賃貸住宅の建物や入居者の管理は誰がする?入居者、家主、管理業者とのトラブルは?

賃貸住宅に住んでいる場合、家賃の支払い状況を確認したり、設備機器の故障に対応したりと、入居者や建物を管理する存在が必要だ。ところが、「誰が管理しているか分からない」という入居者が、約1割もいるという。調査結果から、賃貸住宅の管理の実態について詳しく見ていこう。【今週の住活トピック】
「賃貸住宅管理業務に関するアンケート」を公表/国土交通省ご存じですか?住んでいる賃貸住宅を誰が管理している?

国土交通省の「賃貸住宅管理業務に関するアンケート」は、賃貸住宅管理業者と家主・入居者とのトラブルなどの実態を調べるために調査したもの。賃貸住宅管理業者、家主、入居者の三者に調査している。

調査結果で驚いたのは、入居者の中には、賃貸住宅を誰が管理しているか知らない人がいるということだ。入居者に「あなたがお住まいの賃貸住宅を管理している管理者(管理業者)をご存知ですか」と聞いたところ、結果は【画像1】のようになった。

「専門業者が賃貸住宅の管理をしており、業者名も知っている」、「家主が自ら賃貸住宅の管理をしている」と、管理者を分かっている入居者は4分の3に達する。かたや、「専門業者が賃貸住宅の管理をしているが、業者名は分からない」が13.5%だったが、業者名が分からないのは、契約書などで調べれば分かるのでまだよいほうだ。「誰が賃貸住宅の管理をしているか分からない」人が9.4%と約1割もおり、「そもそも賃貸住宅の管理の意味が分からない」人も2.3%いた。

居住中の賃貸住宅の管理者の把握状況(対象:入居者)(出典/国土交通省「賃貸住宅管理業務に関するアンケート」より転載)

居住中の賃貸住宅の管理者の把握状況(対象:入居者)(出典/国土交通省「賃貸住宅管理業務に関するアンケート」より転載)

ちなみに、調査では「賃貸住宅の管理とは、家主から委託を受けて家賃や敷金の受領を行うほか、契約の更新、契約終了時の資金の精算や、入居中の設備の修繕や共用部分の清掃、入居者からの相談などにも対応するもの」という説明が添えられている。

賃貸住宅の管理は、家主がする場合も、委託した管理業者がする場合もある

入居者への調査結果【画像1】でも分かるように、賃貸住宅の管理は、家主が自らする場合もあれば、管理業者に委託している場合もある。家主への調査結果から、その状況を見てみよう。

「所有している賃貸住宅の入居者募集や契約、入居中の管理はどのように行っていますか」と家主に聞いた結果が、【画像2】の通りだ。

所有する賃貸住宅の入居者募集や契約、入居中の管理方法(対象:家主)(出典/国土交通省「賃貸住宅管理業務に関するアンケート」より転載)

所有する賃貸住宅の入居者募集や契約、入居中の管理方法(対象:家主)(出典/国土交通省「賃貸住宅管理業務に関するアンケート」より転載)

家主が「全て自ら管理している」(18.5%)のは 2 割近く。「入居者募集から契約までを業者に委託し、それ以外の管理は自ら行っている」が25.5%と、入居中の管理を家主が自ら行っている場合も多い。一方、過半数は、管理の一部または全てを業者に委託していることが分かる。

一般的には「入居者募集から契約まで」は仲介を行う業者が、「入居以降や更新時の契約、退去まで」は管理を行う業者が担当するが、どちらも行っている業者が多いので、家主が「入居者募集と賃貸住宅管理を同一の業者に委託している」割合は92.1%とかなり高くなっている。

では、どういった管理業務を業者に委託しているのだろうか。賃貸住宅(サブリース以外)の管理の実施者を聞いたのが、【画像3】だ。「入居時の契約支援」や「賃貸借契約の更新」、「敷金精算・原状回復」など、契約や退去に関する業務を委託している場合が多いようだ。「家賃督促」、「入居者からの苦情対応」、「建物・設備の維持管理・点検・修繕等」も委託している割合が高い。一方、「修繕積立金の管理」や「賃料等の集金」、「入居者からの苦情対応」、「空室管理」は家主が自ら行う割合が比較的高かった。

管理業務の実施内容と実施者(対象:家主)(出典/国土交通省「賃貸住宅管理業務に関するアンケート」より転載)

管理業務の実施内容と実施者(対象:家主)(出典/国土交通省「賃貸住宅管理業務に関するアンケート」より転載)

入居者、家主、管理業者が感じる不満・トラブルは?

では、不満やトラブルについて見ていこう。

まず、入居者に居住中の管理に関する不満の有無(単一回答)を聞くと、「不満を持ったことがある」は44.5%。不満を持った内容については、以下が特に多いTOP3だった。
「建物の清掃等手入れが不十分」(37.7%)
「そもそも家主や管理業者が何をどこまで対応してくれるのか不明確」(33.3%)
「トラブル発生時の対応が遅い」(30.4%)

次に、入居中や契約更新時、退去時等のトラブルの有無(単一回答)を聞くと、「トラブルを経験したことがある」が 30.3%。経験したトラブルの内容については、以下が特に多いTOP2だった。
「水もれや設備の故障等修繕の必要性が発生した際、対応に著しく時間がかかった」(29.8%)
「入居者同士でのトラブルが発生した」(23.4%)

今度は、家主に入居者とのトラブルの有無(複数回答)を聞くと、半数近くは「特にトラブルはない」(47.9%)と答えた。経験したトラブルでは、以下が特に多いTOP2だった。
「滞納家賃が発生し、家賃が適切に入金されない」(23.6%)
「入居者からの修繕などの要望対応に手間やお金がかかる」(18.9%)

さらに、賃貸住宅の管理業者に「受託管理している賃貸住宅で発生しているトラブルで対応が困難なもの」(複数回答)を聞くと、最も多いのが「借主間・近隣住民との間の苦情対応」(52.3%)だった。入居者相互、あるいは近隣住民との苦情については対応が難しいと考えている事業者が多いようだ。

次いで、「退去時の原状回復の箇所や費用負担に係る家主・借主との協議」(41.9%)、「借主に対する家賃の督促」(32.5%)、「修繕の箇所や費用負担に係る家主・借主との協議」(31.0%)が続き、入居者と家主との間の意見調整や、家主同様に家賃滞納の督促に困難さを感じていることが分かる。

さて、見てきたように、家賃の督促や故障・修繕の対応、他の入居者への苦情、家主との費用分担など、広範囲に重要な問題が生じた場合、誰に相談すればよいのか、どう対処してくれるのか、は賃貸住宅に住むうえで極めて重要なことだ。

賃貸住宅を決める際には、管理者が誰で、どれだけ管理実績があるかなども確認しておくことが必要だ。間違っても、入居している賃貸住宅を誰が管理しているか分からない、といったことのないようにしてほしい。

続・賃貸住宅でのDIY、どうやったらできる? 賃貸管理のプロに聞く[12]

前回は、賃貸住宅でDIYをしたいと思っている入居者さんが、なかなか踏み出せない理由について考えてきました。賃貸住宅でのDIYは、夢のまた夢なのでしょうか? 賃貸住宅でもDIYを可能にする方法があるのかを、一緒に考えてみましょう。【連載】賃貸管理のプロに聞く
賃貸仲介・管理の現場に20年以上携わっているプロが、賃貸物件に住む人から相談の多い事例と解決方法をご紹介する連載ですDIYは禁止されていないかも!? 賃貸借契約書をチェックしよう

お部屋を借りている方は、契約のときに賃貸借契約書を交わしていると思います。この賃貸借契約書には、引越してから退去するまでに起こる、いろいろな事柄についての決まりごとが書いてあります。

「賃貸住宅に手を入れる」ことに関して関係ありそうな条文には、どんなものがあるのでしょうか。全国で約20万8000戸の物件を管理しているハウスメイトグループの賃貸借契約書を見てみましょう。

第13条3.乙(賃借人)は、甲(賃貸人)の書面による承諾を得ないで、次に揚げる行為をしてはなりません。[1]本物件の増築・改築・改造又は室内の修理・塗替え・工作を伴う模様替え、…(以下略)第19条4.乙は、甲の承諾を得て行った造作等であっても原状に復する義務を負い、同造作物等を甲に対して買取り請求する事ができません。但し、原状回復に付き甲がこれを希望しない場合は、前段に定める造作等の収去並びに原状に復する義務については免責するものとします。

これを見てみると、「大家さんに書面で承諾を取ればDIYは可能で、大家さんがOKであれば原状回復もしなくて良い」と解釈することもできそうですよね。

少なくとも、「DIYなんて絶対ダメ!」と言うわけではないように思えます。ハウスメイトグループの契約書だけが特殊なのではなく、ほかの不動産会社で使用している契約書にも同じような条文があると思います。賃貸住宅に住んでいる方は、お手元の賃貸借契約書の該当箇所を確認してみてください。

そして、実は国土交通省も、2016年にDIY型賃貸借の契約書式例及びガイドブックを公表しています。これは、賃貸住宅でのDIYを推進するにあたっての大家さんや管理会社の不安や、今の契約書の条文のままでは不足している部分を補完するものでもあるのです。

特にガイドブックは図や写真が豊富で分かりやすくまとまっているので、DIYをやってみたい入居者さんは、国交省のホームページから一度ご覧になっておくと良いでしょう。

大家さん、管理会社の承諾を取るにはどうすればいい?

では契約書の規定どおり、書面で申請すれば簡単に承諾がもらえるのかというとそうではなく、ここに大きなハードルがいくつかあります。

一つ目のハードルは、大家さんや管理会社の年代問題です。大家さんの平均年齢は入居者さんよりかなり高めなので、DIYがブームになっていても、それを全く知らない方が多いと感じます。そもそもDIYとは何なのかを理解してもらえていないのであれば、話しはなかなか進みませんよね。

そして、大家さんと入居者さんの間を取り持つ役割の私たち管理会社も、大家さんと同じとまでは行かなくとも、DIYをやりたい入居者さんよりは年代が高めなことが多いです。管理会社に相談したとしても、「DIY? 入居者さんが壁に穴を開けるなんてダメですよ」と、大家さんに伝わる前に話しが終わってしまう可能性も十分に考えられます。

二つ目のハードルは、管理会社や大家さんの知識不足です。賃貸住宅を借りている方はあまりご存じないかもしれませんが、実は管理会社は建築・工事にさほど詳しくない場合が多いのです。なぜかと言うと、建物を建てる仕事と建物を管理・仲介していく仕事は全くの別物だからです。退去時にリフォーム工事をするのは管理会社の仕事ですが、われわれが長年行って来たのは「原状回復工事=元に戻す工事」です。

私たち管理会社は、汚れた壁紙を新しく張り替えたり傷ついたフローリングを補修したりするのは得意ですが、普段完成した建物を管理しているため、例えば壁の中の構造については詳しくありません。所有者である大家さんも詳しくない人が多いように感じますが、日ごろから物件管理をしている私たちですらそんな状態ですから、それは仕方がないことだと思います。

(イラスト/藤井昌子)

(イラスト/藤井昌子)

賃貸住宅でのDIYを認めてもらうには

われわれ管理会社が壁の内部構造に詳しくないとどういうことが起こるでしょうか。

入居者さんから「リビングの壁にDIYで棚を取り付けたい」と申請が来た場合、その部分の壁は穴を開けても大丈夫なのか、どういうことに気を付けてもらわなければならないのかが分からないと言うことになります。そうなると、大家さんに代わって承諾もできなければ、大家さんに「承諾しても問題ないと思いますよ」と承諾してもらえるように後押しすることもできません。

ただ、裏を返せば、DIYをやりたい入居者さんは、それらが分かりやすくなるように申請をすれば、承諾される確率が上がるのではないかと思います。

例に挙げたリビングに棚をつけるケースで考えると、
・どんなメーカーのどんな棚を付けたいかを写真等で示す
・棚をどこにつけたいかを間取図や室内写真で示す
・DIYショップに相談済みで、棚の重みに耐えられるような施工方法をきちんと行うことを示す
・万一原状回復する場合にはどんな工事が必要かを示す
というような感じで申請すれば、承諾される確率が上がりそうです。

管理会社経由で大家さんに申請をする場合なら、管理会社が大家さんにそのまま渡せて、簡単に要点を説明できるような形にまとめておくことも大切です。

さすがに新築や築浅では難しいかもしれませんが、築古物件の場合、DIYを承諾することで入居者さんに長く大切にお部屋を使ってもらえるならば、承諾しても良いと考える大家さんや管理会社は少なくないと思います。

実は、既に長く住んでくださっている方や、「長く住むつもりです」という方には、大家さんも管理会社も弱いのです。もし長く住む可能性が低くても、その棚の形やデザインが今のお部屋の雰囲気に合っていて、次の入居者さんにも喜ばれそうだとなれば、原状回復しないで残してもらえるほうが大家さんや管理会社にとってプラスになるかもしれません。要は、大家さんや管理会社がメリットに感じる部分があれば、申請は通りやすくなるのだと思います。

以前入居者の方から「洗面台が古いのでシャンプードレッサー付きに交換したい。半額自己負担するので大家さんに相談してもらえないか?」と言われたことがあります。その方は長く住んでいらしたので、結局大家さんが交換してくださいました。

実はこういう類の話は時々あり、物件×大家さん×入居者さんの組み合わせごとにケースバイケースですが、何かが壊れて機能を失っているという理由以外でも、入居者さんの工事の希望が通る場合があるのです。

この話とDIYが大きく違うのは、専門業者以外の人が施工するという点。どんな施工をするのか、そして、入居者が問題なく施工できるのか、をきちんと伝えることが大切です。お部屋は大切な財産だと認識している管理会社や大家さんに、いかに安心感を抱いてもらえるか。それが賃貸住宅でのDIYを承諾してもらえるポイントのような気がします。

自由で豊かな賃貸住まいをサポートできるように、私たち管理会社も少しずつ建築や工事の勉強を始めています。入居者のみなさんも「こういう住まい方をしたい」という意見をどんどん発信してほしいと思います。賃貸住宅でもDIYできるのがあたりまえになる未来を、一緒につくっていきましょう。

谷 尚子谷 尚子 賃貸住宅での暮らし応援団
独立系の賃貸管理会社ハウスメイトパートナーズに勤務。仲介・管理の現場で働くこと20年超のキャリアで、賃貸住宅に住まう皆さんのお悩みを解決し、快適な暮らしをお手伝い。金融機関・業界団体・大家さんの会等での講演多数。大家さん・入居者さん・不動産会社の3方良しを目指して今日も現場で働いています。●「賃貸管理のプロに聞く」記事一覧
・賃貸管理のプロに聞く[1] 入居後のトラブルで一番多い「騒音」問題の解決方法とは
・賃貸管理のプロに聞く[2] 一人暮らしの女性必見!「のぞき・ストーカー・痴漢被害」を防ぐ方法とは
・賃貸管理のプロに聞く[3] 意外と多い「漏水」被害。被害者、加害者になったらどうする?
・賃貸管理のプロに聞く[4] こっそり飼育は必ずバレる! ペットクレームあるある&解決法
・賃貸管理のプロに聞く[5] 火事になってからでは遅い! 賃貸暮らしの人に必要な防災の知識とは
・賃貸管理のプロに聞く[6] 誰もが避けたい「ご近所トラブル」。発生にはお決まりのタイミングが!?
・賃貸管理のプロに聞く[7] 住人の“暗黙ルール”を見極めよ! 駐輪場でのトラブルを防ぐコツとは
・賃貸管理のプロに聞く[8] 他人にとっては非常識!? 「バルコニー」はトラブルの種だらけ
・賃貸管理のプロに聞く[9] 私物を放置していない? 「共用廊下」でクレームが起こるメカニズム
・賃貸管理のプロに聞く[10]自治体によって違う! 「ごみ出しのルール違反」はトラブルの元
・賃貸管理のプロに聞く[11]賃貸住宅でのDIY、どうやったらできる?

賃貸住宅でのDIY、どうやったらできる? 賃貸管理のプロに聞く[11]

かつては「お父さんの日曜大工」の意味合いが強かったDIY(Do It Yourselfの略)ですが、最近はかなりイメージが変わって来ました。テレビや雑誌でもDIYの特集が組まれるなど、空前のDIYブームと言われています。
また、100円ショップをのぞいて見ると、小さなボトルに入ったカラフルなペンキや、おしゃれな模様のインテリアシート、かわいい壁掛けフックやそれを取り付けるための工具類なども充実していて、若い女性でにぎわっています。この客層を見ても、DIY=お父さんの日曜大工という時代とは明らかに様相が変わっていることが分かりますね。
ただ、DIYが好きな人、やりたい人が増えている一方で、あきらめている人も多いのが今の賃貸住まいの方の状況だと思います。どうすれば賃貸住宅でもDIYができるのか、一緒に考えてみましょう。

【連載】賃貸管理のプロに聞く
賃貸仲介・管理の現場に20年以上携わっているプロが、賃貸物件に住む人から相談の多い事例と解決方法をご紹介する連載ですみんなはどんなDIYをしているの?

DIYを楽しんでいる人は一定数いるようですが、実際にみんながどんなDIYをしているのかが、気になりますよね。昔と違ってSNSが発達している今の時代は、気軽に写真を人に見せることができるため、DIY初心者から上級者まで、いろいろな人がSNS上に自慢の作品の写真をアップしています。

DIYですてきな作品ができたら、同じような趣味の人に見てもらい、共感してもらいたいと思うのかもしれません。Instagramやtwitterだけでなく、RoomClipなどのように自分のお部屋のインテリア写真をみんなと共有することに特化したサイトも出てきており、魅力的なDIYの実例写真がたくさん掲載されています。RoomClipの「DIYする」というカテゴリのページを見てみると、棚や収納を自作している人がかなり多いのが分かります。

また、写真にはコメントが付けられる機能があり、そこには賞賛の言葉だけでなく、「材料はどこで買ったんですか?」「どうやってつくったんですか?」などの質問や、それに対する回答も掲載されており、DIYが好きな人たちの間のコミュニケーションの場になっているようです。

好きなテイスト、サイズのものを思いどおりに、しかも安価につくれるのがDIYの魅力なのでしょう。本格的な家具をDIYする人もいれば、小物を飾るための小さな棚をつくる人もいますが、共通しているのは、100円ショップやホームセンターで購入した安価な材料を使ったDIYが人気という点です。

DIYしたくても、踏み出せないのはなぜ?

リクルート住まいカンパニーが2014年4月に実施した「賃貸住宅におけるDIY意向調査」では、現在居住している賃貸住宅でカスタマイズやリフォームを「したいと思ったがあきらめたことがある」と答えた人が18.8%となっており、潜在的ニーズがあることが分かります。

そして、その回答者にあきらめた理由を聞いた項目では、回答が多かった順に「許容範囲が分からない」(50.4%)、「契約上許されないから」(45.4%)「実施費用がもったいないから」(40.4%)「敷金が返ってこなくなるから」(33.3%)となっています。

DIYをやってみたくても、どこまでやって良いのか分からなかったり、退去時の原状回復にどのくらい費用がかかるのか不安だったり、そもそもやってはいけないと思っていたりという理由で、DIYを躊躇(ちゅうちょ)してしまう入居者さんが多いことが分かります。

同社が2014年9月に実施した「リノベーション・DIYに関する意識調査」で、流行に敏感な20代の人がやってみたいと答えたのは「壁にフックやコートハンガーを取り付ける」「壁紙を貼る・ペイントをする」「備え付けの照明器具を交換する」「壁にテープを貼るなどしてデコレーションをする」「壁に棚を取り付ける」といったDIYでした。

こうして見ると「壁に穴を開けたり何かを貼り付けたりするDIY」のニーズが高いことが分かります。確かに原状回復するにはそれなりのお金がかかるケースもありそうで、心配になる気持ちは理解できます。

(イラスト/藤井昌子)

(イラスト/藤井昌子)

原状回復ルールの歴史を知ろう

そもそも、賃貸住宅の原状回復というルールの根拠はどこにあるのでしょうか。

実は民法598条、616条の解釈により、賃借人は退去時にお部屋に附属させた物を取り除いて借りたときの状態に戻さなければならないとされて来たのです。これを「原状回復義務」と呼んでいますが、これに基づいて退去時の敷金精算を行う際に「どこまで原状回復義務があるのか、その金額はいくらが妥当なのか」についてのトラブルが増えたため、平成10年に当時の建設省(現、国土交通省)が「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を公表し、改定、再改定を経て一層具体的なルールができているというわけなのです。

「退去時にこういう状態になっていたら入居者負担」というルールが明確になったため、「退去時にお金がかからないようにするためには、室内に手を加えないほうが良い」という風潮へとつながるのは当然のこと。

例えば、壁に好きな絵を掛けたいと思っても、ネジ穴や釘穴は原状回復義務が発生するルールになっているので、「退去時にいくらかかるか不安だから、やらずに我慢しよう」となっているのが現状ではないかと思っています。

賃貸住宅に住んでいる人は、「壁に何もしないDIY」しかできないのでしょうか。

管理会社に長年勤務している私は、必ずしもそうとは思っていません。世の中の大家さんや管理会社のなかには、「物件も古くなっているし、いい人が長く住んでくれるのであれば多少部屋に手を入れてもかまわない」と考えている人も結構いると感じています。そして、「原状回復にさほど費用がかからない、もしくはそのまま残しても問題ないなら、退去時に入居者さんにお金の負担をしてもらわなくても良い」と考える人だっていそうです。しかしそれと同時に、「好き勝手に自由に手を入れられて、取り返しが付かない状態になるのでは」という不安も抱えています。

次の回では、そんな大家さんや管理会社に「どうやったら安心してDIYを許可してもらえるのか」について考えてみたいと思います。

谷 尚子谷 尚子 賃貸住宅での暮らし応援団
独立系の賃貸管理会社ハウスメイトパートナーズに勤務。仲介・管理の現場で働くこと20年超のキャリアで、賃貸住宅に住まう皆さんのお悩みを解決し、快適な暮らしをお手伝い。金融機関・業界団体・大家さんの会等での講演多数。大家さん・入居者さん・不動産会社の3方良しを目指して今日も現場で働いています。●「賃貸管理のプロに聞く」記事一覧
・賃貸管理のプロに聞く[1] 入居後のトラブルで一番多い「騒音」問題の解決方法とは
・賃貸管理のプロに聞く[2] 一人暮らしの女性必見!「のぞき・ストーカー・痴漢被害」を防ぐ方法とは
・賃貸管理のプロに聞く[3] 意外と多い「漏水」被害。被害者、加害者になったらどうする?
・賃貸管理のプロに聞く[4] こっそり飼育は必ずバレる! ペットクレームあるある&解決法
・賃貸管理のプロに聞く[5] 火事になってからでは遅い! 賃貸暮らしの人に必要な防災の知識とは
・賃貸管理のプロに聞く[6] 誰もが避けたい「ご近所トラブル」。発生にはお決まりのタイミングが!?
・賃貸管理のプロに聞く[7] 住人の“暗黙ルール”を見極めよ! 駐輪場でのトラブルを防ぐコツとは
・賃貸管理のプロに聞く[8] 他人にとっては非常識!? 「バルコニー」はトラブルの種だらけ
・賃貸管理のプロに聞く[9] 私物を放置していない? 「共用廊下」でクレームが起こるメカニズム
・賃貸管理のプロに聞く[10]自治体によって違う! 「ごみ出しのルール違反」はトラブルの元

自治体によって違う! 「ごみ出しのルール違反」はトラブルの元 賃貸管理のプロに聞く[10]

ご近所に対する不満として登場することが多い「ごみ出しのマナー」。実は、ごみに関するクレームを言ってくる方のほとんどは匿名です。他人の捨てたごみに関して、誰が捨てたか監視したり、中身をチェックしたりすることに抵抗のある方が多い証拠だと思いますが、クレームを言う側の「口うるさい人だと思われたくない」という気持ちがこの問題を厄介にしています。
みんなが嫌な思いをしないためにも、どんなときにごみに関するクレームが発生するのかを学び、予防に努めるのが得策だと思います。それでは、実際に発生したごみクレームの事例を見ていきましょう。

【連載】賃貸管理のプロに聞く
賃貸仲介・管理の現場に20年以上携わっているプロが、賃貸物件に住む人から相談の多い事例と解決方法をご紹介する連載です。ごみ出しのクレームが発生する理由は、自治体ごとにルールが違うから

これまで連載では、ご近所トラブルが発生しやすいのは「新しく引越してきたタイミング」であると書いてきましたが、「ごみ出し」に関するトラブルも同じです。

これは、ごみ出しのルールが自治体ごとに違うことが大きな原因となっていると思います。

まず多いのは、分別の間違いによるご近所トラブルです。ごみの分別に関しては、分別するごみの種類が多い地域と少ない地域との差がかなりあるため、きちんと分別しているつもりでも実は間違っていることが多々あります。

東京23区で見ても、例えば足立区は「燃やすごみ、燃やさないごみ、資源ごみ、粗大ごみ」の4種類の分別で、資源ごみは「古紙、びん、缶、ペットボトル」に分かれており、新しく引越してきた人にも比較的分かりやすくなっています。

一方で、リサイクルに力を入れている練馬区では、一般的な分類に加えて、古着・古布や使用済み食用油、なべやフライパンなどを区立施設で回収していたり、携帯電話などの有用金属をリサイクルしたり、家庭用のインクカートリッジをプリンターメーカーと協力してリサイクルするなどしています。なんと、在宅医療で出る注射針まで薬局で回収していると言うから、その意識の高さに驚きです。

例えば練馬区から足立区への引越しならば問題は起こりにくいのですが、逆のケースだった場合どうでしょうか。今までと同じように分別して出していたら当然目立ってしまいますし、回収されずに集積所に残されればクレームの原因になってしまいます。

「ごみ出しをする時間」にもルールが!

完璧にごみを分別してもクレームになってしまうケースもあります。その原因は、ごみ出し時間のルール違反でした。

分別のルールだけでなく、ごみを出してよい時間帯も各自治体で異なります。ある方は「前日の夜に出してよい地域」から「当日の朝にしか出してはいけない地域」へと引越ししたため、夜にごみを出してご近所の方に見咎められてしまいました。

また、最近は24時間ごみ出し可能なマンションが人気ですが、比較的規模が大きく管理費も高めのマンションでないと導入は難しいものです。こういう便利なマンションに慣れていて、その感覚のまま地方転勤などで24時間ごみ出しができない賃貸に引越したケースなどは、ご本人も大変かもしれません。

なぜなら24時間ごみ出し可能な物件は、入居者さんがマンション専用のごみ庫に出したごみを、収集日に合わせて作業員の方が表に出してくれており、間違った分別をやり直してくれる場合もあるから。

そんな至れり尽くせりの暮らしに慣れてしまっているためか、ごみ出しに関してあまり知識が無い、といったケースもあるのです。するとごみ出しの時間に決まりがあることを知らなかったり、知っていても「ちょっとくらいいいか」と夜中に出してしまったりしてトラブルになることがあります。

夜にごみを出したらだめなのはなぜ?

では、なぜごみを夜のうちに出してはいけない地域や物件があるのでしょうか。それにはいくつか理由があります。

生活スタイルが多様化して暮らしのサイクルが人によって異なるため、ごみを出したい時間も人それぞれ。ただでさえ一週間のうち半分以上が何らかのごみ収集の日に当たるのに、みんなが自由な時間にごみを出してしまうと、ごみ集積所はいつでもごみがあるような状況になってしまいます。

割れ窓理論(割れた窓をそのままにしていると、そこにはごみが捨てられ、環境が悪化し、犯罪が増える)をご存じの方も多いと思いますが、われわれ管理会社の経験から言っても「ごみがさらなるごみを呼ぶ」という法則が確かにあると感じています。ごみが常にある状態にしておくと、不法投棄が増え、周辺が汚れ、環境が悪化していくのです。

また、地域によっては長時間置いておくと猫やカラスに荒らされてしまうこともあります。もっと困ることには、長時間置かれているごみは放火の原因にもなるのです。周辺の住環境を保つためにも、ごみ集積所の近くに住んでいる人の安全のためにも、ごみ出しの時間帯はきちんと守りたいものです。

本当に迷惑なのは不法投棄!!

これまで小さなルール違反の話をしてきましたが、私たち管理会社が一番困っているのは、「粗大ごみの不法投棄」です。

不法投棄されやすい賃貸住宅では防犯カメラを設置したり、ごみストッカーを設置したりして捨てられにくくするなどの対策を取っています。本来は賃貸住宅の住環境を安全に保つための防犯カメラが、入居者さんへの疑いの目として利用されることはとても残念ですが、物件によっては入居者さん自身による不法投棄が多いところがあることも事実なのです。

不法投棄が頻発するのは引越しで退去するタイミングが多いため、防犯カメラを見てみるとせっせと粗大ごみを運んでいる引越し予定の人が映っていることがあります。また、普段から不法投棄を苦々しく思っている入居者さんからの目撃証言で犯人が発覚したりもします。

犯人が発覚したらもちろん注意するわけですが、粗大ごみは事前申し込み制の自治体が多く、申し込んでから回収までに数週間掛かる場合もあり、「引越し日に間に合わなかったのでつい……」と言われることもしばしば。注意されて嫌な思いをしないためにもきちんと正規の捨て方で捨ててほしいものです。

また、引越し当日に粗大ごみ回収の業者さんを呼んで、「値段が高すぎる!」とトラブルになっている人を時折見かけます。急ぎで依頼したいときは、自治体の粗大ごみ受付センターに一度相談してみましょう。もしくは私たち管理会社に事前に連絡をいただければ、リフォーム業者さんに粗大ごみ回収を依頼できる場合もあります。しかし、いずれの場合も自治体の回収より高額になりますので、前もって計画を立てて粗大ごみを捨てるのが一番です。

【画像1】粗大ごみを運ぶ住人(イラスト/藤井昌子)

【画像1】粗大ごみを運ぶ住人(イラスト/藤井昌子)

ごみをきちんと分別してルールを守っている人は、少しでも違反をしている人のことをとても厳しく見ているケースが多いように感じるかもしれません。しかし、ごみ出しのマナー違反は他の入居者さんやごみ集積所を共有している近隣の方に迷惑を掛ける行為なので、怒るのも無理はないと感じます。

なぜなら、ひどい状態が続けば、何らかの対策を取らざるを得なくなり、管理費が値上げになってしまう可能性もあるのです。また、ごみ集積所が回収されないごみでいっぱいの物件は、入居募集をしても決まりにくく、物件自体の価値も下がってしまうため、大家さんやわれわれ管理会社にとっても本当に困る行為です。

お互いに気持ちよく暮らすために、お住まいの地域や物件のルールをしっかり確認して、きちんとごみを出してくださいね。

谷 尚子谷 尚子 賃貸住宅での暮らし応援団
独立系の賃貸管理会社ハウスメイトパートナーズに勤務。仲介・管理の現場で働くこと20年超のキャリアで、賃貸住宅に住まう皆さんのお悩みを解決し、快適な暮らしをお手伝い。金融機関・業界団体・大家さんの会等での講演多数。大家さん・入居者さん・不動産会社の3方良しを目指して今日も現場で働いています。●「賃貸管理のプロに聞く」記事一覧
・賃貸管理のプロに聞く[1] 入居後のトラブルで一番多い「騒音」問題の解決方法とは
・賃貸管理のプロに聞く[2] 一人暮らしの女性必見!「のぞき・ストーカー・痴漢被害」を防ぐ方法とは
・賃貸管理のプロに聞く[3] 意外と多い「漏水」被害。被害者、加害者になったらどうする?
・賃貸管理のプロに聞く[4] こっそり飼育は必ずバレる! ペットクレームあるある&解決法
・賃貸管理のプロに聞く[5] 火事になってからでは遅い! 賃貸暮らしの人に必要な防災の知識とは
・賃貸管理のプロに聞く[6] 誰もが避けたい「ご近所トラブル」。発生にはお決まりのタイミングが!?
・賃貸管理のプロに聞く[7] 住人の“暗黙ルール”を見極めよ! 駐輪場でのトラブルを防ぐコツとは
・賃貸管理のプロに聞く[8] 他人にとっては非常識!? 「バルコニー」はトラブルの種だらけ
・賃貸管理のプロに聞く[9] 私物を放置していない? 「共用廊下」でクレームが起こるメカニズム

私物を放置していない? 「共用廊下」でクレームが起こるメカニズム 賃貸管理のプロに聞く[9]

共用部の使い方で嫌でも目についてしまうのが共用廊下や階段です。

私たち管理会社にも苦情が多く寄せられる部分なのですが、すぐには対処できないのが実は厄介なところ。なぜなら、騒音や自転車が止められないなどの問題と違い「今自分に直接迷惑がかかって困っている」というよりは、「危険な気がする」「見ていて何となく不愉快」というレベルから発展していくことが多いからです。

今回は共用廊下にまつわるクレームの発生と、そのクレームが悪化するメカニズムまで見ていきましょう。【連載】賃貸管理のプロに聞く
賃貸仲介・管理の現場に20年以上携わっているプロが、賃貸物件に住む人から相談の多い事例と解決方法をご紹介する連載ですそもそも、共用廊下に私物を置いてもいいの?

マンションやアパートの共用廊下に、私物を置く方がいらっしゃいます。遭遇することが多いのは、子ども用のベビーカーやおもちゃ、キックボードや自転車など。大人が使うものだと、レジャーに使う道具や、車や自転車関連の道具など。傘立てや植木鉢などを置いている方も見かけます。室内に置くには場所を取ったり汚れたりする、という種類のものが共用廊下に置かれがちです。

そもそも共用廊下に私物を置いていいのかと言うと、答えはNOです。消防法や自治体の火災予防条例にも規定があるため、消防署の査察や消防用設備等点検の際に、「共用廊下や階段に置いている物を撤去してください」と指摘されることがあります。地震や火災が発生した際に避難の邪魔になったり、火が燃え移って避難路がふさがれたりすることがないようにするためです。

邪魔にならないなら、私物を置いてもいいの?

では、避難の邪魔にならなければ私物を置いてもいいのでしょうか。

「傘立てや自転車の空気入れなど小さなものをちょっと置くくらいなら、うるさく言わなくてもいいのでは?」と思う方も多いと思います。玄関ドアが廊下から少し奥まっている建物などは、そこにものを置いても廊下自体の幅には関係なく、避難の邪魔にはならないように思えますよね。

しかし、いざ火災が発生すると、そこに置いたものが廊下側に倒れないとも限りません。照明が消えて暗くなったり煙が充満したりするなかで、誰かがそれにつまずいてけがをしたり、逃げ遅れてしまったりしたとしたら、それはとても大きな問題です。

それなら、エアコンの室外機置場などの上に、廊下側にはみ出さないように倒れないものを置いた場合や、一番端の部屋で廊下部分が他の方の避難通路になっていない場合は、専用スペースとしてものを置いてもよいのでは? と思う人もいるでしょう。

実はこれもNGです。これはこれで「見苦しい」と感じる方や「子どもが触ったら危ない」と心配する方からクレームが来ることがあります。

そもそも、クレームが発生していなかったとしても、共用部分の使い方に決まりがある場合はNGです。たいていの賃貸借契約書には、階段や共用廊下に物を置くことを禁止する条文が入っています。気になった方は、チェックしてみましょう。

「もうちょっと……」、が思わぬクレームに発展

クレームを言って来られる方の話をお聞きすると、たいていの方は「前々から気になっていたが、だんだん置かれるものが増えてきた」とか、「ずっと放置されているので汚い、不要なごみを放置しているのではないか」などと仰います。

私の過去の経験で「これはさすがに見苦しいし非常識だ」と思ったのは、共用廊下で洗濯物を干していた方です。現場に見に行くと、廊下の手すりだけでなく廊下に面している共用階段の手すりにまで洗濯物がずらり。手すりだけでは足りなかったのか、エレベーター前の広くなっているスペースに物干しざおが渡してあり、運動靴までぶら下がっている始末です。

【画像1】共用廊下に洗濯物を干す居住者(イラスト/藤井昌子)

【画像1】共用廊下に洗濯物を干す居住者(イラスト/藤井昌子)

クレームを言って来られた方にお聞きしたら、最初は部屋の前だけに干されていたのが、日を追うごとにだんだんと洗濯物が増えてきて今の状態になったとか。「恥ずかしくて晴れた日には人を呼ばないようにしている」と言われてしまいました。

これでは、もし募集中の空室を見に来た方がいても決まるわけがありませんので、安全の問題だけでなく、大家さんの賃貸経営にも迷惑がかかることになります。

こんなにひどい例にはめったに遭遇しませんが、共用廊下に物を置いていてご近所からクレームになるときには“ある傾向”があります。それは、「注意されないし、もう少しくらい大丈夫かな?」と少しずつ置くものを増やしたり、使わないまま放置したりと“行為がエスカレート”してきたときです。悪気なくやってしまう方がほとんどなので、廊下に置いてあったものを片付けて「すみませんでした」と謝って終わらせたいですよね。

しかしながらクレームを言って来られる側は「うるさいと思われると嫌なので、自分が苦情を言ったと相手に分からないようにしてほしい」と匿名を希望される場合がほとんど。注意された方は誰に言われたのか分からず謝ることすらできません。

同じ階にお住まいの方から不快に思われていたのに、その相手が誰だか分からないというのはやはり気分が良いものではありませんよね。共用廊下に私物を置いている方は、他人から指摘される前に、わが身を振り返り、気を付けたいものです。

安心安全快適な住環境は、みんなでつくるもの

「ちょっとだけ」の気持ちで置いたものを他の人が見て「あのうちも置いているから私も置こう」と置く人が増え、「注意されないからもう少しくらい増えても大丈夫だろう」と置く量も増えていくのが、この問題の悪化のメカニズムです。

そして、われわれ管理会社がとても困るのが、私物の放置を注意したときに、「今までもずっと置いていたのに今さら注意されるのはおかしい」と言われたり、「あの人も私物を置いているのに私だけ注意されるのはずるい」と反論されてしまったりすることなのです。

共用廊下や階段に私物を置かないのは、お住まいになる方全員の安全のためや、住環境を守るためなので、おかしい、ずるいという議論になるとわれわれも本当に困ってしまいます。

置くものの種類や量や置いている期間について、どこまでが良くてどこからがダメかという決まりをつくるのは本当に難しく、入居者さん同士でクレームになった場合は、われわれも「全てダメですよ」と言わざるを得なくなります。

共用廊下は日常的に目に付きやすい部分なので、自分は普通に使っているつもりでも、もしかしたら苦々しく思っている人がいるかもしれません。

心当たりのある方はクレームになっていないうちに気をつけていただけると、ご自分も嫌な思いをしなくて済むと思います。逆に、他の人の置いている荷物が増えたり起きっぱなしになっていたりしていることに気がついた方は、ひどくなってからでは解決に時間がかかってしまうので、ぜひお早めに管理会社や大家さんに教えてくださいね。

お互いが節度をもって暮らすこと、そして、自分は良くても他人の迷惑になったり不快に思われたりする可能性があるという視点をもつことが、共同住宅で気分良く暮らす秘訣だと思います。

谷 尚子谷 尚子 賃貸住宅での暮らし応援団
独立系の賃貸管理会社ハウスメイトパートナーズに勤務。仲介・管理の現場で働くこと20年超のキャリアで、賃貸住宅に住まう皆さんのお悩みを解決し、快適な暮らしをお手伝い。金融機関・業界団体・大家さんの会等での講演多数。大家さん・入居者さん・不動産会社の3方良しを目指して今日も現場で働いています。●「賃貸管理のプロに聞く」記事一覧
・賃貸管理のプロに聞く[1] 入居後のトラブルで一番多い「騒音」問題の解決方法とは
・賃貸管理のプロに聞く[2] 一人暮らしの女性必見!「のぞき・ストーカー・痴漢被害」を防ぐ方法とは
・賃貸管理のプロに聞く[3] 意外と多い「漏水」被害。被害者、加害者になったらどうする?
・賃貸管理のプロに聞く[4] こっそり飼育は必ずバレる! ペットクレームあるある&解決法
・賃貸管理のプロに聞く[5] 火事になってからでは遅い! 賃貸暮らしの人に必要な防災の知識とは
・賃貸管理のプロに聞く[6] 誰もが避けたい「ご近所トラブル」。発生にはお決まりのタイミングが!?
・賃貸管理のプロに聞く[7] 住人の“暗黙ルール”を見極めよ! 駐輪場でのトラブルを防ぐコツとは
・賃貸管理のプロに聞く[8] 他人にとっては非常識!? 「バルコニー」はトラブルの種だらけ

他人にとっては非常識!? 「バルコニー」はトラブルの種だらけ 賃貸管理のプロに聞く[8]

共用部なのに、ついつい「自由に使っていい場所」と思ってしまいがちなのがバルコニー。以前この連載で、「避難通路なので邪魔になるところに物を置いてはいけない」という話をしましたが、それ以外にもバルコニーの使い方がトラブルの元になるケースがいっぱいです。実際に発生したクレームの事例から、ご近所トラブルを未然に防ぐ方法を学びましょう。【連載】賃貸管理のプロに聞く
賃貸仲介・管理の現場に20年以上携わっているプロが、賃貸物件に住む人から相談の多い事例と解決方法をご紹介する連載です使うも使わないも自由じゃないの? バルコニーの盲点とは

バルコニーは「頻繁に出る」という人と「全く出ない」という人にはっきり分かれます。まずは、「全く出ない」タイプの入居者さんのお部屋で実際に起こったトラブル事例をご紹介します。

台風で大雨が降った日のこと、管理会社の24時間コールセンターに一本の電話がかかってきました。窓から雨の様子を見ようとしたら、バルコニーに大量の水がたまって今にも部屋の床の高さまで届きそうな状況とのこと。このまま水が部屋に入ってきてしまったら大変です。排水不良が起こっていることは間違いないので、急いで建築図面を調べました。すると、そのマンションのバルコニーには、排水ドレン(雨水などを排水する管や溝のこと)が全部屋になく、同じフロアに2カ所だけあることが分かりました。該当するお部屋の方にお電話しましたがつながらなかったため、空室だった隣の部屋から覗いてみることにしました。

なんと、ものすごい量の枯葉とほこりが絡み合って排水ドレンをふさいでいたのです。取り急ぎ、持って行った傘を隔壁版の隙間から突っ込み、柄(え)の部分で詰まっているものをかき出しました。すると、ゴーッ! と勢いよく、そのフロアのバルコニー全体にたまっていた水が流れ出し、床上浸水を防ぐことができました。

翌日、排水ドレンのある部屋の方とお話をすると、バルコニーには入居してから一度も出たことがなく、まさかそんなに枯葉やゴミがたまるとは思っていなかったとのことで、大変驚いていらっしゃいました。

ここまでひどいケースは滅多にありませんが、バルコニーの掃除を怠っている人がいると、雨が降ったときに水がたまり、ゴミやタバコの吸い殻がプカプカと流れてくる、という苦情が時折出てきます。自分の部屋のベランダやバルコニーに排水ドレンがある方は、ときどき掃除をするようにしてくださいね。

晴れた日には布団を干したい! でも、まさかのクレームが……!

天気のいい日は「バルコニーに布団を干したい!」という方が多いはず。また、限られたバルコニースペースなので、物干し竿だけでなく、バルコニーの手すり部分を使って、布団を干すという方もいると思います。でも、これが原因でクレームになることがあるのです。

あるとき、「上の部屋の方の布団の干し方が我慢ならない」という内容の電話がかかってきました。「まずは写真を見てほしい」と言われたので見てみると、なんと上階から垂れ下がった毛布が柄もはっきり分かる状態で写っていました。上階の方は毛布を太陽にたくさん当てたいがために、ぎりぎりまで垂らしていたのでしょう。

すぐに上の方にお話をしました。最初はピンと来ていないようでしたが、写真をお見せしたら納得され、下の方に謝罪して事態は収まりました。

干し方に関していうと、布団たたきによる音やほこりもクレームになります。最近では「布団をたたいても意味がない」という説もあり、「布団をたたく」という行為は、人によって常識が大きく違うようです。引越したばかりのときは、周りに住んでいる人の布団の干し方をチェックしてから行うのが無難だと思います。

その他、布団干し自体が禁止されていたり、禁止とまでは行かなくても非常識な行為であると思っている人が多い地域や物件もあります。私の経験では、港区や目黒区などいわゆるおしゃれなエリアに多いルールや慣習のようです。他のエリアから引越してきて布団を干したら、大家さんや近隣の方から「みっともない!」とクレームを言われたという話しも時々聞きます。

布団だけではありません。洗濯物についても過去に一度だけですが「派手な色のTシャツを外から見えるように干すなんて、お宅の管理しているマンションの住人は何を考えているのか!」と、近隣にお住まいの方から怒られたこともあります。

私たち管理会社は、そういった特殊なルールがある賃貸物件に入居する方には事前に説明するようにしています。しかし、説明を受けた本人以外のご家族が、悪気なく布団を干してしまうケースもあります。入居規則はご家族全員で共有するようにしてくださいね。

タバコの煙に、ゴキブリも!? ほかにもあるクレーム事例

ほかには、タバコに関するクレームも多いです。煙の臭いが洗濯物や布団につく、煙が換気口から室内に入ってきて迷惑、タバコの吸い殻が隣のバルコニーから転がってくるなど、パターンはさまざま。喫煙者は、隣のバルコニーに洗濯物や布団が干されてないか、赤ちゃんがいるご家族ではないかなどに気を配っておいたほうが無難です。お隣と顔を合わせたときに、「バルコニーでタバコを吸うことがありますが、何か気になることがあれば言ってくださいね」などと声をかけておくのもご近所トラブルを防ぐいい方法です。

【画像1】バルコニーでタバコを吸う男性(イラスト/藤井昌子)

【画像1】バルコニーでタバコを吸う男性(イラスト/藤井昌子)

その他には、バルコニーに出しているペットの鳥かごから羽が飛んで来て汚いというクレームや、上階の人が植物の水やりをする度に、その水が下階に垂れて迷惑している、などのクレームもきます。段ボールを捨てるのが面倒でバルコニーにためている人がいたときは、段ボールが雨で湿ってゴキブリが大量発生したことも。

引越しのときに処分しきれなかった家具などの不要物を、バルコニーにぎっしり置いていたご家族は、「これではいざと言うときに非難はしごが使えない! 命の危険があるのになんて非常識な家族なんだ!」と上階の方に言われ、引越し早々にもかかわらず、気まずくなって早々に退去されてしまったこともあります。

これまでクレームになりうる事例を挙げてきましたが、クレームを言った方が神経質になりすぎているケースももちろんあります。困ったことがあるときは、ぜひ私たち管理会社に相談してくださいね。

「バルコニーの広さが気に入ってお部屋を決めた」と言われると、私たち管理会社や大家さんはうれしいものですが、実はバルコニーはクレームになりやすい場所です。

それは、バルコニーを大切な空間として使う方もいれば、ごみや不要物の置き場と考える方もいるように、きっと感覚の違いが現れやすい場所だからなのでしょう。「自分の常識と他人の常識は違う」という意識をもつことが、ご近所トラブルを防ぐ第一歩だと、管理会社の仕事をするなかで日々感じています。

谷 尚子谷 尚子 賃貸住宅での暮らし応援団
独立系の賃貸管理会社ハウスメイトパートナーズに勤務。仲介・管理の現場で働くこと20年超のキャリアで、賃貸住宅に住まう皆さんのお悩みを解決し、快適な暮らしをお手伝い。金融機関・業界団体・大家さんの会等での講演多数。大家さん・入居者さん・不動産会社の3方良しを目指して今日も現場で働いています。●「賃貸管理のプロに聞く」記事一覧
・賃貸管理のプロに聞く[1] 入居後のトラブルで一番多い「騒音」問題の解決方法とは
・賃貸管理のプロに聞く[2] 一人暮らしの女性必見!「のぞき・ストーカー・痴漢被害」を防ぐ方法とは
・賃貸管理のプロに聞く[3] 意外と多い「漏水」被害。被害者、加害者になったらどうする?
・賃貸管理のプロに聞く[4] こっそり飼育は必ずバレる! ペットクレームあるある&解決法
・賃貸管理のプロに聞く[5] 火事になってからでは遅い! 賃貸暮らしの人に必要な防災の知識とは
・賃貸管理のプロに聞く[6] 誰もが避けたい「ご近所トラブル」。発生にはお決まりのタイミングが!?
・賃貸管理のプロに聞く[7] 住人の“暗黙ルール”を見極めよ! 駐輪場でのトラブルを防ぐコツとは