度に上げると老若男女問わず健康的に暮らせる

WHOが強く推奨する「室温を18度以上」にすると、伊香賀先生たちの調査の通り、血圧の上昇や脂質異常症の発症を抑えやすくなります。しかしそれ以外にも健康に資することが調査でわかってきました。いずれも「まだ調査のサンプル数が足りないので、医学論文にできるほどではない」のですが、それでも住宅の室温と健康の密接な関係が見えます。

例えば「夜間頻尿」。夜中にトイレに何度も起きると眠りが浅くなり、翌日に疲労感が残りがちですが、断熱改修した5年後には夜間頻尿の発症が0.42倍(約6割減)に抑えられました。夜間頻尿は高齢になるほど増えると言われていますが、調査は改修前と改修の5年後。ですから、対象者は調査期間中に5つ歳を重ねたことになります。それでも夜間頻尿を抑えられたのです。

夜間頻尿発症モデル

就寝前室温18℃以上で5年後の夜間頻尿発症が 0.4倍に(伊香賀先生の資料より)

続いて「つまずき」が減ることもわかりました。65歳以上の高齢者にとって「つまずき」を含む「転倒・転落・墜落」は、不慮の事故による死因の中で交通事故の4倍(令和2年度)にものぼる死因です。しかし、これも断熱改修の5年後には0.5倍(約5割減)に低減されています。「その理由は足元の温度です。室温が18度以上になると、足元は少なくとも16度以上になりますから、足首などの血流がよくなり、つまずきが減るのだと考えられます」

暖かい住宅で5年後のつまずき・転倒が0.5倍

(伊香賀先生の資料より)

室温18度以上の「温かい家」では、高齢者だけでなく、子どもや女性も健康的になるようです。まず風邪をひく子どもが約0.64倍(約4割減)に、病欠も約0.76倍(約3割減)になるという結果が現れました。また女性では月経前症候群(PMS)が0.7倍(約3割減)に減り、月経痛は約0.5倍(約5割減)に。

暖かな住まいでは風邪をひく子どもが約0.64倍、病欠する子どもが約0.8倍

(伊香賀先生の資料より)

さらに、こんな実験も行われました。断熱等級2と4、6の3つに分けた部屋でそれぞれエアコンを使い、まず室温を18度にします。その上で各部屋の被験者に単純な計算等をしてもらったところ、断熱等級6の部屋の被験者が最も正解率が高いとわかりました。これは断熱等級が低いと室温を18度にしても、足元が寒くなり、足の血流が悪くなることが正解率に影響を与えたと考えられます。「つまり在宅ワークにも、住宅の断熱性能は欠かせないということです」

このように自宅を「寒い家」から「温かい家」に改修するだけで、格段に健康的に暮らせるのです。もちろん断熱性能が高まれば、今夏のような暑さの中でも我が家に逃げ込めば快適に過ごせます。

ちなみに、先ほどの断熱等級2/4/6に分けた実験では、それぞれの部屋の冬の電気代(エアコン)も試算されました。それによると断熱等級2が2万8000円だったのに対し、断熱等級4は1万3000円、断熱等級6は7000円。我が家の断熱性能を高めれば光熱費を抑えられて、仕事がはかどり、しかも健康的に暮らせるというわけです。
この冬、こたつや暖房の効いたリビングに家族で集まった折に、我が家の断熱性能について話し合ってみてはいかがでしょうか。

●取材協力
慶應義塾大学 理工学部 教授
日本建築学会 前副会長
伊香賀 俊治(いかが・としはる)先生
1959年東京生まれ。1981年早稲田大学理工学部建築学科卒業、同大学院修了。(株)日建設計環境計画室長、東京大学助教授を経て、2006年慶應義塾大学理工学部教授に就任、現在に至る。日本学術会議連携会員、日本建築学会副会長、日本LCA学会副会長を歴任。主な研究課題は『住環境が脳・循環器・呼吸器・運動器に及ぼす影響実測と疾病・介護予防便益評価』。著書に『すこやかに住まう、すこやかに生きる、ゆすはら健康長寿の里づくりプロジェクト』『”生活環境病”による不本意な老後を回避するー幸齢住宅読本ー』など。

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WHO Housing and health guidelines

100万円でタイニーハウスをDIY。ノンフィクション作家が6年かけて9.9平米ロフト付きの小屋を作るまで 川内有緒『自由の丘に、小屋をつくる』

「セルフビルドで小屋をつくる」と聞くと夢物語に感じるが、未就学の子どもと夫、それに友人たちを巻き込んでつくり上げた人がいる。ノンフィクション作家の川内有緒さんだ。

DIY未経験だった彼女はDIY工房に通うことから始め、構想から6年かけて9.9平米ロフト付きの小屋を完成させた。その様子は、エッセイ『自由の丘に、小屋をつくる』(新潮社)にまとめられている。

セルフビルドをする際の土地探しの決め手や完成までにかかった金額、セルフビルドで押さえるべきポイント、小屋づくりを始めたきっかけについて川内さんに伺った。

「土地探しって難しい。縁があったこの流れに乗ろう」と土地を決めた

小屋

山梨県甲州市の塩山、山の中腹にある集落に川内さんのつくった小屋がある。

「甲府の街を一望できる上に、山並みも見えます。空への抜け感は、土地を選ぶ上で大切なポイントでした」

当初は、明るい林の中に立つ小屋を想像していた川内さん。土地探しでは長野県や千葉県の房総半島も視野に入れたが範囲が広すぎて決められなかった。そこに運命の出会いが訪れる。夫のイオさんの友人でフリーランスライターの小野民さんから「使っていない自宅の土地があるので、好きにしてどうぞ」と言われたのだ。その一言をきっかけに、初めて塩山の地を訪れた。

土地の広さは約100坪。同じ敷地に、民さんの夫で、発酵デザイナーの小倉ヒラクさんが、研究用のラボをコンテナでつくる計画が進んでいた。
その隣に、川内さんも小屋をつくることに決めた。無理なく建築できる広さを考えた結果、床面積は9.9平米、天井の高さは約3メートルの小屋になった。

「予想外のひと言から始まった計画ですが、こういう土地ってなかなか出会えないので、この流れに乗ろうと決めました。友達の建築家も『眺めが良くていいじゃないですか』と太鼓判を押してくれたんです。それに山梨県甲州市は特急に乗れば、東京から90分というアクセスも魅力的。車でも2時間半ほどですし、さまざまなルートで自宅と小屋を往復できることも後押しになりました」

朝早い時間に東京を出れば、午前中には塩山に到着できる。準備と片付けに約1~2時間ほどかかるセルフビルドでは、交通の利便性の良さがポイントになった。

「選んだ土地から、一番近いホームセンターまでは車で10分ほどでした。ビスやペンキが足りない時はすぐ買いに行けますし、道路と面した土地なので、資材を運ぶにも都合が良かったです」

ホームセンターには、1日に3往復することもあったそう。「段取りをうまくやればそんなに行く必要はないはずなんですけど」と川内さんは笑うが、慣れない初心者のセルフビルドには想定外はつきものだ。出来るだけ資材を調達・運搬しやすい土地を選んだのが成功の鍵にもなった。

セルフビルドで感じた「形ができていく喜び」

作業の様子

川内さんの小屋づくりは、伸び放題の草を刈り、土地をならし、基礎をつくるところから始まった。

「最初の作業は肉体労働が大半で、本当にしんどかったです。材料は重たいし、基礎に必要なパーツは大きいし、家具をつくるのとは全然違う。それでも最初のころはやる気があるから、なんとか完成させられました」

基礎が完成した先は、DIYで家を好きなようにアレンジする感覚に近いのだそう。

「こだわりを詰め込んで理想を追求しつつも、現実に打ちのめされながら実行していくんです」

話を伺っているとどの作業も大変そうに聞こえるが「小屋をつくっていると仲間が増えていくので、作業は楽になっていきますよ」と語る。

確かに川内さんのエッセイでは、小屋づくりに関わる仲間たちがどんどん増えていく。大工の丹羽さんや建築家のタクちゃんといった専門家から、時には小屋づくりに興味を持った子どもたちまで参加していくのだ。ノンフィクション作家で人脈があるのかと聞いてみると、そうではないという。

「小屋をつくっていることを話すと、『手伝いたい』と言ってくれる人が続々と現れるんです。家をきれいにする参考にしたいとか、大工仕事が好きで手伝いたいとか。作業には興味ないけど、楽しそうだから見に来たいという人もいます。人手が足りない時は、誰かに話してみるのも一つの手だと思います」

小屋づくりに関わるのは、川内さんの友人だけではない。近隣の人が声をかけてくれることもあったという。

「うちの草刈り機を使った方が早いよ、と貸してくださることもありましたね。それにセルフビルドをやっている方々からどういう風に施工したか、教えてもらうこともありました」

小倉ヒラクさんの知り合いで温泉・旅館を営む人から、資材をもらったこともある。

「昔の民家が取り壊される時に、貴重な資材をレスキューしている方なんです。それでいろんな材料をいただきました。でも古材だと厚みが違って加工が難しいんですよね。バラバラの質感でも問題ないウッドデッキをつくるのに使いました」

現地でも人の縁に恵まれているのには、理由があった。

「私たちが現地で受け入れてもらえたのは、土地を持っている小倉家の人たちが地域の人たちから信頼されているからだと思うんです。彼らはこの地に移住してきたんですけど、丁寧に交流を重ねているんですよね。私たちはその信頼を借りているだけだと感じました」

小屋づくりの予算は100万円

作業の様子

小屋づくりにかかった日数は、合計で約30日。構想から6年、着手してからは完成までに4年かかったが、毎日コツコツと続ければ約1カ月で仕上がる日程だ。さらに、電気もトイレもエコ仕様なのだそう。

「うちは太陽光パネルを使い、水道は小倉家や周りの人に借りる。排泄物は微生物の力で堆肥にかえるコンポストトイレを使っています」

小屋づくりの予算は100万円と決めていた川内さん。その内訳は大きく分けると、「工具や材料」「直接経費ではない移動や宿泊費」のほか、大工さんへの指導の謝礼金といった細々したものに分けられる。

「資材にかかったのは70万円弱でしょうか。ベニヤは、当時1枚約900円のものを使っていました。今は資材が高騰していて2倍以上の値段になっていると思います。とはいえ、どのくらいお金をかけているかは途中からどうでもよくなってしまったので、追えてない部分もあるかもしれません」

屋根を張る時は足場をつくらず、それぞれの足の高さを調整できる脚立を使うことで、安定を確保した。

「セルフビルドって安全にどれだけ配慮できるかが大切なので、そこにはお金を惜しまない方が誰も怪我をしないで済むと思います」

【工具や材料の内訳】

工具(丸ノコ、インパクトドライバー、ねじまわし、脚立など)約10万円ベニヤ約4万円基礎約3万円太陽光パネルと蓄電池約5万円ドアや窓の建具約15万円断熱材約5万円屋根材約5万円床材約5万円漆喰・ペンキ約3万円外壁材・外壁塗装約7万円その他、ビスなどの消耗品約3万円お気に入りは、ヘリンボーンの床とハイジの窓

ヘリンボーンの床

小屋でのお気に入りは2カ所。1つは、床材をV字に組み合わせたヘリンボーンの床だ。

「床張りに挑戦する前に、知り合いのカフェに話を聞きにいきました。そのカフェでは自分たちでヘリンボーンの床を張ったそうで、『通常の2~3倍の時間を見ていれば、できなくはないよ』と助言をいただきました。カフェは床面積が広いから大変だろうけど、私たちは9.9平米だからできるんじゃないかと、挑戦することにしたんです」

ヘリンボーンはカット済みの木材を送ってもらい組み立てるキットも売られているが、川内さんは自分たちで床材を加工するところから始めた。

作業の様子

「効率的にやる方法もあるけど、時間をかけて出来上がることを選択しました。ヘリンボーンの床は木材の端が直角に交わらず、折り合うように重ねるので組み方が難しいんですよ」

川内さんのもう1つのお気に入りは、テレビアニメ『アルプスの少女ハイジ』に憧れてつくったロフトの小さな窓だ。目黒通りにある注文家具店でガラスと木材を注文し、指導を受けながら川内さん自身がデザインから考えた。

ロフト

ロフトの小さな窓

「『アルプスの少女ハイジ』に登場するハイジの寝室の丸い窓に憧れていたんですよね。だから構造上は必要ないんですが、ロフトには最初から窓を付けようと決めていました。窓から山並みを眺める時間は、最高です」

イキイキと話す川内さんに「セルフビルドで一番楽しかったことは何か」を尋ねた。

「できていく喜び、ですかね。『ここまでできた』という達成感があるんです。つくることは楽しいけど、全部が全部楽しい作業ではないですね。考えたことが形になっていく工程が面白いんじゃないでしょうか」

作業の様子

完成した小屋には、春や秋の過ごしやすい時期に月に1度は赴くという。

「夏は行ったり行かなかったり。冬は気温がマイナス10度になってしまうので行かないんです」

現地では、忙しく小屋仕事をしているそう。

「木造なのでメンテナンスをしないと傷んじゃうんです。無垢の木材やウッドデッキは年に2回は塗装しています。それだけでも半日仕事なんですよ。それに敷地を整えたり、やることは山ほどあります。普段はパソコンで仕事することが多いから、体をのびのびと動かすいい機会になっています。たくさん動いたら、仲間と家族で焚火を囲んで食事する。いい気分転換になります」

「自分で何でもつくれる」という手応えを経て変わった価値観

作業の様子

DIY未経験から、セルフビルドで小屋をつくるまでの背景には、どんな思いがあったのか。

「『買わなくても、自分で何でもつくれると思えたら、最強じゃないか』と思ったんです。人によってはそういう思いが野菜づくりなどに向けられるんでしょうけど、私の場合はDIYに向かいました。自分で自宅をいじれたら面白いだろうなって思っていたんです」

小屋づくりを終えてからは、自宅のテーブルを継ぎ足して幅を変えるなど、気軽にやれることが広がってきたと話す。

「実家に母と妹が住んでいるんですけど、そこのリフォームも続けています。本来なら大工さんやリフォーム会社に頼むところを、自分たちで進めていけるので面白いですよ」

川内さんの娘のナナさんも2歳ころから、小屋づくりのために両親と共に山梨に通い、時に作業に参加しながら育ってきた。どんな影響があったのだろうか。

「セルフビルドをする人生としない人生は比べられないし、明確に小屋のおかげとは断言できません。けど、いろんな大人と関わって、さまざまな職業や人生があることを知るきっかけになったのではないでしょうか。火を起こして焚火するとか、椅子をつくろうと思えばすぐに取り掛かれるとか。都会だと体験できないことをたくさんしてきたので、いい影響もあるんじゃないかな」

そんなナナさんは現在、小学生。工作好きに育っているそうだ。

「人生って、限られた時間と素材の中でどう遊ぶか? という大きなプロジェクトでもあると思うんです。そう考えると、彼女の自ら遊びを生み出す力は、生きていく上で大きなアドバンテージになるのかもしれませんね」

川内さんの小屋づくりには、「セルフビルドなんて、私には無理」と一蹴するにはもったいないと思わせる時間と環境が詰まっていた。もしかすると、夢物語を現実にするために必要なのは、憧れを口にする勇気と、賛同してくれた仲間たちを大切にすることなのかもしれません。

『自由の丘に小屋をつくる』●取材協力
川内有緒さん
ノンフィクション作家。著書に『パリでメシを食う』『バウルを探して』『空をゆく巨人』『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』などがある。最新刊はセルフビルドの過程を綴った 『自由の丘に小屋をつくる』。

<取材:結井ゆき江 / 編集:ピース株式会社>

リノベーション・オブ・ザ・イヤー2023に見るリノベ最前線! グランプリは「高級トイレ空間」、シニア世代の「2度目の二人暮らし物件」など

1年を代表するリノベーション作品を決める「リノベーション・オブ・ザ・イヤー」。11年目となる2023年の授賞式が12月14日に開催されました。267のエントリー作品の中から選び抜かれた総合グランプリをはじめ、各受賞作から、リノベーションの今を読み解きました。

【注目point1】買取再販リノベ物件の「一点もの」化

近年、特に大都市圏では中古マンションの買取再販リノベーション事業に参入する事業者が大幅に増え、それとともに再販リノベ物件数も数を伸ばしています。買取再販リノベーションとは、事業者が中古マンションを購入してリノベーションを施し、リノベ済み物件として販売する形態のこと。

数が増えることで競争も激しくなり、そのためリノベ内容にも、コンセプトやデザイン、性能向上などの面において差別化を図った「一点もの」的な作品の増加が顕著になっています。今回の受賞作品やエントリー作品ではそうした特徴的な買取再販物件が多く見受けられました。

一般的に、買取再販リノベ物件は販売しやすいように、万人向けの設計やデザイン、コストパフォーマンスの良さなどが優先されてきましたが、徐々に一点もの的な作品が増えつつあり、大手事業者の再販物件においても差別化戦略が図られています。コスト面の制約はあるものの、買取再販リノベ物件は設計者やプランナーの豊かな発想が発揮できる側面もあり、買い手の心により響く物件となります。今後のバリエーションの広がりも期待されます。

総合グランプリを受賞した【誰もが快適に過ごせる特別な高級トイレ空間「プレミアムT」】もまさにそうした一点もの。今回、審査陣を最も驚かせた作品となったようです。

●総合グランプリ
【誰もが快適に過ごせる特別な高級トイレ空間「プレミアムT」】 株式会社bELI

ソファのほか、折り畳みテーブルまで設置され、まるで書斎のよう。ここで長時間過ごせる居室のような快適性が見てとれます(写真提供/株式会社bELI)

ソファのほか、折り畳みテーブルまで設置され、まるで書斎のよう。ここで長時間過ごせる居室のような快適性が見てとれます(写真提供/株式会社bELI)

(写真提供/株式会社bELI)

(写真提供/株式会社bELI)

小ぶりな洋室を、トイレとしては広々した「プレミアムT」とシューズインクローゼットに改変(写真提供/株式会社bELI)

小ぶりな洋室を、トイレとしては広々した「プレミアムT」とシューズインクローゼットに改変(写真提供/株式会社bELI)

総合グランプリに輝いた【誰もが快適に過ごせる特別な高級トイレ空間 「プレミアムT」】は、難病指定のクローン病と戦う友人がきっかけとなり誕生したプロジェクト。クローン病とは主に小腸や大腸などの消化管に炎症が生じる病気で、下痢などの症状が慢性的に発生し、長時間トイレへの滞在を強いられます。「持病の有無を問わず、誰もが快適に過ごせるトイレ空間をつくること」「普段の暮らしでは周りに理解されにくい苦しみと戦う人たちがいることを知ってもらうこと」がこのプロジェクトの目的。

舞台は川崎市の築30年超のマンションの住戸。トイレと洋室を一体化し、居室としても機能する空間を演出しています。折り畳み机、ダウンライトスピーカー、床暖房、涼風機能つき暖房機など快適設備も搭載。「リフォームを通して誰かの役に立ちたい」というアツい思いが形になりました。

誰でも使いやすいトイレ空間を創造した作品ですが、そこに暮らす住人が要望したユニバーサルデザイン空間なのかと思いきやそうではなく、物件完成後に売り出して買い手を見つけるという買取再販リノベ物件として市場に登場させたわけです。持病を抱えた人にポジティブに寄り添う温かい気持ち、ユニバーサルデザインの新たな形を示した点も高い評価を受けつつ、再販リノベ物件としたことについてのつくり手の勇気を讃える声が上がり、総合グランプリ受賞へとつながりました。

●レスキュー・リノベーション賞
【東京下町の古民家よ、再び】 株式会社コスモスイニシア

時を経た飴色の建具などをふんだんに意匠に加え、まるで古民家のような懐かしい風情に(写真提供/株式会社コスモスイニシア)

時を経た飴色の建具などをふんだんに意匠に加え、まるで古民家のような懐かしい風情に(写真提供/株式会社コスモスイニシア)

(写真提供/株式会社コスモスイニシア)

(写真提供/株式会社コスモスイニシア)

【東京下町の古民家よ、再び】は、古い家屋で使われてきたドアや引き戸、障子などの建具、収納扉、家具などをふんだんに用いた買取再販リノベ物件。「古材レスキュー」という古民家を残す活動をしている方々から譲り受けたものを再利用しています。既存資源を活用するという観点に加え、古き良きものを生かして個性的な空間に仕立てている「一点もの」の再販物件に仕立てたチャレンジングな姿勢に注目が注がれていました。

●ウェルネス・リノベーション賞
【健康寿命社会~もう一度ふたり暮らし~】 株式会社アネストワン

木のぬくもりに包まれた空間は、見た目での心地よさも感じさせてくれます(写真提供/株式会社アネストワン)

木のぬくもりに包まれた空間は、見た目での心地よさも感じさせてくれます(写真提供/株式会社アネストワン)

(写真提供/株式会社アネストワン)

(写真提供/株式会社アネストワン)

【健康寿命社会~もう一度ふたり暮らし~】は、シニア世代にフォーカスし、快適で健康なシニアライフを送れるように住宅性能を高めた再販リノベ物件。全館空調、二重窓、全熱交換機で断熱性、快適性を向上させ、住戸の温度を均一に保ち、ヒートショックを予防。漆喰壁やチーク材フローリング、麻のタイルカーペットなど自然素材をふんだんに取り入れ、素材面でも安らぎを意識しています。

【注目point2】古くて無個性のものに、異なる表情を付加

画一的であったり無個性であったり、世の中から見捨てられがちな物件を新しいものに生まれ変わらせるのも、リノベーションの醍醐味です。今回、注目されたのは古い団地、古いホテルなどに手を加えたケース。何の変哲もない既存施設を、そのまま朽ちさせたり建て替えたりするのではなく、誰もが心地よく過ごせる価値ある場所に生まれ変わらせた点が高く評価されています。こうした作品を見ると、既存資源の活用という面において、リノベーション業界は重要な社会的役割を担っているのだということを強く感じます。

●800万円未満部門最優秀賞 ●プレイヤーズチョイス・アワード
【これからの団地リノベのあり方を問う。】 株式会社フロッグハウス

調湿性のある杉材をふんだんに使った室内。ぐるっと回り込める家事楽なキッチン動線で暮らしやすく(画像提供/株式会社フロッグハウス)

調湿性のある杉材をふんだんに使った室内。ぐるっと回り込める家事楽なキッチン動線で暮らしやすく(画像提供/株式会社フロッグハウス)

(画像提供/株式会社フロッグハウス)

(画像提供/株式会社フロッグハウス)

800万円未満部門最優秀賞とプレイヤーズチョイス・アワード(※)をW受賞した【これからの団地リノベのあり方を問う。】。神戸市にある築46年の団地の一室を、入居検討者や団地に暮らす人のためのモデルハウスに生まれ変わらせた作品で、断熱、家事動線、地産地消を軸に、団地リノベの新たな姿を提案しています。

ひどい結露、玄関収納や脱衣所がないといった、築年数の経った団地特有の不便さを解消すべく、断熱改修し、玄関と水回りの面積を1.5倍の広さにしてベビーカーを置ける玄関、室内干しできる脱衣所を設けました。地元産の杉をふんだんに内装に用い、木の香が漂う空間に。家事を楽にする回遊動線、曲線美の造作キッチン、ワークスペースなど、ターゲットの子育て世代だけでなく、団地に長年暮らしてきた高齢世帯をも惹きつける要素が盛り込まれ、画一的な団地の部屋が清々しさを感じる空間へと一新されています。

※「プレイヤーズチョイス・アワード」とは、エントリーした事業者が自社以外でベストだと思うリノベ作品を選ぶ、今回新設された賞です(他の賞はメディア関係者が審査員となり、作品を選ぶ)

●無差別級部門最優秀賞
【「記憶」を刻み、「記録」を更新する『the RECORDS』】 株式会社拓匠開発

こぢんまりした古いビジネスホテルが、映えスポットに華麗に転身。公園に大きく開いた開放的な空間で心地良いひとときを(画像提供/株式会社拓匠開発)

こぢんまりした古いビジネスホテルが、映えスポットに華麗に転身。公園に大きく開いた開放的な空間で心地良いひとときを(画像提供/株式会社拓匠開発)

(画像提供/株式会社拓匠開発)

(画像提供/株式会社拓匠開発)

(画像提供/株式会社拓匠開発)

(画像提供/株式会社拓匠開発)

【「記憶」を刻み、「記録」を更新する『the RECORDS』】はビジネスホテルを複合商業施設へコンバージョンした作品です。千葉公園に面した立地の良さという最大のポテンシャルをビジネスホテル時代にはまったく生かせておらず、1階は駐車場、公園に面したテラスも資材置き場となっていたそう。客室の窓も小さく、せっかくの眺望も魅力減。

駐車場を大きな窓のある大空間に変え、上階の床を抜いて吹き抜けをつくり、開放的で映えるラウンジ空間に。容積率にカウントされない駐車場を店舗にすると床面積を減らさざるをえないというハードルを、上階の床をなくし吹き抜けにすることで解決した手法も見事です。公園の緑の借景と相まって、地元の人々がふらっと立ち寄って心豊かに過ごせる場所になりました。

RC造で間仕切壁も多く、再生するには障害が多い物件。取り壊して新築するのが一般的と思われますが、「再構築し、新たな目的の施設に再生させ、その結果を示すことが地域活性化につながる」というつくり手の信念で成し遂げられたプロジェクトとなりました。

【注目point3】残すべきものを残す、古民家再生

生活様式の変化による暮らしにくさなどによって、かつて多くの古民家が振り返られることなく解体される一方だった時代がありました。しかし太い柱や梁、震災にも耐えてきた強い構造など、本物の建材と匠の技でつくられた家は残すべき資産であるとの認識から、循環型社会が叫ばれるよりも以前から古民家を再生して住み継いでいくという意識が高まり、再生事業も数を伸ばしてきました。

しかし、住宅リノベーションの中でも、古民家の再生には多大な苦労が伴います。耐震性、断熱性の確保はもとより、現代のライフスタイルに合った水回りへの改修や間取りの改変などは、現代の住宅より手間もコストも嵩みがちなことも障壁となり、住宅としてより公共施設や商業施設として活用される傾向が多い現状もあります。今回は自宅として住み継いでいく古民家再生のお手本のような作品に注目しました。

●1500万円以上部門最優秀賞
【戻す家】 株式会社モリタ装芸

(写真提供/株式会社モリタ装芸)

(写真提供/株式会社モリタ装芸)

梁の現れた大きな吹き抜け+土間のある空間。時を経て古びた味わいある素材に囲まれて、趣きのある暮らしが詰まっているのを感じます(写真提供/株式会社モリタ装芸)

梁の現れた大きな吹き抜け+土間のある空間。時を経て古びた味わいある素材に囲まれて、趣きのある暮らしが詰まっているのを感じます(写真提供/株式会社モリタ装芸)

(写真提供/株式会社モリタ装芸)

(写真提供/株式会社モリタ装芸)

【戻す家】は、新潟の豪雪地域に立つ築125年の古民家を再生させた作品です。雪の重みで屋根が一部崩れ、廃墟のような有様だったそう。しかし建物を支える立派な柱や梁、土壁、無垢の床材などでつくられたこの家を見て、「残すべき使命を感じた」という施主の思いで再生プロジェクトがスタート。

耐震、断熱の問題を抱えた建物を、一度、基礎と躯体構造を残して土壁や床材などを解体。土壁は叩いて細かくし、土として保管。床材は丁寧に水洗い。柱や梁を1本1本磨き上げ、壁に土を塗るなど、手間のかかる作業を施主夫妻や両親も交え根気良く続けたそう。そうした手間暇をかけたからこそ、より愛着の持てる住まいとなったのではないでしょうか。室内は間取りや水回りを暮らしやすく変更しつつ、この家で使われてきた床板、土壁など、サスティナブルな材料を再活用することで建設費も抑え目に。新しいものに変えた部分は最小限にとどめたことにより、内部の古めかしさが残り、その古めかしさを愛でられる住まいとなりました。

●ディスカバー・リノベーション賞
【風通る、地域コミュニティの再編】 paak design株式会社

外観も室内も、日本家屋の古き良き佇まいのままに(写真提供/paak design株式会社)

外観も室内も、日本家屋の古き良き佇まいのままに(写真提供/paak design株式会社)

(写真提供/paak design株式会社)

(写真提供/paak design株式会社)

(写真提供/paak design株式会社)

(写真提供/paak design株式会社)

【風通る、地域コミュニティの再編】は、日本家屋の伝統様式が詰まった、鹿児島の大地主の邸宅を再生した作品。補修部分には既存と同じ素材を用い、土間に隣接した田の字の畳間を含め、間取りをほとんど変えることなく、かつての面影を色濃く残した佇まいに改修しています。

農家だったこの家には、以前よりご近所さんは玄関ではなく広い土間へ訪ねてきて、自然と井戸端会議の場となることもしばしばだそう。オーストラリアから移住してきた施主は地域コミュニティに関心が高く、一時期は希薄となっていた地域社会に異文化の要素も加わり、以前の日本社会が持っていた農村地での交流に新たな風が吹く場となりました。

【ここも注目!】間取りの可変性に関する斬新な提案

将来の間取り変更を容易にしてくれるギミック「柱のフレームでアウトライン化しておく」という新たな提案も高い関心を集めました。

●1500万円未満部門最優秀賞
【アウトラインの行方】 株式会社grooveagent

未来のための“フレーム”が、マンション空間とは思えないような個性を生んでいます(写真提供/株式会社grooveagent)

未来のための“フレーム”が、マンション空間とは思えないような個性を生んでいます(写真提供/株式会社grooveagent)

(写真提供/株式会社grooveagent)

(写真提供/株式会社grooveagent)

リノベーションが一般的になってきた今、家族の成長・家族数やライフスタイルの変化などによって、2度、3度とリノベーションを行うケースも見られるようになっています。【アウトラインの行方】は、そうした状況を踏まえ、将来の子ども部屋のためのグリッドをあらかじめ柱材でフレーム化しておくという、可変性の高さを感じさせる作品です。

きっかけは施主に第二子が生まれ、この先子どもが何人になるのか、いつ個室を必要とするのかがわからず、「間取りを自由に変えられる工夫」を求めたこと。その答えが最初のリノベ時にフレームでアウトライン化しておくこと。部屋を増設する際に壁を立てる工程が簡略化できることから、将来のコストを大幅に削減できるメリットがあります。施主がDIYすることも容易に。多様な使い方も可能で、さらにフレームが空間のデザイン要素となり、楽しい仕掛けにもなっています。

【ここも注目!】地方の「実家問題」に一石

全国、特に地方にある実家の後継問題に一石を投じるリノベ作品も見受けられました。

●実家リノベーション技術賞
【タクミノイエリノベ2】 有限会社斉藤工匠店

純和風の家屋をコーヒーの香り漂うカフェ的空間に。造作キッチンを中心に、梁と柱の現しのある吹き抜けが開放的(写真提供/有限会社斉藤工匠店)

純和風の家屋をコーヒーの香り漂うカフェ的空間に。造作キッチンを中心に、梁と柱の現しのある吹き抜けが開放的(写真提供/有限会社斉藤工匠店)

(写真提供/有限会社斉藤工匠店)

(写真提供/有限会社斉藤工匠店)

【タクミノイエリノベ2】は、親が暮らす実家に子世帯がUターンを決意し、大きな家屋の2階部分に大胆なリノベを施した作品。「1人暮らしの親の高齢化でどう管理していく? 空き家になったら? 相続はどうする? 大量の荷物は誰が片づけるのか?」。そういった、地方にある「実家」にありがちな問題を、いつか誰かが向き合うこととUターンリノベを決意。

福島県に立つ築45年の古家。耐震診断とインスペクションを行い、既存真壁の断熱改修。南面の大開口の構造補強をしつつ、造作ソファからの景色も設計思想に生かし、ラフに腰掛けた先の窓辺に、景色を連続的に切り取る格子を設置。「珈琲を楽しむ空間」を目指したミニマムな仕立てになっています。「物価高の昨今、既存の建物や建材を活用しないのはもったいない。ものを大切にする心で実家リノベに向き合う人が増えれば、地方が活気づき社会もうまく回る気がする」との高い意識で臨んだリノベです。

【ここも注目!】多彩な手法で個性的空間が完成

ほかにも既存の概念に囚われない自由な発想で行われたリノベ作品が目白押し。要注目です。

●ライフ・リノベーション賞
【緑とミドリ/お家とお店】 株式会社日々と建築

軽量鉄骨造のシンプルな平家を木造軸組工法で補強&増築。ボロボロだった元の家からは想像できないほど素敵な「木の家」に生まれ変わりました(写真提供/株式会社日々と建築)

軽量鉄骨造のシンプルな平家を木造軸組工法で補強&増築。ボロボロだった元の家からは想像できないほど素敵な「木の家」に生まれ変わりました(写真提供/株式会社日々と建築)

(写真提供/株式会社日々と建築)

(写真提供/株式会社日々と建築)

●フレキシブル・リノベーション賞
【遊び心は無限大!顧客に響く賃貸リノベ】 株式会社住環境ジャパン

約51平米・2DKの賃貸物件を光と風の抜ける1LDKに。オーナーが「趣味が多めの人」を想定し、定額制リノベーションパッケージでつくられた遊び心ある空間です(写真提供/株式会社住環境ジャパン)

約51平米・2DKの賃貸物件を光と風の抜ける1LDKに。オーナーが「趣味が多めの人」を想定し、定額制リノベーションパッケージでつくられた遊び心ある空間です(写真提供/株式会社住環境ジャパン)

(写真提供/株式会社住環境ジャパン)

(写真提供/株式会社住環境ジャパン)

●ユニバーサル・デザイン賞
【What is Barrier “Free”?】 株式会社grooveagent

施主夫妻の日常動作を洗い出すことから始め、段差の解消、スイッチ位置の工夫など細かい配慮を重ねた作品です。実用性とデザイン性の両面で住人に合ったバリアフリー空間を実現(写真提供/株式会社grooveagent)

施主夫妻の日常動作を洗い出すことから始め、段差の解消、スイッチ位置の工夫など細かい配慮を重ねた作品です。実用性とデザイン性の両面で住人に合ったバリアフリー空間を実現(写真提供/株式会社grooveagent)

●和洋折衷リノベーション賞
【松竹梅の「欄間」―ローテンブルクと時の記憶―】 G-FLAT株式会社

元の家にあった松竹梅の透かし彫りの欄間に惚れ込んで、和洋折衷に仕上げた空間の顔に(写真提供/G-FLAT株式会社)

元の家にあった松竹梅の透かし彫りの欄間に惚れ込んで、和洋折衷に仕上げた空間の顔に(写真提供/G-FLAT株式会社)

●劇的ワンポイント・リノベーション賞
【A Castle “In the House”】 株式会社ブルースタジオ

壁を1枚加えることでつくり出される新たな子どものための空間を含め、随所までこだわりあるデザインを施した住まいに(写真提供/株式会社ブルースタジオ)

壁を1枚加えることでつくり出される新たな子どものための空間を含め、随所までこだわりあるデザインを施した住まいに(写真提供/株式会社ブルースタジオ)

●ムーバルリノベーション賞
【動く家】 有限会社中川正人商店

キャンピングカー専門会社ではなく、リノベ会社が手がけた「家」のようなキャンピングカーのインテリア空間です(写真提供/有限会社中川正人商店)

キャンピングカー専門会社ではなく、リノベ会社が手がけた「家」のようなキャンピングカーのインテリア空間です(写真提供/有限会社中川正人商店)

●伝統建材リノベーション賞
【新しい価値観の持ち主たちへ。】 株式会社アトリエいろは一級建築士事務所

山梨学院大学のキャンパス内カフェ。ガラス張りのスタイリッシュな空間に約3500枚の廃瓦を積んだ壁と瓦屋根のカウンターが存在感を放ち、瓦の魅力を再発見できます(写真提供/株式会社アトリエいろは一級建築士事務所)

山梨学院大学のキャンパス内カフェ。ガラス張りのスタイリッシュな空間に約3500枚の廃瓦を積んだ壁と瓦屋根のカウンターが存在感を放ち、瓦の魅力を再発見できます(写真提供/株式会社アトリエいろは一級建築士事務所)

(写真提供/株式会社アトリエいろは一級建築士事務所)

(写真提供/株式会社アトリエいろは一級建築士事務所)

●インキュベーション・リノベーション賞
【近大発ベンチャー創出拠点「KINCUBA Basecamp」】 リノベる株式会社

近畿大学内にあった書店をインキュベーション(起業家創出)施設へコンバージョン(写真提供/リノベる株式会社)

近畿大学内にあった書店をインキュベーション(起業家創出)施設へコンバージョン(写真提供/リノベる株式会社)

●連鎖的エリアリノベーション賞
【お手本のようなエリアリノベーション】 株式会社タムタムデザイン

「まちの食交場」をいくつか整備することでエリアの回遊性を高めるという視点が新鮮。文化的なコミュニティの創出が街の活性化につながっています(画像提供/株式会社タムタムデザイン)

「まちの食交場」をいくつか整備することでエリアの回遊性を高めるという視点が新鮮。文化的なコミュニティの創出が街の活性化につながっています(画像提供/株式会社タムタムデザイン)

ストック活用が当たり前の今、リノベで究極の「一点もの」を

2023年は、前年から続く物価上昇が引き続きリノベーション業界にも直撃し、軒並み建築費の高騰を招いています。さらに、いわゆる建設業の「2024年問題」(時間外労働の上限規制適用による建設費上昇懸念)、2025年の新築住宅の省エネ基準適合義務化などにより、つくり手側はさまざまな対応が求められることとなります。改正建築物省エネ法は新築物件が対象ではありますが、この先、中古リノベ物件にも高い省エネ性能や創エネ機能が消費者や社会から求められることも想定されます。

シビアな時代にありながらも、リノベ業界は創意工夫や独自のコスト管理等で、建設費を抑えることがより必要となるでしょう。その工夫の一環として既存建築物や建材の再活用が挙げられます。今回の受賞作品にも、こうした既存ストックを最大限活用した作品が数多く登場し、リノベには、新築にはあまり見られない、既存のものを最大限有効活用するという「もったいない精神」が宿っているという印象を強く持ちました。

また一方で、「すべての人が使いやすいユニバーサルデザインの空間を形として示したい」「古くても解体せず、新たな場所を創設して結果を示すことで地域経済の活性化につなげたい」「実家Uターンリノベで地方を活づけたい」といった、人に対する優しい思いや社会に対する高い変革意識に満ちた、数々のリノベ作品もとても印象深く、温かい思いが心に残りました。

リノベ作品は、暮らす人が心地よく幸せに過ごせるよう、さまざまな手法やアイデアが盛り込まれた、まさに究極の「一点もの」。2024年にはどんな新たなタイプの作品が登場するのか、今から楽しみです。

赤絨毯に盛装が決まっている受賞者のみなさん。2024年も素晴らしい作品を期待していま す!(写真提供/リノベーション協議会)

赤絨毯に盛装が決まっている受賞者のみなさん。2024年も素晴らしい作品を期待しています!(写真提供/リノベーション協議会)

●取材協力
リノベーション協議会「リノベーション・オブ・ザ・イヤー2023」

2024年も3省連携で住宅省エネキャンペーンを実施。省エネで補助金がもらえるのは?内容を詳しく解説

住宅の省エネ化を推し進めている政府は、さまざまな優遇制度を設けている。国土交通省・経済産業省・環境省の3省連携による住宅省エネキャンペーンが2023年にスタートしたが、2024年も同様のキャンペーンを展開することが決まり、昨年末に2024キャンペーンのホームページが公開された。キャンペーン内容を見ていこう。

【今週の住活トピック】
住宅省エネ2024キャンペーン開始/国土交通省

「住宅省エネ2024キャンペーン」とは3つの補助事業の総称

「住宅省エネ2024キャンペーン」とは、国土交通省、経済産業省、環境省の3省連携により行う「住宅の省エネリフォーム支援」と国土交通省が行う「長期優良住宅及びZEH住宅の取得への支援」に関する支援事業の総称だ。具体的には次の事業となり、2023年の同様の事業よりも予算額を増やしている。

先進的窓リノベ2024事業(環境省) 給湯省エネ2024事業(経済産業省) 子育てエコホーム支援事業(国土交通省)

なお、賃貸集合住宅を対象とした給湯省エネ事業もあるが、賃貸オーナー向けのものなのでここでは割愛する。

省エネリフォームに対する補助制度は3つ

省エネリフォームに対する補助制度は3つある。高断熱窓の設置=「先進的窓リノベ2024事業」、高効率給湯器の設置=「給湯省エネ2024事業」、開口部・躯体の省エネ改修を含むリフォーム=「子育てエコホーム支援事業(リフォーム)」だ。省エネならなんでもよいわけではなく、それぞれに指定された部材や機器を使用する必要がある。

住宅の省エネリフォームへの補助制度

※1 断熱窓への改修促進等による住宅の省エネ・省CO2加速化支援事業(環境省)による支援(令和5年度補正予算)
※2 高効率給湯器の導入を促進する「家庭部門の省エネルギー推進事業費補助金」 (経済産業省)及び既存賃貸集合住宅の省エネ化支援事業(経済産業省)による支援(令和5年度補正予算)
※3 子育てエコホーム支援事業 (国土交通省)による支援(令和5年度補正予算、令和6年当初予算案)
※4 ①1)、3)及び②については、経済対策閣議決定日(令和5年11月2日)以降にリフォーム工事に着手したもの、①2)については、経済対策閣議決定日(令和5年11月2日)以降に対象工事に着手したものに限る(いずれの場合にも、交付申請までに事業者登録が必要)
国土交通省報道発表「住宅省エネ2024キャンペーンはじまります!」の資料より

1つ目の「先進的窓リノベ2024事業」は、既存の住宅のリフォームが対象で、内窓を設置したり、外窓や窓ガラスを断熱性の高いものに交換したり(窓リノベと同時に行う高断熱ドアの交換含む)した場合、リフォーム工事の内容に応じた所定の補助額の合計金額を、1戸当たり200万円を上限に還元する事業だ。

2つ目の「給湯省エネ2024事業」で、対象となる高効率の給湯器と1台当たりの補助額は、次の通り。台数制限があり、一戸建てはいずれか2台まで、マンションなどの共同住宅はいずれか1台まで、となっている。

「ヒートポンプ給湯器(エコキュート)」:補助額(基本額)8万円
性能加算額A:2万円、B:4万円、A+B:5万円「電気ヒートポンプ・ガス瞬間式併用型給湯器(ハイブリッド給湯器)」:補助額(基本額)10万円
性能加算額A:3万円、B:3万円、A+B:5万円「家庭用燃料電池(エネファーム)」:補助額(基本額)18万円
性能加算額C:2万円

※「性能加算額」とは、さらに高い性能A~Cを満たす給湯器の場合に基本額に加算される額
※工事内容によっては「撤去加算額」が対象となる場合がある

3つ目の「子育てエコホーム支援事業(リフォーム)」では、例えば小さな窓のガラス交換で3000円/枚など実施した工事内容ごとに定められた額を足し合わせて上限20万円/戸まで補助するもの。ただし、以下の場合は上限額が変わる。

子育て世帯・若者夫婦世帯の場合:上限30万円/戸子育て世帯・若者夫婦世帯が既存住宅購入を伴う場合:上限60万円/戸長期優良リフォームを行う場合:上限30万円/戸長期優良リフォームを行う場合で子育て世帯・若者夫婦世帯の場合:上限45万円/戸

※子育て世帯とは18歳未満の子を有する世帯、若者夫婦世帯とは夫婦のいずれかが39歳以下の世帯

住宅省エネキャンペーンの特徴は、これら3つの補助制度の省エネ改修を行った場合、同時に行うその他の改修(住宅の子育て対応改修、バリアフリー改修、空気清浄機能・換気機能付きエアコン設置工事等)についても、ワンストップで子育てエコホーム支援事業の対象になることだ。

新築住宅の省エネで利用できる支援制度は2つ

まず、「給湯省エネ2024事業」については、指定された高効率給湯器を設置する「注文住宅の新築」、「新築分譲住宅の購入」、「買取再販物件の購入」(買取再販事業者が給湯器を交換して販売することを条件に既存住宅を購入した場合に限る)についても補助対象となる。

長期優良住宅またはZEH住宅の新築住宅については、「子育てエコホーム支援事業」の対象となる。ただし、子育て世帯・若者夫婦世帯の場合に限られる。補助上限額はそれぞれ次の通り。

長期優良住宅の場合:100万円/戸

※長期優良住宅とは、国が定めた「長期優良住宅認定制度」の基準を満たす住宅

ZEH住宅の場合:80万円/戸

※ZEH住宅とは、強化外皮基準かつ再エネを除く一次エネルギー消費量▲20%に適合する住宅
なお、住宅の新築が抑制される所定の区域に立地する場合は補助上限額が半減となる。

登録事業者が工事を行うなどの注意点がある

工事内容や部材・機器が補助対象となるか判断したり、求められる書類等をそろえて補助金の交付申請をしたりなど、専門的な知識が求められることもあって、補助事業ごとに事務局に登録した事業者が工事を行うことが条件となっており、登録事業者が補助金の申請手続きも行う。したがって、住宅の購入や工事の発注を行う前に、利用したい補助制度の登録事業者かどうか(または登録する予定かどうか)を確認することが大切だ。

また、対象期間などスケジュールについても注意が必要。2024年12月31日までが申請期間となっているが、補助事業ごとの予算枠に達すると申請受付が打ち切られる。2024年の「子育てエコホーム支援事業」では予算が増えているが、2023年の「こどもエコすまい支援事業」は申請受付が早期に終了した。どの補助事業も早期に予算枠に達する可能性がある点に留意したい。

補助金の交付申請は3月中下旬(具体的な日程は未定)からとなっているが、それより前に工事に着手した場合も対象となる。令和5年度補正予算が閣議決定した、2023年11月2日以降に着工した場合などが対象になるからだ。また、対象となる機器などが今後追加されることになっているので、最新情報を確認する必要もある。

政府は住宅の省エネ化に力を入れている。こうした制度を上手に活用して、省エネ性の高い住まいを手に入れてほしい。「もらえると思っていた補助金をもらえなかった」ということのないように、細かい条件までしっかり確認し、登録事業者と綿密に相談することがポイントだ。

●関連サイト
〇国土交通省報道発表「住宅省エネ2024キャンペーンはじまります!」
〇住宅の省エネリフォーム支援「住宅省エネ2024キャンペーン」のホームページ
〇「子育てエコホーム支援事業」のホームページ

注文住宅トレンド2024! 注目は、平屋・ヌック・タイパ・省エネ・ランドリールームなど7キーワード

ハウスメーカーや工務店、建築家とイチから自分好みの住まいをつくれる「注文住宅」。マンション・建売一戸建てより自由度が高く、住まいにこだわりたい人の「究極の家づくり」といっていいでしょう。また、注文住宅は間取りや設備をイチから設計できるため、時代の価値観や好み、トレンドを色濃く反映します。では今、これから注文住宅を建てたい人がおさえておくべきポイントとは? 住まい情報誌『SUUMO注文住宅』の編集長を務める服部保悠氏に話を聞きました。

建築費や資材費の上昇を受け、小さくても満足度の高い家をめざす

2023年にSUUMOリサーチセンターが発表した調査(2023年注文住宅動向・トレンド調査)によると、建築費は全国平均で3186万円、土地代2145万円で、ともに直近8年では最高値となっています。自由に選べる「究極の家づくり」ではありますが、予算を潤沢につぎ込めるという人は多くないはず。では2024年、価格はどのように動くのでしょうか。

「近年、建築価格、土地価格ともに右肩上がりが続いていましたが、ここにきて一服感はあります。ただ、2024年以降、人件費・資材費ともに残念ながら下がる要素はなく、横ばいが続くと思われます」と服部氏。このところ増えてきた「平屋」も、住みやすいという側面とともに、建築面積を抑えられることで、建築費が節約でき、増えてきました。こうした「コンパクトで住みやすい家」というのは、まだまだ増えていく兆しがあるそう。

(写真撮影/北島和将)

(写真撮影/北島和将)

■関連連載:平屋回帰

「注文住宅は無限の選択肢がある分、土地にかけるお金と建物の費用調整が肝心になるわけですが、土地価格も下落しないとなれば、建築費で調整するという考え方もあります。つくり方にもよりますが、比較的建築費も抑えられ、なおかつ暮らしやすい、そんな平屋はまだまだ支持を集めるのではないでしょうか」(服部氏)

また、建物の面積をコンパクトにした分、家具と設備を一体にする(家具化)、ミニマム化するというトレンドもあげています。
「家具を買い替えて流行を追い続けるのではなく、デザイン性の高い内装・設備に家具の機能も持たせるようになってきており、例えばキッチン設備も家具のようなデザイン性にすぐれたものが登場しています。床や室内ドア、収納を含め、トータルコーディネートで空間を広く見せるデザインが好まれており、印象的なのは男性・女性ともに北欧デザインが好きという人が多いこと。流行に左右されず、インテリアのスタイルとして定着したと思っています」(服部氏)

家づくりにも「タイパ」の波。規格住宅もトレンドに

もう一つ、無限に選択肢がある、言い換えれば決断コストが無限にかかる注文住宅の中で、『タイパ』という傾向がじわりと見てとれるといいます。

「注文住宅は依頼先からはじまって、土地、住宅ローンといった大きなことから、それこそ壁紙や取っ手ひとつまで、本当に決断の連続です。とはいえ時間も体力も限られている。そこで選択肢の一つとして考えたいのが『タイパ』にすぐれた規格住宅です。規格住宅とは、ハウスメーカーや工務店があらかじめ用意した間取り、内装、設備のなかから選ぶ建て方のこと。もちろん、オプションを加えたり、内装材を選んだりなど注文住宅ならではの自由度もあります。ハウスメーカーや工務店の構法やデザイン、考え方が好き・合うという人であれば、こんなにしっくりくる家の建て方はありません。比較検討する時間や手間が省けますし、金額面でもお手ごろ感があり、増えている印象です」(服部氏)

確かに、「自由に建てられるのが注文住宅の魅力じゃないのか」という考え方もできますが、自由すぎるとどうしていいかわからない、自分が選んでデザインや世界観を壊してしまったらイヤだという人もいることでしょう(筆者もそのタイプです)。そのためある程度、パッケージ化されていて、そこからカスタマイズしていくほうが早いというのは合理的です。

ケイアイスター不動産グループのIKI株式会社が販売する、規格型平屋注文住宅IKI。施主夫妻は、間取りはいくつか用意されていたパターンのうち3室が南に面した2LDK、壁紙の色は3タイプから白ベースのカラーを選んだ(写真撮影/片山貴博)

ケイアイスター不動産グループのIKI株式会社が販売する、規格型平屋注文住宅IKI。施主夫妻は、間取りはいくつか用意されていたパターンのうち3室が南に面した2LDK、壁紙の色は3タイプから白ベースのカラーを選んだ(写真撮影/片山貴博)

また、家づくりだからこそ、「失敗したくない」「失敗できない」というマインドも規格住宅に有利だといいなす。

「規格住宅といっても、ハウスメーカーや工務店が過去のデータを蓄積し、家事ラクの間取り、家族の団らんをつくる間取りなどといった、ノウハウを含めて提案しています。テイストも北欧風、カフェ風、インダストリアルデザインなど、各社さまざまなテイストがありますし、好みとマッチするのであれば賢い方法だと思います」(服部氏)

「無数にあるからこそ楽しい」と思うのか「規格があるからこそ選べる」と思うのか、人によって考え方は異なりますが、自分や家族にあった選択をしたいですよね。

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40代共働き夫婦、群馬県の約70平米コンパクト平屋を選択。メダカ池やBBQテラスも計画中で趣味が充実

アフターコロナ、人気を集める間取りや設備は?

間取りや設備では、どのような流行があるのでしょうか。コロナ禍では、「エントランス入ってすぐの手洗いポーチ」「ワークスペース」などが好まれましたが、アフターコロナの今、家づくりではどのような間取りや設備が好まれているのでしょうか。

「玄関近くの手洗い、全館空調、非接触スイッチのような『おうち衛生』はブームを経て、定着しそうです。手洗いポーチは玄関近くにあると、子どもの手洗いの習慣づけにもなり、ゲストにも使ってもらいやすいという声をよく聞きます。今後、断熱等性能等級5、いわゆるZEH水準が義務化されることを考えても(※詳細は後述)、定番化していくのではないでしょうか」(服部氏)

玄関のすぐ近くに配した洗面台(写真撮影/片山貴博)

玄関のすぐ近くに配した洗面台(写真撮影/片山貴博)

玄関に入って右手側に洗面台が(写真撮影/片山貴博)

玄関に入って右手側に洗面台が(写真撮影/片山貴博)

■関連記事:
共働き夫婦が建てた67平米コンパクト平屋。エアコン1台で夏冬も家中快適なアメリカンハウス

一方で、費用や面積が限られているなか、こんな傾向も。

「リビングとは別のくつろぎスペースを設けておく、ヌック(※)や窓際のベンチが増えている気がします。ベンチなので、日差しを浴びながらごろんと寝転んでもいいし、子どもと遊んでもいい。本を読んでもいいし、机があれば仕事スペースにもなる。リビングでソファーに座ってテレビを見る場所とは別に、こうした余白のあるスペースが好まれていますね」(服部氏)

※ヌックは小ぢんまりとした居心地のいい空間。リビング脇・片隅に設けられるケースが多い

(写真/明野設計室 一級建築士事務所)

(写真/明野設計室 一級建築士事務所)

(写真/明野設計室 一級建築士事務所)

(写真/明野設計室 一級建築士事務所)

もう一つ、今らしい家づくりの特徴として、「バルコニーをつくらない家」があるといいます。

「共働きのため、日中外に干せない代わりに、夜洗濯をして室内で干す人が増えています。室内は全館空調にしていれば窓はあけなくても空気はキレイ。だとすれば室内干しスペースを確保して、逆にバルコニーはいらないという考え方で、その分、建築コストを下げようという発想です。こちらも今後、一定の支持を集めるのではないでしょうか」と分析します。

洗濯や乾燥は、ドラム式洗濯乾燥機を使う、ガス乾燥機を入れる、サンルームや室内干しスペースをつくるなど、さまざまなやり方があります。自分たちのライフスタイルに合わせて間取りを最適化していくのであれば、いままでの当たり前にとらわれず、バルコニーナシ間取りも自然な結論ですよね。これは注文住宅ならではの良さといえるでしょう。

■関連記事:
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建材、設備でも環境性能は欠かせない指標に

新築マンション、賃貸住宅ともに「環境への配慮」という点があがっていましたが、注文住宅も同様です。

「2024年4月からは『省エネ性能表示制度』がスタートし、2025年から『断熱等性能(外皮性能)等級4以上』かつ『一次エネルギー消費量等級4以上』への適合が必要になります。また、2030年を予定していた新築住宅のZEH基準の水準並み義務化(断熱等性能 等級5)についても、地球温暖化の急激な進行から前倒しされる可能性も出てきています。今後、そういった性能の高い住宅が世の中の平均となる中、義務化水準だけを守った家を建てるのでは、みすみす自分の家の市場価値を下げていくことにもつながります。ハウスメーカーによってはZEHが標準であるなど、ほぼこの性能を満たしていますし、それ以上の住宅も登場しています。設備でいえば、断熱性能にすぐれた窓、エコキュート、節水節電トイレ、断熱浴槽、太陽光発電システムなどは、導入時にコストがかかりますが、補助金やランニングコストで回収しやすくなっています。提案するハウスメーカーや工務店も、『この設備を入れるとこの期間で回収できる想定です』と説明し、納得して導入されているようですね」と服部氏。

断熱性にすぐれた樹脂サッシ(写真提供/LIXIL)

断熱性にすぐれた樹脂サッシ(写真提供/LIXIL)

大開口でも断熱性を高めたハイブリッド窓(写真提供/LIXIL)

大開口でも断熱性を高めたハイブリッド窓(写真提供/LIXIL)

確かにコストとベネフィットが明確になり、回収期間がわかれば導入を検討しやすいことでしょう。また、環境に配慮した点では、廃プラスチックから生み出された外装材、バイオエタノール暖炉、国産の木材をつかった建材など、さまざまな取り組みがなされていて、注目を集めています。

再資源化が困難だった廃プラスチックと廃木材を活用した「レビアペイブ」。木彫のような自然な仕上がり(写真提供/LIXIL)

再資源化が困難だった廃プラスチックと廃木材を活用した「レビアペイブ」。木彫のような自然な仕上がり(写真提供/LIXIL)

(写真提供/LIXIL)

(写真提供/LIXIL)

「住宅設備メーカー含めて、省エネ技術の開発は活発に行われていますし、新しい建材、設備が次々と登場しています。もちろん、建設コストとの兼ね合いになるので、いきなり普及する、ビッグヒットになるとは思いませんが、潮流として確実にサステナブルな家づくりというのはあると思います」(服部氏)

コロナ禍を経て、家で過ごす時間への関心が高まっている今。家づくりは時間、お金、体力のすべてが必要ですが、その分、自分たち家族にあった空間が手に入るのであれば効果は抜群です。家に暮らしをあわせるのではなく、自分たちの暮らしに合わせた家づくり。やはり人生に一度でいいからやってみたいですし、やる価値はありそう!ですね。

●取材協力
住まい情報誌『SUUMO注文住宅』編集長
服部保悠氏
『SUUMO注文住宅』

住まいの中での寒暖差による「寒暖差疲労」や「ヒートショック」に注意

LIXILが、20代~50代の男女4700人を対象に、冬(主に11月~2月)における「住まいの中での寒暖差と住宅の断熱に関する意識調査」を実施した。近年は地球温暖化により「暖冬」になることもあるが、同社によると、暖冬の場合は急激な寒暖差が起こりやすく“寒暖差疲労”に注意が必要なのだという。調査結果を詳しく見ていこう。

【今週の住活トピック】
「住まいの中での寒暖差と住宅の断熱に関する意識調査」を実施/LIXIL

特に「朝起きて布団から出る時」に寒暖差を感じる人が多い

これから本格的な冬の寒さが到来する。「冬、普段生活している自宅の中で過ごしている際に、場所や時間によって寒暖差を感じることがあるか」と尋ねたところ、寒暖差を感じるという回答が74.1%(「感じる」39.4%+「どちらかというと感じる」34.7%)だった。

寒暖差を感じると回答した人に「寒暖差を感じる瞬間」を尋ねると、ダントツで「朝、起床し布団から出る時」(69.5%)となった。2位の「脱衣所で服を脱ぐ時」(48.0%)、3位の「浴室から出た時」(40.8%)と比べてもかなり多い回答だ。

かくいう筆者も、この記事を執筆している日の朝は外の気温が1℃だったので、布団から出るのがつらかった。昼でも10℃なので、ひざ掛けをしてパソコンに向かっているありさまだ。

「寒暖差疲労」と「ヒートショック」に注意

LIXILによると、「一日の温度差が7℃以上あるときに寒暖差疲労は起こりやすいとされている」という。寒暖差疲労とは、「寒暖差による体温調節により多くのエネルギーを使用することで、体に疲労が蓄積し、疲労感やめまいといった症状を引き起こす」もの。

約7割が寒暖差を感じる「起床して布団から出る時」は、「温められた布団から冷えた室内に出ると、体が急激に冷やされることで血圧が上がり、ヒートショックを引き起こす危険がある」というのは、気になる点だ。住まいの断熱リフォームのビフォー/アフターで、起床時の血圧がかなり違うという研究結果(【画像1】)もあるのだ。「手の届く範囲に羽織れるものを用意しておく」、「暖房器具をタイマーセットし、朝方に部屋が暖かくなるようにする」、「寝室だけでも断熱リフォームを行い部屋の気温差を一定に保ちやすくする」などの対策を検討したい。

起床時の血圧の比較

【画像1】
※日本サステナブル建築協会 断熱改修等による居住者の健康への影響調査 中間報告(第3回)資料より
起床時の血圧の比較(出典: LIXIL「住まいの中での寒暖差と住宅の断熱に関する意識調査」プレスリリース)

住宅内で寒さを感じる場所は、ヒートショックの発生リスクが高い

住宅内で「寒さを感じる場所」と「暖かさを感じる場所」を尋ねると、【画像2】のような結果となった。おおむね居室やお湯をたくさん使う場所は暖かく、居室でない場所は寒く感じるようだ。リビングや寝室は暖房器具で暖めるものの、トイレや脱衣所、廊下などは日当たりが悪く、暖房もしないということだろう。

冬の自宅で寒さを感じる場所、暖かさを感じる場所

【画像2】
冬の自宅で寒さを感じる場所、暖かさを感じる場所(出典: LIXIL「住まいの中での寒暖差と住宅の断熱に関する意識調査」プレスリリース)

同社の「住まいStudio」にある、断熱性能の異なる3つの部屋で同じ0℃の環境下で比較したのが【画像3】だ。断熱性能の違いを説明すると専門的になるので、分かりやすく言うと、「左」の昭和55年省エネ基準は「昔の家」、「中央」の平成28年省エネ基準は「今の家」、「右」のHEAT20 G2は「断熱性能のかなり高い家」と考えてよいだろう。外気温0℃はかなり寒い環境なので、暖房のある「居間」でもサーモカメラで見ると昔の家や今の家では青い色が残っている。一方、断熱性能のかなり高い家では、暖房のない廊下やトイレでも居間の暖房が効いて青くなっていない。同じ外気温、同じエアコン設定でも、住宅の断熱性能によってかなり違うことが分かる。

「住まいStudio」の3つ部屋の温度の違い

【画像3】
「住まいStudio」の3つ部屋の温度の違い(出典:LIXIL「住まいの中での寒暖差と住宅の断熱に関する意識調査」プレスリリース)

実は筆者は、住まいStudioを訪問してこの3つの部屋を体験したことがある。窓の断熱性能の違いもあって、暖房のある居間でも窓際にいるとかなり寒さが違ったと記憶している。断熱性能のかなり高い家では、暖房ではなく送風でも十分に暖かった。建築コストも異なるが、住む間の電気代も変わることだろう。

また、昔の家では居間とトイレの温度差は12.1℃、今の家でも温度差は9.6℃だったが、断熱性のかなり高い家では温度差は5.3℃とその差は縮まり、部屋の間を移動する際の身体への負担も小さくなるので、ヒートショックの発症リスクも軽減されるという。

窓まわりの断熱リフォームのススメ

住宅の断熱性能の違いが室温に大きく影響するわけだが、「これまでに断熱リフォームを検討、もしくはしたことがあるか」を尋ねている。「断熱リフォームをしたことがある」が6.7%、「断熱リフォームをしたことがないが、検討したいと思う(検討中である)」が9.5%で多いとはいえないが、昨年の調査結果と比べるとそれぞれ約1.4倍に増えたという。

「今後断熱リフォームを実施したい住まいの箇所」の1位は、56.9%の「断熱性の高い窓を設置/交換」だ。実は筆者も以前、窓の断熱リフォームを行った。冬の朝の窓ガラスの結露がひどかったので、それから解放されたのがうれしかった。工事は一日で終わったので、窓際が寒いという家の場合はぜひ窓の断熱リフォームを検討してはいかがだろう。

家の断熱性能を高めると、エコにつながることや光熱費が抑えられることが言われるが、最も大切なのは家の中にいる時の快適性が上がることだと思う。暑さ寒さの不快感が軽減し、寒暖差疲労やヒートショックのリスクも下げられるのは、日々の生活のなかで重要なことだ。家の断熱性能を高めていくと建築コストもかかるが、先進的窓リノベ事業(2024)などの補助金や減税などの優遇措置もあるので、上手に活用して冬を快適に過ごすことを考えてほしい。

●関連サイト
LIXIL「住まいの断熱と寒暖差に関する調査」

高騰続く新築マンション、2024年は買いやすくなる? 価格・金利上昇から見る買い時や注目の「省エネ性能」を解説

「新築マンション」とインターネットで検索すると「高騰」「億ション」など、景気の良いワードがずらりと出てきます。とはいえ、多くの世帯で収入が価格上昇に追いついていません。このまま新築マンションは高嶺の花になってしまうのでしょうか。2024年の新築マンション市場はどのように動くのでしょうか。SUUMO編集長・SUUMOリサーチセンター長の池本洋一氏に、市場動向と買うべきときに見ておいてほしいポイントのほか、新築マンションの設備などについての最新事情について聞きました。

都心部好立地と郊外、立地で価格動向が異なる

一般的に、新築マンションの買いやすさの指標は、
(1)物件価格
(2)金利
(3)供給戸数
で見ることができます。池本氏によると、都心・好立地と郊外、供給されるエリアで新築マンション価格の動き方が異なるといい、「都心好立地の物件であれば価格は上昇、金利と供給戸数は横ばい、他方で郊外エリアの物件であれば価格はやや上昇、金利、供給戸数は横ばい」で推移するのではないかとのこと。気になる都心・好立地の物件の特徴から伺っていきましょう。

「2024年も価格上昇が予想されるのが都心部・好立地の新築マンションです。こうした物件を購入しているのは、金融資産が1億円以上ある日本の富裕層です。所得は伸び悩んでいると言われていますが、実は日本でも富裕層が増えています。購買意欲が旺盛で、マンション価格が高騰する中でも売れ行きは好調です。金額としては安いものではないので、物件のエントランスは高級感があり品質感や品格あるデザインが好まれています。また、物件の設備面、たとえばキッチンや洗面化粧台の仕様をワンランク上にし、一部高層階では天井高を高くして、共用設備では眺望ラウンジ、高級感あるゲストルーム、フィットネスジムなどがあることが多く、上質な暮らしを感じられるのが特徴です」と解説します。

ブリリア聖蹟桜ヶ丘ブルーミングテラスのグランドエントランス完成予想CG(写真提供/東京建物、東栄住宅)

ブリリア聖蹟桜ヶ丘ブルーミングテラスのグランドエントランス完成予想CG(写真提供/東京建物、東栄住宅)

ブリリア聖蹟桜ヶ丘ブルーミングテラスのエントランスラウンジ完成予想CG(写真提供/東京建物、東栄住宅)

ブリリア聖蹟桜ヶ丘ブルーミングテラスのエントランスラウンジ完成予想CG(写真提供/東京建物、東栄住宅)

「今、マンションを買う人達は、新築マンションの価値である、立地や眺望という点を非常に重視します。かつては南向きがよしとされてきましたが、部屋からの景色や抜け感が重視されるようになり、海外と同様の価値観になってきましたね。床材や壁材、インテリアで好まれる色合いもグレージュのような落ち着きがあり、上質感が感じられるもので世界のトレンドに近づいてきました」(池本氏)

ブリリア聖蹟桜ヶ丘ブルーミングテラスのワーキングラウンジ完成予想CG (写真提供/東京建物、東栄住宅)

ブリリア聖蹟桜ヶ丘ブルーミングテラスのワーキングラウンジ完成予想CG (写真提供/東京建物、東栄住宅)

また、海外と同様という意味では、超富裕層向けの「プレミアム住戸」が珍しくなくなったそうです。
「通常の住戸と比較して、海外のように、洗面、トイレ、バスルームを複数持たせたり、床から天井までの階高が3m~6mあったりと、世界の富裕層向け物件と同クラスのものが出てきています。商品企画、建築も世界のラグジュアリー物件を参考にしているので、世界と比較しても見劣りしません」と池本氏。

ブリリア聖蹟桜ヶ丘ブルーミングテラスの住戸一例(写真提供/東京建物、東栄住宅)

ブリリア聖蹟桜ヶ丘ブルーミングテラスの住戸一例(写真提供/東京建物、東栄住宅)

東京、大坂、京都、福岡、マンションが供給される立地の特色は?

こうした夢のあるマンションの話もいいですが、実際に買うとなれば話は別です。これから先、新築マンション価格はどうなると予測しているのでしょうか。

「マンションの価格は
(1)土地価格
(2)人件費
(3)資材費
の3つで決まります。このうち3つともに下げの要因はなく、むしろ高騰しています。これは新築マンションだけに限らず、すべての建築物を含めた資材の話となりますが、なんとこの2年半で、資材費は27%上昇、マンションの骨組みとして使われるH形鋼に至っては約70%も上昇しています。職人不足から人件費も値上がりしているほか、今まで建築業界など一部の業界で特例延期されていた、労働基準法に基づく労働時間の適正化が2024年からは実施されます。そのため人件費も上昇すると予測されます。
つまり、新築マンション価格が『上がる』要因はあっても、『下がる』要因はないんです」

今、価格が高いからといって将来に先延ばしをしても、新築マンション価格とリンクしやすい株価の暴落などが起きないかぎり、劇的な下落は考えにくいようです。

H形鋼(写真/PIXTA)

H形鋼(写真/PIXTA)

では、新築マンションを買うのであれば、どんな立地を狙うといいなど、買い手が立てられる戦略はあるのでしょうか。

「東京だけでなく、郊外都市や地方の主要都市部にもマンションに適した土地はあまり残っていません。利便性を重視しつつ、価格帯もとなると、冒頭に申し上げた『郊外』に目を向けるとよいでしょう。価格・供給数ともに横ばいで動くと予想しています。主要駅の周辺、具体的にいうなら立川や大宮、船橋、町田など首都圏の主要ターミナル駅とその一駅二駅隣の駅近物件であれば、買いやすい価格帯で供給されています。また、関西、地方主要都市の福岡や札幌、仙台、金沢、広島の中心部でも都心部や好立地は高く、郊外は買いやすい価格帯で落ち着くことでしょう」(池本氏)。

こうした郊外で供給されるマンションでも、生活の質をあげる設備が導入されていることが一般的です。
「保温性の高い浴槽、電子キーなどは標準装備となっていることが多いですね。共用設備では華美なものは少なく、スタディスペースやワークスペース、EV充電スタンド、カーシェアなど『実用性ある施設』が導入されています。また、郊外でも『南向きにこだわらない』動きがでてきていますね」(池本氏)。

なるほど、新築マンションを探すのであればまずは供給数が限られていることを理解し、広域で見て、選択肢を広げ、優先順位をつけていくという戦略が有効なようです。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

要チェックは省エネ性能。各社のZEH、木造新築マンションにも注目

池本さんが、今、新築マンションを買いたいと考えている人に、ぜひ押さえてほしいポイントがあるといいます。

「全ての新築住宅において、2025年4月からは、省エネ基準への適合が必要となります。2030年にはその基準がZEH水準(※)となるため、それ以降はZEH水準を満たさないと既存不適格(※)と見られることもあるでしょう。ですから今から買うなら、ZEH水準もしくは、マンションではZEH Orientedという水準以上を買うことをおすすめします」と力説します。

※断熱等性能等級5かつ一次エネルギー消費量等級6の性能をもつ省エネ性能の水準(詳しくはこちら)。

※既存不適格とは、建設時には適法だったが、以降の法改正などで法不適合になった状態のこと。そのことに法的な問題はないが、例えば、1981年に耐震基準が変わり、それより前の物件が旧耐震(既存不適格)と言われるように、市場で競争力が劣ってしまう状態が想定される。

■関連記事:
2024年4月スタートの新制度は、住宅の省エネ性能を★の数で表示。不動産ポータルサイトでも省エネ性能ラベル表示が必須に!?

当然、各社もZEH化には注力しており、タワーマンションでも「ZEH」相当の物件も出てきています。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

「国も建築物の省エネ性能向上、断熱性能の向上に注力していますし、住まいの高性能・省エネ性については、暮らす人のメリットもとても大きいのでぜひ重視してほしいポイントです」といいます。

ブリリア聖蹟桜ヶ丘ブルーミングテラスの省エネにつながる設備・システムの一例(同マンションのHPより)

ブリリア聖蹟桜ヶ丘ブルーミングテラスの省エネにつながる設備・システムの一例(同マンションのHPより)

同じく、環境性能という面では、木造や木材を使ったマンションにも注目しているそう。
「国の方針や建築基準法の改正などの要因がありますが、中高層木造マンションや、中高層の木造、コンクリート、鉄骨のハイブリッドマンションも一つのトレンドです。先程の鉄鋼と比較すると中高層建築で使う木材は、今後、供給が増えてくればコストが下がっていく可能性も十分にあり、建築費の抑制といった意味でも注目しています。もちろん耐震性など性能面では従来の鉄筋コンクリート造の物件と同等の性能で建てられています」(池本さん)

木造マンション「MOCXION INAGI(モクシオン稲城)」(三井ホーム/東京都稲城市)は、総戸数51戸、間取り2LDK~3LDK、専有面積は50平米~96平米。1階はRC(鉄筋コンクリート)造で、2~5階に木造枠組壁工法を採用(写真撮影/片山貴博)

木造マンション「MOCXION INAGI(モクシオン稲城)」(三井ホーム/東京都稲城市)は、総戸数51戸、間取り2LDK~3LDK、専有面積は50平米~96平米。1階はRC(鉄筋コンクリート)造で、2~5階に木造枠組壁工法を採用(写真撮影/片山貴博)

(写真撮影/片山貴博)

(写真撮影/片山貴博)

■関連記事:
マンションも木造の時代に! 耐震性や遮音など住みごこち満足度98%のお墨付き 「MOCXION INAGI」東京都稲城市

また、環境性能や心地よさから内装、インテリアの木質化も大きな流れになっているよう。確かに木を多用したインテリア、SNSでもよく見かけます。賃貸ではありますが木造マンション、「MOCXION INAGI」で入居者の98%が住み心地に満足と回答したというデータもあり、今後もひとつの潮流となっていくことでしょう。

これから買う人は自分たちの価値を大事に。気になる物件は1期で決断

最後に新築マンションを買いたいと思う人に、アドバイスをもらいました。

「まずは、自分たちの暮らしの軸を大切にしてください。世にいわれている大人気物件が必ずしも“買い”とは限りません。冷静に自分たちが大切にしたい暮らし、求める価値を見極めて、それで物件と合っているなら決断していいと思います。投資用に買うなら、買った価格より高く売れるかを意識すべきとだ思いますが、自宅として買うならば、その街、そのマンション、間取り空間で暮らしたいのかが家探しの軸になるべきです。どこで、だれと、どのような生活を送りたいのか、そこを見誤らないでください」。

その上で、マンション価格として「下げ要因」がない以上、気になる物件が出て、期分け販売をする物件であれば、期を追うごとに価格が上昇する可能性があるため、思い切って「1期で買い」だといいます。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

そして、もうひとつ、要注意な点として「金利動向です」とアラートをあげます。

「長期固定金利がじわりと上がってきています。今、みなさん住宅ローンを変動金利で借りていますが、変動金利が上昇する可能性もありそうです。そのため、借りられる金額の上限まで借り入れるのはおすすめしません。変動金利だけではなく、変動金利と固定をあわせるミックスなどを比較検討してください」(池本氏)

住まいは住む人の暮らしの基盤であり、幸せな暮らしを営むための器です。自分たちが「新築マンション」に求める価値はなにか、どんな暮らしがしたいのか、それは新築でなければ叶わないのか……。
一つずつクリアにしていくことが、2024年のマンション購入正攻法といえそうです。

●取材協力
SUUMO編集長・SUUMOリサーチセンター長
池本洋一氏

ブリリア聖蹟桜ヶ丘ブルーミングテラス
物件ページ
公式HP

NYマンハッタンで話題、最高価格25億円の高級コンドミニアムに潜入。ブランド家具付き「ターンキー」って? ニューヨーク(アメリカ)

アメリカ・ニューヨークのセントラルパーク南端から2ブロック南の57丁目は、「ビリオネアズ・ロウ(Billionaires’ Row)」、つまり「億万長者の並び」と呼ばれています。この通りを中心に近年、次々と富裕層向け高級コンドミニアムの建設ラッシュが続いています。

今回はこの地区に新たに完成したばかりの、高級ホテルとの複合住居ビルに案内してもらいました。ホテル暮らしのような生活ができる新築コンドミニアムで、家具付きのオプションも選べます。どのような物件なのか、見てみましょう。

■関連記事:
NY「ビリオネア通り」の不動産が活況! 億万長者だらけの最新マンションに潜入

販売価格は1億7,600万円~25億円。東京の高級エリア千代田区より3~4割高!?

マンハッタン56丁目にこのほど完成したばかりの高層新築コンドミニアム、「ONE11 Residences at Thompson Central Park(ワン・イレブン・レジデンスズ・アット・トンプソン・セントラルパーク)」 。
ハイアット系列の豪華ホテル 「トンプソン・セントラルパーク」の客室の上階(34階~42階、99世帯分)がONE11 Residences at Thompson Central Parkの住居スペースになっています。
販売価格は119万5,000ドル~1,695万ドル(約1億7,600万円~25億円)です。

「居住スペースは1階のホテルロビーから出入りも可能なため、ホテル内の施設に行きやすく、まるでホテル暮らしのような生活ができるんですよ」( ONE11 Residences at Thompson Central Parkのセールス・ディレクター マリア・マイニエリさん)

ホテル、トンプソン・セントラルパークの客室の上階(34階~42階)がONE11 Residences at Thompson Central Parkの住居部分。写真は廊下から見渡せるセントラルパークの景色(c) Kasumi Abe

ホテル、トンプソン・セントラルパークの客室の上階(34階~42階)がONE11 Residences at Thompson Central Parkの住居部分。写真は廊下から見渡せるセントラルパークの景色(c) Kasumi Abe

セントラルパークまで3分と自然豊かな最高の立地で、それぞれの部屋の窓には四季折々の美しい景色が広がります。徒歩圏内はオフィス街と商業街で、地下鉄の駅、高級デパート、カーネギーホールなどの文化的施設も充実し、とてもにぎわいのある地区です。

日本に住んでいる方々がイメージしやすいよう、首都圏を中心に新築マンションを取材してきた情報誌『SUUMO新築マンション』編集長・永田幸樹氏にも話を聞いてみました。まず街の中心に位置する緑豊かなセントラルパークを皇居となぞらえるならば、東京でいうと「距離感などを考慮すると千代田区をイメージするのが良いのではないでしょうか」とのこと。

ただし、価格面は平方フィート(psf)あたりの平均価格から確認しても、千代田区より3~4割程度高いようです。東京都心でも特に人気エリアである千代田区より3~4割高いとは、さすが“ビリオネアズ・ロウ”界隈(ニューヨークの富裕層エリア)です。しかも高級ホテルの上階とは、一度は憧れるシチュエーションです。

住居部分の下層が豪華ホテルと連結。会員制高級ラウンジやレストランも使える

さっそく ONE11 Residences at Thompson Central Parkの中に入ってみましょう。

ONE11 Residences at Thompson Central Parkとホテル「トンプソン・セントラルパーク」の入口は2つ別々にありますが、高層複合ビルのため、建物内のロビーで繋がっています。奥に進めばホテルのレストランやバーがあり、ミーティングや仕事終わりの1杯などで立ち寄りやすい雰囲気です。

1階にあるホテル「トンプソン・セントラルパーク」のバー(c) Kasumi Abe

1階にあるホテル「トンプソン・セントラルパーク」のバー(c) Kasumi Abe

1階にあるホテル「トンプソン・セントラルパーク」のレストランスペース(c) Kasumi Abe

1階にあるホテル「トンプソン・セントラルパーク」のレストランスペース(c) Kasumi Abe

建物内にはホテル「トンプソン・セントラルパーク」のVIPとONE11 Residences at Thompson Central Parkの住人だけが利用できる高級会員制スタイルのラウンジ兼コワーキングスペースも完備しています。軽く飲みながら休憩をしたり、リモートワークをしている人の姿もちらほら見かけます。

「ONE11 Residences at Thompson Central Parkの居住者は最初の1年間、ここで提供されているフード&ドリンク類は無料サービスとなります」( マリア・マイニエリさん)

ホテルのVIPとONE11 Residences at Thompson Central Parkの住人だけが利用できるラウンジ兼コワーキングスペース(c) Kasumi Abe

ホテルのVIPとONE11 Residences at Thompson Central Parkの住人だけが利用できるラウンジ兼コワーキングスペース(c) Kasumi Abe

NY生活を即開始できる。オプションで家具付き物件も

この物件には、ターンキー(turnkey)と呼ばれるオプションもあります。ターンキーとは簡単にいえば、家具付きの物件のこと。住人が契約後に鍵を受け取り、ドアを開けてすぐに生活が始められるという意味から、そのような言葉が使われています。

ONE11 Residences at Thompson Central Parkでは、インテリアの専門家がコーディネートした家具を丸ごと購入することもできます。もちろん自分でインテリアを選びたい場合は、ターンキーなしのオプションを選ぶことも可能です。

「ターンキー物件のインテリアは、人気のトーマス・ジュール・ハンセンによるコーディネートです。インテリアや家具、壁にかかっている絵画、リネン、キッチンのお鍋や食器、バスルームのソープ類、タオルなどまで丸ごと購入できますから、すぐに生活を開始できるのです。外国のお客様にとって海外生活を即スタートできるのはとても便利なオプションのようで、好評です」( マリア・マイニエリさん)

ゆったりした入口スペース(c) Kasumi Abe

ゆったりした入口スペース(c) Kasumi Abe

ターンキーを選べば、センスの良い家具からインテリア小物まで全部ついてくる。自分で選んだり買い物したりする手間が省け(c) Kasumi Abe

ターンキーを選べば、センスの良い家具からインテリア小物まで全部ついてくる。自分で選んだり買い物したりする手間が省ける(c) Kasumi Abe

ターンキーのオプションを選べば、このようにテーブルや棚に置かれたインテリア小物もすべてついてくる。そのオプションを選ばなくても見ているだけでインテリア選びの参考になりそう(c) Kasumi Abe

ターンキーのオプションを選べば、このようにテーブルや棚に置かれたインテリア小物もすべてついてくる。そのオプションを選ばなくても見ているだけでインテリア選びの参考になりそう(c) Kasumi Abe

セントラルパークを臨むベッドルーム(c) Kasumi Abe

セントラルパークを臨むベッドルーム(c) Kasumi Abe

アイランドキッチン。冷蔵庫、IH調理器、食器洗浄機、ワインクーラーなどすべてミーレ社製(c) Kasumi Abe

アイランドキッチン。冷蔵庫、IH調理器、食器洗浄機、ワインクーラーなどすべてミーレ社製(c) Kasumi Abe

窓付きの明るいバスルーム。「アメリカでは非常に珍しく浴槽から出てお湯を流せるタイプになっています」( マリア・マイニエリさん)。日本人も使い勝手が良さそう(編集注:通常アメリカのバスルームはトイレと浴槽が同じ室内にあり、日本の浴室のように浴槽の外で体を洗ったりお湯を流したりすることはできない)(c) Kasumi Abe

窓付きの明るいバスルーム。「アメリカでは非常に珍しく浴槽から出てお湯を流せるタイプになっています」( マリア・マイニエリさん)。日本人も使い勝手が良さそう(編集注:通常アメリカのバスルームはトイレと浴槽が同じ室内にあり、日本の浴室のように浴槽の外で体を洗ったりお湯を流したりすることはできない)(c) Kasumi Abe

収納スペースがたっぷりのウォークイン・クローゼット(c) Kasumi Abe

収納スペースがたっぷりのウォークイン・クローゼット(c) Kasumi Abe

リビングとベッドルームからセントラルパークの四季の移ろいを楽しむことができる(c) Kasumi Abe

リビングとベッドルームからセントラルパークの四季の移ろいを楽しむことができる(c) Kasumi Abe

冒頭で価格帯はご紹介しましたが、各住居の気になるお値段は? 以下は住居ごとの一例です(すべてターンキーなしの価格)。

Residence 36A ー (1ベッド、1バスルーム  707平方フィート=65.7平方メートル)
$2,050,000(約3億1,027万円)

Residence 37C ー (2ベッド、2バスルーム 1,133平方フィート=105.2平方メートル)
$2,695,000(約4億790万円)

(オプションのターンキーを選ぶ場合、住居の大きさに応じて追加費用は16万ドルから25万5千ドル、約3,000万円前後)

ホテル上階の住居スペース、ターンキー物件、日本では?

こうしたラウンジを備えたコンドミニアムやターンキー(家具付き)の物件は、日本でも増えているのでしょうか? 前出の『SUUMO新築マンション』の永田氏に聞きました。

「日本ではホテルと一体的に開発される分譲マンション自体がそもそも稀有な存在です。前提として、日本のマンションでは大規模物件を中心に共用部が充実しているケースが多く、高級感のある設えの物件も一定数ある状態です。とはいえ、ONE11 Residences at Thompson Central Parkのようにコンドミニアムに住みながら、同じ建物内にあるホテルの施設を利用できる物件も登場しています」

形式は違えど、ホテルライクな暮らしができるコンセプトの物件は、日本でも登場してきているようです。そのような中には高層階を購入した人のみが利用できるサービスもいくつか見られます。最近では、大阪市内に誕生した『Brillia Tower 堂島(ブリリアタワー堂島)』(フォーシーズンズホテルと一体の高級分譲マンション)が一例です。

ターンキー物件については、「ニューヨークでも同様かと思いますが、日本では分譲マンションのオプションとしては珍しいタイプで、ごく稀に存在している印象です。富裕層向けのハイクラスの物件はそもそもゼロベースでカスタマイズすることを前提にしているケースも多いです。空間づくりにこだわる方が多いのが背景にあるのですが、カスタマー自身が間取りや設備までトータルコーディネートしているケースが少なくありません」。

ターンキー物件そのものは珍しいものの、近いサービスを享受できる富裕層向けのハイクラス物件はよくあるようです。

コンドミニアムを購入する場合、「プロのインテリアコーディネーターによってすでにセレクトされている家具や小物を丸ごと購入できるのを便利としてそこに価値を置く人」から、「時間がかかって良いから自分ですべてのインテリアをコーディネートしたい人」、また「プロにお願いしなくて良いから少しでもインテリア価格を抑えたい人」など、住居に求める理想やライフスタイルの好みはさまざまです。それを踏まえ「諸々のオプションがあって選ぶことができる」のが、ONE11 Residences at Thompson Central Parkの強みであり特徴だと思いました。

●関連サイト
ONE11 Residences at Thompson Central Park

最大の不安は「物価高」。節約志向が高まるなかでも持ち家派が多数。住宅ローンの不安を軽減する方法を紹介

カーディフ生命が全国2000人を対象に実施した「第5回 生活価値観・住まいに関する意識調査」によると、現在感じている最大の不安は「物価高」だという。では、物価高による節約志向が進む中で、住宅購入についてはどう考えているのだろう?

【今週の住活トピック】
「第5回 生活価値観・住まいに関する意識調査」を実施/カーディフ生命

最大の生活不安は「物価高」でも、家を買う派は67.1%に

調査結果によると、「現在感じている不安」(複数回答)の1位は「物価高」の85.6%で、次いで「老後資金」(82.8%)、「自然災害」(74.88%)、「病気・ケガなどで働けなくなる」(71.5%)などが続いた。漠然とした不安よりも、目の前の生活に影響が大きい「物価高」に大きな不安を感じているようだ。

こうした物価高や値上げの影響を受けて、「外食・飲み会」(30.5%)や「日常の衣類・ファッション」(28.4%)などを節約していることも分かった。では、住宅購入についてはどう考えているのだろう? 

この調査で、買う派(どちらかというと買うを含む)か、借りる派(どちらかというと借りるを含む)かを聞いたところ、買う派が67.1%という結果になった。同社では「購入希望理由のトップは『自分の家を持ちたいから』(56%)と物価高や住宅価格の高騰が続く中でも、依然としてマイホームへの憧れが強いことがうかがえる」と見ている。

家を買う派?借りる派?

出典:カーディフ生命「第5回 生活価値観・住まいに関する意識調査」

半数近くは住宅ローンを返せるかに不安を感じている

ただし、住宅購入には不安も感じている。住宅購入への不安理由トップは「住宅ローン返済への不安」の47.4%。特に20代・30代では、半数以上が住宅ローン返済に不安を感じているのだ。

住宅購入への不安

出典:カーディフ生命「第5回 生活価値観・住まいに関する意識調査」

さらに、住宅ローン返済に不安を感じている人に対して、不安の理由を聞いたところ、「病気・ケガによる収入減」(61.2%)が最も多く、次いで「急な出費」(38.8%)、「金利上昇による将来の負担増」(36.0%)が続いた。調査結果を見ると、収入が減少して、ローン返済を続けられないことに不安が強いことがうかがえる。

住宅ローン返済 不安理由

出典:カーディフ生命「第5回 生活価値観・住まいに関する意識調査」

住宅ローンの不安を軽減するには、まずは無理のない返済計画を

“家を買う派”が多いものの、住宅ローンの返済に不安を感じているということが分かる結果だが、住宅ローンの借り方に注意することで、不安はかなり解消される。家を買っても借りても、いずれにせよ住宅に関する費用は発生する。住宅ローンに強く不安を感じるのは、賃料なら住み替えて金額を変えることもできるが、ローンは決められた額を必ず払わなければならない、ということにあるのだろう。

不安を軽減するには、まずは無理のない返済計画を立てることだ。病気やケガで働けない期間があっても、ローン返済後の家計に余裕があったり貯蓄があったりすれば、やりくりすることは可能だ。年間の返済額を年収の1/4程度に抑えておけば、変化に対応しやすいだろう。また、購入時の頭金として貯蓄をすべて使ってしまわないこと、購入後も教育資金や老後資金のための貯蓄を続けることも大切だ。

「金利が上昇して返済額が増える」ことに対しては、家計に余裕があったり繰り上げ返済などに回せる貯蓄があったりすれば、やりくりすることも可能だろう。一方で、【フラット35】のような返済中は金利が変わらない「全期間固定型」のローンを選ぶ方法もある。返済当初の金利は「変動金利型」などのほうが低いこともあって、今は変動金利型を借りる人が大半だ。ただし、家計に余裕がない人ほど、返済額が変わらない全期間固定型を選ぶほうが安心できるだろう。

住宅ローンの不安を保険で軽減する方法もある

住宅ローンを借りる際には、多くの場合「団体信用生命保険」(以下、団信)に加入する。団信は借りている人が万一、死亡または高度障害になった場合にローンの残額を保険で返済するものだ。つまり、万一の際に残された家族が代わって返済を求められることはない。

一方で、病気やケガ、失業などの場合は団信の対象外となる。そのため、医療保険や就業不能保険などに加入して、万一に備える方法もある。なお、勤務先で雇用保険に加入しているなどの条件を満たせば、国の失業手当(失業保険)を受け取ることができる。

なお、この調査で、「住宅購入後の後悔」を聞いた際のトップになったのは、「団信の特約を付ければよかった」(40.4%)だった。団信の特約とは、がんや三大疾病(がん・心疾患・脳血管疾患)などに備えたり、就業不能や失業に備えたりする、団信に付帯できる保障のこと。この特約は、団信加入時に付帯するものなので、後から付けることができないのが原則だ。それが後悔する要因なのだろう。

家を買うのであれば、こうした保険に関する情報も押さえておくとよい。

このように、家を買う派が不安に感じる「住宅ローンの返済」については、不安を軽減する方法はいくつかある。漠然とした不安を抱えたままではなく、不安の理由を具体化してそれぞれの対処法を考えておくことは、返済計画の健全性を高め、不安を軽減することにつながるだろう。

●関連サイト
カーディフ生命「第5回 生活価値観・住まいに関する意識調査」を実施

【東横線】中古マンション価格相場が安い駅ランキング2023年。相互直通運転スタートで注目の駅は?

渋谷駅から横浜駅まで、東京と神奈川を代表する街を結んで全長約24.2kmを走る東急東横線。「SUUMO住みたい街ランキング2023 首都圏版」の「住みたい沿線ランキング」では、JR山手線に次いで2位に選ばれている。その人気の高さからすると、沿線の住宅は価格相場も高そうだけれど実際はどうなのか。東急東横線21駅の中古マンションの価格相場を調査し、安い順にランキングした結果を見ていこう。

東急東横線沿線の中古マンション価格相場が安い駅ランキング

1位 菊名 4090万円(神奈川県横浜市港北区)
2位 妙蓮寺 4280万円(神奈川県横浜市港北区)
3位 日吉 4839.5万円(神奈川県横浜市港北区)
4位 大倉山 4899万円(神奈川県横浜市港北区)
5位 反町 4980万円(神奈川県横浜市神奈川区)
6位 東白楽 5185万円(神奈川県横浜市神奈川区)
7位 綱島 5190万円(神奈川県横浜市港北区)
8位 新丸子 5380万円(神奈川県川崎市中原区)
9位 横浜 5490万円(神奈川県横浜市西区)
10位 元住吉 6480万円(神奈川県川崎市中原区)
11位 武蔵小杉 7380万円(神奈川県川崎市中原区)
12位 学芸大学 7980万円(東京都目黒区)
12位 自由が丘 7980万円(東京都目黒区)
14位 祐天寺 8185万円(東京都目黒区)
15位 都立大学 8910万円(東京都目黒区)
16位 渋谷 9280万円(東京都渋谷区)
17位 中目黒 9980万円(東京都目黒区)
18位 代官山 1億2795万円(東京都渋谷区)
※田園調布、多摩川、白楽の各駅は調査条件に満たないため除外

東急東横線で中古マンションを探すなら横浜市港北区の駅に注目!

東急東横線は東京メトロ副都心線、みなとみらい線との相互直通運転が行われ、さらに2023年3月には日吉駅経由で相鉄・東急新横浜線との相互直通運転もスタートしている。これにより渋谷駅から先の新宿三丁目駅や池袋駅、横浜駅から先の元町・中華街駅にも1本で行けるうえ、東海道新幹線の新横浜駅にも渋谷駅から乗り換えずに最速30分で到着可能に。そんな便利さを反映してか、沿線は住まいの価格相場がやはり高めな様子。そうしたなかでも最もカップル・ファミリー向けの中古マンション(専有面積50平米以上~80平米未満)の価格相場が安かったのは、神奈川県横浜市港北区にある菊名駅だ。

菊名駅の駅前の風景(写真/PIXTA)

菊名駅の駅前の風景(写真/PIXTA)

1位・菊名駅の価格相場は4090万円。最も安くて4000万円オーバーということからも、東急東横線の人気の高さがうかがえる。菊名駅は全21駅中で6駅だけの特急停車駅の一つで、菊名駅以外の5駅は価格相場が5000万円以上という点を考えるとお得感があるかもしれない。特急に乗れば横浜駅までは1駅・約6分、渋谷駅までは4駅・約30分。JR横浜線も乗り入れており、新幹線駅でもある新横浜駅まで1駅だ。菊名駅はスーパーに直結し、JRの駅舎にはミニスーパーとベーカリーも。駅の東口にも西口にも商店街が広がり、個人商店やスーパー、ドラッグストアがあるが大型の商業施設はないアットホームな住宅街。駅から北に延びる綱島街道を進むと、市立図書館や郵便局、港北区役所にも徒歩15分以内で行くことができる。

妙蓮寺駅(写真/PIXTA)

妙蓮寺駅(写真/PIXTA)

2位には価格相場4280万円で神奈川県横浜市港北区の妙蓮寺駅がランクイン。1位・菊名駅から横浜方面へ1駅目に位置しているが、停まるのは各駅停車の列車のみのため横浜駅までは4駅・約7分となり、菊名駅~横浜駅間よりも時間が必要だ。妙蓮寺駅の東口を出ると目の前には駅名の由来となった妙蓮寺があり、広大な境内には落差約4mの滝もある。妙蓮寺の北側には市立小学校、その周囲には住宅街が続き、商店街は主に駅の西側。大型商業施設はなくてもスーパー、ドラッグストア、精肉店や青果店から多彩な飲食店まで小さなお店が豊富に揃っている。商店街の先、駅の北西方面には大きな池や遊具、夏季営業のプールを備えた「菊名池公園」があるので、休日に家族で出かけるのもいいだろう。

日吉駅周辺の風景(写真/PIXTA)

日吉駅周辺の風景(写真/PIXTA)

3位も神奈川県横浜市港北区から、日吉駅が価格相場4839万5000円でランクインした。通勤特急と急行が停車する駅で、通勤特急に乗ると横浜駅まで2駅・約12分、渋谷駅までは4駅・約23分。東急目黒線と横浜市営地下鉄グリーンラインも乗り入れているほか、2023年3月開業の東急新横浜線の駅の一つでもある。そのため下り線のホームには横浜方面(東横線)ではなく、新横浜方面(東急新横浜線)の列車も入ってくるので乗り間違いには注意したい。

そんな日吉駅の東口駅前には慶應義塾大学の日吉キャンパスが広がり、通学にもよく利用されていることから1日平均乗降人員数は東急東横線内で5番目の多さ(2022年度)。駅には地下1階から地上3階までさまざまな店舗が並ぶ「日吉東急アベニュー」が併設され、西口駅前にも商店が豊富。学生の街だけあって、気軽に利用できる飲食店が充実している点も魅力だ。

ここまで見てきたトップ3、さらに4位の大倉山駅を含めていずれの駅も神奈川県横浜市港北区にある。横浜市の北東部に位置する港北区は、人口・世帯数ともに横浜市はもとより全国の政令指定都市の区の中で最多なんだそう。そして2020年度の区民意識調査では、「港北区に住み続ける+たぶん住み続ける」との回答が7割を超える結果に。理由としては「交通が便利」が約70%、「愛着を感じている」が約57%、「買い物に便利」が約46%、続いて「治安が良い」「緑や自然が多い」をそれぞれ3割超の人が選択。港北区は住み続けたくなる、便利に暮らせる街のようだ。

渋谷から遠いほど安いわけじゃない! 便利な割にリーズナブルな駅も

ランキングを見てみると、東急東横線沿線の価格相場は「都心の渋谷から遠いほど安い」という単純な結果にはなっていない。渋谷駅から最も離れている横浜駅も神奈川県内屈指の繁華街のため、価格相場は5490万円で安さランキングでは高からず低からずの9位だ。横浜駅を渋谷方面に向かって出ると市内の静かな住宅街を通りつつ、1位・菊名駅に向かって価格相場は多少上下しつつも減少傾向。その後は再び価格相場が上がっていき、神奈川県川崎市の人気住宅地である11位・武蔵小杉駅では7380万円に! ここから都内に向けて価格相場がさらに上昇していくかと思いきや、武蔵小杉駅の隣にある新丸子駅ではググっと減少に転じて5380万円。1駅違いで価格相場に2000万円もの差がつく、新丸子駅とはどんな駅だろうか?

新丸子駅(写真/PIXTA)

新丸子駅(写真/PIXTA)

8位・新丸子駅があるのは神奈川県川崎市のほぼ中央部、中原区。駅から15分ほど北に歩き、丸子橋を渡って多摩川を越えれば東京都大田区に入る。多摩川沿いには自転車・歩行者道「かわさき多摩川ふれあいロード」が整備され、気軽にサイクリングや散策が楽しめる環境だ。駅前は西口・東口ともに商店街が広がる、活気ある街並み。西口を出て5分ほど歩くと日本医科大学附属の病院もあり、もしもの時も心強い。この大学病院の敷地は近年再開発が行われ、現在の病棟は2021年に新築移転されたもので最新の医療機器を揃えている。病院の西側には2019年4月に川崎市立小学校が開校し、増加傾向にある近隣住民の子どもたちが通っている。さらに病院の南側では現在も再開発が進行中。2026年2月の竣工を目指してツインタワーが建築されており、住宅棟と商業施設、高齢者福祉施設や保育所が誕生予定だ。

かわさき多摩川ふれあいロード(写真/PIXTA)

かわさき多摩川ふれあいロード(写真/PIXTA)

また、新丸子駅から南に5~6分も歩くと、11位・武蔵小杉駅に到着する。両駅間は東急東横線内で最短、500mほどしか離れていないのだ。そのため新丸子駅周辺に住んでも、武蔵小杉駅周辺にある大型ショッピングモールに気軽に行くことが可能。武蔵小杉駅からなら、新丸子駅には停車しない東急東横線の特急や急行にも乗れるし、JRの南武線や横須賀線、新宿湘南ラインも利用できる。にもかかわらず価格相場は格段にリーズナブルなのだから、新丸子駅周辺で物件探しをするのもアリだろう。

●駅順の価格一覧

駅順の価格一覧

さて、新丸子駅から渋谷方面に進むとまたも価格相場は上昇していく。なかでも東京都目黒区の15位・都立大学駅は、価格相場が同額の7980万円で12位にランクインした自由が丘駅と学芸大学駅の間に位置しながら、8910万円という高さ。都立大学駅は各駅停車しか停まらないが、急行停車駅である両隣の駅よりも価格相場が930万円もアップするのだ。ただ、各駅停車でも渋谷駅までは5駅・約15分と近く、隣の学芸大学駅で急行に乗り換えると約12分で行くことができる。

そんな都立大学駅は現在リニューアル工事が行われている。すでに外壁など一部は改修済みで、2024年春に完了予定だという。駅の高架下には飲食店や精肉店があるほか、駅前の商店街もにぎわっている。しかし駅から少し離れると静かな住宅街が広がり、のんびり散策できる緑道も。1日平均乗降人員数は両隣の駅と比べて2万人以上も少ない都立大学駅。都会の便利さを享受しつつ静かに落ち着いて暮らせる点が、この街の魅力と言えるだろう。

都立大学駅(写真/PIXTA)

都立大学駅(写真/PIXTA)

今回調査した東急東横線は、2023年8月より有料座席指定サービス「Qシート」がスタートして話題を呼んだ。これは平日の夕方以降に渋谷駅を発車する一部の元町・中華街行き急行列車に導入され、既存車両よりも広い座席や無料Wi-Fiサービスが利用できるもの。クタクタの仕事終わりやたっぷり遊んだ帰り道、ゆったりと座って帰宅できるのだ。そんな新たな魅力を備えた東急東横線は、今後も「住みたい路線」としての人気がより高まっていきそうだ。

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている東横線沿線の駅(掲載物件が20件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】
駅徒歩15分圏内、物件価格相場3億円以下、築年数35年未満、敷地権利は所有権のみ
専有面積50平米以上80平米未満
【データ抽出期間】2023/4~2023/9
【物件相場の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された中古マンション価格から中央値を算出
※記載の分数は、駅内および、駅間の徒歩移動分数を含む
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している

勤務先への出社頻度は増加しても、郊外・地方への移住ニーズは減少しない?

野村総合研究所(以下NRI)は、2023年7月、東京都内の従業員300人以上の企業に勤務する20代~60代の男女3090人を対象に、働き方と郊外・地方移住に関するインターネット調査を実施した。2022年の調査に続き2回目。新型コロナウイルス感染症が2023年5月に5類に移行してからの調査になるので、前回より勤務先への出社頻度は増加しているが、移住ニーズはどう変化したのだろう。

【今週の住活トピック】
「働き方と移住」のテーマで2回目の調査を実施/野村総合研究所

勤務先に「毎日出社」する割合が53.1%まで回帰

まず、2023年7月時点の出社頻度を尋ねたところ、「毎日出社」が53.1%を占めた。前回調査時の2022年2月は、まだ東京都でまん延防止等重点措置の期間中だったため、「毎日出社」が38.3%だったのに対してかなり増えたことになる。出社回帰の傾向は強まっているものの、コロナ前ほどには戻っていないようだ。

■各時点での出社頻度(コロナ前・今回調査時:N(回答数)=3,090、前回調査時:N=3,207)

各時点での出社頻度

注)コロナ前の出社頻度は、今回の調査対象者に2020年1月以前の出社頻度を聴取した。
前回、今回調査時の出社頻度は、各回の調査対象者に調査時点の出社頻度を聴取した。
出所:NRI「働き方と生活に関するアンケート」(2023年7月)

出社頻度が増加した理由はなんだろう? 出社頻度が増加した人にその理由を聞いたところ、「勤務先の方針やルールが変わり、出社を求められるから」(39.0%)など企業側の要請という理由もあったが、「出社したほうがコミュニケーションを円滑に取れるため、自主的に出社を増やしたから」(28.2%)や「出社したほうが業務に集中できるため、自主的に出社を増やしたから」(23.7%)など、自らの意志によるものもあった。

出社頻度が増加しても、郊外・地方への移住意向は下がらない

次に、郊外・地方※への移住意向を聞いたところ、直近1年間に移住意向がある人は全体の15.3%、5年以内に意向がある人は全体の28.4%と、それぞれ前回調査から微増した。出社頻度が増加したとはいえ、郊外や地方への移住ニーズは下がっていないことが分かった。
※都心から公共交通機関で1時間程度の場所を「郊外」、2時間以上の場所を「地方」として調査

■郊外・地方への移住意向がある人の割合(前回調査N=3,207、今回調査N=3,090)

郊外・地方への移住意向がある人の割合

出所:NRI「働き方と生活に関するアンケート」(2023年7月)

NRIは、この理由として、「「都心よりも住宅費が抑えられる郊外・地方への関心が高まっている」、「テレワークの浸透によって、より広い居住面積を有する郊外の住宅ニーズが高まっている」などが推察される」としている。また、移住意向を年代別や現在の居住形態別に分析した結果、「郊外・地方への移住意向がある層は、現在は賃貸住宅に居住している若年層(25~34歳)で、かつ将来的には持家に居住したいと考えている層だと考えられる」と指摘している。

「理想の出社頻度」を聞いたうえで、出社頻度を現在の出社頻度よりも減らしたいと考えている人を分析したところ、「郊外・地方移住意向なしの人よりも、郊外・地方移住意向ありの人の方が多い結果となった」という。最も差が開いたのは、「週3日出社」の場合。「週3日出社」している人で理想の出社頻度を減らしたい回答だったのは、「郊外・地方移住意向なし」では49.3%なのに対して、「郊外・地方移住意向あり」では63.9%で、週3日以上の出社が移住のハードルとなっているようだ。

また、「転職の意向」と重ねて分析すると、「郊外・地方移住意向あり」のうち、「今後1年の間に転職を考えている」人は47.6%で、「郊外・地方移住意向なし」の23.9%に比べてかなり高い結果となった。さらに、転職の検討理由について分析すると、「郊外・地方移住意向あり」のうち、「テレワークの制限によって理想の働き方が実現できないこと」が理由だと回答した人は23.6%で、「郊外・地方移住意向なし」の14.8%に比べて高い結果になっていた。これらのことから、NRIは、「郊外・地方移住意向ありの人の中には、出社頻度を転職の判断軸のひとつとする人が一定数いると推察される」と分析している。

郊外・地方移住をする場合の注意点とは?

では、郊外・地方に移住する際に注意すべきことはなんだろう?

現役世代が勤務しながら「郊外・地方移住」をする場合、都心部から遠くても2~3時間程度までだろう。となると、都心部と気候が全く異なるとか、自然に囲まれた田舎暮らしになるとか、そこまでの注意点は不要だろう。

そうはいっても、都心部の暮らしとは違う点も多々あるはずだ。その場所に住むことのメリットとデメリットをしっかりと把握しておきたい。

たとえば、
・広い家を手に入れやすい
・都心から離れた分だけ自然が豊かになる
・生活するための物価が安い
などのメリットがあるかもしれないし、

・近隣との関係が都心部とは異なる
・車移動が増える。そのため、ガソリン代も増える
・都心より、商業施設や娯楽施設が少ない
などのデメリットがあるかもしれない。

なぜそこに移住したいかの「理由」を明確にしておくことも大切だ。メリットの優先度が高くなったりデメリットを許容できるようになったりと、検討したメリットとデメリットの優劣も変わってくる。家族で移住するなら、よく話し合って互いに共有できるようにしておきたい。

NRIでは、「賃貸住宅に居住している若年層(25~34歳)で、かつ将来的には持家に居住したい層で、郊外・地方移住意向が高いことから「家族が増える・住宅を購入するといったタイミングでの転居において、その安さや広さから郊外・地方への関心がより高まっている」と考えられる」と見ている。利便性一辺倒ではない住まいの選び方が、今後は広がっていくのかもしれない。

●関連サイト
「野村総合研究所、都内の会社員を対象に「働き方と移住」のテーマで2回目の調査」

小規模な街中のビルでも、脱炭素に資する木造ビルになる!ブルースタジオが推進するプロジェクトの挑戦を徹底解説

大島土地建設とブルースタジオが、『まちの大家による都市の面的木造化』推進プロジェクトを推進している。「都市の木造化」のために、中小規模事業者でも計画可能な小規模木造ビルのモデルが必要で、それを構築し普及を図るというものだ。そのモデルとなる「OS annex 2」が上棟し、見学会が開催されたので参加した。

まちの大家に小規模な木造ビルを建てるという選択肢を提供

政府の2050年カーボンニュートラル宣言に見られるように、脱炭素が求められている。その方策の一つが、木造化・木質化だ。住宅・建築分野において、積極的に「木」を使うことで温室効果ガスの吸収を増やせるからだ。大規模な建築物では、大手ゼネコンなどが独自の工法を確立し、すでに木は燃えやすいというイメージを覆すような高層の木造ビルをいくつか建てている。

一方、建築・不動産業界の多数を占めるのは、中小規模の事業者だ。中小規模の事業者がビルの木造化に取り組まない限り、都市の面的な木造化は進まない。そう考えて動き出したのが、大島土地建設三代目代表でブルースタジオの専務取締役でもある、大島芳彦さんだ。大島土地建設は、東中野のみで小規模ビル7棟を賃貸する、いわゆる「まちの大家」だ。その大島土地建設が施主(大家)となり、ブルースタジオが建築設計を担当して、木造化による賃貸ビル「OS annex 2」を建築することを決意した。

都心商業地域の主たる建築物は、2000平米未満の商業・事務所ビル。このクラスの「小規模ビル」の木造化技術の標準化とその普及が目的だ。「中小規模不動産事業者、中小規模設計事務所、中小規模工務店」でも計画可能な標準工法による小規模木造ビルの建築モデルを構築することで、本質的な『都市の木造化』の促進を目指すという。

つまりは、まちの大家(大島土地建設)でも、まちの設計事務所(ブルースタジオ)やまちの工務店(今回は礎コラム)と共に、小規模な木造ビルを建てられる建築モデルを用意したので、実際に建てた事例を見て同じように建ててほしいということだ。

見学会で熱く語る、大家兼blue studioディレクターの大島芳彦さん(筆者撮影)

見学会で熱く語る、大家兼blue studioディレクターの大島芳彦さん(筆者撮影)

小規模ビルの木造化、その手法とは?

建築モデルとなる「OS annex 2」の概要を見ると、JR中央・総武線「東中野」駅徒歩2分、敷地は間口約9m・奥行約17m、8階建て、延べ床面積714.46平米となっている。大島さんによると「都心部の建物の約7割は10階建て以下、間口10m以下」の縦長のビルだというので、その典型の建物と言えるだろう。ただし、木造化と言ってもすべてが木造というわけではない。設計上はすべて木造とすることは可能なのだが、そうすると建築コストがかなりかかるため、経済合理性を考えて、1~4階は鉄骨造、5~8階は木造としている。

1~4階は、標準的なラーメン構造の2時間耐火の鉄骨造だ。ラーメン構造とは、「柱」(垂直方向)と「梁(はり)」(水平方向)で四角形の枠を構成して建物を支える構造のこと。柱と梁をしっかり接合することで、地震の揺れで変形しないようになっている。
※鉄骨造は両方向のラーメン構造

この鉄骨造の上に、1時間耐火の木造を載せる構造となっている。木造部分は、構造となる木材(カラマツ)を強化石膏ボードで両側からはさんで耐火被膜とし、さらにその両側面を木材の耐震フレームではさむ「門型」フレームのラーメン構造としている。ただし、門型フレームは、開口部側の一方向のラーメン構造なので、奥行側にブレース(筋交い※)を入れる形を採っている。
※四角形に組まれた骨組みに対角線状に入れる補強材のこと

ビルの構造の説明図

ビルの構造の説明図

筆者はかつて、大手ハウスメーカーが建てた木造の賃貸マンション(5階建て)を見学したことがあるが、それも経済合理性を考えて1階をRC(鉄筋コンクリート)造としていたので、混構造となるのはよくあることなのだろう。

この構造がよく分かる上棟の段階で、見学会が行われた。

数回に分かれて行われた見学会。筆者参加の回も大勢が見学に訪れた(筆者撮影)

数回に分かれて行われた見学会。筆者参加の回も大勢が見学に訪れた(筆者撮影)

建築中の建物内に入り、ビルの構造をこの目で確認

間取図と現地写真で、鉄骨造と木造の違いを見てほしい。鉄骨造のフロアでは左右それぞれに柱が3本ずつ、木造のフロアではそれぞれに柱が5本ずつ入っているのが分かる。

■鉄骨造のフロア

2~4階の間取図

2~4階の間取図(間取図提供:ブルースタジオ)

1階の様子

1階の様子(筆者撮影)

■木造のフロア

5~8階の間取図

5~8階の間取図(間取図提供:ブルースタジオ)

6階の様子

6階の様子(筆者撮影)

木造部分を詳しく見ると、下の写真の緑色の部材が主要構造部で、木材をそのまま見える形にした耐震フレームで両脇をはさんでいる。奥行側は隣にマンションがあるので、斜めのブレースを入れて耐震補強している。床は山型デッキプレートを使った合成スラブ構造で、天井部分にデッキプレートが見えている。

8階の木造部分(筆者撮影)

8階の木造部分(筆者撮影)

さて、見学会では、もっと詳しい説明があったのだが、筆者は建築の専門知識がないので、残念ながら構造や設計について詳しいことがよく理解できなかった。木造防耐火監修の桜設計集団による木造門型フレームの加熱実験が行われるなど、標準モデルとなるような細かい設計がなされているので、詳しく知りたい場合は、ブルースタジオに確認をしてほしい。

小規模木造ビルで、賃料設定はどうなる?

さて、木造ビルは決して安価で建てられるものではない。国からの補助金などを受けているが、それでも賃料は周辺相場より高めになる。募集する賃料は、2~4階(専有面積76.45平米)で38万2800円、5~8階(専有面積71.61平米)で39万600円※8階のみ41万2300円(賃料はいずれも消費税別)。

ただし、ZEB-ready(ゼブ・レディ=完全なZEB/ゼロエネルギービルではないが、ZEBを見据えた先進建築物としての条件を備えたビル)を取得し、通常より電気代を抑制できることに加え、外壁面に太陽光パネルを設置することで、テナントが光熱費を抑えることができるようになっている。また、外から見て木造ビルであることがすぐに分かるようにデザインされているので、地球環境に配慮したビルに入居することの意義などSDGsの要素も加わり、そのうえで賃料を見てもらえると考えている。

大島さんは、木造ビルの建て方だけでなく、こうした募集ノウハウなども合わせて提供できるのではないかという。

さて、地球温暖化が進み、カーボンニュートラルに向けて待ったなしの状況になっている。住宅や建築分野の脱炭素は、資金力や人手のある大手事業者が先導して取り組むことが多いが、現実には小規模な住宅や建築物が街中には多く存在している。小規模な建築物でも脱炭素に取り組みやすい手法があり、成功事例が増えていけば、街の中に木造のビルが増えていくかもしれない。大島さんの挑戦に、今後も注目していきたい。

●関連サイト
ブルースタジオ プレスリリース「まちの大家による『都市の木造化』促進計画 都心商業地域における小規模木造ビルの標準化プロジェクト」

北欧の街がレンガ造りから木造にシフト中の理由。海藻・ススキ・ワラもサステナブルな新建材として再注目、デンマークからレポート

ヨーロッパやデンマークの街並みを考える時、まず思い浮かぶのはレンガ造りの建物ではないでしょうか?でも、ここ数年、環境負荷を下げ、持続可能な住まいや建物をつくることを意識する上で、デンマークでも木造建築に注目が集まりはじめています。でも、人々の関心は木材以外のものにも広がっているようで……。デンマークが考える、これからの持続可能な建築素材について探ります。

レンガと瓦がデンマークの街並みをつくってきた建築材料の中心的存在

レンガ造りの家、と聞いて、私がいつも真っ先に思い浮かべるのが、『3びきのこぶた』の童話です。みなさんも、子どものころ読んだことがあるかと思います。子豚を食べてやろうと虎視眈々と狙うオオカミ。長男の子豚はワラで、次男の子豚は木で家を建てるもののどちらの家も簡単に吹き飛ばされてしまいますが、働き者の三男の子豚が建てたのは、レンガの家。そのおかげでオオカミに食べられずにすみ、しかも、オオカミ退治までしてしまうというお話でした。

これは、イギリスのお話だそうですが、デンマークでもレンガや瓦屋根は1000年以上にわたり、建築材料の中心的な役割を担ってきました。見た目が美しく、寒さと熱の両方に対して断熱性を備え、耐久性も優れた素材です。また、デンマークの下層土には粘土が大量に埋蔵されているので、レンガや瓦屋根をつくるのに適していたことも影響しています。

瓦屋根は、はじめは国王や教会、領主だけが使うことができる非常に高価な建築材料でした。しかし、その当時多かった茅葺屋根の家々が連なる町は度重なる火災に見舞われ、何世紀にもわたり大きな人的、金銭的被害を出してきたことと、時代とともに瓦の製造技術が上がったことで、レンガと同様、瓦も一般の人々の家に普及していきました。

今、デンマークのあちこちで見かけるようなレンガと瓦屋根の家が増える前は、木組みにレンガを組み合わせた木骨レンガ造の家に茅葺屋根、というのが主流で、18~19世紀に建てられました。地震や台風がなく、戦争でも大きな被害を受けなかったこともあり、当時建てられた木骨レンガ造の家や茅葺屋根の家は今でもデンマーク各地で現役で使われており、古き良きデンマークの面影を町や田舎の風景の中にとどめています。リゾートエリアにあるこうした建物もとても人気があり、資産価値も高いのです。

私が暮らすロラン島のマリボにある、木骨レンガ造に瓦屋根の家 (C)Daniel Villadsen

私が暮らすロラン島のマリボにある、木骨レンガ造に瓦屋根の家 (C)Daniel Villadsen

家づくりの材料としての木材の利用が少しずつ増加傾向に

私も最初にデンマークで引越したアパートは、なんと1670年代に建てられたもので、レンガ造り。でも、外装も内装も何度もリノベーションが施されているので、そこまで古い感じはしませんでした。一部、床は少し傾いているかな~というところはありましたが……(笑)。

前述したように、デンマークは地震や台風はないので、古い建物でも、補強や断熱などのリノベーションをすれば、家や建物は長く使うことができます。ですから、引越す時に、前あった家を壊して新築する、ということは非常にまれで、もともとあった家に引越して、そこで自分の好みになるように手を加えて暮らすことが主流です。

そうは言っても、人口の自然増が進むデンマークでは、新築の住宅や新しい建築物なども増えていて、近年の住宅完成件数は一年あたり約20,000~35,000件にのぼります。そして、建築材料として木材を使う割合が少しずつ増加傾向にあります。レンガの原料自体は天然素材ですが、これまでのレンガづくりは石炭を燃料とする焼成窯を利用することが多く、製造過程で多くの二酸化炭素を排出します。また、コンクリートも石灰石を他の原料と混ぜて高温で燃焼するプロセスで、二酸化炭素が大量に排出されます。こうした建築材料に、少しでも再生可能な木材などを使うことは、地球上全体の化石燃料による二酸化炭素の排出量を減らすことにつながります。デンマークでは、2020年6月に制定されたデンマークの『気候法』で、二酸化炭素の排出量を2030年までに、1990年比で70%削減するという野心的な目標を定めています。デンマークの二酸化炭素の総排出量の約3分の1以上は建設業界が占めていることから、その削減を確実に進めるために、翌2021年の4月に『持続可能な建設のための国家戦略』が策定されています。
これは、重点分野に

1)より気候に優しい建築と建設 
2)高品質で耐久性のある建物 
3)資源効率が高い建設 
4)エネルギー効率が高く、健康的な建物 
5)デジタル対応の建設

という5つを据え、さらに持続可能な建設の3つの次元として

1)自然、環境、気候、資源に影響を与える環境の質 
2)幅広い観点で人々の健康と幸福に関係する社会的資質 
3)総経費と建設の質のバランス

という意味合いで経済の質が保たれていることにフォーカスし、2030年までのロードマップを示すものです。

そうしたなか、木材が気候への影響を軽減する有効な手段であるという認識の高まりも相まって、建築における木材の使用は、過去10年で約25%増加しています。しかしながら、木造建築が劇的に増えたかというとそういうわけでもなく、2020年のデンマークの総建設の9%、住宅建設の11%が木造建築となっています。デンマークの木材関連団体では、2030年までにデンマークの建築の20%を木造建築が占めるという目標を掲げています。

木造の住宅コミュニティAgorahaverne。大人と高齢者向けで、自由、コミュニティ、自然、そして持続可能性がテーマ(C)Tetriis A/S

木造の住宅コミュニティAgorahaverne。大人と高齢者向けで、自由、コミュニティ、自然、そして持続可能性がテーマ(C)Tetriis A/S

(C)Tetriis A/S

(C)Tetriis A/S

ワラ、亜麻、海藻……木材だけじゃない、古くて新しいこれからの建築材料

これからデンマークが、二酸化炭素の排出量を大幅に削減して、国連の気候目標を達成すると同時に資源不足を解消するためには、再生可能な生物由来の資源を建築材料として使いこなしていくことも重要です。農業先進国であり、周りをぐるりと海岸線に囲まれたデンマークは、林業、農業、海洋環境から生物由来の資源を生み出せる可能性も大きく、これまで建築材料として使用してきた、環境負荷が高く再生不能なコンクリート、鉄鋼、レンガ、ミネラルウールの代わりにそうした生物由来の資源を使用することで、建設における二酸化炭素の排出量の削減に大きく貢献できます。
前述したデンマークの茅葺屋根ですが、その素材となっているのは実は日本原産のススキで、1990年代にデンマークに輸入され、全国で栽培されるようになったものなんです。もともとは、デンマーク産の葦が屋根に使われていて、200~400年も長持ちしていたそうですが、1930年にその葦が全国的に病気に侵され、既にあった茅葺屋根の家の補修も困難になってしまいました。そこで1990年代に、デンマークでは茅葺屋根の素材に関する世界での大規模調査が行われ、その時に日本のススキは丈夫で、経年劣化もゆっくりで金色とも例えられる美しい色合いが長持ちするということで、デンマークに移植されることになりました。日本では、ススキというと河原や山沿いの原っぱに生えているのが私たちに馴染みある風景だと思いますが、デンマークではススキは畑や湖や海岸近くの平地で栽培されています。ですから、刈り取る機械などもデンマークで開発されました。

私は、たまたま日本とデンマーク、両方の茅葺屋根職人さんの友人がいて、彼らの技術交流のお手伝いをさせていただいていたこともあります。現在、デンマークには約55,000軒の茅葺屋根の家があります。余談ですが、国際茅葺き協会というものがあり、現在、デンマーク、日本、フランス、ドイツ、英国、オランダ、南アフリカ、スウェーデンの職人さんたちが会員になり、2年毎に「世界茅葺き会議」も開催されています。ちなみに2019年には日本の白川郷、京都、美山、神戸を会場として開催されました。次回は2025年にデンマークでの開催が予定されています。

茅葺屋根の家。部屋の中は夏涼しく冬暖かい (C)Visit Lolland-Falster

茅葺屋根の家。部屋の中は夏涼しく冬暖かい (C)Visit Lolland-Falster

最近の茅葺屋根建築の代表的なものは、記事冒頭の写真で紹介した、デンマーク最古の町リーベにある、Vadehavscenteret。国立公園にあるこの海洋センターは、ファサード、屋根、天井裏が葦で覆われていて、自然と一体化した特徴的なデザインです。通常、茅葺きは屋根の部分のみの場合が多いですが、この建物は、地面に続くところまですべて葦(あし)でつくられています。

Vadehavscenteret(ワッデン海洋センター)。自然に溶け込む、全体が葦で覆われた雄大な建物 (C) Vadehavscentret (2017) - Dorte Mandrup. Photographer: Adam Moerk

Vadehavscenteret(ワッデン海洋センター)。自然に溶け込む、全体が葦で覆われた雄大な建物 (C) Vadehavscentret (2017) – Dorte Mandrup. Photographer: Adam Moerk

デンマークには、伝統的に海藻を使って屋根を葺く伝統もレス島に残っています。レス島は女性の島と呼ばれることもあります。歴史的に男性は漁に出たり、船乗りが多かったので、屋根を葺くなどの重労働も女性が手仕事で担っていたためです。その歴史から生まれたのが、アマモを使って屋根を葺く海藻屋根。島には17世紀に葺かれた海藻屋根が健在で、長持ちすることが証明されていますが、アマモには塩が染み込んでい
るため、燃えたり腐ったりすることがないのだそうです。

レス島の海藻屋根の家。とてもユニークな外観。断熱、防音効果も高い(C)Kjetil Loeite

レス島の海藻屋根の家。とてもユニークな外観。断熱、防音効果も高い(C)Kjetil Loeite

デンマークの建築というと、日本でも人気の北欧デザイン、最新のシャープで斬新なものがイメージされるかもしれませんが、その良さを活かしつつ、今後は温故知新、身の回りにもともとあった自然素材の価値を再定義して、うまく組み合わせていくことになりそうです。どこか温かみのある住宅や建物がある町や地域、住む場所、使う場所が他の誰かや地球にストレスをかけない暮らし。スピードと効率性を究極まで求めてきた時代から、ようやくまた人が、地球が自然なテンポで生きることに戻っていくのかもしれないと思うと、心まで温かくなるような気がするのは私だけでしょうか?

●取材協力
・Eksporteventyr og lØsningen på fremtidens bæredygtige byggeri – KØbenhavns Universitet
・LæsØs tangtage | VisitLæsØ
・Vadehavscentret i Ribe

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【JR中央線】中古マンション価格相場が安い駅ランキング2023年版(東京-高尾32駅)。吉祥寺が新宿よりも高額に

東京の主要路線の一つ、JR中央線。中央線自体は「中央本線」と呼称を変えながら東京駅を出てから神奈川県、山梨県、さらに長野県へとつながる長い路線だ。そのうち東京都内に位置する駅は、東京駅から高尾駅までの全32駅。そんなJR中央線・東京都内32駅の中古マンションの価格相場を調査した。専有面積50平米以上~80平米未満のカップル・ファミリー向け物件の、価格相場を安い駅順にランキングした結果がこちら!

JR中央線沿線(東京都内)の中古マンション価格相場が安い駅ランキング

順位/駅名/価格相場/駅所在地
1位 西八王子 2824.5万円(東京都八王子市)
2位 日野 2980万円(東京都日野市)
3位 豊田 3930万円(東京都日野市)
4位 八王子 3950万円(東京都八王子市)
5位 国立 4480万円(東京都国立市)
6位 西国分寺 4730万円(東京都国分寺市)
7位 国分寺 4980万円(東京都国分寺市)
7位 立川 4980万円(東京都立川市)
9位 武蔵小金井 5499万円(東京都小金井市)
10位 東小金井 5540万円(東京都小金井市)
11位 高円寺 5985万円(東京都杉並区)
12位 西荻窪 6515万円(東京都杉並区)
13位 武蔵境 6630万円(東京都武蔵野市)
14位 阿佐ケ谷 6980万円(東京都杉並区)
15位 三鷹 7195万円(東京都三鷹市)
16位 大久保 7280万円(東京都新宿区)
17位 中野 7680万円(東京都中野区)
18位 東中野 7698万円(東京都中野区)
19位 荻窪 7780万円(東京都杉並区)
20位 新宿 8500万円(東京都新宿区)
21位 吉祥寺 8635万円(東京都武蔵野市)
22位 御茶ノ水 8990万円(東京都千代田区)
23位 水道橋 1億180万円(東京都千代田区)
24位 飯田橋 1億890万円(東京都千代田区)
25位 信濃町 1億980万円(東京都新宿区)
26位 四ツ谷 1億990万円(東京都新宿区)
27位 代々木 1億1360万円(東京都渋谷区)
28位 市ケ谷 1億1500万円(東京都千代田区)
29位 千駄ケ谷 1億2700万円(東京都渋谷区)
※東京駅、神田駅、高尾駅は調査条件に満たないため除外

トップ3には八王子市~日野市より3駅がランクイン

東京駅や新宿駅など、東京を代表する駅が沿線に並ぶJR中央線。毎年調査する「SUUMO住みたい街ランキング 首都圏版」でも、2018年より6年連続で「住みたい沿線ランキング」の4位に輝く人気の路線でもある。それだけに沿線の物件価格も高そう……。東京駅から離れると価格も下がりそうだが、果たしてリーズナブルに住まい探しができる駅はどこなのかを調査してみた。

西八王子駅北口(写真/PIXTA)

西八王子駅北口(写真/PIXTA)

最も中古マンション(専有面積50平米以上~80平米未満)の価格相場が安かったのは、八王子市に位置する西八王子駅で価格相場は2824万5000円。JR横浜線やJR八高線も乗り入れる八王子市の中心地、4位・八王子駅(価格相場3950万円)に比べると、西八王子駅周辺は落ち着いた住宅街の趣がある。とはいえ線路を挟んで北側にも南側にもスーパーやドラッグストア、気軽に利用できるチェーン系の飲食店が複数あり、暮らしやすそうな街並みだ。

西八王子駅から歩いて20分弱の場所に八王子市役所があるのも何かと便利だろう。1駅隣の八王子駅に出れば大型のショッピングモールも利用できるほか、駅から北に車で15分ほどの場所に「イオンモール八王子インターチェンジ北(仮)」が2025年春に開業予定という嬉しい情報も。また、通勤時間帯の7時台~8時台はJR中央線快速が10分未満の間隔で運行されており、新宿駅まで約56分、東京駅まで約1時間11分で行くことができる。新宿駅の価格相場(20位・8500万円)と見比べると、この程度の所要時間であれば都心部に通勤する人にとっても西八王子駅は住まいの候補地としてアリではないだろうか。

市民の森スポーツ公園(写真/PIXTA)

市民の森スポーツ公園(写真/PIXTA)

2位には日野市の中心部にある、日野駅が価格相場2980万円でランクイン。駅周辺には市役所や市立図書館、広々とした「市民の森スポーツ公園」、トレーニングルームを備えた「市民の森ふれあいホール」といった市の施設が点在。新選組の副長・土方歳三の出身地としても知られ、駅から徒歩15分圏内には「新選組のふるさと歴史館」や、新選組の隊員たちが稽古に励んだ剣術道場があった甲州街道・日野宿本陣の建物も。そうした歴史を伝える施設を抱える街ではあるが、駅前には複数のスーパーやドラッグストアもあり住宅地らしい雰囲気。駅から北に10分ほど歩くと多摩川の河川敷に出るので、息抜きにのんびりと散歩をするのも気持ちよいだろう。

豊田駅北口(写真/PIXTA)

豊田駅北口(写真/PIXTA)

3位にランクインしたのは、1位・西八王子駅と2位・日野駅の間に位置する豊田(とよだ)駅。こちらも日野市に位置しているが、価格相場は日野駅よりもグッと上がって3930万円。豊田駅南口側では街の再整備が進行中で新築マンションも誕生しており、そうしたことも価格相場に影響しているかもしれない。駅の北口側には、食料品店はもちろんグルメやファッション、生活雑貨、家電など多彩なショップがひしめく「イオンモール多摩平の森」があり、たいていの買い物はここで済ませられるだろう。大規模な新築マンションも登場している。また、東京方面行きのJR中央線快速は豊田駅始発の便もあり、座って通勤・通学できる点も魅力。新宿駅まで50分弱、東京駅までは1時間少々で行くことが可能だ。

実は新宿駅より武蔵野市のアノ駅のほうが価格相場が高いと判明

JR中央線で最も東京駅から離れている高尾駅は今回ランク外となったが、高尾駅から東京方面に進むと西八王子駅(1位)~八王子駅(4位)~豊田駅(3位)~日野駅(2位)という順で駅が続いている。つまりトップ4には高尾駅に近い4駅がランクインしており、「東京駅から遠いほど価格相場が安そう」というイメージ通りの結果だろう。5位以下もおおむね価格相場は高尾駅に近い駅ほど安く、東京駅に近づくほど高くなっている。そんな傾向があるなかで異色の存在と言えるのが、21位の吉祥寺駅だ。

吉祥寺駅(写真/PIXTA)

吉祥寺駅(写真/PIXTA)

武蔵野市に位置する21位・吉祥寺駅は高尾駅から13駅目、東京駅からだと18駅目。にもかかわらず価格相場は8635万円で、東京駅から10駅目の20位・新宿駅(価格相場8500万円)よりも高い結果となったのだ。吉祥寺駅は「SUUMO住みたい街ランキング2023 首都圏版」では前年調査に引き続いて2位に選ばれており、JR中央線沿線の駅では一番人気の街。特に「夫婦+子ども世帯」からの支持が高く、まさに今回調査した「カップル・ファミリー向け物件(専有面積50平米以上~80平米未満)」の購買層に人気があると言えよう。そんな需要の高さが、価格相場にも表れたようだ。

吉祥寺駅にはJR中央線のほかに京王井の頭線が乗り入れ、駅周辺は東京多摩地区でも屈指の繁華街。駅ビル「アトレ吉祥寺」をはじめとする大型商業施設からアーケード商店街の「吉祥寺サンロード商店街」「吉祥寺ダイヤ街」、さらに細い路地にまで多彩なショップや飲食店がひしめき、多くの人でにぎわっている。一方で駅から南に5分も歩けば「井の頭恩賜公園」へ。ボートが浮かぶ池をたたえた園内は緑豊かで、駅前の喧騒を忘れる憩いの空間。隣接地には動物園や遊具広場がある「井の頭自然文化園」や、「三鷹の森ジブリ美術館」もある。商業エリアや公園の周辺には静かな住宅街が広がり、都会的な便利さも、のどかな環境も兼ね備えている点が吉祥寺の人気の理由かもしれない。

もう1駅、杉並区にある11位・高円寺駅にも注目したい。駅の立地としては14位・阿佐ヶ谷駅(価格相場6980万円)と17位・中野駅(同7680万円)に挟まれているが、高円寺駅の価格相場は5985万円と両隣の駅と比べてだいぶリーズナブル。JR中央線の快速は平日のみ停車する駅ではあるが、それは阿佐ヶ谷駅も同様だ。JR中央線快速に乗れば新宿駅まで約7分、東京駅まで約22分という近さでありながら、周辺駅よりも価格相場が安い高円寺の駅周辺の様子を見てみよう。

高円寺駅前、高円寺純情商店街(写真/PIXTA)

高円寺駅前、高円寺純情商店街(写真/PIXTA)

高円寺は駅周辺で毎年8月に「東京高円寺阿波おどり」が開催される街として知られ、駅の発車メロディーも阿波おどりのおはやしをアレンジしたもの。北口の「高円寺純情商店街」、南口の「高円寺パル商店街」をはじめ駅周辺には複数の商店街が広がり、食料品店から若者に人気の個性的なお店まで多彩な店舗が軒を連ねている。2020年には高円寺駅~阿佐ヶ谷駅間の高架下に「al:ku(アルーク)阿佐ヶ谷」が誕生。カフェやベーカリーのほかに幼児園や体操教室など子ども向けの施設も入っているのは、ファミリー層が暮らす街らしいところだろう。

人出も多くにぎわいがあるが、大型の商業ビルではなく小規模店舗が並ぶ街なので親しみやすい下町風情が漂う。都心に近いわりには価格相場が控えめで、地元民に親しまれる商店街が元気な高円寺はJR中央線沿線の穴場駅と言えそうだ。

さて今回調査したJR中央線では、東京駅~大月駅(山梨駅)間を走る快速列車に2階建てグリーン車を導入する計画が進行中。2024年度末以降の導入予定で、現状の10両編成にグリーン車2両を連結するのだとか。運賃とは別にグリーン車料金が必要だが、先ごろ報道公開された車両内部を見るとリクライニングシートにコンセントも付いてなかなか快適そう。JR中央線快速は混雑率が高い路線だが、グリーン車を利用すれば確実に着席できるのが嬉しいところ。導入後はさらに、「住みたい街」としてJR中央線沿線の人気が高まりそうだ。

●駅順の価格一覧

駅順の価格一覧

※東京駅、神田駅、高尾駅は調査条件に満たないため除外

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている中央線沿線の駅(掲載物件が20件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】
駅徒歩15分圏内、物件価格相場3億円以下、築年数35年未満、敷地権利は所有権のみ
専有面積50平米以上80平米未満
【データ抽出期間】2023/4~2023/9
【物件相場の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された中古マンション価格から中央値を算出
※記載の分数は、駅内および、駅間の徒歩移動分数を含む
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している

令和5年度補正予算で住宅の取得やリフォームでおトクに!補助金や優遇制度を先取り解説!キーワードは子育てと省エネ住宅

令和5年度補正予算について、概算が閣議決定した。国土交通省関係の補正予算の中から、住宅・不動産に関するものを中心に、どういった政策があってどのような優遇が受けられるようになるのかを見ていこう。キーワードは「子育て」と「省エネ住宅」だ。

【今週の住活トピック】
令和5年度国土交通省関係補正予算の概要について/国土交通省

「子育てエコホーム支援事業」に2100億円

国土交通省では、「エネルギーコスト上昇に対する経済社会の耐性の強化」として、「質の高い住宅ストック形成に関する省エネ住宅への支援」に2100億円を充てる。この支援事業は「子育てエコホーム支援事業」という名称となった。

「子育てエコホーム支援事業」は全く新しい事業というわけではない。「こどもみらい住宅支援事業」(令和3年度補正予算542億円、令和4年度予備費等600億円)、「こどもエコすまい支援事業」(令和4年度補正予算1500億円、令和5年度当初予算209.35億円)が、いずれも予算に達して早期に受付を終了したことを受けたものだ。予算を拡大し、適用条件などを変更しているので、以前の支援事業と同じ条件ではないことに注意が必要だ。

「子育てエコホーム支援事業」は、以前の支援事業と同様に、子育て世帯または若者夫婦世帯による(1)省エネ性能の高い住宅の新築と(2)住宅の一定のリフォームが対象。ただし、補助額とその条件が少し異なる。

■子育てエコホーム支援事業の補助対象 (下線部が前回の支援事業と異なる点)
(1)子育て世帯または若者夫婦世帯による省エネ性能の高い住宅の新築(注文住宅/新築分譲住宅の購入)
長期優良住宅の場合【補助額】100万円/戸
ZEH住宅の場合  【補助額】80万円/戸
※1:「子育て世帯」は、18歳未満の子どもがいる世帯、「若者夫婦世帯」は、いずれかが39歳以下の夫婦世帯
※2:ZEH住宅とは強化外皮基準かつ再エネを除く一次エネルギー消費量▲20%に適合するもの

(2)住宅の一定のリフォーム
【必須工事】住宅の省エネ改修
【任意工事】子育て対応改修、バリアフリー改修、空気清浄機能・換気機能付きエアコン設置工事等
【補助額】リフォーム工事内容に応じて定める額
【上限額】
子育て世帯または若者夫婦世帯:上限30万円/戸
※長期優良住宅リフォームの場合は上限45万円/戸、子育て世帯・若者夫婦世帯が既存住宅購入を伴う場合は上限60万円/戸
その他の世帯:上限20万円/戸
※その他の世帯が長期優良住宅リフォームを行う場合は上限30万円/戸

いずれも、事前に登録した事業者により、閣議決定日の2023年11月2日以降に工事に着工したものが対象で、補助金の申請は事業者が行うものとされている。

3省が連携して、住宅の省エネ化への支援を強化

住宅の省エネ化に対する補助事業は、国土交通省だけではない。現在も、国土交通省と経済産業省、環境省の連携による「住宅省エネ2023キャンペーン」が実施されており、「こどもエコすまい支援事業」以外の事業はまだ補助金の申請を受け付けている。こちらも、「住宅省エネ2024キャンペーン」が予定されているが、新しいキャンペーンも少し内容が変わる。

■住宅省エネ2024キャンペーンの対象
住宅の省エネリフォーム等を支援する補助制度で、住宅の省エネ改修、断熱窓への改修、高効率の給湯器の導入支援の補助制度をワンストップで利用可能とするもの。

(1)断熱窓への改修促進等による住宅の省エネ・省CO2加速化支援事業(先進的窓リノベ事業の後継)
高断熱窓の設置:【補助額】工事内容に応じて定める額(補助率1/2相当)上限200万円/戸

(2)高効率給湯器導入促進による家庭部門の省エネルギー推進事業費補助金(給湯省エネ事業の後継)
高効率給湯器の設置:【補助額】高効率給湯器の機器・性能ごとに定める額

(3)既存賃貸集合住宅の省エネ化支援事業(新規事業)
既存賃貸集合住宅におけるエコジョーズ等の取り替え

(4)子育てエコホーム支援事業

なお、子育てエコホーム支援事業で定める必須の省エネ改修を行うだけでなく、キャンペーンの(1)~(3)のいずれかの工事を行った場合でも、(4)の任意工事が支援事業の対象となり、複数の支援事業を申請する場合は一つの窓口で申請できるなどの連携が行われる。

子育て世帯を応援する【フラット35】子育てプラスを新設

令和5年度補正予算については、「こどもまんなかまちづくり」の実現に向けた子育てにやさしい住まいの支援として、子育て世帯を応援する【フラット35】子育てプラスの新設を挙げている。これは、子どもの人数に応じて【フラット35】※の金利の引き下げをするもの。
※【フラット35】は民間金融機関と住宅金融支援機構が提携して提供する長期固定型の住宅ローン

対象は、借入申込時点で、子育て(同居する孫を含む)世帯または若者夫婦(同性パートナー含む)世帯で、借入申込年度の4月1日に子どもの年齢が18歳未満または夫婦いずれかが40歳未満、などとなる。

【フラット35】の金利が引き下げられる【フラット35】Sなど※は、ポイントによって引き下げ幅が変わる仕組みになっているが、これに「子育てプラス」の以下のポイントが加算される形となる。
※【フラット35】Sのほかにも、管理・修繕に関する「維持保全型」、エリアに関する「地域連携型」などの金利引き下げ制度がある

○「子育てプラス」によるポイント
・若年夫婦世帯または子ども1人世帯:1ポイント
・子ども2人世帯:2ポイント
・子ども3人世帯:3ポイント
・子どもN人世帯:Nポイント

既存のそれぞれに与えられたポイントに「子育てプラス」のポイントを加算し、合計ポイントによって最終的な金利の引き下げ幅が決まる。1ポイントごとに5年間年0.25%の金利引き下げとなる。
※ただし、「子育てプラス」を利用しない場合は4ポイントまでが上限となる。

○「子育てプラス」を利用した場合の金利引き下げ例
1ポイント~4ポイントの場合、「当初5年間」1ポイントごとに年0.25%ずつ引き下げる(最大で当初5年間年1.00%引き下げ)
5ポイント~8ポイントの場合、さらに「6~10年目まで」1ポイントごとに年0.25%ずつ引き下げる(最大で当初10年間すべてで年1.00%引き下げ)
9ポイント以上の場合、さらに「11~15年目」も1ポイントごとに年0.25%ずつ引き下げる

この新しいポイント制度は、令和5年度補正予算が成立し、住宅金融支援機構が告知する適用開始日の資金受け取り分から適用される。ポイント制度についてはかなり複雑なので、住宅金融支援機構の案内などで確認してほしい。

なお、今回紹介した支援事業はすべて、国会で令和5年度補正予算が成立することが前提であり、まだ正式に決定しているわけではない。また、ここで説明したことのほかにも詳しい条件が定められているので、実際に利用したいと思う人は、告知サイト等でしっかり確かめてほしい。

●関連サイト
「子育てエコホーム支援事業」
新たな住宅の省エネ化への支援 「子育てエコホーム支援事業」の事業の内容を公開します!
「住宅省エネキャンペーン2024」
住宅の省エネ化への支援強化に関する予算案を閣議決定!~国交省・経産省・環境省が連携して取り組みます!~
「【フラット35】子育てプラス」
子育て世帯を応援する【フラット35】子育てプラス(仮称)が新登場

東京都の相談窓口には不動産取引の相談が年間約2万件も!その中でも多い契約に関するトラブルの適切な契約手順とは?

東京都では、2022年度に消費者から都に寄せられた不動産取引に関する相談と、それを受けて都が宅地建物取引業者(宅建業者)に行った行政指導などについて取りまとめ、その概要を公表した。その内容を見ると、不動産の売買や賃貸借の取引でどういったトラブルが多いのかが分かる。詳しく見ていこう。

【今週の住活トピック】
「不動産取引に関する相談及び指導等の概要(令和4年度)」を公表/東京都

不動産取引に関する消費者相談は売買・賃貸ともに契約に関する相談が多い

まず押さえておきたいことは、東京都の相談窓口では、「宅地建物取引業法(宅建業法)」の規制対象となる不動産取引の消費者相談について受け付けていること。都は宅建業者を指導監督する立場にあるからで、物件選びなどの相談は対象外となる。また、都民(個人)を対象に「不動産取引特別相談室」を設けて、宅建業者が関わる民事上の紛争などについて、弁護士などによる相談も行っている。

東京都が公表した概要によると、窓口での相談受付件数は、過去5年間は年間2万件前後で推移しているが、コロナ禍以降は面談による相談が減少し、2022年度は電話による相談が99.0%を占めたという。

その相談内容を見ると、「面談による相談」では、売買、賃貸借ともに重要事項説明や契約内容など契約に関する相談が多い。また、「電話による相談」でも、契約に関する相談が多いが、賃貸借では敷金(原状回復)についての相談が最多の3800件にのぼった。

「面談による相談」における主な相談内容

順位売買に関する相談(全86件)賃貸借に関する相談(全112件)1重要事項説明31件重要事項説明・契約内容42件2契約内容15件敷金(原状回復)25件3報酬・費用請求等/契約前相談各6件管理(設備の瑕疵等)10件

「電話による相談」における主な相談内容

順位売買に関する相談(全4,118件)賃貸借に関する相談(全15,265件)1契約前相談602件敷金(原状回復)3,800件2重要事項説明517件重要事項説明・契約内容2,729件3契約の解除407件管理(設備の瑕疵等)2,249件※特別相談室における相談及びその他の相談(不動産取引以外の相談等)を除く。
消費者からの相談内容(出典/東京都「不動産取引に関する相談及び指導等の概要(令和4年度)」)

「面談」で契約に関する相談が多いのは、不動産取引の最大の山場であり、重要事項説明書や契約書などの関係書類を実際に見せながら相談できるからだろう。特に金額が大きい売買の相談の比率が高くなっている。一方、「電話」相談は、移動などの時間的な制約を受けないことに加えて、退去するときに原状回復費用の負担について宅建業者と借主で合意できずに早急に相談したいといった、緊急性がある場合も多いからだろう。

相談内容に法令違反の疑いがあれば調査し、行政処分も行う

東京都では、相談の内容に法令違反の疑いがある場合は、宅建業者に対して調査などを行い、違反が認められれば監督処分を行うことになる。2022年度は76件で宅建業法違反の疑いがあり、調査に至っている。

その具体的な事例も公表されているので、いくつか見ていこう。

重要事項説明(宅建業法第35条)については、宅地建物取引士が説明を行わなかった事例、本来説明すべき内容について説明をしなかった事例などがあった。重要事項の不告知(宅建業法第47条)については、買主に不利になる情報を認識していたのに、故意に告げなかった事例があった。

ほかにも、おとり広告(取引できない物件を広告)を行ったり、契約書を交付しなかったりといった法令違反の事例も見られた。

調査で違反が認められれば、東京都は業務停止等の処分や指導勧告などを行うが、2022年度では72件の事例があった。ただし、この件数は年々減少している。

ルールに則った適切な不動産取引の契約とは?

ここで、不動産取引における契約に関するルールを確認しておこう。

○物件を決めて申し込む
買うあるいは借りる物件を決めたら、宅建業者を通じて正式に申し込む。この際に、申込金などの名目で内金を入れる場合があるが、一般的には契約の意志を表示するために預けたお金なので、正式に契約を結ぶ前であれば撤回でき、預けた申込金は返還される。念のために領収書ではなく、「預かり証」を受け取っておくとよい。

○契約前に重要事項説明を受ける
買う場合であれば住宅ローンの審査を経て、借りる場合であれば入居審査を経て、正式に契約することになる。宅建業法では、契約する前に、宅建業者が宅地建物取引士をもって物件や契約条件などに関する重要事項説明を行うことを義務※づけている。
※賃貸借契約の場合、宅建業者が仲介や代理ではなく、貸主として借主と直接契約する場合は、重要事項説明が義務づけられていない。

○正式に契約を結ぶ
重要事項説明を受けて納得できたら、正式に契約を結ぶ。一般的には、契約書を作成して取り交わすことになる。契約が成立したら、宅地建物取引士が記名押印した契約書を遅滞なく交付することが定められている。売買契約の場合、契約時に買主が売主に「手付金」を支払うのが一般的だが、契約後に買主が契約を解除する場合は手付金を放棄することになる(売主が解除する場合は手付金の倍返しをする)。

なお、重要事項説明や契約の際に、かつては書面を交付して押印する必要があったが、オンライン上の電子書面で取引するなど「電子契約」も可能になった。

○原状回復の取り決めについて
国土交通省では「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を、東京都では「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」を定めている。これらによると、「経年変化や通常の使用による損耗等の復旧」は貸主が負担し、「故意・過失や通常の使用方法に反する使用など、借主の責任によって生じた住宅の損耗やキズ等の復旧」などは借主が原状回復として負担するとしている。ただし、契約時に双方が合意して、特約によって異なる取り決めをすることは可能。

不動産取引の参考になる手引きなどもホームページに公開

さて、東京都では、不動産取引の知識や経験があまりない消費者が、ともすれば宅建業者に言われるがまま十分に確認をしないで契約を結んでしまい、トラブルが生じるケースが多いことから、ホームページにいろいろな手引書を公開している。

「不動産売買の手引」、「住宅賃貸借(借家)契約の手引」などの基本情報から、特に賃貸借で多い原状回復における貸主・借主の費用負担の基本的な考え方を示した「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」(日本語・英語版)など、不動産取引で知っておきたい情報を公開しているので、見ておくとよいだろう。
注:東京都の「賃貸住宅紛争防止条例」については、東京都内の居住用の賃貸住宅のみが対象となる点に注意。

さて、生活の拠点を手に入れるために不動産取引を行う場合、トラブルになると拠点が定まらず、生活に支障をきたす場合もある。さらに、それなりの金額が動くこともあり、後悔のないようにしたいものだ。知らなかった、確認を怠ったでは済まされないので、物件を検索することと併せて、適切な手順やルールなどについても情報を収集し、チェックすべきポイントを見逃さないようにしてほしい。

●関連サイト
東京都「不動産取引に関する相談及び指導等の概要(令和4年度)」の公表について」
東京都「不動産取引に関する相談及び宅地建物取引業者指導等の概要」

盛岡市民の生きがい「材木町 よ市」がグルメ天国すぎる! 毎週土曜、100店超の美食をその場でも宅飲みでも。現地の楽しみ方をレポート

たべる、あるく、よりみちするのが大好きな岩手県盛岡市在住のスガワラとアベ。

そんな二人が、毎週土曜に楽しみにしているのが、「材木町 よ市(ざいもくちょう よいち)」(4月~11月開催)。今年で50年目を迎えた、盛岡市民おなじみのイベントです。盛岡駅から徒歩7分、材木町商店街に100店舗以上の露店が並び、たくさんの人でにぎわいます。焼きたてあつあつをその場で味わうのもよし、おつまみなどを買い込んで宅飲みとしゃれこむもよし、と、まさに市民の台所的存在なんです。マルシェのようなおしゃれなイベントともひと味違う、アットホームでのんびりとした雰囲気の中、盛岡ならではの旬の味や人気店の味に出合えますよー!

私たちの土曜日午後のお楽しみを、おしゃべりしながらご案内していきますね。

よ市の常連! 料理家の橋本玲奈さんをゲストに迎えて「よ市」をぶらぶら

今回は兵庫県神戸市出身、盛岡在住の料理家、橋本玲奈(はしもと・れな)さんもご一緒に、材木町よ市をみちくさしながらぶらぶらと。秋の味覚をどっさり買ったあとは、玲奈さんのご自宅におじゃまして夕ご飯にする予定です。

材木町よ市とは

材木町 よ市の風景

4月~11月の毎週土曜に開催。季節の収穫物などの食材や、市内のお店のお惣菜、屋台、雑貨などのお店が並びます。

秋刀魚

玲奈さん)秋刀魚(サンマ)!  一番小さいサイズのは100円、これはお買い得! 三陸海岸が近い盛岡市は新鮮な海の幸が手に入る街。それでも今年は秋刀魚、あんまり見かけないんだよね。「よ市」ぐるっと見てから、帰りに買いましょ!

お豆腐

スガワラ)あ!これ!こないだ来たときに気になったお豆腐だ。もめん豆腐よりもずっしり重たい。いつも「よ市」に来ると、ここの豆腐田楽が食べたくなっちゃうんだよね。田楽を焼いている、おばあちゃんとのおしゃべりにも癒やされるんです。

サランさんのキムチ

玲奈さん)毎週楽しみにしてるサランさんのキムチ。我が家はキャベツキムチの大ファンなの。冷蔵庫にキムチがある!って、テンションあがるよね。

スガワラ)キムチでメンタルマネジメントだ(笑)私は今回はタコキムチに決めたっ。

アベ)大根にしよっかなー、いや、キャベツ? まって白菜? 迷うー!

赤澤タニさんのわたあめ屋さん

玲奈さん)材木町商店街を旭橋側から歩き始めて夕顔瀬橋の方へ。つきあたりまで歩いていくと甘いいにおいが漂ってくるよ。「赤澤タニさんのわたあめ屋さん」は、子ども達に大人気なのはもちろんだけど、大人が食べてもおいしい、ふわっふわのわたあめが100円で買えるの。

おばあちゃんのお野菜

玲奈さん)お、右側にある栗、立派だね。600円であの量!

アベ)おばあちゃんのお野菜、ほかのも美味しそう。ゴーヤとか茗荷(ミョウガ)もある。夏の野菜から秋の野菜に変わっていく時期なんだね。季節の畑の様子が見えるようだよ……。これも「材木町よ市」ならでは。

スガワラ)たまに見たことのない野菜を発見することもあって、「どうやって食べたらいいですか?」って聞いてるよ。やっぱり生産者の方に教わるお料理は、簡単で美味しいのが多い。料理苦手な私でもばっちり!

あつあつグルメと冷たいビールを、音楽と一緒に

焼き牡蠣に並ぶ人たち

玲奈さん)「よ市」の名物、焼き牡蠣は今日も大人気だ……諦めよう……。

スガワラ)うん……。

アベ)絶対食べたい!っていうときは、「よ市」のスタートと同時に並ぶくらいの気合いが必要ね。

玲奈さん)「ベアレン」のビールと焼き牡蠣、最高なんだよね。あ、ビール……飲みたくなってきた……。

ベアレンビール

玲奈さん)よ市に来たら、絶対飲みたい、ベアレンビール。いただきまーす!

スガワラ)わぁ!いい飲みっぷり!

玲奈さん)このプラスチックのリユースカップは、最初に「ビール+カップ」の料金を払って、飲み終わったカップを返すと、カップの代金も返金される仕組み。例えば、小サイズのビールだと最初に500円(ビール+カップ分)を支払い、おかわりは1回ごとに300円。最後にカップを返却すると200円が返金されるんだよ。

アベ)マイジョッキを持って並んでる人もいるね。

玲奈さん)あ!あれは「ジョッキ倶楽部」の人だねえ。ビアパブベアレン材木町の店舗の2階が「部室」なんだって。自分の名前が刻印された世界に一つだけのオリジナルジョッキ。800人以上の部員がいて、ベアレンのお店で登録したらすぐ部員になれるみたい。10枚綴りのチケットもあって、それを使うとジョッキ1杯390円! お値段も嬉しいよねー!わたしもいつかマイジョッキつくりたいなあ。

スガワラ)ベンチや椅子もあちこちに用意してあるし。食べて、飲んで、食べて、飲んで。お祭りほどハイテンションではないんだけど、みんなにこにこ幸せそうに過ごしてるのが、材木町よ市の好きなところだなあ。

百萬堂

玲奈さん)ここ!「百萬堂(ひゃくまんどう)」さん、材木町に来て時間があったらいつものぞくんだ。

スガワラ)わかる! お皿や絵画、雑貨以外にもいろいろなものがぎゅうぎゅうに詰まった店内。びっくりするような掘り出しものがあるのよね……。「よ市」の日以外でも入れるから、ぜひふらりと入ってみてほしい。

かわいいお皿

玲奈さん)「よ市」でもお店を出している、「プラッサッジョ」さん。切り立ての生ハムとワインでまったりしてしまうの~。今日は店内でフリマもやってて嬉しい。このお皿、グラタンにピッタリのサイズ。買おうーっと。

アベ)私、初めて入るお店だったよ。素敵な雰囲気。今度はランチかディナーで来てみたいなあ。

盛岡の風景

お惣菜や旬のお野菜で、飲んで食べての夕ご飯

たくさんの戦利品と一緒に、玲奈さんの家へ移動。さあさあ!夕ご飯ですよ!

たくさんの戦利品

玲奈さん)並べると圧巻!お惣菜とかも買ってきてるからね。食べられるものをつまみながら、飲みながら夕ご飯つくっていきますよ。

スガワラ・アベ)よろしくおねがいしますー!

秋刀魚

玲奈さん)ここ、クチバシみたいに黄色いでしょ。新鮮で美味しい秋刀魚の証拠だよ。シンプルにグリルで塩焼きにしましょ。

スガワラ)ほんとだ! 言われてみれば、鳥のクチバシみたい。全然気づかなかった。焼いちゃうの申し訳ないほどかわいい顔してるね。私、今年、初秋刀魚だよ、やったー!

大きい立派なナス

玲奈さん)大きい立派なナスは、輪切りと角切り二つの切り方で切っていくよ。輪切りの方にトマトソースとチーズ、そして角切りのナスも乗せてオーブンへ。

サランのキムチにごま油をたらして

アベ)岩豆腐とサランのキムチ……だけでも最高なのに、ごま油をたらりなんて!!

玲奈さん)ふふふ!あっというまにできる、「よ市」のごちそうだよ。キムチは期間限定のもあるからいろいろ試してみてね。

ごちそうの数々

玲奈さん)さあ、できたよー!

アベ・スガワラ)ごちそう!!!いただきまーす!

田楽茶屋さんの納豆フライ

玲奈さん)田楽茶屋さんの商品でもう一つおすすめなのが、納豆フライ。めっちゃうまい。「よ市」から帰ってきて、すぐご飯にしたい!っていうときに、ちょっとあっためたらすぐ食べられるから重宝するの。お酒にも合うよ。

ごちそうの数々

スガワラ)こんな土曜日の夕ご飯。幸せ。ちょっとずつ美味しいものが並んで、みんなでおしゃべりしながら。

玲奈さん)そうそう、つくる方もゆるゆるーっと。晩酌もスタートしながら、ね。

アベ)玲奈さんがつくってくれたお料理みてると、盛岡で食べる日々のごはんっていいなあって思う。

玲奈さん)わたしも神戸から引越してきてすぐはびっくりしたよ。産直もいっぱいあるし生産者さんとの距離が近いから、朝に畑で収穫した野菜が夕ご飯には食卓に、っていうことも日常。四季がはっきりしてるから、冬の寒さは堪えるけどね(笑)

でも冬が寒いからこそ保存食をつくる文化があったり、食卓も季節ごとにがらりと並ぶ食材が変わって、旬、っていうのを感じられるよね。

旅行の人も住んでいる人も。毎週土曜は、美味しく楽しく

私たちの土曜日のお楽しみ、「材木町よ市」。いかがでしたか?
期間限定の出店者さんも多く、毎週行っても新しい発見がたくさんあるのです。お酒好きな方は、北上川沿いの木伏緑地や、ノスタルジックな雰囲気の桜山界隈までお散歩して、ゆっくりと飲み直すのもいいですね◎

材木町商店街は「いーはとーぶアベニュー」とも呼ばれており、大きな宮沢賢治の像のほかにも、賢治にちなんだモニュメントが点在しているんです。石座(いしざ)、音座(おんざ)、星座(ほしざ)、絹座(きぬざ)、花座(はなざ)、詩座(うたざ)。探しながら歩いたあとは、注文の多い料理店の出版元「光源社」へ。宮沢賢治の世界に思いを馳せる”みちくさ”もおすすめですよ!

写真・テキスト/菅原茉莉
イラスト/阿部夏希
デザイン/伊瀬谷美貴

●関連サイト
材木町よ市
※2023年は11月25日が最終開催

UXデザイナーが自宅マンションリノベの”要求定義”した結果。「絶対に後悔しない家づくり」のプロセス【ビジネスパーソン必見】

UXデザイナーのMさんと夫のRさん。今年から、東京郊外のマンションをリノベーションした新居で暮らし始めました。ユニークなのは、二人の家づくりのアプローチ。夫妻が望む暮らしを住まいに落とし込むための「要求定義」からスタートしたのだとか。

仕事では、ユーザーにとって嬉しい体験を実現するためにどんなシステムが必要なのかを考えていく役割のMさん。IT業界では欠かせない工程である要求定義ですが、理想の住まいを実現するために、どんなプロセスでそれをまとめ、家づくりに活かしていったのでしょうか? 夫妻の要望を受け取り、設計を行った建築家の伯耆原洋太さんを交え、Mさん夫妻にお話を伺いました。

暮らしに最適化した住まいをつくる

デザインエージェンシーに勤め、システム開発に携わるUXデザイナーのMさん。夫は建築ライター・編集者のRさん。夫妻は結婚6年目となる今年、東京の郊外に住宅を購入しました。

駅近に立つ、築40年ほどのマンション。80平米の一室をリノベーションし、二人の生活スタイルや望む暮らしに最適化した空間をつくりあげています。

家の間取図。築年数が経過していたものの新耐震基準に適合する耐震補強工事がなされ、管理状態も良好。広さと眺望の良さにも惹かれたそう(写真撮影/嶋崎征弘)

家の間取図。築年数が経過していたものの新耐震基準に適合する耐震補強工事がなされ、管理状態も良好。広さと眺望の良さにも惹かれたそう(写真撮影/嶋崎征弘)

それまで暮らしていた賃貸マンションでは家事の動線や収納、機能面などで不満を感じる点が多かったといいます。家を買うからには、そうしたストレスの種は全て取り除きたい。「中古マンションリノベ」を選んだのも、二人の生活にフィットする間取りや機能を実現するためでした。

Mさん「まずは、複数のリノベーション専門会社に話を聞きに行きました。でも、こちらで設計担当者を選べなかったり、打ち合わせの回数が決められていたり、使える建材が少なかったりと、思った以上に制約が多くて。特に、設計担当者がどなたになるのか分からないのは不安でした。だったらリノベ会社を介さず、自分たちで見つけた建築家さんに直接お願いしようかと」

二人はまず、Instagramで「建築家」「リノベーション」などのハッシュタグで検索し、さまざまな建築家の作例をチェックしました。気になる人がいれば、noteやブログ、インタビューでの発言までも追い、家づくりに対する姿勢や考え方を含めて吟味。そこまで徹底的にリサーチを重ねたのは、こんな理由からでした。

Rさん「僕は建築ライターという仕事柄もあって、建築家をリスペクトしています。国内外の建築物を見て回るのも好きで、建築を文化として楽しんでいます。しかし、そうした建物に自分が住むとなると、まるでイメージが湧かなくて。

建築家が手掛ける家はその人の『作品』としての側面があるので、ある種の自己表現が入ります。建築家が表現したいことと僕らが求めていることが、本当に合致するのかという心配はありましたね。妻は妻でこだわりが強いタイプなので、こちら側の思いや要望をちゃんと汲み取ってくれる建築家じゃないと、きっと衝突してしまうだろうなと。だから、素敵な空間をつくれることと同じくらい、住まいに対する考え方が合う建築家さんにお願いしたいと思いました」

リビングの壁一面に設置した本棚。「本屋を歩いているような気分」で、気軽に本を手に取れるようになっている。一方、エアコンやテレビの配線、レコーダーなどは吊り戸棚の中へ収納。「見せるもの」と「隠すもの」をしっかり分けている(写真撮影/嶋崎征弘)

リビングの壁一面に設置した本棚。「本屋を歩いているような気分」で、気軽に本を手に取れるようになっている。一方、エアコンやテレビの配線、レコーダーなどは吊り戸棚の中へ収納。「見せるもの」と「隠すもの」をしっかり分けている(写真撮影/嶋崎征弘)

検討に次ぐ検討の末にたどり着いたのが、建築家の伯耆原洋太氏。伯耆原氏は自らリノベーションした自邸に住み、noteなどで住まいと暮らしの関係性や、必要な機能などについて発信していました。生活者の視点に立った住まいづくりの感覚を持っていることが、依頼の決め手になったといいます。

Rさん「伯耆原さんはnoteで『一つ目の自邸が生活の変化に対応しきれなくなった点』や『その経験を次にどう活かしたか』といったことも率直に書かれていました。建築家として表現したいことがありながらも、暮らす人の声にもしっかり耳を傾けてくれる人なんだろうなと。妻にも『この人、どうかな』と提案して、ぜひ相談してみようということになりました」

設計を担当した伯耆原洋太さん。2022年、自ら設計した自邸がリノベーションオブザイヤー最優秀賞に輝く。2023年、大手ゼネコンから独立し、一級建築士事務所「HAMS and,Studio株式会社」を設立(写真撮影/嶋崎征弘)

設計を担当した伯耆原洋太さん。2022年、自ら設計した自邸がリノベーションオブザイヤー最優秀賞に輝く。2023年、大手ゼネコンから独立し、一級建築士事務所「HAMS and,Studio株式会社」を設立(写真撮影/嶋崎征弘)

■関連記事:
「付加価値リノベ」という戦略。建築家が自邸を入魂リノベ、資産価値アップで売却益も
リノベーション・オブ・ザ・イヤー2022に見るリノベ最前線。実家を2階建てから平屋へダウンサイジングや駅前の再編集など

玄関を入ってすぐのところにある「セカンドリビング」。今後の生活スタイルの変化に合わせて活用できるよう、あえて使用目的を限定せず、空間に余白を持たせるスペースとして設けた(写真撮影/嶋崎征弘)

玄関を入ってすぐのところにある「セカンドリビング」。今後の生活スタイルの変化に合わせて活用できるよう、あえて使用目的を限定せず、空間に余白を持たせるスペースとして設けた(写真撮影/嶋崎征弘)

トイレの前の壁には絵を飾る想定で、3D図面の段階から配置をシミュレーション。現在はMさんの祖母が描いた絵が掛けられていて、トイレに行くたびに眺めているという(写真撮影/嶋崎征弘)

トイレの前の壁には絵を飾る想定で、3D図面の段階から配置をシミュレーション。現在はMさんの祖母が描いた絵が掛けられていて、トイレに行くたびに眺めているという(写真撮影/嶋崎征弘)

洗面所(写真撮影/嶋崎征弘)

洗面所(写真撮影/嶋崎征弘)

キッチン。もともと持っていた家電や一般的な家電のサイズを考慮し、各アイテムがぴったり収まるように計算して棚を設計(写真撮影/嶋崎征弘)

キッチン。もともと持っていた家電や一般的な家電のサイズを考慮し、各アイテムがぴったり収まるように計算して棚を設計(写真撮影/嶋崎征弘)

住まいへの指針や要望を明確化

伯耆原さんに設計を依頼するにあたり、はじめに妻のMさんが着手したのは住まいに対する「要求定義」。要求定義とはシステム開発プロジェクトにおいて、システムを通して何を実現したいのかを分かりやすくまとめていくステップ。プロジェクトの目的を明確に定義することで、手戻りや取りこぼしを防ぐことにもつながります。それはUXデザイナーのMさんが普段、仕事で当たり前にやっていることでもありました。

要求定義にあたっては、まずユーザーのことを徹底的に知る必要があります。家づくりの場合、ユーザーはそこに暮らす人、つまりMさん夫妻です。そのため、Mさんはまず自分たち自身を「リサーチ」し、夫妻が住まいに対して不満に感じていること、建築家にお願いしたいことなどをまとめていきました。

住まいへの要求をまとめた資料の一部(画像提供/Mさん)

住まいへの要求をまとめた資料の一部(画像提供/Mさん)

住まいへの要求をまとめた資料の一部(画像提供/Mさん)

住まいへの要求をまとめた資料の一部(画像提供/Mさん)

Mさん「UXデザインでは人間中心設計、つまりユーザーを中心に置く考え方が根付いています。私が仕事でつくっているシステムのように何千人、何万人が使うものであっても、できるだけ多くの人に話を聞くなどしてリサーチを重ね、ユーザーが使いやすいよう設計していくのが当たり前なんです。

家だって本来はそうあるべきですが、多くの分譲マンションはどちらかというと『限られた敷地をいかに効率よく使って建てるか』が優先されて、暮らす人目線の間取りになっていないような気がします。だから、設計は『私たちのことをできるだけ知ろうとしてくださる方』にお願いしたいと思いました。

その点、伯耆原さんは私たちが前に住んでいた家にも来てくださって、暮らし方をインプットするところから始めてくれたので、とても信頼できる方だなと。こちらとしても、なるべく詳細に私たちの状況をお伝えしようと思い、住まいに求める要望をまとめた資料を共有することにしたんです」

資料には基本方針や自分たちの暮らしについてなるべく具体的に、細部にわたるまで書き出しました。さらには「収納するもの・置くもの」を全て洗い出し、現状の収納状況やモノの量が分かるよう各所の写真も添付。これをたたき台に、伯耆原さんと打ち合わせを重ねたそうです。

かさばるアウターや靴、傘など、外出時に必要なものが過不足なく収まる玄関収納(写真撮影/嶋崎征弘)

かさばるアウターや靴、傘など、外出時に必要なものが過不足なく収まる玄関収納(写真撮影/嶋崎征弘)

(写真撮影/嶋崎征弘)

(写真撮影/嶋崎征弘)

リモートワーク時に集中できるよう、夫妻それぞれの書斎も(写真撮影/嶋崎征弘)

リモートワーク時に集中できるよう、夫妻それぞれの書斎も(写真撮影/嶋崎征弘)

(写真撮影/嶋崎征弘)

(写真撮影/嶋崎征弘)

プロの仕事を信頼し、任せる部分は任せる

ただ、建築家によっては、こうしたやり方を好まないケースがあるかもしれません。当の伯耆原さんは、このような家づくりをどう感じていたのでしょうか?

伯耆原さん「特にやりづらさは感じませんでした。家づくりに対してここまで強いエネルギーを持ってくれているのは設計する側としても有り難いですし、むしろやりやすかったですね。先ほどRさんがおっしゃっていたような建築家の表現が先行してしまう家って、結局は施主さんとのコミュニケーション不足が原因だと思うんです。施主さん側も『相手はプロだから大丈夫だろう』『実績のある建築家だから口出ししづらいな』と、ちゃんと要求を伝えていないケースもあるのではないかと。結果的に、実際に暮らし始めてから不満が出てきてしまう。Mさん、Rさんくらいやりたいことを明確にしてくれると、そうした心配もなくなりますしね」

施主側の積極的な介入を歓迎する一方で「時には、建築家視点の意見やアドバイスを受け入れてもらう姿勢も必要です」と伯耆原さん。間取りから刷新できるリノベーションとはいえ、建物の構造上できないこと、専門家の目から見てオススメできないこともあります。それをゴリ押しされると、かえって使いづらく、ストレスを感じる家になってしまいかねません。

伯耆原「お二人は家づくりに対して強いこだわりがありましたが、同時に建築やデザインに対するリスペクトもお持ちでした。こちらの意見にも耳を傾けてくれるスタンスだったので、僕のほうも単に要望をそのまま聞き入れるのではなく、思うことはしっかり伝えるようにしていました」

Mさん「わたしたちの考えていることをまとめた資料はつくりましたが、私たちとしてもこれを建築家さんに押し付けたいわけではないんです。あくまで『我々としては、いったんこう考えています』というたたき台のようなものであって、これをもとにディスカッションしながら、最終的に良い家になればいいなと考えていました。

そもそも、家づくりの素人である私たちがあまりにガチガチな要求をしてしまったら、伯耆原さんもやりづらいだろうなと。私も普段はクライアントワークをしている側なので、お互いにとって心地よい進め方をしたいという思いはありました。」

全体的な内装デザインは夫妻が好きな映画『グランド・ブダペスト・ホテル』の世界観をイメージ。伯耆原さんにデザインイメージを伝える「ムードボード」を共有し、認識のズレを防いだ(写真撮影/嶋崎征弘)

全体的な内装デザインは夫妻が好きな映画『グランド・ブダペスト・ホテル』の世界観をイメージ。伯耆原さんにデザインイメージを伝える「ムードボード」を共有し、認識のズレを防いだ(写真撮影/嶋崎征弘)

さらに、もう一つMさんが伯耆原さんとのコミュニケーションで気をつけていたことがあります。それは、施主として伝えるのは「目的」だけ。それを叶えるための「手段」については、プロにお任せするというものです。

Mさん「たとえば『掃除がしやすい家にしたい』という目的と、『床はロボット掃除機+フローリングワイパー程度で掃除できるようにしたい』という最低限の希望だけはお伝えします。でも、具体的なやり方は、基本的に伯耆原さんに考えてもらいました。当たり前ですが、そこはプロのほうがたくさんの引き出しをお持ちですから。それに、伯耆原さんなら細かい部分にも気を配って、私たちの想像を超える提案をしてくれるだろうという安心感もありました」

リビングに面した夫妻の寝室。当初は戸を設ける計画だったが、リビングの広さ感と採光を確保するため伯耆原さんからカーテンで仕切ることを提案。プラン変更にあたっても、密にコミュニケーションをとり、全員が納得する線を探っていった(写真撮影/嶋崎征弘)

リビングに面した夫妻の寝室。当初は戸を設ける計画だったが、リビングの広さ感と採光を確保するため伯耆原さんからカーテンで仕切ることを提案。プラン変更にあたっても、密にコミュニケーションをとり、全員が納得する線を探っていった(写真撮影/嶋崎征弘)

住まいへの要求をあらかじめ整理することで、迷いや後悔がなくなった

家づくりに際し「要求定義」を行うことは、施主側、建築家側にとってどんなメリットがあるのでしょうか? 改めて、双方に伺いました。

伯耆原さん「僕は、今回の家づくりにおける辞書のように捉えています。Mさんがつくってくれた資料は単なる要望リストではなく、ご夫婦の思想や大切にしたいことなどが詰まっていました。設計で悩んだり、建物の構造の問題で要件書の通りにできない箇所があったりした時も、その辞書を引くことで『二人が本当にやりたいこと』を起点に別の手段を考えることができたと思います」

Mさん「住まいに求めることを明確にするためには、『自分たちがしたい暮らし』を見つめ直す必要があります。洗濯をした後に、洋服をどこにどう収納するのか。夏の間に冬用の布団はどこにしまっておくのか。そうした細かい暮らしのシーンを含めて、頭の中で何度もシミュレーションしたんです。『これなら大丈夫』と思えるところまで、徹底的に突き詰めたうえでスタートしているので、迷いや後悔が全くなくて。

逆に理想の暮らしを考えないまま進めていたら、『これでいいのかな?』という思いを抱えたまま何となく完成してしまって、住み始めてからもモヤモヤしていたと思います。正直大変でしたけど、やってよかったですね」

人が家に合わせるのではなく、住む人の暮らしに合わせて家をつくる。そのためには施主を含めた家づくりに関わる全員が、同じゴールや具体像を共有する必要があります。

住まいに対する自分たちの要求を整理することから始める最大のメリットは、最初に施主と建築家の目線を合わせられるだけでなく、度重なる打ち合わせの過程でズレてしまいがちなイメージをその都度すり合わせ、最初から最後までブレのない家づくりが叶う点ではないでしょうか。Mさんたちのような資料をつくるとまではいかなくても、専門家相手でも遠慮せず、自分たちの意志や希望を明確に伝えること。それが後悔のない家づくりの第一歩といえそうです。

●取材協力
Mさん・Rさん夫妻
建築家・伯耆原洋太さん(一級建築士事務所HAMS and, Studio株式会社)
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新築・中古マンションの価格は平均年収の10倍以上に上昇?エリア別に詳しく解説

東京カンテイの調査結果によると、2022年のマンションの年収倍率(全国平均)は、新築マンションで9.66倍、築10年の中古マンションで7.27倍になり、いずれも前年度より0.73拡大したという。気になるのは首都圏、特に東京都だ。マンションはどこまで遠くに行くのだろう?

新築マンションで13、中古マンションで5の都道府県で年収倍率が10倍超えに

東京カンテイが算出した都道府県別の年収倍率は、“マンションの買いやすさ”を検証するためのもの。都道府県ごとに「2022年に分譲された新築マンションの平均価格(70平米換算)」と「2022年における築10年の中古マンションの平均価格(70平米換算)」が、平均年収※の何倍に相当するかを割り出したもの。
※内閣府発表の「県民経済計算」を基に平均年収を予測した数値

新築マンションの年収倍率は、全国平均で9.66倍となり、前年から0.73拡大した。最も倍率が高いのは東京都の14.81倍、次いで京都府の13.66倍、最も低いのは徳島県の7.35倍だった。東京カンテイによると、「全国的に平均年収が低下する中でも圏域を問わず高額な物件の供給が続いている」ことが、背景にあるという。

年収倍率が10倍を超えるのは、北から北海道10.98倍、青森県11.26倍、岩手県10.56倍、埼玉県12.38倍、東京都14.81倍、神奈川県12.42倍、石川県11.14倍、静岡県10.70倍、京都府13.66倍、大阪府12.45倍、奈良県10.52倍、鹿児島県10.13倍、沖縄県11.59倍の13都道府県だった。最も倍率の低い徳島県でも、新築マンションを買うには年収の7.35倍が必要という計算になり、新築マンションの価格は全国的に手が届きにくい状況にある。

一方、築10年の中古マンションの年収倍率は、全国平均で7.27倍となり、前年より0.73拡大した。これにより、2008年の集計開始以来で初の7倍台に達した。最も倍率が高いのは東京都の14.49倍、次いで京都府の11.35倍、最も低いのは富山県の4.31倍だった。東京カンテイによると、「全域的に拡大した首都圏や近畿圏がけん引する形で全国平均はさらに押し上がる結果となった」という。

築10年の中古マンションで年収倍率が10倍を超えるのは、北から埼玉県10.87倍、東京都14.49倍、神奈川県10.43倍、京都府11.35倍、大阪府10.45倍の5都府県。中古マンションといえども、都市部では手が届きにくい状況にある。ただし、年収倍率が5倍台以下になるのは、茨城県5.92倍、群馬県5.68倍、新潟県5.31倍、富山県4.31倍、福井県5.94倍、三重県5.42倍、鳥取県5.25倍、島根県5.57倍、山口県5.07倍、徳島県5.92倍、香川県5.05倍、愛媛県5.52倍、佐賀県5.20倍の13県あり、新築マンションよりも価格的に手が届きやすいことは間違いないだろう。

東京都の年収倍率は、新築マンションも中古マンションも14倍台に

新築と中古の年収倍率の開きは、前年も2022年も2.39で変わっていない。全国的に平均年収が前年より下がったのに対して、新築も中古も全国的に価格(70平米換算)が上がったという構図だ。

マンションの最大供給エリアである首都圏に絞って見てみよう。
新築マンションでは、千葉県を除いて1都2県が過去17年間で最高値を記録した。特に埼玉県と神奈川県で、前年より大きく倍率が拡大した。東京都が小幅な拡大だったのは、平均年収が上がっていることも影響している。片や中古マンションでは、首都圏1都3県ともに前年より倍率が拡大した。首都圏全域で中古マンション価格が上昇したということだろう。

特に年収倍率が、新築マンション(14.81倍)と中古マンション(14.49倍)ではほとんど差がない、東京都に注目だ。新築マンションの年収倍率は想定できたが、中古マンションの年収倍率がここまで上がるとは驚きだ。東京都や京都府などでは、マイホームとして買う層だけでなく、投資目的や海外組が買う事例が多いことも影響しているのだろう。

●首都圏の年収倍率
■新築マンション

都道府県2022年2021年年収倍率平均年収
(万円)70平米価格
(万円)年収倍率平均年収
(万円)70平米価格
(万円)埼玉県12.384505.57011.044725.213千葉県9.774814.7019.075034.563東京都14.815788.56114.695708.373神奈川県12.424725.86410.055535.555首都圏12.474956.17411.295255.926

●首都圏の年収倍率
■中古マンション

都道府県2022年2021年年収倍率平均年収
(万円)70平米価格
(万円)年収倍率平均年収
(万円)70平米価格
(万円)埼玉県10.874504.8928.124723.832千葉県8.324814.0006.045033.037東京都14.495788.37313.355707.612神奈川県10.434724.9247.755534.285首都圏11.214955.5478.945254.692出典:東京カンテイ「都道府県別 新築・中古マンション価格の年収倍率 2022」より抜粋して編集部で作成実際に買った人の年収倍率は現実的な範囲

年収倍率だけ見ると、一部の地域を除いて、新築も中古もマンション購入のハードルが高くなったという印象を受ける。上記の年収倍率は、世帯年収(2022年首都圏平均495万円)で計算している。

実際にどの程度の年収倍率でマンションを買っているかに関しては、住宅金融支援機構の「2022年度フラット35利用者調査」で見ていこう。長期間固定金利の住宅ローン【フラット35】を利用して住宅を取得した人の世帯年収や年収倍率は、次のようになっている。

●「2022年度フラット35利用者調査」の結果
■新築マンション

年収倍率世帯年収購入価額全国7.2844.2万円4848.4万円首都圏7.8821.6万円5327.7万円近畿圏7.3832.0万円4973.9万円東海圏6.4909.6万円4434.9万円その他地域6.2872.9万円4018.5万円

■中古マンション(築年限定なし)

年収倍率世帯年収購入価額全国5.9621.5万円3156.9万円首都圏6.3637.8万円3518.0万円近畿圏5.7562.0万円2775.6万円東海圏4.8578.7万円2220.7万円その他地域4.9670.8万円2546.6万円出典:住宅金融支援機構「2022年度 フラット35利用者調査」より抜粋して筆者作成

実際にマンションを買っている人で見ると、やはり年収倍率は新築マンションで6~7倍、中古マンションで5倍前後と、現実的な範囲で買っている。買った人の世帯年収はそれなりに高いので、世帯年収が500万円を切る世帯では、マンションは遠い存在になっているかもしれない。

さて、“買いやすさ”の指標である年収倍率は上昇が続いている。ここにきて、住宅ローンの長期固定金利が上昇局面に移りつつある。マンションを買おうとしている人には厳しい環境にあるが、こうした時は背伸びをしないで、自分たちの世帯年収に見合う、長期的に無理なく返済できるマンションを探すことをお勧めする。新築マンションやリノベーション済みの中古マンションの性能は、以前より高くなっているという側面もあるので、価格だけでなく、それに見合う住宅性能であるかも見てほしい。

●関連サイト
東京カンテイ「都道府県別 新築・中古マンション価格の年収倍率 2022」
住宅金融支援機構「2022年度 フラット35利用者調査」

既存のマンションでもZEH水準にリノベが可能に!?国が推進する省エネ性能「ZEH水準」についても詳しく解説

政府はいま、住宅の省エネ化を加速している。特に新築住宅では、建築する際に求められる省エネ性能の基準を2030年までにZEH水準に引き上げる考えだ。一方で、既存のマンションはその多くが現行の省エネ基準の水準を満たしておらず、それをZEH水準に引き上げるのはハードルが高いと思われてきた。そこへ、積水化学工業とリノベるが協業して、既存マンションのZEH水準リノベーションの提供を始めたというのだ。

【今週の住活トピック】
既存マンションのZEH水準リノベーションを提供開始/積水化学工業・リノベる

ZEH(ゼッチ)水準とは?ZEHとは違うの?

まず、ZEH(ゼッチ)とは何かについて、説明しよう。
ZEHとは、Net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)を略した呼び方で、住宅で消費するエネルギーをゼロ以下にしようというものだ。そのためには、(1)住宅の骨格となる部分を断熱化して、エネルギーを極力使わないようにし、(2)給湯や冷暖房などの設備を高効率化して、エネルギーを効率的に使う。ただし、消費するエネルギーをゼロにするには、(3)太陽光発電設備などでエネルギーを創り、消費したエネルギーを補う必要がある。

ところが、マンションなどの高層住宅では、戸数が多いわりに太陽光発電設備を設置できる屋上の面積が広くないなどの制約がある。そこで政府は、建物の階数が高くなるほど太陽光発電などの再生エネルギーによる削減の基準を緩める形で、ZEH水準を定めている。

政府が定めたマンションのZEHの定義は次の4種類があり、1~3階建ては「ZEH-M」か「Nearly ZEH-M」を、4~5階建ては「ZEH-M Ready」、6階建て以上は「ZEH-M Oriented」を目指すべき水準としている。なお、いずれの場合も、再生エネルギーを除いた状態で、基準一次エネルギー消費量から20%以上削減することが条件となる。

○マンションの4種類のZEH
ZEH-M(ゼッチマンション):再生エネルギーを含めて100%以上を削減する
Nearly ZEH-M(ニアリーゼッチマンション):再生エネルギーを含めて75%以上100%未満を削減する
ZEH-M Ready(ゼッチマンションレディ):再生エネルギーを含めて50%以上75%未満を削減する
ZEH-M Oriented(ゼッチマンションオリエンティッド):再生エネルギーの導入を条件としない

既存のマンションでZEH水準のリノベーションを行う方法は?

今回提供を開始した、積水化学工業とリノベるが協業するZEH水準リノベーションは、住戸で「ZEH Oriented」に適合するようにしている。合わせて、建築物省エネルギー性能表示制度のBELSでは★5,リノベーション協議会の基準ではR1エコ★★の取得もするという。

出典:積水化学工業・リノベるの資料より転載

出典:積水化学工業・リノベるの資料より転載

まず、ZEH化の断熱改修では、積水化学グループの「マルリノ」の断熱特許工法を活用する。「グリーンシティ鷺沼」の事例では、住戸をスケルトンにした状態(上の写真)では、外気温34.6度のときには壁面温度も同程度になっているが、壁面の断熱工事後(内窓設置前=下の写真)では、外気温36.0度のときに31.8度になっている。

○断熱改修前(スケルトン)

断熱改修前(スケルトン)

○断熱改修後(内窓設置前)

断熱改修後(内窓設置前)

出典:積水化学工業・リノベるの資料より転載

さらに、樹脂サッシLow-E複層ガラスの内窓を設置し、高効率のエアコン、エコジョーズ(高効率給湯器)、高断熱浴槽などの設備を設置することで、ZEH水準に適合させる。光熱費削減シミュレーションをしたところ、ZEH水準化によって光熱費が約30%削減できるという。

このZEH水準リノベーションによる追加の費用は、300万円(税抜き)弱。この額は、通常並みに間取り変更や一般的な設備にリノベーションした場合の費用を除き、スケルトンから断熱等級5への断熱工事費用や内窓の設置費用、設備を高効率なものにグレードアップした差額などによる。両社によると、この追加費用による住宅ローン返済額のアップ分は、光熱費の削減分でカバーでき、住宅ローン減税のZEHによる上乗せ分などの支援制度でさらに経済的メリットが見込まれるという。

今後、ZEH水準リノベーションは、区分マンションの買取再販事業、個人向けのリノベーション請負事業、法人向けのリノベーション請負事業の3つのチャネルで展開される予定だ。

カーボンニュートラル実現に向けて、既存住宅の省エネ性能向上に期待

説明してきたように、新築の住宅では法規制により、省エネ基準の適合、さらにはZEH水準への対応が進んでいくと考えられる。一方で、既存の住宅はその時々の省エネ基準に適合しているため、現行の省エネ基準よりも低い性能で建てられているものが多い。そのため、省エネ性能を引き上げる改修を行わないと、新築住宅と既存住宅の省エネ性能の開きが大きくなる一方だ。

カーボンニュートラル社会が実現するためには、既存の住宅の省エネ性能の向上が進むことが必要になる。また、新築と比べて省エネ性能が劣る中古住宅には、買い手がつきにくいという問題も考えられる。

特に、住宅の構造を共有するマンションなどの集合住宅では、一戸建ての改修よりも制約を受けやすい。既存のマンションでもZEH水準化するリノベーションが可能だということなので、こうしたリノベーションが進むことが期待される。

マンションの省エネ性能が高くなると、それ以前より夏は涼しく冬は暖かいといった、快適な室内環境で過ごすことができる。さらに、ヒートショックのリスクが減ったり、結露が解消してカビなどを吸い込む健康被害を抑制する効果もある。中古マンションを改修する際には、ぜひ省エネ性能を引き上げるリノベーションを検討してほしい。

●関連サイト
積水化学工業とリノベるが既存マンションのZEH水準リノベーションを提供開始

省エネ先進県・鳥取、中古住宅の省エネ性能を資産価値として評価! 「築22年以上の住宅も価値がゼロにならない」評価法を来年4月スタート

住宅は築22年以上になると価値がゼロになる――。そんな古い慣習を日本からなくしてしまうかも知れない委員会が今、鳥取県で開かれています。その名は「鳥取県版住宅性能等評価指針策定検討委員会」。高気密・高断熱の住宅価値が高まる評価プログラムづくりを目的にしたもので、別に古い慣習を打ち破ってやろうという、血気盛んな人々の集まりではありません。鳥取県が、県民の豊かで健康な暮らしのために、設置した委員会です。

始まりは国の基準より高い高断熱・高気密の住宅促進から

同委員会を紹介する前に、まずは鳥取県がこれまでに取り組んできた住宅に関する施策について説明しておく必要があります。

令和2年(2020年)から、鳥取県は「とっとり健康省エネ住宅普及促進事業」をスタートさせました。独自に国の基準より高い、家の「断熱」と「気密」の性能基準「NE-ST」を設け、NE-STを満たす家づくりを推奨・助成するという事業です。

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「日本の省エネ基準では健康的に過ごせない」!? 山形と鳥取が断熱性能に力を入れる理由

ちなみに「寒い北海道や東北地方でもない鳥取県がなぜそこまで?」と思う人もいるかもしれませんが、同県のシンボルである大山(だいせん)にスキー場があるように、冬になれば雪が積もる地域です。そして2014年時点(※)では、冬季の死亡増加率割合が全国の都道府県でワースト16位だったのです。

※慶応大学の伊香賀教授が、厚生労働省の2014年人口動態統計に基づいて月平均死亡者数を比較し、冬季(12月~3月)死亡増加率を算出(出典/慶應義塾大学 伊香賀研究室提供資料)

だいせんホワイトリゾート(写真/PIXTA)

だいせんホワイトリゾート(写真/PIXTA)

死因のすべてが、冬に多いヒートショックによって引き起こされる心疾患や脳血管疾患等とはいいませんが、少なくとも家の断熱・気密性能を高めれば、こうした疾患を防ぎやすくなります。

こうして始まった新築住宅へのNE-STの認定制度。「国の基準より高い」と述べましたが、ではどれくらい高いのかというと、下記表のとおりです。

(出典/鳥取県庁公式ホームページ「とりネット」)

(出典/鳥取県庁公式ホームページ「とりネット」)

※断熱性能(UA値):建物内の熱が外部に逃げる割合を示す指標。値が小さいほど熱が逃げにくく、省エネ性能が高い
※気密性能(C値):建物の床面積当たりの隙間面積を示す指標。値が小さいほど気密性が高い
※ZEHは、ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの略。断熱化による省エネと太陽光発電などの創エネにより、年間の一次消費エネルギー量の収支をプラスマイナス「ゼロ」にする住宅をいう

令和2年7月からNE-ST認定住宅の助成が始まりましたが、鳥取県住宅政策課企画担当の槇原章二さんによれば「初年度である令和2年(2020年)度は、新築の木造一戸建てにおけるNE-ST認定住宅の割合は約14%でした。それが令和4年度(2022年4月~2023年3月)には約31%まで伸びています」。つまり、施主の3人に1人はNE-STを建てたことになります。

またNE-STを建てるには県に登録された工務店等に依頼しなければなりませんが、「現在は県内の住宅供給者の約8割がNE-STの登録事業者です」(槇原さん)。要するに、認定されていない事業者を探すほうが難しいほどになっています。

新築だけでなく既存住宅に対しても認定&補助金制度を拡充

もちろん、住宅は新築ばかりではありません。既存住宅に対してもNE-ST同様の高断熱・高気密化のリフォームを促す「とっとり健康省エネ住宅改修支援事業補助金」制度が令和4年(2022年)7月から始まりました。

こちらは、上記「NE-ST」の「T-G1」基準同等の断熱リフォームを行った既存住宅を「Re NE-ST」認定住宅として助成するだけでなく、住宅の一部のみ「T-G1」基準同等の断熱リフォーム(ゾーン改修)を施したり、国の省エネ基準をクリアする断熱リフォーム(国省エネ基準改修)を行った場合のみでも、県が助成してくれる制度です。

工事費および補助金額の高い順に“「Re NE-ST」>ゾーン改修>国省エネ基準改修”となる(出典/鳥取県庁住宅政策課)

工事費および補助金額の高い順に“「Re NE-ST」>ゾーン改修>国省エネ基準改修”となる(出典/鳥取県庁住宅政策課)

「住宅全体をRe NE-ST基準まで引き上げるには、やはり家全体を改修すると費用がそれなりにかかります。そこで、予算やライフスタイルに応じた省エネ改修がしやすいようにしました」(槇原さん)

例えば「子育てを終えて今は夫婦2人で暮らしているので、2階はあまり使っていない」といった場合などは、老後の快適な暮らしを考えて、普段生活をする1階だけRe NE-ST基準まで改修して費用を抑える「ゾーン改修」を選ぶことができます。

さらに賃貸住宅についても、NE-STの基準を満たせば、新築・改修を問わず賃貸住宅のオーナーに対して助成が施されます。

「健康的な暮らし」の好サイクルを「古い慣習」が阻んでいた!?

確かに、こうやっていけば鳥取県民が豊かで健康的に暮らせそうです。とはいっても、新築でもリフォームでも、性能の高い家を建てようとするとそれなりに費用はかさみます。施主にとっては、この先の暮らしに“投資”することになります。

ところが現状の建物の評価方法では、木造住宅の場合、築22年で価値がゼロになってしまいます。税法上の木造住宅の減価償却年数が22年なのですが、この数字が建物の評価にも慣習的に使われるようになったためだといわれています。

つまり、せっかくお金をかけて快適な自宅を建てた(あるいはリフォームした)としても、22年たてば何もしていない住宅と価値が同じだと評価されてしまうのです。これでは費用のかかるNE-STを建てたり、Re NE-ST改修を行おうという意欲を削ぎかねません。

「従来の建物の評価方法は、築年数と床面積で評価され、性能や改修が評価されにくかったのですが、例えばアメリカでは、改修などの投資が資産価値に反映されます。」(槇原さん)

国土交通省「中古住宅市場活性化ラウンドテーブル平成25年度報告書」より。アメリカでは住宅投資額の累計(グラフの赤い折れ線グラフ)と住宅資産額(青い棒グラフ)が比例しているのに対し、日本では比例していないことが一目瞭然。アメリカと日本の差額を国土交通省は「失われた500兆円」と表現している(出典/国土交通省「中古住宅市場活性化ラウンドテーブル 平成25年度報告書(案)」)

国土交通省「中古住宅市場活性化ラウンドテーブル平成25年度報告書」より。アメリカでは住宅投資額の累計(グラフの赤い折れ線グラフ)と住宅資産額(青い棒グラフ)が比例しているのに対し、日本では比例していないことが一目瞭然。アメリカと日本の差額を国土交通省は「失われた500兆円」と表現している(出典/国土交通省「中古住宅市場活性化ラウンドテーブル 平成25年度報告書(案)」)

上記の国土交通省がまとめた報告書「中古住宅市場活性化ラウンドテーブル平成25年度報告書」の資料では、アメリカでは「大規模なリフォーム投資も住宅投資・資産額に反映」されているのに対し、日本はリフォームしてもそれが「住宅投資・資産額に織り込まれ難い」と指摘しています。

「これでは、何をやっても築22年で価値がゼロになる住宅を建てるために、多くの人が35年ローンを組んでいることになってしまいます」(槇原さん)

費用をかけただけ住宅の価値を高める「鳥取県版評価法」

NE-ST/Re NE-STを推進したい鳥取県としては、こうした現状の評価方法を何とか変えられないかと考えるのは当然の流れ。そこで集められたのが冒頭の、「鳥取県版住宅性能等評価指針策定検討委員会」というわけです。

(写真提供/鳥取県)

(写真提供/鳥取県)

委員長には、NE-ST基準の設定以来携わっている慶応義塾大学の伊香賀俊治教授が就任。また優良住宅部品(BL部品)認定事業や、住宅の部品・部材等の評価・試験などを行っているベターリビング住宅・建築評価センターの斉藤卓三氏といった面々が加わっています。

なかでも注目したいのは、鳥取県宅地建物取引業協会長の長谷川義明氏と全日本不動産協会鳥取県本部長の細砂修二氏というように、実際に住宅の売買を担う不動産業界の大手2団体からも参画を得ていることです。せっかく評価プログラムを作成しても、それを使ってもらわなければ意味がありません。その点、大手2団体が委員会として推進していく立場であることは、大きな意味を持っているといえます。

同委員会が鳥取県とともに目指すのは、下記のような独自の「鳥取県版評価法」です。

従来評価法と鳥取県版評価法の比較

鳥取県版では、従来は評価されにくかったリフォームや住宅の性能についても評価できるようにしようと考えている

上記表内にある「目標使用年数」とは、従来の減価償却年数に変わるものと捉えるとわかりやすいでしょう。例えば木造(木造軸組工法)の場合、旧耐震基準で建てられた住宅の躯体の目標使用年数を40年とし、新耐震基準なら50年、2000年耐震基準(※)なら60年、という具合に、耐震性の高い住宅は資産価値が高いことを示す「目標使用年数」を定めていくのです。

※2000年耐震基準とは、阪神・淡路大震災で多くの木造住宅が倒壊したことから、特に木造軸組工法に関して厳しい基準を設けた耐震基準のこと。現行の耐震基準とよく呼ばれている。

従来評価法と鳥取県版評価法の経年による評価の違いのイメージ

上記は、従来の評価法なら22年で価値がゼロになるが、新築時に性能の高い住宅を建てれば60年で価値がゼロになることを示す。またリフォームやインスペクション(建築士や住宅診断士などの専門家が、住宅の劣化レベルなどを診断すること)によってはさらに価値が長く残る(出典/鳥取県版住宅性能等評価指針策定検討委員会(第1回)資料)

上記は、従来の評価法なら22年で価値がゼロになるが、新築時に性能の高い住宅を建てれば60年で価値がゼロになることを示す。またリフォームやインスペクション(建築士や住宅診断士などの専門家が、住宅の劣化レベルなどを診断すること)によってはさらに価値が長く残る(出典/鳥取県版住宅性能等評価指針策定検討委員会(第1回)資料)

また上記を見れば、住宅の性能を高める投資(初期投資費用やリフォーム費用)を行うほど、資産の“延命”が図られることがわかると思います。

下記を見れば「お金をかけて性能・品質のよい家を建てると、資産価値が高まる」ことがよりイメージしやすいでしょう。

評価のイメージ(築12年の木造住宅(木造軸組工法)の場合)

上記表のように、水まわり設備や電気設備なども評価の対象だ。また台所設備に表の普及品より性能の高い高級品を備えていると、住宅の価値に反映される仕組みになっている(出典/鳥取県版住宅性能等評価指針策定検討委員会(第1回)資料)

上記表のように、水まわり設備や電気設備なども評価の対象だ。また台所設備に表の普及品より性能の高い高級品を備えていると、住宅の価値に反映される仕組みになっている(出典/鳥取県版住宅性能等評価指針策定検討委員会(第1回)資料)

上記表内の「残存年数」とは、「目標年数(目標使用年数)」から築年数を引いた数字になります。例に取り上げられているのは、2000年耐震基準で建てられた築12年の木造住宅ですから、目標使用年数60年-築年数12年=48年が「残存年数」となります。

また「グレード補正率」とは、グレードの高い装備の場合は価値が高いと評価されるようにした指標で、例えば表内では壁に普及品のビニルクロスが使用されているので、グレード補正率は100%ですが、高級な壁クロスの場合は割増しするなどして、その価値の高さが評価額に反映されるようになります。

ちなみに、実際にある住宅を鳥取県でシミュレーションしてみたところ、下記のように実勢価格と大きなズレはないものの、微妙な差がありました。

実勢価格との差額

いずれも仕様は中級品とし、リフォーム履歴はなしとしてシミュレーションした場合

この差額について槇原さんはこう話します。「実際に取引される価格は建物だけでなく、周囲環境など立地の条件や、これまでの販売実績などから建物価格が算出されるでしょから、鳥取県版評価法よりも高かったり、低かったりしているのだと思います」

別の見方をすれば、現状は築22年以上の建物の価値はゼロ、あとは立地と、ここならこれくらいで売れるだろうという、買い手と売り手の間に立つ不動産会社の“長年の経験値”から価値が決まっているということ。ですから売り手も買い手も、本当にこの金額が適正なのか、判断しようがありません。

しかし鳥取県版評価法を使うと、しっかりと建物の価値を売り手/買い手が理解した上で、立地条件を考慮して、両者も納得の、少なくとも売り手としてはわが家の価値を把握した上で売りに出すことができます。

今後の鳥取県版評価法を定める流れとしては、建築や不動産などの関係団体と鳥取県でコンソーシアムを組織し、実務者によるワーキングを開催して、そこで評価の指針や評価プログラムなどを詰めていきます。それを元に今度は先の委員会に諮り、最終的にコンソーシアムが定めていくというイメージです。

また、こうした鳥取県版評価法を実際に不動産会社に使ってもらえるよう、なるべく簡単に操作できる評価システムを用意しなければなりませんが、それは一般社団法人建物評価研究機構の「THK住宅査定システム」をベースに同機構と県及び関係団体の協働により製作します。

県民が健康に暮らすようになれば鳥取県は実入りが増える!?

こうして見てくると、鳥取県の取り組みは、国が行っても不思議ではない内容です。確かに県民のために性能の高い住宅を普及させたい、そのためには性能の高い住宅をきちんと評価できる仕組みが必要だ、というのはわかりますが、だからといって、なぜ鳥取県がここまで行うのでしょうか。

「まず1つは、NE-ST/Re NE-STが普及することで地場産業が活性化するため、県としては税収の増加につながります。リフォームでいうと、従来は100万~200万円のリフォーム費用が多いイメージでしたが、Re NE-ST認定住宅の平均工事費はだいたい2000万円くらいです。昨年から始まったばかりなので、まだ事例件数は10件ほどですが、こういった大規模なリフォームにより市場が拡大してきていることは大きいと思います」(槇原さん)

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

しかも、新築と比べてリフォームに携わる事業者は県内企業が多いので、より地場産業の活性化につながりやすいそうです。それに、高断熱・高気密の住宅で多くの県民が暮らせるようになれば、長い目でみると医療費の削減にも繋がるのではないでしょうか。

「また、空き家問題の解消にもなるのではないかと期待しています。現在は、子どもが成長して家を離れても、たいていは夫婦2人であまり使わない2階を抱えたまま、最後まで暮らします。なぜなら従来の評価方法では、たとえNE-ST認定住宅だったとしても思うような金額にならないので、移り住むことは難しいからです」(槇原さん)

しかし、鳥取県版評価法によって資産価値が高まれば、自宅の売却益を元手に老後の2人の生活に合った住宅に移り住むことができるかもしれません。

「一方の買い手としては、新築住宅はハードルが高いといった若い世代が考えられます。これから子育てなどでお金がかかるため、なるべく出費を抑えたい彼らが、NE-STの中古住宅の購入や、中古住宅を買ってRe NE-STするなら、と考えてくれるかもしれません」(槇原さん)

そんな風に、ライフステージに応じた住み替えが進んで行くのでは、と槇原さんは期待しています。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

「さらに、こうして住宅の寿命が延びることで、解体による廃棄物の抑制につながれば、SDGsでもあると思います」(槇原さん)

こうした鳥取県の取り組みに対し、既に全国の工務店などから問い合わせが多数あるそうです。「やはり性能の高い住宅をつくっている事業者は、自分たちの仕事をしっかりと評価してほしいと思っているのではないでしょうか」(槇原さん)

なかには「指針にはこんなことを盛り込んでほしい」など、メッセージを寄せる工務店もあるのだとか。これを機に各地で工務店レベルからのボトムアップが起これば、他県でも鳥取県同様の施策が行われるかもしれません。「他県で鳥取県版評価法を使いたい場合は、建物評価研究機構のシステムが使用できます」(槇原さん)。そうなれば、全国から「築22年以上だから価値はゼロになる」という古い慣習が消える日も近いのではないでしょうか。

鳥取県では来年の4月から鳥取県版評価法の運用を開始する予定。果たして古い慣習の消滅が始まるのでしょうか? 期待を込めて注目しましょう。

●取材協力
鳥取県
●関連サイト
鳥取県建築物環境総合性能評価システム「CASBEEとっとり」

中古住宅買取再販市場は2030年に22%増の5万戸へ。市場拡大の理由とは?買取再販物件の購入ポイントも解説!

矢野経済研究所が、国内の中古住宅買取再販市場の市場規模を調査し、将来展望を明らかにした。今後も市場は拡大基調で推移し、2030年には2022年比で22.0%増の5万戸になると予測している。買取再販物件が人気を博しているのはどういった理由なのだろう。

【今週の住活トピック】
「中古住宅買取再販市場に関する調査(2023年)」(2023年10月5日発表)を実施/株式会社矢野経済研究所

中古住宅買取再販市場は堅調に推移し、今後も拡大する見通し

「買取再販」とは、中古住宅を事業者が買い取って、リフォームやリノベーションを実施したうえで、事業者が売主となって再度販売するもの。株式会社矢野経済研究所が、こうした中古住宅買取再販の市場規模(成約戸数ベース)を調査した。

それによると、国内の中古住宅買取再販市場は、新築住宅価格が高止まりしていることもあり、新築と比較して相対的に割安な中古住宅の需要が増えていることから、2022年は堅調に推移しているという。2023年の中古住宅買取再販市場の規模は、前年比2.4%増の4万2000戸と予測。2030年には5万戸になると予測した。

同研究所は、市場が拡大する主な要因として、「住宅ローン金利で低金利を前提とした緩やかな上昇が見込まれること」や、「住宅取得時の税制優遇措置の継続」など、良好な住宅取得環境が継続する見通しであることを挙げた。買取再販物件への需要も堅調に増加し、中古住宅が在庫として増えていくことも拡大要因としている。

中古住宅買取再販市場規模推移と予測

中古住宅買取再販市場規模推移と予測(出典:矢野経済研究所「中古住宅買取再販市場に関する調査(2023年)」を参考に弊社でグラフ作成)

中古住宅の買取再販物件に需要が高まる理由は?

さて、新築住宅の価格が高騰して高止まりしているので、中古住宅の需要が高まるのは分かるが、中古住宅の中でも買取再販物件の需要が高まるのはなぜだろうか。

築年数の経過した「古い住宅」は、今の住宅より性能が低かったり、老朽化が進んでいたりするので、その分低価格になる。個人が買う場合は、性能を確認してどこをどうリフォームするのかすぐに判断するのが難しく、トータルでいくらかかるか分からないということがある。

一方、不動産会社などの事業者であれば、数多くの売買やリフォームの経験から、いくらで買ってどの程度のリフォームをしたうえで、いくらで売り出せば売れるか、すぐに判断することができる。また、リフォームする際には、多くの人が好むように、現在の新築住宅と同じような間取りや設備仕様で仕上げることが多い。

買う人にとっては、判断が難しい築年数の経過した中古住宅よりも、新築並みにリノベーションされた買取再販物件のほうが、手軽で費用が明確というメリットがある。自分でこだわりを持ってリフォームをしたいという人は別だが、リフォームにかかった費用もまとめて住宅ローンの対象となり、引き渡し後すぐに入居ができるなど、多くのメリットを感じる人もいるだろう。

中古住宅の買取再販物件は多様になっている

事業者側にとっても、大量発注してリフォーム工事の費用を抑えることができるので、利益を上乗せしても個人が買いやすい価格で売ることができる。とはいえ、1戸ずつ判断してリフォームしていくので、手間のかかるビジネスモデルではある。そのため、以前は、買取再販の専業事業者を中心に展開していた。

また、一戸建てはマンションに比べて、土地や住宅の形状、建て方などの個別性が高く、買取再販が難しいとされていた。例えば、「浴槽を取り外したらシロアリの食害で損傷していた」というような事例も多く、隠れた部分の損傷具合が表から見て分かりづらいという側面もあるからだ。そのため、マンションの買取再販専業事業者が多かったが、一戸建ての専業事業者も登場し、それに伴い買取再販物件も増えてきた。

最近では、デベロッパーやハウスメーカーなど新築に力を入れていた事業者が、買取再販事業に参入する事例が増えている。というのも、人口や世帯数が減少するなか新築住宅市場が縮小すると言われているうえ、既存の住宅をリノベーションすることは、建て替えて新築するよりもCO2の排出量や廃棄物を削減できるので、『脱炭素社会』や『SDGs』について寄与することができる、といった背景があるからだ。

その結果、一般的な古いマンションや一戸建てだけでなく、都心部の高額マンションや一戸建てなども買取再販の対象になり、多様な物件が市場に出る環境が整いつつある。

買取再販の中古住宅を選ぶ際の注意点

実際に住宅市場で物件を選ぶ際には、買取再販ではなく、リノベーション物件などと記載されることが多い。

一般的に「リフォーム」は新築当時の状態に改修すること、「リノベーション」は今の生活水準に応じて性能を引き上げる改修をすることといわれている。しかし、これらの違いは明確ではなく、混在して使われることも多い。

つまり、「リノベーション住宅」として販売されているものが、必ずしも性能を引き上げているとは限らず、内装だけを改修して見栄えをよくし、リノベーション済みと説明している場合もある。逆に「リフォーム済み」という記載でも、性能を引き上げた改修がされている場合もある。

特に、構造に関する部分や給排水管などの設備については、表面を見ただけでは分からないので、改修前はどういった状態で、どの部分をどのように改修したかを確認することが大切だ。隠れた部分までしっかり改修されていないと、住み始めてから想定外の不具合が生じるリスクもある。改修箇所の履歴を残し、一定期間の保証を付ける事業者なら安心だろう。

自分で改修内容まで確認することにハードルを感じるという人は、(一社)リノベーション協議会の「適合リノベーション住宅」かどうかを目安にする方法もある。建物検査をしたうえで改修工事を行い、その履歴を保管したり、改修箇所に一定の保証を付けたりしている。また、数は少ないが、国土交通省が定める「安心R住宅」かどうかをチェックする方法もある。

※安心R住宅とは、国土交通省が定めた基準を満たした住宅であり、リフォームについて情報提供が行われる(リフォーム済みかリフォーム工事提案書付き)中古住宅。

中古住宅を自分好みにリフォームするのを醍醐味に感じる人もいれば、プロのお勧めでリフォームされた住宅を買うのがよいと感じる人もいる。ある程度長く住むマイホームなのだから、自分に合った買い方をするのがよいだろう。ただ、市場における選択肢が増えることは、買い手にとっては喜ばしいことなので、多様な買取再販物件が市場に出回るとよいと思う。

●関連サイト
(株)矢野経済研究所「中古住宅買取再販市場に関する調査(2023年)」(2023年10月5日発表)

乳幼児のいる家庭のマンション選び、買う時より住んでから重視度が上がるポイントとは?

あなぶきホームライフでは、5歳以下の子どものいる家庭の意見を通じて、子育て世代の住宅ニーズを把握するために、首都圏にマンションを所有する、末子が5歳以下の946人にアンケートを実施した。アンケートの内容は、「マンションを購入した時と居住した後の住まいに関する重視ポイント」についてだ。購入した時と後では、どういった違いがあったのだろうか?

【今週の住活トピック】
乳幼児のいる家庭に「マンションを購入した時と居住した後の住まいに関する重視ポイント」についてアンケートを実施/あなぶきホームライフ

マンション購入後のほうが購入時よりも、すべての項目で重視度が上がる

調査結果では、各項目の重視度に対する回答を、「重視した」(3ポイント)、「どちらともいえない」(2ポイント)、「気にしなかった」(1ポイント)として集計している。また、マンション購入時に重視していたことと、マンション購入後(もし今マンションを買うなら重視すること)を同じ項目で調査し、そのポイントの差異も調べている。

どの程度重視したかの項目は、①教育施設や自治体の制度などの子育て環境、②マンションの設備、③マンションの間取りの3つに分類して聞いているのだが、公表された結果を見る限り、重視度はすべての項目で「購入後」のほうが高くなっていた。購入後のほうが、さまざまなことを気にするようになったということだろう。

それぞれの分類で重視度がトップだったのは、①子育て環境「役所・病院・スーパーなどの生活利便施設」(購入時2.63:購入後2.73)、②マンション設備「セキュリティシステム」(購入時2.48:購入後2.59)、③マンションの間取り「収納力(クローゼットの場所や収納量)」(購入時2.57:購入後2.74)。ただし、これらの項目では、購入時と購入後の差異がそれほど大きくない。

そこで、購入時と購入後で差異が大きかった項目に注目して、見ていくことにしよう。

子育て環境は、購入後には子どもが成長した時のことまで気になる?

まず、①の「子育て環境」を見ていこう。末子が乳幼児ということもあって、「保育園・幼稚園までの距離」(購入時2.09:購入後2.50)や「保育園・幼稚園の評判」(購入時1.88:購入後2.34)などの重視度は高かった。しかし、購入時と購入後で差異が大きい上位3項目は以下の図のようになった。

①教育施設や自治体の制度などの子育て環境の分類で、購入前後で差の大きい上位3項目(出典:あなぶきホームライフのプレスリリースより)

①教育施設や自治体の制度などの子育て環境の分類で、購入前後で差異の大きい上位3項目(出典:あなぶきホームライフのプレスリリースより)

購入してそこに長く住むとなってからは、以前よりも子どもが成長したときのことまで気になってくるのだろう。「放課後の預かり施設までの距離」や「小学校(学区)についての評判」で、購入後の重視度が大きくアップしている。また、「自治体の助成金や支援制度」も、家計や子育てに長く影響するだけに気になる点だ。なお、助成金や支援制度は自治体によってさまざまなので、できれば購入時にしっかり確認しておきたいところだ。

マンションの設備では、子育て家庭ならではのことが気になる!

②「マンションの設備」で重視したことは、TOPの「セキュリティシステム」に次いで、「防音対策された床」、「傷つきにくく汚れが落ちやすいクロス」など、子育て家庭ならではの項目が上位に挙がった。子どもは走り回ったり、泥を持ち込んだり、落書きしたりするので、床や壁は気になるところだろう。

一方で、購入後に最も重視度がアップしたのは、「ノンタッチのオートロックドア解除」だった。乳幼児のいる家庭では、荷物も多く、子どもと手をつなぐ機会も多いため、マンションに出入りする際にオートロックを開錠する手間が軽減されることが、重視されるようになったようだ。次いで重視度が大きくアップしたのは、「指を狭まないように工夫された」『扉』や『窓』だった。暮らしていく中で、子どもの安全に配慮した設備の重要性を再認識したのだろう。

②マンションの設備の分類で、購入前後で差異の大きい上位3項目(出典:あなぶきホームライフのプレスリリースより)

②マンションの設備の分類で、購入前後で差異の大きい上位3項目(出典:あなぶきホームライフのプレスリリースより)

マンションの間取りでは、子どもの居場所が気になる!?

③「マンションの間取り」で重視したことは、多くの調査でも上位に挙がる「収納力」、「キッチンなどの水まわり」、「リビングの広さ」が、ここでも上位になった。一方で、購入後に重視度がアップしたのは、「子ども部屋の広さ」や「子どもの成長に伴う部屋数」だ。

③マンションの間取りについて重視したことは何ですか?の回答一覧(出典:あなぶきホームライフのプレスリリースより)

③マンションの間取りについて重視したことは何ですか?の回答一覧(出典:あなぶきホームライフのプレスリリースより)

乳幼児や小学生の低・中学年までは、親と一緒にリビングなどで過ごすことが多いのだが、それより先は子ども部屋など、子どもが自分で管理する居場所をどうするかが課題になる。マイホームで子どもが成長していくことを考えて、これらの項目の重視度が大きくアップしたのだろう。

あなぶきホームライフによると、「子どもの成長に合わせて間仕切りや部屋の入替えを想定して購入すれば良かった」といった意見もあったという。

こうして見ていくと、子どもが成長していくことも考えると、重視すべきことは数多くあることがわかる。そうはいっても、すべてを満たすマンションはなかなかないので、わが家は何をより重視するかを整理することが大切だ。

さらに、新築マンションを分譲する際に、デベロッパー側は、どういった世帯にこのマンションを買ってほしいかを想定する。都市部の利便性の高い立地なら共働き世帯を想定して、家事効率や収納の充実などの利便性に特徴を持たせる。郊外のマンションなら子育て世帯を想定して、子育てによい設備や間取りを多く採用する。こうした特徴の違いもあるので、マンションを探す際には、いろいろなタイプのマンションを見比べて、見る目を養うことも大切だろう。

●関連サイト
あなぶきホームライフ「乳幼児のいるご家庭にアンケート!マンション購入時と購入後の重視ポイントにはどんな変化があるのでしょうか?」
あなぶきホームライフ 公式サイト

乳幼児のいる家庭のマンション選び、買う時より住んでから重視度が上がるポイントとは?

あなぶきホームライフでは、5歳以下の子どものいる家庭の意見を通じて、子育て世代の住宅ニーズを把握するために、首都圏にマンションを所有する、末子が5歳以下の946人にアンケートを実施した。アンケートの内容は、「マンションを購入した時と居住した後の住まいに関する重視ポイント」についてだ。購入した時と後では、どういった違いがあったのだろうか?

【今週の住活トピック】
乳幼児のいる家庭に「マンションを購入した時と居住した後の住まいに関する重視ポイント」についてアンケートを実施/あなぶきホームライフ

マンション購入後のほうが購入時よりも、すべての項目で重視度が上がる

調査結果では、各項目の重視度に対する回答を、「重視した」(3ポイント)、「どちらともいえない」(2ポイント)、「気にしなかった」(1ポイント)として集計している。また、マンション購入時に重視していたことと、マンション購入後(もし今マンションを買うなら重視すること)を同じ項目で調査し、そのポイントの差異も調べている。

どの程度重視したかの項目は、①教育施設や自治体の制度などの子育て環境、②マンションの設備、③マンションの間取りの3つに分類して聞いているのだが、公表された結果を見る限り、重視度はすべての項目で「購入後」のほうが高くなっていた。購入後のほうが、さまざまなことを気にするようになったということだろう。

それぞれの分類で重視度がトップだったのは、①子育て環境「役所・病院・スーパーなどの生活利便施設」(購入時2.63:購入後2.73)、②マンション設備「セキュリティシステム」(購入時2.48:購入後2.59)、③マンションの間取り「収納力(クローゼットの場所や収納量)」(購入時2.57:購入後2.74)。ただし、これらの項目では、購入時と購入後の差異がそれほど大きくない。

そこで、購入時と購入後で差異が大きかった項目に注目して、見ていくことにしよう。

子育て環境は、購入後には子どもが成長した時のことまで気になる?

まず、①の「子育て環境」を見ていこう。末子が乳幼児ということもあって、「保育園・幼稚園までの距離」(購入時2.09:購入後2.50)や「保育園・幼稚園の評判」(購入時1.88:購入後2.34)などの重視度は高かった。しかし、購入時と購入後で差異が大きい上位3項目は以下の図のようになった。

①教育施設や自治体の制度などの子育て環境の分類で、購入前後で差の大きい上位3項目(出典:あなぶきホームライフのプレスリリースより)

①教育施設や自治体の制度などの子育て環境の分類で、購入前後で差異の大きい上位3項目(出典:あなぶきホームライフのプレスリリースより)

購入してそこに長く住むとなってからは、以前よりも子どもが成長したときのことまで気になってくるのだろう。「放課後の預かり施設までの距離」や「小学校(学区)についての評判」で、購入後の重視度が大きくアップしている。また、「自治体の助成金や支援制度」も、家計や子育てに長く影響するだけに気になる点だ。なお、助成金や支援制度は自治体によってさまざまなので、できれば購入時にしっかり確認しておきたいところだ。

マンションの設備では、子育て家庭ならではのことが気になる!

②「マンションの設備」で重視したことは、TOPの「セキュリティシステム」に次いで、「防音対策された床」、「傷つきにくく汚れが落ちやすいクロス」など、子育て家庭ならではの項目が上位に挙がった。子どもは走り回ったり、泥を持ち込んだり、落書きしたりするので、床や壁は気になるところだろう。

一方で、購入後に最も重視度がアップしたのは、「ノンタッチのオートロックドア解除」だった。乳幼児のいる家庭では、荷物も多く、子どもと手をつなぐ機会も多いため、マンションに出入りする際にオートロックを開錠する手間が軽減されることが、重視されるようになったようだ。次いで重視度が大きくアップしたのは、「指を狭まないように工夫された」『扉』や『窓』だった。暮らしていく中で、子どもの安全に配慮した設備の重要性を再認識したのだろう。

②マンションの設備の分類で、購入前後で差異の大きい上位3項目(出典:あなぶきホームライフのプレスリリースより)

②マンションの設備の分類で、購入前後で差異の大きい上位3項目(出典:あなぶきホームライフのプレスリリースより)

マンションの間取りでは、子どもの居場所が気になる!?

③「マンションの間取り」で重視したことは、多くの調査でも上位に挙がる「収納力」、「キッチンなどの水まわり」、「リビングの広さ」が、ここでも上位になった。一方で、購入後に重視度がアップしたのは、「子ども部屋の広さ」や「子どもの成長に伴う部屋数」だ。

③マンションの間取りについて重視したことは何ですか?の回答一覧(出典:あなぶきホームライフのプレスリリースより)

③マンションの間取りについて重視したことは何ですか?の回答一覧(出典:あなぶきホームライフのプレスリリースより)

乳幼児や小学生の低・中学年までは、親と一緒にリビングなどで過ごすことが多いのだが、それより先は子ども部屋など、子どもが自分で管理する居場所をどうするかが課題になる。マイホームで子どもが成長していくことを考えて、これらの項目の重視度が大きくアップしたのだろう。

あなぶきホームライフによると、「子どもの成長に合わせて間仕切りや部屋の入替えを想定して購入すれば良かった」といった意見もあったという。

こうして見ていくと、子どもが成長していくことも考えると、重視すべきことは数多くあることがわかる。そうはいっても、すべてを満たすマンションはなかなかないので、わが家は何をより重視するかを整理することが大切だ。

さらに、新築マンションを分譲する際に、デベロッパー側は、どういった世帯にこのマンションを買ってほしいかを想定する。都市部の利便性の高い立地なら共働き世帯を想定して、家事効率や収納の充実などの利便性に特徴を持たせる。郊外のマンションなら子育て世帯を想定して、子育てによい設備や間取りを多く採用する。こうした特徴の違いもあるので、マンションを探す際には、いろいろなタイプのマンションを見比べて、見る目を養うことも大切だろう。

●関連サイト
あなぶきホームライフ「乳幼児のいるご家庭にアンケート!マンション購入時と購入後の重視ポイントにはどんな変化があるのでしょうか?」
あなぶきホームライフ 公式サイト

2024年4月スタートの新制度は、住宅の省エネ性能を★の数で表示。不動産ポータルサイトでも省エネ性能ラベル表示が必須に!?

不動産情報サイト事業者連絡協議会や国土交通省などによる、「省エネ性能表示制度で住宅の省エネ化は進むのか?」記者発表会が開催された。2024年4月から始まる「省エネ性能表示制度」に関する説明会ではあるが、国の制度について、アットホーム、LIFULL HOME’S、SUUMOの主要不動産ポータル事業者が深くかかわっていることに、実は意味があるのだ。

2024年4月から始まる「省エネ性能表示制度」とは?

新しい「省エネ性能表示制度」とは、「販売・賃貸事業者が建築物の省エネ性能を広告等に表示することで、消費者が建築物を購入・賃借する際に、省エネ性能の把握や比較ができるようにする制度」だ。

改正建築物省エネ法に基づき、省エネ性能表示制度を強化し、表示すべき事項などを定めることなどになっていたが、国土交通省では「建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示制度に関する検討会」を設置して、省エネ性能の表示ルールなどについて検討を重ねてきた。それを踏まえて作成されたのが、9月25日に公表したばかりの「建築物の省エネ性能表示制度のガイドライン等」だ。

このガイドラインの概要に沿って、国土交通省の住宅局参事官付課長補佐・池田亘さんから、制度に関する説明があった。そのポイントを整理しよう。

・開始時期:2024年4月 (これ以降に建築確認申請を行う新築および再販売・再賃貸される物件)
・努力義務になること:広告する際に省エネ性能ラベルを表示する
・対象:住宅や建築物を販売・賃貸する事業者 (物件の売主や貸主、サブリース事業者など)
・罰則:従わない場合は、国が勧告等を行う (既存建築物は勧告等の対象にならない)
・目的:省エネ性能を示すラベルや評価書を発行し、消費者が省エネ性能の把握や比較ができるようにする

該当する物件については、「省エネ性能ラベル」と「エネルギー消費性能の評価書」が発行されることになる。

発行される「省エネ性能ラベル」と「エネルギー消費性能の評価書」とは?

「省エネ性能ラベル」と「エネルギー消費性能の評価書」を発行するには、「自己評価」と「第三者評価」のいずれかで行う。販売・賃貸事業者側が国の指定するWEBプログラムなどを使って、評価を行うのが「自己評価」。第三者評価機関に評価を依頼するのが「第三者評価」で、その場合は、省エネルギー性能に特化した評価・表示制度である「BELS(ベルス)」を使うとされている。

では、まず「省エネ性能ラベル」について説明しよう。その特徴は3つある。

(1)エネルギー消費性能が星の数で分かる
国が定める省エネ基準より消費エネルギーが少ないほど、星の数が増える。省エネ基準に適合していれば★1つ。それより10%削減するごとに、★が1つずつ増える計算だ。ただし、エネルギーを使っても、太陽光発電などで補えばさらに削減できるので、★4つ以上は再生エネルギー設備がある場合に付けられる。そのため、★4つからは★が光るようなデザインになっているのだ。
※なお、再エネ設備の有無や削減率により、光らない★が4つのケースや3つ目以下で光る★が付くケースもある。

(2)断熱性能が数字で分かる
「建物から熱が逃げにくく、日射しなどの外からの熱が入りにくい」ほど数字が大きくなる。国が定める省エネ基準に適合していれば「4」、ZEH(ゼッチ)水準に達していれば「5」になる。
※ZEH水準とは省エネ基準適合住宅より、一次エネルギー消費量が20%以上削減(再生エネルギーを除く場合)されたもの

(3)目安光熱費が金額で分かる
その住宅の省エネ性能であれば、電気やガスなどの年間消費量がどの程度になるか計算し、エネルギー単価をかけて算出した年間光熱費が目安として表示される。ただし、家族が何人でどんな暮らし方をするかで、実際に使う光熱費は異なるため、あくまで目安としての金額だ。

なお、(3)の目安光熱費は任意項目なので、表示される場合もされない場合もある。表示されていないからといって、義務に反しているわけではない。

住宅(住戸)の省エネ性能ラベルに記載される内容(国土交通省の資料より)

住宅(住戸)の省エネ性能ラベルに記載される内容(国土交通省の資料より)

次に、「エネルギー消費性能の評価書」だが、これは省エネ性能ラベルの内容を詳しく解説した書類だ。評価書は消費者に渡されるので、必ず保管しよう。例えば、住宅を購入してその後に売却する場合に、評価書があれば(仕様を変更していないなど、省エネ性能が維持されていることが条件)、売る際の広告でもラベルが使用できる。

不動産ポータルサイトでも省エネ性能ラベルが掲載される

さて、この記者発表会を不動産情報サイト事業者連絡協議会(略称RSC)が運営しているのには理由がある。住宅を探す際に、不動産情報サイトの不動産広告を見る人が多い。国が表示方法などを決めてから対応したのでは遅くなるし、どのように消費者に届けた方が浸透するかなどの助言の機会もあったほうがよい。ということもあって、国土交通省の検討会には、SUUMO編集長・SUUMOリサーチセンター長の池本洋一さんが委員として参加している。

不動産ポータル事業者では、不動産情報サイトの信頼性を保持するために、RSCという組織で、連携をしている。現在6事業者が加盟しているが、理事会社がアットホーム、LIFULL HOME’S、SUUMOの運営会社で、池本さんはRSCの監事も務めている。

RSCでは、2019年から省エネ性能の表示はどうあるべきか検討してきたというが、幹事会社3社の不動産情報サイトで2024年4月から省エネ性能ラベルを広告表示する、共通ルールを策定しているところだ。

SUUMOにおけるインターネット広告への掲載例

SUUMOにおけるインターネット広告への掲載例

例えば、新築マンションでは、「住棟ラベル」(共同住宅の住棟全体の性能を表示するものであるなどの注釈の表記必須)を掲載し、新築一戸建てでは、販売戸数1戸なら「住戸ラベル」、多棟販売なら「代表住戸ラベル」(特定の住戸の性能を示すものであるなどの注釈表記必須)を、賃貸では「住戸ラベル」を掲載することなどを検討しているという。

実際の光熱費とズレがあっても目安光熱費を表示してほしい

省エネ性能ラベルでは、★の数で性能の高さが分かるようになっている。目安光熱費はあくまで目安なので、実際に光熱費がその金額にはならない。それでも、消費者は目安光熱費の表示を希望しているという。

リクルートの調査によると、ズレが生じることを考慮しても、「目安光熱費と星印表示どちらもあったほうが良い」が44.8%、「目安光熱費のみあれば良い」が29.3%となり、「星印表示のみあれば良い」の18.3%を大きく引き離した。

プレス説明会の資料より

プレス説明会の資料より

消費者に届くまでに関与する工程が多く、消費者まで届けることが課題

制度は2024年4月にスタートするが、課題もある。売買に詳しい松浦翼さん(アットホーム)と賃貸に詳しい加藤哲哉さん(LIFULL HOME’S)は、ラベルや証明書が発行されてから、その物件の広告としてラベルが消費者に届くまでの間に、多くの関係者が関わり、さまざまなシステムやツールを経由して情報が伝達されるため、システム改修の必要性や人為的な問題により、せっかくの情報が消費者に伝わらないリスクを指摘した。

省エネ性能表示の努力義務の対象となるのは、販売・賃貸事業、つまり売主や貸主、サブリース事業者などだが、実際に広告を出すのは不動産の仲介事業者や賃貸管理事業者になる。そのため、こうした間を取り持つ関係者がラベルなどの情報をきちんと伝達しないと、消費者にデメリットとなるだけでなく、仲介や入居者募集を依頼した売主や貸主が国から勧告を受けることにもなる。

また、広告への表示を努力義務としているが、評価書を受け取る消費者にその内容が説明されるのが望ましい。それを担うのも、直接消費者と接する仲介事業者や賃貸管理事業者になるので、関係者すべてにこの制度への理解を深めてもらう必要があるのだ。

さて、国は2050年のカーボンニュートラルに向けて、段階的に省エネ性能の基準を引き上げる予定だ。基準が変わったり新しい制度ができたりすると、省エネ性能を評価する基準も複雑になっていく。専門知識のない消費者がそれらを理解することは難しいので、住宅を選ぶ際に★の数や目安光熱費を見比べることは、性能を知るのに大いに参考になる。業界を挙げて、消費者に分かりやすく伝えることに取り組んでほしいものだ。

●関連サイト
建築物の省エネ性能表示制度のガイドライン等を公表/国土交通省
築物省エネ法に基づく建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示制度(国土交通省特設サイト)

福岡県・福岡市「住みたい街ランキング2023」駅1位は博多! 沿線は「西鉄天神大牟田線」に注目集まる

リクルートより「SUUMO住みたい街ランキング2023福岡県版/福岡市版(駅/自治体)」が発表された。福岡県在住の20歳〜49歳の男女1,600人にアンケート調査を行ったものだ。前回の2020年と比べてどんな変化があったのかも併せて紹介。約3年間での福岡の街の変化についても考察してみたい。

2023年「住みたい街(駅)」ランキングは、JR鹿児島本線「博多」が第1位!福岡県 住みたい街(駅)ランキング

福岡市の「博多」と北九州市の「小倉」がワンツートップ!
※今回の調査(2023年)では2020年調査と集計方法を変更しており、変更のあった対象駅。2023年は一定ルールのもと乗換可能な駅は駅名や路線が異なっても同一駅として得点を合算している

2023年の「住みたい街(駅)」ランキングでは「博多」駅が第1位を獲得した。九州の玄関口と言われる「博多」駅周辺は、福岡市による再開発プロジェクト「博多コネクティッド」によって、大きく変化している注目のエリアだ。

その一例が、以前はビジネス街が中心で落ち着いた印象であった「博多駅筑紫口」側の活況である。エリアのシンボルである「都ホテル博多」もプロジェクトのひとつとして2019年にリニューアル。最上階に天然温泉の屋外プールやスパ施設、2階には一般客も入りやすいレストランを有した“おしゃれなスポット”として認知されている。「博多」駅とも地下通路で直結され、今後ますます注目を集めそうだ。

博多駅筑紫口の「都ホテル博多」(写真/PIXTA)

博多駅筑紫口の「都ホテル博多」(写真/PIXTA)

ほかにも「博多」駅より延伸された屋根付きペデストリアンデッキで直結し、人気ベーカリーやおしゃれなイタリアンバルが入ったオフィスビル「博多深見パークビルディング(2021年2月完成)」、屋外広場やカフェバーを有し旧博多スターレーン跡地に誕生した「博多イーストテラス(2022年8月完成)」などが続々と誕生している。

福岡県の「穴場だと思う街(駅)」ランキングも「博多」が1位! 福岡県の総合ランキング24位「春日原」は10位に福岡県 穴場だと思う街(駅)ランキング

※今回の調査(2023年)では2020年調査と集計方法を変更しており、変更のあった対象駅。2023年は一定ルールのもと乗換可能な駅は駅名や路線が異なっても同一

駅として得点を合算している「交通利便性や生活利便性が高いのに家賃や物件価格が割安なイメージがある駅」という意味合いで、福岡県の「穴場だと思う街(駅)」を調査。その結果は「住みたい街(駅)」と同じく、「博多」駅が1位だった。

九州の玄関口である「博多」駅は福岡県のJR在来線・地下鉄が乗り入れ、福岡空港へも地下鉄で5~6分と、その利便性はいわずもがな。一方で駅から少し離れた徒歩圏内にはマンションやアパートが点在し、博多駅南や堅粕(かたかす)方面には家賃に値ごろ感のある物件も豊富。専門学校が多いので、学生が住める街であるのも「穴場の街」感をUPさせたポイントだ。

イルミネーションがきれいな博多駅(写真/PIXTA)

イルミネーションがきれいな博多駅(写真/PIXTA)

「住みたい街(駅)」では24位でありながら、「穴場の街(駅)」では10位と順位をあげてきたのは春日市の「春日原」駅。急行停車駅なので、西鉄天神大牟田線「福岡(天神)」駅からのアクセスは約9分。2024年には西鉄の高架化とそれにともなう駅周辺の再開発が完了。新しい街に生まれ変わる。

また、住宅価格の高騰が続く福岡市に比べて、家賃や住宅価格に値ごろ感があるのもうれしいところ。「春日原」駅から徒歩6分の「イオン大野城」には映画館もあるなど、施設面の充実もうれしいところだ。

「住みたい沿線」ランキング第1位は「JR鹿児島本線」、2位は「西鉄天神大牟田線」福岡県 住みたい沿線ランキング

「西鉄天神大牟田線」の人気の上昇にも注目

「住みたい沿線」ランキングでは、「JR鹿児島本線」と「西鉄天神大牟田線」が地下鉄各路線をおさえて、1位と2位に。特に近年住宅地として注目が集まるのは、福岡市の南部から南に延びる「西鉄天神大牟田線」で、なかでも沿線の「大橋」駅は「住みたい街(駅)」ランキングで2020年の9位から6位に順位を伸ばしたほどの人気ぶりである。

西鉄大牟田線「大橋」駅(写真/PIXTA)

西鉄大牟田線「大橋」駅(写真/PIXTA)

西鉄天神大牟田線の特急・急行が停車する「大橋」駅。「西鉄福岡(天神)駅」から5分程度と中心部へのアクセスの良さで人気があり、駅構内の「レイリア大橋」にはスーパーマーケットから、居酒屋、カフェ、ベーカリーなど飲食店、ファッション、生活雑貨、書店などの生活に欠かせない店舗がそろう。また、2022年にオープンした「ららぽーと福岡」へも「大橋」駅から直通バスが出ており10分程度でアクセスできることで、さらに人気が増したと思われる。

福岡県「住みたい自治体」ランキングでは「福岡市南区」「福岡市城南区」「北九州市小倉南区」の順位がアップ

福岡県 住みたい自治体ランキング

福岡県「住みたい自治体」ランキング1位は「福岡市博多区」。僅差で2位の「福岡市中央区」が続く形となった。

4位に順位をあげた「福岡市南区」は、注目の街(駅)の「大橋」駅が中心地のエリア。2023年4月、南区民の憩いの場所だった油山市民の森・油山牧場が、複合体験型アウトドア施設「ABURAYAMA FUKUOKA」にリニューアル。おしゃれなキャンプエリアも登場し、福岡市民からも注目される存在となった。「大橋」駅から「ABURAYAMA FUKUOKA」へは車で20分ほど。身近な場所に自然あふれる施設があるのも住環境としてこの上ないぜいたくだ。

「大橋」駅からも車で20分の「ABURAYAMA FUKUOKA」(写真/PIXTA)

「大橋」駅からも車で20分の「ABURAYAMA FUKUOKA」(写真/PIXTA)

8位に順位を上げた「福岡市城南区」は、地下鉄七隈線が博多駅まで延伸したことが大きい。天神方面・博多駅方面へのダブルアクセスがかない、交通の利便性がUP。福岡大学のお膝元「七隈」駅や落ち着いた住宅地である「梅林」駅周辺も注目が集まる存在となっている。

「小倉南区」はその郊外にカルスト台地が広がる平尾台があり、自然豊かなエリア。こちらも「ABURAYAMA FUKUOKA」同様に、身近なエリアで気軽にキャンプが楽しめるので、ファミリー層から認知や支持を集めているのかもしれない。

小倉南区の平尾台には美しいカルスト台地が広がる(写真/PIXTA)

小倉南区の平尾台には美しいカルスト台地が広がる(写真/PIXTA)

福岡市「住みたい街(駅)」ランキングは10位の「香椎」に注目。「住みたい自治体ランキング」1位は「福岡市中央区」福岡市民 住みたい街(駅)ランキング

※今回の調査(2023年)では2020年調査と集計方法を変更しており、変更のあった対象駅。2023年は一定ルールのもと乗換可能な駅は駅名や路線が異なっても同一駅として得点を合算している

福岡市民「住みたい街(駅)」ランキングで年々順位を上げているのは「香椎」駅だ。福岡市東区の中心地である「香椎」駅は、駅入口の朱色の大きな鳥居が象徴しているとおり、古くから親しまれ今も参拝者で賑わう「香椎宮」と共に発展した街。

福岡市東区民に愛される香椎宮(写真/PIXTA)

福岡市東区民に愛される香椎宮(写真/PIXTA)

駅周辺は、1999年から続いた大規模な再開発が完了しており、駅前ビル、道路、ロータリーが整備され、歩道は広く歩きやすくなった。また、「JR香椎」駅と「西鉄香椎」駅は徒歩2~3分と乗換可能な距離。隣駅の「千早」駅もJRと西鉄が乗り入れており、交通の利便性が非常に良い立地である。

福岡市民 住みたい自治体ランキング

さらに福岡市民「住みたい自治体ランキング」では「香椎」駅のある「福岡市東区」は第3位に浮上。福岡県「住みたい自治体」ランキング4位だった「福岡市南区」も同じく順位をあげ、福岡県民・市民の両方から「住みたい」と思われていることが分かった。

今後も、福岡市が中心とはなるが「天神ビックバン」「博多駅コネクティッド」「九州大学跡地の開発」など、さらなる開発が続いていく福岡県。これから人々の注目がどの街に集まり、どのように「住みたい街」が変化していくのか興味深く観察を続けていきたい。

●関連ページ
SUUMO住みたい街ランキング2023 福岡県版/福岡市版

登録有形文化財を有する旧赤羽台団地に、「URまちとくらしのミュージアム」がオープン!建物好きや団地マニアも驚きの仕掛けが満載!

「URまちとくらしのミュージアム」が9月15日に開館すると聞いて、都市再生機構(UR都市機構)に問い合わせたところ、オープン前にプレス向け発表会があるというので参加した。実は、八王子にあったUR都市機構の技術研究所が2017年度に閉鎖となったが、敷地内で2021年度まで開館していた集合住宅歴史館の資料は、今回開館するミュージアムに移設されるということだったので、興味を持っていたのだ。

【今週の住活トピック】
都市の暮らしの歴史を学び、未来を志向する情報発信施設「URまちとくらしのミュージアム」9月15日に開館/都市再生機構(UR都市機構)

旧赤羽台団地の中に開設されるミュージアム

「URまちとくらしのミュージアム」が開設されるのは、旧赤羽台団地の一角。

赤羽台団地(全3373戸)は、昭和30年代後半に都市部のモデル団地として誕生した、公団住宅として当時では23区内最大の大規模団地。その当時としては先駆的な住棟配置や多様な間取りが導入された団地で、赤羽駅周辺より高台にある団地の崖線部分には、ポイント型住棟(スターハウス)と呼ばれる特徴ある住棟が建つなど、団地マニアには聖地と呼ばれていたほどの名団地だった。

今では、建物の老朽化に伴って、その多くが建て替え事業により新たに「ヌーヴェル赤羽台」に生まれ変わっているが、日本建築学会が保存活用に関する要望書を出したことなどから、2019年に以下の4棟が国の登録有形文化財として登録された。

41号棟(板状階段室型:鉄筋コンクリート造地上5階建)
42号棟(ポイント型住棟:鉄筋コンクリート造地上5階建)
43号棟(ポイント型住棟:鉄筋コンクリート造地上5階建)
44号棟(ポイント型住棟:鉄筋コンクリート造地上5階建)

41号棟は、団地で多く見られる標準的な建物で、4つの階段の左右に住戸が設けられている。42~44号棟は、三角形の階段室の周囲に各階3住戸が放射状に配置され、全体がY字形の形状になっている。

UR都市機構のリリース「旧赤羽台団地の「ポイント型住棟(スターハウス)」を含む4棟が団地初の登録有形文化財(建造物)に登録へ」より抜粋

UR都市機構のリリース「旧赤羽台団地の「ポイント型住棟(スターハウス)」を含む4棟が団地初の登録有形文化財(建造物)に登録へ」より抜粋

登録有形文化財4棟とミュージアム棟、オープンスペースが丸ごとミュージアム

「URまちとくらしのミュージアム」とは、今回新たに建設された「ミュージアム棟」に加え、登録有形文化財の4棟と屋外空間(オープンスペース)を合わせたもの。団地の歴史を語る特徴ある住棟と団地らしい広々としたオープンスペースも見学の対象だ。

ミュージアム棟(筆者撮影)

ミュージアム棟(筆者撮影)

ミュージアムを開館するにあたって、4つの住棟には修復工事が行われたが、その際に当時の建物の外壁の色を再現するため、白黒写真をカラー化したり、残っている塗膜を分析したりして、当時の色を探し当てたという。

オープンスペースには適宜解説ボードがあり、登録有形文化財についても紹介している(筆者撮影)

オープンスペースには適宜解説ボードがあり、登録有形文化財についても紹介している(筆者撮影)

広いオープンスペースには遊具や大きな樹木もある(筆者撮影)

広いオープンスペースには遊具や大きな樹木もある(筆者撮影)

馬場正尊さんお勧めのミュージアム棟の見どころをじっくり紹介

メインの見どころは、ミュージアム棟の展示資料だろう。UR都市機構の前身である「日本住宅公団」時代からのまちづくりや住まいの歴史が詰まっている。開館式後のプレス向け説明会で、ミュージアムの施設プロデューサーであるオープンエー代表の馬場正尊さんが説明してくれた見どころを中心に紹介していこう。

まず、2階にある「メディアウォール」。これは筆者も熱中してしまったが、壁一面のタッチパネルに、全国につくられた団地が次々と出てくる。見たい団地をタッチすると、その団地の当時のパンフレットや間取り図などの貴重な資料がどんどん表示される。興味深くて、次々とタッチしてしまった。団地研究者には垂涎(すいぜん)の資料だろう。

団地の資料をタッチして読み出せる「メディアウォール」(筆者撮影)

団地の資料をタッチして読み出せる「メディアウォール」(筆者撮影)

団地の資料をタッチして読み出せる「メディアウォール」(筆者撮影)

2階から4階には、歴史的に価値の高い集合住宅の団地の復元住戸などがある。最初に、「同潤会代官山アパート」を見よう。同潤会は、関東大震災後の住宅復興のために設立された財団法人で、小規模戸建て住宅なども供給したが、本格的な鉄筋コンクリート造りの先進的な同潤会アパートを供給したことで知られている。

同潤会を紹介したコーナーでは、その歴史を語るパネルのほか、実際に代官山アパートで使われた食堂の椅子や食堂カウンター、鶯谷アパートや清砂通りアパートの階段手摺親柱、名板、外壁レリーフなども展示されている(筆者撮影)

同潤会を紹介したコーナーでは、その歴史を語るパネルのほか、実際に代官山アパートで使われた食堂の椅子や食堂カウンター、鶯谷アパートや清砂通りアパートの階段手摺親柱、名板、外壁レリーフなども展示されている(筆者撮影)

同潤会アパートは今ではその姿を見ることができないので、貴重な歴史的資料となる。1927年(昭和2年)竣工の代官山アパートの復元住戸は、独身用住戸と世帯向け住戸があり、紹介するのは独身用住戸(和室型)だ。玄関扉は鉄板を巻くなど地震や火災への対策が取られている。独身用をのぞくと、明るく住みやすそうな部屋だと分かる(写真上)。造り付け収納の取っ手のデザインなども洗練されたものだ。室内に入ると(写真下)、造り付けベッドがあり、当時としては斬新な間取りだ。廊下側の窓もおしゃれなデザインだった。

同潤会代官山アパートメント(独身用)の復元住戸(筆者撮影)

同潤会代官山アパートメント(独身用)の復元住戸(筆者撮影)

同潤会代官山アパートメント(独身用)の復元住戸(筆者撮影)

次は、1957年(昭和32年)に竣工した「蓮根団地」の復元住戸。食寝分離を基本とする2DKを標準設計とした代表的な団地だ。ダイニングキッチンにはテーブルが備え付けられ、イス座の食事を促したとか。キッチンは人研ぎ(※)の流し台、テーブル横の棚には当時の炊飯器やトースター、ラジオに加え、カネヨクレンザーの赤い箱も置かれていた(写真上)。DKの背面に和室があり、ほかに和室や木製の浴槽、和式便所などもあった。
※人研ぎ(人造石研ぎ出し)/石の粉とモルタルを混ぜた人造石を成型し、研ぎ出したもの。ステンレス製が普及する以前の主流だった

蓮根団地(2DK)の復元住戸(筆者撮影)

蓮根団地(2DK)の復元住戸(筆者撮影)

蓮根団地(2DK)の復元住戸(筆者撮影)

最後に紹介したい復元住戸は、前川國男設計による1958年(昭和33年)竣工の「晴海高層アパート」。公団初のエレベーター付き10階建て高層集合住宅だ。スキップアクセス方式(エレベーターの停止階とそこから階段で行く階がある)が採用されたので、廊下アクセス住戸と階段アクセス住戸の2つが復元されているが、紹介するのは階段アクセス住戸だ。

ここは馬場さんが「住みたい」というほど、明るく風通しがよい。玄関から入ると、フローリングの縦長DKと畳の和室2室がある。和室とフローリングの間の欄間にガラスがはめられているのも、室内が明るく開放的な要因になっている。キッチンはステンレス製の流し台、トイレは洋式になっていた。海に近いこともあって、バルコニーはプレキャストコンクリートの手摺になっている(写真下の奥がバルコニー)。隣戸との壁がコンクリートブロックというのも目を引く。

晴海高層アパート(階段アクセス住戸)の復元住戸(筆者撮影)

晴海高層アパート(階段アクセス住戸)の復元住戸(筆者撮影)

晴海高層アパート(階段アクセス住戸)の復元住戸(筆者撮影)

ミュージアム棟には、ほかにも「多摩平団地テラスハウス」の復元住戸やシアター、住宅の設備や部材の歴史が分かる展示、UR都市機構による団地づくりや住宅づくりの歴史が分かる展示などもある。

住宅の設備や部材の歴史が分かる展示(筆者撮影)

住宅の設備や部材の歴史が分かる展示(筆者撮影)

見落としてほしくないのは、プレス見学会では全く説明されなかったのだが、ミュージアム棟の外側に移設された「晴海高層アパートの円形階段」だ。ミュージアム内にはQRコードが掲示された箇所があり、スマートフォンで読み取ると詳しい説明が表示される。円形階段については、スキップアクセス方式だと2階でもエレベーターで3階に行って階段で下がるために不便だと、直接2階に行ける階段が後から設置されたといった説明がされていた。ぜひここも見てほしい。

晴海高層アパートの円形階段(筆者撮影)

晴海高層アパートの円形階段(筆者撮影)

晴海高層アパートの円形階段のQRコードからの説明画面

晴海高層アパートの円形階段のQRコードからの説明画面

歴史だけでなく、未来を志向するミュージアムとは?

さて、このミュージアムは、「都市の暮らしの歴史を学び、未来を志向する情報発信施設」だという。

前述の閉鎖になった八王子の技術研究所には実験棟もあって、地震防災や風環境、環境共生、省エネ、耐久性などさまざまな研究の成果も分かる施設があったし、集合住宅歴史館に、水まわり設備や電気設備などの変遷が分かる展示物などもあった。ここにそうしたものが移設されていないのは残念だ。とはいえ、歴史だけではなく、未来を志向するために、今後はここでさまざまなトライアルも行うという。

現状では、41号棟や42~44号棟の内部を見ることはできない。しかし、ここではすでに実証実験なども行われている。実は筆者は、今年3月に41号棟を見学している。41号棟には、Open Smart UR研究会(代表:東洋大学情報連携学部学部長・坂村健さん)による生活モニタリング住戸が4戸作られている。ここで、住戸から出てくるさまざまなデータを収集して、住宅を最適設計するための検討データを取るために、大量のセンサーなどを設置して、生活モニタリングが行われている。

センサーは視線から隠れる場所に設置されているが、あらゆる箇所で温度や湿度、気圧、CO2の測定ができ、住んでいる人が今どこにいるかも分かる。IoTを活用して、スマートロックやエアコン、カーテン、照明がタブレットで制御できるようにもなっていた。筆者個人では、洗面所の上部にあるディスプレイに最新の公共交通の運行情報が表示されるのが便利だと思って見学していた。

41号棟のOpen Smart UR生活モニタリング住戸(2023年3月に筆者撮影)

41号棟のOpen Smart UR生活モニタリング住戸(2023年3月に筆者撮影)

41号棟のOpen Smart UR生活モニタリング住戸(2023年3月に筆者撮影)

また、スターハウスでは、「URまちの暮らしのコンペティション」(スターハウスを舞台としたこれからの暮らし方のアイディア・提案コンペ)を実施し、最優秀賞受賞作品を実現化する計画が進行中だ。さらに、「まちとくらしのトライアルコンペ」を2024年1月19日まで募集する予定で、今後もさまざまなアイディアの研修や実現の場として活用していく考えだ。

このミュージアムのよいところは、気軽に行けることだ。以前の八王子の技術研究所はかなり不便な場所で、筆者が訪れたときは特別公開日だけしか見学できなかった。ところが、「URまちとくらしのミュージアム」は、水曜・日曜・祝日以外の10:00~17:00に3回、事前予約制で見学ができる。しかも、赤羽駅から徒歩圏。オープンスペースもあるので、子どもも楽しめるのではないだろうか。団地や住宅に興味のある人には、訪れてほしいミュージアムだ。

●関連サイト
都市再生機構(UR都市機構)「都市の暮らしの歴史を学び、未来を志向する情報発信施設「URまちとくらしのミュージアム」9月15日に開館」
「URまちとくらしのミュージアム」公式サイト

一人暮らしで買った家具、人気の家具ショップビッグ3とは?家具への意識はどう変化している?

クレアスライフが、自社が運営するマンションに住んでいる一人暮らし中の男女599人に、インテリア・収納に関するアンケートを実施した。一人暮らしの家具はどこで何を買うかがテーマなのだが、どこでどんな家具を買ったのだろうか?詳しく見ていくことにしよう。

【今週の住活トピック】
都内599人にインテリア・収納に関するアンケート調査を実施/クレアスライフ

入居後に購入した家具のトップは、「カーテン・ブラインド」

最近、一人暮らしでInstagramなどのSNSを参考に、インテリアにこだわる人が多いという調査結果をよく見かける。筆者も「コロナ禍でインテリアへの関心が高まる!20代から50代まで幅広い層がインスタを参考に」や「Z世代の一人暮らしの特徴って? 重要なのは家賃、インテリアは”映える”韓国風がトレンド」といった記事を書いた。

今回は、家具はどこで何を買うかを調査した結果を見ていきたい。まず「今住んでいる住居に入居した際に新しく購入した家具があれば、何を購入したか」を聞いている。その結果、上位には「カーテン・ブラインド」(16.5%)、「ベッド」(14.6%)、「テーブル」(12.4%)が挙がった。

出典/クレアスライフ「インテリア・収納に関するアンケート調査」より転載

出典/クレアスライフ「インテリア・収納に関するアンケート調査」より転載

引っ越し後に購入したもののTOPに挙がることが多いのが、「カーテン・ブラインド」だ。住居によって、窓の形や大きさが異なるため、持っているものでは合わないことが多いからだ。といっても、近年は街を歩いていると、窓に何もかけていない住宅を多く見かけるようになった。16.5%という数値は思ったよりは多くないのだが、近年のそうした影響を受けてのことではないかと思う。

逆に意外だったのが、「照明」が5.1%と少ないことだ。住宅を買う場合は自身で照明を設置することが多いが、賃貸の場合は、照明は貸主側で取り付けている場合もあれば、借主が自身で手配してつける場合もある。今回の調査では、貸主側で設置済みの場合が多いということだろう。

一人暮らしの人気家具ショップ、ニトリ・無印良品・IKEA

次に、「今住んでいる住居に入居した際に新しく購入した家具があれば、どこのインテリアショップで購入したか」を聞いている。その結果を見ると、圧倒的に人気が高いのは「ニトリ」(34.4%)だ。性別・年代別に分析した結果を見ると、ニトリは、そのなかでも特に男性に人気が高いことが分かる。

出典/クレアスライフ「インテリア・収納に関するアンケート調査」より転載

出典/クレアスライフ「インテリア・収納に関するアンケート調査」より転載

出典/クレアスライフ「インテリア・収納に関するアンケート調査」より転載

出典/クレアスライフ「インテリア・収納に関するアンケート調査」より転載

どうやら、ニトリと無印良品、IKEAは3大人気家具ショップということになりそうだ。たしかに、シンプルなデザインで、リーズナブルな価格という共通点がある。ただし、それぞれに違いもある。

ニトリと無印良品は、日本の企業で全国に店舗数が多いという共通点があるが、無印良品の方がよりナチュラルなデザインで、価格はニトリより高めという印象だ。また、IKEAは北欧スウェーデン発祥で、よりおしゃれなデザインが特徴。郊外に大型店舗が多く、まとまった数のものを安く売るというスタイルなので、車のあるファミリーのほうが好むのかもしれない。

また、20代・30代の女性では、よりデザイン性の高い「Francfranc」の購入者も多いので、おしゃれなものを好む傾向があるといえそうだ。

さて、今回の調査結果で挙がった家具ショップのなかで、「LOWYA」(ロウヤ)と「KEYUCA」(ケユカ)は筆者には馴染みの薄いブランドだ。LOWYAもKEYUCAも、日本企業が2000年代にオープンしたブランド。LOWYAはオンライン販売が中心で、KEYUCAは東京都や神奈川県を中心に全国に店舗をもつ。いずれも、シンプルでリーズナブルという点で、ビッグ3と共通している。

手軽なDIYもインテリアには必要?

さて、「部屋のリフォームや家具作りなどのDIYに興味があるか」聞いたところ、過半数の52.6%がある(「興味関心があり、実践している」6.2%+「興味関心があり、今後やりたいと思っている」9.8%+「興味関心があるが、賃貸なのでできないと思っている」36.6%)と回答している。

現在行っている、あるいは今後行いたいDIYがどんなものかを聞くと、「収納を作る」が最多の30.1%で、次いで「剥がせる壁紙を貼る」20.3%、「置き敷きできる床材を使用する」19.4%の順となった。

出典/クレアスライフ「インテリア・収納に関するアンケート調査」より転載

出典/クレアスライフ「インテリア・収納に関するアンケート調査」より転載

ポイントは、賃貸でも可能という点だ。特に、「剥がせる壁紙」と「置き敷きできる床材」は、賃貸でもできるDIYニーズに応えて、DIY商材が豊富になってきたもの。賃貸の退去時に、貼った壁紙を剥がしたり、敷いた床材をはずしたりすればいいので、原状回復を気にせずにDIYで自分らしく部屋を演出できる。

収納も、独立した収納ボックスなどを組み立てて設置するだけでなく、最近は壁にピンで止めるだけで飾り棚になる商品もある。実はマイホームではあるが筆者も、DIYに自信がないので、無印良品のピンで取り付ける飾り棚を付けた。といっても、飾っているのは好きな落語家のサイン入り色紙なのだが…。

対面型キッチンの上部の空間に飾り棚を取り付けた(筆者撮影)ちなみに、左から三遊亭兼好、春風亭一之輔、桃月庵白酒

対面型キッチンの上部の空間に飾り棚を取り付けた(筆者撮影)ちなみに、直筆色紙は左から三遊亭兼好、春風亭一之輔、桃月庵白酒

調査結果を見ると、20代・30代が多い一人暮らしの場合、高級で高価格な家具ではなく、シンプルで低価格な家具を購入する人が多いということが分かる。一人暮らしの部屋はそれほど広さがないので、テーブルで仕事も食事もするのかといった暮らし方を考慮したり、収納スペースを考慮して収納付きのベッドにしたりと、さまざまな工夫が必要だろう。

最近は、インスタ映えするインテリアのコーナーを設けるなどのニーズもあるようなので、自身のセンスを見せるためにも、家具やインテリアにこだわったり、自分らしいDIYを行ったりすることも大切になる。さて、あなたはどんな家具を選ぶのだろうか?

●関連サイト
クレアスライフ「都内599人にインテリア・収納に関するアンケート調査を実施」

512戸の賃貸タワーマンション「プラザタワー勝どき」で防災イベント!消防署・警察署協力ならではの幅広いメニューに子どもも興味津々!

不動産業や海運業を行う乾汽船(いぬいきせん)が所有し、東急住宅リースが賃貸管理を行う、賃貸マンション「プラザタワー勝どき」で、大掛かりな防災イベントを開催すると聞いて、見学させてもらった。大掛かりに開催できるのは、東京消防庁臨港消防署と警視庁月島警察署が全面協力をしていることで、防災メニューが豊富になっているからだ。

防災イベントは512戸の「安否確認訓練」でスタート!

「プラザタワー勝どき」は、地上43階で総戸数512戸の大規模なタワーマンションだ。

賃貸タワーマンション「プラザタワー勝どき」外観(筆者撮影)

賃貸タワーマンション「プラザタワー勝どき」外観(筆者撮影)

今回の防災イベントは、「安否確認訓練」からスタートした。安否確認訓練とは、地震などの災害に見舞われたときに、居住者の被災状況を確認すること。このマンションでは事前に「無事」(黄色)「要救助」(赤色)などと記載したカードを配り、ドアノブに配布されたカードのいずれかをかける形を取っている。その状況をフロアごとに見て回り、各戸の「無事」「救助」「未貼付」を記録して、とりまとめて全戸の状況を把握するわけだ。

さて、防災対策本部(冒頭の写真参照)の準備ができると、館内放送で「訓練です」と伝えた後に、無事であれば黄色のカードを、救助が必要であれば赤色のカードをドアノブに掛けるようにとアナウンスが流れた。次に、事前に居住者から募集した“集計報告ボランティア”の方々に、担当するフロアの用紙をはさんだボードを渡し、担当フロアに行ってもらう。ボードは10個あり、43階までのフロアを10ブロックに分けて、担当フロアを振り分けている。

筆者もその様子を見ようと、一番にスタートした組に付いていった。もちろん、災害時を想定しているので、エレベータは使えない。階段を上がっていくことになると分かっていたものの、5階までの100段でかなり息が上がる。付いていこうとしている組は何階まで行くのか聞いてみたら、「43階です」と言われ、ギブアップ。一番低い階は9階からと聞いて、その組を待つことにした。

9階から5階を担当する組は、女性2人と子ども2人の4人組。応募した理由を聞くと、「前回は見ていただけだったが、子どもが大きくなって確認作業ができると思い、今回初めて集計報告ボランティアに応募した」という。1戸ごと玄関を見て、9階の1号室は無事の欄に✓、2号室は未貼付の欄に✓といったように記入していく。9階が終わると、また階段で降りて、8階を同じように回る。付いて見た限りは、半分以上がいずれかのカードをかけているという印象だ。

左:無事ですカードがドアノブのかかっている 右:1戸ずつ確認しながらシートに記入していく(筆者撮影)

左:無事ですカードがドアノブのかかっている 右:1戸ずつ確認しながらシートに記入していく(筆者撮影)

その集計作業を見ようと、一足先に1階の防災対策本部まで戻った。しばらくすると、最初にスタートした、43階~41階の組が確認を終えて戻ってきた。対策本部がその記入結果を見て、集計したり、ホワイトボードに書き込んだりしていく。

担当フロアの確認が終わって防災対策本部に結果を報告する(筆者撮影)

担当フロアの確認が終わって防災対策本部に結果を報告する(筆者撮影)

「早かったですね」と43階組の二人に筆者が声をかけると、一番乗りを目指してダッシュでやったのだという。ボランティアに応募したのは、その日が空いていたし運動になると思ったからという、エネルギッシュな若者らしい答えだった。

筆者が同行した9階~5階の組も含めて、続々と残りの組も報告にやってくる。同行した子どもに感想を聞くと、「ちょっと疲れちゃった」と。9階から5階まで同じ作業を繰り返すので、子どもには飽きてしまうことなのかもしれない。

きて、その集計結果がまとまって結果が公表される。集計に要した時間は36分、512戸の掲示率は51.7%だった。

集計結果。この右側には全住戸の状況が一覧になって掲示されている(筆者撮影)

集計結果。この右側には全住戸の状況が一覧になって掲示されている(筆者撮影)

スタンプラリーなど、多彩なメニューで楽しく参加できる工夫

実は、賃貸マンションであっても一定数以上の居住者がいる場合は、オフィスビルや分譲マンションと同様に、防火管理者を置いて、避難訓練などを行う必要がある。とはいえ、512戸となると訓練も大変なことだ。大勢が参加しないと訓練の意味がないが、賃貸居住者の防災意識は長く住み続ける分譲マンション住民よりは低くなりがち。そこで、参加しやすい工夫が必要となる。

「ぼうさいさい2023」と名付けられた防災イベントの内容を見ると、スタンプラリーや24キログラムの水を担いで屋上ヘリポートまで駆け上がる競争などが用意されている。ほかにも、消防署や警察署による訓練メニューもあり、なかなか充実している。

筆者が見た限りで最も参加者が多いように思ったのは、警察官の帽子や制服を着るコーナーだ。子どもに帽子や制服を着せて、親が写真を撮る姿が途切れることなく続いていた。ほかにも、消防車や白バイに乗る子どもの姿も多く見られた。小さな子どもでも気軽に参加できるからだろう。

「ぼうさいさい2023」のタイムテーブル(筆者撮影)

「ぼうさいさい2023」のタイムテーブル(筆者撮影)

スタンプラリーのメニューも多彩(筆者撮影)

スタンプラリーのメニューも多彩(筆者撮影)

筆者も体験!「蹴破り」「エレベータ閉じ込め」「煙」

さて、筆者が特に興味を持ったのは、「蹴破り」「エレベータ閉じ込め」「煙」の3つの体験だ。居住者でなくても参加できると聞いて、参加者に交じって体験してみた。

まずは「蹴破り体験」。火災のときの避難ルートは、一つは玄関からの避難。ただし、玄関に向かう方向で火災が発生しているときには、逆のベランダ側から避難することになる。ベランダが横に並ぶ形状のときには、隣戸の壁を蹴破って避難はしごのあるところまで行くことになる。この蹴破りが、意外に難しいと聞いたので、体験したかったのだ。

蹴破り体験。小さな子どもには蹴破りがなかなか難しい(筆者撮影)

蹴破り体験。小さな子どもには蹴破りがなかなか難しい(筆者撮影)

「蹴破り体験」の列に並んで、他の参加者のやり方を見ていると、小さな子どもでは力不足でなかなか蹴破れない。スニーカーではなくサンダル風の靴では特に難しそうだ。それでも、サッカーをしているという子どもは一度で穴を空けることができた。それを見て、筆者も思い切り蹴ったら、成功した。やはり避難時にはスニーカーだ。消防署の署員によると、壁に背を向けてかかとで蹴ると破れる場合もあるという。筆者の後の女性はかかとで成功していた。

蹴破り体験に筆者も挑戦(東急住宅リース撮影)

蹴破り体験に筆者も挑戦(東急住宅リース撮影)

次に、「エレベータ閉じ込め体験」へ。事前に衝撃があると言われたから冷静でいられたが、思いのほか衝撃が大きかった。その後は、連絡ボタンを押して外部と連絡を取る必要があるが、基本は中でドアが開くのを待つのだという。ほかの参加者に感想を聞いたところ、「衝撃が大きいのでびっくりしたが、災害時には冷静を心がけようと思う」「イメージトレーニングができた」といった声が返ってきた。

さらに、「煙体験」へ。消防署の署員から、煙は天井からたまっていくので低い姿勢で避難するのがよいと指導され、いよいよ煙が充満した通路に侵入。たしかに立ったまま見る景色としゃがんで見る景色では、見通しがかなり違う。避難を難しくする障害物として段ボールが置かれているが、立ったままではどこにあるかわかりづらい。段ボールを避けながら先に進むが、出口が見えないので距離感が分からない場所では相当な恐怖になるだろうと思った。

煙体験。左が立ったままの視線、右がしゃがんだ視線(筆者撮影)

煙体験。左が立ったままの視線、右がしゃがんだ視線(筆者撮影)

煙体験を終えた参加者に感想を聞いたところ、「見えにくかったけど、案外息はできた」「視界が悪いので段ボールが突然出てくるし、出口がどこにあるか分からないのが怖かった。白い煙だったが、黒い煙だともっと怖いと思う」。確かに白い煙で息はしやすかった。そこで再度、消防署員に煙について確認したら、体験なので無害の煙になっているが、実際の火災では煙もかなり熱く、燃え始めには有害な黒い煙が出るという。消火で水がかかると白い煙になるのだが、いずれも有害で息はしづらいのだという。こうした話を聞いたり、煙が充満する視界を体験したりして、心構えをしておくことが重要なのだと分かった。

ほかにも、AED(電気ショックを与えて正常なリズムに戻すための医療機器)訓練、消火器訓練などの防災に役立つメニューがあり、どれかひとつでも体験しておくと万一のときに役立つと思った。筆者も以前に、どちらも体験しているのだが、時間が経つと忘れてしまうので、繰り返し体験することが災害時に役立つと感じた。

AED訓練(筆者撮影)

AED訓練(筆者撮影)

消火器の使い方を体験する消火器訓練(筆者撮影)

消火器の使い方を体験する消火器訓練(筆者撮影)

自分が住む住戸を所有している分譲マンションでも、防災意識が高いとは限らない。自分たちで資産を守る役割の管理組合という組織のない、賃貸マンションであればなおさらだ。しかし、災害が発生した場合、近所の人たちと助け合って消火や救助に当たらないと、間に合わないということも多い。

タワーマンションであれば、エレベータが使えなくなる大変さを実感するだけでも、災害時の心構えが違うだろう。日頃の準備が災害時に大いに活きるものだ。

一般向け3Dプリンター住宅、水回り完備550万円で販売開始! 44時間30分で施工、シニアに大人気の理由は? 50平米1LDK・二人世帯向け「serendix50」

球体の3Dプリンター住宅「serendix10(スフィアモデル)」が話題になっているセレンディクス社(兵庫県西宮市)が、ついに夫婦向け一般住宅となる3Dプリンター住宅「serendix50」・開発コード「フジツボモデル」を完成させた。2023年8月末から6棟限定で販売を開始している。つい先日、商用日本第一号の完成をお伝えしたばかりだが、いよいよ、3Dプリンターの家に住める時代が現実のものになりつつある。今回は、セレンディクス 代表取締役の小間裕康さんのインタビューに加え、「serendix50」がつくられた愛知県小牧市にある住宅施工会社「百年住宅小牧工場」の現場から、現物をレポートする。

壁を3Dプリンターで「印刷」してでき上がる一般住宅「serendix50」!(写真提供/セレンディクス)

(写真提供/セレンディクス)

SUUMOジャーナルが、「家は24時間で創る」を(写真提供/セレンディクス)キャッチフレーズとするセレンディクス社の3Dプリンター住宅を紹介するのは、今回で3回目。既出モデルの「serendix10(スフィアモデル)」(床面積10平米・価格330万円)は、3Dプリンターで出力した場合に最適な形を導入することで、施工時間計24時間以内を実現。さらに、コンクリート単一素材を利用することで、資材のコストが下がり、作業は3Dプリンターが自動で行うため人件費もかからないというメリットもある。「serendix10」は国内外から大きな反響があり、販売されたうちの1棟は現在、長野県にある整骨院のプライベートサロンとして利用が予定されている。

■関連記事:
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・3Dプリンターの家、国内初の実用版は23時間で完成!内装や耐震性は? ファミリー向け一般住宅も登場間近 長野県佐久市 
※長野県にある整骨院のプライベートサロンはこちらで紹介

セレンディクス社はデジタルデータをつくる会社。3Dプリンター住宅の建築手順は、まず設計データをつくり、最先端のロボット工学を駆使した3Dプリンターにデータを送信。提携する工場にある3Dプリンターで出力(抽出)したモルタルの4つのパーツを乾燥させて、プレキャスト素材として輸送し、現場で組み立てて施工する、という流れだ。
「serendix10(スフィアモデル)」では開発と普及のスピードを速めるため、ヨーロッパ、中国、韓国、日本、カナダの3Dプリンターメーカー5社にそれぞれ出力を依頼し、日本に移送するスタイルを採用。5カ国で同一データでの同時出力に世界で初めて成功したことも話題になった。

3Dプリンターでモルタルを抽出して積層し、壁を「印刷」していく(写真撮影/本美安浩)

3Dプリンターでモルタルを抽出して積層し、壁を「印刷」していく(写真撮影/本美安浩)

今回、「serendix50」のモデルハウスが完成したのは、愛知県小牧市にある住宅施工会社「百年住宅」工場敷地内。全国に約213社(8月末時点)あるセレンディクス社の協力会社の1社だ。

ハウスメーカー「百年住宅」工場敷地内に完成した「serendix50」。リビング、寝室、水回りに分かれた50平米の室内に入ってみると、コンパクトながらホテルのスイートルーム並みの十分な広さに感じられた(写真提供/セレンディクス)

ハウスメーカー「百年住宅」工場敷地内に完成した「serendix50」。リビング、寝室、水回りに分かれた50平米の室内に入ってみると、コンパクトながらホテルのスイートルーム並みの十分な広さに感じられた(写真提供/セレンディクス)

この「serendix50」は、3Dプリント技術の第一人者である慶應義塾大学環境情報学部の田中浩也教授率いる慶應義塾大学KGRI環デザイン&デジタルマニュファクチャリング創造センターとの共同プロジェクト。

用途がグランピング施設などに限られていた「serendix10」に対して、「serendix50」は一般住宅仕様。キッチン、バス、トイレといった水回り設備を完備した鉄骨造の50平米の1LDKで、価格は550万円の平屋。完成までにかかった施工時間は44時間30分。

現在は複数台の3Dプリンターでパーツを出力し、それらをトラックで施工場所へ運び、現地の施工会社が組み立てるという「セントラルキッチン」のような方法を採用している。
この「serendix50」へは、すでに6000件(8月末時点)の問い合わせがあるそうだ。

壁には9本の鉄骨の柱が等間隔に入っている。今後は、「百年住宅」をはじめとする協力会社で「印刷」したパーツを、施工場所に運んで組み立てる(写真撮影/本美安浩)

壁には9本の鉄骨の柱が等間隔に入っている。今後は、「百年住宅」をはじめとする協力会社で「印刷」したパーツを、施工場所に運んで組み立てる(写真撮影/本美安浩)

一般住宅向け3Dプリンターの家「serendix50」の断熱性能は、日本国内より厳しいヨーロッパの住宅基準をクリアした断熱性能

グランピングなどのレジャーや、趣味のスペースなどに使うことを想定された「serendix10」に対して、一般住宅としての用途を想定した「serendix50」は、追求される内容も変わる。

セレンディクス 代表取締役の小間裕康さんによると、より居住性や定住性を重視したという。
まず、鉄骨コンクリート造であることは前モデルとの大きな違いだ。

セレンディクス 代表取締役の小間裕康さん(写真提供/セレンディクス)

セレンディクス 代表取締役の小間裕康さん(写真提供/セレンディクス)

「以前の『serendix10』はコンクリートの間に鉄筋を挟むRC造でしたが、今回の『serendix50』は鉄骨の柱を入れた鉄骨コンクリート造です。コンクリート単一素材で現在の建築基準法に準拠し、高い機能性を持たせたことは大きな違いだといえます。壁厚は30cm以上で、耐震面は国内の最先端の耐震技術を採用しています。また、二重構造になっていて、断熱性能は夏と冬の寒暖差が激しいヨーロッパの断熱基準をクリアし、パートナー企業さんと共に特許出願をしました。

『serendix50』では細部まで最新の技術を駆使し、人が快適に住むための工夫を追求しています。断熱性も高いので、猛暑が続いた愛知県内でも、『serendix50』に入ると、クーラーもないのに空気がヒンヤリとしているのが感じられます」

耐震性能をはじめとする強度や安全性などに関しては、これからも実証実験を続けていくという。
「私たちは兵庫県の会社で、私自身も阪神・淡路大震災を経験しているだけに、耐震性能やセシリティ(定住性)のテストには万全を期しています。神戸市には耐震性をチェックする公的機関があるのですが、そこでも実大耐震実験を行う計画をしています。

『serendix50』のシミュレーションは、車の開発の過程と近いものがあります。コンピュータ上では基準の強度に耐えうるというデータが出ていても、車であれば衝突実験をしたり、振動を加えたりしますよね。それが住宅となると、よりさまざまな環境下で、住む方に24時間365日、安全かつ快適に過ごしていただく必要があります。それらを担保するために、最初の6棟で詳細なデータをとることにしています。

一般住宅でも、夫婦お二人の場合と一人暮らしの場合とでは、住まい方や求められる快適性、家にいる時間帯も違うでしょうから、データを取りながら、それぞれの快適性を追求したいと思います」

はじめの6棟はエリアや目的を分けて販売

この1年間は調整期間として、6棟のみの販売に数を絞るという。
「現在は、パートナーである協力会社さんと開発した試作の位置付けになりますので、先行する6棟はエリアや目的を分けて販売し、1年間、実際にお客さまに使っていただきながら実証実験をします。もちろん、シミュレーション上のデータでは問題がないのですが、大量出荷できるようになるのはもう少しお時間をいただくと考えています。現在は、お問い合わせをいただいた中から販売先を選定している段階です。エリアは国内で、協力会社さんがある地域を優先していこうと思います。まだ公表できないのですが……」と小間さん。7月末時点で、すでに1041棟分の具体的な購入希望者がいるというからその注目度合いがわかる。

(写真提供/セレンディクス)

(写真提供/セレンディクス)

課題は2つ、「品質の均一化」と「さまざまな用途への対応」

「目指すのは、住宅産業の完全ロボット化です。そう考えると、現在、我々の中では2つの課題があります。1つ目は、各施工会社さんでの工程や技術のバラつきを抑え、品質を合わせなければならないということ。デジタルデータによる3Dプリンター住宅においては、データの共有が強みなので、同じ品質のものを複数つくれるかどうかが大切です。

全国に協力会社さんが散らばっているからこそ、『このエリアでは完全に施工できるが、このエリアは一部できない』ということがないよう、エリアを分けながら、どこでも同じように施工できるということを、デジタルデータで事実確認し、実証したいと思います。また、現場で施工に関わる職人さんの数は、専門分野の違いを加味しても4人以下が目標です。いずれにしても新たな人員を配備せずに、元からの現場のリソースを活かして、より自動化して、3Dプリンター住宅をつくることが重要だと思っています。

2つ目の課題は、購入された方による用途の違いへの対応です。それはこの1年間、6棟で多様な使い方ができることを実証する中で、クリアしていきたいと思います。ですから、販売先は先着順でも関係先優先でもなく、我々が想定するエリアと用途の方をピックアップさせていただきました。購入者さんや協力会社さんからもフィードバックをいただきながら、経過を見ていきたいと思います」

全国で213社を超えるという協力会社は、オンラインミーティングや施工現場で3Dプリンター住宅づくりを学ぶ。さらに、先行する6棟の施工では、自社の1棟前の家づくりを次の1社に見学に来てもらうことで、現場での技術研修を行うそうだ。

デジタルデータをもとにCNCカッターで切り出した屋根部分のパーツ。44時間30分の施工を24時間に短縮してより高機能にアップデートするため、施工に時間がかかっている屋根部分を取り外して改良中(写真撮影/本美安浩)

デジタルデータをもとにCNCカッターで切り出した屋根部分のパーツ。44時間30分の施工を24時間に短縮してより高機能にアップデートするため、施工に時間がかかっている屋根部分を取り外して改良中(写真撮影/本美安浩)

鉄骨コンクリート造の「serendix50」だが、屋根のみ今回は木造。デジタル+新しいデジタルファブリケーションを実現している(写真提供/セレンディクス)

鉄骨コンクリート造の「serendix50」だが、屋根のみ今回は木造。デジタル+新しいデジタルファブリケーションを実現している(写真提供/セレンディクス)

住宅の“オートクチュール信仰”に一石を投じる

現場でセレンディクス社COOの飯田國大さんにも話を聞いた。「serendix50」で、住宅産業に革命を起こしたいと考えている飯田さんは、いくつかの問題を提起する。

「かつてはオートクチュールだった自動車も、1980年代にロボット化が始まり、多くの人にとって手が届く価格になりました。住宅産業においても、3Dプリンターはまさにその始まり来ているのではないかと思います。まず価格面で、平均73歳まで返済が続くような日本の住宅ローンを見直したい。国内では4割の人が住宅を持っていないというデータがありますが、車を買う値段で家を買う自動車のように、望めば誰でも家を持てる世の中にしたいと思います。

セレンディクス社COOの飯田國大さんは、「自動車産業のように住宅産業も完全ロボット化して、住宅を提供したい」と話す(写真撮影/本美安浩)

セレンディクス社COOの飯田國大さんは、「自動車産業のように住宅産業も完全ロボット化して、住宅を提供したい」と話す(写真撮影/本美安浩)

また、現代の家づくりでは、施主さんが間取りを考え、素材から外装まで一つずつ決めることができます。でも果たしてこれが住宅において、本当に良いことばかりなのでしょうか。プロが一生懸命研究開発をして、これが完璧だと思った間取りをつくっても、カスタマイズできると知ると、施主さんはカスタマイズされます。ですが、住宅専門のメーカーが快適性や安全性を何十年も追求した家と、施主さんが短期間で考えた家とでは、ノウハウの違いが出てしまうかもしれません。

また、日本の木造住宅は、持ち主が退去すると、いったん更地にして新しい家を建てますが、海外ではセカンドハンド(中古)の概念が浸透し、物件をリフォームしながら買い繋いでいくのが普通です。現在国内では建築資材の価格が高騰し、高止まりしています。それなのに建てて20年も経つと、建物の価値は0に近くなってしまう。建物において、日本と海外とで資産性に差があります。こういった問題を鑑みて、『serendix50』のように、プロが企画した品質の良い建物を、スピーディーに低価格で提供して、お客さまの選択肢を増やすべきではないかと考えたのです」

汎用性を考慮し、窓やドアは特別なものではなく、あえて「リクシル」で統一。外壁の塗料は1度塗りでOKの新開発「アミコート」。住む人が自由に色付けできるよう、最初の塗装を白にしている(写真撮影/本美安浩)

汎用性を考慮し、窓やドアは特別なものではなく、あえて「リクシル」で統一。外壁の塗料は1度塗りでOKの新開発「アミコート」。住む人が自由に色付けできるよう、最初の塗装を白にしている(写真撮影/本美安浩)

自動車と同じように、カスタムやオートクチュールを望む人はその商品を選べばいい。ただ一方で、手が届きやすい価格の量産された商品を望む人にも選択肢を提示したいと、飯田さんは展望を語る。

また、決まった素材を決まった分だけ使用する「serendix50」の場合、建築資材の納期の遅れや大幅な価格の高騰という問題は起こりにくく、一定の工期や価格で家を建てることが叶う。これは結果的に、住宅の資産性や市場価値の向上につながるのではないかと考えているそうだ。

第2の人生での住まいに期待、シニア層から問い合わせが多数

「serendix50」は、どんな層に支持されているのだろうか。小間さんに尋ねると「60歳以上の方からのお問い合わせが多い」といい、これは前モデルの時から続く傾向だという。

「60歳以上になると、一生住むつもりの賃貸住宅が契約更新できなくなったり、新たな賃貸契約をしてもらえなかったりという問題にぶつかることがあるのが現状です。また、持ち家でも『築30年を超えたので夫婦2人用にリフォームしよう』と考えたところ、1000万円近くかかる、という多くの問い合わせもあります。そんな時も『serendix50』なら、自動車を買うくらいの価格で、最新技術を駆使した住みやすい間取りの新築戸建が手に入ります。それに、リタイア後は『自然豊かな地域に住みたい』という人も多いと思いますが、住み替えるにも条件のいい中古物件が見つからない……というケースが多いのです」

シニアの購入希望者の中には、「時間が掛かるのは理解しているから」と、気長に順番を待っている人も。「serendix50」は、新生活の楽しみの一つとして捉えられているのだ。

従来の工法ではコストがかかる曲線構造に対応できるのも、材料を積み重ねて建設する3Dプリンターの得意なところ。ふっくらした見た目だが、触るとかなり重厚感がある(写真撮影/本美安浩)

従来の工法ではコストがかかる曲線構造に対応できるのも、材料を積み重ねて建設する3Dプリンターの得意なところ。ふっくらした見た目だが、触るとかなり重厚感がある(写真撮影/本美安浩)

「ゴールは3Dプリンターで家をつくることではなく、世界最先端の家で人類を豊かにすること」という目的を掲げている同社。常識に捉われない考え方で住宅業界に一石を投じ、若年層からシニア世帯までのマイホームの夢を叶えるための探求は続く。「serendix50」の大量生産が可能になるまで未来の「3Dプリンターの家」が、多くの人の選択肢に並ぶ日が待ち遠しい。

老後の蓄えを切り崩しながらリフォームしたり、「夫婦2人だけだから」と気が乗らない中古物件に住み替えたりすることと、ゆとりを残して「3Dプリンターでつくった未来の家に住む」というチャレンジを比べると、その差は大きい。必要に迫られて家づくりを急ぐ子育て世帯よりも、ワクワクする第2の人生を思い描くシニア世帯から引き合いが多いというのも納得できる。
世帯構成やエリアなどを分けた6棟の購入者の、1年後の感想が楽しみだ。

●取材協力
セレンディクス

パリの暮らしとインテリア[18] 古アパルトマンを自分で設計! イームズや北欧名作チェアなど椅子13脚がアクセント。アートディレクター家族の素敵空間

フランス・パリで大人気のおしゃれスポット北マレ地区とカナル運河のちょうど真ん中に位置するレピュブリック広場(PLACE DE LA REPUBLIQUE)。その近くにアートディレクターのフレデリックとファッションデザイナーのマグダさん、子どもたち2人の4人が住むアパルトマンがあります。アパルトマンの3階と4階の部分から成るデュプレックススタイル(メゾネットスタイル)を、自分の思うように改装するために建築の勉強までしたフレデリックさん。やっと理想的な空間になった!ということで、訪問してきました。

アパルトマンから徒歩5分のサンマルタン運河沿いの道路は車が通れないようになり、子どもたちも安心して散歩できるようになったそう (写真撮影/Manabu Matsunaga)

アパルトマンから徒歩5分のサンマルタン運河沿いの道路は車が通れないようになり、子どもたちも安心して散歩できるようになったそう (写真撮影/Manabu Matsunaga)

大人になったらパリに住みたい!という思いが叶ったアパルトマン

パリ郊外で育ったフレデリックさんは、小さいころにたびたび訪れていたパリを気に入っていました。高等教育ではデザインを専攻して兄と共にパリの1区で暮らすことになり、そのころにはいつか自分のアパルトマンをパリで!という夢を抱いていたそうです。

そんな彼は、妻のマグダさんと出会う前からパリの中心部の物件を熱心に探していたそうで、もう何軒見て回ったかわからないほど。そして13年前、ついにフランス革命以前からあるこの古いアパルトマンに出合い「恋に落ちた!」とこの物件に決めました。

立地条件の良さ、敷地に一歩入ったときの静けさ、アパルトマンの全体の広さなど、全てがパーフェクトだったそうです。フレデリックさんは、自分好みに合わせた空間につくり直すために建築も勉強したのですが、そのための”箱”として、このアパルトマンは完璧だったそう。

家族みんなでリラックスできる場所が、オープンキッチンのカウンター。蛇口や換気扇、キッチン用品全てに夫妻のこだわりが(写真撮影/Manabu Matsunaga)

家族みんなでリラックスできる場所が、オープンキッチンのカウンター。蛇口や換気扇、キッチン用品全てに夫妻のこだわりが(写真撮影/Manabu Matsunaga)

最初に購入したのは3階部分

現在は建物の3階と4階が住まいになっていますが、まずはじめに購入したのは3階部分でした。当時、パリの古いアパルトマンは小さな部屋が何部屋にも区切られていることが多く、ここも例外ではなく、1フロアが3部屋に区切られた状態でした。

玄関から入ってすぐの部分にトイレとランドリーのスペースを設けた他は、全ての壁を取り払って、オープンキッチンを中心とした大きなワンルームにしました。壁をなくすことによって、中庭に面した窓から入る光が部屋全体に行き渡り、明るい暖かなスペースに生まれ変わったそう。
「手直ししなければ住めないような状態でしたが、間取りのつくり替えから全てやり直そうと思っていたので、問題ありませんでした。中庭に面した一面は長方形の長辺部分だったため、窓がたくさんあり、とても明るいところが気に入りました」と購入の決め手をフレデリックさんは語ります。

玄関はアパートの3階にあり、入ってすぐのところにトイレとランドリースペースがある。写真の小さな棚はスカンジナビア専門の家具屋「TACK」で購入(写真撮影/Manabu Matsunaga)

玄関はアパートの3階にあり、入ってすぐのところにトイレとランドリースペースがある。写真の小さな棚はスカンジナビア専門の家具屋「TACK」で購入(写真撮影/Manabu Matsunaga)

大きなワンルームにした空間は、オープンキッチン、赤いソファと映画鑑賞をする大きなテレビがある空間、大きなテーブル(オランダのLouis van teeffelenルイ・ヴァン・テッフレンのデザイン)を配した空間の3コーナーに分かれています。「家具の中でも、椅子は購入しやすく、配置換えも楽なアイテムだと思うんです。その1脚で部屋のイメージを変えることができる。時には本を置いたり、時には子どもたちのカバンを置いたりと、座るだけじゃない万能な存在」。なるほど、このサロンには椅子がたくさんあって、ソファ以外に13脚もありました。

フランスのミッドセンチュリーデザイナーのジェラール・ゲルモンプレ(GERARD GUERMONPREZ)のソファーの赤がサロンのアクセント(写真撮影/Manabu Matsunaga)

フランスのミッドセンチュリーデザイナーのジェラール・ゲルモンプレ(GERARD GUERMONPREZ)のソファーの赤がサロンのアクセント(写真撮影/Manabu Matsunaga)

食卓の奥に置かれた50~60年代のビュッフェはスカンジナビアのもの、椅子はHelge Sibastヘルゲ・シバストのNo.8(写真撮影/Manabu Matsunaga)

食卓の奥に置かれた50~60年代のビュッフェはスカンジナビアのもの、椅子はHelge Sibastヘルゲ・シバストのNo.8(写真撮影/Manabu Matsunaga)

子どもたちが宿題をしたりお絵描きをしたりするためのテーブルと椅子も古いものだそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

子どもたちが宿題をしたりお絵描きをしたりするためのテーブルと椅子も古いものだそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

(写真左)スウェーデンのデザイナー、イングヴ・エクストローム(Yngve Ekstrom)のSibboチェアを階段の下に置いたり、チェストの横の小さな空間にイームズ(Eames)のプラスチックアームシェルチェアを配置したり。椅子使いもマネしたい(写真撮影/Manabu Matsunaga)

(写真左)スウェーデンのデザイナー、イングヴ・エクストローム(Yngve Ekstrom)のSibboチェアを階段の下に置いたり、チェストの横の小さな空間にイームズ(Eames)のプラスチックアームシェルチェアを配置したり。椅子使いもマネしたい(写真撮影/Manabu Matsunaga)

子どもが生まれたタイミングで4階部分を購入

建物の3階と4階にある現在の住まいになるタイミングは、長男のドリスくんが生まれた10年前でした。アパート内の組合連絡網で4階部分が空いたというのを聞き、即購入を決めたご夫妻。
「ワンルームの3階部分だけでは、狭すぎると感じていたときに、4階部分を購入できてとてもラッキーでした。しかも最上階で屋根裏部分もあったので、天井の高い部屋を設計するのもとても楽しかった」とフレデリックさん。この時点でアパルトマンの総面積が80平米になり、4人家族が住むには十分な広さになりました。購入してまずは3階と4階を行き来できる階段を室内につくったそう。手すりや壁のないストリップ型の階段にすることによって、3階部分の部屋に圧迫感を与えないこのアイディアは彼の自慢でもあります。

階段下のスペースの空間が開放的になるのが特徴なストリップ型に設計(写真撮影/Manabu Matsunaga)

階段下のスペースの空間が開放的になるのが特徴なストリップ型に設計(写真撮影/Manabu Matsunaga)

4階部分は全て、天井の屋根裏との仕切りを取っ払ったため六角の天井になっています。思いのほか広い! というのも、4階部分は隣の物件も買い取ったからだといいます。
4階の中央には多目的の書斎のような部屋があり、主に子どもたちとマグダさんが使っています。その横には、屋根の斜めの部分に窓を取り付けた、とても明るいバスルームがあります。

4階の小さなスペースはマグダさんがテレワークのときに仕事場として使っていたそう。現在は、子どもたちがここで勉強したり、自由に使えるスペースになっている(写真撮影/Manabu Matsunaga)

4階の小さなスペースはマグダさんがテレワークのときに仕事場として使っていたそう。現在は、子どもたちがここで勉強したり、自由に使えるスペースになっている(写真撮影/Manabu Matsunaga)

同じデスクスペースの反対側には植物がたくさん置かれている。日光が降り注ぐ部屋なので、冬は子どもたちがここで遊ぶことも多いとか(写真撮影/Manabu Matsunaga)

同じデスクスペースの反対側には植物がたくさん置かれている。日光が降り注ぐ部屋なので、冬は子どもたちがここで遊ぶことも多いとか(写真撮影/Manabu Matsunaga)

暖炉はもう使われていないが、オブジェを置き彼らの旅の思い出のものが飾られている。ここでもイームズなどの椅子が効果的に置かれている(写真撮影/Manabu Matsunaga)

暖炉はもう使われていないが、オブジェを置き彼らの旅の思い出のものが飾られている。ここでもイームズなどの椅子が効果的に置かれている(写真撮影/Manabu Matsunaga)

隣の部屋との仕切りをすりガラスにして、天窓をつけることによって明るいバスルームが出来上がった (写真撮影/Manabu Matsunaga)

隣の部屋との仕切りをすりガラスにして、天窓をつけることによって明るいバスルームが出来上がった(写真撮影/Manabu Matsunaga)

4階は、浴室を挟んで左奥にご夫妻の寝室、右奥に子ども部屋という間取り。3階同様、梁をそのまま活かしたシンプルながらも素朴な雰囲気でリラックスできる空間になったそう。
大人の寝室は、天井の高さを利用した収納があるのですが、もちろんこれもフレデリックさんの設計。取っ手部分は全て革製の特注です。

寝室のクローゼットは天井高くまで作り付けられていて、収納量の多さを誇っている。全てフレデリックさんの設計(写真撮影/Manabu Matsunaga)

寝室のクローゼットは天井高くまで作り付けられていて、収納量の多さを誇っている。全てフレデリックさんの設計(写真撮影/Manabu Matsunaga)

天井の高さを利用するというのは、子ども部屋も共通。10歳の長男ドリスくんと7歳の妹ペアちゃんは同室ながら、ドリスくんのベッドを限りなく屋根に近いところにつくることで、隠れ家的に自分の時間を過ごせるようフレデリックさんが配慮したそう。

子ども部屋はとても狭いが、兄妹が別空間にいるような配置。特にドリスくんはこのベッドが大好きだそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

子ども部屋はとても狭いが、兄妹が別空間にいるような配置。特にドリスくんはこのベッドが大好きだそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

(写真撮影/Manabu Matsunaga)

(写真撮影/Manabu Matsunaga)

子どものころからパリに住みたいと憧れ、結婚をする前からパリでアパルトマンを探し始めたフレデリックさん。まずは3階を購入してリノベーションし、子どもが生まれるのとほぼ同時に4階部分を購入し……と、家族と共に変化していった住まい。「私たちはこのアパルトマンが大好きです」と語ります。

とはいえ、子どもの成長とともに、今のアパルトマンでは近々手狭になってくるはずだとも言い、子ども部屋を2つ作ることを計画しているそう。「(子ども部屋をそれぞれ持つことは)自分の時間を持ち、成長していくには欠かせないスペースだと思うから」とのこと。
「私たちは何年もパリの中心部で暮らしてきました。でも、そろそろパリ郊外の広いスペースのある家を見つける時期に来たのかもしれないとも話しています」とフレデリックさん。
数年後には、新しい家の取材もぜひさせていただきたいと約束をしたのでした。

最後に、フレデリックさんのスマートフォンにびっしりと入っているインテリアショップ情報の中から、パリに来たらここには絶対に行ってみて!というおすすめのアドレスをお聞きしました。
「『la tresorerie』は家具、キッチン用品、ライト、リネンなどがセンスよく厳選された物がそろってます。1軒で満足できるはずです。『coin canal』はヴィンテージ家具が本当に魅力的で、頻繁に訪れています」

「coin canal」厳選されたヴィンテージ家具のお店「la tresorerie」は家具、キッチン用品、雑貨などの品ぞろえが魅力(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「coin canal」厳選されたヴィンテージ家具のお店「la tresorerie」は家具、キッチン用品、雑貨などの品ぞろえが魅力(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「la tresorerie」は家具、キッチン用品、雑貨などの品ぞろえが魅力(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「la tresorerie」は家具、キッチン用品、雑貨などの品ぞろえが魅力(写真撮影/Manabu Matsunaga)

北マレの立地にあるお宅の周辺は雑多な地区ですが、最近は注目するお店も増え、フレデリックさんが引越したときと比べておしゃれエリアになりました。建物自体は階段が傾いていたり、外壁工事などが長い間続いていますが、フレドリックさんの家に入ると別世界! センスのいいインテリア、それぞれの家具にもこだわりがあり、快適な生活を楽しんでいました。

●関連サイト
coin canal
la tresorerie

【梅田駅30分以内】中古マンション価格相場が安い駅ランキング2023年。TOP3に2000万円以下で乗り換え0回の駅も!

「SUUMO住みたい街ランキング2023 関西版」で、2年連続で1位に輝いた梅田駅。関西随一のビジネス・商業の拠点といえる繁華街としてだけでなく、近年は“暮らす街”としても注目を高めている。とはいえ梅田駅周辺にあるカップル・ファミリー向け中古マンション(専有面積50平米以上~80平米未満)は、価格相場が5980万円と高額。そこで、便利な梅田にアクセスしやすくて物件価格はリーズナブルな街を調査! 梅田駅まで30分圏内にある、中古マンションの価格相場が安い駅トップ15をチェックしよう。

梅田駅まで電車で30分以内の中古マンション価格相場が安い駅TOP15

順位/駅名/家賃相場(主な路線名/駅の所在地/梅田駅までの所要時間/乗り換え回数)
1位 萱島 1930万円(京阪本線/大阪府寝屋川市/21分/1回)
2位 大和田 1980万円(京阪本線/大阪府門真市/29分/2回)
3位 園田 1989万円(阪急神戸本線/兵庫県尼崎市/19分/0回)
4位 北伊丹 2030万円(JR福知山線/兵庫県伊丹市/26分/1回)
5位 出来島 2080万円(阪神なんば線/大阪府大阪市西淀川区/22分/1回)
5位 加美 2080万円(JR関西本線/大阪府大阪市平野区/28分/1回)
5位 千船 2080万円(阪神本線/大阪府大阪市西淀川区/13分/0回)
8位 福 2120万円(阪神なんば線/大阪府大阪市西淀川区/23分/1回)
9位 岸里 2180万円(大阪メトロ四つ橋線/大阪府大阪市西成区/15分/1回)
10位 花園町 2190万円(大阪メトロ四つ橋線/大阪府大阪市西成区/14分/1回)
11位 七道 2280万円(南海本線/大阪府堺市堺区/30分/1回)
12位 住之江公園 2290万円(大阪メトロ四つ橋線/大阪府大阪市住之江区/23分/1回)
13位 古川橋 2335万円(京阪本線/大阪府門真市/27分/2回)
14位 徳庵 2380万円(JR片町線/大阪府東大阪市/23分/1回)
15位 岸里玉出 2448万円(南海本線/大阪府大阪市西成区/23分/1回)

トップ3は価格相場2000万円以下ながら、梅田まで乗り換え0回の駅も

梅田駅には大阪メトロ御堂筋線が通っているほか、すぐ近くにはJRの大阪駅、阪急電鉄と阪神電鉄の大阪梅田駅、大阪メトロの谷町線・東梅田駅と四つ橋線・西梅田駅、さらにはJR東西線の北新地駅が密集している。今回の調査ではそうした近接駅から梅田駅に徒歩で行くルートも含めて「梅田駅まで30分圏内」にある駅のうち、中古マンション(専有面積50平米以上~80平米未満)の価格相場が安い駅をランキングした。例えば、ランキング3位になった園田駅の場合、阪急神戸本線で大阪梅田駅まで約11分、そこから徒歩で梅田駅まで約8分なので所要時間は約19分(乗り換え0回)としている。

そうして調査した結果、1位には大阪府寝屋川市にある京阪本線・萱島(かやしま)駅が、価格相場1930万円でランクイン。まず京阪本線の通勤準急で淀屋橋駅に向かい、大阪メトロ御堂筋線に乗り継ぐと計約21分で梅田駅にたどり着く。寝屋川をまたぐように立つこの駅は、一見すると普通の駅だけれど大阪方面行きのホームに大きな特徴がある。それは高架駅のホーム床と屋根を突き抜いて、樹齢約700年のクスノキの大木がそびえていること。駅の高架下にたたずむ「萱島神社」のご神木であるクスノキを保存するため、このような変わった造りの駅になったそう。

萱島駅(写真/PIXTA)

萱島駅(写真/PIXTA)

そんな萱島駅は、お惣菜や持ち帰り握り寿司、こだわりのパンなどを扱う駅ナカ商店「もより市」を併設。高架下は商店街「エル萱島」「エル萱島東」となっており、100円ショップやドラッグストア、飲食店が並んでいる。駅前にも飲食店が点在し、徒歩10分圏内にスーパーも複数。また、昭和レトロな商店街があることでも知られ、生活感が感じられる街並みだ。駅から東に自転車で10分ほど進むと、ファッションや家電のショップから飲食店街に映画館まで備えた「イオンモール四條畷」があるのも便利だろう。

2位は大阪府門真市にある京阪本線・大和田駅で、価格相場は1980万円。梅田駅まで乗り換え1回で行ける1位・萱島駅の隣駅だが、こちらは乗り換えが2回で梅田駅まで約29分という結果に。これは萱島駅と違って大和田駅には通勤準急が停車しないため。梅田駅に向かう大阪メトロ御堂筋線に接続する淀屋橋駅まで最速で行くには、京阪本線の普通列車と準急を乗り継ぐ必要があるのだ。とはいえ大和田駅から区間急行1本で淀屋橋駅に向かってから大阪メトロ御堂筋線に乗る「乗り換え1回」のルートでも、梅田駅まで計約32分で行くことができる。

大和田駅の改札内には駅ナカコンビニがあるほか、高架下がドラッグストアや100円ショップ、飲食店が並ぶ商店街「エル大和田」になっている点は萱島駅と造りが似ている。線路を挟んで北側にも南側にも複数のスーパーがあり、それぞれ“激安”と評判だったり24時間営業だったりするのも嬉しいところ。駅から南へ徒歩13分ほど、国道163号沿いに向かうと家電量販店やホームセンターが立っている。また、映画館を備えた「イオンモール大日」と産直市場やクリニックもある「ベアーズ」という2つのショッピングモールが隣接する大日駅前にも、自転車なら大和田駅から13分ほどでたどり着く。

3位は阪急神戸本線・園田駅が価格相場1989万円でランクインし、トップ3は2000万円以下という結果になった。園田駅は大阪府内ではなく兵庫県の尼崎市に位置しているが、梅田駅までは約19分の近さ。この所要時間は冒頭で述べたように、園田駅~大阪梅田駅間の4駅・約11分に、大阪梅田駅から梅田駅までの徒歩約8分をプラスしたものだ。なので園田駅から「梅田エリア」までだと体感としては10分ちょっと、といえる。また、「SUUMO住みたい街ランキング2023 関西版」にて梅田駅に次いで2位に選ばれた西宮北口駅まで、阪急神戸本線1本で約9分という点も魅力的だ。

園田駅には駅ビル「園田阪急プラザ」が併設されているが、現在は耐震工事のため閉鎖中。2023年秋以降にリニューアルオープンの予定だそうなので、楽しみに待ちたい。駅の北側には個人商店が連なる商店街が広がるほか、複数のスーパーも。商店街の途中には小学校や保育園もあり、子どものお迎えついでに買い物ができそうだ。駅の南側には飲食店が豊富。さらに南下し、藻川を越えて自転車を7分も走らせると、関西には希少な「コストコ」に加え、「イオンスタイル尼崎」、ホームセンターなど大型店舗が並ぶエリアへ。さらに、園田駅から車で北に15分ほど、電車なら30分ほどで伊丹空港にアクセス可能。日常生活にも遠出の際にも便利なロケーションだ。

駅ビル「園田阪急プラザ」は現在閉鎖中だが、2023年秋以降にリニューアルオープン予定(写真/PIXTA)

駅ビル「園田阪急プラザ」は現在閉鎖中だが、2023年秋以降にリニューアルオープン予定(写真/PIXTA)

梅田まで3駅の駅や、人気の街・なんばにも高アクセスな駅もトップ15入り

続いて4位以下の駅からもピックアップ。トップ15のうち梅田駅までの所要時間が最短だったのは、価格相場2080万円で5位にランクインした阪神本線・千船(ちぶね)駅。阪神本線の区間急行で大阪梅田駅まで3駅・約9分、そこから梅田駅まで歩いて約4分なので所要時間は計約13分だ。

千船駅前(写真/PIXTA)

千船駅前(写真/PIXTA)

5位・千船駅は大阪市西淀川区佃の地名をもつ、神崎川の中州に位置。江戸時代に徳川将軍家に献魚するため、当地から江戸に移住した漁民が開拓したのが東京の佃島なんだとか。そんな歴史があるこの佃の中州は端から端まで歩いても35分ほど。しかし住宅のほかに小・中学校や幼稚園、公園があり、商店もスーパーや100円ショップにドラッグストア、飲食店などが立ち並んでいる。さらに中州の北側を流れる左門殿川、南側を流れる神崎川を渡った場所にはそれぞれスーパーとホームセンターがあり、どちらも駅から歩いて10分ほど。コンパクトな範囲で日常生活が送れそうな環境だ。

トップ15に並ぶ駅の路線を見てみると、京阪本線が1・2位を含めて計3駅ランクインしたほか、大阪メトロ四つ橋線の駅も3駅ある。9位・岸里(きしのさと)駅(価格相場2180万円)、10位・花園町駅(同2190万円)、12位・住之江公園駅(同2290万円)だ。いずれの駅からも、まず大黒町駅に行ってから大阪メトロ御堂筋線に乗り換えると計約14分~23分で梅田駅にたどり着く。

また、この3駅が位置する大阪メトロ四つ橋線に乗って大国町駅で降りずに次の駅に向かうと、各駅から約7分~14分でなんば駅に到着。大阪メトロ千日前線やJR関西本線、阪神なんば線、近鉄けいはんな線、南海本線に乗り換え可能ななんば駅は、「SUUMO住みたい街ランキング2023 関西版」で4位にランクインした人気の街だ。さらに、なんば駅から4駅先は終点の西梅田駅であり、各駅から約13分~23分。西梅田駅は梅田駅とほぼ同じような場所にあるので、岸里駅・花園町駅・住之江公園駅の3駅は人気の街である梅田エリアにもなんばエリアにも、乗り換えずに行ける。

そんな便利な3駅のうち、価格相場が最も安いのは大阪市西成区に位置する9位・岸里駅。地下鉄駅から地上へと2番出口を出ると、そこには西成区役所がある。区役所周辺には税務署や郵便局、市立図書館も。また、地上出口から北に6分ほど歩くと、南海電鉄の南海線・高野線と大阪メトロ堺筋線が通る天下茶屋駅へ。この辺りは駅の密集エリアで、岸里駅の徒歩10分圏内には南海汐見橋線・西天下茶屋駅、阪堺電軌阪堺線の北天下茶屋駅と聖天坂駅も。岸里駅周辺に住むと、行き先に応じてさまざまな駅・路線を使い分けられるのだ。岸里駅近くには安さが自慢のスーパーがあるほか、天下茶屋駅前には個人商店が軒を連ねるアーケード商店街が続いている。岸里駅の西側を流れる木津川を目指して歩くとホームセンターやベビー用品店もあり、日常の買い物は近場で済ませられそうだ。

岸里駅(写真/PIXTA)

岸里駅(写真/PIXTA)

16位~30位

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている梅田駅まで電車で30分圏内の駅(掲載物件が20件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】
駅徒歩15分圏内、物件価格相場3億円以下、築年数35年未満、敷地権利は所有権のみ
専有面積50平米以上80平米未満
【データ抽出期間】2022/12~2023/6
【物件相場の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された中古マンション価格から中央値を算出
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、朝7時30分~9時の検索結果から算出(2023年6月26日時点)。所要時間は該当時間帯で一番早いものを表示(乗換時間を含む。ランキングに表記しているものより乗り換え回数が少ない経路があっても、所要時間が早い場合はそちらを優先)
※記載の分数は、駅内および、駅間の徒歩移動分数を含む
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している
※ダイヤ改正等により、結果が変動する場合がある
※乗換回数が2回までの駅を掲載

国土交通省の令和6年度予算要求、住宅施策は何が変わる?施策概要を解説

国土交通省が令和6年度予算の概算要求の概要を公表した。まだ要求した段階で決定したものではないが、国土交通省がどんなことに力を入れようとしているのかが分かる。その中から、住宅に関することをピックアップして、見ていくこととしよう。

【今週の住活トピック】
令和6年度予算概算要求概要等を公表/国土交通省

新築・既存住宅の省エネ化の推進や中古住宅流通・リフォーム市場の活性化などに予算を充てる

国土交通省の令和6年度の予算では、(1)「国民の安全・安心の確保」、(2)「持続的な経済成長の実現」、(3)「個性をいかした地域づくりと分散型国づくり」に重点を置いている。

(1)「国民の安全・安心の確保」では、自然災害の激甚化・頻発化に対応する強靭な国土づくりを掲げている。住宅関連について見ると、以前から行っている「密集市街地対策や住宅・建築物の耐震化」や近年多く発生している土砂崩れの要因ともなる「盛土の安全確保対策」を推進するとしている。

(2)「持続的な経済成長の実現」における住宅関連の主眼は、「ZEH・ZEBの普及や木材活用、ストックの省エネ化など住宅・建築物の省エネ対策等の強化」となる。また、住宅にも関係がある、建設業の「2024年問題※」の解決に向けた支援をするとしている。
※2024年4月から時間外労働の上限規制が建設業に適用されることで、さまざまな影響が生じること

(3)「個性をいかした地域づくりと分散型国づくり」では、「多様な世帯が安心して暮らせる住宅セーフティネット機能の強化」や「既存住宅流通・リフォーム市場の活性化」が住宅関連の項目と言えるだろう。加えて、「空き家対策、所有者不明土地等対策及び適正な土地利用等の促進」や「地方への人の流れを創出する移住等の促進」もテーマに掲げている。

また、岸田政権はこども・子育て政策に力を入れていることから、「こどもまんなかまちづくり」を推進するとして、「子育て世帯等に対する住宅支援の強化」や「通学路等の交通安全対策の推進」にも予算を充てるとしている。

こども・子育てへの支援内容とは?

次に、具体的な支援内容について、国土交通省住宅局の予算概算要求概要で見ていこう。詳しく見ると、おおむね継続または拡充となっているので、2023年度の支援策が2024年度にも継続され、一部の内容が見直されるということになりそうだ。

子育て世帯等に対する住宅取得支援の強化としては、「【フラット35】の金利引き下げ」が挙がっている。これは、【フラット35】のなかでも、「【フラット35】地域連携型」によるもの。地域連携型とは、地方公共団体がそれぞれ該当する住宅取得に関する補助金などの財政的支援を行っている場合に、併せて【フラット35】の金利を引き下げるもの。つまり前提として、地方公共団体が子育て支援策を設けている場合に限られる。残念ながら東京都は、首都圏でも神奈川県や千葉県に比べると子育て支援をしている区市が少なく、2023年4月時点の資料によると、台東区、墨田区、福生市、多摩市、奥多摩町となっている。

【フラット35】の金利引き下げ制度については、2023年4月に見直しが図られた。地域連携型で「子育て支援」と「空き家対策」については、返済当初10年間、0.25%の金利を引き下げる形になっている。また、【フラット35】地方移住支援型では、当初10年間、0.3%の金利引き下げとなる。省エネ性の高い住宅の場合に金利を引き下げる「【フラット35】S」などと組み合わせると、さらに金利が引き下げられる仕組みだ。これらは、2023年度の制度なので、2024年度も予算をつけて継続すると考えられる。金利の引き下げ幅については、2024年度でどうなるか見守りたい。

また、「子育て支援型共同住宅推進事業」という補助制度もある。マンションなどの共同住宅で、子どもの安全・安心や快適な子育て等に配慮した改修などを行った場合に補助金を出す事業だ。今住んでいる分譲マンションの住戸で、子育て中の区分所有者などが、条件に該当するリフォームを行うと、2023年度の場合は、補助対象事業費の3分の1までで上限100万円の補助金が交付される。2024年度は、この補助制度を拡充する予算を要求している。

子育て支援型共同住宅推進事業の拡充を要求(現行制度の概要)/令和6年度「住宅局関係予算概要要求概要:国土交通省住宅局」より抜粋

子育て支援型共同住宅推進事業の拡充を要求(現行制度の概要)/令和6年度「住宅局関係予算概算要求概要:国土交通省住宅局」より抜粋

住宅のリフォームへの支援策とは?

住宅のリフォームに関する補助金の制度もいくつかある。省エネリフォームや長期優良住宅化リフォームについての支援制度などだ。

たとえば「住宅エコリフォーム推進事業」では、省エネ診断や省エネ設計、省エネ改修(または建て替え)の費用に対して、上限枠まで補助金が交付される。2023年度の事業では、省エネ基準適合レベルなら30万円(交付対象費用の4割まで)、ZEHレベルなら70万円(交付対象費用の8割まで)を限度に補助金が交付されるものだったが、すでに予算枠に達してしまい受付を終了している。2024年度の予算要求では拡充となっているので、より多くの件数に対応できるように予算枠を増やす考えなのだろう。

また、「長期優良住宅化リフォーム推進事業」では、所定のリフォームを行った場合に、工事費用の3分の1を限度に、100万円(長期優良住宅(増改築)認定を取得する場合は200万円)まで補助金が交付される。ただし、若者・子育て世帯が工事を実施する場合や既存住宅を購入して工事を実施する場合などでは上限額が50万円加算される。この事業については、2024年度に継続する予算要求をしている。

長期優良住宅化リフォーム推進事業の継続を要求(現行制度の概要)

長期優良住宅化リフォーム推進事業の継続を要求(現行制度の概要)

対象が限られたり、申請や受領が事業者となったりするものも含めて、補助金などの支援策はほかにも数多くあり、継続や延長、拡充などの予算要求がされている。

なお、令和6年度予算概算要求概要の公表と同時に、令和6年度国土交通省税制改正要望事項についても公表されている。税制改正要望についても、期限切れを迎える減税制度の延長が多いが、住宅のリフォームに関する減税制度で、現行の「耐震」「バリアフリー」「省エネ」「三世代同居」「長期優良住宅化」のリフォームに加え、「子育て対応」に関するリフォームを加えるように要望している。

2024年度のこども・子育て政策については、目新しいものはないが、地道に予算や税制の要望をしているという印象を受けた。

●関連サイト
国土交通省 令和6年度予算概算要求概要等を公表(令和5年8月24日)
国土交通省「令和6年度予算概算要求概要」
「令和6年度国土交通省税制改正要望事項」

9月に多く発生する大型台風。その大雨から雨漏りを防ぐには?チェックすべき項目を紹介

2023年も、異常気象が猛威を振るっている。世界的な海面水温の上昇との関連も指摘され、酷暑の一方で大型台風や線状降水帯などによる被害も生じている。9月は、大型台風が発生するリスクが高まる時期でもある。住宅リフォーム・紛争処理支援センターでは、「雨漏りを防ぐために(安全確認シート)」をホームページに掲載し、注意を呼び掛けている。

【今週の住活トピック】
「雨漏りを防ぐために(安全確認シート)」を掲載/住宅リフォーム・紛争処理支援センター

頻発する線状降水帯への危機感は感じるが、対策はしないという人も

「雨漏りを防ぐために(安全確認シート)」を見る前に、一条工務店が発表した「防災に関する意識調査2023」の結果を見ていこう。地震に関する調査と水害に関する調査をまとめているが、“水害”については、どんな結果が出ているのだろうか。

まず、「線状降水帯による大雨の可能性がある場合、大雨警報などに先駆けた発表で、早期の備えを促すために、半日程度前から 6 時間前までに気象情報で発表しているのを知っていますか」と聞いたところ、49.1%、約半数が「知らない」と回答した。

気象庁のホームページには、“「顕著な大雨に関する気象情報」の発表基準を満たすような線状降水帯による大雨の可能性がある程度高いことが予想された場合に、半日程度前から、気象情報において、「線状降水帯」というキーワードを使って呼びかけます。”とあり、呼び掛け例として以下のようなものを紹介している。

出典:気象庁「線状降水帯に関する各種情報」より転載

出典:気象庁「線状降水帯に関する各種情報」より転載

次に調査で、「お住まいの地域で線状降水帯が発生すると予報された場合、危機感を感じて何らかの対策を取りますか」と聞くと、「危機感を感じるが対策はしない」という人が38.8%、「危機感を感じない」という人が6.1%いることが分かった。

出典:一条工務店「防災に関する意識調査2023」

出典:一条工務店「防災に関する意識調査2023」

長時間の大雨が予測される場合には、まず自宅から出ないこと、一戸建ての場合は2階以上で崖や斜面から離れた部屋に移動すること、「避難指示」などの避難情報が出された場合は早めに避難所へ行くなどが求められる。

住宅には雨漏りのリスクがあるが、後から対策することが難しい

さて、長時間の大雨で自宅に留まったとして、雨漏りがするようであれば心もとない。

住宅リフォーム・紛争処理支援センターが掲載した「雨漏りを防ぐために(安全確認シート)」によると、「住宅は、屋根や壁の部材、窓(サッシ)、玄関扉など、いろいろな部材・部品が集まってできており、それぞれ素材が異なる部材・部品を組み合わせているため、継ぎ目の雨水侵入対策がしっかりしていないと雨漏りが生じる場合がある」という。特に近年は、局地的な大雨などの発生回数が増加傾向にあるため、さらに雨漏りへの注意が必要だとしている。

一方で、雨漏りが発生した場合の原因の特定が難しいことから、住宅を建築したり取得したりする段階で、雨漏りリスクを意識することが大切だと強調している。

では、雨漏りはどこで発生するのだろうか?同センターが、木造新築住宅での「瑕疵保険の事故情報※」を分析したところ、サッシまわりなどの「外壁開口部」、「外壁面」、「勾配屋根や天窓」からが多くなっている。
※瑕疵保険(かしほけん)とは、住宅の検査と保証がセットになった保険制度。保険対象となる部分に起因する事故情報のデータベースを利用

出典:住宅リフォーム・紛争処理支援センター「雨漏りを防ぐために(安全確認シート)」住宅取得者向け資料より転載

出典:住宅リフォーム・紛争処理支援センター「雨漏りを防ぐために(安全確認シート)」住宅取得者向け資料より転載

サッシや天窓の枠の部分は外壁や屋根との継ぎ目ができる部分であり、外壁自体は常に雨にさらされる部分だ。こうした部分に雨漏りリスクがあることをまずは知っておこう。

「雨漏りを防ぐために(安全確認シート)」で詳しくチェック

「雨漏りを防ぐために(安全確認シート)」の住宅取得者向け資料には、雨漏りリスクの高い6カ所について、リスク低減のアイデアを紹介している。その6カ所とは、(1)モルタルの外壁、(2)窓(サッシ)、(3)片流れ屋根の頂部、(4)屋根の側端部、(5)屋根と外壁が接する部分、(6)天窓(トップライト)。例えば、(1)のモルタルの外壁については、次のように説明している。

出典:住宅リフォーム・紛争処理支援センター「雨漏りを防ぐために(安全確認シート)」住宅取得者向け資料より抜粋転載

出典:住宅リフォーム・紛争処理支援センター「雨漏りを防ぐために(安全確認シート)」住宅取得者向け資料より抜粋転載

それぞれの箇所については専門的になるので、ぜひ直接資料を確認してほしい。自身で雨漏りのリスクと防ぐアイデアを理解することのほか、住宅の設計者や販売事業者などに、この資料の内容を見せて、きちんと設計施工されるか説明を求めるという使い方もあるだろう。

マンションなら雨漏りはしないかというと、そうでもない。筆者が住むマンションで、大雨の翌日、1階で共用廊下を見上げたら、廊下のコンクリートの下部(見上げた階からは天井部)がふくらんでいた。雨水がたまった証だ。ただし、大規模修繕工事の際に防水工事を行って修復された。

このようにマンションであれば、管理組合が建物診断や大規模修繕を行うが、一戸建ての場合は自身でチェックして補修する必要がある。建てたときに注意を払うだけではなく、雨どいが落ち葉などでつまらないように掃除をしたり、住宅の窓まわりの継ぎ目のシーリング材に破損が見られたら修復したりといった、メンテナンスを行うことも忘れないようにしたい。

●関連サイト
住宅リフォーム・紛争処理支援センター「雨漏りを防ぐために(安全確認シート)」住宅取得者向け資料
一条工務店「防災に関する意識調査2023」

「3Dプリンターの家、国内初の実用版は23時間で完成」「7畳のタイニーハウス暮らし夫婦、2棟目カワウソ号は宿に」【7月人気記事まとめ】

暑い日が続きますね。SUUMOジャーナルで7月に公開した記事では、「3Dプリンターの家、国内初の実用版は約23時間で完成!内装や耐震性は?」「7畳のタイニーハウス暮らし夫婦、2棟目カワウソ号は宿に。宿泊で住まい観が一変!?」などが人気TOP10入りしました。詳しく紹介します。

1位
3Dプリンターの家、国内初の実用版は23時間で完成!内装や耐震性は? ファミリー向け一般住宅も登場間近 長野県佐久市

2位
7畳のタイニーハウス暮らし夫婦、2棟目カワウソ号は宿に。宿泊で住まい観が一変!? ライター体験記「私はどう生きるか」 三浦半島

3位
世界の名建築を訪ねて。ザハ・ハディドによる62階建て超高層集合住宅タワー「ワン・サウザンド・ミュージアム(One Thousand Museum)」/アメリカ・マイアミ

4位
相撲部屋付き賃貸を押尾川親方がプロデュース。朝稽古を見学、ちゃんこを力士と一緒に楽しめる生活って? 墨田区「クリエイティブハウス文花」

5位
シェアハウス等でシングルマザーや障がい者に伴走する、まちの不動産屋さん。農園や食堂併設で支え合い、雇用創出も 神奈川県伊勢原市・めぐみ不動産コンサルティング

6位
愛知「住みたい街ランキング2023年版」不動の1位は名古屋! NHK大河ドラマ『どうする家康』影響で三河エリアに熱視線

7位
障がい者の部屋探しの苦労を知るからこそ伴走したい、社長・従業員の家族が障がいのある不動産会社。病院付き添いなど入居後もサポート 足立区・メイクホーム

8位
2023年は郊外ファミリー賃貸で賃料が上昇!? 国分寺など上昇した駅のデータとともに解説

9位
ニューヨーク人情酒場 さよなら、トシさん…入れ替わり激しいNYの飲食業界、雇用事情とは?

10位
厳しすぎる世界基準の環境性能に挑む賃貸住宅「鈴森Village」。省エネは大前提、植栽は在来種、トレーサビリティの徹底など…住みごこちを聞いてみた 埼玉県和光市
※対象記事とランキング集計:2023年7月1日~30日に公開された記事のうち、PV数の多い順

1位
3Dプリンターの家、国内初の実用版は23時間で完成!内装や耐震性は? ファミリー向け一般住宅も登場間近 長野県佐久市

3Dプリンターの家、国内初の実用版は23時間で完成!内装や耐震性は? ファミリー向け一般住宅も登場間近 長野県佐久市

(画像提供/セレンディクス)

2022年5月に紹介された「約300万円で購入できる10平米の3Dプリンター住宅」から1年、セレンディクス社が手掛ける商用で日本第一号となる「serendix 10(スフィアモデル)」が長野県佐久市で完成したと聞き、最新事情を取材するため現地へ。直径3.3mの球体で、10平米の3D プリンターハウスは、わずか22時間52分で建設されました。個人向け3D プリンターハウスの開発も着々と進められています。3D プリンターハウスができる過程がわかる動画もお見逃しなく!

2位
7畳のタイニーハウス暮らし夫婦、2棟目カワウソ号は宿に。宿泊で住まい観が一変!? ライター体験記「私はどう生きるか」 三浦半島

7畳のタイニーハウス暮らし夫婦、2棟目カワウソ号は宿に。宿泊で住まい観が一変!? ライター体験記「私はどう生きるか」 三浦半島

(写真撮影/桑田瑞穂)

神奈川県三浦半島にある「もぐら号」は、相馬由季さんと夫の哲平さんが約2年をかけて手づくりで完成させたわずか7畳のタイニーハウス。ふたりの暮らしに憧れて、「遊びに行きたい」「泊まりたい」という要望が殺到! そのため、今年、宿泊・体験も可能な「カワウソ号」をつくりました。早速、編集部員とライターが滞在。三浦半島の新鮮なお刺身を堪能し、ロフト下のベッドでぐっすり! 滞在レポートを読んで、タイニーハウスの暮らしをプチ体験してください。

3位
世界の名建築を訪ねて。ザハ・ハディドによる62階建て超高層集合住宅タワー「ワン・サウザンド・ミュージアム(One Thousand Museum)」/アメリカ・マイアミ

世界の名建築を訪ねて。ザハ・ハディドによる62階建て超高層集合住宅タワー「ワン・サウザンド・ミュージアム(One Thousand Museum)」/アメリカ・マイアミ

「One Thousand Museum(ワン・サウザンド・ミュージアム)」(アメリカ、マイアミ) 設計:ザハ・ハディド(ザハ・ハディド・アーキテクツ) Zaha Hadid (Zaha Hadid Architects)((c)Hufton+Crow)

建築ジャーナリスト、淵上正幸氏による世界中の名建築を巡る連載7回目。取り上げるのは、アメリカ・マイアミにある「ワン・サウザンド・ミュージアム」。高さ約213m、62階建ての超高層集合住宅タワーです。建築家ザハ・ハディドの建築哲学が凝縮された外観、贅沢な設備と上質な素材が使われた建物内部を紹介! 住人の優雅な生活が垣間見えます。

4位
相撲部屋付き賃貸を押尾川親方がプロデュース。朝稽古を見学、ちゃんこを力士と一緒に楽しめる生活って? 墨田区「クリエイティブハウス文花」

相撲部屋付き賃貸を押尾川親方がプロデュース。朝稽古を見学、ちゃんこを力士と一緒に楽しめる生活って? 墨田区「クリエイティブハウス文花」

(写真撮影/片山貴博)

東京都墨田区に昨年2022年4月に誕生した「クリエイティブハウス文花」は、1階に相撲部屋を備えた賃貸マンションです。事前に申し込みすれば、朝稽古の見学もできるとあって、取材当日もたくさんの外国人観光客の姿が。ちゃんこ会など住民と力士が交流するイベントもあるというユニークな物件はなぜ生まれたのか。親方や管理会社、入居者に話を聞きました。

5位
シェアハウス等でシングルマザーや障がい者に伴走する、まちの不動産屋さん。農園や食堂併設で支え合い、雇用創出も 神奈川県伊勢原市・めぐみ不動産コンサルティング

シェアハウス等でシングルマザーや障がい者に伴走する、まちの不動産屋さん。農園や食堂併設で支え合い、雇用創出も 神奈川県伊勢原市・めぐみ不動産コンサルティング

(写真提供/めぐみ不動産コンサルティング)

めぐみ不動産コンサルティングは、シングルマザー向けシェアハウスや障がい者グループホームの運営を通じて、住居と福祉の包括的な支援を地域に提供しています。このような取り組みを続ける原動力は、創業者・竹田恵子さんのシングルマザーとして奮闘した実体験。「シングル」だから「高齢者」だから「障がい者」だからと区切られることなく皆で支え合える社会を目指す竹田さんの思いに胸が熱くなります。

6位
愛知「住みたい街ランキング2023年版」不動の1位は名古屋! NHK大河ドラマ『どうする家康』影響で三河エリアに熱視線

3年ぶりの住みたい街ランキング愛知県版、不動の1位は「名古屋」!

(写真/PIXTA)

2023年、リクルートが3年ぶりに発表した「住みたい街ランキング」愛知県版。暮らしやすさや景観の良さが向上し、トレンド感も加わった都市部の街や、NHK大河ドラマ『どうする家康』の影響で注目が高まった「岡崎」がランクイン。愛知県春日井市生まれ、名古屋に住み続けて19年目の記者が、上位にランクインした街の魅力を紹介します。住みたい街、住みたい沿線、住みたい自治体のランキング10位までの解説は、愛知県へ移住を考えている人に有益な情報がたっぷり! 県内在住者は、自分の住む街の魅力を再発見でき、住み替え先探しにも役立ちます。

7位
障がい者の部屋探しの苦労を知るからこそ伴走したい、社長・従業員の家族が障がいのある不動産会社。病院付き添いなど入居後もサポート 足立区・メイクホーム

障がい者の部屋探しの苦労を知るからこそ伴走したい、社長・従業員の家族が障がいのある不動産会社。病院付き添いなど入居後もサポート 足立区・メイクホーム

(写真提供/メイクホーム)

メイクホーム(東京都足立区)は、障がいのある人や高齢者などの住まい探しに特化した不動産会社です。障がい者や高齢者の物件探しや入居手続き、生活支援に関するさまざまな取り組みをしています。代表の石原幸一さん自身も視覚障がいがあります。広く多くの人を支援する前に、まずは目の前の困っている人から……。真のバリアフリーな社会を目指す活動は、私たちに何ができるのかを問いかけています。

8位
2023年は郊外ファミリー賃貸で賃料が上昇!? 国分寺など上昇した駅のデータとともに解説

国分寺、さいたま新都心、千葉中央のファミリーマンションの賃料が上昇!?

(写真/PIXTA)

長谷工ライブネットは、首都圏の沿線・駅ごとの賃料相場を分析し、「首都圏賃貸マンション賃料相場マップ 2023 年版」を公表しました。調査対象は95沿線および延べ1,030駅で、間取りタイプはシングル(25平米)、コンパクト(40平米)、ファミリー(60平米)の3タイプに分類し調査。賃料相場の変動率を前年と比較すると、首都圏全体ではシングルが37%、コンパクトが47%、ファミリーが51%の割合で上昇傾向にあることが浮き彫りに。エリアやタイプ別の状況や背景を探ります。

9位
ニューヨーク人情酒場 さよなら、トシさん…入れ替わり激しいNYの飲食業界、雇用事情とは?

(イラスト/ヤマモトレミ)

(イラスト/ヤマモトレミ)

漫画家ヤマモトレミさんによる、アメリカのブルックリンにある小さな酒場(レストラン)で起こったいろんな出来事を描いた漫画エッセイ「ニューヨーク人情酒場」の人気連載。レミさんは、2017年、勤めていた会社の転勤でニューヨークに移住。趣味で描いていた漫画が思った以上に楽しくなり、2021年に脱サラして本格的に漫画家としての活動を開始し、2022年にアメリカで起業して個人事業主に。漫画業のかたわら、ブルックリンのレストランで週4回“寿司ローラー”(寿司を巻く仕事)をしています。今回は、レミさんの師匠トシさんが解雇されることに……。悲しい別れの理由は。そして、トシさんが去ったあと、レミさんに訪れる転機とは。ニューヨークで働く人たちの「心」が伝わるあたたかな漫画をぜひ。

10位
厳しすぎる世界基準の環境性能に挑む賃貸住宅「鈴森Village」。省エネは大前提、植栽は在来種、トレーサビリティの徹底など…住みごこちを聞いてみた 埼玉県和光市

厳しすぎる世界基準の環境性能に挑む賃貸住宅「鈴森Village」。省エネは大前提、植栽は在来種、トレーサビリティの徹底など…住みごこちを聞いてみた 埼玉県和光市

(写真撮影/片山貴博)

埼玉県和光市に、環境性能評価システムLEEDを取得する賃貸住宅「鈴森Village」が誕生しました。LEED認証は、建物や敷地利用の環境性能評価システムで、世界で多く用いられています。2024年度からは、建築物の販売・賃貸時に省エネ性能を表示する新制度が導入される予定で、住まいの省エネ性能・環境性能がますます重視される時代に。「鈴森Village」を訪ね、住人や設計者に取材しました。今後の住宅市場を変える新しい住まいを紹介します。

3Dプリンターハウスやタイニーハウス、LEEDを取得する賃貸住宅など最新の住宅事情や、障がい者、シングルマザーの住まい探しを紹介する記事は、これからの暮らし方、生き方へ気づきを与えてくれます。記事には、同じテーマを扱った関連記事のリンクもあるので、「もっと詳しく知りたい!」と思ったらぜひチェックしてみてください。

【渋谷駅30分以内】中古マンション価格相場が安い駅ランキング2023年。TOP10は3000万円未満、大田区の駅が多数!

「100年に一度」といわれる大規模再開発が進行中の渋谷駅周辺。新たな商業施設が続々と誕生し、さらに2023年内にも商業施設やオフィス、住居などが集まる新エリア「Shibuya Sakura Stage」が竣工予定だ。遊べる街としてだけではなく、近年はIT系企業やスタートアップ企業が集まるビジネスの街としても発展している。そんな注目の街・渋谷まで30分以内で行ける駅周辺の、中古マンションの価格相場を調査した。「シングル向け(専有面積20平米以上~50平米未満)」と「カップル・ファミリー向け(専有面積50平米以上~80平米未満)」、それぞれの価格相場が安い駅ランキングをチェック!

渋谷駅まで電車で30分以内にある中古マンションの価格相場が安い駅TOP15

【シングル向け】
順位/駅名/価格相場(主な路線名/駅の所在地/渋谷駅までの所要時間/乗り換え回数)
1位 馬込 2789.5万円(都営浅草線/東京都大田区/18分/1回)
2位 矢口渡 2799万円(東急多摩川線/東京都大田区/28分/1回)
3位 長原 2839.5万円(東急池上線/東京都大田区/22分/1回)
4位 平和島 2860万円(京浜急行本線/東京都大田区/25分/2回)
5位 大森町 2889万円(京浜急行本線/東京都大田区/30分/2回)
6位 板橋区役所前 2980万円(都営三田線/東京都板橋区/26分/1回)
6位 板橋本町 2980万円(都営三田線/東京都板橋区/28分/1回)
6位 田端 2980万円(JR山手線/東京都北区/24分/1回)
9位 調布 2989.5万円(京王線/東京都調布市/28分/1回)
10位 中村橋 2990万円(西武池袋線/東京都練馬区/27分/1回)
10位 西馬込 2990万円(都営浅草線/東京都大田区/21分/1回)
12位 大森海岸 3050万円(京浜急行本線/東京都品川区/29分/2回)
13位 下板橋 3130万円(東武東上線/東京都豊島区/19分/1回)
14位 新板橋 3165万円(都営三田線/東京都板橋区/23分/0回)
15位 八幡山 3180万円(京王線/東京都杉並区/23分/1回)
※16位~30位は記事末に記載

【カップル・ファミリー向け】
順位/駅名/価格相場(主な路線名/駅の所在地/渋谷駅までの所要時間/乗り換え回数)
1位 読売ランド前 2690万円(小田急小田原線/神奈川県川崎市多摩区/30分/2回)
2位 生田 3485万円(小田急小田原線/神奈川県川崎市多摩区/27分/2回)
3位 久地 3490万円(JR南武線/神奈川県川崎市高津区/24分/1回)
4位 西川口 3780万円(JR京浜東北・根岸線/埼玉県川口市/29分/1回)
5位 宿河原 3790万円(JR南武線/神奈川県川崎市多摩区/26分/1回)
6位 戸田公園 3880万円(JR埼京線/埼玉県戸田市/28分/0回)
7位 向ヶ丘遊園 4130万円(小田急小田原線/神奈川県川崎市多摩区/24分/1回)
8位 地下鉄赤塚 4180万円(東京メトロ有楽町線/東京都板橋区/24分/0回)
9位 浮間舟渡 4199万円(JR埼京線/東京都板橋区/25分/0回)
10位 菊名 4230万円(東急東横線/神奈川県横浜市港北区/27分/0回)
11位 江田 4248.5万円(東急田園都市線/神奈川県横浜市青葉区/30分/1回)
12位 東武練馬 4280万円(東武東上線/東京都板橋区/30分/2回)
12位 梶が谷 4280万円(東急田園都市線/神奈川県川崎市高津区/21分/1回)
12位 武蔵浦和 4280万円(JR埼京線/埼玉県さいたま市南区/29分/0回)
12位 登戸 4280万円(小田急小田原線/神奈川県川崎市多摩区/21分/1回)
※16位~30位は記事末に記載

「シングル向け」トップ3は大田区に位置する駅が独占!

まずはシングル向け中古マンション(専有面積20平米以上~50平米未満)のランキングを見ていこう。ちなみに、渋谷駅周辺にある同条件の価格相場は5970万円。ここから電車で30分圏内にまでエリアを広げ、価格相場が安い駅を調査した結果が上記ランキングだ。そして1位は、東京都大田区にある都営浅草線・馬込駅で価格相場は2789万5000円。まず3駅・約6分の五反田駅に向かい、JR山手線に乗り換えると計約18分で渋谷駅へ。価格相場が最安な馬込駅が、渋谷駅までの所要時間もトップ15で最短という結果になった。五反田駅からJR山手線に乗ると、新宿駅まで馬込駅から計約25分で行ける点も魅力的だ。

東京都市景観

(写真/PIXTA)

1位・馬込駅は地下鉄駅であり、出入口は国道1号・第二京浜沿いに3カ所点在。駅を出て国道1号を少し南下すると環七と立体交差する松原橋へ。交通量の多い幹線道路に近くて騒がしそうなエリアだと感じるかもしれないが、1本裏道に入ると静かな住宅地が広がっている。3カ所の駅出入口近くにはミニスーパーやコンビニがあり、少し歩けばドラッグストアも。松原橋付近の環七沿いにはホームセンターもあり、日常の買い物には困らないだろう。チェーン系の飲食店は見当たらないが、繁華街がないぶん落ち着いて暮らしたい人にはよさそうだ。馬込駅から北へ10分~15分ほど歩くと東急大井町線の荏原町駅や、都営浅草線と東急大井町線が乗り入れる中延駅があり、両駅とも商店街が充実しているので足を延ばすのもいいだろう。

馬込駅(写真/PIXTA)

馬込駅(写真/PIXTA)

2位は東急多摩川線・矢口渡(やぐちのわたし)駅で価格相場は2799万円。東急多摩川線で多摩川駅に出て、東急東横線に乗り換えると計約28分で渋谷駅に到着する。矢口渡駅は東京都大田区に位置し、駅から南へ10分弱も歩くと多摩川の河川敷に出る。この付近に、かつて多摩川の渡船場の一つ「矢口の渡し」があったことが駅名の由来だ。駅から多摩川に向かう通りには「矢口の渡商店街」が広がり、スーパーやドラッグストア、コンビニのほかに鮮魚店や青果店、飲食店などの商店が軒を連ねる。駅北側にも商店街があり、そのまま進むと日本体育大学の付属高校があるため高校生の通学路ともなっている。途中には入浴料520円のみで電気風呂や鉱泉などのお風呂とサウナが楽しめる銭湯もあり、気軽に「ととのう」ことができる環境。駅から東へ12分ほど歩くと、東急池上線・蓮沼駅を利用することもできる。

矢口渡駅の周辺(写真/PIXTA)

矢口渡駅の周辺(写真/PIXTA)

3位は東急池上線・長原駅で価格相場は2839万5000円。1位・2位と同様に東京都大田区に位置する駅であり、長原駅前を通る環七を1.4kmほど進むと1位・馬込駅にたどり着く。渋谷駅に向かうには、東急池上線で5駅目の五反田駅よりJR山手線に乗り換えると計約22分。同ルートで新宿駅までは約29分だ。そんな長原駅は2021年12月に「木になるリニューアル」と題した改修工事が完了し、東京・多摩地域の木材を使用した駅舎に生まれ変わった。同時期に改札外におにぎり専門店ができたほか、駅舎2階~3階部分にはスーパーや100円ショップもある便利な環境。駅周辺にも商店街が広がり、スーパーやドラッグストア、肉や魚などの個人商店に加えて飲食店が多彩にそろっている点も特徴だ。

トップ3の駅をはじめ、トップ15のうち6駅は渋谷駅の南側に位置する東京都大田区からランクイン。続いて多かったエリアは渋谷区の北側に位置する東京都板橋区で、同額6位の板橋区役所前駅と板橋本町駅(価格相場2980万円)、14位・新板橋駅(価格相場3165万円)の3駅がランクインした。

新板橋駅(写真/PIXTA)

新板橋駅(写真/PIXTA)

この3駅はいずれも都営三田線沿線で、板橋本町駅~板橋区役所前駅~新板橋駅の順に連続している。3駅とも同じ路線なのに14位・新板橋駅だけが渋谷駅まで「乗り換え0回」となったのは、少々イレギュラーなルートを利用するため。新板橋駅から南へ歩いて9分ほどの板橋駅に向かい、そこからJR埼京線の通勤快速に乗ると乗り換え0回・約23分で渋谷駅に行けるのだ。新板橋駅から同ルートを利用すると板橋駅~渋谷駅間に停車する池袋駅まで約12分、新宿駅まで約18分で行くこともできる。新板橋駅と板橋駅にはさまれた一帯にはコンビニやスーパーをはじめさまざまな商店が立ち並び、飲食店も豊富。さらに、新板橋駅から南西に10分も歩くと13位にランクインした東武東上線・下板橋駅(価格相場3130万円)がある。このあたりに住むと都営三田線、JR埼京線、東武東上線の3駅が行き先に応じて使い分けられるのは大きな魅力だろう。

「カップル・ファミリー向け」の1位と2位は新宿駅にも30分以内の好立地

続いて、カップル・ファミリー向け中古マンション(専有面積50平米以上~80平米未満)のランキングを見ていこう。渋谷駅周辺にある同条件の物件の価格相場は、驚きの9765万円! 確かに渋谷は魅力的な街だが、もっとリーズナブルに住むことができ、かつ渋谷へのアクセスもよい街をぜひとも知りたくなる。

調査の結果、1位には小田急小田原線の読売ランド前駅、2位には同じく小田急小田原線の生田駅がランクイン。この2駅は神奈川県川崎市多摩区にある隣り合う駅で、直線距離で1.3kmほど。さらに両駅とも停車する列車種別は準急、通勤準急、各駅停車と同じであり、小田急小田原線を各駅停車~快速急行と乗り継いで下北沢駅に出てから京王井の頭線で渋谷駅に行くルートも同じ。しかし価格相場は1位・読売ランド前駅が2690万円、2位・生田駅が3485万円と開きが大きい。駅周辺環境に違いがあるのだろうか?

読売ランド前駅前の様子(写真/PIXTA)

読売ランド前駅前の様子(写真/PIXTA)

この2駅の大きな違いといえそうなのは、1位・読売ランド前駅の北側一帯を日本女子大学のキャンパスや広大な森を含む丘陵地が大きな面積を占めている点。そのぶん駅周辺で住宅地に利用できるエリアが限られ、商業施設も多くはない。とはいえ駅南口前にはスーパーや100円ショップ、ドラッグストアに精肉店、青果店などが集まっており、コンパクトな範囲で買い物が済ませられる。のどかな街並みも魅力だが、飲食店の選択肢は多くないので気分転換に歩いて20分弱、自転車なら5分ほどの2位・生田駅周辺に行くのもアリだろう。

2位・生田駅の周辺には家族でも利用しやすいファミレスや定食店、ファストフード店が点在し、駅の北側と南側に住宅街が広がっている。スーパーやドラッグストアも複数あり、お得な特売めぐりもできそうだ。駅北口のほど近くに多摩区役所の出張所が、駅南側に小さめながらホームセンターがあるのも何かと便利。この生田駅、1位・読売ランド前駅ともに小田急小田原線の通勤準急~快速急行を乗り継ぐと、新宿駅まで25分以内で行ける点も魅力だ。

生田駅周辺の様子(写真/PIXTA)

生田駅周辺の様子(写真/PIXTA)

3位は神奈川県川崎市高津区にある、JR南武線・久地駅で価格相場は3490万円。2駅隣の武蔵溝ノ口駅に接続する溝の口駅から東急田園都市線に乗ると、渋谷駅まで計約24分で行くことができる。駅前を通る府中街道や南部沿線道路沿いを中心にスーパーや100円ショップ、飲食店が立ち並び、脇道に入ると住宅街。また、駅の南側には広大な「川崎市営緑ヶ丘霊園」が広がっている。この霊園は緑豊かな憩いの場としても親しまれ、敷地内には噴水広場や遊具を置いた児童公園も。春は数百本の桜が咲く、お花見の名所でもある。霊園の隣接地には芝生広場や植物園を備えた「県立東高根森林公園」や、水遊びができる広場、屋内の遊び場がある「川崎市子ども夢パーク」、さらに駅北側には多摩川の河川敷があり、自然にふれながら子育てしやすそうだ。

トップ15には渋谷駅まで乗り換え0回の駅も5駅ランクインした。そのうち最も価格相場が安いのは、3880万円で6位になったJR埼京線・戸田公園駅。埼玉県戸田市に位置し、渋谷駅までは約28分だ。JR埼京線で渋谷駅に向かう途中に停車する池袋駅までは約17分、新宿駅までは約23分で行くことができる。

6位・戸田公園駅は例年8月第1土曜に開催される「戸田橋花火大会」の最寄り駅で、開催日には駅南側の荒川河川敷から打ち上がる花火目当てに多くの人が押し寄せる。駅名にある「戸田公園」とは、この花火大会の会場付近の河川敷や、荒川の水を引き込んだボート競技コースのこと。春は桜、夏から秋はカンナが咲く花名所でもある。戸田公園駅には「ビーンズ戸田公園」が併設され、1階にスーパー、2階には飲食店などのショップが入っている。駅周辺にも多彩な飲食店やスーパー、ホームセンターがあるほか、総合病院があるのも心強い。駅から北に徒歩3分ほどの場所には「戸田市立児童センター こどもの国」も。屋内プレイルームや図書室、森や原っぱまで基本的に無料で利用でき、夏期オープンの児童用プールの利用料も子どもは50円、付き添い大人も150円と格安! 子どもがいるなら、近くに住んだ際に大活躍する施設となりそうだ。

戸田公園 戸田漕艇場(写真/PIXTA)

戸田公園 戸田漕艇場(写真/PIXTA)

シングル向け 16位~30位、カップル・ファミリー向け 16位~30位

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている渋谷駅まで電車で30分圏内の駅(掲載物件が20件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】
駅徒歩15分圏内、物件価格相場3億円以下、築年数35年未満、敷地権利は所有権のみ
シングル向け:専有面積20平米以上50平米未満
カップル・ファミリー向け:専有面積50平米以上80平米未満
【データ抽出期間】2022/11~2023/5
【物件相場の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された中古マンション価格から中央値を算出
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、朝7時30分~9時の検索結果から算出(2023年5月29日時点)。所要時間は該当時間帯で一番早いものを表示(乗換時間を含む)
※記載の分数は、駅内および、駅間の徒歩移動分数を含む
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している
※ダイヤ改正等により、結果が変動する場合がある
※乗換回数が2回までの駅を掲載

北海道・札幌市「住みたい街ランキング」駅1位は札幌! 新球場開業で注目の北広島も上位にランクイン

リクルートは「SUUMO住みたい街ランキング 2023 北海道版/札幌版」を発表。3年ぶりに発表された今回の「住みたい街ランキング」ではどのような街がランクインしているのか。ランキングの結果と共に、ランクインした街の魅力を見ていこう。

「住みたい街(駅)」は北海道版、札幌版共に「札幌」が1位

今回取り上げる「住みたい街ランキング」は、北海道に居住している20歳~49歳を対象に、今後「住んでみたいと思う街(駅)」などを調査したもの。北海道民、札幌市民が「住んでみたい」と憧れる街のランキングだ。

北海道 住みたい街(駅)ランキング

※→2020年より特典を合算しはじめた/合算方法が変わった駅の集計結果

札幌市 住みたい街(駅)ランキング

※→2020年より特典を合算しはじめた/合算方法が変わった駅の集計結果
**→名称が同じ複数の駅を2020年より別の駅として集計した結果

前回2020年の調査結果に引き続き、2023年の「住みたい街(駅)ランキング」では、北海道版、札幌版共に北海道最大のターミナル駅「札幌」が1位に選ばれた。3位も北海道版、札幌版共に「大通」がランクインしているが、札幌や大通といえば、言わずと知れた札幌都心。都心ならではの高い交通利便性、生活利便性はもとより、大通公園などが身近で、暮らしの中に緑も感じられるという住環境も“住む街”として魅力的なポイントだ。

それに加え、札幌から大通、すすきのといった都心部では2030年度末の北海道新幹線延伸開業に向け、再開発やビルの建て替えなど複数のプロジェクトが進行中で、狸小路に今年7月にオープンした「moyuk SAPPORO」に続き、今秋にはすすきのに「COCONO SUSUKINO」も開業予定だ。

札幌都心部では再開発やビルの建て替えなど複数のプロジェクトが進行中(画像/PIXTA)

札幌都心部では再開発やビルの建て替えなど複数のプロジェクトが進行中(画像/PIXTA)

札幌駅周辺も、北口では「さつきた8・1」が2024年春のグランドオープンを控え、南口ではエスタ跡地に超高層複合ビルが2028年度竣工を予定している。札幌都心部はもともと「住みたい街」として圧倒的な人気を誇るエリアだが、今後の街の進化は、訪れる人だけでなく住む人からも期待や注目を集めている。

北海道全体のランキングでは「新札幌」「桑園」「北広島」がランクアップ

そのほかのトップ10に選ばれた街を見てみると、「北海道 住みたい街(駅)ランキング」では、札幌市内の街だけでなく、過去のランキングでも上位に選ばれていた2位の「函館」、6位の「旭川」、10位の「五稜郭」など、道内外から広く人が訪れる知名度の高い街が安定のランクイン。札幌市内についても、成熟した住宅地として人気の「円山公園」が5位に選ばれた。

一方で、前回のランキングでは5位の「新札幌」が4位に、9位の「桑園」が7位にランクアップし、圏外だった「北広島」は今回8位と、トップ10入りを果たしている。

今回4位の「新札幌」は2018年からスタートした再開発で、大学や専門学校、医療施設やホテル、タワーマンションなどが誕生。2023年11月には商業施設「BiVi」が開業予定で、ついに新しい街「マールク新さっぽろ」がまちびらきを迎える。大規模な再開発で街の魅力も注目度もアップした。

7位の「桑園」は札幌駅の1駅隣の駅で、終電後もタクシーや自転車などで帰宅しやすい都心との距離感。札幌競馬場の最寄駅で北海道大学も近いため、にぎわいのある駅ではあるが、街自体は比較的閑静な住宅街の雰囲気だ。

桑園駅(画像/PIXTA)

桑園駅(画像/PIXTA)

駅のそばにはイオンやホーマックなどがあり、日常の買い物をしやすい住環境。駅から徒歩圏の札幌市中央卸売市場場外市場では新鮮な食材が手に入るのもうれしい。さらに、駅近くに市立札幌病院がある点も、暮らす街として安心感につながるポイントだ。

最近では駅周辺におしゃれな雑貨店や飲食店、スイーツ店などが増えてきているという街の変化も、住みたい街としてランクアップした理由の一つとして挙げられるだろう。

そして今回8位にランクインした「北広島」はもともとベッドタウンとして発展してきた街だが、2023年3月に「北海道ボールパークFビレッジ」が開業し一気に注目度が高まった。「北海道ボールパークFビレッジ」には北海道日本ハムファイターズの新たな本拠地となる新球場「エスコンフィールドHOKKAIDO」をはじめ、宿泊施設やショッピング・飲食施設などが集結。施設開業による注目度アップに伴い、公示地価や基準地価でも変動率トップとなり話題になっている。今後北広島駅前では再開発も予定されており、引き続き、街の盛り上がりから目が離せない。

新球場の「エスコンフィールドHOKKAIDO」。野球ファンだけでなく、多くの人が集まる憩いの場となっている(画像/PIXTA)

新球場の「エスコンフィールドHOKKAIDO」。野球ファンだけでなく、多くの人が集まる憩いの場となっている(画像/PIXTA)

札幌市のランキングでは「北24条」が2018年以降で最高位の8位に。「平岸」もトップ10入り

「札幌市 住みたい街(駅)ランキング」は、全体的に前回のランキングの顔ぶれから大きな変化はないが、「北24条」は2018年以降で最高位の8位にランクアップ。前回12位だった「平岸」は10位という結果となった。

8位の地下鉄南北線「北24条」駅にはバスターミナルが併設されており、札幌都心部だけでなく、空港などへのアクセスも便利。駅周辺には飲食店が充実しており、にぎやかな繁華街の一面を持つ一方、周辺には落ち着いた住宅地が広がる。札幌市北区役所や区民センターをはじめ、官公署や公共機関も集中しており、日常に必要なものが身近に整う暮らしやすさは魅力的だ。

そして、10位にランクインした同じ地下鉄南北線の「平岸」駅も札幌や大通まで地下鉄で直通。駅近くの総合病院「KKR札幌医療センター」は救急などいざという時に心強い存在だ。豊平川も身近で、周辺には大小の公園が点在しており、子育てファミリーにも人気が高い。

ちなみに、「北24条」駅が位置する「札幌市北区」は、実は「住みたい自治体ランキング」で、北海道版、札幌市版共に2位にランクイン。圧倒的1位は「住みたい街(駅)ランキング」上位の「札幌」「円山公園」「大通」などが位置する「札幌市中央区」だが、「平岸」駅がある「札幌市豊平区」も北海道版のランキングでは3位、札幌市版では4位と上位に選ばれている。

北海道 住みたい自治体ランキング

札幌市 住みたい自治体ランキング

住みたい沿線ランキングでは天候の影響を受けにくい地下鉄が人気

ここまでは住みたい街(駅)や自治体のランキングを見てきたが、「住みたい沿線」のランキングに目を移してみよう。

北海道 住みたい沿線ランキング

「住みたい沿線ランキング」では1位「地下鉄東西線」、2位「地下鉄南北線」と、雨や雪など天候の影響を受けにくい地下鉄が上位に選ばれた。

札幌市内を走る地下鉄は東西線、南北線、東豊線の3路線あるが、1位の「地下鉄東西線」は西区に位置する宮の沢駅から厚別区の新さっぽろ駅までを結ぶ路線だ。東西線沿線の街というと、憧れの住宅街として知名度の高い「円山公園」や西区の中心的な街である「琴似」などがあり、「北海道 住みたい街(駅)ランキング」の上位にもランクインしている。

そして2位の「地下鉄南北線」は北区の麻生駅から南区の真駒内駅を結んでおり、さっぽろ、大通、すすきのといった都心の主要駅をすべて通る路線。沿線の街では、「大通」に加え、始発駅の「麻生」や、前述した「北24条」、「平岸」などが「札幌市 住みたい街(駅)ランキング」トップ10に選ばれている。

なお、もう1本の地下鉄路線、地下鉄東豊線をおさえ上位にランクインしたのは「JR函館本線」と「JR千歳線」だ。どちらのJR線も札幌駅を通り、3位の「JR函館本線」は今回住みたい街ランキングで上位に入る「函館」や「旭川」、「五稜郭」なども結ぶ路線。4位の「JR千歳線」は新千歳空港駅へのスムーズなアクセスが魅力だ。

「JR函館本線」「JR千歳線」沿線の駅が、穴場だと思う街(駅)ランキングの上位を独占

「JR函館本線」と「JR千歳線」については、住みたい街ランキングと同時に集計した「北海道 穴場だと思う街(駅)ランキング」のトップ5を独占するという結果になっているのも興味深い。

北海道 穴場だと思う街(駅)ランキング

この「穴場だと思う街(駅)ランキング」は交通利便性や生活利便性が高いのに、家賃や物件価格が割安なイメージがある駅を調査したもの。

上位5位はすべてJR函館本線、JR千歳線沿線の駅で、1位の「札幌」、2位の「新札幌」、3位の「北広島」、4位の「桑園」は前述した通り、どの街も「住みたい街ランキング」で上位にランクインし、再開発や、新施設・新店舗の誕生などで注目を集める街ばかりだ。

そんな中、「住みたい街ランキング」では23位の「手稲」が「穴場だと思う街(駅)ランキング」では4位に選ばれているが、「手稲」は札幌市手稲区に位置する街。札幌駅まで直通で、快速エアポートも停車し、都心部や空港へのアクセスがスムーズだ。また、手稲山に近く大自然を身近に感じられる住環境で、隣接する小樽市に足を延ばせば、海のレジャーも気軽に楽しむことができる。さらに、札幌市内という立地ながら、比較的家賃相場も抑えられており、交通利便性の高さや恵まれた住環境を考えると、まさに穴場の街と感じる人も多いだろう。

札幌市手稲区の前田森林公園(画像/PIXTA)

札幌市手稲区の前田森林公園(画像/PIXTA)

今回紹介したどのランキングも、「札幌」の圧倒的な人気の高さをあらためて思い知らされる結果となっていたが、そのほかにも、「円山公園」や「函館」など、知名度やブランド力のある街が安定的に高く支持されているという点も目を引いた。

そして同時に、今回のランキングからは「北広島」「新札幌」「平岸」など、再開発で進化する街への期待値の高さも伺えた。年月をかけて確立された街の個性が人を惹きつけるということもあるが、街の変化、変容というものも、この街で暮らしてみたいと思わせる重要なファクターになっているようだ。

今後は人気の札幌都心部で再開発が加速していくが、都心部の進化と共に、北海道民、札幌市民の「住みたい街」がどのように変化していくのか、引き続き注目していきたい。

●関連ページ
SUUMO住みたい街ランキング2023 北海道版/札幌市版

「不動産価格は上がっていく」と思う人が過去最高の42%に!「今が売り時」と思う人も8割超

住宅ローンの金利上昇への圧力が高まるなか、野村不動産ソリューションズが「住宅購入に関する意識調査(第25回)」を実施した。その結果を見ると、売り時と考える人が多い一方で、買い時だと考える人も多いことが分かった。どんな住宅市況になっているのだろうか?

【今週の住活トピック】
「住宅購入に関する意識調査(第25回)」を実施/野村不動産ソリューションズ

「不動産価格は上がると思う」が調査開始以来最高に

調査対象は、不動産情報サイト「ノムコム」会員(購入検討者を中心としたWeb会員)で、有効回答数は1964人。調査は、2023年7月3日~16日に実施された。

日本銀行の植田和男新総裁は従来路線を引き継いできたが、国債を買い入れて長期金利の上昇を抑制する水準を従来の0.5%から1.0%に引き上げると発表したのは、第5回日銀金融政策決定会合後の7月28日のことだ。これにより、長期金利の上昇可能性が高まったのだが、それより前に調査が実施されていることを念頭に置いてほしい。

まず、「今後の不動産価格はどうなると思うか」を聞いたところ、「上がると思う」が42.0%に達し、前回(2023年1月調査)より大きく増加した。2011年の調査開始以降で最も高いという。「下がると思う」は17.9%だった。物価の上昇を実感するなか、建材費や人件費なども上がるので不動産価格も上がると考えたようだ。

出典/野村不動産ソリューションズ「住宅購入に関する意識調査(第25回)」より転載)

出典/野村不動産ソリューションズ「住宅購入に関する意識調査(第25回)」より転載)

今は「売り時」であり「買い時」でもある!?

住宅価格が上がっていることで、「売り時」と感じる人も多いようだ。「不動産は売り時だと思うか」と聞いたところ、「売り時だと思う」が22.6%、「どちらかと言えば売り時だと思う」が59.6%で、合わせて82.2%が売り時だと思っていた。

出典/野村不動産ソリューションズ「住宅購入に関する意識調査(第25回)」より転載)

出典/野村不動産ソリューションズ「住宅購入に関する意識調査(第25回)」より転載)

その理由は、「不動産価格が上がったため」(77.4%)と「今なら好条件での売却が期待できるため」(52.4%)が過半数を占めた。

次に、「不動産は買い時だと思うか」と聞いた結果は、「買い時だと思わない」が48.1%と最多だったが、前回より減少した。また、買い時だと思う人(「買い時だと思う」8.8%+「どちらかと言えば買い時だと思う」24.3%)は33.1%になり、前回より増加した。

出典/野村不動産ソリューションズ「住宅購入に関する意識調査(第25回)」より転載)

出典/野村不動産ソリューションズ「住宅購入に関する意識調査(第25回)」より転載)

「売り時」かどうか、判断する指標は?

さて、住宅を高く売りたいと思うなら「住宅価格が高止まりしている」ときか、「住宅価格が下落に転じた」ときがよい。「高止まり」のタイミングなら安心して売ることができるし、「価格が下がり続ける」タイミングならできるだけ早く売ったほうがよい。逆に「価格が上昇し続ける」なら、様子見をしてもっと上がったタイミングで売ったほうがよいわけだ。

ただし売り時かどうかは、住宅価格だけでなく、需給バランスも重要だ。売る側から見れば、競争相手となる売り手が少ないか、買い手が多い方が有利だからだ。買い手が多いかどうかの条件はいろいろあるが、住宅ローンの金利が低いこと、優遇税制などが多いことなど、購入環境が好条件であることも大きな要因となる。

今回の調査対象者は、住宅価格が横ばいと見る人が29.7%で、まだ上がると見ている人が42.0%と多いが、大きく上がり続けるというよりは、わずかに上がっていくと見ているのだろう。そこで、価格が高止まりに近いことや購入環境が良好なことから、売り時と判断している人が多いのではないか。

「売り時」か「買い時」か、今後はどうなる?

では、今の住宅市況はどうなっているだろうか。

住宅市況は立地条件によっても異なるが、一例として、東日本不動産流通機構の四半期ごとの「首都圏不動産流通市場の動向(2023年4~6月)」のデータから傾向を見ていこう。首都圏の中古マンションの新規登録件数は増えているので、売り手は増えていることになるが、成約に至った件数は2021年を山場に2022年以降は少し落ち着きを見せている。つまり2021年は売り手市場だったが、次第に需給バランスが変わりつつある。ただしまだ買い手は多いので、首都圏の中古マンションの価格は上がり続けている。首都圏の中古一戸建ても、おおむね似たような傾向が見られる。

では、今後の需給バランスはどうなるのだろう。

気になるのは、住宅ローンの金利の動向だ。特に、長期金利はいずれ上がる可能性がある。好景気に転じれば、変動金利も上がっていく。住宅ローンの金利が上昇すれば、利息が増え、借りられる額が減少するので、住宅購入意欲の減退につながる。つまり、買い手が減ることで需給バランスは大きく崩れる可能性がある。

とはいえ、今すぐ金利が上がるわけではないので、金利上昇気配を感じて駆け込みで購入する人も出るだろう。どのタイミングでどのような上がり方をするかで、買い手の動きも変わってくるので、注視が必要だ。

超低金利が長期間継続したことで、住宅ローンの金利はいつも低いと思いがちだが、今後は住宅ローンの金利も、売り手や買い手の動きも、住宅価格の動向も変わる可能性がある。そのことを頭に入れて、マネープランや購入する住宅の条件などを、きちんと整理しておくとよいだろう。

●関連サイト
・野村不動産ソリューションズ「住宅購入に関する意識調査(第25回)」を実施
・東日本不動産流通機構「首都圏不動産流通市場の動向(2023年04~06月)」

「平屋の多い都道府県」ランキング1位は沖縄じゃない!? TOP10を九州が席巻、新築半分以上が平屋の県とは?

「今、平家が空前のブーム」この言葉にピンときますでしょうか? SUUMOでは、2023年のトレンドワードとして、「平屋回帰」「コンパクト平屋」という言葉を発表しました。比較的地価の高い都会に暮らす人には、平屋が建てられるような条件はなかなかそろうわけもなく、その人気は実感しようもありません。ところが、全都道府県の新築一戸建て(※注)の平屋率を調査してみると、都会暮らしの人には想像もできないような意外な事実が……。都道府県別であまりにも違う平屋事情を見ていきましょう。

九州で高い平屋率。宮崎県、鹿児島県では新築一戸建ての半分以上が平屋

SUUMOが2023年のトレンドワードとして「平屋回帰」「コンパクト平屋」という言葉を発表した背景には、最近の平屋のニーズの大きな変化があります。現在ブームになっている平屋は、建物面積で15坪(約50平米)から25坪(約83平米)くらい、間取りは1LDK~2 LDK位のコンパクトなもの。適度な大きさで動線が効率化されていること、価格の手ごろさから、子どもが独立して2階部分を持て余しているシニア夫婦、一人暮らしや一人親世帯など、さまざまな世帯で平屋が選ばれており、2022年に着工された新築の一戸建て住宅(※注)のうち、約7件に1件は平屋になっています。
それでは、気になるランキングはどのような結果になっているのでしょうか。

※注 記事中の「一戸建て」と「平屋率」の定義=国土交通省が発表している建築着工統計調査より、居住専用住宅の建築物の地上階数1階~3階の総棟数のうち、地上階数1階の棟数の割合を集計し「平屋率」としている。構造は木造・鉄骨造など全構造の合計。3階建てまでの居住専用住宅には、アパートやマンションなどの集合住宅も含むため、すべてが一戸建てではないが、本記事では便宜上一戸建てとしている。1階建ての集合住宅は非常に出現率が低いため、実際の新築一戸建ての平屋率は本記事の試算より高くなると考えられる(本記事内共通)

都道府県別平屋率1位~20位

都道府県別色見表

都道府県別平屋率21位~47位

出典:国土交通省 『建築着工統計調査 / 建築物着工統計』※注に記載の通り

なんと、1位の宮崎県、2位の鹿児島県は2022年に着工された3階建て以下の新築住宅のうち、過半数以上が1階建て、つまり平屋です。九州地方は福岡県を除くすべての県で平屋率3割を超え、上位10位以内にランクイン。続く平屋率が20%を超える20位までの上位グループには、香川県、愛媛県などの四国勢、群馬県、茨城県、栃木県の北関東勢が並びます。全国最下位の東京は1.4%と、新築約71件に1件の割合。そりゃ都内では見かけないはずです。上位の地域はもともと平屋率が高かったことに加え、前述の世帯の少人数化や、家事動線の良さ、冷暖房がワンフロアで完結するため光熱費が低く済むこと、さまざまなメリットが認知され、この8年の間に平屋率は150%~250%ほど上がっています。

■関連記事:
2023年住宅トレンドは「平屋回帰」。コンパクト・耐震性・低コスト、今こそ見直される5つのメリットとは?

熊本地震をきっかけに、揺れに強い平屋の関心が増加。地域独特の気候も影響

では、どうしてこんなに九州で平屋率が高いのか?熊本県で注文住宅を中心に手掛ける工務店、グッドハート株式会社の営業・宮本紬麦さんに聞いてみました。

「同じ九州地方でも地価が高い福岡が上位に入っていないことからも、まず、土地が比較的安く手に入ることが大きいと思います。さらに九州は日常の移動はほとんどが車で平置き3台の駐車場を希望される方がとても多く、ご家族で3台乗るケース、ご家族2台に来客用、という方も多くいらっしゃいます。それから、熊本では、2016年の熊本地震をきっかけに、平屋を希望される人がぐっと増えました。建物が自らの重みでつぶれている様子を目の当たりにして、2階の重みがなく、地震の揺れに強い平屋に、より注目が集まったのです。家が倒壊して建て替えが必要になった人だけでなく、初めてマイホームを持たれる方も、これから建てるなら地震に強い構造がとりやすい平屋がいいと希望される方が増えました」

(写真提供/グッドハート)

(写真提供/グッドハート)

実際、熊本県で震災後に平屋を希望する人が増えたことは話題になっていたそうです。一方、災害といっても、近年多い水害においては、高い建物に避難する必要があり平屋は不利です。ただ、いつ来るかわからない地震に比べ、水害は何日か前から予測でき、早めに避難をすれば命は守れることを考えると、まずは日常の生活のしやすさと、予測不能な有事を優先するというのは合理的です。

台風・火山噴火、地域独特の気候が平屋率にも影響

また、宮崎県、鹿児島県を中心に注文住宅・分譲住宅を手掛ける万代ホームのハウジングアドバイザー西原礼奈さんは、以下のように話します。

「宮崎、鹿児島は、以前から建売住宅やモデルハウスも平屋で建てることが多く、2階建にする場合でも総2階(※1)でなく、一部分だけや、中2階(※2)を取り入れる程度です。これには台風や桜島の噴火などの影響があると思います。壁面は低いほど台風の強風に耐えられます。火山灰が降ってくる地域では、屋根に積もった灰の掃除なども雨どいを守るためには必要で、平屋は高い建物に比べ対処しやすいのです」

(写真提供/万代ホーム)

(写真提供/万代ホーム)

熊本大学 大学院で建築構造・防災建築を研究している友清衣利子教授も、「台風が多い九州は、耐風性の観点から、住宅の高さや屋根の勾配を低く設計する傾向にあります」とコメント。

「九州では、屋根の対策のほかにも、雨戸やシャッターなどで窓やドアなどの開口部を守る建築上の工夫がされているのが一般的です。
さらに、2018年と2019年の台風被害をきっかけに、住宅の耐風性が着目されるようになったと実感しています。国土交通省が屋根の留め付けなどの対策を発表していますが、それらが世の中で反映され、変わっていくのはこれからだと思います」(友清教授)

では、台風と平屋の関係について、気象庁が発表している1951年以降の都道府県別、台風の上陸数上位ランキングを見てみましょう。

※1.総2階/1階部分と2階部分がほぼ同じ面積となる建て方。直方体のような形になる
※2.中2階/階と階の中間に設けられる床部分のことで、スキップフロアともいう。平屋の場合の中2階は、2階がなくロフトのような形状となる

台風の上陸が多い都道府県ランキング

出典/気象庁ホームページ 台風の統計・資料より 統計期間:1951年~2023年第1号台風まで

最も台風の上陸数が多かったのは平屋率2位の鹿児島県、続いて長崎県、宮崎県、熊本県も平屋率が高く、台風の影響を受けやすい地域で平屋率が高いことは明らかです。

ここで疑問が。台風といえば、沖縄県が上位のランキングに入っていないのはどうしてでしょう。気象庁の解説をよく見ると、「上陸」の定義は台風の中心が「北海道、本州、四国、九州の海岸線に達した場合」。小さい島や半島を横切って短時間で再び海に出る場合は「通過」、そして、沖縄県、鹿児島県の奄美地方のいずれかに近づいた(各気象官署等から300 km以内)場合は「沖縄・奄美に接近」と、「接近」という分類になるため、この地域には台風の「上陸」と定義される事象が存在しないようです。

そんな台風の通り道、沖縄といえば、イメージするのは低く構えた赤瓦屋根の平屋に風よけの石垣やブロック塀、屋敷林の伝統的な家。さぞかし平屋率は高かろうと見てみると全国3位。ただ、2014年から2022年の8年の間に平屋率は47.4%から41.7%にダウンしています。ほとんどの都道府県が8年間で平屋率が大きくアップする中、これは何故なのでしょうか。

沖縄の住宅(写真/PIXTA)

沖縄の住宅(写真/PIXTA)

台風接近の多い沖縄県の平屋率がダウンしている理由には、独自の住宅文化とその変化があった!

前出の都道府県別平屋率を全国と沖縄県について住宅の建て方(構造)別に集計してみました。

全国と沖縄県の構造別着工棟数の割合(2014年と2022年の比較)

全国と沖縄県の構造別平屋割合(2014年と2022年の比較)

構造別の着工棟数割合を見ると全国では圧倒的に木造の比率が高く約9割。これはどの都道府県でも同じ傾向です。ところが、沖縄は鉄筋コンクリート造(RC造)、コンクリートブロック造の比率が高く、木造比率は2014年時点で14% と低い、独特な住宅文化を持っています。沖縄県は全国の中でも比較的森林比率が低く、特に木材の生産目的で苗木を植えるなどして人が手を加えている「人工林」の割合は全国一低いのです。

そのため、貴重な木材を再利用しながら家を住み継いでいく「貫木屋(ぬちやー)」という独特の工法が古くから受け継がれてきました。戦後の復興では伝統的な工法でない木造住宅が一時的に増えますが、多湿な気候に合わず白アリ被害が拡大したこと、度重なる台風被害を受けたことからRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)やコンクリートブロック造のニーズが高まっていったことがこの独特な住宅文化の背景です。

ところが近年、コンクリート価格の高騰、本州からのハウスメーカーの進出、木造住宅の工法や建材、防蟻処理の進化などにより木造住宅の割合が急速に増えてきました(2014年14.0%→2022年38.6%)。これら、増加してきた木造住宅が平屋ではなく2階建て以上で建てられていること(木造の平屋率2014年30.9%→2022年16.5%)が、沖縄県の平屋率ダウンの要因です。

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沖縄の家、台風や災害に負けない家づくりを現在・過去に学ぶ

岩手・宮城でも平屋率ダウン、福島県で横ばいとなっている背景には東日本大震災の影響が

沖縄と同じく、平屋率が2014年より下がっている県がほかにもあります。
岩手県 2014年 16.0% →2022年 15.7%
宮城県 2014年 13.6% →2022年 8.8%
また、福島県も 2014年 14.7% →2022年 15.4%と、平屋率はほぼ横ばいです。

市区町村別の人口や着工戸数の変化を見てみると、東日本大震災直後は、被害の大きかった地域の住宅再建が進み、それらの地域は比較的土地区画が広く平屋が建てやすかったのに対し、近年は人口も住宅需要も都市部に集中してきており平屋という形態がとりにくくなっていること、また、宮城県の都市部では新築マンション供給が増加しており、平屋志向が強い高齢者がそれらも選択肢に入れていること等の要因が考えられます。

割高とされていた平屋の価格は2階建て並に。メンテナンスしやすさも魅力(写真撮影/片山貴博)

(写真撮影/片山貴博)

このように、都道府県によって事情は違えど、全国的にはますますシェアが高まる平屋は、その家事動線の良さ、地震や風などへの強さ、コンパクトなことで光熱費を抑えられることなど時代に合った魅力が多く、検討してみたいと思っている人も多いかと思います。ただ、私がかつて工務店に取材した際には、例えば100平米の平屋を、1階50平米、2階50平米の総2階建てと比べた場合、建築コストは1.2倍程度と割高になる、と聞いたことがあります。理由は、平屋は基礎部分や屋根の面積が大きいことによる材料費や施工費の増加。実際今もそうなのでしょうか?

「施工方法や工務店によって一概には言えませんが、当社の場合では、同じ面積ならば平屋も2階建てもほとんど坪単価は変わりません。確かに屋根や基礎の大きさは平屋の方が大きいのですが、平屋の場合、工事用の足場が低く済むこと、高所作業が減ることで建物の施工費が安く済むんです。メンテナンスにおいても、約10年ごとに必要な壁の塗り替えも大きな足場作りは不要ですし、屋根修理にも同じことが言えます。また近年注目が集まっている太陽光パネルは、床面積に対して屋根が広い平屋は広く置くことができ、発電できる量において有利です」とグッドハート宮本さん。

建設作業現場での事故を無くすために建設現場には「労働安全衛生規則」という詳細なルールを守ることが義務付けられているのですが、墜落・転落防止のための足場の作り方や管理については法改正がたびたび行われており、今後もさらに強化される予定です。
このような変化がある中で、平屋は割高とは限らなくなってきているんですね。

ちなみに、SUUMOジャーナルの人気記事ランキングでも、4月~6月は平屋の実例記事の数々が上位を占拠しました。東京にいると、平屋の人気は実感しがたく、実例紹介を始めてからの反響の多さには本当に驚きました。地域独特の住宅文化は気候や時代の影響も強く受けていることがわかり、私たちもさまざまな情報をアップデートしていかねばと強く実感した取材でした。

●取材協力
・グッドハート
・万代ホーム
・熊本大学大学院 先端科学研究部 物質材料科学部門 建築構造・防災分野 友清 衣利子教授

●関連サイト
・林野庁ホームページより都道府県別森林率・人工林率(平成29年3月31日現在)

広島県・広島市「住みたい街ランキング2023」駅1位は再開発進む広島駅! 尾道、天神川、五日市がランクアップの背景は?

「住みたい街ランキング」広島県版/広島市版が3年ぶりに発表された。広島駅周辺の再開発や広島市中区のサッカースタジアムの建設など、大きな開発案件が進行中の広島。ここ数年内の完成を控えた開発が多く、工事が着々と進むなか、住民の期待値も増している。そんな中での調査で、広島に暮らす人が「住みたい街」として挙げたのはどんな街なのか、調査の詳細をチェックしてみよう。

「住みたい街(駅)ランキング」、新駅ビルが2025年春に完成予定の広島駅が1位に! 

広島県 住みたい街(駅)ランキング

「住みたい街(駅)ランキング」で、2位以下に大差をつけて1位になったのは広島駅。現在、駅ビル及び駅前広場の工事が行われており、2025年には新駅ビルがお目見え予定だ。2階部分に広島電鉄の路面電車が高架で乗り入れる計画で、それに伴って駅前大橋を直進する新たな鉄道路線も整備中。完成後には駅前の風景は大きく様変わりしそうだ。

工事が進む広島駅南口の様子。奥がホテル棟で、手前の低い建屋の横に、路面電車が乗り入れる部分がつくられる。2023年3月撮影(画像/PIXTA)

工事が進む広島駅南口の様子。奥がホテル棟で、手前の低い建屋の横に、路面電車が乗り入れる部分がつくられる。2023年3月撮影(画像/PIXTA)

建て替え後の広島駅新駅ビルと南口広場、路面電車「駅前大橋線」のイメージ(画像/JR西日本) ※完成予想図(パース)は計画時・完成前イメージのため、実際とは異なる場合がある

建て替え後の広島駅新駅ビルと南口広場、路面電車「駅前大橋線」のイメージ(画像/JR西日本) ※完成予想図(パース)は計画時・完成前イメージのため、実際とは異なる場合がある

広島駅はJRの山陽新幹線と山陽本線、可部線、芸備線、さらには広島電鉄の各路線が乗り入れるターミナル。広島空港方面へのリムジンバスを始め、各方面への高速バスや路線バスの起点でもあり、駅の北側には、山陽自動車道に接続する広島高速5号線の整備も進む。まさに広島の陸の玄関口だ。

さらに、駅前の「エールエールA館」には中央図書館の移転計画があり、駅東側のフタバ図書跡地にはアパホテルによる高層ホテル、駅の北側では住友不動産ほかによるマンションや商業施設などの複合施設の計画も発表されている。新駅ビルにはホテルやシネコン、商業施設や駐車場なども予定されており、広島駅周辺の暮らしはますます充実したものになりそうだ。

広島駅は広島東洋カープの本拠地、Mazda Zoom-Zoomスタジアムの最寄駅でもある(画像/PIXTA)

広島駅は広島東洋カープの本拠地、Mazda Zoom-Zoomスタジアムの最寄り駅でもある(画像/PIXTA)

天神川や五日市など、商業施設が充実した街がランクアップ

2位は広島県第2の都市である福山の中心駅・福山駅、3位は複数の鉄道路線やバスターミナルを要する横川駅で、広島駅同様、前回ランキングからの変化はない。4位以下を見てみても、顔ぶれには大きな変化はないが、そんな中でも、「天神川」は5位から4位、「尾道」は7位から6位、「五日市」は10位から8位に順位を上げている。

4位の天神川駅は広島駅の隣駅で、自治体サービスや子育て施設の充実などでも注目度の高い、安芸郡府中町の入口となる駅。街の中心部には路面店の商業施設も多いほか、駅から歩いて行ける場所に、広島県内最大級の規模となるイオンモール広島府中があるのも人気の理由のひとつだろう。

6位の尾道は広島の人気観光地のひとつで、尾道水道を見下ろす傾斜地に広がる坂の街。移住者の受け入れにも力を入れており、県内外からの移住者が、古い建物をリノベーションして新たな店を開くケースも多い。近年はしまなみ海道を目指すサイクリストの拠点としても有名で、サイクリスト向けのホテルを備えた商業施設も人気を集めている。「住んでみたい」という気持ちを刺激する、個性のある街だ。

尾道水道に面した倉庫を改装してつくられた商業施設「ONOMICHI U2」(画像/PhotoAC)

尾道水道に面した倉庫を改装してつくられた商業施設「ONOMICHI U2」(画像/PhotoAC)

8位の五日市駅は広島市佐伯区の中心駅で、広島駅までは山陽本線で15分。広島造幣局前のコイン通りや国道2号線沿いなど、エリア内にはスーパーや飲食店など商業施設が充実し、石内地区のアウトレットモールや、西区のアルパーク、LECTといった大型ショッピングモールも利用圏。八幡川沿いの豊かな自然も身近にあり、利便性と環境のよさが共存する、暮らしやすい街だ。

広島造幣局では毎年「花のまわりみち」で、八重桜を中心とした敷地内の桜を公開している(画像/PIXTA)

広島造幣局では毎年「花のまわりみち」で、八重桜を中心とした敷地内の桜を公開している(画像/PIXTA)

このほか、20位までにランクインしている新井口や廿日市、下祗園、緑井なども、大規模な商業施設が存在するエリア。日々の買い物のしやすさがイメージできることが、住みたいと感じるベースのひとつになっているようだ。

「住みたい自治体ランキング」では、再開発が加速する「広島市中区」が1位に

広島県 住みたい自治体ランキング

「住みたい自治体」のランキングを見てみると、広島市中区がダントツの1位に。そのほか、ランキング上位の自治体の顔ぶれは、前回調査から大きな変化は見られない。

広島市中区は、行政機関や商業施設が集中する、広島の最中心部となるエリアだ。なかでも、紙屋町・八丁堀エリアは国が定める「都市再生緊急整備地域」に指定され、戦後以来の老朽化したビルの建て替えや、周辺の再開発が加速している。

基町の市営駐車場周辺では、広島商工会議所の移転に伴い、地上31階となる複合ビルが計画されている。広島YMCA周辺でもビル3棟の再開発、本通り商店街の入口付近でも、商店街を挟んで南北に2棟のビルを建てる計画が上がるなど、ビル開発の話題は尽きない。

広島サンモール周辺や、天満屋八丁堀ビルや広島三越を含むエリアの再開発、この夏に閉館するそごう広島店新館のその跡等、歴史ある商業施設にも再開発の動きがあり、市内中心部はこの後も大きく姿を変えていくことになりそうだ。

新サッカースタジアムが2024年開業! 街なかでの過ごし方に変化も

さらに、今広島の人の大きな関心の的となっているのは、中区基町エリアで工事が進む、新しいサッカースタジアムだろう。広島東洋カープが新スタジアムの建設後に大きく人気を伸ばした実績もあり、ワールドカップで熱を帯びたサッカー人気を加速し、サンフレッチェ広島の盛り上がりに期待する声は大きい。

スタジアムと併せて、隣接の広場エリアの整備や、旧太田川沿いの水辺活用なども計画されており、試合のある日だけでなく、普段から市民が気軽に利用できるスポットとして、注目が高まっている。

中央公園に計画されている新サッカースタジアムと広場エリア(画像/広島市)※完成予想図(パース)は計画時・完成前イメージのため、実際とは異なる場合がある

中央公園に計画されている新サッカースタジアムと広場エリア(画像/広島市)※完成予想図(パース)は計画時・完成前イメージのため、実際とは異なる場合がある

また、一足先に2023年3月には、旧広島市民球場跡地に、イベント広場を中心とする「ひろしまゲートパーク」がオープン。旧広島市民球場の記憶を継承しつつ、オープンエアでも楽しめるカフェや飲食店、ストリートスポーツを楽しめるエリアや、築山などで遊べるこどもひろば等も整備され、イベントのない日でも、気軽に出かけて気軽に遊ぶ、新しい外遊びのスタイルが定着しつつある。

さらに、広島城の三の丸エリアにも新たな商業施設の計画があり、これらの施設はペデストリアンデッキで繋がっていく。広島市中区に広がる、この中央公園周辺エリアが、広島の街なかの過ごし方に大きな影響を与えることは間違いなさそうだ。

変わりゆく街なかのの風景の中で、古い街並みの残るエリアに“穴場”イメージ

広島県 穴場だと思う街(駅)ランキング

ランキングでは、交通利便性や生活利便性が高いのに家賃や物件価格が割安なイメージがある駅についても調査している。結果、1位となったのは横川駅。総合順位でも3位にランクインしている、交通アクセスのよい街だ。

利便性の良さの一方で、横川駅周辺には歴史ある商店街が今も存在しており、人情味のあるコミュニティが息づく。ハロウィンに行われる「ゾンビナイト」や、梯子酒イベント、川沿いのマルシェのように、商店街などが中心となって行われるイベントもあり、独自の文化が根付く街でもある。

駅の北側や、広瀬北町、中広町といった周辺エリアには、中心部に近い割にまだまだ古い建物も多く残る。まとまった土地の少ない広島の中心部にあって、宅地やマンション化などに余力を残しているイメージがあることも、“穴場”と考えられるポイントかもしれない。

同様に5位の海田市も、山陽本線または呉線の2路線利用ができ、広島から約9分の交通アクセスのよい駅。瀬野川沿いの美しい自然や、「かいた七夕さん」など街独自のお祭りもあり、西国街道沿いの古い街並みも面影を残している。隣接する安芸郡府中町で宅地などの流通が少なくなっているなか、暮らしやすく、宅地・住宅開発にポテンシャルを感じる街として、認知されているようだ。

2024年以降、続々と大きな開発案件が完成を迎える広島。交通利便性の向上や、買い物する楽しさ、外遊びの新たな可能性など、広島の街暮らしはより一層充実したものになりそうだ。一方で、大型ショッピングモールのある街など、日々の買い物のしやすさも「住みたい街」のポイント。宅地やマンション、一戸建てなどを検討する際は、開発の中心地から少しだけ離れたエリアまで範囲を広げることで、買い物の利便性を確保し、開発の恩恵を受けられる選択肢を増やして、住まい探しができるかもしれない。

●関連ページ
SUUMO住みたい街ランキング2023 広島県版/広島市版

世界基準の超省エネ住宅「パッシブハウス」を30軒以上手掛けた建築家の自邸がスゴすぎる! ZEH超え・太陽光や熱エネルギー活用も技アリ

夏涼しく冬暖かい快適さと、世界基準の超省エネを両立した、ドイツ発祥の「パッシブハウス」。これまで30軒以上のパッシブハウス計画に携わってきたパッシブハウス・ジャパン代表理事の森みわさんが、長野県軽井沢町に自ら設計したセカンドハウスをつくったと聞き、お邪魔してきました。
高次元な断熱性能と、斬新な熱供給システム、自然素材や自然のエネルギーを取り入れたデザイン……パッシブハウスの最新の取り組みを見ていきましょう。

似ているようで異なる、パッシブハウスと省エネ住宅軽井沢町追分に完成した「信濃追分の家」。資料が整い次第、パッシブハウス認定の申請を行う予定(写真撮影/新井友樹)

軽井沢町追分に完成した「信濃追分の家」。資料が整い次第、パッシブハウス認定の申請を行う予定(写真撮影/新井友樹)

ルームツアーの前に、パッシブハウスは日本でいう省エネ住宅と何が違うのか、改めて整理してみましょう。
まず、省エネ住宅とは、高断熱・高気密につくられ、エネルギー消費量を抑える高効率設備を備えた住宅のこと。対してパッシブハウスは、太陽や風など自然の持つ力を建物に取り入れて、必要とするエネルギーを最小化。さらに高断熱・高機密、熱ロスの少ない換気システムなどを駆使してエネルギー消費量を抑える、というアプローチの違いがあります。

「ヨーロッパでは、ゼロエネルギーハウス(エネルギー収支をゼロ以下にする家)・プラスエネルギーハウス(プラスにする家)への足掛かりとして、パッシブハウスがあります。少ないエネルギーで快適に暮らせるパッシブハウスの普及がまずあって、その先に創エネハウス(※)があるという位置付けです」と森さん。

※創エネハウス…太陽光パネルなどでエネルギーをつくり出すことができる住宅

省エネルギーを実現するために、高い断熱性能が必要ということは、共通事項です。
国が定める省エネ基準は、2025年以降すべての新築住宅に「平成28(2016)年基準」の適合が義務づけられます。2030年頃までには、さらにZEH(ゼッチ/エネルギー収支をゼロ以下にする家)基準(断熱等級5、一次エネルギー消費量等級6)まで引き上げるとしていますが、それだけでは不十分だと森さんは言います。

パッシブハウス・ジャパン代表の森みわさん。セカンドハウスの場所は、外気温が低くても日射量が豊富で、移住者が多くコミュニティが形成しやすい軽井沢町を選んだ(写真撮影/新井友樹)

パッシブハウス・ジャパン代表の森みわさん。セカンドハウスの場所は、外気温が低くても日射量が豊富で、移住者が多くコミュニティが形成しやすい軽井沢町を選んだ(写真撮影/新井友樹)

「ZEHで地域ごとにUA値(外皮平均熱貫流率)を定めて断熱性能を高めようというのは、家を魔法瓶化するという意味で良い方向に向かっています。ただ、例えば同じ地域にあっても家を180度回してみれば全然条件が違うはずなのに、家の向き、近隣に住宅や樹木があるか、樹木は落葉樹か常緑樹か、夏と冬で日射量がどれだけ違うかは考慮されません。

『太陽と風に素直に設計する』ということを大切にするパッシブハウスでは、PHPP(Passive House Planning Package)というシミュレーションソフトを使って、建設する場所の標高、気象条件、月ごとの日射量、周辺環境、家族構成に給湯需要まで、あらゆる個別の条件を入力して温熱計算をしています。それはもうシビアに。そうやって建物のエネルギー収支を厳密に予測しながら設計して、入居後の実測値とのギャップをなくしているのです」

日本の省エネ基準の数倍もの温熱性能・省エネ性能が求められるパッシブハウスは、その土地の条件に合わせてオーダーメイドで設計され、冷暖房に頼らずとも年中快適に過ごすことができる“究極のエコハウス”というわけです。

階段まわりのアースカラーが木のぬくもりのアクセントに(写真撮影/新井友樹)

階段まわりのアースカラーが木のぬくもりのアクセントに(写真撮影/新井友樹)

今回訪問した森さんの別邸「信濃追分の家」は、これまで森さんが設計を手掛けてきた中での発見を踏まえ、パッシブハウスの進化形をめざしたといいます。コンセプトである「パッシブハウス+α」を実現するための、具体的なメソッドを6つ教えてもらいました。

メソッド1 南から45度振れた敷地で、太陽光を最大限に味方につけるコーナーガラス真南に向いた大きなコーナーガラス。この家の象徴的存在でもある(写真撮影/新井友樹)

真南に向いた大きなコーナーガラス。この家の象徴的存在でもある(写真撮影/新井友樹)

まずリビングに入ると、斜めに向いた階段が目に飛び込みます。実はこの敷地、南から45度振れたロケーション。そこで、階段室を真南に向けて、2階のコーナーガラスの大開口から各方向に光が差し込むようにレイアウトしています。建物角からの日射によって、冬の暖房エネルギーを積極的に取得する工夫です。

階段室の吹き抜けには、照明作家・鎌田泰二さん制作の大きなペンダント照明を。ブラインドがなくても、ほどよい目隠しになった(写真撮影/新井友樹)

階段室の吹き抜けには、照明作家・鎌田泰二さん制作の大きなペンダント照明を。ブラインドがなくても、ほどよい目隠しになった(写真撮影/新井友樹)

蜜蝋仕上げの鉄の手すりがシンプルでかっこいい(写真撮影/新井友樹)

蜜蝋仕上げの鉄の手すりがシンプルでかっこいい(写真撮影/新井友樹)

2階の間取りはこの階段室を中心に、東西にシンメトリーになるよう居室を配しています。1階には間仕切りの壁はなく、軸がずれたようなこの階段室が、玄関、和室、キッチン、リビングといった領域をやんわりと区画し、視線を切る役割を担っています。おかげで、開放的でありながら落ち着いた、居心地のいい空間になっているのですね。

「軽井沢の冬の厳しい外気温にも関わらず、この向きの敷地を選んだのは、“エコハウスの意匠は自由である”というメッセージを放つための挑戦だったかもしれません」と森さん。真南向きじゃなくてもパッシブハウスはつくれるし、自由で堅苦しくないデザインも叶う。そんな証となった実例です。

リビングの大きな開口部は敷地の向きに素直につくり、階段室を真南にレイアウト(写真撮影/新井友樹)

リビングの大きな開口部は敷地の向きに素直につくり、階段室を真南にレイアウト(写真撮影/新井友樹)

メソッド2 バイオマス燃料と太陽熱、太陽光とEV車でエネルギーを地産地消森さんによるスケッチ「信濃追分の家リニューアブル(再生可能エネルギー)・マックスな設備計画」。冷暖房は熱交換換気装置に内蔵され、1台のヒートポンプで全館空調が完結しているため、ペレットストーブは給湯器として位置付けられている(画像提供/KEY ARCHITECTS)

森さんによるスケッチ「信濃追分の家リニューアブル(再生可能エネルギー)・マックスな設備計画」。冷暖房は熱交換換気装置に内蔵され、1台のヒートポンプで全館空調が完結しているため、ペレットストーブは給湯器として位置付けられている(画像提供/KEY ARCHITECTS)

この家の最大の特徴といえるのが、ペレットストーブと太陽熱集熱器による熱供給を取り入れて、給湯と補助暖房に充てていること。ガス給湯器は設置していません。太陽光発電パネルは搭載しているものの、電気を熱に変える割合は大幅に減らしています。

イタリア製のペレットストーブは、玄関スペースにビルトイン(写真撮影/新井友樹)

イタリア製のペレットストーブは、玄関スペースにビルトイン(写真撮影/新井友樹)

Wi-Fi経由で着火操作が可能。冬、太陽熱が足りない場合は夕方着火するようタイマーを入れると、2~3時間でお風呂のお湯が沸き、余力で壁暖房としても放熱(写真撮影/新井友樹)

Wi-Fi経由で着火操作が可能。冬、太陽熱が足りない場合は夕方着火するようタイマーを入れると、2~3時間でお風呂のお湯が沸き、余力で壁暖房としても放熱(写真撮影/新井友樹)

信州らしい熱源を、と選んだペレットストーブ。炎の揺らぎは見ているだけでほっとする。燃料は地域で購入することで、地域内でのエネルギー自活が可能に(写真撮影/新井友樹)

信州らしい熱源を、と選んだペレットストーブ。炎の揺らぎは見ているだけでほっとする。燃料は地域で購入することで、地域内でのエネルギー自活が可能に(写真撮影/新井友樹)

外気温の影響を受けにくい太陽熱集熱器。集熱管の外側が真空になっていて断熱効果に優れている。なかなかインパクトのある佇まい(写真撮影/新井友樹)

外気温の影響を受けにくい太陽熱集熱器。集熱管の外側が真空になっていて断熱効果に優れている。なかなかインパクトのある佇まい(写真撮影/新井友樹)

玄関にビルトインされたペレットストーブは、16畳用エアコン並みのパワーがあり、温水出力に対応。燃焼エネルギーの8割を温水に、残り2割が輻射暖房として放熱されます。庭に設置した太陽熱集熱器は、真空ガラス管内のヒートパイプが太陽光により加熱され、不凍液を温め循環させるもの。
木質バイオマスと太陽光という再生可能エネルギーを温水という熱エネルギーに変えて、キッチンにある300Lのタンクに熱を貯湯していく仕組みです。

ペレットストーブと太陽熱集熱器からの温水を集める貯湯タンク。この家ではあえて見えやすいよう、キッチンに設置(写真撮影/新井友樹)

ペレットストーブと太陽熱集熱器からの温水を集める貯湯タンク。この家ではあえて見えやすいよう、キッチンに設置(写真撮影/新井友樹)

左奥のドアの先が貯湯タンクのスペース。シンクには95℃まで対応の熱湯栓も付いていて、煮炊きに必要なお湯は一瞬で沸いてしまう(写真撮影/新井友樹)

左奥のドアの先が貯湯タンクのスペース。シンクには95℃まで対応の熱湯栓も付いていて、煮炊きに必要なお湯は一瞬で沸いてしまう(写真撮影/新井友樹)

田舎暮らしに欠かせない車は、電気自動車を導入。V2H(Vehicle to Home)を実現している(写真撮影/新井友樹)

田舎暮らしに欠かせない車は、電気自動車を導入。V2H(Vehicle to Home)を実現している(写真撮影/新井友樹)

もうひとつ注目したいのが、電気自動車を蓄電池に見立てていること。屋根の東西に載せた3.8kWの太陽光パネルで発電した電気は、主に照明と冷蔵庫、換気システムに使用します。「それらの消費電力はだいたい400Wとして、15時間で6kWh。EV車のバッテリー40kWhのうち6kWhをまわせばいいのですから、夜間に車から家に送る量としては大した量ではありません」と森さん。冬の夜間に仮に暖房を切っても、翌朝の室温は1~2℃も下がらないパッシブハウスだからこそ実現できるライフスタイル。
「ただし、オフグリッド仕様にはしていません。数日間曇りの日が続けば、発電量は低下します。そういうときは電力会社に頼る。逆に発電して余った分は渡すこともできる」

太陽光・熱エネルギーを最大限活用し、電力系統ともつながりながら、無理のない範囲でエネルギー自立している家なのです。

メソッド3 高性能の家は床暖不要!土壁暖房パネルを日本初導入無垢のフローリングが素足に心地いい(写真撮影/新井友樹)

無垢のフローリングが素足に心地いい(写真撮影/新井友樹)

建物自体の性能が高いパッシブハウスは、床暖房がなくても、窓辺も頭上も室温がほぼ同じ、温度ムラがないのが特徴です。「もう床から温める必要がそもそも無いですし、実は木の床は、床下から温めようとしても断熱してしまうのです。ここはヨーロピアンオークの無垢フローリングを使っていて、木は熱伝導率が低い。だから床暖房にすると放熱の効率が悪いんです」と森さん。
かわりに導入したのが、ドイツ製の土壁暖房パネルによる輻射式暖房です。給湯がメインのペレットストーブですが、余ったお湯はこの土壁暖房の熱源として使われます。パネルは厚みのある自然素材のため、調湿性、蓄熱性も期待できそうです。

立てかけてあるオブジェのようなものは、土を高圧でプレスして製造されたドイツ製の土壁暖房パネル。温水配管を効率よく巡らせるよう掘り込みがついているのが特徴で、これを補助暖房として壁面に埋め込んでいる(写真撮影/新井友樹)

立てかけてあるオブジェのようなものは、土を高圧でプレスして製造されたドイツ製の土壁暖房パネル。温水配管を効率よく巡らせるよう掘り込みがついているのが特徴で、これを補助暖房として壁面に埋め込んでいる(写真撮影/新井友樹)

暖房パネルは1階の北側にある和室と2階の洗面脱衣所の漆喰塗り壁内部に設置。ゲストが宿泊する部屋と、服を脱ぐ脱衣室の室温を、冬場にほんの少し上げられるようにと配慮した設計(写真撮影/新井友樹)

暖房パネルは1階の北側にある和室と2階の洗面脱衣所の漆喰塗り壁内部に設置。ゲストが宿泊する部屋と、服を脱ぐ脱衣室の室温を、冬場にほんの少し上げられるようにと配慮した設計(写真撮影/新井友樹)

メソッド4 信州カラマツのサッシ+仏・サンゴバン社製のガラスで美しく窓断熱トリプルガラスに、信州カラマツの木製サッシ。かなりの厚みがあるのがわかる(写真撮影/新井友樹)

トリプルガラスに、信州カラマツの木製サッシ。かなりの厚みがあるのがわかる(写真撮影/新井友樹)

リビングの大きな窓の先はウッドデッキ。軒の長さも日射に合わせて緻密に計算されている(写真撮影/新井友樹)

リビングの大きな窓の先はウッドデッキ。軒の長さも日射に合わせて緻密に計算されている(写真撮影/新井友樹)

断熱性に優れた木製サッシは、長野県千曲市の山崎屋木工製作所によるもの。長野県産材のカラマツの美しい木目がぬくもりを感じさせます。ガラスは、仏・サンゴバン社製のトリプルガラスECLAZを採用。一般的なトリプルガラスより熱貫流率が低く高断熱、さらにペアガラス並みに日射熱取得率が高い、高性能ガラスです。
「しかも高透過なミュージアムガラスのため、非常に景色が良く見えるという特徴もあります」(森さん)。映り込みの少ないクリアな窓からは、軽井沢のみずみずしい緑が鮮やかに眺められます。

コーナーガラスの左右はサンゴバン社製のトリプルガラス、中央は安曇野市の丸山硝子の技術で実現したガラスコーナーだが、諸事情により日本板硝子のトリプルガラスとなった。中央のガラスだけ少し室内の映り込みがあるのがわかる(写真撮影/新井友樹)

コーナーガラスの左右はサンゴバン社製のトリプルガラス、中央は安曇野市の丸山硝子の技術で実現したガラスコーナーだが、諸事情により日本板硝子のトリプルガラスとなった。中央のガラスだけ少し室内の映り込みがあるのがわかる(写真撮影/新井友樹)

木製サッシが絵画のフレームのよう(写真撮影/新井友樹)

木製サッシが絵画のフレームのよう(写真撮影/新井友樹)

ドイツのヘーベ・シーベ金物の技術により隙間なくぴったり閉まるエアタイトサッシ。空気や熱、音をシャットアウト(動画撮影/塚田真理子)メソッド5 田舎暮らしをより豊かにする“パッシブセラー”ワインや食料の保管庫として活用できるセラーは、待望のスペース(写真撮影/新井友樹)

ワインや食料の保管庫として活用できるセラーは、待望のスペース(写真撮影/新井友樹)

高い断熱性と気密性により、夏季は25℃、冬季は20℃前後と、家中の温度ムラがないのがパッシブハウスのメリットですが、実は保存食の保管が難しいところでした。漬物や味噌などの食品を保管したくても、室温だと傷みが早いので冷蔵庫に入れないといけないと以前クライアントに言われてしまったのです。

でも、田舎暮らしをするとなれば、自分で仕込んだ発酵食品を置きたいとか、たくさん採れた野菜を保管したいという声は多い、と森さんは言います。そこで、基礎の断熱材をあえて取って、自然の温度変化にまかせた“パッシブセラー”を階段下に設けたのが、今回の新たなチャレンジ。

「軽井沢は凍結深度が80cmでこの家は基礎も深いので、建物直下の土中の温度変化が少ないという特徴があります。昔ながらの床下空間のような感覚ですね」。エアコンで温度管理せずとも、室内よりも7℃ほど低い空間が完成しました。ワインセラーとしても活用できそうです。

メソッド6 防音して空気は逃す。プライバシーと換気を叶える、革新的な室内ドアドア下に隙間はなく、かわりに縦のスリットから一定方向に空気を逃す(写真撮影/新井友樹)

ドア下に隙間はなく、かわりに縦のスリットから一定方向に空気を逃す(写真撮影/新井友樹)

2階の寝室と洗面室のドアには、通気機能を持つ革新的なドア「VanAir」を導入しました。従来の室内ドアは、閉めた状態でも換気ができるよう、ドアの下部に1cmほどの隙間を設けているのが一般的。このドアは、表と裏で互い違いに縦のスリット(通気口)があり、空気はドアの芯を経由して反対側へと流れる仕組み。24時間、空気は一定の方向に流れ、においや淀みもしっかり排気してくれるのです。かつ、防音性能を備えており、音漏れの心配もありません。

ドア下に隙間はなく、かわりに縦のスリットから一定方向に空気を逃す(写真撮影/新井友樹)

ドア下に隙間はなく、かわりに縦のスリットから一定方向に空気を逃す(写真撮影/新井友樹)

洗面脱衣室、バスルームの空気もスムーズに排気され、一年中結露やカビとも無縁(写真撮影/新井友樹)

洗面脱衣室、バスルームの空気もスムーズに排気され、一年中結露やカビとも無縁(写真撮影/新井友樹)

クローゼット上の木ルーバーのうしろは、熱交換換気から新鮮空気を各部屋に供給する給気グリル。ここから供給された空気は脱衣室等のウェットエリアの排気口へと流れる(写真撮影/新井友樹)

クローゼット上の木ルーバーのうしろは、熱交換換気から新鮮空気を各部屋に供給する給気グリル。ここから供給された空気は脱衣室等のウェットエリアの排気口へと流れる(写真撮影/新井友樹)

なお、換気システムには、室内の熱をリサイクルしながら室内と室外の空気を入れ替える「Zehnder CHM200」を使用。換気ユニットにヒートポンプを組み込んだもので、熱交換換気、冷暖房、除湿、空気清浄が1台で行えます。
基本的には自動制御ですが、タッチ式パネルで操作も可能です。

取材時(6月下旬)の室温は24.5℃、湿度53%。真価が問われる冬が楽しみ(写真撮影/新井友樹)

取材時(6月下旬)の室温は24.5℃、湿度53%。真価が問われる冬が楽しみ(写真撮影/新井友樹)

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世界基準の“超省エネ住宅”パッシブハウスの高気密・高断熱がすごい! 190平米の平屋で空調はエアコン1台のみ

家族が集う家、ずっといたくなる家新しい挑戦がたくさん詰め込まれた家(写真撮影/新井友樹)

新しい挑戦がたくさん詰め込まれた家(写真撮影/新井友樹)

大きな窓がもたらす開放感、気持ちのよさは、何ものにも変え難い(写真撮影/新井友樹)

大きな窓がもたらす開放感、気持ちのよさは、何ものにも変え難い(写真撮影/新井友樹)

信濃追分の家の設計期間は約1年、施工工事は10ヵ月ほど。初挑戦の取り組みも多く、建築費はおよそ5,500万円。一般的には、パッシブハウスの建築費は新築住宅+1.5~2割というのが目安だそうです。毎月の光熱費は月1万円以内と、ランニングコストはかなり抑えられる見込み。ただ、目に見える数字以上に一年中過ごしやすく、その快適さはプライスレスなもの、と森さんは言います。

「パッシブハウスに住んでいる方のお話を聞くと、朝スッと布団から出られるようになった、冷え性が治ったという声が多いですね。あとは、家があまりにも快適だから家にずっといたくて、会社を辞めて自宅でできる仕事を始めたとか、孫がしょっちゅう遊びに来るようになった、という声も。家族が集う家、といえるかもしれません」
パッシブハウスが心身にいい影響を与えてくれたり、大袈裟ではなく人生が変わったりすることもあるのですね。

信濃追分の家は、今後体験宿泊も受け入れていく予定だそうです。パッシブハウスを検討したい方は、一度この心地よさを体感してみてはいかがでしょうか。

明るいリビングで仕事をすることも多い森さん(写真撮影/新井友樹)

明るいリビングで仕事をすることも多い森さん(写真撮影/新井友樹)

さらに近い将来、太陽光でつくる余剰電力を分解してメタンガスをつくる、Power to Gasにも着目しているという森さん。こちらはまずパッシブタウン(富山県黒部市の集合住宅)での挑戦を見守りたいとのことですが、次々と新たな可能性を追求する森さんの取り組みに注目したいと思います。

●建物概要
在来木造2階建て
【フラット35】S適合(耐震等級3)
建築面積:88.04平米
延床面積:129.58平米
敷地面積:519.61平米

現在、2012年竣工の福岡パッシブハウスでは新オーナーを募集中。価値のわかる方にぜひ引き継いでほしい、と森さんは言う(画像提供/KEY ARCHITECTS)

現在、2012年竣工の福岡パッシブハウスでは新オーナーを募集中。価値のわかる方にぜひ引き継いでほしい、と森さんは言う(画像提供/KEY ARCHITECTS)

(画像提供/KEY ARCHITECTS)

(画像提供/KEY ARCHITECTS)

●取材協力
パッシブハウス・ジャパン
KEY ARCHITECTS

タイニーハウスが旭川市の田園地帯にポツン、なぜ? 冬はマイナス25度でも快適か住人に聞いてみた 北海道

「いつかこんな暮らしがしてみたいという願いが叶いました」
満面の笑顔でそう語るのは、北海道旭川市の田園地帯にポツンと置かれたタイニーハウスの住人、曽根優希さんだ。牽引可能なこのタイニーハウスは、さまざまな人の手を経て、いまこうしてここにある。なぜ、タイニーハウスがつくられたのか? 冬には極寒の環境で果たして暮らしが成り立つのか? タイニーハウスをめぐる物語を紐解くと、そこにはシンプルな生き方を追い求める眼差しがあった。

新たなライフスタイル求めて、タイニーハウスプロジェクトが始動

さえぎるものが一切なく、遥か遠くの山並みが見渡せる田園地帯に、白とピンクベージュの外壁のタイニーハウスがある。設置されたのは2019年。なぜ、この場所にタイニーハウスが置かれるようになったのか、まずはそのストーリーを見ていこう。

旭川の市街地から車で15分ほどのところに2棟のタイニーハウスがある。左の棟に曽根さんが暮らしており、右はゲストの宿泊スペースとして利用されている(撮影/久保ヒデキ)

旭川の市街地から車で15分ほどのところに2棟のタイニーハウスがある。左の棟に曽根さんが暮らしており、右はゲストの宿泊スペースとして利用されている(撮影/久保ヒデキ)

始まりは5年前。企画したのは、東京在住で映画監督の松本和巳さん。
きっかけは、松本さんが当時制作中だった映画『single mom 優しい家族。』で出会った女性たちの声を聞いたことだった。シングルマザーへの取材をもとに脚本をつくるなかで、彼女たちが社会で生きづらさを感じている現実を知ったという。
「人と比べてしまうことでコンプレックスが生まれ、それが必要以上に心を苦しめている」と感じたという。そこから人の気持ちを癒やしたり変えていくための、新たなライフスタイルの提案をしてみたいという思いが芽生えた。

株式会社マツモトキヨシ(現株式会社マツキヨココカラ&カンパニー) 取締役、衆議院議員を務めたほか、劇団「劇団マツモトカズミ」を立ち上げ、また映画監督、ソーシャルイノベーターとして今は活躍(写真提供/一般社団法人シンプルライフ協会)

株式会社マツモトキヨシ(現マツモトキヨシホールディングス) 取締役、衆議院議員を務めたほか、劇団「劇団マツモトカズミ」を立ち上げ、また映画監督、ソーシャルイノベーターとして今は活躍(写真提供/一般社団法人シンプルライフ協会)

映画『single mom 優しい家族。』の予告編。北海道ニセコ町でロケを行った。

これまでとは違う“新たなライフスタイル”とは何か。そのヒントを探るべく、松本さんが赴いたのはアメリカ オレゴン州・ポートランド。個人個人の価値観を尊重する魅力的な街として知られるここで、5棟の個性的なタイニーハウスが置かれたホテルを訪ねた。旅行者たちが心から解放された様子で、思い思いに交流する姿に触れたという。

「タイニーハウスは、シンプルなライフスタイルを実現するためのツールであると感じました。このとき、身の回りのものをシンプルにすることから、人と比べない、自分なりの生き方が見つかるんじゃないかと思いました」(松本さん)

アイデアが実現に向かい始めたのは、『single mom 優しい家族。』のロケ地であった北海道ニセコ町で、市川範之さんに出会ったことだ。市川さんは道内でも指折りのドローンの技術者で、松本さんの映画撮影に協力。また旭川で農薬に頼らない米づくりや糖質の吸収を抑える機能性米を開発するなど、新たな農業や暮らしのあり方の模索もしていた。そんな市川さんと松本さんは意気投合。映画撮影が終わっても交友は続き、市川さんの地元である旭川を松本さんは訪ねた。そのとき、都市にも近く、大雪山系のダイナミックな山並みも見え、自然と街が調和するポートランドと似たポテンシャルを感じたという。

市川範之さん。農業生産法人市川農場の代表取締役。現在タイニーハウスは市川農場の敷地に置かれている(写真提供/一般社団法人シンプルライフ協会)

市川範之さん。農業生産法人市川農場の代表取締役。現在タイニーハウスは市川農場の敷地に置かれている(写真提供/一般社団法人シンプルライフ協会)

2018年8月、プロジェクトが本格化した。タイニーハウスを利用したホテルを旭川につくることを考え、これまでの人との縁をつなぐ中で旭川駅前に実験的に設置するという計画が持ち上がる。
ホテルのオープンまでわずか5カ月という限られた時間の中で、松本さんと市川さんは活動母体となる「シンプルライフ協会」を設立。旭川と、映画のロケ地でつながりが生まれたニセコ、そして国士舘大学などの協力を得られた東京という3つの地域で、それぞれタイニーハウスをつくることになった。

工法や素材の違う、3つのタイニーハウスを制作

タイニーハウス1棟の総予算は600万円。サイズは、道路を通行できる2.45mが幅となり、長さは6.02m、高さは3.8m(いずれも外寸)というコンパクトなつくりとした。
最大の課題となったのは重量。牽引を可能とするために2500kg以内で収めるための工夫をしなければならなかった。

それぞれのチームが設計から手がけた。左は旭川で設計された「サンタフェ」。右はニセコで設計された「モダン」。「当時は、予算を600万円に納めることができたが、現在は材料費の高騰などでコストはもっとかかるのではないか」と松本さん(写真提供/一般社団法人シンプルライフ協会)

それぞれのチームが設計から手がけた。左は旭川で設計された「サンタフェ」。右はニセコで設計された「モダン」。「当時は、予算を600万円に納めることができたが、現在は材料費の高騰などでコストはもっとかかるのではないか」と松本さん(写真提供/一般社団法人シンプルライフ協会)

「旭川の冬を越せるように断熱材をしっかり入れつつ、重量オーバーにならないギリギリまで削るというせめぎあいがありました」(松本さん)
旭川、ニセコ、東京のチームはそれぞれ独自に研究を行い、必要な建材を選び取っていった。

タイニーハウスの建設中には、それぞれの場所でワークショップも実施され、設計から約3か月で完成。旭川とニセコでつくられたタイニーハウスは旭川駅に運ばれ、東京でつくられたタイニーハウスは、国士舘大学の世田谷キャンパス(東京)や東京タワーで体験展示会が開催された。

東京タワーでの体験展示会の様子(写真提供/一般社団法人シンプルライフ協会)

東京タワーでの体験展示会の様子(写真提供/一般社団法人シンプルライフ協会)

旭川駅に設置されたタイニーハウス(写真提供/一般社団法人シンプルライフ協会)

旭川駅に設置されたタイニーハウス(写真提供/一般社団法人シンプルライフ協会)

旭川駅に置かれた2つのタイニーハウスは、2020年の1月より約半年間、ホテルとして稼働した。コンセプトは「機能制限体験ホテル」。例えばドライヤーと電子レンジを一緒に使うとブレーカーが落ち、シャワーの水圧にも制限があり、ゴミはゴミ箱一杯分までと、普段意識していないエネルギーや環境問題に、頭で考えるのではなく体験から目を向けるきっかけづくりが行われた。
贅沢なサービスをあえて提供しないことに共感する人々は多く、常に1週間ほど先まで予約が埋まる状態だったという。

(画像提供/一般社団法人シンプルライフ協会)

(画像提供/一般社団法人シンプルライフ協会)

利用者からは、駅という騒音と隣り合わせの場所にもかかわらず「中に入るとほとんど音が気にならない」や「思った以上に暖かい」という声があったという。

旭川駅から田園地帯へ。「実際に住んでみる」という次なる実験が始まった

旭川と東京でのお披露目を終えて、タイニーハウスは現在の場所となる市川さんの農場の一角に移され、見学希望者を案内したり、松本さんや市川さんの友人らが宿泊に利用するなどしていた。
そんな中でタイニーハウスに度々泊まりに来ていたのが曽根優希さんだ。父の曽根真さんが旭川でタイニーハウスの制作を請け負った建設会社の代表を務めており、市川さんや松本さんと家族ぐるみの交流があった。

市川農場に集められたタイニーハウス。一番左のニセコで制作されたモデルは、その後売却された(写真提供/一般社団法人シンプルライフ協会)

市川農場に集められたタイニーハウス。一番左のニセコで制作されたモデルは、その後売却された(写真提供/一般社団法人シンプルライフ協会)

タイニーハウスの周辺は田園地帯(撮影/久保ヒデキ)

タイニーハウスの周辺は田園地帯(撮影/久保ヒデキ)

(撮影/久保ヒデキ)

(撮影/久保ヒデキ)

(撮影/久保ヒデキ)

(撮影/久保ヒデキ)

優希さんがここに住むことになったのは何気ない会話からだった。

「市川さんに誘われてタイニーハウスのある敷地でバーベキューをしたことがありました。そのとき、星空の下で、自分の大切に思う友人たちと美味しいものを囲み、話したり歌ったり。季節の移り変わる美しさを感じるひとときがありました。こんなふうに心に余裕を持った暮らしがしたい。ここには私が求めていた暮らしのすべてがありました」

敷地にある使い込まれたピザ窯。客人が来ると優希さんは、手づくりピザでもてなす(撮影/久保ヒデキ)

敷地にある使い込まれたピザ窯。客人が来ると優希さんは、手づくりピザでもてなす(撮影/久保ヒデキ)

そして優希さんは、松本さんに「タイニーハウスに住みたいくらい、気に入りました!」と語ったという。
「それなら住んでみる?」と松本さんが提案すると、「はい!」と即答。

「冬にホテルとして使ったことはありましたが、果たしてずっと住み続けることができるのか、暮らしてもらいながら実験をしてもらおうと思いました」(松本さん)

優希さんは3歳のころから旭川で暮らし始め、高校生までこの地で過ごした。その後、大阪の専門学校に進学し、名古屋などでサービス業の経験を積み、その後コロナ禍となって実家に戻り、現在は旭川にある水回り設備のショールームで働いている(撮影/久保ヒデキ)

優希さんは3歳のころから旭川で暮らし始め、高校生までこの地で過ごした。その後、大阪の専門学校に進学し、名古屋などでサービス業の経験を積み、その後コロナ禍となって実家に戻り、現在は旭川にある水回り設備のショールームで働いている(撮影/久保ヒデキ)

タイニーハウスの広さはわずか8畳。入り口すぐのところにキッチンがあり、その奥が居間兼寝室。さらに奥にトイレとシャワールームがある。
非常にコンパクトなつくりだが、都会の小さなワンルームとそれほど変わらない印象だ。

「サンタフェ」で優希さんは暮らしている。キッチンは壁に棚やフックをつけて収納スペースを確保(撮影/久保ヒデキ)

「サンタフェ」で優希さんは暮らしている。キッチンは壁に棚やフックをつけて収納スペースを確保(撮影/久保ヒデキ)

キッチンの奥にソファベッドが置かれている(撮影/久保ヒデキ)

キッチンの奥にソファベッドが置かれている(撮影/久保ヒデキ)

その奥がシャワー付きトイレとシャワールーム(撮影/久保ヒデキ)

その奥がシャワー付きトイレとシャワールーム(撮影/久保ヒデキ)

優希さんのお気に入りは、ソファベッドの窓から見える景色。春には田んぼに水が張り、夏には緑が萌え、秋には稲穂が黄金色に輝き、そして冬は一面真っ白になる。刻々と変化する景色と、遠くの山並みに夕陽が落ちる様子が見られることが「最高のぜいたく」と語る。
タイニーハウスの中は極小だが、一歩外に出ると無限に空間が広がっている。デッキにテーブルを出して、ランチやお茶を楽しむこともあるという。

朝起きると、ソファベッドから窓の外を必ず眺める(撮影/久保ヒデキ)

朝起きると、ソファベッドから窓の外を必ず眺める(撮影/久保ヒデキ)

日中も氷点下の旭川で快適に暮らせるの?

ここで暮らし始めたのは2020年12月から。旭川の積雪は、道内ではそれほど多くないが、盆地のため冷え込みは厳しい。1月、2月の最低気温の平均はマイナス10度を下回り、ときにはマイナス25度になることもある。

暖房器具は約7畳用のガスファンヒーターが1台。それ以外に水道管の凍結を防止するヒーターが取り付けられている。

ガスファンヒーターが窓際に一台置かれている(撮影/久保ヒデキ)

ガスファンヒーターが窓際に一台置かれている(撮影/久保ヒデキ)

「空間が小さいので、ファンヒーターをつけるとすぐに暖まります」と優希さん。室内は暖かく快適。
また、水道管が凍結する場合もあり、ファンヒーターを消したときは、蛇口の水を少し流しておくなどの対策をとっているそうだ。

外に設置されたプロパンガス。隣が洗濯機。厳冬期の光熱費は月に2万円ほど。都市ガスに比べてプロパンガスは割高ではあるものの、空間が狭いので効率よく暖められている(撮影/久保ヒデキ)

外に設置されたプロパンガス。隣が洗濯機。厳冬期の光熱費は月に2万円ほど。都市ガスに比べてプロパンガスは割高ではあるものの、空間が狭いので効率よく暖められている(撮影/久保ヒデキ)

タイニーハウス設置のために、電気設備と浄化槽設置の工事が行われた(撮影/久保ヒデキ)

タイニーハウス設置のために、電気設備と浄化槽設置の工事が行われた(撮影/久保ヒデキ)

「一番、困ったのは冬の洗濯でした。ホテルとしてつくられていたので、洗濯機を置く場所が設けられていなかったんです。夏は外に洗濯機を置いていますが、冬は積雪のため倉庫にしまってしまうので、コインランドリーを利用しています」

タイニーハウスで暮らし始めた1年目は運転免許を持っていなかったそうで、バスを乗り継いだり、友人に頼んで車に乗せてもらったりなど、コインランドリーに行くのも一苦労だったという。
また積雪の多いときは道路までの道を除雪しなければならず、夏よりも通勤に30分以上余計にかかってしまうことも。
そんな困難があってもここに住み続け、優希さんは今年で3回目の冬を越した。

(写真提供/一般社団法人シンプルライフ協会)

(写真提供/一般社団法人シンプルライフ協会)

(写真提供/一般社団法人シンプルライフ協会)

(写真提供/一般社団法人シンプルライフ協会)

「いろいろなことが起きますが、それを楽しめるかどうかで意識は変わってくると思います」

もう少しキッチンが広ければ、とか、収納があれば、と思うこともあるが、モノを増やせない環境に身を置くからこそ買い物の仕方が変わり、それが良い方向に向かっていると話す。
以前は、カレールーやドレッシングなど既製品を買うことが多かった調味料だが、いまは基本的なものを組み合わせて料理をすることを覚えたという。
また100円均一ショップで暮らしの便利グッズを買うのも好きだったというが、本当に必要なものをよく考えて買うようになったそう。

「便利なものをなくしたほうが、むしろ工夫が生まれて楽しいことがわかりました。また環境問題についても考えるようになって、ゴミを出さない暮らしをしたいと思うようになりました」

調味料は量り売りのものを買うなど、ゴミを減らす取り組みもしている(撮影/久保ヒデキ)

調味料は量り売りのものを買うなど、ゴミを減らす取り組みもしている(撮影/久保ヒデキ)

最近、気に入ってつくっているのが塩麹や醤油麹。お肉を漬け込むとやわらかくなり味わいも深くなる(撮影/久保ヒデキ)

最近、気に入ってつくっているのが塩麹や醤油麹。お肉を漬け込むとやわらかくなり味わいも深くなる(撮影/久保ヒデキ)

シンプルライフの選択は、自分らしく生きることにつながる

松本さんは、優希さんが厳冬期もたくましく暮らし、少しずつ意識が変わっていくその姿に触れる中で、新しい映画の構想を温めていった。
撮りためてきたタイニーハウスの制作過程の映像と、自分なりの暮らしを模索する女性たちにスポットを当てた映像とを組み合わせたドキュメンタリー映画を制作した。

東京でつくられたもう一棟のタイニーハウス「ホワイトファンタジー」はキッチンが広い。こちらはマイナス20度までの寒冷地用の断熱を施していない分、内装の素材に凝ることができたそう(撮影/久保ヒデキ)

東京でつくられたもう一棟のタイニーハウス「ホワイトファンタジー」はキッチンが広い。こちらはマイナス20度までの寒冷地用の断熱を施していない分、内装の素材に凝ることができたそう(撮影/久保ヒデキ)

冬は閉鎖し、夏のみ友人らが宿泊できるスペースとして利用されている(撮影/久保ヒデキ)

冬は閉鎖し、夏のみ友人らが宿泊できるスペースとして利用されている(撮影/久保ヒデキ)

この映画には、優希さんを筆頭に、松本さんが全国から探したそれぞれの道を歩む女性たち、合計7名が登場している。
北海道で羊飼いをする女性だったり、以前はキャバクラで働き現在は農業をする女性だったり。映画の中では彼女たちの人生が語られると同時に、それぞれが旭川へと赴き、お互いがお互いのことを深く知り合うことにより、再び自身を見つめ直し、新たな一歩を踏み出そうとするシーンもあった。実際に旭川に移住した女性もいるとのこと。

映画『-25℃ simple life』の予告編。枠にハマった人生から抜け出し、自分らしく生きる選択をした7人の女性たちのドキュメンタリー。

映画『-25℃ SIMPLE LIFE』は2023年新春に劇場公開された。

「タイニーハウスで暮らせることを知ってもらえれば、何十年とローンを組んで家を購入するといった人生設計とは違う選択肢に気づけるのかなと思いました」(松本さん)

今回、筆者は3人の人物に取材をし、またこの映画を見て、シンプルな暮らしを追い求めることは、これまで自分の中に溜め込んできたものを一度手放してみることであると感じた。
物質的な豊かさや社会的な地位や名誉などから解き放たれたとき、そこには何が残るのだろう? それが自分の本質的な部分であり、もっとも大切にするべきものである。そんなメッセージを受け取った気がした。

(撮影/久保ヒデキ)

(撮影/久保ヒデキ)

●取材協力
一般社団法人シンプルライフ協会
映画『-25℃ simple life』の予告編
曽根優希さんのInstagram

宮城県・仙台市「住みたい街ランキング2023」、上位キーワードは「アクセス・子育て・将来性」

2023年、リクルートが3年ぶりに「住みたい街ランキング」の宮城県版/仙台市版を発表。アンケートは、宮城県に居住している20代~40代の男女1,000人を対象に実施したもの。ランキングと併せて評価された理由、背景などを、杜の都に生まれ育ち、宮城をこよなく愛する筆者と共に見ていこう。

2023年「住みたい街(駅)」も、1位は仙台、2位は長町

まずは「SUUMO住みたい街ランキング2023 宮城県版/仙台市版」の結果のうち、「住みたい街(駅)」を、宮城県全体、仙台市全体の両面から紹介する。

宮城県 住みたい街(駅)ランキング

仙台市 住みたい街(駅)ランキング

宮城県版・仙台市版ともに「住みたい街(駅)」の1位は「仙台」。「働く、遊ぶ、学ぶ、住む、憩う、潤う」が融合した都市機能と自然のバランスの良さが「住みたい」につながっている。2020年のランキングも、宮城県版・仙台市版ともに1位は東北の顔となる「仙台」で、2位は仙台南の副都心「長町」で不動の人気だ。

東北の玄関口 JR仙台駅(写真/PIXTA)

東北の玄関口 JR仙台駅(写真/PIXTA)

上昇がめざましいのは、宮城県版、仙台市版共に順位を上げた「北仙台」。同駅から仙台市地下鉄南北線でひと駅隣の「北四番丁」も、安定した人気だ。「北仙台」「北四番丁」については、以降で解説する。

宮城県版で2020年に17位から9位にランクアップした「古川」は、JR仙台駅から東北新幹線でひと駅、所要時間12~13分、高速バスも利用でき通勤圏だ。

仙台市版で9位の「五橋」は2018年以降最高位となった。2023年4月に、仙台市地下鉄南北線「五橋」駅から徒歩1分に東北学院大学五橋キャンパスが開校。その影響で周辺の商店街、賃貸物件のマンション、アパートの動きも活況を呈し、地価も上昇傾向にある。

また宮城県版で、前回ランク外から大きく飛躍したのが11位の「小鶴新田」、12位の「多賀城」、14位の「宮城野原」で、いずれもJR仙石線沿線の駅だ。

沿線別の「住みたいランキング」は以下の通り。

宮城県 住みたい沿線ランキング

沿線別は、1位は「仙台市地下鉄南北線」、2位は「仙台市地下鉄東西線」と仙台市地下鉄がツートップ。仙台市地下鉄は仙台市民の通勤・通学・外出の大事な足になっている。

2015年に開業した仙台市地下鉄東西線の東の起点、荒井駅(写真/PIXTA)

2015年に開業した仙台市地下鉄東西線の東の起点、荒井駅(写真/PIXTA)

駅から徒歩10分以内の「駅近」物件は購入・賃貸ともに人気を集めているが、仙台市地下鉄駅は特に人気だ。

仙台市に次ぐ「住みたい自治体」は仙台市のベッドタウン、名取市・富谷市

宮城県 住みたい自治体ランキング

仙台市 住みたい自治体ランキング

宮城県・仙台市別のランキングだが、1位~7位まで順位は同じ。仙台市の5区「仙台市青葉区」「仙台市宮城野区」「仙台市太白区」「仙台市泉区」「仙台市若林区」が上位5位を占める。

続くのが、仙台市に隣接するベッドタウン、名取市、富谷市。名取市は、東北最大の国際空港のある街で、海、川、山が近く広い公園もあり、街並みが整然として美しい。イオンモール名取にある子育て支援拠点「cocoI’ll(ここいる)」をはじめ、子育て・子どもを支援する施設やイベントが充実しているほか、春まつり、夏まつり、秋まつりと名取3大祭りを開催するなどイベントが多い。

富谷市は、2023年度から公立の小・中学校の学校給食を完全無償化。2023年6月に江戸時代に宿場町の物流を支えた荷宿を活用したビジネス交流ベース「荷宿-NIYADO」がオープン。公園のような雰囲気の富谷市営墓地とパークゴルフ場が隣接する「(仮称)やすらぎパークとみや」が大亀山森林公園近くに2024年度にオープン予定。さらに、市民の声を取り入れ、図書館をはじめ、スイーツステーション、児童屋内遊戯施設、公民館といったさまざまな機能を集約した「富谷市民図書館等複合施設」が2027年度中開館予定と、子どもからシニア世代まであらゆる世代が生きがいをもって暮らせるまちづくりを目指し、さまざまな計画が進行している。

2020年にランク外から10位にランクインした宮城郡利府町も注目だ。詳細は後述する。

「住みたい」あこがれ誘う都心近接の「北仙台」「北四番丁」

前述のとおり、「住みたい街・駅」のランキングで上昇がめざましかったのが「北仙台」だ。宮城県版で2020年の9位から5位に、仙台市版では7位から3位と2018年以降最高位にジャンプアップ。「北仙台」はJR「仙台」駅から約5分と都心に近く、JR、仙台地下鉄、バスの3つの公共交通機関が利用でき交通の利便性が高い。駅前には24時間営業のスーパーもあり、日常生活施設が整い、住宅地としても古くから人気が高い。交通・生活利便性が高いのに家賃や物件価格が割安なイメージがある「宮城県 穴場だと思う街(駅)ランキング」の3位にもランクインしている。

宮城県 穴場だと思う街(駅)ランキング

JR北仙台駅(写真/PIXTA)

JR北仙台駅(写真/PIXTA)

付近には1960年代から存在した横丁「仙台浅草」のような懐かしい商店街や数百年の時を超えて街を見守る古刹、北山五山が残る一方、こだわりの生活雑貨や生鮮食品などを揃えたセレクトショップ「眞野屋」、パン屋、カフェなど洗練された店が点在。クリニックや金融機関なども充実している。

禅寺、北山五山のひとつで紫陽花の名所。資福寺(写真/PIXTA)

禅寺、北山五山のひとつで紫陽花の名所。資福寺(写真/PIXTA)

伊達政宗公を祀る青葉神社。5月の青葉まつりのメイン会場となる(写真/PIXTA)

伊達政宗公を祀る青葉神社。5月の青葉まつりのメイン会場となる(写真/PIXTA)

同駅から仙台市地下鉄南北線でひと駅隣の「北四番丁」も、宮城県版では12位から10位にランクアップ、仙台市版では変わらず8位で安定した人気だ。「北仙台」と同じく、「北四番丁」は、いずれも仙台市役所、宮城県庁、青葉区役所が集まる官公庁エリア、東北随一のショッピングゾーン・一番町四丁目買物公園、JR仙台駅への距離が近く、地下鉄やバスはもちろん、道が平坦で歩道が整備されているため、自転車利用もスムーズだ。

地下鉄北四番丁駅(写真/PIXTA)

地下鉄北四番丁駅(写真/PIXTA)

特徴的なのは、昔ながらのお屋敷町で、文教エリアとして教育熱心なファミリーに支持されている上杉地区に隣接。イチョウ並木の新緑、紅葉が美しい愛宕上杉通、四季折々の自然やイベントが楽しめる勾当台公園や定禅寺通り、仙台三越へは、散歩がてら歩いて行ける距離。さらに、東北大学農学部雨宮キャンパス跡地には、医療・福祉施設地区に仙台厚生病院が移転、2024年開院予定、商業施設地区には大型商業施設が建設予定、マンションが建設中で、今後の発展が期待される。

宮城県庁と官公庁エリアの憩いの場、勾当台公園(写真/PIXTA)

宮城県庁と官公庁エリアの憩いの場、勾当台公園(写真/PIXTA)

仙台都心からは離れるが、「小鶴新田」駅は、「住みたい街(駅)」ランキングで順位が飛躍。宮城県版では、2020年のランク外から11位、仙台市版では27位から15位に上がった。JR仙石線に2004年に開業して以来、住宅地が広がり、新築マンションが増えて、住宅地として人気が定着。駅周辺には大型スーパーマーケットなど日常生活施設が充実し、住宅地の中心には子どもが走り回れる広い「新田東中央公園」もある。近隣の「仙台市新田東総合運動場 元気フィールド仙台」には、仙台市民球場、宮城野体育館、温水プール、ボルダリング施設、アーチェリー場などさまざまな運動施設があり、気軽に利用できるスポーツプログラムが開催されている。

元気フィールド内 仙台市民球場(写真/PIXTA)

元気フィールド内 仙台市民球場(写真/PIXTA)

「住みたい街(駅)」でランク上昇の「利府町」は子育て支援が充実

「SUUMO 住みたい自治体ランキング2023」で、2020年にランク外から10位にランクイン、過去最高順位を得た宮城郡利府町は、仙台市の北東部に立地。JR利府駅からJR仙台駅までは、東北本線で20分弱とアクセスしやすい。

JR利府駅(写真/PIXTA)

JR利府駅(写真/PIXTA)

2棟に分かれた東北最大級の「イオンモール新利府」をはじめ商業施設が充実。波が穏やかで表松島と呼ばれる海に面し、陸から海に突き出た天然の桟橋「馬の背」など、ビュースポットが点在。

利府町の赤沼、櫃ヶ沢の馬の背(写真/PIXTA)

利府町の赤沼、櫃ヶ沢の馬の背(写真/PIXTA)

大きな特徴は、子育て支援にも力を入れていること。0歳から18歳年度末までの子ども医療費を所得制限なしで全額助成(保険診療分の自己負担額)、子育てに必要なベビーベッド、ベビーバス、ベビーシートの無料貸し出し、赤ちゃん絵本セットの配布、小・中学校の新1年生全員に学校で使う運動着の無料支給、小学校6年生・中学校3年生の学校給食費無料化など、独自の子育て事業を実施していることも支持されている。

オフにファミリーで出掛けられる大型公共施設も充実。図書館や多目的ホールを要する利府町文化センター(リフノス)や、東京五輪のサッカー公式開場にもなった宮城スタジアム(キューアンドエースタジアムみやぎ)、アーティストのライブなどの大型イベントが行われる「セキスイハイムスーパーアリーナ(宮城県総合運動公園総合体育館)」などを有する「グランディ・21(宮城総合運動公園)」などがあり、アクティブな日常を過ごせる。

キューアンドエースタジアムみやぎ(写真/PIXTA)

キューアンドエースタジアムみやぎ(写真/PIXTA)

「SUUMO住みたい街ランキング2023 宮城県版/仙台市版」の結果を見ると、2020年と変わらず、仙台市地下鉄、JR東北本線、JR仙石線沿線の駅、アクセスの良い都心が上位にランクインしているのが分かる。また、子育て支援が充実している街、再開発計画があり、これからの将来性が期待できる街は住みたいというあこがれ、ニーズが高く、今後も目が離せない。

●関連ページ
SUUMO住みたい街ランキング2023 宮城県版/仙台市民版

2023年は郊外ファミリー賃貸で賃料が上昇!? 国分寺など上昇した駅のデータとともに解説

長谷工ライブネットは、首都圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県)の沿線・駅別の賃料相場を分析し、「首都圏賃貸マンション賃料相場マップ 2023 年版」を完成させた。その結果からは、「特に郊外のファミリー賃貸で大幅上昇の傾向が見られた」という。詳しく見ていこう。

【今週の住活トピック】
「首都圏賃貸マンション賃料相場マップ2023年版」が完成/長谷工ライブネット

首都圏でファミリー向け賃貸マンションの需要が高まる!?

「首都圏賃貸マンション賃料相場マップ 2023 年版」は、間取りタイプをシングル(25平米)・コンパクト(40平米)・ファミリー(60平米)の 3タイプに分類し、沿線・駅別の賃料相場を同社独自の分析調査によりまとめたもの(対象:95沿線、延べ1,030駅)

タイプ別の賃料相場について、前年との比較で駅別に変動率を算出してまとめた結果、首都圏全体では「上昇」(やや上昇・上昇・大幅上昇)の割合がシングル37%、コンパクト47%、ファミリー51%を占め、面積が広いタイプほど上昇の割合が高い結果になった。なかでも埼玉県と千葉県では、ファミリータイプで「大幅上昇」(グラフの赤い帯部分)が20%を超えるなど、大幅上昇が目立つ。

出典/長谷工ライブネット「首都圏賃貸マンション賃料相場マップ2023年版」より転載

出典/長谷工ライブネット「首都圏賃貸マンション賃料相場マップ2023年版」より転載

エリア別・タイプ別で見ると状況はそれぞれ異なるので、詳しく見ていこう。

東京23区では、シングル、コンパクト、ファミリーともに低下(やや低下・低下)よりも上昇の割合のほうが大きく、なかでもファミリータイプでの上昇傾向が大きいという点で、首都圏全体と同じ傾向にある。
東京都下のシングルだけは、低下の割合のほうが上昇より大きいのが特徴だ。が、都下でもファミリータイプでは上昇傾向が見られる。神奈川県は、首都圏のなかでは他のエリアよりは変動が小さい。
埼玉県と千葉県では、コンパクトタイプの上昇割合が最も大きいのが特徴。シングルタイプの上昇割合も、他の都県より大きいが、ファミリータイプについては「大幅上昇」の割合が大きいのが目立つ。このことから、埼玉県と千葉県は賃貸相場が上昇傾向にあるが、特にファミリータイプが特定のエリアで大幅に上昇していると推測できる。

出典/長谷工ライブネット「首都圏賃貸マンション賃料相場マップ2023年版」より転載

出典/長谷工ライブネット「首都圏賃貸マンション賃料相場マップ2023年版」より転載

国分寺、さいたま新都心、千葉中央のファミリータイプ賃料が大幅上昇

次に、エリア別に賃料のランキング1位を紹介しよう。

■エリア別賃料相場ランキング(1位を抜粋)

●東京23区
シングルタイプ(25平米)表参道(東京メトロ)147,000円コンパクトタイプ(40平米)神谷町(東京メトロ)265,000円ファミリータイプ(60平米)※同率1位表参道(東京メトロ)379,000円外苑前(東京メトロ)379,000円●東京都下
シングルタイプ(25平米)吉祥寺(JR・京王)102,000円コンパクトタイプ(40平米)三鷹(JR)147,000円ファミリータイプ(60平米)国分寺(JR)238,000円●神奈川県
シングルタイプ(25平米)武蔵小杉(JR・東急)103,000円コンパクトタイプ(40平米)馬車道(みなとみらい)155,000円ファミリータイプ(60平米)馬車道(みなとみらい)278,000円●埼玉県
シングルタイプ(25平米)川口(JR)88,000円コンパクトタイプ(40平米)大宮(JR他)129,000円ファミリータイプ(60平米)さいたま新都心(JR)235,000円●千葉県
シングルタイプ(25平米)浦安(東京メトロ)87,000円コンパクトタイプ(40平米)柏の葉キャンパス(つくばEX)127,000円ファミリータイプ(60平米)千葉中央(京成)188,000円

このなかでも、東京都下の「国分寺」(前年2位)、埼玉県の「さいたま新都心」 (前年2位)、千葉県の「千葉中央」 (前年7位)のファミリータイプが、大幅上昇によってそれぞれ 1 位にランクアップした。この理由として「分譲マンションの一部が賃貸された影響で賃料が大幅上昇した」のだという。

埼玉県と千葉県では、ほかにもファミリータイプで大幅上昇した駅がある。埼玉県では「北浦和」(前年8位→5位)、「所沢」(前年9位→5位)、「和光市」(前年12位→7位)、「与野」(前年14位→9位)、千葉県では「松戸」(前年13位→7位)、「柏」(前年16位→8位)だ。

首都圏のファミリータイプで賃料が上昇する背景は?

筆者は、SUUMOジャーナル1月25日公開の記事で「東京都23区のファミリータイプの賃貸住宅が活況。就業環境や働き方の変化が影響?」を執筆した。このときは、三菱UFJ信託銀行が公表した「2022年度 賃貸住宅市場調査」(2022年秋時点)の結果を参照した。

ファミリータイプについては、東京23区と首都圏(東京23区を除く)は、現状も半年後の予測も稼働率と賃料は好調だった。その理由として、2つの要因を挙げた。

まず、マンションの価格が上昇しているため、購入を考えた場合に手が届きにくいこと。次に、ユーザーの志向が住宅の広さや部屋数を求めるようになったこと。これは在宅勤務やオンライン授業などの影響でおうち時間が長くなったことなどが影響している。その結果、広さと駅からの利便性を求めて、手の届く住まいとして、ファミリータイプの賃貸マンションへの需要が高まったと分析した。

こうした状況は今も継続している。さらに、長谷工ライブネットが指摘した分譲マンションの一部が賃貸されているということも加わって、好立地で手が届きやすい賃料のファミリータイプの需要が高いと見てよいだろう。

さて、近年は首都圏のファミリータイプの賃貸需要が高くなっているが、今後も続くのだろうか?住宅の需要はさまざまな要因で変わる。コロナ禍を経て日常生活が戻りつつあるので、就業状況や収入などが改善される方向に進んでいる。また、テレワークは一定レベルで定着しつつある。一方で、住宅ローンの金利上昇リスクが高まっているので、住宅の購入環境が変わる可能性も考えられる。さらには、感染拡大の可能性がなくなったわけではない。

その時々で、最適の住まいを選ぶということになるので、どういった住まいに需要が高まるかは予測しづらい状況になっている。

●関連サイト
長谷工ライブネット/「首都圏賃貸マンション賃料相場マップ2023年版」が完成

7畳のタイニーハウス暮らし夫婦、2棟目カワウソ号は宿に。宿泊で住まい観が一変!? ライター体験記「私はどう生きるか」 三浦半島

わずか7畳のタイニーハウス「もぐら号」は、神奈川県・三浦半島にある、現在進行形で「人が暮らしているタイニーハウス」です。電気・ガス・水道完備、シャワー・トイレ付きと、一般的な住まいと変わらず、快適な暮らしが送れているといいます。そのもぐら号に、今年、きょうだいの「カワウソ号」が仲間入りしたそう。しかもこちらは宿泊・体験できるとか。さっそく編集部とライターで宿泊してきました。

「カワウソ号」は約8畳(室内11平米+ロフト4平米)。タイニーハウスを知り・体験できる場所に

神奈川県三浦半島にある、まるで絵本に出てくるようなタイニーハウスの「もぐら号」は、相馬由季さんと夫の哲平さんの住まいです。もぐら号は約2年かけて相馬さんが設計から施工、2020年に完成。ほぼ自作したタイニーハウスに現在も夫妻で暮らしていらっしゃいます。そんな「もぐら」のきょうだいが「カワウソ号」です。もぐら号よりもやや小ぶりで、名前も愛らしい「カワウソ号」ですが、なぜもう1棟、タイニーハウスをつくったのでしょうか。

相馬由季さん。タイニーハウスに暮らしているほか、今年は海外のタイニーハウスをめぐる旅もした(写真撮影/桑田瑞穂)

相馬由季さん。タイニーハウスに暮らしているほか、今年は海外のタイニーハウスをめぐる旅もした(写真撮影/桑田瑞穂)

「もぐら号の話をすると、ほとんどの人に『遊びに行きたい』『泊まりたい』と言われるんです。みんなタイニーハウスに興味津々なんですね。もぐら号にも宿泊していただけるんですが、私たちも毎日、暮らしているので、そうそう泊めるわけにもいかない。じゃあ、もう1棟をということで、『カワウソ号』を計画したんです」と相馬さん。

「カワウソ号」。玄関扉のオフホワイト、緑のアーチ屋根が最高か!(写真撮影/桑田瑞穂)

「カワウソ号」。玄関扉のオフホワイト、緑のアーチ屋根が最高か!(写真撮影/桑田瑞穂)

主眼を置いたのは、単なるホテルではなく、「タイニーハウスを体験できる場所」であること。
「タイニーハウスに宿泊できる施設はありますが、まだ少数です。ここではホテルのような滞在ではなく、料理をしたり思い思いに過ごしたりと、あくまでも『暮らし』を体験する場所として考えているんです」と話します。

「基本設計や建材、建具のチョイスなどはすべて自分で行い、実施設計と施工を大工さんにお願いしました。ただ、制作途中も足を運び、吟味、調整をしてもらいました。タイニーハウスはとにかく余分なスペースがないので、数センチで使い勝手が変わるんです。だから、何度も何度も測って、思い入れを込めてつくったのは、カワウソ号も同じですね。『もぐら号』で自作した経験が生きています」

「カワウソ号」の内部。「もぐら号」と同様に、「暮らす」を主眼に設計されている(写真撮影/桑田瑞穂)

「カワウソ号」の内部。「もぐら号」と同様に、「暮らす」を主眼に設計されている(写真撮影/桑田瑞穂)

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わずか7畳のタイニーハウスに夫婦二人暮らし。三浦半島の森の「もぐら号」は電気もガスもある快適空間だった!

稼働率高し! 20代~40代、シングル、カップル、ファミリー、さまざまな層がステイ

「もぐら号」と「カワウソ号」の共通点でいうと、大きめのキッチン&シンク、電気ガス水道といったインフラ、窓や外壁などには断熱性・遮熱性などの性能を高めた「快適な暮らし」が送れる点です。一方で間取りは異なり、「カワウソ号」はロフト付きで、玄関が横付きになっています。また、大きなフィックス窓、横にスリット窓が入っています。スリット窓からチラリとのぞく緑がキレイです。

左が「もぐら号」、右が「カワウソ号」(写真撮影/桑田瑞穂)

左が「もぐら号」、右が「カワウソ号」(写真撮影/桑田瑞穂)

キッチンにこだわったのは「もぐら」「カワウソ」共通です。シンクは大きく、電気ケトル、IHクッキングヒーターなどの調理器具もあるのです。まさに“暮らし”!(写真撮影/桑田瑞穂)

キッチンにこだわったのは「もぐら」「カワウソ」共通です。シンクは大きく、電気ケトル、IHクッキングヒーターなどの調理器具もあるのです。まさに“暮らし”!(写真撮影/桑田瑞穂)

シャワーと洗面、トイレが一列になっていて、使いやすい動線(写真撮影/桑田瑞穂)

シャワーと洗面、トイレが一列になっていて、使いやすい動線(写真撮影/桑田瑞穂)

洗面とトイレ。シャワー付き。コンパクトですが、何度も設計しなおしたというだけあり、狭さは感じません。トイレは着脱式なノズル下水道につなげていて、一般的な水洗トイレです(写真撮影/桑田瑞穂)

洗面とトイレ。シャワー付き。コンパクトですが、何度も設計しなおしたというだけあり、狭さは感じません。トイレは着脱式なノズル下水道につなげていて、一般的な水洗トイレです(写真撮影/桑田瑞穂)

「カワウソ号」のロフト。大きなフィックス窓からは緑がいっぱいに。人工物が目に入ってきません。心が満たされていく……(写真撮影/桑田瑞穂)

「カワウソ号」のロフト。大きなフィックス窓からは緑がいっぱいに。人工物が目に入ってきません。心が満たされていく……(写真撮影/桑田瑞穂)

電気と上下水道や既存のインフラを利用し、着脱式で接続。ガスはプロパン(写真撮影/桑田瑞穂)

電気と上下水道や既存のインフラを利用し、着脱式で接続。ガスはプロパン(写真撮影/桑田瑞穂)

昨年の暮れに施工場所から今の土地に移動させ、塗装など内部の仕上げや棚の設置、家具やインテリアの選定を行い、今年3月末より宿泊の受け入れを開始しました。では、その反響は?

「開始して2カ月ほどですが、平日、休日問わず多くの予約が入っています。メディアを介して知ってもらったり、SNSで知ってくださったり。いろいろです。若い世代はここだけしかできない体験ということで、カップルや友人同士で来てくださいます。ほかはご家族ですね。最大3人まで宿泊できます。」(相馬さん)

とはいえ、一人で滞在する40代~50代の人もいるのだとか。
「自分を見つめ直したい、という方でしょうか。タイニーハウスに籠もって、暮らしや人生に向き合う場所が欲しいという人が滞在されていきます。何かするのではなく、ゆっくりと過ごしていらっしゃいます」といい、今までの暮らしのあり方、人生のあり方を問い直す場所になっているのだそう。

ロフトではタイニーハウスに関する本をセレクト、ギターやプロジェクターなど、滞在を楽しくするアイテムも(写真撮影/桑田瑞穂)

ロフトではタイニーハウスに関する本をセレクト、ギターやプロジェクターなど、滞在を楽しくするアイテムも(写真撮影/桑田瑞穂)

開閉式の机。空間を有効活用できるよう、考え抜かれている(写真撮影/桑田瑞穂)

開閉式の机。空間を有効活用できるよう、考え抜かれている(写真撮影/桑田瑞穂)

タイニーハウスで住まい感が変わる。自分に必要なモノ・コトが見えてくる

では、実際に滞在するのはどのような感じなのでしょうか。

筆者と編集部担当の2人は午後にチェックインし、翌日朝まで滞在。合間に仕事をしたり、ランニングをしたり、周囲のスーパーで食材を買い込み、暮らすように「プチ日常」を味わってみました。

シャワーの水量や温度、トイレの水量などもストレスフリー。また、はじめはタイニーハウスのセキュリティってどうなのだろうと少し不安があったのですが、駅近くの立地でほどよく人目があり、おまわりさんのパトロールエリアとのことで、ひと安心。とにかく快適な滞在となりました。

夜は近所でマグロのお刺身などを購入してきて晩酌。三浦半島ならではですね(写真撮影/嘉屋恭子)

夜は近所でマグロのお刺身などを購入してきて晩酌。三浦半島ならではですね(写真撮影/嘉屋恭子)

ロフトからキッチンと洗面を見下ろしたところ。目に入るものすべてが愛らしい(写真撮影/桑田瑞穂)

ロフトからキッチンと洗面を見下ろしたところ。目に入るものすべてが愛らしい(写真撮影/桑田瑞穂)

ロフト下部の寝室。寝具メーカーのベッドで寝心地もいい。編集もライターも、朝までぐっすりコースでした(写真撮影/桑田瑞穂)

ロフト下部の寝室。寝具メーカーのベッドで寝心地もいい。編集もライターも、朝までぐっすりコースでした(写真撮影/桑田瑞穂)

そして、ひと晩過ごした結論をひと言でいうと、「これは……住まい感が変わるな」に尽きます。

筆者は、今まで不動産会社やさまざまな建物、建築家の先生方を取材し、天井高は2m40cmではちょっと低いのではとか、広さは一人あたりの面積25平米は確保したいなどと原稿を書いてきましたし、正直なところ「家の広さは気持ちのゆとりにつながる」、なんなら「天井高は正義」「収納は命」だと思ってきました。

ですが、実際に過ごしてみると11平米でも狭さは感じないのです。女性2人がほぼ1日、同じ空間にいてもストレスを感じない。これはすごいことだなと思いました。おそらくですが、備え付けの食器や寝具など、目に入るものすべてが吟味されていること(当たり前ですが子どものおもちゃやごちゃごちゃした生活のものはありませんし)、人間同士の目線が必要以上に重ならないこと、余計な音が入ってこないこと、室温が快適であること、暮らしに必要なものがきちんとそろっているからこそ、「コンパクトでも快適」は叶えられるのですね。

おそらくですが、窓からの緑や地面との近さ、自然な雨音、小鳥のさえずり、室内に漂う木々の香りなど五感に訴えるものがあり、タイニーハウスでしか感じたことのない、貴重な感覚が残りました。

もう一方で、自分に必要なものも浮かびあがってきたのです。筆者の場合は、カワウソ号になかった三面鏡、浴槽です。われながらお風呂という、わかりやすい欲が反映されていてびっくりしました。人生初の感覚です。本当に不思議。

宿泊していった人が残した記録。みなさん、「内省」していらっしゃいます(写真撮影/嘉屋恭子)

宿泊していった人が残した記録。みなさん、「内省」していらっしゃいます(写真撮影/嘉屋恭子)

こうした、気づきや発見があるのは筆者だけではないようで、「カワウソ号」の宿泊ノートには、さまざまな思いが記録されています。貴重ですね……。

相馬さんも、普段は会社勤務しながら、タイニーハウスづくりを行ってきたため、週末は何かしら「タイニーハウスづくりの予定」が入っていたそう。現在、「カワウソ号」が完成してやっとひと段落ではありますが、けしてラクではないタイニーハウスづくりに取り組み、宿泊運営者になった今、得るものはあるのでしょうか。

「やっぱり、タイニーハウスの暮らしを体験してもらって、その人の価値観が変わるとか、なにか湧き上がるものがある瞬間を見られるのがすごく好きですね。当たり前を疑うというか、その瞬間に立ち会えるというか……。タイニーハウスを通しての出会いもとても貴重ですし。その中で自分自身も、その先に湧き上がってくる次の挑戦の兆しを待っています。」(相馬さん)

(写真撮影/桑田瑞穂)

(写真撮影/桑田瑞穂)

筆者個人としては、「タイニーハウスでの宿泊」は、家を借りたい人、家を買いたい人、注文住宅で家をたてようと考えている人、リフォームしたいと思っている人など、今、住まい・暮らしについて考えているすべての人におすすめしたい体験だなと思いました。自分にとって家とはなにか、家に必要なものはなにか、自分が大事にしたいものはなにかが明確になるからです。タイニーハウスの宿泊費は1泊あたり1万3000円~2万円程(人数、時期によって変動)。得るものは小さくなく、大きなものとなるはずでしょう。

●取材協力
相馬由季さん・哲平さん
由季さんのInstagram
ブログ
カワウソ号宿泊予約

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タワマン節税にメス!? 国税庁のマンション相続税評価額見直しを解説

以前から、タワーマンションを節税目的で購入する事例が多いことが指摘されていた。すでに、固定資産税については、高さ60m以上のマンションで高層階の税率を引き上げる“補正率”が採用されている。今回は、相続税の評価方法について、市場価格に近づける見直し案が公表された。

【今週の住活トピック】
マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議が見直し案を公表/国税庁

「マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議」で見直しを検討

そもそも相続税では、相続した財産の価額はその財産を取得したときの時価によるとされている。いわゆる時価主義といわれるものだ。不動産の評価方法は、国税庁の「財産評価基本通達」で定められている。マンションについては、この通達の内容を見直そうと、2023年1月30日に第1回有識者会議が開かれた。

昨年末に公表された政府の「令和5年度税制改正大綱」で、マンションの相続税評価が、市場での売買価格と通達に基づく評価額が大きく乖離しているケースが見られるとして、「時価主義の下、市場価格との乖離の実態を踏まえ、適正化を検討する」と記載された。これを受けて、適正化のための有識者会議が動き出したわけだ。

第3回の有識者会議で見直し案の要旨が提示され、6月30日に国税庁のホームページに有識者会議の資料が公表された。

なぜ、タワーマンションの高層階が相続税の節税になる?

現状のマンションの相続税の評価額は、どのように計算されるのか?

マンションの1つの住戸を相続した場合、建物の価額(かがく※)と敷地の価額をそれぞれ計算し、足し合わせたものが相続税評価額になる。建物の価額は「固定資産税評価額」が用いられ、敷地の価額は敷地全体の価額のうち持ち分割合で計算される。つまり、同じマンションで同じ面積の住戸を所有する場合、1階の住戸も20階の最上階住戸も同じになる計算方法だ。

※売り手が品物に対して設定するのが「価格」に対し、品物の値打ちに相当する金額が「価額」

ところが、実際に市場で売買されるときには、同じマンションの同じ面積の住戸であっても、1階と最上階では、価格にかなりの開きが出る。タワーマンションでは、住戸からの眺望がウリになるからだ。つまり、実際に売れば高く売れるものが、相続税評価額では価額を抑えることができるので、高層階ほど相続税の節税効果が大きいということになる。

また、元になる敷地全体の価額は、路線価が用いられる。路線価は地価公示の8割程度になっているので、市場価格より低くなるのが一般的だ。もともと相続財産を不動産にすれば、現金より相続税評価額が抑えられるといったこともあり、不動産は節税対策に用いられることが多い。加えて、タワマンでは高層階住戸でより大きな節税効果を生むというわけだ。

マンションと一戸建てでは、市場価格との乖離率に大きな開き

有識者会議の資料(画像1)によると、近年はマンションの市場価格は相続税評価額の2.3~2.4倍にまで開いているという。

マンションの相続税評価額と市場の乖離率の推移

【画像1】国税庁「マンションに係る財産評価基本通達に関する第3回有識者会議について(令和5年6月)」より転載

市場価格との乖離率を一戸建てと比べてみる(画像2)と、平成30(2018)年の平均で、マンションは2.34倍まで開いているが、一戸建ては1.66倍にとどまっている。0.68倍の開きがあるが、例えば市場で同じ1億円で売れるマンションと一戸建てがあった場合、相続税評価額はマンション(約4273万円)と一戸建て(約6024万円)で、約1751万円の差が生じるという計算になる。10億円というタワーマンションの最上階住戸もあるだろうから、この場合は評価額を5億円以上も大きく下げることができるという構図になっているわけだ。

(上)マンションの乖離率の分布、(下)一戸建ての乖離率の分布

【画像2】国税庁「マンションに係る財産評価基本通達に関する第3回有識者会議について(令和5年6月)」より転載

相続税の評価方法が定められた頃には、タワーマンションのような不動産は市場になかっただろう。ところが、好立地で高額のタワーマンションが数多く供給されたいま、マンションでは評価額が市場価格の半分以下になる事例が約65%もあるというのが実態のようだ。

マンションの相続税評価額はどう見直される?

有識者会議の資料を見ると、マンションの評価額が市場価格と乖離する要因として、マンションの総階数や所在階、築年数などが加味されていないうえ、タワーマンションのように立地条件が良好で地価の高い場所であっても、多くの住戸で持ち合うために敷地の持ち分が狭小になる度合いが大きいといったことを挙げている。

そこで見直し案は、この「築年数」「総階数(総階数指数)」「所在階」「敷地持分狭小度」の4つの指数に基づいて、市場価格との乖離率を予測し、評価額が市場価格理論値の60%に達しない場合は、60%になるまで価額を補正するというものになった。

60%というのは、一戸建ての乖離率にマンションを近づけようというもの。マンションの市場価格との乖離率を一戸建て並みにすることで、税負担の公平を図るという考え方だ。

この見直し案では、築浅や高層階で評価額がこれまでよりも引き上がるので、相続対策としてタワーマンションの住戸を購入し、相続後に売却するという方法での節税効果は薄れるだろう。

政府は、2024年1月から見直したいとしている。有識者の中には、「今後のマンション市況の変化には適切に対応していく必要があるので、新しい評価方法が適用された後においても、重回帰式の数値等については定期的に実態調査を行い、適切に見直しを行うべきではないか」と、継続的な見直しを求める声があった。

税金は国民が相応に負担するものなので、公平であってほしいものだ。

●関連サイト
マンションに係る財産評価基本通達に関する第3回有識者会議について(令和5年6月)

愛知「住みたい街ランキング2023年版」不動の1位は名古屋! NHK大河ドラマ『どうする家康』影響で三河エリアに熱視線

2023年、リクルートが3年ぶりに「住みたい街ランキング」の愛知県版を発表。再開発や再整備が盛んで、注目の施設の開業など、都市部を中心に変化が著しい愛知。今年はNHK大河ドラマ「どうする家康」の影響もあり、三河エリアへも熱い視線が注がれている。愛知ではどんな街が上位なのか? 人気の理由も探りながら、愛知県春日井市生まれ、名古屋に住み続けて19年目の筆者と共に見ていこう。

2023年「住みたい街(駅)」1位は、暮らしやすい街へ進化中の「名古屋」

愛知県 住みたい街(駅)ランキング

今回の「住みたい街」(自治体・駅)ランキングは、愛知県内の街(自治体・駅)について、愛知県在住の20~49歳の男女2000人に「住みたい街」についてアンケートを実施した結果をランキングしたもの。
県内居住者から見て、住んでみたいと思われている憧れの街がランクインしていると言える。

「住みたい街」(駅)の1位から3位までは、前回2020年に実施した時と同じ結果に。不動の1位は、2018年のランキングから変わらず「名古屋」!

「名古屋」の高い人気は、2027年のリニア開業を見据え、再開発が進んでいることが挙げられる。また近年、名古屋駅前の再整備計画が発表されており、今後は駅東西に広場を整備予定だ。駅西側駅前広場にはイベントなども行われるスペースをつくる再整備計画があり、期待が高まる。

中央コンコースから地下街で「大名古屋ビルヂング」や「ミッドランドスクエア」に繋がる駅東側は、地上ロータリー交差点の改良や、歩行者空間の整備などが予定されている。ロータリーのランドマークになっていたモニュメント「飛翔」は昨年撤去され、広場開設に向けて整備が進行中だ。

ロータリーのモニュメント「飛翔」は昨年撤去され、現在は広場開設に向けて整備が進んでいる(写真/PIXTA)

ロータリーのモニュメント「飛翔」は昨年撤去され、現在は広場開設に向けて整備が進んでいる(写真/PIXTA)

数年前までは商業的な街という印象が強かった「名古屋」だが、近年変化が著しい。2021年には、名鉄百貨店メンズ館地下1階に、高級スーパー「紀ノ国屋」が中部地区初出店し話題に。また同年、駅徒歩約12分のノリタケ工場跡地に、商業施設と住宅、オフィスからなる複合施設「イオンモールNagoya Noritake Garden」が開業して、食品や日用品の買い物の場が充実した。この「イオンモールNagoya Noritake Garden」は、緑豊かな「ノリタケの森」の敷地内に立ち、1階から2階に繋がる大型書店「TSUTAYA BOOKSTORE」と、3階にある「コニカミノルタ プラネタリウム満天NAOGOYA」が話題に。子連れファミリーが訪れやすい街へと進化している。

3位には、名古屋市外から東三河の中心都市「豊橋」がランクイン

それでは、2位以下のランキング上位の街についても見ていこう。

2位「金山」は「名古屋」の隣の街で、交通利便性の良さに高い支持が集まる。金山駅は、JR2路線と名鉄線、地下鉄2路線が乗り入れる総合駅だ。名鉄線は刈谷市や三河方面へも運行し、豊田や岡崎方面にも通勤がしやすいほか、中部国際空港との直行便「ミュースカイ」も発着する。駅前の商業施設「アスナル金山」は2020年にリニューアルし、市内の人気ベーカリーや回転寿司店などが登場。また、駅直結の「ミュープラット金山」にはカフェや雑貨店が入るほか、駅の北側には地下1階、地上3階建の「イオン金山店」があり、食料品や日用品も手に入れやすく便利だ。

金山駅周辺(写真/PIXTA)

金山駅周辺(写真/PIXTA)

名古屋市外からランクインした3位「豊橋」は、愛知県の南東部に位置する東三河の中心都市で、東海道新幹線が停車する。市内の移動には路面電車が活躍していて、夏の「納涼ビール電車」と、名産のちくわも楽しめる冬の「おでんしゃ」は人気企画だ。2021年、駅前に食・健康・学びをテーマにした複合施設「em CAMPUS(エムキャンパス)」が開業。食材マーケットや飲食店、住居、行政窓口を備えるほか、2・3階にはカフェを併設した「豊橋市まちなか図書館」があり、住民の憩いの場となっている。また、市内には「のんほいパーク」の愛称で知られる豊橋総合動植物公園をはじめ、緑豊かな公園が点在。遠州灘に面した伊古部海岸はサーフィンスポットで、アカウミガメの産卵場所でもある。自然に恵まれ、レジャーや山海の幸を気軽に楽しめるという魅力がある。ちなみに「豊橋」は、「穴場だと思う街(駅)ランキング」では1位に選ばれている。

「のんほいパーク」こと豊橋総合動植物公園(写真/PIXTA)

「のんほいパーク」こと豊橋総合動植物公園(写真/PIXTA)

市内では、都会的な雰囲気と利便性を持ち合わせた東山線沿線の街が人気

4~6位の「栄」「覚王山」「星ヶ丘」は、全て地下鉄東山線沿線の街。東山線は、名古屋市で最初に開業した地下鉄路線であり、市内を東西に横断する。「名古屋」にも直通なので人気が高く、「住みたい沿線ランキング」でも2位にランクインしている。

愛知県 住みたい沿線ランキング

4位「栄」は、「住みたい自治体ランキング」1位の名古屋市中区に位置。2020年、栄~久屋大通駅間に公園と商業施設が一体化した「RAYARD Hisaya-odori Park(レイヤード ヒサヤオオドオリ パーク)」がオープンして、一帯がリニューアル。久屋大通公園沿いに、およそ40軒のグルメやファッションの店舗が集まる。エリア内に5つある「ヒロバ」では度々イベントが行われ、トレンドを発信している。

「RAYARD Hisaya-odori Park(レイヤード ヒサヤオオドオリ パーク)」(写真/PIXTA)

「RAYARD Hisaya-odori Park(レイヤード ヒサヤオオドオリ パーク)」(写真/PIXTA)

同時に地下街の「セントラルパーク」も改装され、スーパーなどが集まる食物販ゾーンが誕生。休日にテイクアウトグルメを楽しんだり、平日の仕事帰りに食材などの買い物を済ませたりと、暮らす街としても選択肢が広がった。2022年には、マルエイ跡地に食に関する商業施設「マルエイガレリア」が開業し、関西発のスーパー「パントリー」や、市内最大級の無印良品が開業して話題に。今後も「中日ビル」の建て替えや「(仮称)錦三丁目25番街区計画」といった大規模複合施設建設の計画が控え、ますますにぎわいそうだ。

「マルエイガレリア」(写真/PIXTA)

「マルエイガレリア」(写真/PIXTA)

5位「覚王山」と6位「星ヶ丘」は、共に「住みたい自治体ランキング」で2位となった名古屋市千種区に所在。

愛知県 住みたい自治体ランキング

「覚王山」は、昨年「SUUMO住み続けたい街ランキング愛知2022」で住民から選ばれ、1位に輝いた街。シンボルは覚王山日泰寺で、駅を出るとすぐに400mほどの参道が続き、商店街が広がる。レトロな雰囲気の食堂などのほか、東海発祥のドーナツ店やパティスリー「シェ・シバタ名古屋」といった人気店も軒を連ね、新旧の良さが合わさる街だ。住民も街の魅力として「雰囲気やセンスのいい、飲食店やお店がある」という項目を上位に挙げている。

6位「星ヶ丘」は、駅前にファッションやグルメが楽しめる商業施設「星が丘テラス」や「星ヶ丘三越」があり、買い物環境が抜群。季節ごとの装飾が美しい「星が丘テラス」は、フォトスポットとしても人気に。また、周辺に大学が多い文教地区でもある。周囲は自然にも恵まれ、東山動植物園星が丘門に近く、休日は家族連れでにぎわう。

・関連記事:愛知「住み続けたい街ランキング2022年版」住民評価1位は名古屋市おさえ長久手市!

順位が上がった街から、「交通利便性」と「職住近接」のニーズが見えてくる

7位「刈谷」、8位「大曽根」、9位「岡崎」は、いずれも2020年から順位がアップ!

愛知県 穴場だと思う街(駅)ランキング

特に「大曽根」は2020年の16位から8位へ、大きく順位を上げた。「愛知県穴場だと思う街(駅)」ランキングでも3位になるなど、注目度が高い。「大曽根」は名古屋市東区と北区にまたがる街で、大曽根駅からはJR、名鉄、地下鉄に加え、ガイドウェイバス「ゆとりーとライン」の4路線を利用可能。名古屋都市部だけでなく、瀬戸市や春日井市方面へもアクセスしやすい。さらに、市バスの路線も充実している。2020年、名鉄瀬戸線の駅構内に商業施設「ミュープラット大曽根」が併設され、「からみそラーメンふくろう食堂」など17店舗がオープンして便利に。また、徒歩圏内にスーパーを含む「メッツ大曽根」や、朝市を開催する商店街「オゾンアベニュー」が集まり、1駅隣には「イオンモールナゴヤドーム前」もあるなど、生活利便性の高さは抜群。一方で、駅南口方面には住宅街が広がり、徒歩約10分の距離に公園を併設した庭園「徳川園」があり、四季や自然も身近に感じられる。

7位「刈谷」、9位「岡崎」は、共に愛知県の三河エリアに位置する市。
デンソーやアイシン、豊田自動織機などトヨタ系企業の本社が多く、関連企業に勤める人からの職住近接ニーズも高い「刈谷」。県内屈指のスポーツタウンで、刈谷市をホームタウンとするスポーツチームは、バスケットボール、バレーボール、ソフトボール、ラグビー…など多岐にわたる。刈谷総合運動公園敷地内にある「ウイングアリーナ刈谷」は、男子バスケットボールチーム「シーホース三河」のホームアリーナ。トラックとフィールドからなる陸上競技場「ウェーブスタジアム刈谷」も併設され、各施設は大会などがない日は一般利用も可能。プロ仕様の本格的なエリアで、老若男女がスポーツを楽しむ姿が見られる。また、全国有数の財政力を誇る街でもあり、駅から市内の公園など主要な施設を回る公共施設連絡バス「かりまる」は、なんと無料で乗ることができる。さらに、「刈谷ハイウェイオアシス」や「刈谷市交通児童遊園」といった遊園地さながらの公園があり、乗り物が100円前後と、格安価格で遊べる。

「刈谷ハイウェイオアシス」(写真/PIXTA)

「刈谷ハイウェイオアシス」(写真/PIXTA)

NHK大河ドラマ「どうする家康」で注目が高まる「岡崎」は、徳川家康の生誕地である岡崎城や、八丁味噌の産地として知られる。「名古屋」まで名鉄とJRで30分の距離で、三菱自動車などの自動車関連工場と、関連企業に従事する人が多い。公共施設が充実し、市内中心部にある図書館交流プラザ「Libra」は、「愛知まちなみ建築賞」を受賞した建物内に豊富な蔵書を収容。館内には岡崎出身のジャズ愛好家、内田修氏が寄贈したジャズコレクション展示室があり、貴重な音源を楽しめる。市内には大きな公園も点在し、遊園地のある「南公園」では、100円以下で楽しめる乗り物が多数。また、「東公園」の動物園ではアジアゾウなどが見られるが、入園料は無料!教育にも注力し、愛知県立岡崎高等学校は、難関大学合格者を多数輩出する公立高校として全国的にも注目を集めている。

近年は名鉄「東岡崎」駅周辺で再開発が進み、2019年には駅直結の複合施設「オト リバーサイドテラス」が誕生。また、2023年度中には南口に地上3階建の駅ビルが竣工し、今後は北口にも商業施設やオフィスを備えた地上8階建のビルを建設予定だ。「東岡崎」は街のランキングも前回20位から15位へとアップしている。

今回の「愛知県住みたい街(駅)ランキング」では、名古屋都市部の街に加え、豊かな自然や文化を享受でき、再整備などで利便性が高まった三河エリアの都市もランクインした。「岡崎」と同じく三河の中核都市である「豊田市」も、前回33位から12位にランクアップしている。

特に、ピックアップしたランキング上位の街は、近年暮らしやすさや景観の良さがアップし、トレンド感も加わって、惹かれる魅力がたっぷり。

みんなの声を集めた「住みたい街ランキング」からは、今後の街の進化への期待感と、「忙しい毎日の中、プラスアルファの楽しみがある街で暮らしたい」という現代のニーズが見えてくるようだ。

●関連ページ
・SUUMO住みたい街ランキング2023 愛知県版/名古屋市版

3Dプリンターの家、国内初の実用版は23時間で完成!内装や耐震性は? ファミリー向け一般住宅も登場間近 長野県佐久市

「約300万円で購入できる10平米の3Dプリンター住宅」のプロトタイプが登場したと2022年5月に紹介しましたが、あれから1年、商用日本第一号がついに長野県佐久市で完成しました。その全貌をお届けします。

整骨院の大きな看板があった場所に3Dプリンターの家を設置。今後はこの球体が看板がわりに(画像提供/セレンディクス)

整骨院の大きな看板があった場所に3Dプリンターの家を設置。今後はこの球体が看板がわりに(画像提供/セレンディクス)

10平米の3Dプリンターの家。施工時間は22時間52分!

北陸新幹線が停車する佐久平駅から徒歩7分、大通りに面した整骨院の敷地内に立つ、球体のような白い物体。通りを歩く人も信号待ちの車の人も、興味深そうに眺めています。それもそのはず、数日前までなかった近未来的な物体が、突如現れたのだから。
建物の正体は、商用3Dプリンターハウスの日本第一号棟。施工時間は1日8時間×3日、計24時間を予定していましたが、実際に完成までに要したのはわずか22時間52分でした。

手がけたのは、セレンディクス(兵庫県西宮市)。「30年もの住宅ローンは現代の経済環境に即していない。車を買うような感覚で、ライフスタイルやライフステージに応じて、家を自由に買い替えられる社会を」と、これまでの家づくりの概念を根本から考え直し、低コストで短納期の3Dプリンターハウスの量産をめざす企業です。

令和の一夜城ともいえる3Dプリンターハウス「serendix 10(スフィアモデル)」は、床面積10平米、価格は330万円です。同社COOの飯田國大(はんだ・くにひろ)さんによると、「2022年秋に6棟を一般販売したところ、国内外から大きな反響があり、購入申し込みは30件ほどありました。その完売したうちの1棟が、今回の佐久市の物件です」
夢の日本第一号をもぎとったのは、全国に介護・医療施設を展開するカスケード東京。同社が運営する整骨院の敷地内に建築し、特別な施術を行うプライベートサロンとして利用する予定だといいます。

2日目、施工開始から10時間ほどたったころ。既に完成形が見えています(撮影/塚田真理子)

2日目、施工開始から10時間ほどたったころ。既に完成形が見えています(撮影/塚田真理子)

セレンディクスCOO飯田さん。初回販売数を6棟にしたのは、「かつてトヨタが紡績業から自動車産業に転身したとき初めて販売した車が6台だったそうです。問題点があったら教示してくれる、理解のあるお客様に協力いただいています」(撮影/塚田真理子)

セレンディクスCOO飯田さん。初回販売数を6棟にしたのは、「かつてトヨタが紡績業から自動車産業に転身したとき初めて販売した車が6台だったそうです。問題点があったら教示してくれる、理解のあるお客様に協力いただいています」(撮影/塚田真理子)

NASAの火星移住プロジェクトを手がける建築家がデザイン

serendix 10はスフィアモデルという名前のとおり球体で、直径3.3mで広さ10平米、天井高は4m。NASAの火星移住プロジェクトを進める建築家、曽野正之氏とオスタップ・ルダケヴィッチ氏による、近未来的なデザインが目を引きます。設計は、日本、アメリカ、オランダ、中国の企業コンソーシアム(共同企業体)が手がけました。

「風を逃す球体の建物形状は、風速140mにも耐えうる自然災害に強い構造。火星への移住をめざすNASAのプロジェクトでも採用されており、物理的に最強の形状といえます。従来の工法ではコストがかかるこうした曲線構造に対応できるのも、材料を積み重ねて建設する3Dプリンターの得意とするところです」と、飯田さんは話します。

三角形の窓がこのあと取り付けられます。30cm以上という壁の厚さから、遮音性、気密性も期待できます(撮影/塚田真理子)

三角形の窓がこのあと取り付けられます。30cm以上という壁の厚さから、遮音性、気密性も期待できます(撮影/塚田真理子)

コンクリート壁の厚さは30cm以上、躯体全体の重量は約20tもあり、まるでビルのように頑丈な造り。プロトタイプでは鉄筋などの構造体を使わずとも、十分な安定性と強度を実現しています。ただし、建築基準法で指定された鉄筋などの材料を使わない構造物は、個別に国土交通大臣の認定が必要なため、大臣認定の取得に向けて現在申請に着手しているところだそうです。

鉄筋を組み込んで日本の現行法に準拠

ちなみにserendix 10の実用棟は、当初、政令指定都市から90分のエリア内に設置することを想定していました。冒頭でもふれた、10平米300万円、車を買うように家を所有できるように、というコンセプトゆえ「土地代が安く、かつ必要なときに都市に行きやすい距離」というのがその理由です。
ところが、第一号に決まった佐久市の土地は条件が異なり、都市計画区域内のため建築確認申請も必要です。現段階では大臣認定が未取得だったことから、建築基準法に則り、3Dプリンターで出力したコンクリートの間に鉄筋を入れて構造設計をし直すことに。

躯体には断熱材も組み込み、日本より厳しいオランダの断熱基準をクリア(撮影/塚田真理子)

躯体には断熱材も組み込み、日本より厳しいオランダの断熱基準をクリア(撮影/塚田真理子)

構造設計は、駅やスタジアム、ホテルなどさまざまな規模の建築物を手がけるKAPの桐野康則さんが担当。鉄筋の柱を4本入れ、上に鉄筋の梁をつけることで耐震強度を高め、建築基準法に適合させているといいます。
「KAPを含め、現在205社のコンソーシアムの協力を得て、社会実装を重ねながら研究開発を進めています。セレンディクス1社では到底できませんが、課題ができるたびにさまざまな企業が声を上げてくれ、手を取り合って解決に向けて進んでいけるのです」(飯田さん)

工場で出力して輸送、現地で組み立てるプレキャスト工法を採用

ところで、3Dプリンターハウスはどんな手順で建築しているのでしょうか。
「セレンディクスはデジタルデータをつくる会社です。まず、設計データをつくり、最先端のロボット工学による3Dプリンターにデータを送信。そのプリンターで出力した4つのパーツをプレキャスト素材として輸送し、現場で組み立てて施工しています」と飯田さん。

serendix 10は開発と普及のスピードを速めるため、ヨーロッパ、中国、韓国、日本、カナダの3Dプリンターメーカーに出力を依頼。昨年、世界5カ国で同一データでの同時出力に世界で初めて成功し、ビジネスモデルを確立しつつあります。佐久市をはじめ初回販売した6棟は、それぞれの国で出力したものを建てる場所まで住宅輸送会社が輸送し、施工する計画なのだそうです。

今回使用したのは、中国の工場にある3Dプリンター。あらかじめ4つのパーツに分けて出力します。10平米のserendix 10の出力に要した時間は約14時間(映像提供/セレンディクス)自動で3Dプリンターがすべての作業を行うので人件費が削減できます(映像提供/セレンディクス)

3Dプリンターを現場に運び、出力しながら施工するのかと思っていましたが、「将来的にはそれも可能だと思います。ただ3Dプリンターは精密機械なので、輸送の際に故障してしまうリスクがあります。また現場で雨が降ってしまえば出力したモルタルが乾かず、施工時間が大幅に遅れてしまいます。現段階では、工場で安全に出力したパーツを輸送し、現場で組み立てながら、鉄筋を組み込むという手法をとっています」

今回は、中国WINSUN社の3Dプリンターを使用したとのこと。ところで、プリンターの自社開発も考えているのでしょうか?
「世界の会社と最新情報を共有することが大切だと思っています。汎用化する3Dプリンターは自社でつくらず、競合しないから、情報共有が可能なんです」と飯田さん。日本国内の協力企業では愛知県小牧市をはじめ現在5台の3Dプリンターを導入しており、来年にはさらに12台に増やす予定。今年下半期からは、日本で出力したものをメインに使用していきたいと話します。

20t以上もある躯体パーツを運ぶのには大きな負荷がかかるといい、高い輸送技術が必要。現在は10tトラックで輸送しています(画像提供/セレンディクス)

20t以上もある躯体パーツを運ぶのには大きな負荷がかかるといい、高い輸送技術が必要。現在は10tトラックで輸送しています(画像提供/セレンディクス)

単一素材で複合的な機能を持たせ、資材コストをカット手前に置いてあるのが屋根のパーツ。プロトタイプでは屋根も3Dプリンターで出力し一体成形していましたが、今回の工法ではGRC(ガラス繊維強化セメント)で作成したものをのせる形に(撮影/塚田真理子)

手前に置いてあるのが屋根のパーツ。プロトタイプでは屋根も3Dプリンターで出力し一体成形していましたが、今回の工法ではGRC(ガラス繊維強化セメント)で作成したものをのせる形に(撮影/塚田真理子)

3Dプリンターの活用で人件費が抑えられるのに加え、外壁や内壁、天井、床などを単一素材でつくれることも、資材の大幅なコストカットにつながります。serendix 10には、木材価格の高騰や工期の延長といったウッドショックの影響を受けない、低コストで住環境に適したコンクリートを用いています。「例えば、出力するコンクリートには硬化促進剤を使っているのですが、コンソーシアム企業の中には化学系メーカーも3社協業しており、こうした素材開発にも協力いただいています」(飯田さん)

鉄筋の間にモルタルを入れているところ。このあと屋根を設置し、上棟式も行われました(撮影/塚田真理子)

鉄筋の間にモルタルを入れているところ。このあと屋根を設置し、上棟式も行われました(撮影/塚田真理子)

青空に映えるコンクリートの球体。なだらかな曲線が描けるのは3Dプリンターならでは(撮影/塚田真理子)

青空に映えるコンクリートの球体。なだらかな曲線が描けるのは3Dプリンターならでは(撮影/塚田真理子)

内外装とも、積層痕をあえて残した意匠に(撮影/塚田真理子)

内外装とも、積層痕をあえて残した意匠に(撮影/塚田真理子)

見た目としては、ソフトクリームのような積層痕が3Dプリンターハウスの大きな特徴です。痕を残さずなめらかに均(なら)す技術もあるそうですが、3Dプリンターを象徴するデザインゆえ、あえてそのままにしているのです。
プロトタイプの施工時には、塗装に非常に時間がかかったことから、今回は出力後に塗装を施してから輸送。現場では、組み立てたあと最後に汚れた部分のみ塗装し直し仕上げることで、よりスピーディーな施工が可能になりました。

「すべてにおいて、社会実装を進めながら課題を見つけ、クリアしていく。そのために協業企業にサポートをお願いしています。またお客さまにも協力をお願いしている段階です。3Dプリンターハウスはコンセプトも技術もまったく新しいもの。今回の6棟はそれを理解してくださる方に購入いただけています」と飯田さん。施主も含めみんなで新しいものをつくっている感覚に、こちらもワクワクさせられます。

施工は現場に近いエリアのコンソーシアム会社に依頼するといいます。今回はナベジュウ(群馬県太田市)が担当。ナベジュウ代表の渡辺謙一郎さん(左)と飯田さん(撮影/塚田真理子)

施工は現場に近いエリアのコンソーシアム会社に依頼するといいます。今回はナベジュウ(群馬県太田市)が担当。ナベジュウ代表の渡辺謙一郎さん(左)と飯田さん(撮影/塚田真理子)

内装イメージ。4mの天井高が開放感をもたらします。別途内装工事を経て、プライベートなサロンとしてオープンする予定(© Clouds Architecture Office)

内装イメージ。4mの天井高が開放感をもたらします。別途内装工事を経て、プライベートなサロンとしてオープンする予定(© Clouds Architecture Office)

49平米と70平米の個人向け住宅もまもなく登場

3Dプリンターハウスの今後の展開も気になるところです。
まずはserendix 10の初回販売分残り5棟を順次施工していくといいます。次は岡山県内で、使い道は贅沢にも、飼っているフクロウのための家だとか!どんな空間ができあがるのか楽しみです。

並行して、個人向け3Dプリンター住宅「フジツボモデル」に取り組んでいます。フジツボモデルは、3Dプリント技術の第一人者である慶應義塾大学環境情報学部の田中浩也教授率いる慶應義塾大学KGRI環デザイン&デジタルマニュファクチャリング創造センターとの共同プロジェクト。
グランピング施設や3坪ショップ、離れなどの用途に限られる10平米のserendix 10に対して、49平米のフジツボモデルは水回り設備を完備した「住宅」仕様。3Dプリンターハウスで生活することができるのです。1LDKの平屋で、価格は550万円です。

住居としての役割を担うフジツボモデル。水回りの設備も付いて550万円(慶應義塾大学KGRI環デザイン&デジタルマニュファクチャリング創造センター)

住居としての役割を担うフジツボモデル。水回りの設備も付いて550万円(慶應義塾大学(慶應義塾大学環デザイン&デジタルマニュファクチャリング創造センター))

(慶應義塾大学(慶應義塾大学環デザイン&デジタルマニュファクチャリング創造センター))

(慶應義塾大学KGRI環デザイン&デジタルマニュファクチャリング創造センター)

間取りは1LDK。天井が高く快適なコンパクト平屋は二人暮らしに最適(慶應義塾大学KGRI環デザイン&デジタルマニュファクチャリング創造センター)

間取りは1LDK。天井が高く快適なコンパクト平屋は二人暮らしに最適(慶應義塾大学KGRI環デザイン&デジタルマニュファクチャリング創造センター)

「若いときに購入した2階建て、3階建ての家は年齢を重ねると住みにくくなるし、リフォームするとなると1000万円以上かかってしまう、という声も聞きます。また、賃貸住宅によっては、高齢者の入居をさまざまな理由をつけて断ったりするケースも。フジツボモデルは、そういった60代以上の夫婦2人のニーズに応えられる住宅です」と飯田さん。1LDKのコンパクトな平屋は、子どもが独立して部屋数は必要ない、という人の住み替え先にもぴったりです。既に3000件もの問い合わせがあり、400件を超える購入意向が寄せられているそうで、注目度の高さがうかがえます。

フジツボモデルの出力は、コンソーシアム会社である百年住宅の愛知県小牧工場で行われています(画像提供/セレンディクス)

フジツボモデルの出力は、コンソーシアム会社である百年住宅の愛知県小牧工場で行われています(画像提供/セレンディクス)

さらに年内には、家族で住める70平米の住宅も開発するといいます。こちらの設計はserendix 10と同じ建築家によるもので、デザインはまだ非公開ですが、とても近未来的な佇まいだそう。「電気自動車も、従来のガソリン車とはデザインががらりと変わりましたよね。3Dプリンターの家も、従来の住宅とは一変するのが自然ではないでしょうか」という飯田さんの言葉に大きく納得しました。

こうした社会実装を積み重ね、最終的にめざしているのは、「100平米300万円の家」とのこと。何十年もの住宅ローンを組まずに家を持つ。わずか数年後には、そんな近未来な住まいを実現する可能性に満ちた3Dプリンターハウスに、新しい時代の幕開けをヒシヒシと感じずにはいられません。

●取材協力
セレンディクス

「コンテナハウス」のスゴすぎる世界。空き家・防災対策など日本の住宅問題を解決する!?

今、コンパクトな平屋が注目を集めていますが、タイニーハウス(小屋)やトレーラーハウス、コンテナハウスにも注目が集まっています。今回は、物流用コンテナを住まいや店舗などとして活用するコンテナハウスにフォーカス。実は空き家対策や防災対策などでも活用されているのです。そのコンテナハウスの最前線について、日本コンテナハウス建築協会会長の菅原修一さんに話を伺いました。

店舗やホテル、住宅……。コンテナの使い道は実に多彩!

コンテナとは、船や鉄道などの輸送に使われる容器、入れ物のこと。サイズは普及しているもので20ftと40ftが主流であり、大型トレーラー車両がけん引していたり、鉄道の貨物輸送などに使われている12ftと31ftサイズを大型車両が輸送しているのを見かけたことがある人も多いことでしょう。

コンテナ(写真/PIXTA)

コンテナ(写真/PIXTA)

コンテナは世界中の輸送で使用されることから、強度が高く、過酷な環境にも耐え、しかも容易に移動させることができるのです。そのため、このコンテナを住まい、ホテル、店舗などとして活用するケースが増えてきました。例えば、2022年に開催されたFIFAワールドカップカタール大会ではコンテナを建材として積み上げてスタジアムとしたり、ホテルとしても活用されていました。コロナ禍では臨時の医療拠点になったこともあるといい、多用途かつ多目的に使うことができるのです。

「コンテナは日本のみならず世界中で使われていて、港で積荷を降ろし、帰りに荷物を載せる必要がない場合は現地で売り払うのです。そのため、各国で中古コンテナ市場が形成されています。日本でもコンテナは手ごろな価格帯で販売されて、フリマアプリやオークションでも取引されています。こうした中古コンテナを入手し、内外装を施して住居や店舗、ホテルなどに改造して活用しているのです。コンテナを連結したり、多層構造にすることもできますし、インテリアの自由度も高く、フルカスタムで世界に一つだけのコンテナハウスやショップがつくれるんですよ」と話すのは日本コンテナハウス建築協会の菅原修一さん。

なるほど、コンテナハウスのメリットをまとめると、
(1)躯体が頑丈
(2)価格が手ごろ
(3)内装の自由度が高い
(4)工期が短くて済む
(5)移動ができる
(6)不要になったら撤去、売却、再利用ができる
という点にあるようです。世界中で建築資材が高騰しているなか、こうしてみると人気が出るのは当たり前、といえます。

20ftのコンテナを平置きにして店舗にした例。広さは8畳ほど(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

20ftのコンテナを平置きにして店舗にした例。広さは8畳ほど(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

カフェ内部に入るとコンテナであると気づかない(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

カフェ内部に入るとコンテナであると気づかない(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

40ft(約12m強)のコンテナ3台を並べて店舗にした。千代田区4番町にあるその名も「No.4」。広さにして約80平米(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

40ft(約12m強)のコンテナ3台を並べて店舗にした。千代田区4番町にあるその名も「No.4」。広さにして約80平米(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

天井を見るとコンテナだな、とわかる(写真撮影/嘉屋恭子)

天井を見るとコンテナだな、とわかる(写真撮影/嘉屋恭子)

上下に積み重ねることで、多層構造にもなる(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

上下に積み重ねることで、多層構造にもなる(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

建物内部、吹き抜けで開放的な空間に(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

建物内部、吹き抜けで開放的な空間に(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

コンテナの耐用年数60~70年。使い捨てにならず離島や空き家対策にも!

さまざまなメリットがあるコンテナハウスですが、(6)不要になったら解体、売却できるため、「使い捨てにならない」という面でもすぐれています。

「コンテナは先ほど紹介したように各国で利用されているため、使い終わっても廃棄とはなりません。使い捨てなんてもうカッコ悪いし、時代に合わない。場所や用途に合わせて長く使っていく時代です。コンテナの耐用年数は一概にはいえませんが60年~70年は使用できるでしょう。もちろん、海沿いなどの環境条件やメンテナンスなどによって異なってきますが、少なくとも40年~50年は使用できると思います」とのこと。

持続可能なまちづくりや開発は、今や避けては通れない課題です。必要なときに、必要に応じて住まいや店舗、医療施設、学校を建設することも可能です。

コンテナの移動性、構造強度が強いことを利用し、「コンテナに建設資材や物資を積んで、現地に行って、住宅や学校、医療施設をつくることも可能です。基礎は現地で施工し、コンテナはそのまま躯体として活用、積んでいった窓や建材を使って建物をつくるのです。離島は、建築物を建てようとすると資材の輸送費、人材の移動費などの関係で建設コストが高くなりますが、これなら容易につくることが可能です。さらに、離島防衛、国土強靭化にも役立つんですよ。日本だけでなく世界の災害発生時や紛争地帯、アフリカなどの援助にも活用されています」と菅原さん。

石垣島のリゾートホテル『ぱいぬ島リゾート』(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

石垣島のリゾートホテル『ぱいぬ島リゾート』(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

コンテナを斜めにしてインパクトのある建築物に。構造計算もしてあるため、強度にも問題ないという(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

コンテナを斜めにしてインパクトのある建築物に。構造計算もしてあるため、強度にも問題ないという(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

客室。こちらもコンテナとは気が付かないはず(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

客室。こちらもコンテナとは気が付かないはず(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

日本では、東日本大震災のときもコンテナハウスは仮設住宅として活躍しました。現在では、トイレやお風呂もついたものを道の駅などに設置しておき、災害発生時は被災者を受け入れる、または被災地まで出向き、仮設住宅として使うという計画もあるといいます。

災害発生時に建設される仮設住宅は、一定程度の敷地が必要で、設置・解体廃棄にもコスト、工期がかかり、そのコストは1棟500万とも600万ともいわれています。コンテナハウスであれば、平時は宿泊施設などとして活用しながら、非常市は仮設住宅になるのであれば無駄もなく、解体、廃棄する必要がありません。地震だけでなく、台風、水害などの自然災害が多発している今、こうした備えは全国各地で普及していくことでしょう。

東日本大震災では仮設住宅としても使われた(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

東日本大震災では仮設住宅としても使われた(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

また、日本の喫緊の課題でもある空き家活用にも、コンテナハウスは役立つ、といいます。

「今、築100年、200年の立派な古民家が日本各地で空き家になっていますが、現在の建築基準を満たそうとすると、耐震性や断熱性などの改修費用が高くなることから、初期費用が高く、利活用の妨げになっています。そこでコンテナハウスと木造住宅の混構造のリノベを提案しています。コンテナにトイレとバス、寝室をもうけて寝室部分とします。木造は、ダイニングや共用部分とするとよいでしょう。ホテルでも自宅でも、なにかあっても耐火性、耐震性も高いのでシェルターになりますし、命を守ることができます」

こうして聞いてみると、用途は限りなくありますし、繰り返し使えます。太陽光発電と蓄電池、下水は浄化槽、空気中の水蒸気を飲み水になどの技術と組み合わせることで、容易にオフグリッド住宅にもなることでしょう。安全性、汎用性が高く、持続可能というあらゆる意味で、21世紀の住まいのスタンダードにもなりそう、そんな気すらしてきます。

建築基準法準拠、断熱や遮熱など、価格以外にも留意を

「国際海上コンテナは世界中で使われているので、国際的に規格化したISOという規格で統一されています。ただし、住居や店舗など、固定した建築物として使う場合は、ISO規格+日本の建築基準法に適合したJIS規格に適合した『建築専用コンテナ』でないといけません。違いは複数ありますが、大きくは使用している鋼材と構法が異なります。そのため、価格ばかりに目を奪われ、何も知らないで中古コンテナを購入、建築すると違法建築になることもあるんです。現に私の元には、『行政から違法建築といわれた』という相談が増えています」と菅原さん。

「ISOコンテナ」と「JISコンテナ」の外地

菅原さんの取材を基に筆者作成

また、海上輸送コンテナはパネル構造でつくられているため、窓やドアを設置するために開口部を設けると強度が大きく損なわれてしまうことも。建築基準法を満たした建築コンテナはラーメン構造であるためこうした問題は発生しませんが、コンテナハウスを手掛ける業者がそもそもこうした建築法規を知らないケースもあるため、注意が必要だといいます。

あわせて、注意したいのが住み心地/使い心地に直結する、断熱や遮熱、気密性です。
「コンテナハウスは北海道から沖縄まで日本全国で使われており、建築基準法を基にきちんと設計・施工すれば住居として冬暖かく、夏も快適に過ごせることがわかっています。ただ、コンテナそのものは壁が1.6mm~2.0mmの鉄板ですぐに熱を通してしまうため、建物内部に断熱材を施工するほか、気密性も高めないといけません。単純に断熱材が入っていればOKではなく、発泡ウレタン吹き付け、ロックウール、グラスウールなど、どのような材料が使われているか、またその厚み、施工精度が非常に重要になります。きちんと施工されていないと、コンテナ壁鋼板と内装仕上げ下地材の空気層が結露してしまってそこからカビが生えてきた……というトラブルも発生しています」(菅原さん)

気密性も同様、どれだけ頑丈なコンテナであっても開口部などから空気が漏れてしまっては意味がありません。コンテナハウスでは、土地の条件、内装の意匠性にもよりますが1棟で700~800万円ほどが目安で、建築法令の理解や施工の精度も含めて、コンテナハウスを扱う業者を選んでほしいとのこと。

コンテナを店舗にしたケース(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

コンテナを店舗にしたケース(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

コンテナをつかった住まい。インダストリアルの雰囲気がかっこいい(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

コンテナをつかった住まい。インダストリアルの雰囲気がかっこいい(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

過疎地域に役立つ無人コンビニにもなる(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

過疎地域に役立つ無人コンビニにもなる(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

カッコよくて、快適、時代にもあったコンテナハウス。自然災害や離島、空き家問題への活用など、日本の住宅問題をまるっと解決する「コンテナ」の活用方法を聞くたび、筆者はワクワクがとまりませんでした。何より、ひとり1コンテナで、家賃や住宅ローンに縛られず、のびのび暮らせる未来がきたら、楽しいですよね。住宅はコンパクトで、もっと自由度の高いものへ。コンテナハウスにもっと光があたる日も近い気がします。

●取材協力
一般社団法人日本コンテナハウス建築協会
株式会社コンテナハウス2040.jp

SNSが浸透した今、インテリア提案も新たな局面へ。感性を形にするデザインシステムとは?

積水ハウスが、新デザイン提案システム「life knit design(ライフ ニット デザイン)」を6月30日から全国で始動するという。そのプレス向けの発表会が、6月20日に開催された。併せて、「life knit atelier(ライフ ニット アトリエ)」の内覧会もあり、筆者も参加してみた。

【今週の住活トピック】
「life knit design(ライフニットデザイン)」6月30日始動/積水ハウス

「和・洋・モダン」などから、「静・優・凛・暖・艶・奏」の6分類へ

積水ハウスの説明によると、“感性”を住まいに映し出すのが、新デザイン提案システム「life knit design」だという。“時間と共に愛着を編み込む住まい”といった意味合いがあるそうだ。これまでは、その時々に流行した「和・洋・モダン」などといったテイストをベースにしていたが、より普遍的な“感性”をベースにした空間提案をするのが、ライフ ニット デザインということだ。

その感性とは、これまでの積水ハウスの施工事例などのインテリア画像約6600点から受ける印象を言語化して、日本カラーデザイン研究所の言語イメージスケールを元に3D化した結果、おおらかな6つの感性フィールドを導き出したもの。例えば、静かな、くつろいだ、豊潤な、凛とした、などをプロットして、おおらかな(重なる部分もある)関係性をグループ化した結果、「静・優・凛・暖・艶・奏」の6つの感性フィールドに集約した。

【6つの感性フィールド】
「静 PEACEFUL」:しなやかな空気感…ローコントラスト、同系色
「優 TENDER」 : さわやかな空気感…すっきりナチュラルな木質感
「凛 SPIRIT」: 緊張感のある空気感…上質なシンプルさ
「暖 COZY」: 暖かみのある空気感…暖かみのある木質感
「艶 LUXE」: 贅沢な空気感…ハイコントラスト、重厚感
「奏 PLAYFUL」: 心躍る空気感…ワクワクする色やカタチ

6つの感性フィールドをプロット

積水ハウス プレゼン資料より転載

この提案システムはインテリアとエクステリアが対象で、エクステリアについても同様に、美しい景観を構成する「明度グラデーション」を特定している。顧客の感性から、インテリアやエクステリアをプランニングするのが新しい提案の手法だ。

好みのインテリア画像から感性を判断して空間を提案

説明を聞いただけでは具体的なイメージがわかないし、家族といえどもそれぞれ感性が異なる場合はどう提案するのだろうと疑問に思った。「SUMUFUMU TERRACE新宿」内に、実際に提案をする場となる「life knit atelier」があり、そちらに移動してさらに詳しく話を聞いた。

SUMUFUMU TERRACE新宿/筆者撮影

SUMUFUMU TERRACE新宿/筆者撮影

まず、同社が開発した「interior communication tool」で顧客の感性を調べる。内覧会では、筆者のいるグループから、夫役・妻役・子ども役の3人で実際に試してみることに。筆者は手を挙げて、子ども役を担当した。家族3人は、別々のタブレットで次々と映し出される36枚のインテリア画像を見て、好き(♡)かそうでもないか(△)をマークをタップして直感的に選ぶ。すべて選び終わると、好きなインテリア画像だけが映し出されるので、その中からベスト5を選ぶ。ベスト5については、その理由(例えば、使ってみたい家具や小物がある、過ごし方のイメージがわいたなど)も入力する。

積水ハウス プレゼン資料より転載

積水ハウス プレゼン資料より転載

入力が終わると、同社のスタッフが家族3人の選んだベスト5を一覧にして出してくれた。今回は、にわか家族なので、好きなインテリアがあまり重ならない。特に夫役の選んだ画像は、重厚感のある画像が多くて他の家族と全く一致しなかったが、妻役と子ども役はナチュラルな印象の画像が多く、数枚重なって選んでいた。「このように家族でも感性は一致しない場合はどうなるのか」という疑問を抱えたまま、次のステップへ移動。

筆者撮影

筆者撮影

インテリアの提案をしてくれるスタッフのいる部屋には、すでに家族の好みの画像が共有されている(写真左のディスプレイ)。そのうえで、好みの画像やその理由などを基に、一つのインテリアイメージをCG動画で提案してくれる(写真右のディスプレイ)。CG動画では、最初に平面の間取りが提示され、その間取りをどう作りこむかのCGが空間や角度を変えて映し出される。床・壁・天井といったシンプルな空間に、家具などを掛け合わせることで感性を表現するということなので、CG動画には家具、照明、ラグなども入っている。また、サンプルも用意してあるので、実際の色味や手触りなども確かめながら、決めていけるという。

今回の家族に提案されたCG動画は全体的にナチュラルな印象だったので、妻役と子ども役で共通する感性が優先されているのだろう。家具が気に入ったなどの理由によっては、誰かの好みの家具も配置されているのかもしれない。実際には、家族が提案されたCG動画を見ながら、床材はこうしたいなどと話し合い、要望に応じて変更された動画で確認しながら決めていくので、家族の感性が異なれば、家族で協議して解決することになるようだ。筆者が念のために、提案されるCG動画の数を聞いてみると、それぞれを組み合わせて提案するので、何万通りにもなるという。

住宅の範疇といえば、インテリアのうち内装や住宅設備になるが、提案されるCG動画には家具やラグなども配置されている。家具などの販売やあっせんもしてもらえるのかを聞いたところ、家具や照明はもちろん、観葉植物や絵画などの相談にも応じているという。その場ですぐに、照明や観葉植物を差し替えたCGを見せてくれた。至れり尽くせりだ。

最後に、マテリアルビュッフェのあるコーナーに移動した。ここでは、床材や壁紙、カーテン等のサンプルが展示してあるほか、6つの感性フィールド別のコラージュボックスが用意されている。コラージュボックスとは、「暖」の感性ならインテリアの内装はこうした組み合わせがオススメといったセットがボックスに収納されているものだ。残念ながら、どの感性に該当するといった判定はしてもらえないが、好みのセットをベースに、素材を触りながら他の感性の素材も取り入れて決めていくということになるのだろう。

マテリアルビュッフェのコーナー/筆者撮影

マテリアルビュッフェのコーナー/筆者撮影

ベースがあるので、家づくりを効率的に検討できるのがメリット

エクステリアに関する体験はできなかったのでよくわからないが、インテリアについては、感性にマッチしたものをトータルに提案してもらえるので、それをスタートラインにして検討できるという点で、決定するまでの時間の短縮が図れるだろう。

またその際に、家族の好みが見える化されるので、互いに話しやすいという利点もあるだろう。最近は、新築やリフォームの際に、好みの画像を用意して希望を伝える人も多いと聞く。この仕組みでは、積水ハウスが用意した画像だけでなく、例えばインスタグラムの好みの画像を提示すれば、それも加味して分析することも可能だという。

一方で、実際の家づくりでは、インテリアだけでなく、決まった広さの中で間取りを固めるため、スペースの取り合いという側面もある。スペースと好みのインテリアを上手に織り込むのが、スタッフの腕の見せ所となるのだろう。

また、インテリアについては至れり尽くせりなので、あれこれとこだわるほどにいろいろなものを新たに買うことになる可能性もあり、コスト管理という側面も欠かせないように思う。

さて、感性を軸として空間を提案するという新しい手法は、画像や動画に親しんでいる今の人たちにマッチしているのだろう。「何となく好き」な画像が、こうした手法でつきつめていくと、床や壁が好みなのか、家具が好みなのか、居住空間が好みなのかといったことが認識できるようになり、言語化されていくのも面白い。

一方でトータル提案されるのがメリットである半面、提案から外れるものを加えた途端、デザインが崩れてしまうので、住む人のインテリアセンスも問われることになるのだろう。

●関連サイト
積水ハウス「life knit design(ライフニットデザイン)」6月30日始動
「life knit design」ウェブサイト

【東京駅30分以内】中古マンション相場が安い駅ランキング2023年。シングルとファミリー向けの顔ぶれの違いは?

日本を代表するターミナル駅・東京駅。周辺には多数のオフィスや商業施設が林立し、仕事にショッピングにと利用する人も多いだろう。そんな東京駅周辺に住めば便利なのは確かだろうが、住宅価格や生活費が高かったり人出が多かったり、暮らす街としてはネックになる面も。そこで、便利な東京駅までアクセスしやすく、かつリーズナブルな物件が探しやすい駅を調査した。東京駅まで電車で30分圏内にある、シングル向け(専有面積20平米以上~50平米未満)、カップル・ファミリー向け(専有面積50平米以上~80平米未満)それぞれの中古マンションの価格相場が安い駅トップ15を紹介しよう。

東京駅まで電車で30分以内にある中古マンションの価格相場が安い駅TOP15

【シングル向け】
順位/駅名/価格相場(主な路線名/駅の所在地/東京駅までの所要時間/乗り換え回数)
1位 平間 1580万円(JR南武線/神奈川県川崎市中原区/30分/1回)
1位 鹿島田 1580万円(JR南武線/神奈川県川崎市幸区/29分/1回)
3位 新子安 1935万円(JR京浜東北・根岸線/神奈川県横浜市神奈川区/30分/1回)
4位 船橋 1980万円(JR総武線快速/千葉県船橋市/26分/0回)
4位 青井 1980万円(つくばエクスプレス/東京都足立区/25分/1回)
6位 綾瀬 1989万円(JR常磐線各駅停車/東京都足立区/25分/1回)
7位 小岩 2030万円(JR総武線/東京都江戸川区/19分/1回)
8位 氷川台 2189.5万円(東京メトロ有楽町線・副都心線/東京都練馬区/30分/1回)
9位 川口 2319万円(JR京浜東北・根岸線/埼玉県川口市/23分/1回)
10位 国道 2370万円(JR鶴見線/神奈川県横浜市鶴見区/30分/2回)
11位 亀有 2380万円(JR常磐線各駅停車/東京都葛飾区/28分/1回)
11位 八丁畷 2380万円(JR南武線/神奈川県川崎市川崎区/30分/2回)
13位 四ツ木 2410万円(京成押上線/東京都葛飾区/30分/1回)
14位 五反野 2450万円(東武伊勢崎線/東京都足立区/27分/1回)
15位 西新井 2480万円(東武伊勢崎線/東京都足立区/27分/1回)

【カップル・ファミリー向け】
順位/駅名/価格相場(主な路線名/駅の所在地/東京駅までの所要時間/乗り換え回数)
1位 六町 3299万円(つくばエクスプレス/東京都足立区/27分/1回)
2位 小菅 3380万円(東武伊勢崎線/東京都足立区/25分/1回)
2位 足立小台 3380万円(日暮里・舎人ライナー/東京都足立区/27分/1回)
2位 青井 3380万円(つくばエクスプレス/東京都足立区/25分/1回)
5位 西船橋 3435万円(JR京葉線/千葉県船橋市/29分/0回)
6位 松戸 3485万円(JR常磐線/千葉県松戸市/27分/0回)
7位 堀切菖蒲園 3490万円(京成本線/東京都葛飾区/29分/1回)
8位 梅島 3499万円(東武伊勢崎線/東京都足立区/29分/1回)
9位 五反野 3580万円(東武伊勢崎線/東京都足立区/27分/1回)
9位 四ツ木 3580万円(京成押上線/東京都葛飾区/30分/1回)
9位 西新井 3580万円(東武伊勢崎線/東京都足立区/27分/1回)
12位 扇大橋 3599万円(日暮里・舎人ライナー/東京都足立区/30分/1回)
13位 蕨 3680万円(JR京浜東北・根岸線/埼玉県蕨市/29分/1回)
13位 西川口 3680万円(JR京浜東北・根岸線/埼玉県川口市/26分/1回)
15位 下総中山 3780万円(JR総武線/千葉県船橋市/26分/1回)
※シングル向け、カップル・ファミリー向け、それぞれの16位~30位は記事末に記載

昨年のランキング:
東京駅まで30分以内、中古マンション価格相場が安い駅ランキング 2022年版

「シングル向け」1位にはJR南武線の2つの駅がランクイン

東京駅から30分圏内の駅のうち、シングル向け中古マンション(専有面積20平米以上~50平米未満)の価格相場が最も安かったのは平間駅と鹿島田駅。どちらもJR南武線の駅で、価格相場は1580万円だった。平間駅は神奈川県川崎市中原区、鹿島田駅は川崎市幸区に位置するものの、両駅は隣り合っており直線距離だと1kmほどしか離れていない。平間駅から東京駅に向かう際は、2駅先の武蔵小杉駅でJR横須賀線に乗り換えると計約30分で到着する。鹿島田駅から武蔵小杉駅までは3駅なので東京駅までの所要時間は30分を超えそうだが、別のルートを通ればOK。武蔵小杉とは逆方面に3駅目の川崎駅からJR東海道本線に乗り換えると、計約29分で東京駅にたどり着く。

平間駅(写真/PIXTA)

平間駅(写真/PIXTA)

1位にランクインした2駅の、駅周辺の様子を見てみよう。平間駅周辺には商店街が続いており、コンビニやスーパー、ドラッグストアのほかに青果店や精肉店などの個人商店、ふらっと入りやすいラーメン店や牛丼店をはじめ多彩な飲食店が点在している。高層ビルや大型商業施設はないけれど、のどかで暮らしやすそうな街並みだ。夏は商店街のサマーフェスティバルが開かれ、名物のサンバパレードや出店を楽しむ人で通りが埋め尽くされる。

鹿島田駅周辺はというと、高層マンションがそびえており平間駅とは違った印象を受けるだろう。駅ビル「エキスト鹿島田」にはドラッグストアやファストフード店があり、駅を出てペデストリアンデッキを進むとショッピングモール「サウザンド・モール」へ。1階にはスーパー、2階にはドラッグストアや書店などがあり、電車を降りてすぐ買い物ができる環境だ。駅周辺には多彩な飲食店もあり、にぎやかな雰囲気。また、駅から西方面に屋根付きのペデストリアンデッキを進み、スーパーや100円ショップ、飲食店などを備えた「新川崎スクエア」を通り過ぎるとJR横須賀線・新川崎駅に到着! 2駅利用できる点や買い物環境を考えると、価格相場は同じでも平間駅よりも鹿島田駅のほうが便利そうではある。

続く3位はJR京浜東北・根岸線の新子安駅で価格相場は1935万円。神奈川県横浜市の神奈川区に位置し、2駅隣の川崎駅からJR東海道本線に乗り換えると計約30分で東京駅にたどり着く。川崎とは逆方面に乗車すると、2駅・約6分で横浜駅へ。新子安駅前の広場を挟んで京急本線・京急新子安駅があり、2路線を利用できる点も魅力だろう。駅北側には住宅・業務・商業の複合施設「オルトヨコハマ」がそびえ、商業エリアではスーパーやドラッグストア、飲食店が営業中。駅南側にも普段使いしやすい飲食店が点在している。また、駅近くには首都高速横羽線の子安ランプがあり、車で遠出するにも便利なロケーションだ。

新子安駅の周辺(写真/PIXTA)

新子安駅の周辺(写真/PIXTA)

トップ15のうち、東京駅までの所要時間が最短なのは7位にランクインしたJR総武線・小岩駅で価格相場は2030万円。JR総武線の各駅停車のみが停まる駅だが、1駅隣の新小岩駅でJR総武線の快速に乗り換えると東京駅まで計約19分で行くことができる。東京都江戸川区に位置する小岩駅の高架下には、地上1階・地下1階からなるショッピングセンター「シャポー小岩」がある。2023年3月にリニューアルオープンした同施設の地下1階では主に食料品関係の店舗、1階では生活雑貨やファッションのお店や書店など計44店舗が営業中だ。駅南側には200店舗ほどが軒を連ねる「小岩フラワーロード商店街」も。昔ながらの親しみやすい商店街が魅力的なこの街では、大規模な再開発が進行中で2030年までに複数の複合ビルの建設が予定されている。街の注目度が高まるにつれて、今後は中古マンションの価格相場が高騰することも考えられる。

小岩フラワーロード商店街(写真/PIXTA)

小岩フラワーロード商店街(写真/PIXTA)

関連記事:
・【2023年】東京23区の中古マンション価格相場が安い駅ランキング。シングル向け、カップル・ファミリー向け、それぞれ1位は?
・【2023年】JR山手線、中古マンションの価格相場が安い駅ランキング。シングル向け、カップル・ファミリー向け、それぞれ1位は?
・JR中央線(東京都内)、中古マンション価格相場が安い駅ランキング 2022年版

「カップル・ファミリー向け」TOP15の過半数は足立区の駅に

ここからはカップル・ファミリー向け中古マンション(専有面積50平米以上~80平米未満)のランキングをチェックしていこう。1位は東京都足立区にある、つくばエクスプレス・六町(ろくちょう)駅で価格相場は3299万円。つくばエクスプレス区間快速で北千住駅に出てからJR上野東京ライン直通のJR常磐線快速に乗り換えれば、計約27分で東京駅に到着する。つくばエクスプレスで6駅目の秋葉原駅で、山手線などJR各線や東京メトロ日比谷線に乗り換えができる点も便利。4駅目の浅草駅では、少々地上を歩く必要があるが東京メトロ銀座線、東武伊勢崎線、都営地下鉄浅草線の浅草駅に乗り継ぐこともできる。

六町駅(写真/PIXTA)

六町駅(写真/PIXTA)

2005年の六町駅開業に合わせて大規模な区画整理事業が行われたため、駅周辺には築浅の住宅も目立つ新しい街並みが広がっている。駅前広場に面して児童公園が整備されているほか、2021年には「まちの防犯拠点」として警察官OBが常駐する「六町駅前安全安心ステーション(ろくまる)」が開設された。区画整理・再開発事業は現在も続いており、駅前広場に面した一角に駐輪場とにぎわい施設の機能を兼ね備えた商業・公益複合施設をつくる計画や、駅東側の綾瀬川沿いに公園を整備する計画もあるのだそう。現在は駅前にスーパーと数軒のコンビニや飲食店、徒歩10分ほどの範囲に別のスーパーやドラッグストアがあるような状況。駅を中心にしたにぎわいには欠けるが、今後の発展を見越していまのうちに物件を入手するのもアリだろう。

2位には価格相場が同額の3380万円で、小菅駅、足立小台駅、青井駅の3駅がランクイン。いずれも1位同様に東京都足立区の駅であり、「東京23区の中でも足立区はリーズナブルな物件が探しやすい街」という印象を受ける結果となった。

青井駅前(写真/PIXTA)

青井駅前(写真/PIXTA)

2位の3駅のうち青井駅は1位・六町駅に隣接するつくばエクスプレスの駅で、「シングル向け」ランキングでも4位に入っている。青井駅からはまず南千住駅に行き、そこからJR上野東京ライン直通のJR常磐線に乗り換えると計約25分で東京駅にたどり着く。青井駅の開業は六町駅同様に2005年だが、それ以前より都営住宅などが建ち並ぶ住宅地だったためか駅北側に古くからある商店街が続いている。毎月第4日曜には花火を合図に朝市が開かれ、第2土曜にも夕市が開催されているのも楽しそう。駅周辺にはまとめ買いに便利なスーパーもあるほか、春と秋にバラが見頃を迎える「清和ばら公園」をはじめとする公園が多い点は子どもがいるファミリーに嬉しいところだろう。

トップ15の大半は東京駅まで乗り換えが1回必要な駅だったが、乗り換え0回の駅も5位と6位にランクインした。そのうち5位の西船橋駅は千葉県船橋市に位置し、価格相場は3435万円。JR京葉線1本で東京駅まで約29分だ。JRの総武線(各駅停車)と武蔵野線、東京メトロ東西線、東葉高速鉄道も乗り入れる西船橋駅は、JR総武線で1駅目の船橋駅と並んで船橋市を代表するターミナル駅といえる。ちなみに15位・下総中山駅(価格相場3780万円)は、船橋駅と逆方面のJR総武線に乗って1駅目だ。西船橋駅直結の「ペリエ西船橋」には食品やファッション、生活雑貨のお店からスーパーにドラックストア、飲食店までがずらり。駅北側から国道14号・千葉街道に至るまでのエリアには多種多様な飲食店が軒を連ね、街道を越えたあたりから住宅街に。駅南側にも住宅街が広がっており、日常の買い物は複数のスーパーが点在するこちら側のほうが便利そうだ。

西船橋駅前(写真/PIXTA)

西船橋駅前(写真/PIXTA)

価格相場が同額の3680万円で13位にランクインした蕨駅と西川口駅の2駅は、JR京浜東北・根岸線の隣り合う駅であり埼玉県に位置している。そのうち西川口駅は川口市にあり、5階建ての駅ビル「ビーンズ西川口」を併設。スーパーなど食品関係のお店にドラッグストア、100円ショップ、飲食店が入っており、電車を降りてすぐに買い物や食事ができる。駅周辺もスーパーやディスカウントストア、飲食店などの商店が充実し、徒歩6分ほどの場所にはインテリア用品店「ニトリ」も。徒歩20分圏内に「アリオ川口」「ララガーデン川口」という2つのショッピングモールがあるのも便利なところ。こうした暮らしやすい環境や都心部までのアクセスのよさから西川口駅周辺は住宅地として人気があり、2023年にも複数の新築マンションが誕生予定だ。中古マンションも競争率が高そうなので、気に入るものを見つけたら長考しすぎないほうがよいかもしれない。

シングル向け 16位~30位

カップル・ファミリー向け 16位~30位

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている東京駅まで電車で30分圏内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】
駅徒歩15分圏内、物件価格相場3億円以下、築年数35年未満、敷地権利は所有権のみ
シングル向け:専有面積20平米以上50平米未満
カップル・ファミリー向け:専有面積50平米以上80平米未満
【データ抽出期間】2022/4~2023/3
【物件相場の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された中古マンション価格から中央値を算出
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、朝7時30分~9時の検索結果から算出(2023年4月24日時点)。所要時間は該当時間帯で一番早いものを表示(乗換時間を含む)
※記載の分数は、駅内および、駅間の徒歩移動分数を含む
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している
※ダイヤ改正等により、結果が変動する場合がある
※乗換回数が2回までの駅を掲載

タイならでは塀囲みのまち「ゲーテッド・コミュニティ」って? クリエイター夫妻がリノベ&増築したおしゃれなおうちにおじゃまします 

個性を大切にした暮らし方や働き方って、どんなものだろう。
その人の核となる小さなこだわりや、やわらかな考え方、暮らしのTipsを知りたくて、これまで4年かけて台湾や東京に住む外国の方々にお話を聞いてきました。

私の中でここ数年はタイのドラマや音楽、文化などが沸騰中。国内外の移動ができるようになったタイミングでバンコクに飛び、クリエイターや会社員など3名の方のご自宅へ。センスのいいインテリアと、無理をしない伸びやかな暮らし方、まわりの人を大切にする愛情深さ、仕事に対する考え方などについてたっぷり伺います。

第2回は、タイ人で帽子ブランド「Palini」デザイナー&オーナーと、バンコクの超人気ヴィンテージ&アート&クラフトイベント「Made By Legacy」のベンダーリノベーション担当という二足の草鞋を履いた、Benzさん(ベンツさん・34歳)を訪ねました。

BenzさんとAui(ウイ)さん、そして愛犬のKale(ケール)(写真撮影/Yoko Sakamoto)

BenzさんとAui(ウイ)さん、そして愛犬のKale(ケール)(写真撮影/Yoko Sakamoto)

緑豊かなゲーテッド・コミュニティゲーテッド・コミュニティの内部(写真撮影/Yoko Sakamoto)

ゲーテッド・コミュニティの内部(写真撮影/Yoko Sakamoto)

タイの首都、バンコク出身のBenzさんは、ガールフレンドのAui(ウイ)さん、犬のKaleとともに、郊外のゲーテッド・コミュニティ(タイ人はムーバーンと呼ぶ。Villageの意)内の一戸建てで暮らしています。Benzさんが築18年で広さ213平米の中古一戸建て(2LDK)を500万B(※当時のレートで約1700万円)で購入したのは2年前のこと。タイでは一般の住宅は建物や土地に手を入れることに対する自由度が比較的高く、購入後に敷地内に2階建ての離れを建てました。

中古一戸建ての母屋はおもに住居で、1階はLDKとトイレ、2階は寝室とバスルーム、ショールームがあります。離れの1階は自身が運営している帽子ブランド「Palini」のアトリエとして使用しています(2階は現在使用していません)。

母屋2階のショールームスペース (写真撮影/Yoko Sakamoto)

母屋2階のショールームスペース (写真撮影/Yoko Sakamoto)

大量にある帽子類は、スタッキングできるコンテナを使って収納(写真撮影/Yoko Sakamoto)

大量にある帽子類は、スタッキングできるコンテナを使って収納(写真撮影/Yoko Sakamoto)

ゲーテッド・コミュニティは、バンコク近辺でよく見るスタイルの住居です。一定区画を管理会社などが買い取ってぐるりと塀で囲み、出入口にセキュリティブースを設置。出入りする人や車を監視・管理する、私設の村のようなものです。

ゲーテッド・コミュニティの入口。ガードマンが常駐している(写真撮影/Yoko Sakamoto)

ゲーテッド・コミュニティの入口。ガードマンが常駐している(写真撮影/Yoko Sakamoto)

Benzさんらが住まうバンコク北東部にあるゲーテッド・コミュニティは、敷地内を駆けまわるリスの姿を見かけるほど緑豊か。約400世帯が生活していて、プールやジムもあり、近所の方々との交流もさかん。ゲート内で、ひとつのコミュニティが確立しています。

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

子どもが遊べる公園やバスケットボールコートもある(写真撮影/Yoko Sakamoto)

子どもが遊べる公園やバスケットボールコートもある(写真撮影/Yoko Sakamoto)

利便性より心地よさを重視して

都市部に住む若い二人の住居としては、多くの選択肢があります。若者ならば利便性を優先して、バンコク中心部のコンドミニアムやアパートを購入したり、借りたりして住むイメージがあります。なぜ、落ち着いた郊外の一戸建てを選んだのでしょうか。

直線的なラインが美しい建物外観 (写真撮影/Yoko Sakamoto)

直線的なラインが美しい建物外観 (写真撮影/Yoko Sakamoto)

「かつてサトーンエリア(※バンコク中心部。オフィス街に近く、大使館などが集まる閑静な高級住宅地)にあった実家は、4階建てのタウンハウスでした。通っていた小学校や病院は近かったものの、構造上、家の中が暗いのが好きじゃなかった。だから、どうしても明るい家に住みたかったのです。

たっぷり光が入るリビング(写真撮影/Yoko Sakamoto)

たっぷり光が入るリビング(写真撮影/Yoko Sakamoto)

各部屋のあちこちに窓が配されている(写真撮影/Yoko Sakamoto)

各部屋のあちこちに窓が配されている(写真撮影/Yoko Sakamoto)

キッチンにも陽の光がたっぷり(写真撮影/Yoko Sakamoto)

キッチンにも陽の光がたっぷり(写真撮影/Yoko Sakamoto)

それで家を買おうと思い立って、6カ月で50軒ほど内見しました。人生で一番の買い物ですね。なぜ新築にしなかったかというと、この家の外観と構造が好きだと思ったから。タイの一戸建ては、一般的に建物の前面に庭がありますが、この家は庭が建物の後ろにあって、そこも良かった。ゲーテッド・コミュニティは緑が多く、自分で木を植えなくていいのも気に入った点でした。

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

もう少しバンコク中心部に近い場所にも同じ会社のゲーテッド・コミュニティがありましたが、そちらは値段がもっと高くて、タウンハウス(*長屋のように横の家とつながっていて4階程度までの低層な建物)で、周囲の道路の渋滞が酷かったため選びませんでした」

玄関外にヴィンテージのロッカーを置き、シューズボックスに (写真撮影/Yoko Sakamoto)

玄関外にヴィンテージのロッカーを置き、シューズボックスに (写真撮影/Yoko Sakamoto)

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

少し脱線しますが、タイの人は多くが持ち家で、住居を購入する動機は、
1. 学校や子どもの生活環境に合わせて引越す
2. 経済的に余裕ができると、狭い家から住み替える
3. 人に貸したり民泊にするなどビジネスのため
終の棲家という感覚は希薄なのだそうです。

さて、話を戻しましょう。
「ここはバンコクの中心部から、高速道路も使って車で40分。将来電車が通る計画があり、そうするとより便利になります。
この家を紹介してくれたのは、私が働いていたストリートファッション誌『Cheeze Magazine』で広告の仕事をしている先輩で、その人自身やミュージシャンなど、クリエイティブ系の有名な人も住んでいます。仕事柄、しょっちゅう外に出ないから、郊外でOKというのもありますね」

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

実家での同居を経て、アトリエを兼ねた一戸建てへ

Benzさんはもともと、有名ストリートカルチャー誌『CHEEZELOOKER』で4年間ファッションコラムニストとスタイリストをしていて、そこで会計の仕事をしていたAuiさんと出会いました。その後、8年前に2人でブランドを立ち上げました。

ガラスをはめて、階段や廊下にも採光を(写真撮影/Yoko Sakamoto)

ガラスをはめて、階段や廊下にも採光を(写真撮影/Yoko Sakamoto)

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

ショールームスペースの一角にはミシンも置かれている(写真撮影/Yoko Sakamoto)

ショールームスペースの一角にはミシンも置かれている(写真撮影/Yoko Sakamoto)

今の家に住む前は、Benzさんのお兄さんが結婚して他の家に移ったため、Benzさんの実家の3階をオフィス・4階を倉庫にし、AuiさんもBenzさん一家とともに実家に住んでいました。でも、イベントなどに出店するたびに上階から荷物を下ろすのは大変で。住まいとワークプレイスを整えるために、家探しを始めたそうです。

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

手前が増築したアトリエ棟。ちょうどいい距離感です(写真撮影/Yoko Sakamoto)

手前が増築したアトリエ棟。ちょうどいい距離感です(写真撮影/Yoko Sakamoto)

「ゲーテッド・コミュニティに母屋となる一戸建てを購入し、別棟を建てて、母屋と別棟の2階をベランダで繋げました。家の中は400万B(※当時のレートで約1370万円)を費やして丸ごとリノベーション。私たちは10年一緒にいて考えも似ているから、家づくりでぶつかることはなかったです。でも、リフォームを担当してくれた、ホテルなどのインテリアデザインの仕事をしている弟とは、時には意見が合わなかったりもしました」

母屋二階と離れはベランダを通じてつながっている。奥はいまだ開発中の土地(写真撮影/Yoko Sakamoto)

母屋二階と離れはベランダを通じてつながっている。奥はいまだ開発中の土地(写真撮影/Yoko Sakamoto)

実家にあった家具をリメイクシャワースペースの床材もおしゃれ(写真撮影/Yoko Sakamoto)

シャワースペースの床材もおしゃれ(写真撮影/Yoko Sakamoto)

Benzさんもとてもお気に入りだというバスルームは、私がこれまで見たバスルームの中で一番と思えるほど美しいデザインでした。では、インテリアについてはどうでしょう。
「服や雑貨などは、中にしまわれている状況が自分には好ましい。だから、服もたくさん持っているけど、全てクローゼットにしまってあります。服がカラフルな分、インテリアはシックな色合いがいいですね。

寝室のバスルームに近い壁一面には、しっかり収納量があるクローゼットが(写真撮影/Yoko Sakamoto)

寝室のバスルームに近い壁一面には、しっかり収納量があるクローゼットが(写真撮影/Yoko Sakamoto)

キッチンの作業台下にうつわや水を入れて(写真撮影/Yoko Sakamoto)

キッチンの作業台下にうつわや水を入れて(写真撮影/Yoko Sakamoto)

家電類をソファ裏など見えないところに置いて生活感を排除(写真撮影/Yoko Sakamoto)

家電類をソファ裏など見えないところに置いて生活感を排除(写真撮影/Yoko Sakamoto)

テレビ類のリモコンも、定位置を決めつつ隠してある(写真撮影/Yoko Sakamoto)

テレビ類のリモコンも、定位置を決めつつ隠してある(写真撮影/Yoko Sakamoto)

キッチンの古いテーブルは、キッチンの天板と素材をそろえてリメイクしました。椅子もジム・トンプソン(※タイの老舗高級シルクメーカー)の生地に張り替え。革張りのソファも置いています。家具はどれも、実家で使っていたものです。

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

特にヴィンテージラバーというわけではなくて、デザインが好きなら買う、という感じです。その時の変化に従って、選ぶものも変わっていきます。インテリアも自分と同じで、一緒に育っていくものだから。

敷地内にオフィスを建てて、リノベーションにもお金をかけたから、この先もずっと住み続けたいと思っています。

寝室(写真撮影/Yoko Sakamoto)

寝室(写真撮影/Yoko Sakamoto)

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

複数の仕事の切り替えと時間配分

美しい建物と、すっきりした心地いいインテリア。クリーンであたたかみのある家自体にも惹かれますが、複数の仕事を持っているBenzさんの、時間配分や気持ちの切り替えにも興味を持ちました。
「私は1日のスケジュールを、かなりしっかり計画するタイプで、ルーティンを決めています。朝と午後2時半にコーヒーを淹れるのが私たちの日課で、淹れるのは私が担当。彼女が料理をつくって、掃除は二人でやります。

コーヒーは一日二回淹れます(写真撮影/Yoko Sakamoto)

コーヒーは一日二回淹れます(写真撮影/Yoko Sakamoto)

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

1週間の計画も立てていて、まず火~木曜は自宅アトリエで『Palini』の仕事をします。ビジネスタイムは10~16時。イマジネーションに関する仕事なので、5時間で十分です。

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

アトリエには2人のスタッフThipさんとGiftさんが出入りしていて、なぜ2人かというと、私たちと毎回車で昼食を食べに出るから計4人が都合いい。そして、仕事を終えたらジョギング。時にはそれが犬の散歩を兼ねていたりもします。

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

スタッフが母屋二階で撮影中(写真撮影/Yoko Sakamoto)

スタッフが母屋二階で撮影中(写真撮影/Yoko Sakamoto)

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

金・土は、大人気イベント『Made By Legacy』(バンコクのお洒落な人がこぞって訪れる年1回開催のイベントで、ヴィンテージの家具や洋服の販売や、ライブも。そのほかに『Madface Food Week』、『the MBL Worldwide Open House』といったイベントもオーガナイズしている)の仕事でオフィスへ。オフィスへの所要時間は車と電車で50分ほどです。

二つの仕事を持っていますが、ブランドはこれからどうしていくかという方向性も含めて、自分が考えることが多い。そして、イベントは大人数グループの一員。それぞれ役割が違うから、自然と切り替えができています」

家族との時間も大切に(写真撮影/Yoko Sakamoto)

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

「日・月曜が休日で、日曜は家にいて掃除や片付けをする。そして、月曜は車で30分のブンノンボンガーデンへ行きます。湖もある大きな公園で、通常バンコク中心部の公園は犬は入れませんが、ここはペット可なうえにキャンプもできる。イスだけ持参して、コーヒーを淹れたりしています。

そのほか、週に1回、仲間とフットボールやバスケットボールをしたり、飲みに行ったりします。親とは日曜日に会っていますね。私は三人兄弟の真ん中で、兄はバンコク東側にある新興住宅地のバンナー地区に、弟はこの近くに新築の一戸建てを持っていて、親はタウンハウスを売却して弟のところに同居しています。だから、日曜日は弟の家で食事したり、家族がここに来たり、レストランに行ったり、家族と一緒にすごしていますね」

タイの方は家族や親しい人とのつながりがとても濃いと聞いていましたが、若いお二人も例外ではなく、ご家族との時間をしっかり取っていました。

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

・お気に入りのYou Tube(インテリア):Open Space
・日本人のモーニングルーティーンの動画を見るのも好き。

そして、Benzさんは高校生のころから、現在・将来の展望や計画表まで、ノートにあらゆることを書き出しています。

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

「でも、書いてあることは単なる計画だから、お酒を飲んだりして守れなくてもOK。人生は変化するから、計画も変わることもあるよね」
きちんと決めつつ、変化には柔軟に対応する。すぐに真似したい、物事や人生への向き合い方ですね。

●取材協力
・Benzさん
・Auiさん
・Palini

タイならでは塀囲みのまち「ゲーテッド・コミュニティ」って? クリエイターカップルがリノベ&増築したおしゃれなおうちにおじゃまします 

個性を大切にした暮らし方や働き方って、どんなものだろう。
その人の核となる小さなこだわりや、やわらかな考え方、暮らしのTipsを知りたくて、これまで4年かけて台湾や東京に住む外国の方々にお話を聞いてきました。

私の中でここ数年はタイのドラマや音楽、文化などが沸騰中。国内外の移動ができるようになったタイミングでバンコクに飛び、クリエイターや会社員など3名の方のご自宅へ。センスのいいインテリアと、無理をしない伸びやかな暮らし方、まわりの人を大切にする愛情深さ、仕事に対する考え方などについてたっぷり伺います。

第2回は、タイ人で帽子ブランド「Palini」デザイナー&オーナーと、バンコクの超人気ヴィンテージ&アート&クラフトイベント「Made By Legacy」のベンダーリノベーション担当という二足の草鞋を履いた、Benzさん(ベンツさん・34歳)を訪ねました。

BenzさんとAui(ウイ)さん、そして愛犬のKale(ケール)(写真撮影/Yoko Sakamoto)

BenzさんとAui(ウイ)さん、そして愛犬のKale(ケール)(写真撮影/Yoko Sakamoto)

緑豊かなゲーテッド・コミュニティゲーテッド・コミュニティの内部(写真撮影/Yoko Sakamoto)

ゲーテッド・コミュニティの内部(写真撮影/Yoko Sakamoto)

タイの首都、バンコク出身のBenzさんは、ガールフレンドのAui(ウイ)さん、犬のKaleとともに、郊外のゲーテッド・コミュニティ(タイ人はムーバーンと呼ぶ。Villageの意)内の一戸建てで暮らしています。Benzさんが築18年で広さ213平米の中古一戸建て(2LDK)を500万B(※当時のレートで約1700万円)で購入したのは2年前のこと。タイでは一般の住宅は建物や土地に手を入れることに対する自由度が比較的高く、購入後に敷地内に2階建ての離れを建てました。

中古一戸建ての母屋はおもに住居で、1階はLDKとトイレ、2階は寝室とバスルーム、ショールームがあります。離れの1階は自身が運営している帽子ブランド「Palini」のアトリエとして使用しています(2階は現在使用していません)。

母屋2階のショールームスペース (写真撮影/Yoko Sakamoto)

母屋2階のショールームスペース (写真撮影/Yoko Sakamoto)

大量にある帽子類は、スタッキングできるコンテナを使って収納(写真撮影/Yoko Sakamoto)

大量にある帽子類は、スタッキングできるコンテナを使って収納(写真撮影/Yoko Sakamoto)

ゲーテッド・コミュニティは、バンコク近辺でよく見るスタイルの住居です。一定区画を管理会社などが買い取ってぐるりと塀で囲み、出入口にセキュリティブースを設置。出入りする人や車を監視・管理する、私設の村のようなものです。

ゲーテッド・コミュニティの入口。ガードマンが常駐している(写真撮影/Yoko Sakamoto)

ゲーテッド・コミュニティの入口。ガードマンが常駐している(写真撮影/Yoko Sakamoto)

Benzさんらが住まうバンコク北東部にあるゲーテッド・コミュニティは、敷地内を駆けまわるリスの姿を見かけるほど緑豊か。約400世帯が生活していて、プールやジムもあり、近所の方々との交流もさかん。ゲート内で、ひとつのコミュニティが確立しています。

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

子どもが遊べる公園やバスケットボールコートもある(写真撮影/Yoko Sakamoto)

子どもが遊べる公園やバスケットボールコートもある(写真撮影/Yoko Sakamoto)

利便性より心地よさを重視して

都市部に住む若い二人の住居としては、多くの選択肢があります。若者ならば利便性を優先して、バンコク中心部のコンドミニアムやアパートを購入したり、借りたりして住むイメージがあります。なぜ、落ち着いた郊外の一戸建てを選んだのでしょうか。

直線的なラインが美しい建物外観 (写真撮影/Yoko Sakamoto)

直線的なラインが美しい建物外観 (写真撮影/Yoko Sakamoto)

「かつてサトーンエリア(※バンコク中心部。オフィス街に近く、大使館などが集まる閑静な高級住宅地)にあった実家は、4階建てのタウンハウスでした。通っていた小学校や病院は近かったものの、構造上、家の中が暗いのが好きじゃなかった。だから、どうしても明るい家に住みたかったのです。

たっぷり光が入るリビング(写真撮影/Yoko Sakamoto)

たっぷり光が入るリビング(写真撮影/Yoko Sakamoto)

各部屋のあちこちに窓が配されている(写真撮影/Yoko Sakamoto)

各部屋のあちこちに窓が配されている(写真撮影/Yoko Sakamoto)

キッチンにも陽の光がたっぷり(写真撮影/Yoko Sakamoto)

キッチンにも陽の光がたっぷり(写真撮影/Yoko Sakamoto)

それで家を買おうと思い立って、6カ月で50軒ほど内見しました。人生で一番の買い物ですね。なぜ新築にしなかったかというと、この家の外観と構造が好きだと思ったから。タイの一戸建ては、一般的に建物の前面に庭がありますが、この家は庭が建物の後ろにあって、そこも良かった。ゲーテッド・コミュニティは緑が多く、自分で木を植えなくていいのも気に入った点でした。

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

もう少しバンコク中心部に近い場所にも同じ会社のゲーテッド・コミュニティがありましたが、そちらは値段がもっと高くて、タウンハウス(*長屋のように横の家とつながっていて4階程度までの低層な建物)で、周囲の道路の渋滞が酷かったため選びませんでした」

玄関外にヴィンテージのロッカーを置き、シューズボックスに (写真撮影/Yoko Sakamoto)

玄関外にヴィンテージのロッカーを置き、シューズボックスに (写真撮影/Yoko Sakamoto)

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

少し脱線しますが、タイの人は多くが持ち家で、住居を購入する動機は、
1. 学校や子どもの生活環境に合わせて引越す
2. 経済的に余裕ができると、狭い家から住み替える
3. 人に貸したり民泊にするなどビジネスのため
終の棲家という感覚は希薄なのだそうです。

さて、話を戻しましょう。
「ここはバンコクの中心部から、高速道路も使って車で40分。将来電車が通る計画があり、そうするとより便利になります。
この家を紹介してくれたのは、私が働いていたストリートファッション誌『Cheeze Magazine』で広告の仕事をしている先輩で、その人自身やミュージシャンなど、クリエイティブ系の有名な人も住んでいます。仕事柄、しょっちゅう外に出ないから、郊外でOKというのもありますね」

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

実家での同居を経て、アトリエを兼ねた一戸建てへ

Benzさんはもともと、有名ストリートカルチャー誌『CHEEZELOOKER』で4年間ファッションコラムニストとスタイリストをしていて、そこで会計の仕事をしていたAuiさんと出会いました。その後、8年前に2人でブランドを立ち上げました。

ガラスをはめて、階段や廊下にも採光を(写真撮影/Yoko Sakamoto)

ガラスをはめて、階段や廊下にも採光を(写真撮影/Yoko Sakamoto)

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

ショールームスペースの一角にはミシンも置かれている(写真撮影/Yoko Sakamoto)

ショールームスペースの一角にはミシンも置かれている(写真撮影/Yoko Sakamoto)

今の家に住む前は、Benzさんのお兄さんが結婚して他の家に移ったため、Benzさんの実家の3階をオフィス・4階を倉庫にし、AuiさんもBenzさん一家とともに実家に住んでいました。でも、イベントなどに出店するたびに上階から荷物を下ろすのは大変で。住まいとワークプレイスを整えるために、家探しを始めたそうです。

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

手前が増築したアトリエ棟。ちょうどいい距離感です(写真撮影/Yoko Sakamoto)

手前が増築したアトリエ棟。ちょうどいい距離感です(写真撮影/Yoko Sakamoto)

「ゲーテッド・コミュニティに母屋となる一戸建てを購入し、別棟を建てて、母屋と別棟の2階をベランダで繋げました。家の中は400万B(※当時のレートで約1370万円)を費やして丸ごとリノベーション。私たちは10年一緒にいて考えも似ているから、家づくりでぶつかることはなかったです。でも、リフォームを担当してくれた、ホテルなどのインテリアデザインの仕事をしている弟とは、時には意見が合わなかったりもしました」

母屋二階と離れはベランダを通じてつながっている。奥はいまだ開発中の土地(写真撮影/Yoko Sakamoto)

母屋二階と離れはベランダを通じてつながっている。奥はいまだ開発中の土地(写真撮影/Yoko Sakamoto)

実家にあった家具をリメイクシャワースペースの床材もおしゃれ(写真撮影/Yoko Sakamoto)

シャワースペースの床材もおしゃれ(写真撮影/Yoko Sakamoto)

Benzさんもとてもお気に入りだというバスルームは、私がこれまで見たバスルームの中で一番と思えるほど美しいデザインでした。では、インテリアについてはどうでしょう。
「服や雑貨などは、中にしまわれている状況が自分には好ましい。だから、服もたくさん持っているけど、全てクローゼットにしまってあります。服がカラフルな分、インテリアはシックな色合いがいいですね。

寝室のバスルームに近い壁一面には、しっかり収納量があるクローゼットが(写真撮影/Yoko Sakamoto)

寝室のバスルームに近い壁一面には、しっかり収納量があるクローゼットが(写真撮影/Yoko Sakamoto)

キッチンの作業台下にうつわや水を入れて(写真撮影/Yoko Sakamoto)

キッチンの作業台下にうつわや水を入れて(写真撮影/Yoko Sakamoto)

家電類をソファ裏など見えないところに置いて生活感を排除(写真撮影/Yoko Sakamoto)

家電類をソファ裏など見えないところに置いて生活感を排除(写真撮影/Yoko Sakamoto)

テレビ類のリモコンも、定位置を決めつつ隠してある(写真撮影/Yoko Sakamoto)

テレビ類のリモコンも、定位置を決めつつ隠してある(写真撮影/Yoko Sakamoto)

キッチンの古いテーブルは、キッチンの天板と素材をそろえてリメイクしました。椅子もジム・トンプソン(※タイの老舗高級シルクメーカー)の生地に張り替え。革張りのソファも置いています。家具はどれも、実家で使っていたものです。

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

特にヴィンテージラバーというわけではなくて、デザインが好きなら買う、という感じです。その時の変化に従って、選ぶものも変わっていきます。インテリアも自分と同じで、一緒に育っていくものだから。

敷地内にオフィスを建てて、リノベーションにもお金をかけたから、この先もずっと住み続けたいと思っています。

寝室(写真撮影/Yoko Sakamoto)

寝室(写真撮影/Yoko Sakamoto)

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

複数の仕事の切り替えと時間配分

美しい建物と、すっきりした心地いいインテリア。クリーンであたたかみのある家自体にも惹かれますが、複数の仕事を持っているBenzさんの、時間配分や気持ちの切り替えにも興味を持ちました。
「私は1日のスケジュールを、かなりしっかり計画するタイプで、ルーティンを決めています。朝と午後2時半にコーヒーを淹れるのが私たちの日課で、淹れるのは私が担当。彼女が料理をつくって、掃除は二人でやります。

コーヒーは一日二回淹れます(写真撮影/Yoko Sakamoto)

コーヒーは一日二回淹れます(写真撮影/Yoko Sakamoto)

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

1週間の計画も立てていて、まず火~木曜は自宅アトリエで『Palini』の仕事をします。ビジネスタイムは10~16時。イマジネーションに関する仕事なので、5時間で十分です。

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

アトリエには2人のスタッフThipさんとGiftさんが出入りしていて、なぜ2人かというと、私たちと毎回車で昼食を食べに出るから計4人が都合いい。そして、仕事を終えたらジョギング。時にはそれが犬の散歩を兼ねていたりもします。

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

スタッフが母屋二階で撮影中(写真撮影/Yoko Sakamoto)

スタッフが母屋二階で撮影中(写真撮影/Yoko Sakamoto)

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

金・土は、大人気イベント『Made By Legacy』(バンコクのお洒落な人がこぞって訪れる年1回開催のイベントで、ヴィンテージの家具や洋服の販売や、ライブも。そのほかに『Madface Food Week』、『the MBL Worldwide Open House』といったイベントもオーガナイズしている)の仕事でオフィスへ。オフィスへの所要時間は車と電車で50分ほどです。

二つの仕事を持っていますが、ブランドはこれからどうしていくかという方向性も含めて、自分が考えることが多い。そして、イベントは大人数グループの一員。それぞれ役割が違うから、自然と切り替えができています」

家族との時間も大切に(写真撮影/Yoko Sakamoto)

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

「日・月曜が休日で、日曜は家にいて掃除や片付けをする。そして、月曜は車で30分のブンノンボンガーデンへ行きます。湖もある大きな公園で、通常バンコク中心部の公園は犬は入れませんが、ここはペット可なうえにキャンプもできる。イスだけ持参して、コーヒーを淹れたりしています。

そのほか、週に1回、仲間とフットボールやバスケットボールをしたり、飲みに行ったりします。親とは日曜日に会っていますね。私は三人兄弟の真ん中で、兄はバンコク東側にある新興住宅地のバンナー地区に、弟はこの近くに新築の一戸建てを持っていて、親はタウンハウスを売却して弟のところに同居しています。だから、日曜日は弟の家で食事したり、家族がここに来たり、レストランに行ったり、家族と一緒にすごしていますね」

タイの方は家族や親しい人とのつながりがとても濃いと聞いていましたが、若いお二人も例外ではなく、ご家族との時間をしっかり取っていました。

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

・お気に入りのYou Tube(インテリア):Open Space
・日本人のモーニングルーティーンの動画を見るのも好き。

そして、Benzさんは高校生のころから、現在・将来の展望や計画表まで、ノートにあらゆることを書き出しています。

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

「でも、書いてあることは単なる計画だから、お酒を飲んだりして守れなくてもOK。人生は変化するから、計画も変わることもあるよね」
きちんと決めつつ、変化には柔軟に対応する。すぐに真似したい、物事や人生への向き合い方ですね。

●取材協力
・Benzさん
・Auiさん
・Palini

空き家所有者「3年以上放置」が6割以上! 対策がより厳しくなった「改正空家特措法」が成立し、放置空き家改善の兆し生まれるか?

空き家が社会的な問題になって久しいが、(株)AS IT ISが、空き家所有者などを対象に「空き家の実態と活用方法」について調査を行った。その結果を見ると、空き家の所有者はかなり長期間、空き家のままにしていることが分かった。政府も法改正などで、空き家対策を強化している。

【今週の住活トピック】
「空き家の実態と活用方法」の調査結果公表/(株)AS IT IS

空き家所有者の6割以上が空き家になって3年以上経過。8割が「今後も暮らす予定はない」

まず、空き家の所有者に「家が空き家となってどれくらい経つか」聞いたところ、最多は「10年以上」の22.2%、次いで「3年~5年」の21.9%、「1年~3年」の20.5%が続く結果となった。空き家になってから「3年以上経つ」という回答が合わせて63.2%に達した。

次に、「今後、空き家に自身もしくは親族が暮らす予定はあるか」と聞くと、80.9%が「ない」と回答した。では、空き家は今後どうするつもりかというと、「土地と家を売却する」が38.0%と最多だったが、次いで「特にない」が29.5%だった。

空き家になってどれくらい経ちますか?

出典:AS IT IS【空き家の実態と活用方法調査】より転載

空き家対策のための法律を改正してさらなる強化へ

調査結果では、空き家の多くが誰も住むことがないまま、長期間経過していることになる。これらの空き家の中には、適切に管理されているものもあるだろうが、管理が行き届かずに建物が老朽化したり庭の草木が生い茂ったりしているものもあるかもしれない。

適切な管理をしないで空き家が放置されると、景観を乱したり、衛生面や防災面、防犯面などの問題を起こしたりする場合がある。一方で、空き家といえども個人の所有物なので、勝手に入ったり処分したりできないので、問題がある空き家に手をこまねく形となる。

その解決策として、2015年5月に全面施行されたのが、「空家等対策の推進に関する特別措置法(空き家対策特措法)」だ。この法律によって、自治体が空き家に立ち入って実態を調べたり、空き家の所有者に適切な管理をするよう指導したり、空き家の跡地の活用を促進できるようになった。さらに、地域で問題となる空き家を自治体が「特定空家」に指定して、立木伐採や住宅の除却などの助言・指導・勧告・命令をしたり、行政代執行(強制執行)もできるようになった。

この空き家対策特措法は、さらに踏み込んだ形で改正され、「空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律」が2023年6月14日に国会で成立し、公布された。問題のある空き家の除却をさらに促進させること、近隣に悪影響を及ぼす前の段階で有効活用や適切な管理を強化することが目的だ。

適切に管理しないまま放置すると、固定資産税の軽減措置が受けられなくなる?

今回の改正で注目されているのが、「特定空家」の前段階となる「管理不全空家」という区分を設けたことだ。今回の改正により、適切な管理が行われておらず、そのまま放置すれば「特定空家」に該当するおそれのある空き家を「管理不全空家」として、管理指針に即した措置を、自治体が指導・勧告できるようになる。勧告を受けた管理不全空家は、固定資産税の減額措置が解除される。

そもそも誰も住んでいない空き家を放置する背景に、「住宅用地の課税標準の軽減特例」の存在がある。住宅用地と認められた土地で、住宅1戸当たり200平米までの土地は「小規模宅地」として、課税標準=固定資産税評価額が1/6に軽減される。固定資産税の額を抑えたいために、住める状態でなくても家を取り壊さないでおくという事例が多いからだ。

空き家対策特措法では、すでに「特定空家」に対してはこの軽減特例を解除する形になっているが、今回の改正で「管理不全空家」に対しても同様に軽減特例を解除する形となる。解除されると、固定資産税がおおむね4倍になるといわれている。

なお、空き家対策特措法の改正は、公布から6カ月以内に施行されることになっている。早ければ年内にも施行される可能性があるので、空き家を管理せずに放置している場合は、注意が必要だ。

空き家を放置すると、近隣とトラブルになったり、法規制の対象になったりする可能性がある。住む予定がないなら、老朽化が進行する前に売却したり、更地にしたりリフォームしたりして、活用することを検討しよう。相談窓口を設けたり専門家を紹介したりする自治体も多いので、早めに相談するとよいだろう。

●関連サイト
(株)AS IT IS【空き家の実態と活用方法調査】
国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律案」を 閣議決定
政府広報オンライン「空き家にしないためのポイントは?」

4人家族で平屋79平米のコンパクトな暮らし。「リビングを通る動線」で思春期の子ども、夫婦ともに仲良しな距離にこだわりました

“家族4人が暮らす一戸建てマイホーム”と聞けば、多くの人が、2階建て・3LDK以上をイメージするのではないでしょうか。それより狭く、最近需要が伸びている約70平米前後の“コンパクト平屋”は、実はこのような子どものいるファミリーのマイホームとしても選ばれているようです。今回訪れたのは、40代のご夫妻と小学生・中学生が暮らす79平米の平屋。家族それぞれのプライバシーは? 部屋数は十分とれるの? 収納は? 家族4人平屋暮らしのリアルを取材しました。

広すぎた築40年超の家から、コンパクトな平屋に住み替え

5月の陽射しの強い日、千葉県の石井さん宅を訪ねました。住宅街に現れたのは、広々とした芝生の向こうに建つカバードポーチ(屋根付き玄関ポーチ)が印象的な平屋。ブルーグレーの外壁に白い枠の窓が映えます。アメリカの映画に出てくるさまざまな色の外壁やファサードにデッキやテラスのある家が並ぶ住宅街を訪れたような気持ちになる佇まいです。

もともとは北米で開発されたアスファルトシングルという屋根材を使用。瓦と比較して薄い素材で、アメリカの住宅に使われている。軒先がカバードポーチの庇(ひさし)と一体のデザイン(写真撮影/北島和将)

もともとは北米で開発されたアスファルトシングルという屋根材を使用。瓦と比較して薄い素材で、アメリカの住宅に使われている。軒先がカバードポーチの庇(ひさし)と一体のデザイン(写真撮影/北島和将)

「リビング・ダイニングは、落ち着いた雰囲気にしたかったので吹き抜けなど開放感のあるデザインは求めませんでした」と正美さん(妻)(写真撮影/北島和将)

「リビング・ダイニングは、落ち着いた雰囲気にしたかったので吹き抜けなど開放感のあるデザインは求めませんでした」と正美さん(妻)(写真撮影/北島和将)

迎えてくれた正美さん(妻:46歳)に導かれて中に入ると、開放的な外観から一転して、リビング・ダイニングは、隠れ家カフェのような佇まいです。正美さんは、夫(46歳)と、長女(13歳)、長男(10歳)の4人家族。平屋は、築40年以上の中古住宅を建て替えたものです。

「もともと住んでいた中古住宅は築40年を超えていて、雨漏りや隙間風に悩まされていました。木造2階建てで約83平米、1階は二間続きの和室になっており、奥の部屋を居間として使っていたため、手前の部屋は通り道としか使っていませんでした。2階の部屋数は2部屋でしたが1つは物置と化しており、あまり人が出入りすることがなかったんです。階段のスペースも、無駄だなと感じていました」(正美さん)

庭の芝生や敷石は家族皆で敷いたもの。もともとの庭にあったサルスベリの木が、庭のシンボルに(写真撮影/北島和将)

庭の芝生や敷石は家族皆で敷いたもの。もともとの庭にあったサルスベリの木が、庭のシンボルに(写真撮影/北島和将)

「子ども2人が過ごす時間はわずか20年ほど。その後のふたり暮らしを考えると広い家は必要ない」と考えていた夫妻。建て替えるなら平屋にしようと決めていました。将来を見越して建て替えをする上で、いちばん大切だったのは、家族と距離が生まれないこと。子どもが独立するまで家族の時間を大切に過ごせる家へ……。2016年、下の子どもが3歳になったのを機に、石井さんの家づくりがスタートしました。

関連記事:2023年住宅トレンドは「平屋回帰」。コンパクト・耐震性・低コスト、今こそ見直される5つのメリットとは?

海外映画に出てくる家に憧れ。デザインはアメリカンハウスを希望

アメリカ映画に出てくるようなカバードポーチ(屋根付き玄関ポーチ)に憧れていた夫妻。インターネットでアメリカンハウスの施工例が多い建築会社を見つけ、建築中の家を見学した上で、依頼することにしました。

希望したのは、板を横に重ねて張り上げていくラップサイディングの壁と、瓦より薄くて軽いアスファルトシングルの屋根。いずれも伝統的なアメリカンハウスに用いられているものです。

アメリカンハウスの特徴のひとつラップサイディングの外壁。色は悩みに悩んで落ち着いたブルーグレーに。建築会社の「よりアメリカンハウスらしい」という提案でポーチの柱は太め(写真撮影/北島和将)

アメリカンハウスの特徴のひとつラップサイディングの外壁。色は悩みに悩んで落ち着いたブルーグレーに。建築会社の「よりアメリカンハウスらしい」という提案でポーチの柱は太め(写真撮影/北島和将)

間取りと動線でこだわったのは、帰宅した家族がリビングを通って自室に行けること。

「家事がしやすいのも大事ですが、家族がリビングを通る動線は絶対条件でした。子どもが思春期になっても、お母さんの顔を見ずに部屋に行くのは、嫌だなあと」(石井さん)

完成したアメリカンハウスは、玄関を入ってダイニング・リビングを通り、主寝室、子ども部屋に行く動線です。「家の中に使わないスペースがあるのはもったいない」と、家族4人にとって広すぎず狭すぎずの79平米にしました。

延床面積79平米・3LDK。DKは、約28平米。ウォークインクローゼットのある洋室が夫妻の寝室で、玄関側の2室はもともとつながっていたが、点線部分にDIYで壁を新設し、別々の部屋として使っている(写真撮影/JKホーム)

延床面積79平米・3LDK。DKは、約28平米。ウォークインクローゼットのある洋室が夫妻の寝室で、玄関側の2室はもともとつながっていたが、点線部分にDIYで壁を新設し、別々の部屋として使っている(写真撮影/JKホーム)

長女の部屋。右側がDIYで新設した壁。ベニヤに部屋の雰囲気に合う木目調の壁紙を張った(写真撮影/北島和将)

長女の部屋。右側がDIYで新設した壁。ベニヤに部屋の雰囲気に合う木目調の壁紙を張った(写真撮影/北島和将)

長男の部屋。お気に入りは、「窓が大きくて開放的」なところ。以前の家には、断熱材が全く入っておらず寒かったが、断熱材と二重サッシの窓で、冬も快適(写真撮影/北島和将)

長男の部屋。お気に入りは、「窓が大きくて開放的」なところ。以前の家には、断熱材が全く入っておらず寒かったが、断熱材と二重サッシの窓で、冬も快適(写真撮影/北島和将)

来客時は、カウンターテーブルが活躍。友人家族の計20名以上が集まることもあるそう。普段は、カウンターと高さをそろえて夫がDIYしたテーブルを食卓として使用(写真撮影/北島和将)

来客時は、カウンターテーブルが活躍。友人家族の計20名以上が集まることもあるそう。普段は、カウンターと高さをそろえて夫がDIYしたテーブルを食卓として使用(写真撮影/北島和将)

正美さんのお気に入りは、キッチンです。

「料理や洗い物をしながら、家族の様子がよくわかります。『玄関から必ずリビングを通る間取りにしてよかったね』と夫と話しています。個室はあるのに、家族全員リビングにずっといるんですよね」と笑います。

子どもたちからも、「どこからでもリビングに行きやすい」「どこにいても家族の声が聞こえる」と好評です。

思い思いに過ごす石井さんファミリー。ソファに4人でぎゅうぎゅうに座って一緒にテレビを見ることも(写真提供/正美さん)

思い思いに過ごす石井さんファミリー。ソファに4人でぎゅうぎゅうに座って一緒にテレビを見ることも(写真提供/正美さん)

「部屋がつながっているから、エアコンを各自がつけなくても、家中が快適な温度です。このあたりは、プロパンガスで、ガス代が高いのですが、エコキュートを設置し、夜間割安のプランにして、オール電化にしたこともあり、光熱費が格段に安くなりました。家が完成したあと、高齢の愛犬が寝たきりになってしまったんです。大型犬を抱っこしてトイレをさせていたので、そのまま出られて掃除しやすいカバードポーチに助けられました。犬を介護しながら、自分の将来を考えても平屋でよかったなあって思っていました」(石井さん)

ポーチのタイルは、アンティークの雰囲気があるものをセレクト。汚れも目立ちにくい(写真撮影/北島和将)

ポーチのタイルは、アンティークの雰囲気があるものをセレクト。汚れも目立ちにくい(写真撮影/北島和将)

コストを抑えるため、洗面台やライトは施主支給に

平屋は、2階建てに比べて、基礎や屋根の面積が広いため坪単価が高くなりがち。石井邸では、設備や材料でコストを削減していますが、デザイン性にできるだけこだわるため、洗面台やライトはインテリアに合わせて石井さん自ら購入し、建築会社に支給(通称、施主支給)して取りつけてもらいました。もともと、ダイニングとリビングの床には、無垢材を使おうと考えていましたが、コスト面から傷・汚れに強いラミネートフロアを薦められイメージに近い木目調のデザインを選びました。

洗面台は正美さんが予算内でイメージに近いデザインを探した(写真撮影/北島和将)

洗面台は正美さんが予算内でイメージに近いデザインを探した(写真撮影/北島和将)

さまざまなタイプの照明を設置しているが、色味をそろえることで統一感が出ている(写真撮影/北島和将)

さまざまなタイプの照明を設置しているが、色味をそろえることで統一感が出ている(写真撮影/北島和将)

ニューヨークの街角で見かけるような両面の壁掛け時計(写真撮影/北島和将)

ニューヨークの街角で見かけるような両面の壁掛け時計(写真撮影/北島和将)

建築会社の提案で取り入れたアーチ壁(Rの垂れ壁)(写真撮影/北島和将)

建築会社の提案で取り入れたアーチ壁(Rの垂れ壁)(写真撮影/北島和将)

各部屋をまわると気になることが。家族4人に対して、収納が少ないのでは?

「主寝室にある3畳足らずのウォークインクローゼットに、家族全員の洋服を収納しています。もともとミニマムな暮らしをしてみたかったんです。以前の2階建てから平屋にする際に、物を捨てました。空間があるといらないものも残してしまいますが、これしかないと思えば、減らせるものです。すっきりして気持ちがいいですよ」(正美さん)

主寝室にある3畳足らずのウォークインクローゼットに1年分の家族4人の服を収納(写真撮影/北島和将)

主寝室にある3畳足らずのウォークインクローゼットに1年分の家族4人の服を収納(写真撮影/北島和将)

玄関には十分なシューズクロークを設けたので、靴だらけになる心配なし。リビングのアーチ壁と響き合うニッチ(壁をくぼませてつくった飾り棚)に鍵を吊るして。何気ないけどおしゃれ!(写真撮影/北島和将)

玄関には十分なシューズクロークを設けたので、靴だらけになる心配なし。リビングのアーチ壁と響き合うニッチ(壁をくぼませてつくった飾り棚)に鍵を吊るして。何気ないけどおしゃれ!(写真撮影/北島和将)

最後に、平屋にしなければよかったと思うことはありますか?と直球な質問をぶつけると、「私がひとりになれないことかな」と苦笑する正美さん。

「リビングで家族がずっとしゃべっているので、静かになりたい時になれない(笑)。思春期の子どもだと距離が近すぎて嫌がるかもしれないけれど、今のところ、子どもたちから不満は出ていません。二人暮らしの両親も『掃除や移動が楽そう。うちも平屋がいいなあ』ってうらやましがっています」(正美さん)

コンパクトな平屋は4人家族には狭いのでは?と思っていましたが、家族が自然と集えるなどのメリットもあるのですね。子どもが独立したあとの二人暮らしを想定して建てた平屋ですが、子どもたちは「ずっと住みたい!」と話しているそうです。

●取材協力
株式会社リビングライフ・イノベーション

『海外みたいにセンスのある部屋のつくり方』著者・早さんに初心者もできるおしゃれインテリアのコツを聞いてみた! マンションリノベのエピソードも

中野区にある約75平米の中古マンションを購入し、リノベーションした早(さき)さん。海外のインテリアを中心に自宅をコーディネートしてInstagramやブログを中心に発信しています。2022 年には書籍『海外みたいにセンスのある部屋のつくり方』(大和出版)を出版。インテリアコーディネーターの資格を持つ早さんならではの空間作りを伺います。

リビング

(写真提供/早さん)

リノベーション前の情報収集はPinterestで

IT企業に勤務する早さん。夫の岑(みね)康貴さんと2022年8月に生まれたお子さんの3人で暮らしています。夫婦ともに在宅勤務のため、ワークスペースはそれぞれが集中して過ごせるよう、2カ所設置。室内窓のある部屋を康貴さん、リビングの一角を早さんが仕事場所として使っています。

海外のインテリアを参考にコーディネートした色鮮やかな空間で、仕事をしながらもお互いの気配を感じられる家になっています。

康貴さんの仕事部屋

康貴さんの仕事部屋(写真提供/早さん)

康貴さんの仕事部屋(写真提供/早さん)

一口に「海外インテリア」と言っても幅広く、ネット検索しようにも自分好みの検索ワードがわからないもの。早さんはまず、自分の方向性を確かめるために写真を中心としたSNS「Pinterest」を使ったそう。

「はじめはPinterestで『海外』『インテリア』など普通のワードで検索していました。そこからハッシュタグやソース元を辿るうちに、『こういうテイストはボヘミアンっていうんだ』など、スタイルごとのキーワードがだんだんわかってきたんです。そのうちに英語で書かれた情報も読むようになり、自分好みの検索ワードを少しずつ増やしながら知識を固めていきました」

Pinterestで集めた情報は、部屋のコーナーごとに仕分けし、リノベーション会社にテイストを相談する際に利用しました。

リノベーションは「苦手な事例がない」会社へ依頼

物件探しでは、もともと注文住宅を検討していた早さん。金銭面や立地条件などから戸建ての中古物件、中古マンション……と、徐々に切り替えて探していきました。

「家の広さや交通の便も大切ですが、何よりも自分たちが好きになれる街に住みたいという希望がありました。そして、家の中は風通しや日当たり、抜け感のある居心地のよさを重視することに。最初は『自分の好きなように作れる注文住宅がいい』と思っていましたが、調べていくうちに『私たちはまだ、そのフェーズじゃないのかも』と思い直して、中古マンションをリノベーションすることに決めました」

夫妻ともに在宅勤務で家にいる時間も長いため、縦に大きくワンフロアが狭い戸建てよりもマンションで横の開放感を重視しました(写真提供/早さん)

夫妻ともに在宅勤務で家にいる時間も長いため、縦に大きくワンフロアが狭い戸建てよりもマンションで横の開放感を重視しました(写真提供/早さん)

リノベーション会社は物件を探している途中に決めたそうです。「過去の施工例を見たときに、『すごく好きな事例がひとつある』よりも、『事例の中に苦手なところがない』方が大事だと思いました。デフォルトの仕様が気に入るところだと、オプションをつけなくても話し合いがスムーズに進みます」

物件購入時は、希望通りの施工が可能かリノベーション会社に同行してもらう方法がありますが、都心のように人気があって物件の動きが多い場合、日程調整をしている間に別の人に決まってしまうこともあります。

早さんはリノベーションに関わる本を事前に読み、「この物件ならこういう改装ができそう」と自分である程度見極めてからリノベーション会社に確認したと言います。

理想の内装を実現する鍵は、コストをかける場所の優先順位を明確にすること

「リノベーション予算の中で、一番奮発したのが格子の室内窓です。ずっと憧れでした」

リビングと康貴さんの仕事部屋を仕切る大きな室内窓(写真提供/早さん)

リビングと康貴さんの仕事部屋を仕切る大きな室内窓(写真提供/早さん)

室内窓はガラス製で、開放感と光をよく通すことを重視したそうです。「防音性には欠けるため、互いに会議が重なるとちょっと大変です。今回は空間の広がりを優先させたので満足していますが、もしまたリノベーションをする機会があれば、別の区切り方を考えるかもしれません」

一方、浴室などはシンプルに、メーカー既存品のユニットバスを選択しました。「自分たちのライフスタイルとの相性を考えて、浴室乾燥機はつけませんでした。壁もただのシンプルな白にして、いらない機能を省いたら、結果的に見積もりよりもコストは下がりました」

都心の中古物件ではリセールを意識して万人に受けるリノベーションをすることも多いですが、早さんはあまり気にしていないそう。「何年か暮らしたら、住み替えも検討する予定。でも家を買う理由の一つが『自分の好きな空間をつくりたい』だったので、リセールを気にしすぎると方向性が変わってしまうんですよね。だから趣味費と割り切ることにしています」

海外風インテリアのカラーコーディネートはコーナーごとに2~3色以上を取り入れるのがコツ

インテリアで多くの方が悩むのが、部屋全体の色味とバランスです。早さんは、写真を撮って考えることが多いのだとか。「全部一つの色で統一するとスッキリ見えますが、異物が混ざりにくくなり、逆に難しいんです。我が家は各コーナーをなるべく2~3色のテーマカラーで合わせながらも、あまりきっちり揃えすぎずに複数の色が散らばるようにしています。実は色や柄を多く取り入れたほうがモノが多くてもあまり散らかって見えないし、カラフルな雑貨などを置いても馴染みやすいですね」

また、インテリアは部屋ごとではなく、コーナーごとでコーディネートを考えているそう。

「同じ画角に入らないところは違うテイストでも大丈夫。部屋には写真映えするコーナーをいくつもつくるイメージで広げていきます。

インテリアに悩んでしまう方は、まず憧れる部屋の写真を見つけて、そのコーナーだけ真似してみるのが簡単です。お気に入りスペースを1カ所つくると、別の場所も飾りたくなって、そのうちに気に入ったテイストが部屋全体に広がっていく。初心者は、まずは色柄のラグから挑戦してみるのがおすすめです。部屋の雰囲気がガラッと変わりますよ」

インテリアの金具類はゴールドかアイアンで統一している早さん。色や素材がひとりぼっちにならないように、小物などで色を拾って部屋のいろいろな場所に配置することで、ものがたくさんある状態でも馴染むようにしています。

アトリエスペースは糸を見せる収納。「糸がカラフルなので、部屋で何色使ってもなんとなく馴染むようになっています」(写真提供/早さん)

アトリエスペースは糸を見せる収納。「糸がカラフルなので、部屋で何色使ってもなんとなく馴染むようになっています」(写真提供/早さん)

ゴールドとアイアンの金具を使った洗面台(写真提供/早さん)

ゴールドとアイアンの金具を使った洗面台(写真提供/早さん)

ぬいぐるみのモンチッチも、よだれかけの赤が壁の色となじんでいます(写真提供/早さん)

ぬいぐるみのモンチッチも、よだれかけの赤が壁の色となじんでいます(写真提供/早さん)

お気に入りのポイントは、あらゆる場所を後から塗装できるようにしたことです。「『これ!』というイメージがわかない状態であれば、とりあえず白に塗ってもらう。後からでも、壁や枠、扉は自分で塗れますから」

一方、収納に関してはもっと気を配るべきだったと反省しているそう。「都内のマンションは狭いから、収納はもっと必要だったかな。でも、それとトレードオフで開放感をつくったので、結局は何を優先させるかですね。あんばいは難しいです」

フローリングは、リノベーション会社からの提案でパイン材を塗装した素材を選択。「おしゃれな人がラフに住んでいるような部屋が理想なので、リラックス感や手づくり感を出したかった」とのこと(写真提供/早さん)

フローリングは、リノベーション会社からの提案でパイン材を塗装した素材を選択。「おしゃれな人がラフに住んでいるような部屋が理想なので、リラックス感や手づくり感を出したかった」とのこと(写真提供/早さん)

窓際のスペースは、ひとりがけの椅子を置くように意識。「窓際って日本は通り道にしがちですが、くつろぐスペースにすることで海外っぽい配置に」(写真提供/早さん)

窓際のスペースは、ひとりがけの椅子を置くように意識。「窓際って日本は通り道にしがちですが、くつろぐスペースにすることで海外っぽい配置に」(写真提供/早さん)

後悔しないリノベーションの秘訣は「水回りと照明を妥協しない」

「室内窓のほかにこだわったのは、水回りと照明です」と語る早さん。「部屋の壁紙などは後からでも簡単に変えられるけれど、洗面台やタイル、壁付けの照明は後からどうにもできない部分です。リノベーションする時に理想を追求するしかありません」

キッチンはIKEAでそろえました。水栓はタッチすれば水が出てくるタッチレス水栓。タイルは白のサブウェイタイルに黒い目地。早さんのやりたかったデザインです(写真提供/早さん)

キッチンはIKEAでそろえました。水栓はタッチすれば水が出てくるタッチレス水栓。タイルは白のサブウェイタイルに黒い目地。早さんのやりたかったデザインです(写真提供/早さん)

洗面台のスツールは、蓋を開けると中に収納スペースが(写真提供/早さん)

洗面台のスツールは、蓋を開けると中に収納スペースが(写真提供/早さん)

「椅子を置いたのは、メイクをするときに座りたいからです。その分、収納スペースは減ったので、洗剤などの買い置きは最小限にしています」

生活感をできるだけ削ぎ落とす工夫も白の塗装を施した木の扉。色を変えたくなったら塗装できるようにしています(写真提供/早さん)

白の塗装を施した木の扉。色を変えたくなったら塗装できるようにしています(写真提供/早さん)

扉にも注目を。「日本の扉は表面にシートを張った仕上げのものが一般的。扉の種類はたくさんあるけれど、シートの扉は日本っぽいテイストに部屋が引っ張られてしまいます。海外っぽい部屋づくりがしたかったら、扉だけは天然の素材をセレクトしたほうがいいと思いました」

また、部屋の内装で現実感が出やすいのがインターホンまわりです。早さんは、海外のサイトでアートポスターを購入して、IKEAのフレームに入れて飾りました。複数のアートがセットで売っているものもあるので、そういうものを選ぶと初心者でもバランスを考えやすいそうです。

アートの額縁でインターホンが馴染みます。照明は海外のデザイン。「日本のインテリアは四角が主流ですが、海外インテリアは丸いフォルムが最近のトレンド。意識して取り入れています」(写真提供/早さん)

アートの額縁でインターホンが馴染みます。照明は海外のデザイン。「日本のインテリアは四角が主流ですが、海外インテリアは丸いフォルムが最近のトレンド。意識して取り入れています」(写真提供/早さん)

ピアノの置き方も工夫が凝らされています。Pinterestで検索して、本棚にピアノが収納されている写真を見た早さん。リノベーション会社に相談して、つくってもらいました。「設計の途中でピアノの調律のために余白が必要であることに気が付き、あわてて棚の高さを変更してもらいました(笑)」

当初はピアノと棚の間がもっと狭い予定でした(写真提供/早さん)

当初はピアノと棚の間がもっと狭い予定でした(写真提供/早さん)

理想の家を目指し続ける、余白のある家

お子さんが動き回るようになると、床に置いている植物や小物類は一時的に撤去する必要がありそうとのこと。「今はまだ寝てばかりなのでそのままにしていますが、今後は低い位置にものを置きにくくなるかもしれませんね。でも、子どもがいても自分好みの空間はつくれると思うんです。壁などの高いところは飾り放題ですし。工夫をしながらインテリアと向き合っていきたいです」

子どもの遊び道具を入れるカゴは、赤ちゃん時代のクーファン(写真提供/早さん)

子どもの遊び道具を入れるカゴは、赤ちゃん時代のクーファン(写真提供/早さん)

今後はダイニングにL字ソファーをDIYで作りたいと語る早さん。「自宅はまだ、未完成です。私にとって家作りのテーマは、『つくり続けられる家』だったのかもしれません」と、笑顔で振り返ります。自分好みの空間で過ごす理想の家づくりはこれからも続くようです。

『カラフル&モダンポップ 海外みたいにセンスのある部屋のつくり方』(大和出版)●取材協力
早[SAKI]
10年間で7回の引っ越しを経て、海外みたいにカラフルモダンポップなインテリアを日本で再現する方法を試行錯誤するインテリアオタク。2020年インテリアコーディネーター資格を独学で取得。本業はIT企業勤務の会社員、たまにドレスもつくる人。毎週土曜日に海外インテリア情報をお送りするニュースレターを配信中。
Instagram @sakihaya515

著書『カラフル&モダンポップ 海外みたいにセンスのある部屋のつくり方』(大和出版)

<取材・編集:小沢あや(ピース株式会社) 構成:結井ゆき江>

多様化するトレーラーハウス。災害支援、公共施設、宿泊、店舗など様々な可能性に注目

東京ビッグサイトで「東京トレーラーハウスショー2023」が開催されると聞いて訪れてみた。トレーラーハウスが立ち並ぶ姿は圧巻だったが、その利用方法は実に多様だ。どんな利用方法があるかについて、それぞれ見ていこう。

【今週の住活トピック】
日本最大級!43台のトレーラーハウスが一堂に「東京トレーラーハウスショー2023」

トレーラーハウスとは?キャンピングカーとは違うの?

SUUMOリサーチセンターは、2023年のトレンドとして「平屋回帰」を予測した。単なる平屋ではなく、コンパクトな平屋のことで、住宅の面積が小さな主拠点の平屋と、小屋やタイニーハウスなどのサードプレイスの平屋に分類している。トレーラーハウスは後者に該当する。

一般社団法人日本トレーラーハウス協会によると、トレーラーハウスは、次のように定義されている。

「トレーラーを一定の場所に定置し、土地側の給排水配管電気等の接続が工具を使用しないで脱着できる構造体であり、公道に至る通路が敷地内に確保されており、障害物がなく随時かつ任意に移動できる状態で設置したものをトレーラーハウスと呼ぶ。」

キャンピングカーも、小さいながら車の中にベッドやキッチンを設置したりできるが、車のバッテリーの電気を使い、備えたタンクの水を使う。排水もタンクにためて処理する必要がある。一方トレーラーハウスは、タイヤの付いたシャーシ(車台)に載せて、車で牽引して公道を移動する。一定の場所に設置して、住宅と同じように外部の水道や電気などの生活インフラと接続する。そのため、トレーラーの中にはトイレやシャワールームも設置でき、エアコンなどの家電も使うことができる。

まるで小さな小屋のようだ。ただし、小屋は建築物だが、トレーラーハウスは原則として自動車に該当するので、市街化調整区域などの建築物が建てられない場所にも置くことができる。

災害支援から店舗、グランピングまで多様に利用できるトレーラーハウス

こうした特徴のあるトレーラーハウスなので、さまざまな利用方法がある。今回の「東京トレーラーハウスショー2023」では、会場を8つの展示ゾーンに分けて、トレーラーハウスを展示している。
●災害支援
●公共施設
●事務所
●店舗
●グランピング&レジャー
●レンタル
●シャーシ(車台)
●未来型

「災害支援」ゾーンには、防災基地局トレーラーやレスキューホテル、室内のウィルスや細菌を外部に流出させるメディカルキューブ、トイレキューブなどがあった。

通信・発電や一時救護が可能な防災基地局トレーラー(手塚運輸)

通信・発電や一時救護が可能な防災基地局トレーラー(手塚運輸)
※各掲載写真はいずれも筆者撮影

カプセルベッドを4台設置したカプセルキューブ(写真右)、トイレキューブ(写真中奥)、メディカルキューブ(写真左)(いずれもトレーラーハウスデベロップメント)

カプセルベッドを4台設置したカプセルキューブ(写真右)、トイレキューブ(写真中奥)、メディカルキューブ(写真左)(いずれもトレーラーハウスデベロップメント)

同様に「公共施設」ゾーンには、シャワーキューブや低床トイレキューブ、スモーキングキューブ(分煙時の喫煙所)などがあった。

また、「レンタル」ゾーンになるが、ベビーケアトレーラーというのもあった。内部には、授乳スペース、おむつ替えスペース、着替えスペースがあり、ママたちには嬉しい場所だと思った。

ベビーケアトレーラー(西尾レントオール)

ベビーケアトレーラー(西尾レントオール)

ベビーケアトレーラー内部。奥にカーテンで仕切れる授乳スペースが2つ、手前におむつ替えスペースなどがある

ベビーケアトレーラー内部。奥にカーテンで仕切れる授乳スペースが2つ、手前におむつ替えスペースなどがある

もちろんトレーラーハウスは、「事務所」や「店舗」としても利用でき、展示会場には担々香麺を提供するキッチントレーラーなどもあった。

エアストリーム(キャンピングトレーラー)のキッチン仕様は見た目もかわいい(株式会社トレーラービレッジ)

エアストリーム(キャンピングトレーラー)のキッチン仕様は見た目もかわいい(トレーラービレッジ)

さて、住まいとしての利用方法は主に「グランピング&レジャー」だろう。自然豊かな場所などに置いて、のんびりくつろげるトレーラーが数多く並び、サウナ専用トレーラーも2台展示されていた。

グランピングトレーラー(奥)とデッキトレーラー(手前)を並べて設置した展示。取り外しができないウッドデッキは、建造物扱いになるため取り付けができないが、トレーラーを並べれば広々としたウッドデッキも一体的に使える(トレーラーハウスデベロップメント)

グランピングトレーラー(奥)とデッキトレーラー(手前)を並べて設置した展示。取り外せないウッドデッキは取り付けられない(建築物になる)が、トレーラーを並べれば広々としたウッドデッキも一体的に使える(トレーラーハウスデベロップメント)

サウナ専用トレーラー(トレーラーハウスデベロップメント)

サウナ専用トレーラー(トレーラーハウスデベロップメント)

電線から電気を得られなくても生活できるトレーラーハウスも

次に、「未来型」ゾーンの中からオフグリッドトレーラーハウスを紹介しよう。
生活インフラが遮断、あるいは整備されていないといった場所では、電気などが使えなくなるが、太陽光パネルや太陽熱温水器などを搭載したエネルギー自立型のトレーラーハウスなら、発電して蓄電池にためた電気を使い、温水器のお湯でシャワーを浴びるといったことも可能。水を使わないトイレも設置してあった。

オフグリッドトレーラーハウス(イスズ)

オフグリッドトレーラーハウス(イスズ)

車内には蓄電池・全熱交換型換気システムなどの周辺機器(左)、おが屑でし尿を分解させるバイオトイレ(右)が設置されている

車内には蓄電池・全熱交換型換気システムなどの周辺機器(左)、おが屑でし尿を分解させるバイオトイレ(右)が設置されている

最後に紹介するのは、中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクトを主導する工学院大学教授・鈴木敏彦氏の活動に賛同した淀川製鋼所が、中銀カプセルタワーの1つを取得し、トレーラーカプセルとして再生したもの。黒川紀章氏が提唱したメタボリズムの設計思想が、トレーラーハウスとして継承されている。

中銀カプセルタワーのカプセルを載せたトレーラー(淀川製鋼所)

中銀カプセルタワーのカプセルを載せたトレーラー(淀川製鋼所)

動く中銀カプセル「YODOKO+トレーラーカプセル」の内部

動く中銀カプセル「YODOKO+トレーラーカプセル」の内部

ニーズが変わる!?不動産から可動産へ

さて、展示場では各種のセミナーも開催されていた。筆者はこのうち、YADOKARI代表取締役の上杉勢太氏による「『可動産』と『タイニーハウス』の可能性」を聞いた。

これからは不動産から可動産へと、ニーズが変化するという。その背景には、人口が減り単身世帯が増えることに加え、コロナ禍で二拠点居住やアドレスホッパーといった新しい生活スタイルが広がっていることがある。住宅コストが暮らしを圧迫する一方で、災害住宅としてコンテナ状の住宅が使われるなど、小さな家が注目されるようになった。

海外には先行事例が多い。北欧では、住宅キットを使ってDIYでサマーハウスを建てたりしているし、アメリカではリーマンショックを機に、小さな家でシンプルに暮らすというタイニーハウス・ムーブメントが起きた。同様に、車を使ったVAN×LIFEというムーブメントも起きている。

日本でも、テレワークが加速し、移動式店舗・オフィスが増加している。不動産は建築基準法の制約を受けるが、VANやトレーラーハウス、移動可能な小屋などの可動産であれば、絶景の無人駅に人を集めるといったこともできる。というような可能性の広がりについて、上杉氏は熱く語っていた。

「グランピング&レジャー」ゾーンに出展したYADOKARI株式会社のトレーラーハウス

「グランピング&レジャー」ゾーンに出展したYADOKARIのトレーラーハウス

トレーラーハウスは、設置場所の自由度の高さや住宅取得のコスト軽減などのメリットもあるが、暮らし方が多様になるこれからは、生活拠点の選択肢の一つとして注目されていくのではないか。好きな場所で好きなことができるスタイルが広がるほど、トレーラーハウスの新しい利用方法も増えていくだろう。

●関連サイト
日本最大級!43台のトレーラーハウスが一堂に「東京トレーラーハウスショー2023」
東京トレーラーハウスショー2023公式サイト
SUUMO「トレーラーハウスとは?住居にする方法や用途、価格、設置方法、かかる税金は?」

山の上のパン屋が新しいタイプのコンビニ「わざマート」をオープンした理由。「コンビニでも、より身体にいい品」を提案 長野県東御市

地方にいると、コンビニはインフラだ。コンビニが変われば、人の生活も変わるのではないかとさえ思う。長野県東御市に今年「わざマート(wazamart)」という新しいタイプのコンビニエンスストアがオープンした。

街でよく見かけるコンビニとは置いてある品が違う。食品、加工品、飲料、化粧品と豊富にそろっているが、無添加品やオーガニックな品が多く、ほかでは見かけないブランドやメーカーのものばかり。ポテトチップスもインスタントラーメンも独自の食品選定基準を設け、より体にやさしいものを選んでいる。それもそのはず。わざマートは、同じ東御市にある「パンと日用品の店 わざわざ」が始めたコンビニで、わざわざではやはり店の基準で選んだこだわりの品を扱っている。なぜいま新たにコンビニを?また隣に併設された「よき生活研究所」とは?早速、わざマートを見に行ってきた。

わざわざの平田はる香さん(写真撮影/新井友樹)

わざわざの平田はる香さん(写真撮影/新井友樹)

長野県東御市に新タイプのコンビニ「わざマート」がオープン

北陸新幹線の佐久平駅から車で約20分。県道166号沿いに、「wazamart・よき生活研究所」の看板が出ている。

わざマート

(C)若菜紘之

右には「wazamart 食べもの・飲みもの・使うもの」の文字。左が「よき生活研究所」の入り口(C)若菜紘之

右には「wazamart 食べもの・飲みもの・使うもの」の文字。左が「よき生活研究所」の入り口(C)若菜紘之

中へ入ると白を基調にした商品ラックに、食品や日用品が並んでいる。
入口脇には、「わざわざ」の焼きたてパン。ハーゲンダッツのアイスなどメジャーな商品も置いてあるけれど、「植物性素材でつくったベジタブルハヤシ」、「海辺で育った果実たち」というみかんの缶詰など、あまり見かけない品々が並んでいて面白い。近々オリジナルのお弁当や、近隣で採れた野菜も販売する予定だという。

飲料には有機レモン果汁使用の「レモンサイダー」や長野産のりんごジュース、アルコールには「軽井沢エール」などが並ぶ(写真撮影/新井友樹)

飲料には有機レモン果汁使用の「レモンサイダー」や長野産のりんごジュース、アルコールには「軽井沢エール」などが並ぶ(写真撮影/新井友樹)

(写真撮影/新井友樹)

(写真撮影/新井友樹)

「わざマート」の店内(写真撮影/新井友樹)

「わざマート」の店内(写真撮影/新井友樹)

もともと「パンと日用品の店 わざわざ」は、東御市の御牧原(みまきはら)の山の上にあり、薪窯で焼いたパンと選び抜かれた生活用品を売る店。「ここまでわざわざ来てくださってありがとう」の意を込めて、「わざわざ」という名になった。

わざわざの「商品選定基準」は明文化されていて、「長く使えるもの」「飽きのこないもの」「暮らしに寄り添うもの」「きちんと作られたもの」「環境に配慮したもの」の5項目。「食品選定基準」には、「安心で安全なもの」「無理のない価格帯」「生産者と良好な関係性」「きちんと作られたもの」「環境に配慮したもの」とある。
それらの基準に照らしながら、自社で試して合格ラインに達したモノだけを置いてきた。

平田はる香さんが一人で始めたお店だったが、次第に県外からもお客さんが訪れる人気店になり、現在スタッフを30人以上を抱えるまでになっている。

「わざマート」では、薪窯で焼いた「わざわざ」のパンも購入できる(写真撮影/新井友樹)

「わざマート」では、薪窯で焼いた「わざわざ」のパンも購入できる(写真撮影/新井友樹)

なぜ、コンビニを?「美味しいから食べ続けていたら健康に」が理想

平田さんに、「わざマート」を始めた理由を伺うと、「わざわざ」の初期のころの体験を話してくれた。

「わざわざをオープンしたのは2009年。まだ一人でやっていた時ですが、はじめは天然酵母や国産小麦といった言葉を看板やブログに出してPRしていたんです。すると自然派志向のお客さんが集まってくださって、それはとても嬉しいことだったんですが、次第にそういうお客さんだけが集まるお店になっていったんですね。その時に思ったんです。私がやりたいお店はこうじゃないなって。

長靴を履いた人も、ハイヒールの人も、軽トラックのおじさんもベンツの人も訪れる。そんな間口の広いお店にしたくて、自然派といった言葉を看板から外しました」

厳選した材料、添加物を入れないなどの方針は変えなかったが、シンプルに「このお店を好き」とか「美味しい」といった理由で通ってもらえる店にしたいと思った。

美味しい、デザインも素敵、それでいて健康や環境にも配慮されている。そんな品を集めた「パンと日用品の店 わざわざ」はお客さんの信頼を得て人気の店になっていく。

その「誰でも気軽に来られる店を」という思いが行き着いた先が、コンビニタイプの「わざマート」だった。

「もっとお客さんがアクセスしやすい場所で、利便性を追求して、簡易化されたしくみで……と考えていったら、人が一番よく行くのってコンビニだなと気付いて。どんなコンビニがいいかなと思ったら、置いてある品が美味しい、がやっぱり一番。それで通っていたら結果的に健康になったとか、環境に配慮された生活に変わったというふうになるといいなと思っています」

「わざマート」は2023年1月にプレオープン、4月にグランドオープンしたばかりだ。

(写真撮影/新井友樹)

(写真撮影/新井友樹)

「10年間に30店舗」が目標

これまで「わざわざ」に訪れるのは県内と県外からの人が大まかに半々だった。わざマートではより近距離、半径15キロほどからの客層を見込んでいる。お弁当や野菜を近々置く予定で、そうなれば近隣のお客さんも増えるだろう。

ただし、コンビニである以上、一店舗の出店だけでは終わらないと平田さんはいう。

「これまでのわざわざとは違って、いかに細かく日常的に何度も買ってもらえるかが大事です。お客さんの生活サイクルに密着していかないと利益が出ない。一店舗では採算がとれないのがコンビニなんだと改めて痛感しました。

長野のこの辺りは人口が少ないので、供給量と、消費量が一店舗では見合わない。そこで多店舗展開にして、倉庫を中心に物流網を組んで供給するしくみにしようと考えています」

倉庫兼セントラルキッチンでお弁当をつくり、商品も一緒に運搬する。そんな物流のしくみを構築し、近隣の軽井沢、御代田、佐久平、上田、小諸……などへも出店して、その物流網の中で配布する。

「10年間に30店舗。あくまでも数値目標ですが、それに近いペースで出店していきたいと思っています。軽井沢や御代田は、移住者も増えていますし、よりニーズがあるんじゃないかなと」

一つの物流の輪がうまくまわるようになれば、この輪を長野市、松本市、安曇野市……と長野県内に増やしていくことができるかもしれない。
東京などの都心で一つのエリアに集中出店するビジネスモデルを応用し、地方発でトライしようとしている。

(写真撮影/新井友樹)

(写真撮影/新井友樹)

「わざわざ」から「わざマート」に至るまで根底に流れる思想

わざわざが支持される理由の一つに、掲げるミッション「人々が健康であるために必要であるモノ・コトを提供する」があるのではないかと思う。それを具体化する一つのスローガンが「よき生活者になる」だ。

平田さんのnoteの「生活論」の頭には、以下のようなことが書かれていて、心から共感した。

「生活は修行に近く大変なものであるけれども、それをきちんとやり遂げることができると、よき生活者となり、それが礎となり健康や仕事が成り立っていくのではないかということです」

だからといって、わざわざのいう「よき生活」とは「丁寧な暮らし」に代表されるライフスタイルや、100%オーガニックな暮らしのことを言っているわけではない。

人が心身健やかであるためには、きちんと生活することが大切。でも仕事を優先するためにコンビニで食品を購入する人もいて当然。だから「よき生活」とは、人それぞれのもの、と提示する。

わざわざのホームページには、以下のように記される。

「それぞれの価値観を認め合い、自分軸をつくって、自分自身の体と心の声に耳を傾けて生活してみる……そうやって一つずつ自分の生活をつくっていく人を、わざわざは『よき生活者』と呼びます」

(写真撮影/新井友樹)

(写真撮影/新井友樹)

「よき生活研究所」とは?

そうした「よき生活者」になるための体験施設として、わざマートの隣に、この4月からオープンしたのが「よき生活研究所」だ。

コンビニ「わざマート」と「よき生活研究所」が入る建物は「わざわざ」の倉庫だった。今も一部はオフィスとして使われている(C)若菜紘之

コンビニ「わざマート」と「よき生活研究所」が入る建物は「わざわざ」の倉庫だった。今も一部はオフィスとして使われている(C)若菜紘之

よき生活研究所

(C)若菜紘之

入るとまず、コインランドリーが置いてある広いスペース。左手奥には自由に利用できるキッチン。そのさらに奥には大きな窓があり、カーペットを敷き詰めたリビングのような居心地のいいワーキングスペースが広がる。

時間制で滞在でき、仕事をしたりゆっくりお茶をしてくつろいだりできると同時に、この場に置いてある器や掃除道具、洗剤などは自由に使って、試してみることができる。

これまでにも家具などのショールームはあったが、生活道具を試用できるとは他では聞いたことがない。日本初の試みかもしれない。思い出したのは、かつて雑誌『暮しの手帖』の編集部で行われていたという商品テストだ。異なるメーカーのトースター、運動靴、電気釜など、あらゆる商品の使用テストを行い、結果を誌面で公表していた。

よき生活研究所で試してみるのは、消費者自身だ。

「たとえば洗濯物をもってきて、コインランドリーにかけている間、ここでゆっくり仕事していただいて。お腹が空いたら隣のわざマートでお弁当買ってきて食べていただいてもいいですし、ドリンクや簡単な軽食は用意しています。一日ゆっくり過ごしていただける場です」

「よき生活研究所」の中。時間制で滞在できる(C)若菜紘之

「よき生活研究所」の中。時間制で滞在できる(C)若菜紘之

リビングのように居心地がいい(C)若菜紘之

リビングのように居心地がいい(C)若菜紘之

壁一面に道具が展示されている。経年劣化の様子を示す品も(撮影/筆者)

壁一面に道具が展示されている。経年劣化の様子を示す品も(撮影/筆者)

なぜ、そこまでするのですか?

「パンと日用品の店 わざわざ」「問tou」「わざマート」「よき生活研究所」と、ここ数年でオープンしてきた。

どんどん活動を広げるわざわざと、それを率いる平田さん。その行動の裏には、どんな思いが隠されているのだろう。細やかな仕事ぶりから察するに、平田さんはとても繊細な人で、でも行動はきわめて大胆だ。

「やはり、使命感があるのかもしれません」
長野へ移住してきた時、欲しくても近くになかったもの、「あったらいいな」と思うものをつくってきた。

「ある一定のクオリティの店、例えばちゃんと美味しいコーヒーが飲めて、本が置いてあって、いつもきれいで、居心地もよくて。そういう場所が田舎には圧倒的に足りないと思っていて。それでつくったのが問touです。まちの喫茶店はあるけれど、自分がアノニマス(匿名)でいられるカフェはなかったので」

家でもない、仕事場でもない第三の居場所が少ない。入るのにしゃんと背筋が伸びるような、静かな緊張感と刺激を得られる場所。問touではそれが実現されている。

「そういう場所が増えれば、都会の人も居場所を見つけられて、田舎に住みたくなるんじゃないかな。この地に、一人でも移住者が増えればいいなと思うんです」

(写真撮影/新井友樹)

(写真撮影/新井友樹)

平田さんのこれまでの道のりをまとめた本『山の上のパン屋に人が集まるわけ』(ライツ社 刊)が、4月末、よき生活研究所のオープンと同時に出版された。「なぜそこまでするのか?」への答えは、この本を読むとよくわかるかもしれない。

私が感じたのは、平田さんは意外にとても普通の人なのだということだ。自分の選んだ道に悩んだり迷ったり、社会の常識に違和感を感じたり。誰しもに共感できる部分があるのではないかと思う。でもその後、彼女ほど自身の気持ちに真っ直ぐに行動できる人はそう多くない。

だから普通の人である平田さんが、果敢に勇気を出して田舎で挑戦する姿に打たれる。その誠実さを応援したくなるのかもしれない。

「よい未来を描いて、そこに近づけようと努力をする」。
この春にできた「わざマート」と「よき生活研究所」は、そんな綺麗ごとを実現するための大きな一歩に見える。

連載「生活圏内で豊かに暮らす」

●取材協力
株式会社わざわざ

テレワークの個室整備、オンライン内見など…コロナ禍から更に変化した住宅市場動向とは

国土交通省は、令和4年度の「住宅市場動向調査」の結果をとりまとめ、それを公表した。毎年実施している大型調査ではあるが、コロナ禍を経て、住宅を取り巻く環境も変わりつつある。その影響がどう表れているか、見ていくことにしよう。

【今週の住活トピック】
「令和4年度住宅市場動向調査」の結果を公表/国土交通省

インターネットの活用は情報収集や問い合わせまでしか進んでいない

この調査は、2021年4月~2022年3月に住み替えや建て替え、リフォームを行った世帯を対象に行ったもの。注文住宅と中古住宅は全国を、分譲住宅、民間賃貸住宅、リフォームについては三大都市圏を対象にしている。

さてコロナ禍では、対面を避けるためにオンラインによる接客やオンライン上の内覧などの手法が採り入れられるようになった。そこで、まずはインターネットの活用がどの程度進んでいるかを見てみよう。

今回の調査では、住宅の住み替えや取得の際の工程を次のように分けて、インターネットの活用状況を聞いている。
(1) インターネットを通じた情報収集
(2) インターネットを通じた問い合わせ、説明会・内見等の申し込み
(3) オンライン会議システム(ZOOM、Teams、Skype等)を活用した物件説明・商談
(4) VR(仮想現実)またはAR(拡張現実)ツールを活用した物件内見
(5) オンラインでの住宅ローン審査(※民間賃貸住宅は対象外)
(6) オンラインでの重要事項説明(※民間賃貸住宅は(5))
(7) 電子署名等を活用した電子契約(※民間賃貸住宅は(6))
(8) (1)~(7)の経験はない(※民間賃貸住宅は(7))

インターネットの活用状況

住宅取得等の過程におけるインターネットの活用状況(出典:国土交通省「令和4年度住宅市場動向調査」調査結果の概要より転載)

いずれの場合も、「インターネットを通じた情報収集」(図の黄色の棒グラフ)が最多でおおむね6割半~8割を占め、特出して多くなっている。次いで、「インターネットを通じた問い合わせや内見等の申し込み」で、最少の賃貸住宅で2割弱、最多の分譲集合住宅(新築マンション)で5割弱といったところだ。

働く場では普及している「オンライン会議システム」の活用だが、図の赤い棒グラフを見る限り、あまり活用が進んでいないようだ。新築マンションの販売センターなどで話を聞く限りでは、多くのデベロッパーがオンライン会議を使った物件説明をしているという話だったので、意外に活用度合いが少ないなというのが正直な感想だ。

売買契約や賃貸借契約の際の電子書面やオンラインの活用はこれから広がるか?

これから普及が進むだろうと見ているのが、インターネットの活用状況の選択肢のうち、(6)のオンラインでの重要事項説明や(7)の電子書面を活用した電子契約である。売買契約や賃貸借契約を交わすときには、必ず重要事項説明を行う(貸主が不動産会社の場合は対象外)ことになっている。かつては必ず対面で行うこととされていたが、オンラインで行うことが可能になった。ただし、国土交通省が定めた細かいルールに準じて行う必要があるため、その環境が整わない不動産会社もあったりして、エンドユーザーが希望しても必ずしも実施できない場合もある。

また、必ず書面で重要事項説明書や契約書を作成することになっていたので、電子書面の交付が可能になった2022年5月以降には、より一層オンラインによる契約の効率化が図れるようになったので、実施状況が上がっていく可能性がある。

社会実験の取り組み

社会実験の取り組み(出典:国土交通省「ITを活用した重要事項説明及び書面の電子化について」サイトより転載)

在宅勤務の普及によってそのための個室を確保した?

次に、コロナ禍で普及した在宅勤務の影響を見ていこう。今回の調査では「在宅勤務等のためのスペースの状況」について、次の選択肢を用意して聞いている。
(1)在宅勤務等に専念できる個室がある
(2) 在宅勤務等に専念できる仕切られたスペースがある
(3)仕切られてはいないが在宅勤務等に専念できるスペースがある
(4) 在宅勤務等に専念できる個室やスペースなどはない

在宅勤務等のためのスペースの状況

在宅勤務等のためのスペースの状況(出典:国土交通省「令和4年度住宅市場動向調査」調査結果の概要より転載)

賃貸住宅に住み替えた世帯では、在宅勤務のためのスペースがない(図の赤い棒グラフ)という回答が最多で、個室がある世帯は3割強にとどまった。しかし、注文住宅や新築一戸建て、新築マンション、中古一戸建て、中古マンションでは、在宅勤務のための個室があるという回答が最も多かった。また、マンションよりも一戸建てのほうが個室を確保する割合が高い傾向がうかがえる。

これは、住宅の広さの影響があるだろう。一般的な賃貸住宅は持ち家よりも面積が狭いので、在宅勤務のための個室を用意することが難しく、持ち家のなかでも一戸建てのほうが部屋数を確保しやすいので、在宅勤務に充てる個室を用意しやすいということだろう。

個室ではないスペースも含めると、在宅勤務のためのスペースというのは、今後の住まい選びでも意識する必要があるだろう。

住宅スゴロクの崩壊?新築マンションは複数回の取得が多い

最後に、筆者が気になった「住宅取得回数」について見ていこう。
調査で住宅取得回数を聞いたところ、すべての住宅の種類でほとんどが「今回が初めて」と回答している。「今回初めて」の割合が最も少ない新築マンションを見ても、72.9%に達している。逆にいうと、新築マンションを買った世帯のなかで17.4%が「2回目」、9.0%が「3回目以上」と回答しており、4世帯に1世帯は今回の新築マンションが複数回目の取得となる。

理由はさまざまあるだろう。高齢化や少人数世帯の増加により、マンションのほうが暮らしやすいと考える世帯が増えたこと、マンションのほうが売りやすいこと、新築マンションの価格が高騰して購入世帯が限定されたことなどが考えられる。

かつて「住宅スゴロク」といわれた、賃貸住宅→マンション→庭付き一戸建てと住み替えるのが理想とされた時代は終わったようだ。

住宅取得の実態は、そのときの経済状況や社会的な変化が反映された結果になる。ITの進化や働き方の変化、住み心地の価値観の変化など、さまざまな要因が調査結果に表れているようだ。

●関連サイト
「令和4年度住宅市場動向調査」の結果を公表/国土交通省
国土交通省「令和4年度住宅市場動向調査」調査結果の概要