「高齢者が賃貸を借りづらい問題」に解決策はあるか? R65代表取締役に聞いた!

「65歳以上の高齢者は賃貸住宅を借りづらい」ということは、近年報道などを通じて知られるようになってきた。山本 遼さんが代表取締役を務めるR65では、65歳からの部屋探しを支援し、専用サイト「R65不動産」で高齢者が入居できる物件を紹介している。また、高齢者の賃貸入居を難しくする課題を解消する取り組みも積極的に行っている。高齢者の部屋探しの実態について、山本さんに話を聞いた。

65歳以上の4人に1人が経験する“入居拒否”の実態

筆者は2年前に「65歳以上の“入居拒否”4人に1人。知られざる賃貸の「高齢者差別」」という記事を書いた。この記事で、全国の65歳以上の23.6%が「不動産会社に入居を断られた経験がある」と回答し、断られた経験の回数は「1回」という人が半数近くになるが、「5回以上」という人も13.4%いたという、R65の調査結果を紹介したものだ。

筆者が気になったのは、65歳以上の4人に1人は入居拒否に遭う一方、4人に3人は問題なく入居できているのか?その場合、どんな高齢者なら入居を断られないのだろうか?高齢者の入居拒否の実態に詳しいR65の山本さんに質問をぶつけてみた。

R65代表取締役の山本遼さん(筆者撮影)

R65代表取締役の山本遼さん(筆者撮影)

「高齢者の4人に3人は入居できる状態と思わないでほしい」と山本さん。収入があって保証人もいる高齢者でも、賃貸住宅を見つけるのに時間がかかっている。むしろ、4人に1人は時間をかけても物件が見つからない状態と見るべきだというのだ。R65の調査結果でも、年収200万円未満とそれ以上(年金以外に仕事をして収入を得ていると想定)で比較しても、入居拒否の経験の有無や断られた回数に違いはなかった。

出典:R65「『65歳以上が賃貸住宅を借りにくい問題』に関する調査」

出典:R65「『65歳以上が賃貸住宅を借りにくい問題』に関する調査」

後期高齢期(75歳以上)の年齢になったり障害があったりすれば、さらにハードルが高くなるだけで、入居については、まず「65歳以上という年齢」が大きなハードルになるのだという。

65歳以上が入居しづらい要因はあるが、ケアする手立てもある

ではなぜ、65歳以上で入居が難しくなるのだろうか?山本さんによれば、最も大きな要因は、貸主(オーナー)側に高齢者に貸した経験が少ないことで、理解が不足しているからだという。

一般的な賃貸住宅では、貸主側にやむを得ない事情がない限り、入居者が希望すればそのまま住み続けることができる。住み続ければ入居者が高齢化して、孤独死や死後の残置物の問題が生じるなど、若年層に貸すのとは異なるトラブルが起きると考え、それを懸念して年齢だけで入居を拒む貸主が多いようなのだ。

(公財)日本賃貸住宅管理協会による調査では、「高齢者世帯の入居に拒否感がある」と回答した貸主は全体の70.2%を占める。この拒否感を解消するには、貸主のリスクをケアする手立てを講じて、安心して貸せる環境を整備していくことが必要だと、山本さんは考えている。以降は、どんな課題があるか、それに対するどんな手立てがあるかを整理していこう。

●孤独死
貸主にとって孤独死は大きな問題だ。発見が遅れると、臭いや床面の損傷などが発生して、その部屋を特殊清掃したり改修したりする必要がある。かつ、その間は入居者募集もできないので、貸主の損失も大きくなる。だから、孤独死は早期発見がカギになるのだ。これについては、「見守りサービス」を活用することで、異常な状態を検知することができる。

●身元保証
賃貸借契約では連帯保証人などの身元保証を求められるが、保証人がいない高齢者も多い。身元保証で求められるのは主に家賃の滞納だが、これは高齢者に限らず、「家賃債務保証会社」と契約するのが一般的になっている。このほか、入院時や死亡時にまで対応する「身元保証サービス」の利用も考えられる。

●死亡後の残置物の処理
死後に賃貸住宅に残された物は、貸主が勝手に処分することはできない。相続人に残置物の処分や部屋の明け渡しなどの対応を依頼するのが基本だ。一人暮らしで相続人が不明の場合、貸主は推定相続人を探し出して交渉することになり、それにかなりの時間を要する場合がある。これについては、国土交通省と法務省が「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を策定した。入居者の推定相続人か、それが難しいときは居住支援法人※などの第三者が入居者と委任契約を結び、それによって代理権を得た者が賃貸借契約の解除や残置物の処理を行うというものだ。
※居住支援法人とは、住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律(住宅セーフティネット法)に基づき、都道府県が指定する、要配慮者の居住支援を行う法人。

R65でも独自に高齢者のリスクケア商品を用意

こうした高齢者ならではのリスクについては、行政が対応すべき課題もある。このなかで不動産会社が考えるべきことは、賃貸経営で重要となる、物件の資産価値を下げず、空室期間を長期化させないことに絞られると山本さん。

そこで、R65でも高齢者の入居リスクをケアする商品を用意している。まず、孤独死の問題については、「あんしんみまもりパック」(月額980円~)を提供している。これは、電気の使用量をチェックして見守るもので、貸主の原状回復費用や家賃を補償する保険もセットにしている。比較的安価で見守りと補償をセットにすることで、貸主が利用しやすいようにしているのが特徴だ。

残置物の処理については、R65のパートナー不動産会社に対しては、居住支援法人でもあるR65が残置物処理に関する委任契約を受ける契約書を用意しているほか、他の不動産会社などが使える賃貸借契約の解除と残置物処理に関する契約書(推定相続人が受託する想定)を一般公開している。

なお、家賃の滞納については、実は高齢者だからといって多いわけではないという。たしかに、家賃債務保証会社を利用することで滞納のリスクは解消されるし、年金のなかでやりくりできる賃料であれば問題はあまり発生しないはずだ。

難しいのは認知症を発症して、賃貸住宅での生活が難しくなる場合だ。特に身寄りのない単身高齢者の場合、認知症が進んでしまうと意思能力がないと判断されてしまうので、まだ軽症のうちに地域包括支援センター※などと連携して、グループホームなどの環境が整った場所に移ってもらうのがよいという。
※地域包括支援センターは、地域の高齢者を支えるために市町村が設置するもので、「介護予防ケアマネジメント」「総合相談支援」「包括的・継続的ケアマネジメント支援」「権利擁護」の業務を行う。

高齢者が賃貸住宅を探しやすくするためには?

高齢者がもっと賃貸住宅を探しやすくするためには、不動産情報サイトの充実が挙げられる。現状でも、掲載物件数の豊富な大手ポータルサイトで、「高齢者歓迎」などの項目で検索して、高齢者の入居を拒まない物件を探すことはできる。さらに、高齢者対象の賃貸住宅に特化したR65不動産のサイトでは、エリア検索のほかに、二人入居可、駅徒歩5分、保証人不要相談、庭付き、ペット可、1階またはエレベータなどのテーマ別検索ができるようにしている。これらは、高齢者が部屋探しをする際に主要な条件として挙げる場合が多いからだ。ただし現状では、必ずしも、高齢者のニーズと掲載物件がマッチするとは限らない。

そこで、山本さんがもう一つの課題として挙げるのが、不動産流通の問題だ。高齢者の入居を拒まない物件自体を増やす必要があるからだ。

貸主が高齢者に賃貸住宅を貸すことに拒否感がない場合でも、不動産会社のほうで手間がかかるなどの理由で、積極的でない場合もある。そこで、高齢者の部屋探しに積極的なR65のパートナー不動産会社を増やし、R65不動産の掲載物件を増やそうと考えている。パートナー不動産会社に高齢者に関する仲介や賃貸管理のノウハウがないという場合は、ノウハウの提供を惜しまないという。

次に、貸主の理解を深めること。「高齢者世帯の入居に拒否感がある」という貸主が70.2%いたが、拒否感を示していない残りの3割にしっかりと、見守りサービスなどのリスクをケアする手立てを紹介することで、高齢者に多くの賃貸住宅を提供してもらいたいという。

山本さんの高齢者のイメージには、亡くなる2年前まで薬局で長く働き続けた祖母の姿がある。高齢者が暮らす場としては、介護が受けられる施設やサービス付き高齢者向け住宅などもあるが、自立して自分らしい生活を送るには、街の中に数多くある賃貸住宅が適していると思っている。それを実現するために、R65不動産を拡充させたいという考えだ。

今後、日本の高齢化はますます進んでいく。政府も、「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」や「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を策定し、高齢者などの住宅確保要配慮者の支援を拡充するための検討会を立ち上げるなどの取り組みも行っている。

こうした後押しも必要だが、困っている高齢者の部屋探しを支援しようという、山本さんのような情熱も必要だ。「高齢者に賃貸住宅を貸すのが当たり前の社会になったときには、R65不動産はなくなってよい」という、山本さんの発言が印象に残っている。

東京都の相談窓口には不動産取引の相談が年間約2万件も!その中でも多い契約に関するトラブルの適切な契約手順とは?

東京都では、2022年度に消費者から都に寄せられた不動産取引に関する相談と、それを受けて都が宅地建物取引業者(宅建業者)に行った行政指導などについて取りまとめ、その概要を公表した。その内容を見ると、不動産の売買や賃貸借の取引でどういったトラブルが多いのかが分かる。詳しく見ていこう。

【今週の住活トピック】
「不動産取引に関する相談及び指導等の概要(令和4年度)」を公表/東京都

不動産取引に関する消費者相談は売買・賃貸ともに契約に関する相談が多い

まず押さえておきたいことは、東京都の相談窓口では、「宅地建物取引業法(宅建業法)」の規制対象となる不動産取引の消費者相談について受け付けていること。都は宅建業者を指導監督する立場にあるからで、物件選びなどの相談は対象外となる。また、都民(個人)を対象に「不動産取引特別相談室」を設けて、宅建業者が関わる民事上の紛争などについて、弁護士などによる相談も行っている。

東京都が公表した概要によると、窓口での相談受付件数は、過去5年間は年間2万件前後で推移しているが、コロナ禍以降は面談による相談が減少し、2022年度は電話による相談が99.0%を占めたという。

その相談内容を見ると、「面談による相談」では、売買、賃貸借ともに重要事項説明や契約内容など契約に関する相談が多い。また、「電話による相談」でも、契約に関する相談が多いが、賃貸借では敷金(原状回復)についての相談が最多の3800件にのぼった。

「面談による相談」における主な相談内容

順位売買に関する相談(全86件)賃貸借に関する相談(全112件)1重要事項説明31件重要事項説明・契約内容42件2契約内容15件敷金(原状回復)25件3報酬・費用請求等/契約前相談各6件管理(設備の瑕疵等)10件

「電話による相談」における主な相談内容

順位売買に関する相談(全4,118件)賃貸借に関する相談(全15,265件)1契約前相談602件敷金(原状回復)3,800件2重要事項説明517件重要事項説明・契約内容2,729件3契約の解除407件管理(設備の瑕疵等)2,249件※特別相談室における相談及びその他の相談(不動産取引以外の相談等)を除く。
消費者からの相談内容(出典/東京都「不動産取引に関する相談及び指導等の概要(令和4年度)」)

「面談」で契約に関する相談が多いのは、不動産取引の最大の山場であり、重要事項説明書や契約書などの関係書類を実際に見せながら相談できるからだろう。特に金額が大きい売買の相談の比率が高くなっている。一方、「電話」相談は、移動などの時間的な制約を受けないことに加えて、退去するときに原状回復費用の負担について宅建業者と借主で合意できずに早急に相談したいといった、緊急性がある場合も多いからだろう。

相談内容に法令違反の疑いがあれば調査し、行政処分も行う

東京都では、相談の内容に法令違反の疑いがある場合は、宅建業者に対して調査などを行い、違反が認められれば監督処分を行うことになる。2022年度は76件で宅建業法違反の疑いがあり、調査に至っている。

その具体的な事例も公表されているので、いくつか見ていこう。

重要事項説明(宅建業法第35条)については、宅地建物取引士が説明を行わなかった事例、本来説明すべき内容について説明をしなかった事例などがあった。重要事項の不告知(宅建業法第47条)については、買主に不利になる情報を認識していたのに、故意に告げなかった事例があった。

ほかにも、おとり広告(取引できない物件を広告)を行ったり、契約書を交付しなかったりといった法令違反の事例も見られた。

調査で違反が認められれば、東京都は業務停止等の処分や指導勧告などを行うが、2022年度では72件の事例があった。ただし、この件数は年々減少している。

ルールに則った適切な不動産取引の契約とは?

ここで、不動産取引における契約に関するルールを確認しておこう。

○物件を決めて申し込む
買うあるいは借りる物件を決めたら、宅建業者を通じて正式に申し込む。この際に、申込金などの名目で内金を入れる場合があるが、一般的には契約の意志を表示するために預けたお金なので、正式に契約を結ぶ前であれば撤回でき、預けた申込金は返還される。念のために領収書ではなく、「預かり証」を受け取っておくとよい。

○契約前に重要事項説明を受ける
買う場合であれば住宅ローンの審査を経て、借りる場合であれば入居審査を経て、正式に契約することになる。宅建業法では、契約する前に、宅建業者が宅地建物取引士をもって物件や契約条件などに関する重要事項説明を行うことを義務※づけている。
※賃貸借契約の場合、宅建業者が仲介や代理ではなく、貸主として借主と直接契約する場合は、重要事項説明が義務づけられていない。

○正式に契約を結ぶ
重要事項説明を受けて納得できたら、正式に契約を結ぶ。一般的には、契約書を作成して取り交わすことになる。契約が成立したら、宅地建物取引士が記名押印した契約書を遅滞なく交付することが定められている。売買契約の場合、契約時に買主が売主に「手付金」を支払うのが一般的だが、契約後に買主が契約を解除する場合は手付金を放棄することになる(売主が解除する場合は手付金の倍返しをする)。

なお、重要事項説明や契約の際に、かつては書面を交付して押印する必要があったが、オンライン上の電子書面で取引するなど「電子契約」も可能になった。

○原状回復の取り決めについて
国土交通省では「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を、東京都では「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」を定めている。これらによると、「経年変化や通常の使用による損耗等の復旧」は貸主が負担し、「故意・過失や通常の使用方法に反する使用など、借主の責任によって生じた住宅の損耗やキズ等の復旧」などは借主が原状回復として負担するとしている。ただし、契約時に双方が合意して、特約によって異なる取り決めをすることは可能。

不動産取引の参考になる手引きなどもホームページに公開

さて、東京都では、不動産取引の知識や経験があまりない消費者が、ともすれば宅建業者に言われるがまま十分に確認をしないで契約を結んでしまい、トラブルが生じるケースが多いことから、ホームページにいろいろな手引書を公開している。

「不動産売買の手引」、「住宅賃貸借(借家)契約の手引」などの基本情報から、特に賃貸借で多い原状回復における貸主・借主の費用負担の基本的な考え方を示した「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」(日本語・英語版)など、不動産取引で知っておきたい情報を公開しているので、見ておくとよいだろう。
注:東京都の「賃貸住宅紛争防止条例」については、東京都内の居住用の賃貸住宅のみが対象となる点に注意。

さて、生活の拠点を手に入れるために不動産取引を行う場合、トラブルになると拠点が定まらず、生活に支障をきたす場合もある。さらに、それなりの金額が動くこともあり、後悔のないようにしたいものだ。知らなかった、確認を怠ったでは済まされないので、物件を検索することと併せて、適切な手順やルールなどについても情報を収集し、チェックすべきポイントを見逃さないようにしてほしい。

●関連サイト
東京都「不動産取引に関する相談及び指導等の概要(令和4年度)」の公表について」
東京都「不動産取引に関する相談及び宅地建物取引業者指導等の概要」

外国人の賃貸トラブルTOP3「ゴミ出し・騒音・又貸し」、制度や慣習がまるで違う驚きの海外賃貸実情が原因だった!

日本に暮らす外国人は多くいるにもかかわらず、外国人が入居できる賃貸物件が少ないことが問題になっています。文化や生活習慣の違いから、トラブルになることを危惧して、外国人に部屋を貸したがらないオーナーや管理会社の担当者もいるようです。

今回は、外国人への入居サポートを行っている不動産会社イチイ 代表取締役の荻野政男さんと、グローバルトラストネットワークスの外国人住まい事業部 グローバル賃貸部 部長・尾崎幸男(崎は旧字体、以下同)さんに、外国人入居者との間に起こりやすいトラブルとその解決方法ついて話を聞きました。

日本に住む外国人の賃貸住宅事情は?

外国人が日本で家を借りようとするとき、さまざまな困難が存在します。
まずは、物件情報の取得が困難であること。

「ネットで物件を探せるサイトは複数ありますが、多言語で情報提供されているものはほとんどありません。日本語で物件を探そうとすると、日本語が得意でない外国人は得られる情報が限られてしまいます」と家賃保証をはじめとして、15年以上外国人に特化したさまざまな生活支援事業を展開しているグローバルトラストネットワークスの尾崎幸男さんは話します。

また、海外では通常、保証金として家賃1~2カ月分を支払えば契約できることがほとんどですが、日本では入居に際して家賃保証会社との契約が必要で、そのための審査があります。オーナーや管理会社によっては日本の現住所や電話番号がなければ借りられなかったり、緊急連絡先は日本人でなければダメだったり、留学生など仕事を持たない人は断られてしまうケースもあるようです。

「そもそも、海外では入居希望者がオーナーと直接やりとりすることが多く、不動産会社を介して契約を結ぶということ自体が不慣れです」と、韓国・中国・アメリカなどの外国人スタッフとともに外国人の入居サポートを行っていて、日本賃貸住宅管理協会 あんしん居住研究会 会長も勤める荻野政男さんは説明します。

何ページにも及ぶ契約書の内容を理解するのは、たとえ説明を受けたとしても、外国人が母国語以外の言葉で理解するのは困難でしょう。

さらに日本では敷金・礼金・仲介手数料・保証料などの費用が通常、家賃の5~6カ月分ほどかかります。初期費用があまりに高すぎて、家を借りること諦めざるを得ない人もいるのだとか。海外では電気・ガス・水道やインターネットなどのインフラ使用料は家賃に含まれていることが多いため、それらの契約を自分でやるのは初めてという人も多く、日本の慣れないルールや慣習に戸惑うことが多いのです。

日本での家探しでは、物件情報や日本独特のルールについて、日本語以外の情報が少ない。日本語が得意でない外国人には情報格差が生まれる可能性も(画像/PIXTA)

日本での家探しでは、物件情報や日本独特のルールについて、日本語以外の情報が少ない。日本語が得意でない外国人には情報格差が生まれる可能性も(画像/PIXTA)

外国人入居者に起こりやすいトラブルTOP3

イチイの荻野さんによると、入居後の外国人のトラブルトップ3は、「ゴミ出し」「騒音」「又貸し」だといいます。

「“ゴミ出し”は、日本のように細かくゴミの分別をしている国は意外と少なく、ゴミの分別に慣れていない人が多いです。日本より細かく分別する習慣があるのは、ドイツくらいではないでしょうか」(イチイ荻野さん)

「中国では、2019年から上海市を手始めにゴミを分別するようになりましたが、主にリサイクルゴミ、有害ゴミ、生ゴミ、乾燥ゴミの4種類のみ。ベトナムでも昨年ゴミを分別するルールができたそうですが、まだ馴染みがないようです」(グローバルトラストネットワークス尾崎さん)

さらに、分別の仕方や回収日など、ルールが地域によって違う点もわかりづらく、ゴミ出しトラブルになる要素をはらんでいます。

ゴミ出しの仕分けやルールは複雑。自治体では日本語だけでなく、母国語で説明できるような資料の作成や、配布する仕組みが必要かもしれない(写真/PIXTA)

ゴミ出しの仕分けやルールは複雑。自治体では日本語だけでなく、母国語で説明できるような資料の作成や、配布する仕組みが必要かもしれない(写真/PIXTA)

“騒音”については、文化の違いや家のつくりが関係しているようです。日本人は自宅を「ゆっくり静かに過ごす場所」と考えている人が多いようですが、海外では自宅を社交場の一つとして「友人や知人を招いて楽しくおしゃべりする場所」だとする考え方が一般的である国も少なくありません。

「日本の家は外国の家に比べて壁が薄く音が漏れやすいんです。しかし、彼らはそんなことは知りません。これまでと同じようにしゃべっているだけでもトラブルになってしまうのです。また、母国にいる家族と電話で話そうとすると時差があるため、夜遅い時間に電話をして『声がうるさい』とトラブルになったケースがありました」(イチイ荻野さん)

日本の家の壁は薄くて音が漏れやすい。自宅に友人・知人を招いて楽しくおしゃべりのはずが、騒音トラブルになってしまうことも(写真/PIXTA)

日本の家の壁は薄くて音が漏れやすい。自宅に友人・知人を招いて楽しくおしゃべりのはずが、騒音トラブルになってしまうことも(写真/PIXTA)

日本では賃貸する期間を限定する定期借家契約よりも更新や中途解約が可能な普通借家契約が多く、「又貸し(転貸)」は契約で禁止される場合がほとんど。一方、外国では定期借家契約が多いために、移転などの理由で契約期間が残ってしまう場合、知り合いに又貸しすることが当たり前の国や地域もあるので、やってはいけないことだと知らない人も多いそうです。イチイの荻野さんによれば、かつては契約者以外の人がたくさん同居してしまうことなどもありましたが、今は少なくなってきているといいます。

「昔は日本の初期費用や家賃が外国人には高くて部屋を借りにくいという金銭的な問題が大きな背景としてありました。近年は母国の国力が上がってきたため、前ほどお金に困る人が少なくなっていることが理由として考えられます」(イチイ荻野さん)

さらに入居審査があることや、何ページにも及ぶ契約書の締結、日本人の連帯保証人が必要な場合や緊急連絡先の確保など、日本独特の習慣もあり、国内に知り合いのいない外国人にはハードルの高いものなのです。

他にもこんなトラブルが……

トップ3以外にもよくあるトラブルとしてグローバルトラストネットワークスの尾崎さんが挙げるのが「無断解約」です。
日本では、退去のときの「解約予告」や「原状回復」は当たり前のことですが、海外では、借家に家具や家電が備わっていることが多く、処分しなければならないことを知らずに置いたままにして帰ってしまう人もいるのだそう。

また、「家賃の入金確認ができない」トラブルも多いといいます。
尾崎さんによると、外国人が日本の銀行口座を開設しようとすると、入国後、半年間待たなければいけないことが多いそうです。銀行口座を持っていないと、振り込み手続きや送金手続きができず、家族や知り合いの口座から振り込んだりするケースが多いのだとか。

「家賃引き落としの場合でも口座がなければ、都度振り込んでもらうしかありません。その場合でも、他人の口座を借りて振り込みをして、振込名義人の名前が入居者と一致しないなどといったトラブルはよくあることです」(グローバルトラストネットワークス尾崎さん)

いずれも金融機関の口座開設の審査が外国人に対して厳しすぎることが大きな原因の一つとなっているようです。

外国人が日本で銀行口座を開こうとすると、日本人よりも時間がかかる。本人名義で口座引き落としや振り込みができず、トラブルになることも(写真/PIXTA)

外国人が日本で銀行口座を開こうとすると、日本人よりも時間がかかる。本人名義で口座引き落としや振り込みができず、トラブルになることも(写真/PIXTA)

外国人の入居トラブルを回避する事前の策は?

このようなトラブルに対して、どのような解決策が検討できるのでしょうか。

「日本と母国の習慣の違いやルールを、事前にしっかりと説明して理解してもらうことに尽きます。日本語では伝わらないこともあるので、母国語の資料を用意しておく必要があるでしょう。加えて、文化や意識の違いを理解している外国人スタッフによる母国語の説明やサポートも大事です」(イチイ荻野さん)

尾崎さんは、家賃滞納や、無断解約などに対してリスクヘッジをするために、母国の家族と連絡を取るようにしているといいます。

「私たちは、審査段階で母国の家族の連絡先を取得し『保証人の代行をする、万が一何かあったときは弊社を頼ってください』と電話連絡をしています。こうすることで何かあってもお客様と連絡を取る手段を残すことができ、さらにご家族にも安心していただけます」(グローバルトラストネットワークス尾崎さん)

グローバルトラストネットワークスが運営している外国人向けの不動産情報サイト。日本語や英語だけでなく、外国人が母国語で読める情報や母国語によるサポートを提供することで理解を深めてもらい、トラブルを回避することができる(画像提供/グローバルトラストネットワークス)

グローバルトラストネットワークスが運営している外国人向けの不動産情報サイト。日本語や英語だけでなく、外国人が母国語で読める情報や母国語によるサポートを提供することで理解を深めてもらい、トラブルを回避することができる(画像提供/グローバルトラストネットワークス)

また、公益財団法人日本賃貸住宅管理協会でも、14カ国にわたる「部屋探しのガイドブック」(国土交通省/公益財団法人日本住宅管理協会 あんしん居住研究会 ほか)を作成して住まい探しをする外国人向けに配布しています。オーナー向けにも外国人受け入れのためのガイドブック作成し、利用促進を図っているそうです。

さらに、オーナーや管理会社にとっては、グローバルトラストネットワークスのように外国人専門の家賃保証会社を活用することも有効でしょう。同社では、多言語によるホームページやSNSで物件情報や初期費用などの情報提供や24時間ダイヤルサポート設置など、情報を得られる環境を用意することにも力を入れているそうです。

グローバルトラストネットワークスが提供する外国人に特化した家賃保証サービス。外国人の対応に不慣れな管理会社を多言語でサポートし、入居者、オーナー、管理会社、全てにとって安心できるサービスとなっている(画像提供/グローバルトラストネットワークス)

グローバルトラストネットワークスが提供する外国人に特化した家賃保証サービス。外国人の対応に不慣れな管理会社を多言語でサポートし、入居者、オーナー、管理会社、全てにとって安心できるサービスとなっている(画像提供/グローバルトラストネットワークス)

誤解と偏見をなくすために必要なことは?

これからの日本社会では、経済においても労働者問題に関しても、外国人の存在なくしては成り立ちません。生活習慣や言葉の違いを解決できれば、外国人に部屋を貸すことはリスキーではないとイチイの荻野さんはいいます。トラブルをなくすために、事前の説明や情報を届けること、生活面のサポートなどが重要です。

「外国人に丁寧に説明しようとすると当然時間がかかります。重要事項説明においても、適当に日本語で済ませてしまう不動産会社も多いのではないでしょうか。しっかり説明をしていないから、入居する外国人が理解できずにトラブルが起こるのです」(イチイ荻野さん)

公益財団法人 日本賃貸住宅管理協会が実施した「外国人入居受入れに係る実態調査(2021年)」では、「契約内容について説明してもらっており、かつ内容を理解できた」人は67.3%だったという結果が出ています。

外国人入居者への賃貸借契約内容の説明状況

不動産会社から契約内容を説明してもらったか

契約内容はどのように説明されたか

外国人のうち約1割は、賃貸借契約の内容の説明を受けていないか覚えておらず、説明を受けた人でも1割は契約内容を理解できていない(資料/公益財団法人日本賃貸住宅管理協会「外国人入居受入れに係る実態調査報告書(2021年)」)

しかし、その問題の根本には、日本人のなかには外国人への差別意識がある人が少なくないことも否めません。例えば、仲介会社が管理会社に問い合わせをしても、入居者が外国人というだけで断られてしまうこともあるそうです。「そもそも外国籍であることを理由に入居を拒否するのは差別であり、人権に関わる問題だ」と荻野さんはいいます。

「外国人の入居は、空室対策のマーケットとして注力すること以上に、グローバル化に向けて外国人に対しての接し方や受け入れ方をもっと真剣に考えていく必要があると思います」(イチイ荻野さん)

「SDGsが注目されていますが、環境に関することだけでなく『不平等が発生しない』『誰一人取り残さない』という目標も意識して、多様性を理解する環境づくりがあっても良いのではないでしょうか」(グローバルトラストネットワークス尾崎さん)

制度の構築とともに、ルールだけでなく、外国人を理解しようとする環境づくりも大事でしょう。

外国人入居者のトラブルは、情報が届かないことによる「知らない」「わからない」が原因となっているケースが多いということでした。また、管理会社をはじめ、私たちのなかにある、古い時代からアップデートされていない外国人に対するイメージが、根拠のない偏見や誤解を生んでいるようです。

日本の習慣やルールを外国から来た人にわかりやすく伝えるための工夫や、外国人を受け入れやすくするための仕組みや制度を整えることで、トラブルは回避可能です。そして、私たちにはトラブルを外国人のせいにするのではなく、自ら文化や習慣の違いを知って理解しようとする努力が必要とされています。そうすることが、オーナーや管理会社はもちろん、国際社会のなかで私たちが外国人と共存していくことにつながるのではないでしょうか。

●取材協力
・株式会社イチイ
・株式会社グローバルトラストネットワークス

今も残る「外国人に部屋を貸したくない」。偏見と闘う不動産会社や外国人スタッフに現場のリアルを聞いた

外国人が日本で暮らすには、住居を確保する必要があります。しかし、言葉の問題や文化の違い、偏見などもあり、必ずしも入居までの道のりは容易ではありません。
一方で、そのような外国人の入居希望者に対し、外国人スタッフが自らの体験も含めて賃貸オーナーとの間を取り持つ不動産会社もあります。取り組みや課題について、外国人を雇用する不動産会社2社、イチイ代表取締役の荻野政男さん、ランドハウジングのタイ事業部(海外事業)責任者である橋本大吾さん、そしてランドハウジングで働くタイ人スタッフのカナさんに聞きました。

外国人が日本で入居先を探すときに困っていることは?

外国人が日本で住まいを探すとき、最初にぶつかる壁は、言葉や文化の違いでしょう。日本語がわからなければ、契約書の内容や行政の情報、例えば細かいところでは燃えるゴミを何曜日に出せばいいのかなど、さまざまな情報が得づらく、掲示されていたとしても読んで理解をすることが困難になります。

母国ではここまでゴミを細かく分別する習慣のない場合もある。地域によってもゴミを出す日は異なるので、日本語を読めない外国人は、きちんとした説明がないと、どのゴミをいつ出したら良いか理解するのは難しい(画像/PIXTA)

母国ではここまでゴミを細かく分別する習慣のない場合もある。地域によってもゴミを出す日は異なるので、日本語を読めない外国人は、きちんとした説明がないと、どのゴミをいつ出したら良いか理解するのは難しい(画像/PIXTA)

公益財団法人 日本賃貸住宅管理協会が2021年に実施した「外国人入居受入れに係る実態調査」では、「契約内容について説明してもらっており、かつ内容を理解できた」人は67.3%だったという結果が出ています。契約内容は日本語で説明されたと回答した人が半数以上なので、内容を理解できずに契約している外国人が3割以上いることも当然かもしれません。また、契約内容を説明されていないのであれば、それは宅建業法違反になります。

大前提として、賃貸物件を借りようとする外国人は、初めて日本に住む人がほとんどでしょう。

「トラブルが起こるのは『外国人だから』ではなく、『初めて経験することだから』ではないでしょうか。『初めての人か、経験者か』による違いと見る必要があると思います」と、1978年から外国人向けの賃貸住宅事業を始め、現在は韓国・中国・アメリカなどの外国人スタッフとともに外国人の入居サポートを行うイチイ代表取締役の荻野政男さんは話します。

さらにオーナーはじめ、近隣住民や他の入居者など、日本人の接し方にも、問題があるようです。

「『日本人は接してくれない』という話を留学生からよく聞きます。海外では近隣の住人同士、挨拶したり、話しかけたりして相手を知ることが不審者対策になるという考えがありますが、日本では知らない人に声をかけることは稀です」(荻野さん)

どうしても最初に心を開くまでに時間がかかってしまう日本人は少なくありません。せっかく日本に来ても、日本人との交流をなかなかもてず、情報を得にくいのも外国人にとっては戸惑う要因になっているようです。

日本が好きで来日しても、日本人とコミュニケーションを取れず、戸惑ったり、孤独を感じたりする外国人も多い(画像/PIXTA)

日本が好きで来日しても、日本人とコミュニケーションを取れず、戸惑ったり、孤独を感じたりする外国人も多い(画像/PIXTA)

外国人の入居者希望者に対する賃貸オーナーの印象は?

外国人が入居すると、言葉や文化、生活習慣の違いからトラブルになるのでは、と考えるオーナーや管理会社が一定数いるようです。

例えば、「家に上がる際には靴を脱ぐ」「ゴミの分別」などがきちんとできるのか、友人や知人を呼んで大騒ぎをして周辺への「騒音」が問題になるのでは、と考える人もいるとのこと。しかしそれらのほとんどは「先入観にすぎない」とランドハウジングのタイ事業部(海外事業)責任者である橋本大吾さんは言います。ランドハウジングでは外国(タイ)に支社を設置し、現地採用のタイ人スタッフと日本の本社で勤務する日本人・タイ人スタッフが連携して、日本への留学や転勤で移住することになるタイの人たちの住まい探しから入居後の生活をサポートしています。

「これまで接した外国のお客さまは、ルールを知っていれば、きちんと守りたいという人がほとんどです。もちろん、ルールや日本の慣習を知らずにトラブルになることはゼロではありませんが、日本人でもきちんとゴミを分別する人もいれば、そうでない人もいます。『外国人だから』という括りは当てはまりません」(橋本さん)

ランドハウジング では、年間300~400人の外国人に賃貸物件を仲介していますが、そのうち実際にトラブルが起こる割合は1~2%程度。日本人の賃貸トラブルとそう変わらない肌感覚だそうです。

公益財団法人 日本賃貸住宅管理協会が2021年に実施した「外国人入居受入れに係る実態調査」では、実際に「外国人入居者が問題を起こしたことがある」と答えた家主は1.5%でした。実際はトラブルが多いわけではない外国人を受け入れない理由として最も多いのが「コミュニケーションや文化の違いに不安がある」という不安や偏見からなのです。

実際に「入居者が問題を起こしたことがあるため」と回答した家主はわずか1.5%に過ぎない(資料/公益財団法人 日本賃貸住宅管理協会「外国人入居受入れに係る実態調査報告書(2021年)」)

実際に「入居者が問題を起こしたことがあるため」と回答した家主はわずか1.5%に過ぎない(資料/公益財団法人 日本賃貸住宅管理協会「外国人入居受入れに係る実態調査報告書(2021年)」)

外国人がスムーズに入居するための鍵となるのは「外国人スタッフ」

外国人がスムーズに入居できるようにするために今回取材した2社が取り組んでいる対策は、いずれも「しっかりとした事前説明」と「母国語の通じる外国人スタッフ」の存在でした。

「トラブルを起こさないようにするためには、事前に説明することにつきます。トラブルが起こったときも、外国人の立場や考え方を理解しつつ、母国と日本の習慣の違いを説明できる外国人スタッフの存在は大きいですね」(荻野さん)

外国人の入居検討者にとって外国人スタッフは、初めて日本に来た時に同じような苦労をしている「先輩」です。母国語の通じる人がサポートしてくれるのは心強いに違いありません。

外国人スタッフが母国語で日本の生活習慣や文化の違い、煩雑な手続きの方法などをサポートすることが異国での生活の不安を払拭し、トラブル回避につながる(画像提供/ランドハウジング)

外国人スタッフが母国語で日本の生活習慣や文化の違い、煩雑な手続きの方法などをサポートすることが異国での生活の不安を払拭し、トラブル回避につながる(画像提供/ランドハウジング)

ランドハウジングで働いているタイ人スタッフのカナさんは、こう話します。
「日本語が話せない人や日本のことを知らないお客さまへの物件紹介や、日本での暮らしについて説明・アドバイスできることが私のやりがいです。『ありがとう』という言葉をいただくと、私が日本とタイの架け橋になりたいという気持ちが強くなります」

話を聞かせてくれたタイ人スタッフのカナさん(写真1番左)。留学生として日本の大学で学ぶために来日し、帰国・卒業後にランドハウジングのタイ支社に入社。現在は日本の本社で働く(画像提供/ランドハウジング)

話を聞かせてくれたタイ人スタッフのカナさん(写真1番左)。留学生として日本の大学で学ぶために来日し、帰国・卒業後にランドハウジングのタイ支社に入社。現在は日本の本社で働く(画像提供/ランドハウジング)

一方で荻野さんによると、管理会社やオーナーに物件について問い合わせをする際、入居希望者が外国人だと伝えるだけで10件のうち9件は断られてしまい、中には、問い合わせをした外国人スタッフの日本語アクセントが少し違うだけで、詳しい話を聞いてもらえないこともあるそうです。

「このような日本の不動産会社の対応の中で、これまで志のある外国人スタッフが、心折れて辞めていくこともありました」(荻野さん)

私たち日本人が、外国人スタッフの尽力によるチャンスを、差別や偏見で潰してしまっているのかもしれません。さらに、外国人入居者への差別的考え方は日本の賃貸業にとってマイナスになる可能性も。

「日本では今後ますます空室が増えると考えられる中で、空室対策としても外国人入居者の受け入れは重要です。しかし、そのためには不動産会社自体が外国人に対する差別的な考えを改める必要があります」(荻野さん)

母国語の資料作成や、外国人の多岐にわたる要望に応える

外国人にとって、日本の賃貸借契約書や複雑な手続きは、とても難しいものです。役所で説明書などを用意していても、日本語や英語・中国語などの限られた言語のものしかありません。説明には時間も手間もかかりますが、正しく理解してもらうために母国語に翻訳した資料を作成したりもしているそうです。

「入居前に日本の住まい探しの流れについて説明する書面を見せて案内したり、契約する際に母国語のしおりを作成して、入居後のゴミの分別や解約の仕方・解約ルール・違約金などについて説明したりします。さらに契約後も困ったことがあれば、いつでも連絡できるよう連絡先を伝えるようにしています」(カナさん)

タイ人スタッフがつくったタイ語の日本の住まい探しの説明書。タイではオーナーが自ら賃借人を探すのが一般的で、日本のような入居審査や詳細な契約書はない。日本とタイの違いを理解してもらうことも大事(資料提供/ランドハウジング)

タイ人スタッフがつくったタイ語の日本の住まい探しの説明書。タイではオーナーが自ら賃借人を探すのが一般的で、日本のような入居審査や詳細な契約書はない。日本とタイの違いを理解してもらうことも大事(資料提供/ランドハウジング)

公益財団法人日本賃貸住宅管理協会でも、居住支援のガイドラインについてハンドブックをつくって渡す、トラブル回避のために多言語で入居や生活のルールに関する動画をつくり公開する、などの取り組みをしています。ホームページではさまざまな参考資料や多言語に対応したガイドブックのダウンロードが可能です。

また、「3カ月間だけ借りたい」「家具・家電を新たに購入すると大変なので家具・家電付きがいい」という外国人の多様なニーズに応えるため、不動産会社はそれに応じたサービスを提供する必要があります。今回取材した2社も、一般賃貸物件の紹介だけではなく、シェアハウスやマンスリータイプ、留学生寮や留学生会館などを自社で管理したり、所有・運営したりするなどして対応しているそう。

以前は日本人の連帯保証人が必須でしたが、最近は外国人入居者を対象とする家賃保証会社などもあり、連帯保証人を付けなくても家賃保証会社を利用することで契約ができるようになってきています。

外国人の入居問題は改善している?現場の「リアル」を聞いた

外国人の住居問題に携わるようになって20年以上という荻野さんに、問題は改善しているかを率直に聞いてみました。

「私が取り組みを始めた当時と比べると、日本人が外国人と接する機会も増え、オーナーも代が変わって、かなり理解を得られるようになってきていると感じます。とはいえ、外国人を取り巻く現在の環境は、理想とする状態を10とすると半分くらい、まだ道半ばです」(荻野さん)

イチイの荻野さんは、1978年から外国人向けの賃貸住宅事業を開始。近年は日本賃貸住宅管理協会 あんしん居住研究会 会長として関係する制度の普及や外国人入居者に関する研究などを行ってきた。日本における外国人居住支援のパイオニア的存在(画像提供/イチイ)

イチイの荻野さんは、1978年から外国人向けの賃貸住宅事業を開始。近年は日本賃貸住宅管理協会 あんしん居住研究会 会長として関係する制度の普及や外国人入居者に関する研究などを行ってきた。日本における外国人居住支援のパイオニア的存在(画像提供/イチイ)

それでもここ10年ほどで、外国人スタッフの雇用によって、トラブルは事前の対応で十分回避が可能であることが、オーナーにも理解されるようになってきたそう。賃貸物件の空室が増えるなどの外的要因も相まって、外国人の入居に前向きなオーナーや管理会社も増えてきました。

例えばランドハウジングの橋本さんは「ランドハウジングでは、管理部門と連携して、取引のある大家さんに対して外国人入居の啓蒙活動を積極的に行った結果、自社の管理物件約1万戸のうち、8割は外国人の入居に理解を得られるようにまでなった」と言います。先ほどの、10件に9件断られる賃貸業界全体の実情と比べるとその差は歴然です。

しかし新たな課題も見えてきました。海外の“当たり前”と、日本の賃貸物件の設備のスタンダードが大きく異なっていることもその一つ。海外では賃貸住宅には家具や家電、インターネット環境が付いていているのが一般的になっています。外国人の入居を増やし、空室を少なくしていくためには、このような設備面を検討していくことも必要でしょう。

外国人の居住支援では、以下の2点が非常に重要なようです。オーナーや管理会社の、外国人への偏見や誤解を解くこと。そして、外国人の入居希望者に対して、母国と日本の違いを理解できるよう説明し、入居後もわからないことや困ったことを相談できる場所をつくること。

外国人入居者の中には、日本人から注意されると、差別されていると感じてしまう人もいるそうです。そのような場合も、同じ国出身のスタッフが話せば、心を開き、よく理解してくれるといいます。外国人スタッフのきめ細かいサポートがオーナーさんや管理会社、そして、外国人の入居者を結びつける鍵となっているようです。

コロナが少しずつ落ち着きを見せる中、外国人の訪日が回復し、住む人も増えることが想像されます。日本に魅力を感じて「住んでみたい」と思ってくれた外国人が入居しやすい環境づくり、もっと言えばカナさんのような橋渡し役を担ってくれている、想いのある外国人スタッフが働きやすい社会にすることが大事です。そのためには、私たち自身の意識改革も必要ではないでしょうか。

●取材協力
・株式会社イチイ
・株式会社ランドハウジング

外国人は家賃滞納ナシでも入居NGが賃貸の実態。積極受け入れで入居率100%のスーパー大家・田丸さんの正攻法

高齢者や障がい者、シングルでの子育て世帯など、さまざまな事情で住まいが借りにくい人のことを「住宅弱者」「要配慮者」といいますが、「外国人」もそんな不動産が借りにくい「住宅弱者」にあたります。一般に「大家が敬遠する」と言われますが、積極的に外国人を受け入れている大家・不動産管理会社もいます。その内の一人、東京都杉並区で不動産管理業を営む田丸賢一さんにリアルな事情を伺いました。

増え続ける在留外国人。部屋探しでは門前払いされることも

コンビニや建設現場、100円ショップ、飲食店などで、外国出身と思しき人を見かけることが増えました。筆者は横浜市在住ですが、子どもの通う小学校や習いごとの風景を見ても、多国籍だなと痛感します。実際、統計データでは外国人居留者はコロナ前の令和2年度は約288万人(※2020年6月時点。出入国在留管理庁より)、令和3年末でも276万635人と、日本の人口が減り続けるなか、「もはや外国人の手がなければ日本社会は成り立たないのでは」と感じている人もいることでしょう。

ただ、SUUMOジャーナルでもたびたびご紹介してきましたが、外国人は生活の基盤である住まいが借りにくいことで知られています。そんな中、10数年以上前から外国人を積極的に受け入れ、自社の物件は切れ目なく満室を維持し、入居率100%を続けているのが、東京都杉並区にある株式会社田丸ビルの田丸賢一さんです。2021年11月、外国人との不動産契約やそのノウハウを一冊にまとめた『「入居率100%」を実現する「外国人大歓迎」の賃貸経営』(現代書林)を上梓しました。まずは外国人に部屋を貸し出すようになった経緯から伺いましょう。

「弊社は不動産賃貸業と不動産管理業を行っており、私はその3代目です。創業者がもともと困っている人に家を貸そうという人で、昔の書類を見ても日系外国人を受け入れてきた経緯がありました。そのため、私が会社を引き継いだときにも、外国人に部屋を貸すのは自然な流れでした」(田丸さん、以下同)
ただ、田丸さんによると、部屋を借りたいと不動産会社を訪れても、外国人というだけでおよそ2人に1人は拒否されてしまうといい、令和の今でも門前払いは珍しいことではないそう。

田丸賢一さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

田丸賢一さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「以前、外国人に部屋を貸し出した際に汚されたり、部屋の扱いが悪かったといったトラブルがあり、もうコリゴリというケースが多いように思います。個人が悪いのか、契約に問題があったのか、原因はさまざまなんですが、入居前や入居後のコミュニケーションや説明をていねいに行うことで回避できるケースが多いんです」

ではどのようなトラブルがあり、田丸さんはどのような方法で回避しているのか、その内容を聞いていきましょう。

生活音とゴミの仕分け、入居者が増えた!が3大問題

まず、大前提として、外国人の多くがトラブルを起こしたくないと考えているといいます。

「外国人といっても出身国や年齢、収入、背景もさまざまですが、多くが就労目的で日本に来るわけで、日本社会に溶け込み、日本の常識にあわせて暮らしたいと願っています。なぜなら、彼らが一番恐れているのが国外退去処分だから。日本で得た収入から母国に仕送りをしたいので、トラブルを起こして強制送還されるのは避けたいんですよ。だから家賃の滞納のような問題行動はまずありません」

田丸さんの会社で契約した外国人には、真面目で礼儀正しく、お中元やお歳暮、帰国時のお土産などを欠かさないという人も少なくないそう。一方で、文化や風習の違い、コミュニケーション不足から、今までトラブルにも多数、直面してきました。

「”生活音がうるさい、ゴミの仕分けができていない、入居者が増えた”が3大問題でしょうか。まず、生活音がうるさいというのも、よくよく調査すると、外国人が住んでいる部屋が原因ではなく、実は他の部屋が発生源だったというケースも多いんです。これは外国人に限りませんが、生活音の問題はとてもデリケート。だからこそ管理会社がすぐに動いて、ていねいに聞き取りをして、コミュニケーションをとることが大切なんです」

外国人に限らず、集合住宅で生活音の問題は避けて通れません。外国人の入居者がいればなおのこと目立つため、先入観で「あの部屋に違いない」と決めつけた苦情がくるのだそうです。入居者の間にたつ管理会社がすばやくていねいに対応して誤解を解くことで、外国人への偏見が少なくなり、お互い快適に暮らせるのだといいます。

また、ゴミの仕分けは、自治体から配布される「母国語」のパンフレットを必ず渡し、ていねいに説明しているといいます。

杉並区のゴミの仕分けのページは多言語で対応している(杉並区ホームページより)

杉並区のゴミの仕分けのページは多言語で対応している(杉並区ホームページより)

こちらは横浜市のゴミの仕分けのページ。ベトナム語、フィリピン語、ネパール語などの言語もカバーしている(横浜市ホームページより)

こちらは横浜市のゴミの仕分けのページ。ベトナム語、フィリピン語、ネパール語などの言語もカバーしている(横浜市ホームページより)

「ポイントは母国語です。日本人は外国人というと英語で対応しがちですが、それだと通じない。大切なのはその人の出身国の言葉で話し、理解をしてもらうこと。場合によっては通訳をいれたりして、お互いの不安や不信感がないように説明、納得、理解、契約、書類にサインしてもらうことなんです」

田丸さんはゴミの分別だけでなく、基本的に入居希望者の母国語を用いて「説明、納得、理解、契約」という段階を踏んでいるのだそう。ゴミを分別すること自体が母国の習慣になく、戸惑う人も多いそうですが、きちんと説明することで協力してくれる人が大半だといいます。

ここまでは想像できそうなトラブルですが、最後の「入居者が増える」というのは、どういうことなのでしょうか。

「外国人は異国で働いているということもあり、横のつながりが非常に強い。家賃を節約したいということで、先に日本に住んでいた人の部屋に勝手に出入りして、共同生活を始めてしまうんです。不動産大家・管理会社は、当たり前のように1人で住むと思い、説明はしません。そこであつれきが生じるんですね。
過去には16平米のワンルームに8人が暮らしていたことも(苦笑)。退去後の部屋の傷みぐあいはひどかったですよ。その時以降、契約書類には入居者は1人までと明記し、契約時に説明、納得、理解を得るようにしています」

よく「ワラビスタン」「リトル・インディア」「リトル・ブラジル」など、特定の外国人が多い地域がありますが、異国で奮闘しているとその人を頼って仲間が1人また1人と増えて、自然発生的にコミュニティが生まれるのかもしれません。

外国人専門の賃貸保証会社、多言語の契約書類などツールは揃っている

こうして聞いてみると、田丸さんもいきなり外国人に部屋を貸し出して「成功」しているわけではなく、多数の経験を繰り返すことで、外国人に歩み寄った母国語でのコミュニケーション、当たり前に思える慣習や契約内容もていねいに説明、理解・納得したうえで「契約」し、明文化して残すという現在のかたちに行き着いたようです。

「外国人は基本的にはあまり経済的余裕がありません。そのため非常に防衛や自衛の意識が高く、契約内容・書類についても一つずつ知りたがります。賃貸保証会社の利用料、火災保険料、礼金、敷金、鍵交換、ハウスクリーニング代など、逐一、このお金は何?なんで?と聞いてきます。日本人ではここまで突っ込んで聞く人は少ないですし、僕も鍛えられました」

「鍵交換はしなくていいから、費用をまけて」「退去時のハウスクリーニングは、自分でやるから安くして」などと、交渉を持ちかけられることもしばしば。その都度、相手が納得できるまでていねいに説明して歩み寄っているそう。こうしてお話を伺っていると、外国人を受け入れて問題が起きたときに、「やっぱり失敗した…」ではなく、どうやって改善すればいいかを考えているからこそ、うまくいっているのだなあと痛感します。

田丸さんによると、現在では、外国人専門の賃貸保証会社があるほか、国土交通省では、「外国人の民間賃貸住宅入居円滑化ガイドライン」も整備され、不動産契約に必要な制度や多言語に対応した書類は揃っているといいます。

「ただ、問題なのは、行政は書類を作っておしまいになっていることです。国交省から不動産業界の団体に告知はありますがあまり知られていないし、活用方法は不動産業界や大家におまかせの状態です。当然、トラブルになったときの受け皿もない。生活音の問題でも紹介したとおり、既に入居している人が嫌がる場合もあります。日本社会のなかに、まだまだ偏見があるなあと痛感しています」

国土交通省の「外国人の民間賃貸住宅入居円滑化ガイドライン。申込書や重要事項説明書、定期賃貸住宅標準契約書が多言語でずらりと揃う(国土交通省のホームページより)

国土交通省の「外国人の民間賃貸住宅入居円滑化ガイドライン。申込書や重要事項説明書、定期賃貸住宅標準契約書が多言語でずらりと揃う(国土交通省のホームページより)

大家は家賃滞納、騒音、他の入居者とのトラブルを避けたい、不動産仲介会社は外国語での説明に対応できるスキル、時間がない、管理会社は面倒事やトラブルを避けたいなどなど、「外国人を受け入れづらい」条件は揃ってしまっています。これまで日本の歴史を振り返ると「外国にルーツのある人が社会全体で少数だった」「たいていの場合、日本語が通じた」のが現実です。いきなり「多様性だ」「外国人の受け入れだ」と正論を突きつけられても、「受け入れがたい」「話が通じずに怖い」と戸惑う気持ちがあることでしょう。

ただ、これから先、日本で働く外国人は増えていくことが考えられます。外国人は家賃滞納をしにくいこと、きちんと母国語で説明して理解してから入居してもらえばトラブルは起きづらいことがもっと知られるようになれば、外国人を受け入れる大家が増えるかもしれません。人口が減少している日本を支えてくれる外国人が増えてくれる今、共生社会の模索は、まだはじまったばかりです。

●取材協力
田丸ビル

賃貸が借りにくい外国人に入居を支援。賃貸入居をサポートする取り組みの輪

法務省の調べによると、2019年の在留外国人は約283万人となり、過去最大となった。約283万人の外国人が居住する一方で、未だ外国人であるという理由で賃貸契約が結べないというケースが多いといわれる。そんな不を解消するためにどのような取り組みがあるのか、外国人の入居をサポートしている不動産会社とNPO法人に話を聞いた。
トラブルや心配ごとを一挙に引き受ける窓口不在の問題

神奈川県川崎市で40年以上不動産業を営む石川商事の会長・石川弘行さんは、「日本人が外国人に対して賃貸契約を結ぶことに難色を示す理由は、コミュニケーションが取れないことへの不安からだ」と話す。石川商事は、外国人の入居を積極的に仲介する不動産会社として、神奈川県・横浜市にあるNPO法人「かながわ 外国人すまいサポートセンター」に登録している不動産会社のうちの一社で、石川さん自身、同NPOの理事を務めたことがある。20年以上こうした支援に関わる中で、石川さんが痛感してきたのは「民間(企業)と行政が一体となって、外国人の住宅を支援するスキームが必要だ」ということだと言う。

「外国人が日本で生活するために、言語や教育、医療についての情報提供や相談を一括して行える窓口を整備する必要がある」と断言する石川さんは、本来であれば、日本が国として外国人労働者の受け入れを進める以上、外国政府を絡め、国と国の取り決めとして進めていくべきことだと実感しているそう。そうすれば、悪徳な受け入れ企業の問題も減る上に、送りだす国側のブローカー問題などを回避できるに違いないからだ。

外国人は長期滞納が少ないケースが多い

これまでにも石川さんは一部の大家から、「外国人が入居することに不安がある」という声を聞いてきたという。理由は、言葉が通じない、家賃の滞納、賃貸契約をした人以外に、複数の人が同居してしまうのではないかという心配、又貸しの問題などが挙げられる。しかし、現在外国人向けの家賃保証を行う「全保連」や「カーサ」といった保証会社を通すことで、大家にとって一番の懸念事項である「家賃未払い」は防ぐことができるという。また職場を保証人にすることでも、問題を回避することはできる。

石川商事の会長・石川弘行さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

石川商事の会長・石川弘行さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

石川さんは経験から、「外国人は大家とのトラブルを避ける傾向が強い」と話す。実際、長期滞納をする人は少なく、また滞納や問題が発覚した場合、弁護士を通じて話し合いを申し出ると、もめることなく自ら退去するケースがほとんだという。「外国人だから、日本人だから、ではなく、トラブルを起こすかどうかは人によるんですよ」

また、外国人は短期間で借家を探している人も多いため、日本人には敬遠されがちな「一定の時期に取り壊しや改装を予定している物件」や、「少し古くても、低価格な物件」といった条件付きの物件でも、借りたいという人がいるのだという。これは、なかなか借り手がつかない物件を貸したい、空き物件を減らしたいという大家にとっては、好都合の条件だ。

「法整備さえしっかりすれば、日本人、外国人に限らず、不動産賃貸はもっとスムーズに行えるだろう」と話す石川さん。セーフガードとしての法律や条例の制定が、こうした外国人への不動産賃貸問題をなくす一番の早道になりそうだ。

外国人の賃貸契約の実情(神奈川県の場合)

神奈川県は、全国の中でも市民運動やNGO活動が盛んな地域で、特に当事者に寄り添った活動が活発なことで知られている。そうした背景から、日本で唯一の外国人の「居住支援」を目的とした「NPO法人 かながわ外国人すまいサポートセンター(以下すまセン)」が存在する。2001年に設立されて以来、住居探しだけでなく、住まいにまつわる通訳や翻訳を含め、年間約1600件に上る支援を行う。現在では、外国人だけでなく、日本人の住宅支援も行っているという同NPOの理事長を務める、裵安(ぺい あん)さんに、日本における外国人の賃貸契約の実態について話を聞いた。

NPO法人 かながわ外国人すまいサポートセンターの理事長を務める、裵安(ぺい あん)さん(画像提供/NPO法人 かながわ外国人すまいサポートセンター)

NPO法人 かながわ外国人すまいサポートセンターの理事長を務める、裵安(ぺい あん)さん (画像提供/NPO法人 かながわ外国人すまいサポートセンター)

当事者に寄り添った文化がつくりあげた支援センター

裵さんは、同センターが設立される以前から、在日コリアンをはじめ外国籍の県民が住民として当たり前に生活するための支援活動に携わってきたという。1998年に「外国籍県民かながわ会議」や「NGOかながわ国際協力会議」といった会議の中で、住宅問題が重要課題とされた背景から、このセンターは設立された。

なぜここ神奈川県で、こうした支援センターが設立されることになったかという背景について、裵さんは「神奈川県には、障がい者や海外協力を行う団体をはじめ、昔から問題に直面した当事者が声を上げ、さまざまなリサーチを行った上で、適切な支援の方法を熟考し、関わり方を探りながら、当事者の声を非常に大事にする文化が育ってきたからだ」と語る。

「当時すでに外国語で話せるスタッフや資料を用意するといった支援はあったものの、外国人の求める本当の生活支援になっていないという問題が起きていた。こうしたなかで、当時の神奈川県知事たちが、住民同士の助け合いを促進する精神のもとに、『外国籍県民かながわ会議』をはじめとした外国人会議やNGO会議など、さまざまな会議を立ち上げてきた背景がある」と続ける。

住まいに関する情報を提供しているすまいサポートセンターでは、随時多言語の資料が掲示されている(資料提供/NPO法人 かながわ外国人すまいサポートセンター)

住まいに関する情報を提供しているすまいサポートセンターでは、随時多言語の資料が掲示されている(資料提供/NPO法人 かながわ外国人すまいサポートセンター)

親しい「住まいサポート店」との連携がニーズにあった家探し成功のカギ

現在、神奈川県の国際課では、来県外国人や外国籍県民に対して「多言語支援センターかながわ」を設置すると同時に、住宅支援システムについてはこのすまセンが全面的に責務を担っている。また、「外国人すまいサポート店」として登録した不動産会社のリストを公開。現在、184件(2020年4月現在)の不動産会社が登録している。

こうしたサポート店登録に至るまでの道のりは、平坦ではなかったという。「神奈川県の多文化共生施策を実践することの一環として、外国籍県民(当事者)、不動産業業界団体、外国人支援団体や個人などが一堂に会し、議論し合いながら3年ほどの時間をかけた」と裵さん。話し合いの中で見えてきたことは、不動産会社側は外国人への漠然とした不安を抱えているが、「空き家が埋まること」を望んでいる上、問題となっていた又貸しや、ゴミ出しなどのルールを守ってくれさえすれば、貸す気持ちがあるということだった。結局、外国人が借りられる住宅が不足しているのは、外国籍県民側への住宅ルールの説明不足や、そもそもの貸し渋りが原因にあることが、お互いに分かったという。

こうして「何が必要で、何が足りていないか」が見えてきた中で、県がマニュアルの多言語化や外国人すまいサポート店の登録の仕組みを不動産の業界団体と協力して設置することと並行し、このすまセンが発足され活動を開始した。

しかし、裵さんによると実際にすまセンが住まい探しで頼りにできる不動産会社は、登録店、全てを利用できるわけではない。その代わり、地域やケースに合わせて、強い協力関係のある不動産会社と、しっかりした連携を取っているという。すまセン不動産会社として登録され、実際に協力を仰げる不動産会社について、「こちらのニーズをきちんと理解し、対応してくれる不動産会社を通じて、外国人を入居させられていることが、とても重要だ」と話す。

神奈川県がつくった、「賃貸住宅への入居・退居にまつわるマニュアル」はすまセンでは重要な資料 (画像提供/NPO法人 かながわ外国人すまいサポートセンター)

神奈川県がつくった、「賃貸住宅への入居・退居にまつわるマニュアル」はすまセンでは重要な資料(画像提供/NPO法人 かながわ外国人すまいサポートセンター)

同じ住民としての目線で問題解決を目指して

すまセンに相談される案件の中には、生活面で経済的困窮を抱えつつ住居を探しているといったケースもあるという。生活保護をはじめとする役所などでの手続きが必要なケースも出てくるのが現実だ。そういう場合は、通訳やコーディネーターとしてスタッフが寄り添い、市役所などで必要な手続きを事前に行った上で、不動産会社に話を進めるというステップを踏んでいるという。「私たちの仕事は、単純に手続きを行うのではなく、手続きなどをするために<誰>に協力を求め、どこで手続きを踏むかといったコーディネートを行い、きっちりと連携した上で、寄り添って入居につなげること」と裵さんは語る。

「多くの来日外国人は、マイノリティゆえの悩みを抱えている。彼らとしても、帰国したい思いを持ちながら、日本に出稼ぎに来ざるを得ない事情を抱えていることを理解してもらえたら。現実的に外国人の労働なしには、コンビニも回らないし、物流センターが回らなければ宅配便さえ使えない。彼らの労働力なしに、日本という国はすでに回らなくなっていることを改めて考えて欲しい。同じ住民として、さまざまな問題の解決にともに交わり、一緒に考えていくべきなのではないか」と続ける。

また騒音問題など、外国人がトラブルを起こすケースは、大方「知らないでやってしまった」ということが多いと裵さんは話す。そういうときは、彼らに日本の生活習慣における状況を説明した上で注意をすれば、問題は解決することがほとんどだという。「外国人労働者が、多くの高度人材の外国人たちと違うのは、日本の文化を学んでから日本にやってきたりする余裕がないということ。彼らは働いて稼ぐことを第一に移り住んできているため、日本でどのような生活を送らなくてはいけないか、ということに対する情報と知識が不足している場合が多い」と話す。

今後も日本に住む外国人は増えていくことが予想される。賃貸オーナーや不動産会社は、外国人は騒音問題などのトラブルを起こすから、言葉が通じないから……と敬遠するのではなく、歩み寄ることが大切になるだろう。

裵さんは外国人だけでなく生活困窮者自立支援にも携わっている。もともと困窮状態に置かれてきた人たちが新型コロナ発生を機に、更に生活に困窮することも多い。暮らしに困るのは外国人も日本人も同じ。窮地に追いやられている人たちの支援に手を貸しているという。コミュニケーションを大切に、一人ひとりの支援を大切に行うすまセンの活動が、漠然とした不安や無知、先入観により起きている「貸せない」という外国人賃貸問題の解決の糸口になることを切に願う。

(画像提供/PIXTA)

(画像/PIXTA)

●取材協力
・株式会社石川商事
・NPO法人 かながわ外国人すまいサポートセンター

家賃は安い? 心霊現象はある? 事故物件住みます芸人にほんとのところを聞いてみた

テレビ番組の企画をきっかけに、2012年から6軒もの事故物件に住み続けている「事故物件住みます芸人」の松原タニシさん。「家賃は安いの?」といった疑問から、「室内はキレイ?」「心霊現象は起こるの? 怖くない?」といった、住んでみないと分からないアレコレ、今後も事故物件に住みたいかまで、聞いてきました。
大阪、千葉、東京の事故物件で暮らすが、家賃は思ったほど安くない

自殺や他殺、病死や孤立死など、なんらかの理由で人が亡くなった物件を指すことが多い「事故物件」。こうした事故物件は、「なんとなく怖そう」「家賃が安そう」といったイメージが先行しがちです。SUUMOジャーナルが2018年に実施した事故物件に関する調査でもそのイメージを聞いてみると、「家賃が安い」と「怖い・不気味」が7割を超え、「心理現象がありそう」(43.3%)がトップ3という結果でした。

「家賃が安い」「怖い・不気味」とイメージする人が圧倒的に多かった(出典/SUUMOジャーナル編集部)

「家賃が安い」「怖い・不気味」とイメージする人が圧倒的に多かった(出典/SUUMOジャーナル編集部)

実際にはどうなのでしょうか。まずは、家賃の安さから聞いてみました。

「まず、家賃の安さですが、イメージほど安くないです。例えば月15万円が7万円の半額になることはほとんどない。たいていは月1~2万円、安くなっている程度です。築年数が経過している古い物件だと、もともとが安くて5万円が3万円になっていることがありますね。ただ、初期費用は安くなっていることが多いです。敷金・礼金、ともにゼロだとか」といいます。そのため、お金がなく、生活にかける費用を抑えたいという人、人と違う経験をしてみたい人にはオススメだといいます。

「夢があるとか、仕事に打ち込みたい人は、家に帰って寝るだけの生活になりますよね。だから、家に気をつかう余裕がないし、部屋を癒やしの空間にしたいと思わなければ(笑)、事故物件はいい選択肢だと思います」と語るタニシさん。

では、多くの人が気になるであろう「心霊現象」については、どうでしょうか。松原タニシさんが本やトークライブなどでは、体験した心霊現象などを披露していますが、すべて実話なのでしょうか。

「本に書いてあることやライブで話していることは、実際にあったできごとです。でも、心霊現象というか、明らかに奇妙な映像が撮れたり、いろいろと変な体験をしたのは1軒目くらい。それ以降の部屋でそんなに毎日変なことは起きないですね。ただ、ロケで僕の部屋に訪れた霊感のある人が入りたくないと騒ぎになったり、僕自身が体に不調をきたすことはありました」とあっけらかんな様子。

また、ラップ音などの心霊現象についても、実際に暮らしていると慣れていくのだそう。

「はじめの一週間は、『あ、暮らしはじめて今日で一週間経過したな』って思って、やっぱり意識しているんですけど、二週間目から数えるのをやめて、1カ月くらい経過すると、『あ、音、鳴っているな、もうええわ!』ってなる(笑)」。ちなみに、たくさんの心霊現象は経験したものの、まだ「見た」ことはないのだとか。「だからこそ、一度、幽霊を見たいんですよ~」と熱く(?)語ってくれました……。いえ、聞いているだけでおなかいっぱいです。

自殺、孤立死、殺人……。事故物件の内容により気をつけるポイントは?

ただ、ひと口に事故物件といっても、自殺や他殺、孤立死、病死など、さまざまな種類があります。SUUMOジャーナルの調査で事故物件の内容による検討度合いを聞いたところ、内容によって検討度は大きく変わります。該当の部屋であっても自然死や病死であれば住むことを検討すると答えた人が約半数。さすがに該当の部屋で自殺や他殺があった場合には3割に届きませんでしたが、少数ながら検討する人はいて、需要はあるようです。

隣や上下階、同じ建物内など、該当の部屋でなければ「検討する」という人がそれぞれ約4割いた(出典/SUUMOジャーナル編集部)

隣や上下階、同じ建物内など、該当の部屋でなければ「検討する」という人がそれぞれ約4割いた(出典/SUUMOジャーナル編集部)

では、事故物件の内容によって住むうえでの注意点などはあるのでしょうか。

「自殺に関しては、全然、珍しくもないですし、慣れます。また、自殺の部屋の場合、死後すぐに発見されることが多いので、部屋の状態もよい場合が多いです。ただ、孤立死の場合は死後の発見が遅くなることも多いですし、もともとゴミがあふれていたりすると、虫が湧いていたり、ニオイなどもします。脱臭などで対策しても限界がある場合もあります……」と経験をあかしてくれました。

一方で、「他殺」が発生した事故物件は注意したほうがいいといいます。

「自分も経験しましたが、部屋に戻ってくることがあるんですよね、罪を犯した人が。刑罰にもよりますが、数年で出てくる場合もありますし、その人が知っている部屋になるので、やっぱり遭遇したときの怖さがあると思います」といい、心霊現象そのものよりも、生きている人間のほうが「怖い」というリアルを教えてくれました。

お仕事でなくても、事故物件に住んでみたいのですか?という質問にも、「住みたいですね、ここまで来たら、幽霊を見たいし、廃墟にも住んでみたいです。廃村にも興味が出てきました」と新しいジャンルにも意欲をみせるタニシさん。

「事故物件で暮らしているとね、人って死ぬよな、って当たり前のことに気がつくんですよ。人が死ぬっていいますけど、その人生があったこと、ストーリーがあるのを感じるんですよ。人生は限りあるし、明日があることも当たり前じゃない。限りある生命のうちに、いろんなところに住み、いろんな経験がしたい」と教えてくれました。

ホラーの特殊メイクそのままで、イベント後に駆けつけてくだったタニシさん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

ホラーの特殊メイクそのままで、イベント後に駆けつけてくだったタニシさん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

事故物件に住むと、人の死を当たり前のこととして受け入れられるように

ここまで豊富なネタがあると、異性にモテそうですが、そのあたりはどうなのでしょうか。

「まず、事故物件に暮らしていますっていうと、初対面でも盛り上がりますね。話題にも困らないですし、興味を持ってもらえることは多いです。ただ、実際に部屋に来るってなると別で、敬遠されてしまいます。モテにはつながらないかな」とさみしそう。では、タニシさん自身が、事故物件で暮らしてきたメリットはどこにあるのでしょうか。

「事故物件に住めたっていう、自信を得られるところでしょうか。これから先、一人暮らし世帯も増えているので自宅で亡くなる人も増えるでしょうし、多くの人が避ける事故物件を避けずにあえて突っ込んでいくことで、何かをクリアしていくというか、人の死を当たり前のこととして受け入れられるような気がします」とタニシさん。

事故物件に暮らしていると心が休まらないので、外出することが多くなりますと笑うタニシさんですが、事故物件には、そこで暮らした人たちのエピソードが色濃く詰まっています。もしかしたら、事故物件で暮らすということは、人間の光のあたる部分も見えない影の部分も、まるごと受け入れる、ということなのかもしれません。

スーモと共演するのが楽しみだったというタニシさん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

スーモと共演するのが楽しみだったというタニシさん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

●取材協力
・松原タニシさん Twitter
1982年生まれ、神戸市出身。テレビ番組の企画で事故物件に住むようになり、「事故物件住みます芸人」として数々の事故物件に住み続けている。2018年には実体験と実話をもとにした「事故物件怪談 恐い間取り」(二見書房)を上梓。全国の怪談やトークショー、インターネット配信などにも出演中。

賃貸住宅でトラブルを避けたい人必見!東京都の資料が「使える」理由

東京都では、都の条例や法律の改正を受けて、賃貸住宅のトラブル防止ガイドラインを改訂した。あわせて、ガイドラインの概要を記載したリーフレットの改訂版も作成したのだが、このリーフレットがけっこう優れものなのだ。賃貸住宅でトラブルに遭わないようにするためにどうしたらよいか、具体的な情報が掲載されている。どんな内容なのか見ていこう。【今週の住活トピック】
『賃貸住宅トラブル防止ガイドライン』第3版を作成/東京都東京都の賃貸住宅紛争防止条例やトラブル防止ガイドラインとは?

東京都は「賃貸住宅紛争防止条例」を制定している。条例とは、国の法令の下で地方公共団体が独自に制定する法のこと。「賃貸住宅紛争防止条例」の施行にあわせて『賃貸住宅トラブル防止ガイドライン』を作成し、都民や不動産関係者への普及啓発にも努めている。

2017年10月にこの条例を改正したことや、国が宅地建物取引業法や民法※を改正したことを受けて、ガイドラインの第3版を作成した。これに応じて、東京都がリーフレットの『賃貸住宅紛争防止条例&賃貸住宅トラブル防止ガイドライン』の改訂版も作成した。
※民法の改正は、2020年4月に施行予定

では、賃貸住宅紛争防止条例とはどういうものだろうか?

賃貸住宅で多いトラブルは、貸主と借主の間でどちらが費用を負担するのか、というトラブルだ。特に、借主が退去するときの「原状回復」費用を、借主負担として敷金が返ってこないとか、追加の費用を請求されたといったトラブルが多い。

そこで、裁判の判例などを基に、国土交通省が「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を作成したり、東京都がガイドラインを作成したりして、どちらが負担すべきか明示した。年月の経過とともに自然に発生する「経年劣化」と日常生活で生じる「通常損耗(そんもう=使って減ること)」については「貸主の負担」というのが、これらのガイドラインの線引きだ。

東京都のガイドラインでは、さらに「入居期間中の必要な修繕は、貸主が行うことが原則」と明示している。つまり、居住中に故意や過失、あるいは通常とは異なる使用をして、損耗したり補修が必要な状態にしたりした場合だけ、「借主の負担」ということだ。ただし、契約時に「特約」を付けて、一部を借主負担とすることも可能だ。

東京都の条例では、これらの原状回復や入居中の修繕について、仲介や代理を行う不動産会社が賃貸借契約前に重要事項として説明することなどを義務付けている。

また、入居中に共用部分や専用部分の設備などで不具合が生じて修繕が必要となった場合、すぐに連絡できるようにしておくことが大切なため、それぞれの連絡先をあらかじめ説明することを求めている。
不動産会社自らが所有物件を賃貸して管理する場合、重要事項説明の義務がないのだが、東京都の条例ではこのケースにおいても説明の必要があるとしている。

東京都のリーフレットの優れどころ(1)どちらの費用負担か図解で説明

東京都が普及啓発のために作成したリーフレットでは、最初に都の条例について説明しているが、その大半は、
退去時の原状回復と入居中の修繕に関するガイドラインの説明となっている。費用負担の考え方だけでなく、過去の相談事例や具体的にどの部位をどちらが負担するのかなど、図解入りで分かりやすく説明している。

例えば、原状回復における壁(クロス)の補修については、日差しによる変色や電気ヤケといわれる冷蔵庫の後部にできる黒ズミ、画びょうの穴など通常の使用によるものは「貸主負担」だが、タバコのヤニによる変色や臭いの付着、落書きや大きなネジ穴などは「借主負担」とすることなど、具体的に図や表で整理をしているので、とても分かりやすくなっている。

また、ネジ穴などによる一定箇所のクロスの張り替えを借主が負担する場合でも、色合わせのために他の古いクロスの張り替え費用すべてを負担する必要はないといったことも整理されている。

●「賃貸住宅紛争防止条例&賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」の目次より「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」に関して抜粋
○賃貸住宅トラブル防止ガイドライン
1 退去時の復旧
(1)建物価値の減少の考え方
(2)「原状回復」とは
(3)善管注意義務(善良なる管理者の注意義務)とは
(4)経過年数の考え方
(5)借主の負担割合
(6)特約
2 入居中の修繕
(1)貸主の義務と借主の費用負担
(2)小規模な修繕の特約
(3)修繕等の連絡東京都のリーフレットの優れどころ(2)入居前から退去時までの注意点も紹介

このリーフレットの優れどころは、さらに「賃貸住宅の契約と住まい方の注意事項」にまで及んでいることだ。

例えば、契約前にしっかり説明を聞いて、納得してから契約すること。原状回復の費用負担でトラブルにならないように、入居時にキズや汚れがないか、設備機器などに不具合はないかをきちんとチェックしておくこと(その際に「物件状況確認書」などを作成しておくとよい)。入居中に修繕が必要となった場合にすぐに連絡すること。などが分かりやすくまとめられている。

●「賃貸住宅紛争防止条例&賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」の目次より「賃貸住宅の契約と住まい方の注意事項」に関して抜粋
1 契約から入居前
(1)事前説明はわかるまで確認を
(2)特約には注意を
(3)入居時の物件確認はしっかりと
2 入居中
(1)修繕等の連絡はこまめに
(2)入居中のマナーを守り快適に
3 退去時
(1)退去予告は何日前?契約書で確認を
(2)明渡しはきれいに!大家さんに迷惑をかけないで
(3)退去時の物件確認もしっかりと
(4)納得できない点は話し合いを

ほかに、トラブルになってしまった場合の相談窓口なども紹介しており、賃貸住宅を借りる人には、ぜひ目を通しておいてほしい、役立つ資料となっている。

賃貸借契約は、貸主と借主の合意によって契約が成立するものだ。そのため、これまで説明してきた一般的なルールを前提としながらも、個別のルールを「特約」として付けることが可能だ。

例えば、防犯上の理由から入居ごとに鍵を交換するので「鍵交換費用は借主負担とする」といった特約を付けることもある。特約の必要性があって暴利的でないなどの場合、双方で合意すれば特約は有効とされる。

ガイドラインはあくまで一般的な事例なので、契約書の内容をよく理解して納得した上で、それぞれ契約を結ぶようにしてほしい。

●参考:東京都の「賃貸住宅紛争防止条例&賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」
改訂版リーフレットをダウンロードできる東京都都市整備局のサイト

賃貸住宅の「更新料」って何のためのお金? 絶対に払わなきゃダメなのか聞いてみた

一つの賃貸住宅に長く住み続けていると、更新料の支払いが意外と家計の負担になります。なかには、更新料を払うのが嫌で引越したという人もいるでしょう。そこで、更新料とは何なのか、絶対に払わなければいけないものなのか、メリットパートナーズ法律事務所の弁護士・木村康紀(きむら・やすのり)さんと、賃貸管理業を展開している住友林業レジデンシャル株式会社の大澤裕次(おおさわ・ゆうじ)さんにお話を聞きました。
更新料の有無は、地域性や個々の物件によっても違う

関東圏で賃貸住宅に暮らしていると、2年ごとに更新料を支払うことが一般的。まず大前提として、更新料が日本全国どこでも共通なのかが気になります。

「実は、更新料には地域性があります。大阪や名古屋では更新料がないケースのほうが多いのですが、京都では更新料があることのほうが多く、しかも関東よりも高額です。関東では賃料の1カ月分が一般的ですが、京都の場合は賃料の2~3カ月分の場合も珍しくありません」(大澤さん)

管理会社の立場で更新料について語っていただいた住友林業レジデンシャル株式会社の大澤さん(写真撮影/福富大介(スパルタデザイン))

管理会社の立場で更新料について語っていただいた住友林業レジデンシャル株式会社の大澤さん(写真撮影/福富大介(スパルタデザイン))

「確かに、10年前の国土交通省の資料によると地域性があることが分かります。ただ、最近は全国展開する仲介会社の影響で、地域に関係なく更新料がある物件も増えてきているようです」(木村さん)

出典:国土交通省「民間賃貸住宅に係る実態調査(不動産業者)」(平成19年6月公表)

出典:国土交通省「民間賃貸住宅に係る実態調査(不動産業者)」(平成19年6月公表)

更新料の有無は、地域性による傾向と、個々の物件によっても違うということですが、更新料がある物件とない物件の違いはどこにあるのでしょうか。

「基本的には大家さんの考え次第です。ただし、当社で管理している物件の場合は、ほとんどの物件に更新料が設定されています。賃貸契約に際して入居者さんが特に気にするのは、毎月の家賃と入居時にかかる初期費用です。一定期間住み続けてはじめて発生する更新料について交渉するのは最後の最後になるため、大家さん側もそこで他の物件と差別化を図っても、あまり入居促進の効果は期待できないと考えています」(大澤さん)

更新料は入居者の毎月の負担を軽くするために生まれた?

地域や物件によって更新料がない場合もあるとすれば、必ずしも更新料を支払う必要はないように思えるのですが、そもそも更新料というのはどういう位置付けのものなのでしょうか?

「個別の事情にもよりますが、平成23年の最高裁では『更新料は、一般に、賃料の補充ないし前払、賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有するものと解するのが相当である。』とされています」(木村さん)

つまり、大家さん目線で更新料を考えると、月々の家賃を低く抑える代わりに頂くもの、継続して住居を提供することに対して頂く謝礼的なもの、という意味合いがあるようです。これは、大澤さんの認識とも合致します。

「部屋を借りる際に、毎月の家賃を低く抑えたいという要望は多いでしょう。更新料は、本来毎月支払う家賃を低く抑えるためにできたものと、業界内では解釈されています。入居した部屋が気に入らず、一定の期間に満たずに退去するなら、更新料はかかりません。毎月家賃として支払うよりは、そのほうが入居者側にもメリットがあると言えます。逆に更新料0円をアピールしながら、入居者サービスの会費等として毎月費用がかかるケースもあるので、注意が必要です」(大澤さん)

結局は、更新料という名目で1~2年に1回の割合で支払うのか、毎月の家賃や別項目として支払うのか、の違いのようです。

更新料の支払いを拒否することは可能? 最高裁ではこうなった!

では、請求された更新料に納得がいかない場合、更新料の支払いを拒否することはできるのでしょうか?

この点については、入居時の契約書にきちんと更新料の記載があるかどうかが最初の判断ポイントになるとのこと。契約書に記載がなければ、基本的には拒否できると考えて良さそうです。

では、契約書にはっきりと更新料について記載されている場合はどうでしょう? これについて木村さんは、平成23年の最高裁判例が一つの基準になると言います。

「最高裁判例では、更新料の支払特約自体は有効であると判断しています。契約時に合意したのであれば、請求額が過大でない限り、支払ったほうが良いでしょう」(木村さん)

【参考1】最高裁判例 平成23年7月15日
「賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は、更新料の額が賃料の額、賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り、消費者契約法10条にいう『民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの』には当たらないと解するのが相当である。」【参考2】消費者契約法 (消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
第十条 消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

更新料の請求額が高過ぎなければ、拒否せずに支払ったほうが良いというご意見ですが、いくらなら「高過ぎない」と判断されるのかが気になります。実はこれにも判例があります。

「平成23年の最高裁判例では、1年更新で2カ月分の更新料を適法と判断しています。大阪高裁は、1年で3.12カ月分を適法と判断しています(大阪高判 平成24年7月27日)。つまり更新料の額が、1年更新で賃料の3カ月以下ならば、高過ぎないと言えるでしょう。ただ、その辺りが限界事例となるのではないかと思います」(木村さん)

先の【図1】における更新料の平均が0.1カ月~1.4カ月であることを見ると「この更新料は高過ぎるから違法だ!」と主張するには、なかなか高いハードルのようです。

更新料を払わないと、最終的には契約解除や金利の加算もあり得る!

それでも、もし更新料を支払わなかったらどうなるのでしょうか。実際には更新料以前に家賃の滞納などがあって、更新料も支払われないというケースが多いようですが、ここでは更新料にフォーカスするため、毎月の家賃や管理費についてはきちんと支払ったうえで、更新料だけを支払わなかったと仮定してお聞きしました。

「原則として、賃貸人(大家さん)から賃貸契約を解約するには『正当な事由』が必要です(借地借家法26条、28条)。解約できない場合は、期間が満了しても更新される法定更新になります。法定更新になった場合、賃貸人が更新料を請求できるかどうかは裁判例が分かれていますが、『法定更新の際にも更新料を支払う』と契約書に記載されていたと言えるかが重要となってきます。もし記載されている場合にこれを拒絶すると、解約の『正当な事由』があるとして、契約解除になる可能性もあります」(木村さん)

単純に契約解除・即刻退去というわけではなさそうですが、場合によっては契約解除に至ることもある上、「退去時に過去に遡って、支払われていない更新料の合計に金利も加算されて請求される可能性がある」(大澤さん)とのことです。

お二人の話をお聞きして、更新料については最初が肝心だと痛感しました。賃貸契約を結ぶときには、家賃や敷金・礼金のほうが気になるもの。しかし更新料についても、額や支払い条件を吟味して気になる点があればきちんと説明を求めましょう。

●取材協力
・メリットパートナーズ法律事務所
・住友林業レジデンシャル株式会社

住まいのトラブル調査【賃貸編】 敷金が戻ってこない… 退去時に起こるトラブル事例を公開!

賃貸契約が終了して次の住まいへ引越しが済むまでは、何事もなく気持ちよく終わりたいものです。今回は、退去時の具体的なトラブル内容や、その回避法などを紹介します。現在賃貸住宅に住んでいる人にも必見の内容です。
退去時のトラブルは「敷金の返金について」が多い

前回の調査で、賃貸物件で居住中に次いで多いことが分かった退去時のトラブル。いったいどんなことでトラブルになっているのでしょうか。

結果は「敷金の返金について」(70.3%)と「原状回復について」(56.8%)が多いと分かりました。この2つに関して回答した人数はそれほど多くはありませんでしたが、その中で、「敷金よりオーバーしてしまい、経済的な負担があった」(47.1%)と回答した人が「敷金でカバーできる範囲内だった」(35.3%)を上回る結果となりました。

賃貸物件を借りる際には、敷金や礼金を支払うことがほとんど。しかし、借主がその物件を退去する際に、貸主が原状回復するためのクリーニングや壁紙の張り替えなどを行った結果、敷金が返金されないといったトラブルになるようです。そもそも、借主が普通に部屋を使用していた場合に生じる経年劣化や損耗は貸主負担。借主の故意や過失、通常の使用方法に反するなどで生じた傷や損耗は借主が負担することと決められています。この消耗と故意や過失の境界線が曖昧(あいまい)なのがトラブルの元なのかもしれません。

退去時の敷金問題は7割もの人が経験している(出典/SUUMOジャーナル編集部)

退去時の敷金問題は7割もの人が経験している(出典/SUUMOジャーナル編集部)

「特に経済的な負担は生じなかった」のはわずか23.5%だった(出典/SUUMOジャーナル編集部)

「特に経済的な負担は生じなかった」のはわずか23.5%だった(出典/SUUMOジャーナル編集部)

また、「敷金よりオーバーしてしまい、経済的な負担があった」人は、「5万円以上」の負担が43.8%でトップ、「3万円以上~5万円未満」が25.0%で続きました。通常の使用で起こる消耗は借主の費用負担にはならないことを考えれば、5万円以上の負担はかなり大きいと言えます。

3万円以上負担した人は全体の約7割という結果に(出典/SUUMOジャーナル編集部)

3万円以上負担した人は全体の約7割という結果に(出典/SUUMOジャーナル編集部)

退去時のトラブルの具体的な内容は、以下のようなものがありました。

・入居前からの汚れなども原状回復と言われ、料金を請求された(42歳・女性)
・10年暮らしていた。タバコ禁止と契約書には記載なかったが、ヤニは居住者の過失と言われ敷金以上の金銭を求められた(47歳・女性)
・必要以上のハウスクリーニング代金を請求されたが、簡易裁判を起こすと言ったらお金が逆に返ってきた(45歳・男性)
・入居時に鍵の交換代を支払っているにも関わらず、退去時にも鍵の交換代金を請求された(43歳・男性)
・入居時から汚れがあった畳の入れ替え料金を請求された(48歳・男性)
・取り壊しが決まっていた物件なのに、原状回復を言われた(42歳・男性)
・設備品の処分費を負担させられた(41歳・女性)

トラブルを回避するために……「入居時に部屋をチェック」「内見は必須」など

次に、日ごろトラブルに巻き込まれないように気を付けていることがあるか聞いたところ、「気をつけていることがある」と回答した人が6割を超え、トラブル回避のための注意を払っている人が多いことが分かります。

トラブル防止のために、日ごろから気を付けていることがある人は6割を超え、意識の高さがうかがえる(出典/SUUMOジャーナル編集部)

トラブル防止のために、日ごろから気を付けていることがある人は6割を超え、意識の高さがうかがえる(出典/SUUMOジャーナル編集部)

気を付けていることとしては、「入居時に室内の状態をよくチェックしておく」(54.4%)、「必ず内見をしてから契約をする」(44.6%)、「契約書の内容をよく読む」(37.8%)、「インターネットなどで、よくあるトラブル事例を調べておく」(32.1%)などが並びました。

入居前に、室内に既にある傷や消耗などは写真に撮る、契約書にある内容を読み込むなど、トラブルを避けるために事前に出来ることはたくさんあります。インターネットでトラブル事例を調べておくのも、トラブル回避には有効だと言えるでしょう。

退去時の敷金問題を考えると、入居前の内見や室内の状態チェックは必須と言える(出典/SUUMOジャーナル編集部)

退去時の敷金問題を考えると、入居前の内見や室内の状態チェックは必須と言える(出典/SUUMOジャーナル編集部)

今回の調査で、居住中だけでなく、退去時にもトラブルが発生していることが分かりました。そして、「敷金よりオーバーしてしまい、経済的な負担があった」人は約5割にのぼります。

戻ってくるはずの敷金が戻ってこないばかりか、経済的負担があるのは避けたいもの。そのためには、居住中に部屋をきれいに使用することはもちろんですが、入居前に既に室内にある傷や汚れをチェックしておいたり、過去のトラブル事例を調べて回避法を知っておくなど、事前に出来ることはしておいたほうがよさそう。不当に経済的な負担を負うことがないよう、必要な知識は身に付けておきたいものですね。

●調査概要
・[住まいのトラブル調査 賃貸編]より
・調査期間:2018年3月8日~9日
・調査方法:インターネット調査(ネオマーケティング)
・対象:全国の賃貸住宅にお住まいの18歳~49歳の方
・有効回答数:男女300名

住まいのトラブル調査【賃貸編】賃貸物件のトラブルで一番多いのは、物件の欠陥や設備の故障だった!

新しい住まいを探すとき、契約するとき、そして住んでからも、トラブルに巻き込まれてしまうことってありますよね。今回の調査では、賃貸住宅に住んでいる人に、どんなトラブルに遭遇したか、そしてトラブル解決のためにとった行動などを聞きました。事前に防げるもの、その場で対処するしかないものなど、これから引越しを考えている人は要チェックの内容です。
一番多いのは物件の欠陥や設備の故障 次いで近隣トラブル

実際どのようなトラブルにあっているのか聞いてみると、物件の欠陥や設備の故障などのトラブル(67.7%)がトップ、次いで近隣トラブル(61.0%)となりました。賃貸物件は、新築でない限り以前に誰かが部屋を使用しているため、物件の欠陥や設備故障などが見つかるケースが多いのかもしれません。近隣トラブルは賃貸物件に限ったことではありませんが、経験したことがある人が6割を超えました。
続いて3位に「敷金、原状回復のトラブル」(20.7%)、4位「物件探しでのトラブル」(18.0%)、5位「契約に関するトラブル」(16.7%)という結果に。

物件の欠陥や設備の故障、近隣トラブルは3人に2人が経験している(出典/SUUMOジャーナル編集部)

物件の欠陥や設備の故障、近隣トラブルは3人に2人が経験している(出典/SUUMOジャーナル編集部)

また、トラブル後、そのトラブルが解決したかどうかについては、約7割(70.7%)が解決したと回答しています。解決法は「管理会社に連絡をした」(56.6%)が圧倒的に多く、次いで「不動産会社に連絡をした」(32.5%)、「大家に連絡をした」(25.9%)と、関係する管理会社や不動産会社に相談している人が多いようです。

トラブルが起きたとき、特に近隣トラブルなどの場合は当事者同士で直接解決しようとすると、余計に溝が深まったり、さらに大きなトラブルになる可能性もあります。管理会社や不動産会社、大家など、部屋を管理する人に相談し、その人を介して話し合いをしたり、集合住宅であれば貼り紙をしてもらうなどでトラブルを他の住人に知らせてトラブル解決を図るのが賢明と言えそうです。

また、「家族、友人、知人に相談した」は2割程度。同じようなトラブルの経験がある人がいた場合、経験をもとにしたアドバイスはトラブル解決に役立ちそう。その結果、管理会社や不動産会社に連絡をしたり、専門家に相談したという人もいるようです。

「解決した」が7割いる一方で、「解決していない」が約3割(出典/SUUMOジャーナル編集部)

「解決した」が7割いる一方で、「解決していない」が約3割(出典/SUUMOジャーナル編集部)

「何もしなかった」人はわずか7.1%で、解決をした人は何らかの行動を起こしている(出典/SUUMOジャーナル編集部)

「何もしなかった」人はわずか7.1%で、解決をした人は何らかの行動を起こしている(出典/SUUMOジャーナル編集部)

トラブルの相手は不動産会社、管理会社のほか、近隣住民も

トラブルがあった人に聞くと、その相手は「不動産会社、管理会社」(44.3%)と「同じ賃貸物件の居住者」(43.0%)が2トップでした。
トラブル内容で多いのは、「物件の欠陥や設備の故障などのトラブル」「近隣トラブル」でしたから、相手が「不動産会社、管理会社」「同じ賃貸物件の居住者」なのは納得がいく結果だといえます。

不動産会社、管理会社はトラブルを相談する相手だが、トラブルの相手にもなり得るようだ(出典/SUUMOジャーナル編集部)

不動産会社、管理会社はトラブルを相談する相手だが、トラブルの相手にもなり得るようだ(出典/SUUMOジャーナル編集部)

ちなみに、「不動産会社、管理会社」「物件の大家」がトラブル相手の場合、「居住中」にトラブルがあったという人が6割強。トラブル内容としては、「物件の欠陥や設備の故障などのトラブル」が多いようです。次いで多いのは「退去時」で、約2割の人が該当すると答えました。

居住中はもちろん、部屋探しのときや契約時にもトラブルが起こっている(出典/SUUMOジャーナル編集部)

居住中はもちろん、部屋探しのときや契約時にもトラブルが起こっている(出典/SUUMOジャーナル編集部)

また、トラブル相手が「同じ賃貸物件の居住者」「物件の近隣住民」と答えた人のなかで、「苦情を言った」人は56.0%、「苦情を言われた」人は25.3%でした。一方、「苦情は言っていないが、迷惑していることがある」人は36.7%で、必ずしも「迷惑であることを相手に伝える」行動に移しているわけではないと分かります。

トラブルの具体的な内容としては、「深夜なのに音楽がうるさい」「夜中、猫の鳴き声がうるさいと言われた」「上の階の子どもの足音や走り回る音が下まで聞こえ、夜遅くまで続く」などの騒音問題をはじめ、「廊下に生ごみなどを放置」「共用スペースに布団を干す」などの生活マナーの問題などが多く挙げられました。

近隣トラブルに関しては、約6割が「苦情を言った」と回答しているが、「苦情は言っていない」人も36.7%いることがわかる(出典/SUUMOジャーナル編集部)

近隣トラブルに関しては、約6割が「苦情を言った」と回答しているが、「苦情は言っていない」人も36.7%いることがわかる(出典/SUUMOジャーナル編集部)

トラブルの内容は、「敷金礼金」や「エアコンの故障」など

最後に、「部屋探しのとき(部屋の内見も含める)」「契約時」「居住中」「契約更新時」それぞれのトラブル内容をご紹介します。

【部屋探しのとき(部屋の内見も含める)】
・この部屋だと決めて引越しの用意もしたが、当日鍵をもらいに行くと 他の人に決まったと言われた(48歳・女性)
・不動産会社で紹介された内容と実物が全然違うし、家賃も契約時の書類内容と違っていた(49歳・男性)

【契約時】
・敷金礼金を多く取られそうになった(24歳・女性)
・家賃の金額が紹介してもらったときと違っていた(49歳・男性)

【居住中】
・クーラーが取り付けてあって、家賃に含まれているのに使用できなかった(38歳・女性)
・機器や備品の壊れがひどく、電話してもきちんと対応してくれなかった(31歳・女性)

【契約更新時】
・契約を更新して家賃の月額が2000円下がったにも関わらず、以前のままの金額が引き落とされていた(43歳・男性)
・一方的に契約変更があった(33歳・男性)

今回の調査で、賃貸物件に住んでいる人は、物件の欠陥や設備の故障、近隣トラブルを経験しているケースが多く、トラブル相手は「不動産会社、管理会社」「同じ賃貸物件の居住者」などであることが分かりました。

さまざまなトラブルがありますが、約7割は解決したと回答し、その方法としては「管理会社に連絡をした」「不動産会社に連絡をした」「大家に連絡をした」などがありました。トラブルがあっても、自分達だけで解決しようとせず、部屋を管理している会社や大家に相談するのがいち早く解決する方法だと言えそう。解決するための相談相手が分かっていれば、たとえトラブルにあったとしても慌てず対応できるはず。

また、物件の欠陥や設備の故障などのトラブルは、物件の内見の際にチェックすることで、ある程度防ぐことができるかもしれません。近隣トラブルなども、日々きちんと挨拶をかかさない、夜中の騒音には気を付けるなど、生活をする上で少し気を付けることで回避できることがありそうですね。

●調査概要
・[住まいのトラブル調査 賃貸編]より
・調査期間:2018年3月8日~9日
・調査方法:インターネット調査(ネオマーケティング)
・対象:全国の賃貸住宅にお住まいの18歳~49歳の方
・有効回答数:男女300名

お墓の近くの物件って、実際どうなの?

もうすぐ春のお彼岸。「お墓」「墓地」「霊園」……これらの言葉に、どのようなイメージをおもちですか? 「特になんとも思わない」「供養のための大切な場所」と思う人がいる一方、「ちょっと怖いな」というイメージをおもちの方もいるようです。物件探しの際にお墓近くの物件を紹介されたら、あなたはどうしますか? 今回は、墓地の近くに住むことについてお伝えします。
お墓は怖くない? 火の玉とか出ない!?

ある時、「お墓近くの物件は怖そう」と都市部に育った筆者が言うと、友人に不思議そうな顔をされました。筆者の家のお墓は、少し郊外の霊園の一角にあり、非日常を感じる場所です。一方、友人の家のお墓は隣接するお寺の中にあるものだから、日常の風景に過ぎないとのこと。

「火の玉とか出るんじゃないの?」と筆者が聞くと「最近は火葬だから出ないよ」と笑われ、一蹴されてしまいました(火の玉は、土葬された遺体の中にあるリンが化学反応を起こすことで発生するといわれています)。でも墓地近くに住むって、実際のところはどんな感じなのでしょう……。そこで、不動産のプロにお話を伺うため「アパマンショップ自由が丘店」を訪問しました。

墓地近くの物件について教えてくださったのは、アパマンショップ自由が丘店を運営する株式会社アップルグループのアップル東京株式会社 執行役員の片岡潤(かたおか・じゅん)さん。実は片岡さん自身がお寺や神社に囲まれた下町の地域で育ったという、不動産のプロでありながら、墓地近くで暮らすことに慣れている「プロ」でもありました。

風通しよく、日当たり良好な物件も

「自由が丘近辺、それから目黒や西大井にかけては歴史的な経緯からお寺が多く、墓地も多い地域ですが、それほど家賃を下げなくても借りる方が多いですね。お寺や墓地が近いというよりも、物件の内容、スペックのほうを重視される方がほとんどです」(片岡さん)

意外にも墓地の近くの物件を気にする方は少ないということで、気にしていた自分が少し恥ずかしいような……。店舗で物件の内容(広さや設備など)を確認して気に入ったのであれば、墓地のことはさておいて、実際に現地に行って内見する方がほとんどとのこと。

「お墓や、墓地のあるお寺のそばにある物件は、日当たりや風通しなどがよい場合が多いです。ですから、迷っていても、見に行って『ここに決めよう』という方もいらっしゃいます。まわりが静かですから、そういった意味では住みやすいと思いますよ。お墓の場合は近いといっても、塀や道で隔てられているのでそれなりの距離が保たれています」(片岡さん)

卒塔婆のクローズアップ(画像/PIXTA)

卒塔婆のクローズアップ(画像/PIXTA)

墓地が近いことをもし大家さんがマイナスに感じている場合、家賃や敷金・礼金を割安に設定することがあります。これは借り手としてはうれしいポイントです。これらお金の面に加え、設備などを充実させて部屋のスペックを高くすることで好条件にし、借り手に「この物件がいいな」と思わせる工夫をしている物件もあるそうです。

実は静かで住みやすい?

「日当たりがよくて静かな墓地近くの物件は、気に入って住み続ける方が多くいらっしゃいます」(片岡さん)。入居者は単身者や家族など、エリアによってさまざま。ただ片岡さんいわく、デメリットは、どうしても周辺の夜道が暗めになってしまうこと。そのため、女性よりも男性の入居者の方が多いのだとか。

前述の筆者の友人は、「お盆にはお参りの人たちがたくさんやってくる」と言っていました。そのあたりはどうなのでしょうか。

「お盆やお彼岸には確かにたくさんの方がお越しになりますが、うるさすぎるという苦情を受けたことはないですね。その時期がそういうものでしかたないという認識もありますし、そもそも単身者の方は、自分も帰省などで留守にしていることが多いためでしょう」(片岡さん)

鐘楼(画像/PIXTA)

鐘楼(画像/PIXTA)

音で言えば、お寺なら朝晩鐘の音がします。筆者も以前住んでいた物件で、朝晩お寺の鐘の音が聞こえてくるところがありました。定刻に鳴る音は規則正しい生活を促しますし、風情があってそれはそれでよいかもしれませんね。

「個人的には、ここ10数年くらいの間に、お墓を気にしない人がさらに増えたように感じています。駐車場があって1日中音が絶えず、夜中も皓皓(こうこう)と明るいコンビニなどや、救急病院の近く、あるいは大通り沿いや線路沿いよりも、墓地の近くのほうが、個人的には住みやすいと感じます」(片岡さん)

お墓をどのようなものとしてとらえているかには個人差がありますが、「なんだか怖そうだなー」と敬遠していた筆者も、お話を聞いて「なるほど!」と思わせられました。

日当たりがよく、静かで、スペックや家賃に恵まれていることもある墓地近くの物件。これから家探しをする方は、ぜひ候補に入れて考えてみてください。南無。

もし今住んでいる部屋が実は事故物件だとしたら…解約したい派は6割超!事故物件調査[3]

事故物件調査シリーズ、最後は「解約」に関して。知らずに住んでいたけれど、今住んでいる部屋が実は事故物件だったら……。あなたなら解約しますか? アンケートで解約したい、したくない人と答えた人の理由もそれぞれご紹介します。

※本企画は、弁護士ドットコムニュース編集部との共同企画です
今の部屋が事故物件だったら「解約したい」が6割超え

もし、自分が住んでいる部屋が事故物件であることを知ったとしたら、あなたならどうしますか? 調査では、「解約したい」という人が66.5%、「解約したくない」という人は33.5%という結果となりました。

事前に知って契約しているなら納得の上なので受け入れられますが、知らなかった場合はやはり「解約したい」と思う人が多いよう。ただし、3人に1人は「解約したくない」と答えていて、事故物件に対する捉え方がさまざまであることがうかがえます。事故の内容や時期によっても「解約したい」「したくない」は変わってくるかもしれませんね。

【画像1】解約したくない人も一定数(3割強)いることがわかる(出典/SUUMOジャーナル編集部)

【画像1】解約したくない人も一定数(3割強)いることがわかる(出典/SUUMOジャーナル編集部)

解約したい理由は「気持ち悪い」「不気味」が多数

「解約したい」と回答した人の理由としては、大きく分けると「気分的、心理的に嫌」「不動産会社や大家さんに対する不満」「家賃に対する不満」の3タイプがありました。

気分的、心理的に嫌
・知ってしまったら、気持ち悪くて家にいても落ち着かないと思う(32歳・女性)
・気持ち的に事故があったと考えると住んでいたくない。やすらげない自宅は嫌。家賃が安くなっても嫌だ(33歳・女性)
・不気味だから(34歳・男性)
・ネガティブな要素がある家には住みたくない(38歳・男性)
・子どもがいるので、人が死んだという物件に住みたくない(38歳・女性)

不動産会社や大家さんに対する不満
・事前にそう教えてくれなかったことで、貸主に不信感が生まれる(38歳・女性)
・本来告知義務があると思うが、無かったことに対する不満(46歳・男性)
・入居時に事故物件という説明もなく家賃もほかと同じだとしたら、不動産会社を信用できないから(41歳・男性)
・事故物件とは何も聞いていないので、クレームを言って引越ししたい。引越し費用は出してもらいたい(48歳・女性)
・今知るということは、意図的に隠されていたということなので不気味だから。 入居前には必ず知りたい(24歳・男性)

家賃に対する不満
・事故物件ならその分安いはずなのにそうでないから(38歳・女性)
・事故物件であるのに、家賃が相場通りなら住みたくない(44歳・男性)
・知らないで入居したし、解約が難しいなら安くしてほしい(32歳・女性)
・すぐの引越しは難しいので、説明責任を問いただし、家賃を安くしてもらう(36歳・男性)
・まずはどんな事故があったのか聞いてすぐに引越しを考えて、新しい物件が見つかるまでは家賃交渉したい(38歳・女性)

解約したくない理由は「住み心地に問題ない」「引越しが面倒」など

一方、「解約したくない」と回答した人の理由は以下のとおり。

住み心地に問題がなければ
・入居前に徹底したリフォームや仏事を行っており、居住後も問題がなければ契約更新の時期まで住み続けると思う(36歳・男性)
・長年住んでいるが、怖い事がなかったから(37歳・女性)
・事故物件だと分かったところで住み心地が変わる訳ではないから。ただ、安くしてくれるかどうかは交渉したい(36歳・男性)
・今の部屋に愛着があるので(23歳・女性)
・住み慣れているのであまり心境に変化はないと思う(22歳・男性)

引越しが面倒、お金がかかる
・その時の状況にもよるが、他物件を見つける手間、引越し費用、などトータルで考えると、しょうがないので、そのまま住み続けることになると思います(49歳・男性)
・手続きが面倒だし、新しい部屋を探すのも大変だから(26歳・女性)
・退去するのが面倒だから(30歳・男性)
・引越すのにまたお金がかかるから(39歳・女性)
・引越しは面倒。 入居してしばらく経過していたら気にしない(45歳・女性)

条件が気に入っているから
・住み心地に問題ないし利便性が良いから(29歳・女性)
・家賃やエリアを気に入っているので(30歳・女性)

その他
・事故物件は気にならないのでそれを理由で解約はしないが、事故物件対策(自分が借りる前に短期間だけ人を住まわすなど)を行われていた場合、家主の心根が気に食わないので解約を検討すると思う(33歳・男性)

今回の調査では、何も知らずに事故物件に住んでしまった場合「解約したい」と答えた人が6割を超える結果となりましたが、実際には解約できるものなのでしょうか。弁護士の瀬戸仲男(せと・なかお)さんにお聞きしました。

「解約できる場合もあり得ます。消費者契約法に基づいて契約を取り消すことができる場合もありますし、あるいは、民法に基づいて契約を解除し、損害賠償請求をすることができる場合もあります。ただし、戦うためには「証拠」が必要です。事故物件であることの確かな証拠を確保しなければなりませんので、準備を怠らないようにしましょう」(瀬戸さん)

また、悪質な不動産仲介業者のなかには、過去に事故物件だった事実を隠す「事故物件ロンダリング」を行っているケースもあるようです。具体的にはどのようなものなのでしょう?

「『事故物件ロンダリング』とは、事故物件をクリーニング(洗浄)して、嫌われない物件に変えてしまおうという行動のことを指します。一番多く行われる方法は『サクラを入居させる』という方法です。宅建業者の中には『事故が起きた後、一度でも次の入居者が入居すれば、そのまた次の入居者に対して、事故物件であることを説明しなくても、宅建業法上の重要事項説明義務に違反しない』と考えている業者がいるようです。そこで、このような業者は、自社の社員やアルバイト学生などを使って一定期間だけ事故物件に入居させて、クリーニングしようとするわけです。

あるいは、借地借家法の『定期借家契約』も事故物件をクリーニングする方法として利用されることがあります。事故物件であることを説明したうえで借主を募集した場合、低家賃でなければ借主はほとんど現れません」

「事故物件だということを知らされずに入居したのでは、精神的に参ってしまい、心療内科などの病気になりかねませんね。多少の不安感ならば、お祓いしてもらって住み続けるという選択肢もあり得ますが、多くの方にとっては大問題でしょうね。病気になる前に転居して、気持ちを落ち着けてから、家主や仲介業者との交渉などを始めるとよいでしょう」

事故物件に住んでいたからといって、必ずしも何かが起きるわけではありません。心理的な嫌悪感をもったり、霊的なものを感じる体質でなければ、事故物件であっても普段通りの生活をすることは可能です。先の調査で、家賃の安さなどから、あえて事故物件を選択する人もいます。どうしても事故物件に住みたくない、周辺に住むのも嫌という人は、事前に不動産会社や大家さんに確認をとっておく、専門サイトでチェックするなどの対策をしてくださいね。

●調査概要
・[事故物件に関する調査]より
・調査期間 2017年12月21日~25日
・調査方法:インターネット調査(ネオマーケティング)
・対象:全国の賃貸集合住宅にお住まいで、半年以内に賃貸で部屋探しをする予定のある方
・有効回答数:400名●取材協力
・アルティ法律事務所代表 瀬戸仲男弁護士

事故物件だけど条件がよい物件があったら、あなたなら借りる?借りない?事故物件調査[2]

部屋探し中に偶然出会った事故物件。物件の条件次第では借りることを検討しますか? 今回は、事故の内容や起きた時期によって検討状況は変わるのか聞いてみました。検討する、しないと回答した人の理由も合わせて紹介します。
※本企画は弁護士ドットコムニュース編集部との共同企画です。
自然死、病死の場合には、条件が合えば検討する人が約半数も

今回の調査では、事故物件に住んだことがある人は5.5%と少数派でした。ただ、部屋探しをしているなかで、見つけた物件が「事故物件」であることを偶然知ることがあるかもしれません。そんなとき、物件の条件(家賃や広さなど)によって検討するでしょうか。ほかのみんながどうしているのか気になるところですよね。

結果は、該当の部屋であっても自然死や病死であれば住むことを検討すると答えた人が約半数。さすがに該当の部屋で自殺や他殺があった場合には3割に届きませんでしたが、少数ながら検討する人はいて、需要はあるようです。また、自殺や他殺であっても、該当の部屋ではなく同じ建物内で起こった場合であれば、検討するという人が4割いることも分かりました。そして事故物件の内容に関わらず、女性より男性のほうが検討する割合は高いようです。

【画像1】隣や上下階、同じ建物内の場合など、該当の部屋でなければ「検討する」という人がそれぞれ約4割いた(出典/SUUMOジャーナル編集部)

【画像1】隣や上下階、同じ建物内の場合など、該当の部屋でなければ「検討する」という人がそれぞれ約4割いた(出典/SUUMOジャーナル編集部)

自殺や他殺は、何年たっていても時期にかかわらず契約しないという人が7割以上

では事故が起きた時期によっては検討する、しないは変わるのでしょうか。

該当の部屋で自殺、他殺があった場合には、それぞれ71.5%、73.0%が「時期にかかわらず、検討しない」と回答。特に女性は8割以上が「検討しない」と答えました。
一方、該当の部屋で病死、自然死があった場合はそれぞれ28.0%、28.8%が「2年未満でも、検討する」と回答しており、事故の原因によって検討する、しないは多少変わってくるようです。

ちなみに事故物件に関しては、「事故から○年経過までは告知義務あり」といった告知時期に関する明確なルールが存在しません。借りるという選択をするとしても、事故があったかどうかの事実は知りたいもの。ルールが存在しないとすれば、自ら確認をするのが入居後に後悔しないために賢明と言えそうです。

【画像2】該当の部屋でなければ、時期を問わず検討する人が4割を超えた(出典/SUUMOジャーナル編集部)

【画像2】該当の部屋でなければ、時期を問わず検討する人が4割を超えた(出典/SUUMOジャーナル編集部)

「相場より家賃が安い」「交通利便性が良い」場合、事故物件でも検討する人が多数

次に、先の質問で「物件の条件次第で検討する」と回答した人に、どんな条件なら事故物件の契約を検討するのか聞いてみました。

ダントツで多かったのは、「相場より家賃が安い」で9割以上が支持。男女別で見ても、男女ともに9割以上が検討すると答えています。次に「交通の利便性が良い」(65.5%)、「リフォーム済みできれい」(57.9%)、「部屋の間取り・広さがちょうどよい」(56.6%)、「部屋の設備がよい」(55.7%)と続きます。家賃はもちろん、同じエリア・相場の物件と比較して、条件が少しでもよければ事故物件でも候補として検討する人が多いようです。

【画像3】事故物件であっても、家賃が安い物件は魅力のよう(出典/SUUMOジャーナル編集部)

【画像3】事故物件であっても、家賃が安い物件は魅力のよう(出典/SUUMOジャーナル編集部)

また、「相場より家賃が安い」を選んだ人に、例えば8万円の物件で、どのくらい安ければ事故物件でも契約するか聞いたところ、「相場より30%安い、5.6万円以下なら」と答えた人が3割を超え、「それ以上安い場合なら」は22.9%いました。8万円の家賃なら1年で96万円の負担ですが、30%安い場合には67.2万円で済みます。一人暮らしなどでは、家賃をできるだけおさえたいのに加え、ずっとそこに暮らすわけではないため、わずかの期間なら安い家賃で住みたいと思う人が多いのかもしれません。

【画像4】相場より3割以上安いなら検討すると答えた人は半数を超えた(出典/SUUMOジャーナル編集部)

【画像4】相場より3割以上安いなら検討すると答えた人は半数を超えた(出典/SUUMOジャーナル編集部)


最後に、「物件の条件にかかわらず、検討しない」と答えた人に、その理由を具体的に聞いてみました。
多かったのは「なんとなく怖い」「なんとなく嫌」というもの。決定的な理由があるわけではないけれど、心理的に受け付けない、嫌悪感がある人が多そう。ほかにも、「ポジティブな気分になれない」「その情報が頭から離れずくつろげない」「心霊現象がおきそうだから」などの心理的なものが多数。また、「イメージが良くなく、周りに自殺したことを知っている人がいると、色々言われそう」といった周りの目を気にするコメントも見られました。

今回の調査では、「事故物件」の心理的瑕疵の内容や時期によって、検討状況は変化するのかどうかのアンケートを取りましたが、法的に事故物件の告知義務は決められているのでしょうか?弁護士の瀬戸仲男(せと・なかお)さんにお聞きしました。

「宅地建物取引業法(宅建業法)の規定によって、宅地建物取引業者(宅建業者)は、物件についての説明義務を課されています。これを『重要事項説明義務』と言います。買主・借主は、物件において人が異常死したという事実について大いに気になるものです。このような人の気持ちに影響を与えるマイナスの要素を『心理的瑕疵』と言います。この心理的瑕疵についても、重要事項説明書で説明すべきであるとされています」

「仮に、宅建業者がこの説明義務に違反して、事故物件であることを説明せずに業務を行った場合、宅建業法違反となり、免許停止や、悪質であれば宅建業法上の罰則を科されることにもなりかねません。また、説明義務違反が重大である場合、例えば、事故の内容(自殺なのか、他殺なのか。他殺の場合、被害者の人数や、殺害方法が残忍なものかなど)、物件の規模、用途、金額などによっては、単に宅建業法違反という行政法規違反に問われるだけでなく、刑事法規(刑法上の詐欺罪<不作為による欺もう行為>など)にも問われる可能性がありそうです」(瀬戸さん)

また調査結果からは、事故物件に住むことを検討する理由として、「家賃が安い」ことを挙げる人が多いことが分かりました。実際に事故物件を借りたいといった場合に、どのようなことに気を付ければよいのでしょうか。
「事故物件の「事故」の内容を書面に書いてもらっておきましょう。例えば、本当は「他殺事件」であるにもかかわらず、「自然死」などと説明されて入居した後に、近所の人などから真相を聞かされて、損害賠償請求などを行う場合、説明の食い違い(虚偽の説明)を立証するのは困難ですが、書面化しておけば、安心ですね。重要事項説明書の「特記事項」の欄に具体的な事故の内容を書いておくようにお願いしてみましょう」(瀬戸さん)

今回の調査で、事故物件のなかでも自然死や病死などであれば借りることを検討する人は多く、事故物件に対する捉え方はさまざまだということが分かりました。とはいえ自殺、他殺などは、たとえ条件がよくても契約はしない人が7割以上ですから、検討するかしないかは、事故の内容にもよるようです。

事故物件に住む場合、その部屋自体もそうですが、周辺の環境などにも気を付けたいもの。特に原因が他殺だった場合などは周辺の治安が心配です。立地的に安全かどうか、侵入しやすい建物の構造ではないかなど、事前にきちんと確認をするようにしましょうね。

●調査概要
・[事故物件に関する調査]より
・調査期間 2017年12月21日~25日
・調査方法:インターネット調査(ネオマーケティング)
・対象:全国の賃貸集合住宅にお住まいで、半年以内に賃貸で部屋探しをする予定のある方
・有効回答数:400名●取材協力
・アルティ法律事務所代表 瀬戸仲男弁護士

怖いイメージのある事故物件、住んだことがある人の3割はあえて選択!? 事故物件調査[1]

事故物件と聞くと、マイナスなイメージがあるかもしれません。そんなところに住みたくないという人もいれば、安いなら住みたいという人もいるようです。今回は、事故物件に対して抱くイメージや、住んだことがある人の声などを紹介します。
※本企画は弁護士ドットコムニュース編集部との共同企画です。
やはりレア!? 事故物件に住んだ経験がある人は1割以下

事故物件と聞いて、どんなものか皆さんはすぐに答えられますか? 事故物件とは、過去に事件や事故による死亡、自殺、自然死などがあった物件を指します。昨今、テレビのニュースなどで取り上げられることも多く、耳にした人も多いかもしれません。今回調査を行う上で、「事故物件」という言葉を知っているか聞いたところ、「よく意味を知っている」と答えた人は64.3%、「なんとなく意味を知っている」人は31.8%でした。

また、これまでに事故物件に住んだ経験はあるかどうかの質問に対しては、「住んだことはない(事故物件かどうか確認したことがある)」が59.8%と一番多く、「分からない(事故物件かどうかの確認はしていない)」(34.8%)と続きました。賃貸物件の場合には、清掃・洗浄・内装張り替えなどを行ってから新たに貸し出されることが多いため、不動産会社などから告知がなければ事故物件と分からないケースもあるかもしれません。筆者も賃貸物件を探して契約したことが何度もありますが、事故物件かどうか確認したことはなく、約6割が「事故物件かどうか確認したことがある」と回答したことが驚きでした。これもニュースなどで事故物件が取り上げられたことが、少なからず影響しているのでしょうか。

また、事故物件に実際に「住んだことがある」は5.5%で、事故物件と分かっていて住む人は少ないことが分かりました。

【画像1】「なんとなく意味を知っている」は3割。「よく知っている」を合わせると9割以上の人が事故物件という言葉を知っていた(出典/SUUMOジャーナル編集部)

【画像1】「なんとなく意味を知っている」は3割。「よく知っている」を合わせると9割以上の人が事故物件という言葉を知っていた(出典/SUUMOジャーナル編集部)

【画像2】5.5%は事故物件に「住んだことがある」と回答した(出典/SUUMOジャーナル編集部)

【画像2】5.5%は事故物件に「住んだことがある」と回答した(出典/SUUMOジャーナル編集部)

もともと事故物件で探していた人が3割も。理由は「家賃が安いから」がトップ

次に、事故物件に住んだ経験がある人に、事故物件であることを知ったきっかけ・タイミングを聞いてみました。

結果、「もともと事故物件で探していた」(31.8%)が、「不動産広告の記載で知った(告知事項あり、心理的瑕疵ありなど)」「内見時・契約時に不動産会社から聞いた」「住み始めた後に、近隣の人から聞いた」(同率18.2%)をおさえて1位となりました。事故物件というと人気がなさそうと思いがちですが、あえて事故物件を探している人が3割もいることから、一定の需要があることが分かります。

選んだ理由を聞いてみると、「賃料が安かったから」が多数。ほか、「条件や間取りが良かった」「立地が良かった」なども。「家賃が安く立地も良かったが、悩んでいるうちに候補にしていた物件に空きが無くなり「事故物件」へ決めざるを得なかった」という人もいました。

住み心地はというと、「普通だった」という声が多数を占めました。ただ一部には、「普通に暮らしていたけど近隣の目が気になった」「気持ちが悪かった」「いろいろ物音がきこえた」という人もいました。

【画像3】「事故物件サイトで知った」という人も約1割。専門サイトでチェックするのも方法のひとつ(出典/SUUMOジャーナル編集部)

【画像3】「事故物件サイトで知った」という人も約1割。専門サイトでチェックするのも方法のひとつ(出典/SUUMOジャーナル編集部)

事故物件のイメージは「家賃の安さ」のほかに「怖い・不気味」が7割以上

事故物件というと、どんなイメージがあるのでしょうか。結果は「家賃が安い」と「怖い・不気味」が7割を超え、「心理現象がありそう」(43.3%)、「リフォームや清掃が行き届いている」(13.8%)が続きます。

イメージばかりが先行しがちですが、実際に事故物件に住むとなると躊躇(ちゅうちょ)する人も多いはず。家賃が安いというだけで「借りてみよう」とは思わないかもしれません。まずは契約の前に事故物件であるかどうか確認することが重要です。

【画像4】「家賃が安い」「怖い・不気味」とイメージする人が圧倒的に多かった(出典/SUUMOジャーナル編集部)

【画像4】「家賃が安い」「怖い・不気味」とイメージする人が圧倒的に多かった(出典/SUUMOジャーナル編集部)

事故物件かどうかを知るには、物件情報から知る方法と、自分から不動産会社に聞く方法の2通りがあります。
一つ目は、物件情報にある「告知事項あり」という記載がある場合。借りる側に伝えるべき重要事項があるという意味であり、事故物件である可能性があります。宅地建物取引業法では、このように事故物件の場合には借り手に内容を説明するよう告知義務が定められています。記載があるときには、不動産会社に確認するといいでしょう。

もうひとつは不動産会社に自ら確認する方法です。というのは、告知義務はあるものの、その期間については法律で定められていません。特にあなたの前に誰か違う人が住んだ後などは、不動産会社は改めて告知をしない可能性があります。気になる人は、記載がなくても契約前に確認することをおすすめします。

事故物件であっても、事故があったことや内容をきちんと告知し、家賃を下げてくれる誠実な大家さんや不動産会社が扱う物件なら安心かもしれません。

今回の調査で、多くの人が言葉の意味は知っていると答えた「事故物件」。そもそも、どのような定義なのでしょうか。弁護士の瀬戸仲男(せと・なかお)さんにお聞きしました。

「事故物件というものが法令で定義されているわけではありませんが、一般に、自殺、他殺、不審死など忌み嫌われる事件・事故があった物件のことだとされています」(瀬戸さん)

「賃貸物件などの建物には、「瑕疵」(キズのこと)があることがあります。例えば、水漏れや給湯器の故障などは「物的瑕疵」といいます。これに対し、事故物件といわれるものは「心理的瑕疵」というものです。物件が壊れているわけではありませんが、心理的な気持ちの問題として避けられる物件です。
 心理的な瑕疵ですので、気にならない人にとってはキズでもなんでもなく、むしろ相場より安い賃料で入居できるので、お得な物件といえます」(瀬戸さん)

今回の調査で、事故物件にも「家賃が安い」などの理由から、一定の需要があることが分かりました。「事故物件は絶対にイヤ!」という明確な意思がある場合でなければ、事故の理由によっては検討する物件の候補に入れてみるのもアリかもしれません。ただし借りる場合には、「こんなはずじゃなかった」とならないよう不動産会社に詳細を確認して納得の上で! 住んでから「やっぱりイヤ」とならないよう気をつけてくださいね。

●調査概要
・[事故物件に関する調査]より
・調査期間 2017年12月21日~25日
・調査方法:インターネット調査(ネオマーケティング)
・対象:全国の賃貸集合住宅にお住まいで、半年以内に賃貸で部屋探しをする予定のある方
・有効回答数:400名●取材協力
・アルティ法律事務所代表 瀬戸仲男弁護士

部屋にお化けが出た! 管理会社は対応してくれるの?

賃貸を借りるときに、気になる人は気になってしまうのが「心霊現象」。内見をして気に入った部屋に引越した矢先、万が一心霊現象に遭遇してしまったら、どうしたらいいの? 賃貸物件を多数管理するハウスメイトパートナーズ東京営業部の谷 尚子さんと矢富 絵理さんに教えてもらいました。
ポイントは「心霊現象の“実態”」が証明できるかどうか

心霊現象とひとことで言っても、感じ方は人それぞれ。まずはその“実態”を明らかにすることが重要になるようです。

「お化けが出る・出ないは人によって見え方も感じ方も違いますし、そもそも本当に心霊現象なのかも分からないので対応が難しいですが、もしその部屋で過去に自殺や殺人、事故死や病死があれば話は別。お化けが出る、出ないにかかわらず、お部屋でそういうことがあったこと自体“気味が悪い”と感じる人も多いでしょうから、ある程度の期間は当然その旨告知しますし、賃貸料を減額してお貸出しすることもあります」(谷さん、以下同)

この告知は法律上の決まりではないそうですが、不動産業界ではそれらの“事故”が起こった後、どのくらいの期間告知すべきかについて各社で自主的なルールを設けているそう。“ある程度の期間”なので過去を遡って起きた事件・事故全てを告知するわけではないそうですが、ルールで決められた期間内であれば、必ず事前に「心理的瑕疵物件」などとして告知するといいます。

「きちんと告知を受けて入居された後に心霊現象に遭って退去したい、という場合だと、通常通りの手続きで解約していただくことになると思います」

ただし、なかには“例外”もあるといいます。

「最近は不動産売買も活発で、中古物件を買ったオーナーから依頼を受け、途中から私たちが管理することも少なくありません。その場合、『その物件で人が亡くなった』という話を、オーナーも私たちも後から知ることがあります。また、オーナー自身あまり気にしない人で、物件の管理を依頼するときに、そのことをお伝えしてくださらないということもありえます。

入居者様から心霊現象のご相談を受けて調べてみて、後からそのことが発覚し、それを告知しなかったことに相応の過失があるとなれば、それに伴うお引越しの際に引越し費用を負担したり、違約金の対象外になったりする可能性もあるでしょう」

対応はケースバイケース。まずは管理会社に相談を

では、事前に何の告知も受けていない物件で、心霊現象など”異変“を感じた場合はどうすればいいのでしょうか。

「もし、心霊現象などが気になるという人は、まずは管理会社に尋ねてみてはどうでしょうか? その物件で過去に何か原因となるようなことがあったのかどうか、オーナーさんなどに聞き込みするなど分かる範囲で調べて、お伝えすることはできます」

また、相談があった際は、原因を調べるために管理会社や仲介会社が現地調査をする場合もあるそう。

「たとえば心霊現象で音がするという場合、もしかしたら建て付けや土地の地盤など、ほかの原因も考えられますから、現地調査などをさせていただくことがあります。私も以前、『部屋の仏壇が夜になるとカタカタ揺れる』というご相談を受け、現地調査に伺ったことがあります」(矢富さん)

矢富さんいわく、「対応は案件によってもケースバイケース」だそうですが、何かしら借りた部屋に不安がある場合は、一度相談してみるといいかもしれませんね。

心霊物件を避けたければ「ワンオーナー」で「家賃が妙に安くない」物件に!

そもそも、心霊物件に好んで入居する人はごくわずか。なかには、内見に “霊感の強い友人”を連れてくる人もいるそうですが、霊感がない人でも、心霊物件を避けるためにできることはあるそうです。

「お化けが出る・出ないは分かりかねますが、心霊現象が起こる“原因”が少ないお部屋を探すコツはあります。例えば、新築のころから同じオーナーさんや管理会社が管理している物件は、過去にそこで何が起こったのかを把握しやすいです。そこで『心霊現象が怖いんですけど、過去に何かありましたか?』と尋ねてもらえれば、知っていることはお伝えしますし、分かる範囲で調べてお伝えすることもできます。

まれに、新築からずっとそういった事故が無いにもかかわらず、お化けが出ると言ううわさがある物件も存在します。事故の事実が無いので告知はしませんが、もしお客様から聞かれてそういううわさを聞いたことがあれば、そのことはお伝えします」(谷さん)

また、“価格”にも注目すべきだと矢富さん。

「これは心霊現象にかぎったことではないですが、相場より明らかに安い物件には“何か”があると思ったほうが良いでしょう。基本、賃貸不動産に“目玉商品”はないので、周辺相場と比較して妙に安い物件には心霊現象に限らず何か事情があるということ。部屋で心霊現象に遭いたくない、という方は相場にあった賃料のお部屋を選んだほうが良いでしょう」(矢富さん)

“招かれざる客”の来訪で、新生活スタートの出鼻をくじかれるのは嫌なもの。お化けが怖いという方は、これらのポイントを参考にしつつ、お気に入りの物件を探してみてくださいね。

●取材協力
・ハウスメイトパートナーズ

賃貸トラブル誰に言う? 意外と知らないマンション管理

賃貸マンションを選ぶとき、あなたはその部屋を“管理”している人が誰か、意識していますか? 入居した後で水道の故障や騒音などのトラブルがあった場合、賃貸している人に代わって対応するのが、その部屋の管理担当者。では誰が管理を担当しているのかというと、さまざまなケースがあるようです。
仲介会社に入居後のトラブルを伝えても、対応できない!?

気に入ったお部屋を見つけて借りたけれど、水まわりの故障や住環境の悪化など、住んでから問題がでてきた……。こんな場合、あなたはどこに相談しますか? 仲介会社に連絡するという人も多いかもしれませんね。しかし実は、仲介会社には入居後のトラブルを解決する責任がない場合も多いのです。では誰に相談したらよいのでしょうか? プリンシプル住まい総研の所長でAll About「賃貸・部屋探し」ガイドの上野典行(うえの のりゆき)さんに伺いました。

「入居後のトラブル対応の責任は、その物件の管理をしている人がもっています。物件を紹介する“仲介”と入居後の“管理”は、必ずしも同じ会社が担当しているとは限りません。なかには仲介会社が管理も一括して行っている場合もあります。そういった物件を業界的には『管理物件』といいます。この場合は仲介業者に連絡すれば、同じ会社や系列会社の管理部門につないでくれるでしょう。

一方で、管理を仲介とは別の会社や個人が行っていることもあり、そういった物件を『一般物件』といいます。名称については業界内部のものなので、入居する方は端的に“管理の責任者は誰か”を確かめればよいでしょう」(上野さん)

もしも住んだ部屋にトラブルがあった場合、管理者に速やかに対処してほしいもの。しっかりと物件管理をしてくれるかどうか、事前に見分ける方法はあるのでしょうか。

大家さんが管理している場合と、企業が管理している場合がある

上野さんによると、管理に関しては大別すると「仲介会社と同じ系列の管理会社が担当する場合」「仲介会社とは別の管理会社が担当する場合」「個人の大家さんが管理する場合」の3つがあるそう。

「それぞれにメリット、デメリットがあります。仲介と同系列の管理会社であれば仲介担当者との連携がスムーズな場合が多いですし、個人の大家さんが管理している場合は、もしかしたら漫画『めぞん一刻』のような、人情味あふれるやりとりが期待できるかもしれません。

とはいえ私は、特に今なら個人よりは企業の管理する物件をお勧めします。なぜなら住宅宿泊事業法(民泊新法)の改正があったり、民法の改正があったりと、直近で集合住宅にまつわる法改正が多いからです。個人の大家さんがそういった変化に追いつくのは、なかなか大変だと思います」(上野さん)

住宅宿泊事業法(民泊新法)の改正によって2018年6月から、マンションやアパートの管理規約で禁止されている場合を除いて、申請すればどこでも民泊が営業できるようになります。また、民法改正後には賃貸した部屋を元どおりにする「原状回復」に関して、経年劣化に関しては入居者が修復費用を負担する必要がないと明記されます(ただし、ハウスクリーニング代などがかかるといった特約がある場合は、特約が有効になります)。

例えばお部屋の隣が民泊で、毎晩パーティーが開かれていたら、夜間は静かにするように伝えてほしいですよね。そういったことに関して、もしも管理側に民泊についての知識や経験がなければ、上手に対応してもらえないかもしれません。そして住み替える際、管理側が民法の改正を知らなければ、経年劣化分の原状回復費用まで請求されてしまう可能性もあるでしょう。もちろん個人の大家さんでも法律に詳しく、管理会社よりも経験豊富な人もいますが、管理会社の場合は、人と人との相性を超えた交渉ができるメリットがありそうです。

部屋の快適さは間取りやインテリアだけでなく、管理の良さもポイント。いざというときにちゃんと対応してもらうためにも、賃貸でお部屋を決める際には、「管理トラブルの際は誰に連絡すればよいのか」を仲介業者に確かめておきましょう。個人の大家さんの場合は、すぐに連絡がつく人なのかどうかなど、その人となりを仲介担当者に聞いてみるのもよいでしょう。

●取材協力
・プリンシプル住まい総研